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森の奥からやって来る黒い陰。「悪夢屋」ダークライに久しぶりの仕事が来たようだ。
「悪夢屋」という稼業の歴史は長い。その起源は、ポケモンがまだ「魔獣」と呼ばれていた時代にまでさかのぼる。
その頃の人間のポケモンに対する扱いは酷いものだった。捕えたポケモンは皆、鎖と鎧で拘束されえんえん人間にこき使われた。逃げようとすれば罰として拷問され、刃向えば殺された。不思議な力を持つポケモンのことを人間は便利に使いながらも恐れていたから、見せしめとしての拷問や殺戮は徹底して行われた。完全に抵抗の機会を奪われたポケモン達は、不満を持ちつつも長いこと人間の奴隷として服従を続けていた。
ところがある日、一匹の悪夢を操るポケモン、つまりダークライが立ち上がった。そのダークライは同族の者を集め、報復として想像を絶する程恐ろしい悪夢を毎夜人間達に見せた。悪夢を見続けた人間達は次々と正気を失い、自ら命を絶つ者までいたそうだ。困り果てたある国の王様が三日月の島と呼ばれる場所で夢の神様、はっきり言ってしまえば、クレセリアにお伺いをたてたそうだ。するとクレセリアは、ポケモン達への行いを改めれば悪夢は無くなると教え、それから少しずつ人間達はポケモンとの関係を考え直すようになった。
しかし、習慣というのはなかなか抜けないものだ。
それからもポケモンは事あるごとに痛めつけられこき使われた。だが、そのたびにダークライ達は、その者が悔い改めるまで悪夢を見せ続けた。
その繰り返しの結果、今に至る。
歴史上のダークライ達は完全ボランティアで悪夢を見せていたが、今は「悪夢屋」というビジネスとしてある。
現在の「悪夢屋」は憎んでいても表だって攻撃できないポケモンから依頼を受けて、「悪夢」を見せることで、代わりに人間に復讐する仕事だ。仕事自体は単純なものだが、実際はそんな簡単な話じゃない。仕事の中身が中身だけに日の目をみることもない。
あの黒い陰、すなわちヨノワールは、ブローカーと呼ばれる類の連中だ。ブローカーは依頼を集めてそれを悪夢屋に持ち込んだり、仕事が円滑に進むよう悪夢屋の必要をそろえる。つまりは、パイプ役兼サポート役というわけだ。
あのヨノワールは俺の専属のブローカーだ。悪夢屋の誰もが専属を持つわけではないが、俺はブローカー組織から一目置かれているおかげで、あのヨノワールをパートナーにできた。多少抜けた奴だが結構重宝している。
ヨノワールは俺の元に来るなり、さっそく依頼の説明を始めた。
「今夜のターゲットは三人だ」
「ハァ、一か月も仕事を待って、たったの三人か……」
「そういう時代だ。仕方ない。お前もさっさと隠居して、どこかの人間に着いたらどうだ? ダークライのお前なら引く手あまただろう」
「そうだな。考えておこう」気のない声で、ダークライが答えた。
ダークライに人間に着く気はサラサラ無い。彼が悪夢屋をするのは、その需要以上に重要な理由があるからだ。
ヨノワールは諦めたように首を振った。
「私は確かに忠告したからな。後悔しても知らんぞ」
「余計なお世話だ。ほら、さっさと行くぞ」そう言って俺は先に行った。
「すぐに思い知るさ。すぐにな」
誰もいなくなった森の中、ぼそりとヨノワールが呟いた。
森を抜けるとそこには二羽のムクホークがとまっていた。ダークライの住処は孤島なので、外に出る時はいつも、海を泳げるポケモンか空を飛べるポケモンが必要になる。仕事で出るときはいつもこのムクホークに乗っていく。飛んで行ったほうが断然早いし、海を渡った先でも移動に便利だからだ。それに、ダークライが船酔いしやすいというのも、理由としてある。
余談になるが、ムクホーク達は悪夢屋とも、ブローカー組織とも全く関係のない、通称「運び屋」という所から来ている。移動の足は重要だ。悪夢屋・ブローカー組織、どちらか寄りの鳥ポケモンでは、仕事先で衝突があった時、動きを封じられてしまう危険がある。それぞれで用意しようにも、ダークライはその辺の「コネ」を持っていない。しかも、そうすると用意したポケモンの間で、移動能力(速度やスタミナ)に差が出る可能性がある。それでは危険だということで、事前に「運び屋」をそれぞれの合意で決めておき、そこから移動用ポケモンに来てもらう。
移動中、ダークライはずっと最初のターゲットの事を考えていた。
ヨノワールによれば最初は、女の子供だ。
子供相手は苦手だ。別に無垢な子供を傷つけるのが嫌なわけじゃない。そもそも、依頼が来ているという時点で無垢ですらない。
子供の恐怖は不安定なのだ。
悪夢屋はターゲットに悪夢を見せる前に、まず「恐怖のツボ」をさぐる。相手がどんな物事に恐れるか先に調べておき、効率よく悪夢を見せるためだ。ところが子供の場合、そのツボがなかなか安定しない。
例えば、ゴーストポケモンを怖がる子供に、ヨマワルに追い回される夢を見せるとする。その子供は、初めは恐怖に泣き叫ぶのだが、だんだんと慣れていき、しまいにはヨマワルと仲良く遊んだ夢になってしまう。
こういったことは普通、対象の誤解から起きる。つまり先ほどの場合なら、実はゴーストポケモンでなく、「ジュペッタ」だけが恐怖のツボだった、というような、ツボの取り間違いが原因だ。
それが子供の場合、ツボの不安定さによることが多い。それまで怖がっていたのに突然平気になってしまう。子供とは案外、恐怖に対する免疫が強いものなのだ。
ベテランの悪夢屋であるダークライも、子供相手は成功率が芳しくない。加えて久しぶりの仕事だ。彼は、いつも以上の緊張感を感じていた。
「着いたぞ」
そう声をかけられるまでムクホークが徐々に下降していることにすら気づかなかった。
新月の夜、それでもダークライには眼下の家の様子がはっきりと見えていた。
四、五十坪程の土地に二階建ての一軒家と、よく手入れのされた庭。ガレージにはミニバンタイプの車が一台止まっている。俺達は散らかされた三輪車やらゴムボールやらを避けるようにして、庭に着陸した。すると、玄関の方からかすかにスパイシーな香りが漂ってきた。夕食はカレーだったようだ。
その香りに混じった幸せの臭いを、俺はすぐに嗅ぎ取った。
平凡で、何の変哲もない、最高の幸せ。
――気に入らない。
俺は思い切り顔をしかめた。
人間の幸せに、依頼者はたった今も犠牲となっているのだ。
ダークライは、悪夢屋として多くの人間を見てきたが、それでも彼らを「悪」とは言わない。まだ言えないと言った方が正確かもしれない。
しかし、悪夢屋の中には人間を「悪」として、彼らを懲らしめる為に仕事をする者が少なくない。ダークライに「悪夢屋」の仕事の全てを教えた先代悪夢屋もまた、そういった考えを持っていた。
――結局、人間は変わらなかったのさ――
悪夢屋になる前、ダークライは人間に着いていた。ある大きな事故に巻き込まれ重傷を負ったダークライが、その人間に命を救われ、以来ずっと一緒にその者の仕事を手伝っていたのだ。
その人間の仕事は「ポケモンハンター」という。
ハンターにとって、ダークライというポケモンはとても便利な存在だ。その足の速さや暗闇を見通せる視力もさることながら、「ダークホール」の技がハンターには大きい。ダークライのみが使うことのできる技「ダークホール」は、かなりの高確率で対象を眠らせられる。
ハンターにしてみればこれ程便利な技はない。眠らせてしまえば、「モノ」に傷をつけずに捕まえられる(売り物に傷がつけば値段が下がってしまう)。追っ手や同業者に遭っても、派手な勝負をすることなく、動きを止められる。
……もちろん、いざ売る事になっても高値がつけられるということもまた、ダークライの大きなメリットである。
ダークライはそうやってハンターの仕事を手伝うことになんとも思わなかった。それどころか、命の恩人の為に働けることを喜んですらいた。
しかし、ハンターが別のダークライを捕らえた時の事だ。ダークライは、捕らえられたダークライの世話を命令されていた。
「私はクラウンだ」
初めに挨拶をしたのは、捕えられたダークライ――「クラウン」――からだった。彼は檻の中で鎖に繋がれ、うなだれたまま話していた。
「クラウン……色違い……だな」
クラウンの肌の色は、普通のダークライとは違っていた。単純な紫よりも、もう少し明るいような、明け方の空のような色をしていた。どうりで主人が有頂天になっている訳だ。ダークライの、それも色違いともなれば、その値は天井知らず間違いないからだ。その主人は今、祝い酒とばかりに飲みまくっている最中だ。
「そうだ。私は他のダークライとは違う。でも、違うのはそれだけじゃない。私は普通のダークライが絶対に知らない事を、たくさん知っている。例えば……『悪夢屋』というものを、君は知っているか?」
初めてクラウンが顔を上げた。彼は笑っていた。
それから、ダークライは多くの事をクラウンから聞いた。悪夢屋の事、人間の事、ポケモンの事。特に「悪夢屋の歴史」の話は、何度も何度も聞いた。ダークライも聞きたがったし、クラウンも話たがったからだ。
「結局、人間は変わらなかったのさ。……見てみろ」
クラウンが顎で指した先にはハンターがいた。ハンターは今、一つの檻越しにバイヤーと商談中だ。檻の中ではアブソルが一匹、不安そうに鳴いて足に繋がれた鎖をガチャガチャとならしていた。
「今でもポケモンは虐げられている。確かに大昔に比べれば、『多少』は、マシになったかもしれない。でも、人間どもは、根っこの所から『悪』だから、どれだけ表面を繕っても、いつの時代にもあのハンターのような奴が必ずいるんだ」
うーん、と、ダークライは煮え切らない返事をして、お茶を濁した。
正直ダークライにはクラウンの言うことが、いまいちピンときていなかった。
クラウンが「悪」と呼ぶ自分の主人の姿は、あまりに見慣れたものだったし、なんといっても彼は命の恩人だからだ。
「私が悪夢屋をしているのは、人間どもに警告してやるためなんだ。あまり調子に乗ってるとポケモン達だって黙ってないぞ、ってな」
強い口調でそう言うと、クラウンに繋がれた鎖が大きな音を立てた。音に気付いた主人は一瞬ジロリとこちらを見たが、すぐに商談の続きを始めた。
「落ち着け、クラウン。大きな音を立てるな」
落ち着きを取戻したクラウンは、呼吸を整えて続けた。
「それで……だ。お前も悪夢屋にならないか? 今のままでは、お前はあのハンターと同じ……いや、人間なんかに着いて協力するお前は、もっと酷い『悪』だ」苦々しげに言う。
「仕事の事は全て私が教えてやる。有力なコネもつけてやる。だから、お前も悪夢屋になれ!
悪夢屋になれば、お前は、“正しい”ポケモンに戻れるんだ。これ以上、人間なんかと一緒にいたら、お前まで……お前までおかしくなってしまう。
お前が人間といるのは、間違っている!」
最後の言葉には、鬼気せまるものがあった。
しかし、俺はそこまで言われてもまだ迷っていた。
理由は二つある。一つは、クラウンの言う通りにすれば必然的に彼を主人から逃がすことになるからだ。ハンターに迷惑をかけたくないから、などと言えば、クラウンに本末転倒だと笑われるだろうが、だとしても、主人を困らせるのは気が引けた。
もう一つは、正直まだクラウンの事を信用できないのだ。彼が檻から出でた瞬間に自分を捨てて逃げる、なんてことが、あり得ないとは言い切れない。
しかしそういった頭の理解とは別に、ダークライは激しく動揺していた。当然と言えば当然だ。
ハンターは人間だ。クラウンはその人間を「悪」という。奇妙な説得力のあるクラウンの話に、ダークライは半ば同調し始めていた。
商談をする主人を見慣れたダークライではあったが、捕まったポケモン達の悲鳴は何度聞いても、胸が締め付けられるような強い自己嫌悪にかられる。主人といっしょにポケモンを苦しめてる意識が常に心の奥底にある。
自分は悪くないなどとはこれっぽっちも思わない。しかし、これまでの事が全て主人からの指示であり、彼が私欲の為にポケモンを苦しめていることは、まぎれもない事実だ。
だとしても、だ。
確かに多くのポケモン達にとって、主人は悪人かもしれない。だが、ダークライにとっては、瀕死だった自分を救ってくれ今まで世話を(良心からとは言い難いが)見てくれた、命の恩人だ。
命の恩人は、悪人なのか。
――分からない。
とてもじゃないが今の自分には、それだけのことを判断出来ない。俺にはその為の知識がない。
「分かった。俺も悪夢屋になる。ここから出してやるから、仕事を教えてくれ」
クラウンが捕まってからどれくらい経っていただろうか。ようやく決心がついた。
「良かったよ。本当に良かった」満面の笑みを浮かべてクラウンが言った。
悪夢屋になろうと思ったのは、ひとえに人間を知るためだった。世話になった主人とは別れがたいが、ここにいつまでもいては、主人以外の人間を知ることができない。悪夢屋にならなければ、人間を、命の恩人を、いつまでも理解できないと思ったのだ。
それから五年くらいまで、クラウンには悪夢屋の仕事を叩き込んでもらい、ブローカー組織や運び屋なんかにも紹介してもらった。
それが、六年目の春先の事だ。クラウンは突然姿を消した。
しかし、その頃には仕事も板につき、安定して依頼を請け負えるようになっていたので、たいして気にしなかった。
ダークライは、少しばかりクラウンが苦手だった。人間の事になるとすぐに興奮するし、そのくせ、ダークライが自分の仕事の話をしても決して嬉しそうにしない。「うん、うん」と頷くばかりで、ひどく悲しげな、時には泣き出すのではと思うくらいの顔をする。
おかしな奴だとダークライは思った。自分の主張する勧善懲悪に協力してやっているのに、どうして悲しまれなければいけないのか。
ダークライは、クラウンが消えてむしろ仕事がやりやすくなったとすら感じていた。
そして、悪夢屋になって二十年目の今。
「久しぶりの仕事になるが、大丈夫か? ターゲットは子供だし……」ヨノワールが言う。
「ハッ! 心配しているのか? ヨノワール」俺は笑ってやった。
「そうだ。でも、お前の事じゃないぞ。お前が失敗すれば、ウチの評判が落ちるからだ」
「なんだなんだ、ヨノワールのくせにツンデレかよ。気持ち悪い」ニヤニヤ顔でからかう。こんな会話でも、仕事前には緊張がほぐれて丁度いい。
「ツンデレとはなんだ?」真面目な調子でヨノワールが聞く。
「もういい」
……失笑。
俺は早速仕事に取り掛かった。まずは、この家に忍び込まねばいけない。
こういう時に便利なのが、ダークライの、影に溶け込む能力だ。俺はアスファルトに潜るように身を沈めた。見上げるとヨノワールの顔がある。あいつに見下ろされるのは非常に不愉快なので、さっさとドアの隙間から家に入った。
玄関に入り影から体を出した。中もやはりきれいに片付いている。
正面には大きな油絵――風景画のようだ――が飾ってあり、下駄箱の上には置時計と、一輪挿し。さすがに花の色までは暗すぎてよく分からなかったが、シルエットだけでも、その簡素な美しさがよく分かった。それはこの家族にとてもふさわしい美しさで、俺の勘にさわった。
ただ、靴だけは子供たちのせいだろうか、大きな靴も小さな靴も皆、不揃いに広がっていた。
俺は肺にいっぱい深呼吸をすると、ターゲットの家に一歩を踏み出そうとした。
ところが、
「ダークライ。ちょっと戻ってきてくれ」さっきまでとはうって変わった、張り詰めたヨノワールの声がした。
ダークライは仕事中に邪魔が入るのを何より嫌う。たった今も、ただ事でない雰囲気を感じつつ、イライラを抑えきれなかった。
「なんだ? お前、仕事の邪魔するのはゆるさねぇぞ」
「緊急事態なんだ! 頼むから、早く戻ってきてくれ」
さすがに無視できそうにないので、仕方なく再び影に潜ると家をでた。
「どういうつもりだ? 一体何があったんだ?」
ヨノワールは、黙って宙を指差した。
その先には、首周りの白い体毛が特徴の鳥ポケモン――ドンカラスが飛んでいた。
「どうして……」
俺は驚きのあまり、さっきまで怒っていたことも忘れて、ドンカラスの上に乗ったポケモンをぽかーんとして見つめた。ヨノワールが仕事中にも関わらず、自分を呼び戻した訳が分かった。
「どうして……キリキザンがここに来るんだよ……」
キリキザンはヨノワールの上司であり、ブローカー組織のボスだ。イッシュ地方から単身ここ、シンオウ地方までやってきて組織を一から作り上げた、知る者にとっては伝説的な男だが、不気味な噂も絶えない奴だ。
普段キリキザンがわざわざ現場に出てくることは決してない。今回突然やって来たのには間違いなくとんでもない理由がある。それも、悪いことに違いない。
ダークライがキリキザンに会ったのは、これまでにも一度しかない。クラウンに連れられて、組織と顔合わせをした時だ。
あの時からキリキザンの事は嫌いだった。俺は特に何もせず、クラウンとキリキザンで、仕事のことや、関係のない昔話をしているだけだったのだが、とにかく気持ち悪かった。俺を見ると頬を引きつらせるようにして、クックッと笑うのだ。それを見ると初対面なのに、なんだか全部見透かされているような、すごく自分が無知なような、そんな気分にさせられるのだ。
ドンカラス――つまり、キリキザンは俺達同様庭に着陸した。着陸するとき、激しい風がゴムボールを道路脇まで吹き飛ばした。
「ボス……一体なぜ……?」かすれた声で、ヨノワールが聞いた。
明らかに動揺しているヨノワールを見、キリキザンは笑った。
「いやいや、すみませんねぇ、ヨノワール。驚かせてしまったようで……。アナタが何かミスをしたとか、そういう訳ではないので安心してください」
「では、何があったのですか?」
「後でアナタにも話します。今は下がっていなさい」
「でも……」なおも、ヨノワールは食い下がる。
「邪魔です。下がっていなさい」突然笑みが失せ一喝した。関係の無い俺まで驚くような豹変だった。
上司の命令にヨノワールはすごすごと玄関先まで引いて行った。
「俺に何か?」短くダークライが聞く。
「そうなんですよ」いかにも疲れたという様子で言った。
俺は何か、とてつもなく嫌な予感がした。
「ダークライ。アナタに『良夢』を見せて欲しいのです」
予感、みごとに的中。
「いやぁ、すみません。ワタシも焦っているもので、ついつい飛ばし過ぎました。何か聞きたいことはありますか?」
展開に追いつけず黙っている俺を見てキリキザンが言った。
「何か、と言われても困る。俺には分からないことだらけだ。
まず、『リョウム』とは何だ? どうして突然そんなことを俺に頼む? 俺にはこれから悪夢を見せる仕事があるんだぞ? お前は俺を担いでいるのか?」
矢継ぎ早の質問に、キリキザンは両手で俺をいなした。いなしているだけのはずだが、奴の両手は手刀を切ってシュッシュッと音を立てた。
「まぁまぁ、落ち着いて。ワタシにも答えられる質問と、答えられない質問があります。……もちろん、答える気のないものもね」笑って言う。
「まず『良夢』とは、悪夢とは逆の夢、見た者を幸せにする夢の事です。
いきなりこんなことをアナタに頼むのは、これが緊急事態だからです。私としても、こんなお願いするのは非常に心苦しいところなのですよ。
それと、悪夢屋の仕事は、今夜は無くなりました。というか、悪夢のターゲットだった人間達に、良夢を見せてください。
あ、それと、決して担いでいるわけではないので、安心していいですよ」これでいいかというように、キリキザンは肩をすくめた。
「まだよく分からない。どうしていきなり良夢なんて言い出す? 緊急事態とは? 一体何があったんだ?」
「それには答えられません。お察しを」相変わらず事もなげに言う。
「ふざけるな!」とうとう俺はキレた。
「何が何だかさっぱり分からないが俺は手を引かせてもらう。だいたい良夢なんて俺の仕事じゃない」そう言い捨て、俺は帰るためにムクホークの元へ行った。
「それなら、仕方ないですねぇ」背後からキリキザンの声がした。妙に引っかかる調子に、俺は足を止めた。
「非常に残念ですが、別の悪夢屋さんにお願いするとしますか。
しかし、そうなると……あー……こんな無理なお願いするわけですから……その方とは……何ですか……今後組織としても、えー……そのー……『深〜い』お付き合いになるでしょうがねぇ……」白々しくも、最後にはため息までついてみせる。
「俺に仕事をまわさないって、脅しているのか?」悔しさのあまり歯ぎしりしつつ、こぼれだすように言った。
「クックッ」
あの笑い声。俺は背中に悪寒が走るのを感じた。
「どうしますか? ダークライ」
「噂通りのとんでもない奴だな、お前」
それにしてもどうするか。
ここで無理にでも帰れば、ブローカーからの仕事が来なくなるかもしれない。ただでさえ需要の減っている悪夢屋なのに、彼らのコネを失ったら間違いなく廃業だ。
だが、デマカセの可能性がある。自慢じゃないが、俺は悪夢屋の中でもトップクラスの成績を上げている。そんじょそこらの奴が代わりになるほど俺はヘボじゃない。キリキザンにしてもそうそう簡単に俺を切れないはずだ。
「何を考えているかは分かっています。でも、自惚れないほうがいいですよ。アナタの代わりなんていくらでもいるんですから」余裕たっぷりに言う。
――見抜かれている。
状況を考えれば、それほど難しい推測でないと分かっているもの、やはり不気味でしょうがなかった。
「そもそも良夢なんて俺にはできない。俺は確かに夢の中身を弄れるが、それは悪夢だけだ。俺が近づけば、寝ている者は中身がどうあれ皆、悪夢を見てしまう。それが俺の特性だ。俺自身にもどうしようもないことなんだ」
「『ナイトメア』のことなら大丈夫です。対策はしてあります。アナタにはいつも悪夢を見せるように、夢の中身を弄って、ターゲットの見たいと思っている夢を見せてほしいのです」
「対策? なんだそれは?」
ナイトメアの対策なんて俺でも思いつかない。
「それを話す気はありません。で、やってくれるのですか?」
とうとう、手詰まりだ。断りようもなくなってしまった。
「分かった。だが、これからは一か月も次の仕事を待たせるようなこと絶対にするなよ」
「もちろんですよ! こんなお願いを聞いてもらえるんですからね。これから先、需要のある限り、アナタに優先的に仕事をまわすことを約束します」さも嬉しそうに笑うキリキザン。
諦めて再び家に入るダークライを確認すると、キリキザンはヨノワールを呼び出し、ダークライに伝えたものとは違う、さらに詳しい事情を話した。さらに、ドンカラスに預けていた一枚の羽根を渡し、帰って行った。
「『需要のある限りは』……ね」
クックッ。
空から家を見下し楽しげに笑う声。
ターゲットの家の玄関で、ダークライは怒りに震えていた。
あまりに理不尽な要求だ。しかも、失敗すればどうなることやら。多少のミスは見逃しても、あのキリキザンの事だ、全て失敗なんてことになったら、わざとじゃないかと疑ってくるだろう。そうなれば、俺は奴に捨てられ、廃業だ。
だいたい「良夢」だなんてどうしてそんな物を見せなければいけない?
ここの人間達は、もとから最高の幸せの中で暮らしているはずだ。これ以上の幸せを、悪夢屋の俺が、どうしてやらなければいけないんだ。
――ガシャン!
力任せに振り回した腕が、一輪挿しに当たり花瓶が割れた。ついさっきまでの簡素な美しさは、すでに影も形もない。
「どうしたんだ? 大きな音を立てるなんてお前らしくもない。ターゲットが起きたらどうする?」ドアの向こうから、ヨノワールの声がした。
「黙れ! こんなことになっていつも通りでいられるか!」
後も、ヨノワールは何かゴチャゴチャ言っているのが聞こえたが、俺はさっさと奥へ向かった。
二階の寝室。母親の横でぐっすりと眠っているのが、ターゲットだ。年齢も顔立ちも、ヨノワールから聞いていた特徴とあてはまる。
もう一度俺は子供を見た。俺は今このガキに「良夢」を見せようとしている。まったく悪夢のようだ。
嫌だった。自分の仕事と真逆だとか、キリキザンに利用されているとか、そういう事では無く、純粋にこのガキを喜ばすようなことがしたくなかった。嫉妬しているのかもしれない。
――バカラシイ、ヤッテラレナイ。
自分の物とは思えない考えが湧いた。
「もう終わったのか。さすがダークライだ」
家を出ると、ヨノワールが早速言った。言葉は労っているが、一つ眼は細めている。
「分かっているんだろ。俺は何もしていない。キリキザンには長い付き合いだったと言っといてくれ」
「おいおい、本気か? お前が一旦引き受けた仕事を放り出すのか」ヨノワールは相当驚いている。
「こんなのは俺の仕事じゃない」
「でも、お前は引き受けた。それに、これからどうするつもりだ? このまま仕事をしないならお前は廃業だぞ」
「余計なお世話だ。じゃあな」
俺はまっすぐムクホークの方へ進んだ。
「ちょっと待ってくれ」ヨノワールが慌てて引き留める。
「どうしたらボスの頼み、引き受けてくれる?」
「キリキザンの代わりに頭を下げるあたりお前らしいな。
なら、キリキザンが隠していること全て教えろ。奴の秘密を全部喋ったら引き受けてやる」
「それは……」ヨノワールが口ごもる。
「そりゃそうだろうな。お前がキリキザンの秘密を話すわけがない。 お前は昔からそういう奴だ」
ヨノワールは見たことない程、みじめで辛そうな顔をしていた。
「残念だ、ヨノワール」
俺はムクホークの背に乗った。
「分かった、話す」
ムクホークが今にも飛び立とうとした瞬間だった。
「話すからボスの頼み聞いてくれ」
「本気か? お前がキリキザンを裏切るっていうのか? まさかな、信じられないな」
「俺の話を信じようと信じまいとお前の勝手だ。だが、聞けば分かる。全て本当の事だ。それに、私の話を裏付ける証拠もここにある」ヨノワールは真剣だった。
「証拠? 何だそれは?」
「そのことについても話す。とにかく聞いてくれ」ヨノワールは半ば懇願するように言った。
「いいだろう。話せ」俺はムクホークから降りた。
「話したら、ボスの頼みを聞いてくれるんだな?」ヨノワールの方もこちらへやって来た。
「……あぁ」
「やってくれるんだな」ヨノワールが語気を強めてさらに言う。
「分かった、分かった。約束する。お前の話を聞いたら、キリキザンの言う良夢、見せてきてやる」
ヨノワール納得したように頷くと、話を始めた。
「ボスが良夢を請け負うようになったのは、今からもう二十年程前のことだ」ヨノワールが話を始めた。
「その頃から悪夢の依頼はゆっくりではあったが確実に減りだしていた。当時にボスは時代の変化に気付いた。これから悪夢屋は廃れるってな。だが、その時点で悪夢の依頼が完全に無くなった訳でもなかったから、ボスは徐々に良夢へ移行していく計画をたてた」
ダークライは、「二十年」という歳月に、すうっと腹の奥がつめたくなるような感覚を覚えた。
二十年前。それはつまり、ダークライが悪夢屋を始めた年だ。クラウンに誘われて始めたあの時から、悪夢屋は終わりに向かっていたということなのか。
――需要がある限り――
さっきのキリキザンの言葉を思い出す。
「い、いま、そっちに依頼はどのくらいいっているんだ?」焦りのあまり声が裏返る。
「…………」ヨノワールは答えない。気まずそうに立ち尽くしている。
「答えろっ!!」
「……ない」ボソッと言う。
「ない?」言っている事の意味が分からなかった。
「最後に正式な悪夢の依頼が来たのは三年前が最後だった。今はもうない」
「嘘をつくな! じゃあ、先月の依頼はなんだったんだよ!」
「ウチで適当に選んだ、何の関係もない人間達だ」
「関係のない?」声がかすれる。吐きそうだ。
「ボスからの指示だ。あの人間達に依頼は来ていなかった」
「あぁ……どうして……どうしてそんなことを……」涙が出る。がっくりとして地面に手をついた。俺は腹の奥から盛り上がってくるモノにこらえきれずその場に吐いた。
これまで俺はたくさんの人間達に悪夢を見せてきた。生半可なものなど何一つない。依頼人の為、どこまでも恐ろしい悪夢を見せ続けてきた。
人間達は覚めない悪夢の中で助けてくれと悲鳴を上げ、引きちぎらんとばかりに頬をつねっていた。中には「死にたい」と言って、何千何万というナイフの生えた谷へと飛び込んだり、毒を吐き火を噴く魑魅魍魎の中へと自ら消えていく者もいた。そういう奴らのほとんどが、その後も目を覚まさなかったと聞く。正気を失ったのだ。
男も女も関係ない。子供も大人も区別しない。虐げられたポケモンの為、全力で悪夢を見せてきた。そのはずだった。依頼を全うされて喜ぶ誰かがいると、少なくともあの人間達は「悪」だと、信じていた。
なのに、そうじゃなかった。少なくともこの三年、俺は憎まれていない、もしかしたら本当に無垢な人間に、悪夢を見せてきたのかもしれない。
そう思うと、涙が、吐き気が止まらなかった。まさに悪夢だった。
「お前が優秀だからだ。ボスは夢の扱いに優秀なお前がこれからも使えると思った。だが、クラウンと同じで頑固な所のあるお前だ。『悪夢屋』から『良夢屋』に転身しろと言っても、聞かなかったろう。それどころか、悪夢の依頼が減っていることを話したら、お前は悪夢屋を辞めていたに違いない。お前はそういう奴だからな」ヨノワールが困ったように嘆息する。
当然だ。俺は悪夢屋であって他の何者でもない。人を知るためとは言っても、二十年この仕事を続けてきた自負がある。需要が無いからって、別の、それも真逆の仕事をする気など無い。
「だから当面は、他の悪夢屋を使って良夢を請け負いつつ、依頼があるふりをしてお前をつなぎとめておくつもりだっだ。もちろん、ボスだっていつかは本当のことを話すつもりでいた。隠し通せるようなことでもないからな」
「信じられない。信じたくもない!」憤慨して言う。「そんなこと急に言われても、とてもじゃないが鵜呑みにできない」
「だから、ここに証拠がある」
ハッ、として証拠のをことを思い出した。心底見たいはずなのに、俺は同時に逃げたくなった。
「これだ」ヨノワールが手を差し出す。
俺は起き上がってその、証拠を見た。彼の掌に収まるそれは、とても綺麗な一枚の羽だった。
俺はたくさんの意味がこもった、その羽根のために頭がどうにかなってしまいそうだった。
「どうしてそんなものをお前が持っている?」
「偽物じゃないぞ。まぁそんなこと、お前が一番分かっているだろうけどな」
――みかづきのはね。
大昔、悪夢屋の起源より、それは悪夢、つまりダークライを退けるものとして伝わっている。それを模したアクセサリーや、本物と偽って売られているのはダークライもよく見知っていた。
だが、目の前にあるそれは間違いなく、本物のみかづきのはねだった。
「これはクレセリアさんからボスが直接いただいたものだ。
ボスは移行計画のなかで、彼女を傘下に入れることを最大目標としていた。そして彼女は二週間前、正式にウチと契約を結んだ」
「バカバカしい。あの女がキリキザンと手を組むはずがない」
「しかしこれが証拠だ」これみよがしに羽をふる。
「正直私も驚いている。契約の事はついさっきボスから聞いたばかりなんだ。でも、間違いない。今、彼女は『良夢屋』だ」
とても納得できる話ではない。が、どうやら本当の事らしい。
ダークライという種族全般そうだが、クレセリアに対して大概良いイメージを持っていない。あの羽のせいか、二匹の間にはなにか対局的なものがあって、“とりあえず”どのダークライも、クレセリアが嫌いだ。そして、それは恐らくクレセリアにしても同じだろう。
実を言うと、俺はクレセリアに会ったことがない。それどころか見たことすらない。しかし、それでもあの女のことを聞くと何か不愉快な気分になるのはきっと、「ダークライ」である以上仕方のないことなのだろう。
クレセリアについて、俺はその昔クラウンに聞いた以上の事をあまり知らない。そのクラウンはクレセリアを、「八方美人の世間知らず」、と呼んでいた。
悪夢屋になる前、何度目かの「悪夢屋の歴史」の話を聞いていた時。
「クレセリアって奴は、人間の次にタチが悪い」苦々しげに言う。人間の事以外でクラウンがこんな顔をするとは珍しい。
「何も知らないくせに、ベラベラといらないこと吹聴して、あげく神様だなんて崇め奉られていい気になっている。おかげで昔っからダークライは『悪夢を見せる悪いポケモン』って評判が根付いてしまっている。
こと、人間に対しては誰彼かまわずいい顔してるから、悪夢屋としてはやりづらくてしょうがない。あの羽さえなんとかなればいいのだけど……」
彼に聞くまで俺はクレセリアの存在すら知らなかったが、ダークライという種族の因果だろうか、なんとなくそいつが嫌な奴という事だけは、感覚的にハッキリ分かった。
主観を抜きにしても、クレセリアがバリバリの「親人間派」であることは、神格化されていた史実やこれまで聞いた話からして間違いない。そんな奴がどうしてこれまでさんざん人間を苦しめてきたキリキザンと協力するのか、どんな心変わりがあったのか全く想像がつかない。
だが、問題はそこじゃない。クレセリアはキリキザンの「良夢屋」になった。
つまり、今、俺の立場はかなり危ない。
クレセリアのことはあまり知らないが、キリキザンが計画の最大目標にするぐらいだし、仮にも昔は「夢の神様」と呼ばれていた奴だ。相当のやり手であることは間違いないだろう。
クレセリアを傘下に入れた今、ブローカー組織は本格的に「良夢」へと切り替わるはずだ。そうなれば、ただのつなぎにも俺と手を組んでいる必要はない。
「キリキザンめっ!」怒りのあまり脳みそが沸騰しているのかと思った。
あの男は初めから俺を切るつもりだったのか。あたかも交換条件のようにして良夢を押し付け、「需要のあるかぎり」などと言って俺を騙しやがった。
「私はこうなると分かっていた。だから、お前に何度も忠告した。人間に着けって。なのにお前は一度として耳を貸そうとしなかった!」見上げるとヨノワールの顔の灰色がさらに白くなっているように見えた。
「黙れっ! ヨノワール。キリキザンが何をしているか知っていて協力してきたお前も同じ悪党だろうが。今さら何言い訳してやがるっ!」
「そうだな……すまない……」
「うるさい! 今さら謝っても遅いんだよ!」
「……すまない」
できることなら今すぐにもキリキザンを追いかけ、「ダークホール」に落として、いっそ死んでしまいたと思うくらいに悪夢を見せてやりたかった。俺から俺に送る最後の依頼だ。
でも、まだだ。まだ、聞きたいことがある。
「ヨノワール。最後に一つ聞きたいことがある」淡々と俺の口から言葉が出てくる。
「……クラウンのことか……?」
いろいろ抜けている所のある男だが、肝心な所では誰よりも察しがいい、それがヨノワールだ。これだからキリキザンの右腕としても勤まるのだろう。
「クラウンは今、どこにいる?」
「私は知らない」
――ドガーン!
派手な音を立ててヨノワールの背後の鉢植えが爆発した。植えられていたチーゴの花が、無残に散って土に埋もれている。
「もう一度聞く。クラウンはどこだ?」
俺の手の中にはすでに次の「あくのはどう」が、まがまがしい光を放って渦巻いていた。
「よせ、ダークライ。家の者たちが起きてしまう……」
――ドガーン!
まず二階、そして一階の窓の一つに明かりが灯り、大きくえぐれたレンガ塀があらわになった。
玄関から家の者が一人、しかめっ面で出てきた。イタズラとでも思っているらしい。寝間着姿の男は初めに俺達を見、次に庭の惨状に視線をやった。事態を飲み込んだ男は、慌てて家に戻ろうとした。自分のポケモンを連れてくるか、警察を呼ぶ気だろう。どちらにせよそんなことになれば、キリキザンの頼みどころではなくなってしまう。
しかし、ヨノワールの対応は早かった。男がドアノブに手をかける前に「かなしばり」で動きを封じ、「あやしいひかり」で混乱させる。男は目をトロンとさせてその場に立ち尽くした。すでに記憶はむちゃくちゃになっていることだろう。
「話が違うぞ、ダークライ」極めて落ち着いた口調だったが、その声は怒りに震えていた。
「ボスの秘密を話したら頼みを聞くはずだ。今すぐあの者たちを眠らせて、ターゲットに良夢を見せてこい!」
「やっぱりバカだな、お前」
「なんだと?」ヨノワールが低く唸る。
「キリキザンの頼みを聞いたところで廃業は避けられないと教えたのは、お前だぞ。まさか、そんな話を聞いた後に俺がまだ約束守ってあの男の頼み聞くと、本気で思っているのか?」俺は鼻で笑った。
「思っている。お前はそういう奴だからな。一度引き受けた仕事は絶対に放棄しないし、約束は必ず守る、お前はそういう奴だ。それに、一ついいこと教えてやろう」
「なんだ?」
「俺は本当にクラウンの居所を知らない。だが、ボスは知っているはずだ。このまま良夢を見せてくれば、ボスが教えてくれるかもしれない」
「だが、その保証はない」
「そうだ。しかし、ボスの頼みを聞かなければ、絶対に教えてはもらえないぞ。お前がクラウンの居所を知る唯一の方法がなくなるわけだ」
「うぅ……」
「分かったら、早く仕事をはじめろ。他の人間達が出てきたらさらにやっかいな事になるぞ」
悔しいがヨノワールの言う通りだ。ヨノワールがクラウンの事を知らないという以上(彼の言うことを信じればだが)他に奴の事を知っていそうなのはキリキザンくらいだ。今、キリキザンの頼みを放って帰ったら知りようがなくなってしまう。
「クソッ、分かったよ。さっさとあの人間、上にやっとけ」
「いいだろう」短くヨノワールが答えた。その顔は嬉しそうでも悲しそうでもなかった。
目の前にいるガキは気持ちよさげにぐっすりと眠っていた。のんきなことだ。寝床の横に立つといつもそう思う。これから世にも恐ろしい悪夢を見ることになるというのに、これほどマヌケなことは無い。
俺には悪夢にこだわりがある。細かい事を言えばたくさんあるのだが、最も大切なことは、夢の中に依頼人、もしくはそいつと同じ種族のポケモンを登場させることだ。
これはクラウンもそうだった(彼は必ず依頼人を登場させるという所までこだわっていた)、いや、むしろこんなこだわりができたのにはクラウンの影響もある。――まぁ、こんなことにしつこくこだわっているから、ヨノワールにも頑固だと言われるのかもしれない。
しかし、ポケモンを登場させることは非常に重要な悪夢の要素だ。俺はそのことをクラウンから教わった。
「いいか。悪夢屋になるうえでまず一番に覚えておかないといけないことがある。それは私達の仕事が『警告』と『代理復讐』だってことだ」
ハンターのもとを抜け出してまず最初に、クラウンから教わったことだ。
「私が悪夢を見せるのは警告の為だって話は前にしたな。人間に対してこれ以上ポケモン傷つけるようなことしたら、ただじゃおかないぞって事を伝える為だって。
けどな、同時に俺達の仕事は『代理復讐』でもある。依頼人の代わりに、恨みを晴らすのが悪夢屋だ。でもな、悪夢屋の俺が言うのもなんだが『復讐』ってのは、この世で最も恐ろしい『悪』だ。だから俺達はそれを何としても止めなければいけない。その意味が分かるか、ダークライ?」
俺は黙って首を横に振った。俺にはその時全くクラウンの言葉が分からなかった。ただ唐突に始まった説教じみた話に少しばかりウンザリしていた。
「なんだなんだ? つまらないって顔しているな。まぁしょうがない。でも、これから話すことは大切なことだから、しっかり覚えておくんだ。
『復讐』っていうのはな、あらゆる悪の根本にあるものだ。やられたらやりかえす、さらにまたやりかえす……。人間も、そういう点じゃポケモンもおんなじだ。しかしそれではキリが無くなってしまう。だからどっちかが我慢しないといけない。トラブルがあっても、人間同士なら他の人間が仲裁に入って止めるだろう。でも、人間とポケモンじゃいつだって私達の方が我慢する側だ。人間達はポケモンを扱う、上の存在だから、我慢っていうものを知らない。ポケモンに対してそんな必要なんて無いとすら思ってる連中だ。でもな、いろんな事情、例えば、程度の超えた行為によるものだったり、誰か大切な者のためだったり、……あとは、そいつが単に短気だったりすることもあるだろうが、とにかく、ポケモンだって我慢できないことがある。そういう時に使われるのが悪夢屋だ。
悪夢屋はいつだって、自分と関係のない恨みに付き合っている。だからこの恨みが誰からのものであるかってことを明確に人間に伝えなきゃならない。そうしないと、どの悪夢も警告にならない。『復讐』を止める警告にはならないんだ。
プロになれ、ダークライ! 目的を忘れるな。私達の仕事は『警告』と『代理復讐』なんだ!」
クラウンは言った。
二十年たった今でも、実はいまいちクラウンの言う「警告」と「代理復讐」の意味がよく分かっていない。結局は、復讐の連鎖を止めるために、きっちり恨みの由来を伝えろって言うことなのだろう。でも、悪夢を見せたぐらいで本当にその抑止力となるのだろうか。ハッキリ言って疑わしい。
本音を言うと、俺が悪夢の中でポケモンを出すのは、人間がどんな反応をするかを見たいからだ。
悪夢の中で(もちろんシチュエーションの影響もあるが)、ポケモンを見て安心する者、逆に怖がる者、何も反応を示さない者、さまざまだ。そいういう反応が人間を知る為の手がかりになる。
「ハァ……バカバカしい。今さら俺は何を考えてるんだ……」思わず空しさが口をついて出た。
何考えているんだ、俺。昔の事なんて思い出したりして。今さらクラウンから何を教わったかなんて、どうでもいい事なのに。
ヨノワールはついさっき下へ戻った。不本意な仕事だが、仕事は仕事だ。職場に他の奴がいると気が散ってしまう。
これから俺が見せるのは良夢。悪夢じゃない。悪夢屋としての心構えなんてなんにも役に立たない。これは「警告」でも「代理復讐」でもない。どこかの人間好きから来た注文、のんきな寝顔の相応しい、良夢だと言うのに。
邪念を振り払いたくなって、俺はどんな夢が見たいか調べるのに早速ガキの精神に潜り込んだ。
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果てしなく広がる緑の大地、世界の真ん中で白の少女は空を仰ぐ
びゅうびゅう、びゅうびゅう
青い空とはためくワンピース。
風が強い、強すぎる。華奢な少女は今にも吹き飛ばされてしまいそうだった
しかし、少女は身にせまる危険すらおかまいなしに空を見る
ただただ空を見る。そこには何も無いというのに、飽きもせずに空を見る
いや、違う
空には空いがいのものがいる、少女はソレを見てる
そうソレは……俺だ!
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ここまで見て俺は“外”へ出た。ガキの望みが分かった。
外に出るとダークホールを用意した。寝ている者には基本的に効果のない技だが、これを事前にかけて置くことでより深い睡眠をもたらし、夢を見せている間に目を覚まされる心配がなくなる。
ガキがダークホールにかかったのを確認すると、俺はまた精神に潜り込んだ。
良夢、第一の仕事開始だ。
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さっきと同じ、どこまでも続く青い空、美しい世界。しかし、地上には誰もいない。少女は今、俺の背中に乗っている。
俺はムクホークになっていた。
少女の望みは、空を飛ぶこと。それも、ポケモンに乗って飛ぶことだった。
望みの叶った少女は歓喜の声を上げ、俺の翼を持って右へ左へ縦横無尽に大空を飛びまわった。
突然、雲一つなかった空にもくもくと大量の雲が出てきた。
それは俺の“作った”チルットとチルタリスの群れだ。見上げても壮観な彼らの群れだが、こうして見下ろしてもなお、心震わせるものがある。
「ねぇ、ムクホーク。すっごくきれいねっ!」満面の笑みを浮かべて少女が俺に話しかけてきた。
なんと言ったらいいのだろう。俺は奇妙な気分になった。しかし言葉が出ない。口をパクパクさせてはいるもの、声が出ない。
「ん? どうしたの? だいじょうぶ?」やわらかな声。彼女のやさしさが、その声にまでにじみ出ているようだった。
その瞬間、喉のつっかえが取れたように感じた。今なら話せる。ずっと少女に言いたかった言葉。
「落ちろ」
真っ逆さまに落ちていく少女。
世界が終った。
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第一の良夢、失敗。
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お題「悪」
以前だしていたものが消え、前半部だけ完成させてもう一度出しました
え、キリキザンの役柄酷過ぎないかって?
でも、私、イケズキはキリキザン大好きです! ええ、そりゃもう、心底!
【描いてもいいのよ】【批評してもいいのよ】
森の奥からやって来る黒い陰。「悪夢屋」ダークライに久しぶりの仕事が来たようだ。
「悪夢屋」という稼業の歴史は長い。その起源は、ポケモンがまだ「魔獣」と呼ばれていた時代にまでさかのぼる。
その頃の人間のポケモンに対する扱いは酷いものだった。捕えたポケモンは皆、鎖と鎧で拘束されえんえん人間にこき使われた。逃げようとすれば罰として拷問され、刃向えば殺された。不思議な力を持つポケモンのことを人間は便利に使いながらも恐れていたから、見せしめとしての拷問や殺戮は徹底して行われた。完全に抵抗の機会を奪われたポケモン達は、不満を持ちつつも長いこと人間の奴隷として服従を続けていた。
ところがある日、一匹の悪夢を操るポケモン、つまりダークライが立ち上がった。そのダークライは同族の者を集め、報復として想像を絶する程恐ろしい悪夢を毎夜人間達に見せた。悪夢を見続けた人間達は次々と正気を失い、自ら命を絶つ者までいたそうだ。困り果てたある国の王様が三日月の島と呼ばれる場所で夢の神様、はっきり言ってしまえば、クレセリアにお伺いをたてたそうだ。するとクレセリアは、ポケモン達への行いを改めれば悪夢は無くなると教え、それから少しずつ人間達はポケモンとの関係を考え直すようになった。
しかし、習慣というのはなかなか抜けないものだ。
それからもポケモンは事あるごとに痛めつけられこき使われた。だが、そのたびにダークライ達は、その者が悔い改めるまで悪夢を見せ続けた。
その繰り返しの結果、今に至る。
歴史上のダークライ達は完全ボランティアで悪夢を見せていたが、今は「悪夢屋」というビジネスとしてある。
現在の「悪夢屋」は憎んでいても表だって攻撃できないポケモンから依頼を受けて、「悪夢」を見せることで、代わりに人間に復讐する仕事だ。仕事自体は単純なものだが、実際はそんな簡単な話じゃない。仕事の中身が中身だけに日の目をみることもない。
あの黒い陰、すなわちヨノワールは、ブローカーと呼ばれる類の連中だ。ブローカーは依頼を集めてそれを悪夢屋に持ち込んだり、仕事が円滑に進むよう悪夢屋の必要をそろえる。つまりは、パイプ役兼サポート役というわけだ。
あのヨノワールは俺の専属のブローカーだ。悪夢屋の誰もが専属を持つわけではないが、俺はブローカー組織から一目置かれているおかげで、あのヨノワールをパートナーにできた。多少抜けた奴だが結構重宝している。
ヨノワールは俺の元に来るなり、さっそく依頼の説明を始めた。
「今夜のターゲットは三人だ」
「ハァ、一か月も仕事を待って、たったの三人か……」
「そういう時代だ。仕方ない。お前もさっさと隠居して、どこかの人間に着いたらどうだ? ダークライのお前なら引く手あまただろう」
「そうだな。考えておこう」気のない声で、ダークライが答えた。
ダークライに人間に着く気はサラサラ無い。彼が悪夢屋をするのは、その需要以上に重要な理由があるからだ。
ヨノワールは、諦めたように首を振った。
「私は確かに忠告したからな。後悔しても知らんぞ」
「余計なお世話だ。ほら、さっさと行くぞ」そう言って先に行ってしまった。
「すぐに思い知るさ。すぐにな」
誰もいなくなった森の中、ぼそりとヨノワールが呟いた。
森を抜けるとそこには二羽のムクホークがとまっていた。ダークライの住処は孤島なので、外に出る時はいつも、海を泳げるポケモンか空を飛べるポケモンが必要になる。仕事で出るときはいつも、このムクホークに乗っていく。飛んで行ったほうが断然早いし、海を渡った先でも移動に便利だからだ。それに、ダークライが船酔いしやすいというのも、理由としてある。
余談になるが、ムクホーク達は悪夢屋とも、ブローカー組織とも全く関係のない、通称「運び屋」という所から来ている。移動の足は重要だ。悪夢屋・ブローカー組織、どちらか寄りの鳥ポケモンでは、仕事先で衝突があった時、動きを封じられてしまう可能性がある。それぞれで用意しようにも、ダークライはその辺の「コネ」を持っていない。しかも、そうすると用意したポケモンの間で、移動能力(速度やスタミナ)に差が出る可能性がある。それでは危険だということで、事前に「運び屋」をそれぞれの合意で決めておき、そこから移動用ポケモンに来てもらう。
移動中、ダークライはずっと最初のターゲットの事を考えていた。
ヨノワールによれば最初は、女の子供だ。
子供相手は苦手だ。別に無垢な子供を傷つけるのが嫌なわけじゃない。そもそも、依頼が来ているという時点で無垢ですらない。
子供の恐怖は不安定なのだ。
悪夢屋はターゲットに悪夢を見せる前に、まず「恐怖のツボ」をさぐる。相手がどんな物事に恐れるか先に調べておき、効率よく悪夢を見せるためだ。ところが子供の場合、そのツボがなかなか安定しない。
例えば、ゴーストポケモンを怖がる子供に、ヨマワルに追い回される夢を見せるとする。その子供は、初めは恐怖に泣き叫ぶのだが、だんだんと慣れていき、しまいにはヨマワルと仲良く遊んだ夢になってしまう。
こういったことは普通、対象の誤解から起きる。つまり先ほどの場合なら、実はゴーストポケモンでなく、「ジュペッタ」だけが恐怖のツボだった、というような、ツボの取り間違いが原因だ。
それが子供の場合、ツボの不安定さによることが多い。それまで怖がっていたのに突然平気になってしまう。子供とは案外、恐怖に対する免疫が強いものなのだ。
ベテランの悪夢屋であるダークライも、子供相手は成功率が芳しくない。加えて久しぶりの仕事だ。彼は、いつも以上の緊張感を感じていた。
「着いたぞ」
そう声をかけられるまでムクホークが徐々に下降していることにすら気づかなかった。
フワンテ事件はまだマジだった。大体私のゴーストホイホイ体質からしてこの流れでフワンテどもが寄ってこないと考えない方がおかしい。
絡まることはなくなって、代わりにゴ―スを持ちかえったりお土産渡したりして風任せな関係を築いていれば害もない。
・・とか思ってたんだけどねー。
ある日、自転車押してヨマワル連れてヌケニンおともにゴ―スinポケットで家に帰ってみれば。
フワライドが突き刺さってました、物干し竿に。
別にうちにある物干し竿はいたって普通の物干し竿で、好き好んでポケモンが突き刺さるような魅力的なフォルムはしてません。マジで。ただの竹竿だから。
だのに紫風船は絡まり幽霊気球は突き刺さる。呪われてるのかこれは。清めの札を張るべきか、それともおニューの物に買い替えろという暗示か。
私のゴーストホイホイ体質が絶好調なだけかもしれないが、全く持ってありがたくもなければ嬉しくもない。どうしろというんだ。
とりあえず被害深刻なフワライド。あれですよ、下の方のいかにも穴があいてます、な空間からじゃなくて真横からどっすり刺さってます。貫通してないのは幸いなのかどうか。
ヨマワルは卒倒しかけた。先に家に入ってなさい。ゴ―スはビビって縮こまっていた。ヌケニンは、無表情だった。
なんというか、異常過ぎて逆にシュールだ。というか、どうやったらベランダに立てかけてある物干し竿にあそこまで深く刺されるんだろうか。謎だ、謎すぎる!
とか謎を追っても仕方がないので、被害者(別に死んではないけども、いやその前にゴーストなんだけど)を救助しに向かう事にした。
別に今日風が強いとかそんな日じゃなかったにもかかわらず、物干し竿ごと紫気球を取りこむ。誰か刺さるところもろに見た奴いる?いない?そう、いたとしても気絶するかなんかしてるかきっと。
とりあえず抜いてみる。・・血とか出ないかな。いや、その前に突き刺さってるところから漏れてるの空気だけだから大丈夫か。(そうなのか?)
せーの、ってあっさり抜けた。拍子抜けするくらい単純に。そのあとがヤバかった。
派手な音が立てて残りの空気が全部抜けて部屋の中を気球がびゅんびゅん飛び回りながらしぼんでいく。
お前はどこの漫画出身だぁぁあ!突っ込む気力も削がれるくらい見事にやらかしてくれました。あーぁ、他のゴーストポケモン共リアクション取れてないよ。唖然。何なの今日は。
応急処置、でっかいバッテン印の絆創膏(もどき)で穴をふさぎます。なに?口が二個あるように見える?しょうがないだろ、こればっかりは。
さて、問題はどうやって空気を入れよう。家にあるのは自転車用の空気入れだけなんだけどいくらなんでもあれじゃあねぇ・・。
ヘリウムガス?そんなもん家にあるか。プロパンガス?おい、“ゆうばく”の威力を上げてどうするんだ、んなあぶないもん。ガスがつけば何でもいいと思うなよお前ら。
・・なにそれ、あぁ浮き輪とか膨らませる足で踏むタイプの空気入れか・・。うーん、それで何時間やれば大丈夫なんだろうね・・。あ、みんなそっぽ向いた。やりたくないのね。
次の日、一日ほっといたら自動的に回復してました。要はあれか、穴さえふさげたら自分で膨らめるのか?ポケモンって不思議。
もう刺さるな、とか言って送り出す。こればっかりはもうシュールすぎてやだ。
後日、家の周りのあっちこっちの木々にフワライドが引っ掛かりまくっているのを発見した。
「・・ブームかなんかなのか?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
余談 意味不明だけどごめんね。こんなお話ばっかりなの。
【次なんだっけ】
【何しても問題ナッシング】
ホウエン地方からめでたく帰還。おまけもいっぱいで屋敷に帰ってきました。
ゴ―スゴーストどもがわらわらお出迎え。ゲンガ―もぞろぞろやってきて、愕然としていた。
そりゃあなぁ。
数十匹の無表情な抜け殻、密航してまでついてきた穴掘り職人、こちらで珍味でも食おうかと思ったのか黒坊主どもに、実家から送られてきた段ボールに詰まっている黒ぬいぐるみ。
あげく、こちらに来てまで新ルート開発する気満々の案内人ぷらすアフターケアサービス。
・・そりゃ同類でも唖然とするよなぁ。
私だってどうしてこうなったんだかもう良く分からん。もー好きにしやがれお前ら。
どたばたと一気に館が狭くなる。おいこら、掃除するんだ。居候する気ならお前ら手伝わんかい!
ほらそこ、ハタキ持って。雑巾絞って!丁度いいや、古新聞あるから窓磨いてくれ。そっちは庭で草刈りよろしく。洗濯は私の特権だ、邪魔するな。手ぇ抜く奴は片っ端から掃除機で吸いこんでやるから覚悟しやがれぇぇ!
こうして帰って来たその週末で全面掃除を終わらせた。いや―数がいると早く終わるね本当に。
そんでもって日常で何か変わったかと言えば、かわらねー。びっくりするくらい変化がない。
ヨマワルガイドがついてゴ―スがついて来てたまーにヌケニンがついて来てくれるレベル。うん、ホウエンと変わらん。
ゴ―スを洗濯、ゴーストとのデート拒否、ゲンガ―と菓子作り、以下略、面倒になってきた。
それでもゴースト人口は増える。解せぬ。・・ネタやってる場合じゃない。
カゲボウズと一緒に洗濯もの取り込んでたら、物干し竿になんか引っ掛かってた。
とゆーか絡まってた。
紫風船・・フワンテかこれ。
「ふゆーん」
「ぷわわー」
・・・そんな情けない声でこっち見るなよ。なにがどうなったらお前ら人の家の物干し竿に器用にこぶ結びで絡まってられるんだ。
仕方がなく、物干し竿と一緒に風船も取り込んだ。
さて、こいつらをどうするか。両手が仲よく・・は、無さそうだけども細―い腕がゴチャッとなってる。
興味津々なゴ―スども。まぁ、確かにこの辺はフワンテなんてあんまり飛んでこないしなぁ。
・・しかしこれを手でほどくとなると結構面倒くさそうなんだけども。
あ、ゴースト何それ。ハサミ?あぁ、切っちゃえば簡単にほどけるっていう発想ね、ナイス。
・・・って、やめんかい、アホ。
フワンテどもビビりまくってるじゃないの。ほら片付けた片付けた。
そういえば知恵の輪苦手だったな私・・。ほどけねー。むしろさらに絡まった。どうしよう。
おい誰か手がある奴で手先が器用な奴交代して。私無理。パス。
結論、何匹か試行錯誤した結果どうにかほどけた・・。
「ふゆーん」
「ぷわわわー」
ふゆ―んの方をフユンテ、ぷわわ―の方をぷわんてと呼ぶことにして見分ける。かわいいと言えばかわいいけども、正直言ってもう絡まるんじゃねーぞって言う気持ちの方がデカイ。
あともうゴーストタイプ増えんな――!
叫んでも無駄な気がする・・けどね。
とりあえず外に返す。あっさり風に流されて飛んでった。
後日、また絡まったのは言うまでもない。数が増えて。
「だからどうしてこーなるんだ!」
―――――――――――――――――――――――――
余談 ゴーストシリーズを根性で書いてみたらこうなった
【これもう疲れてきた】
お読みいただいてありがとうございます。
「リナさんはぶっ飛んだ話が真骨頂」と言われるのを密かに夢見て、なぜかグロに走るピエロです。
そうですね、テネは自分自身人間であることは自覚有です。ただもはや人間に対してゆがんだ見方しかできなくなっていて、将来もごく限られた人間しかそばに置きません。ポケモンには囲まれているようですが――。まあ、そんな感じの設定です。
分かりますグラエナの群れ。そう、このグラエナの群れなにかと被る――と思ったら、『もののけ姫』に出てくる山犬たちでしたw そしたらほら、テネがサンに見えてくる。
テネ「人間なんて大っ嫌いだー!!!」
いやー、うまく言えないけどよかった!
コンテストのほうに自分をポケモンだと信じてる女の子の話がありましたが、
なんかそれの行き過ぎちゃったバージョンというか究極系な感じ?
(ただテネの場合は自分の種族は自覚してる感があるのでちょっと違うかな?)
かなり好みのテイストでしたわ。
グロいけど(笑)。
グラエナの集団はロマン!(意味不明
※この文章には一部暴力的・残酷的・性的な描写が含まれています。苦手な方はご注意ください。
――よくここが分かったね、人間。
こん樹海の奥深くまで辿り着くなんてよっぽど腕のあるトレーナーなんだね。歓迎するよ。と言っても、何もないけどね。
最近は人間の感情の起伏も自然の逆襲もすごく平べったいものになってしまったから、ボクとしてはすごく暇なんだ。ちょうどいい、ボクの話に付き合ってよ。見かけによらず、ボクは君たちの何倍も生きてるんだ。きっと面白い話ができると思うよ。
そうだな、このところ思うことがあるんだ。
人間はそもそも好きじゃないけど、その中でもボクが特に嫌悪を感じる部類の人間はよくこう言うんだ。「不幸とは身近にある幸せに気付けない、可愛そうな性格のことだ」とね。ずいぶんと利口な思考法じゃないか。「不幸」という目に見えないものをそう定義することによってその対極にある「幸福」を見出しやすくする。今日もまた太陽が地球を照らしてくれているだけで、親しい友人がいるだけで、もっと究極的に、生きているだけで、奴さんは幸せなんだ。足元に幸福はあったんだね。この言い方じゃあ「誰も生まれながらにして不幸なわけではない」ってことだね。さすがは頭の切れる人間様だ。素晴らしい定義だよ。
虚像だね。そんなもの。
見てきたさ、ボクは。生まれながらにして不幸のどん底、決して自力では這い上がることのできない蟻地獄の中に生まれてしまった人間の子をね。それはもう数え切れないほど目の当たりにした。最初は信じられなかったけど、今じゃあんまり多すぎて慣れっこになってしまったくらいなんだ。
特にあれだ。なんだっけ? そう、戦争。あれは酷かった。
もう一瞬さ。轟音が響いて、砂煙が立ち昇って家が崩れるんだ。さっきまで産声が聴こえてたのに、次の瞬間には戦闘機のエンジン音が遠のいていくんだ。そうやって死んでいった赤ん坊には「幸福」とか「不幸」とか、そんなものが頭に思い浮かぶこともなかったんだろうね。
戦争中はレイプも横行した。もう手当たり次第さ。狂ってた。見たくもないのにボクが見てしまったその現場は女一人に男が六人も群がってた。散々辱められた末に、最後に突っ込まれたのは銃口だったよ。
ポケモン共も酷いもんさ、同じポケモンとして見ててイライラする。人間に手なずけられちまって、目の前にあるものを手当たり次第焼き払ってるリザードン。完全に破壊衝動が抑えられなくなって、もはや壊すのが気持ちよくなっちゃってる中毒状態のバンギラスやギャラドス。催眠術で味方同士戦わせて楽しんでやがるエスパータイプの奴ら。挙げればきりがない。あいつらの犠牲になった人間は本当にお気の毒だね。
分かったろ? 彼らや彼女らが自力で「不幸」から抜け出せたと思うかい?
幸せな奴らが不幸を語るなんて愚かしい。なあ止めてくれよ、形而上だけで話進めんのはさ。
戦争が終わって、家族と再会した人間は確かに「幸せ」そうだったな。生き残ったんだ、そのくらいの権利はある――そう言ってるよ、顔が。
あんまり話すとボク、嫌われちゃいそうだね? まあ慣れてるから良いんだけどさ。別に災いなんて呼んだ覚えがないんだけどね。
そうだ、ボクが見てきた人間の中で、ちょっと他とは違う物語を持った少女がいるんだ。その子の話をするよ。
あれはまだ戦争が起きる前、あの忌々しい制度が根を張ってた頃さ。人間ってホント、バカだよ。
――え? その子もまた「不幸」なのかって? 良い質問だ。
それはもう、最上級の「不幸」さ。
◇ ◇ ◇
そう、その時代は人が商品だった。
奴隷制度がまだ残ってたんだよ。人身売買ってやつだ。ある人間のなかでもましなやつがやっとその異常さに気付いて「奴隷解放宣言」ってのを出すまでは、「人」は「人」を買うことができたんだ。労働力として、召使いとして、そして性欲の捌け口として、高値で取引されていた。高く売れるもんだから、よほど治安の良い街じゃない限り、人々は毎日「人攫い」に脅える生活をしてた。小さな女の子のいる家は大変だよ、幼女は一番高く売れるからね。
ボクは一時期、まさに「人間の卸売市場」みたいな町に住みついてたんだ。なんて町かは忘れちゃったけど、名前なんてどうでもいいさ。とにかく、その街に渦巻く「不幸」の感情は尋常じゃなかった。どのくらい尋常じゃなかったかって「災いポケモン」が身震いするくらいさ。
そうそう、ボクがわりと嫌いじゃない人間もいてね。その人は言ったんだ。「皆、望まれて生まれてきた命」だと。
ただ、ボクがこれから話すその少女にはこれが当てはまらなかった。残念ながらね。
ああ――あまり話したくないな、このくだりは。なんたってボクですらこの事実を知った時、酷く落ち込んだんだ。覚悟してよ。
例を上げるよ。ラブカスってポケモン、いるだろ? あいつらの鱗って「ハートの鱗」って言って、結構な値段になるんだ。当然たくさん集めたいと思う輩が増えるわけさ。でもラブカスってそう簡単に捕獲できない。めったに網にかかんないんだ。それで人間は頭が良かったからさ、残念ながら、頭が良かったから――
養殖することにした。とらえたラブカスの雄と雌(どっちかがメタモンの時もあったな、まあ同じことさ)を無理矢理配合させて、たくさん卵を産ませる。生まれたラブカスをイケスで育てて、良い具合に育ったら鱗を捕るんだ。
言いたいことはそういうことさ。
彼女は「養殖」された子の一人だった。母親は奴隷で、相当な美女だった。生涯その母親が何人の子を「産まされた」のかなんて考えたくもない。普通じゃないだろ? でもそんなことが公然と行われていた時代だったんだ。相対的に見れば、今の時代に生まれた時点でかなり「幸せ」さ。
だから彼女は望まれて生まれてきてなどいない。むしろ逆だよ。「産まれないでっ!」って叫ばれながら、産まれたんだ。何も知らずにね。まあ商人たちからすれば「望まれた」と言えるかもしれないが、とんでもないね。そこについては論を得ないだろう?
さて、彼女は「テネ」と名付けられ、売られるために育てられることになった。「人身養殖」なんて始めたイカレたその商会の会員のうち、下っ端の下っ端、そのまた末端の「グラン」という男が扶養係にされ、テネの面倒を四六時中見ることになったんだ。
あーあ、厄介な仕事引き受けちまったよ畜生――グランは思ったさ。なんせ〇歳の赤ん坊を健康な状態で一二歳まで育て上げる大仕事だ。病気をさせてはいけないし、痩せ細ってしまってもいけない。そして気を抜けば、他の商会の「人攫い」に奪われてしまうから、まるでボディーガードのようにテネについていなければならないんだ。
もうすぐ三十の大台を迎えようとしていたグランは冴えない男だった。嫁を貰うこともできず、ほとんどスラム化した町の外れの集落に一人孤独に住み着いている。まるで古い遺跡を程よく崩したみたいな集落で、ボクが当時ねぐらにしていた洞窟の方がまだ住みやすいんじゃなかったかな。グランのやつ、頭を抱えてた。家は今にも崩れ落ちそうな乾いたレンガで組み上げられた質素なもので、一人でだって狭くてしょうがないと嘆いていたのに、そこへ赤ん坊がやってくるんだからね。衛生上、お世辞にも良好とはいえない環境。当時は流行っていた疫病にでもかかったら、赤ん坊などひとたまりもないだろうな。うちの商会は考えなしで困ると、グランは舌打ちした。
黄ばんだ薄い布切れに包まれて、真っ白な肌の赤ん坊をおざなりに手渡された時、さすがにグランは少し複雑な気持ちになった。人を売ることを生業としているのだから、いくら冴えない男と言ってもそれなりに非情な面を、グランという男はしっかりと持ち合わせている。それでもやっぱり何も知らない赤ん坊の無邪気な笑顔は、良心に訴えかけるものがあるだろうな――だからグランは赤ん坊をできるだけ見ないように、抱き上げるその手に体温ができるだけ伝わらないように、この子の未来のことなど間違っても頭によぎらないように、細心の注意を払って帰宅した。そして良心は縄で縛りあげて物置の奥底に放り投げた。
ボクはこの男と赤ん坊を見ていて、そう簡単に事が運ばないと思ったね。良心は、気付かれないようにちゃんとグランの中に居座ってたんだと思う。
なんたってグランはその日の夜、自宅のベッドに赤ん坊のテネを寝かしつけ、自分は冷たい床で寝たんだ。大事な資金源だと思って割り切ったのか、はたまた、彼の人間的な部分が良い方向に出たのか、実際のところ、それは分からないけどね。
こうして下っ端商人と売られる身の少女の、おかしな共同生活が始まったんだ。
ある天才的な理論物理学者はこう言った。「常識とは、二十歳までに身に付けた偏見のコレクション」だと。
見たところ、キミはまだ若い。彼からすると、まだまだ偏見を捨てて、物事を見る目を養うことができる可能性があるということさ。
ボクはもう何年生きてるかなんて興味がなくなってしまっているくらい生きてるから、常識とか偏見とか、そもそも何を定義するのかよく分からない。人間の定義で言うと、少なくとも、常識なんてものは時代を超えないし、全く偏見せずに物事を見ることができた人間なんていままで一人もいなかった。結局人と人のやり取りなんてものは「言語ゲーム」にすぎないのかもしれないね。過去にそう言った哲学者がいたろ。
少し話がそれたけど、グランという男もまた常識に囲まれて、偏見に縛られて、生きていた。
彼が住んでいたスラム街は治安も最悪。窃盗、強奪、殺人、誘拐、強姦――なんでもありさ。そしてそれを人は見て見ぬふりをしていた。自分に降りかからなければそれでいい。巻き込まれた奴は、運がなかった。それだけのこと。それが当時の「常識」ってやつさ。
権力にしろ財力にしろ暴力にしろ、力のある奴には逆らえない。弱者はひれ伏して従うか、逃げおおせるだけ。今で考えると不条理極まりないけど、これも当時の「常識」。
グランは、正直言って中途半端な位置にぶら下がってた。我が物顔で悪事を働くほど力はなかったけど、黙って被害を受けるほど弱者でもなかった。それだけに、鼻に着く人間だったみたいだけどね。
◇ ◇ ◇
「おい! ギャーギャーうるせえぞ! 早く泣きやませろ!」
そう叫んだのはグランの家の隣人だ。そいつの名前? 忘れたよ。そういちいち覚えちゃいられない。とりあえず覚えているのは、グランの住む辺りは皆商会の下っ端の人間で、同業者だってことだ。商人って儲かると思ってたろ? 末端はみんなこんなもんさ。
「泣くもんは仕方ねぇだろ! ガキなんだ!」グランは泣き叫ぶテネを前にどうしていいか分からず、途方に暮れていた。
「ぶん殴ってでも泣きやませればいいだろ! このヘタレ野郎が!」
「こんなガキぶん殴ったら死んじまうだろうが! それに傷ものにはできねぇんだ!」
まあこんな感じで、品のない罵り合いが、毎晩のように繰り広げられていた。
グランの「子育て」の話はその集落でまたたく間に話題になった。それはいわゆる声をひそめて伝達されるようなよからぬ噂の姿ではなくで、退屈な日常にもたらされた「笑い話」として、大声で広まった。グランの数少ない友人たちはそのことを知ると、両手を叩いて大爆笑した。時にはわざわざ家の前まで来て「ようパピー、元気か?」とか「おい、そろそろおっぱいの時間だぞ?」と、口々にからかった。そのたびにグランはそのやかましい蚊たちを追い払うために怒鳴り声を上げなければならなかったし、それに驚いたテネはいつも大泣きした。
なんでおれがこんなことしなきゃならないんだ――毎日彼は思っていただろうね。でも、彼にはテネのことをほっぽり投げて商会からずらかる勇気なんてなかったし、赤ん坊をこんな場所に放置していくほど非常になりきれない。今の生活は最低だけど、最低以下にならないためにしがみついていたんだよ。
バカかおれは。こいつはいずれ売られていく身なんだ。家畜と同じだ。余計な感情など入れ込んでたまるかよ、畜生――そんな風に自分に言い聞かせながらも、冷たい床で眠るのが常だった。可愛い男だね、意外と。
幸いにも、テネは大きな病気一つせず、健やかに育っていった。商会からの援助金は毎月支給されていたが、それも微々たるもので、結局グラン自身の生活を切り詰めていかなけらばならなかった。
ったくこき使いやがって。この仕事の報酬と育児にかかる金考えたら、実際、収支とんとんだ。下っ端は所詮どこまでも下っ端のままか。畜生――彼はいつも憤慨していた。
「――ぱぱ」
「は?」
それはテネが初めて口にした言葉だった。突然そう言われてグランはたいそう驚いたが、恐らくあの悪友が彼のことを「パパ」と呼んで馬鹿にしていたのを聴いて覚えたのだろう。そう考え付いて彼はため息をついた。
「――おれはお前の父親じゃねえ。ただ金のために育ててるだけだ」
「ぱぱ、ぱぱ」
テネは小さな両手を振り回しながら繰り返した。分かるはずないか。まいったな。こいつこのままおれが父親だと思いながら成長していくのか。全く、嫁さんもいないのに父親の役割だけ課せられるなんぞごめんだ。大体父親として何をしていいのか分からない。
「おじさんとでも呼べ。とにかく、パパじゃない」
「――ぱぱ」
――無理か。ガキはこれだから面倒だ、畜生。
テネが「パパ」という言葉を一番最初に覚えたのは偶然だよ。でも、一番最初に覚えるべき言葉でもあったんだとボクは思う。テネにとってはまぎれもなくグランがお父さんだったからね。たとえ彼女が売られる身であっても、グランは単なる商人でたまたま扶養係にさせられただけであっても、二人は父と娘だったんだよ。その時はね。
可愛そうな子さ。本当に。
――いわゆるここまでは予備知識ってやつかな。さあ、一気に時計を先へ進めるよ。
◇ ◇ ◇
「遊びに行ってくる!」
グランとテネが出会ってから、十年が過ぎた。
テネは明るくて、可愛くて、それはもう元気いっぱいの女の子に育った。テネは毎日毎日、集落にいる同年代の子供を集めては、自分たちで開発したなんとか遊びに日が暮れるまで興じているようだ。どうやらテネはこの辺りの少年少女たちのリーダー格らしい。全くおれが十何年も下っ端をやってるってのに、癪に障る奴だ――しかし、おれみたいな男に育てられてどうしてあんなに活発な子供になったのか、不思議でしょうがない――グランは頭をひねってた。
「お前調子に乗ってると『人攫い』に狙われるぞ。知らねえからな、連れ去られちまっても」
「大丈夫だよ! あたし一回も遭ったことないな、人攫いに」
テネはグランに満面の笑みで返した。ブロンドにパーマのかかった髪が揺れる。服装こそみずほらしく、履物も知り合いからのお古だが、そんなもの気にならないくらい可愛らしい顔つきをしていた。狙っている商人がいても、少しも不思議じゃない。
「そう言って余裕こいてる馬鹿が餌食になんだよ。用心しろ。あと、ポケモンにもだ。最近この辺りの野生が狂暴でしょうがねぇからな」
「ポケモン――うん、分かった。でもねでもね」テネは戸口の方からグランの方へ走り寄ってきた。「ポケモンは優しい気持ちで話しかければ、絶対乱暴しないし、ちゃんと言うこと聞いてくれるんだよ」
正直グランにはテネの表情から何も読み取れなかった。どんな生物とも仲良くなれるなんていうくだらない幻想を描く、ただただ無邪気な子供にも映ったし、全部分かりきってるような、悟りきったような、そんな表情にも映った。きっとテネが本当の娘だったなら、はっきりとこの子の表情を汲み取れるんだろうなと彼は思った。
「――狂暴なもんは狂暴だ。襲われちまったら戦うか、逃げるか、諦めるかの世の中なんだよ。相手がポケモンでも人間でもな。とにかく気をつけろ。一人っきりでは遊ぶんじゃねえぞ」
「そっか、わかった」テネはまた戸口の方へ駆けていった。「でもお父さん、心配しすぎだよ。あたし友達たくさんいるから平気だもん」
「心配なんかしてねえよ馬鹿野郎。お前がどうなろうと知ったこっちゃねえ。それにおれは父親じゃねえって何度言ったら分かる?」
テネはグランの言うことには耳をかさず、きゃははと笑いながら家を出ていってしまった。本当に、能天気なもんだ。
グランはこの十年間ずっと「自分は本当の父親じゃない。お前の両親が死んじまったから、遠い親戚だったおれが面倒見てやってんだ」と、言い方の調子もそっくりそのままに、テネに言い続けていた。しかしテネはそれを飲みこんでいるはずなのにずっとグランのことを「お父さん」と呼んだ。止めろと言ってもまるで聞く耳を持たない。
こんな人間の片隅にも置けないような商売している男が「お父さん」と呼ばれる資格など、持っていないことは自覚している。おれはその「お父さん」から子供を奪って金に変えている商会にぶら下がっているのだから。娘と仲睦まじく幸せに暮らすなど、最初から望めない。望んでなどいない。望んでなどいないはずだった。
我が子を攫われる親の心情を今まで一度も考えたこともなかったと言ったら嘘になる。身を切り裂かれるような苦しみなのだろう。それは、テネを預かるまで、この腐った脳みそで想像するしかなかった。所詮、鉄でできた頑丈な柵の向こうで全うな生き方をしている「彼ら」の身にのみ起こり得ることだった。
それが、今は鮮明に思い描くことができてしまう。テネを商会に引き渡さなければならないその時、おれはきっと身を切り裂かれるのだ。
自分の運命を知ったテネは、一体おれにどんな顔を見せるのだろう。
二人の生活は極貧そのものだった。集落の一角にやっとスペースを切り取った、男一人が住むのにも狭い石造りの部屋に、薄い布切れを敷いただけのベッド。商会からの援助金と、時々友人の伝手で舞い込んでくる日雇いの仕事で稼いだ金を合わせても、グランにはこの生活の維持と、一日二食、最低限の食事をテネに与えるだけで精一杯だった。この十年間で、テネをどこかに連れて行ってやったりしたこともないし、祝い事もすることはなかった。そもそもテネの誕生日がいつなのか、グランは知らない。
そんな生活でも、テネは文句ひとつ言わなかった。それどころか水汲みや洗濯などの家事を進んで手伝おうとした。そのうち三日に一回くらいの割合で、夕飯はテネが作るようになった。
そうやってテネが献身的になればなるほど、グランは心に何か鋭いものが刺さった気がした。
夜、グランはテネの寝息を聞きながら、冷たい床の上で考えた。
おれは何してる? ガキ一人育てて売るだけの単純作業だったはずだ。少なくともそう思ってこの仕事をもらってきた。実入りはお世辞にも良いとは言えないが、おれのような下っ端には仕事を選んでられなかった。そう、これは仕事だ。感情の入り込む隙がないくらい、忙しいのだ。この娘をあと二年、育てて商会に引き渡す――簡単だろう? 簡単だ――
「おいグラン、聞いたかよ? 先週の事件」
ある日、いつも仕事を紹介してくれる同業者の友人が、ぶらりとグランを訪ねてきて言った。何やら興奮した面持ちだ。
「先週? なんかあったのか?」
「なんだお前なにも聞いてないのか? なんでも最近この辺りを荒らし回ってた『人攫い』の奴らがよ――」その友人は一呼吸おいて続けた。「みんな喰われちまったんだよ、ポケモン共に」
友人の仕入れた情報だと、先週町の郊外で四、五人の男が、見るも無残な姿で倒れているのが発見された。その遺体についていた歯型や争った跡から推測するに、どうやらポケモンの群れに襲われたらしいということだった。
「――運がなかったんだな」グランはぼそりと呟いた。
「なんだよ、もっと驚くと思ったのになあ」
ポケモンがこの辺りで狂暴化し始めたのは最近のことではない。随分前から旅の人間が襲われたり、この集落でもその群れを見たという話は囁かれていた。「人攫い」なんて罰当たりな奴らは犠牲になったってなにも不思議ではない。まあ、罰当たりなのはおれもこの友人も変わりはないのだが。
「別に驚かねえよ。むしろ良かったじゃないか、この辺りの連中にしてみれば」
「まあな。でも子供にとってはその狂暴化したポケモンも危ねえったらねえな。お前んとこの、気をつけろよ。金に変わる前に喰われちゃ世話ねえぜ」
「声がでけえよ」
グランはそう言って友人を睨みつけ、その場はお開きとなった。
テネを心配するのは、己の食いぶちを案じているからに他ならない。決して感情的な、父が娘を想うそれのような理由で心配しているわけではない。断じて――グランは性懲りもなく自分に言い聞かせていたけど、ほとんど意味をなさなかった。十年という長い年月が、グランの心を熟させたんだよ。
愛していたんだ、テネを。それはもちろん邪な気持ちからではなくて、同心円の中心から柔らかく身体全体に広がる、正真正銘の愛だ。彼が絶対に抱いてはいけなかったそれが、今やグランを支配していたんだよ。
哀しいよね。男は娘を愛してはいけなかった。
◇ ◇ ◇
グラエナの群れが、今度は子供たちを喰い殺した。
「お父さんっ!」
テネは悲痛な面持ちで、転がるようにして集落へ帰ってきた。
騒然とする住人たちは、怪訝そうな表情を浮かべてテネとグランの方へ集まってきた。「何事だ? おい――」
テネはいつものように同年代の子供と集落にほど近い川辺で遊んでいたという。そこへ腹を空かせた奴らがやってきて、次々にテネの友達に襲いかかった。ゴム人形のように噛みつかれ、振り回される友達が目に焼き付いて、足が動かなくなった。必死にそれを引き剥がし、辛くも一人、集落へと逃げ帰った。
「お父さんお願い! 助けて! みんなが! みんな死んじゃうよっ!」
「テネ――」
事態を飲み込んだ集落の連中は顔をこわばらせた。しかしすぐに動きだし、戦える男たちはすぐに準備に取りかかった。遊びに出かけていた子の母親らしい女は、その場で泣き崩れた。
「お父さん、助かるよね? サラちゃんも、ユグくんも――」
武器を持った住人が討伐に向かったが、子供たちは恐らく生き残ってはいまい。グラエナはこの辺りでは特に危険なポケモンで、顎の力も群を抜く。子供が噛みつかれてしまったら、応急手当てを施したとしても生存率は微々たるものだ。テネが無傷で帰ってこれたのは奇跡に近かった。
「お前――」
そう、奇跡だった。グランはテネの赤く腫れたまぶたを見た。生きていてくれて、心から良かったと思った。死んだのがテネじゃなくて良かったと。死んだのが他の子で良かったと――そこまで思ってしまうほど、目の前の少女が愛おしくなった。
グランは何も言えず、ただただテネを抱きしめた。暖かい体温と、子供の匂いを体いっぱいに感じた。
この子だけがいればいいんだ。
「お父さん? ねぇ、お父さんってば!」
許されないのか? 今おれはたった一人だけ、たった一人の少女を解放してやりたいと思ってんだ。今まで奪うことしかしてこなかったおれには、それさえも許されないのか?
「すまん――すまん、テネ。おれはなんにもできねぇんだ――なんにも」
この子の未来は、決まってしまっている。グラエナに喰い殺されてしまった方がまだましだったのかもしれないと、そんなことまで考えてしまう――どちらにせよ、グランには何も出来ない。泣いたって、わめいたって、無意味だ。
その日から、テネには遊び相手がいなくなった。
それでもテネはいつものように遊びに出かけようとする。一人ぼっちでも、出かけようとする。「川に行けば、みんないるもん」と言うテネを見て、グランは悲しくなった。まだあの惨事を受け止めきれていないのだ。
グランは事件があって以来、テネにはできるだけ家の中で遊ばせた。つまらなそうに一人遊びに興じるテネを見るのは忍びなかったが、みすみすテネを奴らの餌にするつもりはない。
おれには何も出来ない。けど、守りてぇんだ。テネが失っちまったものは、取り返せない。テネがこれから奪われるものも、守ってやれない。だからせめて、今の、目の前のテネだけは全力で守りてぇんだ。良いだろ? それくらいおれにもさせてくれよ。
ある西洋の有名な音楽家は言った。「新しい喜びは、新しい苦痛をもたらす」とね。
彼にとってテネは疑いようもなく喜びだった。彼女を守るというその目的のためにすることは、例外なく喜びだった。彼はその喜びを享受していった。充たされていった。
だけどその喜びは、後の避けられない苦痛への階段だった。登れば登るほど、堕ちた時に彼を襲う衝撃は計り知れないものとなる。打ち所が悪いと、命にも関わるだろうな。
物語は、いよいよ終盤を迎える。
◇ ◇ ◇
ある蒸し暑い夜だった。
ゴンゴン、という乱暴なノックの音が部屋に響いた。グランの顔から血の気が引いた。
「――お客さんかなぁ?」テネは何も知らずに首を傾げ、グランを見る。
テネはとうとう十二歳になる年を迎えた。グランとテネが出会ってから十二年が経った――契約期間終了の年。
ゴンゴン。先ほどよりも強い力で扉が叩かれる。同時に「おいグラン! いるんだろ? 開けやがれ!」という怒声が聞こえた。
テネは途端に不安げな目でグランを見つめた。分かってる、そんな目で見るな――大丈夫だから。
グランは戸口の方へ歩いていき、扉を開けた。テネはベッドに腰掛けたまま、目でグランを追う。
そこには男が五人いた。皆似たような気取った洋服を着てやがる。一番前にいる、見覚えのあるようなないような奴は太り過ぎでボタンが弾け飛びそうだ。
グランはこの瞬間で決めるつもりだった。
商会のお偉いさんを拝んでひれ伏すしかない腐った根性が、この瞬間にもまだ残っていたら、テネを渡す。しかし、こいつらを目の前にして、それ以上に怒りがこみ上げたら――その怒りに従うつもりだった。
「元気にしてたか? グランパパよお! 契約終了のお知らせだ。御苦労さんだったなー大変だったろ、ガキのお守は――」
目の前の太った男が口髭を撫でながら言った。
「――そうだな。途中で何度も放り投げたくなった。面倒なことこの上ないな」
「はは! 違えねぇ。さて――」男は持っていたカバンからロープを取り出した。「そこにいる品物を逃げ出さんように縛っとけ。買い手は決まってる。傷ものにはすんなよ」
「――ああ」
グランはロープを受け取った。そのロープは麻を乱暴により合わせただけの安物で、ささくれ立った表面は触るとチクチク痛い。裏返すと、何箇所か血が染み込んでいた。
「お父さん? 何、どういうことなの?」テネがグランのすぐ後ろまで、恐る恐るやってきた。「『品物』って? それ――あたし、なの?」
当然、グランは後ろを振り向くことはできない。ロープを見つめて俯くだけ。
「お前、お父さんなんて呼ばせてんのか?! いい年して親子ごっこかよ、愉快な奴だ」
後ろにいた、ねずみ見たいな顔をした男が罵った。テネが震える手でグランの服の裾を掴んだ。
太った男が苛立ちを露骨に滲ませて言った。
「おら、ささっとしろ。後がつっかえてんだ――」
決まった。
グランはそのロープの両端を持つ――
――それを男の贅肉で覆われた首に回した。
「うぐっ?!」
「テネ! 全力で逃げろ! できるだけ遠くへ行け!」
両手に渾身の力を込める。テネはただただ唖然と立ち尽くしている。他の男たちがグランの腕を掴み、顔を殴り、首を絞めようとした――合計六人の男はもみ合いながら、外の路地へと飛び出した。
「――が、ガキだけは絶対逃がすんじゃねえ!」
最初の太った男がロープから解放され、指示を叫ぶ。ねずみ顔の男がテネに掴みかかった。
「きゃっ!」
聞きたくない。テネの悲鳴なんて――
「止めやがれ!」グランは覆いかぶさる男を二人殴り飛ばし、テネの口を塞いでいたねずみに凄まじい剣幕で飛びかかった。
ねずみはとっさに顔を庇ったが、無意味だった。グランは真横に張り倒すようにして拳をねじ込み、ねずみ野郎は上半身が百八十度ねじれて地面に突っ伏した。
よし、テネの逃げ道が確保できた。そこから西へ走れば――追手はおれがねじ伏せてやる。
「早く行けテネ! 奴隷になんかなりたくねえだろ?! さあ――」
そう叫んでグランは西をの暗闇を指差した。その時だ、暗闇にうごめく影を見たのは。
グランは目を疑った。
「な――」
暗闇の中、こちらへ駆けてくるのはグラエナの群れだった。砂埃を巻き上げて、舌を出し、飢えた野犬は真っ直ぐグランたち目がけて向かってくる。
商会の男どもは突然の襲来に慌てふためく。「クソっ! こんなときに! ――早くガキを捕まえろ! ずらかるぞ!」
「テネ! お前家に入ってろ! 絶対出てくんじゃねえぞ!」
グランは怒鳴った。テネだけは喰わせねぇ。テネだけは絶対に救ってやる。商会の男どもの手とグラエナの牙が迫っていた。
しかし、テネはその場を動かない。
「なに突っ立ってんだ! 早く中に――」
「どうして?」
「どうしてもこうしてもあるか! お前喰われ――」
テネが振り返った――グランは言葉を失った。
その顔は、笑っていた。
グラエナの群れは戸口まで達すると、足を止めた。群れの中で一番大きなグラエナが、テネの方へゆっくりと向かう。
テネはそのグラエナの頭を優しく撫でた。
「――どうして? どうして逃げるの?」
グランは戸口に座り込んだまま立つことができなかった。商会の男どもは腰を抜かして、後ずさりしている。
テネはもう一度グランに向かって微笑んだ。
「言ったでしょ? ポケモンは優しい気持ちで話しかければ、絶対乱暴しないし、ちゃんと言うこと聞いてくれるんだって」
グランは何も答えることができなかった。首が動かない。だらしなく開いた口も、閉じることができない。
それは、自分の頭の中で結び付いた事実を、そのとんでもない予感を、グラン自身飲み込みきれないからだった。
二年前だったはずだ。人攫いの集団がグラエナの群れに襲われたのは。テネはその頃、毎日のように外へ遊びに出かけていた。
子供たちが襲われたのは、そのほんの数ヵ月後だったか。あの時は、テネだけが生き残った。
少女の足で、グラエナを振り切れるはずがない。
そもそもグラエナが狂暴化したのは、いつからだった?
グランは自身の確信に近い予感に身震いした。憶測であってほしい。しかし、繋がってしまう。
「テネ、お前――」
「悪い人ばっかりなんだ、この世界。だからね、私たちが少しずつ消してかなきゃならないの」
テネはグランを無視し、頬笑みは浮かべたまま傍らの野犬のを愛おしそうに撫でた。
おい、何する気だ――?
「食べていいよ」
テネのその言葉を待ち構えていたように、大人しくしていたグラエナたちがいっせいに商会の男たちに襲いかかった。
耳をつんざく悲鳴、野犬の息使い、鮮血――途中からグランは目を伏せないでいられなかった。
ものの五分で路地には肉片が散らばった。
ゾッとした。グラエナが泣き叫ぶ太った男を前足で抑えつけ、喉笛からかじりつき、引きちぎるのを、テネは笑って眺めていた。まるで我が子が元気よく夕食にありつくのを見つめる母親のように。
「テネ――」かろうじて喉から絞り出した声はカラカラに乾いていた。「どういうこと、なんだ?」
テネはその笑顔をグランに向けた。ブロンドにパーマのかかった髪が揺れる。
「知ってたよー、全部」両手を背中に回し、スキップするように大股でグランに近づく。「あたしがそのうち奴隷として売られる運命だったことも、あたしはもともと売り物として生まれたってことも。全部知ってた。あたし、盗み聴きは得意なんだよ。それに、なんにも知らないフリをしてるのも得意」
テネはまるで今夜の星について語っているかのように、夜空を見上げながら続けた。
「あの子たちはあたしの親友。言ったでしょ? あたしには友達がたくさんいるって。『人攫い』が襲ってきた時にあたしを守ってくれたし、あたしのこと『奴隷の子』って馬鹿にしたサラやユグに仕返ししてくれたんだ。みんな良い子だよ。人間と違って、ね」
グランは自分の手が震えているのを感じた。愛おしく思っていたはずのテネの笑顔が、人の皮を被った化け物に見えた。夜の闇に溶け込んで、不気味にケタケタと笑う、悪魔。
テネはもう一度グランに向き直った。まだ笑顔だった。
「あたし行くね。今までありがとう――グランさん」
テネは肉を引っ張り合って喧嘩している二匹のグラエナの方へ歩き、そっと呟いた。
「あれも食べて良いよ」
グランが最後に見たテネの顔は、やはり笑顔だった。
◇ ◇ ◇
この「テネ」という少女は後にこの名前を捨てて、いつからか「ジャンヌ・キルディック」と名乗り始めたんだ。彼女は敬虔レトミア教の信者でね、このお話から十三年後に起きる宗教戦争では大勢の人間とポケモンを率いて、対立する宗派と争った。そこでまた大勢の不幸な人間が生み出されるのは、最初に話した通りさ。そうやって繰り返すものなんだよ、歴史は。
ジャンヌ・キルディックは今や歴史に名を残すほどの大物だ。彼女もひとつ、言葉を残しているよ。
「わたしが従うのは、ただ、神の意思だけです。啓示に関する、いかなる人の判断も否定します」
彼女の言う「神」とはポケモンとほぼイコールであるという見方が大多数だし、実際にそうだったと思う。彼女はポケモンしか信じられなくなって、いつもポケモンの心の声を聞こうとしていたんだ。
実際に聞くことができたのかな? 聞いた上での、戦争という選択肢だったのかな? ――それは分からないけど。
――ふう、久しぶりにこんなに話したよ。長い時間口を挟まず聴いてくれてありがとう人間。君はボクの人間ランクのなかでかなり上位にいるよ。ほとんどの人間は口ばっかりで話に耳を傾けてくれないんだ。
じゃあ、気をつけてお帰りよ。
あーそうだ、最後にひとつ。最初ボクがこの少女の話をする前に、彼女は「最上級」の不幸者だって言ったよね。そして多分君は話を聞いて思ったはずだ、結局彼女は奴隷にならずに自由を手に入れたんだから、「最上級」の不幸とまで言えないんじゃないかと。図星だろ?
じゃあ一つ質問しよう。
人を殺した人間が、その先幸せに生きれると思うかい?
――――――――――――――――――――――――――――――
書いてて気分が暗くなりました。原因不明の頭痛に悩まされてしまうほど――
今まで書いてきたお話の中ではダントツにブラック。
まあでも暴露しますと、グロとかはわりと平気なほうですw
【書いても・描いてもいいのよ(いや、かかないだろw)】
【批評歓迎なのよ】
デリバード はこびやポケモン
いつも背負っている白いふくろには、いろいろなものが詰まっている。あぶないので、よい子は触らない方がいいだろう。中身はどこから集めてきたのか、わからない。
12月の終わり頃になると大量に発生する。
デリバードの生息地域周辺では、犯人不明の窃盗事件が多発していることを忘れてはならない。
数少ない目撃者の証言では「赤い鳥のようなものが白いなにかを背負って目の前を横切ったと思ったら、腕をつつかれていた。鳥は鋭い眼でこちらを睨んで、せっせと走り去った」とのことだ。
◇◆◇◆◇◆
100文字規定でしたよね。239字あるから大丈夫かしら?
【悔しかったら書いてみやがれ!(笑)】とのこと。
悔しかったので書いてみました(笑) お目汚し、すみません(^^;)
ということでネタを投下!(笑) |
> > ☆☆☆!
>
> つい、「☆十個で満点だろう」とか勘ぐってしまうきとかげです。いえ、素直に受け取ります。
あ、きとかげさんはご存じないでしょうけど
☆☆☆っていうのは最高評価です。
フフフ……
返歌いいよね!
すごくいいよね!
やっぱりサトチさんもそう思うよね!
あー、あと詠み人知らずの赤版出来たんですけど、内容がアレすぎる……これはひどい。
こっちは詠み人知らずと一緒に個人誌の豊縁二集に載せようと思ってます。
タイトルは「黄泉人知らず」となる予定です。
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