マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.3939] チャット会のお知らせ 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2016/08/04(Thu) 22:28:07     137clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「俺たちの夏は、まだ終わらない!」

    ホワイティ杯の結果発表からちょうど1週間という区切りですので、また皆さま方とお話をする機会があればと思いまして。
    8月6日(土)21時からマサポケのチャット(http://masapoke.chatx.whocares.jp/ )に待機しております。
    参加者も読者の方々も、よろしければ顔をお出しください。


      [No.3938] 夏の終わりに 投稿者:ヘイさとる遊ぼうぜ   投稿日:2016/08/03(Wed) 20:40:42     81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ホワイティ杯】 【修正版】 【読むのが罰ゲーム

     蝉の声が空気を煮詰めていくようでした。背中の汗が、シャツを肌にくっつけていました。少年は木陰に佇んで、公園で遊ぶ子供たちを遠くから眺めているだけでした。子供たちのはしゃぐ声が、陽炎に揺れてたわんで、少年の耳に届きました。
     子供たちは噂をしていました。さとるくんの噂をしていました。

     ――さとるくんは悪い子を見つけて連れて行く。行き先は誰も知らない。

     地獄だよ、と誰かが叫びました。すると、木霊が返るように、地獄、地獄と声が上がりました。
     またたきもしない間に、それは合唱になりました。誰がとるまでもなく揃いの手拍子で囃して、さらに不定期の嬌声が混じります。輪になって、飛び跳ねて、向こうでは皆が笑顔でした。
     少年も地獄、と口にしてみました。しかし、ちっとも楽しくなりません。湿したくちびるは、味のない飴玉のようでした。舌を鼻の下まで伸ばすと、微かな塩分を感じました。少年は袖をまくり、腕にはりついた汗を舌先でつつきました。汗の滴は舌につつかれると、すぐさま消えてしまいます。彼はそれがおかしくて、しばらく無心で繰り返していました。
    「おい、君」
     急なしゃがれ声に、少年はおっかなびっくり、後ろを振り向きました。小綺麗な服を着たおじさんが、声音通りのしかめ面で少年を見ていました。
    「花壇に入るんじゃない」
     少年がいる木陰は、公園の花壇の木陰でした。柔らかい腐葉土と涼しい木陰のある花壇は、そういえば、立ち入り禁止なのでした。少年が渋々上げた靴底を、キノコを背負ったポケモンが急かすようにつつきました。少年はそのまま追い立てられて、昼日中の、お日様がカンカン照らす公園の中へ追い出されてしまいました。
    「子供は子供と遊びなさいよ、ほら」
     おじさんがシッシッと手を振る先へ、少年は義理で目をやりました。子供たちはもうさっきの遊びをやめて、花いちもんめをやっていました。少年が花壇へ目をやると、さっきのおじさんが、キノコを背負ったポケモンと共に、土の中のゴミを掘り出しているところでした。おじさんの片手に握りこまれた透明の袋が、ひどく勇ましいものに思われました。

    「じゃあね」「またね」
     家路につく子供たちから身を隠すように、少年は花壇の木の後ろにつっ立っていました。
     公園のゴミ掃除のおじさんは、とっくに帰っています。その次に子供たちが、その後に太陽も帰ったようでした。
     公園の大時計は六時をいくらか過ぎていました。暑さも冷めないのに、夏の終わりに向けて、日没だけは一丁前に早くなっているようでした。それを少年だけが知っているような、不思議な気持ちでした。
     水飲み場の水は、少年がペダルを踏むのに従って、滔々と水を吹き上げています。少年がカポリと開けた口に、水は抵抗もなく入ってきます。ずっと外にいて溜め込んだ熱が、引いていきました。少年は胃がチャポチャポいうくらい、水を飲みました。そして、水がお腹に入らなくなったら、今度は水飲み場が吹き上げる細い水で、顔を洗い始めました。

     ――さとるくんは男の子。でも黒いワンピースに、白いリボン。

     少年はドアの前で、父親を待っていました。
     薄い色で塗られたドアには鍵がかかっていて、びくとも動きません。色の淡さとは裏腹に、魔物でも封じているような、鍵のかかったドアはそんな堅牢ささえ感じさせます。
     少年は、ずいぶん長いこと座りこんでいました。マンションの固い廊下は、昼の残り香を帯びて、ジンとズボン越しに熱を伝えてきます。
     その熱が少年の体温と交換されて、またしばらく経った時でした。
     マンションの階段を上がる音が聞こえて、少年は飛び跳ねるように立ち上がりました。
     少年の父親は、ハンカチでしきりに首元を拭いていました。襟付きのシャツと、襟元を三角に占めているネクタイが、夏の熱を一箇所にとどめているようです。父親は黙ったまま、ドアの鍵を開けました。父親がドアを開けて、閉める前に、少年はその隙間に身を滑らせました。
     父親はズンズンと奥に進んでいきます。少年は遅れないように、父親の背中に続きました。父親は突き当りの部屋の扉の前に、持っていたビニール袋の内、小さい方を投げるように置きました。そして、ドアノブとチェーンと、両方の鍵を掛けて家を出て行きました。少年はその間中ずっと、父親のスーツの背中を見上げるばかりで、何も話すことができませんでした。
     でもそれは、仕方のないことなのでした。少年はちっとも面白い話ができません。今日のことを話そうにも、彼は花壇でじっとしていただけです。そんな話では、父親は怒るだろうと少年は思いました。
     少年はビニール袋を拾い上げました。その中にはカップ麺が一個、入っていました。少年の顔に笑みが浮かびました。しかし、今食べることはできません。明日まで待たねばなりません。
     少年はポケットに手を入れると、十円玉を出しました。その十円玉で部屋の鍵を開けると、中に身を滑りこませました。風が起こって、少年の鼻にこもったような、湿気で固めたような匂いが纏わりつきました。少年は、音を立てないように鍵をそっと掛けます。
     埃やカップ麺の容器が集められて、部屋の隅に寄せられています。その対角線の隅に、少年は座りました。ささやかな布団には、少年の匂いが染み付いています。
     少年は枕元に新しいカップ麺を置きました。枕元には他に、教科書やノート、短くなった鉛筆などが置かれています。この狭い隅のスペースが、公園より、学校より、少年の気が落ち着く場所でした。それに、なんてったってここは、鍵を掛けられますから。
     明日のカップ麺の味を楽しみに、少年は目を閉じました。

     ――さとるくんはいつも同じ髪型。黒い髪を白いリボンで二つ括り。

     夜、少年の目の前にはドアがありました。外の世界へと続くドアが、今は鍵で固く閉められずに、ゆらゆらと、おいでおいでをしているようです。
     少年はドアノブに手を掛けました。ドアノブは何の抵抗もなく、くるりくるりと回りました。少年はドアをそっと押しました。そっと、ノートの切れ端が一枚通るくらい……
     外の世界は涼しい風を少年に寄越しました。僅かな隙間から、子供たちの歌声が聞こえてきます。花いちもんめの歌を歌っています。あの子がほしいと歌っています。
     少年は急に、喉が渇いたような、それでいて水が欲しくないような、そんな気持ちになりました。あの歌で自分の名前を呼んでほしいと、少年はたまらなく思いました。少年はドアを押しました。
     低く鈍い手応えがして、ドアが動かなくなりました。上の方で、チェーンがピンと張っているのです。チェーンには鍵が掛けられていて、少年の十円玉では開きません。
     少年はドアノブから手を離しました。一炊にも満たない夢の終わりを告げるように、ドアはゆっくりと閉まっていきました。
     ふと、何故ここに立っているのだろうと、少年は訝しく思いました。
     寝ぼけたのかなと夢現に思うよりも先に、大きな物音がして、少年の頭ははっきり冴えました。先程まで夢を見せていたドアの向こうに、今度は彼の父親が顔を覗かせています。その形相ときたら、酷く歪んで、人か鬼かもすぐには分からない程でした。
     父親が鍵を全部開けるより先に、少年は十円玉の鍵の奥、自分の布団の上に戻りました。
     激しく扉が蹴られました。
    「出てこい」と声がしました。
    「親が言ってるのに、何故出てこないんだ」と聞き取れました。
    「何故、鍵なんか掛けるんだ。親を何故部屋に入れないんだ」扉一つ隔てても、内容ははっきり聞こえました。ずいぶん激しい調子でした。
     少年は頭から布団を被ると、じっと息を殺しました。夜はひどく長く、扉を蹴る音も、父親の怒鳴り声も、いつまで経ってもやまない物のように思われました。
     やがて、その音が静まりました。最後に一つ、バアンとドアを開け閉てする音がしたのは、家から出ていったのでしょう。少年は少しだけ気を緩めて、かけ布団を頭からのけました。そして、ポケットの中の十円玉を、お守りのように握りしめます。
     父親の言う通りに鍵を開けていたら、扉の代わりに、少年が蹴られていたでしょう。それが嫌で、いつからか、少年は部屋に鍵を掛けるようになりました。
     すっかり目が覚めてしまったので、少年はさとるくんのことを考えました。
     男の子なのに女の子の格好をしたさとるくん。悪い子を連れて行くさとるくん。
     だったら少年も、さとるくんに連れて行かれるに違いありません。少年が悪い子でなければ、父親があんなに怒って手を上げることもないでしょうから。しかし、さとるくんは一体、いつになったら少年を連れて行くのでしょうか?
     少年のお腹が音を立てました。
     夏休みが明けるまで、まだ丸一日あります。早く学校に行って給食を食べたいなあと、少年はそんなことばかり考えていました。

     ――さとるくんは小さい。歩き始めの子供ぐらいの背丈。でも、大きな目。

     次の朝、少年は父親に連れ出されて、公園にいました。家にいても干上がってしまうので、父親が来るのと一緒に、外へ出ざるを得ませんでした。
     少年は公園の入り口に立って、父親の背中を見送ります。やっぱり、話すことはありません。だって、少年は眠っていただけです。
     さとるくんの話でも、しようかな。
     ちょっとだけ考えて、少年は首を振りました。さとるくんの話なんかしたって、父親はつまらないかもしれません。父親に呆れた目でじっと見下されるのは、あまり好ましいことではありませんでした。
     公園で、まず少年は水飲み場に行きました。ペダルを踏んで、小さな噴水のように噴き上がったのを、昨日買ってきてもらったカップ麺で受け止めます。
     細い水が溜まるのは、小さなカップ麺の容器でも少し時間が掛かるものでした。
     少年はカップ麺の線のところまで水を溜めると、花壇の所へ行ってしゃがみこみました。待ちきれなくなって、少年は麺を突つきます。しかし、麺はカチコチに固まった手応えを返すばかりで、水では中々ほぐれないのです。
     指がやっと麺の間を潜る頃、子供たちがやってきました。子供たちは少年のことなど知らんぷりで、夏休みの宿題のことについて話しています。やりたくないなあ、今日の夜で終わるかなあ、などと、つまらない話をしています。少年は耳を澄ませながら、麺を指で掬って口に運んでいました。まだ少し固い麺。濃い塩味と炭水化物が、少年の腹に染み入ります。
     少年はすぐに飲み込まないよう、我慢して顎を動かしました。その少年とは反対側で、子供たちは、今日する遊びを話していました。時間をかけてカップ麺を食べた少年は、ゴミ箱ははてどこだったかなと、周囲を見回しました。
     すると、大きな目と目が合いました。
    「わっ!?」
     少年は驚いて、花壇の柔らかい土の上に尻餅をつきました。カップ麺の容器に茶色の土が付きました。少年が瞬きする間に、大きな目の持ち主は黒い影を翻して消えてしまいました。
     公園の向こう側で、子供たちがひそひそ話をしています。やがて決まったのでしょう。子供たちの一人が緊張した面持ちで少年に近付きます。
     それは同じ学年の少女でした。少女は地面に落ちたカップ麺を拾おうとして、途中で手を止めました。
     少女は今来た方を振り返りました。他の子供たちは遠巻きに、結果だけ待っているようでした。……やがて少女は、花いちもんめの逆みたいな表情で、少年に問いかけました。
    「どうしたの?」
     少年は簡潔に答えることにしました。さっきの今で心臓は早駆けしていましたが、少年には簡潔な言葉を選ぶ余裕ぐらいはありましたし、それを表す言葉も知っていました。
    「さとるくんがいた」
     少女と、向こうの子供たちが、ざわりとどよめきました。
    「見間違いじゃないの?」
     少女は言いました。
    「黒いワンピースに白いリボンで、二つ括りで、小さかった。大きな目で、僕をじっと見ていた」
     少年は答えました。
     少女はもういいかい? と言いたげに後ろを見ました。蒸し暑い沈黙の間に、了解があったのでしょう。少女は明るい太陽の照らす下に走り出ました。
    「さとるくんに見られた人は、連れ去られるんだって」
     子供たちの誰かが叫びました。太陽に目が眩んで、その台詞を誰が言ったのか、分かりませんでした。


     少年はいつものように、マンションに来た父親の後ろについて、ドアの隙間に潜り込みました。
     今日の父親はお弁当の入った大きな袋を一つ持っているきりでしたが、家の中まで入ってきました。しかし、お弁当の袋を置こうとはせず、それどころか、部屋の扉を開けようとするのです。
     当然、扉は開きませんでした。少年が朝の内に、十円玉で鍵を掛けていたからです。
     父親は怒った様子で少年を見下ろしました。父親は何故怒っているのでしょう? きっと自分が悪い子だからだと、少年は思いました。
    「何故鍵を掛けるんだ」と父親は言いました。
    「俺は親なのに、お前の部屋に入れないじゃないか」とも言いました。
    「何故そんな他人行儀にするんだ」父親は激しい調子で言いました。
    「俺に恥をかかす気か」父親が何か言う度に、父親の顔が赤くなっていきました。まるで、自分の言葉で火を焚べているかのようです。
     怒りで我慢が切れたのか、突如父親は腕を振り上げました。少年はなす術もなく床に転がりました。
     床に転がったのは少年だけではありませんでした。鈍い音を立てて、少年のポケットから、十円玉も廊下に転がりました。
     硬貨の音に、父親は一瞬、それはそれは度し難い、暗い笑みを浮かべました。そして、少年の十円玉を拾い上げて、こう言ったのです。
    「一体、このお金をどこで手に入れた。どうせお前のことだから、人様のを盗ったのだろう。なんて悪い子だ。これは父さんが没収する。それから罰として、数日間、お前をここに閉じ込める。俺はお前の為を思ってやっているんだ」
     そうして父親は、自分の言葉通りに行動しました。少年は浴室に入れられました。しかも、外からほうきの柄を差し込んだので、折りたたみ式の扉は壊れたように動きません。
     少年は一縷の望みを賭けて、水道の蛇口を捻りました。しかし、いつ頃からか忘れる程昔から止まっていた水道は、やっぱりうんともすんとも言いません。
     狭い浴室に、じんわりと湿気が上って蒸し蒸しとしてきました。流れた汗が背中にもお腹にもシャツを引っ付けます。少年は、しばらくの間は汗を舐めていましたが、じきにその気力も無くなりました。
     ずっと遠く、部屋の外側で蝉が鳴いています。その声が止んでもまだ、浴室の中は煮詰めたように暑いままでした。まるで時が止まったかのように、空気は止まっておりました。
     少年の頭の中も、煮詰めたようにはっきりしなくなりました。早く学校に行って給食を食べたいな、早く夏休みが明けないかなと、そんなことばかり、グルグルと考えていました。

     冷たい風に頬を撫でられて、少年は目を覚ましました。
     いつもの布団ではありません。狭い浴室で変な姿勢になっていたのか、肩が酷く痛みます。
     そして、ああ、ここは浴室なのだと思いました。その少年の頬を、再び風が撫でました。不思議に思った少年は顔を上げました。浴室の折りたたみ式の扉は開いていました。その入り口の所に、見覚えのある姿が立っておりました。
     黒いワンピースに白いリボン。お団子のような二つ括りも白いリボンで飾っています。背は歩き始めの子供ぐらいの大きさしかありません。そして何より、頭の半分程もある大きな目をしていました。
    「さとるくん」
     少年が呼びかけると、さとるくんが手を差し出しました。まるで、一緒に遊ぼうと言っているみたいです。
     少年は小さなさとるくんの手を取って、ドアへと向かいました。ドアはすんなりと開いて、少年たちを涼風の吹く外へと送り出しました。
     少年はさとるくんに引かれるまま、走りました。さとるくんと少年の目の高さが合いました。いつの間にか、少年も黒いワンピースに白いリボンをしていました。少年とさとるくんは並んで夜の町を走りました。それはとてもくすぐったくて、楽しいことでした。行き先が地獄でも悪くないと、少年は思いました。
     向こうから、花いちもんめの歌が聞こえてきます。


     お盆はとうに過ぎたのに、暑い日が続いています。子供たちは蝉の声が煮詰める空気の中、色とりどりのランドセルを並べて、久しぶりの学校へ登校します。
     その中に、あの少年の姿はありません。
     ゴミ袋を片手に持ったおじさんが、子供たちに挨拶をしています。その足元で、キノコを背負ったポケモンが、何かを熱心に掘り出しています。
     少年がいないと知れるのは、まだ先のことになりそうです。


      [No.3690] Re: さぶじぇくとのーつ のようなもの 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/04/07(Tue) 03:56:40     31clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    (*'ω'*)<箱飴さんのレポートだ! 確保しろー!(Ctrl+A(Ctrl+C(Ctrl+V(Ctrl+S #ymny

    まずはレポート提出ありがとうございます。これは興味深い案件です。

    トリガーになるのが小規模なイベントと一般に露見しづらく、イベント後にすべての証跡が消失、
    さらにビルの管理者が部屋を貸し出した記録が無い、しかし一般参加者の証言と参加した証拠はある……
    これは追跡が難しいタイプの案件ですね。
    失踪者が全員10代後半の女性というのも意図を感じさせてぞくぞくします。

    書いて頂きありがとうございました……! 削除なんてとんでもない!
    もしまた案件を見つけて、気が向いたら書いて頂ければ……などと思った次第です。とても面白かったのです。

    うちの方も、今後も背筋がぞわぞわするようなレポートを提出できればと思います。
    ありがとうございました!(*´ω`)


      [No.3689] 資料:ツバキ氏からオダマキ博士へ提出されたメールの一部 投稿者:Ryo   投稿日:2015/04/07(Tue) 01:09:09     65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    …先日、ネット上にあがった記事を覚えていらっしゃいますでしょうか。プラスルとマイナンがペリッパーを捕食していたという記事です。私はあの記事でどうにも気になることがあり、写真を撮影したカミヤ氏と個人的にコンタクトを取り、当該のプラスルを観察して参りました。
    当該のプラスルは記事にあった通り110番道路で見つかりましたが、記事と異なる点が二点ほどありました。一つは今回の遭遇ではプラスルは群れではなく単独での狩りを行っていたということです。狩りの対象となっていたのはキャモメでした。今回の観察ではこのプラスル以外のプラスル、またはマイナンの捕食行動は見られなかったことから、110番道路におけるプラスル・マイナンの捕食行動を指揮しているのは、恐らくはこの記事になったプラスルのみで、集団での狩りはペリッパーなどの大型の獲物を狙う時のみ行われるのではないかと考えています。
    もう一つ異なる点は、狩りに使われていた技が、記事に書かれていたような「電気を纏ったたいあたり」ではなく「ほうでん」であったことです。こちらはある程度予想していたことでした。プラスルが「たいあたり」を使用した、という記録は過去のいかなるデータにも存在しないからです。当該のプラスルは「ほうでん」を行いながら捕食対象に飛びつき、密着状態で電気を浴びせて麻痺させることで獲物を仕留めていたのです。
    私が申し上げるまでもないことですが、「ほうでん」は戦闘能力(俗にいう「レベル」です)の高いプラスルのみが覚えることができる技であり、110番道路に生息している通常個体のプラスルが使用することはまずありません。実際、私達の観測したプラスルの動きは通常のプラスルに比べて非常に敏捷であり、その動きにも一切迷うところがありませんでした。
    このことから、先日私が撮影、記録したポチエナの共食いとプラスルの捕食には共通するところが多いと思われます。一つには当該個体が周辺の通常個体に比べて極端に高い戦闘能力を持っていること。そして通常個体が使用しない技を使用できるということです。こうした個体は通常の個体が決して成し得ないことを安々と成し得てしまうため、本来の生態から外れた行動をも容易に成し遂げてしまうのではないでしょうか。もしそうであれば、近年発見が相次いでいる、同様の性質を持ったポケモンに対して、早急な調査が求められます。…

    追記
    まだ観測結果が2例しかないため、書くことを控えようかと思いましたが、今後のこの件の調査に際して一つの指針になるのではと思い、こちらに追記します。
    共食いの際にポチエナが同種に対して使っていた「じゃれつく」、捕食の際にプラスルがペリッパーやキャモメに対して使っていた「ほうでん」…これら二つの技の使用状況から考えると、こうしたポケモン達は闇雲に本来の生態から逸脱した行動をとっているのではなく、トレーナー達の間で言われる「タイプ相性」や「レベル」を理解した上で行動しているのではないか、と思えてならないのです。「レベル」については完全な仮説ですが、「スパーク」などの比較的低威力な電気技であれば通常のプラスルでも使用することができるため、タイプ相性のみがトリガーとなっているのであれば、通常のプラスルが狩りを行うところが既に観測されているはずです。しかし自発的に狩りを行っているのは現在、記事になったプラスル一体のみです。ポチエナの共食いを観察した際にもコメントしましたが、これらのポケモンは自らの強さ、というより強みを充分に自覚した上で行動しているように思えるのです。

    博士のおっしゃった仮説の通り、彼らは元々トレーナーのもとにいたところを逃されたか、またはそうしたポケモンから何らかの形で技を受け継いだものと思われます。実際に見た私からしても、彼らの行動はなんと言いますか…俗な言い方になりますが、非常に「ポケモンバトル」的なものを感じたのです。(更に追記すれば、戦闘能力の高さに反比例して生活行動―例えば捕食の仕方等―が非常に稚拙であるところに、彼らが野生になりきれていない部分を感じます)
    単に逃されたポケモンというだけであるなら当該個体を再捕獲し、野生環境から隔離するだけで良いのですが、問題となるのは当該個体が、逃されたポケモンから何らかの形で技を受け継いだ個体であった場合です。この場合、事態は我々の感知しないところで急速に進んでいる可能性があり、ホウエン各地の生態系が根底から覆る恐れがあります。一刻も早い対策を講じねばなりません。

    これは私見ですが…ある種のポケモンが通常では覚えることのできない技を何らかの形で覚えさせる試みは、ポケモントレーナーやポケモンブリーダーによって積極的に行われてきました。その結果、本来の生態からかけ離れた技を駆使するポケモンの姿を目にすることは珍しいことではなくなりました。我々はそうしたポケモンを見て、ポケモンを完全にコントロールすることができるようになったのだ、と思い上がってしまったところはないでしょうか。今回このように元々の生き方を離れてしまった野生ポケモンの姿を見て、私は脳天を殴られたような思いに駆られました。なぜ逸脱した技を覚えたポケモンが野生に還った時のことを、これまで誰も想定しなかったのでしょう。ポケモンの「タマゴ」と呼ばれるものによる技の継承が自然界でも行われるか否か、別な経路があるとすればそれは何なのかについて、なぜ誰も研究しなかったのでしょう。

    少々脱線してしまい、申し訳ありません。どちらにせよ我々は早急にポケモンを野生に還す際のガイドラインを作成すべきではないかと思われますが、なにぶんデータが足りなさすぎます。もしかするともう手遅れなのかもしれません。しかし、2例しか見つかっていない、ということは、2例で済んでいる、ということなのかもしれません。何にせよこの件は早急に調査を進めるべきだと強く感じましたので、このような追記を書かせて頂きました。

    次のフィールドワークではトウカの森付近に趣き、「ブレイブバードを使うスバメ」の調査を行う予定です。技の特性上、場合によっては当該個体を保護する必要が出てくる可能性がありますので、備品のモンスターボールの持ち出しの許可をお願いします。


      [No.3688] ポチエナ共食い ホウエンの生態系に何が-ポケモンジャーナル 投稿者:Ryo   投稿日:2015/04/07(Tue) 01:05:22     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ホウエンジャーナル 20XX年9月20日号

     群れで狩りをし、仲間意識が強いことで知られるポチエナが共食いを行う姿がポケモン研究家によって撮影された。先日撮影されたプラスルとマイナンの狩りに続き、ホウエンに生息するポケモンの生態系に大きな異変が起こっていることを伝えるニュースに、ポケモン生物学者らは大きな関心を寄せている。
     写真が撮影されたのは101番道路。オダマキ博士のフィールドワークを手伝っていた研究助手のツバキ・ユウヤ氏によって撮影された。
     一連の行動を観察、記録していたツバキ氏によると、共食いを行ったポチエナは一頭で現れ、他のポチエナの群れを執拗に攻撃し、逃げ遅れた一頭を捕らえて共食いを行ったという。ツバキ氏は「このポチエナは、この辺りに生息する通常のポチエナに比べて非常に俊敏で力も強いため、通常のポチエナとは大きく異なる生態を持っている可能性がある」とし、「自分が充分強いことを知っているため、群れを作る必要がないのではないか」との見解を示している。一方でこのポチエナが通常の野生個体には見られない「じゃれつく」を使う行動が見られたことから、一般トレーナーが逃がした個体が群れに入れずに単独で行動しているのではないか、という意見もあり、真相はわかっていない。
     しかし、近年、通常の野生ポケモンが本来覚えるはずのない技を使っていた、という報告が相次いでおり、もしこのポチエナが野生個体であることが判明すれば、そうした「異常個体」がホウエンに生息するポケモンの生態系を大きく変える可能性がある。
     日本ポケモン学会ホウエン支部長サトウ・ミキヤ氏は「このような本来の食性から外れた行動を見せるポケモンが増えれば、思わぬポケモンや植物が絶滅の危機に瀕する可能性があり、今後一層ポケモン達の行動を注視する必要がある」とコメントした。


      [No.3687] 「狩り」するプラスル、学者困惑-Pokezine 投稿者:Ryo   投稿日:2015/04/07(Tue) 01:02:38     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Pokezine 20XX年9月13日 19時45分32秒

     おとなしく可愛らしいイメージの電気ポケモン、プラスルがマイナンと協力して群れを作り、ペリッパーを捕食するシーンが撮影され、日本ポケモン学会に衝撃が走っています。
     
     プラスルは最大体長0.4メートルの小型草食ポケモンで、数匹で群れを作り、木の実や草を食べて生活するおとなしく平和的な性格のポケモンです。近似種のマイナンも交えた群れを作ることもありますが、お互い喧嘩をすることもなく、家族のように一緒に仲良く暮らすほどです。今回撮影された写真では、そのプラスルとマイナンがポチエナの群れのように協力して大型ポケモンの「狩り」を行っており、本来の生態からも大きく逸脱した行動にポケモン生物学者達は動揺を見せています。

     写真を撮影したのはカイナシティに住むポケモン写真家のカミヤ・コウイチロウ氏。「101番道路でロゼリアの写真を撮っていたら、近くの草むらで騒がしい鳴き声と火花の弾けるような音がしたので近づいてみたら、プラスルとマイナンがペリッパーを襲っていたんです。本当に驚きました」とのこと。彼が撮影した写真には、数匹のマイナンが電気の網を張ってペリッパーを道路の隅に追い込み、体に電気を纏ったプラスルがペリッパーの頭部にたいあたりを食らわせる、非常に息の合った狩りの様子がありありと写しだされています。

     プラスルやマイナンは小型の虫ポケモンやタマゴなどから動物性タンパク質を摂取することもありますが、積極的に狩りをし、肉食を行うことはこれまで報告されていませんでした。写真を見たポケモン生物学者のハコベ・ケンゾウ氏は「写真を見る限り、プラスルとマイナンの肉食行動は非常に新しい習性のように見えます。例えばルクシオのように普段から肉食を行うポケモンであれば、獲物を追い詰めた際にはまずとどめを刺すために喉元に食らいつきます。それから腹などの柔らかい部位から食べ始めるわけです。ところが写真を見る限りプラスル達は、電気で痺れさせた獲物がまだ飛び立とうとするうちから捕食行動に入っていますし、自分たちが飛びついた部位から闇雲に食べ始めています。狩りのルールが確立されていないのです」と話しています。
    穏やかなはずの彼らを狩りに駆り立てたトリガーは何だったのか。今後地元のポケモン生物学者によって詳しい調査が行われる予定です。


      [No.3685] ギフトパス(終) 投稿者:メルボウヤ   投稿日:2015/04/06(Mon) 21:25:36     125clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:BW】 【サンヨウ】 【送/贈】 【捏造】 【俺設定】 【批評はご勘弁を…

     お騒がせトリオとの共同生活、三日目。
     
     ふと目覚まし時計を見ると、設定時刻を一時間も過ぎていた。うっひゃあ寝坊だーーっ!
     慌てて飛び起きたら布団の上に乗っかっていたらしい小猿たちが「ぷきゃ!」と悲鳴を上げて床へ転がった。我に返る。
    「ああ…お店行かなくていいんだった…」
     私に振り落とされてぷりぷり、もとい、おぷおぷ怒っているバオップ。しくしく、もとい、やぷやぷ泣いているヒヤップ。それから一匹転落を免れたらしいヤナップを順繰りに見渡して、息を吐く。
     目覚まし時計にもお騒がせ三重奏にも気がつかないほど熟睡していたらしい。昨日なかなか寝付けなかった所為かな。なんとなく頭がぼーっとする。
     三匹(正しくはバオップとヒヤップ)を宥めすかしながらリビングへ向かう。ちょうど両親が出勤の支度をしている所だった。キッチンテーブルに私の分の朝食が用意されており、お昼ご飯は冷蔵庫にあるから、と母が言った。
    「行ってらっしゃーい」
     二人が仲良く家を出るのを見送る。それから朝食を済ませ服を着替え、私たちも我が家を後にした。

     アパートの階段を下りて北へ、通い慣れた道筋を辿る足。交差点の横断歩道を渡れば、三日前まで毎朝通っていた三ツ星は目と鼻の先だ。
     あそこへ行かなくなってからたったの三日。なのに、もう何週間も行っていないような感覚だ。ずうっと続いていた習慣を突然断絶すると、こんなにも心がそわそわして落ち着かなくなるのね。
     渡ろうとしていた横断歩道の信号が赤に変わったので、立ち止まる。待つ間、ぼんやりと慣れ親しんだお店を眺めた。
     窓にはカーテンが引かれ、中の様子は判然としない。開店まではまだ時間があるし、スタッフも集まり切っていないんだろう。正面玄関も堅く閉ざされている。
    「……行こうかな」
     三ツ星に。
    「追い出されることはまず無いだろうし」
     アパートを出るやいなや無意識にあそこを目指していた体に対して、そんな風に言い聞かせる。気になるなら行っちゃいなよ私。うん。
    「みんな、お店では静かにしててね!」
     そう言って振り返れば、そこには「分かった!」とでも言うように私を見上げて来る三匹の小猿が……
    「いなーーい!!」
     いなかった。
    「アレッ、どこ行ったの? ヤナップ? バオップ? ヒヤップーー?」
     朝っぱらから大通りで大音声を張り上げる私に通行人が驚愕の表情を向けてきたが、構っていられない。
     一気に冴えた頭をぶんぶん振り振り辺りを見回す。西へ続く別の横断歩道の向こう側に、緑赤青のカラフルな影が走って行くのを発見した。待ってェーーー!
    「やぷっ!」
    「おぷー!」
    「なぷぅ!」
     加速するお騒がせトリオ、追跡する私。必然的に三ツ星からはどんどんどんどん遠ざかる……。

     行き先を鑑みて、公園でまた遊びたいのかと思いきや、どうも違うようで。三匹は公園内の通路を次は北へと突っ切る。木香薔薇が絡まった木製のアーチをくぐると、隣町シッポウシティへと繋がる三番道路に出た。
     丘に建つ幼稚園と育て屋の前を通り過ぎ、前方と左方とに分かれた道をかくんと左折。木立を抜けるとやがて池が見えて来た。向こう岸との間に架けられた小さな橋に差し掛かった所で、三匹の暴走はようやく終止符を打つ。
    「やっ、やっと、止まった…!」
     ぜーぜーと肩で息をする私の真ん前で平然と、どころかすごく嬉しそうに跳ねているヤナップバオップヒヤップ。もう怒る気力が湧かないわ……。
     ひとまず切れ切れになった息を整えようと、深呼吸していると。
    「我々への挨拶も無しに旅に出るつもりですか? メイ」
     聞き慣れた涼しい声が背中に投げかけられ、私は勢いづいて振り向いた。
    「コーンさん! 違いますよ…旅になんか出ません。この子たちを追いかけて来ただけです」
     背後には予測通りコーンさんの姿。腰掛けた自転車を左足で支え、立っていた。少々困り顔で。
    「一緒に行こうと、あなたを誘っているのでしょう」
    「そんな。私にはお店のお手伝いがあるし……」
     そのように返しつつ三匹の様子を窺うと、期待に満ちたキラッキラの眼差しに迎えられた。……そんな顔されましてもねえ。
    「コーンさんはどうしてここに?」
     訊けばシッポウシティに用事がある、とのこと。
     それとこれとは関係無いけど、自転車での外出だと言うのにコーンさんも前日の二人と同様のウエーター姿だ。むしろこれが彼らの普段着と言っても差し支えない着用率。まぁ、私もいつもならエプロンと三角布を着けたままその辺を歩き回るから、人のことを言えない(今は休みだから私服だ)。
    「はあ。店の手伝い、ね…」
     先の私の返答に首を傾げたコーンさんは、自転車を降りて傍らに停めると、私の目を真っ直ぐに見、口を開く。
    「それは本当に、メイが心から追い求めた願望なんですか?」
    「え…」
    「彼らを見ている内に気づいたんじゃありませんか? あなたの願いや望みが、あの場所には無いことに」
     不意の問い掛けでとっさに返す言葉を見つけられず、私は茫然としてしまう。
     あの場所って三ツ星のこと…よね。
    「まだ余裕があります。一つ、為になる話をして差し上げましょうか」
     左の袖口を捲り腕時計を確認したコーンさんは、私のぼんやりした態度に構わず話を進める。
    「メイ。あなたはコーンたち三人が、この先もずっと共に、あの場所にいるものだと思っていますか?」
     またしても唐突な質問。とりあえず頷いてみると、コーンさんは少しだけ悲しそうに頭を振り、足下の小猿たちへと目線を落とす。
    「我々は決して運命共同体ではありません。デントはイッシュ各地の色、味、香りを追究し味わうため、自由気ままな一人旅がしたいと願っていますし、ポッドは一般トレーナーと同じようにジムバッジを集め、いつかはイッシュリーグへ挑戦することを望んでいるんですよ」
     コーンさんは三匹の前に膝をつき、彼らの頭を撫でながら、続ける。
    「このコーンも、いずれは修行の旅に出向こうと考えています。もちろん一人でね。ポケモンもそうですが、コーン自身のレベルも上げることが出来るでしょう。それが、コーンの夢なんです」
    「…………」
    「デントもポッドもコーンも目指す夢は違い、向かう道は異なります。三つ子だからと言って、いつまでも三人、一つ所には留まっていませんよ」
     お騒がせトリオが私たちの周りを跳ね回っている。とても楽しそうなその姿に、コーンさんはふっと口角を上げた。

    「夢……」

     アイドル。美容師。教師。イラストレーター。パティシエール。
     友達はみんな確かな未来像を持っている。将来はどうしたいと問われれば、彼女たちは迷わず即答するだろう。それは、彼女たちが自分にとって最も素晴らしいと考える毎日を形作る、土台となるものだから。
     私の両親も子供の頃に料理人になりたいと願い、望み――今は、ずっと夢見ていた毎日を送っている。
     そしてコーンさんたちも。今は一緒に仕事をしているけれど、いつかはそれぞれに思い描く素敵な日々を送るために、三ツ星から…サンヨウから、旅立つんだ。

     コーンさんはそこですっくと立ち上がり、私を見た。
    「あなたのご両親もコーンらも。あなたの才能がより強く美しく開花し、それを存分に奮うことの叶う未来を求めるならば、それがどんな旅になるとしても、全力であなたを応援する心積もりですよ」
    「……でも」
     戸惑い。躊躇い。迷い。恐れ。心の中に入り乱れ、靄のように蟠るそれらの感情に抗えず、目を伏せる。
     ひゅうと吹いた強い風が、私とコーンさんの髪や服を揺らし、木々の葉をざわめかせ、水面を波立たせる。けれど私の胸にかかった靄までは、払い除けてくれそうもない。
    「ポッドがあなたを夢の跡地へ行かせる、と言い出した時には驚きましたが……しかしメイならもしかしたらと、このコーンも思ったんです。そしてあなたは我々の期待を裏切らず、見事チョロネコと打ち解けてみせた」
     コーンさんは再度足下にいる小猿たちに視線を転じ、左手全体で三匹を指し示す。
    「彼らが何故あなたの採取した果物を盗ったのか、解りますよね? 林の奥にはそれこそ、至る所に果物が生っているにも関わらず。何故、あなたの持っている物を奪ったのか」
     それは、チョロネコたちが自分では果物を採らず、私が譲る物を手にするのと同じ。あの子たちは私が選んだ果物が必ず美味しいことを、知っていた。この子たちにもそれが判ったんだ。
    「生まれ持った才能を、成り行き任せに組み立てられた退屈な暮らしの中に埋没させるなんて、勿体ない。さして好ましくもない行為に、限りある体力を心血を、未来を費やすなんて、これほど味気ないことは無いとは思いませんか?」

     ポッドさんに、私は言った。
     私はトレーナーに興味が無い。そう好きでもないことをやるなんて、おかしくはないか、と。

    「退屈だなんて私…」
     三ツ星での仕事が好きじゃない、合っていない、とは感じない。探してみても一つも不満は無い。
     だけど……ただ一つ、あの場所に何か足りない物があるとしたら、それはたぶん、
     充実感。

    「…………」
     私は前から漠然とそれを感じていた。明確な言葉にする機会が無かっただけで。真っ向から自分の気持ちを見つめようとしなかっただけで。
     だって、“平凡だけれど安定した生活”から脱するには、新しい一歩を踏み出すには、勇気が要る。覚悟を強いられるから……。
    「惰性であの場所に居続けるのは、コーンはあまりお勧めしませんね」

     デントさんは、私に言った。
     自分のことは自分が一番よく解っていると、殆どの人間は考えているけど、周りの人間の方がその人を理解している時もある、と。

     みんな、そう思うんだ。
     私は外へ出た方がいいんだ、って。

    「ま。周りがどうこう言っても結論はメイ、あなたが出すんです。あなたがこの先どういう日々を送りたいのか、それはあなたにしか解らないし、あなたにしか決められないことなんですよ」
     直立不動で黙りこくる私を、小猿たちが静かに静かに見つめていた。



    「いけない。そろそろ行かなければ」
     私が発言するのを待っていたんだろうか。
     声も無くそっぽを向いていたコーンさんが、ふと時計に目をやるや呟いた。スタンドを蹴って解除しサドルに腰を降ろすと、視線を私へ移す。
    「それではまた。はしゃいで池に落ちないよう、気をつけて帰るんですよ」
     この辺りには凶暴なバスラオが沢山棲息していますからね。
     そう言い残し、一路シッポウシティへ向けて、コーンさんは自転車を走らせて行った。

    「………………。」
     いくらはしゃいだって、十五にもなって池ポチャする訳が無いのに…あの青鬼…子供扱いして…!
     しかし、可能性が全く無いとも言い切れない(私はともかくお騒がせトリオは何を為出来すか判らない)。余計なことを始められる前に、ここから離れなきゃ。





    「なぷぷぷっ!」
     バニラビーンズを煮出し終え、色とりどりの果物をカットする作業に移る。
    「おぷおぷー!」
     片手鍋に注いだ水が沸騰したら、そこへミントを入れて。
    「やっぷぅ〜!」
     隣で火にかけられている大きめの鍋では、ミネストローネがふつふつと煮立ち始めた。
    「ぁいたっ。向こうで遊んでよ、もう」
     キッチンテーブルの周りを追いかけっこしている三匹に、時折ぶつかられ小言を溢しながら、私は調理を続ける。

     今日は両親が早く帰って来る日なので、私が夕食を用意することになっていた。メインはたっぷりの野菜とハーブを効かせた特製ミネストローネ。煮込み終わるまでの間、小猿たちの食後のおやつとしてフルーツゼリーを作ることにした。
     バニラとミントで香り付けしたお湯に、グラニュー糖とゼラチンを加え泡立て器で撹拌。火を止めたらオレンジリキュールを少々。粗熱を取ったら平らなカップに流し入れて、とろみがついたら細かく切っておいた果物を沈める。あとはラップをかけて冷蔵庫に入れ、固まるのを待つだけ、っと。
    「ハイハイ、もう少しあっちで遊んでてね」
     作業が一段落したのを感知し、まとわりついて来る三匹をリビングへ追い払う。
     次はサラダを作ろう。
     胡瓜とプチトマト、サニーレタスを洗って水を切る。プチトマトはへたを取って、胡瓜は薄く斜め切り。レタスは手で一口サイズに千切っていく。
    「…………」
     そんな単純作業の傍ら。
     私はコーンさんの言葉を思い出していた。

     才能を存分に奮うことが出来る未来を求めるなら、それがどんな旅になるとしても――。

    「旅…か…」

     仮に私が旅に出るとして。
     私は旅から何を得ようとする?
     何を得るために、私は旅に出ればいい?


     キッチンの椅子に座り、リビングに敷かれたラグの上でポケモンフーズを食べるヤナップたちを眺める。その間にも思考は巡っていた。

     あの子たちはサンヨウへ来るまでの間、色々な人やポケモンを見て来ただろう。
     その人たち、ポケモンたちは、みんな生まれた場所も育った環境も違っていて、そして物の考え方や味の好みも違うんだろう。

     私はイッシュ生まれのイッシュ育ち。
     だけど私が知っている範囲は、イッシュのほんの一部分に過ぎない。

     サンヨウの外には、一体どんな人やポケモンが住んでいるんだろう。
     そこに住む人たちは、ポケモンたちは、どんな料理が好きなんだろう?


     そこまで考えた所で、はたと気づく。


     私はそれを知りたい。
     見てみたい。探してみたいのだと。


    「………………そっか。」

     答えは思いの外呆気なく導き出され、私の胸にすとんと落ちた。



     洗い物をしていると、冷蔵庫に付属したタイマーが鳴った。と、小猿たちが食後とは思えない素早さを以て駆け寄って来る。
    「そこどいてー!」
     占拠される足下に用心しつつ冷蔵庫からカップを取り出し、ラップを外す。それぞれの小皿にひっくり返し、ローテーブルに置く。
    「はい、どうぞ!」
     瞬間、待ってましたとばかりにゼリーに食らいつく三匹。
    「…………。」
     うーん…もうちょっと落ち着いて食べられないものか。メンタルハーブでも盛りつければ良かったかな。

     しかし、つくづくこの子たちは凄い。
     ああいや、食べっぷりのことじゃなくて。

     その幼さで、ここまで三匹きりで旅をしてきたという、事実が。

    「勇気あるよね。あなたたち」
     感嘆の声に反応し、三匹が皿から顔を上げる。直向きで無邪気な三対の瞳が、私の姿を捕らえる。
    「私も、覚悟を決めなきゃいけないけど……」
     ここから旅立とうとしているのは私だけじゃない。デントさんたちも同じ。それには確かに勇気づけられる。
     でも。
    「やっぱり不安になる。ちゃんとやっていけるかって考えると……どうしても、怯んじゃうわ」
     三匹はゼリーの残りを平らげると、こちらへ歩み寄って来た。そして私をじい、と見つめると。
    「なぷぷっ!」
    「おぷおぷ!」
    「やぷぷぅ!」

     そう言って、ニコッと笑った。

    「……………………」

     勇気は、ほんのちょっとでいいんだ。
     覚悟は、何度だって決められるんだ。
     要はやるか、やらないか、なんだよ。

     彼らの目はまるで、そう言っているようだった。



    「……………………うん。」

     少しの沈黙の後、一つ頷いて。
     つられて、私もにっこり頬笑んだ。

    「そうね…………ありがと!」

     背中を押してくれて。




     ガチャ、と扉が開く音がして、ただいま、と二人分の声が聞こえた。
     私は勢いに身を任せ、玄関へと直走る。そしておかえりを言う代わりに、力強い宣言で二人を出迎えた。

    「お父さん、お母さん! 私、決めた。旅に出るっ!!」

     突然過ぎる宣誓に二人はしばらくぽかんとしていたけれど――やがて揃って破顔し、大きく頷いた。





     次の日の昼下がり。
     三人に会いにお店へ顔を出すと、私が声をかけるよりも先にカラフルヘアートリオがやって来た。大体予想はしてたけど、両親は出勤早々、いの一番に彼らに報告したらしい。そんなに嬉しかったんですかお父様お母様……。
     私は三人(と言うかポッドさんとコーンさん)にせびられ、事の顛末を簡潔に伝えた。ヤナップたちのお陰で決心がついた、と。
    「彼らがメイちゃんに、将来について考えるきっかけと勇気をくれたんだね」
     デントさんの台詞に頷きながらも、私は心の中でううん、と頭を振る。
     この子たちだけじゃない。デントさんとポッドさんとコーンさんが、平凡な場所に逃げ込もうとした私を引き留めてくれたんです。
     ……なあんて、照れ臭くて本人たち(と言うかデントさん以外)には言えないけどね。

     その後、私たちは夢の跡地へと向かった。
     この子たちに、ある話をするために。





     夕暮れ時、鮮やかな橙色に全身を包まれてアパートへ戻ると、我が家の扉の前に人影が佇んでいた。
     燃え盛る炎のような形状の髪型。間違えようも無い。赤鬼だ。
    「ポッドさん?」
     呼びかけると少しの間、そして怒声が返って来た。
    「おまえおっせーぞ! 何分待たせんだよッ」
    「は、はい?」
     聞くところによると、三十分ほど前から私たちが帰って来るのをずうーっとここで待っていたんだとか。ポッドさんの割には気の長いことで。
    「用件はなんですか?」
     事務的に問うと、あーだのうーだのと言いながら視線を彷徨わせ始めた。
     挙動不審だ。怪訝に凝視する私とお騒がせトリオ。
     一分くらいそんなことを続け、ポッドさんは苦々しい顔つきでようやく開口する。
    「チョロネコの件……わ、悪かったな」
     刹那、数日前この人が見せた腹立たしい言動の数々がフラッシュバックした。
    「ほんとですよっ!!」
     勢いで憤慨してみせたら予想外に大声が出た。柄にもなくビクッと肩を震わせたポッドさんがちょっぴり可哀想になり(ついでにヤナップたちも驚いて飛び跳ねた)、「でも良い経験になったので今は感謝してます」と続けると、怖じ気づいたまま「お、おう…」と返事をした。
    「あと、コレ」
     小脇に抱えていたクラフト紙の封書から何やら取り出し、こちらに差し出す。どうやら本のようだ。薄い…………本?

     ピュアでイノセントな心の空が脳裏をよぎった。

    「なっ、なんでそんな本を私に寄越すんですかっ!!」
    「はー!? おまえが旅に出るって言うからわざわざ持って来てやったんだろ! ポケモン取扱免許持たずに旅するつもりかよッ!?」
    「え。ポケモン取扱免許?」
     ポッドさんの台詞に違和感を覚え、よくよく本を見てみれば。
     あれよりも大分小さくて、表紙に『ポケモン取扱免許取得の手引き』と書かれていた。
    「な、なぁ〜んだ……すみません。電波な例のあの本かと思って。ありがとうございます」
     非礼を詫び、お礼を言って本を受け取る。
    「ああ、アレ…。アレはデントの私物に昇格したから安心しろ」
     果たしてそれは安心していいものなのやら。
     ポッドさんの声を聞きながら、早速頁を捲る。
    「特別勝負がしたくなくっても、旅するってんならポケモンと一緒の方が断然ラクだし、楽しいかんな。前にも言ったけど、おまえかなり素質あると思う。いっそトレーナーとして旅に出ちゃえよ」
     手引き書を一通り流し読みすると、サンヨウシティに在住している人の場合、トレーナーズスクールに申し込めば、いつでも希望者の好きな時に講習を受けられることが解った。
    「こいつら、おまえと旅したがってんだろ? こいつらのことだったら、オレらが色々教えてやれっしさ」
    「あ…えっと、ポッドさん」
     三匹の前にしゃがみこんで、両手使いで彼らの頭をわしわし撫でまくっているポッドさん。上機嫌な様子で、私は少し申し訳なく思いながら話しかける。
    「そのこと、なんですけど。実は、私……」
     遠慮がちに切り出す私に、ポッドさんは案の定、訝しむように眉根を寄せた。


     ――昨日、三ツ星へ顔を出した後のこと。
     夢の跡地をのんびり歩きながら、私は三匹に、自分の心からの願望を話して聞かせた。
    「旅をするには、トレーナーになるのが一番いいみたい。無料でポケモンセンターに宿泊出来たり、色々と特典があるらしくて」
     香草園へ続く轍の道に差し掛かってすぐ、木陰からチョロネコやムンナが現われて、私を取り巻いた。会わない日が続いていたから気にしてくれていたのかもしれない。
    「でも私、勝負には疎いから、ポケモンのことを一からしっかり勉強したいの。勉強不足でポケモンを傷つけることにならないように、ね」
     チョロネコたちにちょっかいを出したり出されたりしつつも、三匹はしっかり私の声に耳を傾けてくれている。
     草むらに点々と姿を見せ始めるハーブ。その香りを楽しみながら進んで行くと、頭上からマメパトの鳴き声が降って来て、目の前を数匹のミネズミが横切った。
    「その間、あなたたちを待たせたくない。あなたたちと行けたら最高なんだけどね、早く旅を再開したいでしょ? だから、私が責任を持って、あなたたちと色々な場所へ行ってくれる人を探すわ」
     香草園の入口に辿り着いて私は、後ろを歩いていた三匹に振り返った。
    「私の目利きよ? 素敵なトレーナーを見つけるから、期待して!」
     私の言葉が、意図した通りに彼らに伝わったかは、判らない。 
    「…なぷっ」
    「おぷー!」
    「やぷぅ〜」
     でも、三匹がこくんと頷いて、にこにこと笑ったから。
    「良かった。解ってくれて。」
     ありがとう、と言って、笑顔で飛びついてきた三匹を力いっぱい抱きしめた。





     三匹とのお別れ。そして彼らの、新たな旅立ちの日。
     朝の陽射しを受けるサンヨウの街並み。その間を歩いて行く私の後ろには、小猿は一匹だけ。他の二匹は、さっき出会った二人のポケモントレーナーの元へ、送り出して来たところだ。

     最初に見つけたのは、眼鏡をかけた、真面目そうな黒髪の男の子。ミジュマルを連れていたから、そのミジュマルが苦手な草タイプに対抗出来る、バオップを託した。彼なら、怒りっぽいバオップ相手でも冷静に対応出来るだろう。

     次に見つけたのは、ツタージャと追いかけっこをしていた、緑の帽子の、眼差しが優しい女の子。草タイプのツタージャの弱点、炎タイプに有利なヒヤップを託した。彼女なら、ヒヤップの一挙一動に、一喜一憂してくれるだろう。

     三匹離れ離れになるのは嫌がるかなと思っていたけど、そんなことは全く無かった。むしろ、誰が一番楽しい旅が出来るか勝負、という感じのノリで、別れ際、バチバチ火花を散らしていたように私には見えた。

    「おぷおぷー!」

    「やっぷぷぅ!」

     バオップもヒヤップも、私が見込んだトレーナーを気に入ったみたいで、とっても嬉しそうな顔で歩いて行って。
     残るヤナップは心なしか、だんだんとそわそわし始めた。

    「大丈夫。あなたにも、きっといいトレーナーを見つけてみせるから!」
    「なぷー」

     そんな会話をしながら、私とヤナップは再び夢の跡地を訪れた。ここならトレーナーが修行に来ることも多いから、ヤナップを託すのに見合うトレーナーとも出会える気がして。
     そうしたら、やっぱり居た。ヤナップと同じように、好奇心に満ちた面差しをした女の子が。それも狙ったかのように、炎タイプのポケモンと一緒だ。

     この子だ。この子しかいない。
     運命のようにも感じる出会いに胸を高鳴らせつつ、女の子に声をかけた。

    「ねえねえ、あなた。このヤナップが欲しい?」
     私の台詞に、えっ、と言って振り返ったその子。服装もそうだけど、目ぱっちり歯真っ白で、とても健康的だ。何故かきょっとーんとした顔してるけども。
     ……あ、私の所為か。
    「ごめん、唐突過ぎたよね」
     仕切り直し。女の子に謝り、順を追って説明する。
    「あなたポケモントレーナーでしょ? 私はサンヨウのカフェレストで働いているんだけど……このヤナップをね、あなたの旅に連れて行ってもらえないかな、と思って声をかけたの」
    「なぷー!」
     後ろに控えていたヤナップが、待ち切れないとばかりに女の子の前に進み出る。すると女の子よりも先に、彼女の足下にいたポカブがぱっとヤナップに近づいて来て、挨拶するみたいに一声鳴いた。
    「私は事情があってポケモンを持てないの。あなたが良ければ、このヤナップを仲間にしてあげてほしいんだけど……どうかしら?」
     いいんですか、と女の子が驚き半分喜び半分といった体で私に訊ねる。
    「うん! この子、あなたを気に入ったみたいよ。それにポカブも、かな?」
     私の発言にふと視線を落とし、ポカブとヤナップがすっかり打ち解けてじゃれ合っているのを見た女の子は、ははは、と男の子みたいに白い歯を覗かせて笑った。私もつられてくすくす笑う。
    「この子は草タイプだから、あなたのポカブが苦手な水タイプに相性がいいわよ」
     エプロンのポケットに一つ残った紅白色の球体、モンスターボールを、「はい、どうぞ!」と差し出す。私の意図を汲み取り、女の子は私の手からボールを取ると、よろしくね、と言って、ヤナップの頭上にそれをかざした。
    「なぷ!!」
     光に包まれた緑色の小猿は、彼女が持つボールの中に瞬く間に吸い込まれる。
     これで、ヤナップの親トレーナーの登録は完了だ。
     直後、女の子はボールからヤナップを解放したかと思うと、うーんと頭を垂れて考え込んで……しばらくして、ぱぁっと表情を明るくさせた。どうやら、彼に付ける名前を閃いたらしい。
     満開の笑顔でヤナップを抱き上げ、彼女は思いついたばかりの真新しいニックネームで、何度も彼を呼んでいた。



    「…あっ! 大切なこと忘れてたわ!」
     私に礼をして背を向けた女の子に、一番重要なことを話し忘れていたのを思い出して、慌てて呼び止める。
     女の子は私のその言葉に神妙な表情で振り返り――そして。
    「あのね、その子ものすっごく食いしん坊だから、ご飯の時は他の子の分を取らないように、しっかり見張ってね!!」
     大口を開け、笑った。


     焦茶色のポニータテールを楽しげに振って、女の子が去って行く。彼女の足下をポカブ、そしてヤナップが歩いて行く。
     意気揚々と歩き出したヤナップに、彼と同じように旅立ったバオップとヒヤップの面影を重ね、その前途が希望に満ちたものであるように願う。

     空っぽな日々を送っていた私に、歩みたい道を見出すきっかけを贈ってくれた、あなたたちへ。
     今度は私が、あなたたちに最高の旅をプレゼントしてくれるトレーナーたちとの出会いを、贈る。
     次に会う時には、あなたたちが心から願い、望んだ日々を送ることが出来ていますように。

    「私も、そんな日々の中にいますように。」


     私はまだ『やりたいこと』を見つけただけで、目標と言えるほど明確な形をした物は手に入れていないけれど。
     旅をしていく内に、この漠然とした願望の中から「これが私の夢だ」と即答出来る物を、必ず見つけられると、そのことだけは確信していた。


    「いつかどこかで、また会おうね」

     あの、小さくも勇ましい三匹の小猿の背中を、私は祈りを込めて、見送った。












     ――それから、数日後。

     カフェレスト『三ツ星』兼『サンヨウシティポケモンジム』にて、新人トレーナートリオ&お騒がせトリオに早々に再会することになるのは……

     また別の、おはなし!















    ――――――――――――――――――――――

    二度目の投稿がまさかの三年後…だと…?
    ……気を取り直してもう一度。
    初めまして! メルボウヤと申します。

    冒頭にある通り、超個人的な理由でBW2はまだプレイしていません。と言うかBW以降、ポケモン関連に全く手を出していません(サイトは畳み、アニメもBW2からは見なくなり…あまり関わるとゲームをやりたくなってしまうので´`)。
    今後何本かBWの話を投稿するのが当面の目標です。求ム…プレッシャー…!

    この話は13年3月21日に、(三)の小猿トリオが旅に出た理由を話すシーン(〜〜勿論三匹は、同時にコクン! と頷いた。)までを故サイトに載せていました。切りが悪過ぎる。
    実はポケスコ第三回のお題が発表された直後に書き始めた代物だったりします(始めから応募しない方向で。何故って絶対一万字内に収まり切らないんですTT)。完成するのが遅過ぎる。
    絵もこれまた年代物ですが(11年10月30日作)折角なので一緒に。ええいもう、チミは何もかもが遅過ぎるんじゃっ(一人芝居)。

    とにもかくにも…ここまで読んで下さり、ありがとうございました!*´∀`*



    おまけ
    ・メイの名前は三つ子に倣い、イギリス英語でトウモロコシの『メイズ』から。私は三つ子ではコーンが一番好きです(何
    ・三猿がギフトパスを覚えられないなんて口惜しや…
    ・チェレンとベルが連れているお猿はヒウンジム突破後に初登場することから、それぞれ野生をヤグルマの森で捕まえた設定なのでしょうが、私の中ではあの通りです。これくらいの俺設定ですとまだまだ序の口レベルです←
    ・それよりデントがプラーズマーされてることに対する謝罪は無いのか(無いです)。



    追記
    この記事を間違えて(三)に返信してしまいました…以後気をつけます…!


      [No.3430] ピカ姫様(腐向け) 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2014/10/04(Sat) 02:23:34     92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:腐向け

     チュウもとい注・今更になってサ○シのピカチュウに悶えている人間が描いたものなのでリミッターゼロ設定
    盛り盛りパラレルになってます。さらに恐ろしいことに続きは相手サ○シのBLです。お気をつけください。笑
    い飛ばしてください。完成はさせますが、あらゆるものを恐れた焼き肉がマサポケからは削除する可能性はあり
    ます(サイトには置きます)



     金色の体毛はパチュルとも違った味わいの美しい色をしてあり、雷をあしらったようなしっぽからボルトロス
    と関係性のある神と呼ばれる。つぶらな黒目は黒真珠のように美しいもので、その目で微笑まれれば誰もが骨抜
    きにされ大犯罪者さえも精神が浄化されるという。

     かの地イッシュにおいて、ピカチュウという生き物は冒頭で語った通りの伝承が伝えられ、それはそれは大事
    に崇められていたという。もとより生息地が極端に少ない種族ゆえ大事にされていたものが、より希少価値のあ
    るイッシュでは強い神秘性を持ち、神として崇められていたのだ。

     そのような経緯から、この寝る場所も召使いも食事も広すぎて多すぎる巨大な城の中に、ピカチュウはピカ姫
    様と(オスなのに)呼ばれ軟禁状態で寵愛されていた。もちろん服装も特注の姫様ドレスである。フリッフリピ
    ンクである。

     そんな豪華な城の中でどれくらい寵愛されていたのかというと、かわいい右前足をあげれば芳醇な香りの甘い
    果物が召使いによって届けられ、左前足をあげればミルタンクの搾りたて新鮮な乳が届けられるといった具合で
    、くしゃみでもした日には大騒ぎである。

     たちまち王専属の医者が天変地異でも起きたかのような形相でピカチュウの元へと走り、万が一苦みや渋みな
    どにピカ姫様がお気を悪くしてはいけないと、あらゆる木の実をすりつぶして調合したものにはミツハニーのあ
    まいみつがくわえられ、ようやくピカ姫様のかわいいお口に入るのである。

     このようにして籠の中の鳥ならぬネズミ(なんだかネズミ取りにつかまったネズミのような響きである)とし
    て寵愛されつづけたピカ姫様は、ちょっぴりおデブであった。具体的に言うと赤・緑時代とかアニメ無印時代初
    期みたいな感じで。いいえこっちの話です。

     ついでに言うと、甘やかされまくっていたものだから性格もちょいいい感じに仕上がっていた。こんなもん食
    えるかー、とばかりに召使いの持ってきた食べ物を後ろ足でシッシとやって下げさせたり。気に入らないことが
    あるとすぐに電撃を発したり。まさに手のつけられないワガママ姫状態であった。

     だがあのプリティーなお顔が「チュウ?」と鳴きながら傾げられ、笑顔の形に緩むと、ワガママに手を焼いて
    いた召使いも王様も、誰も彼もが「ハアアアン!!!」と悶絶し、その場にバッタバッタと倒れるのであった。

     ピカ姫様はそんな愚民どもに見向きもせず、茶色いしましまの背中とかみなりしっぽを向けて(フリフリドレ
    スはうっとおしいから脱いだようだ)、さっさと天蓋つきの、ふかふかプリンセスベッドに入ってしまった。



     ピカ姫様の在住するプリンセスルームにも、もちろん窓はある。窓の外の空は、チルットの体のような青い全
    身に、ふわふわの羽のような雲もおくっつけていて、空全体が大きなチルットのようだ。おじさんのような神様
    の下半身が空一面にギッシリ詰まっているような灰色の雲はどこにも見あたらない。絶好のお散歩日和といえる
    。ピカ姫様はおてんば姫だから、お散歩に行きたくて長いきれいなお耳とピカピカかみなりしっぽがピクピクし
    ていた。

     だけどピカ姫様はピカ姫様だから、おさんぽになんて行けないのだ。外には危険なものがいっぱいで危ない、
    外に出てはいけない、とお城の人間はノメルのみでもかじったのかお前らは、って感じに口を酸っぱくして言う
    のだ。

     もちろんピカ姫様はその過保護にうんざりしている。ピカ姫様とて立派な男の子、外で冒険の九つや八つくら
    いはしてみたいのだ。フリフリのドレスをうっとおしく思いながら、ピカ姫様は広いお部屋を見回してみた。

     うるさい召使いも今は部屋にいない。部屋のドアを押してそっとのぞいてみれば、見張りの兵士もうららかな
    昼間の日差しに、廊下に座り込んで大爆睡中である。しめた、と思ったピカ姫様は、どっから出したんでしょう
    ねえ、自分の等身大四十センチぬいぐるみを取り出し、天蓋つきのプリンセスベッドの中に寝かせておきました


     等身大と言ったって、今時のピカチュウぬいぐるみじゃありませんよ。CMでお姉さんが「ピカチュウ四十セ
    ンチ! 大きくなったわねえ」とかちょい棒読みで言ってたあの初期ピカチュウぬいぐるみです。なにしろピカ
    姫様は溺愛されてちょいぽっちゃりしてますからねえ。あの時代のピカチュウぬいぐるみじゃないとバレてしま
    うのですよ。

     とにかくこれで、パッと見ではピカ姫様が部屋を抜け出したことに誰も気がつかないはず。ピカ姫様、気合い
    を入れて脱走! おお、まるでゲージから逃げたハムスターのようです。ネズミですしね。チュウチュウ。

     その四つ足で走る動きやでんこうせっか! 今にもボルテッカーを編み出しそうな動きです。

     フリフリのお姫様ドレスを揺らしながら走る動きは優雅の一言! こいつは今年のポケモン映画(2014年
    現在)の姫様も顔負けです。何しろピカ姫様ですから。語り手が映画館でディアンシーの甘いとろけた声と仕草
    にメロメロにされまくっていようと、ポケモンとして新人であるメレシー族のお姫様はまだまだ遠く及ばないの
    です。

     数々の兵士の包囲網(ほとんどが船漕いでる、大丈夫かこの城)をくぐり抜け、ピカ姫様は久しぶりにお城の
    外に飛び出しました。きれいな青空をピカ姫様が見上げると、大きなチルットのようなお空もこんにちは、ピカ
    姫様、と微笑んだように見えます。

     ピカ姫様は気分を良くして、四つ足で駆けていきました。ピカ姫様が四つ足で走っていると、動物らしさが強
    く現れていてかわいらしいですね。かわいいドレスが汚れるのも構わず、ピカ姫様が四つ足で走っていった先に
    は、きれいな草原がありました。おいしそうなラズベリーやいちごやきのこ、かわいいヒマワリやテッポウユリ
    なんかがたくさんあります。ひときわ大きな草は、ナゾノクサでしょうか。

     ラズベリーやいちごも捨てがたいですが、まず最初にピカ姫様はナゾノクサに話しかけました。

    「ピーカー」
    「ナゾ、ナゾナーゾー」

     ピカ姫様のうるわしゅうあいさつに、ナゾノクサは地面からボコッと飛び出して返事をしました。こんにちは
    、いい天気だね。そんな感じのことを言ってるみたいです。ピカ姫様があいさつをすると、ナゾノクサの体が光
    って、一回りほど大きくなりました。流石はピカ姫様、あいさつ一つで下々のナゾノクサをせいちょうさせるこ
    とも可能らしいです。


      [No.3174] Re: ボツネタの墓場(鳥居バージョン) 投稿者:ラクダ   投稿日:2013/12/11(Wed) 22:12:13     97clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     記事用

    ・熱砂の国の蛇神譚
    【蛇といえば、世間一般には「細長くてくねくね動く気持ちの悪い生き物」「猛毒を持っていて危険」「ロケット団などのアングラ組織が手持ちに入れている」等、あまり良くないイメージを持たれているのではないだろうか。確かに、四肢を持たず滑るように地を這い、獲物に食らいついて丸呑みしてしまうその姿は異様である。また表情を表さない顔や、際限なく開く(少なくともそのように見える)顎、長くて鋭い牙は畏怖と嫌悪の対象にされやすい。世界中に広がる某宗教間では、人の始祖が楽園から追放される原因を作った生き物として忌み嫌われている。神の罰を受けてあのような気味の悪い姿になってしまったのだ、という説がある程に。
     身近で親しみやすい獣型や獣人型、人型など人々の支持を集めやすいポケモンと違い、彼らは大抵日陰の身扱いである。
     しかし、そんな彼らも一部地域では神の使いとして、あるいは神そのものとして崇められていることをご存じだろうか。】
     ここまでで挫折。世界の蛇話と蛇ポケモンとを絡めつつ、メインはイッシュの砂漠の城(都市)を古代エジプトに見立てて、アーボックが墓守の女神だったと紹介する予定でした。結局、予定は未定でした!

    ・ヨツクニ地方の狸譚
     四国のタヌキ伝説をかき集めて方言バリバリダーで書き、それを記者が標準訳したという二段構えで……と考えつつ、うやむやのままに保留。
     山奥に住む爺さんが語る伝聞、という形にしたかったんですけどね。

     小説用

    ・嘆きの湖の伝説
     第一次の記事の元ネタ。いまだ仕上がらず。

    ・タイトル未定
     熱砂の記事の小説版。古代エジプトの神々をポケモンに当てはめて、どうこうするつもりでした。煮詰まりきらず断念。
    【熱砂の国には、古い古い信仰があった。今はもう人々の記憶から抜け落ちてしまった神々が、遠い昔に生きていた。】こんな感じ。

     以上、鳥居ボツネタでした。いつかまたどこかで、形にできたらいいなあ。


      [No.3173] Re: 【鳥居 結果発表チャット】開始時間に関するアンケート 投稿者:たかひな けい   投稿日:2013/12/11(Wed) 21:56:45     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    1番の18時からを希望します。
    21時から別件が入っておりまして・・・
    チャットなら問題ないかもしれませんが、確実に時間作れるタイミングをば。


      [No.3172] Re: 【鳥居 結果発表チャット】開始時間に関するアンケート 投稿者:奏多   投稿日:2013/12/11(Wed) 21:45:45     93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    1の18時からを希望します。
    早いほうが、次の日に響かない…と思いまして。


      [No.3171] Re: 【鳥居 結果発表チャット】開始時間に関するアンケート 投稿者:ピッチ   投稿日:2013/12/11(Wed) 21:45:43     89clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    おそらくどの時間帯でも21時前後に離席するかと思いますが、20:00だと比較的都合がいいです。


      [No.3170] Re: 【鳥居 結果発表チャット】開始時間に関するアンケート 投稿者:キトラ   投稿日:2013/12/11(Wed) 21:18:54     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]




    18時開始希望します
    早く終わると寝れる!


      [No.3169] 【鳥居 結果発表チャット】開始時間に関するアンケート 投稿者:No.017   投稿日:2013/12/11(Wed) 21:16:34     90clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ツイッターで開始時間を早めにして欲しいとの要望をいただいたのでアンケートをとります。
    以下、三択から選んで下さい。

    1.18:00〜
    2.19:00〜
    3.20:00〜

    回答期限:今週木曜日いっぱいまで


      [No.3168] Re: ボツネタの墓場(鳥居バージョン) 投稿者:キトラ   投稿日:2013/12/11(Wed) 20:08:10     106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ボツネタの宝庫だよ!

    ・竜を呼んだ師匠
    旅芸人の師匠と付き人の話。
    明治より昔らへんを意識
    現在のフスベシティらへんを通った時、興味持った新しい領主にやれと言われて、削ったばかりの横笛で師匠が演じる
    が、弟子はその笛はやたら高く、竜の声(雲を呼ぶ風の音)に似ていてあまり好きではなかった
    フスベシティでは笛を吹いてはならぬと言われていたが、新しい領主はそんなの迷信とばかり。
    しかし師匠が奏で始めるとだんだと雲行きが怪しくなり、大量の雨が振り、雷が鳴る
    師匠の身の回りの世話と、台無しになってしまった笛のために、フスベの山へいい木を探しにいく弟子。
    猟犬(デルビル、ヘルガー)を連れた地元住民に、ここは昔、シロガネ山に住む竜(カイリュー)が仲間を失って探しに来たはいいが、結局みつからずに終わってしまったこと、それ以降、笛の音を聞くと仲間だと思って大雨を連れてやってくることを聞く
    元々表を歩けない身、黙々と笛を作り、二人は旅立つ。


    ・主任の炭坑
    シンオウは石炭や金銀などが取れるため、たくさんの炭坑があった。
    ポケモンを使い、どんどん掘り進めシンオウ地方から取れる資源は人々の生活を豊かにした。
    炭坑で働くものは取れれば取れるほど自分にまわってくる利潤が多くなるため、どんどん掘り進んだ。
    事故も多かった。しかし会社は遺族にたくさんの金をおけるほどだった。
    そんな時、作業員が何人か戻らないことがあった。確かに一緒に作業し、直前まで話していたはずなのに
    探したが崩落などはなく、また明日探そうと解散。
    次の日も探すが永遠に戻ることはなかった。
    そのかわり、炭坑でイワークの変種が見つかる。金属の体にシャベルのような顎を持っていた。
    作業員が見てるまえで壁を堀り、金属を見つけるような動作をした。そいつは作業員を見つけると勢いよくやってきた。驚いた作業員は逃走するが、途中で何人かいなくなる。
    そして作業員が何人かいなくなった。ついに主任者が現場に入るが戻ってこなかった。それに比例してイワークの変種の目撃談が多くなる。
    噂では山に取り憑かれた炭坑夫の成れの果てだとされ、炭坑は閉じられた。
    今では調査のため、開かれているが、決してハガネールだけには攻撃していけないと言われている。
    それがもしかしたらあの時の作業員かもしれないのだから
    (モンハン、ウラガンキンネタより)

    ・妖狐はいかにしてシンオウから姿を消したのか
    今ではシンオウでロコンは見られない。
    元はたくさんいたのだが、人に退治された。
    シンオウの開拓や炭坑で働く人はケガも多く、この男も全身に火傷を負って看護されていた。
    だいぶ治ってきたころ、家に人が来た。妻が対応すると会社のものだという。しかし男も女も子供まで混じっていた。
    おかしいなと思いつつも、仕事のことを相談したいから少し部屋を閉じてくれと頼まれてその通りにした。
    何時間たっても出て来ないので様子を伺うと、男は既に息絶えていて、そのまわりをキュウコンとロコンが争うように男の肉片を食べていた。
    火傷の治りかけの皮膚はロコンキュウコンのたぐいの好物である。炎でやいた相手を生きたまま放置し、治ってきたころに食べることもする。
    妻が叫ぶと、一目散に逃げていった。
    同じようなことが相次ぎ、狐をこの世から抹殺すべきだと残された開拓民は炎に強い猟犬ヘルガーと共に山に入り、一匹残らず仕留めた。
    最後のキュウコンが絶滅したのはその事件から7年後だったとされている
    今でもシンオウでロコンは見かけない。むしろ見ない方がいいのかもしれない
    (北海道の炭坑記録から)

    どれも、文章にするとだるくなっていく


      [No.3167] 小説21 道祖神の詩 投稿者:道祖神   投稿日:2013/12/11(Wed) 18:44:33     119clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:鳥居】 【道祖神】 【若さってなんだ】 【振り向かないことさ

    道祖神の詩(うた)です。
    道祖神とはミクリの言う通りに正しい道に導いてくれる神様と言われていますが、旅の神様でもあるんですね。
    また、境界線を示す神様でもあり、神様の住む世界と人間の住む世界をわけていると言います。鳥居と性質は似ています。
    大人のトレーナーにしか思えないこと、それが本当に今の人生でよかったのか、今までの事はよかったのか、今は正しいのかという反省です。
    彼らにも突っ走ってポケモンに夢中だった時があったはず。でもその結果は本当によかったのか。正しかったのか。
    本当に正しいならなぜ今の位置にしたのか。

    ポケモンで最も神秘的な街だと思ってるルネシティ。音楽もホウエン地方の他の街と比べてジャズワルツになっています。グラードンカイオーガが目覚める祠もありますし、ルネの住民が全ての生命はおくりび山で終わり、目覚めの祠から出て行くというセリフ、そして飛ぶか潜るかしないと行けない地形などから、ルネシティは独自の自然信仰がありそうだなと思い、このような形にしました

    そしてなぜミクダイなのか。
    手にしたミクダイにとても感動し、こういう形で彼らが生活している基盤をかけないかとかきだしていたら自然とまとまりました。

    最後に。
    詳しい方はすぐ解ると思いますが、道祖神は男女の性交も司ってるんですよね。だけどダイゴはそうじゃない。だからどうしてこの道(ミクリが好きだという現状)に行かせたのかと恨みを抱き、どうにもならない心を必死で隠そうとします。


    (ミクリの対戦相手がカチヌキ一家の長男。彼もまたここまで後悔も振り返りもせず突っ走って来たんだろうなあ)


      [No.2915] 幸せな悪夢(中) 投稿者:イケズキ   投稿日:2013/03/31(Sun) 19:59:51     93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:まだ未完成

     再びガキの寝床に戻った。背後でうなされる声が聞こえたが、俺はさっさと部屋を出た。
     失敗した。いや、純粋な意味で言えば失敗ですらない。俺は自分の意思で彼女に悪夢を見せた。実を言うと後悔すらない。それどころか達成感すら感じる。
    「どうだった?」外で待っていたヨノワールが淡々と聞いた。まるでいつもどおり悪夢を見せてきた後のようだ。
    「失敗だ」短く答えた。
    「……そうか」と、一言。
    「そうか……だ? それだけか?」あまりにそっけない反応に、逆に聞き返してしまった。
    「それだけだ」
    「俺は失敗したんだぞ。今あの子は悪夢を見て苦しんでる。お前ら組織の信頼に関わる事態だぞ? それでも、『それだけ』、なのか?」
    「お前が失敗すれば、クラウンの居所が知れなくなる可能性が高まるだけだ。私には関係ない。組織のことだってお前に心配される謂れはない。ボスはそれくらいの事態ちゃんと見越している」
    「見越しているだと? キリキザンは俺に失敗覚悟で良夢を任せたって言うのか?」
    「そんな驚くことじゃないだろう」ヨノワールが鼻で笑う。何かいつもと様子が違う。
    「そもそもこんな依頼ボスにとってみれば、数あるうちの一つでしかない。その中でも特に今後の影響が少ない物を選んでお前に任せた。失敗させてお前を切る建前を作っとこうってことだ」
     ――やはり緊急事態とかいう話も嘘だったか。
     さらなるキリキザンの魂胆を知り再び怒りが盛り上がってきたが、その前にさっきからのヨノワールの様子が気になった。
    「ヨノワール……何かあったのか?」
    「何かとは、何だ?」
    「さっきから変だぞ、お前。どうしてそんな話をする? キリキザンの意図が何だったかなんて、俺は聞いていないぞ」
    「お前の方こそおかしいんじゃないか? 揚げ足を取るようなこと言って。失敗覚悟だったのかとお前が聞いて、私がそうだと答えれば、間違いなくお前はその意図まで聞いてきていただろうが」
    「そういう問題じゃない! どうして急にお前が自分からキリキザンの事を話すようになったのか、それが聞きたいんだ。これまでお前は奴の事になるといつもはぐらかしてきたのによ」
    「……別にお前に関係のない事だ」
     突然ヨノワールが目を逸らして言う。やはり変だ。
    「馬鹿言うな。関係ないってことは無いだろ。もう間もなく終わるが、それでも今はまだ、お前は俺の専属ブローカーなんだから」
    「……違う」
    「違うって、何がだ? ハッキリしろよ」
    「もう私はお前の専属ブローカーじゃない。……私はさっきクビになった」
    「どうして? お前はキリキザンのお気に入りじゃなかったのか?」
    「フフッ……」
     俺が聞き返すと、ヨノワールの喉がヒュウヒュウと鳴った。笑ったらしい。まるで壊れた笛に息を吹き込んだかのような、乾いた笑いだった。
    「なぜ笑う?」
    「変わったな、お前。私がクビになったと聞いても顔色一つ変えなくなってしまった。気が塞いでしまっている。確かに今夜はいろいろあったからなぁ……。この程度じゃ今さら驚きもしないか。……フフッ」
    「馬鹿言うな。俺はただ……ちょっと疲れているだけだ。ほら、さっさと答えろ。お前、なんでクビになった?」
    「……こっちの問題だ。気にするな」
     なかなか答えを渋るのにムッとして声を荒げかけたが、すぐにその気が失せてしまった。ヨノワールの言う通りなのが悔しかった。
    「……で、お前はこれからどうするんだ? 次の依頼は?」
    「残りの二つも案内する。そろそろ次行くぞ」
    「そうか……分かった」
     俺はそれ以上なにも言わず、そそくさとムクホークの元へ進んだ。なぜクビになってもなお仕事を続けるのか、気にならなかった訳じゃない。ただ、気にしたくなかった。今の俺は自分の事だけで精一杯だったからだ。


     ムクホークに乗って移動しつつ次の依頼について俺は聞いていた。次は、中年の男だそうだ。
     聞いた話では今まで何度となく相手にしてきたタイプの人間だ。
     独り暮らしで、無職。人付き合いはほとんどなく、ポケモントレーナーでありながら年中家に引きこもっている。
     こういう奴らは大抵、若いころに意気揚々とポケモントレーナーの旅に出て、うだつの上がらないまま、実家にも帰れず旅する気も失せて腐っている場合が多い。
     そして、人間はその状況をポケモンのせいにするのだ。
    「コイツが弱いせいで……」、「コイツが使えないから……」、「コイツがコイツが……」
     人間は自分の至らなさを棚に上げて、全てをポケモンのせいにする。「コイツが」と言って、自分のポケモンを罵倒し、暴力を振るう。
     そういった人間の元にいるポケモンこそが、悪夢屋の「お得意様」だ。依頼の半分以上を占めている……いや、占めていた。
     俺はムクホークの羽根を掴む手に思わず力を込めた。
     ――今さら……。
     今さら何を考えても空しいだけだ。もう悪夢屋には、「お得意様」どころか、ただの一匹の客もいないのだから……。

     しばらくの後、ダークライ達はターゲットの住むアパートに着いた。今度のはさっきの一軒家とは大違いだった。ボロくて今にも“何か”が出てきそうな、そんな建物だった。

    「なぁ、ダークライ」
     ムクホークから降りたヨノワールが声をかけてきた。
    「何だ?」
    「さっきの良夢、お前わざと失敗したのか?」
    「……そうだ」
     そのものズバリなヨノワールの聞き方にも、ダークライはさらりと認める。
    「はぁ……やっぱりか」
     ヨノワールが悲しげにため息を吐く。ダークライはその態度が無性に腹が立った。
    「ハッ! 不満なのか? ヨノワール! 俺が真面目に良夢を見せないことが気に入らないか!? えっ? キリキザンに捨てられた分際で、どうせお前だって嫌々仕事してるんだろうがっ!」
    「嫌じゃないと言ったら、嘘になるな。けど、私は引き受けた仕事はやり遂げる。必ず。お前と違って手を抜いたりなど決してしない」
    「お前はそういう所、本当にマヌケだな。自分をクビにした奴の為に働いたって、お前に何の得がある? 無駄だって分からないのか?」
    「私は『得』だとか『無駄』だとかで仕事していない。引き受けた仕事を達成することが、私の自尊心に繋がるからこそやっている。これは紛れもない私の意思だ」
     ヨノワールの言葉の中には、ゆるぎない意思がこもっていた。
    「……マヌケめ」
     ダークライにはそれしか言えなかった。

     部屋の中は見るも無残だった。
     ターゲットの男の部屋は、散らかり放題で足の踏み場もないほどだった。溜りにたまったゴミ袋からは腐った食べ物の異臭がぷんぷん漂い、廊下に転がっている空き缶には虫がたかっていた。これだけでも充分男がどのような暮らしをしてきたかが知れるというものだ。
     ――今までと何も変わらない。
     今まで悪夢の依頼をつけられてきた人間と、今回の男との間には何も違いが無いように思われた。こんな劣悪な環境に閉じ込められて、男のポケモンはさぞ辛い生活を強いられている事だろう。

    「お、おい! な、なんでダークライがここにいるんだよ!?」
     突如、部屋のどこかから声がした。焦りのこもった、うわずった声だ。
    「だれだ!?」
     ダークライの声が恐怖で裏返っている。そりゃ、こんな幽霊屋敷のような建物の中、どこからともなく声がしたら誰だって怖い。
    「答えろよっ! なんでダークライがここにいるんだ!? クレセリアさんはどうした!?」また声がする。
     暗闇の中でも視野の効くはずのダークライが、声の発信源を見つけられない。ここは言う通り説明した方が賢明だとダークライは思った。
    「俺は今日ここへ人間に良夢を見せに来た。クレセリアはここへ来ない。恐らく別の仕事の最中だ」
     暗闇の中、同じ部屋のどこかにいる何者かに向かってダークライは答えた。
    「ダークライが良夢? 嘘だ! お前なんかに用はない! さっさと出てけ!」
     謎の声の発信者はダークライを追い返そうと叫ぶ。
    「……お前がこの良夢の依頼したのか?」
     ダークライはその声を無視して質問した。
    「だ、だったらなんだっていうんだ! お前には関係ないことだろ! いいからさっさと出てけよっ!」
     ――カラン。
     ムキになって叫び続ける声がする。ダークライはその声に混じって、何か金属音がしたのに気づいた。
     さっとその金属音の方向へ視線を向けると、空き缶の山が見えた。その山から一つ缶が零れ落ちて、斜面を下って、止まった。
     しかし、何が空き缶を転がしたのかダークライには分からなかった。なぜなら空き缶の山の周りにあるのは、無造作に積み重ねられたいかがわしい雑誌やら、ホコリのかぶった汚らしいぬいぐるみやらといった、空き缶と同じゴミばかりだったからだ。
     ……ぬいぐるみ?
     確かにそこには雑誌の束に埋もれる格好で、ぬいぐるみが置いてあった。いったい何をかたどったものなのか、手足らしきものをだらりとたらし、首は雑誌に押しつぶされて不自然な角度に曲がっている。正直、全くかわいらしくはない。むしろ、なにかおどろおどろしい天邪鬼のようにダークライには思われた。
     ――ふぅむ……。
     ダークライはそのぬいぐるみを見て何か違和感を感じた。
     半ば人生を捨て、自堕落な生活を送っているこの男の部屋にぬいぐるみとは、どう考えても不自然だ。
     ダークライがじっとそのぬいぐるみを見ていると、不意にぬいぐるみが動いた。
     完全なる不意打ちだった。突如動いたぬいぐるみに気をとられ、ぬいぐるみが放った“シャドーボール”をもろにダークライはくらってしまった――。

    「ちっ、ジュペッタか。脅かしやがって」
     目の前には先ほどまで大人しく雑誌に埋もれていた人形――ジュペッタがふよふよと浮いている。
     ダークライは何事もなかったかのようにして、目の前のジュペッタに向かって悪態をついた。恐らくジュペッタ自身がゴーストタイプであることから最も得意な技を出してきたのだろうが、”シャドーボール“は悪タイプのダークライにそもそも効果の薄い技だ。その上、二匹の間のレベル差は圧倒的なものがあった。至近距離から攻撃を受けたにも関わらず、ダークライには傷一つなかった。
     対するジュペッタの方は、怯えて声も出ないようだった。ダークライの目の前から、ふらふらとまた雑誌の束にもたれかけると、腰が抜けたといった様子でじっとしている。
    「お前!」
     ダークライが声をかけた。完全に威勢を取り戻したダークライと、酷く怯えて口のファスナーをわなわなと震わせているジュペッタとは、ついさっきまでと完全に立場が逆転していた。
    「あ、あ……」
     ジュペッタは返事をしようとするが、言葉になっていない。
    「お前がこの良夢を依頼したのか?」ダークライが再び聞く。
    「そ、そう……」ガチガチと聞き取りづらい声だったが、確かにジュペッタは認めた。
     ――なんでこんなトレーナーの幸せを願う?
     そう聞こうと思った矢先、ジュペッタが泣き出していることに気づいた。
     どうやらこのジュペッタ、やることの割りにかなりの臆病者らしい。ダークライのような強力なポケモンを脅迫し、さらには失敗して、心底震え上がってしまっているのだ。
    「おいおい、俺は別にお前をどうにかするつもりなんかないぞ……? だから、な? そんな怖がらなくていい」できる限りの優しい口調でダークライが声をかける。
     ジュペッタはがくがくと首を縦に振った。ダークライにはそれが了解の合図だったのか、ただ怯えて震えていただけなのか判断がつかなかったが、話を進めることにした。
    「なんで――」
     ダークライが質問を始めようしたその瞬間、
     ――ガッシャーン!!
     大量のものが一斉に床に落ちる音がした。ごみの山の一つが崩れている。同時に部屋全体がパッと明るくなった。電気がつけられたのだ。
    「てめぇ! 野良が人様の家に勝手に上がりこんで何してやがる!!」
     どうやら男が起きてしまったらしい。30そこそこといった年のちょっと腹の出かけた人間が、くしゃくしゃの汚い髪の毛を振り乱し、パンツ一丁の姿でドシンドシンと奥の部屋からやってきた。
    「ジュペッタ! コイツとっとと片付けろ!」
     どうやら酔っ払っているらしい。ふらふらと体を揺らしつつジュペッタを指差して指示を飛ばしている。
    「で、でも……」ジュペッタは困惑している。
     ジュペッタは先ほどの不意打ちで、自分がダークライにとても敵わないと分かっている。しかも相手に攻撃してくる気配がないのに、また自ら喧嘩を売るような真似したくないのだ。
    「この役立たずがぁー! さっさと言うこと聞きやがれ!」
     ――ドンッ!
     男はよろめきながらもこちらへ進んできて、ダークライの目の前でジュペッタを勢いつけて踏み潰した。
     ――ぐぐぅぅぅ〜……。
     雑誌の束と男の足の間から押しつぶされてくぐもった叫び声がする。
     その様子をずっと見ていたダークライは、男を止めようとすれば止められたはずだったが、わざと何もせずに立ち尽くしていた。
     男が足を上げ、痛みにうめくジュペッタを見ると、ダークライは右手に一つ真っ黒な球体を作り出し、男にぶつけた。

    「おい、大丈夫か?」ダークライがジュペッタに声をかける。
    「う、うん……」ジュペッタがその場でうなずく。そのすぐ足元で、さっきまで暴れていた男が倒れている。
    「おまえ……何したんだよ? ケンに何したっ!?」ジュペッタが倒れている男を見て言った。
     この男の名前は“ケン”という名前らしい。ジュペッタがわっと怒鳴る。ついさっきまでダークライに怯えていたはずが、また態度が変わった。
    「はぁ? お前今コイツに何されたか分かってるのか? なんでそんなこと聞く? なんでこんな腐った人間のこと心配するんだ!?」
    「ケンは僕の友達だ! 心配して当たり前だ! お、お前ケンに何かしたらただじゃおかないぞ!」
     ジュペッタはどうやら本気で言っているらしい。例えダークライが“何か”をしていたところで、自分にはダークライをどうしようも無いと分かっているはずだ。しかし、間違いなくジュペッタは本気だ。
    「……安心しろ、お前のケンは眠らせただけだ」顔を伏せ、ぼそりとダークライが言う。ジュペッタはさっとケンの寝息を確かめると、ふぅっと安心するように吐息した。
    「なぁ、なんでだ? 何でこの人間がお前の友達なんだ? この人間はお前を『役立たず』呼ばわりした上、暴力を振るったんだぞ。それに……お前今までだって、コイツのせいで散々酷い目に遭わされてきたんじゃないのか?」
     ダークライには意味が分からなかった。
     横暴極まりなく、自分のポケモンを平気で足蹴にする。そんな奴のことをどうしてコイツは心配するんだ? この男はこれまで俺が悪夢を見せてきた人間となんら変わらないはずだ。かつてクラウンが、『なにも変わらなかったのさ』と言った状況そのままじゃないか。
     わけが分からないという様子で質問するダークライに、ジュペッタは、逆にそのような質問されたという驚き半分と、そんな質問するダークライへの興味半分でぼーっとダークライを見つめていた。
    「俺はな今までずっと悪夢屋をしてきたんだ」
     ダークライが語り始める。
    「悪夢屋っていうのは、人間に酷い目に合わされたポケモンたちの代わりに悪夢を見せて復讐する仕事でな、だから、お前みたいに被害に遭ってる奴を俺はたくさん見てきた。……と言っても実際に会った奴は少ないが。でもな、それでも分かる。人間にこき使われたり、暴力振るわれたり、まともに面倒見てもらえないポケモンたちがどれだけ苦しい目にあっているか。そいつらがどれだけ自分のトレーナーを憎んでいるか。
     だから俺はそいつらのために、人間たちに死ぬほど怖い悪夢を見せてきたんだ」
     ゆっくり、淡々とダークライが語る。それをジュペッタは注意深く聞いていた。
    「だけどお前はこの男のことを『友達』と言って、俺からかばった。俺にはそれが全く理解できない。同じ目にあってるのに、お前と、俺が今まで請け負ってきた依頼人とは、いったい何が違うんだ?」
     ダークライはやっと聞き終えると、ふぅーっと長いため息をした。
     クビになっても仕事を続けるヨノワール。虐待を受けてもトレーナーを「友達」とするジュペッタ。人を知るため始めた悪夢屋で、さまざまな人間を見てきて、人間というものをあらかた理解できた自信はあったが、どうやらポケモンのことは全然理解できていないみたいだ。
     ――……沈黙。
     ジュペッタは何も喋らず、難しい顔をしている。そして、しばらくそうしていたかと思うと、突然話し始めた。
    「その……、悪夢を見せてってダークライさんに頼んだポケモン達は、それぐらいしか人間と『友達』じゃなかったってことじゃないの……かな?」歯切れの悪いジュペッタの回答。いつの間にかダークライが「さん」付けになっている。
    「……ん?」
     ――それぐらい?
    「だから……んー、なんていうのかなぁ……」ジュペッタが言葉に詰まっている。
    「ケンはね、本当はとってもいい奴なんだよ。これまでずっと僕を育ててくれて、一緒にたくさんの町を旅して、バトルで僕のせいで負けちゃった時だってすっごくなぐさめてくれたし、他にもいっぱいいっぱい僕の面倒見てくれて……僕はね、ケンが大好きなんだよ!」
     まだまだ言い足りないという様子でジュペッタが叫んだ。
    「しかし、今はどうだ? こんな汚い場所に押し込められて、毎日毎日この男の暴力や暴言を受けて、それでもまだこの男が好きなのか?」
    「好きだ!」
    「どうして!?」
     即答するジュペッタに、すかさずダークライが聞いた。
    「んーー……それは……」
     ジュペッタはうまく言葉に出来ないみたいだ。
    「それは……僕がケンを好きでいたいから!」やっと言ったことはそれだった。
     ――……再び沈黙。
    「……ダメかな」黙り込むダークライに、ジュペッタが小さく付け加える。
    「いや……ダメじゃない」
     それはジュペッタの「意志」だった。
     それはデジャヴだった。
     クラウンも同じことを言っていた。
     こいつもか。結局は、「意志」なのか。ジュペッタが不可解そうな顔をしてこっちを見ている。
     ――続けていたいから。
     昔、俺が自分の仕事の様子をクラウンに話していたときのことだ。毎度毎度、あんまり悲しげな顔をして話を聞くクラウンに俺が聞いた時のこと。
     ――なぜ、お前はそんな悲しそうな顔をする?

    「そうか? 私はいつもこんな顔だが?」クラウンはいつものようにはぐらかそうとする。
    「嘘をつくな! 何か俺の仕事に文句があるなら言ってみろよ!」
    「文句なんかないさ。お前はこの短い間によくここまで成長してくれた。今やこの業界で、私も含め、お前の仕事に文句をつける奴なんて誰もいないさ」
    「じゃあなぜお前はいつも……そんな悲しそうなんだ?」
    「ふふっ。心配してくれているのか? 夜な夜な人間達を恐怖のどん底に落としいれる、最高の悪夢屋ダークライがツンデレとは。かわいい所もあるじゃないか。ふふふっ」にやにやと俺をからかう。
     クラウンは時々こういう変な調子を出す。相手を自分の調子に巻き込み話題をそらそうとする。しかし、今回その調子に巻き込まれる気は無かった。
    「ふざけるな。答えろ、何が不満なんだ?」ダークライが続ける。
    「言っただろ、不満なんてないさ」自分の思惑が外れてもなお、さらりと答える。
    「また嘘を――」
    「まぁまぁ、ダークライ」さらに続けるダークライを制し、クラウンが言う。
    「あんまり他人のことを詮索しないのは、最低限の礼儀ってもんだぞ。私達はただでさえしょっちゅう他人の心を覗く生活だ。仕事上仕方ないことではあるが、普段の生活ではマナーに反する。気をつけないといけないぞ。親しき仲にも礼儀あり、ってことだ」
     相変わらず軽い口調ではあったが、その中には有無を言わせない重さがこめられていた。
     最後にクラウンは、いいか、というように肩をすくめて見せると、その場を立ち去ろうとした。
    「待ってくれ」ダークライが呼び止めた。
     まだ何か、と言ってクラウンが振り返る。目元にうっすら、そろそろ「しつこい」の文字が見えた気がした。
    「クラウン、お前は悪夢屋してて楽しいか?」
    「楽しい……か」
     ふぅむとクラウンは考え込むようにして腕をくんだ。
    「楽しくはないな。毎度毎度腐った人間どもと顔を合わせないといけないし、その人間の被害にあっているポケモンと鉢合わせたりすると、いまだに悪夢屋が嫌になることがある」
    「じゃあなんで――」
    「なんで悪夢屋してるかって? それはずっとお前に話してきたことだ。この復讐の連鎖を終わらせて、ポケモン達を本当の意味で救うためさ」
    「それなら別にお前じゃなくてもいいじゃないか。お前以外にも悪夢屋はいる」ダークライが言う。それではクラウンが嫌な思いをし続ける理由にはならない。
    「続けていたいから」クラウンはこともなげに言った。
     ――……。
     黙るダークライに「これじゃダメか?」とクラウンが付け加えた。
    「ダメじゃない……」
    「それは良かった。いい加減お前の質問攻めに殺されるかと思っていたからな。好奇心は百の魂を持つニャルマーをも殺すって言うんだ、お前の向学心は評価するが、ほどほどに頼むぞ」
     クラウンはそう言い残すとさっさと行ってしまった。この頃急激に依頼が増えて、手練れのクラウンにはその中でも子供相手の難しい依頼が連日大量に舞い込むので、疲れているのだ。
     立ち去るクラウンの後姿を見て、ダークライは結局はぐらかされてしまったんだと思った。クラウンが、何か自分の、自分の弟子の仕事ぶりに満足できない理由があるのは確かだが、結局それが何だかは分からずじまいだ。
     そして、最後の「続けたかったから」という言葉。ダークライにはそれが、しつこい質問をあしらう為だけのものと分かっていたが、それでもなぜかあの言葉が疑問の中心を捉えているような気がしてならなかった。クラウンは悪夢屋の仕事に誇りを持っている。クラウンは悪夢屋を自分の意志で続けている。
     その事実にダークライは、ただ漠然とした疑問に対する、ただ漠然とした解答を得られた、そんな気がしていた。

     今、目の前にいるジュペッタもそうだ。虐待を受けながらも、「好きでいたい」その意志で今でもこの男についている。
     俺は悔しくなった。外で俺の仕事を待っているマヌケも、目の前のガキも、みんな意志を持っている。なのに俺は……俺には、何もない。
     いや、あるはずだ。しかし、今は見失っている。考えろ。思い出すんだ。俺の意志。
     ――悪夢屋を続けること?
     いや、さっきのヨノワールの話を聞いて、もう俺の中に悪夢屋への未練はない。悪夢屋なんてもうどうでもいい。
     ――人間を知ること?
     そもそもの俺の目的。まだまだ俺は人間を理解しきれていない。命の恩人は悪人なのか、いつか必ず突き止めるつもりだ。……だが、それも今はどうでもいい。
     ――クラウンに会う。
     これだ。これしかない。何が何でも俺はクラウンとまた会って話さなければならない。
     そしてそのためには仕事を続けるしかない。あのキリキザンから居場所を聞き出せる可能性はわずかだが、それでも俺は諦めない。どんな手を尽くしてでも、俺はクラウンに会う。

    「分かった。つまらないこと聞いて悪かったな。それじゃ、仕事を始めることにしよう」ダークライが言った。
    「えっ?」ジュペッタが少し驚いたかのように声を出す。
    「何が、『えっ』なんだ?」
    「だって……ダークライさんが良夢って……。それに、ダークライさんは『悪夢屋』じゃなかったんですか?」
     どうやらこのジュペッタは幼いわりに頭の回転が速いようだ。しかもどうやら、ダークライの能力のことについても知っているらしい。
    「今は違う。今夜俺はこの男に良夢を見せて幸せにしにここへやってきた。最初に言っただろうが。『ナイトメア』のことも心配要らない。さ、もう夜も遅い。お前は早く寝な」
     ダークライがそう諭すと、ジュペッタは少しむっとした様子で目を細めた。
    「嫌です。僕がこの良夢を依頼したんだ。ケンがちゃんと良夢を見れたか確かめたいんです。それに、僕の特性は不眠です。生まれたときから寝たことなんてありません!」
    「気になる気持ちは分かる。だが、俺は仕事中回りに誰もいて欲しくないんだ。気が散るからな。ましてやお前はこの仕事の依頼人だ。頼むから、向こうへ行っていてくれ」
     腰を低めて頼み込むダークライを見て、ジュペッタはしばらく思案していた。
     ダークライが悪いポケモンでないことは、なんとなく分かった。だが、今一つ信用しきれない。元は人間を苦しめる仕事をしていたというし、そもそも、彼は“ダークライ”だ。ダークライといえば、大昔からたくさんの人を悪夢で苦しめてきたポケモンだ。

    「それじゃ……一つお願いがあります」
     ジュペッタがダークライを見上げている。その目はまっすぐダークライを捉えている。
    「なんだ?」
    「ケンに見せる夢は、山登りの夢にしてください」
    「夢の内容について注文は受け付けていない。この男に見せる良夢は、“ケン”が求めている夢だ」ダークライは断る。
    「ケンが求める夢は、絶対山登りの夢です!」ジュペッタがもどかしげに言う。
    「なら構わないじゃないか。お前に言われるまでもなく、俺はこの男に山登りの夢を見せることになる」
    「うぅー……だからそうじゃなくて……ケンの見たい夢は絶対山登りの夢なんだけど、もし……万が一……ホントはそんな可能性ちっともないんだけど、山登り以外のことが……もし……そうだったら……うっ……うわぁーーん」
     言葉にならない不安がジュペッタの中で涙とともに爆発しかけていた。
     ケンはあのテンガン山での遭難以来人が変わってしまった。時々短気になるとこもあったけど、僕にだけはいつでも優しかったケンが、毎日のように僕のことを叩いたり罵ったりするようになってしまった。何より山に登らなくなってしまった。
     遭難の体験はケンに想像を絶するトラウマを植え付けてしまった。今のケンは大好きな山登りへの渇望と恐怖で頭の中がぐちゃぐちゃになっている。でも、それでも僕は信じている。
     ケンはまだ山登りが大好きだ。それだけは変わっていない。あの時のケンはまだここにいる。

    「ははっ、ジュペ! 落っこちるなよ!」
     鋼鉄島からミオシティまで戻る船の中のことだ。一際大きく船が大きく揺れて、ケンがジュペッタに言った。
     元から船酔いに弱かったのもあるが、予想外に険しかった鋼鉄島探索の疲労もあって、ジュペッタは完全にダウンしていた。ケンは潮風に当てとけばそのうち良くなるだろうと、あえてモンスターボールに戻そうとはしなかった。ジュペッタにしてみれば、ボールの中の方がよほど揺れも少なく、酔いもさめやすいだろうにと思っていたが、我慢してデッキの手すりにしがみついていた。
     それにジュペッタにはポリシーがあった。それは、山登りとはその準備から出発、山を登り宿に帰ってくるまでと考え、それまではどんな事があってもケンの傍を離れないことだ。だからどちらにせよジュペッタにボールに入る気はなかった。そのことは、ケンも分かっている。
    「船長!!」ケンが突然声を張り上げる。船のエンジン音と波を掻き分ける音に負けないようにだ。
    「なんだぁ!?」船長が答える。
    「あの島はなんですかー?」ケンが今しがた離れた鋼鉄島から東に少し外れたところにある二つの島を指差し聞いた。
    「……別になんでもありゃせんよ! ただの孤島じゃー」
    「無人島なんですかー?」
    「……そうじゃ」
    「今度連れてってくださいよー!」
     ケンは船長の言うことを聞いていない。今さっき鋼鉄島をめぐってきたばかりだと言うのに、もうすでにあの島への興味でいっぱいだ。
    「行っても何もないぞー! 野っぱらが広がってるだけじゃ、行くだけ損じゃぞ!」
    「見てみたいんです! お願いします!」
     必死に頼み込むケンを見て、船長は困ったように顔をしかめると、エンジンを切り船を停止させた。
    「……船長?」
     なぜか突然船を止めた船長にケンが怪訝そうに声をかける。
    「悪いがあの島へは行けない。お前さんも行かんほうがええ」
    「どうしてです……?」
    「あっちの島には夢の神様、あっちの島には夢の悪魔が住んでいる……。下手に近づくと、恐ろしい悪夢を見ることになるんじゃ」
     ここまで聞いたケンは急に気が抜けた。逞しい海の男が嫌がる程のことだから、どれほど恐ろしい事でもあるのかと思ったら、ただの迷信ではないか。
    「はっはっ! 船長でも神様の祟りなんて、迷信を信じてるんですね! あはは」
    「バカモン! これは迷信でもなんでもない! 本当のことじゃ」
     すっかり調子づいたケンに、船長が憤慨する。
    「正確に言うなら、夢の神様とはあの島に長いこと住んでいるクレセリアのことで、悪魔とはダークライのことでな、下手に近づけばどうなるか……」
    「で、でも、神様って言っても、所詮ポケモンなんでしょ? なら、大丈夫! ポケモンなら俺がちゃちゃっとやっつけてやるから! だから、船長頼みますよぉー!」ケンは余裕たっぷりに言って、また船長に頼み込む。
    「まったく……これだから若いもんは……。それじゃ、お前に一つ昔話をしてやろう。なぁに、長い話じゃない。昔、実際にあった話じゃ。ウチの街に巨大なポケモンハンター組織が巣食っていた時期があってな……――」

     ここまで思い出してジュペッタは思考を止めた。その先は思い出したくない。船長の話はそれはそれは恐ろしい出来事だった。とにかくその話を聞いたケンは心底震え上がっていた。いくら悪人達に起こった事とはいえ、悲惨すぎる彼らの末路にケンはいつもの元気を失いしばらく青い顔してうずくまっていた。
     しかし、ケンは結局あの二つの島へ向かって行った。
     船長が最後の最後まで渋っていたのを覚えている。それでもケンは何度も何度も頼み込んで、やっと連れて行ってもらえるよう了解をとった。
     たぶん、ケンにとってあの船長の話は怖さだけじゃなくて、知らないものへの冒険心を駆り立てるものだったんだと思う。
     ケンはそういう奴なんだ。
     知らないことを知らないままにしておけない。知らないことは自分の足を使って、目で見て、耳で聞いて、肌で感じないと気がすまない、そういう奴なんだ。
     ジュペッタは目の前で深い眠りの中にいる親友を見た。その眠りはよっぽど深いようで身じろぎ一つしない。一瞬、もしかしたらもう二度と目を覚まさないのではと思ってしまいそうになるほどだ。
     それでもジュペッタは信じていた。ケンはきっと目を覚ます。

    「泣くな! コイツが目を覚ます」ダークライが慌てて言う。
    「うっ……」目に涙をいっぱいにためてジュペッタがこらえる。
    「どういう事情があるか知らないが、そんなに山登りの夢がいいならそのようにしよう」
    「えっ? いいの?」
    「特別だ。そもそもこれはお前からの依頼だし、俺の仕事は依頼主の希望を叶えることでもあるからな」
    「ありがとうございます!」心からほっとしたという様子でジュペッタが言う。
     普段ならダークライが他人の希望に合わせて仕事を左右することは絶対にない。今回ジュペッタ希望の通りにしたのは、ダークライはすでに仕事に対するモチベーションを失っていたからだ。依頼主の言うとおりにして、例えそれで失敗しても知ったことではないし、希望の夢を探る手間が省けて楽だと思ったのだ。
    「それじゃそろそろ始める。お前は……」
    「分かってます。向こうで待ってます」ジュペッタが言う。
    「助かる」
     ジュペッタの影が見えなくなるのを確認すると、ダークライは床に寝転がったままの男の寝相を整え、夢の中へ潜った。
     良夢、第二の仕事開始だ。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

     吹雪、吹雪、吹雪。あたりは吹き荒れる雪に覆われ何も見えない。
     俺は前を“見上げて”みた。雪の中に黄色い靄が人の形を作っている。あの男だ。
     俺は初めの夢と同じように別のポケモンになっていた。雪の上30センチほど上を浮かびつつ、強い風にしょっちゅう吹き飛ばされそうになりながら男の後ろを必死について行っていた。
     今、俺はジュペッタになっている。
     この状況は全く予想外だった。この男は俺が用意する前から山登りの夢を見ていたのだ。しかもこの男、間違いなく遭難している。
     良夢とは対照的なこの状況をまず打開することから始める必要があった。俺は立ち止まり空を見上げた。
     そして空が晴れて……いくはずだった。しかし、なかなか晴れていかない。雪の量が多少減り、風が収まってはきたものの相変わらずの吹雪だ。
     すべてこの男のせいだった。めずらしいことではない。夢というものが見る者の心を表す以上、強すぎる「想い」を持った夢はなかなか左右しづらいのだ。
     ダークライはその後も何度か力を振り絞り、夢の様相を徐々に変えていった。おかげでやっと自分の周り半径5メートルほどの視界が保たれるようになったが、それでも吹雪は止まらない。これ以上はどれだけやっても変わらないようだ。
     はっきり言って良夢とは程遠い。雪山で遭難だなんて絶望的すぎる。
     しかし、ダークライはこのまま続けることにした。あのジュペッタに頼まれたことでもあるし、何よりこの状況が面白い。
     あのジュペッタはこの男にとって山登りこそが幸せだと、むしろそうであって欲しいと訴えていた。だが、明らかにそうではない。それどころかこれではまるで悪夢だ。
     どのような事情があったのか正確には分からないが、おそらくこの男は遭難を経験している。それも一歩間違えれば死ぬほどの遭難事故だ。その時の恐怖が今まさに夢に現れている。
     ザクザクザク。男は進む。足音が聞こえるのは、俺が聞いているから。現実の猛吹雪では、風の音にまぎれて到底聞こえないような音も、夢の中では関係ない。
     ダークライは考えた。このままの夢で、この状況を悪夢から良夢にする方法は一つだけ。この男を山頂まで連れて行くしかない。
    「ふぅむ……」
     本来ならここで吹雪を晴らし、山頂までの道を整えてまっすぐ移動出来るようにするところだが、今回はそれが出来ない。忌々しいが、大きな障害を避けられるように援助するしか方法がない。
     黙々と先を進むうち、男がなにやらつぶやいているのに気付いた。
    「ジュ……ぺ、ジュペ……」
     いや、もしかしたらさっきからずっとつぶやいていたのかもしれない。男はすぐ真後ろをついて行っている自分(ジュペッタ)を呼んでいた。
     俺は男の目の前に出てみた。が、つぶやきはやまない。男には俺が見えてないのだ。
     目指すべきゴールも、相棒も見失いこの男は盲目的に歩き続けている。まったく不幸な男だ。
     ――不幸。
     思えば今日俺はこの不幸な男を幸せにするために来たのだった。
     忘れかけていた。今の俺にとって大切なのはクラウンにまた会うこと。それだけだ。
     しかし、クラウンに会うにはキリキザンに居場所を聞かなければならない。奴を連れ出して拷問したいとこだが、居場所も分からず、キリキザンの勢力も強大で、ほぼ不可能だ。
     こんな人間のことなんて、どうでもいい。でも、俺はクラウンに会わなければならない。そのためにはこの男をこの悪夢から救いだし、幸せにしてやらねばならない。
     俺は覚悟を決めた。

     相変わらず吹雪は止まない。男の、かつての相棒を呼び続けるつぶやきも止まない。
    「おい、しっかりしろっ!」
     夢の中で物理法則は通用しない。声が届くかは、聞く者次第だ。大きな声でも聞く者が聞こうとしなければ聞こえないし、逆に聞こうとしていればどんな小さな声でも届く。
     残念ながら俺の声はこの男に届いていないようだった。耳元に寄り、何度大声で名前を呼んでも男は変わらずうつろな目をきょろきょろ動かして、「ジュペ、ジュペ」と“俺”を探している。
     呼んでも仕方ないと分かっていたが、それでもひたすらケンに声をかけ続けた。必死だった。
     なんだかあのジュペッタの気持ちがわかる気がする。どれだけ叫んでもケンに届かない。自分を見てくれない。こんなに近くにいるのに……。
     でも、同じなのはそれだけじゃない。再び深く息を吸い込んだ。
     諦めない。声が届くまで、諦めない。
     今の俺は、あのジュペッタそのものだった。

     ところが、次にまたケンを呼ぶことは叶わなかった。
     ――ゴゴゴゴゴォーー!
     吹雪で薄ぼんやりとした視界が今、激しく揺らめいている。雪崩だ!
     大量の雪の塊がこちらめがけて猛スピードで迫ってくる。
     ――マズイ!
     それは雪崩のことではなかった。別にこの雪崩は所詮夢だ。幻だ。飲み込まれたところでどうということはない。
     しかし、それは私にとってのみの話だ。
     ケンの顔は恐怖に歪み、どうにも抗い難い危機に対し、固く目をつむっている。
     それと同時に世界がぐにゃりと“捻じれ”た。目をつむって立ちすくんでいたケンの体がゆっくりと後ろへ向けて倒れていく。異様にゆっくりと、まるで無重力の中にいるかのように――。
     これは悪夢屋の中で俗に『強制終了』と呼ばれている現象だ。悪夢の中で耐えがたい恐怖を受けた時に、極まれにそれを知っている人間だけが行う自己防衛の手段である。
     これは名前の通り夢を強制終了させる。夢の中で目をつむり、目が覚めることだけをひたすら思う。そうすると悪夢は終わり、目が覚める。
     ケンがこのことを知っていたのは予想外だった。だが今はそんなことを言っている場合ではない。このままでは夢が終わる。
     悪夢屋にとって最悪の事態が、終わった夢に取り残されることだ。終わった夢は、虚無だ。それは経験した者にしかわからない、本物の地獄だ。何も感じず、何もできず、痛みと恐怖が恋しくなる……そんな世界に閉じ込められることになる。次に対象が眠り、夢を見るまで、決して抜け出すことはできない。
     そして何より、今のダークライにはそんな時間は残っていない。次の夢まで待てば、残り一つの依頼は出来ない。そうなれば、キリキザンにクラウンの居場所を聞けなくなる。
     ダークライは目の前の雪崩を消そうと全力を振り絞った。その間もケンの体はゆっくりと倒れていく。世界は捻じれていく。終了へ向かっていく……。
     ――止まった!
     目がかすむ。あらん限りの力を使い雪崩を消したダークライはその場に崩れ落ちた。しかしまだ強制終了は止まらない。膝をつき、上体を片手で辛うじて支えると再び夢の中へ引きずり込むよう穴を作った。
     ケンの体があと数ミリで地面に着くという瞬間に、ぽっかりと大きな穴が広がった。ケンはその中に沈み込んでいく……。
     ――ふぅ……。
     これでもう安心だ。ケンはさらに深い眠りに入った。明日は寝坊することになるだろうが、今すぐ目を覚ますことは無くなった。

     目の前でケンが目を覚ましつつある。しかし、ここはまだ夢の中。これでさっきまでのケンは、いわゆる「夢の中の夢」を見ていたことになる。
     あたりの様子はさっきまでと何も変わらない。強い風、大量の雪。むしろさっきよりも強まってしまっているように感じる。さっきので体力を使いすぎてしまったからだ。
     ――ジュ……ペ、どこだ、ジュペ……。
     ケンはまた歩き出した。そしてまた俺を呼んでいる。
    『ケンの求める夢は、絶対山登りの夢です!』
     ジュペッタはそう言っていた。きっとそれは本当のことなんだろう。でも、同時にそれは間違っている。事実、この男は今不幸のどん底にいる。
     ――では、いったい何がこいつの幸せなんだ?
     目の前では、ケンが道なき道を盲目的に歩き続けている。自分が今山を登っているのか、下っているのかも分かっていないだろう。ただ一人、見失った相棒のことを呼びながら歩き続けている。
     俺にはどうしてあげたらいいのか、どうやったらケンを幸せにできるのか分からない。これまでとにかくがむしゃらにケンの名前を呼び続けてきた。いつか気が付いてくれることを信じて――でも、それだけじゃ、届かない。
     男の後ろをずっと着いていくだけだったジュペッタが突然、男の背中の高さまで浮かび上がった。そして、短い腕を目一杯伸ばし、肩に触れた。
    『ケン、僕はここにいるよ。いつもと同じ。ケンが頂上に着いて、山を下りて帰るまで、僕はずっとケンのそばにいるよ……』
     ささやくような声がこぼれ出た。
     次の瞬間、目の前の景色が一変した。
     突然吹雪はやみ、太陽が見えだした。足元の雪はぐっと減り、ところどころ地面が見える。
    「わっ、あぁー……」俺はその変化よりなにより、見下ろした景色に圧倒された。
     広がる雲海。自分よりもずっと下の方に雲が広がっている。そして雲の隙間からはミニチュアサイズの街や川が見える。視線を遠くにやれば、はるか向こうに地平線がまっすぐ伸びているのが分かる。
     ――なんて美しいんだ……。
     これはケンの記憶。高いところからの景色というのは移動の間に何度も見たことがあるが、これは別格に美しかった。ケンのイメージが作り出した景色だから、その印象まで反映されているのだ。
    「ジュペ!」
     後ろから声がした。さっきまでの弱弱しい呼び声じゃない、ケンの声。
     ケンは嬉しそうだった。顔いっぱいに幸せがあふれていた。
     その顔を見て、俺はケンを幸せにできたと分かった。
    ――ふぅ……。
     これで一安心。俺は気が抜けてその場にへたり込んでしまった。
     ――ドドドドドドーー
     地響きがした。
     ――えっ!?
     意味が分からない。
     ――ミシミシミシミシ……。
     ケンの足元の地面が割れていく。
     ――ケン?
     ケンが見えなくなった。
     ――どうして?
     見えているものの理解が追いつかない。

     ケンは暗い割れ目に落ちていった。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    第二の良夢、失敗。


    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    やっとここまで。

    なかなか終わらない
    ハッ! もしやこれが悪夢では……!
    ……違いますね。また頑張ります


      [No.2666] Re: 胸が締め付けられるような 投稿者:逆行   投稿日:2012/10/06(Sat) 16:37:17     67clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    イサリさん


    感想ありがとうございます。
    ポケスト板で感想貰ったの初めてなんですごいドキドキしています。嬉しいですありがとうございます。

    誰でも「これだけは許せない」っていうものがあると思うんですよね。
    ただこのドーブルの場合、主人が死んだということで、その感情は極端なものになってしまったという。←作中で書けなかったことを、ここで書いて誤魔化そうとしている人


    改めて感想ありがとうございました。


    では、拙文失礼しました。


      [No.2665] 胸が締め付けられるような 投稿者:イサリ   投稿日:2012/10/06(Sat) 00:35:36     81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     こんばんは、逆行さん!
     小説読ませていただきました。


     表現を趣味とするものとして、非常に身につまされる寓話でした。
     絵と文章、表現形態は違っても、自分の好きなものを信じるあまり、盲目的に他者を排除しようとしてしまう心理は痛いほどよくわかります。
     自分とは異なるものがもてはやされているところを見ると、自分の創作まで否定されたようで、どうしようもない嫉妬に駆られてしまうものですよね……。

     ふと我に帰った瞬間の、ドーブルの言葉にできない後悔と苦々しさが伝わってくるようでした。


     それでは、ありがとうございました。


      [No.2664] 愛しい我がグラエナ 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2012/10/05(Fri) 23:20:56     124clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     俺のかわいい3匹のグラエナ。俺のことが大好きで、いつも俺の言うことを聞く。今日も俺が仕事から帰って来たらしっぽが千切れるくらい振って俺のところに来て。寂しかっただろ。こんな男には女なんかこねーから世話してくれるやつがいなくて困るよなあ。
     一番古い付き合いのグラエナがクロコで、2番目の素直なやつがハイイロで、最近の勇敢な新入りがチョコだ。特に意味はねえ。でもどれも俺の自慢のグラエナだ。強さだってその辺のひよっこなんかに負けん。
     餌箱に入れてから待てと待機させてクロコにお手、と命令した。待ちきれない様子で、しっぽを振ってるから尻が浮いてる。それに前足を何回も俺の手に乗せてくるからお手というより俺の手にタッチしている。ハイイロは俺の目をじっとみて早く許可をくれないかと言っていた。チョコはおすわりを命令したのにしゃがんでる。
     みんなのふわふわの黒い毛皮をなでてやると、俺はよしと言った。早いが我れ先に餌箱に鼻を突っ込む。対して上手くもないポケモンフードだが俺の安月給だから我慢してくれよ。
     飯おわったら夜の散歩行こうなー。おかげで俺は運動不足にもならねーし。もう真っ暗だからお前ら保護色だけどな。


     ポケモンの足にはやっぱり舗装してない道路がいいみたいだな。グラエナたちが土の上をはしゃぎながら歩く。歩くというより、飛び跳ねてる。散歩のときくらい落ち着いて前歩けよ。俺が歩けないじゃねえか。
     俺の足に体おしつけて歩いてるのはチョコ。俺の足の間に顔を出すのはクロコ。歩けと言えば歩くけどそのうちチョコと反対の足にじゃれついてくるハイイロ。街灯が暗いんだが仕方ない。少し離れるとグラエナだと見えなくなるからな。リードつけてるからどっかいっちまうようなことはないが。
     3匹のリードは同じ手で持ってたんだが急に引っ張ってそれぞれ走り出した。俺はその反動で転んだ。いきなり何があったんだ。俺のグラエナが家出の仕方をするとは思えない。
    「クロコ! ハイイロ! チョコ!」
     遠くでグラエナの息づかいが聞こえる。3匹で何をしてるだ。追いかけないとあいつら野生で生きていけるかもしれねーけど!
     道を少し外れると真っ暗で何も見えなかった。名前を呼んでも何の反応もなかった。
     なんでいきなりあいつらが俺から離れていったのか解らない。俺は真っ黒な森をぼーっと見ていた。あんなにかわいがっていたのに見捨てやがって。あっさり見捨てやがって。餌も毎日やってたのに裏切りやがって。
     個人的なことだけど一週間前に振られたばかりでそれでもお前らの世話してやったじゃねえか。餌餌餌、散歩散歩散歩って毎日いってやったのにこのザマかよ。
     ああもう人間もポケモンも信じねえ。どーせお前ら自分のやりたいようにやるんだろうよ。帰って寝てやる。もう明日から何の世話なんかしなくていいんだー。

     俺の家の玄関の前に、黒い毛皮が座っていた。
     なんだよ、なんでお前ら帰って来てんだよ。しかも一匹増えてるじゃねえか。遅かったじゃないかと言いたげな顔してんじゃねえよ。じゃれつくなよ。しかもハイイロのリード切れてんじゃねえかよ。いくらすると思ってるんだよ。これでも節約してお前らに投資してんだぞ。
     しかもチョコ、増えたやつを見てみてと差し出すなよ。ポチエナだし。大きさからいって生まれたばかりか?
    「……またか」
     だからこいつら走って行ったんだな。お前らもそうだったもんな。


     ホウエンでは子供でも小さい時からポケモンに触れさせる教育をしている。個人的に持つ場合もあって、力のあまり強くないジグザグマとかポチエナとかエネコが人気だ。
     けれどな、力のあまり強くないということは、強くなったらイラナイんだよ。不要になる。だからクロコはゴミ捨て場に一匹でひたすら主人を待っていた。ハイイロは餌を取ろうとして川で溺れてた。チョコは主人に会って自分より強いポケモンにコテンパンにされていた。
     俺にボランティア精神はないが、クロコが俺の弁当の匂いにつられて会社まで追いかけてきたことが発端だ。仕方ないから飼ってやったら次々に捨てグラエナを拾ってきやがる。
     俺の経済力を知ってろよ。全部のグラエナは助けられねえよ。あー、そんなこといってもこいつらには解りませんですね。俺がバカだった。生まれたばかりのポチエナとかどうしろって言うんだよ。
     頭かかえてしゃがみ込むと、クロコが覗き込んで来る。疲れたのか、元気だせと言ってるのか知らんが、元はといえばお前らのせいだ。
    「随分たくさんのグラエナを飼ってるんだな」
     知らないおっさんの声がかかる。好きで飼ってるわけじゃねえよおっさん。こいつらみんな俺をよりどころにしてる捨てグラエナだっつーの。なんならこのポチエナおっさんが飼ってやれよ。
    「その力をトレーナーとして使わないか」
    「はぁ?」
    「そんなたくさんのグラエナをそのレベルまで育てるのは、トレーナーとして……」
    「これは俺のグラエナじゃねえよ。弱くなって要らなくなったグラエナを引き取っただけで、育てたトレーナーは今頃どっかでエリートトレーナーじゃねえの」
     それより俺はもう寝たい。ポチエナのボール買いに行きたい。誰だよこのおっさん。話が止まりそうにないというか、ますますこのおっさんの恐ろしい系のオーラが増えてる気がする。上司に怒られる前の空気と似ていて俺の居心地もよくない。
    「それを制御しているのだから、やはりトレーナーの才はある。どうだ? 悪い話ではあるまい。私は才能のあるトレーナーを探している。あるポケモンを探しているのだが、それにはトレーナーの協力が必要なのだ」
    「へえ。何の為にポケモン探してるんだ? こいつらの寝床を広くしてくれるのか?」
    「……まあそんなところだ。条件はこちらから出そう」
     人をほめて引き抜くなんてよくやるじゃねえかこのおっさん。今より貰える金が増えるなら協力してやろうじゃねえの。そうしたらこいつらにもっといいもの食わせてやれる。
    「これだ。この計画は秘密にして欲しい。先を越されたくない」
    「企業秘密ってやつか。なるほどな」
     妖しい匂いはする。しかしこのおっさんの話になぜか興味がある。玄関先でグラエナに囲まれてる男に声をかかけるやつなんていないだろ。何を期待しているんだ。
    「この話に乗るなら、君の名前をそこに書いてくれ」
     俺は敢えて違う名前を書いた。よく知らないおっさんに全てを吐き出す勇気はないんでね。
    「……この話、乗ってやるよウヒョヒョ!」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    グラエナに囲まれたホムラというツイートがホムラ大好きな人からまわってきました。
    グラエナ多頭飼いしてるんだろうなあ。いいよなあ。ワンコに囲まれて幸せそうなホムラ。
    わんわんお

    【好きにしてください】


      [No.2663] 有害な正しさ 投稿者:逆行   投稿日:2012/10/05(Fri) 00:37:15     119clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ドーブルという種族は、好きなように絵を描く権利があった。野生に生きる者はもちろん、たとえ人間に捕まっても、たまに自分の身体に傷をつけて戦い、ちゃんと言うことを聞いていれば、そんなに悪いトレーナーじゃない限り、自由に絵を書くことができる。それは私達ドーブルが、絵を描くために生まれた存在だからであって、そうじゃなかったら認められない。
     
     私のトレーナーは、とても良い人だった。私のことを無理させず、適度に回復してくれた。私が火傷を負った時は、すぐに薬を塗ってくれた。私に対して、とても優しく接してくれた。だから私は、あの人に良く懐いた。

     私は主人を喜ばせたかった。私の描いた絵を見せて、主人を心から喜ばせたかった。それがドーブルとしての、せめてもの恩返しだと思った。
     そのために私は、主人の嗜好を徹底的に調べた。明るいものが好きなのか。暗いものが好きなのか。シンプルなものが好きなのか。複雑なものが好きなのか。何を正しいと思っているのか。何を悪だと思っているのか。
     長い間の努力の成果もあり、主人の嗜好がだいたい分かった。主人の嗜好に従い、私はたくさんの絵を描いた。主人は必ず喜んでくれた。心が安らぐと言ってくれた。心が安らいで、幸せな気持ちになれると言ってくれた。だから私も嬉しくなって、もっと頑張って描いた。主人が嫌いな思想に対する風刺も、訳が分からないながらも、盛んに取り入れてみた。主人はくすっと笑いながら、良くやったと誉めてくれた。
     何時の間にか、主人が喜んでくれる絵が、一番描いてて楽しいものになった。それ以外を描くことに、もはや喜びを見出せなくなっていた。
     楽しい日々は、あっという間に過ぎていった。私が絵を描く。主人が喜ぶ。そんな単純な日々が、ずっと続けばいいと思った。
     しかし、運命というのは残酷だった。
     ある日突然、主人は交通事故で死んだ。
    外から大きな音がした。ボールから出てみると、主人が血だらけで横たわっていた。隣には、トラックが止まっていた。私はその光景をただ眺めていた。

     何が起こったのか分からず、しばらくの間、主人の親の家でぼーっとしていた。しばらくして、その事実をじわじわと理解して、私は暴れまわった。主人の親が必死で私を止めた。
     それから私は、いろいろあって野生に帰った。主人に捕まる前の、草むらへと戻った。戻ってきた私を見て、昔の仲間は喜んでいたが、私の心が晴れることはなかった。

     野生に帰った後も、絵は描き続けていた。それは、ドーブルとしてのアイディンティを保つための行為であり、やらなくてはならないものだった。
     そして、どのような絵を描いていたかというと、主人が好きな絵を描いていた。前と変わらない絵を描いていた。何時の間にか、主人が好きな絵が、「これが普通」という形に変っていた。絵とはこうゆうものである。これが正しい絵の姿だ。そう思うようになっていた。
     仲間達とは、仲良く暮らせていた。主人のことは辛かったけど、仲間がいたから、私は前向きに生きてこれた。

     ある時、自分より年下のドーブルが、絵を描いているところを見つけた。私は自分の絵に没頭していたので、他のドーブルの絵をしっかり見ることがなかった。年下のドーブルは、私が見ていることに気づかず、ただひたすら絵を描き続けていた。
     描いてる本人には、興味がなかった。ただ、その絵が少し気になっていた。その絵を見ていると、何か、自分の中に、黒い感情が、沸いたような気がした。
     
     その絵は、主人の好きなものとは、全然違うものだった。むしろ、正反対だった。背景の色や絵が複雑な所が。もちろん、正反対じゃない部分もあった。けれど、一部が正反対なせいで、全てが真逆のように見えた。この頃私は、主人が好きな絵が、正しい絵の姿だと思っていた。だからその絵に、違和感を感じた。違和感はすぐに、怒りへと変わっていった。そして怒りはついに、極端な思考を産み出した。

     こんなのは絵じゃない。
     
     私は文句を言った。こんな絵は、おかしいと。冗談じゃないと。もっと真面目に描けと。こんなものは全然、心に響かないと。時折暴言を織り交ぜて、私は散々に言いたいことを言った。相手の反論を怒鳴り声で遮って、ひたすら何度も「正しいこと」を伝えた。
     言われている方は、とうとう我慢できなくて、ついに私に攻撃してきた。私は非常に呆れ返った眼で相手を見つめた。相手は攻撃を止めなかった。こいつは手を出さないと分からないのか。その思った私は、戦闘態勢に入った。

     相手はオスとはいえ年下。簡単に勝てるだろうと思っていた。
     しかし、私は甘かった。
     相手の力量を知らずに、戦いを挑むのは愚かだった。
     自分より遥かに強い技を、相手はたくさん持っていた。「スケッチ」を使って火炎放射やハイドロポンプを覚えていた彼は、あっと言う間に私のHPを0にした。絵を描くことに努力値を振っていた私に、最初から勝ち目などなかったのだ。
     相手は去っていた。意識が朦朧としていた私は、彼に何も言うことは出来なかった。
     しかし、これで終わりではなかった。痛い思いをして、これで終了とはいかなかった。
     
     彼は、私の仲間に、一連のことを伝えた。あいつが急に偏見を押し付けてきた。挙句の果てには攻撃してきた。恐らく誇張して、話を簡潔にするために嘘も混ぜて、ここらへんにいるドーブル達に話した。そのせいで、私はすぐに、嫌われ者となってしまった。仲良くしていた友達も、次第に離れていった。
     そしていつしか、私の味方はいなくなった。私は独りになった。
     私が絵を描いていると、みんなが笑ってきた。平気で馬鹿にしてきた。私は構わず無視をしたけど、心の中では悔しくて泣いていた。私の絵を否定されると、主人のことを否定されようが気がして、それが一番辛かった。それが一番悔しかった。誰にも責任はない。ただ、私が自我を失って変なことをしたせいだ。
     
     私は言い聞かせた。主人は良い人だった。良い人が私の絵を誉めてくれた。ということはその絵は、正しい。間違ってなんかいない。
     それに、ドーブルという種族は、「自由」に絵を描く権利があるのだから。何を言われたって無視すればいい。
     
     それは、とても立派で、とても愚かな考えだった。


      [No.2662] お褒め頂き光栄です 投稿者:フミん   投稿日:2012/10/04(Thu) 23:28:18     78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    その一言を待っておりました。

    こういう話って、現実世界でも具体例はありますよね、きっと。


      [No.2661] あるポケモンは 投稿者:   投稿日:2012/10/04(Thu) 19:24:42     115clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    暇です、暇です、暇、暇、暇、暇、暇、暇、暇、暇、暇!ねー、遊んで、遊んで、遊んで、遊んで!今すぐ遊ばないと、サイコキネシス…【以下略】




    誰かこの状況から助けて下さい、1万払ってもいいから。誰にだ、誰でもいいから。コイツ止めてください…
    ほら、英雄!出番、出番!チャンピョン、ジュンサーさん、ジムリーダー!1万でいいなら雇いますから。
    ー悲鳴じみたことを考えつつも、無粋に思考に割り込んでくるそれ。情け容赦なく飛んでくる念波。
     先ほどから、頭がガンガンしている。
    エーフィに進化する前から似たようなことしてさ、飽きないの?

    遊んで、遊んで、遊べよ!どうせまたくっだらない男に、玉砕しに行くんでしょ。自分の容姿も考えろって!そこらへんのフツメンで妥協しなさいよ。未来見せてあげようか?


    やめてください。そんな殺気出しながら、睨まないでください。後、サイコキネシス飛ばすのもダメだから!
    下の人から苦情来たら、出ていかなきゃならないんだよ。
    イジケルな。
    瞳、ウルウルさせても無理!

    「せっかくのデートよ、留守番くらい頼んだっていいでしょ?」
    ようやくゲットした彼氏の方が、優先度は大きくなるに決まってる。小うるさいエーフィよりは、マシだし。
    さみしがり屋でもない癖に、何でいつもデート前になると、こうな訳?邪魔ばっかする。
    クールな癖に……。


    あーあ、あたしも甘いな。うう、頭痛、ひどいな。
    こんなことされても、やっぱね。

    「大人しくしてたら、遊んであげるから、ね?」
     
    コクンと頷いたエーフィの瞳に、妖しい光が宿った。そう簡単にいくと思わないことね、ユキ。甘いわよ?

    数時間後。
    ライモンシティの遊園地に、カゲボウズとジュぺッタ、イーブイの3種が大量発生したのだった。

    「エル!出てきなさい、今日という、今日は!許さないから、お風呂入れるわよ!おやつなしよ、ブラッシング1週間なしよ。いいわねー」
    こうして、旅のトレーナーは追いかけっこする二人を見るのだった。


      [No.2660] 【告知】ストーリーコンテストを開催します 投稿者:小樽ミオ   《URL》   投稿日:2012/10/03(Wed) 20:09:00     343clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     こんにちは、お世話になっている小樽ミオです。m(_ _)m

     唐突かつ勝手ながら、ストーリーコンテストを開催する運びとなりました(企画ページ:http://yonakitei.yukishigure.com/stcon2012/index.html)。
     マサポケでは休止中のストコンに準拠し、できるだけ「ストコンのつづき」といった雰囲気でご参加いただけるように計画しているものです。

     以下、
    (1) コンテスト概略、準備チャット会開催のお知らせ
    (2) コンテストのトップを飾るイラストおよびバナーイラストの募集
    (3) 審査員の募集(10月3日21時追加)
     の3点についてお話を進めさせていただきます。





    【1. コンテスト概略、準備チャット会開催のお知らせ】

     開催期間は「年内に完結する」ことを基準に、
     2012年10月15日〜12月23日(募集:10月15日〜12月1日、投票:12月3日〜12月22日)
     として仮決定しています。

     ただ、もっとも重要な「お題」が未決定です。みなさまのご参加を想定する以上、お題はこれまでのストコン同様多数決で決定したいと考えております。また、上述の開催期間も当方が勝手に仮決定したものですので、修正が必要になるかもしれません。
     つきましてはチャット会を開催したうえで、お題や開催期間を筆頭に、今回のストコンに関してみなさまのご意見を賜りたく存じます。

     チャット会は本年10月7日(日)20時より、マサポケチャットにて行わせていただく予定です。
     かなり急な提案ですが、ご参加いただければ嬉しく思います。

    ●とりわけご意見をお伺いしたい点
     ・ お題
     ・ コンテストのタイトル(決まってないんです 苦笑)
     ・ 開催期間は適切な長さか
     ・ 募集は「小説」だけに限定するか
     ・ その他みなさまがお気づきの点

     募集期間につきましてはすでに「駆け足気味」というご意見をいただいておりますので、「年内で完結させる必要はあるの?」「年を跨いだっていいじゃん!」というご意見が多ければ、募集期間を中心にもう少し余裕のある開催期間としたいと思っております。

     また、「チャットでは聞きづらい/チャットに入りづらい/チャット前に伝えておきたい」という方がいらっしゃりましたら、当方のツイッターアカウントやメールアドレスに直接ご連絡をいただいても構いません。アカウントやアドレスはこちらに掲載しませんので、お手数ですがコンテスト用のウェブページからご確認ください。m(_ _)m





    【2. コンテストのトップを飾るイラストおよびバナーイラストの募集】
     コンテスト開催にあたりまして、トップ絵およびバナーとなるイラストを募集させていただこうと思っております。チャット会後に本格的に始動したいと思っておりますので、「描いてもいいよー!」という方がいらっしゃいましたらお心づもりをしておいていただけると幸いです。





    【3. 審査員の募集】(10月3日21時追加)
     当コンテストでも、可能であれば審査員というシステムを継承したいと思っています。
     審査員の募集要項は、(1) 全作品を熟読し、 (2) かつ熟考した上で全作品に評価およびコメントを行う ことが可能な方とさせていただきます。
     審査員であることに対するお礼はできませんが、ソルロックも裸足どころか全裸で逃げ出すほどにまばゆい笑顔で感謝の気持ちを表させていただきたいと思います(やめい)

     ※審査員とは
     (これまで同様)全作品を読み、全作品にコメントすることを使命とする役職です。
     これまでのストコンでは、どの作品に対しても審査員の方々から必ずコメントがつくことが応募特典として挙げられていました。




     以上でございます。
     では、ご参加を考えてくださっている方がいらっしゃりましたら、チャット会で改めてお会いいたしましょう(*・ω・*)ノ


      [No.2659] うーわー… 投稿者:No.017   投稿日:2012/10/03(Wed) 02:04:13     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    後味わりい。
    でもなんだろう、ポケモンの世界ではよくあることなんだろうな…現実はシビアだ


      [No.2658] 解放 投稿者:フミん   投稿日:2012/10/03(Wed) 00:23:44     129clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    通りすがりの青年の前で、少年が草むらの中に入って行った。


    「こら。君は、ポケモンを持っているのかい?」

    「持っているよ。ほら」
     
    少年の腕には、ミネズミが抱かれている。

    「そうか。なら草むらに入っても大丈夫だな」

    「うん。これからミネズミ逃がすの」

    「逃がしちゃうのか。見たところ随分懐いているようだが、何か事情があるのかな?」

    「うん。ポケモンは人間と暮らしちゃいけないんだって。だから逃がすの」

    「ポケモンは大事な家族じゃないか。誰がそんなことを言ったんだ」

    「お母さん。テレビで見たんだって。ポケモンは大事な友達だけど、やたらむやみに捕まえたらいけないって。僕の家にはもうチョロネコがいるから、どっちか逃がしなさいって言われたの」

    「そうなのか。家で面倒が見られないならしょうがないな」

    「うん。チョロネコもミネズミもタマゴから育ててきたけど、家で二匹もポケモンを飼えないんだって。家計が苦しいんだって」


    「困ったな。お兄さんも手持ちがいっぱいなんだ。ミネズミを欲しがるトレーナーも少ないだろうし、ポケモンセンターや施設に預けても、こいつが幸せになるとは限らないからな」

    「うん。お母さんも、きっと野生で立派に生きていくから大丈夫だって。きっとたくましいミルホッグになって、群れのリーダーになるって」

    「そうだな。よく見ればこのミネズミは良い顔をしている。お母さんの言っていることも正しいかもね」

    「うん。じゃあさよなら、ミネズミ」
     
    少年はミネズミを地面に置いた。ミネズミは、最初はおろおろとしていたが、やがて森の中に走り去って行く。


    「ミネズミー 元気でねー」

    「達者に暮らせよー」
     
    少年と青年が見守る中、ひたすらミネズミは走っていく。
    そして数十メートル走り続けた頃、一匹のケンホロウが、ミネズミめがけて一直線に飛んでいく。ミネズミが危機に気づいたときにはもう遅かった。

    獲物を捕らえ悠然と飛び去る鳥ポケモンを、青年と少年は何もできず、ただ呆然と見つめていた。




    ――――――――――


    一発ネタです。これ以上の意味はありませぬ。

    フミん


    【批評していいのよ】
    【描いてもいいのよ】


      [No.2657] お望みの結末 投稿者:SB   投稿日:2012/10/02(Tue) 23:08:27     119clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



    お望みの結末




    「なぜきみにはポケモンがいないの?」

     そう聞かれたとき、僕はいつも答えに窮する。
     ポケモンがいる理由は明確だ。好きなポケモンがいて、10歳以上20歳以下の年齢で、なりたい自分を強くイメージした時に現れる。
     だから、「なぜ君はそのポケモンにしたの」と聞かれたときに理由が答えられない人はまずいない。
     僕はポケモンが好きで、10歳以上20歳以下の年齢で、なりたい自分を強くイメージしたけれど、エーフィもサーナイトもリザードンも現れなかった。

     それなのに、僕はいま、なぜここに立っているのだろう。

        ◇

     最初にポケモンを手に入れた人が誰なのかは、正確にはわかっていない。なぜなら、最初のうちはみんなそれが来たことを隠していたからだ。怪物出現が社会現象になったのは、初めて彼らがやってきてから数か月以上経った後なのではないかとも言われている。
     ポケモンは友達だ。道具じゃないし、見世物でもない。初期のトレーナーが彼らの存在を隠したのもうなずける。
     しかし、あまりにも多くのティーンエイジャーがポケモンを手に入れたことから、彼らが存在することがむしろ普通のことになってしまって、それでポケモンの存在が社会一般に認知されることとなった。

     まず槍玉に挙がったのは、その攻撃性だった。
     ポケモンは強い。人を殺せるくらいに。
     ゲームの中における「きりさく」と、実際の世界における「切り裂く」は全くの別物で、前者は威力70の平凡な物理技、後者は血しぶきがでて、肉片が散らばり、人が死ぬ。
     理論上は。
     ポケモンは、ポケモンバトルという競技を除いて戦うことはなかった。彼らはトレーナーに従順で、人間を殺すはなく、危険性はとても少ないとされた。といっても、バトルに負けたポケモンは致命傷を負うこともしばしばだったが。そのため、一部の地域ではポケモンバトルを禁止する条例が発効された。しかし、ポケモン本来が持つ闘争本能を完全に抑え込むことはできなかったようだ。

     ある程度の安全性が確保されてからようやく、彼らがいつどのようにしてこの世界にやってきたのかが公に議論されるようになった。
     もちろんポケモンは株式会社ポケモンが管理運営するゲームあるいはそれに現れるキャラクターのことであったが、裁判沙汰になることを危惧したのだろう、今回出現した「それら」に関しては、株式会社ポケモンの商標権の範囲外にあるという発表が本社からなされ、とりあえず「それら」はいわゆる「株式会社ポケモンが作ったポケモン」ではなく、まったく別個の「ポケモン」であるという結論が下された。
     もちろんこの発表がなされた後も、ポケモンの発生ルートは謎のままである。

     とはいえ、わかったこともある。
     それが冒頭にも述べた3か条。
    1.好きなポケモンがいて
    2.10歳以上20歳以下の年齢で
    3.なりたい自分を強くイメージした時
    にポケモンは現れる。

     そして僕にはポケモンがいない。

        ◇

     最近はポケモンバトルにも明文化されたルールが出来上がった。
     これはポケモンバトル協会が設定したものである。なお、ポケモン協会という名前は、株式会社ポケモンのポケモンにおける商標権の侵害であるとされたためポケモンバトル協会になったというのはまた別の話。
     そのルールによれば、ポケモンが相手に致命傷を与えるのを防ぐために「瀕死」あるいは「気絶」という概念を用いる。これは医学な意味における「瀕死・気絶」とは異なり、あくまでもポケモンバトルにのみ適用される概念であり、レフェリーあるいはトレーナーがもう戦えないと判断した状態のことである。だから意識があっても気絶になる。「瀕死・気絶」を区別するルールも区別しないルールもあり、それは日本の東西でわかれているということである。
     このルールのおかげで命を落とすポケモンは極端に減り、安心して強さを追い求めることができるようになった。
     強いポケモンと弱いポケモンが明確に分かれるようになり、強さ別のトレーニング施設ができ、空いたニッチに滑り込もうと多くのベンチャー企業がポケモン産業に参入した。

     いま僕の目の前にいる人たちは、明確に分かれたうちの片方である強い人たちであり、いま僕の目の前にいるポケモンたちは、文字通りの強者である。

     それなのに、なぜ僕はここにいるのだろう。

        ◇

     グーグルアースを通じてこの社会の隅々まで知ったつもりでいた人が突然自分の家の前に放り出されて、そして今自分のいる場所がどこだかわからなくなってしまったような、そんな心持。

     ゲームは100回以上プレイした。プレイ時間は、1万から先は覚えていない。
     でもここが、どこだか分らなかった。

     リーダー格の青年が、ほかのみんなを励ます。隣にいるショートカットの女の子がそれに同調する。
     この事態に不平を言う性格の悪そうな痩せたメガネの青年がいて、涙を流し始めた小さな少女もいる。そして少女を慰める優しそうな太った青年。
     ここにいる人はみんな互いに互いを知らなかった。
     みんな突然ここに飛ばされた。
     年齢も性別も性格も皆ばらばら。それでも、不思議な一体感で結ばれていた。

     僕を除いて。

        ◇

    「なんでポケモンがいないの?」

     小さな少女にそう尋ねられ、僕は答えに窮する。
     リーダー格の青年が僕をフォローし、僕の知識が役に立つとみんなに説明する。
     メガネの男がわざとらしくため息をつく。ショートカットの女がそれを諌める。太った青年がつぶやく。
    「ぼくらはこれからどこへ行くんだろう」

        ◇

     その時僕を、得体のしれない違和感が包み込んだ。
     この世界の存在そのものに対する違和感だ。
     あまりにも唐突な展開。
     あまりにもステレオタイプな登場人物。
     そして僕という存在。

     右を向く、左手を挙げる。その程度ならば許される。けれども、僕が反対しようと思っても、僕はリーダーに賛成する。思ってもないことを突然提案する。
     ようするに、旅の進行にかかわりの低い些細なことならば僕に行動権があるが、メンバーの意思決定にかかわる事項はあらかじめ答えが用意されていて、それ以外のことはできないようになっていたのだ。
     そして、僕はいつの間にか真面目ながり勉タイプの人格に置き換わっていく。
     僕でない僕が、勝手に僕を作っていた。

     僕の状況は明らかだった。僕は単なるマリオネットになり下がったのだ。
     なぜそうなったのか。
     僕は神を信じるタイプではない。突然僕を操る存在が出てきたと考えたとしても、いま僕がいる場所、僕らの進む道は明らかに非現実的だ。
     信じられないくらいベストなタイミングで僕らに助言が入り、進むべき道が決定し、僕らが話しかけた人間は、何回話しかけてもほとんど同じセリフを繰り返す。
     そこで僕は一つの仮定を立てた。
     いま僕のいる世界はゲームなのだ。もちろん僕が現実からゲームの世界にやってきたなんてことはありえないから、僕は最初からゲームの駒だったと考えるのが妥当だ。
     僕は今マリオネットになったのではない。生まれたその瞬間からマリオネットだったのにそれに気づかずにいたのだ。今まではまだゲームが始まっていなかったから自由に動けていた、それだけのことだろう。

     最初のイベントをクリアすると、よくわからない女の人が現れて僕らに助けを求める。
     僕はこの展開に辟易する。
     いまどき、こんなストーリーでは子供漫画のプロットも勤まらないだろう。
     それでも物語は進んでいく。だって僕は作者じゃないんだから。

        ◇

     その旅は唐突に始まり、しかし、目的はゆっくりと明らかになっていった。
     ある一部の人たちが私利私欲を追い求めた結果、この世界の秩序が乱された。今の状態が続くと世界が歪んでしまう。
     それを何とかしましょうね、と。

     世界をゆがませている原因は多々あるが、どれも人為的なものだった。ついでに言うと、子供だましのつまらない理屈で運用されているものがほとんどだった。そんなことをして本当に利益が上がるのかしらん。
     エスパータイプの力を増幅させる装置を壊し、敵の結社の幹部をとらえ、また別の悪事を、力を合わせて懲らしめる。

     体がほとんど乗っ取られているとはいえ、ある程度は自主的に行動することができたし、僕の思考そのものが乗っ取られるということはなかった。また、ゲームのストーリーに反しないように行動する限り、ほとんどは僕自身の意思で動くこともできるようだった。
     特に自分が自分で行動していると感じられるのは戦闘シーンである。
     戦闘時は各々が自分で判断して攻撃、回避を行うことができる。当然といえば当然だ。そこまでストーリーが決めていたらゲームとして成り立たない。
     しかし、僕にはポケモンがいない。
     だから僕が戦闘に参加することはなかった。

     一つのダンジョンが終わるたびにまた新たな旅の目的地が設定され、また一つクリアするごとにこの世界に関する新たな発見があり、そして僕はその様子を後ろで見ている。
     僕の持つ知識はとりあえず役に立っているようであり、邪険にされることは少なくなった。それでも戦うのはポケモンでありポケモンを持つトレーナーであり僕ではなかった。彼らが求めているのは僕の知識であって、健全なるストーリーの進行であって、僕ではなかった。そして僕の知識は、僕でない誰かが発言した内容でしかないのだ。
     同じゲームの駒とはいえ、僕と彼らには歴然とした差があった。
     彼らには力があり、僕には力がなかった。
     彼らには自由を行使する戦闘があり、僕にはそれがなかった。
     そして彼らには相棒がおり、僕には相棒がいなかった。

     その時、声がした。

        ◇

     その声は、僕にポケモンをくれてやる、といった。
     僕は喜び、見えない声に従って夜の道を歩いて行った。
     二つある月の片方が水平線の下へと沈んでいき、もう片方の赤い月が静かに僕を照らす。この世界の歪な情景にももはや慣れきってしまい何の感慨もない。舗装されていない道を無言でひたすら歩く。
     どこかでいつの間にかテレポートされたのだろうか、突然目の前に大きな城が表れて、中に招かれた。このデザインはNの城の使い古しなんだろうなと思った。
     大きな階段を上ると中世の建築物を思わせる柱が並んでおり、その奥にある巨大な扉が音を立てて開く。城内には赤いじゅうたんが敷かれており、黒服の男について歩く廊下には様々な絵がかけられていた。
     そして男が立ち止った先には、また新たな扉。この向こう側に声の主がいるらしい。

     声の主は美しい女だった。
     ゲームショウのコンパニオンみたいな服を着ているが顔面偏差値はそれよりやや上といったところか。ゲームに出てくる登場人物なのだからまぁ大体こんなところだよなと想像がつく程度の登場人物であり、悪役であることを確約するかのような冷たい目をしていた。
     彼女は僕にハイパーボールを渡した。ポケモンカードに載っているコンピュータグラフィックで書かれたハイパーボールに不思議とよく似ていて、質感はまさにCGのそれだった。
     僕はそれを受け取り、中のポケモンを放出する。
     赤い光の先に、6枚の黒い羽根をはばたかせ、赤い目を持った三首のドラゴンが表れた。
     サザンドラだった。
     サザンドラは僕の右手に降り立ち、神妙に僕のほうをうかがう。彼の吐く息が僕の顔にあたる。少し生臭いような、それでいて懐かしいようなにおいがした。
     生まれて初めてのポケモンだった。
     僕は嬉しくて彼の首に抱きつき、彼もそれにこたえて低く唸った。
     僕という存在にこたえてくれる者がいたことに、僕は感激した。彼は彼で今までトレーナーがおらず、コンパニオンのお供をやっていたのだ。ポケモンなりに今までの悲壮さを訴えるかのような、低い、低い、唸り声だった。

     そんな僕らを冷ややかに眺めながら、城の主は、僕にサザンドラの見返りを求める。
     それは、旅の仲間を裏切れ、というものだった。

        ◇

     僕が旅の仲間を裏切ることを許諾するならば、サザンドラは僕の相棒になる。
     どこかで聞いたことのあるような話だった。
     そう、僕はゲーム製作者あるいはプロット作成者にとってとても都合の良い立ち位置にいたのだ。
     リーダー格の青年はやはりリーダーとしての職を全うしなければならない。幾多の困難と葛藤を乗り越えて英雄として成長していくのだ。
     ショートカットの女の子はヒロインとして泣いたり笑ったりしながらリーダーを支えていくことになる。
     メガネの男は最初悪い奴だと思われていたものの、いざという時頼りになる奴という立ち位置を与えるのにもってこいだといえる。また理性的なので作戦立案にも役立つ。
     小さな少女は物語の悲壮さを冗長させる機能があり、守ってもらう役割を担う存在でもある。
     太った青年はチームが乱れたときに、その包容力をして結束を保つ微妙な役回りをこなすことになるだろう。

     一方僕は、何だ?

     僕は比較的真面目にリーダーや旅の仲間に助言をし、対して役に立たないなりに努力してきた。
     そう、まじめに努力。これが重要だ。
     世間の子供はまじめであることを極端に嫌がる。生徒会長といえば先生に告げ口するしか能のないつまらんやつだというイメージが先行する。また各種メディアも勉強しかしない若者の無能さを説き、また地味な若者が人殺しなどをした事件が発生すると「まじめな青年の心に潜む暗い影」と大見出しをつけてこの種の人間を罵倒する。
     すなわち、このたびのメンバーにおいて唯一感情移入されにくい存在が僕だ。
     表面上、僕の性格が突然変わったように見えたのはこのような理由があったからだろう。

     だからこそ、僕だけが敵になることができる。

     裏切った後僕はどうなるか。
     もちろん僕がラスボスになることはありえない。そこまでの器ではないからだ。
     ゆえに僕はバトルに負ける。
     もちろん最初は奇襲をかけるのだから僕がいったん優勢になるだろう。しかし、残りのメンバーが一致団結して、最終的には僕という存在を倒すのだ。
     けれども、旅のメンバーは僕を憎まない。
     なぜならば、僕にはポケモンがいないという負い目があるからだ。
     ポケモンがいない苦しみが原因だったと納得する。
     僕が死んだとしても、僕が悪い人間ではなかったのだといって、ヒロインあたりは涙を流すだろう。
     まじめであることが表向きはよいことだと吹き込まれているのもその理由の一つである。
     まじめという性格を全否定することは社会通念上許されない。しかし、まじめである人間はいくらひどい目にあったとしても感情移入されにくい存在なので倒すこと自体は正当化される。
     結果として、僕以外のメンバーの株は上がり、僕は舞台上から姿を消す。

     なぜ僕がそんな戦いを挑まなければならない?
     当然僕は城の主の要請にノーを突きつけるべきだ。

     しかし、マリオネットであるところの僕はそれが許されない。
     葛藤したそぶりをしたのち、美しい女にたぶらかされて、結局は落ちる。そういうシナリオだ。

     そして僕は黒い竜の背中に乗り、飛翔する。

        ◇

    「なぜ僕にはポケモンがいないの?」

     その答えは今や明白だ。僕が裏切る恰好の口実を与えるためだったのだ。
     物語の構成上、無理のないストーリーにするための伏線だったわけだ。

     僕にポケモンがいないことのために得られるとても大きな何かがあって、僕があの場所に立っていたすべての意味が今この瞬間にあって、僕がこの物語に登場するすべての意義が黒い竜とともにこの空の中を飛んでいる。

    「ぼくらはこれからどこへ行くんだろう」だって?
     ぼくが歩むべき道は、ゲームが始まる前から決まり切っていたことだったんだ。

        ◇

     メンバーがいないこの黒の世界の中では、僕は自由だ。
     もしかするとほかのメンバーは、僕がいないことに気が付いて、何らかのイベントが発生しているのかもしれない。
     だからこそ、今の僕はブラックアウトされていて、今だけは自分の好きなことを話して好きなことをすることができる。
     誰にも見られていないこの瞬間だけ。

     このサザンドラも不遇だ。
     悪ドラゴンというタイプから味方の側が使うことはストーリー構成上考えにくく、ゲーム内でもラスボスのもつ切り札として登場する。
     彼が彼としての存在価値を全うするためには、彼は悪役でなくてはならず、そして当然悪役は負けることが運命づけられている。
     今回はラスボスの手持ちですらなく、単なる中ボス扱いである。僕は彼に対して申し訳ない気持ちになった。

    「ごめんね、サザンドラ」
     
     僕は言う。
     風にかき消されそうな小さな声だったけれども、彼はちゃんと答えてくれた。
     彼も知っているのだ。自分の運命を、自分の役割を。

     すべてを飲み込んでしまいそうな黒い闇の下、僕は、この表現が単なる比喩でなく、本当に僕らを飲み込んでくれたらよいのにな、と思った。
     けれども無情にも、もうする夜が明けるだろう。
     旅のメンバーにとっての朝と、僕らにとっての朝はきっと意味が異なる。
     僕にとっての朝は僕という存在の終わりを意味し、彼らにとっての朝は新しいイベントの始まりを意味する。
     彼らはこれからハッピーエンドに向かって邁進していくのだろう。
     そう、僕は知っている。

     どうぞよい結末を。


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    タイトルは星新一先生のパチリですね。ストーリーは全く似ていません。。。
    主人公が最初から最後まで無駄に現実的なのが逆に非現実的で好みだったりしています。


    【描いてもいいのよ】
    【書いてもいいのよ】
    【批評してよいのよ】


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