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| タグ: | 【流しそうめん】 【近所にポケスポットがない】 【近所にコラッタとポッポと虫しか出ない】 |
じーころじーころ。
蝉がジワジワ揚げられるように鳴いている。
テッカニンとかではない。ここはホウエンではなく、あんな格好良い虫ポケモンとは縁遠い陸奥の糞田舎だ。
どのぐらい糞かというとまずポケモンセンターがない。最寄のポケセンは県庁所在地で、バスで一時間半ほど山を降りたのち電車で六駅かかる(補足しておくと、この六駅のうち四駅は無人駅であり、線路間で山を二つ超える)。トレーナーもぜんぜんいないからバトルも発生しないし、そもそも人がいないので目も合わない。盆と正月以外は基本的に爺さんと婆さんしか居ない。分校通いのクソうるせえガキどももいるが、俺と同年代の奴はパッタリいない。そういう連中のうち正気の奴はもうとっくにこんなクソミドリを出ていってしまったのだ。ポケモンもいない、野生じゃコラッタとポッポとキャタピーとビードルぐらいしかいない。しかも俺がボーッと村役場の図書室で読んだ図鑑から鑑みるに平均的な個体より明らかに身体が小さい。さらにググるとド田舎で競争が発生しない環境ではヒエラルキー上位のポケモンほど体格が小さくなったりするとかいう与太を発掘してしまった。もちろんそんな貧相なポケモンでバトルがやれるわけもなく、このへん出身でトレーナーになった奴とか全然知らない。農業開拓したナントカっつう偉い爺さんが持ち込んだケンタロスが僅かばかりの潤いだが、それだってこのドドド田舎の伸びきったゴムみたいな空気にやられて図鑑や風評の雄々しさからは信じられない、というか本当に同種ですか? というぐらい表情がゆるい。完全にゆるみきっている。腹周りもだるんだるんである。しかし人(人?)のことは言えない、毎朝起きたときの俺の表情もだるんだるんである。なにしろ北国なにするものぞ、この盆地、糞みてえに暑いのであった。
「あ゛つ゛い゛」
口に出しても現状を確認することしかできない。暑い、とにかく暑いのである。かろうじて舗装されてる家の前の道路に逃げ水が見える。もう洗面所で水を上半身が水浸しになるほど浴びて居間の畳に寝転んでは耐えきれずまた洗面所へ向かうことを繰り返している。庭のほうを見ると小屋の給油タンクの影でいつものポッポ二匹が伸びている。さっきから見てるが、あいつら影が動くのに合わせて移動してんな。賢いんだかアホなんだかわかんねえが。
死にかけている垣根の知らん花の手入れもかねて水をぶちまけようと思い至って外へ出る。太陽は死の日差しで容赦なく引き籠りの肌を焼く。負けやしない、家の敷地内までなら俺は無敵だ。ホースを取る、焼けつくように熱い。「あっつ」耐えかねて取り落とし、諦めて先に蛇口をひねる。ホースが息を吹き返すようにのたうち出し、水が沸き出る。にわかにポッポどもがくっくくっくと騒ぎ出す。
「もっとだ……もっと地面にへばりついて乞え。さすれば恵みをやろう」
このポッポどもはもちろんうちのポケモンではない。がっつり野生である。しかしよくうちの庭を荒らしにくるので、昼間は自宅の警備を副業とする俺とは因縁があった。幾度となく繰り返された戦いの末、うちのケンタロスにやるエサを若干分ける方向で停戦協定が結ばれた。人間にたかったりなどせず、ポッポならポッポらしくキャタピーでも喰ってればいいのである。ポケモンとしての尊厳みたいなものはないのか。だがキャタピーでも糸ぐらいは吐いてくるわけだし、つまりこのポッポどもは安定してエサを得るためにプライドを放棄した怠惰者というわけだ。なんだ、俺と同じじゃん。
どうせ部屋着の「ダイナマイトバタフリー」とか書いてあるクソTシャツだったので、一発頭から水を被ってシャッキリしたのち、指で潰したホースの先からみずでっぽうを繰り出してくっくくーとわめくポッポどもを強制的に黙らせていると、不意に腹が減ってきた。
あー。
「そうめん喰いてえな」
思わずつぶやくと、ポッポ二匹がおのおの「くっくー」「くっくどぅー」みたいなことを言い出した。
「マジ? お前らもそうめん喰いたい系?」
ポケモンに人語は通じるのだろうか。分からんが、少なくともこいつらが昼飯を喰ってないのは確かだ。ずっと庭にいたし。
「仕方ねえな〜」
いや〜仕方ないな〜。ポッポに餌をやるためなら仕方ないな〜。秘蔵の流しそうめん装置を展開しちゃうとトラクター小屋に戻ってこれなくてキレられるけど、ポッポに餌やんなきゃいけないし本当に仕方ないな〜。
こちら、竹を叩き割って作られたマジモンの流しそうめん装置である。ちょっと竹そのものが育ちすぎていてデカいのが御愛嬌だが、おかげさまでホースを固定しやすくてそうめんの流しやすさが高まっている。代わりに箸ですくうのが難しくなっているので、プラチックの先割れスプーンを使用するのがよいとされている(俺の心の中で)。流しそうめんとはいえ流すと流れていってしまうというジレンマめいた欠点があるため、普段は傾斜をゆるやかにしてデカい竹の入れ物を麺が漂っているみたいな感じで使用されるが、今日は俺一人だし、昨日食ったうどんめちゃくちゃ余ってるし、流しうどんでいこう。問題ない、流しそうめんであると認識すればあらゆる麺類は流された瞬間にそうめんと定義されるのだ。問題ない問題ない。
ポッポと流し損ねたうどんを受け止めるザルを水流の終着点に配置し、ドンキで買った自動麺流しを居間に設置。縁側から庭の真ん中ぐらいまでに向かってゆるやかな傾斜で竹を設置する。うど……そうめんをひとつまみ流してみて、うん、いいぐらいの速度だ。これなら流されているそうめんを掴むという流しそうめんの大目的を果たして満足することができる。流れているのはうどんだが。
ポッポたちも俺の掴み損ねたベータテストそうめんを律儀に待って食べている。わざわざ流れているところへ飛んでこないあたりは行儀がいいのか怠惰なのかわからないがたぶん後者だ。ここは俺が人間様の意志力というのを見せてやる。人間とは、流れてくるそうめんを箸で掴むという徒労のために二十分かけて準備ができるもののことを言うのだ。流れてくるのはうどんだが。
さて……真夏の流しそうめん、スタート!
第一そうめんを先割れで獲得。巻き取るようにして逃がさない。完全に逃がさないとポッポどもが可哀想だが、俺は俺の不器用を完全に計算に入れているので全部取ったりはしない。というか出来ない。というか半分ぐらい逃がした。悲しい。既に溶けかけた氷で薄くなりはじめているつゆにくぐらせて喰らう。ああ……冷たい。冷蔵庫から出したばかりの麺が神の冷たさ。炭水化物とつゆの塩味がすきっ腹に染みる。
「最高だぜ」
こんな無駄のためならいくらでも努力ができる。どうだ、これが人間様というものだ。
「くっく」「くっくズズー」
見てないですね。
気を取り直して第二玉の進撃を待つ。おらッ来いよ! こちとら準備はできてんだよ! と思いながら、射出されたそうめん(そうめんとは言ってない)を視認した俺が先割れを構えた瞬間――
ぺひゃん。
という音を立てて、上空より飛来した、何かが、ちょうど流れくるところだったそうめんの中に混入した。
「あっ」
混入した何かは、動物――おそらくポケモン。見たことのないポケモンだった。地域図鑑にないっつうことはこのへんに生息しているポケモンではないはずだ。生まれたてのネズミみたいななまっちろいピンク色で、大きさは20cmぐらい。竹の中を、そうめんに絡まりながらゆっくり流れてくる。尻尾が長く、そうめんに混ざって本物のそうめんのようになっている。
そして、そのまま流れてくる。
そういう……そういう準備はできてない……!
しかし俺の手は既にそうめん迎撃モードのスイッチがオンされてしまっている。もうそうめんをすくう手を止めることなどできない。
俺の先割れは無慈悲にも、流れてくるポケモンごとそうめんを受け止めた。そしてつゆにぶち込んだ。
「みうー」
器に収まりきらず、茶色いつゆの中で、半身そうめんに絡まりながらポケモンは鳴いた。そりゃあ鳴きたくもなるだろう。俺もちょっと泣きたい。
まじまじ見つめると本当に見たことがないポケモンだった。耳は三角形でケモノっぽいが、フォルムは流線型で、つるつるした感じがする。前足はほぼ手だが後ろ足が大きく、尻尾はそうめん。目につゆが入ったら痛いと思うので、半身で突っ込んでいるつゆから指でつまんで持ち上げるとまた「みうー」と言った。ふにふにしていて、細かい産毛につゆが珠みたいにくっついている。
一瞬遅れて、つままれたまま足先をばたばたしはじめた。その一挙だけでとりあえずどんくさいということは分かった。
「なんかもう……気をつけろよ!」
言葉がまったく浮かばず、とりあえずそう言って、つゆを泣く泣く捨てて流れてくる水で洗い、地面に降ろす。
「みうー」
だが地面が熱かったのか、一瞬目を見開いてから地面を蹴ってふわっと跳ねた。あっ違う、飛んでる! こいつ飛ぶぞ! そういやさっき上から来たな!?
明らかに物理法則をシカトして浮かび上がったそいつは、しばらく空中をうろうろしたのち、何を思ったのかふたたび流しそうめん装置に飛び込んだ。
「あっ」
おま……お前ーッ!
「みうー」
それ水浴びかーッ! 水浴びのつもりだなーッ! 流れるプールだなーッ!
「違ぇよ! それ俺の昼飯だよ!」
竹の中を流れていくそいつの表情はやすらかだった。お前、今の「みうー」は「ひんやり〜」みたいな感じだなーッ! お前ーッ!
「許さん、お前はそうめんじゃねえ、うどんだうどんッ!」
俺は復讐を誓った。そうめんを台無しにしたうどん、お前をこのまま生かして流し続けるわけにはいかないッ……!
流れてはポッポたちの前に流れ着き、ふよふよと起点に戻ってふたたび流れてくるそいつをすくい上げようとする俺のあくなきバトルが幕を開けた。ポケモンと闘うという意味では完全にポケモンバトルだし、もはや俺はトレーナーであると言える。トレーナーの矜持にかけても絶対にお前をこのまま流しそうめんにはさせない、必ずや掬い上げて、お前がうどんであることを証明してみせるッ……!
いざ尋常に、そうめんッ!
*
俺が「みうー」と格闘している間に、ポッポたちは流れ着いたうどんをたらふく喰い、充分に水を浴びて満ちたりた表情で去っていった。
一方の俺はなぜか逃がす隙間などないはずなのにうどんを捕まえることができず、ムキになった結果しっかり汗だくになり、戻ってきた親父に「邪魔だオラーッ」とキレられた。もう死にたい。
「みうー」
そんな俺をあざ笑うかのように、うどんはまだ縁側にいる。「暇潰しはもうポッポがいるでしょ、帰してきなさい」と言われたので来た方向に帰そうと何回か空に投げたのだが投げても投げても戻ってくるので、あきらめた。明日、軽トラで山に戻してこようと思う。
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トレーナーとして旅をしようと故郷を飛び出して、3つ、驚いたことがある。
ひとつは、ポケモントレーナーの、特に若年層への待遇が格段にいいこと。
ふたつめに、先の戦争での新型爆弾が投下された日付も時間も知らない人が多いこと。
そして最後に、野球が遠い存在であること。
深夜だというのに、今夜のコンビニは妙に繁盛している。
僕は客が抱えてきたおにぎりやらサンドイッチやらのバーコードを読み取り、728円です、と告げる。見るからに10代半ばの少女は、赤い長財布から1000円札と硬貨4枚と緑色のポイントカードを取り出した。
280円のお返しです、とレシートとお釣りを渡す。受け取る左手の手首には最新型のポケナビ。白と桃色のボディにきらきらとしたラインストーンをちりばめてある。
はて、どこかで見たことあるような。そう思いながらありがとうございましたーまたお越しくださいませーと言うと、この時間に出歩くのはいかがかと思われる年頃の少女は僕に軽く頭を下げてコンビニを後にした。
少女に続いて、コンビニにたむろしていた人たちがぞろぞろと外へ向かう。何だ、妙に人が多いと思ったらあの子を追いかけてたのか。集団ストーカー事件か? とかぼんやり考えていると、コンビニを出たところで少女の周りには人だかりができ、みんな油性ペンやら何やらを少女に差し出している。
あ、思い出した。あの子、この前あったバトルの大会で優勝した子だ。ああなるほど、どうりであのポケナビ見覚えがあると思った。こんな時間に女の子ひとりで外に出るなんて危ないと思ったけど、あの子の腰につけてるボールにはちゃんとした護衛がいるわけだ。
なるほどなるほど、と心の中で納得しながらレジを打っていると、財布の中を漁っていた客が店の外の女の子と僕の顔を交互に見て言ってきた。
「あの、お兄さん、もしかしてこの前の大会であの人と3回戦で当たった人ですか?」
僕は小さく咳払いして、まあ一応、と小声で言った。
バイトを上がって、陽が昇り始めている人通りの少ない道をだらだらと歩く。
ポケットからスマホを取り出すと、メールが1通届いていた。差出人は母親。ため息をつきながら開くと、いつもと同じような文面が目に入った。
いつまで遊んでいるのか。早く帰ってきてまともな職につきなさい。ポケモンを扱いたいならトレーナーなんかじゃなくてもいいだろう――
僕はもう1度ため息をついて、メールをゴミ箱へ投げ入れた。
ここカントーやジョウトと違って、僕の故郷ではトレーナーに対する風当たりが強い。
戦後、カントーやジョウトが先陣を切って職業トレーナーの育成と発展に大いに力を入れ、世界的にも有名なトレーナーを何人も輩出してきた。その一方で僕の故郷ではトレーナー制度の普及が遅れ、その結果今でもトレーナーとして旅に出る人数は他地方と比べて圧倒的に少ないし、実力あるトレーナーもほとんど登場していない。かれこれ15年続いている、他の地域では大人気の、ピカチュウを連れた少年トレーナーが主人公のドラマも、僕の故郷では周遅れどころかゴールデンタイムですらなく、早朝6時とか夕方4時半とか、完全に見せる気の無い時間帯にしか放送していない。特に年配の世代では、職業トレーナーなんて無職の遊び人と同じ、情けない、くだらない、駄目な奴がなるものだ、と思いこんでいる人が未だに多い。
そうは言っても世間の流れには逆らえないもので、特に刺激に飢えている若者なんかの間では、徐々にトレーナーを目指す者も増えている。僕もその中のひとりで、18で高校を卒業してすぐ、親の猛反対を押し切ってトレーナーとして故郷を飛び出した。
あれからもう7年。気がつけば僕は25で、圧倒的に若者の多いこの地方のトレーナーの中では年上に分類されるようになってしまった。
職業トレーナーの収入と言うのは基本的にバトルしかなく、大会に出て入賞したり、トレーナー双方合意の下で賭けバトルをしたり、そうやって賞金を稼いでいかなければならない。幸いなことにこの地方のトレーナー支援は手厚く、旅をしていれば食事も宿泊もポケモンの治療費も基本的には無料だ。
しかしそれでも、淘汰は激しい。強いものは賞金を手に入れ、世間に注目され、スポンサーもついて、何不自由なくバトルに専念できる。勝てない者は収入がなく、収入がなければバトルのための道具や薬も買えず、また負ける、という悪循環。バトル1本でやっていけない者は兼業トレーナーとなるか、他の収入を求めてバイトでもするか、いっそすっぱり諦めるしかない。
言うまでもなく、僕もバトルだけではやっていけないひとりだ。戦績は決して悪いわけではない。全ての勝負の勝率を出せば7割は超える。ただ、僕の特性は「ムラっけ」らしく、どうも安定した結果を出せない。結果収入も安定せず、生活のためにコンビニでバイトしている。
親の考えや物言いは古臭いし、いらっとする。でも正直なところ、このままでいいのかなあ、と考えているのも事実だ。
だって、もう25である。この地方でトレーナーを辞める人数が、続ける人数を上回るのが22歳だ。僕が旅に出た時にはもうこっちの地方の同年代の子は辞めるか辞めないかを考えていた。高校の同期だった人たちの大半はとっくに大学を卒業して、大学院も卒業して、一般企業でバリバリ働いている。
そんな中で、勝率7割程度の低収入バトルを繰り返し、だらだらと生活を続けている。テレビを見れば僕よりずっと年下のトレーナーたちが、派手なバトルを繰り広げては喝采を浴びている。
いっそ、親の言う通りすっぱりやめて故郷に帰ればいいのかもしれない。でも、もう後戻りすら難しい年齢に差し掛かっている。今更戻れないという妙な意地と、自分はまだやれるんだという盲目的な思い込み。
二進も三進もいかず、今日も長期滞在中のポケモンセンターで直近の小さな大会を探す日々だ。
数週間後に開催される小さな大会の申し込み手続きをし、日が暮れはじめたタマムシの町をあてもなくぶらぶらと歩いていた。
今日はバイトも休み。明日は夜10時から朝の7時。バトルの申し込みもないし、かといって他にやることもない。
さてこれからどうしようか、と顔を上げた時、僕の目に見覚えのある、懐かしいものが見えた。
真っ赤に燃える炎の色を身にまとった集団。
コンクリート色の都会に輝く、緋色のユニフォーム。
野球だ。僕の故郷の、赤の球団だ。
思わずその集団を追いかけていくと、深緑と橙の外壁の球場へたどり着いた。タマムシを保護地域とする、スウェロー……オオスバメを象徴とする球団の本拠地だ。
白地に紺と赤のラインが入ったユニフォームに、同じくらいの人数の緋色のユニフォームが混ざり込んでいる。
チケット売り場へ向かうと、外野自由席がまだ残っていた。購入して、レフト側外野席へ向かう。
スタジアムの中は、半分が緋色に染まっていた。適当な席を確保し、グラウンドに目を向ける。
グラウンドではビジターチームの練習が行われていた。緋色のユニフォームと帽子を身にまとった選手たちが準備を進めている。僕の故郷の球団。マジカープ……コイキングを象徴とする、スカーレットの球団。
『野球』というものがマイナーな競技になって、もうずいぶん経つ。
一昔前までは、スポーツと言えば野球、という風潮があった。僕がまだほんの子供だった頃まではそうだったと記憶している。
しかしここ数年、趣味の多様化、特にポケモンバトルやポケモンを交えた競技の普及によって、野球の人気は一気に落ちた。決定打となったのが、20年ほど前にイッシュ地方から入ってきた、ポケモンと共に行うベースボール、通称ポ球だ。流入当初はポケモンの「P」と「YAKYU」をくっつけて「ピャキュー」などと呼ぼうとする運動が起こった気がするが、結局そちらは定着せず、「ポケモン野球」を略して「ポ球」と呼ばれている。
ポ球では事前に登録されているポケモンの中から6匹まで、メンバーの中に入れることができる。選手以外にもあちこちでポケモンが活躍し、観客席への持ち込みも一部を除き基本的に自由だ。ポケモンが行う競技はさすがにダイナミックで、剛速球を投げるカイリキー、場外ホームランになってもおかしくない当たりをキャッチするピジョット、イニング間にチアリーダーとダンスをするピッピとプリンの群れなど、見ていて楽しいことは間違いない。
一方、野球はそれと相対する存在となっている。グラウンドへのポケモンの持ち込みは基本的に一切禁止、客席でもボール外での携帯禁止、マスコットですらポケモンに模した姿をしていても、中に人……いや、夢と希望が詰まった着ぐるみでなければならない。
ある意味徹底的にポケモンの存在を排除した世界に、特にトレーナー世代では反発を覚える人がいるのも無理はない。テレビでの中継はほとんどなくなり、球場へ足を運ぶ人も激減。最近では野球を見るのは頑固者とポケモン嫌いとひねくれ者くらい、なんて悪意のこもった冗談を言われるくらいだ。
しかしながら、僕の故郷では少々事情が異なった。
元々職業トレーナーの普及率が低く、ショービジネスとしてのポケモンに反発を覚える人が一定層いるのもあるが、それ以上に、あの地域では昔から『野球』というものが、スポーツの枠を超えた生活の一部として根付いているのだ。
町を歩けばチームカラーの緋色が目に入る。あらゆるものにチームの名を冠し、テレビでは朝から晩まで野球の話、そこらを歩く小学生や女子高生ですら休み時間に野球の話で盛り上がる、そんな場所だ。
何と言うか、好きとか嫌いとか興味あるとかないとかそういう次元をとうに超えた、DNAに刻み込まれた魂の一部みたいなものである。割と冗談ではなく。
野球を見るのなんて何年振りだろう、と思いながらその様子を見回していると、外野のセンター付近、グラウンドの一番端で、投手陣が集まってアップをしているのが見えた。その集団からひとり、早々に準備を切り上げて、ベンチへ下がっていく選手がいた。その背番号を認識し、僕は驚きと嬉しさと高揚感がごちゃまぜになった不思議な感覚を覚え、思わず笑顔になった。
彼は僕が学生時代、まだ故郷にいた頃、一番応援していた選手だった。
僕がもうすぐ高校に入学するというころ、彼は大学を卒業すると共にドラフト1位で入団した。彼と僕の出身地が割と近くて最初の興味を持った。
次に僕が興味を持ったのは、彼が最近では珍しい進学校に通っていたことだった。職業トレーナーの普及に伴って、大学以上の高等教育を受ける人口は減り続けている。学力が重要視されなくなってきた世の中、彼の通う高校はポケモンバトルや育成に関する教育をほとんど行わないことで有名だった。大学での専攻も、ポケモンに全く関わりのないことだった。
高校、大学と名を上げた選手というわけではなく、スカウトの人があちこちを歩きまわって見つけた逸材ということだった。本人もドラフト1位指名は予想外だったようで、群がる記者の質問にわたわたしながら答えていたのを今でも覚えている。
ルーキーイヤーは開幕早々に先発投手のローテーション入りを果たしたが、夏前にリリーフに転向。後半戦からはメインのクローザーとして順調に登板を重ねた。重い速球と恐ろしいほど曲がる変化球が持ち味の、力で押して空振り三振を取るタイプのピッチャーだった。
ただ、僕が故郷を飛び出して頃から少しずつ成績を落としていたらしく、ここ数年は故障もあって1軍に上がらない日々が続いていた、はずだ。はずだ、というのは、故郷を出て以来僕は全くと言っていいほど野球というものの情報を入れていなかったからだ。野球が必要以上に根付いている僕の故郷と違い、最近の世の中はポケモンが絡まないと認められない人が多いらしい。生活の中に入り込んでいた故郷と違い、こっちでは探さないと出てこない。夜のニュースのスポーツコーナーの片隅にほんの少しだけ出てくる情報を、時々眺める程度にとどまっていた。
試合は結局、僕が応援していた選手が登板することはなく、相手チームの打線が大爆発を起こし、こちらはもう笑いしか起こらないくらいひどい大敗を喫した。それでも緋色のユニフォームを纏った集団は、最後までわいわいと熱く盛り上がっていた。ここだけ見れば、野球が世間的には斜陽なんて本当なのかな、と思えるほどだった。
その夜、僕はポケモンセンターに戻り、球団のホームページから、あの選手の背番号のユニフォームの通販を申し込んだ。
赤い球団がカントー地方へ来る時、緋色のユニフォームを纏って、タマムシやヤマブキの球場を巡る日々が続いた。昼間はトレーナーとしてポケモンバトル、夜は野球観戦、試合のない日はコンビニでバイト、というのが僕の生活パターンになった。
僕が同じ背番号を背負ったあの投手も、何度か登板した。彼は今もっぱらセットアッパー、中継ぎ投手として活躍していて、僕が見ていた試合では今のところ好投を続けている。
ただ、彼が登板する度、球場がざわめいて、時には口汚いヤジも飛ぶ。理由は僕もわかっている。
彼は少々、僕と同じ、特性「ムラっけ」のある投手なのだ。最終的には抑えても、その前にランナーを出すことが多い。失点することもある。それ故に、彼は「試合を壊す」だの「胃薬必須」だのとなじられることが多いのだ。
しかし、投手というのは損な役回りだと常々思う。バッターは3割打てば一流と呼ばれて賞賛される。ピッチャーは7割抑えても詰られる。プロの勝負の世界だ。勝った負けたもあるだろう。それなのに、味方のはずのファンに罵倒されるのはどういうことか。
彼のユニフォームを纏って球場に来る度、試合の流れとは関係のないモヤモヤが僕の中に漂うのだった。
それにしても、僕がしばらく野球を見ていなかった間に、彼の投球スタイルが随分変わった気がする。ケガから復帰して以来、球威で押すより変化球を多く使った軟投派に変わったようだ。
その辺りを確認してみようと、ウェブ百科事典の彼の項目に目を通してみる。便利な世の中になったものだと思う。怖いところもあるが。
経歴の項目をたどっていると、ある言葉が僕の目に飛び込んできた。
『特別児童養護施設 もみじの樹』。
特別、と濁して書いてあるが、この施設に入る子供の境遇はみんな同じ。
『携帯獣関係特別児童養護施設』、通称『特携』。
ここにいる子たちはみんな、親がトレーナーとして旅立ち、取り残された子供たちだ。
職業トレーナーとして旅立つ若者が増えたことで、様々な社会問題が浮上してきた。その中のひとつに、家庭を持ったトレーナーが、家を棄てて旅に戻るというものだった。
旅のトレーナーがその先で恋人を作り、再びどこかへ行く場合。行きずりの関係で子供が出来て、誰の子とも言いだせず育てるのを放棄した場合。両親ともに旅のトレーナーだったのが、子供を棄てて再び旅に出る場合。いくつパターンはあるが、いずれにせよ旅に子供は邪魔だから、と棄てられる子が後を絶たない。特携はそうやって棄てられた子たちが集められる。
特携が出来た理由としては、トレーナーの親に捨てられた子たちにポケモンを忌み嫌う子供が大勢いたからだ。まあそりゃ当然だとは思う。政府としてはトレーナー産業を推奨したい、しかし現状ではトレーナーのあり方を批判されかねない。だからそういう子たちを収容して世間的には保護してますよとアピールしつつ、ポケモンやトレーナーがトラウマになっている子を何とかしよう、という感じだ。実際のところ、その活動が上手くいっているとは僕は思えないけれども。
なるほど、と僕は思った。彼がポケモン関係の授業がほとんどない進学校を選んだのも、ポ球ではなくポケモンが関わらない野球を選んだのも。
彼はポケモンが嫌いなのだ。トレーナーが嫌いなのだ。だからポケモンから隔絶されている『野球』を選んだのだ。
それに気付くと、僕は何ともいたたまれない気持ちで、胸が張り裂けそうになった。何とも言えない罪悪感のようなものが溢れてきた。
僕はトレーナーだ。割といい年をした。自分が勝手に彼に親近感を持って応援していたけど、きっと彼は僕みたいな人間が、一番嫌いなのだろう。
ファンになる資格など、僕にはないのかもしれない。
ポケモンセンターの2段ベッドの柵に引っかけた、緋色のユニフォームを見ると、胸の奥がぎゅっと苦しくなり、じわりと涙が込み上げてきた。
ポケモンバトルの方も、相変わらず勝率7割位を漂っていた。
わかっている。ここからもうひと踏ん張りしてもっと勝率を伸ばさなければ、大会上位に進むのは難しい。大会はほとんどがトーナメント制。負けたらそこで終わりだ。「ムラっけ」が発動して1回戦で負けたりしたら、そこで終わり。それが続けば、もはやトレーナとしてはやっていけない。
あの日深夜のコンビニで出会った女の子は、時折テレビの中継にも映っている。色々な大会で優勝している彼女は、今や立派なスターだ。勝率10割をキープし続けるのは、並大抵の努力ではないはずだ。
一度はバトルフィールドを挟んで向かい合っていたのに、随分遠い存在に思えた。あの日、僕はコンビニのカウンターの中にいて、彼女は店の外でサインの要求に応えていた。あの時にはとっくに、僕と彼女の立ち位置は決まっていたのだろう。
スマホで時間を確認する。もうすぐ夜明けのコンビニバイト。ため息が漏れるばかりだった。
もういっそ、すっぱり諦めて、辞めてしまった方がいいのだろうか。
応援も、トレーナーも、何もかも、全て。
「……ねえ、店員さん」
突然客に話しかけられた。何だなんだと見てみると、ちょうど思い返していた、あの女の子がレジ前にいた。
あ、すみませんいらっしゃいませ、と僕が慌てていると、彼女は笑顔で僕に言ってきた。
「ねえ、あなたも野球好きなの?」
突然の質問に僕が面くらっていると、彼女は僕のスマホを指差した。正確に言うと、スマホにぶら下がっている、ヘルメットとユニフォームのミニチュアのストラップを指差した。
「そのストラップ、マジカープでしょ? カープファン?」
「あ、えっと、はい……」
「わー! こんなところで同志に会うなんて思ってなかった!」
彼女はそう言うと、鞄から長財布を取り出し、僕に見せてきた。
赤い革製の長財布。隅っこにしっかりと「Magikarp」の刻印が入っていた。
ようやく空が白んできたくらいの時間帯、僕と彼女はポケモンセンターのロビーで向かい合って座っていた。彼女は有名人なので、部屋の隅の目立たない席だ。
廃棄処分になるコンビニスイーツ(本当は持ち出しちゃいけないんだけど)と缶コーヒーで、早朝の茶会が始まった。
彼女は以前僕と対戦した時のことを覚えていて、前に深夜のコンビニで客と店員として出会った時も相当驚いたらしい。まさか同じ球団のファンだとは思わなかったけど、と彼女は笑った。彼女はカントーの生まれで、僕の故郷とは縁もゆかりもないそうだ。だけど小さい頃、知り合いに連れられて野球場へ行き、それですっかりはまってしまったらしい。今も時折緋色のユニフォームを羽織って、球場に足を運ぶそうだ。
意外だな、君みたいな子はみんなポ球の方が好きなんだと思ってた、と僕が言うと、彼女は困ったようにはにかんだ。
「ううん、私、バトルは観るのもやるのも大好きなんだけど、競技はいまいち、こう、ねぇ。まあ、好みの領域だけど。でも人と人のガチンコ勝負の方が私は面白いなあ。確かに地味だけど」
なるほど、こういう好みの人もいるのか。実力のある若いトレーナーはみんな、何でもかんでもポケモンが混ざっていればいいのかと思ってた。
誰のファンか、と聞かれたので、ユニフォームの選手を答えると、私も好き! と顔を輝かせて言った。
「私ね、ポ球より断然野球が好きになったの、あの選手の影響なの!」
はて、と僕は首をひねった。知らないの? と彼女は驚いた表情を見せた。
「今から……7年前だっけ。私まだ8歳だったけど。あったじゃない、合併騒動」
ああ、と僕は首を縦に振った。
ちょうど僕が、故郷を飛び出した位の頃のことだ。
野球は一度、消滅しそうになったことがある。
イッシュ地方から入ってきたポ球は、あっという間にこの国の国民の心をつかみ、瞬く間に浸透した。ポ球は独自にポケモン・リーグ、通称「ポ・リーグ」(運営団体としては響きがイマイチという理由で「Pリーグ」という呼び方を浸透させたかったようだが、もはや定着している)を設立し、各地に球団を持つようになった。とあるデータによれば、ポ球の広がりにより、野球は観客動員が50パーセント以上減少、球界全体の経済損失は量り知れないという。球団によってはこれ以上の運営が困難となり、球団の譲渡や合併が巻き起こることとなった。
そんな中持ち上がった話が、従来の『野球』リーグの廃止と、『ポ球』への路線変更。全ての球団でポケモンを用いるという、『リーグ一本化』である。
この案が成立すれば、人間だけで行われる「野球」は事実上消滅。そしておそらく、二度と復活することはない。そんな状況に、本当にあともう1歩のところでなるところだった。
そんな中、反対の声を上げたのが、野球を愛するファンと選手会である。
合併を強行しようとする野球機構に対し、選手会長を筆頭に、抗い、話し合い、激しいバトルを繰り広げた。機構のお偉方に毅然として立ち向かっていた選手会長の姿は、僕も覚えている。
結果として合併は起こらず、「野球」と「ポ球」はそれぞれ独立して存在することとなり、その象徴のように野球からはポケモン要素が締め出され、今に至る。
「でもね、ファンの中にも、選手の中にも、ポ・リーグへの合併やむなしって声もあったのね。そりゃそうよね、だって収入がなかったら自分たちの年俸もなくなるし、観客が来ないのは辛いもの。そうしたら選手が離れて、レベルが下がる。レベルが下がると面白くなくなるから、観客がますます来なくなる。そうやって、ゆっくり死んでいくだろう、って」
だけどね、と彼女は目を輝かせた。
「そんな時にみんなの心をひとつにしたのが、あの選手の言葉だったの!」
そんなことあったっけ、と僕は眉を寄せた。何せ騒動があった時、僕はちょうど野球から離れつつある頃だった。だから騒動の概要は知っていても、詳しいことは知らない。というか、どうしてそこであの選手が出てくるんだ。そう思っていると、あの時選手会だったんだよ、と言われた。なるほど。
とにかく、ぐだぐだ説明するより見ればいいよ、とタブレットを操作し始めたが、その途端、あ、と彼女の表情が固まった。
「ごめん、今日朝からテレビに呼ばれてたんだった……。本当ごめん、今すぐ行かなきゃ」
用事が終わったらURL送るから、夜になるけど、と彼女は僕の連絡先を強奪し、ポケモンセンターの外へ走って行った。
今夜ナイターあるけどそれまでに間に合うのかな、あの子も今夜野球観るのかな、などと僕は思いつつ、夜までしばらく睡眠をとることにした。
6時になって試合が始まっても、彼女から連絡は来なかった。僕は一応スマホと一緒にイヤホンを持ち、球場の緋色の集団に紛れ込んだ。
今夜は先発投手が初回に早々ソロホームランを打たれ、1点ビハインドのまま淡々と試合が進んだ。お互いまともなヒットもなく、試合運びは割とサクサクしている。いや、サクサクしてたら困るんだけど。こっち負けてるし。
4回表のこちらの攻撃、1アウトになった頃、スマホにメールが届いた。URLからして動画らしい。選手会が合併反対を訴えて作ったサイトに掲載されていた、とメモ書きがあった。僕は応援に盛り上がるスタンドをそっと抜け出して、動画の再生ボタンを押した。
それはインタビューの動画だった。動画の中ではあの選手が、ポ・リーグとの合併についてどう思うか、野球選手としてどう考えているか、などを話していた。
その時、インタビュアーが尋ねた。
「あなたは『特携』の出身で、高校や大学でもポケモンと触れ合わない生活をしていたようだが、それが合併反対に影響を与えることはあるか?」
と。つまり、「お前はポケモンとトレーナーが嫌いだから合併したくないんだろう?」と遠まわしに言っているのだ。
すると彼は、困ったように笑い、そして穏やかな顔でこう言った。
「確かに、僕はトレーナーだった両親に捨てられました。それは今でも、僕にとっては悲しい思い出です」
「でも、それは必ずしも、マイナスの側面だけではありません。僕は人より少しだけポケモンから距離を置いて生きてきて、この世界におけるポケモンの影響力を見てきたつもりです。ポケモンが与えるいい影響も、悪い影響も、出来るだけ冷静に、見てきたつもりです」
「まず言っておきますが、僕はトレーナーやポケモンが嫌いなわけじゃありません。悲しい思いはしましたが、それとこれとは違う話です」
「学生時代は、確かにポケモンやトレーナーから出来る限り距離を置きたいと思っていました。だけど時が経って、色々と見て、学んでいくうちに、考え方も変化していきました」
「現状のトレーナー制度には、問題があるとは個人的に思います。僕みたいな子供を減らす努力はしなければいけません。でも、それと僕がポケモンやトレーナーを憎むのは、違う問題だと思ったんです」
「ポ球は何度も観ました。参加させてもらったこともあります。素晴らしいスポーツだと思います。人間だけでは決して出来ない、ダイナミックなプレーは大きな魅力です」
「だけれども、僕は、野球は決してそれに負けない、強い力を持っていると思います」
「僕は人間です。野球をやっているのも、僕と同じ人間です。人がやることだからこそ、僕は心が動かされたんだと思います」
「人に影響を一番与えるのは、人だ、と僕は思っています」
「子供の頃、野球選手を見て、僕は生きる力、みたいなものをもらいました。それは派手な動きとか、神業的なプレーによるものではなかったと思います。でも、野球選手は僕にとって『ヒーロー』でした」
「野球選手になった今、今度は逆に、野球を愛してくれるたくさんの人から、僕は力をもらいました。今度は僕が、皆さんに力を与えられたら、と思っています」
「だから、僕は野球が消滅してしまうことに反対です。この競技がいいんです。この競技でなければいけないんです」
そして彼は歯を見せて笑い、こう言った。
「野球は僕の、魂の一部なんです」
動画が終わった。
僕は大きく深呼吸をして、涙が溢れそうになるのをぐっとこらえた。
赦されたような気がした。自分が勝手に罪悪感を持って、勝手に憂鬱になっていただけなのに。
ファンである資格がないと思い込んでいたのは、自分だけだった。
彼はいつでも、球場で待っていてくれたのに。
もう1回深呼吸をすると、ちょうど4回裏が始まるところだった。僕はスマホをポケットにしまい、スタンドに戻った。
ここまで1失点ながら好投していた先発投手だったが、4回に入って突然制球が乱れ始めた。
フォアボールを連発し、1、2塁が埋まる。捕手とコーチがマウンドに向かい、内野手も交えて話し合いをしているようだった。レフトスタンドの緋色の集団はざわざわと不安そうにざわめき、ライトスタンドからはチャンステーマが高らかと鳴り響く。
選手たちが定位置に戻り、ピッチャーが3人目のバッターに1球目を投げた、その時だった。
打ち返された速球が、投手の頭に直撃した。
ピッチャーが頭を押さえてその場に崩れ落ちた。スタンドから悲鳴が上がる。すぐにタイムがかけられ、緋色の選手たちがマウンドに集まった。
しばらくの後、投手はふらふらと立ち上がった。スタジアム全体から安堵の声が漏れた。しかし外野席から見ても、その様子は万全とは思えなかった。
監督が球審の元へ駆け寄り、何かを話しあっていた。そのすぐ後、投手は控え選手に背負われ、ベンチへ戻って行った。
緊急登板(スクランブル)だ。レフトスタンドが異様なざわめきに包まれた。
マウンドへ走ってきたのは、僕が羽織っているのと同じ背番号を背負った、あの投手だった。
こぼれ落ちたボールをいつの間にか投手のすぐ横まで移動していた2塁手が拾って処理していたことで失点はしなかったが、無死満塁。
レフトスタンドが、これまでとまた違うざわめきに包まれる。今日の相手投手はいい。これ以上点を与えるわけにはいかない。「ムラっけ」のピッチャー、ましてや緊急登板。十分な準備は出来ていないはずだ。大丈夫か? という雰囲気が緋色の集団に蔓延していた。
マウンドでは投球練習が始まっている。ごくり、と息をのむ雰囲気がスタンドを覆っている。
「……れ……、頑張れ! 頑張れーっ!!」
気がつくと僕は、立ち上がって声を張り上げていた。周りの視線が僕と、僕が来ているユニフォームに向けられる。
呆気に取られていた周りの人たちが、つられて声を出す。応援団が太鼓を叩く。やがてレフトスタンド全体から、頑張れ、頑張れ、の大合唱が始まった。
試合が再開された。あちらの攻撃の間、僕たちはじっと見守ることしかできない。何となく重苦しい空気が漂っている。
1人目、外角高めのストレートを見逃してストライク。2球目、3球目は内角へのスライダー。4球目をバットの先で何とか引っかけたが、投手のすぐ目の前へのゴロとなり、ホームへ送って1アウトとなった。
レフトスタンドからほっとした息があちこちから漏れ聞こえた。しかし2人目のバッターがバッターボックスへ立つと、再びぴりぴりとした空気に支配された。
2人目は初球から振ってきた。2球目がやや甘く入ったところを、狙って打たれた。しかし2塁手が素早く飛び付いてダイレクトキャッチし、即座に他の内野手へボールを送って牽制することで、ランナーを進ませなかった。
これで2アウト。スタンドがざわめく。これまでの不穏なざわめきの中に、明らかに高揚が混ざっていた。
3人目。1球目、2球目を見送られ、3球目をファール。4球目の外角低めの真っ直ぐを再びファール。5球目のスライダーはわずかに外れてボール。6球目もまたファール。
投手は帽子を取り、ユニフォームの袖で額の汗をぬぐった。ライトスタンドからはバッターへの声援が飛び交い、レフトスタンドはじっと黙って投手の一挙手一投足に注目していた。
7球目。
振りかぶって投げられた球は、バッターの正面に飛んできた。
狙い澄ましたバットがボールを叩かんとしたまさにその瞬間、ボールは急にがくっと軌道を変えて落ち、ワンバウンドしてキャッチャーのミットに収まった。
バットが空を切った。空振り、三振。3アウト。
レフトスタンドが総立ちになった。歓喜の声がスタジアムを包んだ。
僕も声にならない歓声を上げてガッツポーズをした。何が何だか分からなくなって、今までずっと堪えていた涙がボロボロと零れおちた。
周囲の人たちが、おう兄ちゃん良かったな、最高だったな、と言って、カンフーバットで僕のユニフォームの背番号をバンバン叩いた。
試合は7回表、期待の若手の今シーズン第1号逆転2ランホームランによって、見事逆転勝ちを収めた。ヒーローインタビューに呼ばれたスラッガーは、若さあふれる輝きで満ち溢れていた。落ち着いて考えたら僕より5つ以上年下だ。うわあ。考えたくない。
レフトスタンドは試合が終わってからもしばらく、楽しく歌って勝利の余韻を噛みしめていた。
グラウンドの端を、緋色のユニフォームを着た選手たちが荷物を抱えて歩いて行った。僕がそれを見ていると、緋色のユニフォームの集団に混ざっていたあの投手と一瞬目があった、ような気がした。
『人に影響を一番与えるのは、人だ、と僕は思っています』。
勝ちもつかない、ホールドもつかない、ヒーローインタビューにも呼ばれないし、おそらく夜のスポーツニュースのハイライトでもカットされることだろう。
それでも今日の彼は、緋色のユニフォームを纏った彼は、僕にとってこれ以上ない、魂を燃やしてくれる『ヒーロー』だった。
スマホがメールの着信を告げた。あの女の子からメールが届いていた。嬉しそうにはしゃぐ本文に、バックネット裏で撮ったと思しき写真が添付されていた。
僕はバックネットの方をちらりと見てふっと笑い、メールを返した。
『また、どこかの大会か、球場で』
どうも、清く正しいポケストの物書き、WKです。
オフ会行きたいです。が、おそらく日にちが文化祭一日目と被っております。
泣きたい。
一応頭の片隅に入れておいていただけると幸いです......
私はその十月後半なら大丈夫です、多分。
遅れてすんません(´・ω・`)
提示してもらった日付は全部大丈夫ですが、
> 10月の日曜、スパークの日に早めに切り上げてから遊ぶ
これだと人が多く集まれそうなので、できればこれでお願いしたいです。
「おかしいと思わない?」
彼女は言った。手には空のモンスターボールを持っている。
ここは僕達が通う大学……のとある研究室。主にポケモンの生態系を研究していて、色んな場所から捕獲してきたポケモンが生活している。
いるポケモンは様々だ。昼間は中庭で日光浴をさせたりして、ストレスが溜まらないようにする。でも夜は危険だからボールに戻して、研究室に保管する。
「何が?」
磨いていたボールを棚に戻すと、僕は彼女に視線を向けた。
ここの棚は終わった。著名なトレーナーから預かっているポケモン達だ。他地方へ行く時に、別のポケモンで挑戦したいからと置いて行ったのだ。
「どうしてポケモンを、ボールで捕獲できるのかしら」
「ゲットっていうことかい」
「一体何をどうしたら、”ゲット”になるのかしら」
彼女がボールを開けた。中は空だ。精密機械が埋め込まれた半球。
「ゲットしやすくなる方法――。体力を減らす、状態異常にする。たとえば毒、麻痺、火傷とか」
「そうだね」
「ボールの種類も違うわ。グレードも」
初心者用のモンスターボールから始まり、スーパー、ハイパー、マスター。各タイプ限定のボールもある。
ネットボールにダイブボール。前者は水・虫。ダイブは海底用。
ジョウト地方にはぼんぐりと呼ばれる木の実から作れるボールがある。色毎に作れるボールが違い、素早いポケモンが捕まえやすかったり、性別が違うポケモンが捕まえやすかったり。
ぼんぐりは主にジョウトにしか生息していない固有種のため、ジョウト以外での販売は禁止されている。
「ゲットしやすくなるって、どういうことかしら」
「捕獲しやすくなる、それだけじゃないのか」
「その原理は? どうしてボールに入れると、捕獲可能なの?」
「……どういうことだ?」
「私、こう考えたわ。捕まえようとしたポケモンを、その気にさせる。野生としての本能を失くし、人間に懐かせようとする。
強引な言い方をすれば、”洗脳”ね」
僕は唖然とした。
「それ、本当なのか」
「考えられなくはないでしょ。暴れていたポケモンが、ボールに入れただけで大人しくなるの。投げた相手がどんな奴でも懐くの」
彼女がつらつらと並べ立てて行く。
ボールによってグレードが違うのは、洗脳の度合いが違うから。安いほど軽く、高いほど重い。レベルの低いポケモンはハイパーボールで簡単に捕まえられる。体力が満タンでも。
逆にレベルの高いポケモンを、モンスターボールで捕まえるのは至難の業だ。体力を減らしていても、状態異常になっていても。
マスターボールが量産されないのは、危険すぎるから。以前開発元のシルフカンパニーを、ロケット団が襲った。彼らはマスターボールを占領しようとしていたけど、理由はそれだけじゃない。
その原理を解明できれば、ボールなどなくても、広範囲のポケモンを絶対服従させられる装置を造ることができるかもしれない。
「状態異常になると捕まえ安くなるのは、多分洗脳に抵抗する力が弱っているからよ。眠っている時が一番捕まえ安いのもね。寝てたら、抵抗できないでしょ」
「いつ君は、その理論を?」
「証拠はないから、理論って物にはならないわね。でも、捕獲用のボールがきちんと開発されて一体何年になるかしら? 既にこの話を考えた人は、数えきれないほどいるはずよ。
だって、昔は捕まえるなんておこがましいと言われていた伝説のポケモンが、今ではボールさえあれば捕まえられるんだもの。遭遇できればの話だけどね」
研究室は静まり返っていた。
僕はボールを棚に戻すと、きちんと彼女に向き合った。
「それで……君はどうするんだい」
「何もしないわ。だって意味がないもの」
「え?」
「既にモンスターボールという道具は、生活の一部になっている。それがなければ、ポケモンを捕獲するなんてできない。今さら廃止にしようにも、無理だから」
.あなたはポケモンが好きですか?
・基本的に好き ・好きでも嫌いでもない ・基本的に嫌い ・種類による ・個体による ・その他( )
.
で「種類による」と答えた方にお聞きします。
あなたの好き嫌いを決める要因は何ですか? 次の中から当てはまる物を全て選んで下さい。
・思い入れ ・タイプ ・強さ ・見た目 ・特性 ・生息地 ・生態 ・危険度 ・タマゴグループ ・高さ ・重さ ・その他( ) ・特に基準はない
.
で「個体による」と答えた方にお聞きします。
あなたの好き嫌いを決める要因は何ですか? 次の中から当てはまる物を全て選んで下さい。
・思い入れ ・性格 ・性別 ・強さ ・特性 その他( ) ・特に基準はない
.
あなたはモンスターボール及びそれに類する機器を利用していますか?
・利用している ・利用していない
.
で「利用している」と答えた方にお聞きします。
モンスターボール類を利用している理由は何ですか? 次の中から当てはまる物を全て選んで下さい。
・ポケモンを携帯する為 ・ポケモンを従わせる為 ・他人がそのポケモンを捕まえられない様にする為 ・その他( )
.
あなたはポケモンバトルをした事がありますか?
・ある ・ない
.
で「ある」と答えた方にお聞きします。
あなたがポケモンに指示を出す時、命令形を使いますか?
・いつも使う ・よく使う ・あまり使わない ・一切使わない ・ポケモンに指示を出した事はない
.
で「いつも使う」・「よく使う」と答えた方にお聞きします。
命令形を使う理由は何ですか? 次の中から当てはまる物を全て選んで下さい。
・ポケモンはトレーナーの指示に従うべきだから ・指示にかかる時間が短いから ・命令形を使っている人が多いから ・特に理由はない ・その他( )
.
あなたはポケモンバトルをしたいですか?
・したい ・したくない ・どちらでもない
.
で「したくない」と答えた方にお聞きします。
あなたがポケモンバトルをしたくない理由は何ですか? 次の中から当てはまる物を全て選んで下さい。
・興味がないから ・負けるのが嫌だから ・面倒だから ・ポケモンを傷付けたくないから ・ポケモンを傷付けられたくないから ・ポケモンと関わりたくないから ・その他( )
.
あなたにとってポケモンとは何ですか? 次の中から当てはまる物を全て選んで下さい。
・家族 ・恋人 ・自分自身 ・憧れ ・相棒 ・友達 ・仲間 ・ライバル ・敵 ・ペット ・奴隷 ・主人 ・神 ・道具 ・玩具 ・ポケモンはポケモンとしか表せない ・その他( ) ・分からない
.
あなたにとってポケモンがどの様な存在となるのが理想ですか? 次の中から当てはまる物を全て選んで下さい。
・家族 ・恋人 ・自分自身 ・相棒 ・友達 ・仲間 ・ライバル ・ペット ・奴隷 ・主人 ・神 ・道具 ・玩具 ・ポケモンはいなくなって欲しい ・その他( ) ・特に希望はない ・分からない
.
あなたはポケモンを交換した事がありますか?
・ある ・ない
.
で「ない」と答えた方にお聞きします。
あなたがポケモン交換をしない理由は何ですか? 次の中から当てはまる物を全て選んで下さい。
・交換してまで欲しいポケモンがいないから ・交換に出すポケモンがいないから ・交換する相手がいないから ・今のポケモンと一緒にいたいから ・面倒だから ・その他( )
.
あなたはポケモンの交換を規制するべきだと思いますか?
・全て規制するべきだ ・一部を除き規制するべきだ ・条件付きで認めるべきだ ・全て認めるべきだ ・わからない ・特に意見はない
.
で「一部を除き規制するべきだ」・「条件付きで認めるべきだ」と答えた方にお聞きします。
どのような場合に規制すべき、または認めるべきだと思いますか? 思いつく限りお答え下さい。
・( ) ・具体的な考えはない
.
あなたはポケモンを売買した事がありますか?
・ある ・ない
.
あなたはポケモンの売買を規制するべきだと思いますか?
・全て規制するべきだ ・一部を除き規制するべきだ ・条件付きで認めるべきだ ・全て認めるべきだ ・わからない ・特に意見はない
.
で「一部を除き規制するべきだ」・「条件付きで認めるべきだ」と答えた方にお聞きします。
どのような場合に規制すべき、または認めるべきだと思いますか? 思いつく限りお答え下さい。
・( ) ・具体的な考えはない
.
あなたはポケモンを譲渡した、または譲渡された事はありますか?
・ある ・ない
.
あなたはポケモンの譲渡を規制するべきだと思いますか?
・全て規制するべきだ ・一部を除き規制するべきだ ・条件付きで認めるべきだ ・全て認めるべきだ ・わからない ・特に意見はない
.
で「一部を除き規制するべきだ」・「条件付きで認めるべきだ」と答えた方にお聞きします。
どのような場合に規制すべき、または認めるべきだと思いますか? 思いつく限りお答え下さい。
・( ) ・具体的な考えはない
.
次の内、あなたが普段使う表現を全て選んで下さい。
・自分のポケモン ・ポケモンを捕まえる ・ポケモンを手に入れる ・ポケモンを持っている ・ポケモンを管理する ・ポケモンを飼う ・どの表現も使わない
.
次の内、あなたが普段使う表現を全て選んで下さい。
・ポケモンを使う ・使用ポケモン ・手持ちのポケモン ・ポケモンを戻す ・ポケモンを戦わせる ・ポケモンと共に戦う ・どの表現も使わない
.
次の内、あなたが普段使う表現を全て選んで下さい。
・ポケモンを逃がす ・ポケモンを捨てる ・ポケモンを手放す ・ポケモンと別れる ・どの表現も使わない
.
次の内、あなたが普段使う表現を全て選んで下さい。
・ポケモンを育てる ・ポケモンを鍛える ・ポケモンを強くする ・どの表現も使わない
.
次の内、ポケモンに用いる表現として相応しくないと思う物を全て選んで下さい。
・自分のポケモン ・ポケモンを捕まえる ・ポケモンを手に入れる ・ポケモンを持っている ・ポケモンを管理する ・ポケモンを飼う ・どの表現も適当である
.
次の内、ポケモンに用いる表現として相応しくないと思う物を全て選んで下さい。
・ポケモンを使う ・使用ポケモン ・手持ちのポケモン ・ポケモンを戻す ・ポケモンを戦わせる ・ポケモンと共に戦う ・どの表現も適当である
.
次の内、ポケモンに用いる表現として相応しくないと思う物を全て選んで下さい。
・ポケモンを逃がす ・ポケモンを捨てる ・ポケモンを手放す ・ポケモンと別れる ・どの表現も適当である
.
次の内、ポケモンに用いる表現として相応しくないと思う物を全て選んで下さい。
・ポケモンを育てる ・ポケモンを鍛える ・ポケモンを強くする ・どの表現も適当である
.
一般に野生のポケモンと人間に捕まえられたポケモンのどちらがより幸せだと思いますか?
・野生のポケモンの方が幸せだ ・どちらもあまり変わらない ・人間に捕まえられたポケモンの方が幸せだ ・捕まえられたポケモンによる ・捕まえた人間による ・分からない
.
一般にポケモンと人間のどちらが幸せだと思いますか?
・ポケモンの方が幸せだ ・どちらもあまり変わらない ・人間の方が幸せだ ・個体による ・分からない
.
現在の人間とポケモンの関係は次の内のどれに最も近いと思いますか?
・ポケモンが人間の支配下にある ・ポケモンと人間が対等である ・人間がポケモンの支配下にある
.
で「ポケモンが人間の支配下にある」と答えた方にお聞きします。
ポケモンは人間から解放されるべきだと思いますか?
・思う ・思わない
――――――――――――――――――――――――――――
お話じゃありませんが良いですかね? 多分良いですよね。あと書き出しでもないですね。でも途中ですし多分良いですよね。と言う訳でプラズマ団がアンケートをしましたとさ。
もっと設問や選択肢足したいのですが案が出ずに停滞しておりますのでここに。書き途中ですのでいきなり設問に入ってたり番号を振ってなかったりします。
社会調査にはキャリーオーバー効果なるものがあるらしいですね。それまでの設問が後の設問の回答に影響を与えるというもの。本来はその効果はなるべく小さくするべきなのですが、利用すれば多少は都合の良い様に調査の結果を操作出来るのかなぁと思いまして大きくなりそうな感じにしてみました。
ここは、ボツネタの墓場だよ!
書き上げたけどコンテストの趣旨とズレた物からプロットだけで心折れたもの。
アイディアは思い付いたけど………。
こんな、ネタな話もあるんだよ?
忘れたりするぐらいならいっそう…っ。
長すぎたーから、短すぎたー。
などなどの文章を供養する場所です!
コンセプトは皆でやれば怖くない!
| タグ: | 【きんのたま】 |
昔々、どんな地方にも「きんのたまおじさん」と呼ばれるおじさんがいました。おじさんは通りすがりの少年少女にきんのたまを渡す気前の良さで人々の人気者でした。
ところがある日、おじさんに災難が舞い降りました。
「オラッ きんのたま だせっ!」
「やめたげてよぉ!」
なんと、マトリョーシカ人形のような格好の人に身ぐるみを剥がされてしまいました。もちろん、おじさんのきんのたまも……。
裸になってしまったおじさんは、服を着るのも忘れて悲しみました。今までみんなのためになると思ってきんのたまを配っていたのに、逆に襲われてはどうにもなりません。
「こまったなあ…… そうだ! きんのたまは こうかだから ねらわれたんだ! だったら もっと やすいもの を くばろう! ちょうど いいものが ぶらさがっているしね!」
「やあやあ わたしは きのこのやま おじさん! きみは トレーナー だね? なら これを あげよう!」
ブラック2 は かおるキノコ を てにいれた!
ブラック2 は かおるキノコ を どうぐ ポケットに しまった
「さらにさらに もう1ほん!」
ブラック2 は おおきなキノコ を てにいれた!
ブラック2 は おおきなキノコ を どうぐ ポケットに しまった
「それは おじさんの きのこのやま! ぜひとも ゆうこうかつよう してくれたまえ! なんたって おじさん の きのこのやま だからね!」
今晩のツイッターでうっかりきのこの山についてつぶやいたらタイムラインがきのこだらけになったので書いてみました。たまには童話っぽく書くのも良いね。
少年は手を見る。
固まりきらない血がまだ光を反射して輝いている。地面にはいくつかの血痕があった。
その目の前では、ごめんなさい、ごめんなさいと、緑色の獣を腕に抱いた少女が必死に頭を下げている。
「本当よ。普段はすごくおとなしい子なの」
彼女はそのように弁明する。たぶんそれは嘘ではないし、彼女は何も悪くないのだろう。
だが、少女に抱かれたラクライは毛を逆立て、牙をむき、眉間に皺を寄せる。フーッフーッと息を荒くしていた。
「……気にしないで」
少年は言った。
ちらりと緑の獣を見る。獣は再びウウッと唸って毛を逆立てた。やはり見なければよかったと思い、急ぎ目を逸らす。嫌われたものだ。
獣の瞳に映ったのは恐怖だった。忌むべき者を見た恐怖だ。手を出してはいけなかった。望むと望まないに限らず嫌われる者はいる。世の中にははみ出し者や除け者というものが必ず存在し、忌まれる者がいる。
自分はどうやらそっち側の存在であるらしいと、この日、少年は理解したのだ。
海の見える学校の、広い敷地の狭い部屋の中で何人かの男達が会合を開いていた。
右上に小さな写真を貼った書類、そして写真の人物が書いた論文、考査の結果。それらを照会しながら彼らは品定めを行ってゆく。
「タニグチ君はいいね。卒業論文もしっかりしているし、うちの研究室で貰いたいのだがね」
「サカシタはどうだね」
「彼は考査の結果がねえ」
「だが体力があるだろ?」
「それは評価に含まれない」
「だが、フィールドワークでは重要だろ。よく働くんじゃないのかね、彼は」
「卒論はどうだった?」
「及第点といったところですかな」
「まぁいい。うちで面倒見よう」
そんな風に彼らは学生達をふるいにかけていった。何人かを通らせ、何人かを落とした。
しかし、ここまでの過程は彼らの予定の範囲内であり、予想の範疇であった。たった一人、最後の一人だけが彼らの本当の議題だった。
「さて、最後だが」
「彼か」
「ああ」
教授達は選考書類に目を通す。
「考査の結果は?」
「……トップですな」
「卒業論文は?」
「発表会、聞いていたでしょう?」
「考古学専攻はみんな聞いていましたな」
「私は誰一人、質問しないので焦りましたよ」
「あの後、学生が一人質問しましたな。いい質問だったが、いかんせん彼の切り返しのほうが上だった」
彼らはそこまで言ってしばらく黙った。誰も先に進めようとしなかった。
「欲しいのはおらんのかね」
一人が沈黙を破ったが、誰一人手を挙げない。
「能力的には並みの院生以上と思いますがね」
「取るか取らないかは別の問題だよ」
「分野的には、フジサキ研だと思うが」
「学士までと約束しました。皆さんもご存知のはずです」
その中でも比較的若い男が言う。
「しかし彼を落とすとなると、他の学生も落ちますよ」
「だから困っている」
「ようするに合理的な説明が出来るか否かという事だ」
「学士は所詮アマチュアだ。だが修士はタマゴとはいえ研究者。この違いは重い」
結論は出なかった。グダグダと議論が続く。
否、とっく結論は出ているのだ。議題の人物の受け入れ先など、最初から存在しない。後は誰が面倒な役回りを引き受けるか。結果を通知し、合理的説明をするのか。それだけなのだ。だが誰も関わりたくない。触りたくない。それだけなのだ。
「休憩にしますかな」
一人の教授がそう言った時、キイと狭い部屋のドアが開いた。
「お困りのようですな」
入ってきたのは一人の男だった。コースでは見ない顔だった。だがまったくの知らない顔、部外者という訳でも無かった。
「オリベ君、」
一人が男の名前を口にした。
「民俗学コースの教授が何の用事かね」
また違う一人が言った。少し不快そうだった。
彼らの視線の先にいる乱入者はラフな格好だ。ネクタイは緩いし、履物は漁師の履くギョサンだった。大学教授などそんなものかもしれないが、年配には印象がよくない。だが乱入者は気にする様子もなく、
「例え話をしましょうか」と、言ったのだった。
「考古学コースには誰もが認める優秀な学生がいる。どの研究室も欲しがっているが、その学生がコースの変更届けを出したなら、皆諦めるしかありません」
「…………」
しばらく皆が黙った。いや、食いついた。だが、腹の底で疑念が沸き起こる。
「オリベ君、何を企んでいるのかね」
「何も。私は優秀な学生が欲しいだけです。こっちでも院試がありましたがろくなのがいなくてねぇ。ただ……」
「ただ?」
「配慮いただけるのであれば、来月のあの件、譲歩いただきたい」
目配せしてオリベは言った。
「来月の……」
「そう、来月です」
オリベがにやりと笑う。その言葉の真意に部屋のメンバーも気付いた様子だった。
「つまり取引をしようというのかね。しかし彼が届けなど出すと思うかね」
「出させてみせます。万が一の場合、今日の事はお忘れくださって結構」
あくまでひょうひょうとした態度でオリベは続ける。
「そうですね。とりあえずは院試の選考を今からでも民俗学・考古学コースの合同だったという事にしましょうか。他のコースも巻き込めるなら尚いい。それで責任者を私にするんです。院試に関する質問は全て私を通す事にしましょう」
なるほど、と教授陣が目配せし合う。例の件はともかく、面倒事をオリベに転化できるのは彼らにとって都合がいい事は確かだった。
「……分かった」
彼らの代表格が返事をした。
「決まりですね」
オリベが言った。ずり落ちた眼鏡の位置は直さず、レンズを通さずに、下から覗き込むように教授陣を見据えた。そうして彼は二、三彼らに質問やら手続き的な頼み事をすると、部屋を出ていった。
冬であったが、この日は比較的暖かかった。日光が差し込む廊下をポケットに手を突っ込んで、すたすたとオリベは歩いていく。時折、学生とすれ違ったが知らない顔だ。互いにこれといった挨拶は交わさなかった。
とりあえず文書作成からかからなければなるまい、彼はそう考えていた。だが、
『一体何をしようっての』
途端に声が聞こえて足を止めた。
「ん?」
オリベはとぼけた声を発する。
『とぼけるな。あんな事言って。私は反対だと伝えたはずだよ』
声が響く。
「あのなぁ、俺はいつもお前の言う事ばっか聞く訳じゃないぞ」
面倒くさそうにオリベは言った。いかにもうるさいといった風に。
『どうして? いつもはあんなに素直なのに』
「これはこれ。それはそれ。前にも言ったけどな、お前の意見を聞くも聞かないも選択権は俺にあるの。たまたま聞く割合が多いだけだろ。あくまで選ぶのは俺だからな」
『私が言って、外れた事があった?』
「お前が勘がいいのは知ってるよ。だが、これはだめだ」
『だいたいあんなの無理だ。無理に決まってる。夏休み前に相当怒らせたくせに。あの時は本当に危なかった』
「怒らせるのはいつもの事だ」
『一緒にいた女の子を覚えてる? あれ以来学校で見かけない』
「だから? 大方、別れたんだろ? 男女にはよくある事だ」
『危険なんだよ。ユウイチロウ』
「お前はいつもそれだ」
『ユウイチロウは鈍いから分からないのかもしれないが、』
「うるさいな。あんまり喋るなよ。ただでさえ独り言が多いって言われてるんだ。文句なら部屋に帰ってからでいいだろ?」
そこまで言うと声が止んだ。やれやれとオリベはまた歩き出した。ポケットに手を突っ込んで、ぺたぺたとギョサンを鳴らしながら、民俗学教授は歩いていった。
日差しの差し込む長い廊下、そこにはオリベを除いて人は歩いていなかった。
単行本へ続く
「ブースターだ!」
「いや、シャワーズ!」
家が敷き詰められた住宅街のある一戸建て。まだ幼く元気のある兄妹が、言い争いをしていた。
喧嘩の理由は単純だった。二人の家に住むイーブイを、どの種類に進化させるかということである。
二人はまだ年齢が若すぎるため、自分のポケモンを持っていない。両親に何度もお願いして、漸く家に来たのが一匹のイーブイだった。
イーブイという種族は、様々な種類に進化することができる。住んでいる環境によって様々な個体へ姿を変えることができるため、他のポケモンよりも進化の数が圧倒的に多い。例えば、とても寒い地域に住んでいれば凍えて死なないためにグレイシアに進化する傾向があるし、森に囲まれて育ったイーブイはリーフィアに変化することもあると言われている。
それ故に、人間が故意的に進化を操作することも多い。理由は、様々だが、大方は人間の都合である。そのため、人間が管理しているイーブイは、環境以外の要因で何に進化するか決まってしまうことが殆どだった。
話は戻るが、兄弟は、イーブイを何に進化させるかで揉めているのだ。
「ブースターは可愛いじゃないか。赤い体にふわふわした体毛、ずっとぎゅーってしていたくなるんだよ」こう
言うのは、兄の方。
「シャワーズにすれば、ひんやりして気持ち良いし、一緒にプールで遊べるもん。だからシャワーズが良いの!」
そう述べるのは、妹の方。
この二人は、いつも意見が食い違っていた。例えば、兄の方は冬が好きだし、妹は夏の方が好みだった。他にも兄は走るのが好きだし、妹は泳ぐのが好きだったりと、常にこの兄妹はぶつかりあっているのである。
そのため、今回のことも珍しいことではなかった。
「シャワーズに進化させたら冬はどうするのさ。冷たくて触っていられないぜ?」
「ブースターなら冬に抱きしめられるもん。お兄ちゃんだって、真夏にブースターをずっとぎゅってしてるの?」
「ああ、俺だったら真夏でも真冬でもブースターを抱きしめるもんね」
「そんなことしたら暑さでお兄ちゃんが倒れちゃうよ。だから、シャワーズにしようよ」
「そんなこと言ったら、冬に無理にシャワーズを抱きしめたら、お前が風邪引いちゃうじゃないか。だから、ブースターにしようぜ」
「嫌だ! シャワーズ!」
「俺だって嫌だ! ブースターが良い!」
お互いに眉間にしわを寄せ、睨みあう兄妹。彼らはまだ、譲り合うということができなかった。両親がいると大人しくなるのだが、生憎、この子達の両親は、まだ仕事で帰って来ない。
イーブイは、そんな兄妹を毎日見ているのに目もくれずソファーの上で昼寝をしていた。
散々続いた言い争いが終わったと思うと、兄弟はイーブイの目の前に立ち見下ろしている。
何事かと顔を上げると、先に兄が言う。
「ブイルは(イーブイの名前である)、ブースターに進化したいよな?」
妹。
「ブイルはシャワーズに進化したいよね。私のこと大好きだもんね」
「ブイルはお前のことなんか好きじゃないって。ブイルが好きなのは俺だよな」
「そうやって、人のことをいじめるような最低な人間をブイルが好きになるわけないじゃない。ねーブイル」
「あーあ、やだやだ。強引に姿を変えられるのは嫌だってさ。他人のことを思っているように見せかけて、実は自分の都合を突き通そうとしている人って、タチが悪いんだよな」
「お兄ちゃん。そろそろ怒るよ」
「やるか」
「手加減しないよ」
彼らは拳を握り、今にも喧嘩を始めそうになる。怪我をしたら流石に洒落にならないので、ブイルと呼ばれたイーブイは起き上がり、自分の気持ちを堂々と伝えた。
「僕は、昔からサンダースになりたいと思っているんだ」
胸を張り、しっかりと自己主張をするブイル。
すると、二人の表情は一変する。
「何言ってるんだ。サンダースになったら静電気が大変だろう。それに、ふわふわした体毛が少なくなっちゃうじゃないか」これは兄。
「そうよ。サンダースだと一緒にプールで泳げないよ? だから考え直そうよ」これは妹。
「だから勝手に決めるなって。ブースターが良いに決まってるだろ」
「違うの! シャワーズが良いの!」
「ブースター!」
「シャワーズ!」
ついには殴りあいの喧嘩を始めてしまう二人。さすがにここまでくると放っておけないので、ブイルはなんとか止めさせる。
「これ以上喧嘩するなら、何に進化するかお母さんに決めて貰おうかなあ」
さり気なく呟くブイル。
お母さん、兄妹にとって大切な家族であり、恐れる対象である。
兄妹は理解していた。お母さんが主導権を握れば、全ての物事は強引に決定してしまうのである。そのため、ブイルが何に進化するかを母親に頼むということは、自分達の意見が通らなくなることがほぼ確実だった。
「ごめんブイル、俺達が悪かった」
「お願いブイル、それだけは止めて」
母に決定権が移ることだけは、何としても阻止しなければならない。兄妹の態度は一変した。
「もう喧嘩しない?」
「しないしない。絶対にしない」
「うん。お兄ちゃんと私は仲良しだもん。喧嘩なんてしないよねー」
「ああ、しないとも」
ぎこちない笑顔で肩を組む兄妹。それならば、とブイルは言う。
「僕が何に進化するのか、仲良く決めてね」
兄妹は黙って頷いた。とりあえず、今日の兄妹戦争は回避できた訳だ。
しかし、明日には同じことを繰り返すのだろう。そう思うと、このままイーブイの姿で一生を終えた方が良いのではないかと思うブイルだった。
――――――――――
地味にお久しぶりです。
夏コミ82に来てくれた方がもしいたら、ありがとうございました。またちょくちょくイベントには参加していると思います。
9月のチャレンジャーは他のイベントで売り子を頼まれた為、参加を断念しました。鳩さんの新刊はまた今度になりそうです。
現在、冬コミに向けてワープロ打っています。こういうネタは直ぐ思いつくのですが、遅筆なのが悩みです。
フミん
【批評していいのよ】
【描いてもいいのよ】
| タグ: | 【ポケライフ】 【冥土喫茶】 【何もかも投げ出して喫茶店経営したい】 【|ω・)】 |
こちらこそ初めまして、くろまめです。
ギャグはほとんど勢いで書いてるんですけどね(笑)
案外考えない方が良いアイディアが浮かんだりしますよ。
最近の悩みは、会話文と地の文の比率が悪いことです。
いっそのこと地の文だけにしたいくらいです(笑)
ご感想ありがとうございました。
タイトルのまんまですが、自分主導でコンテストをやることになったのでその宣伝です
とりあえず、このサイトに概要は置いてあるのですが主催者が編集をミスって見れなくなることがよくあるので、ここにも書いておきます
お題「あい」(自由に変換可能)を使って、ポケモン二次創作小説コンテストをやります
締め切りは6月いっぱい 下限文字数は100文字で上限文字数はなし
それでお題として、キャッチコピーも使おうと思います
キャッチコピーというのは本の帯なんかに
「期待の新鋭、現る」とか
「まさか、こんな遅くにやってくるやつがいるとはな」とか
「あの勝負だけが心残りなのよ」
と言ったような中身が気になるような販促用のフレーズです
お題のキャッチコピーが似合うような小説を創作してください
「あい」を主題とするなら、このキャッチコピーは副題といったところでしょうか
それでこのキャッチコピーなんですが、複数あるうちの一つを採用してくださいというべきところなんでしょうが主催者の頭ではかっこいいフレーズが思い浮かばないので、公募しようかと思います
数は七つ前後 二桁はいかないように数の調整をいたします
【分からないことがあったら遠慮せずに聞いてください】
『講評
タカヤ様
技の完成度・ポケモンの手入れは、よくできています。ですが、技のオリジナリティーが欠けているために、今回の予選通過はなりませんでした。
次回からはその点に気をつけてみてください。
ポケモンコンテスト運営委員会トキワ支部部長 ミヤ』
「――だってさ、キレイハナ」
トキワシティコンテスト会場前公園、そのベンチに腰掛けて今回の講評を読み上げてみる。
横では共にステージに上がったキレイハナが、しょんぼり落ち込んでいた。
だいぶ練習し自信をつけて参加したのに、予選すら突破できなかったとなれば当然かもしれない。俺も顔には出してないが内心けっこう凹んでいる。
「ただ、技を磨くだけじゃダメなんだな」
美しく魅せるためには、オリジナリティーが必要だとは考えたことがなかった。確かに言われてみれば、グランドチャンピオンを決める大会に出場するようなポケモンたちは、他のひととは一味違う――それでいて綺麗な技を多く使っていた気がする。
けれど、自分のこととなるといい案が思いつかない。他の人がしないような技、か。
「でもなー、どうすりゃいいんだろ」
ごろん、と寝転がって空を見上げる。キレイハナに当たらないように腕を組んで枕にする。
視界に入るのは、真青な空――と満開の桜の木。花びらが風に煽られてひらひらと空を舞っていた。
「ん……?」
一瞬何かが頭をよぎった。
「花びら……桜……舞う…………。これはいけるか?」
たった今思いついたことを、隣でいまだに落ち込んでいるキレイハナに提案してみる。
「なあ、桜の花びらを使って「はなびらのまい」ってできるか?」
俺の提案にキレイハナはしばらく黙って考え、そして――首をかしげた。
「まあ、やってみなきゃわかんないか。とりあえず、ほら元気出せよ」
キレイハナの背中をぽんと叩いて、ベンチから下りるように促す。
しぶしぶといった感じでキレイハナは地面に下り立ち、「どうすればいいの?」と視線を向けてきた。
「んー……」
そういえばキレイハナの「はなびらのまい」は、自身から出すものと周りにあるものを操って技とする――と聞いたことがある。
ならばとキレイハナを桜の花びらが多く落ちている木の下へ連れて行き、とりあえず試してみる。
「よし、キレイハナ。はなびらのまい!」
俺の指示に応えてキレイハナが踊りだす。
小さい手足を器用に使って舞う。段々と桜の花びらが宙に浮かび始め、キレイハナを中心として回りだす。
「おお……!」
いつもの赤い花びらも悪くはないけれど、これは格別だ。
キレイハナの緑、黄、赤の三色に花の桜色が映え、よりいっそう美しく見える。
先ほどのコンテストで使ったものと同じ技なのに、全く別もののようだ。
「春限定ってのもなかなかいいよな」
桜吹雪の中で舞うキレイハナを見ながらそんなことを思った。
「よくやったぞ。これなら本番でも使えそうだよな」
技が終わると、すぐに駆け寄ってキレイハナを抱きかかえた。
キレイハナもさっきまでとは打って変わって上機嫌だ。
この調子なら次の大会はいいところまで行けるはず!
「さてと、あとは桜をどうやって会場まで持ってくかだな。そのまま持ってくってのも芸がないし」
残るはこの問題だ。俺が桜の花びらを大量に抱えてステージに上がるのは、なんだかつまらない。上手く持ち込む方法はないだろうか。
と考えていると、キレイハナが広場の方を指した。
そこでは母親と姉妹が芝生に座り込んで何かをしていた。
「ねーねー、次は私の!」
「はいはいユキは何を作ってほしいの?」
「ミキと同じ髪飾り!」
「それじゃ、今度自分でも作れるようによく見ててね」
「はーい!」
どうやら、落ちている桜を使ってアクセサリーを色々作っているようだった。
「お前もあれが欲しいのか?」
うーんと少し考えて、キレイハナはあの家族の方を指してから、次に自分の頭を指した。そして、さっき見せた「はなびらのまい」の動きをして見せる。
えっと……要するに、
「花びらを衣装の一部にして、技の時にそれをバラして使う――ってことか?」
当たりというようにキレイハナが一言鳴くと、足元にあった花びらの山から一すくい持ってきた。
「そうと決まったらさっそくろう――って言いたいところだが。髪飾りの作り方、俺わかんないんだよな。向こうで一緒に聞いてこようぜ」
キレイハナを誘って俺は親子の方へ走り出した。
その後、桜のはなびらのまいを使うキレイハナとタカヤは徐々に注目を浴びて行き、何度か優勝することもできた。
ただ、キレイハナが技のたびに分解する髪飾りは、毎回タカヤが直しているとか。
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こちらでは初めて投稿しました、穂風です
ポケモンのお話を書くのはポケコン以来なので――半年ぶりでした
ポケモンだからできるようなほのぼのしたものを、のんびり書いていこうと思います
【描いてもいいのよ】
【好きにしていいのよ】
初めまして、akuroと言う者です。
くろまめさんギャグ上手いですねー! 私もギャグ物を書いてるんですが、到底及ばない……尊敬する域に達してます!
後編も楽しみにしてますね!
この小説は、きとらさんより寄せられた「586さんの描く『ダイゴさん』像を見てみたい」というリクエストを受けての、586なりのレスポンスです。
拙い点ばかりですが、少しでもお気に召していただければ幸いです。
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第一印象は、彼はなぜこんなものを集めているのか、という至極単純な疑問だった。
「これは……石、ですよね?」
「そう。石だよ。どこにでも落ちていそうな、"路傍の石"さ」
ありきたりな石ころですよね、と私が二の句を継ごうとしたところに、先手を打って言われてしまった。過去に何度も同じことをされているとはいえ、この鋭さにはいつもヒヤリとする。
硝子戸を引いて、石を一つ取り出す。ケースから出てみれば印象が変わるかと一瞬期待したが、胸元まで寄せられた石は紛れも無く、これといった特徴の無いただの石だった。
「その、何か変わったところがあるとか……ですか?」
「この石がかい? いや、変わったところなんて一つも無いよ」
「一つも、ですか」
「ああ。硬さも形も色も重さも、どれを取っても特徴の無い、普通の石だね」
本人曰く「特徴の無い、普通の石」を、手袋を嵌めた手でもって繁々と眺め回す。その表情がまた童心に返った子供のように楽しげなものだから、首を傾げる回数ばかりが増えてしまう。私を軽くからかっているのか、と思ったが、彼の面持ちを見る限り、私のことは意識の埒外にあるようだった。
ひとしきり石を眺めて、満足感ある表情のまま一端目を離す。すっ、と流れる水のように、彼の視線が私に向けられた。
「そうだね。君が今何を考えているか、当ててあげようか?」
「……」
「どうして僕がこんな石を持っているんだい、そんなところじゃないかな?」
「……そうですね。概ね、それで合ってます」
こくり、こくり。二度に渡って深く頷く。右手に石を載せたまま、彼は話を続ける。
「僕がこの石を拾った理由、僕がこの石を残した理由、僕がこの石を飾った理由。それは……」
「それは……?」
一歩前に出て、彼の言葉に耳を傾けた。
「この石が、十枚の絵を生み出したからだよ」
十枚の絵を生み出したから、彼はこの石を今も大切に保管している。投げ掛けられた言葉の順序を整理すると、以上のような形になる。確実に言えるのは、何のことだか訳が分からないということだけだ。
私が困惑するのを見事に見透かして、彼はようやく本題に入った。
「いつだったか、少し遠出をしたときに、絵を描いている女の子がいたんだ」
「スケッチブックを抱えて、ですか?」
「うーん、そうとも言えるし、そうとも言い切れないね」
「それって、どういうことなんです?」
「持っていたのが、スケッチブック……が映し出された、タブレットだったんだ」
「ああ、今流行の……」
「そうだね。タブレットにペンをカツカツ走らせて、外で絵を描いてた。あれは、今風でいいと思ったよ」
彼が出会ったのは、スケッチブック・アプリをインストールしたタブレットを持って外で絵を描いていたという少女、だと言う。紙のスケッチブックを持ち歩く時代はもう終わったのかなどと、要らないことに思考を巡らす。
「絵を描いていたのは分かりましたが、どうして石が関係するんです?」
「気になるだろう? 僕も気になったんだ」
「そ、それは、どういう意味で……?」
「タブレットに描かれていたのが、今ここにある石だったからね」
再び、私の前に石が差し出される。彼のエピソードを踏まえて、もう一度石を眺める。何かのきっかけがつかめれば、何か目に留まるものがあれば、そんな期待を込めて送る視線。
そして二十秒ほど石を眼に映し出して、込めた期待は見事に空振りに終わったことを気付かされた。眼前の石はやはり何も変わらない、ただの石でしかなかった。
「この石を、タブレットに描いていたんですか」
「そう。一心不乱にね。すごく楽しそうだったよ」
「楽しそうに、ですか……」
「それはそれは、ね。繰り返しペンを走らせて、タブレットの中のキャンバスを作り変えていったんだ」
彼が遭遇した少女は、この何の変哲も無い石を題材に、楽しそうに絵を描いていたという。俄かには信じられないというか、流れの読めない話だ。一体何が、タブレットの少女をそこまで惹きつけたのか。
「気になったから、僕は思い切って声を掛けてみたんだ。『どうして石を描いているんだい』ってね」
「声を掛けたんですか」
他人にいきなり声を掛けるというのが、いかにも彼らしいと思った。以前にもトレーナーに声を掛けて、その後も何度か合っている内に親しい仲になったとか、そういう話を聞いている。
「そう。一度気になったら、調べずにはいられない性質だしね」
「そのことは、私もよく知ってます」
「ラボを空ける一番の理由は、間違いなくそれだからね」
石ころを掌の上でコロコロと転がしながら、彼は穏やかに答える。少女に声を掛けたときの情景を思い返しながら、その様を適切に形容できる言葉を探している。過去の出来事を話すときの彼の姿勢は、いつも同じだ。
「彼女はあなたに、どう答えたんですか?」
話すべき内容を取りまとめたのか、彼がおもむろに口を開いた。
「『どうしてって、石を描きたいから』」
「それが、答えだったんですか?」
「ああ、はっきり言われたよ。それ以外に理由なんか無い、って顔でね」
石をタブレットに描いていた少女が、何故石を題材に採ったのか。答えは、石を描きたいから。石を描きたいから、タブレットの上で繰り返しスタイラスペンを走らせている。
これ以上無い、最大の理由。描きたいから描くという、もっとも容易く理解できる理由だった。
「楽しそうだったよ。ペンをしきりに走らせて、どんどん石を描いていってさ」
「そんなに熱中していたんですか」
「僕も驚くくらいね。一向に止まらないんだよ。ディスプレイの中に、じわじわ石が浮かび上がっていくようだったね」
彼はそんな少女に興味を持って、もっといろいろな事を知りたくなったんだ、と言った。
最初の疑問である「何故石を描くのか」は分かった。けれどそれだけでは満足せず、「何故石を描きたくなったのか」、それも聞き出したくなったらしい。
「石を描きたい理由、それを知りたくなって、僕は続けて質問したんだ」
「どうして石を描きたくなったのか……そういう質問ですね」
「うん。そうしたら、彼女は詳しいことを教えてくれたんだ」
タブレットを操作する真似をして見せながら、彼は少女が教えてくれたという内容を復唱し始めた。
「彼女はインターネットのイラストコミュニティに、よく絵を投稿しているらしいんだ」
「ああ、あの……」
「たぶん、君の考えているところだろうね。そこは絵を投稿できるだけじゃなくて、絵にコメントを付けたりもできるんだ。すごい時代になったね」
「コミュニケーションの手段として絵がある、ということですね」
「その通り。彼女はそこで、好きなように絵を描いていた……けれど」
ふう、と小さく息を吐いて、彼が声のトーンをわずかばかり落とす。
「世の中には狭量な人がいる。それは、君もよく感じているだろう?」
「……そうですね。残念ですが、頷かざるを得ません」
「ああ。彼女もそこで、面倒な人に絡まれたんだ。コメント欄で、一体何を言われたと思う?」
彼は手にした石を掲げながら、ぽつりと一言呟いた。
「『あなたのような"路傍の石"が、知った風に絵を描かないでください』」
ぽつりと、一言呟いた。
「コメントを寄せたのは、彼女もよく知らない人だった」
「見ず知らずの人、ですか」
「そう。調べてみたら、少し前に同じコンテストに絵を投稿していた人だって分かったらしい」
そのコンテストで、少女は審査員特別賞を貰い、コメントした人は選外に終わったという。その構図が明らかになった時点で、彼女はコメントした人の意図が分かったようだった。
「有り体に言えば、彼女に嫉妬したらしいんだ」
「やはり、そうだったんですね」
「ああ。自分の絵が評価されなくて、彼女の絵が特別な評価をもらったことに、嫉妬したみたいなんだ」
評価されなかったのは、自らの努力不足に尽きる──すぐにそう帰結できる人間は、それほど多くはない。大抵はそれを認められなくて、外的要因を探してしまう。
コメント者にとっての外的要因は、少女だった。つまりは、そういうことだ。
「それで、あんなコメントを寄せた」
「……」
「あれっきり一度も顔を見せないから、邪推や推測が山ほど混じってるけどねって、彼女は付け加えたけどね」
そう話す彼の表情は、なぜかまた、楽しげなものに戻っていた。
「けど、ここからが面白くてね。彼女はそのコメントを見て、ふっとイマジネーションが浮かんだらしいんだ」
「イマジネーション?」
「そう。"路傍の石"という部分に、何か来るものを感じたって言ってたね」
「よりにもよって、その部分に刺激を受けたんですか」
「そうだね。いてもたってもいられなくなって、タブレットを持って外へ出た──そうして、僕に出会った」
掌の石を握り締めて、彼が再び話し始める。
「僕に出会うまでに、彼女は九枚も絵を描き上げたって言うんだ」
「まさか、全部石をモチーフにしてですか?」
「その通り。落ちている石を見つけて、何枚も何枚も、絵を描きつづけたんだって。石にばかり目が行って、"周りが見えなくなる"くらい、熱中してね」
「……」
「僕の前で十枚目を描き終えたあと、彼女は、自分が感じたことを僕に教えてくれたんだ」
「同じ形の石は存在しない」
「同じ色の石は存在しない」
「同じ大きさの石は存在しない」
「同じ重さの石は存在しない」
「すべての石は違っていて、"ありきたり"な石なんて存在しない」
「"路傍の石"は、すべてがあふれる個性の塊だ……ってね」
「絵を描いているうちに、彼女は同じ石が一つとして存在しないことに気づいた」
「同じ石は、存在しない……」
「似ているように見えて、手に取ってみるとまったく違う。それが面白くて、どんどん絵にしていった」
「そうして導き出されたのが、さっきの言葉なんですね」
「ああ。晴れ晴れとした表情だったよ。新しいものを見た、って感じのね」
口元に笑みを浮かべて、彼が私に目を向ける。
「そういえば」
「どうしました?」
「君は、僕が石を集める理由を知ってたっけ?」
不意に話を振られて、思わず答えに窮する。石を集めているということは知っていても、「なぜ」石を集めているのかということは、どうも聞いた記憶が無い。
詰まったまま時間が流れるに任せていると、割と早々に彼が助け船を出した。
「僕が石を集める理由は、石が好きだから。けれど、それだけじゃない」
「それだけではない、と……」
「そう。もう一つ、理由があるんだ」
一呼吸置いて、彼が私に"理由"を教えてくれた。
「石に関わる人、それが好きだからさ」
「人との関係、ですか」
「そう。石があって、人がいて、石を軸にして人が関わりあう。それが好きなんだ」
石を掲げて、彼が言う。
「人と石は、よく似ている」
「まったく同じ石が存在しないように、まったく同じ人も存在しない」
「在る場所で、丸くもなるし鋭利にもなる」
「他者とのぶつかり合いで、いかようにも形を変えていく」
「本当に、よく似ていると思うんだ」
人と石の類似性。生まれ持った個性、環境に左右される姿、他者との接触で変貌していく形。なるほど、言われてみれば似ている気がしてきた。
彼が何を言いたいのか。その輪郭が、朧げではあるが見えてくる。
「僕は、珍しい石も好きだ。すごく好きだよ」
「珍しい石"も"?」
「そう。珍しい石"も"だよ。だから──」
「珍しくない石も、また?」
「その通り。外を歩けば道端に転がっているような"路傍の石"、それも大好きなんだ」
さっきも言ったけれど、と前置きした上で。
「この石は、道端に落ちていた石だ」
「タブレットの少女が絵のモチーフに採った、ですよね?」
「その通り。彼女が絵に描いた、"路傍の石"だ」
掌に載せられた小さな石。
「道端に落ちていたところで、誰も気づくことのないような、ありふれた石」
「けれどその石は、一人の女の子に、人としての生き方にさえつながるような、大きな示唆を与えた」
何度見たところで、石がただの石であることに変わりはない。何の変哲もない、ただの路傍の石。
石がただの石に過ぎなかったからこそ、大きな影響をもたらすことができたのかも知れない。
「人は皆、路傍の石だ」
「気付かれなければ意識されることもなく、そして誰かに影響をもたらすこともない」
「僕も君も、あの少女も同じ。すべては、路傍の石に過ぎない」
すべての人は、道端に転がる石に過ぎない。
「それは、実に素晴らしいことだと思うんだ」
「二つと無い存在が邂逅して、融和して、衝突し合う。そうして、また新しい存在になる」
「石も人も、ぶつかりあって変わっていく。それが、すごく面白いんだ」
気にも留めなかったはずの存在が、進む道を変えるほどの存在になり得る。彼は、そこに面白さを見出していた。
「この石を手元に置いておこうと思ったのは、それを思い返すためさ」
「人は皆路傍の石、そして、路傍の石は代わりのいない存在。この石は、それを思い出させてくれる」
「ありふれたものほど、かけがえの無い存在だということをね」
ようやく、彼が何を言いたいのかがはっきりした。そして、あの石ころを手元に置いていた理由も。
「その石には、思い出というか、印象的な光景が詰まっているんですね」
「ああ。あの少女が見出した新しい世界、それがここに詰まっているんだ」
「分かりました。単なる路傍の石に過ぎないそれを、あなたが大切に持っている理由を」
タブレットの少女と彼は、ありふれた路傍の石から、実に多くのものを感じ取ったようだった。
ひとしきり話して満足したのか、彼は石を戸棚に片付けると、椅子からすっと立ち上がった。
「さて、僕はちょっと出かけてくるよ。明日までには帰るつもりだからね」
「明日まで出掛けるつもりですか?」
「何、いつものことじゃないか。面白い石を見つけたら、また土産話を聞かせてあげるよ」
そう言い残して、彼は颯爽と部屋から立ち去って行った。
彼はいつもそうだ。石が好きだというのに、去るときは風のように去って行ってしまう。
「やれやれ……」
ため息混じりに、時間を確認しようとポケナビに目を向ける。
すると……
「……すれ違い?」
ポケナビの機能の一つである「すれちがい通信」。ポケモンのキャラクター商品に関わるすべての権利を持つ大手ゲーム会社が発売した携帯ゲーム機に搭載され、その後後を追うようにポケナビにも実装された。所有者同士ですれ違うだけで、簡単な自己紹介を送り合うことができる通信機能だ。
通信に成功すると、右上部に取り付けられた小さなランプが緑色に光る。この部屋に来るまでは消灯していたから、新しいメッセージが届いたようだ。
「これは……」
して、そのメッセージの送り主と内容は──
「けっきょく ぼくが いちばん つよくて すごいんだよね」
送り主の名前は……今更、言うまでもない。
すべては路傍の石。悟ったように口にしながらも、心の奥底では、燃え上がる炎のような闘志を滾らせている。
「星の数ほどある石の中でも、一番でなきゃ気が済まない、か」
石集めに熱中する子供のようで、その実石から人世訓を見出す大人で、しかし底の底は無垢で幼い子供。
それがたぶん、"ツワブキダイゴ"という人物の姿なのだろう。
「……本当に、風変わりな人だ」
苦笑いとともに、そんな言葉が思わず漏れた。
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※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。
※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。
Thanks for reading.
Written by 586
タンバシティのとある海辺で、セツカは空を仰いでいた。傍らには一匹のアブソル。
「この天気なら、無事うずまき島に行けそうだね〜」
「まさか晴れるとは……やっぱり、やめといた方がいいんじゃないか?」
「何言ってんの。ご飯は熱いうちに頂かないと!」
「命がけの旅が、お前にとっては飯と同じなのか?」
「まさに、朝飯前ってことだね」
一人はしゃぐ主人を尻目に、シルクは項垂れた。確かにこの天気ならば、うずまき島を取り巻く渦も小さくなっているだろう。絶好の機会と言えなくもない。一年のほとんどが曇天に見舞われるうずまき島の周りには、その名の通り、タンバの漁船をも飲み込んでしまう大きく激しい渦が点々と混在し、うまい具合に島の入り口を閉じてしまっているのだ。
本来ならば島に入ることすら出来ないはずだったのだが、運が良いのか悪いのか、その一行を晴天が向かえていた。暖かな光を止めどなく届ける太陽が、シルクには冷ややかに映る。シルクの三日月を描く漆黒の鎌が、黒く光っている。
──今回の目的はうずまき島に行き、海の神にあることを伝えることだった。
不満をおしみなく口にするシルクと地図を広げるセツカを乗せて、一匹のラプラスが海を泳いでいた。
「へぇ。ポジティブって泳げたんだな」
まるで初めて知ったかのように、わざとらしく感心した様子を見せるシルク。
「泳ぐため以外に、このヒレを何に使うんだい?」
「フカヒレとか?」
「それはサメだろ」
「馬鹿か。フカマルだろ」
「そうだった」
「メタ発言はほどほどにな」
「その発言がメタなんだよ」
「てか、ポジティブって名前、由来は何なんだよ?」
不意にセツカに問いかけたシルク。うん? と、地図から顔をあげてセツカは聞き直す。
「だから、ポジティブの名前の由来だって」
「え〜分かんないの? 少しは自分で考えないと、脳細胞増えないよ?」
「やる気の起きない理由だな」
「ふふふ。降参かね? それでは正解はっぴょー」
仰々しく両手を広げたかと思うと、強くパァンと合掌するように打ちならした。
「まず、ラプラスをラとプラスの二つに分解します」
「ふむ?」
「ここで着目するべきは『プラス』です。お二人方もお気づきになりましたか? そう! なんと私はこの『プラス』をプラス思考というキーワードへと発展させ、なおかつ! それを応用し、ポジティブへと変換させたのです! イッツミラクル!」
あきれ果てて首を振る気も起きず、シルクもポジティブも、ため息をついた。
「下らねえ……。『ラ』も仲間に入れてやれよ」
ん〜、と頭を傾げるセツカ。
「ポジティ・ラブ?」
「なんでポジティが好きってことを主張すんだよ。意味分かんねえよ」
「名前は五文字までだったっけ」
「そんなことは言ってない」
「空が青い!」
「論点をずらすな」
突っ込むのにも疲れたと、ポジティブの甲羅の棘のようなものにシルクは寄りかかる。あたしの頭はボケてないと、セツカ。
「そういえば」
「なんだ? また下らない話か?」
「上がる話だよ。空の話」
「へえ。そういえばセツカは風景を見るのが好きなんだっけ?」
「うん。どこで知ったかは忘れたけどね。こういう空の色のことを、天藍っていうんだって」
青く透き通った、けれどどこか黒ずんだ色もしているような空を、シルクとポジティブが見上げる。
「確かに、それっぽい感じはするな」
「漢字的にもね」
「それは誤字なのか!? どうなんだ!?」
シルクの声が、海に響きわたった。
題名に騙された。題名詐欺とでも名付けようか。
シリアスな感じかと思ってたらこれだよ!
そうかーイケメンにしか興味ないのかー 中身もきちんと見た方がいいぞー
イケメンで性格いいなんて男はリアルにはそうそういないからな!多分!
レックウザさんいいよね 私も欲しい ミミズくらいの大きさでいいから欲しい
「おはようこざいます! サクラさんですね? お届け物が届いております! こちらをどうぞ!」
朝早く、ライモンシティのポケモンセンターにやってきた私を出迎えたのは、1人の配達員だった。 配達員は私に1つのボールを手渡すと、どこかへ行ってしまった。
「なにかしら、これ……」
ボールの中を見ると、ただならぬ雰囲気を放つ黒い竜がいた。 図鑑で見てみると、「レックウザ」というポケモンらしい。
「なにはともあれ、図鑑が埋まったからいいけど……こんな珍しいポケモン、いったい誰が……」
私は全国図鑑を完成させるという、大きな目標を持っている。 今日もポケモンを登録しようと、人が多いライモンシティへ来たのだ。
私はレックウザの親を知ろうと、図鑑を操作してポケモン情報のページを開いた。
と、その時ポケモンセンターのドアが開いたかと思うと、聞き慣れた声が飛び込んできた。
「サクラ! 聞いて聞いて聞いて聞いてー!」
「モモカ!?」
飛び込んで来たのは私の双子の妹、モモカ。 双子なのに似てないってよく言われる。
「さっきそこで、超絶スーパースペシャルテライケメンに道を聞かれちゃったー!」
……こんなミーハーな妹に似たくないんだけどなあ……
私はモモカを無視して、ポケモン情報のページに目を通した。 その間もモモカはべらべら喋っている。
「マジでイケメンだったなあ……青い長髪を黒いゴムでまとめてて、超イケメンボイスで「素敵なお嬢さん、迷いの森への道を教えてください」なんて! 別れ際に手の甲にキスまで……キャーキャーキャーキャー!!」
暴走しまくってるな……フレンドリィショップのお兄さんやジョーイさんが睨んでるよ……気付かないのがモモカなんだけどさ。
「モモカ……少ないとはいえ人いるんだから、もうちょっと落ち着いてよ」
「これが落ち着いていられますかお姉さま!」
「誰がお姉さまよ……ところでモモカ、「ノブナガ」って人、知ってる?」
私はレックウザの情報が記してあるページをモモカに見せた。
「ノブナガ!? ランセ地方の!?」
「ランセ地方?」
「こことは文化が違うくらい遠い地方で、イケメンがいっぱいいるんだって!」
「モモカ……モモカの頭にはイケメンのことしか無いの?」
「無い!!」
……断言されても、困るんだけど。
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オチなし。 新キャラが暴走しまくった。
[好きにしていいのよ]
電波はけっして妙なものではなく、妙な受信の仕方をしてしまったのです。
> 想像以上の奇人変人っぷりでした(注意;褒め言葉です)。
変人奇人は褒め言葉(キリッ
マントのひととか、石のひととか、考古学のひととか以下略
タテカン立てたのは出奔に困ったリーグ関係者、「この顔にピンと来たらリーグへご連絡ください」みたいな文言が添えられているに違いありません。リーグ挑戦者ならつかまえてくれるだろうと(笑
お読みいただき、ありがとうございました。
※ポケモンを食べる描写みたいなのがあります
GEK1994のカウンター席で、ミドリは雑誌を読んでいた。いつもなら文庫本片手にゼクロムを飲んでいる姿が目立つのだが、今日は違った。派手ではないが、文庫本とは違う表紙とサイズが目立つ。
「ミドリちゃん、それは?」
気になったユエが聞いてみた。バクフーンが足元でのっそりと起き上がったが、睡魔に耐え切れず再び床に体を預けて眠ってしまった。鼾の音がする。
「昨日発売されたグルメ雑誌です。全ての地方の有名レストランのおススメメニューを取材してるんです。写真もありますよ」
そう言ってミドリが見せてくれた一面は、今月のトップを飾る店が載っていた。ホウエン地方、ミナモシティにあるレストラン。新鮮な海鮮を使ったソテーやグリルが有名だという。
中でも一際目を引いたのが、店の場所だった。その店はミナモでも、その近くの浅瀬にある巨大な岩の中に造られているのだという。行く際には長靴が必要らしく移動は多少不便だが、そのマイナス面が気にならなくなるくらい、そこの食事は美味しいのだという。
「へー。なかなか素敵ね」
「お値段もリーズナブルですし」
「ディナーで十万ちょっと…… まあ、ね」
流石に庶民のユエには頭を捻る値段だったが、ミドリは楽しそうにメニューの写真を見ていた。そこでふと思いついたように呟く。
「伝説のポケモンって、食べられるんでしょうか」
一瞬の沈黙の後、ユエが『んー……』と考える。
「そうね。伝説の鳥ポケモン、ファイアーやホウオウの生き血を飲むと不老不死になるっていう話なら各地方に伝わってるけど、流石に肉はねえ」
「チュリネの頭の葉は薬向きですね。苦すぎてサラダには使えませんよ」
「グルメ向きかしら」
「カントーでは、カメックスは固すぎてよく煮込まないと食べられないそうですよ。ゼニガメなら柔らかくてそのまま食い千切っていけるそうですが。あと、カメールの尻尾は大きいほどコラーゲンが詰まってるそうです」
足元のバクフーンがいつの間にか起きていた。ガタガタと震えている。大丈夫よ、とユエは頭を撫でた。
「戦争中はアーボとか毒抜きして食べたそうです。アーボックになると毒が強すぎて、抜く前に飢え死にするからアーボじゃないといけなかったそうで」
「ドンファンも一応食べられるんだって。足とかゴムみたいな食感らしいけど」
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オチなし。この前夕食の時に弟と話したことがそのままネタになってる。
ポカブとかまんま焼き豚だよね。
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