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  •   [No.3889] [幽霊レイディオ] 投稿者:マクス   《URL》   投稿日:2016/02/08(Mon) 02:10:36     191clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ラジオ】 【会話のみ】 【地の文無し】 【ヨノワール】 【サマヨール

    ※本文中では作者の死生観が語られます。



    『生きとし生けるすべての皆様へ
     ヨノワールとサマヨールの幽霊レイディオ』



    「さ、やってまいりました幽霊レイディオ、略して霊レイのお時間です。
     メインパーソナリティは私、任せて安心ヨノワールと」

    「アシスタントをつとめます、至って健全サマヨールです」

    「当番組は生きている皆様や幽霊の皆様に、ほんの一時でも生活を愉快に感じていただければと思い配信しております。
     お聞きの皆様方、30分程度の予定ですがどうかお付き合いくださいませ」

    「よろしくお願いします。
     ……といっても放送してる現在時刻、ご存じでしょうが深夜です。おまけに……今何時?」

    「2時10分ぐらいだね」

    「前回は1時50分ぐらいにやってましたよね?
     この不定期ぶりです。正直なところこの番組、リスナーさんがどれだけいるんでしょうか」

    「というかリスナーさんに届いているかどうか、配信機器を担当するロトムの気まぐれによるところがあります。
     今回お聞きいただけてる方は案外幸運ですよ」

    「狙って聞けるものじゃないですからね。
     っていうかリスナーさん、人間の方だったら信じてくれないんじゃないでしょうか。
     ヨノワールとサマヨール、つまりポケモンが人間にわかる言葉でラジオまでやってるって」

    「ポケモン相手に何を疑ってるんだかねー。わざマシンひとつでサイコキネシスが使えるようになっちゃうんだよ? エスパーだよ」

    「いや、誰でもできるってわけじゃないですよね、それ」

    「確かにできるできないは種族によるけどさ、それだけエスパーの素質をいろんなポケモンが持ってるってことだよ。
     サイコキネシスじゃないけど、テレパシーを届けるぐらい、ある程度の通力を得たポケモンならだいたいできるって、ねぇ」

    「その『ある程度』が難しいですよ。通力の修行って説明できるポケモンがどれだけいるんだか」

    「いやー、これだ、て決まったやり方が未だに確立されてないんだもん。だから無闇に時間がかかる。
     みんな信じないのも、やりとげたポケモンがあまりに少ないからじゃないかな」

    「それだけじゃないでしょう。一応、これラジオですよ? 放送機器越しにテレパシーって、普通は通じるとは思いませんって」

    「そこはあれだよ、ヨノワールの霊界アンテナ。通訳は機器に取り付いたロトムくんの不思議パワーで」

    「うまく説明できないってことですね」

    「あー、っと。ディレクターさんから、ゲストが焦れてるってさ」

    「流しますね!? って、ぁ……ごめんなさい、前置きが伸びすぎました。最初のコーナー、いきましょう」



    『生きてるって素晴らしい』



    「はい、『生きてるって素晴らしい』のコーナーです。
     このコーナーではゲストにゴーストタイプの方をお呼びして、幽霊なりの苦労をお話しいただいております」

    「生きてる苦労に悩むリスナーさんも多いと思います。そんな苦労してる皆様に、死んでも苦労は絶えないよ、と伝えていくのがこのコーナーです。
     生きてても死んでても変わんないよ、だったら急いで死ななくても、と。
     毎度思うけどこのコーナー、名前変えない?」

    「いや、こんな名前で始めちゃったんですから、引っ込みつかなくなっちゃったんでしょう。
     俺だってこんな、前向きなんだか後ろ向きなんだかわかんない名前は……」

    「平たく言って諦めろってんだからねぇ。行く末を絶望させてるんだもん」

    「うらめしいなぁ。呼んどいてやらせることはそれかい? アタシそんな暗い感情は食べてないよ?」

    「ちょっ……えー、ゲストさん早いです。また前置きが伸びちゃって……」

    「いやま、いいじゃないか。コーナー始まってマイクの前に来たのに、まだ黙っててってのはー、ねぇ」

    「無理あるよねー」

    「というわけで今回お呼びしましたのは、ユキメノコさんです」

    「はーい、やっとね。呼ばれてきました、氷タイプのユキメノコです。どうぞよろしく」

    「ありがとう。それではコーナーの目的として、あなたしか知らないような苦労をひとつ、皆様に伝えていただこうと思います」

    「ゴーストポケモンの中には生まれた時から幽霊、てのも多いです。生き物としても幽霊としても中途半端、それが俺たちです。
     そこでユキメノコさん」

    「はい」

    「ユキメノコさんは先天的にゴーストタイプってわけじゃないんでしたね」

    「そうなんですよ、昔は普通にユキワラシの女の子でした」

    「そう、氷タイプだけだった。
     というわけで、ゴーストになってからどうだったか。それをちょっと話していただけないでしょうか」

    「なってから、てねぇ……やっぱり大騒ぎだったのはユキメノコになった直後だなー。進化するほど強くもなかったんに、オニゴーリでなくこれだもん」

    「ある日、出かけた娘が声まで変わって戻ってきたとか、どこのエステティックだよ、てねー」

    「なんということでしょう。ご家族の驚きは察するに余りあります」

    「あっはっは、あんたらねぇ……。ま、確かに急な進化にも程があったから、父ちゃん母ちゃん大騒ぎよ」

    「それはそうでしょう。
     あ、そうだ。リスナーの方は進化の事、ご存じと思いますが、一応。
     ユキメノコさんは『めざめ石』という進化の石の影響でユキワラシから進化します。別に経験とか実力とか高めなくっても」

    「極端な話、生まれた直後でも進化できる可能性はある。
     これは自身の能力に依らない、外的要因のみでの進化。言ってみれば不自然なんです、この姿」

    「不自然な姿ってちっと引っかかるわね。
     前置きでも似たようなこと言ったっしょ? そうなる素質があったからこうなれたの」

    「いやいやいや、すみません、不自然ってのは言い間違えた。希少な進化だったから、みんな予想外で騒いじゃった」

    「そう! そうなんよ。いつか大人になったらみんなと同じオニゴーリになるとは思っとったん。
     でも友達と山に石掘りに行ったときにな、きれーなピカピカ石めっけてぇ。持ち帰ろうって触ったらこれだわ」

    「あー、それが『めざめ石』だったんだ」

    「周りからは不良扱いだよ。とーちゃん、うちの娘がこんなんなるなんてって怖い顔するし、かーちゃんは育て方間違えたって泣くし。
     なりたくてなったでねーがに、だっも信じんがで、なんも良いことなかったよ、こっちは!」

    「訛ってる訛ってる。恨めしいのはわかるけど落ち着いて」

    「その辺、人間とかは良いわ。ただ大きくなるだけだもん。進化して手足なくなったり、ガラッと姿変わるポケモンって面倒くさいんだから、これ」

    「あ、わかりますよ、それ。俺だってサマヨールですもの。ヨマワルだった頃は浮遊してたんです。それが2本足になりまして……なんて言われてると思います?」

    「のろまー」

    「わ、すっごいムカつく言い方!」

    「大当たりですよ、ヨノワールさん……!!」

    「ごめんね、サマヨール君。でも私が吹聴してるんじゃないよ? 陰口を聞いたことあるだけだから」

    「サマヨール君、そんな言われてるんだ。一気に怒っちゃってまー。氷あるけど、頭冷やす?」

    「いりません。ったく!
     とにかく、俺みたいに形の変わる進化でも、成長に伴った順当なものなら、大人になった証拠みたいで分かりやすいし、群の中でも当たり前のことと受け入れやすいものです」

    「それがちょっと逸れたら不良扱いだもんねー。一応、可能性のある進化なんだけど」

    「逆にイーブイみたいな、枝分かれが当然の進化なら、何になっても騒がれにくいもんです。
     しかし、珍しいってだけなら私のようなヨノワールも、進化できるのは割と少数なんだよね」

    「そー……? 成長じゃないんで?」

    「“れいかいのぬの”っていう代物がありまして。強い霊の力が宿っている、と言われるこの道具がないとヨノワールにはなれないんです」

    「自身では生涯かかっても集めきれない力を、その布を介して集める、て感じ……と、俺は聞いています。
     で、その布がまた出回らないものでして」

    「へぇー……じゃ、なれた時どんな感じだった、ヨノワールさん?」

    「私はー、行くところまで行っちゃった、て感じだったけど、まー、周りはすごかったね。
     喜ばれる、誉められる。妬まれる、恨まれる」

    「あの時はすごかったですねー。俺が覚えてるのは、『ヨノワールの血で染めた布が霊界の布になるんだ』ってヤツが……」

    「キツかったよ、あれ。死にはしないけど気持ち悪いのがずっと続いて、なかなか快復しなくってさ」

    「やられちゃったんだ……」

    「今でも襲ってくる人間、いるよ? 迂闊に人前にでるとさ」

    「人間に!?」

    「そう。ヨノワールに憧れるのはサマヨールだけじゃないんだ。
     サマヨールのトレーナーがね、霊界の布を欲しがるんだよ。で、欲しがる人には高値でも売れるってわけで」

    「本当に霊界の布が作れるのかも定かじゃないんですけど、それでも信じてる人は多いみたいです。血液の神秘性ってヤツでしょうか」

    「ドラゴンの血とか、よく話題にあがるもんねぇ。
     ユキメノコさんは、そういう人間に襲われたとか、ありません?」

    「アタシはまー……ないかなー」

    「あれま。ユキメノコっていったらトレーナーに結構人気なんですけどね。強いとかめんこいとかで」

    「そんな人間に好かれたって知らないわよ。
     ん……多分だけども、住む場所が場所だから?」

    「あー、雪山」

    「そりゃ確かに人は来ませんなぁ。
     でもその分、出会ったトレーナーとか、血眼で追ってきません? 苦労した以上、珍しいポケモンの1匹でも捕まえないと勘定が合わないとか」

    「それがそうでもなくって。
     この間、トレーナーの坊ちゃんがね、雪ん中に頭埋めてたんで、引っ張りだして助けたのよ。そしたら悲鳴上げて、『氷漬けはイヤだ』って逃げてって」

    「ありゃー」

    「ははー、雪解けの頃に発見されるとか思っちゃったのかなー」

    「ホンっト失礼しちゃう。そんな人を捕まえて、なんてやったことないのに」

    「やったヤツがいたんでしょう、昔に。それに、ゴーストってだけでも変な目で見られますし」

    「夜道で出会った人に逃げられたこと、ホント多いよね。ヨマワルの頃は、誘拐される、て言われてさ。
     今じゃこっちが誘拐されそうで、夜道でもなきゃ出歩けないけど……」

    「苦労するねー、レアなポケモンは」

    「ヨノワールさん、しっかり……!」

    「しっかりってね、サマヨール君、私はちょっと君が羨ましいよ。
     この中で、表を出歩いても特に騒がれないのは君ぐらいじゃないか?」

    「それは、えっ……」

    「強くなって、能力も増えて、可愛い後輩もできたけども。私も、ユキメノコさんも普通に出歩いたら、悪いヤツに狙われかねないんだ。
     その点サマヨールはどうだい? ちょっとは珍しいかもしれないけど、そこまで話題にはならないだろう」

    「そう言われましても……。というかヨノワールさん、いくらサマヨールでも……いやヨマワルでも、白昼出歩いていたら変な目で見られますよ、ゴーストですもの。
     それに珍しさなら、ヨノワールさんは★でヨマワルが●、サマヨールでも◆ぐらいはあります。捕まえてやる、てトレーナーはいるんですよ、たまに。
     もしバトルを挑まれでもしたら、もう泥沼です。負ければ捕まる、撃退したら『こんな強いなら』ってますます狙われる。ヨノワールさんならどうです? 『勝てない相手だ』って恐れられませんか?」

    「えー……サマヨール君?」

    「サマヨールなら押し切れば勝てる、て微妙に舐められるんですよ。足遅いから逃げられないし。
     助けてもらうまでに、いったい何人のトレーナー、相手にしたっけなー……」

    「サマヨール君!? 君こそしっかりして!? いや、変なこと言い始めたのは私だけどさ!」

    「いやーもう、みんな苦労したのね、うん。
     どうよ、ヨノワールさん、コーナーの趣旨には沿ってるんじゃない?」

    「そって……確かに沿ってるけど、別にイヤな思い出に浸ろうってコーナーじゃないから!
     ほら、サマヨール君も沈まないで。こう言う時は……柏手2つ!」

     パン! パン!

    『空気を変えよう!!』

    「というわけで次のコーナーに移ります!」



    『お便りコーナー 教えて、ゴーストさん』



    「えー、ちょっと強引に進めましたが、お便りのコーナー『教えて、ゴーストさん』です」

    「世間の評価で揃って沈むとは、俺も反省です。
     というわけで、このコーナーはさっきと違って、生きているからこそ抱くお悩みや質問に答えるコーナーです」

    「こんな番組ですからお便りもそんなに多くないですが、0でもないんですよ。今回取り上げますのはこちら、ラジオネーム:風前のトモシビさんからのお便りです。
     えーと、ヨノワールさん、サマヨールさん、ゲストの方、初めまして、風前のトモシビと言います」

    「はい、初めまして、トモシビさん」

    「こんなラジオ番組がありますことを前回の放送で初めて知りました。幽霊への質問を募集しているとのことでしたので、普段から気になっていることを質問として投稿してみました。
     不躾で申し訳ありませんが、早速お伝えします…………」


    『死んでからなる幽霊はもう死なないと言われます。
     しかしいつか幽霊にも変化や寿命に近いものはあると、私は思います。
     そこで質問です。幽霊は月日の経過でどんな風に死ぬか消えるかするのでしょうか』


    「……お答えください、と」

    「どんな風に、かー。俺はあんまり……ユキメノコさんは?」

    「アタシも知らないなー。っていうか、アタシのところじゃ基本的に氷タイプのポケモンとして死ぬんだもん。ゴーストタイプはそんなに……」

    「あ、そうですよね。ヨノワールさんは? 何か……」

    「私は割と」

    「えっ?」

    「何か知ってる!?」

    「実際に誰かの死に目にあった、てことはないけど、聞いた話でよければ。
     とりあえず、このトモシビさんの予想はあってるね。
     幽霊も月日の経過で消失する。寿命がある、て言った方がわかりやすいかな。
     生き物のように老化して死ぬ、てわけじゃないけど」

    「確かに、昔からいる幽霊に会ったことありますけど、ヨボヨボの老人って感じはしなかったですね」

    「輪廻という概念があるように、死んだ命はいずれ新たな形に生まれ変わり、新たな命が世に生まれ出る、らしいから。
     もし命が増えるばかりで幽霊が消失しないなら、世の中は幽霊で溢れかえっているはず。
     と、こんな前置きの上で質問にお答えしようじゃないか」

    「……そうだった。質問は寿命の有る無しじゃなかったですね。どんな風に、と」

    「どう死んでいくか、だよね。これは、ある長寿のゴーストタイプの方から聞いた話ですが」

    「ある長寿の、ですか」

    「誰とは言わないよ。さて。
     幽霊は基本的に未練で動いてる。未練とは記憶の一部で、それを無くすことがつまり死ぬこと……に、近い」

    「未練を忘れると、死ぬ、というか消える? いきなりポンと忘れる訳じゃないですよね?」

    「まぁ、事故とかが起きない限り、そうだね。少しずつ、消失するまでに記憶が薄れていくんだ」

    「思い出せなくなる……痴呆、に近いんでしょうか」

    「近いね。ただ、順序があるんだな。
     まず自分が生前に何をしてたか忘れる。
     この辺りはまだ軽い。けど見た目が老けないから進行がわかりにくい」

    「あ、俺も見たことあります、そういう方」

    「まだ軽い方だからね、結構いるんだ。だからか、そのまま長いこといる幽霊もいる。
     ただこの先は進みが早い。次は物忘れが自分の名前にまで至る」

    「名前、思い出せなくなるんですか」

    「特にゴーストポケモンになったのなら、ポケモンとしての名前で呼ばれるから、むしろ忘れやすい。私らとしては軽い方なんだけどね。
     普通の幽霊なら、これは割と重い方だ」

    「それ、ヨノワールさんも……?」

    「いや、私は覚えているさ。まだまだね。
     で、名前の次は自分の姿。
     自分がどんな顔をしているか、どんな格好をしているか。それを忘れる」

    「姿って、水とか氷で見ません?」

    「いやー、それがわからない」

    「え」

    「というのも、なんと姿が朧気になって誰だかわからなくなるんだ。人間の幽霊だったら、人型の何か、て感じに。
     この段階から見た目でわかるようになる」

    「朧気に……え、まさか心霊写真とかの?」

    「あんな感じだよ。個人を判別できない程度に姿がぼやける」

    「うわ、俺も見たことある! あれが成れの果て!?」

    「そういうことさ。
     続いて忘れるのは、自分の種族、というか形を。
     ここまで忘れちゃうといよいよ種族もわからなくなる。いったい何者なのか、と」

    「さっきは人間なら人間の、ってわかる程度でしたけど、それがさらに?」

    「そう、さらにわからなくなるんだ。ほとんど霧みたいな漠然とした形になっちゃってさ」

    「そこまでいくと、じゃあ次はいよいよ……?」

    「いよいよね、未練を忘れる。
     これで幽霊としては、ほぼ体をなさなくなる」

    「ただの霧みたいになっちゃう……」

    「あれが……」

    「意外と身近にあるだろう、サマヨール君。
     でも、実はそれが最後じゃない」

    「まだ忘れるものが!?」

    「もう一声あるんだな。もう、一声。
     幽霊は最後に、自分の声を忘れるんだ」

    「声ですか?」

    「そうだよ。未練を忘れても声や言葉だけは伝えることができる。それが一般には空耳とかお告げとかに感じられる。
     しかし声も言葉も忘れてしまえば、いよいよ命の残滓のような霧だけが残る」

    「それが、幽霊の消失と……」

    「そういうこと。質問への回答は、幽霊を記憶を無くしていき、やがて何者でもない霧に姿を変えるのです、と。
     しかし霧になっても幽霊は幽霊。普通の生き物の目には見えず、霧は世界中に漂い続ける。
     と! ここで前置きの輪廻の話がでてくる」

    「前置きの、ってことはその霧が、新たな命の素に?」

    「そうなるわけさ。
     ご理解いただけたかなー、風前のトモシビさん。お便りありがとう」

    「ありがとうございました。
     そういえば、ヨノワールさん。俺、幽霊の霧というとゴースってポケモンを思い浮かべますけど、関連あるって思うのは無理がありますかね?」

    「いや、関連ありだよ」

    「え、なんかあっさりと?」

    「実際あるからには、ねぇ。
     ……そうだ、ここで問題」

    「え゛」

    「あっさりじゃつまらないんだろう?
     さて、今さっき幽霊が忘れていくものを挙げていったわけだけど、1つだけ、霧の中に残るものがある。
     それは、何が残るかな」

    「何って……えーと、記憶に、姿、声……」

    「アタシらの中にもあるもの?」

    「そりゃそうだよ。ヒントは、記憶に関連したもの」

    「じゃぁ、記憶を無くした時点でほとんど?」

    「だいぶん薄れちゃうねー。じゃ、次のヒントは、なぜ未練を感じるか、ということかな」

    「未練を……やり残し?」

    「あ、感情!?」

    「心ですか?」

    「はーい、ふたりともだいたい正解!
     霧に残るのは、ほんの少しの心だ。記憶を無くした以上、本能的な感情ばかりだけどね」

    「あー……確かに、記憶に関連してて、心に残ってるから未練になる」

    「でも、経験とかの記憶が無いから、漠然としてる?」

    「そうそう。声が残っているうちはそれを伝えることもできるんだけど、ね。
     というところで、霧のポケモン・ゴースとの関連性だ」

    「はー、待ってました」

    「お待たせしました。
     まず、幽霊が記憶をなくして霧になっても、ほんの少しだけ心は残る。
     次に、その霧なんだけども、霧と呼ばれるだけあって風に流れるし、空気が淀む場所には溜まる。
     そしてだ。溜まった霧の中に悪意や恨めしく思う心が多かった場合……」

    「そこにゴースが生まれる、と」

    「空気の淀んだところに幽霊がいる、っていうのは、そういうことだったんですね。いるっていうか、生まれる」

    「まぁね。さらに言えば、そのゴースがより多くの幽霊の霧を集めたり、力を高めることで記憶や意識がハッキリしていくと、その姿もやがてハッキリしていく。
     手があり、頭がある。自分の姿に気付いたとき、ゴーストに進化する」

    「じゃあ、ゲンガーはさらに姿形を意識できるようになったから? だからより生き物に近いシルエットになるんだ……」

    「なんていうか、ゴーストのアタシたちも勉強になったわ……」

    「私も結構、長生きしてるし、それ以上に長生きの方から聞いたものだし。
     ……と、ここでネタばらし。
     今の話、実は全部“らしい”ってこと。不確かなんだ」

    「は!?」

    「調べようとして調べたって話はひとつもないんだよ。
     最初に言った通り、私も聞いただけの話だし、幽霊が霧になるまでをじっくり記録・観察した例は、時間がかかることもあって、どこにもない。それこそ、あの『長寿の方』が見てきたって話だけでね」

    「ぇえ!? なんですか、それ。筋が通ってるだけホントっぽいけど、つまり子供だましじゃないですか!」

    「そうは言っても、だ。
     幽霊が霧になるのを見てきた者はいるわけだし、ゴースの進化も実際にゴーストになる前後に話を聞いたことがあるから、今回話せたんだよ。口伝てでもちょっとは信じてほしいなぁ」

    「はー……見事に納得させられた。
     でも、古い伝説とかって全部そんなもんよね」

    「た、確かに証拠自体が怪しい伝説とか、口伝てしかないとか、有りますけども……。
     でも、ヨノワールさん、そうやって俺を何度も騙してきたじゃないですか。俺がヨマワルの頃に適当な嘘いろいろ吹き込んでさ」

    「子供を納得させるってのはそういうものだよ。
     ややこしい真実を教えるより分かり良い嘘を、てね。子供だましも悪いばかりじゃないさ」

    「まぁ、わかりますけど」

    「ちなみに、その嘘ってのは?」

    「聞きますか!?」

    「私からお伝えしましょう!
     幼い頃のサマヨール君……いやあの頃はヨマワルちゃんだったな……いろいろ私に聞いてきてねぇ。
     まず『なんでヨマワルには足がないの?』と」

    「ほうほう、それは?」

    「それはね、足下に関係なく、どこへでも行くためだよ。
     そう答えると、今度は『じゃなんでサマヨールになったら足ができるの?』と来た。
     それは足跡を残すことで、ここは歩いたことのある場所だ、て記憶するためだよ」

    「おぉ、じゃ次はヨノワール?」

    「当たり。『ヨノワールになったらまた足がなくなっちゃうのは?』と聞かれたよ。
     それは足跡で歩いたことを覚えなくても良くなったから。自分の居場所を決めて、どこへも行かなくなったからだよ……とね」

    「はぁー……なるほど、そういう見方がー」

    「全部うそっぱち! 信じ込まされて、俺は恥ずかしいよ」

    「だーれも知らないことだからねー。私も、口から出任せでよくこれだけ言えたもんだ」

    「ヨノワールさんのバカ! その才能だけは尊敬に値しますけどね!
     ディレクターさん、笑ってないで!」

    「あっはっは! サマヨール君、そっちをつっついちゃダメよ」

    「目を向けたくなるのはわかるけどねー。
     って、え? お便りもう1通! はー、珍しいこともあるねぇ」

    「へ!? あー、お便り! まだあった!」

    「そうだよ、サマヨール君、気を取り直して。
     なになに? ラジオネーム:フランケン・シュタインの被造物さんから」


    『私は自然に生まれた命ではありません。様々な生き物の破片から作られた継ぎ接ぎの化け物です。
     このような私でも死んだときは、他の皆様と同じように幽霊となるのでしょうか。
     おそらく前例のないことでしょうが、お答えください』


    「……と」

    「人造の命とかいうのですか。近年、てほど新しくもないですけど、人造のポケモンっていましたね。カントーの方に」

    「まー、個体数がとにかく少ないからかな。生きてるのも死んだのも見たことはないね、私は」

    「ヨノワールさんもですかー。確かにこの、フラン……えーと、被造物さんの言うとおり前例がない」

    「でも答えは出せるよ。あってるかどうか、当分は分からないけど、とりあえずでよければ答えようか」

    「ですね。では被造物さん、『人造の命でも死んだら幽霊になれるか』という質問ですが」

    「なれると思いますよ、あなたも普通の幽霊に」

    「ですよね」

    「はっきり答えたねー」

    「そうさ。幽霊になるだけなら誰だってなれる。たとえ被造物さんが自然に生まれた命でないとしても、命である以上、死んだからには他の命の素になる」

    「植物で言うなら、枯れ葉が腐葉土になるまでの状態、てところでしょうか」

    「うん、命が人の手によって作られた、という事自体は幽霊になれるかどうかにそんな影響しないはずだから」

    「ヨノワールさん、それはなんか根拠があって?」

    「まぁね。その……」

    「な、なんです? こっち見て」

    「新しい命って、ほら、男と女が揃って、アレすることで生まれるでしょう?」

    「…………」

    「目を背けないでよ、サマヨール君。誕生ってそういうものさ。
     ともかく、命が生まれるには必ず誰かが何かをしたって原因があるんだ。
     交わらないようなものを混ぜ合わせたのだとしても、命を作る行いがあった以上、生まれたものは命だよ」

    「……サマヨール君、性教育って苦手?」

    「余所の話ですッ……!
     とにかく! ヨノワールさんはこう言いたい? 人造と不自然はイコールじゃないし、不自然でも行く末は同じ、と」

    「そうだね。それに、前の回答の時にも関係していること、言っているし」

    「え? な、何かありました?」

    「未練・記憶が幽霊を動かす、とね。
     さて被造物さん、幽霊になれるかどうかは、あなたの出自よりも経験が重要です。
     生きている間に多く、強く記憶を残せば、それだけ強い幽霊になれます。ご安心ください!」

    「ご安心……なのかしら。ん、この場合は……」

    「心配事は死んだ後どうなるか、だからね。ここは、そういうことで」

    「で、すね。俺たちも結構 強い記憶……っていうか、思い出、たくさんありますし」

    「あ、サマヨール君、それはキレイな言い方だ。
     思い出をたくさん残して、あなたも強い幽霊になろう! どうかな?」

    「どうかな、て……ギャグですか、ヨノワールさん」

    「……まじめなんだけどね」

    「ちょっと恥ずかしいわね。でも良いんじゃないかしら。
     大した思い出がないまま死んでもロクな幽霊にはならない。それって生きる事への励ましにならない?」

    「おお、良いまとめだ! 番組の趣旨に沿ってる!」

    「まるで締めみたいですね。
     ……あ、そう言えば今、何分ぐらいですか?」

    「えー……40分超?」

    「あれ!?」

    「あ、時間オーバー。長引いちゃったわ!」

    「キレイにまとまったんだ。サマヨール君、締めよ、締めよ!」

    「締める、はい!
     ユキメノコさん、今回はゲストとして楽しいお話を、ありがとうございました!」

    「いえいえこちらこそ。みんなそれぞれ苦労があるだなーって、アタシも楽しかったから。
     ヨノワールさんも、面白い話をしてくれましたし」

    「どこまで信じられるかは別だけどね。でも気に入ってもらえたなら、私も覚えていた甲斐があったというものさ」

    「うん、童話とか噂話とか、その程度で覚えておくわ」

    「それがいいですよ、ユキメノコさん。この人、結構 信用なりませんから」

    「はっはっはぁ、そりゃもう人じゃないからねー! 後で見てろ?
     それじゃ、サマヨール君、いよいよエンディングが流れてきちゃった」

    「よ、よし!
     今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました! 本番組では皆様からのお便りを募集しています!
     生きることに疲れた方、死んだらどうなるのか気になってる方、お悩み相談から疑問質問まで、俺たちがお答えいたします!」

    「また、幽霊やゴーストポケモンの皆様からもお便り募集しております。
     普段の悩み、気になること、ございましたらどしどしご応募ください。ゴーストポケモンの先達がお答えしますよー」


    「というわけで!
     生きとし生けるすべての皆様へ、ヨノワールとサマヨールの幽霊レイディオ」

    「メインパーソナリティは私、任せて安心ヨノワールと」

    「アシスタントをつとめました、至って健全サマヨール」

    「そしてゲストで呼ばれました、鮮度長持ちユキメノコ」

    「以上のメンバーでお送りいたしました!
     では、この番組が、皆様の生きる気力となりますように!」

    「たくさん思い出 作って、強い幽霊になっちゃいましょう!」

    「それでは、またの機会にお会いしましょう!
     最後に締めの一言、いきます。せーのッ!」



    『人生、死んでも終わりじゃないッ!!』


      [No.3583] POKELOMANIA 投稿者:水雲(もつく)   《URL》   投稿日:2015/01/24(Sat) 00:09:53     120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:短編集
    POKELOMANIA (画像サイズ: 720×1012 473kB)


     すべてはメガロマニア。

     


      [No.3272] 投稿者:きとら   投稿日:2014/05/20(Tue) 13:17:32     86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:空の探検隊】 【おたずねものだ!】 【飛行タイプまだ?

     歩けど歩けど山は続く。
     ガイドのシェイミはとても明るくて山の植物の解説をしたりしてるけど、ひのめは聞いてるのやら。
     後ろを振り返ればひのめの六つのしっぽは全部垂れ下がっていて、これは元気ないなと思った。けど私も人の事をいってられないくらい疲れてる。
     ニューラが保護されたくらいなんだから、この山は相当険しい。で、なんで登ってるんだろうって思う。いっそこの耳が翼みたいにふわーってならないかしら。私が知ってるかぎりそんな進化はしてくれないけど。せめてしっぽが軽くなってくれないかな。普段は気にならないのに、今はタイヤを引きずってるみたい。
     そんなに元から山登りが好きな方じゃないのに、わざわざなんで山に来て息きらせてまで来てるんだろう。あー、別に登らなくていいよね。重力って本当重たい。


     急な勾配を勢いつけて飛び登った。そこには山がなかった。
     見えるのは空の青。青、そしてグラデーションの緑。足元の白。高山植物が色とりどりの花を咲かせている光景。
     ひのめはそこに仰向けに転がって頂上だーって喜んでる。私は足場がある限りまで行った。
     いきなり来てしまった世界は息を呑むほど美しかった。いつもいるトレジャータウンが小さかった。ギルドなんて見えない。
     ああそうだ、ここはこんなに美しくてだからこそ……



    「あの店、通信ケーブルと進化の石が置いてあるどうぞ」
    「了解、ひきよせだまを使うので階段の近くに集合すべしどうぞ」
    「了解、念のため通過スカーフ装備確認どうぞ」
     ダンジョンに響くカクレオンのドロボウコールを毎回すり抜ける探検隊。7テール(セブンテール)という探検隊はたくさんの経験と豊富な戦闘回数により、誰もが手に負えない探検隊へと成長していた。
    「了解。7テール、出動!」



     ひのめのしっぽと私のしっぽ。
     あわせて7本のしっぽは探検隊。ディアルガと戦った唯一の探検隊。
     あの日みたこの世界の全てを探検しきれるとは思っていない。けれどあの日みたこの世界は全て美しい。


      [No.2965] 出典・参考資料 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/06/02(Sun) 19:37:39     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:携帯獣九十九草子
    出典・参考資料 (画像サイズ: 800×572 223kB)

     本作はポケットモンスターの各設定はもとより、様々な日本の伝統文化から題材をとって創作いたしました。末筆ではございますが、ここに紹介いたします。


     隈取

    題材―歌舞伎
    演目―夕霧名残の正月、郭文章
    出来事―江島生島事件
    人物―生島新五郎、二代目市川團十郎
    ポケモン―ゾロア、ゾロアーク
    舞台―カントー地方のどこか


     詠い人

    題材―和歌、短歌
    人物―小野小町
    ポケモン―ナマズン
    舞台―カントー地方、タマムシ大学
    補足―短歌は創作


     羽衣

    題材―能、羽衣伝説
    演目―羽衣
    ポケモン―クレセリア、ハクリュー
    舞台―カントー地方、タマムシシティ周辺


     恨人形心中語

    題材―人形浄瑠璃
    演目―曾根崎心中
    出来事―竹本座と宇治座の競演、幕府による曾根崎心中の上演禁止
    人物―近松門左衛門、竹本義太夫
    ポケモン―ジュペッタ
    舞台―ジョウト地方、コガネシティ
    補足―宇治座との競演、曾根崎心中の成立時期は実際には異なる。


     昇竜ノ祭

    題材―祭、悪石島のボゼ神
    ポケモン―ギャラドス、コイキング
    舞台―ジョウト地方、チョウジタウン


     招き猫

    題材―招き猫
    縁の場所―今戸神社、豪徳寺
    ポケモン―ニャース
    舞台―カントー地方、タマムシシティ?
    補足―招き猫の成立には諸説があり、本作は今戸神社説より創作した。


     達磨

    題材―だるま
    人物―織田信長、ルイス・フロイス
    ポケモン―ヒヒダルマ
    舞台―ジョウト地方のどこか
    補足―だるまの実際のモデルは仏教禅宗の達磨大師という僧侶であるとされる。


     替わらずの社

    題材―宮大工、匠、伊勢神宮の遷宮
    ポケモン―キルリア、スリープ
    舞台―ホウエン地方のどこか
    補足―キルリア…… あたまの ツノで ぞうふくされた サイコパワーが つかわれるとき まわりの くうかんが ねじまがり げんじつには ない けしきが みえると いう。(ポケモン図鑑より)


    参考・引用

     日本の伝統芸能(篏佝納辧ヒ
     能ガイド90番(成美堂出版)
    重修 装束図解 服制通史(関根正直)
     和楽器の世界(西川浩平、河出書房新社)
     ウィキペディア、各種ウェブページ 他


     この作品はNo.017の個人的な趣味で作成されたものです。ポケモンの諸権利を有する企業様とは関わりがありません。


      [No.2660] 【告知】ストーリーコンテストを開催します 投稿者:小樽ミオ   《URL》   投稿日:2012/10/03(Wed) 20:09:00     349clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     こんにちは、お世話になっている小樽ミオです。m(_ _)m

     唐突かつ勝手ながら、ストーリーコンテストを開催する運びとなりました(企画ページ:http://yonakitei.yukishigure.com/stcon2012/index.html)。
     マサポケでは休止中のストコンに準拠し、できるだけ「ストコンのつづき」といった雰囲気でご参加いただけるように計画しているものです。

     以下、
    (1) コンテスト概略、準備チャット会開催のお知らせ
    (2) コンテストのトップを飾るイラストおよびバナーイラストの募集
    (3) 審査員の募集(10月3日21時追加)
     の3点についてお話を進めさせていただきます。





    【1. コンテスト概略、準備チャット会開催のお知らせ】

     開催期間は「年内に完結する」ことを基準に、
     2012年10月15日〜12月23日(募集:10月15日〜12月1日、投票:12月3日〜12月22日)
     として仮決定しています。

     ただ、もっとも重要な「お題」が未決定です。みなさまのご参加を想定する以上、お題はこれまでのストコン同様多数決で決定したいと考えております。また、上述の開催期間も当方が勝手に仮決定したものですので、修正が必要になるかもしれません。
     つきましてはチャット会を開催したうえで、お題や開催期間を筆頭に、今回のストコンに関してみなさまのご意見を賜りたく存じます。

     チャット会は本年10月7日(日)20時より、マサポケチャットにて行わせていただく予定です。
     かなり急な提案ですが、ご参加いただければ嬉しく思います。

    ●とりわけご意見をお伺いしたい点
     ・ お題
     ・ コンテストのタイトル(決まってないんです 苦笑)
     ・ 開催期間は適切な長さか
     ・ 募集は「小説」だけに限定するか
     ・ その他みなさまがお気づきの点

     募集期間につきましてはすでに「駆け足気味」というご意見をいただいておりますので、「年内で完結させる必要はあるの?」「年を跨いだっていいじゃん!」というご意見が多ければ、募集期間を中心にもう少し余裕のある開催期間としたいと思っております。

     また、「チャットでは聞きづらい/チャットに入りづらい/チャット前に伝えておきたい」という方がいらっしゃりましたら、当方のツイッターアカウントやメールアドレスに直接ご連絡をいただいても構いません。アカウントやアドレスはこちらに掲載しませんので、お手数ですがコンテスト用のウェブページからご確認ください。m(_ _)m





    【2. コンテストのトップを飾るイラストおよびバナーイラストの募集】
     コンテスト開催にあたりまして、トップ絵およびバナーとなるイラストを募集させていただこうと思っております。チャット会後に本格的に始動したいと思っておりますので、「描いてもいいよー!」という方がいらっしゃいましたらお心づもりをしておいていただけると幸いです。





    【3. 審査員の募集】(10月3日21時追加)
     当コンテストでも、可能であれば審査員というシステムを継承したいと思っています。
     審査員の募集要項は、(1) 全作品を熟読し、 (2) かつ熟考した上で全作品に評価およびコメントを行う ことが可能な方とさせていただきます。
     審査員であることに対するお礼はできませんが、ソルロックも裸足どころか全裸で逃げ出すほどにまばゆい笑顔で感謝の気持ちを表させていただきたいと思います(やめい)

     ※審査員とは
     (これまで同様)全作品を読み、全作品にコメントすることを使命とする役職です。
     これまでのストコンでは、どの作品に対しても審査員の方々から必ずコメントがつくことが応募特典として挙げられていました。




     以上でございます。
     では、ご参加を考えてくださっている方がいらっしゃりましたら、チャット会で改めてお会いいたしましょう(*・ω・*)ノ


      [No.2659] うーわー… 投稿者:No.017   投稿日:2012/10/03(Wed) 02:04:13     85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    後味わりい。
    でもなんだろう、ポケモンの世界ではよくあることなんだろうな…現実はシビアだ


      [No.2658] 解放 投稿者:フミん   投稿日:2012/10/03(Wed) 00:23:44     135clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    通りすがりの青年の前で、少年が草むらの中に入って行った。


    「こら。君は、ポケモンを持っているのかい?」

    「持っているよ。ほら」
     
    少年の腕には、ミネズミが抱かれている。

    「そうか。なら草むらに入っても大丈夫だな」

    「うん。これからミネズミ逃がすの」

    「逃がしちゃうのか。見たところ随分懐いているようだが、何か事情があるのかな?」

    「うん。ポケモンは人間と暮らしちゃいけないんだって。だから逃がすの」

    「ポケモンは大事な家族じゃないか。誰がそんなことを言ったんだ」

    「お母さん。テレビで見たんだって。ポケモンは大事な友達だけど、やたらむやみに捕まえたらいけないって。僕の家にはもうチョロネコがいるから、どっちか逃がしなさいって言われたの」

    「そうなのか。家で面倒が見られないならしょうがないな」

    「うん。チョロネコもミネズミもタマゴから育ててきたけど、家で二匹もポケモンを飼えないんだって。家計が苦しいんだって」


    「困ったな。お兄さんも手持ちがいっぱいなんだ。ミネズミを欲しがるトレーナーも少ないだろうし、ポケモンセンターや施設に預けても、こいつが幸せになるとは限らないからな」

    「うん。お母さんも、きっと野生で立派に生きていくから大丈夫だって。きっとたくましいミルホッグになって、群れのリーダーになるって」

    「そうだな。よく見ればこのミネズミは良い顔をしている。お母さんの言っていることも正しいかもね」

    「うん。じゃあさよなら、ミネズミ」
     
    少年はミネズミを地面に置いた。ミネズミは、最初はおろおろとしていたが、やがて森の中に走り去って行く。


    「ミネズミー 元気でねー」

    「達者に暮らせよー」
     
    少年と青年が見守る中、ひたすらミネズミは走っていく。
    そして数十メートル走り続けた頃、一匹のケンホロウが、ミネズミめがけて一直線に飛んでいく。ミネズミが危機に気づいたときにはもう遅かった。

    獲物を捕らえ悠然と飛び去る鳥ポケモンを、青年と少年は何もできず、ただ呆然と見つめていた。




    ――――――――――


    一発ネタです。これ以上の意味はありませぬ。

    フミん


    【批評していいのよ】
    【描いてもいいのよ】


      [No.2657] お望みの結末 投稿者:SB   投稿日:2012/10/02(Tue) 23:08:27     124clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



    お望みの結末




    「なぜきみにはポケモンがいないの?」

     そう聞かれたとき、僕はいつも答えに窮する。
     ポケモンがいる理由は明確だ。好きなポケモンがいて、10歳以上20歳以下の年齢で、なりたい自分を強くイメージした時に現れる。
     だから、「なぜ君はそのポケモンにしたの」と聞かれたときに理由が答えられない人はまずいない。
     僕はポケモンが好きで、10歳以上20歳以下の年齢で、なりたい自分を強くイメージしたけれど、エーフィもサーナイトもリザードンも現れなかった。

     それなのに、僕はいま、なぜここに立っているのだろう。

        ◇

     最初にポケモンを手に入れた人が誰なのかは、正確にはわかっていない。なぜなら、最初のうちはみんなそれが来たことを隠していたからだ。怪物出現が社会現象になったのは、初めて彼らがやってきてから数か月以上経った後なのではないかとも言われている。
     ポケモンは友達だ。道具じゃないし、見世物でもない。初期のトレーナーが彼らの存在を隠したのもうなずける。
     しかし、あまりにも多くのティーンエイジャーがポケモンを手に入れたことから、彼らが存在することがむしろ普通のことになってしまって、それでポケモンの存在が社会一般に認知されることとなった。

     まず槍玉に挙がったのは、その攻撃性だった。
     ポケモンは強い。人を殺せるくらいに。
     ゲームの中における「きりさく」と、実際の世界における「切り裂く」は全くの別物で、前者は威力70の平凡な物理技、後者は血しぶきがでて、肉片が散らばり、人が死ぬ。
     理論上は。
     ポケモンは、ポケモンバトルという競技を除いて戦うことはなかった。彼らはトレーナーに従順で、人間を殺すはなく、危険性はとても少ないとされた。といっても、バトルに負けたポケモンは致命傷を負うこともしばしばだったが。そのため、一部の地域ではポケモンバトルを禁止する条例が発効された。しかし、ポケモン本来が持つ闘争本能を完全に抑え込むことはできなかったようだ。

     ある程度の安全性が確保されてからようやく、彼らがいつどのようにしてこの世界にやってきたのかが公に議論されるようになった。
     もちろんポケモンは株式会社ポケモンが管理運営するゲームあるいはそれに現れるキャラクターのことであったが、裁判沙汰になることを危惧したのだろう、今回出現した「それら」に関しては、株式会社ポケモンの商標権の範囲外にあるという発表が本社からなされ、とりあえず「それら」はいわゆる「株式会社ポケモンが作ったポケモン」ではなく、まったく別個の「ポケモン」であるという結論が下された。
     もちろんこの発表がなされた後も、ポケモンの発生ルートは謎のままである。

     とはいえ、わかったこともある。
     それが冒頭にも述べた3か条。
    1.好きなポケモンがいて
    2.10歳以上20歳以下の年齢で
    3.なりたい自分を強くイメージした時
    にポケモンは現れる。

     そして僕にはポケモンがいない。

        ◇

     最近はポケモンバトルにも明文化されたルールが出来上がった。
     これはポケモンバトル協会が設定したものである。なお、ポケモン協会という名前は、株式会社ポケモンのポケモンにおける商標権の侵害であるとされたためポケモンバトル協会になったというのはまた別の話。
     そのルールによれば、ポケモンが相手に致命傷を与えるのを防ぐために「瀕死」あるいは「気絶」という概念を用いる。これは医学な意味における「瀕死・気絶」とは異なり、あくまでもポケモンバトルにのみ適用される概念であり、レフェリーあるいはトレーナーがもう戦えないと判断した状態のことである。だから意識があっても気絶になる。「瀕死・気絶」を区別するルールも区別しないルールもあり、それは日本の東西でわかれているということである。
     このルールのおかげで命を落とすポケモンは極端に減り、安心して強さを追い求めることができるようになった。
     強いポケモンと弱いポケモンが明確に分かれるようになり、強さ別のトレーニング施設ができ、空いたニッチに滑り込もうと多くのベンチャー企業がポケモン産業に参入した。

     いま僕の目の前にいる人たちは、明確に分かれたうちの片方である強い人たちであり、いま僕の目の前にいるポケモンたちは、文字通りの強者である。

     それなのに、なぜ僕はここにいるのだろう。

        ◇

     グーグルアースを通じてこの社会の隅々まで知ったつもりでいた人が突然自分の家の前に放り出されて、そして今自分のいる場所がどこだかわからなくなってしまったような、そんな心持。

     ゲームは100回以上プレイした。プレイ時間は、1万から先は覚えていない。
     でもここが、どこだか分らなかった。

     リーダー格の青年が、ほかのみんなを励ます。隣にいるショートカットの女の子がそれに同調する。
     この事態に不平を言う性格の悪そうな痩せたメガネの青年がいて、涙を流し始めた小さな少女もいる。そして少女を慰める優しそうな太った青年。
     ここにいる人はみんな互いに互いを知らなかった。
     みんな突然ここに飛ばされた。
     年齢も性別も性格も皆ばらばら。それでも、不思議な一体感で結ばれていた。

     僕を除いて。

        ◇

    「なんでポケモンがいないの?」

     小さな少女にそう尋ねられ、僕は答えに窮する。
     リーダー格の青年が僕をフォローし、僕の知識が役に立つとみんなに説明する。
     メガネの男がわざとらしくため息をつく。ショートカットの女がそれを諌める。太った青年がつぶやく。
    「ぼくらはこれからどこへ行くんだろう」

        ◇

     その時僕を、得体のしれない違和感が包み込んだ。
     この世界の存在そのものに対する違和感だ。
     あまりにも唐突な展開。
     あまりにもステレオタイプな登場人物。
     そして僕という存在。

     右を向く、左手を挙げる。その程度ならば許される。けれども、僕が反対しようと思っても、僕はリーダーに賛成する。思ってもないことを突然提案する。
     ようするに、旅の進行にかかわりの低い些細なことならば僕に行動権があるが、メンバーの意思決定にかかわる事項はあらかじめ答えが用意されていて、それ以外のことはできないようになっていたのだ。
     そして、僕はいつの間にか真面目ながり勉タイプの人格に置き換わっていく。
     僕でない僕が、勝手に僕を作っていた。

     僕の状況は明らかだった。僕は単なるマリオネットになり下がったのだ。
     なぜそうなったのか。
     僕は神を信じるタイプではない。突然僕を操る存在が出てきたと考えたとしても、いま僕がいる場所、僕らの進む道は明らかに非現実的だ。
     信じられないくらいベストなタイミングで僕らに助言が入り、進むべき道が決定し、僕らが話しかけた人間は、何回話しかけてもほとんど同じセリフを繰り返す。
     そこで僕は一つの仮定を立てた。
     いま僕のいる世界はゲームなのだ。もちろん僕が現実からゲームの世界にやってきたなんてことはありえないから、僕は最初からゲームの駒だったと考えるのが妥当だ。
     僕は今マリオネットになったのではない。生まれたその瞬間からマリオネットだったのにそれに気づかずにいたのだ。今まではまだゲームが始まっていなかったから自由に動けていた、それだけのことだろう。

     最初のイベントをクリアすると、よくわからない女の人が現れて僕らに助けを求める。
     僕はこの展開に辟易する。
     いまどき、こんなストーリーでは子供漫画のプロットも勤まらないだろう。
     それでも物語は進んでいく。だって僕は作者じゃないんだから。

        ◇

     その旅は唐突に始まり、しかし、目的はゆっくりと明らかになっていった。
     ある一部の人たちが私利私欲を追い求めた結果、この世界の秩序が乱された。今の状態が続くと世界が歪んでしまう。
     それを何とかしましょうね、と。

     世界をゆがませている原因は多々あるが、どれも人為的なものだった。ついでに言うと、子供だましのつまらない理屈で運用されているものがほとんどだった。そんなことをして本当に利益が上がるのかしらん。
     エスパータイプの力を増幅させる装置を壊し、敵の結社の幹部をとらえ、また別の悪事を、力を合わせて懲らしめる。

     体がほとんど乗っ取られているとはいえ、ある程度は自主的に行動することができたし、僕の思考そのものが乗っ取られるということはなかった。また、ゲームのストーリーに反しないように行動する限り、ほとんどは僕自身の意思で動くこともできるようだった。
     特に自分が自分で行動していると感じられるのは戦闘シーンである。
     戦闘時は各々が自分で判断して攻撃、回避を行うことができる。当然といえば当然だ。そこまでストーリーが決めていたらゲームとして成り立たない。
     しかし、僕にはポケモンがいない。
     だから僕が戦闘に参加することはなかった。

     一つのダンジョンが終わるたびにまた新たな旅の目的地が設定され、また一つクリアするごとにこの世界に関する新たな発見があり、そして僕はその様子を後ろで見ている。
     僕の持つ知識はとりあえず役に立っているようであり、邪険にされることは少なくなった。それでも戦うのはポケモンでありポケモンを持つトレーナーであり僕ではなかった。彼らが求めているのは僕の知識であって、健全なるストーリーの進行であって、僕ではなかった。そして僕の知識は、僕でない誰かが発言した内容でしかないのだ。
     同じゲームの駒とはいえ、僕と彼らには歴然とした差があった。
     彼らには力があり、僕には力がなかった。
     彼らには自由を行使する戦闘があり、僕にはそれがなかった。
     そして彼らには相棒がおり、僕には相棒がいなかった。

     その時、声がした。

        ◇

     その声は、僕にポケモンをくれてやる、といった。
     僕は喜び、見えない声に従って夜の道を歩いて行った。
     二つある月の片方が水平線の下へと沈んでいき、もう片方の赤い月が静かに僕を照らす。この世界の歪な情景にももはや慣れきってしまい何の感慨もない。舗装されていない道を無言でひたすら歩く。
     どこかでいつの間にかテレポートされたのだろうか、突然目の前に大きな城が表れて、中に招かれた。このデザインはNの城の使い古しなんだろうなと思った。
     大きな階段を上ると中世の建築物を思わせる柱が並んでおり、その奥にある巨大な扉が音を立てて開く。城内には赤いじゅうたんが敷かれており、黒服の男について歩く廊下には様々な絵がかけられていた。
     そして男が立ち止った先には、また新たな扉。この向こう側に声の主がいるらしい。

     声の主は美しい女だった。
     ゲームショウのコンパニオンみたいな服を着ているが顔面偏差値はそれよりやや上といったところか。ゲームに出てくる登場人物なのだからまぁ大体こんなところだよなと想像がつく程度の登場人物であり、悪役であることを確約するかのような冷たい目をしていた。
     彼女は僕にハイパーボールを渡した。ポケモンカードに載っているコンピュータグラフィックで書かれたハイパーボールに不思議とよく似ていて、質感はまさにCGのそれだった。
     僕はそれを受け取り、中のポケモンを放出する。
     赤い光の先に、6枚の黒い羽根をはばたかせ、赤い目を持った三首のドラゴンが表れた。
     サザンドラだった。
     サザンドラは僕の右手に降り立ち、神妙に僕のほうをうかがう。彼の吐く息が僕の顔にあたる。少し生臭いような、それでいて懐かしいようなにおいがした。
     生まれて初めてのポケモンだった。
     僕は嬉しくて彼の首に抱きつき、彼もそれにこたえて低く唸った。
     僕という存在にこたえてくれる者がいたことに、僕は感激した。彼は彼で今までトレーナーがおらず、コンパニオンのお供をやっていたのだ。ポケモンなりに今までの悲壮さを訴えるかのような、低い、低い、唸り声だった。

     そんな僕らを冷ややかに眺めながら、城の主は、僕にサザンドラの見返りを求める。
     それは、旅の仲間を裏切れ、というものだった。

        ◇

     僕が旅の仲間を裏切ることを許諾するならば、サザンドラは僕の相棒になる。
     どこかで聞いたことのあるような話だった。
     そう、僕はゲーム製作者あるいはプロット作成者にとってとても都合の良い立ち位置にいたのだ。
     リーダー格の青年はやはりリーダーとしての職を全うしなければならない。幾多の困難と葛藤を乗り越えて英雄として成長していくのだ。
     ショートカットの女の子はヒロインとして泣いたり笑ったりしながらリーダーを支えていくことになる。
     メガネの男は最初悪い奴だと思われていたものの、いざという時頼りになる奴という立ち位置を与えるのにもってこいだといえる。また理性的なので作戦立案にも役立つ。
     小さな少女は物語の悲壮さを冗長させる機能があり、守ってもらう役割を担う存在でもある。
     太った青年はチームが乱れたときに、その包容力をして結束を保つ微妙な役回りをこなすことになるだろう。

     一方僕は、何だ?

     僕は比較的真面目にリーダーや旅の仲間に助言をし、対して役に立たないなりに努力してきた。
     そう、まじめに努力。これが重要だ。
     世間の子供はまじめであることを極端に嫌がる。生徒会長といえば先生に告げ口するしか能のないつまらんやつだというイメージが先行する。また各種メディアも勉強しかしない若者の無能さを説き、また地味な若者が人殺しなどをした事件が発生すると「まじめな青年の心に潜む暗い影」と大見出しをつけてこの種の人間を罵倒する。
     すなわち、このたびのメンバーにおいて唯一感情移入されにくい存在が僕だ。
     表面上、僕の性格が突然変わったように見えたのはこのような理由があったからだろう。

     だからこそ、僕だけが敵になることができる。

     裏切った後僕はどうなるか。
     もちろん僕がラスボスになることはありえない。そこまでの器ではないからだ。
     ゆえに僕はバトルに負ける。
     もちろん最初は奇襲をかけるのだから僕がいったん優勢になるだろう。しかし、残りのメンバーが一致団結して、最終的には僕という存在を倒すのだ。
     けれども、旅のメンバーは僕を憎まない。
     なぜならば、僕にはポケモンがいないという負い目があるからだ。
     ポケモンがいない苦しみが原因だったと納得する。
     僕が死んだとしても、僕が悪い人間ではなかったのだといって、ヒロインあたりは涙を流すだろう。
     まじめであることが表向きはよいことだと吹き込まれているのもその理由の一つである。
     まじめという性格を全否定することは社会通念上許されない。しかし、まじめである人間はいくらひどい目にあったとしても感情移入されにくい存在なので倒すこと自体は正当化される。
     結果として、僕以外のメンバーの株は上がり、僕は舞台上から姿を消す。

     なぜ僕がそんな戦いを挑まなければならない?
     当然僕は城の主の要請にノーを突きつけるべきだ。

     しかし、マリオネットであるところの僕はそれが許されない。
     葛藤したそぶりをしたのち、美しい女にたぶらかされて、結局は落ちる。そういうシナリオだ。

     そして僕は黒い竜の背中に乗り、飛翔する。

        ◇

    「なぜ僕にはポケモンがいないの?」

     その答えは今や明白だ。僕が裏切る恰好の口実を与えるためだったのだ。
     物語の構成上、無理のないストーリーにするための伏線だったわけだ。

     僕にポケモンがいないことのために得られるとても大きな何かがあって、僕があの場所に立っていたすべての意味が今この瞬間にあって、僕がこの物語に登場するすべての意義が黒い竜とともにこの空の中を飛んでいる。

    「ぼくらはこれからどこへ行くんだろう」だって?
     ぼくが歩むべき道は、ゲームが始まる前から決まり切っていたことだったんだ。

        ◇

     メンバーがいないこの黒の世界の中では、僕は自由だ。
     もしかするとほかのメンバーは、僕がいないことに気が付いて、何らかのイベントが発生しているのかもしれない。
     だからこそ、今の僕はブラックアウトされていて、今だけは自分の好きなことを話して好きなことをすることができる。
     誰にも見られていないこの瞬間だけ。

     このサザンドラも不遇だ。
     悪ドラゴンというタイプから味方の側が使うことはストーリー構成上考えにくく、ゲーム内でもラスボスのもつ切り札として登場する。
     彼が彼としての存在価値を全うするためには、彼は悪役でなくてはならず、そして当然悪役は負けることが運命づけられている。
     今回はラスボスの手持ちですらなく、単なる中ボス扱いである。僕は彼に対して申し訳ない気持ちになった。

    「ごめんね、サザンドラ」
     
     僕は言う。
     風にかき消されそうな小さな声だったけれども、彼はちゃんと答えてくれた。
     彼も知っているのだ。自分の運命を、自分の役割を。

     すべてを飲み込んでしまいそうな黒い闇の下、僕は、この表現が単なる比喩でなく、本当に僕らを飲み込んでくれたらよいのにな、と思った。
     けれども無情にも、もうする夜が明けるだろう。
     旅のメンバーにとっての朝と、僕らにとっての朝はきっと意味が異なる。
     僕にとっての朝は僕という存在の終わりを意味し、彼らにとっての朝は新しいイベントの始まりを意味する。
     彼らはこれからハッピーエンドに向かって邁進していくのだろう。
     そう、僕は知っている。

     どうぞよい結末を。


    --------------------------------------------------

    タイトルは星新一先生のパチリですね。ストーリーは全く似ていません。。。
    主人公が最初から最後まで無駄に現実的なのが逆に非現実的で好みだったりしています。


    【描いてもいいのよ】
    【書いてもいいのよ】
    【批評してよいのよ】


      [No.2656] Grow up! 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2012/10/01(Mon) 23:53:07     124clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「トウコやだ。ベルがいい」
     チェレンの言葉がまっすぐ突き刺さる。トウコが初めて恋を知った相手の言葉はこうだった。
    「トウコ怖いもん。ベルのが優しいから」
     小さい時からずっと三人は一緒だった。優しい女の子のベル、リーダー格のチェレン。トウコがずっと一緒にいるチェレンに惹かれるのは当たり前のことだった。なのにチェレンはそれを何を言ってんだというようにあしらった。理由は、トウコの性格。
    「なんでだよ!ベルも優しいけど私だって優しいじゃん!」
     拒絶され、思わずチェレンを突き飛ばす。尻餅をついたチェレンが、だからだよと小さく言った。


    「あー、ベル?うん……そう……よかったな!」
     何も知らないベルは、トウコによくライブキャスターで連絡してくる。
     ベルはトウコから見ても優しくて気が効く子だ。小さい時からずっと一緒。トウコも女の子というのはこういう子のことを言うと解っている。けれど自分はそんな繊細な性格をしていない。
     少し年上の男の子とも喧嘩して勝ってしまうし、野生のポケモンだって下手したら追い返せる。それなのに、ベルはまわりからかわいがられ、守られて優しく接していた。もちろん、トウコにだって優しい。それゆえトウコの気持ちには気付けない。
     嫉妬まじりの感情を送ってることなんて。
     もし気付いていたなら、連絡して来ない。チェレンと付き合うことにしたとか、チェレンとデートしに行くとか。その話を聞く度にトウコはチェレンに言われた拒絶の言葉が巡った。
    「んじゃ。気をつけろよ。プラズマ団とかもどこにいるかわかんねーし。おう、大丈夫だ、こっちは」
     ライブキャスターを切る。大丈夫なんかじゃない。心が通じなかった相手を、ベルは軽々と触れ合って楽しそうにしている。それを想像しただけでどれだけ平穏な心が保てなくなるか。いつものトウコでいられなくなるか。チェレンもベルも、そんなこと気付かない。むしろトウコなんていなかったかのように二人は振る舞う。
     最悪だ。どうしてこんな嫌われてしまっているのだろう。トウコの心は答えが全く出なかった。



     目の前にいるのはNだ。カノコタウンを出てからというもの、何かと会う。ポケモンにしか興味ないことを言っておきながら、トウコの人間関係をずばり言い当てた。
    「キミとボクは似ている。トモダチはあの子たちではない」
     ポケモンと共に孤高の道を歩むものだと、トウコには聞こえた。Nには絶対に弱いところを見せられないと、威嚇してきたけれど、この時ばかりはNが去ってないというのに泣き崩れてしまった。いきなりの変化にNも驚いてしばらくトウコを見つめていた。
     Nの前で泣いたのは一度だけであるが、いけ好かないという点は全く変わらない。けれど、以前とは違う心がトウコにあった。チェレンに感じた以上の親しみ。チェレンと違ってベルよりもじっと見ている。そして優しくしてくれる。こんなトウコでも受け入れてくれる。
     いつか、Nにこの気持ちを告げなければならない。受け入れられないことがない。Nはきっと、好きでいてくれる。
     ライモンシティで観覧車に誘われ、嬉しい半分、何をしていいか解らない半分。Nと二人きりになった瞬間、トウコはNから視線をそらした。けれどそんなトウコ衝撃を告げて行くのである。Nはまっすぐトウコの目を見て。
    「ボクがプラズマ団の王様だ」
     
     まただ。
     
     なぜ受け入れてもらえない。なぜ人を好きになるという気持ちを一切誰も受け入れてくれない。
     そんなに優しくて守られる女の子がいいと言うのだろうか。ベルのような子になれば、誰からも好かれてこの気持ちも受け入れてくれる人が現れるのだろうか。
     思いきって鏡の前でトウコは話しかけた。鏡の中の自分に、優しくなれ、と。
    「おはようベル。今日もいい天気だね。おはようチェレン。今日もきっと……」
     自分じゃない。鏡の中の自分は偽物だった。人に好かれるために取り繕った中身のない自分。
     今のままでは誰にも好かれなくて、愛されなかったとしても、自分を偽ることの方がよほど辛かった。



     休憩の為に地下鉄の駅のベンチで座っていた。何本かのシングルトレインを見送る。次に乗る列車が指定されているからだ。ミックスオレを飲みながら、ひたすらその電車を待った。
    「シングルトレイン、ご乗車の方は」
     トウコは案内された通りの列車に乗る。
     そこから先はいつもと変わらない光景。ワルビアルがなぎ倒し、残った敵をメブキジカが倒して行く。それでも倒せない時はダイケンキの出番。頼りになる相棒とひたすら前へ前へ進むトウコ。
     ポケモントレーナーなんてみんなこんなもの。ジムリーダーも、四天王も、Nもこんなもの。誰もトウコを止められない。トウコを受け入れない。
    「貴方の実力を讃えて、サブウェイマスターがお待ちです」
     何のことか解らなかった。考え事をしていて、その言葉の意味が解らなかった。どうやら次がシングルトレインの先頭車両のようだ。その先にいるのは、バトルサブウェイを取り仕切るもの。
     けれどそんなのどうせ同じだ。皆変わらない光景しかない。トレーナーなんて皆同じ。ポケモンからの信頼は自信がある。それに勝てる人なんていない。
    「ようこそ、バトルサブウェイへ」
     黒いコートを来た車掌。これが噂のサブウェイマスターなのか。確かにオーラはそこらのトレーナーと違うようではあるが。トウコは何も言わずにモンスターボールを差し出した。
    「つべこべ言わずにやろうぜ。どうせお前もその辺のトレーナーなんだろ?」
    「その辺の、とは随分おおざっぱに分類いたしますね。ではその考えが間違いであることを、証明いたしましょうか。貴方の進路がどちらに進むのか、いざ!」
     ノボリの放ったボールからダストダスが現れる。いつもの調子でワルビアルに地震を命令する。あんなポケモン一発で落ちる。そしたら次は……。
    「ダストダス、ダストシュートです!」
     ダストダスの鎧が砕けた。それからの大量の毒がワルビアルに降り掛かる。相性の問題で、そんなダメージはなかったが、トウコは言葉を失った。ダストダスごときが、ワルビアルの攻撃を耐えられるなど思ってもみなかった。
    「あ、ワ、ル、ビアル、じしん!」
     疲れて動けないダストダスは、あっけなくワルビアルの攻撃で倒れる。次は何が来るのか。トウコは知らず知らずのうちに手を握りしめる。
    「おや、あれだけ挑発しておいて、ようやく実力を理解していただけましたか」
     ノボリは涼しい顔をして次のギギギアルを出して来る。しかも早い。ギギギアルはワルビアルにラスターカノンを、しかも最も柔らかい腹の付近を狙ってやって来た。ぐう、とワルビアルは倒れてしまう。
     強い。ノボリはとても強い。サブウェイマスターと名乗るだけあって強い。このままでは負ける。ポケモンが強いことだけが取り柄なのに、負けたら何も残らなくなってしまう。ただの性格の悪い人間になってしまう。
     負けたくない。まだメブキジカもダイケンキも戦える。元気だ。
    「行けっ、メブキジカ!」
     メブキジカがボールから出るのと同時に、トレイン全体が大きく揺れた。カーブだ。技を命令しなければギギギアルは特殊攻撃でメブキジカを攻撃する。けれどこのカーブで飛び蹴りを命令するのは賭けにも等しい。他に何か手はないか。
     メブキジカが角を振る。春風を受けて桜のいい香りが咲いた角。その匂いがトウコに届く。落ち着け、と言われているようだった。
     トウコは決めた。
    「宿り木のタネ」
     メブキジカの方が速かった。宿り木のタネがギギギアルの歯車の隙間に入り込む。体力を少しずつ奪う。ギギギアル自体は、メブキジカに効果は抜群である技を持っていないはずだ。一撃で倒されることだけは防げる。
     ラスターカノンがメブキジカの胴体を狙う。トウコの命令が一瞬遅く、食らってしまう。勢いに飛ばされ、メブキジカは四本の足で倒れまいと踏ん張った。つるつるのサブウェイの床では止まりにくい。けれどなんとかぶつかる前に止まる。そしてそこから強力な四本の足で跳ねる。
    「飛び蹴り!」
     ギギギアルの接続部を狙う。何度か戦って来た相手だ。メブキジカも要領を心得ている。固い蹄が、ギギギアルを強く蹴り飛ばした。大きな金属が、サブウェイの床にがしゃんと落ちる。ノボリがボールに戻した。
    「急所狙い、ですか。運がよろしいですね」
    「最後の一匹で余裕じゃん?どーすんだよ」
     再びサブウェイ全体が揺れる。カーブに差し掛かっているのだ。それに加え、少し減速している。だとすれば次に来るのは加速。それを計算して命令しないとならない。飛び蹴りは強力だが、外すと自分にダメージが来る。ならばこんな揺れる車内で何度も出すのは危険だ。
    「そうですね、最後でございます。では、行きなさいイワパレス!」
     メブキジカの目の前に現れるイワパレス。助かった。これならメブキジカの方が早く動ける。
    「ウッドホーン!」
    「シザークロスです!」
     桜の香りがする角を振りかざし、メブキジカはイワパレスに一直線。強い角の一撃を、自慢のハサミで受け止めた。そしてそのままノボリの命令通りにメブキジカの角は切り裂かれる。
    「そちらも残りは一匹でございますね」
     この車掌、ただ者ではない。改めてトウコは思った。全てを知り尽くしているような、そんな印象を受ける。もしかしたら手のうちですら知られているのではないだろうか。だとしたら勝てるわけがない。
     けれど解らない。解っていたって、力が強ければ勝てるかもしれない。祈るようにトウコはダイケンキのボールを投げた。
    「ウッドホーンくらって、それなりのダメージは入ってるはずだ。ダイケンキ、確実に仕留めろよ。ハイドロポンプ!」
     トウコは命令してから思い出した。ここは平地ではないこと。急な減速に、ダイケンキはハイドロポンプを打ち損ねる。イワパレスがそこを鋭いハサミで切り裂く。ダイケンキのヒゲが切れそうだった。
    「飛ぶ系の技はやめた方が……でもあの防御からして物理よりも特殊の水が絶対いい。ダイケンキ、ハイドロポンプだ!」
     痛がるダイケンキはもう一度、大量の水流を作り出した。今度こそイワパレスに向けて、イワパレスを撃ち落とせるように。絶対に勝つ為に。大好きなトウコに喜んでもらうために。イワパレスの体が全てダイケンキの水流に飲み込まれる。激しい流れに、ノボリですら近づけない。やっと弱まって来た時、イワパレスはノボリの指示を聞ける状態ではなかった。
    「ブラボー!」
     戦いは終わりを告げた。ノボリがその証にイワパレスをボールに戻していた。
    「見事わたくしに勝利なさいました。これより、あなた様をスーパーシングルトレインに挑戦する権利を差し上げましょう!」
     

     ギアステーションに戻って来た。ノボリから貰ったスーパーシングルトレインへの許可証を見る。なんだか実感が湧かない。あんな強いノボリに勝てたということが。実はこれは幻とかなのでは、と何度もこすったり匂いを嗅いだりしているが、まぎれも無い許可証だ。
    「おや、先ほどの方ですね」
     ノボリに話しかけられる。その声は大人のゆったりとした声で、凄く優しそうだ。
    「いや、その、さっきは悪かった。その辺のトレーナーとかいって」
    「いえ、あなた様ほどの実力者ならばわたくしなどその辺のトレーナーと一緒でしょう。スーパーシングルトレインでもご活躍できるかと思いますよ」
     トウコは不思議だった。負けた相手の実力を素直に認めることが出来るなんて。普通のトレーナーはそんなことせず、負けたら暴言を吐いたり、途中で逃げるようにしてどこかへ行く人をたくさん見て来た。
    「ノボリだっけ。ちょっと聞いていいか?」
    「はい、なんでございましょう」
    「どうしてそんなに強いんだ?」
    「わたくしが、サブウェイマスターであるからですよ。あなた様は十分お強いのに、わたくしを強いと思うのでしょうか?」
    「強いじゃねえか。なんであんなに……」
    「……よければお名前お聞かせ願いますか?」
    「トウコ。カノコタウンから来た」
    「トウコ様、ですね。それでは、スーパーシングルトレインでお待ちしております。わたくしとしては、絶対に来ていただきたいところでございます」
     ノボリは右を差し出して来た。トウコはその手を取る。固くかわされた握手は、ポケモントレーナーとして認めていると言われたようだった。
    「すぐ行ってやるよ!じゃあなノボリ!」
     トウコは走り去る。何を期待していたんだ。チェレンもNも、受け入れなかったじゃないか。なのにまた人を好きになるのか。相手はポケモントレーナーとして受け入れているんだ。そうに違いない。期待なんかするな!


     スーパーシングルトレインに通うため、ギアステーションに来る。前はいなかったものに会う。
     サブウェイマスターノボリだ。トウコが来るのを待っているようで、スーパーシングルトレイン乗り場で待っている。もっと話したいが、目を合わせることも出来ない。
    「お待ちください。顔色が悪く見えますよ」
     ノボリがトウコの手を掴む。その時に目があった。
    「だいじょーぶだよ!それよりそんな敵に探りばかりいれて余裕こいてんと知らねーぞ!」
    「トウコ様の強さは存じております。それより次のトレインをクリアすれば、ですね」
     トウコは無言で乗って行った。これ以上期待させるようなことはして欲しく無かった。受け入れない人間が、優しくするなんて、残酷なことだ。ノボリと交した一言一言が、トウコの心を熱くさせる。
     ノボリが欲しい。背の高い、黒いコートの中に抱かれたい。受け止めて欲しい。今のありのままの自分を。ポケモントレーナーとしての価値しかないなんて言わないで欲しい。女の子として、人間としての価値を認めて欲しい。
     そんなの無理なこと解ってる。そんな魅力がないことなんて解ってる。
     ベルのように優しくもない。大人しくもない。突き進むことでしか生きることが出来なかった。可愛くもない自分をノボリのような大人が受け止めてくれるわけがない。
     ノボリと向かい合えば心が折れてしまいそうになる。急激な変化。止まることを知らない恋心が、トウコを苦しめる。
     ノボリとスーパーシングルトレインの中で会った時、それははっきりと現れた。あの時のように行かない。同じ空間にいるというだけでこんなに苦しいものなのか。
    「トウコ様、この電車を降りたらお話があります」
    「な、なんだよ」
    「まあ、いずれにしてもトウコ様が目的地を決めることでございます」
     もう「トウコ様」と呼んでくれることはないということか。それならば最も強いトレーナーとして記憶させてやる。トウコはポケモンを出した。対するノボリも、モンスターボールを投げた。


     頭の中がスパークしたようだった。ギアステーションのベンチにつくと、倒れ込むようにトウコは座る。
    「勝った。けれど」
     好きな男に勝つなんてどうかしてる。負けず嫌いな性格が、こんなところに災いするなんて。
     勝たなければまた会えたかもしれないのに。何をしているのだろう。ノボリに会えないのは嫌だ。
    「トウコ様、先ほどは素晴らしい戦いでしたね」
     顔をあげた。ノボリが涼しい顔をして立っている。また会えた。思わずトウコの顔が明るくなる。
    「トウコ様、健闘をたたえて、もしこれから予定がなければ付き合っていただきたいところがあるのですが」
    「え、ああ、いいぜ。どこに付き合えばいいんだ?」
    「わたくしが休憩によくいくレストランですよ。安さの割にボリュームがあって、人気の店でございます」
     ノボリについていく。こんなに期待させるなんて酷いやつだ。でも、今はノボリとこうして過ごしていたい。


    「わたくしが出しますので、お好きなものをご注文ください」
     駅員に人気の店だというから、小汚い麺屋を想像していた。けれどここはライモンシティだ。まわりはカップルばかりで、これではデートみたいではないか。ノボリは一体なにを企んでいるのか。こんな魅力のない人間を連れてきて、見せ物にしたいのだろうか。
    「ノボリ」
    「なんでございましょう」
    「何を企んでるんだ。期待させるだけさせといて、何してんだよ」
     トウコはイスから立ち上がる。その音に、まわりの視線が一気に集まった。
    「わたくしは何も企んでおりませんよ。ただトウコ様と」
    「してるだろ!人の心弄んで、さらし者にしてーのかよ!てめえはいいよな、そうやって何人も笑い飛ばしてきたんだろ!?」
    「トウコ様?どうしたのですか?」
    「うるせーよ!男なんてどうせベルみてーなか弱いのがいいんだろ!」
     どうせノボリにも受け入れてもらえない。このままじゃいけないのは解ってるけど、自分を偽って生きるほどトウコは器用ではない。まわりの空気に耐えられず、トウコはノボリに背を向けて出て行った。

    「トウコ様!」
     全力でノボリは追いかける。店から出て数歩のところで、トウコを捕まえることが出来た。
    「何があったのでしょう?あの店の選択がよくなかったのでしょうか?」
    「うるせえんだよ!ノボリなんか、ノボリなんか!」
    「わたくしの何がいけなかったのでしょうか?教えてくださいまし。トウコ様に喜んでもらおうとしているのに、泣かせてはわたくしのプライドに関わります」
     ノボリの胸に抱かれて、トウコは一層声を上げて泣いた。止まらなかった。ノボリがこんなに優しいから。
    「トウコ様、おねがいでございます。わたくしの何が気に入らなかったのでしょう?」
     トウコは答えない。代わりに悲鳴にも聞こえる声で泣き続けるだけだった。


    「チェレンも、Nも、私を受け入れなかったのに、ノボリもそうなんだろ」
     少し落ち着いたところで、トウコは話す。チェレンのこと、Nのこと。夕方のライモンシティは夜へ向けて街灯がちらほらついていた。ゆったりとしたベンチに座って、トウコは絶対にノボリと目を合わせない。
    「それで、トウコ様は受け入れないと思ったのですか?わたくしが?」
    「うるせーよ。どうせ身の程を知れって思ってんだろ。もうギアステーションなんかこねえよ」
     ノボリはトウコの頬に触れた。そして自分の方へと向ける。
    「トウコ様、それは遠回しにわたくしへの告白と受け取っていいのですね」
     顔を背けようとしてもノボリが離さない。だから目をそらして絶対にノボリを見なかった。泣いた後の酷い顔なんて見られたい人間がいるとは思えない。
    「いいのですね。ではわたくしから口説く手間が省けたというものでございます」
    「はぁ!?人の話きいてたのかよ」
    「聞いてましたよ。その人たちがトウコ様に思うのと、わたくしがトウコ様に対する思いは別でございます。一体、その二人がトウコ様を受け入れなかったからなんだというのです?それがわたくしに何の影響があるというのです?わたくしはトウコ様のことを魅力的なトレーナー、そして女性だと思っています。それだけでは、わたくしと付き合っていただけませんか?」
    「バカ、じゃねえの」
     おさまってきた涙が再びあふれる。
    「こんなひでー言葉使いで、守られるほど弱くもねーし、優しくもねーのに、付き合おうとかバカじゃねえの」
    「そうですね。バカかもしれません。恋は盲目と言うでしょう」
    「ノボリは最上級のバカだ。こんな汚いの口説いて、何になるんだよ」
    「今まで耐えて来た思いがあふれてるだけでございましょう。それに今までの男がトウコ様の魅力に気付かなかっただけでしょう。わたくしと付き合っていただけますね」
     トウコの答えを聞くまでもない。トウコの頬を優しくなでて、唇を重ねる。初めてのキスは、涙でよくわからなくて、それでも心はとびきり嬉しくて、夢じゃなかったら何の奇跡が起きたのか。もっと欲しいとねだっても怒られないだろうか。ノボリの袖を強く掴んだ。



    「トウコ様、朝でございます。起きてくださいまし」
     ノボリの家に泊まった朝は、いつもこうだ。夢と現実の境にいたトウコは、ようやく朝の日差しを迎える。
    「んー、ノボリおはよう」
    「おはようございます。もう朝食できていますよ。今日はトーストと目玉焼きでございます」
     シーツに包まりながら、裸のトウコがベッドから起きて来る。
    「トウコ様、あまりに裸でいるともう一回して欲しいと取りますよ」
    「なっ、ノボリの変態!昨日だって2回もしやがって聞いてないぞ!」
    「なぜ事前に何度するかと申告しなければならないのでしょうか。わたくしは、トウコ様を心のままに愛しているだけでございます」
     トウコの額に軽いキスをする。言葉とは裏腹にもっと欲しいと、表情でねだってる。
    「せめて軽いものに着替えてからですよ。シャワー使ってもいいですから」
    「はいはい。じゃあシャワー借りる」
     トウコをバスルームに見送る。
     別人のようだな、とノボリはいつも思う。今みたいに乱暴な言葉で話すくせに、ベッドの中では今までの経験した女性の誰よりも女の子だ。けれどそれがきっとトウコの本当の顔。それを知っているのはノボリだけで、他の誰にも知られたくない。トウコですら気付いていない色気を見せつけられたら、そう思わない男はいない。
    「早く上がってこないと、冷めてしまいますね」
     コーヒーをいれて、テーブルにつく。朝食の前に、もう一度やってしまえばよかったと思うばかりだった。


    ーーーーーーーーーーー
    ノボリ×主人公♀(トウコ)っていうカップリングがあることに私は非常に驚いています。
    共通点ないじゃん
    本編で接点ないじゃん
    それであんなに人気大爆発なのがタブンネには解らないよ。

    書け書けと言われて書いたもの

    人間の魅力は一面から見ただけでは解らないし、素敵だと思う人間は必ずいるんです。
    ちなみにこのトウコのキャラはみーさんの「掴みにいく者」の主人公が公式絵とぴったりだったので  好きにしていいですよっていうから  その、あの、モデルにしました。
    【好きにしていいですよ】


      [No.2655] フィッシング 投稿者:aotoki   投稿日:2012/10/01(Mon) 21:02:20     120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    なんか凄いらしいつりざおをもらったので、釣りをしてみることにした。
    ルアーとかもついていて、確かに見た目は凄いつりざおだった。あの棒切れにヒモとエサがついただけのつりざおからはえらい進化だ。
    ひょいっと川に投げるとたしかな手応え。
    引き上げるとルアーの先にギャラドスがひっついていた。


    正直言ってアズマオウくらいを想像してたので、ぶったまげた。

    そのギャラドスには、初めて釣り上げたコイキング、が進化したギャラドス(LV62)を見せて丁重にお帰りいただいた。
    逃げたギャラドスが上げた飛沫を浴びながら、たしかにこれは凄いつりざおだと一人感心した。

    ****

    その後もあちこちでつりざおを振ったけれど、どんな場所でも強いポケモンばかりが釣り上がって、とても面白かった。最近はあんまり野生のポケモンと戦ってなかったから、釣り上げたポケモンとのバトルは地上とはまた違った手応えがあって、いいトレーニングになった。

    近くの水場に飽きると、ギャラドスに跨がって海に出た。
    でもギャラドスに乗ると上手くつりざおが振るえないということに気づいて、残念だけどギャラドスは留守番にしてラプラスに乗っていくことにした。
    海のポケモンもたしかに強かったけど、川のポケモンとはまた違った強さで戦いがいがあった。ただ、ドククラゲの多さにだけは辟易したけれど。

    不機嫌そうに上がってきたオクタン。ルアーをぐるぐるまきにして遊ぶメノクラゲ。マンタインには釣り上げた瞬間逃げられて、水面を5mくらい引きずられた。キングラーには糸を切られかけ、何故か40LVのコイキングが引っ掛かったこともあった。
    どうしても釣れないとき、気まぐれに海の底を覗いてみるとたくさんのテッポウオが泳いでいたこともあって、ポケモンが引っかかったのにも気づかず水色と銀の鱗の流れを眺めていた。
    ちなみに、引っかかったのはコイキング(LV40)だった。
    もちろん、ギャラドスを出して丁重にお帰りいただいた。

    ****

    しばらくすると海にも飽きてしまった。
    困ったことに、川と海以外の水場には心当たりがなかった。当たり前だけど。仕方がないのでつりざおを下ろして、また元の地上暮らしに戻った。
    草むらを出たり入ったりのつまらない日々。
    そういえば、洞窟があるって話をどこかで聞いたな。
    ゴローニャと山道を歩いていくと、たしかにあちらこちらに小さな洞窟があった。大抵はイシツブテとか弱いポケモンのねぐらだったけど、たまーにサナギラスとかが飛び出してくることもあって、こちらはこちらでそれなりに楽しかった。

    ある日、たまたま見つけた深めの洞窟を探検していると、微かに水のが聞こえてきた。音の方に歩いていくと、ちょっとした広場くらいの地底湖があった。

    家に帰って、すぐさま夜の山道を戻った。
    背中では赤いルアーが揺れている。


    地底湖で一人、つりざおを振った。ピチョン、ピチョンと水滴が落ちる音に耳を澄ませながら浮きを眺めていると、川や海の時とは違った感情が浮かんできた。
    静かな湖につりざおと水と一人。
    つり上がったアズマオウは小さかったけど、とても綺麗な色をしていた。

    ****

    地底湖という水場を見つけて、またつりざおを持ち歩く日々が始まった。
    洞窟に潜るとなるとラプラス、ギャラドスだけではきつい。かといって手持ちを一杯にすると大変だ。仕方がないので水上での釣りは諦めて、ゴローニャとカポエラーとデンリュウの三匹で、地底湖の岸に腰かけることにした。
    あんなに静かな湖は珍しかったらしく、地底での釣りは想像以上に大変だった。
    上からゴルバット達の襲撃を受けながら釣糸を垂らす。当然逃げられる確率も跳ね上がる。
    けれどそれだけ釣り上げたときの喜びも格別で、いつのまにか戦うことの喜びよりも、釣り上げることへの喜びのほうが勝ってきていた。

    そんなこんなで一ヶ月。
    なんとはなしに、これはまずいと思った。

    修行がてら、久々にりゅうのあなに入ることにした。もちろんフルメンバーで。
    数ヶ月ぶりのりゅうのあなは、前にも増して静けさと荘厳さに磨きがかかったようだった。けど社への道を渡りながら、静けさ以外の何かに興奮しているのに気がついた。

    イブキさんに相手してもらいながらも、何故か妙なところに引っ掛かりを感じていて、そのせいか二匹もやられてしまった。
    たしかに強いけれど、今日は少しぬるかったわね。
    そう言い残して、イブキさんはハクリューに跨がって水面を滑っていってしまった。

    やっぱり腕が鈍ってしまったかなと思ったそのとき、気づいてしまった。



    りゅうのあなも大きな湖だ。



    一回だけと自分に言い聞かせて、鏡のような水面につりざおを振った。ポチャン、という心地いい音が洞穴に響いた。
    鏡の面は揺らぐことなく、ぼくの顔を映しつづける。あまりの釣れなさに、本当はエサがついてないんじゃないかと三回もルアーを確かめた。もちろん、エサはついている。
    ポチャン、ポチャンと水面にルアーを落としつづける。
    見事なまでに、何も引っかからなかった。

    次で最後、そう心に決めてつりざおを振った後、どうしてこんなにも釣りにはまってしまったか。それを考えた。

    初めは、強いポケモンが出てきたからだった。
    その次は、川のポケモンに飽きたからだった。
    じゃあ、その次は?

    どうして地底湖なんて、今までなら通りすぎてしまうような場所にまで、つりざおを振る理由を探したんだろう。
    バトルに飽きたからだろうか。いやそれはない。だってここに来たのは――

    ・・・・来たのは?
    そう思ったとき、浮きがボチャッと沈んだ。


    来た、と急いでリールを回す。だいぶ深くまで糸が垂れたらしく、なかなか上がってこない。その割に手応えは軽く、まるでなにもひっついていないようにリールが回る。でも浮きは沈んだ。
    ならば、


    「えいっ」


    勢いよくつりざおを後ろに振るうと、水色の影が頭上を舞った。

    それは、小さな―小さな小さなミニリュウだった。

    ぺちゃ、と呆気ない音を立ててミニリュウは地面に落っこちた。呆然と眺めていると、ミニリュウは頭をふるふると数回振って起き上がり、きっとぼくを睨んだ。
    図鑑が未発見のポケモンとランプを点滅させる。捕まえないと。捕まえないと。

    「・・・・そうこなくちゃ」

    ぼくはボールを手に取る。ずっと一緒に歩いてきたモンスターボール。モンスターボールを投げると、相棒の一匹、バクフーンが飛び出した。
    「ヴァクゥゥゥウウウ!!!」

    それでもミニリュウは怯まない。

    ぼくはまたボールを手に取る。今まであえて空っぽにしていたボール、ガンテツさんに作ってもらったルアーボール。
    「バクフーン!かえんほうしゃ!」

    バクフーンとミニリュウが上げる飛沫を浴びながら、ぼくは考える。


    そうか、この時のためだけに、つりざおを振っていたんだ。


    そしてこうも考える。

    このつりざおは本当にすごいつりざおだ。



                                "Great fishing" is the end!

    [後書き]

    どうしてBWからつりざおは一発ですごいのがもらえるようになったんでしょうね。
    リュウラセンの塔でカイリューを釣ったとき、りゅうのあなで必死にミニリューを粘ったのを思い出しました。


      [No.2654] 【愛を込めて】Promised morning【花束を】 投稿者:NOAH   《URL》   投稿日:2012/10/01(Mon) 13:48:15     116clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    部屋着のまま、夜中にコンビニに出掛けたり
    初めて行ったデートのイタリアンの店に、もう一度行ってみたり
    話のオチを話す前に、思い出し笑いをすぬ彼女の口に
    キスを落として、そのまま彼女の抗議を無視して腕に抱き留めて眠ってしまったり

    俺のノクタスと彼女のキレイハナと共に、小さなアパートの窓際にある
    白い花を咲かせたばかりのクチナシの花に水をあげたり……。
    日々、何気ない日常を、恋人として暮らすうちに、俺はこう思ったわけだ。

    彼女と、ミサと結婚して、家族を作って、そして彼女や子どもや
    ポケモン達に囲まれて、幸せにこの命を終えたいと。



    まだ少し濡れている髪を纏めたまま、ミサはソファの上で胡坐をかき
    クルミル人形を抱いて、お笑い番組を見て笑っている。
    俺もその横で、サザンドラのシルエットが描かれているクッションを
    彼女と同じ体制で抱いて見ていた。
    そのソファの向かい側では、ノクタスが彼女のキレイハナを
    俺たちと同じ体制で抱いてテレビを見ていた。
    あの2匹も、同じ草タイプだからなのか、中睦まじく過ごしている。

    窓際のクチナシの花を見ていると、何時だか友人が教えてくれた
    この花の花言葉を思い出していて、何だか咄嗟に感じた想いを
    突然、彼女に伝えたくなった。

    「ミサ。」
    「なあに?リョウ君。」
    「こんな時に言うのも何だけどさ。」
    「うん。」
    「……結婚、しようか。」
    「…………。」
    「……ミサ?」

    あれ、固まっちゃった……?
    やっぱり突然過ぎたかな……。

    「ミサ、聞いて?突然過ぎたし、本当に、こんな時に言うのも何だし
    今更過ぎるけどさ……俺と、結婚して下さい。」
    「……私と?」
    「うん。俺はミサとがいい。」
    「……私で良ければ、喜んで。」
    「ありがとう……指輪、買いに行かなきゃね。」
    「えー、まだ買ってないのにプロポーズしちゃったの?」
    「だって、たった今決めたもん。」
    「……なら、仕方ないね。」

    幸せそうに笑う彼女を見て、改めて、明日から
    新しい一日が始まるのだと感じた。ノクタスとキレイハナが
    俺たちの側にきて、2匹もおめでとう、とでも言うように鳴いた。

    「あ、いつみんなに報告しようか?」
    「それも明日でいいと思うよ?」
    「そうだね……ねえ、そろそろ寝ようか。」
    「……そうだね。」

    テレビの電源を落として、部屋の明りを消すと
    俺とミサは、すぐ横の部屋で横になった。
    少しして寝息を立てる彼女をそっと抱いて
    暗闇に慣れた目で時計を見れば、2つの針は
    12の数字と重なっていた。

    「……お休み、ミサ。」

    明日は少し冷えるらしいから、温かいスープを作って
    俺よりちょっとだけ寝起きの悪い君を起こしに行くよ。



    目を覚ませばそこには 君がいると約束された
    そんな 幸せの朝を迎えに行こう


    「クチナシ・アカネ科常緑低木。原産地はジョウト〜ホウエン。
    季節は6〜7月。花の色は白。花言葉は『とても嬉しい』『幸運』『幸せを運ぶ』。」

    *あとがき*
    久しぶりに大好きなポルノグラフィティの曲を聞いたらビビッ!と来ました。
    そしてその曲をイメージソングとして起用して、この曲に合いそうな花言葉を探した結果
    クチナシの花になりました。花束を上げると言うより、幸せを与えるという形になりましたね。
    曲の歌詞から少しずつ、自分なりに解釈してアレンジしています

    プロポーズと言うと、サプライズとか色々考えるだろうけど
    私はこんな風に、飾りっ気もムードも何もない、当たり前の日常で
    言われたいと思ってる人間なので、そのイメージを最大限に膨らませて書かせて頂きました。
    結婚に関する話を書きたかったので、私としては満足の行く作品になりました。

    皆さんも、花言葉から何か書いて見て下さい。
    より、ポケモン愛が深まると思いますよ。

    イメージソング
    ポルノグラフィティ:約束の朝


    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評していいのよ】


      [No.2653] 可愛いミーナ 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/09/29(Sat) 00:14:07     135clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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     煙草が切れた。
     ちゃぶ台の向かい側で、安いだけが売りの水みたいな発泡酒(自称「ビールより美味い」らしいけどただの詐欺広告)を飲んでいる友人のジョーに聞くと、煙管かメンソールしかないけどいいかと答えられた。いいわけあるか。
     引き出しの中に、税金が値上がりする前に買いだめしたストックがまだあったかもしれないと思って立ち上がる。そのタイミングで、携帯のバイブが鳴った。
     送り主とメールの中身を見るだけ見て、携帯を閉じてベッドの上に放り投げる。ジョーが勝手に秘蔵の日本酒の栓を開けて、勝手に人の冷凍庫からロックアイスを出して、勝手に飲みながら言った。

    「また女?」
    「先週海でひっかけた奴。別れようってさ」
    「嘘つけ。どうせまたお前、捨てられてもしょうがないくらい冷たくしてたんだろ」
    「まあな。そろそろ飽きてたし」
    「キョーイチ、お前はまたそうやって女を1人泣かせたわけか。全くひどい奴だな。鬼だわ鬼。外道。鬼畜。最低。男としてというより人として引くわ」

     俺はジョーが水のようにぐいぐいとあおる日本酒のグラスを取り上げた。勝手に飲むな。これは俺の地元の酒蔵の一番いい奴だぞ。もらいもんだけど。
     まぁ人としていい奴だし話してて面白い奴ではあるんだが、こいつがいると酒が当社比13倍速くらいで消費される気がする。
     こいつと出会ったのは去年の春先。仲間内で花見をしていたところに、旅の途中この辺りの町でしばらく居座ろうと考えていたこいつが混ざってきた。
     あれから1年ちょい。大事に隠しておいた特級のウィスキーもウォッカもラムもテキーラもワインもシャンパンも焼酎も泡盛も、全部こいつにやられた。去年の夏、仲間内でバーベキューするために夕方買ったビール瓶3ケースが、日が暮れる前にこいつに1滴残らず消費されていたのは今や伝説となっている。

    「何でそんなにとっかえひっかえするかねぇ。男なら惚れた女一筋で生きていけってもんだろ」
    「酒と手持ちのポケモンが嫁って豪語してたお前に言われても説得力ないわー」
    「うるせぇそれとこれとは話が別だ」
    「何でわざわざひとりに絞って自分から縛られるような真似しなきゃならねぇんだよ、めんどくせぇ」
    「おいお前、キョーイチ、ちょっとそこに直れ」

     ジョーがちゃぶ台をばんばんと叩いた。シカトしようと思ったけどしつこく叩いてくるからしぶしぶ座った。こいつが騒がしくしてアパートの下とか隣の住人ににらまれたら生活しづらい。

    「何だよ」
    「お前だってよ、昔は夢見てたんじゃねーのか? 美人でかわいくて優しくて気立てが良くて料理が美味くて家事が得意で子供とポケモンが好きで嫉妬しなくて懐が広くてでもちょっとだけ頑固で美人でかわいい女(ひと)と幸せな結婚してさぁ、毎日仕事して帰ったら嫁さんがキッスで迎えてくれて、あなた毎日毎日お仕事お疲れ様お風呂にするご飯にする今日はちょっと頑張ってみたのあなたの好きなハンバーグよお風呂入るなら背中も流してあげるわ、とか言ってくれてさぁ、それで時々は些細なことで喧嘩して3日間くらい口もきかないけどまた些細なことで仲直りしてさぁ、でもっていずれリタイアしてからは今度はこっちから、ようやく時間に余裕も出来たし子供もひとり立ちしたしこれからは2人で目いっぱい時間を使えるなとりあえず手始めに海外へ旅行でも行こうかお前前からイッシュに行きたいって言ってたもんなそうだな思い切って船で世界一周にでも行こうか大丈夫だよこれまで一生懸命働いてきたから蓄えはあるし、とか言ってさぁ、それで今際の淵では大泣きする嫁さんに向かって、こらこら泣くんじゃないよお前は笑ってる顔が一番きれいなんだから俺が今までの人生何のために頑張ってきたと思ってるんだただお前の笑顔のためだけだぜ最期くらい最高の笑顔で見送ってくれよそうすれば俺はあの世に行っても最高に幸せだからさ、とか言ってさ、それで2人笑顔で大往生、とか考えてただろ」
    「お前……よくそんな立て板に水を流すようにさらさらとこっぱずかしいセリフが出てくるな」
    「ともかく、お前だってそんなピュアでイノセントな時期があったろ」
    「何10年前の話だよ。ってか、そんなピュアでイノセントとか軽く超越した脳内お花畑な思考、今更小学生でも抱かんわ」
    「そうかなぁ」
    「そうだよ」
    「そうかなぁ……」

     ジョーは空になった発泡酒の缶をちゃぶ台の上で転がしつつ、しつこくぶつぶつと呟いていた。……いい奴なんだが、いやまあいい奴なんだが。ちょっと面倒くさい時はある。いやしょっちゅうある。

    「いいんだよ。俺も相手もどうせ遊びなんだし」

     煙草買ってくるわ、と俺はコンビニへ向かった。四合瓶で8000円の特撰純米大吟醸は奴への生贄に捧げるしかないようだ。



    +++可愛いミーナ+++



     まだ夏も始まったばかりだが、海岸はいつ行っても祭りのような様相を呈している。
     灼けた砂の上をぴょんぴょん飛び跳ねるように走っていく浮き輪の少女。1つの氷イチゴを2人でつつき合うカップル。大きなパラソルの下でポケモンバトルを始める少年たち。海の家に隣接する畳の休憩所で熟睡する父親と、その腕を引っ張る娘。
     俺は海の家で瓶入りのコーラを買い、適当な日陰に入る。じりじりと暑い陽射しに炭酸が滲みる。ビールも悪くないが、昼間っから酒を飲むのは好きじゃない。どこぞのアルコール処理機じゃあるまいし。

     さて、誰かいないものか。俺は浜辺の全体へ目を走らせる。
     この時期海辺に来ている女ってのは、結構な確率で男に拾われに来ている奴だと思って問題ないと俺は思っている。でなけりゃ、誰が好き好んで、日焼け止めを塗りたくった上で海にも入らないのに露出度の高い服を着て、そのお世辞にも豊かとはいえないボディラインをわざわざ男に見せつけるように浜辺に寝そべったりするもんか。
     大体、最近の女は痩せすぎなんだ。どいつもこいつも骨と皮ばっかりの骸骨みたいな身体しやがって。その状態で「やだ―太っちゃったー」とか言われてもこっちとしては「はぁ?」としか言いようがないわ。お前らもっと脂肪つけろ。痛いんだよ抱いたときに。

     ……まあ、俺の好みの話はどうでもいい。とりあえず今は、今日1日だけでも暇をつぶせる相手を探そう。
     明らかに射程圏外なガキやババアはどうでもいい。わざわざ人の彼女に手を出すような面倒な趣味も俺はない。
     上着のポケットから煙草を1本取り出し、火をつける。暇そうな女は……と。

     うぇ、何だこの味気持ち悪ぃ。パッケージを見返すと、ジョーがよく吸ってるウルトラメンソールだった。あんにゃろう、俺がメンソール嫌いなの知っててこっそり仕込みやがったな。今度会ったらぶっ殺す。
     さっさと火を消して、いつもの黒い箱に金色の文字がおどる箱に替える。あんにゃろう格好つけて煙管とか吸ってんだったらもうそっちだけ吸ってろ。くそが。

     ゆっくり煙を吸って、ささくれ立った心を落ち着かせる。落ち着け俺。
     舌の付け根にまだメンソールの味が残っている。気持ち悪い吐きそうだ。
     時代錯誤甚だしく煙管なんぞ吸っている割に、紙巻き煙草だとなぜかメンソールのきっつい奴しか吸わない親友の顔が思い出される。そういやまたあいつに高い酒やられたんだったな。この煙草買いにコンビニに行ってる間に案の定飲みつくしやがって。追加で買ってきたビールも飲みつくしやがって。どこに入っていってるんだその水分とアルコール。
     いやまぁ、うん、いい奴なんだけど、でも何だかなぁ、よくわからん。ロマンチストというか……夢見がち?
     何だっけ、理想の恋人? 馬鹿馬鹿しい。そんな幻想とっくの昔に捨てたわ。

     ちょうど1本目を吸い終わった頃、俺の目に1人の女が映った。
     ボブカットの髪の毛に、ふんわりとしたワンピース。白いサンダル。派手な格好ではないけれど、顔はとてもかわいい。ぱっちりとした黒目がちの目に、すっと伸びた鼻筋。ぷっくりとした唇。ほんのり小麦色の肌。その辺にいる他の病的な細さの女と比べるまでもない肉付き。完全に俺のタイプだ。
     その女は1人で、砂浜をあてどなく歩いていた。海風にスカートがはためく。連れがいる様子もないし、散歩でもしているのか。
     目が合った。こっちをじっと見つめてくる。俺はすたすたと歩み寄った。

    「今、暇?」

     俺が尋ねると、女はこくりとうなずいた。少し話でもしないか、と聞くと、またすぐにうなずいた。何だこいつ。他の女は大抵、断るか無駄に焦らすかしてきたのに。警戒心がないのか。詐欺とかキャッチセールスにすぐ引っかかるんじゃないのか? どうでもいい心配をしてしまう。
     陽射しが強いから、パラソル付きの休憩場所に移動しようか、と提案すると、女はやっぱりあっさりと賛成した。
     日陰で座ってひと息つくと、女は少し恥ずかしそうに笑って言った。

    「実は、初めて見た時からカッコいい人だな、って思ってたんです」

     ……詐欺にあってるのは俺の方なのか?
     わずかばかり警戒心を抱きつつ、何か飲むかと聞いた。女は少し迷って答えた。

    「コーラにしようかな」

     あ、趣味が合った。

     海の家で瓶入りのコーラを買って女に渡した。女は喜んで受け取る。笑顔がかわいい。
     そう言えば、名前。名前聞いてなかった。

    「俺はキョーイチ。君の名前は?」

     俺が尋ねると、女はとてもかわいらしい笑顔を俺に向けて言った。

    「ミーナ。ミーナよ」


     しばらく海岸でミーナと話をした。ミーナはとてもよくしゃべり、よく聞いて、よく笑った。
     好きなもの。嫌いなもの。ミーナとはびっくりするほどよく趣味が合った。


    「ミーナはどうして海に来たんだ?」
    「うーん、退屈だったからかな」
    「退屈?」
    「誰もいなかったから。寂しかったの」

     ミーナはそう言って海を見つめた。
     ふわりと潮風がミーナの髪を揺らす。ほんの少し、ミーナの眉尻が下がった。海を映したようにゆらゆら揺れる瞳の中に、確かな「寂しさ」が見て取れた。

    「じゃあ、俺と付き合わない?」

     俺がそう言うと、ミーナはびっくりしたような顔をして、こっちを見つめた。

    「どうして?」
    「俺も退屈だから」

     何それ、とミーナは呆れたように笑ったが、「いいよ」と答えた。

    「夏の間くらい、一緒にいられる人がいるっていうのも、確かにいいかもしれないわね」

     そう言って、ミーナはまた笑った。


    +++


     次の日も、海岸へ行くとミーナが待っていた。
     どこか行こうか、と言うと、街をぶらぶらしたいな、と返してきた。

     平日の昼間だからか、人通りもまばらな商店街。
     数人の女子集団が、店先に置かれている夏服を手にきゃっきゃと声を上げている。やめとけ、今お前が持ってる蛍光イエローの鞄にショッキングピンクのタンクトップは目が痛いぞ正直。

     ミーナを見ると、どうも落ち着きがない。傍らの店にちらちらと目線を送っている。
     やや小奇麗な山小屋といった外見。どうやら、シルバーアクセサリーをメインに取り扱っている店のようだ。ミーナは初めて会った時からあまり着飾っていなかったが、やはり女の子なのでアクセサリーの類は気になるらしい。
     何だ、見たいんなら遠慮せず言えばいいのに、と俺は言った。ミーナはぽっと頬を染めて、照れたように笑った。

     店に入ると、ミーナは一目散に店の奥の方へ駆けていった。楽しそうにしているので、俺はひとりで店内を物色した。髑髏のついたごつい指輪。天然石のぶら下がったピアス。皮で編まれたブレスレット。男物も女物もごちゃごちゃに置いてある。
     こちらなどお客様にお似合いですよ、と店員がごつい鎖で十字架にハブネークが絡みついたトップの、重そうなペンダントを薦めてきた。細工も細かいしデザインも嫌いじゃないが、値段を見てげんなりした。5桁はないわ。俺はいいんで、と言うと、店員はやや不満そうな顔でレジに戻った。

     ミーナは何を見ているんだろうか、と思ってそばに行くと、ガラスケースの中のピアスとにらめっこしていた。
     そういえば、ミーナはピアス穴開けてたっけ。いつも透明な樹脂のピアス止めをつけてるけど。

    「気にいった奴でもあったのか?」

     俺が尋ねると、ミーナは1700円と書かれた棚の中のひとつを指差した。
     フックの先に燻した銀の薔薇の花が2、3個ぶら下がっている。女がつけるにはちょっとごつい気がするが、男がつけるには少々派手だ。ユニセックスと言うより、中途半端なデザインと言った方がしっくりくる。
     しかしミーナはこれが気にいったようだ。買ってやろうか、というと、ミーナはぱあっと顔を輝かせて俺に抱きついてきた。
     レジの奥に引っ込んでいた店員を呼んだ。店員はガラスケースを開けながら言った。

    「こちらですか? そうですねぇ、こちら、男性でも気軽につけられるデザインですよね」
    「いや、俺のじゃないんだけど」
    「あっ、贈り物でしたか? 彼女さんですか? ラッピング、210円ですがいかがですか?」
    「いいよそのままで。つけて帰るから」

     俺がそういうと、店員は首をひねりながらレジへ向かった。


    「……ど、どうかな?」

     店の外で、ミーナが少しおどおどしながら聞いてきた。
     両耳にはさっき買った薔薇のピアスがさがっている。

    「うん、まあ、思ったよりごつくないな」
    「えへへ、そうかな?」
    「うんうん、似合ってる似合ってる」

     何か適当に答えてない? とミーナは少し頬を膨らませた。
     でも実際、思ったより似合っていた。ミーナの何となくふわふわした印象といぶし銀の薔薇は合わないんじゃないかと思ってたけど、意外とそうでもなかった。むしろ重たさがアクセントになっている。

    「次、どこ行く?」

     俺がそう尋ねると、ミーナはえっと、と言ったきり少し口をつぐんで、俯いて両手をもじもじとさせた。
     長い沈黙に、ポケットの中の煙草を取り出すか否か迷い始めた頃、ミーナが顔を真っ赤にして、小さな声で言った。

    「……キョーイチの家、行きたいな……って」

     俺はちょっと呆気にとられた。
     いや、まあ、別にあれだけど、会ったの昨日の今日だし、見た目どっちかというと清純系だし……。

    「思ったより積極的なんだな」
    「……〜っもー! いいよっ! 忘れてっ!」

     ミーナはそのまま口や耳からかえんほうしゃが出るんじゃないかってくらい顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。
     俺はやれやれ、と笑って、ミーナの腕をひいた。

    「いいじゃん。来なよ」
    「…………」
    「来ないのか?」
    「……行く」

     ミーナはそう言うと、顔を隠すように俺の腕にしがみついてきた。二の腕に当たるミーナの頬が熱かった。


    +++


     夜中に目を覚ますと、ベッドの上に1人だった。
     鞄も脱ぎ散らかした服もない。俺が寝てる間に帰ったのか? と、寝ぼけた頭をぼりぼり掻く。

     黒字に金色の文字が書かれた箱から煙草を1本取り出して、火をつける。
     煙を灰に吸いこみながら、働かない頭をぼんやりと動かして、身体の相性よかったなあ、と心の中で呟いた。
     暗い部屋に白い煙が漂う。気だるさに水でも飲むか、とベッドから起き上がろうとした。

     ちくり、と右手の人差指に何かが刺さった。
     いぶし銀の薔薇のピアスのフックだった。じわりと赤い痕が白いシーツに広がる。

     あれ、ミーナの奴、忘れていったのか?
     しょうがないなあ、と言いつつ、俺はピアスをズボンのポケットに入れた。



     次の日海に行くと、ミーナが待っていた。

    「昨日勝手に帰っちゃってごめんね」
    「いや別に。……あ、そうだ」

     ピアスを渡そうとポケットに手を入れた。
     しかし、ポケットの中は空だった。

     どうしたの? とミーナが首をかしげながら聞いてきた。
     その両耳には、いぶし銀の薔薇のピアスがさがっていた。


    +++


     お盆の時期は海岸にメノクラゲとかその辺りが大量発生するから海には行きたくないよな、と俺は言った。
     そうだよね、とミーナは答えた。
     しかし暑い。今年は特に暑い。このままじゃ陸に打ち上げられたコイキングになりそうだな、と俺は言った。
     本当だよね、とミーナは答えた。

     プールでも行くか? と俺は聞いた。
     行く、とミーナはすぐに答えた。


     行ってみたけど、水の中は人でごった返していた。
     あれじゃあ水の中を泳ぐというより、人の間を水が流れていると言った方が近い。
     プールサイドにいくつか刺してあるパラソルの影の下に座って、売店で買ってきたかき氷を2人でつつく。

    「やっぱり人多いねえ」
    「休みだもんな」
    「なあ、そこの兄ちゃん、ポケモン持ってるだろ?」

     2人でのんびりとしていると、海パンをはいた小学生くらいのガキンチョが、いきなり声をかけてきた。

    「ん? ああ、まあな」
    「じゃあ勝負しようぜ! シングルの2対2でどうだ!」
    「……まあ、別にいいけど」

     やれやれ。このくらいの年頃のガキンチョってのは、こっちの都合もろくに聞かず、相手がどんな奴かもあまり考えずにバトルを仕掛けてくる。ポケモンバトルを始めて間もない奴らが多いから、しょうがないか。
     プールサイドに備え付けられているバトル用の広場へ向かう。俺はベルトからボールを2つ選んだ。頑張って、とミーナが笑顔で手を振ってきた。

    「よーし、行くぞっ! マグマッグ!」
    「行ってこい、チャコ」

     俺が最初に選んだのは、頭に大きな葉っぱを生やした小さな怪獣、もといチコリータのチャコ。
     相手は相手は溶岩のなめくじ。よりによって炎天下のプールサイドで。クソ暑い。ふざけんな。

    「マグマッグ、ひのこだ!」
    「チャコ、はっぱカッター」

     小さな炎が、チャコの放った葉っぱに引火して、本体に当たる前に灰になって地面に落ちる。
     はぁ? マジ? とガキンチョが驚愕の声を上げる。うん、相手が悪かったな。

    「坊主、いいこと教えてやるよ。兄ちゃんはこれでも結構強いぜ」
    「う、うるせぇ! おれは負けねぇんだっ! マグマッグ、ふんえん!」

     ぶわっと周囲に炎と熱い煙が散らばる。熱い。熱いというか暑い。めちゃくちゃ暑い。思わず咥えていた煙草のフィルターを噛みつぶした。やべぇマジイライラする。
     チャコの葉っぱに小さな炎がついていた。必死で振り払って消したが、少しやけどしたようだ。
     相手を睨みつけ、鋭い鳴き声を上げる。ああなるほど、チャコも相当イラついてるってわけか。上等上等。

    「チャコ、からげんき」

     その葉っぱのやけどの分も込みだ。遠慮せずやっちまえ。
     チャコは首から伸ばしたつるで思いっきり相手を打ちすえる。あまりの猛攻に、相手は恐れおののいて戦意を喪失したようだ。

    「ううっ……行けっ! クヌギダマ!」
    「戻れチャコ。行ってこい、エリー」

     俺は黄色いふわふわモコモコの体毛を持った羊、メリープを繰り出した。
     相手は硬い殻を纏った木の実みたいな虫。相性はそんなにいいわけでもない、か。

    「エリー、とっしん」
    「クヌギダマ! てっぺき!」

     走って勢いをつけてエリーの頭がクヌギダマの身体にぶつかる。ごつっ、と鈍い音がした。エリーが少し涙目になって数歩下がる。
     なるほど、なかなか防御力はあるみたいだな。よく育ってる。

    「クヌギダマ、こうそくスピン!」
    「エリー、わたほうし」

     クヌギダマが超高速で回転しながらエリーにぶつかってくる。細かい綿くずがバトルフィールド周辺に舞い散る。
     俺は咥えていた煙草を携帯灰皿に押し付けた。

    「エリー、もっとだ」

     エリーの体毛が電気を含んでふわりと膨らむ。クヌギダマがまたぶつかってきて綿くずが散らばる。
     視界が少し白くぼやけてくる程度の綿の量。ふむ、こんなもんか。

    「坊主、お前結構センスあるよ。このままエリーを覆う綿を削って、適当に防御削ったところでだいばくはつ……って流れだろ? いいと思うぜ。でもまだまだ足りねーな」
    「は?」
    「経験だよ経験。大人になって考えつくことってのもあるってこった。ま、今回は学校じゃ教えてくれない課外授業だと思っとけよ」

     学校じゃあ型にはまったバトルしか教えてくれねぇからな。
     だがまあ、世の中そう一筋縄ではいかないんだよな。ゲームか何かじゃあるまいし。

    「ま、たまには、爆発される側ってのも経験しとけってこった」

     えっ、とガキンチョが目を丸くする。

    「ほうでん」

     空気中を漂う無数の繊維。
     放電で発生した火花。

     結果、爆発。


    「……はい、ジュリア。おつかれさん」

     俺は傍らに控えていたキルリアの頭をなでた。ぱちん、と音を立てて、バトルフィールドを覆っていたリフレクターの壁が解除される。
     若干煤で黒くなったフィールドに転がっているのは、これまた若干黒くなって目をまわしているクヌギダマと、少し汚れたクリーム色の綿の塊。
     塊の中からエリーがぴょこんと顔と手足としっぽを出す。

    「に、兄ちゃんむちゃくちゃだよ……」
    「経験だと思っとけ。世の中そうそう良心的なトレーナーばっかじゃねぇぞ。……ま、大人げなかったとは思うからよ。回復が終わったらこれで手持ちの連中にアイスでも買ってやれ」

     俺はポケットから財布を取り出して、金色の硬貨を1枚ガキンチョに渡した。
     おれが負けたのに、とガキンチョは言ってきたが、ガキンチョから金をむしる気はさらさらねーしただの野良バトルに賞金も何もねーよ、と返して追い払った。

     ふう、と息をついてミーナの隣に座り、ポケットから煙草を1本取り出して火をつけた。
     ミーナはお疲れ様、と言ってタオルを渡してきた。

    「バトル強いんだね。ちょっと驚いちゃった。思ってたよりもすごく大胆な攻撃するし」
    「あー、まあ、知り合いにガサツだけど超強い奴がいてな……そいつの影響がな……」

     めちゃくちゃ強いけど、豪快すぎる上に博打うちのどうしようもないあいつ。バトル場でも煙管をふかしながら日本酒の一升瓶を小脇に抱えているあの馬鹿。飲酒バトルの違反で捕まるんじゃないかとずっと思っているけど、今のところ無事なようだ。
     エリーの粉塵爆発も、元はと言えばあいつのエルフーンが使ってた方法だ。散々わたほうしでフィールドに糸屑をばらまいたかと思うと、かえんだまを投げつけてくる。笑顔で。いたずらごころの特性もあるのかもしれないが相当腹黒い。しかもあいつは俺と違ってリフレクターとかその辺の技を使える奴がいないから、トレーナーが危ない。特に室内では。どうも警察の目は節穴のようだ。あらゆる方面で。
     ……まあいろいろ問題はあるけど、何だかんだでバトルは馬鹿みたいに強いから、俺もいろいろ教えてもらったりしたけど。

    「それに、何て言うか……意外と、可愛いポケモン使うんだね」
    「い、いいじゃねーか。趣味だよ。悪いか」
    「ごめんごめん、馬鹿にしたつもりはないの。ちょっと意外だなーって思っただけで。ね、他の子は?」

     そうだな、と言いながら、俺はベルトからボールを外した。

    「キルリアのジュリア。メリープのエリー。ポニータのジョニー。チコリータのチャコ。ヒヤッキーのヒロシ」
    「何かヒヤッキーだけ方向性が違わない?」
    「しょうがねぇだろ勝手につけられたんだよ名前。それから……」
    「ねえねえ、そこのお兄さんっ!」

     突然、妙にハイテンションな甲高い声が突き刺さってきた。
     顔を上げると、水着を着た女の子が3人、俺たちを取り囲んでいた。

    「お兄さん、バトル強いねーっ! ねえ、よかったら私たちと遊ばない?」
    「は?」

     何だこいつら。
     まあ確かに、俺1人だったら遊んでたと思う。でも今はどこからどう見ても明らかに連れがいる状況じゃねぇか。いくら夏のプールで頭のネジが外れてるって言ってもマナー違反だろ。

    「俺、連れいるし」
    「連れぇ〜?」

     俺は隣に座るミーナを指差した。女子どもは俺の指先を目で追いかけて、また俺の方を向いた。

    「……ねえ、私たちと遊んだ方が絶対楽しいよ〜? ねー、ほらぁ……」
    「いい加減にしてっ!!」

     ミーナが突然、立ち上がって大声で怒鳴った。

    「いくら何でもひどいじゃない! そりゃ、私はそんなに魅力もないかもしれないけど、キョーイチは今私と遊んでくれてるの! 今は私のものなの!!」
    「ミーナ、いいから! わかったって!」

     俺は慌ててミーナを止めた。
     女子連中は俺たちに軽蔑するような視線を送り、「何アイツ」「意味わかんない、気持ち悪い」などと口々に言いながら去っていった。

    「ミーナ……」
    「ご……ごめん、キョーイチ。私……」
    「……い、いや、いいんだ。何つーか……すっげー、嬉しいかも」

     いつもにこにこと穏やかなミーナが、感情をむき出しにして怒っている。しかも、俺のために。
     それが妙に恥ずかしくて、こそばゆくて、嬉しかった。

     ミーナが俺の手に手を重ねてきた。
     赤く染まった頬。上目遣いの視線。眉上で切りそろえられた髪の毛を払うと、くすぐったそうに眼を細めた。
     傾きかけた太陽が伸ばした2人の影が、そっと重なった。


    +++


    「アスベスト、なげつける!」
    「わー待てっ!! まだリフレクター貼ってねぇ!! ってかお前も対策なしにその技使うんじゃねぇよ馬鹿!!」

     綿毛を背負った羊が綿の中からかえんだまを取り出そうとするのを慌てて止めた。冗談じゃない。爆発に巻き込まれるのなんてまっぴらごめんだ。
     ジョーはアスベストというどことなく物騒な名前のエルフーンをボールに戻した。粉塵爆発は起こすわ、ぼうふうで柵やら街灯やらをなぎ倒すわ、部屋の中だろうがどこだろうが気がついたら人の背中に勝手に張り付いてるわ、服(特にニット)に絡みついてなかなか取れない繊維を残していくわ、いろいろと前科の多いポケモンだ。何よりそれら全てを笑顔でやってくるのが怖い。行動が大胆というか大雑把なのは飼い主のせいだろうが、こいつ自身の性格も相当悪い。多分。

    「ふー。久々に手合わせしたけど、お前ちょっと腕がなまってんじゃねえか? キョーイチ」
    「あー、夏入ってから、最近プール行った時に絡んできたガキンチョとしかバトルしてねぇからなぁ……」

     公園のベンチに座って、煙草に火をつける。ジョーは今日は煙管のようだ。
     せめてよく着てる作務衣とか着流しとか謎の派手な着物とかならまだ絵になっただろうに。何で今日に限ってお前はあずきジャージなんだ。深夜の公園でだるそうに座って時代錯誤な煙管をふかしている上下あずき色のジャージの男なんて、いろいろちぐはぐ過ぎて人が通りかかったら確実に二度見されると思う。ちなみに俺はもう慣れた。
     煙を吸い込み、大きく息をつく。

    「ジョー、お前さ、普通に強いんだからもうちょっと考えて技出せねぇの?」
    「えー、考えてるだろ。組み合わせとか、作戦とか」
    「そうじゃなくってさ。例えばぼうふうにしてももうちょっと照準を合わせて当てるとか、爆発するならトレーナーその他周囲に被害がないように配慮するとかさ、お前免許取る時に習うとこだろそこは」
    「悪かったなノーコンで」
    「お前マジでいつか捕まるぞ。安全対策不足か器物損壊か飲酒バトルで」

     へいへい、とジョーはやる気のなさそうな返事をした。
     煙管煙草独特のふわりとした芳醇なにおいがする。ジョーはふと俺のベルトにつけているボールに目を落とした。

    「おいキョーイチ、このボール、ヒビ入ってるじゃねーか」
    「え? うわ、マジだ。あれー? いつやっちまったかなぁ? 最近バトルしてねーから思い出せねぇ……」
    「早いとこポケセンかショップ行って直してもらった方がいいぜ。昔、知り合いがひび入ったボールそのままにしてたら、いきなりボールが割れてカビゴンが出てきて、危うく圧死するとこだったって言ってたし」
    「そりゃこえーな。気が向いたら直しとくわ」

     星空に向けて煙を吐き出す。ちかちかとした瞬きが少ない、澄んだ空だ。
     ジョーも空を見上げながら、もう秋の空だなぁ、とつぶやいた。

    「俺、秋になったらまた旅に出ようと思うんだ」

     唐突に、ジョーがそう言った。
     元々こいつは、ポケモンを育てながらあてもない旅をしていたらしい。去年の春この町に来て、1年とちょっと、この町を拠点に周辺をうろうろしていたようだ。町にいる間は、バイトか何かで金を稼いだり、酒を飲んだり、バトルを指導したり、酒を飲んだり、俺や友人と遊んだり、酒を飲んだり、酒を飲んだりしていたようだ。

    「へぇ、今度はどこに行くんだ?」
    「まだ決めてねぇけど、もっと北の方へ行こうかなと思ってる」
    「北ねぇ。これから冬に向かうってのにご苦労なこって」
    「ばーか、冬だから北に行くんだよ。わかってねぇなぁ」

     そう言ってジョーは煙管の上下を返し、ふっと吹いて灰を落とした。
     丸めた煙草葉を雁首に詰め、また一服ふかして、ジョーが言った。

    「そういやキョーイチ、お前、彼女とはどうなんだ?」
    「あれ……お前に話したっけ?」
    「いいや? でも最近飲みにも誘わねーし、彼女いるんじゃねえの?」
    「まあ、いるけど……」

     ミーナと出会って1カ月と少し。お互い遊びと割り切ってはいるはずだが、意外と長く続いているもんだ。
     ジョーはベンチの背もたれに肘をついて、俺の顔をじっと見ていた。

    「……何だよ気色悪いな」
    「いいや、何て言うか……。……いや、やっぱりいいや」
    「何だよ。気になるじゃねぇか」
    「いや。何か、お前幸せそうだなぁと思って」
    「……そうか?」

     幸せ、ねえ。
     まあ確かに、不幸せではないと思うけど。

     しかし何だろう。何かこう、のどの奥の方に何かがつっかえてるような、胸やけを起こしているような、魚の骨が引っ掛かってるような、何とも言えない違和感は。


    +++


    「もうすぐ、夏も終わるね」

     ミーナが窓を開けると、湿った外の空気と、真っ赤な夕日の影が部屋に入ってきた。吹き込んできた外気で、ミーナの短い髪がふわりと揺れる。

    「秋になったら、お月見でもしようか。夏の間はいっぱい海に行ったから、山もいいかもね。イチョウとかカエデとか、綺麗に染まってて……」

     楽しそうに笑いながら、ミーナが俺のそばにぴったりと寄り添う。
     頬と頬が触れる。ミーナの肌は冷たい。
     目をやると、窓から差し込んできた夕日を背負うミーナは、姿も表情も影色に塗りつぶされている。目だけが唯一、煌々と輝いて見えた。

    「ミーナ」
    「ん? どうしたの?」

     ミーナが小首をかしげる。
     俺は口を開いた。言葉が出ない。夕日がすっかり建物の影に隠れてしまうほど、長い沈黙が2人を包んだ。

     何とも表現しがたい不安。違和感。気持ち悪さ。
     不快な感情が胸を満たす。


    「別れよう」


     不意に、そんな言葉が口をついて出た。


     ミーナはぽかんとした顔で俺を見た。

    「……どうして?」

     ミーナは今にも泣きそうな声で、そう聞いてきた。
     俺は口を開いた。胸の中のわだかまりが、自然と言葉を作っていくようだった。

    「飽きた、から」

     再び長い沈黙が、俺とミーナを包んだ。
     押し寄せてきた大きな波が、波打ち際で砕けて消えるように、俺の心の中のありとあらゆる感情が押し流されて消えていく。


    「……そっ、か。わかった」

     沈黙を破ったのは、ミーナの明るい声だった。
     俺はびっくりして顔を上げた。ミーナは笑顔で、でも目元は涙で濡らして、俺を見ていた。

    「うん。そうだね。元々、お互い遊びだったもんね」
    「……」
    「わかった。夏ももう終わりだもん。ひと夏の想い出、充分だよ」
    「ミーナ」
    「でも、いつかキョーイチがまた恋をしたら、世界中の誰より幸せになってくれないと許さないからね」

     ミーナはそっと俺の手を握った。
     耳から下がった薔薇の花がきらりと光っていた。

    「楽しかったよ、キョーイチ。さよなら」



     部屋の中は真っ白だった。
     窓の外はモノクロだった。

     幸せだった。夏の間、俺は幸せだった。
     切なくて、不安で、不気味なくらい、俺は幸せだったんだ。

     そうだ。元から、どうせ遊びの関係だったんだ。
     お互い相手がいなくて、隣が開いているからとりあえずそれを埋めただけ。
     それ以上の関係になりうるわけがない。


     ああ、そういえば。
     自分から別れを告げるのって、これが初めてだ。


     開けっぱなしの窓から、音楽が聴こえてきた。
     初めてミーナとこの部屋で一晩過ごした時、つけていたラジオで流れていた曲。
     古い西部劇の主題歌。静かに響くアコースティックギター。哀愁漂う女性の歌声。

     温かい手のひら。
     花の香りがする髪の毛。
     くるくると表情を変える潤んだ瞳。
     薔薇の花弁のような唇が紡ぐ言葉を、唇で塞いで止めたあの夜。



    「ミーナ」


     ミーナ。
     ミーナ。
     ミーナ。ミーナ。ミーナ。

     ミーナ。ミーナ。ミーナ。ミーナ。ミーナ。
     ミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナミーナ……ミーナ!



    「ミーナ! ミーナ!!」



     錆ついた空。

     枯れて頭を垂れた向日葵。

     頬を濡らすのは雨粒。



    「やっぱりお前のことが好きなんだ!! ミーナ!!!」


     俺は馬鹿だ。
     ほんの一時の気まぐれで、別れよう、だなんて。
     確かに最初は遊びだった。

     でも、いつの間にか、本気で好きになっていた。


     モノクロの街を走る。

     雨が奏でる女性の歌声。

     頭に響く波の音。


     突然体が宙を舞い、俺は真っ黒な地面に叩きつけられた。



    +++



     俺は白い天井を見上げていた。
     柔らかい。これはベッドだ。俺の部屋じゃない。誰かいる。白い服。医者と看護師。

    「目が覚めたか! よかった! ここは病院だ。自分のことはわかるか?」
    「……ミーナは?」

     医者が何か言ってきたが、どうでもいいことだ。
     俺はミーナを探さなきゃならない。

     起き上がろうとすると、医者は慌てて俺を押さえつけた。

    「こ、こら! まだ起きちゃいかん!」
    「放せ! 放せよ! 俺はミーナを探さなきゃならないんだ!」

     腕に刺さっていた点滴の針を引き抜き、俺を押さえつける医者を力ずくで振りほどこうとした。
     押さえつけろ、人を呼べ、鎮静剤を、などと医者と看護師がわめく声が耳から耳に抜ける。

     その時だった。
     ドゴヅッ、という鈍い音とともに、丸くて硬いものが、ものすごい勢いで俺の額に叩きつけられた。
     激痛と混乱。俺は驚いて動きを止めた。

    「落ち着け、馬鹿野郎」

     いきなり頭突きをかましてきたそいつ……ジョーは、そう言ってため息をついた。

    「何があったんだ?」

     ジョーが静かな口調で聞いてくる。
     真っ白だった心が動き出す。体が震える。鼓動が速くなる。

    「……探さないと、間違えたんだ、俺は、ミーナを、ひどいこと」
    「おい、落ち着け」
    「ほんの気まぐれで、俺は、不安になって、だって、ミーナは、好きだったのに」
    「しっかりしろ、キョーイチ!」

     ジョーが俺の両肩をつかんで揺さぶった。


    「いないんだ! お前の言ってる『ミーナ』は! どこにも!!」

    「……え?」

    「夢だったんだ。全部、夢だったんだよ」


     何を言ってるんだ?
     だってミーナは、夏の間ずっと俺のそばで、一緒にいて……。

     とりあえず深呼吸しろ、とジョーが言ってきた。
     大きく息を吸ってゆっくり息を吐くと、モノクロだった世界に、ぼんやりと色がついたように感じた。

     ジョーはため息をついて、諭すような口調で言った。


    「『ミーナ』は……お前のムンナだろ?」


     世界が崩れる。
     目の前が一斉に、鮮やかに色づく。

     俺はおそるおそる、腰に手をやった。
     手に触れたのは、ひびの入ったモンスターボール。
     中に入っているのは、夏の初めに進化した……ムシャーナの、ミーナ。


     医者が静かに言った。


    「キョーイチさん。あなたの症状は……重度の『夢の煙中毒』です」


     『夢を現実にすること』が、そのポケモン、正確にはそのポケモンが出す「夢の煙」の持つ能力。ドリームワールドという施設で使われているように、夢の中の道具やポケモンを実体化することさえ出来ると言われている、摩訶不思議な物体だ。
     しかし、それは「正しく使えば」の話だ。力が強すぎるため、ドリームワールドでも、「夢の煙」の使用は1日につき1時間までと制限がかけられている。

     四六時中、「夢の煙」を浴び続けていたらどうなるか。

     ひと言で言えば、起きたまま夢を見る。
     密かに抱いていた夢。心の奥底の願望。それが幻覚や幻聴となって現れる。
     夢を見ている本人にだけは、リアルな実体を伴って。

     その状態が長く続くと、しだいに夢と現実の区別がつかなくなる。
     本当はないものが見え、あるものが見えなくなる。実際に鳴っている音とは違う音が耳に入り、存在しないものに体を触れられる。
     そして最終的には、精神が堪えきれなくなり、心が壊れてしまう。


    「俺が見つけた時、お前は遮断機を乗り越えて列車の前に飛びだそうとしてた。とっさに『ぼうふう』で吹き飛ばさなかったら死んでたぞ」

     ぼんやりと、この場所にいる前に感じた浮遊感を思い出す。
     でも、実感が伴わない。
     頭の中がぐるぐるして、何が何だかわからない。

     体の中から『夢の煙』の成分がすっかり抜けきって、心が落ち着くまでは入院しましょう、と医者が言ってきた。


    +++


     窓から外を見ると、庭に植えてある木々の葉が、ちらりほらりと赤みを帯びてきていた。
     あれは桜の木か。春になるとさぞやきれいなんだろうな。さすがにそんな頃まで入院するのはごめんだが。


     中庭に出た。入院している身だが、最近は出歩くのも比較的自由になった。時間までに病室に戻りさえすれば。
     灰皿が設置してあるベンチへ行くと、俺の見舞いに来たのであろうジョーが一服していた。

    「秋になったら、旅に出るんじゃなかったのか?」
    「俺の中では、モミジが赤くなるまでは秋じゃねーんだよ」

     何だそりゃ、と笑いながら、俺はジョーの隣に座った。右手に持っている箱から、シガレットを1本抜き取る。ジョーは呆れたように笑った。

    「入院患者が煙草なんか吸うんじゃないよ全く」

     そう言いつつ、ジョーはポケットからジッポライターを取り出す。

    「メンソールだぞ」
    「いいよ」

     煙を吸い込む。すうっとした刺激が呼吸器を抜ける。舌の根が苦くて眉をしかめた。
     ふう、と煙を吐き出し、手すりに肘をついて頭を抱えた。慣れない味の煙草にくらくらする。

     まぶたを閉じると、彼女が俺の前で、笑顔で手を振っているような気がした。
     ゆっくりと目を開ける。俺の目に映るのは、その身の色を変えて秋の到来を告げようとしている、桜の木ばかりだった。


     そっと目を閉じた。

     両目から、ぼろっと涙が零れおちて頬を伝った。


     大丈夫か、とジョーが声をかけてくる。

     煙草の煙が目に染みただけだ、と俺は答えた。


     左手をズボンのポケットに突っ込むと、指先にチクリと何かが刺さった。
     取り出してみると、燻し銀の薔薇のピアスだった。

     夢だった。そう、全部夢だったんだ。
     夏の間に見た、ひと時の夢。
     俺の夢の中の彼女と、夢の中で恋に落ちた。ただ、それだけのことだった。

     だけど、彼女は確かに俺のそばにいた。
     俺は彼女と夏の初めに出会って、夏に恋して、夏の終わりに別れた。
     それは確かなことなんだ。

     俺にとって、初めてのことだった。


     本気の恋だったんだ。



     ああ、駄目だ。やっぱりメンソールは嫌いだ。

     涙がちっとも止まりゃしない。



     時計の針は3時を示していた。
     どこからか、教会の鐘の音が風に乗って聞こえてきた。










    ++++++++++The end

    special thanks/桑田佳祐「可愛いミーナ」


    カラオケで久々に歌ったら降ってきた。
    年齢=恋人いない歴の自分には色々と無茶だった。
    ごめんなさい。

    それにしても、どうやら自分は相当ムンナが好きらしいと最近気付いた。


      [No.2364] ハナビラの舞 投稿者:穂風奏   投稿日:2012/04/08(Sun) 14:10:53     107clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    『講評
            タカヤ様
     技の完成度・ポケモンの手入れは、よくできています。ですが、技のオリジナリティーが欠けているために、今回の予選通過はなりませんでした。
     次回からはその点に気をつけてみてください。
                   ポケモンコンテスト運営委員会トキワ支部部長 ミヤ』

    「――だってさ、キレイハナ」
     トキワシティコンテスト会場前公園、そのベンチに腰掛けて今回の講評を読み上げてみる。
     横では共にステージに上がったキレイハナが、しょんぼり落ち込んでいた。
     だいぶ練習し自信をつけて参加したのに、予選すら突破できなかったとなれば当然かもしれない。俺も顔には出してないが内心けっこう凹んでいる。
    「ただ、技を磨くだけじゃダメなんだな」
     美しく魅せるためには、オリジナリティーが必要だとは考えたことがなかった。確かに言われてみれば、グランドチャンピオンを決める大会に出場するようなポケモンたちは、他のひととは一味違う――それでいて綺麗な技を多く使っていた気がする。
     けれど、自分のこととなるといい案が思いつかない。他の人がしないような技、か。
    「でもなー、どうすりゃいいんだろ」
     ごろん、と寝転がって空を見上げる。キレイハナに当たらないように腕を組んで枕にする。
     視界に入るのは、真青な空――と満開の桜の木。花びらが風に煽られてひらひらと空を舞っていた。
    「ん……?」
     一瞬何かが頭をよぎった。
    「花びら……桜……舞う…………。これはいけるか?」
     たった今思いついたことを、隣でいまだに落ち込んでいるキレイハナに提案してみる。
    「なあ、桜の花びらを使って「はなびらのまい」ってできるか?」
     俺の提案にキレイハナはしばらく黙って考え、そして――首をかしげた。
    「まあ、やってみなきゃわかんないか。とりあえず、ほら元気出せよ」
     キレイハナの背中をぽんと叩いて、ベンチから下りるように促す。
     しぶしぶといった感じでキレイハナは地面に下り立ち、「どうすればいいの?」と視線を向けてきた。
    「んー……」
     そういえばキレイハナの「はなびらのまい」は、自身から出すものと周りにあるものを操って技とする――と聞いたことがある。
     ならばとキレイハナを桜の花びらが多く落ちている木の下へ連れて行き、とりあえず試してみる。
    「よし、キレイハナ。はなびらのまい!」
     俺の指示に応えてキレイハナが踊りだす。
     小さい手足を器用に使って舞う。段々と桜の花びらが宙に浮かび始め、キレイハナを中心として回りだす。
    「おお……!」
     いつもの赤い花びらも悪くはないけれど、これは格別だ。
     キレイハナの緑、黄、赤の三色に花の桜色が映え、よりいっそう美しく見える。
     先ほどのコンテストで使ったものと同じ技なのに、全く別もののようだ。
    「春限定ってのもなかなかいいよな」
     桜吹雪の中で舞うキレイハナを見ながらそんなことを思った。

    「よくやったぞ。これなら本番でも使えそうだよな」
     技が終わると、すぐに駆け寄ってキレイハナを抱きかかえた。
     キレイハナもさっきまでとは打って変わって上機嫌だ。
     この調子なら次の大会はいいところまで行けるはず!
    「さてと、あとは桜をどうやって会場まで持ってくかだな。そのまま持ってくってのも芸がないし」
     残るはこの問題だ。俺が桜の花びらを大量に抱えてステージに上がるのは、なんだかつまらない。上手く持ち込む方法はないだろうか。
     と考えていると、キレイハナが広場の方を指した。
     そこでは母親と姉妹が芝生に座り込んで何かをしていた。

    「ねーねー、次は私の!」
    「はいはいユキは何を作ってほしいの?」
    「ミキと同じ髪飾り!」
    「それじゃ、今度自分でも作れるようによく見ててね」
    「はーい!」

     どうやら、落ちている桜を使ってアクセサリーを色々作っているようだった。
    「お前もあれが欲しいのか?」
     うーんと少し考えて、キレイハナはあの家族の方を指してから、次に自分の頭を指した。そして、さっき見せた「はなびらのまい」の動きをして見せる。
     えっと……要するに、
    「花びらを衣装の一部にして、技の時にそれをバラして使う――ってことか?」
     当たりというようにキレイハナが一言鳴くと、足元にあった花びらの山から一すくい持ってきた。
    「そうと決まったらさっそくろう――って言いたいところだが。髪飾りの作り方、俺わかんないんだよな。向こうで一緒に聞いてこようぜ」
     キレイハナを誘って俺は親子の方へ走り出した。

     その後、桜のはなびらのまいを使うキレイハナとタカヤは徐々に注目を浴びて行き、何度か優勝することもできた。
     ただ、キレイハナが技のたびに分解する髪飾りは、毎回タカヤが直しているとか。



    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    こちらでは初めて投稿しました、穂風です
    ポケモンのお話を書くのはポケコン以来なので――半年ぶりでした
    ポケモンだからできるようなほのぼのしたものを、のんびり書いていこうと思います
    【描いてもいいのよ】
    【好きにしていいのよ】


      [No.2363] Re: 神の祈り 【前編】 投稿者:akuro   投稿日:2012/04/08(Sun) 12:01:33     72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     初めまして、akuroと言う者です。 


     くろまめさんギャグ上手いですねー! 私もギャグ物を書いてるんですが、到底及ばない……尊敬する域に達してます!

     後編も楽しみにしてますね!


      [No.2362] 路傍の石【1】 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/04/08(Sun) 01:48:54     248clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    この小説は、きとらさんより寄せられた「586さんの描く『ダイゴさん』像を見てみたい」というリクエストを受けての、586なりのレスポンスです。

    拙い点ばかりですが、少しでもお気に召していただければ幸いです。

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    第一印象は、彼はなぜこんなものを集めているのか、という至極単純な疑問だった。

     「これは……石、ですよね?」
     「そう。石だよ。どこにでも落ちていそうな、"路傍の石"さ」

    ありきたりな石ころですよね、と私が二の句を継ごうとしたところに、先手を打って言われてしまった。過去に何度も同じことをされているとはいえ、この鋭さにはいつもヒヤリとする。

    硝子戸を引いて、石を一つ取り出す。ケースから出てみれば印象が変わるかと一瞬期待したが、胸元まで寄せられた石は紛れも無く、これといった特徴の無いただの石だった。

     「その、何か変わったところがあるとか……ですか?」
     「この石がかい? いや、変わったところなんて一つも無いよ」
     「一つも、ですか」
     「ああ。硬さも形も色も重さも、どれを取っても特徴の無い、普通の石だね」

    本人曰く「特徴の無い、普通の石」を、手袋を嵌めた手でもって繁々と眺め回す。その表情がまた童心に返った子供のように楽しげなものだから、首を傾げる回数ばかりが増えてしまう。私を軽くからかっているのか、と思ったが、彼の面持ちを見る限り、私のことは意識の埒外にあるようだった。

    ひとしきり石を眺めて、満足感ある表情のまま一端目を離す。すっ、と流れる水のように、彼の視線が私に向けられた。

     「そうだね。君が今何を考えているか、当ててあげようか?」
     「……」
     「どうして僕がこんな石を持っているんだい、そんなところじゃないかな?」
     「……そうですね。概ね、それで合ってます」

    こくり、こくり。二度に渡って深く頷く。右手に石を載せたまま、彼は話を続ける。

     「僕がこの石を拾った理由、僕がこの石を残した理由、僕がこの石を飾った理由。それは……」
     「それは……?」

    一歩前に出て、彼の言葉に耳を傾けた。

     「この石が、十枚の絵を生み出したからだよ」

    十枚の絵を生み出したから、彼はこの石を今も大切に保管している。投げ掛けられた言葉の順序を整理すると、以上のような形になる。確実に言えるのは、何のことだか訳が分からないということだけだ。

    私が困惑するのを見事に見透かして、彼はようやく本題に入った。

     「いつだったか、少し遠出をしたときに、絵を描いている女の子がいたんだ」
     「スケッチブックを抱えて、ですか?」
     「うーん、そうとも言えるし、そうとも言い切れないね」
     「それって、どういうことなんです?」
     「持っていたのが、スケッチブック……が映し出された、タブレットだったんだ」
     「ああ、今流行の……」
     「そうだね。タブレットにペンをカツカツ走らせて、外で絵を描いてた。あれは、今風でいいと思ったよ」

    彼が出会ったのは、スケッチブック・アプリをインストールしたタブレットを持って外で絵を描いていたという少女、だと言う。紙のスケッチブックを持ち歩く時代はもう終わったのかなどと、要らないことに思考を巡らす。

     「絵を描いていたのは分かりましたが、どうして石が関係するんです?」
     「気になるだろう? 僕も気になったんだ」
     「そ、それは、どういう意味で……?」
     「タブレットに描かれていたのが、今ここにある石だったからね」

    再び、私の前に石が差し出される。彼のエピソードを踏まえて、もう一度石を眺める。何かのきっかけがつかめれば、何か目に留まるものがあれば、そんな期待を込めて送る視線。

    そして二十秒ほど石を眼に映し出して、込めた期待は見事に空振りに終わったことを気付かされた。眼前の石はやはり何も変わらない、ただの石でしかなかった。

     「この石を、タブレットに描いていたんですか」
     「そう。一心不乱にね。すごく楽しそうだったよ」
     「楽しそうに、ですか……」
     「それはそれは、ね。繰り返しペンを走らせて、タブレットの中のキャンバスを作り変えていったんだ」

    彼が遭遇した少女は、この何の変哲も無い石を題材に、楽しそうに絵を描いていたという。俄かには信じられないというか、流れの読めない話だ。一体何が、タブレットの少女をそこまで惹きつけたのか。

     「気になったから、僕は思い切って声を掛けてみたんだ。『どうして石を描いているんだい』ってね」
     「声を掛けたんですか」

    他人にいきなり声を掛けるというのが、いかにも彼らしいと思った。以前にもトレーナーに声を掛けて、その後も何度か合っている内に親しい仲になったとか、そういう話を聞いている。

     「そう。一度気になったら、調べずにはいられない性質だしね」
     「そのことは、私もよく知ってます」
     「ラボを空ける一番の理由は、間違いなくそれだからね」

    石ころを掌の上でコロコロと転がしながら、彼は穏やかに答える。少女に声を掛けたときの情景を思い返しながら、その様を適切に形容できる言葉を探している。過去の出来事を話すときの彼の姿勢は、いつも同じだ。

     「彼女はあなたに、どう答えたんですか?」

    話すべき内容を取りまとめたのか、彼がおもむろに口を開いた。

     「『どうしてって、石を描きたいから』」
     「それが、答えだったんですか?」
     「ああ、はっきり言われたよ。それ以外に理由なんか無い、って顔でね」

    石をタブレットに描いていた少女が、何故石を題材に採ったのか。答えは、石を描きたいから。石を描きたいから、タブレットの上で繰り返しスタイラスペンを走らせている。

    これ以上無い、最大の理由。描きたいから描くという、もっとも容易く理解できる理由だった。

     「楽しそうだったよ。ペンをしきりに走らせて、どんどん石を描いていってさ」
     「そんなに熱中していたんですか」
     「僕も驚くくらいね。一向に止まらないんだよ。ディスプレイの中に、じわじわ石が浮かび上がっていくようだったね」

    彼はそんな少女に興味を持って、もっといろいろな事を知りたくなったんだ、と言った。

    最初の疑問である「何故石を描くのか」は分かった。けれどそれだけでは満足せず、「何故石を描きたくなったのか」、それも聞き出したくなったらしい。

     「石を描きたい理由、それを知りたくなって、僕は続けて質問したんだ」
     「どうして石を描きたくなったのか……そういう質問ですね」
     「うん。そうしたら、彼女は詳しいことを教えてくれたんだ」

    タブレットを操作する真似をして見せながら、彼は少女が教えてくれたという内容を復唱し始めた。

     「彼女はインターネットのイラストコミュニティに、よく絵を投稿しているらしいんだ」
     「ああ、あの……」
     「たぶん、君の考えているところだろうね。そこは絵を投稿できるだけじゃなくて、絵にコメントを付けたりもできるんだ。すごい時代になったね」
     「コミュニケーションの手段として絵がある、ということですね」
     「その通り。彼女はそこで、好きなように絵を描いていた……けれど」

    ふう、と小さく息を吐いて、彼が声のトーンをわずかばかり落とす。

     「世の中には狭量な人がいる。それは、君もよく感じているだろう?」
     「……そうですね。残念ですが、頷かざるを得ません」
     「ああ。彼女もそこで、面倒な人に絡まれたんだ。コメント欄で、一体何を言われたと思う?」

    彼は手にした石を掲げながら、ぽつりと一言呟いた。

     「『あなたのような"路傍の石"が、知った風に絵を描かないでください』」

    ぽつりと、一言呟いた。

     「コメントを寄せたのは、彼女もよく知らない人だった」
     「見ず知らずの人、ですか」
     「そう。調べてみたら、少し前に同じコンテストに絵を投稿していた人だって分かったらしい」

    そのコンテストで、少女は審査員特別賞を貰い、コメントした人は選外に終わったという。その構図が明らかになった時点で、彼女はコメントした人の意図が分かったようだった。

     「有り体に言えば、彼女に嫉妬したらしいんだ」
     「やはり、そうだったんですね」
     「ああ。自分の絵が評価されなくて、彼女の絵が特別な評価をもらったことに、嫉妬したみたいなんだ」

    評価されなかったのは、自らの努力不足に尽きる──すぐにそう帰結できる人間は、それほど多くはない。大抵はそれを認められなくて、外的要因を探してしまう。

    コメント者にとっての外的要因は、少女だった。つまりは、そういうことだ。

     「それで、あんなコメントを寄せた」
     「……」
     「あれっきり一度も顔を見せないから、邪推や推測が山ほど混じってるけどねって、彼女は付け加えたけどね」

    そう話す彼の表情は、なぜかまた、楽しげなものに戻っていた。

     「けど、ここからが面白くてね。彼女はそのコメントを見て、ふっとイマジネーションが浮かんだらしいんだ」
     「イマジネーション?」
     「そう。"路傍の石"という部分に、何か来るものを感じたって言ってたね」
     「よりにもよって、その部分に刺激を受けたんですか」
     「そうだね。いてもたってもいられなくなって、タブレットを持って外へ出た──そうして、僕に出会った」

    掌の石を握り締めて、彼が再び話し始める。

     「僕に出会うまでに、彼女は九枚も絵を描き上げたって言うんだ」
     「まさか、全部石をモチーフにしてですか?」
     「その通り。落ちている石を見つけて、何枚も何枚も、絵を描きつづけたんだって。石にばかり目が行って、"周りが見えなくなる"くらい、熱中してね」
     「……」
     「僕の前で十枚目を描き終えたあと、彼女は、自分が感じたことを僕に教えてくれたんだ」






     「同じ形の石は存在しない」
     「同じ色の石は存在しない」
     「同じ大きさの石は存在しない」
     「同じ重さの石は存在しない」
     「すべての石は違っていて、"ありきたり"な石なんて存在しない」
     「"路傍の石"は、すべてがあふれる個性の塊だ……ってね」






     「絵を描いているうちに、彼女は同じ石が一つとして存在しないことに気づいた」
     「同じ石は、存在しない……」
     「似ているように見えて、手に取ってみるとまったく違う。それが面白くて、どんどん絵にしていった」
     「そうして導き出されたのが、さっきの言葉なんですね」
     「ああ。晴れ晴れとした表情だったよ。新しいものを見た、って感じのね」

    口元に笑みを浮かべて、彼が私に目を向ける。

     「そういえば」
     「どうしました?」
     「君は、僕が石を集める理由を知ってたっけ?」

    不意に話を振られて、思わず答えに窮する。石を集めているということは知っていても、「なぜ」石を集めているのかということは、どうも聞いた記憶が無い。

    詰まったまま時間が流れるに任せていると、割と早々に彼が助け船を出した。

     「僕が石を集める理由は、石が好きだから。けれど、それだけじゃない」
     「それだけではない、と……」
     「そう。もう一つ、理由があるんだ」

    一呼吸置いて、彼が私に"理由"を教えてくれた。

     「石に関わる人、それが好きだからさ」
     「人との関係、ですか」
     「そう。石があって、人がいて、石を軸にして人が関わりあう。それが好きなんだ」

    石を掲げて、彼が言う。

     「人と石は、よく似ている」
     「まったく同じ石が存在しないように、まったく同じ人も存在しない」
     「在る場所で、丸くもなるし鋭利にもなる」
     「他者とのぶつかり合いで、いかようにも形を変えていく」
     「本当に、よく似ていると思うんだ」

    人と石の類似性。生まれ持った個性、環境に左右される姿、他者との接触で変貌していく形。なるほど、言われてみれば似ている気がしてきた。

    彼が何を言いたいのか。その輪郭が、朧げではあるが見えてくる。

     「僕は、珍しい石も好きだ。すごく好きだよ」
     「珍しい石"も"?」
     「そう。珍しい石"も"だよ。だから──」
     「珍しくない石も、また?」
     「その通り。外を歩けば道端に転がっているような"路傍の石"、それも大好きなんだ」

    さっきも言ったけれど、と前置きした上で。

     「この石は、道端に落ちていた石だ」
     「タブレットの少女が絵のモチーフに採った、ですよね?」
     「その通り。彼女が絵に描いた、"路傍の石"だ」

    掌に載せられた小さな石。

     「道端に落ちていたところで、誰も気づくことのないような、ありふれた石」
     「けれどその石は、一人の女の子に、人としての生き方にさえつながるような、大きな示唆を与えた」

    何度見たところで、石がただの石であることに変わりはない。何の変哲もない、ただの路傍の石。

    石がただの石に過ぎなかったからこそ、大きな影響をもたらすことができたのかも知れない。

     「人は皆、路傍の石だ」
     「気付かれなければ意識されることもなく、そして誰かに影響をもたらすこともない」
     「僕も君も、あの少女も同じ。すべては、路傍の石に過ぎない」

    すべての人は、道端に転がる石に過ぎない。

     「それは、実に素晴らしいことだと思うんだ」
     「二つと無い存在が邂逅して、融和して、衝突し合う。そうして、また新しい存在になる」
     「石も人も、ぶつかりあって変わっていく。それが、すごく面白いんだ」

    気にも留めなかったはずの存在が、進む道を変えるほどの存在になり得る。彼は、そこに面白さを見出していた。

     「この石を手元に置いておこうと思ったのは、それを思い返すためさ」
     「人は皆路傍の石、そして、路傍の石は代わりのいない存在。この石は、それを思い出させてくれる」
     「ありふれたものほど、かけがえの無い存在だということをね」

    ようやく、彼が何を言いたいのかがはっきりした。そして、あの石ころを手元に置いていた理由も。

     「その石には、思い出というか、印象的な光景が詰まっているんですね」
     「ああ。あの少女が見出した新しい世界、それがここに詰まっているんだ」
     「分かりました。単なる路傍の石に過ぎないそれを、あなたが大切に持っている理由を」

    タブレットの少女と彼は、ありふれた路傍の石から、実に多くのものを感じ取ったようだった。

    ひとしきり話して満足したのか、彼は石を戸棚に片付けると、椅子からすっと立ち上がった。

     「さて、僕はちょっと出かけてくるよ。明日までには帰るつもりだからね」
     「明日まで出掛けるつもりですか?」
     「何、いつものことじゃないか。面白い石を見つけたら、また土産話を聞かせてあげるよ」

    そう言い残して、彼は颯爽と部屋から立ち去って行った。

    彼はいつもそうだ。石が好きだというのに、去るときは風のように去って行ってしまう。

     「やれやれ……」

    ため息混じりに、時間を確認しようとポケナビに目を向ける。

    すると……

     「……すれ違い?」

    ポケナビの機能の一つである「すれちがい通信」。ポケモンのキャラクター商品に関わるすべての権利を持つ大手ゲーム会社が発売した携帯ゲーム機に搭載され、その後後を追うようにポケナビにも実装された。所有者同士ですれ違うだけで、簡単な自己紹介を送り合うことができる通信機能だ。

    通信に成功すると、右上部に取り付けられた小さなランプが緑色に光る。この部屋に来るまでは消灯していたから、新しいメッセージが届いたようだ。

     「これは……」

    して、そのメッセージの送り主と内容は──






     「けっきょく ぼくが いちばん つよくて すごいんだよね」






    送り主の名前は……今更、言うまでもない。

    すべては路傍の石。悟ったように口にしながらも、心の奥底では、燃え上がる炎のような闘志を滾らせている。

     「星の数ほどある石の中でも、一番でなきゃ気が済まない、か」

    石集めに熱中する子供のようで、その実石から人世訓を見出す大人で、しかし底の底は無垢で幼い子供。

    それがたぶん、"ツワブキダイゴ"という人物の姿なのだろう。

     「……本当に、風変わりな人だ」

    苦笑いとともに、そんな言葉が思わず漏れた。






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    ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体名・事件とは、一切関係ありません。

    ※でも、あなたがこの物語を読んで心に感じたもの、残ったものがあれば、それは紛れも無い、ノンフィクションなものです。

    Thanks for reading.

    Written by 586


      [No.2361] 神の祈り 【前編】 投稿者:くろまめ   投稿日:2012/04/07(Sat) 20:55:01     84clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     タンバシティのとある海辺で、セツカは空を仰いでいた。傍らには一匹のアブソル。

    「この天気なら、無事うずまき島に行けそうだね〜」
    「まさか晴れるとは……やっぱり、やめといた方がいいんじゃないか?」
    「何言ってんの。ご飯は熱いうちに頂かないと!」
    「命がけの旅が、お前にとっては飯と同じなのか?」
    「まさに、朝飯前ってことだね」

     一人はしゃぐ主人を尻目に、シルクは項垂れた。確かにこの天気ならば、うずまき島を取り巻く渦も小さくなっているだろう。絶好の機会と言えなくもない。一年のほとんどが曇天に見舞われるうずまき島の周りには、その名の通り、タンバの漁船をも飲み込んでしまう大きく激しい渦が点々と混在し、うまい具合に島の入り口を閉じてしまっているのだ。
     
     本来ならば島に入ることすら出来ないはずだったのだが、運が良いのか悪いのか、その一行を晴天が向かえていた。暖かな光を止めどなく届ける太陽が、シルクには冷ややかに映る。シルクの三日月を描く漆黒の鎌が、黒く光っている。
     ──今回の目的はうずまき島に行き、海の神にあることを伝えることだった。


     不満をおしみなく口にするシルクと地図を広げるセツカを乗せて、一匹のラプラスが海を泳いでいた。
    「へぇ。ポジティブって泳げたんだな」
     まるで初めて知ったかのように、わざとらしく感心した様子を見せるシルク。
    「泳ぐため以外に、このヒレを何に使うんだい?」
    「フカヒレとか?」
    「それはサメだろ」
    「馬鹿か。フカマルだろ」 
    「そうだった」
    「メタ発言はほどほどにな」
    「その発言がメタなんだよ」
     
     
    「てか、ポジティブって名前、由来は何なんだよ?」
     不意にセツカに問いかけたシルク。うん? と、地図から顔をあげてセツカは聞き直す。
    「だから、ポジティブの名前の由来だって」
    「え〜分かんないの? 少しは自分で考えないと、脳細胞増えないよ?」
    「やる気の起きない理由だな」
    「ふふふ。降参かね? それでは正解はっぴょー」
     仰々しく両手を広げたかと思うと、強くパァンと合掌するように打ちならした。
    「まず、ラプラスをラとプラスの二つに分解します」
    「ふむ?」
    「ここで着目するべきは『プラス』です。お二人方もお気づきになりましたか? そう! なんと私はこの『プラス』をプラス思考というキーワードへと発展させ、なおかつ! それを応用し、ポジティブへと変換させたのです! イッツミラクル!」
     あきれ果てて首を振る気も起きず、シルクもポジティブも、ため息をついた。
    「下らねえ……。『ラ』も仲間に入れてやれよ」 
     ん〜、と頭を傾げるセツカ。
    「ポジティ・ラブ?」
    「なんでポジティが好きってことを主張すんだよ。意味分かんねえよ」
    「名前は五文字までだったっけ」
    「そんなことは言ってない」
    「空が青い!」
    「論点をずらすな」

     突っ込むのにも疲れたと、ポジティブの甲羅の棘のようなものにシルクは寄りかかる。あたしの頭はボケてないと、セツカ。
     
    「そういえば」
    「なんだ? また下らない話か?」
    「上がる話だよ。空の話」
    「へえ。そういえばセツカは風景を見るのが好きなんだっけ?」
    「うん。どこで知ったかは忘れたけどね。こういう空の色のことを、天藍っていうんだって」

     青く透き通った、けれどどこか黒ずんだ色もしているような空を、シルクとポジティブが見上げる。
     

    「確かに、それっぽい感じはするな」
    「漢字的にもね」
    「それは誤字なのか!? どうなんだ!?」

     
     シルクの声が、海に響きわたった。


      [No.2360] Re: 黒竜 投稿者:紀成   投稿日:2012/04/07(Sat) 12:44:01     86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    題名に騙された。題名詐欺とでも名付けようか。
    シリアスな感じかと思ってたらこれだよ!

    そうかーイケメンにしか興味ないのかー 中身もきちんと見た方がいいぞー
    イケメンで性格いいなんて男はリアルにはそうそういないからな!多分!

    レックウザさんいいよね 私も欲しい ミミズくらいの大きさでいいから欲しい


      [No.2359] 黒竜 投稿者:akuro   投稿日:2012/04/06(Fri) 20:55:43     92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     「おはようこざいます! サクラさんですね? お届け物が届いております! こちらをどうぞ!」

     朝早く、ライモンシティのポケモンセンターにやってきた私を出迎えたのは、1人の配達員だった。 配達員は私に1つのボールを手渡すと、どこかへ行ってしまった。

     「なにかしら、これ……」

     ボールの中を見ると、ただならぬ雰囲気を放つ黒い竜がいた。 図鑑で見てみると、「レックウザ」というポケモンらしい。

     「なにはともあれ、図鑑が埋まったからいいけど……こんな珍しいポケモン、いったい誰が……」

     私は全国図鑑を完成させるという、大きな目標を持っている。 今日もポケモンを登録しようと、人が多いライモンシティへ来たのだ。

     私はレックウザの親を知ろうと、図鑑を操作してポケモン情報のページを開いた。
     と、その時ポケモンセンターのドアが開いたかと思うと、聞き慣れた声が飛び込んできた。

     「サクラ! 聞いて聞いて聞いて聞いてー!」
     「モモカ!?」

     飛び込んで来たのは私の双子の妹、モモカ。 双子なのに似てないってよく言われる。

     「さっきそこで、超絶スーパースペシャルテライケメンに道を聞かれちゃったー!」

     ……こんなミーハーな妹に似たくないんだけどなあ……

     私はモモカを無視して、ポケモン情報のページに目を通した。 その間もモモカはべらべら喋っている。

     「マジでイケメンだったなあ……青い長髪を黒いゴムでまとめてて、超イケメンボイスで「素敵なお嬢さん、迷いの森への道を教えてください」なんて! 別れ際に手の甲にキスまで……キャーキャーキャーキャー!!」

     暴走しまくってるな……フレンドリィショップのお兄さんやジョーイさんが睨んでるよ……気付かないのがモモカなんだけどさ。

     「モモカ……少ないとはいえ人いるんだから、もうちょっと落ち着いてよ」
     「これが落ち着いていられますかお姉さま!」
     「誰がお姉さまよ……ところでモモカ、「ノブナガ」って人、知ってる?」

     私はレックウザの情報が記してあるページをモモカに見せた。

     「ノブナガ!? ランセ地方の!?」
     「ランセ地方?」
     「こことは文化が違うくらい遠い地方で、イケメンがいっぱいいるんだって!」
     「モモカ……モモカの頭にはイケメンのことしか無いの?」
     「無い!!」

     ……断言されても、困るんだけど。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    オチなし。 新キャラが暴走しまくった。

    [好きにしていいのよ]


      [No.2358] Re: 【他力本願】うちのボス【送信してみた】 投稿者:小春   投稿日:2012/04/05(Thu) 19:50:23     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    電波はけっして妙なものではなく、妙な受信の仕方をしてしまったのです。


    >  想像以上の奇人変人っぷりでした(注意;褒め言葉です)。
    変人奇人は褒め言葉(キリッ
    マントのひととか、石のひととか、考古学のひととか以下略
    タテカン立てたのは出奔に困ったリーグ関係者、「この顔にピンと来たらリーグへご連絡ください」みたいな文言が添えられているに違いありません。リーグ挑戦者ならつかまえてくれるだろうと(笑

    お読みいただき、ありがとうございました。


      [No.2357] 【書いてみた】ユエとミドリと三ツ星と 投稿者:紀成   投稿日:2012/04/04(Wed) 20:33:10     98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ※ポケモンを食べる描写みたいなのがあります









    GEK1994のカウンター席で、ミドリは雑誌を読んでいた。いつもなら文庫本片手にゼクロムを飲んでいる姿が目立つのだが、今日は違った。派手ではないが、文庫本とは違う表紙とサイズが目立つ。
    「ミドリちゃん、それは?」
    気になったユエが聞いてみた。バクフーンが足元でのっそりと起き上がったが、睡魔に耐え切れず再び床に体を預けて眠ってしまった。鼾の音がする。
    「昨日発売されたグルメ雑誌です。全ての地方の有名レストランのおススメメニューを取材してるんです。写真もありますよ」
    そう言ってミドリが見せてくれた一面は、今月のトップを飾る店が載っていた。ホウエン地方、ミナモシティにあるレストラン。新鮮な海鮮を使ったソテーやグリルが有名だという。
    中でも一際目を引いたのが、店の場所だった。その店はミナモでも、その近くの浅瀬にある巨大な岩の中に造られているのだという。行く際には長靴が必要らしく移動は多少不便だが、そのマイナス面が気にならなくなるくらい、そこの食事は美味しいのだという。
    「へー。なかなか素敵ね」
    「お値段もリーズナブルですし」
    「ディナーで十万ちょっと…… まあ、ね」
    流石に庶民のユエには頭を捻る値段だったが、ミドリは楽しそうにメニューの写真を見ていた。そこでふと思いついたように呟く。
    「伝説のポケモンって、食べられるんでしょうか」
    一瞬の沈黙の後、ユエが『んー……』と考える。
    「そうね。伝説の鳥ポケモン、ファイアーやホウオウの生き血を飲むと不老不死になるっていう話なら各地方に伝わってるけど、流石に肉はねえ」
    「チュリネの頭の葉は薬向きですね。苦すぎてサラダには使えませんよ」
    「グルメ向きかしら」
    「カントーでは、カメックスは固すぎてよく煮込まないと食べられないそうですよ。ゼニガメなら柔らかくてそのまま食い千切っていけるそうですが。あと、カメールの尻尾は大きいほどコラーゲンが詰まってるそうです」
    足元のバクフーンがいつの間にか起きていた。ガタガタと震えている。大丈夫よ、とユエは頭を撫でた。
    「戦争中はアーボとか毒抜きして食べたそうです。アーボックになると毒が強すぎて、抜く前に飢え死にするからアーボじゃないといけなかったそうで」
    「ドンファンも一応食べられるんだって。足とかゴムみたいな食感らしいけど」



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    オチなし。この前夕食の時に弟と話したことがそのままネタになってる。
    ポカブとかまんま焼き豚だよね。


      [No.2356] オレとアイツと焼き鳥と 投稿者:akuro   投稿日:2012/04/04(Wed) 20:09:16     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「あかね、かえんほうしゃ!」

     オレの横を、あかねが放った真っ赤な炎が通り過ぎて行く。 その炎はバトルをしていた野生のオニドリルに見事にヒットし、焼き鳥が出来上がった。 ……って、オイ。

     「あかね、もうちょい手加減できねーのか?」

     オレは一仕事終えたあかねに問いかけた。

     「バトルに手を抜くなんて、有り得ない」

     ……同情するぜ、焼き鳥、もといオニドリル。

     「そうだよらいち! バトルはいつでも真剣にやらなくちゃ!」

     あかねの後ろにいたモモコがうんうんと頷きながら言った。 まあ、その気持ちは分かるが……。


     オレたちは今、まだまだ弱いワタッコのあおばにバトルを見せて、経験値を稼がせている所だ。 当のあおばは空中に浮かび、炎が当たらないギリギリの所でバトルを見物している。 ……器用だな、アイツ。

     そんなことをしていると、焼き鳥の匂いにつられたのか、草むらからゴマゾウが出てきた。 ああ、ご愁傷様です……。

     「あ、ゴマゾウ発見! あかね!」
     「了解」

     モモコがあかねに指示を出し、あかねは炎を吐き出す為に息を吸い込んだ。

     ゴマゾウは臨戦体制をとっていたが、怖いのかその瞳は潤んでいる。

     「……」
     「モモコ? 準備オッケーなんだけど」

     あかねのそんな声が聞こえてモモコの方を見ると……固まってんのか? あれ。


     「……」
     「オーイ、モモコー? どうしたんだー?」
     「……か、」
     「か?」





     「か、可愛いいいーー!!」

     いきなり叫んだかと思ったら、モモコはゴマゾウに飛びついてぎゅうーっと抱きしめた。 その速さといったら、カイリューもびっくりだ。

     「……モモコ? どうしたのよ」
     「可愛すぎるー! この子とは戦えないー!」
     「……」

     ……オイモモコ、お前さっき「バトルは真剣に」とか言ってなかったか?

     「あ、あそこにヤドン発見! あかね、最大パワーのかえんほうしゃー!」
     「了解」


     ……ヤドンはいいのかよ!



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     ほぼ実話。 ゴマゾウ可愛いよね

    [なにしてもいいのよ]


      [No.2355] 【他力本願】うちのボス【送信してみた】 投稿者:ラクダ   投稿日:2012/04/04(Wed) 00:21:43     120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     みんな、ホントに大変そうねえ。でもあたしだってかなり苦労したのよ、あの“ボス”には。
     史上最年少チャンピオンだか何だか知らないけど、あたしからすればただの小生意気なガキんちょだったわ。やたらデカい態度とか、年上にも敬語を使わないとことか、勝手気ままに振る舞うとことか。あたし相手ならまだしも、誰に対してもそんな調子。注意したって聞きやしない、こっちも敬語使ってやるのなんて三日で終了よ。
     どんなに実力があっても、有名なポケモン博士の孫だって言っても、これは無いんじゃないのって思ったわ。……まあ、後で人から聞いた話じゃ、本人もその事でいろいろ葛藤があったみたいだけどね。悩んだ挙句にあんな態度取ってたんなら……ホント、まだ子供よね。
     
     まあとにかく、あたし達は相当やりあったわ。口喧嘩なんて日常茶飯事、一度なんて殴り合い寸前までいった事もあったし。それに関してはあたしもガキっぽかったって事は認める。年上として手を上げちゃいけないわよね、流石に。あたしのポケモンが止めてくれなかったら、今頃ここで悠長に話してられなかったでしょうね。
     え? ううん、それが原因で担当辞めたんじゃないの。相手の都合でね。
     ライバルの男の子に負けちゃったのよ。かつてないくらいの本気で挑んで、その結果の負け。あの時は流石に落ち込んでたわ、いつもの減らず口も叩けないくらい。ちょっとだけ、ちょっぴりだけ心配したわ。
     でもまあ、結局立ち直って今じゃトキワでジムリーダーやってるんだけどね。噂じゃ、しょっちゅうジムを抜け出して色んなところをほっつき歩いてるんだって。カントーで一番捕まりにくいリーダーとして有名らしいわ。全く、どこぞの伝説ポケモンじゃあるまいし何やってんだか。
     この間たまたまジム戦の中継見たんだけど、相変わらずの生意気っぷりだった。ま、あの頃よりはちょっと大人になってるみたいだけど。なんにせよ、元気でやってるみたいでほっとしたわ……ちょっぴりだけね!

     そうそう「リーグ付近に変質者が出没します、ご注意ください」って看板立ってるの、知らなかったわ。あたしが担当退いてからできたんじゃない?
     


     
     みなさん、苦労されてるんですね……。僕はまだまだ、修業が足りないな。
     いえ、うちのボスに関しては、実はそれほど語る事は無いんです。誤解しないでくださいね、どうでもいいんじゃなくて愚痴る内容が無いって意味ですからね!
     情が厚くて朗らかで、豪快な方らしいんですよ、うちのボス。この間協会がトレーナーさん相手にアンケート取ったら、バトルの強さと人柄の良さでは部門ぶっちぎり優勝。老若男女関係なくですからね、本当にイッシュ中で支持されてる方なんだなあって、感心しちゃいました。
     噂では結構なお年らしいんですが、年齢を感じさせないくらい若々しいんだとか。この間お会いしたトレーナーさんが、『かなりの高所から飛び降りるのを見たけど、その後も全然普通に会話を続けてたんだ。きっと足腰の強い人なんだね』って言ってましたから。ちなみにその方、プラズマ団相手にボスと共闘なさってるんです。羨ましいなあ。
     ……どうして「らしい」とか「噂では」なんて言い方をするのかって? 実はですね……。
     
     お会いしたことないんです、ボスに。
     えっ、そんなに驚かなくても。だってあの方、随分昔にリーグ協会から出て行ったきり、未だに戻らず放浪なさってるんですから。待ちきれなくなった前任者も、とうとう会わずに辞めてしまいましたしね。たまーに協会に連絡があるから、お元気らしいことは分かるんですけど……挑戦者の為にもそろそろ戻ってきていただきたいですねえ。といってもこればっかりは……。お弟子さんや四天王の皆さんも、あの方だから仕方ないって苦笑いしてました。何か理由があるらしいんですが、僕は聞かされていませんので。
     まあ、いつか戻っていらっしゃると信じて待つのみです。付くべき人のいない付き人というのも肩身が狭いですが、これも精神修行だと思って頑張ります!
     恐ろしく前向きだ、って? はあ、そうでしょうか。

     そうそう「リーグ付近でこの人を捜しています、ご連絡ください」って看板が立っているの、知ってましたか? その顔にピンときたなら、ぜひ協会まで電話してくださいね!




    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    > ☆★☆★☆★
    >  他力本願スレから受信した電波が妙な電波だったらしいです。

     他力本願スレから怪電波を飛ばした張本人です。書いてくださってありがとうございます!
     
     もう、読んでてにやにやが止まりませんでした。想像以上の奇人変人っぷりでした(注意;褒め言葉です)。これは付き人のみなさん大変だわww
     ただ、ぶつくさ言ってる割に誰も辞めたいとは言ってないのが、自分のボスへの愛着(愛情?)なんだろうなあと思うとほっこりしました。みなさん実にいい人。
     「リーグ付近に変質者が出没します、ご注意ください」の看板を立てたのがリーグ側なら、物凄くシュールな話ですね。全員身内の仕業(?)じゃないか、と思わず突っ込んでしまいましたw

     奇行と愛情に魅せられて、つい調子に乗って前カントーチャンピオンとイッシュチャンピオンを捏造してしまいました。最初期の赤版、一周しかやっていない白版からのうろ覚えにつき、妙なところがあったらごめんなさい。
     改めまして、書いてくださり誠にありがとうございました!

    【書いてみたに書いてみたのよ】
    【何をしてもいいのよ】

     


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