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ポケモン裁判事例
※本作品は、ポケモン法学の可能性を探る目的で、ポケモンが関係する民事事件・刑事事件を集めたものです。
エログロ系の不快な表現を(特に刑事編で)含みます。ご注意のほどお願い申し上げます。
※ドラマ性のない基本類型の列挙と、ただの考察です。
本作品の内容はネタとしてご自由に使って頂いても結構です。つまらないものですが。
※民法典・刑法典・ポケモン法典をご参照の上解答を作成なさるというお茶目さん大歓迎。
ポケモン法学の世界へようこそ。
<民事編>
●物権
・Aがモンスターボールで捕獲しないまま自宅で飼育していたスバメを、Aの友人Bが、Aに無断でモンスターボールで捕獲した。
☆Aはスバメについて、所有権を主張できるか。→AはBに対し、スバメの返還を請求できるか。
※ポケモンの所有権について
ポケモンの所有権を第三者に対して主張するためには、ポケモンをモンスターボールで捕獲してポケモンのデータにトレーナーIDを書き加えることによる公示が必要となる。
ポケモンの所有権が侵害された場合は、所有権に基づき、相手方に対し、ポケモンの返還等を請求することができる。
・AとBが、通信施設を利用せずに、手渡しでピクシー(おやはA)とネンドール(おやはB)を交換した。その後、AのネンドールがZに奪われた。
☆AはZに対し、ネンドールの返還を請求できるか。
※ポケモンの交換について
ポケモンセンターの通信施設を利用した交換においては、ポケモンごとに交換後のトレーナーID情報が追加され、交換後のトレーナーがそのポケモンの所有権を有することが公示される。
・AがBに対し、自分の手持ちのミニリュウを50万円で売り渡した。
☆ポケモンの売買は可能か、あるいは認めるべきか。
・AがBからの借金の担保のため、自分の手持ちのノクタスを抵当に入れた。
☆ポケモンについての担保物権の設定は可能か、あるいは認めるべきか。
●親族
・Aが自分の手持ちのメガニウムと婚姻届を提出した。
☆人とポケモンの婚姻は可能か。
歴史的には、慣習として認められていたことも、逆に禁止されていたこともある。
国際的にも重要問題。
宗教的にも重要問題。
憲法問題。倫理的問題。人ならざるものとの婚姻が可能なのか。社会的に望ましいのか。
→人とポケモンの間に子が生まれた場合
☆子に人権は認められるか。
ポケモンに親権が認められるか、親としての義務が発生するか。等々
●相続
・Aは、手持ちのカメール、コータス、ハヤシガメの三体に、自身の全財産を譲る旨の遺言をし、死亡した。
☆ポケモンに対する財産譲渡の遺言は有効か。
ポケモン自身は財産に含まれないのか。
・Aは、子Bに自分の手持ちのニャース、オニドリルを譲る旨の遺言をし、死亡した。
☆ポケモンの財産としての相続は可能か。
→相続人が複数存在する場合、遺産を均等に分割しようとするとき、ポケモンの価値をいかにして判断するか。
●その他
・Aのドーブルが描いた絵画の著作権は、Aに帰属するか、ドーブルに帰属するか。
<刑事編>
以下の各ケースについて、トレーナーAはいかなる罪責を問われるか。
また、Aがトレーナー登録をしておらずポケモン取扱免許のみを有していた場合や、Aがポケモン取扱免許を有していなかった場合はどうか。
○ポケモンによる侵害行為
●殺人
・Aが手持ちのザングースに命令し、面識のないBを斬殺させた。
・AとBのバトルの最中に、誤ってAの手持ちのモココの放電がBに直撃し、Bを感電死させた。
・Aが水泳の特訓と称し、自身の当時6歳の子Bを海に連れて行き、自身の手持ちのメノクラゲに触手でBの体を固定させてBが抵抗できなくした上で、メノクラゲに長時間のダイビングを命じ、Bを溺死させた。
・Aの当時3歳の子Bが、Aの手持ちのキノガッサの尻尾の胞子を食し、毒死した。
・Aが屋外で飼育していたグラエナが、A宅前を通りかかったBに襲い掛かり、死亡させた。
☆ポケモンに主体的意思は認められるか。トレーナーの責任は(どの程度)問われるか。
ポケモン責任説……ポケモンが主体的な意思に基づき犯罪行為を行っているため、トレーナーに責任はないか、トレーナーの責任は軽い。→減軽
トレーナー責任説……ポケモンに主体的意思はない。あるいは、ポケモンの主体的意思も含めてトレーナーの責任とする。→加重
●傷害
・AとBのバトルの最中に、Aのカバルドンが起こした地割れにBが足を取られて、転倒し骨折した。
・バトルの最中に、Aのペリッパーが起こした暴風で、通行人Bが吹き飛ばされて軽傷を負った。
・Aが所持するビブラーバの羽ばたきによる騒音のために、Aの隣人Bが慢性的な頭痛やめまいに襲われるに至った。
・Aが手持ちのジュペッタに、Bを呪わせた。
☆Bに降りかかる複数の不幸のどの範囲までがジュペッタの呪いの結果なのか、判別が困難。
●窃盗
・Aが手持ちのバリヤードに命令し、トリックによってBの財布を盗ませた。
・Aが手持ちのレントラーに命令し、B宅の家屋を透視させて内部構造を把握した上で、A自身がB宅に侵入し現金を盗んだ。
・Aが、手持ちのエルフーンの所有権を放棄した(逃がした)上で、自分を慕うエルフーンに命じてB宅に侵入させ現金を盗ませた。
・Aが手持ちのゴチルゼルに命令し、ゴチルゼルの念力によって野生のニャースを操り、その野生のニャースにBの財布を盗ませた。
・Aのデデンネが、Aの友人B宅の電源から多量の電気を吸収した。
・Aが屋外で放し飼いにしていたガーディが、Bの所有する畑地の作物を食べた。
●強盗
・Aが手持ちのワルビルとズルズキンでBを威圧し、Bに現金を交付させて、そのまま逃走した。
・Aが手持ちのコダックに命令し、コダックの金縛りでBの動きを封じた上で、Bの財布を盗んだ。
●その他ポケモンによる侵害行為
・AのオーベムがBの記憶を消した。
・Aのゴローニャがポケモンバトルの最中に起こした地震により、地盤沈下が発生し、本件バトルの一ヶ月後にBの自宅が倒壊した。
・Aとその手持ちのブーバーが就寝中、そのブーバーの体の炎によって出火し、三軒が全焼した。
・学生AのラルトスがAの友人Bを避けたことを発端として、Bに対する同級生たちの誹謗中傷が激化した。
・Aが手持ちのゴースに命令して、キュウコンを信仰するBに、キュウコンを虐待するといった内容の幻覚を見させ、Bに精神的なショックを与えた。
・Aが、虫ポケモンを苦手とするBのもとに、手持ちのアイアント15体を送り付けた。
・Aがアパートの室内で飼育していたベトベトンが、隣室まで届く、消臭の困難なほどの、耐えがたい悪臭を放った。
・Aのダストダスが川の水源に大量の猛毒を混入させた。
・Aが連れ歩いていたAの手持ちのジバコイルが、企業Bの保持する精密機械を、恒常的に発する電磁波によって破壊した。
・Aのポリゴンが、Bのパソコン内のデータを改ざんした。
・Aが、Bの牧草地に、所有していたメリープ100体を逃がし、Bの牧草地の草を食い尽くさせ、その後メリープ100体を捕獲し直した。
・Aのヨーギラスが、Bの所有する山一つを食い尽くし、更地にした。
・Aが手持ちのポワルンに命令し、Bの畑地の上だけ雨乞いをさせ、Bの畑の作物の成長を阻害した。
・Aが手持ちのヤミラミに命令し、Bの自宅に侵入させた。
・Aが手持ちのペラップに罵詈雑言を教え込み、そのペラップがAのいないところで、Bに向かって、Aに教えられた罵詈雑言を浴びせた。
○ポケモンに対する侵害行為
●ポケモンの殺害
・経済的に窮状にあったAが、自宅の水槽で飼育していたコイキングを殺害し食した。
☆ポケモンは個人の財産か、あるいは法的主体たりえるか。→自分のポケモンを殺害したり傷害を負わせたりする行為は、自身の財産の処分行為として正当化されるのか否か。
・Aが、タマゴからの孵化後から間もないピィを、適切な看護を与えずに遺棄し、死亡させた。
・Aが、Bの手持ちのヨーテリーを絞殺した。
・Aが手持ちのノズパスに命令し、Bの手持ちのチュリネを岩雪崩で圧殺させた。
・AとBのバトル中に、AのギャロップがBのアメタマを焼死させた。
・Aがバトル中に、Aのキングラーのハサミギロチンが誤って通行人Bのピチューに当たり、ピチューを死亡させた。
・Aが、自宅に野生のアリアドスが侵入してきたことに狼狽し、猟銃でアリアドスを射殺した。
・Aは自動車を運転していて野生のエネコをはねたが、救護せずそのまま放置しエネコを死亡させた。
●ポケモンの傷害
・Aのギャラドスが、ポケモンバトル中に、Bのコンパンに重傷を負わせた。
・Aが、自身の手持ちのウツドンに対し暴行を加え、重傷を負わせた。
・Aが、野生のサニーゴの角を切り落とした。(類:ヤドンの尻尾)
←→Aが、野生のバネブーから真珠を奪った。(類:フラベベの花)
●ポケモンの自由の侵害
・Aが、野生のプリンをモンスターボールで捕獲しないまま、檻の中に閉じ込めた。
・3000万円の借金を抱えるAが、手持ちのミミロップを強引にアダルトビデオに出演させた。
・Aが、30年間にわたり、モンジャラをモンスターボールの中に収納したまま放置した。
・Aが、食用のために30体のカモネギを飼育した。
→ポケモンを食べることは法的に許されるか。許される場合は、どのような根拠によるか。
●その他ポケモンに対する侵害行為
・Aが、Bの所持するマスキッパに対し、一般公開している自身のブログにて誹謗中傷を行った。
☆ポケモンの名誉は保護されるべきか。→種としての名誉、トレーナーの名誉
<ポケモン法学入門>
序論
ポケモン法学のごく根本的な姿勢は、「ポケモンとは何か」である。
古来よりポケモンは人にとって、災害であり、師であり、神仏であり、奴隷であり、友であり、家族であり、道具であり、凶器であり、兵器であり、財産であった。
しかしその一方で、現代においては、ポケモンはみな一様にモンスターボールによる捕獲が可能であり、均一的な管理が容易となっている。
法による統治においては、社会的通念というものを無視しえないものである。そのため、いくら管理が容易であるからといって、ポケモンをただの財産としか見なさない法制度では、国民からの支持が得られず、法の安定性そのものが揺るがされる。
よって、ポケモンには「財産」以上の種々の権利を付与されるべきと考えられる。
政策的な意味でも、ポケモンに他の財物以上の価値を認めることは有用である。
かといって、ポケモンを人と同等に扱ってよいかという問題がある。
もしポケモンを人と同等と見なすのであれば、「モンスターボールによる捕獲」は「逮捕拘禁」と同義である。それは著しい人権侵害であり、仮にポケモンに人と同様の人権を認めるのであれば、許されざる犯罪行為となる。
ところが、モンスターボールの使用不可というような事態は、社会的にも望ましくはない。
よって、ポケモンを人と同等に扱うわけにはいかない。
では、果たして「ポケモンとは何か」。
ポケモンをどのように扱うのが、社会にとって最も有益か。
それを模索するのがポケモン法学である。
<一法学部生のメモ>
・ポケモンは人の財産か、それとも権利主体か?
・例えばポケモンと、土地や建物といった不動産では、どちらの方が財産として価値があるのか。
地面タイプなら、水面埋め立てなどで容易に新たな土地を生み出すことすら可能だ。
格闘タイプがいれば、建物を建てることも容易い。
とすると、タイプや種族によってポケモンの価値は異なることになる?
・ポケモンの中にも差別を設けるべきか?
・何にせよ、ポケモンの財産としての価値は不動産より高い。
・ポケモンの価値とは何か。
人間による利用可能性? 経済効果、実力としてのバトルの強さ、人間社会への適応……
人間の価値とは何かを問うのと同じではないのか? 無意味ではないか?
人にとってのポケモンの価値は、人によって異なるのではないか?
・ポケモンの価値を客観的に、一律に定めることが果たして可能か。やはりポケモンを財産と見なすことには無理があるのではないか。
そうではなく、法において必要とされるのは、社会においてポケモンがどのような価値を持つかという定義では。個別的観点は置いておいて。
・社会的利用可能性が高いことが、ポケモンの財産的価値だといえるかもしれない。
・では、人とポケモンでは、どちらの方が保護されるべき法的主体として価値があるのか。
人間社会を作っているのは人だから、人の方が優先されざるを得ないのか。
しかしエスパータイプなどの中には、人よりも高い知能を持つものも多い。
・人よりも価値あるポケモンは、人以上の権利が認められるべきか?
そもそも法的主体としての価値を比較する意味などない。これは無意味。
・ポケモンと人を比べることができる時点で、ポケモンの要保護性は人のそれより劣るのでは。
・ポケモンと人を区別する必要性?
・なぜ、ポケモンはモンスターボールで捕獲して管理すべきなのか。
やはりポケモンを財産として管理したいのか。
人間社会における人のポケモンに対する優位を保持したいのか、あるいはボール会社の陰謀なのか。
そもそもポケモンは、単体で都市一つを滅ぼすことすら可能な力を秘めた、危険な存在である。社会の安定を期すためには、人がポケモンを管理できることは必須条件である。
・人はポケモンに劣ってはならないのか。
・ポケモンの支配する世界など、存在するのだろうか。人がポケモンに支配される世界。
・そもそも、何で知能の高いポケモンも多いのに、そういうポケモンは人のような社会を作らないのだろうか。
ポケモンの支配する社会なんて、生み出されないのではないだろうか。
国家を形成するのは人くらいなのかもしれない。
・けれど、ポケモンに対する抑圧が強まれば、ポケモンは人間社会に反発するかもしれない。
ポケモンによる支配を逃れるためにポケモンを抑圧するのではない。
・ある意味で、ポケモンには人より優れた実力があることから、要保護性は人のそれより劣るのだとも考えられる。
・ポケモンの実力に、人は制度と管理能力で対抗する。そのバランス。
その管理についても、さらにさじ加減が必要となる。
ポケモンから人間社会を守るためにも、法的にポケモンを保護し、人とポケモンの共存を図るべき。
・であれば、やはり生命や自由意思を持つポケモンは、不動産といった財産などよりも保護されるべきだろう。
あくまで人とポケモンが対等に立てるよう、ポケモンの力を制御できるように人の法制度で管理する。→ポケモンに権利を与えてある程度のポケモンの自由を保証する一方で、ポケモンにはトレーナーによる管理には恭順してもらう。
・トレーナーの保護の重要性が高まる。
・ポケモンに権利を与える……人権とまではいかなくても、ポケモン権なるものを認める?
・それにしても、こう考えているとモンスターボールでポケモンを捕獲するのが大層失礼なことに思えてきた。
高い知能と自由意思を持つ存在なのに、持ち運びできるサイズのボールに閉じ込められて自由を奪われるなど、そのようなことは人間では許されないのに、なぜポケモンでは許されるのだろうか。挙句の果て、電磁記録で人間の所有権が及ぶなどと焼き印を押されて。
それでも、彼らの実力と人が対等になるには必要な事か。
・しかし、ポケモンの力を制御して、無理矢理こちらのレベルに引きずり下ろして、どうにか人間が威張っている感は否めない。完全に感覚的な話だが。果たしてポケモンに対してこのような態度でよいのだろうか。
・ポケモンたちはどう思っているのだろう。
・理想は人とポケモンがwin-winの関係になることだろう。
人の利益を保持しつつ、ポケモンの利益も考える。それがポケモン法の理想とするところ。
***
<跋>
息抜き(逆に詰まってますが)その3です。
かの世界ではポケモンの関わる案件が大半を占めていると思います。
まずはこういった基本類型を想定して法律を作って、そしてより具体的で複雑な事案が発生したときに法解釈でごたごたすると考えたのですが。
ポケモン世界の法律を試しに作ろうと思っても、古代の法律のような武骨で融通の利かないものになりそうな。筆者の不勉強もあるのですが、何よりポケモンという存在がイレギュラーすぎて法制度の想像がつきません。
いつか凄まじく暇になったら、ポケモン法や判例を作りかけるかもしれません。空想でならアホでも立法機関や司法機関になれる。無能がポケモン世界を独裁できるんですぜ……でも実際、どのような社会制度があってあのような一見平和な世界が成立しているのか、気になりますよね……。
例の『小卒大人法』については、おそらく国際的な基準が国内にも持ち込まれたものだと思います。10歳にもなれば立派にポケモンを操って稼ぐのが世界標準なのでしょう。教育は二の次、技術開発はポケモンの仕事、人の仕事はポケモンを育成すること、という産業構造だとしか思えない。10歳で大人として生活できるなんてポケモンを利用しているとしか思えない。
進学してポケモンの関係ない立法行政司法を司っているのは、おそらく伝統的な上流のお金持ち。戦後に中流階級が台頭してきたら中等教育や高等教育も広まって、トレーナーの少数化、底辺化が進行するかもしれない。いや、高度成長期を支えるのだってポケモンだから、中流階級が台頭するとは限らない。ほんの一握りとそれ以外のトレーナーの母体集団からなる国家、それならば尚更ポケモン周辺の法整備は念入りで、かつ古臭そうなものと推測しますが。
ポケモンやトレーナーの法的な立場が気になります。
やはりポケモンはポケモン法などで動産・不動産に勝る価値が認められていると思います。利用可能性が無限大のため。
トレーナーという身分もトレーナー育成法などで厳重に保護されていると思います。
そのために一般人の権利がやや制約されつつあるというのが筆者の勝手な想像です。
……という創作のネタ出しでした。長文乱文失礼しました。
遅くなりましたが!!
本当に!!!!
本当に!!!!!!
ありがとうございます!!!!!!!
なんか上手いこと言って気の利いた言葉の一つや二つ721つでもあればいいんですけど出てきません……!
すごい嬉しい!!相当に好きです!!こんなのもらったら恋に落ちる音を半径85センチに渡って響かせるしかないんですよねマジ……
ポケモンのチョイスもなんぞ色々嬉しいですw
いや〜一行書くごとにスクロールして見直してるんですけどその度になんかヌルヌルしますね間違えたドキドキしますね……
もしかして、これが、恋……?(キュン……)
ポスティングいただきましたよこの胸に!!!!
本当嬉しいですありがとうございます!!!!最高です!!
お返事、書かないとですね……!
おいちょっとまて!?
今気づいたぞこれ、力作過ぎるぞ!?
ピジョンもあるぞうおおおおおおお。
(トップソートが機能していなかったのだろうか…みんなが気づいて無い疑惑…というわけで上げ)
19日22:30〜
お願いします。
体調が思わしくないので
もし開始30分でこなかったら力尽きたと思ってください…(すみません…)
お世話になります。
了解いたしました。
19日22:30〜
20日22:30〜
にチャット室で待機しております。
タグ: | 【鳥居の向こう】 |
業務連絡。
あきはばら博士さんへ。
「なかまづくり」の修正依頼点がまとまりました。
チャットできそうな日をお知らせください。
※大丈夫、新しい手持ちが入ってあまりご主人が構ってくれなくなったポケモンが、おしゃれしようと頑張るだけのお話だよ!
ご主人のアイカさんは、最近私達の事を構ってくれない。
旅の途中でいただいたヌメラの女の子が卵から孵化してからというもの、最近は毎日ヌメラへのポケパルレに夢中なのだ。抱き着いてぬめったり、なでなでしてぬめったり。生まれたばかりの新しい子に構いたくなる気持ちは分かるけれど、もう少し私の事も大事にして欲しいの。
そんなこんなで、最近はバトルの時と食事の時くらいしかまともに声をかけてもらっていない。他の子達も似たような状況なので、あまり不満ばかり愚痴るのも大人げないし。だからと言って、このまま引き下がるのも嫌である。私への視線を取り戻させて見せるんだから!
「そんなわけで、私はご主人を振り向かせるために綺麗になりたい! 皆だって、最近構ってもらえなくって寂しいでしょ? ここらで、ご主人に構ってもらえるようにモーションかけましょう! ご主人の視線を取り戻すの!」
食事の最中、仲間にそう持ち掛けてみる。ヌメラ(♀)は現在おねむの最中で、主人はそれに構っている。ヌメラは、とても弱い上に好奇心が旺盛なポケモンだから目が離せないらしいけれど、でも……それなら私達に世話を任せたっていいと思うの。だから、私達にも構って欲しい。
「そうだね。私は誰かから女性を奪うのは好きだけれど、女性を奪われるのは好きじゃない……ヌメラもご主人も、私のものになるべきだ。私が美しすぎるから」
少し(かなり)ナルシストなウィッチ(男ならウィザードじゃ……?)お兄さん。彼はご主人と最も長い付き合いの男の子だ。少し(かなり)ウザったいところを除けば、メロメロのうまい美青年で、決して印象は悪くない。
「一部の意見には同意ね。私もご主人を奪われるのは好きじゃないわ」
「ふふ、もちろん君も一緒に盗んであげるから安心してよ。そうだね……主人に振り向いてもらいたいなら美しくならないと。月桂樹やヒイラギのような優雅な木の枝を盾の鞘に刺そうじゃないか。あ、カエデなんかもいいんじゃないか……そういえば私も最近ストックの木の枝が尽きてきたな。食事が終わったら少し選んでおくか」
「いや、盾は私の大事な場所を守るものなんだけれど……あ、でも枝を切るなら私に任せてね。庭師も真っ青な剣裁きで切ってあげるから」
マフォクシーのウィッチお兄さんは、私をテールナーにでもするつもりだというのか。さすがにそれは御免こうむるわ。
「やっぱりあれぞい! 女なんてキスで攻めてやれば落ちるぞい! おいどんなら7か所同時にキスできるもんな!」
「あんたに聞いた私が馬鹿だったわ!」
ガメノデスのシチフクジンさんは四肢および肩についた4本目の腕にまで脳がついているが、リーダーである頭の脳は少々筋肉ばかり詰まっていて発想がヤバイ。というかその7倍キッスは恐怖でしかないと思うわ。
「ご主人は雌だからなぁ……やっぱり、翼を広げて体の大きさをアピールするのが一番だろ?」
ウォーグルのアレク。あんたもウォーグルの基準でものを語らないで……。
「私に翼なんてないってば。飾り布くらいしかないでしょ! 広げたって魅力的じゃないわよ……」
ため息をつきつつ、私はアレクに反論する。
「美しくなるなら、磨かなきゃだよねー。僕も原石は見れたものじゃないけれど、きちんと磨いてもらったら、とってもキレーでメレシーウレシーだったよー」
メレシーのアメジストは、間延びした声でそう告げる。なるほど、磨くのか……。
「そうだねぇ。私も、ご主人が振るう包丁の冷たい輝きは大好きだよ。パパが旅に合わせて美しいものを選んで送ってくれたらしいけれど、あの濡れたような美しい刃がねぇ……私はその輝きも嫌いじゃない。いつか盗んじゃおうかな……うふふ。潤んだ女性の瞳というのは素敵だしね……」
ウィッチお兄さんは、妖しく微笑みながら、ご主人がさっきまで使っていたウェットティッシュで手入れされた包丁を見る。こいつ、マジシャンの特性のせいか、やけに手癖が悪いんだよなぁ。
「うーむ……そうか、あの輝きか。血液の滴る私の剣も格好いいと思うけれどなぁ……でも、研いで綺麗になるのも必要か……」
私は特殊型として育てられているから、ニダンギル時代と違ってあまり、剣の手入れは必要ない。そうか、だからご主人があんまり構ってくれなくなっちゃったんだなぁ。特殊技が弱かったころは、ガンガン切り裂いていたから、すぐ切れ味も落ちちゃったものね。そしてそのたびに研いでもらっていたけれど、今は私が大きすぎて研ぐのも難しいというわけだ。
「そうだ、俺の羽飾りを頭につけてみろよー。ご主人は雌だし、きっと惚れるぜ」
「却下」
アレクは、同種の雌(いない)とでも仲良くやっててください。
「でもさー。サヤカちゃん、ご主人より身長大きいよねー。そんな体をどんな石で自分を磨くのー?」
「そ、それは……」
アメジストの言葉に、私はドキッとする。そうとも、私の身長は180センチメートルほど。同族の中でもかなり大きい部類に入る。ご主人の持ち物を思い浮かべる。確か進化の石がいくつかあったけれど、あれは使えないし。かといって、硬い石や変わらずの石など他の石も小さすぎる。そうなると、手近にあって大きな石と言えば……?
「ねぇ、アメジスト。私と一緒に美しさを磨かない?」
「え、そんなのよりおいどん達と研がないか?」
私の研ぎのパートナーにふさわしそうなのはアメジストしかいない。シチフクジンさんは……岩タイプだけれどちょっと遠慮しておこう。
「んー……最近垢がたまってきたから、それを削ってくれるなら、メレシーウレシーだよー」
「なんだ、どうやら話もまとまったみたいだね。ふふ、美しくなった君の刃で、私が使う木の枝を綺麗に細工してくれることを願うよ」
「は、はい。ウィッチさん。喜んで!」
「それとも、木の枝の代わりに君を抱いて寝るのもいいかな?」
これでも、宮殿の庭師の真似をして遊んでいたくらいだから、私は枝を切るとかそういうのが好きなんだ。
「あ、抱かれるのは謹んで遠慮いたします……」
けれど抱かれるのはそこまで好きではない、一応。こう、包容力のある人ならいいけれど……。
「それじゃ、そういう訳でアメジストちゃん。夜、主人が寝静まったら……私と一緒にお互いを磨き合いましょう。朝起きたらご主人を驚かせてやるんだから!」
「いいよー。でも、僕は砥石にされるなんて初めてだから優しくしてねー」
「それはもう当然。生まれたての赤子をなぜるように、慎重にやらせてもらいますとも」
「ふふ、綺麗になれるといいね……とはいえ、私も最近ご主人に甘えていないなぁ。耳でも舐めれば喜んでくれるかな?」
ウィッチさんは妖艶に微笑み、ご主人の方を見る。
「おいどんもご主人に7倍キッスしてあげて構ってもらおうかな? きっと一発でメロメロぞい」
「いや、それはご主人が嫌がるんじゃないかと……」
「大丈夫大丈夫。それより、刃を研ぐなら水が必要ぞい。おいどんも協力しようか? それに、刃を研ぐなら目の粗い石と細かい石があったほうがいいぞい? ロックカットするよりもきれいになりそうだし、おいどんもたまにはおしゃれしたいぞい」
「あ……そうね」
忘れてた……水の事。それに、目の細かさの事も……そうよね、やっぱり荒い砥石を使ったほうが最初はよさそうね。あんまり気が進まないけれど、シチフクジンさんを参加させてあげましょうか。
「それじゃあ、私は、さっそく今日の夜からご主人にポケパルレをさせるよ。僕が美しいから、ご主人には拒否権なんてないしね」
あるでしょ、ウィッチ。
「じゃあ、主人を寝かしつけておいてくれるかしら? 私はその隙に体を綺麗にしちゃうわ」
「了解、サヤカ」
とにもかくにも夜は更ける。ウィッチも早速ご主人とポケパルレをしまくった挙句、そのまま寝落ちして添い寝の真っ最中。いつか食べてしまうんじゃないかというような表情でご主人を抱いている彼の目が妖しくも艶やかだ。ご主人が今はぐっすり眠っているから、『君達は早く済ませてきなよ』とばかりに、彼はご主人の首筋に鼻を押し付けながら手を動かしていた。
ともかく、私とアメジストとシチフクジンとで、ボールの中から勝手に飛び出し、揃ってテントの外へ出る。
「ふー……深夜って言っても、まだまだたくさんのポケモンが起きているぞい。気配がそこかしこにあるぞい」
「そりゃあ、夜行性のポケモンだって多いし……私だって、元は夜行性よ?」
「僕は暗い所に住んでたから。夜のほうが落ち着くなー」
すっかり夜も深まってみると、かわされるのはこんな会話。そういえば私も、夜にこうやって外に出たのは久しぶりの事だ。野生時代は夜行性だったのよねー。
「ともかく、一緒にキレーになろーよー。サヤカ姉さんの体を味わいたいよー」
「いいわよ。でも、まずは荒く研いでからね。そういう訳だから……シチフクジンさん、お願いできます?」
「おうよ、当然。もうぶっかけちゃっていいのか?」
「僕の準備は万端だよー」
「了解ぞい! ならば、水を出してと……」
シチフクジンが、体中から水を発して自身の体表を濡らす。
濡れた岩を凝視しながら、私は鞘であり盾でもある体の一部をそっとはだけさせる。錆びているがため、シャッという小気味の良い音は発生せず、ジャリッという錆びた音。あぁ、こんなことならもっとこう、錆びが止まりそうなものでも塗りたい気分……となるとヌメ……いや、あれは油ではないか。
ともかく、私の大切な部分を曝け出してみると、手入れ不足が響いたのか、案の定錆びだらけ。いくら、特殊技主体でほとんど刃を使わないからって、こんなにだらしない体を見せつけるのはやっぱり恥ずかしい……
ギルガルドに進化してから、全く研いでいなかったんだ、切れ味も悪くなるはずである。私も、今現在は、物理技と言えば聖なる剣くらいしか使っていないし、それを使う相手はほとんど鋼や岩、氷など堅そうなやつばっかりで、斬るというよりは叩き斬る感じで使うからあんまり切れ味は必要ないのだ。全身から水を出したシチフクジンの体表には豊かな水が滴り、僅かな月明かりに照らされて鈍く光を照り返している。人間にとっては一般的には暗いと言える明るさだから、ご主人にはこのかすかな光は見えないだろう。
その濡れている姿を見て、シチフクジンが相手だというのに私は湧き上がるギルガルドの本能を抑えきれなくなった。本来なら雨の日とかに、適当な岩で自身の体を研いでいたのだ。そうすることで年々擦り減っていく岩は、私達ヒトツキ族の繁栄の証。誇らしい気分にすらなってくるものであった。
「さ、横になってシチフクジン」
「うむ、どうぞ。研ぎ過ぎて痛くしないで欲しいぞい」
ごろんと横たわった彼の上半身をよく見てみると、以外にも老廃物がたまって劣化したような色の岩がたまっている。へぇ、岩タイプの子もこんな風になるんだぁ。
彼の濡れた体に私はそっと体を重ね合わせて、私の下半身もじっとりと濡らす。血に染まって薄汚れた私の肌が冷たい彼の肌に触れて、そういえばこんな風に誰かと優しく触れ合うのも久々だと思う。ご主人は触れてくれたとしても、盾やグリップ、飾り布だけなんだもの。切っ先を触れてくれないのは物足りないわ。ニダンギルの頃までの経験を思い出しながら、15度ほどの角度をつけてそっと彼の体とこすり合わせる。心地よい金属音が耳に響いて、甘美な欲求が呼び起された。
こんなに大きくなってしまった体でも、小さかったあのころのように体を研げるのかと少しだけ心配もしたけれど、大丈夫そうどころか、十分すぎるくらいだ。濡れた体同士が擦りあわされるたびに、シチフクジンの体からこそげ取られた垢が、研糞となって滴る水を濁らせる。この水の濁りが、美しい刃を作り出すための決め手となるのだ。
研糞を十分出したら、まずは先端のギザギザの刃。相手に治りにくい傷を与えるため構造を持った切っ先からゆっくりと研ぎだす。表面の垢が剥がれ、まだ固くきめ細かい部分に刃を這わせる。先端ゆえ、体ごと向かってゆくように突きだす攻撃にはなかなか使える。かたき討ちの時なんかは、これで思いっきり相手を突き刺すものだ……けれどまぁ、当然今の私は使わないけれど。
引いて押して引いて押して。マグロのように横たわったシチフクジンの体を太刀で圧迫しながらそうしていれば、少しずつ鈍くなった切っ先が削れていることが実感できる。最初は感じなかった感触も、研がれ、体内の神経と近くなっていくことによって、痺れるように私の中を駆け抜けていく振動。体の奥の方、神経が通い、そして丈夫な芯の存在する骨髄まで響くような感触。よし、ここら辺はもうそろそろ大丈夫。徐々に根元の方へとゆっくりと近づいてゆこう。
そうして、ひたすら続く往復運動。人間に飼われようとも、獣として生まれたさだめである本能に突き動かされるまま、妖しい水音とともに私は少しずつ美しくなってゆくのを感じる。そう、ご主人にゲットされたり、庭師の真似をしたりと、野生を失いかけてきた私だけれど、こういった野生の欲求はどれほど澄ました顔をしていても消えるものではない。いや、人間の手持ちになってすました顔をするよりも、研ぎすました白刃、切っ先、刀身の方がよっぽど気持ちよくって自然体だ。
砥石が乾燥しないようにと、シチフクジンは適宜水を追加して、全身をしとどに濡らしている。うーん……シチフクジンの事はあんまり好きじゃなかったけれど、彼がいてくれてよかった。少々ごつごつがあった彼の体も、私の体にとがれ削られ、徐々になめらかな岩の形をしてきている。いま、それを知るのは研いでその感触を感じている私しかいないけれど、濁った研ぎ汁を洗い流せばきっと、垢の部分が削られ、磨かれた美しい岩が覘くはずだろう。
さて、あんまり胸の前方の部分ばっかりやっていてもバランスが悪いので、その無駄な垢が削れた彼の体を一度見てみよう。
「次は貴方の背中で研ぎたいわ」
研糞がついたままの刃を見せながら、シチフクジンに告げる。
「おう、随分ゴリゴリやっていたけれど、まだ半分も終わっていないんだな……どれどれ」
と、シチフクジンは胸の濁った水を洗い流した。
「おぉ、随分と滑らかになったぞい」
シチフクジンの言葉通り、彼の胸は予想以上に滑らかに慣らされている。研ぎまくったものねぇ。
「でしょう? どんな岩でも磨けばいい感じになるのね」
「うらやましー。僕も早くやって欲しいなー」
「だとよ、サヤカ。それじゃあ、早いとこ終わらせるぞい。次は背中を頼むぞい」
「えぇ、ご主人が戦闘中に見るのは背中だものね。きっちり美しく磨いてあげなくっちゃ」
背中を頼むと言ってうつぶせに横たわったシチフクジンに同じように刃を添える。こびりついていた研糞とともに、研磨を再開する。右側の根元まで研ぎ終えれば、今度は左側の先端から根元を目指す。すっきりした爽快感が左右対称ではないせいで、余計に不快感が募っていた左半身。
先ほど、右半身を研いできたときは、まるでまとわりついていた虫を振り払えたかのような気分だったけれど。その感触を、いよいよ左半身にも与えられるという事だ。その感触を想像するだけで、うっとりとしてヨダレが出てしまいそうだ。
癖になるこする摩擦音。荒々しい彼の体表に揉まれ、研がれ、洗練されてゆく。質量で見れば、1パーセントにも満たないような小さなダイエットなのに、研ぐことで得られる爽快感は、ボディパージで鞘や盾を投げ捨てた時よりも体が。そして心が軽くなる気分だ。
そうして、次は彼の下半身。ヒトツキ時代から、異性の下半身に触れる事なんて、仲間で一緒に狩りをした時くらいだったけれど、こんな形で下半身に触れることになるとは思いもよらなかった。ご主人だって、抱いたりしているときに触れるのは上半身のみだから、何だか新鮮な気分だ。
そんな初体験をシチフクジンで達成するのはいささか不本意だけれど、まぁいいわね。そうして左右の研ぎをどちらも終えたら、次は体の背面。研ぐことで付いた『返り』を削る作業だ。研ぐことで裏側に出っ張ってしまった返りを取り去れば、私の切れ味も、そして美しさも完璧なものになる。
裏返り、仰向けのまま美しくきらめく星を見て軽く刀身を研いでゆく。あぁ、思えばシチフクジンと一緒に同じ星を見て居ることになる。このシチュエーション、もっとこう……立派な鍵をもったクレッフィとか、同じく立派な剣を持ったギルガルドや、美しい結晶の生えたギガイアスと味わいたいシチュエーションであるのが残念だ。でも、異性と一緒に、こうして星を見る……ニダンギル時代に仲間たちと一緒に星を眺めた時も、言い知れない満足感があったけれど、シチフクジンが相手なのに不覚にもそれに近い感動を感じてしまうのが情けない。
涼しい夜風に刀身を冷たく冷やされながら返りを研い行く。最近の手入れ不足のせいで、長丁場になってしまって、さすがに疲れてきたのだけれど、こすりあげるたびに私の体の奥底から『もっと研げ』という欲求があふれ出し、私の体は止まることがない。ようやくすべて研ぎ終えた頃には、心地よい疲労感に包まれて、気持ちの良いため息が自然と漏れ出した。
でも、まだ終わっていない。私がさらに美しくなるのはこれから。そう、これからなんだ。
「お待たせ、アメジスト」
「むー、遅いぞー」
「ごめんね。でも、シチフクジンと同じく、貴方の体も一緒に綺麗にしてあげる」
両肩の飾り布で彼の顔をなぜる。撫でられるのが嬉しいらしく、アメジストはこちら側に顔を寄せて甘えてきた。堅い体同士がふれあって、小気味の良い音がした。数秒ほど抱擁してそっと体を離すと、自分の体を研ぎに使われるのが初めてなので、若干緊張しているような面持ちだ。怯えたように濡れた瞳がちょっとかわいいかもしれない。
「大丈夫よ、安心して。さっきシチフクジンにやったように、痛くはしないから」
「う、うん……お願い」
ごろんと、アメジストが横たわる。
「それじゃ、水をかけるぞい」
そこに、振りかけられるシチフクジンの水。
「ねぇ、シチフクジン。私の研ぎ汁も落としてくれないかしら? きっちり流し切るつもりでお願いするわ」
「あいよ、ちょっと威力強めで行くぞい」
あぁ、私の体が洗い流されてゆく。刀身の腹の方まできっちり錆を落とした私の刃は、美しい黄金色を呈している。けれど、私はさらに美しくなって見せる。彼が悪いわけではないけれど、シチフクジンの岩は粗い。そのため、グッと目を近づけないとよくわからないほどではあるが、切っ先には細かな傷やあらが残り、剣の切っ先は、切れ味も輝きも研ぐ前よりはましといった程度か。
そう、野生の頃皆の憧れだったレベルの高いニダンギルのお兄さんは、沢山の雌の鞘にその刀身を納めるべく、宮殿内部にある大理石の非常に細やかな目を利用して研いでいたものだ。そうやってきめ細かな石で研がれたあの方の刀身の美しい事。濡れてもいないのに、光の加減で濡れているように光を照り返すその様は、雌として鞘がうずいたものだった。
その時の美しさ……メレシーの宝石よりも輝いて見えた記憶がある。さて、粗い研糞を落としたら、次はいよいよきめ細かな彼の体で私の刀身を研ぐのだ。やはり最初はアメジストの表面に垢のように古く風化した岩がこびりついているが、往復しているうちに、それらは禿げて、中にある堅くてきめ細かな岩肌が覘く。
守りを固めた姿の私に匹敵する丈夫さを誇る岩のボディは、息がふれるほど近づいてみれば、かすかにキラキラと輝いている。濁った研ぎ汁すらかすかに煌めいて美しくなりそうなその体を、今から擦りあわせようとするのだと思うとなんだか少し緊張する。ごくりと生唾を飲みこんで、私は再びそっと彼と体を重ね合わせる。
シャリンシャリンと立てる音は、今までで一番なめらかで耳の奥まで透き通るような金属音だ。そして、きめ細やかな分だけ非常に緩やかな振動が私の体の中に伝わってくる。そう、それは例えるならばじっとり濡れたウィッチの舌が私の刀身を這うような、そんな感覚。往復運動の回を追うごとに吸い付くように、そして吸い込まれるように一体感が味わえる。きっと、私の体にあった小さな傷が、この目の細かな砥石に撫ぜられて消えて行っているのだろう。
とろけそうなほどに優美な感触は一度味わうと癖になる。時間が許す限り、この甘く爽やかな感触を味わっていたい。虚ろな目をして、私は初めての体験にひたすら身をやつしていた。
やがてその心地よさにも終止符を打つ時が来た。右も左も裏も表も、すべての部分を研ぎ終えたのだ。
全身からあふれるような満足のため息をついてから、潤んだ目でシチフクジンの方を見る。
「ねぇ、私の体を洗い流してくれないかしら?」
美しくなった私は、こうして水をかぶることで産声を上げるのだ。
「おう、おいどんに任せるぞい」
シチフクジンは研糞を洗い流すために水鉄砲を放つ。そうすると、研ぐ前とは見違える自分の姿があった。ご主人からちょろまかした手鏡には、自身の体も鏡と見まがうばかりに磨かれた姿が、手鏡との合わせ鏡として映っている。
「おー、綺麗になったなー。仲間が綺麗になってメレシーウレシーぞー」
「美しい……あぁ、研がれたお前ががこんなに美しいとは思わなかったぞい」
私の仲間達も、こんなに褒めてくれる。良し、この姿でご主人にアタックかけて、久しぶりに振り向かせて見せるんだから。とにもかくにも、私は布巾で体をふき取ってみる。あまりに切れ味が良かったのか、軽く刃に触れただけなのに少しだけ切れてしまったのが主人に申し訳ない。
そうして体をふき取ってもなお、鏡面のように研磨された私の体は、美しく濡れたような刀身を保ったまま。濡れた女性の瞳は美しいと言っていたウィッチにも惚れてもらえそうなくらいに美しいと自負できる。
テントの中に戻ってみれば、ウィッチもさすがに主人と添い寝をしたまま眠っていたが、気配を感じて目を覚ましてしまったようだ。
「おや、君は……人違いかな、サヤカちゃんによく似ているが、とても美しい」
ブレードフォルムにして露出度を上げ、体のラインを強調する私に、ウィッチさんは立ち上がって褒める。
「ふふん、もちろん私はサヤカよ。それは『私が見違えるほど綺麗になった』という褒め言葉として受け取っておくわ、ウィッチさん」
「おや、君だったのか。はぁ、なんて美しい刀身だ……本当に、見違えたよ。思わず、ご主人から奪ってしまいたいほどに、綺麗じゃないか」
そう言って、ウィッチさんは私の肩にそっと指を添え、私の目の下、胸にじっとりと濡れた舌を這わせる。
「うん、触り心地も滑らかだ。ふふ、やっぱり……君の事もご主人から奪ってしまおうか……皆私に奪われてしまえば、みんな幸せだろ?」
「ダメよウィッチ……寝言は寝て言わなきゃ」
「おやおや、口の悪いお嬢さんだ。太刀なのにタチが悪い」
そう言って、モフモフの体で私を抱きしめる。褒めてくれるのは嬉しいけれど、ご主人に抱きしめられた方が嬉しいのよ。
「わーおー、ウィッチが大胆だなー」
と、その光景を見てアメジストは無邪気な感想を漏らしていた。茶化されると恥ずかしいわ。
「でも明日は、私はご主人のものだし、私さっきまで貴方がいた位置にいるんだから、覚悟してよね!」
緩く啖呵を切ると、ウィッチは妖しく微笑んだ。
「うん、どうぞご自由に。雌を奪って僕のものにするのは楽しいけれど、ご主人は1人しかいないから分け合わなきゃね。明日は君の自由にするといいよ」
と言って、ウィッチは抱いていた私を開放して、ご主人との添い寝に戻る。よし、明日は私がその添い寝のポジションを狙ってやる! 明日、主人にポケパルレをねだるのがが楽しみで寝られないかと思ったけれど、披露していた私は予想以上にぐっすりと夢の世界へと旅立っていった。夢の中でも、ご主人とポケパルレ出来たらいいなぁ。
暑苦しい季節になった。梅雨入り前の茹だるようなお日様が恨めしい。春の終わり、夏の入り口、だというのに温暖化は容赦しない。今日は何十年振りに最高気温記録を突破したというニュースの一つでも流れれば「あぁ、やっぱり」と納得して言い訳できるが、別に期待しているわけではない。
時期を勘違いしたテッカニンでも大量発生すれば面白いかもしれないが、奴らの騒がしさを考慮すると自分の思い付きを即座に否定する。同時にヌケニンまでぞろぞろ浮いてる様子なんか気味が悪くてしょうがない。
朝は寒い、昼は暑い、夜は冷えたり暑苦しかったりとこれじゃあ体の一つでも壊して当然、つまり学校を休む口実の一つにでもなるかと思えば、残念なくらい俺の体はそれなりに健康で、今日も渋々講義に向かう。
冷房ガンガンに聞いているかと思った校内はクールビズということでしっかり28℃設定。ですよねー。いいけど。暑さしのげりゃそれでよし。クーラーなんてハイカラなものがない下宿に比べれば断然マシだ。むしろ居座りたい。
そういえばモンスターボールの中はこの暑さをどうしのいでいるのか。取扱説明書には『ポケモン達がすごしやすい快適な環境になっております』とか書いてあるけどつまりどういうことだってばよ。
あれか、家賃タダ冷暖房完備なわけか。食事もついてくるわけだから、すげぇポケモンって優遇されてんじゃね?とか思った。思っただけ。なりたいとかは思わない。
授業が終わってさっさと帰ろうかと思ったら同じサークルの奴に捕まった。興味津々ってわけじゃないがサークルに所属していたらのちの就活に有利という噂を聞きつけて適当に顔だして幽霊部員を決め込もうとしたのだが、あんまりにも元気溌剌爽やかな美女(先輩)に「一緒に頑張りましょう」と一声かけられて割とハードな所に入ってしまったのを後悔する。
何を隠そう、俺の所属しているポケモンバトルサークル…の、ローテーション部門は閑古鳥が鳴いている。すなわち使い手がいない、使い手がいないと実績がない、実績がないと評価されない、評価されないから予算も省かれない、予算がないから人も来ない、以下繰り返しという真に残念なローテーションを誇る。
ほとんどがシングル、ダブル、たまーにトリプル、そしてリア充用タッグと枠が埋まり、特に希望がないと伝えた俺は歓喜の目をした先輩たちにここをあてがわれた。
俺一人なら「やることないんで」とか何とか言って逃げられるのだが、最悪なことにヤル気満々なもう一人がいる。先ほど俺をここに連行したミタムラという奴だ。同じ部門だから意気投合しようぜ!とばかりに爽やかに声をかけてくれるが正直帰りたくてしょうがない。せめて女の子ならいいのに何が悲しくて色黒眼鏡と一緒にバトルの特訓なぞせにゃならんのだ。
「と、いうわけで次回の大会は是非!お互いにベストを尽くして入賞しよう!」
「あーはいはいさいですかよくわかりましたそれじゃあ帰ります」
「……人の話聞いてた? あのね、僕らは同級生なんだから敬語なんて使わなくてもいいじゃないか」
俺が帰ることに問題はないようなので去ろうとしたらさっと俺の目の前にでかい影が立ちふさがった。何かと思うとミタムラのジャローダである。
図鑑によるとこいつに睨み付けられると動けなくなるらしいが、まさにその通り。どうやら返してくれないらしい。
「君はきっとサボろうとするだろうと思ったからね。さぁ!今日はせめて3戦はさせてもらうよ」
「やだよ、俺じゃお前の相手になんかならねーっての」
「そんなことないじゃないか!最近は僕が苦戦しているのだから」
嘘付け。
吐き捨ててから腰のボールスペースから3つもぎ取る。イラついたままの足をバトルフィールドに向ける。
「ほら来いよ、どうせ叩き潰されてやるさ」
「やる気になってくれたみたいで嬉しいよ!」
そうしてミタムラが繰り出した残りのポケモン共を見て、舌打ちする。
さっきのジャローダに、ガブリアス、そんでミロカロス。あーあぁ、最悪。こいつマジふざけんなよ。何がしたいの。俺相手にフルボッコとか何が楽しいの。せめてどいつかは戦闘不能にできればいいな。
軽い絶望感を感じつつ、俺はボールをやけくそに投げつけた。
太陽が傾いてようやくお開きになった。大学付属のポケモンセンターでズタボロになった俺の手持ちは包帯だらけで帰ってきた。パソコンの中のデータ復元でこいつらはすぐに元気になるといっても、それは表面上だけで、体力や精神力は回復しないと何かの講義で聞いた。
穴を塞いでもらったフライゴンを残して残りの二匹をボールにしまう。なんか気分が悪いと言ったら唐突に最初の相棒は俺をつかんで背中に乗せると飛び上がった。
蒸し暑い根源の太陽が沈もうとしている。上昇するアングルで見上げる夕焼けはやたらと迫力があった。
「なんだお前、日はまた昇るって言いたいのかよ?」
俺の質問に相棒は答えない。ただ冷たい風ばかりを切る。
「……わぁってる。次は、ってわけにゃいかねぇけど、いつかぶっ潰すからよ」
爽やかな朝日なんていらない。ボロボロの俺には沈みかけの夕陽こそがお似合いだ。
「ずいぶんとダイナミックな時間だな、おい」
背中を預ける若草色の竜は一声鳴くと、下宿へ降りて行った。
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はい、お久しぶりです。音色です。
なんか即興で書いてみようぜ!みたいになってので書いたらこうなった。
お題は『ダイナミックな夕方』 なにこれあんまり関係なくね?
ちなみに一時間クオリティだね!
【そんなことよりコンテスト書け】
感想いただけただと…!?ありがとうございます、喜びに舞い上がってます!!
> しかもザングースにタカアキさん。親子の血というか脈々と流れるなにものかの存在を感じざるを得ません。
それはもう、親子ですからネーミングセンスとか似通いそうだなと(笑)
また手持ちが増えても主人公さんはこんな感じで名前付けるんでしょうね
> あれ? それ結構重大事件では……
自由奔放な母親のおかげで、ちょっとやそっとでは堪えない強かな子に成長した主人公さんです。
彼女にとってこのくらいよくあることのようで
お父さんと暮らしたらこんな感じかなぁと妄想しつつ書いてみました。
座布団でゴロゴロするお父さんとか、一緒にテレビ見たりしてるとことかも書きたかったです。
お庭にはきっとゴスの実が植えられているんだろうなぁ…。
またネタが降臨したら、お父さんと主人公さんのドタバタが書けたらいいなぁと思っております。
ちょっとでも笑っていただけたら幸いです!
こちらこそ読んでいただきありがとうございました!!
一行目と二行目で心を掴まれてしまいました。マッスグマのお父さん! 確かにポケモンのニックネーム五文字までいけるから「おとうさん」って入るけどなんで付けたのよ!? とつっこみたくてつっこみたくて。
しかもザングースにタカアキさん。親子の血というか脈々と流れるなにものかの存在を感じざるを得ません。
> それはもう涙なしには語れない深い事情が…。ということもない。
>ただ、数年前に突如トレーナーだった母親が失踪し、家に帰ると卓上に「お父さんと仲良く暮らしなさい」というメモと、その傍らに一匹のマッスグマが鎮座していただけである。
あれ? それ結構重大事件では……
しかし、それを重大と思わないところに有り余る魅力を感じます。
お父さんと仲良く暮らしている、その雰囲気が文章のそこかしこから漂ってきてたまりません。お父さんの仕草や様子を細かく描いているからでしょうか……ゴスの実好きなお父さん、口からゴスの実飛ばして吠えるお父さん、食器出してって言ったら不満そうなお父さん、どれも素敵です。素敵ったら素敵です。
本当、にやにや、かつ、ほのぼのしました。ありがとうございました。
「ねぇお父さん」
その呼び掛けに当たり前のように一匹のマッスグマがこちらを振り向く。この現象は何ら不思議ではない、何故なら私は彼に向かって声を掛けたのだから。
「今日晩ご飯何がいい?」
お父さんはクルルと喉を鳴らすと座布団から立ち上がり、冷蔵庫からゴスの実をいくつか持ってきた。彼の好物である。
「分かった、じゃあこれでサラダ作るね」
そう言うと、満足気な顔で座布団に戻って行った。今日の夕飯の一品はゴスの実サラダに決定。あとは適当なお惣菜と白米でいいだろう。
「あ、お皿とか茶碗準備しておいてね」
私は居間で寝転ぶお父さんが何か反論するように低く唸るのを聞き流し、キッチンへ向かった。
言っておくが私はれっきとした人間であり、ジグザグマやその他卵グループりくじょうの生き物ではない。由緒正しい人間には間違いない。私の知りうるところでは。では何故あのマッスグマを「お父さん」と呼んでいるのかと問われれば、それはもう涙なしには語れない深い事情が…。ということもない。ただ、数年前に突如トレーナーだった母親が失踪し、家に帰ると卓上に「お父さんと仲良く暮らしなさい」というメモと、その傍らに一匹のマッスグマが鎮座していただけである。その日から私は彼を「お父さん」と呼び、こんな感じで一応仲良く暮らしているわけだ。
母は腕の良いトレーナーではあったが、短気というか飽き性で、元々ひとつの場所に留まっていられない人だった。私が大きくなる頃には地方を股に掛け、あちこちを旅していたので家を空けることはよくあった。ジムバッヂ3つで飽きたなどと言って中途半端に帰ってきたり、そのくせ数ヶ月後に何を思い立ったか続きがしたいと旅に出る。そんな人だった。父親はこんな母親に愛想をつかして、とうの昔に違う女に付いていった、とは母から聞いた話である。
居間からお父さんのクルルルルという呼び声が聞こえハッとした。ボーッとして手を止めていたようだ。おい、遅いぞ飯はまだかと言われているような気がする。急いでゴスの実サラダと冷蔵庫のお惣菜を持っていくと、ちゃぶ台に二人分の茶碗と取り皿、私の分だけの箸が置かれていた。
「ごめんごめん、ちょっと考え事してた。お待たせ」
座布団を移動させご飯のときの定位置につき、準備万端で私とサラダとお惣菜を出迎えている。向かい側に座ろうとすると茶碗を鼻でつついて私を見つめる。
「あ、お米」
すっかり忘れていた。慌ててご飯をよそう。ごめんって、と言えば訝しげな顔でグルルルと小さく声をあげられた。しっかりしろよとでも言いたげな様子であった。
毎回お父さんとの会話は当てずっぽうだ。ポケモンの言葉は人間の私には分からない。本当に言わんとしていることは違うかもしれないけれど、今までこの方法でやってこれているのだ。私の解釈は大きく逸れてはいないんだろう。多分、恐らくきっと。
「ああそうだ、お父さん。聞いて欲しいことがあるんだ。ご飯食べながらでいいから」
おっといけない、このまま切り出せずにいては何のために今日の夕飯リクエストを聞いたか分からない。ご機嫌とりもそこそこに、本題に入らなければ。サラダが気に入ったようで、食べるのを止めず目線だけが向けられる。然も重大そうに話しては、途中で逃げられるかもしれないので軽くいこうと関を切った。
「あのね、紹介したいひとがいるんだけど」
瞬間、ごふぅという音と共にお父さんがフリーズした。口からゴスの実出てますよお父さん。こちらを凝視する顔は、ノーマル技しか覚えていないときにうっかりゲンガーにでも出会ってしまったときさながらであった。細くクルル…と鳴る喉は、嘘だろ…とでも言っているのだろうか。
「タカアキさんっていうの。今会ってもらおうと思えばすぐにでも出てきてもらえるから。それで少し話を…」
続けた途端、机を前足で叩き大きな音で私の言葉を遮った。ギャウギャウと口から食べ物を飛ばしながら吠える。興奮しすぎていて、これが人間の言葉であってもなにがなんだか理解出来なさそうな勢いだ。今まで何で黙ってたとか、突然すぎるとか、とにかく怒りと惑いが伺える。私はまだギャウギャウ吠え続けるお父さんに負けず声を張り上げる。
「もう、決めたの。私が腹を括ったんだからお父さんも覚悟決めてもらおうと思ってる」
ぎっと睨み付けて言えば、吠えたままの口の形でぽかんとしていた。そのまま強く睨み続けると、目を泳がせてちゃぶ台から前足を下ろし大人しく座り直した。その表情は大変に不服そうではあったが、落ち着いて話を聞いてはもらえそうだ。
「準備してくるから、ここで待ってて」
私はそんなお父さんを居間に置いて、自分の部屋に入った。そこにはタカアキさんが心配そうな顔で座っている。さっきの騒ぎを聞かれてしまったようだ。私は無言でタカアキさんの手を握り、頷く。よし、行こう。彼と一緒に足早に自分の部屋を出て、居間に戻るとお父さんは背を向けていた。
「お父さん」
呼び掛けても背を向けたままだった。そんなことをしても私の気持ちは変わらない。
「こっち向いて。ちゃんと聞いて」
お父さんはゆっくりとこちらを向いた。床を見つめるその目が、これまたゆっくりと私たちを見上げる。と、同時に。すごく、ものすごく驚いた顔になった。口をパクパクして、酸欠のトサキントのようだ。
「お父さん、彼がタカアキさん。私のパートナーになるの。よろしくね」
私は隣に緊張の面持ちで構えるザングースのタカアキさんをもう一度しっかり紹介した。お父さんは未だ声を出せずにいるようだ。とりあえず、吠えつきはされなかったので本題を続けた。
「私もね、旅に出ようと思うの。リーグ挑戦、本当はずっと夢でね。いつかは行こうって思ってたんだ。それでこの前タカアキさんを捕まえて…ずっとお父さんに黙ってたの。ごめんね」
お父さんは、みるみるうちに安堵の表情になっていった。なんとも人間のようなため息をつき、長く弱々しい唸り声を出していた。突然の宣告にも関わらずタカアキさんにはウェルカムな雰囲気を全面に出すように挨拶をしている。さっきまでの態度は何だったのか。そして何故、お父さんは少し涙目なのか。でもお父さんとタカアキさんが仲良くなれそうでよかった。
いや、安堵している場合ではない。一番聞いて欲しいことはここからだ。私は背筋を正し、グッと力を込めお父さんを見た。
「それでね、あの、この旅に…お父さんも一緒に、来て欲しいの」
渾身の力を振り絞って放ったはずの声は少し震えてしまった。お父さんが私を見据える。
「だってお父さん、本当はお母さんのポケモンでしょ?だから、お母さんを待っていたかったらいいの。でも…お父さんさえ良ければ…一緒にリーグ制覇、したいなって」
思って、まで言ったつもりだったけれどなんだか怖くなって口をつぐんでしまった。そうなのだ。お父さんは元々母の手持ちで、ID表示は母のものが登録されている。私が共に歩みたくても、拒否されてしまったらそこまで。所詮私はお父さんの本当の名前すら知らない、只の捕獲者の娘。パートナーの絆はそこにはない。
しばらく私を黙って見ていたお父さんは居間を飛び出し、母の部屋に入っていってしまった。…これが彼の答えということ。こういうこともあるはずだと腹を括って覚悟を決めたはずの私は、しゃがみこんで涙をこらえるので精一杯だった。泣いてはいけない、ほらタカアキさんも困ってる。それでも流れる涙は止まらない。
クルルルル
近くでお父さんの声がした。恐る恐るその方向を見れば、モンスターボールをくわえたお父さんが座っている。それを私の手に押し付けて、早く受け取れと言わんばかりだ。
「…いいの?一緒に来て、くれるの?」
グゥ、と唸るお父さんはまるで当たり前だろうとでも言うような、ここ最近で一番の満足気な顔だった。ボールを受け取ると、その顔のまま何事もなかったようにちゃぶ台に戻りサラダにがっつきだした。私もタカアキさんに涙を拭われながら食事に戻る。少しばかりお父さんの態度変化の謎が残るが、まあ気にしないことにした。
明日、誰かさんのように卓上メモを残して旅立とう。鞄とパートナーと、お父さんを連れて。
『お父さんと仲良くリーグ制覇してきます』
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描いてもいいのよ
書いてもいいのよ
題名考えてくれていいのよ←
数年前にちらっとお邪魔したきりだったのですが、何かネタ降臨したのでまたしてもお邪魔させていただきました。
これでもポケライフっていうんでしょうかね…
登場人物
私:語り手。時折辛辣な突っ込みを放つ。周りからは酷いと良く言われるが、この場合は相手のボケが酷いのでそこまでこちらは悪くない。
K:友人。別に自分の意思の弱さに絶望して自ら命を絶つような性格は全くしていない。そして好きな子もいない。今のところポケモンがいればそれでいいらしい。
S:主に国語担当の先生。今回は古典講読の授業を受け持っている。パッと見カリスマデザイナーのような外見をしている。どんなだよ!好きな物は愚痴を言うこと、嫌いな物はうるさい子供。
何で学校の先生してるん?
美術室にて。
ガガガガガガガガガ
「ねえ紀成ー」
「何」
「欲しいポケモンやっと思い出した」
ガガガガガガガガガ
「あんまり珍しいやつは私でも持ってるか分かんないよ」
「エネコ欲しいんだよね」
「エネコォ?ブラック貸した時にボックスにいなかった?」
「わかんない。でも欲しいんだよね。ほら、あたしのブラック2じゃん?なんだっけ、ウサギの」
「ミミロル」
「そうそれ。それしか出てこない」
ガガガガガガガガガ
「別にいいけど、進化はそっちでしてね。石無いんだから」
「りょうかーい。後さ、電気タイプの」
「電気タイプだけで分かると思ったら大間違いだ」
「えー、なんだっけ。エレキブルの」
「持ってない」
「違う違う。一番最初の」
ガガガガガガガガガべキッ
「あ、折れた」
「力入れすぎなんだっての」
「変えてもらわなきゃ……。で?エレキッド?」
「そうそう。お願い!こっちは炎のやつ捕まえたから、交換!」
「ブビィね。分かった分かった。せんせー、糸ノコの歯が折れたー」
歯を変えるのに時間がかかるということで、もう一台でやる。再び部屋に響き渡る、耳障りな音。
「そういやさ、W(男子の名前)に言ったらミュウくれるって」
「アイツが?もらう前にID見た方がいいよ」
「……最初っから信じてないんだね。別にいいけど。てかさ、まだSS返してもらってないの?」
「催促してるんだけどねー。どうしよ」
「頼むよー、ルギア欲しいんだから。ついでに言えばグラードンとレックウザも欲しい。あとミュウツー」
「グラードンはともかく、レックウザはHG無いと無理だよ。あとミュウツーは殿堂入り後だし」
↓ここから先はポケモン要素ないです
古典講読。受験生にはいらない授業と仕分けされ、来年から無くなるらしい。だから私達は事実上、最後の生徒となる。
……シリアスな空気で始まったが、そんなことを思わせる暇などこの人は与えてくれない。
何で授業開始から二十分経っても話してんだよ!授業しろよ!そして皆も止めろよ!受験生だろ!
「だからさ、何で高三からいきなり中一の担任になったのか分からないワケよ」
「校長先生に直接聞いたら?」
「聞いたよ!『これはどういうことですか』って!でもさ、あの人いつもの飄々とした感じで『えー、いやー、それはですねー』しか言わないんだよ!」
「何か思い当たること無いんですか」
「……」
あるらしい。私はため息をついた。あくまで私は冷静な生徒を演じる。時折辛辣な突っ込みも入れる。
だってそうしないと、誰がこの先生と皆を止めるのよ!
「そういや文化祭といえば」
「何ですか」
「いや、一番初めに受け持ったクラスでさ、文化祭にクレープ作ることになったんだよね」
聞けばスペースがないため教室で、ホットプレートで焼くことになったという。生徒達にホットプレートを各自で持って来させ(ある人は)、教室内のコンセントをタコ足配線にし、『さあやるぞー』と、一斉に電源を入れた。
そして。
ブチン
「……」
「焦ってさー、慌てて電源消して、幾つか隠させて、来た人に『いやー、電源入れたらこうなっちゃったんですよー』ってごまかしてさ」
「ブレーカー落ちるって予想しなかったんですか?」
「白熱灯が沢山あるから、電気タンクみたいなのあるんじゃないかなー、って。いや、業者のおっちゃんがすごい怖い人でさ、何回頭下げたことか」
「……」
怖いのは業者さんじゃなくて、それを予想できなかった貴方の頭です、先生。そして白熱灯と電化製品を一緒にしないでください。何のためにワットとかアンペアがあるのか、分かってますか?
―――――――――――
今日古典講読の授業で聞いた話。本当に大丈夫か、この学校!
今なら笑い話で済むところだけど、実際に起こされたらたまったもんじゃないぞ!
「なあ、聞いたか?」
金髪の男が、フードを被り、顔を隠す男に話しかけていた。ここは、喧騒と欲望の渦に沈むブラックシティ。黒く染まった大都会である。
「……何かあったのか。」
「ほら、あの単独で動く女裏ハンター!!名前は確か……。」
「キャシディ・マーニー?」
「そう!そいつ!毒蛇キャシディ!!」
「組んだのか?」
「らしいぜ。」
「……厄介なのが増えた。」
「何か言ったか?」
「何も……持ち場に戻ろうぜ。」
フードを被った男は、金髪の男を急かすように先に進む。金髪の男は戸惑いながら付いていく。その中で、フードを被っていた男は焦っていた。 気付けば、金髪の男は居なくなっていたことに気付いた男は、被っていたフードを取って息を吐いた。そしてそのまま座り込む。
(はあ……警察官も楽じゃねえな……これ終わったら、有給むしり取ってやる。)
浅く息を吐いて空を見上げた。何時の間にか、エルフーンが頭に乗っていたが、男は気にせず腕に抱いた。この男は、裏取引の情報を嗅ぎ付け、潜入捜査を行っている、国際警察官の刑事、シュロである。腕の中に移動させたエルフーンの♀、フォンは、彼の手持ちの一匹である。
「フォン、これ終わったら、必ずヒウンアイス食べような。」
「える!」
「……約束な。」
彼女が差し出した右腕に、自身の右手小指を当てて、指切り拳万と呟くと、彼女をボールの中に戻し、フードを被り直した。
「待って。」
「…………。毒蛇?」
「怪しいと思ったら……あなた、ヘリオライト?」
「あんたにも、俺のコードネームが伝わってるとはね……光栄だよ、キャシディ・マーニー。」
苦虫を潰したような、険しい顔付きで、現れた女を思いっきり睨み付けた。女、キャシディの隣には、こちらでは珍しいアーボックが威嚇している。キャシディは、アーボックを撫でて落ち着かせると、シュロの方へと向き直った。
「探している子はこの子かしら?」
「!あんた、知っててわざと……!!」
「この子がほしくて取り入ってたけど……興が剃れて、あんたのターゲット、眠らせちゃった。この子はそのお詫びの品よ。」
彼女がシュロに差し出したのは、一匹の、色違いのヒトモシ。恐らく♀である。福寿草の花が咲く、小さな鉢植えに寄り添って、ぐっすりと眠っていた。花が燃えないと言うことは、恐らく特性はもらいびだろう。お詫びの品と述べた彼女に不信感を募らせたシュロだが、大人しく色違いのヒトモシを受け取った。
「……辺りが騒がしいわね。起きちゃったかしら?」
「かもな……さて、暴れ時かな。」
「逃げないの?」
「残念ながら、ここの連中を全員しょっ引くつもりさ…………あんたの分の手錠は、残念ながら今回は持ち合わせていないけどね。」
「そう、それは残念……ああ、そうそう。その福寿草、私からその子への贈り物よ。」
それだけ告げて、毒蛇、キャシディ・マーニーは、フワライドに掴まり、アーボックをボールに戻すと、ブラックシティのビル群に囲われた空へと、ゆっくりと上昇して行った。シュロはそれをそのまま見つめると、自分が一番信頼する相棒・ワルビアル(♂)のヴィックと共に、黒の街へと舞い戻って行った。
*
「痛ってえ!?」
消毒液が突然、たっぷりと傷口に付けられて、シュロは思わず声を上げた。消毒液を付けた張本人は、彼の弟のようだった。
「兄さんのばか野郎!なんであんな無茶するのさ!!」
「ちょっ、リンドウ、うるさい!シンフーが起きる!!」
「……え?誰のこと?」
「ん。」
指さす先には、未だぐっすりと眠る、色違いのヒトモシ。ケージから出されて、椅子に座り込む、彼の相棒のワルビアルの膝の上にいる。そのヒトモシの近くには、ケージの中に一緒に入っていた、福寿草の植木鉢。エルフーンが、ジョウロで水を上げていた。
「シンフー?」
「そう。幸福って書いてシンフーね。」
「へえ……随分と深い意味合いで。」
「まあなぁ、『色違いは全部私の物だ!!』とか何とか言って、虐待死させたりしてたヤツだったからなぁ。」
「え……じゃあ、この子も?」
「おそらくな……まあ、ちょっとずつ、彼女の傷を癒してやるつもりさ。」
「だからって、父さんの二の舞にはならないでね?ヴィックも何とか言ってやってよ。」
そう告げたリンドウに、それは無理だと言わんばかりに、彼のワルビアルは首を振って、ヒトモシの顔を優しく撫でた。
「父親みたいだぞ、ヴィック。」
「!?」
「本当だね……兄さんを頼むよ、お父さん?」
そこで俺のことを言うのは違うだろう、とか、じゃあ誰が兄さんのストッパーになるのさ、とか、いろいろと言い合いを始めた主とその弟を見つめて、ヴィックは福寿草の鉢植えの土に刺さっていた、小さな紙を手にとった。それを見つめて、ヴィックはふ、と笑うと、黄色い愛らしい花の近くにそれを置き、このあと正式に、6匹目の仲間となるであろう、小さな小さなロウソクの霊を愛で始めた。
「福寿草:キンポウゲ科の多年草 アジア北部に分布。シンオウのテンガン山とジョウトのシロガネ山にも咲いている。季節は2〜5月。花の色は黄色。花言葉は、回想・思い出・幸福を招く・永久の幸福。」
*あとがき*
最後はヒウンアイス食べながら終わらせるつもりが違う形になった!
ですが、結果的にほのぼのになったのでいいです。
ずっと書きたかった話がようやく書けました。
福寿草の花言葉を見た瞬間「これだああ!!」 と思いました。
色違いのヒトモシって可愛いですよね。
私の書くワルビアルが本当にお父さんみたいですよね。
他にもツッコミどころ満載かもしれませんが触れません。
感想、お待ちしております。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【批評してもいいのよ】
雨は、あまり好きではない。あの日のことを思い出すから。
灰色の石は降り注ぐ雫で黒へと変わり、あの人の面影を消していく。
目を閉じれば、今でもそこにいるような気がする。
何も言わない骨となった貴方は、石の底で永遠の安らぎを手に入れたのだろう。痛みも苦しみも感じない、ただの骨。意味ある物は貴方に降り注ぐ雨の雫のみ。
それは、貴方を清めてくれるのだろうか。
『ねえ、何で君は泣かないの』
答えは簡単。失う物が無いからだ。
――――――――――――――――――――
傘の先から溜まった雫が落ちた音で、カズオミは目を開けた。足元を支えるアスファルトは既に黒く濡れ、その天気独特の匂いを醸し出している。太陽の光を浴びて熱していた鉄が、冷やされて冷めていく匂い。
そういえば昔嗅いだ物は別の臭いも混じっていたことを思い出す。土の匂いは幼い頃嗅いだ。まだ故郷が開発されていなかった時代。今となっては、はるか昔のことのように思える。実際そうなのだが。
ブルーシートを被せられていても漂う、その臭い。不謹慎かもしれないが、特に雨の日はより濃くなる。その臭いが叫んでいるように思えたのは、気のせいだったのだろうか。
雨に濡れた髪を揺らして、頭を下げる。目を瞑り、両手を合わせる。それは一種の条件反射に近かった。だが自分の心には、懺悔の気持ちがいつもあった。
それが誰に対してなのかは―― 分からない。
周りに人はいない。あのざわめきは、ここにはない。誰かの泣き声と、苦しげに顔を歪める後輩。彼はまだ刑事だった。両親共々美術系の仕事だったのに、何故か彼だけはこの職についた。
『いや、何ででしょうね。俺にも分からないんすよ』
一緒に飲んでいる時、決まってその話題になった。最後に見た時よりかなり痩せている体を反らして、彼はグラスを煽った。
『死んだ親父が最期まで良く言ってたんす。何でお前はわざわざ死に行くような仕事についたのかって。酷くないっすか?全国の現場を走り回ってる人達に失礼っすよ』
『その中には、お前も含まれているのか』
『当たり前じゃないっすか!俺はこの仕事に誇りを持ってますから。そりゃ、理想と現実のギャップに悩むことはありますけど……』
大分酔っているらしい。彼はカウンターに突っ伏した。
『それでも……。俺はこの仕事について良かったと思ってます。生と死を一番近くで見ることができるって、この仕事くらいじゃないっすか。消防士や病院に勤めている人もそうだけど、仏さんの無念の声を聞いて、自分達に出来る事をする。
この時代に、大切なポジションでいたいんすよ。刑事として』
今でも彼は、そこに所属している。ただし、もう刑事ではない。警部だ。当時の私と同じように刑事である一人の部下を引っ張り、指導しているらしい。
理想と現実のギャップに幻滅しても、なお自分のできることをしている彼を、私は羨ましいと思う。
私は――
「逃げた、のか……」
雨音は途切れることなく、傘を打ち付ける。あの日を思い出す。何故か人生の転機を迎える時は決まって雨が降る。雨男なのだろうか。それにしたって、嫌な運の持ち主だ。
例えば、彼女にカフェを預けたいということを告白した日。
彼の面会に行く日も、必ず雨が降っている。
警部という職業を辞めた日は、台風が近付いていて家に帰れないほどの大雨が降っていた。
そして、
「父さん」
父が、死んだ日。そして、彼の葬式の日も。
父は弁護士だった。母は私が幼い時に事故で亡くなり、以来男手一つで育てられた。
私が異常な雨男なのに対し、父は異常な晴れ男だった。母が死んだ日は、秋なのに二十五度を超えるほどの暑さだったらしい。
父は自分のその運を嫌っていた。よく酒に酔うと、私に話した。
『お前は、母さんの運を受け継いだのかもなあ』
母は雨女だったそうだ。幼い頃から特別な行事の度に雨が降り、クラスメイトから疎まれた。遠足、運動会、文化祭、修学旅行。
母もその運を嫌い、あまり外に出なくなった。すごいのは、母がその場からいなくなれば、そこがどんなに激しく雨が降っていても、十分も経たないうちに雲が晴れ、青空が見えてくる。
大学に進み、父と出会い、やっと晴れ間を見る日の方が多くなったという。
母が死んでからは、自分が雨を降らす役になった。
だが父もいなくなった今、この運はいらない物でしかない。
ポテポテという足音がして、カズオミは我に返った。道路の色がいくらか薄くなったように見える。傘に打ち付ける雫の音が、合唱から独唱へと変わっていた。
視界の隅に入る、緑色と朱色の影。背丈は腰くらい。自分の体が濡れるのも構わず、しきりに手を天に向かって伸ばしている。
それと同調するように、光が差し込んでくる。
「……!」
思わず傘を閉じる。ぽつん、と頭に雫が落ちたが、それ以外の打ち付けるような感触は無かった。空を見上げて、その理由を知る。
買ったばかりの青の絵の具を、思い切りぶちまけたような――
葉に付いた雫が太陽の光を浴びて、宝石のように輝いている。水溜りに空が映し出されていた。風が吹いて、波紋が出来る。雲が移動していくのが見えた。
隣を見て、その相手と、その原因を知る。
「ドレディア……」
緑のドレスを纏い、巨大な花飾りを頭に付けたような姿。普通に見れば場違いな女性だと眉を顰めるところだが、今はその理由は思い当たらない。何故なら、その姿が彼女の素の姿だからだ。
ドレディア。その外観から、世間でセレブと呼ばれる人間達のポケモンになっていることが多い。頭の花は大きいほど育て方が良いとされているが、上手く育てるのはプロでも難しい。
ドレディアが野生で出るという話は、カズオミの経験では聞いたことがなかった。おそらく誰かに飼われていた物が野生化したのだろう。その証拠に、今使った技は決して野生では使うことがない。
「『にほんばれ』、か」
少しの間、日差しを強くして炎タイプの技の威力を上げる。ソーラービームを放つまでの時間を短くする。バトルをする立場でなくとも、常識として学校で必ず習う知識だ。
ドレディアがこちらを見た。どうやら、この雨で困っているように見えていたらしい。少しもじもじとした仕草で下を向く。
傘を左手に持ち替え、そっと右手を差し出す。目がこちらを映す。
「ありがとう」
少し経ってから、ドレディアの手の部分である葉がそっと差し出された。雨に打たれたのだろう。濡れている。ポケットからハンカチを出し、渡す。
「良かったら使ってくれ」
ギンガムチェックの刺繍が施されたそのハンカチは、男が持つにはあまり相応しくない色をしていた。白地に赤と青と緑の三色。普通なら自ら選んで買うことはない。
それを送ってくれた『彼女』の顔を思い出し、カズオミは目を閉じた。
あの日、告げた瞬間彼女がどんな顔をしていたか思い出せない。覚えておくべきことのはずなのに、思い出そうとすると靄がかかったように、そこだけボウッとかすんでしまうのだ。
忘れたいことにインプットされ、そのまま知らず知らずのうちに消去されてしまったのかもしれない。随分都合の良い海馬を持ってしまったものだと、自嘲の笑みを零す。
その割りに、あの雨の記憶は忘れることがない。あれから四十年近くが経過しているというのに――
(忘れるな、ということか)
また意味合いは違えど、それと同様に強く焼きついてしまっているのかもしれない。もしくは、忘れてはならないということか。
疑う、ということをその仕事についてから強いられてきた。相手の隠していることを見抜く。自殺か他殺か見抜く。事件関係者を心の底から信じてはならない。そうしないと、裏切られた時のダメージが深くなってしまうから――
かつて尊敬していた父とは全く正反対のポリシーが、いつの間にか心の中に刷り込まれていた。
『相手を信じる。何があっても。判決が下るまで、相手を信じぬく』
差し出されたハンカチを仕舞い、カズオミは立ち上がった。傘はもう開くことは無い。そしてそこで何故こんな場所にいるのかを思い出す。散歩の途中だったのだ。雲行きが怪しくなってきたので傘を持参し、ここらまで来た所で急激に降り出した。それは風も伴う激しいもので、このまま進んでは傘が御猪口になってしまうと判断し、しばらくの間傘を差したまま立ち尽くす羽目になったのだ。
雨は上がり、空気はカラリとはしていないものの、先ほどの湿り気は引いている。自宅であるアパルトマンがある街目指して、カズオミはゆっくりと歩き出した。
それから三百メートルほど歩いたところで、後ろで何か鈍い音がし、振り向けば先ほどのドレディアが転んでいたのは、また別の話である。
その縁でそのまま『彼女』を手持ちポケモンの一匹にすることになるとは―― 今の彼が予想することはなかった。
――――――――――――――――――――
『クロダ カズオミ』
誕生日:不明
身長:179センチ
体重:70キロ
在住:不明
主な使用ポケモン:ドレディア
性格:しんちょう
特記事項:『マスター』と呼ばれていることが多い。本名を出すのは多分これが初。個人情報が不明な欄が多い。
カフェ 『diamante』の マスター。 いまは ユエに ゆずり かいがいに いる。
もと けいぶで ある じけんで ユエと しりあう。
ちちおやは べんごし だが 12さいの ときに しぼう している。
ユエの がくせい じだいの ほごしゃ ポジション だった。
ストイックな ふんいきと ときおり みせる やさしさに ほれる じょせいが おおい。
いまだに みこん だが べつに そのけが あるわけでは ない。
―――――――――――――――
リメイクその4。数少ない男性キャラ、マスター。
双子の存在を知っている人はどのくらいいるのかしら……。
ポケダン新作おめでとうー!!
これだけのために頑張って3DS買うよ!!
*青の救助隊*
逃避行イベントとエンディングに全俺が泣いた。
何ということだろう。ただでさえ涙もろいのに…!!
実はゲームで泣いたのは救助隊が初めて。
その姿を妹2人に見られて驚かされました。
「「姉ちゃんがついにゲームで泣いた……!!」」
と、見事にはもってました。
*空の探検隊*
青の救助隊以上に泣いたゲーム。涙腺大崩壊しました。
最後、ジュプトルがヨノワール共々未来世界に行ってしまったところと
主人公が消えてしまったシーン。
それから親方さまと未来編のエピソードは何度見ても激泣きです。
もはや最終兵器と同等の価値でした。
今回も涙腺大崩壊させてくれ。
青の救助隊
1回目
チコリータ(♀):リサ ミズゴロウ(♂):ラグ
チームLaugh(ラフと読みます。意味は笑い)
2回目
キモリ(♂):ジェイド ヒトカゲ(♂) :ルビー
チームジュエル
3回目
ピカチュウ(♀):ユズ アチャモ(♀):カーマ
チームColor
リサとラグのコンビは結構スイスイ行けました。
氷雪の霊峰に少し苦戦しましたが……。
ジェイドとルビーのダンジョンも、同様に楽しく
プレイできましたが、ユズとカーマのコンビは
マグマの地底で大苦戦しました。
電撃も炎も効かない中で、復活の種無しで
グラードンに挑んでぼろ負けばっかり
ひどいときはモンハウで地震使われて一撃……
何度涙を飲んだことか……。
*空の探検隊*
1回目
ロコン(♀) :ショコラ コリンク(♂):ライム
チームキャンディ
2回目
ナエトル(♀):ナオ ワニノコ(♂):ショウ
チームストロング
未来組
ジュプトル→キーラ
ヨノワール→ヨミ
セレビィ→モモカ
ジュプ主♀に超嵌りました。
だって主人公ちゃん可愛いんだもん!!
ロコンが使えると知ったときは舞い上がりました。
一回目も二回目も、おっとりしてそうなポケモンで
パートナーは逆に元気そうな子になるようなセレクト。
一回目のラストエピソードの闇の火口は
ちょう大苦戦でした……。全然辿り着けなかった……。
二回目は一回目の二匹が弱点になるように、と選びました
ナオとショウの名前とチーム名は、とある芸人さんから頂きました(笑)
ただ、そのチーム名の通りに強くなってくれたので嬉しかったです。
……ナオちゃんのモデル、女じゃなくて男ですが。
他の方のエピソードも聞かせて下さい(^_^)
【よければ皆さんも語って下さい!】
シオンタウン郊外に、自転車を漕いでどこかに向う1人の女性
その自転車の籠にはカラカラがちょこんと居座り、その手には、赤と紫の花束
女性は白衣を来て、荷台に鞄を括り付けている。
栗色の髪をうまく纏めて、白い薔薇の嘴ピンで、前髪を止めていた。
「久しぶりね。こっちに来たの。」
「カラ……?」
「だって、私が医大卒業してからはずっとアサギにいたじゃない。」
女性の言葉に答えるように、籠に居座るカラカラのオスは、前を向いて、小さく鳴いた。
だいぶボロボロの自転車ではあるが、女性は白衣を靡かせて、ひたすら、どこかに向かっていた
「さあ、そろそろあの花畑よ。フジさんが先に着いてるはずだから
失礼のないようにしなさいね?オーカー。」
「カラ!」
「よし、いい子!さあ、飛ばすわよ!!」
*
僕のお母さんは、ちょっと前に天国へ行ってしまった。
そのときに、偶然出会ったのが、人間のクルミさんだ。
クルミさんは、寂しくないように、ずっと僕の側に居てくれた
そして、そのまま僕のトレーナーになってくれた。
そのときのクルミさんは、お医者さんになる勉強をしていたため
クルミさんに着いてきたというチャコールさんに、色々教えてもらった。
チャコールさんは、とっても強くてカッコいいマニューラの女の人で
僕の憧れであり、目標としている人だ。
もしお母さんがまだ生きてたら、チャコールさんみたいに
戦い方を教えてくれたのかな……。
「着いたわよ、オーカー……降りれる?」
お花屋さんで買ってきた、ちょっと高い花束を
いったんクルミさんに預けて、自転車の籠から飛び降りた。
「……こんなに逞しくなったの、チャコールのお陰かしら。」
花束をまた預かると、クルミさんは荷台の荷物を取ってから
たくさんのお花に囲まれた、丘の上の大きな木へと向かった。
その木の下に、僕のお母さんのお墓があるんだ。
「フジさん。」
「おお、クルミさん。お久しぶりです。」
「お久しぶりです。腰の具合はどうですか?」
「ええ、なんとか。しかし、最近のお医者さんはすごいですな!」
「医学は常に、進歩していますから……それじゃあ、始めましょうか。」
フジさんと言う人間のお爺さんとクルミさんは
お母さんのお墓を綺麗にし始めた。
僕も手伝えることをして、5分くらいで終わった。
それから花束をお母さんのお墓に置いて
蝋燭と御線香を立てて手を合わせた。
「オーカー。私達は向うに行ってるから
お母さんとたくさん話しておいで。」
「カラ……?」
(いいの……?)
「ほら……行きましょう。」
クルミさんとフジさんは、丘の下の花畑に行ってしまった。
それをじっと見送ったあと、僕はお母さんのお墓に向き合った。
「……お母さん。僕ね、前より強くなったんだよ。」
「まだまだ未熟者だってチャコールさんは言うけど
それでも、色んなポケモンと戦ってきたんだ。」
「お母さん、この花、好きだったから持ってきたんだ
花の名前は知らないけど、とてもいい匂いがするって言ってたもんね
これね、赤い方がグラシデアで、紫の方が胡蝶蘭って言うんだ。」
「お母さん……僕、ずっとずっと、お母さんのこと、忘れないから。」
ありがとう、愛しているよ、お母さん。
*あとがき*
Superflyさんの愛を込めて花束を聞いたときから
この曲はずっと、ガラガラとカラカラの二匹に会うなぁと思ってました
カラカラがガラガラに花束を送ると言うイメージが
焼き付いて離れませんでした。
感想、お待ちしています。
【描いてもいいのよ】
【感想求む】
昨晩はみなさまお疲れさまでしたm(_ _)m
チャットログ抜粋が見事にぴじょんぴょんで落ちているというw ……ハッ、これはもしや新手のステマでは!(違
ゼクロム。レシラム。キュレム。ついでにイーブイ。
前者はトレーナーが死ぬまでに会いたいポケモンとして、アンケートで毎回上位にランクインする。
後者は『もふりたいポケモン』として、どの世代にも人気である。中には宗教的な意味合いでの信者もいる。
ちなみに、バトルで使えるかどうかというのは、また別の話らしい。
このカフェでは、彼らはそういうポジションを貰っていない。
商品の名前として、訪れる客をもてなすためだけに存在している。
――――――――――――――――
キュレムはお冷を指す。運ぶことはできるが、自分はあまり好きではない。何故なら、自分はマグマラシというポケモンで、なおかつ炎タイプだからだ。
天気は晴れ。風はやや強め。空を見上げれば誰の手持ちなのか、それとも野生なのか。モンメンが一列に並んでふわふわ漂っていた。下を歩く人間がくしゃみをする。中にはハンカチで目元を拭っている奴もいる。
……花粉症は辛い。
春の次は秋に来る花粉。春は杉がその代表だが、秋はブタクサなどが挙げられる。だが草ポケモンが散らす胞子や綿もそれに入るらしい。特に車が多いライモンシティ、ヒウンシティは花粉症患者が多く、病院を訪れる患者が後を絶たないという。
元々、花粉だけではアレルギー反応は起きない。そこに排気ガスが加わり、花粉症を引き起こす。一度天然の杉が沢山生えている林に行った花粉症患者は、友人に連れられて嫌々車から降りたところ、全くくしゃみも涙も出ずに驚いた、という話を聞いたことがある。
さて、自分は未だに縁が無いが、花粉症にかかるのは人間だけではない。ポケモンだって、花粉症にかかることがある。
ふわあ、と欠伸をしてマグマラシは店内に戻った。ライモンシティはギアステーション前にある、個人経営のカフェ『GEK1994』。このマグマラシの仕事は、主人であるユエに頼まれて看板になること。
いわゆる『看板息子』である。
子供連れはあまり来ないが、例えばOLなどがこちらを見つければ、後はこっちの物。見つけた!というような反応で一気に駆け寄り、相手の顔を見上げる。ここですぐさま足に擦り寄ってはいけない。相手の反応を見て、笑顔を見せれば最初に二本足で立つ。そこで頭を撫でてくれれば、後は足に擦り寄る。
何事も出しゃばらないことが肝心なのだ。それに、中にはポケモンが苦手な人間もいる。まあそういう人間は目が合った瞬間に分かるが。
こちらにあまり良い印象を抱かない相手は、目が合った瞬間の表情で判断できるのだ。
そんなわけで、今日もマグマラシはカフェにお客を呼び込むのに一役買っている。
それは、一日中降り続いた雨が、残暑をすっかり吹き飛ばしてくれた、ある日のこと。午後になってから一人の女性が風のように現れた。
雑誌のモデルにいそうな、背の高い女性だった。年齢は二十代というところ。マグマラシから見れば、シルエットだけで判断すればユエの方がボディラインは良いと言える。ちなみにこれは♂ポケモンとしての価値観も微妙に入っている。
ツンとすまし顔だが、ここに入るのが楽しみで仕方なかった、というのが雰囲気で分かる。どんなにごまかしても、分かる人には分かるんだろう。現にマスターであるユエは心からの笑顔で『いらっしゃいませ』と言った。ちなみに彼女は表情を作るのが上手だ。ただぎこちなさは、無い。
メニューを開いた後、お客はモンスターボールからエンペルトを出した。毛並みがいい。頭にあるのは王者の風格を放つ金色の角。王冠に見えるのは気のせいではないだろう。
睫が長いことから、♀だと思われる。
ソファ席に座って、少し退屈そうに店内を見渡していた。
「よう」
自分の数倍上にある顔を見ながら話すのは、すごく疲れる。特にオレは普通体勢が四つん這いだから、仁王立ちに鳴れていない。進化すればこの悩みも解消されると思うけど、主人はバトルをあまりさせてくれない(というか機会が無い)からレベルアップすることもない。
エンペルトがソファから降りた。主人である女性は何も言ってこない。
「何用かしら」
「お前は注文しないのか?」
「お小遣いもらってないのよ」
「んなもん、オレだって貰ってねえよ」
お小遣いを貰うポケモンなんて聞いたことがない。俺が食べる物は、ここのアルバイトや店員に休憩時間にもらう賄い食の残りだ。
はっきり言って食べ飽きてるけど、ユエは期間限定商品はなかなか食べさせてくれない。
理由は『贅沢』だかららしい。
「ゼクロム飲むか?」
「ゼクロム?ポケモン飲むの?」
「違う。ここではブレンドコーヒーのことを言うんだ。ちなみにミルクコーヒーはレシラムゼクロム、な」
一先ずキュレムが運ばれてきた。喉が渇いていたのだろう。すぐに飲み干して――その表情が『!?』に変わるのをオレは見逃さなかった。
ガラスコップの底に印刷された文字。
『ひゅららら』
「……どういうことなの」
「いや、こういうデザインだから」
付き合いたて、熱々カップルで来るのはお勧めしない。以前オレは、これを見てしまって水を噴出した男が彼女に振られたシーンをその場で目撃したことがある。
熱しやすく、冷めやすい。この場合はキュレムがそれを冷やしてくれたということだろう。いささか冷やしすぎな気もしたが。
ユエはその時は無表情でマスターとしての対応をしていたが、その日店を閉めた後、耐え切れなくなってカウンターをバンバンと叩いていた。『くそwww腹筋崩壊しかけたww』『リア充ざまあww』と言っていたことは、従業員には内緒だ。
「名前長くない?」
「オレも最初はそう思ったんだけど、ユエがどうしてもって言うから」
「変な人ね」
ゼクロムが運ばれてきた。カップにはこのカフェのマークがプリントされている。『1994』を真ん中に、トライアングル式に『GEK』の文字が並んでいる。色は緑かチョコレート色。この時は緑色だった。
一口啜って、ほう……とため息をつく。
そんな主人を羨ましそうに見つめるエンペルトに、オレは持ちかける。
「お前も飲むか?」
「だからお金持ってないのよ」
「奢る」
「……」
考え込むエンペルト。ゼクロムを飲みたいという気持ちと、プライドが天秤にかけられている。一分、二分、三分経過した。カップ麺が作れる時間だ。もっとも、自分は一分立たずに開けてそのまま食べる派だが――
話が逸れた。約五分経ったところで(生麺タイプが作れる時間だ)、エンペルトが目を開けた。
「飲む」
カウンター裏へ行って、コーヒー豆をブレンドする。キリマンジャロにモカ、ブルーマウンテン。うちのゼクロムはザラザラしてなくて少し甘みが強い。モカを多く使っているからだ。
流石に企業秘密ということでそこは見せない。
主人がいつもしているやり方で入れる。そこで忘れてはいけないのは、必ず手袋とマスクとゴーグルをすること。ユエはしていないけど、オレはしないといけない。毛が入ったら大変だ。
せっかくなのでとっておきのカップに注ぐ。黒い陶器。取っ手が独特の形をしている。底の文字を見て、思わず笑う。
小物に隠されたネタを、ゼクロムと一緒に堪能してもらおうか。
「できたぞ」
お盆に乗せたカップを見て、エンペルトは目を丸くした。実はこれ、ゼクロムをモチーフにしたカップ。レシラムもあるけど、そちらは主にミルクを使ったドリンクに使うことが多い。
ジグザグの取っ手。ただし持ちやすいようにきちんと改良してある。
「何これ」
「ゼクロムカップ。レシラムカップもあるぞ。ちなみにお冷を入れるのはキュレムタンブラー」
「すごいアイデア心ね」
「アイツに直接言ってやってくれ。このカフェのメインはゼクロムとその小物なんだ」
ふと店内を見渡せば、そこかしこにポケモンをモチーフにしたグッズがある。
たとえばタンブラーを乗せているコースターはディアルガの胸部をデフォルメした物だし、カウンター隅の籠に置いてあるキャンディーは、色合いがクリムガンとアーケオスの二色だ。
「美味しい……」
「火傷には気をつけろよ」
「分かってるわよ…… ?」
カップの底が見えるまで飲んだところで、何かが薄っすら書いてあるのに気付く。もしやタンブラーと同じネタかと思い、一度口を離して深呼吸する。
そして一気に飲み干し、底を見る。
『ばりばりだー』と書かれていた。
「……ナイス」
「このカフェ、元々はユエのじゃなかったんだ。『diamate』って名前で、主人はそこで働いてた。看板娘みたいな感じで。お客の出入りはあんまりよくなかったけど、当時のマスターが元・警部だったことで部下がよく休憩しに来てて、それで成り立ってた。
だけど三年位前に、そこのマスターがユエに店を預けるって言い出した。理由は分からないけど、とにかく店を受け渡した後フラリと何処かへ行っちまった。その後の消息は未だ掴めてない」
「何故かしら」
「ユエは多分知ってる。だからユエはマスターが戻って来る時まで、ここを守ろうと努力してるんだ。最初はなかなか大変だったけど、今ではリピーターも増えた。特に女子高生が多くてさ。あの年代のクチコミ効果は馬鹿に出来ないぜ」
最初、二人だったのが次の日には三人か四人に増えている。ついでに『課題セット』(そのまんま。課題をして良い代わりに特定の飲み物と軽食を付けたセット)を学生限定で始めたところ、女子高生の使用率が三倍になった。
若いがそこまで騒がしいタイプではないユエを慕い、大人しいタイプも集まってくる。中には相談事をしてくる人もいる。そんな彼女らの話を、ユエはゼクロムを淹れながら聞く。その間、従業員達は忙しくなる。
ユエが話を聞くことに集中しているからだ。
こんなのアリか、と思う人もいるかもしれないが、未だに苦情が来たことは一度もない。
「皆、ユエに話を聞いてもらいたいんだ」
「……」
「話を聞いてもらうだけで大分スッキリした顔で帰っていくからな」
女と男の違い。それを知ることが、付き合いを円滑に進める第一歩だという。
女はただ話を聞いてもらいたい生き物。男は何か意見を言いたがる生き物。
女が相談事、と言って話し始めた時は、男は黙って相槌を打っていればいい。そして、『どう思う?』と聞かれたら決して自分の意見を言ってはいけない。『君が正しいと思うよ』『大変だったね』と言わなくてはならない。
たとえどんなにその女に非があったとしても――というかそんな女とは別れた方が身のためだが――相手を否定してはいけない。
少し店を周りに任せ、一日一本のお楽しみに火を付ける。いつから吸い出したのかは分からないが、健康の害にならない程度に楽しむようにしている。
左手で持ち、煙を吐き出す。先から白い線が揺らいで空に上がっていく。
今のところ、順調に来ている。マスターが戻って来るのが何時になるかは分からないが、それでも何かあったら連絡をくれるはずだ。
そう信じたい。
「……」
流石にもう、半袖で外に出れる季節ではなくなってきたなと、ユエは二の腕を押えて思った。
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『ミナゴシ ユエ』
誕生日:9月16日 乙女座
身長:165センチ
体重:64キロ
在住:イッシュ地方 ライモンシティ
主な使用ポケモン:バクフーン
性格:ずぶとい
特記事項:体重が重いのは胸のため。子供が大の苦手。高校時代に剣道部を全国優勝に導いた経験あり。
じつは このはなしでは なまえは まだ でていなかった。
あとに なって やっと なまえが あかされた。
べんきょうは あまり できないが ざつがくは たくさん しっている。
とくぎは コーヒーを いれることと りょうり。
ひょうじょうが よく かおに でるため つきあいやすい。
タバコを すうという せっていは さいきんに なって つくられた もの。
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リメイクその3。面倒なのでユエも登場させた。
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