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NEAR◆◇MISS×明け色のチェイサー コラボ短編
『負けられない戦い方』
<国際警察>……簡単に言うと世界をまたにかけ、難事件を調査し、犯人を追い、捕まえる特定国家に属さない組織。
その組織の一員である私ことラストは、ヒンメル地方、王都ソウキュウにあるとあるレンタル会議室に向かう最中でした。
今日はそこで待ち合わせている……のではなく、同伴者を案内中です。
「なんで俺が貴方についていかなあかんのですか……」
そう同伴者である、肩に白い毛並みの小さいイーブイを乗せた金色の長髪が特徴的な青年、レスカさんはぼやきます。
まあ、当然の反応ですね。私がいろいろな事情を抱えている“一般人”の彼を無理言って見知らぬ土地にいきなり連れてきたわけですから。
ぼやいてくださるだけレスカさんはまだ私に気を許してくださるようで、イーブイのダッチェスは人見知りなのか、周囲を警戒しています。私は特に警戒対象のようで、地味にショックを受けていることは彼らには秘密です。
愛想笑いを浮かべ、私は話をそらしました。
「レスカさん、姿をくらましたがってはありませんか。都合がいいでしょう、高跳びです高跳び」
「とかいってこきつかう気まんまんって感じしますが」
大正解。その通りです。
「そりゃあ、ええ。それともここからお一人で帰られます?」と脅しをかけると「う……今はまだ付き合います……」と苦笑しながらレスカさんはうなだれました。
次見た時には、レスカさんとダッチェスは私をじっと少し睨んでいました。
「何か?」
「……すんませんラストさん。目が笑ってないとよく言われませんか」
「はい。お恥ずかしながら笑うのが苦手なんです」
そう口元で笑みを作りつつ。目でも笑おうとしてみる。
ぎょっとしたレスカさんとダッチェスが「怒っています?」とハラハラした顔で様子をうかがうので、冗談でこう返しました。
「いいえ今怒りました」
こう、少し間隔が開いた気がしました。
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会議室到着して、先にソファに座り資料を机に広げまくっているミケさんに一礼しレスカさんを紹介したあと……急に思い出したことがあったので私はレスカさんに伝えました。
「そういえば、キンジョウ・ミナトさん。出没していましたよこの地方に」
「はあっ?! なんでアイツがこんなとこに?!」
お、思ったより反応が大きいですね。ナンパしていたのを見かけたと言ったらどんな反応するのでしょうか。
……いや、野暮ですね。でも、一応確認は取らせていただきますよ。
「捜されます?」
「いや……ええ。ラストさんもヒマやないですやろ」
「そうですね」
「で、今回の要件は、俺のお仕事はなんです?」
本題も言い忘れるとことでした。
私がわざわざレスカさんをこちらにお呼びした理由。
それは。
「事情聴取のお手伝いです」
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「……またそないなお仕事に俺なんかが同伴してええんですか?」
俺なんか、だなんていわないでくださいよ。
自分を卑下するレスカさんにフォローを入れたのは、ミケさんでした。
「大丈夫だと思いますよ。私もこき使われていますし」
「ミケさん……貴方、何者なんでしょうか?」
「今は探偵やっていますけどね。昔はそう、やんちゃしていたんですよ」
ミケさん、そのやんちゃしていたことで私に脅されている身ですのに。フォロー、ありがとうございます。
そう念じましたら、ミケさんは素敵な笑顔で「決して貴女のためではないですよラストさん」と考えを推理されました。
私はぞんざいに扱ったあと、ミケさんは笑顔を消し、レスカさんに頼み込んでいました。
「今回の件は私の大事な知人が巻き込まれているので、ご助力願えると助かります、レスカさん」
「あーもう、わかった。わかったから手伝いますって!」
レスカさん人がいいですね。とほほ笑んでいたらダッチェスにものすごい剣幕で警戒されていました。
こ、これは何か対策を打たねば。
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その事情聴取相手とは、【ソウキュウシティ】にある【カフェエナジー】にて待ち合わせをしていました。
「いらっしゃいませ! ご予約の方ですね、待ち合わせの方はもういらしてますよ! どうぞ二階へ!」
女性の私でも笑顔が可愛いと思うウェイトレスさんに二階の個室に案内されます。
カウンターのところにあるお持ち帰り用のお菓子を横目に見つつ、私とレスカさんは階段を上ります。ダッチェスはいったんボールに戻っていました。
ウェイトレスさんの手によって開かれた扉の向こうには、小柄な緑のヘアバンドを付けた彼がいました。
立ち上がる彼はやはり背が低い。ですがその物腰は堂々としていました。
流石は、現在のヒンメル地方を守っている一人、というところでしょうか。
「どうも初めまして、オイラは自警団<エレメンツ>のソテツだ」
「<国際警察>のラストと申します、こちらは付き添いのレスカさん。本日は来てくださりありがとうございましたソテツさん」
軽く会釈をしたのちに、要件を催促されます。
「聞きたいことがあるって伺ったけど、端的に言ってなんだい?」
「まあ、“ヨアケ・アサヒ”さん、のことですね」
「やっぱりアサヒちゃんのことか」
へらへら、とまではいかなくても苦笑を浮かべるソテツさん。
彼も、ヨアケさんのことを聞かれると想定していたのでしょう。
「ええ。今指名手配中の“ヤミナベ・ユウヅキ”と共に現場にいたというヨアケさんのことについて情報が欲しいのです」
「……ちなみにそっちはどこまで情報を掴んでいる? 探偵に探らせていたみたいだけど」
(ミケさん存在バレてますやん)とレスカさんがぼやいた気がしました。私にテレパシー能力はないので気のせいかもですが。
「ヨアケさんが八年前の“闇隠し事件”の時ヤミナベと【オウマガ】にいらしたこと、その後<エレメンツ>に長い間居たこと。それと推測ですが、彼女は事件前後の記憶がヤミナベに奪われている可能性が高いこと、ですね」
「……なるほどね。だいたい知っている感じじゃないか。改めて聞くことあるのかなこれ」
肩をすくめたソテツさんに、私は「いやいやありますよ」と話を終わらせないようにします。
「それは?」
ソテツさんは、あくまでボロを出さないようにこちらの言うことを待つ姿勢を見せました。
この目は、守るべきもののある人の目だ。そう感じました。
そんな彼に敬意を表しつつ、切り込んでいきます。
「ヨアケさんが八年間、どこでどう過ごしていたか、です」
今回の私の引き出したい情報は、ヨアケさんが<エレメンツ>にどういう扱いをされていたか。最初からそれ一本でした。
「八年間ほど一緒に居た貴方たち<エレメンツ>なら、知っているんじゃありませんか?」
「まあ、知っているさ」
「詳しく、お聞きしてもよろしいですか?」
「……………………悪いが、オイラの一存ではできない」
自白に近い認め方ですが、かわされましたか。
では、ここでこのカードを切らせていただきましょうか。
「そうですか。じゃあ、こうしましょう。レスカさん」
「はい」
「ソテツさんとポケモンバトルをしてください」
二人が、目を丸くしました。
それからレスカさんは、苦笑い。ソテツさんも口元を歪ませます。
「ええと何で、ですか?」
「ソテツさんは<エレメンツ>中でもトップクラスにバトルが強い方……“一般人”のレスカさんと一戦交えて、親睦を深めるかもしれません」
「あー、確かに熱いバトルをできる相手は単純に好きだね。そんな相手にポロっと内輪のこと喋るのはあるかも」
ソテツさんは意図に気づいて乗ってきてくれました。
レスカさんは小声で私に確認を取ります。
(現役の国際警察には直に言いにくいことでも俺なら、か……そういうことですかラストさん……)
(私はあくまでバトルを勧めているだけです)
しらばっくれる私がソテツさんには面白く見えたのか、彼はしばらく笑っていました。上手な笑い方ですね。
「手合わせ、していただいてもいいですかソテツさん?」
「いいよレスカ君、バトルしようじゃないか。あとオイラに敬語はいらないよ」
「そうですか。ほな、よろしくお願いしますわ」
「うむ、よろしく」
握手をする二人。二人とも穏やかな笑みを浮かべ……。
「レスカ君がどのくらいやれるのか楽しみだよ」
「お手柔らかに頼みますわ」
ほほえましい光景でした。
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【ソウキュウシティ】にあるバトルルームを借りて、レスカさんとソテツさんは1対1のシングルバトルをされることになりました。
私はダッチェスと観客席と見学です。審判? 私はやりませんよ。
代わりに審判をしてくださるのは、ソテツさんのお弟子さんのガーベラさんという女性でした。
「わざわざ来てもらって悪いね、ガーちゃん」
「ガーちゃんじゃありません、ガーベラです。以後お見知りおきを」
「ラストです。よろしくお願いいたします」
「レスカです。頼みます。審判」
「はい、頼まれました」とガーベラさんがバトルコートの中央端に立ち、両サイドに立った対戦者のお二人にモンスターボールからポケモンを出すよう促します。
「頼んだ、ハーク!」
「任せたよ、フシギバナ」
レスカさんがハークというニックネームの硬い皮膚のよろいポケモンバンギラスを、ソテツさんは大きな花を背負ったフシギバナをボールから出しました。
「それでは、ソテツさん、レスカさん。準備はいいでしょうか」
「いつでもいいよ」
「俺も、大丈夫や」
彼女は一息大きく吸い、右手を天に掲げ……下ろします。
「では――――始め!」
先に動いたのはソテツさんとフシギバナ。
「『グラスフィールド』」
その掛け声とともに、フシギバナを中心にあたり一帯、草が生い茂りました。
確か、そのフィールドの恩恵は、地面に接している者の体力を徐々に回復し、草タイプの技の威力を上げるもの。
ハークも回復の恩恵を受ける代わりに、自分たちの攻撃力を上げてきましたか。
フィールドを展開中のフシギバナに、レスカさんはハークに的確な指示を出します。
「『あくのはどう』!」
フィールド生成は終わってしまいましたが、黒く鋭い波導光線が、フシギバナにヒット。ひるませます。
「『りゅうのまい』!」
ひるませてから、余裕を持って『りゅうのまい』を舞うハーク。攻撃力と素早さをぐん、と上げ、体勢を整えました。
「フシギバナばら撒け!」
フシギバナの背中の花から、何か粒のようなものが一斉に周囲にばら撒かれました。その何かは『グラスフィールド』の中に落ちていき、所在を目視で判断するのは難しそうです。
「そんなら! 『ストーンエッジ』で……「させるなフシギバナ!」」
遠距離の物理技をさせようとしたレスカさんに、
その指示をいち早く聞いた、フシギバナより素早いはずのハークに――
――ソテツさんとフシギバナは割り込みました。
フシギバナの巨体が、『ストーンエッジ』の発生するポイントを高速で通過します。
フシギバナは、草の上を滑っていました。
「『グラススライダー』!!」
『グラススライダー』。
その技は、グラスフィールドがある場所で真価を発揮し、相手より早さを得る技でした。
フシギバナの高速タックルがハークを突き飛ばします。
「天井に掴まれフシギバナ!」
「く、『あくのはどう』っ!」
反動で宙に浮かんだフシギバナは器用に『つるのムチ』で天井に掴まって、勢いを活かして『あくのはどう』をかわしハークの背後を取ります。
「もう一度『グラススライダー』!」
回り込まれたハークは、今度はもっと遠くに突き飛ばされます。
その落下点は、先ほどばら撒かれた何かの上。
「今だ」
「しまっ――!」
起き上がろうとするハークの体を、草の陣地から生えた“宿り木”がからめとります。
「ハーク!」
なんとか立ち上がり振りほどくも、残った『やどりぎのタネ』がハークの体力を蝕んでいきます。それは『グラスフィールド』の回復を上回るスピードでした。
『やどりぎのタネ』で奪い、『グラスフィールド』の恩恵を受けているフシギバナはぴんぴんしています。レスカさんとバンギラスは、ジリ貧でした。
そこで彼は、この技を選択します。
「もういっぺん『りゅうのまい』!」
「一撃に賭ける気だね……フシギバナ、待ちの構え」
生い茂る草のフィールドの中、舞うハークと待ち構えるフシギバナ。ハークの攻撃力がさらに上がり、うまく 技が決まれば回復量を突破して削り切れます。
次のやり取りで、決着がつく。そんな予感がしました。
舞を終え呼吸を整えたハークを見届けたソテツさんが、手招きします。
「来いよ」
「いくで――――」
「『グラススライダー』!」
真正面から滑って突っ込もうとしたフシギバナに、レスカさんは――――特殊技を指示。
「『あくのはどう』!!」
射線、ドンピシャで『あくのはどう』を叩き込みます。いくら相手より早く技を発動できるからと言って、怯むような威力の光線を真正面から受ければ、その動きは止まります。
「今や! 接近戦に持ち込めハーク『ほのおのパンチ』!!!」
ハークは拳に業火を纏わせ、すさまじいスピードでフシギバナに接近します。
そしてフシギバナに攻撃が――――届きませんでした。
激しく地面に叩きつけられる音がしました。
一瞬の出来事でした。
超速で突っ込んだハークは、前に転んでいました。
ハークの足元にあるのは、草むらに隠れつつも成長したほかの宿り木に引っ掛けられピンと張られた『つるのムチ』。
その持ち主は、言わずもがな。
「『グラススライダー』」
仕込みのうまさが際立った、決着の一撃でした。
「バンギラス戦闘不能! よって勝者ソテツさん!」
***************************
「すまんな、お疲れハーク」
「フシギバナ、ありがとう」
互いにポケモンにねぎらいの言葉をかけつつ。二人は感想戦に入りました。
「いやあ、終始『グラスフィールド』に苦い思いをさせられましたわ……」
「ははは、どうも。レスカ君は『あくのはどう』で相手の動きを封じ、『りゅうのまい』でアドバンテージを徹底的に上げる戦い方をしていたね。こういうのは自分のペースを作ったら強いと思ったよ」
「そのペースがかき乱されまくっていましたけどね。『やどりぎのタネ』、憎い」
「まあ『やどりぎのタネ』はプレッシャーを与える技でもあるからね」
「フィールドと言えば、バトルフィールドをうまく作ってましたなソテツさん。天井ぶら下がりとか、宿り木に引っ掛けたロープとか。あかんやっぱ『やどりぎのタネ』憎いわ」
「さんざん『りゅうのまい』を積んだあの局面でそれをブラフにして『あくのはどう』をぶつけてきたレスカ君も肝が据わっているよ。ロープ仕込んでなければ痛い一撃もらっていただろうね」
「ロープって、保険だったんです?」
「いや狙っていたよ?」
「でしょうね。“来いよ”って思い切り言っていましたし」
感想戦が一区切りつく頃、私は先ほどのカフェで買っておいたお菓子で買収したダッチェスの頭を撫でつつ、笑い合う二人の様子を見ていました。でも、ソテツさんは何か考えているようでした。
「レスカ君とハークの戦い方は、なんていうか……生き残るための戦い方だね」
「どうして、そう思いはるんです?」
「無茶をあまりしないからだよ。いや、無茶をする戦い方に慣れていないというか。悪い意味じゃないよ?」
「あー、そう、だったんですかね……確かに思い切りはなかったかもしれません」
「オイラもそういう傾向があるけど、負けられない人の戦い方だなと思ったよ。でも……」
「でも?」
ソテツさんはヘアバンドを下げつつも。
レスカさんの瞳をじっと見て、こう伝えました。
「負けない戦い方だけじゃ、守れないものもあるんだよね」
自身の経験なのか、誰かからの教えなのかはわからないですが。
その言葉は、私も含め、全員に刺さる言葉でした。
ダッチェスがするりと私の腕から抜け出します。
レスカさんに近寄ったかかと思いきや、ソテツさんの足元にすり寄りました。
戸惑うソテツさんにレスカさんはさらに彼を困惑させる言葉を一つ、言いました。
「ダッチェスはええ人には懐くんです」
「……ええ人なもんか。八年間みんなで軟禁し続けて、その上オイラは私利私欲であの子を苦しめ続けているんだから」
ソテツさんは、そう一言呟いたあと、多くは語りませんでした。
でもダッチェスはソテツさんとの別れを惜しむくらい、彼に懐いていました。
あとがき
ビターな感じになってしまいましたが、POKENOVELのレイコさん作「NEAR◆◇MISS」よりレスカさんと、自作「明け色のチェイサー」よりソテツさんとのコラボポケモンバトルでした!
レスカさん、なんていうか古傷えぐってごめん。でもバトル描写楽しかったです……!
以前お花見の企画が上がったときにミナトさんとアプリコットちゃんの短編を書いて頂いたころから何かしらお返し短編が描きたかったので、この機会に書けてよかったです。
改めて、レイコさん、レスカさんをお貸しくださりありがとうございました!
おつありです……!!
イラストは容量の問題ですね……!
ユウヅキ君視点のエピソードは実はマサポケでは初なので、超レアですね。
本編との落差はありますが、このエピソード単体でも楽しめるようになっているといいな……。
(本編読んでる方は、切なく思ってくださるといいなと思っていたのでやりました、すみませんありがとうございます。)
そんも手を離さざるを得なかったユウヅキ君の心情は、と想像したらしんどくなりますね。本編頑張ります。
また番外編も本編も頑張りますお楽しみに!
感想&読んでくださりありがとうございました!
だいぶ遅くなってすみません!!! 読んでくださり感想までくださりありがとうございました!!
最初は可愛いハネッコがジャンプにい挑む話の想定だったのですが、見た目のわりに泥臭いハネッコがジャンプに挑むという形になっていました。一人称マジック?
ハネッコジャンプというタイトル自体はポケモンチャンネルというゲームの中にあったゲームから持ってきています。モチーフですね作品の。
進化の余地があるチョイスにはあえてしてあります。各々個々で生き残るにはまだ実力を伴っていない、だからこそ知略を巡らせるという感じにしたかったので……!
最後の展開胸熱といっていただき嬉しいです……!
熱血展開好きなんです……!
改めて、ありがとうございました!!!!
投稿お疲れ様です。
なんということ…!
こちらにはイラスト掲載されていないのですか…某所に投稿されていたハロウィンイラストが素敵だったので意外です。マサポケ限定の読者さんは、子ユウヅキさんたちの仮装姿を頑張って想像してくださいね…(涙)
子ユウヅキさん視点によるアサヒさんとの過去、チェイサー本編はアサヒさんビドーさん視点が多いことを踏まえると、レアな部類のエピソードですよね。
ハロウィン仮装、詳細に描写されていてとっても可愛いです! 成長後のお二人も仮装をさらっと着こなしそうですね。スタイルいいし私服もおしゃれですものね!
子アサヒさんと一緒にクッキーを焼いたり、連れて行かれると身を案じる子ユウヅキさんの一人称は微笑ましくも切ない……
アサヒさんと離れ離れになっている本編との落差が……二人はこんなにお互いを思いやっているのに……お互いを必要としているのに、本編は何故……ドウシテ……
未来を知る読者としては、その手を離さないで!離しちゃダメー!と届かない叫び声をあげることしかでき…ない…!
アサユウの魅力たっぷりなハロウィン作品をありがとうございました。次なる番外編もチェイサー更新も楽しみにお待ちしております。
旅の途中で泊まっていたポケモンセンターの個室の扉が勢いよく開けられる。
そしてポケモンたちとなだれ込みながら開口一番彼女は言った。
「ユウヅキ、トリックオアトリート!」
テブリムという髪の毛の多くて大きな帽子を被ったようなポケモンの仮装をした短い金髪の少女、アサヒは仮装させた手持ちのドーブルのドル、パラセクトのセツ、デリバードのリバ、ラプラスのララ、ギャラドスのドッスー、グレイシアのレイと一緒に俺にお菓子を要求した。フルメンバーだな。
というかちょっと待て。狭い。全員は入らない。テブリムの仮装のせいか、いつもよりごり押し気味だ、アサヒ。
流石に入りきらないことに気づいたアサヒはしぶしぶドル以外のポケモンをボールにしまった。
そんなテンション下がり気味な彼女にさらに申し訳ないが、俺は謝った。
「悪いアサヒ、今日だと忘れていた……何も用意していないのだが」
「じゃあイタズラするよ!」
「何をされるんだ……」
「ハロウィンを忘れていたユウヅキに私が仮装をさせるよ」
意気揚々、というよりは若干真顔に近いアサヒ。
「……なるべく、お手柔らかにお願いします」と小声で言ったのち、着せ替え人形にされた。
△▼△▼△
結局グラエナをイメージした仮装をさせられた。黒い自分の髪にふさふさの耳とかシッポを付けるなんて初めてしたな。このまま歩き回るのは結構度胸と勇気が要りそうだ。
アサヒに仮装された俺の手持ちのサーナイトとゲンガーとオーベムとヨノワールが俺の恰好をほほえましそうに笑いながら見ていた。また狭くなった。メタモンに至っては、俺に変身をしようとしてさらにいっそう周りの笑いを呼んでいた。アサヒのドルは笑いをこらえていた。お前らな……。
俺は苦笑いも混じっていたが、アサヒが楽しそうだったので、まあいいかとなっていた。
ひとしきり笑った後、彼女は次の提案をした。
「じゃ、一緒にお菓子でも作ろうか!」
「作るのか」
「まあね。いつでも誰からでもトリックオアトリートって言われても良いようにね」
確かにアサヒ以外にイタズラをされるという場面はあまり想像したくなかった。
調理室のスペースを借りて、ポケモンたちにも手伝ってもらいながらクッキーを一緒に作った。大所帯だ。
その結果、調子に乗って作りすぎた。
「あー分量間違えた……みんなにも食べてもらったけど、余っちゃったね」
「いざ要求されても渡せるには渡せるが、多いな」
なんとなく俺は、この次アサヒが言い出すことは想像ついていた。
「うん、お菓子もあるし街のお祭り行こうか」
「行くのか」
「行くよ、一緒に」
「この格好のまま?」
「うん」
ポケモンセンターの職員さんに「あら似合っていますね、行ってらっしゃい」と笑顔で送り出された。
△▼△▼△
日が傾きかけたころの街並みを、二人で歩く。手持ちの皆にはいったんボールに戻ってもらっていた。
オレンジや紫の飾り、カボチャやゴーストポケモンをもじった仮装をしている人やポケモンが騒がしくしていた。俺の手持ちにもゲンガーやヨノワールがいるせいか、心なしかゴーストタイプのポケモンがいつもより多い気がした。
夕時になり、人込みやポケモンたちが増えてくる。
俺が混雑に酔い疲れているのをアサヒに見抜かれ、人の少ない場所へ移動することに。
せっかく作ったクッキーは、まだ誰にも渡せていなかった。
アサヒが、テブリムの帽子を外した。そのまま帽子を抱きながら、うなだれていた。
彼女も疲れたのだろうかと心配になると、アサヒはさっきまでのパワフルさとは打って変わってしんみりしていた。
「ごめんユウヅキ。あんまり人込み得意じゃないのに連れまわしちゃって」
俺に謝るアサヒ。
「お菓子作りにも付き合わせちゃって、慣れない恰好させちゃって、無理させてごめん」
「謝る必要なんてない。それよりアサヒは、楽しめたのか?」
「ちょっとは。ユウヅキは?」
「俺も、ちょっとは楽しかった。慣れないことばかりで困惑したのはまああるが、謝ることなんて、何もない」
アサヒが少しだけはにかむ。その顔が見れただけでも、今日一日付き合ってよかったと思った。
……口にはなかなか出せないが。
「わっ」
彼女の驚いた声につられ、視線をそちらに向ける。
草の茂みの中から、カボチャが……いや、カボチャに似たポケモン、大きいバケッチャが転がり出てきた。
バケッチャの後には小さな角のメェークル、オレンジの電気ネズミ、デデンネが次いで飛び出してくる。
バケッチャが、メェークルとデデンネにまじないをかけていた。
すると、メェークルとデデンネの姿がわずかに透けて、二体はバケッチャとともに宙を飛び始めた。
「あれ、バケッチャの『ハロウィン』だ……!」
初めて見た、とアサヒは感激していた。
バケッチャの種族が使えるという『ハロウィン』の技は、相手にゴーストのタイプを与える技だ。相手を一時的に幽霊にする技、でもある。
こちらに気づいたバケッチャ。
アサヒの周りをくるくると回り、笑うバケッチャ。
「え、私にもかけてくれるの?」
その時、ふと俺は思った。
『ハロウィン』の技を人間に使うと、どうなってしまうのか、と。
気づいたら。俺は、
「――クッキー、あげるからイタズラは勘弁してくれないか?」
アサヒの手を引っ張りそばに寄せ、クッキーをバケッチャたちに差し出していた。
バケッチャたちは喜んでクッキーをほおばり始める。
そして食べ終えると満足していったように去っていった。
その姿を見届けた後、握りしめたいた手が急に震え始めた。
彼女が心配して「どうしたの、大丈夫?」と声をかけてくれる。
その瞳をじっと見ながら、素直に思っていたことを白状した。
「アサヒがバケッチャに連れていかれてしまうと思って怖くなった」
一瞬怪訝そうな顔をしてから、それから照れ始めるアサヒ。
「そっか。そっかー……私が幽霊になっちゃうんじゃないかって心配してくれたんだね。守ってくれたんだね。ありがとう」
「クッキーがあってよかった……」
怖がる俺の手を、アサヒはつなぎなおす。
その温かさに、ほっとする。
しばらくの間、この手は離さないようにしたいと思った。
夜のとばりが落ち、月が照らす帰り道。
アサヒは月を見上げながら、俺に一つのお願いをした。
「もし、私がまたユウヅキを置いていきそうになったら、また連れ戻してね」
「ああ、必ず」
俺はその願いを聞き入れると、そう彼女に小さな約束をした。
つないだ手は、まだ離す気にはなれなかった。
あとがき
ポケ二次ハロウィン企画で思いついた短編でした。企画がなければ思いつかなかったので、企画主様に感謝です。
今回は、カフェラウンジ2Fで連載中の自創作、「明け色のチェイサー」の本編時間軸よりだいぶ昔のアサヒちゃんとユウヅキ君のエピソードをかかせていただきました。
あと、バケッチャの技名、「ハロウィン」の別名の一つが「トリックオアトリート」と知ってこの話にしようと思いつきました。
ポケ二次ハロウィン企画が盛り上がりますようにと楽しみにしつつ。
読んでくださり、ありがとうございました!
お返事ありがとうございます。
と言うより返事に気づくのが遅くなってしまい逆に申し訳ありません。
> さゆみさん、久々の投稿ありがとうございます。
名前がw
> 十年以上前になりますがダイパの連鎖で色違いをいっぱい捕獲していた人がいたのを思い出しました。
> なんか高個体値やら、色違いに乱数調整なるものがあるのは知っていたんですが
> 恥ずかしながら、これ読むまでメロボ乱数を知りませんでした…
ポケトレを使った連鎖であれば私も当時から努力値がてらゲットしたことがあるので分かります。
また当時から色違いのポケモンを乱数を駆使して集める、あるいは高個体値の色違いのポケモンをゲットして大会に出す、と言う話は聞いていましたので知っていました。が、当時の私はそう言う環境になかったのでなかなか検証できなかったと言うのもあります。
多分メロボ乱数もその延長線上に出てきていたとは思いますが、当時は色違いでなくても個体値の高いポケモンを乱数で出す方が主流だったようで、メロボ乱数と言うものがある程度知られ始めたのはXYであかいいとを用いたやり方が広まって以降だったのではと思います。
もっとも作中でもしれっと「自分で検証した」と書きましたが、そう言う環境が整ったのはここ2、3年のことだったと言うことを付け加えておきます。
拙文・乱文で大変失礼いたしました。それでは。
ポケマスのグリレ……になるはずだった女子三人+ほぼグリーン+レッドな日常ssです。具体的な描写はないですが苦手な人は気になるかもしれないです。
こうかばつぐんを取ろうというミッションに駆り出されたのは、タイプの違う花のような女子三人であった。カントー古来の和の花のようなエリカ、春先の草花のようなコトネ、女優に贈られる花束のようなメイ。三者三様、三つ揃いのエナジーボールはサクサクポンポン規定の回数を稼いで行った。トドメの一撃で繰り出されたエリカのはなびらのまいに、パチパチと贈られる拍手。
「レッドさん!」
女子らがきゃらきゃら、レッドの方へ寄っていく。
「……」
スッとレッドが差し入れのクッキーと飲み物のボトルを差し出す。
「あっこの包み!ユイさんからですか?」
ピカチュウが風船で空を飛んでいる絵が描いてあるラッピングを見て察するメイに、レッドがコックリうなずく。
「もしかしてわたくし達のバトルを、先程から見守ってくださっていたのですか?」
「…………」
「あら、声をかけてくださったら良かったのに」
気を使うエリカに、レッドは後ろの相棒を見た。いつもと変わらない、威圧感さえあるリザードン。でも今日はちょっとだけ、バディのレッドとも他のバディーズとも距離を取っている。
「うーん……もしかしてリザードンが気にして距離を取ろうとしてたのを宥めていたんですか?」
メイの顎に手を当てて言う考察に、レッドはうん……と肯定。なるほど、メイ達の草タイプポケモンに炎タイプは天敵だ。
「『リザードンはとても強いポケモンだけれど、同時にとても優しいポケモンでもあるんだよ』ってウツギ博士が言ってました」
その炎を自分より弱いポケモンに向けることはない。コトネが博士の研究の手伝いをしていた時、ホウエン地方の図鑑説明を見て印象に残った一文だ。戦いでもあるまいに、自分が草ポケモンとそのトレーナー達が群れているところへ、わざわざ割って入って雰囲気を乱すこともあるまい。離れて鎮座する赤い竜はそう言っているように見えた。誰も気にしないよ。って伝えたんだけどなあ。困った顔のレッドはリザードンよりはわかりやすく表情で語っている。
「撫でてもいいかな?」
リザードンの存外柔らかい視線と目を合わせてコトネが訊くと、リザードンは低く吠えて頭を下げた。
「わー、温かい! あたしのチコリータと触り心地やっぱりちがうね!」
「ムム……ジャローダとは少し似ているかもしれませんね」
「どっしりとしたただずまいが樹木花のようですわ」
和やか休憩ムードになって、リザードンはチコリータとコトネを乗せ、辺りをブンブン飛び回り、きゃいきゃい乗客達をはしゃがせていた。気を使って距離を離していたリザードンよりずっといい。リザードンが褒められてぼくも嬉しい。リビングレジェンドとかぼく自身が言われるより嬉しい。レッドはクッキーとか分けてもらいながらニッコニコだった。
ふと、視界の隅の茂みに見覚えのあるものが顔を出していた。美しい色合いの、長い葉っぱのようなもの。多分ピジョットだ。そちらに寄って見ると、もう少し控えめな明るい茶色い頭髪も、近くの茂みからニョッキリ、不自然に生えていた。
「……グリーン?」
「何のことだ?オレ様は遠いアカネのもりという場所からやって来た、イガグリの精だ」
イガグリもオレ様とか言うのか。レッドが知っている範囲で、オレ様とか言う奴は一人しかいない。あっ木の上にモモンのみが実ってる!
「空を越え海を越え時空を越え、ここにピジョットとやって来たんだ」
背が低い木だからいけるな。ブチブチ難なく三つ取って「美味そうなきのみの匂いがする!」って感じで茂みから飛び出して来た、とさかの下のくちばしにモモンのみを放り込み、力説に夢中になったせいで茂みから生えてきた、イガグリの精の握った拳を歌のごとくほどいてモモンを持たせる。
「モゴモゴ……このモモンのみでけえな……」
ホントだデカイ。食うのに難儀しているピジョットのくちばしのモモンを裂いてちょっとずつあげる事にした。おいしいおいしいとピジョットは鳴いた。
「イガグリの精だって言ってんだろ!! 木の実同士で共食いさせんな!!」
あっグリーンが生えてきた。正確に言うと立って正体をあらわした。シルフスコープいらずだ。
「レッドさん、そんなすみっこで何やってるんですか?」
コトネ達がわいわいやって来る。ポケモンも含めた、複数の視線がグリーンに集中する。
「いやあの、コレはだなあ、覗き見とかじゃなくてめっちゃナチュラルに女子に混じってるレッドとリザードン達の中にちょーっと割って入りにくかったというかなあ…………」
ピジョットはまだデカイモモンのみの何分の一かをンまーい! と食べている。
「ややや、やーい! そんなかわい子ちゃん侍らせてニヤニヤしてるようじゃ、オレのライバルとしてまだまだだなあ!」
「かわい子ちゃんって言い方、ずいぶん久しぶりに聞きましたわ」
「古い言い伝えが多いジョウトの方でも幻のポケモン級ですね、ヒビキくんと見たセレビィ級かも」
「かわい子ちゃんってなんですか?」
悪意のない女子達のコメントにグリーンの恥ずかしいボルテージが上がっていく。何をそんな恥ずかしがっているのやら。引っ込みがつかなくなってて更に自爆しそうだったので、レッドは手を握ってグリーンを茂みから引っ張り出す。
「……今グリーンはイガグリの精だから大丈夫、向こうで一緒にクッキーを食べよう」
「お、おおう! イガグリの精のオレ様は、クッキー大好物だぜ!」
解散ムードになるまで、グリーンはイガグリの精と言う事になった。
いきなりトレーナーの遺体の頭部が見つからないというショッキングな出だしから始まり、奥さんもそれで精神が不安定になっているという描写で落ち込みましたが、熱さも切なさもある話でした。
絆の証の鈴付きのバンダナが、死してもなおエネの事を守ったのが泣かせてくるなあ……。ゲンガーの外道っぷりがゴーストタイプとかゲンガーとかの種族は関係ねえ、生まれついての悪って感じですげえムカムカ来ました。ゲンガーVSエネコロロの心理戦も熱い。
重いですが、トレーナーとポケモンの絆から始まり絆で終わる(締めの一文的にも)、ポケらしい作品だなと思います。
よかった…生きていた。
そして生存報告がここにあった…
ツイッターが消えていたのでまさか自殺してしまったのか!?
とか変な心配をですね…
よかった。よかった。
感想じゃなくて私信で申し訳ないですが、返信しました。
感想ありがとうございます。
海岸を歩く、に関しては筆者の江ノ島の体験をもとにしています。
夜の海って暗くて、黒くて、不可視領域で、得体の知れない者が潜んでいる気がしてわくわくするんですね。
ミミッキュですが海岸散歩していて出会った、みたいのを想像しています。
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