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Subject ID:
#127051
Subject Name:
縁切りするアカウント
Registration Date:
2010-04-06
Precaution Level:
Level 1
Handling Instructions:
該当のツイッターアカウントに対する情報収集は、専用ツールにより自動化されています。担当者は定期的に専用ツールの動作確認と集積した情報のバックアップを行ってください。
本案件は異常性・実効性に疑義が多数上げられており、裁定委員会で取扱の停止が検討されています。
Subject Details:
案件#127051はTwitter社が提供するミニブログサービスTwitter上に存在するアカウント(アカウント#127051)と、そのアカウントのフォロワーに起こりうる現象(現象#127051)についての案件です。
アカウント#127051は登録者不明のツイッターアカウントです。アイコン画像にはポケモンのストライクが描かれたフリー画像が使用されています。ヘッダー画像は初期設定状態、プロフィール欄は空白で、ツイートは公開されています。ツイート内容は日常的で他愛のないもので、縁切りに関する内容はありません。フォローしているのは著名人のアカウントやニュースアカウント等で、フォロー数30前後で不定期に増減します。フォロワー数は最初の報告があった2010年3月時点で1309となっており、これは後述する現象を期待した人によるフォローだと推測されます。アカウント名は一般名詞で、不定期に変更されています。
現象#127051は、当該アカウント#127051をフォローしたアカウントAで、アカウント#127051以外のアカウントBのブロック(手順#127051)を行うと発生する、と期待されている現象です。アカウント#127051の登録時期は2009年4月と判明していますが、現象#127051が起こると期待される理由、噂の初出などは明らかになっていません。
現象#127051が発生すると、ブロックしたアカウントAの持ち主(アカウント登録者#127051-A群及びアカウント作成者#127051-E-A群)と、ブロックされたアカウントBの持ち主(アカウント登録者#127051-B群及びアカウント作成者#127051-E-B群)は現実世界で縁が切れた状態となります。当局が観測できた範囲で手順#127051を行ったアカウントとそのブロック先について、追跡調査を行った結果の一部を以下に記述します。:
[事案#127051-1]
アカウント登録者#127051-1-Aとアカウント登録者#127051-1-Bは2009年度、小学校四年次に同じクラスだった。同年度8月頃にアカウント登録者#127051-1-Aが手順#127051を実行。2010年度からは別のクラスに分けられた。その後の調査でアカウント登録者#127051-1-Aは中学に進学、アカウント登録者#127051-1-Bは進学せず旅に出て、以後縁が切れたと言っていい状態になった。
この事案についてアカウント登録者#127051-1-AとBの在籍していた小学校に調査を申し込んだところ、当事者たちは折り合いが悪く、念の為五年次からは別クラスにしたとの証言が得られた。また、アカウント登録者#127051-1-Aは常日頃から中学進学について意欲的である旨を発言しており、アカウント登録者#127051-1-Bも進学しないことを仄めかしていた。経緯に不自然な点はなく、当事案について異常性はないものと判断された。
[事案#127051-8]
アカウント登録者#127051-8-Aとアカウント登録者#127051-8-BはC社の同じ課に属する部下と上司だった。アカウント登録者#127051-8-AはBと同じ支店に配属された一年後の2010年4月初旬に手順者#127051を実行。その約一年後にアカウント登録者#127051-8-Aは別支店に配置転換、アカウント登録者#127051-8-Bは退職し、以後縁が切れたと言っていい状態になった。
この調査の結果、アカウント登録者#127051-8-Aは単に期限による配置転換であった。アカウント登録者#127051-8-Bの退職については、BがA含む職員らに常習的にハラスメントを行っており、自主退職を強く薦められたことが明らかとなった。経緯に不自然な点はなく、当事案について異常性はないものと判断された。
[事案#127051-9]
アカウント登録者#127051-9-Aとアカウント登録者#127051-9-Bは同じ大学のサークルに属する同学年の学生だった。大学三年次の2010年4月頃、アカウント#127051の噂を聞き手順#127051を実行。しかし、2012年の追跡調査でAとBは疎遠になったが関係を保持していると回答した。
[事案#127051-33]
アカウント登録者#127051-33-Aとアカウント登録者#127051-33-Bは子とその親である。アカウント登録者#127051-33-Aは2010年夏頃に手順#127051を実行。その後、わずかな手荷物を持って近くの派出所を訪れ、AがBから虐待を受けており、シェルターに避難したいと要請、然るべき機関により即時処理が行われた。2015年現在Aは各種措置を利用して居住地等をBから隠匿し、Bの追跡を逃れている。以上より、AとBは縁が切れたと言っていい状態になっていると判断した。
当事案について、アカウント登録者#127051-33-AはBと絶縁する決意を固める為に手順#127051を実行したと証言しており、当事案が現象#127051によるものとは断定できなかった。
追跡調査を行ったアカウントの内、39組でおおむね縁が切れた状態に達し、288組で疎遠となっていましたが、その過程に異常性はなく、現象#127051と断定できる事案はありませんでした。また、56組については毎日か毎日に近い頻度で対面交流を行っており、縁が切れたといえる状態ではありませんでした。
さらに現象#127051について調べるため、実験用のアカウントの作成を行い、実験を行いました。
なお、里帰りや転勤といった絶縁理由をを減らし、縁故を長く続ける可能性を高める目的で、被験者の出身地・配属地をカントー地方ヤマブキシティに限定しました。また、実験は同日に行われ、被験者には誰がどのアカウントをブロックしたか・誰がどのアカウントの持ち主であるかは通知されませんでした。以下はその結果の抜粋です。:
[実験#127051-1]
実験日時:2012年5月6日
アカウント作成者#127051-E1-Aとアカウント作成者#127051-E1-Bは趣味の一致により親密にしていたが、手順#127051を実行した約1年半後の2013年10月か11月頃に仲が険悪になり、業務への影響を考慮して2014年4月付でAとBを別々の支部に配属することが決定された。それ以来、AとBの間に交流は見られなかった。AとBの間で金銭トラブルがあったとのことだが経緯に不自然な点はなく、これは現象#127051によるものとは断定できなかった。
[実験#127051-5]
実験日時:2012年5月6日
アカウント作成者#127051-E5-Aとアカウント作成者#127051-E5-Bは同部署に配属されている他は特に接点のない職員である。アカウント作成者#127051-E5-Bには実験用アカウントを2つ用意させた(アカウント#127051-E5-B及びアカウント#127051-E5-C)。手順#127051によりアカウント作成者#127051-E5-Aにアカウント#127051-E5-Bのみをブロックさせたところ、半年後の2012年11月にアカウント作成者#127051-E5-Bが結婚を理由に退職し、婚姻相手の居住地に移動した。SNSサービスfacebookにおいて交流があったものの、Bの退職と前後して、多忙と機密事項の保持を理由にAが同サービスを退会している。その後、年賀状のやり取りはあったものの、2014年にBが引っ越したことを機に2015年から年賀状の行き来が途絶え、実験者は両者の縁が切れたと判断した。
2015年4月25日にアカウント作成者#127051-E5-A及びBに対し聞き取りを行ったところ、アカウント作成者#127051-E5-AはBに送付した年賀状が返送された為、これ以上の交流の必要性が感じられないと回答した。アカウント作成者#127051-E5-BはAに転居先の通知を怠り、またその必要性も感じなかったと回答した。被験者らは元々接点の少ない関係で、経緯に不自然な点はなく、この結果が現象#127051によるものとは断定できなかった。
[実験#127051-6]
実験日時:2012年5月6日
対照実験として、アカウント#127051をフォローしていない状態で実験用アカウントのブロックを行った。
アカウント作成者#127051-E6-Aとアカウント作成者#127051-E6-Bは同一の中学に在籍している職員である。手順#127051を実行してから約8ヶ月後の2013年1月頃に実験用アカウント作成者#127051-E6-Bが退職願を提出し、当局はこれを受理。実験用アカウント作成者#127051-E6-Bは「世界がオレを呼んでいる」と発言し、ポケモンを連れて世界一周の旅に出た。実験より約3年後の2015年5月1日に、アカウント作成者#127051-E6-AにBについて尋ねたところ、Bが退職してからは連絡先が分からず、連絡を取っていないとの回答を得た。経緯に不自然な点はなく、この結果が現象#127051によるともよらないとも断定できなかった。
以上の調査結果より、案件#127051は実効性や異常性を持たないと推定されています。2015年5月5日に実験の終了が宣言され、案件#127051の取扱停止に関する提案が裁定委員会に提出されました。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
(この報告書は正規のものではないかもしれません)
昔々の話です。
太陽の光が届かないほど深い海の底に暮らす神様は、真っ暗な住処に嫌気が差していました。
寝ても覚めても闇が広がるだけ、そんな世界から抜け出したいと願ったものの、海を守る神様は海の底から出ていくわけにはいきません。
そこで神様は、同じく海の底に住んでいた一匹の魚に声をかけました。
「私はここから動くことは出来ない。だからお前が私の代わりに、この場所に光を持ってきてくれ」
神様はこうも言いました。
「その礼に、お前には陸の姿を貸そう」
そして魚は神様から陸の姿を借り受けました。美しい鱗が傷つかないための厚い膜、水の代わりに空を泳ぐ鰭、獣の四足と牙に対峙する両腕。新しい身体を手に入れた魚は、水面の向こうに広がる世界へと飛び出しました。
魚は、神様のために光を集めました。
それこそ海の底に揺蕩う闇のような濃紺の身体は、魚が光を手に入れる度に眩しく輝く紋様を刻みました。
その身に抱えきれるだけの光を集め終わると、魚はまた海の底へと帰っていきました。
魚が光を持ち帰ると、神様はとても喜びました。
海の底を照らした光の褒美にと、神様は魚に新たな力、手に入れたその光を操る能力を分け与えました。
そして魚は、その後も何度と無く神様の遣いとして陸へと光を集めにいきました。
その度に神様は喜び、魚に新しい力を与えたのです。
その力は時に炎を生み出すものでしたし、時に鋼鉄に根ざしたものでした。龍の魔術を秘めた力だったこともありましたし、時には、空を飛ぶことすら可能にする力だったことだってありました。
そんな日々は、しばらく続きました。
しかしある時魚は、陸の生き物に惹かれてしまいました。
神様から借りている陸の姿を、魚は陸の者とその身を繋ぐために使ってしまったのです。
陸に染まってしまった魚に、神様は激怒しました。
いつものように光を受け取ることもなく、神様は魚にこう言い放ちました。
「お前はもう、海に生きることは許されない」
そして神様は、魚から海の姿を取り上げてしまいました。
「今まで与えた力は全てそのままにしてやろう。しかし、海の世界に生きる力を持つ資格はお前には無い」
神様はそれだけ言い残し、魚を海から追い出しました。
海の姿を失った魚は、悲しさと後悔に襲われながら陸を漂い続けました。
そうしているうちに、魚はやがて、かつて神様の元に光を持って帰ったあの時の海の底によく似た、小さな洞窟に辿り着きたました。
光が所々に輝くその場所で、魚はひっそりと暮らすことに決めました。
その場所こそが、イッシュ地方にある電気石の洞穴だと言われています。
多様な技を使えるシビルドンが、水と関わる技を覚えることが出来ないのは、遠い昔に海から追い出されたからだという説があります。
今もまだ、シビルドンは水中の代わりに空気を泳ぎ、かつて光を届けた海を陸から見つめ続けているのです。
タグ: | 【よいこのポケモン童話】 【にらみつける】 |
醜いオニスズメがいました。
「お前オニスズメって名乗るのやめろ」って言われるくらい醜い。
オニスズメはなわばりを出ていく決心をして、夜の空に飛び立ちました。
「チクショー夜空に向かってゴッドバードだ!」
いつしか身体は燃えていました。ファイヤー。
今でもまだ燃えています。
ナナシマあたりで。
タグ: | 【リレー小説】 【1月5日】 【描いてもいいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【カオスにしてもいいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【勧誘しちゃうぞ★】 |
1月5日 参加者(敬称略):(流月, 砂糖水, 音色, 門森 ぬる, αkuro)
※全員分写したつもりですが、お名前が抜けている方がおられましたらお知らせ下さい。その他にも何かお気付きになりましたら修正して下さって構いません。(筆記者・砂糖水)
前回の続きです。
―――――――――――――――――――――――――――
しかし、デデンネか。
生で見るのは初めてだけれど、大福を二個重ねたような体にポッキーのチョコ部分みたいなヒゲ。思ったよりもおいしそうだ。
なんか食べたくなるな。この見た目。いや、実際に噛りついたら、血とかどばーって出てきて、モザイクかかりそうだけど。
「デデンネー」
そんな考えを察知したのか、デデンネは軽く身震いすると頭から下りてしまった。
おい、待て。どこに行くんだ、このネズミ!
「待てっ」
まずいまた問題が起きてしまう。さすがに解雇されるかもしれない。そうなる前に回収しなければ。急いで屋内に駆け込むも、デデンネは影も形もない。逃げられた。あー……。何だろう、最近運勢悪いのかな。雇ってもらえた時は運がいいと思ったのに。
「デデンネ―食べないから出てこーい」
しばらく待ってみたが一向に物音一つしない。なんか最近逃げちまうポケモンのせいであれこれ騒動ばっか起きてねぇか?
「……でてこねぇな」
これは脅しが弱いのか。それとも猫なで声で呼ぶべきか。あーでもなんかあのもちもちした弾力のある触り心地を考えるとむしろ潰したいな。握りつぶす。さぞ気持ちがいいだろう。……あれ、俺何考えてんの。
ともかく考え込んでいる暇はない。もう一回アンテナを切るだのお菓子をやるだの飴と鞭を交互に呼びかけてみるが尻尾の一つも出さないと来た。出したらもれなくふんで捕獲するけど。
露骨に舌打ちをしたところを女将さんに見られて、あんまりお客様の前でそういう態度はとらないようにと注意された。ますますついてない。これは見つけたら一回くらいたたきつけても文句は言われないだろう、と思ったその時、視界の端にちらりと黒い尻尾が角を曲がって消えていった。
急いで追おうとしたその時。
「はい」
後ろから頭上にペロッパフを置かれた。
「貸してくれてありがとう。この子返すね。デデンネは見つかった?」
ぱふーとペロッパフがひと鳴きした。
「あれ、もういいんですか?」
「うん。その子も、君が良いって」
ぱふぱふ。ペロッパフがどことなく嬉しそうだ。
「それより、もう一匹ポケモン持ってるんでしょ? デデンネ探すの手伝ってもらったら? あの子すぐいなくなっちゃうのよ」
そんなポケモンを貸さないで欲しい。溜息を吐きたくなったが、ぐっと我慢。今は奴を見つけなければ。
とりあえず、アドバイスに従ってもう一匹のポケモンを出そうと手を伸ばすと、奥の部屋から物音と「デデーン」という鳴き声が聞こえる。というか物音がどう解釈しても何かが割れる音なんだけど、どうしよう。
これはやばい。おれのポケモンじゃないけど、逃がしたのは俺なのである。
デデーン。俺、アウト―。そろそろ女将さんにけつバットされるかもしれない。
これは嫌な予感がする。確か廊下なんかに置いてある花瓶とかお皿とかは結構なお値段がするものらしい。一流の場所には一流を置くとかなんとかいうお話を聞き流した覚えがある。俺の給料でそれは果たして弁償できるか。恐ろしい想像ばかりが掻き立てられる。とりあえずデデンネ見つけたら一発へこましたろう。
とにもかくにも捕獲しない事には意味がない。おそるおそる音のした廊下を覗き込むと案の定、そこにはひっくり返っている額縁と割れたガラス、そして「あ、見つかったやべぇ」という顔したデデンネだった。しかも一瞬だけ俺の方見てすげぇ嫌な顔した後、「ででね、ででねー!」とわざとらしく泣き叫びながらすごい勢いで逃げて行った。アイツこのままだと被害者面して逃走するつもりだ。俺の就職生命がやばい。
本能が確信してボールを投げる。出てきたのは俺が捕まえるのにちょうどいい技を持っているからという理由で見た目を気にせず捕まえたガメノデスがずしんと音をたてて着地した。
「アイツにみねうちな」
俺の指示に「いえっさー」「まかせろよ」「はらへった」「後で飯な」「俺もいつものじゃ飽きた」「おやつまだー」「ねむい」といった具合に七つの顔が示したが蹴っ飛ばして追い立ててやった。
ずしんずしんとガメノデスが行く。あれこれ追いつかないんじゃ、と思った矢先、曲がり角を曲がろうとしたデデンネと、あの目つきの悪い男がぶつかる。
「あ?」
デデンネはちょろちょろと逃亡をつづけようとする。
「そのデデンネ、捕まえてください!」
男は状況が呑み込めない顔をしつつも、ひょいと逃げ惑うデデンネを持ち上げる。短い足をばたばたさせるデデンネ。さあどうしてくれようか。と、ガメノデスがデデンネを抱えている男にみねうちかまそうとしている。やばい。
「待て待てガメノデス! ストップ!」
俺の指示に気付きガメノデスがは手を止めた。が。
「ででー!」
デデンネが放電を放つ。
「テメ、このやろ……だあああ、もう!」
男は痺れながらもボールを取りだし、デデンネもろとも放り投げる。
だあす。やけに毛先が丸いサンダースが出現し、デデンネをむぎゅと抱き締める。そうか、ちくでんか。
「なんなんだよもう……」
ずるずると壁づたいにしゃがみこんだ男に、ペロッパフがぱふと寄り添った。
ペロッパフ、おまえいつの間にそんなにそいつに懐いてるんだよ。
なんだか悲しくなってくるその光景を横目に、サンダースに抑えつけられているデデンネを確保する。咄嗟のこととはいえ、男がサンダースを出してくれたのは助かった。とりあえず、このネズミをどうしてやろうか。とりあえずは、説教はしないといけないな。こめかみに青筋が浮き出るのが自分でもわかるぐらいにデデンネへの怒りがたまっている。
「デデンネ、お前はあっちで説教な」
「おまえもだよ」
いつのまにか女将が後ろにいた。どう見てもキレてる。
「さっきからどすどすうるさい音がしてやかましいから来てみれば賞状を入れていた額縁が割れているしその掃除をしていればまたぎゃーぎゃーやっているし来てみたらなんだいこのデカブツは!」
指さされたのは案の定ガメノデス。確かに廊下の地響きの原因は此奴ですけど! その前の原因がこの鼠なんです! 俺の必死に訴える目は女将の睨み付けるで無効化されてしまった。いや本当なんですってば。
こっそりボールのスイッチを押して引っ込むガメノデス……ってこの裏切り者ぉ!逃げやがった!ボールに触れようにも手の中で必死に涙を浮かべている鼠を話すわけにもいかずぎゅうぎゅうとしめつけ続けていれば「その鼠もアンタのかね?」とさらに誤解を招きそうな事になる。さっきのお姉さん何処にいるの。
「い、いや、違いま」
「なー女将さん、俺も何がなんだかさっぱりなんだが」
ガラの悪いオッサンが口を挟んでくれた。
途端に女将さんはいつもの穏やかな表情に戻った。
「お客様、大変申し訳ございません。この者にはしかるべき処置を行いますので……」
「あー、いや、その」
歯切れが悪い。それもそのはず、女将さんは表情こそ穏やかだが、目が笑っていないのだから。なんとかうまいこと言ってくださいと目で訴える。
「あ、やっと見つけた」
そこに、男の後ろから髪が無造作に跳ねている青年がやってきた。男より一回り小さい。
「あ、テメどこ行ってやがったこの野郎!」
「それはこっちのセリフだ! なんだよこの状況は?」
ギャーギャーギャーギャーかくかくしかじかと男が青年に説明をしている間、女将さんは和やかに、俺は冷や汗をかきながらじっとしているしかない。汗で滑りが良くなったデデンネが手から抜け出し、頭上に行ったがそこをばしと両手で再度捕まえた。
「あれ、そのデデンネ……」
青年が何か気付いたようにデジカメを取り出す。そこには額縁を壊す正にその瞬間のデデンネの姿が写っていた。更に一枚スライドさせると、さっきの女性とデデンネが仲良くくっついている写真が。
―――――――――――――――――――――――――――
翌日が平日のため、0:30あたりに一旦終了となりました。
参加してくださった皆様ありがとうございました!お疲れ様でした!
次回は1月10日(金)もしくは1月11日(土)の21時頃開始を予定しています。
飛び入り参加も歓迎しております。1文からでも参加出来ますので、興味のある方は是非是非奮ってご参加下さい。
タグ: | 【ポケモン】 【文章の題名が全部分かった人は私と同世代】 |
最初にケイに会った時、彼女はまだ三歳だった。生まれて来た幼い弟の世話に母親がかかりっきりになって、寂しくて家を飛び出して森に行って、迷子になっていた所を俺に見つかった。
その時俺はとんでもなく寂しかった。進化した途端、周りのポケモン達は怯えて近寄らなくなった。俺だって好きでこんな姿になったわけじゃない。これは種族なんだ。
こんなにごついのも、牙が鋭いのも、凶悪な顔をしているのも。
顔はぽかんと呆けて、涙はショックで止まっていた。また泣き出すかと思ったら、とりあえず敵意が無いことを知ってもらおうかと思ったのか、抱きついてきた。
そいつはケイと名乗った。その後で何故森に来たのかを話してくれた。幼い子供ならではの理由だった。
『弟なんていらなかったのに。私だけのママでいて欲しかった』
そんなことを聞いたら母親はきっと悲しむだろう。二人共自分の大切な子供なのだ。人間は気楽だ。俺たちのように、いつ離れ離れになるかそんなに心配する必要がないのだから。
『あなたは、どうしてここにいるの?』
生憎俺は向こうの言葉を話せなかった。沈黙が続く。破ったのは、彼女の名前を呼ぶ声だった。
『行け』
そう言ったつもりで唸ると、彼女はヒッ、と短く悲鳴を上げて駆けていった。しばらくして、遠くから泣き声と安堵の声が聞こえた。
それからも時々ケイは森に来るようになった。俺との身長差は約一メートル十センチ。会うとまず俺はケイを頭に乗せて森の奥を案内した。人間では行けない場所でも、俺なら楽に進むことができる。
ケイは見る物全てに目を輝かせ、遭うポケモン全てに声をかけた。
見知らぬ子供を頭に乗せる俺に、彼らは不審の目を隠さなかった。まあ仕方ない。だがしばらくすると危害を加える気がないと分かったのだろう、向こうから少しずつ近付いてくるようになった。
最初は俺の進化前を知っているポケモン達から。続いて彼らの姉弟。そして親。
人間がポケモンを扱えるのは十歳になってからだという。だが彼女は若干四歳ちょっとにして俺を手懐けた。
ベテラントレーナーでさえ手を焼く、と言われる種族の俺を。
ケイは話が上手だった。話していて気がつけば沢山のポケモンが周りに群がっている。皆人間の世界に興味があったのだろう。この辺りの森は俺たちの種族が生息しているということで、密猟者以外は誰も近づかない。
その密猟者もかなり入り組んだ森に迷い、俺たちにたどり着けないまま帰ることがよくあった。
時々彼女は家から本を持ってきて朗読した。大好きな童話だと言って、何度も話した。そのおかげか俺は内容を覚えてしまった。
『おやすみ そここできこえるおとたちも』
『だいじょうぶ、だいじょうぶ』
『ちいさなうさぎ、わたしがだれだか わかりますか』
ケイは同い年の子供の中では、一番初めに文字の読み書きを覚えた。幼稚園の掲示板に貼られたプリントの文字を読み、大人を驚かせた。
やがて小学生になったケイは、あまり森に来なくなった。それでも土日になると必ずやってきて、教科書の物語を読んでくれた。
『天まで とどけ いち、にい、さん』
『ぼくが 目に なろう』
『それは 先回りをしていた トルトリだったのです』
『一つだけちょうだい』
『一匹おくれたのがいる』
その日が来たのは、当たり前だったのかもしれない。十二月の寒い日だった。ケイは目を腫らして俺たちの元へやってきた。
『ごめんね。バレちゃった』
彼女は受験を控えていた。私立の中学に行くのだという。隙を見ては俺たちに会いに来ていたのが、ついにバレてしまったのだ。
俺は寒さで動かない体を起き上がらせた。ロコンが焚き火をした。温かい火が俺たちを照らした。
『多分、最後になると思う』
そう言って彼女は読み始めた。それは戦争の話だった。今となっては、最後の部分しか思い出せない。
『じいちゃんが、母ちゃんを探してヒロシマを歩いた時、暗いヒロシマの町には、しがいから出るりんの火が、いくばんも青く燃えていたという』
『こどもを探す母ちゃんと、母ちゃんを探すこどもの声』
『そして、ノリオの母ちゃんはとうとう、帰ってこないのだ』
『青い空をうつしているヤギの目玉』
『白いひがさがチカチカゆれて、こどもを連れた女の人が遠くなった』
『川は日の光をてり返しながら、いっときも休まず流れつづける』
あれから何年が過ぎたのか。もう思い出せない。ケイは大人になった。俺の子供達も皆当時の俺と同じくらいの歳になった。
俺はもう動けない。できるのは、目を閉じてこの人生を終わらせることだけだ。
俺は目を閉じた。遠くで、協会の鐘の音が聞こえた。
タグ: | 【2012夏・納涼短編集】 【デスマス】 【ミイラ取りがミイラに】 |
あなた、好きなポケモンっている?
私はそうね、やっぱりパートナーでもあるし、プリンかな? まあるくてふんわりして、抱きしめるとふかふかなの。
もしたくさんのプリンに囲まれたりしたら、ふわふわ柔らかできっとすごく気持ちいい! 想像するだけで幸せ!
彼が好きなのはゴーストポケモン。その中でも、特にデスマスが好きだった。
最初はちょっと不気味だな、って思ってたけど、見てみると案外かわいい顔してて、ゴーストタイプも思ったほど怖くないんだな、と思った。
「当時の人たちは、死後の復活の準備としてミイラを作っていたんだ」
彼はよくそんな話をした。彼は古代文明とかそんな感じのものが好きだった。
私たちが出会ったのも、たまたま行った博物館でやっていた、古代文明展みたいな会場だった。
「えー、でも、生き返ったとしても、あんなかっさかさの身体じゃ嫌じゃないかな?」
「あはは。こっちの世界で、ってわけじゃないんだよ。ここで言う「復活」っていうのは、「死後の世界の楽園に復活する」っていう意味なんだ」
「死後の世界に復活???」
「その文明に出てくるとある神様は、先代の太陽神から地上の統治を任されたんだけど、その弟が権力を手に入れるために、兄であり新しい王であるその神様を殺してばらばらにしてしまうんだ」
「ふんふん」
「神様の妻はその死体を集めて復活の儀式を行った。神様は生き返ったけれども、集めたパーツが足りなくて、また死んでしまう。そしてその神様は、死後の世界を統治するようになった」
「ほうほう」
「この宗教の基本となる考え方は、死と再生だ。例えば、この宗教は基本的には太陽信仰なんだけど。太陽は日の出とともに産まれて人々の住む地上の世界を船に乗って旅し、日の入りと共に死んで死後の世界である地下を船に乗って旅し、翌朝また産まれる、というサイクルをたどっていると考えていたんだ。死と再生を永遠に繰り返すわけだね」
「はー」
「人間は死んだら審判にかけられる。生前に正しい行いをした人は神様と融合して、死後の世界にある永遠の楽園で、第二の人生を歩めるんだ」
それはいいんだけど、と私は彼の周りをふよふよと飛び回るデスマスを目で追った。
「それとミイラとどういう関係があるの?」
「死後の楽園に行ったあとも、魂はこちらの世界へ定期的に戻ってこなければならない。そのために、肉体が残っていなければならないんだ。肉体が失われると、魂はあの世から戻ってこられなくなる」
「お盆に迎え火たくようなもの?」
「……う、うーん、どうなんだろ……似たようなものなのかな……? うん、まあ、そういう感覚でいいんじゃないかな? 多分」
どうかな? と彼は傍らのデスマスに尋ねた。さあ? と言うようにデスマスは首をひねった。
彼の家には、何十匹ものデスマスがいた。
みんな金色の仮面を持っているんだけど、よくよく見てみると、その子たちはそれぞれ顔が違った。
「個性があって面白いだろ」
彼は言った。
大人。子供。男。女。黄金の仮面には、色々な顔が映って見えた。
「最近は没個性な顔の子が多いけど、やっぱりこういう子たちの方が僕は好きだな」
磨き布で仮面を拭いてあげながら、彼はそう言って笑った。
彼の家は大きなお屋敷だった。
地下室は危ないから入ってはいけないよと言われていたけど、そもそも広すぎて地下室の階段がどこにあるのかもわからなかった。
その日。
彼の家に行ったけど、彼はいなくて、デスマスもいなかった。
屋敷をうろついていると、床のタイルが不自然にずれているところがあった。
外してみると、地下へと続く階段が現れた。
私は鼻をつまんだ。何とも言えない異臭。
地下はひんやりとしていて、空気がとても乾燥していた。
顔がパリパリになりそう、と思いながら奥に進むと、少し広い部屋に出た。
床に散らばった白い粉と乾燥した草。
壁に飛び散る赤茶色の染み。
麻布にくるまれた「何か」の山。
何、これ。
胃の辺りからすっぱいものがこみ上げてきて、私は慌てて口を押さえた。
「――その昔、ミイラは薬として使われていたんだ」
背中の方から声がした。
私はびっくりしてとびのいた。
数え切れない金色の仮面と、手にナイフを持った男の人が立っていた。
「埋葬されているミイラの周りには、死後の世界で生活するための副葬品が山ほどあってね。それを狙って、ほとんど全ての墓に墓荒らしが入ったんだ」
「ミイラ本体もほとんどが持ち去られ、粉々にされて、薬としてかなりの数が消費されてしまった」
「それじゃあ、死者の魂はどうなるんだろう」
「この世に戻ってくるためには、身体が残っていなければならない。でも、その身体は失われてしまった」
「戻ってきた魂が、行き場を失ってしまったんだ」
「デスマスというポケモンが発見されたのは、その頃のことなんだ」
「知ってる? デスマスが持ってる仮面はね、生前の自分の顔なんだ」
「だけどデスマスもポケモンだからね。デスマス同士の間で卵が出来て、そこから増えることの方が今は圧倒的に多いんだよ」
「そういう子たちは、何とも言えない無個性な顔をしてるんだ。「生前」がないから当然だね」
「でも、やっぱりさ。個性がある顔の方が楽しいだろ?」
「だけどなかなかいないんだよ。ミイラなんてもう作ってないから、当然かもね」
「だから、考えたんだ」
「いないなら、自分で作ってしまえばいいや、って」
「何、怖いことなんか何もないよ。むしろラッキーだと思えばいい」
「だって君は、これから永遠の楽園に行くんだから」
「こっちに戻ってきたらもう身体はないと思うけど、心配しなくてもいいよ」
「ボールに入れちゃえば、衣食住、何の問題もなくなるんだから」
「大丈夫。僕がずっと、大事に育ててあげるからね」
白い刃がきらりと光る。
私は慌てて逃げる。私が立っていた場所に、ナイフが振り下ろされる。
パニックになりながら、私は腰からボールを取った。
「プリンちゃんっ!」
ぽん、とボールが割れて、ピンク色の風船が飛び出す。プリンは大きく息を吸い込んだ。
私は両耳をしっかりと塞いだ。
「『ハイパーボイス』っ!!」
耳を塞いでいても鼓膜が破れそうになる、高周波の爆音。
彼も思わず耳を塞いだ。彼の周りを漂うデスマスも一瞬たじろく。
ゴーストタイプにダメージがないことは百も承知。だけど、ほんの一瞬だけでもひるめばいい。
私はすぐに踵を返して、全速力で地上へ走った。
そして二度と、彼の屋敷には近づかなかった。
彼と出会って、何回目かの夏が過ぎた。
通りがかった博物館では、古代文明の特別展をやっているようだった。
でも私は、もう一生入ることはできないと思う。
この町では、今年に入ってもう5人、行方不明者が出たらしい。
(2012.8.6)
小学校の図書館にあった、たかしよいちの考古学漫画が読みたい今日この頃
某月某日。
女性が男性に愛でとろけたショコラを送り、愛の言葉を囁き合う、そんな日。
女性は恋の行方に一喜一憂、男性は貰ったチョコレートの数に一喜一憂、いや、チョコレートを貰えるかどうかに一喜一憂している。
お菓子屋ならずとも、店という店にチョコレートが並び、町は数日前から独特の甘い匂いに包まれる。
数年前までそんな日だったはずなのだが、いつの間にやら友チョコとか逆チョコとか自チョコとかが出てきてなんかよく分からなくなった。しかし、町が嗅覚的な意味で甘い匂いに包まれているのは変わらない。
目の前の彼女も、非常に甘い匂いをさせていた。確か、事務の仕事をやっている子だったか。
「はい、どうぞ。エルフーンちゃん」
そう言って、腕に抱えた甘い包みのひとつを、足元のフワモコで可愛いと巷で人気の草羊に渡した。
「ココロモリくんにも」
彼女は机の上で丸くなっていたハート鼻の蝙蝠にもチョコレートを渡すと、今は持ち主が留守の机の上にも包みを置いて、部屋を出て行った。
「……僕の分は?」
ひとりチョコレートを貰えなかったキランは、彼女が去っていった方向を見つめて僻みたっぷりに呟いた。
エルフーンはそんな彼の様子は気にせず、貰ったばかりの包み紙を短い手でビリビリと引き裂いている。ココロモリはチョコレートの包みを足で押さえながら、キランの方を気にしていた。
「食べていいよ」
その言葉に安心したようで、ココロモリは風技と念力で器用に包み紙を切ると、箱を開けた。
キランは上司の机に目をやった。そして、見なければ良かったと後悔した。彼女の机の周囲は甘い有様になっている。
机にはまるでチョコレートしかないように見えた。もしかしたら、机もチョコレートかもしれない。隣り合った机や足元の床にまで、彼女の机に乗らなかったり、崩れたり落とされたりしたチョコレートが積み上がって、甘ったるい山を形成していた。今にも蟻が集ってきそうだ。
朝、キランが出勤していない時間帯からチョコ責めに遭い続けて、昼休みでこれだ。夜には家の一軒ぐらい建つだろう。今はチョコ攻勢から逃亡を図っているが、彼女、帰ってきたら胸焼けで倒れるんじゃなかろうか。
視線を感じてそちらを見ると、トリュフチョコを咥えたココロモリと目が合った。
くい、と顎をしゃくるようにしたココロモリに、キランは手を差し出す。噛み跡の付いたチョコが手の中に転がった。
「……ありがと、ノクティス」
心優しいココロモリは気弱そうに笑うと、エルフーンと貰ったチョコレートを交換する作業に入った。
つきそうになったため息を堪えた。自チョコならぬ自ポケチョコって何だよ。いや、いいんだ。自分を気遣ってチョコレートをくれるポケモンなんて最高じゃないか。うん、そう思うことにしよう。きっとそうなんだ。そうに違いない。
「……はあ」
堪えていたため息が出た。
ハート型チョコはそんなに美味しいのか。せめて向こう向いて食べてくれよ。
という指示をポケモンたちに出すのは空しかったので、キランの方が部屋を出ることにした。廊下に出ると空気が清浄に感じられた。あの部屋はよっぽど甘かったのだ。三回深呼吸して肺の中の空気を入れ替えると、気分がずいぶん良くなった。別に大量のチョコを貰うことが幸せではないと気付いたからではなく
。そして、息抜きついでにご不浄に行って用を足していると、真上の換気扇からエルフーンが出現した。
「そんな所から出るなよ」
換気扇から頭上に落下してアフロみたいになったエルフーンを離しながら文句を言う。しかし、エルフーンはキランの言葉も耳に入らない様子で、短い手足を振り回して酷く慌てている。顔はいつもと同じだが。
「分かった。分かったからズボンの裾引っ張らないで」
キランがそう言うと、エルフーンはひとまず安心したようで、握っていたズボンを離した。そして、キランたちの居室の方向へ走り出す。
しかし、エルフーンは背負った綿に風を受けて、少し走っては舞い上がり、少し進んではまたフワフワ……。
真面目に移動して欲しいが、こいつが本気で移動すると、白い綿だけ残って本人が行方不明になるので、それはそれで面倒である。
仕方ないので、エルフーンを両手に抱えてダッシュした。
見たままを言うと、蟻が集っていた。アイアントが。
部屋の壁を破壊して、鉄蟻の行列がチョコレートの山から外まで続いている。色とりどりの包みを鋼鉄の顎でガキッと挟み、回れ右して壁の穴から外へ這っていく。行列の先頭に出た次の鉄蟻がまたガキッとチョコレートを咥えて回れ右、そのスペースにまた次の鉄蟻が進み出て。
ココロモリが困ったように天井付近を旋回していた。キランも困った。
チョコレートが無くなれば彼らはお帰りしてくださるだろうが、それまで壁は半壊、吹き曝しのままというわけにもいくまい。
それ以前にライモンシティにアイアントはいないのだから、飼い主を見つけてポケモン管理義務違反で注意しに行かなければならない。仕事が増えた。それと、いつの間にか白い綿を残して姿を消したエルフーンも後で探さなければ。
「ああもう」とぼやきながらボールを手に取ったキランを押し退けて、ひとりの女の子が現れた。
先程やって来た事務職の女の子だ。
オコリザルも吃驚なぐらい目を血走らせ、ドン! と部屋の床を踏みしめて仁王立ちになると、ボールを取り出して手の血管が浮き出る程強く握り締めた。触れたら火傷しそうな程、怒っている。
「アンタたち……私がレンリ先輩に渡したチョコレートに汚い顎で触るなあ! 始末なさい、クイタラン!」
ひび割れた声でそう叫んだ彼女が繰り出したのは、縞模様のアリクイ、クイタラン。アイアントの天敵とされるポケモンで、
「ああっ、クイタラン!」
アイアントのストーンエッジで倒されるのはご愛敬である。
アイアントは人に教えられないとストーンエッジを覚えないから、彼らは人飼いであることが確定したわけだが、嬉しくも何ともない。厄介だと再認識させられただけだ。ついでみたいにココロモリも撃ち落とされてしまったし。
そう、後、厄介と言えば、この子も。
「何よ! 他のはいいけど、私のだけでも返しなさい!」
彼女は倒れたクイタランを戻すと、懲りもせずに鉄蟻の群れに向かって行く。無謀だ。
食料の運搬を邪魔されたアイアントたちが、彼女に不気味な鉄顎を振りかざした。
一斉に鋼色の蟻たちが下顎を傾ける様は、見ていて恐ろしい。事務職の女の子もそれは感じたようで、アイアントたちのはるか手前で足を止めた。
シャン、とアイアントたちの顎が同時に鳴る。そして、同時に顎を開いた。次には攻撃が来る。が、その時キランはこいつら息ぴったりだなと全くバトルに関係ないことを考えていた。それから、つい癖でペンドラーのボールを選んでいて、室内でどでかいムカデは出せないと気付き、ならばとドリュウズのボールを探して非常時に限って必要な物は見つからない、つまり詰みだ。
と思ったその時、
「ウィリデ、コットンガード」
いつの間にか戻って来た草羊が、綿の大玉となってアイアントたちの前に立ちはだかった。
先陣を切っていった鉄蟻の顎の脅威をモコモコの綿が吸収する。アイアントの攻撃に思わず立ち竦んだ彼女がホッとした様子でキランを見た。しかし、指示したのはキランではない。
黒髪に紅色のメッシュを入れた女性がキランを押し退けて現れた。キランの上司であり、チョコレートを売る程貰っていた当人、レンリである。
「ウィリデに引っ張られたんで慌てて来たんだが、こりゃ酷いな」
そう述べながら左手で事務の子の肩を掴んで部屋の外に出し、右手でモンスターボールを掴むと、彼女のポケモンを呼び出した。大きな紅色の花を頭に乗せたドレディア。
「ウィリデ、身代わり」
彼女は当たり前のようにキランのポケモンに指示を出すと、続けてパンツスーツをパン、と払った。
それを合図に、ドレディアがわざとリズムの狂ったダンスを披露する。それを見たアイアントたちは、次々と何かに感染したかのようにおかしな行動に移った。アイアント同士で頭をぶつけあったり、チョコレートの包みを粉々に砕いたり。
混乱したアイアントたちを花びらの舞で部屋の外に追い出すと、レンリはいつも肩に乗せているバチュルを使って大穴を蜘蛛の糸で覆わせた。
網の隙間から鉄蟻の恨めしそうな顔。しかし、バチュルの巣は電気が通っているから、いくらアイアントと言えども簡単には突破できないだろう。レベルも違うし。
ほっとするのも束の間、
「これ、修理するの大変そうだな」
上司のひと言で、キランは現実に引き戻された。
穴から吹き込む風が、冷たい。
通りすがりのローブシンに頼んで壁の穴を塞いでもらった。アイアントの持ち主も探してしょっぴいた。それが終わった時には日付が変わっていた。
「疲れた」という間も惜しく、上司は貰ったチョコレートの分類作業に入っていた。ただ単に部屋の隅にチョコを投げてるだけに見えるが。ホワイトデーにお返しをする気はなさそうだ。そう思って見ているキランの目の前で、上司が「あった」と声を上げた。嬉しそうだが、歓声と言うには大人しい声で。
「アイアントに持って行かれたかと思った」
そう言って、彼女は小さな箱を持ち上げた。飾り気のない白い箱が、彼女の白い手の中に包まれていた。そういう風に扱うのは、一体誰からの贈り物だろう。投げ打つ程にチョコを貰う彼女に選ばれるのは――それは、幸運に思えた。
彼女から選ばれる可能性があるのなら、じゃあ何か渡せば良かったと思って、その直後にその考えが嫌になった。上司の姿を視界に入れないよう、キランはそっぽを向いた。その肩が叩かれた。
キランの手に、白い箱が押し付けられた。白い手から。
引っ込められた白い手を追って、キランは肩越しに彼女を見上げた。目が合うと、彼女は髪をかき上げながらも目を伏せて、
「ほら、こういう日だから」
静かに言った。
戻ってきたエルフーンと顔を見合わせて、キランは箱を開ける。紙を一枚敷いた上に、ちょこんと丸いチョコレートが乗っていた。もう一度上司の方を窺うが、彼女はもうキランに背を向けて自分のチョコの山に取り掛かっている。
キランも彼女に背を向けた。慎重に箱の中から甘い塊をつまみ出す。手の平に転がすと、ココアパウダーがチョコを中心に散らばった。小さなトリュフチョコは体温で溶けて消えてしまいそうで、そうなる前にとキランはチョコレートを飲み込んだ。
甘さだけで出来た塊が舌の上で溶け
舌に激痛が走った。
反射的に口を手で覆い、出すのはまずいと思い切って飲み込んだ。すると喉が痛い。辛さが喉の中を上って鼻に回って涙腺も刺激して涙が出てきた。
口を開けて息をした。新鮮な風が当たると、少しだけマシになる。でもまだヒリヒリと、痛い。涙を堪えて上司の顔を見たら、いつもの悪ぎつねみたいな笑みを浮かべている。彼女はそういう人だということを忘れていた。
「ひっかかったな」
そう言って、風のように去って行く。
大量のチョコレートと一緒に部屋に取り残されたキランは、口の中のヒリヒリが収まるのを待つことにした。手持ち無沙汰なので、貰った箱を捨てる前に畳もうかと指先を動かす。底に敷いた紙を引っ張り出す。と、その下にまだもう一枚紙が入っていることに気が付いた。二つ折りになっていたそれを開いたキランは、やれやれとため息をつく。
『いつもありがとう』
そして、唐辛子爆弾を仕掛けた彼女と、これを書いた彼女と、どっちが本当なのかと思い悩む羽目になるのだ。
あそこをくぐり抜ければNがいる。ゲーチスが何か言っていたけれど、関係ない。わたしはただ、Nに言いたいことがあるだけ。
心臓が暴れまわり呼吸が乱れる。パートナーの入っているモンスターボールを握りしめて、わたしは覚悟を決めた。
行こう、Nのもとへ。
Nが、ゼクロムを呼んだ。呼びかけにこたえて、玉座の向こうから黒い竜が現れる。黒い竜は力を誇示するように吠え、電気のエネルギーを撒き散らす。圧倒的な力。あれが、伝説の竜。
体が震える。勝てるだろうか。違う、何をしてでも止めるって決めたんだ。
大きく息を吸う。若草色の目を見据えて、わたしは告げる。
*
N。わたしはきっと英雄なんかじゃない。だってそうでしょう? ゼクロムが現れても、ライトストーンは反応しなかった。
わたしは、あなたに言いたいことがあって来たの。わたしには求めるべき真実なんて分からないよ。この世界のことをほとんど知らないもの。
あなたは多分戸惑っているよね。わたしがこんなに喋るところを見たことがないだろうし。ベルもチェレンも、今のわたしを見たら驚くだろうね。でも、わたしにだって言いたいことがたくさんあるんだ。
聞いて、N。
わたしには分からなかった。なんでわたしが英雄なのか。どうしてNはわたしにこだわるのか。これは、今でも分からないよ。
あなたは何度も接触してきては、一方的に喋り、勝負を仕掛けてきた。電気石の洞穴では、勝手にわたしをニュートラルだと決めつけた。たしかに理想も、真実も知らなかったけど。それに、わたしの意思なんかお構いなしにわたしを選んだなんて言う。竜螺旋の塔でもそう! わたしにライトストーンを探せと言った。
なんで! どうしてわたしなの!
あなただけじゃない。みんな、みんなそう。わたしにやれと言う。わたしの気持ちなんて知ろうともせずに、英雄になることを強制した。流されるままのわたしも悪かったよ。でもさ、だんだん、言えなくなった。言える雰囲気じゃなかった。
みんなわたしに期待して……押しつけて。わたしは、まだこどもなのに。大人たちも、アデクさんくらいしかあなたに挑もうとはしなかった。そのアデクさんだって、わたしにライトストーンを持てと言った。正直怖かった。なのに、受け取れって。押し付ける形になってすまない? だったらやめてほしかった。でも、受け取る以外の選択肢なんてなかった。
あはは、こどもだよねえ。わたしもみんなに負けず劣らず自分勝手だよねえ。でも、もうやめるわけにはいかなかった。わたしだって、ポケモンのいない世界は嫌だったから。わたしがやるしかないって、言い聞かせてた。
ねえ、N。わたしね、あなたの考えには少し共感しているの。傷つくポケモンがいるのはやっぱりいい気はしないよ。たとえば、ずっと一緒にいるこの子たちが誰かに傷つけられるのは、嫌。でもさ、方法が間違っていると思う。たしかに、ポケモンと人間を引き離せば、人間に傷つけられるポケモンはいなくなるよ。でもその代わり、新しい悲しみが生まれると思う。
N。あなたは言ったよね? わたしたちみたいな人ばかりだったら、ポケモンの解放なんてしなくていいって。あなたは迷っているんじゃない?
あなたの部屋を見せてもらったよ。ずっとあの部屋の中で過ごしていたんだってね。
あの部屋を見て、ずっと迷っていたけど分かったんだ。言ったでしょう? 自分がどうして英雄なのか分からないって。ここに来るまであなたと戦うことに踏ん切りがつかなかった。英雄であるだけの、理由なんてなかった。でもこの城に入って、あなたの部屋を見て、あなたの過去を聞いて、自分がどうしたいか分かった。
あのね、N。あなたの見ていた世界はすごく狭くて小さいよ。
わたしも似たようなものだけど。わたしだってカノコタウンから外に出たことがなかったから。
ねえ、あなたは「外」で何を見た?
わたしはポケモンをもらって、外に出ていろんな経験をした。トレーナーとはポケモンバトルをしたし、ポケモンを交換することもあった。ミュージカルに参加したこともあった。人の仕事を手伝っているポケモン、ううん一緒に働いてた。みんな、楽しそうに笑ってた。ポケモンの言葉は分からないけど、見ていてそう感じた。
たくさんの人たちと、ポケモンたち。お互いがお互いを思いやっていた。
N、あなただって見たでしょう?
うん、そう。あなたがあの部屋で見てきたことも本当のことだよ。実際、人間に苦しめられているポケモンもいる。でも、ね。わたしが見たのはたいていプラズマ団のせいだったよ。ムンナの煙が必要だからって、蹴ったりして煙を出させようとしていたことがあったんだ。あの時はすごくびっくりした。この人たちはポケモンを大切に思ってないんだって、口先だけだったんだなって思った。あなたとはずいぶん違っていた。思えば、あれがあったからわたしはここにいるのかもしれない。
それから、ポケモンを解放するんだと言って、ポケモンと人を引き離していたよね。でもポケモンたちは、大切な人と引き離されてつらそうだった。ベルがムンナをプラズマ団に奪われたとき、ベルもムンナも、両方とも悲しんでた。やっぱりそういうのを見ると、こんなのは違うって思ったんだ。
ポケモンと人が出会って、たしかに悲しみが生まれたと思う。でも、それ以上に喜びが生まれたんじゃないかな。あなたは今ある喜びを、幸せを、すべて悲しみに変えるの?
それがあなたの『理想』なの? 目指すべきなのは、今ある幸せを壊すことなんかじゃなくて、悲しみを減らすことなんじゃないの?
わたしはこの子たちと出会えてすごく嬉しかった。喧嘩することもあったけど、一緒にいられて幸せだったよ。
ねえ、N。あなたはポケモンと一緒にいて幸せじゃなかったの? 幸せだったはずだよね?
それはあなたもわたしも、そして他の大勢の人も一緒なんじゃないの? あなたはきっとそれを見てきたはず。
なのに、あなたは自分が見てきたものを否定するの?
あなたがしようとしていることは、今まで見てきたことを否定してまでやるべきことなの?
わたしたちが見たのは、『真実』じゃないの?
*
そこまで言ったとき、バッグがもぞもぞと動いた。はっとして、バッグを開ける。
ライトストーン、が――――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
超今さらですが書いてみました。
書く書く言ってから大分たったのでわたしが言ったこと自体、皆様忘れてると思いますw
ぶっちゃけプレー中は、電気石の洞穴あたりから完全に置いてきぼりされてたので、こんなことは考えてないですw
これを書くためにプレー動画見てみたんですが、ゼクロム登場からレシラム登場までほとんど間がなく、思わずずっこけました。
もうね、明らかにゼクロム現れたから出てきただけだろ状態。
実際にプレーしてたときはあんまり気にならなかったんですけど。
というわけで、こんな感じのことがあったんじゃないかなあという妄想でした。
今更過ぎてごめんなさい!
【書いてみたのよ】【今さらでごめんなさい】
ガサ、ガサ。
子供はおろか、背の低い大人ならすっぽりと隠れてしまうような草むら.
その湿った中を掻き分けて進む一人の男がいた。
彼が背負っている革色のリュックはリズムよく踊る。
空にはどんよりとした雲が浮かび、今にでも大きな雨粒を落としてやろうと言っているかのようである。
男は、煙たい匂いが鼻の奥を刺激するのを感じた。
お香か。
男は、思う。
匂いの風上を頼り、草むらを抜けると、その元はあった。
高く聳える塔。
タワーオブヘブン。
イッシュ地方最大の、ポケモン用の墓地だ。
各地のポケモンの御霊がこの塔で供養されている。
塔の頂上には大きな鐘があり、それを鳴らすことでポケモンたちが安らかに眠ることが出来るといわれている。
内部の各フロアごとに墓石があり、お参りへ来る人が毎日いる。
しかし、天気があまりよくないからか、あたりに人の気配はなさそうだ。
男はキョロキョロとあたりを見回すが、薄暗い影の中の草木しか視界には入らない。
男は、この塔に鐘を鳴らしにきた。
ただ、鳴らしたいと思っただけだ。
それ以外に理由なんてない。
漠然とした理由で来た男は塔を眺めた。
見上げ、霞の向こうにある頂上が透けて見えるかのようにじっと見つめる。
その先の、なんとも形容しがたい魅力を感じる。
男は、すっかり心を奪われていた。
「あの」
という透き通った声が聞こえるまでは。
その刹那、男は体を震わした。
何者なんだろう?
声の主に意識を向けた。
「はい?」
男は振り向いて、その姿を瞳に焼き付ける。
少女が、いた。
ぴゅう、と吹いた風に栗色の髪はさらりとなびく。
栗色のワンピースを着た少女は男をじっと見つめていた。
「おにいさん、塔にのぼるの?」
透き通って、消えてしまいそうなその声は、どこか悲しげだと男は思った。
「そうだね、今から塔の頂上に行くんだ」
ふぅん、と少女は言った。
「あのさ、あたしも、ついて行っていいかな?」
「君もかい?」
「うん」
少女はうなずいた。
「一人で行くの、こわいから」
塔の中は昼間だというのに薄暗い。
壁にかけられた蝋燭の灯はぼんやりと光、墓石を、床を橙に染めている。
中には人はいないようだ。
だが、何かが見つめている。
そんな感覚に襲われた。
「おにいさん、きをつけて。このあたりはヒトモシがすんでいるの」
「そういえば、そんなことを聞いたことがあるよ」
この塔にはヒトモシが生息している。
彼らは人の魂を好んでいるため、下手な行動をすると命取りになりかねない。
そんな話を昔聞いた覚えがあった。
「あの蝋燭もヒトモシよ」
「えっ?」
男は壁の蝋燭を見つめた。
ゆらゆらと炎が燃えている。
蝋がにやりと笑った。
「!?」
男は正体の顔を見たと同時に、腕を引っ張られる感覚に襲われた。
右腕をつかんでいたのは、少女だった。
「はやく行きましょう。こわいでしょ」
少女は足早に歩き始めた。
男は崩しかけた体勢を整え、付いていく。
「危なかった……。しかし、よく知ってるね。ここ何回か来たことあるのかい?」
男の質問に症状はビクッと体を震わした。
もしかして、聴いちゃいけなかったかな。と男が考えていると、
「……うん、何回か」
消え入るような声が答えた。
「一人で来たら危ないから、だれかいないかさがしていたの。そしたら、あなたが来たからたすかった」
少女の手はひんやりとしていた。
塔の薄暗さがそのまま体に出ているかのように。
少女に引きつられて、螺旋階段までたどり着いた。
一段踏み出すごとに、こつん、こつん、と音を響かた。
ヒトモシの灯に映し出されたひとつの影は、鐘へと近づいていく。
長い長い階段の先を超えると鐘があると期待した男は墓が並ぶフロアが続いたことに肩を落とした。
「まだまだ先よ」
少女の発した言葉に重なって、
「……ぼう……」
という声が聞こえた気がした。
「なんだ?」
と男は振り返ったが、人がいる様子は無い。
「ヒトモシのしわざよ。はやくしなきゃせいめいりょくをすい取られるわ」
少女は声の方向に目もくれず、次の階段に向かっていた。
「おにいさん、いそぐわよ」
少女は、駆け出した。
おおっと、と男は声を漏らした。
駆ける少女に引っ張られながら、次の階段へと向かっていく。
彼女の冷え切った手につかまれながら。
幾段もの階段を上り、規則的に並ぶ墓石を目にし、進んだ。
そして、最後の階段にたどり着いた。
「もうすこしで頂上よ」
「ああ、そうかい」
最後の階段の先から光が屋内に差し込んでいる。
一歩、一歩階段を踏みしめる。
外気は少女の手のようにひんやりとしてきていた。
間違いなく、頂上が近いんだ。
男は思った。
「君のおかげでヒトモシに襲われることもなかった」
「そうね……ありがとう」
少女はぽつりとつぶやいた。
階段を踏みしめるごとに、体の重みが男を苦しめた。
ずっと歩き続けたからだろう、男は痛みを堪える。
視界は次第に明るくなっていく。
そして、最後の一段を踏んだ。
頂上は、ぼんやりと霞がかっていた。
その中にうっすらと大きな鐘が見えた。
「これが、頂上か…」
男は鐘へと歩み始めた。
一歩足を踏み出すたびに重くのしかかる感覚を堪える。
そして、鐘の前に立った。
鐘から垂れた紐を手に取り、引っ張った。
ごおおん、ごおおん。
鈍い音がん響き渡った。
遠く、深くまで。
男の心の奥底にまで染み込む。
重い体から何かが離れていくような、そんな感覚に包み込まれた。
目的を達成してすっきりした男が鐘に背を向けると、少女が立っていた。
「もう、かえるの?」
「ああ、やりたいことは終わったしね」
少女は拳を握った。
「……つまんない」
少女は、拳を振り上げた。
「つまんないつまんないつまんないつまんない! もっとあそぼうよ!」
「お、おい……落ち着け!」
少女は体を震わせて睨み付けた。
「あそびたいんだよ? この子たちもあそびたいんだよ?」
刹那、男の肩に重みを感じた。
視線を右肩に向けると、いた。
白い体に、赤いともし火。
ヒトモシだ。
「なっ……」
男は、意気揚々としたヒトモシの姿を見て、頭にぐるぐると何かがめぐり始めた。
「なっ、なんで……ヒトモシがいるんだ……?」
渦の中から拾い上げた言葉を発した。
「あそびたいんだよ? ミ……ンナ、アソビタ……インダ……ヨ?」
少女の顔は、ゆがみ始めていた。
口は左頬の位置まで伸び、鼻は斜めに、目は右頬に傾いている。
口から、目から、鼻から、緑色の液体が流れ始めた。
男は、息を呑んだ。
瞬きをすると、歪んだ少女は消えた。
そこに、一匹のポケモンがふわふわと浮かんでいた。
灰色の体に大きな頭。お腹の4つのボタン。
オーベムである。
「あ、あぁ……」
そこに、少女などいなかったんだ。
最初から幻影だったんだ。
男は、体中の力が抜けきってしまった。
ぺたり、とつめたい地面に尻をついた。
肩のヒトモシはぴょこん、と降りた。
……遊びたいんだよ?
「……やめてくれ……頼む……」
男の体はすっかり冷え切っていた。
次第に近づいてくるオーベムが大きく、そして恐怖に感じられた。
……なんで、遊んでくれないの……?
「やめろ……やめるんだ……この化物……!」
ぴたっと、オーベムの動きが止まった。
……化、物……?
体をぶるっと震わせた。
……ボクって、化物なの……?
悲しそうな瞳で男を見つめた。
潤んだ瞳の奥には何か、淋しげな感覚があるように見えた。
……そうだよね、怖いよね。
オーベムはがっくりとうな垂れた様子だった。
さっきの一言が重くのしかかったらしい。
……ボク、ただ遊びたいだけだったんだ……
「オーベム……」
男は膝をついた。
「酷いこと言っちまってごめんな」
男はオーベムの頭をなでた。
オーベムは驚いた様子で男を見つめる。
潤んだ瞳に男の顔が映りこんだ。
……許してくれるの?
「こっちこそ酷いこと言ったしな。お前はただ遊びたかっただけなんだろう」
オーベムはコクリと頷いた。
「そうだな、ちょっとだけ遊んでもいいぞ?」
……え? 本当に?
オーベムは目を丸くした。
男はああ、と言った。
オーベムは踊るように喜んだ。
……やった、ありがとう!
その姿を見ながら、男はにっこりと笑った。
後ろから、ヒトモシがぴょこんと肩に乗った。
そして、にやりと笑った。
「次のニュースです。フキヨセシティ郊外のタワーオブヘブンそばで男性の遺体が発見されました。
遺体は死後数週間が経過したものと思われ、警察が身元の確認を行っています。
近辺には革色のバッグがあり――」
――――――――――――――――――
お久しぶりです。名前のとおりのものです。
最近ご無沙汰だったので、リハビリがてら。
ところで、書いていくうちにオーベムが可愛く見えてきたんです。
あのくりっくりとしたおめめ。なにこれ可愛い。
もっと怖いってイメージだったんですが、気づいたら抱きしめたくなってました。
そんなノリで無理やり乗り切りました。
【好きにしていいのよ】【オーベム抱きしめてもいいのよ】
回答8:
色違いのゾロアークなら、この前借金を返しにきた。
子供手当が出たからやっと返せるー!ルーピー・ポッポ大統領万歳とかいいながら団子も食ってたな。
回答9:
私の友達が青いブラッキーを持ってました。
普通のブラッキーとは違って、夜に見ると青く光って綺麗でしたが、迫力はやっぱり黄色い方がよかったと思います。
回答10:
(この発言は当局によりスナイプされました)
回答11:
この前、ラブカスを釣ろうとしたら、変な色のホエルコつり上げちゃったよ。一瞬目がおかしくなったのかとおもった。
回答12:
色違いのゾロアークがこの前お店にきました。
先輩と親しいようだから、試作品を食べてもらったら全部まずいって言われた;;
それから口直しに賞味期限が近いやつを食われたけど、小さい子がいるっていうから包んであげたら喜んで宣伝してくれた。いいやつだったよ
回答13:
>12
貴方なにをいってるんですか?ゾロアークが喋るわけないじゃないですか。半年ロムってろ
回答14:
>12
お前ポケモンかよwwwwwwwwwwうぇwwwwwwwwwいいやつwwwwwまじwwwwwwwwステマwww
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知恵袋に寄せられた相談:
5日程前、エンジュシティの南の方で良い雰囲気なゾロアークのカップルを見かけたんですが、何と片方が色違いだったんです!
色違いなんて初めて見たので物凄く印象に残っています。そこでふと気になったのでお聞きします。皆さんが見た色違いのポケモンを教えて下さい!
回答1:
私も4ヶ月程前にヤドンの井戸の辺りで色違いのゾロアークを見掛けました。ロコンと一緒に歩いてました。
ロコンが鬣を触りたそうに見てました。実際少し触ったりしてました。微笑ましかったです。
回答2:
先月の下旬にキキョウシティの西の方で同じく色違いのゾロアークを見ましたね。
確かコジョンドと手を繋いで歩いていたと思います。紫色の鬣が綺麗でした。
回答3:
クチバシティに色違いのゾロアークと通常色のキュウコンの夫婦がいました。可愛いロコンの子供もいてとても幸せそうでした。
ゾロアークがキュウコンに一途なのが凄く伝わって来たっす。あれこそ夫の鑑っすね。
あと、質問者さんのゾロアーク達は絶対カップルじゃないです。決して良い雰囲気でもないです。
回答4:
うちのイーブイが色違いです! 銀色でもっふもふで超かわいいです!
この子タマゴから生まれたんですが最初見た時汚れてるのかと思って洗いそうになりました(笑)
進化させるか悩んでますがそれは別の話ですね。
回答5:
いつだったかは忘れましたがウバメの森で色違いのゾロアークを見た事があります。
キュウコンの尻尾を枕にして気持ち良さそうに寝てました。羨ましかったです。……羨ましかったです。
あの時からいつかキュウコンを手に入れて同じ事をするのが私の夢になりました。羨ましかったです。
回答6:
ゾロアーク大杉ワロタwwwwwwまあ俺が見たのもゾロアークなんだがwww
確か2ヶ月位前にヨシノシティの北辺りで普通のゾロアークと一緒に鬣を梳かし合ってたな。ゾロアークたんカワユス。
まぁ何が言いたいかって言うと、リア獣末永く爆発しろ。
回答7:
僕もこの間ラジオ塔の入り口付近でゾロアを抱いてる色違いのゾロアークを見掛けました。
ゾロアは普通の色でしたが非常に可愛かったです。
それにしてもゾロアークの目撃情報多いですね。同じ個体だったりして(笑)
回答15:
去年の冬頃だったかな、どこだったかは忘れたけど私も色違いのゾロアークを見かけました。
確かフォッコと焚き火囲んでたと思います。言うまでもなく可愛かったです。両方共。
それで確かゾロアークが振り向いた拍子に火が鬣に燃え移っちゃって2匹共焦ってたっけ。あれは笑った。
――――――――――――――――
どっかの誰かに似てますねぇ、フヒュヒ。本人じゃないと良いですねぇ、ニヤニヤ。
という訳で某ゾロアークをお借りしたかも知れませんしお借りしてないかも知れません。どっちでしょうねぇ、ニタニタ。
知恵袋のスレは既にありますが、これは毛色が違うので別で立てました。
とりあえずキュウコンの尻尾を枕にしたいです。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【回答してもいいのよ】
【浮気してもい……浮気はだめなのよ】
【回答3はベストアンサーにはならないのよ】
【尻尾を枕にしたいのよ】
3/24追記: 回答15を追加しました
携帯をいじっていたらテキストフォルダからプロットらしきものが飛び出てきましたので、折角だからこっそりあげることにしました。後書きのページにも色々書きましたが、こちらも良かったぜひ(ドキドキ)
【以下、携帯のメモ帳からそのまま抜粋】
ポケモンストーリーコンテスト案を出していこうページ1
★タイトルは?
こちら鏡屋メタモンでありんす。
★主人公は?
メタモン。
殆どのポケモンを知っており、その知識を活かして、その者が知りたい姿を見せる鏡屋というモノを始める。昔、お礼にもらったというキセルをいつも身につけている。一人称はわらわっち。その辺の説明も入れておく。
★どんな話?
イーブイの進化の悩みから可能性の広さを説く【未来編】
ルージュラの恋の悩みから、今というものと向き合う【現在編】
トレーナーが捨てた卵から変えられない過去を説く【過去編】
★流れは?
最初はメタモンの紹介で1000文字以内。
後は未来編、現在編、過去編の順番で各3000文字以内。
★それぞれの性格
・メタモン
古風な喋り方が特徴的。甘いモノに目がない。冷静にモノを見る。
・イーブイ
好奇心旺盛なイーブイで、メタモンに将来のことを相談しに来る。
・ルージュラ
恋に生きているポケモンで、もっと美しくなりたいと思っている。
進化することはできないかとメタモンに相談しに来る。
・トレーナー
卵を孵して、個体値が低いと見るや、そのポケモンを捨てる人。
間違えて高個体値のポケモンを捨ててしまう。
――――
ポケモンストーリーコンテストの案を出していこう。ページ2
★一人称は?
・メタモン…わらわっち
・イーブイ…ボク
・ルージュラ…わたくし
・トレーナー…俺様
★実は。
イーブイは実はトレーナーに捨てられていたポケモン。
後にエーフィに拾われ、育っていく。
話の終わりはイーブイがエーフィに進化して、メタモンが「願わくば、この子のように強く生きて欲しいでありんす」と呟いて終わり。
★セリフ。
・わらわっちはあくまでお主の見たい姿を写したにすぎん。
・未来を決めるのは最終的にお主なんじゃ。
決めて、その先を進んだら、戻ることはできん。
だから自分に責任を持つのじゃ。
それが今というやつでありんす。
・鏡はあくまで表面を映しているだけでありんす。
中身までは映せん。
どんなに姿を変えようともわらわっちはわらわっち。
お主はお主なんじゃ。
中身を変えること……それも進化の一つじゃないかのう?
・知っておるか?
捨てられたポケモンはな、成長すると、やがて捨てられた意味をというものを知って、捨てた人間に復讐するのだそうじゃ。
【このプロットらしきものに関する補足説明】
・現在編にて初期案はルージュラでありましたが、進化しないポケモンにするはずだったのに、ルージュラはムチュールから進化していたことを忘れていました。
ポケスコに提出後、それに気がつき、急いで他の進化しないポケモンを検索。
唇が気に入ったのでマッギョに決定。
・このプロットらしきものを打ち出したのは第二回ポケスコの募集が始まったときで、このプロット(?)を打ち出す前にこの案は薄らと浮かんでいました。
要するに温めていたのであります。
ちなみに、そのときに浮かんだタイトルは『メタモンが語る!』
・ページが二つに分かれているのはメモ帳が500文字までしか入らなかったからです(汗)
このような感じでわらわっちストーリーが生まれたわけですが、実際に物語を書いてみると、オムニバス形式で四つのお話を書かなければいけなかった上に、それぞれの字数目標を破ったりしてしまいましたから、全体で軽く10000字オーバーが起こって調整が大変でした。(汗)
それでは失礼しました。
「ライモンシティ行き、間もなく発車します。駆け込み乗車はおやめください」
帰りのバトルサブウェイが動き出す。ここから帰る人たちはいろんな事情を抱え込んでいた。途中で負けたもの、区切りをつけて帰るだけのもの。ただこの時間は人が少ないのか、広い車両に一人だ。
途中の駅で買い込んだキャンディを一口。そして真っ暗な窓の外を見る。
夜のように真っ暗だ。ここは地下鉄、景色なんて見えない。時々、反対方面に向かうサブウェイが見えた。それ以外は何の変わりもない、ただの暗闇である。
「パスを拝見します」
車掌の言葉に顔をあげる。首からぶら下げていたスーパーシングルトレインの許可証を見せた。
「あれ、さっきのサブウェイマスターの……サガリさん!」
「僕はクダリ!」
名前を間違えられて一気にフォーマルな表情から、プライベートな子供っぽい表情へと変わる。
「クダリさんですか、すいません」
シングルトレインにいたノボリと良く似た人だ。親戚なのかもしれないが、性格がだいぶ違う。
「クダリさんもバトルサブウェイ好きでこの仕事してるんですか?」
「ノボリと一緒にしないでよ!僕はバトルが好きなの!」
同じじゃないか。そう思っても言葉には出せなかった。苦笑いでやり過ごし、荷物から残ったキャンディをクダリに渡す。
「お疲れ様です。青リンゴ味ですよ。よければどうぞ」
サブウェイの窓は相変わらずの暗闇だ。ダイヤが違うのか、他のサブウェイともすれ違わない。
「お仕事は?」
「君で終わり。……さっきから外ばかり見て、何が面白いの?」
クダリがつまらなそうに言う。確かにそうかもしれない。彼にとって見慣れた暗闇。
「クダリさん。誰かが私に言ったんですよ。電車って人生に似てるって」
「なにそのいきなり哲学。僕に解るよう説明してよ」
「受け売りなんで上手く解釈できないんですが、電車は乗り遅れたら二度と乗れない。人生も、チャンスの電車に乗り遅れたら二度と乗れない」
クダリはとてもつまらなそうだった。相づちの声からしてもう話を聞いてる態度ではない。
「クダリさん、私、過去に一人、すれ違ったままの人がいます」
「その人は、ポケモンを人間から解放するといった信念で突き進みました。私は違うといって対決したままいなくなりました。その他にも私には友達がいます。二人とも、途中迷ったりしてましたが今では自分の道をいってます」
「その時、私は何をしていたんでしょうか。みんなより人生の特急に乗った気分で、二人に勝った気でいたんです。二人とも、普通列車に乗って、乗り換えで迷っても自分の行き先を見つけたのに私は乗り換え駅でどの電車にのっていいか解らないんです」
「で?」
今まで黙ってたクダリが口を開く。
「で、って、私が今思ってることですよ」
「何を迷ってるか知らないけど、乗り換え駅なら来た電車に乗ればいいじゃん」
クダリが飴を嚼んだ。
「これだから子供は嫌いだ。迷ってる自分がかっこいいとか思ってるんだもん。乗り換え駅にいて迷ってるっていう自覚あるなら最初に来た電車に乗ればいいだけじゃん。君つかれる」
クダリが立ち上がる。座ってる時とは違って、その背丈は大きい。クダリを目で追うと、窓の外に灯りが見える。
「もうライモンシティに着くよ。それじゃ」
「あ、クダリさん!」
「何?」
「また勝負してくださいね」
「君が勝ち抜ければね。……直接申し込むんだから腕には自身あるんだろ」
クダリは車両のドアに手をかけた。そしてもう一度振り返る。
「君、名前は?」
「私ですか?私はトウコです」
「ふーん、そう。じゃ」
そのままクダリは白いコートと共に消えて行く。トウコはその方向に頭を下げた。
ーーーーーーーーーー
バトルサブウェイの帰り。今まで辿ってきた道は何だったのか。見えない窓を見て主人公は何を思うのか。
幼なじみはそれぞれ目標をみつけたのに、主人公だけぽーんと放り投げられたようで、エンディング後はもしかしたら
クダリにはまだ会ったことないけど下りだからクダリさんにした。
【好きにしていいのよ】【最近サブマスが気になるのよ】
メッセージありがとうございます!
ポケモン嫌いは結構好きな題材でした。
「私」側からの一方的な視点の話であったのに、タブンネの気持ちを汲んでもらえてとても嬉しいです。
他者と暮らすにはある程度の知識が必要ということですね。
親は自分が世話するんだから「私」は知らなくていいと思ったのか、両親もあまり知識がないか。
どちらにせよ些細なズレでこんなになってしまったのです。
それは現実の人間関係でもそうなんじゃないかなあと思います。
切ないっていう感想もらえて嬉しいっす!
ありがとうございました!
【タブンネの半分は優しさでできています】
久しぶりにマサポケを覗いたら、なんとまあ「ポケモン嫌い」を書いてくださっていた……! ありがとうございます!
なんだかもう……切ないなあ。
タブンネに対する誤解で嫌悪を募らせる“私”と、嫌われながらも“私”と家族を気遣うタブンネの姿が……うわああああ orz
愛玩用として可愛がられていたが為に、父親の変調に気付いてもどうしようもなくて。母親までもが同じ変調を抱えてしまって……それもどうしようもなくて。見守り続けることしか出来なかった上に、“私”からは殺されそうになるほど憎まれて……うおおおおお orz
でも、“私”が悪いのかといえばそうじゃないんだろうなあ、と。情操教育の為に子供に生き物を与える、というのは割と聞く話ですが、子供が全て生き物に興味を持つかと言えばそんなことは無いわけで。当然興味を持てない子だっているし、そんな子からしたら突然現れた「家族の一員」なんて煩わしいだけなんでしょうね。
ただ、もし両親が“私”とタブンネを引き合わせる時にきちんとした説明をしていたら。もし“私”が自分でタブンネの事を調べようとしていたら。
誰が悪い、という訳でなく、無知故に起こった思い込みによる悲劇だと思うと……悲しいなあこれ……。
> 「タブンネってポケモン知ってる? 倒すとたくさん経験値をくれる、優しいポケモンよね!」
相手を瀕死に追い込まないと経験地が貰えないという事を考えると、この一言はなかなかキッツイですね……。願わくば、いつか彼女に真実を知る日が訪れますように……。
面白かった、という表現はそぐわないかもしれませんが、この作品を読めて良かったと心より思います。読了後も残る切なさが半端ないです。
書いてくださったことにお礼を申し上げます。本当にありがとうございました!
【げしげししていいのよ……だと……? とんでもねえ!!】
私が物心ついたときから、そいつはいた。ピンク色のタブンネというポケモンだった。
私の情操教育に、と大人しいポケモンを知り合いからもらってきたという。そのタブンネは両親の願いにそぐわず、私に触覚のような耳を押し当ててはどっかへ行くようなやつで、私も特にタブンネを好きじゃなかった。気に入らない時には叩いたりした。その度に両親はタブンネをいじめるんじゃないと怒っていた。私はますますそれが面白くないので、タブンネの耳を引っ張って遊んでいた。小さなタブンネは私のおもちゃだったと思う。
そのタブンネが最も懐いているのが父親だった。毎日触覚を背中に押し当てては父親のまわりで何かやっている。父親を取られた感覚もあって、私は本当にタブンネが好きじゃなかった。父親と遊んでる時に、ちらっとこっちを見てくるのも不快だった。
私の誕生日、こたつでケーキを食べていると、いつも一番に父親のところへ行くのに、触覚を押し当てただけで私の隣に来た。お祝いしてるよと両親は言ったが、私はタブンネにケーキを取られると思った。だから耳の触覚を引っ張った。タブンネはいつものような高い声で鳴いた。母親が私を叩く。タブンネがかわいそうだと。私はかわいそうじゃないのか。タブンネは母親のところに行った。何度も父親を振り返った。
次の日もタブンネは父親に近づこうとしなかった。肩が凝り過ぎて痛いと言えばタブンネはいつもならさする。けれどお気に入りのソファーに座ってても、父親が来るとこたつの下に潜る。ついに嫌われたんじゃないと母親は笑っていたが、正直タブンネがいなくてすっきりした。
数日後、父親は死んだ。心筋梗塞。心臓の血管が詰まる病気だといった。
原因なんて解り切っている。タブンネがやったんだ。ポケモンだから、人を病気にすることなんてできる。あんなに懐いていたタブンネがぱたっと懐かなくなった。そのあたりから具合が悪くなったんだ。
母親に訴えてもタブンネはそんなポケモンじゃないとしか言わない。絶対に嘘だ。タブンネはそんなことをするポケモンだ。誰も信じない。
タブンネは父親がいなくなると、私によってきて耳の触覚で触って来た。あれに触られたら殺される。いつも以上にタブンネを叩いた。しばらくタブンネは遠巻きに私を見て、それからまた近寄ってくる。叩かれることが解っててそれでもタブンネは近づいて来た。気持ちが悪かった。
私に近づかなくなったタブンネは、母に近づいた。けど私の姿を見るとそこで止まる。私が怖いらしい。
そうして母と私とタブンネは一緒に暮らしていた。タブンネの姿を見るだけでもむかついてくるが、母親はかわいがっている。私の背が大きくなり、タブンネを見下ろす形になって、ますますタブンネは私に近づいて来なくなった。
私は遠くの大学に進学することになり、実家に母と悪魔のタブンネを一緒にしておくわけにはいかないといった。けど母親は相変わらずタブンネはそんなポケモンではないとしか言わない。タブンネはじっとこちらを見ている。その青い目が小さな頃の思い出と重なってむかついた。あいつさえいなければ父親は死なずに済んだのに。
タブンネのことで母親とモメたのもあって、その日は早く寝た。
朝早く起きると、タブンネは耳の触覚で母親の背中を触っている。またあいつやっている。またあの時と同じことをやっている。今度は両手を添えて、背中をさするように触ってる。けがらわしい。
タブンネの耳を引っ張ると、いつもと違って散々抵抗する。短い手を振り回して私をつかみにかかる。突然の反抗に戸惑った。母親もタブンネを怒らすんじゃないとしか言わない。タブンネは母親の方しか見てない。
数日後、母親が倒れた。父親と同じ心筋梗塞だった。
もう間違いない。タブンネは二人も殺した。葬儀の間、ずっと私の隣から離れなかった演技も全てお見通しだ。お前のせいだ。お前がうちにいるから二人とも死んだ。私の両親を返せ。
私の後にくっついて、何のつもりだタブンネ。もうお前を庇う人間はいない。私は台所から包丁を取り出した。タブンネの目がおびえる。
一歩前に出た。タブンネが一歩下がる。命乞いのつもりか、涙を浮かべてる。ポケモンって泣けるんだ。人の親を殺しておいて、自分は命乞いするんだ。
包丁を振りかざした。タブンネは一目散に逃げ出した。閉まっていた玄関を開けて、後ろを振り返らずに去っていった。
悪魔はいなくなった。しかしあのタブンネを逃がしたのは私の気がおさまらない。
「タブンネってポケモン知ってる? 倒すとたくさん経験値をくれる、優しいポケモンよね!」
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他力本願スレより、ラクダさんの「ポケモン嫌い」から頂きました。
ブラックの図鑑を初めて見て、タブンネって脈で体調を知るんだーって思って、そういえば漢方も脈から診断するはず、そして癒しの波動ってかなりレベル高くないと覚えないんだなー。
そんなタブンネの妄想から始まり、「無知は虐待へつながる」という言葉をもらい、げしげしにいたりました。
ずっと前にDV的なものを書きたいと言ってたのがついに投稿できるよ!
私はゲーム中に出てくるNPCをいじるのが好きみたいです。
【好きにしていいのよ】【げしげししていいのよ】【げしりかえすから】
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