マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.3782] Re: とおいちほう 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/06/23(Tue) 01:48:01     53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    こんばんはです、逆行さん。感想ありがとうございます。

    > このお話が投稿されたときは、あとがきを最初に読んでしまって(おい)、ちょっとした小ネタ的な話かと思って、軽く読んでいたんですが、改めてじっくりと読んでみたら、色々と深かったので、感想を書いてみたいと思いました。
    ランセ地方はどこだろう、的な小ネタではあります……w 改めてじっくり読んでもらえて嬉しい限りです。

    > 子供の頃、親から得たものを自慢する子ってかならずいますよね。親のホエルコを、スネオの如く他の子に自慢したくなる気持ちはすごく分かります。親がもたらす恩恵というのは、特に誇れるものがない子供にとっては、唯一自己顕示欲を満たせる材料なんですよね。自分も親が自営業だったんですが、周りに、親が社長であると自慢していました。(従業員は母親一人なのに)あれは今思い出しても痛かったですね。この女の子じゃないですが、過去の自分を殴りたいものです。
    スネオの如く、全くもってその通りですねーw 私もまあ、過去はスネオの如しで、殴りたくなりますね。親からの恩恵って、まるで自分のもののように思って、自慢するんですよねえ。

    >しかも、親のポケモンと違って、自慢することでもないし。
    親のポケモンも生育を放り出していますし、自慢できたもんじゃないんですね……。

    > ホエルコは故郷に帰りたかったんでしょうかねやっぱり。ホエルコが彼女の親に捕まった経緯は分かりません。普通に捕まったのか、それとも、ホエルコが自分から捕まりたいと思ったのか。どちらにせよ、たまに野生の頃を思い出して懐かしく感じるんでしょうね。
    さて、どうなのでしょうね? ホエルコにかぎらず他のゲットされたポケモンたちも、野生の頃を懐かしんだりするんでしょうか……?

    > 後半になって、彼がどんどん成長して置いて行かれてしまう感じがすごく伝わってきました。焦りますよねやっぱり。旅から帰ってきた彼のツタージャが、ツタージャのままでいってほっとする気持ちがよく分かります。ジャローダになっていたりしたら、彼女がどんなに不安な気持ちになっていたことか。
    ありがとうございます……!
    彼女が親からの恩恵を自分のものだと勘違いしている内に、彼の方はどんどん自分の手で自分の物を掴みとっていってるんですよねえ。
    ジャローダになってたら焦りを通り越して、諦めてたかもしれませんね。

    成長期の子どもが旅をして、ポケモンを進化させて。それってとっても象徴的だと思うのです。だから彼女はホエルコを進化させようと頑張っていたのですかねえ……。

    > 彼は結局どうなってしまったのか気になります。他の地方まで行ってしまったんでしょうかね。それともランセに留まって戦やってるんでしょうかね。
    > この小説が投稿されて三年経ってますし、そろそろ帰ってきますかね( ホエルオーだけ帰ってくるとか、そういう展開もありえそうですが。
    > ともかく、元気で生きているといいですね。
    三年!! これ書いたのが三年前という事実に私の魂が体からサヨナラバイバイしそうですね! おっと。
    彼のその後はまったくわかりませんねー。元気だといいですね。

    > 切ないような、それでいて涼しさを感じる、そんなふいんき(ほんとだ変換できた)の作品でした。
    そうなんですよ変換できるんですよ! 国語の授業中は「雰囲気とかふいんきって言っちゃってるからふいんきでいいじゃん」なんて思ってましたが変換できるとそれはそれで座りが悪いのです。いやそれはさておき。
    暑くなってきますが、涼しさも感じていただけたとしたら幸い。改めて感想ありがとうございました。……しかし三年前なんですねー。


      [No.3781] ずっとずっと、貴女のファンです 敬具 投稿者:GPS   投稿日:2015/06/22(Mon) 21:07:30     112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    『みんなー! きょうは、ぬめりんのライブに来てくれて、ありがと〜!! 頑張って歌うから、みんなも、頑張って聞いてね!』

    「ぬめりんー! 今日もかわいいよおー!!」

    「最ッ高に愛してるぅー!!」

    ライブハウスなどと言うのもおこがましいであろう、古びたビルの一角にある会議室の電気を消しただけの会場。ステージなんてものは当然無いから木箱を積み上げた足跡の台座で、スポットライトは持ち運び可能な簡易照明にすぎない。両手で数えても平気でお釣りが出る程の観客が振る、各色のサイリウムに照らされて、片付け忘れたらしいホワイトボードが時折見え隠れしていた。
    このような場所でライブをやるということは、それ即ち彼女の人気が測り知れるということだ。ドームを埋める者も、チケットの倍率を100にも200にもする者もいる中で、彼女のイベントはこの会議室ですら広すぎるように思えるのだから。

    それでも、僕たちは彼女の元に集っている。彼女のために声を張り上げ、彼女のためにサイリウムを振り、彼女のために汗を飛ばす。彼女の輝きは太陽にも優り、彼女の歌声は福音すら超越し、彼女の笑顔はこの世の何にも代えがたい。
    だから、僕たちは彼女という偶像を愛するのだ。


    「世界で一番素敵だよ、ぬめりん!!」


    長い角と大きい尻尾、潤う柔らかな腹を持つ、紫の竜の『アイドル』を。





    ポケモンの臓器や身体器官を人間に移植する技術が発達して、早数年。
    人権問題だの何だのがうるさかった時期もあったが、「あくまで医療目的」かつ「本人の意思に基づく」という条件が厳格に敷かれたことによって、今ではある程度落ち着いてきたように思う。人間同士の場合と同じように、合う合わないの個人差があったりとまだ課題は多いが、1つの手段として存在しているのは確かだろう。

    そこで、次に上がってきたのは逆の話だった。
    ポケモンに、人間の身体の一部を移植出来ないか。
    それが次なる研究対象だった。

    結論から言うと、その目論見は成功した。
    勿論、全てのポケモンの全ての部位が、などというわけには到底及ばないがそれでも確かに、ルージュラと人間の網膜交換が上手くいった日を境に、ポケモンは人間の一部を獲得したのだ。
    とりわけ、研究者たちが熱を入れたのは声帯の移植だった。ポケモンには種族差こそあるものの、その概ねが非常に高い知能及び言語能力を持っていて、そして彼らのいずれもが人間の言葉を理解し、それに応えることが出来る。そんなポケモンたちと会話をするにはどうしたら良いか。その答えが、人間が人間の理解出来る言葉を発するためにある器官、人間の声帯を与えることだったのだ。

    そちらの成功は、まずまずといったところだろうか。サーナイトやルージュラ、ごちるぜるやカイリキーなど、身体構造が人間に近く頭脳も優秀なポケモンたちは、人間の声帯を得ることで人間の言葉を操ることが可能になった。当然、言語トレーニングや訓練などは積むことになるのだが、それらを乗り越えたポケモンの中には人間と何ら変わらないほどよ言語力を身につけた者もいた。
    が、それが出来るのは平均以上の知力と声帯への適応がなされる一部のポケモンだけに限った話であったし、何よりそれ以上に、そうすることでのメリットがいまひとつ不明瞭であった。確かにすごい発見ではあるし、技術や科学史の面から見ても大躍進なことに間違いは無いが、「だからなんだ」の話なのだ。
    よく考えてみれば、人間はポケモンとのコミュニケーションにおいてそこまで困っていないだろう。ポケモンとトレーナーは自ずから心を通じ合わせられるのだから、今更言葉など必要無いというものだし、反対に言葉があったところで、真にポケモンとやりとり出来るとは限らない。人間同士がそうであるように、それは言葉を持ったポケモンと人間の間でも同じである。
    所詮、この研究は科学者たちの好奇心にすぎなかったのだ。

    そうして、人間の声帯と言葉を与えられたポケモンは結局のところ、一時の話題性をかっさらっただけで研究の終わりは見られたのだがしかし、きっと誰もが予想していなかったであろう、一部の領域において過剰なまでの注目を集めたことも付け加えなければならない。
    それの始まりはおそらくホウエンで始まったポケモンコンテスト、ひいてはコンテストライブなのだろう。いつだったか、出場者の1人がピカチュウに服を着せてかわいさ部門のコンテストに出たのだが、そのピカチュウがかなりの脚光を浴びたのだ。キラキラしたピンク色のワンピースにフリルやアクセサリー、リボンをふんだんに使った衣装に身を包んだ『アイドルピカチュウ』がトレーナーと共に踊り、歌う様子は瞬く間に広がって評判となった。
    そうして生まれたのが、ポケモンに歌を歌わせるという文化であり、それはやがて人間の歌、人間の言葉で紡がれる歌を歌わせたい、という欲求へと繋がったのだ。

    人間の、僕たちにわかる言葉で歌うポケモン。漫画やアニメの中では何度も描かれてきたその夢は、思わぬ形で実現した。頭の良いポケモンならば、握手会や手渡し会のファンサービスだって、インタビューの受け答えやバラエティ番組の出演だって難なくこなすことが出来る。向こうは元よりこちらの言葉をわかっていたのだから、後はこちら側、人間が彼らの言葉を理解するだけだったのだ。アイドルとして活動しだしたポケモンは、瞬く間に人気の絶頂を手に入れた。人間顔負けの、人間と何ら変わらない、そんなやり方が彼らには可能だった。
    しかし、その、何ら変わらないというのが悪かったのかもしれない。確かにアイドルのポケモンたちは社会現象と呼ばれるまでに一世を風靡したけれど、結局のところは一世に過ぎなかったのだ。話題性さえ失えば、残されるのは個人の好み。人間のアイドルが好きな人だって当然いるわけだし、あえてポケモンを推す意味も無い。ポケモンだから、という理由だけで応援される時代は光の速さで終わってしまった。

    そして、今。人間もポケモンも、アイドルとして生きる者たちを取り囲む現実は昔と何も変わっていない。人間にしろポケモンにしろ、絶大な人気を誇るアイドルは当然いる。しかしその一方で、広大な花畑に咲く一輪の花のように、誰の目にも留まらないアイドルだって数え切れないほどいるのだ。どのアイドルがトップスターになるか、誰にだってわからない。抜群に可愛ければ必ず売れるというわけでもないし、これといった特徴が無くとも時代の波に乗れたなら、信じられないくらいの人気を手にすることも出来る。
    無数の星が輝く空で、誰が一等星になれるのか。そんなこと、誰一人として予想のつくはずもないのだ。

    彼女は世間一般から見るならば、その星空に輝いている、五等星のような存在だった。ぬめるん、ヌメルゴンのアイドルは、ポケモンアイドルブームの絶世期に出てきた一アイドルである。しかしその頃にはすでに沢山のアイドルがいて、彼女だけが特別注目を集めるということもなかった。そのままブームも収束し、ほとんど誰の視線も惹かないままに、ポケモンであるという武器を彼女は失ったのだ。
    ヌメルゴンという、大衆受けするような可愛さを持っているわけではない、かと言って意外性という冠詞がつくほどステレオタイプなイメージから掛け離れているわけでもない見た目。加えて彼女の種族は知力がそこまで高くなく、歌やダンスを覚えて簡単な受け答えをするだけで精一杯というレベルだ。人間に対して懐きやすいという理由で選ばれたのだろうけれど、アイドル界の戦線で勝ち抜くにあたって、彼女は決して恵まれた境遇と言えなかった。

    しかし、それでも。
    彼女は僕の一等星なのだ。都会の明るい夜空にあって、誰もが見落とすような薄い輝きしか放っていなかったとしても、僕は彼女の光を見失わないと確信する。彼女だけが僕にとっての輝きで、僕の中での眩い光なのだ。そのまぶしさは太陽にも月にも、どんなに強い一等星にだって負けやしない。
    彼女という一等星を、僕はいつだって見上げていたかった。





    「本日はお足元の悪い中ありがとうございましたー」

    スタッフの声を背中に、イベントを終えた会場から外へ出る。老朽化を感じさせる非常階段を下っていく僕たちに、どんよりと曇った空から降ってくる雨が容赦無くぶつかった。
    今日はお疲れ様でした、お疲れ様ですまた次のイベントで。もはや馴染みの顔になってしまったファン仲間と言い合って、それぞれの目指す駅へと向かう。骨が2本ほど折れかかった安物のビニール傘を差して雨空の下へと歩き出すと、蒸し暑い湿気と生温い雨粒が同時に感じられて嫌な汗をかいた。季節は梅雨、ぬめりんにとっては1年で最も素敵な時期なのかもしれないが、さて、どうなのだろう。
    雨が傘を叩く音と、車の走る音。それらに霞む通りすがりの人たちの話し声だけを捉える耳にイヤホンを差し込んだ。流れてくるのは彼女の声、何度聞き返したのかなんてわかるはずもないぬめりんの歌だ。シングルを何枚か出しているのだけれども、ぬめりんの持ち曲はなかなか増えない。イベントで歌われるのはいつだって同じ、僕たちの大好きな歌である。
    駅に着いたらまずすべきこと。ぬめりんのオフィシャルサイトにアクセスして、掲示板に今日の感想を書き込む。何件も投稿したところで来客数から考えて無駄な努力にすぎないので、出来るだけ長く書く。家に帰ったら、パソコンをつけて「今日は行けなくて残念です! 次は絶対にぬめりんに会いたい!」というメッセージを、投稿。

    『ぬるぬるねばねばキュートな粘液♪ あなたを包んで逃がさないの♪』

    イヤホンから流れてくる彼女の歌。不用意に通った軒下から零れ落ちた水の音が、何秒間かそれを掻き消した。





    「お前、毎朝早いよなぁ」

    翌日。朝8時半、会社でパソコンに向かう僕に出社してきた同僚が鞄を下ろしながら声をかけてきた。

    「まぁ、家近いし」

    「そういう問題か? 近いなら近いだけ遅く来たいもんじゃねーの、少なくとも俺はそう」

    「んー、でも冷房効いてるし。家と違って」

    それはそうだな、同僚は通勤途中にかいた汗を拭って言う。彼の同意した僕の言葉は嘘では無いけれど、かと言ってそれが一番の理由というわけでもない。
    僕が出社するのは基本、毎朝7時45分頃。ここに入れるのが7時半だから、結構な確率で一番乗りである。何故そんなことをするのかというと決して仕事熱心なわけでも社畜精神なわけでも特別仕事が溜まっているからでもなく、先程言ったような理由を含む、会社の環境目当てだった。
    僕の家には冷暖房設備が無い。いや、あることにはあるのだけれど動かしていないのだ。僕は電気代や水道代を出来るだけゼロにしたいと思って生活しているのだから、エアコンをつけるだなんて以ての外である。うっかりバチュルが入り込んだりしないよう、コンセントは基本ガムテープで覆っているくらいなのだ。
    そして僕は、ネット回線も引いていない。僕の家にはWi-Fiも通っていない。月々の使用料が勿体無いからやめてしまったのだ、一応携帯は契約しているからネットを使いたい時はそれか、公共のWi-Fiが使える場所に行くか。
    或いは、こうして始業前や終業後に、会社のパソコンを使うか、というわけだ。

    「おはよう、今日も暑いな」

    「あ、おはようございます。ホント暑いですよねー、課長」

    「おはようございます」

    「まったく、クールビズだなんだか知らんが、やらないよりはマシだが暑いものは暑い……お、お前ちょっとやつれてないか? 夏バテか?」

    同僚と同じように汗を拭う課長が僕の方を見て言った。まぁそんなところです、と適当にごまかした僕に「最近どんどん痩せてねぇか?」と同僚が首を捻る。曖昧な笑みを返して、話題を変えるために適当な進捗状況を課長へ伝える。
    やつれる、痩せる、そう見られるのも当然だろう。削るのは電気代や水道代だけではない、生活費全般を少なくするのだから食費だってその一環だ。恐らくあまりよろしくない方向性の節約術サイトで見つけたレシピ、小麦に水を混ぜて膨らませたものと、本来の4倍それも水で薄めたフルーチェ、そして偶のナナが今の僕の食事である。コスパ的にはモヤシも狙い目なのだろうが、しかし加熱時のガス代を考慮して却下した。
    勿論栄養失調まっしぐらなのだけれど、何とかなっているのが驚きである。サボネアは体内に貯めた水分で30日は生き延びるらしい。僕も見習おうと思う。

    「あれか、またメシ代ケチってアレに回してるのか? 最近ゲームも全然だし、いくらつぎ込んだんだって」

    「お前だって課金しまくってた時あるじゃん。あの時電気も何もかも止められてたし、それと同じだって、同じ」

    「それはそうだけど。ほどほどにしとけよ」

    ゲーム趣味で仲良くなった同僚は、そんなことを言い残してトイレへと行ってしまった。ほどほどに、どれくらいが『ほどほど』なのか僕にはわからない。
    削った諸費がどこに行くのか、それは言うまでもなく彼女のために使われる。数少ないグッズは1人で少なくとも2桁購入しないと採算合わないだろうし、CDが出れば売上貢献プラス店への『売れてるアーティストです』アピールのために出来る限り買う。有料ファンクラブはメールアドレス5つ全て入会済みだ。
    それだけじゃない。ポケモンアイドルの特徴として、人間に比べていわゆる『維持費』がかからないという点がある。それは食費や、アイドルとしての容姿を保つための費用だけの話でなく、アイドルの精神面や体裁といったもののためにかかるお金もだ。絶対とは言い切れないまでも、アイドル生命に関わる炎上を引き起こす可能性は、人間と比較すればポケモンアイドルの方が圧倒的に低い。それを揉み消すための費用も、また防止するための費用も、ポケモンアイドルにはあまり必要の無いものなのだ。
    しかし、とはいえ、ぬめりんを支えている事務所の人たちにだって少しの労いはあって然るべきだろう。だから僕がイベントの際にする差し入れは当選ぬめりん宛であるきのみやポフレ、アクセサリーなどもあったがそれに加え、事務所のスタッフに宛てたものもあった。それは、これからも彼女を輝かせて欲しいという願いの意もあったし、また『これだけ応援してる奴がいるんだからまだ見限らないでくれよな』というような念押しでもある。

    もはやいつからこうなのかすらも忘れた、へこんだ腹が空腹を訴えたけれども無視を決める。
    確かに、ぬめりんはいつぞアイドル生命を切られてもおかしくない。人気は低空飛行だし、ファンの数もほとんど変化が無いのだから。
    だけど、まだ終わらせてもらっては困るのだ。ぬめりんは、もっともっと上のステージへ行けるだろうし、行くべきだし、行く運命なのだから。
    眩しく輝く僕のアイドルは、まだまだ先に進まなくてはならない。そんなことを考えつつ、彼女のために今日も、僕は仕事に取り組み始める。





    今日はぬめりんのニューシングル『NuMeNuMe☆ラブコール』のリリースイベントである。一般流通経路だと発売日は明日なのだけれど、イベントに足を運べばフラゲ、それもぬめりんから手渡しで購入出来るとのことだった。
    当然行くわけだが、しかし相変わらず来場者数は少ない。平日夜ということもあるのだろうけれど、あと15分でイベント開始なのにも関わらず、会場に集まっているのは僕を含め僅か5人足らず。珍しく定時で上がった会社からここに来るまでに目にした、夜と共に姿を現し始めるホーホーたちの数の方がよっぽど多いであろう。
    その癖どういう風の吹きまわしか、普段は会議室などを借りて行ってるのに何故か今日のイベント会場は、それなりにちゃんとしたライブハウスであった。もっとも、メジャーアイドルなどが使うような所に比べればだいぶ狭いのだけれど、しかし今までの彼女のイベントを思い返すと段違いだ。ちゃんとステージやスポットライトがあって、客の入るスペースも広い。当然ホワイトボードの出しっぱなしがあるはずもない。アイドルが使うイベント会場として、少しの遜色も見当たらなかった。
    だけど、どれだけ会場が立派だったところでこの客数である。場所の良さと盛り上がりは比例しないし、むしろ広くなった分どこか寂しさを感じざるを得ない。どうしてこんな場所にしたのか、なんて簡単に予想がつく。最近、ぬめりんのプロデューサーだかマネージャーだかは頑張っているらしく、ツイッターでぬめりんのアカウントを取得したり、LINE@を始めたりと広報活動に力を入れていた。ぬめりんの写真をアップしたりもしているため、それなりにリツイートされ、フォロワーや友達登録も増えている。だから思ったのだろう、少しは知名度が上がって新たなファンも生まれたに違いない、と。
    しかしあくまでそのほとんどは、ぬめりんでなく『よく知らないけどかわいいヌメルゴン』に対する反応だ。だからぬめりんのファンが増える可能性はほとんどゼロに近い。その結果が今日の様子であり、いつもと寸分違わぬ会場風景である。

    『みんなー、今日もぬめりんのイベントに来てくれて、ありがとうー!!』

    結局客がそれ以上増えることもなく、会場が暗くなってイベントは始まる。ステージに浮かぶシルエット、今日はCD販売の前にぬめりんミニライブがあるのだ。かかるイントロは新譜からの新曲、オフィシャルサイトにアップされていた視聴とPVで僕たちも予習済みである。常に百均で買い置きしてある、ぬめりんのイメージカラーたる紫色のサイリウムを装備してコールを開始した。

    『私が送る好きの気持ちは♪ いつでもぬめっとまとわりついちゃう♪』

    スポットライトが点灯し、CDジャケットと同じ衣装に身を包んだぬめりんの姿が照らし出される。僕たちからぬめりんが見えるようになったということは即ち、ぬめりんからも僕たちが見えるということである。
    人懐っこい笑顔をいっぱいに湛えて歌い、踊り、時には手を振ったりウィンクを決めたりしている彼女は、何を思っているのだろう。ぬめりんは今まで一度だって笑顔を絶やしたことは無い、それはアイドルとしては当たり前のことでどれだけ悲しかったり辛かったりしても涙をこらえて笑ってみせるのが当然なのかもしれないが、彼女のそれは他のアイドルがするような、無理をしてでも前を向くための笑顔では無い。ただ本心から幸せそうな、ステージに立つことを心から嬉しく思っているような、そんな、少しの翳りも曇りもない笑顔なのだ。
    今もそうだ。彼女から、フロアの様子は間違い無く見えているはずなのに、点在ということも出来ない僕たちの姿は見えているはずなのに、彼女は少しも傷つく素振りも見せない。ただいつものように、満面の笑みを湛えているのだ。

    「ぬめりん、愛してるよー!!」

    「新曲、マジ最高ー! 大好き!!」

    『ありがとー!! ぬめりん嬉しいよー!!』

    それは単に、ぬめりんがポケモンだから、ヌメルゴンだからという言葉で片付けるべきなのだろう。人間ほどの、或いはサーナイトなど知能の高いポケモンほどの機微や感性というものが無いから、という理由で説明をつけるべきなのだろう。幾度と無く辿り着いた結論をまた繰り返す。
    この状況に、実際泣きたいのは彼女のプロデューサーたちであろう。癖のある、たどたどしい声でカップリング曲の説明をするぬめりんの姿は今日も眩しく輝いていた。





    その日、僕は久々につけたテレビに向かっていた。
    それにしてもテレビを見るだなんて、いつ以来であろうか。元々それほど見る方では無かったし、電気代を削り始めてからはとんとつけていなかった。にも関わらず、僕がこうして真っ暗な部屋でテレビのスイッチを入れたのは言うまでも無くぬめりんのためである。
    テレビに映る番組は、ポケモンアイドル大特集と銘打つタイトルの通り、スタジオには現在アイドルとして活動しているポケモンたちが多く集まっている。世間的にも人気な子から、ぬめりんのようなアイドルまで。恐らく事務所所属のアイドルはほぼ全員いるのではないだろうか。
    司会を務める、人間の男性タレントの隣で彼と共に進行役を担ったトップアイドル、サーナイトのサナ様の微笑みがカメラに大写しになる。会場にいる観客が歓声をあげるが、サナ様の後ろには数々のポケモンアイドルたちがひしめき合っているのだ。前列に配置された人気アイドルはともかく、ぬめりんの姿はほとんど見えない。先ほどCM前に一瞬だけ映ったからいるのは確かなのだけれども、かなり後ろにいる彼女は2秒としてカメラに収まらないし、映ったところでピントは当然合わされていないのだ。もっともそれはぬめりんに限った話でなく、彼女と同じく後列にいるアイドルだって似たようなものである。

    イルミーゼ、スリープ、モグリュー……。名前も知らない、初めて見たようなアイドルたちは司会者に話を振られることもなく、ただ自分に割り当てられた場所にいるだけだ。僕のような、彼女たちのファンは今何を思っているのだろうか。傍に開いたノートパソコンに表示してあるのはネットの大手掲示板、生放送であるこの番組の実況スレだ。
    人気アイドルたちの登場に湧くレスに混じって、もっと誰を映せだとか、誰に話を振れだとか、そういった発言も流れてくる。

    「いや、ホント面白すぎでしょ! それでアイドルとか、意外性ありすぎだから!!」

    それだけじゃない。
    爆笑している司会者にいじられているのはドグロッグのぐーやんで、確かに彼女はイロモノアイドルとして注目を浴びている。「そんなこと言わないでほしいドグ〜」とお馴染みの語尾をつけて返したぐーやんに、司会者やサナ様や、スタジオの観客たちはまた笑った。
    僕にとっては何度も繰り返されている、いつものやり取りでしか無いが、彼女を本気で応援しているファンの中にはこういった、無責任な貶め愛を良しとしない人もいる。現に実況スレでも沢山生える草の中に、司会者のタレントへの呪詛や怒りが書かれているのだから。

    アイドルとしての存在を貶められるか。あるいは、それすらも無く、認識されているのかどうかも危ういような扱いをされるのか。
    広く人気なアイドルたちが、それ相応の待遇を受ける一方で、先の見えない道を歩き続けるしかないアイドルもいる。それでも歩き続けている彼女たちを応援するのが僕たちの役目だし、望みなのだけれども、しかし、高いところへ行ってほしいと願うのも当然のことでは無いだろうか。
    ぬめりんの映る気配もない、未だ笑われているぐーやんと、人気アイドルたちの画面を見て息を吐く。

    不意に、司会者の表情が消えた。
    彼はその顔のまま視線を天井の方へと上げ、何も言わずに数瞬、右手に構えたマイクの位置も何一つ動かさずに静止していた。
    ぬめりんが、サナ様が、ぐーやんが、他のポケモンアイドルたちが、出演者と客の全員が、僅かに遅れて彼と同じ方を向いた。


    途端、である。


    大きく揺れ動いたカメラが写す乱れた映像と、轟音と悲鳴に割れたマイクの音、そして鳴り響く警報機が全てをつんざいた。
    後でわかったことであったが、事件の原因はゴチルゼルのアイドル、ごちみ〜の過激なファンによる襲撃だったという。正確にはファン自身でなく、そのファンが雇ったバトル屋が腕に覚えのあるポケモンを何匹も連れてスタジオに突っ込んだのだが。
    以前から危険因子としてごちみ〜の所属事務所や各イベント会場、ファンの間でもマークされていたそのファンは、度が過ぎた熱狂を以てごちみ〜を偏愛していた。今回の件もその延長線上で、ごちみ〜のライバル的存在であるサナ様が司会ポジション、つまりはポケモンアイドルのトップのように扱われたことに腹を立てて引き起こしたらしい。企画や番組が忌々しいから壊してやろう、という魂胆だ。

    そうして説明されると何とも嘆かわしい事件だけど、その瞬間はそれどころではなかった。バトル屋が操るブーピッグやレントラー、フラージェスなどのポケモン達の襲来にスタジオのセットは崩れ落ち、その場にいた誰もがパニックに陥った。
    怒号が飛び交い、人もポケモンもいっしょくたになって逃げまどう。しかし閉鎖された空間、かつお互いが冷静とかけ離れた状況にあるため、まともな避難をしているものは誰もいない。強力な技が容赦無く放たれ、様々な種類の悲鳴が放映を切ることすら忘れていると思しきスピーカー越しに聞こえてきた。
    その動揺は視聴者も同様だ。テレビを前にした僕は少しも動けず呆然とすることしか出来なかったし、パソコンに映し出されたままの実況板にも混乱のレスが次々とついては流れていく。
    状況は絶望的だった。それもそのはず、今あの場に、バトル屋のポケモンに対抗出来る者は存在しないのだ。人間は当然、また番組スタッフや客の中にバトル屋と相対出来る実力派がいる確率も低い。
    そして、戦えないのはポケモンアイドルとて同じだ。ぬめりんもサナ様もごちみ〜も、彼女たちのように強いとされている種族は多くいる。だけど彼女たちは戦えない。彼女たちにはリミッターがかけられていて、イベント時やファンサービスの際に万が一にも事故が起こるのを防ぐため、技を出せないように仕込まれているのだ。
    誰も、この惨劇を止められない。阿鼻叫喚のスタジオは、もはやどうすることも出来ないように感じられた。

    その、はずだった。
    逃げ回るだけで誰も戦えないはずの惨状に、立ち塞がった影があった。


    そしてその影は、僕のアイドルの姿をしていた。


    ぬめりん、ヌメルゴンは、他のアイドルポケモンに比べ、人間とは違う思考回路の持ち主だ。つまりどちらかといえば本能的に動く、深く何かを考えるのではなく自分の習性に基づいて行動するポケモンである。
    その種族性ゆえ、かけられたはずのリミッターが今ひとつ効いていなかったこと、そして彼女の習性が『人間好き』であったことが幸いした、というのが結果論。今、あの場で彼女の味方である人間たちを守るため、リミッターの効力が失われていた彼女はバトル屋のポケモンに臆することなく立ち向かった。レントラーの放電に壊れたスプリンクラーの水を浴び、あの歌声と同じ声で咆哮を上げる彼女に、バトル屋も彼のポケモンも、そして他のアイドルやスタッフ、観客たちでさえも驚いたように動きを止めた。
    ぬめりんのツノが恐ろしいほどの速さで伸びて、フラージェスを床に叩きつける。それを皮切りにして、呆けていたバトル屋とポケモンたちが反撃に出る。しかし彼女は怯む様子を微塵も見せず、緑の眼を光らせて相対した。紫の鱗はどれだけ技を受けても剥がれずに、むしろ帯びた滑りで相手を翻弄する。
    自分の味方たる人間を守る、バトルで、自慢の技を駆使して闘う。ぬめりんの、ポケモンとしての本能は、彼女の全身に力を漲らせていた。


    それか、あるいは。
    紛れもない、アイドルとしての大切なステージを守る、彼女の表れであるのかもしれない。


    ぬめりんの放ったりゅうのはどうがバトル屋もろとも戦犯たちを撃ち抜いたところで、生放送はプツンと中断された。ようやく、スタッフが正気を取り戻したらしい。
    テレビが緊急事態を伝えるアナウンサーの画面に切り替わっても尚、掲示板は動揺の嵐が吹き荒れている。きっと同じ番組を見ていたに違いない、ぬめりんファンの知人からかかってきた電話に出ることも出来ず、僕はただ、テレビの前に座っていた。





    そして、ぬめりんはトップアイドルになった。

    多くの人間やポケモンを救った、強くて優しいアイドルとして、彼女の人気は大きく飛躍したのだ。瞬く間にファンは増え、彼女のことを知らない人の方が少数派になった。テレビの出演も次々に決まり、誰か別のアイドルのバックダンサーなどではない、メインでの登場が主になった。コンテンツがほとんど無く、簡素を極めていたオフィシャルサイトは豪華になった。ファンクラブも出来た。Tシャツやサイリウムなどのファンアイテムも売り出された。CDアルバムのリリースが決まれば何かの主題歌にそれが選ばれたし、写真集の出版も決まり、雑誌の表紙を彼女が飾ることも多くなった。

    彼女は、大勢の一等星になった。


    そして今日、彼女のアルバムリリースを記念したライブが開かれている。いつかの会議室など比べ物にならない、カントーでも指折りの規模に入る大きなコンサートドームだ。しかしそれでも収まらないほどに増えた彼女のファンは、ぎゅうぎゅう詰めになりながらも彼女のために集っている。彼女という輝きを少しでもその目に焼き付けようと、彼女の方を見て叫んでいる。

    「ぬめりん、愛してるよー!!」

    「最高だよぬめりんー!!」

    いつも通りの、しかしかつてとは違う声に聞こえる言葉が会場のあちこちで響く。昔からのファン仲間は、今この場にいるのだろうか。どちらにしても確かめる術など無い、広大な会場は見渡すことが精一杯で、一人一人の顔など見えるはずも無かった。


    『みんな、今日は、ぬめりんのために集まってくれて、本当に、ありがとう!!』

    拙い言葉は何も変わらないけれど、今ではそれすらも彼女の人気に一役買っていた。純朴で素直、そんな印象を与える彼女はその言葉遣いのままにまっすぐな立ち姿で、大きなステージの中央でスポットライトをあびている。聴いてください、新曲です、舌ったらず気味の声で言われたセリフと共に流れ出すのはアルバムの一曲目を飾る歌で、同時に恐らくこのライブの最後の曲だった。会場が熱気に包まれ、最高潮の盛り上がりを見せる。
    その最前線、ステージに一番近い場所。そこで僕も叫んでいる。彼女を崇拝する者として、彼女を愛する者として。振り上げすぎて麻痺してきた腕をそれでも天高く突き上げながら、枯れた喉で彼女の名前を呼び続ける。僕たちの一等星、僕たちのトップアイドルの名前を声の限りに叫ぶのだ。
    大勢のコールを受け、曲が進んでいく。一番が終わり、二番のBメロが終わり、そしてCメロも過ぎる。そこでステージの前方へと彼女が進み出した。轟音とも言える歓声の中、誰もが彼女の方を見ている。それを彼女もぐるりと見回す。

    そして、最後に、僕たちの視線はぶつかった。

    こうして、目が合ったのはもう十何年も前の話だ。

    僕の父は転勤族で、小学生の頃から何度も何度も引っ越しと転校を繰り返していた。仲良くなってもすぐに別れなくてはいけない日々に、やがて僕も友達を作ることが悲しいことのように感じられるようになって、小学校高学年に上がるあたりではなかなか友人が出来ない子どもになってしまっていた。
    彼女と話したのは、それが理由だったと思う。当時の学校に転校して間もない日に行われた体育の時間、二人組を作りなさいと言われてクラスの皆が騒がしく動く中、これといって仲の良い友達も、まともに話したことのある人もいない僕はどうしたものかと立ち尽くしていた。そこで先生が連れてきたのが同じく一人でいたクラスの女子で、要するに余りもの同士で組まされたということだろう。
    後からわかったのだけれど、その女子はクラス、いや、学校全体からも孤立していた。汚らしいとか臭いとかお風呂に入っていないらしいとか、そういった理由で周りから明らかに避けられていたのだ。聞いた話だと、彼女は片親の家庭で育児放棄されていたようだが、ネグレクトという言葉も一般的でない時代の上にそんなことが子どもにわかるはずもない。まともな生活を送れていない彼女を、他の生徒は受け入れなかった。

    しかし当時の僕がそれを知る由も無い。言われるままに組まされたその女子に対して、笑わない奴だなあとか全然喋らないなあとか、自分を棚に上げてそういったことを考えていた。他のクラスメイトたちは楽しそうにお喋りしていたけれども僕たちには特段会話もなく、適当にサッカーのパスだかボールの投げ合いだかをやっていたのだが、不意に彼女が口を開いた。

    「あのさ、将来の夢とか、ある?」

    あまりに唐突な問いに、僕はすぐ答えることが出来なかった。どうしてこのタイミングで、しかも僕に、彼女がこんなことを聞くのが全くわからなかったのだ。
    動揺と、何の考えも浮かばなかったとので、僕は「特に無い」などと返事をしたと思う。彼女はそれに対して、ふうん、とつまらなそうな声を出した。そこで僕は聞いたのだ、それなら自分はどうなのかと。何か夢があるのか、と。
    そして、彼女は答えたのだ。


    「私は、アイドルになりたい」


    今思えば、いや当時でも、彼女はその夢からかけ離れた存在だった。どこをとっても、彼女がアイドルに相応しいと思えるところなどありもしなかった。絶対無理だと、叶うはずないと、笑い飛ばされても仕方ないようなものだった。

    しかし、その時、僕は確かに、彼女が輝いて見えたのだ。


    「おっきな会場に、いっぱいお客さん集めて。みんなに私の歌を聴いてもらうんだ。みんなを幸せにできる、みんなに大好きって言ってもらえる、世界で一番素敵なアイドルになるの」


    僕をまっすぐ見て、夢を語った彼女の瞳を僕は一生忘れることが出来ないだろう。
    その時の彼女は、何よりも眩い存在だった。その夢が叶うようにと、何より近くでそれを見ていたいと、そう願わずにはいられなかった。


    大きく、丸い、澄んだ緑色の瞳。僕に向けられたそれは、あの時見つめた彼女の目とは似ても似つかない。
    そのはずなのに、それは確かに彼女のものだった。あの時と同じ、少しの迷いも揺るぎもない、何もかもを信じて前だけを見据える瞳だった。

    歓声はいよいよ膨らみ上がる。ラスサビに向けて間奏が加速する。
    彼女の名前を大勢の人が呼び、彼女の存在を幾人もが讃え、彼女という偶像をここにいる全ての者が崇め奉る。

    ステージの縁まで駆け寄った彼女が、紫色の腕を伸ばしてきた。
    途端に沸き立つ会場は、彼女に少しでも触れようとする人々の作る波によって混乱の渦が巻き起こされる。それに押されるようにして、僕の腕が高く挙がった。彼女の、腕が、こちらに伸びる。


    時間に換算するなら、一秒にすら満たないほどの刹那だろう。

    しかし、僕は彼女と、見開いた眼を潤ませた彼女と、確かに見つめ合っていた。


    人間の器官をポケモンに移植する研究課程で、使う器官を死後に提供していたのはトレーナー協会に属する旅トレーナーか、或いは遺族の了承が得られた人間だった。

    偶然にも大学で再会した、あの女子がいた学校の同級生の話によると、女子が高校二年生の時に下校中、野生のアーボックに襲われて事故死した。

    移植実験が繰り返されていた時期と、僕が高校二年生であった時期は、重なっていた。


    もし、その両者が関係していたら。

    もし、彼女の母親による育児放棄が改善されることなく継続していて、彼女の死すら興味を持ち合わせないことであったら。

    もし、身体器官の提供に拒否することなく応じていたのなら。

    もし、その中に声帯も含まれていたのなら。

    もし、記憶にこびりついた女子の声と、ネットサーフィンのさなかに偶然目にしたプロモーションビデオに映されたポケモンアイドルの声がが似ているように感じられた、僕の思い過ごしが思い過ごしなんかじゃなかったのなら。


    もし、女子がほんの一部だけとはいえ、既にその姿では無くなっていたとはいえ、絶対になりたいと強く望んだアイドルとして、ステージに立つことが叶ったのだとしたら。


    いくつかの事実と、いくつかの仮定が混ざり合う。

    混ざり合ったそれは、一つの確信を生み出した。


    彼女は、僕の。



    一瞬だけ触れ合った手は、汗っかきだった女子と同じように湿っていた。
    粘膜性の、滑りを帯びたそれはすぐに滑って離されてしまい、別の客にも同様のサービスをしているトップアイドルは、もう僕のことなど見ていなかった。ステージにいるのは人間の声帯を移植され、アイドルとして生きるための訓練を積まされた一匹のヌメルゴンだった。ヌメルゴンのぬめりん、アイドルのぬめりん。彼女は、それに過ぎなかった。


    しかし、それでも変わることは無い。彼女が僕にとっての一等星で、最前線で追うべき輝きであることに、何一つ変わりなんか無いのだ。
    いくつも設置されたスピーカーから、大音量のサウンドが鳴り響く。彼女がステージの中央へと走っていく。最後のサビを歌うため、会場中に喜びを与えるため、彼女というアイドルは、自分の生きる場所へとその足で立つ。
    ただ本心から幸せそうな、ステージに立つことを何よりも嬉しく思っているような、その、笑顔で。

    だから、僕たちは彼女の元に集っている。彼女のために声を張り上げ、彼女のためにサイリウムを振り、彼女のために汗を飛ばす。
    彼女の輝きは太陽にも勝り、彼女の歌声は福音すら超越し、彼女の笑顔はこの世の何にも代えがたい。

    だから、僕たちは彼女という偶像を愛するのだ。



    「世界で一番素敵だよ、ぬめりん!!」



    だってあなたは、ずっとずっと、僕のアイドルだったのだから。



    スポットライトを浴びる彼女があまりに眩しくて、思わず目を閉じた僕のコールは、彼女を愛する大勢のファンの叫びに呑まれて消えていった。



    ------------------------------------------

    劇団ひとり作『陰日向に咲く』より、『拝啓、僕のアイドル様』に愛と感謝を込めて。


      [No.3780] Re: とおいちほう 投稿者:マサポケを逆行する逆行   投稿日:2015/06/21(Sun) 21:46:13     59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



    こんにちはです。きとかげさん。「とおいちほう」読ませていただきました。

    このお話が投稿されたときは、あとがきを最初に読んでしまって(おい)、ちょっとした小ネタ的な話かと思って、軽く読んでいたんですが、改めてじっくりと読んでみたら、色々と深かったので、感想を書いてみたいと思いました。

    子供の頃、親から得たものを自慢する子ってかならずいますよね。親のホエルコを、スネオの如く他の子に自慢したくなる気持ちはすごく分かります。親がもたらす恩恵というのは、特に誇れるものがない子供にとっては、唯一自己顕示欲を満たせる材料なんですよね。自分も親が自営業だったんですが、周りに、親が社長であると自慢していました。(従業員は母親一人なのに)あれは今思い出しても痛かったですね。この女の子じゃないですが、過去の自分を殴りたいものです。しかも、親のポケモンと違って、自慢することでもないし。

    ホエルコは故郷に帰りたかったんでしょうかねやっぱり。ホエルコが彼女の親に捕まった経緯は分かりません。普通に捕まったのか、それとも、ホエルコが自分から捕まりたいと思ったのか。どちらにせよ、たまに野生の頃を思い出して懐かしく感じるんでしょうね。

    後半になって、彼がどんどん成長して置いて行かれてしまう感じがすごく伝わってきました。焦りますよねやっぱり。旅から帰ってきた彼のツタージャが、ツタージャのままでいってほっとする気持ちがよく分かります。ジャローダになっていたりしたら、彼女がどんなに不安な気持ちになっていたことか。

    彼は結局どうなってしまったのか気になります。他の地方まで行ってしまったんでしょうかね。それともランセに留まって戦やってるんでしょうかね。
    この小説が投稿されて三年経ってますし、そろそろ帰ってきますかね( ホエルオーだけ帰ってくるとか、そういう展開もありえそうですが。
    ともかく、元気で生きているといいですね。


    切ないような、それでいて涼しさを感じる、そんなふいんき(ほんとだ変換できた)の作品でした。


      [No.3779] 過ぎたるは 投稿者:aotoki   投稿日:2015/06/21(Sun) 17:50:38     64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    過ぎたるは

     迎えてくれたアイツの母親は、今日も美しかった。

    「いつもありがとうね、サンマくん」

     大学二年になった俺を、彼女はいまだに小学四年生の時のあだ名で呼ぶ。
    俺の名字のミマ、「ミ」は「三」で「サン」とも読むからサンマ。
    そんなあだ名を思いついた奴は、奇人だらけの学校を渡り歩いてきた一〇年の間でも一人しかいない。

    「今日は体調よさそうですか?アジ…コウスケの奴」
    「今朝は水飲みにこっちまで出てきたからいい方じゃないかしら。
     その時に『サンマくんが来るかも』って言ったら『そうか』って言ったから、部屋で待ってるわよ。たぶん。」

     無地のエプロン姿の友人の母親の後ろを着いていって、目をつぶってでもたどり着けるリビングへ
    通される。シンプルな部屋は何度見ても生活感が薄いなあと思っているけど、実質は一人しか
    使っていないならこんなものなのだろうか。
     小雨に濡れてしまったショルダーバッグを、それとなく気を使いながら窓際に降ろす。
    腰からボールホルダーを外す。ライダージャケットを脱ぎ、ホルダーの上にかける。
    ラグラージカラーのメガネを黒縁の無骨なヤツに掛けなおす。
    液晶テレビの黒画面で何となく全身チェックをして、ホウエン土産のストラップのついたキーカバーを
    ジーパンから外し忘れていたことに気づく。外す。
     キーカバーの置き所を迷っていると、目の前に緑色のマグカップが出された。中には紅茶。

    「あ、ありがとうございます」
    「今、コウスケに声かけてくるわね」

     すっ、と席を立って廊下に消えていく。ベージュのソファーに腰かけて、少し冷えた体をありがたく
    紅茶で温めさせてもらう。今日はモモン風味だった。
     マグが置かれたガラスのカップボード(って言うんだろうか。ソファーの前にある低いテーブルだ)には、
    小学校の卒業式の時のオレ達の写真が挟まっている。
     「卒業式」の看板の右側で人差し指を額に当てたポーズをとるオレ。左側で捻ったジャンプをするアジ。
    何十回と見ている写真だ。
     普通思い出の写真っていうのは、たまに見るものだからこそ「思い出が蘇る」んじゃないのか?と
    思っているオレだったが、ここ最近で考えが変わってきた。
     人は目に見えないものの存在ははすぐ忘れてしまう。だから本当に忘れたくないものは、
    いつでも目に入る場所に置く。

     本当に忘れたくないものとは何か。
     たとえばそれは旧友との楽しい日々。たとえばそれは大切な仲間の入ったモンスターボール。
    亡くなった人の顔。デートの約束。
     部屋から出てこない息子の存在。

     アジの母親が戻ってくる。

    「部屋片付いたから入ってもオッケーだって」
    「あ、じゃあ行きますね」
     少し、申し訳なさそうな顔の彼女の脇を通って、廊下への扉を開ける。
     アジの部屋の前で立ち止まると、いつも臭いはないが臭気のようなものを感じる。
    何かで汚れている、穢れている、あの感じだ。こんなことは口が裂けても言えないけれど。
    部屋の外に出て食事身支度風呂を自発的にやるだけ、アジはまだ良い引きこもりだ。
    それなのに臭気を感じてしまうのは、引きこもりに抱いてる固定観念ゆえなんだろうか。それとも…。

    「サンマ、いるんだろ?はよ来いよ」
     部屋から声がする。
    「おう、入るぞ」
     オレはドアノブを握り、捻る。その時、長Tの黒い袖口に、黒い刺繍糸でモンスターボールのマークが
    ついていることに気づいた。
     心拍数が上がる。

     ドアを開けると、ベッドに片膝立てたアジが腰かけていた。
    「よっ、久し…」
     袖口に目を落とした瞬間、悲鳴を上げてアジは飛び上がる。オレは急いで袖を肘までたくし上げた。

    「馬鹿野郎ッ!」
     瞳孔を開いたまま、息を荒げてアジは言う。
    「お前じゃなかったら椅子ブン投げてたぞサンマ!!」
    「ホント悪い。同じ色だし、今日初めて気づいた。…すまねえ」
     壁に張り付いて肩で息をする親友に申し訳なさを感じる一方で、自分でも数か月間気づかなかった、
    小さなボールの刺繍にすら反応する反射神経に、少し呆れに近いものも感じる。
    …引きこもりの定石通り、部屋は薄暗いのに、だ。

     アジイ・コウスケ。通称アジ。いわゆる電子携帯獣恐怖症(ポケフォビア)の重症患者だ。オレの旧友は。



    (つづく) 


      [No.3778] 営業部長のご紹介。 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2015/06/21(Sun) 01:31:19     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    営業部長のご紹介。 (画像サイズ: 480×640 122kB)

    こまさんが試作で作ったオドシシフィギュアこと「営業部長」です!
    祭りには営業部長を連れていくよ!


      [No.3777] 鳥居の向こう メインビジュアル 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2015/06/21(Sun) 01:30:00     143clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:鳥居の向こう
    鳥居の向こう メインビジュアル (画像サイズ: 900×1200 335kB)

    お待たせしました。鳥居の向こうメインビジュアルです。
    これをもとにこまさんにフィギュア作って貰います。


      [No.3355] ゲームノマカプ詰め 投稿者:焼き肉   《URL》   投稿日:2014/08/26(Tue) 23:13:56     79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:ノマカプ】 【短編

     ゲームやりながらカタカタしてたものが溜まって来たのでこの場をお借りさせて頂きます。上からチェレン×ベル、ヒュウ×メイ、カルム×セレナです。


      [No.2937] カゲボウズシリーズの登場人物紹介作ったった 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2013/05/05(Sun) 03:44:57     133clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:カゲボウズシリーズ】 【二巻からの進化を見よ】 【いいから小説書け
    カゲボウズシリーズの登場人物紹介作ったった (画像サイズ: 800×1122 229kB)

    5月発行は延期になりましたが製作は進めています。
    今回はちょっと人物紹介を凝ってみたよ!
    オリベって誰だという方は、ぜひ1巻と2巻読んでください。
    http://pijyon.schoolbus.jp/ にて通販も受け付けております。


      [No.2534] 霧の中のジラーチ 投稿者:   投稿日:2012/07/29(Sun) 09:51:19     86clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     霧の深い山奥にあるここは、空気がとても美味しかった。
     少々高いところにあるために空気は薄いが、深呼吸するだけで肺の中が洗われるような気分だ。崖を見下ろす線路に揺られ、ところどころ塗装の剥げたプラットホームに降り立つ。蚊との死闘を経ながら舗装されていない道を踏み締める。腐葉土の香りが鼻をくすぐった。
     途中、遠くに見える橋をショートカットするべく谷を相棒のエアームドに乗って飛び越え、臓物が縮こまりそうな谷底の深さに息をのむ。
     歩いて行ける場所にある、滝のしぶきがもろに降り注ぐ場所で水の香りを楽しんだ。そこで見た目も眩むような絶景は、滝が水の塊でなく飛沫を通り越し霧雨になるほどの高さである。
     そこからさらに歩いて登ったところにある竹藪。そこには最後の休憩所があり、ロープウェイを使わずに来た物好きな観光客の疲れを癒すための甘いお菓子とお茶が購入できる。そこで得られる甘味に舌鼓を打って、眼前の石階段を眺める。歩く気力を削がれるような石階段の先に、目的の場所はあった。

     表面に苔、石の隙間から雑草が生え放題の石畳の階段は、大抵霧が立ち込め表面も湿っている。登って行くうちに、霧の水滴なのか汗なのかわからなくなるほど体が熱くなり、頂上にたどり着くころには服がびしょ濡れだ。
     重い荷物を背に乗せた私は、息も切れ切れ。思わず、ベンチでもない苔むした岩に座り込んでしまった。美しい緑色の苔を指で撫で、イーブイがリーフィアにでも進化できそうだなと考えながら、火照った体から熱を逃がす。汗は乾いてくれそうにないが、空気が冷たいので休んでいれば熱は逃げる。
     呼吸も整い、熱も冷めてきた私は、時計についた水滴を拭って、時間を見たところで立ち上がる。
     徐々に首の角度を上げながら歩き、出てくる客と正面衝突しないように見上げながら朱色に塗られた城壁のような分厚い門をくぐった。いや、ここは実際に城壁だったというべきか。分厚く高い壁、そして極端な角度の坂。空を飛べるポケモンでもなければ、正面の石段からしか攻められないここは、戦乱に巻き込まれた民間人たちが避難に来るような場所であった。
     寺には、チャーレムやサーナイトと共に瞑想を続け、修験に励む修験僧たちが多数在籍しており、地形の助けもあって軍隊とてそうやすやすとは攻め入れない。今でこそ、景色の美しさと建物の荘厳さを仰ぎ見るための観光名所だが、かつてはここが生命線となった者も多いとか。

     拝観料を払って門をくぐったその先には、今でもチャーレムがいる。と、いっても観光客の訪れる公衆の面前で瞑想や断食をしているようなこともなく、ポケモンには不釣り合いな大きさである人間用の竹ぼうきを、サイコパワーで操りながら落ち葉の掃除をしているだけである。
     その子に会釈をして、石畳の上を歩く。漆喰の塗られた壁の高さと瓦の連なりを見ながら、内部へ。寺院の真ん中にある、腕が六本と顔が三つあるゴウカザルの像を拝顔し、かつて僧たちが断食の苦楽を共にしたという一室や、外部のならず者を探すための見張り台などを見て回る。

     そうして一通り回ってみて、最後に残したのがここの目玉となる場所である。屋根のある石畳を土足で突き進むと、下り階段が顔を覗かせた。
     天井は固めた粘土がむき出しで、そこから電気のランプが灯る。電線を引っ張って灯された橙色の頼りない光に照らされた、足元が闇にまぎれる手すり付きの階段を下り終えると、土臭く湿っぽく、僅かにかび臭い空気の中に、不気味に浮き上がるヒトガタ達。粘土で作られた物や、兵士たちの防具で作られた物。鍋や食器で作られた物。
     木の破片で作られたものもあるし、布で作られたものもある。素材も大きさも無秩序に、そして無造作に置かれたこれらは、戦死者供養のためのヒトガタである。ここにたどり着く前に死んでしまった家族や友人を供養したいと申し出た者たちが思い思いの素材で作ったものだ。
     それが行われた当時に作られたものは、一部の素材の物を除いて朽ち果てているが、今でも持ち込まれたヒトガタを、随時受け入れこうして安置しているのだ。

     この国ではデモ行進や暴動が度々起き、その度に死者が出る。そういった機会に、当事者の家族がわざわざ来ることもあれば(デモを起こすのは大抵が貧民なので、わざわざこんなところに訪れる暇や路銀の関係で、当事者の来客は残念ながら非常に少ないが)それらの事件で心を痛めた人が勝手に供養を申し出ることがある。
     戦場カメラマンなどがここを訪れることもあり、ここには新しいヒトガタが絶えることはない。風景の美しさも相まって、戦死者供養寺としても観光名所としてもそれなりに賑わっている場所だ。
     私は、時計を見る。この寺院の開放日は、定期的にここのお話を聞かせてくれるイベントがあり、もうそろそろその時間である。
     寺院の職員がベルを鳴らす。袈裟を着た坊主頭の僧が、揺れるロウソクを燭台に乗せて、しずしずと現れた。
    「今日は、我らが寺院にお越しいただき、ありがとうございます。ただいま十二時を回りましたので、こちらに飾られたヒトガタと、それに関する逸話の紹介を行いたいと思います。お越しいただいた皆様は、携帯電話の電源を切り、また録音器具や撮影器具なども電源を入れることなく、御清聴をお願いします」
     当然、この場所は撮影禁止で録音も禁止だ。メモや絵を残すことまでは禁じていないが、当然の決まりである。建前としては、『戦死者たちの霊がそういうのを嫌うので』だが、大部分の理由は商売への影響が出るという事もあるのだろう。
    「さて、皆さん。準備はよろしいでしょうか? それでは、始めましょう」
     ある程度は聞き及んでいるこの場所に伝わるお話。地下室に響く生の語り部の声に、私は改めて耳を傾ける。



     時は、まだポケモンが超獣と呼ばれていた戦乱の世。農民たちは、若い者が戦に駆り出され、税として収穫を横取りされ、時には飢饉などが襲ってきて、その度に飢えに苦しんできた。戦争に巻き込まれると、田畑を踏み荒らされたりはまだいい方。酷い時には、冬の季節に敵に補給や休息を取らせないための焦土作戦で、家や田畑、森の木などを丸ごと焼き払われたこともある。
     そうして、何もかも失って農民たちは多くが死に至る時代。この寺院が注目されたのも、そんな時代だった。
     この寺院は当時、攻めにくい地形のこの場所で農作物を育て、自給自足の生活をしながら日々研鑽を積んでいた。俗世から離れた場所にあったここは、存在こそ知られていても訪れる者はほとんどなく。住処を失い故郷を離れた者たちでここにたどり着いたのは僅かであった。
     このご時世だ。あまり多くは無理だが、寺の者は部外者を受け入れるのは慣れている。断食の経験も少なくないため、突然の来客で食事が少なくなろうとも、何ら不満は漏らさずに温かい食事を提供した。だが、それにも流石に限界があって、受け入れたはいいものの食事がなくなって結局、避難民が飢えの果てに死んだり、僧が真っ先に死ぬまで断食を敢行した事もある。
     そうしたことは一度や二度ではなく、ある時死んでいった子供を供養するために親がミミロルのぬいぐるみを作った事がきっかけで、戦死者供養が始まった。避難しに来た者や、それに関連する死人が出た際、放っておけば死んでしまうような怪我人や病人、子供や老人を故郷か道端かに置いて来た際には、誰ともなくヒトガタを作って供養するようになっていった。
     ヒトガタと言いつつも、前述のとおりミミロルの様な可愛らしいぬいぐるみが置かれたこともあるが、供養するという目的に変わりはない。せめて、戦乱に巻き込まれ、無念のうちに死んでいった者たちが安らかに天道へ導かれるように。それを願って、どんどんとヒトガタは増えてゆくようになったのである。

     だが、戦死者の供養というものはそこに魂がなければ意味がなく、そのためなのか、このヒトガタにも魂が吸い寄せられる。それらはもちろんこのヒトガタ達の目的である戦死者やそれに準ずる者たちのそればかりで、魂は皆一様に穢れていた。
     戦争が終わって欲しい、平和な世の中が欲しいと前向きな思いを残して死んだ者はまだいい。そういった者は、悲しみを癒してやれば、穢れも浄化してやがて風に溶けてゆく。だが、誰かを殺してやりたいとか、復讐してやりたい。そして、生き残った同胞に嫉妬し、道連れにしたいと思って死んだ魂は、程度によっては性質が悪くなる。
     憎悪の念を抱えて死ぬことで穢れた魂は、簡単なもので病を呼んだり、事故を呼び込んだりといった疫病神に成り下がる。それですら怒りが治まらなかったり、似たような境遇、想いを抱えた魂と集合した場合は、非常に強い怨念となってヒトガタに宿ることがある。非常に凶暴なジュペッタとなって、この世に出るのだ。

     本来は、大切にされたぬいぐるみに宿った魂が、捨てられたことで悲しみや憎しみを抱き、それが憎しみの感情に惹かれたカゲボウズと触れ合うことでジュペッタとなるものだ。そのジュペッタはぬいぐるみの思い出と憎しみを受け取って本能的に元の持ち主を探し回るが、そういった本来のジュペッタが憑依するぬいぐるみには根底に愛がある。
     愛を受けたからこそ、それを捨てられた憎しみや悲しみが生まれるのだ。
     けれど、ここで生まれたジュペッタたちには、憑代となったヒトガタに愛なんてものは欠片も存在せず、あるのは憎しみに塗れた魂のみ。死ぬときに誰かを強烈に呪った魂は、その想いだけに偏重し、生前人間だったころに受けた愛も、友情も絆も全て忘れてしまっている。
     結果、新しいヒトガタを安置しに来た僧を無残に殺してしまい、寺院に在籍していた僧兵やチャーレムなどで鎮圧するだけでも、手酷い怪我を負ってしまったものだ。鎮圧するだけしたはいいが、殺してしまっても、結局呪いはここに燻ってしまう。それどころか、他のヒトガタに乗り移ってしまえばさらに呪いが凝縮されて厄介なことになりかねない。
     結局、そのジュペッタはポケモンたちの力で急造で掘り進めた地下室の中へ厳重に封印された。丈夫な縄に経文を刻み、呪符を用いて幾重にも結界を張り封じ込めた厳重な警戒の元で、ジュペッタは動くことも出来ずに縛り付けられる。その状態では憎しみは癒えるどころか増すばかり。根本的な解決にはならなかった。


     その騒動で傷を負った僧たちも怪我が癒えた、ある日のことである。この地に凶星(まがつぼし)が落ちた。この地域では、流れ星は凶兆とされており、それがこの地に落ちたという事で、住人達は大きな不幸の到来を予想していたのだが。不思議と、邪気のようなものを感じることはなく、超獣たちは怯えるどころか、むしろ星が落ちた場所へと興味深げに視線を向ける始末である。
     この辺にも生息しているはずのアブソルは、ジュペッタの時こそ寺院の周りにワラワラと集まって激しく威嚇してきたが、凶星が落ちても騒ぎ立てることがないという事は、凶兆というのはもしかしたら全くの杞憂なのかもしれない。
     何があったのかといぶかしげな寺院の者たちは、超獣を二匹と人間を二人派遣して、問題の場所を探ることとなった。寺院の入り口となる巨大な階段の反対側には、リオルの足で一日かかる距離、向こうに何もない山脈が広がっている。

     その広大な山脈の樹海を踏み入った先に見たのは、黄金色に光る星型の頭部を持った超獣であった。
     首から下が布に包まれているような見た目で、星型の頭部には青い短冊のような器官。目の下にある涙模様や、陶器のように白い肌が特徴的な見た目のその超獣。子供に化けた妖魔のたぐいだと疑わなかったわけではないが、どうにも連れてきたチャーレム達の様子を見る限りでは、全く敵意もないようだ。普段は警戒して他の超獣に接するはずのチャーレムが、ほとんど無警戒に近寄ってゆくさまは、僧たちも困惑した。
     二匹のチャーレムは、すやすやと眠るその超獣に近寄り、つんと頬を触る。何の抵抗もなく沈み込んだ指を離すと、頬がぷるんと揺れて元の形に戻る。無警戒に眠っている超獣は不快そうに顔をゆがめ、うんうんと唸る。僧たちも警戒する必要がないと感じて近寄ってみると、その超獣はゆっくりと目を開き、布に包まれた首から下を外気にさらす。
     四肢は申し訳程度についているだけのような短いもので、腹には一本の横筋。人間の赤子よりも赤子らしい頭でっかちの姿があらわになり、体を包んでいたぬ布のようなものは、襟巻きに近い形状になって首から背中に垂れ下がる。
     目を擦った後にぱっちりと開いた目は、真ん丸な瞳が、霧の中で光を照り返して見える、それは綺麗な瞳であった。
    「こんにちは」
     霧のようにふわふわとした、頼りない声が頭の中に鳴り響く。どうやら、念話のようだ。
    「こ、こんにちは」
     僧の一人が、戸惑いがちに答える。
    「おや、元気がないね。君も寝起き?」
    「いや、そういうわけではないが……」
     挨拶を返した僧が、返答する。
    「すまぬ、こんにちは」
     もう一人の僧が、頭を下げる。
    「うん、こんにちは。君達はだあれ? 僕はジラーチ。昔はそう呼ばれていたんだ」
     目の前の超獣は、ジラーチを自称する。きりもみ回転をしながらふわりと上に舞い上がったかと思うと、今度は滑空して二人の頭上に。
    「私は、ツァグン……後ろの山を登ったところにある寺院に住んでいる」
     後に挨拶した僧が、頭上を回るジラーチを眺めながら自己紹介する。
    「俺はタークです、同じ場所に住んでおります……よろしくお願いします……」
     続けて、先に挨拶したほうが自己紹介をする。
    「ふぅん、二人とも……よろしく」
     言いながら、ジラーチはツァグンと名乗った僧の胸元に飛び込み、数ヶ月は洗濯していないのであろう汗臭い袈裟に顔を埋めてから上目づかいでツァグンを見つめる。
    「僕はジラーチ。望みを叶える者……君達二人は、何か望むことはあるかい?」
     ツァグンが自分を抱きしめるのを感じながら、ジラーチが問う。
    「望む、事……と、言われても、なぁ?」
    「私に振られましても……」
     上目づかいをしたまま唐突なジラーチの質問に、タークがツァグンに話を振るが、ツァグンも唐突なこの質問には答えを用意していない。
    「ふぅん……」
     がっかりしたような含みを持たせて、ジラーチはツァグンの腕からすり抜けた。
    「望めば、どんな願いだってかなえられる。それとも、君達は欲がないのかな?」
    「欲……は、無くなるようには努力しているが……」
     タークは口にしてみたはいいものの、様々な願いがここで浮かんでくる。断食がしんどいのでたくさん食べたいとか、避難してきた女性に触れてみたいだとか、実に生物的な欲求が。しかし、そんな願いよりも、大事なのは平和やら、飢えをしのぐための豊作祈願といった、民のための願いではなかろうか。
     願わくば自分たちの飢えもなんとかしたいものだが、仏道に属する身としては、私利私欲のために願いを使うわけにはいかないし、何でもと言うほど凄いのであれば、なおさら相談なしに、勝手な願いを叶えることは出来ない。
    「皆に、相談したほうがよろしいでしょうかね?」
    「そうだな、俺達が勝手にどうにかできる話題でもなさそうだ」
     ツァグンの提案に、タークが賛成する。
    「すみません、ジラーチさん。ちょっと、私たちの住処まで来てもらってよろしいでしょうか?」
    「うん、いいよ。よろしくね、お二人さん」
     結局、その場で願いを叶えることはせず、ジラーチは寺院の中まで連れてゆかれることになる。正体不明の超獣を連れてきたことで、凶星の言い伝えを信じる者たちは気味悪がって近寄るのを恐れたが、一番最初の願いで、その恐れも羨望のまなざしに代わる。
     と、いうのも。避難してきた農民の女性が一人、肺の病を患っていたのだが、ためしにと願いを投げかけたところ、咳がぴたりと止まってしまったのだ。死んでしまったのではないかと思うほどの早業に、最初は誰もがいぶかしげであったが、咳が再発するような様子もない。
     ジラーチの愛らしい見た目の良さも相まって、夜になるころには皆がちやほやするようになってしまった。だが、同時に問題も出てきた。

    「あんな願いを、何個もかなえられるのか?」
     さっきまで病人だった女性の夫が尋ねる。
    「んーん」
     ジラーチは首を横に振った。
    「僕がかなえられる願いは三つだけ……僕の頭についている短冊の数と同じ。だから、叶える願いは慎重に決めようねー」
    「そ、そうなのか……」
    「僕らジラーチは、皆の恨みや憎しみ、悲しみや恐怖といった、嫌な気持ちを幸福に変えるんだ……でも、そういう気持ちを、僕の中に取り込むにはとても時間がかかるの……だから、そのための制限。あんまり大きなことを願いすぎると、僕の中の憎しみの力が足りなくなって、思い通りに願いをかなえられないからね。
     それに、どうしても浄化しきれない嫌な気持ちもあるんだ……そういうものは、願いをかなえ終えた後に眠って、魂を空に飛ばして宇宙に流すんだ……太陽の光ならば、どんな嫌な気分も浄化する力があるからね。だから、僕たちは願いを叶えた後に千年も眠るの」
    「憎しみの力……か」
     話を聞いていた者たちが、意気消沈したように声を挙げた。
    「そんな物、彼らは無尽蔵に取り込んでゆくというのに……なんというか、世の中適材適所とはいかないものだな」
     僧である彼が思い浮かべるのは、地下室に隔離、封印したジュペッタ達。ジュペッタになりかけのヒトガタも一緒に、軒並みあちらに封印しているので、もはや地下室は魔窟と化している。迂闊に入り込めば拘束されていても、張りつめた殺気で死んでしまいそうなほど、異様な雰囲気に包まれているのだ。
    「まてよ……」
     と、傍で聞いていた僧はひらめく。残る二つの願いは、一つは豊作を祈願するとして、もう一つの願いをどうするかを決めかねていたのだ。戦乱の世を終わらせるというのも考えたし、それが最も良い願いだと思っていたが。
     大量の憎しみを抱いたジュペッタ達の憎しみを抱えている。もしもその憎しみを願いの力に変えることが出来るのであれば、それはとてもすごい事なのではなかろうか?
    「出来るよ」
     尋ねてみると、ジラーチは可能だと答える。
    「その気になれば異世界や未来に誰かを送ることも出来るし、人間をゲンガーみたいな超獣に変えることだって出来る。だから、僕の力でそのジュペッタをジラーチに変えることだって不可能じゃないよ」
     何とも魅力的な事をジラーチは教えてくれた。そのことをこの寺にいる者たちに話すと、ジュペッタの封印に従事していた者たちは、ようやく結界の様子に神経を張り巡らす生活から解放されるかもしれないと、非常に喜ばしい表情を浮かべている。
     結局、残る二つの願いは豊作祈願と、ジュペッタをジラーチに変えることで、憎しみの力を消費するというものであった。皆の見ている前で豊作の願いをしてみたが、特に様子は変わらず。もちろん、いきなり草木や作物がニョキニョキと生えてきたら気味が悪いわけだが、目立った変化はすぐには訪れなかった。

     そして、最後の願い。ジュペッタをジラーチにするという願いだ。封印されたジュペッタ達は、原種とは比べ物にならないほど凶暴なため、腕に自信がある僧と超獣のみを連れて、封印された地下室の前へ。
     ジラーチに願いを告げてからその中に入ると、中ではジュペッタ達が山吹色の淡い光に包まれながら、次々と元のヒトガタへと戻ってゆくではないか。そして、淡い光は一ヶ所。ひときわ強力な封印が掛けられたジュペッタの元へと集まり、まばゆい光となって収束する。
     地下室の中に太陽が出来たと見まがうほど強力な光が収まると、そこにはジラーチとは似ても似つかない、長さの違う直方体の結晶を束ねたような紫色の宝石がふわりふわりと浮かんでいた。これを見届ける役にも参加していたツァグンとタークは首を傾げていた。
    「君の願いは叶えたよ……さて、僕はもう三つの願いを叶えたことだし……もう、眠るね」
    「ちょっと待ってくれ……ジュペッタのあの姿は?」
    「繭のようなものだよ」
    「繭?」
     ジラーチの返答にオウム返しに僧が尋ねる。
    「うん、僕も、今でこそこんな姿だけれど、ずっと眠っている普段はずっとこの姿なんだ。大丈夫、あの子はもうすぐ目覚めて、僕と似た姿になると思うから。それと、僕ももうすぐあの姿になる……お休み」
    「お、あぁ……もう眠るのか? ずいぶんと急ぎ足だな……」
    「うん、ごめんね。また千年後……」
     ジラーチがゆっくりと目を閉じる。彼を包んでいた淡い光は徐々に激しい光となって、紫色の結晶に代わってゆく姿を覆い隠した。そして、紫色の結晶に代わった体は、抱いていた手を煙のようにすり抜け、天井も同様に水面に飛び込むかのようにすり抜け、天へと昇って行った。元となったジラーチが天球へと還って行くのを見守り、この場に集まった僧たちは、まだ繭の状態のジラーチに注目する。孵化の時を待つ卵を見守るような面持ちであった。

     やがて、繭の状態のジラーチは、白い光を放ってジラーチとなる。体を黄色い襟巻きで包むことなく、最初から覚醒した状態でのお披露目である。
     顔も体型も色も、先程天へと還って行ったジラーチとほとんど相違なく、言われなければ違いには気付かないだろう。
    「……僕を憎しみから救ってくれたんだね」
     第一声がそれであった。
    「ずっと、辛かったけれど……君たちのおかげで救われたよ。ありがとう……」
     そのジラーチには、人間を見かけたら問答無用で襲い掛かり、そして犠牲者の一人を原型が分からなくなるほどに切り刻んだような、恐ろしいジュペッタの面影はまるでない。穏やかな、本当に穏やかな、赤子のような笑みをたたえるジラーチであった。
    「今度は、僕が君たちの願いを叶える番だ……さぁ、願いを言ってよ」
    「願いか……」



    「そうして、僧たちが願ったのは、戦乱の世を終わらせること。ここのヒトガタ達が、もうジュペッタにならないようにすること。そして、ここに避難してきた人たちの下山の無事……その三つでした。
     その三つの願いを叶え終えたジラーチですが、元がジュペッタなおかげなのか、そのジラーチは眠ることはなく、願いを叶えた見返りにと自分に名前を付けてもらうことを望みました。僧たちよりシャル=ノーテと名付けられたジラーチは、名前を付けて貰えたことにお礼を述べた後、山奥のどこかへと消えてしまったそうです」
     長い話を一区切りつけて、語り部はため息をつく。
    「このジラーチのおかげで、今でもこの寺院にジュペッタが発生することもなく、戦死者供養に相応しい聖域を保っております。憎しみのような、後ろ向きで暗い感情から生まれた呪いを、ジラーチは前向きな想いを叶える願いに変える……まさしく、慈愛に満ちたポケモンと言えましょう。
     この寺院には、常に戦死者たちの怨念が渦巻いておりますが、それらを救えるのは神の愛以外にありえません。我らも欲を捨て、見返りを求めずに人に親切できるようにと頑張っておりますが、ジラーチはそれを生まれながらにして出来る、素晴らしいポケモンです。
     我らも、生まれながらになどという贅沢なことは言えませんが、出来る事ならば、争いが起こらない世を作るべく、こんな寺院が必要なくなるような世界にするべく、愛を心に持って生きてゆきたいものですね。これで、私の話は終わりです」
     最後に深くこうべを垂れ、語り部が話を終える。
    「なにか、質問はございますか?」
     私は手を挙げ、真っ先に指名される。
    「そのジラーチ、今もまだどこかに生きているという噂ですが……どう思いますか?」
     私が尋ねると、語り部はつばを飲み込んで質問に答える。
    「今でも、この寺院ではヒトガタが突然行方不明になることがあります。それはきっと、どこかへと消えた元ジラーチの仕業じゃないかと考えられています。たまに、そのジラーチを求めて冒険者がここに訪れますが……貴方のその大荷物は……」
    「あぁ、退屈を打ち壊しに来たんだ。いや、夢の中でジラーチに誘われちゃいましてね。旅行する場所も特に決まっていなかったので、ここにしたんです」
     階段を上る時は捨てていきたかったくらいの大荷物。これは、山の中に踏み入るためのもの。
    「そうですか……たまに遭難者も出ているので、お気を付けてください」
     語り部が私を気遣って言う。大丈夫、私は旅慣れているつもりだから。
    「ありがとうございます」
     そうして、質問タイムは続く。私はそれを聞き流すように右から左へ受け流し、これからの旅路を想う。ジラーチが本当にいるのかどうかはわからないが、私の相棒であるエアームドと旅が出来るなら、結果なんておまけのようなものだ。


     語り部との質問タイムも終わり、私は寺院を後にしてこれから踏み入る山脈を見下ろす。
    「神の愛、か……」
     見返りを求めない愛。憎しみを、喜びに変える力を持つというのはなんと素晴らしい事であろうか。
    「でも、私はお前を愛するだけで精いっぱいだがなぁ……それが本当なら、すごいポケモンだよ」
     なんて、隣を歩くエアームドの首に右手を回し、顎を撫でながら言う。彼女は気分がよさそうに首を傾け、私の顔に頬擦りをした。霧が出初めているせいか、すでに濡れている彼女の体は頬を湿らせる。
    「でも、こういう風に平和に暮らせるのがそのジラーチってポケモンのおかげならば、良いもんだよな」
     そのジラーチのおかげなのかは知らないが、この土地は自然災害も減り、それに応じてアブソルも姿を消したそうである。
     この平和がジラーチのおかげならば、それを壊さないような無邪気な願いでも願ってみるとするかな。
    「さ、いくぞー」
     まずは山を下なければならない。空気の薄いこの場所で上りを飛ばせるのは負担がすさまじいのでやらないが、滑空するくらいならば彼女への負担も少ないので、湿った風を切りながら彼女の温もりを感じよう。
     足爪で獲物を掴むフリーフォールの要領でトレーナーを運べる縄梯子のバーをエアームドに握らせ、私は珍しく霧の晴れている山肌を翔け抜けた。


      [No.2533] シャル・ノーテ物語 投稿者:   投稿日:2012/07/29(Sun) 09:49:56     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    とあるオタコンと、とある小説wiki第二回短編小説大会に出馬したお話。
    オタコンには前編だけ投稿。短編小説大会には後編だけ投稿していました。


      [No.2532] Re: これはひどい(※褒め言葉です) 投稿者:フミん   投稿日:2012/07/27(Fri) 21:57:33     87clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    砂糖水さん


    これはひどいお話になりました。
    褒めて頂きありがとうございます。フミん節って…w 

    実は、最初は役割という短編と全く関係ない独立した話だったのですが、マスターボールのことを書いてからオチが思いつかず放置していました。ふと思いついて続編モノにした結果がこれである。
    何故社長がわざわざあの男を探し出したのか、という部分を補う機会があって良かったです。


    こちらこそ、いつも読んで頂いてありがとうございます。機会があったらまたお願いします。


    フミん


      [No.2531] ふたりごと 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/07/27(Fri) 17:03:43     226clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:2012夏・納涼短編集】 【シオンタウン】 【「あはは、そうよね!】 【あなたの右肩に】 【白い手が】 【置かれてるなんて】 【……あたしの】 【見間違いよね」

    「お腹空いたな」
    「もう昼飯時だもんなあ」
    「ハンバーガーでも食べようかな」
    「えー、もうちょっといいもん食おうぜー」
    「……確かクーポンがあったはずだし」
    「あーそっかー、それじゃあしょうがないなー」

     相棒は、鞄から畳んだ地図を取り出した。

    「次の町はシオンタウンか」
    「イワヤマ抜けなきゃいけないんだな」
    「ちょっと遠いなあ」
    「大丈夫だって。お前のポケモン強いんだからさ。ま、あんまり無理させるのはよくないけどな」
    「薬を多めに買っていくか」
    「それがいいな。一応、あなぬけのヒモも買っておいたほうがいいんじゃないか?」
    「わざマシンあるから……」
    「ああ、そういえばこの間もらってたな」
    「資金も十分だ」
    「準備万端だな」
    「とりあえず、ショップで売ったり買ったりしてくるか」
    「おう」



     相棒と俺の出会いは数年前。
     場所は俺たちが生まれた町の小さな公園。ベンチと砂場とブランコしかない。
     俺はいつもそこにいたんだけど、その日こいつがひとりでやってきた。半べそかいたような情けない顔ぶら下げて。

     辺りを見回して、そいつはつぶやくように言った。

    「誰もいないのかな?」
    「ここにいるぞ」

     俺はそいつを呼んだ。そいつは俺の近くにあったベンチに座った。俺も隣に座った。

    「お前、いつも他の奴と一緒だよな? 髪の毛立ててる奴。今日はひとりか?」
    「…………」

     そうしたら、そいつが涙をぼろぼろこぼし始めた。

    「ああぁぁごめん、悪かったって。泣くなよ。……ケンカでもしたのか?」

     こいつとその友人の仲の良さは、何回か見かけたことがあるからよく知ってる。
     まあ、言っても子供同士だ。ケンカくらいするだろう。

    「やっぱり、僕は意気地無しなのかな?」
    「そんなこと言われたのか?」
    「でも、町の外に出るなんてやっぱり怖いよ」
    「オイオイ、そりゃ危ないだろ」
    「この辺りにはポッポとかコラッタとか弱いのしかいないから大丈夫って言ってたけど」
    「あのなあ、ポケモンってのはどんなに小さくて弱そうに見えても、危ないもんなんだよ。お前、コラッタの集団にあの前歯で一斉に襲いかかられるの、想像してみ?」
    「……やっぱり危ないよ」
    「そうだよ。な? だからさ、どうしても出たいんならあの博士だか何だかに頼んでみろ」
    「もう少し大きくなったら、博士にポケモンをもらえるんだ」
    「おぉ! 最高じゃないか!」
    「だからそれまで待とう、って言おう」
    「そうそう。お前はいい子だな」

     少し明るい表情になったそいつを見て、俺はため息をついた。

    「あぁ、俺もやっぱり、ポケモン持つべきだったんだよなぁ……」
    「あいつ、やっぱり旅に出るかな?」
    「そりゃ出るだろ絶対」
    「僕が行かなくても、やっぱり行くんだろうなあ……」
    「俺も、友達みんな旅に出ちまったよ。ポケモン持って」
    「それじゃあ、独りぼっちだ」
    「ああ。あれからずっとな」
    「……寂しい」
    「わかってくれるか」
    「独りぼっちは嫌だな」
    「本当にな。でも、俺の方こそ意気地無しだったんだ。『ポケモンをください』っていう、たったそれだけが言えなかった」

     深いため息をつく。そいつもため息をつく。
     しばらく何か考えている様子を見せて、そいつはつぶやいた。

    「……やっぱり、僕も町を出る」
    「……そうか。お前も行っちゃうのか」

     そうしたら、そいつが言った。

    「一緒に旅に出よう」
    「……えっ?」
    「いいよ、って言ってくれるかな?」
    「当たり前だろ!」

     ずっと独りぼっちだった俺は、そいつの言葉が本当に嬉しかった。
     その日から、俺と相棒はずっと一緒だ。




    「それにしても高いタワーだなあ」
    「これが全部お墓なんだよな」
    「町の人は幽霊が出るって言ってたけど……」
    「やっぱりあのカラカラのお母さんだろうな」
    「ねえねえ、あなた」

     青白い顔をした女の子が、声をかけてきた。

    「あなた、幽霊はいると思う?」
    「そりゃーいるに決まってるだろ! な?」

     俺は相棒の右肩に手を置いた。
     すると、相棒は笑って言った。

    「いないよ」
    「えっ」
    「いるわけないじゃんそんなの」

     青白い顔の女の子は、苦笑いを浮かべた。


    「あはは、そうよね! あなたの右肩に白い手が置かれてるなんて……あたしの見間違いよね」


     当たり前だろ、と相棒は笑った。
     俺はそっと、相棒の右肩から手をどけた。





     少年がタワーの中へ入ると、幼馴染がとある墓石の前に座っていた。

    「おう、久しぶりだな」
    「やあ。……それって、もしかして」
    「……ああ。旅に出て最初に捕まえた相棒」
    「そっか……じゃあ僕からも」

     少年はリュックの中からミックスオレの缶を取り出し、墓前に置き、手を合わせた。

    「呆気ないもんなんだな。命が終わるのなんて。もう少し早くポケセンについてりゃ……」
    「ポケモンはずっと、僕らの代わりに戦ってるんだもん。気をつけないといけないね……本当に」
    「気を抜きすぎてたな。強くなったから、多少は平気だろうって……」
    「ポケモンは本当に見かけによらないからね」

     幼馴染は深いため息をついた。

    「……悪かったな。小さい頃、嫌がるお前を無理やり町の外に連れていこうとしたことがあっただろ」
    「ああ、懐かしいなあ。そんなこともあったね」
    「ポケモンの強さとか、危なさとか、理解してりゃあんなことしなかったのによ。しかも断ったお前に散々悪口言ってさ……」
    「いいよもう。昔のことだ」
    「あのあとじいちゃんに、昔ポケモンを持たずに町を出て、死んだ奴がいたって聞いてさ……俺、本当に……」
    「いいってばもう。おかげさまで僕は元気だよ。一番の親友のおかげで、楽しい旅に出る決心もついたし」
    「……そうかい」

     幼馴染と少年は、顔を見合わせて笑った。





       「……やっぱり、僕も町を出る」
                                             (……そうか。お前も行っちゃうのか)
       「一緒に旅に出よう」
                                             (……えっ?)
       「いいよ、って言ってくれるかな?」
                                             (当たり前だろ!)





    「でもさ、お前、昔っから言ってるけどさ、ひとりごとを延々とぶつぶつ言う癖は直した方がいいと思うぞ。気持ち悪いし」

    「いやー僕も直そうとは思ってるんだけどねぇ。なかなか直らないんだよなぁこれが」





       「きっと大丈夫だよ。あいつは僕の、一番の親友なんだから」


                                             (これからはずっと一緒だな、相棒!)







    (2012.7.27)


      [No.2121] Re: 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:久方小風夜   投稿日:2011/12/16(Fri) 12:40:54     134clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    冒険してた奴、ちょっと来い 〜まとめて読む掲示板〜


    目次
    ・【幼馴染は】暇だから幼馴染の女に安価でメールする【マジ化け物】
    ・幼馴染にバトルサブウェイに強制連行されているんだが
    ・【団員】組織を作って世界征服を目指す【募集中】
    ・冒 険 し て た 奴 ち ょ っ と 来 い
     …他、全8話を収録



    舞台はインターネット。
    「改造」から「モンスターボールの使い方」までを手広くカバーする巨大掲示板群。

    今日も好き勝手に罵り合い、慰め合い、笑い合う住人達。
    そんな日常の中、時には笑いあり、涙ありのドラマが生まれることも……?

    話題を集めたスレッドをまとめて書籍化!





    ※タイトルは適当です
    ※話数も適当です
    ※スレタイも適当です
    ※ネタがありません


      [No.2120] Re: 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:リナ   投稿日:2011/12/16(Fri) 01:38:40     116clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    ● タイトル「世界と日本の名作集」

     ◇目次:
      1.イソップ寓話より、北風と太陽
      2.浦島太郎
      3.桃太郎

     ◇背表紙:
      嘘じゃない! ホントなんだ! 一体どこにルナトーンが出てるってい(ry


      [No.2118] Re: 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:マコ   投稿日:2011/12/15(Thu) 16:09:36     107clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    じゃあ、私はロングのシリーズを。

    「ポケリア〜ポケモンがリアル世界にやってきた!」

    (帯)舞台はオオサカ。そこで巻き起こる、主人公とその友人、そして彼らのポケモン達による日常、悪党とのバトル!

    これまでの連載に加え、「書いてみた」シリーズでのスピンオフ版、番外編、さらに書き下ろし作品も数本!

    皆様、是非お買い求めください!


      [No.2117] Re: 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:紀成   投稿日:2011/12/15(Thu) 10:45:14     105clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    じゃあ皆様ご存知?のシリーズを。


    『幻影淑女と死神紳士』

    ・『少女から淑女へ。一人と一匹が織り成す不思議な物語』(帯より)
    ・今までのファントムシリーズに大幅書き加え、更に書き下ろし長編もつけました。


    『黄昏婦人の優雅な日常』

    ・『紅茶と一緒にお楽しみください』(帯より)
    ・黄昏堂にやってくるお客や、曰くつきの商品の説明などが沢山入ったエッセイ集。

    優雅な日常 目次

    ・トワイライト
    ・狐執事(書き下ろし)
    ・ローレライ
    ・時をかける少年(書き下ろし)
    ・黄昏色の目の人形(書き下ろし)

    おまけ:商品の調合リスト

    『again』

    ・『芸術家とは爆弾である。特に周りが見えなくなった場合、それは時にとんでもない出来事を引き起こす』(キャッチコピーより)
    ・マスターの子供時代、父親、そしてライバルである検事兼芸術家。時を越えて再び事件が蘇る。


    [出せる日が来るといいな]


      [No.2116] Re: 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2011/12/14(Wed) 23:54:49     101clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    せっかくなので帯の煽り文を書いてみる。

    ポケモン好きから廃人まで満足できる、冒険小説の決定版! 全86話のボリューム、緻密なダメージ計算、駆け抜けるストーリー……。夜のお供に是非。

    大長編ポケットモンスター、上下巻セットで990円。お申し込みは当サイトまで。


      [No.2114] 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:No.017   投稿日:2011/12/14(Wed) 20:10:54     112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    自分の小説で単行本を出したら……?
    そんな妄想をしてみようというスレです。

    タイトルや目次、
    カバーの紹介文や、帯の煽り、あとがきなんかを妄想してみませんか?
    書けば案外実現するかも?


      [No.2110] おじいさんの旅路 投稿者:西条流月   投稿日:2011/12/13(Tue) 21:33:42     109clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     
     見ず知らずの――よい子限定ですが――人に黄金をプレゼントする。
     そんな行為を半世紀近く続けてきたぐらいなグッドでアルティメットでウルトラなおじいさんがおりました。
     ただ、この行為はアルティメットにグッドすぎたのでしょう。残念なことに完璧なまでの球体に加工した黄金を配るおじいさんの元にはあまり人が近づいてきてくれないので、なかなか黄金を配ることはできませんでした。
     それでも、おじいさんはめげませんでした。
     いつだっていいことは受け入れにくいものなのです。
     いいことをするのも受け入れて協力するのも恥ずかしい、面倒くさい。そんな世の中だということを知っているからです。
     街を綺麗にしようという清掃活動の呼びかけも暴力のない世界を作ろうと呼びかけることも人はいつだって見ないふりをするものなのです。それがたとえいいことだと無視している人も知っているのにも関わらず、に。
     それと同じです。
     だから、おじいさんはめげません。近くを通る人に声をかけ、きんのたまを配ります。
     悪い人だった昔の自分を悔いるようにいい人になろうとおじいさんは頑張り続けました。
     そんな行為を続けて、早数十年。
     おじいさんはあるとき、ふっと疑問を覚えました。
     自分はこのままでいいのだろうか、と。
     その問いはもう幾度も通り過ぎた道でした。
     見ず知らずの人に配っても、幸せになるのはきんのたまを受け取った人だけ。おじいさんの目的は世界中の人が幸せになることなのに、それではいささか範囲が小さすぎるのではないか、と。
     そんな疑問が浮かぶたびにおじいさんは、千里の道も一歩からと言う言葉を胸に刻み続けて、その問題を解決してきましたが、今日はそうはいきませんでした。
     配り続けてきたきんのたまの数は膨大だというのに、いまだに世界は幸せになりません。
     世界は広いのだと思おうとしました。広いから分からないのだと思おうとしました。
     でも無理でした。
     今度は、どれくらいの年月をかければ、どれほどのきんのたまを配れば世界が幸せになるのかということを考えてしまったからです。
     ふう、と溜息を吐いて、視線を落とせば、視界の端には深いしわの刻まれた節くれだった手。その手には杖を握っております。
     もうおじいさんは若くない。いつ倒れるかわかったものではありません。
     しかし、このアルティメットグッドマンの道を継いでくれる者はだれ一人としておりません。
     この黄金に目を眩ませず、ただ奉仕の思想をもって、人に配り続ける。そんな人をおじいさんは長い月日を過ごしてなお、見つけることはできなかったのです。
     いつ志半ばで倒れるか分からない。そんな不安を抱えてしまったのです。
     おじいさんは思いました。
     このままでは願いがかなう前におじいさんが死んでしまいます。
     そうなったとき、残った黄金はどうなるのでしょう。
     誰かが世のため人のためと使ってくれることを信じたいですが、世の中はそんなご都合主義はなかなか存在しません。
     ただ、放っておかれるだけならいいですが、悪人の懐に入ってしまうことも十分に考えられます。そうなれば、おじいさんの願ったことと真逆のことが起きるのは明白です。
     そして、あーでもない、こーでもないと思案した結果、おじいさんはひとつの結論を導きました。
     やりかたを変えようと。
     そうです。おじいさんは今まで、偏見を持たずに自分に近づいてくることをできる人をいい人だという選別基準を設けていました。しかし、それではおじいさんに近づいてくれる人が少なかったという弊害がありました。
     おじいさんはこのことを今までそれだけいい人が少ないのだと思っていましたが、その話しかけられなかったという人に、内気でシャイな子がいる可能性に思い至ったのです。今朝のテレビでも、コミュニケーションが取れない人が急増しているとやっていました。
     おじいさんの若い頃はそんなことはありませんでしたが、きんのたまを配り始めて数十年。時代が流れれば、人も変わるものです。
     おじいさんもやりかたを変えるべき時が来たということでしょう。
     おじいさんは今度は自分から声をかけ、配ろうと決めました。
     幸せが歩いてこないように、目的の成就も歩いてきてはくれない。そんな当たり前のことにいまさらながらに気付いたのです。
     まず、おじいさんはイッシュ地方に行くことを決めました。
     さまざまな町で人を見定める。出会う人数は多い方がいい。
     ならば、ビッグでフリーダムな地方を、ということをツイッタ―で検索したら、引っかかった地方だからです。
     まずは注文すると次の日には届くと噂の密林でイッシュの地図をクリック。そして、イッシュへ向かう船旅のチケットを入手。きんのたまの形を崩さないようにブリーフケースに入れることも忘れません。
     密林から地図が届いたと同日、おじいさんは船のタラップを踏みしめていました。
     長い人生、イッシュという地を踏んだことは未だにないということに忘れかけていた冒険心がちりちりと胸を焦がすおじいさん。
     自然と笑みが零れます。

     ◆ ◆ ◆

     首が痛くなるほどの高いビル。そのビルに努める多くの人々。
     同じ「街だというのに、おじいさんのいた街とは雲泥の差です。やはりイッシュはでかかった。
     しかし、と名物のヒウンアイスを舐めながら、おじいさんは苦々しく思っていました。
     大きい街だからでしょうか、人々に余裕はなく、皆自分のことで精いっぱいでとてもではないですが、人のために行動できる人が少なそうです。
     今までは自分に近づいてくる人に見境なくあげていたおじいさんはこまってしまいました。だれがいい人なのか判断する基準を持ち合わせていなかったのです。
     人の良さと言うものが見た目で分からないのが残念です。
     しかし、まだイッシュにきたばかり。これから探せばいいのです。
     溜息を吐きながら、おじいさんはヒウンシティを後にしました。






    【書いていいのよ】
    【好きにしていいのよ】
    【レイニーさん、アルティメットグッドマンお借りしました】


      [No.2098] Limbo 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/12/04(Sun) 20:12:10     106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    <テーマ>
    送 / 贈


    <ワード>
    ◆送 / 贈
    ・そう‐そう〔サウ‐〕【葬送】
     [名](スル)遺体を葬るために墓所まで送ること。のべおくり。送葬。「―する行列」

    ・おくり‐び【送り火】
     盂蘭盆(うらぼん)の最終日、親族の霊を送るために門前などでたく火。門火(かどび)。《季 秋》「―のあとは此世の蚊遣哉/也有」⇔迎え火。

    ・おくり‐ぼん【送り盆】
     盂蘭盆(うらぼん)の最終日で、親族の霊を送る日。《季 秋》「茄子(なす)や瓜一つに流す―/かな女」

    ・かど‐おくり【門送り】
     葬送の際、喪家には行かず自分の家の門口で見送ること。

    ・しょうりょう‐おくり〔シヤウリヤウ‐〕【精霊送り】
     盂蘭盆(うらぼん)の終わる日に、送り火をたいて精霊が帰るのを送ること。たまおくり。

    ・のべ‐おくり【野辺送り】
     死者を火葬場または埋葬地まで見送ること。また、その行列や葬式。野辺の送り。野送り。

    ・ぼん‐おくり【盆送り】
     盂蘭盆(うらぼん)の最後の日に、精霊(しょうりょう)を送り返し、供え物を辻・川・海などに捨てたり流したりする行事。精霊送り。送り盆。

    ・おくり‐もの【贈(り)物】
     人に贈る物。進物(しんもつ)。プレゼント。

    ・おく・る【贈る】
     [動ラ五(四)]《「送る」と同語源》感謝や祝福などの気持ちを込めて、人に金品などを与える。贈り物をする。「記念品を―・る」「はなむけの言葉を―・る」

    ◆Limbo
    ・リンボ,地獄の辺土 《地獄と天国の間にあり,キリスト教以前の正しい人,洗礼を受けなかった小児,異教徒,白痴者の霊魂の住む所》.
    ・忘却; 無視された状態.
    ・リンボ, 古聖所:天国と地獄の中間の場所;洗礼を受けなかった幼児やキリスト降誕以前に死んだ善人の霊魂がとどまるとされる
     →the limbo of infants(幼児リンボ界)
    ・忘却のかなた
     →be cast into limbo(忘れ去られる) 
    ・(両極端の)中間状態[地帯];どっちつかずの状態.
    ・拘置所, 刑務所;拘置状態, 拘禁.
     →in limbo(不安定な状態で, 宙ぶらりんの状態で).
    ・虚無

    ◆Animo
    アニモ。作中のポリゴンにつけられた名前
     →エスペラントは「人工言語」、人為的に生み出された言語
      →ポリゴンは「人工のポケモン」という触れ込み
     →アニモ[animo]は「魂」「霊魂」などを意味する


    <交通整理>
    ・死者との別れを「送る」と表現するのは間違いのない事実。つまり、死者の魂は確実に「何処かへ辿りつく」と考えられている。
    ・主人公はアニモに魂が宿っていると考えている。アニモの停止は死と同義であり、アニモの魂もまた「何処かへ辿りつく」必要があると考える。
    ・肉体が物理的に喪失するまで、魂は眠ったまま宿ると考えられる。送り火山でアニモを葬ろうとしたのはそれが理由。
    ・しかし送り火山にて、端的に言うと「アニモは生物ではない。無生物だ」と拒絶されてしまった。ここでアニモの「生物である」という前提が揺らぐ。
    ・この前提の揺らぎが、主人公の思考に大きな影響を与えている。アニモは生物なのか?無生物なのか?
    ・スピアーの針を供養する「針供養」、ジュペッタにならないために人形を供養する「人形供養」など、無機物に魂が宿っているかのような風習の数々。
    ・無生物であっても魂は宿るのか?無生物のアニモに魂が宿るなら、その魂はどのようにして送られるべきか?
    ・アニモは「デジタル・セメタリー・サービス」に「送られ」(送信/伝送/伝送)、今の形を「デジタルで寸分違わず」留めたまま、サーバで眠りに付く。
    ・肉体の喪失=魂の遊離が前提ならば、アニモの魂は永遠に留められたまま、天国にも地獄にも行けない一つの場所に留まることになる、それこそがLimbo。サーバはLimboである。
    ・主人公は、アニモをサーバに「送った」のが正しいのか、ずっと答えを出せずに迷っている。


    <シチュエーション>
    ・【魂はある】針を供養するおばあさんとスピアー
    ・【魂はある】古くなった人形を供養する少女
    ・【魂はある】森羅万象に魂が宿ると主人公に聞かせたおばあちゃん
    ・【魂はある】人類が「誕生させた」と説明するプレゼンター
    ・【魂はない】壊れた竹蜻蛉を捨てる少年
    ・【魂はない】アニモの供養を拒絶する送り火山
    ・【魂はない】アニモの死を「機能停止」と表現するカスタマーサポート


    <デフィニション>
    ◆アニモ
     主人公のポリゴンの名前。享年十五歳。由来はエスペラント語の「魂」(Animo)から。

    ◆デジタル・セメタリー・サービス
     シルフ社が提供する「電子霊園」。亡くなったポケモンをデータ化して引き取り、「当時の姿を留めたまま」半永久的に保管するサービス。


    <募集テーマと作品テーマの摺り合わせ>
    ・魂は送り込まれ、送られてゆく
    ・魂は如何にして送り込まれる?
    ・魂を送り込むのは誰?
    ・魂は何処へ送られてゆく?


    <ポケモン小説としての意義>
    ・ポリゴンは生物か?無生物か?
    ・ポリゴンの終末は死か?停止か?
    ・ポリゴンが生物であるなら、魂は宿るのか?
    ・魂が宿るとするなら、その魂はどこへ送られるのか?


    <タイトルの意味>
    ◆存在
    ・キリスト教以前の正しい人
     →ポリゴンにとっての「キリスト」はいない
     →ポリゴンの善悪を裁く者の不在
     
    ◆状態
    ・どっちつかずの状態・中間状態・不安定な状態
     →生物か?無生物か?
     →ポケモンか?プログラムか?
     →死か?停止か?
    ・無視された状態・忘却のかなた
     →ポリゴンの魂は人々に無視されている or 忘れられている
     →魂があるということを無視されている or 忘れられている

    ◆場所
    ・天国と地獄の中間の場所
     →天国にも地獄にも行けない
     →中間・中途半端・どっちつかず
    ・無用なものの捨て場所
     →機能停止したポリゴンはデータとしてサーバに送られる
    ・拘置所
     →サーバに留められたポリゴンは天国にも地獄にも行けない


    <何が言いたいのか?>
    ◆二次創作的アプローチ
     「ポリゴンに魂は宿るのか?」

    ◆テーマ的アプローチ
     「ポリゴンの魂はどこへ送られるのか?」

    ◆タイトル的アプローチ
     どっちつかずの状態
      →ポリゴンは生物?無生物? 魂は宿る?宿らない?

     中間状態
      →生物でも無生物でもない、魂が宿るとも宿らないとも限らない
     
     無視された状態
      →ポリゴンは生物でありながら、それが無視されている?

     天国と地獄の中間の場所
      →ポリゴンは天国と地獄、そのどちらにも行けない

     無用なものの捨て場所
      →ポリゴンの送られるサーバは、無用となったポリゴンの捨て場所

     拘置所
      →天国にも地獄にも行けないまま、ポリゴンは半永久的にサーバに拘置される


    <時系列整理>
    ・主人公の誕生とアニモの登場
    ・主人公とアニモのふれ合い
    ・おばあちゃんとアニモの関係
    ・おばあちゃんの死
    ・アニモの死
    ・アニモの葬儀が拒絶される
    ・アニモをDCSへ送ることになる
    ・スマートフォンに写るアニモの姿を見る


    <実際の書き起こし順の整理>
    ・スマートフォンで何かのデータをダウンロードする主人公
    ・スマートフォンで何かをダウンロードする少女→話の導入
    ・画面には「アニモ」と書かれている→アニモの存在を定義
    ・生まれた次の月に家へやってきたアニモ→生まれたときからずっと一緒にいたことの定義
    ・父親にアニモは玩具ではないと諭される→アニモを「生き物」と考えるようになったきっかけ
    ・竹トンボを壊す少年→無生物は「死ぬ」のではなく「壊れる」
    ・一週間前の出来事が脳裏をよぎる→次の回想へのつなぎ
    ・アニモが死ぬ/機能停止する→アニモが既に亡くなっていることを記す
    ・変わらないように変わってしまった→重要なメッセージ「変わらないように、変わってしまった」
    ・人形供養をする少女→無生物にも魂が宿ると言う考え方の暗示
    ・その傍らには祖母と思しき女性が立っている→祖母の登場に向けての布石
    ・祖母を一年前に亡くしている→アニモの死を受け入れられたのは、祖母を同じように亡くしていたから
    ・祖母は常々、あらゆるものに魂が宿ると言っていた→祖母の言葉が、主人公に大きな影響を与えている
    ・粗大ゴミの山を見つめる→葬られること無く、ただ積み重ねられた無生物
    ・かつて使われていた痕跡が多く残っている→かつてはどこかで使われ、確かに居場所があったはず、ということの示唆
    ・送り火山に葬ろうとしたところ拒絶される→非常に重要なシーン。送り火山に拒絶される
    ・ポリゴンは生物ではないという→ポリゴンは生物ではなく無生物であり、そもそも送るべき魂が存在しない
    ・スクラップしておいた古い新聞サイトの記事→次へのつなぎ
    ・架空の人物の告別式・葬式が行われたと言う話→架空の人物でさえ時として別れの儀式が行われることの表現
    ・カスタマーサポートに「再起動」するよう言われる→アニモが魂のない無生物であると突きつけられる
    ・プログラムを初期化すると、過去の記憶は消えてしまう→再生ではなく「再起動」であることを示す、ポリゴンが「プログラム」であることを表現する
    ・ダウンロードの終わったスマートフォン→次へのつなぎ
    ・片隅に「DCS」の文字が見える→次へのつなぎ
    ・シルフから「デジタル・セメタリー・サービス」を提供される→デジタル・セメタリー・サービスの定義
    ・促されるまま、少女はアニモをDSSへ送信する→アニモをDCSへ「送信(伝送)」する
    ・動いていた頃のアニモの写真→ダウンロードが完了した
    ・ニュースメールのプレビュー「人類が初めて作り出したポケモン・ポリゴン」→「作り出した」という言葉を使い、ポリゴンが「生み出された」のではなく「作られた」のだと強調する
    ・友達と喧嘩をして落ち込んでいると、アニモが寄り添ってくれた→アニモの心遣いと優しさ
    ・固い無機質な感触に、言いようの無い頼り甲斐を覚えた→アニモは確かに意思を持ち、いつも自分の側にいてくれた
    ・少女は問う「あなたをそこに送ったのは、正しいことだったの」→中途半端で割り切れない場所(=Limbo)に立たされた少女が、永遠に変わらない場所(=Limbo)にいるアニモに問い掛ける
    ・写真の中のアニモは、何も言わずにただ視線を送るだけ→アニモは何も語らず、ただいつもと変わらない、変わらなくなってしまった視線を「送る」だけ

    -----------------------------------------------------------


    Limboの構想ノート兼プロット。本編の執筆時間よりこのメモを弄ってる時間のほうが圧倒的に長かった。
    よく見てみると、完成稿ではカットまたは変更された内容も結構あったり。


      [No.2085] プロットとは呼べないものですが・・・(汗 投稿者:クーウィ   投稿日:2011/11/24(Thu) 15:01:58     91clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ハブザン  真面目なハブネークとガサツ者のザングース  赤い月  阿蘇山(フエンタウン)  赤と青  神主とその娘  温泉郷  背後から奇襲  ずっと負け無し殺すならオマエ


    『赤い月』のプロット(?)です。・・・プロットっつーかメモだけどね(汗)
    物語の骨格は大体5分ぐらいで出来たので、その時思い付いた大まかな設定を一行のメモとして残したもんです。

    後は空いた時間に思い出して直書き。 ・・・基本何でもこのスタイルですので、ちゃんとプロットを用意出来る方には頭が上がりませんです(汗)
    もっと修行しねぇと・・・


      [No.2082] 友人がポケモンに侵されている件について 投稿者:紀成   投稿日:2011/11/21(Mon) 19:18:50     78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    カントー地方……間違えた、関東地方、西寄り。マサラタウンほどではないけどタマムシシティ、ヤマブキシティには程遠い土地に、その学校はある。
    来年度の受験生向けのパンフを見せてもらったが、そこには『おいこの学校何処だよ』と通う私が突っ込んでしまうくらい嘘で覆われた内容と写真が載せられていた。堂々と野球部載せんなよ。知ってるんだぞ、一学期期末試験の結果発表の日、お前達が甲子園予選を戦いに行ってコールド負けして帰ってきたこと。なんだこの爽やかな笑顔は。この予算泥棒。
    これ以上書くとカゲボウズ塗れになりそうなのでやめておく。ことの始まりは、甲子園おろか夏休みも終わって二学期が始まって二週間近く経った日のことだった――


    これはどういうことなのだろう。パンデミックなのか。今まで何の予兆も無かった。私はまだいい。元々好きでこうしてサイトに小説を投稿しているくらいだから。だが、彼らは。彼らはどうなってしまったのか。
    女子トイレ。教師陣が使えないのをいいことに休み時間は携帯電話による通話、メール、その他諸々校則違反のオンパレードの地となる。
    そこの一角で、友人がDSをいじっていた。覗かせてもらえば、そこはイッシュ地方だった。
    「お前ポケモン持ってたの」
    「最近ハマった」
    よくもまあぬけぬけと言えるものだ。中一の時私の趣味を聞いて『この歳でポケモン?ワロスwww』などと言っていたお前が!
    「ブラックか……」
    「紀成は持ってんの?」
    「あたぼうよ」
    何か意味が違う気がしたが、彼女は気にしない。図鑑を見てため息をつく。
    「あー、サファイア今更やるのもな」
    「図鑑完成か」
    「紀成ってどのくらいポケモン持ってんの?」
    ここでちょいと自慢したくなる。小学校の時はテレビゲームなんて持っていなかった。コロシアムをプレイしている男子が当時は珍しいジョウト地方の御三家を持っていて、羨ましかった覚えがある。
    今度は私がその男子になる番だ!
    「ほとんど持ってるよ」
    友人が喰らいついてきた。
    「最初の三匹は!?」
    「え……うん。最終進化系なら」
    「タマゴ頂戴!」

    とまあ、ここまでで『中間終わったらね』と言って戻る。いやー驚いた。メアド交換して、中間終わった後で『欲しい奴あったらメールして。タマゴ生ませるから』とソフトを渡す。
    で、その夜のこと。原稿をしていたら、メール着信の合図の曲が流れてきた。差出人は友人。

    『おいなんでこんな伝説持ってんだよ』

    そりゃあ、サファイア→パール→プラチナ→ソウルシルバー→ブラックと経由してきたんだもの。プラチナは数回やり直してギラティナが二体くらいいたはずだ。確かディアルガも二体、ルギアも……
    『どれか一匹くれない?』
    さてどうしようか。被ってるやつを教えてもらう。一番弱いディアルガをあげることにした。イベントで入手したものだ。
    『ありがとう!』

    それから早二ヶ月――

    11月21日、月曜日、一時限目。左斜め前の友人が下を向いたまま動かない。ゲームだ。しかも機種はかなり古い。十年くらい前に発売されたGBA。まだ充電できないSPより前のモデルだ。今の小学生に見せたら、きっとカチンとくる答えが返ってくることだろう。何せ白黒画面のゲームの存在を、『戦後?』というくらいだから。
    だがしかし。いやしかし。入っているソフトがいやに大きい。アドバンスのソフトはきっちり挿入できるサイズのはずだ。だが今入っている物は半分以上はみ出ている。
    ……まさか。
    休み時間、見せてもらった。サファイアより色が少なく、グラフィックも粗い。ヒノアラシが戦っている。
    そのまさかだった。

    彼女は、ポケモン『銀』をプレイしていたのだった。

    「ちょっと、電気ランプ点滅してるんだけど」
    「ああ、何かメモリ切れちゃって、セーブできないんだよね」
    「え、じゃあこのまま?」
    「そうなるね」

    二次元目の日本史。隣の男子がしきりにその古いアドバンスと格闘している。どうやらジム戦らしい。セーブできないのは辛い。一度負けて、鍛えなおしたら勝てたという。ちなみに所要時間、四十分くらい。
    一時限の時間は五十分。何やってんだ、お前ら。
    そして三時限目前の十分休み。さっきの友人がブラックをプレイしている。ディアルガが戦っている。
    「おい紀成、このディアルガ、お前がくれたやつだよ」
    「……」

    すっかり忘れていた。ゴメン、ディアルガ。


    ――――
    オチなし。でも本当のこと。いいよね、ポケモン(遠い目)


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