|
ミナモシティから船で半日ほど東へいったところに、トクサネという小さな島がある。
標高が最大でも280メートルしかないこの島は、今ではこの国唯一の宇宙センターがあることで有名だが、かつては椰子の林とさとうきびや芋の畑があるだけの小島であった。
島の人々は、畑で採れる作物と海の恵みを糧とし、島の周辺に生息するパールルの真珠やそれを使った工芸品でホウエンの人々と交易を行いながら慎ましやかに暮らしていた。しかし、小さく平らな島であるので、一度嵐に襲われれば、僅かな耕地はみんなだめになってしまう。しかも丁度潮の流れのぶつかるところにあるこの島にはそういうことが頻繁にあったので、島民の暮らしはいつも苦しかった。
ホウエンには星や隕石に纏わる伝承が多いが、宇宙センターを有するトクサネも例外ではない。科学の進んだ今では廃れてしまった話だが、この島の人々にはオホシサマという存在に島の暮らしが良くなることを願う風習があった。オホシサマは色の白い人間の子供のようなすがたをした神様で、島の人々が苦しんでいると涙を流し、その涙が海に落ちると漁場を豊かにし、畑に落ちると実りを多くするのだという。
旧暦の7月7日にある星祭りの日の夜に、オホシサマは家を一軒一軒まわって、その家に苦しいことや悲しいことがあるだけ涙を流す。なので人々はこの日は仕事を早くに終えて、家の中で静かにしているのであった。騒がしい家にはオホシサマが近寄らず、恵みを受けることができないからである。
今はもう無くなってしまったが、昔は島の北側の林に小さな祠があり、オホシサマを祀る白い岩が置かれていた。星祭りの日にはこの島の巫女が青い涙の色の短冊をこの白い岩に貼り、島の人々が豊かに暮らせるよう願ったのだという。
このようにトクサネの人々は島の全ての良いことはオホシサマがもたらしてくれると信じていたのだが、時には恐ろしい願いをオホシサマに祈ることがあった。
先に記したようにトクサネの人々の暮らしは決して楽なものではなかった。高い山もない小さな島は数日雨が降らなかっただけで草木も人も干からびてしまう。台風が来れば畑は荒れ、時化が続けば頼みの海にも出られない。人々がいよいよ飢えと乾きに苦しんだ時には、島の巫女は祠の白い岩に赤い短冊を貼ったのだという。これは何を願ったものかというと、島の近くを通る交易船が遭難するようにということなのだった。人々は遭難した人々をよく助け、その礼として生活に必要な色々のものをもらうわけだが、良くない心の持ち主や真に困窮した者は難破した船から盗みもしたという。言い伝えによるとこの赤い短冊を貼られるとオホシサマは赤い涙を流すということだが、船が遭難するようにという願い事をすることは、まさに人の血が流れる恐ろしい祈りであった。
トクサネのすぐ北東には洞穴の開いた小さな島があるが、あの辺りは潮の流れの関係で、船がよく座礁するところであった。そしてそこを通る船はホウエンに行く船ではなかったので、島民の気が咎めることもまだ少なかったのだ。あるいは祠がその小島を見通せる北東に建てられた理由もその辺りにあったのかもしれない。
難破船のもたらすものは、食料や交易品はもちろん、破損した材木さえも家具材として人々の生活の大きな糧となった。例え島から離れて沈んでしまっても、それを糧として多くのポケモン達が集まり漁場が豊かになり、島の暮らしを支えてくれた。決して心地良い話ではないため、島の人々はあまり口に出してはこういうことを言わないが、当時の人々がどのような気持ちで最後の願いを赤い短冊に託したかを思うと、簡単に責められる話ではない。
今では宇宙センターとロケットの発射台ができたためにオホシサマの祠は椰子の林ごとなくなってしまい、白い岩だけがロケット発射実験の成功を願うものとして島の中央に置かれるようになった。
○『冒険手帳』(谷口尚規・石川球太、21世紀ブックス、1972年) |
「ああ、やっとみつけた。こんな所にいたんだ」
身を隠していた草むらが掻き分けられ、人の声がした。疲れたような、安心したような、そして何より、何かを達成したことによる充足に満ちているようなその声は、森の夜風によく溶ける。二つの手に分けられて揺れる草むらから、声の主たる顔がこちらを覗いていた。
「この世界はどうにも複雑だから、随分時間がかかってしまったよ。先も見通しにくいし、まだ感覚が掴めない。それに俺にとっては、ここは少し色鮮やかすぎる」
その人間は、そう言って笑う人間は、背にした夜の森からなんだか浮いているように見えた。浅いとはいえ眠りに落ちていた、まだ夜目に慣れない自分の視力がそうさせているのかと思い至ったのだけれども、恐らく理由はそれだけでは無い。ここにも人間はよく訪れるが、目の前にいる存在はその、いつも目にするような人間とは大きく異なっていた。
まるでそこだけ切り取られたように、ぼやけて見える彼の姿。前つばの帽子と動きやすそうな軽装、半袖のジャケットと長いズボンという装いから辛うじて少年であることだけは読み取れるが、顔の造形や服の細部までは知り得ることが出来ない。彼を構成するパーツは酷く粗いものとして目に映り、周囲の草木や空と比べると、像が崩れ落ちてしまったようにさえ思えてくる。
顔を初め、個人を特定出来る要素がまるで欠落した少年。不出来な映像を投射したように、不自然にそこに立つ人間。
しかし自分は、自分だけは彼を知っている。
「久しぶりだな。やっぱり、お前は今でも森にいるんだ」
少年はそう言ってしゃがみ込み、目線をこちらに合わせてきた。覗き込む瞳は髪と同じ黒。帽子と上着は赤い色。背負ったリュックと長ズボンは、それよりもやや薄い橙色。それ以外は、みんな白。
紺碧の空と新緑の森、黄金に輝く星を背景にして、彼は、白。
「お前は、こんな色をしていたんだな」
彼の表情が笑みへと組み変わる。人間の表情の変化を「組み変わる」と形容するのはおかしいかもしれないけれど、彼に対してはそうとしか言えなかった。
「黄色い体、赤い頬。それに、こんなにぷくぷくしてるだなんて知らなかった」
笑顔の少年の手が、頬や脇腹をつついていく。やめてくれくすぐったい、と言おうとしたけれども当然、自分の声は人間の言語になどなりやしない。同族にだけ伝わる間抜けな泣き声が夜の森に響く。それを聞いて、「いつの間に、そんな可愛らしい声になったんだ」と彼はあの頃と変わらぬ、平らな声で笑って見せた。
「でもな。そうだよな。もう、17年も経ったんだもんな」
そう呟いて、頭を撫でる彼の姿はオレンジ色。色鮮やかな景色を背にしても少しだって染まることの無い、黒と白と赤と橙だけで構成された、たった一色のオレンジ色なのだ。まるで夕焼けに照らされているように。夕陽を浴びて、眩しく光っているように。
ここには夜がある。朝も来る。昼だって訪れる。雨が降ることもある。春が来て夏が過ぎ、秋が去れば冬がやってくる。だけど、昔は違った。彼と共に大地を駆け、海を渡り、空を飛んでいたあの頃は、世界は永遠に夕方であったのだ。どんな時でも、何があっても、世界はいつだって優しくて温かくて、終わりを迎えそうで迎えない、夕方だった。何もかもがオレンジ色に染め上げられる、そんな、世界だったのだ。
彼は、夕方の世界の英雄だ。
「なあ、ピカチュウ。俺は楽しかったよ」
かつて、彼と共に夕方の世界を旅していた。沢山のポケモンと出会って、沢山のトレーナーと戦った。八つのジムバッジを集めて、三匹の鳥の伝説を知って、四天王とバトルをして、幼馴染と勝負を重ねて、最強のポケモンと恐れられた科学技術の産物と友達になった。
色々な所に行った。色々なものを見た。あの、夕方の世界で。
彼と、一緒に。
「それだけ言いにきたんだ。これから、この、夜と朝が訪れる世界で旅を始めるお前に」
少年は笑う。ちっとも鮮やかじゃない、綺麗なんかじゃないその姿で。昔は自分とて似たようなものであったのに、今ではもう、少年と自分は別のものなのだと思ってしまう自分がいた。
それは果たして喜ばしいことなのか、それとも嘆くべきことなのか。そんなことは自分にとっても、少年にとっても少しも重要では無かった。もう、旅は終わったのだ。遥か昔、こうして森で待っていた自分を少年が見つけたことで始まった旅は、夕方の世界が紡ぐ旅路は、とっくの昔に終わっている。これから先に待っているのは、この世界での旅なのだから。
「お前と一緒に、旅を出来て良かったよ」
それじゃ、さよなら。明るく弾んだ声でそう告げて、少年が立ち上がった。その姿は相変わらず、夕陽に照らされたようなオレンジ色のままである。朝の光も夜の闇を知らない、夕方の少年は、粗っぽい表情を緩ませながら背を向けた。
少年が去っていく。追いかけはしなかった。自分のするべきこと、自分のやれることは少年と共に夕方の世界へ帰ることではないとわかっているから。少年と一緒に旅をする、夕方の世界の物語は、とうの昔に終わっているのだ。
今の役目は、この世界でこうやって待ち続けること。あの日のように。あの時と同じように。
少年の故郷からそう遠くない森の中で、少年を待つことが、今の自分に出来ることである。
遠ざかった足音が近づいてくる。それは少年のものではなく、しかし新たに「少年」たり得る者のものだ。
揺れる草むらの間からそっと覗く。草木や空と同じだけの彩と質感を持つ、その姿。サングラスを乗せた赤い帽子に青のジャケット、ブーツに入れたズボンと品の良いショルダーバッグ。
この少年との旅は、どんなものになるのだろう。夕方が終わって夜が来て、朝を迎えるこの世界での旅は。
そんな思いを胸にしまって、草むらの向こうに顔を出す。
さあ、次なる旅に連れて行ってくれ。色鮮やかな世界の、少年よ。
「そのモココは『わるい』モココです。新聞に載っていました」
ぼくの言葉に、お姉さんが伸ばしかけた腕を止める。
「近づいてはいけません。研究所の悪い人たちが、ポケモンを悪者に作り変えているのです」
「ふむふむ。悪い奴、か」
お姉さんは真面目な顔で頷いて、ぼくの方を振り返った。図鑑で見る姿よりも黒みがかったピンク色をした『わるい』モココは、ぼくたちに怒るでもなくぼうっとしている。
ぼくを見て、お姉さんは質問した。
「その『わるい』っていうのは、誰が決めたんだい?」
「偉い学者さんたちです。悪い人たちは、悪いポケモンを作っているのです。もう少ししたら警察や政府の人たちが、悪い人たちや悪いポケモンを連れていくとニュースでやっていました」
「そうかそうか。なるほどね。君は相変わらず物知りだ」
「ぼくは沢山のことを知らなければいけないのです」
ぼくはそう答えた。お姉さんは、そうだな、君は物知りな大人になるのだもんな、と笑った。
「でもなぁ、君」
お姉さんの顔が、ぼくから離れて『わるい』モココの方を向く。ぼくはお姉さんの横顔が好きだ。ぼくやお母さんや、学校の先生よりも高い鼻が綺麗なシルエットを作っている。
その横顔で、お姉さんは言った。
「大人というものは、良いか悪いかで判断するんじゃないんだ」
ここは一つ、大人の判断をしたらどうだろう。
お姉さんは、ぼくにそう言った。
「大人とは、損か得かで物事を決めるんだ」
「では、この『わるい』モココから逃げることはぼくたちにとって損なことということでしょうか。連れて帰ることが、ぼくたちにとって得なのでしょうか」
「損かもしれない。得かもしれない。それは君が決めるんだよ」
わかりませんよ、ぼくはそう言いたかった。だけどそれはかっこ悪いような気がして、ぼくは言われるままに頷いていた。お姉さんは、そんなぼくを笑って眺めていた。
曖昧なその微笑み方は、お姉さんがよくするものであった。ぼくたちから数メートル離れたところで、『わるい』モココは逃げもせず、かといって襲ってくるということも無く、ただただこちらを見ているのだった。
寒風が僕の頬を掠っていく。今年の冬は一段と厳しいという予報は果たして正解だったようで、道行く人々は皆寒さに堪えるように俯いていた。
あれからもう二十年が経った。あの後すぐに『わるい』ポケモンを作っていた組織が明るみに出て、ロケット団の息がかかっていたこともあって間もなく粛清されたという。ポケモンの肉体改造を行っていた研究所は差し押さえられ、関わっていた者は全員警察の手に捕らえられたか、或いは何処かへ姿を消した。哀れ手にかけられたポケモンは研究所で観察されていたのも、近くに放されたものも、その全てが政府によって回収されたらしい。研究所が置かれていたせいで一躍大騒ぎとなった僕の故郷の島はしかし、やがては世間の意識からも薄れていき、同時に僕の淡くも苦い恋も終焉を迎えることとなった。
島を出て長いことが経った。僕は確かに大人になった。
でも、あの日夢見た物知りからは程遠い。知ってることなどほんの僅かで、僕はわからないことばかりで生きている。どうしてロケット団はポケモンを改造したのかも、『わるい』モココが何を以て悪いとされているのかも、『わるい』モココと出会ってから数年後に結婚し、薬局の受付を辞めて島を出ていったお姉さんが今どこにいるのかも。
お姉さんの言っていた、『損か得かで物事を決める』という大人のやり方も。
僕は何もわからないまま、損得勘定も出来ないまま、今までただただ生きてきたのである。
都会の生活にも大分慣れた。何だかんだで『わるい』モココは今日までずっと、僕のポケモンとして暮らし続けている。『わるい』ポケモンが回収された時はどうなることかと思ったけれど、普通の個体よりも体毛や皮膚が多少黒いだけの『わるい』モココの正体は誰にも言及されることが無かったのだ。母親や潔癖の友人から、風呂に入れてやった方がいいんじゃないかと苦い顔をされることが何度かあったくらいである。
しかしそれでも、僕にはわからなかった。あの日、彼女は『得な方を選びなさい』と言ったのだ。そしてその言葉に、僕は『わるい』モココを連れて帰る選択肢を選んだのだ。だけど、それが果たして得だったのか、僕にとって有益な選択であったのか。
僕には知る術が無い。
一際強い風が吹く。出来る限りの防寒をしているつもりだけれど、全身が鳥肌を立てるようだった。マフラーを巻いた首だけはまだ温かい方であったけれど、無いよりはマシであるという程度である。
毎年夏になるとモココの毛を刈らなくてはならないのだけど、この前の夏に刈った毛で編んだマフラーだ。肉体改造の影響か、通常のモココと違って『わるい』モココの毛は電気を溜め込む力が劣るらしい。素人の、何の加工もしていない状態でも静電気を起こしやすい程度である。日常的に使えるマフラーを手に入れた、という観点で考えると、あの日の選択は確かに得であったのだろう。
だが、全体的に見るとどうだろうか。ポケモン一匹育てる手間も費用も馬鹿にならないし、毎年毎年毛を刈ってやらないとならない現状はちっとも得なんて言えやしない。毛刈り器を買った店の従業員に乗せられて購入してしまった編み物セットと入門書だって、紛れも無い散財である。不慣れな両手の作ったマフラーは目が粗く冷たい風をよく通し、これなら既製品の、それも静電気を帯びにくいものなどを買った方が遥かに有用だったであろう。
そう考えてみても、果たして、僕の選択は得だったのだと言えるのだろうか。
大人は損か得かで物事を決めるのだと。
自分の得になる方を選びなさいと。
あなたはそう言ったけれど、僕はまだわからないままだ。
沢山のことを知った大人になる、と言ったのに。
「えー!? 迎えに来てくれないの!?」
不意に、高い声がして我に返る。
視線だけで声の方を見ると、僕と同じくバスを待っていたと思しき女子学生が携帯電話を耳に当てて、何かを抗議するように話をしていた。
「今日すごい寒いのに! だって天気予報雪だよ!? 歩いて帰るだなんて嫌だよ!」
彼女の言う通り、空は今にも冷たいものを降らしそうな重い灰色で覆われている。どうやらバスでは無く迎えの車を待っていたらしい彼女は、ストラップを沢山つけた携帯に向かって不満げな声をあげていた。
だけど、僕は空模様も携帯の飾りも、そんなものはどうでも良かった。視線のみならず、彼女の方へ顔が向く。
怒ったように口を尖らす、彼女の横顔。その横顔は、確かに僕の記憶の中にあった。
「…………あの、」
電話を切った女子学生に声をかける。普段ならば、いや、有事の際ですらしないであろう行動は、半ば無意識のうちにしているようだった。
少女が怪訝そうな顔で僕を見る。その顔に向けて、僕は言葉を続けていく。
「寒い、ですよね。歩かなきゃいけないみたいですし。雪ですし」
少女の顔に浮かぶ色が、怪訝から不審者を見るそれに変わっていく。当然だ。僕だって彼女のたちばだったなら、同じことを思うであろう。
だけど口は止まらなかった。こんなの、絶対損であるだろうに。それでも、僕の言葉は止まってくれなかった。
「これ……この、マフラー。使ってください。無いよりマシでしょうから。冷えるといけない、と思いますし、今日寒いですから」
「………………あ、いえ、ちょっと……」
微かに震える声で、少女が後ずさる。怖がらせていることなど、誰の目にも明らかだ。やめろ。自分の中で声がする。やめた方がいい。そうに決まっている。
だけど。
「わかってます、気持ち悪い、ですよね……僕もそう思います、こんなの悪いことだと思ってます。……ですが、良いか悪いかではなく、…………では、なく」
「…………………………」
「損か得かで、物事を決めてみてもらえないでしょうか」
乾いた口でそう言うと、女子学生の目が丸くなったのが見てとれた。瞬きもせず、僕を見つめるその視線は僕の時間を止めているようにすら思えてくる。夕方の駅前は慌ただしく、行き交う人たちは僕たちのことなど気にも留めていない。ただ、灰色の空の下で、僕は少女と相対していた。
そして、時間は動き出す。首から解いた、僕の差し出していたマフラーを、少女はすっと受け取った。「わかった」と曖昧に微笑んだその頬が、記憶のそれにぴたりと重なる。
「こんなの、どう考えても怪しすぎるけど……でも、お母さんと同じこと言ってるから」
ありがたく頂戴します、少女はそう言ってはにかんだ。寒さのせいだろうか、平均よりも高い鼻が紅く染まっているのがどこか幻のようにすら見えた。
僕は何も言えないまま、彼女の首にマフラーが巻かれていくのを眺めていた。じゃあ、ありがとうございましたと歌うように言いながら、彼女が軽い足取りでロータリーから消えてしまっても、まだ。
防寒具の無くなった首筋は酷く寒々しかった。見計らったように降り始めた雪は、外気に晒された僕の素肌に落ちては溶ける。バスが来るまでの十分間、感じる寒さが増す一方であることは容易に予想出来た。
損か得かで言えば、紛れも無く損である。
何もかもが、誰がどう見たって損である。
しかし、『わるい』ことは。
何一つ。
あの日、あなたが教えてくれたその理論を、僕はまだわからないままである。それでもあなたの言ったことは、僕とあなたの中に残っているのだろう。知らないことばかりの僕の中にも、まだ。
かつての彼女に面影の相似した少女がいなくなったロータリーで、首筋に寒さを覚える僕は、モココの待つ家へと帰るバスを待つ。
換気の終わった部屋の片隅、置かれたストーブを付けようとして、やめた。九時を回った室内はひんやりした空気が漂っているものの突き刺すような、と形容する程の寒さでも無くて、柔らかな冷たさが肌を撫でる程度である。ほんの一週間前までは、窓なんて開けたら震えが止まらなくなったというのに随分と違う。
そろそろカーテンも一度洗わなくては、と思いながらベランダに続く窓を見やる。と、室外機の傍に張り付いて、じっとしているトランセルを視界に入れる事が出来る。今はともかく冬真っ盛りの時節も、雪が降るような寒空の下にも、この蛹はこうして外に居続けている。寒くは無いのだろうか、と思ってもトランセルを外に出しているのは、君がそうすべきと言ったからだ。
急激なレベル上げをしない限り、自然界のトランセルの多くは春に羽化をする。彼らがバタフリーとなって蛹から出てくるためには、厳しい冬の寒さに耐えうることが条件になるそうだ。寒さと戦うことが彼らにとってのレベル上げであり、バタフリーとなってからの健康な身体の生成にも関わるらしい。だから、暖房で温められた部屋で育てるよりも外に出しておいた方がトランセルのために良いというのだ。
その君は、ストーブが消せない寒さの時分に出ていった。
君もまた羽化を待つカラサリスを連れていて、君がまだ僕の部屋にいた頃は、あの緑色の蛹の隣に純白の蛹が寄り添っていたものである。霜が降りる朝も北風が吹きさらす昼も、星までもが凍り付くのではないかと思われるほどの寒い夜にも、ベランダで隣り合ってじっとしている一対の蛹を、君は窓から少しも飽かずに覗いていた。寒くは無いのかな、そう僕が聞いてみると、「それが大事なんだよ」と君は決まって返してきた。
ストーブのコンセントを抜く。その行為を自分でするのは久しぶりだった。こういったことは、いつだって君がやってくれていたのだから。
君がいなくなったこの部屋は、ずっと静かになったと思う。だけど、ずっと寒くはならなかった。君がここを出ていった辺りから今年の寒さは徐々に和らぎ始めていて、冬の影は町から少しずつ消えている。
君がいないために広く感じる布団も、君がいた頃よりも冷たくない。君がいないために誰も座らなくなった椅子も、君がいた頃よりも暖かだ。君がいないためにその半分以上が空になってしまったクローゼットの中も、君がいた頃よりも幾分穏やかな空気をそっと漂わせている。
『寒いね』
僕と君、どちらが先に言い出したのかはわからない。僕だった気もするし、君だったようにも思える。しかしどちらにしても僕たちは、冬の終わりと同時に自分たちにも終わりを迎えたのだ。寒くて厳しい冬に耐えて、春に蝶と成る日を夢見てひたすら待ち続ける蛹とは違い、春を待つことが出来なかった僕と君は、冬の寒さに別れを告げるようにして、お互いからも背を向けていた。
寒いね。僕の言葉に、君は「だからここにいたくないんだ」と乾ききった声で言った。ここ、というのが僕の部屋を指しているのか、それとも僕の住まうカントー地方を指しているのかまでは測り兼ねる。ホウエン地方で生まれ育った君は、いつだって温かいということが当たり前だと思っていた。ホウエンの冬はこんなに寒くないんだ、そう文句を言いながらストーブの前に陣取る君を、僕は目が覚めるごとに見ることが出来た。
寒いから。君は寒さを忌み嫌っていた。僕も寒いのは好きじゃないよ、と言うと君はいつでも僕の腕を引っ張って、そう温かくもない肌を触れ合わせるのであった。しんと冷え切った夜を隔てたガラス窓の向こう、緑と白の蛹を眺める君の吐いた息が、手を繋ぐ僕たちを映し出すガラスを白く曇らせたものだ。
『なんでカントーはこんなに寒いんだ。カラサリスだって、寒いのは嫌いなのに』
『なら、やっぱり家に入れてあげた方がいいんじゃないかな』
『それは駄目なんだ、だって、寒さに耐えることが必要なんだから』
『きれいなアゲハントになるために』
ここからいなくなった君がどこに行ったのか、僕に知る術は無い。大雪の予報がテレビやネットを騒がせた晩に僕の部屋から出ていった君は、僕に行き先を告げること無く荷物を抱えて靴を履いた。玄関の扉を開く君に、僕が何かを聞くこともまた無かった。これからどうするのかとか、どこに向かうのかとか、そういった話はまるでしなかった。
ただ、君はホウエンに戻ったのだろうと僕は確信している。君の大好きな町に、君の生まれた故郷の町に。君の好きな、春がいっとう早くやって来る町に。冬が満ちたこの場所から旅立って、君は春の町へと帰っていったのだ。
『よい春を』
カラサリスをボールに収め、ここを発つ君は最後にその一言だけを残していった。別れの言葉も罵りの意も、これっきりの愛の文言なんてものなど一つもなかった。よい春を。それだけが、僕に残された君のひとひらだった。
『よい春を』
だから僕も、同じようにそう言ったのだ。その僕の言葉に君は浅く頷いて、何の名残りも見せない呆気無さで扉を閉めて、ここから消えた。僕の部屋には、僕とトランセルだけが取り残された。バタフリーになる日を待つ、トランセルだけが。
きっと今頃、君はもう春を迎えている。ホウエンに春が来たというニュースを見たのは数日前で、カントーよりも幾分暖かそうな映像がテレビに流れていた。
僕たちは春を迎えられなかった。厳しい冬を乗り越えて、共に羽化することは叶わなかった。だけど、君が迎えられていれば、そして僕が迎えられれば、それできっと十分なのだろう。春を迎えたその町で、君が温かい風に吹かれているのなら、僕はそれ以上何も望むことはない。美しい羽を広げたアゲハントと一緒に、君は春の町で笑っている。それがきっと、正しいのだから。
「よい春を」
ふと口から漏れた呟きは誰に向けたものだっただろう。君へのものか、アゲハントとなっているであろうカラサリスへのものか。それとも、澄んだ青空の下に見える、ガラスの向こうで春を待っているトランセルへのものだろうか。それかはたまた、緑の蛹と共にここにいる、自分自身へのものだったのかもしれない。
どの道、もうすぐそこまで春が来ている。君は春を迎えてアゲハントになった。僕も春になったら君のように、バタフリーになれると良いとは思う。
窓を開けてベランダに出ると、トランセルの眼だけが動いて僕を見た。二月終わりの空はよく晴れていて、どこまでも続くようにすら感じられる。この空は繋がっていて君のいるところまで届く、だなんて陳腐なラブソングのようなことを言うつもりは毛頭無いけれど、それでも春は君のいる町から、僕のいる町までやって来る。
柔らかな風が僕とトランセルを包み、その日が近いことを知らせていった。
僕の愛しい女王様。
輝く冠と黄金のドレス。
その身を纏いて包むのは、畏れ多くも瀟洒な力。
天道に照らされ輝く御身、見る者全ての目を奪う。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。煌めく羽は空を行く。
だけども貴女に王は居ない。隣の玉座に王は居ない。
貴女と共に君臨し、統治す王は此処には居ない。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
貴女の隣で威厳を放つ、王の代わりに何になろう。
僕は王にはなれないだろう。貴女の王にはなれないだろう。
それでも僕は此処にいる。貴女の隣に何時もいる。
冠も羽織も無いけれど、いつでも貴女と共にいる。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。燃ゆる紅美の骨頂。
だけども貴女に皇女は居ない。花にはにかむ皇女は居ない。
貴女の美と愛生き写し、綻ぶ皇女は此処には居ない。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
貴女によく似た御顔で咲笑う、皇女の代わりに何になろう。
僕は皇女になれないだろう。貴女の皇女になれないだろう。
それでも僕は此処にいる。貴女に向けて微笑みかける。
純情可憐となれないけれど、溢れる笑顔を貴女に捧ぐ。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。国色天香轟かせ。
だけども貴女に皇子は居ない。風に輝く皇子は居ない。
若葉の薫と星の歌、届ける皇子は此処には居ない。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
駆けた世界を貴女に伝う、皇子の代わりに何になろう。
僕は皇子になれないだろう。貴女の皇子になれないだろう。
それでも僕は此処にいる。貴女に幾多を物語る。
木の芽の瑞とは遠かれど、空と海と地貴女に歌う。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。気高き美貌は蜜の味。
だけども貴女に騎士は居ない。剣の見初めた騎士は居ない。
如何なる危機から貴女を守る、不屈の騎士は此処には居ない。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
苦痛の全てを貴女と分かつ、騎士の代わりに何になろう。
僕は騎士にはなれないだろう。貴女の騎士にはなれないだろう。
それでも僕は此処にいる。貴女の横に立っている。
せめて寒風くらいなら、貴女の代わりに受けてやる。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。毒すら甘露に変わり果て。
だけども貴女に侍女は居ない。影に寄り添う侍女は居ない。
何時でも貴女の輝き担う、静かな侍女は此処には居ない。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
貴女の六つの手と代わる、侍女の代わりに何になろう。
僕は侍女にはなれないだろう。貴女の侍女にはなれないだろう。
それでも僕は此処にいる。貴女の美麗を咲かせたい。
二つの手腕と二つの足を、貴女のために使いたい。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。花すら恐れるその婉美。
だけども貴女に兵は居ない。剣盾掲げる兵は居ない。
貴女の命受け一蓮托生、闘う兵は此処には居ない。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
忠実たり得る貴女の力、兵の代わりに何になろう。
僕は兵にはなれないだろう。貴女の兵にはなれないだろう。
それでも僕は此処にいる。死ぬまで貴女に全てを託す。
心の臓が潰える日まで、この身は貴女だけのもの。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。鋭き針には神器も霞む。
だけども貴女に御殿は無い。贅を尽くした御殿は無い。
貴女の息づく処となった、輝く御殿は此処には無い。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
貴女に恥じない絢爛豪華、御殿の代わりに何になろう。
僕は御殿になれないだろう。貴女の御殿になれないだろう。
それでも僕は此処にいる。貴女の還る場所になる。
夜の帳の夢を見る、貴女の休まう場所になる。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。憐香惜玉引き起こし。
だけども貴女に都は無い。民衆息吹く都は無い。
溢れる活気は貴女の誉、幸なる都はは此処に無い。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
善政極まり憧憬満たす、都の代わりに何になろう。
僕は都になれないだろう。貴女の都になれないだろう。
それでも僕は此処にいる。貴女を映す鏡に代わる。
どんなに貴女が素晴らしく、輝けるかを映し出す。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。天より高く地よりも深く。
だけども貴女に御物は無い。寄進をされし御物は無い。
世界を遍く七珍万宝、召されし御物は此処には無い。
それなら僕は何になろう。愛する貴女の何になろう。
此の世の金塊全てに勝る、御物の代わりに何になろう。
僕は御物になれないだろう。貴女の御物になれないだろう。
それでも僕は此処にいる。貴女に絶えない言葉を送る。
玉石絵画に調度品、どれにも負けない想いを告げる。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。何にも持たない女王様。
ある日晴れの日花畑、僕の旅路に添うてから。
小さな蜜蜂身を養て、女帝となったその時も。
貴女は一匹僕といる。何も持たずに僕といる。
紅白球に御身を収め、一匹きりで生きている。
僕は王にも騎士にもなれず、都も御殿もあげられない。
それでも僕は此処にいる。此処で貴女を愛してる。
貴女を慕う無二の民、永遠なる忠誠貴女に誓う。
僕の愛しい女王様。
僕の愛しい女王様。
とても愛しい、女王様。
pixivで趣味のシリーズ物になってるもの。
今回もそこそこ良く書けた気がするからここにも投げる。で、途中まで。
で、今回の主人公はゲッコウガ。野生だけど、一回親しくしているポケモン、バクフーンのトレーナーから渡された酒を飲んで酔っ払って友達のルカリオと捕まった経験がある。
その後また野生に戻った。
-------------------------
別に、この森に来るのは構わないし、住んでも構わない。
ただ、それなりに秩序を守ってくれれば、という前提はある。
目の前の光景は、木々は折られて毒が充満しており、そしてまた、のんびりと暮らしていたポケモン達が等しく死んでいた。
……。
流石に、怒りを覚えざるを得ない。
食べるだけなら別に良い。荒らすとしても、ある程度までなら許容出来る。
ここを荒らした何かは、どう見ても自分の快楽の為にポケモンを殺し、そして無意味にここを荒らしていった。
許す訳にはいかない。
飛行タイプのポケモンが、腹を貫かれ、そして踏みつぶされて死んでいた。守ろうとしただろう卵までもが、全て潰されていた。
貫かれた傷からは、毒の匂いが僅かにした。
人間じゃない。ポケモンだ。それも、きっと野生の。
ここ辺りの光景を見ても、きっと毒タイプのポケモンが関わっていると思えた。そして、こんな貫くような攻撃が出来るポケモンは、自ずと限られて来る。
例えば、スピアー。ただ、スピアーはこんな木々をへし折るような攻撃を出来ただろうか。
そうは思えない。続いて、ニドキング、ニドクイン。
ただ、それも違う気がした。死んでいるポケモンの大半はそういう貫かれて死んでいた。ニドキングやニドクインは、あんなちっこい自分の角を主な武器として使わないだろう。強靭な四肢がある。
ドラピオン。何か違う気がする。あの爪でこんな真直ぐ貫く事は難しいだろうし。ドククラゲ。そもそも海のポケモンだ。
考えた末、どうもここを荒らしたポケモンはペンドラーな気がした。
ルカリオを連れて来るべきだろうか。あいつに毒は効かない。
いや、やめておこう。あいつは盗みはするが、殺しはしない。変な所で大胆で、変な所で臆病な奴だから。
戦力として連れて来るならバクフーンの方が良いが、あいつもあいつで森の事等考えずに辺り構わず噴火を撃ちそうな気がする。
……タイプ相性としては凄く不利なんだが、私一匹でやるべきか?
ゾロアークやオーダイルを連れているあの人間が居れば良かったのにと思うが、居ないものを嘆いても仕方ない。
飛行タイプの中には、ファイアローやケンホロウまで含まれていた。
そんなポケモンまで殺せる虫タイプのペンドラー。私は、無傷で勝てる気がしなかった。
しかし、他に良い方法が思いつかない。
そして森を荒らす輩は一刻も早く、排除しなければいけない。
覚悟を決めて、後を追う事にした。
夜まで悠長に待つつもりも無かった。
後を追うのは簡単だった。
あの巨体が動くにはどうしても跡が残る。
そして、すぐに見つかった。やはり、ペンドラーだった。その体は既に血塗れで、しかし、火傷の跡が少しある程度の怪我しかしていなかった。
余裕綽々の、全く辺りを警戒していないような振る舞いで、ずしん、ずしんとその重さを辺りに知らしめながら歩いていた。
音を立てないようにして木の上に立ち、両手を腰に当てて、水手裏剣を溜めて行く。
ちょこまかと当てるつもりはない。最大威力のでかい手裏剣を当てて、その体を両断してやるつもりだった。
最大まで溜め終え、そしてその威力が消えない内に両腕から離して飛ばす瞬間、ペンドラーがこっちを向いた。
やっぱり、気付いていたか。
ペンドラーは水手裏剣を素早く避け、自分の居る木に向って突進してきた。
あの巨体で素早いのは、やはりやり辛い。
触れてしまったらその時点で吹っ飛ばされる。そう覚悟しないといけない。
木がへし折れ、ペンドラーの背後に降りた。バクフーンの主に覚えさせられたままの冷凍ビームを足に放つ。ばきばきと足が地面と一緒に凍ったが、力だけで氷を破壊させられた。破片が飛んできて、少しの切り傷が出来た。
……確認しよう。
このペンドラーの覚えているもっとも強い技はメガホーンだ。食らったら、腹を貫かれて死ぬ。
そしてもう三つ、技を覚えていて、私よりは素早くはないが、かなり素早い。筋力は私を遥かに上回り、そしてその体重は私を軽く押しつぶせるだろう。
そして、私の覚えている技は今、ハイドロポンプ、水手裏剣、冷凍ビーム、そして身代わり。身代わりは3回しか使えない。3回目は使ってしまうと疲れも酷くなるから、実質2回まで。そして、冷凍ビームは効かないに等しい。
きつい、な。
動きを止める事は出来ない。これ以上荒らされるのも御免だとか、言ってられない。
形振り構わず挑まないと勝てない相手だ。
構えて、ペンドラーと向き合った。ペンドラーは口を開けた。
毒針? ダブルニードル? どちらにせよ、何にせよ、飛び出してくる何かを躱す為に横に跳び、そしてペンドラーは何も放たずに跳んだ私に対して角を向けて突進してきた。
戦い慣れている! 力だけの馬鹿じゃない!
寸での所で何とか躱すが、体が掠り、そこがびりびりと痺れた。
どん、とペンドラーの体がまた木にぶつかり、そしてへし折れる。私の方へ。
また躱した所に、今度こそ毒針を放たれ、足に当たってしまった。
すぐに抜く。幸い、毒は回らなかった。つまらなそうな顔をされる。くそ、私の方が格下なのか?
毒針を抜いている間に体勢を整えたペンドラーはまた、口を開けた。
しっかりと見極めろ。飛んできてからでも遅くない。格下では居られない。この森の為にも。
水手裏剣を溜めながら、ペンドラーに構えた。しかし、ペンドラーが出したのは今度は、どくびしだった。私自身には当てず、周りに撒いて行く。
そうか。撒かれていた毒は、どくびしに依るものだったのか。
周りにどくびしが溜まって行く。元々不利な上、こっちの動きまで制限されては溜まらない。
水手裏剣を、一つ、飛ばした。ペンドラーの首に向って水平に飛ばした。ペンドラーは姿勢を低くしてそれを躱し、私に突っ込んで来た。そしてそこに、もう一つの水手裏剣を飛ばす。
絶対に当たる。こんな姿勢で、突っ込んで来ている状態では、跳躍も出来ない。
……でも、おかしい。こんな、簡単に勝ってしまえるのか? こいつに。
その疑問は、当たった。
水手裏剣は、ペンドラーの角に当たって、弾けて霧散した。
は? 思わず、身構えていた体が思わず硬直した。
先に飛ばした水手裏剣は、後ろの木を両断している。
そして、もう、身代わりも間に合わない、私の身の寸前の距離で、私はこの現状を可能にするたった一つの技を思い出した。
……鉄壁。
確か、ホイーガの時に覚える技だった。
どす、とペンドラーの角の一本が、私の腹を貫いた。
そのまま高く持ち上げられ、木へ叩きつけられる。
どぷどぷと、血が私の体から流れ出て行く。地面には、どくびしがあったようで、体は更にその毒によって侵されていく。
「ガッ、ゲブッ」
血が口からも流れ出て来た。
ペンドラーがつまらなそうな顔をして、私の目の前で私を見下ろした。
もう、私は動けなかった。たった一発、それだけで私はもう、動けなかった。
ペンドラーが足を持ち上げた。私は、それを絶望しながら見つめるしか出来なかった。
No.017さん、どうもコメントありがとうございます。
コラッタがいっぱいいたらかわいいなあと思いながら描いた
&ピカチュウverの図鑑説明が印象に残ってたので増やしました(笑)
彼女欲しいのくだりはこのくらいおませじゃないとオチに繋げられないかなあと思ってこうなりました。
アレな本はべ、別に誰もスケベ本なんて言ってないんだからねっ!///
タグ: | 【鼠算式】 |
彼女欲しいに吹きつつ、思わず萌えてしまいました。
「「「「「「「「「「「「コラーッ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
さすがコラッタ…繁殖力がすさまじい。
タグ: | 【完全な予定】 |
今年出したい個人誌は最低2冊、最大3冊(多分半分以上は成人向け)。ですが、表紙を描ける人間ではないのでその辺は絵描きさんと相談しつつ。
それと、ある合同誌の主催を引き受けているので、夏コミには必ず出します。自分のサークルが受からなくても知り合いに頭を下げます。
くらいでしょうか。頭を下げる相手は誰になるのか、夏コミに受かり続けている鳩さんになるのか、今はまだ分かりません。
今年もこの町で一番大きく古い桜の花が咲く。
僕はそれを見上げながら何故か物足りなさを感じた。毎年この時期には見ているはずなのに、僕はどうしてだかそんなことを思った。けれど今日はそうもしていられない。いくら慣れないからといって高校初日に遅刻するのは良くない。大事な大事な第一印象が台無しになってしまう。
僕は何時の間にか地面に置いてしまっていた真新しいスクールバッグを肩に掛け直すと、足早に学校へと向かい始める。
物足りなさは消えなかった。
通学路の途中でふと目に付いた、一本の電信柱に手向けられた小さな花束で思い出したことがある。この辺りは昔から自動車と歩行者の接触事故がとても多く、僕は小学一年生のときから親やPTAのおじさんやおばさんに注意され続けていた。花束が置いてあるということはまた事故があったのだろう。もしかしたら事故にあったのは人間じゃなくニャースやニャルマーなどの小さなポケモンかもしれない。
――この辺りは事故が多いでしょ。その死体はあの一番大っきい桜の下に埋められてるんだ。だからあんなに大っきくなったんだよ。
昔、といっても僕がまだ幼い頃だがそんなことを言ってる奴がいた気がする。人の話をそのまま鵜呑みにしてしまうあの頃の僕は、その話を親や友達に一生懸命話していた。そして思い出すたび体を震わせ夜トイレにも行けなくなった。今思えば全く可愛らしいことこの上ない。
物思いにふけっていたら足が電信柱の前で止まっていた。慌てて腕時計を確認し走る。
まだ、足りない。
初日の学校ほどめんどくさく嫌になる。けれどここで悪い印象をもたれてしまうと、後々さらにめんどうだ。誰かに話しかけるのも億劫だと思った僕は、人見知りキャラを演じて前の席の奴が話しかけてくるのを待った。これでそいつも人見知りだったら残念だが、運良く「お前どこ中? ポケモン何?」と勢いよくきたので無難に会話ができた。
LHRの時間は早口の担任がマシンガンの如くずっと喋っていたので、窓側の席なのをいいことに、ずっと外を向いて思考していた。そうして思い出したことがある。窪田結衣という同級生だ。彼女は僕の幼馴染で、幼稚園からずっと互いの家を行ったり来たりして遊んだ仲だった。彼女は凄く生き物想いで、勉強がよくできた、まるで優等生の一例の様な少女だったが、彼女の生き物想いは尋常ではなかった。本当生き物想いなのだ、人間を除く、ほぼ全ての生き物の。弱いポケモンを虐める輩がいれば、それが年上であろうが一人で立ち向かい、植物を抜いたり折ったりした奴には植物に向かって謝らせたり。それだけでも十分変人なのに、彼女は死んだ生き物ーーつまり死骸までもを大切にした。あの事故の多い電信柱の前を通ったとき、車に轢かれた可哀想なポケモンの死骸を見つけると、彼女は駆け出して僕に埋めてあげようと言いだす始末である。ともかく、彼女ーー窪田結衣はそんな少女であったわけだ。だが窪田結衣はとある事件を引き起こし、小学五年生のときに転校してしまった。それ以来彼女に会ったことは無いし、何の噂も聞かなかった。
――ゆう君。生き物はね、生きてる間は目一杯輝いているんだよ。
そんなことを彼女はいつも言っていた気がする。
学校が終わった。さよならの挨拶の後にクラスの何人かにメアドを教えてとせがまれたが、携帯を忘れたと言ってまた後日にしてもらった。なんとなく今朝からもやもやしていたし、あの桜の元へと行きたかったからである。それに窪田結衣。彼女との思い出の場所でもあった。
一人で下校しながら僕はまた回想する。彼女は何故転校したのか。今まで恐怖で思い返せなかったあの日のことを。マメパトがぱたぱたと飛び去った。
あの日は夏休みの真っ最中で、太陽が地面を焦がすんじゃないかなんて彼女と話したりしていて。ごく普通の、毎日の直線上にあったはずで。僕ら二人で、あの桜の近くで喋っていた。彼女は親のポケモンだったかデスカーンを連れていた。当時自分のポケモンを持っていなかった僕としては、とても羨ましいものだったので、デスカーンの何本かある黒い長い手を、握ったり握手したりして触っていた。あの不思議な感触は今でもしっかりと手の内に残っている。
この頃、あの桜の木が寿命だか病気だかで枯れそうになっていると近所でニュースになっていた。彼女はあの桜が大好きだった。しかしその大好きとは、小さい子がピカチュウ大好きと言って抱きつくような純粋さではなかった。逸脱した彼女の生き物想いがそうさせていたのか、もしくはあの桜に魅せられたのかはわからないが、ともかく大好きだった。だからニュースを聞いたとき、彼女は言ったのだ。
――あの桜の木を元気にさせよう!
と。
その時点ではまだ彼女の思惑は読めなかったので、僕は快く受け入れた。そのときの彼女の表情は今までに見たことが無いくらい恍惚としていたのは忘れられない。ただ、表情に見とれていたせいか、その次に言った彼女の言葉を聞き逃してしまった。ごめん、もう一回言って。けれど彼女は繰り返すことなく、笑顔で無言のまま僕を見つめていた。わけがわからずつっ立っていたその瞬間、後頭部に強い衝撃が走った。衝撃は激痛へと変わり、あまりの痛さに叫ぼうとしたが、いつか触れた不思議な感触に口を塞がれ呼吸を妨害する。何が起こってるのかわからない僕はパニック状態に陥り、口を塞ぐデスカーンの手を剥がそうと藻掻く。が、所詮小学五年生の力ではポケモンに敵うはずなく押さえつけられそのまま
――ゆう君のお陰で桜が元気になるよ! ゆう君ありがとう! 大好きだよ。
何時の間に掘ったのか。桜の木の根元に人がちょうど一人入るくらいのサイズの穴があり、デスカーンはそこへ僕を放った。背中に落ちた衝撃が走り、肺から息が多量に出た。そこへ土が降ってくる。今思えばそこまで深い穴ではなかったから出ようと思えば出れたはずだが、このときばかりはそんな冷静に考える暇もなく、ただ出来たことは一つ。彼女の笑顔を見守ることだけだった。
あの後気を失った僕は病院で目を覚ます。ここから先は聞いた話だが、たまたま近くを通りがかった知らないおばさんが僕が埋められる瞬間を見ていたらしく、彼女の行動を途中でやめさせた上、110番してくれたようだった。僕が一応、少しの間入院することになった間に彼女の一家は何処かへ引っ越してしまったらしい。入院中僕が尋ねても誰もが話題をそらしてしまい教えてくれなかった。
今年もあの桜は元気に咲いている。あの事件(果たして事件と言うのだろうか?)の後、自治体の皆さんが頑張って桜を元気にさせたらしく、その翌年にはけろっとした調子で花を咲かせていた。
けれど人ががんばっただけで植物が簡単に元気になるものだろか? そこで窪田結衣のことを思い出し、ずっと感じていた物足りなさが何か気付いた。
「……あった。これだ」
僕は桜の根元に近づき、幹を削って書かれた下向きの矢印を見つけた。僕が入院中に看護婦さんから一度だけ、彼女から渡して欲しいと言われたらしいメモを受け取ったことがある。そのときの内容が、桜の幹に下向きの矢印を書いたから、桜が満開になったらその下を掘ってと書かれていた。今まで忘れていたが、僕は指示通りに矢印の下の地面を手で掘り始める。制服や手が汚れるなんて気にしなかった。ただなんとなく埋まっているものの想像がついたので、尚更掘り起こしてやらないといけないなという使命感が手を動かしていた。
やがて指先が何かにあたる。僕はその辺りを丁寧に掘り始めると、埋まっていたそれの一部をよく確認し、冷静に警察へ電話する。
「あの、警察ですか? すみません。桜の木の下に――」
通話を終え携帯をしまう。僕は改めて埋まっていたそれ――窪田結衣の手の骨を見て言う。
「今年も桜はきれいだよ」
――――――――――――――――――――――――
スポーツテストで持久走とシャトルランがないと聞いて嬉しすぎた勢いで書いた。
久々に書いたからなんか不思議な気分です。
受験終わったときから溜めてるネタはまだ書き終えていないのですが。
あと機会音痴で、iPhoneから投稿したもので、段落の一マスが空いてない……。そのうちパソコンで直しますごめんなさい。
あと、久方さんネタ被らせてすみません私も死体埋まってるネタ好きなんです
【何してもいいのよ】
> レアコイルと桜の組み合わせとは、意外でした。
思わぬ組み合わせがうまれるのがポケモン小説の楽しいところです。そんな言い訳をひとつ(
> 周りの温度が二度上がるの、知りませんでした。そこで桜前線とか、素敵だなあ。
初めてプレイしたピカチュウ版の図鑑、いろいろ記憶に残っています。コンパンの目からビームやら重さ20キロを放り投げるイシツブテ合戦やら…。ネタが尽きませんなぁ。
> それでは、短い感想ですが失礼します。
感想ありがとうございました!
> 色々埋まりすぎてて怖い。
桜って成長が早いのでエネルギーをより必要とするとか何とか昔聞いたことがあります。
毎年一体どれだけ犠牲が出ているというのだろうか……フヒヒ
> 即興……だと……。
着想→投稿まで大体1時間くらいでした。
> 【その位置からダグトリオの下半身が見えるはずだ! さあどうなっている!?】
明かりがないから見えなかったようだ! 残念!
感想ありがとうございました!
お待たせしました。
「マサラのポケモン図書館、ポケモンストーリーコンテスト・ベスト」通販受付始めました。
GW明け一斉発送となる予定です。
通販サイト
http://www.chalema.com/book/pijyon/
ベストついでにNo.017個人誌も購入出来ます。
よろしくお願い致します〜
ドッ
ドッ
ドッ
ドッ
冷たいコンクリの床に寝そべっていると、耳を貫くような底から湧き上がってくる音で目が覚めた。俺は体に合わない小さな耳をピクリと動かす。エンジンの調子はいいようだ。そして、主人の機嫌もいいようだ。
「……よっし!異常なし!あとは着替えてヘルメットとゴーグルつけて」
主人は女だ。だが性格は男だ。普通、女が相棒と一緒に乗れるくらいのサイズのバイクを購入したりしないだろう。横に俺専用のカーをつけて。ちなみに色は青と黒。寒色系のコラボレーション。
暖色系の体を持つ俺が乗ると、何処へ行っても目立つ。
「はい、アンタもこれつけて!ヘルメットとゴーグル!まだこの季節は風が冷たいし、変な物目に入ったら困るから」
主人は既にレザージャケットに着替えていた。元々豊かな胸が、黒い服のせいでウエストが縮まってるように見えて更に強調されている。これで髪ゴムを外してそのままにすれば、どこぞのモデルのようになるだろう。
もちろん言わないが。
俺は言われた通りヘルメットを被りゴーグルをつけた。暗い赤の世界が無限に広がる。そのまま専用のカーに乗り込む。主人も隣のバイク本体に跨り、再びキーをまわした。
心臓の鼓動。
エンジン音。
全てが混ざり合い、耳に入っては通り抜けていく。
「さあ、目指すはサザナミタウンよ!Lets go!」
(果てしなく遠い ゴールを探しながら 高速で転がる 直上型のBIG MACHINE)
――――――――――
この一人と一匹はユエとバクフーンです。似合うかなーと思って。
【何をしてもいいのよ】
色々埋まりすぎてて怖い。
> 俺の目と鼻の先で、ダグトリオが地盤を掘り返している。
> そういえば彼女も、ダグトリオじゃないけどモグラのポケモンを持っていたっけ。
> それを知ったのは、彼女と別れた直前のことだったけど。
最後二行でここらへんの意味が分かるのがすごい。すげー怖い。
雑多な感想ですが、失礼します。
即興……だと……。
【その位置からダグトリオの下半身が見えるはずだ! さあどうなっている!?】
レアコイルと桜の組み合わせとは、意外でした。
周りの温度が二度上がるの、知りませんでした。そこで桜前線とか、素敵だなあ。
ピッカピカに磨かれたボディに映る桜も、いいなあ……。
あと「期間限定のトレーナー」という言葉も好きです。毎年同じような時期にやってきて、その人が去ってふと気付くと桜が咲いている、みたいな。そんな風流めいた言葉に似合わず、道中のトレーナーを銀行がわりにしているのはポケモンらしいといいますか。
それでは、短い感想ですが失礼します。
前書き:カップリングです。http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=2393&reno= ..... de=msgviewのその後です。
ダイゴがソファに座った。ハルカも何も言わず隣に座る。その距離は今まででは考えられないくらいに近い。拒否されるかもしれない。恐る恐るハルカはダイゴの手に触れる。
「もっとこっちにきなよ」
体をまるごと抱き上げられ、ダイゴの膝の上に座る。後ろから抱きしめるダイゴにハルカは身を任せる。
「君を拒否なんてしないよ。だからもっとおいで」
ダイゴの甘い声がハルカの耳元で響く。彼女の体を痺れさせるには十分だった。
「ダイゴさん」
「ん?」
「好きでいたいです」
「僕もハルカちゃんを好きでいたいな」
惜しげもない愛の言葉がハルカに降りかかる。なぜこの人はこんなに怖がることなく愛を告げることが出来るのか。ハルカはいつもそれが不思議だった。
ハルカはいつも怖い。大好きなダイゴから嫌われることが。否定されることも 、拒否されることも。だから怖くて好意を表に出せなかった。ダイゴはそれすらも見抜き、ハルカを待っていた。
大人になれば解るのかな。ハルカは振り向き、ダイゴの目を見る。キスしてしまおうか。ハルカにふとそんな考えが浮かぶ。けど、もし拒否されたら。その考えがハルカを止めた。
「ねぇハルカちゃん」
「なんですか?」
「僕は今すぐ君を押し倒して犯したいと思っている」
「な、なにをっ」
「それくらい、ハルカちゃんが好き。これくらい言わないと」
ダイゴに引き寄せられ、ハルカは彼の胸に押し付けられる。
「臆病な君は僕に抱きついてくれないし、キスしてくれないだろう?」
何でも見通しているような目。ハルカは顔をあげてダイゴを見る。
「ダイゴさん、なんで何でも知ってるみたいに言うんですか!?」
「単純さ」
ダイゴが少しだけ笑う。
「君が大切にしてるポケモンを見る目と、僕を見る目、同じようで違うよ。ポケモンたちは思いやりがあるのに、僕を見る時は好きでたまらないと言いたげだ」
ダイゴに唇を塞がれ、抱きしめられては逃げ場ばない。どこにも逃げられない。
怖がってダイゴからのサインを見ないフリをしていた。それは違う、本当は私など見てないと。もっと早くダイゴに伝えていれば、こんな時間がたくさんあったのか。唇を重ねながら、ハルカは思う。
「とろけそう」
唇を離し、ダイゴに抱きついた。
「そうだねハルカちゃん」
ダイゴの声が少し震えている。
「もっと君が大きくなって、僕と同じくらいの立場になったら、たくさん教えてあげる。キスより気持ちいいこと、いっぱい」
ダイゴに抱かれるだけで胸がいっぱいになってしまうのに。ハルカはその先なんて想像つかなかった。
「だから今はポケモンのことを教えてあげるよ。大きくなってから知らないことがないように」
仕事だから会えないという旨のメールをもらったのはついさっき。こんなのはいつものこと。
「ハルカ!今日は暇?遊ぼうよ」
友達からの誘いにハルカは乗る。いつもの仲良しグループは、近くのファミレスに入る。
「えっ……」
ハルカは友達の話を聞いて、言葉が出なかった。
「何いってんの?付き合ったらセックスなんて当たり前じゃん」
友達には付き合って3ヶ月の彼氏がいる。けれど赤裸々にそんな話をされるとは思わなかった。
「むしろハルカの彼氏ってさぁ、もう2ヶ月じゃん?セックスないとか有り得ないよねぇ」
全くないわけではない。忘れるわけがない。付き合ったあの日、ダイゴに脱がされ、寸前の行為までしたこと。
あれ以来、そういうことは全くないし、ダイゴの方からもアプローチはない。
「え、ないわけじゃないんだけど…」
「てかハルカはもっとアピールしなきゃ!やったもん勝ちだよ」
そういうものかな。ハルカはそう思っていた。
ダイゴの家でポケモンの訓練をした後に、夕食をごちそうになる。
「今日はポトフとビーフストロガノフだよ」
「なんですかそれ?」
「まぁ食べてみなよ。ハルカちゃんに食べてもらいたくて覚えたんだ」
嘘か本当かは解らない。ダイゴは台所からテーブルに料理を運ぶ。それを手伝うハルカ。ダイゴの姿を見て友達の言葉が浮かぶ。
確かにダイゴは大きくなったら教えてあげると言った。けどそれはハルカとしたくない口実なのではないか。ダイゴから聞いた話ではないのに、ハルカは一人で悩んでしまっていた。
「どうしたんだい?」
ハルカの変化に気づいたのか、ダイゴが心配そうに尋ねる。
「いえ……あの…ダイゴさん…」
「どうしたの?何でも聞くよ」
「私と…セックス…したくないんですか?」
「一体どこからそんな発言でて来るの?」
「だって友達が…付き合ったらセックスするんだって…したもの勝ちだって言うから…」
「ハルカちゃん。そういうのは貞操観念って言うんだけどそんなの人それぞれ。その友達がどう思っても、ハルカちゃんとは違うんだよ」
「でも…それにダイゴさん答えてください」
「何度言わせたら気が済むのかな君は」
少しイラついたような言葉。ダイゴは怒ってるように見えた。
「ハルカちゃんは僕のこと信じられないの?僕は君の先生で彼氏だよ」
「だってよく考えたら、ダイゴさんは年上で、こんなにかっこいいのに、私なんかを相手にするなんて…」
どんどん出てくるハルカ自身の欠点。ダイゴはため息をつくと、泣いてる彼女を抱き上げる。お姫様抱っこされて、ハルカも思わずダイゴを見た。
「ハルカちゃんはまず、自分に自信を持って。君みたいに真っ直ぐでかわいい子はあんまりいないよ。それに美人だからって僕が付き合うわけじゃない。ハルカちゃんだから付き合うんだ」
食卓につかせる。そしてハルカの頭をなでた。
「泣いてたらおいしくないよ」
こんなに優しくしてくれるダイゴに対し、自分はなぜこんなにダイゴを困らせるようなことしか言えないのか。
ハルカは泣きながらもスプーンを握る。そして一口、また一口。ダイゴが作ってくれた料理だ。残すわけにはいかない。
それから数日後のこと。午後からダイゴとミナモデパートに買い物しにいく約束だ。
「ハルカ…」
家の前で友達に会う。とても暗い顔をして。
「どうしたの?」
「ハルカ、どうしよう!私、私…」
「解らないよ、落ち着いて。ね」
「あ、あのね。私、妊娠しちゃったの…」
突然のことにハルカはかける言葉が見つからない。
「妊娠…?どういうこと?親にはいったの?彼には?」
「突然、連絡とれなくなって…親には言えない…どうしたらいいか解らないの…」
泣き出した友達を放置するわけには行かず、ハルカはダイゴに詫びのメールを入れて、とりあえず自宅から離れた公園へ行く。
「もう3ヶ月なの」
「それって確か…」
「会ってからずっとやってた。お金ないし、外に出すから大丈夫だって…」
ハルカはめまいがした。友達だって一緒の授業で教わったはずなのに。
「どうしよう。親にいったら怒られる…」
「でも言わないとどうしたらいいか私も解らないよ」
ダイゴからのメールが来る。友達とカナズミシティにおいで、と。会社の方に誘うなんて珍しい。ハルカは言われるまま、カナズミシティに行く。
ポケモンセンター前でダイゴに会う。ハルカに安心感が生まれ、友達の前というのに駆け寄る。
「ダイゴさん!」
「どうしたんだい?僕でよければ話を聞こう」
友達はダイゴに必死で状況を話す。それを端からみていたハルカは一つの感情を覚える。
嫉妬だ。ダイゴは自分だけのものだと思っていた。それなのに…
「解った。僕の知り合いの医者を紹介しよう。そこで解決した方が良さそうだ」
ダイゴは友達の肩に軽く手をまわし、ハルカには声をかけただけ。
「やっぱり、私なんかじゃ…」
ハルカは二人についていく。ただ黙って。
ダイゴは病院まで送り届け、医者に状態を説明すると、すぐにハルカの手を引いて出ていく。
「ダイゴさん、いたっ!」
「ああ、ごめんね」
ダイゴが力を緩める。歩き方も何だか怒っていたようだし、何かがおかしい。
「ハルカちゃん。君の友達のことを悪く言うのは申し訳ないけど、あれはないよ」
「え、何がですか?」
「あんな子にセックスする権利なんてない。セックスって確かに気持ちいいけど、それは子供を作る行為だってこと忘れて、しかも彼氏も嘘ついてそこまでしたいかな」
「え…」
「まぁ産むにしても下ろすにしても、あの子は一生消せない事実を作ってしまった。普通の結婚や普通の生活は望めないだろうな」
ハルカの胸に、ダイゴの言葉が突き刺さる。
ハルカがダイゴにねだった行為の結果が、今日の友達だ。もし、あそこでねだっていたら、今日泣いていたのは…
「ハルカちゃんは、セックスが怖い?」
いきなりダイゴに振られて、まとまらない考えは口に出ることはなかった。
「セックスしたら、あんな未来が待ってるかもしれない。大人ならまだいい。けど君は責任とれる年齢でもない」
「確かに、怖くなりました…」
「そうか」
ダイゴは立ち止まる。
「けど僕は君を押し倒して犯したい」
「えっ…あ、あの…ダイゴさん?」
「僕はどちらも望んでる」
「どういう、ことですか?」
「もう少しハルカちゃんが大きくなったら、ちゃんと解説してあげる」
なんだか掴みどころのないダイゴが、今日はとても真面目に見えた。いままでよりもずっと頼もしく。
「ダイゴさん」
「どうしたの?」
「本当のこと言うと、さっきまで友達と仲良く話すダイゴさんが嫌でした。ダイゴさんは私だけのものだって思い上がってました」
「それで?」
「ダイゴさんは私のものじゃないのに…」
「ハルカちゃんは僕のことが好きだからそう思ったんだろう?僕は素直に嬉しいよ。けどね、他人は誰のものでもない。そこも気づいたのは、ハルカちゃんの心が大人になっていってる証拠だね」
ダイゴが歩みを止める。
「もうお昼かなり過ぎたね。何食べようか?」
「え、あ…オムライス!」
「じゃあそうしよう。」
カナズミシティのビジネス街のレストラン。時間もずれて、サラリーマンはほとんどいない。
「ねぇハルカちゃん」
「なんですか?」
「ちょっと伏せて」
言われるままにハルカは頭を下げる。そして振り向くと、ガラス越しに、見つかったと逃げていく人間。
「ハイエナみたいなやつだ」
「また、ですか?」
有名企業のトップから出たチャンピオン。その私生活を面白おかしく暴こうとする人間に、ダイゴは目で威嚇する。
「ああ。やつらにとって、君と付き合ってることも恰好のネタだからね」
水に口をつけ、ダイゴは一息はく。
「大丈夫。何があっても君のことは守る。僕はさらし者になっても、君のプライベートは関係ないからね」
ハルカにとって、怖いのはプライベートを全国に売られることではない。目の前のダイゴから拒絶されることが一番怖いのだ。
解って欲しい。ハルカはそう思ってメニューを渡した。
ーーーーーーーーーーーー
お前が言うなと思った人は正しいよ(
ポケモントレーナーとして生命倫理は必ず持つべきものだと思うんだ。
特に頂点に立つ人の倫理観が書きたかった。
だって自分の他に生き物の責任を追う職業だから、必要だとは思うんだよね。
【好きにしてください】
北へ向かう。歩きで、電車で、船で、ときには鳥ポケモンの背に乗って。ホウエンからジョウト、カントーを経てシンオウへ至る。出発は風もすこし冷たい3月の末、シンオウにたどりつく頃には5月の始めになっている。
私が北へ向かう理由はないが、どうも私の連れには理由があるらしい。浮遊する生命体は焦ることなく、しかし北へ向かいたがる。道中、銀行代わりに……もとい経験のためにトレーナーとのバトルにいそしみ、宿屋代わりにポケセンに押しかけ宿泊する。期間限定のトレーナーとでもいうのだろうか。
私と彼が通りすぎた頃、あたりの寒さが緩む。濃紅色の桜のつぼみが色を薄め、ほろんほろんと咲いていく。桜前線の先駆をしているような気分になってくるのだ。
まるで桜の先駆けのようだ。ただ、彼に似合わないのが非常に惜しい。
お世話になるカーネル氏の言葉は、いつぞやそう言って賞金をはずんでくれた。チェリムやワタッコのような草タイプが先駆けならいざ知らず、彼はでんき・はがねタイプですよ。そう私は返し、灯台から降りる。
灯台に守られるようにある若い桜の枝に最初の一輪が花開き、淡い紅色を鋼のボディに写す彼を見て、私はカーネル氏の言を否定したくなる。
彼は確かに桜の先駆けだ。
レアコイルであることが、なんの失点になろうか。
☆★☆★☆★
レアコイルの半径1キロで気温が2度あがるそうではありませんか。
なら、レアコイルが北上すれば桜前線北上するんじゃないのかと思った結果が行き倒れ満載なこれでした。
「エビワラーよ。お前のことが好きだ」
「俺もアブソルの事は好きだよ」
「――――少し曲がって伝わったようだな。私は、お前を一人の雄として好きだ」
「そ、そうか」
一昔前。とある地方の、夜の帳が下りた人間がいない深い森の中で、二匹のポケモンが会話をしていた。仏頂面で生傷だらけのエビワラーと、にこにこと満面の笑みを浮かべるアブソル。夜が開けるまでは危険だからと互いに身を寄せ合っている時、ふとなんの余兆もなく雌のアブソルが雄のエビワラーに愛の告白をした。当然、心構えも何にもしていなかったエビワラーは、ただ戸惑うことしかできなかった。
「私とお前の出会いは偶然だったな。お前が森で体を鍛えているとき、殴っていて倒れた木に下敷きにされたのが始まりだった。よく覚えているよ。数日看病を受けている間に、私はすっかりお前に惚れてしまったんだ」
「あの時はびっくりしたけど、細い木で本当によかったよ。大木だったら大怪我だからな」
「いや、私も間抜けだったよ。お前が特訓をしてあんなに騒いでいるのにも関わらず、寝ていて気づかなかったのだからな」
アブソルはエビワラーの膝に顔を置いた。そのまま仰向けになり、下からエビワラーの顔を見つめる。
「だが、あの時に怪我をして良かったと思っている。ああいう劇的な出会いがあってこそ、私とお前は親密になれたのだよ」
「それは正しいな。あの頃の俺はろくに仲間も作らず、独りきりで修行に励んでいたからな。それに比べてアブソルは、誰とでも親しく関わるから、外から来たポケモンなのにすっかりここに馴染んでしまったな」
「お前は初対面の奴には人見知りするからな。やたらむやみにとは言わないが、信頼できる相手がいて損はないぞ。せいぜい、友人と呼べるポケモンは数人だろう?」
「数人いれば充分だ。交友関係は狭く深く、だ。それに、お前がいつも側にいるだろう。だから寂しくないよ」
「―――そうか。それは告白の返事だな。嬉しいぞ」
「いや、これは返事ではないんだけどな」
エビワラーの冷たい態度に、アブソルは落ち込んでしまう。
「なんだ、まだ私を雌として見てくれないのか。先は長いな」
小さなため息を吐く。アブソルは頭を回転させ、そっぽを向いてしまった。
「寝る。おやすみ」
「拗ねるなよ。ちょっと待て」
「女心をここまで表に出しているのに、結果がどうであれ答えを出さないポケモンは嫌いだ。雄らしくないぞ」
「あのな、俺の気持ちも考えてくれ。告白って、する方も凄く勇気が要るんだぞ?」
段々と、蝋燭の火が消えるように声が小さくなっていく。ふてくされていたアブソルは、もう一度エビワラーを見ようと振り返る。
「俺は、アブソルのこと好きだよ」
エビワラーは、震える口で声を絞りだし言った。告白を受けた本人は、最初は呆気にとられていたが、直ぐに笑顔になり体を起こす。
「本当か?」
「嘘ついてどうする」
「夢じゃないよな?」
「頬叩こうか?」
「止めてくれ。格闘技は、私には少々効き過ぎる」
そう言うとアブソルは、前足で自分の片方の頬を叩く。ぱちんと気持ちいい音がなるが、笑みは崩れない。
「ああ、ようやくこの日が来たのか。確かに私は毛むくじゃらで四足歩行、エビワラーは二足歩行で、まるで人間のような容姿。同じポケモンとはいえ大きな壁があるのは分かっていた。それでも、私は自分の心を殺すことはできなかった。望みが叶って嬉しいよ」
「俺だって、最初はアブソルのこと、正直鬱陶しいと思っていたよ。でも、一緒に生活していくうちに、気持ちが変わっていったんだ。確かに、俺とアブソルは種族が違いすぎるけど、それでもいい。今まで受け流していて悪かったよ。もう素直になる」
「そうか。これで両想いか。なら、これから遠慮しなくていいな」
エビワラーは、彼女が何を言いたいのか理解し、緊張で体が硬直する。それを理解しながらも、アブソルはエビワラーをゆっくりと押し倒した。白い体毛でエビワラーを包み込む。
「あの。俺な、そういう深い経験はしたことないんだよ。だから、気をつけるけど、嫌だったちゃんと言ってくれよな」
「私も経験はない。心配するな、嫌なものは嫌と言う。だから、安心して愛をぶつけてくればいい」
アブソルは、のしかかりながら軽くエビワラーに口づけをした。長く唇を重ねない、軽いキスだった。
その日の夜。二匹のポケモンの体が重なった。
数日後。エビワラーが、木の実を抱えて森の中を歩いていた。時刻は正午を過ぎる前で、昼食を食べるには丁度良い時間だった。
森の中をゆっくりと歩いて目指している先は、小さな丘にある横穴だった。意気揚々とエビワラーは中に入っていく。横穴の奥で枯葉の上に寝そべっているのは、毛並みが美しいアブソルだった。入ってきたのがエビワラーだと分かると、穏やかな表情で出迎えた。落ち着いた態度で、大事な番におかえりと言う。彼もまた、ただいまと言い返した。
アブソルは、一つのタマゴを抱えていた。真っ白で、ひび一つ入っていない。
「どうだ、タマゴの様子は?」
エビワラーは、アブソルの側に座りながら尋ねた。
「動く頻度が多くなってきているぞ。もう少しで産まれそうだ」
「そうか。ほら、木の実を持ってきたぞ。お前が好きなモモンの実もある」
「ありがとう。有難く頂こう」
アブソルはタマゴを傷つけないようにゆっくりと起き上がる。なるべく体毛に埋もれるように調整して、手渡された木の実を口に含んだ。
「しかし、まさか子どもができるなんて。俺達は余りにも違いすぎるから、半分諦めていていただけに嬉しいよ」
「そうだな。腹部に違和感があったときは驚いたよ。エビワラーに抱かれてから直ぐに、いきなりタマゴが出てくるんだからな。お前が小躍りしているところなんて、初めて見たぞ」
「仕方ないだろう。嬉しかったんだから」
あの告白の後、エビワラーとアブソルは、互いを激しく求め合った。今まで塞き止めていた感情が爆発し、それは全て性欲として発散された。彼らは睡眠も食事も忘れ、体力が続く限り体を弄り合い、深く愛を確かめ合った。
二匹は一日中交尾を続け、そして力尽きた。数時間後、エビワラーが目を覚まして最初に見た物は、腹を抱えて苦しむアブソルだった。彼は慌ててアブソルの腹を擦るが、痛みが引く様子がない。そして大きな悲鳴を上げて出てきたのは、一つの大きなタマゴだった。
正真正銘、二匹の子どもだった。
「焦ったよ。このままアブソルが死んでしまうのかと、泣きそうになった」
「とても痛かったし、恐かったぞ。体が裂けてしまうかと思った。でもその代わりに、大切な宝を授かったな」
「そうだな。それに、もう直ぐ俺達の子どもと会える」
エビワラーは、優しくアブソルの頭に触れる。お返しにと、アブソルはエビワラーの頬にキスをした。
すると、突然タマゴが激しく揺れる。二匹は驚いたが、直ぐにこの現状に気づいた。
「産まれるみたいだな」
「ああ。いよいよだぞ」
ついに待ち望んでいた時がやってきた。数日の間大切に守られてきた白い殻に初めて亀裂が入る。徐々に音を立てて広がり、中から出てこようともがいているようにも見える。エビワラーとアブソルは、この瞬間を見逃すまいと食い入るようにタマゴを凝視する。
そして次の瞬間、タマゴは光り二匹の視界を奪う。彼らは反射的に目を瞑った。
数秒間、横穴には沈黙が流れた。二匹は一息おいて、ゆっくり瞳を開ける。
そこにいたのは見たことがないポケモンだった。まん丸とした頭に、大きな丸い目。細い体に、人間が服を着るみたいにズボンを履いているように見える。何より特徴的なのは、全身が黄色いということ。その姿には、両親の特徴が全く受け継がれていない。
産まれたばかりのポケモンは、地面を這いアブソルの元へ近寄る。必死にもがき、自分の母親の乳房に近づいていく。呆然としていたアブソルも我に返り、産まれた我が子を胸に抱き寄せた。
そのポケモンは、乳房から母乳を吸い始める。
「ああ・・・俺の・・・子」
父親になったエビワラーは、夢中で食事をする自分の子どもを撫でようか止めようか、何度も手を出し引っ込めて、ようやく小さな頭を当てた。
「可愛いなあ。天使みたいだ」
「当たり前だ。私達の子なのだからな。容姿は多少違うが、表情はお前そっくりだ。この母乳を吸っているときの顔、私の乳に口付けするときと似ているな」
「――こんな顔していたのか俺は」
「ああ、そっくりだ。顔は父親似だな」
「直ぐそういう意地悪言うんだから、アブソルは」
「でも、まんざらでもないだろう?」
「ああ、お前みたいに、優しくて純粋な子に育つと良いな」
二匹は、親になった喜びを噛み締めていた。
時が経つと、後にこの子どもの種族は、人間達からズルッグと呼ばれるようになる。
――――――――――――――――
フミんと言います。また短編を置かせて貰います。
【批評していいのよ】
【描いてもいいのよ】
皆さんが楽しんでくれれば幸いです。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | |