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焼肉さま
こんばんは、art_mrと申します。
投稿してもうすぐ2ヶ月を迎えようとしているところで、まさか感想を頂けるなんて夢にも思わず……
返信が遅くなってしまいすみません。とっても嬉しいです。
愛のあるご感想をありがとうございます。恐縮しきりです。
現実とゲームについてですが、
「抗癌剤で好中球がほとんど無い子供が、クリーンルームから無線LANで対戦しているのを見ると、PSPやDSを作った企業は男前やな、と感じる(@taiwata)」
というツイッターを目にしたことが一つと、「ネトゲ廃人」という本を読んだ時印象に残ったエピソードが一つ、
その両者を、自分が子供の頃のことを思い出しながら混ぜてできたのがこの話(自己分析)です。
現実では病院や学校が背景になり室内ばかりになるので、盛り込めるところは華やかに……と思い、季節を取り込みました。
BWは最初の一歩のシーンが好きで印象に残っていました。でも設定を色々決めた後にBWにしようと思ったので、偶然入れられたような気もします。
全く気がついていませんでしたが、チューのシーンを改めて見直すと結構恥ずかしくなってきました(笑
ありがとうございました!
> ああ、これ4万字もあったのか。気づかなかった。そのくらい入り込めました。現実とゲームの世界の混ぜ具合がいいですね。
>
> 景色や季節ごとの背景描写がとても綺麗です。ポケモンバトルの状態以上と現実の病気をひっかけてるのも上手い。
>
> 個人的に、作中のゲームが大好きなBWなのも嬉しかったです。使い方も上手い。最初の一歩を三人で、ってのを現実のメイとアキラとモトキに重ね合わせているところとか。BWのきなくさいストーリーの空気もこの作品に合ってるなあなんて思います。
>
> 難病ネタと厳選の是非は話の王道ですが、二つのテーマの調理が上手なので新鮮な気分で読めました。
>
> しかしチューのシーンは微笑ましいやらこっぱずかしいやらでニヤニヤしますね。
10まんボルトという技がある。
だが、この技は電圧100,000Vの電気を送りこむ技ではない。
日本名の命名者が「これは10まんボルトくらい出ている」と適当に名付けたようで、電圧に根拠など無い、そもそも英名はサンダーボルトである。威力が90くらいの強烈な電撃を放つ技なら何ボルトだろうと「10まんボルト」と呼ぶ。
このように技名の付け方はすごく適当である。
例えば地震、これが本当に地震を起こしているならばそう簡単に連発できるわけがない、だから"天災としての地震を起こすわけではない"と考えるべきだ。建物内で使っても建物に被害は全く無いが、相手を大きく揺らす技であることは確かなので、そういうことをする技と見られる。
地面を介して相手に振動エネルギーを送り込み、相手の体を共振させて内部から直接震わせる技なのだろう、内部からダメージを与えるならば威力100も納得できるし、建物を壊す心配もいらない。
岩落としや岩雪崩も、本物の岩を使っていないのだろう。岩のエネルギーを凝縮させて一時的に実体化させ、それをどれだけの量を作り出して上から落とせるかどうかで技の名前が変わってくる。
一時的に実体化させた岩のような物なので、時間経過ですぐに消滅するのだろう。同じように水技も一時的に水を作るため、時間経過で消えて無くなると見られる。
ところで、名は体を表す通りに、適当につけたはずの技名の通りになった技もあるだろう。
大文字という技がある、もともは大きな炎を吐きだして広範囲を焼く技で、相手全身を焼くためにダメージも大きい、元々は中心から放射上に炎を広げるように吐く技だった。
その炎の余韻がたまたま5角の星の形に残った様子を「大」の字に似ているという理由で「大文字」と名付けたようだ。これがもしも「*」の形に残っていたら木文字、はたまた十文字や、米文字とでも呼ばれていたかもしれないということだ。
人々は人伝に聞いたその炎の奥義に魅了されて、競い合うように自分の炎ポケモンに習得させようとした。炎ポケモンたちは見知らぬその技を「大」の字を頼りに再現し、その技は子どもや子孫へとワザの遺伝がされていった。
結果として本来存在していた広範囲に炎を吐く技ではなく、綺麗な「大」の字を描く炎の技となり定着した、そして技マシンとして規格化がなされて統一された。人間の言う技名そのものになった稀な例だろう。
ポケモンの技名の命名方法は適当なので、実際にどのようなことが起こっているかを、技名に惑わされずに考える必要があるだろう。
あなをほるやダイビングも、本当に地面に潜っているわけではなく、一時的に4次元空間に身を潜めていると考えるべきだろう。
モンスターボールがポケモンを小さく収納する仕組みについての考察は昔からなされていて、私が知っている限りでは次の4つの仮説がある。
・全てのポケモンには小さい球の中に体を縮めて収納する能力を持つ
(主に小説版からの設定、ボール自体には何の力は無く、ポケモンの力によるものとするため、専用のボールに限らず密閉できる箱ならばなんでも入れられる。ボール内のポケモンが外から見えるポケスペはこれに近い)
・ポケモンを電子データ化して収納する
(パソコンで転送できることに注目した仮説、メタ的にゲームのデータと見なせることから採用する人が多いが、それではポケモンじゃなくてデジモンっぽいので私的にはあまり好きじゃない)
・ポケモンの持つ技に近いがポケモンの力ではない、不思議な力でポケモンを中に収納する
(収納できる原理はボールの力によるもので、科学的でなく魔法的な何かとする説。アニメのボールから出る謎の赤い光をイメージすることが多い)
・ボールの中に四次元空間が存在しその中にポケモンを収納する。
(あの世界では四次元空間の存在がいろいろな場所で確認され、わりとポピュラーな概念と思われるため、ボールもこれを利用しているという説、私はこれだと推している)
大きな体を小さなボールにしまう収納能力が、ポケモンにあるかボールにあるかの2種類で大きく分けられる。金銀から登場したぼんぐりという特別なきのみはもちろんですが、
特にアイテムボール(フィールド上にあるアイテムアイコンと思いきや、本当にボール型の何かが落ちているようだ)という存在から、ポケモン以外の物品もボールの中に小さく収納できると見られるため、ボール派の仮説が多い印象。
世界観の主軸となる謎のため、「永遠の謎のままが良い」と考えることが多く、無理に考察することは少ないが、自分の中でどういう仕組みと捉えているか考えてみるといいと思う。
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あのですね、ズルい事を言うとですね…小説を書くとき古典や昔話からパクるといいっすよ。著作権切れてるから誰にも怒る権利ないしねー。プロもよく使う手でしょう。 |
タグ: | 【企画】 |
突発ですがマサポケチャット会やります。
20:00頃〜解散適当。前乗りオッケー。
【URL】
http://masapoke.sakura.ne.jp/
【議題】
まあ、適当に。
できれば、今ある本棚の扱いについて意見聞けると良いかな。
鳥居の向こうの質問やアイディアも受け付けます。
育て屋の扉に、やたらとカラフルで扇情的なイラストのポスターが貼られるようになったのは、半年ほど前のことだ。
ディフォルメされたタツベイが崖から飛び降り、下で溢れかえっている仲間に頭をぶつけているもの。過剰とも思えるほどにやせぎすに描かれたキモリが、少ない餌を奪い合って無数の仲間と喧嘩をしているもの。ふんぞり返って餌を独占するたくさんのラクライに追われ、ラルトスやエネコが住処から出て行くもの。
多くのバリエーションがあるが、そのイラストの上部に真っ赤なインクで印刷された文字はすべて同じだ。
『ポケモン生態系保護法改正』
その下に細かく、何月何日からはポケモンを何匹以上逃がすことは罰金や懲役の対象になりますだの、つらつらと規制が書いてある。同じことは腐るほどテレビでもラジオでも聞いてきた。この法律の施行は、もはや来週に迫っている。
ああ、糞喰らえ。思わず足元に転がっていたミックスオレの缶を蹴り飛ばす。缶はそこらを自転車でひたすらに走り回っていたトレーナーのうち一人の前に落ちて跳ね返った。そいつはイラついた顔でこちらを睨むと、再びペダルをこぎ始める。その自転車の籠に、五つのポケモンのタマゴを載せて。
この法律の目的は、俺達「廃人」と呼ばれる強さを至上とするトレーナー達の行為……つまりは、育て屋で同じポケモンのタマゴを大量に産ませてから、生まれた中で素質のない大半のポケモンを逃がすという廃人行為それそのものへの抑制だ。
昔からこの行為は批判されてきた。生まれたばかりのポケモンを野に放つこと自体が残酷だとか、いいや人の手で生まれたポケモンは野生のポケモンよりも強いから生態系を壊してしまうだとか、その主張にはさっぱり一貫性がなかったが、批判されているという点でだけは同じだった。
そして、世間の大多数は批判する側だった。当たり前だ。廃人行為は誰にでもできることではないし、そもそもする必要がある人間は限られている。そこまでして強さを求めなくてはいけない世界の住人は、この世にほんの一握りしかいない。
しかしその世界にいる限り、廃人行為を行わなければ勝つことなどほとんどできない。特に、俺のようなトレーナーであるならば。俺は腰につけたモンスターボールの一つを手に取り、顔の高さまで掲げる。中には生まれたばかりの小さなエネコが一匹、丸くなっていた。
エネコはコンテスト向きのポケモンだと言われる。進化してエネコロロになってもバトルでの能力はかなり低い方で、全く戦わない女トレーナーのペットになっているような場合も少なくない。
だが俺はエネコが好きだ。だから、バトルフィールドでもずっとエネコを、エネコロロを使い続けた。その度相手は侮りを込めた目つきで俺のエネコロロを見て、適当にあしらえ、とばかりにやる気無く自分のポケモンに指示を出すのだ。
その適当なあしらい方ですら負けてしまうことが悔しくて悔しくて、俺は意地でもこいつで勝ってやると決めた。
エネコロロはどちらかと言えば補助技に長けたポケモンで、攻撃は他のポケモンが担当した方が効率がいい。ダブルバトルと交代制シングルバトルに焦点を絞り、エネコロロの相方となるアタッカーを求めていった。
そのうち他の日の当たらないポケモンにも興味が出てきて、もしかしたら面白い戦い方ができるんじゃないかと考えて、そんなポケモン達も育てるようになった。
そんなポケモン達を使いこなすためには、廃人行為による個体の厳選がどうしても必要になる。種族からして戦闘向きのポケモンならば多少厳選作業がなくとも、例えば攻撃能力だけ秀でていて、なおかつ戦闘の好きそうな個体を選べば戦える。しかし元々種族からして弱いのでは、そんなことではやっていられない。
攻撃も防御も素早さも体力も、すべてにおいて最高レベル。そして戦闘が大好きだといったような天才がいないと太刀打ちなどできない。そして天才は、そうそう現れてくれるものじゃない。
そのためにも厳選作業が必要なのだ。しかしこの法律は、そんなことを全く理解しないトレーナーや、もしくはトレーナーですらない連中の支持で通ってしまった。そういう奴から見れば、野に放たれる選ばれなかったポケモン達はそりゃあ可哀想だろう。
だが俺は、バトル場において、種族だけで馬鹿にされているようなポケモン達はもっと可哀想だと思う。
俺はエネコの入ったボールをベルトに戻した。こいつも、戦えるだけの天才ではなかった。こんなポケモン達が溢れかえって、俺のパソコンのボックスは何度もパンク寸前とほとんど空っぽの状態を行き来した。逃がしても逃がしても、天才を求める限り凡才は増え続けていく。そしてこれからは、天才を求めていくことももっと厳しくなるのだ。
どうするか、と途方に暮れていると、こちらへ近づく人影が目に入った。ここは育て屋の前のはずなのに、俺にはそいつがどうも育て屋を利用するような人間には見えなかった。どちらかというと、例の法案に諸手を挙げて賛成しそうな感じの、家でぬくぬくと自分のポケモンと過ごすのが好きそうな中年のおっさんだった。
手に持った大判の封筒。どうせ廃人批判のビラでも貼りに来たんだろ、と少しドアから離れて、何とはなしに様子を見ていた。おっさんは案の定封筒からビラを取り出して、ぺたぺたと手際よく育て屋の扉へ貼っていった。貼り終えるとおっさんはすぐに扉から離れて歩いて行く。途中のフェンスなんかにも同じようにビラを貼り付けながら。
ビラの方に視線を戻して、そこから一度おっさんの後ろ姿を目で追おうとして、思わずビラを二度見した。そこに書いてあった文句は、俺の予想とは正反対の代物だったから。
「ポケモン引取・飼い主マッチング代行業」
その文字が目に入るや否や、俺はすぐさまあのおっさんの後を追っていた。
おっさんは慌てて追いかけてきた俺にも慌てることなく、むしろこっちまで落ち着かされてしまうような温厚な態度で応対してくれた。ちょっと小太りなゴンベ似の見てくれから想像する通りの人物だった。
俺はおっさんに連れられて、ポケモンセンターのカフェテリアまで来ていた。自販機で紙コップのコーヒーを買ったら、たまたまかおっさんも同じものを頼んでいた。
話を聞いてみると何だかんだで俺みたいなトレーナーが結構いるらしく、そのせいで相手をするのにも慣れているとのことだった。
周知期間が長かった分ぎりぎりまで対処を決められない方が多かったようでして、なんて聞くと案外ぐさっとくる。俺も似たようなものだ。半年なんて期間は、対処を決めかねているうちに案外あっさり過ぎ去ってしまう。だからといってどれくらいの期間があればよかったのかは、俺にははっきりとは分からないが。
おっさんはそんな廃人達の間からポケモンを引き取って、ポケモン販売店や初心者用ポケモン配布所にポケモンを卸したり、はたまた個人でこのポケモンが欲しい、といったような要望に応えて、それで金を取っているんだそうだ。
廃人達の好むポケモンはたいてい珍しいポケモンで、アチャモやキモリなんかの初心者用ポケモンも大量に産ませることが多い。初心者向けのポケモンでなくても、例えば中級者程度のトレーナーがタツベイなどを欲しがる時は、住処に行って捕まえてくるよりは廃人の知り合いから貰ってくる方を選ぶことが多い。
そういう縁故のないトレーナーには確かに需要があるのだろう、と納得した。しかし同時に疑問も湧いた。
俺の産ませているポケモンは、エネコだとかポチエナだとかジグザグマだとか、一部を除けばその辺で捕まえてこられるようなポケモンばかりだ。
そんなポケモンでも引き取ってもらえるのか、と聞くと、おっさんは恰幅の良い体を揺らして笑った。
曰く、そういうところにもちゃんと需要はあるのだという。タマゴから生まれたポケモンは野生のものより人慣れしているし、たいていが標準のサイズよりも小さくて危険が少ないから、まだトレーナーになれない年齢の子どもとのふれあいコーナーなんかに大層喜ばれるとか。ポチエナは、トレーナーでない人が番犬を欲しがるような時にいいのだとか。
そして最後に、おっさんは言った。
「私は、ポケモン達を逃がさなくてもいい道を探したいのです。逃がされて問題視されるポケモンがいる一方で、そうしたポケモンが欲しいと言っている人々がいる。逃がす方も欲しがる方もほとんどが個人ですから、その二人が結びつかないのが問題なのです。だから私は、そうしたマッチングができれば今回のような法律などいらなかったのではないかと考えています。
私はそうした人々の架け橋になりたいのです」
その言葉で、俺は決めた。この人にポケモンを預けてみようと。
それから数ヶ月して、ようやく天才は俺の所にやってきてくれた。夢にまで見た、という表現がぴったりくるほどの、理想の個体だ。今そいつは、仔ポケモンのフリーランコーナーで、将来同じパーティメンバーとして戦う予定の、同じような天才達と一緒に無邪気に遊んでいる。
その光景を見守っているのは、そのポケモン達の親だ。俺の周りにいるエネコロロやグラエナ、それにドーブルが、遊ぶ子どもたちを愛おしげに見つめている。
まだこの子どもたちは、バトルすることを知らない。だがその動きを見ているだけでも、そこらの野生で見かけるような普通のポケモンとは違うのだと分かる。生まれて数日で、親にも勝るような足の速さを見せ、瞬発力でもきょうだい達に勝り、いつまで遊んでいてもばてることがない。
思わず顔がにんまりと歪んだ。バトルフィールドの相手の顔が一瞬の驚愕と、遅れてやってくる激しい怒りと悔しさに、くしゃくしゃにひしゃげる幻が見えた。そしてもうすぐ、その顔が幻でなくなる日は迫っている。そう確信できた。
「……何なのこの子、ちょっと、トレーナーはあなたなんでしょ?聞いてるの?」
そこで、すぐそばから聞こえた棘のある高い声にふっと意識が現実に戻る。
俺のエネコロロが、隣に座った女が膝に置くクリーム色と薄桃色のストールに擦り寄っていた。こら、と一声叱り飛ばして、俺はエネコロロを引き剥がす。
これ高かったんだから傷ませないでよ、と女がこちらを睨み付ける。知ったことか。そんな大事なものなら、こんな場所に持ち込まなければいい。
名残惜しげなエネコロロがストールをじっと見て、気を抜けばすぐにでもまた飛びかかりそうな様子だったので、俺は早々に移動を決めた。そういえばそろそろ、ポケモン達の食事の時間だ。
ポケモン用の食事コーナーまで移動してくると、俺は持ち込みの生タイプポケモンフーズの缶を開けた。このうち肉食ポケモン用の生肉タイプのものは、あのポケモン引取業者のおっさんが、いつもの礼にとくれたものだ。
何故だかこれは、特にグラエナの食いつきがいい。単に肉だから興奮しているだけかもしれないが。逆に肉分が多すぎるのか、エネコロロは見向きもしないどころかちょっと敬遠している感じすらする。いつものフーズと味が違うからだろうか。
仔ポケモンたちにはまた別の、特別栄養食の缶を開ける。タウリン配合、インドメタシン配合、と様々な種類の強化食品である。ポケモングッズ売り場でも上位に入る高価格商品だ。そういや買い出しに出た時にエネコのしっぽが安くなっていたから、買って自分で遊んでやるのもいいかな、などと考えながら。
いっぱい食べて大きくなれよ、と俺は小さなエネコの頭を撫でた。
――――
仮題「とあるマイナー厨と法改正」
私が廃人だったのなんてダイパ発売前でしたから、自然とその頃の思い出で書いたようです。
(今の基準からすれば、その頃の私は廃人ではないそうですが)
昨晩「逃がすだなんて勿体無い」を読んだ時、初めに浮かんだのは「ああ、これはビジネスチャンスだ」って感想でして。我ながら変な発想だなあと思います。
でも需要があれば、何か動きは出るんじゃないかと思います。
注意書きは書いておりませんが物騒ぶりが表面に出てきませんでしたし大丈夫ですよね。たぶん。
お題【自由題】(【書いてもいいのよ】)
【書いてみた】
【すみません】
そこは人里のはずれ。山林との境目にある1つの小屋。
人の目なら傍らの休耕地から農家の物置であることが、そして壊れ具合から長らく使われていないことが予想できたろう。
持ち主は農業から離れて長いのか。もはや立ち入る人もいないだろうその小屋に、1匹のエルフーンが立ち入ろうとしていた。
畑を耕し、作物を実らせ、収穫する。そのために使われていた道具の数々を納めた物置は、エルフーンにとっての恰好のおもちゃ箱であった。
鍵のかかっている扉を無視し、1つだけある窓をエルフーンは目指す。本来あるべきガラスはとうに砕け、用をなさなくなっていた。
壁際に積み上げられた肥料の袋をよじ登り、汚れたガラス片の残る窓枠にエルフーンが足をかける。
「……ぃっくし!」
くしゃみが出た。埃とカビの臭いにムズムズする鼻をこすりながら、エルフーンは顔をしかめる。毎度のことだが空気が不味い。取る物取ったらオサラバしよう。
「……んぁ?」
はたと疑問を抱く。ひどいひどいと思っている小屋の中の空気だが、今日はいつにも増してひどい。うすら黒いガスが漂い、背筋が寒くなるのに腹の中が熱くなるような、気色の悪い感触があった。
「ぉお? なんだい、坊主。ここはお前さんの縄張りだったか?」
見れば、1匹のジュペッタが小屋の隅に腰を据え、窓際のエルフーンを見上げていた。
「……おっちゃん、なにさ?」
「俺は見ての通りさ」
「見てもわかんないんだけど」
「そうかぃ? そいつぁ悪いなぁ、ヘッヘッ……ジュペッタがひとり、ちょっと息抜きしてるところさ」
そう言うジュペッタが呼吸をする度、黒い煙が吐き出される。このガスの原因はお前か。不埒な不審者にエルフーンは刺々しい視線を向けるが、しかし当のジュペッタは気にするでもなく、ブハァと黒い息を吐いた。
「息が臭い」
「おー、そりゃまた悪い。よく言われるよ。
そーだな、もう数日で消えるつもりだから、それまで辛抱してくれねぇかな」
「数日ぅ?」
「長旅で疲れちまってなぁ。勝手で悪いが、ここで休ませてくれや。ぬいぐるみの俺にゃぁ、雨風しのげる場所ってなぁありがてぇんだ」
「……好きにしなよ」
どうせ僕の家じゃないし、とエルフーンは不機嫌に言いつつ小屋に立ち入った。
棚に並ぶ農具の数々には目移りするというものだが、悩んでいる暇はない。その暇を奪った汚染の原因は「あぁ、好きにするぜ」と悪びれもせず、笑うと共に黒い息を吐いた。
「また……」
「ハッハァ、ほんとすまねぇな。俺も止められるならそうしてるとこなんだが、な。お前さんの綿に染みねぇ内に、さっさと出てった方が良いぜ」
「言われなくても……!」
しばらくの辛抱だ。それがどれだけ続くかわからないのが腹立たしいが、こんなジュペッタの近くにいるぐらいなら、とエルフーンは小屋を飛び出した。その際に肥やしを一抱え持ち去り、その日のいたずらの事に頭を切り替える。
そうだ、今日はキュウリのプランターにこれをまいてやろう。もう少しで食べごろのキュウリが、予想以上に早く育ちすぎるんだ。浅漬けやサラダに使おうと思っていたのが、瓜の味噌汁や炒め物にしか使えなくなるんだ。
それが良い、それが良いとエルフーンは自分に言い聞かせた。
*
次の日、農具の小屋はいつになく賑やかだった。何かがザワザワと音を立ててるようだ。何事かとエルフーンが近づけば、軒先にずらりと並ぶカゲボウズが一斉に振り返った。
「え、ぇ…………え?」
招くでなく、追い返すでもなく、カゲボウズたちはエルフーンを凝視する。まるで見せ物を前にしたかのような態度で。
一斉に浴びせられた好奇の視線はエルフーンを慄かせ、しかしそれ以上に不快感を覚えさせた。
「な……なんだいなんだい、カゲボウズが驚かせやがって、気色の悪い! そのトンガリ頭、つるっと丸めてハゲボウズにしてやろうか、えぇ!? いきなりジロジロと! なんの用だってんだ!」
“しびれごな”をまき散らしながら、エルフーンが怒りにまかせて吠える。その様はまるで子供のようだったが、効果ばかりは一丁前の“しびれごな”にカゲボウズたちはボトボトと落ちていった。
「いい気味!」
フンと鼻を鳴らし、改めてエルフーンは小屋に立ち入る。しかし近づいたところで足が止まった。
「……なに?」
見れば、窓から漏れ出る黒い煙が軒下に漂っていた。
火事か? エルフーンは考える。火の気のない場所だが、ひと気もない。悪ガキがタバコにチャレンジして、消火の不完全な吸い殻を投げ込めばこうもなるだろう。普段からイタズラのことを考えている身として、充分に有り得ると思っていた。
ここはもうダメか。逃げるか。しかし火事と言うには、煙の割に火の臭いも音も無い。カゲボウズたちが何故か集まっていたこともあり、なにやら不自然に思えた。
見てみるか。好奇心に駆られてエルフーンは窓に近づき、黒煙の中を覗き込んだ。
「うわ……なにぃ?」
小屋中に火事かと見紛うほどに黒い煙が立ちこめている。そこに火の熱や臭いがないから火事ではないとわかったが、しかし天井が見えなくなるほどに煙は濃く、いったい何事かと思わせた。
「よぉ、坊主。今日は虫の居所が悪いみたいだな」
煙の向こうにて、その出所は壁に背を預けたまま何食わぬ顔をしていた。窓から覗くエルフーンに、昨日と同じように「ヘヘヘ」と笑う。
「昨日のおっちゃん? なに? これ、おっちゃんの仕業?」
「おー? みてぇだなぁ。だいぶん息抜きも進んだってとこだが、そんなにひどかったか?」
「……火事かと思ったよ」
「そりゃ驚かせたな」
草ポケモンだけあって火事が怖いか、とぬいぐるみが笑った。
他人事みたいに言ってからに、と呆れつつ、エルフーンは小屋に飛び込んだ。こんなところ入りたくもないが、しかしこのままじゃあんまりだろう。
ひとまずは換気だ。そう思い、エルフーンは本来の出入り口を開錠すると開け放ち、窓から扉までの風の通り道を作る。そして身体を震わせると「ちょあーっ!!」と“ぼうふう”を巻き起こした。それはたいして得意ではない攻撃技だが、煙を流すには充分な威力だった。
同時に、煙とともに外へ飛び出した風は、哀れにも“しびれごな”をあびて動けないカゲボウズたちを襲った。風にあおられキャーキャー悲鳴を上げるカゲボウズたち。しかし風の音が鳴り響く小屋の中までその声が届くことはなかった。
やがて部屋の空気は改められ、慣れない技を使ったエルフーンばかりがぜいぜいと肩で息をする。それを微笑ましく思いながら眺めるジュペッタに、軽い風が吹き付けられた。
「ぅっぷぁ……!」
「なんだよ、ニヤニヤと」
「……ホンっトに機嫌悪ぃな。表でも騒ぐし。なんかあったのか?」
「おもて? なに、聞いてたの?」
盗み聞きまでするか、と咎める視線を向けるが、「坊主の声がデケェだけさ」とジュペッタは何食わぬ顔で受け止める。
「つっても、わかるのは坊主がなんか騒いでたってだけだがな。あんまチビども、いじめんなよ?」
「いじめてなんかないやぃ。あっちがガン飛ばしてきたんだよ」
「そうかぃ。いや、そいつは災難だったな、どっちも」
「どっちもぉ? なにさ、それ」
「ハッハァ、わかんねぇか。だったら わからんままにしといてくれ。ヘッヘ、ェ゛ホッ! ゲホッ!」
ごまかすように笑い、むせる。その咳に乗ってまた、ひと際大量に煙が吐き出された。せっかく改めた空気が汚れ、エルフーンが顔をしかめる。
「きったないなぁ、おっちゃん」
「ぁー……ほんと悪いな。どうもノドが落ち着かねぇってか……はー、恨み辛みで動いてきたが、腹黒い真似はしたことないんだがねぇ」
「こんな黒いの、垂れ流しといてよく言うよ。……げほっ! 僕も気分悪いや」
「いやぁ、こんな俺でもやってることは大人しいもんだったぜ? せいぜい元の持ち主を探して西へ東へ。ブラブラしてるだけだったよ」
「その黒いのをまき散らしながら?」
「いんや、こいつは最近になってからさ」
そう言ってジュペッタは天を仰いだ。その「最近」を思いだし、ハァ、と息を吐く。
「……この辺に来たあたりからだ。なんだか腹の中が窮屈になってな。ちぃと一息吐いてみたら、スッと軽くなったんだよ。今まで腹ん中に押し込んでたものが、この黒いのになって吐き出された。そんな感じだったな」
言葉にあわせて黒い煙が口から漏れる。エルフーンにしてみれば空気が汚れるからやめてほしいのだが、こうまで言ってなお聞かないのなら、いっそ諦めてしまおうかと考えていた。
エルフーンの様子も気にかけず、独り言のようにジュペッタは続ける。
「それからだな。急にいろいろ、気が長くなったっつうか、やる気が失せたっつうか。
……そうだ、坊主。お前さんもエルフーンなら、やっぱりイタズラは好きか?」
「好きか、って……なんだよ、いきなり」
「なに、ちょっとしたオッサンのお節介さ」
いきなりの問いかけにエルフーンは戸惑う。なんのつもりかと怪しむが、ジュペッタは相変わらず笑うだけだ。
「……そりゃ、僕もエルフーンだし? イタズラは好きだよ。楽しいよ? それがなにさ」
「そうだよなぁ。エルフーンっていやぁ、イタズラが生き甲斐みたいなもんだ。ま、お前さんならエルフーンでなくてもイタズラ好きだったろうがな」
「どういう意味さ」
「いやいや、なんつぅか、な……今を楽しめよ、と。イタズラがつまらないと思うようになったら、お前さんも……アレだ。おしまいだ」
それはオッサンの、若者へのアドバイスのような物言いだった。しかし「おしまい」と言われてエルフーンは眉間にシワを寄せた。
「おしまい? なにさ、えっらそうに。
確かにエルフーンはイタズラ好きだよ。けどそれだけで生きてるわけないじゃんか。
イタズラがつまんなくなったら、そん時ゃきっと、別の事を始めるさ。
おっちゃんは、あれだ」
エルフーンが苛立たしげにジュペッタを睨む。その口から出るのは、心からの拒絶。
「大きなお世話なんだよ」
「…………ハッ」
しかしジュペッタは笑った。
「アッハッハー、そっかー!」
前向きなエルフーンだ……いや、自分が後ろ向きなだけか。そう嘲って。
「……そーだなー」
そして訝しがるエルフーンに「悪かった」と詫びる。
「んー?」
「や、ゴーストが偉そうな事言っちまったからさ。年齢と経験だきゃ若いのにも負けてね、ってつもりだったんだが……恨み辛みだけで生きてちゃーダメだな。頭が固くなって仕方ねぇ」
言いながらジュペッタは頭をワシワシと掻いた。綿が詰まっているであろうそれは柔らかそうに見えたが、そうじゃないだろう、とエルフーンは黙っていた。
「まー、なんだ。老いぼれの戯言と思って、忘れとくれや。こっちは身の程ってやつがよくわかったし、もう余計な事は言わねぇからさ」
「よけーな事ねぇ」
「そーさぁ、いらんこと言って若者を惑わすわけにゃいかねぇ。老いぼれは静かに隠居して、己の死期を待つってな」
「…………思ったんだけど」
老いのせいか、はたまた。やけに多弁なジュペッタが、何か思うところがあるのかと若者の目には映った。
「偉そうに生き方を語るヤツってさ、たいていそいつ自身が生き方に悩んでるんだよね。いわゆる自己紹介ってヤツ?」
「おーっとぉ……」
返答に窮する。図星をつかれてジュペッタが黙り、エルフーンもまた察した。
「おっちゃんはさ。元の持ち主を探して旅してたんだよね」
「……あぁ、そうさ。つっても、持ち主の顔も声も、思い出せやしないがね」
「は?」
肝心なところが抜けてないか、とエルフーンは自分の耳を疑った。しかしジュペッタはいたって平然とした態度で続ける。
「いやー、もう何十年も前だからなぁ。
いつの間にか自力で歩いてたし、思い出せるのは……カエセ、カエセって喚いてた事ぐらいかな」
「いや、それってゴーストポケモンとしてどうなの? なんか、すんごい危うい気がするんだけどさ」
「そう言われてもな。サッパリなんだな、これが」
「自分のことじゃんよ……」
その呑気ぶりにエルフーンは呆れ果てるが、当のジュペッタは「なんか取られたんだと思うね、俺は」と笑うばかりだ。記憶喪失のような状態だというのに、幽霊が未練を忘れかけているというのに。
「ったく、ホントよく続けられたもんだね、何十年も」
「ハハ、言ったろ。恨み辛みだけで歩いてたんだって。
どうして俺がこうも汚れてまで歩かなきゃならないんだ。俺を捨てた持ち主め。夢枕に立って恨み晴らしてくれるわー……ってな」
ジュペッタはおどけて言った。だが直後に軽いため息をつき、目を伏せる。まるで「もう終わったことだ」と懐かしむように。
「……って言うけど、ねぇ、おっちゃん」
「おぉ。もう無理だ。疲れた」
エルフーンに話したことと同じ。全てをかけた生き甲斐を失い、在り方を忘れた幽霊の姿がそこにあった。若いエルフーンにはそれがとても痛ましく見え、いたたまれなく思えた。
「……後ろ向きなこと言って、しんみりさせちまったかな」
「まぁ、仕方ないさ。おっちゃん、ゴーストポケモンだもん。
……あーでも、ダメだ。今日はイタズラもする気も失せた! こんな日はひなたぼっこと昼寝に限るや!」
「おぉ、ひなたぼっこかー。いいなぁ。俺も虫干しするかな、たまには」
「ヘヘ、日焼けしない程度にね。お天道様は平等だからさ。
そんじゃーね、おっちゃん」
陰気臭い空気を払うようにことさらにエルフーンは声を上げ、小屋を出て行く。
その背中へ軽く手を振り、ジュペッタもまた声を投げる。
「おう、そんじゃあな、坊主」
開きっぱなしのチャックの口は、呼吸の度に黒い煙を吐き出していた。
*
虫の音ばかりが遠くに響く深夜のこと。眠らぬジュペッタは、長い夜をエルフーンの言葉と共に過ごしていた。
自分はどうして、ジュペッタになったのだろうか。
思い出せる最も古い記憶は、何かが無性に恨めしかったことと、そして何かを強く求め焦がれていたことだけ。
何かがなんだったか、何故だったか。それは思い出せない。
久しく思い出してなかったからか。それなら、そう重要な事ではなかったのだろうと思い、無性に悲しくなった。
ひどく、ひどく悲しく感じた。
わずかな明るさを感じ、ジュペッタは窓を見た。
ガラスのない窓から明かりが差し込んでいた。月明かりか。思ったが、しかし小屋の窓から月が見えないことは最初の夜から知っている。
不思議に思い、明かりの下に歩み出る。
その目に映る窓の外は、やはり星空しかなかった。
星空が、あった。
「そこにいるのか?」
星空にジュペッタは声を漏らす。
「そうか! そこだったのか!」
歓喜に目を見開き、叫ぶ。
「やっと見つけた! 今、行くから! 俺もすぐに行くから!」
その口からは、声だけが。
「俺、帰ってこれたんだな!」
そして、だから、気づいた。
カエセは、帰せ、だったんだ、と。
*
翌日、人里にエルフーンの姿があった。もちろん、イタズラ目的である。
手ごろな家に目をつけると、その軒先に立ち、綿毛の中から汚れ切ったぬいぐるみを取り出した。
それは今朝のこと、いつもの小屋には今日もカゲボウズが群がっていた。
エルフーンはうんざりする。また気色悪い視線を向けられるのか。がしかし、エルフーンに気づくやカゲボウズたちはクモの子を散らすように飛び去っていった。
なんのつもりか。事情は分からないが、とりあえずやることは変わらない。釈然としないながらもエルフーンは小屋の窓までのぼり、そこで黒い煙がなくなっていることに気づいた。
窓から中を覗き見れば、ボロボロのぬいぐるみが仰向けに、まるで窓から空を見上げるように倒れていた。
全身黒く汚れているが、もとは桃色のウサギか。長い耳は右が無く、残る左耳も半ばからちぎれていた。手足は付け根の糸がほつれ、先端は擦り切れて綿がはみ出している。そして口は左右に裂け、泥の染み付いた綿があふれ出ていた。
不気味なぬいぐるみだ。そう思うと同時にひらめく。こいつを人間の家の前に置いておけば、きっと驚かすことができるだろう。ならばイタズラの道具にと、ぬいぐるみを綿毛の中に仕舞い込んだ。
そのぬいぐるみを、エルフーンはある民家の軒先に置き去りにする。何故そこなのか、そうするのか、特に理由は無かった。ただ、そうしたほうが良い、となんとなく感じただけだった。
だから、同じようにただ感じただけの行動をする。
「……どーいたしまして」
ぬいぐるみから「世話になったな、坊主」と聞こえた気がしたから。
* * * * *
長らく考え続けていたお話、ようやく形になりました。
考えていた当初は、ジュペッタの綿にあった呪いがエルフーンの綿に移り、エルフーンが「わるいポケモン」になる、というオチを考えていました。
ところが先日、「盗まれた曰くつきのシロモノが、盗まれた先で呪いをバラ撒いて戻ってくる」というオカルト系の話をネットで見かけまして、心惹かれて方針転換と相成りました。
もし興味がおありでしたら 「どろまま ちょっと分けてみた」 でグーグル検索をどうぞ。オカルトパワーって、すげぇ。
以上、MAXでした。
【批評、感想、再利用 何でもよろしくてよ】
こんばんは、マメパトです。 |
ああ! そのネタ使いたかったのにwww
先超されたかwwww
やっぱこの一節は魅力ありますよねー。
前書き:非常にカップリング色の濃い話です。
あのロクデナシ、いつか潰す
【Just You Wait!〜今に見てろ!】
ポケモンのフラッシュが明るく洞窟を照らしてる。ムロタウンの人によれば、一方通行だから迷うことはないよって言ってた。でも歩いても歩いてもそれらしい人とはすれ違わない。そもそも名前だけで解るものなのか心配になってきた。
中は広くて私もポケモンも疲れて来てた。どこか休める安全なところを探そう。岩が重なっただけの階段を登ると、その先に光が見えた。太陽の光か、私はとりあえずそこを目指した。
そこには人がいた。後ろ姿だけだったのに、私は声をかけられなかった。凄くきれいで、優しい雰囲気のお兄さん。生まれて初めてこんなに美しい人がいることを知った。
「君は…?」
みとれていたら、向こうが気付いた。ふんわりとした大人の声だった。こちらを見てる。私はしばらく話しかけられたことも忘れていた。
「あ、私、デボンの社長さんから石の洞窟にいるダイゴさんに手紙を渡すよう言われていて…」
緊張で声が出にくい。だめだ、第一印象を良くしたいのに。
「ああ、僕がダイゴだよ。わざわざこんな洞窟の奥までありがとうね」
にっこりと笑った顔はもう素敵とかかっこいいとか、そんな言葉じゃ表せない。けど初対面の相手にこんなことを思っているなんてバレたらなんか嫌。バレないように封筒をダイゴさんに渡した。
受け取るとダイゴさんは封筒を一通り見た。何かおかしいのかな。何も落としてはないはずだけど。
「ふうん…」
ダイゴさんはそれだけ言うと手紙を懐にしまった。内容解ったのかな。もしかしてエスパーとか? だとしたら私の心の中とかも、もう読まれちゃってる!? やだー!
「ああそうだ君にお礼しなきゃね」
え、そんな…ダイゴさんが私にくれる? ちょっと待って、それってあの俗に言う…でも私の年じゃまだ早いっていうかっ!
「君はトレーナーみたいだし、僕の好きな技マシンをあげよう」
なんだ技マシンか。それでもダイゴさんの直接手渡しでもらっちゃったよ! なんて人なんだろう、ダイゴさんって凄く他の人と違う!
「あ、それポケナビじゃないか!」
舞い上がってた私は見事に無視され、ダイゴさんは腰についてたポケナビに興味を示した。まぁ男の人って機械好きって言うし!
「僕もトレーナーなんだけど、ここで会ったのも何かの縁だし、登録していいかな?」
ま じ っ す か !
落ち着け、落ち着け私。ここでバレたら二度と会えないかもしれないぞ。ここは慎重にコトを進めなければ!
「は、は、はいっ!」
ダイゴさんとナビ友! ダメだ電話しすぎてうざがられたら終わりだ、電話は週に多くて2回だ。メールも長文じゃなくて短文を心がけて、絵文字も…
「ハルカちゃんね…さっきから顔が赤いけど、暑いの?」
「そんなことないです! です!」
「君おもしろいね。ハルカちゃんはどこから来たの?」
私のこと聞いて来る! もしかしてもしかして、脈あるかも! こんなに出来すぎた人が私を見てるなんて!
「私はジョウトからミシロタウンに引っ越して来ました!」
「ふーん、なんで?」
「お父さんがこの度ジムリーダーに昇進したので、あ、お父さんはトウカシティのジムリーダーなんです! 私、お父さんみたいに強いジムリーダーになりたくて、ポケモンと一緒に旅に出ましたっ!」
私のお父さんの話をして感心しない人はいなかった。ダイゴさんだってきっと感心してくれて、そこから始まる
「あ、そう。ま、ジムリーダーなんて名前だけでしょ」
は?
もう一回いってみろタコ
「ジムリーダーやエリートトレーナー、チャンピオンなんて名前だけに、君はなりたいの? まぁ君はまだ子供だから目指すのは悪くないけどね。全く、子供は形から入りたがるから嫌なんだ」
仕事あるから、とタコは出ていった。私は上手く言い返せず、やつの背中を見送った。
「くやしー!!」
ムロタウンに戻って、さらに怒りがこみ上げる。ダイゴに言われたことの意味、そして少しでも感じてしまったときめき。
「ダイゴめ…いつか見てろ。チャンピオンになって、お前をボコボコにしてやる!」
私の目標は変わった。強くなってダイゴをボコす。それ以外の何ものでもない。
【向き合い方】
「ハルカどうした」
ハルカの友達のユウキは言った。110番道路で会って勝負したはいいが、ハルカのポケモンから溢れるボコすオーラにユウキのポケモンはすっかりおされてしまった。
「前はお父さんみたいになりたいって言ってたのに」
別人のように変わってしまったハルカに、ユウキはおそるおそる聞いてみた。
「目標が変わった。打倒ダイゴ! イヤミなトサカ頭をボコボコにする」
「ダイゴ? え、ダイゴって」
「だからイヤミなトサカ頭! 初対面の人間にも余裕のイヤミっぷり! もう信じられない!」
初めて会った時は温厚で控えめな子だとユウキは思った。ここまで怒らせるにはどんなにイヤミ言ったらなるのだろう。ユウキの疑問は解けない。それに彼女の怒りの矛先は、どこかで聞いたことがあった。
けどユウキが疑問を挟む余地はない。ハルカの怒号のトサカ頭コールに、ユウキはひたすら押し流されていた。激流に飲まれたかのごとく、黙るしかない。
「ハルカ」
「何?」
「おごるから何か食べて落ち着こうよ」
激流を連れて、カイナシティのレストランに行く。その間、ハルカは黙っていたが、怒りのオーラだけは隠しきれていない。ユウキはなるべく彼女の方を見ないように、おいしそうなレストランを探す。
ユウキの心配をよそに、海の幸を前にしてハルカもさっきまでの怒りが嘘のよう。ユウキはホッと胸をなで下ろす。
「でさぁ、そいつマジで」
「ハルカ、あのさ」
「うん」
「さっきからその人のことしか話してないけど、本当は好きなの?」
ユウキは地雷に飛び込んだことを後悔した。いくら後悔しても後の祭り。立ち上がったハルカを、ユウキはじっと見る。
「そんなことあるわけないでしょ! 私はあいつ嫌いなの!」
にっこりと言う。それがユウキにとって怖かった。
ユウキと別れてからかなり経つ。ハルカはフエンタウンの温泉の一室で思いっきり寝転がった。
ポケナビをいじる。目に止まったのは登録してから一度も使われてないダイゴの連絡先。ハルカは舌打ちする。
「チャンピオンになって、それからあいつのポケモンを手持ち全員ボコボコにして、土下座して謝らせて、それから…」
ハルカの空想は止まらない。頭の中でダイゴを虐げても虐げても足りない。
それは天気の悪い日だった。海の波は高く、せっかく覚えたなみのりも生かせない。ハルカはブラブラと118番道路を歩いていた。
「やぁ!」
ハルカは身構えた。段差から人影が飛び降りて来る。その人影を確認するが早いが回れ右。
「ちょっと待ちなって」
ダイゴの身のこなしも早く、まわりこんでハルカの進路を塞ぐ。それと同時にハルカはダイゴから目を思いっきりそらす。体の向きまで反対を向きそうだ。
「いやいいですこんなところで会うなんて悪運の間違いですさようなら」
「ふーん、そう。残念だなあ。じゃ」
ダイゴの手にはモンスターボールが握られていて、中から金属がこすれ合う羽音を出すポケモンが現れる。エアームドという固い鳥ポケモン。ハルカは目をそらしてても、ポケモントレーナーとしてエアームドに目がいってしまう。そのエアームドとハルカの間に怖い顔したダイゴが立つ。
「なに人のポケモンをじろじろ見てるの。悪運が乗り移ったら大変だからね」
「なんですかその言い方! 人のことを疫病神みたいに!」
「君が言ったんだろう? 全く、自分の発言をすぐに忘れて他人ばかり攻撃するから」
ダイゴは言うのをやめる。ハルカが今にも泣きそうな顔をしてダイゴを睨んでいたからだ。攻撃するには少し年下すぎたかな、と心の中で反省する。しばらく無言の時間が流れる。その間もハルカはじっとダイゴを睨んでる。
「ぜったい、ぜええっったいボコボコにしてやる!!」
エアームドがハルカの大声に一瞬ひるんだ。
「チャンピオンになって、あんたなんかぼこぼこにして後悔させてやる!!!!!」
突然の宣戦布告にエアームドは思わず金属の翼を広げてハルカを威嚇する。ダイゴは何の動揺もなく、エアームドを制止する。
「あ、そう。がんばっ」
「なんでそういう態度なんですか! 少しは怖がったらどうなんですか!」
「はぁ?」
「だから、ダイゴさんなんてフルボッコにしてやるって宣言してるんだから、少しは」
「とりあえず落ち着きなよ。泣きながら宣戦布告したって意味がないだろう」
「泣いてなんかないです! 私が子供だからってバカにして!」
「バカにしてなんかないだろう。君が勝手に言ってるんじゃないか」
ハルカが何か叫んでいるがダイゴの耳には聞き取れない。ダイゴにはなぜこうなったのか理解などできず、目の前の女の子が泣いてるのをただ眺めるしかない。そして通り過ぎるトレーナーたちの怪訝な視線に気付いた。まわりからみたら、どう考えてもダイゴが意図的に泣かしたとしか見えない。こんな年の差があって、しかもこの状況だったら犯罪者にだって間違われかねない。
つまり、ダイゴは今とても焦っている。それを表情にこそ出さないが、通り過ぎるトレーナーがダイゴを白い眼差しで見ていることには気付いている。目の前のハルカは睨んでいる。エアームドはどうしたらいいという顔をしてダイゴをみていた。
「いきません! いやです! いきませんったら!!」
ここまで引っ張ってくるのにだってダイゴは相当な労力を要した。何か食べに行こうと誘ってもそれなのだから。ようやく、一番近いキンセツシティまで連れてくることが出来たのだ。
冷たいものが食べたいからとダイゴはアイスをハルカに渡した。無難なバニラ味のアイスクリーム。ダイゴの方を見ようとせず、口も聞いてくれないのだから渡すのにだって苦労した。ダイゴだって犯罪者を見るような目つきで他のトレーナーから見られてなかったらとっくに放置している。
そんなダイゴの心も知らず、彼の隣でハルカはバニラのアイスを口に含んでいる。心の中でため息をつきながら、ダイゴはハルカを見た。
その顔はさっきとうってかわって笑顔。嬉しそうに食べる彼女を見て、温厚なダイゴも怒りをぶちまける寸前だ。なぜこんなねじ曲がった性格の子に会ってしまったんだろうと。ダイゴの手の中のチョコレートアイスが溶けかけだ。
ため息まじりにダイゴがチョコレートアイスを食べる。その視線が下に向いた。
「ついてくんなよ!」
甘い味覚を吹き飛ばす怒鳴り声がしてる。その方向に周囲の人たちの視線が集まっていた。フライゴンをつれたトレーナーが、足元にいる小さなナックラーを怒鳴りつけている。
ダイゴはすぐに視線を戻す。ありふれた光景だったから。あれは要らないあまりもの。そして天のいたずらか、捨てられたナックラーがトレーナーに再会したのだろう。そして怒鳴り散らしているのだ。
強さを求めるあまり、ポケモンの命などないがしろにするトレーナーは後を絶たない。けれどある意味それは正論だ。努力で越えられない才能を持つ個体を求めることは間違いではないはずだ。なにせ人間がそうなのであるのだから。
「ナックラーがかわいそう」
ハルカがつぶやくように言った。それがダイゴにとって今までの常識から考えられない答えだった。
「なぜ?なぜそう思うの?能力を持たないものは、自然では生きていけないのに?」
「えっ、えっ?だってナックラーはあの人のポケモンじゃないですか。それなのに弱いからって勝手すぎます!」
ハルカの頬を、砂のつぶてが通過する。それどころか目の前のアイスは全て砂まみれ。ポケモンの技だった。怒鳴ってる男のフライゴンが砂掛けで威嚇していたのだ。もちろん、命令で。
目に砂が入ったのか、ハルカは下を向く。そんな周囲の様子もかまわず、男は怒鳴り続けている。
「ちょっと、君!」
思わずダイゴは立ち上がる。そして怒鳴り散らしてる男の肩に手をかけた。
「喧嘩するのは構わないが、何の関係もない女の子に砂かけて、それで謝らないってどういうこと?」
「あ? うるせえよてめえ」
男の拳がダイゴの顔を狙う。頭に血がのぼってなければ、気付いていただろう。その行為が無駄なこと。ダイゴの近くにいるのは鉄壁を誇るエアームドがいた。主人であるダイゴを守るために、エアームドは威嚇ではなくその鋭い嘴を男に突き出す。
「うがああああ!!!」
「君のフライゴンじゃエアームドは倒せないだろう。今もっているのは他に孵化してないタマゴってところか。それでもやるかい?」
ダイゴの言葉など入っていないようだ。ただエアームドの嘴にささった手をかばっている。警察に訴えようにも、自分からエアームドの嘴に突っ込んだのだから出来るわけがない。
「最初から謝ればいいんだよ。そうしなきゃ僕の」
まわりは騒然となっている。手が血まみれの男と、その男を見下してるダイゴと。
「あ、あの」
周囲の誰かが声をかける。ダイゴが振り返ると、トレーナーらしき人が申し訳無さそうに立っていた。
「もしかして、あの、貴方は……」
「多分違う人じゃないかな」
言葉を遮って、砂まみれのハルカの前に立つ。彼女は小さなナックラーを抱いていた。フライゴンにやられた傷を治すために。
「静かなところ行こう」
ハルカの手を掴んで、引っぱるように歩く。その歩みが速すぎて、ハルカは引きずられてるように感じた。
しばらくダイゴは無言だった。そして思い出したように振り返る。
「ハルカちゃん」
「なんですか」
「この広い世界には様々なポケモンがいる。それぞれ様々なタイプを持っている。いろんなタイプのポケモンを育てるか、それとも好きなタイプのポケモンばかり育てるか……君はポケモントレーナーとしてどう考えてる?」
「え、なんですかいきなり」
「僕が気にすることないけどね。それよりかなり砂まみれだ。はい」
胸のポケットから、柔らかそうなタオルを差し出す。まさかのことに、ハルカは何をしていいか解らない。タオルとダイゴを交互に見て、おそるおそる右手をのばした。いつも使ってるタオルとは全然違う。触った瞬間に解る手触りの違い。高級な毛皮を触ってるようなふんわりとした感触が、ハルカの手の中に握られている。
「じゃあまた会えるといいね」
ダイゴはエアームドと共に空へと舞い上がる。風の中に消えていく姿を、いつまでも見つめていた。
【ユウキの仕事とハルカの戦い方】
ハルカは絶対認めない。何の事って、俺がそいつのこと好きなんだろって指摘したこと。
ハルカの話によると、嫌味を言うトサカ頭の年上の男がいるらしい。そいつ嫌い! なんてハルカはいつも言ってるけどさ。気付いてないだけかもしれないけど、俺との話題の9割はそいつの話なんだけど。
名前もこの前雑誌で出てた人と同じで、もしかしたら有名人かもしれないのになあ。まあ、今のハルカはそんなのゴミ以下の価値だろうけど。
俺も会ってみたいなーってこの前言ってみたんだ。そしたら、物凄い剣幕でもう会いたくない! っていうんだよ。うーん、ハルカの話からは、どう聞いてもいつも会っちゃうみたいなニュアンスなんだけどなあ。
「えー、あたし会いたくない」
ヒワマキシティのポケモンセンターで、ビブラーバの背をなでながらハルカは言った。ビブラーバは気持ち良さそうに二枚の羽を動かしていた。今、かわいがってるこのビブラーバ、実は最初はハルカに懐いてなかった。ナックラーだったときはその顎で手をいつも噛み付いてた。それなのに今はメロメロに近いほど懐いてる。
「会いたくないとかいってて、この前も会ったんじゃないの?」
「知らない! 会いたく無い時に向こうからくるんだもん」
そういうハルカの顔は嬉しそうだ。ビブラーバを撫でてるからじゃない。その人の話をする時はいつもこう。俺には好きだって言ってるようにしか見えない。
「だってそのハンカチ返さなくていいの?」
最もハルカが嬉しそうに話してきたのはそのこと。喧嘩ふっかけてそれで拭いて返してねっていったらしい。返して欲しいってことは、また会うんじゃないかなー。
「でしょー。全く、人に返せっていっておきながら取りに来ないのはどうなんだろうね!」
一貫性がないこと、気付いてるかなハルカ。それに気付いてないからこんなこと言ってるんだろうなあ。ダイゴさんに会えること、待ち遠しくて仕方ない感じしかしない。
そうしてヒワマキシティで別れた。俺は120番道路に用があったから。バクーダが何やらふんふんと地面の匂いを嗅いでいる。いいポケモンでもいるのかな、と顔をあげるとなぜかハルカがいた。
「あれ、どうしたの? ジム挑戦するんじゃないの?」
「それがさあ、なんか見えない壁で通れないから、ユウキの仕事を観察しにきた!」
「見えない? それって」
「やあハルカちゃん! 久しぶりだね」
バクーダが一瞬おびえた。目の前の人間に。その影を確認したハルカの表情が一瞬にして明るくなる。こいつか!
「げ、ダイゴさん」
ねえハルカ。表情と言動が一致してないよ。気付いてるかな。
「と、ハルカちゃんのお友達かな?」
「あ、はい。ユウキです」
「ユウキ君ね」
あー、うん、ハルカが好きになるのも解るなあ。爽やかなオーラでイケメンだし優しそうだし。ただ、その髪型は申し訳ないけどハルカの表現が的確すぎる。そしてやはり雑誌で見た事がある人だ。
「ハルカから聞いてます。ダイゴさんですよね?」
「あれ、どうして解ったのかな」
ハルカの態度の変わり方なんて言えない。ダイゴさん気付かないのかな。
そういえば、ハルカはダイゴさんに会えてすっごく嬉しそうだけど、ダイゴさんの方は表情が変わらないし、嬉しそうでもない。つまり、ハルカがものすごく勝てない勝負を仕掛けてる気がする。
「ところで、二人とも何してるの?」
「別に。ユウキの仕事みにきただけで」
ハルカ、なにその態度の変わりかた、すんげえ。なんでそんな突き放したように言うんだよ。好きなのにそんなこと言っちゃダメだろ!
「あ、俺はどんなポケモンが生息してるか調べにきたんです。あと生態系も」
「へえ。なるほど。ユウキ君は普通のトレーナーとはまた違って面白いね」
なんでほめられてるのか解らないけど。そしてダイゴさんの視線が俺じゃなくてハルカに行ってるような気がする。あれ、もしかして?
「どうせ私はただのトレーナーです」
「そんなこと誰も言ってないだろう」
俺ここにいていいのかなあ。ハルカ怖いし、ダイゴさんはハルカに呆れてるし。
「まあまあ。見えないポケモンがいるんだから仕方ないよ」
俺まで噛み付きそうなハルカの機嫌をとりあえず取らないと。
「見えないポケモン?」
それに食いついたのはダイゴさんの方。ハルカの方は何で言うのと言わんばかりに俺に実力行使だ。遠慮なくなぐってくるから痛い!
「ちょっとおいで、二人とも」
ダイゴさんが背を向ける。ハルカは俺のことなんてさっさとおいて行った。ハルカは俺より強いからもう手の施しようがない!
「ここに見えない何かがいるよね?」
橋の上で止まってる。直前でそういってたのに気付かず、俺はそのまま突進してしまった。そして見事にぶつかって弾き跳ばされる。ハルカが大丈夫?と心配してくれた。こういう時は優しいんだよなハルカは。
「見えない何かに向かってこの道具を使うと……違うな。説明するよりも実際に使った方が楽しそうだ。ハルカちゃん、君のポケモン戦う準備は出来ているのかい?」
「えっ?」
「君のトレーナーとしての実力見せてもらうよ!」
映し出される透明な壁。紫のギザギザ模様、緑色のウロコ。カクレオンというポケモンだ。普通は木の枝や石の側で隠れてることが多い。こんな道の真ん中で見えるとは思わなかった。
見えてることを知ったカクレオンが襲いかかる。俺よりも早く、ハルカはボールを投げた。出てくるのはラグラージだ。ってかまた進化したのかよ。早いなあ、おい。
「なげおとせ」
えっ?
えっ?
ハルカ、それ技の指示じゃないじゃん。ラグラージも向かってくるカクレオンをしっかりと持ち上げて、池に突き落とすなよ! あーあ……仕方ないから、俺のホエルコで助けてやると、カクレオンは必死になって這い上がって来た。
「なるほど 君の戦い方面白いね」
ダイゴさん、そこ感心するところじゃないってば!
「初めてムロで出会った時よりもポケモンも育っているし……そうだね。このデボンスコープは君にあげよう 他にも姿を隠しているポケモンはいるかもしれないから」
「え、別にいいです」
「見えないポケモンに困ってるんじゃないの?」
ダイゴさんがにっこり笑ったら、ハルカも受け取らずにはいられなかったみたいで。びしょびしょのカクレオンをボールに入れている側で、二人はなんだかどちらともつかないオーラで話してる。
「ハルカちゃん。僕は頑張っているトレーナーとポケモンが好きだから君のこと、いいと思うよ。じゃあまたどこかで会おう!」
普通のトレーナーはそんなことしないからね、と付け足した。エアームドで空を飛ぶダイゴさんに向かって、ハルカは犬みたいに吠えていた。
【いつか追い越される】
人間関係というのはとても面倒だ。だから、人間と関わらなくていい職業を選んだ。それがポケモントレーナーだ。ポケモンたちは僕を信じてくれるし、期待に応えてくれる。裏切ることもないからね。
家には僕が見つけた宝物が飾ってある。珍しい石だ。昔、博物館で展示されていた石を見て、いつか石をたくさん並べておきたいと思ったものだ。今、それはかないつつある。
今日もそのコレクションを眺めながら新しい学会の発表を読む。一日はかかりそうだから、休みをとった。
そのはずだった。今日は誰も尋ねてくる予定なんてなかったのにそれは来た。
「なんでダイゴさんがいるんですか」
「人の家にずけずけと入り込んで言う言葉かなハルカちゃん」
僕の座ってるソファの背後から、どうしてこうも高圧的な態度に出られるんだろう。それにコロコロかわりすぎて、判断がつきにくすぎる。
「ちっ、ダイゴさんちだったか。お邪魔しました」
舌打ちが聞こえたのは僕の気のせいにしておこう。元々かわいくないのが、さらにかわいくなくなるからね。
「まあ待ちなよ。せっかく来たんだ、お茶でもどう?」
少し罠をかけてみる。これで少しは解るんじゃないか。別に僕としてはどちらでもいいけどね。
「え、そんな暇はないんですけど」
「あ、そう。残念だね」
なんかとても焦ってる感じがするのは気のせいかな。ま、僕には関係ないけどね。
「人が困ってるのに聞いてくれないんですか!?」
突き放すと途端によってくる。一体君は何がしたいんだ。全く。
「じゃあ最初から素直に困ってるって言えばいいじゃない。何で困ってるの?」
僕はハルカちゃんの先生ではない。トレーナーとしては先輩かもしれないけど、なんで僕がここまで面倒みなきゃいけないんだろう。懐かないポケモンなんて、一緒にいても楽しくないのと同じ。
「実は、潜水艦を奪ったやつらが海底洞窟に行くって、それで古代のポケモンを目覚めさせるって」
「で?」
「で、って?」
「君はどうしたい?」
「私、それを止めたい」
強い意志だ。最初に会った時に一瞬見えたその目。気のせいかと思っていたけど、そうじゃないみたいだ。
そしてこういう目をする人間は決まってる。僕と同じくらいの力を持つ。僕を苦しめる。
彼女はまだ子供だ。今のうちにそんな危険因子をつぶしてしまおうか。ここで叩きつぶせば僕の地位は守られる。
何を考えてるんだ。違う。
「君はポケモントレーナーだ。ポケモンと力を合わせてどんなところへも行ける。君のラグラージはこの技を使えるはずだ」
もう使わない古い秘伝マシンを取り出す。深い海に潜る技、ダイビングが収録されている秘伝マシン。
「ありがとうございます!」
初めて見るハルカちゃんの深いお辞儀。困り果てていたんだろう。受け取るが早い、玄関のドアを壊す勢いで出ていった。
素直に言えばいいのに。
カップの中の紅茶はすでになかった。
暗雲が立ちこめ、雷が聞こえる。天気予報では晴れるって言ってたはずだ。かと思えばいきなり焼けるような太陽が顔をのぞかせる。天気がおかしい。
「エアームド、南だ」
なぜさっき気付かなかった。ニュースで見たばかりだというのに、なぜつながらなかった。ルネシティの近くの海で見つかった海底遺跡と、ハルカちゃんが言っていた古代のポケモン。つながりがあってもなんらおかしく無い。
彼女の強い意志に押されたか。いや彼女のせいじゃないな。僕が忘れていただけだ。
エアームドは金属の翼で風を切り、ただ南へと飛ぶ。落雷が怖いけれど、そんなこと言ってられない。
暗黒の海の中に目立つ赤色。エアームドに降下の指示を出す。
「ハルカちゃん!」
海の中の浅瀬で空をぼーっと見ていた彼女を見つける。会ってから間もないというのに、その顔はひどく疲れていた。
「ダイゴさん? ダイゴさん!!」
降りるなり彼女は僕に抱きついて泣き出した。大雨に涙が攫われて見えないけど、何かがあったことだけは解る。
「どうしよう、空が、2匹が、どっか行っちゃって」
「大丈夫だったかい?」
波に濡れた体に太陽が熱線を浴びせてくる。彼女の体には、どこでつけたか解らないけど小さな傷が何カ所かあった。
空が光る。その数秒後に轟音。その方向は、ルネシティの方だった。黒い雲に覆われて、ルネシティは見えてない。
「この雨を降らせている雲はルネの上空を中心に広がっているのか……一体あそこで何が起きている!?ここであれこれ考えるよりルネに行けば分かるか……」
エアームドが鳴く。太陽が顔を出してる今が安全に空を飛べるチャンスだ。
「ハルカちゃん……無理だけはするなよ……じゃあ僕はルネに行くから」
「ダイゴさん!」
君がそんなに取り乱してるのは初めて見たよ。それほど緊急事態なんだろう。
「ミクリ、無事か?」
黒い雲を抜け、ルネシティへと降り立つ。僕は古くからの友人を訪ねる。おそらく今いるのは目覚めのほこらだろう。僕はミクリからよく話を聞いていた。何かあったらここにくるように、言われていたと。
「ダイゴか、よく来た。危ないというのに」
「この天気は何があった? 海底洞窟と何か」
「私にも正直解らない。けど、一つだけ言える。目覚めのほこらの奥で古代のポケモンが力を蓄えている。今はこれで済んでるが」
ほこらの奥からは大きな体格のポケモンの鳴き声が聞こえる。それも2体。もしかしてハルカちゃんはこんなのを相手していたのか。
「この中に入って止められないのか?」
「入ってみるかい? 入れないけどね」
僕がめざめのほこらに一歩でも入ろうとすれば、電流が走ったような痛みがくる。
「邪魔をするな、というメッセージさ。止められるのは藍色の珠、そして紅色の珠。それらが合わさり、力を中和するんだ」
「見てろというのか? 原因が解っているのに」
「今のルネシティに、二つの珠を持って来れる人間がいると思うかい? 並以上のトレーナーじゃなければ不可能だ。そしてルネシティからは出られない」
ルネシティの空は蓋をされたかのようだった。入ってこれるけど出ていけない。どうしようもできないのだ。
「ダイゴさん!」
轟音の中から呼ばれた。振り向く。僕は正直驚いた。ほとんど僕と変わらない時間で今のルネに到着したのだ。
「ハルカちゃん?」
びしょぬれた彼女は肩で息をしながら走ってくる。
「ハルカちゃん、君も来たのか。こんなひどい天気なのに……」
「ダイゴの知りあいか?」
ミクリは驚いたように見ている。外の人間が二人も今のルネシティに入ってきたこと。僕はともかく、ハルカちゃんの方をとても不思議そうに。
ミクリの顔をみて、僕は思い浮かぶ。海底遺跡のこと、そして海の真ん中でハルカちゃんが泣いてたこと。
「そうだ!ハルカちゃん。彼の話を聞いてくれ。君なら理解できるはずだ」
「えっ?」
ミクリは少し悩んでいたようだ。雷鳴の合間をぬってミクリは話しだす。
「私はミクリ。この町のジムリーダーそして目覚めの祠を守る者。この大雨は目覚めの祠からの力によって起こされています。貴方は何があったかもうご存知ですね?」
「は、はい。それで、これを」
彼女が差し出したのは二つの珠だった。こんな偶然ってあるものなのかな。いや、奇跡に近いんじゃないか。
「怖くなったといって、私に渡してどこかへと消えました」
「それは藍色の珠と紅色の珠ですね。分かりました。貴方に託します。この先が目覚めの祠。私達ルネの人間はこの目覚めの祠の中に入ることを許されていません。ですが、君は行かなければならない。その藍色の玉と共に。祠の中で何があろうとも 何が待っていようとも」
こんな小さな子に任せていいのだろうか。そんな僕の心を見たかのように、ハルカちゃんと目が合った。
ああ、大丈夫だ。この子はそういう目を持ってる子。僕よりも強くなる素質のある子。
「ハルカちゃん 君が藍色の玉を持っていたとはね。大丈夫!君と君のポケモンなら何が起きても上手くやれる。僕はそう信じている」
ハルカちゃんの頭を撫でる。不安の入り交じった笑顔を見せた。そして背を向けて目覚めのほこらへと走っていく。
人が……ポケモンが……生きていくのに必要な水や光なのに
どうして僕達を不安な気持ちにさせるんだ……
ルネの真上に集まった雨雲はさらに大きく広がり ホウエン全てを覆うだろう……このままでは……
【名前だけのチャンピオン】
ルネシティの空は、綺麗に晴れていた。空の向こうに虹が見えて、あんだけ酷かった天気が嘘のようだった。
ああ、私はやったんだ。できたんだ。グラードン、そしてカイオーガをボコボコにすることが出来たんだ。
「ハルカちゃん」
そして、ダイゴさんにまた会うことが出来たんだ。ダイゴさんに。手を差し伸べてくれるダイゴさんを掴んで、そのまま体にしがみついた。突き放されるかと思ったけど、受け止めてくれてた。
「君のおかげなんだね。ルネの空が元通りになった。ミクリも感謝していたよ」
他の誰の言葉なんて関係ない。ダイゴさんがほめてくれればそれでいい。
ずっと考えてた。2匹を見てからずっと。
ダイゴさんのことしか考えてなかった。生きてダイゴさんに会いたい。それだけでがんばることが出来た。
私、ダイゴさんが好きなんだ。悪口いわれても嫌味言われても、ダイゴさんが好きで仕方ないんだ。
「びしょぬれのままだと風邪ひくよ。帰って乾かさないとね」
うなずく。ダイゴさんが触れたところが熱い。
「ハルカちゃん? 大丈夫?」
頭はぼーっとする。ダイゴさんが話しかけてるけど、はっきりと喋るには力がない。なんだか
風邪だと言われた。熱はあるし、鼻水が止まらない。薬を貰って、しばらく寝てることにした。ダイゴさんにミシロタウンの家まで送ってもらった。ひたすら寝てる。旅に出てからこんな長い休息があったのは初めてだった。
今頃ダイゴさん何してるんだろ。家にいるのかな、それともあのエアームドで飛んでるのかな。熱さがったらまた行っちゃおうかな
いや迷惑に決まってる。あんなにダイゴさんに悪態ついといて、私のこと好きになってなんてムシが良すぎる話だ。
なんであんな態度とってしまったんだろう。布団の中でじたばたしても、過去は変えられない。今さら態度を改めたところで、ダイゴさんが振り向くわけないじゃないか。
大人だし、かっこいいし、トサカ頭のくせにやたらと髪型がきまってるし。私以外にもいくらだって目を輝かせてた人はいた。たくさんいた。そのとき、そんなダイゴさんを困らせて、気をひこうとしてた。
でもそもそもむかついたのは、ダイゴさんがジムリーダーとかチャンピオンなんて名前だけとかバカにしてきたからだよね。うん、そこはダイゴさんが悪い。そしたら私はやっぱりチャンピオンになってやる。
そして、ダイゴさんに今まで思ってたこと全部いってやる!
熱も下がって来た。もう行こう。私はチャンピオンになる。
チャンピオンロードを抜けて、私ははポケモンリーグ前にいた。目の前の建物に息をのむ。ここまでやっときた。自分の足で、サイユウシティのリーグに来た。
最近はダイゴさんに全く会わないけど、連絡先は握ってあるし、家だって知ってる。チャンピオンになったら、その証明と共に絶対に乗り込んでみせる。
何人戦っただろう。カゲツさん、フヨウさん、プリムさん。そして今目の前にいるのはゲンジさん。最後の一匹、ボーマンダがフーディンの放ったサイコキネシスに悲鳴をあげた。ボールに戻っていくボーマンダを見て、私は勝ったのだと確信した。
「これは、いいところまで行くかな、久しぶりに」
ゲンジさんはそう言っていた。チャンピオンは手強いからとも言ってもらった。そんなのゲンジさんたちと戦ってれば解る。普通のトレーナーとは違う。そんな風格があるからこそ、四天王って呼ばれてるんだと思った。
ダイゴさんは名前だけだと言うけど、実力があるからこそ名前があるんだと思う。
まだ浮かれちゃいけない。チャンピオンを倒すまではダイゴさんのこと考えたら危ない。ダイゴさんのこと思い出すだけで考えがどっか行っちゃうから。
一歩一歩、踏み出すたびに作戦を練る。先発は中間の速さのライボルト。それから倒れたらつなぐのはラグラージかフーディン。タイプによってはチルタリスもありだよね。いやプクリンから出して、眠らせてからフーディンで瞑想して力をためる? あ、みんなの状態は万全にしないと。万が一でもあったらきっと取り返しなんて
「ようこそハルカちゃん」
チャンピオンの待つ部屋に入る。聞き覚えのある声だった。私は目をこする。
「いつ君がここまでくるのか楽しみにしていたよ」
「え、なんで、ダイゴさん? なんでダイゴさんがいるんですか!?」
「こういうことさ。前にも言ったじゃない、チャンピオンなど名前だけだと。その時、どう思ったんだい?君は……ポケモンと旅をして何を見てきた?たくさんのトレーナーと出会って何を感じた?君の中に芽生えた何か、その全てを僕にぶつけてほしい!さぁ 始めよう!!」
私の疑問に答える様子はなかった。ダイゴさんがモンスターボールを投げる。それが始まりの合図。
「なんで、言ってくれなかったんですか!?」
「遠慮することはないエアームド。目の前にいるのは敵だよ」
ダイゴさんは私を見ていない。見ているのはこの戦いの流れ。こんなに真剣で深い読みをするような視線は見た事が無い。
チャンピオンなんて名前だけ。やっぱり嘘だよダイゴさん。
チャンピオンだって黙ってたのは許せないし、悔しいし、信じたくないけれど、普通のトレーナーと、覚悟が全然違うじゃない。
それなのに名前だけなんて。やっぱり私の方が正しい。
ダイゴさん、悪いけどこの勝負は私がもらう。そして私の方が正しいって言わせてもらうから!
「いけ、ライボルトでんじは!」
ライボルトはエアームドより速い。麻痺させてしまえばさらに有利になる。それからフーディンに交代して……
「足元にまきびしだ」
エアームドの翼の間から、松ぼっくりのようなものが飛んだ。交代を封じてきた。ライボルトの足元には踏んだら痛そうなまきびしがまかれている。高速スピンでもあれば吹き飛ばせるけど、私のポケモンは誰も覚えてない。ならば空を飛ぶポケモンか、交代を極力さける戦い方にしなくてはならない。作戦が全部練り直し。
でもそれが勝負だ。一刻一刻事態は変わる。それに対応できるように、私はライボルトに命令する。
「吠えろ!」
出来るだけ電磁波をばらまく方向にチェンジ。エアームドはその間際、毒々しい液体を吐いていった。ライボルトに降り掛かり、具合が悪そうな顔をしている。
「ネンドール、きみか」
かわりに引きずり出されたのがネンドールというポケモン。私は見た事無い。戦ったこともない。つまり、ネンドールがどんなタイプを持っているのか解らないし、どんな技がくるかも予想がつかない。
目がたくさんついているように見える。閉じてるのもあるし、ひらいているのも。なんだか気味の悪いポケモンだなと思った。
「作戦はかわらない。でんじは!」
「サイコキネシス」
電磁波は弾き跳ばされた。あの飛ばされ方は地面タイプが入ってる。そのことに気付いた時には、ライボルトは吹き飛ばされていた。
「次のポケモンは何でくるんだい?」
ダイゴさんは余裕だ。タイプなんて解らずに突っ込んでくるからか。それがまたすっごくむかつく。怒っても仕方ないんだ。むしろ怒ることで冷静さを欠く。そこがダイゴさんの狙いだとしたら、焦るだけ損。
「ラグラージ! 濁流!」
まきびしを踏んづけていたそうな顔をしてる。ネンドールが全ての目を見開き、サイコキネシスを打ってくる。ラグラージに精神攻撃をすると同時に、目が一部だけ閉じた。ラグラージは優秀だ。開いてる目を狙い、濁った大量の水をぶつける。
「ふうん、やるね」
「ダイゴさん、余裕ぶっこいてると後悔しますよ」
勝負は始まったばかりだ。ネンドールが倒れ、ボールへと戻っていく。そして出て来たのはさっきのエアームドだった。
始まる時は思わなかったけど、勝負が進むに連れて楽しくなってきた。
大好きなダイゴさんと、真剣勝負。他人が誰も入れない二人だけの時間なのだ。邪魔するものがいたとしたら、それは強制的に排除されるだけ。
こっちも残りは少ない。フライゴンもフーディンもよくやった。いつも以上の力で攻撃しているのが解る。ボスゴドラの攻撃にプクリンが倒れ、ラグラージの波乗りがボスゴドラにトドメを刺す。
「ここまで追い詰められたのは、初めてだね」
「そりゃ光栄です。じゃあ、最後の勝負にしましょうよ」
ダイゴさんが投げたボールから出て来たのは、やはり見た事が無いポケモンだった。メタグロスとダイゴさんは呼んでいた。その重そうな体は金属だろうか。鋼タイプなのかもしれないが、それにしては関節の動きがスムーズで、それだけではないかもしれない。
「始めよう、最後の勝負だ」
「負けるか。ラグラージ、地震!」
ラグラージが速かった。メタグロスに食らわせることができた。けれど目視では半分も減ってないみたいだけどね。こりゃ相当固いポケモンだ。
「コメットパンチ」
聞いたことのない技が飛ぶ。メタグロスの腕が彗星のように残像を残して軌道を描いた。ラグラージの体に思いっきり食い込むそれは、やはり体感したこともないダメージだ。痛いとラグラージが鳴くくらいだ。何発も食らえない。
「じしん!」
濁流で命中率を下げるのもありだと思ったが、そこまでは時間がない。威力のある技で攻める。
メタグロスとラグラージの力の一騎打ち。素早い分だけ、ラグラージが勝てる。急所なんかに当たらなければ。それだけは願い下げ。頭のヒレとか、手の先とか。
ラグラージも解ってるようで、どこかいつもより姿勢が引き気味だ。そのおかげなのか、地震のダメージが普通より少ないと感じるのは。でも今はそれでいい。ラグラージが倒れたら、私はダイゴさんに負ける。
「あと一発、ってところだね」
ラグラージの息が上がってる。特性の激流が発動しているんだ。そしたらおそらく、コメットパンチを食らったら終わり。けど向こうのメタグロスも出たばかりの時よりは動きが遅くなってる。もしかしたら。
「ラグラージ、いけるよ。落ち着いて」
声をかける。一瞬だけ、ラグラージがこっちを見た。任せろと言わんばかりに、力を込める。
「いっけえ!!」
ラグラージが特大の水流を放った。命中は不安定だけど、これしかない。もうメタグロスに一度だって攻撃のチャンスを渡したく無い。水タイプ最強の技ハイドロポンプがメタグロスを襲う。重そうなメタグロスの体が1、2メートル後ろへと飛んだ。そしてそのままメタグロスは反撃する気配がなかった。
しばらく沈黙が流れた。
無言でダイゴさんがメタグロスをボールに戻している。今までの勝負がなかったかのように、いつものダイゴさんに戻っていた。
「チャンピオンである僕が負けるとはね……さすがだハルカちゃん!君は本当に素晴らしいポケモントレーナーだよ!」
「ダイゴさんこそ……名前だけのチャンピオンなんかじゃなかった」
「そういってもらえて光栄」
「それよりも私に謝ってください! チャンピオンだったこと隠してそうやって名前だけとか……」
「それは君がもっと大人になってからかな」
「そうやってはぐらかすのやめてください!」
ダイゴさんは背を向けた。そしてそのまま手を振った。私を見ずに。
「今日はハルカちゃんがチャンピオンになれたおめでたい日なんだ。ゆっくり家に帰って、ジムリーダーであるおとうさんに話してあげなよ。それから話を聞こう」
むかつく! そうやって自分の話は高度だから理解できないみたいな言い方して。そうやって自分はさっさと帰ってさ!
追いかけようとしたら、取材陣に囲まれてしまった。チャンピオンを打ち破ったトレーナーが現れたなんて、格好のネタなんだ。
囲まれていたら、すっかりダイゴさんを見失ってしまった。
【どこにも行かないで】
私はホウエンのチャンピオンになった。名前だけだってバカにしてたダイゴさんに文句と全て話すために、ダイゴさんの家に行く。
トクサネシティの目立たない民家。そこがダイゴさんの家。
最初、迷ったフリして入っていった。知らないフリをしていた。ダイゴさんがいるかどうかだけは解らなかったけど、そうすれば会ってしまっても偶然を装えるから。
「ダイゴさん!」
玄関をあけてダイゴさんを呼ぶ。まだ何から言っていいか決心がつかないけど、絶対に今こそ言うんだ。だからこそ。
「ダイゴさん?」
留守なのかな。返事がない。入って行くと、テーブルにモンスターボールが一個乗っている。そしてその傍らには白い封筒があった。凄い嫌な予感がする。緊張で上手く封筒が開けられない。封筒の端がやぶれて、そして中の便せんを取り出した。
ハルカちゃんへ
僕は思うことがあって、しばらく修業を続ける
当分家に帰らない。
そこでお願いだ
机の上にあるモンスターボールを受け取ってほしい
中にいるのはダンバルといって僕のお気に入りのポケモンだからよろしく頼むよ
では、またいつか会おう!
ツワブキダイゴより
なん、で? しばらくってどのくらい? いつまで?
なんで何も言わずにダイゴさんそんなこといつ決めたの?
なんで、なんで、どうして!?
もっと早く、素直になっていればよかった。
もっと早く、好きだと言っていればよかった。
もっと素直にダイゴさんに甘えていれば、こんなことには……
モンスターボールの中にいるダンバルは私の気持ちなんて解るわけがない。楽しそうにこちらを見て、よろしくねといってるようだった。
そんなの何のなぐさめにもならない。ダイゴさんがいなくなった。もう反抗することも甘えることも、好きだと伝えることもできない。
涙がとまらない。止めようにも止まることなんてない。
「ダイゴ、さん……」
ダイゴさん、ダイゴさん。大好き、大好きで誰よりも大好き。
早く、帰って来てよ。
ダイゴさん……
「なーんちゃって」
背後からふざけた声がする。。振り返らなくても解る。だってその声は間違えるわけがない。
「見事に引っかかったね! 説教しようと思ってる子供や、素直にならない子供にはお仕置きだ。大人を甘くみないでね」
イタズラ大成功、とばかりに笑ってるダイゴさんがいる。あれ、ダイゴさんがいる。目の前のはダイゴさんだよね。
え、つまり、その、私は、えーっと
騙された!?
「そんなに泣いちゃって、よっぽど悲しかったのかい?」
「ち、違います! ダンバルくれたのが嬉しくて泣いてるんです!」
悔しい。くやしー!!! あんなばっちり小細工しておいて、イタズラだなんて酷すぎる!
「ふーん、そう。じゃあ、予定通りちゃんと出かけようかな」
「どこにでもでかければいいじゃないですかっ!!」
騙された。すっごいむかつく。もうダイゴさんなんて嫌い!!!
「チャンピオンの任も降りたし、自由に旅するからその間よろしく。じゃ」
そっぽ向いてる私に構わず、ダイゴさんは玄関から出て行こうとする。思わず先回りして、ダイゴさんの進路を塞ぐ。
「ちょっと待ってくださいよ!!」
「え、なに?」
「なんでどっか行っちゃうんですか! これから私はどうしたらいいんですか!」
「そんなの自分で考えてよ。そこまで僕が言うことじゃない」
「……じゃあ、私の話きいてくれますか?」
「何?」
あれ、なんかすっごく言えない。
好きだとか好きだとか、言いたいのに言えない。でも、言わなければダイゴさんこのままどっか行っちゃう。
どうしたら、引き止める言葉が好き以外で言える? そうだ!
「ダイゴさん、もっとポケモン教えてください!」
「え、なんで僕より強い人に教えなきゃいけないの?」
「だってダイゴさん知らないポケモン多いし、なんかいっぱい……」
「なんだ、やっぱりね……いいよ。暇だから、いつでもおいで」
ありがとうダイゴさん。
私はいじっぱりだから好きだって言えない。だから、もっと一緒にいたい。
大好き、ダイゴさん
ーーーーーーーーーーーーー
カップリング、ダイゴさんとハルカちゃん。
ウィズハートでも書いたように、この二人は別れる方が多くてたまには違う方向にしてみようということで、嘘をテーマに書きました。
恋の始まりはイラっとすること。出典不明ですが、体験的に最も説得力がありました。
タイトルは「今に見てろ!」マイフェアレディというミュージカルで、主人公がスパルタ教育に不満をぶちまけるシーンで出てくる。
王様に認められた時に、お前を銃殺にしてやるうううって空想をするんですよ。
まあ、それでも午前3時まで練習に付き合ってるヒギンズ教授は物凄くいい人だと思います。
最後、ダイゴさんは負けた時にやっぱりって思いつつ後からじわじわ悔しくなってきて、何かしらハルカに仕返ししたかったのですよきっと。
チャンピオンなんて名前だけ、ってよくダイゴさんを書く時に使うけど本当にそう思ってると思ってる。
王者の印をくれるNPCは、ダイゴさんからもらったと言うのよ。ダイゴさんには印とか形は無意味だと思ってるんだと思うよ。それがあのシンプルな家だよ!
王者の印のくだりは入らなかった。
ダイゴさんは完全にハルカの方に気付いているけど、こんな素直に自分の気持ちを出せない子のままだったらつけあがるから言わないで手のひらで転がしてる。
ハルカはバレてないと思ってるけどね!バレバレだけどね!特にダンバルのところは!
【何してもいいのよ】
【恋の始まりはイラっとすること】【異論は認める】
【同じ話を二回も書くほど暇じゃないのよ】
ねえ知ってる? 桜の花ってね、元々は全部白だったんだよ。大昔に桜の名所で大きな戦いがあってね、そこで流された血を吸って赤く染まってしまったんだって。その木の子供たちが色んな所に散らばったから、今の桜は全部うすーい赤なんだよ。
それでね、時々、濃い赤の花が咲く木があるらしいんだけど……それはね、新しい血を吸っているからなんだって。根元を掘り返すと、死体がたくさん出てくるんだよ……。
満開の桜の木の下で、私に囁きかけた女の子は小さく笑った。特別な秘密を教えてあげる、彼女のきらきら光る瞳がそう語っている。有名な“桜の下には死体が埋まっている”という都市伝説、正しくは小説の一文そのままの話だけれど、あんまり楽しそうに話すものだからこちらも素直に乗ってあげる事にした。
「そうなんだ、そんな怖い話知らなかったなあ。それ、どこで聞いたの?」
問えば、お兄ちゃんがこっそり教えてくれたのだと胸を張る。絶対に秘密だからなって言ってた、だからお姉さんも他の人に言っちゃ駄目だよ。大真面目に語る彼女が可笑しくて可愛らしくて、私は笑いを堪えるのに必死だった。
「分かった、誰にも言わないって約束するよ。でもいいの? そんな大事な秘密、私に話しちゃって。お兄ちゃん怒らないかな?」
途端に女の子は表情を変えた。頬をハリーセンのように膨らませた彼女の話を要約すると、些細な喧嘩の挙句に自分を公園に置き去りにしたお兄ちゃんの事なんて知らない、とのこと。なるほど、それで一人寂しくベンチに座り込んでいたのか。哀愁漂う姿が不憫で声を掛けてみたらすっかり懐かれてしまった。まあこちらとしても、話し相手が出来ていい退屈しのぎになったけれど。
しかし、お兄ちゃんは知ってるのかな。今この辺りにはとても危険なものが……うん?
「ひょっとして、あれがお兄ちゃんかな? ほら、あのフェンスの向こうの」
私が指した方を振り向いて、女の子は小さく声を上げた。公園を囲むフェンスの陰に隠れるようにして(目の粗い網だからほぼ丸見えなんだけど)、少年が一人こちらの様子を窺っている。バツの悪そうな顔でもじもじしている彼に、女の子はなんともいえない視線を向けた。許してやろうか、まだ怒っておこうか。彼女の迷いが手に取るように分かる。
「ね、もうそろそろ日も暮れるし、お兄ちゃんと仲直りしておうちに帰りなよ。暗くなったら野生のポケモンも出てくるかもしれないし」
実際、夜になって人通りが少なくなると、ポケモン達も大胆に草むらから出てくるようになる。夜行性で闇に目の効くポケモンを相手取るには彼も彼女もまだ幼すぎるし、二人ともトレーナー免許を得ていないなら尚更だ。それに万が一、夜道でアレに出くわしでもしたら大事になる。少しでも明るいうちに帰ってもらいたい。
野生という言葉に怯んだのか、ううーんと唸った女の子はちらちらと少年を盗み見る。迷いに迷ってから、意を決してベンチから飛び降り少年に向かって歩き始める……前に、彼女はこちらを振り返ってお姉さんはどうするのと尋ねてきた。
「私? うん、ちょっとここで待ち合わせしててね。ちゃんとポケモンは連れてきてるから大丈夫よ。気にかけてくれてありがと」
ひらひらと手を振ると、女の子は安心したように笑って一直線に少年の元へ駆けて行く。ここからじゃ声は聞こえないけれど、身振り手振りのやりとりで何を話しているかは大体想像できる。おっ、お兄ちゃんが謝った。申し訳なさそうに両手を合わせて頭を下げる少年を前に、女の子がやたら満足気な顔をしているのが可笑しくて、私は今度こそ声をあげて笑った。
夕暮れ時を柔らかに吹きゆく春の風。ほんのり赤みを帯びた花弁が、仲良く手を繋いで歩き去る二人を追うように飛んで行った。
彼女が帰ってきたのは、もうとっぷりと日が暮れた後だった。
ベンチ後方の草薮から、かさこそと密やかな音が聞こえてくる。続いて、鈴を振るような軽やかな声。
「おかえり。首尾はどうだった? ちょっと顔を見せて」
振り向いて声を掛けると、彼女は了承の印に体を震わせた。くるりと回転しながらの“日本晴れ”、辺りが一瞬にして明るい日差しで満たされる。と同時に顔を覆っていた蕾を跳ねのけて、彼女は美しい五つの花弁を露わにした。ああ、何度繰り返してもこの変化の瞬間を見飽きることはないだろう。桜色よりもっと濃い、どちらかといえば赤に近い大きな花弁。額の二つの玉飾りと同じ、綺麗な深紅のつぶらな瞳。華やかな姿へと変わった彼女は、つやつやした黄色い丸顔に笑顔を浮かべて囀りかけてくる。
「ふうん、見つけたけど物足りなかった、と。確かにいつもより赤みが少ないね。まだお腹すいてる? そう。じゃあ場所変えようか」
嬉しそうに体を揺らして同意する。彼女の踊るような足取りに合わせて、私も立ち上がって歩き始める。
静まり返った公園を出て、人気の無い路地へと入り込む。先ほどの“日本晴れ”の効果はまだ続いている、もうしばらく話をする間は持つはずだ。
「今日、あなたを待っている間に新しい友達が出来てね。小学生くらいかなあ、小さな女の子。懐かしい話を聞かせてくれたよ、ほら『桜の下には』っていう……駄目よ、その子は絶対駄目。子供には手を出さない約束でしょ」
不満そうに花弁を震わせて口を尖らせる。全く、本当に食欲優先なんだから。ため息を堪えて、上目づかいにじっとりした視線を送る彼女に妥協案を提示する。
「ね、知ってる? この辺りに最近、通り魔が出るんだって。夜道を急ぐ若い女性や塾帰りの女の子を狙って、覆面男が刃物を持って追い回すらしいよ。もう何人も大怪我しててね、皆怖がって夜出歩かなくなってるみたい」
深紅の瞳が怪しく輝き始める。私の意図をすっかり理解しているらしい。興奮して体を揺らし、きゃあきゃあと笑い声を立てて跳ね回る。ひどく嬉しそうなその様子に、見ているこちらの頬も自然と緩んできた。
そう、それでいい。なるべく無邪気に、愛らしく、か弱く振舞えばきっとそいつは引っかかる。傷付けられる獲物が減って飢えているはず、そこへ私たちが無防備に通りかかれば――――。
これで決定ね、と問えば、彼女は大きく頷いた。期待に満ちた表情に、私もとびっきりの笑みを返した。
「それじゃ、食事に行きましょう! 沢山食べて、もっと綺麗にならなきゃね」
ふっ、と眩い光が消えた。真昼から真夜中への転落に、しかし女とポケモンは動じなかった。広がる闇に怖じもせず、僅かな月明かりだけを頼りに動き始める。
新鮮な「食料」を求めて、若い女と血色のチェリムは夜を往く。公園の桜の古木だけが、妖美な一組を静かに見送っていた。
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お題、「桜」。見た瞬間に『桜の木の下には死体が埋まっている』『血吸いの桜』という件の話を思い出し、思いつくままに書いた結果が「人食いチェリム」。……なぜこうなった。
とりあえず、チェリム好きの皆様に全力で土下座。ごめんなさい、しかし後悔はしていない!!
【読了いただきありがとうございました】
【何をしてもいいのよ】
※描写は避けましたが一応捕食要素を含みますので閲覧注意かもです。
一ヶ月間に逃がすポケモンの数に上限を設ける法律が可決された。先週の事だ。
生まれたばかりの子を野に放つのは可哀相、生態系の破壊に繋がる等と、予てより廃人と呼ばれる人々は批判されていた。政府がそれに対応した形だ。
それを受け、施行される前に大量に逃がしボックスの空きを確保する者、デモを計画する者、予め引き取り手を募集する者、ばれずに逃がす方法を考える者、廃人達の反応は様々だ。
斯く言う俺も廃人と呼ばれる人間である。だがこの法律による影響は全く無い。ポケモンを逃がす事など元よりしていないからだ。手間を掛けて孵化させたポケモンを態々逃がすだなんて勿体無いではないか。更に言えば法律も元から守っているとは言えないが、俺の取っている方法なら何とか言い逃れは出来るだろう。この方法なら金銭面で助かる上に生態系を崩す事も無い。売ったり逃がしたりするのと違い、他に影響を与えない為ばれる可能性も低い。少しばかし条件がある位だ。
今日も俺は小屋へと向かう。自転車の音で分かったのか、小屋からカイリューが現れる。俺はボールから2匹のイーブイを出した。
「とりあえず今はこれで足りるか? まぁ足りないだろうけどまた後で数匹追加しに来るから、それまでなら大丈夫だよな?」
カイリューは頷く。
「ん。じゃあまた来るから」
そう言い残し俺は小屋を後にする。
イーブイの悲鳴が聞こえた。俺は気にせず自転車を漕ぎ続けた。
――――――――――――――――――――
Twitterでとある方々の呟きを見て膨らんだ妄想を年齢制限が掛からない様に調整したものがこちらになります。リョナ描写や捕食描写は避けたしセーフなはず。注意書き必要かって位省きましたし。避けまくったら食べるという言葉すら出てこない事態に。結果としてもぎゅもぎゅしてるので必要だとは思いますが。でもピジョンがタマタマを餌にしてたりしますしポケモン-ポケモン間の捕食関係は成り立ちますよね。え、カイリューとイーブイは駄目ですか。そうですか。すみません。あと最初はvore注意にする予定でしたけど描写避けたらvoreとは限らなくなったので捕食注意になったり。
とりあえず前半と後半を上手く繋げられませんでした。どうにか上手く繋げられませんかね。私には無理でした。そもそも前半いらなかったかも。
ちなみにカイリューが小屋にいるのは手持ちにいるとタマゴのスペースが少なくなるからだとか。どうして小屋持ってるんでしょうね。人目に付かない場所だとしか決めてません。人目に付かないなら小屋とか無くても良いんですけどね。要は殆ど考えてません。適当です。そもそも人目に付かない場所にあるって事本文に書いてないんですよね。どこに入れればいいのか分かりませんでした。あと金銭的に助かるのは餌代的な意味ですが小屋の建築費だとか維持費の方が高い気もしてきたり。本末転倒。どれ位で元とれるのだろうか。計画性の無さが浮き彫りになってますね。でもそこが成り立たなくても生態系を崩さない事が理由になるのでいいですかね。生態系の破壊が廃人にとって不都合かどうかは分かりませんが、少なくともメリットはないですよね。
これってポケモンの法律的にはどうなるんでしょうね。ポケモン愛護法とかだと完全にアウトですよね。でもばれても「目を離した隙にこうなっていた」って言えば言い逃れ出来るんですかね。それでも管理上の過失等に問われそうですが。でもポケモンバトルで相手を死なせた場合ってどうなるんでしょう。死なせては駄目だと手加減せざるを得なくなりますし、可だったらそれはそれでまずいでしょうし。「バトルの練習中の事故」って言い訳も出来ますかね。あとはカイリューを自分のポケモンではなく野生だと主張したり。懐いていれば逃がしても言う事聞いてくれますよね。カイリューが処分されそうですが。それ以前に元から生まれてない事に出来たりするんですかね。どうやって生まれた事を証明するんでしょうか。とにかくどんな法律があるかによりますね。ジュンサーさんがいるので法律自体はあるんでしょうけど。立法機関はどこなんでしょうね。何か話逸れて来た。まぁつまり、よく分からないので作中では曖昧な表現にしたって事です。
あと今までの文読んだら分かるかと思いますが、法律が可決だとか政府が対応だとかも適当です。自分の中で設定とか全然定まってません。イーブイをもぎゅもぎゅしたかっただけです。食べてしまいたい位可愛いという事で。イーブイかわいいよイーブイ。どうしてこんなに後書き長くなったんだろう。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【食べてもいいのよ】
【イーブイかわいいよイーブイ】
【本文の倍以上ある後書き】
ちょっとだけ挨拶します。こんにちは。
もう桜の季節ですね。このお題にナットク!
でわ、スタートッ!!
ここはイッシュ地方のカノコタウン。もうすぐ桜の季節だ。
川沿いを歩いていたツタージャは、ぷかぷかと浮いているコアルヒーを眺めていた。
「ようゼスト!何かあったのか?」
このツタージャの名前はゼスト。オスのレベル11らしい。
「ううん。別に。」
ゼストは体育座りでため息をついた。
「絶対なんかあっただろ。え?!」
コアルヒーがゼストのほうへ飛んできた。ツタージャの頭をなでている。
そこへ、凄く小さな黄色い物体がのそのそとやって来た。
「バチュバチュ、カル、何してるの?そしてこのツタージャ誰?」
その物体はバチュルだった。コアルヒーを呼んだようだが、ツタージャには聞こえなかった。
「おいおい、お前、カルって言うの?」
「うん。そしてコイツは友達のミオ。」
全く知らなかったので、ツタージャは握手を求めた。
「僕はゼスト。よろしく。」
しかしミオは聞いていない。
「もしもし?」
「あぁ。えーと、ゼストって言うんだったな。よろしく。」
握手をすると凄く手がしびれた。
「うわわわわ・・・・なんだこれ。」
「ごめん。女の髪がモサモサ(アララギ博士)の家から電器吸ってきちゃった。」
そう言うので、皆はアララギ博士の研究所を覗いてみた。
<なんでパソコンが使えないのよッ!エイッ!あぁーーー!!」
「何か騒動になってるな。」
【クスクスクス】
笑い声が聞こえた。
「僕もアララギの馬鹿な行動見てたんだけどさ、あんた達もおもろくってさぁ!アハハハハハ!!」
「バル!!」
またコアルヒーが名前を呼んだ。バルジーナのバルというようだ。
「カル、お前知り合い多いな。」
「それより、アララギの研究所見てみろよ。おもろいぜ。」
アララギ博士が感電していた。
「アハハハハハハ!!!」
一人だけバルが爆笑していた。周りはシーンだ。
「もう解散しよ。明日の午前10時ね。ここ集合。」
続く?!
ある裏山の話
私の学校の裏山は春になるとそりゃあ見事なものです。
というのも昔、この土地を治めていた殿様が桜を植えさせたらしく、毎年三月にもなると山が薄いピンク色に染まるのです。
だからこの時期になると学生も先生達もみんなお弁当を持って、競うように裏山に行きます。
桜の咲き具合が綺麗な場所をみんなして争うのです。
この為に四時限目の授業を五分早く切り上げる先生がいるくらいです。
けど、今日の先生はハズレでした。数学の先生は時間きっちりに授業を終わらせるから、今日はいい場所がとれませんでした。おまけに私のいる二年五組ときたら、学校の玄関からは学年で一番遠いのです。
案の定、山を歩いても歩いても、いいところはすでに他学年や他クラス、先生達に占拠されていました。
私は落ち着く場所を求めて、裏山を上へ上へと登っていきました。
けれども上に登っても登っても、良い場所はもう陣取られているのでした。
あまり高くはない山でしたから、結局私は一番上まで行ってしまいました。
「ここは咲きが遅いんだよなぁ」
私はぼやきました。
山の一番てっぺんのあたりは、麓とは種類が違う桜であるらしく、満開の花が咲くのがしばらく後なのです。今はようやく蕾が膨らんできた程度でした。幹が立派な桜が多いのですが当然あまり人気がなく、人の姿は疎らでした。
しかし贅沢も言っていられません。私はそこにあるうちの一本の下に座り込むと、弁当の包みを解き、蓋を開けました。
今日のお昼ご飯は稲荷寿司です。それは母にリクエストして詰めてもらったものでした。
「今日はいい天気だなぁ」
私はそう呟いて、稲荷を一つ、口に入れました。
そうして、頭上で何かが揺れたのに気がついたのは、その時でした。
稲荷を頬張りながら上を見上げると、黄色い大きな目が印象的な緑色のポケモンが桜の枝の上からこちらを見下ろしています。
それはキモリでした。初心者用ポケモンとして指定されているだけあって、我々ホウエン民にはなじみのあるポケモンです。
弁当狙いだな、と私は思いました。学校近くに住む野良ポケモン達はみんな学生の弁当を狙っているのです。スバメやオオスバメに空中から、おかずやおにぎりをとられたなんて話はよく聞きますし、私もやられたことがあります。ましてや学生達が自ら進んで裏山に入るこの時期は彼らにとっては絶好のチャンスなのです。
「悪いが食べ盛りなんでね」
私はそう言うと弁当の蓋で残り五つほど並んでいた稲荷をガードしました。
キモリは不満そうな視線を私に投げましたが、それ以上はしませんでした。てっきり技のひとつも打ってくるかと思って少々身構えたのですが、そこまでする気はないようでした。技を使って強奪するまでは飢えていないということでしょうか。
それならば場所を変える理由もあるまいと、私は蓋を少し上げて、二個目を取り出し、口に入れました。
その時、
「ふーむ、今年も駄目だのう」
不意に後ろから声が聞こえて、私は声のほうに振り向きました。
見ると、古風な衣装を纏った男が一人、一本の桜を見上げながら呟いているところでした。
変な人だなぁ、と私は怪しみました。
男の衣装ときたら、なんとか式部やなんとか小町が生きている時代の絵巻の中に描かれた貴族みたいな格好なのです。その一人称がいかにも麻呂そうな男が、地味な衣を纏った男を一人伴って、葉も花も蕾もついていない桜の木を見上げているのでした。
「もう何年になるか」と、麻呂が尋ねると「十年になります」と従者は答えました。
「仕方ない。これは切って、新たに若木を植えることにしようぞ。新しい苗木が届き次第に切るといたそう」
しばらく考えた後、麻呂は言いました。従者と思しき男も同調して頷きます。
「では、さっそく若木を手配いたそう」
「できれば新緑の国のものがよいのう。あそこの桜は咲きがいいと聞く」
そのような相談をして、彼らはその場を去っていったのでした。
後には裸の桜の木が残されました。
私はなんだかその桜の木がかわいそうになりましたが、咲かないのでは仕方ないかなとも思いました。
改めてその木を見上げましたが、葉もついていませんし、花はおろか蕾もついていません。周りの桜は満開なのに、ここの木だけ季節が冬のようなのです。この木が春を迎えることはもうないように思われました。
立派な幹なのになぁ、と私は思いました。きっと最盛期には周りにの木にまけないくらい枝にたくさんの花をつけたに違いありません。私の視線は幹と枝の間を何度も何度も往復もしました。
そして、何度目かの上下運動を終えた頃に幹の後ろで蠢く影に気がついたのでした。
「おや」
と、私は呟きました。幹の後ろから姿を現したのはジュプトルでした。
ジュプトルはキモリの進化した姿です。その両腕には長くしなやかな葉が揺れていました。
「ケー」
ジュプトルは沈黙を守る桜の木に向かって一度だけ高い声で鳴くと、ひょいひょいと跳ねながら颯爽と山を下りていきました。
森蜥蜴の姿が消えた時、いつの間にかここは夜になっていました。あれから何日かが経ったようで、月に照らされた山の中で周りの桜が散り始めていました。まるで何かを囁くように花びらが風に舞い散っていきます。穏やかな風が山全体に吹いていました。けれど老いた桜は裸の黒い幹を月夜に晒したまま、沈黙を守っているのでした。
山の麓のほうから何者かがこちらに登ってきたのが分かったのは、月が雲に隠れ、にわかに風が止んだ時でした。それは、先ほどこの場を去っていたジュプトルの駆け足とは対照的な、落ち着いた足取りでした。そうして、月が再び天上に姿を現した時、その姿が顕わになりました。
花の咲かぬ桜の木の前に現れたのは、背中に六つの果実を実らせた大きなポケモンでした。その尾はまるで化石の時代を思わせるシダのようでありました。
それはジュカインでした。キモリがジュプトルを経て、やがて到る成竜の姿でした。
「ケー」
ジュカインは低い声で桜に呼びかけました。
そうして、自らの背中に背負った種を引きはがしにかかりました。まるで瑞々しい枝を折るような、枝から果実をもぐような音がしました。密林竜は一つ、また一つ、全部で六個の果実を自らの手でもいだのでした。
もがれた果実は桜の木を囲うようにその根元に埋められました。ジュカイン自らが穴を掘り、丁寧に埋められました。
「ケー」
ジュカインは再び低い声で鳴きました。
その時急に、止んでいた風がびゅうっと強く吹きました。
嵐のように、桜の花びらが一斉に飛び散ります。花びらが顔面にいくつも吹きつけて私は思わず手で顔を覆い目をつむりました。
そして再び風が止んだ月夜の下、再び目を開いた私は、不思議な光景をまのあたりにしたのでした。
先程まで蕾のひとつもついていなかったあの裸の桜の木が、満開の花を咲かせていました。
月夜の下で、まるで花束を何本も持ったみたいに枝にたっぷりの花が咲き乱れているのです。
ついさっきまで、見えていた月が桜の花に覆い隠されているのです。
あまりに劇的な変貌を遂げたその光景が信じられず、私は目何度も瞬きをしました。
「ケー」
ジュカインが満開の桜を見上げ、鳴きました。
風が吹きます。まるで答えるように桜の枝がざわざわと鳴りました。
桜の花びらがひらりと舞って、密林竜の足下に落ちました。
それからはまるで早送りのようでした。
みるみる花が散っていき、葉桜となることなく、再び木は裸になったのでした。そうして沈黙を保ったまま、今度はもう二度と答えることがありませんでした。
瞬きをする度に時が移って、いつのかにか木は切り株となっていました。いつのまにかその隣に新たな苗木が植えられたことに私は気がつきました。
桜はいつか散るが定め。
最後に大輪の花を咲かせた後、老いたる桜はこの山を去ったのでした。
昼休みの終わりを告げるベルが聞こえて、私は薄く目を開けました。
「……あれ?」
いつの間にか木の下でうたた寝していたことに気がついて、私は間抜けな声を上げます。
キンコンとベルが鳴っています。
「やべ、戻らないと」
すぐに五時限目が始まってしまいます。
私は、すっかり空になった弁当箱に蓋を乗せると元のように包みで来るんで、校舎に向かって駆け出しました。
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「ある裏山の話」は能のジャンルで言う「夢幻能」を意識しています。
その土地の精霊やら、そこで死んだ人が登場人物の前に現れて歴史や出来事を語り、そしてまた去っていくという形式ですね。
能はこういうのが多い。
くはしくは
http://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/noh/jp/noh_play.html 夢幻能と現在能について
(引用)
夢幻能では、神、鬼、亡霊など現実世界を超えた存在がシテとなっています。通常は前後2場構成で、歴史や文学にゆかりのある土地を訪れた旅人(ワキ)の前に主人公(シテ)が化身の姿で現れる前場と、本来の姿(本体)で登場して思い出を語り、舞を舞う後場で構成されています。本体がワキの夢に現れるという設定が基本であることから夢幻能と呼ばれています。
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