マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.3507] 107のえんむすび 投稿者:久方小風夜   《URL》   投稿日:2014/11/17(Mon) 04:44:16     155clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:納涼短編2014】 【※すでに納涼の時期ではない】 【※もう冬です

     ユカリは辺りを見回し、考えた。
     ここは一体どこなのだろうか、と。


     その部屋は、床も壁も天井も、灰色のモルタルだった。広さは4畳半くらいだろうか。
     生温かくてじめじめとした空気。広さは4畳半くらいだろうかとユカリは予測した。決して背が高い方とは言えないユカリでも、立ちあがったら頭をぶつけそうな低い天井。そこに1か所だけ、何とか拳が入りそうなくらいの大きさの穴があり、金網が取り付けられている。
     体温が伝わってぬるくなった床から身体を起こすと、鈍い痛みが全身を走った。特に左腕がひどい。動かそうとすると涙が出るほど痛い。折れているかもしれない、とユカリは思った。頭もぐらぐらと揺らぎ、目の奥の辺りがずきずきと刺すように痛んだ。
     何か役に立つものが入っていなかったかと、ユカリはリュックを探した。しかしいつも肌身離さず持っていたはずのリュックがない。ここに来る前に落としてしまったのだろうか、とユカリは考えた。

     ふと、ユカリの頭に疑問が浮かんだ。

     そもそも私、今まで何をしていたんだっけ?
     どうしてここにいるんだっけ?



    「おはよう」



     突然、部屋の隅から声がした。ユカリが驚いてそちらに目を向けると、さっきまで何もなかったはずの場所に、知らない男性が寝ころんでいた。
     ユカリは驚いて勢いよく起き上がり、またしゃがみ、そのまま床に寝ころんだ。折れた左腕を思い切り動かした上に勢いをつけすぎて頭を天井にぶつけ、ダブルの痛みをくらったユカリののどの奥からふぎゅう、と変な声が漏れ出した。
     男は呆れたように笑いながら、けがしているのに無理やり動かない方がいいよ、と言った。

     ユカリは改めて男の顔を見た。頭の中は未だにぼんやりとしていたが、やはりユカリは見覚えがなかった。

    「あなたは誰?」
    「誰だろうね」
    「ここはどこ?」
    「どこだろうね」
    「私はどうしてここにいるの?」
    「どうしてだろうね」

     男は微笑みを浮かべたまま、ユカリの質問をそのまま返すだけだった。

    「名前くらい教えてよ」

     ユカリがそう言うと、男は少しだけ天井を見上げてから、ユカリの方を向いて言った。

    「ハクヤ、だよ。君は?」
    「私はユカリ。縁って書いてユカリ」
    「ユカリさん、か。ユカリ。ゆかり。縁。うん、素敵な名前だね」

     男、ハクヤはそう言ってからも、何度も小さな声で縁、ユカリ、と繰り返した。

    「何度も呼ばないで、恥ずかしい」
    「素敵じゃないか。縁。えん。えにし。ひととのかかわり、つながり、めぐりあわせ。今の僕と君も」

     ハクヤはそう言って両手の指を絡ませ、にっこりと笑った。
     気障ったらしい男、とユカリは思ったが、ふいに左腕がずきりと痛み、それ以上考えることを放棄した。

    「左腕、痛む?」
    「折れてるみたい」
    「そうなんだ。動かない方がいいよ」

     心配するなら少しくらい治療しようとか思ってくれてもいいのに、と思いながらユカリはハクヤをにらんだ。その気持ちを察したのか、ハクヤは困ったように笑った。

    「ごめんね」

     ハクヤはそれだけ言って、寝転がったまま動くことはなかった。


     静寂の中で、自分の心音と呼吸音だけが頭に響く。全身の色々な箇所に突発的に襲ってくる鈍痛に顔をしかめながら、ユカリは全く身動きせず灰色の床に転がっていた。

    「ユカリさんは、好きな人とかいるのかな」

     ハクヤが声をかけてきた。ユカリは目だけ動かしてハクヤをちらりと見た。

    「別に。ひとりで旅してると、そう言うのどうでもよくなるし」
    「そうなんだ。ユカリはひとりで旅をしていたんだね」
    「ひとりって言っても、ポケモンもいたけどね。……あなたは、どうなの?」

     ユカリがそう尋ねると、ハクヤはとても穏やかに笑った。

    「『彼女』はね、天才だったんだ。古今東西探しても、あれほどの才能を持ってる人は、そうそうないと思うよ」

     ハクヤは天井を見上げ、ユカリに話しかけているのか、ひとりごとを呟いているのか、どちらともとれない調子で言葉を続けた。

    「縁があったのかな。『彼女』と僕も。ひとり、ふたり、つながって、まとまって……たくさん、たくさん。そんなに長くない付き合いだったけど、僕もたくさんのひとと縁がつながったから……」

     ぶつぶつと続く言葉はユカリの頭の中の睡魔を呼び覚まし、次第にユカリの耳に入らなくなっていった。



     相対性理論、というものを説明する時にしばしば用いられる例えに、「楽しい時と辛い時で感じる時間の流れの速さは異なる」というものがある。楽しい時時間は速く流れ、辛い時は遅く流れるように感じるというものだ。
     ユカリはそれを思い出し、ならば今自分の時間は止まってしまっているのだろうか、とずきずき痛む頭でぼんやり考えた。
     時計も、太陽もないこの場所に来てどれだけの時間が経ったのか、全く想像もつかない。奇妙な同居人は時折取りとめもない話をしてくるが、その言葉はすぐに会話かひとりごとかわからない呟きに変わる。
     最初のうちは話を聞こうと努力していたが、ユカリには流れているのかわからない時間が経過するたび、頭の中がぼんやりとしてきた。
     全身に徐々に寒気が襲い、顔だけが燃えるように熱い。締め付けるように頭が痛み、左腕が時折鼓動に合わせて火箸を押しつけられたように痛んだ。

     ぞくりとするほど冷たい手が、ユカリの額に触れた。いつの間にか、部屋の隅にいたハクヤがユカリのすぐ隣に来ていた。

    「熱が出てきたみたいだね」

     霧の向こうから聞こえるようなハクヤの声が、ユカリの耳に届いた。
     額に触れる冷たい手はぼんやりとした頭には心地よいはずなのだが、なぜかとても不快に感じ、ユカリは重い右腕を何とか持ち上げ、ハクヤの手を振り払った。
     ハクヤはしばらくユカリの顔を見つめ、静かな微笑みを浮かべて言った。

    「ねえ、ユカリさん。僕たちが出会ったのも、縁があったからだと思うんだ。あなたが突然来たのは驚いたけど、それもひとつの縁だよね。足りなかったんだ。ひとつだけ。たったひとつだけ」

     熱に浮かされた頭に、ハクヤの声がじっとりとしみてくる。
     ハクヤはゆっくりと、ユカリの顔に顔を近づけてきた。

    「ユカリさん。僕と一緒になろう。僕の最後の足りないひとつになってくれ」

     半ば働きを放棄しつつあるユカリの目には、ハクヤの目がぼんやりと光って見えた。


    「――駄目」

     今にも唇と唇が触れそうなところで、ユカリがかすれた声を絞り出した。
     ハクヤの動きがぴたりと止まった。ユカリはぜえぜえと喘ぎながら言った。

    「ハクヤ、あなたは、好きな人、いるんでしょう。ずっと、『彼女』のこと、しゃべってたじゃない」
    「『彼女』は」
    「流されちゃ、駄目よ。あなたの、足りない、部分を、埋めるのは、私じゃない。わたしじゃ……ない……」

     ユカリはそこまで言って、ごほごほとせき込んだ。
     ハクヤはしばらく灰色の天井を仰ぐと、穏やかな微笑みを浮かべて呟いた。

    「そうか、そうだよね。僕たちには『彼女』がいたよね。『彼女』がふさわしい。最後は、『彼女』が……」

     ハクヤの呟きはユカリの思考の霧の中にかき消え、ユカリの意識は闇に沈んだ。



     ユカリは山道を歩いていた。
     小雨の降る日だ。足元はぬかるみ、湿った髪の毛がじっとりと顔にまとわりつく。

     長年履き続けているスニーカーのすり減った底が、ぬかるみに捕らえられ、滑った。
     右手に持っていた傘が宙を舞い、ユカリの身体は崖下へ滑り落ちた。
     崖途中の岩肌に身体を強く打ち付け、呼吸が止まる。目の前は火花が散ったように真っ白になった。

     ユカリは、無意識のうちにボールをひとつ手に取り、放り投げた、気がした。



    「――大丈夫か! 君、しっかりしろ!」

     うっすらと開いたユカリの目に、薄暗く狭い部屋と、紺色の服を着た男性の姿が映った。空気が粉っぽく、ユカリは小さくせきをした。
     こっちは生きている女性だ、担架持ってこい、意識は、身元は、と複数人の騒ぐ声がユカリの耳に響く。
     目の前の男性に名前を問われ、ユカリです、と答えると、ユカリの意識は再び途切れた。




     三角巾で吊った左腕に気を払いながら、ユカリはタクシーを降りた。少しだけ待っていてくださいと言い、ユカリは少し離れた場所にある家の前へ向かった。
     町の郊外にぽつんと建つ小さな家。周りには黄色と黒のテープが張り巡らされている。

     ほんの数日前までここの地下にいたのに、ユカリにはすでに、随分遠い昔のように感じられた。

     1週間前、ユカリは小雨の降る山道を歩いていた。そこで足を滑らせ転び、ユカリはうっかりと崖から落ちた。ぬかるんだ道、すり減った靴、そして傘をさしていてバランスをとれなかったのがユカリの落ち度であり、不幸だった。
     パニックの中、とっさに放り投げたのはネイティの入ったボール。まだ育っていないネイティは、主人の危機に慌てて「テレポート」を放った。
     ポケモンの技「テレポート」は使用すること自体に制限はないが、座標を違えるととんでもない場所に飛ぶことがあるので、到着座標は各町のポケモンセンターの前など厳しく定められており、他の場所へ飛ぶことは基本的に禁止されている。
     しかしそれも、指示を出すトレーナーが健在であること、またポケモン自身がテレポート先を理解できるだけ鍛えられていることが前提である。
     慌てて出した慣れない技は半ば暴発し、ユカリは荷物もポケモンも持たぬまま、身ひとつでどこかへ飛ばされてしまった。

     そしてその場所こそが、今ユカリの前にある家の地下だった。

     ユカリはこの家の地下に3日閉じ込められていた。その間、崖下に残されたユカリの荷物とポケモンたちが他の旅人に発見され、ユカリは行方不明者として捜索がされていた。
     3日経ちユカリは発見され、近くの病院に搬送された。左腕の骨折と全身の打ち身、そして衰弱があったが、幸いにも命に別条はなく、3日ほどの入院の後、無事退院となった。

     しかし、それらの経緯より、自分を発見した警察から入院中に聞いた話の方が、ユカリにとってはよっぽど衝撃的であった。


     ユカリが見つかった日、警察に電話があった。
     町はずれの家から、苦しそうな女性の声の通報だった。

    『助けて、『彼ら』に殺される』

     警察が駆けつけると、部屋の中には女性の死体が転がっていた。
     顔に恐怖が貼りついていたが、死因は結局わからなかったという。

     その時、床下から、たくさんの人の声が聞こえてきた。
     警察がモルタルの床を壊し、ユカリはようやく発見された。

     ユカリと同じ空間にあったものの影響もあり、すぐにその場所の捜査がなされ、騒ぎは更に大きくなることとなった。


     あの家の地下の空間は、ユカリの寝ていたモルタルの下には、大量の人骨が埋められていた。
     それら全てが、あの家に住んでいた女性の、『彼女』の手によるものだった。


     『彼女』は人殺しの天才だった。
     老若男女様々な人の命を奪っては、遺体を自分の家の地下に作った空間に埋めていた。
     殺しては埋め、殺しては埋め、『彼女』の家の地下にはたくさんの死体が積もっていった。
     その数、106。

     最後のひとりは、ユカリがいたモルタルの部屋の隅で、白骨となっていた。その近くには、これまでの経緯と、『彼』の身元がわかるメモが遺されていた。
     たくさんの人を埋め狭くなった空間にモルタルで蓋をし、家の床、地下の空間からしたら天井に小さな空気穴を空け、暗くて狭い空間が出来上がった。
     『彼女』に最も愛された最後のひとりは、生きたままその狭い場所に閉じ込められた。


     107人目の名はハクヤ。「白八」と書いて、ハクヤ。



     黄色と黒のテープに阻まれた誰もいない小さな家を、ユカリはぼんやりと眺めた。
     風がユカリの髪を揺らし、足元の落ち葉を巻きあげた。
     ユカリは踵を返し、タクシーへ戻ることにした。

     この場所に、今はもう、人と呼べるものは誰もいない。
     生きている人も、もう生きてはいない人も。


     風に紛れて、老若男女、たくさんの人の声がまとまったような、何かの鳴き声が聞こえてきた。
     ユカリの視界の端で、紫と黄緑色のもやがとりついた小さな石が、何回か弾んでどこかへ消えたような気がした。




    +++++

    今年書こうと思ってたぶん何とか書き終え。
    冬だけど! もう冬だけど!

    その昔何かの企画か何かで書こうかなあと思っていた奴だったような気がする。
    書きかけで放置しすぎててもう何も思い出せない。


      [No.2815] Re: 堕ちる夕日に照らされて 投稿者:シオン   投稿日:2012/12/27(Thu) 17:25:07     71clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


    逆行さん、初めまして。シオンと申します。

    なんか妙に納得しながら読んでました。『努力は必ずしも報われるわけではない。これは不変の事実である』たしかにその通りですよね。
    私も主人公くんのように思ったことが多々あります。勉強とかですね。
    まあ世間一般からみればおかしい考えなのかもしれませんが私はここに一票を投じますよ!


      [No.2814] 感想ありがとうございます 投稿者:砂糖水   投稿日:2012/12/26(Wed) 22:42:44     84clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    きとかげさん感想ありがとうございます!
    楽しんでいただけたようで嬉しいです。
    えっ、ハッピーエンドですよお、どこから見ても。
    だってママは元気になったじゃないですか(


      [No.2813] 堕ちる夕日に照らされて 投稿者:逆行   投稿日:2012/12/26(Wed) 22:19:13     229clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:書いてもいいのよ】 【描いてもいいのよ】 【批評してもいいのよ】 【ジョウト地方】 【ハッピーエンド】 【バッドエンド】 【マグマラシ】 【キャタピー】 【ぴじょんぴょん

     聳え立つ木々が、辺りを犇めく草花が、喘いでいた。
     地を這う芋虫を、大鳩が鋭い眼で凝視する。大鳩は眼の性質上、見える世界が白黒に映り、背景と獲物の区別が付き難くなる。然し此の鳥は、自らの集中を一心に込め続けた結果、眼前の動きを確りと捉えられていた。一方で芋虫は、自身が狙われている事を知らず、悠長に家路を歩いている。平和な日常が魔の手に侵される事を、彼は未だ悟ってはいない。
     此の芋虫は、此れまでとても良く頑張ってきた。懸命に生き、命を輝かせ続けた。兎に角、とても良く頑張ってきた。
     強風が吹き付け、木の葉が舞う。次の瞬間、大鳩は急降下する。途轍もない速さで迫りくる影に、芋虫は気付いて慌てふためく。然しもう遅い。大鳩の、尖った嘴が、パカッと開く。自らの運命を悟った芋虫は、恐怖で全身が硬直し逃げる事が出来ない。
     不意に風が止む。彼の視界は闇に染まり、其の命は消滅した。


     以上が僕の妄想である。心地よい風が吹いている中、のどかな自然公園の草むらで、野生の二匹を見つけた僕は、そんなことを考えていた。
     ピジョンとキャタピー。彼らは食べる側と食べられる側の関係にある。ポケモンが全く存在しない地域に住み、かつ図鑑の説明を鵜呑みにした人は、そんなふうに思っていることが多い。しかし実際は、ピジョンはキャタピーを襲わないし、食べるなんてこともしない。僕が今見ている二匹だってそう。一方は身体を反らしながら黙々と葉っぱを食べ、もう一方は首を上下に振りながらそこらを歩き回り、つまりお互い無関心だ。そもそもポケモンに食物連鎖は存在しない。ポケモンは基本的に木の実しか食べない。どうも向こうの人達は、そこをなぜか勘違いしている。
     僕はそんな彼らと違い、ちゃんと真実を知っている。なおかつその真実は、眼の前で克明に描かれている。しかし僕の脳内は、そんな真実とは正反対の、偽りの世界を描いていた。ポケモンがポケモンを食べる、ストイックな話。真実を知る人から見て、残酷だと思われる話。なぜそんな妄想をしたかというと、何の罪もないキャタピーが、いきなりピジョンに喰われたら、なんだかとっても嬉しいなって思ったからだ。
     僕がしていた妄想の中には、キャタピーはとても頑張っていたという、彼のバックグラウンドが加えられていた。そう、これが重要だ。頑張った彼が、食べられてしまう。これはとても理不尽だ。キャタピーは報われない。頑張ったのに、報われない。そしてそれなら。それなら僕が報われなくても、何もおかしいことはない。そうやって考えることで、一定の安心感を得たかった。僕がどんなに頑張っても報われないことは理不尽で、眼の前に理不尽が存在するのなら、僕に理不尽が降りかかっていても、それはそうだと納得がいく。それは普通のことであると、納得がいく。


     青く澄み渡る空の真ん中に、綿あめのような雲が浮かんでいる。 
     自然公園のベンチに座り、おもむろにタウンマップを取り出した。赤ペンで囲んである箇所を探し、そこが見えるように折り畳んだ。
     赤ペンで囲んであるのはエンジュシティで、その斜め左下に、僕が今いる自然公園がある。ワカバタウンから旅立ち、ヨシノシティ、キキョウシティ、ヒワダタウン、コガネシティと進み、ようやくここまでたどり着いた。ここまで来るのに、およそ三年もかかってしまった。ポケモンを育てるのに多くの時間を使い、ジム戦でも苦戦を強いられたのが、主な原因だったと思う。ジム戦は本当に大変だった。三回以上挑戦しないと勝てなかった。しかし、一度だけ例外もあった。巷で鬼門と噂されていたコガネジムだけは、たった一回の挑戦であっさり、通過することが出来てしまった。理由は今でも、よく分からない。これが原因で、努力にようやく実がなったと誤解してしまい、負け続けている最近との激しい落差に襲われ、いったいどっちなんだと、余計に混乱する破目になったのだから、むしろこの勝利はマイナスだったと言えるだろう。ここ最近の自分は、ジムリーダーどころか普通のトレーナーにすら勝てないくらいのスランプに陥っている。勘違いしないで欲しいのは、コガネジムを制してから、浮かれて手を抜き始めたとか、別にそういうわけじゃない。それなのに、報われることがないのは明らかな理不尽。

      
     空はだんだんと暗くなり、沈みゆく太陽がマダツボミの塔に切り裂かれる。家々の窓から漏れる明かりが次第に目立ち、お寺の鐘が子供達に帰る時間を告げる。旅立っていった一年前のあの日にどこか空気感がよく似ていて、それがむしろ自分の心を歪ませる作用になった。
    一つ目のバッチを得ることができず、鬱屈した気持ちをさらに鬱屈させていた僕は、ポケモンセンターの個室部屋で泊まろうと思い、さっさとチェックインを済ませようとしていた。そのときだった。隣で部屋の予約の記入欄を書く手を止め、僕の方を瞬きしながらじろじろ見てくる人がいた。その人はだんだんと若気け始め、そして話しかけてきた。
    「久しぶり、元気?」
     少し考え誰だか把握し、屈託のある笑顔を浮かべ、さらっと間の抜けた常套句を返す。
    「雄介じゃん。久しぶり」
     雄介とは昔、学校で同じクラスだった。学校を卒業した後は一度も会っておらず、言わずもがな旅をしているためだが、どちらにせよ彼とは特に仲良くなく、たまに話すくらいだったので、特に会おうとも連絡をとろうとも思わなかった。僕は彼を正直あまり好きではない。性格が合わないとかの理由ではなくて、巧みな微笑を浮かべつつ放つ彼のあの一言が、僕にはどうも聞き苦しかったのだ。
    「ポケモンの回復?」
    「いや、今日ここに泊まろうと思って」
    「そうか。実は俺もなんだ」
     雄介はつばの付いた帽子の下から屈託のない笑顔を覗かせ、嫌気が差してしまうほど純粋な眼を輝かせている。どこか正統派を彷彿とさせるその姿と仕草からは、今の自分と全く正反対の臭いを醸し出していた。 


     チェックインを済ませた後、少しの時間ポケセンのロビーで話をした。おもに僕が雄介の話を一方的に聞いていた。雄介は学校を卒業した後、トレーナーにならず進学を目指していた。コガネシティにある、目標とする学校に見学に行って今はその帰りらしい。ポケモンクラスタではない彼は毎日参考書と対峙し、目標に向けて努力していると思われる。彼の調子がすこぶる良いのは、その努力が報われているからだろう。
     成績表を見せてきた雄介に対し、どこから彼の自慢話になったか記憶を巡らしながらも、とりあえず持ち上げておこうと思い、すごいねめっちゃ頑張ってるねと言った。すると、彼は巧みな微笑を浮かべて、
    「いや、俺全然勉強してないから」
     その言葉は、僕の脳天を刺してきた。
     頑張ってもバッチ一つ得られない僕と、頑張ってないのに成績が上がる彼。この差はなんだろう。なぜ僕は、報われないのだろう。僕が今までやってきたことは、いったいなんだったのだろう。
     僕は彼の言葉を聞いて、ものすごく不安になった。合格できなかったときの保険をかけるこの言葉は、聞き手を不安にさせる追加効果もあるのだ。
     この言葉に僕はかつて、散々苦しみ不安にさせられた。そして今日もまたこの言葉は、別のジャンルという距離感をもろともせず、僕の内心を共振させてきた。
     雄介と別れ予約した部屋に入り、昔の嫌な記憶を思い出してしまって嘆く。また一からやり直そうと、心に決めたはずなのに。
     トレーナーになるなんて、考えてもいなかった。もともと自分は、進学しようと思っていた。絶対に志望校に受かってやるという意気込みを持ち、一日十三時間を勉強に費やした。他人より長い時間やっているというのが、僕の自信の唯一の根源となり、ひたすら自分を信じて頑張り続けた。
     しかし、僕は受からなかった。そのとき自分で自分を、努力が足りないと叱責した。そして次こそはという思いを胸に、一浪することを決めた。一年間他人より多く勉強すれば、絶対に受かると思っていた。けれど、また駄目だった。そしてもう諦めようと思った。自分が受けた学校は、そんなにレベルは高くない。そこが受からないのなら、もう自分は才能がない。気持ちを切り替えようと思った。勉強が無理なら、トレーナーの道に進めばいい。そう考えた。
     しかし、こっちに来ても結局変わらなかった。トレーナーになっても、結局一緒だった。
     

     道路に立っているトレーナーと戦う。何時の間にか追い詰められ、何時の間にか負けている。あるいは本当に危ういギリギリのところで勝つ。そんなことを繰り返す日々から抜け出すには、ポケモンを強くするしかない。それは至って普通のことであり、やらなければいけないことだろう。当たり前のことだから、僕はそれを更にやらなくてはいけない。
     ヒワダに続く洞窟を抜けると、近くに小さな草むらがあり、そこにいる野生のポケモンと戦わせる。安直な方法だが、レベル上げには一番効率がよかった。
     僕は当時手持ちのポケモンを、何時でも必ず六匹になるようにしていた。数は多い方が有利だと思ったから。それに、いろいろなタイプの相性をつける。学校でも、手持ちは増やした方がいいと教わった。一匹だけ育てるのは初心者にありがちで、それはやってはいけないと言われた。しかし僕と戦ったトレーナーのほとんどは、手持ちが三匹くらいしかいなかった。なぜ六匹全てを、均等に育てないのか疑問だった。
     数時間が経過した。手持ちのマグマラシは息を切らし始め、背中の炎が小さくなっていった。火の粉のPPはとうに尽きており、野生のコラッタに体当たりで止めを刺した。
     もっと自分は、頑張らなくてはいけない。普通の人の二倍やって天才の十倍やらなくてはいけない。自分には才というものがないのだから、それぐらいしないといけない。バトルの知識とかも、これから更に増やしていく。 
     倒れそうになっているマグマラシを見て、慌ててバックから傷薬を取り出して使った。ボロボロになったパートナーを見て可哀そうだと思ったが、同時に少し羨ましくも思った。努力した証拠を自らの身体に刻めるなんて、結構いいじゃないか。何馬鹿なこと考えているんだろう。
    「ごめんね、無理させちゃって。僕に才能がないせいで」
     夕日に照らされた疲労困憊のマグマラシの姿は、今度は申し訳なさと情けなさの感情を過らせた。何か自分も傷つかないといけないような気持ちになった。リストカットをしたくなる心理が、少しだけ分かったような気がした。
     黄昏時の空はすっかり暗くなった。ヒワダのポケセンへと戻った。部屋で数本のバトルビデオを見た。ポケモンが技を繰り出すたびに、解説のテロップが下に出てくる。ここはこうするのが最善手だと書かれているが、本当にそれが正しいのか、本当にそれを信じていいのか、僕には分からない。


     ヒワダタウンの先にある、薄暗いウバメの森を抜けるのに、多大な時間と労力を費やしてしまった。やっとの思いで脱出できたそのときには、達成感よりも焦りの気持ちの方が遥かに勝っていた。方々の木々の、緋色の衣替えの速度は僕に危機感をひしひしと感じさせた。
     旅立ってからすでに二年が経過していた。この時点でバッチ二個で手持ちの平均レベル十五が普通でないことは、他人と比較することでより明確度が上がった。少し面識のあった友達の兄は、「本格的にトレーナーを始めたのは二年前」とか言って、その時点で既にバッチを六つも集めていた。恐らくあの人は、嘘をついていた。実際はもっと、長くトレーナをやっている。頭に「本格的に」とか付けて、トレーナー歴を誤魔化している。そう思いたい。そう思わないと、やっていられない。
     かつてない不安が、自分を襲っていた。諦めるのは早い可能性が、まだ少しあるのが怖かった。ここで止めればいいのか、旅を続ければいいのか、分からないのが怖かった。
     お前には才能が無いから諦めろと、誰か刺すように自分に言って欲しい。
     そんなことを考えながら懊悩としていると、川のほとりにいる数人の男が目に留まった。彼らはホームレスだった。所々破けている服を着てダンボールの上に座り、ぐちゃぐちゃになった髪を整えもせず飯を作っている。ここからは遠くてよく見えないが、悲壮感溢れるその姿と行動から彼らの表情が十分に読みとれる。
     こんな負け組の生活をしている彼らは、いったいこれまで努力してきたのだろうか。努力してきたと仮定とすると、この有様は明らかに理不尽である。精一杯努力して、しかし報われない。どう考えても理不尽である。だからそれなら、自分が報われなくても、何もおかしいことはない。 
    そうやって無理矢理こじつけることで、微かな安心を得ることができた。
     自分は理不尽な話が好きだ。誰も報われない、救いようのない話が好きだ。主人公がもがいてもがいて、結局何も残せないバッドエンドが好きだ。頑張っても報われないのは自分だけじゃないと安心できるから好きだ。
     そのような理由で好きになるのは、所謂「甘え」や「逃げ」に映るかもしれない。負け組の言い訳であると嘲笑されるかもしれない。しかし、僕はそこに一筋の希望を抱いていた。それの何が悪いと開き直れるほどの、ひたむきな希望を抱いていた。

     
     コガネシティに辿り着くまで時間を進める。
     この町にあるジムで苦戦する人がたくさんいる。そんな噂を旅立つ前から聞いていた。
     ジムに入ると、不都合な感覚が身体を襲ってきた。それは前回のジムに挑戦したときと、なんら変わらない緊張感だった。受け付けを済ませた。指定の位置に立った。審判が旗を上げた。最初に出すポケモンが入ったボールを投げた。恐らくまた駄目だろう、まあ最初だし仕方がないか、既に諦めの気持ちが心に影を落としていた。諦め方が中途半端だから緊張感も無くならず、バトルする前の精神状態としては最悪だと思った。
     しかし意外にも、始まってから数分後、僕の方が優勢になるという謎の事態が起きた。相手の最初のポケモンを開始早々気絶させた。続けざまに二体目も倒し、ジムリーダーの人が苦笑いを浮かべ始めた。これは勝てるのではという自信が芽生え始めた。徐々に視界の照度が上がっていく感覚を覚えた。
     ジムリーダの最後の手持ちの、普段は大人しい性格らしいミルタンクに、自分の一体目を巨体の足で押し潰して倒される。労いの言葉をかけながらボールに戻し、大丈夫、まだいけると自分に言い聞かせる。
     やがて、あと一匹倒せば勝ちという所まで追い詰めた。ここまでの時間が、あっという間に感じられた。マグマラシと相手のミルタンクの体力は、残りわずかになった。次の一撃で決まるという空気が漂い、ポケモン達の士気が最高潮に達していた。
     自分のやや振動している不自然な声と、対戦相手の平静を装いながら放つ支持が交錯する中、肩で息をしながら震える二つの足でしっかりと立ち、燃え盛る炎を全身に纏って走る豪猪と、片や咆哮を上げるが如く土煙を撒き散らしつつ、さっきよりも遥かに速さを増して回転する牛車が勢いよく衝突した。甲高い悲鳴が建物内に響き渡り、やがて土煙が消えてなくなり、亀裂が入り少しへこんだ地面の上に、衝突終了後の二体の姿が見えた。一方は眼を回して倒れていて、もう一方は未だ震える二つの足でしっかりと地面を踏んでいた。
     果たして謎の事態は最後まで続き、謎の結果へと変貌を遂げることとなった。三体中二体残せるという、圧勝に近いことが出来てしまった。
     ここで僕はついに実がなったと感じた。確固たる自信を得ることが出来た、と思った。
     なんだ。頑張ればちゃんと報われるんじゃないか。世の中はそういうふうに、ちゃんとなっている。仕組みが出来上がっている。何も理不尽なことはない。
     ジムリーダが苦笑いから笑顔に変わった。このジムリーダは負けると泣くと聞いていたけれど、「気持ちい負け方したから泣く気も起らない」とか言って、そして祝いの言葉を述べながら、僕にバッチを手渡した。
     笑うつもりだったのに、どうしてだか頬を涙が伝っていった。右手に持ったバッチが、抱き続けた不安感を消し去っていく。
     これまで辛いことがたくさんあった。なかなか先に進めなくて、不安で不安で仕方がなかった。それでも、なんとかここまで来た。そしてたった今、ようやく報われた。
     ジムリーダーに頭を下げた。そして僕は駆け出した。建物から出たとき、気持ちの良い風が、僕の頬を撫でた。追い風を受けながら、僕は軽快に走っていった。


     長い長い旅路。
     長い長い人生。

     辛いこともある。
     苦しいこともある。
     僕もみんなも。
     



     それでもいつか報われる。
     そのときがきっと来るから。

     これからも僕は、旅を続けていこう。

     真の栄光を手に入れるため――。





     ……………………。

     ………………。

     …………。

     ……。

     …。


     と、ここで終わるわけがない。ハッピーエンドで終わらない。前述した通り、僕はこの後更にスランプになっていった。
     ゆっくりと太陽がシロガネ山に近づき、空は赤みがかかったオレンジ色に染まり始めた。その太陽は、自分の正面に大きく存在していた。不安が消え去ったことを喜びつつ走っていた僕は、沈んでいく太陽を見ても何も感じなかったが、しかし今回想しているとこれは、自分が沈んでいく予兆のようにも思えた。


     沈んでいく太陽の動きを止めることは誰にもできない。何をしようとも、どんな幸福が来ようとも、必ずやがてバッドエンドへと堕ちていく。必ず日は落ちていく。
     コガネジムに勝利してから、今までよりさらに頑張り続けた。決して、自惚れたりはしなかった。今までの育成方法を改良したりもした。六匹均等に育てるのは効率が悪い。三匹くらいの方が成長させやすいし、別に相性の悪いタイプと当たっても、割と力押しでなんとかなることが分かったのだ。教科書の教えを真っ正直に信じていた自分を呪った。
     そうやっていろいろ考え努力しているのに、どうして普通のトレーナーにすら勝つことができないのだろう。自分でそう思っているだけで、本当は努力していないから? じゃあなぜあのときは。ただの偶然? 偶然なんかに人生が左右されちゃっていいの?
     努力は必ず報われる。格言めいたこの言葉が、確かな重みと説得力を持って僕の胸に響いてくる。努力しているという主張はこの言葉に打ちのめされ、言い訳という名の極悪用語へと変貌を遂げる。それでも負けずに反論して、やがて聞こえてくるものは、自分で努力しているとか言うなんて、どんなナルシストだよ!
     ボールを中空に投げ中からマグマラシを出す。状況が飲み込めていないかざんポケモンに問う。教えて欲しい。僕はいったい、努力しているの? 努力していないの?
     身近な誰かに聞かないと、不安で不安でしょうがないんだ。夜も眠れないほどの強い悩みじゃないけれど、ずっと続いているものだから。そしてこれからも、永久に続きそうで怖いから。だから今すぐ答えて欲しい。自分の主人は全く努力していない、報われないと不平不満も言っているだけだと思うなら、適当に見捨てて逃げればいい。そんな思い切ったことできないなら、少しだけ、不満そうな顔をして。
     自分が頑張っていないなら、そして努力が足りないなら、誰か正直にそう言ってほしい。激しく僕を揺さぶってほしい。そうしたら、もっともっと頑張るから。もしくは、自分はこれ以上ないというほど頑張っているというのなら、近いうちに報われてほしい。大器晩成とか、そういうのいらない。
     どちらかでないと駄目なんだ。今の状態じゃ全く進展できない。安定しないと先に進まない。
     ぐらぐらと揺れる心には、十分な安心が必要不可欠なんだ。


      結局、分からなかった。なんとなく気まずくなって、その後少し若気けてしまった。怪訝そうな顔のマグマラシを見ると、馬鹿なことをしたという後悔が湧き上がる。切羽詰まったからといって、いくらなんでも見捨てて逃げろはないだろう。勢い交じりになんてことを言ってしまったのか。
     ありがとうと一言だけ言って、マグマラシをボールに戻そうとした。そのとき、一瞬だけマグマラシと目が合い、ボールを持つ手を止めた。マグマラシの身体の、鮮やかなオレンジ色が眼に映った。
     
     そしてこのとき、
     自分はあることに気がついた。
     頭の中に、
     全く新しい思わぬ考えが浮かんできた。

     ここにいるマグマラシもまた、自分と同じで報われていないのでは。

     自分が前に進まない限り、自分のポケモンも前に進めない。自分が報われない限り、自分のポケモンも報われない。
     決して、自分だけではなかった。自分だけだと思っていた。焦る気持ちが先行して、視野が狭くなっていた。月並みな表現だが、一人ではなかった。一緒に戦ってくれる存在をすっかり忘れていた。自分のポケモン達だって、同じく頑張っているじゃないか。そして、頑張っているのに報われていないじゃないか。
     自分は報われたかった。自分は頑張っていると認められたかった。ここに尽きる。そしてそのためには、頑張っていても報われないこともあるということを、決定的に証拠ずけなくてはいけなかった。  たった今自分は、動かぬ証拠を掴んだ。頑張っても報われていないのは自分だけじゃない、確固たる証拠を手に入れたのだ。
     心の中で引っ掛かりっていた糸が、少しずつほどけていくのを感じた。視界の霧が煩わしい懊悩を巻き込みつつ薄くなっていった。溜まり積もった鬱屈が、徐々に少しずつ減っていった。そして自分は、あることを決心した。どうせ報われないのなら、あることを目指していこう、と思った。
     

     自然公園とその先の道路を堂々巡りしていた自分は、生きていくために十分な安心を持ち合わせていた。今までは、負けると自分がしてきた努力を全否定されるような気がして、そしてまるで自分が反論の余地のない悪人にされるような、そんな恐怖に襲われていた。それは決して誇張表現ではなく、本当にそう感じていた。しかし今はもう、たとえ結果が残せなくても、自分は何も悪くないというはっきりとした確信があった。
     日が暮れたので、コガネシティに戻った。何も得るものが無かった。何も進展が無かった。戦績は黒星の方が遥かに多かった。そして、

     僕は無罪だ。

     努力は必ずしも報われるわけではない。これは不変の事実である。
     普通だったら、パートナーが頑張っているのだから、自分はもっと頑張らなきゃと思って、自分のトレーナーとしての実力不足に責任を感じつつ、たとえ報われなくても頑張ることが大切だなどと言って、考えを改め自分に喝を入れるのだろうけれど、僕はどうも素直じゃないらしく、勝手に都合の良いように解釈して、自分をむりやり正当化してしまった。これははたから見れば非常に滑稽である。見聞した人の呆れ返る顔が容易いに思い浮かぶ。   
     しかしそれでも、頑張った人が報われない、とても理不尽な世界なのだ。
     だから自分はこの事実をさらに強固なものとするために、これからも旅を続けていこう。報わなくて自己責任を感じている自他を安心させるため僕はもっと理不尽になろう、とでも言えば多少正論じみた響きをもって謹厳な人の耳にも届くのだろうか。この開き直りは決して美徳ではなくて、綺麗事を言う人よりはよっぽどいい、なんていうささやかな称賛もない。しかしそれでも、そう考えることで一応前向きになれるのなら、取り立てて文句を言われる筋合いはないはずだ。別に自分が、これから幸福になるわけでもないし。
     スランプから抜け出せないのなら、永遠にスランプのままでいればいい。
     たとえ報われなくても、理不尽であることを証明できれば、それで自分の目標は達成される。理不尽であることの証明は、そのまま僕が無罪であることの証明に変わる。
     そして、いつか来るであろうバッドエンドに向かって、着実に歩みを進めていけばいい。救いようのない話を、いつまでも描いていればいい。それは本当に哀しいことではあるが虚しいことではない。なぜならバッドエンドに辿り着いたそのとき、頑張った人が報われるという常識を覆す大発見ができるのだから。
     何もキャタピーがピジョンに喰われることを望む必要はない。理不尽でバッドエンドなストーリーは、自分自身の手で創り出していけばいいのだ。
     やんわりとした風が自然公園に吹き、木々が静かに木の葉を揺らす。心地良い背徳感と歪んだ高揚感に包まれつつ僕は、ずっと座り続けていたベンチから立ち上がる。途中までしか印の付いていないタウンマップを持ちながら、背筋をまっすぐ伸ばしてゆっくりと前を見た。
     オレンジ色の光が最後の力を振り絞るものの、しかしそびえ立つ山の背にじわじわと呑みこまれていった。煌々と輝きを放つそれは意識を失い、漆黒の闇が徐々に空間を支配していき、黄昏時の空は自らの消滅を静かに悟っていた。僕は めのまえが まっくらに なった

     ――沈んでいく太陽の動きを止めることは誰にもできない。何をしようとも、どんな幸福が来ようとも、必ずやがてバッドエンドへと堕ちていく。必ず日は落ちていく。 

     


      [No.2153] 大脱走 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2011/12/26(Mon) 20:29:46     108clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     うちには、タマゴからの付き合いのヘルガーがいる。元々が猟師から貰ってきたから、狩りの本能だけはばっちりあるヘルガー。と思えばおすわりも覚えられないバカ犬であったり、庭に植えていたイチゴをかじっては捨てかじっては捨てた学習能力のないヘルガーである。かと思えば、人の顔は覚えていて、餌をくれた人はばっちり覚えているのだから現金なやつだ。

     ヘルガーというのは食べ物を消化する過程の毒を燃やして炎を出すから、何日も洗わないと臭い。犬臭いなんてもんじゃない。冬は1ヶ月あらわなくてもいいんけど、夏はもう一週間洗わないと困る。
     遠くに入道雲が見える。日差しが強くなって、ヘルガーも庭に穴をほってそこで過ごしてる。
    「リンー! ヘルガー!」
    「ラジャー!」
     暗号だ。ママが一言でも「洗って」「お風呂」「シャワー」など言えばその場でヘルガーは姿を消す。炎タイプなんだから仕方ないとかいう問題じゃない。問題はこれが密室で言っても、筆談にしてもシャワー決行だと姿を消す。
    「ヘルガー覚悟しい」
     犬臭い。体を上から押さえつけるように抱き上げて風呂場へ向かう。その時のヘルガーの顔は「ぼくなにかしましたか」みたいな顔。ポケモンだからよくわからないけど。

     風呂場についた。逃げられないようにドアを閉める。そうするといつもの場所につく。
     浴槽の高低差を利用して、一番高いところに前足をかける。なるほど、なるべく顔に水がかかりたくないらしい。
     シャワーをひねる。しっぽが動いてない。容赦なく後ろ足からお湯をかける。あっという間に濡れヘルガー。そこに大量のシャンプーをわっしわっしとつけてわっしわっしと洗う。
     その間中、ずっと動かないヘルガー。騒ぐわけでもなく、大人しくしている。抵抗しても無駄と小さい頃から教えた甲斐があったもの。そんで顔を洗おうとするとすっごい嫌がる。口吻(犬とかのあの鼻先から口の名前)に生えてるひげがなんども濡れる。シャワー攻撃から逃げられると思うなよ!
     全部すすいで、本当に小さな黒いヤギみたいな生き物になったヘルガーは、まだ同じ所で抵抗してる。ヘルガー用のバスタオルを取ろうとした瞬間だ。いつもこの瞬間だ。ヘルガーの逆襲と名付けている。体についた水をぶるぶるして弾き跳ばすから、そこら中みずびたし。

     夏だからかわかすことなくそのまま庭に出す。あつい日光にも関わらず、ヘルガーはそこらを走り回ってる。その顔はやっと開放されたという自由の喜びに満ちた顔だ。


     一週間後。
     庭に出る。ヘルガーは違う穴をほってそこで涼んでる。そして私の姿を見るなり、一目散に逃げ出した。


    ーーーーーーーーーーー
    犬バカですごめんなさい。
    【なにしてもいいです】


      [No.2152] はい、こちらお悩み相談室です 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2011/12/26(Mon) 19:54:25     209clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    タブンネ「はい、始まりましたぁタブンネの毒吐きお悩み相談室ぅ!
     この番組ではぁ、全国から寄せられたお悩みをー、タブンネがげしげしするコーナーでぇすぅ(はぁと

     ではぁ、早速いってみましょ(キラキラ

     まずはホウエン地方にお住まいのラジオネーム ミネストローネさん
    『こんにちは。いつもラジオ聞いてます。今回はどうしてもタブンネさんに聞いてもらいたくて投稿しました。長文すみません
     私は送りび山の山頂でぬくぬくと楽しく暮らしていたのですが、ある日人間にさらわれてしまいました
     それだけでは飽きたらず、人間は私を見るなりかわいいだの洗濯したいだの、言い出して、コンテストに出したんです。私が勝てるわけないと思ったら、技がコンボになっていて、大量得点をとってぶっちぎりで勝ってしまいました。
     それからというもの、私をコンテスト用に着飾ったり、ポロックを食べさせたり。今では全コンディションがマックスになってしまいました。
     私は平和な暮らしがしたいのに、あんまりだと思いませんか』
    なめてるねー、なめてるねーこの投稿者。
    てめぇが三食昼寝付きでぬくぬく暮らせんのは人間に餌もらってコンディションもあげてもらってるからだろうが
    つうかこれのどこが悩み?幸福自慢?
    げしげしすんぞミネストローネ
    食い物みたいな名前しやがって、ごきゅごきゅすんぞコラ


    さて、そんな場違いなのは無視して、次のお手紙いきましょ
    お次はこれまたホウエン地方にお住まいのラジオネームエネコLOVEさん。
    『いま大ブレイクしてるプリカちゃんのサインが欲しいのですが、サインが当たるチケットが』
    あー、リスナーの皆様に補足すると、プリカちゃんはプリンだから、サインをたくさん書けなくて、CD1枚にサイン抽選券をつけてるのね。マジもののファンはCDに何千万も注ぎ込むらしいね。
    あ、お手紙に戻ります
    『サインが当たるチケットが欲しいのですが、俺の彼女がそろそろキレそうです。CD1枚でサインが当たる方法はないでしょうか』
    し る か ボ ケ
    てめぇの彼女が何言おうがどうしようが横っ面はたいて俺の趣味にケチつけんなくらい言えねぇのかヘタレ
    あ、私はプリカちゃん好きよ。この前のアレルヤ!はいいと思う。熱烈なファンには受けが悪いらしいけどねー


    さて、ヘタレはおいといて次いきましょ。
    次はシンオウ地方在住のラジオネーム竜骨座さん
    『僕は昔、厨ポケとか言われて、主人にも可愛がってもらいました。性格も粘って、タマゴ技ももらって、バトルタワーでも友達と戦うでも活躍しました
     けど、今は格下だと思っていたカイリューとかが夢特性で強化され、僕はボックスで過ごすばかりです。
     つい先日、強い仲間はみんなイッシュに行きましたが、僕はシンオウに置いてけぼりにされて寂しいです』
    厨ポケきたー
    てめぇみたいのがいるから、不遇ポケが出るんだろうが
    なんのポケモンか知らねぇが、今までカイリューがてめぇをそう思ってたんだ、それくらい我慢しろボケ


    はい、もう厨ポケは放置で、次いきますよ次。
    お次は旅人で住所不定の、ラジオネームもふもふ狐さん。
    『こんばんは。世界をもふもふにそめたくて、旅に出ましたが、一向にもふもふになりません。
     家で待ってる妻子を早くもふもふしたいです』
    妻子を置いて行くような狐がもふもふ語ってんじゃねえぞコラ。
    時代はもこもこなんだよ。時代遅れもいいところじゃワレ

    あー、次々。
    寒いところにお住まいの、もこもこモンスターボールさんから。
    『冷蔵庫の扉をあけたらビリリダマになってテレポートしながらいろんな世界をまわってたんだ。な、何を言ってるか解らないかもしれないが、世界の恐ろしさの鱗片を味わったぜ……』
    ビリリダマがテレポート覚えるわけねえだろ。寝言は寝てから言え


    今日はろくでもないリスナーが多い日よね。
    今度はまともなリスナーの手紙を祈って、次いきます
    えーと、イッシュ地方、でいいのかな字が達筆すぎて読めませんねー。とりあえずそこに住んでるラジオネームサイコソーダさんから。
    『うちのメンバーのポケモンたちがいつも喧嘩ばかりしてます。どうしたらいいでしょうか』
    それでもトレーナーかお前は。
    つうかどうみてもこれトレーナーだろ。それくらいなんとかしろ



    さて、次のお手紙が最後です
    本日のトリは、カントー地方にお住まいのラジオネームデオキシリボ核酸さん
    『私、一時期どころかかなり強いって言われてたんです!
     むしろパーティには必ず入っていて、バトンタッチが流行ったんです!
     でも調子乗りすぎたのか、次の作品から出してもらえなくなりました。もう一度出たいです』
    特定した
    てめぇ破壊の遺伝子か
    オコリザルサワムラーカイリキーケンタロスドードリオが持って出てきた時の恐怖を考えろ
    てめぇの自己満足で出たいとかいうなハゲ!


    はぁはぁ、今日のタブンネのお悩み相談は終わりです。また次回お会いしましょう」


    ーーーーーーーーーーー
    書いてもいいのよタグからしかとってないはず。もしつけてないのに勝手に使うなってのがあったらいってください。
    【タブンネにげしげしされたい方はお名前、住所、ラジオネーム、職業、年齢を書いた上でご応募ください。
     採用された方にはレベルが10上がる経験値をプレゼントしています】


      [No.2151] たった三時間、でも本格的な即席ツリー 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2011/12/25(Sun) 21:25:24     109clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    『クリスマスはまだ終わっちゃいねぇ!! 今日が当日なんだ! 幸いアイツは午前中いっぱい居ないし!』



    『おまえら、三時間で仕事完了させやがれえぇぇ!!』


      *


     一匹のシュバルゴが、目の前に生える沢山の針葉樹を、まるで品定めするかのように見渡していた。

    「ったく、リーダーのアシガタナの方がこの仕事には適任なんじゃねえのかよ…」
     ぼやきながらも、彼はだいぶ小ぶりな若木に近づいていく。

    「あなたが木を切らないと、始まらないわよ? あなたのお姫様だって待ってるし」
    「そうだな、早く戻ってやるか」
    「リーダーの事だから、もし遅れると人質…ポケ質にされても知らないわよ?」
     彼は若木の前に立ち止まった。隣のウルガモスからクスクスと笑い声がする。

    「そん時は、リーダーであっても俺のメガホーンでぶっ飛ばす」

     ナイト――騎士と呼ばれたシュバルゴがため息を一つ吐いた刹那、彼の背後でドサリと音が立った。

    「ナスカ、後は頼んだ」
    「サイコキネシスって本当に便利ね」
     ピンクの光に包まれた針葉樹は、いとも簡単にふわりと浮遊する。


      *


    「……と、パイ生地と、お菓子を沢山に、シャンメリー。あとはサイコソーダ…」
     メモをそこまで読み上げた女性は、はあっとため息をついた。反対側の左手には、すでに膨らんだ買い物袋が下がっている。
    「全くもって子供っぽいわねぇっ! 今日になって突然言い出すなんて!!」
     ターン! と八つ当たりをするかのように、今いた家の屋根を蹴ると、そのまま数メートル近く跳躍し次の屋根へと飛び移る彼女は、すでに黒い毛皮の狐、ゾロアークだった。


      *


    「シザークロスのPPが切れた」
    「あまりの冷たさに角の感覚が無い、だと…」

     周りには、クリスマスツリーに飾り付ける透き通った天使、球、プレゼントボックスが転がっている。
     無論、今ぐったりと床にへたり込んでいる彼ら…ペンドラーが氷塊を砕き、シュバルゴがシザークロスで形を作ったのだった。冷たい氷を使った細かい作業に、二匹の体力と精神力は限界に来ていた。

    「私も熱風がもう出せないんだけど」
     ウルガモスは氷の表面を薄く溶かして、つるっと滑らかにしていた。溶かしすぎては駄目なので、火力の調節がこれまた絶妙、上の二匹と同様の状態である。

    「もう気力が限界なんだけど、まだ作るの?」
    「これ以上やったら身がもたないでござる」
    「…エネルギー切れです…」

     隣の三匹、コジョンド、アギルダー、ドレディアはそれぞれ波動弾、エナジーボールを使って氷に細工をしていた。
     氷の中に光が閉じ込められ、とても美しく光るのだが『気』とか『波動』を使った特殊な細工のため、量産すれば疲れる事この上ない。
     六匹が何故ここまで凝った“クリスマスツリーの飾り”を作っていたのかといえば、全ては『リーダー』と呼ばれるダイケンキ――シェノンの命令である。
    「リーダー今頃何してんのかなぁ…」


      *


     そのダイケンキは、今彼らとは別の場所で、ツリーに別の作業を施しているのだった。
    「後から考えれば、氷技を使えるのが俺だけだったっていう…」
     冷気を枝に吹きかけるのを一時中断すると、代わりに口から出たのはため息だった。自業自得というのだろうか、こちらもれいとうビームを使いまくって、クリスマスツリーに霜を降ろして白くする地道な作業に、本人もへとへとになっていた。
    「あいつらも多分辛いと思うから、差し入れでもしてやるか…」

     普段子供っぽい彼は、彼らしくない言葉を発した。疲れでどうにかしてしまったのだろうか、それとも、心の底には皆から慕われるモノがあるのだろうか。
     少なくとも、彼の口の端が持ち上がったのは確か。


      *


    「先生! てっぺんに飾る大きな星がありませんっ!」

    「ナ、ナンダッテー!?」
    「もうPP切れでござるよ…」
    「でも、星がないと多分クリスマスツリーにならないと思う!! それにリーダーがなんて言うか…!」
     六匹がぎゃあぎゃあ言っていると、ガチャンと部屋の扉が開いた。

    「シェノンリーダーからの差し入れだってー!」
     疲れ果てた六匹の元にやってきたメラルバが背に乗せてきたのは、籠に入ったいくらかのPPマックス。それと、少し大きい氷塊。
     絶妙すぎるタイミングと、それらが意味する事に、彼らは言葉を失った。

    「要するに…もっと頑張れって事か…」
     笑顔のシュバルゴの顔は、妙に引きつっていた。

    「わが子の笑顔が眩しく、そして胸に痛いわ」
     ウルガモスとペンドラーは、複雑な表情をしている。

    「アポロン君、重かったでしょ? お疲れさま!」
     一人だけ笑顔のドレディアはメラルバの頭を撫でながら、内心どんな事を考えていたのだろうか……。

    「あ、そうそう、ツリーのてっぺんに飾れそうなもの見つけたんだよ!」
    「おお! でかしたぞアポロン!」

     思わぬ展開に賞賛の声が上がった。

     メラルバが黒い手でドレディアに差し出したのは、クリーム色っぽい星型……ではなく三日月型の物体。中心の辺りから、クチバシの様なものが飛び出している……。見るからにルナトーンそのものだった。しかし、こいつはただのルナトーンではない。


    「「「それは噂に聞く『スケベクチバシ』だあぁぁぁぁ!!!!」」」


     六匹の絶叫が響き渡り、PPの残っている技が一斉にスケベクチバシに放たれた。
     シュバルゴからメガホーン、ペンドラーからポイズンテール、ウルガモス、アギルダーからむしのさざめき、コジョンドからドレインパンチ、ドレディアからはなびらのまいが“何もしていない”スケベクチバシに炸裂し、どこかへぶっ飛ばしたのであった……。
     不憫だ。今回に限っては不憫すぎるスケベクチバシであった。吹っ飛んだ先で、また誰かにツイートされたりはしたのだろうか?


      *


     黒い狐――ゾロアークは買い物袋を両腕に提げ、お昼過ぎに家に戻ってきた。彼女を出迎えたのは見事に飾り付けられた輝くツリーと、飾り付けを終え死屍累々の如く転がる七匹だった。メラルバがゾロアークに駆け寄る。

    「どうしよう…みんな疲れちゃってて……」
     彼女はメラルバに頷くと、袋から一本サイコソーダを取り出した。ダイケンキが瞬間的に飛び起きる。
    「お昼ごはんの後ですよー」
     物を言わせぬうちにゾロアークは意地悪な笑みを浮かべながら答えた。

    「なかなか立派なクリスマスツリーね。……てっぺんの星は?」
     気付いた他の六匹が、あっと声を出した。

    「ヤバイ…忘れてた」
    「でも今からじゃアイツが帰って来ちまうな…どうする?」

    「全く……わたくしティラにお任せあれ!」

     ゾロアークが右手の爪を立て、くるくるっと魔法使いのように回した。
     ツリーのてっぺんに輝きが生じ、直後にポンっという音と共に大きな金色の星が現れた。

    「幻影、か?」
    「そのとおり。これで大丈夫でしょ?」
     そこに居た全員に笑みが浮かんだ。



     ………ガチャッ
    「ただいまぁー」

     彼らの主人を迎えたのは、仲間たち全員で作った即席ツリーだった。



    ――――
    うわぁグダグダ。もんのすごいグダグダ。前のダークライさんの記事が台無しだねwww
    クリスマスは何が何でも二つ書こうとか決心した結果がこれだよ!
    ケーキを争奪したり喧嘩したりもするけど、彼らも時には協力して何かをすることがあるんですね。ほとんどはシェノンの我が侭だと思うけど!
    あとスケベクチバシを勝手にお借りしました。…いろいろな意味ですみませんリナさん…

    【書いてもいいのよ】 【描いてもいいのよ】 【クリスマス終了まで約三時間前なう】


      [No.2150] クラボの木 投稿者:スズメ   投稿日:2011/12/25(Sun) 19:15:42     131clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ドス、ドスと、思い足音の主について歩く森の小道。
    毎日の日課はこの散歩で、前を行くドダイトスはのんびりと散歩を楽しんでいる。

    ふと、視界の端にパチリスが写った。
    がさごそと、地面をあさっては何かを埋めている。
    土を掻き分けるたびにその背中に舞い上がった落ち葉が積もるのを見て、もう秋なんだと実感させられる。
    ふと、目の前のドダイトスを見てみた。
    ・・・何時もどおりだ。
    だけど、背中の木の葉っぱは紅葉して、落ち始めていた。
    何で。
    とりあえず、このままでは葉っぱが落ちて悲しいことになるのは目に見えている・・・どうするか。
    そういえば、とポッケの中を探れば、クラボの実が出てきた。
    近所のおばさんにもらったはいいが、うちのドダイトスは甘党だし、固さといい味といい人間が食べるには
    あまり向いた物ではなかったのでそのままにしていたものだ。
    一瞬、パチリスが物欲しげにした気がしたが、気のせいだろう。
    ちょっと、とドダイトスを呼び止めて、その背中によじ登る。
    無理やり緑色の一部をひっぺ剥がして、クラボのみをねじ込んでから水筒の水をかけておいた。
    最近の改良された木の実って奴は、一年中育てられるし実もなるそうだから紅葉することもないだろう。
    明日が、楽しみだ。

    今日も、日課の散歩だ。
    ドダイトスの背中にはクラボの木が育っているものと思いきや、あったのはちっちゃい芽。
    もっと早く育てよと悪態をつきながら、今度は栄養ドリンク数種類をブレンドしてかけておいた。
    当のドダイトスは、しらんぷり。

    朝が来て
    今日も日課のお散歩日和。
    ドダイトスの背中には、やたらと大きいクラボの芽が生えていた。
    何が、あった?
    当のドダイトスは、しらんぷり。

    次の日、少しだけ 大きくなってた クラボの芽

    数日後、もうすぐ 花が咲きそうだよ クラボの木

    そして、一週間。
    今日もドダイトスは前を行く。
    その背中には二本の木が。
    一本は、葉っぱが完全に落ちてさびしい木。
    一本は、もさもさと見事に茂ってクラボが実ってる。ただし、やたらとでかい。
    せっかくだから、クラボを収穫するとするか。
    ここまできても無関心なドダイトスを呼び止め、その背中によじ登る。
    登って気が付いた。
    実のある位置が、少々高い。これでは手が届かない。
    ならばと、元々生えていた木に登って採ればいいか。
    元々生えていた木はクラボの木に比べて細く、なんか頼りない。
    何負けてるんだよと思いつつ足をかけたその瞬間、
    世界が一回転した。
    地面に転がっていることに気づいたときにはもう、元から何も言わなかった木の成れの果てと、
    ここに来てやっと何やってるんだと言いたげな反応を示したドダイトスが自分を見つめていた。

    今日もお散歩日和。 ドダイトスは、前を行く。
    その背中にはクラボの木。
    やったね、クラボが食べ放題だ!
    まあ、収穫できないし自分もドダイトスもクラボは苦手だったりするんだけどね。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    読んでくださりありがとうございました!
    【書いてもいいのよ】
    【描いてもいいのよ】
    【批評してもいいのよ】


      [No.2149] Re: 自分の単行本を妄想するスレ 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/12/25(Sun) 15:07:56     95clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    遅ればせながら私も参加してみたいと思います。

    (帯の表)
    「約束よ。必ず私を迎えにきてね・・・。」
    その約束から3年。ポケモントレーナーとなったマサトが、コトミやトモヤ、そしてたくさんの仲間やポケモン達と共に繰り広げる、冒険と感動の物語!
    (帯の裏)
    ・・・ラルトスとの約束から3年、ポケモントレーナーとなったマサトは、ラルトスとの約束の地・イザベ島に向かう。そこでマサトはラルトスとの感動的な再会を果たす。
    だが、ラルトスを狙って現れたのはロケット団。そして舞台はカントーの南の島・ナナシマに。数々の言い伝えのある島々を巡り、同じラルトスのトレーナー・コトミ、ニドキングを使いこなすトモヤと共に、ナナシマを巡る大冒険が始まる!

    「『Our Future 〜3 years after〜』(1)ナナシマ編」マサポケ出版から好評発売中!

    (帯の表)
    「そんな、言ってくれると嬉しいわ!ありがとう!」
    次なる冒険の舞台はジョウト地方。マサト、コトミ、そしてミキが繰り広げる、夢と希望あふれる大冒険!ポケモン小説シリーズの決定版!
    (帯の裏)
    ナナシマのロケット団の野望を打ち砕き、バトルチャンピオンシップスにも参加、ポケモントレーナーとして、またポケモンコーディネーターとしての実力をつけていくマサト達。
    ナナシマリーグのジムリーダー候補に選出されたトモヤと別れ、新たな仲間・ミキと共に、ジョウトを巡る大冒険が幕を開ける。数々のライバルとの出会いを経て、目指すはジョウトリーグ、グランドフェスティバル、そしてミキはエキシビションマッチ。
    だがそこに待ち受けているのは、ナナシマで野望をくじいたはずのロケット団の影だった・・・!

    「『Our Future 〜3 years after〜』(2)ジョウト旅立ち編」マサポケ出版から2012年春発売予定!

    (帯の表)
    金と銀、10年の思いの彼方にあるのは、かつて届かなかった淡い恋の思い出だった。
    (帯の裏)
    2009年9月12日、ポケモン金・銀のリメイクとして発売された、ハートゴールド・ソウルシルバー。発売日当日、降りしきる雨の中ポケモンセンターに向かう歩の頭にあるのは、昔親しくしていた明日香に貸したオリジナルの金バージョンだった。
    今、10年の季節(とき)を超えて紡がれる、金・銀とハートゴールド・ソウルシルバーの思いをあなたに。

    「『金銀恋唄』」マサポケ出版から好評発売中。


    ・・・考えてみるとマサト達の冒険は今のアニメを題材にしている以上、テレ東や任天堂やらアニメに関連した企業の許可なく出版できませんね(汗
    ついでに金銀恋唄は題材が青葉城恋唄、となるとさらに権利問題がややこしくなって(ry


      [No.2148] リスタートについて 〜 組織犯罪者と社会復帰 〜  ※没稿 投稿者:クーウィ   投稿日:2011/12/25(Sun) 14:39:14     165clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    [大掛かりな組織犯罪が多発し、大規模な地下組織が相次いで摘発される昨今、そこに所属していた容疑者やポケモン達の社会復帰が、深刻な課題となっている。進まぬ対策と法整備の遅れ。渦中の人々の証言から、今何が起き、求められているのかを問う。]


     抜けるような青空の下、子供達の歓声が上がった。漸く涼味を帯びて来た秋の風を熱っぽく掻き分けて、まだまだトレーナー免許を許されていない小学生達が、一列に並んでいるポケモン達に向け、懸命に走っていく。
     彼らの手には、先ほど通過したチェックポイントで手に入れた、ポケモンのNN(ニックネーム)を書き記した紙。ポケモン達の列線に辿り着いた児童らは、思い思いの感情や熱意を込めて、目的のポケモン達の名前を呼んだ。

     ――ここは、ジョウト地方にある小さな小学校。運動場に於いて、児童達が秋の体育祭のプログラムである、ポケモン借り物競争で火花を散らしている。
    「足の速い子には、走るのに邪魔にならない様なポケモン。あまり駆けっこが得意で無い子には、適時機敏にサポートが出来るポケモンが当たるようにしています――」
     そう話すのは、イタミナオヤスさん(34)。老人ホームや小学校などへの慰問やイベント参加を専門にしている、福祉専門のポケモンブリーダー。――元、ロケット団のメンバーである。
     八年前に組織が解散してから、一年間の更生プログラムと二年半の職業訓練を経て、この仕事に就いた。
    「あのポケモン達も、みんな元ロケット団員達の手持ちです。今ではああやって穏やかに振舞える様になってますが、当初は環境の変化に慣れさせるのに苦労しました」
     私と同じ様にね――彼はそう言って苦笑すると、遠い空に向けて目を細めた。


     現在確認が取れているだけでも一万余人。一説には、下部組織も含めると二万人規模だったとも言われるロケット団の元団員達の内、イタミさんの様に無事満足の行く形で社会復帰が出来た人は、約五千人程度だと言われている。全体の半分にも満たない数字だ。
    「怖い」、「嫌悪感を感じる」等、一般住民の忌避意識は今も根強い。
    「職業訓練を受けても仕事が無い。住居の前を通る時、ポケモンを予めボールに入れる人もいる」
     カントー地方に住む、元団員の女性。孤独感と疎外感から、再び非合法組織や残党グループの仲間入りをする元メンバーもいると言う。
    「職業訓練と更生プログラムを終えても、トレーナー資格を取り戻すには試験が必要。例えそれに受かっても、新たなパートナーを手に入れるのは躊躇われる」
     ポケモンを持つことが、周囲との摩擦を更に悪化させてしまう可能性を捨てきれない――彼女はそう話す。

     嘗てロケット団員達が所持していたポケモン達についても、行政は対処に追われている。
    「親が代わったポケモン達は、簡単には新しい主人を信用しようとしません。……手っ取り早く言う事を聞かせるにはバッジが必要ですので、どうしても人手不足になりがちなのです」
     担当者はこう明かす。
     資格を剥奪され、手持ちのポケモンの親権を失った元団員達が孤独に喘ぐ一方で、逮捕された団員達から『保護』されたポケモン達の再教育も、遅々として進んではいない。


     一方此方は、海の向こうのイッシュ地方。同地方の海の玄関と言われる港町、ホドモエシティのマーケットに売り場を構えるジョゼフ・サーキースさん(23)は、元プラズマ団の構成員だったと言う過去を持つ。
    『ポケモンの解放』を唱え、まだ記憶に生々しい『プラズマ団蜂起』で知られるこの組織に、彼が加担したのは大学生の時だったと言う。「幼い頃から、ポケモンの扱われ方に疑問を抱いていた」と言うジョゼフさんは、プラズマ団幹部による街頭演説で感銘を受け、そのまま入団。その後は組織に従って『解放闘争』に身を投じ、支給されたポケモンと共に各地を転戦する内、『リュウラセンの塔』に於いてバトルに敗北。逮捕・拘束された。
    「四ヶ月の懲役を終えて家に帰って来た時、一番に迎えてくれたのがこいつだったよ。……飛びついて来たのを受け止めて、ただ今って言った時。その時が僕にとっての、本当の再出発だった――」
     社会復帰プログラムを受け入れて、地域のコミュニティ活動に積極的に参加、職業安定所で斡旋してくれるパート労働で地道に資金を溜めて、今の商売を始めた。色取り取りの香炉が並ぶ売り場の隅には、組織から与えられて以来、ずっと一緒に生活しているレパルダスが、ふかふかした敷物の上で丸くなっている。
    「嘗て戦った相手だったトレーナーが、買い物に尋ねて来てくれた時が一番嬉しかった」と振り返る彼は、静かに手を伸ばすと、うとうとしている紫色の相棒を、愛おしそうに撫でた。 


     こうした海外での取り組みに刺激されて、近年我が国に於いても、元犯罪組織の構成員からの手持ちポケモンに対する親権や、ポケモン取り扱い免許の剥奪を、猶予すべきではないかと言う声が上がり始めた。
    「入手の経緯はどうであれ、ポケモンと主人の絆は、言葉では簡単に言い表す事が出来ないほどに深いものです。無理に引き裂くのではなく、一緒に更生させる道を選んだ方が、当人達の精神的な苦痛も、行政の負担も軽くなると思われます」 
    『シンオウブリーダー連盟』の、カイザワシゲハル副会長はそう主張する。非合法の地下組織・『ギンガ団』による一連のテロ活動に晒された同地方では、組織の基幹が崩壊した後も元団員への徹底的な制裁をあえて避け、嘗ての組織の基盤を利用した再生企業である『ギンガコーポレーション』を通して、彼らを地域社会に溶け込ませると言う方針を採った。カイザワさんの所属するシンオウブリーダー連盟でも、シンオウリーグで活躍した高名な元トレーナーやアドバイザー達が中心となって、元団員達の職業訓練などの支援に当たっている。
     同じ様な風潮はホウエン地方でも見られ、元マグマ団員やアクア団員達が、地質研究所の職員やマリンレンジャーとして公的機関に採用されるケースも増えて来た。街頭での署名活動など、草の根レベルの運動も、着実に成果を上げている。


     しかし一方で、こうした流れを手緩いと評する声もある。「被害者の感情を考慮し切れていない」、「行き過ぎた保護主義は犯罪抑止力の低下を招くだけ」と言った批判は、何処の地方でも共通のものだ。
    「地下道を歩いてて殴られた人も、うちの家族の様に物を盗まれた人もいる。飼っていたポケモンを傷付けられたり、あまつさえ奪い取られて殺されたりした人間が、簡単に連中を許せるとは思えない」
     自らも住宅を損壊させられ、盗難の被害にあった事のあるハナダシティの男性は、複雑な表情でそう語る。今尚過去の記憶に苦しむ被害者の精神的なケアや、効果的な再発予防法案の策定無しには、真の解決もあり得はしない。

     保護されている側にも不安はある。
    「時々、『こうやって生活していて本当に良いのだろうか』と思う事はあります」
     冒頭で紹介したナオヤスさんは、駆け走る子供達を見ながら、呟くように胸の内を語る。ヒワダタウンやコガネシティでの、一連の暴力行為に関わった自らの身の上を悔やむ頻度は、実は周囲の人間達が思っている以上に深刻なものだ。
    「夜中に魘されたり、仕事中にストレスを感じる事も日常茶飯事です。嘗て追い使っていたポケモン達がどうなったのかなど、思う所は尽きません――」
     しかしそう語りつつも、彼は現実を受け入れて前に進む道を選ぶ。
    「贖罪で済むとは思いません。取り返しもつきません。……けれども、もう投げ出す訳にも行かないんです。今の私にはあいつ等がいるし、受け入れ、仕事を教えてくれた方々の恩に報いる為にも、生涯この負い目を背負っていく心算です」
     静かにそう結んだナオヤスさんが、心の支えにしている言葉がある。
    『人は必ず生まれ変われる。何時どんな時だろうとも、自分を必要としてくれる者の存在を、身近に感じる事が出来たのならば』 ――裁判に於いて彼を弁護してくれ、ポケモン取り扱い免許の再交付に尽力してくれた、今は亡き老弁護士の陳述である。



    ――――――――――

    夏菜さん主宰の雑誌風ポケモンアンソロジー・POKEMONDAY’Sに寄稿するべく書いてみた短編の内の一つ。……後から読み返してみると、どう見ても雑誌の記事と言うよりは新聞の社会欄ですorz 本当に(ry

    空気が読めない人で御免なさいとだけ…… お世話になった方々に、心よりお礼申し上げます。


    【好きにしていいのよ】
    【暫く何も入れてなかったので 後悔は(ry】


      [No.2147] 血筋 投稿者:音色   投稿日:2011/12/24(Sat) 23:18:02     96clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     世間は今日を聖キリストの誕生日前夜だと謳う。救世主の誕生の日には眩いばかりの星が馬小屋の天井で輝き、学者を、羊飼いを導いたとされる。
     そして、その聖なる日に、かのレディはこの世に生を受けた。
    「偶然でしょうねぇ」
     知る人が言えばそれは必然だと言うかもしれないが、所詮運命の悪戯。かの火宮の家で気にした者などいないだろう。
     ・・火宮の家では、だろうが。


     めぇら。
     生まれて半年以上たつものの、腕に収まるサイズのメラルバは外の寒さに小さく鳴いた。生まれた当初より一回り大きくなったと言えど、まだまだ幼い炎タイプは本格的な冬に弱いらしい。
     太陽の子を抱いた黒服の紳士は、ショーウィンドウを眺めて何かを思案していたらしいが、小さな生き物の声に現実に戻ってきたらしい。コートの内側にその子を入れる。
    「さて、どうしましょうかねぇ」
     いかに美しく着飾るものだろうとも、あの炎の血を引く淑女にはどれも見劣りするだろう。
     何度目かの言葉を口にして、分家の血筋は未だにふさわしい物を見つけられていなかった。
     やはり花束などの方がよろしいか。しかし生花は放浪する彼女には似合うまい。
     口にする物は近くにいる死神殿が難色を示しそうだ。もとより、彼は私が彼女に接触すること自体を嫌うものだが。
     日付が変わらぬうちに、急ぎましょうか。
     そう一人ごちて、彼はくるりと硝子に背を向けた。


     太陽と呼ばれるポケモンに乗り、イッシュを離れて海を渡る。
     エンジュと呼ばれる都市の片隅の洋館に、ゲンガー達が仕事をしにいっているらしい。
     縁のない人間には全く気のつかない事だろうが、霊の動きを見ている者にとってはこれほど分かりやすいものはないだろう。


    「失礼しますよ、レディ」
     彼の言葉に、弾かれるようにくるりとファントムは振り返った。
     鮮やかな向日葵、隣の死神はじろりと冷たい視線をこちらに向けた。きっと結ばれた口元が、おそらく私の前で解かれることは有りはしないのだろう。
     それで良いのです、レディ。
    「お誕生日おめでとう御座います」
     コートの内側から差し出した包みを、彼女は少々訝しい眼をしながらも受け取った。その視線が、内ポケットから顔を出すメラルバに注がれる。
     無邪気なそれを見て、ほんの少し冷静さが緩んだ表情が映る。メラルバはレディを見て数回瞬きをし、また寒さに潜った。
     それでは、失礼します。礼をして去ろうとすれば、
    「これはなんだい?」
     彼女が中身を問うた。
    「開けてみれば、分かりますよ」
     するりと包みをほどいて、ファントムは目を細めた。浅葱色のショールは、色とは別の温もりを感じさせる。
    「この時期はとても寒いですからね。お体に気を付けてください、レディ」
     炎の御加護を。


     ウルガモスの背に乗って、その場を去って空へ逃げる。
     あぁ、願わくばこのまま、天に融ける事をお望み申し上げましょう。


    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    余談  レディが御誕生日と聞いてカクライにプレゼント渡しにいかせた結果がこれだよ!

    【メリークリスマスイブ&ハッピーバースデー!レディ・ファントム】
    【残念クオリティでごめんなさい】


      [No.2146] 裏路地の閃光と暗黒 投稿者:銀波オルカ   投稿日:2011/12/24(Sat) 22:24:56     110clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     世間は『クリスマス』というものらしい。街に出ると、赤と緑をよく見かけるようになり、明るいネオンや飾り付けられた針葉樹が輝いている。
     クリスマスとは神の子の誕生祭であり、二十四日のイブは前夜祭であること、夜にはサンタさんやデリバードが良い子にプレゼントを配る日であることまで私は知っている。知らなくても不自由は無いだろうが…。

       *

     もしも私がプレゼントとして欲しいものがあるとしたら、それは『三日月の羽』だろう。これまで“私自身が”一番振り回されてきた自分の特性を抑えることのできる可能性の一つとして、ひそかに心に留めてきたものだからだ。
     考えている自分でもばかばかしいと思う。あくまで推測であり、実際に何が起こるのかは全く分からない。私の身に異変が起きる、もしくは羽に何かが起きる可能性も十分にあるからだ。

       *

     夕暮れの薄暗い裏路地に入る。私が今いるコトブキシティも、例に漏れず表通りではきらびやかな輝きを放っており、私にとっては薄暗い場所が一番過ごしやすい。輝いている場所には、あまり似合わないこの黒と赤の身体。影に隠れるのが定めである。

     ふと、目の前に何かがいるのに気付いた。薄暗い中よくよく見れば、それは小さな水色のポケモンである。毛糸のマフラーを身体に巻いているが、小刻みに震えていた。少なくとも、この寒さの中放っておけるような状態ではない。
    「どうしたんだ、こんな場所で」
    「……」
     小さな影は答えない。別に気を失っているわけではない。確かに薄暗いが、金色の瞳はしっかりと私の姿をとらえているはずだ。……きっと恐ろしいと思われているのだろう。ところがいつまで経っても逃げもせず、答えもしなかった。私もしばらく、動かずにいた。

    「……い」
    「?」
    「寒い……」
     二度目はかろうじて聞き取ることのできる声だった。逃げる様子は無かったので、その小さな身体をマフラーごと持ち上げ、抱え込む。淡い黄色と白で編まれたマフラーの隙間から、黒くて細長い尻尾の先に付いている、手裏剣型の部分がはみ出した。
     裏路地の影も、クリスマスの輝きの影も暗く感じた。しばしの間、自分が入ってきた路地の入り口に見える輝きをぼうっと見つめていた。

    「ねえ、おじさん」

     突然、抱えている影がはっきりと喋り、少し驚く。
    「おじさんさ、名前なんていうの?」

     おじさん――別に間違ってはいないと思う。多分。自分の年齢とかは、数える意味をとうに成さなくなったので覚えていない。私達ダークライという種族は、少なくともニンゲンよりは遥かに長い時を生きるともいうが……。

     名前に関しては少々迷ったが、正直に答えることにした。
    「私はダークライ。名前は無いんだ」
     無いの? と聞き返すそれに、うなずく。
    「そっかぁ。ぼくコリンクのルキっていうんだ。あのさ、おじさんに名前が無いなら、温めてもらったお礼に考えるよ?」

     初めて笑顔をみせたコリンク。その純粋な笑みは、私の心に何か違和感を感じさせた。コリンクはそのまま続ける。
    「ぼく、生まれてからずっとこの街にいるんだけど、みんなぼくを引っかいたり、噛み付いたり、蹴ったりするんだよ。おじさんみたいな、温めてくれるポケモンは初めてだからさ」
     ずっとこの街にいる。生まれた時から。普通、彼くらい幼いポケモンの場合、野生であればまだ親と一緒に行動していると思うのだが。何故ニンゲンの身に付けるマフラーを持っているのだろう?

    「ルキ、そのマフラーはどこで見つけたんだ?」
    「ごみ捨て場だよ。たまたま見つけたんだけど、便利だから今はぼくの宝物なんだっ」
    「いいものを見つけたんだな」
    「でしょ?」
     どうやら自分で見つけた物のようだ。

     得意げな彼の笑みは私の心を温めながら、どこか痛々しくも感じさせた。おそらくタマゴの時から、無責任なニンゲンによって背負わされた彼の生きる場所を、くっきりと映し出しているようで。


    「ルキの野郎、ここにいやがったか」

     突然、背後から聞こえた不気味な声。振り向くと、四足の影に長い角と、矢印の尻尾。ヘルガーのようだった。それだけではない、気配を探るとやつの後ろにもう数匹、私達を挟んで反対側にも気配がある。……完全に、囲むのが目的らしかった。

    「そこの黒いの、見かけねぇヤツだな。悪いがそいつを置いていってくれないか? ここらは俺たちのナワバリでねぇ」
     明らかな敵意を含んだ声に、腕の中のルキが震えた。まるで私にすがり付いてくるように。
    「置いてどこかに行け、という割には出口が無いじゃないか?」

     ここは強行突破しかないだろう。

     ヘルガーがニヤリと笑ったように見えた。直後、何本もの赤い火柱が私達に向かって放たれる。
     紅の檻の起動を読み、慣れ親しんだ戦闘の勘から隙間を潜り抜ける。ルキがほんの少し悲鳴というか、驚きの声のようなものを上げたように聞こえた。
     それから上に飛び、あくのはどうをヘルガーに向かって打ち込んだ。所詮は町の野良ポケモン。一発脅せば充分だろう。案の定、立ち上った煙が晴れたそこにはもうヘルガーも、ほかの気配もなかった。

    「おじさん、すごい……」
     下を見下ろすルキ。
    「おまえを引っかいたり噛み付いたりするっていうのは、あいつらか」
    「うん。せっかく見つけたご馳走を奪われたりとか、たまに炎を当てられたりするよ…痛いし、怖い」
     日々の食事にも事欠くのであろう。街の野良ポケモンとは、哀れなものだ……。


     宙に浮いたまま、ふとひらめいた私は路地に戻らず、建物の間を上へと昇っていった。家々の屋根が視界の下へ遠ざかっていく。
    「おじさん?」
    「いいものが見れるぞ。良いと言うまで、目をつぶっていていろよ」
     子供相手に浮かんだ、魔法の言葉のような、おまじないのような。
     少し不安そうな顔をしながらもルキが目を閉じたのを見て、上昇するのを再開する。もうすでに立ち並ぶビルディングの屋上が見下ろせるくらいの高さで、もういいぞと声をかけた。彼が息を飲むのが分かったが、それ以上は言葉にならないようだった。

    「うわぁ……」


     視界一面に広がるのは、街の輝き。
     コトブキ――ルキが生まれた街の、素晴らしい夜景。


    「きれいだなぁ……!」
     やっと声が出るようになった、とまで思わせるようにルキは呟いた。と、何かが視界の隅にちらついた。
     見れば、それは天から降ってくる、純白の雪――。
     ぼやけたように街明かりに染まる無数のそれは、夜景をさらに幻想的にさせた。

    「おじさん、すっごく強くて、優しいと思う」

     すぐに心を開くことのできる子供だからこそ、言ってもらえた言葉。少し照れてしまうほどに、温かい。そんな中でも静かに、ひんやりと、自分の意識は張り付いてきた。
     私は、彼と一緒に居てはいけないのだ。どれほど美しい夜景の中にいようと、ダークライであることに変わりは無い……。雪で夜景がぼんやり見えるように、自分もまた白い雪に覆い隠されたいとも思う。
    「ルキ」
     努めて辛さが声に出ないように言うのが精一杯だった。
    「私は、お前とは一緒に居られないんだ」
    「…なんで?」
    「私の近くにいると、悪い夢を見てしまうんだ」

    「すごいっ!」
    「 」

     悲しみとかそんなものとかじゃなくて、まず返事に面食らった。言葉が出てこないとはこの事である。
    「それ本当!? ねえ、ぼく今日はおじさんと寝てみたい!!」
     顔を輝かせながら、まさかこんな事を言われるはめになるとは。
     黙ったままでいる私が気になったらしい。ルキは私の目を見ながら、続けて話しかけてきた。
    「一晩だけでもいいからっ!」
     こうなってしまっては、もう何を言っても聞かないだろう。……子供の世話をする親の気持ちが、なんとなく分かってしまった気がしなくもない。

     しかし、あまり馴れ合ってしまっては別れが辛くなるだけなのではないか?


    「おじさん、おはよう!」
    「ああ、おはよう」

     この時期のシンオウにしては珍しく、快晴の朝だった。ルキは、私が持っているものを気にしたらしい。
    「おじさん、なにそれ?」
    「これはね、新聞というんだ」
    「しんぶん?」

       *

     話はそれるが、私がダークライとして生まれ、酷い目に散々遭ったにもかかわらず何故、人やポケモンを傷つける道に進まずに済んだのか。それは自分が思うに、生まれつき私に備わっていた“知識欲”のおかげであろう。
     まずはニンゲンの言葉、文字。言葉を理解できるポケモンは多いだろうが、文字を読めるものはそうはいない。文字を読める事は、私の密かな誇りでもあった。
     それから昔から伝わる神話、昔話、行事に興味を持ったのだった。見た事の無い場所やポケモンにも思いをはせた。
     ……ここだけの話だが、深夜の図書館に入り込んだりして片っ端から本を読んだこともあるほどだ。もちろん本は全部元に戻し、警備員の目をかわす事は簡単だった。そして、今読んでいる新聞はニンゲンの“ごみ捨て場から”あさって来た物である。ホームレスのようだとかはどうか言わないでおいて欲しい。

      *

     政治とかいう難しい記事は飛ばし、クリスマス特集を読んでいる私の横から、ルキが紙面を覗き込む。
    「……ぜんっぜんわかんない」
     頬をふくらませて、ぶうっとふくれた表情はなんとも子供らしい。
     新聞を裏返し、日付を見ると十二月の二十三日になっていた。昨日の夕刊であるから、今日は二十四日、クリスマス・イブになる。パサっと新聞を閉じ、ルキに言った。
    「今日はニンゲン達にはクリスマス・イブという日で、子供はプレゼント…贈り物がもらえる日なんだそうだ」
    「ふうん…贈り物かぁ……」

    「そういえばルキ、悪い夢は見たのか?」
    「うん…すっごくこわかった……」
     ルキの顔は恐怖に歪んでいた。

     ――ルキの表情を見て、心が決まった。
     明日の朝に、ルキとは別れよう、と。やはり私は、悪夢を見せてしまうのだから。
     彼がどんなに私を信頼していても、許されない事なのだ――

     その日は一日中路地裏で過ごした。ゆったりとした時の中で、私が経験した事とかをルキに語ってやると、彼は案外熱心に耳を傾けるので、話しているこちらも嬉しかった。
     夜は、昔に知ったシンオウの昔話をルキに語ってやることにした。
     聞かせてやるうちに寝息が聞こえてきて、話すのを止めた。

     明日の朝、彼はどんな顔をするだろうか。彼の寝ているうちにそっと立ち去ろうか、きちんと話してから、さよならと言おうか……。結局、決める事はできなかった。
     もう寝ようと思い、建物の壁に寄りかかって私も目を閉じた。私の肩の上でマフラーに包まれ、幸せそうな彼の顔がずっとまぶたの裏に残っていた。
     どうか強く、生き延びて欲しい――


    「おじさーん!」
     ルキの明るい声が響いた。
     目をうっすらと開けてみると、まだ少し薄暗い。
    「ねえこれ、見て見て!!」



     ルキが差し出し、目に映った物に驚愕した。
     三日月形に曲がった、薄く金に輝く羽。

     まさしく、私がほんの少しの希望をかけてきた物そのものだった。



    「……おじさん?」
     ルキが不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
    「何でそんなに驚いてるの?」
    「いや、すごく、綺麗な羽だと思ってな…。きっと、誰かがお前にクリスマスプレゼントとしてくれたんだろう。大切にするんだぞ」
    「おじさんがくれたんじゃなくて?」

     いや、私からではない、とルキに言った。
     昨日の晩、三日月の化身がたまたま落し物をしていったのだろうか。

    「あのね、おじさん」
    「何だ?」
    「おじさん、昨日旅をしてるって言ってたよね?」
     そう、行く当てもない旅を。
    「ぼくも、付いていってもいい? いろんな物が見てみたいし、ぼくもおじさんみたいに強くなりたい!」

     昨日なら、きっぱりと断っていたはずの言葉。しかし、彼が三日月の羽を持っているのなら話は別だ。

    「お前がそうしたいのなら、歓迎するよ」
    「やったー!! ……あ」
     ルキが何かを思い出したように、言葉を切った。
    「おじさんの名前さぁ、まだ考えてないんだ…ごめんね、せっかくのクリスマスプレゼントになると思ったのに…」
    「いいんだ。旅をしながら、ゆっくり考えてくれればいい」

     私は笑って答えた。
     それに、私はもう日々を共に過ごす仲間という立派なプレゼントを一つ貰っているのだ。

     最初は町を出て、森に行ってみようと思った。ルキ達が本来暮らしているはずの場所へ。
     何よりも、次に“向日葵の彼女”に逢えたときに話す事が一つ増えたのが嬉しい。


     神の子が生まれた日の朝日を浴びながら、二つの影は静かに街を出て行った。



    ――――
    メリークリスマス! あのお話(どのお話だ)に登場したダークライさんの続編ですよっと
    コリンクに「おじさん」と呼ばせるかどうか凄く迷いましたが…性別は不明ですけどとりあえず気にしないでくださいね(汗

    【書いてもいいのよ】 【描いてもいいのよ】


      [No.2145] ムウマージにコーディネートされた 投稿者:音色   投稿日:2011/12/24(Sat) 21:51:51     109clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     誘爆気球の突き刺さりブームが去り、クリスマスシーズン到来という事で配達稼業が忙しくなって来た今日この頃。別にハロウィンに何か騒動がなかったのかと言われれば嘘になるが割愛。
     ホウエンのシブチョ―に言わせりゃあ、クリスマスと正月とバレンタインとお歳暮の時期が一番稼げる、らしい。だからこそシフトびっしり。有給?クリスマスに?ありえねー。
     世間のクリスマスムードにゴ―スト共もそわそわ。お前ら、キリストの誕生日に浮かれてどうするんだ。
     え?一人暮らしで彼氏彼女のいない寂しい奴等の恨み辛みがいっぱい?・・なるほど、カゲボウズ的にもありがたい訳か・・。
     いちお―ここにもその条件に該当する奴がいるんですけど。別に恨みも辛みもたまってないか。疲れならあるぞ。華やかなクリスマスの裏側でこーゆー配達稼業とか忙しい人もいっぱいだっての。
     明日だ、明日の24日が過ぎれば少しはピークが減る、と信じたい・・。そして寝た。


     ・・・起きたら妙なサンタクロースがいた。赤と白の帽子をかぶった、ムウマージだけど。
     時計の針は午前3時10分過ぎ。二度寝しよう、としたらこのサンタ・・じゃないどこからきたか分からんサンタコスのムウマージにまとわりつかれる。寒い。目が覚めた。
     え、え、なにこれ。サンタってイメージ的にデリバートじゃないですか。それとも私のゴーストホイホイ体質のせいでこうなったのか。
     ていうか、サンタがくるのって普通は24日の夜から25日の朝にかけてだろう。今は24日の朝だよ。イブはイブでも間違ってるだろう。というより、サンタからプレゼント貰える様な年齢でもないんだが。むしろ配る側だよ。
     見た所袋は持ってな・・持ってる。妙な膨らみが気になる白い袋持ってるよこいつ。今さらだけども他のゴーストどもふよふよやってきた。知り合い?違うのね。
     なんかくれるの?え、マジで?まさかの展開で意外と嬉しい。
     パチンと魅惑のウィンク。・・・後ろでわざとらしく胸を押さえてひっくり返るゴーストども。お前ら、やってる事芝居がかりすぎ。しかしそのノリは嫌いじゃないけど。
     差し出されたのは、名刺。え、名刺?しかもちゃんと日本語。・・どうやって作ったんだろう・・。読む。
    『コーディネーター  ピエトロ・ド・ブライムローズ   愛称:ピートでよろしく』
     ・・・はじっこの愛称の部分だけあとから書きたされた感全開。うちのゲンガ―が書いた奴か、これ?となれば、ゲンガ―の知り合いかな。
     ちょっとゲンガ―よんで来て。朝っぱらからまた厄介なことになりそうな空気だ。


     通訳来たのでとりあえず名刺の意味を確認。コーディネーターって一体。
    『あら、ポケモンをコーディネートする人間がいるんだから、人間をコーディネートするポケモンがいたっていいじゃない?』
     ・・さらさらと書かれた文字からはどこか高飛車なお姉さま的な空気が伝わるな。言ってる事はまぁ、間違っちゃいない、けど・・。
    『あぁ、でもまだ一人前のコーディネーターとしての資格は取ってないんだけどね』
     波長の合う人間見つけて、その人間を上手いこと利用させてもらって会社を立ち上げるのが夢なのよ―、と語るムウマージ。計画が具体的で逆に怖い。
     で、一体何の用で来たのか、と聞けば、
    『この子たちに貴方の事聞いたんだけどー、なかなか可愛いのにファッションに興味がないって言ってたから、私が劇的ビフォーアフターをプレゼントしてきたのよ☆』
     誰が問題を抱えた建築物だ。いや、突っ込みどころはそこじゃないか。部屋の中のゴーストポケどもを睨む。一斉に目をそらす。お前ら、余計な真似をしやがって。
    「いや、今日も仕事があるし」
    『仕事場に行くまでは私服でしょう?』
    「いつもの格好で間に合ってます」
    『ダメダメ、クリスマスくらいおしゃれをしなさい。女の子でしょう!』
     なんだこの謎の理屈。ようするに私を着せ替え人形にしたいだけなのでは。ずいずい迫ってくるムウマージに押し切られ、部屋からは♂のゴーストポケは叩きだされた。


     2時間後、予想した通り散々あれこれとっかえ着せかえられて、ようやくムウマージ・・ピートか、気はすんだらしい。仕事に行く前からなんでこんなに疲れなきゃいけないんだ・・。
    『あーやっぱりまだまだね・・。本人にも納得してもらえるようなコーディネートができないんじゃ・・』
     私があんまりにもファッションに適当に答えるもんだからピートの自信らしきものまで喪失している。知ったこっちゃないが。
     パティシエ希望の友人がコーディネーターという図式は傍から見たら面白くもなんともないかもしれないが、その上にポケモンと付いた時点で怪しいよなぁ。
     ぐったりしている状況の中、そろそろ帰るとピートの言葉が書かれた紙をゲンガ―が持ってきた。
    「今度はもっとまともな時間帯に来てください」クリスマスイブの深夜とかもう御免だ。
    『じゃあ今度はきちんとしたお仕事で来る事にするわね』
     コーディネーターとして独立する気なのね。野望を持ったポケモンだ。
    『先にいっておくけれど、本来ムウマージは・・とくにあたしの一族は夢魔の性質を持ってる者よ?もっとも、今じゃその血はほとんど絶えちゃって、あたしも一人くらいしか巡り合えてないんだけどね・・』
     急に紙の上の内容がリアルなものになる。ゴーストポケモンもやっぱりいろいろあるんだ・・。
    『リリもあたしも相当変わり種・・』
     あれ、切れてる。・・・ゲンガ―が紙をひったくった。あー、もしかして独り言か何かだったんだろうか。いつもの癖で訳しちゃったのかな。
     メリークリスマスイブー、とか言いながら送りだす。ふわりとムウマージは去っていった。
     やれやれ、一息ついた。朝飯食って仕事いこ。


     職場に行く自転車の上で気がついた。
    「ピエトロって男性名詞じゃん?」

    ――――――――――――――――――――――――――――――
    余談  本当はもっときとかげさん所のリリさんと絡めたかったけど難しかった――!
    別のお話しでまたお借りすると思います。

    【ピートは♂ですよ?】
    【何しても良いよ】
    【きとかげ様お借りしました】


      [No.2144] 特 定 し た 投稿者:No.017   投稿日:2011/12/24(Sat) 19:14:54     84clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    > ワタクシだけが ポケモンを つかえれば よいのです!」

    特定したwwww
    クリスマスでもこの安定感wwww


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