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チェレンがすごく…かわいいです。
ベルももちろんかわいいのですが、あれこれ考えてるチェレンがひたすらかわいいです。
ちょっとじれったい感じとか愛おしくてなりません。
ほのぼのする組み合わせで、とても癒されました。
オレの隣の家って長いこと空き家だったんだ。少なくともオレが物事の判別がつくようになった時にはもう、
空き家だった。
なんでかは知らない。前の持ち主が何かやらかしたいわくつきの物件だからとか? ウソウソ。アサメタウン
はのどかで緑が多くていいところだけど、へんぴなところだからね。
単に交通の便が悪いから買い手がなかなかつかなかったんだと思うよ。だからこう、すぐ隣の家に誰かが住ん
でる気配がするのは、いつの間にか部屋の家具が一個増えてて当たり前にそこにあるような、ちょっと心霊現象
みたいというか、変な感じはするね。
変って言うのは失礼かな。だけどオレの隣はこれからもずっとイトマルの巣が張ってるような空き家なんだろ
うって思ってたし。気を悪くしたら謝るよ。どう言ったらいいのかな。驚きなんだ。早い話がね。
向かい合ってテーブルについている「お隣さん」に一方的に喋りかけると、カルムはアイスクリームにコーヒ
ーをかけたデザートを一口食べた。
ミアレシティのあちこちに散見される喫茶店の一つであるこの店は、コーヒーそのものよりも甘味に気合いを
入れている店として有名だ。飲めないというほどじゃないし、友達にもクールだと言われることもあるけれど別
にカッコよく見られたくてブラックコーヒーを飲むほどキザなカッコつけのつもりもない。
だからこうしてアイスクリームに存在意義の大半を浸食されてしまっているような甘味を、普通に女の子の前
で食べている。「お隣さん」はこういうことをからかわないから気が楽だ。ただアタシもそれにしようかななど
と言いつつ普通に特大チョコレートパフェを頼んだのは謎だが。
まあ甘味に気合いを入れた店なのだから、曲がりなりにも苦いコーヒーしてるこっちよりも正解だろう。何に
しても一方的にしゃべっても文句も言わないのが心が広いというか。「お隣さん」の女の子は看板メニューの一
つである特大チョコレートパフェを優雅に崩している。六分の一ほどが崩し終わったところで、「お隣さん」は
ようやく口を開いた。
「ある晴れた日にお隣さんのアタシと喫茶店でコーヒーを飲んでることが?」
少し間を置いてから、「お隣さん」の問いかけが先刻の「驚きなんだ」という発言にかかっていることに気が
つく。いや「お隣さん」がいること自体が驚きなんだけれども。そしてこの場にいる自分と「お隣さん」、その
どちらもコーヒーを「飲んで」はいない。と思ってから、これが「お隣さん」流の冗談なのだということにも気
がつく。大変わかりにくい。
「まあそれも驚きと言えば驚きかもね。なにしろオレは女の子とのデートなんて無縁だから」
「へえ意外」
「なんで」
「だって女の子にモテそうだし。カルムってクールだし、カッコいいじゃない」
「冷たいとはよく言われるよ」
「へえそれも意外」
「なんで」
「だってアタシが困ってる時もさっそうとクールにやってきて、助けてくれるじゃない」
とっても恥ずかしいことを言っても、「お隣さん」はほえるを喰らってもへいきな顔をしている勇敢なポケモ
ンみたいに、表情一つ変えない。こっちが恥ずかしくなってくる。
「そう取られるのも驚きかもね」
なぜだか熱くなった手のひらの中にあるコーヒーのかかったアイスクリームは、熱が堪えたように少し形を崩
していた。
タグ: | 【2012夏・納涼短編集】 【ひとりごとは癖】 【誰が何と言おうと癖】 |
「お腹空いたな」
くぅ、と小さな音を鳴らすお腹を押さえた。
財布の中身を思い出す。それなりにお小遣いはあったはずだけど、食費は出来るだけ抑えるべきか。
「ハンバーガーでも食べようかな。……確かクーポンがあったはずだし」
財布の中身をちらりと見る。半額になるクーポンが1枚だけ残っていた。昼飯は決定だ。
鞄の中からタウンマップを取り出す。
「次の町はシオンタウンか。ちょっと遠いなあ。薬を多めに買っていくか」
地図によると、トンネルを抜けなければならないらしい。いろんなところにポケモンが潜んでいる分、普通の道より厄介だ。
「わざマシンがあるから……資金も十分だ」
鞄の中を漁る。いらないわざマシンがいくつかある。売ってしまえばそれなりのお金にはなるはずだ。
「とりあえず、ショップで売ったり買ったりしてくるか」
昼飯はそれからだな。僕はタウンマップを畳んで鞄に入れた。
+++
「それにしても高いタワーだなあ」
シオンタウンの人たちに、色々な話を聞いた。
おつきみ山でも出会ったロケット団とかいう連中のこと。殺されたカラカラのお母さんのこと。そして、タワーに出る幽霊の話。
「町の人は幽霊が出るって言ってたけど……」
幽霊、ねえ。
僕は町の人の言葉を思い出して、少し苦笑いした。
「ねえねえ、あなた」
何となく青白い顔をした女の子が、僕に話しかけてきた。
「あなた、幽霊はいると思う?」
ああ、この子もか。
僕は笑って言った。
「いないよ。いるわけないじゃんそんなの」
そもそも、お化けとか幽霊とか、そういうオカルティックなものは信じてないんだ、僕は。
そうしたら、その子は苦笑いを浮かべて言った。
「あはは、そうよね! あなたの右肩に白い手が置かれてるなんて……あたしの見間違いよね」
当たり前だろ、と僕は笑った。
もしいるとしたら、一体いつから僕のそばにいるっていうんだ。
+++
タワーに入ると、幼馴染がいた。とある墓石の前に座っていた。
「おう、久しぶりだな」
「やあ。……それって、もしかして」
「……ああ。旅に出て最初に捕まえた相棒」
「そっか……じゃあ僕からも」
僕はリュックの中からミックスオレを取り出して、墓前に供え、手を合わせた。
「呆気ないもんなんだな。命が終わるのなんて。もう少し早くポケセンについてりゃ……」
「ポケモンはずっと、僕らの代わりに戦ってるんだもん。気をつけないといけないね……本当に」
「気を抜きすぎてたな。強くなったから、多少は平気だろうって……」
「ポケモンは本当に見かけによらないからね」
幼馴染がため息をついた。いつも元気でお調子者なこいつも、今はすっかりふさぎこんでいる。
「……悪かったな。小さい頃、嫌がるお前を無理やり町の外に連れて行こうとしたことがあっただろ」
「ああ、懐かしいなあ。そんなこともあったね」
「ポケモンの強さとか、危なさとか、理解してりゃあんなことしなかったのによ。しかも断ったお前に散々悪口言ってさ……」
「いいよもう。昔のことだ」
「あのあとじいちゃんに、昔ポケモンを持たずに町を出て、死んだ奴がいたって聞いてさ……俺、本当に……」
「いいってばもう。おかげさまで僕は元気だよ。一番の親友のおかげで、楽しい旅に出る決心もついたし」
「……そうかい」
幼馴染のこいつとは、些細な言い争いすらほとんどしたことがなかった。でも、たった1回だけ、こいつとけんかをしたことがある。
+++
僕たちの生まれた町から外に出るためには、どう頑張っても、草むらを通る必要がある。草むらに入れば野生のポケモンが出てくるのは当然で、町の大人たちはいつも、町の外に勝手に出てはいけないと僕たちに言ってきた。
だけど、こいつは小さい頃から好奇心旺盛な上に無鉄砲で、大人たちの言いつけも守らないことがよくあった。
そしてある日こいつは僕に、一緒に町の外に出てみようと言ってきた。なるべく草むらに近づかないようにこっそり行けば大丈夫だろ、と。
だけど、僕はそれを拒んだ。町の大人たちから何度も、ポケモンも連れずに外に出るのがどれだけ危ないことか聞かされていた。だから、外に出るなんて怖くてとても出来なかった。
そうしたら、そいつは僕に言った。
「何だよ、この意気地なし!」
僕もそいつも、半べそをかいて、その場から駆けていった。
けんかをするのが始めてて、僕もそいつも、どうしていいかわからなかったんだと思う。
僕たちの生まれ故郷、小さな田舎町の小さな公園。ベンチと砂場とブランコしかないちょっとした広場。
ふらふらと僕はそこへ行った。西の空が気味悪いほど真っ赤に染まっていた。
「誰もいないのかな?」
いないでほしい。今は人に会いたくない。
あたりを見回した。誰もいない。よかった。僕はベンチに座った。
じっと座っていると、あいつのことを思い出した。
悲しいとか、悔しいとか、何かもう分からない。ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
「やっぱり、僕は意気地無しなのかな?」
あいつの言葉が頭をよぎる。あいつは怖いもの知らずだ。きっと、僕なんか比べ物にならないほどの勇気がある。
「でも、町の外に出るなんてやっぱり怖いよ。この辺りにはポッポとかコラッタとか弱いのしかいないから大丈夫って言ってたけど……やっぱり危ないよ」
ポケモンに襲われた人たちの話。時々テレビで見る。
弱いポケモンなんて言っても、丸腰の僕たちに抵抗なんてできないだろう。
小さい頃から何度も、ポケモンは友達になれるけど、怖い存在だと母さんに言われてきた。それはきっと、ただ僕を怖がらせるために言ったわけじゃないんだろうと思う。
町の外に出てみたいんだ、と言ったことがある。
幼馴染のおじいさんであるポケモン博士は、お前たちが大きくなったらポケモンをやろう、と言った。
ポケモンと一緒なら、危ない草むらでも入っていける。
強くなれば、どんな場所でも自由に行ける。
けがの心配をしなくて済むなら、危険なことにならずに済むなら、その方がずっといい。
「もう少し大きくなったら、博士にポケモンをもらえるんだ。だからそれまで待とう、って言おう」
あいつだって、きっとそれが一番いいってわかってくれるはずだ。僕は少し気が楽になった。
だけど、ポケモンをもらって、町の外に出られるようになって。その後はどうするんだろう?
「あいつ、やっぱり旅に出るかな?」
僕としては、今とほとんど変わらなくっても構わない。この町に留まって、用事がある時は町に出て。
でも、あいつは僕と違って勇気があるし、好奇心も旺盛だから。
「僕が行かなくても、やっぱり行くんだろうなあ……」
ポケモンがいなくても町の外へ出ようとする奴だ。どこへでも自由に行けるようになれば、どこへでも自由に行くだろう。それでいいと思う。あいつの好きにすれば、それでいい。
だけど、そうしたら僕は?
あいつが旅に出て、僕はこの町に留まる。
「それじゃあ、独りぼっちだ。……寂しい。独りぼっちは嫌だな」
僕は元々、人見知りが激しくて内向的でインドア派だ。僕に絡んでくる奇特な奴はあいつくらいだ。僕にとって、友達と呼べるのはあいつくらいだ。
あいつは僕と違って外交的で人付き合いも上手いから、きっとどこに行っても上手くやれるだろう。
僕はどうだ? この町に残って、他の人とまともに話すこともなく、家に閉じこもってただ時が流れるのを待つだけか。
違う。旅に出るのが必要なのは、僕の方だ。
「……やっぱり、僕も町を出る。一緒に旅に出よう」
あいつが旅に出るなら、同じ時に旅に出て、世界を回ってみよう。
旅先であいつと出会うこともあるかもしれない。勝負を挑まれたりして。きっとあいつのことだから、出会うたびにバトルを仕掛けてくるんだろうな。
「いいよ、って言ってくれるかな?」
あいつは負けず嫌いだから、僕と一緒の時に旅に出るなんて、って思うかもしれない。例えば博士に何か用事を言いつけられて、僕に対して「お前の出番は全くねーぜ!」なんて言うかも。ああ、目に浮かぶようだ。
でもまあ、何だかんだ言っても、心配することはないだろう。
「きっと大丈夫だよ。あいつは僕の、一番の親友なんだから」
そう。あいつのいいところは、僕が一番知ってる。
+++
「でもさ、お前、昔っから言ってるけどさ、ひとりごとを延々とぶつぶつ言う癖は直した方がいいと思うぞ。気持ち悪いし」
「いやー僕も直そうとは思ってるんだけどねぇ。なかなか直らないんだよなぁこれが」
「あんまりぶつぶつ言ってると、戦術がばれるぞ」
「そりゃ困るな。やっぱり直そう」
僕と幼馴染は、顔を見合せて笑った。
「そう言えば、このタワーに幽霊が出るって話だけど、お前どう思う?」
「どう思う、って言われてもなぁ。僕、幽霊とか信じてないし」
「俺はいると思うけどな、カラカラのお母さんの幽霊」
「ふうん。ま、どう考えてもお前の自由だけどさ」
幽霊ってのが本当にいるなら、見てみたいもんだけどね。
誰かが僕の肩を叩いたような気がしたけど、振り返っても誰もいなかった。
(2012.7.31)
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