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ある所に、一匹のザングースがいました。
性別はメスで、とても強い個体でした。
同族はおろか、永遠のライバルであるハブネークすらも、彼女には迂闊に近寄ろうとしませんでした。
彼女は一人でした。
彼女は好きで強いわけではありませんでした。
修行したわけでも、元々トレーナーのポケモンだったわけでもなかったのです。
生まれ持った強さが、周りと違い過ぎたようです。
時折強さを聞きつけてゲットしようとするトレーナーもいましたが、未だに彼女に傷を付けたトレーナーは誰もいませんでした。
彼女は一人でした。しかし、別に良いと思っていました。
ある時、彼女は森で捨てられた雑誌を見つけました。
それはコンテストやミュージカルの特集をした、若い女性世代の雑誌でした。
彼女は当然、人の言葉は読めないし、話せません。
しかし、その色鮮やかな世界と華やかなポケモン達に、すっかり見入っていました。
そして、その中に一匹のドレディアを見つめたのです。
一応説明しておきますと、彼女はミュージカルのトップスターでした。
美しく着飾り、舞台の上で演技をすると、観客が素晴らしいと褒め称えるのです。
きちんと手入れされた毛並みは、ライトに照らされて更に輝きます。
そして何より、彼女自身が内側から輝いて見えました。
ザングースは、その写真をずっと見つめていました。
やがて彼女は、一人群れを離れて旅に出ました。
そのドレディアを見つけて、話がしたいと思ったのです。
その時、彼女の中には既に『強さではなく、美しさで評価されるようになりたい』という思いが芽生えていました。
自分と生きる世界が違い過ぎると分かっていました。だからこそ、話をしたいと考えたのです。
この時、彼女は自分がひとりぼっちなのだと自覚しました。
山を越え、川を渡り、時折バトルを仕掛けてくるトレーナーを蹴散らし、やっと彼女はそれらしい街に辿りつきました。
ミュージカルが行われる場所は、すぐに分かりました。ドレディアのポスターが、所狭しと貼られていたからです。
観覧するお客は皆、着飾り楽しそうに談笑しています。
彼らが連れているポケモンもまた、美しくコーディネートされていました。
自分が場違いだと感じたザングースは、そろそろとその場を離れました。
裏口に向かった彼女は、あのドレディアを見つけました。
しかし、その時の彼女にはあの華やかさはありません。
悲し気に俯き、疲れた顔で目を閉じています。
頭の花も、何だか元気がありません。
ザングースは思い切って、ドレディアに話しかけました。
自分は貴方の雑誌を見てここに来たこと。
自分はこの通り、外見が怖くて誰かに愛されたことが一度もない。
反対に貴方は沢山の人に愛されている。
どうしたら貴方のように沢山の人に愛されるポケモンになれるのか。
ドレディアはしばらく聞いていましたが、悲しそうに微笑みました。
私は誰にも愛されていないの、本当よ。
皆、舞台の上の私しか愛してくれないの。
御主人だってそう。私をどれだけ美しく見せるかを考えて、私の体のことなんてちっとも考えてくれない。
アクセサリーも演技も、私を縛る鎖にしかならないわ。
口調は静かな物でしたが、その瞳には怒りと悲しみの色が映っていました。
ザングースはそこでやっと分かりました。
自分はひとりぼっちだった。荒々しく、強いから。
でも、彼女の方がずっとひとりぼっちだ。こんなに美しいにも関わらず。
ドレディアは、最後にこう言いました。
貴方が羨ましいわ。貴方には、本当の自由がある。
でも私には、見せかけの自由しかないから。
それだけ言って、ドレディアは夜の講演へと向かっていきました。
裏口には、ザングースだけが残されました。
多少ショックでしたが、何故か落ち着いた気持ちでした。
誰も知らない彼女の顔を、自分だけは知ったからでしょうか。
ザングースは、それを知ってドレディアを助けてあげたいとは思いませんでした。
普通なら思いそうな所を、彼女は思いませんでした。
何となくですが、たとえ彼女を助けたとしても、同じ道を歩くことは決してできないと思ったからです。
野生ポケモンとトレーナーの元に長くいたポケモンは、生活が何もかも違うのです。
しかし、時折裏口でドレディアと話すようになりました。
彼女は口が悪かったけれど、本心から言っているわけではなかったようです。
口に出すのは、演技や舞台の上での愚痴ばかり。
ですが、何度も聞いているうちにドレディアの顔はすっきりしていきました。
これも一つの『救済』なのかなあ、とザングースは後になってからふと思ったようです。
誰にも見せることのできない顔を、たった一人には見せられる。
素を見せられる相手に、ザングースはなれたようです。
ザングースは、もうひとりぼっちではありませんでした。
ホウエン地方の、小さな村の出来事でした。
その村の近くにはゴクリンやマルノームがたくさん住んでいて、村人たちが世話をしていました。
ある日、小さな男の子がきのみを持って外に出かけたのもそのためだったのです。
いつものようにゴクリンたちにきのみをあげていた男の子は、森のちょっと奥に入るなり「うわあ」と声をあげました。
そこには、とても、とても大きな、マルノームがいたのです。
普通のマルノームと比べて、背丈は2倍くらいあるように思いました、
他のマルノームやゴクリンも、恐る恐るといった感じで遠巻きに見守っています。
こんなマルノーム、昨日まではいなかったはずですし、もしもいたら絶対気がつくでしょう。
一体、どこからやってきたのでしょうか。
大きな大きなマルノームはしかし、ポケモンや男の子を襲うことなく、ただそこに立っていました。
つぶらな赤い目はどこを見つめているのかわかりません。
その様子に、男の子は「怖い子じゃなさそう」と思ってそっときのみを一つ近づけてみました。
男の子の行動に気がついたらしい大きなマルノームは、これまた大きな口をぽっかりとあけました。
どこまでも続く闇のようなそこに男の子はきのみを投げ込みます。
モモンのみは、放物線を描きながら漆黒の中へと消えていきました。
すうっ、と口を閉じたマルノームを見て、男の子は、おや? と思いました。
なぜって、他のゴクリンやマルノームにごはんをあげた時と違って、このマルノームは口をもぐもぐさせなかったのです。
きのみを口に入れて、それっきり。
文字通りの「丸呑み」でした。
なんでだろう、あじあわなくていいのかな、と男の子は首をひねりましたが、ポケットの中の小さな重みを思い出してそれを考えるのをやめました。
ポケットに入っていたのは、昨日お母さんが間違って洗濯してしまい、壊れてしまった小型のゲーム機です。
洗濯機で回されたゲーム機はもう画面がまっくらで、何も出来そうにありません。
捨てることもなんとなく出来ず、どうしようかな、と思っていたのでした。
男の子がポケットからゲーム機を取り出して悩んでいると、また、大きなマルノームが口をあけました。
まるで、それも食べてやるというように。
「え? これ、食べたいの?」
大きく開いたマルノームの口に向けて男の子は尋ねましたが、返事はかえってきません。
ただただ、闇のような口が開いているだけです。
いいのかな、大丈夫かな、と思いながらも、男の子はそっと、ゲーム機をマルノームの口の中へ入れてみました。
さっきと同じように、すうっ、と口が閉じます。
そのまま、マルノームはゲーム機を飲み込んでしまったようでした。
男の子はびっくりです。
普通のマルノームやゴクリンは、「なんでもまるのみしてしまう」とは言われているものの、食べ物ーーきのみとか他のポケモンとかーー時として人間もですがそれだってゲーム機に比べたらよほど食べ物らしいですーー以外のものは飲み込まずに、戻してしまうのです。
マルノームが人間を丸呑みにしてしまう、恐ろしい事件もごくまれに聞きますが、その時だって携帯電話とか服とか、そういうものはちゃんと戻しているのです。それなのに、このマルノームはゲーム機を飲み込んでしまったのです。
たくさんのゴクリンやマルノームが見つめる中、男の子はごくり、と喉を鳴らしました。
男の子はこのマルノームのことを、お父さんやお母さん、友達、村の人たちに伝えました。
すぐに村人たちがマルノームの様子を見にやってきて、その大きさにびっくりしました。
男の子から聞いた話に、村人たちは壊れた電子レンジや使えなくなったモンスターボールや、ビニール袋なんかをマルノームの口の中に入れてみました。
マルノームはその全てを、すっかり飲み込んでしまいました。
村人たちはその様子に、ううん、と考え込み、ポケモンの専門家を呼んでみることにしました。
それから3日もしないうちに、何人かの専門家と、ウワサを聞きつけたテレビ局や新聞記者たちが村にやってきました。
専門家はしばらく、何やら難しい調査をしていましたが、結局「わかりません」と首を横に振りました。
困ってしまった村人に、一人の男性が声をかけました。
「この森の土地、このマルノームが住んでる一体を私に売ってくれないでしょうか」
突然の申し出に驚く村人に、男性はさらに言います。
「私にはちょっとした考えがあるのです。どうか何卒」
そうは言っても、と渋る村人や村長に、男性はさらに続けました。
「どうでしょう。もしも儲けが出たら、その一部は村にお支払いしますよ」
さてさて、こうして大きなマルノームの住む森の一部は男性のものになりました。
男性は会社を作って、「捨てたいもの」を募集するために広告を打ちました。
利用料を取る代わりに、どんなものでもキレイサッパリ処分するというのです。
それは勿論、マルノームによるものでした。
男性の商売は、大成功しました。
大きなマルノームは何でも、なんでも、飲み込んでくれたのです。
色々な人が、色々なものを、その口に投げ込みました。
ある中学生は、いらなくなった教科書を口に投げ込みました。
あるおじさんは、処分に困っていた壊れた冷蔵庫を口に投げ込みました。
あるおばあさんは、息子夫婦の家に引っ越す時に出たゴミを全部口に投げ込みました。
大きなマルノームは、何でも、なんでも、飲み込んでくれたのです。
シングルバトルトレーナーになった元ラブラブカップルの女の子は、彼氏とお揃いにデコレーションしたモンスターボールを口に投げ込みました。
ポケモンマスターを目指して旅に出たけれど、夢を叶えることが出来なかった少年は、タウンマップとランニングシューズを口に投げ込みました。
ボスの主張に感銘を受け、下っ端時代から一生懸命活動していた悪の組織の幹部だった人は、ボスが何処かへ消えてしまったことに涙を流しながら、組織の制服を口に投げ込みました。
大きなマルノームは、何でも、なんでも、飲み込んでくれたのです。
ある海パンやろうは、買ってみたはいいけど履く勇気の出ないブーメランパンツを口に投げ込みました。
あるミニスカートは、おとなのおねえさんになるために、もう年齢的にきつくなってきたミニスカートを口に投げ込みました。
あるじゅくがえりは、勉強漬けの毎日にうんざりして、塾のテキストを全部口に投げ込みました。
大きなマルノームは何でも、なんでも、飲み込んでくれたのです。
あるトレーナーは、個体値が気に入らなかった生まれたてのポケモンを口に投げ込みました。
あるトレーナーは、経験値稼ぎのために、もうピクリとも動かなくなるまで攻撃した、ポケモンだったものを口に投げ込みました。
あるトレーナーは、ドーピングアイテムの使いすぎで、鳴き声すらまともにあげられなくなり、使い物にならなくなったポケモンを口に投げ込みました。
大きなマルノームは何でも、なんでも、飲み込んでくれたのです。
ある会社は、処理場に困っていたゴミを口に投げ込みました。
ある会社は、工場で出た水銀を口に投げ込みました。
ある会社は、新しく出来た原子力発電所から持ってきた放射性廃棄物を口に投げ込みました。
大きなマルノームは何でも、なんでも、飲み込んでくれたのです。
村は、だいぶ豊かになりました。
世界は、だいぶ綺麗になりました。
大きなマルノームが現れて、何十年かしたある日のことです。
もう男の子じゃなくて、立派な男の人になった彼には、一人の元気な子供がいました。
その子供は、いつかの男性が立てた会社によって張られた、立ち入り禁止の柵を超えて森に入っていきました。
子供は、大きなマルノームのところまでやってきました。
大きなマルノームは、あの日から変わらない、つぶらな瞳で、どこか遠くを見つめていました。
子供はずっと、このマルノームに会ってみたかったのです。
嬉しくて、うわあ、と声をあげました。
男の子は、持ってきたオレンのみをマルノームに見せました。
マルノームはいつものように、闇のような口をぽっかりと開き、そしてオレンのみを飲み込みます。
その様子に満足して、子供はにっこり笑いました。
と、その時です。
もう一度マルノームが口を開きました。
小さな息遣いと共に身体をブルっとさせたマルノームの近く、何かが地面に落ちました。
それは傷一つない、綺麗なままのモモンのみでした。
子供は「あれ? なんでも食べるって言ってたのに。おいしくなかったのかな?」と首をひねりましたが、すぐに、自分があげたのはモモンではなくオレンだということに気づき、ますます首を傾けました。
子供が悩んでいると、ふと、何か声が聞こえました。
それは、「え? これ、食べたいの?」という風に聞こえましたが、子供の他には、誰もいませんでした。
そこにいるのは、ただ、口をぽっかりとあけた、大きなマルノームだけですから。
子供はわからないことだらけで顔をしかめました。
でもすぐに、お昼ごはんがもうすぐなことを思い出し、マルノームに小さく手を振って、森から出ていきました。
森にはいつもと同じ、マルノームだけが取り残されました。
一匹だけになったマルノームは、その身体を小さく震わせました。
それは、「たくわえる」したものを「はきだす」する時のしぐさです。
「のみこむ」を使ってしまうと、使えない技でした。
大きなマルノームは、今ではもうプレミアがつくほど旧型になった、古いゲーム機を吐き出しました。
飲み込まずにいたので、濡れたことで内部が壊れている以外は綺麗なままのゲーム機でした。
森の中、大きな、大きなマルノームは澄み渡った青空を見上げています。
おや、また身体を震わせたようですよ。
偉大なる元ネタ:星新一「おーい でてこーい」
フォルクローレ収録、あきはばら博士さんの「丸呑に遭う」のネタをお借りしております。
この場を借りて、お礼申し上げます。
焼肉さん、感想ありがとうございます!
ベースは三枚の御札でした。小僧が必死に頑張ってもすぐ追いかけてくる山姥みたいな雰囲気で考えてたんですが、なんだかんだで可愛らしいオチになっちゃいました。
書いてる過程でほんっとニドキングってワザのバリュエーションが便利だなあとしみじみ。
まあ小さい子供から見ればでかいし顔もちょっといかついから追いかけて来れば怖いですよね。
そして当のニドキングはそれに気づかず……。といったすれ違い。
コトネちゃんの小道具の葉っぱの使い方がかわいいです。紅葉の描写も綺麗です。
確かに基本楽しく旅をしている感じのHGSSの主人公からしてみれば、ずいぶんデッカイ使命を背負わされたトウヤくんの話は許せないというより不思議なんだろうなあということで、コトネちゃんの反応はなんだか私の中でもしっくりくる反応でした。
結果的に英雄になったトウヤも他の地方の主人公と同じくらいの少年でしかなくて、強制的に巻き込まれていろんなことを考えさせられることになったトウヤくんは、大きな経験もしたけれど辛かったのかなあと考えさせられるお話でした。
なんだこれはかわいい。メタルパウダーの使い方が違うとかそんなことはどうでもいいというくらいかわいい。
そんな話でした。
穴に落ちてもロッククライムで復活し、冷凍ビームで橋を作り、何としても仲の良かった友達そっくりな息子に追いつこうと奮闘するニドキングがかわいい。
息子が「ひー助けてー」みたいな感じで逃げてるのを、ニドキングは「むかしのともだちのにおいがするー♪」みたいなノリで追っかけてたのだと思うと口元がニヤニヤしてきますね。
町外れの山の奥、そこには薬屋を営む小さな一軒家がありました。
家に蓄えていた食べ物が無くなってきたために、近くに買い出しにいかねばなりません。
しかし、薬屋の主人は薬の調合。そして主人の妻は店の番があり、手が離せません。そこで、まだ幼さが残る一人息子に買い出しに行かせることにしました。
「いいかい、この紙に書いてあるものを買いに行くんだよ」
「うん、分かった!」
「山には凶暴なポケモンもいるが、お前はまだ自分のポケモンを持っていない。だから、これを持っていくと良い」
主人は息子に小さな巾着袋を渡します。息子が試しに広げてみると、中には紫色の粉末が入っています。
「これはメタルパウダー。困ったことがあれば、この粉に祈りをささげて辺りへまぶせば、お前の望んだ姿となってきっと助けてくれるよ」
そう言って、主人は息子を送り出しました。
買い物も無事に終わり、荷物を抱えて帰り道に着く息子。行き道は何事もなかった山の小道ですが、帰り道は食べ物の匂いがするからかポケモンの匂いが強くなりました。
しかし徐々に気配は近づいていきます。悪寒を感じた息子が後ろを振り返ると、そこにはニドキングの姿が。しかも一直線にこっちに向かっているではありませんか。
これに気付いた息子は大慌て。荷物を落とさないように抱え直し、出来る限りの早足で家へと向かいます。
そんな息子の前に広がったのは大きな川。しかし慌てて来たため橋まではかなり離れた位置に出てしまいました。
とはいえニドキングが近付いているのは確かです。自分よりも大きな体が迫ってくることにパニック状態に陥った息子は、巾着袋からメタルパウダーをまぶします。
「この川を渡らせろ!」
するとメタルパウダーがオーダイルに姿を変え、背に少年を乗せて川をすいすいと渡っていきます。
これで一安心。と思いきや、ニドキングは波を制して少年の後を追うようについてきます。
息子がモタモタしている間にニドキングとの距離はより詰まり、ついに足を緩めれば間もなく捕まるような間隔になってしまいました。
「落とし穴を掘れ!」
息子はそう叫ぶと、再び巾着袋からメタルパウダーを取り出しては、真後ろにまぶきます。
するとメタルパウダーはサンドパンに姿を変え、両手を素早く動かして、深い落とし穴を掘っていきました。
突進していたニドキングは、落とし穴の手前で急停止出来ずに穴に落ちてしまいました。
ほっとするのもつかの間、ニドキングは落とし穴の中に出来た僅かな凹凸の窪みを利用してロッククライムで地上に瞬く間に出てきてしまいます。
落とし穴から出てきたニドキングとの追いかけっこが再び始まるやいなや、すぐに谷に出てしまいました。
さっきの川と同じく行きと異なる道で来たため、たった一つだけ架かった橋は視界の遥か先です。となれば……。
「空を飛ばせろ!」
息子は残りのメタルパウダー全てを巾着袋から目の前にまぶきます。
するとメタルパウダーはエアームドに姿を変え、息子を乗せて崖をひとっ飛び。
流石にこれにはニドキングも唖然として動きが止まります。が、ニドキングは冷凍ビームを向かいの崖にめがけて放ち、細い氷の道を作って渡ってきました。
とはいえ、崖から家までは目と鼻の先。エアームドから降りて、息子は薬屋の主人の元へ転がり助けを求めました。
「お父さん! 助けてください! ニドキングに追いかけられました!」
薬屋の主人は息子を家に入れると、一人家を飛び出し自らニドキングの元へ近づきました。
息子は不安そうに見ていましたが、ニドキングは主人を襲うどころかむしろ無邪気に戯れています。
どうやらニドキングは昔、薬屋の主人と仲が良かった野生ポケモンだったようです。
ニドキングは食べ物ではなく、薬屋の主人と似た臭いの息子を追いかけていたのでした。
───
お久しぶりです。生きてます。
一年以上前の作品ですが、何気なく置いておきますね。これ以来もう長い間短編書いてませんわ……。
メタルパウダーの使い方違うじゃねーか! というツッコミに関しては二次創作なので大目に見てください。大目に見てください!
うおお!感想ありがとうございます!!
厳選作業すると、まあ当然、気に入らない個体値のものは逃がすわけですが
あれはゲームのシステムだから「にがす」だけなのであって
現実的に考えたら、「にがす」だけじゃ勿体無い、と思うトレーナーがいてもおかしくはないよなあ……と。
それで、孵化したてのポケモンに廃仕様のポケモンぶつけたらまずいだろうと。
そんなイメージで書きました。
知らないとはいえジャッジのお兄ちゃん罪深いですね。
読んでいただき、ありがとうございました!
バイト先の先輩の、お兄さんの友達の話なんだけど。
その人の名前、仮にAさんとしとこうか。
Aさんはその日、森できのみ採りをしていたんだって。
結構奥まで行ったみたいで、珍しいきのみとかあまり見られないポケモンとかもいて熱中してたら、気がついたらもう真っ暗だった。
腕時計で確認した時刻はまだ七時前だったけど、森の中っていうのは人里よりも早く暗くなっちゃうんだよね。こりゃまずいなー、迷わないようにしないとなー、って思ってたけれども足下も周りも見えなくて、やっぱり迷った。
おまけに、うっかりニドキングと鉢合わせしちゃったみたい。向こうも突然現れた人間に驚いたのか、すぐ攻撃されることはなかったけれども慌てて逃げまどったAさんは帰り道を完全に見失ってしまった。
手持ちにひこうポケモンはいなくって、連れていたのはユンゲラー一匹、テレポートを忘れさせたのをあれほど悔やんだことは無いってさ。
ガーディとかポチエナとか、ヨーテリーとか。鼻が利くのがいればまた違ったんだろうけどね。
ともかく、とりあえず歩いてみる他は無く、Aさんは森の中を回っていた。しかし何せ真っ暗だし、ヤミカラスとドンカラスは不気味に鳴いているし、グラエナの遠吠えは聞こえるし。むしポケモンの這うカサカサという音や、どくポケモンか何かが液体を垂らすような水音までして不気味でしょうがない。
イヤだなあ〜、どうにかならないかな〜、って思いながら震える足で地面を踏んでいた。折しも新月で空からの明かりも無く、暑くも寒くも無い中途半端な曇り空には宵の明星だけが鈍く光ってた。
と、何やら音がする。ポケモンの鳴き声じゃない。足音でも無い、水音でも無い。勿論風の音でも無い。ヤマブキとかコガネとか、タチワキみたいな繁華街で聞こえる音によく似ていた。大音量でがんがん鳴り響く音楽と、歓声悲鳴、そして怒号。狂ったように騒ぎ立てる、あの感じだ。
なんだろなー、って思って音の方へとAさんは行ってみることにした。木々の間を縫って音へと近づく。何枚目かの葉っぱをめくると、明かりが見えた。
ど派手なネオンサインにシャレオツぶった筆記体。ピンク、黄色、スカイブルーと目まぐるしく色を変えて光っている眩しすぎなそれは、人の手がほとんど入っていないような森の奥にあるはずの無いものだった。そんな場違いなネオンを見て、Aさんは呟いたんだってさ。
「ああ……ディスコ、か」
ってね。
森の中で夜を越すのは不安だし、ディスコなんて久しぶりだからせっかくだしとAさんは入ってみることにした。ほとんど剥がれたポスターの残骸でべたべたのドアを開けると、そこはなかなか本格的だった。
結構な人数がダンスに興じていたり、ところどころで乾杯していたり。バーカンも盛り上がってるし、フロアのど真ん中には紫色のハットに、これまた紫のダメージ加工なジャンパーを身に纏ったDJが客たちを煽っていた。
へ〜いいじゃん、なんて思ってフロアに混ざっていった。途中入場も可能だったらしいね、曲の最中で現れたAさんのことをみんな笑顔で出迎えてくれたんだ。4つ打ちのEDMに合わせて足を動かし、声を上げ、一緒くたになって踊り狂う。ぐるぐると回るミラーボールは、極彩色をフロアに落として冥府の王みたいな存在感を放っていた。
踊り疲れてきたのでちょっと休憩するか、とバーカンに向かう。みんなまだまだ踊っている、元気だなー、よくあんなに動けるなー、って感心しつつ喧噪から距離をとる。色に満ちたフロアとは違ってこちらは光が少なくて心地よい薄暗さ、蒼の照明がい〜い雰囲気。
季節も夏だしそういうキャンペーンなのか、白の浴衣を着たかわいい女の子に、生ね、と声をかける。はあい、なんて氷柱をつついたような透き通った声で笑った女の子は、赤い帯を揺らしてビールを手渡してくれた。チャージ料金三百円、プレミアムモルフォン一杯六百円、あたしのスマイル百円になりまあす、だなんてかわいい笑顔で言ってくるもんだからついついお札一枚渡しちゃったんだ。ありがとうございまあす、カウンター越しの彼女がそう言った時に、首のあたりがひんやりしたかもしれない。
実質千円のビール、まあこういう所では高くても仕方ないからこんなものさ、に口をつける。冷たい。凍るように冷たい。ありえない冷たい。こおりタイプの飲み物かよっていうくらい冷たい。っていうかガチで氷が入っていた。
ビールに氷だと? いや、それが好きな人もいるらしいし美味いという情報もある。だけど大多数の人はいれないだろうし、欲しかったら自分で言うだろうから普通、最初からは入れないだろう。っていうか薄まるじゃないか。
怪訝に思って女の子を見る。視線に気がついた女の子は、テキーラを棚から出す手を止めて、あっその氷あたしの特製ですう〜、なんてにこにこしている。悪気は無さそうだからそれ以上何も言えなくて、一気のみ不可能なビールをちびちび舐めながら適当に頷く。
特製って何のこっちゃ、冷凍庫で水固めただけだろ、てな具合に疑問はまだあるけど、ビールに関してこれ以上言っても仕方なさそうだ。話題を変える。お嬢ちゃん、ここのお客さんたちはすごいんだねえ。さっきからずっと踊ってるのに、ぜんっぜん疲れてなさそうだもん。その声に応えたのは袖を口元によせてきょとんとしてる女の子じゃなくて、いつの間にいたのか、隣でウイスキーの瓶を開けていた男だった。気配も何もなく、すぐ傍で当たり前のような顔をしてグラスを煽るその姿に驚くAさんを意にも介さぬ様子で男はふん、と鼻を鳴らす。
「兄ちゃんそりゃあ当たり前よ。あいつらのこと、よく見てみい」
酒臭い息を吐きながら、その男はにやにやと言った。まるでぼろみたいな灰色のコートは所々に穴が開いてる。ベージュの襟巻きは布切れの如くぺらっぺらだが、どうして屋内のしかもディスコで、それを外さずにいるのだろう。同じくらいの色で同じくらいぼろぼろの帽子の鍔は深く、髭面の目を拝むことは出来ない。
不気味な雰囲気に気圧されつつも、男の言葉にフロアを
振り向く。何もおかしいところはない。みんな楽しそうに踊っている、ミラーボールの光が彼らを照らして代わる代わるの斑点模様を作り出している。
光、というのにふと考える。光があれば影が出来る。それは当たり前のこと、ガーディ西向きゃ尾は東、てな感じだ。
だけど気づいてしまったんだ。ここのディスコにいる人みんな。観客もDJも音響のエンジニアも、みんなみんな。あっちで踊るイカした兄ちゃんも、こっちで笑う派手めの姉ちゃんも、観葉植物に話しかけてる酔っぱらいもみんなみんなみんな。
みんな、影が無かったんだ。
そしてもう一つ、あんなに踊り狂っているのに、足音が全く聞こえない。そりゃあそうだ、みんな足が地についていないんだから。例えじゃない、マジな話。
Aさんの全身の毛という毛がぶわあっ、と逆立つ。あまりの恐怖に、彼、持ってたグラスを落としてしまったんだ。おいおい大丈夫か、と隣の男が苦笑しながらAさんを見た。
一つだけの、赤い目でね。
うわあー!! Aさんが叫んだ時、彼は既に人間じゃあ無かった。どっしりとした、しかし触れれば貫通する鼠色の体躯を持った一つ目のゴーストポケモンさ。サマヨール、下手したらあの世に連れていかれちゃうかもしれない、Aさんはまひともうどくとメロメロがいっぺんにきたみたいな状態の足を動かして男から離れようと席を立った。
お客さあん、どうしたんですかぁ? バーカンの可愛い女の子も既に可愛いとか言っている場合ではなくなっていた。かわいさよりもどちらかと言えばうつくしさコンテスト向きの、こおりゴースト複合ポケモンに変わっちゃってたんだ。嘘みたいに冷たい吐息を悩ましげに吐いた彼女、ユキメノコが首を傾げると、Aさんの落としたグラスからこぼれ出たビールが一瞬にしてこおり状態になってしまった。
次は我が身、オーロラビームかふぶきか、はたまたぜったいれいどか。別にこおりわざを食らったわけでもないのに、Aさんの体温は一気に急降下した。こうかはばつぐんだ!
あっすいませぇん、お客さんに当たっちゃいました? ユキメノコが見当違いな心配をしてくれる。寒いですよねぇ、ごめんなさいですぅ、と相変わらず声は可愛らしいけれどもつり上がった目はファイアーのにらみつけるにも匹敵する恐ろしさだった。そんな自覚がまるでないユキメノコは、今すぐあっためてあげますぅ、と手を叩く。ぶわりと冷気及び粉雪が舞い上がり、カウンターの板がスケートリンクに進化した。
主に寒さでは無い理由で震えていたAさんの前にあった照明の蒼い炎が一気に燃え上がる。簡素な作りのランプだったそれは瞬く間に膨れ上がり、明るいけれども虚ろな目でAさんを見つめた。息を飲んだAさんの眼前で、照明がぐにゃりと大きく曲がる。そのままぐるりと一回転した照明ことランプラーが、自分の存在を誇示するみたいに炎の燃える両腕をAさんへと突き出した。
ひゃあ、とかひょええ、とか、声にならない声をあげてAさんはカウンターから弾かれるようにして遠ざかった。冷や汗だらけのAさんの背中を男の声が追いかける、「嬢ちゃんダメだよ、この子のおにびじゃあこおり状態には効かないよ」。違う、そうじゃない。けどそんなこと指摘している場合でもない。
ひいひい言いながらフロアへ戻る。一刻も早く外に出なければ、しかし客で混雑していてなかなか進めない。足をもつれさせるAさんに誰かがぶつかった。おっとすみません、反射で謝る。
「どうしたのお兄ちゃん、大丈夫?」
ぶつかったのは小さい男の子だった。悪魔の角つき帽子にオレンジ色の半袖Tシャツ、ちょっとやんちゃが入ったじゅくがえりな風貌の彼にAさんは状況も忘れて、こんなところに子供一人で来ちゃだめだよと提言する。
「一人じゃないよ。お母さんときたもん」
お母さん? 尋ねたAさんに男の子は「ほら、あっち」とAさんの後ろを指さした。振り返ったAさんは何か柔らかいものにぶつかった。ぶわりと広がるピンク色の影から黒い球体が現れる。薄暗い照明の中浮かび上がったそれは、超特大サイズのパンプジン!!
「あら、ごめんなさい。私の息子が」
どこから出してるのかわからないその口調はおだやかだけど、Aさんよりも大きなこわいかおはおぞましく光り輝いている。おかあさーん、と無邪気に飛びつく男の子の胴体がみるみる内に丸く膨らんでいくのを視界の端から追い出しつつ、Aさんはとんぼがえりで逃げ出した。
どうなってるんだここは、と泣き叫びたくなるのを必死で抑えつつドアへと向かう。一刻も早く逃げ出さなくてはと息を切らして走るAさんの腕を誰かが掴んだ。呼吸が止まるくらいに冷たい感覚、そしてびちゃりと濡れた感触。
「ちょっと〜、もう帰っちゃうの〜?」
自分の腕を掴んでいたのはド派手かつグラマーなレディーだった。真っピンクに染めた長髪と、それと同じ色をした露出が極端に低いワンピース。スリーサイズの全てにおいて個体値高めの彼女はぽってりした紅い唇を尖らせた。
「こっからが楽しいのよ〜? まだ踊りましょうよ」
コケティッシュに首を捻る、雰囲気も相まってメロメロ状態になりそうだったけれども、彼女の後ろにいるこれまた恰幅のいいド派手な男が水色の髪を撫でつけながらいかくしてきたために一歩退く。そういえばこの女、妙に手が濡れている。手汗がひどい、うるおいボディな人なのか? そう思っているAさんの頬を女はちょんと軽くつついた。
「帰っちゃだーめ、ね〜?」
拗ねたような女が頬をぷくっと膨らませる、しかしその膨らませ方は尋常じゃない。白のふわふわな襟さえもはちきらんばかりに膨れ上がった頬の真ん中、つぶらな瞳の女にAさんは気がついた。違う! ボディはボディでも……のろわれの方だ!!
まとわりついていた触手を強引に振り払い、びしゃびしゃになった腕を動かして無我夢中で女を突き放す。既にグラマーどころでは無くなっていた女の身体はぐにゅりと弾力たっぷりにAさんをはじき返した。
ちょっと酷いじゃな〜い、なんて声も鼓膜を素通りしていく。足はまだ動く、ありがとう意外と低い70パーセント。
とりあえず走る。何が何でも走る。しかし人混みのせいでうまく進めない。フロアの片隅に設置された観葉植物が植木鉢から根を引き抜いて飛び出し、幹をうならせ、枝を揺さぶって邪魔をしてくる。低音を響かせるウーファーが、ワブルベースのサウンドだけでは飽きたらずにケタケタ笑いの毒ガスを吐き出している。壁に沿ったロッカーは片っ端から針金みたいな手を生やし始め、無機質なネズミ色を鮮やかなブルーと黄金色に変化させている。ずらりと並んだロッカー、否、もはや荷物では無くミイラを眠らせる棺桶となったそれらの全てが赤い眼をぎょろぎょろと向けてきて、Aさんをかなしばる。それでもまだ、まなざしが赤で助かった。これがくろだったらにげられない!
耳が片方取れたミミロルや眼球が行方不明なヒメグマにつぎはぎだらけのニャオニクスと、ひたすら不気味なぬいぐるみを大量に抱えたゴスロリ女がAさんの逃げまどう様子を見て、錆びた金具みたいな口を笑みの形そのままに裂いていく。
血色の悪い顔に薄い色つき眼鏡をかけ、紫に染めた髪の毛をやたらと逆立てた男がにやにやと笑う。両耳のピアスは合計いくつだろうか、首飾りや腕輪、ダメージ素材の服に腰の上から巻かれたベルト、大量のアクセサリーがリズムに乗って身体を揺らす男の動きに合わせてじゃらじゃらと音を立てる。その全てについた宝石はぎらぎらと悪趣味に光っていて、黒のレンズの向こうにある瞳には白目も黒目も無く、ただただ一際強い輝きを放つだけの石ころだ。
でっぷりと太った丸顔の男が、慌てふためくAさんに気がついて道を開けようとしてくれた。しかし体積の大きいその身体が移動出来る場所などどこにもない、くりっとした眼を困ったように揺らした巨男は、元々膨らんでいた頬をさらにぷっくりと膨らませ、そしてあろうことか浮き上がりやがった。スーパーなブラザーズの赤い方以上の太りっぷりなのにまさかのふゆう、「これがウワサの風船おじさんか」なんて言ってる場合じゃない。
あっちを見てもこっちを見ても、まともな人間なんて一人もいない。こんらんどころの騒ぎでは無い、にたにた笑いを浮かべながら紫電を放ち、ぎゅんぎゅんと猛スピードで回転しているミラーボールの光の粒から逃げるようにして走る。
ようやっと出口にたどり着く。息切れも構わず重い扉に手をかける。一刻も早くここを出たい、流れるミュージックはタマムシゲームコーナーの如く軽快なものだが、こっちにとっちゃあシオンタウンβ、もりのようかん、それかアルフのいせきで聞くラジオのようなものだ。
森の闇につながる扉を開きかけて、ふと視線を感じた。思わず振り返る。抜け出るのに苦労したはずの、混みまくっていたはずのフロアの中央だなんて絶対に見えるわけも無いのに、何故か目が合った。フロアを回してオーディエンスを沸かせているDJ、ど真ん中のブースにいた彼女と目が合った。
長い長い髪を紫ピンクに染め上げて、同じ紫の袖に包まれたほっそい両腕をせわしなく動かしている彼女はAさんをじっと見据えた。赤く光る両目に睨まれて、Aさんは扉を開きかけたまま動けない。
髪をばさりと揺らして、DJがにいっ、と鮮やかな赤いルージュで飾った唇を歪ませた。薄暗いフロアと断続的な明滅を繰り返す照明による極彩の光、蔓延している汗と酒の匂い、耳にがんがん響くダンスミュージック。その全てを従えた彼女はこのディスコの女王、そんな笑顔に魅せられて、こんな時だというのにAさんは見とれてしまう。動きを止めたAさんに、DJの彼女は、歌うように囁いた。
「また、いつでもいらっしゃい」
クラブイベントで、ただの話し声がフロアの中央から出入り口まで届くはずがない。彼女のそれは声じゃなかったんだね。ほろびのうた。それを聞いたきっかり3秒後、Aさんはめのまえがまっくらになった。
で、結局、気がついた頃には朝になってたらしい。
寝ころんでいたその場所にはディスコなんて影も形も無くて、木々が無秩序に生えているだけだったんだって。
でも、ちょっと調べてみたんだけどさ。
そこ、オカルトマニアの間では、結構なメッカなんだよ。
ゴーストポケモンのたまり場ってウワサだよ。
Aさんは言った。
「ムウマージは、呪文によって相手を苦しめることが出来るんだってな」
「呪文と言っても、それが鳴き声による言葉だけとは言いきれない。もしかしたら、自由自在に音楽を聞かせることも呪文の一種なのかもしれない」
「だとしたら、あの夜のDJ、彼女も呪文を使っていたんだろう」
「だけど、あれは苦しめるための呪文じゃない」
「ムウマージの呪文には、相手を幸せにする効果もあるそうだ」
「あれは、そういう類の方だった」
ってね。
だから、先輩のお兄さんは聞いてやったんだ。
幸せになれるなら、また行きたいとは思わない? ってさ。
そしたらAさん、首をぶんぶん振って、「とんでもない!」だって。
あんな怖い思いするのは、もう二度とごめんなんだってさ。
「だけど」Aさん付け加えた。
付け加えて、最後にこう言った。
「もし次に行ったら、もうちょっとは楽しめるかな」
感想ありがとうございました……!
病んでる……シビルドンは人間が水中じゃ生きていけないって知らないのでその……
あと、とりあえず喋らせるわけにはいかないので、行動面で直球勝負にしたのが原因ですね……。
ペラップと、それからツタージャの話は元々それぞれ独立した短編として発表しようと思ったのですが
あまりにも救いようがなくなってしまったので1エピソードとして使いました。
読んでいただき、とても嬉しいです!
ありがとうございました!!
焼き肉さんこんばんは。
そのひとの正体をぼかしすぎて話の内容までぼやけてしまったので、やっちまったな!って感じなんですが、感想いただけて嬉しいです。
個人的にそこはちょっと気に入っていたので、好きって言っていただけて感無量です!
逢えたかどうかは…読んだ方の心の中で…。
感想ありがとうございました!
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