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こんばんは、6時のニュースです。
さて、今日は七夕。各地で笹が飾られる中、ある事件が起こりました。では現場から中継です。
「本日午後3時頃、このトクサネシティで大量のキュウコンを連れて辺りを干上がらせた疑いで男が逮捕されました。男は非理亜住(ひりあ じゅう)容疑者で、調べに対し容疑を認めているとのことです。非理亜容疑者は特性が『ひでり』のキュウコンを使って夜を明るくしようとしましたが、駆け付けた警察に『明るくても七夕じゃなくても、カップルはいちゃいちゃするんだぞ!』と説得され、その場に崩れ落ちました。非理亜容疑者は動機を『夜を明るくすれば七夕をできなくなると思った』と語っています。以上、現場からでした」
ありがとうございました。1年前にも似たような事件がありましたが、どこにでもこうした人はいるものですね。では、次のニュースはこちら。
1年前はサーナイトのブラックホール設定を使い、今年はキュウコン。来年はどうなることやら。
自分の過去記事がいきなり上がってるとビビりますね。こんばんは。
掲載の方OKです!
殴りにいけるアイドルのネタ、TBN48のひみつって題で夏コミ新刊の好評の未刊部に載せたいのですが、いいでしょうか?
TBN48のひみつ レイニー
キャッチコピーは殴りに行けるアイドル。
戦場と化す握手会に直撃取材を敢行、タブンネ。
という感じにしたいのですが。
「いらっしゃい、よく来たね」
「こんにちは、おじさん」
都心から少し離れた高級住宅街、少年は親戚のおじさんの家に遊びに来ていた。
少年にとって、おじさんは父親の兄にあたる。住んでいる家も近所のため、少年はよくおじさんの家に訪れていた。
その理由はただ一つ。おじさんが集めている物に興味があるからである。
おじさんは、いわゆるコレクターの一人だった。何を集めているかというと、ポケモンに関連する道具である。
例えば、ポケモンを捕まえるモンスターボールの初期型。他にも、ポケモンを進化させる石や、特別な進化を手助けする特殊な道具等、種類は様々である。特に、今の時代出回っていない物を収集するのが趣味だった。
少年は、どこにでもいるポケモン好きである。だからこそ、普通に生活していたらお目にかかれない道具が沢山見られるおじさんの家は魅力的だった。
彼の腕の中には、コラッタが抱きかかえられている。
「お父さんから聞いたよ。珍しい物を手に入れたんだって?」
「おお、そうなんだよ。お前は私の話を熱心に聞いてくれるからな、どうしても見せておきたかったんだ」
少年が案内されたのは、立派な家の奥にある倉庫。そこは特に丈夫に作られており、万が一泥棒が入らないようにするためにセキュリティも高い。指紋認識はもちろん、目や声帯を認証しなければ中には入れない。今のところ、その中に入れるのはおじさんと少年、それに少年の父親だけだった。
次に軽い霧のようなものをふりかけられる。それは、中に入る人につく細菌を除去するものだった。おじさんの方は平然としているが、少年は顔をしかめて目を瞑っている。少年のポケモンのコラッタも、小さなくしゃみをした。
漸く入り口を通ると、涼しい空気が肌を撫でる。収集している貴重品が極力傷まないように、中の湿度と温度も保たれているのだった。
この場所は、二人にとって天国と言っても過言ではない。ここに来ると何時間も外に出ないのは当たり前のことだった。
おじさんは、迷わず倉庫の奥へと歩いていく。少年は大人の歩調に必死に着いていく。
二人が足を止めた場所は、わざマシンを並べている棚だった。
わざマシンと言えば、ポケモンに技を覚えさせる道具のことである。本来ポケモンはバトルをしたり鍛えたりと、経験を積まなければ新しいわざを覚えることはない。しかしこの道具を使えば、あっという間にわざを習得することができる。それがポケモンにとって役立つかはともかく、昔から活用されてきた道具の一つだった。
少年は、ここにはよくお世話になっていた。なぜなら、わざマシンはとても高価だからである。
モンスターボールはとても安い。この世界では必需品なので子どものお小遣いでも充分購入可能なのだが、わざマシンに関してはそう簡単にはいかない。物によっては値段や生産される数等の障害によって、大の大人でも入手困難な物もある。
おじさんは、古い物もそうだが最近の道具も集めている。そのため、少年はここに来ればポケモンを強化することができた。周囲の友人からも差をつけられる。まだまだ世間が狭い彼にとって、これ程嬉しいことはない。
「そういえば、おじさんこの前はありがとう。また僕、ポケモンバトルで友達に勝てたよ」
「おお、そうかそうか。ギガインパクトはとても強力な技だからな」
おじさんは皺を寄せて嬉しそうに笑い、少年の頭を撫でる。
「ここに、見せてくれる物があるの?」
「そうだ。これだな」
おじさんは、わざわざ手袋をはめて棚に手を伸ばす。その様子から少年は、いかに貴重な物なのかを察することができた。
紙でできた長方形の箱。その中の円盤は倉庫の照明を反射し、少年の目を軽く刺激する。箱も随分と黄ばんでおり、外には手書きで描かれたような文字で『わざマシン』と書かれていた。
「これがわざマシンなの? 大きな箱だね」
少年の頭をすっぽり覆うことができる大きさである。
「そうだよ。これは発明家がわざマシンというものを開発した時、つまり、本当に一番最初の頃作られたわざマシンの一つだ」
「そうなんだ、どうりで古いと思った」
「今でもわざマシンはそれなりに高価だろう? 当時はもっと高かったんだよ」
「もっと高かったって、どれくらい?」
「そうだなあ、今お店で発売されているわざマシンを、五個はいっぺんに買えるだろうね」
「そんなに高かったんだね。でもそんなに高かったら、誰も買わないんじゃない?」
「そうでもないよ。買う人が本当に必要ならば、高い金を出しても手に入れたいと思うものさ。お前だって、欲しいゲームがあったらお小遣いを使うのを我慢するし、誕生日やクリスマスにお父さんやお母さんにおねだりするだろう。大人だって同じさ」
「大人もおねだりするの?」
「ああ、そういうことじゃなくてね。要するに、大人も子どもも、欲しい物に向かって努力するってこと」
少年は首を傾げたが、何となく分かるかもと呟いた。
「おじさん、これを買うのに幾ら使ったの?」
彼は、少年の耳で購入した値段を教える。
「もしおじさんが結婚していたら、お嫁さんに怒られちゃうね」
「本当だな」
手が届かない訳ではないが、一人の労働者が何ヶ月も働いてやっと受け取れる程のお金を使ったことに少年は驚きつつも、いつものことだなと思っていた。それだけこのおじさんが裕福なのは知っているからだ。
「ねえおじさん、これって何のわざマシンなの?」
少年が尋ねる。わざマシンが何故価値あるものなのか、それはわざマシンがわざのデータを収録してあるからだ。使う人が必要なわざが記録されていなければ、そのわざマシンを所持していても意味がない。
時代によって変化はするものの、どんなわざが収録されているかは、番号によって区別されている。おじさんが大事に持つ大きな箱には、その番号が書かれていなかった。
「これか。高い値段で買っておいてなんだが、実はこのわざマシンはポケモンに使うものとしてはそんなに価値がないんだ。当時としては、どうしてこんなわざマシンがあったのかよく分からないと言うコレクターもいるからね。このわざマシンは何十年も前の物だがちゃんと役目を果たすことができる。だからこそ、価値が跳ね上がっているんだ」
「だからおじさん。中身はどんな技が入っているの?」
焦らすおじさんに、少年は答えを促す。
「これはね、当時カントー地方で発売されたわざマシンじゅう・・・」
ここまで言った瞬間、倉庫に大きな音が響く。音はおじさんのズボンから聞こえてくる。わざマシンを元の場所に戻し、少年から少し離れた場所で携帯電話の着信に出た。
「もしもし。はい、ええ―――――分かりました。直ぐに確認します」
そう言い残すと、おじさんは電話を止め少年の頭を撫でながら言う。
「悪い。ちょっと仕事の資料を確認してくる。直ぐに戻ってくるから、倉庫で好きな物を見ていてくれ。手に取る時は、ビニール手袋をして触ってくれな」
いそいそと倉庫を出て行くおじさん。どうやら本当に急いでいるらしい。こういうことは今までにも何度か経験しているので、少年はタイミングが悪かった程度しか感じていなかった。
広い倉庫の中、少年とコラッタが取り残される。話す相手がいなければ、この場所はとても静かな所だった。ここだけ時間が止まっていると言っても誰も疑わないだろう。
自由に見ていてくれても良い。そう言われても、少年の心は先程のわざマシンに釘付けだった。
このわざマシンには、どんな技が記録されているのだろう。
おじさんはそんなに価値がないものと言っていた。けれど、あんなに大事に扱っていたのだから、物としての価値は高いことは少年にも理解できる。ポケモンのわざとして価値がないと言っていたが、それはバトルをする上での意味だろうか。それとも、日常生活をする上? いずれにしても興味がある。
少年はコラッタを下ろし言われた通り使い捨てのビニール手袋をはめる。慎重に、壊さないようにそのわざマシンを手にとった。
近くで見ると、いかに古い物なのかを再認識する。少し力を入れてしまえば箱が歪んでしまいそうだし、古い本のような匂いがした。
箱を開けると、ディスクと共にボタンがあった。ゆっくりと赤いボタンを押す。
ピピッ と大きな音が鳴り箱を落としそうになるが、きちんと箱に力を入れた。
『わざマシン起動――――――が収録されています。ポケモンにわざを覚えさせる場合、ディスクを取り外しポケモンに当ててください』
百貨店でアナウンスされるような、女性の聴き取りやすい声が備え付けのスピーカーから流れてくる。おじさんの言っていた通り、まだちゃんと使えるらしい。しかし、何の技がインプットされているか分からない。
でもどうせ、ポケモンが覚えるわざなんて直ぐ忘れさせることができる。おじさんが言っていた通り本当に使えない技なら、直ぐに別のわざを覚えさせれば良い。少年は好奇心に負けてディスクを取り外し、コラッタの額に当てた。
『確認しています――――コラッタ、ねずみポケモン。わざを覚えられます。わざのインプットを開始します』
コラッタはわざマシンを使われることに慣れているからか、少年がわざマシンを当ててきてもじっとしている。少年の手の中にある箱は、カリカリと擦れるような音を立てながらコラッタに情報を送っていく。
自分は、同級生は誰も手にすることができない貴重なわざマシンを使っているのだ。そう思うだけで優越感に浸ることができる。これでまた仲間に差をつけることができるかもしれない。考えるだけで、少年の胸は高鳴った。
やがて倉庫に響いていた音が鳴り止んだ。終わったらしい。コラッタからディスクを外し、静かになったわざマシンを丁寧に棚へ戻したと同時におじさんが戻ってきた。
「いやあ、ごめんね。ちょっと仕事でトラブルが起きたみたいで」
穏やかな笑顔を少年に向ける。少年は思わず目を逸らす。おじさんの方は、少年のそのほんの少しの変化を見逃さなかった。
おじさんは先程自分で戻したわざマシンを見つめ、その後少年に視線を当てる。
「使ったのかい?」
クリスマスプレゼントもお年玉も、そして誕生日プレゼントも欲しい物をくれる。いつも優しいおじさん。そんな彼が怒っている。そのことに気づいた少年は、俯いたまま動けなくなった。
「本当のことを言いなさい」
更なる圧力。ついに観念して、顔を下げたまま謝る。
「ごめんなさい。勝手に使っちゃったんだ、あのわざマシン」
おじさんがため息をつく。
「良かったね、君が本当の息子なら怒鳴り散らしているよ」
おじさんは屈み、少年と目線を合わせた。
「なんでおじさんが怒っているか分かるかい? 人の断りなしにその人の物を使ったからだ。そういうのは卑怯っていうんだよ」
「ごめんなさい」
「今度そういうことしたら、二度とここには来ちゃいけないよ」
少年は涙目になるが、男が簡単に泣くなと更に喝を入れる。彼は素直に頷いた。
おじさんは頭をかく。
「参ったなあ。まあ壊されるよりはマシだったか・・・」
少年は、彼が言っている意味が分からなかった。
「実はね、昔のわざマシンというのは使い捨てだったんだ。一度ポケモンにわざを教えたら、そのわざマシンは二度と使えないんだよ」
もうこのわざマシンは使えない。その事実を知った瞬間少年は自分がとんでもない過ちを犯したことに気がついた。
「それは本当に初期型だからね、メーカーも復刻していないしリサイクルもできないんだ」
「ごめん、なさい」
「済んでしまったことは仕方ない。次に同じことをしなければ良いんだ」
コラッタは事態が飲み込めず少年の足に寄り添っている。
「ほら、コラッタもいつまでもくよくよするなってさ」
「うん、おじさん本当にごめんなさい」
「反省しているなら良い。同じことはしないことだ」
はい と返事を返して、少年はコラッタを抱き上げて頭を撫でる。コラッタは嬉しそうに喉を鳴らしている。
「でも本当にそのわざマシンを使ってしまったのか。きっと、直ぐにわざを忘れさせたくなるよ」
「とっても貴重なわざマシンを使ったもの。忘れさせないよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだがなあ、いつまでその志が持つことやら」
「どうして? そんなにそのわざマシンは使えないの?」
「ああ、そのわざマシンの番号は12。当時は、みずでっぽうというわざが記録されていたんだ」
――――――――――
何故わざマシンにみずでっぽうがあったのか。初代ポケモンを知っているなら同じ疑問を持った人がいると思います。
因みに私は、みずでっぽうはいつもコラッタに覚えさせていました。
フミん
【批評していいのよ】
【描いてもいいのよ】
はじめてフワンテで飛ぶことを知ったのは、まだソノオにいた11歳の頃。
「なぁ…ホントに大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。向こうから手つかまれても逆に俺らが振り回せるって、兄貴の図鑑に書いてあった」
「それに俺らも生きてるし、な」
たまに川沿いの発電所にやってくるフワンテの手を捕まえて、5秒キープする。そんな、田舎町のガキの精一杯
の度胸だめしがきっかけだった。たしかあの時は仲のいい奴らに誘われて、すこしドキドキしながら川まで歩い
ていったんだっけ。
かすれた看板の近くで、紫色のポケモンがふよふよと漂っている。
「…ほら。今後ろ向いてるからチャンスだぞ」
「えっ、でも・・・・」
「ニツキが成功すれば5レンチャンで、タツキたちの記録抜けるんだよ〜。だから、ほら行っちゃえって」
「う。・・・・うん。じゃあ…行くよ」
友達の一人に背中を押されて、僕はゆっくりフワンテへの一歩を踏み出した。
僕の家は何故か妙なところで厳しい家で、その時一緒に行った友達含め、周りの奴らはみんなはじめてのポケモ
ンを貰っていたんだけれど、その頃の僕はまだポケモンを貰えていなかった。だから友達よりもずっと、フワン
テとの距離感がやけに大きくて、度胸だめし以前のところで緊張したのを今でも覚えている。
まだまだ幼かった僕の手が、フワンテの小さな手と視界の上でようやく重なったとき、突然フワンテがくるりと
こちらを向いた。
「ぷを?」
フワンテと目があった瞬間の衝撃は、今でも軽くトラウマだったりする。
「うっ、うわぁぁぁあ!?」「ぷををを?!」
悲鳴を上げながら慌てて後ずさる僕に、フワンテも軽く飛び退く。というか明らかに逃げようと浮き上がる。
「ヤバい!逃げられるよコレ!」「馬鹿!はやく手掴め!!」
ビビりながらそれでもフワンテに手を伸ばしたのは、僕なりのプライドってやつだったのかもしれない。
必死に伸ばした僕の手はふたまわりは小さいフワンテの手をがっしりと捕まえて、なんとかフワンテの逃亡は阻
止出来た。
「ぷををを〜!!」
ぐるぐると回りながらフワンテは必死に逃げようとする。でも5秒キープのためには、この手を離すわけにはい
かなかった。
「1!」友達のカウントが始まる。
「2!」体を膨らませて、フワンテがさらに逃げようとする。
「3!」「ぐうぅぅぅ…」僕は必死に足を踏ん張る。内心、魂を持っていかれるんじゃと思いながら。
「4!」ずりずりと足が地面を滑りはじめる。なんだよ振り回せるなんて嘘じゃないか!そんな図鑑と友達への
文句を考えられたのもそこまでだった。
「5!」
僕の足が、地面から離れた。
「・・・・え?」
上を見上げると、眩しい位の青空。
下を見下ろすと、一面に広がる花畑。
「うそ・・・・だろ?」
信じられないことに、僕はフワンテに掴まって、空を飛んでいた。
今さらになって考えてみると、飛び降りて怪我しないくらいの高さだったんだからそんな風景見えるはずはない
んだけど、とにかく11歳の僕には、見慣れたソノオのあれとは違う、もっと別な感じで綺麗な花畑が見えた。
風もないのに、何故かフワンテは滑るように進んでいって、花畑は僕の足元を過ぎていく。鳥ポケモンで飛んだ
とき―初めて飛んだのは父親のムクホークだったっけ―とは違う、あくまでも穏やかな、なめらかなフライト。
「すっげぇ・・・・」
どれくらい、僕はフワンテに掴まっていたんだろう。
「ニツキ!いいから手離せ!」「まだそんな高くないから今なら降りれるぞ!」
その声に反射的に手を離した僕は、無様に花畑…ではなく草の生えた地面に転げ落ちた。
少し遠くから、友達が走ってくる。
「おい大丈夫か!?」
「な・・・・なんとか」
くらくらする頭で見上げた空には、天高く舞い上がるフワンテ。
「すっげーよニツキ!お前空飛んでたんだぞ!」
「うん…ほんと・・・・すごかった」
友達からの心配と称賛に、僕は上の空で答えていた。
『3秒間のフライト』。
この僕の記録はしばらく抜かされることはなくて、タツキがフワンテを追いかけるあまり発電所の機械にぶつか
って壊してしまい、大人にこの遊びがバレて度胸だめし自体が無くなることで、めでたく殿堂入りとなった。
あの後僕はもう一度一人で発電所に行ったけど、フワンテはいなかった。
****
あれから12年。
「よーし、いくぞフワライド!」「ぷをを〜〜!」
僕はわざわざフワライドで空を飛ぶ、風変わりなトレーナーとなっていた。
あの時のように手に捕まる訳じゃなくてフワライドに乗っかる形でのフライトだけど、それでもあのふよふよと
浮かぶ感じ、楽しさは変わらない。今はソノオからノモセに引っ越して、すっかりあの頃を思い返すこともなく
なったけど、このフワライドと子どものフワンテだけが子どものころの僕を忘れさせないでくれていた。
トレーナーとしての仕事も上々で、今話題のフリーターになることもなく安定した暮らしを送れている。もちろ
んパートナーたちも増えて、うるさいながらも楽しい暮らしだ。
ただひとつ問題なのは――
『何?またアンタ彼女にフられたの?』
電話の向こうで、コハルが呆れたような口調で言った。
「うん……」『もうこれで何回目よ?』
「3回目…」『嘘。4回目よ。もー、アンタが失恋した月は電話代が上がるから迷惑なのよ』
「でもさ…こういう愚痴聞いてくれるのも言えるのもお前だけなんだよ」
コハルはバイト中に知り合った数少ない…というか唯一の女友達で、こんな僕と長々と電話で話してくれる良い
友達だった。
『…まぁいいけど。で何?また原因はアレ?』
「そう…アレ。」僕はフローゼルとじゃれあうフワライドに目をやった。
『アンタさぁ…そうやって妙に見栄張るからダメなのよ』
「だってデートに空から颯爽と登場するのは男のロマンだろ?」
『それでデートに2時間遅れるんだったらロマンもムードも皆無よ』
それに僕は枕をバンと叩いて応じた。
「しょうがないじゃないか!フワライドで飛ぶんだから!それくらい大目に…」
『でもフラれたのは事実でしょ?女からすればデートに遅れる男はサイテーなのよ。分かる?』
「う゛っ」
何回も言われてきたフラれ文句を突きつけられ、僕は布団に撃墜される。
「……でも」『でもじゃない』
そう、僕のフワライド――というかフワライドのそらをとぶは遅すぎるのだ。それも洒落にならないレベルで。
飛んだのに遅刻は当たり前。下手すれば風に流されあらぬ方角へ飛んでいき、家に帰るのもままならななくなる
。
もう何回『コトブキで待ち合わせね!』と言われて絶望に落ちたことか。
もし僕がトバリかナギサみたいな都会あたりに住んでいたら、遠出の心配をする回数もぐっと減ってたと思うん
だけど、残念ながら僕の住まいはノモセ。おまけにここシンオウ沿岸部はわりに風が強い場所で、フワライド乗
りにはかなりつらい場所なのだと、ノモセに住まいを見つけてから知った。
デートはおろか、普段の外出もままならない。
この大問題に、僕は決着をつけられていなかった。
『いいかげん諦めたら?アンタ、ペリッパー持ってるでしょ?』
「……ねぇコハル。僕の体質分かって言ってるの?」
『分かってるわ』
コハルはしれっと言った。
『でもそこはもう割りきっちゃうしかないんじゃない?』
「…確かにデートに遅れる男はサイテーかもしれない。それは認める。でも、デートにベロンベロンに酔ってく
る男も僕からしたらサイテーだ」
たしか父親のムクホークに乗せられた時も、酔っちゃって大変だったっけ・・・・僕はぼんやり昔のことを思い
返す。
『・・・・まぁね。それもそうね』
そういえば、とコハルは言葉を次ぐ。
『アタシの知り合いの医者、そういう体質に詳しいらしいんだけど・・どうする?』
何回も言われてきた事実を突きつけられ、僕は沈黙する。
助けを求めるように見た部屋の床には、ふわふわと飛び回るフワライドの影が踊る。その影に一瞬あの青空と紫
色の輝点が写った。それと花畑も。
「・・・ゴメン、コハル。」
僕はあの夢のような、夢だったかもしれない、あのフライトが忘れられないんだ。
「やっぱ…僕はフワライドで飛びたいんだ」
『・・・・アンタさぁ』
「分かってるよ」僕は苦笑いしながら答えた。そうやって意地張るからダメなんだって。
『・・・・分かった。とにかく愚痴だけは聞いてあげるから、あとは自分でなんとかしなさいよ。いいわね?』
あと電話代はレストラン払いでね、と言い残し、コハルはブツッと電話を切った。
「・・・・どうしよう…」
布団に寝転がった僕を、ぷを?と上からフワライドが覗きこんできた。心なしか心配そうな目をしていて、僕は
申し訳なさで一杯になる。
「ん?コハルがななつぼし奢れってさ。電話代の代わりに」
あくまでも明るくそう言うと、あのレストランの高さを知っているフワライドは、ぷるぷると頭・・・・という
か顔・・・・というか体を振った。
「だよなぁ・・・・ちょっとアンフェアだよね」
ぷぅ、と同意するかのように少し膨らんだフワライドは、開けてた窓から入ってきた夜風に煽られ、部屋の向こ
うまで飛んでいった。
「・・・・ホント、どうしよう」
昔読んだ本にも、こんなシーンがあった気がする。たしか、泥棒になるか否かを延々と悩んで、試しに入った家
で結論が出る話。
「・・・・あ、そうだ」
あることを思い付いた僕は、布団から勢いよく起き上がった。その風に煽られたのか、またフワライドが少し飛
んでいく。
****
「ん〜・・・・ないなぁ・・・・・・・・」
かれこれ2時間、僕はパソコンとにらみあっていた。
要するに決断にはきっかけが必要。そんな訳で僕の背中を押してくれる情報を得るため、僕は検索結果を上から
順にクリックしていた。
Goluugに入れたキーワードは、『フワライド』『飛行』『悩み』。
でも引っ掛かってくるのはそういうフワライド乗りのコミュニティやサイトばかりで、そういうコアなファンは
僕の悩みを「それがロマン」と割りきってしまっていたのだった。でも残念ながら僕はフワライドのロマンより
、男としてのロマンや人間としての効率の方をまだ求めたい。
何十回、薄紫色のサイトを見ただろう。白とグレーを基調にしたそのサイトは、唐突に現れた。
「・・・・なんだここ」
『小鳩印のお悩み相談室』。
見たことのないポケモンの隣に、そのサイトの名前が控え目に記されていた。
見知らぬ鳥ポケモンはこういう。
『ようこそ。このサイトはフリー形式のお悩み相談サイトです。僭越ながらこのピジョンが、アナタの悩みの平
和的解決のため、メッセージを運ばせていただいております。もし、なにかお悩みのある方は、この下の「マメ
パトの木」に。お悩み解決のお手伝いをしてくださる方は、「ムックルの木」をクリックしてください。
私の飛行が、アナタの悩みを少しでも軽く出来ますよう・・・・』
どうやらこのサイトは、何回もでてきた「お悩み」と最後の一行の「飛行」に引っ掛かったらしかった。
「お悩み相談室・・・・か」
最近はこういう体裁を装って個人情報を盗むサイトがあるらしいけど、緊張しながらクリックして現れたフォー
ムには、ニックネームと悩みを書く欄しかなくて、どうも犯罪の匂いはしなかった。
「……やってみる?」
僕は画面の明かりに照らされるフワライドの寝顔を見る。ただのイビキかもしれないけど、ぷふぅとフワライド
は答えてくれた。
「・・・・よし」
僕はキーボードに指を当てた。
ニックネームは少し迷ったけど、『小春』にした。
****
そらをとぶが遅すぎます
フワライドのそらをとぶは遅すぎてまともな移動手段になりません。
デートで颯爽と空から登場、のようなことをしたかったのですが、フワライドに乗っていったところ約束時間を
かなり過ぎてしまいました。彼女に振られました。気分が沈んだのでそらをとぶで帰ったのですが、夕暮れ時に
ぷかぷか浮いているのが心にしみました。
リーグ戦でも空から颯爽と登場がしたかったのですが、あまりにもゆっくりすぎるそらをとぶで遅刻しました。
不戦敗で夕日が心にしみました。
フワライドに乗り続けたいです。でも遅すぎます。フワライドをそらをとぶ要員にしている方は、どんな対策を
とっているのでしょうか?
お答え、よろしくお願いします。
補足
鳥ポケモンに乗ってそらをとぶと酔います。
****
「・・・・お?」
意外なことに、返事はすぐ帰ってきていた。
『もしあなたが鳥ポケモンをお持ちなら、「おいかぜ」と「そらをとぶ」を覚えさせることをお勧めします。
おいかぜをしてもらいながら併走(併飛行?)してもらえば、かなり早くなるかと思います。
あなたを乗せて飛べなかったポケモンも、きっと満足してくれるはずです。
・・・・ただし飛ばしすぎにはご注意を。』
「そうか・・・・おいかぜ、かぁ」たしか効果は『味方のすばやさをしばらく上げる』、だったなと僕はおぼろ
気な記憶を思い出した。
というかリーグに再挑戦しようとしている身なのにこんな技の記憶がテキトーでいいのだろうかと一人思う。
そういえばフワンテ時代に「覚えますか?」と聞かれて、どうせダブルバトルはしないからとキャンセルした覚
えがある。
そこでもうひとつ、僕は思い出したことがあった。
この間引っ越してきたオタク風の男。たしか技マニアとか言っていた気がする。なんか技を思い出させるとか、
させないとか言っていて・・・・
「……よし」
僕は一つこの作戦にかけてみることにした。
Goluugのワード欄を白紙に戻す。新しく入れたのは、さっきみたフワライド乗りのコミュニティサイトの
名前だった。
****
「よし・・・・行きますか」
僕はバックパックのバックルを締め、天高くボールを放り投げた。
「フワライド!フワンテ!飛ぶよ!」「ぷををを!!」「ぷぉっ!」
僕はフワライドの頭に飛び乗り、空へ舞い上がった。
冬だというのに暖かいシンオウの空。けどテンガン下ろしの風は冬のままで、僕らに吹き付けてくる。案の定フ
ワライドの進路がやや東に逸れた。
僕はあの小鳩の言葉を慎重に思い出す。
「フワンテ!右舷に回れ!」「ぷお!」
フワライドより小さい体のフワンテは機動力が高い。テンガン下ろしに煽られながらも、なんとか僕らの右斜め
前、指示通りの位置についてくれた。
「よし!そこで『おいかぜ』!」
内心上手くいくかと思いつつ、僕はフワンテにやや鋭めに命令する。
すると―
「ぷおわ!」
ごうとフワンテから信じられないくらいの強風が吹き出してきた。
「うおっ?!」僕は一瞬風に浮いた体を掴み戻し、なんとかフワライドに掴まり直す。おいかぜってこんなすご
い技だったっけ?そう思ったのもつかの間、視界がぐんと上に煽られた。
「お?」
下を見ると、僕は空を飛んでいた。
今までにないくらい、高く。今までにないくらい、速く。
遠い街並みの中にも一瞬、花畑が見えた気がした。
「お・・・・おおおぉ!!」
おいかぜに乗って、フワライドはテンガン山にぐんぐん迫っていく。風に流されるのではなく、あくまでも乗っ
て。フワライド乗りのサイトで知ったんだけど、フワライドの持つあの黄色い四枚のひらひらは風の流れを捕ら
えるためのもの、つまり翼に近いものらしい。僕にとっては風と恋への敗北旗でしかなかった翼は、今飛ぶため
に意思をもってはためいていた。
「ほんとに・・・・ほんとに空飛んでるぞフワライド!」
僕はフワライドの紫の体を思わず叩いた。
「ぷを〜!」
少し不機嫌そうな、でも楽しそうな声をあげてフワライドはさらに速度を上げる。昔感じたムクホーク羽ばたき
とは違う、水面を滑るようなフライト。
「ぷぉ〜♪」
僕らの脇を、フワンテが楽しそうに回りながら追い越していく。
あの日の僕が掴まっている気がして、僕はしばらくフワンテの手を目で追いかけていた。
****
「よし・・・・見えてきた」「ぷぉっ!」「ぷををー!」
遠くのテレビ塔を見つめながら、僕は嬉しさを噛み殺していた。ここまで2時間。今までの最高記録、いやもう
別次元の速さだ。
途中一回PP補給でヒメリの実を使ったけど、これくらいなら二人にも負担を掛けないだろう。
フワライドと一緒に、飛び続けることが出来る。
それだけでもう、涙が出そうだった。いやもう出てたのかもしれない。けどこれからのことを考えると、泣き顔
をつくる訳にかいかなかった。
「・・・・じゃあ後少しだし、おいかぜ使い切っちゃうか!」
「ぷぉぉっ!」
勢いよく吹き出す風に乗って、僕らは塔の立つ街を目指す。
幸せの名前がつけられた、僕にとっては不幸の街。でも今日からは幸せを受け入れられるかもしれない。
街の広場が見えてくる。その時、僕の頭に一抹の不安がよぎった。
(――止まるの、どうしよう)
「危ない!」
その声に反射的に振り向いた僕は、無様に花畑・・・・ではなくタイルの地面に転がり落ちた。僕が落ちたおか
げでフワライドは地面に激突しなくてすんだけど、僕は盛大に顔を擦りむくことになった。
少し遠くから誰かが駆け寄ってくる。
「ちょっと何・・・・・・アンタ何してんのよ!」
顔を上げると、コハルが呆れたような顔で僕を見下ろしていた。
腕時計を見ると、10時を少し過ぎた位置を指している。
「・・・・ゴメン、遅れちゃった」地べたに転がりながら、僕は曖昧に笑う。
「遅れすぎよ、バカ」
フワライドがコトブキのビル風に揺れる。少しお洒落をした君は、やれやれと笑ってくれた。
"following others without much thought" THE END!
【あとがきと謝辞】
初めましての方は初めまして。
また読んでくださった方はありがとうございます。aotokiと申す者です。
ねぇこの話って長編?短編?どっちなの!!この中途な長さをどうにかしてぇぇ(ry
・・・・まず、この話の原案となる素敵な悩みを下さった小春さん、そしてお悩み相談企画を立ち上げて下さっ
たマサポケ管理人のNo.017さんに感謝の意を述べたいと思います。
お二人がいなかったらこの物語は出来ませんでした。本当にありがとうございます。
果たして私の愚答が小春さんの悩みを解決出来たかは分かりませんが・・・・
※アテンション!
・BW2に登場する『ストレンジャーハウス』のネタバレを多少含みます
・捏造バリバリ入ってます
・毎度のことながらアブノーマルな表現があります
・苦手な方はバックプリーズ
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火山に近い田舎町。植物は特定の種類しか育たず、赤い岩石や土、独特の暑さが訪れる人間を拒む。雨が降る日より火山灰が降る日の方が多い、とはこの土地に昔から住む人間の談である。そこは活火山に面した場所であり、訪れる人間を選ぶ場所であった。
だがそういう土地なわけで、学者やバックパッカーはひっきりなしに訪れる。彼らが落としていくお金でその交通も何もかも不便なその町は成り立っていた。
「暑いし、熱い」
不機嫌そうな声で郊外を歩く一つの美しい人影。夜になると白い仮面で片面が隠れるその顔は、今は深く帽子を被ることで顔を隠している。腰まである長い髪は、頭の高いところで一つにまとめている。こうでもしないと辿り着く前に倒れてしまいそうだったからだ。
彼女――レディ・ファントムは地図を取り出した。フキヨセシティからの小さな旅客機にのって四十分と少し。同乗していた客はこぞって火山に向かったが、彼女はこんな暑い日にそんな熱い場所に行くほど酔狂な人間ではなかった。
行く理由があったのは、とある廃屋だった。
『たぶん霊の一種だろう』
体の両サイドを大量の書物に囲まれながら、マダムは煙管をふかした。執事兼パシリであるゾロアークが、淹れた紅茶にブランデーを数滴垂らし、レディの前のミニテーブルに置く。一口飲む。本場イギリスのアフタヌーンティーでも通用する美味しさだが、イライラはおさまらない。
今日はゆっくりホテルの一室で過ごそうと思ったのに、突然現れた男(ゾロアークが化けた姿)に無理やりここ……黄昏堂に連れて来られたのだ。
モルテが側にいないことも入れておいたのだろう。ポケモン、しかもマダムの我侭を全て聞くことの出来る者の力は凄まじかった。
あれよあれよと椅子に座らされ、苦い顔で無言の抗議をしたが全く効かない。ふと横を見れば、ゾロアークが疲れた顔をしていた。相当こき使われているのだろう。なんだか哀れに思える。
『ここ最近、ある廃屋となった屋敷で怪奇現象が起きているという噂がある。入った者の話では、昼間だというのに家具がひとりでに動いたり、別の部屋から入ってまた出た時では家具の位置が違ったりしていると』
『で?』
『そんな事が起きているということは、何らかの力は働いているんだろう。まだ幽霊の類の目撃情報はないが』
ほら、と渡された地図に示された場所は見たことの無い町の近くだった。ドが付く田舎すぎて、認識していなかったのだろう。説明文を読めば、活火山のふもとにあり、その熱で作る伝統的な焼き物が有名だという。
そしてその屋敷は、悲しい事件があったとされ、誰も寄せ付けないと言われている。異邦の家―― 通称、『ストレンジャーハウス』。
紅茶をもう一口啜る。地図を机の上に投げ出す。
『行ってやるよ』
『よろしい。原因解明とその源を持って来てくれ』
『幽霊捕まえんの』
『ゾロアーク、お前も行ってこい』
そんなやりとりがあったのが数時間前。今レディは土壁で造られた、ここらの土地独特の家の前に立っている。他の家は皆町にあるというのに、ここだけ離れた場所に建てられていた。
ふとゾロアークを見ると、不思議な顔をしていた。苦い顔、とでも言うべきだろうか。こんな顔を見るのは初めてだ。
「どうしたの」
『いや…… どうも気分が優れなくてな』
「ああ、確かにこの家からは変なオーラが漂ってくる。何かいることは間違いないだろ」
さび付いたドアノブを捻る。耳を塞ぎたくなるような音が響く。数センチあけて中を確認。よく見えない。
そのままドアを半分ほど開け、持参した懐中電灯のスイッチを入れた。灯に照らされ、埃が漂っているのが見えた。
どうやらしばらく誰も入っていないらしい。床に降り積もった埃には、足跡は無かった。
「よくこんな所取り壊さずに放っておいたな」
『取り壊せないらしい。何度か試みた会社もあったようだが、そうする度におかしな事故が起きる』
「ありがち」
今レディ達が立っている場所が、リビング兼玄関。家具はソファ、テーブル、ランプ、観賞用の植物。どれもこれもひっくり返ったり倒れていたりして乱雑なイメージを与えてくる。
向かって両サイドが二階へと繋がる階段になっていた。ソファが倒れていたが、これくらいなら飛び越えていける。
地下へと続く階段は、図書室へと繋がっているらしい。本好きなレディが目を輝かせた。
「ここっていつから建っているんだろうね」
『はっきりしないが、二十年は経っているだろう。建物の痛み方から大体の時間が推測できる』
「ふーん。……とりあえず二階に行こうか」
ソファを飛び越え、階段を上ろうとした時何かの視線を感じた。振り向くと、どうやって飾ったのか一枚の人物ががこちらを見ている。いや、『見ているように』見えるだけだ。ゾロアークも気付いたらしい。技を繰り出そうとする彼を、レディはとめた。流石にこんな辺鄙な場所に近づく物好きはそうそういないだろうが、万が一気付いて近づく一般人が出てきては困る。
絵の中にいたのは男だった。自画像だろうか。年齢は二十代前半。そう描いたのか本当にそうなのかは分からないが、女とも取れるくらい美形だ。
ふと、気付いたことがあってレディはゾロアークに話を持ちかけた。
「ここに住んでいた人間って?」
『さあ……。マダムは知っているかもしれないが、俺は知らん。ただ、空き家になってからの時間の方が長いことは確かだ』
絵からの視線は消えない。どうやら本当にここには何かいるらしい。それも相当に高い力を持った物。自分だけでなく『あの』マダムに仕えるゾロアークも見えていないのだから、そこらの未練がましく街をさ迷っている普通の霊とは違う。
モルテの顔が浮かんだ。彼は今日も、このクソ暑い中で魂の回収を行なっているのだろうか。そういえばこの時期は海難事故や熱中症で特定の年代の魂が多くなるって言ってたな。特に彼らは自分が死んだことを気付いてない場合が多いから、説得にも苦労すると――
『レディ』
ゾロアークの声で我に返った。三つある入り口のうちの一つ。真ん中。そこで彼が手招きしている。
『ここから気配を感じる』
「確かにね。……でも」
『ああ。さっきの絵画とはまた違う気配だ』
「やだな。まさか別々の霊が同じ家に住み着いてんの」
ありえない話ではない。だがそうなると厄介なことになる。同じ屋根の下にいても、同じ考えを持つ霊などいないのだから。そこらは生前と同じである。
そっとドアノブに手をかける。特に拒絶うんぬんは感じない。そのまま開ける。
「!」
流石に驚いた。ドアを開いてまず目に入ったのは、キャンバスに描かれた少年の絵だったからだ。台に立てかけられ、その台の前には椅子がある。床には木製のパレットと絵筆。ただし埃が降り積もっていて、絵の具も乾いていた。
美術室のような匂いがする。長い間開けられていなかったのだろう。様々な匂いが混じった空気が、一人と一匹の鼻をついた。
ハンカチで口と鼻を押さえ、ドアを全開にして中に入る。キャンバスの中の少年は美しかった。美少年、という言葉が正に相応しい。イッシュ地方では珍しい、黒い髪と瞳の持ち主。少し寂しげな、悲しげな瞳がレディを見つめている。
『……美しいな』
「やっぱ君でもそう思うか。マダムが見たら絶対欲しがるだろうね」
いささかもったいない気もするけど、という言葉をレディは飲み込んだ。マダムが美しい物や人に並々ならぬ関心があるのは、以前の『DOLL HOUSE』の件で分かっている。というか、分かってしまった。あまり知りたくなかったが、知ってしまったものは仕方がない。
ぐるりと部屋内を見渡す。描きかけのキャンバスが積まれていた。今まで使っていたであろう油絵の具のセットもある。その中の一つのキャンバスを手に取り――声が詰まった。
『どうした』
「……なるほどね、そういうこと」
こほんと咳払いをする。彼女の常識人の一面が現れた瞬間だった。裏返しにして、ゾロアークに渡す。少々訝しげな視線を送っていた彼の顔色が変わった。
その少年の絵であることに変わりはない。だがそこに描かれた少年の下書は、裸だった。別室だろう。ベッドの上でシーツにくるまり、妖艶な笑みを向けている。そこまで細かく描けるこの作者にも驚いたが、少年がそんな顔を出来ることが驚きだった。
何故――
「天性の物か、調教されたか。いずれにせよ、この絵の作者は相当その少年に御執心だったみたいだな」
『……』
「どうする?マダムにお土産に持って帰る?」
『冗談だろ』
レディが笑った。それに合わせて、もう一つの笑い声が聞こえてきた。部屋の窓際。その少年が笑っていた。同じ黒髪に黒い瞳。身長はレディの胸にかかるくらい。一五〇といったところか。
白いシャツにジーパンをはいている。視線に気付いたのか、こちらを見た。
「こんにちは」
『こんちは』
少年が歩み寄ってきた。美しい。絵では表現しきれないほどのオーラを纏っている。どんな人間でも跪きそうな、カリスマ性。プチ・ヒトラーとでも呼ぼうか。
少年が横にあった絵を見た。ああ、という顔をしてため息をつく。
『この絵、欲しい?』
「くれるならもらいたいかな。私の趣味じゃないけど、知り合いにこういうの好きな奴がいるんだ」
『ふーん。ねえ、アンタ視える人なんだね』
「だからこうして話してるんだろ」
『それもそうだね』
飄々としている。ゾロアークは二人の会話を見つめることしかできなかった。比較的常識を持ち合わせている彼は、彼女のように『視える者』として話をすることが出来ない。おかしな話だが、この少年が持ち合わせているオーラに圧倒されていた。
「名前は?私はレディ・ファントム。そう呼ばれてる」
『綺麗な名前だね。俺は特定の名前はないよ』
「どうして?」
『分からない?その絵を見たなら分かると思ったんだけど』
ゾロアークの持っている絵。それを聞いて彼は確信した。おそらく、この少年は――
『娼婦、のような立場だったのか』
『そーだよ。地下街で色んな人間を相手にしてた』
「両方?」
『うん。物心ついた頃にはそこにいた。昼も夜も分からない空間でさ。唯一時間が分かることがあったら、お客が途切れる時だよ。今思えばあれが朝から昼間だったんだろうね。皆地上で仕事してくるんだから』
昼と夜で別の顔を持つ。街だけでなく、人も同じらしい。聞けば、彼はある一人の男に見初められてここに来たらしい。その男は画家で、また本人も大変な美貌の持ち主だったという。
そこでレディはあの肖像画を思い出した。この家は、あの男の家だったようだ。
「で、何で君は幽霊になったの」
『ストレートだね……まあいいや。あの人は一、二年は俺に手を出さなかった。毎日のように絵のモデルにはなってたけど、それもそういう耽美的な絵じゃない。色々な場所に連れて行ってもらったよ。向日葵が咲き誇る高原とか、巨大な橋に造られた街とかさ。そこでいつもキャンバスを持って絵を描いてた』
「その絵は?」
『そこに積み重なってるキャンバスの、一番下の方』
ゾロアークが引っ張り出した。向日葵の黄色と茎の緑、空と雲のコントラストが美しい。その向日葵の中で、彼は微笑んでいた。
絵によって服装も違った。春夏秋冬、季節に分けて変えている。相当稼ぎはあったようだ。
『二年半くらい経った頃かな。あの人が親友をこの家に連れてきたんだ。同い年らしいんだけど、全然そんな雰囲気がなかった。むしろ二十くらい年上なんじゃないの、っていう感じ』
「老け顔だったの?」
『うん。でもとってもいい人だった。頭撫でられてドキドキしたのはその人が初めてだったよ』
色白の頬に少しだけ赤みが差した。年相当の可愛らしさに頬が緩みそうになるのを押える。一方、ゾロアークは嫌な空気を感じていた。何と言ったらいいのだろう。嫌悪感、憎悪、歪んだ何か。そんな負の感情を持った空気が、何処からか流れ込んでくる。
レディも気付いていた。だが彼を不安にさせないため、話を聞きながらも神経はその空気の方へ集中させている。
『それで、時々その人に外に連れて行ってもらうことが多くなった。その人が笑ってくれる度に嬉しくなった。――今思えば分かる。俺、その人が好きだったんだ』
「……」
『気持ち悪い?』
「ううん。誰かを好きになるのは素敵なことだと思う。だけど」
『分かった?その通りだよ。その時期からあの人の様子がおかしくなった。今までとは違う絵を描くようになった。当然、モデルとなる俺にも――』
思い出したのか、肩を少し震わせる。裸でシーツを纏い、妖艶に微笑む絵。だがその心の中は何を思っていたのだろう。想像できない。
『痛かった。熱くて、辛かった。でもあの人の顔がとんでもなく辛そうで、泣きたいのはこっちなのに拒めなかった。そのうち外に出してもらえなくなって、ただひたすらあの人の望むままになった』
「……」
『この絵』
悲しげな光を湛える瞳。その瞳は、今レディが話している少年がしている目と同じだった。
『この絵は、俺が死ぬ直前まで描かれていた。あの日、俺はものすごい久しぶりに服を着せられてそこに立っていた。あの人の目はいつになく真剣で、何も喋らずに絵筆を動かしてた。
俺はどんな顔していいか分からなくて、ずっとこの絵の表情をしてた。
そして何時間か経った後――」
彼は立ち上がった。そのまま自分の方へ近づいてくる。ビクリと肩を震わせる自分を彼はそっと抱きしめた。予想していなかったことに硬直し、自分はそのままになっていた。
首にパレットナイフが押し付けられていたことに気付いたのは、その数分後だった。悲鳴を上げる前に彼が耳元で呟いた。
『――愛してるよ、ボウヤ』
「……歪んだ愛情の、成れの果て」
『その後は覚えてない。ただ、俺が死んだ後にあの人も死んだ。それは確かだ。ただ何処にいるのかは分からない』
「……」
『レディ』
ゾロアークの声が緊張感を纏っていることに気付く。と同時に、空気が重くなった。ずしりと体にかかる重圧。少年も気付いたようだ。
火影を取り出す。そのまま部屋の入り口に向ける。彼は自分の後ろに庇う。
入り口から吹き込む風。その感覚に、レディは覚えがあった。
「……『あやしいかぜ』」
突風が吹いた。不意をつかれ、そのまま後ろにひっくり返る。一回転。体勢を立て直して前を見据えれば、何か黒い影がこちらを見ているのが分かった。さっき肖像画から感じた物と同じだ。ということはやはり――
「しつこい男は嫌われるよ」
ゾロアークが『つじぎり』を繰り出した。相手はポケモンではない。だが攻撃しなければまずいことを本能が察知していた。効いているのかいないのか、相手は怯まない。
念の塊。そう感じた。死んで尚、この少年への執着を捨てきれない、哀れな男の――
「こいつの本体って何処」
『肖像画じゃないのか』
「……」
分かってるならやれよ、とは言えなかった。この塊が邪魔なのだ。レディはカゲボウズを連れてこなかったことを後悔した。彼らにとってはさぞ甘美な食事になっただろう。彼らの餌は、負の念。恨み、憎悪、悪意。挙げればキリがない。人の思いというのは、奥が深い。深すぎて自分でも分からなくなることがある。
おそらくこの男も――
レディが駆け出した。塊が一瞬怯んだ隙をついて斬りかかる。真っ二つに割れ、また元通りになる。本体を倒さなくてはならないようだ。
そのまま二階の踊り場へ。肖像画の顔が醜く歪んでいるように見えるのは気のせいではないだろう。
「ゾロアーク、その子頼んだよ!」
『ああ!』
肖像画との距離は約五メートルというところ。躊躇いはない。手すりに飛び乗り、右足を軸にして左足を前に出す。そのまま斬りかかって――
ガシャン、という音と共に一階の床に落ちた。痛む腰を抑えて一緒に落ちてきた肖像画を見つめる。裏返しになっているのを見てそっと表へ返す。そして寒気がした。
思わずその目に一の文字を入れる。
「……」
『レディ!』
塊が消えたのだろう。ゾロアークと少年が降りてきた。もう澱んだ空気は消え去っている。少年の顔も幽霊にしては血の気があった。目を切られた肖像画を見て、なんとも言えない顔をしている。
この絵どうしよう、という言葉に答えたのはゾロアークだった。
『こんな出来事を引き起こすほどの絵だ。まだ怨念が残っているかもしれない。これこそ持って帰ってマダムに預けた方がいいだろう』
「受け取るかな」
『修正は不可能だろうな。これだけザックリやられていては……美貌も台無しだ』
「言うねえ」
その時の感情で動いてしまう。それが本人も自覚している、レディの悪い癖だった。直さなくてはならないと分かっている。現にカクライと遭遇するとそのせいで余計なトラブルを招いてしまうことも多い。今回もそれが発動してしまい、思わず火影を手に取ってしまった。
あの時、最後の視線が自分を貫いた。哀しみに良く似た、憎悪。可愛さ余って憎さ百倍とはよく言ったものである。彼に触るな、彼と話すな。そんな言葉が聞こえたような気がして、レディは口を押えた。
ふと彼を見れば、思案気な顔つきになっている。どうした、と聞く前に向こうから話を切り出した。
『あのさ……』
マダムは上機嫌だった。ゾロアークの声も聞こえないくらいに。そしてレディの蔑みの視線も全く気付かないくらいに。黄昏堂の女主人の威厳も形無しである。
その少年が提案したこととは、二階にある自分をモデルに描かれた絵を全て渡す代わりに、あの最後の絵を修正してくれないか、ということだった。何故とゾロアークに彼は頬をかきながら言った。
その絵を、見てもらいたい人がいる―― と。
そんなわけで恨みの肖像画を回収ついでにそのキャンバスを黄昏堂に持ち帰って来たのである。ちなみに少年本人は『行かなくちゃいけない場所がある』と言ってそのまま屋敷を出て行った。聞けば肖像画が自分がいる部屋の目の前に壁にあったせいで、その怨念が邪魔して外に出られなかったのだという。
絵を見たマダムはなるほど、と頷いた。
「相当長い間念を込めて描いていたらしいな。ほら、この赤黒い部分。自分の血を使ってる」
「ゲッ」
「それで、この絵は私が貰っていいんだな?」
『おそらくは』
「新しく飾る部屋を用意しないとな。名前は……」
浮かれたマダムなんて滅多に見られるものではないが、別に目に焼き付けておこうとは思わない。ため息をついて再び最後の絵を見つめる。悲しげな顔。おそらく二つの意味で悲しんでいたのだろう。一つは、主人の痛みを知った悲しみ。もう一つは―― いや、やめておこう。他人のことに干渉するのは愚か者のすることだ。
自分が出来ることをするだけ。それだけだ。
そしてこれは、後日談。
ある街の小さな美術館に、一枚の絵が寄贈された。添付されていた手紙には『よろしければ飾ってください』と書かれていたという。
一応専門家を呼んで鑑定してみると、それは若くして亡くなった有名な画家の物であることが分かり、すぐさまスペースを取って飾られることとなった。
だが一つだけ分からないことがある。
それは、一度描かれてから十年以上経った後にもう一度修正されていたのだ。てっきり他人が直したのかと思ったが、タッチや色使いは全て本人の物であり、首を傾げざるをえない。それでも本物には違いないということで、その絵は今日も美術館で人の目に触れている。
その絵のタイトルは――
『幸せな少年』
―――――――――――――――――――
神風です。久々のレディです。モルテじゃなくてゾロアークと組ませるのは初めてですね。
やっぱこのシリーズが一番書いてて楽しい。
私の趣味が分かります。
第一部、町
「町だ」と彼は言った。
乾燥した荒野を風が吹き抜ける度に砂埃が舞う。地表には背の低い雑草が這って稀少な緑を添えたが、それさえもが僅かな潤いを奪って旅路を困難にするようで憎々しく映った。そしてその道なき道を踏破した先に、果たして、町があった。
それは幾らか風の穏やかな午前。まだ日は南天に達していなかったが、しかし目に映る全方位が陽炎に揺れていた。件の太陽は後方からじりじりと背中を焼いた。ぽたりと汗が落ちれば、瞬く間に地に吸い込まれ、何の足しにもならないと雑草さえもが無関心であるようだった。そんな孤独な命の現場に、不釣合いな黒い影が見えたのだ。そこから最も暑い時刻を迎えるころまでに、僕らは巨大な城門の前に立っていた。
「町ね。」彼女はオウムがえしのように呟いた。
僕は言葉もなく、ただ圧倒する巨大な城壁と、そして開かれたままの城門を見上げた。
どうすると訊ねることもせず、彼は歩みを進めた。僕と彼女も、一呼吸と遅れず彼に続いた。何よりもこの日差しを避けられる場所に潜り込みたいという本能が、論理的な判断過程を超越して足を動かした。
門をくぐって振り返れば、城壁は一メートルを超える厚さを持ち、高さは周辺の小屋から比して十メートルはあるだろうと推し量れた。あまりにも強固に過ぎる。いったい何から町を守ろうとしているのだろうか。少なくとも僕らが旅してきたこの数日、あの惨めな雑草以外の命を目にしなかったというのに。
門から先は何の手も加えられていない土が剥き出しの道で、二列の轍がくっきりと跡を残していた。画家志望という彼はイーゼルや画材をキャリーカートに縛って引きずっており、それが轍や自然の凹凸に引っかかる度に立ち止まった。僕と彼女はやはり同じように立ち止まって彼を待ち、また歩いた。
通りの左側の建物に寄り、なるべく日陰を選ぶ。先ほどまで背後から照らしていた太陽は、正午を過ぎて左前方へと傾いていた。僕らがくぶったのは東門で、そしてこちら側は貧しい階層の地域なのだろう。僅かな日陰を提供する平屋は土を塗り固めた粗末なものだった。中には窓もなく、戸の代わりに編んだ藁をかけただけの小屋もある。そしてどの家からも、何の気配も感じられなかった。
「誰もいないわね」と彼女は言った。
「町が荒らされた様子はないから戦争や暴動じゃないな」と僕は続けた。「変な病気が流行ってなきゃいいけど。」
彼は露骨に嫌そうな視線を僕にぶつけ、荷物から適当な布を引っぱり出すと口に当てた。彼女は溜め息を付き、開き直ったように胸を張って歩いた。
五分もすると風景に変化が起こった。家は石造りのものが建ち、道もまた粗雑ながら石を敷いて整えられ、幾らか歩きやすくなった。間もなく二階層以上の立派な屋敷とその向こうに広場が見えてきた。
僕らは通りの角で立ち止まり、用心深く広場を観察した。これまで歩いてきた道とは比べものにならないほど滑らかな石畳が敷かれ、取り巻く建物はどれも綺麗な白壁で、中には商店のように広い間口を持ったものもある。そうした建物には看板が下がり、例えば果物屋なのだろう真っ赤に塗られたリンゴの形をしたものや、開いた書籍のような形のものがあった。そして広場の中央には噴水が見て取れた。建物よりもいっそう鮮やかに白い女神の像が肩に抱えた壺から水が流れ落ち、日差しを眩しく弾いていた。
「水だ!」
言うが早いか、僕らは噴水へと駆け出した。先刻までの警戒を、再び本能が凌駕していった。彼は両手で掬っては飲み、また先ほどまで口に当てていた布を濡らしてベレー帽の下の汗を拭いた。彼女は気丈に貼った胸の勢いそのままに、頭から噴水に飛び込んだ。僕もまた掬うのが面倒で、石造りの縁から身を乗り出して水面に口付けた。
あまりにも勢いよく飲んだために幾らか気持ち悪くなったりはしたが、それは毒や病の類ではなさそうだった。少し冷静になってその不安が蘇ってきたが、変わらず男勝りに振舞う彼女に倣って僕らも開き直った。
再び周辺を見渡すと、広場の反対側、西の通りの入り口で何かが動く気配がした。目を凝らせば、薄い青の庇を持った商店の前にあるベンチの陰で、鳩が何かをついばんでいる。それは僕らを除く、動く生命との久しぶりの邂逅だった。
なるべく驚かさないようにと静かに歩いたつもりだったが、幾らも近づかないうちに鳩は飛び立ってしまった。羽音を立てて広場の上を旋回すると、鳩は北の方角へと去っていった。それを追うように視線を送ると、町の北部は丘陵になっていて、そこには緑の木々が豊かに茂り、ときどきその隙間から巨大な屋敷の屋根が頭を出していた。
視線をおろしてベンチに目をやると、地面にはポップコーンが落ちていた。彼は一粒つまむと、まだ新しいね、と言った。
「僕は人間以外にポップコーンを炒る生物を知らないよ。」
この町は廃墟にしては荒れていない。そしてまだ新しい生活の痕跡。
「どうして彼らは姿を消したんだろう。」
彼は言って、つまんだポップコーンを放り捨てた。
「別にかくれんぼをしている訳じゃないんだ。探さなくても、そのうち向こうから出てくるさ」と僕は答えた。
彼女はどうでもよさそうに欠伸をしながら体を伸ばし、ベンチに上って今度は丸くなった。
「私、ちょっと休むわ。」
彼はベンチの背に荷物を凭せかけ、自身もベンチに腰かけた。僕は彼に目配せをして、ひとりで広場を見て歩いた。
__
はじめまして。(嘘)
ぜんぜん続きを書かないまま放置していたので、何かきっかけになればと投稿します。
「第二部、図書館」のクライマックスのアイデアを思い付いたので、まあ、暇になったら書くんじゃないかな。
> まさか、自分の誕生日にこのような作品と出会えるとは……!(ドキドキ)
> タグを見た瞬間、目が丸くなりましたです、嬉しいです、ありがとうございます。
よく言えばもう一歩大人に。
悪く言えばいっこ人生の終わりに向けt
( ま、まぁ、その、お誕生日おめでとうございます
> 出会えたあの日が
>
> 君と僕との
>
> もう一つの誕生日
> このフレーズ大好きです。
> その人やポケモンにとって特別な日。
> 色々な出会いがあるんだろうなぁと想像が膨らんでいきます(ドキドキ)
人それぞれ、いろいろな出会いがあると思います
それは生まれて死ぬまでずっとです、たぶん……
> 自分の場合は、小1の頃におじいちゃんとおばあちゃんが送ってくれたゲームボーイポケットと同梱されていたソフト……それがポケモンとの出会いでした。
私も、DS買う前にDSソフトのポケダン青かったりしてわくわくしてました、7年前(
出会い……は良く覚えていませんが、ずっと昔にアニメをテレビで見たときでしょうかね
> その出会いをくれたおじいちゃんとおばあちゃんにもありがとう。
みんなにいっぱいありがとうって言ってくださいね
それだけ、あなたもほかの人からありがとうって思われているはずです
> それでは失礼しました。
> 本当にありがとうございました!
またどこかでお話ししましょう
こちらこそ、よんでいただき、ありがとうございました
> 【めでたく23歳になりました。ピカチュウの番号まで後(以下略)】
また来年も時期が来たらですね……何かするかもしれません
まさか、自分の誕生日にこのような作品と出会えるとは……!(ドキドキ)
タグを見た瞬間、目が丸くなりましたです、嬉しいです、ありがとうございます。
> 出会えたあの日が
>
> 君と僕との
>
> もう一つの誕生日
このフレーズ大好きです。
その人やポケモンにとって特別な日。
色々な出会いがあるんだろうなぁと想像が膨らんでいきます(ドキドキ)
自分の場合は、小1の頃におじいちゃんとおばあちゃんが送ってくれたゲームボーイポケットと同梱されていたソフト……それがポケモンとの出会いでした。
その出会いをくれたおじいちゃんとおばあちゃんにもありがとう。
それでは失礼しました。
本当にありがとうございました!
> [みーさんがお誕生日と聞いて]
【めでたく23歳になりました。ピカチュウの番号まで後(以下略)】
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