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マサポケの小説書きさんこういう小説出してくれないかなー。
という願望を垂れ流すスレです。
突発で思い付いたので立てておきます。
言うだけならタダさ。
書く書く詐欺のあの人への催促用にもご使用ください。←
心までどんよりしそうな雨雲をどこかへ飛ばしたくて
誰よりも早く飛び出してみる
吹雪で凍えそうなときも、砂嵐で目が開けられないときも
私がいればすぐに太陽が顔を出す
天気がいいと気分も晴れて
いつもより元気に駆け回りたくなって
いつもより強くなれたような気がして
お日さまのあたたかい光が気持ちいいから
みんなの笑顔を見られることが嬉しいから
私は「晴」が大好きだ
雨の方が好きだなんて言わないで
砂に紛れて隠れたいと逃げないで
せっかくの「晴」なんだから
誰もが笑って過ごせる
そんな「晴」が、いつまでも続きますように
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「晴」と言ったらキュウコンさん! ということで書いてみました
晴れパを使う自分としては、ほぼ毎回出てくるバンギやニョロトノのおかげで、キュウコンを活躍させてあげられないのが残念です。私の力量不足もありますけど
さて、今回のような形は初めてでした。詩っぽい形式もまた小説とは変わった良さがあって、難しさもありますね。またいつか挑戦してみたいと思います
それでは失礼いたしました
むかしむかし、その世界の空はまっくらでした。
まるで黒い紙がべったりと貼られているようなもので、消える気配は一つもありませんでした。
それより以前は、その世界の空は綺麗な青で澄んでいました。
しかし、この世界の人やポケモンが何かに悲しんだり、誰かに憎しんだりすると、その気持ちが風に乗って空にたまっていくことがありました。
それがつもりにつもって、最初はにごったような灰色に、だんだんと黒いまだら模様が広がり、最後はまっくらになってしまいました。
もう、このまま笑うこともなく、その世界は終わってしまうのかと思われたときのこと。
もふもふとした白い毛を乗せた龍が一匹、この世界にやってきました。
人々やポケモンたちはその龍がこの世界にトドメをさしにきたのかと恐れていました。
誰も手を出せないままでいると、白い龍は青い焔を吐きながら踊り始めました。
大きな翼をはためかして、右にくるりと回ったり、左にくるりと回ったり、または空をおおきく泳いでいました。
枯れ堕ちた空に青を咲かせましょう
凍え堕ちた空に青を咲かせましょう
人の子や
獣の子や
笑えや笑え
喜べや喜べ
枯れ堕ちた空に青を咲かせましょう
凍え堕ちた空に青を咲かせましょう
白い龍の青い焔が空に登っていくと、なんと不思議なことに黒い空が燃えていきます。
そこから一筋の光が現れたかと思えば、その焼けた隙間からは青い空が顔を覗かせていました。
人々やポケモンたちは手を取り合って喜びあい、手をたたきあって笑いあいます。
その感情が幾重(いくえ)にも青い焔に乗って、どんどんと青い空が広がっていきました。
やがて全ての黒い空が焼き払われ、空は一面、綺麗な青が澄んでいました。
その青には人々とポケモンたち、そして白い龍の笑顔が咲いていました。
【書いてみました】
お久しぶりです、巳佑です。
テーマが晴れということで、何を書いてみようかなぁと思って、『晴』という字をよく見たら……日と青という文字が出てきて、想像を膨らませたのが今回の物語です。レシラムが花咲じいさん的なことになっておりますが、『あおいほのお』と『晴れ』がうまく組み合わさっていたら幸いです。
ありがとうございました。
【何をしてもいいですよ♪】
【一ヶ月ぶりに投稿させてもらいました】
> ヒロイン(と呼んでいいのか……)の窪田さんは、一見勇敢で生き物への思いやりを持つ少女のような印象を受けますが、
> その実態はとんでもない性質を持つ、狂人と呼ぶに相応しい存在だった、という展開が面白かったです。
ありがとうございます! 実はヤバイ人という展開をやってみたかっただけでもありますがw
> 欲を言うなら、
>
> >植物に向かって謝らせたり。それだけでも十分変人なのに、彼女は死んだ生き物ーーつまり死骸までもを大切にした。あの事故の多い電信柱の前を通ったとき、車に轢かれた可哀想なポケモンの死骸を見つけると、彼女は駆け出して僕に埋めてあげようと言いだす始末である。
>
> 上の文のある段落で初めて窪塚さんの名前が出てくるわけですが、結構早い段階で「変人」というネガティヴな印象を与えるワードが出てきています。
> これは読者に「窪塚さんは普通じゃ無さそうだ」と警戒心を与える結果になっているので、後半の狂気的なシーンのインパクトが若干薄れているように思います。
確かに展開がある程度予想できてしまいますね。ありがとうございます。
>
> 上二つで言いたかったのは、後半の窪塚さんの狂気染みたシーンをさらに活かすために、直前まで窪塚さんをまっとうな人間に"偽装"しておいた方が面白いんじゃないか、ということです。
>
> 参考になれば幸いです(´ω`)
参考になりすぎてヤバイですありがとうございます!!
面白さを私ももっと追求しなきゃ駄目ですね。
ありがとうございましたっ!!
すっかり桜は散ってしまいましたが感想を。
ヒロイン(と呼んでいいのか……)の窪田さんは、一見勇敢で生き物への思いやりを持つ少女のような印象を受けますが、
その実態はとんでもない性質を持つ、狂人と呼ぶに相応しい存在だった、という展開が面白かったです。
欲を言うなら、
>植物に向かって謝らせたり。それだけでも十分変人なのに、彼女は死んだ生き物ーーつまり死骸までもを大切にした。あの事故の多い電信柱の前を通ったとき、車に轢かれた可哀想なポケモンの死骸を見つけると、彼女は駆け出して僕に埋めてあげようと言いだす始末である。
上の文のある段落で初めて窪塚さんの名前が出てくるわけですが、結構早い段階で「変人」というネガティヴな印象を与えるワードが出てきています。
これは読者に「窪塚さんは普通じゃ無さそうだ」と警戒心を与える結果になっているので、後半の狂気的なシーンのインパクトが若干薄れているように思います。
また、
>だが窪田結衣はとある事件を引き起こし、小学五年生のときに転校してしまった。それ以来彼女に会ったことは無いし、何の噂も聞かなかった。
同じ段落にこの文も入っていますが、これは別の段落へ移動させて、かつ引っ越した理由をぼかしてみると、より面白い展開になると思います。
上二つで言いたかったのは、後半の窪塚さんの狂気染みたシーンをさらに活かすために、直前まで窪塚さんをまっとうな人間に"偽装"しておいた方が面白いんじゃないか、ということです。
参考になれば幸いです(´ω`)
短めですが感想を。
私は「ゼルダの伝説」シリーズの中でも、64の「ムジュラの仮面」が一番好きです。
三日後に滅びてしまう世界の中で、人々はそれぞれの形で死と滅亡に向き合おうとします。
人によってその姿勢は多種多様ですが、どれもとても人間らしく、記憶に残るシーンばかりでした。
このお話も、回避できない滅びを前にした二人の心情をつぶさに描いたものになっています。
二人の安らかな語りと、行を追うごとに壊れていく世界の対比が、悲しくも美しい模様を描いています。
二人の死という結末は変えることができず、読者はかなり早い段階でその事実を知ることになります。
ずっと前にどこかで書いた記憶があるのですが、結末の読める物語というのは通例、つまらないものになりがちです。
しかし、このお話のように「結末(=滅び)を前提とした」形を取る場合は、結末が明確に、かつ動かしようが無いと分かっているほど、かえって強い印象をもたらします。
以前、同じように「滅亡を前にした人々」をモチーフにして一本書いて、今一つ綺麗に決まらなかった経験があるので、
いずれどこかでリベンジを決めてやりたい、そう思わせてくれるお話でした。
今後の更なるご活躍を期待しております(´ω`)
爆発音が聞こえる。
ダイゴさん。
どうしたの?久しぶりにそう呼ばれたな、ハルカちゃん。
ダイゴさんに会ったのは、ちょうど今の私くらいの時で、石の洞窟でしたね!
ああ、そうだね。真っ暗なところに手紙届けに来たのがハルカちゃんだったね。女の子一人ですごいなぁと僕は思ったよ。
続くコンクリートが崩れ落ちる音。
私、その時なんてかっこいいんだろうって思いました。一目惚れっていうんですかね、とにかく好きです。
ふふっ、知ってるよ。僕もハルカちゃんが大好き。
でもそれ以降、全く会えなくて寂しかったんです。だから川の向こうで会えた時は凄い嬉しかったんですよ!
ハルカちゃんが僕を好きでいてくれたから、とても嬉しいよ。
その頃からではないですよね?
知ってたのか。もう少し後だったけどね。でもとにかくハルカちゃんは僕のことを一人の男として好きになってくれたことは嬉しかったよ。
前にも言いましたけど、ダイゴさんを好きって言って、ダイゴさん以外のどこを見ればいいんですか。
ハルカちゃんは本当に人を見るんだね。世の中には人ではなくて、お金とか地位しか見ない人間が多いんだ。
異変に気付いた人々が次々に通報する。
それからカクレオンにぶつかった時は、道具くれましたよね。デボンスコープ、もう動かないけど。
ものはいつか壊れてしまうものさ。あれから長いこと動いたし、長持ちした方だよ。
でも私がダイゴさんからもらった初めてのプレゼントはあれなんですよ。だから大事にしてたんです。
そうだったの。もう少し気の利いたものをあげれば良かったね。
集まってきた人は、モンスターボールからポケモンを繰り出した。
次にもらったのも、トクサネのダイゴさんの家に行った時の秘伝マシンです。
あれ、そうだっけ?ハルカちゃんにはたくさんプレゼントしたから覚えてないな。
もう、ダイゴさんはどうして私の気持ちを考えてくれないんですか。女の子が好きな人から貰ったものは、全部覚えてるものです。
そうなんだ。やっぱり僕は幸せだな。こんなに好きな人に愛されてるなんて。
…愛してますよ。ずっと。初恋は実らないとか言いますが、私が好きになって愛した人は生涯でダイゴさんだけです。
それぞれ状況にあった技を指示する。
それから、グラードンと戦った時もカイオーガと戦った時も、ずっと側にいてくれた。私はダイゴさんが側にいてくれるだけで頑張れました。
僕は本当に何も出来なかった。空をみて現状を嘆くくらいしかできないのに、ハルカちゃんは惨事に立ち向かっていったね。なんて強い子だろうって思った。同時に勝てない、いつか負けるって思ってたよ。でもその頃から好きだったのかもしれない。ずっと気になってた。
だから私が帰って来るまで待っててくれたんですよね。凄い嬉しかった。
人だかりになっていた。
でもチャンピオンって黙ってたのは今でも思い出すとムカムカします。
前も言ったけど、怖かったんだよ。ハルカちゃんが僕自身を好きになってくれても、チャンピオンっていう地位に目移りしちゃうんじゃないかって。
だから私はダイゴさんの元カノじゃないんですから!ダイゴさんの役職を知ったところで、目移りするわけないじゃないですか!それに…
上空にはヘリコプターが飛んでいた。
何も言わずダンバルおいて行っちゃうし!
だからちゃんとエントリーコール出たじゃない。
出ればいいってもんじゃありません。おいてかれた私の気持ちはどうなんですか!
だからシンオウの珍しい石をお土産に…冗談だよ。知ってたから怖くて逃げ出した。僕は臆病だからハルカちゃんより弱い男なんて受け入れてもらえないんじゃないかって思ってたんだよ。
ずっと思ってましたが、ダイゴさんは考えすぎです。考えたことを話してくれないから不安になるんです。
そうだね。付き合うようになってから会話の数は増やしたつもりだったけど、やっぱり不足だったかい?
私は欲張りだから、ダイゴさんともっと話したかったです。ダイゴさんと恋人になれて嬉しくて、たくさんダイゴさんのこと知りたいと思いました。初めての夜は、最後までできなかったこと覚えてますか?
そんなこともあったね。あの時は僕も緊張しててね、隠すのが大変だったよ。
それでもこの状況は変わらなかった。
ダイゴさんがプロポーズしてくれた時は凄い緊張してたのを覚えてます。ダイゴさんは緊張すると物凄い早口になりますから。私の聞き違いかと思いましたもん。
そりゃあ緊張するよ。ハルカちゃんは解らないかもしれないけど、受け入れてもらえなかったら僕はただのロリコンじゃない。それに結婚した当時でさえ出来たから結婚したって散々陰口いわれてさ。3年後に一人目が出来た時は僕の容疑も晴れて嬉しかったな。
妊娠したって一番喜んでくれましたよね。不安で仕方ない時もずっと励ましてくれた。そのことを友達に言ったら、有り得ないって言われたんですよ。
えっ、なんで?
旦那がそんな優しいのは有り得ないんだそうです。
そうなの?だって僕がハルカちゃんの青春を全部持って行っちゃったようなものなのに、優しくしないのがおかしいと思うんだよなぁ。
ダイゴさん。だから私はダイゴさんが好きです。初めて会った時からずっと好き。
ありがとう。僕も大好きだ。ハルカちゃんが僕の妻で、とても嬉しい。
さらに人は集まるが、事態は一向に収まらない。
子供が大きくなって、ポケモンが欲しいって言われた時、ユウキに頼みましたよね。ユウキは自分の子供の面倒も忙しいのに、大変そうでしたよ。
ああ、ユウキ君には悪いことしたね。いきなりポケモンが欲しいって言って、困らせた。けどお世話になってるからって最優先で用意してもらえて。僕はとてもいい人たちと知り合っているんだね。
あの子たちも大きくなって、世界大会まで行きましたね。やっぱりダイゴさんの子なんだなぁって思いました。
ハルカちゃん、自分の功績も忘れないでね。ハルカちゃんも強いよ。僕たちの子だもの、強いに決まってるさ。
「父と母がいるんです!」
私たちを必要としない年齢になった。ポケモンたちも支えてくれる。
もう行こうか。僕たちはここに留まってはいられない。
ねぇダイゴさん。世の中にはどんなに愛し合っていても、最期は一人だって言うじゃないですか。私は違う。最期の瞬間までダイゴさんの隣で、ダイゴさんの顔を見て。
僕も同じだよ。最期の瞬間に愛してる人を見ながら死ぬことが出来る。残された方はこんな事故で悲しいかもしれないけどね。
あなた。
ハルカ?
ううん、やっぱり何年経っても、ダイゴさんはダイゴさん。呼び方が変わっても、ダイゴさん。
そうだね。ハルカちゃん。僕たちはずっと一緒だ。…もう行こう。ここではないどこか遠くへ。幸せな人生だった。だからこそ次の人たちも幸せであるように。
はい。ダイゴさんと一緒で、私は幸せでした。
リニアが爆発した。ほとんど原型を留めずに散っていた。
テロと思われたが、原因は整備不良によるもの。
乗客乗員全員が死亡。大惨事に連日新聞のトップを飾る。
その中に大企業デボンコーポレーションのトップとその夫人がいたことは、マスコミがいち早く嗅ぎ付けたが、その子供たちは毅然と彼らを避けたという。
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スパコミで手に入れたダイハル小説があまりに感動しすぎて、その勢いで書いたもの。
【好きにしてください】
やぶ蛇とはこのことだろうか。ゴーヤロック神に「ダイゴさんくださいいい!!!」と頼み込んだら、同じようで神の方が深く読み込んだダイゴさん像ができていた。しかしこのままでは引き下がれない。一度消えたこの話、もう一度書くべし。評価なんぞ知らん。書きたいからかく。
前書き:ロンスト「流星をおいかけて」の前の話。読んでなくても解る。
平日の穏やかな晴れの日は、道行く人もまばらだった。春の風がダイゴのスプリングコートを撫でる。首筋から入る風に、思わず身を縮めた。春とはいえジョウトはまだ肌寒い。薄い手袋では指先が冷たい。
それでもこの大きな川沿いの道が一番好きだ。人でごった返していないし、野生のポケモンをたまに見ることができる。都会の鬱蒼とした人の中にいると、息が詰まりそうになる。対岸では暇なおじさんが釣りやゴルフをしていた。ガーディの散歩をしている人もいる。
ダイゴは足を止めた。まだ平日というのに真新しい制服を着た女の子が川を見つめて座っている。
「こんな時間からサボりかい?」
なぜ声をかけたのか解らなかった。ただ何となくかけなくてはいけないと思った。ダイゴの声に、女の子は顔をあげる。横から見たときは気付かなかったが、左頬に大きなガーゼがあって、涙で濡れていた。
「学校はどうしたの?」
「行かない」
手に握られていたくしゃくしゃになった紙を見せて来た。その要約はーー二度と来るな。
「またどうして?」
ただ黙って女の子は座ったまま左側にあった石を掴む。ダイゴは信じられなかった。その体格からは想像できないくらいに強い力で石は飛んだ。そしてそれは普通の人間ではとても届かないような川幅を越えて対岸にめり込む。
「普通の人は対岸に石なんて届かない。届く私は異常なんだ。異常だから必要ないんだ」
たまにポケモンと同じような力や特性を持つ人間がいるとは聞いたことがあった。集団行動を好む学校からすれば、こんな強い力を持つ人間は不穏分子でしかないのだろう。
ダイゴは黙って足元の石を拾う。手首をひねってそれを投げた。水面に落ちるとぱしゃんと跳ねて、生き物のように水上を進む。そして対岸の草むらに消えて行く。
「向こうに石が届くのが異常なら、僕も異常だね」
驚いたように女の子がダイゴを見上げていた。
「こんな真っ昼間から君を見てる先生は授業中だ。つまり君がどこ行こうが関係ない。それにもうすぐお昼だ」
ダイゴの差し出す手を掴んだ。その時、初めて彼女が笑った。
昼間から制服を着た中学生の女の子を連れてる男は、不審者とうつっているようだ。コガネシティですれ違う人の視線が言っていた。けれどダイゴは気にもせず、たわいのない話をしながら歩く。そして都会の中の静かなレストランへと入った。
「そういえば君の名前聞いてなかったね。僕はダイゴだよ」
「ダイゴさんですか」
彼女の視線はやや下を向いた。そして消え入るような声で話しだす。
「私は……その、ガーネットです」
「へぇ」
宝石や鉱物の話になると聞く名前だ。それが人の名前になると、ガーネットの反応を見る限り苦労してきたのだろう。
「変な名前なのは解ってるんですけど、生まれた時からこの名前ですし」
「いや、いい名前だよ。努力、友愛、勝利を意味する石だ。赤く燃える美しい色をしている。気高い宝石だね」
「あっ……そう、ですか?」
少しだけガーネットの顔色が明るくなった。
「うん。僕はそう思うな。僕の友達がね、宝石の名前を持つ子はとても大切な役割があって、どんな困難にも立ち向かうんだと言ってた。古いホウエンの昔話なんだけどね」
「ホウエン?」
「僕はホウエン地方に住んでるんだ。普段はポケモントレーナーをやっているんだけど、たまにこうしていろんなところに出向くんだよ。ガーネットちゃんはホウエンに来たことあるかい?」
「ないです。私のお父さんもトレーナーなんですけど、あちこちの大会にいっててほとんどいませんし、お母さんは仕事に行ってるので」
「なるほど。ホウエン地方はね、とにかく海が綺麗なんだ。家の近くの海も、ポケモンが多くてね。緑も豊かでね、とにかくおいしい木の実が多いんだ。一度来てみなよ。本当にいいところだから」
「私のお父さんもホウエン地方の出身らしくて、昔はそっちに住んでたらしいんですけどあんまり覚えてなくて」
料理が運ばれてくる。デミグラスソースの乗ったおいしそうなオムライスが二人分。スプーンを左手で取るガーネットを見て、ダイゴもスプーンを持った。彼女はちゃんと食べるか気になったが、心配は無用のよう。
「ガーネットちゃんの名前は、その昔話にあやかってつけたのかもね」
「へ? 昔話ですか? 宝石の名前ってやつですか?」
「お父さんがホウエンの人なら知っててもおかしくないだろうしさ。紅玉と青玉という名前を持った人たちがいてね、その人たちは陸と海とつながっているっていう話だよ。今で言えばルビーとサファイアって名前かもしれないし、違う国の言葉での名前かもしれない」
「ルビー、ですか」
「そうだよ」
「私が生まれた時、お父さんはルビーにしたいって言って来たらしいんです。でも突然、絶対だめだ、っていきなり言い出したらしくて」
「ああ、やっぱりその話を知ってるのかもね」
「だからって、こんな名前ないと思ってたんですけど、ダイゴさんが初めていいって言ってくれたし、少し自信もてました」
普通に笑うんだな、とダイゴは思った。中学生にしては淀みきった顔だったのに、今では年相応の女の子にしか見えない。
それにしてもただ力が人より強いというだけで、学校が来るなと言うのだろうか。それと頬のガーゼのことも。出会ったばかりで深くは聞けない。話したくなるまでは聞かない方がいいとダイゴは思った。
食後のコーヒーを飲む頃には、すっかり打ち解けてしまっていた。初対面であるはずなのに、そんな事を思わせないくらいに。ガーネットはフルーツの乗ったおいしそうなケーキを食べている。それを正面からダイゴは見ていた。じろじろ見ていたら失礼かなと目をそらすけど、自然と彼女も見ている気がする。そして目が合うとガーネットの方からそらした。
「もうこんな時間なんだね」
ダイゴは左腕にしている時計を見た。すでに午後2時になってしまっている。
「ガーネットちゃんは家に帰るんだよね」
帰りづらいのだろう。ガーネットは今までのテンションから一段落ちたトーンで話す。
「あんまり帰りたくないです」
「けどちゃんと今のことは話さないとね。一緒に説明しよう。きっと解ってくれるよ」
店を出る。小さな子供と歩くように、ガーネットの手を握って。すれ違う人々は相変わらず怪訝な視線を向けるけれど、二人は気にしていなかった。
不審者を見るような目で見られる。それはそうだ。娘が知らない男を連れて来て、親が警戒しないわけがない。特に父親が見る目は、敵を近づけまいとする目だった。その警戒を解くには、まずダイゴは自分から情報を出す。
「ホウエンでポケモントレーナーをしているダイゴと言います」
「これはどうも。私はトレーナーのセンリです。それで、ホウエンのトレーナーがうちの娘に何のようですか」
「川原で会いました。さっきのことですよ。僕はそれを伝えにきました」
センリに伝えるのは、ガーネットのこと。学校のこともそう、特性のこともそう。トレーナーがポケモンを語るのと同じくらいにダイゴは話す。事件のことは知っていたが、ガーネットに来た紙は知らなかったようだ。
話して行くうちに、センリはかなりガーネットの特性のことは注意していて、絶対に人を叩いたり掴んだりしてはいけないと言っていたことが解る。それが例え嫌なことを言われても、絶対にダメだと。それなのに……
「集団で金銭を?」
「カツアゲっていうのかな。新入生だからやりやすいのだろうって学校の先生も言っていたね」
生徒を正しく指導できない学校ではよくあること。集団で自分より大きな人間に囲まれ、銀色の刃で斬りつけられて、どんなに禁止されていてもそうするしか自分の身を守れなかった。見た目からは全く想像できない力で、一人一人を殴り、骨を折って戦闘不能にさせる。
その時のガーネットは必死だったのだろう。左の頬から血が流れてることも気付かなかったと言った。自分の血か相手の血か解らないけど、床は赤く鉄の匂いがしていた。物音に気付いた先生が来た時には、ガーネットはそこに立ち尽くしていた。
「とにかく娘がお世話になったようで。どうもありがとうございます」
これ以上は出会ったばかりの人間が関わることではない。ダイゴは一礼すると玄関に向かう。ノブに手をかけると、それは勢いよく外に開いた。
「ただいま!」
ダイゴは目を疑う。ガーネットを一回り小さくしたような女の子が入って来たのだ。
「あれ、おきゃくさん!? こんにちは!」
使い込まれたランドセルを背負って、にこにことダイゴを見ている。ガーネットの妹で、くれないという名前らしい。すっと家の中に入って行く。
「くれないちゃんとそっくりなんだね」
「違いは身長と性格だけってよく言われます」
さっき家に入ったばかりのくれないは、ダイゴを見送るようにガーネットの隣にいた。見送るというのは口実だろう、どちらかといえば姉の側にいたいといった感じだ。
「じゃ、僕は帰る。今日は楽しかったよ、ありがとうねガーネットちゃん」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
ガーネットが一礼する。それに倣ってくれないもお辞儀をした。
「あの、また会えますか?」
「そうだね」
ダイゴは鞄から予定の書かれた手帳を取り出す。
「もう少しジョウトにはいるから、また会えるかもね。よかったらこれが連絡先だから、渡しておくよ」
この日はそうして別れた。くれないが最後まで嬉しそうな顔でダイゴとガーネットを見ていた。
ジョウトでの用事は忙しく、コガネシティからエンジュシティを往復する毎日だった。空いた時間をみつけては、観光のためにスズの塔や焼けた塔の近くまで行く。スリバチ山を歩いて気に入った石を集める。
石はその土地の神様が宿っているという。だからこそ持ち帰ってはいけないと言われていた。それを信じるわけではないが、どうしても気に入ったものは手に入れたくなってしまう。
ダイゴは半分あの時のことを忘れかけていた。石をながめ、ジョウトに来た時のことを思い出していた。突如、突き上げるようにガーネットの顔が浮かぶ。予定は空いている。帰るまでにもう一度会っておきたい。ダイゴはモンスターボールを取り出した。鋼の翼エアームドがあらわれる。
コガネシティに降りると、わずかな記憶を頼りにダイゴは歩き出した。一度行っただけだが、何となく道は覚えてる。この川を上流に沿って歩いて、そしてウバメの森が遠くに見える橋を……
「なにするのよ!」
激しく言い争う声が聞こえる。
「俺たちにこんなケガさせといて、なんでお前が平気で歩いてんだよ! 金くらいだせ」
白い包帯を巻いた集団が、女の子の髪を引っ張っている。
「こいつ校長にもう二度と人を殴らないって誓約書かかされたんだぜ」
抵抗しない相手を殴りつける。それが上級生のすることなのか。
「エアームド」
鋼の翼から風の刃が飛んだ。数人の髪の毛を切り落とし、空へ消える。
「うわっ!」
「なんだ!?」
「んだよおっさん」
振り向いた不良たちがダイゴに気付く。
「ダイゴさん!?」
驚いたようなガーネットの声がした。
「知り合いかよ」
「うぜえよおっさん、ナンパに」
再びダイゴは命令する。エアームドは固い翼を振り切った。エアームドの抜けた固い羽が地面をえぐりとって落ちる。
「ナンパって言うのね、誘う側を不快にさせないことを言うんだよ」
ポケモントレーナーがポケモンを使って人間に攻撃することなんてまずない。不良たちもそうくくっていたから、ダイゴの行動には誰もが黙った。
「と、トレーナーのくせに」
「そうだそうだトレーナーが人間攻撃したら」
ポケモントレーナーが意図的に人間を傷付ければ、その資格は簡単に剥奪される。そんなことは常識だからこそ、不良たちはダイゴを挑発したのだ。
「……想像以上に頭の悪い人間っているんだね」
もう一つボールが開く。そこから出て来たのは土偶ネンドール。目のようなものがたくさんあり、その場が静かになる。
「ポケモンは攻撃するだけじゃないんだよ。お家に帰って、パパやママから常識を学んでおいで」
ネンドールはダイゴの意図を汲み取った。まばたきしている間に不良と共に姿は消え、数秒後にネンドールだけダイゴの元へと戻ってくる。
「大丈夫かい?」
ガーネットは何が起きたか解ってないようだった。誰もいないことを確認して、ダイゴの顔をみた。
「いや、あの、ダイゴさんまさか・・・」
「ああ、彼らはそれぞれの家に帰しておいたよ。大丈夫だ、あれなら傷付けたわけじゃないから責任は問われない」
ネンドールとエアームドがボールに戻っていく。そしてガーネットを抱き起こした。
「一緒に帰ろう」
ガーネットは何も言わず下を向いてダイゴの少し後ろを歩く。ダイゴが声をかけても、生返事しか返ってこない。
「さっきのやつ」
ガーネットが消え入りそうな声で言った。
「昨日家にも来ました。親つれて、こうなったのは私のせいだから治療費はらえって、なんで私はこんなにまでされても何にもできないんですか?」
ダイゴは何も言わずポケットからハンカチを取り出して、ガーネットの涙をぬぐう。彼女がハンカチをつかむと、肩を優しく叩いた。
「ガーネットちゃんは何も悪くない。あんなことされても我慢していたのは本当に偉いと思う。僕だったらできない。何があっても絶対に手を出してはいけないなんてことは、僕はあり得ないと思う」
「ダイゴ……さんっ!ダイゴさん!」
今まで押さえていたものを一気に爆発させたかのように、ガーネットが声をあげていた。小さな子をあやすかように、ダイゴはガーネットを抱きしめる。
対岸では暇なおじさんが釣りやゴルフをしていた。ガーディの散歩をしている人もいる。野生のペルシアンが川の魚を狙っていた。その後ろではニャースが見ている。どうやら子供に狩りを教えているようだ。
その様子を見ながら、ダイゴはガーネットと一緒に川原で話していた。いつの間にか世間話になっていて、あのことなどなかったかのようだ。
「ダイゴさんってポケモントレーナーなんですよね」
「うん、そうだよ」
「ポケモンってかわいいですか?」
「かわいいよ。愛情をこめた分、期待に応えてくれる。言葉は話せないけど、僕にとっては人生のパートナーだ」
自分のポケモンを持っていないとその辺りはいまいちピンと来ないのだろう。ガーネットは目の前のポッポを見て、不思議そうな顔をしている。
「そうだ、ガーネットちゃんもポケモンもってみたらどうかな?」
「えっ、私育てたことないですし」
「大丈夫、ポケモンだって色々いて、懐いてくれる……そうだ実家にエネコっていうかわいいピンク色の猫がいるんだけど、どうかな?」
「そんな、もらっちゃ悪いような……」
「大丈夫だよ。会社の近くにはよくいるんだ。大人しいポケモンだからすぐ慣れてくれるよ」
そうと決まったら。ダイゴは立ち上がる。
ポケモンセンターでエネコの入ったボールを受け取った。そして外に出ると早速ボールから出してみる。
「これがエネコなんですね。笑ってるみたいでかわいい」
喉をごろごろ鳴らし、エネコはガーネットに甘えた。エネコをおそるおそる抱き上げて、頭をなでている。ふんわりとした猫の毛がガーネットの腕に収まる。
「でも、もし力いれすぎてつぶしちゃったりしたら……」
「考え過ぎだよ。技もそんな強いの覚えないから扱いきれなくなることはないよ。大切にしてね」
「はい。ありがとうございます」
ガーネットはとても嬉しそうだった。ダイゴからの贈り物、それを今までで一番大切というように。
完全には打ち解けきれてないコンビではあった。帰り道、エネコはずっとガーネットの後ろをついていく。主人だと認めているかは解らない。途中、目につくもの全てに飛び掛かろうとしたり、ガーネットの髪にじゃれつこうとしたり、それはもうイタズラの大好きなエネコだった。
「おかえり!」
家につくと、元気よく向かえたのはガーネットの妹のくれないだ。身長差がなかったら、見分けはつかないだろう。
「あ、おねえちゃんのせんせい!」
ダイゴに向かってそう言った。くれないからはそう見えるようだった。けれど興味はダイゴからすぐに違う方に行く。そう、エネコだ。
「かわいいーーー!!おねえちゃんどしたのそのこ!」
「エネコだよ。ダイゴさんからもらったの」
エネコも大きな声にひるんだが、くれないに捕獲され、なで回されては逃げ場はない。
「ねえねえおねえちゃん、エネコかうの!?かわいい!」
頭をなで回され、細い目で一生懸命助けてくれと訴えてるようだった。
「くれないちゃん、エネコはぎゅっと抱くんじゃなくて優しく抱いてあげて。それから喉を撫でてあげると喜ぶよ」
「え?そうなの?」
ダイゴに言われた通りに抱くと、先ほどの苦しそうなエネコの顔から、普通のエネコの顔に戻る。
「わあ、ほんとうだ。きもちよさそう!」
エネコはくれないの腕の中でゴロゴロと喉をならしていた。
「エネコまで区別ついてないのかな」
ガーネットが小さく言ったのを、ダイゴは聞き逃さなかった。
明日にはホウエンへ戻る。長い休暇が終わり、また現実へと戻るのだ。帰ってしまう前に、一言つたえた方がいいだろうとダイゴは道を歩く。
家の近くまで来ると、ガーネットがギャロップを連れた同い年くらいの女の子ととても楽しそうに話している。最初はダイゴのことを気付いていなかったが、視界に入ると大きく手を振った。
「ダイゴさん!こんにちは!」
「やあ!こんにちは。ガーネットちゃんのお友達かな?凄い立派なギャロップを連れてるね」
角は太く、蹄は固そうだ。そしてなにより燃え上がるようなたてがみ一つ一つが美しい。撫でようとしたら、ギャロップに睨まれてしまった。
「はいそうです。ネネが言ってたトレーナーさんですよね!私はキヌコです。ネネと小さい時からの友達!」
とても嬉しそうにキヌコは今度から一緒の学校に通えると話していた。ダイゴはそれを聞いて安心する。この短期間ではあったけど、妹のように思っていたガーネットと仲良しな子が同じ学校へ通う。誰にも助けを求められない性格だからこそ、キヌコの存在は救いに思えた。
「あ、ディザイエの散歩の途中だから、じゃね」
キヌコはギャロップを連れてそのまま去っていく。最後までギャロップはダイゴを睨んでいた。
「ダイゴさん、キヌに先越されましたが、私は転校できることになったんです!」
「うん、みたいだね。仲良さそうなお友達だね」
「はい。中学が別で不安だったけど、一緒になってよかった!」
ガーネットはとても嬉しそうに話している。何も進まず、完全につまったかのように思えた現状は、とてもよい方向に向かっているようだ。
「良かった。僕も心置きなくホウエンに戻れるね」
「あ、そうか……」
少し曇りかけた表情を隠し、笑顔でガーネットは続ける。
「ダイゴさん、ホウエンのトレーナーなんですよね。あの、連絡してもいいですか?」
「いいよ。次は夏にジョウトに来る予定なんだけど、その時また連絡するよ。その時また元気な顔みせてね」
「……はい!」
ガーネットはダイゴに手を振る。ダイゴはまたね、と言って笑顔で去っていく。まだ春の寒い日だった。
ーーーーーーーーーーーーー
そして流星プロローグへ続く
初恋は実りません。
ゴーヤロック神に勝負を挑んだ事自体が間違ってると言われても気にしない。かきたいものをかくんだ!
【好きにしてください】
今日も、 皆が、 誰も見ていないところで、
静かに、でも確実に
それを吐くのです
『最悪』
『消えて』
『死ねばいいのに』
思わず耳を塞ぎたくなるような言葉の数々。だがあえて塞がないのは、それらを戒めることが出来ないからだろう。自分は吐いたことがないと、どうして証明できようか。
こういう時、毒タイプを嫌えない。街中に生息し、ゴミを漁ったり汚い跡を残していくことで人間からは度々非難の的になる。
だけど。
掃除をすれば消えるそれと違って、人間が吐く毒はナイフのようだ。
一度飛んでいけば何かに突き刺さるまで速さは落ちない。
突き刺さって止まっても、傷はジクジクと痛む。すぐには治らない。
「……『めんえき』が、必要かな」
だが、人間の『ダストシュート』を防ぐ方法を、私は知らない。
誰も、知らない。
都心部から離れた築数十年経つアパートのある一室。男は、もう何日も干していない古い布団に、着替えもせずに倒れ込んだ。服装は、仕事に行くときのまま、スーツのままで全身の力を抜く。
「もう、限界だ」
誰に話しかける訳でもなく、男はそう呟いた。
時刻は夜の十一時。平日の真只中。朝七時に出勤したにも関わらず、帰ってきたのは真夜中。当然のように、明日も同じ時間にアパートを出なければならない。休日は週に一度。まだ二十代の若者は、とても厳しい環境で働いていた。
給料も少なく。ボーナスも余り出ない。そして自分の時間を確保することが叶わなかった。貯金も出来ない、趣味に金を浪費する余裕がない。良い女と仲を深める時間もないし、たまの休みはひたすら体を休め続け、また働く。そんな虚しい毎日の繰り返し。
このままでは、いずれ潰れてしまう。
仕事を変えようか。しかし、先ずは転職先を決めなければいけない。
頭の中で葛藤する男。そんな彼に、話しかけてくるポケモンが居た。
「夜遅くに失礼します。お困りのようですね」
外見は灰色。人間に似た大きな手、目は一つで大きな体。胸には閉じてはいるが大きな口があるポケモン、ヨノワールだ。噂では、その姿を人前に見せた時、あの世に導くポケモンと言われている。
窓を開けもせずに、男に断ることなく部屋に侵入する。
「勝手に、僕の部屋に入らないでくれるかな」
「失礼しました。でも、あなたの手助けが出来るかと」
男は、起き上がりもせずに頭だけを動かしヨノワールを睨みつける。彼には全く恐怖心がない。動くのも辛い程の疲労が、恐怖をかき消しているのだ。
「手助け。お迎えかい? 僕はもう直ぐ死ぬから、こうして迎えに来てくれたのかな?」
「まさか。あなたはまだまだ長生きしますよ。ゴーストタイプである私が保障します」
「じゃあ、手助けってどういうことだ?」
「簡単です。あなたの辛い思い出を食べてあげるのです」
男は眉を寄せる。
「よく分からないよ。君が言っているのはゆめくいをするということだろう? なのに、何故辛い思い出を食べようとするんだ。普通、良い思い出を欲しがるんじゃないか?」
「確かに素敵な思い出は美味です。私にとっては極上のご馳走です。しかし、人間だっておいしい食べ物ばかり食べていては飽きてしまうでしょう。ポケモンだって同じです。美味しい物も良いのですが、たまには苦いものも口にしたいのです」
ヨノワールは、見た目よりもずっと紳士な態度で言う。
「失礼ながら、あなたの行動はここ数日ずっと拝見させて頂きました。日の出と共に起きて直ぐ仕事着に着替えて家を出る。自分の身を削り、何時間も働く。昼食はお金がないから、おにぎりとペットボトルのお茶のみ。お昼休みはたった四十分。昼を過ぎてからも働き続け、気づけば辺りは真っ暗。同僚や上司はさっさと帰宅してしまうのに、あなたは仕事を残してはいけないとサービス残業。そして誰もが家に帰り就寝する準備を終えた頃に帰宅。あなたの上司は責任感がない方です。普通部下はさっさと帰らすのが普通でしょう。それなのに、仕事を上手く割り振らず、自分は有能な上司だと信じて疑わない無能です。潜在能力で言えば、あなたの方がよっぽど努力家で人の上に立てる人間――いや、これは関係ない話ですね」
こほんと間をあけて
「ともかく、あなたはもう少し救われるべきです。ポケモンという立場でありながら、私は同情しました。最近裕福な夢ばかりを味わっているので、たまにはと思っていたのです。是非、あなたの今までの辛い夢、食べさせてくれませんか?」
男は考える。人というものは、楽しいことはあっさり忘れてしまうというのに、辛いことは時々脳裏に浮かんでくる生き物だ。幼い頃につい出来心でしてしまった悪さ、思い出すのも恥ずかしい黒歴史、そして現在のような苦痛。それらを忘れることができるとしたら、どんなに素敵なことだろう。体の疲れは寝れば取れる。しかし、心の疲れは簡単には取れることはない。
けれど、見返りなしということはないだろう。
「悪くない話だ。でも、僕は君に何をあげればいい。当然、ただでできるなんて甘いことはないだろう」
ヨノワールは心配なく、と呟く。
「いいえ、対価は取りません。私はあなたを気に入ったのです。いつもなら寿命より早めに霊界へ――と言うところですが、今回は何も求めることは致しません。あなたの失敗した時にできた辛い記憶、今まで蓄積した苦い思い出を綺麗さっぱり食べてあげましょう」
「本当に? 僕を騙そうとしていないよな?」
もし事実なら、魅力的な話だと男は思った。嫌なことを忘れることができる。どんなに楽しいことがあってもふと頭に浮かんでくる苦痛な記憶。それらを、綺麗さっぱりと消してくれるというのだから。
「ポケモンは、人間よりずっと正直者ですよ。あなたの辛い思い出を私が食す。それで私が満足する。それで対等です。その後何も求めることはありません。あなたも私も得をする。良い取引だと思うのですが」
「いや、僕としては是非お願いしたい話だ。直ぐにやろう」
「ありがとうございます。こうして了承を得てからゆめくいをするのは気分がいいものです。無理に食事をしても後味が悪いですからね」
ヨノワールはそう言うと、手を使わずに寝そべっている男を起こす。サイコキネシスで浮かされた男は、最初は慌てたものの大丈夫ですと、ヨノワールに宥められて大人しくなる。声からしてヨノワールは雄だったが、体を弄られるのは悪くない気がした。男は、つい先程まで全く他人だったポケモンに親切にされ、自分の祖父を思い出した。両親言いつけを破り、家から追い出された時、誕生日に欲しいゲームソフトを買ってくれた時、男はいつも近くに住んでいた祖父に甘えていた。自分の親よりも、祖父との思い出の方が濃いかもしれない。あれは間違いなく良い思い出だ。他人からの愛情を受けていない男は、ヨノワールの些細な一言で歓喜余ってしまう程に疲れ果てていたのだった。
祖父との思い出のような綺麗な思い出だけが心に残ったら、どんなに幸せだろう。寧ろ、そうして悪いことがあるのだろうか。
ヨノワールは、腹にある大きな口を開く。桃色の舌が男に少しずつ近づいていく。
「では、あなたの苦痛な記憶、思い出を頂きます。ゆっくり目を閉じてください」
最早、男に抵抗する気はない。彼は、言われたままに目を閉じる。独特な舌が男の頬に触れる。一瞬寒気が走ったが、直ぐに気にならなくなる。途端に、段々と男の意識が遠退いていく。
「またいつか会いましょう」
それが、ヨノワールの最後の言葉だった。
翌朝、日が昇る前に男は目を覚ました。
服装はそのままだが、きちんと布団に入り熟睡していた。気を失った後、ヨノワールがベッドまで運んでくれたようだ。時刻を確認してみるとまだ五時半だった。しかし、やけに目覚めがいい。
昨日は、まるで夢を見ていたみたいだった。本当に、辛いことをさっぱり忘れてしまったのだろうか。
あまり実感が湧かない男だったが、直ぐに自分の変化に気がついた。
体が軽い他に、心境が変化している。胸の中に詰まっていたものが綺麗さっぱりと消えてしまったようだ。昨日だって、些細なミスの責任者としてたっぷりと怒られた。そのことは覚えている。しかし、あの瞬間に感じた苦痛というものがまるでない。そもそも何故自分は怒られたのか、まるで覚えていない。
昔のことを思い出してみる。小さな頃は外でも家でも沢山遊んだものだ。家の隣に住んでいた可愛い女の子。道ばたで怪我をしたときにおんぶをしてくれた近所のお兄さん。どれも大切な思い出だ。じっくり記憶を辿る。すると、ところどころにぽっかりと穴が開いている気がする。まるで意図的に、その部分だけごっそりと抜き取ったような、そんな感じ。
間違いない。昨夜ここにはあのヨノワールがいたのだ。そして本当に辛い思い出・記憶を食べてくれた。
辛い記憶が胸に詰まっていないことがどんなに楽か、男は身を持って知ることができた。山登りをする際に背負っていた重たい荷物を捨ててしまったみたいに、心が身軽になっている。辛いこと忘れてしまうということは、とても気分がいい。
男は、晴れやかな気持ちで着替え始めた。こんな爽快な朝は久しぶりだ。久しぶり喫茶店でも行き朝食でも食べようと思った。
「おはようございます」
「おはようございます、男さん」
男は、近所の喫茶店でモーニングを済ませ、少し早めに会社に出勤した。同僚に挨拶をしながら自分の席へと座る。同時に、同じ歳の女性社員に話しかけられた。
「昨日は大丈夫でしたか? 男さん、随分落ち込んでいましたけど」
「昨日?」
男は首を傾げた。
「そうですよ。昨日凄く上司に怒られていたじゃないですか。しかも理不尽に。私達も悪いのに狙ったように男さんだけを叱るなんて。男さん半泣きのまま帰ってしまうので、皆で心配していたんですよ」
ああ、と男生返事を返す。その記憶は、つい先日抜かれてしまったので何も覚えていない。だから気を遣われても逆に困ってしまう。同僚の女性社員は平然としている男を本気で気遣っているようだった。
男は言う。
「ああ、もうあのことは良いんです。いつまでもくじけていてはいけませんから」
「強いんですね。でも良かった、あんなの気にすることはありませんよ。今日は食事に行きませんか? 私、奢りますよ」
女性社員は、声を小さくして男の耳元で呟く。
「それは、二人きりで?」
「ええ」
男は冷静に対応するつもりだったが、思わず笑みがこぼれてしまう。普段からこの女性社員とは仲良くしているが、こんなことは初めてだった。久々に良いことが男に訪れる。男の中には苦い思い出がない分、嬉しさが直に心に来る。
「じゃあ、仕事が終わったら駅で飲みましょうか」
「そうしましょう」
さり気なく約束を交わした二人は、それぞれの持ち場で仕事を始めた。今日すべきことを早めに終わらせて早めに帰るためだった。
黙々とやるべきことを終わらせていく。男の効率はとても良くなっていた。心に引っかかることが何もないからだ。仕事は確かに楽ではないが、やり慣れた内容なので問題なくこなすことが出来る。
気分は爽やかだった。彼は改めてヨノワールに感謝した。
その時、男はある中年の男に話しかけられた。
「男君。ちょっと今外せるかな」
それは、昨日男を叱った上司だった。
「はい。問題ありませんが」
男は座ったまま上司の方へ振り向いた。上司は少し苦い顔をしている。着いてきてくれと言い残して上司はオフィスの奥へ歩いていく。男は急いで立ち上がり、後を追いかけていく。
上司が入った部屋は、使用していない会議室だった。上司は男に空いている椅子へ座るように促し、男はそれに従う。
「昨日はすまなかったね。私もつい大人気なく怒鳴りすぎてしまった。ここのところ寝不足が続いていて、つい言い過ぎてしまったよ」
上司は申し訳なさそうに軽く頭を下げた。もちろん男は、そのことを覚えていない。
「大丈夫です。もう気にしていません」
上司は驚いた。男は、本心で言っていることが分かったからだ。
「そうか。許してくれて良かった。しかし、今日はやけに明るいな」
「ええ、元気を出して仕事をしないと楽しくありませんから」
男の上司は、明らかに戸惑っていた。いつもあんなに気の小さい部下が、まるで手本のようにハツラツとした様子だったからだ。昨日とはまるで別人。中身が入れ替わってしまったようだった。
上司は、戸惑いながら何かを言い出そうとしていた。そんな様子を見た男も、自分の上司の異変に気づく。
「どうかしましたか?」
男の返事に上司は更にうろたえる。言うことがあるならどうぞ遠慮しないでくださいと、男は笑顔で返す。ますます上司は踏ん切りがつかなくなる。
数分ためらった後、上司ははっきりと述べた。
「男君、冷静に聞いてくれ」
上司は辛そうに言う。
「君は、今月でクビだそうだ」
男は、言葉を失った。
「君はあのプロジェクトの責任者だっただろう。あれが失敗し多大な損失が出てしまったんだ。それで、ついに社長が怒ってね。私は今朝きちんと反対したんだ。だが、なんとしても君を解雇すると」
上司の言葉は耳に入らない。
「君からきちんと辞めると言ってくれれば、退職金等はちゃんと出すということだ。私にはどうすることもできなかった。すまない」
今度は更に深く頭を下げるが、男は何も見てもいなかった。それよりも、またもや自分の体の異変に気が付いた。
辛い。会社から去れと言われて辛くない訳がないのは分かっている。しかし、心に残る傷の深さが尋常ではないことに、男は気が付いた。
彼から辛い記憶は確かに消えた。しかしそれは、未経験になるのと変わらない。誰でも初めての経験は良い事でも悪い事でも、本人には未知の刺激。つまり心構えができないのだ。男は、実は一度解雇された経験があった。しかしその体験もなかったことにされている。昨晩、あのヨノワールによって。
今の男は負の経験に対しては、一度も叱られたことがない子どもと変わりない。クビにされるというとても辛い出来事は、直接彼の心に突き刺さった。何も耐性がない男にとって、この痛みは計り知れない。
精神的な痛みは、とうとう男の体にまで異変を起こす。頭痛、吐き気、めまい、そして動悸が激しくなる。彼は胸を押さえて椅子から落ちた。側にいた上司が駆け寄り、大丈夫かと呼びかけるが返事を返すことができない。慌てた上司は、直ぐに会議室から飛び出して助けを求めた。
朦朧とする意識の中で、男はヨノワールにして貰ったことを後悔した。
同時刻、別の場所にヨノワールはいた。
大理石の床に磨かれた壁、天井からはシャンデリアが釣られている豪勢な部屋。大きな窓の側には、柔らかくて立派な部屋に座る中年の男性がいる。歳は四十を過ぎているにも関わらず体は引き締まっていて、腹に多少脂肪があるが全身に筋肉がついている。髪はワックスで固められ髭も剃られている。歳相応の、格好良い中年のおじさん。
その直ぐ側に、あのヨノワールはいた。
「どうだ。あれは持ってきたか?」
「はい。今回は、とても極上の夢を持って参りました」
「では早速夢を頂こうかな。金は、そこの机のテーブルに置いてある分で足りる筈だ」
「いつもありがとうございます」
ヨノワールは金が積まれた机に向かい、中年男の前で札束を数え始めた。時間をかけてじっくりと。そして確認を終えると、ヨノワールは頷く。
「確かに、指定した金額が置いてあります」
「なら良いだろう。今日はどんな夢だね」
「環境が悪い企業で、働き疲れ果てた青年の思い出です。これは、私が口にした夢の中ではかなりきつい
ものだと思います」
「それは楽しみだ。さあ早くその夢をくれ」
急かす男性に従って、ヨノワールはかしこまりましたと返事を返して行動を起こす。腹の口を開け自分の手を口に入れ、何かを取り出した。それは、不可思議な物体だった。手でつかめる程の球体で色は紫色、ヨノワールの手の中にあるその瞬間も、球体の中心ではドロドロと渦を巻いている。球体は、音も出さずに存在感を醸し出していた。
「数十年分の、辛い思い出です」
男性は身動きせずじっと座っている。ヨノワールは男性に近づき、球体の一部を米粒程の大きさに引きちぎる。それを慎重に男性の口の中へ入れた。
暫くの沈黙、すると男性が痙攣を始める。目を見開き口を大きく開けて全身を震わせる。喉からは嗚咽が漏れ、空中に手を差し出し何かを掴む動作をした後、直ぐに頭を抱えて悶えだす。数十秒その症状は続き、やがて男性は正常な状態に戻る。
肩で息をして激しい運動をしたように呼吸が荒いが、その表情には至福の気持ちが混じっていた。
「素晴らしい」
男性は、それだけ呟くと水を口に含んだ。そしてもう一度だとヨノワールに促す。ヨノワールは先程と同じ量をまた男性の口に含ませる。そして悶える。ただその繰り返し。
夢の球体が三分の一に減るまでそれは続けられた。もう今日は止めましょうというヨノワールの制止に男性は素直に従った。全身汗だらけで、ヨノワールに差し出されたおしぼりで顔を拭く。
「最高の時間だったよ。お前の主人は良い仕事をする」
「ありがとうございます」
ヨノワールは、深くお辞儀をした。
「これでまた記憶が入っていくのか。少しずつしか入れることができないのが残念だが」
「仕方ありません。これには何年分もの辛い思い出が詰まっています。一瞬でそれ程の負を取り込んだら、あなたはショック死してしまいますよ」
「分かっている。しかし人間というのは不便なものだな」
男性は、葉巻をふかす。
「私は産まれながらにして金はあった。将来は約束されていたし、同じ地位の友人も裕福でない友人もいる。しかし、辛い目に遭って来たことはなかった。高度な勉強も嫌いではなかったし、親戚と立場争いをしている訳でもない。友人にも恋人にも恵まれていたし、両親もまだ元気だ。だから辛い経験を少しでもしておかなければならない。世界有数の社長になったのだから、もっと失敗や苦悩を学んでおきたいんだ」
「分かっております。だから私の主人は、こうして私に苦い思い出を集めさせているのです。普段我々は、幸せな夢を売るのが商売です。しかしあなたは特別なお客様ですから、こうして少々危険なことをしているのですよ」
「分かっている。もう私も歳だし、忙しくて自分の時間があまりないからな。座ったままさま様な体験ができるなら、これくらいどうってことない金だ。寧ろ安いくらいだ」
「この続きは明日の同じ時刻で宜しいでしょうか?」
「ああそうしよう。今日はありがとう。いつも済まないね」
「いえ、これが私の仕事ですから」
そう言い残し、ヨノワールはケースに入れられた札束を持ち、いつも通りに姿を消した。
――――――――――
いつも見てくれてありがとうございます。再び作品を置かせて貰います。
自分の人生思い返してみれば、辛い思い出の方が圧倒的に多く感じてしまいます。
フミん
【批評していいのよ】
【描いてもいいのよ】
今年もこの町で一番大きく古い桜の花が咲く。
僕はそれを見上げながら何故か物足りなさを感じた。毎年この時期には見ているはずなのに、僕はどうしてだかそんなことを思った。けれど今日はそうもしていられない。いくら慣れないからといって高校初日に遅刻するのは良くない。大事な大事な第一印象が台無しになってしまう。
僕は何時の間にか地面に置いてしまっていた真新しいスクールバッグを肩に掛け直すと、足早に学校へと向かい始める。
物足りなさは消えなかった。
通学路の途中でふと目に付いた、一本の電信柱に手向けられた小さな花束で思い出したことがある。この辺りは昔から自動車と歩行者の接触事故がとても多く、僕は小学一年生のときから親やPTAのおじさんやおばさんに注意され続けていた。花束が置いてあるということはまた事故があったのだろう。もしかしたら事故にあったのは人間じゃなくニャースやニャルマーなどの小さなポケモンかもしれない。
――この辺りは事故が多いでしょ。その死体はあの一番大っきい桜の下に埋められてるんだ。だからあんなに大っきくなったんだよ。
昔、といっても僕がまだ幼い頃だがそんなことを言ってる奴がいた気がする。人の話をそのまま鵜呑みにしてしまうあの頃の僕は、その話を親や友達に一生懸命話していた。そして思い出すたび体を震わせ夜トイレにも行けなくなった。今思えば全く可愛らしいことこの上ない。
物思いにふけっていたら足が電信柱の前で止まっていた。慌てて腕時計を確認し走る。
まだ、足りない。
初日の学校ほどめんどくさく嫌になる。けれどここで悪い印象をもたれてしまうと、後々さらにめんどうだ。誰かに話しかけるのも億劫だと思った僕は、人見知りキャラを演じて前の席の奴が話しかけてくるのを待った。これでそいつも人見知りだったら残念だが、運良く「お前どこ中? ポケモン何?」と勢いよくきたので無難に会話ができた。
LHRの時間は早口の担任がマシンガンの如くずっと喋っていたので、窓側の席なのをいいことに、ずっと外を向いて思考していた。そうして思い出したことがある。窪田結衣という同級生だ。彼女は僕の幼馴染で、幼稚園からずっと互いの家を行ったり来たりして遊んだ仲だった。彼女は凄く生き物想いで、勉強がよくできた、まるで優等生の一例の様な少女だったが、彼女の生き物想いは尋常ではなかった。本当生き物想いなのだ、人間を除く、ほぼ全ての生き物の。弱いポケモンを虐める輩がいれば、それが年上であろうが一人で立ち向かい、植物を抜いたり折ったりした奴には植物に向かって謝らせたり。それだけでも十分変人なのに、彼女は死んだ生き物ーーつまり死骸までもを大切にした。あの事故の多い電信柱の前を通ったとき、車に轢かれた可哀想なポケモンの死骸を見つけると、彼女は駆け出して僕に埋めてあげようと言いだす始末である。ともかく、彼女ーー窪田結衣はそんな少女であったわけだ。だが窪田結衣はとある事件を引き起こし、小学五年生のときに転校してしまった。それ以来彼女に会ったことは無いし、何の噂も聞かなかった。
――ゆう君。生き物はね、生きてる間は目一杯輝いているんだよ。
そんなことを彼女はいつも言っていた気がする。
学校が終わった。さよならの挨拶の後にクラスの何人かにメアドを教えてとせがまれたが、携帯を忘れたと言ってまた後日にしてもらった。なんとなく今朝からもやもやしていたし、あの桜の元へと行きたかったからである。それに窪田結衣。彼女との思い出の場所でもあった。
一人で下校しながら僕はまた回想する。彼女は何故転校したのか。今まで恐怖で思い返せなかったあの日のことを。マメパトがぱたぱたと飛び去った。
あの日は夏休みの真っ最中で、太陽が地面を焦がすんじゃないかなんて彼女と話したりしていて。ごく普通の、毎日の直線上にあったはずで。僕ら二人で、あの桜の近くで喋っていた。彼女は親のポケモンだったかデスカーンを連れていた。当時自分のポケモンを持っていなかった僕としては、とても羨ましいものだったので、デスカーンの何本かある黒い長い手を、握ったり握手したりして触っていた。あの不思議な感触は今でもしっかりと手の内に残っている。
この頃、あの桜の木が寿命だか病気だかで枯れそうになっていると近所でニュースになっていた。彼女はあの桜が大好きだった。しかしその大好きとは、小さい子がピカチュウ大好きと言って抱きつくような純粋さではなかった。逸脱した彼女の生き物想いがそうさせていたのか、もしくはあの桜に魅せられたのかはわからないが、ともかく大好きだった。だからニュースを聞いたとき、彼女は言ったのだ。
――あの桜の木を元気にさせよう!
と。
その時点ではまだ彼女の思惑は読めなかったので、僕は快く受け入れた。そのときの彼女の表情は今までに見たことが無いくらい恍惚としていたのは忘れられない。ただ、表情に見とれていたせいか、その次に言った彼女の言葉を聞き逃してしまった。ごめん、もう一回言って。けれど彼女は繰り返すことなく、笑顔で無言のまま僕を見つめていた。わけがわからずつっ立っていたその瞬間、後頭部に強い衝撃が走った。衝撃は激痛へと変わり、あまりの痛さに叫ぼうとしたが、いつか触れた不思議な感触に口を塞がれ呼吸を妨害する。何が起こってるのかわからない僕はパニック状態に陥り、口を塞ぐデスカーンの手を剥がそうと藻掻く。が、所詮小学五年生の力ではポケモンに敵うはずなく押さえつけられそのまま
――ゆう君のお陰で桜が元気になるよ! ゆう君ありがとう! 大好きだよ。
何時の間に掘ったのか。桜の木の根元に人がちょうど一人入るくらいのサイズの穴があり、デスカーンはそこへ僕を放った。背中に落ちた衝撃が走り、肺から息が多量に出た。そこへ土が降ってくる。今思えばそこまで深い穴ではなかったから出ようと思えば出れたはずだが、このときばかりはそんな冷静に考える暇もなく、ただ出来たことは一つ。彼女の笑顔を見守ることだけだった。
あの後気を失った僕は病院で目を覚ます。ここから先は聞いた話だが、たまたま近くを通りがかった知らないおばさんが僕が埋められる瞬間を見ていたらしく、彼女の行動を途中でやめさせた上、110番してくれたようだった。僕が一応、少しの間入院することになった間に彼女の一家は何処かへ引っ越してしまったらしい。入院中僕が尋ねても誰もが話題をそらしてしまい教えてくれなかった。
今年もあの桜は元気に咲いている。あの事件(果たして事件と言うのだろうか?)の後、自治体の皆さんが頑張って桜を元気にさせたらしく、その翌年にはけろっとした調子で花を咲かせていた。
けれど人ががんばっただけで植物が簡単に元気になるものだろか? そこで窪田結衣のことを思い出し、ずっと感じていた物足りなさが何か気付いた。
「……あった。これだ」
僕は桜の根元に近づき、幹を削って書かれた下向きの矢印を見つけた。僕が入院中に看護婦さんから一度だけ、彼女から渡して欲しいと言われたらしいメモを受け取ったことがある。そのときの内容が、桜の幹に下向きの矢印を書いたから、桜が満開になったらその下を掘ってと書かれていた。今まで忘れていたが、僕は指示通りに矢印の下の地面を手で掘り始める。制服や手が汚れるなんて気にしなかった。ただなんとなく埋まっているものの想像がついたので、尚更掘り起こしてやらないといけないなという使命感が手を動かしていた。
やがて指先が何かにあたる。僕はその辺りを丁寧に掘り始めると、埋まっていたそれの一部をよく確認し、冷静に警察へ電話する。
「あの、警察ですか? すみません。桜の木の下に――」
通話を終え携帯をしまう。僕は改めて埋まっていたそれ――窪田結衣の手の骨を見て言う。
「今年も桜はきれいだよ」
――――――――――――――――――――――――
スポーツテストで持久走とシャトルランがないと聞いて嬉しすぎた勢いで書いた。
久々に書いたからなんか不思議な気分です。
受験終わったときから溜めてるネタはまだ書き終えていないのですが。
あと機会音痴で、iPhoneから投稿したもので、段落の一マスが空いてない……。そのうちパソコンで直しますごめんなさい。
あと、久方さんネタ被らせてすみません私も死体埋まってるネタ好きなんです
【何してもいいのよ】
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