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| タグ: | 【コラッタ】 | 
 昔々、というほど昔でもない時代に、一匹のコラッタと一人の少年がおりました。
 コラッタと少年は、ピカチュウを連れた某トレーナーみたいに有名なわけではありませんでしたが、
 コラッタといしんでんしんとか、コラッタとツーカーみたいな称号くらいは貰ってもいいくらいの仲良しでし
た。
 少年がまだ十歳になっていなかったため、コラッタは少年の正式なポケモンではありませんでしたが、少年が
コラッタの元に遊びに来ると、コラッタは気配を感じて顔を出しましたし、少年も他のコラッタと仲良しのコラ
ッタの見分けがついていました。
 少年いわく、仲の良いコラッタは毛並みのふあふあ感が違うのだとのことですが、私達では少年と仲良しのコ
ラッタと他のコラッタの見分けをつけることは多分不可能でしょう。
 少年はコラッタの元に遊びに来るとき、いつも何か手土産を持って行きました。それはドーナッツだったりク
ッキーだったりポテトチップスだったり──つまりサンドの──失礼、三時のおやつだったわけですが、コラッ
タは内心それをとても楽しみにしておりました。もしかしたらコラッタは、少年の気配ではなくおやつの匂いを
察していた部分もあるのかもしれませんね。
 少年とコラッタの住んでいる場所は辺鄙な田舎でありましたから、これといった娯楽はなかったものの、一人
と一匹でおいしい木の実を探したり、川で水遊びをしたり、探せばいくらでも楽しく遊ぶことができました。
 そんな一人と一匹が、ふと遊び疲れて休んでいる時に話す言葉は、
「彼女欲しいなー」
「コラー」
 とんでもなくマセておりました。返事をするコラッタも、うんうんと同意しているようでありました。
 なにしろ刺激のある出来事の少ない土地柄、仲良しである一人と一匹は、道の隅に捨てられている、湿った非
道徳的な、たまにポケモンも交えた本を仲良く読んでいたりもしたもので──再度失礼、とにかくまあ、ちょっ
ぴりマセておりました。
 そんなある日のことです。
 少年の父の仕事の都合で、少年は引っ越すことになってしまいました。少年はまだ十歳になっておりませんで
したので、コラッタを自分のポケモンにして連れて行くことも出来ません。
 少年は友達との別れに涙を流しました。人口の少ないこの土地では、一匹のコラッタだって、大事な大事な友
だちでした。
「ゴメンなコラッタ。お前を連れて行くことは出来ないんだ」
「コラー……」
 もちろんコラッタも悲しみました。おやつが食べられなくなるという食欲的なこともありましたが──少年に
抱き上げてもらった時の、形容しがたいあたたかさは、森のおいしい木の実で代用できる部分もあるおやつと違
って、何にも代えがたいものでありましたから。
 少年は前述の通りのませた子どもでありましたから、子どもらしく悲しい時に泣きはしたものの、コラッタと
一緒にどこかへ逃げるとか現実的でないことを考えることはしません。だけど、その代わりに真っ赤なバンダナ
をコラッタの首につけて、コラッタの鼻先に拳を突きつけました。
「このあかいバンダナは、コラッタとの友情の証だよ。僕は絶対にコラッタの元に戻ってくる。だから、約束」
「コラッ!」
 突きつけられた拳に、コラッタは拳を差し出す代わりに、鼻先を押し付けました。
 鼻先で触れた少年の拳は硬くて──抱き上げられたときの温かい体温を感じられました。
「お互い素敵な彼女を作って再開しよう!」
「コラッ!」
 マセた一人と一匹は、別れの時もちょっぴりおませさんでありました。
 少年が引っ越して、少し経ちました。あれからコラッタは、少年とそうしていた時のようにおいしい木の実を
探したり、川で遊んだりして──時々少年に抱き上げられた時のあたたかさや、おいしいお菓子が恋しくなった
りもしましたけれども──おおむね元気に暮らしておりました。
 そうそう、特筆すべきことに、コラッタにはかわいい彼女さんが出来ておりました。
 彼女さんももちろんコラッタで、赤いお目目は他のコラッタより一際強い輝きを持ち、しっぽの丸まりぐあい
もかわいらしく、毛ヅヤも良い素敵なコラッタです。あかいバンダナをつけていたのが幸いしたのでしょうか、
彼女さんはコラッタのたいあたり的なアタックに折れて、いつも一緒にいるようになりました。
 彼女さんと一緒に食べる木の実は、素敵な味がしました。
 少年が引っ越して、しばらく経ちました。寒い冬がやってきました。リングマさえも洞窟にこもり、春の芽吹
きを待つ季節です。
 小さなコラッタには特に堪える時期でした。
 コラッタは彼女さんと木の根を齧り、身を寄せ合いながら寒い冬を過ごします。彼女さんと身を寄せ合うと、
一匹よりもあたたかくはありましたが──少年に二匹で抱っこしてもらったら、もっとあたたかいのかな、と考
える時もありました。
 少年が引っ越して、だいぶ経ちました。暑い夏は、冷たい冬よりはずっと過ごしやすくて、食べ物だっていっ
ぱいあります。
 かつて少年と一緒にそうしたように、川で彼女さんと水浴びをすれば暑さなんてへっちゃらです。少年も、お
んなじようなことをして涼んでいるのかな、とコラッタは思いました。
 少年が引っ越して、結構な時間が流れました。彼女さんともずいぶん睦まじくなり、あまり寂しさを感じるこ
とはなくなっています。
 だけど夜、ルナトーンみたいな綺麗な三日月が浮かんでいる日。少年と一緒にやった、花火という綺麗な炎を
思い出すことがありました。
 また、昼間日当たりのいい場所で日向ぼっこをしている時。少年のあたたかな、腕の感触を思い出すことがあ
りました。
 彼女さんのコラッタは、かわいいだけではなく賢くもありましたので、そんなコラッタのセンチメンタルな感
情を察していました。寂しげに考え事をしているコラッタに、彼女さんのコラッタはそっと身をすり寄せて、私
達の言葉で言えばこんなことを言いました。
「あなたがさびしい時も、楽しい時も、私はいつも一緒にいるわ。私は、あなたのカッコイイところだけにほれ
たわけじゃないのよ」
 彼女さんの言葉の証拠のように、コラッタのカッコイイあかいバンダナは、ずいぶん色あせてボロボロになっ
ていました。
 コラッタは身をすり寄せてきた彼女さんに、自分も頬ずりをして、ありがとう、と小さく鳴いて返事をしまし
た。
 少年が引っ越して、長い年月が経ちました。少年がくれたバンダナは、とっくにボロボロになって破けて、な
くなってしまいました。
 だけどコラッタの胸の中には、少年との約束が色あせずに残っていました。
『このあかいバンダナは、コラッタとの友情の証だよ。僕は絶対にコラッタの元に戻ってくる。だから、約束』
 友情の証のバンダナはなくなってしまいましたが、コラッタは約束をしっかり覚えていました。少年はもう、
そんな約束は覚えていないのかもしれません。
 だけど、それでもいいと思いました。コラッタにはかわいい彼女さんがいて、もう寂しい想いをすることはな
いのですから。
 ただ、少年が彼女を作って幸せに暮らしていたらいいな、と思うばかりでした。
 そんな時、足音が聞こえてきました。この独特の音と気配は、ポケモンのものではありません。どうも人間ら
しい、とコラッタは思い、彼女さんに草むらへ隠れるよう小さく鳴いて促しました。
 近くの村の人間は、故意にポケモンを痛めつけるようなことはしませんが、そこはコラッタも野生のポケモン
でしたので、警戒は怠りませんでした。
 気配と足音が近づいてきます。
 だけどコラッタは既に警戒を解いていました。
 何故って、
「ねえ、本当にこんなとこに、あなたの仲良くしてたコラッタがいるの?」
「うん。だってあの時、僕とコラッタは固い約束を交わしたんだ」
「そうは言ってもさー、コラッタだってあなたのことを覚えてるとは限らないじゃない」
 コラッタは、少年が来れば気配を察して、姿を表していたのですから。
「コラッタ!」
 人の足音が、駆ける騒がしい音に変化しました。コラッタもそちらに向かって、前足と後ろ足を懸命に動かし
て駆けて行きました。
 腕を広げた人影の胸目掛けて、たいあたりをかまします。人影はバランスを崩して尻もちをつきましたが、し
っかりとコラッタを受け止めました。
 優しく自分を抱き上げる腕は、懐かしいあたたかさがありました。
「遅くなってゴメン! 僕のことを覚えててくれていたんだね!」
「コラーッ!」
 当然だ、というようにコラッタが鳴きました。字に表すとまるで怒っているみたいに見えますが、別に怒って
はいません。
 怒るよりも、少年に会えて嬉しい、という気持ちが、小さな体いっぱいに広がっていたからです。少年はずい
ぶん背が伸びてずいぶん印象が変わってはいましたが、それでもおやつを分けてくれて一緒に遊んでくれた、優
しい雰囲気はそのままでした。
「でも、約束通り素敵な彼女が出来たんだよ、ほら!」
「その素敵な彼女さんをほっぽり出して、コラッタとラブラブしてるのはどこの誰かしらね?」
 長い髪をポニーテールにした活発そうな彼女が、一人と一匹の感動の再開をちょっぴりあきれ顔で眺めていま
す。すぐ怒りそうだけどすぐ笑って許してくれる、そんな感じの顔をしていました。
「それで、コラッタには素敵な彼女は出来たかい?」
「コラーッ!」
 字にすると同じですが、さっき少年に返事したのよりも少し高い声でコラッタは鳴きました。もう大丈夫だと
仲間に知らせる合図です。合図の鳴き声を聞いて、コラッタの彼女さんが草むらからひょっこり、顔を出しまし
た。
「へえ、この子がキミの彼女さんかい?」
「コラーッ!」
 コラッタが少年の腕の中で再び鳴きました。今度のも合図の声です。平気だからみんな、怖がらずに出てきな
さい──そんなニュアンスを含んだ鳴き声に、
 一匹、
 また一匹、
 さらにもう一匹、
 と、次々にちっちゃなコラッタたちが草むらから飛び出してきました。
「「「「「「「「「「「「コラーッ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
 ちっちゃなコラッタ達は、少年のコラッタに返事をするように、一斉に鳴きました。その可愛らしい様子を見
て、先程まで再開の感動に浸っていた少年が何かを悟ったらしく、オニゴーリのような恐ろしい形相になります
。
「このリア充コラッタめ! 僕だってまだ彼女とキスまでしか行ってないのに! こいつ、コイツう!」
「コラーッ!?」
「ちょっと! ポケモンに嫉妬してどうすんのよ! それと人の恋愛事情をサラッと暴露するのは恥ずかしいか
らやめて!」
 左右のほっぺをグイーっと引っ張られるし、少年の彼女さんは喚いているし、約束を果たしたのにコラッタは
散々でした。
 だけどほっぺを引っ張られるコラッタは、どこか幸せそうでありました。当然といえば当然ですが、少年のい
ない間は、ほっぺたを引っ張られることもありませんでしたから。
 それから、少年と少年の彼女は、コラッタの縄張りの近くに家を立て、暮らし始めました。もちろんコラッタ
とその家族も一緒です。
 コラッタは一匹みつけたら四十匹はそこに住んでいると言われる、家族の多い種族でしたが、少年とその彼女
の間にも、たくさんのかわいい赤ちゃんが生まれました。
 たくさんのコラッタの家族と仲良く暮らす少年とその家族は、村の人たちから『コラッタ一家』と親しみを込
めて呼ばれるようになり、幸せに暮らしたそうです。
 おしまい  
たとえば、
とても大切な人が大怪我をして、
苦しんでいたとして
どうしてその痛みを分かち合うことが出来るのだろうか。
「……酷くやられたね」
レディはモルテの腕に包帯を巻いていた。切り傷、打撲痕、噛み跡。回収の際に姿を見て怯えたハーデリアから付けられた物だ。『かみつく』『かみくだく』
こうかは、ばつぐん。
『油断した。次は大丈夫だ』
「次が無かったら、どうするつもりだったの」
長い髪が春の風に揺れる。毛先が大分傷んできたようだ。そろそろ切りたいな、と思う。
『伸びたな』
「そうだね」
『最後に切ったのは……』
「半年前かな」
他愛も無い会話。包帯を巻き終え、鋏で切る。もう動いていいよ、と言うとモルテはそっと浮き上がった。
レディは鋏をジッと見つめている。
『どうした』
「あのさ、」
「『いたみわけ』ってあるだろ?」
カシャン、と音がして手から鋏が飛んだ。そのまま近くのゴミ箱に突き刺さる。続いてモルテの左手からぽたりと赤い血が流れた。
「……何を考えてこうしたかは知らないけど、手当てするのはこっちなんだからね。
そこらへん考えてね」
『いたみわけ。相手の体力と自分の体力を同じにする技…… あだっ』
「よかった。そんなに深くなくて」
お互いの傷を舐めあうのか。下らない。どんなに相手に同情したって、その痛みが分かるのは本人だけだ。かわいそうなんて言葉、軽々しく口にするもんじゃない。
「モルテ」
『なんだ』
「たとえ私が死に掛けたとしても、変に助けようとしないでよ」
返事が遅れた。だが確かに彼は、
『ああ』
と言った。
 おもに俺の空想(妄想)に
 へーいマグロ丼いっちょおおぉぉっ!
> うおおおおおキターーーーー!!!!!
> あんな後ろ向きのクイタランからこんなお話ができあがるとは...!!有難く頂戴致します。ありがとうございます!
 休み明け地理のテストの最中、大問4の後半で詰まる
 ふと外を見ると桜だがだいぶ散っている
 その中に山合いに一本だけまだ初々しい枝垂れ桜
 見上げるクイタラン
 ダージリン
 桜フレーバー
 こ れ だ
 そして時間が切れる。
 とか言いながら元々のネタは絵を見た3秒後位に出来ていたのに形にするのに時間がかかりまくりましたすいませぬ。
> クイタランは元からあんな目してるせいで、ひねくれてるというかこういう屋台の親父さんとかによく合うキャラですね。いいですねえ、俺もこんな桜散る屋台で一杯やってみたいものです。あ、お酒はすぐ赤くなるんでダージリンでネ
 アールグレイは少しきつめらしいですね。
 クイタランと紅茶は何処かに書いた奴と同個体ですタブンネ。
> 自分の絵からこのように物語を連想し形にしてくれるなんて今まで無かったのでとても嬉しいです。
> ワンチャンあったらこりゃもうメッチャ画力上げて音色さんの文章に似合うのを描かんとあかんな...
 な ん だ と
 となれば俺はさらにタクティスさんの画力に見合う文章に昇華せねばならんっ!
> 今後も影ながら応援させていただきます
 ありがとうございまするっ!
 それではっ
ことらさん 
返事が遅れて申し訳ありません。
やはり短編は読みやすい方がいいなと考えていたらこういう文体になってしまいました。
今回は、褒めて頂いてありがとうございます。これからの創作の励みになります。またこういう機会がありましたらよろしくお願いします。
それでは。
うおおおおおキターーーーー!!!!!
あんな後ろ向きのクイタランからこんなお話ができあがるとは...!!有難く頂戴致します。ありがとうございます!
クイタランは元からあんな目してるせいで、ひねくれてるというかこういう屋台の親父さんとかによく合うキャラですね。いいですねえ、俺もこんな桜散る屋台で一杯やってみたいものです。あ、お酒はすぐ赤くなるんでダージリンでネ
自分の絵からこのように物語を連想し形にしてくれるなんて今まで無かったのでとても嬉しいです。
ワンチャンあったらこりゃもうメッチャ画力上げて音色さんの文章に似合うのを描かんとあかんな...
今後も影ながら応援させていただきます
前書き:エロいです。カップリングです。http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=2335&reno= ..... de=msgviewの続編です。
「あ、そう。まぁジムリーダーなんて名前だけだし」
 初対面で、まだトレーナーになりかけ、しかもジムリーダーとして父親のことを尊敬していたのに、それを一言で一蹴したヤツがいた。
 その名はダイゴ。
「まだまだ甘いね。本当に言ったこと解ってる?」
 メタグロスの目の前には倒れたライボルトがいる。顔色を変えず、ライボルトをボールに戻した。
「解ってます」
 ダークトーンのむくれた声はハルカ。瀕死になったライボルトに元気のかけらを与えている。目の前にいる人間を視界に入れないようにして。
 彼女の目の前に立っているのが、ハルカのポケモンの師匠ともいうダイゴ。 トクサネシティにあるダイゴの自宅の地下にある、ポケモンの修行のための場所で。
「いや解ってないね。ラグラージの使い方からなってないね。一体いつになったら覚えるのかな?」
 爽やか笑顔のイケメン! そうトレーナーたちでは持て囃されているけど、ハルカにとっては嫌味のトサカ頭にしか思えない。 弱点を即座に見抜き、痛いところを毒針で刺すような言い方をする。
「いつか覚えると思いますが」
「全く。なんで素直じゃないかな。素直になりなよ」
 ダイゴはハルカのトーンにつられることなく、静かに言った。子供なハルカに対して、大人のダイゴは笑顔だった。ただし目は笑ってない。
 素直に、というのも、これだけ反抗、反発、逆らっておきながらダイゴに教えてもらっている状況を見ての通り、ハルカはダイゴの方が好きだ。 きっかけは本人が覚えていないくらいに、気付いたらダイゴが好きだった。
 けれど、ダイゴはムカつく。会った時に人をけちょんけちょんにけなし、認めようとしない。その矛盾にハルカは結局、反抗という態度しか取れなくなっていた。
「じゃあ今日はここまでで良いから。早く帰った方が良いよ。何か雨っぽいし」
「わかってますー」
 むくれたままポケモンをしまった。帰る支度を始める。ハルカの本音としてはもっとダイゴと一緒にいたい。けれどあんな態度を常日頃とっているのだ。きっと嫌われてる。その事実がハルカの手を自然と早くする。その彼女とは対象的に、ダイゴは窓から外を眺めている。うなる風に激しい雨。窓ガラスが叩き付けられ、今にも割れそうだ。
「じゃあ今日はありがとうございましたー」
 ぶっきらぼうな挨拶をして、玄関の戸を開ける。その瞬間、暴風と暴雨が室内に舞い込んだ。ハルカが慌てて閉めると、風がうなりをあげてぶつかってきていた。
「すごい風!」
「天気予報つけて」
 ハルカがテレビをつける。よせば良いのに、ミナモシティの海岸で台風さながらの実況中継をしている。しかもどのチャンネルも。画面の端には各地の情報が流れている。
「トクサネは?」
 雨戸を全てしめながらダイゴがたずねた。ハルカはテレビの前のソファに座ってトクサネの情報を待つ。
「暴風警報と波浪警報と洪水ですね」
「え、そんなに酷いの?」
 ハルカの後ろからダイゴが聞いて来た。遠くにいたものだと思っていたから、思わず振り向いた。
「なお、ポケモントレーナーには、勝負やなみのり、そらをとぶなどの技を控えるよう、注意がされています!」
 まず飛ばされそうなリポーターをしまった方がいい。近くを看板が暴風にのって飛んで行く。
「ねえ」
 ダイゴはまっすぐハルカの目を見る。
「帰れるの?」
 帰れるわけがない。ハルカの家はここから空を飛んで半時間のミシロタウン。空を飛べないならば、海に囲まれたトクサネシティから出られるわけがない。それを説明すると、ダイゴはハルカにとって意外な返事をする。
「それは無理だね。今はポケモンセンターもトレーナーでたくさんだろうから、しばらく家にいなよ」
 ハルカは心の中でガッツポーズをした。喜ばないわけがない。まだダイゴと一緒にいられる。それだけなのだが、ハルカにとって非常に嬉しかった。
 先ほどまであれだけ言ってたのに、お茶を入れてくれたり、お菓子を出してくれるダイゴ。これにはハルカもあの時の不機嫌はどこへやら、ダイゴを相手にニコニコ。
「それでですね、ユウキはキノココの方がかわいいって、進化させないんです〜」
「あの子もまるっこいポケモン好きだねぇ」
「そうなんですよ!それで」
 自分でも解らないくらい、話したいことが次々に出て来る。いつもこう、話せたら良いのに。話すのを一度やめて、ため息をつく。
「君もそうやっていつもニコニコしてればかわいいのにね」
 風で外の何かが倒れる音がする。ダイゴは見に行く為にレインコートを羽織った。
「素直になりなよ」
 まさか同じことを二回も言われるとは思わず、返事をしようとした時には遅かった。ダイゴはすでに外。
 テレビは変わらず警報を鳴らしている。予報によれば、今日の夜遅くには晴れるという。居られるのも夜中までか、とため息をついた。同時にダイゴが入って来るなり、ハルカに言った 。
「思ったより酷い。こんな暴風じゃ帰れないでしょ。家でよければ泊まっていくかい?」
 返事を待たず、ダイゴはびしょぬれのレインコートを脱いだ。短時間であったのに、髪はかなり濡れていた。そんなダイゴをずっとみながら、ハルカは嬉しさが隠しきれなかったらどうしようと、そればかり考えていた。
 一方、天気は夜になっても回復どころか悪化の勢いだ。窓の外を見ればライボルトの集会のように雷が鳴っている。雨は大粒、風は暴風。風がぶつかる度に家が揺れる。
 ダイゴは天気など気にせず、残りの仕事と言って、パソコンに向かっている。その横顔をじっと見ていたらいきなり振り向かれる。
「何?」
 まさか見とれていたとも言えない。上手い返しも解らず、ハルカは黙っていた。
「ああ、雷鳴ってるから停電するかもしれないし、早めにお風呂はいっておいで。着替えも、そうだね……客用のパジャマがあったかな」
 イスから立ち上がり、ダイゴはクローゼットの中からほとんど使われてない寝間着をハルカに渡す。
「たまに友達が来た時に使うんだけど、こういうのしかなくて。嫌?」
 ハルカはそれを広げる。明らかにかなり身長が高い男性のもの。これを着ればかなり引きずることは目に見えている。
「え、あの……ちょっと大きいですし……」
 ダイゴは困ったような顔をした。サイズが合わなすぎるのを渡したのもいけないが。しばらくダイゴは黙った後、ハルカから寝間着を受け取る。
「じゃあ、僕のお古になっちゃうけどそれでもいい?」
 その言葉はハルカの心に波打った。ダイゴの着ていたものを着れる。首を縦に振り、ハルカはダイゴから少し大きい前開きの半袖と短パンを受け取る。
「それ、旅行先で買ったんだけど、サイズ間違えたんだよ。ほとんど着てないから」
 そして上の棚から大きめのバスタオルを取り出した。ハルカをそれを受け取る。肌触りがいつも使っているものと全く違う。バスタオルに残ったいい匂い。それにぼーっとしていたのを不思議そうにダイゴが見ている。その事に気付き、ハルカはさっと方向転換してバスルームに向かう。
「全く……」
 ダイゴはため息をついた。黙って返されたパジャマを折り畳む。
 ハルカがシャワーから上がっても変わらず、ダイゴは書類の作製中。足音に気付いたのか、ちらっとハルカの方を見たが、すぐにパソコンの画面に目を戻した。
「ああ、先に寝てなよ。寝室でよければ使って」
「ダイゴさんはぁ?」
「これが終わったら今日は終わるから。子どもはもう寝た」
 ダイゴに言われるままにドアを開ける。いつも師匠が使っている部屋。整頓され、ベッドにはシワ一つない。緊張と嬉しさが混じり、ベッドにもぐりこんでいた。眠れる訳がない。
 あの師の、好きな人のいつも使っている空間。そこにいるのだから、たまらなくなる。少しベッドに残ったダイゴの匂いがハルカの心を締め上げる。掛け布団を抱きしめ寝返りをうつ。と思ったらすぐさま反対を向いて。
「ダイゴさんに素直になれたらなー。きっと嫌われてんなぁ」
 ため息が出る。もっと素直に可愛げのある弟子になれないものか。そうしたらもっとかわいがってもらえないだろうか。
 あーだこーだ画策していると、その思考を止めるように雷が光と同時に鳴った。爆音にも等しく、側にあったタオルケットを掴む。
 ドアが開いた音に、ダイゴは目をやった。懐中電灯の漏れた光に映るのはタオルケットを抱えているハルカ。ダイゴは書類を片付けていた手を止める。
「あ、あの、パソコン大丈夫ですかっ?」
 ハルカの声にダイゴはイスから立ち上がる。そしてディスプレイに触れた。 
「間一髪、電源抜き。さっきのは大きかったね。落ちたかな」
「そうですか。まだ仕事、あるんですか?」
 いつもと何か違う教え子の態度。ダイゴはふと昔を思い出して笑ってしまう。おかしくて仕方ないのだ。 
「どうして?」
 ハルカと目を合わそうとするが、たどたどしく視線が合わない。こういう態度に出る時は決まっているのだ。何か言いたくて言えないことを抱えてる時。
「雷が怖い?」
 タオルケットを力強く握ってる。子供ならこんな大きな雷が怖くても仕方ないだろう。ダイゴはなるべく優しく聞いた。
『素直になりたい 
素直になっちゃえ 
っていうか言ってしまえ私!』 
「あ、あのっ、邪魔しないから、一緒にいても良いですかっ!?」
 ハルカからしたら、告白に近かった。勇気を出して振り絞った言葉。初めて素直に自分の気持ちを口に出した言葉。それなのにダイゴは腹筋がよじれそうなくらいに笑っている。 なぜ笑われたのか解らないまま、ハルカは立ち尽くした。
「そんなこと聞くまでも無いよ。おいで。まぁ座りなよ」
 手招きに誘われ、ソファーに座る。もちろん、ダイゴにピッタリくっついて。ハルカは熱くなっているのを隠すのに必死。タオルケットを顔までかぶり、その隙間からじっとダイゴの方を見る。
「ねえ」
 ダイゴはハルカのかぶってるタオルケットを取る。いきなりのことに、ハルカは思わず叫んだ。
「返してー!」
 ダイゴは遠くにタオルケットを投げる。もうハルカの顔を隠せるものはない。そして気付けば、ハルカはダイゴの膝に片手をついていた。思いっきり顔をそむける。
 何をしてしまった。何がどうしてそんな近づいてしまった。ハルカの頭の中に後悔がぐるぐると回る。それはダイゴが優しく肩を抱いてくれたのも気付かないくらいに。
「そんなに雷が怖いの?」
 ハルカはダイゴの顔を見た。本当に心配してる顔だ。けれどすぐに目をそらした。するとダイゴはハルカを自分の方にさらに引き寄せる。
「大丈夫だよ。落ちないから」
 雷なんて聞こえてない。ダイゴの声しかハルカには届いてない。肩におかれたダイゴの手が暖かく、ハルカは思わずダイゴの着てるものを掴む。
「そう、じゃないです」
 こんなに近いのにダイゴに言うべき言葉が出て来ない。あの時もそうだった。言いたいのに言えない。ダイゴの胸に顔をうずめ、思いっきり抱きしめたいのにそれができない。せめてダイゴのパジャマの袖をぎゅっと握ることが、ハルカなりの好意の示し方だった。それすらも拒否されているのではないか。そう思うと、ダイゴの顔など見えない。
 暖かい手がハルカの顔に触れる。導かれるように顔をあげた。ダイゴと目があう。
「何遠慮してるの?さっきから隠そうっても無駄だよ。こっち見て」
 ハルカはもう何も言えない。緊張しているのもあるし、「余裕」の表情でこちらをみているダイゴには勝てない。口が乾き、心拍数が上がる。電気が消えて小さな灯り一つだというのに、目の前のダイゴはいつも以上にはっきりと見える。
「前に言ったよね。出す順番を間違えることが命取りになるって。君はポケモンもそうだけど、恋の勝負も知らなすぎる。僕の勝ちだ」
 優しくダイゴがハルカの頬をなでる。けれどハルカには全く意味が解ってなかった。今、なぜダイゴがこんなことをしているのか、恋は惚れた方の負けということ、そしてその勝負を仕掛けてられていたこと。
「何を言ってるんですか!そもそもまだ解らないじゃないですかっ!」
「君は降参を認めてることを言ってるのに解らないの?勝負はいつも、二手先を見るんだよ」
 もう、そんなことはどうでも良かった。ダイゴに抱き締められ、ダイゴにされるまま唇を塞がれる。柔らかく、そして熱い味が体に広がった。頭から足の先まで痺れる。すぐ側にダイゴの息を感じ、ハルカの体温をあげていく。何をされているのか、どうなっているのかなんてハルカには解らない。けれどダイゴが自分に対して何をしているのか、どうなっているのかは理解できた。それを感じ、ダイゴの膝の上にいながらも涙が出る。
「…僕何か泣かせるようなことした?」
 唇を離し、困ったような顔でダイゴはハルカを見つめる。
「いえっ…してないですけど、私、ダイゴさんに、嫌われてると…」
 頭を撫で、強く抱き締める。涙をぬぐうハルカを慰めるように囁く。
「それが恋の勝負だよ。君より多く生きてる分、君に勝ち目は無いんだよ」
 雨音が少し弱まる。そんなことに構うことなく、ダイゴは再びハルカの唇を塞ぐ。しびれ薬のように、ハルカの体を麻痺させた。それに気付いたのか、ダイゴは一度ハルカを解放する。そして目があった。
「ダイゴさん、好きです。ずっと好きでした」
「知ってるよ。ずっと待ってた。だからこうして君が欲しい」
 待たされた時間を埋めるかのごとく、何度も口づけを繰り返す。ダイゴは優しく、そして自分のものにしていくかのようにハルカを抱きしめ、唇に触れる。それだけでなく、舌をからませた。ハルカは抵抗の仕方も解らず、ダイゴにされるがまま。その身をダイゴに預け、目を閉じた。
 そのうち、ハルカはダイゴの手が、パジャマに触れていることに気付く。そして前開きのボタンを一つ一つ、上から外し始める。
「なぁに?元は僕のだからいいじゃない。それに、君くらいの年齢なら僕が望んでること、解るよね」 
「わ、かりますけど、でも……」
「怖い?」
 ハルカは頷く。ダイゴはハルカの頭を撫でた。
「本当に嫌なら、君が決めれば良い。時期が早いのは良くないし。それに君の年齢だと、下手したら僕が捕まるからね」 
 出会った時から「通り魔に会ったら、このボスゴドラで攻撃するから大丈夫だよ」とか犯罪すれすれのことをさらっと言う人だった。今もハルカの返事を待たずにやわらかい乳房を包み込むようにして触っている。
 まだ発達段階であるけれど、それなりの大きさがある。 試しにダイゴは乳房の先、乳頭に触れた。その瞬間にハルカの表情が変わる。
「痛いっ」 
「ごめんごめん。まだ若過ぎるからねぇ。もう少し大きくなれば、また違う感じがするよ」
 そう言いつつも、ダイゴはハルカの胸を離さない。初めての感触にハルカは目を閉じて耐えるしかなかった。
「この先も僕に見せてよ」
 ハルカの下着とズボンを素早く下ろす。そしていつもは触れられない場所に手を伸ばした。
「大丈夫?痛くない?」
「はい」
「若くてもちゃんと反応はするんだね。」
 たまごの白身のようにヌルッとしていた。指で撫で、場所を確認する。 ハルカの体の下の方に違和感が生じた。そしてそれは体内の中心へ向かっている。思わず息を飲んだ。そして痛みが来て悲鳴に近い声を上げる。 
「そう。困ったなぁ。これが痛いならなぁ」 
 痛がるハルカをよそに、指は動く。奥に行ったり来たり、入り口を広げるようにしたり。ハルカは目を瞑り、ダイゴにしがみつく。そうして痛みに耐えていた。好きな人にされてるからと言い聞かせる。
「いれたら気持ち良さそうだね」
 ダイゴは独り言のようにつぶやいた。
「入れるよハルカちゃん」
 ハルカが答える前に、何か硬いものが体の下に押して来ていた。最初は触れていただけ。次第にそれが奥に来ようとしてる。 そしてそれが入って来た瞬間、電撃が走ったかと思われるほどの痛みがハルカの体を支配する。
「いたぁっ!」 
 ハルカはダイゴの膝の上というのも忘れて暴れる。一番の痛みから逃げるように。 
「大丈夫?」 
 黙って首を横に振る。入ろうとしたダイゴの男性器はただ呆然とそこにある。 
「痛かった?」 
「はい」 
「そうか」 
 入っていたのはほんの少し。最初から予感はしていた。あまりに小さいこと、そして未発達な部分があること。そんな状態で決行できるわけがない。
「ごめんね。いろんなことがまだ早過ぎたみたい。君に痛みを与えたいんじゃなくて、気持ち良くなって欲しかったから」 
 ハルカのおでこにキスをする。それに応えるようにハルカはダイゴに抱きついた。 
「ハルカちゃんがもっと大きくなったら、この続きをしよう。時間はたっぷりあるから、焦らなくていい」 
 ダイゴは耳元で囁き、今まで高ぶった感情を落ち着かせようとした。けれど少しでも味わってしまった感触は中々消えない。ずっと待っていたのだからなおさら。唇、指先、性器の先に残った感覚は、収まってくれそうになかった。
「ダイゴさん」
「どうしたんだい?」
「できなくてごめんなさい。だからせめて一緒に寝てください。ダイゴさんと一緒に寝たいです」
「……君は素直になったと思ったら残酷なことを言うんだね」
 言われた意味も解らない。ダイゴに抱きかかえられて一緒に寝室に入り、ベッドに降ろされる。そしてハルカの隣にダイゴが入ってくる。
「ダイゴさん」
 痛くてできなくてもまだハルカだって足りない。ダイゴに抱きつき、唇に触れた。
「ハルカちゃん、もう寝なさい。君はまだ身体的には子供なんだから。大きくなれないよ」
 ダイゴに撫でられて、ハルカはもう一度口づけをした。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
 ダイゴに抱きつき、ハルカは眠気に身を任せた。
 けたたましいキャモメの声に目が覚めた。ハルカが起きると、ベッドにいて、着衣もちゃんとしている。
「あれ……?昨日のは……」
 空は突き抜けるように晴れ上がっている。あんなにダイゴが優しかったのも夢だったからか、と一人納得してベッドから出た。
「おそよう。人のうちで良く寝れるよね」
 いつもの鬼師匠だ。朝ごはんに呼ばれる。ガッカリして食卓に着く。
「そういえば…」
「なんですか?」
「やっと素直になってくれたんだし、今日は修業抜きでどこかデートでも行こうか?」 
「……ダイゴさんっ!!!」
 あまりに嬉しくて、ハルカはダイゴに飛び付いた。いきなりのことだった為、ダイゴも受け止められず後ろに飛ばされ、手はテーブルに触れて一部食器がジャンプする。
「あの、あのっ!!!行きたいです!!!大好きです!!!」
「ふふっ、もう全部知ってるよ。でも今まで通り、教える時は容赦しないからね」 
「はい!ついてきます!」
 夢じゃなかった。目の前に抱き締めているのは紛れもなく、一番好きな師匠、ダイゴ。年の差はあれども、誰よりも大切な人。確認するように、もう一度抱き締めた。
 
ーーーーーーーーーーーーー
好きすぎてトチ狂ったわけではない。
ポケモンのエロパロスレのために書いたもの。それを修正して仕上げた。
好きな人に嫌われる前に、その態度を改めて好きだと伝えて来ないと、後悔するのは貴方ですよ。ツンデレなど二次元の産物でしかありません。
【好きにしてください】
 桜が散る時期になった。
 風に吹かれて飛んでいく淡い花びらをぼんやりと眺める。
 踏みつぶされたアスファルトにばらばらと張り付いた花弁を見ると、どうも美しいという感情よりも汚らしいと思ってしまう。
 朝日に透ける姿や夜の月明かりを帯びる花明り、何より風の気まぐれで飛ばされること事態は綺麗に見える。しかし、散り終ったそのあとは人にポケモンに踏みにじられる。
 これを風流と見るべきか、自然の摂理だと割り切るべきか。
 まぁ、どっちでも良いんだけど。
 ぶらりと遅い花見に出かけた。
 一人だともの寂しいのだが、春も麗といった陽気な時間帯にゴーストタイプなこいつを起こすのは少し酷かとも思い、ボールだけ連れて足の向く方へ歩く。
 流石にシーズンを少し過ぎたからか、シートを広げて場所取りするような輩もいなければ、酒臭い宴会独特の空気もどこにもない。
 ただ残りの花を振るい落とし夏に向かって芽を出しかけている桜ばかり。春の飾り付けはもういらないのか、すこし揺れただけでも桜の雨が起こるだろう。
 ありきたり。
 桜の名所でもなんでも無いが、少しばかり固まっている公園をぐるりと一周した。
 不意にざっと雨が降る。時雨か何かだろうと思うが、天気予報を確認しなかったことを別段悔やむ必要はなかった。
 数十分の雨をしのごうと入りこんだ木の下は思いのほか広くて、脇道に誘うかのように枝を突き出していた。
 何故かそこだけ淡く濡れておらず、先へどうぞと促すようであったので別段逆らわずに進んでいった。
 そしてほんのわずかな傾斜を踏みしめた先にあったのは、少し古ぼけた屋台だった。
 
 花見がピークの時に立ち食い客のためにアメリカンドッグやらポテトやらでるのはまぁ、分かる。
 祭り騒ぎだから。
 しかしこんな人が訪れるかどうかわからないような場所にぽつんと寂れた店に誰か来るのか。穴場限定とかそういうのか。
 時雨はわずかに降り続いている。気にはならないほどに頬を濡らす。すこし肌寒いかなと思った。
 近づいてみるとかすれた看板にはどうにか『紅茶』と書かれているのだけ読みとれた。また妙なもん売ってんだなと眺める。
 簡単なコンロの様なうえに茶色い鉄瓶が乗っかっている。その横で乳白色のポットがぽつんとほったらかされていた。
 店主がいないってことは打ち捨てられているのか、その割には埃も何もかぶっていない商売道具。
 ひょいとその先を見ると、でかい枝垂れ桜が目に入った。
 残花ばかりを目にしてきたせいか、そいつはわずかな雨に降られていていても少しだって散ろうともせずただゆらゆらと桜色をしていた。
 その下にはただ佇んでいるだけの蟻喰いがいた。
 花守のよう、とまではいかないがただずっとその枝垂れ桜を見上げていた。
 不意にそいつと視線があった。クイタランは振り返りもせずじろりとただこちらを見た。どこかふてぶてしそうな表情にも見える。
 そしてぐるりとこちらに向き直った。首からは木のプレートをぶら下げている。のしのしとこちらに歩いてやってくれば、そこに書いてある文字が読めた。
『本日のお勧め  ダージリン 桜フレーバー』
 こんこん、と白いポットをつついて、不満足なのかそいつはかぱりとふたを開ける。
 爪の先に張り付いた桜を一枚ふわりと投げ込み、ぶっちょうずらのままふたを閉めた。
 そのまましばらく蒸らすのだろうか、また枝垂れ桜を見上げに離れる。
 確かにこいつは結構見事だ。雨は静かに止んでいたので、ふとボールからあいつを出してみた。
 丸くなっていたゴビットはしばらく外の寒さに震え、気がついたようにぐぐっと手と足をのばし俺を見る。
「見ろよ」
 垂れ下がる花に興味があるのか、思いのほか小走りでアリクイの横へと走る。
 クイタランは特に眺めるだけなのか、恐る恐るといった様子で手を伸ばすゴーレムに一瞥くれたのみでなにもしない。
 そうしてどれほどたっだだろうか、特に長い時間というわけではないだろうに。
 気がつけば見上げるのは俺とゴビットばかりで、クイタランはいつの間にやら屋台に戻って作業に没頭していた。
 きろりと視線がこちらに刺さった。
 爪で屋台を叩く。早くこちらに来いと急かすように。
 横柄な態度にいらつく前に、その仕草があまりにも浮かべている空気と似合っていてそちらに足を向ける。
 そこには白いポットから丁寧に注がれた、淡い琥珀色した紅茶が注がれていた。
 紙コップに。
 これは一杯いくらなんだろうかと飲みながらようやく頭が思考する。
 胸に広がる温もりは確かで、ほのかに香るこれは桜なんだろうか。
 風に乗って散るばかりのあれにも香りらしいものがあったのか。
 飲みほしてから息をつく。小銭入れがあったかどうかポケットを探った。
 相変わらずゴビットはずっと枝垂れ桜を見上げている。
 ちらりとアリクイをみると、俺が並べた小銭を勘定しているらしかった。
 数枚の10円玉が押し返される。余分だったらしい。
「ごちそうさま」
 一声かけてゴビットをボールに収める。
 不思議な穴場を見つけたものだと思った。
 後日、その場所にもう一度足を向けてみたのだが、探し方が悪いのか横道は上手く見つからなかった。
 いわゆる春限定であろうあの紅茶を、もう一度堪能したいものだ。
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余談  御題『桜』ということで。
あるお方からいただいた絵からヒートアップ。捧げます。
【好きにしていいのよ」
 ※会話文のみ
 あなたにとって、ポケモンとはなんですか?
 〜カントーの場合〜
 「愛すべき存在! どんなポケモンにだって、いい所はある! はず!」
 「はずって! じゃあシオンタウンで戦線離脱したぐれんはどうなんだよ。 アイツのいい所は?」
 「うっ……! え、えと……め、目が覚める色!」
 「それなんか違うだろ!」
 〜ジョウトの場合〜
 「うーん、仲間……かな? 一緒に冒険して、一緒に強くなる仲間!」
 「さすがヒバナさん! すばらしい答えですね!」
 「そうかなー? じゃあトモカは?」
 「友達……ですかね、一緒にいると楽しいですし」
 「あはは♪ 友達友達〜♪」
 「ヒバナさん!?」
 〜ホウエンの場合〜
 「……ポケモンはポケモンでしょ」
 「……」
 「……」
 「……え、終わりか?」
 「……はづき、まだキャラも決まってないのに出ていいの?」
 「そういうことは言っちゃダメだろ」
 〜シンオウの場合〜
 「家族かな。 一緒にいると、リラックスできるんだよねー ね、らいむ!」
 「うん! らいむもシュカと一緒にいると楽しい!」
 「らいむー! あたしのロメのみ食べたでしょー!」
 「あ、うみなだ〜♪ に〜げろ〜♪」
 「あ、コラ、待ちなさーい!」
 「あっはは。 今日も平和だね……」
 〜イッシュの場合〜
 「未知の生き物かしら。 知れば知るほど、もっと知りたいと思えるのよね……」
 「イケメンと一緒にいると、イケメンのイケてる度120%アップする存在!」
 「……」
 「特にカイリューとかと息ピッタリでバトルしてたらもう……キャーキャーキャーキャー!」
 「……今日もモモカは通常運転ね……」
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 風呂の中で思いついて深夜テンションで書き上げた。 
 新キャラをちょっとだけ説明。
 はづき ジュカイン♂
 エンジュの手持ち。 性格未定。
 トモカ
 ジョウトのトレーナー。 新SS(データ削除後のSS)主人公。 ヒバナを尊敬している。
 てか、キャラ多いな……でも、全地方の主人公+手持ちポケだし仕方ないか。
 [書いていいのよ]
初めまして、ことらと申します。
この話とても好きです。初めて見た時、星新一のショートショートのような文体に、淡々と進むストーリーだなと思いました。
そんな一見だけでも良かったのですが、読み直すと淡々と進むからこそ見えてくる人物の裏やしぐさが、書いてないのに想像できます。これは凄いなと思いました。
では失礼します
キャッチコピーの募集終わりました 協力ありがとうございました
まだまだ拙いながらもたくさんの助けを借りながら頑張っていかせていただきます。
度々失礼します。タグをつけ忘れましたので報告します。
【批評していいのよ】
作品の感想を頂く機会があまりありませんので、宜しければお願いします。
それでは、失礼しました。
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