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これは酷いとしか言いようがないwwって感じの話ですね。クズにもほどがあるゴールドも笑えますがムキムキミカン(まるで剥いた後の食い物の方のミカンみたいな響き)にも笑いました。
一行目のURLまかせの表現にもセンスを感じます。文章的には反則なのかもしれませんが、このノリならむしろありだなあと思いました。頭の中でああひでえひでえと呟きながら読んでいたら最後の酷い絵(何気に上手)も衝撃的でした。ソウルハートの掛け合いも心地よくてあっという間に読み終えました。
ちなみに酷いは全て褒め言葉です。
歩けど歩けど山は続く。
ガイドのシェイミはとても明るくて山の植物の解説をしたりしてるけど、ひのめは聞いてるのやら。
後ろを振り返ればひのめの六つのしっぽは全部垂れ下がっていて、これは元気ないなと思った。けど私も人の事をいってられないくらい疲れてる。
ニューラが保護されたくらいなんだから、この山は相当険しい。で、なんで登ってるんだろうって思う。いっそこの耳が翼みたいにふわーってならないかしら。私が知ってるかぎりそんな進化はしてくれないけど。せめてしっぽが軽くなってくれないかな。普段は気にならないのに、今はタイヤを引きずってるみたい。
そんなに元から山登りが好きな方じゃないのに、わざわざなんで山に来て息きらせてまで来てるんだろう。あー、別に登らなくていいよね。重力って本当重たい。
急な勾配を勢いつけて飛び登った。そこには山がなかった。
見えるのは空の青。青、そしてグラデーションの緑。足元の白。高山植物が色とりどりの花を咲かせている光景。
ひのめはそこに仰向けに転がって頂上だーって喜んでる。私は足場がある限りまで行った。
いきなり来てしまった世界は息を呑むほど美しかった。いつもいるトレジャータウンが小さかった。ギルドなんて見えない。
ああそうだ、ここはこんなに美しくてだからこそ……
「あの店、通信ケーブルと進化の石が置いてあるどうぞ」
「了解、ひきよせだまを使うので階段の近くに集合すべしどうぞ」
「了解、念のため通過スカーフ装備確認どうぞ」
ダンジョンに響くカクレオンのドロボウコールを毎回すり抜ける探検隊。7テール(セブンテール)という探検隊はたくさんの経験と豊富な戦闘回数により、誰もが手に負えない探検隊へと成長していた。
「了解。7テール、出動!」
ひのめのしっぽと私のしっぽ。
あわせて7本のしっぽは探検隊。ディアルガと戦った唯一の探検隊。
あの日みたこの世界の全てを探検しきれるとは思っていない。けれどあの日みたこの世界は全て美しい。
「ばあちゃん、そっちで元気にしてるかなぁ……教えてくれよ、おチビちゃん」
私はフラフラと宙を漂っていたヨマワルに、余ったお供えのおはぎを差し出し、尋ねてみる。
甘い匂いに誘われたヨマワルは、真っ白な骨の仮面をおはぎに口付け、その裏にあるのだろう口を動かしせかせかと放り込んでいる。
観光客というわけではないが、多くの人間が訪れる場所である。人に慣れてすっかり甘えることを覚えたヨマワルは、他のヨマワルが寄ってこないうちに全てを食べてしまおうという算段のようだ。
「答えない、か」
当然だよな、と私は笑う。
声を掛けられたヨマワルは、仮面の下にある一つ目でこちらを一瞥したが、それっきりおはぎを食べるのに夢中である。死者へのお供え物のつもりだったがやはり生きている者に与えたほうが、こういった可愛い反応を見られて楽しいものだ。
そう思う反面、もう少しばあちゃんに孝行をしてやれれば良かったなとも思う。
私は早くして両親を亡くし、母方の祖母夫婦に引き取られた。しかし、高校の頃に祖父は他界。祖母も社会人になって一年目、大した恩返しも出来ないままに急死してしまった。祖母は、善人の塊みたいな人であった。私の世話を嫌な顔一つせずに行い、反抗期もめげずに世話を焼いてくれたが、そんなのは序の口だ。
若いころ、勇敢だった祖母は箒を持ってゴロツキ相手に啖呵を切るなど、無謀なこともしたようで。その威勢の良さでご近所のトラブルを解決したこともあり、諍いの解決という一点においてはその武勇伝の数は二桁の半ばまで聞かされたものだ。
敬虔な仏教徒というわけでもなく、普通に肉や魚を食べている人ではあったが、今思えば善人を絵にかいたような人だと思うし、近所の人たちもそう言っている。
そんな祖母は天国へ行っただろうか。
私はこの彼岸の日にふと思う。
遥か西の彼方にあるという極楽浄土に、祖母はたどり着けたであろうか。せめて弔いだけはきちんとやったつもりであるから、私は祖母がたどりつけたと信じたい。
死者を迎え、手招きするというこのヨマワルという種族ならば、死後の世界にも行けるんじゃないかとは思ったが、狩りに行けたとして祖母にあったという保証はないし、祖母と私のつながりが分かる望みも薄かろう。
たとえ、ヨマワルが人の言葉を流暢に操ったとして、無駄なことだとは分かっていた。
やがておはぎを満腹になるまで食べ、喰いかけのおはぎを後にしたヨマワルを見送り、私は昔どこかで教えてもらった歌を思い出す。
『ひがしずみ にしの方へと 夜回る 日が沈む様 夜のお迎え』
日が沈む時間帯に、彼岸の日を済ませた祖先の霊たちは、再び西のかなたにある浄土に帰り、死の方へと夜と共に向かう。その案内をするのはヨマワル、サマヨールであるという事を歌った内容だ。
掛け言葉の多さが評価の一つとなっていることが一つの評価につながっているが、当然それだけではない。実際に彼岸の前後の夜ではこのヨマワルやサマヨールの目撃例は多く、当時の人間はこの短歌の内容を本当に信じ込んでいたのだという。
実際は彼岸の後に海でドククラゲやメノクラゲが多くなるのとそう変わらない、ただの季節の風物詩なのだろうが、この骸骨のような見た目の仮面や、基本的に夜に現れると言った習性がそんな言い伝えを生んだのであろう。
そして、この短歌には続きのような歌がある。
『彼岸すぎ こちら側より 東風が吹く わかれと告げて ししゃは旅立つ』
春分を告げる彼岸の日を過ぎ、春の訪れとともに東風(こち)が吹く。こちら側の世界とは、もちろん生者の世界である。そこから別れを告げるように吹く東風。わかれというのも、別れの辛さを分かれと言う、二つの意味を持った掛け言葉で構成されている。死者の魂は運ばれていくのだろうか。そして使者たるヨマワル達も西へと消えてゆくのだろうかと。
この歌は同じ作者の作品で、これまた掛け言葉の多さが特徴だ。
「……分かれ、か」
頭ではわかっている。だが、もっと親孝行してあげたかったという思いは消えない。
再びヨマワルが現れる。今度は二匹で、仲良くおはぎを食べに来たようだ。
さっとそれを差し出してやると、二匹のヨマワルはかぶりつくようにそれを食べた。
今はそう。どこかでばあちゃんが私を見ていてくれるなら、立派に生きて幸せになることこそが親孝行だ。うじうじしていても仕方がないのだ。
すぐに割り切ることは出来ないだろうが、いつかは立ち直らなければならない。私はおはぎを地面に置くと、ゆっくりと夕日に願掛けをしてからその場を去る。
もしもまだばあちゃんが安心して天国へ行けず、まだ成仏していないのであれば、安心して逝けるように生きてみよう。その時はばあちゃんの道案内をよろしくと餌を与えたヨマワルに言って、墓地を場所を後にする。
――――
短歌作ったはいけれど、なんかもう内容がまとまらなかった。
「よし、できた。これでもっと使いやすい物になるぞ」
青年は、一つのモンスターボールを握り締めながら言った。
ここは青年の家。彼は若くして有能な研究者だった。彼は世間で話題になる流行や、友人が結婚したとか、そういう話には一切興味を示さなかった。ただ一つ、彼を夢中にさせたのは研究だった。特に、新しい物を開発するなど、既に存在するものを改良して、更に良い物にすることに情熱を注いで生きてきた。当然恋人もいないし女遊びもしない。
そして今、まさに彼の研究が一区切りついたところだった。
「これは一番安く買えるモンスターボール。従来よりも、ずっと捕まえやすいように改良することに成功したぞ。これを
シルフカンパニーに売り込めば、きっと僕の実績を認めてくれるに違いない」
青年は、とても嬉しそうに呟いた。
彼は研究だけが取り柄だったので、他に何もできない。運動なんて苦手だし、対人関係もあまり得意ではない。家事もできないし働かない。ただ自分のしたいことをする。そんな生活を続けていた彼は、先日とうとう実家から追い出されてしまったのだった。
こうなってしまっては、お金がないので生活できない。研究が好きと言っても、子どもが遊ぶ玩具の構造がどうなっているのかなど、自分が興味を持つことしかやってこなかったので、具体的にお金を生む成果を出してこなかった。儲ける権利を独占できるような結果を生んでも、それをわざわざ発表しようとは思わなかった。ただ自分が興味を持つことについて調べてみたい、それだけなのだ。
数少ない友人の紹介で、研究に集中できる機関に入れて貰ったこともあった。しかし、途中で同じ仲間からあの資料を取ってなど、そろそろ成果をだせだの、横やりを何度も入れられ、彼はその機関から離れてしまった。自分の研究に余計な口出しをして欲しくないし、やりたくないことを無理に強要されるのはまっぴらごめんだった。
だが甘いことも言っていられない。資本主義の世の中、金がなければ飢え死にして死んでしまう。
だったら、自分が興味を持ったことをお金に変えればいい。そうして研究したのがこのモンスターボールだった。
モンスターボールは、シルフカンパニーが販売する商品の一つだ。シルフカンパニーと言えば、ポケモンを便利に持ち運べ、彼らと仲間になれる便利な道具であるモンスターボールを開発した会社である。文句なし一流の大企業。普通なら難関な筆記試験を受かり、何度も面接をするか、コネを使うかしないと入社できない。だがそれは、一般人の話だ。彼には、研究知識と探究心だけは持っている。
そしてありがたいことに、モンスターボールの研究については、ここ数年で飽きることがなかった。ボールの構造、素材、耐久度、性能、ありとあらゆることを調べ尽くした。まだ秘密があるなら、もっと知りたい。この情熱が冷めないうちにお金に繋げておきたい。もし駄目なら、そのときなったら考えよう。
ぼざぼざの頭を整え、体も洗い、何日も着ていた服を脱ぎ、髭も剃る。一番立派な正装で身を包んだ。時刻は丁度お昼。一時間もあれば本社に着けるだろう。
扉のドアノブをつかんだとき、突然呼び鈴がなった。
そのまま玄関ドアを開ける。扉の近くには、グレーのスーツに身を包んだ一人の老人と、黒いスーツを着た複数の男が立っていた。老人の隣には毛並みが美しいルカリオが立っている。仏頂面の老人は、黙って青年を見つめてくる。
「突然の訪問を失礼するよ。私はこういうものだ」
老人に付きそうルカリオが黙って青年に名刺を渡す。そこにはシルフカンパニー代表取締役の文字。つまり…
「あなたは、あの有名なシルフカンパニーの社長ですか?」
「いかにも」
青年は、もちろん驚いていた。まさか、これから行こうとしていた会社の、しかも社長が家に来るなんて。でもなぜだろう。確かにモンスターボールを弄り回していたが、改造したボールを売って儲けたりはしていないし、ボールの研究内容を公表していないので、犯罪行為にはならないと思うのだが。
「もしよかったら、君の家に上がらせて貰えないだろうか。内密の話をしたいのだが、見たところ、君はこれから出かけるようだね」
「はい。これからシフルカンパニーに行こうと思っていたのです。私を雇ってくれないかと、相談に行こうと思いまして」
「なるほど。なら手間が省けた。君は、我が社のモンスターボールについて随分研究しているようだね。その件で今日はここに来たのだ」
そう言うと老人は目を細めて穏やかに笑った。
青年は、これはチャンスだと思った。会社の偉い人と直に話せる機会なんて滅多にないだろう。言われたことを黙々とこなし、責任も中途半端な社員と直談判するよりずっとやりやすい。自分の熱意も直接伝えることができる。
「分かりました。汚い家ですが、ボディーガードの方もどうぞ」
「いや、私と彼女がいれば充分だ。彼らは外で待たせる」
そう言うと、老人とルカリオは青年の家に入っていった。青年は数人の側近に見つめられながら、ゆっくりと玄関の扉を閉じた。
青年が中に入ったのを確認すると同時に、ボディーガード達は高級そうな黒い車の中に入り、複雑な機械を作動させた。それらは、外からの盗聴しようとしている人の電波を阻害するものだった。
これで、青年と老人と一匹のルカリオしか中の話は聞けなくなった。
「粗末な部屋ですが」
「構わんよ」
紙が散乱したリビング。そこに置いてある安いソファーの上に老人が腰かけた。青年がなんとか綺麗なコップを見つけお茶を注ぐ。それを差し出すとルカリオが受け取り口をつけた。
青年は驚いたが、ちょっと飲んだだけで直ぐに老人に渡した。どうやら毒味らしい。
老人は、青年の入れたお茶を一気に飲み干した。
「うん、美味しいお茶だ」
無意識に青年は黙って頭を下げた。
「さて、早速本題に入ろう。話したいことは、先程言ったように君の研究内容についてだ」
「そのことですが、私は何か悪いことをしたでしょうか」
「どうしてそんなことを言うんだね」
青年は、老人の前に座りながら申し訳なさそうに言う。
「私は随分モンスターボールについて分析してきました。正直に言いますと、材料と技術があれば自分で組み立てることができるくらい、モンスターボールについて把握しています。ですが、不法にボールを製作し販売したこともありませんし、研究内容を誰かに話した覚えもありません。でもこうして社長がわざわざ来たということは、私を野放しにできないということかと思いまして。私は何か、重要な秘密を知ってしまったのでしょうか」
「君は実に物分かりが良い。だが勘違いしないで欲しい。今日は、私の仲間になって欲しくてここに来たのだ」
「というと?」
「君を我が社に入社させたい。どうかね?」
青年は冷静にはあ と返事をしたが、内心は小躍りしたい程舞い上がっていた。まさに棚からぼた餅。こちらから向かおうとしたら、向こうから誘ってくれるなんて。社長から頭を下げてくれるということは、給料や待遇を、こちらから強気になって交渉できるということだ。多少の我儘を言っても妥協してくれるだろう。
「しかし分かりません。私は交友関係が少ないのに、どうやって私がボールの研究をしていることを突き止めたのですか?」
「君の友人に、我が社に勤めている友人はいないかい?」
そういえば、そんな友人もいた気がする。余計なことを話した覚えはないが、ボールに興味があることだけは伝えたと思う。そいつとはもう数年の付き合いになるので、興味があると言っただけで、どこまで追究しているのかを察することができたのだろう。
「どうやら検討がついたようだね。一応私は社長だからね。どんな些細な情報も耳に入れるようにしているのだよ。まあ、君の近所にも話を聞いたがね。調べようと思えばいくらでも調べることはできる」
「素晴らしいと思います。社長というのは、ただえばって支持しているだけの存在かと思いました」
「大抵の社長は忙しいと思うぞ。少なくとも、私は名ばかり社長ではないと自負しているがね」
そう言って老人は笑った。青年も釣られて笑う。ルカリオは、相変わらず無表情のまま二人を見つめていた。
「話を戻そう。君はとても研究熱心なようだ。そこで、我が社でモンスターボールをより良いものに改良するための研究をして欲しい。報酬と待遇についてはきちんと交渉しよう。しっかり話し合った上で契約してくれればいい」
ここまでは男の思惑通りだった。やはりこの老人は、自分の力を認めてくれているのだ。きちんと話し合う段階で妥協しなければ、好きな研究ができる。そして金も入る。文句ない最高の話だった。
「もちろん前向きに考えさせて頂きます」
「そうか、それを聞いて嬉しいよ。早速だが、報酬や仕事内容の前に大事な話をしておきたいと思う」
「大事な、話ですか?」
「そうだ。モンスターボールができた経緯だ」
老人が持ちかけてきた話は、予想もしていないことだった。
経緯、つまりボールができる歴史のことだろう。モンスターボールはシフルカンパニーの看板製品だ。そこまで詳しくは知らなないが、会社の売上を左右する商品であることは間違いない。そんな商品について真っ先に語ろうというのだから、余程重要なことなのだろう。青年は真剣に耳を傾ける。
「そして、この件については誰にも告知しないことを約束して欲しい。将来結婚してできた妻にも、息子にも、世界で一
番大切な友人にもね。ここまで聞いて言いふらさない自信があるなら、話させて貰おう」
老人は、とくに念を押して青年に語りかける。彼は、数分考えるふりをした。そうでもしないと、この先の秘密を老人が話してくれそうもないからだ。ここまで来たら全てを知りたい。青年は好奇心に負けていた。
「分かりました。秘密は誰にも話しません。誓います」
「では話そう。ルカリオ、いつまでも立っていないで座りなさい」
老人がそう言うと、これまで仮面のように表情がなかったルカリオは老人の隣に腰かけた。こころなしか、ルカリオは老人に寄り添っているように見える。
「実はね、モンスターボールは、ポケモンの言葉を奪う道具なのだよ」
「言葉を奪う道具? それはつまり、どういうことですか?」
「そのままの意味だ。モンスターボールは重くて巨大なポケモンも簡単に持ち運べるし、凶暴なポケモンも、捕獲してしまえば性格がある程度温厚になり、人間に懐きやすくなる。我が社の初代社長が必死に完成させた、今でも売れ続ける大事な商品だ。現在は世界中で使われていて、人間とポケモンが歩み寄るきっかけになっている。大胆に言えば、世界を変えた商品と言っていいだろう。ここ数十年、我が社は一度も赤字を出していない。私も取締役を任され、誇りを持って仕事をしている。しかし綺麗な話は表向きの話だ。ボールを研究していた君なら分かるのではないか? ある部分に、無駄なスペースがあるのを」
「それには心当たりがあります。ボールの機能と全く関係ない部分がありました」
「そうなのだよ。その関係ない部分に、捕まえたポケモンの言語学習能力を奪う装置が埋め込まれているのだ。奪うと言っても人間の言葉を喋る機能だけだがね」
「どういう仕組みなのですか?」
「簡単なことだ。捕まえたと同時に、ポケモンの脳の一部分に軽い電流を流す。それでおしまいだ。ポケモンの体を傷つけることはない」
「つまり、ポケモンが人間の言葉を話さないのは、あのボールのせいだと言うのですか」
「その通りだ。不思議に思ったことはないかね、ポケモンは人間と同じような生活ができるし学習能力も人間とさほど変わりない。それにも関わらず、なぜ同じ人間の言葉を話さないのかとね」
「確かに考えたことはあります。でも、それがまさかあのボールが原因だったなんて」
「一度ポケモンを捕まえて逃がすことがあるだろう? 言語学習能力を奪うと、それはそのポケモンの子孫にも効果が持続する。長年の間、ポケモンはモンスターボールで捕獲されたり逃がされたりを繰り返してきた。世界中にいるポケモンは、殆どボールの影響を受けているはずだ。最も、伝説のポケモンのようにボールと無縁のポケモンもいるが、それは仕方ない。彼らの中には、神と崇められている者もいるからな。まあ、ボールの効果は完全ではないがね。時々成功しない例もあるが、それは限りなくゼロに近い確率だ」
「どうしてそんな機能を加えたのですか。ポケモンと人間が直接話すことができれば、社長が言った、人間とポケモンが歩み寄るきっかけにもっと近くなると思うのですが」
「そう思うのも当然だ。我々人類だって言葉が通じないために、交流が難しくなることもしばしばあるからな。だが、これは重要なことなのだ」
「そうなのですか。あ、ポケモンが人間程に知識を高めることを恐れたのですか。人間よりも有能で、高学歴なポケモンが生まれたら困るからですか?」
「なるほど。そういう考え方もできる。人間がこの世を支配している以上、人間の言葉を使えなければ、同じ人間に物事を伝えることは難しい。本が読めても言葉にならなければ、直に考えを伝えられないからな。しかし先代の社長達は、そうは考えなかったようだ」
「だとすると、どういう理由なのでしょうか」
「実に単純な理由だよ。ポケモンと人間の恋を実らせにくくするためだ」
「ポケモンと人間の、恋ですか」
「そうだ。信じられないだろう、下らないと思うだろう。だがこれは重要なことだと思っている」
「いや、否定するつもりはありません。ただ、全く予想していなかったことなので」
「驚くのも無理はない。ポケモンと人間の恋愛を防ごうだなんて、一般の人から見たらカルトだとか、宗教だとか言われそうだからな。だがな、別に私はそれ自体を反対している訳ではないのだよ。時代が進んだ今、差別なんてものは過去の話だ。白人と黒人が愛し合うのに、なんの違和感もないだろう。ポケモンと人が互いを好きになってもなんらおかしくはない。だがね、それを余りにも公に許してしまい、将来人類が滅びてしまうのを危惧しているのだ」
「それが人類の滅びる理由になるのですか?」
「なるとも。人間を繁栄させるのは人間だ。逆に言えば、ポケモンを繁栄できるのはポケモンだけだ。人間とポケモンが交じり合うとどうなる。子どもが生まれない。そうなると、未来の子孫の数が減る。そして子孫も同じことを繰り返し、またあまり子どもが生まれない。最悪の悪循環だ」
「でも中には、子どもが要らない夫婦もいるでしょう。無理に子どもを産ませて育てさせることもないでしょう」
「子どもを作るのは個々人の自由だ。だが、世の中を子どもが産める環境に整えておくのも大事なことなのだ。歴史を振り返ってみれば、金がないからと子ども作らない時期もあったらしい。綺麗ごとを並べても、子どもをきちんと育て教育するのにはお金がかかるからな。今は国家が保証してくれるから問題ない。だがポケモンと人間だと、どう頑張っても子どもが生まれないのだ」
「そこで、言葉ですか」
「そうだ。言葉は重要なコミュニケーション手段だ。自分の口から出た単語からは、なによりも気持ちを込めることができる。それを奪うだけで、人とポケモンが恋に落ちる確率は低くなる。大事なのはゼロにすることじゃない、低くすることだ。そんな障害を乗り越えてでも恋に落ちるなら止めはしない。寧ろそこまでいけば本物の恋だろう」
「―――それが、このボールの秘密ですか」
「ああ、そうだ。影から人類の繁栄を支えている商品だ」
ほんの数秒の静寂。老人の目は、真剣そのものだった。
「約束通り、このことは公言しません。研究さえできれば僕は満足です」
「ありがとう。研究はそう簡単に結果がでるものではないからな。ゆっくりと成果を出してくれればいい。一応報酬と待遇について、君の希望を聞いておこう」
青年は、一般のサラリーマンの数倍の報酬と、余計な口出しされない環境を請求した。老人はゆっくりと頷き、二つ返事でこの条件を了承した。
老人は、隣に寄り添うポケモンの頭を撫でる。ルカリオは嬉しそうに好意に甘えている。
「社長は、随分そのルカリオと仲がよいのですね」
「ああ。私の恋人だ」
「恋人―――ですか」
「恋人だ。キスもするし夜は一緒に寝る。セックスもする。最高のパートナーだよ」
「ポケモンと人間の恋を邪魔する商品を作っている企業のトップが、ポケモンと恋に落ちているのですね」
「ああ。だからそこ、私はあのボールを作り続けようと思っている。人類が滅びるのを、少しでも遅らせるためにね」
青年は静かに言葉なしで心が通じ合っている一人と一匹を見つめる。そのあまりにも自然な様子に、僅かに羨ましいと思ってしまったが、彼は口に出すことはなかった。
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初めまして。フミんと申します。日頃からマサラのポケモン図書館にはお世話になっております。
粗末ながら、作品を置かせていただきます。万が一、管理人さんが内容に問題があると判断された場合、削除してくれて構いません。
時々、作品を投稿しようと思います。宜しくお願い致します。
【描いてもいいのよ】
メルボウヤさんこんにちは!
いつも(メールで)感想ありがとうございます!
この間は大変結構なものをいただきまして……
とまあ挨拶はこれくらいにして(笑)。
イースターっていままでありそうでなかった気がします。
ハロウィンはわりとメジャーになってきましたが、実はよく知らない人多いですよね。
おはずかしながらこれを読むまでよくしらなかった人がここに一人……(苦笑
ジグザグマという配役が大変によろしいと思います。
ものひろいは他にも応用が利きそうなおもしろい特性ですよね。
贅沢を言うなら、鳴き声による表現が多かったので、もう少し動作とか表情とかの描写で表現すると「絵」が伝わりやすいかなーと思いました。
初投稿ありがとうございましたー!
第一回・第三回も考えられてるとこいうことで期待しておりますよ フフフッ
では!
日に日に暖かさを増す麗らかな四月の、とある日曜日。
タチバナ家では朝早くから『イースター』のための飾り付けや、ご馳走の準備が着々と進んでいます。
イースターとは、簡単に言えば“春の到来を祝うお祭り”です。
クリスマスやハロウィンに比べると知名度は低く、これをお祝いしている家庭を見たことのあるひとは、そんなにはいないのではないでしょうか。事実、ここカナワタウンでイースターをお祝いしているのは、この家一軒きりでした。
そんなタチバナ家には、ナズナと言う名前の、九歳の女の子が住んでいます。
ポケモンブリーダーのお父さんと、元ポケモントレーナーのお母さん。そして二人の仲間ポケモンたちと一緒に、毎日仲良く暮らしています。
……元気に幸せに、暮らしているはずでした。
「よおし。そんじゃ、そろそろ始めるぞ!」
「ぐぐぅん!」
ナズナのお父さん、コウジが、明るく大きな声を上げました。彼の足下では、イッシュ地方では珍しい豆狸ポケモン、ジグザグマが、ぴょこんぴょこんと跳ねています。
色とりどりのチューリップが咲き誇るタチバナ家のお庭にて、今年も『エッグハント』が開催されようとしています。
エッグハントは、お庭の色々な所に隠されたイースター・エッグ――色付けや飾り付けを施した茹で卵のことで、とても大切な意味を持つイースターのシンボルです――を、子供たちが競って探し出すゲームです。
ご馳走を食べるお昼までの時間にこのゲームをするのが、タチバナ家で祝われるイースターの、毎年の恒例行事なのでした。
「……うん」
コウジとジグザグマ(皆はジグちゃんと呼んでいます。ジグちゃんは幼い女の子です)に遅れて、ナズナも同意します。しかしその声は消え入りそうなほどか細く、元気がありません。
そのことに気づかない振りをして、コウジはふたりの前に小さなバスケットを置きました。ナズナの方はピンク色、ジグちゃんの方は水色で縁取りがされた白地のハンカチが、中に敷かれています。
「制限時間は二十分。より多くの卵を見つけた方が勝利! 豪華賞品をゲット出来るぞ!」
例年と殆ど同じ言い回しですが、これを聞くと、今年も始まるのだなと気が引き締まります。
まだ幼くて知らないこと、解らないことだらけのジグちゃんですが、豪華賞品という言葉が素敵なものを意味することは理解しているのか、箒の先端に似た尻尾を、やる気充分といった風に振り回します。
対するナズナはと言うと、足下のバスケットを持ち上げようともせず、視線を明後日の方向に投げています。
そんな上の空な娘を、コウジはやはり気にかけていない様子。
「よーい、スタートッ!!」
賞品の内容を一頻り述べ終わると高らかに声を上げ、手をパァンと一つ、打ち鳴らしました。
さぁ、卵狩り競争の開幕です!
「ぐぐーーっ!!」
電光石火のごとく飛び出したジグちゃん。そのまま庭を囲む生垣に激突しそうな勢いですが、すぐに直角に左へ折れて、直後、今度は右へと素早く折れ曲がります。
「そら、おまえも行って来い!」
競争相手に抜け駆けされたというのに、ぼんやりと突っ立ったままのナズナに、ようやくコウジが声をかけました。バスケットを両手持ちにさせて、その両肩を掴んで後ろへと、彼女を振り向かせます。
「……うん」
またもや元気のげの字も無い返事でしたが、父親は満足げに笑うだけ。
気が進まないとはいえ、いつまでもここでこうしていても仕方がないので、ナズナもジグちゃんの後を追って春の陽光の下、卵狩りへと出掛けることにします。
「ぐーん♪」
そうしてナズナが玄関を離れるため一歩踏み出した時、ジグちゃんがジグザグと方向転換をしながら戻って来ました。
口には卵が一つ。早速イースター・エッグを探し当てたようでした。
ジグちゃんは、落とさないように大切に卵を咥えて来ると、玄関先に置いてある自分のバスケットに入れました。薄紫色のお花が描かれた卵。ムンナ柄の卵です。
「ジグちゃんもう見つけたのっ」
開始から一分も経たない内に卵を発見する偉業を成し遂げたのは、これまでの、数々のエッグハンターの中でもジグちゃんが初めてです。
「さすがジグザグマ、早いな!」
ジグザグマというポケモンは、独特のジグザグ歩行で、物陰に隠れている宝物を見つけるのが得意なのだと、コウジは説明しました。昨夏に生まれたばかりのジグちゃんでも、それは生まれ以ての能力、ジグザグマの本能です。
ジグちゃんは歴代の競争相手の中で一番幼く、実は一番手強いポケモンなのです。
こうなってくると、本気を絞りに絞らなければ、ナズナが今年の豪華賞品を手にするのは難しそうです。
今年こそは……いえ、今年だけは絶対に勝たなければならないのです。強く望んでいた物が、春一番で手に入る大チャンスなのですから。
そうだ、とナズナは心の中でひっそりと自分を奮い立たせます。
待ち焦がれていた春と、イースター。
こんな無気力な状態では、去年の自分に、何やってるのと怒られてしまうでしょう。
それにきっとあの子だって、ナズナに頑張って欲しいと、思っているはず。
「…………」
ふとそうした考えが浮かんで、折角勇み始めていたナズナの気持ちが悄々と、元に戻ってしまいました。前進していた両足も、ぴたりと止まってしまいました。
彼女はまた、あのことを思い出してしまったのです。
再び心が沈むナズナの傍らを、春風とジグちゃんが通り過ぎます。
「…………」
何気なく玄関を振り返ると、コウジが家の中へ入って行くところでした。他に用事があるのでしょう。彼に何か言いたげな顔をしたナズナでしたが、呼び止めはしません。ガチャンと扉が閉まるのを見届けるだけでした。
ついと視線をずらして、ナズナはベランダから見えるリビングと、その奥にあるキッチンに目を凝らします。そうするとナズナのお母さんと、彼女のお手伝いをしている二匹のポケモンの姿を見ることが出来ました。
お母さんがトレーナー修行の旅をしていた頃からの仲間ポケモン、ハピナスとドーブル。イースター・エッグとして彩色した茹で卵は、二匹が『タマゴうみ』と『スケッチ』で用意してくれたものです。
彼女たちはナズナとジグちゃんが卵狩りをしている間に、お祝いのご馳走を作ってくれています。そう考えればなんとなく、いい香りが漂って来る気がします。皆、にこにこ頬笑んでコンロに向かっていました。
ナズナは続いて玄関近くの水道と、隣にあるベンチを見ます。
お父さんのマラカッチが、ゼニガメじょうろにお水を注いでいました。自らも二つのお花を頭に咲かせている彼は、花壇の世話がお気に入りです。飛沫を立てて水を満たしていくじょうろを手に、頻りに楽しそうに体を揺らしシャカシャカ、シャンシャンと軽やかな音色を奏でています。
水道の隣のベンチにはお母さんのミミロップが座り、優雅に毛繕いをしていました。他の皆と同じく目元と口元を和らげて、優しい風に長い耳をそよがせています。ちなみにこのミミロップは“彼女”ではありません。喧嘩上等な男の子です。
一通り皆の様子を眺めて。
ナズナは密かに溜息を漏らし、呟きました。
「……みんな、楽しそう」
温かな陽射しと、柔らかなそよ風。
咲き誇る花々に、皆の明るい笑顔。
ナズナは歓喜が、色々な場所から溢れ出るような、この華やかな季節が大好きです。
小さな幸せを沢山運んで来てくれる、春。その訪れを祝うイースターも大好きです。
だけど。
「まだ悲しいのは私だけ、かな」
歓喜の溢れる春なのに。
笑顔の満ちる春なのに。
「私、だけ……」
ナズナだけが、深い悲しみの底に沈んでいました。
一人だけ、心から、春の到来を歓べずにいました。
ナズナの父親タチバナコウジは、優れたポケモンブリーダーです。
今も現役ですが、若い頃――ナズナのお母さんと結婚する以前は、様々な地方で幾多の大会に出場しては高得点を叩き出し、上位入賞を逃すことの方が稀だと言われたエリートブリーダーでした。
彼の手にかかればどんなポケモンでも、内面から放たれる生命の輝きで、その身を華々しく煌めかすことが出来ました。
中でも、彼の一番のパートナーだった花飾りポケモン・ドレディアは、かつて、他の追随を許さないとブリーダー界で騒がれたほど、それはそれは美しい花のティアラを挿頭していました。
紅色の花飾りと萌黄色のドレス。御伽話に登場するお姫様のようなドレディアが、その姿に相応しく心優しいドレディアが、ナズナは今よりもっと幼い頃から大好きで、とても慕っていました。
一緒にお母さんのお手伝いをしたり、遠い街までふたりきりでお出かけしたり、言葉が解らないながらも沢山たくさん、楽しくおしゃべりしたり。
ナズナにとってドレディアは、優しい優しいお姉さんでした。
ドレディアもナズナを、可愛い可愛い妹だと想っていました。
ナズナは、今年のエッグハントの賞品には『自分のポケモン』が欲しい、とリクエストしていました。
ドレディアに限らず、他のポケモンたちとも家族同然に打ち解けている彼女ですが、やはり彼らは両親のポケモン。自分と特別仲良くなってくれる自分のポケモンが欲しいと、近頃はそればかり考えていました。
彼女が自分のポケモンを欲しがる理由は、もう一つあります。
少しでも世話を怠れば萎んだり枯れたりと、すぐに傷んでしまう、気難しいドレディアの花飾り。それをいとも容易く常に鮮やかに、瑞々しく保っていた父親の腕前。
ナズナはお父さんと同じポケモンブリーダーになり、ゆくゆくは彼のドレディアに負けないくらい魅力的なポケモンを育てたいと思い、自分のポケモンを欲しているという訳なのです。
ですから、この勝負には負けられません。このチャンスを逃す手なんてないのです。
けれど……けれど。
どうしても今のナズナには、去年のような元気が沸いて来ないのです。
白いお皿の上には緑色のポロックが四つ、黄緑色のポフィンが二つ乗っていました。どちらも苦くて美味しい、ポケモン用のお菓子です。
木製のローテーブルにそれを置いたコウジは次に、お花のお香を焚きました。春の温もりを思わせるふくよかな香りが、ふわりと周囲に広がります。
お皿とお香の他に、薄汚れたモンスターボールと、金色のトロフィーが幾つか並ぶ机上を、陽射しが照らしています。
コウジはそこへ更に一輪挿しを据えました。
煌びやかに輝くトロフィー群より眩く目を引くそれは、見事に花開いた、紅色のチューリップ。
モンスターボールへ、そしてチューリップへ向けて彼が何か言おうと口を開いた途端。
庭から一層賑やかな声が聞こえて来たので、コウジはつられて、窓の外へ視線を移しました。
あれからナズナはお庭をぶらぶらとしながら、ジグちゃんには発見出来なさそうな場所にあった卵を四つ、左腕にかけたバスケットへしまいました。
ペリッパーポストの中から、ハート柄の卵。
自転車の籠の中から、青空を描いた卵。
窓辺のプランターの中から、トゲピー柄の卵。
生垣の間から……何をイメージしたのかよく解らない、芸術的なタッチの卵。
他にはどこにあるだろうかと辺りを見渡したナズナはお庭の隅で、なんだか不思議な動きをしているジグちゃんを見つけて、歩み寄りました。
「ぐぐぅーん!」
ズルッどしゃっ。
「みみ、みみみ」
「ぐぐっ! ぐぐうぅーっ!!」
ズルズルどしゃっ。
ズルズルズルズルどしゃっっ。
「みみみみみっ!!」
「ジグちゃん…それは取るのむずかしいと思うよ?」
ナズナが歩いて行った先には、つやつやした葉っぱをどっさりと茂らせた一本の木がありました。タチバナ家の一階の屋根より、ちょっとだけ背の高い木です。
その根本で蹲るジクちゃん。幹をよじ上ろうと何度かチャレンジしたのですが、途中で勢いが続かなくなってずり落ちてしまい、身体中を満遍なく土で汚していました。
何故そんなことをしているのかと言うと、一番地面に近い枝――とは言っても、ナズナが背伸びして目一杯腕を伸ばしてもぎりぎり届かない距離――の付け根に、ピンク色の卵を見つけたからなのです。ジグちゃんはこれを取るために奮闘しているのでした。
愛らしい見た目に反して好戦的な性格のジグちゃんは、これしきでは諦めません。暫し休んで力を取り戻すと、再び幹を駆け上り……ズルどしゃっと音を立てて、またまた地面にお尻を打ちつけました。
「みみみみみっ!!」
一所懸命頑張っているジグちゃんを、ナズナも心の中で応援します。しかし、その後ろで水を差すかのように笑っているポケモンが一匹。
ナズナはジグちゃんの代わりにそちらへ冷たい眼差しを寄越しましたが、それくらいなんのそので“ジグちゃん頑張れムード”をぶち壊しているポケモン……ミミロップは、笑い声を僅かすらも緩めません。彼がちょっぴり意地悪なのはタチバナ家の誰もが知る事実ですので、ナズナは、あとは呆れたように息を吐くだけでした。
敵とは言えあまりに健気なジグちゃんを前に、ナズナは手を貸そうかと考えつきます。が、彼女が動き出すより早く、その場に新しく現われた者がありました。
「ラッチ!」
「ぐぐ?」
シャカシャンシャンと体を鳴らしながら、マラカッチがジグちゃんの傍にやって来ました。
彼が何やらちょいちょいと腕を振って指示をしますと、ジグちゃんが木から遠ざかって行きます。
「カチッチ!」
幹に対峙したマラカッチの合図で、ジグちゃんがジグザグ走行でそちらへ走り出します。マラカッチの背中から頭を踏み台にして、目的の枝へ一気に駆け上り……そしてついに、ピンク色の卵を口に咥えました。
「みみっ…」
いいのかソレ? とでも言いたげに二匹を見つめるミミロップに、ナズナは「あなたがあんな所にかくすからしょうがないでしょ」と、ジグちゃんのいる枝を指しながら言いました。
そう、あそこに卵を隠したのは他でもないミミロップなのです。
毎年最低でも三個は、ナズナたち子供が見つけられない、取れないような場所に卵を隠してしまうのが彼の癖。結局誰にも取れず後片づけが面倒なので、再三コウジが注意して来たのですが、ちっとも懲りていないのでした。
「ぐぐぐっ!!」
するすると幹を伝って地面に降りたジグちゃんは、すぐさま玄関先のバスケットに新しい卵を置きに行きました。
目つきの悪いピンク色。タマタマの顔を描いた卵です。
無理難題に果敢に挑んだジグちゃんは、しかし休む間も無く、次なる標的を求めて再度お庭へ駆け出します。物を探す競争というのが、彼女には楽しくて堪らないのでしょう。
役目を終えたマラカッチは、ミミロップの耳を棘の手で掴んで家の中へと回収します。二つの意味で痛い痛い、と言う風にミミロップが大声で抗議していましたが、扉が閉まったことで音量は小さくなり、やがて聞こえなくなりました。
タチバナ家のお庭に流れる音は、ジグちゃんの足音と、ゆるやかな春風に揺れる草花の音だけになりました。
「…………」
ナズナは先程のことを思い出します。
一心に卵狩りに精を出すジグちゃん。
彼女の真摯な姿に、ナズナは申し訳が無いような気持ちになりました。
ジグちゃんはあんなに頑張って、自分との競争を純粋に楽しんでいる。それに比べて自分は他の事に気を取られて、真剣に勝負をしようとしていない。
ナズナは自分が、冗談みたいに無気力な自分が、情けなくなって来たのでした。
元気を出さなきゃいけないのは解っています。
いつまでも悲しんでいたって、何も変わらないことだって解っています。
でも、頭で解っていても、心がそれを受け付けないのです。
どうして、あの子はここにいないのでしょう?
「…………えっ」
さわさわと草木を揺らして吹き抜ける風。その中に、自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がして、ナズナはぱっと振り返りました。
一本木とは正反対の場所。生垣の前に赤茶色の煉瓦で、半月を画くように造られた花壇がありました。赤、白、黄色、ピンクに紫と、色とりどりに咲き匂うチューリップで溢れています。
とても綺麗です。
とてもとても綺麗なのです。
それはもう、悲しくなってしまうほどに。
「…………」
この花壇は昨秋、妻から注文を受けてコウジが造りました。
チューリップの球根はナズナとドレディアがふたりきりで、快速列車に乗って三十分ほどの、ホドモエシティのマーケットで買って来ました。
来春、そしてイースターの日曜日に満開になってくれるように願いながら、ふたりで植えたのでした。
そして今日。
チューリップたちは狙い澄ましたかのように一斉に花開き、花壇を輝かせています。
まるで彼女が、ここにいるよと伝えているかのように。
ナズナは吸い寄せられるようにチューリップの方へと足を運びます。
本当は見たくない。思い出してしまうから見たくないけれど、それ以上に美しく可愛らしいので、一度視界に入れてしまうと、見入らずにはいられませんでした。
ゆっくりゆっくり、近づきます。
と、その時。
「わっ」
ナズナは驚いて、思わず足を止めました。花壇の中央、緑色の茎と茎との隙間に――何やら大きくて丸い物が置いてあるのを、見つけたのです。
見間違いかと思い、手の甲で両目を擦ってみましたが、やはりそれは消えたりせず、そこにありました。
おっかなびっくり、歩み寄るのを再開します。
あっと言う間に到着した花壇。果たしてそこにあったのは……赤いリボンでラッピングされた、大きな大きな卵でした。
ナズナは驚愕に目を瞬かせつつ、それに手を伸ばします。恐怖心よりも好奇心が勝りました。
卵はナズナの頭と同じくらいの大きさで、全体的に薄い緑色、下部が僅かに白くなっていました。堅い殻の内側から、じんわりとした温もりと微かな鼓動が伝わって来ます。
初めて見た、初めて触れたけれど、ナズナにはこれが一体なんの卵なのか、瞬時に理解出来たようでした。
そして、これがどうしてここにあるのか、どうすべきかを両親に相談するため、家へ取って返そうと思いました。
が。
「タイムアーーップ!!」
大きな卵を抱えて玄関を振り返ってみれば、いつの間にかコウジが家から出て来ていて、しかも出し抜けに大音声を張り上げたので、ナズナは卵を取り落としそうになりました。
「そこまで!! ふたりとも戻って来ぉい!」
「ぐぐーーっん!」
家の影になっているお庭の隅っこから、ジグちゃんが帰還。ナズナも、とりあえず大きな卵を持ったまま父親の元へ向かいます。
ジグちゃんはぱたぱた尻尾を振ってご満悦です。コウジはジグちゃんを宥めるように背中をわしゃわしゃ撫でながら、双方のバスケットに入っている卵を数えます。
「ナズナは四つ。で、ジグは九つか。ということは……今年のエッグハント、勝者はジグだっ! おめでとう、ジグ!!」
コウジが喜色満面で拍手して、娘もそれに従います。
分かり切っていた結果なので、ナズナは悔しがったりしません。今はそれよりも、この大きな卵が気になって仕方がありませんでした。
「ぐぐぐーっ!」
ジグちゃんは自分が勝ったと理解すると、待ち切れないとばかりに父娘の足下をぐるぐる周ります。
「賞品は家ん中だ!」
玄関の扉が開かれると、ジグちゃんはコウジに足を拭ってもらうことも忘れて、家の中へ飛び込んで行きました。
「お父さん。これ、野生のポケモンが落としたのかな?」
ジグちゃんへの豪華賞品を渡して一息ついた父に、ナズナは大きな卵を差し出しました。コウジは娘のとぼけた台詞に、少し笑ってしまいます。
「落とし物じゃない。それはドレディアから預かった、ドレディアとマラカッチと俺からの、おまえへのプレゼントだ」
「え?」
意味が解らず、頭上に疑問符を幾つも浮かべるナズナ。
しょうがないなと呟き、コウジは娘を、一階の南側の部屋へ招きました。あの日から、ナズナが一度も入りたがらなかった空間です。でも今は父の発言の意味を知りたい気持ちの方が強く、中に入るのに今までのような躊躇いはありませんでした。
お花のお香と陽光が満ちた部屋。
彼女が、最期の時を迎えた場所。
コウジの最初のポケモン、ナズナの掛け替えの無いお姉さんは、今年の始め、タチバナ家から居なくなりました。
寿命だと、町のポケモンドクターは言いました。
怪我や病気が原因なら治療は出来るけれど、寿命ならば、周りに出来るのは「ありがとう」と笑って見送ることだけなんだと、コウジは言いました。
人もポケモンも、いつかは「さよなら」を言わなければならない時が来ることは、ナズナも知っていました。解っていました。
けれどこんなにも早くその時が来るなんて、思っていなかったのです。
部屋の窓際にあるローテーブルの前へ、父と娘は座りました。
「おまえ、自分のポケモンが欲しかったんだろ? 本当はおまえとジグと、どっちかにしか賞品はやれないルールだけどな。今年は特別だ」
「……?」
まだピンと来ていない様子の娘に、父はこう問います。
「ナズナ。イースター・エッグに込められた意味、覚えてるか?」
イースターをお祝いすることに決めた年に、ナズナはコウジにそれを教わりました。
けれども当時のナズナはたったの四歳。聞いたことは薄らと覚えていますが、内容までは覚えていません。
素直にそのことを伝えると、父はもう一度教えてやると言って、ゆっくりと語り始めました。
昔々ある国に、神の御子と崇められていた救世主がいました。
彼は磔にされて亡くなった三日後に、奇跡の復活を果たしました。
彼の信者たちは救世主の復活を祝うため、あるお祭りを始めました。
それがイースター、すなわち『復活祭』なのです。
イースター・エッグは、救世主が死という殻を破って蘇ったこと。そして、冬が終わり草木に再び生命が蘇る春の喜びを表わしているのだと、コウジは言います。
「だけど神の御子と違って、人もポケモンも、一度死んでしまったら絶対に蘇らない」
その言葉にナズナは悲しげな顔を伏せました。
理解していても人から改めて言われると、やはりつらいものなのです。
「でもな。命は蘇らなくても、残された者が生きてる限り、いつだっていくらだって、蘇るものがあるんだ」
続いた台詞に今度は不思議な顔をして、ナズナは父を仰ぎます。
「思い出とか、絆とかな」
娘を安心させるように、コウジはにっと笑顔を作ってみせました。そして、ナズナの腕の中にある卵に視線をやります。
「今度はおまえがそいつの姉ちゃんになってやれ。ドレディアの時と同じ強さで、そいつと仲良くなるんだ」
そうすればドレディアとの絆も繋がり続けるだろうから。
そのようにコウジは続けました。
「…………」
ナズナはドレディアの遺した卵を見つめます。
大きくて温かな卵です。
そこでふと、ナズナは閃きました。
ナズナはここ数日、ずっと憂鬱でした。
それはドレディアを亡くした悲しみから立ち直れずにいたからだけではなく、自分以外の皆がとても楽しそうに笑っていたから。
数日前までは自分と同じように悲しみ、寂しさを露わにしていた皆が、今日はもうすっかり笑顔になっていることが、ナズナの悲哀を助長させていたのです。
ドレディアを悼む心を無くし、彼女の命が失われたことに対する嘆きから解放される代わりに、愛し慕った彼女自身のことすらも忘れてしまうのではないかと……そんな風に考えていたのです。
しかし、きっと、そうではなかった。
皆が嬉しそうなのは悲しみを忘れたからではなく、ナズナが、卵から生まれるポケモンと出会って笑顔になる瞬間を、楽しみにしてくれているからではないかと、ナズナは思い至りました。
「ドレディアを亡くす前にも、俺は何回もポケモンを亡くしてきた。事故、病気、寿命…死因は色々だ。その都度もうポケモンなんて育てない、と思った。別れはつらいもんな」
コウジがしみじみと、部屋中に飾ってあるトロフィーや表彰状を見て言います。
「でもやっぱりまた育てちゃうんだよ。別れのつらさより、一緒に過ごしてる時の楽しさの方が何百倍も強い所為で、さ」
亡くなった者を想う限り、思い出はいつでも蘇る。
亡くなった者と同じ強さで新しく生まれた者を想えば、絆は何度でも蘇る。
コウジはそうして、沢山のポケモンを育て続けました。
その意思を絶やさないためにと、イースターを祝うようになったのでした。
「おまえもそういう風に考えてみろ。そうすりゃきっと、ドレディアも喜ぶぞ」
最後にそう言い残し、コウジは頬笑みを掲げたまま部屋を出て行きました。
一人残されたナズナは、じいっと卵を見つめます。
この中に宿る命が、あの子との絆を蘇らせてくれる。
心の中で唱えてみると、不思議と元気が沸き起こって来るように感じられました。
「今度は私が……」
静かな、決意の声。
――コトッ。
応えるように卵が、微かに揺れました。
「ナズナーそろそろご飯よー」
暫くしてリビングから、お母さんの声が聞こえて来ました。
弾かれたように壁掛け時計を見ると、もうお昼に近い時刻を指しています。
「はあーい」
返事したナズナの表情と声色は、もう悲しみも寂しさも帯びていませんでした。
優しく強く、卵を抱え直して起き上がり、部屋を出ます。
「ぐぐ〜ぅ」
廊下に出るとジグちゃんが、エッグハントの賞品なのでしょう、赤いポロックやポフィンが沢山入った袋を咥えて待っていました。
すっきりとした面持ちのナズナを見て、尻尾をぶんぶん振って喜びます。
「行こう、ジグちゃん!」
豆狸に微笑みかけ歩き始めるナズナ。その隣を、ジグちゃんは弾んだ足取りでついて行きます。
リビングには既に皆が集まっていて、ご馳走を取り囲み、今日一番の満面の笑みでナズナたちを迎えてくれました。
ナズナも負けじと、破顔一笑。
もうすっかり、元気なナズナに復活です。
今日はイースターの日曜日。
そしてカナワタウンに、ポケモンブリーダーの卵が生まれた日です。
春の陽射しが皓々と降り注ぐ、チューリップの花壇で。
私はその日、歓喜に満ち溢れたタチバナ一家の団欒を、いつまでもいつまでも、眺めていました。
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初投稿です。メルボウヤと申します、以後お見知り置きを!
マサポケへは一昨年の夏頃(BW発売前ですね)から度々訪問、閲覧させて頂いておりました。普段は専ら絵を描いているのですが、皆さんのお話を読んで、自分ももう少し文章が上達したらいいなぁと思い、まずはポケストに投稿するべくヤドンの歩みでぽつぽつ書いておりました(^v^)ゞ
今回投下させて頂いた話は、コンテスト第二回のお題【タマゴ】をお借りして書きました。案自体は作品募集時に既に出来ていたにも関わらず、なんやかやで完成はその約一年後という; 今月に入ってもまだ絶賛グダグダ状態だったのですが…今年のイースターである本日(西方教会と東方教会で日にちが違う年もあるようですが)に、なんとか間に合わせることが出来ました。今年を逃したらもう書けない気が致しましたので…!
ポケスコ第二回の締め切り延長前の投票開始予定日(だったかと…うろ覚えです;)が去年のイースターだったというのは、ここだけの秘密です(?
一万字以内に収める予定でしたが微妙にオーバーしました。もう少し削れる所がありそうなものの、私のレベルでは今日中に間に合いそうにないので、とりあえずこのまま投稿させて頂きました。
文字数以前におかしな点も大分あると思いますし、追々修正したいです^^;
文章を書くのって物凄く難しい。でも絵や漫画では表現出来ないこともあって、上手い具合に組み立てられるととても楽しいです*´▽`*
第一回・第三回のお題でも考えた話があるので、そちらもBW2発売前には投稿したいなと思っております。またお会い出来ましたら、その時もどうぞよろしくお願い致します^^
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
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2012.4.8 投稿
4.30 修正
よく考えずに削ったら益々おかしくなっていたので、投下直前に削った部分も元に戻しました。もう文字数なんて気にしない。(どうなの
すいません、肝心の企画ページのURLを入れてませんでした、というわけでいろいろやったんですが直接飛ぶのは難しいみたいなんで
下記の記事にあるURLから飛んでください
http://rutarutamaro.blog.fc2.com/blog-entry-2.html
お手数をおかけしてすいません
「すみません。バトルタワーにエントリーしたいんですが……」
「ああ、新規の方ですね。本日はまことにご利用いただきありがとうございます。ご不明な点がございましたら、お気軽にお尋ねください」
「はい……実は僕のポケモン、50レベルを過ぎてしまっているんですが……」
どうにも落ち着かないのか、まだ若いトレーナーは腰につけてあるモンスターボールを左手でいじっていた。
「大丈夫ですよ。バトルタワーではポケモンのレベルを調整できるように整備されていますので」
トレーナーの緊張を和らげるためなのか、営業スマイルなのかは分からないが、社員が作る笑顔を見て、彼は安心したように息をついた。
「そうなんですか。レベルを調整できるだなんて、驚きです」
「正確にはレベルを調整するわけではなく、能力値を調整するんですよ」
彼のふとした疑問にも、社員は笑顔を崩すことなく答える。
「それはどのように?」
「例えば、タウリンやインドメタシンなど、ポケモンの能力値を上げる薬品がありますよね? そのベクトルを逆に応用し変化させ、体内のたんぱく質を分解し筋肉量や技のキレ具合を下げるんです」
「それはすごいですね。どうしてそのような薬品が、一般店で販売されていないんでしょう?」
初めから変わらぬ笑顔で、社員はにこやかに答えた。
「ポケモンのホルモンや新陳代謝を乱す有害な薬品が多量に含まれているので、一般販売はされておりません」
トレーナーはバトルタワーを後にした。
こちらこそ初めまして、くろまめです。
ギャグはほとんど勢いで書いてるんですけどね(笑)
案外考えない方が良いアイディアが浮かんだりしますよ。
最近の悩みは、会話文と地の文の比率が悪いことです。
いっそのこと地の文だけにしたいくらいです(笑)
ご感想ありがとうございました。
タイトルのまんまですが、自分主導でコンテストをやることになったのでその宣伝です
とりあえず、このサイトに概要は置いてあるのですが主催者が編集をミスって見れなくなることがよくあるので、ここにも書いておきます
お題「あい」(自由に変換可能)を使って、ポケモン二次創作小説コンテストをやります
締め切りは6月いっぱい 下限文字数は100文字で上限文字数はなし
それでお題として、キャッチコピーも使おうと思います
キャッチコピーというのは本の帯なんかに
「期待の新鋭、現る」とか
「まさか、こんな遅くにやってくるやつがいるとはな」とか
「あの勝負だけが心残りなのよ」
と言ったような中身が気になるような販促用のフレーズです
お題のキャッチコピーが似合うような小説を創作してください
「あい」を主題とするなら、このキャッチコピーは副題といったところでしょうか
それでこのキャッチコピーなんですが、複数あるうちの一つを採用してくださいというべきところなんでしょうが主催者の頭ではかっこいいフレーズが思い浮かばないので、公募しようかと思います
数は七つ前後 二桁はいかないように数の調整をいたします
【分からないことがあったら遠慮せずに聞いてください】
『講評
タカヤ様
技の完成度・ポケモンの手入れは、よくできています。ですが、技のオリジナリティーが欠けているために、今回の予選通過はなりませんでした。
次回からはその点に気をつけてみてください。
ポケモンコンテスト運営委員会トキワ支部部長 ミヤ』
「――だってさ、キレイハナ」
トキワシティコンテスト会場前公園、そのベンチに腰掛けて今回の講評を読み上げてみる。
横では共にステージに上がったキレイハナが、しょんぼり落ち込んでいた。
だいぶ練習し自信をつけて参加したのに、予選すら突破できなかったとなれば当然かもしれない。俺も顔には出してないが内心けっこう凹んでいる。
「ただ、技を磨くだけじゃダメなんだな」
美しく魅せるためには、オリジナリティーが必要だとは考えたことがなかった。確かに言われてみれば、グランドチャンピオンを決める大会に出場するようなポケモンたちは、他のひととは一味違う――それでいて綺麗な技を多く使っていた気がする。
けれど、自分のこととなるといい案が思いつかない。他の人がしないような技、か。
「でもなー、どうすりゃいいんだろ」
ごろん、と寝転がって空を見上げる。キレイハナに当たらないように腕を組んで枕にする。
視界に入るのは、真青な空――と満開の桜の木。花びらが風に煽られてひらひらと空を舞っていた。
「ん……?」
一瞬何かが頭をよぎった。
「花びら……桜……舞う…………。これはいけるか?」
たった今思いついたことを、隣でいまだに落ち込んでいるキレイハナに提案してみる。
「なあ、桜の花びらを使って「はなびらのまい」ってできるか?」
俺の提案にキレイハナはしばらく黙って考え、そして――首をかしげた。
「まあ、やってみなきゃわかんないか。とりあえず、ほら元気出せよ」
キレイハナの背中をぽんと叩いて、ベンチから下りるように促す。
しぶしぶといった感じでキレイハナは地面に下り立ち、「どうすればいいの?」と視線を向けてきた。
「んー……」
そういえばキレイハナの「はなびらのまい」は、自身から出すものと周りにあるものを操って技とする――と聞いたことがある。
ならばとキレイハナを桜の花びらが多く落ちている木の下へ連れて行き、とりあえず試してみる。
「よし、キレイハナ。はなびらのまい!」
俺の指示に応えてキレイハナが踊りだす。
小さい手足を器用に使って舞う。段々と桜の花びらが宙に浮かび始め、キレイハナを中心として回りだす。
「おお……!」
いつもの赤い花びらも悪くはないけれど、これは格別だ。
キレイハナの緑、黄、赤の三色に花の桜色が映え、よりいっそう美しく見える。
先ほどのコンテストで使ったものと同じ技なのに、全く別もののようだ。
「春限定ってのもなかなかいいよな」
桜吹雪の中で舞うキレイハナを見ながらそんなことを思った。
「よくやったぞ。これなら本番でも使えそうだよな」
技が終わると、すぐに駆け寄ってキレイハナを抱きかかえた。
キレイハナもさっきまでとは打って変わって上機嫌だ。
この調子なら次の大会はいいところまで行けるはず!
「さてと、あとは桜をどうやって会場まで持ってくかだな。そのまま持ってくってのも芸がないし」
残るはこの問題だ。俺が桜の花びらを大量に抱えてステージに上がるのは、なんだかつまらない。上手く持ち込む方法はないだろうか。
と考えていると、キレイハナが広場の方を指した。
そこでは母親と姉妹が芝生に座り込んで何かをしていた。
「ねーねー、次は私の!」
「はいはいユキは何を作ってほしいの?」
「ミキと同じ髪飾り!」
「それじゃ、今度自分でも作れるようによく見ててね」
「はーい!」
どうやら、落ちている桜を使ってアクセサリーを色々作っているようだった。
「お前もあれが欲しいのか?」
うーんと少し考えて、キレイハナはあの家族の方を指してから、次に自分の頭を指した。そして、さっき見せた「はなびらのまい」の動きをして見せる。
えっと……要するに、
「花びらを衣装の一部にして、技の時にそれをバラして使う――ってことか?」
当たりというようにキレイハナが一言鳴くと、足元にあった花びらの山から一すくい持ってきた。
「そうと決まったらさっそくろう――って言いたいところだが。髪飾りの作り方、俺わかんないんだよな。向こうで一緒に聞いてこようぜ」
キレイハナを誘って俺は親子の方へ走り出した。
その後、桜のはなびらのまいを使うキレイハナとタカヤは徐々に注目を浴びて行き、何度か優勝することもできた。
ただ、キレイハナが技のたびに分解する髪飾りは、毎回タカヤが直しているとか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
こちらでは初めて投稿しました、穂風です
ポケモンのお話を書くのはポケコン以来なので――半年ぶりでした
ポケモンだからできるようなほのぼのしたものを、のんびり書いていこうと思います
【描いてもいいのよ】
【好きにしていいのよ】
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