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雷鳴錦
長治(チョウジ)の秋と言えばなんといっても東間王合戦(あずまおうがっせん)でございました。いかりの湖に豪商たちが集まって自慢の東間王を持ち寄って泳がせ、その大きさ、美しさを競うのです。
江戸に幕府が開かれた時代、諸国を治める大名達の間では菊見が流行しましたが、材を得た商人たちがそれ以上に夢中になったのは土佐金(とさきん)、そしてそれが成長した東間王(あずまおう)でした。水に濡れた鱗は時に赤く時に黄金(こがね)に、時に透通るように輝いて、彼らを魅了したのです。
時に大きく、姿(かたち)がよく、色や模様の調和が美しい個体には高値がつきました。そんな美しい東間王を邸宅の大きな池に泳がせる事は商人たちの材の大きさを何より示すものだったのです。
名だたる豪商たちは自分の東間王が諸国一だと示す為、秋になると長治の里に集まって、いかりの湖に放ち、魚比べを行ったのでした。篝火に照らされた水面に東間王達の鱗が赤に黄金に輝いて湖を彩ります。それは山々の紅葉以上の美しさであると評判になり、たくさんの人々が集うようになりました。
そうしてこの年の秋ももいかりの湖は赤の錦で染められ、集まった人々を目を楽しませていました。人々は湖に船を浮かべ、水面を眺めましたし、豪商たちは立派な屋形船を貸し切ると酒を片手に東王の泳ぎに見入りました。
ああ、諸国から集まってきた選りすぐりの東間王達のなんと立派な事でしょう。特に大きなものが船の近くを通った時など、人々は歓声を上げました。
あれはは誰のだ。あれは円寿の米問屋の……という具合に会話がなされて、東間王が大きければ大きいほどに主のその名も轟いたのでした。人々がざわめく大きな大きな東間王は決まって、豪商たちの持ち物でした。どの東間王も甲乙が付けがたく、持ち主達は皆、それぞれに大きさ、姿、色に理由をつけて自分の東間王が一番だと考えていたのでした。
そんな彼らのうちに雷鳴が轟くがごとくざわめきが走ったのは何百匹目の魚達の往来を見たのちだったでしょうか。彼らは湖の中に今まで見た中で一回りも二回りも大きな東間王の姿を見出しました。その東間王は黄金を宿した燃えるような赤に、白く透き通る美しい模様を篝火に照らされながら豪商たちの屋形船に近づいてきます。水の流れに揺れる尾や鰭の優雅な事、額から生える一本の大きな角は湖で泳ぐどの魚より太く長いのです。
ああ、なんということだ。その魚を見た瞬間に商人達は悟りました。自分の東間王は諸国一などではなかったのだ、と。
そうして、あれは誰のだ、誰の東間王だ、と口々に言い始めました。もはや彼らは持ち主を確認せずにはおれませんでした。けれど誰もその東間王の主を知らないのでした。
もしや、金魚師か。
主探しが一巡した時に豪商の一人が言いました。金魚師――それは操り人と云われる獣や使鬼を操る事に長けた者のうち、特に魚の姿のもの、土佐金や東間王を扱う事を専門にしている者を指す言葉です。この行事には各地から操り人や金魚師が東間王を木の実に入れて訪れるのです。手塩にかけて育てた東間王が豪商の目にとまったならば高く買い上げて貰えるからでありました。
それで今度は金魚師探しが始まりました。屋形船はゆっくりと件(くだん)の東間王を追ってゆきます。そうしてやがて船の集まる明るい場所から少し暗い船もまばらな場所に入った頃、彼らは湖に浮かぶ一艘の小さな小舟を見つけたのでした。東間王は小舟の回りを優雅に泳ぎました。それは小舟の上にいる貧しい身なりの男が主である事を示していました。
お前は金魚師か。屋形船の中から豪商は尋ねます。
いかにも、と男は答えます。
その東間王はお前のものか。
いかにも。男はまた答えました。
そうして男がそう唱えた刹那、豪商達は競うように喚きだしたのでした。
千両出そう。そうある者が言うと、千二百両とある者が言いました。千五百という声がそれに続き、二千両の声がそれらを打ち消しました。皆もうすっかりその東間王が欲しくて欲しくてたまらなくなっていたのでした。声が声をかき消して消し、より高い値が鳴り響きました。けれど、そんな駆け引きが続いて最後の値が皆を黙らせた頃、男が言いました。
私がここに来たのはこれを売るためではありません。皆様がそうであるように自身の東間王こそが諸国一であるという確信を得る為に私もここに参じたのです。
この東間王は金魚師としての私の命。何人の手にも渡す気はございません。
そう言うと金魚師は目的は果たしたと言わんばかりに持っていたひょうたんの蓋を開きました。すると瞬く間に東間王はその中に吸い込まれていったのです。金魚師は竿を手にとると闇夜の中に消えていきました。その漕ぐのの早いこと早いこと。商人たちは屋形船で追いかけたもののとうとう男の姿を見失ってしまいました。
悲嘆にくれる商人たち。しかしその中に静かに金魚師の消えた湖の先を見つける豪商がおりました。それは彼らの中で一番高い値をつけた商人でした。
彼は密かになんとしてもあの東間王を手に入れてやろうと決意したのでありました。
(たぶん続く)
ねえ知ってる? 桜の花ってね、元々は全部白だったんだよ。大昔に桜の名所で大きな戦いがあってね、そこで流された血を吸って赤く染まってしまったんだって。その木の子供たちが色んな所に散らばったから、今の桜は全部うすーい赤なんだよ。
それでね、時々、濃い赤の花が咲く木があるらしいんだけど……それはね、新しい血を吸っているからなんだって。根元を掘り返すと、死体がたくさん出てくるんだよ……。
満開の桜の木の下で、私に囁きかけた女の子は小さく笑った。特別な秘密を教えてあげる、彼女のきらきら光る瞳がそう語っている。有名な“桜の下には死体が埋まっている”という都市伝説、正しくは小説の一文そのままの話だけれど、あんまり楽しそうに話すものだからこちらも素直に乗ってあげる事にした。
「そうなんだ、そんな怖い話知らなかったなあ。それ、どこで聞いたの?」
問えば、お兄ちゃんがこっそり教えてくれたのだと胸を張る。絶対に秘密だからなって言ってた、だからお姉さんも他の人に言っちゃ駄目だよ。大真面目に語る彼女が可笑しくて可愛らしくて、私は笑いを堪えるのに必死だった。
「分かった、誰にも言わないって約束するよ。でもいいの? そんな大事な秘密、私に話しちゃって。お兄ちゃん怒らないかな?」
途端に女の子は表情を変えた。頬をハリーセンのように膨らませた彼女の話を要約すると、些細な喧嘩の挙句に自分を公園に置き去りにしたお兄ちゃんの事なんて知らない、とのこと。なるほど、それで一人寂しくベンチに座り込んでいたのか。哀愁漂う姿が不憫で声を掛けてみたらすっかり懐かれてしまった。まあこちらとしても、話し相手が出来ていい退屈しのぎになったけれど。
しかし、お兄ちゃんは知ってるのかな。今この辺りにはとても危険なものが……うん?
「ひょっとして、あれがお兄ちゃんかな? ほら、あのフェンスの向こうの」
私が指した方を振り向いて、女の子は小さく声を上げた。公園を囲むフェンスの陰に隠れるようにして(目の粗い網だからほぼ丸見えなんだけど)、少年が一人こちらの様子を窺っている。バツの悪そうな顔でもじもじしている彼に、女の子はなんともいえない視線を向けた。許してやろうか、まだ怒っておこうか。彼女の迷いが手に取るように分かる。
「ね、もうそろそろ日も暮れるし、お兄ちゃんと仲直りしておうちに帰りなよ。暗くなったら野生のポケモンも出てくるかもしれないし」
実際、夜になって人通りが少なくなると、ポケモン達も大胆に草むらから出てくるようになる。夜行性で闇に目の効くポケモンを相手取るには彼も彼女もまだ幼すぎるし、二人ともトレーナー免許を得ていないなら尚更だ。それに万が一、夜道でアレに出くわしでもしたら大事になる。少しでも明るいうちに帰ってもらいたい。
野生という言葉に怯んだのか、ううーんと唸った女の子はちらちらと少年を盗み見る。迷いに迷ってから、意を決してベンチから飛び降り少年に向かって歩き始める……前に、彼女はこちらを振り返ってお姉さんはどうするのと尋ねてきた。
「私? うん、ちょっとここで待ち合わせしててね。ちゃんとポケモンは連れてきてるから大丈夫よ。気にかけてくれてありがと」
ひらひらと手を振ると、女の子は安心したように笑って一直線に少年の元へ駆けて行く。ここからじゃ声は聞こえないけれど、身振り手振りのやりとりで何を話しているかは大体想像できる。おっ、お兄ちゃんが謝った。申し訳なさそうに両手を合わせて頭を下げる少年を前に、女の子がやたら満足気な顔をしているのが可笑しくて、私は今度こそ声をあげて笑った。
夕暮れ時を柔らかに吹きゆく春の風。ほんのり赤みを帯びた花弁が、仲良く手を繋いで歩き去る二人を追うように飛んで行った。
彼女が帰ってきたのは、もうとっぷりと日が暮れた後だった。
ベンチ後方の草薮から、かさこそと密やかな音が聞こえてくる。続いて、鈴を振るような軽やかな声。
「おかえり。首尾はどうだった? ちょっと顔を見せて」
振り向いて声を掛けると、彼女は了承の印に体を震わせた。くるりと回転しながらの“日本晴れ”、辺りが一瞬にして明るい日差しで満たされる。と同時に顔を覆っていた蕾を跳ねのけて、彼女は美しい五つの花弁を露わにした。ああ、何度繰り返してもこの変化の瞬間を見飽きることはないだろう。桜色よりもっと濃い、どちらかといえば赤に近い大きな花弁。額の二つの玉飾りと同じ、綺麗な深紅のつぶらな瞳。華やかな姿へと変わった彼女は、つやつやした黄色い丸顔に笑顔を浮かべて囀りかけてくる。
「ふうん、見つけたけど物足りなかった、と。確かにいつもより赤みが少ないね。まだお腹すいてる? そう。じゃあ場所変えようか」
嬉しそうに体を揺らして同意する。彼女の踊るような足取りに合わせて、私も立ち上がって歩き始める。
静まり返った公園を出て、人気の無い路地へと入り込む。先ほどの“日本晴れ”の効果はまだ続いている、もうしばらく話をする間は持つはずだ。
「今日、あなたを待っている間に新しい友達が出来てね。小学生くらいかなあ、小さな女の子。懐かしい話を聞かせてくれたよ、ほら『桜の下には』っていう……駄目よ、その子は絶対駄目。子供には手を出さない約束でしょ」
不満そうに花弁を震わせて口を尖らせる。全く、本当に食欲優先なんだから。ため息を堪えて、上目づかいにじっとりした視線を送る彼女に妥協案を提示する。
「ね、知ってる? この辺りに最近、通り魔が出るんだって。夜道を急ぐ若い女性や塾帰りの女の子を狙って、覆面男が刃物を持って追い回すらしいよ。もう何人も大怪我しててね、皆怖がって夜出歩かなくなってるみたい」
深紅の瞳が怪しく輝き始める。私の意図をすっかり理解しているらしい。興奮して体を揺らし、きゃあきゃあと笑い声を立てて跳ね回る。ひどく嬉しそうなその様子に、見ているこちらの頬も自然と緩んできた。
そう、それでいい。なるべく無邪気に、愛らしく、か弱く振舞えばきっとそいつは引っかかる。傷付けられる獲物が減って飢えているはず、そこへ私たちが無防備に通りかかれば――――。
これで決定ね、と問えば、彼女は大きく頷いた。期待に満ちた表情に、私もとびっきりの笑みを返した。
「それじゃ、食事に行きましょう! 沢山食べて、もっと綺麗にならなきゃね」
ふっ、と眩い光が消えた。真昼から真夜中への転落に、しかし女とポケモンは動じなかった。広がる闇に怖じもせず、僅かな月明かりだけを頼りに動き始める。
新鮮な「食料」を求めて、若い女と血色のチェリムは夜を往く。公園の桜の古木だけが、妖美な一組を静かに見送っていた。
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お題、「桜」。見た瞬間に『桜の木の下には死体が埋まっている』『血吸いの桜』という件の話を思い出し、思いつくままに書いた結果が「人食いチェリム」。……なぜこうなった。
とりあえず、チェリム好きの皆様に全力で土下座。ごめんなさい、しかし後悔はしていない!!
【読了いただきありがとうございました】
【何をしてもいいのよ】
※描写は避けましたが一応捕食要素を含みますので閲覧注意かもです。
一ヶ月間に逃がすポケモンの数に上限を設ける法律が可決された。先週の事だ。
生まれたばかりの子を野に放つのは可哀相、生態系の破壊に繋がる等と、予てより廃人と呼ばれる人々は批判されていた。政府がそれに対応した形だ。
それを受け、施行される前に大量に逃がしボックスの空きを確保する者、デモを計画する者、予め引き取り手を募集する者、ばれずに逃がす方法を考える者、廃人達の反応は様々だ。
斯く言う俺も廃人と呼ばれる人間である。だがこの法律による影響は全く無い。ポケモンを逃がす事など元よりしていないからだ。手間を掛けて孵化させたポケモンを態々逃がすだなんて勿体無いではないか。更に言えば法律も元から守っているとは言えないが、俺の取っている方法なら何とか言い逃れは出来るだろう。この方法なら金銭面で助かる上に生態系を崩す事も無い。売ったり逃がしたりするのと違い、他に影響を与えない為ばれる可能性も低い。少しばかし条件がある位だ。
今日も俺は小屋へと向かう。自転車の音で分かったのか、小屋からカイリューが現れる。俺はボールから2匹のイーブイを出した。
「とりあえず今はこれで足りるか? まぁ足りないだろうけどまた後で数匹追加しに来るから、それまでなら大丈夫だよな?」
カイリューは頷く。
「ん。じゃあまた来るから」
そう言い残し俺は小屋を後にする。
イーブイの悲鳴が聞こえた。俺は気にせず自転車を漕ぎ続けた。
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Twitterでとある方々の呟きを見て膨らんだ妄想を年齢制限が掛からない様に調整したものがこちらになります。リョナ描写や捕食描写は避けたしセーフなはず。注意書き必要かって位省きましたし。避けまくったら食べるという言葉すら出てこない事態に。結果としてもぎゅもぎゅしてるので必要だとは思いますが。でもピジョンがタマタマを餌にしてたりしますしポケモン-ポケモン間の捕食関係は成り立ちますよね。え、カイリューとイーブイは駄目ですか。そうですか。すみません。あと最初はvore注意にする予定でしたけど描写避けたらvoreとは限らなくなったので捕食注意になったり。
とりあえず前半と後半を上手く繋げられませんでした。どうにか上手く繋げられませんかね。私には無理でした。そもそも前半いらなかったかも。
ちなみにカイリューが小屋にいるのは手持ちにいるとタマゴのスペースが少なくなるからだとか。どうして小屋持ってるんでしょうね。人目に付かない場所だとしか決めてません。人目に付かないなら小屋とか無くても良いんですけどね。要は殆ど考えてません。適当です。そもそも人目に付かない場所にあるって事本文に書いてないんですよね。どこに入れればいいのか分かりませんでした。あと金銭的に助かるのは餌代的な意味ですが小屋の建築費だとか維持費の方が高い気もしてきたり。本末転倒。どれ位で元とれるのだろうか。計画性の無さが浮き彫りになってますね。でもそこが成り立たなくても生態系を崩さない事が理由になるのでいいですかね。生態系の破壊が廃人にとって不都合かどうかは分かりませんが、少なくともメリットはないですよね。
これってポケモンの法律的にはどうなるんでしょうね。ポケモン愛護法とかだと完全にアウトですよね。でもばれても「目を離した隙にこうなっていた」って言えば言い逃れ出来るんですかね。それでも管理上の過失等に問われそうですが。でもポケモンバトルで相手を死なせた場合ってどうなるんでしょう。死なせては駄目だと手加減せざるを得なくなりますし、可だったらそれはそれでまずいでしょうし。「バトルの練習中の事故」って言い訳も出来ますかね。あとはカイリューを自分のポケモンではなく野生だと主張したり。懐いていれば逃がしても言う事聞いてくれますよね。カイリューが処分されそうですが。それ以前に元から生まれてない事に出来たりするんですかね。どうやって生まれた事を証明するんでしょうか。とにかくどんな法律があるかによりますね。ジュンサーさんがいるので法律自体はあるんでしょうけど。立法機関はどこなんでしょうね。何か話逸れて来た。まぁつまり、よく分からないので作中では曖昧な表現にしたって事です。
あと今までの文読んだら分かるかと思いますが、法律が可決だとか政府が対応だとかも適当です。自分の中で設定とか全然定まってません。イーブイをもぎゅもぎゅしたかっただけです。食べてしまいたい位可愛いという事で。イーブイかわいいよイーブイ。どうしてこんなに後書き長くなったんだろう。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【食べてもいいのよ】
【イーブイかわいいよイーブイ】
【本文の倍以上ある後書き】
ちょっとだけ挨拶します。こんにちは。
もう桜の季節ですね。このお題にナットク!
でわ、スタートッ!!
ここはイッシュ地方のカノコタウン。もうすぐ桜の季節だ。
川沿いを歩いていたツタージャは、ぷかぷかと浮いているコアルヒーを眺めていた。
「ようゼスト!何かあったのか?」
このツタージャの名前はゼスト。オスのレベル11らしい。
「ううん。別に。」
ゼストは体育座りでため息をついた。
「絶対なんかあっただろ。え?!」
コアルヒーがゼストのほうへ飛んできた。ツタージャの頭をなでている。
そこへ、凄く小さな黄色い物体がのそのそとやって来た。
「バチュバチュ、カル、何してるの?そしてこのツタージャ誰?」
その物体はバチュルだった。コアルヒーを呼んだようだが、ツタージャには聞こえなかった。
「おいおい、お前、カルって言うの?」
「うん。そしてコイツは友達のミオ。」
全く知らなかったので、ツタージャは握手を求めた。
「僕はゼスト。よろしく。」
しかしミオは聞いていない。
「もしもし?」
「あぁ。えーと、ゼストって言うんだったな。よろしく。」
握手をすると凄く手がしびれた。
「うわわわわ・・・・なんだこれ。」
「ごめん。女の髪がモサモサ(アララギ博士)の家から電器吸ってきちゃった。」
そう言うので、皆はアララギ博士の研究所を覗いてみた。
<なんでパソコンが使えないのよッ!エイッ!あぁーーー!!」
「何か騒動になってるな。」
【クスクスクス】
笑い声が聞こえた。
「僕もアララギの馬鹿な行動見てたんだけどさ、あんた達もおもろくってさぁ!アハハハハハ!!」
「バル!!」
またコアルヒーが名前を呼んだ。バルジーナのバルというようだ。
「カル、お前知り合い多いな。」
「それより、アララギの研究所見てみろよ。おもろいぜ。」
アララギ博士が感電していた。
「アハハハハハハ!!!」
一人だけバルが爆笑していた。周りはシーンだ。
「もう解散しよ。明日の午前10時ね。ここ集合。」
続く?!
ある裏山の話
私の学校の裏山は春になるとそりゃあ見事なものです。
というのも昔、この土地を治めていた殿様が桜を植えさせたらしく、毎年三月にもなると山が薄いピンク色に染まるのです。
だからこの時期になると学生も先生達もみんなお弁当を持って、競うように裏山に行きます。
桜の咲き具合が綺麗な場所をみんなして争うのです。
この為に四時限目の授業を五分早く切り上げる先生がいるくらいです。
けど、今日の先生はハズレでした。数学の先生は時間きっちりに授業を終わらせるから、今日はいい場所がとれませんでした。おまけに私のいる二年五組ときたら、学校の玄関からは学年で一番遠いのです。
案の定、山を歩いても歩いても、いいところはすでに他学年や他クラス、先生達に占拠されていました。
私は落ち着く場所を求めて、裏山を上へ上へと登っていきました。
けれども上に登っても登っても、良い場所はもう陣取られているのでした。
あまり高くはない山でしたから、結局私は一番上まで行ってしまいました。
「ここは咲きが遅いんだよなぁ」
私はぼやきました。
山の一番てっぺんのあたりは、麓とは種類が違う桜であるらしく、満開の花が咲くのがしばらく後なのです。今はようやく蕾が膨らんできた程度でした。幹が立派な桜が多いのですが当然あまり人気がなく、人の姿は疎らでした。
しかし贅沢も言っていられません。私はそこにあるうちの一本の下に座り込むと、弁当の包みを解き、蓋を開けました。
今日のお昼ご飯は稲荷寿司です。それは母にリクエストして詰めてもらったものでした。
「今日はいい天気だなぁ」
私はそう呟いて、稲荷を一つ、口に入れました。
そうして、頭上で何かが揺れたのに気がついたのは、その時でした。
稲荷を頬張りながら上を見上げると、黄色い大きな目が印象的な緑色のポケモンが桜の枝の上からこちらを見下ろしています。
それはキモリでした。初心者用ポケモンとして指定されているだけあって、我々ホウエン民にはなじみのあるポケモンです。
弁当狙いだな、と私は思いました。学校近くに住む野良ポケモン達はみんな学生の弁当を狙っているのです。スバメやオオスバメに空中から、おかずやおにぎりをとられたなんて話はよく聞きますし、私もやられたことがあります。ましてや学生達が自ら進んで裏山に入るこの時期は彼らにとっては絶好のチャンスなのです。
「悪いが食べ盛りなんでね」
私はそう言うと弁当の蓋で残り五つほど並んでいた稲荷をガードしました。
キモリは不満そうな視線を私に投げましたが、それ以上はしませんでした。てっきり技のひとつも打ってくるかと思って少々身構えたのですが、そこまでする気はないようでした。技を使って強奪するまでは飢えていないということでしょうか。
それならば場所を変える理由もあるまいと、私は蓋を少し上げて、二個目を取り出し、口に入れました。
その時、
「ふーむ、今年も駄目だのう」
不意に後ろから声が聞こえて、私は声のほうに振り向きました。
見ると、古風な衣装を纏った男が一人、一本の桜を見上げながら呟いているところでした。
変な人だなぁ、と私は怪しみました。
男の衣装ときたら、なんとか式部やなんとか小町が生きている時代の絵巻の中に描かれた貴族みたいな格好なのです。その一人称がいかにも麻呂そうな男が、地味な衣を纏った男を一人伴って、葉も花も蕾もついていない桜の木を見上げているのでした。
「もう何年になるか」と、麻呂が尋ねると「十年になります」と従者は答えました。
「仕方ない。これは切って、新たに若木を植えることにしようぞ。新しい苗木が届き次第に切るといたそう」
しばらく考えた後、麻呂は言いました。従者と思しき男も同調して頷きます。
「では、さっそく若木を手配いたそう」
「できれば新緑の国のものがよいのう。あそこの桜は咲きがいいと聞く」
そのような相談をして、彼らはその場を去っていったのでした。
後には裸の桜の木が残されました。
私はなんだかその桜の木がかわいそうになりましたが、咲かないのでは仕方ないかなとも思いました。
改めてその木を見上げましたが、葉もついていませんし、花はおろか蕾もついていません。周りの桜は満開なのに、ここの木だけ季節が冬のようなのです。この木が春を迎えることはもうないように思われました。
立派な幹なのになぁ、と私は思いました。きっと最盛期には周りにの木にまけないくらい枝にたくさんの花をつけたに違いありません。私の視線は幹と枝の間を何度も何度も往復もしました。
そして、何度目かの上下運動を終えた頃に幹の後ろで蠢く影に気がついたのでした。
「おや」
と、私は呟きました。幹の後ろから姿を現したのはジュプトルでした。
ジュプトルはキモリの進化した姿です。その両腕には長くしなやかな葉が揺れていました。
「ケー」
ジュプトルは沈黙を守る桜の木に向かって一度だけ高い声で鳴くと、ひょいひょいと跳ねながら颯爽と山を下りていきました。
森蜥蜴の姿が消えた時、いつの間にかここは夜になっていました。あれから何日かが経ったようで、月に照らされた山の中で周りの桜が散り始めていました。まるで何かを囁くように花びらが風に舞い散っていきます。穏やかな風が山全体に吹いていました。けれど老いた桜は裸の黒い幹を月夜に晒したまま、沈黙を守っているのでした。
山の麓のほうから何者かがこちらに登ってきたのが分かったのは、月が雲に隠れ、にわかに風が止んだ時でした。それは、先ほどこの場を去っていたジュプトルの駆け足とは対照的な、落ち着いた足取りでした。そうして、月が再び天上に姿を現した時、その姿が顕わになりました。
花の咲かぬ桜の木の前に現れたのは、背中に六つの果実を実らせた大きなポケモンでした。その尾はまるで化石の時代を思わせるシダのようでありました。
それはジュカインでした。キモリがジュプトルを経て、やがて到る成竜の姿でした。
「ケー」
ジュカインは低い声で桜に呼びかけました。
そうして、自らの背中に背負った種を引きはがしにかかりました。まるで瑞々しい枝を折るような、枝から果実をもぐような音がしました。密林竜は一つ、また一つ、全部で六個の果実を自らの手でもいだのでした。
もがれた果実は桜の木を囲うようにその根元に埋められました。ジュカイン自らが穴を掘り、丁寧に埋められました。
「ケー」
ジュカインは再び低い声で鳴きました。
その時急に、止んでいた風がびゅうっと強く吹きました。
嵐のように、桜の花びらが一斉に飛び散ります。花びらが顔面にいくつも吹きつけて私は思わず手で顔を覆い目をつむりました。
そして再び風が止んだ月夜の下、再び目を開いた私は、不思議な光景をまのあたりにしたのでした。
先程まで蕾のひとつもついていなかったあの裸の桜の木が、満開の花を咲かせていました。
月夜の下で、まるで花束を何本も持ったみたいに枝にたっぷりの花が咲き乱れているのです。
ついさっきまで、見えていた月が桜の花に覆い隠されているのです。
あまりに劇的な変貌を遂げたその光景が信じられず、私は目何度も瞬きをしました。
「ケー」
ジュカインが満開の桜を見上げ、鳴きました。
風が吹きます。まるで答えるように桜の枝がざわざわと鳴りました。
桜の花びらがひらりと舞って、密林竜の足下に落ちました。
それからはまるで早送りのようでした。
みるみる花が散っていき、葉桜となることなく、再び木は裸になったのでした。そうして沈黙を保ったまま、今度はもう二度と答えることがありませんでした。
瞬きをする度に時が移って、いつのかにか木は切り株となっていました。いつのまにかその隣に新たな苗木が植えられたことに私は気がつきました。
桜はいつか散るが定め。
最後に大輪の花を咲かせた後、老いたる桜はこの山を去ったのでした。
昼休みの終わりを告げるベルが聞こえて、私は薄く目を開けました。
「……あれ?」
いつの間にか木の下でうたた寝していたことに気がついて、私は間抜けな声を上げます。
キンコンとベルが鳴っています。
「やべ、戻らないと」
すぐに五時限目が始まってしまいます。
私は、すっかり空になった弁当箱に蓋を乗せると元のように包みで来るんで、校舎に向かって駆け出しました。
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「ある裏山の話」は能のジャンルで言う「夢幻能」を意識しています。
その土地の精霊やら、そこで死んだ人が登場人物の前に現れて歴史や出来事を語り、そしてまた去っていくという形式ですね。
能はこういうのが多い。
くはしくは
http://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/noh/jp/noh_play.html 夢幻能と現在能について
(引用)
夢幻能では、神、鬼、亡霊など現実世界を超えた存在がシテとなっています。通常は前後2場構成で、歴史や文学にゆかりのある土地を訪れた旅人(ワキ)の前に主人公(シテ)が化身の姿で現れる前場と、本来の姿(本体)で登場して思い出を語り、舞を舞う後場で構成されています。本体がワキの夢に現れるという設定が基本であることから夢幻能と呼ばれています。
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