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鳥肌が立った。
そこにいるのは着飾らない一匹のポケモン。
ステージの上には、他に三匹もポケモンがいるはずなのに、僕にはその一匹のポケモンに、スポットライトが当たっているように見えた。
そのポケモンは歌ったのだ。
それが当たり前であるかのように……
ステージの幕が降りてしばらく、ホールの中はしーんとしていた。あのポケモンの歌声の素晴らしさに、みんな言葉を失ってしまったのだ。
ライモンシティの特番を見て、ずっと憧れてきたミュージカル。いつか絶対この目で見てやる……と、毎日お母さんの手伝いをしてお金を貯めた。1年かかってやっと買うことのできたミュージカルのチケット。一番後ろの安い席だったけど、これが僕の一番の宝物だった。とても大切なものだったから、毎日枕元に置いて寝たし、どこにでも持ち歩いた。ミュージカルの日が待ち遠しかった。ここまでカレンダーを気にしたのは、生まれて初めてだと思う。
そして今日、僕はこのチケットを持ってミュージカルホールへ向かった。嬉しくて、嬉しくて、ドキドキが止まらなかった。人生初のミュージカルホール。大きなステージ。たくさんの観客。見るもの全てが新しくて、ミュージカルが始まってもいないのに、僕は胸がいっぱいになってしまった。ホールが暗くなって、ステージにライトが当たる。やっと、やっとこの目でミュージカルが見られる。着飾ったポケモンが楽しそうに踊る姿が、やっと見られる。
でも、僕が心を奪われたのは、あの、歌うポケモンだったのだ。
ホールがざわついてきた。僕は急いで席を立った。あのポケモンのトレーナーを見てみたいと思ったのだ。
でも、他の観客も考えることは同じだった。ミュージカルを見に来る客のほとんどが大人だったので、背の低い僕はすぐに押し退けられてしまった。気づいたときには、僕はホールの外にいた。ホールのエントランスでは、さっきのポケモンのトレーナーを見るために、さらに多くの人が集まっていた。
僕はもう一度ホールに入って、何とかして前の方へ行けないか試してみた。でも、全然だめ。周りの人たちが、我こそがと前へ押してくる。結局僕はまた弾かれて、ホールの外まで出されてしまった。
それでも僕は諦めきれなくて、ホールの外でそのトレーナーを待った。どうしても、あのポケモンのトレーナーに会ってみたかった。でも、なかなか出てこない。もうずっと、ずっと待った。人だかりだけが増え、トレーナーは一向に出てこない。ライモンシティの空は、いつの間にか赤く広がっていた。
ずっと立っていたせいか、僕の足はもうくたくただった。仕方がないので、ホールの裏にあるベンチの方へ行くことにした。トレーナーが出てきたら、きっと歓声があがるはずだ。僕はよろよろとベンチへ向かった。
すると、そこにはもう先客がいた。目を疑った。そこにいたのは僕と同い年くらいの女の子と、ミュージカルに出ていた、あの歌うポケモンだったのだ。
「そのポケモン……君の?」
自然と声が出た。そんなわけない。僕と同い年くらいの子どもに、あんな素晴らしい歌を歌うポケモンなんて、育てられっこない。そんなの絶対にあり得ない。でも、彼女は笑顔でこう言った。
「そうよ。この前ね、家の近くの川に迷いこんで来たの。それからね、仲良しなのよ!」
僕は、開いた口がふさがらなかった。
「ここのミュージカルにね、ずっと憧れてたの。絶対出たいって思ってたんだ! でも、ミュージカルって、本当は、歌とダンスと演技が合わさったものでしょう? ここのミュージカルには歌がないから……」
僕は驚きのあまり声が出なかった。彼女がそのトレーナーだという事実を、まだ信じられずにいたのだ。
「私ね、いつかミュージカルでポケモンをのびのび歌わせてあげたいと思ってたの! 今日、それができてとっても満足!」
彼女はそう言うと嬉しそうに微笑んだ。
「僕……そのポケモンの歌、聴いてたんだ」
やっと声が出た。この感動をどうにかして伝えたいと思った。
「えっ、そうなの? よかったね、ラプラス!」
「くぅーん」
ラプラスと呼ばれたポケモンは、嬉しそうに声をあげた。
「えっと、その……すごかったんだ。ポケモンの歌、初めて聴いた。僕も、そんなポケモンを育ててみたいんだ!」
彼女に出来て、僕にできないはずがない。僕は自信に満ち溢れていた。
「そしたら、いつか、その……ラプラスと、同じステージに立たせてくれないかな……?」
彼女はとても嬉しそうな顔をして、こう言った。
「もちろん! 楽しみにしてる!」
あれから、彼女には会ってない。
歌うポケモンは、ミュージカルホールの伝説となり、それ以降、現れることはなかった。彼女とラプラスのマネをする人は大勢いたが、観客が眠ってしまうという事件がたくさん起きたので、ミュージカルで歌うのは禁止となってしまった。
そして俺も、その大勢のひとりだった。
彼女は特別だったのだ。トレーナーになってからずっとずっと努力してきた俺と、比べ物にならないくらいの天才だったのだ。だから、仕方がない。仕方がないんだ。そう自分に言い聞かせるのが日課になっていた。
ライモンシティの空が赤くなる。うっすらと、少しずつ。この時間になると、俺はあの日を思い出してミュージカルホールの裏に行く。そのうち彼女が現れるんじゃないかと思って、ベンチに座って夕焼けを見つめるのだ。
ライモンシティの空が暗くなる。俺はゆっくりと立つと、ポケモンセンターに向かおうとした。すると、ホールのほうが騒がしくなり、歓声があがった。そして、近くから、ガチャンという音がした。
「あら……?」
出てきたのは、俺と同じ年頃の女の子だった。どうやら、ホールの裏口から出てきたらしい。
「もう見つかっちゃった? せっかく裏から出してもらったんだけどなぁ……」
「くぅん……」
「あっ、ラプラスごめんね。私が外に出ないと狭いよね」
その女の子が外に出ると、後ろからラプラスがついてきた。
「ラプラス!?」
自分でも変な声が出たと思う。イッシュ地方ではラプラスはとても珍しい。そして、そのラプラスを持っている人間を、俺は一人しか知らなかった。
「もしかして、前にもここで会った……」
彼女は一瞬驚いた顔をした。そして、思い出したようにこう言った。
「あの時の!!」
ライモンシティの空には、もう月が出始めていた。
「トレーナーになってから、ラプラスの歌声を目指して頑張ったんだ。でも、だめだった」
俺は、これまでの憤りを彼女にぶつけていた。誰にでもできると思っていたことが、自分にはできなかった。自分どころか、彼女以外の誰にもできなかったのだ。
「俺はお前みたいにはなれない。お前は他とは違う。才能があったんだ」
すると、彼女は首をかしげた。
「そんなことない。あなたは、何か思い違いをしているわ」
そして、彼女はラプラスをボールにしまうと、俺の手を引っ張って走り出した。
「空を飛べるポケモンって持ってる?」
「チルタリスなら……」
「あら奇遇。私も同じポケモン持ってるの! じゃあ、ついてきて!」
彼女はチルタリスをボールから出すと、急いでその背にまたがった。つられて俺もチルタリスをボールから出す。
「ちょ……ちょっと待って! どこに行くつもりなん……」
「出発しんこーう!」
俺の言葉は彼女には全く聞こえていなかった。
「私が天才だなんて、そんなの違うわ。あなたはもっと大切なことを忘れてる」
空を飛びながら彼女はそう言った。
「本当は、誰にでも、当たり前にできることなの……」
彼女はそう言うと、歌い出した。かつてラプラスが歌ったのと同じメロディーで。その声につられて、彼女のチルタリスがハーモニーを作り出す。その歌は、風のように大地に流れていった。
目的地に着いたのは、次の日の朝だった。しかも、俺にはここがどこなのかさっぱり
わからなかった。とりあえず、川に橋がかかっている。しかも、その橋の上に家が建っている。
「ビレッジブリッジって言うの」
彼女は橋に足を踏み入れながら言った。
「そろそろ聴こえてくるはずよ、ほら……」
彼女にそう言われて、俺は耳をすませた。すると、低い歌声が聴こえてきた。彼女は急に走り出し、橋を渡り終えると、川の方へ向かった。そこには一人の男性がいた。髪の毛は無かった。
「お父さん、ただいま!」
「おう、おかえり。ずいぶん早かったなぁ……」
彼女は振り向くと、ボールを取り出し、川にラプラスを出した。
「ここね、私の故郷なの。ラプラスとはここで出会ったのよ」
ラプラスはボールから出たとたんに、彼女のお父さんと歌い出した。
「ラプラスはね、歌うのが大好きなのよ。お父さんがいつも歌ってるから、一緒に歌うようになっちゃったの。楽しそうでしょう?」
彼女はラプラスの方を向いた。ラプラスは本当に楽しそうに歌っている。言葉はなくても、それが楽しい歌だということはわかった。
「あのね、歌わなくちゃいけないってことはないの。歌うっていうのは、もっと自然なこと。私にしか出来ないことじゃないわ」
彼女は俺の目を見つめて言った。
「歌うことは、もっと楽しいことのはず。そうでしょう?」
言葉が出なかった。俺は、歌うことに必死で、楽しいという気持ちを完全に忘れていた。歌は、もっと自由なものだったのだ。
「でも……」
「なーに?」
それでも、ひとつ納得がいかないことがあった。
「お前のラプラスの歌を聴いても、全然眠くならないのはどうしてなんだ……?」
彼女は目を丸くした。そして、あり得ないと言わんばかりの目で俺を見た。
「だって、技じゃないもの……」
彼女は言った。
「歌うことは、自然なこと。わざ以外でも、ポケモンは歌が歌えるのよ?」
反応に困った。それを理解するのに数秒かかった。そして、自分がとても恥ずかしい間違いをしたことに心底後悔した。
「あ、でも、ラプラスもね、ほろびのうたなら歌えるわよ? 聴いてみる?」
「いや、それは遠慮しとく」
その日、俺は、自分のチルタリスの歌を初めて聴いた。それは、とても綺麗なソプラノで、涙が出るほど美しかった……。
その日の夜、俺はライモンシティに帰ってきていた。彼女はビレッジブリッジに残り、またそのうちライモンシティに来ることを約束してくれた。そのときに、一緒にステージに立つことも。
ミュージカルホールの裏のベンチに腰かけると、北からとても強い風が吹いた。
「あ……」
その風にのって、彼女とラプラスの歌声が、かすかに、でも確かに、聴こえた気がした。
※言わずもがな
連続バンドデシネシリーズ特性戦士ポケンジャー!
第8話 当選! きょううんガール
ポケンジャー「出たなーっ、悪の特性怪人!」
きょううんガール「キョーッキョッキョ! 私はきょううんガール! きょううんは攻撃が急所に当たりやすくなる特性よ! 私の運の良さ、見せてあげる!」
ポケンジャー「一体どれだけ運が良いと言うんだ……!」
きょううんガール「私ね、この前宝籤で1等があたったの! これでもう働かなくても遊んで暮らしていけるわ! だから悪の特性怪人はやめて来ちゃった!」
ポケンジャー「そ、そうか。すまんが少し貸してくれないか? 給料日前で金欠なんだ」
ナレーション「きょううんガールにお金をせびるポケンジャー! 負けるな戦えポケンジャー! 利子はトイチだポケンジャー!」 続く
第19話 大雪! ゆきふらし怪人
ポケンジャー「出たなーっ、悪の特性怪人!」
ゆきふらし怪人「ユッキー! 私はゆきふらし怪人! 私が登場するとあられが降り出すのだ!」
ポケンジャー「でも恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて俺は好き……なんだが何であられなんだ!」
ゆきふらし怪人「そもそも貴様は恋人いないだろうが!」
ナレーション「みんなのヒーローという立場上恋人を作れないポケンジャー! 負けるな戦えポケンジャー! リア充爆発ポケンジャー!」 続く
第26話 念話! テレパシーウーマン
ポケンジャー「出たなーっ、悪の特性怪人!」
テレパシーウーマン(……聞こえますか……聞こえますか……ポケンジャーよ……今……あなたの……心に……直接……呼びかけています……)
ポケンジャー「こいつ……直接脳内に……!」
テレパシーウーマン(テレパシーは……味方の技のダメージを……受けない……特性です……ですが……今……私に仲間は……いません……退くのです……これでは……戦いに……なりません……)
ポケンジャー「それは良い事を聞いた! 今がチャンスだ!」
ナレーション「孤立していたテレパシーウーマンを倒したポケンジャー! 負けるな戦えポケンジャー! まるで悪役ポケンジャー!」 続く
第33話 謎野菜! みつあつめ怪人
ポケンジャー「出たなーっ、悪の特性怪人!」
みつあつめ怪人「ミミミミミ! 私はみつあつめ怪人! みつあつめは戦闘後にあまいミツを拾ってくる事がある特性さ! お一ついかがかな?」
ポケンジャー「あまいミツでもいいんですけど……でも僕はオリーブオイル」
みつあつめ怪人「オリーブオイルをそんなにドバァっと……しかも4回も使うだと……!? あなどれん……」
ナレーション「自慢の料理の腕前でみつあつめ怪人を唸らせたポケンジャー! 負けるな戦えポケンジャー! 荒い盛りつけポケンジャー!」 続く
第36話 富士山! ターボブレイズ男
ポケンジャー「出たなーっ、悪の特性怪人!」
ターボブレイズ男「シューZO! 俺はターボブレイズ男! ターボブレイズは相手の特性を無視して攻撃出来る特性なんだよ! くらえオーバーヒート!」
ポケンジャー「くっ、強い……! これまでか……!」
ターボブレイズ男「諦めんなよ! もっと熱くなれよ! 頑張れ頑張れ出来る出来る! シジミがトゥルルって頑張ってんだよ! イワナ=ミナラッテ=ミケロ! 絶対に出来るんだから! だからこそNever Give Up!」
ポケンジャー「そうだな……諦めちゃ駄目だな……! 今日から俺は……富士山だ!」
ナレーション「ターボブレイズ男の励ましで立ち直ったポケンジャー! 負けるな戦えポケンジャー! お米食べろポケンジャー!」 続く
第39話 特別! ミスターおやこあい
ポケンジャー「出たなーっ、悪の特性怪人!」
ミスターおやこあい「アーイッ! 私はミスターおやこあい! おやこあいは子供と共に攻撃する特性だ! 親子の絆見せてやる!」
ポケンジャー「くっ……どれ位強い絆なんだ……!?」
ミスターおやこあい「説明すると長くなるが……私のお父さんがくれた初めてのキャンディ、それはふしぎなあめで私は4歳だった。その味は甘くてクリーミィで、こんな素晴らしいキャンディを貰える私はきっと特別な存在なのだと感じたものだ。今では私がお父さん。息子にあげるのは勿論ふしぎなあめ。なぜなら彼もまた、特別な存在だからだ」
ポケンジャー「うっうっ……いい話だ……っ! ……俺は帰る」
ミスターおやこあい「え?」
ポケンジャー「お前を倒したら、息子さんが悲しむだろう?」
ナレーション「親子の絆に胸を打たれ涙を流すポケンジャー! 負けるな戦えポケンジャー! 目薬使うなポケンジャー!」 続く
第46話 変態! かそく男
ポケンジャー「出たなーっ、悪の特性怪人!」
かそく男「IGAAAAAAAAAAA! 俺はかそく男ドゥエ! かそくは毎ターン素早さが上がるドゥエく性ドゥエドゥエ! この速さに付いドゥエこれるかドゥドゥドゥエ!」
ポケンジャー「このマグロの様に跳ねながら迫り来る様……まごう事なき変態……!」
かそく男「ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥエ」
ナレーション「変態的な動きで襲い掛かるかそく男! 負けるな戦えポケンジャー! ムッムッホァイポケンジャー!」 続く
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今年も言います。ごめんなさい。
と言う訳で3回目のエイプリルフールネタです。去年は1日に投稿してませんが。
今回は特性戦士ポケンジャーのネタです。なるほどジャーナルでも良いんですけどね、変えた方が飽きないじゃないですか。せっかくですので技と暮らすで既に使ったパロディネタを使ってみたりもしました。
内容が物足りない感じがあるので思いついたら足すかもしれません。パロディばかりなので主にパロディじゃない方を。十分そろえてから投稿するとエイプリルフールに間に合わなくなってしまいますのでね。この計画性の無さである。いや別にエイプリルフールじゃなくても良いんですけどもね、せっかくですからね。
財閥会長の孫娘が失踪した。至急探すように。
俺たちに託された事件の内容は、簡単に言えばこんな物だった。財閥会長の孫娘・失踪。この二つの単語を組み合わせれば、いくら素人でも理由を予測することくらい可能だろう。シックス・ナインズに近い確率で、
『悪い遊びをしていて、巻き込まれた』
こういう台詞ではなくとも、自業自得に近い出来事に巻き込まれたのではないか、という答えが返ってくるだろう。警察組織に身を置いているのであまりこんな言い方はしたくないが、ふと考えてしまうくらい今の子供達は危険を知らない。たとえ補導しても未成年であれば逮捕することすら出来ない。軽く説教して返さなくてはならない。
そんな事件を扱う日が続いていた時、それは起きた。
未成年とはいえない、幼い子供が失踪する事件。
初めは誘拐の線から当たっていた。だが親、友人、教師。そしてその子供が住む家の近郊にある交番全てを当たっても不審者は全く見受けられない。そして更に遠く離れた場所で再び失踪事件が起きた。ただしその被害者は中学一年生だったので、てっきり事件にでも巻き込まれたのではないか、と皆が思った。
だが話を聞いて、再び的外れな考えだったと分かった。その子供は通っている学校ではトップクラスの成績を誇り、しかも家が遠いため毎日のように母親か父親が送り迎えをしていた。これでは、事件に巻き込まれる理由も時間の隙間もない。そして何より重要なことは、失踪したのは家で部屋は完全なる密室状態だったということだ。
『娯楽にあまり興味を示さない子でした』と、見るからに教育してますという母親はハンカチで目を押えながら言った。これでは振り出しどころか二つの事件を未解決という名の谷に落とすことになってしまう。共に取り調べをしていた上司と頭を抱えていると、そういえばと母親が立ち上がった。
『それでも、これだけは面白いと言って息抜きにやっていたようです』
現場保存せずに証拠を移動させ、しかも隠していたこと事態捜査の妨げとなるのだが、その時はそれがどれだけ重要な意味を持つか分かっていなかった。一応確認してみましょうと言い、それを受け取って署に戻った。
そしてそこで、もう一つの失踪事件との共通点を見つけることとなる。
『あの子、よく友達とこれをやっていたんです。交換したり、バトルしたり。勝った時にはよく嬉しそうに話していました。私はそういうのに詳しくないんで、ただ相槌を打つだけだったんですが……』
シルバーのボディにはめられた、メモリチップのような小さなソフト。何のプログラムが入っているか分かるようにシールが貼られている。ロゴは宝石を思わせるデザイン。サブタイトルまで宝石の名前だった。
ゲーム。DSでプレイできると誰かが言っていた。俺はゲームをしないから分からないが、認識だけはしていた。テレビで大々的に宣伝していたからだ。
今やこの国が誇る、巨大なタイトル。
『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』
失踪した子供達はこれに夢中になっていたらしい。彼らのDSに差し込んでデータを見てみると、見たことの無い名前の生き物……ポケモンが六匹動いていた。手持ちというらしい。プレイヤーはポケモンを捕まえ、育て、戦わせる。そしてシナリオには各地の『ジム』の主将『ジムリーダー』との対戦、ポケモンを使って悪事を働く謎の集団を壊滅させること、そしてポケモンバトルの最高峰、『ポケモンリーグ』にいる『四天王』『チャンピオン』を倒すことで成し遂げられる『殿堂入り』など、挙げればキリがないほどの要素が盛られていた。
「最初に登場したのが十五年かた前ですから、大分ゲーム機が進化してプログラムも綺麗になっているんですよね」
詳しい後輩がそう言って器用にゲーム機をいじる。十五年前……俺はまだ小学生だ。だがゲームを遊んだことすらなかった。せいぜい頭の体操としてチェスやモノポリー、将棋をやっていたくらいだ。
「だが今回の失踪事件とそのゲーム、何か関係あるのか」
「ただの偶然ということも考えられます。中学一年生とはいえ、世間的にはまだ子供です。とにかくこのゲームのことも頭の片隅に入れつつ、地道に聞き込みをしていくのが重要かと思われます」
「よし、頼んだぞ」
そんな会話をしてから早一ヶ月が経過していた。その間にも失踪者は増え続け、必ず被害者がハマっていた物として『ポケモン』があった。もう間違いない。彼らはそれに関する何かに巻き込まれ、失踪したのだ。
だがそれが分かったところで何も手がかりは掴めなかった。発売元の会社にも行ってみたが、開発チームの人間にそれらしき人間はいない。
そんな時、その事件は起きた。先ほど前述した事件。
『財閥会長の孫娘が失踪した』
今度こそ普通の誘拐事件かと思い、早速友人である少女の家に向かい事情聴取をした。だが彼女の話を聞くうちに、最悪の予想が当たった。その孫娘はゲーマーで、ポケモンをプレイしていたという。
そしてその友人の言葉。何か事件の手がかりになるようなことを知っているかのようだった。詳しく聞こうとしたところで、連絡が入った。捜査会議をするから戻れと言う。
意味がない、と思った。いくら会議をしても情報が無ければ警察は動くことすらできない。歯がゆい思いで会議室に向かい、会議を始めかけたところで―― 新しい失踪事件が出た。
まさか、と思い通報先に行けばそこは、
「刑事さん達が帰った後、思いつめたような顔で二階に上がっていったんです。朝ごはんまだだったから、早く来なさいよ、って叫んだんです。でも返事がなくて…… おかしいなと思って部屋に行ったら、この有様で」
彼女の部屋は散らかっていた。だが母親に聞けば昨日帰って来て見た時には綺麗に片付いていたという。一晩でここまで散らかすことは、まずない。だがまた被害者を出してしまったことは紛れもない事実だ。
あの時、捜査会議の電話が入らなければ。
「で、やっぱりこの子もポケモンをやってたんだな」
警部が厚いシルバーカラーのDSを取り上げた。電源は落ちている。入っているソフトは、パール。ふと目の隅に引っかかる物があり、ベッドの上の掛け布団をどけた。
携帯電話だった。どうやら彼女は消える直前、これを見ていたらしい。母親に許可を取り、メールボックスを開く。
一番最近のメールは、昨日の夕方だった。差出人の名前にも驚いたが、その内容にはもっと驚いた。
『ごめーん。何かあの裏技、私の勘違いだったみたい。帰ってからもう一度見たら、下手すればゲームそのもののデータが消去されちゃうって書いてあったから。
だから忘れてね』
裏技。時々テレビでやっている裏技とは全く別物だ。慌ててそれより前のデータを見たが、裏技に関することは何も書いていない。だがこれは大きな進歩だ。ゲームに関することを知ったことが進歩なのか、と言われるかもしれないが、そもそも被害者の共通点が同じゲームにハマっていたことだけなのだ。
これには必ず、何かある。俺は携帯電話を取り出すと、先ほどポケモンについて教えてくれた後輩に連絡を取った。自分達が戻るまでに出来るだけ、ネットのポケモンに関する裏技のサイトを探ってくれ。その中に興味深い内容の裏技があったら、コピーしておいてくれ。
後輩は何も言わずに『分かりました』と言ってくれた。どんな形であれ事件の捜査が進むのは嬉しいのだろう。ましてや、それに自分が関わったとしたら。
「俺にはゲームの類は分からんが……本当に関係あるのか」
戻る途中、助手席で警部が訳が分からない、という顔をして聞いてきた。ゲームなんて俺にも分かりません、ただ、と続けた。
「せっかく掴んだ被害者のメールなんです。調べないわけにはいかないでしょう」
「まあな」
「それにその裏技の内容が気になります。下手すればゲームのプログラム自体が駄目になる……それほどのリスクを持つような裏技って、何なんでしょうね」
覆面パトカーは、ビルに囲まれた道路を静かに走っていく。
「事件が表沙汰になっているせいもあり、すぐに見つかりました。彼らの情報網には驚かされます」
そう言って後輩が見せてくれたのは、ある掲示板のログを印刷した物だった。記号を使った顔文字など一般人には分からない世界が広がっている。よく考えれば、ゲームもそうなのかもしれない。誰にも邪魔されず、時には気の合う仲間と共にいられる正に理想の空間。
「ここ、見ていただけませんか」
赤ペンで印を付けられた場所に、こんなことが書いてあった。
『251:何かポケモンが事件の中心らしいぜ
252:まじか
253:裏技で、ポケモンの世界に行けるーなんてヤツがあるらしい ほんとかどうかは知らんどな
で、そいつらは試していなくなった、という噂
254:そして だれも いなくなった!
255:ウソだろww 誰が信じるんだよそんなんww
256:中二乙
257:でも実際にサイトあるらしい 俺みたことある
258:うp希望 』
読みにくい。ひたすら読みにくいが、大体の内容は分かった。そして、と後輩が続ける。
「ひらすらログを追っていったら、一度だけこのサイトのURLが出てたんです。これが裏技の内容です」
背景は黒。そして文字は白。別の意味で読みにくい。そこにはこうあった。
『タイトル画面で特定のボタンを押し、マイクに向かって『全てのプレイヤーのリセットをわが身に委ねます』と言う』
「リセット?」
「本当はどうか怪しいですけどね。一応これが妥当かなと思って印刷したんです」
「リセット……」
黙ってしまった私に、後輩が慌てて付け加えた。
「結構普通なんですよ。特に初心者は一匹だけメインに育てちゃって、その一番強いやつがやられたら後は袋叩き状態ですから。それでレベル上げする気力もなくて、もう一度初めからやり直しとか。あとは能力値が高いポケモンを欲しがるとか、弱くてもいいから色違いが欲しいとか」
「ほー。そのポケモンとやらには能力の違いもあるのか」
「ええ。高ければ高いほど、育てていくうちに差がはっきり分かれてきます。そういえばエメラルドのファクトリーは辛かったなあ。自分のポケモン使えないんだから」
自分の後ろで通な話をしている二人に、私は叫んだ。
「彼女のソフトがどうなっているか、リセットしたとしたらどうやってそのようにしたのか調べることは出来るか」
「え……それは難しい、というか無理です。前作のデータはリセットしていたら完全に消去されてますから」
そう言われながらも私はDSの電源を入れ、パールを起動させた。手持ちはなし。後輩があれ、と疑問の声を上げた。
「おかしいな。発売されてから既に半年以上経ってるはずなのにほとんど序盤の話だ。まだ最初のポケモンすら貰ってない」
「この後ろに差さっているのは何だ?これもソフトか」
「お、懐かしいな。サファイアだ。そうか。パルパークで連れてこようとしてたんだな。もしくは連れてきた後、リセットしたか」
「おいおいどういうことだ。ちゃんと分かるように説明してくれよ」
「分かりました。えっと……」
後輩の言葉をまとめると、こういうことだった。
・ダイヤモンド、パールの前にもポケモンはソフトをだしていて、それはルビー、サファイア、エメラルドの三種類だということ。
・ダイヤモンド、パールはある特定の条件を満たすと、その三つのソフトからポケモンを連れて来ることが出来るということ。
・ただし連れてくるには少なくとも殿堂入りしなくてはならないため、おそらく今のデータは殿堂入りした後何らかの理由で消去した後の物だろう、ということ。
「そうそうリセットすることなんて無いんですけどね。何か変な裏技でも使っ……あ、もしかしたら」
「裏技!?この掲示板に書いてある以外にもあるのか」
「ええ。あんまり言うとマネする馬鹿がいると思うので詳しくは言いませんけど、『壁の中から出られなくなる』っていうのがあるんです。黒いドットの無い世界で何をしても動けなくなるんですよ。普通ならセンターに連絡して直してもらうのが一番ですけど、時間もかかるし。この子はやらないままリセットしたのかも」
「……」
理解出来ない。手塩にかけて育てた仲間を、何の思いもなしに消去するなんて。それがゲームだとしても、あまりにも軽すぎる気がした。
変な胸の取っ掛かりを覚えた時、彼女の携帯履歴を調べていた方から連絡が来た。一つだけ非通知があったという。しかもそれは彼女が消える直前に掛けていた内容らしいのだ。慌ててパソコンの前に行くと、スピーカーから声が流れ始めた。クリアにしているため聞き取れることは出来るが、それにしても酷く聞き辛い。
「フィルターかけてるな。何処からかは分からないのか」
「それが……コンピュータからなんです」
「コンピュータ!?プログラミングされてるってことか!?」
会話の内容は十秒ほどだった。俺はその中にある言葉の一つが気になった。
『二つの世界は繋がった』
二つの世界。ここまで調べたら、分かる。分からなくてはならない。不要な物を排除していき、最後に残った物。それがどんなに信じられない事でも、それが真実――
「警部」
「何だ」
「彼女達の居場所が、分かった気がします」
警部は驚かなかった。俺より低い位置にある頭をこちらに向けて、いつもの通りの口調で喋る。
「言ってみろ。お前なりの意見を。もしかしたら俺と同じ意見かもしれないし、違うかもしれない。だがどちらにしろ、これは俺たち警察組織の手に負えるような事件じゃなくなってる。俺たちは技術者じゃないからな」
俺は一気にまくし立てた。
「彼女達は、プログラムの……『ポケットモンスター』というゲームの一部にされています」
「つまり、その『リンネ』っていうキャラこそが、失踪したお嬢ちゃんそのものなわけだ」
一度捜査本部を出た俺と警部は、喫煙室の中と外に分かれて話をしていた。警部は愛煙家だが、俺は煙草を吸わない。何とも奇妙な光景だが、両方が満足することが出来るのはこれだけなのだ。
「フィクションとかSFを苦手だって言ってたお前がそんな突拍子もない発想が出来るとは、成長したな」
「俺をからかっている暇なんてありませんよ。早く何とかしてプログラム化された子供達を助けなくては」
「馬鹿言うなよ。ここはリアルの世界なんだ。ゲームでもアニメでも、ましてや映画でもない。リアルに生まれた俺達は、リアルが『限界だ』っていう場所までしか捜査は出来ないんだ。第一、憶測だけで上が動くと思うか?」
「ですが……」
「俺はな、ヒメヤ。『どうやって』プログラム化したのかっていう理由より、『どうして』そんな事件を起こしたのか……それが一番引っかかってるんだ」
久々に苗字を呼ばれた。いつも『お前』としか呼ばれないからだ。『どうやって』より『どうして』忘れがちだが、取調べの際には大切なことだと聞いた。『何故』も後者に入る。『何故こんなことをしたのか』『何故誰も止めることが出来なかったのか』『何故助けてやれなかったのか』『何故……』
この仕事を始めてから、数え切れないほどの『何故』『どうして』を繰り返してきた。時勢が時勢なのか、繰り返しても繰り返しても足りないくらい、同じような事件が起きていた。それと同時に、リアルな『リセット』も数え切れないほどあった。
「人生リセットか。ゲームに慣れすぎてるんだろうな。失敗作が生まれても、ボタンを押せばリセットできる。……分からないが、プログラム化された子供達はどれくらいゲームをリセットしてきたんだろうな」
「少なくとも彼女は、一度はリセットしています。今までの思い出が積み重なった、前のデータも一緒に」
「だよなあ。――俺はあの子らの気持ちが分からないのさ」
微妙な空気が、二人の間を流れていく。だが、と警部が付け加えた。
「もしかしたら、プログラム化された子供達もはっきり真実に辿りついてはいないかもしれない」
「は?」
「何故自分達が取り込まれたのか。自分達ではないといけなかったのか。無自覚は恐ろしいな」
カランと缶コーヒーの空き缶がゴミ箱に落ちていった。
「マスコミには何も言うなよ。まあ言ってもあちらさんも何も出来ないだろうが…… プログラムにされて連れて行かれたなんて夢物語みたいな話、報道できると思うか?
警察共々、世間の笑いものになるだけだ」
子供達のソフトは今も保存されている。DSの電源を入れた、プレイできる状態で。ゲームの中に取り込まれた『彼ら』は、自ら動くことは出来ない。プレイヤーが動かしてやらないと、何もできない。バトルも、買い物も……動くことすらできない。
「何とかできませんかね」
「あくまで希望的観測ですが」
後輩が言った。
「このゲームのシナリオは、主に二つに分かれます。チャンピオンを倒して殿堂入りする前に、悪の組織を壊滅させるのです。
だから、もし僕達がそれを倒す手助けをしてやれば……戻って来られるかもしれない」
………………………………………
気が付けば、真っ暗な世界にいた。右も左も上も下も分からないくらい、真っ暗闇。自分の姿は見えるから、光が皆無というわけではなさそうだ。
だけど、私の格好は普通ではなかった。普通とは言えなかった。頭に白いニット帽。トップスは黒いタンクトップ。スカートは今にも下着が見えそうな超ミニのピンク。そして同じ色のブーツに、マフラーと黄色いボストンバッグ。
それはどう見ても、昨日までやっていたポケモン『パール』の女主人公と同じ服装だった。それと同時にここがどこか理解した。記憶が蘇ってくる。ノイズだらけの電話と、白い光。
ここは、ゲームの中だ。
『ようやく気付いたか』
何処からか声がした。いつの間にか、横に私と同じ服を着た少女が立っている。……いや、多分彼女が本当の主人公なんだろう。だけど声と話し方に違和感があった。なんというか、私だけじゃない、全てを恨んでいるような声。
「貴方は」
『自分が今何処にいるか分かれば、分かるんじゃない?』
歳相当の声になった。何処からコピーしてきたのか、女の子の声。真っ暗闇の空間。何処が何処かすら分からない、不気味な空間。ずっといたら発狂してしまいそうな――
『私達、ずっと一緒だったじゃない』
その子が言った。
『どうして、リセットしたの』
> 作者は3DSの立体ポケモン図鑑でキュレムのおしりがかわいいと評判をききつけ、犯行に及んだと供述している。後悔しているが、反省はしている様子はない。
>
> 一応、ドラゴンタイプだったはずですよね
あえて言おう!
キュレムのケツはすばらしい!!!!!!!!
おおきな穴がぽっかり空いたジャイアントホール。その奥の奥に住んでいるのが、キュレムです。図鑑完成に必要なしと言われ、なかなかキュレムに会いに来てくれるトレーナーさんもいないので寂しかったキュレムですが、最近嬉しいことがありました。
キュレムを主役に迎えた映画が発表されたのです。それだけでも嬉しいキュレムに、またまた嬉しい知らせが届きました。キュレムを主役に迎えてゲーム本編が発売されるというのです。おまけに、パッケージにまでキュレムが飾られています。
嬉しくて歌っていたら、いつのまにか自分の冷気で体を凍らせちゃった、ちょっとおっちょこちょいなキュレムなのでした。
☆★☆★☆★
作者は3DSの立体ポケモン図鑑でキュレムのおしりがかわいいと評判をききつけ、犯行に及んだと供述している。後悔しているが、反省はしている様子はない。
一応、ドラゴンタイプだったはずですよね
この話には、グロい表現があります。
昔々、流星の滝にタツベイの子とチルットの子がいました。どんな竜の子も必ず踊るような動きをするので、それをりゅうのまいと呼びました。チルットはそれがとても美しく踊れるのに、タツベイは酔っぱらいが千鳥足で歩いてるようでした。
さらにチルットは空を飛べます。タツベイは飛べませんでした。空高く舞い上がるチルットをいつも岩の上から見上げてます。
けれどもタツベイはチルットが大好きでした。いつか自分のおとうさんおかあさんと同じようにボーマンダとなって、チルットと一緒に空を飛ぶことを夢みていました。
ドラゴンタイプの中ではりゅうのまいが最も美しく踊れるポケモンがモテますので、チルットはいつでも雌に囲まれていました。そんな雌の外にタツベイはいました。それでもチルットは将来お嫁さんにするならタツベイがいいと言って他の雌を寄せ付けません。他の雌は一番りゅうのまいがヘタクソなタツベイが選ばれることが不思議で仕方ないようです。
はやくチルットと空を飛びたいタツベイは、毎日流星の滝から飛び降りては空を飛ぶ練習をしていました。石頭なので落ちても平気です。何度も練習して、チルットと空を飛びたいのです。
たくさん飛び降りました。タツベイの体はやがて白い鎧で覆われ、体重も重くなりました。コモルーに進化したのです。あまりに嬉しくてチルットのところへと遊びにいけば、すでにチルタリスになっていました。チルタリスは進化してからりゅうのまいが一層美しくなっていました。コモルーはりゅうのまいが一層踊れなくなっていました。丸いからだでは動きにくいのです。
美しいチルタリスとほとんど動けないコモルー。育った時期も年も同じくらいなのに、手の届かないチルタリスの美しさ。それに引き換え足で移動するよりも転がった方が早いと思われてコモルーの醜さ。チルタリスと自分はつり合わないと、コモルーは次第に遠のいていきました。
それからというもの、コモルーは飛び降りることもなく、ただひたすら流星の滝から空を見上げては先に進化した仲間たちの後ろ姿を目でおってました。そして思い出したように動くと、流星の滝から転げ落ち、再び登ります。コモルーの固い殻は傷だらけでした。
チルタリスに会わなくなってからかなり経ちました。どんなに会わなくてもコモルーは忘れたことはありません。けれどこんな醜い姿で会うことが耐えられなかったのです。
長い年月が経ち、いくつもの季節が通りました。背中にむずがゆさを感じ、コモルーは地面にこすりつけました。丸いからだですので、そのまま転がってしまいます。止まることなく、コモルーの体が重力に引かれました。背中は一層かゆくなり、一生懸命はばたきました。しっぽは長くなり、顔は凛々しくなりました。ボーマンダとなることができたのです。
水面にうつるボーマンダとなった自分をじっと見つめ、鋭い爪がはえ揃った前足で地面を蹴ります。今までにないくらいにわき上がる力に、ボーマンダは翼を羽ばたかせて空を飛びました。そして空を飛びながら、チルタリスが見せてくれたりゅうのまいを思い出しながら踊ってみます。それはもう空を無敵の竜が昇っていくかの美しさでした。これならばチルタリスと一緒にいられると自信に溢れます。
さっそくボーマンダはチルタリスのところへと向かいました。久しぶりに会う姿は進化していますし、もしかしたら解らないかもしれません。ボーマンダがいなくて寂しかったかもしれません。
翼がはえたばかりで調節は難しいですが、なんとかチルタリスのところへとやってきました。するともう一匹チルタリスがいるのです。ボーマンダが姿を見せなくなったので、死んでしまったか嫌われたのだと思い、他のチルタリスと番になったのだと言われました。
ボーマンダの心は激しく燃え上がります。黙って消えて悪かったなどとみじんにも思えません。約束を破ったチルタリスへ全ての怒りをぶつけます。ボーマンダの力はチルタリスのそれよりかなり強いのです。チルタリスも、番も巣も全て鋭い爪で切り裂き、嫉妬の炎で燃やし尽くします。巣の中には割れたタマゴの殻が散乱していました。
完全に赤い固まりになったチルタリスをボーマンダは何も思わず鋭い牙で噛み付きます。初めて食べるチルタリスの味が良かったのか、夢中でむさぼります。残ったのは血に濡れたふわふわの羽と骨だけでした。2匹目は途中で飽きたのか爪で切り裂いて遊んでいました。
それからというもの、ボーマンダはチルタリスを襲ってはその肉を食べて暮らしていました。かならず前足で切り裂き、青い羽毛が見えなくなってから。まだ心臓が動いて命乞いをしているチルタリスもいました。容赦なくその首にかみつき、苦しみに悶えるチルタリスの絶叫を楽しんでいました。
流星の滝はボーマンダのえさ場となりました。チルタリスたちはボーマンダを恐れましたが、空から一気に襲いかかるボーマンダから逃げることは不可能でした。そこで、チルタリスはりゅうのまいを最も力強く美しく踊る神様、レックウザの元へと行きました。レックウザはチルタリスたちから話を聞くと、自分の住処であるそらの柱に身を隠すことを許可し、流星の滝に向かいます。
なにも知らずボーマンダが餌のチルタリスを探していると、急に空が暗くなりました。天気が悪いのかと見上げると、いきなりわしづかみにされました。「ドラゴンなのにドラゴンを食べるボーマンダはお前だな。これからドラゴンタイプと認められないよう、お前からりゅうのまいを取り上げよう」とレックウザは言いました。みるみるうちにボーマンダはりゅうのまいの記憶がなくなっていきます。もう力強く空を昇る竜を表現することはできなくなりました。
空を飛べるのにりゅうのまいができない。そんなボーマンダは仲間のボーマンダからも無視されるようになりました。毎日を流星の滝で泣いて過ごします。チルタリスに最初から言っておけばよかったこと、なぜ殺してしまったのだろうということ。ふと頭を持ち上げ、翼を動かしました。羽ばたくとレックウザを探しに空へ高く高く上がります。
レックウザを探すために何日も飛び回り、ボーマンダは空腹です。けれど一向にレックウザは見つかりません。最後の力を振り絞り、一際高い塔へと飛びました。
待っていたかのようにレックウザはボーマンダを見ています。ボーマンダは言いました。「ごめんなさいごめんなさい。私からりゅうのまいを取り上げないでください。チルタリスは悪くないのにやつあたりしてしまいました」レックウザは言いました。「今までお前がどんなことをしてきたか解ったようだね。お前にりゅうのまいは返そう。ただしチルタリスのことを忘れないように、自分では覚えないようにしておくよ」レックウザはボーマンダにりゅうのまいを返しました。ボーマンダは喜んでレックウザの前で踊ります。けれど本当に見て欲しいチルタリスはもういないのです。
その後、改心したボーマンダはさらにりゅうのまいを美しく踊るようになり、それを見た人間たちは芸能の神様として祭り上げました。さらにチルタリスへの思いから、恋愛成就の神様としても有名になっています。
ーーーーーーーー
そんな説明書きを見たカップルがボーマンダへ参拝する。けれども良く見た方がいい。ボーマンダは嫉妬によって狂ったドラゴンだ。それなのに番で来るなんて、いかにも「食ってくれ」と言わんばかりじゃないか?
ーーーーーーーーーーーーーー
お題、ドラゴンタイプ。やはりボーマンダとチルタリスはいいのです。本当に。流星の滝でチルットかわいいし歌えるし飛べるしいいなと思いながらタツベイが空への憧れを持ってたらなお。
タブンネは激怒した。かの嘘吐き西条流月を取り除かねばならぬと思った。タブンネには情報が解らぬ。小説サイトでげしげしして暮らして来た。しかしデマに関しては人一倍敏感であった。
ーーーーーーーー
発売前のあのデマ飛び交うの何とかならないかなというメッセージを
つまり
【ごめんなさい】
どうも、586です(´ω`)
3/18(日)の打ち上げに参加いただける方に、お願いがあります。
当日連絡が取れるよう、お手数ですが下記のメールアドレスに対して、本文に「名前」(HN)を記載して
メールを送信してください。
shell_586★yahoo.co.jp
(※★を@に変更してください)
受信できた方から随時、こちらの携帯電話のメールアドレスを送付します。
いざと言うときに備えて連絡を取れるようにしておきましょう(`・ω・´)
以上、よろしくお願いいたします。
日増しに暖かくなり、外に洗濯物を干すことも苦ではなくなった。石畳の小道に面した私の部屋。ベランダの手すりにシーツ、タオルを並べていく。端っこにはシェイミをモチーフにしたプランター。
金属製のハンガーには下着とYシャツ。あの双子のは、少し離れて別のハンガーに干す。男性、しかも五十を超えた男に若い女性の私物は干せないので、ドレディアに頼む。
部屋の中にあるロトム型のラジオから、ハスキーな女性の声が聞こえてくる。全国的に晴れ渡り、花粉が非常に多い日になるでしょう。
下の通りを歩く人達の中に、花粉マスクをつけた人が沢山いた。私は花粉症ではないが、洗濯物に花粉が付くのは好きではない。バイクに黄色く汚れが付くのもいただけない。
「……晴れたことだし、水仕事をしようか」
ドレディアが頷いた。
アパルトマンの裏。ガレージがあり、住人の自転車やバイクが置いてある。ここに子供連れで住んでいる人間はいない。若い女性や男性はいるが、それでも結婚はしていない。
ホースを使うと周りに飛び散るので、バケツに大量の水を入れて持って来た。ゴム手袋に雑巾、洗剤も忘れない。
黒がメインカラーなので、白ほどではないが汚れが目立つ。案の定、花粉と砂埃が猛威を奮って表面に模様を作っていた。少しずつ洗剤と水を使って落としていく。
ふとガレージの屋根の隙間を見れば、梅の花が咲いているのが見えた。濃いピンク色。今年は芯まで冷える日が多かったせいか、桜の蕾はまだ固い。やっと梅が咲いてきた頃だ。例年より五日ほど遅いという。
腕まくりをした腕に日光が差し込む。ドレディアが横で久々の日光浴を楽しんでいた。
終わった時には、時計が十時半を指していた。
あの二人はまだ帰ってこない。確か今日は答案返却と大掃除だと言っていた。双子とはいえ、高二になればほとんど変わってくる。文系、理系の差ではなかった。勉強が苦手なのは二人とも変わらなかった。
昼食と夕食の買出しをするため、ドレディアと一緒に部屋を出た。もうコートはいらない。薄いセーターだけで平気だ。
パン屋に行ってフランスパン、スーパーに行って野菜と果物を買い込む。ついでに珈琲店に行って豆を買う。帰る時に、学生達とすれ違った。いい顔をしている者もいれば、その反対もいる。後者はしきりに鞄を気にしている。試験の結果の問題だろう。あの二人は、どんな顔をして帰ってくるのか。
石とレンガが多く、近代的な印象をあまり受けない街。私が移り住んで五年以上が経つ。沢山の人との出会いに支えられて生きてきた。私がポケモンを手に入れるなんて、全く考えていなかった。
ここに留まることも……
帰った私がまず一番初めにしたことは、手を洗うことだった。その後にキッチンへ向かい、鍋に水を入れて沸かす。ほうれん草を洗って切り、バターでいためる。途中でベーコンと卵を入れてとじる。
水がお湯になったらそこに玉ねぎ、人参、キャベツを刻んでいれて茹でる。火が通ったらコンソメを入れ、溶けたらチーズを入れる。
「ただいまー」
二人が帰ってきた。どことなく声に張りがない。おかえり、と言った私の目に飛び込んできた物はテスト用紙だった。妹の方はため息をついた。
「今回はいけると思ったんだけどなあ」
「でも赤点は免れましたし。私も現代文が」
「いいよねヒメは。あたしなんてとりえは体育だけ……」
珍しくネガティブな発言が目立つ。買ってきたフランスパンを切り、皿に盛った。
「さあ、先に食べなさい。ヒナさんは部活があるんだろう」
「そういえばマスター、春休みどうすんの?あたし達はこの一年で溜めたバイト代でどっか行こうかと思ってるんだけど」
パンにチーズを塗り、かじる。粉がテーブルに落ちる。
「どうせなら遠い所に行こうかと思って、色々パンフ持って来た」
彼女の鞄から、色とりどりのパンフレットが出てきた。カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ。そしてイッシュ。ヒウンの港が表紙だ。
「ジョウト行こうかな。食べ物が美味しいらしいし」
「各地の名産品を味わいながらっていうのもいいですね」
「ポケモンも見てみたい」
「二人とも、読むか食べるかどちらかにしなさい」
友人と約束がある、ということでヒメは出て行った。皿を洗い、一息ついたところでパンフレットが目に入る。春休み。自分の場合休みと平日の違いはあまりない。
「……」
二人が行く場所とは別の場所だろう、と思っていた。ただ行くかどうかは分からない。行くとしたら――
まだ梅しか咲いていない。だが確実に桜の蕾は膨らみ、開花を待ち続けている。
春が近づいていた。
> 期末終わりました。それで、新橋行ったことなくて……地図見てもいまいち分からない。
> 親父なら分かると思うんですけどね。『おっさんの町』って言うくらいですから。
>
> んで、誰か駅から一緒に行ってくれないかなー……と。集合場所が駅ならなおいいですが。
> そこらへんどうお考えなのでしょうか。
> よろしくお願いします。
今の計画だと、イベント終了→移動→新橋へ と考えているので、
必然的に駅で一端全員集合することになると思います。
計画に変更があった場合は、速やかに別途連絡します。
期末終わりました。それで、新橋行ったことなくて……地図見てもいまいち分からない。
親父なら分かると思うんですけどね。『おっさんの町』って言うくらいですから。
んで、誰か駅から一緒に行ってくれないかなー……と。集合場所が駅ならなおいいですが。
そこらへんどうお考えなのでしょうか。
よろしくお願いします。
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