マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ
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  •   [No.4099] 夏の終わりに 投稿者:ion   投稿日:2018/12/22(Sat) 18:31:01     75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    全ては平等に尊い。食べるということ、それはあらゆる命を頂くこと。
    全ての命は他の命と出会い何かを生み出す。
    悲しむな、????が来るぞ。怒るな、????が近づいてくるぞ。
    喜ぶこと、楽しむこと、あたりまえの生活、それが幸せ。
    仲間たち我ら見上げ、祝福する。
    ーシンオウ神話が伝わる文化圏の様々な碑文

     どうしてわたしはこんなにしあわせでどうしようもなくせつないのだろう。
    わかっているくせに。あらゆる声から耳を塞ごうと思う。
    「お父さん、お母さんの話を聞かせて欲しいんです。」
    そういった少年の口を塞ぎ、いっしんに抱き止めた。
    少し抵抗するような素振りを見せ、しかし彼はされるがままになった。
    死んだように冷たいぬらりとした彼の感触が、真っ青な日射しの中にひかっている。私は聞いた。
    「さみしかったね。ずっとひとりで旅してきたの?」
    時は止まった。針は落ちた。
    私の腕は、おずおずとした、でもはっきりとした膂力で離された。
    そういえばこの子も人間で言えば10歳になるんだ。世間的には大人として認められる年頃、
    人間ひとりでポケモンたちの命を背負って旅をする頃になる。
    「…いえ、僕にはともだちがいるし、それに。」
    連れたポケモンを抱き上げた彼はそのか細い指で、その首に掛けられた水球のような宝石を撫でた。
    「これがある限り、ボクらは繋がっています。」
    一方で二十歳も半ばを過ぎようとする私はどうだろう?こんな子供ひとりに会うために遠い地方まで切符を買って、
    そのくせ?具体的なプランは何も立てていなかったんだ。
    「チドリさん、いや、チドリお姉ちゃん。パパとママが本当にお世話になりました。
    ーだから、あなたの話を聞きたくて僕はここにきたんですよ。」
    彼らは冷酷だ。そう思いながら私は頷くと息を吸い、精一杯の声をあげた。
    「ある夏のことです。ラグーナという南アメリカの村に、男の子と女の子がいましたー

     森はひどい夏の嵐で、木の枝が悲鳴をあげていた。10歳が迫った夜のことだ。
    そのまま全部どっか行っちゃえばいいんだ。唇を噛み締めながら思う。
    ここで悲しんだりしたら、風の魚に気にいられてさらわれてしまう。
    怖さを紛らわすために読みかけの本のことを考えたけど、ビリビリに破かれたことを
    思い出してやめた。やっぱり、食べ物がなくなって村中みんな困ればいい。
    今年なったぼんぐりみんな川の中に吹き飛ばされてーーそうだ、どうして気づけなかったんだろう。
    このままどっかに行っちゃえばいい。わたしをいじめる奴らからも、助けてくれない学校からも逃げ出して。
    さあ、来るなら来い。こんな場所に、こんな世界に未練はないーー未練?
    心配そうなパパとママの顔をわたしは頭から追いやる。全部忘れてしまえ、わたしには新しい世界が待っている。
    「ねえ、そこにいるの?」
    お腹をいっぱいにふくらませ、せいいっぱいの声をあげた。
    それでも風の音はすさまじく、じぶんがいかにちっぽけなのか実感させられる。
    「いるのだったら姿を見せてよ、何かを言ってよ。」
    ー君はどうして、そんなに悲しいの?
    ー君が悲しいと、僕たちも悲しいよ。
    そう、夢は実在した。いったいいつの頃からこの世界を見守ってきたのだろう。

    「・・ゆめ。」
    夢は終わり、朝日が昇る。
    枕元、その側に立って鼻を鳴らすのはブーバーンのたらこ。旅をやめたパパの一番のパートナーだった。
    水の音がきこえる。鏡の前で支度をしてると、少し季節ハズレのチェリムがうとうとしてて木の枝から落っこちたので笑った。
    「さなー。」
    「オカッパおはよう。」
    じぶんの女子にしては低い声が嫌いだった。台所でサーナイトが鳴き、隣でママが無言で微笑んだ。
    視線を少しそらして食卓につくと、にがいきのみが並んでいたので口に運ぶ。
    『やりたいことが見つからないと、教育機関に復帰しない児童が社会問題となっておりー』
    私はテレビのリモコンに手を伸ばすと、モーモーミルクを最後の一口まで呑み込んでチャンネルを換えた。
    「あのねパパ、わたしがんばるからね。二人の分まで幸せになってみせるから。いってきます。」
    それだけ言うとパパの顔が見えないように立ち上がり、強くなりつつある日差しに駆けていった。
     両親と、パパの手持ちだったポケモンと三人、5匹で暮らしている。
    そしてそこからアリゲイツ便で30分河を渡ると緑のトンネルを通り抜け、繁華街のはずれに
    今春入った高校がある。昔流行った子役の話題で今日は持ちきりになっていた。
    「タンポポさん、ラグーナの森で目撃したんだって!」
    何となく見学に行った部活のおかげで、情報通のアサガオのグループに紛れ込めたのは幸運だった。
    「・・ロケか何かかな?」
    「いや、プロと親が悶着起こして芸能界追放されちゃった、とか。」
    なにそれこわいー。人の不幸を楽しそうに語るこの人たちに、心から調子を合わせられればどんなに良かったろうに。私はわらった。
    「大ニュース大ニュース!」
    駆け寄ってきたのはパックくん。オレンジ色の髪、大きめな赤眼に小柄な体型の青ジャージ、旅に出る前からの腐れ縁だ。
    「転校生がこの高校に二人もーー」
    ドアが開く。ぽかん、と私の口が開く。いつもあんた間が悪いな、と思う間もない。
    この時期の転校生自体は、ポケモンブームの洗礼を受けた時代そう珍しい事ではない。
    旅人に夏休みなどなくリタイアのタイミングは純粋に個人の意思に任されているからこんな事態が発生する。
    いつか私を置いていった少年は数年ぶりに私の名の形に口を動かした。
    『ーーチドリ?』
    黒板には神経質そうな字で、彼の名カキノキが書かれていた。

     転校生を紹介します。そう言われてラグーナジュニアスクールの教壇に立った、あの日だけはちゃんと覚えてる。
    「カケハシチドリです。」
    チャイムが鳴った瞬間『みんな』が机に駆け寄ってくる光景、もう慣れっこ。
    繰り返し繰り返し転校して、何もわからなくなってしまった。
    大人になるって、たぶん慣れることだ。
    そりゃ、わたしはまだ9歳で、それがどんな感じか、どんなに辛いのかもわかるわけないけど。
    いやなことも繰り返せば楽になるのは実感できる。
    「チドリちゃんってさ、初代『忘れえぬ記憶』のヒロインに似てない?ほら、」
    「確か芸名はチタン・・?」
    「ばか!ターニアだよ!」
    「そんなことより、さ!もう森に行った?」
    「風の魚猟を見た?」
    「何、それ。」
    口を揃えて仮のクラスメイトたちはこう言った。
    「見れば、いや感じればわかるよ。」
    ふと、そんな騒ぎから距離を置き、頬杖ついて難しそうな本を読んでいる子と目が合う。
    こういう子を見るのもまた、慣れっこ。クラスに二人か三人、いつもそんな子がいる。
    自分だけは特別で、人と違うものが見えているとでも思ってるみたいな。
    そんなわけないよね。どうせわたしたちは狭い世界で生きているこどもで、毎日を遊んで、勉強して、
    ほんとのところおとなたちに何もしてあげられないまま過ごしているんだ。
    「どうしたの、チドリちゃん。」
    「・・え?」
    「怖い顔してたからさ。カキノキのこと?」
    「なんか嫌な感じだよね、」
    適当に調子を合わせる。
    トントン拍子で見学ツアーへの参加が決まり、何もわからないままで放課後に森に集まることが決まった。

    退屈だ。それが私の偽りのない心境であり、同時に何年言い続けたかもしんない口癖だった。
    そんな自分こそいっとう退屈な人間だなんてわかってた。
    ジム巡りも3つほどで早々に切り上げた。巡業してきたコンテストでも予選敗退した。
    つまんないことを笑えることが若さならそんなものいらなかった。
    それにしても、誰も座っていない幾十のパイプ椅子をせっせと整えるあの先輩はなんて滑稽なんだろう。なんてことを思いながら、私はその日もアイスの実をつまんでいた、のだが。
    「あー、つまんね!」
    どやどやと部室に入ってきた3人組を見て呼吸を止めた。焦って咳き込む。彼は合った目を逸らし、
    私は自分の意識をそらすためにアイスを口に運ぶ。アサガオが呆れる。
    「本当にカゴが好きなんだね。」
    知ったこっちゃない。私の意識はその時入室してきた男子の固まりに向けられていた。
    正確には、その中のただ一人に対して向けられていた。どうして、あんたが。
    「おいおい、まじかよ。人こんだけ?」
    わたしを含め、数名のきもちを代弁したセリフが飛んだ。
    端っこでとらえた目は緑色を複雑そうに歪めていた。
    カキノキのオレンジ色のごわごわの毛は一応このあたりで珍しい部類に入り、あの頃から変わらずに周囲の注目を集めていた。
    肩を叩かれる。惜しみない陽に金髪を照らし、タンポポ部長は私の肩ほどの背をすらりと伸ばした。
    「また来てくれたんだ。」
    彼女のポケモンが擦り寄って来たので首を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らし腹を見せる。
    「なんていうポケモンなんですか?」
    「キング。カエンジシのキング。」
    「・・心配になるくらい無抵抗なのですが。」
    「辛辣だなあチドリちゃんは。素直に受け取っときゃいいのに。」
    副部長は転校生二人に喜び勇んで駆けていく。
    「つまり出自からしてポケモンの踊りたい、表現したいという自然な感情の発露から生まれた・・」
    カキノキが面倒くさいやつに話し手をリストアップしたような笑みを浮かべた。
    その横でお前に任せたと言わんばかりに背中で手を組み明後日の方向を向く昏い目をした転校生の一人の顔立ちに見覚えがあった。
    「気のせいかなぁ。」
    「ハーミアも思うの?」
    「え、チドリちゃんとハーミアって知り合いだったの?」
    「ヘレナ、チドリはあたしの次に森の奥に来た子よ。」
    部長は答えた。カキノキはどうしてこんなところにきたんだろう。
    「無理に指導するのではなく楽しそうに演技する仲間を見せ、上手くなりたいという感情の芽生えを待ってやることこそ重要なのであります。」
    副部長が高説を切るのを見計らい、部長は活動の始めの手を叩いた。この瞬間は好きだった。
    ひとりのセリフが空間を覆い尽くし皆がひとつになって聞く感覚は演劇の挨拶がはじまるようだ。
    「まずは前に出て自己アピールをしてもらいます。どんな形でも自由です。まずは例を見せますが・・」
    だけど何も得られないまま旅をやめた私に語るべきことなどあるわけがなかった。
    「ーリーグの援助は年齢的にもう受けられないけど、旅も演劇も好きだから。
    いつも現地の子の輪に入って笑いあえる、そういう劇団を作って世界中を回りたい。
    そのために、今年こそ夏の終わりの大会で認められることが今の目標です。みんな、一緒に頑張ろうよ!」
    焦っていた。カキノキは今度こそ入れ替わり立ちかわる先輩たちの言葉に彼らしい儚さで微笑んでいたが、私の頭にはまるで入ってきてなかった。
    「わたくしはポケモンが本来持つ美しさを希求しー」
    無言に徹していたターニアが1年の一番槍となるまでは。
    「・・この地の伝承に残る風の魚に敬意を表し、遠き地の森のひと夜の妖精伽を朗読します。」
    瞬間彼女の纏うものが変わり立つ場所は舞台になった。滑稽な月に女部族の女王、七色の声。
    「恋する阿呆は死ぬほどバカをするもんだー」
    思い出した、彼女は舞台から追われたくだんの子役だ。パックの名前の由来となった妖精が残酷に私たちを笑う。
    「馬鹿げた喜劇を見物しましょうか?ご主人様、人間ってなんて愚かなんでしょう!」
    届かない。ありえなかった。自分探しなどと馬鹿げた夢に私が酔っている間に、いや、生まれてすぐから。
    彼女は母の夢に応え、たゆまぬ練習を重ねていた。
    誰かが言った。自分が変われば世界が変わると。私は自分を変えたかった。ただ、それだけのことだったのだ。

     物語だけは味方だった。チャンピオンにトップコーディネーターに。
    トレーナーたちの伝記は努力なしに大きな夢を分け与えてくれた。
    でも本当は違う。その側で人間を思いやるポケモンにこそわたしは救われていたんだと思う。
    あくまで、後から思いかえせば。認めたくないけど、わたしはひとりぼっちだ。
    家にランドセルを置きにいくと、引っ越しの片づけをしていたパパに呼び止められた。
    「学校、どうやった?」
    「ふつうだよ。ちゃんとやっていけそう。」
    「面白そうな先生はいたかいな?」
    べんきょうは嫌いだ。国語の教科書を読むのは嫌いじゃなかったけど、それは別枠だろう。
    「部活とかどうすんや。」
    住み始めたばっかりの家はピッカピカに磨かれていて、段ボールが積まれたままになっている。
    この箱がすべて整理されて少し経って、食器や本の並びが乱雑になってくるころに大体引っ越すことになる。
    ママは几帳面で、だからその戦犯は大体目の前のヒゲもじゃメガネだ。それでも、好きなパパだ。
    ぐちゃぐちゃになっている洋服の束を整えてやると申し訳なさそうな顔をされた。
    「ねえ、風の魚、って聞いた?」
    気になって聞いてみると、ママがアイロンを動かす手を止めた。
    《風の魚は魚にあらず、ただ風の前のちりに同じ。》
    さらさらと手元のノートに書き込み見せてきた。
    《悲しむな、風の魚が来るぞ。怒るな、風の魚が近づいてくるぞ。よろこぶこと、楽しむこと、あたりまえの生活、それが幸せ。
    そうすればれてぃおさまのしゅくふくがあるーというのが、口ぐせだ。》
    「何の話?」

    「何の話なんだろうね?」
    「おとぎ話。正義を規定し悪を断じ、夢を正しい方へ導くもの。人はそれを文化とか、信仰と呼んだ。」
    私がここまで話し問いかけると、少年はすらすらと答えた。
    「ーまあこれも受け売りなんですけど。」
    そうやってワシャワシャ頭をかく仕草など本当にそっくりだ。青い毛を巣にしている手持ちがチチ、と小さく非難する。
    「人間って、哀しい生き物ですよね。」
    そうは思わない。

    「何の話?」
    「このあたりに伝わるおとぎ話やろ。教会で聞いた。」
    《意味はわからないけど、なんか怖いよね。》
    「でも、いいこと言っとるやん?俺、強くなりたいってがむしゃらに思ってたけど、
    幸せって案外小さなところにあったんだって、思った。」
    「パパはママと逃げ続けて幸せ?」
    そう問うと困ったような顔をされた。
    「こうやって夢をごまかして幸せ?」
    「いきなりどうしたんや。」
    「わたしが質問してるの。いつまでこんなこと繰り返すの。」
    「これで終わりにするんだよ。終わりに。今回はもっとうまくやるから。」
    またこの顔だ。ママはわたしをじっと見つめながら、こうノートに書き込んだ。
    《雲に架橋霞に千鳥》
    「昔ぼんぐりボールができる前、ジョウトの貴族は空を飛べなかった。
    雲に橋をかけることも、春の霞の中に冬の鳥ポケモンを放つことも。」
    「ー何が言いたいの。」
    「雲に架橋、霞に千鳥。全部『及ばぬ』のまくらことばなんや。いや、詳しいわけやないんやがな。
    お前を生むって決めた時から、俺の苗字にちなんでこのどれかを名前につけるって決めてたんや。」
    ノックの音。もう、行かなきゃ。

    「食べようとしてたアイスクリーム、ベタベタに溶けていたんだ。」
    「見ればわかる。何それベトベター?」
    「ユキカブリに実るキャンデー風キャンデーブルーベリー味、春季限定。」
    「色合いって!普通は食感とか味とかでしょ?いや、いらねぇって!」
    「それ、好きなんだ?」
    「こうなっちゃったら美味しくもなんともないからね。好きではないよ。」
    嘘だ。初めから『ルート216のみのりブルーベリー味』なんて買いたくない。
    舌で転がす216円はちっとも甘くなくて、出会ったばかりの十数人は古い友達みたいに私を部の見学に誘い、私はついていった。
    「ほんとチドリって、」
    くだらないことを喋って、食べて、笑って、10歳の夏休みについて誰も触れることはない。
    「面白いよね。」
    ほやほやのポケモントレーナーがアーケード街を通り過ぎ、青い屋根目がけてBダッシュしている。
    そう。本気で夢を追っかける人間はアイスなんて買わないんだ。
    ヒウンアイスを転売して儲けている奴もいる?知らん。あれは副業だろ。
    「キャ、」
    「チドリちゃんだいじょうぶ?」
    「もったいなーい、」
    アサガオが取り落としたシャーベット、べちゃりと出来立てのアスファルトに落ちた。
    すかさず舐めとったのは、白地に赤い柄の流線型につんと尖った鼻先、胸ビレに大きな翼。見慣れたポケモンだった。
    「あの、行儀悪いよ?」
    金色の瞳を閃かせ悪戯っぽく笑った。
    脊髄反射のようにみんなボールを投げ、誰からともなく苦笑した。
    「早いもの勝ちだから!」
    バトル相手とシェイクハンズ。捕獲争いもフェアプレー。
    半ば不文律としてわたしたちの中に沁み渡っている。
    誰が言い出しっぺか知らないが、因果なことだ。少し胸がうずく。
    パパのことを思い出す。…みんな、案外衰えていないんだ。
    しかし当たってもボールは無為に転がるに過ぎなかった。
    「あの、その子私のなんですが。」
    おはよー、こんなとこで会うなんてねー。戸惑いながら声をかけるみんな。
    「それよりさ、あんたの?」
    その声の響きにようやく彼女たちにとっての事態の重大さに思い至る。
    「すごいじゃない!どこで捕まえたの?」
    長い沈黙の後、アサガオが述べたのはそんなセリフだった。
    「風の魚ってラティアスのことだったの?…ううん、これはこの子が勝手にしたことで…」
    一緒だったんだ。彼女もまたひとりぼっちから救ってもらったんだ。
    もはや思いこんでいたわたしは、このあたりでわずかに違和感を覚えた、遅いな。
    ーそしてさっきのボールから再度飛び出したのは黒い影。白い帽子と赤い襟巻き。
    「なんだあれ…」
    「いい加減にしなよファントム?」
    彼女の言葉には感情の影が感じられなかった。
    影はいしし、と笑うとでんぐり返る。さっきとよく似たカラーリングだがずっとちんまりとっつきやすい。
    やっと納得し、見抜く才能がないことも自覚してしまう。
    「ゾロアって言って、人に幻影を見せられるの。
    それだけならいいんだけどずいぶんいたずら好きで、しょっちゅう変身して外を出歩くのね。
    最近は空前の伝説ブームらしくて…」
    「ずいぶんはためいわくなブームだね。」
    言ってみるが、彼女は小さく視線をこちらによこすだけでボソボソとした早口を閉じた。
    「撫でてもいい?」
    「どうぞ。」
    たちまち女の子たちにもみくちゃにされて、どうやら悪い気はしていないらしい。
    嬉しそうなファントムくんをよそに、ベンチの端っこに呼び出してターニアさんは私に問うてきた。
    「ミュージカル部入るの?」
    「…入るよ。私は入る。」
    「ふーん、」
    「ターニアさんも入るんだよね、あんなに演技うまくて先輩たちもみんな期待してるよ?…私、変なこと言っちゃった?」
    真っ黒い目で見つめてきた。少し怖い。
    「私は、」
    夏が始まったばかりと思い込んでいたのは私だけなのかもしれない。ロゼリアの薄膜が花壇で強い日光を透かして翠に輝いていた。
    そんなことが、探るような視線から逃れるように頭によぎる。
    「チドリー、ターニアさーん、」
    ナイスタイミング、そう思った私を見通すみたいに彼女が手をやる。
    「なに?」
    「行きなよ。ともだちなんでしょ?」
    リタイア組とつるむターニアなんて、それこそ永遠に溶けないアイスだろうと思えた。
    わたしが立ち上がると、今年はじめのテッカニンの歌が聞こえた。
    なんてよく出来た風景だろう、まるでおとぎ話の書き出しみたいだ。
    こころの芯の冷えたところに蓋をするように走り出したわたしを彼女は冷たく見つめているのだろう。

     森の向こうに行きたいなんて、考えちゃいけないよ。おじいさんおばあさんはみなそう言っているよ。
    わたしたち家族自身がその向こうから来たのだが、そんなこと気にしちゃいないのだ。
    「草むらからポケモンが飛び出すからでしょ?」
    ごうごうと滝の音が響いてくる中アリゲイツにまたがって問うた。
    「いや、今じゃ誰も信じてない話だが、そういう悪い子は別の世界にさらわれていくんだって・・」
    ラグーナの森が見えてきた。向こうにたくさんのルンパッパに乗った、日焼けしたおじさんたちがパパを囲っている。
    「これがほんとのルンパッパパパってやつですわ。ははは・・」
    おっさんやめろ。
    「でもさ、森の奥に向かうの、なんだかんだ言ってやっぱり怖いよね。」
    「パパ!」
    「おー、ぎょーさん友達連れて。お前も風の魚見学か?」
    「うん。っていうかはずかしいよ・・ルンパッパパパって何。」
    「お前もコガネ生まれの女ならうまいツッコミの一つぐらい覚えとき。」
    華麗なルンパッパ捌きで隣にきたパパは、冗談めかしてわたしにデコピンすると謎のカゴを背負い直し、謎のダンスを踊りだした。波長が合うのだろう。
    「それはカントー名物ドジョッチすくい!生きているうちに拝めるとは思わなかった!」
    「ちょっと待て何ありがたがってんだよ母さん!?」
    もう名前も覚えていないような子の叫び。
    ♪お風呂の温度は39度・・
    村人による大合唱が始まった。
    ふと、その向こうにママがいるのに気づいた。手を振ると露骨に目をそらされた。
    《ラグーナの森まで》
    障害者手帳を見せた。ママは口がきけないからリーグ公営の波乗りポケモンが無料で利用できる。
    どうしても外に出なきゃいけない時は筆談でコミュニケーションを取っている。
    どうして外で彼女と距離を取らなきゃいけないのかわからなかったし、わたしは昔見た彼女のあの怒り顔に未だに夢でうなされていた。
    さらさら、風が吹き始める。
    目を凝らすとうっそうとした枝や木の葉の揺れ方が決まった形を取っていることがわかる。流線型に胸ビレ、つんと尖った鼻先。
    「風の魚は気に入った人間の前にしか姿を見せない。」

     火の中水の中に棲む彼らを理由に、町の外に勝手に出てはいけないと言われたことがきっとあなたにもあるはずだ。
    ここじゃ少し話が違うんだよ、とアサガオはターニアに笑いかけて見せた。
    カキノキは来ていないんだろうか。見回していると、パックがヒョイ、と危険なぐらいすぐ後ろに現れる。
    「もう。子供じゃないんだから。レディには気つかいなよ。あんたは今高校生男子で、」
    ひそひそと話す私たちを知らず、パパはママと一緒にカゴを慣れた手つきで構えた。
    「そんな風に逃げるための嘘をつき続けるのが大人かい?」
    陸に上がりラグーナの森に立つ。とても暑い。陽が中天を少し過ぎても暑い。
    猟師たちとそれを手伝う私たち、合わせて20数人から長い陰が伸びる。
    その彼方下でパラスが恋を鳴き交わし、隠れん坊しそこねた赤の筋からアブリーが逃げていく。慣れたが暑い。
    ♪みっつ数えりゃミズゴロウ笑う 水も滴る いいポケモン・・
    「・・ずっと子供のパックにはわかんないよ。人間の事情に口を出さないで。」
    人びとの歌が空間を覆い尽くすのが合図だ。風が枝をさらさらと揺らしはじめた。原色から薄まり水いろした空は美しかった。
    ぽとん。

    ここには、同じようなみんながいるよ。
    風の魚は森の奥で言った。
    メェークルと、毛が茶色と緑のまだらの知らないポケモン。二匹が目の前に飛び出してきた。
    カキノキが後ろの方で拗ねていた。
    それと、
    「ータンポポさんじゃないですか。」
    「自己紹介しようか、」
    風の魚たちは名乗った。
    「わたしはハーミア。」
    「その弟のパック!」
    「・・あの本に出てくるのと同じ名前。」
    「タンポポにそう呼ばれている。人間の言うところのニックネームさ。」

    ぽとん。
    高い高い枝に眠っていたチェリンボが飛ばされてカゴの中に落ちた。
    風の魚が飛び始める。サイコキネシスの波長が小型ポケモンを人間の方に誘導していく。
    彼ら彼女たちが大木を叩きタイミングを知らすと、猟師たちは文字どおり一つの網を放って打尽にする。
    私たちを掻き分けてそこから逃れようと手間取る子たちは咥えられて風の魚に食べられた。

    「風の魚たちはわたしたちに化けて暮らしながら、ラグーナの人を見守ってきた。
    そして時には小型ポケモンを追い立て、人に恵みを与える。」
    「違うよ。それはお腹が空いた時の話。人間がいっぱい集まると追いかけやすいんだもん。」
    「なんでもいいよ。」
    「さらっていくっていうのはー?」
    「ここにいるのはみんな、ここじゃないどこかに行きたい、と思っている子たちよ。」

    「心なんて死ねば消えてしまう儚いもので、」
    カキノキはひとりごちた。

    「じぶんでもいくらだって誤魔化しが効くような曖昧なものだ。」
    ターニアは呟いた。

    「そんな世界で夢を叶えて何になるっていうの?」
    わたしは言った。

    ゴーゴートとメブキジカが角を寄せ合いその営みを遠く見つめていた。
    私たちはこの里でポケモンと暮らし、助け合い、そして生きてきた。

    「ねぇ。」
    帰ろうとする私に『ラティオスの』パックが追いすがってきた。
    「これだけは言わせてよ。あと20年もすれば僕だって子供が産める体になる。ずっと子供なわけじゃない。」
    やっぱり、子供だ。
    「歩こうか、少し。」
    私はパックと別れ、ミュージカル部のメンバーと連れ立って歩いていた。
    プライドの高いキングはあまり人に近づこうとしなくてアサガオは残念そうにしていた。
    帰ってきた街に『故郷』という感慨がないわけではない。
    私はたぶんここで生きてく。そりゃ物理的には別のところで暮らすかもしれないけど。
    たとえばあの育て屋のおじいさんがおじさんだった頃を私は知っている。
    その周りに先輩たちがたむろして、自転車を乗り回しているのも昔から変わらない光景だ。
    「チドリちゃん、やっぱりあれはしなきゃ勝てないものなの?」
    「・・?ターニアちゃん、なんで私に聞くの?」
    暴走族のような彼らは、正直怖かった。ハーミアはそんな私を柔らかく見つめた。
    暗い目でターニアは言った。
    「調べたよ。チドリさんのパパ、カケハシさんはジョウトリーグベスト16で、ちっちゃい頃のワタルさんに一度勝ってる。」
    「だからどうしたの。昔の話だよ。」
    自分の声に苛立ちがこもるのを私は他人事みたいに観測していた。
    「そういうの詳しいよね。」
    「その頃は厳選なんてなかった。パパは正々堂々自分たちの力で戦って勝ったんだよ。」
    タラコは私より静かにターニアを見つめていた。
    「今だって正々堂々と戦ってるよ。厳選はズルじゃない。」
    「ズルよ。ーなんでそんなこと言うの。」
    「ポケモンバトルしようよ。チドリちゃんと私、どっちが正しいか決めるんだ。」
    「やめなよ。」
    何かに憑かれたように彼女は繰り返した。ゴミ捨て場に乱雑に捨てられた卵。
    リーグは公式には認めていないけど、ある程度の年齢になるとみんな当たり前のように始める。
    もらったばかりなんだろう、図鑑を見るポケモンみんなにかざす男の子がいた。
    「ーそうだね。確かめるまでもない。今の上位入賞者はみんなやってる・・って、みんな言ってる。」
    私は狡猾にも留保を忘れなかった。
    「あたりまえだよ。才能のない奴の居場所なんて、この世界のどこにもない。」
    その男の子が育て屋に一匹のアチャモを連れて行く。大事に大事に抱きしめながら。
    「ごめんね坊ちゃん。育て屋はこのお兄ちゃんたちで満杯なんだ。」
    リストバンドに器用に絡みつくメタモンたちが這ってたくさん足に寄ってくる。気に入られてしまったらしい、迷ったけど笑いかけた。
    「なんでこんなにメタモンばっかり預けるんですか?」
    子供が聞いた。
    「それはねお兄ちゃん。」
    ふざけた声色で絡みつく声。
    「おいやめとけよ。」
    そう言いながら誰も止めない。私も止めない。
    昔からどこに行っても変わりがない真理で。弱いものが夕暮れ、さらに弱いものを叩くのは。
    「お前ら!」
    ガタン、テーブルを叩くやつがいた。
    オレンジ色の髪が夕陽に照らされて、緑色の眼が男たちを睨みつけていた。
    「恥ずかしくないのかよ。」
    自分の価値観で理解できないものに出会うと、人は二通りに分かれる。
    つまりは、笑うか口を開けて止まるか。今がそういう状況だった。
    「おたく誰?」
    「誰だっていいだろ。チドリ、タラコを貸せ。」
    「・・どうして。」
    帰ってきてから初めて交わした会話。
    「俺が、いやタラコとミドリ二匹がお前ら全員とバトルする。
    こいつらが勝ったら、お前らはこの子に謝れ。それと、一人ぐらい我慢してアチャモを預けさせてやれ。」
    「なんのために。何を?」
    「・・・俺が気に食わない。」
    「じゃあお前が負けたらどうするんだ。」
    「バネブーの真似な!一万回飛び跳ねてぶーって言え!」
    いっとう頭の弱そうな奴が叫んで、ぞろぞろと見学者が集まってくる。大体の男が頭を抱えていた。
    「馬鹿!」
    「売られた喧嘩は買うのがルールっすよ!」
    「待って、勝手に話を進めないで!大体何よカキノキ、会って最初の台詞がそれ!?」
    「お前は黙って見てられるのかよ?」
    タラコはカキノキを見て頷いた。彼女に近寄って、無数の卵を乗せメタモンはつぶらな瞳を私に向けた。
    「かかってこいやー!」
    何かを諦めたように私は手を離した。でも、にっこりと微笑みかけることは忘れなかった。
    塾帰りのカキノキはネイティオとブーバーンを繰り出した。
    白い羽が開かれ、あたりの老人たちが釘付けになる。粛清の声が鳴り響いた。
    ガブリアス、ケンタロスリザードン。そりゃ、そいつらにも絆があった。
    でも、『未来予知』によって不規則に飛ぶ衝撃波をかいくぐった空におそらく十数年前の夏のような勢いで
    『手助け』を受けた炎柱が噴き上がり、タラコの持つ圧倒的なレベル差でポケモンたちは皆倒れた。
    「・・・・」
    「あったかいね。なんていうポケモン?」
    空気を読まずに男の子は聞いた。
    「ブーバーンのタラコだよ。」
    「タラコ、カッコよかったよ!でもお兄ちゃん、どうしてそんな怖い顔してるの?」
    一番背の高いリザードン使いの男が私を見た。
    「そんな強いポケモンを持ってて、どうしてリーグを目指さない?」
    私は答えられなかった。タラコはさっき本当に輝いていた。
    でも、パパのいう彼女の役目は私を守ることなんだ。いや、大層なものではなく。早く私は自立して、それから。
    育て屋だって、タマゴが発見されてからというもの主な収入は皆厳選目当てのトレーナーからのものになってしまった。
    ギャラリーとともにターニアは雰囲気を察していなくなった。なんのために?
    私のほうは彼女とも話したいことがたくさんあったのに。
    「お前がラグーナにいるとは思わなかったよ。」
    そう口を開いたけど、私は黙っていた。
    「チドリ。俺、ジョウトに行ったよ。こっちで神様って崇められてるネイティオ様は、アルフの遺跡ってとこにいくらでも現れる
    ネイティってポケモンの進化系だった。」
    「ーしってる。」
    静かさが苦痛だった。そのくせすごく懐かしかった。
    「見たいって言ってたもんね、未来。」

    「未来を見るために本を読んでる。」
    それが、森の奥で会ったカキノキとまともに話した最初だった。
    「大人は、ううん人間は嘘つき。全ての命が平等といいながら、平気でフレンドリィショップでバスラオの刺身を買う。
    厳選だってするし、だから僕は、そう。ずるくなりたくないんだ。どうにかその方法がないかって、探してる。」

    「夏季休暇が始まります。皆さん、盛り上がる気持ちは分かりますが軽率な行動を慎みましょうー
    皆さんの元気な姿を夏の終わりに見ることを楽しみにしています。」
    それを信じていた。アサガオに真剣な顔をされるまでは。
    「ラティオスかラティアスみたいな影が卵を抱いてるのを見た?だって、」
    「あるんだからあるんでしょ?私は知らない。で、ここからが大事なの。そこにいたのが人間の影だったっていうのよ。」
    動揺を悟られないように努めた。
    「どういうこと?」
    「私に聞かないでよ。どこかの頭のおかしなやつでしょ。あんた鈍いじゃん?下手に疑われるような真似しないようにね。」
    『そういう』ことをしたんだと誰もが興味本位で噂した。

    森のヨウカンをよう噛んで洋館で食べる。
    わたしには似合わない。それにそんな場合ではなかった。美味しいなんて思わなかった。だけど止まらないのだ。

    「・・ねえ、カキノキ。その隠しているものは何?」
    彼がカバンに詰めていたのはポケモンのタマゴだった。

    あなたは、私の話を見てどう思う?
    「私、ポケモンバトルできないんだ。二年の時から、ポケモンを攻撃させようとすると体が固まるの。」
    カキノキはとっくに知っていたけど、子供のラティアスの方には言わないといけない。
    それを自分で告げることにもう迷いはなかった。はっきりと言い切った。
    「それはわたし自身が、メタモンと人間の子供だから。」

    きっかけは、とてもとてもささいなこと。
    二年の時隣の家の男の子と取っ組み合いの大喧嘩になって目の前が真っ暗になった。
    存外とすぐ目は覚めて、夢と現の間を漂うように点滴の音と誰かの話し声をどこか遠くに聞いた。
    「そうです、瀕死状態で発見されたんですが、不思議なことにモンスターボールぐらいの大きさに縮んでいたんです。」
    「それってー」
    ジョーイさんの視線に気がついたのは、その時だ。
    「まるでポケモンみたいじゃない。」
    つまり後でわかったことだけど、ずっと人間に化けて暮らしていたメタモンのママに。
    確かその頃にはもう意識ははっきりしていて、ひんやりぶよぶよした肌色に掴まって家に帰りたいとせがんだ。
    「あの、失礼ですがこの子は・・・」
    《わたしたちの子供です》
    ママは無言でその紙を示したらしいのだけど、ひそひそ話が止むことはなかった。
    身の危険を感じると本能的に小さくなって、ポケットにも入れてしまえるモンスター略してポケモン。
    ぼんやりとした記憶の中、これだけははっきり覚えている。
    彼女たちをにらみつけるママの顔が子供心にすごく。
    こわかったのだ。
     そのうちパパがトレーナーズスクールをクビになった。化物の夫をおいておくなんて風紀が乱れると。
    「君もヨメさんも、悪い人でないのは知っているよ。でも世間はそう思ってないんだ。
    もう私の教え子たちも噂を始めた・・この街を出ることを勧めるよ。」
    まったく、まるで気がしれない。最近の子供は後先のことを考えない。
    《あたし、できるだけ外に出ない方がいいよね。》
    「なんでブドウががまんすることがあるんや。悪いんはあいつらやろう!」
    ママか私かの正体がバレるたびに逃げる生活を始めた。生まれてきたいなんて誰にも頼んだ覚えはない。
    自分のことはいくらでも我慢できる。でもわたしのせいでみんなの夢が壊れていく。幸せそうな振りをしているのは演技だ。
    そのうち人間の子供がどう生まれてくるのか知ると、本当に、本当に身勝手に。
    わたしはママを嫌うようになった。そういう本でも育て屋でもメタモンはいつも重要な役をやっているというではないか、
    パパをたぶらかして閉じ込めたに違いない。この狭い狭い家という世界に。

    「雲に架け橋霞に千鳥。」
    私はそう言った。
    「いつか言ったよね。あり得ないことだからこそ、大事にされた。だから、」
    お腹をいっぱいにふくらませ精一杯の声をあげた。

    「生まれてくるんじゃなかった。死ぬ勇気もないし。」
    わたしはカキノキにいった。
    「誰かに言われたの?」
    「言われないから辛いんだよ!」
    風はただ吹き抜けていった。
    「あのね、ボクのパパとママはしょっちゅう口喧嘩してて、それを見てると僕もそう思うんだ。」
    「ここじゃないどこかに本当の世界があって、そこではみんな笑ってるの。
    パパはママと最高のパートナーで、夢を諦める必要なんてなくて。」
    「チドリが死んだら、みんな悲しむよ。」
    「そうだよね。あの育て屋のタマゴみたいに、孵らないまま放っとかればよかったんだよ。」
    カキノキは突然わたしの手を握った。
    「君が死んだらぼくは人間の友達がいなくなるから、だから死なないで。」

    私は夢について考えていた。

    タンポポさんは言った。
    「ーそう。スカウトが来たの。来年の初めには高校を辞めて劇団に入る。」
    どこかの町のジムリーダーが言っていたように。冬が終われば春が来る。
    夢が世界中の片隅に根を下ろしていくような旅は、それはとても素敵なことに思えた。
    「・・それじゃ、来年はいないんですか。」
    「ええ。もう戻って来るつもりもないわ。」
    タンポポはあくまで明るくターニアに笑いかけた。
    「ー行かないでください。わたしをひとりぼっちにしないでください。」

    南アメリカの一地方を一回りしてわかったのは同じ国の中でそうそう変化があるわけないってことだ。
    「おかえり、チドリ。」
    ポケモンコンテストを諦めた時、ここに来ると決めた。
    ここが特別な場所だった。夢を見させてくれた森があって、カキノキが生まれ育った場所。
    それだけで頑張れる気がした。学校のドアが開く音。
    「はじめまして、カケハシチドリです。短いですが夏の終わりまで、ここで皆さんと一緒に勉強させてもらいます。
    旅の前もここに通っていたので、わかる子もいるかもね。本を読むのが好きです。どうかよろしくお願いいたしますー」

    ーあるポケモンが姿を消した森の奥に残された卵は、未来から持ってきたものだと言われている。


      [No.4098] 美味しい友情 投稿者:雪椿   投稿日:2018/12/22(Sat) 11:41:09     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:グラエナ】 【バルジーナ

     バサリ、と何かが羽ばたく音が聞こえ、俺は耳をピクリと動かす。目を閉じているから、音源となる者がどこにいるかはわからない。音は遠くから聞こえてくる。この近くを通り過ぎるだけかと思いきや、音は段々とこちらに近づいてきた。
     羽ばたきのリズムが鮮明に聞こえる頃には、俺の毛並みを乱す風のおまけまで付いてきてしまった。いい迷惑だ。
    「……何の用だ」
     重たいまぶたを持ち上げ、音と風の原因であるそいつ……バルジーナへと視線をやる。ファサリと地面に着地をした彼女は、意地悪そうな目を更に意地悪そうに吊り上げてケラケラと笑い声をあげる。
    「何の用だって、アンタと『遊ぶ』ために来たに決まっているじゃないかい! さあ、今日はどの子と遊ぶ? 先月『遊んだ』子の友達とか、どうだい?」
     愉快そうに笑い続けるあいつにフンと鼻息を鳴らすと、俺は再びまぶたを下げて心地よい暗闇の世界に浸る。暗闇の中であいつが何か喚いているが、眠たい俺にとってそれは単なる子守歌程度にしか聞こえない。
    「ちょっと、グラエナ!? 聞いているのかい!?」
     怒りが混ざった声で俺の名前を呼び続けるあいつに心の中で小さく謝ると、俺は現実と眠りの世界の狭間へと旅立っていった。


     俺があいつと出会ったのは、俺がまだポチエナであいつがバルチャイだった頃だ。俺のご主人様が異国の地を旅している時に、あいつは無謀にもご主人様の前に飛び出した。そして当時四匹いた仲間の中では実力ナンバーワンだったご主人様の「相棒」にこてんぱんにやられ、捕まった。
     捕まった当初、あいつは必死に逃げ出そうとして、よくコテンと転んでは泣いていた気がする。さすがに何度も逃げる度に泣く回数は減っていたが、そうまでしてなぜ逃げたいのだろうと俺は不思議で堪らなかった。
     何十回もの挑戦の末、あいつはやっと逃げるのを諦めてご主人様と一緒に旅をした。そして立派なバルジーナとなったあいつは、空を飛べると知ったや否やモンスターボールを持って飛び出していった。その際なぜか俺が入っていたボールも掴んでいたため、俺も強制的にご主人様と別れることになってしまった。
     ボールから解放された直後、俺は粉々になったボールを背景にあいつに散々詰め寄ったものだ。当時の俺は真剣そのものだったが、ポチエナのままだった俺がバルジーナであるあいつに詰め寄る姿は傍から見たら笑える光景だっただろう。
     人間と一緒にいるより、こうして自由に生きている方がいい。あいつの主張を受け入れるのにはそれなりに時間が必要だったが、受け入れてからはとても気が楽だった。あの変な石を捨ててから、すぐにグラエナになれたしな。
     そして数多の困難に二匹で打ち勝っていくにつれて、俺とあいつの間には強い絆が生まれていった。生活の違いで途中から離れて暮らしているが、こうして時々あいつから遊びに来ては『遊んで』いる。
     あいつは今日も『遊ぶ』予定を立てていたようだが、俺は残念ながらとても眠かったので予定はお流れになりそうだ。それに、『遊ぶ』にしても今日の俺はいつもの虫を狩るような気分じゃない。
    例えるなら、そう――、

    「いつまで待たせる気だい!!」

     眠りの狭間でそのようなことを考えていた時、脳天に強い衝撃が走った。ピンポイントの部分がズキズキすることから、どうやら鋭い嘴で突かれたと考えていいようだ。
     はあ、今の一撃ですっかり目が覚めてしまった。頑張って三度寝しようにも、すぐに嘴攻撃が飛んできてしまうだろう。俺は脳が覚醒しても岩のように重たいままのまぶたを渋々と持ち上げ、のろのろと立ち上がった。
    「はあ、やっと起きたね。それで、どの子と『遊ぶ』? 私はさっき言った通り、あの子の友達がいいと思うんだけどね?」
     俺が起きたことで、こいつは一緒に『遊ぶ』つもりになったと思ったらしい。目をギラギラと輝かせながら、先月『遊んだ』ポケモンの友達と『遊ぼう』と言っている。この反応を見る限り、どうやらとてもあの種族が気に入ったらしいな。
     だが、俺が今『遊び』たいのはそいつじゃない。俺が今最も『遊び』たいのは――、

    「悪いが、バルジーナ。俺が『遊ぶ』相手は既に決めているんだ」

     この返事に驚いたのか、意地悪そうな目をまん丸く開き、ポカンと嘴まで開けるバルジーナ。こいつが驚くのも無理はない。いつも『遊ぶ』相手は相談があるにせよ結局こいつが決めていて、俺が自分から決めたことは一度もなかったのだから。
    「アンタが自分から決めるなんて、珍しいこともあるものだねぇ。で、誰なんだい? そのアンタが『遊び』たい相手っていうのは?」
     驚きから一転、再び目をギラギラさせてこちらの発言を伺ってくるバルジーナ。俺は片前足を使って首をこちらにもっと近づけるようにと言うと、こいつは素直にもグイと頭を近づけてきた。
    「俺が『遊びたい』相手。それはな――」
     わざと聞き取りにくいよう声を小さくしながら、牙に電気を溜め始める。まだだ。威力が足りない。あともう少し。もうすぐ溜まるか?
     ――――今だ!

    「お前だよ!!」

     そう叫ぶと共に、あいつの無防備な首元に雷の牙を力強く突き立てる。牙から流れる電気があいつの全身に流れ、悲鳴をあげることなく息の根が止まった。電気が流れたからか、辺りに少し香ばしい匂いが漂う。
     このままいただいてもよさそうだが、あの頃ご主人様と一緒に食べたステーキのように少し加工したい。だが、自慢の爪を使っても力加減がわからなければ、これを引き裂くだけで終わってしまうだけだろう。
     だったら、せめて焼こうか。炎ポケモンが使うような派手な炎技は使えないが、俺にはこの技がある。牙に宿った炎をそれに移し、鼻がちょうどいいと判断する匂いになるまで放置をする。問題はどうやって火を消すかだが……。砂をかければ何とかなるだろう。口に砂が入るだろうが、それはそれで醍醐味がありそうだ。

     辺りに腹の虫を呼び寄せそうな匂いが漂う頃、俺は軽く砂をかけて火を消した。無事に消えるかどうか冷や冷やしたが、かける時の勢いがよかったからか、それとも元々消えかけていたのかすぐに消えた。
     前足でかかった砂を取り払い、完成したご馳走とご対面をする。腹の虫はもう大合唱をしており、口を開けばすぐにヨダレが出てきそうだ。
     もし今までの経緯を見ていたやつがいたら「友達なのに、なぜこんなことを」なんて言いそうだが、元より俺とあいつには一方的な友情しかなかった。あいつの主張を受け入れたのは、あいつのためじゃない。俺自身のためだ。あいつも単に一緒に『遊ぶ』相手が欲しかっただけだろう。
     こんなことを考えているうちに他のやつに気づかれたら、十中八九このご馳走を盗られてしまう。もし盗られなかったとしても、いただく分はかなり減ってしまうだろう。ここはすぐに行動を実行すべきだ。

    「いただきます!」

     俺は大きく口を開けると、美味しそうに焼かれた肉へとかぶりついた。


    「美味しい友情」 終わり


      [No.4013] バトル描写書き合い会 投稿者:あきはばら博士   投稿日:2017/07/07(Fri) 20:16:01     80clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Twitterで突発的に行った【バトル描写書き合い会】の作品投下スレッドです。
    指定されたポケモン同士のバトルを1週間で書き、同じ対戦カードで作者ごとにどれだけの違いが出るのかを楽しむ企画です。

    ルール
    ・オオタチVSゾロアーク の勝負を書く
    ・シングル1VS1のトレーナー戦で書く
    ・自分らしさが出ていればどう書こうが自由

     任意事項
    ・オオタチのトレーナー名はレットもしくはセント
    ・ゾロアークのトレーナー名はコタロウ
    ・ゾロアークが何に化けているかは自由


      [No.4012] イリュージョン・アクト 投稿者:きとかげ   投稿日:2017/07/01(Sat) 00:16:52     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ――この町には、ゾロアとゾロアークのみが所属する劇団があるらしい。
     まるで人と見分けがつかない外見と演技。イリュージョンで彩られる演出の数々。
     劇場を訪れた観客は、夢幻のようなひと時を過ごすであろう。

    「そこのチケットを貰った」
     と上司が言った。
    「貰えるものなんですか、それ」
     とキランは一度は驚いてみたものの、目の前の上司はゾロア使いと呼ばれる人である。チケットを貰っても不思議ではない。
    「そこのゾロアは私が育てたから」
     そんなところだろうと思った。
    「二枚、もらった。この後空いてたらいっしょに行こう」
    「いいですよ」
     キランが安請け合いした後で。
    「もしも、チケットを貰ったのに行かなかったら、大変なことになるからな」
     そう言って、上司はすっと目を細めた。
    「大変なことって」
     キランが唾をのむ。
    「具体的に、何が起こるんです?」
    「劇団のゾロアとゾロアークたちが、一斉に」
    「一斉に?」
    「スネる」

     ◇

     演じるは幻影劇団、演目はかの有名な『ロミオとジュリエット』。
     愛し合う二人は家のために結ばれない。バルコニーから愛を叫ぶジュリエットの姿は幻影と溶け、ロミオは心によぎるジュリエットの姿を振り切ってその場を去る。
     特性“イリュージョン”を最大限利用した演劇鑑賞は、3D映画を生で見ているよう。

     ジュリエットが仮死毒の小瓶を呷る。手から滑り落ちた小瓶が砕け散り、キランの耳元でガシャリと小瓶の割れる音がする。
     青白いジュリエットの体を抱いて、ロミオは慟哭する。冷たい夜の墓場は土の匂いでむせ返る。
     後を追おうとロミオが短剣を自らに突き立てようとしたその時、両家の大人たちが止めに入る。若き二人の悲恋を知った両家は仲直りし、ジュリエットも仮死から起き上がって大団円。

    「こんな話でしたっけ」
    「まあ、いいんじゃないか」
     あの子たちはハッピーエンドが好きだから、と上司は満足そうに笑っていた。


      [No.4011] 自作語りのログとか 投稿者:門森 ぬる   投稿日:2017/06/28(Wed) 23:58:34     196clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:あとがき】 【自作語り】 【ログ】 【ハワイティ杯

     本文終わった所でイラスト入れたかったので返信する形であとがきとか。まずはハワイティ杯お疲れ様でした! ハワイティ杯の参加作を少し改稿したものです。具体的には改行増やしたのと最後の方を少し変えたり。タイトルも変えました。改行する位置これでいいか不安たっぷり。
     あと挿絵的なイラスト描いてみました。改稿したきっかけがその方がイラスト映えしそうだと思ったからなんですけどもね、描いてみたら吹雪かせたせいであまり目立たないという。吹雪の中の光の描写とか私の画力じゃ難し過ぎましてね。まぁ私なりに満足はしてます。キュウコンもイーブイもかわいい!
     ハワイティ杯終了後色々語ってた方々に便乗してチャットで一人自作語りしてましたのでその時のログを以下に貼っておきます。語った事をまとめるのが面倒なもんでログをそのまま。何か質問とかありましたらお気軽にどうぞです〜。


    お知らせ:門森 ぬる(Win/Edge)さんが入室しました。(20:13)

    門森 ぬる:さてハワイティ杯も終わりましたし自作品について適当に語ってみようかと(20:14)

    門森 ぬる:何から語るかなー(20:15)

    門森 ぬる:まぁ自作の感想欄にも書きましたが、浮かんだかっこいいシーン+夏の終わりにの没案+ブイズリョナ案=今作品 的な感じです(20:17)

    門森 ぬる:夏の終わりにの没案は特性がひでりのポケモンが居座るようになったので何とかしましょう的な(20:18)

    門森 ぬる:夏を終わりにする的な解釈をしてみようかなーと(20:19)

    門森 ぬる:まぁそうすると「夏の終わりに」じゃなく「夏を終わりに」になっちゃうという(20:20)

    門森 ぬる:タイトルを「夏の終わりに」にするには夏の終わるタイミングでイベントを起こさなきゃならないなーと(20:20)

    門森 ぬる:それで没(20:21)

    門森 ぬる:で、今回レギュレーションでアローラのポケモン出す必要がありまして(20:22)

    門森 ぬる:アローラキュウコンがゆきふらし持ってるらしいと(20:22)

    門森 ぬる:使い回せるのではないかと(20:22)

    門森 ぬる:で、使い回しましたと。原案の時辻褄合わないなーと考えていた部分もいくつかはこっちなら解決しましたし(20:24)

    門森 ぬる:ブイズリョナ案はキュウコンの尻尾の数とブイズの現時点の数が一緒という事は、つまり尻尾で全ブイズを同時に拘束できるじゃないかと(20:26)

    門森 ぬる:で、キュウコン対ブイズという構図がありまして(20:27)

    門森 ぬる:https://twitter.com/cadomori/status/794768568969629696 モーメント見返しててこのツイートみてそんな案があったの思い出しまして(20:28)

    門森 ぬる:で、夏の終わりにと組み合わせてブイズが村の近くに住み着いたキュウコンを追い払う話になりまして(20:30)

    門森 ぬる:あ、タイトルもブイズリョナ案からそのまま持ってきたんですよね(20:31)

    門森 ぬる:確か 死んだポケモンが進化の石になる話を読む→ゲーム内じゃひらがなだし進化の石を進化の遺志として解釈できるのではないか→ブイズ石進化だし組み合わせてみよう(20:34)

    門森 ぬる:そんな感じで https://twitter.com/cadomori/status/740417216517115905 を経て(20:36)

    門森 ぬる:https://twitter.com/cadomori/status/740417216517115905 まで発展しまして(20:36)

    門森 ぬる:URL間違えた(20:36)

    門森 ぬる:https://twitter.com/cadomori/status/814679349999718400(20:36)

    門森 ぬる:後者はこっちやね(20:37)

    門森 ぬる:そんな訳でイーブイが殺された8匹の力を継いでキュウコンに立ち向かうというのもリョナ案から引っ張ってきまして(20:40)

    門森 ぬる:で、進化後の8匹の力をイーブイにって部分がナインエボルブーストと一緒じゃないかと(20:42)

    門森 ぬる:ハワイティ杯だしナインエボルブーストって事にしてしまえと(20:43)

    門森 ぬる:https://twitter.com/cadomori/status/814057352898834432(20:43)

    門森 ぬる:こんな事も考えてましたし(20:43)

    門森 ぬる:まぁ大筋は大体こんな感じか(20:45)

    門森 ぬる:細かい所は考えてたり考えてなかったり(20:45)

    門森 ぬる:まず改行少ないのはスピード感や疾走感を出す為とかじゃないです。それを意識できる程文章力ありませぬ(20:46)

    門森 ぬる:単に場面として連続的だからってだけです。言い換えるとどこで改行すれば良いのか分からないって事ですね(20:48)

    門森 ぬる:教えて!(20:48)

    門森 ぬる:キュウコンがでかい理由はですね(20:49)

    門森 ぬる:ブイズばりむしゃあさせたかったからでかくしただけです。性癖!(20:49)

    門森 ぬる:>喰われた者 ほぼこの一文を入れる為だけです(20:50)

    門森 ぬる:後はまぁ、辺りを冬にするっていう部分が異常なら大きさも異常にしてみようとかそんな考えもありましたけど(20:51)

    門森 ぬる:ブイズを食わせたかったから大きくしたってのが一番の理由です((20:52)

    門森 ぬる:メタ的理由じゃなく作品内での大きくなった理由としては(20:52)

    門森 ぬる:まぁそんな異常な個体がいてもいいじゃないか位の考え(20:53)

    門森 ぬる:アニポケでもシロデスナ巨大化とかやってましたしそんな感じのノリ(20:54)

    門森 ぬる:食糧もね、あのキュウコンは多分雪食べてれば生きていけるとかそんな感じ(20:55)

    門森 ぬる:ブイズ食う必要も特にないんです。食べる必要ないのに食べちゃうってのもそそりますよね((20:56)

    門森 ぬる:キュウコンが村の側に居ついた理由は一匹じゃ寂しいとかそんな感じ(20:57)

    門森 ぬる:今までも他の村とかで同じ様な事起きたりしてます(20:58)

    門森 ぬる:村と対立してその内村民達が村捨てて逃げてって事が何度も(20:59)

    門森 ぬる:それでまぁ一匹じゃ暇だし他の村へって繰り返して(21:00)

    門森 ぬる:だから交渉とかもキュウコンは楽しんでましたね。むしろ交渉してもらうために居座ってるというか(21:02)

    門森 ぬる:交渉成立したらもう交渉できないじゃないですか。だからどんな条件でもキュウコンは受け入れず決裂してるんですね(21:03)

    門森 ぬる:で、まぁ村民に襲われる訳なんですけどこれもまた楽しんでますね(21:04)

    門森 ぬる:殺しちゃったらその仔はもう来なくなりますし、今回もキュウコンは最初は殺す気なかったんですけどね。力加減ミスってシャワーズ死んじゃいましたと。戦うのは久々だしキュウコンも必死だったし仕方ないね(21:07)

    門森 ぬる:で、一匹なら残りの仔が復讐しにまた来てくれるかもなーと一旦停戦提案するんですけど、ブイズ側がこれを拒否(21:09)

    門森 ぬる:退く気なさそうだしこれなら一匹も何匹も同じかーとキュウコンも生き残る為に加減はやめて迎え撃つ事に(21:13)

    門森 ぬる:で、1対1になって一匹なら考えも変わるかもしれないし、話す余裕もできたのでもう一度問いかけましたと(21:15)

    門森 ぬる:キュウコン側の背景はそんな感じ(21:15)

    門森 ぬる:あ、そうそう、入れたかったけど断念した要素に断尾がありまして(21:17)

    門森 ぬる:最初はブイズが1匹やられる毎にキュウコンの尻尾も1本ずつ減らしていこうかと思ってたんですよ。相討ち的な感じで(21:18)

    門森 ぬる:キュウコンの尻尾の数とブイズの数が同じって所からキュウコン対ブイズの構図にした訳ですし(21:19)

    門森 ぬる:9匹がかりだったのにイーブイ1匹で立ち向かうならこれまでの戦いでキュウコンも弱体化してないとなーって。で、尻尾の数が減ってるのは弱体化として分かりやすいですし(21:24)

    門森 ぬる:ただまぁ、ブイズがキュウコンの尻尾切るイメージが浮かびませんで。もっと致命傷狙うだろうなーと(21:24)

    門森 ぬる:故に断念。無念(21:25)

    門森 ぬる:イーブイがイーブイZを身に着けていた理由は(21:26)

    門森 ぬる:まず仲間がどっかでそれを見つけた訳ですよ。そして使い道が分からない。ただの飾りだろう。まぁ綺麗だし持っておこう、と。(21:28)

    門森 ぬる:そしてある日、飾りじゃなく何か使い道があるのかもしれないと気紛れに思ったエーフィが念の為それについて未来予知しまして、イーブイの胸元で輝きを放っているのが見えまして(21:32)

    門森 ぬる:じゃあとりあえずイーブイにお守りとして持っててもらおう、と。いつどこでどんな効果があるのかは分からないけど(21:33)

    門森 ぬる:それでイーブイは首飾りを付ける様になりました、と。Zリングはないです。人間がいない世界観ですし(21:35)

    門森 ぬる:あ、そうだ、提出後に思いついて改稿で変えようと思ってるのがナインエボルブーストの描写(21:37)

    門森 ぬる:それぞれの輝きが進化形の尻尾の形を成して九尾のイーブイみたいな感じになると映えるなぁと(21:39)

    門森 ぬる:ナインテイルブーストに改題も視野(21:39)

    門森 ぬる:そうした時問題はサンダースよね。あの仔尻尾あるのかしら(21:40)

    門森 ぬる:どっからどこまでが尻尾なのやら(21:41)

    門森 ぬる:まぁもうナインエボルブーストの解釈を変えちゃってるしもう少し変えても大丈夫やろと(21:43)

    門森 ぬる:最初はキュウコンの大きさや現れた時期を十数倍だとか数か月前だとかでぼかして書こうと思ってたんですけどね、書いてる時にせっかくだから9に揃えてみようって感じでそうしたので(21:46)

    門森 ぬる:タイトルに八って入ってるのが何かもやもやしてましてねー(21:47)

    門森 ぬる:あ、そうそう、死ぬ順番は シャワーズ→エーフィ→ニンフィア→リーフィア→ブースター→ブラッキー→サンダース→グレイシア の順です。(21:50)

    門森 ぬる:自分で考えるのも面倒なんでナインエボルブースト使用時の登場順かその逆順にしてみようと(21:52)

    門森 ぬる:それで登場順調べまして、シャワーズとグレイシアどちらの場面がイメージしやすいかなーと考えてグレイシアの方だと(21:53)

    門森 ぬる:それで登場順の逆に決定しました。(21:54)

    門森 ぬる:あとは作品の後の場面についてかなー(21:55)

    門森 ぬる:どちらが勝つのかは決めてないです(21:56)

    門森 ぬる:まぁイーブイ君が勝つ流れですけども、それでも敵わない絶望感とかもそそるじゃないですか?(21:58)

    門森 ぬる:まぁイーブイ君が勝ってもバッドエンドな訳ですけども(21:59)

    門森 ぬる:http://ouroporos.tumblr.com/post/76724671528/numas-smell-everywhere(22:00)

    門森 ぬる:こんな感じでね? みんな死んでしまったってのを噛み締めて泣き崩れて欲しいなって(22:01)

    門森 ぬる:勝って一匹で村に戻って村民に迎えられる訳ですけど(22:03)

    門森 ぬる:村の仔の「よかった」って言葉につい「よくない!」って声を荒げたりして欲しい(22:04)

    門森 ぬる:まぁ勝つにせよ負けるにせよその心境とかを描写できる力はないのであの部分で終わったのは最適解だとは思ってます(22:06)

    門森 ぬる:書けるなら書きたいけど書けないもんはしょうがない(22:07)

    門森 ぬる:これでも私が書いた割に大分長くなったんですからー。語った事とかを作品に入れる力が足りないもんでしてね。(22:10)

    門森 ぬる:妄想は捗るんですけどね、アウトプットが無理よね(22:11)

    門森 ぬる:あ、あと書く上で悩んだのがイーブイ君が1匹になっても立ち向かう理由(22:12)

    門森 ぬる:逃げ腰でナインエボルブースト発動させる訳にもいきませんし(22:13)

    門森 ぬる:フェアリーロックで逃げられない様にしようかなーとも考えたんですけど、そうするとキュウコンがフェアリーロックを使う理由が必要になって(22:14)

    門森 ぬる:キュウコンのスタンスはさっき語った感じなもんで矛盾しちゃうなーと(22:14)

    門森 ぬる:そうやって色々考えてた時に http://tear.bokunenjin.com/side-p/comic/log19/p-c185.html これ読み返しましてね(22:16)

    門森 ぬる:もう引き返せない、後戻りできない。これだ、と(22:17)

    門森 ぬる:この心境そそりますよね((22:18)

    門森 ぬる:後は何だろうな、あれか、浮線綾さんの質問(22:49)

    門森 ぬる:1.執筆期間(22:50)

    門森 ぬる:実際に手を付け始めたのは確か2/11だったはず(22:51)

    門森 ぬる:そして投稿は遅刻というあれ(22:52)

    門森 ぬる:2.ネタをどうやって集めたか(22:53)

    門森 ぬる:自分のツイートでいつか使えるかもなーってのをモーメントに纏めてまして、それを見返した位ですかねー https://twitter.com/i/moments/782204472017563649(22:54)

    門森 ぬる:3.実際に執筆した過程(22:55)

    門森 ぬる:んーこれは何を答えればいいんだろう……頭から順に書いていきましたけどそういう事で合ってるのかな……?(22:57)

    門森 ぬる:後はそうだなー、イーブイ達も防寒対策は何かしらしてます。キュウコンの所が吹雪いてるってのは分かってますし。具体的にどんな事をしたかまでは考えてませんが(23:01)

    門森 ぬる:防寒というかまぁ霰も含めてね(23:02)

    門森 ぬる:イーブイ達やキュウコンの技構成とかは全部決めてる訳ではないかなー(23:04)

    門森 ぬる:そもそも技4つまでってのを適用するかも決めてなかったり(23:05)

    門森 ぬる:んーこの位かなー。あと何か語る事あったかなー(23:07)

    門森 ぬる:何か質問とかありましたら是非是非(23:07)

    門森 ぬる:とりあえずなさそうですかな。ではひとまず自作語り終了ですかなー。この後も質問とかあれば受け付けますけどもね(23:20)

    門森 ぬる:では見て下さった方々、ありがとうございました!(23:21)


      [No.3926] 前編 投稿者:まーむる   投稿日:2016/07/17(Sun) 02:21:34     51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     ポケモントレーナーだからと言って、ポケモンに頼りきるのはいけない。空を飛ぶ為にポケモンを頼らず、自分の背中にジェットパックを付けろと言ったり、早く移動する為に自動車を使えとか、そう言う意味ではなく。
     要するに、歩いて行ける距離ならポケモンに態々乗ったりして行くべきじゃないだろうし、飛ばなくても楽々行ける場所なら、同じく。
     でも、俺のパートナー達が、疲れ果ててる俺を心配そうに見つめて来るのを見ると、頼るべきだったかな、と思った。
     あー、疲れた。

     山奥の秘境の温泉、とやらに主人は私達を連れて来た。一番の古参のメガニウム。続いてオオスバメ。それからレントラー、ラプラス、ドリュウズ、そして一番最後に私。
     地上じゃ上手く動けないラプラスを除いて私達はその山を登って来たけれど、自分の力で出来る事は自分でやるって言ってる主人のポリシーでオオスバメに乗って大空を翔けて一気にその山奥まで行く事もなく、レントラーに乗って山道を駆けて一気に山奥に行く事もなく。
     私も疲れた。歩ける中じゃ一番体重は重いし、自分の特性を抑え込んでおくのもそれはそれで疲れるから。
    「お待ちかねの温泉だ……って言っても、メガニウムとドリュウズとバンギラスはちょっと嫌かな?」
     さあ? とメガニウムとドリュウズは首を傾げた。入った事は無いんだろうな。
     私は首を振った。
     私自身の故郷に温泉はあった。まだその時野生だった私の姉貴分が好きで入っていたけれど、私はどうも好きになれなかった。
     ヨーギラスの時は、特に水タイプは最大の弱点の一つだったし。今は最大ではないけれど、苦手なのには変わりない。
    「じゃあ、好きなようにぶらぶらしてても良いぞ。暗くなるまでに帰って来てくれれば良いからさ」
     そう言って主人は立ち上がって、周りを見回した。
     確かに、この山は広い。美味しい土も結構あると思えた。
     私は、主人達が村に入って温泉に行くのを傍目に見ながら、山の奥に美味しい土を求めて歩いて行く。
     山を歩いて来て、結構疲れているけれど、この位でへこたれちゃあ、バトルでも活躍出来ない。

     山が少し騒がしかった。
     どうやら、余所者が入り込んでいるようだった。
     岩蛇に稽古を付けていたが、それを中断してその騒がしい方に歩いていく。
     極力森林を傷つけないように。俺の頭の鋼の角が木に当たっちまうと、それだけで結構深く傷ついちまう。
     森の木々、それ一つ一つが、こんな森の中で一応主を務めている俺よりも遥かに長く生きている。
     そして、その木々の恵みが巡り巡って、俺達を生かしている。その根幹である木々を守る事は、俺にとっての生きがいでもあった。
     土を踏みしめれば、俺の自重で水が染み出て来る事もある。俺が水が苦手なのは残念だ。
     温泉も、好きで入っている奴等を良く見るが、俺なんかが入ってしまったら、この自慢の鋼の肉体が錆びだらけになっちまう。
     温泉の良さが分からないってのは、結構損をしているんだろう。
     森の上で葉蜥蜴と葉包虫が遠くの方を見ていた。俺が呼びかけると、そいつらは俺に、その余所者が居る方を指してきた。
     その方を、見通しの良い場所まで移動して見てみると、僅かに砂嵐が巻き起こっているのが分かった。
     あー、と面倒な感情が湧き上がって来る。
     人間のパートナーだろ、あれ。岩鎧。
     俺より、基本的な能力は上。そして、人間と一緒に居るって事は、強さもかなりあると見て良い。
     でもまあ、ここは俺の故郷でもあり、そして俺が一番熟知している。負ける事はまあ、無い。

     温泉の成分がこびりついた土や岩は、食べていると自分の故郷を思い出すかのようで感傷に浸る事が出来た。
     姉貴分は今、どうしているんだろう。別れも告げずに今の主人に付いて来ている訳だけど。でもまあ、折って来なかったって事は、そういう事なのだろうし、姉貴分は進化して強くなった私よりもより強い筈だ。
     そもそも、私の苦手な格闘タイプが入っているし、炎タイプが次いでに入っているのにも関わらず温泉が好きな酔狂な輩でもあった訳だし。
     特性も解放して、そこらの岩に座ってふぅー、と息を吐く。メガニウムとドリュウズは温泉を堪能してるんだろうか。私にはやっぱり無理な気がする。
     この鎧の穴からダイレクトに水が染み込んで来るなんて、やっぱり考えただけでも余りしたくない。
     土を食べて、硫黄の臭くてしょっぱい味を堪能する。食べ過ぎるとお腹を壊しちゃうから、程々にと思うけど、この懐かしい味を堪能出来るなら、一度位お腹を壊してもいいかな、と思う。
     暫くそうしてぼうっと、もしゃもしゃ食べていると、後ろから足音が聞こえた。
     振り向くと、もう近くに居た。山の上の方から来たらしい、ボスゴドラ。
     ここの山の主って事で良いんだろうか。土を食べてる私を半分迷惑そうに見て来た。
     邪魔だ、と言わんばかりに、ボスゴドラがくい、と首で村の方へ帰るように示してきた。
     ちょっと、ムカついた。

     俺の仕草に苛立ちでも覚えたのか、拳を振って来た。
     もう、振り向いた時のような穏やかな目は無く、戦闘をする気になっていた。
     とは言え、殺し合いまでをするような強い殺気が籠ってもいない。俺をぶちのめして帰るつもりなんだろう。
     拳を掴んで受け止めると、びりびりと腕が痺れる。
     中々強い殴打だった。受け止められると、尻尾を回して俺の脇腹を狙って来る。それを一歩引いて躱すと、近くにあった木が容易くへし折られた。
     あー、ここでやったら木が何本折られるか分からん。俺も折ってしまうだろうし。
     仕方ない、ちょっと移動するか。
     続いて来た噛みつきを腕の硬い部分で受け止めても、みしみしと痛む。それを受けたまま、俺は岩鎧に向って突進した。
     岩鎧が驚くも、高所の方からの、重い俺を受け止められずに一緒にごろごろと転がる。
     木が数本、いや十本以上またへし折れてしまうが、あそこで戦い続けるよりはマシだ。バキバキと木がへし折れ、時たま岩にぶつかり、痛みに互いが顔を顰める。そして、最後に川の中へ落ちた。
     互いに水面に叩きつけられる。俺も岩鎧も、受け身を取るが、かなり痛い。
     とは言え、頑丈さなら俺の方が上だ。ここならもう、木も折れる事も無い。
     続いて折れた木もばしゃばしゃと落ちて来た。

     水の中に落とされ、痛みに怯んでいる間に、ボスゴドラは体勢をもう整えていた。
     何か、少しヤバい相手かもしれない。私は目の前のボスゴドラに対する認識をちょっと改めた。
     互いに水の中。苦手なのは一緒だ。でも、私にとってここは全く知らない場所。地の利は断然ボスゴドラにあった。
     ボスゴドラが落ちて来た木の一本を両手で拾い上げて、振り回してきた。体で受け止めても結構痛い。氷のキバで凍らせて破壊すれば、短くなった木を投げつけて来た。
     腕で払って走る。私の鎧の穴から水が入って来て嫌な感じだし、重いけど、距離を保ったまま戦うんじゃ、私の覚えている技じゃ相性とかが悪かった。
     こんな場所で地震なんて技使ったらボスゴドラのみならず、この森のポケモン達全員に恨みを買うだろうし、もう一つのストーンエッジはそもそもボスゴドラに余り効かない。
     それに地の利があるボスゴドラに対して距離を保ったまま戦うのも嫌だった。
     走って来て、単純に殴り掛かった私に対して、ボスゴドラがその腕を上手く取って後ろへいなした。
     転びそうになった私の足に尻尾を払い、転ばせられる。
     手を付いた私の顔に水しぶきが掛かる。
     ……強い!
     ちょっとじゃない、かなり、強い。
     ぞくぞくとした感情が湧き上がって来る。追撃を避けて立ち上がり、今度は互いに腕を組んで頭突きをかます。
     アイアンヘッドに対して、私は技でも何でもない単なる頭突き。ダメージは私の方が遥かに大きい。
     けれど、久々に感じる強敵との戦い、私は高揚していた。
     尻尾を足に巻きつける。ボスゴドラも私の足に尻尾を巻きつけて来た。
     ざあざあと川の流れを受けながら、尻尾で互いに体を崩そうとしながら、私は氷のキバをボスゴドラの肩に見舞った。再度のアイアンヘッドで無理矢理外される。けれど、もう片方に即座に氷のキバ。
     これでボスゴドラの両肩は余り動かなくなった。
     腕に力を籠め、強引に押し倒そうと、叩きつけようとボスゴドラに向けて体重を掛ける。ボスゴドラは力づくで無理矢理氷をバキバキと破壊して地面に叩きつけようとする私に刃向って来た。
     けどもう遅い。ボスゴドラの股に足を掛け、そして尻尾でも引っ張り、体当たりをかます。
     ボスゴドラは背中から川に突っ込んだ。

     倒れた俺に対して拳を数発叩きつけられる。一発一発が強烈で、次の拳を受け止めようとした所に強烈な尻尾の一撃が顎に入った。
     歯を食いしばってその尻尾を抱き、体を捩った。岩鎧の体がよろけて、思い切り足を尻尾で払う。そうすれば、岩鎧が俺の上を越えて盛大に川に叩きつけられた。
     そこからは、揉みくちゃになりながら、川の中で殴り合い、叩きつけ合い、噛み合い。
     どれだけそうしていたか。
     俺の体はぼろぼろになってたし、岩鎧の体もぼろぼろだった。
     ふぅー、ふぅーと息を吐きながら、また立ち上がって距離を取ると、岩鎧が笑っていた。俺は笑っているだろうか。良く分からなかった。
     俺にとっての目的は森を守る事だったが、この戦いを楽しいと感じる俺も居たし。
     そして、先に地に伏したのは、岩鎧だった。体力の限界が来ているようだった。
     負けても岩鎧は笑っていた。俺が岩鎧の前まで歩いて行き、さっさと帰れと首を動かすと岩鎧はゆっくりと立ち上がって、俺に唐突に口付けをしてきた。
     一瞬、混乱する。舌を絡ませながら、どこに隠し持っていたのか、甘い果実の味もした。
     岩鎧は俺を抱いて来た。体力が少しながら回復するその果実を飲み込みながら、俺も自然と抱き返し、舌を交わわせていた。岩鎧が俺を押し倒そうとして、それを俺は許さなかった。
     俺が負けじと岩鎧を押し倒そうとすると、岩鎧はあっさりとそれを受け入れ、押し倒された。
     舌を交わわせながら、俺は激しく岩鎧を貫いた。苦手な水の中だとか、そういう事はもうどうでも良かった。
     転がり、互いに主導権を握りながら、上と下で交わり続けた。深く深く、互いに初めてのようだったが、そんな事はどうでも良く。いや、交わる事以外の全てがどうでも良く。
     只管襲って来る初めての快感に身を預けた。
     


      [No.3925] コマンド・リタイプ 投稿者:きとかげ   《URL》   投稿日:2016/07/13(Wed) 22:03:28     94clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    タグ:コマンド

    (前書)
     二人が出会ってそんなに経ってない頃の話です。

    +++

    『パスワードは↑↓↑↓←→←→LR』

    「またかよ!」
     とキランは入力装置を殴る。赤ランプが回って警報が鳴り響く。下っ端戦闘員がどやどやと集まってきて、各々モンスターボールを開放する。
     キランはドリュウズを出して応戦する。その間に、犯罪の決定的な証拠資料やら悪の組織の首領やらを上司のレンリが確保する。そして、下っ端に追い回されるキランを回収する。

     いつも通りと言えば、いつも通りだった。だが。
    「もうちょっと、警察らしいというか、そういう仕事をやりたいんですよ」
     後始末を終えて戻ってきた警察署で、キランは愚痴った。彼の机の上には、ねじねじ帽子とキラキラマントが、休憩、とばかりに重ねて置かれている。

     愚痴られた方は、柳眉を寄せた。
    「らしい、とは?」
     聞き返される。キランはへばっていた机から身を起こし、上司であるレンリへ顔を向けた。
    「つまり……」
     血気盛んな若人の暴走族グループに毛が生えたような悪の組織じゃなくて、もっと高レベルな奴を相手したい。コソコソするんじゃなくて、真っ向から勝負したい。ねじねじ帽子だのキラキラマントだの、そういう悪の組織コスプレをして忍びこむのをやめたい。
     おおよそ、今やってる仕事と真逆である。

     ところで、キランの上司であるところのレンリという女性は、控えめに言って美人だ。
     キランの好みは自分より背が低くて笑顔がキマワリのように素敵な子だったはずだし、上司がせっかくの綺麗な黒髪を紅色のメッシュで染めているのも気に入らなかったはずだ。
     なのに上司から繰り出されるコスプレの指示を、キランはホイホイ聞いている。これが惚れた弱みというやつだ。

    「今の仕事とは逆、ね」
     レンリの紅い目が半ば伏せられた。この場面を切り取って、『憂い』とかなんとか適当な題を付ければ一枚いくらで売りさばけそうだ。実際やってる奴もいるらしい。
    「二人だからな。あまり危ない橋は渡りたくないのだけれど」
    『憂い』のまま黒髪を揺らしたレンリに、キランは慌てて前言撤回した。
    「いや、ちょっと気の迷いというか、若気の至りというか、まあ、忘れてください」
     そして、「そういえば」と言って話題を転換させた。
    「レンリさんが“ゾロア使い”って呼ばれてるの、本当ですか? 僕、あまりゾロアを見たことがないんですけど」
     あんまりな急転換である。それを誤魔化すように、キョロキョロ見回すジェスチャーも付けた。これでさっきの愚痴も忘れてもらえるといい。
     視界に入るねじねじ帽子がうっとうしい。上から押さえた。
    「ゾロアか。最近は連れてきてないな」
     いつも通り淡々と、レンリは答えた。その後で「そうだ」と顔を上げる。目が輝いている。若干、嬉しそうだ。
    「なんなら、何匹か連れて来ようか?」
     言うが早いか、キランの返事も待たず、どこかへ電話を掛ける。
     電話が繋がると同時に、彼女はキランに背を向けた。電話をする人の習性の不思議だ。キランの方も習性で、なんとなく息を潜めた。

    「もしもし、レンリだ。サクラを頼む。……ああ、サクラ、私だ。急ですまないが、ゾロアを何匹か警察署に連れて来てもらえないか? ……いいや、警察犬じゃないよ。あ、そうだ」
     レンリがちらりとキランを見る。また背を向けた。
    「どうせだから、百匹くらい連れて来てくれ」
     百? 聞き間違いか、と耳を澄ませた。
    「二百匹でも構わないよ」
     増えた。
    「多いなら何匹でも」
     上限が撤廃された。
    「じゃあ、スケジュールは後で相談しよう」
     ピ、と電話の切れる音がした。ふう、と潜めていた息を吐いて、キランが背を起こす。こちらを振り返ったレンリと目が合う。彼女はふっと笑った。
    「あの、レンリさん」
    「サクラは、普段ゾロアの世話を見てくれてるやつ」
    「そう、ですか」
     そんなことより、ゾロアを何匹連れて来るのか、そっちの方が気になるのだけど。
     キランのそんな気は露ほども知らず、「大仕事になるぞ」とレンリは上機嫌だった。



     一日経ち、二日経ち、三日経ち。
     ゾロアを連れて来る約束は忘れたのかな? とキランは思い、そもそも約束というほどの確約をしていないことに気付き。
     四日経つと、都合がつかないんだろうと思い始め。
     五日経つと、その他の雑事に追われてゾロアのことは忘れていた。
     そして、二日休日を挟み、休み明け。
    「いい仕事ができるぞ」
     とレンリは言った。
    「いい仕事、ですか?」
    「そう」
     オウム返しに尋ねたキランに、レンリは上機嫌に答えを返す。
    「キランの希望の仕事だ」

     ――迷いの森の奥に廃墟があるんだけど、そこに住み着いたグループがあるらしくてね。手っ取り早く、正面切って追っ払ってほしいんだ。

     コスプレも、パスワード付きの扉もない。まさしくキランが望んでいた案件だった。
     近所だから行きはよいよい、建物の見取り図もレンリが手配してくれたから、密偵エルフーンを放つ手間もない。

     地図通りに着いた森の奥には、廃墟というには立派な建物が鎮座していた。廃墟ではない、というだけで、建物らしからぬ四角四面だ。扉のある豆腐と言っても差し支えないだろう。
     その豆腐の大扉を開くと、玄関ホールにたむろしていた黒装束たちが腰を浮かせた。気分的には「たのもー!」って感じだ。言わないけど。
     代わりにこう言った。
    「君たちのリーダーはどこ?」
     答えるわけがない。黒装束の一人が、たどたどしい手付きでモンスターボールを投げた。残りは逃げた。
     一人目のボールから出てきたのはゾロアだ。キランはエルフーンのボールを投げる。
    「ウィリデ、エナジーボール」
     うにゃん、と鳴き声を上げて黒い仔狐が倒れる。突破して奥に進んだ先で、二人目のボールが開いた。コジョフーだ。
    「もう一度、エナジーボール」
     わざを食らったコジョフーの輪郭が溶けた。黒い仔狐の姿に戻ったそれは、うにゃん、と鳴き声を上げて倒れる。
     ……ん?
    「いけ、チラーミィ」
    「ウィリデ、もう一回エナジーボール」
     緑の光球を受けたチラーミィが、うにゃん、と鳴き声を上げて倒れた。ボールに戻る直前に見えたのは、黒い仔狐の姿。
     ……んん?
     向かってきたアーケンにエナジーボールをぶつけてみた。
    「うにゃん」
     ゾロアだ。やっぱりゾロアだ!
     黒装束たちが通路を塞ぎ、各々ボールを投げる。そこから出てきたのはゾロアゾロアゾロアゾロアゾロア……
    「うわああああ、ウィリデ、暴風!」
     動揺しながら指示した暴風は、動揺しながら伝わって、ポケモンだけでなくトレーナーも吹き飛ばした。その輪郭も黒く小さく溶けていく。トレーナーとそのポケモン、合計十匹の
    「うにゃんうにゃん! うにゃんうにゃん!」
     ――悪夢だ。
     これは悪夢に違いない。
     キランはドリュウズのボールを投げると、普段は選ばない高火力・広範囲わざを指示した。
    「地震」

     建物の四角四面が、ぐよんぐよんと豆腐のように曲がる。すわ倒壊するより先に、四角四面が溶けて消えた。
     ――幻影のアジトが消え去った後に残ったのは、黒山のゾロア集り。
     放心するキラン。「あーあ」と肩をすくめるレンリ。
    「ダメだったか」
     ダメですね、と言う気力もなかった。そこに行き着くまでの言葉を組み立てる気力すらなかった。

     そんなキランを尻目に、レンリは反省会を始めている。キランが喋れる状態ではない今、誰と反省会をしているのか。ゾロアだ。
    「パンはボールの投げ方がいけないな。人間のフリをするならもっと手慣れた風にしないと」
    「ターは建物をよく観察して。あんな豆腐みたいな建物はないぞ」
    「ピーはまず化けようか」
    「パン、コジョフーに化けるなら腕の動きに気を使って」
     キランは思わず発語能力を取り戻した。
    「パンって二回言いましたよ」
    「何言ってるんだ? こんだけいるんだから名前ぐらい被るだろう」
     間違いでなくて被りで正解らしい。レンリに抱き上げられたゾロアは、被った名前を呼ばれてしっぽを振っている。その他、数匹が足元に寄ってきてしっぽを振っている。何匹いるんですかね、パン。
     推定二百匹のピーターパン以下ゾロア連中はレンリを囲い、揃ってしっぽを揺らしている。レンリもそれに応えて、笑顔を返していた。この場面を切り取ればプレミア価格が付きそうな、そんな笑顔だった。

     なるほど、ゾロア使いだとキランは思った。そしてゾロアでないキランは、その輪を外から眺めていることしかできなかった。


      [No.3838] みんなが変態だっていうんです 投稿者:トランセル Lv7   投稿日:2015/09/26(Sat) 00:54:00     75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    みんなが変態だっていうんです (画像サイズ: 32×32 0kB)

    ぼくはこないだキャタピーからトランセルに進化しました。
    そしたらビードルくんやケムッソちゃんが、ぼくのことを変態だ変態だっていうんです。
    いままで友だちだと思ってたのに……。
    最近ケムッソちゃんがどくばりをおぼえたのも、なんだかビードルくんのマネしてるみたいで、ほんとはちょっといやでした。
    ケムッソちゃんにHだと思われたくないです。
    でもぼくはHなことにぜんぜん興味ないし、たぶんこれからも絶対にないと思います。
    それとも、進化ってそんなにHなことなんですか?


      [No.3837] どうしたら人間にシンカできますか 投稿者:ベトベター Lv12   投稿日:2015/09/21(Mon) 22:08:59     77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    どうしたら人間にシンカできますか (画像サイズ: 32×32 0kB)

    ぼくはドロから生まれたベトベターなのですが、マコちゃんのことが好きです。
    マコちゃんはぼくをひろってそだててくれました。
    これからもずっといっしょにいられたらいいなと思います。
    でもこないだ友達のナゾノクサくんに、ポケモンと人間は結婚できないよっていわれました。
    ぼくはドロだらけなので、いつかマコちゃんがぼくをきらいになったらいやだなと思いました。
    ポケモンはシンカすると姿が変わるらしいから、ぼくもシンカして人間になりたいです。
    どうしたら人間にシンカできますか。


      [No.3836] Re: ごーとぅーバーチャル 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/09/18(Fri) 22:17:58     163clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    感想ありがとうございますー!

    > 例のアプリ発表から作品までの速さ……さすがきとかげさん……!
    ネタに走ると速い体質です!

    > 「アプリ」の出現から世界が塗り替えられていく描写が丁寧でぞくぞくします。
    > でもこれ、きっかけが本当に「アプリ」とは書かれてないんですよね……。
    > >  息子がスマホ片手に、しきりに虚空を掻いていた。
    > 冒頭のこの時点ですでに息子にとってポケモンは「アプリ」の中の存在ではないですしね……。
    いえいえ、もしかしたらとってもすごいVRやARかもしれませんよ……?(虚空を撫でながら)

    > 落ち着きを取り戻したあたりで、「アプリ」の介助が必要なくなったということでしょうか?それって言わば次のステージへ進んだってことなのでは……。
    > もしかしてこの医者の真の目的はそれだったのでは(考えすぎでは
    いえいえ、もしかしたら本当に重度の中毒だったのかも(虚空を撫でながら)
    冗談はさておき、アプリ中毒専門の医者というのもそういうことなのかも……? なんて感想を読みながら思いました。ネクストステージ……

    > そもそも、この「アプリ」を作ったのは何者なのか……目的は何なのか……。考えるのも野暮かもしれませんが気になりますね……。
    書いておいてなんですが、ブラックボックスですねえ、そこらへん。アプリの機能はその内に実現しそうではありますが、若干オーバーテクノロジーですしね……

    > とりあえず自分はこれ読んで例のアプリ入れることを決めました(
    ありがとうございます( これはこれとして、アプリの方も面白そうです……! 多分虚空なでなで機能はないと思いますが……思いますが……?

    > そして部屋に引きこもりから謎の廃屋へ(違う
    母さんの一人称が俺に(そこじゃない
    しかし実際こんな状況が続いたら、謎の廃屋行きでしょうね……。

    > レイヤーワールドがじわじわ拡がっていて久方さんは楽しいです(
    広がるレイヤーワールド……! 私も非常に楽しませてもらってます(

    感想ありがとうございました! あっ、餌の時間(何もないところを見つめながら)


      [No.3835] ごーとぅーバーチャル 投稿者:久方小風夜   投稿日:2015/09/16(Wed) 21:03:50     81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    拝読させていただきました!
    例のアプリ発表から作品までの速さ……さすがきとかげさん……!


    「アプリ」の出現から世界が塗り替えられていく描写が丁寧でぞくぞくします。
    でもこれ、きっかけが本当に「アプリ」とは書かれてないんですよね……。
    >  息子がスマホ片手に、しきりに虚空を掻いていた。
    冒頭のこの時点ですでに息子にとってポケモンは「アプリ」の中の存在ではないですしね……。

    お医者さんの対処も効果ないですしね……そもそもいわゆる中毒ではないでしょうから当然かもしれませんが……。
    >  その内に息子も落ち着きを取り戻し、宿題も言えばきちんと取りかかるようになった。
    >  時々、床近くの空気を手で掻いていたが、私が見ているのに気づくと、すぐにやめた。
    >  医者いわく、「アンインストール後の手持ち無沙汰を埋める行為」だそうだ。これも、時間が経てばなくなっていくのだろう。
    もうこの時点で、「アプリ」は必要なくなってるんですよね……。
    落ち着きを取り戻したあたりで、「アプリ」の介助が必要なくなったということでしょうか?それって言わば次のステージへ進んだってことなのでは……。
    もしかしてこの医者の真の目的はそれだったのでは(考えすぎでは

    そもそも、この「アプリ」を作ったのは何者なのか……目的は何なのか……。考えるのも野暮かもしれませんが気になりますね……。
    とりあえず自分はこれ読んで例のアプリ入れることを決めました(

    >  私には見えないだけで、車道を危なく横断するポケモンがいて、山の中でしか捕まえられないポケモンがいて、遠くのマグマ溜まりでは伝説のポケモンが眠っている。
    >  そう言われても、どれだけ世の中のニュースが書き換わっても、私には、ただのアプリしか見えないまま。
    そして部屋に引きこもりから謎の廃屋へ(違う


    レイヤーワールドがじわじわ拡がっていて久方さんは楽しいです(
    素敵な作品を読ませていただきありがとうございました!!


      [No.3834] どちらかのバーチャル 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/09/15(Tue) 03:10:26     154clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


     (前書)
     久方小風夜さま作「存在しなかった町」(http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?no=3670&reno= ..... de=msgview)、「薄膜の上の誰かへ」(http://masapoke.sakura.ne.jp/rensai/wforum.cgi?no=1322&reno=4 ..... de=msgview)、586さま作「#142790 「置き換えられた記憶」」(http://masapoke.sakura.ne.jp/rensai/wforum.cgi?no=1235&reno=1 ..... de=msgview)に影響されました。これらも面白いので是非に。



     どちらかのバーチャル

     息子がスマホ片手に、しきりに虚空を掻いていた。
    「こうすると喜ぶんだ」と言う彼のスマホには、この前捕まえたポケモンが映っているのだろう。
     山に行きたい、と急に言われた時はどうしたんだと思ったものだが、リリースされたポケモンアプリのお陰らしかった。そこに行かないと好きなポケモンを捕まえられないとかで、山道の途中で、はしゃいでスマホをトントンして捕まえたそうだ。きっかけはどうあれ、インドア派な息子が少しは外で遊ぶ気になって、古臭い親心ではあるが、やはり嬉しい。
     しゃがんでメールをいじっていた息子が立ち上がった。
    「ユウちゃんたちと公園で遊んでくる」
     門限までに帰るよう、言い含めて見送った。なんでもポケモンバトルは外でやったほうが迫力があって楽しいとかで、息子の約十年の人生で外に出た回数を考えると、ポケモンアプリさまさまである。

     **

    「コイツ、散歩すると喜ぶから」
     そう言って息子はよく外出するようになった。
     そしてその度、私は同じ注意をすることになった。
    「スマホばっかり見て歩いたら、危ない」と。
     息子は、それはもう、通い慣れた通学路でも、楽しそうに歩く。隣にソイツがいるのだと言って、頻繁にスマホ画面でソイツの姿を確かめながら。
    「危ないから、やめなさい」
    「でも、コイツが車道に出て轢かれてたりしたら」
     息子の心配事に、私は思わずふき出した。
    「アプリが轢かれるわけないでしょう」
     息子はちっとも納得しなかった。
    「ユウちゃん、コラッタが轢かれたの見たって」
     それはきっと、アプリが車が映ったのを判断して、そういう演出を入れたのだろう。リアルは結構だが、やりすぎではないだろうか? 苦情を入れるべきだろうか。
     苦情は後で考えることにして、息子のほうは、歩きスマホをするならスマホを取り上げる、と脅して、やっとやめさせた。
     それでも息子は気になるのか、しょっちゅう立ち止まっては、アプリを起動して、ポケモンの姿を確認しているようだった。

     **

    「アプリ中毒?」
     人は色んな物に中毒する。アプリ中毒はスマホ中毒に似ているが、違うらしい。
    「ええ、ユウくんもアプリ中毒で大変なんだって。ポケモンの様子が気になるって、スマホを手放さないし」
     噂好きのママ友は声を低めた。
    「スマホを取り上げたら、すっごい大声出して暴れるんだって。ユウくんいい子だったのに、いやねえ」
     いやと言うわりには、彼女の顔は舌なめずりでもしそうになっている。うちの子もハマってて、心配だわと付け加える声が空々しい。
     そうそう、最近はアプリ中毒専門のお医者さんもいるらしいわよ。ハマり始めに早めに対処したほうがいいんだって。ママ友はそんな情報を置いて去っていった。

     **

     もう学校から帰ってきているはずだ。子供部屋のドアをそっと開く。
     息子は床に座りこみ、スマホを横目で確認しながら、指を空中に這わせていた。
     その腕はなにかを抱える形に曲げられていて、息子にとって大切なものがそこにあるのだな、と見てとれた。
     開いたままのドアを叩く。息子は口を丸く開けて私を見上げた。子供部屋のドアが開けられたのに気づかなかったらしい。
    「宿題は?」
     息子はバツが悪そうに目を伏せ、腕の中のなにかを下ろした。そして、机上に伏せたスマホを名残惜しそうに見てから、のろのろとノートを引っ張りだした。

     **

    「典型的なアプリ中毒ですね」と医者は言った。
     頻繁にアプリを覗かないと落ち着かない、アプリを起動するとひとまず落ち着く、などが典型的な症状らしい。
     これが重度になると、アプリの中のポケモンを優先したライフサイクルとなり、通常生活に支障をきたすそうだ。
    「そうなると、患者をアプリから引き離す際にも、多大な苦痛を生じます」
     医者は脅すように言う。
    「そうならないために、どうすればいいんですか」
     その言葉に、医者は申し訳なさそうに目を伏せて、でも、職業上こういった演技には慣れているといった風情で、
    「アンインストールでしょう」
     と言った。
     診察用の椅子に乗せられた息子が青ざめた。

     **

     ポケモンが見えなくなるから嫌だ、と息子は言った。
     アプリがなきゃ、餌をやる時間も餌のやり方もわからない、と息子は喚いた。
     アンインストールのボタンをタップするのは、指先の電気が触れるだけというのもあって、とても呆気なかった。

     **

     それからしばらく、仕方ないと言えば仕方ないが、息子は元気がなかった。ポケモンの名前らしい単語を連呼して、家の中を探し回るようになった。
     医者が言うには、時間が経てば元に戻るということなので、助言通り放っておいた。
     その内に息子も落ち着きを取り戻し、宿題も言えばきちんと取りかかるようになった。
     時々、床近くの空気を手で掻いていたが、私が見ているのに気づくと、すぐにやめた。
     医者いわく、「アンインストール後の手持ち無沙汰を埋める行為」だそうだ。これも、時間が経てばなくなっていくのだろう。

     **

     リビングの入り口で、息子が見えないボールを拾い上げる真似をした。そして、新聞を読んでいる私を見て、「まずい」という顔をすると、自室に逃げ帰っていく。
     なにがまずいのやら。後で暇があれば確かめよう。
     めくった面の見出しに、私は眉をひそめた。
    『収まらぬ火山活動 伝説のポケモン復活の兆候か』
     新聞記者には重度のアプリ中毒者がいるようだ。ここの新聞はやめたほうがよいかもしれない。
     テレビを点ける。新聞と同じ火山活動のニュースだが、そこにはポケモンのポの字も出てこない。やはり、この新聞はどこかおかしいのだ。
     夕食を作るのに野菜が少ないので思い立って、外に出た。そこにはユウちゃんのアプリ中毒の話を美味しそうにしゃべくっていた、あのママ友がいた。
    「こんにちは」
    「こんにちは。噴火、怖いですねえ」
     当たり障りのない世間話で幕を開ける。しかし、相手は「いい車を買っても、灰で汚れるから大変なんですって」とまたもや舌なめずりしそうな顔になる。いやはや、この人に息子のアプリ中毒がバレなくてよかったなあと心底思う。
     ママ友は舌なめずりの顔のまま、「伝説のポケモンがいたって、いいことないんですのねえ」と言った。
    「え、なんて」
     私は聞き返した。
    「ニュースでやってるでしょう」
     相手は、私が非常識、と糾弾する調子で言った。
    「そういえば」ママ友は話題を変えた。
    「ユウくん、ポケモンと旅に出るんですってね。伝説のポケモンがいるような、危ないところには行ってほしくないわあ」
     うちの子は旅なんて出ませんけど、と彼女は自慢気に言った。

     **

    「僕も、旅に出たいなあとは思ってるよ」
     息子が言った。
    「クラスの子も、旅に出る人多いし。ユウちゃんも行くって言ってるし」
     バツが悪そうな顔をする息子の腕には、またもや透明なボールが抱きかかえられていた。
     いろんな疑問を飛び越えて、私ができるのは、彼の行為の上っ面をなぞることだった。
    「なんで今まで言わなかったの?」
     そう問うと、息子は腕の中の透明なボールを見下ろし、私を見上げ、そして、目を伏せた。
    「だって、お母さん、見えないみたいだし」
     伏せたまつげに半ば隠れているのは、それは間違いなく私への憐憫だった。見えない、お母さん、かわいそう。そんな。
    「それはアプリでしょう」と私が言った。
     彼は悲しそうに、腕の中の空虚と“目を合わせた”。

     **

     夏休みに入る頃に、私は息子の背中を見送ることとなった。
     学校の担任に相談しても埒が明かず、かえって事態は加速して、おたくの息子さん、トレーナーとしての才能がありますよ、旅に出ないなんてもったいない、ということになってしまった。
     大きなザックを背負い、時折、見えない斜め下に向かって笑いかける息子が印象に残った。
     私には見えないだけで、車道を危なく横断するポケモンがいて、山の中でしか捕まえられないポケモンがいて、遠くのマグマ溜まりでは伝説のポケモンが眠っている。
     そう言われても、どれだけ世の中のニュースが書き換わっても、私には、ただのアプリしか見えないまま。


     (後書)
     ポケモンGOたのしみです。


      [No.3832] ステラレタ ページ4 投稿者:おひのっと(殻)   《URL》   投稿日:2015/09/11(Fri) 23:42:13     88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    ステラレタ ページ4 (画像サイズ: 600×900 159kB)

    ランクルスはかわいいです。胎児みたいなのがかわいいです。


      [No.3831] ステラレタ ページ3 投稿者:おひのっと(殻)   《URL》   投稿日:2015/09/11(Fri) 23:30:26     92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    ステラレタ ページ3 (画像サイズ: 600×900 119kB)

    ケムッソはかわいいです。「たいあたり」と「どくばり」と攻撃わざがふたつもあるのでお得です。


      [No.3830] ステラレタ ページ2 投稿者:おひのっと(殻)   《URL》   投稿日:2015/09/11(Fri) 23:29:08     88clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    ステラレタ ページ2 (画像サイズ: 600×900 140kB)

    ベトベターはかわいいです。
    姫野かげまる著『ポケモンカードになったワケ』には人間にシンカしたいベトベターがでてきてかわいいです。


      [No.3829] ステラレタ ページ1 投稿者:おひのっと(殻)   《URL》   投稿日:2015/09/11(Fri) 23:27:30     113clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    ステラレタ ページ1 (画像サイズ: 600×900 211kB)

    投稿制限のため余談です。
    ヤドランはかわいいです。いつものんきな顔をしていて、でもそんなところがかわいいです。


      [No.3828] ステラレタ 【マンガ】 投稿者:おひのっと(殻)   《URL》   投稿日:2015/09/11(Fri) 23:22:25     98clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    せんだって Twitter にあげたミニスカート×ベトベター的なマンガをまとめました。
    初出は2015年9月8日 https://twitter.com/ohinot/status/641206926064287746 以下です。


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