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そういえば、記事のネタとして「ポケモンバトルに反対する人たちは昔から存在してた」みたいなものを考えていたのですが |
鬱蒼と茂る木々は大きく葉を広げ、底まで届く太陽の光を削り取っている。
所々にはチョロチョロと冷たい水が流れ、何一つ騒ぐ者のいない静かで平和な森の奥。
サクサク…… と一匹のイーブイ。
静けさの中に響く枯れ落ちた葉の上を歩く足音。小豆色の好奇心に満ちた瞳、茶色に黄色を微量にまぶした様な体毛、首には無骨な灰色の石にキラキラ光る透き通った宝石をあしらったアクセサリを巻き、小さな足を踏みしめて、フサフサした尻尾を大きく振り回している。
与えられた自由時間を利用しての、近くの森を散策。寂しい森を明るく照らしているかのような、わくわくした表情で、誰もいない道を歩いていた。
周りの木々が空に向かって伸びて、葉と葉、枝と枝の間の縫い付けるように光が容赦なく降り注いでいる。一方、枝の下では行き場を失った空気があたりを潤している。空気が光に照らされて、時々笑っているかのように鮮やかにきらめく、そんな光景がイーブイは好きだった。
木と木の隙間の先には、何者かが森をそのまま抉り取ったかのような草むらが広がっていた。
「あら、こんなところにイーブイなんて珍しい、こんにちは」
そこに一匹のブラッキーが後ろから声を掛けた、黒光る体毛に紅い瞳と金色の文様を抱えて、声の調子から雌であることが分かる。
「あ、ごめんなさい、ここに住んでいる方でしょうか? すみません勝手に入ってきてしまって、綺麗な森だったのでつい……」
声を掛けられたことにイーブイはびっくりして、とっさに深々と頭を下げて謝った。
「いいえ、別に私はここに住んでいるわけじゃないし、気になさらずとも構わないから」
ニコリとブラッキーはイーブイに愛敬を振りまくかのように笑みを浮かべて、草むらに腰を下ろした。
草むらといっても、丈の高い草が繁茂しているわけではなく、背の低いポケモンが座っても隠れるようなことはないので、イーブイもそれに倣って腰を下ろした。
「見たところ、貴方は人間のポケモンね」
その言葉にイーブイは驚く。
「ほら、このけづや、そして毛並みが不自然に綺麗、きっといいものをたくさん食べているのね」
ブラッキーはそう説明して、自分の体を見つめた。黒い体毛の上からでも目立つぐらい、毛並みは酷く乱れ、全身に傷が残り、土で汚れている、自らの体と比べているのだろうか。
どこか棘のあるブラッキーの言葉にイーブイはむっとしたが、不快に思いながらも、とりあえず表面だけは社交的に装って返事をする。
「それは、ありがとうございます」
「ああそうだ、せっかくだから、一つ君におとぎばなしをしてあげるよ、人間とそれに飼われたイーブイの話をね」
出会ったばかりの相手に対してでなくとも、せっかくだからしてあげる、とはなんて失礼な口調なのだろうと思い。不愉快な顔をして閉口したところ、話すべきじゃないととれるというのにブラッキーは構わず、そのおとぎばなしというものを話し始めてきた。
「あるところに人間に飼われているイーブイが居ました。
イーブイはその人間のことが大好きでした、毎日毎日、ムックルやスボミーを倒して、強くなって人間の力になることを願っていました。人間もまた、イーブイのことを可愛がり、強くなってくれることを願っていました。そんなイーブイはある夜のこと、進化してしまいました。イーブイは自分が進化したことを大変喜びました、これでさらに人間の役に立てる、と。
しかし、人間はそのイーブイの進化した姿を見て、がっかりした顔をしました。どうやら、人間はイーブイをそれとは違う姿に進化させたがっていたのでした。それでも、可愛がっていたポケモンなのだから今までどおりに人間は接しようとは思っていたけど。かつてのイーブイは気がついていました、人間が自分への気持ちは冷めてしまっている、以前のように可愛がることはしなくなってしまったことを。
それに気がついた瞬間、そのかつてのイーブイは酷く居心地の悪さを感じ始めました。そのうちに人間の優しさもかりそめの言葉にしか聞こえなくなり、人間との間に距離を置かざるを得なくなりました。
そして結局、捨てられてしまいました。
かつてのイーブイは捨てられてしまった後、ただ呆然と何も食わずにふらふらと彷徨っていました。
なぜ自分は捨てられてしまったのだろう?
なぜ自分は進化してしまったのだろう?
かつてのイーブイは今の自分の姿を酷く憎みました。
この体さえ無ければ、人間は自分を捨てなかった。
この体で無くなれば、人間は振り向いてくれる。
そう思った、かつてのイーブイは、諸悪の根源である自分の体を痛めつけ始めました。自分の足を噛み付き、自分の胴体を引っかいた。そうすれば、昔の自分に戻れる、そう信じて痛めつけてました。
しかし、それでも足りないと、自ら岸壁の上に登り、そのまま崖底へと飛び降りて……。
落ちた先の岩に頭をぶつけ、首の骨を折り、亡くなってしまいました。
その後、その遺体は腐って無くなったけど、そのかつてのイーブイの心はその岩石へと染み込みました。
それが“かわらずのいし”
変わらずの意志が、石となったんだって――おしまい」
「それで終わり?」
イーブイは言った。首に掛かったかわらずのいしのアクセサリが光る。
「結構なおとぎばなしだね、それって僕に対して何が言いたいのかな? 僕に対しての忠告かな?」
ブラッキーはとぼけた様な笑顔を作って、ゆっくりと首を横に振った。
「忠告? そんなことは無いよ、君が人に飼われているイーブイだって聞いたものだから、こんな話を思い出しただけさ」
飼われている、というその言葉にイーブイはカチンと来た。
「ねぇ、君がどれだけ人間のポケモンにコンプレックスを抱えているのか知らないけどさ、からかうのもいい加減にしてくれないか?」
「からかうつもりなんて無いさ、ただ気をつけろってね」
ああ言えばこう言うと、質問をひらりとかわす態度にイーブイは馬鹿にされているように感じた。
それは紛れも無く、忠告じゃないか、と腹立たしく思いつつも、ブラッキーに言う。
「言っとくけど僕は君に心配される筋合いなんてない。それにさ」
イーブイはブラッキーのことを鋭く見つめ、はっきりとした声で尋ねる。
「さっきのおとぎばなしって、君がそのかつてのイーブイなんだろ?」
「…………」
「おとぎばなしにしてはやけに具体的な話だし、何に進化したとは言って無いのに、わざわざ夜に進化しただなんておかしいよね、それに傷だらけのその体が証拠さ、最後の死んだうんぬんの部分は真っ赤な作り話だろ?」
イーブイの視線に、ブラッキーはそっと目を背けて、溜息をつくようにして残念そうに言う。
「ばれちゃった…… あれぇ 何で分かったの? ああ、どうやら君は推理小説とか好きなタイプ?」
なんだよそれ、とイーブイは冷めた顔で睨んだ。
「僕はそんなものなんて読んだことも無い。こんなの、話を聞けば誰だって分かることだ」
イーブイはブラッキーの体の傷を一瞥する、見ているだけで痛々しく体中に残った傷はどれも引っかき傷や噛み付き傷だと思われるが、どれも自分で付けたかとしか思えない、傷の付き方をしている。しかし頭には、岩に打ち付けたような大きな傷というものは見当たらない。
「で、その君が僕に対してそんなこと言うってことは、もしかして、いまトレーナーのイーブイである僕のことを嫉妬している?」
「いや」
ブラッキーはゆっくりと首を振って否定する。
「別に君のことを嫉妬しているだなんて、そんなことはないさ。ただ、単純に君にはこういうことになってほしくない。私と同じことになって、トレーナーである彼女から離れて欲しくないだけ」
その言葉を聞いて本当に可笑しくてしょうがないかのような声で、イーブイはけらけらと嘲笑った。
「強がるなよ、本当はそう思っているのだろう? ほら、眼がそう言っているよ? 憎くてしょうがないって、幸せな幸せなイーブイなんて許せないって」
「…………」
ブラッキーの紅い瞳がぎらりと揺れる。
それでも、何も言わない。
「でもさ、それって見当違いだと思うよ。君が本当に憎むべきなのはそんなことじゃない、まぎれもない自分自身の心さ、でもその事実は受け入れられない。だから進化してしまった姿を悪者にして逃げている。違うかい?
姿が変わって捨てられた。でも、君は姿が変わった自分を認めてもらう努力をしなかった、だから捨てられた。例え、トレーナーが思っていたのと違う進化形になったとしても、その姿を誇れば良かった、トレーナーは普段通りに接しようとしていたのだろう? ならばそれが感じられないのならば、こちらからその気持ちを呼び覚ますように精一杯好きになって振り向かせてやれば良かったのさ、今の姿の力をトレーナーに示して、強い自分を見せ付けてやれば良かっただけだ。
でも、それすらも出来なかったってことは、所詮はそこまでの関係だったんだね。君はトレーナーを好きではなかったし、トレーナーも君のことなんてもともと可愛がってなんか無かった。それでもトレーナーは君のことを可愛がろうとしていたのに、君はその気持ちを裏切った、サイテイなヤツだね。だから進化して、捨てられた」
捨てられた、の言葉にブラッキーは、ゆっくりと口を開く。
「君の言う通り、だけどね。これでも一応は自分のことはそれなりに分かっている、君が言ってくれた言葉も既にね、今の自分は何も知らなかった私への報いだから。
私の勝手だけどね、いつかこうして伝えたかったんだ。君にはよく知ってほしい。君も、私も、人間の下に暮らす、暮らしていた、同じポケモンなのだから」
「はぁ? 同じ? 何を言っているの? 君と僕は違うさ」
イーブイはアクセサリを光らせて鼻で笑う。
「僕は君のように臆病なヤツじゃないから、自分の心の弱さで逃げてしまうことなんかしない。
だいたい、君と僕とではトレーナーが違うだろ? 君のトレーナーのように大事な仲間を見捨ててしまうトレーナーなんかじゃない、僕のトレーナーは僕のことを決して捨てたりなんかしないさ、たくさんのイーブイの中でも僕は選ばれた特別な存在なのだから。
ほらみろよ、僕のけづや、これは大きな素質があるって証拠なんだ。君のように、傷つけて台無しにするようなものじゃない。きっと君はそのへんにいるイーブイと変わらなかったから代わりはいくらでもいたのさ、でもね、僕には僕だけの価値がある、だから僕の代わりなどはそうは無い、だから進化しようが僕とはずっと一緒にいてくれる。
君と僕は違う。同じものなんて言われなく無いよ。例え君は捨てられても僕は違う、違う進化しようとも僕のトレーナーは捨てないし、僕はそれでもトレーナーと一緒に戦っていくつもり、たとえうまく行かなくても弱さゆえに逃げ出すことなんかしないよ。君と違って自分自身のことを信じることができるからね。
でも、君は進化して捨てられたけどさ、これで自分はたったそれだけの存在だったのだと知れたのだろう?
あははは、良かったじゃないか拍手してやるよ、そんなこと前から分かりきっていたことだけど愛されていなかった自分のことにそこでようやく気が付いたんだから、でもそんなことを未練恨みがましく、つまらないおとぎばなしにして話すなんて蛇足だね、負け犬は負け犬らしく去るのが礼儀だと言うのに、みじめのうわ塗りをしに来て一体何になると言うのだい? いっそ、本当に崖から身を投げてしまったほうが良かったんじゃないのかな? そうすれば誰にも迷惑が掛からないだろう?
まあでも、感謝しろよ、この負け犬、価値の無い自分のことをこうして誰かに知られてもらった分だけありがたいと思わなきゃね」
そう言い切ったイーブイはすっきりした満足気な笑みを浮かべて、みじめにすべてから逃げ続ける、哀れな姿を見た。
「分かっている」
ブラッキーはそう静かに、そしてはっきりと呟き、
「分かっているさぁ! 彼女は決して私のことを捨ててなんか無いってことくらいさぁ!」
箍が外れ金切り声を張り上げる。自らの憎悪と怨恨を込めたかのように、自分の牙をがきがきと軋ませ、前足の爪で顔や全身をがしがしと掻き毟り、叫ぶ。
「期待していたのと違うポケモンに進化した私にも、彼女は変わらない愛情を注いでくれていたよ! 彼女にはこんな全身真っ黒で目が真っ赤で吸血鬼みたいな姿は受け付けられなかっただろうけれど、それでも変わらない愛情を注いでくれていた! それでもさぁ! 私は堪えきれなかったんだよ!
いずれ私もあのトレーナーの下にいるのだから、大きな戦いの舞台に出て行くことになるだろう。そういう舞台に上るからには、きっと強い相手に当たり、私はきっと負けてしまうことがあるだろう。 そんなときにね! もしもあのときブラッキーになんか進化していなかったら、仮に期待通りの進化をしていたならば、と絶対に後悔してしまう。そう思うのは私自身だけじゃない、彼女もきっとそう思ってしまうだろう! 私はそれに堪えきれない!
そして今の私では、本来為るべきだった姿の代わりをすることは絶対に出来ない、この姿では出来ることが違う。彼女は為るべきだった姿の代わりを、代替をいずれは育てることになるだろう、それもまた私は堪えきれない! だから、私の方から逃げてきたんだよ、もう何もかも捨ててすべてから逃げ出して死んでしまいたかったよ!」
牙軋りをして、爪を更に立てる。
「もしもあの時あの場所で野宿をしていなかったらと泣き嘆いているよ! 月が綺麗だったあの夜は何かの鳴き声に目が覚めたら、いつのまにかデルビルの群れに囲まれていた。すやすやと寝息を立てる彼女を守るために、一匹でその群れに立ち向かった! それはすべては大好きだった自分のトレーナーを守るために、必死になって戦って、勝った! そんなことがなければ、私はずっと彼女のそばにいられた! 私はずっと彼女と一緒に戦えた!
悔しいよ、ちくしょう、悔しいよ、たったそんなことでさぁ! 夜じゃなければ良かったのに、昇っているのが月じゃなくて太陽なら良かったのにさぁ! そうして私の代わりに誰かが、私の代わりになった誰かが……幸せに、幸せになるなんて、幸せになるなんてさぁ……!」
そして、まるで空気でも抜けてしまったかのように突然、狂気染みた瞳がフッと消え失せて、色を失った。何かに惹きつけられるでもなく、ただ目の前の景色を写しとる澄んだガラス玉のように綺麗で虚ろだった。
「許せないよ……」
抑えきれない大粒の涙がボロボロと瞳から零れ落ち始め、足元の草を濡らしていく、叫び続けてかすれた声はそれでも未練を残しているのか、小さく同じことを何度も何度も紡ぎ始める。溢れたものを押さえ付けることができず、出てくる涙と声。
しかしそれでもなお、イーブイへ視線を向け続けて、顔を背けるようなことはしなかった。
「それで満足かい?」
イーブイは言う。
「ほらやっぱり、嫉妬しているじゃないか。それに」
「よして」
とブラッキーはやや枯れた声でイーブイの言葉を制止させた。
「それ以上の言葉は、君の口から言わせるわけのはいかない。 私は分かっているよ、いや、分かっているつもりでいる。 ごめんね、最後に君に聞きたいことがあるんだ」
ブラッキーはイーブイの目をしかと見つめる。泣いていたせいなのか紅い瞳はさらに紅く染まり、ギラギラとした刃物のような輝きを包み込んでいるが、何故かそこから感じられるものは怖さや恐ろしさではなかった。
「君はトレーナーのことが好き?」
「大好きだよ」
イーブイは即答する。
「それがどうしたんだい?」
「そう……ありがとう。でも、きっとね、そのうち分かるよ。同じではないだろうけど、似ているのだから。ごめんね、本当にごめんね、悪かったわ、こんな気持ちにさせてしまって。私からはもう君の前には二度と姿を現さないって誓うわ、だから君は私の道を辿って、私の元に来るようなことには間違ってもならないようして欲しい。君のお父さんとお母さんによろしく言って下さい、そして立派なサンダースになってください」
「え」
ブラッキーは腰を上げる動作から滑らかな動きで、たった一歩でイーブイの目の前に踏み込んだ、そして前足をていねいに開き、イーブイをゆっくりと抱擁をした。
ふわふわしたイーブイの綺麗な毛並みがブラッキーの肌を優しくくすぐる、イーブイはわけも分からないままにブラッキーの胸に顔を埋めることになる、その肌は漆黒の森に流れる風のように柔らかく感じた。
そして、そっと抱擁を解いて、一歩だけ下がる。果敢無げな瞳に、わずかに浮かんでいた微かな笑みを、イーブイは気づいた。
「私は、願っているよ」
イーブイの脳裏にいくつかの言葉がパズルのように組み合わさっていく。
――ムックルやスボミーを倒して?
――私の代わりになった誰かが?
――トレーナーである彼女?
――お父さんお母さん?
――サンダースに?
――このけづや?
――似ている?
「お」
イーブイがそう言いかけたところで、ブラッキーのだましうちが発動し始める、それは攻撃をするわけではない、イーブイの意識からブラッキーの姿が消えていき、視覚で認識することができなくなっていく。
そうして、まるで瞬間移動をしたかのように、スッと姿を消した。あとは何も残らない、ただ吹き付ける風とわずかに濡れた草がそこにあるだけだった。
「おねえちゃん!」
その日の夜のこと。
このポケモンセンターの宿泊部屋の明かりは消されて、外と同様にここにも静かな夜が訪れていた。
カーテン越しから漏れ出して来る月の光のみが暗闇をほのかに照らす。部屋には粗末な作りのベッドが置かれ、その中で一人の人間が小さな寝息をたてている。そのトレーナーの歳は十を過ぎたところで、どこかあどけなさが抜け切れない女の子だった、何日か旅をしているらしく、ベッドの横にはショルダバッグなどの荷物がまとめて置いてあった。普段は結んでいるであろう長く黒い髪もここではやわらかなベッドに解き放している、何日か野宿が続いていたのだろう、久しぶりの布団ですやすやと深い眠りに入っていた。
イーブイは彼女のモンスターボールから出て、思い出していた。
あのブラッキーはこれからもトレーナーだった彼女のことを思い出して、そのたびに苦しみ続けるのだろう。それは産まれてから狭い世界しか知らず、心が幼いままで成長してしまった哀れな末路だ。あんな抜け殻みたいに同じくことを言う無知の成れの果てには為りたくないものだ。
自分のことは分かっている、だって? それがどうした? 分かったからなんだ? 分かっても何も変わっていないじゃないか。黙って話を聞けば、私が私が私がって、自分のことしか考えて無い。世の中がそれで通ると思っているのか? そんなふうに、いつまでも過去をいじいじと牽きずっているクセしてさ。それに嫉妬なんかしていないとか、言っていたな、ははは、よく言うよ。どう見ても、嫉妬していただろ? 嘘つくな、この偽善者、素直に認めろよ、自分は敗者なんだ、ってさ。
そんなヤツの言葉なんて右から左。
しかし、
嫉妬ならば、自分自身がしていたかもしれない。
トレーナーである彼女は隠しているつもりだろうけど、こうして、ムックルやスボミーを倒す日々で、自分は何かに比べられている感じがしていた。何かの代わりとして、やり直される感覚は、つらい。その元凶が妬ましい。そしてそれゆえに強い不安を抱えて、つい言い過ぎてしまったかもしれない。
「……のど、渇いたな」
しばらく考え事をずっとしていたからなのか、それとも遅くまで起きていたからなのか分からないが、気がつくとのどがカラカラになっていた。
確か、バッグの中に水の入ったペットボトルがあったはずだ、それを飲むことにしよう、とトレーナーのショルダバッグにとことこと近づいて、頭をバッグにつっこみ、がさごそと鼻探り口探りに水の入ったペットボトルを探る。月の光はここまで照らしてくれないが、場所は覚えている。
すると中に、暖かい何かよくわからないものがあることに気がついた、不審に思い、試しに噛んでみる。
ガキリ
何か硬いものが牙に当たる。
これは一体、なんだろうか? と舐めてみようとしたとき。
口の中が燃えるような感覚がした。
熱い、熱い、熱い…… 体中が熱い。
視界がぐらりと歪み、全身の骨が軋み出す。
そういえば、あの森に一匹で行った理由、自由に過ごす時間があったからだった。
今日は手持ちのポケモンに長い自由時間を作って、彼女は一人どこかに行った。
普段バッグの底にあるはずのスコップとヘルメットが、今は上の方に置いてある? 地下に?
虹色に光る何かの鱗を採りに、そのついでに化石と何かのかけらと、石?
熱い! 熱い! 焼ける! 焼ける!
体中の毛皮が焼けつくされるように皮膚がチクチクと痛み出す。
それが自分の体毛が伸びていることに気がつくまで、しばらく時間が掛かった。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い
足を無理矢理引き伸ばされる感覚、骨が悲鳴を上げている。
ちらりと、自分の胸元に付けられた“かわらずのいし”のアクセサリを見つめた。
それは確かに、ついていると言うのに。変化は止まらない。
な、なんでだよ! なんで、働かないのだよ! このアクセサリは、何のためにあるんだよぉぉぉぉ!
繰り返さないために、彼女が僕につけてくれた、そんな石なんだろう? かわらずのいしだろぉぉぉぉ!
しんかしんかすてられたぶらっきすてられすてられたもういらないんだーすがほしいのだかいらないしかたないしかたないやりなおすしかたわーたおすほしいでんきはやいほしいふかさせてねばろせいかくもいちどやりなおしこたいちさんだーすもいちどしんかかつかつそれまでやりなおす?やりなおす?やりなおす?やりなおす?
次第に、焼ける、ような、熱い、感覚も、心地よく感じて―― 来て――
おめでとう! イーブイは
ブースターに しんかした! ▼
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イーブイ可愛いですよね
『物音に敏感』で『おくびょう』だった性格の『いたずら好き』で『気が強い』ツンデレなお姉ちゃんも可愛いですよね。
個体値と性格と性別を粘ったあと努力値を振って育てていたイーブイが、電源つけたら違う進化をしていたら、それでも愛情を持って育てられるでしょうか。
まあ逃がしたりはしませんが、ボックスの隅にでも置いてたまにネタパに使ったり、遺伝を狙って育て屋さんでタマゴを産み続けて貰うのも一つでしょう。
“変わらずの石”は石の進化を防ぐことができません。
“懐かし”とはなつくの語源になる古文用語で、慕わしくて心惹かれるとか、昔のことが思い出されて感慨深いという意味を持っています。
> ぷち模様に渦巻き一つ乗せたそれはパッチールの耳カチューシャ。
言い値で買おう
人間関係とは厄介なものである。特に思春期における女子同士の友情というものはいささかややこしいもので、特定の誰かと話しているだけで交換ノートに凄まじい嫉妬の文を書いて送られてきたりする。いらないプレゼントと言っていいだろう。
それもまあ思春期を終えて高校生になればいくらか収まるところだ。それでも生きている間はそういう感情と良くも悪くも付き合っていかなければならないのだ。
『嫉妬』『恨み』『妬み』…… 『愛する』ことより簡単であるが故に、それにズブズブと嵌っていく人間も数多い。それでも抜け出そうとしないでいれば、その先にあるのは――
破滅、だろう。
『えー、このxは横線を表しているわけだから、6を代入してそれと同じようにyも――』
先生の声が左耳から右耳へと綺麗に抜けていく。空腹感を覚える時間帯。時刻は午前零時を回ったところ。四時間目でしかも数学というのは、退屈で退屈で仕方無いカリキュラムだろう。現に周りを見れば、ほとんどの生徒が目に光を映していなかった。進学校と名高い晴明学園も、昼前の授業の反応は周りと変わらないのだな、と思わずため息が漏れる。
ミドリは一番後ろの席に座っていた。窓際の一列目。外ではグラウンドで他の学年が体育をやっていた。男子だ。格闘タイプを使っての柔道。一人の男子がナゲキに掴みかかっていった。だがナゲキの方が上だった。猪突猛進の男子の襟首を掴み、背負い投げる。
「ソラミネ、聞いてるのか」
はっとした。金縁眼鏡をかけた教師がこちらを見ている。その目にはやれやれ、という色が見て取れた。
「すみません」
「……後で職員室に来なさい」
何のお咎めもないことに周りは驚いたようだ。別の意味で静まっていた教室が、少しざわつく。ミドリは彼らの好奇の視線に気にせず、ただひたすらに窓の外を眺めていた。授業終了のチャイムが鳴ったのは、それから二十分後だった。
「ソラミネ、さっきの態度はなんだ」
所変わって職員室。ミドリは先ほどの数学教師の前に立っていた。部屋は暖房が効きすぎていて、暑い。その場にいた彼らは意外な様子でこの光景を見ているようだった。晴明学園の中でも学年を超えてトップクラスの成績を誇るミドリが職員室に呼ばれること事態、珍しい。ましてやプリント運びではなくお説教とくれば驚くのは無理もないだろう。
「お前の優秀さは皆認めてる。先生だってそうだ。高校生でアドルフ・ヒットラーの『我が闘争』を原書で読める奴なんてそうそういないぞ」
「彼の独裁的思考と今の平和ボケした世界と一体何が違うのかを比較してみようと思ったんです」
「それはいい。日常の授業で叱られるなんて、お前にあってはならないんじゃないのか」
教師が一息ついた。そして哀れんだような目をミドリに向ける。気持ち悪い、と思った。
「まだ先輩のことが忘れられないのか。……無理もないが」
ミドリは頭を抱えながら『失礼します』と職員室のドアを開けた。
屋上―― 普段は立ち入り禁止だが、実はほとんどの生徒が昼休みに使用していたりする。ミドリもその一人だった。一ヶ月前からずっとここで食べていたのだ。教室に戻る気がしなかった。
一ヶ月前。冬休みが始まるギリギリ前。寒いのに晴れ渡っていて、雪も降らない冷たい夜だった。そして、何もかも焼き尽くした赤い夜だった。
先輩が、突然姿を消した夜。町外れの屋敷を黒こげにして、死んだように消失した夜。誰も何も見ていない。何も出てこない。死んではいないと断言できた。それに関する物が、何も出てこなかったから。
だけど、自分にとっては死と同じだった。
「先輩……」
腰のホルダーでジャノビーが不安そうにこちらを見ている。ここ数ヶ月で幾度かバトルさせる機会があり、彼をバトルさせていたら進化した。ツタージャから、ジャノビーへ。
食欲が出ない。ミドリはボールを出すと、持って来ていた弁当を広げた。首を傾げる彼に、薄く笑う。
「食べなさい。お腹空いてるでしょ」
言葉の通りだったらしい。少し躊躇った後、ジャノビーは短い手を器用に使っておかずを食べ始めた。その光景を微笑ましく思い、ミドリは今日初めての笑顔を浮かべた。
昼休み終了のチャイムが鳴り響く。だがミドリは動こうとしなかった。膝を抱えて、青い硝子を張ったような空を見上げている。ジャノビーが食べ終えても、全く視線を上から逸らそうとしなかった。
『――私はさ、誰にも邪魔されない世界を生きていたいんだ』
夏の緑と空が眩しい。一枚の写真のような風景をバックに、彼女は言った。その足はしっかりと地面を踏みしめ微塵の震えもない。
『邪魔されない世界?』
『何をするにも自分で決める。自分で決めた道を行く。当たり前だけど自分で選ぶんだから、危険な道だってある。もしかしたらその先に死があるかもしれない』
『えっ!?』
『驚き方がオーバーだね、ミドリは。……まあ仕方ないか』
『でも未練を残して死にたくはないな』
『この姿で生きていられるのは、これ一度きりだから』
突然空が暗くなった。闇が、影が全てを飲み込んでいく。違う。自分の場所だけ明るいまま。向こうだけ切り離されたように染まっていく。
『先輩!?』
何者かが足の下をすり抜けていく。誰かが闇の中で深々と膝をついた。忠誠を誓うかのように。
『バイバイ、』
手を伸ばしても届かない。影が溢れ、溢れて―― 全てが飲み込まれた。
「あ、起きた」
意識を取り戻して最初に耳に入って来たのは、自分が今一番聞きたい人の声じゃなかった。低い声。あの人よりも低い。あの人も女性の割りに低かったけど、少なくとも男よりは高かった。
虚無感を覚えてミドリは目を開けた。コンクリートに預けていた腰と背中が痛い。目の前には見慣れない姿の人間がいた。いや、人であることは間違いないが、ミドリは何処の誰だと認識したことはなかった。
第一印象は―― ポーカーフェイス。その目の色は状況によって立場を変え、どんな奴を敵に回しても冷静でいられるような感じだ。そして全く面識がない自分でも確信するくらい、彼の顔は整っていた。ああ、なんか入学したての頃に女子が騒いでいた気がするなあ……くらいの認識度であるが。
ジャノビーがスカートの上で丸くなって眠っていた。重い。
「優等生で、ギアステーション兼バトルサブウェイの主からも一目置かれてて、美術部の部長で、警察署長の孫で、世界的に有名な研究者の娘で―― って、
ソラミネミドリ。神様はお前に幾つ肩書きと七光りを持たせれば気がすむんだろうな?」
「自ら望んでこの人生を歩むことになったわけではありませんから」
何故か答えていた。皮肉にも、からかいにも取れる言葉を彼は遠慮無しにサラサラと紡ぎだした。ぶっつけ本番で言えるような長さではない。少々戸惑いを感じながらも、ミドリは冷静さを保とうとした。
そもそも男性と話すことに慣れていないのだ。あの人がいた頃は、授業中と短い休み時間以外ずっと隣をキープしていたから。あの人としか話さない日も、多かった。
だからなのか、一ヶ月経っても未だに彼女以外と話すことに慣れない。男なんて、もっての他だった。
空はだんだん赤みを増し、雲に金色の縁取りがされている。薄い青とピンクとオレンジが混ざった、独特の色が一枚写真のように目に焼きつく。
「というか、貴方誰ですか」
無礼な気もしたが、名前の分からない相手と長く話せるほど、ミドリは社交的ではない。頼りになるジャノビーはまだ起きそうもなかった。
「……認識されてなかったのか。参ったな」
男がミドリの両肩に手を置いた。いきなりのことに何も反応できず、ビクッと肩を震わせる。喰われる―― そう感じた。
「俺はショウシ。硝子って書いて、ショウシだ。覚えとけ」
気がついたら彼……ショウシが額を押えて倒れこんでいた。左腕で身体を押さえ、驚いた顔でジャノビーを見ている。
ジャノビーは起きていた。いつもは何事にも動じない冷静な目を、ナイフのように鋭くさせて威嚇している。ミドリは腰が抜けて立てなかったが、状況を確認してそっと立ち上がった。
「ジャノビー……私を助けてくれたんですね」
ガクガクと頷く。頭をそっと撫でると、ミドリはショウシを見た。怒っている様子はない。ハンカチを取り出し、額に当てる。遠目からでも血が滲んでいるのが分かった。
「ごめんなさい」
「迂闊だったな。まさかポケモンに隙を取られるとは思わなかった」
やっぱ女絡みのことはどんな男にでも隙を作らせるんだな、と一人で納得している。ミドリはとりあえずこの男を敵だと認識した。そして名前と顔と性格と自分にしたことをきっちり頭の中にインプットした。
(先輩、私変な人に懐かれたようです)
帰り道。ミドリは一人で歩いていた。下校時刻はとっくに過ぎていたし、一緒に帰るような友達を彼女は持っていない。
(今までは先輩が一緒だったから、何も恐い物なんてなかったけど……いなくなっちゃったから、自分で何とかしないといけないんですね)
(一体いつ帰ってくるんですか、先輩)
(私を置いて死ぬなんて許しませんよ)
ミドリは立ち止まった。空はもう、群青色に白い点が瞬いている。
(どんな形であっても、私は貴方を見つけ出します)
(必ず)
(必ず)
彼女の持っている感情は、『嫉妬』でも、『恨み』でも、『妬み』でもなかった。そこにあるのはただひたすらに純粋な『愛』。それが純粋すぎるが故に、狂気へと変貌していくことに彼女はまだ気付かない。
どうやらカオリは崖から落ちただけではなく、落としてしまったようだ。
ミドリの、『制御』という名の何かを。
ポケストを覗いたらこんなスレがあってフランス語の試験勉強がちっとも捗らない、紀成です!
母に許可は取りました。父は分かりませんが、多分大丈夫だと思います。この前の夏は一週間皿洗いで夕食の許可取ったんだよな……
行けます。タブンネ。リストに名前の記入をお願いします。では。
始まった時から終わっていた。きっと私のやっていることはそうだったんだろう。未来なんてない袋小路。勝ったところで失うしかない負け街道。それでもいくしかなかった。止まるわけには行かなかった。
戻ることのできない道で止まってしまえば先には進めないから。考えなくてよかったことを考えてしまえば、次の一歩が遅れる。遅れた分だけ余計に考えて、その分だけ救いが遅くなる。それを知っていた。
だから、だからね。
「ベル。もうやめて」
トウコには来てほしくなかった。あなたにだけは止めてほしくなかった。親友に呼び止められれば、足を止めざるを得ないから。
「トウコ。まだ――」
止める気なのか、あるいは止められると思っているのか、どっちを聞くつもりだったのか自分でも分からない。遮るようにして放たれた言葉に思考が停止してしまったから。
「ポケモンが好きだって言ってたじゃない」
「えぇ、そうよ。”ポケモン”は好きよ」
「なら!」
親友の声が聞こえる。今にも泣きだしそうな声。駆け寄って頭を撫でたくなる胸に刺さる声。
その声を聴くのは辛い。でもその声に耳を塞ぐことはできない。許されない。
自分は同じような声を聴き続けるからだ。友達を取らないでよ、と叫ぶ人から容赦なくポケモンを奪うと知っているから、その声に駆け寄ることは許されない。
なによりも、
「トウコ、ポケモンが好きだからこうしているのよ」
これが正しいのだと思って行動してきた。ポケモンのためになると思ったから。大好きなポケモンのためにやってきた。そのためだけにこんなことをやり続けてきたのだ。
「それでもこんなの……こんなの絶対間違ってる」
駄々をこねるように否定する友人を見るのは辛い。私とて気になることで彼女が心を痛めることは分かっていたのにそれでも辛い。
「そうね。私のやってきたことは正しくないわ」
「ベル。そこまで分かっているならやめましょう。まだやり直せるわ」
この親友はやっぱり優しい。あんなに酷いことをしたのに、まだこんな言葉をかけてくれるのか。それでも、そうだからこそ、
「私に止まることは許されないのよ」
こうすることもやめられない。親友と戦いたくない。そんな私はきっとひどく我儘なのだろう。けれど、やめることはできない。私は欲張りだから。
「お願い、トウコ。私と一緒に来て」
泣かせたくない。戦いたくない。けれど、止められない。だから、だから。
「私の手を取って。ポケモンが笑っていられるように。ポケモンが辛い思いをしないように一緒に戦いましょう」
私は手を差し伸べた。
――ポケットモンスターブラックホワイト2――
せっかくなら、きとかげさんの黒ベルに返信投稿しようと思ったけど見つからなかったorz
てなわけで嘘予告第二弾。今回は敵勢について書いてみた。悪とは言えない悪。果たして主人公の取る道は――
ってところで切れるCM雰囲気
【今度はまともな嘘予告なのよ】
【思ったより黒くないのよ】
【好きにしていいのよ】
記事立て乙です〜
場所は浜松町か新橋付近ですかね。
HARUコミの場所自体は東京ビッグサイトです。
http://www.akaboo.jp/event/0318haru17.html
入場に1300円かかりますので、他の同人誌(ポケも出てますし、他ジャンルもあります)を見て回りたい人以外は
打ち上げだけ あるいは しめしあわせてどっかで遊んでいるといいかも。
ご無沙汰しております。586です。
No.017さん主催の「ポケモンストーリーコンテスト・ベスト」の頒布を行うイベント・HARUコミックシティの開催が近づいてまいりました。
ポケスコの力作群を集めた、まさに珠玉の一冊になる予定です。
ちなみに、当方も昨年のコミックマーケット82にて頒布した「プレゼント」の再販を行う予定です(しれっと宣伝
さて、3/18(日)のイベント終了後に打ち上げを行いたいと思います。
時間帯はイベント終了後、少々余裕を持って17:00前後開始を考えています。終了は状況にもよりますが、概ね20:00頃の見込みです。
つきましては、参加を希望される方を当スレッドにて募らせていただきます。
なお、既に参加を表明されている方に付きましても、今一度メンバーの確認を行うため、当スレッドにて記名いただけると幸いです。
イベントに参加されてそのまま雪崩れ込む予定の方も、打ち上げだけ参加されるという方も、どちらも大歓迎です! 奮ってご参加ください(´ω`)
以上、よろしくお願いいたします。
世の中には言い出しっぺの法則とやらがあるそうなので、書いてみた。
この量書くのに三時間もかかってしまった。精進精進
いやぁ、マジで中身が予想できないので完全に妄想爆発状態ですが、
――――――――――――――――
人生五十年。言葉にすればこれほど短いが実際には様々な出来事があった。酒に女に戦いに、と。そして、出来事が起こるたびに様々なものを失っていく。それは者であり、物だった。そこまで思い返して、
「いろいろあったの七音で済む程度の人生だのう」
と自嘲した。そうだ。短い中には様々なものがあったけれど、結局はそう短くできてしまう程度でしかない。死んでいった者たちの言葉を覚えていても、どんな声音であったか分からなくなっていくように、多くの出来事は色あせていった。
気にも留めてない出来事も含めれば、その数は無数にあるだろう。数えられるはずなのに、混ざり合い数えられぬのは歳を取ったせいか。
城に置いてきた妻がこの場にいれば、こんなことを考える自分を笑うのだろうな。髭をしごきながらそう思う。人間だから当たり前だと慰めるようにそう言うのだろうとも。
「フン。年寄りの冷や水か。隠居でも考えたらどうだ?」
思考に割り込むように聞こえたのは遠雷を思わせる低い言葉だった。誰かは問うまでもない。この自分に無礼なことを言うのは、一人しか否一匹しかいなかった。背後にちらと視線をやる。血を思わせる朱い瞳と雷雲のように黒き体を持った龍がそこにいた。
「いつも通り、礼儀を知らぬな。その翼、切り落としても構わぬのだぞ」
「昔ならいざ知らず、今の貴様では我の動きを捉えることすらできんだろう」
脇差に手を添えながらの剣呑な言葉にそう切り返された。
これが他の者ならすぐに平身低頭し、許しを請うのだろう――それ以前に無礼な振る舞いをする者はいない――がこの龍は怯えもせず、むしろ更なる言葉を返してくる。
こいつとも長い付き合いだ。妻よりも長い年月を共にした。だから、というべきかはわからないが、相棒とも言うべき存在はこの尊大な龍以外にはいなかった。周りに人はいても、家来か敵かだ。軽口や愚痴を聞かせられる他の存在はもう死んでいる。
良いやつは早死にしてしまうというから、一番口汚いこいつが生き残るのもある意味至極当然、当然ではあるがやはりどこか釈然としない。神や仏がいるのなら、良き裁定をしてほしいものである。
「寺に泊まった程度でそんなに感傷的になるとはな」
思わずと言った形で漏れた呟きに対しての返答に確かにらしくなかったなと思い、口の端を歪ませる。
それも致し方なし。血も涙も信ずる神がいなかろうと、
「人が死ぬときは命の行く末について、考えてしまうのさ」
言い終わると同時、目の前の襖が開く。
入ってきたのは一人の男。
「第六天魔王であっても死ぬときはやはり恐れるものなのですね」
怜悧な瞳をこちらに向け、そう言った。会った時から変わらない。氷鳥を従え、冷めた瞳をしているせいで冷めていると思われがちだが内に秘めた情熱は人一倍。そういうやつだ。いつかこういう日が来ると思っていた。
「殿。あなたはもう十分生きたでしょう。現世のことは私に任せ、地獄の天下でも取りに行ってください」
「天運がなかったと諦めて、我が主に打ち取られてください」
肩に留まった氷鳥と共に、好き勝手に言ってきてはいるが、まだ死ぬ時ではない。まだ見ぬ世界を残している。生きることに飽くには長生きはしていない。
「ふん。貴様に止めることは叶わん。我が覇道はこれからだ」
―――――――
【騙す気しかなかったのよ】
【NはノブナガのN】
【何してもいいのよ】
我が輩はポッチャマである。名をマゼランという。
偉大なる航海士マゼランより名を送られた由緒ある血統の末裔である。その昔、世界一周を目指し、地動説を証明し、その海に散っていった冒険家であるぞ。知らぬとは言わせぬ。我が一族は冒険家を助け、10隻あるうちの1隻を故郷の港まで見送ったのである。故にそこの人間、頭が高い。我が輩には常に従うのだ。
「なにすんだってば!」
我が輩の主人というジュンという愚かな人間に罰を与えた。偉そうに我が輩の背後で次はどの技、あの技とやかましいのである。我が輩のするどい嘴の攻撃に人間など従わせるに容易いものである。
「お主こそ何をする。我が輩はマゼランであるぞ。我が輩に命令するなど100年以上早いわ。そもそもお主は我が輩に命令してばかりで何も疑問に思わないのか。聞けばお主も我が輩と同じポケモンの末裔であると聞く。ならばお主が戦うのが筋というものであろう」
「なにおー!俺はトレーナーなんだ、お前はポッチャマだろ!」
「だからなんなのだ。トレーナーが戦ってはいけない理由などない。我が輩はお主を見ておる故、戦ってくるがいい」
「この、小さいからって生意気な!ポケモンは戦うのが常だろ!」
この愚かな下僕はとてもやかましい。我が輩は静かなものを好む。それにしても我が輩のまわりはやかましいものばかりである。やんちゃで落ち着きのないヒコザルのエンゴと努力家なナエトルのモエギである。正反対と思われる2匹であるが、我が輩には何の遠慮もなく馴れ馴れしい。我が輩は偉いのである。
そう考えればあのヒカリという女子はとても性格が良い。さぞかし男どもが寄ってくるであろう。現に我が輩の下僕ジュンは少しではあるが好意を寄せているようなのである。しかしそのヒカリは下僕ジュンの親友のコウキに好意を寄せているようなのである。奇妙なる人間たちよ。
さらに奇妙なるのは、その人間たちがポケモンの末裔たちであることだという。その昔、シンオウの大地で起きた戦争の後、人の身にその力を封じた祝福のポケモンたちの子孫だという。人の縁とは奇妙なものである。
「いくのだ下僕ジュンよ。ブイゼルなどすぐに倒せるであろう」
その辺の一ポケモンが我が輩の相手になるわけがなかろう。我が輩は下僕ジュンの草技ソーラービームを後ろで眺める。ほほう、さすがの力である。一発で仕留めるとは天晴。下僕が主人を喜ばせたのであるから、ここはほめなければならぬ。主人とは飴と鞭で下僕を懐けるのだ。
「よくやった下僕ジュンよ。主人として喜ばしく思うぞ」
「なんでだよ!」
何かやかましく騒ぎ立てていたが、下僕が主人に逆らうことなどあってはならないのだ。我が輩は下僕ジュンの足を鋭い嘴で突っついたのである。反抗するものは容赦なく制圧するのだ。そう下僕を扱えないのならば主人となることなどできぬ。
しかしこの下僕ジュンは我が輩に関して何の知識もない。それは下僕ジュンが親友たちと一晩森で明かした時の話である。
「エンゴ」
コウキが奴を呼ぶ。ふむ、エンゴはコウキに対して恐怖を感じているのか尻の火が一瞬縮み上がる。
「あ、あっしに」
近づいた瞬間はまさに獲物を捕らえる肉食獣である。コウキがその拳でエンゴの腹をわしづかみしたのだ。
「ぐへっ」
情けない声が上がったものよ。あのやんちゃ坊主がここまで制圧されているとは、コウキという人間は中々のやり手である。
エンゴの方はさっきよりも尻の火を大にして起き上がったのだ。
「な、なにする……」
「火が出やすくなっただろ。もう一度ひのこやってみろ」
ヒコザルの特徴を良く知っている人間である。腹を刺激して火を強くするのだ。なるほど、エンゴがコウキに逆らえない一因がそこであろう。
それにしても下僕ジュンは我が輩のことなど何も知らぬ。何が好物であり、何が楽しいことであるか。嫌いなものは何かなど何も知らぬし知ろうともしない。いやそれは我が輩が間違ってあろう。下僕に全てを求めてはいけないのだ。下僕は下僕らしく、我が輩に従っていればよい。
「い、いいなあマゼラン」
「完全逆転よねマゼランのところ」
エンゴは羨ましそうな目で、モエギは呆れたように見ている。我が輩をじろじろ見るなど無礼にもほどがある!
「ポッチャマに使われてるんじゃ、今度も俺の勝ちだな」
コウキが我が輩の好物をちらつかせて言う。おお、この人間は中々解っておる。下僕は一切そういうのを渡さないのである。これではこの下僕の主人をやっている意味がないであろう。それに加えて苦いポフィンまでついてるとは、我が輩はコウキと共についていけばよかったのである。なぜこんな下僕ジュンに出会ってしまったのであろう。
「絶対次も負けねーからな!」
「次も、って俺に勝ったことないだろ」
そうなのである。コウキのポケモンは皆強いのである。我が輩も後一歩のところであのクロバットに敗れてしまった。エンゴにもモエギにも負けたことないのに、コウキとは面白いやつである。
「マゼランの技もロクにえらべなくて、俺に勝てるわけがない」
「もっと言うがいいコウキよ。下僕ジュンは我が輩のことなどなにも知らぬ」
ポケモントレーナーというものにレベルがあるというならば、下僕ジュンは全くもって下であろう。もっと精進するがよい。
「マゼランって、ジュン君の主人なのですか?」
その通りだヒカリよ。下僕ジュンは否定を始めたので、我が輩の嘴でつついてやった。
「よくぞ理解できた。我が輩は偉大なるエンペルトの父と母より生まれた高貴なる血統より生まれたエリートである」
「エンペルトなのですか。私、エンペルトっていう映画みましたよ! タマゴを二つ産んで、そのうちの優れた方だけ育てるのですよね。見た時は捨てられた方がかわいそうだと思ったのですが、過酷な環境で生きられないことが多いというのを聞いて。マゼランはその中でも優秀なのですね」
ヒカリよ良く知っておる。エンペルトとはドキュメンタリー映画という映画らしいのだが、そういうのすら見てない下僕ジュンは全く。
「生きられないのを知って悲しむエンペルトもいて、私は凄くエンペルトって辛いんだなって思います」
もう言うなヒカリよ。それは事実だとしても、映画という娯楽であろう。
下僕ジュンはせっかちである。コウキとヒカリがのんびり歩いていてもさっさと先にいってしまう。最初は二人が仲良くしているのを見たくないのだと思っていたが、そうではない。本当にただせっかちなのだ。おかげでナナカマドという人間に頼まれたギンガ団対決も、下僕ジュンが通り過ぎた頃に終わっているのだ。
そのおかげで我が輩はギンガ団を見たのはその時が初めてであった。
その頃、我が輩はポッチャマではなく、父上と母上と同じエンペルトであった。前を塞ぐポケモンは全てなぎ倒しここまで来たのである。前にエンゴはコウキの指示がなければ戦えないと負抜けたことを言ったが、我が輩は違う。我が輩の独断で戦うことができるし、それで良かったのである。
そのおかげであろう。ミオシティでナナカマドと会った時に言われたのである。「強そうになった」と。我が輩のおかげである。感謝するがいい下僕ジュンよ。鋼の翼で背中を叩いた。
「そこで、湖の調査をして欲しいのだ。ヒカリはシンジ湖、ジュンはエイチ湖、コウキはリッシ湖だ。特にジュン、お前が一番遠いが、できるな?」
「もちろん!俺が一番だって!」
言うが早いのだ。おいかける我が輩の身にもなって欲しい。こういうとき、ゴンベのごんたろうは追いかけない。我が輩もそれが良いと思われたが、我が輩のいないところで下僕ジュンが困っても我が輩が困る。最近ではギャロップの一角の辻(いっかくのつじ)が走って連れ戻すことがある。
吹雪くテンガン山を抜けて雪道を走る。普通の人間であればこんなところ走れないであろう。我が輩に乗り、傾斜から速度をあげて飛び出すという、どこかのゲームのペンギンのようである。吹雪と雪の冷たさが我が輩の体に容赦なく突きつける。なんぞこの寒さ。我が輩の故郷に比べれば寒いとか凍えるとか笑止!
我が輩の嘴には氷がついていた。翼にもついていた。よくみれば下僕ジュンの頭にも雪がつもっていた。それなのに目の前の湖は凍ることもなく、ただ静かにさざ波をうっていた。
「エイチ湖についたのだぞ。どこから調査を頼まれているのだ?」
「え、あれ、えーっと」
「やっと一人ずつになったわね」
我が輩は初めてギンガ団を見た。ピンク色の派手な髪と寒さをものともしない奇妙な格好。なるほど、普通の人間とは違う。
「えっと、お前ギンガ団だな!」
「そうよ。この際改めて自己紹介するまでもないわね」
ブニャットが現れたのである。一角の辻が角を向ける。ひるむことなく向かってくるブニャット。一角の辻が少し出遅れた。そんなに素早いポケモンであったか?我が輩は目を疑った。
「なんだってんだよ!」
「純粋なポケモン勝負。貴方なら知ってるでしょう、大昔の戦いで負けた方がどうなったか。勝利した方に全てを奪われ、逃げ回る日々。貴方は敗者になるの。それだけよ」
「そんなの、やってみなけりゃ解んないだろ!」
「解るのよ」
下僕よ何を慌てている。なぜいつもと違うのだ。このままでは勝てるものも勝てなくなる。
「下僕を下がっているがいい。訳の分からぬギンガ団とやらに邪魔されてはナナカマドにも頭が上がらないであろう」
ブニャットなど何度も戦っている。勝てないはずなどない。下僕ジュンは何よりナナカマドのにらみが怖いらしい。ならばナナカマドに怒られない方法を主人である我が輩がとってやる。感謝するがいい。
「エンペルト、ね」
「そうだ、エンペルトだぜ。俺のエンペルトは……」
「人の手に渡るエンペルトは両親から見放された生きる力のないポッチャマ」
下僕ジュンが一瞬息を止める。
「知らないの?エンペルトの夫婦は一度に二つのタマゴを産む。そして強い方だけを育てる。育てられない、育児放棄されたポッチャマを保護したのが……」
「黙れ宇宙人」
我が輩は強いのである。エリートである。偉大なる航海士の名をもらった。優秀な兄もいる。我が輩は優秀なのだ。優秀だからこそ人間の手に渡り、下僕を使って強くなったのである。
「そこまで我が輩を挑発するのなら来るがいい。全てを破壊するのみ!」
我が輩は強い。エンゴやモエギに負けたことなどない。野生のポケモンにも負けたことがない。優秀なエンペルトであるぞ!
「コウキ君!」
「ヒカリ、無事だったか!」
ヒカリは我が輩を無言で見た。コウキの表情が変わった。
「エンペルト?マゼランか?ジュンはどうした?どこにいった?なんでボロボロなんだ?ジュンはどうしたんだよ」
こんな早口でまくしたてた時のコウキは怒っている。いつものことだから知っていた。下僕ジュンの親友にあわす顔などない。
「すまない!」
我が輩は地面に頭をつける。
「我が輩の力が足りなかったのだ。そうでなければジュンは……」
なりふりなど構わぬ。我が輩が惨めでも構わぬ。弱くても構わぬ。
「ギンガ団は将を落とすなら馬からだとあざ笑っていた。ジュンは我が輩にコウキのところまで伝えよと」
我が輩の力が足りなかった。ギンガ団にかどわされるのをただ聞くしかなかった。吹雪の中、アクアジェットで逃げるしかなかった。
「他のポケモンもジュンと一緒にかどわされた。頼む、ジュンと仲間を助けてくれ!」
何も言わず、コウキが我が輩の目の前に回復の薬を置く。
「将だと?ふざけんな。俺たちは誰もが馬なんかじゃねえ」
顔をあげればゴウカザルより燃えてるコウキが見える。
「ヒカリ、ナナカマドのじいさんに調査遅れるって伝えてくれ」
「あ、私も行きます!」
「我が輩も!」
「ダメだ。ジュンに続いてヒカリまで取られたら俺が手も足もでねえ。マゼランをさらに傷付けたら俺はジュンに顔向けできねえよ。エンゴ、行くぞ!」
隣にいるエンゴの炎よりも激しく見えた。空を飛ぶコウキを見送ると、我が輩の目の前に火花が散った。
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友達からポッチャマもらったら生意気だった。
マゼランはマゼランペンギンより。世界一周した本人からつけられた
エンペルトという映画は皇帝ペンギンというドキュメンタリー映画。
ペンギンは足の間にタマゴいれてあたためますが、一度落とすと二度と暖めない。
アニメなどでヒカリにはポッチャマといいますが、ナエトルの方が似合ってるのは色合いかもしれない。
むしろポッチャマの図鑑をみて、やっていけるのがジュンしかいなそう。
【好きにしていいのよ】【げしげししていいのよ】
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