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ペン先がカリカリと紙を滑る音が、現在僕のほかに誰もいない書斎の中に響く。僕は自分の目の前に広げられた原稿用紙に、万年筆を使って文字を連ねていく。
父から二十歳の誕生日に貰った、この万年筆。デジタルデバイスが普及している今、ペンで髪に文字を書く機会は減っているだろう。だが、僕は文字を書くときは、この万年筆で書くと決めている。黒のフォルムに、金の金具が映える万年筆は、存在だけでも芸術品といえると思っている。これを使って一度文字を書き始めると、時間を忘れて書き続けてしまうのだ。
この万年筆、国産の高級万年筆であり、「ナミキ・ムクホークン」という名前がある。この商品は、国内のメーカーがイッシュやカロスといった海外向けブランドだ。ムクホークンという名前の通り、ペン先の形状はムクホークの嘴のような印象を受ける。なかなかこういった形のものは少ないらしく、ユニークな形であると教えてもらった。この特徴的な形のペン先のおかげで、軽い筆圧で細かな字を書けるのだ。漢字を書く機会の多い僕も、この万年筆なら「とめ」や「はらい」といった細かな部分まで表現することが出来る。
『彼の前に、それは現れた。圧倒的な威圧感を放ち、小さな少年を飲み込もうとする、それは、彼が以前図鑑で見たことのある、伝説のポケモンの姿と瓜二つだった。体全体は、深い藍色をしており、顔や背中そして胸部には鎧のような銀の装甲がある。そして、胸部の中心には、まるでそれ自身が息づいているような色の結晶が輝いている。後ずさりすらも許されない。そう感じた彼は、正面からそのポケモンを見上げ……』
次の言葉を紙に書こうとして、ペン先を紙につけた時。
「ケ――――――ン!!」
特徴的なその鳴き声が、書斎の沈黙を破った。
「おわわわっ?!」
突如響いた鳴き声に驚いてしまった僕は、思わず万年筆を手から放してしまう。それとついでに、自分の右手の上に置いてあったインク瓶を倒してしまった。
「ぎゃあああ!!」
二十を過ぎた成人男子が、朝からどんな声を上げているのかと、父がこの場にいたら口うるさく言うかもしれない。だが、そんなことより今の僕は、今まで書いていた大事な原稿がインクまみれになっていることに、肩を落としていた。
「嘘だろう。もうそろそろ終盤に差し掛かっていた、この原稿が……」
原稿用紙の束を持ち上げると、インクがパタパタと滴り落ちている。インクは一番上から、一番下までしっかりと染み込んでおり、顔から血の気が失せていくのを感じた。自分の今までの努力が水の泡、というよりもインクまみれになってしまった。呆然としていたが、外の「ケ――ン!!」、「ケ――ン!!」という鳴き声は止まらない。その声を放置し続けるわけにも行かないと思い、僕は椅子から立ち上がると、インクまみれとなった原稿用紙の束を、潔く書斎のごみ箱に投げ入れる。そして、インクの匂いで充満している部屋の窓を少し開ける。窓からは一月の冷たく刺すような風が入り込んでくる。僕は、窓から顔をのぞかせて、空を見上げた。正月晴れと称せるほどの澄み切った空に見えたのは、この「ケ――ン!!」という声を響かせている張本人のポケモンの姿。黒と灰色がメインの姿は大きな翼を広げ、力強く空を羽ばたいている。そのポケモンは、猛禽ポケモンのムクホークだった。
「今行くから待ってて、ファル!」
お正月からこんなに大きな鳴き声を響かせていたら、近所迷惑になってしまう。僕が声をかけると、高い声で鳴くのをやめる。その様子を見て、ほっと胸を撫で下ろす。そして、彼女が何の用でここに来たのか気になり、急いで外に出ることにした。
慌てて出てきたため、コートだけを羽織っているが、やはり寒い。キッサキシティなどと比べてはいけないとは思うが、寒いものは寒いのだ。僕が口元に指をあて、強く吹く。「ピィ――」という高い音が出ると、上空を旋回していたファルは地面に向かって滑空してきた。
「おはよう、ファル」
地面に降り立ったファルの頭を撫でてやる。気持ちよさそうに一鳴きすると、首にかけてあった鞄を僕にずいっと見せてきた。この鞄は、ファルが遠出をしてもいいように、ポケモンフーズや果物などの食べ物を入れるために僕自身が作ったものだ。過保護すぎると友人に笑われたこともあるが、ファルは気に入ってくれているし、いいのだ。
僕は鞄に手をかけて、中を見る。すると、その中にはこの前自分で入れたポケモンフーズの缶と、葉書の束が入っていた。葉書の束を見て僕はすぐにこれが何か気が付いた。今はお正月、ということはこの葉書の束が意味するものは一つしかない。
「なるほど、年賀状を貰ってきてくれたんだね」
ファルは、このヨスガシティで、そこそこ有名な鳥ポケモンだったりする。ムクホーク自体、野生の個体は群れを作らないため、中々見つけることが困難だ。そして、進化前のムクバードと比べるとかなり獰猛な性格をしている。ジムバッジをいくつか持っていないと、いうことを聞かないどころか、トレーナー自身が攻撃されるという話も聞くため、育成の難易度が高いポケモンとされている。普通の人は、テレビなどで見ることは多いが、生でムクホークを見たことは少ないという人が多い。そして、このファルはムクホークの中では温厚な性格をしており、人にもなつきやすい。そのため、ヨスガシティの人たちから、そこそこの人気を持っているのだ。
そのため、僕宛の郵便などがあるときに、ちょうどファルが空を飛んでいるのを見つけると、郵便職員がファルに郵便を託すことがよくあるのだ。今日は元旦。忙しい配達の手間が、ファルを見つけたことで少し省けたのだろうか。
「よしよし、ありがとな。ファル」
ファルの首元を撫でる。ふさふさとしている毛が、実にいい手触りだ。しばらく撫で心地を堪能した後、「もう行っていいよ」と告げると、ファルは再び空に飛び立っていった。
「さて、誰からの年賀状かな」
一番上の葉書を手に取り、宛名の部分を確認する。そこには、マサゴタウン、ナナカマド研究所の文字。
「げっ……。博士……」
ドクター・ナナカマドの文字を見て、思わず声を上げてしまった。ナナカマド博士といえば、シンオウ地方でその名を知らない人はいないだろう。ポケモンの進化に関する研究をしており、進化の分野においての権威と呼ばれている人だ。
そして、僕の大学時代の恩師でもある。ポケモンの進化についての勉強をしたくて、コトブキシティに一人下宿していた時のことが懐かしい。あの人の講義を受けたくて、コトブキ大学に入学したといっても過言ではない。それほどまでに、博士の様々な著書は僕の学生時代に多大な影響を与えたものだった。だが、僕個人としてみるとあの人の、強面な風貌や威厳のあるところなどは苦手だったりするのだが。
年賀状には、謹賀新年の文字の後に、万年筆で書かれたであろう一文があった。
『君はまだ若いのだから、部屋にこもるばかりでなく、外に出て研究しなさい』
思わずお母さんか、と言いたくなる文面だったが、それだけ自分のことを心配してくれているのだろう。ナナカマド博士は、オーキド博士のマサラタウンの研究所に長期の出張に行っていたが、この年賀状がマサゴタウンから送られてきているのをみると、出張は終わったようだ。また、定期的に電話が掛かってきて研究成果を聞かれる生活が始まるのか、と思うと新年早々憂鬱な気持ちになる。だが、その気持ちを振り払うように、僕は次の年賀状を読むことにした。
「カロス地方、ミアレシティ。エアメールでプラターヌさんからも来てる……。相変わらず、なんかいい匂いがするな」
外国に住んでいるかれだが、わざわざ葉書で、しかもクリスマスカードではなく年賀状として送ってきてくれるあたり、律儀なのだろう。
『久しぶりだね。研究は進んでる? ナナカマド博士もシンオウに戻ったって聞いているから、忙しい一年になりそう……かな?』
HAPPY NEW YEARの文字の後のメッセージを読み改めて思う。この人は、文字がきれいだ。そして、外国の文字をここまで上手に書いてしまうのは才能かもしれない。プラターヌさんというのは、僕がナナカマド博士の研究室にいるときに、博士の下で研究をしていた人だ。一応僕の先輩のような人であり、面倒見のいいお兄さんという存在だ。若くして、カロス地方で進化の研究をしている凄腕の研究者だ。僕が大学のナナカマド博士の研究室にいたころ、プラターヌさんは博士の助手として研究を手伝っていた。よく授業の後や休みの日に、合コンの数合わせとして彼を連れまわしたこともあった。顔立ちの整っている彼に、何人もの女の子を取られたのは、苦い思い出だが。
彼の葉書を束の後ろに回し次の葉書をまた見ていく。あとの葉書は、大学時代や高校時代の友人たちからのものだった。この頃会えていない友人たちからの葉書もあり、やはり年賀状はいいものだと改めて感じる。
一通り葉書に目を通し終わると、冷たい北風がびゅうと吹いてきた。そこで自分がコートだけを羽織って外に出てきたことを思い出す。そろそろ部屋に戻ろうと思い、三十枚ほどの葉書の束を手に中に戻ろうとする。そのとき、控えめな女性の声が後ろからした。
「あのう……。ここって、異文化の建物ですよね?」
振り返ると、そこには大きな白い帽子を被り、白いワンピースに身を包んだ清楚な雰囲気の漂う女性が立っていた。
「えぇ、私は異文化の建物の管理人を務めています。見学をご希望ですか?」
こんな年始からこの建物に来るなんて、珍しい人もいるものだと思いながら彼女を眺める。薄い茶色の髪をしており、肌は白く北の地方の生まれではないかと感じさせる。白いワンピースにはピンクの花の刺繍があり、彼女の放つ清楚な雰囲気と相まって、お嬢様のような印象だ。
「旅行でイッシュからこのヨスガシティに来たのです。異文化の建物に行ったほうがいいと知人に勧められまして、来てみたのですが……」
「そうですか、」
そう一言返事をして、僕は心の中でガッツポーズをしてしまう。このヨスガシティの中で異文化の建物が、外国のイッシュにまで知られているという事実は嬉しいものだ。私は彼女に軽く会釈して、口を開く。
「どうぞ寒いですから、この中にお入りください。ようこそ、いらしてくださいました。異文化の建物へ」
建物の中に入ると、外よりかはいくらか風を凌げる分、寒さは落ち着いていた。それでもやはり、寒いものは寒いのだが。
「こんな年明け早々から来ていただいて、嬉しいものです」
「ずっとシンオウ地方に旅行しに来るのが夢で……。知人の話してくれた、異文化の建物を真っ先に見たいって思って来てみたんです」
まだ学生のように見える彼女だが、かなりの行動力が備わっているのだろうと感じる。自分に置き換えて考えてみると、単身で外国に行こうなんて、二十歳過ぎてからしか考えたことは無いため、彼女の行動には感心する。絵画や、廊下を歩いていると、彼女は私の手元を見て尋ねてきた。
「あの、それは何ですか?」
自分の持っている葉書を指さして聞かれ、一瞬怯んでしまう。だが、彼女がイッシュ地方出身となれば、そう驚くことでは無い。僕は、はがきに印刷されているギャロップの絵を見せながら、彼女に説明する。
「あぁ、これは年賀状と言って、そうですね……。クリスマスカードのようなものでしょうか」
彼女は僕のたとえになるほどという顔をする。
「ネンガジョウというのは、この国だけの伝統なんですか?」
彼女の問いに、僕はキラリと目を輝かせる。こういった類の話しは、僕の得意分野だ。廊下に飾られている一つの絵画の前に立って、ゆっくりと口を開く。
「私も以前までは、この国ならではの習慣かと思っていたのですが、この国以外にも東アジアの近隣国には同じような風習があるんですよ。ウインディの伝説の残る、中国とかですね」
僕の後ろに飾られてある、絵巻に描かれたウインディの絵画を指さす。鬣を靡かせて、竹林を堂々とした表情で走っている、この絵画は中国でのウインディの姿を描いたものといわれている。僕は、うなずきながら聞いている彼女を確認して続ける。
「新年を祝う、という行為自体は何千年も昔からあったそうです。古くは、四大文明の頃からあった、ともいわれています。自分たちの信仰する神や、神と呼ばれるポケモンに、一年に一度、無病息災を願う。一月一日が年の始まりとはされていなくとも、年に一度祝いの日を設ける、というのは人類全てがやってきたことなんですよ」
ちなみに、シンオウ地方で無病息災祈る対象は、各地の湖にいるとされる伝説のポケモンだったと、文献に書かれているのを以前見た。シンオウだけでなく、カントーでは季節を司る、伝説の三羽の鳥ポケモン、ホウエン地方では陸と海の神、グラードンとカイオーガなどが祈りの対象だった地域もあるらしい。
「この国では、ジョウトのキキョウシティに都が置かれていたころ、一三〇〇年ほど前から、新年の年始回りという行事が行われていたそうです。その後、貴族や公家にその風習が広まり、あいさつに行けないような遠方に住んでいる人に、年始回りに代わるものを行うため、文書を送るようになったといわれています。学者の中には、これが年賀状の起源なのではと考えている方もいるそうですね」
一三〇〇年という数字に驚いた表情を彼女は見せてくれる。確かイッシュ地方は、開拓されたのがここ四〇〇年ほどのことだったと記憶している。それに比べて、年賀状の歴史が三倍もあると思えば、確かに驚くのも無理はないだろう。僕はそんなことを考えながら、手に持っている葉書を彼女がよく見えるように見せた。
「近代の郵便制度が確立した後に、人々は郵便はがきを発行するようになりました。文書で始めは、年始のあいさつを送っていたそうですが、安価で年始のあいさつを送ることが出来るということで、多くの人が年賀はがきを利用するようになった。そして、年賀状を出すことが国民的な行事になっていったんですよ」
私の持っている年賀状をまじまじと見つめて、彼女は私にあることを聞いてきた。
「葉書には、色々な絵が描かれていますよね? これも意味があるのですか?」
「はい、ありますよ。大体描かれているものは、七福神というこの国特有の、七人の幸福の神様や、十二支、あとは縁起のいいとされている松竹梅や、オニドリルやカメックスの絵でしょうか。この頃だと、十二支にちなんだポケモンの絵の描かれた年賀状が多いですね」
「ジュウニシ……とは、何ですか?」
彼女の質問は、予測できていたため、僕は間髪入れずに答えていく。
「十二支というのは、昔、方位・時刻・年月日を表すのに使った十二種類の動物のことですよ。子ねずみ、丑うし、寅とら、卯うさぎ、辰たつ、巳へび、午うま、未ひつじ、申さる、酉とり、戌いぬ、亥いのしし、の十二の動物です。年を表す時には、西暦を十二で割った余りによって、どの動物の年か分かるんです。二〇一四年の場合、余りが十なので、午年ということになります」
ギャロップやポニータの絵柄が葉書に多いのは、そのためだと言うと、彼女は納得したような表情を見せた。
「ちなみに私も年賀状は、十二支の絵柄を選ぶんですよ。今年は午年ですから、イッシュの幻のポケモンのケルディオの年賀状を出したんです」
「あ、名前は聞いたことあります。水と、格闘タイプのポケモンですよね?」
「はい、そうです。若駒ポケモンといわれ、美しい水辺に現れるそうですよ。素敵な絵画も沢山残されていますから、ぜひ調べてみるのをお勧めします」
そこまで話して、自分が入り口で年賀状の話をずっとしていたことに気が付く。せっかく異文化の建物を見学に来たというのに、いつまでも年賀状についての説明を受けるのは少し違うように思えた。
「長々と話してしまいましたね。奥にはステンドグラスもあるので、ぜひご覧になっていってください」
彼女は私にお辞儀をして、広間の中心に入っていく。彼女の白いワンピースがステンドグラスの光を反射して、とても美しい色になっているのを、目を細めて見た。彼女が異文化の建物の一部になっている、そんな錯覚を受けるほど、その姿は美しかった。異文化の建物についても説明しようかと、先ほどまでは考えていたが、今は必要ないかもしれないと感じた。彼女はまだ若い。だからこそ、自分の感じるままにこの建物について感じてほしい。僕はそんなことを思っていた。
僕はしばらく彼女の姿を目に焼き付けていた。だが、そろそろ建物の管理人室から続く、自分の居住スペースに戻ることにする。先ほどインクまみれにしてしまった、原稿を書き直さなければいけないという使命感に飲まれながら。
++U*´∀`ァアアケオメエエェ´∀`*U++ ┃賽銭箱┃ ⌒ヾ(uωu*)今年モヨロピク★
失礼しました。
あけましておめでとうございます。奏多です。
新年ということで、年賀状のお話を書いてみました。
この小説の「僕」は鳥居の没ネタを以前投稿した時の、異文化の建物の管理人さんと同一人物だといいなと思って書きました。
DPtがゲームで一番好きで、その中でも異文化の建物が好きすぎる私のため、こんな小説を書いてしまいました。
また、こんな感じの季節ネタをかけたらいいなと思っていますです。ハイ
タグ: | 【リレー小説】 【1月5日】 【描いてもいいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【カオスにしてもいいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【参加して欲しいのよ】 【勧誘しちゃうぞ★】 |
1月5日 参加者(敬称略):(流月, 砂糖水, 音色, 門森 ぬる, αkuro)
※全員分写したつもりですが、お名前が抜けている方がおられましたらお知らせ下さい。その他にも何かお気付きになりましたら修正して下さって構いません。(筆記者・砂糖水)
前回の続きです。
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しかし、デデンネか。
生で見るのは初めてだけれど、大福を二個重ねたような体にポッキーのチョコ部分みたいなヒゲ。思ったよりもおいしそうだ。
なんか食べたくなるな。この見た目。いや、実際に噛りついたら、血とかどばーって出てきて、モザイクかかりそうだけど。
「デデンネー」
そんな考えを察知したのか、デデンネは軽く身震いすると頭から下りてしまった。
おい、待て。どこに行くんだ、このネズミ!
「待てっ」
まずいまた問題が起きてしまう。さすがに解雇されるかもしれない。そうなる前に回収しなければ。急いで屋内に駆け込むも、デデンネは影も形もない。逃げられた。あー……。何だろう、最近運勢悪いのかな。雇ってもらえた時は運がいいと思ったのに。
「デデンネ―食べないから出てこーい」
しばらく待ってみたが一向に物音一つしない。なんか最近逃げちまうポケモンのせいであれこれ騒動ばっか起きてねぇか?
「……でてこねぇな」
これは脅しが弱いのか。それとも猫なで声で呼ぶべきか。あーでもなんかあのもちもちした弾力のある触り心地を考えるとむしろ潰したいな。握りつぶす。さぞ気持ちがいいだろう。……あれ、俺何考えてんの。
ともかく考え込んでいる暇はない。もう一回アンテナを切るだのお菓子をやるだの飴と鞭を交互に呼びかけてみるが尻尾の一つも出さないと来た。出したらもれなくふんで捕獲するけど。
露骨に舌打ちをしたところを女将さんに見られて、あんまりお客様の前でそういう態度はとらないようにと注意された。ますますついてない。これは見つけたら一回くらいたたきつけても文句は言われないだろう、と思ったその時、視界の端にちらりと黒い尻尾が角を曲がって消えていった。
急いで追おうとしたその時。
「はい」
後ろから頭上にペロッパフを置かれた。
「貸してくれてありがとう。この子返すね。デデンネは見つかった?」
ぱふーとペロッパフがひと鳴きした。
「あれ、もういいんですか?」
「うん。その子も、君が良いって」
ぱふぱふ。ペロッパフがどことなく嬉しそうだ。
「それより、もう一匹ポケモン持ってるんでしょ? デデンネ探すの手伝ってもらったら? あの子すぐいなくなっちゃうのよ」
そんなポケモンを貸さないで欲しい。溜息を吐きたくなったが、ぐっと我慢。今は奴を見つけなければ。
とりあえず、アドバイスに従ってもう一匹のポケモンを出そうと手を伸ばすと、奥の部屋から物音と「デデーン」という鳴き声が聞こえる。というか物音がどう解釈しても何かが割れる音なんだけど、どうしよう。
これはやばい。おれのポケモンじゃないけど、逃がしたのは俺なのである。
デデーン。俺、アウト―。そろそろ女将さんにけつバットされるかもしれない。
これは嫌な予感がする。確か廊下なんかに置いてある花瓶とかお皿とかは結構なお値段がするものらしい。一流の場所には一流を置くとかなんとかいうお話を聞き流した覚えがある。俺の給料でそれは果たして弁償できるか。恐ろしい想像ばかりが掻き立てられる。とりあえずデデンネ見つけたら一発へこましたろう。
とにもかくにも捕獲しない事には意味がない。おそるおそる音のした廊下を覗き込むと案の定、そこにはひっくり返っている額縁と割れたガラス、そして「あ、見つかったやべぇ」という顔したデデンネだった。しかも一瞬だけ俺の方見てすげぇ嫌な顔した後、「ででね、ででねー!」とわざとらしく泣き叫びながらすごい勢いで逃げて行った。アイツこのままだと被害者面して逃走するつもりだ。俺の就職生命がやばい。
本能が確信してボールを投げる。出てきたのは俺が捕まえるのにちょうどいい技を持っているからという理由で見た目を気にせず捕まえたガメノデスがずしんと音をたてて着地した。
「アイツにみねうちな」
俺の指示に「いえっさー」「まかせろよ」「はらへった」「後で飯な」「俺もいつものじゃ飽きた」「おやつまだー」「ねむい」といった具合に七つの顔が示したが蹴っ飛ばして追い立ててやった。
ずしんずしんとガメノデスが行く。あれこれ追いつかないんじゃ、と思った矢先、曲がり角を曲がろうとしたデデンネと、あの目つきの悪い男がぶつかる。
「あ?」
デデンネはちょろちょろと逃亡をつづけようとする。
「そのデデンネ、捕まえてください!」
男は状況が呑み込めない顔をしつつも、ひょいと逃げ惑うデデンネを持ち上げる。短い足をばたばたさせるデデンネ。さあどうしてくれようか。と、ガメノデスがデデンネを抱えている男にみねうちかまそうとしている。やばい。
「待て待てガメノデス! ストップ!」
俺の指示に気付きガメノデスがは手を止めた。が。
「ででー!」
デデンネが放電を放つ。
「テメ、このやろ……だあああ、もう!」
男は痺れながらもボールを取りだし、デデンネもろとも放り投げる。
だあす。やけに毛先が丸いサンダースが出現し、デデンネをむぎゅと抱き締める。そうか、ちくでんか。
「なんなんだよもう……」
ずるずると壁づたいにしゃがみこんだ男に、ペロッパフがぱふと寄り添った。
ペロッパフ、おまえいつの間にそんなにそいつに懐いてるんだよ。
なんだか悲しくなってくるその光景を横目に、サンダースに抑えつけられているデデンネを確保する。咄嗟のこととはいえ、男がサンダースを出してくれたのは助かった。とりあえず、このネズミをどうしてやろうか。とりあえずは、説教はしないといけないな。こめかみに青筋が浮き出るのが自分でもわかるぐらいにデデンネへの怒りがたまっている。
「デデンネ、お前はあっちで説教な」
「おまえもだよ」
いつのまにか女将が後ろにいた。どう見てもキレてる。
「さっきからどすどすうるさい音がしてやかましいから来てみれば賞状を入れていた額縁が割れているしその掃除をしていればまたぎゃーぎゃーやっているし来てみたらなんだいこのデカブツは!」
指さされたのは案の定ガメノデス。確かに廊下の地響きの原因は此奴ですけど! その前の原因がこの鼠なんです! 俺の必死に訴える目は女将の睨み付けるで無効化されてしまった。いや本当なんですってば。
こっそりボールのスイッチを押して引っ込むガメノデス……ってこの裏切り者ぉ!逃げやがった!ボールに触れようにも手の中で必死に涙を浮かべている鼠を話すわけにもいかずぎゅうぎゅうとしめつけ続けていれば「その鼠もアンタのかね?」とさらに誤解を招きそうな事になる。さっきのお姉さん何処にいるの。
「い、いや、違いま」
「なー女将さん、俺も何がなんだかさっぱりなんだが」
ガラの悪いオッサンが口を挟んでくれた。
途端に女将さんはいつもの穏やかな表情に戻った。
「お客様、大変申し訳ございません。この者にはしかるべき処置を行いますので……」
「あー、いや、その」
歯切れが悪い。それもそのはず、女将さんは表情こそ穏やかだが、目が笑っていないのだから。なんとかうまいこと言ってくださいと目で訴える。
「あ、やっと見つけた」
そこに、男の後ろから髪が無造作に跳ねている青年がやってきた。男より一回り小さい。
「あ、テメどこ行ってやがったこの野郎!」
「それはこっちのセリフだ! なんだよこの状況は?」
ギャーギャーギャーギャーかくかくしかじかと男が青年に説明をしている間、女将さんは和やかに、俺は冷や汗をかきながらじっとしているしかない。汗で滑りが良くなったデデンネが手から抜け出し、頭上に行ったがそこをばしと両手で再度捕まえた。
「あれ、そのデデンネ……」
青年が何か気付いたようにデジカメを取り出す。そこには額縁を壊す正にその瞬間のデデンネの姿が写っていた。更に一枚スライドさせると、さっきの女性とデデンネが仲良くくっついている写真が。
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翌日が平日のため、0:30あたりに一旦終了となりました。
参加してくださった皆様ありがとうございました!お疲れ様でした!
次回は1月10日(金)もしくは1月11日(土)の21時頃開始を予定しています。
飛び入り参加も歓迎しております。1文からでも参加出来ますので、興味のある方は是非是非奮ってご参加下さい。
知恵袋に寄せられた相談:
父が仕事で出張したっきり中々帰ってきません。手紙は週1で来ますが帰ってくる気配すらありません。ですので色違いのゾロアークを見かけましたら、父かもしれませんので書き込んで頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ベストアンサーに選ばれた回答:
こちらの質問 http://masapoke.sakura.ne.jp/lesson2/wforum.cgi?&no=2241& ..... de=msgview に色違いのゾロアークを見かけたとの証言が多々あるので見に行ってみてはいかがでしょうか?
質問者からのコメント:
情報ありがとうございます。ちょっと燃やしてきます。
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細やかなおまけ。質問者はロコンなんでしょうかねぇ? どうなんでしょうねぇ? ウェヒヒ
きとらさん回答ありがとうございます!
ついに知恵袋にまで当局が進出してきたか……。早い内に当局をスナイp(この発言は当局にスナイプされました)
そして回答8はスルーされているのに回答12は指摘されるという。回答12涙目。この質問にも「父親がゾロアークとかwww」みたいな回答とか有りそうです。
回答ありがとうございました!
【燃やしてもいいのよ】
【回答してもいいのよ】
【このタグは当局にスナイプされました】
【1】
それはとある街の近くにあります、ちょっとした森の中。
本格的な森と比べると、一本一本の木の間はそんなに密着しておらず、空からは太陽の光がさんさんと差し込んで地面まで届いています。
そんな平和そうな森の中で、一つ、違う空気がありました。
バチバチと火花が跳ねるような音が聞こえてきそうな雰囲気が漂っています。
「今日は、わちが勝たせてもらうわ」
「寝言は寝てから言いやがれ、この野郎。勝つのはこの俺様に決まってるだろ?」
一匹は白い毛皮に、お腹と目の辺りには赤い星模様、そして赤い爪を持ったポケモン――ザングース。
もう一匹は漆黒の縦長い体に、剣を連想させる鋭利な尻尾、そして毒々しい赤い牙を持ったポケモン――ハブネーク。
ザングースとハブネークは産まれながらにしてお互いの種族に敵対本能を持っているポケモンで、この二匹も例外ではありませんでした。今日も今日とて勝負を仕掛けあっています。
さてさて、殴りあいに、引っかきあってからの噛みあい、その場に響き渡る怒号と痛みによる悲鳴のバトルがこの後に想像されそうですが……ザングースが何やら一本の棒状のモノを出したところから何か違う勝負をするようです。ハブネークは何を出したのかと訝しげにザングースの顔を見やります。
「これはポフィッキーや。知らんかったん? 流行遅れやな」
「そ、そんなこと俺様が知らないわけねぇじゃねぇか! 俺様はただ、それで何の勝負をしようかって訊きてぇんだよ!」
説明しましょう。
ポフィッキーとはポフィンを棒状に伸ばしたポケモン版の某Pッキーのことであります。
なんでも一説によりますと、ルナトーンとソルロックが某Pッキーゲームなんてやったら萌えるよね〜、という謎の意見を元にオボン製菓会社が作り上げた商品でございます。
味はクセになる甘さのモモン味、爽やかな甘酸っぱさがウリのオレン味、口から火が出るほど辛いけど、そこにしびれるぅ! あこがれるぅ! というマトマ味、他諸々。
大きさもそれぞれのポケモンの大きさに合わせて作られており、小型ポケモン用のSサイズ(市販の某Pッキーぐらい)から大型ポケモン用のXLサイズ(市販の某Pッキーの十倍)まで取り揃えてあります。
「これでな、ポフィッキーチキンゲームをやろうと思うねん」
「ポフィッキーチキンゲーム、だと?」
なんなんだ、何をやろうとしているんだとハブネークがザングースを見やると、ザングースは勝つ自信が大いにあるのか、得意げな顔を浮べながら更に説明を続けます。
「一つの端をわちの口に、もう一つの端をあんさんの口につける。先にポフィッキーから口を離した方が負けや、どや? シンプルなゲームやろ?」
「面白そうなことを考えるじゃねぇか。いいぜ、その勝負買ってやるよ」
ビビッた方が負けという分かりやすい勝負に乗ったハブネークは勢いよくポフィッキーの一つの端を口に入れました。ザングースももう一つの端に口を入れ、これでお互い準備万端、目線と目線がぶつかりあって火花が飛び散るかのような雰囲気がそこにありました。空から「すばぁ」と鳴くスバメの鳴き声を合図に二匹の勝負が始まりました。
約四十五センチメートルの間、まずはザングースがプレッシャーをかけようとしてじりじりと一、二歩、前に進みます。どうだと言わんばかりの挑発的なザングースの目付きに反応したハブネークも負けじと身をよじらせ前へと進みます。両者譲らない勝負の下、少しずつお互いの距離が縮まっていきます。まだ行けると踏んだザングースが先に仕掛け、ハブネークにプレッシャーをかけますが、なんのこれしきとハブネークも更に前へ行きます。行き過ぎれば嫌な奴との口づけが、しかし仕掛けなければプレッシャーを与えることはできない、シンプルだけど心理面では奥深いゲームにザングースとハブネークの胸の鼓動は速くなっていきます。
気がつけばお互いの距離は残り五センチメートル、一歩間違えれば、キスが待っています。それだけは嫌だが、しかし、その状況の中ですから、うまく仕掛ければ大きなプレッシャーを与えられる距離でもありました。
さて、どのタイミングで仕掛けようかと、ザングースとハブネークは機会を伺っていました。
どくん、どくんとお互いの脈が早くなっていき、ハブネークの額から汗が一筋垂れ、ザングースの尻尾は緊張で逆立っています。
風が一つ吹き抜けます。
先に仕掛けたのはザングースでした。
大きく足を振り上げて、一歩前へと動きます。
実際には前へと言っても、一、二センチ程の小さな動きですが、大きく足を振り上げたのはハブネークに大きなプレッシャーを与える為でした……これで驚いたハブネークが口を離して勝利を得る、というのがザングースの狙いでした。
しかし、ハブネークは動じませんでした。
ザングースの目論見は外れた――わけでもなく、この彼女の仕掛けにはハブネークは心臓が飛び出てしまうのではないかと思うほど驚いていました。しかし耐えたのです。ザングースとの勝負にかける本能がなんとかハブネークをポフィッキーから離さなかったのです。
ギリギリなところで踏み止まったハブネークに対して、ザングースの目が丸くなったのは言うまでもありません。
これでお互いの距離は残りたったの二、三センチメートルとなり、ここからは我慢の勝負となりそうです。お互いの顔が間近となった今、一歩間違えればキスが待っています。なんとしてでもポフィッキーから相手の口を離さなければとザングース、ハブネークの両者は頭をひねらせます。嫌いな相手の顔が目の前にある中、なんとか勝てる方法を編み出そうというのは中々疲れるものです。どうすればいいのだろうかと考えていく旅にお互いの額から薄っすらと汗が浮かび上がってきます。そのままお互いに何も仕掛けないままただ時ばかりが過ぎていった後――。
先に動き出したのはハブネークでした。
そのぎょろっとした大きな赤い瞳をあちこち動かしています。寄り目にしたり、離し目にしてみたり、面白おかしくその芸を見せていきます。どうやらハブネークはザングースを笑わせて彼女の口をポフィッキーから離そうと試みたようですが……残念ながらザングースには効果はイマイチのようでした。やがてハブネークのターンが終わりますと、ザングースはお返しだと言わんばかりに両目に力を込めますと目玉をちょっとばかり飛び出させました。いわゆる目玉が飛び出ちゃったというよくありそうなネタなのですが、ハブネークには効果抜群のようでした。まさか彼女がそんなことできるだなんて想像にもしていなかったと一瞬、どきんと胸が驚きで高らかに鳴りましたが――なんとか耐えました。これもザングースに対するプライドが成せる業なのでしょう。
その後、二匹は身振り手振りで相手にプレッシャーをかけていきます。
ハブネークの尾がうねうねと変に動きますと、今度はザングースが左腕を頭の上に、右腕を横腹近くに持って行き、シェーとやってみせます。
まさに勝負の行方はこの芸対決に委ねられたと言っても過言ではないでしょう。
しかし、残り二、三センチメートルというのに、顔を動かさないようにしているとはいえ、そこまで動きを入れても大丈夫なのかと思っている方々もいるかもしれません
これが、不思議なことに残り二、三センチメートルから距離が変わらないのです。
まさになんとしてでも勝つという意地がそこにある証拠です。
さて、芸対決はお互い一歩も退かないまま、このまま続いていくのかと思われたおり――。
「おっと、ごっめんよぉー!!」
突如、ザングースの後ろからマッスグマが現れ、そのまま激突!
マッスグマは急には止まれないのです。
ド派手な衝突音が森の中を駆け抜けていくのと同時に、マッスグマもその場を駆け抜けていき、そしてマッスグマに後ろを押された形となったザングースはその勢いのままに一気にハブネークを押し倒してしまって――。
気がつけば、二匹の距離はゼロでした。
ザングースもハブネークもお互いの唇を重ねたまま、動きません。その目はこの世の信じられない物を見ているかのような形になっており、とてもじゃないですが、イチャコラといったような雰囲気ではありませんでした。お互いに嫌いな奴の唇に自分の唇を乗せたなんて、そんなこと認めない、認めたくない、信じたくない。そういった気持ちが限界まで膨らんだとき、ようやく二匹の唇が離れました。
それから体の距離も離して、お互いに改めて相手を見ると、なんだか顔の紅潮(こうちょう)が止まりません。このままだと混乱して目がパッチールみたいにぐるぐるんになってもおかしくありませんでした。
「あんさんのどあほおおおお!!」
先に叫んで気まずい沈黙の間を破ったのはザングースでした。顔を真っ赤にさせているだけではなく、全身の毛まで逆立っています。
「おい、ちょっと待てよ!」
ハブネークがそう声を上げましたが、ザングースはわき目も振らずにその場から走り去ってしまい、ただ一匹だけ、そこにぽつんと取り残される形になってしまいました。
「……なんだよ、最初にこの勝負にしたのはてめぇじゃねぇか、この野郎」
そんな愚痴を吐きながらハブネークに一つの風が吹き抜けます。
しかし、全身ほてりまくった彼の体には全然足りないものでした。
一方、ハブネークの前から去ったザングースは森を抜けたところにある川まで行きますと、その足を止めました。
はぁはぁと肩で荒く息をしながら、ザングースはやがて地面に尻もちをつけました。静かな場所だからか、なんだか自分の心臓の高鳴りがよく聞こえています。
これは全力疾走での疲れからくるドキドキなのか、それともハブネークとキスをしてしまったことからくるドキドキなのかはザングースには分かりませんでした。それほど彼女は混乱していたのです。
そのまま少し時が経ちますと、ちょっと落ち着いたのか、ザングースはこういうときは水を飲んでもっと落ち着くのが一番だと思いつき、目の前にある川へと顔を近づけさせました。
そこに映っているのは自分の顔。
それとハブネークとキスしてしまった唇。
その自分の唇を見た瞬間、ザングースの顔に再び火が上がりました。
そして、必死で忘れようと、水を飲むのではなく、ひたすら顔を洗い始めました。
相当、焦っていたのか、ばしゃばしゃ、とにかく水を自分の顔にザングースはぶつけ続けます。
自分が勝つつもりだった。
あんなことになるなんて思いもしなかった。
こうして、何度も水を自分の顔にぶつけていたザングースでしたが、やがてバランスを崩して川の中に落ちてしまいました。
幸い、川の深さはザングースの胸元辺りで、なおかつ流れも緩やかだったので、なんともありませんでしたが――。
「……顔が熱い」
冬の川は冷たいのに、顔だけはその熱さを保ったままで。
ザングースは困ったようにそう呟いていました。
【2】
さて、あのポフィッキー事件から三日後のこと。
とある街にある一軒の赤い屋根の家。
その家の一室にあるリビングルームに一人の小柄で亜麻色の髪を持つ女性と、一人の小太りで眼鏡をかけた男性がいました。
そしてその女性の傍らにはザングースが、そして小太りの男性の傍らにはハブネークがいます。
実は、このザングースとハブネークはそれぞれのパートナーだったりします。
「さてと、今日は麻呂也(まろや)とちょっと大事な用があるから、二匹はここで留守番して欲しいのよ」
「えっとね、とりあえずポケフーズは机の上に置いておくから、お腹がすいたらそれを食べてな。あんまり食べ過ぎてお腹を壊さないように」
「……麻呂也も太りすぎには注意してね」
「うぐ、気をつけるよ。さてとそろそろ行かないと。まずは会社の方に行かなきゃ。行こう? 亜美」
「お土産ちゃんと買ってくるから、いい子でね?」
それだけ言い残すと女性――亜美と、男性――麻呂也は一緒に玄関の方へと姿を消していってしまった。やがて留守番を任されたザングースとハブネークの耳には扉の開閉の音、それから鍵が閉まる音が届きます。こうしてテレビやソファー、本棚が置かれてある広々としたリビングルームにはザングースとハブネークの二匹っきりとなりました。
「ちぇ、なんだよ麻呂也のヤツ。俺様をあんなヤツと留守番させるなんてよ、おかしいぜ」
ソファーの上でとぐろを巻いていたハブネークは、窓際でカーテンの間から庭を見つめているザングースを見ながら愚痴を吐いていました。しかし、ザングースの耳には届いていないのでしょうか、彼女は庭を眺めているばかりで黙ったままです。いつもならここで怒って文句の一つや二つ言ってくるはずのザングースに対してハブネークは調子がちょっとばかし狂いそうになります。こんな変な空気が嫌でハブネークが思わず舌打ちをしたときでした。
ザングースが倒れたのです。
「おい? 何やってんだよ、日向ぼっこか、おい」
嫌みったらしくそう言いながらハブネークがソファーから降りて、窓際で倒れているザングースに近づき、顔を覗きこむと、彼の顔は困惑の色に変わりました。
ザングースの顔がなんだか赤く、それに苦しそうな顔で、息もなんだか辛そうにヒューヒューと鳴っていました。流石にこれは日向ぼっこではなくて、風邪だと気がついたハブネークはどうすればいいのだろうかと考えました。今、ここにいるのは自分一匹だけ。一体全体どうすればいいのだろうか。
そういえばと、ハブネーク主人の麻呂也のことを思い出します。
麻呂也が風邪を引いたときに何をやっていたことが、もしかしたらここで活用できるかと思ったからです。
『風邪のときはよく寝て、安静にしとかないとなぁ。というわけで、ちょっと早いけどお休みハブネーク』
そうだ、風邪には睡眠とかといった休養がいい、そしたらここはザングースを起こすわけにはいかない。
しかし、このままにしておくわけにもいかない、何か他に風邪に効きそうなことはないかとハブネークは思案します。
『寝るときにはやっぱり抱き枕だよね、これで疲れを取るのがやっぱ一番だよ』
抱き枕という単語にハブネークは妙案を思いつきます。
ザングースの横に寝そべり、背中の方をぐいっとザングースに寄せます。
うまくいくかどうか分かりません。嫌な相手を抱き枕にするなんてこと、ザングースだったら絶対にしたくないはずですし。
しかし、なんということかザングースはハブネークの体をぐいと抱きしめたのです。
もふっという感覚がハブネークの中で広がります。
「はぁ……なんで俺様ったらこんなことしてんだよな、本当」
本来なら嫌いな相手なのだから、風邪を引いていたって放っておいて、ざまぁ見やがれの一つでも言えてもおかしくなかったのに。いいや、これはあれだ。ザングースとの決着が着いていないのだから、ここで彼女ともう争うことができないなんてことになったら自分のプライドが許さないとハブネークは考え直して、こう呟きました。
「別に……てめぇの為じゃねぇんだからな、勘違いするんじゃねぇぞ」
その顔は若干、赤くになっていたのはハブネーク自身も気がついていませんでした。
そういえば、ザングースと会ってもう何年経っただろう?
ふとハブネークは昔を思い出します。
それは今から約三年前のこと。
麻呂也のパトーナーになったと同時にハブネークはザングースに出会いました。
気の強いメスで、変なしゃべり方してんじゃねぇぞとハブネークは最初からザングースに対して敵対心を持っていました。ハブネークの思い切りにらみ付けに、ザングースもお返しとばかりににらみ返してきたことも覚えています。それから毎日、因縁をつけてはザングースと色々なバトルを繰り広げていきました。ちなみに麻呂也も亜美も働き先の会社がポケモン禁制の為、家で放し飼いすることが多く、ハブネークもザングースも様子を見計らって、家からよく抜け出し、そしてあのちょっとした森の中で白黒つける為にバトルを繰り広げていたというわけです。
かけっこを始めとして、にらめっこに、どちらがかっこいいポーズを決められるかなどなど。
ハブネークが勝った日もあれば、もちろんザングースが負けた日もあります。
他人から見たら、よく飽きないなと言われるぐらいですが、二匹にとってはいつでも本気でした。
だから負けないで欲しかったのです。
ザングースに勝つのは自分だから。
風邪なんかに負けるなよとハブネークは自分を抱きしめながら眠っているザングースのに向けて、そう呟きました。
「ほわぁ……わちのだいしゅきなポフィッキー……」
まさかさっきの呟きで起こしたかと思えば、なんだ寝言かとハブネークがやれやれと思ったときのことでした。
なんだか背中に刺激が来ます。
「むひゃ、みゅふ、みゃふ……」
ポフィッキーを食べている夢でも見ているのでしょうか、ザングースがハブネークの背中を噛み始めました。しかし、本気の噛みつきと比べるとソレは弱く、どちらかというと俗に言う甘噛みでした。ザングースの白い鋭い八重歯がハブネークの背中に優しくチクチクと口づけをしていきます。
満足そうな寝顔でハブネークを甘噛みしていくザングースに対し、ハブネークはあまりのくすぐったさに戸惑っていました。このまま起こさない方がいいのか、しかし、このままだとなんか変な気持ちになりそうだとハブネークは必死に耐えていました。
意識をずらそう、そうだ、別のことを考えようとハブネークは麻呂也と亜美のことを考えることにしました。そういえばあの二人、仲がいいけど、どういった関係なんだろうかといった感じになんとか背中の刺激を振り払おうとしますが――。
甘い吐息が温かくてなんだか心地良い、白いもふもふとした毛も心地良い、白い牙がいい感じに背中をチクチクさせてくる、そしてときどき当たる赤い舌は熱くて――。
なんだよ、これ! 無理だろ、これ!
ハブネークはそう叫びたい気持ちでしたが我慢、我慢。
なんでこんな奴相手に惑わされなきゃいけないんだ、おかしいだろう、一体全体どうしてこうなったんだとハブネークは自身の心に尋ねてみますが、返事はもちろんありませんでした。
ハブネークの顔から沸騰でもするのではないかというぐらい赤くなり、心なしか湯気も立っているかようにも見えました。
「みゅふ、むひゅむひゅ、これ、食べて……早く、元気になってぇ、ハブネークと早くバトりたいでぇ、わち……むひゃ、むひゅ、みゅふ」
ザングースから出たその奇跡的な寝言に、ハブネークはなんとか鼻を鳴らして、こう言いました。
「……早く治しやがれ、この野郎」
顔は依然と真っ赤のままで。
【3】
買い物袋を提げた麻呂也と亜美が家に戻ってくると、そこにはリビングルームでハブネークを抱きしめているザングースの姿がありました。もちろんお互い眠っております。
「なんか心配したけど、そうでもなかったみたいかな?」
「だから言ったでしょ? 大丈夫だって」
二匹の様子を見ながらなおも不安そうな顔を浮べる麻呂也に亜美が家の中の様子を示しました。確かに、なんかしら暴れた形跡があるのなら、テレビが壊れたり、本棚が倒れて本が散乱したり、ソファーが破れて中からエルフーンの綿が飛び出ていたりしてもおかしくありません。しかも二匹隣同士で眠っていますし、どう考えても暴れたような形跡はありません。
「まぁ、要は麻呂也の杞憂に終わっただけって言うやつよね」
「ぐ、なんかカッコがつかないなぁ」
麻呂也が困った顔を浮べながら頭をポリポリとかきます。
「だってさぁ、本能的に敵対心を持っている二匹だろ? そりゃあ心配の一つや二つするよ。それにしてもなんで、こんなに仲がいいんだろうなぁ」
「さぁね。もしかしたら、私達が見ないところでバトルしてるかもしれないわよ?」
「え、そんな。傷なんてそうそうなかったけどなぁ……」
「馬鹿ね、バトルって言っても殴り合いだけじゃないでしょ」
「うーん、言われてみればそうだけど」
「それにさ、よく言うじゃん」
買ってきたものの整理が終わり、亜美も眠っているザングースとハブネークのところに行くと微笑みながら言いました。
「ケンカすればするほど仲がいいって。今日の敵は明日の友、明日の友はいつかの恋人ってね♪」
「え、そんな言葉ってあったけ」
ザングースとハブネークの寝顔はなんだかとても満足そうな顔を浮べていました。
【書いてみました】
え、2月14日って、2人で1本のチョコ味のポッキーを食べて幸せになろうというバレンタイン オブ ラブポッキーの日では(勝手につくんな)
……というわけで、バレンタインの日にチョコ代わりにと今回の甘い物語を投下しようと思ったのですが、間に合わず、一日遅れになってしまいました、無念。(汗)
ケンカには本気だけど、こういうことにはきっと不器用だよねこの二匹、と思いながらザングースとハブネークを書かせてもらいました。甘い味がしたのなら嬉しい限りです。(ドキドキ)
ありがとうございました。
【何をしてもいいですよ♪】
【今年は一個(母上から)だけだったぜ。後は自分に買ってあげ(以下略)】
某月某日。
女性が男性に愛でとろけたショコラを送り、愛の言葉を囁き合う、そんな日。
女性は恋の行方に一喜一憂、男性は貰ったチョコレートの数に一喜一憂、いや、チョコレートを貰えるかどうかに一喜一憂している。
お菓子屋ならずとも、店という店にチョコレートが並び、町は数日前から独特の甘い匂いに包まれる。
数年前までそんな日だったはずなのだが、いつの間にやら友チョコとか逆チョコとか自チョコとかが出てきてなんかよく分からなくなった。しかし、町が嗅覚的な意味で甘い匂いに包まれているのは変わらない。
目の前の彼女も、非常に甘い匂いをさせていた。確か、事務の仕事をやっている子だったか。
「はい、どうぞ。エルフーンちゃん」
そう言って、腕に抱えた甘い包みのひとつを、足元のフワモコで可愛いと巷で人気の草羊に渡した。
「ココロモリくんにも」
彼女は机の上で丸くなっていたハート鼻の蝙蝠にもチョコレートを渡すと、今は持ち主が留守の机の上にも包みを置いて、部屋を出て行った。
「……僕の分は?」
ひとりチョコレートを貰えなかったキランは、彼女が去っていった方向を見つめて僻みたっぷりに呟いた。
エルフーンはそんな彼の様子は気にせず、貰ったばかりの包み紙を短い手でビリビリと引き裂いている。ココロモリはチョコレートの包みを足で押さえながら、キランの方を気にしていた。
「食べていいよ」
その言葉に安心したようで、ココロモリは風技と念力で器用に包み紙を切ると、箱を開けた。
キランは上司の机に目をやった。そして、見なければ良かったと後悔した。彼女の机の周囲は甘い有様になっている。
机にはまるでチョコレートしかないように見えた。もしかしたら、机もチョコレートかもしれない。隣り合った机や足元の床にまで、彼女の机に乗らなかったり、崩れたり落とされたりしたチョコレートが積み上がって、甘ったるい山を形成していた。今にも蟻が集ってきそうだ。
朝、キランが出勤していない時間帯からチョコ責めに遭い続けて、昼休みでこれだ。夜には家の一軒ぐらい建つだろう。今はチョコ攻勢から逃亡を図っているが、彼女、帰ってきたら胸焼けで倒れるんじゃなかろうか。
視線を感じてそちらを見ると、トリュフチョコを咥えたココロモリと目が合った。
くい、と顎をしゃくるようにしたココロモリに、キランは手を差し出す。噛み跡の付いたチョコが手の中に転がった。
「……ありがと、ノクティス」
心優しいココロモリは気弱そうに笑うと、エルフーンと貰ったチョコレートを交換する作業に入った。
つきそうになったため息を堪えた。自チョコならぬ自ポケチョコって何だよ。いや、いいんだ。自分を気遣ってチョコレートをくれるポケモンなんて最高じゃないか。うん、そう思うことにしよう。きっとそうなんだ。そうに違いない。
「……はあ」
堪えていたため息が出た。
ハート型チョコはそんなに美味しいのか。せめて向こう向いて食べてくれよ。
という指示をポケモンたちに出すのは空しかったので、キランの方が部屋を出ることにした。廊下に出ると空気が清浄に感じられた。あの部屋はよっぽど甘かったのだ。三回深呼吸して肺の中の空気を入れ替えると、気分がずいぶん良くなった。別に大量のチョコを貰うことが幸せではないと気付いたからではなく
。そして、息抜きついでにご不浄に行って用を足していると、真上の換気扇からエルフーンが出現した。
「そんな所から出るなよ」
換気扇から頭上に落下してアフロみたいになったエルフーンを離しながら文句を言う。しかし、エルフーンはキランの言葉も耳に入らない様子で、短い手足を振り回して酷く慌てている。顔はいつもと同じだが。
「分かった。分かったからズボンの裾引っ張らないで」
キランがそう言うと、エルフーンはひとまず安心したようで、握っていたズボンを離した。そして、キランたちの居室の方向へ走り出す。
しかし、エルフーンは背負った綿に風を受けて、少し走っては舞い上がり、少し進んではまたフワフワ……。
真面目に移動して欲しいが、こいつが本気で移動すると、白い綿だけ残って本人が行方不明になるので、それはそれで面倒である。
仕方ないので、エルフーンを両手に抱えてダッシュした。
見たままを言うと、蟻が集っていた。アイアントが。
部屋の壁を破壊して、鉄蟻の行列がチョコレートの山から外まで続いている。色とりどりの包みを鋼鉄の顎でガキッと挟み、回れ右して壁の穴から外へ這っていく。行列の先頭に出た次の鉄蟻がまたガキッとチョコレートを咥えて回れ右、そのスペースにまた次の鉄蟻が進み出て。
ココロモリが困ったように天井付近を旋回していた。キランも困った。
チョコレートが無くなれば彼らはお帰りしてくださるだろうが、それまで壁は半壊、吹き曝しのままというわけにもいくまい。
それ以前にライモンシティにアイアントはいないのだから、飼い主を見つけてポケモン管理義務違反で注意しに行かなければならない。仕事が増えた。それと、いつの間にか白い綿を残して姿を消したエルフーンも後で探さなければ。
「ああもう」とぼやきながらボールを手に取ったキランを押し退けて、ひとりの女の子が現れた。
先程やって来た事務職の女の子だ。
オコリザルも吃驚なぐらい目を血走らせ、ドン! と部屋の床を踏みしめて仁王立ちになると、ボールを取り出して手の血管が浮き出る程強く握り締めた。触れたら火傷しそうな程、怒っている。
「アンタたち……私がレンリ先輩に渡したチョコレートに汚い顎で触るなあ! 始末なさい、クイタラン!」
ひび割れた声でそう叫んだ彼女が繰り出したのは、縞模様のアリクイ、クイタラン。アイアントの天敵とされるポケモンで、
「ああっ、クイタラン!」
アイアントのストーンエッジで倒されるのはご愛敬である。
アイアントは人に教えられないとストーンエッジを覚えないから、彼らは人飼いであることが確定したわけだが、嬉しくも何ともない。厄介だと再認識させられただけだ。ついでみたいにココロモリも撃ち落とされてしまったし。
そう、後、厄介と言えば、この子も。
「何よ! 他のはいいけど、私のだけでも返しなさい!」
彼女は倒れたクイタランを戻すと、懲りもせずに鉄蟻の群れに向かって行く。無謀だ。
食料の運搬を邪魔されたアイアントたちが、彼女に不気味な鉄顎を振りかざした。
一斉に鋼色の蟻たちが下顎を傾ける様は、見ていて恐ろしい。事務職の女の子もそれは感じたようで、アイアントたちのはるか手前で足を止めた。
シャン、とアイアントたちの顎が同時に鳴る。そして、同時に顎を開いた。次には攻撃が来る。が、その時キランはこいつら息ぴったりだなと全くバトルに関係ないことを考えていた。それから、つい癖でペンドラーのボールを選んでいて、室内でどでかいムカデは出せないと気付き、ならばとドリュウズのボールを探して非常時に限って必要な物は見つからない、つまり詰みだ。
と思ったその時、
「ウィリデ、コットンガード」
いつの間にか戻って来た草羊が、綿の大玉となってアイアントたちの前に立ちはだかった。
先陣を切っていった鉄蟻の顎の脅威をモコモコの綿が吸収する。アイアントの攻撃に思わず立ち竦んだ彼女がホッとした様子でキランを見た。しかし、指示したのはキランではない。
黒髪に紅色のメッシュを入れた女性がキランを押し退けて現れた。キランの上司であり、チョコレートを売る程貰っていた当人、レンリである。
「ウィリデに引っ張られたんで慌てて来たんだが、こりゃ酷いな」
そう述べながら左手で事務の子の肩を掴んで部屋の外に出し、右手でモンスターボールを掴むと、彼女のポケモンを呼び出した。大きな紅色の花を頭に乗せたドレディア。
「ウィリデ、身代わり」
彼女は当たり前のようにキランのポケモンに指示を出すと、続けてパンツスーツをパン、と払った。
それを合図に、ドレディアがわざとリズムの狂ったダンスを披露する。それを見たアイアントたちは、次々と何かに感染したかのようにおかしな行動に移った。アイアント同士で頭をぶつけあったり、チョコレートの包みを粉々に砕いたり。
混乱したアイアントたちを花びらの舞で部屋の外に追い出すと、レンリはいつも肩に乗せているバチュルを使って大穴を蜘蛛の糸で覆わせた。
網の隙間から鉄蟻の恨めしそうな顔。しかし、バチュルの巣は電気が通っているから、いくらアイアントと言えども簡単には突破できないだろう。レベルも違うし。
ほっとするのも束の間、
「これ、修理するの大変そうだな」
上司のひと言で、キランは現実に引き戻された。
穴から吹き込む風が、冷たい。
通りすがりのローブシンに頼んで壁の穴を塞いでもらった。アイアントの持ち主も探してしょっぴいた。それが終わった時には日付が変わっていた。
「疲れた」という間も惜しく、上司は貰ったチョコレートの分類作業に入っていた。ただ単に部屋の隅にチョコを投げてるだけに見えるが。ホワイトデーにお返しをする気はなさそうだ。そう思って見ているキランの目の前で、上司が「あった」と声を上げた。嬉しそうだが、歓声と言うには大人しい声で。
「アイアントに持って行かれたかと思った」
そう言って、彼女は小さな箱を持ち上げた。飾り気のない白い箱が、彼女の白い手の中に包まれていた。そういう風に扱うのは、一体誰からの贈り物だろう。投げ打つ程にチョコを貰う彼女に選ばれるのは――それは、幸運に思えた。
彼女から選ばれる可能性があるのなら、じゃあ何か渡せば良かったと思って、その直後にその考えが嫌になった。上司の姿を視界に入れないよう、キランはそっぽを向いた。その肩が叩かれた。
キランの手に、白い箱が押し付けられた。白い手から。
引っ込められた白い手を追って、キランは肩越しに彼女を見上げた。目が合うと、彼女は髪をかき上げながらも目を伏せて、
「ほら、こういう日だから」
静かに言った。
戻ってきたエルフーンと顔を見合わせて、キランは箱を開ける。紙を一枚敷いた上に、ちょこんと丸いチョコレートが乗っていた。もう一度上司の方を窺うが、彼女はもうキランに背を向けて自分のチョコの山に取り掛かっている。
キランも彼女に背を向けた。慎重に箱の中から甘い塊をつまみ出す。手の平に転がすと、ココアパウダーがチョコを中心に散らばった。小さなトリュフチョコは体温で溶けて消えてしまいそうで、そうなる前にとキランはチョコレートを飲み込んだ。
甘さだけで出来た塊が舌の上で溶け
舌に激痛が走った。
反射的に口を手で覆い、出すのはまずいと思い切って飲み込んだ。すると喉が痛い。辛さが喉の中を上って鼻に回って涙腺も刺激して涙が出てきた。
口を開けて息をした。新鮮な風が当たると、少しだけマシになる。でもまだヒリヒリと、痛い。涙を堪えて上司の顔を見たら、いつもの悪ぎつねみたいな笑みを浮かべている。彼女はそういう人だということを忘れていた。
「ひっかかったな」
そう言って、風のように去って行く。
大量のチョコレートと一緒に部屋に取り残されたキランは、口の中のヒリヒリが収まるのを待つことにした。手持ち無沙汰なので、貰った箱を捨てる前に畳もうかと指先を動かす。底に敷いた紙を引っ張り出す。と、その下にまだもう一枚紙が入っていることに気が付いた。二つ折りになっていたそれを開いたキランは、やれやれとため息をつく。
『いつもありがとう』
そして、唐辛子爆弾を仕掛けた彼女と、これを書いた彼女と、どっちが本当なのかと思い悩む羽目になるのだ。
あそこをくぐり抜ければNがいる。ゲーチスが何か言っていたけれど、関係ない。わたしはただ、Nに言いたいことがあるだけ。
心臓が暴れまわり呼吸が乱れる。パートナーの入っているモンスターボールを握りしめて、わたしは覚悟を決めた。
行こう、Nのもとへ。
Nが、ゼクロムを呼んだ。呼びかけにこたえて、玉座の向こうから黒い竜が現れる。黒い竜は力を誇示するように吠え、電気のエネルギーを撒き散らす。圧倒的な力。あれが、伝説の竜。
体が震える。勝てるだろうか。違う、何をしてでも止めるって決めたんだ。
大きく息を吸う。若草色の目を見据えて、わたしは告げる。
*
N。わたしはきっと英雄なんかじゃない。だってそうでしょう? ゼクロムが現れても、ライトストーンは反応しなかった。
わたしは、あなたに言いたいことがあって来たの。わたしには求めるべき真実なんて分からないよ。この世界のことをほとんど知らないもの。
あなたは多分戸惑っているよね。わたしがこんなに喋るところを見たことがないだろうし。ベルもチェレンも、今のわたしを見たら驚くだろうね。でも、わたしにだって言いたいことがたくさんあるんだ。
聞いて、N。
わたしには分からなかった。なんでわたしが英雄なのか。どうしてNはわたしにこだわるのか。これは、今でも分からないよ。
あなたは何度も接触してきては、一方的に喋り、勝負を仕掛けてきた。電気石の洞穴では、勝手にわたしをニュートラルだと決めつけた。たしかに理想も、真実も知らなかったけど。それに、わたしの意思なんかお構いなしにわたしを選んだなんて言う。竜螺旋の塔でもそう! わたしにライトストーンを探せと言った。
なんで! どうしてわたしなの!
あなただけじゃない。みんな、みんなそう。わたしにやれと言う。わたしの気持ちなんて知ろうともせずに、英雄になることを強制した。流されるままのわたしも悪かったよ。でもさ、だんだん、言えなくなった。言える雰囲気じゃなかった。
みんなわたしに期待して……押しつけて。わたしは、まだこどもなのに。大人たちも、アデクさんくらいしかあなたに挑もうとはしなかった。そのアデクさんだって、わたしにライトストーンを持てと言った。正直怖かった。なのに、受け取れって。押し付ける形になってすまない? だったらやめてほしかった。でも、受け取る以外の選択肢なんてなかった。
あはは、こどもだよねえ。わたしもみんなに負けず劣らず自分勝手だよねえ。でも、もうやめるわけにはいかなかった。わたしだって、ポケモンのいない世界は嫌だったから。わたしがやるしかないって、言い聞かせてた。
ねえ、N。わたしね、あなたの考えには少し共感しているの。傷つくポケモンがいるのはやっぱりいい気はしないよ。たとえば、ずっと一緒にいるこの子たちが誰かに傷つけられるのは、嫌。でもさ、方法が間違っていると思う。たしかに、ポケモンと人間を引き離せば、人間に傷つけられるポケモンはいなくなるよ。でもその代わり、新しい悲しみが生まれると思う。
N。あなたは言ったよね? わたしたちみたいな人ばかりだったら、ポケモンの解放なんてしなくていいって。あなたは迷っているんじゃない?
あなたの部屋を見せてもらったよ。ずっとあの部屋の中で過ごしていたんだってね。
あの部屋を見て、ずっと迷っていたけど分かったんだ。言ったでしょう? 自分がどうして英雄なのか分からないって。ここに来るまであなたと戦うことに踏ん切りがつかなかった。英雄であるだけの、理由なんてなかった。でもこの城に入って、あなたの部屋を見て、あなたの過去を聞いて、自分がどうしたいか分かった。
あのね、N。あなたの見ていた世界はすごく狭くて小さいよ。
わたしも似たようなものだけど。わたしだってカノコタウンから外に出たことがなかったから。
ねえ、あなたは「外」で何を見た?
わたしはポケモンをもらって、外に出ていろんな経験をした。トレーナーとはポケモンバトルをしたし、ポケモンを交換することもあった。ミュージカルに参加したこともあった。人の仕事を手伝っているポケモン、ううん一緒に働いてた。みんな、楽しそうに笑ってた。ポケモンの言葉は分からないけど、見ていてそう感じた。
たくさんの人たちと、ポケモンたち。お互いがお互いを思いやっていた。
N、あなただって見たでしょう?
うん、そう。あなたがあの部屋で見てきたことも本当のことだよ。実際、人間に苦しめられているポケモンもいる。でも、ね。わたしが見たのはたいていプラズマ団のせいだったよ。ムンナの煙が必要だからって、蹴ったりして煙を出させようとしていたことがあったんだ。あの時はすごくびっくりした。この人たちはポケモンを大切に思ってないんだって、口先だけだったんだなって思った。あなたとはずいぶん違っていた。思えば、あれがあったからわたしはここにいるのかもしれない。
それから、ポケモンを解放するんだと言って、ポケモンと人を引き離していたよね。でもポケモンたちは、大切な人と引き離されてつらそうだった。ベルがムンナをプラズマ団に奪われたとき、ベルもムンナも、両方とも悲しんでた。やっぱりそういうのを見ると、こんなのは違うって思ったんだ。
ポケモンと人が出会って、たしかに悲しみが生まれたと思う。でも、それ以上に喜びが生まれたんじゃないかな。あなたは今ある喜びを、幸せを、すべて悲しみに変えるの?
それがあなたの『理想』なの? 目指すべきなのは、今ある幸せを壊すことなんかじゃなくて、悲しみを減らすことなんじゃないの?
わたしはこの子たちと出会えてすごく嬉しかった。喧嘩することもあったけど、一緒にいられて幸せだったよ。
ねえ、N。あなたはポケモンと一緒にいて幸せじゃなかったの? 幸せだったはずだよね?
それはあなたもわたしも、そして他の大勢の人も一緒なんじゃないの? あなたはきっとそれを見てきたはず。
なのに、あなたは自分が見てきたものを否定するの?
あなたがしようとしていることは、今まで見てきたことを否定してまでやるべきことなの?
わたしたちが見たのは、『真実』じゃないの?
*
そこまで言ったとき、バッグがもぞもぞと動いた。はっとして、バッグを開ける。
ライトストーン、が――――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
超今さらですが書いてみました。
書く書く言ってから大分たったのでわたしが言ったこと自体、皆様忘れてると思いますw
ぶっちゃけプレー中は、電気石の洞穴あたりから完全に置いてきぼりされてたので、こんなことは考えてないですw
これを書くためにプレー動画見てみたんですが、ゼクロム登場からレシラム登場までほとんど間がなく、思わずずっこけました。
もうね、明らかにゼクロム現れたから出てきただけだろ状態。
実際にプレーしてたときはあんまり気にならなかったんですけど。
というわけで、こんな感じのことがあったんじゃないかなあという妄想でした。
今更過ぎてごめんなさい!
【書いてみたのよ】【今さらでごめんなさい】
ガサ、ガサ。
子供はおろか、背の低い大人ならすっぽりと隠れてしまうような草むら.
その湿った中を掻き分けて進む一人の男がいた。
彼が背負っている革色のリュックはリズムよく踊る。
空にはどんよりとした雲が浮かび、今にでも大きな雨粒を落としてやろうと言っているかのようである。
男は、煙たい匂いが鼻の奥を刺激するのを感じた。
お香か。
男は、思う。
匂いの風上を頼り、草むらを抜けると、その元はあった。
高く聳える塔。
タワーオブヘブン。
イッシュ地方最大の、ポケモン用の墓地だ。
各地のポケモンの御霊がこの塔で供養されている。
塔の頂上には大きな鐘があり、それを鳴らすことでポケモンたちが安らかに眠ることが出来るといわれている。
内部の各フロアごとに墓石があり、お参りへ来る人が毎日いる。
しかし、天気があまりよくないからか、あたりに人の気配はなさそうだ。
男はキョロキョロとあたりを見回すが、薄暗い影の中の草木しか視界には入らない。
男は、この塔に鐘を鳴らしにきた。
ただ、鳴らしたいと思っただけだ。
それ以外に理由なんてない。
漠然とした理由で来た男は塔を眺めた。
見上げ、霞の向こうにある頂上が透けて見えるかのようにじっと見つめる。
その先の、なんとも形容しがたい魅力を感じる。
男は、すっかり心を奪われていた。
「あの」
という透き通った声が聞こえるまでは。
その刹那、男は体を震わした。
何者なんだろう?
声の主に意識を向けた。
「はい?」
男は振り向いて、その姿を瞳に焼き付ける。
少女が、いた。
ぴゅう、と吹いた風に栗色の髪はさらりとなびく。
栗色のワンピースを着た少女は男をじっと見つめていた。
「おにいさん、塔にのぼるの?」
透き通って、消えてしまいそうなその声は、どこか悲しげだと男は思った。
「そうだね、今から塔の頂上に行くんだ」
ふぅん、と少女は言った。
「あのさ、あたしも、ついて行っていいかな?」
「君もかい?」
「うん」
少女はうなずいた。
「一人で行くの、こわいから」
塔の中は昼間だというのに薄暗い。
壁にかけられた蝋燭の灯はぼんやりと光、墓石を、床を橙に染めている。
中には人はいないようだ。
だが、何かが見つめている。
そんな感覚に襲われた。
「おにいさん、きをつけて。このあたりはヒトモシがすんでいるの」
「そういえば、そんなことを聞いたことがあるよ」
この塔にはヒトモシが生息している。
彼らは人の魂を好んでいるため、下手な行動をすると命取りになりかねない。
そんな話を昔聞いた覚えがあった。
「あの蝋燭もヒトモシよ」
「えっ?」
男は壁の蝋燭を見つめた。
ゆらゆらと炎が燃えている。
蝋がにやりと笑った。
「!?」
男は正体の顔を見たと同時に、腕を引っ張られる感覚に襲われた。
右腕をつかんでいたのは、少女だった。
「はやく行きましょう。こわいでしょ」
少女は足早に歩き始めた。
男は崩しかけた体勢を整え、付いていく。
「危なかった……。しかし、よく知ってるね。ここ何回か来たことあるのかい?」
男の質問に症状はビクッと体を震わした。
もしかして、聴いちゃいけなかったかな。と男が考えていると、
「……うん、何回か」
消え入るような声が答えた。
「一人で来たら危ないから、だれかいないかさがしていたの。そしたら、あなたが来たからたすかった」
少女の手はひんやりとしていた。
塔の薄暗さがそのまま体に出ているかのように。
少女に引きつられて、螺旋階段までたどり着いた。
一段踏み出すごとに、こつん、こつん、と音を響かた。
ヒトモシの灯に映し出されたひとつの影は、鐘へと近づいていく。
長い長い階段の先を超えると鐘があると期待した男は墓が並ぶフロアが続いたことに肩を落とした。
「まだまだ先よ」
少女の発した言葉に重なって、
「……ぼう……」
という声が聞こえた気がした。
「なんだ?」
と男は振り返ったが、人がいる様子は無い。
「ヒトモシのしわざよ。はやくしなきゃせいめいりょくをすい取られるわ」
少女は声の方向に目もくれず、次の階段に向かっていた。
「おにいさん、いそぐわよ」
少女は、駆け出した。
おおっと、と男は声を漏らした。
駆ける少女に引っ張られながら、次の階段へと向かっていく。
彼女の冷え切った手につかまれながら。
幾段もの階段を上り、規則的に並ぶ墓石を目にし、進んだ。
そして、最後の階段にたどり着いた。
「もうすこしで頂上よ」
「ああ、そうかい」
最後の階段の先から光が屋内に差し込んでいる。
一歩、一歩階段を踏みしめる。
外気は少女の手のようにひんやりとしてきていた。
間違いなく、頂上が近いんだ。
男は思った。
「君のおかげでヒトモシに襲われることもなかった」
「そうね……ありがとう」
少女はぽつりとつぶやいた。
階段を踏みしめるごとに、体の重みが男を苦しめた。
ずっと歩き続けたからだろう、男は痛みを堪える。
視界は次第に明るくなっていく。
そして、最後の一段を踏んだ。
頂上は、ぼんやりと霞がかっていた。
その中にうっすらと大きな鐘が見えた。
「これが、頂上か…」
男は鐘へと歩み始めた。
一歩足を踏み出すたびに重くのしかかる感覚を堪える。
そして、鐘の前に立った。
鐘から垂れた紐を手に取り、引っ張った。
ごおおん、ごおおん。
鈍い音がん響き渡った。
遠く、深くまで。
男の心の奥底にまで染み込む。
重い体から何かが離れていくような、そんな感覚に包み込まれた。
目的を達成してすっきりした男が鐘に背を向けると、少女が立っていた。
「もう、かえるの?」
「ああ、やりたいことは終わったしね」
少女は拳を握った。
「……つまんない」
少女は、拳を振り上げた。
「つまんないつまんないつまんないつまんない! もっとあそぼうよ!」
「お、おい……落ち着け!」
少女は体を震わせて睨み付けた。
「あそびたいんだよ? この子たちもあそびたいんだよ?」
刹那、男の肩に重みを感じた。
視線を右肩に向けると、いた。
白い体に、赤いともし火。
ヒトモシだ。
「なっ……」
男は、意気揚々としたヒトモシの姿を見て、頭にぐるぐると何かがめぐり始めた。
「なっ、なんで……ヒトモシがいるんだ……?」
渦の中から拾い上げた言葉を発した。
「あそびたいんだよ? ミ……ンナ、アソビタ……インダ……ヨ?」
少女の顔は、ゆがみ始めていた。
口は左頬の位置まで伸び、鼻は斜めに、目は右頬に傾いている。
口から、目から、鼻から、緑色の液体が流れ始めた。
男は、息を呑んだ。
瞬きをすると、歪んだ少女は消えた。
そこに、一匹のポケモンがふわふわと浮かんでいた。
灰色の体に大きな頭。お腹の4つのボタン。
オーベムである。
「あ、あぁ……」
そこに、少女などいなかったんだ。
最初から幻影だったんだ。
男は、体中の力が抜けきってしまった。
ぺたり、とつめたい地面に尻をついた。
肩のヒトモシはぴょこん、と降りた。
……遊びたいんだよ?
「……やめてくれ……頼む……」
男の体はすっかり冷え切っていた。
次第に近づいてくるオーベムが大きく、そして恐怖に感じられた。
……なんで、遊んでくれないの……?
「やめろ……やめるんだ……この化物……!」
ぴたっと、オーベムの動きが止まった。
……化、物……?
体をぶるっと震わせた。
……ボクって、化物なの……?
悲しそうな瞳で男を見つめた。
潤んだ瞳の奥には何か、淋しげな感覚があるように見えた。
……そうだよね、怖いよね。
オーベムはがっくりとうな垂れた様子だった。
さっきの一言が重くのしかかったらしい。
……ボク、ただ遊びたいだけだったんだ……
「オーベム……」
男は膝をついた。
「酷いこと言っちまってごめんな」
男はオーベムの頭をなでた。
オーベムは驚いた様子で男を見つめる。
潤んだ瞳に男の顔が映りこんだ。
……許してくれるの?
「こっちこそ酷いこと言ったしな。お前はただ遊びたかっただけなんだろう」
オーベムはコクリと頷いた。
「そうだな、ちょっとだけ遊んでもいいぞ?」
……え? 本当に?
オーベムは目を丸くした。
男はああ、と言った。
オーベムは踊るように喜んだ。
……やった、ありがとう!
その姿を見ながら、男はにっこりと笑った。
後ろから、ヒトモシがぴょこんと肩に乗った。
そして、にやりと笑った。
「次のニュースです。フキヨセシティ郊外のタワーオブヘブンそばで男性の遺体が発見されました。
遺体は死後数週間が経過したものと思われ、警察が身元の確認を行っています。
近辺には革色のバッグがあり――」
――――――――――――――――――
お久しぶりです。名前のとおりのものです。
最近ご無沙汰だったので、リハビリがてら。
ところで、書いていくうちにオーベムが可愛く見えてきたんです。
あのくりっくりとしたおめめ。なにこれ可愛い。
もっと怖いってイメージだったんですが、気づいたら抱きしめたくなってました。
そんなノリで無理やり乗り切りました。
【好きにしていいのよ】【オーベム抱きしめてもいいのよ】
回答8:
色違いのゾロアークなら、この前借金を返しにきた。
子供手当が出たからやっと返せるー!ルーピー・ポッポ大統領万歳とかいいながら団子も食ってたな。
回答9:
私の友達が青いブラッキーを持ってました。
普通のブラッキーとは違って、夜に見ると青く光って綺麗でしたが、迫力はやっぱり黄色い方がよかったと思います。
回答10:
(この発言は当局によりスナイプされました)
回答11:
この前、ラブカスを釣ろうとしたら、変な色のホエルコつり上げちゃったよ。一瞬目がおかしくなったのかとおもった。
回答12:
色違いのゾロアークがこの前お店にきました。
先輩と親しいようだから、試作品を食べてもらったら全部まずいって言われた;;
それから口直しに賞味期限が近いやつを食われたけど、小さい子がいるっていうから包んであげたら喜んで宣伝してくれた。いいやつだったよ
回答13:
>12
貴方なにをいってるんですか?ゾロアークが喋るわけないじゃないですか。半年ロムってろ
回答14:
>12
お前ポケモンかよwwwwwwwwwwうぇwwwwwwwwwいいやつwwwwwまじwwwwwwwwステマwww
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知恵袋に寄せられた相談:
5日程前、エンジュシティの南の方で良い雰囲気なゾロアークのカップルを見かけたんですが、何と片方が色違いだったんです!
色違いなんて初めて見たので物凄く印象に残っています。そこでふと気になったのでお聞きします。皆さんが見た色違いのポケモンを教えて下さい!
回答1:
私も4ヶ月程前にヤドンの井戸の辺りで色違いのゾロアークを見掛けました。ロコンと一緒に歩いてました。
ロコンが鬣を触りたそうに見てました。実際少し触ったりしてました。微笑ましかったです。
回答2:
先月の下旬にキキョウシティの西の方で同じく色違いのゾロアークを見ましたね。
確かコジョンドと手を繋いで歩いていたと思います。紫色の鬣が綺麗でした。
回答3:
クチバシティに色違いのゾロアークと通常色のキュウコンの夫婦がいました。可愛いロコンの子供もいてとても幸せそうでした。
ゾロアークがキュウコンに一途なのが凄く伝わって来たっす。あれこそ夫の鑑っすね。
あと、質問者さんのゾロアーク達は絶対カップルじゃないです。決して良い雰囲気でもないです。
回答4:
うちのイーブイが色違いです! 銀色でもっふもふで超かわいいです!
この子タマゴから生まれたんですが最初見た時汚れてるのかと思って洗いそうになりました(笑)
進化させるか悩んでますがそれは別の話ですね。
回答5:
いつだったかは忘れましたがウバメの森で色違いのゾロアークを見た事があります。
キュウコンの尻尾を枕にして気持ち良さそうに寝てました。羨ましかったです。……羨ましかったです。
あの時からいつかキュウコンを手に入れて同じ事をするのが私の夢になりました。羨ましかったです。
回答6:
ゾロアーク大杉ワロタwwwwwwまあ俺が見たのもゾロアークなんだがwww
確か2ヶ月位前にヨシノシティの北辺りで普通のゾロアークと一緒に鬣を梳かし合ってたな。ゾロアークたんカワユス。
まぁ何が言いたいかって言うと、リア獣末永く爆発しろ。
回答7:
僕もこの間ラジオ塔の入り口付近でゾロアを抱いてる色違いのゾロアークを見掛けました。
ゾロアは普通の色でしたが非常に可愛かったです。
それにしてもゾロアークの目撃情報多いですね。同じ個体だったりして(笑)
回答15:
去年の冬頃だったかな、どこだったかは忘れたけど私も色違いのゾロアークを見かけました。
確かフォッコと焚き火囲んでたと思います。言うまでもなく可愛かったです。両方共。
それで確かゾロアークが振り向いた拍子に火が鬣に燃え移っちゃって2匹共焦ってたっけ。あれは笑った。
――――――――――――――――
どっかの誰かに似てますねぇ、フヒュヒ。本人じゃないと良いですねぇ、ニヤニヤ。
という訳で某ゾロアークをお借りしたかも知れませんしお借りしてないかも知れません。どっちでしょうねぇ、ニタニタ。
知恵袋のスレは既にありますが、これは毛色が違うので別で立てました。
とりあえずキュウコンの尻尾を枕にしたいです。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【回答してもいいのよ】
【浮気してもい……浮気はだめなのよ】
【回答3はベストアンサーにはならないのよ】
【尻尾を枕にしたいのよ】
3/24追記: 回答15を追加しました
携帯をいじっていたらテキストフォルダからプロットらしきものが飛び出てきましたので、折角だからこっそりあげることにしました。後書きのページにも色々書きましたが、こちらも良かったぜひ(ドキドキ)
【以下、携帯のメモ帳からそのまま抜粋】
ポケモンストーリーコンテスト案を出していこうページ1
★タイトルは?
こちら鏡屋メタモンでありんす。
★主人公は?
メタモン。
殆どのポケモンを知っており、その知識を活かして、その者が知りたい姿を見せる鏡屋というモノを始める。昔、お礼にもらったというキセルをいつも身につけている。一人称はわらわっち。その辺の説明も入れておく。
★どんな話?
イーブイの進化の悩みから可能性の広さを説く【未来編】
ルージュラの恋の悩みから、今というものと向き合う【現在編】
トレーナーが捨てた卵から変えられない過去を説く【過去編】
★流れは?
最初はメタモンの紹介で1000文字以内。
後は未来編、現在編、過去編の順番で各3000文字以内。
★それぞれの性格
・メタモン
古風な喋り方が特徴的。甘いモノに目がない。冷静にモノを見る。
・イーブイ
好奇心旺盛なイーブイで、メタモンに将来のことを相談しに来る。
・ルージュラ
恋に生きているポケモンで、もっと美しくなりたいと思っている。
進化することはできないかとメタモンに相談しに来る。
・トレーナー
卵を孵して、個体値が低いと見るや、そのポケモンを捨てる人。
間違えて高個体値のポケモンを捨ててしまう。
――――
ポケモンストーリーコンテストの案を出していこう。ページ2
★一人称は?
・メタモン…わらわっち
・イーブイ…ボク
・ルージュラ…わたくし
・トレーナー…俺様
★実は。
イーブイは実はトレーナーに捨てられていたポケモン。
後にエーフィに拾われ、育っていく。
話の終わりはイーブイがエーフィに進化して、メタモンが「願わくば、この子のように強く生きて欲しいでありんす」と呟いて終わり。
★セリフ。
・わらわっちはあくまでお主の見たい姿を写したにすぎん。
・未来を決めるのは最終的にお主なんじゃ。
決めて、その先を進んだら、戻ることはできん。
だから自分に責任を持つのじゃ。
それが今というやつでありんす。
・鏡はあくまで表面を映しているだけでありんす。
中身までは映せん。
どんなに姿を変えようともわらわっちはわらわっち。
お主はお主なんじゃ。
中身を変えること……それも進化の一つじゃないかのう?
・知っておるか?
捨てられたポケモンはな、成長すると、やがて捨てられた意味をというものを知って、捨てた人間に復讐するのだそうじゃ。
【このプロットらしきものに関する補足説明】
・現在編にて初期案はルージュラでありましたが、進化しないポケモンにするはずだったのに、ルージュラはムチュールから進化していたことを忘れていました。
ポケスコに提出後、それに気がつき、急いで他の進化しないポケモンを検索。
唇が気に入ったのでマッギョに決定。
・このプロットらしきものを打ち出したのは第二回ポケスコの募集が始まったときで、このプロット(?)を打ち出す前にこの案は薄らと浮かんでいました。
要するに温めていたのであります。
ちなみに、そのときに浮かんだタイトルは『メタモンが語る!』
・ページが二つに分かれているのはメモ帳が500文字までしか入らなかったからです(汗)
このような感じでわらわっちストーリーが生まれたわけですが、実際に物語を書いてみると、オムニバス形式で四つのお話を書かなければいけなかった上に、それぞれの字数目標を破ったりしてしまいましたから、全体で軽く10000字オーバーが起こって調整が大変でした。(汗)
それでは失礼しました。
「ライモンシティ行き、間もなく発車します。駆け込み乗車はおやめください」
帰りのバトルサブウェイが動き出す。ここから帰る人たちはいろんな事情を抱え込んでいた。途中で負けたもの、区切りをつけて帰るだけのもの。ただこの時間は人が少ないのか、広い車両に一人だ。
途中の駅で買い込んだキャンディを一口。そして真っ暗な窓の外を見る。
夜のように真っ暗だ。ここは地下鉄、景色なんて見えない。時々、反対方面に向かうサブウェイが見えた。それ以外は何の変わりもない、ただの暗闇である。
「パスを拝見します」
車掌の言葉に顔をあげる。首からぶら下げていたスーパーシングルトレインの許可証を見せた。
「あれ、さっきのサブウェイマスターの……サガリさん!」
「僕はクダリ!」
名前を間違えられて一気にフォーマルな表情から、プライベートな子供っぽい表情へと変わる。
「クダリさんですか、すいません」
シングルトレインにいたノボリと良く似た人だ。親戚なのかもしれないが、性格がだいぶ違う。
「クダリさんもバトルサブウェイ好きでこの仕事してるんですか?」
「ノボリと一緒にしないでよ!僕はバトルが好きなの!」
同じじゃないか。そう思っても言葉には出せなかった。苦笑いでやり過ごし、荷物から残ったキャンディをクダリに渡す。
「お疲れ様です。青リンゴ味ですよ。よければどうぞ」
サブウェイの窓は相変わらずの暗闇だ。ダイヤが違うのか、他のサブウェイともすれ違わない。
「お仕事は?」
「君で終わり。……さっきから外ばかり見て、何が面白いの?」
クダリがつまらなそうに言う。確かにそうかもしれない。彼にとって見慣れた暗闇。
「クダリさん。誰かが私に言ったんですよ。電車って人生に似てるって」
「なにそのいきなり哲学。僕に解るよう説明してよ」
「受け売りなんで上手く解釈できないんですが、電車は乗り遅れたら二度と乗れない。人生も、チャンスの電車に乗り遅れたら二度と乗れない」
クダリはとてもつまらなそうだった。相づちの声からしてもう話を聞いてる態度ではない。
「クダリさん、私、過去に一人、すれ違ったままの人がいます」
「その人は、ポケモンを人間から解放するといった信念で突き進みました。私は違うといって対決したままいなくなりました。その他にも私には友達がいます。二人とも、途中迷ったりしてましたが今では自分の道をいってます」
「その時、私は何をしていたんでしょうか。みんなより人生の特急に乗った気分で、二人に勝った気でいたんです。二人とも、普通列車に乗って、乗り換えで迷っても自分の行き先を見つけたのに私は乗り換え駅でどの電車にのっていいか解らないんです」
「で?」
今まで黙ってたクダリが口を開く。
「で、って、私が今思ってることですよ」
「何を迷ってるか知らないけど、乗り換え駅なら来た電車に乗ればいいじゃん」
クダリが飴を嚼んだ。
「これだから子供は嫌いだ。迷ってる自分がかっこいいとか思ってるんだもん。乗り換え駅にいて迷ってるっていう自覚あるなら最初に来た電車に乗ればいいだけじゃん。君つかれる」
クダリが立ち上がる。座ってる時とは違って、その背丈は大きい。クダリを目で追うと、窓の外に灯りが見える。
「もうライモンシティに着くよ。それじゃ」
「あ、クダリさん!」
「何?」
「また勝負してくださいね」
「君が勝ち抜ければね。……直接申し込むんだから腕には自身あるんだろ」
クダリは車両のドアに手をかけた。そしてもう一度振り返る。
「君、名前は?」
「私ですか?私はトウコです」
「ふーん、そう。じゃ」
そのままクダリは白いコートと共に消えて行く。トウコはその方向に頭を下げた。
ーーーーーーーーーー
バトルサブウェイの帰り。今まで辿ってきた道は何だったのか。見えない窓を見て主人公は何を思うのか。
幼なじみはそれぞれ目標をみつけたのに、主人公だけぽーんと放り投げられたようで、エンディング後はもしかしたら
クダリにはまだ会ったことないけど下りだからクダリさんにした。
【好きにしていいのよ】【最近サブマスが気になるのよ】
メッセージありがとうございます!
ポケモン嫌いは結構好きな題材でした。
「私」側からの一方的な視点の話であったのに、タブンネの気持ちを汲んでもらえてとても嬉しいです。
他者と暮らすにはある程度の知識が必要ということですね。
親は自分が世話するんだから「私」は知らなくていいと思ったのか、両親もあまり知識がないか。
どちらにせよ些細なズレでこんなになってしまったのです。
それは現実の人間関係でもそうなんじゃないかなあと思います。
切ないっていう感想もらえて嬉しいっす!
ありがとうございました!
【タブンネの半分は優しさでできています】
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 | 101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | |