この町では、クレッフィを捕まえることは禁止されている。
その理由を聞いてみれば、彼らが拾ってくる鍵が問題なんだそうだ。
昔から、この町では夜中に忽然と子供が神隠しにあう事件が何年かに一度起こっていた。
今の村長も幼い頃、神隠しに合ったもののなんとか一年ほどで帰ってこれたそうだ。
「えぇ、あれは夜中の事です。視線をかんじて目を覚ますと、こっそり捕まえたクレッフィが枕元にいてその子が見たことのない鍵を沢山ぶら下げていました。
材質も形も異なる不思議な鍵が沢山ね。
それらをしゃらしゃら、鳴らしながらクレッフィは私を誘うように私の部屋の扉の前で鍵を揺らします。
私は、どうしてもその鍵に触れてみたくてベットから立ち上がってクレッフィに近づきました。
その時、気づけば良かったんですがねぇ………出入り口の扉が白塗りで、鍵穴がついてたんですよ。
えぇ、私の子供の時の部屋には鍵なんてついてませんでしたし色の塗っていない木目が見える扉でしたよ。
クレッフィは、私の手に一つの鍵を渡してくれました。
それは、硝子のように透明でひんやりとしていて…鋼で作ったものより繊細な装飾が施された見事な鍵でした。
私は、誘われるままにその鍵を扉の鍵穴に刺して、扉の向こうへ行ってしまったのです。
多分、神隠しにあったのはここだったのでしょうね。
それからですか?
扉の向こうは、長い廊下で目に鮮やかな扉が沢山並んでいました。
その廊下も一本道なのに捻れていたりして、天井に階段があったり……そう、ちょうど騙し絵を見ているような、そんな廊下でした。
その中をクレッフィと歩きながら探検したんです。
時たま、渡してくれる鍵と合う鍵穴を探して、扉を開けるのがどうしようもなく楽しくてね?
そうです、扉の中には入りませんでした。
あくまで廊下から中を覗きこむ形でしたね。
それだけでも十分楽しめましたから。
最初に開けた紺色の扉は深い、太陽の光も届かないような海の底に繋がっていました。見たことのない魚のポケモンやと大きな銀色のポケモンがで泳いでいてね?
それは見事な、舞でしたよ。
残念なのは一部のポケモンが出す光が足りず、全体を見ることが出来なかったことでしょうか?
次の扉は砂岩で出来ていて、開ければまっさらな見渡す限りの砂漠が見えました。
遠くに、蜃気楼なのかゆらゆらと揺れる今にも朽ちそうな塔が見えて。
………地平線なんて始めてみましたからね、大分長いこと見ていた気がします。
その次は緑の扉。
幹の果てが見えないほど大きな木と空のように視界一杯に広がる青々とした葉の群れ。
何処からか聞こえるポケモン達の楽しそうな鳴き声を今でもしっかりと覚えています。
その次は紫の扉。飛び地のように空中に地面が浮いている不思議な場所でした。
そこでは、なにか恐ろしいものの声が聞こえたので慌てて閉めましたがね。
そんな調子で他にも沢山の扉を開けていたのですが……。
ある時、見覚えのある扉を通りすぎたんです。
大急ぎで戻ってよくよくその扉を見ました。
青塗りで金のドアノブの付いた扉。
それは、他の扉に比べたら大変地味でしたがそれを見たとたん懐かしくて泣き出してしまってね………。
そう、この家の扉ですよ。
あんまりにも、大泣きして鍵のかかったドアノブをガチャガチャと回すもんだからクレッフィは、とても困ったようにくるくると回っていた気がします。
宥めるように、床に不思議な扉の不思議な鍵を落としてくれるんですが。
それじゃない!もっとぼろいの、もっと色褪せて茶色くて冷たいの!
なんて、我が儘を言って家の扉の鍵を要求してね。
何度も何度もやり取りをして、クレッフィの足下に鍵の小山が出来る頃。
漸く、私の家の鍵を渡してくれまして。
その時クレッフィはどこか寂しそうにしてましたが……なにぶん見たのが一瞬で。
大喜びの私は気づかず鍵を掴んで大急ぎで扉に刺して………開け放ったら中も確認せずに飛び込みました。
ただいまっ!
涙声を張り上げながらね。
後はもう、大騒ぎでしたよ。
神隠しにあっていた時はお腹も空きませんでしたし、次から次へ色々なものが現れるので時間の感覚なんてこれっぽっちもありませんでしたからね。
一年たってると聞かされたときにはビックリしましたよ。
幼馴染みの子に背を抜かされていたりで散々でした。
クレッフィですか?
多分、廊下に置き去りにしてしまったんだと思います。
扉は閉めた記憶がなかったのですが……少なくとも、それ以降、そのクレッフィとは会えていません。
以上が神隠しの間に見たものです。
満足して頂けましたかな?」
フェアリータイプにはまだまだ謎が多い。
こういった出来事も謎の一つにあげられる。
とある少年のレポートより
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元ネタを知らないのでこちらに投稿。
多分イギリス辺りの話だと思われる……。