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  [No.2616] 本人の意思 投稿者:フミん   投稿日:2012/09/14(Fri) 00:16:17   122clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ブースターだ!」

「いや、シャワーズ!」
 

家が敷き詰められた住宅街のある一戸建て。まだ幼く元気のある兄妹が、言い争いをしていた。
喧嘩の理由は単純だった。二人の家に住むイーブイを、どの種類に進化させるかということである。
二人はまだ年齢が若すぎるため、自分のポケモンを持っていない。両親に何度もお願いして、漸く家に来たのが一匹のイーブイだった。
 
イーブイという種族は、様々な種類に進化することができる。住んでいる環境によって様々な個体へ姿を変えることができるため、他のポケモンよりも進化の数が圧倒的に多い。例えば、とても寒い地域に住んでいれば凍えて死なないためにグレイシアに進化する傾向があるし、森に囲まれて育ったイーブイはリーフィアに変化することもあると言われている。
それ故に、人間が故意的に進化を操作することも多い。理由は、様々だが、大方は人間の都合である。そのため、人間が管理しているイーブイは、環境以外の要因で何に進化するか決まってしまうことが殆どだった。
 
話は戻るが、兄弟は、イーブイを何に進化させるかで揉めているのだ。


「ブースターは可愛いじゃないか。赤い体にふわふわした体毛、ずっとぎゅーってしていたくなるんだよ」こう

言うのは、兄の方。

「シャワーズにすれば、ひんやりして気持ち良いし、一緒にプールで遊べるもん。だからシャワーズが良いの!」

そう述べるのは、妹の方。
 
この二人は、いつも意見が食い違っていた。例えば、兄の方は冬が好きだし、妹は夏の方が好みだった。他にも兄は走るのが好きだし、妹は泳ぐのが好きだったりと、常にこの兄妹はぶつかりあっているのである。
そのため、今回のことも珍しいことではなかった。


「シャワーズに進化させたら冬はどうするのさ。冷たくて触っていられないぜ?」

「ブースターなら冬に抱きしめられるもん。お兄ちゃんだって、真夏にブースターをずっとぎゅってしてるの?」

「ああ、俺だったら真夏でも真冬でもブースターを抱きしめるもんね」

「そんなことしたら暑さでお兄ちゃんが倒れちゃうよ。だから、シャワーズにしようよ」

「そんなこと言ったら、冬に無理にシャワーズを抱きしめたら、お前が風邪引いちゃうじゃないか。だから、ブースターにしようぜ」

「嫌だ! シャワーズ!」

「俺だって嫌だ! ブースターが良い!」
 
お互いに眉間にしわを寄せ、睨みあう兄妹。彼らはまだ、譲り合うということができなかった。両親がいると大人しくなるのだが、生憎、この子達の両親は、まだ仕事で帰って来ない。

イーブイは、そんな兄妹を毎日見ているのに目もくれずソファーの上で昼寝をしていた。
散々続いた言い争いが終わったと思うと、兄弟はイーブイの目の前に立ち見下ろしている。
何事かと顔を上げると、先に兄が言う。


「ブイルは(イーブイの名前である)、ブースターに進化したいよな?」
 
妹。

「ブイルはシャワーズに進化したいよね。私のこと大好きだもんね」

「ブイルはお前のことなんか好きじゃないって。ブイルが好きなのは俺だよな」

「そうやって、人のことをいじめるような最低な人間をブイルが好きになるわけないじゃない。ねーブイル」

「あーあ、やだやだ。強引に姿を変えられるのは嫌だってさ。他人のことを思っているように見せかけて、実は自分の都合を突き通そうとしている人って、タチが悪いんだよな」

「お兄ちゃん。そろそろ怒るよ」

「やるか」

「手加減しないよ」
 
彼らは拳を握り、今にも喧嘩を始めそうになる。怪我をしたら流石に洒落にならないので、ブイルと呼ばれたイーブイは起き上がり、自分の気持ちを堂々と伝えた。


「僕は、昔からサンダースになりたいと思っているんだ」
 
胸を張り、しっかりと自己主張をするブイル。
すると、二人の表情は一変する。

「何言ってるんだ。サンダースになったら静電気が大変だろう。それに、ふわふわした体毛が少なくなっちゃうじゃないか」これは兄。

「そうよ。サンダースだと一緒にプールで泳げないよ? だから考え直そうよ」これは妹。

「だから勝手に決めるなって。ブースターが良いに決まってるだろ」

「違うの! シャワーズが良いの!」

「ブースター!」

「シャワーズ!」
 
ついには殴りあいの喧嘩を始めてしまう二人。さすがにここまでくると放っておけないので、ブイルはなんとか止めさせる。


「これ以上喧嘩するなら、何に進化するかお母さんに決めて貰おうかなあ」
 
さり気なく呟くブイル。
お母さん、兄妹にとって大切な家族であり、恐れる対象である。
兄妹は理解していた。お母さんが主導権を握れば、全ての物事は強引に決定してしまうのである。そのため、ブイルが何に進化するかを母親に頼むということは、自分達の意見が通らなくなることがほぼ確実だった。


「ごめんブイル、俺達が悪かった」

「お願いブイル、それだけは止めて」
 
母に決定権が移ることだけは、何としても阻止しなければならない。兄妹の態度は一変した。

「もう喧嘩しない?」

「しないしない。絶対にしない」

「うん。お兄ちゃんと私は仲良しだもん。喧嘩なんてしないよねー」

「ああ、しないとも」
 
ぎこちない笑顔で肩を組む兄妹。それならば、とブイルは言う。
「僕が何に進化するのか、仲良く決めてね」
 
兄妹は黙って頷いた。とりあえず、今日の兄妹戦争は回避できた訳だ。
しかし、明日には同じことを繰り返すのだろう。そう思うと、このままイーブイの姿で一生を終えた方が良いのではないかと思うブイルだった。



――――――――――

地味にお久しぶりです。
夏コミ82に来てくれた方がもしいたら、ありがとうございました。またちょくちょくイベントには参加していると思います。
9月のチャレンジャーは他のイベントで売り子を頼まれた為、参加を断念しました。鳩さんの新刊はまた今度になりそうです。

現在、冬コミに向けてワープロ打っています。こういうネタは直ぐ思いつくのですが、遅筆なのが悩みです。


フミん


【批評していいのよ】
【描いてもいいのよ】


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