ポケマスのグリレ……になるはずだった女子三人+ほぼグリーン+レッドな日常ssです。具体的な描写はないですが苦手な人は気になるかもしれないです。
こうかばつぐんを取ろうというミッションに駆り出されたのは、タイプの違う花のような女子三人であった。カントー古来の和の花のようなエリカ、春先の草花のようなコトネ、女優に贈られる花束のようなメイ。三者三様、三つ揃いのエナジーボールはサクサクポンポン規定の回数を稼いで行った。トドメの一撃で繰り出されたエリカのはなびらのまいに、パチパチと贈られる拍手。
「レッドさん!」
女子らがきゃらきゃら、レッドの方へ寄っていく。
「……」
スッとレッドが差し入れのクッキーと飲み物のボトルを差し出す。
「あっこの包み!ユイさんからですか?」
ピカチュウが風船で空を飛んでいる絵が描いてあるラッピングを見て察するメイに、レッドがコックリうなずく。
「もしかしてわたくし達のバトルを、先程から見守ってくださっていたのですか?」
「…………」
「あら、声をかけてくださったら良かったのに」
気を使うエリカに、レッドは後ろの相棒を見た。いつもと変わらない、威圧感さえあるリザードン。でも今日はちょっとだけ、バディのレッドとも他のバディーズとも距離を取っている。
「うーん……もしかしてリザードンが気にして距離を取ろうとしてたのを宥めていたんですか?」
メイの顎に手を当てて言う考察に、レッドはうん……と肯定。なるほど、メイ達の草タイプポケモンに炎タイプは天敵だ。
「『リザードンはとても強いポケモンだけれど、同時にとても優しいポケモンでもあるんだよ』ってウツギ博士が言ってました」
その炎を自分より弱いポケモンに向けることはない。コトネが博士の研究の手伝いをしていた時、ホウエン地方の図鑑説明を見て印象に残った一文だ。戦いでもあるまいに、自分が草ポケモンとそのトレーナー達が群れているところへ、わざわざ割って入って雰囲気を乱すこともあるまい。離れて鎮座する赤い竜はそう言っているように見えた。誰も気にしないよ。って伝えたんだけどなあ。困った顔のレッドはリザードンよりはわかりやすく表情で語っている。
「撫でてもいいかな?」
リザードンの存外柔らかい視線と目を合わせてコトネが訊くと、リザードンは低く吠えて頭を下げた。
「わー、温かい! あたしのチコリータと触り心地やっぱりちがうね!」
「ムム……ジャローダとは少し似ているかもしれませんね」
「どっしりとしたただずまいが樹木花のようですわ」
和やか休憩ムードになって、リザードンはチコリータとコトネを乗せ、辺りをブンブン飛び回り、きゃいきゃい乗客達をはしゃがせていた。気を使って距離を離していたリザードンよりずっといい。リザードンが褒められてぼくも嬉しい。リビングレジェンドとかぼく自身が言われるより嬉しい。レッドはクッキーとか分けてもらいながらニッコニコだった。
ふと、視界の隅の茂みに見覚えのあるものが顔を出していた。美しい色合いの、長い葉っぱのようなもの。多分ピジョットだ。そちらに寄って見ると、もう少し控えめな明るい茶色い頭髪も、近くの茂みからニョッキリ、不自然に生えていた。
「……グリーン?」
「何のことだ?オレ様は遠いアカネのもりという場所からやって来た、イガグリの精だ」
イガグリもオレ様とか言うのか。レッドが知っている範囲で、オレ様とか言う奴は一人しかいない。あっ木の上にモモンのみが実ってる!
「空を越え海を越え時空を越え、ここにピジョットとやって来たんだ」
背が低い木だからいけるな。ブチブチ難なく三つ取って「美味そうなきのみの匂いがする!」って感じで茂みから飛び出して来た、とさかの下のくちばしにモモンのみを放り込み、力説に夢中になったせいで茂みから生えてきた、イガグリの精の握った拳を歌のごとくほどいてモモンを持たせる。
「モゴモゴ……このモモンのみでけえな……」
ホントだデカイ。食うのに難儀しているピジョットのくちばしのモモンを裂いてちょっとずつあげる事にした。おいしいおいしいとピジョットは鳴いた。
「イガグリの精だって言ってんだろ!! 木の実同士で共食いさせんな!!」
あっグリーンが生えてきた。正確に言うと立って正体をあらわした。シルフスコープいらずだ。
「レッドさん、そんなすみっこで何やってるんですか?」
コトネ達がわいわいやって来る。ポケモンも含めた、複数の視線がグリーンに集中する。
「いやあの、コレはだなあ、覗き見とかじゃなくてめっちゃナチュラルに女子に混じってるレッドとリザードン達の中にちょーっと割って入りにくかったというかなあ…………」
ピジョットはまだデカイモモンのみの何分の一かをンまーい! と食べている。
「ややや、やーい! そんなかわい子ちゃん侍らせてニヤニヤしてるようじゃ、オレのライバルとしてまだまだだなあ!」
「かわい子ちゃんって言い方、ずいぶん久しぶりに聞きましたわ」
「古い言い伝えが多いジョウトの方でも幻のポケモン級ですね、ヒビキくんと見たセレビィ級かも」
「かわい子ちゃんってなんですか?」
悪意のない女子達のコメントにグリーンの恥ずかしいボルテージが上がっていく。何をそんな恥ずかしがっているのやら。引っ込みがつかなくなってて更に自爆しそうだったので、レッドは手を握ってグリーンを茂みから引っ張り出す。
「……今グリーンはイガグリの精だから大丈夫、向こうで一緒にクッキーを食べよう」
「お、おおう! イガグリの精のオレ様は、クッキー大好物だぜ!」
解散ムードになるまで、グリーンはイガグリの精と言う事になった。