あそこをくぐり抜ければNがいる。ゲーチスが何か言っていたけれど、関係ない。わたしはただ、Nに言いたいことがあるだけ。
心臓が暴れまわり呼吸が乱れる。パートナーの入っているモンスターボールを握りしめて、わたしは覚悟を決めた。
行こう、Nのもとへ。
Nが、ゼクロムを呼んだ。呼びかけにこたえて、玉座の向こうから黒い竜が現れる。黒い竜は力を誇示するように吠え、電気のエネルギーを撒き散らす。圧倒的な力。あれが、伝説の竜。
体が震える。勝てるだろうか。違う、何をしてでも止めるって決めたんだ。
大きく息を吸う。若草色の目を見据えて、わたしは告げる。
*
N。わたしはきっと英雄なんかじゃない。だってそうでしょう? ゼクロムが現れても、ライトストーンは反応しなかった。
わたしは、あなたに言いたいことがあって来たの。わたしには求めるべき真実なんて分からないよ。この世界のことをほとんど知らないもの。
あなたは多分戸惑っているよね。わたしがこんなに喋るところを見たことがないだろうし。ベルもチェレンも、今のわたしを見たら驚くだろうね。でも、わたしにだって言いたいことがたくさんあるんだ。
聞いて、N。
わたしには分からなかった。なんでわたしが英雄なのか。どうしてNはわたしにこだわるのか。これは、今でも分からないよ。
あなたは何度も接触してきては、一方的に喋り、勝負を仕掛けてきた。電気石の洞穴では、勝手にわたしをニュートラルだと決めつけた。たしかに理想も、真実も知らなかったけど。それに、わたしの意思なんかお構いなしにわたしを選んだなんて言う。竜螺旋の塔でもそう! わたしにライトストーンを探せと言った。
なんで! どうしてわたしなの!
あなただけじゃない。みんな、みんなそう。わたしにやれと言う。わたしの気持ちなんて知ろうともせずに、英雄になることを強制した。流されるままのわたしも悪かったよ。でもさ、だんだん、言えなくなった。言える雰囲気じゃなかった。
みんなわたしに期待して……押しつけて。わたしは、まだこどもなのに。大人たちも、アデクさんくらいしかあなたに挑もうとはしなかった。そのアデクさんだって、わたしにライトストーンを持てと言った。正直怖かった。なのに、受け取れって。押し付ける形になってすまない? だったらやめてほしかった。でも、受け取る以外の選択肢なんてなかった。
あはは、こどもだよねえ。わたしもみんなに負けず劣らず自分勝手だよねえ。でも、もうやめるわけにはいかなかった。わたしだって、ポケモンのいない世界は嫌だったから。わたしがやるしかないって、言い聞かせてた。
ねえ、N。わたしね、あなたの考えには少し共感しているの。傷つくポケモンがいるのはやっぱりいい気はしないよ。たとえば、ずっと一緒にいるこの子たちが誰かに傷つけられるのは、嫌。でもさ、方法が間違っていると思う。たしかに、ポケモンと人間を引き離せば、人間に傷つけられるポケモンはいなくなるよ。でもその代わり、新しい悲しみが生まれると思う。
N。あなたは言ったよね? わたしたちみたいな人ばかりだったら、ポケモンの解放なんてしなくていいって。あなたは迷っているんじゃない?
あなたの部屋を見せてもらったよ。ずっとあの部屋の中で過ごしていたんだってね。
あの部屋を見て、ずっと迷っていたけど分かったんだ。言ったでしょう? 自分がどうして英雄なのか分からないって。ここに来るまであなたと戦うことに踏ん切りがつかなかった。英雄であるだけの、理由なんてなかった。でもこの城に入って、あなたの部屋を見て、あなたの過去を聞いて、自分がどうしたいか分かった。
あのね、N。あなたの見ていた世界はすごく狭くて小さいよ。
わたしも似たようなものだけど。わたしだってカノコタウンから外に出たことがなかったから。
ねえ、あなたは「外」で何を見た?
わたしはポケモンをもらって、外に出ていろんな経験をした。トレーナーとはポケモンバトルをしたし、ポケモンを交換することもあった。ミュージカルに参加したこともあった。人の仕事を手伝っているポケモン、ううん一緒に働いてた。みんな、楽しそうに笑ってた。ポケモンの言葉は分からないけど、見ていてそう感じた。
たくさんの人たちと、ポケモンたち。お互いがお互いを思いやっていた。
N、あなただって見たでしょう?
うん、そう。あなたがあの部屋で見てきたことも本当のことだよ。実際、人間に苦しめられているポケモンもいる。でも、ね。わたしが見たのはたいていプラズマ団のせいだったよ。ムンナの煙が必要だからって、蹴ったりして煙を出させようとしていたことがあったんだ。あの時はすごくびっくりした。この人たちはポケモンを大切に思ってないんだって、口先だけだったんだなって思った。あなたとはずいぶん違っていた。思えば、あれがあったからわたしはここにいるのかもしれない。
それから、ポケモンを解放するんだと言って、ポケモンと人を引き離していたよね。でもポケモンたちは、大切な人と引き離されてつらそうだった。ベルがムンナをプラズマ団に奪われたとき、ベルもムンナも、両方とも悲しんでた。やっぱりそういうのを見ると、こんなのは違うって思ったんだ。
ポケモンと人が出会って、たしかに悲しみが生まれたと思う。でも、それ以上に喜びが生まれたんじゃないかな。あなたは今ある喜びを、幸せを、すべて悲しみに変えるの?
それがあなたの『理想』なの? 目指すべきなのは、今ある幸せを壊すことなんかじゃなくて、悲しみを減らすことなんじゃないの?
わたしはこの子たちと出会えてすごく嬉しかった。喧嘩することもあったけど、一緒にいられて幸せだったよ。
ねえ、N。あなたはポケモンと一緒にいて幸せじゃなかったの? 幸せだったはずだよね?
それはあなたもわたしも、そして他の大勢の人も一緒なんじゃないの? あなたはきっとそれを見てきたはず。
なのに、あなたは自分が見てきたものを否定するの?
あなたがしようとしていることは、今まで見てきたことを否定してまでやるべきことなの?
わたしたちが見たのは、『真実』じゃないの?
*
そこまで言ったとき、バッグがもぞもぞと動いた。はっとして、バッグを開ける。
ライトストーン、が――――。
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超今さらですが書いてみました。
書く書く言ってから大分たったのでわたしが言ったこと自体、皆様忘れてると思いますw
ぶっちゃけプレー中は、電気石の洞穴あたりから完全に置いてきぼりされてたので、こんなことは考えてないですw
これを書くためにプレー動画見てみたんですが、ゼクロム登場からレシラム登場までほとんど間がなく、思わずずっこけました。
もうね、明らかにゼクロム現れたから出てきただけだろ状態。
実際にプレーしてたときはあんまり気にならなかったんですけど。
というわけで、こんな感じのことがあったんじゃないかなあという妄想でした。
今更過ぎてごめんなさい!
【書いてみたのよ】【今さらでごめんなさい】