『ポケモン用の義肢、販売致しております。』
この売り文句に釣られて開いたサイトのページには、ポケモン用の義足や義手、そして人工尾鰭といった、身体の一部が欠損してしまったポケモンたちのために作った義肢の写真と値段、そしてこれをひとつひとつ、ポケモンの状態や用途に合わせて手作りしているのだという技術開発を進める福祉道具会社のものだった。
インターネットで改めてその会社を調べ、その会社が信用に足る企業だと知ると、俺はまず、うちの農場の片隅で眠るメスのグラエナ・テテュスを思い浮かべた。
彼女の後ろ右足は、昔ハンターの罠に掛かってしまった際に切り落とされてしまったらしく、祖父が保護してポケモンセンターに駆け込んだときは、義足を付けないとダメだ、と判断されていらい、ポケモンセンターのドクターさんお手製の義足を付けていたのだが、強度があまりないため壊れやすく、いたずら好きの1匹のツボツボの格好の餌食となる。
それを考えると、少々値は張るが、正規品を購入した方がテテュスのためにもなるだろうと、そのサイトをお気に入り登録してから、まずは祖父母とテテュス本人に相談するべきかな、と考えて、部屋を出た。
*
「じいちゃん、話があるんだ。」
「ん?」
家のすぐ横にある厩舎の中で、祖父は他のよりも何倍も大きく精悍な顔つきのオスのギャロップたちの世話をしていた。こいつら本当は格闘タイプでもついてるんじゃないのか?と見まごう程に筋骨隆々としたギャロップ1匹1匹にエサを上げながら、彼らの状態をチェックしながらも、顔をこちらに向けてくれた。
「どうした。お前さんがそんな顔をするとは珍しい。」
「……あのさ。テテュスの足のことで、相談なんだけど。」
少し遠くの方で、ギャロップが一匹嘶き始めた。よく聞くと、ソイツは祖父と一緒にテテュスを助けたオスのギャロップのクロノス号だった。あぁ、心配してくれているんだな、クロノス。それでこそ爺ちゃんの1番の相棒だよ。
「クロノス。落ち着きなさい。……それで。テテュスの足がなんだい。」
「うん。……テテュスの義足だけどさ。彼女を思えば、ちゃんとした、少し高いけどあの子の負担にならないものを選ぶべきだと思うんだ。」
「ドクターの腕を信じてないのか。」
「そうじゃないよ。ただ、すぐいたずら好きのツボ郎に壊されちゃうからさ。ドクターの義足が間に合わない時の予備としても、一個くらいちゃんとしたのを持っていても差し支えないとおもうんだ。専用の車椅子でもいいけど、そっちの方がもっとお金かかるし。」
この町のポケモンセンターに在籍してる温厚なじいちゃん先生の器用さは目を見張るもので、テテュスの義足は全てそのじいちゃん先生が全部1人で作りあげている。
それでも強度の問題なのか壊れやすく、いたずらの格好の餌食となっている。ダメだと言ってるというのに聞き分けが効かないのでほとほと困っている。
「それで、テテュスの足の状態を見て、ちゃんとしたのを1つ。彼女に、用意してあげようと思う。薔薇の園を駆け回る、あの子の姿がみたいから、さ。」
「……わかった。1つだけだぞ。」
「……!ありがとう!!」
ダッシュで厩舎を出て、ポニータとメリープが草を食む牧場の脇を抜け、カゴの実やぶどうが生る畑の横の農道の先の、薔薇園の前の小屋。
そこを右に曲がり、先にあるワインクーラー横の家の玄関へと続く、壊れた酒樽を再利用して作った花壇の道。そこにある小さな小屋の中で、頭に野生のネイティが止まっているのにも気付かず寝そべる、テテュスの姿。
「トゥー、トゥー、」
「や。こんにちは。……テテュス。」
そっと話しかけながら、ふわふわする首の辺りを撫でてあげると、テテュスはぴくり、と耳を動かしてからゆっくりと起き上がった。彼女の頭に止まっていたネイティは、そのまますぐそばの、この前出来たばかりのワインをお酒の神様へと捧げるための簡易な祭壇に乗った。
「ネイティ、そこに乗るとばちがあたるよ。……テテュス、見回りに行こうか。歩ける?」
ゆっくりと起き上がり、テテュスは俺のてのひらを何回か舐めたあとで、義足のついた足の調子を見た。今日は大して痛まないようなので、ならばこのまま行こうか、と、テテュスを先頭に歩き始めた。なぜかネイティが俺の頭に乗っかってきたが、まあ邪魔するつもりはないようなので放っておく。
彼女だけでは、薔薇や木の実にいたずらをするヤミカラスや他の野生のポケモンを追い返すのは無理があるので、俺はレントラーのユピテルと、ロズレイドのディオを出す。(どちらもオスだ。)
ユピテルがムダに気合い満々なのは、まあとりあえずはスルーの方向で行こう。
「テテュス、この見回りが終わったら、君に話しておきたいことがふたつあるんだ。」
「………?」
「そのうちわかるよ。」
首を傾げる姿もなかなか美人さんだねぇ、と惚気ていたら、どうやら察知したのか、義足の方の足で軽く小突いてきた。地味に痛いから本当はやめてほしいが、彼女なりの照れ隠しなのでスルーしておこう。しかし、痛いなぁ。
*
書きかけ小説を出してしまおうというこの企画を見て「なにか書きかけのお話しがあったかなぁ。」と探しに探してスマホのメモ機能に書きかけの小説を見つけたので誤字脱字だけ修正して出してみました。
お話しに出てくるワインセラーとかは以前にイラコン宣伝で書いてみた例のワイン農場さんが舞台です。
けっこう気に入ってるので時々小出ししようかなぁとら思ってますが、如何せん名前が決まってません
……。それもあって書きかけのまま保存してました。
あとこのグラエナたちの名前はギリシャ神話の神々からお名前をお借りしてます。
ネイティの名前だけ決まらなくてうんうん悩んでたのもこれが書きかけの原因でした。
もう少し書きたかったんですが、うまいところで一区切りついてたのでそのままお出ししました。
ご感想やご指摘がございましたらぜひお願いします
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