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  [No.3712] ある記者の取材メモ 投稿者:   《URL》   投稿日:2015/04/12(Sun) 02:04:57   79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


(1)
 怖い話、とは少し違うかもしれませんが。
 ポケモンバトルの途中、お恥ずかしいことですが、集中が解けて、気持ちが緩んで、ふっと窓に目がいきました。すると、まるで豪雨の中を走り抜けてきたかのように、窓の外が濡れていたんです。
 窓の外のそれは、水滴が細い筋をいくつも引くような、そんな生易しいものではありませんでした。水の膜が張り付いて、電車が丸洗いされているかのよう。それも、もう確実に地下のことで、トンネルに据え付けられた照明が、一定間隔に、その輪郭を水に歪ませながら流れていくのが見えたのです。
 そのバトルは勝って、次のバトルでひと区切りでしたが、矢も盾もたまらなくなって。棄権してすぐさま折り返しのギアステーション行きへ乗りこみました。
 そうして無事に戻ってこられたので、今こうしてコーヒーを飲みながら喋っているというわけです。
 にしても、あのまま乗り続けていたら、どうなっていたのでしょうね。


(2)
 バトルサブウェイは表沙汰にしてませんが、実は行方不明者が多い。そんな話、聞いたことありませんか。
 バトルの高揚、勝利への執着、そして地下鉄という空間の特殊さが、この類の都市伝説を作り出しているのかもしれませんが、さて。
 私が聞いたのは、その続きの話です。
 地下鉄で行方不明になるほどバトルに嵩じたトレーナーは、しかし、順調に勝ち続けることはできませんでした。負けたトレーナーはライモンシティへ戻ると思しき電車の中で、延々と考え続けます。
 さっきのバトルのどこが悪かったのだろう。技の選択、交代のタイミング、相手の技の読み違え。バトルレコーダーの狭い液晶でバトルの様子を右から左から上から下から眺める内に、やがてトレーナーの目はポケモンバトルを右から左から上から下から眺められる位置に、すなわち、電車の床や天井や窓に張り付いていることに気付きます。いえ、それだけではありません。トレーナーは電車になっていたのです。
 とまあ、勿体ぶって話しましたが、要は負けたら電車になるという話ですよ。ろくに連勝できない私には縁のない話です。


(3)
 聞いた後で、やっぱり勘違いなんじゃないか、って言われそうな話ですけど。
 この間、サブウェイに挑んだんです。七連戦を連勝して。七戦目の時に、なんだかおかしいな、とは思ってたんですよ。でも、バトルが終わって、気が抜けまして。端末があったから、いつもの癖でそこに行って、ポケモンを回復して。そしたら表示が出たんです。
「次は8戦目です。準備はいいですか?」
 冷水をかぶせられたような気がしました。寝ていたわけではないですけど、起きたような、たとえば突然目の前に色違いのポケモンが出てきて、ボールを投げる前にそれが色違いかどうか確かめるような、そんな心地でした。
 私はいつもの癖で「続ける」を選びそうになった腕を下ろしました。そして、恐る恐る、目を皿のようにして選択肢を確かめながら、リタイアを選びました。
 折り返しの電車は、すぐライモンに着きました。駅から出て太陽の光を浴びた時、あんなにホッとしたことはなかったと思います。
 あの時、八戦目に進んでいたらどうなったんでしょう。なぜあの電車だけ、八両だったのでしょう。そもそも、どうしてバトルトレインって七両編成なんでしょうか。


(4)
 路線図をじっくり見たことってありますか。
 バトルサブウェイの路線って、独特な形だと思うんです。中央部、ハイリンクを避けて、ぐるりと円を描いている。でも実は、そこを通る線路があるそうです。通したけど使われずに廃線になって、今でもそこに残っているのだとか。
 使われずに廃線になった理由も色々言われていますが、ひとつは、その路線を幽霊列車がゲラゲラ笑いながら走り続けたから。この幽霊列車は、廃線になった今でも、閉じられた壁の内側で、笑いながら走り続けているらしいです。そして、バトル中毒のトレーナーたちを、その車両の中に取り込んで、来る日も来る日もお腹の中でポケモンバトルをさせながら、ゲラゲラ笑って走り続けているそうです。今でも。


(5)
 これはさして怖い話でもないんですが。
 真ん中あたりの車両で、バトルで勝った後、ちょっと休んでたんです。シートに体を預けて、向かいの窓の外を眺めながら、僕が休んでてもバトルトレインは走り続けるんだなあって思って、まあぼんやりしてましたね。戦った相手もすぐそこに座っていたんですが、特に喋りもせず。
 そしたら、不意に次の車両に続くドアが開いたんです。僕はてっきり、休んでたから車掌さんが急かしに来たのかと思いました。けれど、そこを通って来たのは、ワゴンを押したおばさんでした。飲み物や食べ物を満載したワゴン。車内販売でした。
 おばさんが僕の側を通る時に、何か買いますか、と聞かれました。何があるのか尋ねたら、おいしい水とかサイコソーダとか、あと、能力アップ系の栄養剤がたくさん。それがね、また値段が安かったんです。タウリンとかブロムヘキシンとかが、千円くらい。思わずまとめ買いしてしまいました。車両にいたもう一人は、何も買わなかったようですけど。
 その後は、普通に次の車両に進んで、バトルして、でもまとめ買いで気が弛みました。負けて、ギアステーションに戻りました。
 で、後で知ったんですけど、バトルサブウェイは車内販売ないんですね。もう使っちゃったんですけど、特に異常もないし、大丈夫ですよね。


(6)
 ポケモンバトルでは集中して、とは当たり前ですが、この話を聞いてから、集中なんてできやしない、と思うようになりました。ええ、この話は伝聞です、恐縮ですが。
 バトルサブウェイには魔物がいるそうです。
 ここ一番の勝負で“ぜったいれいど”が三回当たっただとか、そんな類のものではありませんよ。ただ、線路の先で大口を開けていて、電車ごと呑み込んでしまう。そんな魔物がいるそうです。それはバトルに取り憑かれ、サブウェイに挑み続けた人間の成れの果てで、あまりの執着にバトルトレインごと食ってしまうのだとか。
 魔物から逃れる術はないそうです。バトルに集中していて、気付いたら呑まれている、と。
 もし幸運にも呑まれる途中で気付けば、逆向きの電車で出られるそうですが、無理ですよねえ、そんなの。


(7)
 怖い話ですか。だめですよ、記者さん。怖い話は七つ集めると七不思議になって、えっと、七不思議を全部集めたらだめなんですっけ。えっと。
 じゃあこういうのはどうでしょう。
 ギアステーション名物ギアステバーガー。怖いくらいに美味しいです。っていうのはだめですかね。


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