20XX年10月2日 ジョウト新報 地域面より
アサギ、エンジュ間を結ぶ38番道路、39番道路を中心に、カモネギによる長ネギの食害がここ数年で急速に深刻化している。
カモネギはポケモントレーナー以外による捕獲が禁止されており、防ぐ手立てがないのが現状。今年の被害額は3000万円を越え、関係者は頭を抱えている。
「冬の収穫期には半分の長ネギがやられました。いいネギばかりを選んで持って行くんです。残ったのは売り物にならないようなネギだけですよ」
エンジュシティで長ネギ農家を営むオオノ・タケゾウさん(72)は、そう言ってため息をついた。鳥ポケモン対策の電気網なども試してみたが効果は薄いという。
「カモネギは目が良くて賢く、ものを切るための道具も持っているので、電気網を切ってしまうんですよ。そうやって一度学習してしまうともうダメです。効果はなくなります」
カモネギはかつて肉や羽毛のために乱獲され、また生息地の環境悪化などから絶滅寸前に陥った経緯があり、19XX年に制定された「ポケモン保護法」により一切の捕獲、狩猟を禁じられた。その後、狩猟圧からの解放、ポケモンのタマゴの発見による繁殖の容易化等が実を結び、カモネギの個体数は約六万羽まで回復した。ジョウトにはそのうち約一万五千羽が生息しており、現在も増加傾向にある。
「個体数の増加に伴い、巣を作るために必要なクキがカモネギにとって足りなくなってしまった。そのためクキを手に入れられなかったカモネギが人里に降り、長ネギをクキの代わりに使っているのでは」と、鳥ポケモン研究家のイシバシ教授は語る。
カモネギの個体数増加によるこうした被害を受けて国は19XX年「ポケモン保護法」を改正し、国に登録されたポケモントレーナーであればカモネギを捕獲できる許可を出したが、被害は一向に減る気配がない。進化もせず、強い技を覚えることもできないカモネギはポケモントレーナーにとっても育てる価値の低いポケモンと見られており、捕獲数が伸びないのだ。
捕獲や防除といった方向からではなく、共存の道を探る動きもある。カモネギの主な生息地である39番道路では、カモネギが巣を作るために必要なクキの種類を特定し、そのクキだけを植えた畑を作る計画が進められている。
「やっぱりね、人とポケモンですから。仲良くやっていかないといけないですよ」
そう語るのはアサギで農家を営んでいるミヤシタ・ヒロノブさん(51)。ミヤシタさんが作った約1ヘクタールの畑には、カモネギが持っていたクキから特定された植物3種が植えられている。カモネギはクキを作る際に植物から枝も葉も取り除いてしまうため、特定には植物学者の協力も必要だったという。
「最初は誰もわかってくれなかったが、熱心に話すうちに色々な人の協力を仰ぐことができました。今カモネギのための畑を作っている人は私の他に5人ほどです。この計画がうまくいって、人間とカモネギの架け橋になればと思います」
ミヤシタさんの呼びかけにより始まったこの「カモネギの畑」計画は早ければ20XX年にも実現するという。