マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.1614] #120165 「ひとかげ」 投稿者:   《URL》   投稿日:2017/12/10(Sun) 19:59:18     35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Subject ID:
    #120165

    Subject Name:
    ひとかげ

    Registration Date:
    2008-01-30

    Precaution Level:
    Level 4


    Handling Instructions:
    使用していないオブジェクト#120165並びにオブジェクト#120165を使用して撮影した写真が記録された情報媒体は、案件担当者が指定する高異常性物品保管庫の所定のブロックに集積し、70cm×190cm×100cmの耐火性金庫に保管します。金庫のセキュリティキーは案件担当者と拠点監督者が保持し、双方のキーを同時に使用しない限り開錠できない状態を保ちます。

    プロトコル・ダンデライオンに基づく調査結果は秘匿すべき個人情報を含んでいるため、案件担当者並びにレベル4セキュリティクリアランス保持者以外のアクセスを遮断する措置を取ります。案件担当者が当案件より離任することが決まった場合、プロトコルUXに基づく記憶処理を受ける義務が課せられています。プロトコルUXに基づく記憶処理に不具合の生じる虞のある局員は、当案件の担当者に割り当ててはなりません。

    案件担当者は週に一度、各拠点に駐留する案件副担当者からプロトコル・ダンデライオンに基づく調査結果を受領し、結果をレポートへ取りまとめます。レポートでは、プロトコル・ダンデライオンの実行結果を分類し、事象#120165が確認され分類が「レッド」または「カーマイン」となった個人について、リストL-120165-12へ氏名及び調査時点の居住地を記録します。リストL-120165-12は自動暗号化措置を施し、局内ネットワークから物理的に遮断された端末に保管します。

    オブジェクト#120165に指定されたデジタルカメラは現時点で46機存在し、それぞれオブジェクト#120165-1から-46に分類されています。当局の管理外にあるオブジェクト#120165が発見された場合、いかなる状況であっても速やかに接収してください。これまでのところ、当局は計34機のオブジェクト#120165を接収しています。

    当局の管理していないオブジェクト#120165により撮影されたデジタル写真がネットワーク上で拡散された事例が複数回確認されています。案件担当者は、インシデント発生時に情報保全第二部へ速やかに通報し、当該デジタル写真をネットワークから削除するとともに、デジタル写真そのものを含む関連情報を精度の低いねつ造またはデマであるとのカバーストーリーを展開します。カバーストーリーの展開に当たっては、情報保全第二部の専任局員が対応に当たってください。


    Subject Details:
    案件#120165は、未知の異常特性を持つデジタルカメラ(オブジェクト#120165)と、オブジェクト#120165を用いて撮影された写真に見られる特異な事象(事象#120165)、及びそれらに係る一連の案件です。

    2007年9月下旬、シンオウ地方トバリシティ第一支局にて、市民から「デジタルカメラで撮影した写真に奇妙なものが写り込んでいる」との申し出がありました。局員が撮影に使用されたデジタルカメラ及び撮影されたデジタル写真を回収し、初期調査を実施しました。調査の結果後述する事象#120165の発生が確認されたため、担当した局員が案件の立ち上げを申請、裁定委員会は翌日案件立ち上げを承認しました。

    案件の立ち上げ後、複数の支局で事象#120165が過去に発生していたことが報告され、担当者判断で回収されていた物品及び情報資産が案件担当者の元へ集められました。それに伴い事象#120165が持つ性質の分析が進み、案件の警戒レベルが「4」に再設定されました。

    事象#120165は、オブジェクト#120165で撮影された人物について、未知の条件に基づいて影が携帯獣の「ヒトカゲ」のようなフォルムとして描写される事象です。通常影は生成元となる人物のシルエットが投射された形状を取りますが、事象#120165が発生している人物についてはその限りではありません。確認できるのは一般的に知られる「ヒトカゲ」のフォルムに基づいた影であり、元となった人物の影は反映されません。

    事象#120165はオブジェクト#120165で撮影されたデジタル写真にのみ発生する事象であることに注意してください。事象#120165が発生している対象であっても、オブジェクト#120165を通さず直接影を視認した場合、通常通り本人のシルエットが投射されていることが確認できます。よって、事象#120165が発生するかどうかは、オブジェクト#120165を使用して確認する必要があります。

    オブジェクト#120165で撮影されたデジタル写真に複数の人物が写り込んでいた場合、事象#120165が発生するかは対象の性質に依存します。これは同じデジタル写真に撮影された被写体について、それぞれ事象#120165が発生する被写体と発生しない被写体が混在することを意味します。他方、過去に一度でも事象#120165が確認された被写体については、いかなる条件においてもオブジェクト#120165を使用してデジタル写真を撮影する限り事象#120165が発生し、発生有無が変わることはありません。これは事象#120165が発生しないパターンについても同様であり、一度事象#120165が発生しなかった被写体について条件を変更することで事象#120165が発生したケースは未だ確認されていません。

    プロトコル・ダンデライオンは、事象#120165の発生条件を特定するために定められました。目的を秘匿した状態で、サンプリングされた市民についてオブジェクト#120165による撮影実験を行います。事象#120165の発生が確認された場合は「レッド」、発生の疑義が持たれた場合(撮影時のアングルにより事象#120165の発生有無が確認できない等)は「イエロー」、事象#120165が明示的に発生しなかった場合は「グリーン」に分類されます。分類結果は厳重に保管され、所定のセキュリティクリアランス保持者以外はアクセスが遮断されます。

    事象#120165が何を意味しているのかは定かではありません。人影として携帯獣の「ヒトカゲ」が写り込む理由や、事象発生の条件も未だ明らかにされていません。事象#120165が特定の集団に属している、或いはある共通する属性を持つ人物に対して発生するといったデータも得られていません。人間と携帯獣の境界に掛かる案件と見做されるため、事象#120165の性質特定を急ぐ必要があると考えられています。


    Supplementary Items:
    本案件に付帯するアイテムはありません。


      [No.1613] #117333 「海から来た子供」 投稿者:   《URL》   投稿日:2017/10/22(Sun) 17:18:14     35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Subject ID:
    #117333

    Subject Name:
    海から来た子供

    Registration Date:
    2007-03-08

    Precaution Level:
    Level 2


    Handling Instructions:
    対象#117333とホスト#117333は紐付けて管理し、両者が個別に行動することがないかを監視する必要があります。監視はカバーストーリー「親切な隣人」を適用した当局のエージェントが担当します。エージェントからの報告を受け、案件担当者は対象#117333及びホスト#117333に特異な点または異常の兆候が見られないかを確認してください。何らかの兆候が確認された場合、必要に応じて対象#117333及びホスト#117333を当局の管理下に置くことが許可されます。

    これまでに得られた情報から、対象#117333そのものに異常な点は見られないことが分かっています。対象#117333は一般的な携帯獣個体と同一の情報パターンを示し、精神感応や心理操作を使用している痕跡は認められていません。当局の定める倫理規定に基づき、何らかの特別な理由が見出されない限り、対象#117333へ危害を加えることは禁止されています。これは現地で活動するエージェント及び内勤の案件担当者双方に適用されます。ただし、例外規定が適用される場合はこの限りではありません。

    ホスト#117333は初期段階において心理的に不安定な情動を見せるケースが多々あります。現地で活動するエージェントは、ホスト#117333を監視しつつ、対象の心理状態がある程度安定したことを判断してから接触しなければなりません。また、ホスト#117333に対し不安定な情動を引き起こすような言動は控えてください。過去にホスト#117333を意図せず刺激したことにより、対象#117333より攻撃対象とみなされたケースが確認されています。

    現在管理対象となっている対象#117333とホスト#117333の組は、リストL-117333-1を参照してください。


    Subject Details:
    案件#117333は、ある条件を満たした人間の元に携帯獣の一種である「プルリル」(以下対象#117333)が出現する事象と、対象#117333と初めて接触した人間(ホスト#117333)が対象#117333に対して特異な情動を以って接する事象、及びそれらに係る一連の案件です。

    この案件と同一視される事案は、確認された最古のもので2001年8月頃に市民によって確認されています。当時は単発の事案として処理され、案件化されることはありませんでした。また、報告対象になった対象#117333及びホスト#117333についても記録は残されていません。その後、2006年末頃から2007年初頭にかけてほぼ同一の事案が複数報告されたことから、個別案件として管理することが決定されました。案件担当者と必要なリソースが割り当てられ、本格対応が開始されました。

    対象#117333は、後述するホスト#117333の前に現れる携帯獣の一種「プルリル」です。出現するプルリル個体はホスト#117333毎に異なり、対象#117333同士が特別にコミュニケーションを取っていたり相互に干渉するような様子は見られません。対象#117333は、ホスト#117333から特異な認知をされることを除けば一般的なプルリル個体と何ら差異は無く、単独での特異性は見られません。対象#117333は、ホスト#117333によって特異な認知をされることを以って当局の管理対象となっています。

    ホスト#117333は、対象#117333のプルリル個体を「自分の子供」と認識します。自身に対応する対象#117333以外のプルリル個体は、「携帯獣である」と正しく認識することができます。ホスト#117333は対象#117333のみを自分の子供であると認識し、その他のプルリル個体を誤認識することはありません。ただし例外的に、異なるホスト#117333に対応する対象#117333については「他人の子供」と認識します。ホスト#117333同士は対象#117333を特異な個体と認識するようで、互いのコミュニケーションに祖語を来すことはありません。

    ホスト#117333は対象#117333を積極的・献身的に養育し、すべてのケースで良好な関係を築いています。家族をはじめとする周囲の人物はホスト#117333が精神に異常を来したと認識し、医療機関の受診を推奨したり、或いは強制的に受診させようとするケースが多く見られます。多くの場合人間関係に支障をきたし、対象#117333との一対一での生活を強いられることになります。このため多くのホスト#117333は経済的に困窮しており、経済的な支援を持ち掛けることは当局のエージェントがホストへ接触するにあたって有効な手段となっています。

    これまでに確認されているホスト#117333はいずれも女性であり、直近半年以内に子供を流産した経験があることが確認されています。このことが対象#117333を「自分の子供」と認知する要因となっているとの仮説が提起されていますが、現時点では直接これらを結びつける証跡は見つかっていません。この仮説は現在も検証中です。


    [2017-05-12 Update]
    ホウエン地方ムロタウンにて、当局による観測開始から初となる男性のホスト#117333が確認されました。ホスト#117333-56に分類されたのは地元住民である八歳の少年であり、♀のプルリル個体と一致する風貌の対象#117333を帯同させています。支局長の近親者と交友関係があることを踏まえ、専任のエージェントが監視に割り当てられました。


    Supplementary Items:
    本案件に付帯するアイテムはありません。


      [No.1612] 五話「その目に光るものは何か」 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2017/10/13(Fri) 22:51:20     37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「今日の晩飯は何にしようかな」
    「……なあ、ケイ。少し聞きたいんだけど」
     ルナとの出会いと別れから数日たったある日。ケイはレアードの入っている部屋に馴染んでいた。部屋と言っても、ここはネットカフェ。二メートル四方の空間のうち、半分強を革張りのウレタンマットが占め、さらに靴を置くために一角が低くなっているために二人が座ればもう狭い。しかし、もう半分のスペースは引き出しの上にテーブルが敷いてあり、一段高い。そこに荷物を置けるので、圧迫感は狭さほど無い。
     そんな場所で、レアードはケイに一つ尋ねた。
    「お前さん、学校には行ってないのか? 平日でもぶらぶらしてるとこ見るし、初めて会った日も休日じゃなかっただろ?」
    「ああ、そのこと。俺は学校には通ってないよ。旅に出てポケモンリーグを目指すつもりだったんだけど、色々あってさ」
     ケイ、この話を始めた途端顔から笑みを隠せない。これにはレアードも困惑する。
    「なんで予定通りに進んでないのに嬉しそうなんだよ」
    「そりゃだって、俺が有名になる姿を想像しちゃうじゃないか。それにしても、どうしてまた今になってそんな?」
    「いやさ、さっき外で学生らしき集団がいたもんでね。どうやら卒業パーティーにでも行くみたいだったよ」
    「ふーん。ま、俺のことなら心配いらねえよ。ポケモンリーグにさえ行けばなんとかなるさ」
     そう言いながら、ケイは脳天気に食事のメニューを開く。そして壁にかけてある内線に手を取った。ネットカフェの個室にはホテルのそれと同様、フロントと連絡を取るための内線が用意してある。食事の注文もできるが、衛生上の理由から食事スペースに移動するか個室の扉を開けて食べなければならない。ケイ達の場合は、テーブルがいっぱいなので注文後に移動することとなる。
    「ん、あれは……」
     ふと、部屋の扉の隙間から、ケイの見覚えのある姿が垣間見えた。背中だけだが、グレーのパーカーを羽織り、色あせたジーンズのポケットに手を突っ込むその姿。それが食事スペースの方へ歩いていったのだ。ケイは一旦受話器を置き、追いかけていく。レアードもこれに続く。
    「おいセギノール、こんな所で何してるんだ?」
    「うわ! ケイ……と、そちらの方は?」
     パーカーを着ていたのは男、ケイに声をかけられて飛び上がった。状況を把握しかねるレアードは、例の如く話に入っていく。
    「お話の所申し訳ないが、お名前を教えてもらえるかな? 俺っちはレアード、旅のジャーナリストだ」
    「あ、はい。私はセギノールと申します。初めまして」
     セギノール、深々とお辞儀をした。視線が中々安定しない。口をモゴモゴさせてはいるがよく聞こえないので、代わりにケイが説明し始めた。
    「あー、悪いなレアード。こいついい歳してこんな話し方なんだ。大学生なんだけど、たまにここに立ち寄るんだ。それにしても、今日はまた何かあったの?」
    「えっと、いやあ……」
     セギノール、埒が明かない。と、ここでレアードが手をぽんと叩いた。
    「お、セギノール君って、もしかしてさっきすれ違った学生集団にいなかったか?」
    「え!? さ、さあ……?」
    「いや、隠さなくても良いだろう。ケイ、彼はもしかして?」
    「そう言えば、今年で卒業のはずだな。だったら尚の事分かんねえ、なんで1人なんだ?」
     ケイとレアード、両者の追求に、セギノールはあっさりと陥落した。とてもバツの悪そうな表情で頭をかきむしり、状況の説明を始めた。
    「……2人の予想通り、私はひとりぼっちなんです。自宅通いの私と下宿住まいの同期とではどうしても生活リズムも違いますし、なにより私自身がこの口下手。でも4年間でただの1人も友達ができてないなんて、家族に言えるわけもなく、ここに来たというわけです」
    「……それはまあ、何と言うか」
     レアード、思わず目を背けた。大学とは自由なものであるが、その分セギノールのような極端な例が生まれても不思議ではない。しかしいざそのような例に直面すれば、誰しも戸惑いを隠せないものなのだ。
     だが、この男は違った。何かアテがあるのか、それともこの現実を他人事と捉えているのか。ともかくケイは軽いノリでこう切り出した。
    「仕事かあ。それだったらさ、今から俺の家に来ないか? 晩飯も食べて行きなよ」
    「え、でも……」
    「……ええい! 若い者は人の厚意に甘えとけ! 歳下とかそんなことは気にせずに!」
     レアード、痺れを切らす。彼はケイに目で合図すると、そのままセギノールを引っ張り外に出るのであった。

    「……と、言うわけでして。こうしてお邪魔しております」
     しばらく後。3人の姿は別の場所にあった。どこかの家の食堂、年季の入った台所に特売のチラシが貼られた冷蔵庫。湯気を放つ炊飯器と鍋。鍋からは、粗挽きの大豆がほのかに香る味噌の匂い。今まさに、3人の食卓が開かれようとしていた。だが、今ここにいるのは4人である。4人目は、台所に立って背中を向けている。彼はセギノールの話に何度も頷いていた。
    「うんうん、わかるぞお。仕事が無いってのは、辛えものだからな。みんな外に出て働いてんのに自分だけ仕事探しの日々……そんな昔なじみを何人も見てきたよ」
    「へえ、じゃあ父さんに相談したのは正解だったな。何か良い案が出るかも」
     4人目に対し、ケイが「父さん」と呼んだ。つまり、ここはケイの自宅で、3人に食事を振る舞おうとする4人目の男こそ、ケイの父親なのである。ケイの言葉にレアードも同調する。
    「確かに、アキノブさんのご職業は弁護士だから、色んな人の事情を知ってるだろう。中には人手の足りない会社の話もあるかもね」
    「……今でこそ、働き口が無いと嘆かれて久しいが、それは旅に出て結果が伴わなかった者の話。町に残り、学を磨いた者には、今でも相応の職がある。口にせんだけでな」
     父・アキノブは茶碗に飯をよそい、鍋の味噌汁を人数分分け、テーブルに並べた。テーブル中央には漬物、納豆、卵と調味料が置かれている。いつでも食べられる状態が整った。
    「あるよ、仕事の話なら。だけどちょっと遅かった、昼間に1人紹介しちまってな。そいつと枠を取り合っても良いってのなら、明日にでも連絡しといてやるが……どうする?」
    「……ぼ、僕は……」
     セギノール、しばし言葉が詰まる。食卓にいくばくかの沈黙が流れた後、小さい声が絞り出された。
    「……ます」
    「ん?」
    「僕にその会社、紹介してください。やります」
    「……あいわかった! それじゃ、辛気臭い話は終わりにして飯にしよう! 終わったら順に風呂に入ってくれよ!」
     アキノブ、セギノールの返答を聞くやいなや合掌。すかさずケイもこれに続いた。セギノールとレアードは一瞬状況が掴めなかったが、共に真似して手を合わせる。
    「はい、いただきます!」
     さあアキノブの号令とともに戦場の火蓋は切って落とされた。食卓にある食べ物という食べ物は奪い合いである。勝手を知るアキノブ・ケイ親子は速攻で卵を手に取り器に割り、更に納豆も投入して混ぜる。程よく混ざった所で醤油を適量垂らして2,3周。熱々の白飯にかけ、がっついた。白身と黄身と、そして納豆白米と。織りなす味、食感、喉越し、全てがパーフェクトな上に栄養価も高い。ここに味噌汁と漬物が脇を固めるため最強である。レアードとセギノールも負けじと冷えた空腹の体に温かい食事を取り込む。温かい食事はそれだけでご馳走と、どこかの島では言われるそうだが、それは真実なのだろう。セギノールの目からは薄っすらと光るものが流れていた。


      [No.1611] #143408「だいふくテレビジョン」 投稿者:   《URL》   投稿日:2017/10/01(Sun) 21:49:34     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Subject ID:
    #143408

    Subject Name:
    だいふくテレビジョン

    Registration Date:
    2015-06-12

    Precaution Level:
    Level 4


    Handling Instructions:
    全国のインターネットサービスプロバイダに対し、Webサイト#143408へのアクセスを遮断するための設定を導入するよう定期的に通知してください。アクセス遮断の設定は不明なタイミングで解除されることが分かっており、Webサイト#143408からの映像#143408が流出する原因となっています。案件担当者はインターネットサービスプロバイダから提供されるアクセスログを監査し、Webサイト#143408へアクセスした市民がいないかを確認してください。アクセスしたことが確認できた場合、必要に応じて利用者へ日案リングを実施することが認められています。

    確認された映像#143408はナンバリングの上オリジナルのファイルを取得し、当局の定める標準アルゴリズムに基づいて暗号化したうえで案件別サーバの専用ディレクトリへ保管してください。保管した映像#143408には、取得日時/記録時間/撮影日時/撮影されたオブジェクト#143408/その他特記事項を記載したサマリを付与します。映像#143408そのものに情報災害の特性は含まれていないことが確認されていますが、調査目的で視聴する場合は情報災害遮断フィルタを組み込んだ閲覧専用デバイスを使用する必要があります。

    オブジェクト#143408は例外なく回収の対象となり、回収後はジョウト地方エンジュシティ第四支局へ移送しなければなりません。ジョウト地方エンジュシティ第四支局の局員は移送されたオブジェクト#143408を中異常性物品保管庫のブロックCへ移動し、オブジェクト#143408の種別ごとに分類の上サンプルを保管してください。既にサンプルが存在するオブジェクト#143408であり、かつ個体ごとの特性が確認できない場合、手順M-143408-2に沿って焼却処分します。焼却後のオブジェクト#143408は低異常性廃棄物として取り扱う必要があります。

    Webサイト#143408を閉鎖するための試みを続けてください。これまで再三にわたってWebサイト#143408へのアクセスを遮断したにもかかわらず、Webサイト#143408を完全に閉鎖させることはできていません。このことから、Webサイト#143408そのものにも何らかの異常性があるとの見方が示されています。Webサイト#143408へのアクセスを封じ込めるとともに、Webサイト#143408の性質について調査を続けてください。

    上述したすべてのオブジェクトに関与していると見られるWebサイト#143408の管理者である対象#143408について、コンタクトをとるための試みが続けられています。案件担当者が対象#143408へのコンタクトに成功した場合、本案件について詳細なヒアリングを行ってください。


    Subject Details:
    案件#143408は、インターネット上に開設された特異なWebサイト(Webサイト#143408)、Webサイト#143408にて放送される映像(映像#143408)、映像#143408にて「レビュー」される異常な物品(オブジェクト#143408)、映像#143408に登場する未知の人物(対象#143408)、及びそれらに係る一連の案件です。

    2015年4月下旬、当局が設けているインターネットからの窓口に「不審な物品を紹介している動画サイトがある」との通報が寄せられました。通報者が提示したアドレスから局員がWebサイト#143408へアクセスし、記載された内容とほぼ一致する異常な物品を紹介するビデオが多数確認されたことから、得られた情報を取りまとめて案件立ち上げを申請、三日後に立ち上げが承認されました。現在は五人の副担当者が本案件に携わっています。

    Webサイト#143408は、動画投稿サイトの「YouTube」に設けられたチャンネルのひとつです。チャンネルは「だいふくテレビジョン(Dai-Fuku Television)」なる名称で呼称され、2009年6月に設立されたことが分かっています。しかしながら設立後長らく動画投稿はなされておらず、確認された最古の映像は2014年11月27日に投稿されたものです。チャンネル購読者数(サブスクライバー)は本校執筆時点で165,189人であり、当局の度重なる妨害措置にも関わらず、現在も購読者数は増え続けています。YouTubeを所有するGoogle Inc.から提供された情報によると、Webサイト#143408の購読者は2015年2月を境に急激に増加しているとのことです。これはWebサイト#143408が映像を掲載し始めた時期とほぼ重なる形となります。

    投稿されている映像#143408は、いずれも「商品のレビュー」という体裁をとっています。これは数年前からYouTube内で数多く投稿されている動画のスタイルと合致します。一般的なレビュー動画と異なる点は、映像#143408でレビューされるものが、例外なく何らかの特異性を持つ物品のみとなっていることです。一般的な物品、あるいは非異常性の物品がこれまでにレビュー対象として選ばれた事例は確認されていません。

    映像#143408でレビューされる異常な物品を、当局ではオブジェクト#143408と総称しています。オブジェクト#143408はそれ自体が異常性を持つ物品か、非異常性の物品であると判断されるケースでもその実在が確認されていません。映像#143408はオブジェクト#143408について概ね5分程度の時間を使い、概要の説明/物品使用の実演/評価という一連の流れに沿ってレビューすることが様式化しています。これは一般的な非異常性物品のレビュー動画の体裁に類似したものです。

    以下はこれまでに確認されたオブジェクト#143408の抜粋です。


    [オブジェクト#143408-11]
    映像#143408のタイトルは「ビリリダマ型モンスターボールを使ってみた!」。名称の通り携帯獣の「ビリリダマ」の外見をしたモンスターボールであり、投擲した携帯獣に対し電気ショックを与えて弱体化させてから捕獲プロセスに入る特性を持つ。このような商品が製造・市販された記録は存在しない。

    [オブジェクト#143408-18]
    映像#143408のタイトルは「フリーザーの冷凍唐揚げを食べてみた!」。希少な携帯獣である「フリーザー」の肉を食品に加工して唐揚げとして調理したものとのこと。動画内で投稿者は「肉がパサパサしているが、五十年間保存できるのはポイントが高い」と評価している。

    [オブジェクト#143408-23]
    映像#143408のタイトルは「フシギダネの種を育ててみた結果……」。一般的な植物の種子に見えるが、生育すると携帯獣の「フシギダネ」が果実として大量に出現するというもの。投稿者は「フシギダネがたくさん欲しい人におススメ」とのコメントを残している。

    [オブジェクト#143408-26]
    映像#143408のタイトルは「新型自撮り棒を買ってきた!」。スマートフォンに装着して使用するセルフィースティックだが、撮影された対象が携帯獣として写真に登場するという異常性を持つ。当局にて案件#142453として立ち上げ・管理されている製品がオブジェクト#143408-26と一致することが判明、得られた情報を案件#142453の担当チームへ連携した。


    映像#143408に登場する人物は、動画投稿者である対象#143408と指定されています。外見上特徴のない二十代後半の男性と見られていますが、これまでの調査では対象#143408に該当する人物は発見されておらず、対象#143408を特定するための情報も得られていない状態です。現在の案件対応方針は、対象#143408を特定することに焦点が置かれています。


    Supplementary Items:
    本案件に付帯するアイテムはありません。


      [No.1610] あとがき 投稿者:イケズキ   《URL》   投稿日:2017/09/26(Tue) 19:18:48     42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    例えばの話をしよう。
     一つの夢を追い続けて、やっとの事で叶えられた者がいたとする。それは幸せなことだろうか? ホントに手放しで喜べることなのだろうか? ちょっと穿った見方をしてみれば、夢を叶えることは、追っていられる夢を失うということだ。それは悲しいことではないのか?
     もしもそんな疑問を抱く日が来たら、あなたの今までを振り返ってみるといいだろう。
     夢を失った「その先」を生きるに必要なヒントがきっと過去にある。過去こそが「その先」の世界を広げる糧となるのだ。
     これはそんな日がきたらという、例えばの話。


      [No.1609] 12 投稿者:イケズキ   投稿日:2017/09/26(Tue) 19:18:39     33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     目が覚めるとあたりはすでに真っ暗だった。体のあちこちが痛い。立ち上がろうとしたらよろめいて転んでしまった。それでも何とか立ち上がり部屋の明かりのコードを引っ張った。
     天井に先のちぎれたロープがぶら下がっていた。何でもいいやと思って用意したロープは結局私を死に至らしめる前に切れてしまったらしい。首に巻きついたままのロープを外したら絞められた時の傷跡がひどく痛んだ。
     自殺に失敗した今、改めて行動を起こす気にはとてもなれなかった。しばらくぼーっとした後、何となくテレビをつけてみた。チャンネルを切り替えていると昔好きだったアニメの再放送がやっていたのでそこでリモコンを置いた。画面の中では4人の少年少女が次の街へ向かい旅をしていた。
     意識を失いかけていた時、確かに誰かの声がした。ドアの鍵は閉めているし誰かが入ってきたとは考えにくかった。それにあの言葉……
     ――振り向け。
     聞き間違いじゃない。確かに声はそう叫んでいた。しかし『振り向け』とはどういう意味だろう。
     何となく後ろを振り向こうとすると、また首の傷跡が痛み出す。思わず怯んでしまったが、なんとか声のした方向を振り返ることに成功した。
     しかしそこにはいつもの廊下しかない。汚い、ゴミの散乱したいつもの家の廊下。ところがさらにその先を見るとあることに気づいた。ドアポストに何か入っている。
     ロープから落下した時にどうやら足を挫いてしまったらしい。立ち上がる以上に歩くのは困難だった。のろのろと時間をかけてようやっとドアポストの前にたどり着くとカバーをあけ中身を取り出した。
     一つはいつもの広告チラシ。また新築物件の案内だ。どうして私が今の住居に不満を持っていると思うのだろう。
     もう一つは電気代の請求書。知らない間に死んでしまっていたらよかったものの、今や心残りになってしまった。
     もう一つは母からの封筒であった。珍しい。年賀はがき以外で手紙なんかもらった事無いのに。
     残り二枚を真っ赤な机の上に放り投げ、私はテレビの前に座り封筒を開けた。中身は3枚の手紙で、内一枚は一筆箋に母の字でこう書かれてあった。
    『お元気ですか。面白いもの見つけたので送ります。大人になったら渡してくれって言われていたのをすっかり忘れていました。またこっちにも帰ってきてください 母より』
     もう二枚はずっと汚い字でさらに文章もヘタクソでとても読みづらかったが、どうやら私が子供のときに書いたものらしい。言われてみればこんな手紙を書いた気もするが、どうにも内容は思い出せなかった。

     一枚目の中身はいかにも幼き日の私といった内容だった。チャンピオンになって優雅な生活を送ることを夢見ている。達成した今となってはむなしい事このうえない。そして私は二枚目をめくった。内容は一枚目の半分程度だったが、私はその読みにくい文章を何度も何度も読み返した。

    『それでチャンピオンになったらこんどはポケモンマスターになるんだ。母さんはポケモンマスターなんてもの無いって、チャンピオン以上のトレーナーなんて無いっていってたけど、言ってたけどそうじゃないんだ。カントーだけで一番になってもそんなのまだまだ足りないんだ。ジョウトでも、ホウエンでも、シンオウでも、イッシュでも、カロスでも、とにかくどんな地方のどんなトレーナーより強い、トレーナーになるんだ。一度チャンピオンになるだけでもだめなんだ。それから先にあらわれる、名前も声もしらないどんな奴にも負けないんだ。それがポケモンマスターで、オレの夢だから、ずっといつまでもがんばるんだ』

     「ポケモンマスター」なんて言葉もう随分と忘れていた。昔はよく周囲の人間に夢の話をしては「そんなもの無い」と言われムキになっていたっけ。過去を振り返ることが無ければ本来二度と思い出すことの無かった言葉。手紙から顔を上げると首を吊った時のロープが転がっているのが見えた。じっと見ているうちに胸の奥から何だか熱いものがこみ上げてくるのを感じていた。
     ――生きていて良かった……
     私の夢は達成されたと思っていた。だがそうじゃなかった。追い続けるべき夢がまだここにあったのだ。
     なんだか私は色々なことを振り返りたい気分になっていた。チャンピオンになった時のこと、旅に出ている時のこと、旅に出る前のこと……。ふと気づいたら、テレビ画面の中はいつもの悪役三人組が空の彼方へ吹き飛ばされる佳境に入っていた。
     悪役たちとは裏腹に私はなんだかとっても良い気分だった。それは私がこれまでの人生で確実に残してきたものがあるという事実と、この先を生き続ける理由に気づけた安堵からであった。
     テレビ画面の中の物語は終盤を迎えていた。奪われた物は取り返され、悪役たちは去り、再び彼らの旅が続いていく。本編を見終えた私は少し寂しさを感じつつも電源を切ろうと再びリモコンへと手を伸ばした――が、ふと流れてきたエンディングテーマが気になり動きを止めた。
     
    『振り向いてごらん 君のつけた道が
     顔を上げてごらん 未来を創るよ』

     子供のころに聞いたはずの言葉が、なぜだかとても新鮮なものに感じた。
     ――子供向けアニメにしてはなかなか面白いこと言うじゃないか
     曲を聴き終える頃には私の中で決意が固まっていた。私の旅が「その先」へ向かい、続いていく。


      [No.1608] 11 投稿者:イケズキ   投稿日:2017/09/26(Tue) 19:18:30     36clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     地べたに座り込み、汚れたビルの壁にもたれかかって私は身動ぎもせずにいた。どれ程の時間が経ったか分からないがすでにもがく体力も無かった。
     ディアルガは自らが与えた時間を蔑ろにした私を決して許さない。生きていた頃には時間の価値なんて考えたことも無かった。価値があると思える楽しい時間、嬉しい時間もあったが、苦しい辛い時間もたくさんあった。でも今なら全て時間あってこそのものだっただと分かる。私はとても大切なものを捨ててしまった。
     あれからしばらく経つがディアルガが再び現れる様子はない。きっともう二度と会う事はないのだろう、そんな予感がしていた。私を後悔のどん底に突き落としもがき苦しませることが目的だったらしいし、今でもこの憔悴しきった私をどこからか見て笑っているのかもしれない。私は空を仰いでみた。
     自殺を神が許さない以上、死んだ私にできることはもう無い。それはさっきの会話でよく分かった。暮れかかった空がヤマブキの高層ビルによって直線的に区切られている。澄んでいく都会の空気が頭を冷やした。
     ―−まだだ、まだ手はあるぞ。
     神が全てを見通していると思っていた私に、ディアルガは自分を買いかぶりすぎだと言った。未来は神にすらも分からないと。ディアルガの目的が達成された今、これから私のすることまで果たして洞察しているだろうか。意気消沈したまま気が触れていくだけだと思っているのではないか。
     −−そんなことにはならない……!
     私の中にある一つのひらめきが浮かんでいた。

     私は今、夜も更けた高層ビルの天辺、一歩踏み出せば真っ逆さまという所に立っている。この姿もどこかでディアルガは見ているのかもしれない。奴の目には絶望のあげく気の触れた男が、精神病患者の自傷癖さながら、悪戯に身を傷つけているように見えるのだろうか。
     −−我が家のことを振り返って見てください。
     若き日の母の手紙の文面を思い出す。生きていた頃にはちっとも振り返ってあげなかった。私が旅立ち一人きりになった後、彼女はどんな思いで毎日を過ごしていただろう。果たして帰ってくるかも知れない父の寝巻きを大切にしまっていたように、私のこともいつか帰ってくることを望んでくれていたのだろうか。思えばこの上なく不孝な息子であったし、非道い夫だった。なのに彼女は自分ひとりを置いて夢を追いかける私や父を、それでもずっと応援してくれていた。
     これから私は後ろを振り返り続ける。だが、この一歩は終わりではない。「その先」へ向かう未来への一歩となるのだ。

     それから私は何度も何度も自殺を繰り返した。自死を繰り返すうち、私は徐々に理性を保てなくなっていった。私が死ぬ度に私は見覚えのある自分の過去を振り返り続けた。それらをまざまざと見せつけられることで私の心は千本の針山に串刺しにされ、釜茹での灼熱にあてられ爛れ壊れていった。
     もう何のために死ななければならないのかも思い出せない。新しい過去で気が付くたびに、さながら壊れた機械人形のように自殺を図り続けた。
     私を突き動かしたのは理性でも目的でもなく、ただただ執念だけであった。
     あの時の自分に“たった一言”伝えたいことがある――。

     何度も見てきた暗闇から目が覚めるとそこは狭いアパートの一室であるようだった。玄関に立ち廊下の向こうから西日が差し込んでいるのが見える。私は何も考えず次の自殺を図るため辺りを見渡した。すると西日の前に何やらぶら下がっており私の顔にちらちらと影を落としているのに気づいた。
     次の瞬間、私は全てを思い出す前に駆け出していた。今まさに目の前で死のうとしている「私」へと向かって――
     この段になってようやっと神が私の企みに気づいたようだ。駆け出そうとした足から消滅していくのを感じた。「無」となりかけているのだ。
     あと一秒も時間はいらない。たった一言だけ、一言――

    「振り返れ!!」
     後姿の「私」に向かい絶叫した。
     過去の私は、未来の「私」に夢を託し、世界から消えた。


      [No.1607] 10 投稿者:イケズキ   投稿日:2017/09/26(Tue) 19:18:22     37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     その日の夕方、例の路地裏に着くとそこにはすでにディアルガの姿があった。
    「おぉチャンピオン! ここまで来てくれてよかった。もしやしたら家族の歓迎に耐え切れず、また命を絶つのでは無いかとひやひやしたぞ」
     さも嬉しそうな声で言った。
    「白々しい。分かってたんだろ。そんなことしないって」
    「かいかぶりすぎだ。未来なんぞ誰にも分からん。神ですらな……まぁお前らより多少洞察には自信があるがな」
     ディアルガの声の調子がずいぶん弾んでいる。よほど私がここに来たことが嬉しいらしい。
    「じゃあ、その洞察力で今から私がお前に頼むことも予想できてるんだろ」焦る気持ちを必死でこらえ話を続けた。
    「うんうん、分かっているとも! お前を“無”とし、今すぐここから消してやろう」
    「違う!! 私を生き返らせてくれ!」
     私は思わず叫んだ。ディアルガは私がそれを望まないことを分かっていたはずだ。つくづく酷い神様だと思う。
     ディアルガは私の叫びを聞いて笑っていた。一頻り笑い続け、話し始めた。
    「あの手紙を読んだのだな。安易に命を絶ったお前がするべきだったことをやっと思い出したのだな」
    「そうだ……。私の夢は達成されたと思っていた。夢を叶えたらもうその先を生きる価値なんてないと……。でも、そうじゃなかった。私の夢はまだ続きがあったんだ」
     噛み締めるようにゆっくりと私は話していた。
     しばらくの間、ディアルガは何も言わなかった。じっと私を見下ろしている。
    「私は父上から力を賜り、世界の時の流れを作っている。時の流れは平等かつ普遍的なものである。笑っている、泣いている者、路傍の石にも同じ時が与えられている。だが勘違いするなよ。“時間”とは私の慈悲であり、父上の奇跡だ。その価値は到底お前の夢一つと天秤にかけられるものではない」
     唐突にディアルガは話し出した。私は話の脈絡が捉えられず少し混乱した。
    「これでお前に説明するのは三度目になるな、チャンピオン。ここはお前にとっての地獄だ。お前はその身勝手な理由で時の流れを拒絶した罪をここで晴らさねばならぬ」
     ディアルガは冷たく言い放った。私はようやく言葉の意味を理解した。
    「頼む……お願いだから……」
    「これもさっき話したことだが、お前はもう死んだのだ。この地獄にとどまるか、“無”となる他はない」
    「嘘だ!! なぁディアルガ、お前は神様なんだろ? だったら何でも出来るはずだ。もう一度、私に時間をくれよ!」
    「くどいぞチャンピオン! 時の流れに二度は無い。あったとしても決してお前には与えない。罰を受け入れよ」
     最後にディアルガはそれだけ言い消えた。路地裏に一人取り残された私は後悔の炎に身を焦がされていた。
     あぁ、私はなんと取り返しの着かないことをしてしまったのか。悔やんでも悔やみきれない。
     −−どうしたらいい?
     −−どうしようもない
     −−どうにかしたい!
     −−もうおそい
     −−何か、何か……
     −−何も無い。
     繰り返される自問自答。事実を受け入れられない。やり場の無い感情が体の中を暴れ回り、私は地面をのた打ち回った。頭が割れるように痛む。誰か、助けて……。
     地獄の苦しみに獣のうなり声を上げる罪人が一人。
     


      [No.1606] 9 投稿者:イケズキ   投稿日:2017/09/26(Tue) 19:18:14     42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     翌朝までのことは良く覚えていない。手紙の二枚目を読んだ後、私は“大切なこと”を思い出し、興奮やら焦りやらでしばらくとても眠ることが出来なかった。母が早出の仕事に出て行く音でようやっと少しは眠れていたことが分かった。子供の「私」はまだ寝ている。
     まだ起きるには早いと思ったが、これ以上寝られそうも無いのでのそのそ布団から出ることにした。布団の上に立ち上がりせめてたたんでおこうとすると、枕元に一枚の紙が置かれてあるのに気づいた。
    『おはようございます。見送りの挨拶もできないですいません。キッチンのところに朝ごはん作っておきました。昨日のカレーもあります、よければ食べてください』
     キッチンの方を見やると炊飯器とラップのかけられた皿がおかれてあった。となりのコンロにある鍋にはカレーが入っている。
    『昨日は変な話してごめんなさい。さらに遠慮無しで悪いのですが、もう少し変な話の続きをここに書かせてください。宿賃と思って読んでくれたら幸いです。
     実を言うと、我が家は旅の方を泊めるのは禁止していたのです。ご存知かとは思いますが、あの強盗殺人事件以来、うちにも小さい子がいますので怖くなってしまって。それなのになぜ今回あなたのこと(お名前すら伺っておりませんでしたね……)を家に招くと決めたのかというと、実を言うとはっきりした理由はないのです。ただあなたの顔を初めて見たときまるで主人が帰ってきたのか思ってしまったのです(不躾なことで申し訳ありません。他意は無いのです。深く捉えないで下さい)。だからという訳でもないのですが、あの子も何かあなたには特別な興味を抱いているようで、どうしても追い返す気になれなかったのです。
     昨日はあんなこと言いましたが結局のところ私自身が、叶えた先の見えない夢を追う方々を応援したいと思っているのかもしれません。もしもこれから先困難や挫折、夢のその先に迷うことがあれば、我が家のことを振り返って見てください。何も出来ませんがずっと応援しています』
     手紙を読みきり私は身を切り裂かれたような気分だった。母も子供の「私」同様に私に対して何かつながりを感じていたのだ。圧倒的理性でもって息子ではないと理解しつつ、それでも私をここまでの言葉を尽くし応援してくれている。こんなに幸せなことが果たしてあるだろうか。
     私は心の中で一つの決意を固めていた。今晩、あの酷い神様に何としても一つの願いを聞き入れてもらう。絶対に、もう一度チャンスを――。


      [No.1605] #144124 「キテルグマ大量発生中」 投稿者:   《URL》   投稿日:2017/08/29(Tue) 19:09:31     31clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Subject ID:
    #144124

    Subject Name:
    キテルグマ大量発生中

    Registration Date:
    2015-09-03

    Precaution Level:
    Level 2


    Handling Instructions:
    案件担当者はイベント#144124に関する証言や記述を収集し、イベント#144124が確認された時期及び場所を記録してください。得られた情報は案件別サーバの専用ディレクトリに暗号化の上保管します。可能であれば、イベント#144124が実際に発生していることを確認してください。これまでのところ、イベント#144124に関連して何らかの事件/事案が発生したという記録は存在しませんが、イベント#144124の性質を鑑みて、当局として今後も観測を続ける必要があると判断しています。

    イベント#144124に出現する携帯獣#144124もしくは携帯獣#144124を模した存在(対象#144124と総称)について調査を続けてください。写真や動画の解析結果から、対象#144124は実在する携帯獣#144124と異なる性質を持つと推測されていますが、現段階では仮説の域を出ていません。案件担当者は対象#144124に対して接触を試み、性質についての解明を進めてください。


    Subject Details:
    案件#144124は、実際に発生しているのかが定かではない異常なイベント(イベント#144124)とそこに登場するある携帯獣(携帯獣#144124)または携帯獣#144124を模した存在(携帯獣#144124を内包する形で対象#144124と総称)、及びそれらに係る一連の案件です。

    イベント#144124の存在を当局が把握したのは、2015年8月上旬頃のことです。当局がインターネットサイトに設けているフォームから「キテルグマが都心に集まっている」との通報が寄せられました。通報者は証跡として、携帯獣の「キテルグマ」と見られる存在が都心部の公園に集結している様子を撮影した写真を併せてアップロードしていました。通報を受けた局員が最寄りの支局へ緊急連絡を行い、機動部隊の即時展開を視野に入れた対応体制が確保されましたが、写真が撮影されたと思しき地点にキテルグマらしき存在の姿はありませんでした。市民からのヒアリングでもキテルグマらしき存在についての情報を得ることはできず、二時間後に体制は解除されました。通報者から追加のヒアリングを行おうと局員がコンタクトを試みましたが、発信元を突き止めることはできませんでした。投稿記録からは、現在使われていないIPアドレスからの投稿であったことのみが判明しています。

    これと時期を前後して、ソーシャルネットワークサイトのトラフィック監視をしていた局員が「大量のキテルグマが商業施設内を歩き回っている」写真を発見し、当該写真が多くのユーザによって拡散されていることを観測しました。局員は商業施設からほど近い支局へ概要を取りまとめて通報を行いましたが、商業施設内を巡回していた局員からは「キテルグマらしき存在の姿はまったく見当たらない」との報告を受けました。その後当該写真を含む記事が次々に消失し、最終的にトラフィックが計測できなくなるレベルまで情報量が低減しました。

    以上の2事案が同時に発生した状況を鑑み、前者の対応に当たった局員によって案件の立ち上げが提起され、翌日裁定委員会は立ち上げを承認しました。

    イベント#144124は、公園や商業施設、或いはバスターミナルなどの人の往来が多い場所において、携帯獣の「キテルグマ」らしき存在(対象#144124)が大量に(最少のケースで21体)集合した様子が観測される事象です。得られた証跡からは、対象#144124は通りがかった市民と握手をしている様子や、列を形成して歩いている様子などが確認されています。これまでのところ、対象#144124が市民や携帯獣に危害を加えるような様子は確認されていません。また近隣のポケモンセンターや警察当局への照会においても、対象#144124に危害を加えられたという通報が寄せられた事例は確認されていません。

    イベント#144124の特徴として、イベント#144124を実際に視認/目撃したという事例が確認されていない点が挙げられます。イベント#144124はインターネットサイトへの写真または動画のアップロードという形でのみ顕在化し、直接確認された事例は存在しません。また、一度写真や画像がアップロードされると、無数の自動化されたアカウントによりそれらが広範囲に渡って拡散されるという追加の事象が確認されています。これまでのところ、大本の写真または動画をアップロードしたアカウントの追跡はすべて失敗に終わっており、源流を突き止めることはできていません。

    以下は、過去に確認された、または後の検証でイベント#144124と認められた実例の抜粋です:


    イベント#144124-1:
    2015-08-10発生。カントー地方タマムシシティ東部の公園に出現、多くの市民と交流している様子を撮影した写真がソーシャルネットワークサイト「Twitter」にアップロードされた。撮影された写真には少なくとも27体の対象#144124が存在している。写真に映り込んでいた市民のうち数名は実在し、当局のヒアリングにも応じたものの、当該時間帯にキテルグマまたはそれらに類するポケモンと接触した事実はないことが確認された。

    イベント#144124-2:
    2015-08-10発生。カントー地方クチバシティ南部の商業施設内に出現。市民が両脇に並んで道を作り、その中央を計34体の対象#144124が整列して歩いている様子が撮影されている。写真はソーシャルネットワークサイト「Instagram」にアップロードされたが、当該アカウントは写真のアップロードから二時間後に消失。それ以前のポストも確認されていない。このことから、イベント#144124の情報を拡散することのみを目的としたアカウントであると推定されている。

    イベント#144124-3:
    2014-12-24発生。ホウエン地方キンセツシティの商業施設に出現。サンタクロースまたは携帯獣の「デリバード」のいずれかを模した風貌の対象#144124が、市民に詳細不明の箱を手渡している様子が動画で撮影されている。案件立ち上げに伴う過去事例の検証過程でイベント#144124に分類されたもの。動画投稿者へのコンタクトは失敗。動画に撮影されていた市民にヒアリングを試みたが、イベント#144124-1でのヒアリング結果と同様、当該時間帯にキテルグマまたはそれらに類するポケモンと接触した事実はないことが確認された。


    イベント#144124については動画または写真でその存在が確認されるのみで、実際に発生している事象なのかは判断が分かれています。現在の案件対応方針は、イベント#144124が実際に発生していることを前提として策定されています。


    Supplementary Items:
    本案件に付帯するアイテムはありません。


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