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初めまして、あつあつおでんです。プロローグ、読ませていただきました。そこで少し気になった部分をいくつか挙げておきます。これからの作品に活かしてもらえれば幸いです。
・誰が何を言っているかわからない
(特に序盤は)描写が足りないと誰のセリフか混乱します。自分ではわかっていても読者がわかっているとは限りません。最低でも「誰が何を話した」について書くことをオススメします。
・最低限の文章作法
会話文のあとは改行する。空白をあけるのは「!」や「?」で終わった時だけ。かぎ括弧内の最後の文に「。」は使わない。他の作者さんの作品を参考に勉強してください。
ストーリーは面白そうなので、期待してます。頑張ってください。
ここは、マサラタウン。
この街で、三つの物語が始まろうとしていた―――――
「ごめんな。ナオキ、ユーカ。二人の出発遅らせちまって。」
「いいのよ。ユーヤは気にしなくて。」
「三人一緒って、前から決めてたじゃないか。」
ここは、オーキド研究所。ポケモン研究の世界的権威、オーキド ユキナリ博士が日夜、ポケモン研究に 励んでいる『あの』研究所だ。
そして今日は、3月19日。とある少年の誕生日で、三人のトレーナーが旅立つ、記念すべき日だ。
「君たち、ほかの子たちに随分遅れをとっとるが、だいじょうぶかの?」
「心配すんなって、博士。俺がちゃちゃーっとチャンピオンになって、皆を驚かせてやるぜ!」
「は!?チャンピオンになるのはあたしよ!」
「俺だ!」 「あたしよ!」
睨み合っている二人を尻目に、オーキドは会話に参加していないナオキに目をやる。
彼の瞳からは、確かな決意が見えた。
「そんなことで睨み合ってないで、こっちに来なさい。」
「なにそれ?ポケモン?」 すかさずユーカがたずねる。
「そうじゃ。ここに三つのモンスターボールがある。それぞれ、ピカチュウ、イーブイ、ポッポが入っておる。」 そういって、ボールからポケモンをだす。
「イーブイか・・・・よく残ってたな。」 ナオキの指摘。それに対してオーキドは、
「ま、まあ良いじゃないか。偶然じゃろ。偶然」 明らかに何か隠している様子。
「残しておいてくれたんだろ?」 と、またナオキの鋭い指摘。 「うっ・・・そうじゃよ。」
そんな話など聞いてないユーカは、「いっせーのーせできめましょ。」と提案。
「いいぜ」 「ああ」 「本当にそんなのでいいのかの?」
「いっせーのぉーでっ!!」 三人が、それぞれポケモンを指さす。
ユーヤは、ピカチュウを。 ナオキは、イーブイを。 ユーカは、ポッポを。選んだ。
なんと、三人が選んだポケモンは、被らなかったのだ。オーキドはそのことに驚きながらも、
「そのポケモンで、良いんじゃな?」 「「「はいっ!!」」」
ここは、マサラタウン。 今日は、3月19日。 物語が、始まる。
はじめまして。葵です。
ちょっと壮大(?)なストーリーを載せたいと思います。
「真」ってのは、かっこよさを出すためのものです。 「真の物語」 みたいなスゲェもんじゃないです。
こういうのは初めて書くので、間違いがあれば、ご指摘よろしくおねがいします。
この作品には、 【描いてもいいのよ】 【批評していいのよ】 が、つきます。
あれはまだ父さんがオダマキ博士ではなく、オダマキ教授と呼ばれる方が多かった時か。
ミナモシティにある大学で、父さんは海のポケモンについて研究していたし、講義もしていた。本当はいけなかったのだけど、母さんが仕事で遅くなるような時は学校の方に連れてきてくれた。小さな子供は嫌がられたけれど、家庭の事情なら仕方ないと、大目に見てくれた。
そこで会ったのが、海洋研究のクスノキ教授、そして同じく海洋研究していたササガヤ教授。特にササガヤ教授の方は父さんと同じような家庭環境で、よく子供を連れてきていた。それがハルカ、そうハルちゃん。大人しくしていろと言われてたから、走り回るなんてことはしなかったけれど、邪魔にならないところで、よく二人で遊んでいた。
その大学の建物からは、よく海が見えた。綺麗な透き通るような蒼の海。夏は窓を開けて潮風を研究室に入れたり、危ないと言われていたけれど身を乗り出したり。それで一度落ちかけて大人全員に怒られたのも思い出だ。
俺はそこから見える景色が好きだった。野生のポケモンが飛んでいったり、運のいいときはホエルオーが遠くに見えたり。特に大学の夏休みを利用した研究日は絶好のチャンスだった。朝から夜まで光がうつっていく海が見られる。東の空と海の間から見えてくる明るい光、そしてオレンジ色の夕日に染まった金色の海。その不思議をしきりにクスノキ教授とササガヤ教授に聞いても、二人はうんざりともせず答えてくれた。その後、いつも父さんは邪魔するなとしか言わなかったけれど。
いつものようにハルちゃんと遊ぼうとしてササガヤ教授のところに行くと、見た事もないような真剣な顔をしてクスノキ教授と話していた。子供心ながら聞いてはいけないんだと思った。けれどこちらに気づいたササガヤ教授は、いつものように笑ってハルちゃんを呼んだ。別の部屋で、アイスを食べてたハルちゃん。さーくんの分だと一個くれた。お父さんが買ってくれたのだと。この時は何とも思わなかった。ハルちゃんはいつもお気に入りの本を読んでいるか、絵を描いてたりするかのどちらかだったのだ。
そこで二人で遊んでいた。そして、そこにクスノキ教授が来たのだ。
「さーくん、ハルちゃん。いい子だね。大きくなっても、正しいことは忘れちゃいけないよ」
そういって俺とハルちゃんに言う。何を言われてるのか解らないけど、とりあえず返事をする。今思えば、クスノキ教授にしても頭を悩ませていたに違いない。
「私は授業だから、お父さんたちによろしくね」
授業を終えたら帰る。クスノキ教授のいつもの予定だ。そしてササガヤ教授が研究室の戸締まりをして、夜の9時に帰る。ごく普通の、いつものこと。何の疑問も持たずに俺は食べ終わったゴミを捨てた。
夏の潮風は気持ちいい。冷房がいらないくらい。いつものように開いてる窓から、波の音、ポケモンの鳴き声が聞こえる。何のポケモンなのかクイズをハルちゃんとやっていると、ササガヤ教授が来て答えを言ってしまったのだ。
「あれは、アブソルだね」
「あぶそる?」
「そうだよ。さーくんのお父さんのが詳しいけれど、災いポケモンって言われてるんだ。何か大きな災害があると姿を見せるっていうんだよ。それで昔は不幸の使者って言われてるけれどね。ほら、あれあれ」
ササガヤ教授が窓の下を指す。見えたのは器用に木に登り、こちらを見て鳴いている白い毛並みを持った黒い鎌。
「かわいい!」
「かっこいい!」
ハルちゃんと俺がほとんど同じタイミングで叫ぶ。プラス方面に思われたのが通じたのか、野生のアブソルはこちらを見て鳴く。
「かわいいね。けれどまたハルカもさーくんもポケモン持つには早すぎるなあ」
「ササガヤ教授!」
部屋の入り口で誰かが訪ねて来ている。いつも学生が出入りしているような所だし、授業以外でも活躍しているササガヤ教授のこと。ノックをして出て行く。誰が来てくれたのか少し興味があって、俺とハルちゃんはそのままササガヤ教授についていく。
「何度言ったら解るんだ。そちらの考えが変わるまでこちらも考えを変えない」
体格のいい大人の男。良い色に日焼けしている肌からは、スポーツに優れたような体。それも数人。いずれも青いバンダナを巻いた、海賊のような格好だった。全員が入ったと思うと、ドアに鍵をかけて。
「そうですか。では、これではどうでしょう?」
俺の体が浮き上がる。後ろから男たちに押さえつけられて。ハルちゃんも一緒に押さえつけられる。暴れたって子供の力で大人に叶うわけがない。
「子供を人質になんて卑怯だぞ!」
「そうでしょうか?いくら昔の教え子だからといって、貴方が訴えるようなものではありません」
「研究をそんなことに使うアオギリの考えは間違ってる」
「ササガヤ教授のお子さんたち、恨むならお父さんを恨みなさいな」
俺の背中に熱が伝わった。びりっとした痛みが伴う。その痛みは酷くて、体を引き裂かれるようだった。
「おまえたち!?」
「ああ、一匹ぐらい死んでも構いませんよ。親子心中だと思われて終わりでしょうから」
「違う、その子は私の子では・・・」
その間も俺の背中を斬りつけられる。何度も何度も。泣いても泣いても容赦はなかった。頭を押さえつけられ、うつぶせの状態で。ハルちゃんは大泣きしていた。その中で、ササガヤ教授の絶叫を聞いたような聞かなかったような、ぼんやりとした音。けれど痛みだけははっきりと意識に語りかけてきた。
「ザフィール!」
うつぶせで寝かせられていた。真っ白な布団とベッド。母さんが心配そうに俺を見ていた。たくさんのチューブにつながれた俺。最初は、いつ眠ってしまったのか解らなかった。けれど記憶をたぐり寄せ、背中の痛みが襲うようになった。全ての記憶が蘇る。それが怖くて、母さんに伝えようとしても全く出て来ない。声が出ないのだ。
「お父さんが気づかなかったら・・・ハルちゃんだけでも無事で良かった」
ハルちゃんだけは無事。その時は何を意味していたか解らなかったけれど。とにかく起き上がろうとしても、痛くて動けない。
「何か食べたいものある?辛くない?どうしたのザフィール?」
言いたくても言えない。声が出ない。母さんはさらに驚いた顔で俺を見ていた。そして泣いてた。何も言いたくない。言えない。声を出したらまたあの恐怖が襲ってくるような、理解のできない怖さがそこにあったから。
ふと母さんの鞄が見えた。棚にある鞄から、鏡が見える。なぜ見えたのか解らなかったけれど、少し視線を動かして自分の姿を見る。そこにいるのは、まぎれも無く俺だったんだけど、全く違うものが映っていた。俺の髪が、全ての色が抜けてしまったように真っ白に。その姿を見ていることに気づいたのか、母さんは取り上げた。けれど、一瞬でも映ったものは忘れる事が出来ない。
怖い、痛い。大人が怖い。回診に来る医師すら怖かった。いつも泣いてた。その度に母さんは困った顔をしていたけれど。ストレスで髪の色が白くなってしまったこと、そして喋れないのは一時的でしょうと言っていた。「あ」すら発声できないのに、喋るようになるなんてあり得ないように思えた。
「そうそう、ザフィールくん。今日はきみの新しい先生を連れて来たよ」
そういって入って来たのが、マツブサだった。名刺を母さんに渡した。そこにあったのは、「児童心理カウンセラー」というもの。
「私は事件にあった子供の心理学を勉強し、そしてカウンセラーをしています。事件に遭遇してしまったお子さんというのは、大人よりも傷つきやすく、カウンセリングを必要としています。どうでしょうか?ザフィールくんを私に診せてもらえないでしょうか?」
そう、最初はそうだった。母さんも疑うことがなかった。話を聞いた父さんも何も言わずに。どんどん接近してくるマツブサに、俺だって何も疑わなかった。ただ、優しいおじさんが助けてくれると思い込んでいた。
背中の傷も治ってきて、歩けるようになったころ。いつものように来てくれたマツブサから言われたマグマ団への誘い。あの事件の犯人はアクア団だと教えてくれた。マツブサの言うアクア団の特徴と、実際にみた男たちの格好が一致する。
「私たちは、そういったアクア団を止めるために活動しているんだ。実際にアクア団の被害にあった君みたいな子を増やさないためにも、協力してくれないか?」
この言葉はとても甘く響いた。アクア団にやられたこと、そして助けてくれるマツブサの言葉に乗らないわけがなかった。
退院と同時にマツブサのところにいって、そしてマグマ団に正式に入ったことを感じた。同時にモンスターボールを渡される。中には自分の肩までありそうなドンメルが入っている。
「アクア団はポケモンを使う。お前も負けないよう、育てろ」
「解った!」
そいつにボルとつけて、俺はアクア団への復讐だけを考えて育てて来た。進化して、バクーダとなって。その時はマツブサも祝福してくれた。それがどんなに嬉しかったことか。ますます頑張ろうと思って、一層マグマ団として活動していた。
その辺りで、今のホムラとカガリが幹部として活躍するようになる。やけに明るいホムラと、なんだかんだいって世話をやいてるカガリ。ボルの育て方も教えてくれた二人だし、俺はさらに嬉しかった。けれど、最初、二人は俺を見て一瞬目をそらす。何でそんなことするのか解らなかった。けれど今なら解る。こんな作戦が最初から既に始まっていたのだ。最後には俺を始末するという計画が。
「生きろよ」
常にホムラがそういってたのはそういう意味なんだ。カガリも会議のたびに苦しそうな表情をしていたのも。全て計画の上で、俺はその通りにされていた。思うがままにマグマ団にいて、不要になったら捨てられて。そんなことあるものか。まだ、死ぬわけにはいかないんだよ!
シルクに乗ったままミナモシティにつく。ガーネットの手に抱えられていたザフィールは、そこで下ろされる。マグマ団の姿に街行く人々は驚きと軽蔑の視線を送る。一緒にいるガーネットまで。ミナモデパート前で残っていたマグマ団に声をかけられた。アジトでの留守番組だ。そしてガーネットを見ると、その腕をつかんだのだ。
「何するんですか!」
そう叫んだのはザフィールの方。手を振り払い、ガーネットを自分の方に引き寄せる。そしてかばうようにマグマ団との間に入る。
「何って、知らねえのか?ボスがそいつが欲しいってよ」
「ガーネットは物じゃない!」
いきなり噛み付かれてマグマ団たちは驚いたのような顔をする。ここで反抗するのは得策じゃないと冷静になる。そして大人しい口調で、俺が一緒に行くからいいんだと言った。ガーネットの了解も得ていないけれど、彼女の手を引っ張って歩く。
「ザフィール、待って!」
「待てるか。ここでお前が拒否するなら、どんなことしても連れて行く。もう時間がない」
どうしてマグマ団は皆冷たく見えるのだろう。ガーネットは不思議で仕方なかった。小さく行くと言い、ザフィールについていく。
「ここなら誰も来ないから」
ホコリっぽく段ボールが積み上がっている狭い部屋。整理されてない物置のよう。背負っているガーネットを要らない本がつまった段ボールの上に乗せる。そして隣に座った。
「倉庫?」
「要らないもの置き場かな。俺が勝手に私物化してるだけなんだけど」
ミナモシティにあるマグマ団のアジト。そこの一角。掃除すらされていないような、まさに掃除が苦手な人の部屋。
「マツブサさんが帰ってきたら、俺行くからその時は待っててよ」
「行っちゃうの?」
「行かなきゃさ、まだ他にも追いかけてると思うし」
何も言わずにザフィールのかぶってるフードを取る。影になっていた顔が薄暗い明かりに照らされる。
「マツブサさんってどんな人?」
「顔は怖いんだけど優しくて。これは誰かが言ってたんだけど、理想の上司らしいよ」
ザフィールは左手でガーネットの額に触る。かなりの熱感が左手に伝わってくる。頬も赤い。
「まだ帰って来ないだろうから寝てなよ」
「ザフィールは?」
「着替えてくる。これ洗濯しなきゃならないし」
立ち上がる。自分の着ているマグマ団の服を指して。
「さっきもいったけど、ここ本当誰も来ないから。失敗してここで一人で泣いてたりしたんだぜ。んじゃ、着替えてくる」
そういって左手でドアノブをまわす。カギがないし、倉庫なんだけれど誰も来ない。ここにおそらく大事なものは無いのだ。だから段ボールの中身がザフィールが家から持ち込んだ雑誌だったりする。何年も前に刊行された物で、すでに本人も読む気がないもの。
「待ってるから!」
「解ってるよ」
一回だけ振り向いて、ザフィールはドアを開ける。消えて行く後ろ姿をガーネットは見ていた。さらさらしていて雪のような白い髪。ドアの向こうに隠れるまでずっと。
マグマ団の服を脱ぎ、元の上着に着替える。タイミングを見計らったかのようにポケナビに連絡が入る。マツブサからで、アジトについたという連絡。紅色の珠と藍色の珠は無事かと聞かれた。ガーネットにさえ見られないようにこっそりしまったのだ。鞄の中を確認し、二つの珠が光るのを見る。
そのままマツブサの部屋に来るように言われる。制服汚して洗濯中なんてまた小言を言われるに決まってる。けれど仕方ない。二つの珠を持ち帰るのが受けた命令だ。誰かが間違って入ってきても解らないような、海岸の洞窟を利用したアジト内。小さい頃からずっといたのだ、そんなの迷うわけがない。
「マツブサさん!」
専用のデスクに座ったマツブサは疲れた顔をしている。おくりび山の一件は、忘れられないくらいに圧されてしまった。その反省と成果を考えているような顔。
「ザフィール、良くやったな」
「はい。これがそれです。あと、お願いがあるんです」
「なんだ?」
目の前に出された二つの宝珠。それを見ることなく、マツブサはザフィールを見た。
「あの、ガーネットなんですが・・・あいつは連れて来なくてもちゃんと来ますから。俺が連れてきますから。だからムリヤリなんてやめてください。アクア団の時だって怖がってたのに」
「来ているのか?」
「はい。それと友達がマグマ団に殺されたっていって、マグマ団のことだって怖がっているのに、あんなことしたら」
「解った。伝えておこう。それとここに連れて来い」
「ありがとうございます!」
とびっきりの笑顔で外に出て行く。子供だなという感想を口には出さず、近くの受話器を取る。
「お前のここ一番の仕事だ」
それだけ言うと電話を切った。失敗は許さない。ただ一回の切り札。一回だけでいいのだ。後はどう切り離そうがこちらの自由なのだから。
体が熱くて少しじっとしていたらすぐに眠くなる。横になり、少し目を閉じる。それと同時にドアノブが回る音が聞こえた。体を起こす。見れば着替えたザフィールが見える。いつも見慣れたものでなく、半袖を着ていた。何か不思議な服装だなと思ったが、マグマ団の服よりマシだ。
「おかえり、早かったね」
何も言わず、彼は近づいた。そして右手でガーネットの体を引き寄せる。突然のことでどうしていいか解らず、されるがまま壁に押し付けられる。そして右手で頬に触れて来て、唇が近づく。その手前、ガーネットは今の出せる全ての力で突き飛ばす。
「あなた誰!?ザフィールじゃないわ!」
驚いたような顔をして立っている。顔立ちも体格も全て同じだ。雪のような白い髪も。けれど違う。
「何を言ってるんだよ。俺なんだけど・・・」
「ザフィールは左利きよ!あなたは右手で私に触れた」
この3ヶ月。ずっと一緒にいた。モンスターボールを投げるのも、ポケモンをなでるのも、ずっと左手だった。直接左利きなのかと聞いたことはないけれど、ずっと見ていれば解る。それにいつだって左手で触れて来た。
「・・・ふうん、解るんだ。そんなことで」
見覚えのある手首のリストバンド。同じ声なのに他人を徹底的に排除するような冷たい言い方。知っている。会った事がある、この男に。ホウエンに来る前にマグマ団と一緒にいたあの男。親友を殺して笑っていたその男。
「思い出してくれた?あの時は逃げられたが、今度は逃がさねえ。まどろっこしいことさせやがって」
腹部に強い衝撃が来る。声も出せないほどの痛み。持ち上げられることに抵抗も出来ず、そのまま持ち去られる。こいつに反撃したいのに、体が言うことを聞かない。
誰も来ないけれど、早く行って安心させたい。ザフィールがアジト内を急いで走っていた。強そうに見えて、意外なところで心配性だし、よく泣くし。どちらが本当なのか解らない。けれど、どちらも本当なのだろう。だからこそ自分のせいで泣かせるようなことはしたくない。
もう少しで倉庫だ。自然と足が早まる。曲がり角を曲がって、少し走ればすぐだ。息が切れることもない。心が軽いような、緊張するような解らない感じ。ザフィールは足を止める。目の前にいる、奇妙な人間。
「よぉ、本物さん」
バカにしたような言い方。目の前にいるのは、自分そっくりの人間。身長から肩幅、そして声まで同じ。こんなことがあるのか。ドッペルゲンガーを見ているようだった。けれどそんな優しい現象ではなさそうだ。そいつは確実にガーネットをどこかへ連れていこうとしているから。
「邪魔なんでね、通してもらいたい」
「いいぜ。ただしその子を下ろせよ」
ザフィールは一歩前に出る。臆することなく、そいつはモンスターボールを投げる。中からロコンが現れた。
「それは出来ないね。ボスの命令は絶対だ」
ロコンはしっぽから妖しくうねる炎を燃やす。そこから放たれる光は相手を混乱させるもの。それに気付き、一瞬目を覆った。それだけではない。さらに光は閃光弾のように激しくなる。ふとそれがなくなり、ザフィールが前を見ると、忽然と消えている。男もロコンも。
「しまっ・・・」
人を連れて、そう遠くへはいけないはず。追跡できるよう、キーチのボールを探る。いつものホルダーにあるはずのモンスターボールは全て空気を触っていた。
「あれ?あれぇ?」
ボールが見当たらない。一つたりとも。
「まさか、取られた!?」
胸の辺りから広がる感覚。虫が這うように不安を伝える。焦る心に落ち着けと呼びかけた。一人でも追いかけなければ。そして取り戻す。ガーネットもポケモンたちも。
ボスの命令は絶対だとそいつは言っていた。ならば行く先はおそらくマツブサのところ。アクア団とも考えられたけれど、ここをすいすい通行できるのはマグマ団しかいない。多少は寄り道したが、全力で走れば追いつくはず。
「おい、待て!」
読みは当たる。マツブサの部屋に続く廊下で、ザフィールは追いついた。足元にはバクーダが主人と似た男を睨みつけている。
「ザフィール・・・」
絞り出すような声でガーネットが呼んでる。大型の技が得意なバクーダで攻撃するのは得策ではない。
「しつこいな。そんなにこの女が心配なのかよ」
「それはお前の知る事じゃねえだろ。もう一度言う。放せ。それで俺のポケモンも返せ」
にらむ。似た男は表情一つ変えない。いくら熱があるとはいえ、あのガーネットを完全に抑えこんだやつだ。ザフィールは冷静を装いながらも、飛び掛かるタイミングを見計らっていた。
「従わなかったらそのバクーダでこの女ごとぶち抜くか?後ろも解らないやつが、ねえ」
「どういうことだ?」
「こういうことだよザフィール」
乾いた音。同時に右の太腿に灼熱の激痛が走る。振り向く間もない。支えきれない体が倒れる。堅い靴音が冷たく側を通り過ぎる。その声、足元は見慣れたもの。最も信頼し、最も尊敬していたマツブサの。
「遅かったなユウキ」
何も言わずにユウキは連れてきたガーネットをマツブサに引き渡す。まだ言葉を発する余裕がないのか、ユウキを噛み付きそうな勢いでにらんでいる。
「それで、あいつはどうする」
ユウキが見ている。完全に勝利したような目で。なぜマツブサがこんなのと話しているのか、そしてマツブサが自分に何をしたのか理解できない。そうすることなんてあり得ない。
「鍵のかかるところにでも閉じ込めておく。朝には出血多量で死ぬだろう」
「マツブサ・・・さん?」
「明日の朝早く出発する。お前はそのままこいつらを見張れ」
バクーダが主人を守るように立つ。後ろ足がまともに動かないけれど、背中の火山から吹き出す炎は歴戦の強者を思わせる。
「・・・邪魔だ」
銃口を向ける。トリガーがかかっている。本気で引く気だ。
「戻れボル」
手元にあったボールのスイッチにようやく触れた。こんなところで昔からの戦友を失うわけにはいかない。マツブサに手を踏まれ、そのボールが転がったとしても。
「もうお前の役割は終わったんだザフィール。だからそのまま消えろ。アクア団の手に渡らないうちに」
踏まれた手に液体が触れる。自分の流れた血が、床に広がっていた。今も激痛は変わらない。マツブサの言う通り、このままでは朝を待たずに死ぬ。こんなところで、しかも裏切られたまま死ぬ。そんなことがあってもいいのか。体が引きずられる。投げ捨てられるようにして狭い部屋に入れられる。
「朝までは一緒にしてやるよ」
ユウキは笑ってガーネットを突き飛ばす。そしてすぐさま扉をしめて鍵をかけていた。
電気の切れかかった照明。ザフィールは自分の手についた血を見た。激痛、そして止まることを知らない血。床にもどんどん広がっていく。
「ザフィール・・・」
心配そうにガーネットが見てくる。血のついていない左で彼女に手を伸ばす。その手をつかむ力はいつもより弱い。けれども堅く、離さないように。
「ガーネット、本当、ごめん。俺が、マグマ団なんかに、いなかったら、こんなことに・・・」
「バカ、そんなことじゃないよ・・・ザフィール」
血がつくことも恐れずに、ガーネットは自分の巻いていたバンダナをほどき、傷口を押さえ込むように巻く。触れただけなのに、ザフィールの中にさらなる激痛が走る。ただの傷ではない。そして血はこんなことで止まることはない。元々赤いけれど、さらに深い赤で布を染めていく。
「ザフィールじゃ、なかった。私の方こそ、ずっと言いがかりつけてごめん」
「そうか、わかってくれて、うれしい。これで、遠慮なく、言えるんだ」
「なんでもいい。だからザフィール、死なないで。お願いだから!」
出来るならばそうしたい。けれど意思とは関係なく自分の生命が弱っていくのが解る。アクア団に復讐するなんて子供のような考えを利用されて、このまま裏切られて。マツブサに撃たれたこと、そして不要なものとして扱っていることは事実だ。あの時に優しく迎えてくれたマツブサはもういないのに、どこかで否定していた。
感想ありがとうございます!
> 前回あたりからカノンがこの不思議な事件の黒幕なんじゃないかと思ってどうなるかと思ったら、お互いに明るく過ごしているようで、安心しました。
まあ、こうなったのもカノンの短冊に書いたお願いが発端ですので、そうなのかもしれませんがw
> カノンはDVD集めて部屋でコンテスト見てたんですね。あまり出れないというのが強調されてました。
いわゆるコンテストオタクなので通販などを利用して集めていたようです。
これからも、何卒よろしくお願いします。
SpecialEpisode-8「セイリョウ山!伝説のトレーナー現る!!」
(4)
セイリョウ山で修行していた伝説のトレーナー・シオリ。ルリカは彼女を相手にポケモンバトルを挑んでいた。ルールは暫定的ながら――シオリが無言のままバトルを進めるため必ずしもこう言うルールではないとも考えられるが――1匹ポケモンが倒されるごとに交代というもので、3回のうち2回勝った方が勝利というものになると見られていた。
ルリカは最初にリーフィアを、シオリはジバコイルを出したが、リーフィアの着実なバトルが功を奏してジバコイルを下していた。だが続く2匹目、シオリの出したバタフリーにルリカのトロピウスは対処しきれず、トロピウスが倒されていた。そして恐らく最後の1匹と言うことになるのだろう、シオリは長年のパートナーであるガルーラを繰り出していた。対するルリカも一番のパートナーであるメガニウムを繰り出して勝負に挑むことになった。
「メガニウム、はっぱカッター!」
メガニウムが先制攻撃とばかりにはっぱカッターを放つ。はっぱカッターは勢いよくガルーラに命中したが、さすがはシオリのガルーラ、まだまだこの程度でへこたれるわけがない。
そしてガルーラも反撃とばかりに強烈なふぶきを放ってきた。くさタイプのメガニウムにとってこおりタイプのふぶきは効果抜群。しかも雪が降っていることから、ふぶきの命中率は格段に上がっていた(※)。
「メガニウム、エナジーボール!」
メガニウムもエナジーボールを放って迎え撃つ。エナジーボールとふぶきが激しくぶつかり合い、大爆発が生じた。
爆発が収まらないうちからガルーラはさらに強力な力をこぶしにためる。恐らくきあいパンチだろう。
「(あれはきあいパンチね。集中力を高めて一気に技を繰り出すつもりね。)メガニウム、つるのムチよ!」
メガニウムもつるのムチを放って応戦する。つるのムチは勢いよくガルーラの足に巻き付いたが、ガルーラはムチを引っ張ってじりじりとメガニウムをたぐり寄せていく。
「(メガニウムが引っ張られていくわ!)メガニウム、エナジーボールでガルーラを振りほどいて!」
メガニウムがエナジーボールを放つ。だが集中力が極限まで高まったガルーラはそのまま一気にきあいパンチを放った。きあいパンチはエナジーボールを打ち砕いたばかりか、そのままメガニウムに命中してしまったのである。
「メガニウム、しっかりして!」
メガニウムはそのまま高く吹っ飛ばされたが、まだ戦えそうだ。
「うん!メガニウム、もう一度エナジーボールよ!」
メガニウムが再びエナジーボールを放った。エナジーボールはガルーラにクリーンヒットしたが、ガルーラもまだやれると言った表情を浮かべている。
「メガニウム、続いてげんしのちから!」
メガニウムがげんしのちからを放つ。だがガルーラは身を翻すと、いきなりずつきでげんしのちからを打ち砕いたではないか。そしてそのままガルーラがメガニウムに突っ込んできた。
「メガニウム、もう一度つるのムチ!」
メガニウムもつるのムチをガルーラの頭に巻き付ける。メガニウムに突っ込もうとするガルーラとそれを受け止めるメガニウムとの間で力比べが続いていたが、ガルーラはつるのムチを勢いよく振りほどき、そのままピンクと黄色の光をまとって突撃していったのである。ギガインパクトだ。
「(ギガインパクトだわ。さすがはシオリさんのガルーラね。あれをまともに受けたら大ダメージは免れないわ。だったら私たちだって!)行くわよ!メガニウム、ハードプラント!」
メガニウムもハードプラントを放って迎え撃った。ハードプラントとギガインパクトはそのまま勢いよくぶつかり合い、降り積もる雪をも吹き飛ばす衝撃となって跳ね返っていった。
衝撃と爆発が収まると、メガニウムとガルーラは辛うじて立ち上がっていたが、もはや立っているのもやっとと言う状況となっていた。・・・そして1匹のポケモンがゆっくりと崩れ落ち、戦闘不能となった。ガルーラだった。
「・・・。」
シオリは無言のままガルーラをモンスターボールに戻した。
「シオリさん、あなたは本当に素晴らしい実力の持ち主ね。でも、どうしてこの山で修行してるの?」
ルリカはシオリに尋ねる。だがシオリは無言のまま、何も語ろうとしない。
「シオリさん・・・?」
すると、シオリは別のモンスターボールを投げた。ボールからはピジョットが出てきた。
「待って、シオリさん!」
シオリはルリカに向かってにこやかな笑顔を浮かべた。そしてピジョットにまたがると、雪がちらつく中を空高く飛び上がっていき、そのまま消えていった。
(シオリさん。その実力、確かに私が認めたわ。またいつか、バトルしましょうね・・・。)
ルリカはシオリとピジョットが飛び去っていった方向を見つめながら思っていた。
「そうか。セイリョウ山で修行してたのはシオリさんだったんだね。」
ポケギアを通じてヒデアキが答える。
「シオリさん、以前カントーリーグを制したときと同じ、立派なトレーナーだったわ。」
「そうか。今度のことはルリカさんにとっても、有意義な経験だったと思うよ。もうすぐワタルさんとのチャンピオン防衛戦だし、その意味では自分の実力を改めて知るのにいい機会だったかもしれないね。」
「はい。」
「ルリカさんは、ポケモンを回復させたらいよいよグリーンフィールドに向かうんだったね。」
「そうなるわ。ワタルさんは手強いし、前回はほとんど歯が立たなかったけど、今度は負けないわ!」
「ルリカさんならきっとワタルさんに勝てると思うよ。くさタイプの四天王としての実力、ワタルさんを相手に存分に披露して欲しい!」
「はい!」
そう言うとヒデアキは通信を切った。――通信を切ると、ルリカはポケモン達に語りかけた。
「みんな、もうすぐワタルさんとのチャンピオン防衛戦ね。ワタルさんはドラゴンタイプの使い手、その実力は以前バトルしたときに経験して知ってると思うけど、生半可なレベルではかなう相手ではないわ。最後までしっかり特訓しましょう!」
ルリカのポケモン達も大きく声を上げた。リーフィア、トロピウス、ロズレイド、モジャンボに加えて、ワタルが使うドラゴンタイプのポケモンに有効なこおりタイプを兼ね備えたユキノオー、そして一番のパートナーでもあるメガニウム。ルリカはこの6匹を使ってワタルに挑むことになるのだった。
セイリョウ山で出会った伝説のトレーナー・シオリ。彼女の実力は今もなお衰えていないと言うことを、ルリカは改めて実感することができた。
そして次にルリカが向かうのは、ジョウトリーグ・エキシビジョンマッチが行われるグリーンフィールド。そこで行われるチャンピオン防衛戦に挑むためである。そしてルリカの前に立ちはだかるのは、エキシビジョンマッチを勝ち抜いたトレーナー、そしてジョウト地方のチャンピオンにしてドラゴンポケモンの使い手、ポケモンGメンのワタル。
果たして、ルリカはどう言ったバトルを繰り広げるのだろうか。
(※)「雪が降っているときのふぶきの命中率について」
現在のところ、天候を変える技はにほんばれ・あまごい・すなあらし・あられ・ダークウェザー(XDにおけるダークポケモンが使用していた技)の5つであり、天候を雪にする技は現段階では存在しませんが、ポケダンシリーズでは(少なくとも探検隊においては)天候が雪になることがあることから、ここでは雪の天候も存在することにします。また、ふぶきの命中率についてはあられ状態の効果がそのまま雪でも反映されるものとします。
SpecialEpisode-8、完。
SpecialEpisode-8「セイリョウ山!伝説のトレーナー現る!!」
(3)
セイリョウ山の頂上で修行していたのは、かつてカントーリーグを優勝、伝説のトレーナーと言われたシオリだった。ルリカはシオリとのポケモンバトルに挑むことになった。ルリカの最初のポケモンはリーフィア、シオリの最初のポケモンはジバコイルだった。
「リーフィア、リーフブレード!」
リーフィアがリーフブレードを放つ。だが元々はがねタイプも併せ持っているジバコイルにくさタイプのリーフブレードはあまり効果がない。そしてジバコイルが光を1点に集めてリーフィアめがけて放ってきた。ラスターカノンだ。
「(ラスターカノンだわ!)リーフィア、穴を掘ってかわして!」
リーフィアがとっさに穴を掘って地中に潜り、ラスターカノンをかわす。だがジバコイルはそれを見透かしたかのごとくいくつにも分身に分かれた。かげぶんしんだ。
「(どれが本物か分からないわ。だけどやってみなきゃ!)リーフィア、今よ!」
地中から飛び出たリーフィアが攻撃をかける。ジバコイルはどうやら本物に命中したらしく、そのまま吹っ飛ばされていった。効果は抜群だ。
しかしジバコイルも体勢を立て直しつつ強力な電撃を放つ。10まんボルトだろう。
「リーフィア、かわして!」
リーフィアがジャンプで10まんボルトをかわす。
(シオリさん、何も技の指示を出してないのに強力な技を出してるわ。それだけポケモンと心を1つにできると言うことなのかしら。さすがはカントーリーグを制しただけの実力はあるわね。)
ルリカはシオリが技の指示を出さないのにポケモン達が強力な技を出すのを見て思っていた。こう言うポケモンバトルでは多くの場合、ポケモンが技を出すときはトレーナーの指示がものを言う。だがシオリはポケモンに指示を出さずしてポケモンが的確な技を出しているのである。ここまで卓越したポケモンさばきができるトレーナーはそうはいない。
「(シオリさんはポケモンと心を1つにすることで、より的確な技の指示ができるのね。)だったら私たちだって負けないわ!リーフィア、リーフブレード!」
リーフィアがリーフブレードを放った。さすがに2発目のリーフブレードは耐えることができず、ジバコイルは戦闘不能となっていた。
シオリはジバコイルをモンスターボールに戻す。そして無言のまま、次のポケモンを繰り出した。バタフリーだ。
「(シオリさん、次はバタフリーね。それなら私だって!)戻って、リーフィア!」
ルリカはリーフィアをモンスターボールに戻す。
「次はあなたの番よ!行くわよ、トロピウス!」
ルリカはトロピウスを繰り出した。
バタフリーはトロピウスの姿を見るや、いきなり色鮮やかな粉をばらまいた。ねむりごなだ。
「(まずいわ!バタフリーの特性はふくがん。ねむりごなを受けたらほぼ確実に眠ってしまうわ!)トロピウス、かぜおこしでねむりごなを跳ね返して!」
トロピウスがかぜおこしを放つ。かぜおこしはねむりごなを一気に吹き飛ばしていった。だがバタフリーはそれを見るや、空気の刃を集めて一気に放っていった。エアカッターだ。
「(エアカッターだわ!)トロピウス、かわして!」
トロピウスが飛び上がってエアカッターをかわそうとする。だがエアカッターは一気に向きを変えてトロピウスに襲いかかったのだった。
「トロピウス!」
さらにバタフリーが勢いよく鳴き声を上げる。むしのさざめきだろう。
「(むしのさざめきね。向こうがそれなら私たちだって!)トロピウス、のしかかり!」
トロピウスがバタフリーにのしかかり攻撃をかけた。バタフリーはトロピウスの攻撃をかわすことはできず、大きなダメージを受けてしまった。だがまだまだ戦えると言ったところだろう。そしてバタフリーは至近距離から再びエアカッターを放ったのである。
「トロピウス!」
至近距離からエアカッターを受けて勢いよく吹っ飛ばされたトロピウスはそのままフィールドに叩きつけられ、戦闘不能となった。
「トロピウス、よく戦ったわね。ゆっくり休んでね。」
ルリカはトロピウスをモンスターボールに戻した。それを見てシオリも無言のままバタフリーをモンスターボールに戻す。
(シオリさん、次はどのポケモンを出すのかしら・・・。)
ルリカがこれまでバトルしたバタフリーとジバコイルは、いずれもカントーリーグで活躍したポケモンとして知られている。カントーリーグのときはまだレアコイルだったが、修行を重ねてジバコイルに進化したのだろう。
そしてシオリは次のモンスターボールを投げた。ボールから出てきたのはガルーラだった。
(ガルーラだわ!)
ガルーラ。それはシオリの一番のパートナーとして語られており、カントーリーグの決勝戦は今に至るまで語り継がれる名勝負となっている。シオリは残り1匹まで追い詰められていたのだが、そのとき最後のポケモンとして繰り出したのがこのガルーラであり、相手のトレーナーのポケモンを一気に3匹倒して優勝を手にしたのである。それだけ強力なポケモンと言うことが伺えた。
「(シオリさんの一番のパートナーね。それなら私も!)行くわよ、メガニウム!」
ルリカはメガニウムを繰り出した。
互いに一番のパートナーを繰り出して挑むことになったこのバトル、果たして勝利を収めるのは、ルリカか、それともシオリか。
(4)に続く。
前回あたりからカノンがこの不思議な事件の黒幕なんじゃないかと思ってどうなるかと思ったら、お互いに明るく過ごしているようで、安心しました。
カノンはDVD集めて部屋でコンテスト見てたんですね。あまり出れないというのが強調されてました。
SpecialEpisode-8「セイリョウ山!伝説のトレーナー現る!!」
(2)
ルリカは、カントーリーグを優勝したトレーナーがいるという情報を聞きつけて、ジョウト地方でもシロガネ山と並んで霊峰として知られるセイリョウ山に足を踏み入れていた。
セイリョウ山は、年中深い霧が立ちこめており、洞窟の中は明かりがないと暗い。さらに山肌の道はごつごつしており、所々ロッククライムでもしないと登れそうになかった。
「(さすがはポケモントレーナーが修業のために訪れる山だけのことはあるわね。シロガネ山もそうだけど、この山も人を寄せ付けない何かがあるわ。)メガニウム、ロッククライム!」
メガニウムはロッククライムでルリカを崖の上に運んでいく。
「メガニウム、この山の道は普通の山道とは違うわ。だから気をつけて進んだ方がいいわ!」
メガニウムも大きくうなずく。
そして周りを見ると、野生のポケモンが至る所に生息しており、それはさながらポケモン保護区域と言った感じである。――ルリカの視界に入るだけでも、ゴルバットにクロバット、ビブラーバ、フライゴン、そしてリングマにドンファンと、シロガネ山と似た環境と言うことも手伝ってか、野生ポケモンもとても手強そうに見えた。
さらに山を登っていくと、外は絶えず雪が降り続く空模様となっていた。
(今の私の服だと、風邪を引いてしまうかもしれないわ。)
ルリカの服装は高い山にはきわめて不向きといえる薄着であり、このままでは風邪を引いてしまう。そのため、用意していた上着を羽織ることになった。
「(これなら心配ないわね。)メガニウム、これから山頂に行くに従って寒くなっていくから、気をつけてね!」
メガニウムもルリカの声にうなずいて答えた。
さらに洞窟を抜けていき、いくつかのごつごつした崖をロッククライムを駆使して駆け上がっていくと、洞窟の出口に出た。
(ここが洞窟の出口。これを抜ければ山頂も近いわね。)
ルリカは洞窟から外に出た。
そこは、降りしきる雪で視界がふさがれているが、セイリョウ山の山頂と言っていい場所だった。
(ここがセイリョウ山の山頂ね。ほぼ毎日雪が降っている場所だけど、はれていたらきっといい眺めだと思うわ。)
ジョウトでも有数の霊峰として知られるセイリョウ山。そこの山頂から見る景色は、いつもは降りしきる雪に閉ざされてほとんど期待できないが、晴れていればシロガネタウンの町並みはもちろんのこと、フスベシティとワカバタウンやヨシノシティを結ぶマウンテンロード、遠くカントーのお月見山やグレン島、そしてセキエイ高原まで見渡すことができるのだと言う。
(そう言えば、ここで修行しているトレーナーって、どう言う方なのかしら・・・。こんな寒いところなのに、大丈夫かしら。)
ルリカはそう思いながら周りを見渡す。と、雪の中に人影が見えたではないか。
「あなたがここで修行しているトレーナーかしら?」
人影はルリカの声に気づいたのか、ルリカの元に足を進める。積もった雪を踏みしめる音が響く。
やがて人影がはっきりと姿を現した。
その人物は、ルリカとほぼ同じ年頃か、もしくはやや年下という感じの女性だった。――背丈は1メートル65程度と、女性にしてはやや高い部類に入るが、それでも1メートル80近くあるルリカよりはかなり低かった。服装は緑のコートに深緑色の長いスカートという出で立ちだった。
「(確か、この方って・・・。)私はジョウトリーグ四天王のルリカ。あなたは?」
「シオリ・・・。」
ルリカにとって聞き覚えのある名前だった。――3年前、それはサトシが出場したすぐ後のカントーリーグに出場、圧倒的な実力で優勝を手にした女性トレーナーだった。チャンピオンリーグでも初回の相手に勝利を収め、2回戦進出を果たしたのである。一時期は「伝説のトレーナー」とも呼ばれていたが、その後は音沙汰がなくなり、トレーナー界でも一線を退いたものと見られていた。だが、まさかここで修行していようとは・・・。
「シオリさん。あなたのお噂はかねがね聞いていたわ。是非バトルしましょう!」
「・・・。」
シオリは無言のままモンスターボールを投げた。中から現れたのはジバコイルだった。
「(ジバコイル。相手にとって不足はないわ。)行くわよ、リーフィア!」
ルリカはリーフィアを繰り出した。
果たして、ルリカは伝説のトレーナーとまで言われたシオリを相手に、どう言ったバトルを繰り広げるのだろうか。
(3)に続く。
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