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「んー! やっぱ本物は凄かったねぇ」
「先週とは大違いじゃない」
「いや、だってあの時は……」
「ふふっ、冗談冗談」
美しさハイパーランクを生観戦し終わった夕方、余韻に浸りながらおれとカノンもといユナは、コンテスト会場に内設してあるカフェテラスで、先程のアピールの感想を言い合うことに。
ギガイアスのDVDを観た後も、カノンにダンディー・ダディのドキュメンタリーや、他の人のDVD、昔テレビで放送されていたコンテストの録画映像を四日間程見せられ続けた。
お陰でコンテストのアピールがどんなものか、というのは理解出来た気がする。……まだ自分があんなことをするヴィジョンは見えてこないけど。
ちなみにギガイアスのDVDを観たあの日にコンテスト会場に行かなかったのには大きな理由がある。
平たく言えば、その日(水曜日)はコンテストを開催されていなかったからだ。
コンテスト会場のある街によってどの曜日がどうとは違ってくるが、カイナシティのコンテスト会場では、ポケモンコンテストは日曜日の午後三時から開催されるのみである。
火、木曜日はバザー会場となり、月、水、土曜日はポケモンバトルを楽しむ施設、バトルテントに様変わりする。金曜日は設備メンテナンスのために休館だ。
何故、こんなにコンテストやらバザーやらバトルテントが入るか。その答えは単純明解。そもそもここは元々はただの市民会館だった。そこでバザーをやっていたところにコンテストが入り、続いてバトルテントが入ってきたのだ。と、ユナがさっき説明してくれた。
今いるカフェや売店、木の実ブレンダーなどを除き、この会館は曜日によって姿を変えるのだ。
最も、ここまで目まぐるしく姿を変えるのはカイナのみだけらしいけど……。
ちなみに日曜日でコンテストをやっていない時間はステージを練習用に有料貸し出ししているらしい。中々あざとい。
「そういえばジグザグマとの進展あった?」
「ほんとダメ。早ければ今週には旅に出るつもりだったのに、お陰で無理そう……」
「ワガママ姫ね、ジグザグマも」
「ケガ増えるだけで、どう考えてもワガママの度を過ぎてると思うんだけど」
「そもそもどうしてカノンのこと嫌うんだろう」
この数日、姉貴とユナにカノンと呼ばれ続けたせいか、もうそう呼ばれても躊躇いが無くなってしまった。慣れは恐ろしい。
同じくジグザグマに異様なまでに敬遠されることにも、慣れて来てるかもしれない。
しかしこうなった原因はユナ、お前がジグザグマに嫌われていたからだ。何ちゃっかりおれに押し付けてるの。
「最初はもしかしたら匂いで嫌ってるのかなって思ったから、姉貴の香水使わせてもらったんだけど全然ダメでさ」
「じゃあ、見た目?」
「お面被ったりしたけどやっぱりダメ」
「お面はさすがに雑じゃない?」
「だからってさぁ」
「もしかして声とか?」
「それだと完全にどうしようもないだろ」
「カノン、言葉言葉」
ついつい忘れていたけども、一々言われることの煩わしさにちょっとだけむっ、としてしまった。
名前に関しては慣れたけど、やっぱりこういうのには慣れられない。
「どうしようもない……じゃない」
「わたしも手伝うからさ、今から109番水道行って様子見せて?」
「まあ、いい、けど……」
別にそうしてもいいんだけど、不安がどうしても残る。
ほぼ、というよりは完全に同一人物が二人いることにジグザグマはパニックでも起こすんでもないだろうか、なんて空になった紅茶のカップを覗き混みながらぼんやり考えた。
109番水道はカイナの南に位置する。ホウエン特有の広い海に、相当広い砂浜。たくさんの海の家が並び立ち、民宿もある。丁度今くらいのサマーシーズンには、地方を問わずして観光客が大量にやってくるのだ。
カイナシティ北西のコンテスト会場を後にしたおれ達は、バスを使って109番水道近くのバス停で下車して海を眺めた。
これから沈もうとしている太陽が、水平線に溶けながら空を、海を橙色に塗り替えていく。海水浴に来た人々の喧騒さえ飲み込んでしまうような、この圧倒的な雄大さが心をぐっと捕らえて、それでいてあまりに単純過ぎる風景なのに、何も考えられなくなるようなこのインパクトがたまらなく大好きだ。
「夕陽が眩しいねぇ」
「ほんっとに、この風景綺麗よね! わたしここより良い風景ないんじゃないかなって思うんだ」
「カイナしか知らないクセに?」
「カノンもじゃない。それよりさ、早く久しぶりにジグザグマ見せて見せて」
「うん。とりあえず移動しよう」
コンクリートから砂浜に降り立ち、有事を考慮して出来るだけ人通りの無さそうな方へ向かう。
海の家みたいな建造物が付近になく、海からそこそこ距離が離れていてかつ人が周囲にいない。全ての条件をクリアするために、五分近く歩くハメになってしまった。
「ユナこれだけ歩いたけど大丈夫?」
「流石にこれくらいは大丈夫よ。無理なら無理ってちゃんと言うから」
「じゃあ……。ジグザグマ!」
ポーチからモンスターボールを取り出し、空に向かって放り投げる。モンスターボールは緩やかに宙を舞いながら、最高点で白い光と共に中にいるジグザグマを砂地に出させた。
グウウウウ。早速おれを見るなり唸り声を上げるジグザグマ。
「あ、もう。カノンがビビっちゃ駄目じゃない」
「だ、だって! って、うわっ!」
散々ボロボロにされた辛さが分かるか! と逆ギレしてやろうと思った矢先、顔面目掛けて砂浜の砂が飛んできた。くっ、ジグザグマか。ジグザグマのせいか。両腕で急設したバリケードで顔を守る。うわっ、服の袖を通して中に入ってくるし。「ユナ、なんとかしっ、ゲフッ!」口の中の感触がジャリジャリと。砂利だけに!(後から考えたら砂利では無かった)
「はい、もう大丈夫」
そんなユナの声に被さるように、ジグザグマのカアアアアアと凄まじい威嚇が聞こえた。大丈夫なのかさっぱりわからん。ユナを信じて恐る恐る目を開くと、ユナにお腹回りを掴まれて両手足をバタバタさせるジグザグマが。こいつ本気でおれしか見てない。もちろん負の意味が十二分にこもった視線を伴って。
「わたしの事無視するくらい嫌われてるのねぇ」
「もうさ、どうしろと。本気で凹むよ」
「な、泣かなくても」
「まだ泣いてないし、泣くつもりじゃない!」
目にゴミが入っただけ、と言いかけたけど、あまりに下手な言い訳過ぎる。そもそも目を守るために両腕バリケードをしたのに、とすぐに看破されそうだ。
確かに砂は痛いしケガも痛いけど、それ以上に今まで信頼しあったはずのパートナーにここまでされるのが辛かった。
一週間前までは共にこの砂浜を駆けたのに、一緒にお風呂に入ったりしてやったのに、もうあんなことは出来ないのだろうか。
確かにジグザグマをどうかしてやりたい。一緒にいたい。でもジグザグマはそれを望んでないだろうし、おれも正直ジグザグマが若干トラウマになりつつある。
だからコンテストの勉強をすると言ってユナに借りたDVDを見て、ジグザグマとあまり対面する時間を増やさないようにしていた。……かもしれない。
「まあ確かにわたしも涙腺脆いけども……。きっとなんとかなるって」
「それでなんとかなったら簡単なのに……」
本音だった。簡単じゃないからここまで辛いんだ。ハードルは高い方が良いなんて言ったやつをグーで殴りたいくらいに辛い。
そんなとき、突如背後から砂を踏む足音がした。
「騒がしいから何があるかと来てみたけど、そこのジグザグマすごい気が立ってるわね。何か手伝えることがあるなら手伝いましょうか?」
声の方に振り返ると、一人の背の高い女性のシルエットが見えた。足も手も白くその上すらりと長い。ウェーブがかっている長い髪も素敵で、ショートパンツにおへそが見えるくらいのタンクトップがスタイルに合っている。ここまで容姿端麗という言葉が似合う人は初めてだ。
いや、見たことある。つい最近、この人を何かで見たことがある。そのときも似たような事を思っていた。デジャヴってやつだ。その答えはユナが示してくれた。
「エレナさん……ですよね?」
まだ吠えるジグザグマをその腕からポトリと落としてしまいそうな程恍惚としているユナの言葉で、全て思い出した。
一昨日ユナに貸してもらったDVDで見た。一級ポケモンブリーダーで、モデルでもある、かつての最年少コンテスト全制覇者、エレナ。
「そう、私がエレナよ?」
これが、おれと彼女との最初の出会いだった。
予想以上だった。見えないところにもいたアクア団にあっという間に追い込まれる。残りのポケモンはアブソルただ一匹。だがボールから出すのすらザフィールは嫌だった。むしろ触りたくないのである。けれどホムラだって結構ギリギリで、追い込まれた時の表情を見せている。笑ってるけど焦ってる。どうしようもならない時にしか見せない顔だ。
全てマグマ団の行動が筒抜け。マツブサも苦い顔をしてアクア団のリーダーのアオギリとにらみ合っている。全体を見回しても、アクア団の方が数が多く、直接手を出して来ない。アオギリはマグマ団を捕らえろと言っていた。特に幹部のホムラとその部下の白い髪、と。
「ザフィールどうすっよ。俺たちアクア団に招待されてるみたいだけどな」
背中合わせにホムラは言う。グラエナの体力が尽きそうだった。荒い息をしながら、グラエナが次の指示を待っている。
「行きたくないですってか絶対行きません」
「だよなあ。俺はイズミを口説くまでは死にたくない」
「・・・行きたいのか行きたくないのかその辺はっきりしませんか」
ホムラが気に入ってるアクア団の幹部のイズミ。長身と無駄のないスタイルは、マグマ団へ立ちはだかる壁として存在していた。けれどここにいないような感じがある。男たちにまぎれてしまえば長身も目立たない。そしてさらに、幹部のウシオも見えないのだ。いるのはアオギリのみ。
「ホムラさん、まじ嫌な予感するんですが聞いてもらえます?」
「10秒以内」
「さらに後ろから、ウシオとイズミが来る予感がします」
「同じことを言おうと思ってた。噛み砕け」
グラエナが、近寄るクロバットの翼を強靭な顎で噛む。二人の予感は当たり、前は大量のアクア団、後ろからは幹部二人の挟み撃ち。さすがのホムラも笑みを浮かべる余裕がなくなってきている。
「ああカガリ様、こういう時に俺のピンチを救ってくれてこそフィアンセというもの」
「どうしてそういう冗談を口に出来るのか、そこが未だに理解できません」
「うひょひょ、人生笑ってねえとつまんねえだろ」
大人しく投降すれば危害は加えないとアオギリは言う。けれど大人しくなんて出来るものか。ホムラが最後のポケモンを繰り出した。ザフィールは覚悟を決めて、アブソルのボールを開く。
写真を見る。間違いない。過去に現れたというヒトガタにそっくりだった。これこそがグラードンへのカギとなり、陸地を広げるカギとなる。カガリはパソコンの前で確信した。後はどん欲なマグマ団の下っ端たちが動くのを待つだけ。
後ろで部屋のドアを開ける音がする。こんな時間にここにいるなんて珍しい人が来たものだ。マツブサの不在を知っての来訪のようだった。その人物に続いてロコンが入ってくる。
「カガリさん、本当にそうするのか?」
「そうよ。これで貴方が偽物だと言われなくて済むわ。むしろ本物に成り済まして生きていける。ようやく終わるのよ。貴方の存在は元からマグマ団しか知らない存在。世間では誰が消えたかなんて解るわけがない」
緊急の呼び出しが鳴る。幹部のみに渡されたコール。今の時間に呼び出すとしたら、おくりび山で何かがあったのだ。急いで立ち上がると、カガリはフードをかぶる。
「貴方も行く?」
「俺は、いい。あんなやつ助けたくもない」
「顔みられなきゃいいでしょ。それに緊急事態なんだからボスも命令違反だとは怒らないわ。怒ったら私が代わりになってあげる。はい」
カガリは強引にマグマ団のフードをかぶせる。着せたことがなかったけれど、そこそこ似合っているな、と思った。
「深めにかぶってれば顔見えないわ。さて、行くわよ」
「・・・わかった。出動だロコン」
ロコンがモンスターボールに戻っていく。カガリは手慣れた様子で自分のポケモンを準備する。そしてそれと同時に二人は走り出した。
ウシオの拳が、ホムラの頬をとらえる。大人の男の殴り合いだ。まわりのアクア団はやっちまえと囃し立て、イズミは仕方ないという目で見ていた。一対一の殴り合いに勝てたら行ってやるとホムラがウシオに交渉したのだ。それにアオギリの許可が降りて、現在に至る。ザフィールもホムラが勝つことを願うしかない。
「だいたい災害は水害が多いだろうが!」
「海がなくなったら生物は生きていけねえだろうが!」
信念をかけた戦い、にしては少々熱が入ってない。ホムラだからなのだろうか、ふざけてるようにしか見えないのだ。けれどウシオには確実にダメージを与えている。
「お前らしくない、真剣勝負だな」
「あったりめえよ、そう簡単にかわいい弟分もってかれたかねーよ」
「だがよお、喧嘩売る相手をお前は間違えてんだぜ。ずっとトレーナーだったお前みたいなのと違ってよぉ」
ウシオの拳がホムラの腹部に入る。重たい衝撃が来た。なれない出来事に、さすがのホムラも足元がよろめいた。そして追撃の蹴りがホムラの頭をかすめる。
「格闘技やってたんだからな」
「知ってらあ、ただ、俺だってトレーナーだからマグマ団の幹部に就いたわけじゃねえんだよ!」
命令に忠実に、そして部下を守ること。それが幹部に指名された時に言われた言葉。もう何年もやってきて、何人もの部下がいる。それをアクア団ごときから守れなくて何が幹部だ。
ウシオの足が上がる。その瞬間だ。ホムラはその体ごとウシオにぶつかる。蹴りの衝撃もあったが、ウシオのバランスを崩すことに成功した。そのまま一緒に後ろへ転ぶ。
「ウシオ、何やってるの」
罵声のようなイズミの声。むしろこちらに喧嘩売らないことが正解だった。特性持ちの人間はまともに相手をしたら危ないどころではない。
「そんな軟弱男に負けるようなアンタじゃないでしょ」
「筋肉バカよりは頼りになるけどね」
アクア団の人だかりに、炎の渦が巻き起こる。その炎から見える光は乱反射してアクア団たちを混乱させる。何をすべきか、どう行動すればいいのか。元々何をしていたのかも忘れているものだっている。そして炎の渦が消えると、もう一人の幹部のカガリが立っていた。
「ああ、心のフィアンセ。きっと愛の力で来てくれると思ってた」
「こりゃあ緊急事態な訳も解るわ。特にホムラ、最近さぼりすぎなんじゃないの?」
厳しい指摘を受け、倒れながらもホムラは笑った。カガリのボールからクロバットが飛び出す。そして影からロコンが乗り出し、正気に戻ったアクア団たちを再びちらつく炎で妖しい光を見せて混乱させる。
「2匹ごときに!?」
「1匹は私のじゃないけどね。どうする?結構不利よこの状況。あんたが決められないならアオギリさんにも聞いてよ」
そのアオギリも、マツブサとおくりび山の頂上でずっと話し合っている。遠くて何を話しているか聞き取れないが、両者ともその前にあるものを巡っての争いのようだ。
「そっちこそ、撤退するならマツブサさんに聞くことね!」
女の戦いは恐ろしい。イズミとカガリがにらみ合ってる中に入っていけない。カガリの隣にいるクロバットと、イズミの隣にいるプクリンがにらみ合う。
それはともかくとして、大半のアクア団が消えていき、残るのは戦闘不能となったマグマ団たちだけ。ザフィールは一番にホムラに駆け寄った。こんな状況でもカガリに軽口叩けるのだから、その心の余裕は尊敬に値する。
「じゃあ私たちも男どもみたいにタイマンで勝負する?」
「ヨガパワー備えてるアンタと殴り合うほど、私はバカじゃないわ」
カガリの後ろを地面に伏しながらもホムラは安心したような顔で見ていた。あいつが来たならもう安心だ、と。
「ザフィール」
小声で呼びつける。何か作戦を立てるのかと、ザフィールはホムラに顔を近づけた。
「なんですか?」
「ここからだとカガリのスカートの中が」
「俺、帰っていいですか」
せっかくウシオと殴り合ってまで部下を守るかっこいいホムラだったのに。たった一言が人格まで台無しになる典型例。こんな気の抜けたことを平気で言うのは、この世界で一人でいい。
「冗談だよ。何でお前はそういうこと理解できないんだ。いいか、今のボスは非常に機嫌が悪い。その上こんな状態と来た。きっと怒るに違いない。まあそれは仕方ない。今、この中で一番の俊足はお前。ボスに加勢してこい」
「解りました」
ザフィールは走る。奥にいるマツブサめがけて。その後ろ姿を見て、ホムラは再び地面に伏せる。ふと濡れたものが頬にあたる。ロコンがホムラの顔をなめていた。大丈夫かというように。
「はは、あいつも来てんのかよ。俺はそこまで落ちぶれちゃいねえよ」
とは言うものの、ウシオから受けたダメージは、体を動かすごとに増すようだった。カガリがイズミに勝てるように祈る。そしたらカガリに連れて帰ってもらわないと。ロコンの頭をなでると、主人のもとに帰れと言った。
マツブサとアオギリに近づくにつれ、さらに二つの影があることが解る。年を取った夫婦が、美しい赤と青をした珠の前にいるのだ。侵入者ごときに渡さないというように。
「マツブサさん!」
手を振ってザフィールが近づく。アオギリをにらんだ顔のまま、こちらを振り向いた。その凄みに一瞬だけ怯む。マツブサがザフィールの手を強引に引っ張った。
「こいつが欲しいんだろ、アオギリ」
「えっ!?どういう、マツブサさん!?」
「マツブサ、何も教えてねえのか」
「どういうこと、マツブサさん!」
何がなんだか解らないけれど、何かの交渉に自分が使われていることは解る。むやみにマツブサを振り払いたくないけれど、アオギリに渡されるのも嫌だ。そもそも、アクア団が憎くてマツブサに拾ってもらったのに、そのマツブサに見捨てられてしまいそうな雰囲気。
「ヒトガタ・・・本当に蘇ったのか」
珠の前にいる老人が言う。ザフィールをまっすぐ見て。前にも謎の飛行物体に言われたが、いまいちピンと来ない。けれど老人は懐かしむようにザフィールに触れる。マツブサとアオギリの作る空気など無かったかのように。
「じいさん俺なんのことだかわかんねえよ」
「なんと、親から聞かなかったのか。ラティオスとラティアスからの啓示を伝えないとは・・・」
「いやだからなんの・・・」
「こういうことだろ」
マツブサはザフィールを突き飛ばす。突然のことで、避けるとか踏ん張るとかいうことができず、前につんのめる。そしてそこにあったのは、深海のような深い青をした珠だった。
「やっときた、もう一人の私」
目の前は真っ青。さっきまでおくりび山の頂上にいたはずなのに。どこを向いても青ばかり。そして正面には、不思議な模様が浮かんでいる。見た事がある。海の博物館で見た藍色の珠のレプリカに掘られていた模様と同じだ。
「もう一人?ってかここどこだよ!」
その模様が喋っているような、そんな感覚。人ではないものが話しかけてくるのは違和感がありすぎる。
「忘れたか私のこと。そうでなければあんな悪意のあるものたちと一緒になってるわけがないか」
「悪意?」
「全て話してやる。どうせ信じないだろうから、一回しか言わん」
模様が語りだすのはホウエンの昔話。大地のグラードンと海のカイオーガがそれぞれの領地を争った。どちらかにしか住めない他の生き物たちは大層困った。それで2匹に戦いをやめてくれと頼むと、他の生き物に迷惑をかけた事を詫び、二度と自分たちの意思で戦わないことを誓った。
そして自分たちの力が必要な時に呼び出せるよう、紅色の珠と藍色の珠を創った。あちこち呼ばれるとまた争いの元になるから、珠を使える生き物を一つに決めようと言われた。なるべく考えられる生き物、なるべく解り合える生き物。そこで人間を指定し、使える人間を人の形をした紅色の珠、藍色の珠ということから、ヒトガタというようになった。
「以上。質問は受け付けない」
「いやいやいや、なんでそれが俺なんだよ。話の通りなら、俺の他にもう一人いるのかよ!」
「お前の親ならお前を保護して育ててくれそうだったから。それとお前の他にもちろんいる。協力せい。お前の場合は海のカイオーガを再びこの世に復活させかねない存在。悪い者の中に居続ければ悪いことにカイオーガを呼び出し、事態は最悪だ」
「悪いもの?なんだそりゃ」
「お前のいる今の場所だよ。それと、何があっても恨みとか憎いとかむかつくとかもいかん。そういう感情が私と通してカイオーガに伝わってしまうからな。暴れまくるカイオーガを押さえつけるのはさすがにお前でも無理」
「押さえつけられるものなのか?」
「もちろん。今のモンスターボールみたいな感じで戻せるぞ。一苦労だがな」
「どうやって?」
「いつもお前やってるだろ、捕獲みたいに弱らせてから私を投げつけろ。少々重いが、それでカイオーガの力を私の中に入れることが出来る。それが出来るのはお前たちだけ。がんばれ」
青い光がやたらと点滅する。目がちかちかして来た。頭にくらりと違和感を感じた時、目の前の景色はおくりび山に戻って来た。しかし青い光に包まれる前と状況が変わってる。混乱していたアクア団たちが正気を取り戻していて、その数が戻って来ている。そして自分はマツブサに抱えられている。
「ちょ、なんすかこれ!」
「起きたか。それしっかり握ってろ」
自分の手元を見ると、しっかりと二つの珠が握られている。紅色の珠と藍色の珠。アオギリがその二つを渡さないと叫んでいる。何がなんだか解らないザフィールはマツブサに地面に下ろされる。
「アクア団をすり抜けてアジトに向かえ。お前しかここを抜けられない」
「いや、マツブサさん。この状況ってどうしても無理じゃないですかね。俺の前にいるのって、アクア団のボスと大量の下っ端と・・・」
「お前もそう思うか。俺もそう思う」
なぜマグマ団の上層部はこう呑気なのか。どう逃げてもルートがない。空を飛んで逃げるにも、スバッチはまだ戻らない。遠くでカガリがイズミとほぼ互角の勝負をしているのが解る。マツブサは押し寄せる下っ端集団の相手で忙しそうだ。
「ちっ、あいつはどこほっつき歩いてるんだ」
アクア団の群れがいきなり崩れる。火柱が見えて、後ろに見えるのはフードを深くかぶった仲間。そしてその火柱を操るロコンが見える。そこを突破すれば。ザフィールが構えた瞬間、アオギリから受ける衝撃。強烈な蹴りがザフィールの腹部に入る。
「まさかお前とは思わなかったよ、ヒトガタがマグマ団なんてな」
その痛みに目から星が飛び出ると思ったくらいだ。うずくまっていると、乱暴に腕を掴まれる。このままだとヤバい。近くにいるマツブサが気づいてくれたが、アクア団の下っ端はそれを許さない。
「来い」
何かが跳んだ音がする。アクア団たちがさらに混乱し、あちらこちらに動く。この蹄の音。聞いた事がある。いななきと共に向かってくる足音に服の端を引っ張られ、ザフィールの体が宙に浮く。まさかの逃げ道。アオギリも掴んでいられず、手を離してしまった。
「イズミ!」
アオギリが怒鳴る。イズミの最後のプクリンが倒れたところだった。アクア団に撤退の命令が下る。素早くアクア団たちは姿を消した。あんなにたくさんいたアクア団は、誰一人残さず消えていた。
マツブサは残された団員たちに声をかける。歩けそうなものは歩いて、無理そうならば抱えて。そして一人と目が合う。その瞬間、体をこわばらせたようだった。マツブサは何も言わず、その人の頭に手を乗せる。
「まだ最後の仕事が残っている」
アジトへ引き上げるよう伝える。もうほとんど立てないホムラを肩に支え、マツブサはおくりび山を後にした。
「すいませんボス」
「気にするな。まさかお前があんなに必死とは私も本気で見ていなかったようだな」
「考え直してもらえました?」
「いや、そのまま続行する。逃げられたら厄介だからな」
「そう、ですか……目的のためとはいえ、人が死ぬのは見てて辛いです」
マツブサの確固たる意思は変わらない。そうでなければ組織のトップなどいない。解っているけれど、ホムラはこれからの作戦を考えるだけで笑う気にはなれない。せめてそれまでは明るく笑っていたかったけれど、こうも傷がダメージが深ければ弱気になる。
「お前はアジトに残ってろ。カガリと出発するから」
「すいません」
ということは、一番の外れクジだ。ホムラはため息をつく。
引き上げて行くマグマ団を見て、老夫婦は止めようか止めないか迷った。ヒトガタを上手く取り込んだ悪意のある組織。二つの宝珠は離れることを望まず、藍色の珠と共に紅色の珠までヒトガタの手に。それならばまだ安心か。けれどヒトガタは一人ではない。もう一人がどこかにいる。あのマグマ団のことだから、もう一人も取り込んでいるかもしれない。そうして二匹を復活させてしまえば、ホウエンは終わりだ。
エクストラエピソードの執筆と並行して、スペシャルエピソードの第8作に取りかかってみたいと思います。
今回スポットを当てるのはジョウトリーグの四天王・ルリカです。ミキやユカリの親友にしてライバルでもある彼女は、既にいくつかスペシャルエピソードでも主役を務めていますが、彼女が今回足を運ぶことになったのは、シロガネ山から少し離れたところにある霊峰・セイリョウ山です。
当サイトに起きたトラブルの関係で本棚の作品にも影響が出ており、他のサイト様の方が作品の展開が早くなっていますが、収録はジョウトリーグ・エキシビジョンマッチ開始の直前を予定しています。
今回も一般的な小説形式で話を展開していきたいと思っています。
SpecialEpisode-8「セイリョウ山!伝説のトレーナー現る!!」
(1)
ここはシロガネ山の麓、シロガネタウンにあるジョウトリーグ本部。ジョウト地方で8つのバッジを集めたもの同士が繰り広げるバトルの舞台・ジョウトリーグを統括している。
ジョウトリーグは、チャンピオンのワタルを筆頭に、4人の四天王が君臨している。そのうちの1人が、この女性、カントー地方・クチバシティ出身のルリカ。全国初のくさタイプを扱う四天王としても知られている。
「さあ、もうすぐワタルさんとのチャンピオン防衛戦ね。この前みたいな展開にしないためにも、しっかり特訓しなきゃね!」
ルリカはそう言ってポケモン達に声をかける。ポケモン達もワタルとの防衛戦を間近に控えており、やる気満々と言った表情だ。
「メガニウム、はっぱカッター!」
メガニウムが勢いよくはっぱカッターを放つ。
「リーフィア、リーフブレード!」
それをリーフィアがリーフブレードで打ち落としていく。前回の防衛戦のときはワタルにほとんど歯が立たなかったが、今回はそうはいかない。それだけに今度こそは負けられないという意思が、ポケモン達にもありありと表れていた。
と、ポケギアに通信が入る。
「(あら?誰かしら・・・?)はい、ルリカです。」
ルリカにポケギアの通信を入れたのは、同じジョウトリーグ四天王のヒデアキだった。
「ヒデアキです。ルリカさん、ポケモン達の調子はどうでしょうか?」
「ええ、ポケモン達はばっちりよ。でも油断してたらワタルさんには勝てないわ。だからしっかり特訓しておかなきゃって思ってるわ。」
「そうですね。ところでルリカさん、最近こういうお話を聞いたことはないでしょうか?」
「どういうお話かしら?」
「シロガネ山の近くに、セイリョウ山って言うポケモントレーナーの修行の場として知られる山があるのはご存じですよね。」
「うん、知ってるわ。あの山は手強い野生ポケモンがたくさん生息してるけど、環境も整ってるし、ポケモンの修行の場としては最適だって聞いてるわ。」
「そのセイリョウ山に、最近有名なポケモントレーナーが現れているって言うのを耳にしたんです。何でもかつてカントーリーグを優勝したほどの実力の持ち主だそうです。」
ルリカの出身地であるカントー地方で行われているのがカントーリーグである。ジョウトリーグと同じく8つのバッジを持ったもの同士がカントーリーグを戦うというシステムだが、並の実力では到底勝ち上がることは難しい。あのポケモンマスター・サトシでさえ、初めて出場したカントーリーグは当時まだリザードンを完全に扱い切れていなかった影響か、ベスト16という成績に終わっているのである。ましてやカントーリーグはチャンピオンリーグの本部のお膝元。それだけに優勝したトレーナーはかなりの実力の持ち主と言うことが伺えるだろう。
「カントーリーグを優勝した実力、ね・・・。そのお方って、どういう感じかしら?」
「どうもこうもないです。見かけた人も少ないですし、どう言ったポケモンを使ってるかと言うのもあまり聞いてないですね。ですが、相当な実力だと言うことは言っておきます。」
「うん。それならますますお会いしてみたいわ。それに、私もセイリョウ山に一度行ってみたかったの。」
「ルリカさん、生半可なレベルでは太刀打ちできないかもしれないです。ですが挑戦してみる価値はあると思います。どうぞお気をつけて!」
そう言うとヒデアキは通信を切った。通信が切れると、ルリカはポケモン達の方を向いて言った。
「今のお話、聞いたわね。これからセイリョウ山で修行してるって言うトレーナーの方に会いに行くことにするわ。行ってみる?」
ルリカのポケモン達も大きくうなずく。
「それなら話は早いわね。行きましょう!」
こうしてルリカは、ポケモントレーナーが修行を積む霊峰・セイリョウ山に向かうことになった。
果たして、そこで待ち受ける、カントーリーグを優勝したトレーナーと言うのは、どう言った人物なのだろうか。
(2)に続く。
「さ、入って入って」
「カノン、お前……」
違う。
扉から現れたカノンのシルエットを見て、反射的にそう思った。
前に会って一日も経っていないのに。確かにカノンだが、これはカノンじゃない。
「カノン、お前まさか髪切った?」
「そのまさかよ! って、それ以外に何かあるの? いろいろ大事な話もあるから上がって上がって。ここで話すのも暑いからね」
「あ、ああ……」
先に屋内に戻るカノンをぼっーと見つめ、閉じていく扉に肩をぶたれて正気に戻る。
髪切ったのはおれだって見れば分かる。でも小さい頃から髪を伸ばし続けていたカノンが、ある日急にボブカットになっていたのだ。なんだか既存の価値観だか先入観だかをぶっ壊されたような気がして、呆気に取られていた。
しかし、それらの崩壊はこんなものでは終わらなかった。
遅れて家に入り、二階へ続く階段でようやくカノンに並ぶ。
改めてカノンの顔を見ながら、本当に人は変わるもんだなあとしみじみしていた矢先だった。
「さっきからそんなに見なくても……」
「いやあカノンも髪切るだけでこんなに変わるんだなって」
「あのさ」
「ん?」
「カノンは貴女でしょ。わたしはもうカノンじゃないんだから」
「……は?」
思わず階段を昇る足が止まった。
カノンじゃない? どういうことだ。じゃあなんなんだ。いろんな疑問が頭のなかでごちゃごちゃに混ざりゆく。階段を昇りきったカノンは左足を軸に軽やかにハーフターンし、にこやかな表情で一枚のカードを見せつけた。
「わたしは昨日付けで名前が変わったの」
カノンが見せつけた一枚のカード――新品のトレーナーカードだ――には、ボブカットのカノンの証明写真があり、その隣の名前欄には『ユナ』と綺麗に印字されていた。
「カノン……じゃなくて、ユナもなんだかんだで結構楽しんでるよな」
「そりゃそうでしょ。あ、あと言葉遣いもうちょっとどうにかしてよぉ」
深く息を吸って、はぁ、とはっきり聞こえるように息を吐いた。
クーラーで適温になったカノン、いや、ユナの部屋で、おれはベッドの上に。ユナは椅子に座っていて、今この部屋の中で動いてるのは何が楽しいかはわからないが、尻尾を使ってぴょんぴょん飛び跳ねるユナのルリリだけだ。
ルリリは定期的にユナか、俺の方に飛んでくる。抱き締めて撫でてやるとこれまた何が楽しいかはわからないが、満足気な表情になる。
おれがこうなる前は、ルリリはおれにそれなりになついていたとはいえ、ここまでスキンシップを求めることは無かった。やっぱりおれがカノンになったから、なのだろうか。ジグザグマがこれくらいなら良かったのに。
「おれ……、わたしとかこうなってからロクなこと全然起きてないわ。ユナ? が楽しそうな気持ちが全然分かんない」
「変化がある、っていうのは案外楽しいものなのねぇ。わたしずっと髪型一緒だったから、切り終わって鏡を見たらこんなわたしもあるんだなって新鮮な気がして。名前も変わって、心機一転したって感じ? もちろん病気がちなのは変わりないけど、違う自分になれる気がして」
「そう」
「まあユウ、カノン程変化はしてないけど」
一々嫌なところを突いて来やがる。あと名前も言い直さなくていいのに。
カノンじゃなくてユナは立ち上がり、昨日の青くて分厚い冊子をおれに渡して部屋に備え付けのテレビを点ける。
「にしてもなんでもやってみることねぇ」
「何が?」
「ユ、カノンがわたしに勇気をくれるって言ってくれたから、こうやって踏み出してみたんだけどさ。変わるって良いことだね」
「だねぇ」
「今ならわたしも、何か新しいことが出来そうな気がしてさ。旅には出れないけどいろんなことに挑戦しようと思うの」
「おっ、良いね良いね。楽しみにしてるよ」
単純に嬉しかった。いつも塞ぎこんでいたカノン、違うくてユナがこう前向きに言ってくれることが。
ユナはニコッ、と可愛らしい笑みを浮かべると、DVDを突っ込んでテレビのリモコンを持ち、おれの隣に腰かける。
DVDを読み込んでいる間、ユナは跳ね続けるルリリを抱き上げて、頭をそっと撫でる。
「で、コンテストの話をするけど、まずこのホウエン地方のどこにコンテスト会場があるのかは知ってるよね」
「こことミナモでしょ?」
ここ、カイナシティは地元だし何度も訪れた場所だ。愚問である。そしてもう一つ、ホウエン地方東部にあるホウエンで一二を争う大都市、ミナモシティはコンテストのメッカと言われている。これはテレビの受け売り。
どうだ、答えてやったぞと得意気にユナの顔を伺うが、そこには失意の表情しか無かった。
「それだけ?」
「え? まだあるの?」
「シダケとハジツケもあるわよ」
「辺鄙なとこにあるんだね」
あは、あははとぎこちなく笑って、今のミスを誤魔化そう。
シダケタウンはホウエンの中部にあり、自然に囲まれた観光地だ。たまにテレビの旅番組で取り上げられる。
そしてハジツケタウンはホウエン北部。近くの煙突山という火山が年中火山灰をめいいっぱい噴出しているせいで、町自体が火山灰に覆われていると学校でかつて習った。正直この町のことは良くわからないが、まず町へのアクセスが大変だというのは聞いたことがある。
「その調子だと不安ね」
「大事なのはこれからだよ」
「相変わらず調子は良いのね」
どっちだよ。
そのあとも会場に関する細かい話をユナから聞いた。会場によってどのランクのコンテストが開かれるかは知ってはいたが、カイナがハイパーランクということしか知らなかった。ユナが言うにはシダケがノーマル、ハジツケがスーパー。そしてミナモはノーマルからマスターの全てのランクを開いているとのことらしい。やりよる。
「じゃあ最初からミナモに行けばいいんじゃない? ここから連絡船頻繁に出てるし」
「旅する、が一番の目的じゃなかったの?」
「あ、そっか」
「それで大丈夫なの? ま、そんなことよりもとりあえず、ちょっと古いけど実際のマスターランクコンテストの映像観てみようよ」
ユナがすっかり忘れられていたDVDのリモコンを一つ押せば、だんまりを続けていたテレビが急に騒がしくなる。それと同時にずっとユナが抱いていたはずのルリリが、テレビのすぐ前に移動して、テレビにかじりつきながら飛び跳ねる。じっとしてるならまだしも飛び跳ねられると視界に入ってくるからテレビが見辛い。
「この『ダンディー・ダディ』っていう人に注目して観といて」
やや古ぼけた映像の中でどのポケモンよりも際立って目立つ、深緑のスーツに時代錯誤な髭の男。いつかテレビで見たことある気がする。
『マスターランク、たくましさ部門。ダンディー・ダディは往年のパートナーであるギガイアスを引き連れて出場しました』
女声のナレーションが入る。実況とは違うな、と思えば床に落ちているDVDのケースに『ダンディー・ダディの道vol.4』と記載されていた。ドキュメンタリーなのだろう。
さてDVDは二次審査、ワザによるアピールに入る。アピール前にダディはギガイアスをそっと撫で、力強い声で岩石封じを指示する。ギガイアスの咆哮が轟き、次いでコンテスト会場の地面からゴゴゴゴゴと巨大な、ギガイアスを縦に並べて三匹分はありそうな程の岩山が現れる。ギガイアスも、ダディも姿が岩山に隠れてしまった。これではアピールにならないのじゃないか。そんな予想をひっくり返すように、『岩砕き』と凛とした声のあと、とんでもないことが起きた。
唸るような音がして、これ以上なく綺麗に岩石封じで生み出された岩山が真っ二つ、綺麗に等分にされて割られていた。しかしより驚くべきはギガイアスが割った岩から数メートル離れていた岩も、ギガイアスの岩砕きの衝撃を受けたことで真っ二つに割れていたのだ。
なんだこれ、と知らず知らずテレビに食いついていたおれは無意識のうちに呟いた。跳ね回っていたルリリもいつの間にかじっとしている。
『さあ、ストーンエッジ!』
割れた岩山の隙間から、カメラ目線でダディがどやすと、ギガイアスは足元の小石一つを弾丸のように岩山目掛けて放つ。音も無く岩山が削れ、ギガイアスはさらにその削れた岩山も操って岩山を削り、さらに岩山を削っては操る。一分しないうちに割れた岩山どちらとも、元の更地になっていた。畳み掛けるようにダディのロックカットの指示を受け、ギガイアスは上空で小石サイズまで削られた大量のそれを、さらに各々のサイズを削るようにぶつけていく。
『フィナーレだ。岩雪崩!』
ギガイアスは小石同士をぶつけるのをやめ、浮かべた小石を一つの銀河のように広げていく。ダディがギガイアスに近づいたと同時、浮かべた小石が雨のように降り注ぐ。さすがに小石と言えどあんなに大量に降ってきたら危ないっ、そう息を飲み、呼吸を忘れた。
しかし互いに身を寄せあった一人と一匹を避けるように、小石は辺りへ降り注ぐ。あんな量の土砂に、掠りもしないだなんて。
アピールが終わり、ダディがお辞儀をすると共に、テレビからは耳が破裂しそうなほどの拍手と、ひたすらそれを賛美するナレーションの声。
すごい。コンテストってこんなことをするのか。
大してコンテストに興味を持っていなかったはずのおれが、いつの間にか手に汗していた。
ドキドキとワクワクと驚きが、興奮を触媒にして目まぐるしく渦巻いて行く。DVDは他の人の演技を飛ばし、関係ないインタビューに移っていたが、それでもまだ心臓がばっくんばっくんしているのがわかる。ってちょっと心拍数大丈夫なのかおれ。内に秘めた感情が、おれというキャパシティをオーバーしているんじゃないか。もはや何がなんだかよくわからない。
そんなおれの視界に、ひょいとカノンの顔が覗き込んだ。
「このDVDを初めて見たとき、わたしもそんな顔だったよー」
「そ、そう、だったの……?」
「DVDも良いけど、やっぱり折角だし本物のコンテスト、観に行かない?」
「似合わない」
もう何処から見てもマグマ団にしか見えない格好を、ガーネットはそう言った。フードをかぶってしまえば、冷たい別人のように見える。服装を変えただけなのに、こうも印象が違う。気づかなくてすれ違ったこともないとは言えない。
それにまだザフィールがマグマ団だったということは受け入れがたい事実。目の前の人物がそうであっても、心の中ではどこか否定している。マグマ団であること、それと疑惑の人物であること。
「そういうなよ」
何も言わずにザフィールを見る。笑ったような、困ったような顔をしていた。
「数日後に戻ってくるよ」
そういって窓から身を乗り出す。そしてオオスバメの翼に乗って行ってしまった。小さくなっていく後ろ姿を見送って、窓を閉めた。ポケモンセンター内なら安全だから、と彼が言っていた。そしてふらつく頭でそのまま寝床につく。
ミナモシティは遠い。地図をぼんやり見つめて、側にあるスポーツドリンクに口をつける。ここ最近、食べていないから元気が出ない。朝にたくさんかいた汗を湯で流したが、高い体温は変わらない。けれど少し気分が晴れたような気はしていた。
突然、部屋の入り口のドアが大きな音を立てる。飛び起きた。そのままドアはノブを強制的にまわされてるような、カギを壊しそうな音がする。ポケモンセンターの中にだって来るようだった。金属のドア一枚が安否を分ける。まとめておいた荷物を取ると、窓を開けた。そして下を見ると意外な高さ。すぐに出ていこうとしたが、手が止まる。その間にも入り口のドアは蹴破られそうな音を立てていた。
「飛び降りろ!」
誰に言われたのか解らないが、ガーネットは窓のサンを乗り越えて飛び込んだ。もちろん、その瞬間から重力に引かれて下に落ちる。たくさんの枝が網のようなクッションの役割をしていた。そして最後は、やわらかいものに受け止められる。
「大丈夫みたいだね、ガーネットちゃん」
なぜいるのか。ダイゴがそこに。地面に下ろされてもまだ実感が湧かない。今までの冷たい感じではなく、前のような優しいダイゴだった。
「ダイゴさん!」
「気をつけて。悪い人はどこにでもいるからね」
「ありがとうございました。けど、私追いかけなきゃ行けない人がいるんです」
気のせいだったか、ダイゴが何かを言おうとして、途中から声がなくなったような。そんな腹話術のようなことをする必要がないと、ガーネットはダイゴから離れ、シルクのボールを出す。そしてシルクによじ上ると、行けと命令する。木々の間を抜うようにシルクは走る。
「真実も言わせてくれないのかい?随分と僕を利用しといて?君なら解ると思っていたのに」
ダイゴは自分の後ろにいるものに話しかける。迷いかけている心を指摘しながら。
「お分かりになりましたか。けれど、私もあの方々から言われてる身。その目的を果たすまではそうするしかないのです。特にヒトガタを敵にまわすと厄介だと」
「こうしてたまに自我を解放させて、君たちは僕をどうしたいんだい?あの子たちに何かあったら、僕はその場で君たちと共に」
ダイゴの持つボールの中身を感知し、本気を受け取る。
「私は貴方と話したいのです。貴方なら解ってくれるかもしれないと期待してるのですが」
「買いかぶりというものだよラティオス。僕は誰かを犠牲にしてまで平和を導こうなんて思ってない。それが知らない子でもね。それに解ってくれると思っているなら僕を解放してくれないかな。僕には待ってる人がいるんだ」
「それは出来ません。私自身の意思ではないのです。私としては・・・」
「本当、君とはいい友達になれそうだよ」
ダイゴはボールを変え、エアームドを出す。そして鋼の翼を広げて鳴くエアームドに乗る前、振り向いた。
「これが全て終わったら、また色々話したいものだ。君のお気に入りの話もね」
「ええ、私もそう思ってます。貴方は人間なのに中々面白い考え方をする」
エアームドは飛ぶ。そしてラティオスはそれを見送った。傍らにラティアスが寄ってきて、こんなことをしているのがバレたらどうすると聞いてくる。
「その時はその時でしょう。ラティアスも思ってますよね、レジ様に全面的に同意できないことくらい」
「う、うん。でも私たちには勝てないんだよね、どうしてもレジ様を頼るしかない」
「仕方ありません」
ラティオスとラティアスは光の弾丸となり、ヒワマキシティから飛び立つ。
ゆったりとした風が流れる。雲が上空の風にゆられて時々日差しを隠す。この道はいつ来ても自然の変化に富んだ道だ。ザフィールはゆったりとした歩みで進む。少しスピードを出しすぎたスバッチがへばってしまって、今は休憩中。そして、時間には余裕がある。
「しかし置いてきて大丈夫かなあ」
いつも自分たちを見張るような視線はあった。しかもこちらが一人になるのを待っていたような感じであった。ヒワマキシティの真ん中にいれば、早まった行動をするような連中だとは思えないけれど。
草むらに入った瞬間、ザフィールは盛大に転ぶ。何かが足を引っ張っている。起き上がり、足元を見た。白くて頭に死神の鎌を思わせる鋭い刃を持つアブソル。思わずザフィールは逃げ出す。情けないことに悲鳴をあげて。
アブソルというのはその白い毛皮を現した時に災いを予知するポケモンと言われている。姿を見せる人間にそれは降り掛かると。そのことを知っていたから、ザフィールはサメハダーに襲われた時のように逃げた。草むらから野生のポケモンが飛び出してくるが、それらからも逃げるようにザフィールは走る。
草むらが途切れている。これで追いかけてきてもすぐに解るだろう。後ろを振り返り、ついてきていないことを確認する。一息ついた。もしあのまま攻撃されていたらたまったものではない。
ミナモシティへの道を歩み始める。一歩踏み出して止まった。いつの間に目の前にいる。頭の鎌を振りかざし、威嚇しているアブソルが。鎌が光る。空気を切り裂いて、黒い風が草むらを凪ぎ払った。辺りは元草むらと、風に傷ついた木の幹。
「うわあっ!!たすけてカストル!」
前もこんなことあったような。カストルと呼ばれたプラスルがボールから飛び出すと、火花を散らしてアブソルを威嚇する。アブソルは再び鎌を振った。それより早くカストルが電気をまとって突進し、鎌の攻撃は宙を切った。アブソルがひるんでいる。
「逃げるぞ!」
カストルは素早い主人に必死で追いつく。自慢の逃げ足で追いつけるポケモンなんていないはずだ。走ればきっと振り切れる。災害なんて逃げてやる。巻き込まれてたまるか。怖がるのは迷信だと笑えばいい。本当に災いを呼ぶポケモンなのだから。
正確には災いを予知してその人物の前に現れるという。10年前も同じだった。目の前に現れ、じっと見てくるアブソルを迷信だと笑っていた。そして起きたあの事件。もう絶対同じことは繰り返さない。アブソルなんかいなくなってしまえばいいのに。
こんなに息が切れるほど走ったのも久しぶりだ。大きな木の幹に手をつき、肩でしている息を落ち着かせる。気温が上がって来ているし、日差しもあるから汗が出てきていた。あまりに日差しに当たりすぎると昔からビリビリと足から痛くなってくる。日焼けなんてしようものなら歩けない時もある。
「もう、大丈夫だよな。はやく、いかない、と」
カゼノ自転車を取り出す。随分この自転車も汚れてしまった。泥はねが凄い。落ち着いたら張り切って整備しないといけない。ギアを変え、雨上がりの水たまりを走り出す。
そして120番道路をさらに南下し、背の高い草むらも終わりに差し掛かる。自転車に草が絡まることもなく、なんとか通り抜けた。途中の段差も自転車ごと乗り越える。
ミナモシティの方角を見ると、青い空が広がっていた。もうすぐ夏本番になる。入道雲はまだ出ていないようだが、海から吹く風は夏を知らせていた。
「おせーよ」
自転車を降りた。そしてその言葉と共にホムラの拳が頭に一発。完全に遅刻だと怒っていた。頭を下げるしかない。ここでただ一人、遅刻者を待っていたようだった。
「遅刻厳禁、現地集合現地解散!忘れたのかマグマ団規則第14条と25条!」
「忘れたわけでは・・・ないんですけど」
「それになんだ。仕事の迷惑だ。ポケモンはしまえ」
ホムラが指差した方向には、ザフィールの後ろにぴったりと寄り添うアブソル。いつの間にか追いついていたようで、ザフィールをじっとみて動かない。思わずホムラの後ろに隠れる。
「追い払ってください!あいつ、10年前も俺の不幸を予言しやがった。関わるとろくでもないポケモンなんですよ!」
「はぁ?そーとー懐いてんぞ、お前に」
のどを猫のように鳴らし、ザフィールの足元にすり寄る。匂いをつけるかのように足のまわりをぐるぐると。
「お前がうまそうにみえたんじゃないか?放置するとまた食われるぞ」
「うう・・・ホムラさんがこんなに酷い人とは」
ホムラの言う通り。このまま野生のアブソルにしておけばここを通った時に毎回襲われてしまう。災害の使者と言われるアブソルを持つこと自体が苦痛で仕方ないが、襲われるのはもっと苦痛だ。空のモンスターボールを投げると、アブソルはそこに収まっていく。
「もういい。行くぞ、ここから泳いでいったおくりび山だ」
今日のホムラはなぜか機嫌が悪そう。普段なら遅刻くらいでこんなに不機嫌になることなどない。ホムラが投げたボールからギャラドスが現われ、乗れと言われる。
ホムラがギャラドスの上に乗り、行けと命令する。ゆったりとギャラドスは海面を泳ぎだす。
「お前、俺に言われたこと覚えてるよな」
「え?えーっと・・・?」
「お前の友達のことだよ」
「それは、ホムラさんとカガリさんが行くって・・・」
「バカか。お前がダラダラ遅い上に連れて来ないもんだから、ボスは連れてきたやつに多額の報酬かけてんぞ。本気で身を案じてるなら早く連れてくることだな」
「なんで!?どうしてそんなあいつを連れてくる必要が」
「あるからいってんだよ。俺にグダグダ聞くんなら、ボスに直接聞け」
会話は途切れる。終止ホムラはイラついた言葉を投げつけていた。マツブサと激しい意見のぶつかり合いがあったようだった。ギャラドスに指示するときも、いつものように声をかけるのではなく、大雑把に言うだけ。
マグマ団はその性質から目的のための手段は気にしない。アクア団にかどわされた時のようなことを再び起こすのか。それだけは避けなければ。前を向いているホムラに気づかれないように、スバッチのボールを開けた。そして海風に乗り、大空へと舞い上がる。
おくりび山は全ての命が終わる場所だと言われている。役目を終えた命がここから天へ旅立つと。そのような言われがあるため、いつの間にかポケモンたちの墓が並ぶようになった。
海に囲まれた島なのだが、昔は陸続きだったようで、山だと呼ばれている。ザフィールがギャラドスから降りると、墓参りに来たトレーナーとすれ違った。そして吐き捨てるように「マグマ団風情が」と呟いたのである。
「ああ、中じゃなくて外のコースな。登山コースの案内通りに頂上まで」
「はーい」
登山コースも墓参りルートも幽霊ポケモンが出ることで有名だった。できればあまり見たくないポケモンだが、世間ではこれをかわいがる人たちがいるのだから、よく解らない。
野生のロコンがこちらを見ている。中には生まれたてなのか白くてしっぽが1本のロコンもいた。春にタマゴがよく見つかるというが、少し遅くうまれたのだろう。ザフィールたちを警戒して、毛を逆立てて威嚇している。関わらないように注意を払っておくりび山を登る。
「ザフィール、やけに騒がしいと思うよな」
登るにつれて騒がしくなる頂上。ホムラの言う通りに嫌な予感しかしない。なぜバレたのか。そして目的のものは無事なのか。
「用意はいいか?アクア団なんかに遅れをとるなよ」
「もちろん」
二人は走る。上り坂を一気に駆け上がった。もちろん、二人の目の前に入るものは予想とそう違わない。持っていたボールを投げた。
地面が揺れて盛り上がる。ところどころマグマが流れて。荒れた風に大波が巻き起こり、海岸へと押し寄せる。どちらも優勢のようで劣勢のようだった。高い山の頂上で吠えている怪獣はその体に青い模様を光らせ、深い海のそこで吠えてるシャチはその体に赤い模様を光らせる。
やがてその2匹から美しい光がうまれる。炎のような赤い色と、南国の海のような青い色。どちらも不思議な模様をたたえて。そして丸い宝珠となり、怪獣は赤い宝珠、シャチは青い宝珠をお互いの境界線に収めると、静かに眠りについていった。
さえずりに目を覚ました。ガーネットの目の前に紺色の翼がある。こんなに懐いているオオスバメは、ザフィールの手持ちしか知らない。足にくっついている手紙を見る。
ヒワマキシティを飛び出したのはいいけれど、まだ万全ではない体調。木の上で少し眠ってしまったようだった。時計を見ると、かなりの時間眠っていたようだった。手がじんわりとしている。スバッチに主人の元に行くように言うと、木から降りる。そしてポルクスと名付けられたマイナンのボールを見る。ヒワマキシティから出る時、ザフィールは絶対に戻ると約束し、その証拠に名前をつけたプラスルとマイナン。うまれる前から一緒である双子座の名前。
その約束が果たせなくなるならば、こちらから行くしかない。シルクのボールを開く。
「空は快晴。雨はない。行くよシルク」
炎のたてがみが水たまりに映える。シルクが走り出した。やわらかい土が蹄につく。そして一斉に刈り取られたような草むらを過ぎて、スバッチが教えてくれた場所へと向かった。
これまた別の部屋では、氷のブロックがいくつも置かれてあって、明らかに寒そうな場所であった。そこに、老人と青年が一人ずついた。
「……呼吸をしている、心臓が鼓動を刻んでいる。それは生命として、ただ存在している、それだけのこと。ワタシは、それだけでは生きているとの感覚が得られぬ。楽しくても、苦しくても、生きているという実感は重要なのだ」
「それじゃあ、普通の所にいても生きている実感はないってわけなんや」
青年、トキのこの言葉に、老人、ヴィオはこう返した。
「ワタシは、その実感を得るために、わざとこのような過酷な場所に身を置いている。……オマエにはこのことの素晴らしさが分からないだろうな」
「……」
「まあ、ワタシのこんな下らない話に付き合ってくれたのだ。ここから先にオマエを通すわけにはいかない!」
「やったら、俺はお前を突破してやるっ!!!」
戦いは始まったのだ!
老人が最初に出してきたのは、カントーでは伝説の3匹の鳥ポケモンとして知られるうちの1匹、ファイヤーだった。対して、青年は大きな牙を持つ氷割りポケモン、トドゼルガを出した。
見た目通りというか、何というか、先に動いたのは火の鳥の方で、眩い光を放ちながら室内に光球を出現させた。日本晴れである。
この光球によって炎の技の威力が上がるわけなのだが、怖いのはそれだけではなかった。
「トドゼルガ、波乗り!」
大きな氷割りポケモンが大波を出現させ、弱点の技で火の鳥を飲み込んだわけだが、
「……そこまで効いてへん!?」
天候効果で、水の技の威力が下がってしまっていたのだ。よって、弱点を突くことには突けるのだが、思うようにダメージが上乗せできない。逆に溜めなしのソーラービームを食らってしまい、劣勢であった。
「こんなくらいではワタシを倒すことなんて夢のまた夢ですよ!」
「……それはどうやろうか?」
「何故そんなに自信に満ちた表情をしている!?……!!」
何と、ダメージを食らいつつも、トドゼルガはファイヤーに近づいてしがみつき、重量通りのパワーで地面にたたき伏せているではないか!
「なっ……嘘だ!」
「至近距離で絶対零度!!!」
命中率がいくら低い技と言えど、かなり近い距離から放たれると回避も厳しいものである。間近で必殺の一撃を食らうと、いくら伝説とか幻のポケモンの類でもノックアウトされてしまうだろう。例に漏れず、ファイヤーは氷の一撃技の前に地に伏した。
ヴィオが2匹目に出してきたのはギガイアス。見た目と特性、両方の面からして、いかにも頑丈そうなポケモンである。一方、トキはまだ日本晴れの影響が続いていることを考え、トロピウスを送り出した。
普段は若干ゆっくりとした印象が否めないフルーツポケモンだが、天気が晴れている今、一気に活発になった。葉緑素の特性が発動しているのだ!
そして、晴れの天候での草ポケモンの常套手段である、溜め動作なしのソーラービームを高圧ポケモンに食らわせたのだ!
それが当たった瞬間に、ドオオオン!!!という激しい音と光が発せられ、高圧ポケモンは倒されたかに思われた。
「いったか?」
「まだ甘いぞ、青年よ!」
「……!!?」
大ダメージを与えたのは紛れもない事実だ。しかし、ギガイアスの怖い所は、その特性にあった。体力が満タンである限りは、どんなに強力な攻撃を食らおうとも、突っ張りなどの連撃を食らわなければ絶対ギリギリのところで持ちこたえるのだ!
「分かったか、甘いという意味が!ギガイアス、大爆発!」
「避けろトロピウス!!」
広がった爆風に多少巻き込まれながらも、フルーツポケモンは何とかノックアウトされずに済んだのである。ここでちょうど、光球が消滅し、もとの寒い環境に戻った。
老人が3匹目に出したのは他人を化かすことで有名な化け狐ポケモンだった。だが、特性を使わずにストレートに出してくることに、裏のようなものを感じたくもなる。出されたポケモンを見て、少々考えたのちに、青年は武術ポケモン、コジョンドを出した。
お互い攻撃力は高そうで、防御力は逆に低そうだった。なので、短期決戦になるだろうというのを、トキは薄々感じていた。
(ここは、先に行かんと負ける!)
「コジョンド、猫騙し!」
パチン、という音とともに、ゾロアークの動きが止まる。そこに青白い球体がいくつも降りかかる。波導弾だった。それに負けじと高速移動で化け狐は紫のオコジョに接近し、辻斬りを食らわす。しかし、接近戦は格闘のポケモンのテリトリー。拳を狐の体に当てたオコジョは相手の体内にある「気」を吸収していき、化け狐ポケモンを倒すに至った。ドレインパンチの効果は、草ポケモンの吸い取り系統の技同様、恐ろしいものであった。
4匹目にヴィオが出してきたのは、カントーの雷の鳥、サンダーだった。一方、トキは青い鮫のような砂竜のガブリアスを繰り出した。
「この状態だと、最大の武器である地震が使えないことも知らぬのか。愚かな者よ」
「分かっとるわそんなこと!地震以外にも使える技はあんねん!ナメんな!!」
先に動き出したマッハポケモンは、強靭なジャンプ力をもってサンダーに近づき、腕のヒレを硬質化させた刃で真一文字に相手を切り裂いたのである。ドラゴンクローの炸裂であった。
しかし電撃ポケモンが黙っているはずもなく、氷の力を持った目覚めるパワーで反撃する。砂竜は氷4倍の弱点を突かれ、さらに氷が腕を覆う格好になってしまった。
「どうした。もう降参か?」
「そんなんするかっ!!!腕に火炎放射をして氷を融かせ!」
ガブリアスならば、自分に火を当ててもそう堪えない。炎で氷を融解し、そして、
「逆鱗を使え!」
とんでもないオーラに包まれたかと思うと、一瞬にして、本当に音速に近いスピードでサンダーに接近し、数十発もの打撃を食らわせた。ドラゴン物理技最強クラスの攻撃をもろに食らった雷鳥は、ボロボロの状態で墜落していった。
ヴィオの5匹目はフワライド。気球のようにふわりと浮いている。先程の逆鱗のマイナス効果で混乱を起こしているガブリアスを戻したトキは、次のポケモンとして電気の獅子、レントラーを出した。
眼光ポケモンはその凛々しい姿から、相手の士気を減退させる雄叫びを発した。気球が少しだけ、びくんと動いたのは、気のせいではないだろう。
しかし先に動いたのは、先程驚いてしまった気球の方だ。人の指の腹くらいの大きさまで体を小さくし、そこから怪しい風を吹き起こす。
「レントラー、ここは電撃波で確実に行け!」
その作戦は当たった。いくら回避に自信のある小さな状態でも、必中技は必中技なのだ。たまらず元の大きさに戻る気球ポケモンに、追撃とばかりに氷の牙を食らわす。
ガチゴチに固まったところで10万ボルトを行った、の、だが。
ズドーン!!!
かなりの音が鳴り響いた。見ると、凍っていたはずなのにフワライドはレントラーに接近して、死に際の誘爆を炸裂させていたのだ!
「嘘やろ……10万ボルトは接近技ちゃうのに……」
「倒れ際に至近距離まで近づいておけば、誘爆は発動できるからな。……しかし倒すまではいかぬか。しぶといものよ」
とはいえ、ヴィオはもう後がなくなっていた。次が最後の1匹。その局面で出してきたのは、カントーの氷の鳥、フリーザーだった。そして、最後にトキが出したのは、彼のパートナーである誘いポケモン、シャンデラ。
ここでヴィオは、とんでもない指示を行ったのである!
「この部屋全体に絶対零度」
指示するなり、猛烈な冷風が部屋中を駆け巡っていく!!幸い、シャンデラに当たることはなかったものの、二人の足場はみるみるうちに凍っていった。
「お前、何してんねん!そんなことしたらお前も」
「ワタシにとってはこれが生きているという実感を得られる証拠!これでポケモンとオマエを揃って倒し、そしてオマエの亡骸からポケモン達を解放してみせるっ!!!」
自分が最も力を発揮できるというこの環境で、とてつもなく残酷な野望を語るヴィオ。追い詰められたことで本性がむき出しになったのかもしれない。とにかく、こんな場所に長時間いては、凍傷でボロボロになってしまいそうだ。ポケモンはともかく、人間が。
「シャンデラ、俺の足元の氷を融かしてくれ。焼かない程度で」
それでも、傷の具合はまだツイていた方かもしれない。そうひどい凍傷ではなかった。勝負が済んで温めれば何とかなりそうなレベルだ。
「フリーザー、生意気な奴に冷凍ビームを食らわせろ!」
ただ、相手の冷凍ポケモンが明らかに人間に向けてのダイレクトアタックを仕掛けてきており、非常に危険な状況に変わりはなかった。公式戦では卑怯・危険行為で失格になりかねないが、今目の前にしている相手は七賢人。こんなことザラにしてくる。
そして、冷凍ポケモンが幾度目かの冷凍ビームを出してきたときに、シャンデラが一撃必殺の反撃を試みたのである!
「シャンデラ、オーバーヒート!!!」
もともと特殊攻撃力の強い誘いの霊灯は、自分の持つフルパワーを超高温の炎に込め、それを発射した!
その炎は、伝説のポケモンの発した氷でさえも赤子同然に呑み込み、そのまま直撃し、冷凍ポケモンを落下させたのだ……!!
「ワタシはオマエにとんでもないことをしようとしていたようだな……反省が必要だ……」
「……反省のレベルを飛び越えてもうてる気がすんねんけど」
部屋にあった氷のブロックは先程の高熱の塊ですべて融けてしまった。その空間の中で、ヴィオはトキに勝利の証である鍵を手渡していた。
「オマエは、ワタシのような卑怯な男にだけはなるな!さあ、先へ急ぐがいい!!」
トキは施錠されていたドアを開き、先へ進んでいった……!
七賢人完全撃破まで、あと、2人。
次へ続く……。
マコです。
自分のゲーム中のバトルスタイルはこんな感じです。ひたすら攻撃しまくるんです。
実際のバトルではダイレクトアタックは禁止ですよ!
さて、いよいよフルバトルも終盤戦です。
次に登場する七賢人、ヒントは……
ウルガモスをゲーチスに献上しようとした人!
ちなみに、あの「セリフがおかしい下っ端」も出てきます!
「お! よっしゃあ! まずそこのペラップから倒してやるぜ!」
風見杯二回戦。俺、長岡恭介と相手の喜田敏光の対戦はまだまだ序盤。どちらもサイド三枚だが、ダメージの比重は俺に分がある。
雷エネルギーが二枚、炎エネルギーが一枚ついた俺のヒートロトム80/80がバトル場にいて、ベンチにはエレキブル100/100とウォッシュロトム90/90。
対する向こうはバトル場に超エネルギーが二枚あるキルリア80/80に、ベンチにペラップ10/60。そして今俺の手札の中にはペラップをどうにか出来る手立てがある。
「行くぜ、手札のサポートカード。プルートの選択! このカードの効果によって俺のロトムはダメージカウンターとエネルギーをそのままにしてフォルムチェンジが出来る。ヒートロトムを山札に戻し、フロストロトムを場に出すぜ!」
これがペラップ撃破への秘策だ! ロトムは電子レンジから離脱し、普通のプラズマ体であるロトムに戻る。ロトムがいなくなった電子レンジは、ふっとその場から煙のように消えると、代わりにどこからか冷蔵庫が現れる。それに気付くや否や飛び付くようにロトムは冷蔵庫に入り込み、これでフロストロトム90/90の誕生だ。
ヒートロトム達と同様に、フロストロトムも例外なくポケパワー、フロストシフトで水タイプになることが出来る。とはいえ、やはり今は不要な効果なのでスルー。
なによりも大事なのはワザ。ベンチにいるペラップの息の根を止めることは、ヒートロトムには出来なくてフロストロトムに出来る技術。一発ぶち込んでやりますか!
「ベンチのウォッシュロトムに水エネルギーをつけて、俺はフロストロトムで攻撃する、霰!」
霰というには少々、いや、相当おこがましいエフェクトだった。フロストロトムが自身の冷蔵庫の扉を開くと、そこからマシンガンのように大量の小さな氷弾が飛び出て相手側全方位にこれでもかというほど叩きつける。
「この霰は相手のポケモンならばバトル場だろうとベンチだろうと全員に10ダメージを与えるワザだ。これでペラップも撃破!」
キルリア70/80の後ろでキルリア同様霰を喰らったペラップ0/60が倒れ、喜田は「ああっ」という情けない声をあげながら僅かに右手をのばした。
「サイドを一枚引いてターンエンドだぜ」
よし。サイドを一枚引いたのにまだ俺のポケモンはダメージを受けていない。
理想以上の展開が来てる。もしかしたら俺勝っちゃうかもしれないんじゃね? いやいやいや。そういう油断でいつも失敗するじゃんか。落ちつけ俺。一人頭を横に振る。
「俺の番、行くよ。えっと、キルリアをサーナイトに進化させて超エネルギーをつける。そしてサーナイトで攻撃、サイコロック!」
進化したてのサーナイト100/110は白く細い腕でフロストロトムに標準を合わせると、紫色の小さな念波弾が冷蔵庫を後方、つまり俺の方に飛ばす。
ズドン、ドガーン、グシャーン、と騒々しい音三連打に、ついつい耳を塞いでしまった。
しかし立ちあがったフロストロトム30/90は、ワザを受け終わった後だというのに体が先ほどの念波と同じ紫色に包まれて、身動きがとりづらそうにしている。いいや、フロストロトムだけじゃない。ベンチのウォッシュロトムも、エレキブルも。一体ぜんたい何が起きてるんだ?
「このサイコロックを受けると、次の番君はポケパワーが使えなくなる!」
「なっ、なんだって!? っていうかロトムだけじゃないの!?」
「そういうこと」
ポケパワーを封じられるなんて。ロトムはもちろん、発動条件が満たせていないがベンチのエレキブルだってポケパワーを使えるはずだったんだが。
とはいえロトムのポケパワーに旨味はないし、気にせず全力で行くだけだ。
「俺のターン!」
引いたカードはまたまたエネルギー付け替え。だが今このタイミングで来たのは喜ぶべきだ。いいタイミングで来た。
というのも、フロストロトムのもう一つのワザ、アイスクラッシュに必要なワザエネルギーは水無無。そして当のフロストロトムには炎雷雷しかついていないためワザの発動条件を満たせていない。
悪いけど、フロストロトムにはここでは壁になってもらうしかない、か。
「雷エネルギーをウォッシュロトムにつけて、エネルギー付け替えを使わしてもらうぜ。フロストロトムの炎エネルギーをウォッシュロトムに付け替える。そしてもう一度霰攻撃!」
どれだけ激しい霰が降ろうと、与えるダメージは僅か10ダメージ。サーナイト90/110を見てみれば、なんてことの無いようにピンピンしている。もうちょっと痛そうな素振り見せてくれないと無駄みたいで悲しいじゃねーか!
「俺のターン、まずはトレーナーカードのポケモン図鑑HANDY910isを発動。山札の上から二枚を見て、一枚を手札に、もう一枚を山札の下に置く。そしてサーナイトで攻撃! サイコロック」
攻撃をくらったフロストロトムは再度後ろへ吹っ飛ばされる。冷蔵庫から命からがら脱出したロトム0/90だが、そのまま起き上がること無く力果ててしまう。
壁にして悪い。でも、その分きっちり後に引き継がせてやる。俺はバトル場にウォッシュロトム90/90を送りだした。
「サイドを一枚引くよ」
「なんの、俺のターン!」
俺のベンチにいるエレキブルのポケパワー、電気エンジンはトラッシュに雷エネルギーがあるとき、自分の番に一回だけ雷エネルギー一枚をエレキブルにつける効果。
しかしサーナイトのサイコロックでそれを阻まれてしまっている。歯がゆい、ようやくサイコロックの鬱陶しさを掌握したぜ。
「だったらバクのトレーニングを発動! 山札からカードを二枚引く。そしてエレキブルに雷エネルギーをつけてウォッシュロトムで攻撃だ! 脱水! このワザは30しかダメージが与えられないが、コイントスをウラが出るまで行え、その数だけ相手の手札をトラッシュさせる効果がある!」
「手札破壊だって!?」
「さらにバクのトレーニングの効果で、この番自分のポケモンが相手に与えるダメージをプラス10する!」
これで合計40ダメージだ。そしてワザの効果の判定に移る。コイントスのボタンを押せば、オートで結果がモニターに現れる。続けざまに出るそれは……オモテ、オモテ、ウラ。
「よし。それじゃあ一番左のやつとそれの二つ隣のやつをトラッシュしてもらうぜ!」
「あぁ、ラルトスとサーナイトLV.Xが!」
サーナイトLV.Xをトラッシュ? やった! LV.Xとはいえ、サーナイトもサーナイトLV.Xも同名カードとして扱われるし、ハーフデッキでは同名カードは二枚まで。
つまりもう喜田のデッキにはサーナイトもサーナイトLV.Xも入っていないってことになる。LV.Xなんて切り札級のカード、使われる前に対処出来れば最高じゃねーか。
それに加えサーナイトの残りHPも40/110まで追い詰めた。OK、良い感じだ。
「まだまだ、俺のターン。手札のポケモンレスキューを発動! トラッシュのポケモンカードを手札に加える。俺はサーナイトLV.Xを選択し、バトル場のサーナイトをレベルアップさせる!」
「あれっ!?」
サーナイトが光の帯に一瞬包まれ、サーナイトLV.X60/130へレベルアップする。この投影機ではLV.Xと普通のポケモンが大差ないのが、分かりにくい。
「そしてサーナイトLV.Xにポケモンの道具、達人の帯を持たせる。達人の帯をつけたポケモンはワザで与えるダメージと最大HPが20増える!」
サーナイトLV.Xは突如上から降ってきた帯を腰に巻き付ける。HP増強の効果もあり、残りHPは80/150、さっきの番と同じじゃねえか。だがその代償として、達人の帯をつけたポケモン、サーナイトLV.Xが気絶したとき俺はサイド二枚引くことが出来る。要するにこいつを倒せさえすれば勝てる……!
「このサーナイトだけで勝負を決める! サーナイトのポケパワーを発動。テレパス! このポケパワーは相手のトラッシュにあるサポーターのカードと同じ効果を得る。俺は君のトラッシュにあるバクのトレーニングを発動。山札からカードを二枚ひき、このターンサーナイトLV.Xのワザの与えるダメージが10増える」
達人の帯とバクのトレーニングの効果ですでにサーナイトLV.Xのワザの威力は+30。ヤバい、ワザを受ければ一撃もある。
「サーナイトLV.Xで仕留める攻撃!」
技の宣言と同時にパァァンと銃声に似たような音がする。何があったのか、まさか発砲かときょろきょろ場を見渡すと、知らぬ間にウォッシュロトム0/90が倒れ伏していた。
「このワザはサーナイトLV.X以外で残りHPが一番低いポケモン一匹を気絶させるワザ。つまり今現在この場で残りHP90で最も低いウォッシュロトムを気絶させる」
「いっ、一撃で!?」
「サイドを一枚引いてターンエンド」
マズい、次のターンで何か手を打たなければ負けてしまう。
俺のバトル場には新たに出たエレキブル100/100。しかしベンチには他にポケモンがいない。
今の喜田のサイドは一枚、つまり一度でも仕留めるを使われてしまうと俺は負けてしまう。
負ける? イヤだ。負けたくない。勝ちたい。勝つんだ。勝つにはどうする? そんなの決まってるじゃないか。
この番でサーナイトLV.Xを倒さなくちゃいけない。でも、どうやって倒す……?
達人の帯でHPも上がったサーナイトLV.X80/150を倒す以前にエレキブルでワザを使うことさえままならない。
今のエレキブルにはエネルギーがついていないのに、エレキブルの唯一のワザ放電には雷無無の三枚が必要。
どうしろって言うんだ、くっそ!
「俺の、タァーン!」
エレキブルLV.X。そうか、その手があったか! 今引いたこのカードが最後のチャンス!
「行くぜ、俺はバトル場のエレキブルをレベルアップさせる!」
エレキブルは両腕でガッツポーズを取り、地鳴りのような雄叫びをあげながら光に包まれてエレキブルLV.X120/120にレベルアップする。
「まずエレキブルLV.Xに雷エネルギーをつけ、こいつのポケパワーを発動する。電気エンジン! トラッシュの雷エネルギーをこのポケモンにつける!」
レベルアップ前は放電しか使えなかったけど、今はもう一つ新しいワザが使える。そのワザを使うためのエネルギーは用意出来ている。
「エレキブルLV.Xで攻撃。パルスバリア! このワザは通常の50ダメージに加え、場の相手のポケモンの道具とスタジアムをトラッシュさせる! サーナイトLV.Xの達人の帯ごと粉砕だ!」
達人の帯が無くなりかつパルスバリアのダメージを受けたことによってサーナイトLV.XのHPは10/130になる。気絶させるにはギリギリ届かなかったか。
「残念だね。頑張って攻撃したのはいいけれど、HPが10でも俺の番が回ってこれば何も問題はない! 俺のターン。これで終わりだ! サーナイトLV.Xで仕留める攻撃!」
再び銃声。と同時に耳に響く甲高い音が鳴る。決まった。ニヤリと笑ったのは……俺だ。向かいの喜田は起こり得ないハプニングに驚いて可哀そうなほど青ざめている。
「なんでエレキブルLV.Xは倒れない……。場にはサーナイトLV.XとエレキブルLV.Xしかいないから、どうしてもエレキブルLV.Xが倒れるはずなのに……?」
「甘いな! 前の番に使ったパルスバリアのもう一つの効果だ。このワザの効果で相手のスタジアムかポケモンの道具をトラッシュしたとき、次の相手の番にこいつはダメージもワザの効果も一切受けない!」
「な、なんだって!?」
「さあこれで終わりだ! 俺のターン。もう一度パルスバリア!」
二度目のパルスバリアがサーナイトLV.Xの残りHPを削り取る。力を失ったサーナイトLV.Xはふらふらと前に倒れていく。
まだ俺のサイドは後一枚残っているが、相手に戦えるポケモンがいなくなり、これで俺の勝ちだ。
決まった! やれば出来るじゃん俺、この調子で勝ち進んでやる。準決勝、一体誰が俺の相手になろうとも全力でぶつかるだけだ。
翔「今日のキーカードはエレキブルLV.X!
エネルギーをのせた相手にダメージ!
パルスバリアで守りながら攻めれるぞ!」
エレキブルLV.X HP120 雷 (DP2)
ポケボディー ショッキングテール
このポケモンがバトル場にいるかぎり、相手プレイヤーが、手札からエネルギーを出してポケモンに1枚つけるたび、そのポケモンにダメージカウンターを2個のせる。
雷無 パルスバリア 50
場にある相手の「ポケモンのどうぐ」「スタジアム」を、すべてトラッシュ。トラッシュした場合、次の相手の番、自分はワザによるダメージや効果を受けない。
─このカードは、バトル場のエレキブルに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 鋼−20 にげる 3
───
喜田敏光の使用デッキ
「愛しのサーナイト」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-650.html
また別の部屋では、川が流れ、大きな滝もいくつかあった。そこに、老人と青年がいた。
「青年よ、そなたはこの言葉を知っているか」
そこにいた老人、ジャロは、青年、キザキに言った。
「海内存知己 天涯若比隣(かいだいちきをそんすれば てんがいもひりんのごとし)という言葉を」
「え……すみません、知りません……」
「これは初唐の詩人、王勃(おうぼつ)の詩《送杜少府之任蜀州(としょうふのにんに しょくしゅうにゆくをおくる)》の一節だ。この世界に自分を理解してくれる者がいれば、天の果て、地の果てと離れていようとも、隣にいるようなものである、という意味。そなたはあの女のことをそう思うが故に、先を急がせたということか」
「俺は、あの子なら、あんたらを止められると踏んだんよ。あんたらが思うより、信頼は強いと思うわ。もちろん、あんたらの仲間の人と戦っている先輩方も同じ気持ちやろうと思いますけどね」
確信を持って、そう言い切ったキザキ。
「そう、か。では、そなたをわたしが思い切りひねり潰してあげようではないか」
「ひねり潰されるのはあんたやっ!!!」
こうして、バトルの幕は上がった!
老人が先発で出したのは、シンオウでは「感情の神」として崇められている感情ポケモン・エムリット。対して、青年が出してきたのは鍵爪ポケモンのマニューラ。進化前のニューラと大きさはそう変わらないが、体から溢れる威圧感が桁違いだ。それでも、感情ポケモンは怯えたのも最初のうちだけであり、すぐに平常心となっていた。そこ辺りは希少なポケモンといえる所以だろう。
先に動いたのはマニューラ。しかし攻撃ではなく、あくまでも準備態勢といった感じで、爪とぎを行っていた。シャッ、シャッという音だけが不気味に響く。そうやって研がれた爪で、切り裂いていく準備は万端のようだ。対して、エムリットの方も攻撃は行わず、何やら祈りを捧げていた。すると光が一筋、感情ポケモンのもとへ降りてきて、包み込んだ。守護のおまじないのようだ。
「そなたは慎重に行くつもりなのだな」
「そっちこそ。やけど、そろそろこっちも行かせてもらおうかな!マニューラ、氷の礫を出してやれ!!」
鍵爪ポケモンの手から生み出された尖った氷の欠片達は、意思を持ったように一斉に感情ポケモンへと降りかかっていった。が、
「神通力!!」
不可視の念の力がたくさんの氷を粉砕し、相殺したのだ。
「そうきたか……」
「そなたの悪のポケモンに対し、わたしの方はエスパー。ダメージを与えられるわけではないが……相殺くらいなら簡単だ!」
バッサリと断言したジャロ。その様子を見て、キザキは少し悩んだ。
「うーん、……あんまり使いたくはないけど……、しゃあない、使うしかない!!」
少し悩んだ末に発した指示は、
「袋叩き!!!」
ヒュバババッ!!!
指示をした直後だった。青年の腰についていたマニューラ以外のボールから、他の5匹のポケモンが出現し、エムリットに一斉に殴りかかるではないか!もっともその中には、手と呼べるものがないポケモンもいたが。
そして、鍵爪ポケモン以外が自分のいたボールに帰るころには、かなりの打撃を受けて力なく墜落してしまったエムリットがいた……!
その技は第三者から見ると卑怯に見えるかもしれないが、立派な技なのだ。ただ、使う人が使ってもよいものか、と少々悩んでしまうこともあるようだ。
ジャロが2匹目として出したのは、シンオウでは「知識の神」といわれる知識ポケモンのユクシーだった。一方、キザキが出したのは「砂漠の精霊」といわれる虫のような竜のフライゴン。
「せっかく地震という大技を持っているのに、これでは勿体ない。とんだ判断ミスだな」
「……俺もナメられとるもんやなあ。悪いけど、地震だけがコイツの得意技ちゃうからな」
ポケモン達が技を出す前から、トレーナー側が口論になっていた。
そうして、先に動いたのはフライゴンであった。翼をはためかせ、辺りに砂を巻き起こす。精霊ポケモンには平気なこの環境も、ユクシーにはいささか酷な状況だ。
それでも、何とか堪え続けることで、緑の地竜から容赦なく吐き続けられるブレス(竜の息吹)攻撃を凌いでいた。
そして、砂が晴れ、ようやく視界が開けた頃、知識ポケモンに異変が起こっていた。
「ユクシー、置き土産で次につなげなさい……!?何故動かない!?」
何と、ビリビリ震え、動きが鈍っていたのだ!
「麻痺の追加効果やな。竜の息吹をあれだけ食らったらそうもなるもんな」
「……マズイ!ユクシー、眠りなさ……」
指示を放とうとしたジャロだったが、一歩遅かった。
「噛み砕くを使え!」
回復に入る前に攻撃を行ったフライゴンのスピードが勝ったようだ。
ジャロの3匹目は「意志の神」といわれるアグノムだった。キザキは先程頑張ったフライゴンを戻し、ムウマが闇の石の力で進化したマジカルポケモン・ムウマージを出した。
先に動いたアグノムが集中している隙を突き、ムウマージは影でできた球体、シャドーボールをいくつも当てていった。
しかし、ちょうど、その時!
念の力がぐわん、と巻き起こり、マジカルポケモンを吹き飛ばしたのだ!その様子に、青年は唖然としていた。
「今……何が起こったん!?」
「悪だくみを最大限まで積んだ神通力だ。大抵のポケモンはそれで一捻りだが……しぶといな。まだ戦おうとするのか」
ムウマージは何とかふわりと浮いてはいたが、かなり限界が近かった。
「まあいい、もう一度、神通力で今度こそ倒す!」
「……ムウマージ!『アレ』を使えーっ!!!」
ほどなくして、強力な念の力が幽霊を直撃した、が、その瞬間にマジカルポケモンの体が青白く光った!そして、次の瞬間には、
2匹のポケモンが同時に墜落していたのだ……!
「今、何を行った?」
「攻撃の瞬間に『道連れ』を使わせてもらった。一方的に倒されるくらいなら、相討ちの方がまだええからな。……ムウマージ、よう頑張った」
攻撃力の上昇したアグノムに対し、ムウマージは執念でドローに持ち込んだ。
老人の4匹目はトルネロス。イッシュでは暴風雨を巻き起こすポケモンとして知られる。一方、青年はレアコイルが磁場の影響を強く受けて進化したポケモン、ジバコイルを出した。
その瞬間にジャロが苦虫を噛み潰した表情になっていた。有効打がないことを自覚したのかもしれない。それでも、イタズラ心で先に動き、何とかして自分の得意なフィールドである雨の状況を雨乞いによって作りだした。先程のフライゴンと同じ手である。精霊ポケモンとの決定的な違いは、雨にダメージを与える性能はないということだ。
しかし、雨を呼び起こすことは、磁場ポケモンにも有利となっていたことに、ジャロは気付いていなかった。
「これなら、一撃打てる。ジバコイル、雷!!」
雨には雷を必中にさせる効果もあった。太い光がきらめき、旋風ポケモンはフラフラになっていた。そこに追い打ちをかけるように先とは異なる鋼の力を持った光、ラスターカノンが炸裂し、とうとう風神は倒された。
5匹目にジャロが出してきたのはでかいトンボのようなポケモン、メガヤンマだった。ヤンヤンマが原始の力を得て進化した姿である。それに対してキザキは4個の翼をもつ蝙蝠、クロバットを出した。
まず先に動き出したのは紫の蝙蝠の方であった。すうっ、と近づき、猛毒を帯びた牙を楔のように打ち込んだ!強烈な毒にオニトンボはのたうちまわり、加速して引き剥がそうとするが、簡単に離れてはくれない。原始の力を至近距離で当てたことで何とか剥がれてくれたが、予想以上の弱りっぷりにジャロは頭を抱えていた。
しかも猛毒なので、動き回るごとに毒がハイスピードで回って行く。加速による速さで立ち回るこのポケモンなだけに、とてつもなく痛い攻撃だった。
風の刃、エアスラッシュを打って怯みを狙っても、蝙蝠には怯みを無効化する特性、精神力がある。毒で弱ったところに、逆にエアスラッシュを食らってしまい、メガヤンマはノックアウトされた。
老人が出した最後のポケモンは、昔に使われた銅鐸の形をしたドータクン。耐久力が持ち味である。対して、青年が最後に送り出したのは、自らのパートナー、ダイケンキ。
銅鐸の動きが遅いのを見て、先に動いたのはダイケンキの方だった。
「水の波動!」
貫禄ポケモンから出された水は、銅鐸に当たった途端に響いた。衝撃によって混乱するかもしれない攻撃をドータクンが食らったわけだが、見たところピンピンしていた。
そして、ようやく動いた銅鐸が繰り出した技はこれだったのだ!
「トリックルーム」
銅鐸が何やら力を発すると、周りにたくさんのパネルが浮かんだようになっていた。それと同時に、貫禄ポケモンの動きが目に見えて遅くなっていた!
「そなたはすばしっこそうなポケモンをたくさん持っておるようだな。しかし、それもこの技の前では無力だ。ここの空間では遅いポケモンが速く、逆に速いポケモンが遅くなってしまうのだからな!」
神通力がバシバシとダイケンキに当たってしまう。
「これでおしまいだ!神通力……!?何故速く動ける!?」
トリックルーム内での速さを活かし、先制で神通力を決めようとしたドータクンだったが、何とそれよりも速く水をまとったダイケンキに激突されてしまったのだ!
「そなた、今、何をした!?」
「トリックルームでも先制技は先制技やねん。アクアジェットで攻撃したってわけ。いつまでもあんたの思い通りになるって思うな!」
さらに、トリックルームの時間切れが起こり、お互いが元の速さに戻ってしまった!
「こんな……生意気なガキに……」
「とどめや!ハイドロカノン!!!」
トリックルーム内で散々痛めつけられた貫禄ポケモンから、特性の効果でもっと強力になった水の究極技が発動され、銅鐸を弾き飛ばしていった!!!
「わたしに恐れずに立ち向かうとは。大したものよ」
キザキはジャロから、勝利の印となる鍵を受け取った。
「それでも、あんたはなかなか強かったで。……やったことは許せへんけど」
「そなたらが行動を起こせば、世界だって変えられるはずだ。さあ先へ進み、行動を起こせ、若き者よ!」
施錠されたドアを開き、キザキは先を急いだ……!
七賢人完全撃破まで、あと、3人。
次へ続く……。
マコです。
ちょうど折り返し地点の3人目。
道連れとか、自分ではなかなか使わないような技も、小説内なら結構、登場人物が使いますね。
漢詩は必死に調べました。高校では確か習わなかったような……。
とにかく、これで半分撃破です!
次に登場する七賢人。ヒントは……
コンテナの中でブルブル震えていた人です!
「あの、サトウキビさん?」
「どうした朝っぱらから。朝飯ならもう食っただろうが」
「いやいや、そうじゃないです。今から行く場所はどこなんですか?」
「なんだ、そんなことか。今から行くのは俺の職場だ」
「職場?塾の先生じゃないんですか?」
「ふん、俺は仕事を掛け持ちしてるのさ。1つは塾の経営者、1つは技術者。そしてもう1つは……さあ、着いたぞ。ここが俺の3つ目の職場だ」
「しょ、職場?これがですか?」
ダルマは思わず声を上げた。目の前にそびえたつのは、昨日の夜見えた城である。石垣に瓦ぶきの屋根、そして中型ビルほどの高さは、絵巻物に出てきかねないほど豪華と言える。城の周りの広大な敷地は塀で囲まれており、敷地内には大小様々な建物が連なる。そこを大勢の人達が往来する。一見街中と勘違いしそうになる人だかりだ。
「そうだ。ここはコガネ城と言ってな、コガネの新名物であり、街の運営拠点でもある」
「運営拠点?では役所でもあるんですか?」
「そうだ。まあ、俺は役人ではないがな。ついてきな」
サトウキビは城の中に入っていった。ダルマ達も後に続く。
城の中も、外装に負けず劣らずなものである。まず、入ってすぐ飛び込むのは「会議室」と墨で書かれた木札のかかった部屋だ。部屋の左側には「会議傍聴席」とかかれた札と引き戸がる。引き戸の付近には黒山が集まっているが、サトウキビは気にすることなく右側へと向かった。しばらくすると「市長室」の札と障子が見えてきた。サトウキビは障子を静かに引いた。
「おお、やっと戻ってきたか!待っておったぞ」
部屋に入ると、背の低い男がサトウキビを迎え入れた。紋付きの羽織袴に口髭をたくわえ、手には何枚かの紙を持っている。不毛の大地と化した頭からは、汗が流れている。
「ただいま戻りました。なにぶん今回は連れがいましたものでして」
「連れというと、この子達か?」
「その通りです。さて……」
男とひとしきり話し、サトウキビはダルマ達に向かって言った。
「お前達、今から俺は仕事にかかる。この部屋を出てから左に『会議傍聴席』と書かれた札があるから、そこの部屋で待ってろ。じきに俺も行く」
「ちょ、ちょっと待ってください。結局、サトウキビさんの職業は……」
「それはすぐに分かる。とにかく今は時間が無いから、早く行け」
「はあ、わかりました。行くぞ、ゴロウ、ユミ」
ダルマはサトウキビの言われた通り、部屋を出て左に進んだ。しばらくする
と、先ほどの『会議傍聴席』と記された札が見えてきた。その周りには、なおも大勢の人が集まっている。
「会議って、サトウキビさん一体何をやるんだろ」
「雑用じゃねーのか?」
「お茶汲みの可能性もありますね」
「……お茶汲みは雑用とほとんど同じだよ」
ダルマ達は他愛もない雑談をしながら、傍聴席の最前列中央に腰を下ろした。会議室は傍聴席とつながっており、間には手すりが設置されている。会議室の席には議員席、議長席、市長席と書かれており、傍聴席と議長席が向かい合う形となる。議員席は2つに分かれており、議長席と傍聴席との間で向かい合う。また、市長席と議長席は並んでいる。会議室の時計は9時57を指しており、席は全て埋まっている。ただ1席、市長席を除いて。
「おいおい、遅刻か?市長が遅刻なんて、この街も終わりだな!」
傍聴席からは、慣れた感じのヤジが飛ぶ。それに呼応するかのごとく、会議室に2人の男が入場した。1人は空の市長席に座り込んだ。もう1人はサトウキビで、男の隣でしゃがみこんだ。
「あれ、あの人はさっきの部屋にいた方ではありませんか?」
「確かに。あの席に座ったということは、もしや……」
ダルマは顎を左手で触り、右手で左ひじをおさえた。
そうこうするうちに、会議が始まった。まず、議長席に座った男が口を開いた。
「ええー、ただいまより、本日の会議を始めます。本日の議題は……」
「もちろん、『カネナルキ市長の賄賂問題』についてでしょう」
議長の言葉を遮り、1人の議員が挙手をした。すると大勢の議員から拍手が巻き起こった。
「カネナルキ市長は、ある企業から不正に金品を受け取っていた。これを一週間に渡って追求した。もう話し合いの必要は無い!我々は、市長の辞任を要求する」
「こら、イブセ君。人の発言は最後まで聞きなさい!」
議長が議員の1人、イブセなる男を諌めた。
「……議長。1つ市長側から言わせてほしいことがあるのだが」
「今度はサトウキビ君ですか。今日も朝から大荒れですねえ」
「イブセ議員、この賄賂についてだが……誰が持ってきたのかはわかってないのか?」
「誰が持ってきた?くくく、面白いことを言う。君はいつもそうして問題をうやむやにしようとする。君も市長と一緒に辞めたいのかな?」
「ふん、今回はあんたが話をごまかしているようにしか見えないがな。まあい
い、知らないなら教えてやる。今回市長に賄賂を渡したのは、両替商コガネ屋……あんたの有力支持者だ」
「こ、コガネ屋だと!?ばかな、やつらは私が手なずけたはずだ!」
サトウキビの一言に、会議室は嵐に見舞われた。事情を察した傍聴席からは、市長のみならずイブセ議員にもブーイングが浴びせられ、議員席からは驚嘆の声が相次ぐ。イブセ議員は手元の資料を握りしめ、サトウキビはしたり顔だ。彼は攻撃を続ける。
「今の言葉、聞き捨てならねえな。それじゃあまるで、『金を握らせてコガネ屋に自分を支持させていた』と言ってるみたいなもんだ」
「ち、違う!私は……」
「ついでだから言っておいてやるが……手なずけておいたにも関わらず他の議員に賄賂を渡した。これが意味することは何か?答えは簡単、あんたはその程度にしか考えられていないということだ」
「……一体、何が起こっているのだ!私が、議員の中で最も強い力を持つイブセが、こうも手玉に取られるとは……」
「以上だ、議長」
「やれやれ、これでひと段落ですかな。それでは、今日の本題に入りますか」
「どうだ、これがおれの3つ目の職業だ」
時刻は午後の3時、あたりではポケモン向けのお菓子であるポロックやポフィン、煎餅の匂いが立ち込める街中を、ダルマ達は歩いていた。道沿いには川が流れており、海へとつながっている。海には港があり、そこに豪華客船と呼ぶにふさわしい大きさの船が煙をふかしている。
「まさか、コガネ市長の秘書だったとは……いつもあんな感じなんですか?」
「まあな。普段は政策立案から街の調査、資金集めなんかもやるが、市長がやばくなったら助け船を出したりすることが多いな」
ダルマの問いに、サトウキビは静かに答えた。
「例えば、この街がこのような風景になったのも、俺の発案が元になっている」
「おじさまがこのようなことを進めたのですか?」
「そうだ。コガネの近くにはエンジュシティがあるが、あそこは風景を非常に重要視してきた。おかげで観光客やトレーナーからは大人気だった」
「だった?今はそうじゃねーのか」
「……よりにもよって、昔のコガネをモデルとした大都市を目指したわけだ。その結果、中途半端にビルが立ち並び、風情ある景観は潰されていったのさ。そして、観光客は激減。今では体の良い田舎町だ」
「それで景観を重要視しようと?」
「そうだ。コガネは元々大都会で収入はある。そこで、街をあげて大々的に改修工事に取り組んだ。大きな出費だったが、長い目で見れば大成功。カントーのタマムシシティを超えたとまで言われている」
「なるほど。しかし、こうした景観が嫌いな人もいるのでは?」
「確かに、結構いたな。そのために、地下街を作った」
「地下街ですか?」
「そうだ。『ニューコガネ』と呼ぶんだが、地上の家と地下の家がつながっていて、地下から外に出れば、そこはもう昔のコガネだ。繁華街に庭園、ゲームセンターなど、他の街に匹敵する設備が自慢だな」
「あっ、地上に平屋が多いのはもしかして……」
「その通り、地下があるからだ。これで上手く反対派を丸め込んだのさ。他にも、市民や観光客にバッジを配布して、連帯感を強めるといったこともしている。こういう街は皆が仲良くしないといけないからな」
サトウキビは胸を張って答えた。
「……ところで、今日はこれから仕事があるんだが、来てみないか?」
「え、またですか?俺、ジム戦がしたいんですけど」
「俺もやりたいぞー!」
サトウキビの唐突な提案に、ダルマとゴロウは声を上げた。
「心配するな。今日の仕事場にはジムリーダーがいる。もちろんジム戦だってできる」
「本当ですか!それを先に言ってくださいよ」
「それで、おじさまの今日の仕事場はどこなんですか?」
ユミの問いに、サトウキビは指差しで答えた。彼の人差し指の先は、港にたたずむ船を示した。
「今日の仕事場は船だ。市長の資金調達パーティーの手伝いをするのだが、人を呼ぶように言われてるもんでね」
「パーティーですか……ダルマ様とゴロウ様はどうしますか?」
「もちろん行くぜ!ジムリーダーに勝って、ダルマを悔しがらせてやるよ!」
「俺も当然行くよ」
「……決まりだな。それじゃあこっちだ、ついてきな」
「はーい。ゴロウ、ユミ、行くぞ」
今日の目的地が決まったダルマ達は、意気揚々とサトウキビについていくのであった。
・次回予告
船に乗り込んだダルマ達は、ひょんなことから売店を訪れることに。そこである男と出会う。彼は一体何者だ?次回、第25話「つなぎの男」。ダルマの明日はどっちだ!?
・あつあ通信vol.5
サトウキビさんがどんどん超人に迫ってきました。彼はレオナルド・ダ・ヴィンチ程ではないにせよ、万能人をモデルにしています。まあ、しばらくの間は出ないので、次は少し普通の話になると思います。もちろん、後半への繋ぎをしっかりさせるので、是非とも見てください。
あつあ通信vol.5、編者あつあつおでん
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