マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.560] 21、登場!緑猫 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/03(Sun) 00:34:56     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     あの後は散々だった。ハルカは泣いてるし、ガーネットは帰されるし、オダマキ博士の怒りは全てザフィールへ。家に行ってもずっと怒ってるし、何より喧嘩の道具にポケモンを渡したのではないという内容で話がループしていた。母親が止めてくれなかったら深夜まで続いたに違いない。部屋に帰ると、プラスルが電気のボンボンで励ましてくれた。スバッチがもふもふの羽でなでてくれた。エーちゃんは顔をなめてくれた。キーチは肩をそっと叩いた。
    「ありがとうな・・・」
    にこやかなポケモン博士と世間では評判になっているが、子供となれば話は別。厳しい父親に、ザフィールもため息しか出ない。しかも話を聞いてくれない。明らかに今回の騒ぎはハルカの行動だったのに。けれど本人はずっと泣いてて、話になるわけがない。

     元気がないもう一つの原因。ハルカの投げつけた言葉。ザフィールはベッドに寝転がると、自分の髪を触った。白い髪が指の間から見える。子供の頃からずっと、からかいの対象だった。時には集団で白い髪のことをからかって、泣いて逃げてきたこともある。そんな思い出のあるこの髪だって、ハルカだけがほめてくれた。それを糧にして、堂々と生きてこれたのに、彼女は言ったのだ。
    「その白い髪だけは好きになれない」
    後は全て愛してると。けれどその言葉はザフィールの心を砕くには充分破壊力があった。ずっとハルカだけが支えてくれていたのに。いきなり杖を奪われたような気持ちだった。それを感じると同時に、思い出は全て嘘だったのかと、ため息をつく。


     一晩の間を置いて、ザフィールはガーネットを訪ねる。助けてくれたことの感謝や、ハルカに対する誤解を解くなどのことを話したい。そう思って、オダマキ博士に家を聞いて、やってきたのである。いささか緊張する気持ちを抑え、ベルを押した。
    「はーい!」
    家にいることに少し安心し、さらにプレッシャーを感じる。どのような顔をして会えば解ってくれるのか、近づく足音を聞きながら考える。自身の心臓なのか、足音なのか区別がつかない。
    「どちらさま!?」
    玄関が開いた。目線の先に顔がない。疑問に思い、少し下にずらす。ガーネットが見上げているのだ。
    「だれー?だれー!?おにいちゃんだれ!?」
    「え?え?だれって、俺だけど、え?ガーネット?え?っていうかお前が誰だよ!」
    「にゃっ!」
    目を輝かせる。子供の声にテンションがかかり、少し早口気味なのが、さらに早口になる。
    「わかった!おにいちゃんは、おねえちゃんのかれしでしょ!」
    「はぁ!?」
    まだ早いよ、と言いそうになる自分の口を押さえる。そこではない、そこを否定したいんじゃないぞ。そんなザフィールのことなどおかまいなしに、子供の声でまくしたてる。
    「だってきのうおねえちゃんがいってたもんおにいちゃんといっしょにたくさんいろんなところいってたんだよねおねえちゃんはおとこのひとあんまりすきじゃないからずっといっしょにいれるなんてかれしができたとしかおもえないからおにいちゃんはかれしでしょじゃないとたぶんおにいちゃんいきてないよだっておねえちゃんすきじゃないひととはいっしょにあそばないからおにいちゃんはかれしだとおもう!」
    だってまで聞こえた。後は物凄いスピードにザフィールはリスニングしそこねる。外国語なんていうものではないのに。固まっている彼を放置して、スピードは早くなるばかり。しかも声は大きく、この小さなミシロタウンに響き渡っている。
    「ね、ねえ、解ったから君は誰?」
    「くれない、どうしたんだ?」
    玄関の奥から顔を出す男の人。見たことがある。テレビで何度も新しいトウカのジムリーダーだと映っていたセンリ。そういえばガーネットは自分のことをトウカジムリーダーの長女だと言ってた。ここに来るまで知らなかったのも、彼女は全く話さなかったからだ。
    「あ、おとうさん!おねえちゃんの・・・」
    「こんにちは。父がお世話になってます」
    さすがに話が早かった。何かを言いかけたところを割り込み、会話をやっとこちらのペースで進める。
    「おや、オダマキんところの、確かザフィール君だね。ガーネットが君のこと話してたよ」
    「え!?なんて!?」
    「逃げ足の早いアニメ好きだって言ってたっけな。ガーネットなら今はポケモン鍛えにいないんだけど、なんだったら上がっていきなよ」
    センリに言われるまま、家に上がらせてもらう。くれないと呼ばれた小さな子は、エネコと共にザフィールについてくる。そして2階へ上がったかと思うと、おかしの袋を持って来た。彼女なりのもてなしらしい。リビングのソファにすすめられ、くれないがキッチンで何やらお茶を入れてくれているようだ。センリといえば、ザフィールの対面に座り、難しそうな顔をして話を切り出した。
    「そういえば、ザフィール君はガーネットと一緒にいたんだって?」
    「え、あ、そうです・・・」
    「何かされなかった?吹き飛ばされたり、投げられたりとか」
    3ヶ月近い付き合いを全て思い出し、確かに最初の方はあったなと思ったが、ザフィールは否定した。相手の親に告げるのは、少し卑怯な気がしたのだ。
    「そう、よかった。あの子ね、ちょっと学校で色々あってね。それから男の子は敵だと思ってるんだよ」
    「えー!?」
    くれないが湯のみにお茶を入れて来た。口をつけると香ばしい玄米の味がした。飲み物は気持ちを落ち着けるというが、全く落ち着かない。センリの話とガーネットの態度が矛盾も等しいくらいにつり合わない。
    「こちらに来たばかりのときね、男の子にポケモンの取り方を教えてあげてと言ったけど、とても嫌そうな顔だったしね。だから君の話が出て来た時は驚いてね。もし何かあったらオダマキに顔が立たないじゃない?」
    「あの、何があったんですか?」
    「学校の同級生を・・・って言っても、不良グループにからまれて、反撃で骨折させちゃったの」
    ガーネットの本気を知った気がした。まだ骨折していない分、マシな扱いなのかもしれない。けれど、いつ骨折させるような攻撃をされるか解ったものじゃない。センリはずっと同じように難しそうな顔のままだった。
    「それって・・・」
    「私もずっと人には叩いたらいけないって教えてたから、加減も解らなかったみたいで。学校もケガした方ばかり擁護してね、それからガーネットは男の子避けるようになっちゃって。関わりたくもないって言ってたからねえ」
    ため息をついた。そしてザフィールの目をまっすぐ見た。
    「だから、もし大人になっても彼氏いなかったら、ザフィール君がもらってあげてよ」
    センリの後ろから、嬉しそうな目でくれないが見ている。そしてその横にはエネコが。
    「いやいや、ザフィール君の都合だってあるよね。ごめん、忘れて」
    難しい顔から一転し、明るい顔でセンリは尋ねる。お昼は何が食べたいのか、と。そこまでお邪魔する気はないと答えても、いいからとしか言わない。くれないはずっとザフィールを嬉しそうに見ている。一応、喜ばれているのかとセンリの厚意に甘える。

     
    「よし、スカイアッパーが随分命中するようになってきた」
    ジムトレーナーのレベルは予想より高かった。エネコロロに3匹も倒されてしまうとは本当に思ってもなかった。なんとかとどめをさしたリゲルが、エネコロロの経験を得てキノガッサへと進化する。格闘技が得意なキノガッサと、野生のポケモン相手に練習していたのだ。ボールに戻した時、ガーネットは空腹を思い出す。
    「帰ろうか、今日はお父さんいるからきっとラーメンだな」
    こちらに来てすぐに出ていってしまっため、我が家というには何となく違和感がある。けれど、今の住居はここなのだ。玄関を開けると、何か違うような気がした。いつも出ている靴より多い。しかも見た事あるような。誰か来ているのかと、リビングへ行く。
    「あ、おかえり」
    「おねーちゃんおかえり」
    「おじゃましてます・・・」
    なぜこの3人が一緒にいるのか理解できず、ガーネットは一瞬かたまった。しかも仲良く昼間からお好み焼きと来た。リビングの隅では、センリのヤルキモノがウインナーを貰って食べていた。
    「食べるか?」
    「食べる・・・」
    この異様な空気は何だろう。そしてなんで3人はこんなに楽しそうなのか全く理解が出来ない。焼けたお好み焼きを見て、キャベツと桜えびと紅ショウガしか入っていないことに気づく。作ったのはセンリと理解するのに1秒ともかからない。けれど一口たべると、珍しい味がすることに気づく。チーズが入っていた。
    「ザフィール君がね、チーズ入れるとおいしいっていうからさ、やってみたら中々いけるんだよねこれ!」
    「へー。ところでご飯は?」
    「おねえちゃん私もー!」
    「炊飯器の中にあるよ」
    「くれないは自分でやりなさい」
    「お好み焼きと、ご飯・・・?」
    いつの間にかガーネットもその中に入っていることにも気づかず。昼間から騒がしいパーティは、しばらく収まりそうにもない。そしてそんな時、くれないは大きな声でまた聞いていた。おにいちゃんはかれしなの?と。その時のガーネットは、にっこりと笑ってそして言った。
    「いい加減な嘘をつくのはやめなさい」
    ザフィールは凍り付く。顔は笑ってるのに声が笑ってない。けれどくれないは何ともないように返事をして、昼食を続行している。そして姉妹をみていたら、なぜかザフィールに飛び火する。
    「ザフィール君はご飯大盛りだよねえ!?中学生だもんねえ!?」
    どんぶりなみの大きい茶碗に、マンガに出て来そうな山盛り。通称「昔話盛り」と言っていた。そもそも、お好み焼きとご飯を一緒に食べる習慣がない。けれどガーネットの手を断ったら後々に響きそう。扱いに困る茶碗を左手で受け取った。


     騒がしいパーティは、夕方まで続いた。母親も仕事から帰ってくる。ザフィールはそろそろ帰ると言った。家まで送るとガーネットが立ち上がる。二人はまだ明るいミシロタウンへと出て行く。ちなみに彼らは知る由もないが、くれないが「つきあってるよね」と両親に笑顔で言っていた。
    「なあ」
    「なに?」
    立ち止まり、振り返った彼女の手を引いて、家の方向と違ったところへ行く。そこはミシロタウンの唯一の公園。子供がたまに遊んでいるけれど、主にいるのは野生のスバメやジグザグマ。たまにキャモメが迷い込んでくる。
    「昨日はありがとう。ハルちゃんって凄く優しくかったから、俺もどうしていいか解らなくて」
    人影はない。気配もない。ミシロタウンが眠る準備をしている時間。二人きりで話せるには、これしかない。公園のベンチに座った。
    「でも、誤解しないで欲しいんだけど、まじでハルちゃんは彼女ではない。付き合ってない」
    信じてないかのような目でザフィールを見つめる。慌てているのが解った。
    「まじだってば!」
    「そんな焦んなくとも解ってるよ」
    ため息まじりで、良かったと言った。その事が心に引っかかっていたようで、その後の顔はとても晴れ晴れしている。
    「ハルちゃんって、俺のことかばってくれた人だと思ってた。でも違ったんだ」
    「どういう風に?」
    「髪のこととかさ、事件のこととか。俺のこと一生懸命・・・他人と自分でこんなにも思ってることがずれてたなんて、想像もしなかった」
    気遣うようにガーネットが肩を叩く。それはとても優しいように思えた。うつむいていた顔を上げた。
    「つまり君は初恋の子にこっぴどくふられた挙げ句に殺されかけてたというわけか」
    ストレートな言葉が、ザフィールの心を刺したようだった。泣きそうな顔でガーネットを見ている。
    「そんなさ、他人と自分が同じ思いなんてしてるわけないじゃん。そんなの当たり前で」
    「でもさ、軽く言うけど、俺の髪のこと、ほめてくれたのハルちゃんだけだと思ってたんだぜ。それなのにそれまで否定されて・・・違うわけないんだ、あんなこといってくれるのはハルちゃんしかいないはずなのに」

    「『ゆきみたいできれいだね』」

    ザフィールはさらにガーネットを見る。彼に少しひるんだのか、ガーネットは距離を取ろうと体を避けた。
    「なによ?どうせそんなこと言われて、舞い上がってたんでしょ。ザフィールは本当、単純なんだから」
    夏らしい風が吹く。ザフィールの白い髪が揺れた。さらさらしていて、ガーネットからしたら男の子なのにうらやましいくらいに。本人の性格から、色を気にしてるような素振りは無かった。けれど、話を聞いたら結構悩んでいたこと。そして本人も気づいてないことがあること。それを伝えようかと思ったけれど、あえてガーネットは言わなかった。これが自分の思い違いだったら。今のザフィール以上に沈むのは間違いない。だったら言わない方が良い事だってあるのだから。
    「そ、それよりもさ、センリさんに言ったの?アクア団のこととか・・・」
    「言うわけなし。心配させるだけだし、何より外に出してくれないからね!お父さんより強くなって、アクア団なぞ恐るに足らん相手にしてやるから、そこはいいのいいの。そのために明日も練習だから、早く帰るね!」
    明るく振る舞う。本当は名前を聞くだけでも思い出してしまう。けれど彼の手前、そんな態度を出すわけにもいかない。そして、アクア団と手を結ぶべきかどうかも。



    (読み方講座)
    緑猫=みどりねこ

    (漢字翻訳版)
    「だって昨日お姉ちゃんが言ってたもん。お兄ちゃんと一緒たくさんいろんなところ行ってたんだよね。お姉ちゃんは男の人あんまり好きじゃないからずっと一緒いれるなんて彼氏が出来たとしか思えないからお兄ちゃんは彼氏でしょ。じゃないと多分お兄ちゃん生きてないよ。だってお姉ちゃん好きじゃない人とは一緒に遊ばないからお兄ちゃんは彼氏だと思う!」


      [No.559] Section-14 投稿者:あゆみ   投稿日:2011/07/01(Fri) 12:54:19     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    アスカやチヒロ達をはじめとするポケモンレンジャー達が地下鉄に取り残された乗客を救出するミッションに携わっている一方で、レンジャー達がキャプチャした未知のポケモンの研究と、その生態の解明が進められていた。
    アスカがキャプチャしたポケモンは、キャプチャされたことからか幾分落ち着いており、人間やポケモン達に対して危害を加えようとはしていなかった。ポケモン研究員のコレキヨが地上で待機していたレンジャーにポケモンの搬送を依頼する。
    「このポケモンはどう言った生態なのだろう。研究のためにポケモンを運んでもらいたい。」
    「ですが、また暴れ出したら・・・。」
    研究員が言うのも無理はない。キャプチャされたとは言え、地下鉄の乗客を襲撃したポケモンである。人体に危害をまた加えないとも限らないのだ。
    「そうだな。マサゴタウンのナナカマド研究所に運ぶのは時間がかかりすぎる。このポケモンはコトブキ大学のポケモン研究室に運ぶことにしよう。私は生態を調べてみることにする。・・・あのポケモンと巨大な花はどうも何かしら関係がある風に見えてならないのだ。」
    コレキヨの言うとおりである。件のポケモンが地下鉄を襲撃したのとほぼ同じ時刻にあの巨大な花が現れ、デパートを突き破ったのだ。無関係と考える方がおかしいだろう。
    「分かりました。早速研究に回すことにします。コレキヨさん、どうかお気をつけて。」
    そう言うとレンジャーの乗った車にあのポケモンが乗せられ、やがて車はコトブキシティ郊外にあるコトブキ大学に向けて走り出していった。

    その晩、コレキヨが中心となってこの未知のポケモンの生態の解明が行われた。だが、それはあまりにも衝撃的な内容だったのである。
    「報告によると、草体が出現して以降、デパート周辺の酸素濃度が上昇しているという情報が寄せられている。あの花が周辺の酸素濃度に何かしらの影響を与えているというのは間違いないだろう。」
    普通、人間は呼吸することで酸素を取り入れ、二酸化炭素を放出している。逆に植物は二酸化炭素を取り入れて酸素を放出する、いわゆる「光合成」と呼ばれるシステムがある。これは植物系のポケモンにも言えることで、例えばフシギバナは太陽エネルギーを取り入れてあのような大きな花を咲かせるのである。事実、くさタイプのポケモンの多くはこうごうせいの技を覚えることができ、それで体力を回復することもできる。だが、酸素濃度の上昇はフシギバナや植物が放出する酸素の比ではないのだという。
    「ここ数日の一連の活動を分析してみると、あの隕石がシンジ湖に落下して以降、周辺では緑色のオーロラが現れ、飲料工場の飲料用の瓶やコトブキシティ周辺の光ファイバーの消失などと言った怪現象が立て続けに発生していた。さらに今朝、コトブキネットレールがむしタイプとみられるあのポケモンに襲撃され、ほぼ同時刻、バンギラスデパートにあの巨大な花が出現した。私はこう思うのだが・・・。」
    コレキヨはそう言って話を続ける。言っていることは事実ありのままなのだが、展開それ自体が衝撃過ぎるものなのである。
    「あのポケモンと巨大な花は、明らかにシンジ湖に落下した隕石と一緒にこの星に到達したものとみていいだろう。そして、あの花は成長する過程で私たちの生態とは比べものにならないほどの酸素を必要とするのだろう。」
    この星に生息している生き物は、人間・ポケモンを問わず、普段から呼吸しており、酸素濃度が薄すぎても濃すぎても生態に影響を与えるのである。
    「草体は生育のために大量の酸素を必要としている。そのためには酸素の元となるものが必要になるだろう。ガラス瓶は元々は土からできている。そして土に含まれているケイ素、このケイ素、すなわちシリコンこそがあのポケモンの生態に大きな役割を果たしているのだろうと思う。」
    ケイ素。それは半導体や光ファイバーにもよく使われている。コトブキシティ周辺で発生した光ファイバーの消失と突き合わせて考えれば、このポケモンがケイ素、すなわちシリコンを主食としているのは間違いないだろう。
    「それで、このままあのポケモンがシリコンを摂取し続ければ、どうなるのです?」
    机を囲んでいた研究員の1人がコレキヨに聞く。
    「このまま進むと、あの巨大な花が放出する高濃度の酸素がこの星を覆うことになる。その高濃度の酸素の下では、私たち人間はもちろん、この星に生きるポケモン達もその大部分は生存できなくなるだろう。」
    「人間やポケモン達が生きられなくなる!?」
    それは文字通り死活問題だった。この星が滅びてしまうかもしれないという事態に直面していることを、今初めて思い知らされたのである。
    「そうだ。シンオウリーグやレンジャーユニオンなどにも連絡を取って、今私たちが直面している危機を広く知らせなければならない。このまま手をこまねいていると、私たちは滅びる。」
    「そして、あの花はどうなるのです?」
    さらに別の研究員が尋ねる。だが、コレキヨが言ったことは、さらに驚くべき内容だった。

    <このお話の履歴>
    全編書き下ろし。


      [No.558] 20、鳥使いハルカ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/06/30(Thu) 22:49:06     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     アチャモにつつかれ、我に返る。信じられないものを見た。すでにそれの気配はないけれど、目があってしまった上に喋った。確実にザフィールの方を見て「ヒトガタ」と。人の形してて何が悪いんだ。アチャモをなでると、ひよこらしい鳴き声をあげる。随分と元気になったものだ。最初は全く鳴かなかったのに。
    「ザフィール!?どこっ!?」
    急いでる足音が後ろからやってくる。声からしてガーネットか。濡れた髪のまま、何かを話したそうに走って来た。
    「あ、あのね!・・・人じゃないもの見たの」
    「なんと奇遇な!俺も人じゃないもの見た!」
    二人の話を合わせると、同じもののようだった。宙に浮いた妖しい生き物。そして喋ること。さらに気になるのは、同じこといっていたという。
    「ヒトガタは確かに言ってた。けれどこちらは、北風の娘とも言ってた」
    どこかで聞いたことがある。北風のポケモンがいると。けれどそれは関係ないかもしれないし、あるかもしれないし。ガーネットのシダケタウンのコンテスト会場でもいたということも引っかかる。
    「そういえば、あれが現れたら連絡欲しいって言う人がいてね」
    「え、どんな人?」
    「えー?どんな人って、喋り方が丁寧で、赤い目が特徴的だったなあ」
    それ以上思い出そうとしても、中々思い出す事が出来ない。何もかも知っているような、けれど厳しいような。何かを決意していたような感じでもあった。それを聞いて、よくわからないとため息をついた。
    「ごめん、役に立たなくて」
    悲しそうな顔をザフィールは笑い飛ばす。
    「いや、そういうつもりじゃないんだ。世の中って広いなあって」
    「それなら、いいんだけど」
    「それに走って来てくれたんだしさ。乾かさないと風邪ひくぞ」
    まさか腰を抜かしていたとは言いづらい。なんとかごまかして室内に帰る。その間、ザフィールは無言で行くのもまずいと思い、ずっと引っかかっていたことを聞いた。もちろん、あのダイゴのことである。
    「なあ、ダイゴってやつが優しいとかいってたよな?」
    「あ、まあ、うん。ダイゴさんは恩人だよ。だから、今のダイゴさんが・・・」
    「そうか。人は変わるから、またいつか戻るよ」
    「それより、思うんだけど、ザフィールって自分のことあんまり話さないよね。ポケモンのことは良く話すけど」
    そんなことは無いと反論するが、ガーネットは譲らない。あんまり話すとマグマ団だとぼろが出そうだから最低限のことしか話していないかもしれない。何が知りたいと聞いても特にないと言う。
    「あ、そうだ。明日あたり、またミシロ帰るから」
    「え、どうして?」
    「アチャモ返しに行かなきゃいけなくてさ」
    「・・・私も行く!」
    「ダメ」
    即答する。マツブサに聞いたあの話。おそらく付近にはまだアクア団がいるはずだった。
    「いいか、アクア団だってバカじゃないんだから、また狙ってくる可能性だってある。そうしたら家族にも迷惑になるし」
    「・・・私そこまで弱くない!だから」
    食い下がってくるガーネットにザフィールも悩む。人の目があるから、ド派手に狙ってくるとは考えにくい。夜など、見えにくいものを避ければいいだろうか。30秒ほど黙った後、了解したことを伝える。


     自転車よりも速い。シルクの足だったら、ほとんど時間かからずに家につく。そうしても全く息が上がっていない。久しぶりの家の玄関を開けると、ただいまよりも先に父親の所在を訪ねる。
    「あらおかえり。お父さんだったらトウカジムでしょ」
    「わかった。行ってくる」
    ほとんど家に滞在する時間もなく、ガーネットは出て行く。それと入れ替わるように、くれないが下に降りてくる。
    「今、お姉ちゃんいたよね?」
    「いたけどすぐ出て行っちゃったよ」
    「そうかあ、残念だなあ。エネコ行こう」
    ピンク色の猫がくれないの後を追う。再び2階に上がって、部屋の中でエネコと遊び始めた。


    「お父さん!」
    前にも来たことがある、トウカシティのジム。そこのジムリーダーを務める父親をたずね、ジムの扉を開ける。ちょうど講習会が終わったようで、父親が入り口付近にいた。
    「お、ガーネット帰って来たのか。しばらくはゆっくりするのか?」
    トウカシティ所属のトレーナーに囲まれ、とても忙しそう。いつもは寝ているケッキングも働いているのだから、きっとかなり忙しい。
    「そうじゃないんだ。私を鍛えて!強くして!」
    「別に構わないが、私は手加減はしない。それにうちにいるトレーナーたちにも勝てるようじゃないと鍛えるどころか負けるだけだからな」
    ガーネットは頷く。所属トレーナーたちがいいのかと聞いていたが、それは決めたことだと伝える。
    「じゃあ、まずはうちのニューフェイスを倒せるくらいになってからかな。倒せたら次の人にいけるよう伝えておくから。ああ、ケッキングそっちじゃなーい!」
    本当にあれでジムリーダーが務まっているのだろうか。ケッキングは自分のペースで手伝っている。
    「うーん、センリさんの娘さんかあ・・・緊張するなあ」
    目の前のトレーナーは最近ここに所属になったというトレーナー。ガーネットはシルクのボールを投げる。
    「うわあ、ポニータ!僕のポケモンはこれです!」
    鈴がついたような大きな猫。エネコロロという、エネコが進化したものだ。ガーネットは息を吸い込むと、シルクに指示を出す。



     空から庭に戻った。きっと自宅のソファーで寝ながらせんべいでも食べてるはず。そう思って庭から帰ったことを伝えた。すると母親がどうしたのかと聞くかのように、やってきた。
    「あら、お父さんなら研究所よ。それと貴方にお客さんが来てるわよ」
    「へ?誰?」
    「それは会ってのお楽しみ。お客さんも研究所にいるわよ」
    検討もつかない。とりあえず家から走ってすぐの研究所に向かう。本当に、父親の所在を掴むのは難しい。もう夏に差し掛かろうとしているのだから、少しは落ち着いて欲しいものだ。

     研究所の扉を開く。研究員がそれを見ると、フィールドワークに出かけたと伝えてくれた。神出鬼没。一体どこで待ってればいいんだ。狼狽しかけた時、さらにザフィールに声をかけるものがある。
    「あ!やっぱりさー君だ!久しぶり!」
    「え、もしかしてお客さんってハルちゃん!?」
    最近会ってなかった幼なじみのハルカ。昔はよく遊んだものだけど、あの事件からほとんど遊ばなくなった。もうあれから約10年。大きくなったハルカは全く変わらない。黒い髪も、目は小さいのに長いまつげも。けれども少し大人になったようで、かわいらしくなっていた。思わずアチャモのことも忘れ、ハルカを外へ誘う。机にメッセージとアチャモのボールを置いて。
    「さー君はやっぱりオダマキ博士のお手伝いしてるの?」
    「してるよ。今はいろんな町に行きながら調べてるんだ」
    「えー、すごい!昔からポケモン詳しかったもんね!」
    少しイントネーションが強めの言葉は、聞く人からしたら怒っているように聞こえる。けれども、昔からハルカを知ってるザフィールは、そうではないことを知ってる。それに表情が明るくて。
     日が暮れるまで二人は懐かしさもあって遊んでいた。田舎のミシロタウンだから、遊ぶというよりはだだっ広い空き地で話している。今、置かれてる状況も忘れて話し続けた。ザフィールの頭の中には、まだ帰って来てないガーネットのことなど入ってなかった。それよりもこの幼なじみと話すことが楽しくて。
    「ねえ、さー君あのね・・・」
    「うん、どうしたの?」
    「お父さんが死んじゃって・・・その時は本当に・・・」
    ハルカがうつむく。慰めるようにザフィールがそっと肩に手をまわす。
    「あの時のことは、ハルちゃんのせいじゃないんだ。気にすることないんだよ」
    「ありがとう。お母さん一人で私のことを育ててくれて、それなのに、去年死んじゃったの・・・」
    「えっ!?あのお母さんが!?それは知らなかった」
    「そうでしょ。そうだよね。さー君には関係ないからさ・・・今、私一人になって、もうダメなんだ」
    声が震えてる。ハルカが言いたいことを言えるように、ザフィールは黙る。
    「もう生きていけないの・・・でも一人で死ぬのは怖い」
    「そんな、ハルちゃんはまだこれから生きていけるよ!大丈夫だよ、俺だって・・・」
    「さー君、ありがとう。じゃあ、一緒に死んでくれる?」
    ザフィールは座った姿勢から一気に立ち上がる。そして数歩前に避けた。そうでもしなければ、地面に突き刺さる嘴と一緒に貫かれていた。オニドリルが刺さった嘴を地面から抜き、ハルカの元へと戻って行く。
    「なんで避けちゃうの?さー君は私のこと嫌いなの?」
    「いやいやいや、ハルちゃん落ち着いて!俺はハルちゃんのこと好きだよ?でもさ、一緒に死ぬことは出来な・・・」
    「好きなら死んでよ・・・私、一人で寂しかったの。さー君が好きなのに」
    ザフィールの言葉を待たずしてオニドリルが鋭い嘴を再びザフィールめがけて突き刺してくる。頭をねらってきている。思わずザフィールはしゃがんだ。頭の上を、大きな風が通り過ぎる。
    「プラスル助けて!」
    およそトレーナーと思えない指示が出る。プラスルもオニドリルをじっと見つめ、電気をため始めた。
    「ねえオニドリル、私がさー君が好きだって伝えてよ。そのドリルくちばしで」
    「こ、怖い・・・電磁波!」
    プラスルの電磁波は範囲が広い。けれどオニドリルは大きな翼で届かない空へと逃げる。ザフィールは本当に命の危機を感じる。そして数秒後に急降下する。狙われてる。ザフィールは思わず手で顔を覆う。させるかとプラスルがオニドリルのくちばしを電気の鎧で受ける。まとっていなかったらプラスルがいなかったことだろう。スパークがオニドリルに辺り、しびれているのか、翼をか弱く動かすのみ。
    「オニドリル・・・」
    ハルカがボールに戻した。解ってくれたのかな、とザフィールは安心する。けれどそれは一瞬のことでしかなかった。
    「食べちゃって、ペリッパー」
    呼び出されたペリッパーは、大きなくちばしで物を運ぶポケモンだ。そしてそのくちばしは人間の子供なら丸呑みできるという。もちろん、ペリッパーが狙うのはザフィールの命。
    「く、くわれたくない!!」
    情けない声をあげるトレーナーの代わりに、プラスルが大きなくちばしへ電気をまとって突進する。弱いはずだった。けれどもペリッパーはそのまま口をあけると、大きな水の輪をプラスルに当てる。水の波動が、プラスルを混乱させる。元々、トレーナーの指示がなかったから、次に何をしていいか解らないのは当然。
    「さあ、今よペリッパー。さー君みたいに幸せなのが許せないでしょ?」
    「待って、ハルちゃんまじで待って!」
    プラスルは動けない。戻す暇もなくキーチがペリッパーの前に立つ。そして鋭い葉の刃でペリッパーの翼を切り裂く。痛みにペリッパーはうなるけれども、キーチにそのまま翼で攻撃をする。その大きさから、キーチはだいぶ辛いようだった。けれども、キーチは踏ん張る。
    「大丈夫だよ、さー君・・・私もすぐに逝くから。離れたりなんかしないから」
    ハルカが近寄る。キーチはペリッパーのくちばしに挟まれ、振り回されている。逃げようにもポケモンを置いていくわけにもいかないけれど、手が言うことを聞かない。一歩一歩近寄ってくるハルカにあわせて、少しずつ後ずさり。
    「ねえ、さー君、大好きよ。だから、死んで!」
    ペリッパーを戻す。そしておそらくハルカの手持ちの中で一番の大物。最も美しいポケモンの地位を争ったことのある鳥、ピジョットの登場だ。その大きさは普通のものと代わりはないのに、ザフィールへのプレッシャーは桁違いだった。そしてハルカの命令にあわせてザフィールへと飛んで行く。その鋭い爪を向けて。
    「レグルス、行け」
    小さな命令。ザフィールの耳にはっきりと残る。そして堅いものが当たった音が目の前でした。白い体に赤い模様のザングースが、ピジョットの爪を受け止めている。
    「良くやったレグルス。そいつは私の大切な証人、死なせるわけにはいかないの」
    ポニータの隣にいるその人。思わずザフィールは目を疑う。いくら田舎町でも、こんな場所が分かるなんて思いもしなかった。そしてレグルスと呼ばれたザングースはそのままピジョットの爪を押し返す。
    「だれよあんた!ジャマする気なの!?」
    「私はガーネット。トウカジムリーダーの長女。それとザフィール、あんた彼女いるじゃないの」
    これは彼女ではない。ザフィールはやっとのことで動く手でプラスルとキーチを戻す。そして否定された瞬間、ハルカは物凄いまくしたてた。
    「嘘!私とさー君は愛し合ってる!だから死ぬ時も一緒なのよ!何も知らない人は黙ってて!」
    「・・・うーん、泥沼の恋愛劇には付き合ってられないんだけど、とにかくザフィールは私にとってある事件の生き証人なわけ。勝手に持って行かれても困るのよ!」
    「なによ、出ていって!」
    ピジョットに命じる。吹き飛ばせと。それを阻止するかのように、レグルスが鋭い爪でピジョットを切り裂いた。数枚の羽が地面に散り、その上に赤い血が落ちる。
    「出ていけるか!私の自宅はこっちだ!」
    「知らないわよそんなの!」
    再び空へと飛び上がるピジョット。レグルスを狙って。その前に攻撃しようと電光石火の速さで攻撃するが、すでにピジョットは空の上。
    「あんたも一緒に死んじゃえばいい!何もかも消えてなくなればいいのよ!」
    ザフィールは足に力をいれた。ガーネットを直接狙ってる。被害を出すわけにはいかない。なんとしても止めなければ。今ならまだ間に合う。ピジョットの爪を代わりに食らうくらいなら。
     突然、ピジョットは炎に包まれる。同時にレグルスも。何が起きたか解らず、3人はその場で固まる。そして次に来たのは、雷と間違うほどの怒声だった。
    「おまえたち!何をやってるんだ!!」
    足元にアチャモを連れた、オダマキ博士だった。


      [No.557] 19、仲直り 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/30(Thu) 18:13:26     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「どうしたの?」
    シルクは走ることは好きだが、飛び跳ねることは苦手な様子。ジャンプ力がポニータにしてはあまりない。ガーネットが乗っているとはいえ、いくらなんでも跳ばなすぎる。けれど、フエンタウンに行く坂を登りきることなんて朝飯前だったようだ。
     そうしてやってきたフエンタウン。シルクから降りると珍しい人に会う。シダケタウンで会ったミズキ。今日はヒノアラシではなく、青く光る輪っかが特徴のブラッキーを連れている。元気がなさそうに見えたのか、そう聞かれた。
    「いや、その、友達を理不尽に殴っちゃって、謝ろうと思うんだけど、どうしたらいいか解らなくて」
    指定の場所に来てみたけれども。何をどうしていいか、ガーネットには一向に思いつかなかった。もう一度会う前に、なんとかしたいとは思っている。
    「そうなんだ。友達の好きなものとかプレゼントしてみたら?それを渡すついでに謝ってみればいいと思うよ」
    「プレゼント?何が好きなんだろう、思えば何も知らないや」
    「ちょっとお土産屋さん見て行く?何かいいものあるかもよ」
    観光の町だ。それも悪くない。ミズキに誘われて、ガーネットは暖簾をくぐる。

    「あっ、これ・・・」
    白いエネコのぬいぐるみ。ガーネットは知っていた。マジカル☆レボリューションに出てくる魔法のエネコ、ミルクだ。温泉地のコラボ商品らしく、フエンタウン限定と書いてある。そういえばエネコは好きみたいだ。けれどぬいぐるみなんてプレゼントして、男子が喜ぶものなのか。手にとってじっとぬいぐるみとにらめっこ。
    「あっ、なつかしー!アニメの!」
    目を細めてミズキは眺める。エネコの愛らしさがデフォルメされて、さらにかわいさが増してる。本物のエネコだってかわいいのに、これがかわいくないわけがない。
    「え、懐かしい?」
    ザフィールによれば、そんなに前からやっていたアニメではないらしい。ガーネットの言葉に、ミズキは少し表情を変えた。
    「えっ、あっ・・・いやほら、昔やってたなーって」
    「見てたの?」
    「最終回をちょこっと知ってるくらいかなー。ガーネットも?」
    あのアニメに最終回なんてあるんだ。ガーネットは不思議に思った。
    「うん、友達が好きで見てた。男子なのにアニメみてて、声優オタクで、毎週見るものだから覚えて来たし」
    「友達って男の子なんだ」
    むしろ女の子だったらどれだけ楽だろう。なんであいつは男なんだろう。そうでなければ、こんなにガーネットは悩んでない。
    「そう。だからこんなの貰っても喜ばないかなあって」
    何をすれば喜んでくれるのか、そんなことも解らなかった。ずっと側にいたと思うのに、何一つ。
    「喜ぶのってさ、貰うものよりも、誰から貰うかっていうことじゃない?」
    「・・・そんなんだったら、私から何をもらっても喜ばないかな」
    手の中のエネコは、何もいわずに微笑んでいた。ふかふかの感触が残る。
    「それだったら、何をあげてもいいんじゃない?当たってくだけるのもよし、散るのもよし!」
    他人事だからか、ミズキはとても楽しんでいるように思える。足元のブラッキーはあきれたように主人を見上げていた。
    「それってさ、告白する時に使うよね、普通・・・」
    「細かいことは気にしない!」
    「そういうものかなあ。すいません、プレゼント用にお願いします」
    かわいい紙袋にリボンをつけて。きっとお店の人も小さな女の子にあげるのだと思ったようだった。


     その紙袋を大切に抱えてフエンタウンのポケモンセンターにいた。ここで待っていれば来るような気がしたのである。そしてなぜかヒノアラシのお守りをお願いされてしまい、ミズキのヒノアラシと一緒に座っていた。
     ポケナビが鳴る。ザフィールからだ。取ろうとする手が震える。何度も何度も鳴るコール。ガーネットはついにポケナビを取った。待っていた人の声がする。
    「大丈夫!?今どこ?」
    「フエンタウンのポケモンセンター・・・」
    「えっ!?」
    いきなりポケナビが切れた。なにかと思えば、目の前を見てガーネットは言葉を失う。ずっと会おうと思っていた人がいる。物凄い堅い表情で。思わず立ち上がる。そして、言えなかった言葉を出す。
    「ごめん!」「なぐって!」「一人にして!」
    お互いに頭を下げて。しかも同時に。その事に気づいた二人は顔を上げた。そしてどちらからともなく吹き出す。
    「・・・怒ってなくてよかった」
    安心したようなザフィール。いつものふざけたような顔に戻っていた。
    「あの、それとお詫びなんだけど・・・」
    ガーネットが綺麗なラッピングの包みを差し出す。ザフィールが受け取るとふわふわとした感触がした。ピンク色の紙袋に、赤と金の派手なリボン。ザフィールが持っているのは似合わないけれど。
    「わあ、なんだろう?あけていい?」
    「いいよ、大した物じゃないし」
    ザフィールがとても嬉しそうに包みをあけていく。がさがさと開けられていって、中身を見た時の彼の顔は、欲しかったおもちゃをもらえた子供のよう。その笑顔はとてもきらきらしていて、思わずガーネットは釘付けになる。
    「わあ、ミルク!しかもフエンタウン限定の!すっごく嬉しい、ありがとう!」
    ザフィールがガーネットを見る。そして、彼女は彼をじっと見続けていたことに気づく。
    「べつに・・・そこに売ってただけだし」
    そっぽを向く。何となくみつめていたことはバレたらいけないような気がした。けれどもっと見ていたかった。
    「どうしたの?ガーネット?」
    心配そうに覗き込んでくる。それを払うように、手を振った。
    「なんでもない!」
    「そう?これどこに飾ろうかな。自宅でもいいし、あーずっと前につくった秘密基地に飾ろうかなー」
    ミルクをなで回して、ザフィールは楽しそうにつぶやく。宝物の隠し場所を探しているようだった。その度に秘密基地という言葉が出てくる。
    「秘密基地?」
    「最近流行ってんだよ、秘密基地作るの。空洞がありそうなところとか、木の上とか。ミルクって解るやつが来ないかな」
    「あ、そう」
    「いっとくけど教えねーぞ!なんたって秘密基地だからな!」
    子供っぽいな。ガーネットはそう思った。けれどそんなところも不快には思わなかった。ミルクを抱きしめたり、なでているのをみて、少し複雑に思う。
    「俺のは結構高いところにあってな、そこから見える景色がまた綺麗なんだわ。近くに滝があったりして、秋とか紅葉の季節は綺麗なんだぜ」
    「そ、そうなんだ」
    「今の時期だと、コイキングとかヒンバスが川で孵化してさあ、海に行く季節なんだよ。それがまた豪快な勢いで見えるんだ。知ってる?ヒンバスって野生じゃあほとんどが進化できなくて・・・ごめん、俺ばっかり喋ってんな」
    「いいんだよ、ザフィールらしくて。ポケモンのこと詳しい上にアニメオタクっていう、変なやつ」
    ガーネットが笑う。ザフィールはそれが嬉しかったようだ。
    「なんだよそれ」
    否定しきれない事実に、ザフィールも笑うしかない。
    「事実じゃん。ねえ、お腹すいたなあ、ザフィールごはん食べたの?」
    「まだ。どこか行こうか。あ、そういえばさ、俺の先輩が、お前に会ってみたいっていうんだけど、どう?ってか俺の先輩こわくて断れなくて、解ったって返事しちゃったんだけど」
    「なにそれ」
    文句いいつつもガーネットは楽しそうだった。次には、何を食べようか楽しそうに話している。


    「上手くいってよかったね!」
    ちょうど席を離れようとした時、ミズキが帰ってくる。そして二人をみて、すぐにガーネットに言った。友達の成功を祝うように。連れているアッシュも一緒に。
    「うん、ありがとう」
    「え、ガーネット誰?」
    一人のけ者にされて、ザフィールはガーネットの肩を叩く。それに気づいたようで、ミズキはにっこりと笑う。
    「あ、私はミズキです。ポケモントレーナーなんだけどね。この子はアッシュ。タマゴの時から一緒なの」
    「俺はザフィールです。父親の手伝いでトレーナーやってるようなもので。ところで、知り合い?」
    「うん、シダケタウンで会ったの」
    そういえば、コンテストのこととか、その時にあったことを話していたような気がする。それがこの人なのか。それにしても、青い服と白い上着は、ザフィールのとある記憶を思い出す。
    「さっきもうちのカペラに笛で歌を覚えさせようってしてて。それで覚えたんだけどね」
    笛のメロディの通りにカペラは歌うようになる。技としての歌というより、芸としての歌。ガーネットがカペラと呼んだチルットを出してそれを披露する。山うずらの歌だと教えてくれた。珍しいメロディに、ポケモンセンターにいる人たちはカペラに注目している様子。
    「へえ、笛吹くんだ。ところで、なんかガーネットと同じようななまりっぽいけど、ジョウト出身?」
    「うん、そう。ジョウトのワカバタウンから来たの。シロガネ山の麓で、水がおいしいよ」
    「ワカバタウン?もしかしてウツギ博士がいるところじゃない?」
    とたんにザフィールは元気になる。知ってる人が出て来たので、彼も話しやすいのだろう。ミズキの方は変わらず、落ち着いて話している。
    「いるよ、ウツギ博士。隣に住んでる」
    「やっぱり。ウツギ博士ってタマゴ学の人で、すごい研究家でさ、論文は微妙に飽きてくるんだけど、それなりに良い事書いてるよな」
    「飽きるねえ・・・確かにウツギ博士って何度も同じような物を繰り返し書くからそうかも。でもちゃんと解りやすくなってるんだけどね」
    苦笑いしている。ミズキは下書きを読んだことがあるようで、何度か直してみたことがあると言っていた。それをうらやましそうにザフィールは聞いている。
     そうして3人で盛り上がっていると、声をかけてくる人物が。振り向くと、ラルトスを連れた人物がいる。ガーネットもミズキも知っていた。そのテンションの勢いで話しかけるものだから、その人物は少しひるんだ。
    「ミツル君だぁっ!久しぶり!!」
    「あれ、ガーネットさんにミズキさん?それに?」
    ザフィールの方を見ている。軽く自己紹介をすると、「ああ、あの入院してた方ですね!」と言われる。一体、どこまで話が広がっているのかザフィールには予想不可能。
    「ここの漢方は良く効くんです。それを買いに来たんですが、皆さんは?」
    「温泉かなあ」ミズキは言う。特にアッシュがそのようで、じっと待っている。
    「ここに来いって言われて」事実そのままをガーネットは言う。
    「ここの辺りのポケモン調査したくて」まあ、それはマグマ団のついでなのだけど。
    ポケモンセンターに来たのも、スピカを回復させるついでだといった。急いでいるからこの辺で、とミツルはスピカと共に行ってしまう。それと同じように、ミズキも行くからと去っていった。
    「不思議な人だなあ・・・」
    ザフィールはミズキの後ろ姿を見送って言った。どうも引っかかると思い、ずっと考えていたのだが、スピカを見て彼は思い出した。
    「どうして?」
    「なんか、青いサーナイトみたいな人だよな。髪が短かったり、色の比率が似てるだけかなあ・・・」
    「サーナイト?」
    「ほら、スピカだっけ。あれが進化するとサーナイトっていうのになるんだけど、ミズキみたいな感じのポケモンなの」
    あのがっしりとした足は人間だろうしなあ、とザフィールは言う。



     昼食後、ザフィールが言っていた先輩というのと待ち合わせしているところへと行く。時間の少し前にやってきた、大人の女の人と、不良っぽい金髪の男の人。とても人が良さそうだった。そして座るなり、女の人が口を開く。
    「あら、貴方がそうなの」
    ガーネットを見てそう言った。正面から見ると本当に綺麗な人だ。見ているとこちらがドキドキしてしまいそう。
    「はい、ザフィールの友達です」
    「そう。私はカガリ。ザフィールにポケモン教えてあげたり、いろいろ面倒みてきたりしたの。ザフィールがアクア団のアジトに行ったっていうから、どんな子かと思って来たけど、なかなかかわいい顔してんのね」
    「ほうほう、なるほど、これが噂のねえ・・・」
    いきなり話にぬって入ってくる金髪の不良のような男。カガリと同い年くらいの人だ。見た目は派手なのだけど、とても優しそうな人。
    「ホムラ邪魔」
    カガリが邪見に手の甲で叩くがおかまいなし。カガリの前に身を乗り出して、ガーネットに話しかける。
    「そういうなよ。俺はホムラ。弟分が活躍したっていうから、来てみたんだ」
    「全く、甘やかしすぎなのよ」
    ホムラを押しのけ、カガリの目の前をすっきりさせる。かたづけられたホムラはわざとすねた感じでカガリを見ている。さすがザフィールの先輩なんだなと納得してしまった。
    「それはそうと、ザフィールを最初は付け回してたんだって?それまたどうして?」
    「私の親友はこいつに殺されました。そしてこの2ヶ月半一緒にいても」
    「証拠が上がらないんだね」
    ガーネットが頷く。ザフィールは俺やってないと口の動きとジェスチャーでカガリに伝える。
    「ん?なんでお嬢ちゃんはそう思うんだ?」
    今までぼーっと頬づいていたホムラいきなり入る。
    「あいつが、仲間のマグマ団に殺したと言っているのを見たんです。けれど、本人はそんなこといってないの一点張り、マグマ団は怖いやつらだしか言わなくて」
    「なるほど、自白だけじゃなあ、俺もザフィールを犯人じゃないと言いきれないし。何か物的証拠が見つかればいいな」
    「ありがとうございます」
    ザフィールが酷い酷い言っているが、ホムラは軽く頭を叩いただけ。じゃれあっている男二人を見て、似た者同士とカガリはため息をつく。
    「この前、その事でアクア団に言われました」
    カガリもホムラも、その言葉に反応するかのようにガーネットを向く。それに気づかず、ガーネットはカガリを見て話す。
    「マグマ団の中にいる犯人をみつけるのを協力してくれるって。そうなれば・・・」
    「ダメよ、アクア団なんて。あいつら目的のためには手段を問わないし、何より古代のやたら強いポケモンを研究しているっていうし。危ない噂しか聞かないわ、やめときなさい」
    今までの口調と違うカガリに、一瞬ガーネットはひるんだ。ホムラはさっきと変わらず、まあそんなやつらの言うことなんて止めておけと言っていた。その後も、カガリはアクア団を親の仇かのように罵る。
    「はあ、そうですよね」
    「解ってもらえて光栄。こんなかわいい子を悪の道に染めたらもったいないわ。ね、ザフィール」
    時計を見て、カガリは席を立つ。ホムラがそろそろ帰ると言っていた。最後の言葉の意味を聞こうにも、カガリはすでにホムラとの軽い打ち合わせに入ってるようで、全く聞いてもらえない。店の外に行くと、二人はポケモンを出して飛んでいってしまった。
    「ねえ、ザフィールの先輩、優しそうな人だね」
    「そうだろ?俺がドンメルの育て方解らない時にいつも教えてもらっててさあ」
    「ドンメル?持ってるの?」
    見た事がなかった。あのラクダのような亀のようなポケモンである。主にキーチが出てくるせいか。
    「ちょっとケガしちゃってな、足が動かなくて引退したんだ。進化もしたし、中々強いんだぜ」
    相づちを打つ。やはりポケモンのことを話す時のザフィールは本当に子供っぽい。それを聞いているだけでも、心はとても楽しいと感じていた。


     夜になり、名物の温泉に入ろうとガーネットは一人でいた。外の空気は少し冷たい。体を洗っている間、昼間のカガリの言葉と、アクア団のイズミの言葉が巡る。ホウエンでは良く無い連中だと思われているアクア団ではあるが、マグマ団に対抗する手段はそれしかないように思えた。カガリでなくても止めるだろう。けれども、イズミの誘いはガーネットの心に確実に残っていた。
     そもそもなぜこんないきなり結論を急ぐようになったのか。そこから辿る。考えても考えても行き着く理由は同じだった。ザフィールを犯人じゃないという証拠が欲しい。もし本当に犯人でも今の宙ぶらりんな状態からは抜け出せる。
    「ガーネット!」
    呼ぶ声に思考は遮断される。ミズキがアッシュと共に入って来たのだ。先にアッシュを石けんまみれにして、洗い流してポケモン用の温泉に入れる。そしてその後に体を石けんに包んで湯船に入ってくる。
    「あ、ミズキ!今から入るんだ」
    「うん。ちょっと買い物してたら遅くなっちゃったからね。ガーネットは温泉好き?タンバの温泉いったことある?あそこの露天風呂から見える朝日がすごい綺麗なの」
    「えー、いったことない。私さ、あんまり旅行とかいったことなくて」
    「今度いってみなよ!すっごくいいからさ。今も覗きがいなければもっといいんだけどね!」
    ミズキは近くにあった桶を取ると、フリスビーのようにそれを投げた。その行き先は満天の空に隠れていた。黒いフードをかぶって宙に浮いている。そして桶はそのフードをかすめ、顔をあらわにする。確かに疑っていたが、本当に人間の顔ではなかった。見た事もない顔と色。
    「北風の娘か・・・ヒトガタもいるのは分が悪い」
    「アッシュ!黒いまなざし!」
    言われなくともアッシュはその目を開き、宙を見る。けれど眼差しを受ける前に、それは姿を消していた。どうするのかと聞くように、アッシュはじっとこちらを見ている。
    「ちっ、また逃げられたか」
    立ち上がるとミズキは足早に出ていってしまった。あんなのが出てはゆっくりもしてられず、ガーネットも続く。


     先に出ていたザフィールは、部屋でミルクをなで回していた。これをくれた時のガーネットはとてもかわいかった。それを思い出し、頬につけたり、匂いをかいだり、あんまり人に見せられるようなものではないけれど。
    「はあ、ガーネットかわいいところあるんだけどなあ・・・何かいる」
    飛び出す。そして建物の外に出た時、星空にとけ込むようなものをみつける。それは人間などではなく、見た事もない生き物だった。
    「うわああああ!!!」
    「ヒトガタか・・・あいつらめ」
    手が手じゃない。左右違う形をしている。思わずザフィールは腰を抜かす。そして見ている目の前で体の形を変え、夜空へと消えて行く。その様子が信じられず、しばらくザフィールはその場で空を見つめていた。


      [No.556] 25話 ギリギリの攻防 投稿者:照風めめ   投稿日:2011/06/29(Wed) 23:19:09     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「ここでドレインドレインの効果発動。このワザにより相手を気絶させた場合、自分のダメージカウンターを全て取り除く!」
    「す、全て!?」
     ユレイドルのドレインドレインでゴウカザルが倒されたが、それでもユレイドルのHPは残り10/120。この程度ならいくらでも取り返せる。
     そう思っていた矢先のこの異常なまでの回復力。あっという間にユレイドル120/120は元の元気を取り戻し、目の前に大きな壁として立ち憚る。
    「サイドを引いてターンエンドだ」
     今、サイドを取られたため石川のサイドは残り一枚。場には草エネルギーが二枚ついたユレイドル120/120に、ベンチにプテラ80/80。
     対する俺のサイドは二枚。しかも炎エネルギーが二つついたアチャモ60/60が唯一俺を支えてくれる仲間である。
     場もサイドもそうだが、それに加えて手札の数でも石川に大きく劣る。俺の手札は今三枚。それに対して今の石川は六枚だ。しかも俺の手札はアチャモ、ノコッチ、不思議なアメと今すぐに活きるカードがない。どちらが有利かだなんて火を見るより明らかだ。
     しかし頭で考えるだけでは何も進まない、対戦は理論だけじゃない。流れだ。ピンチの後にはきっとチャンスがある。そう、信じている!
    「俺の番だ!」
     この一枚で命運が決まる。
     恐る恐る引いたカードを確認すれば……、オーキド博士の訪問。このカードは山札を三枚引き、その後手札を一枚山札の下に置くサポーター。まだワンチャンスがある、このチャンスを信じよう。
    「俺は、サポートカードのオーキド博士の訪問を発動!」
     一枚ずつカードを引く。炎エネルギー、炎エネルギー。ダメだ、そんなに固まらなくてもいいじゃないか。引けるカードは一枚だけしかない。どうにかして逆転の一手を導き出さないと。
     緊張のせいか手が汗ばみ、意識していないのに心なしか呼吸のペースが早まっている気がする。落ちつけ。無念無想だ、余計なことは考えるな。
     数度深く息をし、平静を取り戻す。そして一気に三枚目のカードを引く。
    「逆転の兆しは見えた! オーキド博士の訪問の効果で、手札を一枚山札の底に戻す。俺はノコッチを戻す」
    「この圧倒的に俺が有利な状況でどう逆転するつもりなんだ? アチャモをいくらワカシャモに進化させても程度は見えている」
    「惜しい、でも違うぜ。俺は手札から不思議なアメを発動! 自分のたねポケモンを手札の一進化、あるいは二進化ポケモンに進化させる。俺はアチャモをバシャーモへと進化!」
    「バ、バシャーモだと!」
     アチャモの足元から光の柱が現われ、すっぽりアチャモの姿を覆い隠す。光の柱の中でアチャモの背丈が大きく伸び、敵を捕える力強い腕、大地を駆け抜ける屈強な脚。フォルムが変わり、光の柱が消えていくと勇敢なバシャーモ130/130が姿を現わす。
    「バシャーモに炎エネルギーをつけて、ユレイドルに攻撃っ。炎の渦!」
     バシャーモが豪快に放った力強い炎の渦がユレイドル120/120を包み込む。このワザの威力は100。それに加え、ユレイドルの弱点は炎+30。受けるダメージは100+30=130ダメージ、これでユレイドルを撃破だ。
    「炎の渦のデメリット効果により、俺はバシャーモについている炎エネルギーを二つトラッシュする。そしてサイドを一枚引くぜ」
     石川は呆気にとられていたが、やがて首を振って最後のポケモン、プテラ80/80をバトル場に送りだす。
    「これであっという間に状況がひっくり返ったぜ。プテラが攻撃するにはエネルギーが二つ必要。でもお前のプテラにはエネルギーがない、今度こそ押し返してやった」
    「それはそっちもだろう、エネルギーが二つトラッシュされては炎の渦は連発できない」
    「そいつはどうかな」
     俺のバシャーモは炎の渦以外にも無無で威力40の鷲掴みというワザも持っている。確かにこれではプテラを倒すには至らないが、それでもワザさえ打てないプテラよりよっぽどいい。
     そういう含みを込めた挑発を石川にすれば、むっと顔を作られた。
    「俺のターン。プテラに闘エネルギーをつけ、ベンチにひみつのコハク(40/40)を出し、俺の番は終わりだ」
     やはり攻撃出来ず、か。ならば叩きこませてもらう。
    「今度は俺の番だ。俺はバシャーモに炎エネルギーをつけてポケパワーを発動。このポケパワーは相手のバトルポケモン一匹をやけど状態にする。喰らえ、バーニングブレス!」
     焼けるような真っ赤な吐息がバシャーモから放たれると、それはプテラを覆い、苦しませる。
    「くっ。プテラは火傷になったが、この瞬間プテラのポケボディーも発動する。原始のツメ!」
     バシャーモの火炎の吐息に抗うように、苦しみながらもプテラは果敢にバシャーモにツメで襲いかかる。
    「相手がポケパワーを使う度に、ポケパワーを使ったポケモンにダメージカウンターを二個乗せる」
    「これぐらいのリスクなんてことないぜ。バシャーモで攻撃。鷲掴み!」
     跳躍一つでプテラの前に躍り出たバシャーモ110/130が、鋭く腕を伸ばしてプテラの首根っこをガッシリ掴む。そしてこのワザを受けたプテラ40/80は鷲掴みの効果によって次の番、逃げることが出来ない。
     これで次の番にじっくり攻撃をすればプテラは倒せるはずだ。
    「俺の番が終わったのでポケモンチェックだ」
     やけどの判定はポケモンチェック毎にコイントスを行い、ウラならば20ダメージを受ける。今のプテラのHPでは二回ダメージを受けるだけでノックアウトだ。
     コイントスボタンを押す石川の顔が、心なしか楽しそうに見える。きっとアイツもこの勝負が楽しくて仕方ないんだろう。
    「よし、オモテだ。これでプテラはやけどのダメージを受けることはない」
    「とはいえ鷲掴みで逃げられない状況に変わりはないぜ」
    「それくらい分かってる、俺のターン。プテラに草エネルギーをつけて攻撃。超音波!」
     首根っこを掴まれたままのプテラが口を開き衝撃派を放つ。バシャーモは左腕で顔をガードするがそのHPは着実に削られていく。超音波の威力は30だから、残りHPは80/130。
     しかしプテラの攻撃技はこの超音波だけだ。威力自体は大したことはない。
    「超音波の効果発動! このワザを受けた相手を混乱状態にする」
     混乱はワザを使うときにコイントスをしてウラならワザは失敗かつ30ダメージを受ける厄介な状態異常。うかつにワザを打つと逆にこっちが危なくなってしまう。そして石川の番が終わると同時に鷲掴みの効果も切れ、バシャーモはプテラの首をそっと離す。
    「ここでもう一度ポケモンチェックをしてもらうぜ」
    「……、オモテだ」
     思うようにやけどでダメージを重ねれない。しかし、ここは些細なダメージで一喜一憂してる余裕はない。
    「俺のターン。バシャーモに炎エネルギーをつけ、バシャーモでプテラに攻撃。炎の渦!」
    「ここでバシャーモの混乱の判定をしてもらう。ワザを使う時にコイントスをしてオモテならワザは成功。ただしウラならワザは失敗の上バシャーモにダメージカウンター三つ乗せる」
    「分かってらぁ……、ウラか」
     プテラに近づこうとしたバシャーモだが、寸でのところでつんのめってしまい、残りHPが50/130に減少する。マズい、あと超音波二発で倒れてしまうか。
    「お前の番が終わったことでプテラのポケモンチェック。……、ウラなのでダメージカウンター二つ乗せる」
     しかし相手も同じく限界に近づく。プテラも残りHPが20/80、互いに状態異常のコイントスによって決着がつきそうでもある。
    「俺のターン。もう一度超音波!」
     プテラから発された超音波が俺のバシャーモのHPを20/130まで削る。もう後がない。
     次の俺の番に攻撃する際、混乱のコイントスでウラが出れば俺の負け。だが次のポケモンチェックで石川がウラを出す、あるいは俺の番に攻撃する際混乱のコイントスでオモテが出れば俺の勝ち。全てはコイントスの、二分の一の確率に委ねられた。
    「ポケモンチェックだ!」
     ウラが出れば、さっさとこの勝負にキリがつく。頼むからウラでいてくれ……!
    「オモテだ!」
     声高に石川が言い放ち、続けて深く息を吐く音が聞こえる。流石にそこまでうまく行かなかったか。だがまだツーチャンスはある。
    「俺の番、バシャーモで攻撃する。まずは混乱判定だ」
     固唾を飲み、コイントスボタンを押す。一秒一秒がひどく長いように感じてしまう。早く終わってほしい気持ちと、まだ終わって欲しくない気持ちが混ざりあい、視界が溶けてしまいそうだ。
     どれだけ経ったか分からないが、気付けばコイントス判定はオモテを指していた。一瞬自体が飲みこめなかったものの、気付くと内側から悦びが爆ぜ出す。嬉しさあまりに頬が緩み、強く握りこぶしを作ってしまう。
    「っしゃあ決まった! バシャーモでトドメだ。炎の渦!」
     俺の声に呼応して、バシャーモがプテラに向けて最後の攻撃を放つ。炎のエフェクトの向こうで、石川の表情はそこが清々しいものがあった。



     試合終了のブザーが鳴り響く。カードを片づけふと石川を見ると、首を上げて脱力してただただドームの天井を見つめている。
    「楽しいバトルだったぜ」
     ついそうぽろりと言葉が零れる。すると、石川は右手で目の辺りを拭ってこっちを向く。その顔は、どこか赤い。
    「ああ、俺もだよ。どうしてか負けてもなぜか悔しくない。むしろすっきりしたよ」
    「さっきとは大違いじゃないか」
     嫌味を一突きしてやると、石川は微かに微笑む。どうしてなかなか綺麗な笑顔じゃないか。
    「一言うるさいっ。……奥村、この先の試合も頑張れよ」
    「翔でいいよ。元からあんまり名字で呼ばれないからこっちの方が慣れててさ。じゃあな」
    「……ああ。またきっと」
    「カードを続けている限り、きっとどこかでまた会えるさ」
     最後に自分のデッキをトントンとテーブルに叩きつけて揃え、ステージから立ち去る。
     石川の気持ちを背負った分、次の対戦は余計に負けられなくなった。いいじゃないか、上等だ。しっかり気合いを入れて、次に挑もう。



    翔「今日のキーカードはふしぎなアメ!
      たねポケモンから一気に2進化ポケモンにもなれるぞ!
      2進化ポケモンが多いデッキには必須のカードだ」

    ふしぎなアメ トレーナー (DP4)
     自分の「進化していないポケモン」を1匹選び、そのポケモンから進化する「1進化カード」、またはその上の「2進化カード」を、自分の手札から1枚選ぶ。その後、選んだ「進化カード」をそのポケモンの上にのせ、進化させる。


      [No.555] 18、エントツ山 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/29(Wed) 02:43:57     73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     思わず手が出てしまった。いくら彼でも、ダイゴのことを悪く言うことが許せない。けれど冷静になってみれば、力の加減もせずに吹き飛ばしたのはやりすぎたと反省の色が見える。過去は変えられない。完全に怒っていても仕方ないこと。自分が悪いとはいえ、怒らせたくは無い。ガーネットはあることを思いつく。謝ろう。受け入れてくれないかもしれないけれど。
     確か反対の方向に行ったはず。ガーネットが走り出す。彼は足が速いから、どこまで遠くに行ってしまったのか不明だった。けれどこの方向に行けば会えるはず。彼は目立つ。
     ハジツゲタウンを抜けて、続いている114番道路に出る。山道が多く、緩い下り坂。遠くに山も見えるし、キャンプをしている人もちらほら見られる。のどかな風景が広がっている。人の声に敏感になってるから、少しの話し声でも振り向いてしまう。けれど、大半はそんな人たち。仲のいい鳥のつがいが頭の上を飛んで行く。
    「つかれたあ」
    長い下り坂の次は、岩山登り。階段になっているけれど、上下の移動が激しくて、岩陰に座る。どこを探してもいない。あんなに目立つのに。ため息をつく。なぜこんなに必死なのか、認めたくない事象が起きてる。
    「だって、あいつまだシロって決まったわけじゃないし!」
    この間だって何かしていないとは限らない。けれども、何も喋らないでいると、自然と浮かぶのはザフィールのこと。一度思い出すと、止まることを知らない。遠くを見ながらずっと考えていた。
     ふと頭の上に何かが乗っていることに気づく。それなりの重量が、体にのしかかる。人影ではない。おそるおそる左手を頭に持っていった。なんだかふんわりしたものがそこにある。とても気持ちいい感触。甲高いさえずりが聞こえる。鳥?にしては羽がもふもふすぎる。
    「な、なにこれ!」
    ガーネットが頭から下ろし、見たものは青い体に翼が雲のようにふんわりとした鳥。しばらく見合うと、鳥はさえずり、歌い始める。その歌は、ガーネットの心の中にあるなんだか解らないもやもやを吹き飛ばしてくれるようだった。
    「かわいいっ!うちの子になるかい?」
    ふんわりとした翼を羽ばたかせる。そして、再びガーネットの頭の上に乗る。相当気に入った様子。バンダナの感触が心地よいらしい。このまま巣作りしてしまうんではないかと思うほど。青い鳥はご機嫌に、透き通った声で歌い続ける。幸せの比喩として青い鳥がある。まさにそうだった。その歌は感じている不安を全部ぬぐってくれるようで。


     歌声に混じって足音がする。ガーネットがそちらを見る。近くは無い。遠くに見える集団。昨日の今日だ、忘れるはずがない。アクア団たちだ。思わず岩陰に隠れる。見つからないよう、息を潜めて。あまりの数に、勝てるわけもない。見つかってしまったら、その時は最後だ。昨日のような奇跡が起きることはもう無いはず。
     足音は急いで通り過ぎて行く。まるで何か急いでいたように。もう大丈夫かと様子を伺うも、すぐに新しい足音がする。見つからないよう、再び隠れる。その中に一点、やけに速い足音が。それは軽快で、すぐに去って行く。その後を、集団の足音が追う。全てが聞こえなくなった後、しばらくしてからガーネットは顔を出す。
    「もう大丈夫みたいだね」
    どこにも妖しい影は見えない。乱れる脈を押さえるように深呼吸をする。ザフィールのことだから、アクア団なんかにやられるとは思えない。きっと岩山でポケモンの調査をしているはず。ガーネットは山道を行く。ハイキングコースと書かれた立て札の通りに。
     中腹まで登った辺りで、変な鳴き声を耳にする。道を外れたところから。人間の声では無さそうだった。なんだろうとそこへと足を踏み入れる。そして見たのは、大きな蛇が、タマゴを飲み込み、ふくれた腹でそこにいる姿。そしてもう一つタマゴを食べようとしていた。その親なのか、傷ついた白いイタチが蛇に食らいつこうとしている。
     ガーネットが助けようとボールを構えるが、父親の言葉を思い出す。ウバメの森で見かけたこと。野生のアーボが、傷ついたポッポを食べようとしていた。急いで帰り、父親に助けを求めると、それは出来ないといった。

    「人間が助けるのは傲慢っていうんだ。ポケモンの命も、人間の命もみな平等。ならば、助けるなんてしてはいけない。」
    「どうして?」
    「もしポッポを助けて、アーボが死んじゃったら、ガーネットはポッポはいいけどアーボはダメだということだよね。そういう選別はいけない。自然は自然に任せるんだ。守ったり助けたりするのは、自分のポケモンだけ。ポケモンはトレーナーの都合にあわせてくれてるんだから」

     そうしてポッポはアーボの腹に収まっていたのか、戻ったら羽が散らばっていた。野生の厳しさを知った時のこと。目の前の蛇は巣にあったタマゴをもう一つ飲み込むと、満足したのか帰って行く。草むらの奥へと姿を消した。残されたイタチは自分が傷ついているにも関わらず、大声を出して蛇が消えた方向をにらんでいた。
    「・・・自然、か。じゃあここで捕獲されるのも自然の成り行きなのかな」
    ガーネットが空のボールを投げる。それは白いイタチを飲み込む。抵抗もなく、ボールにすんなりと収まった。地面に落ちたボールを拾い上げると、さっそく傷の手当を始める。その時、ガーネットのまわりをなにやら甲高いさえずりが回ってる。スバメが手紙を持っているのだ。
    「まさか、ザフィールの?」
    手紙を読む。そこには、良く解らない絵と、そこに行ってるというメッセージ。地元の人でない限り、この地図では理解が出来なそうだった。大きく煙りを吐いてる山、そして点線と矢印で作られた絵。
    「火山の中腹なのかなあ?」
    そういえば火山灰がどうの、彼が言ってたのを思い出す。そしてタウンマップと見比べ、意味が解らない地図を解読しようとする。おそらくエントツ山。そしてその中腹にあるフエンタウンだろうと思われる。確証ないが、手紙を書きなぐり、スバッチに渡す。その書いている時のオーラが恐ろしかったようで、スバッチは一目散に飛んで行く。
    「・・・仕方ない」
    シルクを呼び出す。堅い蹄が岩肌にかちんと当たった。走れるところまで走れと命じた。砂浜訓練のおかげか、走る距離はどんどん長くなっていく。ポニータという種族の特徴なのか、人間よりも走行距離はよく伸びる。


     エントツ山の頂上へ、ロープウェイが伸びている。観光スポットなのだ。そこに大勢でアクア団が押し掛け、次に来たマグマ団を見て、受付の人は顔を引きつらせていた。それでも事情を話すと乗せてくれるとのこと。
     そもそも、マグマ団としてはアクア団が行動してるからそれを阻止するためにやっているだけなのに、同列に見られては納得がいかない。不満そうな顔をしていると、再びホムラに頭を乱暴になでられる。
    「しっかたねーだろ、俺たちはそういうもんだって教えてやったじゃないか」
    「そうですけどー!」
    「これだけ頂上に連れてって貰えるんだから、文句は言わないの。解った!?」
    あまりに不満そうだったようで、マツブサの片腕のもう一つ、幹部のカガリにまで怒られてしまった。こちらは女の人で、黒い髪が特徴的な人。ホムラとはかなり昔からの知り合いらしく、二人でマツブサの仕事を増やさないよう、まとめている。
    「まあまあ、まだザフィールはガキんちょなんだからさ」
    「子供も大人も、マグマ団ってことは一緒でしょ。そうやってホムラが甘やかすから!解ってるんでしょ、ホムラだってどうなるか」
    「そりゃ解ってるけどさ、しかたねーじゃん。あ、そうそう、カガリ知ってるか?こいつ好きな子いるんだぜー」
    話題を変えるのはいいが、どうしてそこに持って行くんだ。ホムラに抗議するも、それを聞いたカガリは面白いことを聞いたとでも言うような顔をしている。
    「違います!俺はあんなの好きじゃありませんってば!」
    「カガリも知ってんだろ、アクア団に一人乗り込んで助けたのがその子だっていうんだぜー」
    ザフィールはとても後悔した。なぜホムラになど話してしまったのだろう。もうマグマ団に広がってるのは確実。カガリもホムラにしか相づちを打ってない。こうして間違った情報は伝わって行くんだな、と大人たちを見て思った。
    「だから、俺は好きじゃないですから!なんであんな怪力女を好きにならなきゃいけないんですか」
    「へー、力強いの。イズミみたいな子ね。名前は?」
    「へ?名前?ガーネットですよ、宝石みたいな名前ですけど、あいつ自身はそんな綺麗とはかけ離れた存在で・・・」
    「赤い、宝石なのね」
    カガリがつぶやく。ホムラと視線を合わせ、なにやら確信したようだった。どうしたのか聞こうとすると、ロープウェイが来たようで、行くぞと声をかけられただけだった。


     エントツ山は、青いバンダナで埋め尽くされていた。なんか増えてると心の中で感想を言った直後、小さく見えるアオギリに向かって走る。アオギリの目の前には、見た事もない機械が作動している。あれか。アクア団が言ってるには、火山活動を活発にし、火山灰を降らせ、空気を冷やして雨を増やすもの。そんなことしたらきっと海面が上がって、陸地が減ってしまう。災害も増える。なんとしても止めなければ。
     ザフィールの隣には、プラスルがいた。人数が多い。まともに相手をしている場合ではない。そんな時、電磁波で動きを止めてしまえばいい。プラスルはザフィールの声にあわせて技を放つ。青白い火花がぱちぱちと音を立てていた。スパークする電気が止まらない。
    「ザフィール、そのまま道をあけろ!」
    ホムラの指示が飛ぶ。幹部だというのに、下っ端を5人も相手にしていたら中々抜けることができない。カガリも苦戦しているようだった。
    「昨日は良くもやってくれたわね」
    目の前にあらわれるのは、アクア団の幹部、イズミ。その冷たい目は、敵を見る目。それが好かなかった。
    「やってくれた?そっちが先に手を出したんだろ。俺だってあんなことにならなきゃ手も出さない」
    「・・・まあいいわ。それにしても、あの発信器に気づくとは中々の腕ね、本当、アクア団でなくて残念だわ」
    イズミはボールを投げる。出てくるのはプクリン。ピンク色のかわいらしいポケモンだ。
    「さて、プクリン、あれは獲物。無傷で連れていかないとね」
    イズミの指差す方には、ザフィールがいた。何かとジャマだと思われている様子。
    「俺かよ。二度も遅れをとるようなヘマはしねー」
    プクリンは歌いだす。プラスルを眠らそうとしているのだ。けれどプラスルはそれを止めさせるように電磁波を打つ。プクリンを麻痺させた。動きが鈍くなるプクリンにスパークを打ち込む。その直後、プラスルがふらふらし始める。特性が発動したようだった。プクリンのメロメロボディ。プラスルをボールに戻す。
    「そう、中々考えているのね」
    「年上の人に言うのは失礼かもしれないが、俺は非常に急いでるんだ。ボスの命令は絶対。それを守れないのは存在する意味もない」
    プクリンも通り越し、イズミの側を走る。その素早さ、尋常ではない。最も素早いと言われているテッカニンのように姿が見えなかった。そのため、後ろへ通してしまったのである。その背後には、アクア団のリーダー、アオギリ。
    「しまっ・・・」
    「あら、イズミ。貴方の相手はこっち」
    カガリがボールを持って目の前に立つ。黙ってグラエナを繰り出した。逃げ足に賭ける。例え子供であっても大人であっても、マツブサに忠誠を誓った身。全力でサポートするのが、マグマ団だ。

     
     その道は狭い。少し足を踏み外したらマグマが煮えたぎる火口に落ちてしまいそうだった。崩れていく石が、マグマに落ちていく姿は、自分の未来を示しているかのよう。慎重に進めながら、アオギリのいるところへと近づく。機械をいじり、今にも発動してしまいそうだ。
    「来たな、マグマ団の小僧。それにしてもマツブサにはがっかりだ。こんなガキしかよこせないんだからな」
    「黙れじじい。そっちこそ、こんなガキに負けないよう、覚悟しとけよ」
    「勝てると思ってる?お前が?俺に?笑わせんな」
    まっすぐ立っているつもりだ。足に力を入れる。そのくらいアオギリの持つプレッシャーは凄まじい。もしかしたらそれだけでザフィールなんか吹き飛ばしてしまいそうだった。
    「さて、先日のアジトをダメにした件も含めて、たっぷりと礼がしたいんでね、本部まで来てもらおうか!」
    ボールが投げられた。それはクロバットとなり、アオギリの前に立つ。
    「お前のポケモンを一つ残らず火口に落としたいなら、かかってくるがいい。負けを認めた時点で、お前の運命も決まるがな」
    飛べるポケモンは一匹もいない。スバッチはまだ帰って来ない。素早いキーチなら、なんとか避けれるとは思うが、相性が悪すぎる。ボールを選んでいる時、思わずそれを投げた。
    「おいおい、アチャモなんかで間に合うと思ってんのか?」
    「アチャモ、跳べ!」
    号令にあわせてアチャモは地面を大きく蹴る。そしてクロバットに近づき、炎を大きく吐き出した。その熱さに驚いたか、クロバットは空中で少しバランスを崩す。翼で打とうとしても、アチャモの姿はそこになく、地面についていた。
    「アチャモは足の力が強いから、飛んでる方が狙い定めにくいんじゃないか?」
    地面にいるアチャモに向かってクロバットは翼で風を切る。エアカッターがアチャモに向かうが、すでに跳んだ後。クロバットの翼の一つをこんがりと焼き上げる。
    「・・・どうやら本気でアクア団に刃向かうようだな」
    まだ飛べるクロバット。アチャモに向かって鋭い牙を向ける。アチャモは跳んだ。けれどそれを追跡するようにクロバットの牙が追う。跳ぶことは、空中では全くコントロールができないということ。そして飛ぶものは、空中でも自在であること。毒の牙がアチャモを飲み込む。
    「アチャモ!!」
    レベル差がありすぎる。そしてクロバットは口にくわえたアチャモを火口中心まで持って行くとそこでふっと離す。重力に引かれ、アチャモはマグマの中へと吸い込まれて行く。助けを求めるように鳴いているが、ここからではどうやっても助けることが出来ない。必ず返せといっていた父親の言葉が巡る。
     アチャモの声を裂くように、さえずりが聞こえた。紺色の翼がアチャモの体を掴んで飛び上がる。小さなスバメだった。それが自分のスバッチであることに気づく。アチャモを主人に渡し、クロバットを睨みつけている。
    「スバッチ、さすが!ツバメ返し」
    小さな体。クロバットは牙を向く。どくどくの牙。猛毒をしのばせた牙がスバッチの体に食い込んだ。鳥らしい悲鳴をあげると、柔らかい口の中につばめがえしを放つ。避けられない技であるし、柔らかい口を攻撃され、クロバットはひっくり返ったように空中をふらふらしていた。
    「戻れ」
    低い声で静かに言う。スバッチは空中で構えるが、次のポケモンを出す気配がない。
    「スバメか、相手が悪い。ここは一旦出直すとしよう。だがお前をアクア団に引き込むまでは諦めない」
    アオギリが何やら低い音を発した。それはアクア団へ撤収を伝える信号だった様子。いつの間にやら、アクア団は目の前から消えて、エントツ山に残るのはマグマ団だけとなっていた。
    「ふわー、生きてた、俺生きてたよスバッチぃ!」
    ふわふわの羽に抱きつく。スバッチはクロバットの毒がまわっていたようで、とても苦しそうだった。そしてスバッチは光り始める。その姿を一回りも大きいオオスバメへと変えた。甲高い声が、落ち着いた声になるが、さえずりは変わらない。
    「ああ、よかったスバッチ、進化できたんだ・・・メール?」
    なぜスバッチがメールを持っているのだろう。読んでないのかな。そう思いつつ渡された手紙を読んだ。そこに書いてある内容をみて、ザフィールは心臓が凍り付くかと思った。
    「まだ怒ってる・・・ああもう俺ダメだよスバッチ・・・」
    喜んだり悲しんだり、忙しい人だな、とスバッチは思っていた。


      [No.554] 第3話 いざ、突入せよ! 投稿者:マコ   投稿日:2011/06/28(Tue) 10:09:24     61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    さっきまで100人以上もいたこの場所は、今はいやに静かになっていた。悪の集団、プラズマ団が言うには、マイコ達以外の、ここに来たトレーナーを全てポケモン世界に送ったということだ。7人はプラズマ団に、自分達の対戦相手として選ばれてしまったというわけだ。
    みんな、いつもは何かしら喋っているのに、今は誰も話す者はいない。あまりの惨劇に言葉を発することができないのと、憤りの感情とがない交ぜになっているみたいだ。
    7人はただひたすら歩き、プラズマ団の城の扉を開いた。


    ギイイイイ……という重々しい音とともに扉は開け放たれ、敷地内に足を踏み入れるマイコ達。
    と、その時、

    ババババッ!!!

    たくさんの下っ端プラズマ団員が出てきたのだ!ざっと100人以上はいそうだ。
    「まずはここから小手調べだっ!!お前達を排除してやる!!!」
    「プラーズマー!」
    「「「プラーズマー!!!」」」
    そう言ってきた水色のフードをかぶった男女……下っ端どもは一斉にポケモンを出してきたのだ!
    「幸い、我々に刃向かう人間は男6人女1人、そんなの余裕で倒せる……!!?」
    下っ端どもは頭数が多いからか、余裕の表情を浮かべていたが……、正直、彼らは目の前にいる7人の実力を見くびっていた。
    実際ポケモン世界に行ったなら、彼らの実力は並みのリーグ挑戦者が10人かかっても勝利できるくらいなのだったから。
    炎や水、葉に花、雷、風、影の球。他にも様々な攻撃が悪党どもに襲い掛かり、
    「うわあああっ!!何だこいつら!!!」
    「プラーズマー……強すぎる……」
    「こんな情報はなかったはず、だ……」
    傷らしい傷をほとんど与えることができず、下っ端どもは一様に倒された。


    そして、奥に進み、広いフロアーにつくと、何やら雰囲気の違う、独特な服を身に着けた老人が待っていた。しかも、6人も。
    「来たか、我々に反抗する者どもよ」
    「本当はもっといたんだけどね。あんた達が消したからでしょう?」
    「そうかもしれぬ。だが、我らが用意した下っ端をあんなに短時間で倒すとはな。なかなかのやり手じゃな」
    「どうだ、我々と手を組まないか。お主等もきっと喜ぶような世界が創造できるはずじゃ」
    「お前らの考えとるような世界は嫌や。ロクでもないもんになりそうやからな」
    「……話し合いでは分かり合えそうにないのう。どれ、ちょいと、実力行使とでもいこうかの」
    老人達はそう言うと、7人の前に立ちはだかったのだ!


    「我らはプラズマ団の大幹部、七賢人と申すものじゃ」
    「ふーん。それにしちゃ、6人しかおらんみたいやけど?」
    立ちはだかった6人は、確かに七賢人だった。みな同じ形状の、色違いの服を着ていた。それでも、ここに6人しかいないというのは、「七」賢人と名乗るにはおかしな話かもしれない。
    「残りの1人はゲーチス様じゃ。お主等など一ひねりで潰せる」
    「大ボスが最後の1人か」
    足止めされている暇はないが、頑固そうな老人達は通してくれそうもない。ここは、勝たないと先に行けないようだ。
    しかし、止められている彼らにも策はあった。

    「マイコ、お前は先に行け!ゲーチスとやらをブッ飛ばして来い!!」
    オオバヤシにそう言われ、ほうようポケモンのテレポートで階段上のフロアーに、マイコは飛ばされた。
    「何で、私が!?」
    「お前ならやってくれるって信じた結果やねん!!」
    「俺らの中ではマイコちゃんが一番の実力者やから、きっと勝てるって踏んだんよ」
    「せやから自分にもっと自信を持て!!」
    若干うろたえたマイコだったが、説教にも似た激励で腹を括った。
    「分かった!行ってくる!みんなも七賢人なんかに負けないでよ!!!」
    マイコは6人と別れ、必死に先を急いだ……。


    「お主等にとって、あの女は相当大事な人か」
    「俺らはあいつを信じているから、そうやって送り出した。文句はあるか?」
    「特にない」
    対峙する老人と若者。6VS6の様相だ。
    「我らも汚い手は使いたくないからのう。それぞれ、サシで勝負するかの」
    それぞれが別々の部屋へと分かれ、そして、それぞれの部屋で、フルバトルが起こる。
    若者達にとっての「負けられない戦い」は、まだ、始まったばかり。


    次に続く……。


    マコです。
    七賢人がとうとう出てきました。
    マイコちゃんを先に行かせ、七賢人と対峙した男性陣。
    そして、次回からはフルバトルが6回ほど続きます。勝つのはどっちなのでしょうか!?


      [No.553] 第8話 お嬢様は逃亡中 後編 投稿者:魁炎   投稿日:2011/06/28(Tue) 05:59:37     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「いきます!ポカブ!コアルヒー!バチュル!」

    少女はモンスターボールから、ポカブ、コアルヒー、バチュルを繰り出した。

    「手加減は致しません!ポカブ、ヤンヤンマにひのこ!」

    ポカブは、鼻からひのこをヤンヤンマに向けて発射した。むしタイプであるヤンヤンマはほのおタイプの攻撃で大ダメージを受けた。

    「なかなかやりますね・・・。しかし、そう上手くは行きません!サイホーン、バチュルにロックブラスト!」

    黒服の男のサイホーンがバチュルに向け、ロックブラストを放った。バチュルは立て続けにダメージを受け、瀕死寸前の状態となった。

    「バ、バチュル!・・・あのサイホーンは厄介ですね。私の三匹のポケモン全てに効果抜群のダメージを与えますし、早急に倒さなければ・・・。コアルヒー、サイホーンにみずでっぽう!」

    コアルヒーはサイホーンにみずでっぽうを放った。いわ・じめんタイプであるサイホーンは水タイプの技になすすべなく一撃で倒されてしまった。

    「ふう・・・これで一番の不安要素が無くなりました。」

    「なかなかやりますね・・・。しかし、油断は禁物です、お嬢様。グラエナ、バチュルにかみつく!」

    グラエナはバチュルにかみつく攻撃をした。瀕死寸前であったバチュルは今の攻撃で倒されてしまった。

    「バチュル!」

    「これで2VS2ですね・・・。ここからが本当の勝負です。」

    「・・・望むところです。」

    *          *          *

    一方、アレンとダルクは『緑の横穴』にてポケモン修行をしていた。

    「それにしても、さっきのは何だったんだろうね。」

    「・・・何のことだ?」

    「ほら、さっき会った女の子と黒服の人たちだよ。」

    「ああ、あれか。・・・しかしあの娘、どこかで見たような気がするんだが。」

    「その子・・・テレビに出てくるような有名人なの?」

    「いや、テレビで見たとかじゃなく、実際に逢ったことがあるような気がするのだが・・・。」

    「・・・?」

    *          *          *

    少女と黒服の男とのポケモンバトルは今だ続いていた。

    「コアルヒー、つばめがえし!」

    「ヤンヤンマ、ソニックブーム!」

    コアルヒーはヤンヤンマのソニックブームをくらいつつも、つばめがえしを見事にヒットさせた。その威力でヤンヤンマが倒れると同時に、今までのダメージがたたったのか、コアルヒーも倒れた。

    「とうとう1VS1ですね。」

    「私とお嬢様の一騎打ちというわけですね。進化している分、私の方が有利でしょうな。」

    「・・・いいえ?わかりませんよ?ここまでのバトルで、二匹ともかなりダメージを負っています。逆転の兆しは十分にあります。」

    「ふふ・・・どうでしょうかね。一気に決めますよ!グラエナ、かみくだく!」

    「ポカブ、ニトロチャージ!」

    グラエナとポカブの攻撃が同時にぶつかり、辺りに土煙がまった。

    そして、土煙が晴れた中に立っていたのは・・・ポカブだった。

    「か・・・勝ちました!」

    「く・・・流石はお嬢様だ。しかし、このことを旦那様にどう説明すれば・・・。」

    「・・・しばらくは捜索しているフリをしたらどうですか?そうすれば、私も貴方達も少しはお得だと思いますが。」

    「し、しかし・・・。」

    「正直、私も貴方達が酷い目に逢うのは我慢なりません。しかし、ポケモントレーナーをしての旅も続けたい。ならば、それがいいと思うのですが・・・。」

    「お嬢様の思いもわかりますが・・・しかし、我々はお嬢様と接触した以上、このことを旦那様に報告しなければならないのです。お許しください。」

    「・・・わかりました。では、その際、この手紙をお父様にお渡しください。」

    そういって少女は、手紙を男に差し出した。

    「了解いたしました。では。」

    そう言って黒服の男達は去って行った。

    「・・・ふう。これで暫くは、平穏な旅ができます。」


      [No.552] 17、流星の滝 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/27(Mon) 14:16:42     62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     黒いズボンにロゴの入った赤い服、そして赤いフード。これを着ればマグマ団と主張しているようなもの。というか主張している。同時に気が引き締まる。白い髪を隠すようにしてフードを深くかぶる。
    「よぉ、聞いたぜ」
    後ろから頭を乱暴になでてくる。幹部のホムラだった。年齢が離れてるけれど、ザフィールの感覚的にはお兄さんのようだった。見た目も実年齢の割にはそんなにいってないこともあり、学生に見られることもしばしば。
    「お前、アクア団の支部だけどアジト一人で乗り込んで友達助けたんだろ?よくやるなー!!」
    ザフィールの気分などおかまい無しに頭を何度も叩いてくる。ほめてるつもりなんだろうけど、今の彼には全く素直に喜べない。
    「なんだよー、ノリが悪いなあ」
    「いや、そうじゃなくてですね、なんていうか、努力を無にされたというか・・・はぁ、ホムラさんに言っても仕方ないんですけど、嫌われたのか好かれてんのか、そもそもなんで怒るのか解らないし、なんで俺こんなにへこむのかも解らないし、まじ女って意味解らない」
    「なに、友達って女の子なわけか?うひょひょ、これはまた面白い!」
    「おもしろがらないでください!これでも置いてくるの毎回苦労してるんですよ!」
    「なんだ、ずっと張り付いてんのか、好きなんじゃねえの?お前のこと」
    それだけはあるわけがない。そう否定するけれど、ホムラはそれが面白いのかずっと笑ってる。いい時はいい人なんだけど、どうしてツボに入ってしまうと中々放してくれないかな。
    「じょーだんじょーだん。それは置いといて、マグマ団って知ってるのか向こうは?」
    「まだ言ってないです。指摘されましたが、否定したら素直に納得したようで。気づいてないみたいですし」
    「その子とどうなろうと、それだけは隠し通すか早めに言った方がいいぜ。何せ俺たち、世間じゃ悪役だしな。ほらほら、もう一つの悪役が見えてきましたよーっと」
    「本当だ。行きますかホムラさん」
    「おうよ。ガキには負けねー」
    目の前に見えるのは青いバンダナ、アクア団。昨日でくわしたばかりだ。ザフィールはキーチのボールを構える。隣のホムラはグラエナのボールを構える。向こうもこちらをみつけたようだった。二つの勢力がぶつかり合う。


     下っ端など結構あっさりと倒せてしまう。アクア団を伸した後、二人はさらに流星の滝へと近づく。何を目的としているのか知らないが、よからぬことを企んでいるのは事実。倒れてる下っ端をおいて、走り出そうとした。目の前を何かが塞ぐ。白いからだに赤い模様、ザングースだった。傷だらけになりながらも、必死で二人の侵入を拒む。
    「どうします?」
    「うーん、傷ついてる野生のポケモンをわざわざ倒す程、いい趣味してないけどなあ」
    ボールから出たグラエナが一瞬にしてザングースに噛み付く。それが致命傷となったのか、ザングースはその場に倒れる。背後には、ザングースの巣らしきものがあり、そこにはタマゴが2個置かれていた。
    「親か・・・ここら辺はザングースの巣なんだ」
    「ほら行くぞ、先にいったやつらの援護しなければな」
    ホムラに急かされてザフィールはその場を後にする。見えてくるのは青いバンダナばかり。他の人たちはどうしたのか解らないくらいに。もしかしたら来てないのか。そう疑問を持ち始めたがそれは違う。マグマ団と衝突を始めたという連絡を受けたアクア団の援護に来たやつらなのだ。それが解るのは、流星の滝がある洞窟に入った時。
    「ええええ!?」
    ザフィールは思わず言ってしまった。もう乱戦なのである。着ているものでどうにか味方と敵が解るくらいの。ホムラに背中を押され、その中に入る。
    「ゆけ、スバッチ!」
    ボールが開く。紺色の翼がその中へ突っ込んで行く。すごいスピードで突っ込んでは避ける間もない攻撃を繰り出す。つばめがえし。剣技の一つに例えた攻撃は、誰も避けることが出来ない。
    「ホムラ?ザフィールも来たか、下っ端はいい、そいつを止めろ!」
    マツブサの声がはっきり届く。そいつと言われたのは、アクア団のボスであるアオギリだった。その体格はプロの格闘家を思わせる。実力行使ならば間違いなく負ける。
    「マツブサも耄碌したのか、こんなガキに俺が止められるかよ」
    その通りだった。向かい合っただけでわき上がる恐怖。足が動けないのだ。ボールを選択する手も震える。そんな彼に気づいたか、ホムラが前に立つ。
    「おっさん、こっちは俺もいるんだぜ」
    「・・・マツブサの片腕か。お前とやり合うのは得策じゃなさそうだな」
    アオギリはモンスターボールを投げる。そこから出たのはモンスターボール。に見えた。それはビリリダマというポケモン。見た目がそっくりでよく間違えた事故が起きることで有名だ。そのビリリダマは電気をためたかと思うと、その電気を光に変えてその場に放った。光に目がくらんでいる隙に、アクア団は全員消えていたのである。
    「ヤバい、逃がしたな」
    ホムラも目の前が蒼く光ってるらしく、何度もまばたきをする。ザフィールも同じでまともに見えてない。
    「お前ら、大丈夫か!?」
    残ったマグマ団に声をかけているマツブサ。負傷したのもいれば、まだ元気なものもいる。
    「動けるものは今すぐエントツ山へ向かえ。アクア団は、ここにあった隕石で火山を噴火させる装置を作ったらしい。それが発動したら大変だ、さすがにそれはバランスが崩れる」
    洞窟にマツブサの声が響く。ザフィールは周辺の地理を思い浮かべ、嫌な予感しかしなかった。そう、来たばかりなのだから強制的にエントツ山へ行くことになる。
    「ほら行くぞ」
    ホムラに言われ、エントツ山へと向かう。この長い距離は、走ってもおいつくものではない。かなり恥ずかしいが、カゼノ自転車を使うとしよう。鞄から出すと組み立てを始める。
     そうして思い出すのは、何も言わずおいてきてしまったガーネットのこと。何か言わないとまた後でどやされる。スバッチに手紙を持たせ、届けるように指示した。青空へと向かってスバッチは飛び立つ。
    「よし、行くかエントツ山。アクア団を止めに!」
    ペダルを踏む。加速をはじめ、すぐに最大速度に乗った。


      [No.551] 16、期待と裏切り 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/27(Mon) 11:08:16     61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     眠れてないのに、頭はすっきりとしていた。隣には、まだ夢の中にいるザフィールがいる。昨日はわがままいって、こんなに近くにいてもらったけれど。どう思っているか解らない寝顔を起こさないように布団から出る。灰で少し汚れた服も体も洗いたい。けどなんとなくすぐに行動したいと思わず、少しの間、座って離れないようにしていた。小さな声で、行ってくるねとつぶやく。聞こえてるはずもないけれど、無言で行くのも忍びない。
     暖かい湯が体を伝う。汚れも灰も全て落ちていくようだった。シャンプーの香りが広がる。火山灰を再利用した商品らしく、色が黒い。流した後、なんともいえないさっぱり感がある。
     
     湯を使っている音に目が覚めた。いつものくせでポケナビで時間を確認する。まだ朝早い。そして少し昨日のことを思い出し、隣にいるべき人がいないことに気づく。それは彼の目を完全に覚ませるのに充分だった。布団をはね除け、飛び起きる。
    「ガーネット?」
    それしか頭になかったのと、カギがかかってなかったのと。両方あって、思わず風呂場のドアを勢いよく開ける。
    「ちょ、ちょっと!?」
    「大丈夫なのか?昨日といい、そんなに・・・」
    ここで気づくザフィールも相当視界が狭い。自分がどういう状況のときにどうしていたか、自覚すると何も言わず回れ右で一目散に出て行く。逃げ足の速さは、ガーネットに反論、反撃の隙間を与えない。台風が去っていったような騒がしさに、彼女も唖然と見送る。
    「完全に、見られたよね」
    まだ濡れている体は、何もまとっていない。

     布団の中でじたばたしていた。何をしてしまったのか、何をどうしてしまったのか。その後に来るであろう制裁の恐怖もそうだが、過去は変えられないことをひたすら頭の中をまわる。掛け布団を頭からすっぽりかぶり、暗闇の中であーでもないこーでもないとうなっている。
     どう謝ったらいいのか、どういったら制裁を受けなくて済むのか巡っていると、布団の上から何かが押してくる。頭だけ出して上を見ると、部屋着姿のガーネットがいる。ヤドカリのごとく素早く布団の中に潜る。
    「ねえ、ザフィール?どうしたの?」
    「いや、その、怒ってるんじゃないかと・・・いや本当ごめん、見るつもりはまじで無かった!」
    布団の中でもごもご動いている。あまりにぐだぐだしているためか、ガーネットは立ち上がると、その掛け布団をいとも簡単に引きはがす。
    「わあーー!まじでごめん!」
    何をそんなにじたばたしているのか、ガーネットには理解不能。とりあえず黙ってみていたが、それはもう、ピンチの時にポケモンが放つじたばたよりも見ていて動きが面白い。体力があると威力が低い意味がよくわかる。無駄な動きが多くて、ダメージにつながらないのだろうな。そこまで考察して、かわいそうだし止めてやることにした。
    「ねえ」
    背中をおさえつけられ、彼の動きが止まる。
    「落ち着いてよ。ザフィールも入る?昨日はいってないでしょ?」
    見上げる。彼が見たガーネットは、怒っているというよりも不思議な生き物に遭遇したような顔だった。それに安心し、軟体動物のように起き上がる。
    「本当、すいませんでした!」
    「・・・変態」
    暴力的な制裁こそなかったものの、その一言がザフィールの心に刺さる。それだけ言うと後は何もなかったかのように、ガーネットは支度を始める。その様子を見ていて、ザフィールは昨日に言おうとしていた事を思い出す。
    「なあ、ガーネット、昨日着てた服は洗濯?」
    「え?そうだけど?」
    「それ終わったらでいいから、全部出して。下に着てたのも全部・・・にらまないでください。まじめな話、アクア団が何かの追跡してないとも限らないし、思い違いであればいいから、見せて」
    不審者を見るような目をしていたけれど、全部洗い終わった後に黙って衣類を渡す。ザフィールはそれを受け取ると、表から見た後、裏に返す。別段不振な点は無さそうだけど、もし自分だったら一番気づかれないところに隠すはず。GPS機能だけのやつなら本当に小さいものだってある。襟の裏、縫い目のところ、裾のところ。そして一度も脱がさないで簡単に付けられるところ。
    「本当にあるの?」
    「思い違いならいいんだけどね」
    そして特に上着とか鞄とか、常に身につけるもの。洗濯の回数が少なそうなもの。その方が、自然に落ちてしまう可能性が低い。機械だけじゃない。モンスターボールにだって取り付けられる。一つ一つ調べていったらキリがなさそうに思えた。
     ザフィールがガーネットの上着に何か違和感を感じた。畳に押しつけ、アイロンのように手でなぞる。そこにある少し膨らんだもの。微細すぎて、砂利かと思うくらいだった。けれどよく見てみれば、小さな発信器であるようだった。
    「みつけた」
    無効化するため、プラスルを呼び出す。朝だったため、とても眠そうだった。スパークを命じた。電気を全身に回し、小さな機械に集中する。それは何も音はしないが、よく電気が通ったようだった。そしてその小さな粒を窓から外に投げ捨てる。
    「さて、紳士的に夜は来なかったが今から来ないとも限らないし、早めに出よう」
    まだ朝は動き始めたばかり。疲れが完全に取れない足で、支度を始める。少しこの灰かぶった体を洗いたい。


     連絡が途絶えた。きっと見つかったかなにか事故でもあったか。これではGPSが使えない。ウシオはどうするとイズミに聞いた。それにしてもマグマ団が側にいるのは厄介だと笑う。
    「それだけじゃないわ。トレーナーカードのIDを読み込んだからね、ポケモンセンターの利用歴なら追えるから安心して。それと今回のことで自宅に帰るかもしれないから、ミシロタウン周辺と、後はトウカシティジムを1週間見張るのね」
    「あのマグマ団はどうする?」
    「確かにそうなのよねえ、あの子一人ならいいんだけど、ジャマよねえ。なんとかこちらにできないものかしら。あーもー、全てがうちはなんで後手にまわってんのよ」
    「もうあれは仕方ない。まさかかつての教え子をササガヤ先生が訴えるとは思ってなかったし、そうでもしなきゃ今は無い」
    「卒業して何年も経つってのに、そんなにボスがかわいかったのかしら、まったく」
    この状況をひっくり返せる何か奇策は無いのか。イズミは黙った。幹部をやっている以上、下のものに指令をしなければならない。気配を消すのが得意なものは見張りへ、実力があるものはマグマ団を見張らせる。


     朝食の席で、ポケナビが鳴る。こんな時に何かとザフィールが出ると、思ってもない人からの着信だった。思わず席を外す。マツブサからだ。きっと何かある。
    「電話に出れるってことは、上手くいったのか?」
    「はい、おかげで俺の友達も無事で」
    「それは良かった。それでアクア団なのだが、どうやら流星の滝に何やら行くらしい。目的は一切不明だが、今日の10時、必ず来い」
    「あ、その、ちょっと、昨日のこともあって、友達を送っていかないと・・・」
    「何を言ってるんだ?そういう時、マグマ団ならどうするか考えての発言か?」
    「あっ・・・そうだ、しばらくは関係のありそうな場所は見張ってる。ダメか、うーん」
    「なんでもいいから来い。だいたいそんな遠いところにいるわけじゃないだろう?」
    「まあ、はい。行きます」
    切る。戻ってくると、座ってるガーネットが、何時間も待たされたような顔でそこにいる。会話の内容も疑わしいようだった。
    「ごめん、待たせて」
    「はあ?誰が待ってるなんていうわけ?」
    電話の前と全く態度が違う。言い方も、さっきはこんな刺を含んだものじゃなかった。いくら待ってたとしても、そんなに怒らなくてもいいのに。
    「え、なんか待ってたっぽいし・・・」
    「だからさあ、待ってるわけないでしょ!」
    怒りながら席を立つ。そして食器を下げにいってしまった。何がなんだか解らず、残りの朝食をかたづける。


     何を怒らせてしまったのか、原因は掴めぬまま。それでもついてくるのだから、もうザフィールには理解不能。どこへ行くのと聞き込みから始まり、ハジツゲタウンに出てアクア団がいないかどうか確認してくるにもついてくるし、集合のために薬を買おうと店に寄るときもついてくるし。その間、声をかけようものなら距離を取られ、かといってそのままにしておけば近づいてくる。
    「意味が、解らない」
    レジで会計する時に目に入るアンケートに、思わずその言葉を書いてしまった。その事しか考えられてないのに答えてしまったのもおかしいけれど。
    「はあ、昨日ので俺から離れてくれないかなあ」
    無理だろうなあとため息混じりの独り言を、店の外でつく。集合時間まで後少し。いっそこのまま置いていこうかと考える。怒ってるのを無理に一緒にいることもないだろうし。マグマ団であることを言うのにちょうどいいと思ったけれど。しかしその時はどう説明したらいいだろうか。言葉を考えていると、腕を引っ張られる。
    「行こう」
    今は怒ってないみたいだった。機嫌が直ったのかと思い、流星の滝に行こうと誘おうとした。けれど流星の滝に行くことを口走る前に、それは止められる。二人の前に男の人があらわれる。普通のスーツを着た男。
    「あ、ダイゴさん」
    ガーネットの知り合いのようだった。それにしても身長が高いせいか、見下されているような感じがして、ザフィールには好印象を与えなかった。それどころか、無機質なその目はアクア団より人間味のないもの。
    「やあ、ガーネットちゃんと・・・」
    「ザフィールです」
    「ザフィール君か。そうか、そうなんだね。君がそうなんだ」
    口角が上がる。気味の悪い男だ。しかもこちらのことは知っていたようで、余計に感じは悪い。非常に悪い。
    「あの、ダイゴさん?」
    「ああ、そうだね、楽しみだね」
    知り合いにしては、会話もかみ合ってない。背中を向けると、何も言わず流星の滝の方向へと歩き出す。姿が見えなくなってから、ザフィールは自分がまっすぐ立ってることを確認する。アクア団にさえひるんだこともないのに、あんなに怖い人物がいるなんて、思いもしない。
    「知り合い?」
    「昔、ジョウトにいたときに世話になった人なんだけど、前はあんなに冷たい人じゃなかった。優しい人だったのに」
    「へー。優しさとか全くの無縁な感じしかしないけどな」
    魂の抜けた人形のような。視線はあっているのかあってないのか解らず。それに優しさを感じることは出来なかった。けれどガーネットはそれにかみつくように反論する。
    「なんでそんな酷い事言うの?ザフィールはダイゴさんの何を知ってるの?」
    「俺は正直な感想言っただけだよ。さっきだってあいつは俺のことを完全に下に見てたのに、いい気なんてするわけない」
    「バカ!」
    顔面が殴打された。右の頬が打たれて痛い。勢いに押され、数メートル吹き飛ぶ。その防御力も大したものだ。
    「何も知らないからそんなこと言えるんだ!」
    滝とは反対の方向へと走っていってしまう。呼びかけても聞こえるだろうけど届いていない。それに殴打されて地面に打った頭が痛い。触ると少しふくれていた。流血していないだけマシか。
    「なんだよ、あいつ・・・」
    起き上がる。そしてなぜか抱いた感情を飲み込んだ。こんなにも心が曇ってすっきりしないのは初めてだ。朝はなぜ怒ったのか、そして今の怒りも理解ができない。思い出せば思い出すほど、感情がさらにわき上がってくる。
    「そんなにあいつが良くて俺が嫌いかよ」
    最初に会った時からそうかもしれないけど、ここまで嫌われていたとは思えなかったのに。離れたのに中々晴れてくれない心。それを消すかのように、流星の滝へと走り出す。走っていれば、いくらか落ち着くと思った。


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