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意外な趣味なんだとザフィールは思っていた。カナズミシティ郊外のふかふかの土で、木の実栽培に励んでいるガーネットを見て。
畑の前には土掘り係のジグザグマとポニータ、水やり係のミズゴロウ、種を植えるキノココ。さらにキモリまで加わって、楽しそうに園芸しているのを見ると、普通にトレーナーとしてやっていった方がいいんじゃないかとさえ思えてくる。
昨日植えたクラボの芽が顔を出しているし、それを食べかけるスバメと、横やりを入れるミズゴロウ。そしてそれをたしなめるガーネットはとても楽しそう。こんなに優しいなんて思いもよらず。いつも向ける表情は怒ってるか真顔かキレてる顔。その半分でもこちらに向けてくれるなら、すこしは協力してやろうってもんなのに。
その思念の電波を受信したのか、ガーネットが振り向いた。ポケモンたちに向けてた顔とは大違い。手に持ったシャベルを投げてくるんじゃないかというくらいに。思わずザフィールは身を硬直させた。
「なにつったってんの?」
「え?俺いなくていいわけ?」
「はぁ?そんなこといってんじゃないんだけど」
手伝わせようとしているのか、いなくなれと言われてるのか。ザフィールにはそれが解りかねる。ガーネットの性格からして前者だとは思うが、トンチの達人にそんな言葉を向けるなんて。少し痛い目を見てもらってもいいだろう。
「え、そうでしょ?俺ジャマなわけじゃん?俺もう行くわ!キーチ、スバッチ行くぞ!」
背中を向けて走り出す。が、大きなものに引っかかったみたいに体が動かない。振り向けばガーネットが鞄をがっしり掴んでる。しかも片手。逃げられない。そしてその顔は般若のようだった。
ここのところ、ずっとそんな感じだった。監視したいのか、ただの付き人なのかよくわからない。何がしたいかよくわからないガーネットにザフィールはいらだちがたまっていた。何日もずっと一緒にいたら我慢できない。
夜にポケモンセンターに泊まりながらも、明日こそ出し抜く決意を固めていた。そのためには早寝早起き。ポケナビを充電しようとして手に取ると、着信があったことを知らせていた。マグマ団からだ。布団の中で連絡を聞く。明日の午前にカナシダトンネルに行かなければならないと。ちょうどいい。これを機に置いていこう。
「どうしたの?」
風呂から上がったガーネットが覗き込んできた。あまりに突然で思わずポケナビの画面を伏せた。ところがポケナビそのものは見られていたのである。もちろん、それを逃すはずがない。
「ねえ、それなに?」
意外な答えに驚いた。ポケモントレーナーなのに知らない、持ってないとは。
「え?ポケナビだけど、持ってないの?」
「うん。みたことない」
仕方ないから説明してやった。デボン社というホウエンに本社がある大きな会社の製品であること、ポケモンのコンディションを見たりできて、もっとすごいのは番号を教え合うと連絡が取れるということ。そこまで説明して最後のはやってしまったとしか思えなかった。そんなことを教えて、ポケナビを持って来られて、無理矢理番号を聞かれたりしたらそれこそ!墓穴を掘るということはこういうことなのかと、布団の上にうつぶせになって顔を隠す。
「すごいんだ、ねえこれ私も持ったら番号教えてくれる?」
「・・・買ったらね」
顔をあげる。なぜかすごいガーネットは嬉しそう。今日中は無いだろう。明日、会社が始まってからだろうから、その間に逃げればいい。ザフィールの頭の中に妙案が浮かぶ。
「明日買ってくればいいんじゃない?俺その間、ちょっとキーチとスバッチ鍛える為にどっかいくから」
「え?ついて来てくれないの?」
「子供じゃないんだからさあ、一人で買い物くらい行ってくれよ」
もう一言を発しようものなら、今度こそ息の根が止められていたかもしれない。その怖いオーラに気付いたからこそ、そこで言葉を切ることが出来たようなものだ。
「・・・解った、でも俺だってポケモン育てたいから、昼頃にまた待ち合わせしよう。それでいいだろ?」
「その間に何か悪いことでもしてこない保証は無いけどね」
推理小説の主人公並みのツッコミは何とかならないものだろうか。冷静を装う。怒ってるオーラに圧倒されないように。
「いやだから俺じゃないって。だいたいお前は俺を犯人犯人言うだけで、何もしてないじゃないか!」
「そんなことないよ、ちゃんとザフィールの行動、言動、動きとか観察してまとめてあるから、そこから何か少しでも不自然な行動があればすぐにメモするようにしてるし」
「お前は警察か。もうやだこんな人を疑うだけの女なんて!」
そっぽを向いていじけてみる。こんなのが通じるような相手ではないけれど、緩和くらいできるはず。けれどガーネットにはますます妖しいという印象しか与えなかったようだった。
「で、待ち合わせはどこで?」
「それでも待ち合わせるのかよ・・・まあいいや、そうだな、お昼にサン・トウカの前で待ち合わせるんだったらいいだろ?」
「解った。そのかわり逃げたら承知しないからね」
地獄の果てまでついて来そうな勢いだ。そのまま布団にもぐってくれたのが何より幸いだろうか。明日は早い。ガーネットに気付かれないうちに起きて出て行かないと、マグマ団の制服に着替えることも出来ない。
もちろん、起きたらすでにガーネットが起きていた。というより起こされた。時計は5時半を差している。いつも7時に起きているからと思ってこの時間なのに。空は白いけど朝日はまだ山の向こうだというのに。しかも支度はばっちり。服に着替えて、いつでも出かけられるように。
「はやくね?」
寝起きで思うように言葉が出ない。布団から起きたら、とりあえずいつもの服に着替えて、それからタイミングをみて制服を着ればいい。そう思っていた。
異変を感じた。耳を立てて辺りを警戒する。
朝起きて水を飲もうと起きた。不穏な足音が響く。人間の足音。思わず草むらに隠れた。後ろから他のポケモンが近づいてくる音がする。
「エネコの姉貴、人間たちのようですぜ」
蝉の幼虫のようなツチニンが耳打ちした。ここらの草むらを仕切るリーダー格のエネコ。他のポケモンたちより少し体が大きく、エネコの中でも強さは群を抜いていた。直接の部下であるツチニンは情報収集に長ける素早い虫。エネコの右腕といってもいい。
「どうやら、エネコたちを売り飛ばして金をもうけようとしてるみたいです、危ない姉貴!」
後ろから現れた大男。その男はエネコに向かってモンスターボールを投げて来た。ツチニンがかばい、丸い監獄に捕らえられる。
「ちっ、ツチニンなんかいらねえんだよ!」
何を話しているか解らないけど、大雑把な感情は解る。役に立たないと吠えている。エネコは男の足に噛み付いた。振り払おうとしてもう一つの足でエネコを蹴る。引きはがされ、エネコは草むらに転がった。
耳にはあちこちから仲間のエネコの悲鳴が聞こえる。捕まりたくない、怖い、怖い、助けて。目の前の男も捕まえようとしている。動きを読んで、ボールを避ける。これしかない。エネコは起き上がり、身構えた。大男はボールを投げる。
「エネコで金儲けなんて、えげつないよな!」
白い髪のこれまた人間の男。子供と大人の間くらいで、赤と黒の服を来ている。大男の仲間ではないようだ。空のモンスターボールをはじき飛ばし、キモリを従えている。
「お前は、マグマ団!」
「お前らの悪事を止める時だ!」
キモリが大男に飛び掛かる。その素早さで男のポケモンも男も翻弄されている。思わぬ助っ人に、エネコは草むらの影から興味深く見ていた。
「おーい、ザフィール、なんで今日は私服なんだ?」
その数分前の話。カナズミシティ郊外の道路についた。ガーネットをデボン社に送った後で。遅刻はしないけれど、着替える暇などなく、結局時間になってしまってそのまま来たのだ。もちろん、マグマ団の中にいてとても浮いてることは自覚できる。みんなが奇妙な目で見てくる。
「まあ仕方ねえ、アクア団にデボン社から大切なものを盗んだらしい。しかもカナシダトンネル方面に逃げたという証言もある。気を抜くな、アクア団から取り返せ!」
完全に一人浮いてるなあと思った。けれど上着は赤と黒だし、色合いは似てるからいいか、と気にしないことにした。
そしてエネコを捕獲しているアクア団を見つけた。レベルの上がったキモリのスピードには並のポケモンでは追いつけない。ポチエナをあっという間に瀕死に追い込み、アクア団は逃げていく。マグマ団の仲間に連絡し、追跡を開始する。逃がすものか。誰一人逃がしてはいけないと言われている。
この足ならすぐに追いつける。青いバンダナをめがけ、ザフィールは走る。草むらを走ってるせいか、なんか違う音もするが、そこは気にしてなかった。後ろを振り返っても誰もいない。
アクア団を追うと、工事現場が見えて来た。未開通のカナシダトンネル。何年も前から工事していて、未だ完成しない。理由としては、トンネル付近に生息するゴニョニョというポケモンが工事の騒音に耐えられず、大きな音を出してしまう。その音で苦情がきて、重機を使った作業が出来なくなったため、人力で掘っているためだ。
中は工事用の明かりが灯っていて、見えないわけではない。下手に音を出すとゴニョニョが騒ぎだす。その音は近くで聞いたらしばらくは他の音が聞こえないくらいに大きい。
ザフィールは足音を立てないように歩く。死角が多い洞窟は奇襲されてしまうこともある。壊滅的な被害を出してもおかしくない。だからこそ慎重に進めていった。
「わっ!」
ザフィールの顔にぺったりと張り付くそれ。思わず左手で振り払う。するとすぐにそれは離れ、飛んで行く。目の前を見れば、自分から去って行くキャモメと、老人の姿。
「大丈夫かい?ピーコちゃんが迷惑かけたね」
はっきりと見えないけれど、老人特有の肌、ピーコちゃんというキャモメ、そしてその身なり。ザフィールは会ったことがある。
「貴方はハギさん?」
「おや、誰かと思えばオダマキ博士の息子さんじゃないか?」
「はい、そうです。なぜここに?」
「それがアクア団のやつらに船を出せと脅されて、逃げて来たんだよ」
「解りました。カナシダトンネル前のアクア団は多分もういません。大丈夫だと思います、背後のやつ除いて」
ハギの背後にいるアクア団。追い掛けていたやつだ。ザフィールはスバメをボールから出すと、アクア団の顔面を狙わせる。さっきのキャモメが張り付いたように。
「ここから逃げてください。このアクア団は俺がなんとかしますから」
「すまんな、頼りにしすぎて」
「いえ、助け合いですよ」
足音が去って行く。アクア団は何か叫んでいたが、ザフィールがそれを阻害する。
「お前の相手は俺だよ、一般人に何してんだ」
「お前のようなガキが相手とはね、なめられたもんだ」
アクア団がボールを投げた。中からゴツゴツとしたポケモン、サイホーンが現れる。気性が荒そうだ。スバメをにらみつけている。
「つつけ!」
スバメがサイホーンめがけて飛ぶ。こつんと軽い音がした。サイホーンの角に当たるが、全くダメージは無さそう。タイプの相性が全く持って悪い。しかも体格もサイホーンのが上。踏みつけられたらひとたまりもない。アクア団が命令した。角で突けと。スバメの体より大きい角は、突くというより、鋭い角を押し付けたような攻撃だった。力なくスバメが落ちる。ザフィールはスバメを戻した。
デボン社に行くことはためらいがあった。あのセクハラじじいの件もあったけれど、昔の知り合いがデボンで働いてるといっていたから。もしかしたら会うかもしれない。けれど連絡すると約束して別れたあの人に今更会ってどうしようというのだろう。会ったところで連絡がなかったことを責めるのか。いやその前にキヌコのことも、シルクのことも。話したいことはたくさんあるのに、何から言っていいか解らない。
もやもやとした気分の中、デボン社に行けばあのセクハラじじいと出会ってしまったわけである。今日はリゲルを抱いて持っていたら、やっぱりキノココかわいいかわいいとなでていたので、被害はなかったけれど。
「ところで、今日はどうしたの?」
「知り合いがポケナビならここっていうから・・・」
キノココを愛でる時以上に目を輝かせたセクハラじじい。思わずガーネットは一歩退く。
「キノココ愛好家仲間として、サービスだ!助けてもらったし!」
おじさんの仕事鞄から真新しい機械が出てくる。あのポケナビの最新型。まだ発売されていないのだという。良いのかと問う前に、おじさんんはキノココをなで回している。もらっておけるものはもらっておこう。ガーネットはおじさんにそれだけ言うと、デボン社を後にする。
「ま、そんな都合良く会えるわけはないと思うけどさ」
時間は約束の30分前。そろそろ花屋のサン・トウカに行かなければならない。そこで少しまた種を買って、そしたらまた植えて収穫して。そんなことくらいしか思い浮かばない。それにそこでポケナビをいじればいい。使い方は聞けばいいのだから。
デボン社を出てからカナズミシティを歩いていると、何かくっついてきてるような感じがするのだ。振り返っても人ごみばかりだし、何も解らないけれど。もう一度歩き出そうとすると、その正体が判明する。足元にロコンがじゃれついてきているのだ。
「わー、珍しい!エンジュシティまで行かないといなかったんだよね!」
野生かな、と期待するがそうでもないみたいだ。とするとトレーナーが近くにいるはずなのだが、見当たらない。ロコンを抱き上げる背中に何かをくっつけているのに気付く。手紙のようだが、見てもいいのかと迷う。また戻せばいいかと考え、ロコンにつけられた手紙を見た。
「誰のロコンなんだろう、とりあえずありがとう」
街中であるにも関わらず、ボールからポニータを呼び出す。このところ走るトレーニングを続けているから、少しずつ体力がついてきている。体つきも少し大きくなった。
「走れシルク!」
命令するとポニータが走り出す。そのスピードは風よりも速く。石畳に蹄の音を響かせて。
※死ネタっぽい描写があります。注意してご覧ください。
今日と明日は大学の教授が学会でおらず、完全にオフなので、家で休むマイコ。
昨日、チトセとミライを撃破したことにより、千年流星会の構成員はトワのみになったわけだが、トワの情報が少ないことを気にしたマイコは、ジラーチに少し探りを入れてみることにした。
「ジラーチ、」
『マイコ、何か気になることがあるの?僕が聞くよ』
「トワってどんな相手?」
『確か、大爆発で戦う人だった。1000年前に、チトセとかミライよりも圧倒的な数の死者を作った人なんだ』
「つまり、かなり残虐ってこと?」
『まあね。人当たりはすごくいい人のように見えるけれど、抹殺に関しては容赦ないんだ。マイコは爆発を防止できるポケモンはいる?』
「湿り気の特性を持っているポケモンなら、ラグラージがいるけど」
『分かった。でも油断はしないようにね。爆発以外にも毒の攻撃が容赦ないから』
そう言いながら、約束の16時に備えていくのだ。
そして、約束の時間の5分前。マイコはみんなとともに願いが丘に到着していた。本当だったら1人で行った方が良いのかもしれないが、相手は千年流星会の総帥だ。
何をしてくるか分からない。そのため、ついてきてもらった。もし、自分が倒れてしまったら……とか思ったが、ここで後ろ向きになってもいけない。みんなには離れたところで見てもらい、自分が倒れたところで出てきてもらうように言った。
約束の時間、16時。精悍な顔立ちの男が来た。この男がトワなのか。
「初めまして、マイコさん、」
「は、初めまして」
「トワと申します」
確かに、ジラーチの言う通り、穏やかそうな人だ。情報を何も聞いていなかったら、普通のいい人だと勘違いしてしまいそうだ。
「マイコさん、」
「何ですか、」
「私は、世界を平和にしたいのです。あなたは野蛮な人と一緒に私の幹部と戦ってきたみたいですが、あなたは十分に強い。どうです、私と組んで平和をもたらしませんか?私と一緒なら、ジラーチも一緒にいられますよ」
甘い言葉。大抵の人はついていきたくもなるだろう。しかし、マイコは毅然としていた。
「いやです。あなたと得た平和は、偽りでしかありません。それよりも、今までずっと一緒にいたみんなとともに得る平和の方が、私にとって誇るべきものなんです。ジラーチだって、あなた達の行動を1000年前に見て、拒絶していました。私は、あなたについて行かないですし、ジラーチもあげません!」
しっかりと、トワを見据えて言い放った。それを見た彼は、至極残念そうにこう言った。
「残念です、あなたとは気が合いそうだったのに……」
その瞬間だった。マイコの目の前には6匹ものマタドガスが浮かんでいた。
「ラグラージ……」
爆発を防ぐための切り札となり得る沼魚を出す前に、
ドオオオオオン!!!!!
6匹同時に大爆発を起こしたのだ!!
黒焦げの状態でぐったりと倒れこむマイコ。それを見て、傍観していたみんなが黙っているはずがなかった。
「「「よくもマイコをおおおおっ!!!!!」」」
ジラーチがマイコの元に飛んできた。
『マイコ、ねえ、起きてよ、生きてよ、ねえってば!!』
ポケモン達が一斉に技を繰り出す。マイコのポケモン達もボールから出てきて、ムンナに至ってはカバンから取り出した月の石でムシャーナへと進化した上で攻撃をしていた。
しかし、トワは平然としていた。
「私はポケモンの攻撃を《守る》効果を持つ服を着ているので攻撃なんて受けないのですよ。鉄壁の防御は破れないのです!」
それでも、まだ止まぬ攻撃。
「無駄です!どんなに強い攻撃を放っても、私に効果はないのです!!」
トワは未だに平気そうだった。このままではPP切れでこちらの方が倒れてしまうと思った、次の瞬間だった。
ジラーチのお腹にある、3個目の目が開き始めていた……。
『トワ、よくも、マイコを傷つけてくれたね……』
これまでにないくらい怒っている願い事ポケモン。彼の頭上には、赤熱した隕石が今にも降りかかろうとしていた。
「そうか、ジラーチ、君の選択は、彼女含む野蛮人を全て見捨てて私と一緒について行くことなのですね」
トワが言いかけたのを、ジラーチは止め、言い放った。
『お前の方が野蛮だ!1000年前と同じ過ちを繰り返し、果ては僕を大事にしてくれた彼女を瀕死にして!!お前が裁きを受けろ!』
隕石がトワに迫る。
「おや、ジラーチ、忘れているのですか?」
『何のことを?』
「服ですよ。私の服には《守る》の効果があります。どんな攻撃も効かな」
『もう言っちゃうよ。僕が出す技は《破滅の願い》だ。この技は、守るとか見切りの効果を貫通できる珍しい技だ。普通に使えるのは僕ぐらいだよ。守るの効果なら、もうお前に未来はない』
「やめてくれ!もう殺したりはしないから命だけは助けて」
『お前は光の中で猛省しろ!!!』
隕石が千年流星会の男の総帥を直撃し、焼けながら浄化されていった……。
『マイコは生きているの?』
「息を少しずつしてる。病院に運ばないと……」
生死の狭間を彷徨うマイコ。彼女を救うためにジラーチが出した決断は、こうだった。
体から出た光は、空に向けて飛び、そして、マイコに突き刺さった。
「えっ!!?」
光が突き刺さることに全員が驚愕したが、黒焦げだった彼女の体はみるみるうちに傷がふさがり、やがて元の状態に戻った。そして、彼女は目覚めた。
「うーん……」
『マイコ!!!』
「「「生き返った!!!」」」
「みんな、どうしたの!?」
こと切れていたらどうすることもできなかったが、息がまだ続いていたため、癒しの願いで復活させた、というわけだ。
そして、あの図鑑のデータの続きは、こうだった。
ジラーチ 願い事ポケモン
タイプ 鋼・エスパー
身長 30センチ
体重 1.1キログラム
特性 天の恵み……技の追加効果が出やすい
1000年のうち7日しか目を覚ますことができない、幻のポケモン。
様々な願いを叶える力を持っていることで知られる。
腹にある閉じられた目が開くとき、破滅の願いが発動する。
なんにしろ、これで、もう邪魔者はいなくなった。明日のマイコのバースデーは楽しみだ。
最終日へと続く……
マコです。
破滅の願いでトワを撃破して、ようやく千年流星会を撲滅しました。
次のお話でラストです。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
※残虐な描写があります。注意してご覧ください。
勝負には、確かに決着がついた。しかし、諦めの悪いチトセは、マイコとアキヤマを絡め取って殺害することで敗北という結果を帳消しにしようとしたのだ。
無論、そんなことは許されるはずはない。
「卑怯者!!!負けを認めて2人を解放せえやっ!!!」
キザキがそう言って2人の捕らわれているメタモンの塊に駆け寄ろうとした、が、
「……!?」
足と腕をこれまた別のメタモンに絡められて、身動きができなくなってしまった。
「あんたも反逆するのね。そっちの2人は後回しにして、まずはあんたから殺してやる!!!」
チトセはそう言うと、鋭い爪をキザキに向け、首を絞めようとした。こんな爪で首を絞められると、きっと無事では済まないはずだ。
彼は目をつぶり、そして悪の女の手が首に届こうとした時だった。
バチバチバチッ!!!
「ぎゃああああっ!!腕が、腕があっ!!!」
彼女の手は届くことはなく、焼け焦げて消失していた。ついでに、彼を縛っていたメタモンも逃げ去っていた。
「今、何が起こったん!?」
どんなことが起こったのか、キザキには最初分からなかったが、首元の光を見て納得した。
「ペンダント……!?」
『僕が千年彗星の加護を与えたんだ。あいつらみたいなアンデッドには星の光が効果抜群なんだよ。まあ、直接触れようとした相手限定なんだけど』
「ありがとう、ジラーチ。……それはそうとして、マイコちゃんとアキヤマさんは大丈夫なんかな?」
『その心配はないよ。ほら、』
別方向では、アキヤマが繰り出した緑色の刃ポケモン・エルレイドがサイコカッターでメタモンを切り裂き、マイコもアキヤマも解放されていた。
「ありがとう、エルレイド。……マイコ、大丈夫か?立てるか?」
「大丈夫だよ。それより、どうすればいいか、全然案が出なかった……」
「良かった!2人とも、何とか無事やったんですね!!」
3人は何とか、再会を果たせた。しかし、チトセはまだしぶとく生きていた。
「くそう、よくも、私に、こんな、飛んだ、大恥を……」
だが、彼女の言葉も続かなかった。頭上には虹色の光が迫っていたのだ。
『これは未来予知の攻撃の光。僕が仕掛けておいたんだ。もう逃げられないよ、ハンターさん!』
「う、嘘でしょう!?こんなこと、」
『こんなことを起こした罰は重いよ。光で粛清されてしまってよ!!』
「ぎゃああああっ!!!」
ジラーチの放った未来予知攻撃によって、チトセは微細組織レベルにまで崩壊していった。もうアンデッドとしては蘇らないはずである。
「終わった……もうこれでおとなしく、」
マイコが言いかけたその時だった。
「よくもチトセを葬ってくれたな!!」
明らかにメタボリックシンドロームな男が出てきた。どうやら先程のチトセの仲間のようだ。
「おいデブ!!お前誰や!!」
「俺様は千年流星会のミライ様だ!崇高なジラーチをお前らみたいな野蛮人が持つのは相応しくない!今すぐ俺様に渡せ!」
「渡すわけないやんか!お前らなんかに渡したら悪いことが」
『僕は行くよ』
「えっ、ジラーチ!?何でそんなことを言うの!?」
願い事ポケモンは3人の予想を裏切ることを言った。
しかし、3人の陰でちょっとニヤリ、とした笑みを見せていた。裏があるに違いない。
「よく分かっているなジラーチ!さあ、俺様達とともに、より良い世界をつく」
『嘘だよ。僕がお前達みたいなやつについて行くわけないよ。……ごめん、みんな。騙すつもりはなかったんだ』
3人とも明らかに不安だった。もしついて行ったらどうしよう、とか思っていたからだ。
「良かったあ……」
「一瞬、えっ、ホンマなん!?とか思ってもうたで……」
「あいつについて行ったらどうされるか分からへんから、さ……」
マイコもアキヤマもキザキも安心していたが、引っ掛けられたミライはカンカンだった。
「よくもやってくれたな……カビゴン、あいつらを潰してやれ!!」
悪の男は、ボールから居眠りポケモンを出した。それを見て3人は呆然とした。
出てきたそいつは規格外の大きさだったのだ!
カビゴンというポケモンは、2.1メートルという身長であるものの、体重が460キログラムという、全部のポケモンの中でも最重量級として知られている。
しかし、今3人の目の前にいるカビゴンは、身長が3メートルほどで、まあ普通よりも大きいのだが、体重が700キログラムほどもあった。そういう部分がマスターに似るのかと思うくらいである。
さらに、このポケモン、体重もあれば体力も高く、その上眠ることで多少のダメージなんてなかったことにしてしまうという、味方にいるなら頼もしいことこの上ないが、敵に回すと恐ろしい相手なのだ。
その眠りを封じるために、マイコはある変化技を種ポケモンに指示した。
「フシギバナ、悩みのタネ!いっぱい撒いてあげて!」
背中に背負った巨大な花から紫色の種がたくさん飛び出し、全てが居眠りポケモンにぶつかる。表情もどことなく苦しそうだ。しかし、ミライの表情は、それは分かりきっているという、余裕が感じられた。
「これで、眠ることに関しては解決、ね」
「お前、これでこいつを封じたとでも思っているのか?怖いのはここからだぜ!!」
彼が指示した技は、……腹太鼓だった!!!
カビゴンの無尽蔵にある体力が約半分まで減ったのは、マイコ達にとってプラスなのだが、この技の怖いところは、それと引き換えに攻撃力を最大限まで引き上げる部分なのだ。
種ポケモンめがけて飛んできた炎のパンチは、ターゲットに当たらずに済んだものの、アスファルトにクレーターを起こすくらい強烈なものだった。
マジカルリーフが居眠りポケモンに直撃したのを見計らい、マイコはフシギバナをボールに戻した。
「何やこの威力……えげつない……」
「こんなん喰らったらどんなポケモンでも危ないんちゃいます?」
「これどうしよう、どうすれば止められるんだろう……」
必中の草技がヒットしても、まだカビゴンは元気そうである。そいつにどう立ち向かおうか考えを巡らせていると、
「危ないっ!!!」
ドドドドッ!!!
緑の弾が発射された。3人が見上げると、そこには翼の生えたメカが2機あった。
「これは俺様が発案したメカ、エレメントファイターだ!まだ試作段階で3属性しか使えないが、ゆくゆくは17属性全てを使えるようになる!」
ドドドドッ!!!
今度は赤の弾。次いで青の弾が発射され、3人とも必死で避けた。しかし、そこから属性を割り出すのは案外容易であった。
「草・水・炎の3種ね。弱点属性でたぶん止まるはず……」
マイコの推理は当たっていた。表示された属性が弱点とする攻撃で壊れるようになっているのだ。そのため、タイミングを見計らって攻撃しないといけないわけだ。
「草タイプが表示されたのを見計らって……クロバット、クロスポイズン!」
キザキが繰り出した紫色の蝙蝠ポケモンは高速でメカに接近し、交差させた翼から毒を繰り出した。草タイプが表示されていたメカはその攻撃に耐えきれず、交差の傷を露わにしたまま墜落した。しかし……
「甘いぜ!」
「どういう……って、え!?復活しよる!?」
何と、さっき傷ついたメカが回復しているではないか!
「このメカは2機同時攻撃でないと破壊できないぜ!」
「クロバット、エアカッター!!」
単体攻撃のクロスポイズンではダメなら、全体攻撃のエアカッターの方が同時破壊にいいのだ。しかし、攻撃を当てることには成功したが、これでも復活してしまった。
「1匹のポケモンによる全体攻撃もダメだぜ。壊すなら、同じ技で同時攻撃しねえとな。ハッハッハッハ……」
こいつは先程のチトセとは違う意味で卑怯な奴だった。
「ウォーグル、出てきて!」
マイコは勇猛ポケモンを繰り出し、同時攻撃の方法を考える。
「タロウちゃん、」
「どないした?」
「クロバットはブレイブバードを使える?」
「確か、使えたと思うで。……これでやる気なんやね」
「そう。じゃあ、行くよ!ウォーグル、ブレイブバード!!」
「クロバットもブレイブバード!!」
2匹の飛行タイプのポケモンは、羽をたたみ、ターゲットに向けて突撃していった。
しかし、その攻撃は同時に命中したものの、当たった時のタイプが水だったのだ。そのため、すぐ回復して浮上してきた。
反撃が止まず続く。マイコは少し頭を抱えていた。
「どうにかして、あのタイプ変化を止めないといけないんだけど……いい案が浮かばない……」
「マイコちゃん、ちょっと思いついた案を試してもええかな?」
「うん、今のままじゃどうにも動かないからね……」
キザキに何か策があるようだ。彼はクロバットに指示を飛ばす。
「クロバット、あのメカが草タイプの時に怪しい光!」
あえて変化技をぶつけたのだ!ふよふよとふらつきながら飛んでいく光は2機のメカにしっかりと認識されたわけだ。
「けっ、何かと思えば変化技か!そんなものは効かな……」
ドオオン!!
いきなり、爆発音がした。
「なっ!?」
驚いたのはミライだ。まさか、こんなことが起こるなんて彼も予期していなかっただろう。
「メカに怪しい光が効いて混乱してくれるとは思わんかったで」
「貴様、よくも、」
「あ、タイプ変化の方もバグを起こしてくれたみたいやね」
キザキの策は見事にはまった。本当は反撃をストップさせる目的だったのだが、思いがけずタイプ変化にも異常をきたすことに成功したわけだ。もうタイプが変わることもない。
つまり、今、エレメントファイターの属性は両方とも草。
「ウォーグル、」
「クロバット、」
「「ブレイブバード!!!」」
そして、今度こそ、同時ブレイブバードが炸裂し、メカは木端微塵に破壊されたのだ!!
自慢のメカを壊された形となったミライは狼狽し、そして、憤った。
「くそう、くそう……カビゴン!!みんな潰してしまえ!!!!」
居眠りポケモンは、通常の1.5倍はあるその自慢の巨体で、3人を押し潰してきたのだ!!!
「「「うわああああっ!!!」」」
そのピンチに呼応するように、3人それぞれのパートナーであるジャローダ、フタチマル、チャオブーがボールから出てきて、自分達のマスターが潰されないように踏ん張った。
しかし、相手が悪すぎる。なにしろ、700キロのカビゴンののしかかりだ。考えただけでも恐ろしい。重力に逆らうことができず、もはやこれまでか、と思われたその時!
チャオブーとフタチマルが光に包まれ、最終進化を果たし、それぞれ大火豚ポケモンのエンブオーと貫禄ポケモンのダイケンキとなったのだ!!!
進化したことでパワーが大幅に上昇した2匹は、既に最終進化しているジャローダとともに、巨大居眠りポケモンを弾き飛ばした!
そして、3人はそれぞれ指示を飛ばした。
「ジャローダ、リーフストーム!!」
「ダイケンキ、ハイドロポンプ!!」
「エンブオー、火炎放射!!」
その時、願い事ポケモンが光を飛ばし、それは3匹に当たる。すると……、
巨大な木の根と、赤熱した炎と、猛烈な水流が居眠りポケモンを同時に襲い、跳ね飛ばしたのだ!!!
「え、ハードプラントが……!?」
「ブラストバーンが出てる……」
「こっちは、ハイドロカノンが……」
3人が突然の出来事に驚いていると、ジラーチが話し出した。
『僕が、自分の願いで究極技を開放したんだ。みんなものすごく懐いているみたいだし、本当はもう少し早くみんなに教えたかったんだけど……やっぱり、最終進化しないとダメみたいだったから……』
「「「ありがとう、ジラーチ!!」」」
『どういたしまして』
3人からお礼を言われたジラーチは恥ずかしがっていた。
「何であんな野蛮人に奇跡ばっかりが起こるんだ……こっちは誤算続きだっていうのによ……」
『それは、あの人達が奇跡を起こすに相応しいからだよ。そこまで僕に執着するの?』
願い事ポケモンの頭上に、先程チトセを浄化した未来予知の光があった。
「なあ、ジラーチ、あいつらをその力でメッタメタにしてくれねえか、そして、俺様達と手を組めば平和になるぜ……」
『僕はその手に乗らない。前の1000年でも千年流星会が起こした騒ぎでたくさんの無関係な人が亡くなっているんだ。もうこれ以上犠牲にさせたくないから、君をここで葬るよ』
浄化の未来予知の光がミライの体を貫く時に、彼はこう叫んだ。
「覚えてろ!トワ様はお前ら野蛮人を放ってはおかない!明日、必ず、女、お前は死ぬ!!」
不吉な予言を残したまま、ミライは崩壊していった。
「あいつ、ロクでもない捨て台詞吐いて消えよったな」
「その予言がホンマに起こらんことを願うしかないんやね」
「……私が、そのトワとかいう人と決着をつけなきゃいけないのよね」
その時、ひらひらと手紙が落ちてきた。手紙にはこうあった。
サカモト マイコ様
私のかわいい部下を2人も消滅させるとは、なかなかすごいジラーチの保護者ですね。
明日、16時に、願いが丘で待っています。
千年流星会・総帥 トワ
「果たし状、ねえ……」
マイコは千年流星会のボス・トワと戦う決意を固めたのだった。
6日目へと続く……
マコです。
無事に、千年流星会の幹部2人を撃破したマイコ達。
次は、いよいよボスであるトワとの対峙です。
ラストまではもうすぐです!
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
※残虐な描写もありますので、閲覧する方は少々お気を付けください。
大学での襲撃未遂事件の翌日も、普段通り授業は行われることになった。
何事もなかったかのように平然としている構内。
いつもと違うのは、マイコとともに、男の友人が2人来ているということだ。
ただ、彼らは学生ではないため、授業中にいると怪しい。そこで、校舎に入るまでついていき、食堂か図書館で時間を潰してもらうことにした。
授業は眠気との戦いでもある。しかし、ここで眠ってしまうと、期末考査で泣きを見ることは自明のことであったため、マイコは必死に耐えた。
そして、眠気に打ち勝ち、何とか授業を終えたマイコは、図書館で待っていたアキヤマ、キザキと合流し、そのまま図書館内へ入っていった。
マイコはそこにあった備え付けのパソコンのある席につき、ネットの情報を見た。
検索先は有名なインターネット百科事典サイトである。
そこに「千年流星会」と打ち込むと、情報が展開された。
そこには、こうあった。
千年流星会(せんねんりゅうせいかい)とは、幻と呼ばれるポケモン・ジラーチを捕まえるために暗躍していた組織のこと。
1000年前に活動し、数々の残虐極まりない行動を繰り返してきたが、ジラーチを守る思いを結集した民衆によって倒され、街中さらしの刑に処せられた。
これにより撲滅されたかに思えたが、現在蘇り、ジラーチを再び捕らえようとしている。
団員は3人で、現在はアンデッドとして、日本のどこかを彷徨う状態。
ヒットした上に、ここまで詳細な情報があるとはみんな思ってもみなかった。
「アンデッドって、ゾンビみたいなものなのかな?」
『ゾンビは体中腐っているけれど、アンデッドは人間とほぼ変わらないから、見た目としては全く違うよ』
「こいつらはどんなことをしてきたん?」
『自分達の主義に反する人達を何人も殺害してきたりとか、ポケモンを勝手に奪ったりとか。1000年前にも実はポケモンが来ていたけれど、その時は僕が来たことで次元が歪んで出てきたんだ』
「じゃあ、ジラーチが眠ったと同時に、ポケモン達も帰っていったってことなん?」
『そうだよ。でも今はそれとは全く関係なくポケモン達がいるから、向こうの世界の都合で来たって思われるよ。だから、僕が眠ってもポケモンは戻らずに、今までみたいな関係で繋がっているんだ』
「何かいろいろ分かった。ちょっと謎に触れた感じがする」
図書館での調べものによって、少しだけいろんなことの核心に触れた気がした。
そして、帰りのバスには3人だけではなく、もっとたくさんの学生が乗っていた。
40分くらいバスに揺られて、下車予定のバス停に着く。
そして、3人ともバスから降り、バスが発車アナウンスを告げた、その時だった。
「発車します、ご注意くださ……」
ドーーーン!!!!
バスが炎上したのだ!!すでに降りている人々は逃げまどっていた。
「誰かー!水技を使えるポケモンはいませんか!?」
乗客も確か乗っていたはずであるし、間違いなく運転手はいるはずだ。
「ポッタイシ!ハイドロポンプ!!」
「ヌマクローもハイドロポンプ!」
「フタチマルもハイドロポンプ!!」
マイコもアキヤマもキザキも、自分の持つ水タイプのポケモンを使い、燃え上がる火を消した。
しかし、中にいた人の生存はあまり望めそうもなかった。
「バスが自発的に爆発したんやろうか?整備不良とかで」
「いや、そんなことはないと思うけど。そんな車は多分公道を走れないだろうし。それより悪意を持った誰かがやった方が分かるかも」
「外から炎を放ったとか?そうやとしたら暗殺目的でやったとか」
3人が推測を立てていると、上空から声がした。
「この私、チトセ様がやったのよ!オーッホッホッホ!!!」
その女は見るからにケバイ化粧をしていた。
「あんた何の目的があってこんなことしたのよ!?」
マイコは怒り心頭だった。
「決まってるじゃない。ジラーチを奪うためよ!」
「やからって関係ない人巻き込むことないやろ!!」
アキヤマも激怒していた。
「願い事を叶える力を持つポケモンを捕まえるのに手段なんていらないのよ。邪魔な人間さえ片付けられればそれでいいの」
「少なくともお前みたいな悪い奴にジラーチはついていかんと思うけど」
キザキもかなり怒っていた。
「フン、あんた達とはとことん反りが合わなさそうね。いいわ、苦しみながら死ぬという残酷な目に遭わせてあげる。行きなさい、サメハダー、ホウオウ!」
チトセと名乗る今回の事件の黒幕は、ボールから虹色ポケモンと凶暴ポケモンを繰り出してきた。
「3人相手にするのは好きじゃないから、2人と勝負したいのよ。決めて頂戴」
「そんなこと言って、私達が話し合っている最中にさらに攻撃するつもりなんでしょ?」
「まさか。そんなことしないわよ。もしかして、私のことを疑ってるの?野蛮よね現代人は」
マイコはその言葉に腸が煮えくり返りそうになったが、ぐっと堪えていた。
話し合いを行った末に、マイコとアキヤマがチトセと戦うことになった。
「私はホウオウの相手をするから、アッキーはサメハダーの相手をお願い」
「分かったわ。お前がアイツにめっちゃ怒りを感じてんのは痛いほど見えた。あんまり我を忘れんように」
マイコはヌマクローを、アキヤマはジャノビーを繰り出し、対峙してみると、相手からは普通感じるはずのプレッシャーを全く感じられなかった。
これは一体どういうことなのか。しかし、その謎はすぐに分かることになる。
アキヤマが携帯の「ポケモン図鑑アプリ」を見て下した命令は、マイコには少し理解ができない内容だったのだ。
「ジャノビー、リーフブレード!」
「何で!?これは接触を伴う攻撃だよ!?」
「分かってるで」
「そんなことしたら、ジャノビーがサメ肌でダメージを喰らってしまうよ!?」
「マイコ、図鑑を見てみ。俺がこの指示を出した理由が分かるはずやから」
マイコは自分の携帯画面を見た。そこには明らかな事実があった。
メタモン 変身ポケモン
タイプ ノーマル
身長 30センチ
体重 4キログラム
特性 柔軟……麻痺の状態異常を防ぐ
どんなものにも変身できる珍しいポケモン。
唯一の技である「変身」で、相手ポケモンの技やタイプをコピー可能である。
ただし、特性は変身後でも「柔軟」のままなので、気を付けること。
(※ゲームでは「変身」によって特性もコピーできますが、この話では特性はコピー不可という設定になっています)
ようやく、マイコにも先のアキヤマの指示の真意が分かったようだ。それと同時に、今目の前にしている相手もまさか、と思い、見てみると、先と同じデータが出ていた。
「そうなんだ。妙に威圧感ないなって思ってたとこなんだ」
彼女はその結果に納得できた。
「ホウオウ、聖なる炎!サメハダー、噛み砕く!!」
「嘘をつくな!お前のポケモンは両方ともメタモンやろ!?」
「どこからどう見てもホウオウとサメハダーじゃない!嘘ついてるのはあんた達」
「図鑑のデータは正確だったよ!?熱湯や水鉄砲のPPが1個ずつしか減ってないのがその証拠よ!!」
「接触攻撃のリーフブレードを繰り出してもサメ肌のダメージはなかったで!!」
「……何ですぐバレるのよ!?」
チトセの悪かった部分は、特性が特徴的なポケモンを使ってきたことだと言える。
そのため、ここまで堂々とばれてしまうことになったのだ。
その時である。ジャノビーとヌマクローが光りだした。最終進化である。
「えっ、まさか……!?」
「これは進化やな。タイミングがめっちゃええ」
ジャノビーは大きな、風格も兼ね備えたロイヤルポケモンのジャローダに、ヌマクローは腕が太く、ガシッとした沼魚ポケモンのラグラージへと進化したのだ。
「ジャローダ、リーフストーム!!」
「ラグラージ、ハイドロポンプ!!」
草の大嵐と巨大な鉄砲水が、偽物の虹色ポケモンと凶暴ポケモンを飲み込み、ダブルノックアウトするのに、そう時間はかからなかった。
ノックアウトされたポケモンは、変身が解け、ともにメタモンに戻っていた。
オリジナルのポケモンがコピーのポケモンに勝った瞬間だった。
しかし、悪の女幹部はどうも納得がいかないようで……
「よくも私に恥をかかせてくれたわね!!あんた達死になさい!!」
何と、2匹のメタモン(無論、先程戦っていない別個体だが)を出し、先まで戦っていた2人の足元まで伸ばしてきたのだ。
「どういうこと!?」
「早く逃げな……!?アカン、逃げられへん!!」
メタモンの方が動きが早く、2人を絡め取って動きを止めてしまったのだ……!!
後編へ続く……
マコです。
なんかピンチですが、戦いは続きます。
次回はもう一人の幹部・ミライが登場し、マイコ達を翻弄します。
勝負はどうなるのでしょうか?
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
街に火が灯る。カナズミシティの街はネオンが明るく、夜でも不自由がない。結局、ザフィールは見つからない。夜のトウカの森にいるとは考えづらいし、戻ってなければここに来ているはずなのに。
街灯に照らされたベンチに座り、一人ため息をついた。このまま知らないところに一人でいるのも心細いような気がする。けれど、今から自宅に戻ることなんて不可能。勢いで出てきてしまったことを少し後悔した。けれどもあいつを野に放っておくわけにはいかない。
ふとガーネットは立ち上がる。目の前の人ごみの中に見たことある姿を見つけた。見失わないうちに後をつける。気付いてないようで、後ろを振り返ることもない。だんだんと人ごみから外れ、静かな通りのポケモンセンターに入って行く。チャンスだ。走り込み、ザフィールの肩に手をかけた。
「ザフィール君、さっきのトンチはどういうことかな?うん?」
しっかりと力を込めて。ザフィールは微動だにしなかった。
「おなかすいたんだよー!」
ポケモンセンターの食堂で、チーズハンバーグを前にザフィールは突っ伏した。目の前のガーネットから恐ろしいオーラが出ている。
トンチでまいたと思ったのに追いつかれたし、なんでいるところがバレてしまうのか。それとトウカの森で、マグマ団の連中がガーネットのことを見たといっていたのにここにいるということは逃げたのか。
けれど、そこまで思い出すと、マグマ団の言っていた「デボンの社員といちゃいちゃしてた」というのがすごい気になる。なぜ気になるのかも解らないけど、あんなおっさんと笑顔でいちゃいちゃしてるガーネットが想像できない。
「あの、ですね」
むっくり起き上がると、ガーネットを見た。
「何?」
冷たい。言い方にやわらかさなど全くない。怖いけど逃げたら蛇みたいに追ってくるし、がまんして続ける。
「104番道路におじさんといたじゃん?あれだれ?」
「ああ、なんかキノココ好きなセクハラじじい。トウカの森でさ、海賊風のおっさんと、あと・・・」
黙った。まっすぐこちらを見つめてくる。その怖いオーラそのままで。
「ザフィールはマグマ団なの?」
「えっ!?なにいきなり!?」
体の中を冷たい汗が流れる。バレたのか。確かについてきていたのに気付かなかったし、気配を消すことが出来るのかもしれない。そこを見られていたのかもしれない。血の気が引いたのが解ったのか、ガーネットは少しだけ話し方を柔らかくする。
「そんなに怖い存在なの?冷や汗かいてるよ」
ポケットからハンカチを差し出される。大丈夫、といって断る。
「そ、そう、ホウエンですごい有名で、トレーナー集団なんだけど怖いやつが多いんだ、俺も何度か・・・」
「そう、しらを切るわけ?ジョウトであんたはそのマグマ団だといって、その隣にいたでしょ?」
誘導尋問だったのか。ザフィールは胸が凍る思いしかない。
「だ、だから俺じゃ・・・」
「さて、本当にザフィール君じゃないのなら犯人探してくれるんだよね?探さないとどうなるか解ってるんだよね?」
いただきます、と食事に手をつける。ザフィールもいいのかな、と少し冷めたチーズハンバーグに手を付けた。
なぜなんだ。なぜこうなるんだ。
ザフィールは嘆いた。ポケモンセンターに泊まると話したら、都会であるために一部屋しか空いてないと。知り合いの人だったらまとめられてしまう。食堂で一緒にご飯を食べている姿を見られている。言い訳をしようにも出来なかった。別にしろなんていうわがままが通るくらいなら最初からそうしている。
そして今にいたる。
彼女が先にシャワーを使っているため、今なら逃げられるはず。しかし出来ない。なぜなら鞄を人質に取られているのだ。
「のぞいたら殺す」
と宣言までされて。けれどそこまで言われると、少し見てみたい気もしてくる。冷静に見れば良い体つきをしている方だ。しかしバレたらどうなる。殺されるでは済まないのではないか。
4畳半より狭く、だいたい2〜3畳の畳に転がりながら考える。そして、落ち着いてくると、なぜそんなことをしてまで見なければいけないのかという結論にたどり着く。畳の上に仰向けになった。時計が目に入る。いつも見てるアニメが始まる時間だ。テレビをつけた。
ガーネットが上がってくる頃、オープニングが始まっていた。寝間着姿の彼女が何見ているのかと寄ってくる。画面にうつった小さい女の子向けのアニメに、二の句がつなげてない。まさに大きなお友達が出来た。
「マジカル☆レボリューションっていうアニメ。この主役の珠里たんをやってるプリカちゃんっていう声優がオープニング歌ってんの。でね、人間じゃねえんだぜ。プリンだぜプリン!ポケモンがあんな流暢に声優できるんだぜ!?」
「はぁ・・・そう」
「めっちゃ声かわいいんだ。このスタールビーファイアなんて、もうアニメのオープニングなのにCD売り上げ初登場1位のまま3週間維持してたんだから!」
そこでザフィールは気付いた。自分を刺す冷たい視線に。今までとは違う、哀れむ冷たさ。ちょうどオープニングが終わり、コマーシャルに入っていた。
「ルビーかぁ」
「ま、ガーネットみたいにそんな振り回すような女じゃなくて、プリンのぽふぽふって感じの、もっとこう癒し系でぇ・・・」
「ねえしめられたい?骨を砕かれたい?お望みの死はどっち?」
言い過ぎた。だらけた姿勢から一変、平謝り。その笑顔が恐ろしいと何度思ったか。誠意が通じたのか拳は下ろしてくれたのだが、大きなお友達を哀れむような目は変わらない。
「確かに、声きれいだね」
テレビから流れるアニメを見てガーネットがぽつりと言った。
「だろ!?これでプリンとかって凄いよな。まじプリカちゃんかわいい」
「この歌いいよね。私と同じ名前なのに」
「え?どういうこと?」
特に好きでもないキャラがうつっているらしく、ザフィールはテレビから目を離してガーネットを見た。
「違うよ、私は最初、ルビーっていう名前になる予定だったらしくて。それが直前、お父さんがルビーなんか絶対だめ、宝石の名前つけるなら他の赤いやつにしろっていうからこの名前になったんだ」
「へー、今の名前で良かったんじゃないの?清楚でかわいいプリカちゃんの声で歌うタイトルと違って、お前の性格じゃぁねえ」
一言多いのだ。ガーネットの手が、軽くザフィールの首を絞めていた。
風呂場の鏡で見れば、首がうっすらと赤い。青くないだけマシか。暴れるザフィールを押さえつける腕力。力には自信があったのに、あっさりと覆されては良い気もしない。特性だから仕方ないけれど、ああも完封されてしまっている。絶対に直接対決だけは避けなくては。そして絶対にマグマ団とバレないようにしなければ。
「でもマグマ団と疑ってる節もあるよな」
しばらくはマグマ団の仕事が出来そうにもない。幸い、明日以降はまだ招集がかかっていない。
「ああ、本当早く諦めないかな」
いつまでついてくるつもりなのか。今日の疲れを取るように体を洗い、寝間着に着替える。
そして部屋に戻れば、二人分の布団がすでに敷いてあった。狭い部屋だから布団が二つくっつくように。誰がやってもそれしか出来ないだろう。
ガーネットがそのうちの一つに入って、うつぶせに寝ながらタウンマップを見ていた。
「布団ありがとう」
「ああ良いよ別に。それと無断で布団入ってきたら覚悟しな」
「誰もお前みたいな魅力ない女はおそわねえよ怪力」
小さく言った。それなのにガーネットはそのタウンマップを投げつけてくる。紙切れだからダメージらしきダメージは無いが、その目は怖かった。
彼が次の朝日を拝めたのは慈悲によるものだったのか。あの後、散々固め技でやられ、体中が痛い。カイリキーに掴まれたのかと思ったくらい身動きが取れず、やられる一方だった。目が覚めるとすでにガーネットは行く支度まで整えている。何分前に起きたのか予想もつかない。起きたことに気付いたのか、ガーネットがこちらを向いた。
「おはよう、今日はどこ行くのかな?」
「へ?」
寝起きで声も上手くでないところに、いきなりガーネットの尋問。
「今日はどこも・・・」
「へえ、104番道路も116番道路も行かないわけ?おかしいなあ、そうやっていつまで出し抜こうとしてるのかなザフィール君」
どこへ行くか言わないと明日がなさそう。ザフィールは思いつきで、104番道路に行くと言った。
「ねぇ、やっぱり戻ろうよ? ナッちゃんってば」
「相変わらず臆病なんだからミフユは。怖いなら一人で帰れば?」
森林清掃のボランティアからこっそりと抜け出し、小さな子供ならばかろうじて通り抜けられる柵の隙間を見つけ、ナツコとミフユは「森の洋館」の敷地内へ足を踏み込んだ。伸び放題の雑草を踏み踏み、二人はきょろきょろしながら広い庭を進んでいった。
「別に怖いわけじゃ――ここはナタネちゃんの家だったんだし……。でも、みんな心配してると思うし――」
冷たい空気が森を漂い、さっきまでは気にもならなかった僅かな霧が、今は気味悪く二人を包み込んでいた。ミフユはケムッソやナゾノクサが物音を立てるのにいちいち「ヒャッ」っと身体をこわばらせた。でもナッちゃんが行くって言うのなら後には引けないし、臆病だなんて思われたまんまでいるのも嫌――彼女はそう思っていた。
「ねえミフユ。なんかすごいもの見つけてさ、みんなをびっくりさせようよ? そしたら私たちヒーローだよ?」
どんどん奥へと進んでいくナツコと、不安げな表情を浮かべながら遅れないようについていくミフユ。彼女たちは洋館の正門の前までたどり着いた。細やかな模様が全体に彫られたマホガニーに剥がれかけた塗料がみずほらしいその扉は、無表情で二人を見下ろしている。
ナツコがひんやりとした取っ手に手をかける――
「――あれ? 開かないや」
「鍵かかってるんだよ。ねぇ帰ろ?」
「こんなおっきい洋館なんだから他に入口あると思わない?」
「思わない」
「思うよね? 探すよ!」
「ナッちゃん……」
ナツコがミフユの手を引っ張り、洋館の裏へ回ろうとしたその時――
「――お客様かな?」
不意に男の声で問いかけられた。二人は飛び上がって、声のした方を振り向いた。
『バーストゴースト☆森ガール page4』
まず間違いなく、あの洋館だ。
ゴミ拾いの途中でナツコちゃんとミフユちゃんが単独行動に出たことは、他の子供たちも全員知っていたようだった。ただ、リーダー格のナツコちゃんが「オトナにはチクらないでよ」と言うものだから、誰も言いださなかった。てか何で気付かなかった私!
「厄介な勢力図ですね、ガキのくせに。ミフユちゃんは腰巾着ってところですか」
洋館まで引き返す道を走りながら、サキは無表情で言った。ゴミの処理やボランティアメンバーの取りまとめは他の後輩に任せ、私とサキはハクタイの森を駆け抜けていた。
「館内に入ってないといいんだけど――ゴーストやゲンガーに遭遇したらアウトじゃない。あいつら何するか分かんないし」
「そうですね。二人の手足がちゃんとついてることを祈ります」
「ちょっと止めてよ」
さっきまで和気藹々とゴミ拾いをしていたこの森は、今はなんだか不気味に見えた。この感じ、記憶にある。森の木々一本たりとも私に味方してくれないような不安。あの時は立場が逆だったけど――
もういーかい? まーだだよ。
もういーかい? まーだだよ。
もういーかい?
そのうち声は聴こえなくなり、私は森の奥で一人佇んだ。
当時小学生の私にとって、あの恐怖は言葉にできたものではない。
ようやく私とサキは、先程の柵のところまでたどり着いた。てっぺんの尖った鉄の柵は、無機質な檻のようにも見えた。
「はぁ――壊すしかないか。タネキチ」
ボールから飛び出したタネキチは、葉っぱカッターで柵を切り落とした。がしゃんと音を立てて、切り出された鉄の棒が地面に落ちる。
「先輩のお屋敷――鍵はかかってるんですよね?」
「もちろん。お父さんとお母さんがこの屋敷を売りに出して最後に出た時私もいたし、それから手は着いてないはずだから」
柵の隙間を潜りながら、私は答えた。私がまだ中学生の頃、父の仕事の関係で移り住むことになった私たち一家はこの屋敷を売却し、ヨスガの郊外へと移り住んだ。強がって泣きはしなかったけど、幼い頃の思い出が詰まったこの屋敷を手放す寂しさに、胸が熱くなった記憶がある。
それは、おじいちゃんにポケモンを教わった思い出。おばあちゃんにタネキチをもらった思い出。そして、まだお兄ちゃんと仲良く遊んでいた思い出。
その思い出が、今は埃を被り、悲しげな表情で目の前に突っ立っている。
鳥ポケモンのさえずりと葉のすれる音の中を、私とサキは早歩きで進んだ。伸び放題の雑草についた露でブーツのつま先が濡れる。タネキチは背の高い芝生をかき分けるようにして付いてきた。厚手のマウンテンパーカがシャカシャカと音を立てる。そして、冷たい扉の取っ手に手をかけた。
「――開いてるし」正面玄関の扉はいとも簡単に開いた。
「あの子たちが開けたんですかね」
「嫌な予感」
エントランスは薄暗く、埃っぽかった。中に入り扉を閉めると、まるで外界と遮断されたみたいに空気が一変した。さっきまでの鳥ポケモンの鳴き声や葉のすれる音は、全く聞こえなくなった。
天井につるされたシャンデリアや階段、銅像、手すりや絨毯――その配置は当り前だが当時と全く変わらず、時々頭の中で再生するだけだった懐かしい記憶が一気に鮮明になった。両側にカーブを描いている階段はよく友達と追いかけっこして遊んだ時転んだし、引っ越した時に片方だけになった銅像は何度もよじ登っては飛び降りた。
ただその全てが今や埃だらけで、エントランス全体に漂っている空気はどんよりと重たく、雰囲気は当時と似ても似つかない。
「長時間いると病気になりそうですね、この空気」
「ゴースの纏ってるガスのせいね。結構な数、住み着いてる――マリー出しといた方がいい」
サキがボールを軽く放ると、マリーが身のこなし鮮やかに絨毯に降りた。クリーム色の身体に、その尻尾や耳の先端が葉のように変化しているイーブイの進化系の一つ、リーフィアだ。
マリーはこの洋館の雰囲気を感じ取ったのか、一度ブルブルと身体を震わせた。となりにいたタネキチはというと、相変わらずのんびりとしたもので、絨毯に着いた埃を前足でいじっている。
「帰ったらシャンプーだね、マリー」サキが渋い顔で言った。
私たちはとりあえず階段を上り、二階の廊下を洗った。人影どころか「幽霊影」も見当たらない。薄暗くてどんよりした細長い廊下は、無機質に続いているだけだった。
部屋も調べた。おじいちゃんの書斎も、お兄ちゃんの部屋も、私の部屋も。エントランスと打って変わって、こちらは懐かしさのかけらも感じなかった。家具が取り払われているだけでなく、時々感じるゴーストポケモンの視線で、当時の空気とまるで違うからだろう。廊下に入ってからずっと、壁や天井に見られているような感覚があった。正体が分かっているだけ、恐怖もないが、気色悪い。
「出て来さえすれば二人の居場所吐かせてやるのに」私は頭を掻いた。
「こいつら多分見てるだけで出てきませんよ? 所詮野生の群れで、私らに敵わないことくらい分かってます。ただずる賢いんで、勝てない相手には手出しません」
「分かってる。でもあの子たち二人相手ならこいつら喜んで手出すじゃない」
「そうですね、手遅れの可能性もあります」
「だからさらっと最悪の状況に言及するの止めてよ――」
その時だ。女の子の悲鳴が館内に響いたのは。私たちは顔を見合わせた。壁や天井の気配がぞろぞろと移動するのを感じた。
「一階です」
「位置的に、多分会食場! 走るよ!」
私たちは廊下を引き返し、階段のあるエントランスの二階へと駆けた。
移動する気配は私たちよりも素早く一階の会食場へ向かって行く。その無数の気配は狂喜していた。
マズい。一気に背筋が凍る。霊が大喜びするなんて、不吉も良いところだ。
◇ ◇ ◇
「誰か、来たみたいだ」
男は、独り言のようにそう呟いた。
「分かるの?」玄関の方へ視線を向けた男に、ミフユは訊いた。男はにっこりと笑い、頷いた。
ナツコとミフユの二人に声をかけたのは、二十代半ばくらいの男だった。動きやすそうなジーンズに、紺のジャケットを羽織っている。少しいたずらっぽい雰囲気が残る目をしていたが、その背丈とファッションのせいでとても大人っぽく見えた。
突然背後に現れたその男性は、昔この洋館に住んでいたという。ナツコが震える声で「嘘! この家はナタネちゃんのうちだったんだから! あんた泥棒でしょ?!」と言うと、彼はちょっと驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になり「お譲ちゃん、ナタネと友達かい? それは偶然だ。僕もナタネとは長い付き合いなんだ」と言った。
彼はフーディンという、まるで腰の曲がったおじいちゃんみたいなポケモンを連れていた。突然この場所に現れたのも、そのポケモンの「テレポート」という技を使ったかららしい。
彼は警戒する二人に「中に入りたいなら、鍵を開けてあげるよ。僕もちょっと用事があるからね。ただゴーストポケモンが多いから、僕の近くから絶対に離れないことが条件だ」と提案した。ミフユは「ゴースト」と聞いて今すぐにでも引き返したい気分になったが、ナツコは「ゴースト」という言葉に息を吹き返したかのように「言いつけは守ります! 中に入れてください!」と答えた。ミフユはうなだれた。
洋館の中はまるで違う世界みたいな雰囲気だった。あの厳めしい扉が「ゲート」になっていて、くぐり抜けたその場所から現実とは違う平行世界。ミフユはそんな世界設定の映画があったことを思い出した。
二階の廊下まで歩いてくると、じろじろと何かに見られているような居心地の悪い気分になった。それはナツコも同じようで、「なんかそわそわする」と言うと、男の人が、ゴーストポケモンがこっちの様子をうかがっているんだと教えてくれた。「襲いかかって来ないの?」と訊くと、フーディンがいるからね、と答えてくれた。
その言葉通り、ゴーストポケモンは襲いかかってきたりしなかった。そのうち壁や天井の視線に慣れてくると、もともとなんにもいないんじゃないかと思うほど、館内は静寂を保った。
一階に下りて、小さな書斎を調べている時に、彼は誰かの気配を感じたようだった。
「フーディンの力のおかげだよ――うん、人間が二人。多分、お譲ちゃんたちを探しに来たんじゃないかな」
「ナタネちゃんかな? どうしよう、怒られちゃうよ? ナツコちゃん」
「もう、ミフユはホントにビビリ。怒られずにこんなことできると思ってんの?」
ナツコのその言葉を聞いて、男は笑った。
「大丈夫だよ、僕が何か理由を付けて、二人が怒られないようにしてあげよう」
一階の大きなテーブルがある部屋に来た時には、最初の平行世界に入り込んだような感覚はほとんどなくなっていた。ナツコも「なーんだ、なんにもないじゃん」と、退屈そうにテーブルに寄りかかった。でも、本当に違う世界に来たと思ってしまったのは、その時だった。
<油断大敵ですぞ、お譲ちゃん。親玉のお出ましです>
おかしな抑揚をつけた、しわがれた声がミフユの頭に響いたのだ。ナツコもその声を聴いたようで、テーブルから飛び降りて辺りを見回した。
「フーディンのテレパシーだよ。それにしてもどうしてずっと黙ってたんだ? ルーカス」
彼はそう言いながら、視線はその会食場の天井に取り付けられた大きなシャンデリアに向けられていた。
<いやいや、たいみんぐというものはなかなか掴めないものでしてな>
唖然とするミフユとナツコをよそに、フーディンのルーカスもシャンデリアを見上げ、両手に握られたスプーンを構えた。
「二人とも、離れちゃだめだよ」
黒い塊が、シャンデリアをすり抜けて姿を現した。
二人は絶叫した。
◇ ◇ ◇
私とサキは会食場の扉の前までたどり着いた。扉越しでも、この洋館中の気配がこの部屋に集まっていることが分かる。
私はその重い扉を開け放った。
「なにやら――凄まじいことになってますね」サキが苦笑いした。
部屋中ゴースとゴースト。どいつもこいつもケラケラ笑って、その声が反響し、気が狂いそう。ゴースの纏っているガスが天井付近にたまっていて、紫のもやがかかっていた。シャンデリアを中心に、幽霊たちは旋回し、まるで宴でも開かんかとしているように歓喜している。
そのシャンデリアの直下に、いなくなっていた二人がいた。一緒にフーディンを従えた男がいるのが目に入った――私は目を疑った。
「おうナタネ、久しぶり」彼は振り返り、気さくに声をかけてきた。
「ちょ、久しぶりって……なんで? なんでいるの?」
「ちょっと仕事でな。それより、今取り込んでるんだ――ルーカス!」
彼のフーディン、ルーカスは右手を突然突き出し、サイケ光線を放った。そこへ狙いすましたかのように大きな黒い塊が現れ、光線が直撃する。砂埃が爆音とともに舞った。ナツコちゃんたちが悲鳴を上げる。
「こいつらにとってはまるでプロレスでも楽しんでる気分なんだ。こっちは真面目に調査に来てるってのに、呑気なもんだ、オバケの皆さんは」
ルーカスが相手にしているのは、まぎれもなくこのゴーストの群れの親玉、ゲンガーだ。サイケ光線をくらってもほとんどひるみもせず、少し距離をとってその真っ赤な目をこちらに向けている。この会食場をリングに見立て、遊んでいるのだ。
「サキ! 二人連れてこの洋館を出て!」
「――了解」
私はタネキチを戻し、ロズレイドのブーケを出した。かん高い笑い声と紫のもやの中、サキが二人を連れて部屋を出ていくのを確認し、私はその男の下へ駆け寄った。
「どういうつもりなの? 子供連れてこんなところまで」
私はできるだけイライラを声に乗せて、彼に言い放った。
「だから仕事だって。あの子たちは、玄関で入りたそうにしてたからさ」
「正気なの?! こんな危ないところに――」
<お二人さん、今はそんな口喧嘩に時間を浪費している場合ではありませんぞ?>
ルーカスのテレパシーが頭に響いてきた。昔は無口なケーシィで、テレパシーもほとんど使おうとしなかったルーカスは、彼の一番のパートナーだ。今もそうなのかは、私に知る余地はないが。
「随分達者に話すようになったじゃない? ルー、久しぶりね」
<ナタネ殿こそ、立派になられましたな――おっと>
ルーカス目がけてシャドーボールがいくつか降り注いだ。ルーカスは瞬時に壁を作り、その攻撃をけん制した。
「よーし、この試合、勝たなきゃな。可愛い妹が見てる」
その言い草、変わらない。
「ふん。どっちにしろ、負ければお陀仏でしょ。まあ、兄貴が死ぬところも見たくないわけじゃないけどねー」
「冗談キツイな……ゲンガーは俺がやる。周りのザコ頼む」
「ジムリーダーに掃除役頼むなんて、偉くなったもんね! あとで泣きついても助けないから!」
古い記憶の中にあった会食場とは変わり果てたこの空間に、ゴングが鳴り響いた。
―――――――――――――
ゴーストバスターズの曲が好きです。その曲を頭の中でかけながら書いた今回のバーストゴースト。
とりあえずここを乗り切ったあとの展開は、未定。ナタネちゃんに彼氏でもできれば話も膨らむけど。
彼氏作る役目、自分だったw
森ガ「イケメンよろしく。てか物語の中でくらいリア充でいいじゃん」
現在お互いのサイドは二枚。あたしのバトル場には水エネルギー三枚ついたオーダイル80/130、ベンチにはブイゼル60/60とアリゲイツ80/80。
対戦相手の向井のバトル場にはジバコイル120/120、ベンチには50/50。そしてスタジアムは帯電鉱脈が広がっている。
「僕のターン。特殊鋼エネルギーをジバコイルにつける。そして帯電鉱脈の効果発動、自分のターンに一度コイントスをし、オモテならトラッシュの鋼または雷エネルギーを手札に加える」
特殊鋼エネルギーが鋼ポケモンについてると、その鋼ポケモンが受けるダメージを−10させる効果を持つ特殊エネルギーだ。
そして帯電鉱脈のコイントスはウラ。効果は不発に終わる。そこから向井は手を顎に上げてやや長考するが、その末に出した決断は意外なものだった。
「……。トレーナーカード、ポケモン入れ替えでダンバルとジバコイルを入れ替えてターンエンド」
い、入れ替える? 入れ替えるくらいなら最初からダンバルをバトル場に出していればいいものの。それにHPの低いダンバルをバトル場に晒して。もしかして誘っているのだろうか。
「あたしの番ね。まずはブイゼルに水エネルギーをつけてフローゼル(90/90)に進化させる。そしてサポーターカード発動。オーキド博士の訪問! 山札からカードを3枚引いて、その後手札を一枚山札の下に置く」
オーキド博士の訪問の効果でオーダイル、不思議なアメ、フローゼルの三枚を引く。望んでいたのは水エネルギーだけど山札の下の方で固まっているのだろうか。私は今引いた不思議なアメを山札の下に戻す。
「ベンチのアリゲイツもオーダイル(130/130)に進化させてバトル場のオーダイルで攻撃、破壊の尻尾!」
オーダイルが尻尾を鞭のように振り回し、ベチーンとダンバル0/50を弾き飛ばす。HPの低いダンバルに威力60の破壊の尻尾は痛恨の一撃だ。
「破壊の尻尾の効果発動、相手の手札から表を見ずに一枚選んでそれをトラッシュする。私から見て右のカードをトラッシュしてもらうわ」
向井がカードをトラッシュしてから、モニターで何を捨てたか確認する。む、鋼エネルギーかぁ。本当はキーカードを落としてやりたかったんだけど。
「ダンバルは気絶したためサイドを一枚引いて私の番は終了ね」
「次はジバコイルをバトル場に出す」
あとはジバコイル120/120を倒せばあたしの勝ちね。ところで今引いたサイドはまたしても不思議なアメ。ここまで縁があるんだったら帰りに飴買おうかしら。
さて、ジバコイルはよほどのことがない限り倒せる。ジバコイルの技、クラッシュボルトは80ダメージだ。この向井の番でオーダイル80/130は倒されるが、ベンチにいるフローゼル90/90はなんとかギリギリで耐えきれる。
「僕のターン、帯電鉱脈の効果を発動。コイントスをしてオモテならトラッシュの雷か鋼エネルギーを手札に加える。……、オモテなので鋼の特殊エネルギーを手札に加え、それをジバコイルにつける。そして攻撃! クラッシュボルト!」
ジバコイルがオーダイル80/130に向かって真っすぐ電気の塊の玉を飛ばす。それがオーダイルに触れると、盛大に光をバラ捲いて爆発する。
「オーダイルは80ダメージを受けて気絶! そしてクラッシュボルトの効果により僕はジバコイルについている雷エネルギーをトラッシュする。サイドを一枚引いて終わりだ」
「次のポケモンはフローゼルよ。そしてあたしの番よ」
ジバコイルに鋼の特殊エネルギーが二枚……。これでワザのダメージを与えても特殊鋼エネルギーの効果で−20されてしまう。だとしたら。
「サポーターカード、オーキド博士の訪問を発動。三枚引いてその後一枚を山札の下に置く」
今度引いたのはポケヒーラー+、水エネルギー、水エネルギー。今度は当たりだろう。先ほどサイドを引いた際に加えた不思議なアメを山札の下に置く。
「フローゼルに水エネルギーをつけて水鉄砲!」
フローゼルの口から激しい水流が噴き出され、ジバコイルのフォルムを痛めつける。
「このワザは、このワザに必要なワザエネルギーより多く水エネルギーがついている場合そのエネルギーの数かける20ダメージを追加する。今、フローゼルには水エネルギーが三枚。よって合計60ダメージとなる!」
「ジバコイルについている鋼特殊エネルギーの効果! 鋼のポケモンに特殊鋼エネルギーがついている場合ダメージを減らす。その効果で20受けるダメージを減らしてジバコイルが受けるのは40ダメージ!」
向井のジバコイル80/120はまだピンピンしている。むう、思うように相手のHPが減らない。
「僕の番です。まずは帯電鉱脈の効果を発動。……ウラなので不発です。続いてジバコイルのポケパワー、磁場検索を発動! その効果でジバコイルLV.Xを手札に加え、バトル場のジバコイルをレベルアップ!」
「なっ!」
思わず拍子抜けした声をあげてしまう。さっきのターンに磁場検索を使わなかったから、ジバコイルLV.X100/140は入っていないものだとばかり思っていた。
「ジバコイルLV.Xに雷エネルギーをつけて攻撃。サイバーショック!」
拡散するように放たれた電撃が、多角的にフローゼル10/90を襲う。HPはギリギリ10だけ残り、首の皮一枚だけ繋がったか!
「サイバーショックの効果で、自身の雷エネルギーと鋼エネルギーをそれぞれ一個ずつトラッシュし、相手をマヒにする!」
「マ、マヒ!?」
マヒ。それは状態異常の一つである。
マヒは二回目のポケモンチェック。この場合だと次のあたしの番が終わった後に自然に回復する。
しかし、マヒになったポケモンは逃げることもワザを使うこともできない。
手札のポケモン入れ替えを使ってオーダイルに入れ替えたりすればフローゼルの麻痺は治るが、ロクにエネルギーのついていないオーダイルはただの木偶の坊。攻撃せずにやられるのがオチだ。
今の状態は俗に言う手詰まり。これ以上どうしようも出来ない。
振り返ってこちらを見つめる翔の方を向く。ごめんねという表情を作ろうとしたそのとき。
「姉さん!」
翔の怒声が耳に反響する。
「まだだ、まだ終わってねえ! 自分のデッキを信じたら、必ず奇跡は起こるんだ!」
……そうだね。何はともあれ、一緒に戦ってくれたデッキのために最後まで精一杯頑張ろう。
最愛の父がいつも言っていた言葉を反芻する。「勝負事は諦めの悪いヤツが最後に笑うんだ」
「あたしのターン!」
恐る恐る引いたカードを確認する。……ポケヒーラー+。奇跡は起きた!
「ポケヒーラー+を二枚発動! このカードは二枚同時に使うことが出来る。二枚同時に使ったとき、自分のバトルポケモンのダメージカウンターを八つ取り除き、特殊状態をすべて回復させる!」
「しまった!」
フローゼルに明るく優しい光が包み込む。状態異常のマークが外れ、HPも90/90に全回復。
「本当に首の皮一枚で助かったわねぇ。さあ、フローゼルに水エネルギーをつけて攻撃。スクリューテール!」
フローゼルが巧みに尻尾を回転させ、ジバコイルLV.Xにぶつける。
「スクチューテールの効果はコイントスをしてオモテなら相手のエネルギーをトラッシュする。……オモテね、鋼の特殊エネルギーをトラッシュ!」
しかしスクリューテールのダメージは30。−10されてわずか20ダメージ。しかしジバコイルLV.X60/120についてるエネルギーは全て無くなった。
これで鋼の特殊エネルギーにダメージを減らされることもなくなる。
「僕のターン、帯電鉱脈を発動。……ウラなので不発。雷エネルギーをジバコイルLV.Xにつけてターンエンド」
もうジバコイルLV.Xを守る盾はない。これで決めてやる!
「あたしの番ね、フローゼルで攻撃するわ。水鉄砲! フローゼルにこのワザに必要なエネルギーよりも多く水エネルギーがあれば、その数かける20ダメージを追加する。余分なエネルギーは二つあるので80ダメージ!」
フローゼルから放たれた強力な水流を受けたジバコイルLV.X0/120はこれで気絶。最後のサイドを引くと、試合終了のブザーが鳴り響く。
「勝った……」
目をつぶりながら上を向く。肩の力が一気に抜けて、ちょっとした至福の時間だ。
翔が背中を一押ししてくれたお陰ね。
翔「今日のキーカードはフローゼル!
相手のエネルギーをトラッシュしつつ、
みずでっぽうで一気に倒せ!」
フローゼルLv.29 HP90 水 (DP1)
水無 スクリューテール 30
コインを1回投げオモテなら、相手のエネルギーを1個トラッシュ。
水水 みずでっぽう 40+
ワザエネルギーよりも多く水エネルギーがついているなら、多い水エネルギー×20ダメージを追加。追加できるのは水エネルギー2個ぶんまで。
弱点 雷+20 抵抗力 ─ にげる 1
───
向井剛の使用デッキ
「マグネットバーン」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-642.html
「間に合った!」
トウカの森の集合場所に、ギリギリで滑り込む。そもそもマグマ団の制服を仕事時は着用、他は私服でなければならないというルールのせいで遅れかけた。人目をしのんで着替えるのも一苦労。ザフィールは白い髪を全て覆い隠すようにフードをかぶる。顔を影にし、皆同じに見える服装。冬はいいのだけど、夏は結構きつい。
「珍しいな、お前が一番最後だ」
「いやちょっと変な女にからまれてて」
名前までは出さないけど、ガーネットのことをマグマ団のメンバーに話す。人のことを犯罪者呼ばわり、そして犯人をあげろと迫ってくる怪力女。マグマ団たちに哀れみの表情が浮かぶ。
「お前、マグマ団ってバレてるわけじゃないよな?」
「いやそりゃないと思う。まずバレてたらその場で死んでた気がするし。本当、エントリーコールまで探られなくて良かった」
「そうか、それならいい。さて今日の仕事だが、デボンの社員がここを通る。それをアクア団が狙っている。それを守るんだ」
マグマ団ともう一つ。目的を違え、何度も対立してきたアクア団。それこそ水と油のごとく。陸上に生きる生き物たちへ、大地を広げようとしているマグマ団と、全ての生命の源の大海を広げようとしているアクア団。対立はいつからか過激なものとなり、地域住民からは煙たがられ、犯罪者として名前が通ってしまうほど。それでもザフィールはマグマ団に好んでそこにいる。リーダーのマツブサの思想に共感し、全面的に服従している。そのためには何だってやってきた。それこそ犯罪すれすれどころか、警察の御用になってもおかしくないことも。それでも役に立てることが嬉しくて、マツブサに従っている。それに、年齢が年齢なだけに、息子のようにかわいがってくれる。ザフィールにとって第二の父だ。
森の木の影に隠れ、アクア団が現れるのを待つ。息を殺し、森と同化する。目の前をジグザグマが不審な目をして去って行く。落としたオレンの実をスバメがつついている。そしてこちらを見て、取るなとでも言うように威嚇している。
「あっちいけ、何もしないから」
ザフィールが体を動かして追い払うけど、スバメは彼のまわりを飛び回る。鳴きながら。まわりのマグマ団が何とかしろという合図を送っている。ザフィールはポケットに入れた空のモンスターボールを投げた。あんなにやかましかったスバメはボールに吸い込まれ、大人しくなっていった。そのボールを拾い上げ、ベルトのボールホルダーにかける。
「ねえねえ、君、キノココって知ってる?おじさん大好きなんだよね」
あれがデボンの社員。ものすごい運動不足の弱そうなおじさんだ、とザフィールは心の中だけで言った。しかも誰に話しかけてると思えば。ザフィールは再び木の影に隠れた。なぜあいつがいる。なぜ追いついた。心拍数が上がる。力じゃ絶対敵わない、ガーネットだ。
お昼ご飯は父親におごってもらった。ジムのトレーナーも一緒にラーメン屋。父親と昼食となるとラーメンか牛丼の二択。ホウエンの出身だという父親は、トウカのラーメン事情に詳しい詳しい。どこがまずいだのどこが上手いだの。さらに店主がかわった、チェーン店になった、弟子が誰やめた、と情報の種類は多岐に渡る。仕事を求めてジョウトに行っても、そこのラーメン事情だけは詳しかった。そしてそれにくわえてお弁当も食べていたのだから、どれだけ食べるんだとトレーナーが口々にいっていた。
すでに14時。お昼前に別れたミツルも家に帰っていったし、最初に会った時より健康そうに見えた。ラルトスと出会えたのが良かったのか、それとも違う何かか。最後に名前をつけて欲しいと言われ、ジグザグマのしょうきちと並んでいる姿が、麦の穂を持った人に見えた。それでスピカとつけて別れたのである。
そのしょうきちは地面の匂いを嗅いで何かを探しているようだった。たまに姿が見えないな、と思ったら良い傷薬を拾ってきたりしている。誰かが落としたものだろう。ありがたくいただいておこう。そうやってトウカより西に歩いて行く。白い髪の男の子の目撃情報を辿り、こちらに慌てて走っていったとの情報があった。
「そろそろおやつにしようか」
ポケモンたちは賛成とでも言うようにボールから出て鳴いた。そしてガーネットはそのまま目の前の大きな森に入って行く。
「こういう森には、天然のおやつがいっぱいあるんだよ」
お菓子のようなものを期待していた面々は、ガーネットの行動には恐れ入る。実をつけた木に登る。その慣れた登り方は、毎日遊んでいたとしか思えないほど。唯一木に登れるしょうきちが、ジグザグと歩きながら登ってくる。シルクは木を見上げ、シリウスはそこに座っているだけ。
「ほらあった、これがチーゴの実・・・」
たわわに実ったチーゴの実をちぎっては下にいるシルクに投げる。下に落ちたチーゴの実を2匹は拾って食べ、しょうきちは直接チーゴの実を食べている。そしてガーネットも苦みのあるチーゴの実をもいだ。そして口をつける瞬間、何者かがすごい勢いで奪っていったのである。その方向を見ると、木の枝に器用にぶら下がっているキノコのポケモン。見せつけるようにチーゴの実を食べている。
「あのポケモン・・・ただじゃおかない」
食い物の恨みは恐ろしい。誰であろうと例外は無い。ガーネットはしょうきちに命ずる。体当たり。命令通り、しょうきちは枝と枝の間を跳んだ。そしてキノコにかぶりついたのである。思わず身をよじって暴れるキノコ。頭から粉のようなものを振りまく。特性の胞子。触れた相手を状態異常にするものだ。しょうきちも胞子を吸い込み、体がしびれた様子。力なくキノココから外れ、落ちて行く。その下は堅い岩。しびれているから、着地も出来ない。
かつん、と堅いものが当たる音がする。シルクの蹄が岩の上に乗り、しょうきちを体で受け止める。落ちたしょうきちはしびれているだけで、怪我はない。
「ナイス、シルク!」
木の上から声をかける。しかしシルクばかり見てるわけにはいかない。ガーネットは枝の上に立つと、空のモンスターボールを手に取った。
「後で見てらっしゃい、食いしん坊め!」
力強く投げられたボール。キノコが吸い込まれ、ボールごと落下する。揺れてるか揺れてないかも解らない。ガーネットは幹を伝って降りた。その頃にはすでに動かないボールがそこにある。中身もしっかり入っているボール。
「そうだな、お前には巨人っぽくリゲルにしよう」
よく食べるし。自分のポケモンに食い物の恨みをしつこくぶつけているガーネットは結構食べることが好き。今回はチーゴの実だったからまだ良かったのかもしれない。これがヒメリの実かロメの実だったらどうなっていたか解らない。
森はまだまだ続く。微動だにしないナマケロを踏んでしまったが、悲鳴ひとつあげず、そこにいた。死んでるのかとおもったが、瞬きをしていたから生きてると思っておく。そういえば父親の使ってるポケモンもこんなんだった。ご飯のときすら動かない。どうやって餌をあげてるのか解らないけど、父親はかわいがっていた。
「ねえねえ!」
突然目の前に現れる人。しかも中年のおじさん。思わずガーネットは構える。知らない人には関わっていけないと教えられてきたし。
「君、キノココって知ってる?おじさん大好きなのよね」
「え、ちょっと、あの!」
「わぁ、かわいい、キノココ!」
腰につけていたキノコのボールに手を伸ばされ、一瞬手をはたき落としてやろうかと構える。他のところも触ってきたら迷わず吹っ飛ばす。というより離れてくれないかな。キノココがかわいいかわいいしたいのか、触りたくて近づいてきた変態なのか解りゃしない。
「そこの色ぼけじじい!いい加減にしやがれ!」
静寂な森を吹き飛ばす大声。スバメと呼ばれる青い鳥ポケモンが何匹も飛び去って行った。青いバンダナを巻いた、海賊のような風貌の男。
「わわっ!」
おじさんがガーネットの後ろに隠れる。思わずおじさんを目で追うけれど、ガーネットの後ろで海賊を見ている。
「ちょっとおじさん、いくらなんでもそりゃないでしょ!」
「おいねえちゃん、大人しくそのじいさん差し出しなよ」
その通りだ。こんな怖いやつに関わったらろくなことがない。その通りだ。こんなやつに関わったらろくなことがない。けれどガーネットは従わなかった。シリウス、と名前を呼ぶとミズゴロウのボールを出す。
「渡さないわ。それよりあんたを・・・」
「その書類は渡さないぜ!」
マグマ団を囲うよう青いバンダナを巻いた海賊が現れる。それを合図に一斉に増えるマグマ団。一体何がどうなっているのか。ガーネットはいまいち状況を読み込むことができない。一斉にトウカの森は赤と青の2色で染められる。
「来たなアクア団!我々マグマ団のジャマをするとは!」
二つの集団はにらみ合う。エロいおっさんであるが、一応安全そうな所へと誘導する。森の中であんなポケモン同士のドンパチが始まってしまえば、巻き込まれるのは必然。シルクに乗って、一気に森を駆け抜けた。
今、どうなっているんだろう。ここから抜けてカナズミシティの伝令に行けと言われ、ザフィールは一人104番道路を走っていた。この足ならきっとあと数十分。デボン社の高いビルが見えている。大きく広がる池からハスボーが顔を出す。ものすごいスピードで疾走している人間を面白そうに見ていた。
「ってか、この服目立つんだよな、人通りいないと」
保護色のようなもので、数人でいるから解らないようなものなのに。赤いフードは前からの風で脱げ、白い髪が揺れる。デボン社に張っている仲間に知らせるために走る。トウカの森にアクア団がいたと。
森を抜ける。誰も追ってきていない。大きな池が広がり、渡る風が心地よい。ただ後ろにいるエロおやじがいなければ。キノココのボールを触ってると見せかけて、体触ってるようにしか思えない。シルクの足が止まる。ここまでしか無理だ、と。
「ありがと、戻れ」
ボールに戻っていくシルク。一日でこんなに走ったのは始めてだ。今日はゆっくり休養させてやらないと。
「ありがと、親切なお嬢さん!君のおかげで大切な書類を奪われずに済んだよ」
後ろを向いてるガーネットの肩に手を置く。彼女の動きがいったんとまった。
「この先のカナズミシティにあるデボンっていう会社で働いてるんだ。ポケモンのこと研究したりグッズを販売してるから暇だったら来てみてよ!」
不用心なのか能天気なのか、おじさんはそのまま大きな池にかかる橋を歩いていった。鼻歌なんて歌いながら。
「はぁ……とりあえずこっちなのかな、カナズミシティ」
まだトウカの森でポケモン調査しているのか。それとももう先に行ってしまったのか。道ばたのトレーナーに聞くが、ザフィールの姿は見ていないという。けれどあの戦争の中に再び潜り込むわけにはいかない。日はすでに赤い。夕暮れの104番道路をカナズミシティに向けて歩いて行った。
その日、マイコは焦っていた。
「やばい!!遅刻する!!」
完全にやってしまったパターンの寝坊である。大慌てで服を着替え、化粧をし、ジラーチとともに家を出た。
『マイコ、どこに行くの?』
「大学!まあ学校だね。ごめん、ジラーチ、頼みがあるんだ」
『僕でよければ聞くよ』
「大学まで連れて行ってくれませんか?」
『分かった。僕にしっかりつかまっててね』
願い事ポケモンはそう言うと、体中から眩い光を飛ばし、その次の瞬間、
1人と1匹は大学に着いていた。
「ありがとう、ジラーチ……ってえええええ!?」
しかし、大学の校舎の上空にテレポートしていたので、
「ウォーグル、お願い!」
彼女は空を自由に飛行可能な勇猛ポケモンを繰り出し、その足を掴んで降下し、何とかギリギリのところで教室に入ったのであった。
さっきのドタバタがあったにも関わらず、授業では眠ることもなく、スライドの内容を見ながらペンを走らせつつ無事に90分を過ごした。
そして、マイコは女友達と食堂に入った。もちろん、ジラーチも同伴で。
そこで行われるのはおしゃべりである。
普段のこと、何か変わった友達のこと、いろいろ話は尽きない。
そんな中で、自分のポケモンの話になった。
女子はチラチーノとかチョロネコとか、カワイイ系のポケモンが好きな人が多く、彼女の周りの友人もその例に漏れなかった。
「マイコの手持ちってさ、数が多いよね」
「6匹フルで持ってる人って珍しいよ」
手持ちのポケモンの匹数は多くても3匹くらいという人が大多数のこのリアル世界では、マイコみたいに手持ちを最大まで埋める人の方が希少であるらしい。
しかしながら、マイコはトラブルに巻き込まれやすいのか、それともポケモンに好かれやすいのか、バトルを経由しないまま6匹揃える結果となっている。
「あとさ、ゴツイポケモンが多いよね」
「その中にいるムンナが異色だよね」
「え、えへへ、まあ……ね」
実際、彼女の今の手持ちは(ジラーチを除くと)、チャオブー、ウォーグル、ムンナ、フシギバナ、ヌマクロー、ライボルト。確かにカッコいいとかゴツイとか言われそうなメンツである。ムンナはその中にいて、補助の技が他のポケモンに比べて得意だったり、耐久力があったりと、女子受けするその見た目のみならず役割でもマイコのチームにアクセントをつけているのは事実だったりする。
「進化させたりとかは?」
「まだ、しないかな。石自体は持っているんだけど……」
とか何か話していた、その時だった。
パリーーーン!!!
ガラスの割れる音がした。
「大丈夫ですか?ケガは!?」
「「「いいえ、ないです……」」」
従業員さんが大急ぎでガラスを片付けていた。ケガ人はいないようだが、いきなりの出来事に大学構内は騒然となった。
『マズイよ、マイコ。僕だけじゃなくて、マイコまで狙われている』
ジラーチはこそっとマイコに言った。状況的にちょっとマズイところにいるのは間違いない。
「そんなこと、誰が……」
『たぶん、僕の記憶の中でそういうことをしてきたやつは……、千年流星会っていう奴だよ』
「えっ、聞いたことない!ロケット団とかそういう奴じゃないの!?」
『ロケット団って誰?』
どうやら、ジラーチの目覚めていた前の1000年では、まだロケット団は成立すらしていなかった模様だ。
「いろんなことをして私達の生活を脅かそうとする連中。私は昨日の男の人達と一緒に何度も撃退してきたことがあるんだけど……懲りないんだよね」
『マイコ、どうするの?アイツら、ひょっとしたら殺しにかかってくるかもしれないんだ。逃げるんだったら多分、今のうちだよ?』
「ジラーチ、私は戦う。逃げることよりアイツらと向き合う方が私にとっては性に合うようだし」
彼女の目は前を向いていた。その姿は毅然としていて、清々しい。
『でも、1人じゃ勝てないかもしれないよ』
「キミがくよくよするのは悲しいよ。もっと前向きに考えよう。……多分みんなと相談すれば何らかの協力はきっと得られるはずだからさ」
『分かった。マイコってさ、頼もしいね』
「いやいや」
マイコは自分が狙われている状況を考えて、ある結論を出した。
ジラーチが起きている予定の、今日を除くあと3日間は平日。当然大学もある。そこで、大学に行く(及び、帰る)ときに男の友人を数人一緒に連れて行くということを彼女は考え、メールでその旨を伝えた。
しばらくして来た返事は全員「その意見に賛成」だった。正直、「反対」とか出ると思っていたマイコは安堵した。
ひょっとしたら、怖い目に遭うかもしれない。でもみんな強いし、きっと大丈夫だろう。
マイコはおとといジラーチからもらったペンダントを握りしめていた。
そのジラーチは、マイコが元から持っていたいくつかのクロスのネックレスに加護を与えていた。
一方、別所にて。
精悍な顔つきの男、ケバイ化粧の女、かなり太っている男の3人がジラーチとマイコを見ていた。
「今回のジラーチの保護者はどういうやつだ」
ボスらしき精悍な男が聞く。
「どこにでもいそうな20歳代の女です」
細身で、派手な化粧の女が言った。
「保護する人にしては無欲なのが特徴です」
太りまくった男はそう言った。
「ジラーチを奪い、邪魔するものは抹殺しろ」
「「了解、ボス」」
対決の日は、近い。
5日目へと続く……
マコです。
とうとう登場することになった今回の悪役、千年流星会。
次はいよいよ戦いです。
シリアス度が上昇することになるはずです。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
今日もマイコの通う大学は休みである。だから、いい機会だと考えた彼女は、ジラーチを連れて、いつものたまり場でもある劇場に足を運ぶことにした。
そして、マイコには、ここに行くのにある目的を持っていた。
それは……
「あ、おはよう、みんな!」
「「「おはよう、マイコ!」」」
「フフフフッ」
いつもマイコと事件を解決しているメンバーの前で、マイコが笑いをこらえきれない様子だった。ちょっと怪しい。
「どないしたん?そんなにおもろいことでもあったんか?」
「実は、みんなにプレゼントがあるんだ。渡そうと思って」
プレゼント、と聞いて黙っている人はいないように思われる。
「何を渡すん?教えてくれへん?」
「待って、今から出すから……あ、これこれ」
マイコが出したのは、昨日、ジラーチに頼まれて買ったクロスペンダント。もちろん、千年彗星の加護のオマケ付きである。
「これ、1個ずつね。身に着けておくと魔除けの効果があるとか言ってたから」
魔除けという言い方はあまり適当ではないが、邪悪を祓うという意味ではあながち、間違いではないかもしれない。
「あと、紹介したい仲間がいるの」
そう言ってマイコが呼んだのはジラーチ。ハマイエには昨日見せたが、全員揃っている前で見せたのは初めてだ。
そして、願い事ポケモンはみんなからジロジロと見られることになった。
「うわ、カワイイやんか!」
「こいつって珍しいポケモンちゃうん?」
「マイコ、こいつとどうやって出会ったん?」
ジラーチだけではなく、何故かマイコも質問攻めに遭っているような気がするが、気のせいだろうか、いや、きっとそうではないはずだ。
『僕が目覚めた時に初めて会った人がマイコなんだ』
「こいつしゃべれるん!?」
『しゃべっているように聞こえるだけだよ』
当然、ジラーチのテレパシー言語には、初めて対面した面々が驚くことになった。
人の言語を操るポケモンの方が、正直珍しい部類に入るためである。
そして、家に帰った1人と1匹。
『ねえ、マイコ』
「どうしたの?」
『マイコの友達の人って怖い人多いね』
「いや、怖いっていうか……口調だけだと思う。根っこは悪くないとは思うけど」
マイコの男の友人はみなカンサイの言葉を使う。この言葉、初めて聞いた人にはいくらかの威圧を与えるようで、そう感じるのはジラーチも例外ではなかった。
しかし、いくらか長い付き合いのマイコはもう大丈夫みたいだ。本質はみな、口調は良くないかもしれないが、正義感が強く、いくつも修羅場をくぐってきた。マイコもその一員のようで、彼らとは信頼で強く結ばれている。
『あの人達からさ、マイコはもともと俺らの追っかけやった、って話を聞いたけど……』
「……」
ただ、人の秘密をペラッと喋ってしまうのはいくら親しい仲だとはいえ、あまり気がいいものではなかった。そのため、マイコは、これは彼らの職業病なのだ、と割り切って考えることにした。
とここで、マイコが何か思いついたようで、ジラーチに話しかけた。
「あ、そうだ」
『何?マイコ、』
「願いが決まったの」
『どういう?』
「誕生日の日、晴れるように、っていう願い」
7月7日、予報では土砂降りの大雨らしい。マイコは天の川を誕生日に見たいらしいのだが、この状態では全くそれが望めそうもない。
だから、ジラーチに頼んだのだ。
『わかった。……こんな未来のことをお願いするなんて、マイコって変わってるね』
「そうかな?」
マイコには、どうやら、その手の自覚はないらしい。
そのことを聞いた願い事ポケモンは、空に向かって光を飛ばした。光は無事に吸い込まれていったが、目に見えた変化はなかった。
『これで多分大丈夫だと思うよ。まあ、その日になってみないと分からないけど』
とりあえず、七夕の夜空を楽しみにしながら床につくのであった。
4日目へと続く……
マコです。
今回はジラーチを連れての顔見せ編。
マイコちゃんの過去も垣間見えていますが……
次は大学にて。ここから話が若干シリアス目になりそうです。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
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