|
ちょっと……リアルの都合で……削除します。ごめんなさい。
いろいろ書いていただいてうれしいのですが……
『リアルの都合』
により、削除しないといけなくなりました。
半耳のほうはけさないので……お許しください。
いろいろと勝手にやらかしてしまい、すいません。
寝坊した。そう気付いたのは時計の針が9時をまわっていたから。飛び起きると自分の服を探す。けれど引っ越したばかりでろくに荷物も開けられない中、そうそう見つかるわけもなく、2個目の段ボールを開けた時に目に入った服を引っぱりだす。昔に来ていた赤い襟のついたサイクリング用のシャツに、下は白いスカート。その丈も短いというので、下にスパッツはいてた気がする。そして靴下を履くと、急いで玄関まで走っていった。
「お姉ちゃん!」
ドタバタに目を覚ましたのか、妹のくれないが赤い布を手に走ってくる。急いで自分の靴を下駄箱から探す。忙しくているため、背中を向けたまま生返事。適当にされてるのが解るのか、後ろから近づいてガーネットの頭に布をかける。
「ぼうしがわり!おそといくならしていかなきゃ!」
よく近所の森を探索するときにしていた赤いバンダナ。慣れた手つきでしばる。そしてその手に渡すようにして外用の手袋を一組。
「だんボールあけたらでてきたよ、おねえちゃんのぶん」
「ありがとう。準備がいいのねくれない」
頭をなでる。嬉しそうに笑顔で。
「あら、ガーネットでかけるの?」
すでに飛び出る用意をした後で、母親が布に包まれた箱を持っていた。
「お父さんお弁当忘れちゃったみたいなのよ。ちょっと出かけるならついでに届けてくれる?」
「うわ・・・うん、仕方ない行く」
お弁当を受け取る。いつもなら忘れることがあまりないけど、昨日の引っ越しが疲れていたのか。とりあえずすでに日は高く、追い掛けるには遅すぎる。玄関のドアが壊れる勢いで飛び出した。
そのままザフィールを訪ねるも、予想通りだった。出かけた後だという。しかも長いこと帰らないで、遠くまで行くと言っていたと。適当な返事をして、いてもたってもられず、勘の働くまま走り出す。ミシロタウンを出て道路の先の先の。今から全力で走れば間に合うはず。持ってきたモンスターボール、そのうちの一個、シルクを呼び出す。本気で走れば勝てるものはそうそうない。
「ずっと走って!」
素直に従う。ポニータの足は加速していく。初めて見る木や草が、炎の風の通過により騒がしくなる。
101番道路をずっと走る。やがて小さな町が見えた。ミシロと同じような田舎町、コトキタウン。疲れたと言うようにシルクの足が止まる。ここまで全力で走ったことをほめ、モンスターボールに戻す。まだ子供だ、少し走らせすぎたかもしれない。少し休ませてやろう。小さくても力があるミズゴロウもいる。
コトキタウンに住む人たちにそれとなく行方を聞くと、ポケモンセンターに寄って、それからフレンドリィショップで物を買っていたところまでは判明した。ポニータの足でも追いつかないほど距離があるのか。コトキタウンの先には二つ道があり、どちらも野生のポケモンの宝庫だというから、どちらに行ったか皆目検討もつかない。
「どっちだと思う?」
ミズゴロウは地面の匂いを嗅いだと思うと、そこらの壁に前足をこすりつける。気ままに振る舞うミズゴロウ。言葉が通じないし、相談するのも違うけれど聞かずにはいられない。
「犯人は北に逃げるっていうから、北かなあ?」
それはカントーでの犯罪者の心理であるが、この時のガーネットには真偽はどうでもよかった。ただ何となくの手がかりが欲しい。それに、お昼までには父親のいるトウカシティまで行かなければならない。ポケモンセンターでもらった地図を見つめて、いつまでにコトキタウンを出ればいいのか考える。
「まずは行動!行くか!」
いつの間にか歩き出した主人を追うようにミズゴロウが歩く。103番道路への道を行く。
ポケモントレーナーの姿すら見えない。そういうところにはポケモンたちが多く生息するようで、ミズゴロウは野生のポケモンと出会う度に体ごとぶつかっていく。反撃も食らうことだってある。
特に黒い犬、ポチエナは噛み付いてきた。ポチエナの牙で、ミズゴロウの青い体がところどころ赤い筋が増えていく。追い払った後に傷薬を塗ってやると、喜んで飛びついた。
するとミズゴロウめがけて一羽の鳥、キャモメが飛び出す。木の枝の間から飛んで来た。かまえるより早く、その後に続く木が折れる音、そしてさらに何かが落ちてくる音がした。それから逃げていたのか、キャモメはそのまま大空へ消えていく。地面には葉っぱが舞い、それにまぎれるようにして着地に失敗したらしい人間。思わず近寄る。
「なんで落ちてんの?」
ガーネットが思わず口走った言葉。白い髪の男の子、そしてその顔。探していたザフィールがなぜか木から落ちてきた。外の活動がしやすそうな首まである赤と黒の上着と、黒いズボン。とても動きやすそうだけど、腰から落ちたようで、とても痛そうにしている。
「いや、その・・・あのキャモメが木の上に止まっててさ、取ろうって思ったら逃げられただけなんだけど、なんでお前いるんだよ!」
見上げてきたザフィールの表情は、とてつもなく驚いていた。そして逃げられないと思ったのかため息をつく。そして立ち上がった。
「ってかお前がそこにきたからキャモメがいきなり逃げたんだ。まじで調査ジャマするつもり?」
「はぁ?誰もジャマしてないし、大体からあのキャモメはうちのミズゴロウ狙ってきたし。言いがかりも大概にしなさいよ」
にらみ合い。どうみてもザフィールはガーネットを引きはがしたいとしか思えないし、ガーネットもそれに対抗するかのごとく反論する。そのうち、ザフィールの方からモンスターボールを突き出す。
「もう我慢ならん、勝負して勝ったらついてくんなよ!」
「わかった、じゃあ負けるわけにはいかないのよ」
ザフィールが投げたボールから出てくるのは小さな緑色のトカゲ、キモリ。主人と同じようにすばしっこそうな動きをしている。それを受け止めるのはミズゴロウ。
「いけ!にらみつけろ」
「ミズゴロウ攻撃!」
キモリの方が速い。鋭い眼光がミズゴロウを捕らえ、一瞬体が震える。ひるむことなくミズゴロウはキモリにぶつかっていく。細い体にはミズゴロウの重い体当たりは堪えた様子。攻撃をくらい、一歩後ろに下がる。
「大丈夫か?でもお前のが速い、いけキーチ、はたけ!」
速かった。キモリが跳んだと思えばミズゴロウの頬を思いっきりひっぱたく。低い声でミズゴロウがうなった。
「どろかけ!」
ガーネットの声に反応し、前足を強く地面に押し付けた。泥というより土がキモリの顔めがけて飛ぶ。ダメージはそんなに無いようだが、何より目に入った土を出そうとして、攻撃どころではなさそう。
「ミズゴロウ体当たり!」
「させるか、もう一度はたけ!」
もう一度。キモリがミズゴロウの頭のヒレを叩く。気にもとめない勢いで、ミズゴロウの体がキモリの下あごに突っ込んだ。キモリの目から星がでた。そのまま仰向けに倒れて起き上がる気配がない。
「よし、約束よ、あんたに・・・」
ミズゴロウはガーネットの元に喜んでやってくる。ほめてと言いたげに。
「誰も俺が勝ったら、なんて言ってないだろ」
「は?」
「だから、俺が勝ったら、なんて言ってないだろ。どちらにしろ、この勝負関係なくついてくるんじゃねえ!」
あまりのトンチに開いた口が塞がらない。見ている間に、じゃ、とだけ言うとザフィールはものすごい勢いで逃げ出した。追わなければと気がついた時にはすでに彼の姿はない。
「やられた!あの男、ゆるすまじ!」
時計を見ればもう出発しなければお昼にトウカシティにつくことができない。ミズゴロウをボールにしまうと、ミシロからコトキよりも距離がある道路、102番道路へと走り出す。そのためには一度コトキタウンに帰らなければならない。
102番道路のトレーナーたちと戦ううちに、慣れたのかミズゴロウは楽しそう。シルクはまだ炎の扱いが上手くないために、ほとんど肉弾戦が多かった。それでもやっと火の粉程度なら扱えるようになってきた。堅い蹄の攻撃の方が効率は良さそうだが、炎が扱えることが嬉しいようで、目の前にポケモンがいなくても火の粉を飛ばしている。たまに草に燃え移ってしまうが、素早くミズゴロウが泥をかけて消火している。体はミズゴロウの方が小さいけれど、お兄さんのように見張ってる。
「そこのトレーナー!勝負しようぜ!」
遠くから声がする。受けて立つとミズゴロウが前に出たら、シルクがさらに前に出る。思わずガーネットはミズゴロウをボールに戻した。
正午5分前。トウカシティの端に到着する。人通りが多く、野生化した元手持ちポケモンだったようなものが道路にウロウロしている。野生のエネコが目の前を通り過ぎ、その先にはエネコロロがいる。ジグザグマの親子が群れているし、タネボーが街路樹にぶら下がっている。
看板を見て、ジムへ向かう。大きな通りの真ん中に、大きく構えた建物。トウカジムの看板に引かれて中に入っていく。初めて入るポケモンジム。そして父親の職場。どういう雰囲気なのかも解らずとりあえず入っていく。
ジムの受付にはおじさんがいて、挑戦するのかと聞かれた。今はそこではない。名前とお弁当を届けに来たと伝えると、父親が数分後に出てきた。汗かいてるところを見ると、またポケモン相手に格闘していたと思われる。
「おお、ガーネットお弁当とどけてくれたんだな、ありがとう。一人で来たのか?」
「うん、シルクもいるし、昨日オダマキ博士からミズゴロウもらったし」
包みを届ける。また当初の目的である、ザフィールを追い掛けなければならない。
「それとさあ、オダマキ博士の子供のザフィールっていう男の子来なかった?」
「ああ、ザフィール君かい?来てないなあ。そういえばあの子は」
話が長くなりそうだった。これからしばらく家を開けることを父親にも伝えると、すぐにジムから出て行く。入れ違いになるように人影にぶつかる。軽く肩がぶつかり、大して力を入れていないのにその影は後ろによろけた。
「すみません」
ガーネットより少し小さい男の子。緑色の髪が揺れる。あまり体調が良くないのか、肌が白い。ガーネットの横を通り、センリにまっすぐ向かっていく。
「あの、センリさん、ですか?」
「そうだが、君は?」
「僕はミツルといいます。明日、引っ越すことになって、それでポケモンと一緒にいきたいんだけど、僕は捕まえたこともなくて、どうしたらいいか・・・」
病弱そうな少年。ポケモンなんて連れて大丈夫なのだろうか。他人事ながら心配そうに見ていると、センリと目があった。思わず避けるが、後の祭り。
「ガーネット、ちょうどいい、この子のポケモンを捕獲するのを手伝ってあげて」
ほら昼休みだし、と笑顔で言っている。これから休憩時間だからと二人を追い出すように手を振っている。忙しいとかそういう文句を受け付けないのだ、父親は。昔から全部自分の都合で動いているようなもの。
「わかった、行くよ」
強い言い方に圧されたのか、ミツルは黙って歩く。その一歩がとてもゆっくりで、さらに強く言ってしまいそうだ。
外に出ると、その辺に持ち主不明のポケモンはいるけれど、みんな姿を見せただけで逃げてしまう。草むらにいるポケモンを探した方が飛び出してくれるかもと提案する。移動するにもゆっくりと歩くので、なんだか見ていて苛ついてくるのが解る。一度深呼吸し、後ろを歩くミツルを振り返った。
「大丈夫?」
「はい、すみません、僕に付き合ってもらって・・・」
細い腕、そして足。押せば簡単に折れてしまいそう。あいつとは随分違う。そう思うと、そればかりに気がいって、早く終わらないかと自然に態度にでてしまう。
「あの、ガーネットさんは、センリさんの娘さんなんですよね?」
「え、そうだけど?」
「だから、ポケモントレーナーになろうって思ったんですか?」
「お父さんは関係ないよ、親友の代わりに」
「そうなんですか、強いですねガーネットさん」
何が言いたいのか解らない。先ほどの苛つきもあって、それ以上返事はしなかった。黙って102番道路にある草むらに入った。
「ここにいるんですね!」
「いるよ」
「あの、ちょっと捕まえ方見せてもらってもいいですか?」
ここでガーネットは気付く。空のモンスターボールも持っている。野生のポケモンも戦った。トレーナーとも戦った。けれども、ポケモンを捕獲したことは一度もない。というよりミズゴロウやシルクを育てることに気が行ってて気にしたことがなかった。つまり、見せるもなにも、やったことがないのである。
ミツルを見れば、期待をこめた目で見ている。ここはやるしかない。成功するかどうかも解らないけれど、ガーネットは草むらに一歩踏み出した。かき分けていくと、その音に興味を持ったジグザグマがジグザグ走りながらやってくる。同じような体格のミズゴロウを呼び出す。
「どろかけ!」
顔に泥をかけられて一瞬ジグザグマはひるんだ。そしてミズゴロウに向かってぶつかってくる。ジグザグの動きがミズゴロウには読めない。直線的な動き以外が予想できないのだ。
「よし、もう1回どろかけ!」
ジグザグマはのんきにしっぽなんか振っている。それが攻撃技だと知るのは、ミズゴロウのやる気が少し抜けたように感じた後。
向こうも焦ってるような気がする。左手に空のモンスターボールを持った。それをミズゴロウとの距離を計ってるジグザグマに投げつける。体が吸い込まれ、抵抗するようにボールが動き回る。やがてその振れは小さくなり、完全に止まる。かちりというロックした音が聞こえた。
「すごい!ジグザグマだ!」
草むらの外からミツルが嬉しそうに見ている。頬が紅潮して、少しは健康に見えた。
「いや、そうでもないけど・・・」
ボールを拾い上げ、ミズゴロウを戻す。ジグザグマのボールを見て、ミツルは珍しそうに覗き込んだ。
「そういえば、この子に名前つけないんですか?ミズゴロウもそのままなんですか?」
「特に考えてないな」
「じゃあ僕が考えていいですか?」
ジグザグマのボールを見てミツルは目を輝かせた。それをみてダメとは言えない。
「この子はしょうきちがいいです!」
「しょうきち?」
「だいきちだと、あたりよすぎてもう上はないけれど、しょうきちなら上も下もあるから」
嬉しいのかしょうきちはボールから出てミツルにじゃれていた。そしてガーネットの足元によってきて体をこすりつける。
「ミズゴロウはどうするんですか?」
「え?」
「この子、結構強いですよね。それに進化するととても大きくなる種族じゃなかったでしたっけ?」
「さあ?進化後を知らないから解らないけれど、強いなら」
ミズゴロウを持ち上げる。こののほほんとした顔が後に強くなるなんて想像がつかない。ときたま犬のように吠えたりするし、青い色をしていることから、ガーネットにある名前が浮かぶ。
「シリウス。青い色の一番明るい星だよ」
シルクみたいに名前をもらったのが嬉しいのか、シリウスも一緒になってミツルと遊んでる。
「さて、次はミツルの番だけど」
「はい、僕も・・・」
何かを念じるようにして草むらに入る。一歩踏み入れた。その足音を聞き分け、草が動く。そう見えた。違う、緑色のポケモン。コケシのような、見たこともないポケモンだった。
「これは?」
「ラルトスです、僕も実物は初めて・・・」
ふわっとミツルの体が浮き上がる。ねんりきだった。地面に叩き付けられる寸前、ガーネットが彼の体を受け止めた。
「大丈夫?なんかすごい凶暴・・・」
「大丈夫です、あのラルトスもしかして・・・」
ふと野生のラルトスを見ると、肩で息をしているように見える。何かから逃げてきたのか。傷を負っているようにも見える。
「保護しないと!」
ミツルがモンスターボールを投げる。ラルトスが吸い込まれ、ボールに収まる。地面に落ちて激しく抵抗していた。その抵抗もやがておさまり、ボールは停止した。
「やった、ポケモン・・・」
ミツルは身をかがめる。顔が青白い。呼吸をするたびに笛を吹くようなぴゅーという音が出る。とても苦しそうな顔をしていた。
「え?どうしたの?」
「喘息、です、早く家に帰らないと・・・」
シルクのボールを出す。ポニータの足ならば素早くトウカシティまで帰ることができるはず。乗せようとミツルの体に触れた。
「大丈夫ですか?」
通りがかった女の人が声をかけてくれた。トレーナーらしいのだが、ミツルを見て少し驚いたような顔をしていた。そしてミツルの手を握る。
「大丈夫ですよ、もう治ります、苦しいのは取れてすっきりしますよ」
背中をさする。その動きに合わせるかのようにミツルの呼吸が少しずつ少しずつ元に戻ってきたのだ。
「もう元通りです、ラルトスのシンクロには気をつけてくださいね。傷をおって、それをシンクロにして飛ばしてる。頭のいいラルトスです」
では、と女の人は立ち上がると去っていった。鞄につけた小さなスズが美しい音色を奏でていた。
「ちょっ、やめろ!」
「もー、暴れないでよ。女の子が女の子の服来て当然じゃない」
「おれは男だー!」
ひらひらな服を片手に迫るカノンを振り切って、カノンの部屋から抜け出す。
カノンは体が弱いから、ちょっと激しく動くだけで咳が止まらなくなる。それを活かして廊下を走り始めたと同時に、一つのことに気付いた。
何かがおかしい。いや、確かにおれがカノンになった時点でおかしいを遥かに通り越しているくらいなのだが、それを一京歩くらい譲っても何かがおかしい。
どうしておれは走れてるんだ?
もし本当にカノンであるなら、朝にカノンの部屋に突撃した時のように全力疾走したら相当咳こんでいるはずだ。というかカノンの部屋に着く前に力尽きてる。実際にそれがカノンが旅に出れない最大の原因であった。
いったい全体何なんだ。おれはどこまでがカノンでどこからがそうじゃないんだ。そもそものおれはどこに行ったんだ?
またもや不安になるが、大丈夫。もう泣きはしない。
「捕まえた!」
肩を叩かれたので振り向けば、ようやく追いついたカノンが悪魔も戦(おのの)く不吉な笑顔でおれを見る。く、なんでそこまでおれに女装させようとする。
しかし救世主はやって来た。
「二人とも何してるの?」
怪訝な顔したカノン父が階段を昇ってきたところだった。
カノン父に促されて階下のリビングに行くと、見慣れた五つ年の離れた姉貴の姿があった。
うちの家族は、おれが産まれてちょっとしてから母親を亡くし、漁師の親父がたった一人でおれと姉貴を育ててくれた。
だからこそ家族の絆は強いはずだ。姉貴もきっとおれのことを心配してくれるはず。
そう思って姉貴の前に現れたというのに、当の姉貴は……。
「あははは! ほっ、本当にカノンちゃんがふっ、二人もいるしっ、ぎゃはははは」
他人の家のクッションをバシバシ叩きながら涙が出るほど大爆笑する姉貴を見ておれは言葉を失った。
あはは、はぁ、はぁ、と姉貴がようやく息切れすると、おれの方を見てこっちがユウキだよね? と尋ねてきた。
「合ってるけどどうして分かったの?」
「そのダサい服が」
「うるさい!」
昼時。相変わらず寝込んでいるカノン母をおいて、姉貴がカノン家で昼御飯を作る。
あの後おれは姉貴にことの顛末を全て話した。ついでに走っても大丈夫だったなんてことも伝えた。
が、なるほどともすごいともなるわけでもなく、そうなんだくらいで話題は切れた。謎が深まって喜ぶやつはいないわな。
ダイニングに運ばれた野菜炒めと味噌汁の良い匂いに誘われて、四人でご飯を食べる。元より近所付き合いが盛んなので、こういうことはしょっちゅうあって……、ってくそう。髪の毛が邪魔で食べづらい。
そんなおれを見かねたのか、隣に座っていたカノンがゴムでおれの長い髪を束ねて、いわゆるポニーテールにしてくれた。男としては微妙な気分だが、食べやすくなったことに感謝する。
食後、姉貴はこのあとどうすんの? と尋ねてきた。
どうしよう。そもそもどうなるのかすら十分にわかってないのに。
「明日には決めるよ」
「明日ァ? 何言ってんのよ」
「考えさせてくれよ」
「どうせ家でグータラするだけでしょ?」
思わずムッとしたが、その通りだ。おれには職が無い。たまに市場で手伝いをするくらいでただのプータローなのだ。だが。
「考えさせてよ!」
語気を荒くして言い放つと、姉貴は深く溜め息をついて勝手にしろと言ってきた。
実はおれの中には、これは長い夢で一晩経ったら冷めるだなんて甘い考えがあった。
甘いのは重々承知している。でも、なんだっていいから希望にすがりたかった。
「……じゃあさ、ユウキ」
だんまりを解いたのはカノンだった。
「ん?」
「今日はうちに泊まっていきなよ」
うちに帰っても姉貴にぐだぐだ言われるのが嫌だったから、おれはそれを快諾した。
程なく姉貴が町内会の仕事があるからと行って昼飯を片付けてからすぐに去ると、カノンの部屋でおれとカノンはいつものようにぐだぐだ喋るだけだった。
夕飯も食べて、一息ついた時だった。
「ねぇ、一緒にお風呂入ろ?」
「は!?」
「どうせ洗い方とかわかんないでしょ、つべこべ言わないの」
一度言い出したカノンは中々折れてくれない。強制的に洗面所まで連れてこられる。
ふと、鏡に目が向かう。やはり二人のカノンがいて、落ち着かない。だけど、表情のクセとかはやはりどことなくおれらしさが残っている気がして、なんとなく双子っぽいかななんて思ってしまった。
もしそうならおれの方が誕生日が早いからきっと姉なのかな……。いやいや姉じゃないしおれ男だし。
すると突然カノンに服を脱がされ、腕を引っ張られ、そのまま浴室に拉致される。
……あまりそこから後の記憶は思い出したくない。
目を逸らし続けてきたものとの対面はめでたいものではなかった。
昼といい風呂といい、どうもカノンはおれで遊んでいる節がある。現状に一番適応してるのはカノンなのか。
ともかくもカノンのパジャマを借りたおれは、寝泊まりもカノンの部屋ですることになっていた。
カノンの部屋にはベッドは一つだけだが、さすがに狭いので布団を押し入れから運び出して並べる。
おれが布団に入ろうとしたら、ベッドで寝てと言われた。
とにかく疲れた。
あまりにもいろいろありすぎて精神的なゆとりが何もない。このままさっさと寝よう。もし次に起きたら元に戻ってるかもしれない。
そう目をつむろうとしたそのとき、カノンが声をかけてきた。
「ねぇ。わたしなりに考えてみたの」
「何を?」
「ユウキのこと」
ふーん、と返事をしたら、何よそれと怒られた。
「それで?」
「ユウキがこんなことになったのはさ、きっと必ず意味があってのことだと思うの」
「意味?」
既に消灯して暗がりのこの部屋を唯一照らすのは空に散りばめられた天の川。ベッドから布団で寝転ぶカノンを見るにはどうやら光量が足りなくて、どんな表情かが伺えない。それでもしっかり言葉は聞こえた。
「お願いがあるの」
「お願い?」
カノンがおれに一緒にコンテストを見に行こうだのご飯食べようだの、何かを誘ったり強要させたことは幾度となくあった。しかし「お願い」をされたのはきっと初めてだ。
「わたしの代わりに、旅に出てくれない?」
カノンが泣いているのか、笑っているのかは分からない。でもその声は少し震えていた。
「旅にって……」
「わたし本当はちゃんと知ってるんだよ? ユウキがなんで旅に出ないか」
カノンの声はだんだん震え出し、ついに立ち上がってティッシュを探して鼻をかんだ。
「わたしのせいでしょ? わたしがこんな体だから心配かけちゃって、ユウキをカイナに縛りつけてる」
「そ、そういう訳じゃあ!」
「たまに同級生が帰省してくる度に寂しそうな目をしてるの知ってるんだよ?」
おれはただ言葉を失った。カノンに気を使わせないように努めてたつもりだったのに、あっさり看破されていただなんて。
「正直に答えて。本当は他の皆みたいに旅をしたかった?」
自身が唾を飲み込む音が聞こえ、どう答えていいか悩む。刺激的な旅をしたいと思うことも何度かあった。それでも何の生産性も発見もない今の生活でも、カノンといれば幸せだった。だから……。
「おれは、このままでも良いと思ってる」
「……ダメだよそんなの。これはわたしにとってもユウキにとっても大事なターニングポイントなのかもしれないの。わたしたちに変われっていう暗示だと思うの。だからお願い、わたしの代わりに旅に出て!」
「カノン……」
「わたしは旅に出れないから……」
ぽろりとこぼれたカノンの本音に思わず胸が苦しくなる。
おれはカノンがどう悩んでこの結果を出したかは知らない。しかしカノンが本気でこう言っているのは分かる。カノンの覚悟も尊重したい。だったらだ。
「……おれはまだこれは長い夢じゃないかって信じてる。だから賭けだ。もしおれが元に戻らなかったら、カノンの言う通りこれは何かしらのきっかけだろうし、その願いを受ける。ただし元に戻ったら、今のはなしだ」
「うん……。それでいいよ」
すっかりいつも通りの語調になったカノンの声を聞き、ほっと一息つく。
「それじゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
静かになった部屋。ようやく目を閉じれば、眠りの世界が両手を広げて待ち受けていた。
マイコがジラーチと出会った翌日、彼女は携帯電話でジラーチを撮影していた。
『マイコ、それ何?』
「これはね、携帯電話っていうんだ。この世界ではこれがなくちゃ生きていけないの。後、ポケモン図鑑もこれに入ってるよ」
ジラーチが画面を覗き込むと、そこには、写真とともに基本データが載っていた。
ジラーチ 願い事ポケモン
タイプ 鋼・エスパー
身長 30センチ
体重 1.1キログラム
特性 天の恵み……技の追加効果が出やすい
1000年のうち7日しか目を覚ますことができない、幻のポケモン。
様々な願いを叶える力を持っていることで知られる。
腹にある閉じられた目が開くとき、
「あれ、文が途中で切れてる。続きが気になるんだけどなあ」
閉じられた目が開くと、一体何が起こるのだろうか。
『それは自分で確かめて。たぶん、マイコと一緒にいるときに見られるはずだから』
ジラーチもはっきり教えてくれないようだ。
今日は休日。バイトも大学もない。完全なオフの日である。
そこで、マイコはジラーチを連れて買い物に行くことにした。
「えーと、これは今日安いから買おう。これは高いな。あとこれは……」
『マイコ、何してるの?』
「値段を見ながら買うものを決めているの。私、そこまでお金を持っているわけじゃないからさ……」
『マイコ、これはー?』
「高いよこれ!」
スーパーに入り、食品を値段と相談しながらカゴに入れ、ジラーチが念力で浮かせている食品を見ながら、これは高いだの大丈夫だの言っていると、
「おっ、マイコやん。こんなところで何しとんねん」
マイコの友人のうちの1人、ハマイエがやってきて、マイコに話しかけてきた。
「うわ、ハマイエ君じゃん。……まずいとこ見られたな」
「別にまずくないで。ところで、そこにいる星みたいなやつは何やねん」
「ジラーチっていうの」
『はじめまして、僕はジラーチっていうんだ!よろしくね、ハマイエさん!』
「しゃべった!?」
『テレパシーだよ。しゃべっているように聞こえるのかもね』
「ところでさ、ハマイエ君、何か買い出しに来てるの?」
「自炊のためにな。お前もこの様子を見る限り買い物中か。料理の腕は上がっとるんか?」
「……たぶん」
「お前よう言うわ。最初すごい味のお菓子持ってきたくせして」
「……!!!!」
『どうなったの?ハマイエさん』
「食べた人は泡を吹いて倒れて、数時間後にベッドの上におった。俺もそのうちの1人や」
マイコはスーパーで恥ずかしい過去を大暴露されてへこみまくっていた。
「お願いだから、これ以上はやめて……」
買い物を終えて、レジに並ぶ2人。そこでハマイエは、自分のパートナーである風隠れポケモンに財布を渡し、お金を払うように言った。
「大丈夫なのかな?」
マイコは心配していた。エルフーンは特性であるイタズラ心の性質が強く、このようなことには正直向かないと言われているからだ。会計をやる前に商品を持って行かれるなんて窃盗まがいもあったらしい。
しかし、目の前にいたフワフワのポケモンは、そんな心配も無用で、きちんと代金を渡し、お釣りもきちんと受け取っていた。
『すごーい……』
「エルフーンえらいね。すっごく訓練したんでしょ?」
「最初は商品を買わんと持っていこうとしたこともあったからな。だいぶ謝りながら教えていって、今はもう大丈夫になっとんねん」
結構努力して学ばせていっているようだ。
そして、ハマイエと別れ、帰ろうとした時である。
ジラーチが思い出したようにマイコを呼んだ。
『マイコ!クロスのペンダントを売っているお店に行って!』
「クロス!?どうして?」
『買ってほしいんだ』
急いでアクセサリーショップに足を運んだ1人と1匹。
「クロスのペンダント、何個買えばいいの?」
『バトルの上手そうな人数分。マイコの分も含めて』
「……7個くらい買おう。値段は……1つ500円か。えーと、3500円……出費がすごいな」
そう言いながらも、マイコは財布からお札を4枚ほど出していた。
「これ7個ください!!」
「ありがとうございましたー」
店から出て、家に帰りついてから。願い事ポケモンはペンダントに何やら力を送っていた。
力を送られたペンダントは光に包まれていた。何だか、店に飾られていた時よりも綺麗になっているのは気のせいだろうか。
「ジラーチ、今何をしたの?」
『千年彗星の加護をこれに与えていたんだ。多分、妙な邪悪の力が働いてもこれをつければ守られるはずだよ』
「何だか分かんないけど……とりあえず、1個もらうよ」
そう言って、マイコはペンダントをつけた。
『似合ってるよ、マイコ』
「ふふ、ありがとう」
マイコは明日にでもみんなにこのペンダントをあげよう、と決めた。
このペンダントが本当に守護の役目を果たしてくれる日が来ることを、まだマイコは知らない。
3日目へと続く……
マコです。
マイコちゃんの日常。1人暮らしに買い物は付き物。
エルフーンがイメージによらずお利口です。
信頼あってこそ、こんなことができるんです。
さて、次回はペンダントを渡して、ジラーチも見せることになりそうです。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
「今宵は満月じゃ。どれ、池月、月でも見に行かんかの」
それは、人間だった池月坊やが九尾の尻尾のなかで水色を咲かせた小さな狐になってから何日か経った、そんなある日のこと。
囲炉裏の炭がすっかり灰がちになり、かすかに橙を残すだけとなったころ、長き年を生きてなお美しい九の尾をたくわえた長老はふと口にしました。
あたたかな囲炉裏端で丸くなっていた坊やは眠そうな目をこすると、かわいらしいその瞳をぱちくりとさせています。
坊やは人間の歳で言えばまだ十を超えたくらいの幼い子でしたから、「お月見」という言葉を聞いたことはあっても、月を見るためだけにお出かけしたことはありませんでした。
ですから長老の言葉に「満月を見ると何かが起きるのかな」とふと首をかしげていると、そばに座っていた赤にこげ茶を帯びた六尾の狐が「狐は満月の光を浴びると、とっても心地よい気分になれるんだよ」と教えてあげました。坊やはふんふんと頷いています。
「とってもすっきりするんだ。池月と一緒に見るのは初めてだな」、と、坊やそっくりの姿に彼岸花のような赤を咲かせた狐が続けます。坊やはわくわくしました。心地よい気分になれるという満月を、大好きな狐の仲間と共に見ることができるのですから。水色を帯びた小さな尻尾が、楽しそうに囲炉裏端を踊りました。
「長き年を経た狐は、満月の下で妖狐に生まれ変わる、とも言うからのう」
長老は、ぽつりとつぶやきました。
ゆらり。小屋の中に灯された火が壁へと投じる、黒々とうごめきのた打ち回る影。細められた目、吊り上がった口元。
唐突な言葉に、幼い狐たちは暖色の灯火の下でおののきました。目の前で九の尻尾を揺らした狐こそ、その言葉の証明のように見えたからです。
坊やは口元をあわあわと動かしながら、誰よりも真っ先に小屋の外へと飛び出していってしまいました。「ま、待ってよぅ池月!」と、ロコンの慌てた声が響きます。それを追いかけるように、「池月、さっきまで眠そうにしてたのに元気そうだな」とゾロアが笑いました。
眠気などすっかり吹き飛んでいました。いつもはやさしい長老の姿、けれど今夜はそれが恐ろしい狐のそれに見えたからです。
けれど何より、眠気を忘れたのはお月さまへの期待のためでした。どうしてみんなと美しいお月さまを見に行くことのできる夜に眠ることなどできましょうか。その月明かりが長老のような狐に力を与えるものだと知ってしまってはなおさらです。
一目散に小屋を飛び出していった幼い狐たちの後姿に微笑む長老。
その揺らめいた黒の影は、訪れた漆黒の闇へとひとつに溶け合いました。
◇ ◇ ◇
ほわっとした小屋の中の空気とは打って変わって、外の空気は染み入るようにひいやりとしていました。
風は穏やかで、森の木々が手のひらをゆらゆらと動かしながら、りいりいと歌う茂みの虫たちとかすかな歌声でひとつの歌を織り成しています。
「あっ」
小屋を飛び出してからずっと坊やの尻尾を追いかけていたロコンが、はたとその足を止めました。
それに気づいたのでしょう、ゾロアだけでなく坊やも振り向いて立ち止まりました。ざりり。踏みしめた砂の奏でる音が一斉に静まります。
森の中に開けた一本の小道の上には、どこにも欠けのないまんまるなお月さまが、宵闇の空の中にひときわ明るく輝いていました。
空を見上げたままのロコンは身動きひとつしません。二匹のゾロアもそのお月さまの姿に見とれたまま、同じように。
その満月はとても美しくはありましたが、今までも何回も見てきたはずの、ごく普通の満月には違いありませんでした。
けれど坊やの瞳には、今日の満月はその美しさだけでなく、ひときわ特別な意味をも持ったもののように映っていたのです。それは坊やだけではなく、他の狐たちにも同じことでした。
「そこで見とれておるのはまだ早いぞ? わしについてくるといい」
狐たちの尻尾のほうから、長老の穏やかな声が聞こえました。飛び出した子狐たちに追いついたようです。
空を見上げていた瞳は、一斉に振り向くと月の光を浴びた金の尻尾を見つめました。
まだ早い。ここから見上げるだけでも心魅かれるようなお月さまだというのに、長老はそう言いました。
僕の知らない世界は、まだどれくらいあるんだろう。坊やは子狐を導くように歩き出したキュウコンの揺らめいた尻尾を追いかけて歩きました。
「今日もマトマのみが一杯とれたな! ヒヒヒ、これでまた一歩化かしマスターに近づいたぜ!」
「うぅ……やっぱりそれ、僕は絶対に騙されてると思うけどなぁ……それに、今日も尻尾が出てたままだったよ?」
稲穂のような金色の九尾が夜のそよかぜの中に揺れていました。それを追いかけるようにして、三匹の子狐が小道の上を歩いていきます。
キュウコンの後について歩きながら、ゾロアとロコンはなんだか楽しそうにおはなしをしています。
どうやら今日も長老のおつかいでマトマのみを取りに出かけたようです。ゾロアの方はとっても得意げな顔をしているけれど、一方でロコンはどこか呆れたような表情をしています。
けれど今日は不思議と、坊やは二匹の狐のその言葉が耳から耳へと通り抜けていくようなのです。熱心な坊やはいつでもまじめに先輩狐の話を聞いて、一日でも早く立派なゾロアー苦になれるようにと努力を欠かしません。ですが今夜だけは、心は遠く月の空にあるような、そんな風にも見えました。
「ほれ。着いたぞ」
両脇に居並んだ木々が途切れぱっと視界が開けた小道の終わりで、はたと足を止めて長老はささやきました。
いつになく穏やかな口調の声に、小さな足の奏でる音がいっせいに止まります。
そこには、澄み渡った清らかな水をたたえた池が鏡のように空を映し返していました。
水面には、いつかキュウコンが子狐たちに人間の姿で作ってくれたお団子のようにまんまるなお月さまがぽっかりと浮かんでいます。
空と水面とに浮かぶふたつのお月さまは、長老の毛並みのような柔らかな色とくっきりとした輪郭をしています。
「わあ……!」――きらきらとロコンの表情に光が満ち溢れます。
ゾロアも同じようにお月さまの姿を見つめながら、時折ロコンのやわらかな尻尾をもふもふと握り締めています。
――坊やは、なぜか自分でも不思議なくらい、このふたつのお月さまに見とれていました。
ロコンとゾロアが池のほとりでお月さまを見つめながらじゃれあっているのも、少しも瞳の中には映ってはいませんでした。
坊やはキュウコン長老と池に映りこんだ月影を見つめ続けていました。ただ、声もなく。
「すっかり見惚れているようじゃの、池月」
キュウコンははっきりと口元に笑みを浮かべました。坊やはうなずきます。
坊やはすっかりこの満月に魅入られていました。愛しい長老の声ですら、曖昧になるくらいに。
「――狐をも酔わす水面の上のこの美しい月こそ、池月、お前の名じゃよ」
ふわっ。月明かりに照らされた毛並みが坊やのほほを撫でました。
もふもふ。長老は突然坊やにそうささやきました。九の尾で坊やを包み込みながら。
坊やは突然のその言葉に、驚いた色を浮かべながら先ほどよりもまじまじと水鏡に映ったお月さまを見つめます。
ゆうらりかすかに揺れる、長老ほどの狐をも酔わすほどに凛としたそれが、自分の名前の意味。
こんなに綺麗なお月さまと同じ名前だなんて――
「そして、その名はある古い九尾の狐と同じ名じゃ」
キュウコンは唐突に切り出しました。いつもとは違う重たさを帯びた言葉が聞こえたのか、じゃれあっていた二匹の子狐は坊やの方へと戻ってきました。
長老は坊やの反応を見ることもなく独りでくすくすと笑むと、続けます。
「――その狐は美しくきらめく九の尾を持っておった。じゃがそいつは恐ろしく強いことも人間には知られておった。
野山を駆け巡り月に吼えるたびに、人間は『生きたいのちを喰らう』ほどに強いその狐を『生喰』(いけずき)と呼んで恐れたのじゃ」
ゆらり。冷たく静かな夜風に揺れる九尾。
坊やの中で、その姿に見たこともないもう一匹の九尾の姿が重なります。
鋭く光る長老の瞳の水面にも満月が浮かんでいました。
「じゃがある日人間は見た。あの恐るべき狐が、池に映ったそれは清らかな満月を見つめて、静かに涙を流しているのを」
老いた狐は滔滔と紡ぎました。
不意に、その尻尾が水へとひたされ、水面をかき乱します。お月さまはゆらりと鏡の上で姿を変えました。
「人間は知った。人間もポケモンも同じ心を持っている。いつの日にか必ず分かり合える、と。
その日から人間は、池に映った月を見つめていたその狐を『池月』と呼ぶようになったのじゃ」
そうして人間は九尾の池月を恐れるだけでなく、敬い尊び、互いに助け合って生きたのだと、キュウコン長老は続けました。
揺らいだ水面はきらきらと光を照らし返しています。そうしてそのかすかなさざなみが消えると、そこには変わらず玲瓏の池月がきらめいていました。
長老は何も言わず、その表情をほころばせます。坊やの大好きな、あの表情へと。
「これも運命のいたずらかのう。古の狐と同じ名前を持った坊やが、狐になることを望んでその通りになるとは」
長く生きてきた九尾の狐の長老は、月の光によりいっそう美しくきらめくその尻尾で坊やをもう一度やさしく包み込みました。
運命。そうかもしれないと、坊やは思いました。狐が大好きで、狐になりたいとまで思って、そんなときに降った雨は狐の嫁入りに降るという雨。あの雨が坊やを狐の姿へと導いたのですから、これは運命が決めたことなのかもしれません。坊やの名前が古の狐と同じ名前ならば、なおさら。
眠りに落ちそうなくらい、あたたかで、やわらかな感触。坊やの表情はだんだんととろけていきます。坊やは喉を鳴らしながら、その感触に身をゆだねました。
「さすがだね、池月。僕たちが大きくなったとき、池月はもう伝説になってたりして」
「やっぱり池月はすごいもんな! 俺たちも負けてられないぜ、どんどん修行しなきゃ!」
思い思いに小さな手を握り締める仕草をしたり尻尾を逆立てたりしながら、子狐はいつものように笑います。
いつでも幼い狐たちは、いつか世界に名前を残すような「化かしマスター」になることを夢に見ています。
夢を追いかけながら毎日を生きて、人やポケモンを化かしたり、おつかいをこなしたり、マトマのみに口から火を吹いたり……
そんな子狐たちの姿を見て、長老もまたしあわせなのでした。
坊やはすっかりとろけきって眠たそうな表情をしています。大好きな、長老のもふもふの尻尾の中で。
自分をいたずらにかけた運命のことが、坊やは嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。
「――わしは今から楽しみじゃ。『池月』の名を持った若狐が、いつの日か民の語り草のように謳われる日が」
そう囁いて、もう一度、今度はよりいっそうの想いを込めて坊やをもふりもふりと包み込んでやったとき。
坊やは月明かりの下、ただ満面に笑顔の花を咲き誇らせながら、いつかそんな素晴らしい狐になる日をそっと夢に見ていました。
<おわり>
◇ ◇ ◇
再投稿させていただきました。遅ればせながら、もふパラシリーズ復活おめでとうございます!
そしてラクダさん、ラブコールを頂戴しありがとうございました! 遅くなってしまいましたが、お納めいただければ幸いです。
以下は初回投稿時に掲載したものをそのまま掲載させていただきます。
ご覧下さりましてありがとうございました!
◇ ◇ ◇
狐といえば、やはり満月でしょう! 満月を背にシルエットになった姿、尻尾の揺らめくさまが浮かんでまいります。
たまたま月齢表を見ていたところ、「満月って18日か! 18日ならまだ時間もあるし、書かせていただけるかも!」と思い立って書かせていただいたのがこの小説です。
今回は(イケズキさんのご許可の下、)池月くんのお名前を史実に絡めた形態をとってみました。
イケズキさん、この絡め方、お気に召していただけますでしょうか……(笑)
池月君にスポットライトを当てているため、ロコンちゃん・ゾロアくんの出番が少なめになってしまったのが悔やまれるところです。
ストーリーコンテストの精読が終わって余裕ができましたら、今度はふたりももっと存分に描かせていただきたいですね。
……本当は(4月)18日のうちに上げるつもりだったのですが、肝心の部分でスランプとトラブルに陥り大ピンチに。
夜中から手書き原稿に移行したところなんと筆が進むわ進む。
みなさんもキーボードを駆る指が止まった際は、ぜひ手書き原稿をご検討ください(笑)
こんにちわー!
チョロネコヤマトです!
本日限定、パティシエール配達サービスをご利用いただき誠にありがとうございます。
受け取りにはハンコかサインを……。ここにお願いします。
あ、会話は苦手なのでコミュニケーションはなるべく筆談でお願いします。大丈夫、硬筆三段の腕前ですから。
……え?頼んでいない?いいえ、確かにご注文受けましたよ。
パティシエールの方から。
あ、サインされましたね。はい、ありがとうございました―。
……もちろん、終わり次第引き取りに参ります。
では、良いバレンタインを!
箱を開けてみて私は、途方に暮れた。
中に入っていたのは、チョコレートをはじめとした、お菓子の材料。そしてお菓子のレシピ。でもって一匹のゲンガー。
……何で我が家にポケモンが?しかも宅配便で。
確かに、家には時々カゲボウズが寄りついてくるけど、基本的に私の一人暮らし。まあ、時々寂しくなることもないわけじゃないけど、それでも一人好きなところもあって、うまくやっていけてる。
パートナーとしてポケモンを連れてみることも……、まあ、考えなかった訳じゃないけど、結構仕事忙しいし、そんな無責任に連れられるもんじゃない。
……のに。どうして我が家にゲンガーが?
不思議に思っていると、ゲンガーが紙を見せてきた。
『バレンタインの お手伝いに 来ました』
やたらと綺麗な文字で書かれている。
え?バレンタインのお手伝い?手伝いって言ってもそんな……いったい何?
そう思っていると、ゲンガーはすらすらと文字を書き出した。
『ポケモンから 人間まで お菓子なら何でもござれ』
……こ、このゲンガー、明らかに私より字が綺麗!……めちゃくちゃ敗北感を感じる。ポケモンの方が字が上手いってどういうことよ。人間としてものすごーく恥ずかしいぞ、自分。
そこまで落ち込んでようやく、配達員さんが筆談がどうとかって言っていたことを、記憶の片隅から取り出す。ああ、筆談ってそういうことか……。
「で、どうしてアンタ、私の家に?」
『バレンタイン 乙女の聖戦 協力します』
……聖戦なんて言葉よく知ってるなぁ。
「でも、私、今恋なんてしてないし、そんな乙女って言えるような人間じゃないし……」
『女の子は 誰だって 乙女です!』
……何故私はゲンガーに乙女だと言い聞かされているのだろうか。自分が人間としてどうなのかという気持ちが、ますます膨らんでくる。
『とにかく 作りましょ! 乙女の聖戦に向けて!』
ゲンガーはそう書き記すと、キッチンへ飛んでいく。……って、それ私のキッチンなんだけど! おーい!
結局、ゲンガーに押し切られる形で、私はお菓子作りをすることになった。チョコレートケーキを作るべく、チョコレートを湯煎にかけつつ、小麦粉をふるう。
ゲンガーは慣れた手つきで、どんどん私にボディーランゲージ(流石に調理しながら筆談は大変らしい)で指示をしていく。
えっと、次は、こっちのチョコを湯煎に……?
手渡されたのは、見慣れない濃紫色のパッケージのチョコレート。
「……怨念チョコレート!?」
なんじゃいそりゃ。
裏面を見てみると「原材料:砂糖、カカオ豆、牛乳、怨念」……。怨念って、そんないったいどこで手に入るんだ……と一瞬考えたけど、呪われそうな気がするのでやめといた。
『それは カゲボウズの 向こうのとは 混ぜないように』
流石にボディーランゲージでは伝えきれなかったのか、ゲンガーが筆談で指示を出してくる。
ものすごくテキパキした完璧な指示。完全にプロの犯行。先生と呼ばざるを得ない。
……って、あれ? カゲボウズ相手にチョコ作ること知ってる、ってことは……。
何となく突然の来訪者の情報源が読めてきた。まさか酔っぱらいの一言がこんなことになるとは……。
さらに手渡される怨念入りビターチョコ。あ、これも別に作るのね。苦いの好きな子用か。そこまで注文わたってるのね……。
カゲボウズたちからのある種の怨念に、私は苦笑いを浮かべつつ、先生の指導下でお菓子作りを続けるのだった。
家中に広がる甘い香り。そして、ケーキの焼き上がりを告げる、オーブンの音。
ゲンガー先生指導の元、ついにガトーショコラの完成!
焼き上がりは……ありゃ、ちょっと足りなかったか。そう思った瞬間、先生はちょっと離れてて、と合図を私に送り次の瞬間。
サイコキネシスによって、ふわりと浮かんだケーキ。その周りに現れたるは青い炎。おにびの火力でガトーショコラは内部まで完全に火が通った。焼き加減十分。……流石先生。
さて、今度こそ焼き上がり十分。
カゲボウズたち用のトリュフは、冷蔵庫で冷やしてるし、これで完せ……え、まだ?
『仕上げは まだまだ これからよ』
そう書くと、取り出したるは、ハート型の型紙と粉砂糖。あら熱がとれた後、先生の指示に従って、粉砂糖をケーキに振りかけていく。茶色い大地に舞い降りる、ハート型の粉雪。うーん、なんて綺麗。
可愛い装飾の箱にしまい、リボンをかけて完成!
……それにしても、先生が用意したこの純白の箱にピンクのリボン、私だったら絶対恐れ多くて絶対チョイスできないくらい、乙女。というか、このお菓子作りの腕からして、まず間違いなく女子力上だ!
……ポケモンに女子力で負けたという事実、正直かなり悔しい。
その、私に猛烈な敗北感を与えている先生は、そんなことを気にも止めず。ケーキを崩さないよう、ゆっくりとサイコキネシスで箱を浮かべ、次に私を……って、え?
「ちょ、ちょっと! 何するの!?」
私は抵抗するすべもなく、そのままガトーショコラとともに、ゲンガー先生に連れ出されるのであった。
---
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【パティシエールありがたいのよ】
---
修正して再投稿。
冒頭部は当時音色さんが投稿したものをそのまま使わせていただきました。
怨念チョコレートはスズメさんの作品からのインスパイアです。
「はあ……」
大学時代の友人と久々に女子会して、目一杯飲んできた帰り道にはあまりに似つかわしくないため息。つきたくなかったのに、思わずついてしまった。
久しぶりに会う友人ばかりで、楽しみにしていたはずだったのに。
そう、女子会。
女子会の話と言えば、そりゃ仕事のグチとかもあるけど、メインはいわゆるガールズトーク。特にバレンタインが近いせいで、みんな私にお構いなしでノロケ話のオンパレード。
あー、はいはい、しーちゃん別れた彼氏と復縁した。そりゃよかったねー。
りっちゃんは付き合いはじめてもう5年かー。え、指輪もらった!? はいはい、よかったねー。
ユウは何、上司と別れて部下に乗り換えた!? へー、そうですかそうですか。よくやるねー。
え、カナ! アンタまで彼氏できたの!お幸せにー。
「アンタ、今日相槌適当じゃない?」と訊かれたときは、ちょっと焦ったわ。お酒入ってるせいで気持ち悪くなったふりしてごまかしたけど。
つい先ほどまでの甘い空気を思い出して、うんざりしている私の近くに、紫色のトラックが止まった。
路肩にトラックを止めて、降りてきたのは、紫色の制服を着た女性配達員。持っているのは有名高級チョコの包み。制服のポケットから、紫のガスが出ているような……気がした。ああ、酔ってるのか、自分。
気が付くと、一面紫の彼女を目で追っていた。
配達先の家から出てきたのは、嬉しそうな女性。きっとあらかじめお取り寄せしておいて、バレンタイン当日に渡すのだろう。当日が楽しみだという、幸せオーラがあふれ出ている。
はいはい。どうぞどうぞ。お幸せにー。横目で観察し、通り過ぎながら、心の中で感情の全くこもってない言葉を吐き出す。
ああ、それにしてもこの空気。街を歩けばバレンタインバレンタインって。
彼氏どころか好きな人すらいない、完全フリーの私にとっては、独り身の寂しさを肌身で感じさせられるばかり。
ああ、もう!世間みんな幸せそうで!! 友人一同もいちゃついてばかりで! 余計私にひもじさ感じさせやがって!!
「ああ! もう! ばくは……」
爆発すればいいのに、と思わず言いかけて。
確かに今は周りに人がいないとはいえ外。爆発しろなんて発言するのは問題だ。でも、酔った私がそんな細かいことを気にして発言をやめたわけではない。
確かに、目の前に人はいない。
が、ポケモンはいるのだ。さっきまではいなかったはずなのに。しかも大量に。
そう。大量のカゲボウズ。黒いてるてる坊主の集団が、じっと私の方を見つめていたのである。
そんな光景に出くわしたら、一気に酔いも醒める。
「あ、あたし、そんなに負の感情出してたの……!」
このあたりにはカゲボウズが頻出する。以前見かけた時は野生かと思っていたけど、どうやら家の近くのアパートに住み着いているらしい。そう噂で聞いた。
確かにカゲボウズがこんなごく普通の街に野生で大量に住み着いている……というのは考えにくいけど、まさかアパートに住み着いてるとは。よっぽど負の感情に満ちたアパートなのか。
カゲボウズは、負の感情に引き寄せられる性質を持つ。以前こっぴどく失恋した際、その負の感情に引き寄せられた大量のカゲボウズを、そのまま勢いで世話したことがあった。
その日以来、目を付けられてしまったのか、私がネガティブモードになるとしばしば私に寄ってくるようになった。今では寄ってきたカゲボウズの数で、自分の精神状態を客観的に判断できるようになったくらいだ。
でも、これだけ大量に寄ってくるのは久しぶりだ。それこそ、あの失恋以来かも。
「……あのさ、とりあえず落ち着こう。ね。外だし。」
カゲボウズたちに言っているのか、やっぱりまだ酔いが残る自分に言い聞かせているのか。
さっきまであれほど凄かった負の感情が収まって、ある程度冷静になっているのは、カゲボウズたちがそれを吸収したせいなのか。それともこの真っ黒な状況を見て、私が叫んでるどころではなくなっているせいなのか。
とりあえず、気がついたら、酔いに任せて爆発しろと叫ぶどころではなくなっていたのは確かだった。
結局、カゲボウズたちは、家までついてきてしまった。家の中を縦横無尽にふわふわと動き回る彼ら。そんな彼らを後目に、冷蔵庫から缶チューハイ、そして食料庫からはチョコレートを取り出す。
仕方ないからカゲボウズ交えて二次会だっ。カゲボウズにお酒はあげないけど。そもそもポケモンにお酒あげていいのかもわかんないし、第一、酔っぱらって家の中でわざ使われたら、たまったもんじゃない。お酒の代わりに、私の負の感情で満足して欲しいところ。
え? 何でつまみがチョコレートなのかって?私、甘党だから、普通のおつまみよりこっちの方が好きなのよ。……体重は気にしない方向で。
「お酒はないけど、これだったら食べて良いわよー」
机の上に出したのは、ちょっと大きめだが、ごくごく普通の板チョコ。綺麗なチョコが街を彩る季節だが、私の食料庫にそんな豪華なものはない。線に沿って小さく割られたものが、そのまま皿代わりにされた銀紙の上に置いてあるだけ。ポケモンに人間用のチョコあげていいのかも実はあやふやだけど。まあ酔っているし仕方ない。
カゲボウズたちは私の声に反応して、一気に食べ始める。
嬉しそうに頬張る者。初めて見るのかちょっと警戒心を持って食べ始める者。じっくり味を確かめるかのように噛みしめて食べる者。反応は様々だ。
そんな中、食べた後明らかに嫌そうな顔をしている者たちも。……あ、こいつら、甘い物嫌いだな。直感的にそう気づく。
客人に申し訳ないことをしたなぁと思い、私は食料庫から別の物を出してくる。
「アンタたち、甘い物嫌いなの?だったらこれどう?」
それは、いわゆるカカオ99%チョコ。一昨日興味本位で買ってきたけど、一片食べただけであえなくリタイア。そのままになっていたものだ。
甘い物嫌いのカゲボウズたち。さっきよりも黒い欠片に興味津々な者、警戒している者。反応は分かれたが、興味津々な者が食べ、今度は美味しいといった姿をしていると、警戒している者も食べだした。
……うん、反応は悪くなさそうだ。
不満げだった客人をももてなせて、何となく嬉しくなってくる。
……だが、これだけでは終わらなかった。目の前にやってきたのは、甘い物好きのカゲボウズたち。ふと机の上を見ると、あれだけあった板チョコはすっからかん。もっとくれといった表情で、私の目を見つめる。
「……申し訳ないけど、今日はこれでおしまい。さ、帰った帰った。」
カゲボウズたちにそう言い聞かせるが、彼らは動こうとしない。どんどん私に迫ってくる。今にも「のろい」や「うらみ」を発動しそうな雰囲気。……ヤバい。
「こ、今度来たときはちゃんと作ってあげるから!」
気が付いたら発していた言葉。
その言葉に反応して、表情が和らぐカゲボウズたち。
負の感情の圧力から解放され、安心したところで、ふと気づく。
あ、あれ? あたし今、何て言った?
「ちゃんと作ってあげるから」
つ、作る……!!?
そ、そうか……。
彼氏がいない今年のバレンタインに手作りチョコを送る相手は、まさかのカゲボウズたちか……。予想外の展開に、驚きと絶望とが混ざりあったような何とも言えない感情を隠しきれない。
そしてその横で、私のその感情すら、肥やしにしているような、嬉しそうなカゲボウズたち。
ま、言ったからには作らないと仕方ないか。カゲボウズたちに恨まれたら怖いし。それにお菓子づくり自体は嫌いじゃないしなー。
その複雑な感情すら、カゲボウズたちは吸い取ってしまったのか、結構すぐに前向きに検討を始めている自分。カゲボウズたちに踊らされまくっている気がしないでもないが……。まぁいっか。
とはいえ、ポケモンのためだけに作るのも何だよなー。せっかくだからついでに誰かにあげようかしら。
そう思った瞬間、目に留まったのは継ぎ接ぎだらけのヒメグマのぬいぐるみ。
ヒメちゃんを見て脳裏に浮かぶのは、以前ヒメちゃんをボコボコにしたあの元気なジュペッタ。
そして、その後ものすごい勢いで謝りに来て、ヒメちゃんを直してくれた、あの優しい瞳の青年。
……あ、そういえば、あたし、まだお礼出来てない。何かお礼しようと思ってたのに、結局仕事に忙殺されててすっかり忘れてた……。ダメすぎる……!
この機会に、感謝の気持ち込めてってのも、いいかもしれないな。世の中には義理チョコっていう、こういう時にピッタリなものもあるわけだし。うん、ちょうどいいかも。
気が付いたらバレンタイン爆発しろなんて感情は、どこへ行ってしまったのか。
彼氏はいないけど、何だかんだでチョコ作りに励む、前向きなバレンタインにはなりそうな予感。
おわりませう
--
【テーマ:悪(バレンタイン爆発しろ的な意味で)】
【書いていいのよ】
【描いていいのよ】
【いろいろお借りしてしまったのよ】
【勝手にフラグたててしまったのよ】
--
修正して再投稿です。
対戦相手の長谷部百合のバトル場には草エネルギーが三つついたモジャンボLV.X130/130。それに比べ、俺の場はエネルギーが一つもないガブリアス130/130、ベンチにはコモルー90/90
長谷部の戦略はこうだろう。俺がポケモンを育てている間に攻撃する。もし攻撃を受けてもモジャンボにはポケボディーの再生緑素でポケモンチェックの度にHPを10回復。さらにモジャンボLV.Xのポケパワー、モジャヒールによって自分の番に一回コイントスをしてオモテならHPを40も回復できる。それに加えスタジアムの夜明けの疾走の効果により草エネルギーをつけると状態異常とHPが10回復する。
たった一ターンにHPを60回復出来る。持久戦に持ち運ぶということだな。
「俺のターン!」
加えたカードはガブリアスLV.X140/140。ここは迷わずレベルアップさせよう。
「俺は、ガブリアスに炎エネルギーをつけてレベルアップさせる! そしてガブリアスLV.Xのポケパワー発動。……と言いたいが、ガブリアスLV.Xのポケパワー、竜の波動は、レベルアップしたときに使えるがその効果は相手のベンチにダメージカウンターを乗せる効果。今、お前にはベンチポケモンがいないから使う意味がないので使わない。そしてガブリアスLV.Xのワザを使わせてもらおう。蘇生!」
ベンチの空きスペースに白い穴が開く。その穴から這い上がるように、ボーマンダ140/140が再び現れる。
「蘇生の効果で俺のトラッシュのポケモン一体をたねポケモンとしてベンチに出す。戻ってこいボーマンダ! そして蘇生したポケモンにトラッシュの基本エネルギーを三枚までつけることができる。炎二枚と水一枚をつけ、ターンエンド」
この蘇生は相手にダメージを与えるワザではないが、トラッシュにあるポケモンをエネルギー三枚つけた状態で呼び戻せる強力無比の大技だ。
「私の番、モジャンボLV.Xに草エネルギーをつけて攻撃。つるを伸ばす!」
モジャンボLV.Xが大きな腕を鞭のように伸ばし、しならせてガブリアスLV.Xに攻撃する。が、それだけでは物足りないつるは、ベンチのコモルーとボーマンダにも被害を及ばす。
「つるを伸ばすは元々の威力60に加え、相手のベンチポケモン二体にも20ダメージを与えます」
これでガブリアスLV.Xは残りHPは80/140、ボーマンダは120/140、コモルーは70/90。一度に計100のダメージか。
「俺のターンだ。手札からガブリアスLV.Xに水エネルギーをつけてベンチに逃がし、ボーマンダをバトル場に出す。ガブリアスに逃がすためのエネルギーは必要ない。そしてボーマンダのポケボディー、バトルドーパミンの効果。相手のモジャンボLV.Xの最大HPが120より大きい130なのでワザに必要な無色エネルギーは不要となる。さあ攻撃だ。蒸気の渦!」
ボーマンダについている炎と水エネルギーをトラッシュすると、ボーマンダが口から可視の白い渦を巻き起こし、モジャンボLV.X10/130に120のダメージを叩きつける。
「で、でもこのポケモンチェックでモジャンボLV.Xのポケボディー、再生緑素が発動。モジャンボLV.XのHPを10回復させるわ。そして私のターン。カードを引いてモジャンボLV.Xに草エネルギーをつける」
夜明けのスタジアムの効果は自分の草または水ポケモンに手札からエネルギーをつけたときに全ての特殊状態とHPを10回復する効果。再生緑素とこれを合わせてモジャンボLV.XのHPは30/130。よし、この程度なら次の番、ボーマンダで簡単に倒すことが出来る。
「ここで私はトレーナーカード、ポケヒーラー+を二枚発動。このカードは同じカードと二枚同時に使え、そのとき自分のバトルポケモンの状態異常を全て回復させ、ダメージカウンターを八個取り除きます!」
「八個だと!?」
ここで一気に回復してHPは110/130まさかそこまでHPを盛り返してくるとは。
「そしてモジャンボLV.Xのポケパワー発動。モジャヒール! コイントスしてオモテなら、さらにダメージカウンターを四つ取り除くわ」
そう言って彼女はコイントスボタンを押す。……がしかし幸いにもウラ、モジャヒールは失敗だ。それに加えこの番に相手は手札を全て使い切ってしまった。手札の供給手段はない、俗に言う詰みだ。
彼女自身そう分かっているようで、バツの悪そうな顔をする。仕方ない、と一息ついてから最後のワザを宣言した。
「うーん、モジャンボLV.Xの攻撃、つるをのばす!」
モジャンボLV.Xの攻撃がボーマンダとベンチのガブリアスとコモルーを襲う。……が、ダメだ。気絶には至らない。
「ポケモンチェックのとき、またポケボディー再生緑素でモジャンボLV.XのHPを10回復よ」
「行くぞ。まずはボーマンダに水エネルギーをつける。そしてトドメだ。ボーマンダについている炎エネルギーと水エネルギーをトラッシュして攻撃、蒸気の渦!」
ボーマンダの口から再び白い爆風が相手の場をえぐる。モジャンボLV.X0/130のHPバーが無くなったのを確認してからサイドを引けば、試合終了のブザーが鳴り響く。
勝利の余韻に浸りながらのんびりと並べられたカードを片付け終えふと傍に目をやると、長岡が長谷部の肩を優しく叩きながら慰めていた。
恋人、か……。
「僕のターン」
あたしのバトル場にはエースカードかつ水エネルギーが三枚ついたオーダイル130/130が。ベンチにはブイゼル60/60、ワニノコ50/50。
相手の場には特殊鋼エネルギーが一枚、基本鋼エネルギーが二枚ついているメタング30/80。ダンバル50/50とレアコイル80/80がベンチで出番を今かと待っている。サイドはあたしが三枚、相手が二枚。
先ほどの番、対戦相手の向井のキーカードであろうメタグロスをオーダイルの破壊の尻尾の効果で手札からトラッシュさせた。ハーフデッキでは同じカードは二枚までしか入れられない。あと一枚、メタグロスを潰せれば勝利はもらった!
だがそう決めつけたのはあまりに早計だった。
「よし、まずはレアコイルに雷エネルギーをつけてジバコイル(120/120)へと進化させる。そしてジバコイルのポケパワー発動。磁場検索!」
「じ、磁場検索……?」
「このポケパワーは自分の番に一度使え、自分の山札の雷、鋼タイプのポケモンを山札から一枚相手に見せてから手札に加える。そしてその後デッキをシャッフルする!」
「そ、そんな!」
折角一枚トラッシュしたのに、次の番にすぐさまそれを手札に加えるだなんて……。
「僕は山札からメタグロスを手札に加えて、早速メタングを進化させる! そしてポケパワー発動。マグネットリバース!」
慌ててテキストを確認する。メタグロス70/120のポケパワー、マグネットリバースはコイントスをしてオモテならベンチポケモンとバトルポケモンを無理やり入れ替える能力だ。相手がどのポケモンを引きずり出すか選べる、単純だが弱っているポケモンにトドメをさせたり、牽制に使えたりと安い効果より遥かに恐ろしい。
が、コイントスの結果はウラ。思わず胸に手を当てほっと一息ついてしまう。
「メタグロスでオーダイルに攻撃。コメットパンチ!」
相手のメタグロス70/120は右腕を大きく振りかざし、彗星を思わせるスピードでオーダイル80/130に鉄の腕を振り下ろす。
「コメットパンチのダメージは50。だけど次の番にもう一度コメットパンチを使うと与えるダメージは100になる! ターンエンド」
い、威力100!? そんな二発目のコメットパンチを喰らってしまえばあたしのオーダイル、ベンチのブイゼルとワニノコ全員が一撃で気絶してしまう。次にマグネットリバースが決まっても決まらなくても、メタグロスをどうにかしない限り……。
「あたしの番ね、まずはワニノコをアリゲイツ(80/80)にしてポケパワー進化で元気を発動。山札の上から五枚を見てその中の水エネルギーを相手に見せてから手札に加え、その後山札を切る。……水エネルギーは二枚だったわ」
これで手札七枚のうち五枚が水エネルギー。とてもじゃないけどこんなにエネルギーばかりではいい手札とは言えな……いわけでもない! そうかその手があったわ!
「ブイゼルに水エネルギーをつけてオーダイルで攻撃するわ!」
そう宣言すると同時にブザーが鳴り響く。首を右に傾けると隣の試合は終わったようだ。恭介くんがその彼女をなだめているように見えるから、やはり風見君が勝ったのだろう。もしあたしがこの対戦に勝てば次は彼か……。
この大会は前の試合が終わればどんどん次の試合へと進んでいくので、休む暇なく今度は恭介くんが場に立つ。
他の対戦も大事だけど、まずは目の前の彼を倒すことから! 手札にエネルギーばかり溜まってしまったのならそれを逆に活かすまでよ!
「メタグロスに攻撃、エナジーサイクロン! 自分の手札のエネルギーを好きなだけ選び、相手に見せる。このワザのダメージはその見せたエネルギーかける20ダメージとなる!」
あたしは突きつける様に手札に残った水エネルギー全て、四枚を見せつける。メタグロスについている特殊鋼エネルギーは、鋼ポケモンの受けるダメージを10減らす効果をもつ。しかし20×4−10=70ダメージあれば、きっちりメタグロスを撃破出来る。
オーダイルの周囲に水エネルギーのシンボルマークが四つ現れる。そのマークがゆらゆらと回りながらメタグロスの足元へ移動し、オーダイルの咆哮と共に水色の竜巻を起こす。しばらくして解放されたメタグロス0/120は、大きな音を立てて地面に落ち、そのまま気絶し動けなくなる。
「このエナジーサイクロンで相手に見せた水エネルギーは全て山札に戻してシャッフルする。サイドを一枚引いて終わりよ」
「僕の次のバトルポケモンはジバコイルだ」
「オーダイルはダメージを受けているけどサイドの枚数はあたしたち共に二枚だし、君のジバコイルはまだエネルギーが一枚。あたしの優勢よ!」
ちらと右を見ると大きくガッツポーズをする恭介くんが。どうやら善戦しているようだ。仲良く皆で優勝。……なんてできないけど、せめて彼とも戦ってみたいと思う。
そのためにはまず目の前の一勝を。
翔「今日のキーカードはメタグロス!
マグネットリバースで相手を狙い、
コメットパンチを連打しよう!」
メタグロスLv.58 HP120 鋼 (DP5)
ポケパワー マグネットリバース
自分の番に1回使える。コインを1回投げオモテなら、相手のベンチポケモンを1匹選び、相手のバトルポケモンと入れ替える。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
鋼無無 コメットパンチ 50
次の自分の番、自分が使う「コメットパンチ」のダメージは「100」になる。
弱点 炎+30 抵抗力 超−20 にげる 3
俺様はヘルガーだ。
ちったあ名の知れたとーぞくよ。
まぁ、今は捕まってンだけどな。
あーあ。
あんなところでカッコつけて無けりゃあきっと逃げきれてたぜ。
まーいーや。
だってな? 俺様はおたずね者ランク☆9だぜ?
こんなんで捕まるはずねーだろ?
こんな牢屋なんてひとひねり………
ふらっ……
おっと……持病の貧血が……
急に立ち上がるとふらっとくるんだよなー
こーだから、血がほしーんだよ。鉄分がな。
マトマジュースじゃダメなんだよ。
さて、火炎放射ーっと。
ゴオオオオオオオオオオオ!!!!
ドロドロ〜〜
お……おい。予想外だぞ。
こんなんで溶けちゃったぜ?
こんな牢屋で大丈夫か?
大丈夫じゃないだろ。問題だな。
まぁ、俺様としちゃあ楽でいいんだがな。
これで脱獄十回目だぜ。
最後に脱獄したのは5年前か。
俺様も結構トシいってるのかもな。
脱獄してるから、ランクもあがってるのかもしれねーな。
捕まってもな? 俺様は何度だって逃げ出してやるさ。
じゃあ、また会おうぜ。
_______________________________________________
〜後書きのような物〜
昨日のチャットで。
っヘルガー簡単に捕まりすぎ
という話がありましたね。
そうです。ヘルガーは脱獄も出来るのです。
貧血気味という設定は、後で思いついた。
でぃえすあいで書くのはツラい。
今度また正式に1話持ってきます。
ヒロインはもちろん、ポケリア本編のマイコちゃん。
彼女が七夕の日に、21歳のバースデイを迎えようとしています。
手持ちは本編その15が終了した段階でのポケモンです。
チャオブー、ウォーグル、ムンナ、フシギバナ、ヌマクロー、ライボルトの6匹。
彼女はベランダで繭状態のジラーチを見つけ、1週間限定の同棲(?)生活を送ることになります。
もちろん、マイコの友人達も登場します。
今回は、男性のみならず、大学の女友達も登場しますよ!
そして、ジラーチを狙う悪役。
いつものロケット団ではなく、千年流星会という奴らです。
3人しかメンバーはいませんが、みんな手強いです。
ちなみに、3人ともアンデッドであり、1000年という時を経て蘇った奴らです。
ボスはトワという男性。
ジラーチを捕獲することを最大の目的としており、邪魔する奴は容赦なく抹殺しようとします。
また、倒そうとしても、服が「守る」技の効果を帯びていて、彼に攻撃しても意味がありません。
手持ちのポケモンはマタドガスが6体。
全員で大爆発を行い、邪魔者を排除する役割があります。
爆発を行わない場合は毒で対象を溶かしつくす凶悪な攻撃を行います。
女性幹部はチトセ。
とにかくどぎついサディスト。人がケガしても、それを喜んでいます。
殺害行為を行うことに無上の快感を感じる恐ろしい奴です。
手持ちのポケモンはメタモンが複数。
相手でなく他のポケモンに「変身」した状態で出てくるので、相手が戸惑うことがしばしば。
また、変身しない場合、チトセの命令のもと、人間を殺害しようとすることも。
男性幹部はミライ。
何を考えているか分からない太った男。推定体重130キログラム。
機械いじりが大好きで、援助ユニットを使い、ポケモンのみに頼らない戦闘を行います。
手持ちのポケモンはカビゴン。
一般の体重の1.5倍もの巨体で、防御力がすごいです。
もちろん、巨体を生かしたのしかかりも破壊力がすごいです。
マイコ達と直接対決を行うのは、しばらく後のことです。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 | 101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | 110 | 111 | 112 | 113 | 114 | 115 | 116 | 117 | 118 | 119 | 120 | 121 | 122 | 123 | 124 | 125 | 126 | 127 | 128 | 129 | 130 | 131 | 132 | 133 | 134 | 135 | 136 | 137 | 138 | 139 | 140 | 141 | 142 | 143 | 144 | 145 | 146 | 147 | 148 | 149 | 150 | 151 | 152 | 153 | 154 | 155 | 156 | 157 | 158 | 159 | 160 | |