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その日、マイコが見ていたニュースで、女性キャスターがこんなことを言っていた。
「今日7月1日に、1000年に1度しか見られないという千年彗星が見られるという現象が起きます!見られた人はとってもラッキーですね!もちろん、見逃すともう一生見られないので、見逃すことのないよう準備は怠らないでくださいね!」
準備とは言っても、天体望遠鏡とかを持っていないマイコにとっては、興味の湧くものではなかった。
しかし、そんな彼女に、千年彗星からの贈り物とも呼べるポケモンが来るとは、彼女自身、まだ知らない。
そして、大学の講義やバイトも終わって、その日の夜。
風呂に入ってその日の疲れを癒し、さあ眠ろうと布団に入りかけたマイコ。しかし、次の瞬間だった。
ピカッ!!!
ベランダの方からすごい光が起こり、彼女は慌てて様子を見に行った。
そこには、黄色い繭のようなものがあるだけだった。
「どうしたのかな、これ。何かのサナギ?」
マイコがその繭に触れようとした瞬間、その繭はスルリスルリとほどけていき、1匹のポケモンを形作った。
そのポケモンは、頭が星のようになっており、短冊が3個ついていた。さらに繭の形態の時に体を包んでいた部分が布のようにヒラヒラとたなびき、腹には目が1つ。全体的には小さく、かわいらしい、願い事ポケモンのジラーチだった。
「キミ、ひょっとして、ジラーチ?」
『そうだよ。僕、ジラーチ!君の名前は?』
「サカモト マイコ。マイコって呼んで。……ところでさ、ジラーチ、」
『どうしたの、マイコ?』
「キミは人の言葉をしゃべれるの?」
『うーん、しゃべれる、というよりは、テレパシーで君の脳に言語を送っているようなものだよ。でも、言葉も分かるよ』
マイコはその突然の来訪者に興味が湧いてきた。千年彗星の贈り物、悪くはない。
「ねえ、ジラーチ、」
『ん、なあに、マイコ?』
「私は、トレーナーなんだ。ポケモンの」
『……僕を捕まえるの?』
「捕まえないよ。私の仲間を紹介しようと思って。……でも、ちょっと外で出した方がいいかな、部屋に入らない可能性も大きいから、さ」
公園に着いた1人と1匹。マイコは持ってきたボールを高く投げた。
すると、マイコの手持ちであるチャオブー、ウォーグル、ムンナ、フシギバナ、ヌマクロー、ライボルトが姿を現した。
「みんな、ジラーチと仲良くしてね。大切な客なの」
6匹は心得たようで、各々自己紹介をしたりして、すぐに打ち解けあっていた。
そこで、ジラーチは大事なことをマイコに伝えた。
『僕は今日を含めて、7日間しか起きていられないんだ。願いを叶えることには沢山エネルギーが必要だからね。マイコは何か願い事をする?』
「今はどういう願い事をすればいいのか、分からないの。……あ、そうだ。私、7月7日が誕生日なんだ。その日、ジラーチは起きているよね?」
『うん。確か最後の日だったね』
「その日、元気があったら、誕生日を祝ってくれないかな」
『僕でいいの?』
「うん!」
こうして、願い事ではないが、小さな約束をし合った1人と1匹。
しかし、ジラーチ覚醒の陰で、この願い事ポケモンを狙い、そしてジラーチを見つけたマイコをも狙う、悪の組織も覚醒したことを、まだマイコは知らない……。
2日目へと続く……
マコです。お話が始まりました。
悪の組織が具体的に動くのはもうちょっと先です。
それまではちょっぴり安息の時間。
マイコの日常を覗いてみましょうか。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
こんにちは。マコです。
今回のお話はポケリアの特別編です。
特別編と言いながら7,8話くらいのボリュームになりそうなので、別スレを立てることにしました。
今回はジラーチがマイコの家にやってきた7月1日から、ジラーチが再び1000年という長い月日の眠りにつく日である7月7日までの1週間という形で進めていきたいと思います。
それでは、奇跡の出会いを果たした1週間のお話へ、いってらっしゃい!
赤いレンガでできた小さな街並みを、山から現れた太陽が照らす。
ベッドの上で丸まっていた私の体に暖かい光が当たる。
まぶしい。もう少し寝ていたい。起こさないで。
なんだろう。この光は。
朝だ。
今日も朝から晴れ。
洗濯でもしようか。
それとも、もう少し寝てようか……
朝のぼーっとタイムが始まる。
窓から朝の通りを眺めつつ、今日は何をして過ごそうか、と考える。
ぐぎゅるるるるるるる
……お腹すいた。
そう言えば、昨日の夜何も食べてない。
頭痛くて寝ちゃったからなぁ……
タイミング悪く襲ってくる頭痛を恨めしく思いつつ、ペリッパーが運んできてくれた食べ物を手に取る。
何食べようかなぁ……
毒とかマヒとか治っても、頭痛を治す木の実はないらしい。
あんまり薬好きじゃないんだけど、頭痛くなったら薬飲むしかない。
生ものは早く食べちゃわないと……腐って地獄を見る。
グミは長持ちするから後回しでもいい。
一年放置しても食べれたからね。お腹壊したけど。
うん。これにしよう、と今朝の朝食を決める。
オレンの実とカゴの実という、がっちがちに硬い朝食。
そのままじゃ食べれないから、すりつぶしてから食べる。
これがまた重労働で、数分もやると疲れて体のあちこちが痛くなる。
酷い時は次の日筋肉痛に襲われる。
モモンの実とか柔らかいものが食べたい……が
ペリッパーが運んできてくれないからしょうがない。
今度頼んでおこう、と心に決めながら、木の実をすりつぶす。
なんだか今日の木の実は固い。収穫時期間違えたんじゃないの? ってくらいに。
コンコンコン!
ゴリゴリという音に混ざって、何かをたたく音が聞こえる。
音は玄関のほうから聞こえる。
こんな朝早くから誰だろう?
今忙しいのに。
はーい。今出ますよー。と返事を一応しておく。
居留守してもいいんだが。
ペリッパーだったら困るから、一応出ておく。
何もかも一応。一応が大事。
一応やっておけばだれにも何も言われないからね。
がちゃ。
木でできた扉をあける。
見た目によらず結構重い。一体何の木材だ。昔から気になってる。
まぁ、丈夫だからいいけど。
誰が来たのかを確認する……が、誰もいない。
いわゆる『ピンポンダッシュ』ってやつだろうか。
家には呼び鈴ついてないぞ。
ってことは、『ノックダッシュ』だろう。たぶん。
自分でもくだらないことを考えてるなぁと思いつつ、家の中に戻ろうとする。
戻ろうとする。
戻ろうとしている。
戻ろうとしてるんだよ。
戻ろうとしてるんだけど。
なんか体が動かない。
きっと、動かないって言うのは気のせいなんだ。
動かないと思うから動かないんだ。
体に何か縄が巻きつけられてるのも、気のせいなんだ。
いきなり上から現れた何者かに縛られたって言うのも、気のせいなんだよ。きっと。
うん。
前、後ろ足はしっかり縛られてる。
体もぐるぐる巻き。
口にはなんかのテープ。
気のせいじゃないよね。これ。
なんかよくわからないけど、今、私は縛られてる。
今わかることは、それだけ。
それ以外は全く理解できない。
何がどうしてこうなった。
「よぉ。可愛いイーブイさん。昨日は世話になったな。」
声のするほうを見ると……黒い何かが見える。
私に世話になった? 何か私がしたっけ?
「あんたが俺の逃げた方向をばらまいてくれたおかげで、俺はあいつらに捕まりかけたんだぜ?」
ようやく誰かがわかった。
この黒色に白い線が入ったような体は、ヘルガーだ。
「まぁ、しっかり借りは返させてもらわねぇとな。」
ヘルガーが私を縛っているロープに噛みつき、そのまま持ち上げる。
このままどこかへ連れて行く気らしい。
多少暴れてはみるものの、体長30cmがどう暴れたって、140cmに敵うはずがない。
助けを呼ぼうにも、口に巻かれているテープのせいで、声が出せない。
「おとなしくしてろよ? じゃないと後が酷いぜ?」
ロープが体にくい込んで痛い。
ぐるぐる巻きにされているせいで息もしづらい。
一体このままどこに行くんだろう。
こういう時に限って、誰もいない。
こんな状況を見たなら、誰だって怪しむはず。
そうすれば、誰かが助けてくれるはず……なのに。
――――――――――――――――――――――――――――――
しばらく走っていたヘルガーが、急に足を止めた。
かなりの時間つれてこられた気がする。
周りは町ではなく、山奥の森といった感じだ。
「この辺なら誰も見てねぇな。よし、降ろすぞ。」
ドサ……
乱暴に落ち葉の上に落とされる。
石が当たって痛い。
「さて、本題に入るが、お前は俺のことをプクリン達に話した。そうだな?」
質問をされるが、口がふさがっていて、答えられるはずがない。
「まぁ、ビッパとかいうやつがイーブイに聞いたって言ってたからな。お前に間違いないことはわかってるんだが。」
じゃあ質問しなくてもいいじゃないか。
何のために聞いてきたのだろう……
「んーっとな、つまりだ。お前があいつらに俺の逃げた方向を教えなかったら、俺はアジトを離れずに済んだ。わかるか?」
首を横に振る。
アジトとどういうかかわりがあるのかがわからない。
「簡単に言うとだな、お前が言ったせいで、俺のアジトがばれて、捕まりかけたんだ。だからこうして仕返ししにきたってわけさ。」
仕返し……?
一体何をするつもりだろうか……?
「俺に狙われた奴はどうなるか知ってるか? ただでは戻れないぜ?」
ヘルガーの表情が一瞬にして変わる。
今までとは比べ物にならない恐ろしいものを感じる。
「さて、どこからにしようか? 可愛いイーブイさんよ。」
怖い……
背筋が凍りそうなほど寒い。
一歩一歩ヘルガーが近寄ってくる。
近寄ってくるほど、心臓がはじけそうなくらいに早く脈打つ。
「まずはその……でっかい耳からだな。」
ガブッ!
ーーーーーーー!!!!!
ヘルガーが思いっきり右の耳に噛みついてきた。
あまりの痛みに悲鳴を上げたいが、口がふさがれていて声が出ない。
「ふん……この程度じゃあ……まだまだだな。もっと……苦しめ。あのアジトにいったいどのくらいのお宝があったと思ってるんだ? お前が言ったせいでな、俺様が五年以上かけて集めてきた物、全部パァだぜ?」
ヘルガーが耳に噛みついたまま、思い切り首を引く。
相当怒っているようで、さっきまでの軽いノリはどこにも見当たらない。
どうせお宝といっても……盗んだものだろう。
もともと自分の物ではないのに……見つかって当然だ。
大声でそう言ってやりたかったが、今は口どころか、手足も動かない。
ただ、なされるがまま。
ヘルガーが歯にかける力をあげてきた。
痛い……
こんなに『痛い』と感じたのは久しぶりだ……
なんでこんなに冷静でいられるんだろう。
さっきとは違い、不思議と心が落ち着いている。
これはきっと……自分の中で認めているのだろう。
どうしようもない……ということを。
ブチッ
ヘルガーが思い切り首を引いた瞬間、鈍い音があたりに響いた。
……どうやら耳を食いちぎられたようだ。
耳のあたりから鋭い痛みと生温かい物を感じる。
落ち葉の上を流れる赤い液体。
ヘルガーの口からも赤い液体があふれている。
「久し……が……わ……も……よ…………」
何か言っているようだが、頭に入ってこない。
頭の中が真っ白になっていく。
目の前の景色がぼやけていく。
意識が遠のいていく。
このままあっちの世界に行っちゃうんじゃないだろうか。
「さて、つぎは尻尾でも行こうか?」
ヘルガーが再び大きな口をあけて噛みつこうとする。
もう、どうなったっていい。
どうせ病弱な自分だから、ここで死んだってそんなに変わらない。
このまま……あっちの世界に行ったとしても、ね。
が、その瞬間、ものすごい衝撃波が押し寄せ、ヘルガーを吹き飛ばした。
「ワタシから逃げれると思ったら大違いだよ!」
「ヘルガー! もう自由にはさせないですわ! きゃー!」
「ヘイヘイ! プクリンのギルドの名にかけて!」
「えーっと、逮捕するでゲス!」
「みんな、行くよ! たぁー!」
ヘルガーを吹き飛ばしたのはオウムのようなポケモンの大声。
どうやらあっちの世界はお祭中だったらしい。
物凄く賑やかだ。
「こいつら! なぜ俺の居場所が分かった! ここに来るまでは誰にも見られてなかったはずなのに!」
「本当にそうか?」
「誰だ!?」
地面から四匹の茶色いポケモンが現れた。
四匹……じゃない。二匹だ。
ダグトリオとディグダ。
「まさか、地面の下でつけられているとは思わなかっただろう?」
「流石お父さんだね!」
「くそっ! ひとまず逃げるぜ! お前らに俺は捕まらないさ!」
『やってみなければわからないよ!』
「なんだと!?」
「残念だったね♪ もう後ろは取ってあるよ♪」
プクリンがヘルガーの後ろに立っている。
今まで別のところにいたはずなのだが。
「観念してね♪」
「くそ……しかたないな。ほら、連れてけよ。」
「依頼完了だね☆」
プクリンとその弟子たちに、ヘルガーが連れて行かれる。
連れていかれる間際、ちらっとヘルガーがこちらを見た。
……あれ?
今、一瞬ヘルガーが笑ったような気がする。
捕まって観念したのだろうか……?
いや、ただの見間違いだったようだ。
こんな状況になって笑っていられるはずは……ない。
――――――こうして、ヘルガーは捕まった。
私はあの後、ドゴームって言うポケモンに担がれて、すぐに病院に運ばれた。
もう少し遅かったら、血が多く出すぎて危なかったかもって。
しばらく入院してたけど、その間、プクリンやその弟子たちが、かわるがわるお見舞いに来てくれたんだ。
ある時にはダグトリオとディグダが二匹(?)そろって来た時があった。
「すまない! ……あのとき私達が判断に躊躇しなければ……あなたの右耳の半分は無くならずに済んだかもしれない。許してもらえるとは思っていないが、一応……謝罪だけでも聞いてほしい。」
いきなり頭をさげられて驚いたが、すでに起きてしまったことはしょうがないとしか言えないし、
それに……
助けてもらったポケモンに謝ってもらうなんて……なんかおかしいと思うんだ。
そのことはしっかり伝えておいたよ。気にしないで、って。
その後も三日に一度くらいのペースでお見舞いが続いた。
ある時、一回しか会ってないのになんでこんなによくしてくれるの? って聞いたら、
「怪我してたらほおっておけないでしょ? ともだち! ともだち〜〜〜!」
って言うんだ。
他の弟子ともいろいろお話できたし、いつになく楽しかったな。
楽しい日々はすぐ過ぎていく。
右耳は半分無くなっちゃったけど、無事退院できる日がやってきた。
別に、退院できる日とは言っても、誰もおめでとうとか言ってくれるポケモンはいないし、喜んでくれるポケモンもいない。
ずうーっと部屋に籠りっきりだったから。
そう思ってた。
だけど、違った。
病院を出ると、声が聞こえてきた。
「やぁっ! 退院おめでとう♪ 元気そうでなにより♪」
声のしたほうを振り向くと、そこにはプクリンがいた。
私のために来てくれたのだろうか?
「お忍びで来てるから、早くしないとペラップに怒られちゃうよ〜」
あれ?
なんだか目から涙が……
「ん〜? どうしたの? 涙なんか出しちゃって。 涙なんかにあわないよぅ♪ ほら、わらって〜?」
なんでだろう。
このポケモンを見てると不思議な気分になる。
「じゃあ、ボクはそろそろ行くね♪ じゃあね〜! ともだち〜〜〜!」
……かっこいい。
あれがギルドのおやかたなんだ。
…………私もあんな風になりたいな。
だけど、こんな私じゃなれないよね。
『やってみないとわからないよ!』
え? プクリン?
辺りを見回す。
だけど、どこにもプクリンの姿はない。
一体なんだったのだろうか……
……やってみないとわからない、か。
もしかしたら、こんな私でも、なれるかもしれない。
……よし。
行ってみよう。プクリンのギルドに。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
冒険は、始まったばかりだ。
続く……
〜プロローグを書いてみて〜
なんかいきなり危ないシーンが(ry
この後、半分の右耳がトレードマークになったりならなかったり。
ヘルガーさん頭に血が上りすぎです。
冷静を装っているようですが。
冷静ならばいきなり耳に噛みつくなんてことはしないでしょうなぁ。
次回予告(?)
一人プクリンのギルド目指して歩いていた時、思わぬ出会いが……
それが思わぬ展開に!?
半耳イーブイの運命はどーなる?
―――――――――――――――――――
補足説明2
っ【いきなり噛みつくとか……ヘルガーいきなり何やってるんっスか?】
仕返しということで頭に血が上ってて思いつきでやった、みたいな状況を表現したかったのですが……
やっぱりキツかったですね。すいません。
っ【ダグトリオ出てくるタイミング考えて欲しいッス。】
これはもう完全にふにょんのせいです。ごめんなさい。
もし、追いついていたのなら、そこで技を出せば効果抜群で、耳も噛み切られずに済んだのでは?
とのご指摘をいただきました。
一応、仲間を呼びに戻ってしまった&技の出すタイミング、場所を見計らっていたら時間がかかってしまったということにしておいてください。
いい加減ですいません。
っ【なんでヘルガーはイーブイの家を知ってるんっスか?】
……これはごめんなさいとしか言えない。
思いつきで書いてしまった自分が恨めしい。
これについては、
『イーブイの住んでいる町の近くにヘルガーのアジトがあったので、
周辺地理については、詳しく調べ上げていたので知っていた。』
という理由があったのですが、出すタイミングがなく、けっきょくこういう形になってしまいました。
もっと考えるべきでした。すいません。
私は、生まれつき体が弱かった。
グレイシアのお母さんからイーブイとしてこの小さな町に生まれた時から。
風邪なんかはしょっちゅうひいてたし、もっと重い病気にかかって生死の淵をさまよった時だってある。
健康な時よりも、怪我や病気で家にいたときのほうが長かった。
外で他のポケモンが遊んでても、いつも眺めてるだけ。
みんなはいいな……
私もこんなに体が弱くなければみんなと遊べるのに……
毎日毎日そんなことを考えながら過ごしてきた。
お母さんは十四歳の時に、出かけたっきり戻ってこない。
優しくて強いお母さんのことだから……
この街じゃないところで、きっと幸せに暮らしてるはず。
こんな私も、もう十六歳。
きっと、今まで生きてこれたことも奇跡だと思う。
――――――そんなある日
私はいつも通り、窓から外を眺めていた。
相変わらず、外には出れない。
家の前のレンガでできた赤い街並みをただ眺めるだけ。
いつもこうやって時間を過ごす。
歩いて行くさまざまなポケモン。
楽しそうに会話しているミズゴロウとウパー。
落ち込んだ様子で歩いて行くミミロル。
並んで飛んでゆくオニスズメとオニドリルの親子。
あたりをキョロキョロ見ながら何かを大切そうに運んでゆくヘルガー。
毎日違う景色になる。
だけど、自分はその中にはいない。
助けてくれる家族もいないし、話してくれる友達もいない。
知り合いといえば、日用品をいつも運んでくれるペリッパーさんだけ。
少し会話もするけど、大抵は次の仕事があるから、ってすぐに行ってしまう。
別に、寂しくはない。
もう、一匹でいることになれちゃったから。
夕日が山の向こうに沈んでいく。
今日も何事もなく、終わってゆく。
朝から晩まで、ずーっと眺めるだけの生活。
明日も、明後日も、ずーっと死ぬまで続くかもしれない。
死ぬまで続くにしても、どうせそのうちすぐその時が来るんじゃないかなぁ、と考えたりもする。
そんなことを考えてつつボーっとしていたら、通りの向こうから声が聞こえてきた。
「おい! 見ろよ! こんな田舎にあの有名なプクリンのギルドの一行が来てるぜ!?」
「本当だ! あのピンク色の姿をしたのは間違いなくプクリンだ!」
何やら騒がしい。
一応目の前の通りはこの街一番の通りだから、通るポケモンも多く、賑やかではある。
だけど、いつもとはまた違った騒がしさだ。
確か、プクリンのギルドとか言ってなかったっけ?
プクリンのギルド……ああ、昔一度ペリッパーさんから聞いたことがある。
お宝を探して手に入れたり、困ってる人を助けたり。
ギルドって言うのは、そんなことをするポケモンたちの集まりらしい。
その中でも、プクリンのギルドはこのあたりで一番有名、と言っていた。
確かに、有名ということはある。
通りは既にポケモンだかりができはじめていた。
「やぁ! 僕はプクリン! よろしくね♪ ともだち! ともだち〜〜〜!」
「おやかたさま! 誰に言ってるんですか!」
「え〜? ここにいるともだちにだよ?」
「ともだちって……全員初対面の方ばかりじゃないですか!」
「顔が合えばみんなともだち!」
「おやかたさま……」
窓から見る限り、プクリンとぺラップしか見えない。
こんな田舎町に何をしに来たんだろう?
「ねぇ! 友達のみんな! 一つ聞いていいかい? このあたりに、ヘルガーって言うとっても悪ーいポケモンが逃げ込んだらしいんだけど、みんな知らない?」
「これがそのヘルガーだ。誰か知らないか?」
ぺラップが空から何かの似顔絵のようなものが入った紙をばらまいている。
私は、体は弱くても、目はいい方だと思ってる。
数メートル先のものだったら読める。
――――――――――――――〜依頼詳細〜―――――――――――――――
ミチユクポケモンヲ ウシロカラオソッテハ ドウグヲウバイマス
モクテキノタメニハシュダンヲエラバズ ナニヲシテクルカモワカリマセン
ケガヲシタポケモンモオオク カナリキケンデス
ゴネンイジョウトウボウシテオリ ヒガシノヤマノホウコウニ ニゲタトノジョウホウイライ
ショウソクガ ツカメテイマセン ジョウホウトタイホニ ゴキョウリョククダサイ!
依頼主:ジバコイル
目的:ヘルガーの情報収集と逮捕
難しさ:☆9(1500)
お礼:???
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カタカナが多くて読みにくい。
って言うか、こういった文字自体そんなに見かけない。
足形文字のほうがよく使う。
へぇ……犯人はヘルガーなんだ……
ん? ヘルガー?
そう言えばさっき……
何かを大切そうに運んでゆくヘルガー。
……………………まさか。
まさかまさかまさか。
で、依頼書。
ミチユクポケモンヲ ウシロカラオソッテハ ドウグヲウバイマス
やっぱりそうだ。
さっき大事そうに持ってたのは多分、盗んだ道具なんじゃないかな。
「ランク☆9の大悪党だ。逮捕のために、ギルドをあげてやって来たんだ。誰か少しでも情報があったら教えてほしい。」
「教えて! ともだち〜〜〜!」
どうしようか。言いに行くべきだろうか。
……でも、家から出るのなんて……何か月ぶりだろう。
病院に行った時以来、かな。
……うん。行こう。
心を決め、玄関から数か月ぶりに外へ出る。
たくさんのポケモンたちが、プクリン達の周りを囲んでいる。
プクリンに話すために、進もうとする……が。
自分よりひとまわり、ふたまわりも大きいポケモンたちに押し返されてしまう。
ただでさえ小さな種族なのに、運動したり、たくさん食べたりしていなかったから、更に小さかった。
メタグロスに踏まれそうになったり、ダストダスに埋まりながらも、ポケモンたちの足元をすり抜け、最前列についた。
そして、「そのポケモン知ってます」と、プクリンたちに向かって言う。
が、周りのポケモンの声にかき消されて伝わらない。
自分の出せる精一杯の声でもう一度。
『そのポケモン知ってます!』
しーん……
その声を聞いた群衆が一瞬にして静かになる。
ペラップが、こちらに近づいてきて、話しかけてくる。
「そこの君、今、知ってるって言ったよね? 本当かい?」
「は……はい。」
周りを見回す。
みんなが私を見ている。
とくとくとくとく。
自分の心臓の音が耳元で聞こえる。
緊張で気を失ってしまいそうだが、なんとか意識を呼びとめる。
「そんなに緊張しなくてもいい。ワタシはペラップ♪ さぁ、知っていること、なんでもいいから教えてくれ。」
「あ……あの……その……ヘルガーです……よね?」
「そうだ。先日、このあたりで目撃情報があったらしい。」
「え……えーっと……今日の夕方……あ……あっちの山の方角に……何かを運んでいる……ヘルガーを見ました。」
声が上手く出ない。
どうしてもカチコチしてしまう。
理解してくれただろうか……?
「おやかたさま。」
「うん。わかってる。ともだち! ありがと〜!」
「では、後を追うことにしましょう。」
「じゃあ、ぼくたちはいくよ。またね♪ ともだち! ともだち〜〜〜!」
どうやら理解してくれたみたいだ。
プクリンとぺラップは何やら嬉しそうに去っていった。
……あれ?
さっき、『プクリンの一行』って言ってなかったっけ?
一行って言う割には、二匹しかいなかったけど……
でも、ちゃんと伝わったみたい……よか……った。
緊張の糸が途切れてか、目の前の景色が一瞬にして歪んで見えなくなった。
どうしてあそこまで緊張しちゃってたのだろうか。
しばらくして自分の部屋で気がついた後、しばらく考えていた。
あそこで気を失って倒れた後、メタグロスが運んでくれたらしい。
気がつく前に帰っちゃったみたいだけど。
もうすっかり暗くなっている。
どの位の時間気を失ってたんだろう?
頭が痛い。薬飲んで寝よう。
夜更かししても何の得もないし……
お休みなさい……
――――――――――――――――――――――――――――――
続く。
補足
※年の数え方は人間とは違うかもしれません1年≠1歳
どれ、ロングにも進出してみるとしましょうか。
結構危ないシーンもあるお話です。
苦手な方はご注意くださいまし。
なぜ半耳イーブイだって?
それは、プロローグを読んじゃってくださいな。
このお話は、すべて
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【批判していいのよ】
【何をしてもいいのよ】
【途中で話が止まるかもなのよ】
のタグが付きます。
よろしくお願いします。
追加タグ
【おかしいところはどんどん指摘してほしいのよ】
追加説明
一話一話の間に、『,5話』という物も一緒に進行させていきます。
整数話が本編、『,5話』は、スペシャルエピソード的な物です。
夜遅くなってしまった。家が遠いというのに、先輩の話が長かったせいだ。おかげで夕食には間に合わず、街灯少ない野道を急いで帰る。田舎のミシロタウンへと続く道は草むらが生え放題。野生のポケモンに出会っても厄介だ。草むらを避けて帰る。
「ただいま!」
「ザフィールお帰り」
白い髪の少年は、何事もなかったかのように二言めにご飯ちょうだいと母親に甘えた。今日のご飯は鶏肉。取るものとりあえず、食卓につく。
「そういえば、明日、お隣にお父さんのお友達が引っ越してくるのよ」
醤油を取りながら、そういえばそんなことを言ってた記憶を引き出す。
「へえ、どんな人?」
「ほら、ポケモントレーナーの渋い人よ。テレビにもたまに出てるわよ」
テレビに出るポケモントレーナーがどれだけいるのか知ってるのか。そう思いながらとりあえず頷く。
「そうそう、ザフィールと同じくらいの子がいてね。小さい頃会ったことあるじゃない、4才くらいに」
「そんな昔のこと覚えてるわけないよ」
「あらそう?あの時、その子と喧嘩になって泣かしちゃってたじゃない。本当恥ずかしかったわあ」
もう時効だ。母親の話を流しながら、白飯を口に運ぶ。無言で食べ終わると、2階の部屋へと上がっていく。パソコンをつければメールが来ているかチェックしなければならない。
「うは、明日もかよぉ、なんてついてない。鬼畜だなマツブサさん」
画面の前で独り言を言いつつ、返信を打つ。行くと。すぐに電源を消す。本当だったら招集に応じることなく過ごしたいところであるけれど、マツブサに対してそんなことはよほどの理由がないかぎりできるわけがない。
それでも明日会える人がどんな人なのか、とても興味があった。もしかしたら仲良くなれるかもしれないし、何より田舎のミシロタウンに友達ができることが嬉しくて仕方ない。
真っ暗な荷台で、ガーネットは段ボールに埋もれるかのように寝ていた。トラックの床にはシルクが寝ている。
引っ越しの車にはシルクを入れることが出来ない。荷台なら乗せることが出来たので、一緒にいることにしたのだ。それに、一人になりたかった。誰とも話したくなかった。狭くて暗いところにいれば落ち着くような気がしていた。
大きな怪獣が苦しんでいた。ガーネットは思わず手を差し伸べる。すると怪獣はとても喜んで抱きしめた。「憎しみの心は捨てなさい、全ては心が決めるのだから」怪獣はそういった。
「おねえちゃん!!!!」
妹の声がする。思わずガーネットは起きた。夢だったようだ。うなされていたのか、心配そうに顔を覗き込んで来る。
「だいじょうぶ?あたらしいおうちついたよ」
「くれない、大丈夫。ありがとう」
彼女のポケモン、エネコがポニータのゆれるしっぽとじゃれていた。
すでに積み荷を下ろし始めている。引っ越し屋のゴーリキーたちが家の中を指差している。中を片付けろという意味なのだろうか。ガーネットは荷台から飛び降りると、家の中に入って行く。くれないも後ろにくっついて中に入っていった。
家の中では母親が忙しく働いていた。段ボールに囲まれてゴーリキーたちに指示を出して。父親は一緒に荷物を運んでいる。ジャマにならないように、2階の部屋に上がる。二つの部屋に段ボールが山積みになっていた。片付ける気にもならない。くれないは楽しそうに段ボールを開けて何がどこかと整理している。
「ガーネット、ちょっとシルク貸してくれる?荷物多くて運んでもらいたいの。それとくれない連れてちょっと散歩してきて!」
外から母親が叫んでいる。窓から顔を出すと、シルクのボールを投げる。
「いいよ!くれない、行くよ!」
彼女は楽しそうにエネコとじゃれながら段ボールで遊んでいる。整理しているように見えたのは気のせいだったようだ。時々来るゴーリキーがとてもジャマそうな顔をしていた。声をかけるとすぐに段ボールを放り出す。
「お、ガーネットどこか行くのか?」
手ぬぐいを巻いた父親が段ボールを運びながら声をかけてくる。中にいた母親に手渡され、積み上げられて行く。
「散歩に行こうと思って」
「それなら、この町にオダマキ博士っていうお父さんの友達がいるんだ。手があいたら行くから、ちょっと先に挨拶してきてくれないか?」
先に行けばいいのに、と心の中では思ったけれど口には出さずに行くとだけ答えた。どうせ暇だ、散歩がてらに行ってみるのも悪くない。それにくれないは行く気満々のようだった。
ミシロタウン。ホウエン地方の田舎町だ。前に住んでいたところは人がたくさんいて、毎日人ごみの中を歩いていた。ここは人通りもまばらで、静かなところだった。看板を頼りにオダマキ博士を訪ねる。歩いていくと大きな建物が見えてくる。あそこだなと道沿いをまっすぐ歩いた。
研究所の入り口は普通の建物のようだった。ドアノブに手をかけると、勢い良く扉が開く。そして中から人影が飛び出していく。その勢いに避けれず、肩がぶつかった。
「あ、わりぃ!」
それだけ言うと少年は後ろを振り返らず走って行ってしまった。見たことのある顔。昨日、夕方に見た妖しい男そのものだった。ホウエンに帰ると言っていたし、矛盾は無い。気付いたところで追い掛けようにも、すでに影はない。
「逃げられた・・・けど今度は一人か」
もしかしたら一人ならば押さえられるかもしれない。
「くれない、お姉ちゃんはちょっと用事あるから待ってるんだよ」
「うん、わかった!」
追い掛けていけば目撃した人間がたくさんいるかもしれない。そう思うとガーネットは走り出した。その後ろ姿を疑うこともなくくれないは見送る。
走っていった影の方向にひたすら走る。小さい町だし、途中で別れる道もない。まっすぐとミシロタウンと101番道路を結ぶ入り口へと向かっていた。町の外に勝手に出ると、ポケモンが襲ってくると言われていた。けれど今はそんなことに構っている暇ではない。思い切って101番道路へと駆け出した。
「たすけてくれー!!!」
あたりに響き渡る男の声。思わずそちらの方へと走っていく。
ガーネットの目に飛び込んで来たのは、黒い犬が白衣の男を追い掛けてる姿。吠えて威嚇している。あの力とスピードはポケモンだ。
男が小さな石に躓いて転んだ。鞄の中身が盛大にぶちまけられ、そのうち赤と白のモンスターボールが一つ、ガーネットの足元に転がって来た。
「黒い犬を追い払って!」
思わずモンスターボールを拾って投げつけていた。現れたのは見たこともない、青いポケモン。魚のようなヒレがあった。一度ガーネットを振り返ると、すぐに黒い犬に体当たりをした。横から来た小さな乱入者に、黒い犬もうろたえる。怯んでいるところにもう一度、体を使った攻撃。鼻にあたり、おびえるように黒い犬は逃げていった。
「大丈夫ですか?」
倒れてる男に駆け寄る。膝を擦りむいた程度。他はけがもなかった。
「大丈夫・・・おや、センリのとこの・・・確かガーネットちゃん?」
「はい、私はそうですが」
「そうかそうか、今日だったんだっけ。すっかり忘れてたよ。私はオダマキ。ポケモンを研究しているんだ」
これが父親の言っていた博士のようだった。何事もなかったかのようにこぼれた鞄の中身を拾う。残りの一つのモンスターボールはガーネットの手の中。
「そうだな、助けてくれたお礼にそのポケモン、ミズゴロウをあげよう。中々丈夫なポケモンだぞ」
「え、あ、ありがとうございます。私いそがないと・・・」
「忙しいのかい?」
「はい、白髪で私と同じくらいの男の子がこっちに来たかと思って、それで・・・」
「あーなるほど」
オダマキ博士は鞄を背負う。そして笑顔で言った。
「その子なら、夜にはここに来るよ。待ってた方がいいんじゃないかな?」
ガーネットにはその意味も解らなかったが、勝手が解らない場所のこと、下手に動くより待った方がいい。そう判断した。
「うひょー、今日グラタンだぜー!」
とろけるホワイトソース、焦げたチーズの匂い。想像しただけでよだれが出てくる。ザフィールはミシロタウンにある自宅へといそぐ。今日の集まりはただの指令伝達だけだった。「アクア団との戦いに備えてミナモシティのアジトまでいつでもかけつけられる距離に来い」というだけの。ここからだと最も速く空を飛ぶポケモンでも3時間はかかる。しばらく家を空けなければいけない。
どうしたら家族に怪しまれずに何日も外に行けるか。一瞬だけ考えた。答えがすぐに見つかったから。
父親の手伝いをするふりをしながらここから行けばいい。そうすれば誰も怪しまない。誰もが本当の目的なんて解るわけがない。
ミシロタウンの入り口で足が止まる。ものすごい視線。誰かが殺気を隠すこともなく見て来ている。アクア団の襲来にも思えた。しかし敵はどこにいるのか検討もつかない。注意深く見回してもそれらしい姿は無い。
「見つけた、人殺し!」
目の前を炎が走る。この地方ではあまり見かけないポニータが突進してきた。避けきれず、体が宙を舞う。背中から着地し、思わず咳き込んだ。
「覚悟しな人殺し、大人しくしてろ」
足音が自分の前に来る。アクア団かと思って見上げると、自分と同じくらいの女の子。
「ま、まて、何のこと・・・」
「とぼけるんじゃないわよ!あんたは人を殺し、挙げ句しらを切るって言うわけ?それとも、相方がいなければ何もできないのかなぁ?」
一歩詰め寄られる。思わずそのまま後退する。次の瞬間、胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる。信じられない光景に、ザフィールは何も言えない。
「な、なんて力・・・」
「そんなのどうでもいいわ。で、どうなの?素直に白状する気になったの?」
「だから何のこと・・・」
地面に落とされる。突然で着地も上手く出来ない。走って逃げることも出来ずにいると、しゃがんで顔を覗き込まれる。
目が合った。息が止まりそうだ。うっすらとザフィールの目に涙があった。
「まだしらを切るつもり?」
「お、俺は何も知らない!だいたい人なんて殺してない!」
「あら、そう。残念ね、素直に白状するならばここで帰してあげようと思ったけど、認めないならいいわ」
首に手が回る。地面に押し付けられ、ゆっくりと気道がしまっていく。このままじゃ死ぬ。よくわからない女に殺される。ザフィールが恐怖を感じた時に、女は手を離す。
「苦しい?私の友達もそうとう苦しかったと思うの。それくらい味わってもいいと思うのよね」
「だから、俺は・・・」
ゆっくりと起き上がる。女の目は自分を犯人と決めつけていた。何を言っても聞いてもらえる様子は無い。隙を見て逃げ出すしかない。ザフィールは相手を見据えて隙を探した。一瞬で立ち上がり、そして駆け抜ける隙を。足にいつでも動けるよう力を入れて。
「そう、本当にやってないって言うのね」
「俺はやってない!」
「よくわかった。じゃああんたが真犯人をあげて自分じゃないって証明するならば、犯人じゃないって認めてあげる。それともここで死んでいきたい?」
「はぁ!?何で俺が・・・」
ザフィールは黙る。もしここで断れば永久に押し問答か、そのまま死ぬ。だったら、ここはひとつ。
「わ、わかった。言う通りにする」
「随分と物わかりいいのね、お名前は?」
「な、名前!?俺は・・・」
ふと女が自分のポケットを触っているのに気付いた。そこにはポケモントレーナーとしての身分証明書、トレーナーカードが入っているのだ。もちろん、本名もばっちり。
「ザフィールっていうんだ。よろしくね、ザフィール君」
にっこり笑って左手を差し出されては、その手を握るしかない。ただその手はおそろしく汗をかいていたに違いない。
「じゃあ明日から、貴方の行動を見張らせてもらうから」
「え!?それは困る!」
マツブサに言われた、ミナモシティに来いという命令。誰かに見られていたら、遂行するのも出来ない。それにこの活動は家族も知らない秘密事項なのに。
「なんで?潔白なら構わないでしょ?それとも知られたくない秘密でもあるわけ?」
「い、いやありません。でも、俺は、その、ポケモンの調査しなきゃいけなくて、だからついて来られるとポケモン逃げたりしちゃってちょっと無理かなーって思うんですよはい」
にらまれる。蛇ににらまれたカエルのごとく動けなかった。
「いや、その・・・」
「わかった、その調査手伝ってあげるわよ。これでいいわよね?」
「い、いえ、文句ありません・・・」
「そう、よろしくね。それと私はガーネット。少しでも不穏な動きをみせたら始末するから」
男以上の力を持っていて、なおかつにっこりと笑顔を向けられたら、誰でもイエスとしか言えない。ザフィールも例外なく解りましたと答えていた。
もう走る元気もなかった。連絡先もあれこれ聞かれ、オダマキ博士の息子なんだというところまで握られ、やっと帰宅したのは、昨日と同じくらい遅い時間。空腹は限界を訴え、喉もカラカラ。締め付けられた首はまだ違和感が残ってる。
「ただいま」
元気なく家に入ると、珍しく父親のオダマキ博士がいた。いつもなら寝てるかパソコンで論文を作ってるのに。
「おかえりザフィール、どうしたんだ?」
「いや、その・・・・」
「そういえば、今日引っ越してきたガーネットちゃんがお前のこと探してたぞ、会ったのか?」
もう一度、とザフィールは言った。
今日は引っ越して来るといってた。そして自分と同じくらいの女の子ともいってた。そして名前はガーネット。
信じられない。小さな頃とはいえ、泣かしてしまったのだから、もっとか弱い女の子だとばかり思っていた。目の前に焼きたてのグラタンが出て来ても、ザフィールはしばらく動けない。
「会った、すごい力もってて・・・」
「ああ、確か特性だな、たまにいるんだよ、人間でもポケモンの特性持っちゃうのが。お前だってその逃げ足、尋常じゃないと思ってたら特性だっただろ」
誰かの論文の中にそんな実験結果があったような気がした。早起きが得意な人、晴れると生き生きする人、反対に雨だと生き生きする人。そのような特性を持った人間がいるという。その中でもあの力は「ちからもち」だろう。並の人間では勝てる代物ではない。
「そうなんだ・・・あ、それとさ、俺ポケモンの調査手伝うよ!」
「いきなりどうした?嫌がってたのに」
「いや、なんか俺も少し手伝わないとなーって思って」
「そうか、それならば」
モンスターボールが机の上に置かれる。机の下に出してみれば、緑色のトカゲ、キモリがいた。
「お前の逃げ足についてこれるのはこいつくらいなものだ。大切にしろよ」
「わかった。立派に育てるよ」
キモリをボールに収める。焦げたチーズの匂いにつられ、ようやく左手にフォークを持った。
「いただきます!」
期待していた通りの味に、ザフィールは嬉しくて食べる速度が上がる。この時だけは、今日の出来事を全て忘れ去ることができる時間。おいしい料理は癒しだ、とつぶやいた。
「いいのかなあ」
段ボールだらけの部屋で、窓から星空を見ていた。あちこちに雲が出ている。前に住んでいたところよりも星の数が多い。膝に抱かれているミズゴロウは喉を鳴らしてガーネットに甘えていた。
「ねえどう思う?私はザフィールが犯人だと思うけど」
ミズゴロウは首を傾げる。言葉が解るとは思わないが、ガーネットは聞いて欲しくて続けた。
「でもね、何か違う気がするんだよ。違和感というか。でも世の中、あそこまで似てる人っていないから、やっぱりザフィールなのかなあ」
時計をみればもう寝る時間だ。明日から追跡しなければならない。ガーネットは電気を消して眠りについた。
黒い煙が空へと昇る。雲一つない、きれいに晴れた青い空。春に差し掛かろうとする季節には似合わないほど晴れていた。
親友が死んだ。遺書一つ残さずに。赤い血に染まって、手には銀色の刃を握って。自殺だろうと誰もが言った。
けれども信じられない。自殺するような原因なんてあるわけがない。小さい頃からずっと一緒に過ごしてきたというのに、解らないわけがない。気付かないわけがない。親友への怒りと、自分への怒り、そして起きてる現実を上手く飲み込めず、茫然としていた。
「ガーネットちゃん」
火葬場の外は霊柩車が入れ代わり立ち代わり走っていた。花壇の柵からゆっくりと立ち上がる。親友の母が沈痛な面持ちで立っていた。
「もうそろそろ焼き上がるよ。キヌコの骨、拾って欲しいの」
二つ返事で引き受けた。ついていった先には、釡から出され、棺も燃えて残った骨だけとなった親友。こげた匂いの中、骨壺に収められていく彼女を見て、今まで押さえていた感情が一気に溢れ出した。
初七日が過ぎ、少しずつ彼女のいない世界に慣れて来た。学校に行ってもすでにいつもの雰囲気を取り戻している。けれどそれがガーネットにとって不自然極まりない日常だった。元気づけようといろんな友達が話しかけて来てくれる。気を遣ってもらっているのも心苦しかった。表面だけでも通常に戻ったように振る舞う。
授業が終わると誰よりも早く帰る。勉強しないといけないという理由をつけて、得体の知れない何かから逃げたかった。帰り道、川沿いの土手を歩くと、春を告げる青い花が咲いていた。
「ガーネットちゃん」
正面から歩いてくるのは、キヌコの母親だった。思わず足を止める。
「あのね、ちょっとお願いがあるんだけど、家に来てもらえない?」
どうせ暇だ。ガーネットはそのままついて行く。大したことは出来ないけれど、力になりたかった。
線香の匂いがする。最後に来た時とは随分違う印象だった。親友の最期の姿を思い出し、少し目眩を感じる。玄関に座り、こみ上げる吐き気をこらえる。気付かれないようにしないと、また人に迷惑をかける。キヌコの母親は奥に行くと、丸いものを抱えてやってきた。
「これね、キヌコが生まれたらこの子を連れて歩くっていってたんだけど・・・」
「これ・・・ポケモンのタマゴ?」
前に一度、見せてもらったことがある。キヌコの母親はディザイエというギャロップを飼っていたのだけど、かなり前にタマゴを持ってきた。入れ替わるようにディザイエはその日に死んでしまった。弔いながらキヌコは孵化したら旅に出ると言っていた。けど、中々タマゴは孵らず、ついに生まれてくる子供を見ることなくキヌコはいなくなってしまった。
「私じゃ面倒見切れないの。お父さんがポケモントレーナーのガーネットちゃんしか頼れなくて」
タマゴを受け取る。親友の忘れ形見だ、父親に話しても怒られるとは思うが、捨ててこいとまでは言われまい。お礼を言うと、タマゴを抱えて家に帰る。まだ冷たい春の風。気分はだいぶ楽になった。日差しは暖かく、心地よかった。タマゴも嬉しいようで、中から音が聞こえてくるし、頻繁に動いている。
「ただいま!」
玄関を開けると同時に仁王立ちしていた父親。誇らしげなその顔は、きっと良いことあったんだろう。
「ガーネット!喜べ!お父さんはジムリーダーに就任することに決まったんだ!!」
今までフリーのポケモントレーナーで、各地の大会に出ては成績をあげてきた。その為に家にいない日のが多かった。そして今日は三日ぶりに会ったのである。
これからは、ジムリーダーとして活躍するから、そういうことはなくなると言った。。
「どこのジム?」
「それが聞いて驚け!ホウエン地方、トウカシティだ!だから引っ越すぞー!」
随分遠くだ。ガーネットのイメージでは、ホウエン地方というのは南の暖かいところ。そして自然が豊かなところであると。行ったことはないけれど、話を聞いてそんなことを想像していた。
「それと、その際に・・・ってそれどうしたんだ?」
「これ?キヌのお母さんにもらった。育てられないからーって、お父さんに」
タマゴを床に置く。平な床では、タマゴは転がり、壁に軽く当たって止まる。
「もらったのなら、ガーネットが育てればいい。なあに、ポケモンは・・・」
ぶつかったところからヒビが入る。慌ててガーネットはタマゴを転がし、ヒビを上に向ける。
「ど、どうしよう・・・」
突然のことにガーネットは何も考えられない。それとは反対に、父親はタマゴを見て冷静に言った。
「心配ない、子供が壊してるからだよ」
ヒビが増える。中から殻を突き破り、蹄が飛び出た。それを合図に、タマゴの殻を吹き飛ばす勢いで生まれてくる。
「おお、ポニータだ」
炎に見えるたてがみが特徴の子馬。といっても抱えられるくらいに小さく、子馬というより子鹿のようだ。
生まれたばかりのポニータは炎の調整も出来ず、上手く立つこともできず、よろよろと壁や靴箱にぶつけていた。けれどまっすぐガーネットを見て、こちらに寄ってこようとしている。手を差し伸べると喜んで噛み付こうとした。
「はは、ガーネットを本当の親だと思い込んでるみたいだな。どれ、生まれたポケモン用のご飯があるから、あげてみなさい」
受け取ったのはポケモン用のミルク。また噛み付かれるのではないかと怖々差し伸べると、ポニータはゆっくりと飲み始める。
「すっかりガーネットのポケモンだな。ちゃんと育てろよ」
ガーネットの頭をなでる。そんなことかまいもせず、生まれたばかりのポニータに夢中だった。自分を頼ってくる小さな存在を、これから育てて行く。きっと立派なポケモンになるだろう。
「そうだな、お前の名前は、シルクだ」
シルクと名付けられたポニータは、夢中でミルクを飲んでいた。
ホウエン地方への引っ越しが次の日に迫った。シルクは元気に成長し、抱えられるほどの大きさだったのが、今では子牛ほどの大きさに育って来ている。荷物を持ってくれることもあり、その日も買い物を一緒に行っていた。夕方の帰り道、少し街を外れたところにある家まで帰る。暗く、人通りも少ないために、ポケモンを連れていても迷惑がかからない。
「なあ、ホウエンに帰る前に教えてくれよ」
ひそひそと低い声。道の端に見える二つの影。なぜかそれがガーネットの耳に止まる。シルクを止めた。
「なにをだよ」
「お前、人殺したんだろ、その感想だよ」
息を殺す。気付かれないように、物陰に隠れた。
「ああ、自殺に見せかけて殺すくらいなんともねえよ。特に女はな、力も弱いし斬りつけて終わり。特に何も思わない」
誰のことだろう。けれどもガーネットの中には、思い当たる節があって、それではないことを祈り続ける。
「へえ、お前はやっぱり冷静なんだな。俺だったらそんな子供殺したら怖くて」
「命令は必ずだ。マグマ団のボスに誓った身。目標の名前も覚えてるぜ、確かキヌコっていう、普通の子供だ」
飛び出していた。こいつらが殺したと言った。なによりの証拠だ。捕まえてやる、絶対に・・・
「うわっ!」
ガーネットの声に男たちが気付いた。けれど彼女を捕まえることが出来なかった。シルクが思い切り服を引っ張り、そのまま駆け出したのだ。
その時、シルクの炎に照らされた男の顔。もう一人はフードをかぶって見えなかったが、もう一人ははっきりと見えた。白い髪に緑色のリストバンド。年齢は同じくらいなのに、鋭い目つき。
家に着く。シルクの足では早かった。家族にもあったことは言えず、平気なフリをしていた。頭では男たちの会話と、ホウエンに行くということ、マグマ団という単語がまわっていた。もしかしたらホウエンで会うかもしれない。捕まえても、証拠が自白だけ。そして捕まえて一体何をしたいのか。
「もう、なんか無理だ」
いつもより寝るには早い。けれども今日は疲れてしまった。早めに眠りへとついた。
マルチポストしていいのよ・・・
発端はこの発言。
本当はエメラルドの話をポストしようかと思ったら、友達より「読んでないと解らない」の指摘があったため、その前にルビーサファイアを元にした話を投稿します。
一度完結しましたが、そのメモが全て消えたために、脳内バックアップを吐き出すため、完結まで長い時間がかかると思いますが、そこはご容赦ください。
なお、この作品全てには
【書いていいのよ】【描いていいのよ】【批評していいのよ】
が付きます。
9/15サッドエンディングにて完結。
9/21エンディング詐欺開始。
え?何?きこえなーい
(7/24追加)
主要キャラたち一覧
ガーネット 14才
特性が力持ち。その日の調子によっては鎖も千切れる。
いじっぱりな部分が多数あり。木登りが得意で、木の実栽培が趣味。ポロックはその延長。
トウカジムリーダーセンリの長女で、ジョウト地方出身。
少し人間関係が依存関係を作りやすい。
むじゃきな妹に振り回される場面もあるけれど、基本的に妹に甘い。
ザフィール 14才
特性が逃げ足。逃げられないものはない。
過去に色々悲惨な目にあったりするけれど、本人の性格が陽気な為にそこまで悲壮感を感じない。
オダマキ博士の長男で、ホウエン地方出身。
アニメオタクで理想の彼女は「素直で従順で、いつも心配してくれて、こちらの望みを察知してくれて、放っておいて欲しい時は放置で、かまってくれる時はかまってくれる人」である。
ミツル 13才
喘息持ちであり、療養のためにシダケタウンに引っ越した。
慎重な部分もあるが、うっかりやな部分もあったりする。
実はラルトスに振り回されているが、ポケモンとはこうなのかと納得していたりする。
最近は、肺を鍛えるために軽い運動を始めてるのだとか。
毒を吐くようになったと言われたのは、実はザフィールのせい。
ミズキ 16才
見た目が青いサーナイト。青い服に白い上着。もちろん、サーナイト本人ではない。
まじめな性格なので、少し融通が利かないかもしれない。
実家はイーブイのブリーダー業を行なっていて、ブラッキーはそのイーブイの分け前。
初恋が中学生の時の先生。大柄の人物なのだが、持っているキルリアがかわいい。小さい頃は病弱だったと言うが今は健康そのもの師匠。
ジョウト地方ワカバタウン出身。ある人を探してホウエンに。
ハウト 18才
言葉を趣味で研究している人。ポケモントレーナーではないらしいけれど、ポケモンのことには詳しい。
丁寧で冷静な人。緋色の瞳を持っている。
うまれは違う島だというけれど、今はヒワマキシティにいる。
フォール 18才
ハウトの双子の妹。トレーナーではないけど、ポケモンには詳しい。
少しせっかちなところがあり。金色の瞳をしている。
もちろん、ハウトと同じ島で生まれ、今現在はヒワマキシティ。
ダイゴ 24才
冷たい印象のトレーナー。
穏やかな人なのだけど、そうは感じさせない視線。
ザフィールに対して強さを見せつけるなど、おとなげない行為もあり。
ラティオスとラティアスとつながりがある節(27、ヒワマキシティの住人参照)もあり。
ハルカ 15才
ザフィールの幼なじみ。ちょっとどころかかなり思い込みの激しい子。
昔、彼が被害にあった事件の時に一緒にいたりして、オダマキ博士も心配しているため、親のいない彼女を養子に迎える。
晴れて二人は姉と弟になったわけでした。めでたしめでたし。
な、訳ではない。むしろ義弟は毎日びびっている。
イントネーションが強いので、人によっては怒ってると誤解されることもあるけれど、基本はあまり怒ってない。
鳥ポケモンを主に使い、空中戦ではほとんど勝てる人がいない。
ただいま、タツベイの雌を育成中。
ユウキ 13才(29、ヒトガタの意味初登場)
ザフィールそっくりの男の子。ちなみに彼の事は超以上に嫌い。
まじめな性格で、マツブサに忠誠を誓う一人。けれどマツブサを他のマグマ団以上に恐れている。
手持ちはロコン一匹のみだが、うまれた時からの付き合いのため、とても懐いているし、よく言うことを聞く。
30、マグマ団のアジトでもあったとおり、彼は右利きで、完全に登場する前からもちょくちょく出てはいる。その時はザフィールになりきってる。
体術(リアルファイト時の動き)に優れている。そのため、人を殺すくらいなら簡単。
アレンはダルクに連れられて302番道路に向かった。
「ここは色んな野生ポケモンが生息している。新人トレーナーが新しいポケモンを捕まえるにはうってつけの場所だ。」
「・・・ふ〜ん。」
アレンが辺りを見回すと、ヨーテリーやポチエナ、ガーディ等のポケモンが元気よく走りまわっている。
「色んなポケモンがいるんだなぁ・・・。どれをゲットしようかな。」
すると突然、アレンに何かの影が体当たりしてきた。
「ぐほっ!」
「大丈夫か!?」
「あ、うん。なんとか・・・。」
アレンはお腹をさすりながら立ちあがった。
「今のは・・・ポケモン?」
「ああ、おそらくあいつだろう。」
ダルクが指差した先には、たいでんポケモンのシママがいた。
「どういうつもりだ・・・?僕に体当たりしてきて。」
「おそらく、お前のポケモンとバトルがしたいんだろうな。」
「・・・?どういうことだ?」
「どういうことも何も、ただそれだけのことだろうが。おおかた、お前を挑発してバトルしようってとこだろうな。」
「・・・よし!そう言うことなら、受けて立つ!」
アレンは、ボールを持ってシママに近づいた。
「いけっ!ゴチミル!」
アレンはボールを放り投げ、中からゴチミルが登場した。
「こっちから行くぞ。ゴチミル、ねんりきだ!」
ゴチミルはシママに向けて念力を放った。効いてはいるものの、まだ倒れはしなかった。
すると、シママの稲妻のような形のたてがみが光り出した。
「・・・っ!気をつけろ!でんげきはが来るぞ!」
「!?」
シママのたてがみから電撃が放たれ、ゴチミルに華麗にヒットした。
「ゴチミル!」
ゴチミルはよろけながらも、何とか立ち上がった。
「こいつはすごいや・・・。是非ゲットしたいな!」
「それはいいかもしれないが・・・まだゲットできるほどに体力は減ってない。もう少し弱らせないと・・・。」
「わかってるって!ゴチミル、もう一度ねんりきだ!」
ゴチミルは、再びシママに向けて念力を放った。念力は見事命中し、シママにダメージを与えた。
その時、突然シママの様子がおかしくなった。左右にフラフラ動き回り、時々自分に向けて攻撃している。
「・・・?どうしたんだ?」
「・・・そうか!ねんりきの追加効果で混乱したんだ!チャンスだ、アレン!!」
「よーし、いっけー!モンスターボール!!」
アレンはシママに向けてボールを投げた。シママはボールに収まり、ボールが三回揺れたのちにカチッと音がした。
「ゲットしたか。やったな、アレン!」
「ああ。」
もうすぐハクタイの森に雪が降る季節がやってくる。
そのまえに、私にはやらなければいけないことがある。
ジムリーダーとしての意地とプライドを賭した、壮大なプロジェクト。
絶対に妥協を許すことはできない。中途半端は許さない。
何故に、挑み続けるのか。
いや、もはや私は悟ったのだ。答えなど必要ない。
そこに森がある限り、私は歩みを止めることはないだろう。
軍手、火バサミ、ゴミ袋――人は私をこう呼ぶ、「森林清掃ボランティア実行委員長」と。
『クリーンアップ☆森ガール page3』
「それじゃあ始めましょう! 分別だけしっかりお願いしますね!」
私はハクタイの森の入口に集まった人たちに明るい声で開始を告げた。
朝露で湿った土の匂いに木漏れ日。かなり肌寒い季節になってきたが、今日は絶好の「ゴミ拾い日和」だ。
総勢約五十人は集まったかな――うん、上々。去年はジムのメンバー含めても三十人行ってなかったし。だんだんと街のみんなにも森をきれいにする気持ちが芽生え始めたのだろう。
この「ハクタイの森クリーンアップキャンペーン」は春、夏、秋の年に三回、我がハクタイジムが主催して行っている。開催日時が決まるとその一か月前くらいから、広告を郵便受けに直接ポスティングしたり小学校に案内をだしたりしてボランティアを募る。特に「秋の部」は、夏場に心ないキャンパーが残していった大量のゴミが待ち受けているので、より一層気合いを入れて火バサミを握る。
え? なんかすごい善人面してて私っぽくない? 何言うてはりますのん! これがワタクシの本来の姿でしてよ?
こうやって人の手でゴミを拾うことによって得られるものは計り知れないもので実際に拾うのは汚い空き缶やビニール袋であるとしてもその手やその火バサミが本当の意味で掴んだものは二十カラットのダイヤモンドよりも光り輝きその人の心を浄化し美意識や道徳や善に対する関心を高めなおかつ形而上の議論においては――
「ナタネちゃん見て! こんなところに寝袋捨ててあるよ!」
「あたしのゴミ袋、もうこんなにいっぱいになっちゃった!」
――先陣を切って森を進んでいるのは例の兄妹、ハルキとアキナ――加えてクラスの友達が五人ほど。
「あんまり二人だけで奥行っちゃだめだよー」
あの日曜日にこの兄妹と知り合ってからというもの、彼らは放課後、毎日のようにハクタイジムを訪れていた。今ではすっかりうちのメンバーのスーパーアイドルに昇格し、黒と赤のランドセルがジムの入口に現れるたびに後輩たちは職務放棄。中でも一番熱を上げて可愛がっているジムトレーナーのチサトなどは最近柿ピーとかブラックサンダーを常時備蓄し、兄妹に餌付けしている。あの、止めてください。
そんなこんなで今では完全に「たまり場」にされてしまっている。まあ賑やかで良いんだけどさ。
「あんな可愛い子たちを家に置いて行っちゃう親は一体どんな神経してんでしょうね? もう親権取り上げていいんじゃないですか?」
うちのジムで一番年下のサキがビールの空き缶をゴミ袋に突っ込みながら言った。モカブラウンの長い髪をお団子にしている可愛い子だけど、本日ほとんどノーメイクなので眉毛が見当たらない。あー、毒舌はいつものこと。
「じゃあサキ、あんたあの二人引き取って責任もって育てなさいね」
「それは無理です。うち部屋狭いですし、彼氏と同棲中なんで」
「あっそ」
どいつもこいつも。まあいい、この前行った「ワンダー・シード」の店長、ショウコさんにコンタクトをとったところ、ノリノリでセッティングを引き受けてくれた。ジムリーダー枠でオシャレ男子をゲットする、してみせる。
タネキチが汚れた発泡スチロールのトレイを咥えて戻ってきた。
「ありがと」私はゴミ袋を広げてトレイを中に入れてもらう。
森の中には和気あいあいと世間話が響く。五十人の参加者とそのポケモンたちが思い思いに交流しながらゴミ袋を膨らませていく。本当なら若い人たちとお年寄りが半々くらい参加してもらってコミュニケーションの場にしてもらいたかったけど、集まってくれた人の大半がお年寄りで、ハルキやアキナが誘ってくれたらしいクラスメイトの小学生が五、六人。若者っていうと私たちジムの関係者だけだった。
しょうがないと言ってしまえばそれまでだ。若い人はゴミ拾いなんてしてる暇あったらアルバイトしたり、友達と遊びに行ったりする――それか家でテレビやパソコンかな。こんなボランティア活動、面倒くさいし煩わしいしで魅力のかけらもないのだろう。
ボランティアといえども、この活動に人を集めるのはある意味でマーケティングである。毎年あの手この手で魅力を伝えようとしているつもりだが、成果はイマイチ。一度交流会としてバーベキューを企画したけど、やっぱりその時もお年寄りと子供たちだけだった――
「今年も一年、お疲れさん!」
色々考えを巡らせていると、すぐ隣りにいたヨシコおばあちゃんに声を掛けられた。
ヨシコおばあちゃんは私が子供の時からの知り合いで、毎年かかさずにこのボランティアに参加してくれている常連さんだ。その火バサミさばきは熟達したもので、器用に枯れ葉の隙間からビニールの切れ端を抜き出して手際よくゴミ袋に放っていく。たしか今年で七十五だったはずだけど、そんな実年齢など忘れてしまうほどパワフルな人だ。
「はい、お疲れ様です。今年も本当にありがとうございました」
私はそう言うと、ヨシコおばあちゃんはガハハと笑った。どんな話をしてもまずは大笑いするのがヨシコおばあちゃんなのだ。
「お礼を言いたいのはね、あたしの方さ。新しい友達もたっくさんできたしねぇ。お譲ちゃんとも普段はあんまりお話できないから、結構楽しみにしてるんだよ」
私は少し照れた笑顔を返した。お譲ちゃんとは私のこと。おばあちゃんはいつもそう呼ぶ。そんな年じゃないんだけど、おばあちゃんからしたらまだまだ「お譲ちゃん」なのだそうだ。
「ジムリーダーってのは他の街じゃポケモンを戦わせるだけなんだってねぇ。それが普通なんだろうけど、ハクタイに住んでるとそんなんじゃないから不思議な感じだよ。シゲさんと言い、お譲ちゃんと言い、街のことを一番に考えてくれてるもんねぇ」
ヨシコおばあちゃんは顔をしわくちゃにして笑う。そして「あら、口じゃあなくて手を動かさないとねぇ!」と言いながら、ほとんど満杯のゴミ袋を引っ張っていった。
シゲさん――私のおじいちゃんのことだ。おじいちゃんはみんなから「シゲさん」って呼ばれちゃうほど、街の人たちから慕われていた。
「おばあちゃん、袋持つよ!」
その「シゲさん」と私を並べて褒めてもらえたことに本気で涙が出そうになったのは、秘密。
開始一時間でゴミ袋が十八個とその他粗大ゴミが森の入口に山積みになった。それでも森からは際限なしにゴミが掘り出されてくる。休憩をはさみつつ私たちはだんだんと森の奥へ入っていった。と言ってもお年寄りが多いからあまり無理はしない。舗装された道からはあまりはみ出さないようにスローテンポで進んでいく。
「知ってる? ここ、ユーレイ出るんだよ!」
「うそだ、ユーレイなんていないもん」
「――ユカちゃんは見たって言ってたよ」
「マサルくんも言ってた!」
「やばいって! 早く行こうぜ――」
ハルキやアキナを含めた子供たちが大きな門の前でなにやらそわそわしていた。あーなるほど、無理もない。右手に見えますのは、ハクタイの森が誇る心霊スポット、「森の洋館」でございます。数年前からこの森を訪れたトレーナーやキャンパーが「不気味な人影を見た」とか何とかで、またたく間に噂がシンオウ中に広まった。
「子供たちの間でもやっぱり心霊スポットとして知れ渡ってるんですねー」
サキがまるで興味なさそうに呟いた。
「そーねー。しっかし、しばらく見ないうちに汚くなったなー。まるでボロ雑巾のよう」
長い間雨風に吹かれ、しみだらけになった壁や屋根。そのみずほらしい姿は当時の面影のかけらもなかった。今やこんな洋館買い手もつかないのだろう。
「ナタネちゃん、ユーレイの噂ホントなの?」
アキナがそう尋ねた。他の子供たちも「ジムリーダーなら絶対知ってるはず」という眼差しでこちらを見上げている。
「ウソだよ」そうキッパリと言ったのは私でなくサキ。
「ちょっとおー」
ホントって言って脅かそうと思ったのにさあ――
でも、サキの答えが正解。目撃されたという人影は勝手に住み着いたゴースやゲンガーに決まっている。この洋館には幽霊など出やしない。だって――
「この洋館はナタネ先輩のおうちだったんだよ」
子供たちの眼差しの種類が一瞬で変わった。アゼンボウゼン、という感じ。
「えっ! えええええーっ?!」
気持ちの良いほどのリアクションだ。ハルキが洋館を三度見した。
「昔ね、私が子どもだった頃に。両親が売っぱらっちゃってからはこんな有様だけど、なかなか素敵なおうちでしょ?」
「――ナタネちゃんはお金持ちだったの?」
「オジョウサマ?」
「すげー! ジムリーダーってやっぱ普通じゃねえ!」
「ねえ、入っちゃだめ?」
まるで授業中にガーディが教室に迷い込んだみたいに子供たちは大騒ぎ。ゴミ袋を放り投げ、柵の隙間から敷地内を覗き込む。幽霊を怖がっていた子も、足を掛けて登れるところはないかと探している。
「だーめ! ガラスとか割れっぱなしで危ないんだから。ほら、みんなゴミ拾い中でしょ!」
「えー、ちょっとくらい良いじゃん!」と、ハルキ。
私とサキでみんなを柵から引き剥がす。子供たちは渋々ゴミ袋と火バサミを拾い、ゴミを探すふりをし始めたが、目線は五秒に一回洋館に注がれていた。そこまで魅力的でもないと思うんだけどなー。
「あ、やっと追い付いた! せんぱーい!」
振り向くとジムのメンバーのチサトがこちらに向かって手を振っていた。遅れて歩いていたボランティアメンバーがぞろぞろと洋館の前まで辿り着く。
「ありゃ! 懐かしいわねこの洋館! 前はここまで来なかったものね」ヨシコおばあちゃんが言った。「昔はよくお茶しに来たわね、シゲさんやジムのトレーナーさんとさ」
「へぇ、そうなんですかー」チサトが洋館を見上げた。「前はもっと立派なお屋敷だったんでしょうねえ――」
おじいちゃんは友達やジムの仲間をよく家に招待していた。天気のいい日なんかは庭にイスとテーブルを出して、メイドさんにハーブティーを出させて、遠くからヤミカラスの鳴き声が響く時間まで語り合っていたのをよく覚えている。おじいちゃんが大きな声で笑うのは、この時くらいだった。その光景を遠くからぼんやり見ていると「ナタネ、こっちにきなさい」と、決まって声をかけられる。学校の話や、おばあちゃんのナエトルと遊びに行く時の話、おじいちゃんから教えてもらった森のポケモンの話をすると、いつもみんなに感心された。おじいちゃんは満足げにそれを見ているから、私はその時が一番安心していられた。
だから絶対に、お兄ちゃんの話はしなかった。
――ズルイ私。
毎日庭師のおじさんが丹念に整えていたきれいな庭は、目の前の景色とはかけ離れている。伸び放題の雑草やカラサリスがぶら下がっている桜の木を見ると、少し寂しさを覚えた。あの時間は、遠い過去の記憶の中だけのもの。
「皆さん、どうもお疲れさまでした! おかげさまで、こんなにたくさんゴミが集まりました!」
拍手喝采。傍らには、私の二倍くらいの高さのゴミ袋の山。やや、これはかなりの量だ。
「後はこちらで責任もって業者さんに引き取ってもらうので、ひとまずこちらで解散となります。親睦会は三時からジムで行うのでお暇がある方はぜひ――では、本日はどうもありがとうござい――」
「ナタネちゃん」
締めようとした私に待ったをかけたのは、アキナ。あれ、なんだろ、嫌な予感。
「――ナツコちゃんとミフユちゃんがいません」
いち、に、さん、よん、ご――子供が二人減っている。
あー。
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