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「ジムリーダーとは、単にジムの長としてバッジを管理し、挑み来る者を見極める役割を言うのか? 否。ジムリーダーとは、ポケモンバトルを通じ、その街を興す者なり。地域に住む人々のことを誰よりも考え、将来を担う子供たちと触れ合い、その街を内側から盛り上げていく者なり」
おじいちゃんが私に残してくれた言葉だ。
私を養子として迎えてくれたその家のおじいちゃんは、昔ハクタイシティのジムリーダーだった。幼い私にポケモンを教えてくれたのはおじいちゃん。一緒に森に散歩に出かけてはそこに住むポケモンの名前や特徴、主な技など、そんなにたくさん言われても小さい私には分かるわけないのに、教えてくれた。それはもう熱心に。
――もうちょっと簡単に言ってよ。専門用語使われても分かんないよ。
私はそう思っていても口に出さず、うんうん頷いて分かったふりをした。おじいちゃんが機嫌を損ねるといけないから。物分かりの良い子供でいなきゃいけないから。
大人になって思う。ちゃんと分かんないことは聞き返すんだった。おじいちゃんはあんなに本気だったのに。
アタシ、ウソツイテタンダ。
今更悔やんでも、そのこと、伝えようがない。
――てか冒頭こんなシリアスなのはちょっとマズいんでないかい?
テンションを戻そう。テンポ大事だよテンポ。
『サンセット☆森ガール page2』
二つ並んだオムライス。二つ並んだ、満面の笑顔。
「いただきます!」
「いただきます!」
同時にスプーンを手に取り、卵を崩す。ほおばる。そしてまた満面の笑顔。
「おいしい! 絶品! オムライスにはうるさい僕もこれにはうならざるを得ない!」
「ホント! 星三つです! シェフをこちらへ!」
男の子はハルキ、女の子はアキナという名前らしい。十ニ歳のハルキが兄で、三つ下のアキナが妹。本当に彼らは今日二人だけで電車に乗り、このコトブキの街へやってきたのだという。
なんと映画を見に来たらしい。「『ディープフォレスト』っていうホラー映画なんだけど、かなりマイナーな映画でさ、シンオウだとコトブキのシネフロでしか上映してないんだ。でもアキナがどうしても見たいっていうから」とハルキは流暢に言った。どうもこの子たちは不必要に大人びている。普通小学生だけで街に行かせる親なんていないよね? 他の追随を許さないレベルの放任主義だ。そしてホラー映画が好きな小学生の女の子もあまりお目にかかれない。
「予告は結構良かったんだけど、期待外れ。あんまり怖くなかったよね? お兄ちゃん」
「うん。始まって十分で展開が読めちゃった。死体がゾンビになって土から出てくるところもあんまり迫力なかったし。カメラワークが悪かったのかな」
ホラーなんてわざわざ見に行く人々の思考回路は私には到底理解できたものではないが、この子たちの映画に対する評論家視点はもっと理解できない。カメラワーク? そんなもの気にしながら映画をご覧になるのですか?
「ナタネちゃんは食べないの?」と、アキナが口をもぐもぐさせながら聞いてきた。
「あー、うん。あたし今ダイエット中だから」アメリカンコーヒーを一杯だけ注文しただけの私はそう答えた。別にダイエットなんてしていない。
「オトナのジョセイはやっぱりタイヘンなんだ」そう言ってからまたオムライスを一口。ホントに幸せそうだ。
学校ではリレーの選手らしいハルキがドンキホーテから走って戻ってきてからは彼らのペースに飲まれっぱなしだった。いや、思えば最初から二人のペースだったけど。仕方なく路上でサインを書き、握手をした後「これから僕たちご飯食べに行く予定なんだけど」となり、気付けば三人でファミレスで「三名様ですね、禁煙席でよろしかったですか?」だ。
おかしなことになってしまった。ぱっと見この三人組はありえない光景だよな明らかに。私、お母さんにはさすがに見えないだろうし年の離れた姉とするにもちょっと難がある。隣りのボックス席のカップルがチラチラこっちを見てるのは、悪いけどとっくに気が付いている。
「二人とも、食べたらあんまり寄り道しないで帰るんだよ? 遅くなったらお父さんとお母さん、心配するから」
私がそういうと、二人は顔を見合わせた。同時にこちらに向き直り、兄のハルキがにっこりして言う。
「今、お父さんもお母さんも家にいないんだ」
「そうなの」妹がそれに続く。
「僕らのお父さんは仕事でずっと海外だし」
「お母さんは『ポケモンマスターになりたい』って言って一カ月くらい前に旅立っちゃった」
「だから僕ら、今は二人で生活してるんだ」
「というわけで、あたしたちの帰りが遅くなっても心配する人は誰もいないの」
そうなんだ。ふーん。
「……まじで?!」私はコーヒーを吹き出しそうになった。
こんな小さい兄妹が二人だけで生活していることがまず驚愕だったが、一番おかしいのはお母さん、あなただ。ポケモンマスターを目指すには少々遅すぎはしないか? いや、夢を追いかけるのに遅いも早いもないとか美しいことを言われたら何も言い返せないが、少なくとも二人産んだ後の発想ではないでしょうよ?
「でもうちは元々放任主義な家庭だから、お母さんが旅立つ前から僕らこんな感じだったよ?」
「あたしたち別にサビシイとか思ってないし、自分たちで色んなことできるからすごく良いと思ってる」
たくましいなあ、たくましいよあなたたち。このゆとり社会にこんな生き方できるなんて。
ため息。
お会計の時、ハルキが律儀に財布を出した。「いいよ、お姉ちゃんが出すから」と言うと、「ホントですか?! ありがとうございます! あ、僕ら出口で待ってます!」と急に敬語でハキハキとそう告げ、妹を連れて先に外に出た。どこで覚えてくるんだろ、そんなサラリーマンみたいな行動。
私は二人を駅まで送ろうととりあえず改札まで行くことにした。兄妹は私の買った服の紙袋を持ってくれようと何度も願い出た。出来た子たちだよホントに。
時刻はもう五時。二人を見送ってから、誰か呼び出して飲みに行こう。話のネタなら山ほどできた。
ところが改札口まで行くと、何やら人だかりができていた。嫌な予感。
<ただいま、ハクタイ方面の列車、原因不明の故障のため、全線運転を見合わせております――お急ぎのところ、大変申し訳ございませんが、現在原因を調査中でございます――繰り返し、列車を御利用の皆様に――>
いやいや、ご冗談を。
「原因不明だって! 何が起こったんだろう?」
「気になるー!」
ちょっとお二人さん、なんでそんなに興奮した面持ちなのかな?
「――どうしよっか、これじゃあ帰るにも帰れ――」
「そうだ! ナタネちゃん! 僕らで原因を突き止めようよ?」
「賛成! あたしたちで復旧させよっ!」
なるほどその手があったか――え?
空っぽの笑顔を浮かべる私の両手を二人は素早く掴むと、人混みの中をぐんぐん突っ切っていった。
「あ、ちょっと! そんなことできるわけ――」
意気揚々と手を引く二人を見てなんとなく本気で抵抗するのも気が引け、結局私は駅員さんの前に躍り出ることになった。駅員さんは私たちに気が付くと、クレーマーかと思ったのかすぐに申し訳なさそうな顔になり、ペコペコし始めた。
「大変申し訳ございません。現在全力で原因を調査中でして――」
「いやーそのー」
乗りかかった船というやつか。私はぎこちなく笑いながら、切り出した。「何か協力できることがあればと、思いまして」
本音はこんな面倒なこと関わりたくもないよ。でも復旧しないとハクタイへ帰れないし。
「え?」駅員さんの反応は、最もなものである。「えーと、はい――お気持ちは嬉しいのですが、職員でないとちょっと――」
渋る駅員さん。めちゃくちゃ決まりの悪い私。
そこへ兄妹が真面目腐った顔で現れた。
「大丈夫です! ナタネちゃんはハクタイシティのジムリーダーなんです!」
「シンオウ一の草ポケモンの使い手です! 絶対役に立ちます!」
二人は両手をグーにして駅員さんを見上げた。役に立つ……ね。
「ジムリーダー……あーナタネさんで! ――すみません、気付きませんでした」
「いや、とんでも――原因は全然分からないんですか?」
私は駅員さんから事情を聞かせてもらった。
一応ジムリーダーというのは事件とか災害とか今回みたいなトラブルに任意で協力する――義務だか権利だか忘れたが(大事だろそこ?!)、とりあえずこういうことに首を突っ込めることにはなっている。購入した服をひとまずロッカーに預け、駅員さんにホームまで入れてもらう。兄妹は勝手についてきた。
聞くと列車は回送状態でホームに到着しているのだが、突然すごい電流が車体に走り、乗務員は慌てて飛び出したという。
「どうやらどこからか漏電しているらしく――乗務員も一時ショック状態になりまして、非常に危険なんです」
「いままでこういうことって起きたことあるんですか?」
「いえ、私自身が勤め始めてからは初めてのことですし――似た話も聴いたことはありません」
するとホントに突然の出来事ということか。そうするとそれはかなり見逃せない話だ。漏電なんてことが何かの拍子に簡単に起きたら、安心して電車なんて乗ってられない。
何かありそうだと私は思った。勘だけども。
ホームは駅員や作業員が慌しく行き来していた。私たちを見た途端、作業員のなかで一番年配らしい男性が怖い顔をしてこちらへ駆けて来た。
「おいおいなんで一般人連れて来た?! 危ねぇって言ってるだろ!」
駅員さんは怯みながらも事情を説明してくれた。「す、すみません――でも彼女ジムリーダーで、原因解明に協力してくれると――」
「じゃあそっちのガキは何だ?」作業員のおじさんは兄妹を睨みつけた。なんだこの人、無愛想すぎる。
「あ、えっとこの子たちは……」駅員さんは私の顔をちらりと見て助けを求める。
私だってこの子たちがこの状況でどういう位置づけなのか分かりかねる。しかし二人はハッキリと、声を揃えて「ナタネちゃんのジョシュです!」と言うのだった。
駅員さんと作業員のおじさんはしばらく問答していたが、どうやら折り合いがついたらしく「車体にさわんなよ? 黒焦げになっちまうぞ」と脅しを入れて、おじさんは他の作業員の方へ行ってしまった。さて、とりあえず調査開始。
車体は一見すると普通どおりに見えるが、実際にはかなり高圧の電流が流れているという。私は兄妹に「絶対に触っちゃ駄目だからね」と念を押し、一通り車体を見まわした。後ろの車両からずーっと前の方まで歩いてみたけど、やっぱりどこも変なところはない。電気の専門はデンジだし、ためしに連絡して訊いてみようかな。
そんなことを思っていると、背後から興奮したような声が聴こえた。
「ナタネちゃん! ここに何かいる!」と、兄のハルキ。
「何か動いてる!」と妹のアキナ。
振り返ると自称「助手」の二人は電車とホームの足場のわずかな隙間を覗いていた。ハルキなんか車体に身体が触れるギリギリのところに立っている。
「ちょっとあんたたち! 危ないでしょっ!」
私は急いで駆けつける。全くこの子らときたら怖いもの知らずもいいとこにしてほしいものだ。さっきあの怖いおじさんに黒焦げになるって言われたばかりでしょうに。
それはそうと、一体何を見つけたのだろうか?
「――どの辺?」
「ほら、もうちょっと右」
「ちょうど乗車口のあたり」
目を凝らすと、確かに何かが暗がりでうごめいている。それも影は一つではなく、三つ四つ――結構な数。
「二人とも離れて」
恐らくは、ポケモンだ。こいつらが原因なのかは分からないが、ちゃっちゃと片付けてしまおうじゃないか。本来ならカフェで優雅に読書のところを、公共交通機関の復興作業をしているなんて思うとなんだかなーという気分になる。このやろうめ。
「ブーケ!」私はモンスターボールを傍らに放った。
両手のバラの花束を優雅に振り、甘い香りを漂わせながらブーケは現れた。
「ロズレイドだ!」
「きれーい――」
ブーケの甘い匂いに誘われておびき出されないポケモンなんているもんですか。ブルガリもいいけど、私は断然ロズレイド。さあ、出てこいや。
電車とホームの隙間から一瞬電撃が走り、目が眩んだ。バチバチと音を立てて、二本の黄色いアンテナのようなものが隙間からのぞく。作業員たちが異変に気付き、こちらに走ってくる。
「近づかないで! 野生のエレキッドです!」私は手を上げて作業員を止めた。
数は多いが、問題にはならない。ブーケで押せる。相手は所詮は子供だ。
エレキッドの群れがぞろぞろとホームに上がり込んできた。車体に電流を垂れ流していた張本人たち。コンセントみたいな頭して生意気にも列車ジャックかしらこの子たちは。エレブーやエレキブルは近くにいないみたい。全く今日は親元離れて自由気ままなお子さんたちによく出会う――最もこの黄色い不良たちはしつけが行き届いていないようだ。
誘われて出てきた彼らは香りの源を目がけ、両手から電撃を走らせながら襲いかかってきた!
「ブーケ、マジカルリーフ!」
一発で終わらせる――終わらせると言っても相手を戦闘不能にするつもりはない。
ブーケはバレリーナのようにその場でくるくると回転し、色とりどりの葉をあたりに振りまいた。ベイビーポケモンは早い話「ビックリ」させれば勝ちだ。野生の彼らが向こうから襲ってくるのは自分たちが傷付けられるのを恐れているからで、一発怖気づかせれば逃げ出す。ブーケの攻撃も、実際には加減されダメージを与えるようなものではない。
マジカルリーフがエレキッドたちにヒットすると、たちまちひるんで襲いかかるのを止めた。
「あら、どうしたの? 怖いのかしら?」
トレーナー自身の威厳も大事。完全に見下すことで、畏怖させるのが効果的だ。ほら、後ずさり。
それでも彼ら、まだ骨がある方みたい。ビビりながらもしぶとくもう一度飛びかかってくるエレキッドをブーケはマジカルリーフでけん制する。
「ナタネちゃん!」
突然、背後からアキナのひきつったような声がした。
しまった――私は振り返ってそう思った。
エレキッドのうち一匹がいつの間にか背後に回り込み、ハルキとアキナに襲いかかろうとしていた。頭のコンセントをバチバチと光らせじりじりと間を詰める。
「早く逃げて!」
ハルキがアキナの前で手を広げ、必死に庇おうとしている。アキナが後ろで尻もちをついてしまった。
まずい。ブーケは他のコンセントの相手をしている。私は他のボールを投げた――エレキッドが飛びかかる――追いつかない!
「むおっ!」
エレキッドの電撃をもろに受け、膝をつく――
――二人を庇ったのはさっきの無愛想な作業員のおじさんだった。
「はっ、この程度の電気――うちのかみさんの平手打ちの方がよっぽど強力だ」
おじさんの後ろで兄妹は茫然としていた。
少し遅れて私の投げたボールからタネキチが飛び出す。
「ブーケ、手加減なしでいい! タネキチ、葉っぱカッター!」
猶予はない。とにかくこの危険なコンセントどもを止めなくては。
より強力になったマジカルリーフはうず高く舞い上がり、エレキッドたちを巻き込んだ。タネキチの葉っぱカッターもあの一匹にクリーンヒット。
猛攻をくらった黄色の集団は慌てまろびつつ散り散りになっていく。やがて一匹、また一匹と姿をくらましていった。
私は軽く息を切らしていた。
全くもって迂闊。ベイビーポケモンだからと思い、脅かして逃がしてやろうということに思考を縛られた。即座にダメージを与えるべきだった。
「大丈夫ですか?!」私は電撃をくらったおじさんに駆け寄った。
「ああ、たいしたこたぁない。それより坊主たちは平気か?」
ハルキが妹の手を取り、身体を起こした。二人ともまだ顔がこわばっているが、無事みたいだ。
よかった。
「――おじさん、ありがとう」
「ごめんなさい、あたしが転んじゃったから」
しょんぼりした声だったが、二人とも泣いてはいなかった。それなりに怖かっただろうに。
「――怪我がねぇならいいんだ。さて、早いとこ復旧させんと」
そう言うとおじさんは作業着を手で払い、何事もなかったみたいに作業に戻ってしまった。
お勤めを終え、沈みはじめた太陽。オレンジ色の夕日が差し込む。
通常通りの運行が再開したハクタイ行きの電車。
結局飲みに行くのはやめて、私は兄妹と三人で帰路についていた。
向かいの席ではハルキとアキナがお互いの頭にもたれてぐっすり眠っている。そりゃあ疲れたよね、今日は。
こっちまで微笑んでしまうほど無邪気な寝顔は夕日に照らされてキラキラしてる。憎たらしいコンビだけど、なんか憎めないなこの子たち。今日はホント振り回されっぱなしだった。でも賑やかで楽しかったかも。
ハクタイまではあと二時間もある。私も到着まで眠ろう。明日は月曜、週頭はダッシュで飛び込まないとね。
ブラインドを下ろして眩しい夕日を遮り、私は目を閉じた。
「――ジムリーダーとは、ポケモンバトルを通じ、その街を興す者なり。地域に住む人々のことを誰よりも考え、将来を担う子供たちと触れ合い、その街を内側から盛り上げていく者なり」
おじいちゃん、見てくれてる? 今日ほどおじいちゃんの言葉を体現した日はないんじゃない?
面倒くさがりな私だけど、真面目なところもあるんだからね。
これはウソじゃない。
日曜日の午前中は、起きないことにしている。
でも敢えて目覚まし時計は八時にセットして、一度起きる。「やば! 寝坊!」と思った瞬間、日曜日ということに気が付き、至福の時間「二度寝タイム」に興じる。私が思い付いた手軽に幸せを手にする方法の一つだ。
そして私はさらに素晴らしいことに気が付いた。何度も起きて寝るのを繰り返せば一日に何度も至福の時間を得ることができるじゃないか。え、私バカ? 天才だよねむしろ?
実践。朝の八時に起床。二度寝する時、目覚まし時計を九時にセット。九時に再び起床し、三度寝に突入。その後一時間おきに目覚ましをセットしていく――
最高記録は六度寝。いやーあの時は逆に疲れて午後も何もしなったよね。そしてすごく虚しかった。自分クソだと思った。正直、四度寝以上はお勧めしない。
こんな私でも平日はハクタイシティのジムリーダーを立派に、それはもう立派に務めている。
――何その目? ホントだってば!
『ポップアウト☆森ガール page1』
ある日曜日の朝、私はいつものように八時に起きて、もう一度睡魔様に自主的に襲われた。
最近ちょっと気になっている行きつけの美容室のスタイリストさんと有り得ないほど上手く事が運ぶラブストーリーを妄想しながら夢の中に吸い込まれる途中、けたたましく携帯の着うたが鳴り響いた。まじかい。カエラちゃん――今は、今だけは歌わないで。
渋々ベッドから這い出し、携帯を開いた。何処の誰やねん? 私の遊園地デートの邪魔をする不届きなピエロは。
<ナッちゃん寝てたぁ? ごめんね! ねぇ聞いて彼氏できたぁ! ごめんね! むかついたぁ? ごめんね! 合コンにはもう誘わないでね。スズナ幸せ(*^_^*)>
落ち着こう。心情描写は後に回してまずは説明だ。
メールにはプリ画が添付されていた。キラキラと目障りなほどデコレーションされた枠内に記念日が記載されている。カワイコぶったクセの強い文字で「よろしくね❤」と書かれている。えー彼氏さん結構カッコいいんですけどー。
私は携帯を放り投げ、心も放り投げた。カーテンの隙間から差し込む朝の日ざしを受けながらしばし放心。
「はは、おめでとさん」
それだけ呟いて、私はベッドに潜り込んだ。
キッサキシティの田舎娘が彼氏の一人や二人できたくらいで浮かれメール垂れ流しやがって。結構なことですよ、謹んでお祝い申し上げますとも。てか何? 何に対して謝ってんですか彼女? 「お先に失礼」ってこと? 順番じゃねえし。そんでもってむかついたかどうか聞くかね普通。「親しき仲には礼儀なし」だと思っておりましたが今回の件については考え直す余地がありますな。大体合コンとか一回しか誘ってないし! しかもあんときはシロナさんに幹事押し付けられて仕方なくだし! どうやら相性が合わないのはポケモンバトルだけじゃないみたいっすね。シカトだあんなメール。気にしない。動じない。アタシはアタシ――
「うらやましい――」
決めた。今日は街に繰り出そう。コトブキシティで新しいトレッキングブーツとマウンテンパーカを買おう。良い感じのシャンブレーシャツがあったらそれも買おう。可愛いリュックがあったらそれも買おう。昼下がりはカフェでカプチーノを飲みながら小説を読もう。その後余力があったら昔の友達呼び出してカラオケ行こう。ノリ次第では食べ飲み放題に突入しよう。
充実の休日にしよう。
その前にもうひと眠り――
コトブキ行きの電車から眺めたハクタイの森は紅葉がきれいだった。と言っても大部分が針葉樹なので、赤やオレンジに葉を染めた広葉樹がところどころで必死に個性を主張している。少し風景が開けたところでは水玉模様のようにも見えた。あ、そうだドット柄のシャツも買おう。
<ふざけろ! クリスマスまでには絶対アタシもイイ男見つけてやる!>
シカトするつもりだったスズナからのメールには、そう返信した。意外とあの子は調子に乗ったあとで冷静になり落ち込んだりするタイプなので、シカトしたままだと私のことを怒らせちゃったと本気で焦るだろう。それも何だかかわいそうだ。優しいなー私。
送信完了を確認し、携帯をリュックにしまう。私は膝に乗せたナエトルを撫でた。名前はタネキチ――今「ダサっ!」っと思ったよね? 正直に! 分かってる分かってる。でもこの子元々私が養子に入った家のおばあちゃんのポケモンだからさ、時代の差異を感じると思うけど、まあそのうち慣れるから。
コトブキ駅を降り、真っ先に向かったのは私の御用達、レディースファッションのセレクトショップ「ワンダー・シード」。わたし好みのアウトドア志向だ。ノースフェイスのリュックとかマナスタのマウパの新作は大抵ここで済むし、オリジナルブランドもなかなか可愛い! 一度店内に入ると手ぶらで出てくることはまずない。
「あ、ナタネさん! お久しぶりですね!」
ここの店員さんはもうみんな友達。何人かとは時々ご飯も食べに行く仲だ。迎えてくれたのはこのお店では一番若いショップ店員のナオさん。長い黒髪のせいで元々色白の肌が余計明るく見える。背も高めな彼女の今日のファッションは、白シャツに薄手の紺色カーディガンでシンプルにまとめていた。タイトめのデニムもそのスタイルの良さを引き立てている。
「ナオちゃん久しぶり! ねぇちょっと聞いてよー」
私は朝のメールの件をナオちゃんに思う存分ぶちまけた。相当迷惑な客だよなあと思いながらも、ぶちまけた。実際、知り合いに愚痴りに来たというのが、街に繰り出した裏目的とも言っていい。聞き上手なナオちゃんは嫌な顔一つせず、最後まで相槌を打ってくれた。
「へぇーうらやましいですね。これからの寒い時期に相手がいるっていうのは」
「あれ? ナオちゃん彼氏は?」
「あたし全然できないんですよー。ここ一年くらい独り身なんです」
友よ。
「ねえねえ今度アパレル系のオシャレ男子と合コンしようよ? いっぱいいるでしょそんな感じの友達。セッティング、お願いっ」
ナオちゃんはさすがに困った顔をした。
「えー私がですか? そういうのは店長に頼んだ方が多分話が早いですよ」
明るい茶髪にニュアンスパーマが目立つ、眼鏡をかけた女性が奥でお客さんの相手をしている。彼女がここの店長のショウコさんだ。快活な話し方をするとても親しみやすい人で、振り返ってみると私はいつも彼女の巧みな話術で値段の張る洋服も買う決心がつき、帰りには大きな紙袋を持たされていることが多い気がする。
「顔広いし、後輩指導も多く受け持ってるんで、あの人が一声かければかなりの人数集まります」
なるほど、これは良いことを聞いた。上司の誘いを断ることはできないもんね。
こんな話ばっかりするのはなんとなく悲しくなるので、ナオちゃんについて来てもらいながら店内を見て回った。私が今日身に付けてきたベージュのキュロットと焦げ茶のショートブーツ、敢えてオーバーサイズをチョイスしたスクールカーディガンにキャップ、そしてお気に入りのカラフルリュックを、ナオちゃんはくまなく褒めてくれた。社交辞令的な部分があると分かっていながらにわかに上機嫌な私。さて何買おうかなー。
今日はちょっと雰囲気変えて来たけど、普段はポンチョとか柄物のロングスカートだって身に付けるし、もちろんナタネらしく「コテコテの森ガール」ファッションに身を包むことが多い。やっぱ今時は豊かな緑と草ポケモンに想いを馳せる森ガールでしょ。でも最近山ガールも可愛いと思ってきたんだよね。登山とかしてみたいし。
最終的に私はグリーンのチェックシャツを一枚、ものすごく目立つショッキングピンクのマウンテンパーカを一枚購入した。もう最高の気分だ。手持ちの服とどう合わせよう? ワクワク。
店長のショウコさんに「今度別件で連絡します」と告げてから、私は店を後にした。その後もいろんなショップを見て回り、店員さんに愚痴り、笑い飛ばし、買うつもりもなかったTシャツとか買っちゃったりして午後のひとときを満喫した。
あっという間に午後の三時。天気は秋晴れ、広々とした青空。かなり朝の衝撃の傷跡も癒されてきた気分。
計画通りだとそろそろ喫茶店でコーヒーブレイクだ。どこか良い感じのお店はないかなと駅前の通りをタネキチと一緒に歩いていると、突然声を掛けられた。
「ナタネちゃんだ!」
「うん、ナタネちゃんだ! ナエトルもいる!」
「ナタネちゃんだよね?」
「だよね?」
とても幼い声。振り返ると男の子と女の子が一人ずつ、こちらを見上げていた。知っている子ではない。
「――そう、だけど」
私がそういうと二人は顔を見合わせて、にっこりした。
「すごいや! ジムリーダーに出会っちゃった!」と、男の子。
「うん、すごい! あたしたち運が良いね!」と、女の子。
二人は道の真ん中で大はしゃぎ。思いっきり通行人の邪魔をしていたので私はひとまず歩道の端っこに寄ってもらった。
うーん、二人ともどう見ても十歳前後の小学生だ。男の子の方がちょっとだけ背が高くて、年上と言う感じがする。女の子は二重のぱっちりした瞳とふっくらしたほっぺが印象的でとっても可愛かった。そして二人の鼻と耳の形が瓜二つだった。
「えーと、二人ともお母さんとお父さんは?」
まあ、普通は誰でもこの質問から入ると思う。
「僕たちナタネちゃんの大ファンなんだ!」
「あたしたちもハクタイシティに住んでるの」
おー、見事なシカト。
保護者の方ー?
「そ、そうなんだ。ありがとう。それでお母さんと――」
「僕今色紙とマジック買ってくるから、待ってて!」
おい。
「あたし見張ってる! お兄ちゃん急いでね!」
そして兄らしい男の子の方は駆け足でドンキホーテに向かって行った。
ちょっとこれは面倒な感じだ。私のコーヒーブレイクが大爆笑しながら去っていくのが見える。
「二人でハクタイから来たんだ、えらいね。でもサインならジムに来てくれればいつでも書いてあげるし、そんなに焦らなくても大丈夫だよ」
私は笑顔をとりつくろって見張りの女の子に優しく言った。
「大丈夫。お兄ちゃんリレーの選手だから」
どうやらこの子らと言葉のキャッチボールを通常通り行おうとしている私がバカだったみたいだ。タネキチが何とも言えない表情で私を見上げて来た。
この先、この兄弟が持ち込んでくるトラブルのおかげで、スズナのリア充話に取り合っている暇なんてなくなる。それはそれでありがたいことだ。でも私は大好きだった日曜日の午前中を手放さざるを得なくなる。
続きます。あんまり気乗りしないけど。
全く手直ししていません。結局。
やっぱり見切り発射はいけなかった。続かない――
ごめんなさい、ナタネちゃん↓
森ガ「萎えるわー」
「いよいよ私達が入るんだよね。ハマイエ君、大丈夫……?」
マイコが問うも、ハマイエはお化け屋敷を見ているだけで顔色が悪くなっていた。もうこの時点から真っ青である。どうやら、お化け屋敷に向かない怖がりのようだ。
(女より悲鳴あげられたらショックだよなあ、そのうちこの人泣くかも……、ここは私がしっかりしなきゃ!)
マイコはそう、心の中で思っていた。
そして、ポケモン検査もパスし、入った直後である。
ペチャッ
「うぎゃあああっ!!」
(早い早い早い!!!)
ハマイエの悲鳴とマイコの心の中のツッコミが炸裂するのはほぼ同時だった。ゴーストによるコンニャクの悪戯だが、怖がりの恐怖心を煽るにはこれで十分らしい。
「も、もう嫌や……」
「まだまだ序盤だよ。ここでへこたれてどうすんの?」
先程入っていたアキヤマとキザキも、この時点ではへこみこそすれど、悲鳴まではあげていなかったはずだ。相当序盤から堪えているらしい。
「いやあああっ!!」
「ぎゃああああああっ!!!!」
その後は多少お化けに耐性のあるマイコでも、さすがにこのお化け屋敷のクオリティには悲鳴をあげていた。しかし、彼女以上に男性であるハマイエの方が悲鳴のボリュームも回数も多かった。
こんな人と一緒に行くマイコがちょっとかわいそうである。
さらにはフワンテやヤミラミにも怯える始末だ。
「この子達はかわいいんだよ、大丈夫だから」と触ってみるように促しても、ただビビるのみで、もはやペアを組むというよりは介護のような状態だった。
マイコも正直、げんなりとしていた。ハマイエのお化け嫌いは、結構、重症らしい。
色々なトラップを抜けた先の、日本人形の部屋は何だか寒気がした。人形の瞳が怖い。でも、それ以上に周りのカラフルな目の方がもっと怖い。気のせいか、この集団カゲボウズおよびジュペッタは何やら恍惚とした表情を浮かべているようでもあった。怖がる気持ちも、ぬいぐるみ達にとっては良い餌のようだ。
そして、一歩足を部屋の外に出すと、
ガコン!!!
「きゃあああっ!!」
「うぎゃああああああっ!!!」
案の定だった。落下してしまったのだ!
下はやはり骨だったのだが、何とかマイコはウォーグルにつかまり、事なきを得ていた。ハマイエは奇妙な形のエスパーと飛行のタイプを併せ持つポケモン、シンボラーにつかまっていた。どちらも無事らしい。
(落とし穴なんてもうやだ……)
そうマイコが思っていたときだった。
ぬうっ
「ぎゃあああああっ!!!!」
「いやあっ!!」
先も出てきたゲンガーだった。案の定というか、なんというか、ハマイエは大絶叫していた。マイコにとっても怖かったはずだが、カゲボウズ・ジュペッタのエリアに比べると、まだマシだったようだ。そう大きい悲鳴を上げることはなかった。
そして、ヨマワルとサマヨールの大軍勢を相手にしているときに、マイコはあることに気付いた。
ハマイエが出していたのは、サマヨールの進化した姿、ヨノワールだったのだが、彼は指示というものをしていなかった、というより、できないと言った方が正しいだろう。それでも、ヨノワール自体の実力は高く、1匹だけで幽霊の大群を打ちのめすほどであった。
(どうして……?)
お化け嫌いが幽霊のポケモンを持つこと自体驚くべきことなので、マイコにはそれが不思議でしょうがなかった。
しかし、そんな疑問は後でも聞ける。今は目の前のバトルに集中するのが先決だ。
「フシギソウ、マジカルリーフの後に眠り粉を発射して、ラクライは電撃波!」
相手にした数がさすがに多かったのか、ラクライもフシギソウも、それぞれライボルトとフシギバナに最終進化を遂げていた。
「ありがとう、そして、おめでとう、ライボルト、フシギバナ」
2人ともポケモン達をねぎらい、歩き出そうとした、その時だった。
何かハマイエの様子がおかしい。ガタガタと震えている。
「どうしたの、ハマイエく……」
マイコの言葉は最後まで行く前に遮られた。そして次の瞬間、
ぐわん!!!
「きゃあああああっ!!!!」
彼は襲いかかってきたのだ!
「どうして、どうして……!?」
どうも、何かに取り憑かれているらしい。操られているように、的確にマイコを狙ってくる。
攻撃をぎりぎりで避けながら、どうすればいいか彼女は考えた。
(このままじゃ危ない。こうなったら……)
考えた末にマイコはボールを放り投げ、夢喰いポケモンを出し、指示を飛ばした。
「ムンナ、催眠術!!!」
夢喰いポケモンの目が青く光ったかと思うと、ふらりと青年は倒れこみ……
「はあ、はあ、もう、いやだ……こんなアトラクション……」
「マイコちゃん、その様子やったら俺らより大変な目に遭ったみたいやね」
「とりあえず、座って休もうや。こっちの寝てるやつが起きたら、色々聞かなアカンからな」
結局、マイコはハマイエを眠らせた後、ムンナのサイコキネシスで浮遊させて連れ帰ってきたという。時間にして1時間半。アキヤマとキザキの倍はかかっている。
「う、うーん……」
ここでようやくハマイエが目を覚ました。そこで3人は彼に質問を行うことにした。
「おはようございますハマイエさん。ここどこか分かります?」
「え、えーと……お化け屋敷の外?」
「正解。次の質問行くで。自分自身は誰か分かるか?」
「俺はハマイエ リュウイチやけど、大丈夫?」
「当たり。じゃあ、最後の質問。地下で私に何をしたか覚えてる?」
「……覚えてない、です……」
「私を殺す気で襲ってきてたんだよ。怖かったんだからね!」
「……!!!すみませんでしたーっ!!!」
このことは彼のトラウマとして、頭に深く刻まれることだろう。
そしてマイコは思った。
ハマイエのお化け嫌いを治すとともに、ヨノワールにも指示を飛ばせるようにしないと、と。
おしまい
マコです。3回のお話、ようやく完結。
極度の怖がり、ハマイエくんと一緒にお化け屋敷に入ったマイコちゃんの心情。
ご察しします。ご愁傷様です。
さて次回は、あくまでも予定ですが、別スレを立てて特別編をしてみようじゃないか、と。
前に言ってたジラーチのお話。
7〜8話くらいになりそうなので、私のある種の挑戦ですね。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
『昔々、まだ英国で黒魔術が盛んだった頃の物語。
ロンドンの外れに、一人の男が住んでいた。その男は、どんな魔法でも使える、魔術師だった。
見える物を見えなくしたり、周りを一瞬で暗くしたり、そこにある物を消すことが出来た。
中でも得意だったのが、生き物を別の生き物に変えることだった。箱にポケモンを入れ、呪文を唱えるとそれは別のポケモンへと変わった。
人々はそれを見て、正に天才だとはやし立てた。
気を良くした魔術師は、師匠から禁忌だと言われていた術を使うことにした。
魔術師は、自分の住処に一人の少女を連れ込み、嬲り殺した後、箱に入れた。そして呪文を唱え、箱を開けた。
中には、元の姿が分からないくらいに体が膨れ上がった少女の遺体があった。魔術は、失敗したのだ。
魔術師はその遺体をビック・ベンの上からロンドンの街へ投げ捨てた。あまりの変わり様に、人々は愚か親さえも自分の娘だと気がつかなかった。
それからも魔術師は子供を攫っては殺し、別の生き物に変えようとしたがことごとく失敗した。やがて警察が嗅ぎ付け、魔術師は捕まり、死刑判決が下された。
だが、ギロチンで首を切られる直前に、晴れ渡っていた空がいきなり曇り始め、土砂降りの雨が降り始めた。
そして、魔術師がギロチンに首をかけた瞬間、大きな雷がそこに落ちた。
あまりの眩しさに人々は顔を覆った。次にギロチン台を見た時―
魔術師は死んでいた。まるで今まで殺した子供が復讐をしに来たかのように、その体には人の顔が沢山浮き出ていたという』
「ねー、ファントムまだ?」
「お待ちくださいまし、リンネ様。只今使用人共が服を選んでいるところです」
リンネの声が、廊下から聞こえてくる。せっかちな子供なのか、それとも子供は皆せっかちなのか。どちらでもいい、と思い、ファントムは鏡を見た。
「髪はどういたしましょう」
「そのままで頼むよ」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げるメイド。後ろでカゲボウズ達がケタケタ笑っている。何か言いたいが、一般人の前ではあまり目立つことは出来ない。
「リンネ様があんなに楽しそうなのは久しぶりです」
「あの子の親は」
「二年ほど前から別地方へ仕事に出かけております。まだ幼いリンネ様を残して―」
「そう」
わざと明るく振舞っているようには見えなかった。昨日の姿がこの二年で定着してしまったのだろう。そして今の姿が両親と一緒だった時の物。
「ファントム様はどちらからいらしたのですか?」
「何処からでも無いよ。好きに回ってるだけ」
「そのことを是非リンネ様にも話してくださいまし」
ファントムは後ろを向いた。メイドの笑顔に、偽りは見えない。
「リンネ様は葛藤なさっているのです。このまま大人になっていいのかと。ヴァルバローネの家宝である懐中時計を守るためだけに生きていいのかと」
「…」
「あ、今の話内緒にしてくださいね。使用人に心配されていると分かれば、リンネ様も…」
「分かったよ」
「ファントム!」
部屋から出てきたファントムに、リンネが駆け寄ってきた。
「すっごい!まるで別人」
今日のファントムは、ラピスラズリ色のシルクのドレスにグレーのジャケットを合わせていた。靴はハイヒールだ。
「普段こんなの着ないんだけど」
「何言ってるの!そのギャップがいいんじゃない」
リンネは黒い、リボンとフリルが沢山付いたワンピースを着ていた。髪はサイドで二つ結びにし、帽子を被っている。
「さあ、表に馬車を回して」
「馬車!?」
「既に準備は出来ております」
執事が頭を下げた。外は夕暮れの色を濃くしている。
「ディナーの予約は」
「マルトロン劇場前、リストランテ・アルビーノ。夜九時から」
「ありがと。さ、行きましょ」
慣れないハイヒールに戸惑いながらも、ファントムは表に向かった。
黄昏時の街は、昼とは別物だ。街灯が点々と灯り、夜への道を歩いている気がする。
(そういえば、今日は変な視線を感じないな)
「ファントム、席は何処?」
リンネに言われ、ファントムは鞄からチケットを出した。ちなみにこの鞄も、リンネが選んで持たせた物だ。
「D列、五番と六番」
「結構前ね」
「懐中時計はきちんと持ってるの」
「ええ!」
リンネが服の下から懐中時計を出した。青いダイヤモンドが変わらず光っている。
「こんなオペラを見た後で食事なんて出来るかな」
「大丈夫よ!私、三半規管強いもの」
「…そういう問題じゃないから」
久々に無駄話をしたな、と考えていると馬車が止まった。
「到着いたしました」
マルトロン劇場は、街の一等地に作られていた。灰色の城のような外観に、車が止められるように円形の駐車場が設置されている。
空はすっかり夜の気配を濃くしていた。
「あ、リンネだ!」
馬車から降りるリンネを見つけて、数人の少女が駆け寄ってきた。皆が皆、小さなドレスに身を包んでいる。リンネも苦笑しながら彼女らに手を振った。
「こんばんわ、リンネ。貴方もオペラを見に来たの?」
「…まあね」
「すっごく気になるのよね、これ。この後ディナーが入ってるけど、大丈夫かしら」
「大丈夫よお、アンタなら。胃袋が大きくて、魔術師さえも飲み込んじゃうから!」
キャハハと笑う子供達の声が耳に障った。従者がファントムに呟く。
「リンネ様をよろしくお願いします」
「分かった」
ゼブライカとギャロップに鞭を振るい、馬車は元来た道を走っていった。まだ彼女達の話は続いている。
「ね、リンネ。今度うちの屋敷で舞踏会をやるの。お父様が是非って」
「クラスの子が皆来るのよ!」
「そう。お誘いありがとうね。でも今日はオペラを見に来ただけだから。
…ファントム!」
呼ばれたファントムはリンネの横に立った。見上げてくる子供達が可笑しい。
「数日前からうちの屋敷に泊まってるの。とってもバトルが強いのよ!」
「ちょっと、余計なこと」
「へえー。じゃあ今度の舞踏会に連れて来てよ。私のお父様とお兄様も強いのよ。多分、この街で一番」
一人の少女が意地悪く笑う。だが、リンネは涼しい顔をして、
「ファントムはね、ゴーストポケモン達のお姫様なのよ!どんなポケモンだってファントムの前には適わないんだから!」
「…」
やはり、子供なのだろうか。
「じゃ、二日後の舞踏会に来てよ!コテンパンにしてやるから」
「戦うのは君じゃないだろ」
いつの間にか、言葉が零れていた。少女達が驚いてファントムを見る。
「レントラーの威を借るスリーパー。もし君の父親と兄が負けたら、君…今の余裕を保ってられるかな?」
唖然とする彼女を置いて、ファントムはリンネと共に劇場へ入って行った。
「…参ったな」
ファントムは頭を抱えていた。リンネが笑う。
「まさかあそこで来るとは思わなかったわ!お腹痛い…」
「柄にも無く子供みたいなことになったな」
ムウマが擦り寄ってくる。喉を人差し指で撫でた後、ムウマは別の貴族が持っているポケモンをからかいに行った。
「さ、とりあえず楽しみましょうよ」
「うん…」
ファントムは辺りを見回した。また、変な視線を感じる。しかも今回は場所まで特定できる。
(舞台袖から…)
まだ決まった訳ではないが、今回の件…リンネと自分を見張る何かによる計画な気がする。そして勘が正しければ、進展は…
おそらく、今からだ。
「うわあああっ!!!」
このお化け屋敷、ポケモン達のねぐらということだからか、天井が結構高くなっている。だから、3階から落下するといっても、実際の高さ的には普通の建物の6階から落下しているような感じなのだ。そのため、最初に空中に浮かぶ技や能力を持つポケモンが必要だと念を押していたわけだ。10メートル以上の高さから落下して、人間は無事ではすまない。
「ゴルーグ、出て来い!!!」
アキヤマがボールから出した、パッと見はロボットのようにも見える、地面とゴーストのタイプを併せ持つゴーレムポケモンが手を伸ばし、落下を続ける2人をキャッチしたのだ!
「危なかったな、死ぬところやったわ」
「ありがとうございます……。あんな怖いトラップがあるなんて思わんかったです」
落とし穴は3階から地下まで一気に落下するシステムになっていた。ここが一番スリルを味わえると同時に、死人が出やすいスポットでもある。
「うぐっ……」
「吐き気がしそうやな。早よ出たい……」
しかも、下にはとがった骨が大量にあり、さらに猛烈な腐臭も漂っていて、とても降りられる状況ではなかった。
アキヤマはゴルーグに、キザキはフライゴンに乗って地下を進んでいると、紫の池のような水たまりがあった。色からしていかにも毒々しい。人間が入ったら溶けてしまいそうだ。ポケモンでも、この環境で平気なのは毒や鋼のタイプを持つものくらいだろう。そんな場所から、
ぬうっ
「「ぎゃあああっ!!!」」
何か出てきた。それを見た2人とも乗っているポケモンから落下しかねない勢いで絶叫してしまっていた。その正体は、ゴーストタイプでは最強の部類に入るゲンガーであった。要するに、そいつがヘドロの海から出現したわけだ。考えてみれば、ゲンガーはゴースト・毒の複合タイプ。一般には影から出てくるが、そこから出てもおかしくはない。
そして、シャドーポケモンはその悲鳴を聞くと、満足そうに影に帰還していった。
ようやく降りられそうな場所が見つかり、2人で歩いていると目の前に大きな階段が見えた。出口である。しかし、またトラップがありそうな気配がしてならない。
2人が足を踏み入れたその時だった。
ドドドドッ!!!!
沢山のヨマワル、サマヨールが襲来してきた!!どうやら、ここは、こいつらをどうにかしないと通過できないらしい。
幸いなことに、幽霊たちはライトの光が苦手な模様で、影の方向に集まる習性があるらしい。
ライトを当てて影に逃げたところを見計らってアキヤマの指示がとんだ。
「ゴルーグ、シャドーパンチ!」
その逃げ込んだ影、つまり幽霊達に向かって、ゴーレムポケモンの放った影の拳が飛んだ。的確に命中して幽霊を蹴散らす。
「レアコイル、マグネットボム!」
別方向では、キザキの指示により、コイルが3匹くっついた磁石ポケモンが小さな磁石を飛ばし、それらは幽霊の集団にくっついた。そして、彼がパチン、と指を鳴らすと、
ドオオオン!!
それらは爆発した。ポケモンの体内にも含まれる微量の鉄に反応してくっつく磁力爆弾は、先の影の拳同様に的確に敵を狙う性質があるのだ。
必中技を駆使し、何とかその場を凌ぎ切った2人。さあ出口へ、と思ったその時、
「嘘やろ、まだ来るん!?」
「諦めの悪い幽霊達や……何で……」
ヨマワルの残党が群れをなして襲いかかってきた!
と、その時だった。
影の球であるシャドーボールと10万ボルトがヨマワルを蹴散らしたのだ!
その技を放ったのは……
3階にて髪の毛を引っ張る悪戯をした、あのムウマだった!
「え、お前、助けてくれんの?」
「ここは自分に任せて、ってことなんやな」
夜泣きポケモンにその場を任せた2人は階段を上って、出口に向かった。
「はあーっ、やっと出れたー!」
「あんなお化け屋敷、二度と入りたないわー!」
「お疲れ様、2人とも大丈夫?」
「だいぶ疲れきっとるやん!大丈夫ちゃうって!」
久しぶりに見た外の景色。時間経過としては40分くらいのようだが、色んなことがありすぎて、何時間も経過したような心地だ。
「あれ、後ろに何かいるけど、まさか、連れて帰ってきたの?」
そんな時、マイコがキザキの後ろを指さして言った。
「え、マイコちゃん、後ろ?……ホンマや、何でついて来たんやろ?」
後ろにいたのは、先のムウマだった。今度は髪の毛を引っ張るなんてことはせず、おとなしくしていた。
「なんかこのムウマ、タロウちゃんに懐いてるみたいだね」
「いっそのこと、キザキ、お前がゲットすりゃええねん!」
「え、そんな、やってこいつは」
「ぐじぐじすんな!こいつついて来たがってんねん!お前がその気持ちを汲んでやらなアカンねん!分かるか!?」
(俺の周りって強引な人多いねんな……)
みんなに半ば押し切られる形で、キザキはボールを投げた。
ムウマはそれに反応し、自ら開閉スイッチを押し、ボールに吸い込まれていった。
その瞬間、ムウマはキザキのポケモンになったわけだ。
「これからもよろしくな、ムウマ!」
ボールの中の夜泣きポケモンは、心なしか喜んでいた。
「さて、次は……」
「2人の番ですね」
アキヤマとキザキが帰ってきた、ということは、マイコとハマイエが行く番である。
腹を決めた2人はお化け屋敷に足を踏み入れていった。
後編へ続く
マコです。
2人とも無事に帰還しました!
さらに仲間も増えて。最後に幸運が舞い込んできましたね。
さて、次は、マイコちゃんとハマイエくんです。
どうなるのでしょうかね……。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
「それでは、わしが審判をやろう。お互い、準備はできとるか?」
ダルマ達はジムの中央にあるバトル場に移動していた。植物に囲まれてはいるが、それ以外は他のジムと何ら変わりはない。審判席にはガンテツ、トレーナー席にはダルマとツクシがスタンバイしている。
「僕はいつでも大丈夫ですよ。ダルマ君が始めたいときにどうぞ」
「ああ、俺も大丈夫だ、問題ない。だが……」
「だが?」
「この観客はなんだぁ!」
ダルマは自分の左側に目をやった。そこには、それほど大きくはないが常設の観客席が設けられており、町の人々やゴロウ達が陣取っていた。
「これかい?ヒワダタウンはお話の舞台になりそうなほど田舎で、娯楽も少ないんだ。だから挑戦者が現れたときはジムを開放して、皆にバトルを見てもらうんだよ」
「なんじゃダルマ、この程度でおじ気付いたのか?わしが現役だった頃は……」
「べ、べつにそんなことはないぜ、ガンテツさん。それより、さっさと始めよう」
「それもそうじゃな。それではヒワダジムリーダーと挑戦者のジム戦を始める!ルールは3対3のシングルバトル。始め!」
「いくよ、ストライク!」
「頼む、アリゲイツ!」
ダルマの2度目のジム戦の火蓋が切って落とされた。ダルマの先発はアリゲイツ、対するツクシの1番手はストライクである。
「お互い、最初から切り札を投入しやがったか。さてさて、どうなることやら」
サトウキビが両者の解説を始めた。観客席ではツクシの応援が大勢を占めている。その中でゴロウとユミ、ミツバがダルマに声援を送る。
「こっちからいくよ、とんぼ返りだ!」
先手は素早いストライクだ。ストライクは静かに移動し、アリゲイツの脇腹を両足で蹴った。その勢いと背中の羽で飛び上がり、ツクシのもとへ戻っていった。
「な、なんだこの技は?まあいいや、氷のキバ!」
アリゲイツはストライクの攻撃を耐え、口に氷を溜めた。そしてストライクに襲い掛かった。
「ふふ、そううまくいくかな?」
ツクシは不敵な笑みを浮かべた。すると、ストライクは急にモンスターボールに入り、かわりに別のポケモンが出てきた。
「ぐっ、なんだこりゃ!」
ダルマが驚く暇もなく、アリゲイツは交代したポケモンにキバをむいた。しかし、そこまで効いてはないようだ。
「あれはトランセルか。ふん、薄々ジムリーダーの戦略が見えてきたぜ」
「どういうことですかおじさま!?」
「簡単なことさ。とんぼ返りは攻撃しながら交代する技。出てきたのはトランセルだ。ここから、やつの切り札がストライクであるのがわかる。つまり、他のポケモンで相手を弱らせ、ストライクで一気にけりをつけるつもりなんだろうよ」
サトウキビの冷静な解説に、ゴロウ達のみならずヒワダの住人も驚嘆した。無理もない。ただ勝ち負けばかりに注目していたなか、突然戦略的な話をする者が現れたのだから。
「それで、ダルマ様はそのことを理解しているでしょうか?」
「……それは本人を見ればわかる」
ユミはダルマを見た。ダルマは冷や汗をたらしながら歯ぎしりをしている。ついでに言えばやや前かがみだ。
「くそ、あのタイミングで勝手に交代するなんて。あのとんぼ返りとかいう技、中々厄介だな」
「どうだい、僕の戦い方は?ちなみに、このストライクは昨日の個体とは違うからね」
ツクシとダルマ、2人の様子は実に対照的である。そのなかで次に動いたのはツクシであった。
「そっちから来ないならこっちからいくよ、むしくいだ!」
ツクシの2番手のトランセルはぴょんぴょん飛び跳ねながらアリゲイツに近づいていった。
「くっ!戻れアリゲイツ、ゆけ、コクーン!」
ダルマはアリゲイツをボールに戻し、コクーンを繰りだした。コクーンは鼻息荒く、いつでも戦える状態だ。
トランセルは交代する間も距離を詰め、コクーンが出てきたと同時に噛み付いた。だが、コクーンにはかすり傷もついてない。
「へへ、あんたと同じことをやってみたぜ」
「なるほど、想像以上に吸収が早いね」
ダルマはしてやったりの表情をとった。ツクシの目の炎は一層熱くなる。
「ならば……トランセル、体当たり連打だ!」
トランセルは強硬手段にでた。体当たり連打で畳み掛けてきたのである。
「なんのなんの。負けるなコクーン、こっちは毒針だ!」
コクーンも負けじと毒針で対抗する。お互い、どんどん体力が削られていくが、徐々にコクーンの毒が回ってきた。トランセルの顔は少しずつ青ざめていき、肩で呼吸をし、動きも鈍くなった。
「しまった、油断したか……!」
「いいぞコクーン、そのまま勝負を決めるぞ!」
コクーンの攻撃はいよいよ激しくなった。昨日までの、のんびりしたビードルの面影はなく、素早い成虫を待つサナギがそこにいた。そして……
「トランセル!」
「むぅ、なんと!」
そこにいた誰もがバトルフィールドの中央に釘付けとなった。ツクシのトランセルが倒れ、コクーンが誇らしく立っていたのである。
「……トランセル、戦闘不能!まずはダルマが一歩リードじゃ」
「やったぜ!どうだ、これが特訓の成果だ!」
ダルマは握りこぶしを高く振り上げ、ガッツポーズを見せた。コクーンも跳ねる。
「すごいよダルマ君、あの短期間にここまで成長するなんて。けど、僕は負けない!」
ツクシはトランセルをボールに戻すと、再びストライクに交代した。
「またストライクか、けど同じ手が2度も通用すると……」
「ふふ、それがするんだよ。とんぼ返り!」
ストライクは、先程と寸分変わらぬ動きでアリゲイツを攻撃した。ストライクはそのままツクシのもとに戻っていく。
「なんの、水鉄砲!」
アリゲイツは肩で息をしながらも、激流の弾丸を2、3発放った。ストライクにはまたしても当たらなかったが、交代してきたポケモンに1発当たった。
「あ、あれはコクーンか。あんたも持ってるのか」
「もちろん、僕は虫ポケモン博士だからね」
ツクシは胸を叩いた。彼は中性的な見た目だが、れっきとした男なので胸はまな板である。
「コクーンを倒せばストライクは逃げられなくなる……ここが勝負だ、水鉄砲!」
「負けるな、毒針!」
アリゲイツは、腹から出せるだけ強い力で水鉄砲を撃った。コクーンは毒を仕込んだ針をありったけ飛ばした。お互いの攻撃はほとんどがぶつかり相殺されたが、毒針1本、水鉄砲1発はそのまま相手の足元に届いた。
「どうだ……」
「……僕の勝ちだ!」
ツクシが叫んだ。アリゲイツはその場に座り込み倒れた。コクーンは、震えているもののまだ立っている。
「アリゲイツ!くそー、よりによって最後がこいつか……ええい、もうどうにでもなれ!」
ダルマはアリゲイツをボールに戻すと、半ば自棄になって3匹目のボールを投げた。ボールからは当然、今日生まれたあのポケモンが出てきた。
「これはカモネギ?にしては妙に若々しいなあ」
「うっ、まあな。ともかく、こいつで決着をつける!」
ダルマがこう言っている間にも、カモネギはそこら辺をちょこまかと動き回る。それに応じて植物の茎に結んである布も揺れる。生まれてまもないのもあるが、中々落ち着きがない。
「さて、まずは動きを止めるよ、糸を吐く攻撃!」
「させるな、トドメのつつく攻撃だ!」
コクーンはカモネギの右足を狙って糸を放った。カモネギはまんまとひっかかってしまい、そのまま転んだ。
「これで身動きはできない。勝負あった!」
「くそ!またしても負けてしまうのか……ん、あれは?」
拳を握り締めるダルマは、あることに気付いた。カモネギの体から、わずかではあるが湯気が出ているのだ。
「ふん、運の良いやつだぜ、あいつは」
「おじさま、あれは一体?」
「あれは『まけんき』という特性が発動した時に現れる湯気だ。この特性の効果は、『戦闘中相手の技で能力が下がったら、攻撃が上がる』。この特性を持つカモネギは絶滅したと聞いたが、まさか生き残りがいたとはな」
サトウキビは、僅かに興奮した口調で解説した。これを聞いて、ユミはもちろん、観客席はことの成り行きを固唾を飲んで見守った。
「なんだかよくわからないけど、いけそうだな。カモネギ、まずは糸を切るんだ!」
さて、カモネギの特性など知りもしないダルマは、いちるの希望をかけて指示した。カモネギが思い切り茎を振ると、糸の束はいとも簡単に切れた。
「なに、あんなに簡単に……!」
「もらった、つばめがえしだ!」
コクーンは口から糸を垂らしているので攻撃できない。その隙を突いて、カモネギは茎をコクーンの頭上に叩きつけた。蓄積したダメージもあり、コクーンは地に伏せた。
「よっしゃ、なんとか最後の1匹まで持ち込んだぞ!」
「これは不覚だったよ、コクーンの糸がああも簡単に破られるなんてね。じゃあ、いよいよこれで最後だ、ストライク!」
ツクシは最後のポケモンであり切り札のストライクを繰り出した。これでお互い1対1である。
「何もさせないよ、つばめがえし!」
先手はストライクだ。ストライクは一瞬にして消えたと思えば、カモネギの目の前に姿を現し右のカマで切り付けた。中々のテクニシャンであり、普通より切れ味が増している。
「ふふ、このスピードにこのテクニックを耐えるポケモンは少ない。君に勝ち目はない!」
ツクシは勝ち誇った顔で勝利宣言をした。ストライクも羽をはばたかせている。だが、いつまでたってもカモネギが倒れる気配はない。
「……ついに来たぜ、逆転の風が!アクロバットをお見舞いだ!」
カモネギはストライクの一撃を耐えていたのだ。不意の事態に虚を突かれたストライクは、カモネギのアクロバティックな茎さばきをくらった。
「い、一体どうなってるんだ!確かに当たったはず……」
「確かに当たった。まあ落ち着いてあれを見なよ」
ろうばいするツクシのために、ダルマはこの事態の答えとなるものに向けて指を差した。その先には、カモネギの茎に結んである布があった。
「気合いのタスキ。俺が作ったんだ、中々よくできてるだろ?その証拠に、カモネギは見事耐えてくれた」
「気合いのタスキだって……!」
「これで最後だ、フェイント!」
カモネギはトドメに入った。軽く茎でストライクをつつくと素早く右に動いた。ストライクは無意識のうちに反撃するが、当たらない。そして、カモネギはストライクの脇に茎を突き付けた。ストライクは観客席の前まで吹っ飛ばされ、倒れこんだ。
「むむ、そこまで!この勝負、1対0で挑戦者ダルマの勝ちじゃ!」
「……はあー、勝ったぁ!俺の勝ちだ!」
ダルマは喜びを爆発させた。カモネギのもとに近寄ると、一緒に飛び跳ねた。そこにツクシも歩み寄ってきた。
「……おめでとうダルマ君。久々に熱いバトルができたよ」
「いやいや、あんたのおかげだ。昨日ボロ負けしてなかったら、ここまで上手くいかなかっただろうし」
「はは、そう言ってもらえると助かるよ。それじゃ、これがヒワダジム勝利の証、インセクトバッジだ!」
ツクシはズボンのポケットから小さなバッジを取り出し、ダルマに託した。ダルマはそれをバッジケースに入れた。
「よーし、インセクトバッジ、ゲットだぜ!」
・次回予告:容量不足のため無し
・あつあ通信vol.2
容量ないので手短に。
タイトル決りました。「大長編ポケットモンスター『逆転編』」です。「だが断る」という方はどしどしお葉書ください。
あつあ通信vol.2、編者あつあつおでん
> お化け屋敷ですね。
> ゴーストですね。
> 楽しいと思えば楽しそうですね。
本気で怖がりの人にはただの地獄ですけれどね。
怖いゴーストタイプとかわいいゴーストタイプがいますから、かわいいやつに癒されることを念頭にしたいですね。怖がりさんには。
> でも、いろいろ言わせてほしい。
何でしょうか。私で良ければ、何でも聞きますよ。
> > 「死亡者出たらアカンやん!!」
> 全くもってその通りだ!
今回のだけでなく、コメディーチックの話はツッコミ所を自分で考えながら作ってます。今回も、また、然り。
自分自身お笑いが好きなもので。でも、クオリティの低さは気にしないです。
> >精神を病む人60%! ケガする人30%! 死亡者10%!
> この時点でアウトー!
それでも、行く人は絶えないんですよ。このお化け屋敷。人気ですから。それも一種の売りでしょうか……ね。
> >歩いた後からガラスをぶち破って浮いてきた
> 一番想像してて怖かった。ガラスの破片が刺さらないかと(見てるとこ違う
通り過ぎた後からガンガン浮いてくるんですよ。プルリル・ブルンゲルが。ピンクと青のクラゲみたいなポケモンが集団で追ってくる様はただの衝撃映像です。ガラスは刺さらないようにポケモン達が気を付けているのです。だから、そこではケガの発生を抑える努力をしてあります。
もちろん、通過し終えた後に従業員さんが大急ぎで修理して、また次の来訪者を待ち構えるのです。
> こんなのが普通にあったらいろいろと問題が起きますよ!
> 今すぐみんなで行くのです!
実際だともうこんなアトラクションは営業停止ですよ。ニュースのネタにはなりそうですが。
でも、小説の世界なので、何でもアリらしいです。
中編、後編もありますので、楽しみに待っていてください!
お化け屋敷ですね。
ゴーストですね。
楽しいと思えば楽しそうですね。
でも、いろいろ言わせてほしい。
> 「死亡者出たらアカンやん!!」
全くもってその通りだ!
>精神を病む人60%! ケガする人30%! 死亡者10%!
この時点でアウトー!
>歩いた後からガラスをぶち破って浮いてきた
一番想像してて怖かった。ガラスの破片が刺さらないかと(見てるとこ違う
こんなのが普通にあったらいろいろと問題が起きますよ!
今すぐみんなで行くのです!
「俺のターン!」
今の俺のバトル場には炎エネルギーがついたタツベイ20/50、ベンチにはタツベイ50/50とフカマル60/60。
相手の長谷部百合のバトル場には草エネルギーがついたフシギバナ140/140にベンチにモンジャラ70/70。スタジアムカードに夜明けのスタジアム、サイドはどちらも三枚ずつ。
そしてこの番の始まりに引いたカードは不思議なアメ。これによって今の手札はコモルー、ガバイト、水エネルギー、ボーマンダ、不思議なアメの五枚となった。
不思議なアメを使わずバトル場のタツベイをコモルーにするのもいいが、コモルー程度でフシギバナに耐えれるか、と考えると不安になる。
やはりここは多少強引だが不思議なアメを使って力押ししよう。
「不思議なアメを使いバトル場のタツベイをボーマンダに進化させる!」
タツベイの足元から光の柱が現われ、背中に翼が生えて体が大きくなり、雄々しいボーマンダ110/140が姿を現す。
「ボーマンダのポケボディー。バトルドーパミンの効果により、相手の場に最大HPが120以上のポケモンがいるならこのポケモンのワザに必要な無色エネルギーは全て無くなる」
「そんなっ!」
「そして俺はボーマンダに水エネルギーをつける」
通常はエネルギーが炎水無無の合計四枚で発動できる蒸気の渦。しかしバトルドーパミンの効果でそれが炎水の二枚だけになる。相手に依存してしまうが、効果さえ発揮してしまえば非常に心強いポケボディーである。
「そしてベンチのタツベイとフカマルをそれぞれコモルー(90/90)とガバイト(80/80)にそれぞれ進化させてボーマンダで攻撃。蒸気の渦!」
このワザは威力120と一級の威力を誇る大技だが、炎と水エネルギーの二枚をトラッシュしないと使えない。ボーマンダにつけているカードをトラッシュすると、ボーマンダが大きく開いた口から可視の白い渦がフシギバナ20/140に襲い掛かる。
手札は尽きたが相当のダメージだ、満足出来るだけ暴れさせてもらった。
「私の番ね。トレーナーカード、ゴージャスボールを使います。効果でデッキからLV.X以外のポケモンを山札から手札に加えます」
一見万能なサーチカードに見えるこのゴージャスボールの弱点は、トラッシュにゴージャスボールがあると発動できないということ。つまり基本的には二枚目以降は使用できない。
「私はモジャンボ(110/110)を手札に加えてモンジャラを進化させます。そしてモジャンボに草エネルギーをつけてフシギバナの攻撃ね。どたばた花粉!」
フシギバナが背中の花を大きく揺らす。先ほど俺のポケモンを襲ったのは黄色い花粉だけだったが、今回は赤に紫に白と色とりどりの花粉がボーマンダに降りかかる。
「フシギバナが80以上のダメージを喰らっていた時にこのワザを使うと、相手を毒と火傷と混乱にする!」
攻撃を受けたボーマンダ80/140は、残りHPから比べると特殊状態のせいかやけに満身創痍に見える。
「私の番は終わりだけどここでポケモンチェックね。まずは毒の10ダメージ。続いて火傷判定よ」
火傷は毎ポケモンチェックのときにコイントスをし、ウラなら20ダメージを受けてしまう特殊状態。オモテが出ればダメージは回避できるのだが。
「……ウラだ」
ボーマンダ50/140のにげるエネルギーは三つもある。逃げて特殊状態回復などという手段を取るのはエネルギーのロスを考えると厳しい。素直に諦めるべきだろう。
「俺のターン。サポーター、デンジの哲学を発動させてもらう。手札が六枚になるまで山札からカードを引く。俺の今の手札は0なので六枚ドローだ」
手札の補給から今後の動きを立て直さなければならない。フシギバナ20/140のどたばた花粉が厄介過ぎる。まずはこいつからなんとかしないと。
「ベンチのガバイトをガブリアス(130/130)に進化させる。そしてボーマンダに炎エネルギーをつけて攻撃する」
と言いたいのだがボーマンダは混乱状態である。混乱は攻撃するときにコイントスをして、オモテだと攻撃は通常通り可能なのだがウラの場合は攻撃ができず自身に30ダメージを与える状態異常。
ここでコイントスを外すと返しのターンでボーマンダは間違いなく倒されてしまう。フシギバナを手早く倒すためにはここが分岐点だ。
「混乱の判定をする。……オモテだ。よし、フシギバナに火炎攻撃!」
ボーマンダが口からその体長と同じ程の大きさの火球を吐きフシギバナにぶつける。このワザの威力は50。残りHPが20/140だったフシギバナは戦闘不能だ。
「わたしはモジャンボ(110/110)をバトル場に出します」
「サイドを引いてターンエンドだ。ポケモンチェックでボーマンダは毒の10ダメージ。続いて火傷の判定だ」
今度もウラ。このポケモンチェックで計30のダメージを受けてボーマンダの残りはHP20/140。相手の番にボーマンダは気絶させられるか。しかし今引いたサイドは……。
「私のターンね。モジャンボに草エネルギーをつけてレベルアップさせますわ」
モジャンボLV.X130/130はその長い両腕を突きあげて叫びを上げる。なんという迫力だ。エースカードはフシギバナではなくこのモジャンボLV.Xか。
「モジャンボLV.Xに草エネルギーをつけてワザ、大成長!」
「なっ、ここで大成長だと!?」
「大成長は自分のトラッシュの草エネルギーを好きなだけ選び自分のポケモンにつけるカード。私のトラッシュには草エネルギーが一枚だけなのでモジャンボLV.Xにつける。そして私の番は終わりね」
舐めているのか。モジャンボの攻撃でボーマンダを倒せるはず。なのにどうせわざわざ倒せなくてもその程度と高をくくっているのか。もし俺のボーマンダが次のポケモンチェックで火傷のコイントスがオモテならば場に残り続けるというのにだ。
「ポケモンチェックだ。毒のダメージを乗せる。火傷判定だ!」
荒々しくコイントスのボタンを押す。念を押して言うが残りHPが10/140のボーマンダはここで火傷のダメージを受けると気絶する。
その判定の結果はウラ、ボーマンダは力なく体を横にして倒れる。くっ、これじゃあ相手の理想の展開じゃないか。
「ボーマンダが気絶したのでサイドを引きますわ」
上品な微笑みの浮かぶ長谷部百合。だが、俺はやや下品な笑みを浮かべてベンチのガブリアス130/130のカードをバトル場に移動させる。
そうだ、これくらいやってもらわなくては面白くない。いいぞ、その調子で俺にぶつかって来い!
「俺の二番手はガブリアスだ!」
向井の番が始まる。互いにサイドは三枚で、あたしのバトル場にはノコッチ60/60。ベンチにはアリゲイツ80/80。
相手のバトル場には特殊鋼が一枚ついたダンバル50/50。ベンチにもダンバル50/50と、コイル50/50。鋼タイプ、あまり数が多くないだけにやや珍しい相手の部類に入る。
「バトル場のダンバルをメタング(80/80)に、ベンチのコイルをレアコイル(80/80)にそれぞれ進化させます。そして僕はメタングに鋼エネルギーをつけて攻撃。高速移動!」
気付くと先ほどまで向井の場にいたメタングがいつの間にやらあたしのノコッチに突撃していた。あたしが見たのは突撃を喰らって宙に舞うノコッチ40/60だけだった。ワザの威力自身はたったの20、何か効果があるのか。
「そして高速移動の効果により僕はコイントス。オモテなら次の相手の番、ワザのダメージや効果を受けなくなる。……、オモテだ」
これで次のあたしの番、あたしはメタングにダメージを与えられない。……が、与えるつもりなどハナからなかった。どうせノコッチでカードを引くだけだ。
「あたしのターン、ドロー。ブイゼル(60/60)をベンチに出し、アリゲイツに水エネルギーをつけてノコッチのワザ、へびどりを発動。カードを一枚引いてあたしの番は終わりね」
「僕の番だ」
カードを引いた向井の顔がしかめっ面になっている。いいカードは引けなかったのかな。
「僕はスタジアムカード、帯電鉱脈を発動。……ウラか。それじゃあ手札からメタングに鋼エネルギーをつける。そしてメタルクローで攻撃!」
辺りが電気を帯びた殺風景な鉱脈に変わる。この帯電鉱脈の効果は確か互いのプレイヤーはそれぞれの番にコイントスが一回でき、オモテならトラッシュの雷か鋼エネルギーを手札に戻せるというカードだ。
メタングがノコッチに対し、硬化させた大きな右腕の爪でノコッチに激しい一撃を与える。メタルクローの威力は50、残りHPが40/60だったノコッチのHPはこれで0、ね。
「サイドを引いて僕の番終わりです」
カードを引いた時の表情は、今度は笑っていた。どうやら欲しいカードはサイドにあったみたいね。
「あたしの次のポケモンはアリゲイツよ。あたしのターン!」
来た! このカードで、ようやく反撃の機会が。
「アリゲイツをオーダイルに進化させるわ!」
バトル場のアリゲイツが口から放たれる大量の水。それはまるでカーテンのように己の身を包みこみ、シルエットは段々大きくなっていく。放水が止み噴水が解けるとそこにはオーダイル130/130の姿があった。
「そしてトレーナーズカード、スーパーボールを発動。この効果で山札のたねポケモンをベンチに出すわ。あたしはワニノコを選択し、ベンチに出す」
ベンチの開きスペースに現れたスーパーボールが開き、ワニノコ50/50が軽快な鳴き声とともに颯爽と登場する。
「オーダイルに水エネルギーをつけてメタングに攻撃。破壊のしっぽ!」
オーダイルはその長い尻尾を振りまわし、ボールを蹴るようにメタングを弾き飛ばす。
「メタングについている鋼の特殊エネルギーは、鋼タイプのポケモンについていると相手のワザによるダメージを10減らす。よって破壊のしっぽのダメージは60だけど僕のメタングが受けるダメージは60引く10で50!」
10減らされたとしてもメタング30/80のHPを半分以上削ったんだ、次の一撃が決まれば気絶させれる。さらに破壊のしっぽにはまだ効果がある。
「このワザの効果により相手の手札一枚をオモテを見ずにトラッシュする!」
先程向井がサイドから引いたカードは一番右に入れられていたのをあたしはしっかりと見ていた。喜ぶようなカードなら、トラッシュに落として当然でしょう。
「あんたから見て一番左のカードをトラッシュしてもらうわ」
向井は驚愕し、悔しそうにカードをトラッシュする。予想通り、良いカードを落とせたようだ。モニターを使って相手のトラッシュを確認すると。
「おっ、ついてるついてる」
向井のトラッシュの一番上はメタグロスのカードだった。
翔「今日のキーカードはボーマンダだ。
ポケボディーで相手が強いほど強くなる!
蒸気の渦で決めてやれ!」
ボーマンダLv.66 HP140 無 (破空)
ポケボディー バトルドーパミン
相手の場に最大HPが「120」以上のポケモンがいるなら、このポケモンのワザエネルギーのうち、無色エネルギーは、すべてなくなる。
炎無 かえん 50
炎水無無 じょうきのうず 120
自分の炎エネルギーと水エネルギーを、それぞれ1個ずつトラッシュ。
弱点 無+30 抵抗力 闘−20 にげる 3
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