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彼女には人とは違うところがありました。
しかしそれは、決してとっても美人だとか、勉強ができるとか、ポケモンバトルがうまいとか、そういう類の違いではありません。それどころか、そういう物差しで計るなら、彼女はとてもとても、平凡な人間でした。
彼女の『違い』とは、最初に捕まえたポケモンのことです。
彼女は幼い頃、カントーに住んでいました。
そしてそこの草むらで、一匹のポケモンと知り合ったのでした。――決して捕まえたのではありません、お知り合いになったのです。彼女がお留守番でつまらなそうにしていたときに、ふと草むらから飛び出してきたポケモン。
むにょーんとした紫色のそいつは、メタモンでした。
彼女がつまらなそうに縁側で足をぶらぶらさせているとき、メタモンはいつも彼女のそばまでやってきました。彼女は自然、メタモンと仲良くなりました。そのうち、メタモンは彼女がつまらなそうにしていなくてもそこにいるようになり、気がついたら彼女の家に住み着いていました。
そして、そのまま引っ越し先までついてきてしまったのです。
彼女はトレーナースクールで授業を受けて、ポケモンを仲間にするためにはモンスターボールが必要だということを学びました。
だからその日、彼女はお父さんにねだって、ボールを買ってもらいました。それで、家の庭でむにょーんとしていたメタモンを初めて、捕まえたのです。
彼女の初めてのポケモンは、メタモンでした。
彼女は毎日を平凡に過ごしていました。
トレーナースクールに通っていたにも関わらず、彼女にポケモンの才能は芽生えませんでした。ポケモンは一匹も捕まらない。メタモンはバトルに強くありません。彼女は悔しくて、何度も何度も泣きました。
そして彼女は、道をなくしてしまいました。トレーナーになんてなれない。でも、怖いポケモンは怖いから、ブリーダーもきっとなれない。あれも無理、これも無理――将来の夢については、考えることさえ少なくなっていきました。
ある日のことです。
彼女のクラスに、森でピカチュウを捕まえた、という男子が現れました。
彼はクラス中、学校中に言いふらして回って、一躍大スターになり、学校にはにわかにピカチュウブームが巻き起こりました。
ピカチュウのストラップ、ピカチュウの缶ペンケース、美術の授業でも粘土でピカチュウを作る人は多く、森まで捕まえにいく人も沢山いました。
もちろん彼女もピカチュウが大好きでした。
「ピカチュウ、可愛いなあ。あたしも欲しいなあ」
彼女は思いました。
しかし、彼女にはとうてい、ピカチュウを捕まえにいくことなんてできません。
ため息をついたそのとき、彼女はひらめきました。
「そうだわ、メタモンに”へんしん”してもらえばいいじゃない」
さっそく彼女は、メタモンに雑誌をみせて、ピカチュウになってもらいました。
メタモンはピカチュウになりました。……ただし、それはうすっぺらいピカチュウでした。立体感のない写真では、メタモンもうまくへんしんすることができないようです。
彼女は落胆しました。せっかくピカチュウが手に入ると思ったのに。
実物を見せてしまえば話は早いのですが、それではまるで自分が人気をパクったように思われてしまう、と彼女は考えていました。そうなれば、彼女は白い目で見られてしまうこと間違いなしです。
考えて考えて、そしてふと思いつきました。
「粘土がある。粘土でピカチュウをつくって、メタモンに”へんしん”してもらえばいいんだ」
しかし、口で言うほど上手くはいかないものです。
彼女が粘土で作ったピカチュウは、既になんだかよくわからないものになっていて、メタモンはなんだかよくわからないものに”へんしん”していまいました。
それが悔しくって、彼女は頑張って何度も、何度もピカチュウをつくりました。そして彼女はだんだん粘土を捏ね上げるのも上手になり、だんだん粘土はピカチュウに見え始めましたが、そのころにはピカチュウブームはとっくに過ぎ去っていたのでした。
ある日、彼女のクラスに転校生がやってきました。かっこいい男の子です。
転校生は、ジグザグマというとても可愛いポケモンを連れていました。
だから、転校生の話題と合わさって、この辺りには住んでいないジグザグマは、一躍人気者になり、学校にはにわかにジグザグマブームが巻き起こりました。
しましまのえんぴつ、しましまのペンケース、手作りのジグザグマキーホルダー、転校生の席はジグザグマを抱かせて欲しい人達の列でいっぱいになりました。
もちろん彼女もジグザグマが大好きでした。
「ジグザグマ、可愛いなあ。あたしも欲しいなあ」
そして今度はすぐに、粘土細工に取り掛かりました。
けれど指で細工をするには限界があります。時にはリアリティを求めて、つまようじやボールペンに出動してもらうこともありました。彼女はだんだん粘土を捏ね上げるのも上手くなり、ジグザグマもより本物らしくなりました。
けれど、ひとつ忘れていたことが。
油粘土には色がありません。メタモンはより本物らしいジグザグマに”へんしん”しましたが、ひどくモノクロでした。
しかし、いいことがありました。
うなだれる彼女に、お父さんが、『紙粘土』と『細工用ペーパーナイフ』を買ってきてくれたのです。
「いっつもメタモンと遊んだり、ぼうっとしているだけだったお前が、こんなに真剣に粘土をやっているんだから、お父さんにも応援させてほしいな」
彼女の目は、とたんに輝きを取り戻しました。
それから彼女は、粘土を捏ね上げて、色を塗って、メタモンに”へんしん”してもらって、いろんなポケモンを手に入れました。
簡単な装飾のポケモンから、高等学校に上がるころにはより複雑な細工の必要な伝説のポケモンまで、様々なポケモンをつくりあげ、メタモンはそのたびそれに”へんしん”し、嬉しそうな彼女の周りでむにょーんと踊りました。
彼女は、美術系の専門学校へ進学しました。
今や、彼女は有名なポケモンアーティストです。
さまざまなポケモンのポーズサンプルやフィギュアのデザインを行い、その精密さとリアリティは評判でした。
それもそのはずです。ポーズなら、”へんしん”したメタモンがばっちりきめてくれるのですから。
ある日、彼女はアトリエで、今はめっきり使わなくなった油粘土を取り出して、何かを捏ね上げていました。
それはとっても単純な形をしているのですが、彼女はそれをひどく大事そうに、ていねいに、ていねいに仕上げます。
それは、粘土のメタモンでした。
「あのね、メタモン」
彼女が言うと、窓際でちいさなトドグラーの姿になっていたメタモンが振り向きました。
「あたし、あなたの力でいろんなポケモンを手に入れてきたけど、それでもね」
彼女は完成した粘土のメタモンを、トドグラーのメタモンの前にとん、と置いて、言います。
「ほんとはね、メタモンがいちばん、いちばんだいすきよ」
メタモンはメタモンの姿に”へんしん”すると、むにょーんと笑いました。
おわり
***
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】
ポケモン短編初作品。しんどい時に書いたんですがこいつがつけてきた感想が支えになりました
今でも大好きな子で、拙いところも多いですが、あえて初書きから手を加えていません。むにょーん
「ドロー!」
互いのサイドは二枚。しかし半田さんの場にはエナジーゲイン、悪エネルギーのついているドンカラス80/80、ベンチにクロバットG80/80、マニューラG80/80、超エネルギーが一枚ついたスカタンクG80/80。
俺の場には炎エネルギー一枚ついたバシャーモ30/130、ベンチにヒコザル40/40だけと場を見るとどちらが有利かは火を見るより明らかだ。
そして回ってきた俺の番。引いたカードはオーキド博士の訪問だった。山札からカードを三枚引いて、その後手札から一枚デッキの下に置くカードだ。手札補充をしよう。新たに引く三枚に賭けるんだ。
「サポーター、オーキド博士の訪問を発動!」
オーキド博士の訪問で引いたのは不思議なアメ、炎エネルギー、ゴウカザル。
半田さんはドンカラスGでベンチのヒコザルをきずをねらうで攻撃すればダメージカウンターのないヒコザルには最初に20ダメージ、次のターンはすでにヒコザルにはダメージカウンターが乗ってるため40ダメージ。HPが40しかないから気絶。残りHPが30のバシャーモは毒で倒れ、サイドを二枚引く算段なのだろう。
俺の手札にはあらかじめモウカザルがあったがスタジアムのギンガ団のアジトのせいで進化するとダメージを受けてしまい、ドンカラスGによるワザのダメージが増えるためため迂闊に進化できなかった。しかしヒコザルからゴウカザルへと一気に進化できるならHPも一気に増えるため問題ない。
オーキド博士の訪問の効果で戻すカードはモウカザルにした。
「不思議なアメを発動。ヒコザルをゴウカザルに進化させる!」
ヒコザルの足元から光の柱が現われ、それが消えた頃にはゴウカザル110/110へと姿を変えていた。
「進化させたためダメージカウンターを二つ乗せてもらう」
「それくらいは構わないさ。バシャーモのポケパワー、バーニングブレスを今度こそ喰らってもらうぜ!」
バシャーモが炎の息をドンカラスGへ吹きかける。ドンカラスGは羽を動かして必死に抵抗している。リアルな演出だ。
「バシャーモの炎エネルギーをトラッシュしてベンチのゴウカザルと入れ替える。ゴウカザルに炎エネルギーをつけてワザを使うぜ。ファイアーラッシュ!」
ベンチに逃げたことでバシャーモの毒は回復した。ゴウカザル90/110がドンカラスG80/80へと四足歩行で駆けて行く。
「自分の場の炎エネルギーを好きなだけトラッシュして、トラッシュしたエネルギーの枚数だけコイントスをする。そしてオモテならオモテの数かける80ダメージを相手に与える。俺の場にはゴウカザルにつけている炎エネルギー一枚しかない。それをトラッシュしてコイントスだ!」
モニター手前のコイントスボタンを押す。オモテが出ると一気に情勢が変わる。来いっ、オモテが出てくれっ!
が、そうはいかず無情にもウラと表示された。それに対応してゴウカザルの攻撃はドンカラスGに当たらず。
「ふぅ」
半田さんは外れたことに安堵しているようで、一瞬緊張が入った表情も元通りに戻っていく。
「だけどポケモンチェックで火傷の判定をしてもらうぜ」
火傷は毒と違い、ポケモンチェック毎コイントスが必要である。オモテならダメージはないがウラなら20ダメージだ。
半田さんがコイントスをした結果オモテとなりダメージはまだ0。
「俺のターン。ギンガ団の賭けを発動。互いに手札を全て山札に加えシャッフルだ」
ここで手札リセット。タイミングが微妙なので俺の頭にはクエスチョンマークが一つ。
「そしてじゃんけんをしてもらう。勝ったら山札から六枚、負けたら三枚引くのさ」
確実な一手を踏んできた半田さんが急にギャンブルカードを使うことにまたクエスチョンマークが増える。しかしここは迷うところではないだろう。じゃんけんに勝って確実に手札が増やしたい。
「よし、そうとなったら! 最初はグー、じゃんけんほい!」
……。勢いだけではどうにかならず、じゃんけんでも負けてしまったか。
「俺が勝ったから六枚引かせてもらうよ。そしてスカタンクGに超エネルギーをつけてポケパワー発動、ポイズンストラクチャー!」
スタジアムが場にあるとSPポケモン以外のバトルポケモンを毒にするポケパワーが発動し、ゴウカザルは毒に冒される。
「ドンカラスGの攻撃、きずをねらう。バシャーモに攻撃だ!」
ドンカラスGは飛び立つとベンチにいるバシャーモ30/130を襲う。バシャーモにはダメージカウンターが乗っているため受けるダメージは40。この一撃でバシャーモはHPが0になったのでこれで戦闘不能となってしまった。
「サイドを引かしてもらう。俺の番は終わりだが、ゴウカザルは毒のダメージを受ける」
110あったHPがもう80/110まで減っていく。じわりじわりと減っていくHPは、まるで残り僅かの砂時計。なんとかタイムリミットまでに勝ちきらねば。
「だがそっちも火傷判定をしてもらう!」
威勢よく言ったのはいいが、またしても半田さんはオモテを出す。運を味方にしすぎである。しかしここで火傷の20ダメージの有無はどうでもいい。
「俺のターン! ゴウカザルに炎エネルギーをつけて攻撃。ファイアーラッシュ!」
今つけたばかりの炎エネルギーをトラッシュ。そして今度こそ決まってくれ! と強く念じてコイントスボタンを押す。……願いは通じたのかオモテだ!
「っしゃあ! 行っけえ!」
ゴウカザルは大きな火球をドンカラスGへぶつける。盛大な爆発のエフェクトと共に吹き飛ばされたドンカラスGのHPをたった一撃で削りきる大技は綺麗に決まった。
「サイドを引いてターンエンド! 追いついたぜ」
「次の俺のバトルポケモンはスカタンクGだ。そしてポケモンチェックが来たのでゴウカザルには再び毒のダメージを受けてもらう」
じわじわと痛みつけられるゴウカザル70/110。そろそろHP半分を切ってしまう。
「俺のターン、スカタンクGに超エネルギーをつけて攻撃だ! 煙幕!」
スカタンクGが灰色の煙……って普通の煙だな。目くらましで使うような煙幕を発する。ゴウカザル50/110のHPは更に削られていく。
「ゴウカザルに20ダメージだ。そして次のターン、ゴウカザルはワザを使う時にコイントスをしなくてはならない。そのコイントスがウラだとワザが使えなくなる。俺の番が終わると共に毒のダメージを受けてもらおう」
もう残りHPは40/110。次にワザを外すか倒しきれなかったとしたら俺の番の終わりのポケモンチェックで毒の10ダメージ、そして半田さんの攻撃で20ダメージ、そして半田さんの番の終わりのポケモンチェックでさらに10ダメージ。これでゴウカザルは気絶してしまう。サイドが残り一枚の半田さんはこれで勝利だ。
「くっ、俺のターン!」
引いたカードは炎エネルギー。毒をなんとかするカードでなければ種ポケモンでもない。こうなったらこのゴウカザルで勝つしかないか。
「炎エネルギーをゴウカザルにつけて攻撃だ!」
つけた炎エネルギーをすぐにトラッシュする。もはやつけた気がしないが……。
「まずは煙幕の効果の判定だ」
コイントスボタンを押す。ウラが出た時点で詰み、負けだ。
「オモテだ! 続いてファイアーラッシュの判定!」
ここでオモテを決めれば勝ち、ウラが出れば負け。こんなところで負けるとまた俺は姉さんに頼ることになる。もう高校一年生、いや。あと何ヶ月かで高校二年生だ。なのにまだ姉さんの脚を引っ張ってしまうのか。それだけは嫌だ。
俺はまだ、負けられない!
「俺はまだまだ勝ち続けるんだ!」
叫び声が響くと同時にモニターに文字が映る。
「オモテか? ウラか!?」
半田さんも釣られて叫ぶ。モニターにはオモテと表示されていた。
「おっしゃあああ! 喰らえ!」
ゴウカザルが右手にもった火球をスカタンクGに力いっぱいぶん投げる。派手な爆発のエフェクトの後、スカタンクGは力なく倒れる。最後のサイドカードを引くと試合終了のブザーが鳴る。
「ありがとうございました」
挨拶を終え、熱戦をした相手と握手をする。
「最後までドキドキハラハラで怖かったよ。でも楽しかった。また機会があれば」
半田さんは悔しさの一切ない笑顔を浮かべる。清々しい対戦だったのは俺も同じだ。半田さんの言葉に俺は黙ってうなずく。
「頑張れよ」
去っていく半田さんは右手拳を俺に向かって突き出す。それに返すように、半田さんの拳に俺の拳をぶつけた。
翔「今日のキーカードはゴウカザル!
エネルギーをトラッシュすると80ダメージ!
ただしコイントスはしっかりとな!
ゴウカザルLv.44 HP110 炎 (EPDPt)
炎 ファイアーラッシュ 80×
自分の場の炎エネルギーを好きなだけトラッシュし、トラッシュしたエネルギーの枚数ぶんコインを投げ、オモテ×80ダメージ。
無無 いかり 30+
自分のダメージカウンター×10ダメージを追加。
弱点 水+30 抵抗力 ─ にげる 0
───
半田幸治の使用デッキ
「ギンガ団の脅威」
http://moraraeru.blog81.fc2.com/blog-entry-639.html
いまさらですが、此処でキャラクター紹介をば。(物語の進行に伴い編集、名前が判明しているキャラクターのみ記載。)
メインキャラクター
アレン・デュナス
この作品の主人公の一人。
悪いことは絶対に許せない、正義感の強い性格。時節感情的になることもある。
服装はポロシャツに短パン。
中世的な顔つきで女性に間違われることもある。
現在の手持ち:ゴチミル、シママ、ミジュマル。
ダルク・レイジェル
この作品の主人公の一人。
クールな性格でいかなる危機的状況でも感情だけで行動せず、冷静に状況を分析したうえで行動する冷静さの持ち主。
服装はコートの下に白い無地のTシャツ、ジーパンをはいている。また、赤い宝石のペンダントをつけている。
頭にアホ毛が一本軽く巻いた感じで立っている。(本人は結構気に入っている)
現在の手持ち:ドリュウズ、ワシボン、ヒトモシ、フシデ、モノズ、ツタージャ。
サブキャラクター
ユウキ
第2話でアレンとバトル。
エメラルドの男主人公そのもの。
現在の手持ち:オニスズメ
ダルクが投げたボールから出てきたのは、ドリュウズ、ワシボン、ヒトモシ、フシデ、モノズ、ツタージャだった。
「さて・・・一気に片付けるぞ!ヒトモシ、かえんほうしゃだ!」
ヒトモシのかえんほうしゃが次々と相手のポケモン達を倒して行く。
「な、なに・・・!?」
「ふっ・・・どうだ。」
「くそっ!こうなったら!!」
デス・クロノスの団員達は、新たにマタドガスやイワーク、モココ等のポケモンを出してきた。
「ふん、ポケモンを追加するか。とことん卑怯な奴らだな。どこぞの反則王よりもタチが悪い。」
ダルクはそう言いながら、呆れたように手を顔にあてた。
「まあ、いい。ならこちらは一斉攻撃だ!」
ダルクは、左手で相手ポケモン達を指差した。
「ワシボン、つばめがえし!フシデ、どくづき!モノズ、あくのはどう!ツタージャ、グラスミキサー!」
ワシボン、フシデ、モノズ、ツタージャが一斉に攻撃した。敵ポケモンは次々と倒れ、残るはレディアン、テッカニン、アメモースのみとなった。
「残すは全員むし・ひこうタイプか。ならばドリュウズ、いわなだれだ!」
ドリュウズは、大量の岩を3匹のポケモンに向かって落とした。残った3匹のポケモンはあっけなく倒れてしまった。
「うう・・・く、くそ・・・。」
「おぼえてろよー!」
団員達は、ぼろぼろのひこうポケモン達に捕まり、飛んで逃げて行った。
「・・・戦闘不能のポケモンに、無茶させやがるな。」
「・・・・・・。」
アレンはこの様子をじっと見つめていた。そして、アレンの中にいくつかの疑問が浮かんでいた。
真相を確かめるべく、アレンはダルクに話しかけた。
「なぁ、ダルク。ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・。」
「・・・?何だ?」
「もしかして、ダルクもポケモンリーグ優勝を目指してる?」
「あ、ああ。・・・!?『も』って、まさか・・・お前も!?」
「あー、うん。そうなんだよ・・・。」
「こいつは驚いたな・・・。こんな形でライバルに逢うことができるなんて。」
ダルクは、そう言いながら頭を掻いた。
「おはは・・・。バトルがすっごい強かったから、もしかしたらって思ったんだ。」
「強いだなんて・・・俺もまだまだだよ。」
「あと、ダルクってもうポケモンを6匹持っているんだね。」
「・・・アレンは何匹持っている?」
「えっと・・・2匹。」
「ふむ・・・ちょっと、ついてきてくれないか?いいポケモンを捕まえられそうな所が近くにあるんだ。」
「あ、うん。わかった。」
アレンは、ダルクに連れられて、302番道路へ向かった。
【あの「喫茶ポケンテン」に驚きの新メニュー到来! 】
とあるB級グルメ雑誌の見開きページに、でかでかと踊るポップな字体。なんでも、これまで食用とされていなかったトリトドンの肉(?)を、奇抜な料理を出すことで有名な喫茶が丼物に仕立てて売り出したらしい。その名は「トリト丼」。
前代未聞のメニュー、だってさ。
そう言って、悪友は俺の顔を見てにやりと笑う。こっちは笑う余裕も無いから、黙って睨みつけるだけに留めておく。
そうとも、余裕なんて無い。だって今俺の目の前に、その「前代未聞の驚きメニュー」とやらが鎮座してるんだから。
なんでこんなことになっちまったんだっけ。青と白の昔懐かしい柄をした丼を眺めつつ、俺はぼんやりと考える。
確か……昼休みに教室に放置されてた雑誌を見つけて、何気なく捲って。例の見出しを見つけて、面白そうなもんがあるぜ、ってこいつに見せて。
トリトドンの肉? あれって食えるのか、食えたとしても食いたくないだろ、なんて笑ってた……その後だ。
『よっしゃ、今日の英語の小テストの点で負けた方がこれ食おうぜ』
俺の口から決定的な一言が飛び出した。二人とも悪ノリして、絶対お前に食わせてやるからななんて言い合ってはしゃいでた。
ああ。もしも時間を戻せるのなら、あの時の俺に一言言ってやりたい。
おい俺、【言いだしっぺの法則】くらい知っとけよ……!!
思い出したところで、残念ながらどうすることも出来ない。都合よくセレビィとか出てこないかなあ、なんて呟いてみたが何の変化も無かった。どうやら伝説さんは忙しいらしい。
早く食えよ、と急かす悪友をもう一度睨んでから、俺はゆっくり蓋という名の封印を解いた。
うをう。
うへえ。
お互いの口から異様な声が漏れる。もっと異様な丼の中身を見てしまったからだ。
【あったかご飯の上に、味噌でじっくり煮込まれた柔らかなトリトドンの肉(これを肉と呼んでいいのかという疑問はあるが)がのった見た目は、丼一面を、ピンクと赤茶が混ざった何とも表現しがたい色のスライムが覆いつくしているようで】とは、雑誌の記者の弁。
うん、全面的に賛成する。賛成するけど、もうちょっと追加しておきたい。
ホカホカと熱を発する丼の中から、湯気と共に立ち上る香ばしい味噌の匂い。これだけなら間違いなく食欲を刺激する。これだけなら、な。
問題は、メインの「肉」の部分だ。
味噌でじっくり煮込まれた、とあるだけに、トリトドンの明るいピンクと味噌の濃い赤茶色が融合して、もう何色って感じの素晴らしいことになっちゃってる。その素晴らしい物体が、下にある(であろう)ご飯にでろりと覆い被さっている。【何とも表現しがたい色のスライム】が、真っ白な大地を侵食している図とでも言えばいいか。
………地球外生命体ぽわぐちょ、なんていう言葉が浮かんだ。
一足先に衝撃から立ち直った悪友が、冷めるぞ早く食えなんて言いやがる。くそっ、他人事だと思いやがって!
恐る恐る、箸でぽわぐちょ……じゃなかった、トリト丼をつつく。ぷるりぷるりと震えるピンク赤茶の肉。これは……あれか、固いぷっちんプリンて感じか。
えい、と箸先に力を入れて一口大に割ると、ぶりゅん、という弾力が有るんだか無いんだかよく分からない感触。小さくなった肉片がてろりん、と味噌の薄茶に染まったご飯の上を滑り落ちる。
……ぶっちゃけ食いたくねぇー!
勘弁してください、の意を込めて悪友を眺めるも、奴は満面の笑みで俺を拒んだ。潔く食え、そして悶え苦しめと顔に書いてある。楽しくて仕方がないようだ。
ああ分かったよチクショウ、やってやるよ! 俺だって漢だ!!
一気に丼を掴み、口元で傾けざま肉片とご飯とをかっ込む。わしわしわしと箸で詰め込んでから、吐き出さないようにしっかり口を閉じる。歯を食いしばって……って、これじゃ食えない。渋々、咀嚼の為に顎を動かす。
ぶりゅん、ぶりゅん、ぶりゅん、てろん。
口の中いっぱいに広がる、形容しがたい感触。そして濃厚な味噌の味が舌の上で炸裂する。固めのご飯と、柔らかい(のか?)トリトドンの肉が渾然一体となって口腔を暴れまわる。
これは―――――――――。
「あ、結構美味いかも」
「マジで!?」
――――――――――――――――
よっしゃ、ハルカ☆マギカは掲載されてる! とパソコンの前でガッツポーズを取った後、トリト丼の姿が見えないことに気付いて恐慌に陥ったラクダです。ロングに移動されていたのですね。良かった、好き作品消えてなくて………!
再掲希望との事なので、またくっつけさせていただきました。こんなもので宜しければ、「どうぞお納め下せえお代官様うへへへへ」です。
ポケンテンの他のメニューも気になります。雑誌で特集なんかやらないかなぁwと呟きつつ。
乱文乱丁、失礼しました。次回作もお待ちしております!
【どうにでもしていいのよ】
ホウエン地方を自転車だけであっちやらこっちやら行くにはもちろん相当な距離がある。
んで、全部の道を知りつくているわけじゃないわけだから、時に道に迷ったりしてしまうわけで。
地図に載って無い近道なんかしようものならば・・・。
あっという間に夜なんかになってしまったり・・
するのね――!
って、叫んだところでもう遅い。ここどこだ。マジで。くそ、全てはシブチョ―が悪い。何が『カイナまでのちょっとした荷物』だ。
ちょっとどころじゃないだろ、なんでナマケロが荷物なんだよ!え?ポケモンは器物扱い?そりゃ、人権ならぬポケモン権はそう認めてますけど!
だからってこいつに伝票はっつけて自転車の荷台に積んであぁもう、傍から見たら相当おかしな人だった!
まぁ、配達はすんだ。終了しました。困ったもんだの大問題は帰り道なんだよ。
・・・夜、になっちまったんだよなぁ。とっぷり日が暮れた。荷物届けた時点で夕方だったからダッシュで帰れば社員寮につくと思った自分が甘かった。
途中で近道しようと横道にそれたのが原因か?この辺の地形は初見なものだからまったく何があるのか見当がつかない。
ポケナビなんてハイテクなもの支給されるわけじゃないし、地図を見ようにも現在地が分からない限り地図なんて意味がない。
あぁーくそー!やっちまったぁぁぁ!まさかの野宿コースか。いまからでいいからカイナに戻って民宿泊ってやろうか。もちろん必要経費で。
その戻る道ですら分からんのじゃないか!ご機嫌斜めのピチューをなだめるより大問題だぞこれは!
・・んなこと考えている間に肌寒くなってきた・・。制服は冬服だけどやっぱり外気温は寒い・・。
くそ、ゴ―スの一匹でもポケットにいるかと思ったらこんな日に限っていなかった!どうでもいいときはいるくせに肝心な時に役に立たないんだからなー。
・・いかん、眠くなってきた。グッバイ、私の青春及び人生。ここで眠ったらもれなくヨマワルが迎えに・・来た。
・・・本当に私の人生が終わったのか?足元見たら自分の死体が転がっていて実は魂の状態・・、洒落にならん。考えるやめよう。
しかしヨマワルがいるは確かだ。ふよふよ浮いてるし一つ目だしドクロっぽいデザインだし。やっぱ、ゴ―ス連れてくるんだった。通訳がおらん。
えっと・・なんか用・・なのか?・・反応なし。どうすりゃいいんだ。
まぁいいや。一人よりはよっぽどマシだし。けど、相変わらずゴーストポケモンしか寄ってこないな私は。人間ゴーストポケホイホイ。うん、全然嬉しくない。
せめてこいつと如何にか意思疎通が取れれば良いんだが、通訳はいない、こいつはきっと筆談できない、その前にまず紙がない。ペンはある。
・・。
どうにもできないじゃん。やっぱ絶望的だ!このヨマワルはやっぱり私を地獄へ案内するために来たんだ、そうだろ?
・・そんなに首を横に振らなくても良いじゃない、気を遣わなくても・・え、違うの?マジで?ならいいや、安心。
お前がここからどっかの町まで案内してくれたら嬉しんだけどねー。・・いや、ただの期待だから。お迎えポケモンでもそこまで分かるわけが・・分かるの?
・・・救いの神だね。ありがたい。案内してよ。
気分はポケモン怖い話良い話の実体験やってるみたいだな。迷子になったところをヨマワルに助けられるとか。
うーん、良い奴。代償になんか寄越せとか言われたら困るけど、そんな奴じゃないことを祈る。
・・マジでヒワマキシティについてしまった。ありがとう、本当にありがとうだよ。
んで、無事ポケモンセンターで一夜をあかしてシブチョ ―から伝票も届いて宅配行こうとしたら、あら昨日のヨマワルじゃない。
どしたんだ。ていうか夜行性が昼間に出てきて大丈夫なのか?
・・・伝票を興味深げにのぞきこんでいる。なんか面白いことでも書いてあるのか?その前にこいつ文字読めるのか・・?
おい、ちょ、伝票持ってくな!それがないと仕事にならない・・ってさらに飛んで行くな!ったく、今度はなんだ?とにかく追いかけてみるか。
・・あれ、ついた。あいつ目的地でふわふわしてるし。え、必死でヨマワル追いかけて来ちゃったけどもしかして近道かなんかを使ったってことか!?
伝票返してくれた。なんか昨日と言い今日と言いありがとう。すいませーん、チョロネコヤマトです!
その後、何回かヨマワルが伝票をさらう →おっかける→いつの間にか目的地到着を繰り返す。こいつどんだけ道に詳しいの。人間なら即チョロネコヤマトにスカウトされるぞ。
褒めてやると嬉しそうに旋回を始めた。つーかお前眠くないの?私なら無理だぞ。そう言えばどことなくふらふらしているような・・あ、落ちた。
・・寝てるのか?目玉が消えてるから寝ている・・のかな。ある意味不気味だ。まぁ、仕方ないんだろうけど。
と、いうわけで連れて帰ってみた。
ゴ―スども興味津津。おきたらぜひ通訳を頼みたいものだ。
「ナビにでもなってもらおうか?」
山のように仕事をこなしまくりナベ先輩のポケモン達も顔を覚えてくれて部屋はゴーストポケモンでますます狭くなっていく今日この頃。
初の有給休暇が取れました。
シブチョ―・・許可してくれたときの顔が仏様に見えたよ・・。
で、一日部屋での―んびりしてやろうと思ったのに・・。
ゲンガ―、お前なにやってんの?部屋の真ん中で手芸用品広げて・・。ほら、とっとと片付ける。・・嫌そうだな、随分。
大体、お前は菓子作りが本業でしょうか。・・いや、本業ってわけじゃないか、趣味か。今度はそっち方面にも手を出し始めたのか?
・・ちなみに何作ってるの?綿がいっぱいだけど・・あ!これジャケットの中身のチルタリスの羽毛じゃん!
・・・。
ゴ―スども、一斉に私から目をそらしたな。そう言えばお前ら人のジャケットの中身・・全部抜きとって館に放置しとったんかい!
あーくそ、腹立ってきた。全員まとめて久々に掃除機で吸い取ってやろうか?
そういや当分お前ら洗濯してないな。ヌケニン達も結構よごれてるし・・。ヤミラミ・・は、洗った方がいいのか?いっつもトンネル抜けてこっち来るし。
幸い、ここの社員寮は風呂もついて洗濯機ありだ。たまには洗ってやるか。トリミングセンター?馬鹿言ってんじゃない、私の趣味は貯金なんだよ。
いや、あえて頼んでみるか?そして技術の違いを見てみるとか。・・プロと張り合っても仕方ないか。頼むといっても数多いしなー。
・・・。
しかし、せっかくの休みをゴーストポケモン共を洗って過ごすというのもなんか味気ないな。時は金なり。金を払って自由を取るか金を惜しんで時間を使うか・・。
うーぬ・・って、人が真剣に悩んでるのにゲンガ―なんだよ、さっきから服引っ張って。・・え、何?また何か手伝ってほしいの?
これはこれはまた・・器用だねぇ。綿でケーキ作りやがったこいつ。本物みたいじゃん。食べられませんってタグを付けないと誰かが間違えてかじるぞ、きっと。
けど、食えないものをつくるとは珍しいね。・・え?食べてもらう?誰に。ていうか、綿じゃ食えないって。
・・・また配達して欲しいのか!?
有給休暇だって言うのに、なんで制服着て段ボールもって自転車乗ってんだろう。人が良いよなー、我ながら。
結局、洗濯はやめにしてトリミングセンターに頼みました。ヌケニンだけね。ゴ―スどもは洗濯機に投げ込んだ後に清めの御札をはっといたのでしばらく回転地獄を味わってもらう。ジャケットの恨みじゃ。
ヤミラミどもに風呂を入れてやったら自分たちでまったりしだしたので好きにさせておいた。暴れないのならそれでよし。
ゲンガ―が教えた場所はあのカゲボウズ物件の向かい側。なんか、ここで台所かしてもらったらしい。
んで、そこにいるジュぺッタがケーキとか食べられないのに気づいてお詫び代わりに作ったそうだ。なるほどねぇ・・。確かにぬいぐるみは食べられないだろうな。
・・・人形ポケモンのカゲボウズは普通に物を食うのにジュぺッタは駄目なんだ。なんでだろう。ポケモンの不思議の一つだなー・・。
んなことは偉い学者様にでも考えてもらおうか。さて、配達だ。
ノックすると人の良さそうなお兄さんが出てきた。チョロネコヤマトでーす。ハンコかサインは・・いらないんですよ。
きょとんとしているお兄さんに、はいどうぞと箱を渡そうとしたら・・中身が勝手に出てきやがった。おいこら、誰が出ていいといった。
・・お兄さん腰を抜かしてます。そらそうだ。受け取ろうとしたら中から蓋を突き破ってゲンガ―が出てくればな。
すいませんこいつが来たいっていって連れてきたんですけど大丈夫ですか!?お兄さんを気にかけると差し伸べた手を掴んでちゃんと立ちあがってくれた。大丈夫っぽいな。
元凶のゲンガ―はとことこと慣れた足取りで部屋の奥へ。おい、こっちは無視かい。
とりあえずかくかくしかじかでお兄さんにわけを話す。かいつまんでめちゃくちゃ荒い話だったのに納得してくれた。よかったー。
奥をのぞくと、いるいる、ジュぺッタにゲンガ―が持ってきていたケーキを差し出している。しまった、一匹で良いから通訳連れてくるんだった。それなら何話してるかわかるのに。
お兄さんもちょっと嬉しそうに眺めてる。それじゃあ、またゲンガー取りに来ますねーとお兄さんにいって、部屋を出た。
トリミングセンターにカゲボウズ達が何匹か徘徊しているのを見た。隠れカゲボウズ洗いの名人待ちだろうか?
たまの休みだ。
「のんびりやるか」
窓を開けると軒下の黒いテルテル坊主がぎょろりとこちらを睨んだ。
地面には穴があいて宝石の目が光を反射している。
抜け殻は天井付近で全く動かないし、ガス玉はそこら辺を徘徊している。
・・ゴースト濃度、高すぎなんじゃないの?
シブチョ―がまたわけのわからない企画を打ち出した。
その名も『カゲボウズ配送サービス』・・って、なんじゃこりゃ。ただでさえバレンタインフェアで忙しいって言うのにこの期に及んで意味不明なサービス増やしてどうすんですか。
カゲボウズは人間の負の感情を食べることで有名で、この付近にはカゲボウズが住み着く物件まで存在するという。そりゃ、それくらいは基本知識ですけどね。
で、バレンタインはハッピーな人に比例してアンハッピーな人も増えるという。そんな人のためにカゲボウズを送ります!あなたのブラックな感情をカゲボウズに食べさせて明るく前向きに暮らしましょう!
・・・って、シブチョ―、ど―ゆーアイデアですか。こんなの需要あるんですか?それ以前に何処からカゲボウズ調達するんですか!?
え?夏にカゲボウズ冷やし中華作ってた店の協力?冬の期間限定サービスとして試す?例のカゲボウズ物件の大家さんには回収の許可が出ている?
・・・。手回しが良いですね、シブチョ―。分かりましたよ、行ってきますってば!
商売人としての発想は悪くはないんだろうけど、人間としての発想は如何なものか。カゲボウズ送りつけるってまともに考えたら結構不吉じゃねぇ?
・・ここが件の『幸薄荘』ね。別なうわさではミカルゲが要石のプリントのシャツを着て生息しているとかどうとか。うーん、嘘かまことかさっぱりだ。
美人な大家さんに許可をもらって、とりあえず箱いっぱいにカゲボウズを回収することに。おいゴ―ス、お前もゴーストポケモンなら探知機代わりになってみろ。
いたいた、軒下にぶら下がるカゲボウズ。とりあえず収穫。ぷちっとな。ぷちぷち、何これ結構楽しい作業だな。お、廊下にもいる。収穫。そこにもいた。収穫。気分だけで行ったらカゲボウズ収穫祭。一回り小さいのも収穫。ゴ―スが何匹か連れてきた。収穫。
大体こんなものかな?よし、大家さんありがとうございましたー。
箱の中にみっちりカゲボウズ。窮屈じゃないかな?・・まぁ、大丈夫か。とりあえず、持って帰ろう。
カゲボウズどもは興味津津と行った様子を出こちらを眺めてくる。うーん、悪いけど今のところ君達に食べてもらうような都合の良い感情がないぞ・・?
まぁ、君たちにはこれから配達する人々のところで存分におなかいっぱいになってもらいましょう。
と、ゆーわけで一匹一匹包装しまーす。この箱の中に入ってね。うん、じっと見つめてくれても何も出ないから。はい、蓋するよ―。
包装紙で包んで、リボンをかける。ぱっと見はただのプレゼント。あけてびっくりカゲボウズ。あなたの心を癒します。・・シブチョ―、本気でこのキャッチコピーつけるつもりですか・・?
んなこと考えてたら手が止まるな、どんどん包みをつくっていく。プチなカゲボウズも包みます。これでいいか?こんなものか。
荷物室へ運びに行くか。
あー、コウモト先輩、例のサービス注文来ました?・・なわけないですよねー。やっぱりこのサービス失敗なんじゃ・・え、注文が来た?マジすか・・。伝票ください、配達行きますから。
カゲボウズボックスを積んで自転車が走る。世間はどう見てもバレンタインムード。その中を走る。うーん、中身がカゲボウズだと分からなければ絶対チョコ運んでいるように見えてるんだろうな―。
まずはここか、チョロネコヤマトでーす。本日はカゲボウズ配送サービスをご利用いただきありがとうございます!
きちんとカゲボウズの食事をさせた後は窓などからちゃんとリリースしてあげてくださいね―。
それではまたのご利用お持ちしております。
なお、カゲボウズ達のほとんどはあのアパートに帰って行くらしいのでストックが足りなくなったらいつでも収穫に行けるとのこと。
微妙に汚れてきたらトリミングセンターに連れていくこと。そう言えばこの辺の風物詩って洗濯されたカゲボウズだっけ。なんでも隠れカゲボウズ洗いの名人がいるとかいないとか。
うーん、今度ヌケニンでも洗ってもらおうか。ゴ―スどもは洗濯できるからなぁ。
今日も今日とてカゲボウズを運ぶ毎日。
中にはこっちに来た方が早いと思ったのか、何匹かのカゲボウズはこちらの軒下にぶら下がってくれた。収穫。ぷちっと。
「チョロネコヤマトのカゲボウズ配送サービスです!」
いいか、本陣はここで待機。第二、第三部隊はこっちとあっちに拡散。囮がここに出て十分引き付けたら不意打ちな。
よし、作戦準備完了。後は実行あるのみ、がんばってこーい。
・・・。
はぁ、なんでこんなとこで戦争ごっこしなきゃならないんだ。
本日はなんと超大物から荷物を預かりました。
なんと、デボンコーポーレーション、の、社長!社長自らチョロネコヤマトに来てくれた・・らしい!受付のコウモト先輩、曰くだけど。
ホウエンを代表する大物企業の社長がわざわざ宅配センターに出向くってことはよっぽど大切な荷物なんだろうなー。
で、それを私に任せてくれるとはシブチョ―・・。そんなに新入りにプレッシャーかけたいんですか・・。
まぁ、他の先輩出払ってたし・・つーか、他の先輩とまだあってすらないぞ?本当にいるのか・・?うーん、怪しいな。
まぁ、今日はこれ一つだし、楽と言えば楽か。うん。おまけに船でのーんびり・・・。・・・。
おい、ゴ―スども、ジャケットからはみ出すんじゃないぞ。マジで。
船でムロタウンまで行くとうっかり部屋で漏らしてしまったものだからゴ―スどもが連れていけと騒ぎ出してしまった。くそ、失敗したなー。
仕方なくジャケットにぎゅうぎゅうに詰め込んで着て来た。ま、いざとなったら救命道着にもなるだろ。
そして・・船の後ろにはぞろぞろとヌケニン達もついて来ている。憑かず離れずの距離なのでまぁ、運転手さんも気にしていない。
ヌケニン達はこっちから頼んでついて来てもらった。理由は・・配達先に問題があるから、なんだよなぁ。
石の洞窟、という洞窟が今回の配達先。・・え、洞窟とかありなんですか。ありなんです。
しっかし・・。社長の息子はこんなところで何をやっているんだか。家に帰れよ、まったく。まぁ、どんな人物なのかも知らないんだけど。
で、その洞窟、『フラッシュ』とかいう技を使わないといけないくらい真っ暗らしい。ゴ―スどもが鬼火を使うとかほざいていたが、あれはあんまり明るくならないからよろしくない。
その話を聞いていたヌケニン達の中に、『フラッシュ』がつかえる奴がいて、手伝ってくれるという。感謝感激。ゴ―スどもは大変不服そうな顔をしていたが。
ムロタウンにつくとゴ―スどもが一気にジャケットから抜け出てあっちやらこっちやらめいめい好き勝手に散らばり始めた。日暮れまでには帰ってこいよ―。
ヌケニン達はというと海を眺めたり木陰で涼んだりとこれまたまったり。えーと、誰だっけ、フラッシュつかえるの。・・キミ?それじゃあ、よろしくー。
包みを持って洞窟に入ると、入口付近はまだまだ明るかった。洞窟なのに何故だか登山みたいな恰好をしたおっさんが、そっちは暗いから気をつけろよーと言ってくれた。ありがとうおっさん。
たしかに梯子を降りたら・・暗い。真っ暗だ。だが、ここで必殺技を使うんだ!ヌケニン、よろしく。
・・・。
・・ま、まぶしくて目が痛い・・。
・・ん、だいぶマシになった・・かな。今度から目をつぶってるときにフラッシュをお願いすることにしよう・・。
そういや、さっきなんか悲鳴みたいなものが聞こえたような気もしたけど・・。フラッシュって攻撃技?・・違うよねぇ。
ま、とにかく明るくなったし、サッサとお目当ての人物見つけてのんびりしようか。
マクノシタとかイシツブテとか出てくるけどヌケニンオール無視。ていうか、攻撃喰らっても平気な顔してるし・・。
こいつ結構強いなー。・・そういえば、元はトレーナーの手持ちなんだっけ。納得・・。動きもいいわけだ。
あ、倒した。よし、先行こうか。
結局出てくるポケモンを片っ端からヌケニンがのしてしまい、スムーズに奥までたどり着けてしまった。・・お前、すごいな。
あそこが最後の部屋か。あそこにいなかったら洞窟来ただけ損だよなー・・。
・・あ、人いた。こんにちわ!チョロネコヤマトです!
ダイゴさんですか?はい、ここにサインかハンコをお願いします。はい、ご利用ありがとうございました―!
ちなみに、ここでなにしてるんです?え?石?はぁ・・いや、興味はないですけど。それじゃあ失礼します・・。帰ろっか、ヌケニン。
・・へ?ここまで来るの、ですか?いや―余裕余裕、このヌケニン、とっても強いんで、はい!な?・・なんでそっぽ向くんだよー。
帰りもこの調子で・・え?ヤミラミ?そう言えばあってないですけど。・・気を付けて帰るように、ですか?あ、はい。わかりました。
ヤミラミがどうかしたのかね。まぁ、格好良かったけどさ。石ねぇ・・。そういやここ、石の洞窟だったね、名前。
ここの梯子下ったらまた真っ暗になるからフラッシュよろしくね。
よし、じゃあフラッシ・・ん?
真っ暗なのに・・なんか光ってない・・?え、なにあれ、目?目かなんか!?しかも数が増えてきたっ!・・なんかヤバい気がしてきたっ・・。
ヌケニン、フラッシュ!フラッシュフラッシュ!
・・あり?ヌケニン?
そういやさっきボトッて音がしたような・・。
・・・目が闇に慣れてきた・・。
あ、落っこってる。・・って、落ちてるぅぅ!?え、ちょ、これってかなり不味くないですかい・・?
・・・えーと。
めのまえが まっくらになった!
・・・。
入口に戻るかなーと思ったらそうでもなかった。くそ、やっぱりゲームみたいに都合よくいかないのか。残念。
とりあえずヌケニンを抱えて梯子を登ったらヤミラミどもは付いてこなかった。・・どうやって帰ろうか。
・・おーい、生きてる?・・いや、ヌケニンに生きてるかって質問おかしいかな・・?おかしくないよな、多分。
はぁ〜。どうしよ、なんでヤミラミどもは急に襲ってきたんだ?なんかしたっけ?してないよなー。なんかやったといえば、フラッシュか?
・・もしや、それか?
え、フラッシュであいつら怒ってんの?いつもは暗闇の世界が急に明るくなったから?うーん、ポケモンの視点で考えるとそんなとこか?
・・・。
とりあえず、どうやって帰ろうかなぁ・・。ゴ―スどもが懐かしくなってきた。・・お、ヌケニン復活した。お前大丈夫?・・っぽいな、よかったー。
他の奴等の攻撃はニョロトノの面に水レベルで平気だった割にヤミラミにはざっくりやられてたねぇ。・・あぁ、ゴーストタイプか。納得。
さて、いくらあんたでもあの隊群にはかなわないだろ?あーあぁ、どうしようか。
・・・あれ?
さっきからキーキー変な声が聞こえてくるような?まさか、ゴ―スとか。いやなんであいつらここにいるの。
とか思ってたらあららら、ぞろぞろ一気に逃げてきた。・・ヤミラミにコテンパンにやられたっぽいな。その様子だと。
何?探検がてら入ってみたら血気盛んなヤミラミどもにチームワーク抜群で襲われた?・・おいおい。
こっちもそうなんだっての。くそ、数だけだったらこっちもそろったんだけどな・・。・・ヌケニン?どうした、急にゴ―スどもと喋りだして。
・・え、案がある?
行く途中であそこの地形を大体覚えたってお前・・ど―ゆー記憶力してんだよ・・。まぁ、すごいけど。
ヤミラミどもがチームを組んでくるんならこっちもチーム戦ねぇ・・。発想がゲーム的な気もするけど、まぁいいか。
おい、ポケモンどうしで会話されても私には何の事だかさっぱり・・ほうほう、こいつらをここに配置してこうやると・・。ヌケニン、お前すごいな。
・・うん、がんばってね。私はとりあえず待っとくから。
結果。うん、大混戦。
どうやら遊び半分だったゴ―スたちがヤミラミ達が手強かったのが気に食わなくて途中から本気になりだし、ヤミラミも本気になりだし・・ぐちゃぐちゃ。
最終的に・・うん、なんか良い喧嘩相手ができた見たな友情の空気が出てきだした。まぁ、ゴ―スどもはヌケニンに一目おくようになったみたいだし、結果オーライか?
如何にか洞窟から出たものの・・おい、夕方というか夜になる手前というか、どっちにしろ、急がないとやばいでしょこの時間はっ!
ほら、ヤミラミどもにバイバイしてきなさい。帰るぞお前ら!
数日後。
窓の外に謎の穴が開いていた。
中にはキラキラ光る眼が二つ。
「まさか海底トンネル掘りやがるとは・・」
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