|
※スズメ氏の設定にあります、ポケモン世界のホームセンターを題材とした作品です。
今日という日、オレはホームセンターにやってきた。
相棒のイシズマイが進化して大きくなり、部屋の整頓にいろいろ棚とかが必要になったからだ。
独り身だと部屋の狭さも考えずにモノを買い込んでしまうもので、常々反省を心がけちゃいるんだが……。
さておき、ついでにイシ……いや、イワパレスにも進化祝いに何か買ってやろうというのも、ある。
イシズマイとは体格が違うからな。とりあえず大きいエサ入れから考えていこうと思っている。ハサミでも壊れないような、頑丈な陶器のヤツをな。
ホームセンターは好きだ。
いろいろな生活道具があって、自分が使っているところを想像するだけで楽しい。
モップや掃除機は学生時代を思い出すし、土建屋向けのチョッキとかは実用的な上にカッコいい。キッチン用品は調理風景がどう変わるか考えるだけでも心が躍る。
とはいえ園芸用品など、日当たりの良いベランダのある家に住まない限りは、と現状ではとても無理なものを想像して空しくなることもあるが。
到着早々、イワパレスがその園芸用品にひきつけられた。
ポケモンを出したままだとこうなるんだよなぁ。まぁ、オレもそうだけど、承知の上でやってる人も多いからな。
さーて、イワパレス君は何が気になったのかねー……除草剤?
却下。行くぞ。
……あきらめろ。うちじゃ必要ない。その宿にも必要ないっての。
ったく、店内を見回る前からコレかい。
*
店内にはポケモンの姿がちらほらと見えた。オレも同じだけど、目を離すなよ?
ほれ、あのエルフーンも隣にトレーナーの姿がないし、なんか目ぇ輝かせてるし? ……トレーナーさん、あいつがなんぞやらかす前に引き取れよぉ?
まず、工具や網棚などのコーナーを見て回った。こうして見ているだけで、日曜大工というか、部屋の改造アイデアがわいてくることもある。
それにしても、ネジとか針金とか、太さが細かいんだよなぁ。使わないから関係ないけど。
…………コイル、ココドラ、お断り、か……。流石にボールに戻すだろうさ、みんな。
収納道具として、結束バンドやポールを何本かと、網棚を買った。こういうものは買う前に計画を立てておく必要があるし、今回ももちろん計画済みだ。ただちょっと衝動買いもあったけどな。
次にポケモン用品を見てみた。ポケモンとひとくくりに言っても種類があるからな。タイプごとに棚が分けられていて、なかなかバラエティに富んでいる。
ここ最近は、ゴーストポケモン向けのコーナーに野生のポケモンが入り込んだってニュースがあったが……あっちこっちで見かけるお札やうっとうしいまでのお香は、所謂 清めのアレってことか?
……待てコラ、イワパレス! その盛り塩は食い物じゃない! オヤツ買ってやるから、もうちょっと待て!
虫ポケモン向けの商品を見ると……売れ筋はやっぱり甘いミツか。これ見よがしにたくさん並んでるな。
しかしながら、うちのイワパレスは塩気のほうが好みだ。
こんにゃろう、昔 ヒトが酒のつまみにと用意した大根の塩漬けをかすめ取りやがったからな。濃い口しょう油センベイを全部食われたことだってある。今となっては恨めしい思い出だ。
とりあえず、エサ箱の他に、外骨格のためにカルシウムブロックでも買うか。ミネラルも入ってるし、たまにかじるだろ。
岩ポケモン向けの商品は、イワパレスはむしろ岩が苦手だ。進化した今、宿も岩っていうか地層……土の塊だし、買わなくても良いだろう。
こいつも使い捨てと割り切ってるのか、昔から宿への執着が薄い。とは言え、脱皮のたびにオレは次の岩を買わされてかなり辟易していたが。高いんだよ、そこそこの大きさの岩となると。おかげでローブシン印のコンクリート塊には何度も世話になった。
今では地層なんて背負っているが…………“からをやぶる”なよ? 代えなんて知らねぇぞ、オレ。
ついでに他のところも見てみた。
悪タイプ向けにはサングラスとか偽タバコとか、なんだか“それっぽいもの”が売ってる。
しかし……この香木とか、それっぽいクスリとか……大丈夫なんだろうな、いろいろと? 購入の際は身分証提示を、とか書かれてるし……。
そして建物の隅の方にある炎ポケモンコーナーには、木炭や燃油キャンディ、耐熱手袋なんかが。ただ火気厳禁で対象の炎ポケモンを近づけないようにと警告が出されてるな。
……なんていうか、命がけなんだね、あいつらの相手って。
ノーマルタイプ、というか獣ポケモン向けのコーナーでは、トレーナーの腕に抱えられたヨーテリーが、棚に並んだ缶詰を前によだれをたらしていた。
「どれがいい?」なんて聞いてるが、その様子だと「全部」って考えてそうだな、そいつ。
……ん、サーナイト? トレーナーにおねだりか。賢いポケモンは面白いねぇ。でもあの辺って獣向けのグッズじゃ…………首輪?
…………いやー、えらくなついてるね、あのサーナイト。行こう、イワパレス。自分たちには関係ないことだ。
*
そうして、なにかイワパレスに良い物はないかと見回ることしばらく。
とりあえず店内にはもうないようなので精算をすませ、再び店外は資材などが並んでいるコーナーへ。
そこで、イワパレスが異様な物に興味を示しやがった。
壁材? タイル?
今の壁に貼り付けるだけ?
貼るだけで防水断熱?
お前ってやつぁ、何かね?
その見事な地層の上に、無粋な板切れを貼り付けようって言うのか?
ロールキャベツを切ったような、歴史を感じさせるその断面を、お前はこんな寒々しいビルのようなタイルで埋めようって言うのか?
水技や草技への対策か? 確かに岩ならどっちも苦手だな。このタイルも雨風への強さがウリみたいだしなぁ……。
だが、断る。
認められっか、そんなこと。するならあっち、園芸コーナー。苔むした岩、地層の上に広がる森、その風情はお前も分からないわけじゃないだろう。
イヤか? 確かに苔は水で草だしな。だが毒をもって毒を制す、だ。
……そんな顔するな!
わかったよ! お前の欲しい物買ってやるよ! タイルだろうがセメントだろうが買ったらぁ!
気分は護岸工事だ! 利便性や安全性と、生い茂る自然やロマンとを天秤にかけて! えぇ!?
だいたい高いんだよ、壁材は! お前の岩宿 包むとなったらどんだけかかるやら……!
……またそんな顔をする!
いいよ、黙るよ! お前がそんな負い目を感じることはないの!
これは自分のわがままなの! お前はバトルで勝ちたくて選んだんだろ?
そりゃ横でぶちぶち文句言われちゃ気も滅入るってもんだろうけどさ、気にしなさんな。
今回はお前の進化祝い。だから、優先するのはお前の意思。
もうな、「からをやぶる」なんて絶対使いません、ってぐらいにしっかりしたヤツにするぞ。いいな!?
……漆喰もありっちゃありだよなぁ……あぁ、なんでもないよ。気にすんなよ。
そうだ、柿ピーを買おう。お前好物だったろ?
……そーそー、喜べよろこべ。ほれ、店に戻るぞ、ついてこい。
「お買い上げ、ありがとうございました」
買い物を終えた今、ベンチでコーヒー片手に休むオレと、その横でイワパレスがうまそうに柿ピーをむさぼっている。
高い買い物だったよ、まったく。まぁ、イワパレスが嬉しそうだから良いんだけど。
でもこれ、インチキにならないかなぁ……。バトルはあんまりやらないけど、ありなのかねぇ……。
……ん、食ったか。じゃ、帰るか。
荷物が多いからお前も手伝え。お前の宿に貼り付けるもんだ。今のうちから重たいとかボヤくんじゃねぇぞ。
ところで、網棚も背負えるか? ……あ、大丈夫? いける?
いやー、助かった。網棚って抱えて歩くには重いんだよ。今回はお前が進化してて良かったよ。ありがとうな。
帰ってからもいろいろやることがあるからな。今からいろいろ楽しみだなぁ、おい?
*
それからオレは、イワパレスの宿に泣く泣くタイルを貼り付けたわけだが。
後日、バトルでその耐水性をいい感じに発揮してくれた。バトルをふっかけてきたトレーナーに「あり得ない!」といわれたが、結果オーライというヤツだ。
しかしやっぱり納得できないというか、もったいないというか……。
いつか相棒にもわかってもらえる日が来ると、オレはそう信じている。
ログ復元に向け、今年に入ってからの投稿作品をこちらに掲載します。
【批評していいのよ】【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】
ジュペッタがはねる。いっち、に、さん。
天気も久しぶりに回復し、寒くなったり暑くなったりが収まって、ようやく安定した陽気な天気になった。もう当の昔に桜は散って、青々とした緑の葉が天へ天へと葉をのばしている。快晴、快晴。
「今年は桜を見る暇がなかったんだ、いや、見られなかったのかもしれない」
僕は見たよというようにジュペッタは自慢げに胸を張った。なんか知らんが最近こいつは、一人で勝手にどこかへ出かけていくのだ。十分だかすぐに帰ってくるのだが、なんだか気になる。帰ってきたときは必ず何かのいいにおいを体につけて帰ってくる。お前な、外に出かけてるの気づかないとか思ってるかも知んないけどね、お前の体はむちゃくちゃにおいを吸い込むんだからな。どこ行ってんだ一体。……彼女?
はぁっ、彼女か彼女か。はいはいリア充。かんわいいぬいぐるみの彼女でもいるんだろお前! 俺を、主人を差し置いてひどい、ひどすぎる。俺だって彼女欲しいわ、守ってやりてーって彼女欲しいわ。俺は思いっきりため息をつ――
「っぐえ」
思いっきりジュペッタに頭を叩かれた。お前、案外馬鹿力なんだからな。お前、俺より絶対力強いからな。何倍かの規模だぞお前。その細腕、いや綿腕でよくそんな力出るよ。さすがポケモンかよ。ちくしょー。
河原の土手には、日が射して、やわらかな風が吹いて、少し残った菜の花が揺れて――穏やかな、穏やかな時間が流れている。ジュペッタは小さなバスケットを持って、意気揚々と歩く。真っ黒なぬいぐるみが、てくてくぺたぺた歩く。
慣れてしまったけど、これって変わったことなのかもしれない。
ぬいぐるみが歩いているんだ。端から見たら何かと思うに違いない。すれ違う人々はジュペッタにやさしく声をかけてくれることもあるけれど、知らない人だと目を丸くして俺とジュペッタを見ることもある。ジュペッタ自体が数も少なく、認知度の低いポケモンだ。しょうがないことかもしれないけれど、その視線に興味以外の何かが含まれていないことを俺は願う。
黒い体。赤い瞳。ひょっとして、世間からは忌み嫌われる見た目かもしれないし、避けられるポケモンであるかもしれない。ゴーストタイプって大体そんなイメージを持たれている。今はまだましなほうだが、昔の話。ゴーストタイプは霊を呼ぶと言われ、カゲボウズを匿った家族が街を追い出されたなんて話もあったらしい。俺ももし、ジュペッタを持っていなければ、そんなイメージを持っていたかもしれない。
今、俺がジュペッタと一緒にいることで苦情を言ったり避けるような人を幸いなことに知らないが、もしかしたらすぐ近くにいるのかもしれない。もし、そういう人たちが集まって、『呪い人形をどこかにやれ』といわれても、する気はさらさらない。そんなときは――
「お前と一緒に夜逃げしてやるよ」
「?」
空を見上げる。青に浮かぶ白い雲。ゆっくりゆっくりと流れていく。ふっと紫の風が吹いた気がした。
にししとジュペッタが笑って脚にしがみついてきた。歩けねぇよと笑いながら、俺はジュペッタの頭をなでた。さらに目を細めるぬいぐるみ。
あぁ、俺は――自分でも笑ってしまうくらい、しあわせだよ。
五月風の吹く中、懐かしい姿を見た。懐かしいというほど見ていないわけではなかったはずだったが、とてもなつかしく感じた。
たらいを前に苦労しているようで、楽しそうな背中。時々垣間見える黒い小さな影。嫌がっているようで、やさしさにあふれた声。少しの間だけど、長い間。見られなかった姿、聞けなかった声。戻ってきたその姿に、ほっと一息ついて、また歩き出す。
「戻るよ、戻る。変わったとしても、また、戻るよ」
あと少しすれば、また、夏が来る。
俺とジュペッタが出会った夏が、また――。
【ご自由にどうぞ】
自主断水が続いていたが、ついにこのおんぼろアパートにも水道が戻ってきた。
大家さんいわく「苦情が出たので」とのことだ。
俺は大家さんの決定なのでまったく苦にならないような顔をしつつ職場でコッソリ自分の下着を洗うスレスレの生活を続けていたもので、実は内心苦情言ったやつに「お前はエラい!」と一声かけてやってもいいかもしれんとさえ思っているのは秘密だ。
五月の生ぬるい日差しの中、とりあえず裏庭にタライを出して、汚れた制服を洗った。
この制服は俺の仕事先、つまりポケモンの”洗濯”を専門としているポケモントリミングセンターから貸与されているもので、たいがいの汚れは軽い水洗いで落ちるようになっている。
のだが、たまにポケットレベルでおさまらないモンスタートレーナーみたいなのが、昨日みたいにベトベトンを洗ってくれとか言ってくるから、洗濯機に放り込んでピッ、と済まされなくなることがあるのだ。そもそもなんだよベトベトン洗えって、あいつら洗ったら溶けてなくなるだろ。どうしろっつーんだよ。とりあえず悪臭と毒素に耐えるため仮揃えの防護服(本来はミツハニー駆除用らしい)を着て、ドロドロした中へ腕を突っ込み、中に溜まっていたドロとかタバコの吸殻とかを回収した。さすがに空き缶とか溶けた週刊誌を見かけたときには「こんなトレーナーで大丈夫か、お前」と声に出してしまった。ベトベトンはどろりと身体を床に伏しながらこっちを見上げ、なんとも問題なさそうな目で見つめてきたのだが。
それでもどうして制服には黒い染みができた。俺の汚い部屋にはとても持ち込めないようなかぐわしい香りが漂っていたので先月貸したレンタル自転車代1000円の催促代わりに、同じアパートに住むとある先輩の部屋先にかけておいた。1000円はマッハで戻ってきた。
放置しておくわけにもいかず、せっかくの洗濯解禁ということで、こうして洗っているのだ。
するとどこからともなく、ふよふよと効果音がする。
(来たな……)
だいたい予想はついていた。階段手すりに三匹、階段下に五匹、205号室の軒下に二匹、いや……まだだ、まだいた。自転車置き場の雨よけに二だか三匹。
晴天をもろともせず、姿を見せたにんぎょうポケモンども。
数を予想しながら振り返ると、意外にも居たのはいつもの五匹だけ。
ちょっと段差で足を踏み外したような期待はずれに襲われながらも、まあ楽でいいか、と思って手元に目をやれば、すでにタライには黒いひらひらが詰まっている。
(伏兵……だと……)
やられた。こいつらどんどん人をがっかりさせる方法を考案していやがる。たまに家に返ると部屋の中央あたりに黒団子みたいになって集まっており、人が戻ってきたのを見てそそくさと散っていくような動作を見せたので、もしかしたら何かを企んでいるのかもしれない。いや、まさかポケモンがそんな、なあ。
しょうがないので上から洗濯洗剤をまぶしてみた。
「ほれほれ」
ぎっしりしているカゲボウズが白く染まる。
「ははは、浄化せよ」
呟きながらごしごしやると、ぎゅっと目を閉じた一匹が手の平の中であっというまにつやつやした姿に変わる。どうやら近頃は近所の公園で水浴び程度で済ませていたらしい、だいぶ染みがついているものがいる。というかこいつら染みとかつくのか。触った感じたしかに布っぽいんだが、いったいカゲボウズというやつらはどういう生態の生物なんだろうか……まあ俺には関係ないが、こいつらは色落ちすることもないから材質にも気を使わないし。
ところでさっき「浄化」ってワードに反応して何匹かばつの悪そうな顔をしたのがいたので、「ナンミョーホーレン浄化せよー」と言いながらタライを掻きまわすといくつかまだ洗剤を頭にかぶったままのカゲボウズが飛んで逃げていった。
やっぱりいちおうゴーストタイプだからなあ、浄化とか言われると逃げたくなるんだろうかな。
残りをごしごしやりながらそんなことを考えていると、あら、と大家さんが通りかかった。
「世間は連休ですのに、いつもどおりお暇そうですね。」
…………。
あー、昼飯、隣町まで食いに行こうかな。
カゲボウズどもはタライのなかでにやつきながらつやを増している。
舌打ちしようとしたらよだれ垂れた。
溜め息が黒ずんだタライのなかへと吸い込まれるように消えた。
***
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】
彼が振り向いた瞬間に、いっせいにタライへ飛び込みぎゅっと収まるカゲボウズを想像してください。
ほら、ユートピア。
――――――――――――――――――――――――――――――
ゴ―ス 図鑑番号 No.092 ガスじょうポケモン
ふるくなって だれも すまなくなった たてものに はっせいするらしい。かたちは あいまいで ガスのよう。 (ポケットモンスターピカチュウより抜粋)
すきなもの:せんたくされること(いちぶ) ポテトチップス イタズラ
きらいなもの:きよめのおふだ そうじきにすいこまれること せんたくされること(たいはん) シゴト
「お前らぁぁぁ!まーた私のポテチ食いやがったなぁぁ!?そっぽ向いてごまかすな!逃げるな!口元が油でギトギトなんだよ!袋までなめ回したろ?ふふふ、逃がさん!逃がさんぞぉぉ!全員掃除機ですいこんでいっちばん目にしみる洗剤使って高速脱水コースの刑じゃぁぁぁ!」
あるひ、やかたにヘンなにんげんがやってきた。
たくさんのにもつをもってくるなり、そうじをはじめて、せっかくイゴコチがよかったのに、ピカピカにされた。おまけに、そうじきですいとられて、せんたくされて、かわかされた。
わりときもちがよかったから、すこしくらいいてもいいかなーとおもってたら、ずっとすみついてる。
でていかないかなーっておどかしてみたけど、ぜんぜんだめだった。あいてにしてくれない。イタズラしないとかまってくれないんだ。
こわがらないし、じゃけんにしないし、やさしいし、おしゃべりしてくれるし、ときどきせんたくしてくれるのがきもちいいから、いっかぁ。
それに、おいしいもの、もってくるしね。
ゴースト 図鑑番号No.093 ガスじょうポケモン
どんな ものでも すりぬけられる。かべの なかに もぐりこんで あいての ようすを かんさつする。 (ポケットモンスターダイヤモンドより抜粋)
すきなもの:ホラーえいがかんしょう(いっぴきげんてい) カラオケ(いっぴきげんてい) イタズラ
きらいなもの:ひとり(いっぴきげんてい) きよめのおふだ シゴト
「だーかーら、明日はバイトが入ってんの!一日!つーか、それ、あんたがこないだ見ててビビりまくってて結局最後まで見なかった奴の続編じゃん。絶対途中で帰ろうっていうだろ。・・カラオケだけ?やだよ、お前と二度と歌いたくない。ほら、思い出し笑いしやがった!絶対行かねーからな!・・・拗ねた顔してもダメ!」
にんげんがふしぎだ。
おれはにんげんがおれたちをこわいこわいといいながらじぶんたちでホラーえいがというおそろしいものをつくることがふしぎだ。
あれはほんとうにこわい。ゴーストがこわがるんだからそうとうこわい。さいごまでみてられないくらいこわい。
あんなおそろしいものをつくりながらなぜおれたちをこわいこわいというのかわからない。にんげんのほうがよっぽどおそろしいではないか。
しかしおれはにんげんをそんけいする。カラオケといういだいなはつめいをしたからだ。
あれはすばらしいものだ。すきなきょくをたくさんうたえる。いくらでもうたえる。マイクをにぎってうたえる。BGMをながしてくれる。さいこうだ。
そんなにんげんにこのあいだデートをもうしこんでみた。デートとはいせいといっしょにえいがやカラオケにいくこうどうらしい。ざっしにはそうかいてあった。
しょうだくしてくれた。とてもたのしかった。またいきたいとおもうのだが、はずかしがりやのようで、なかなかしょうだくしてくれないのがさいきんのなやみだ。
ゲンガ― 図鑑番号 No.094 シャドーポケモン
よなか ひとの かげに もぐりこみ すこしずつ たいおんを うばう。ねらわれると さむけが とまらない。 (ポケットモンスタークリスタルより抜粋)
すきなもの:スイーツ作り(♀限定) イタズラ
きらいなもの:きよめのおふだ じゃまされること シゴト
「ほら、レシピ。なんか二年くらい前の雑誌なんだけどさ、いる?・・もちろん、あげるためにもらってきたし。ここんとこ、ゴ―スどもちょっと大人しくなってきたし、シュークリームにでも挑戦する?・・そうそう、前のケーキおいしかったよー。でもどこで作ったのさ?・・え?秘密?うーん、まぁいいか。」
バレンタインのひ、おじゃましてしまったあのおうち。ケーキづくりをてつだってくれたにんげんがいました。
わたしは、だいどころをよごしてしまって、とてもかなしかったから、とてもうれしかった。
それから、ちょくちょく、うみをまたいで、スイーツをじさんしています。
こんどはよろこんでくれるかしら。
・・・でも、やっぱり、みじかなにんげんにてつだってもらうのも、うれしいんのだけれど。
こんどは、なにをつくろうかしら。
―――――――――――――――――――――――――――――
冷暖房無完備。風呂無しトイレ付。家具一部備え付け持ち込みオーケー。なんか中途半端な条件だけど家賃タダで大量ゴーストポケモン付き、いや憑き。
ダイニングキッチンありで食堂もあるけども賄いさんはなし。あ、賄いさんってのはご飯作ってくれる人ね。いわゆる専属コックさんてきな。
夢のような条件(主に家賃無料の部分)に魅かれてマイナス部分(その他もろもろ)に目をつぶってゴ―スを洗ってゴーストとデートしてしばらくしたら。
こんどはパテシェール希望者が現れた。
ゴーストと筆談会話をしたことをきっかけにこいつらと明確な意思疎通を図ろうとあれこれ試してみた。その一つがあっちこっちに五十音表を張ってみる作戦。
それが功を成したのか、それともはじめっから文字を読むことができたのか、とにかくポケモン共とコミュニケーションが(一応)取れる様になった。
つっても主にゴーストばっかりなんだが。理由は・・察してくれい。あいつまだしつこく次のデートに誘ってきやがるんだよ。しつこいと嫌われるぞー。
なお、手の無いゴ―スどもは筆談なんてできないので五十音表の周りで身振り手振り(いや、手はないけど)、でどことなく会話が成立している。うーん、すごいな。
大体ゴ―スを洗濯し終えたと思ったら、何匹かは洗濯機の味をしめたらしく、洗濯してくれと自分から洗濯機に飛び込んでくるので、洗ってやっていたら、今度はゲンガ―がやってきた。
お前も洗濯されに来たのか―、と言ってやると真面目な顔で首を横に振っていた。まさかお前もデートじゃないよな?え?違う?ならよろしい。
はいはい、その手に持ってる紙はなんですかなー。見せなさい。見せに来たんでしょーが。
うん、ゴーストよりはましだな。汚いのは変わりないけど・・。それともゴーストとの筆談でこっちの解読スキルが上がっただけか?
んで、えーっと・・『だいドこロかしテクレ』・・台所かしてくれ?
・・・は?いや、なんで。なんか作るの?・・あ、そう。
しかし何作るの。・・なにその古雑誌・・。情報源またそれか?雑誌好きだなお前ら。
えーと・・『おいしいケーキの作り方』『シュークリーム必勝法』『ポフィンでお茶しましょ』・・これ女性向けじゃないか?・・あ、女の子なのね、これは失礼。
・・つーか、お前ら普段何食ってんのよ。
基本的に自分の食べる分は自炊しているが館に住み着いているこいつらに餌をやったことは皆無なので、普段何食ってるのかさっぱり分からない。洗濯はするけどね。
やっぱ怨念とか?ゴーストだしなぁ、こいつら。分からん。同居人、いや同居ポケはミステリアス。
ポケモンフーズなんて買ったことないし、ましてや餌付けなんて考えたこと無かったし。つーかこいつらの世話をしようと思ったら餌代だけですさまじいことになるだろうし。まだ破産なんてしたくない。
そんな感じで実際のところこいつらがどうやって生きているのか全く謎なまま共同生活送ってるわけなんだけれども。ていうか、ここの館の主は私なんだからお前ら本当は出ていかなきゃならないんじゃね?
で、そんな奴等の内の一匹が台所を貸せという。
別にいいけどさ。台所くらい。・・もしや材料はこっちもちなのか?
・・・その目はなんだよ。冗談だ。ケーキの材料くらい買ってくるってば。
そういやもうすぐバレンタインデーじゃね?だからか。だからなのか。それで急にチョコケーキ作るとか。それ以前にポケモンが菓子屋の陰謀に踊らされてどうするねん。
塾の採点(アルバイト)してビルの窓清掃(アルバイト)してチョロネコヤマトで宅配やって(アルバイト)ゲンガ―に頼まれた材料買い終わった時点で気づいても遅いか。
ま、いくらポケモンといえども一応レシピどおりに作るみたいだし、上手くできたら味見させてもらうか。・・それ以前に人間が食って大丈夫かどうか分かんないけどさ。
・・うーん、まぁ、いいや。
とりあえずご希望の物は揃えたんだし、あとはパティシエゲンガ―の腕前を拝見しますかな。
家帰って材料渡すと嬉しそうにスキップしながら台所へ行ってた。ゲンガ―のスキップ・・レアだな。
興味津津のゴ―スどもに邪魔するなーと一応声をかける。無駄かもしんないけど、ま、仲間内で争いはしないだろ。多分。
・・いや、案外、ゲンガ― がだれに渡すかで揉めるかもしれない。バレンタインに乗っ取るんならの話だけど。
ん?どうした、水気たっぷりだなお前。・・あぁ、洗濯して乾かしてなかったか。おいで、ドライヤーかけてやるからよ。
二時間後。
そろそろ終わっただろーと思って台所をのぞいたら、あら大変。
ぐっちゃぐちゃのねっちゃねちゃのぽわぐちょなごちゃごちゃでちゅどーんだった。トリトドンがチョコ吐きながら暴れまわったみたいになってんぞ。
早い話が台所中、チョコレートスプラッタ。なぜ壁といい床といいチョコまみれ。おまけに料理人もチョコまみれ。おい、ゴ―スどもまでチョコまみれ。お前らガスだろうが!
なにをどうしたらこんなことになるんだ、えぇ?仕事増やしやがって。掃除しなきゃならないじゃないか。くそ。
おい、体についたチョコ舐めてる場合じゃないよ。なんでこうなったか説明しなさい。こんなことになった責任者を誰だ。
以下、その場にいたポケモン達による再現VTR。
『 材料をもらったゲンガ―は早速雑誌を広げてレシピどおりにケーキを作ろうとしたらしい。何匹か親切なゴースト等(おそらく見返りチョコを狙って)が手伝ってくれて作業は順調に進んだ。
が、チョコを湯煎する作業でガスを使わずになんと鬼火で直接溶かそうとしたらしい。そこんとこ、面倒くさがり屋というべきか、ポケモンの特権というべきか。
とにかく鬼火をつかったら予想以上に火力が強く、おまけにいたずらしようと待ち構えていた別のゴ―スどもが乱入。ナイトヘッドなどでチョコを攻撃。防戦しようとして大混戦。
結果、スポンジは死守したがチョコレートは大破。部屋中に飛び散り回収不可能となった 』
VTR終了。
何やってんのお前ら。あーもーチョコまみれでにこにこしてごまかすな。とりあえずここの掃除するぞ。お前ら手伝えよ、元凶なんだから!
・・床についたチョコを舐めるな!ばっちぃぞ。壁も駄目!おなか壊すだろうが!ふきんで拭きとるんだよ、もったいないけど。誰が稼いだバイト代だと思ってんだお前ら。
よーし、あらかた終ったな。次はお前たちだ。洗濯機?馬鹿、間に合うわけ無いだろ。ついてこい。
おばちゃーん、ポケモンの湯借りていい?うん、ピカピカにするからさ、こいつらついでに洗っていい?
ありがとうございます!よし、お前らとっとと中に入れ、入らんかっ!
一匹一匹手洗いなんかしてやらないからな。お前らまとめてデッキブラシで洗ってやる!洗剤?文句言うなー!
しばらくして、ゴ― スどもの邪魔が入らなように監視しながら件のゲンガ―と一緒にケーキを作ってみた。
味?おいしかったよ。
とってもな。
ホワイトデーが近づいてきたら、また雑誌を抱えてゲンガ―がやってきた。
「・・しばらく台所禁止。」
(ゴ―スがいない時に作ろうな)
敷金礼金家賃ゼロ円。驚愕のボロボロシェア住宅(大量の埃まみれゴ―ス付き)に引っ越してきて早2週間。
人間の順応能力って言うのは恐ろしいもので早くもこの環境に慣れつつある。すげーな、おい。
三日かけて人が快適に住める環境に掃除し終えて、アルバイトも見つかって、実家から食糧も送ってもらって、とりあえず順風満帆じゃん自分!とか思ってたら。
デートに誘われた。しかもポケモンに。
三日かけて吸い取ったゴ―スどもの数は大量すぎて、今日も洗濯機にぶち込んでいたら、ゴーストが壁をすり抜けてやってきた。
二階の左から四つ目の部屋にはでっかい絵がかけられていて、その絵を気に入っているのかどうか知らないが、その部屋にはゴ―スの進化形どもがたむろしていた。
はっきり言って、芸術なんて煮ても焼いても食えないものに興味なんてないんで、何故こいつらがこの意味不明な絵のある部屋にしか集まらないのかはさっぱり分からない。
さすがに進化形どもは掃除機に吸いこまれるようなヘマをすることはなかったのでまだこいつらを洗濯機にはぶち込んでいない。いや、洗いたいわけじゃないんだけど。
そんな奴があの絵のある部屋から移動してしかもわざわざこっちに来るとはこれいかに。つーか、何の用だ。
こいつらと一緒に洗われたいのかー、冗談で言ってみた。頭をものすごい勢いで振って全否定。洗濯機怖いのか?
それにしても、どことなくそわそわしている。全く何しに来たんだこいつ。もーすぐ脱水終わるんだけど。
意を決したようになにやら後ろ手に隠し持っていたらしい紙を突き付けてきた。受け取れってこと?
とりあえずもらってひっくり返してみると、へったくそなひらがなとカタカナで
『デえとシてクレ』
・・・。
え、なにこれ。デえとってなに。もしかしてデートのことなのか。こいつデートの意味分かってんのか。それ以前に、デートってどういう事。
というか、なんでこいつ、文字書けてんの?
・・そういえば、あの埃まみれの書庫に『マンキーでも分かるひらがな・カタカナ絵本』ってあったけど、まさか。
あ、おい、もじもじすんな、顔真っ赤にするな!真っ赤になりたいのはこっちなんだよ!
茫然としている間に、洗濯機は「脱水終わったぜ―」とばかりピーピー言いだして、ゴーストはそそくさと壁をすり抜けて出て行った。
お客さーんかゆいところはないですかーなんて言いながら最後の一匹を乾かし終わり、ふよふよと小ざっぱりしたゴーストと入れ違いに、さっきのゴーストが入ってきた。
さーて、こいつをどう料理してやろうか。この紙きれはデートの申し込みというわけなのか。そこから問いただす必要があるな。
とりあえず、お前デートの意味分かってんのか?
こくこくと頷く。何処で知ったんだかなぁ。
ん、つーか何持ってんだ。雑誌?随分ボロいな・・。どうせあの書庫から持ってきたんだろ?その顔は図星か・・。
えーと、『お勧めのデートコースランキング!』・・なるほど、情報源はこれか。納得。
この赤いマルは?行きたいところか?映画館、カラオケ・・おい、最後のホテルってなんだ。
・・・わからずにマルしたっぽいな。いや、それならいいんだ・・。
で、なんで行きたいのよ。
以下、ゴーストとの筆談会話まとめ。あんまりにも書くのがのろくておまけに汚かったから解読して会話するのにすんごく時間がかかった。
で、どうやらこいつ、見たい映画があるらしい。
そんなら一人で見に行ってこいよ。ポケモンだしタダで見られるじゃん。という突っ込みに対して
『さビしい』
こんなセリフをよわよわしい字で書いてきやがった。
だったらほかの奴ら誘えば良いじゃんかと言えば、誰も一緒に行ってくれないという。案外冷たい奴多いな。
で、最終手段発動。人間と一緒に行く・・って、最終手段かい。
あのなー、こっちはバイトだってあるんだぞ。・・そんなにしょげるなよ。
・・わかった。行ってやるってば。
・・・。
そんなにうれしそうな笑顔すんな。口が裂けてて不気味だぞ。
・・ま、あいつの必死さに根負けした形になったわけで。
今宵、ゴーストとデートです。
一応、余所行き防寒着来て準備万端。にしてもデート初体験の相手がポケモンって一体・・。まぁ、いいか。
デートコース確認。ゴーストに配慮して夜中の七時に出発。決して深夜の方がチケット代が安いからではない。
まず映画館で見たがっていた映画を見て深夜営業のカラオケを予約。ホテル?外泊代なんか出せるか。
そんなわけで、夜の街へゴー。
『ギャアアァォォォォス!』
『きゃあああぁ――――!』
おー、さすがホリウッド。すっげぇ特殊メイク。いくら金かけてんのかねー。ポケモンもうまいこと利用してるよな、このセット。
・・・にしても。
ゴーストビビりすぎじゃないか?さっきからスクリーン見てないし人の腕につかまって震えてるだけだし。何故『バイオロジーハザード』なんて見に来たの。ゴーストタイプがホラー映画にビビってどうすんだかなー。
あ、涙目になってきた。え?出るの?これからいいとこなのに?
・・わかったわかった。あーあ、チケット代もったいねー。
映画館から出たって言うのにまだガタガタ震えてるよ。そんなに人の腕にすがりつくなって。ほら、街はまだまだ明るいじゃん。
はいはい、カラオケつきましたよ―。・・こいつ、完全にダッコちゃん状態だな。つーか、ポケモンに歌える歌ってカラオケにあるのか・・?
・・マイク握ったら別人じゃん。つーか、復活は早っ。部屋に入った瞬間に元気になりやがったこいつ。
しかもジャイカル・マクソンの『スラリー』を流暢に歌いやがった。日本語喋れないのにそっちはオッケーなのか。つーか、『スラリー』のPVは良いのにさっきの映画はだめなのか。こいつの趣味わかんないな―。
なんだよ、マイク突き出して。デュエットしろってか?ノリノリだなこいつ。
はいはいわかりましたよ。歌えばいいんだろ歌えば―。
あーくそ、やっぱ歌うんじゃなかった。音痴で悪かったな!
こら笑うな!人が気にしてるんだから!
まったく・・。ん?くしゃみしたな。さすがにこの時間帯は冷え込むからな―。
・・そうだ、風呂入るか。銭湯だよ、銭湯。多分この時間帯も大丈夫だろ。ポケモン用の風呂もあるぞ―。
おばちゃーん、まだ大丈夫?あ、そう。よかったー。ほら入れ。大丈夫だってよ。
おまえあっちな。・・そんな顔するなよ。ポケモン用と人間用、一応別々なんだから。
ほらほら、ぬくいぞー。・・あ、またくしゃみした。早く行った行った。風邪ひくぞ。
ふはー・・・。天国だなー。この時間帯は誰も来ないからまさに独り占めってわけだ。ふふふ。館も風呂も自分専用。一国一城の主はこうでなくっちゃなー。
・・あそこ、風呂はないけどよ。ま、バイト先の銭湯はタダで使わせてもらってるから、気分は専用浴場付きみたいなもんか。
ゴーストもうっとりした顔してるし・・って、おい!なんでここにいるんだ!・・寂しいから来たってか?おまえ、筋金入りのさびしんぼだな。呆れた。
ったく・・。誰もいないからよかったけどなー、他の人がいたら大騒ぎだぞ。ここ女湯なんだから。
・・そーだ、お前洗ってやろうか?いっつもゴ―スは洗濯機だし。ゴーストは風呂場でシャンプーだ。我ながら意味不明だな。まぁいっか。
壁はすり抜けるが泡はすり抜けないみたいだな。よしよし。かゆいところはございませんかー?なんつって。
ほらすすぐぞー。おりゃ。え?目に染みたか?悪い悪い。はじめてなもんで。
うーん、ポケモンと裸の付き合い。割とふつーだな。
・・おい、お前のぼせてきてないか?そろそろ出るか。
おばちゃーん、コーヒー牛乳プリーズ。お前もなんか飲む?じゃ、イチゴ牛乳もプリーズ。ほら。
いいかー。風呂上がりは、腰に手を当てて、一気に飲む!
ぷはー。これ最高。未成年にはビールなんかよりもこっちの方がぐっと来るねぇ。
うん、おばちゃん、ありがとー。よし、帰るぞ。今日は帰って寝るぞ―!
数日後。ゴ―スを洗濯していたら、大量の映画のパンフレットを抱えてゴーストが来た。
「・・・もう行かんぞ」
格安アパートのチラシを発見、カゲボウズ付きで巷じゃちょっとした有名株らしい。
・・が、地方が違ったら関係ないよな―。苦笑。いくら安くてもそこには行けません。よって選択肢から除外。
となると、他に残された選択肢は・・
「よっしゃー今日からここの主じゃいやー」
残った選択肢、森の中に佇む立派な屋敷。まさかの家賃ゼロ円。シェア用住宅。でも入居者今のとこ自分ひとり。なんて素敵な環境。サイコー。
もちろんあれこれうわさはある。もとはとある資産家の屋敷だった。幽霊が出る。夜中に像が動きまわる。テレビから手が出てくる等々。無茶苦茶だな。
霊感ゼロだから大丈夫!とゆーことで決定して下見もせずにやってきました。無料の二文字に負けたんです。チャレンジャーだな自分。
電気とガスと水は一応引いてあるらしい。らしいだから未確定。いざとなればサバイバル確定。電話があるかどうかまで確認してない。まぁ、どうにかなるか。
とりあえず、衣食住の内の住を確保。衣は実家から送ってもらう。食は働かざる者食うべからず。ってことで。
「まずは掃除するか」
バンダナ締めまして腕まくりしまして割烹着着て軍手はめて、戦闘準備完了。ただいまより館の大掃除を開始いたします。
まずは頑固な埃を吸い取っていくか、とゆーことで掃除機のスイッチオン。掃除機使えるから電気は大丈夫だな、勝手に安心。
そんなこんなでエントランスとりあえず終了。あとで謎の像に雑巾かけるか。食堂は・・あとでいいや。いまんとこ。
二階。今更だけど掃除機持って上がるの結構重いな。
一番左の部屋に突入。本棚いっぱいの本。そしてたくさんの埃。掃除機の前にハタキを持ってくるべきだったか。しかしもう遅い。何故なら面倒くさいから。
掃除機の先端をはずして細かいところをやり始める。なんかでっかく黒い埃が隅にたまっているのを発見。なんじゃありゃ。
一応吸い込もうと努力するが手ごわい。なんだこれは。このままだと科学が敗北を認めることになる。許せん。掃除機マックスパワー発動!
ぎゅおおおぉんとちょっとやばげな音がして「ぴぎ―――」よし吸い込んだ科学の勝利。で、ぴぎ―って何。
まぁ、この部屋一帯の埃を吸いこんでから確認すればいいや。掃除続行。
二時間後。本棚終了。他の部屋やる気になれないくらい疲れた。一休みするか。
そういやさっきの怪音の正体はなんだ。カパッとな。掃除機を開けた。
埃まみれのゴ―スが恨めしげな眼でこっちを見てた。
しかも三匹。
いやいやいや、何やってんですかお前ら。ガス状ポケモンだろ。ていうかゴーストタイプだろ。なんで抜け出さなかったのよ。
もしかして空気の流れに逆らえないってか。ガスだけに。マジで。
あぁもうそんな目で見るな。分かった、分かったから。洗ってやるってば。
掃除いったん中断。これよりゴ―スの洗濯にうつりまーす。
・・ポケモンってどうやって洗うんだ?そういえばポケモントリマーなる職業があるとか。この辺にあるのか?なさそうだ。それに金かかりそうだ。
となれば自力で洗うしかないな。よし、洗濯と言えば洗濯機の出番でしょう。
埃まみれのゴ―ス三匹をすすぎ、脱水コースにご招待。悪いけど柔軟剤はないから洗剤だけで勘弁。
え、なんだよその目は。科学を信じろ。大丈夫だって、多分。
ぽいぽいっと投げ込んで、ふたをして、スイッチオン。よし、こっちにも電気来てるな。さらに安心。
30分後。どうなってますかなー。かぱっとな。
目をまわしているゴ―スが三匹。しかもあんまり埃取れてなかった。あらまー。失敗ですかな。まぁ、ガスだし。
気がついた?だからそんな目で見るなって。誰だってはじめは失敗するじゃんか。よし次の案行ってみよー。
やっぱり手洗いが基本でしょう、と思ったけどガスをどうやって洗えば良いんだ。
空気洗浄機?そんなバカ高いもん持ってるわけないじゃない。ていうか、埃どころか色の薄いゴ―スになっちまうじゃない。
そういえば実家の母さんがテレビ通販で買ってきたあれどうよ。
ちょっと探してくるから待ってろよ―。
『夢のポケネットタナカ〜』のCMでおなじみ、あの通販自宅を改造してスタジオにしたって本当なんだろうか。まぁそれおいといて。
全国1000セット限定スチームクリーナー参上。蒸気だから多分大丈夫。・・火傷しないかな、あいつら。
まぁ、物は試しだ。やってみますか。
結論。まぁ、洗濯機よりはましになった。埃は落ちたし。ただあいつらじめじめしてたけど。
あとは天日干しにでもすればいいんだろうけど、ここ日当たりめちゃくちゃ悪いからな―。しかしとても気持ち悪そう。
しかたがないからドライヤーを引っ張り出して強制的に乾かしてみた。
あ、こらちょっと飛んでくな。そこはなんとか耐えろ。スチームクリーナーに耐えたお前ならできる!
なんだかんだで洗濯終了。こいつらさっぱりした顔してやがる。
もう掃除機に吸いこまれんなよてめーら。
・・二時間後。
ゴ―スの吸いすぎで掃除機が目詰まりを起こした。
「お前ら何匹おるんじゃぁぁぁ!」
これは、あるポケモンの誕生の物語である。
(畜生……何故だ!)
うっそうと生い茂る草の中に、何かが隠れている。薄い黄色に少し茶色を混ぜたようなみてくれで、草すらなびかないそよ風に身を任せている。近くで聞こえる耳障りななきごえが、この場を何か滑稽なものとしている。
(今まで苦しい思いで耐えぬいて進化したと思ったら……畜生、畜生、ちくしょおぉぉ!)
草に隠れている「何か」は、必死に動こうとあがいてみたものの、芋虫ほどにも動けず、ただ時間が流れていくだけであった。
「……君、なぜこのような所で倒れている?」
しばらくして動こうとすることをやめた「何か」の前に、誰かが現れた。背は高く、白い布で体を覆っている。明らかにここの者ではないが、どこかからやってきたというわけでもない。
(誰だ……)
「心配するな。別に取って食べるわけではない」
(なら、なぜ俺に話し掛けた?)
「それはな、気になるではないか。こんな場所で動けずにいるのが見えたのだから」
「誰か」は「何か」にのんびりとした口調で答えた。
(けっ、なら教えてやるよ。どうせ俺は死んだんだ)
「うむ、では話してくれ」
「誰か」は腰を下ろし、楽な姿勢を取った。そして、「何か」が語り掛けてきた。
(俺は元々ツチニンというポケモンだ。長年俺は進化する為に全てを我慢してきた)
「どれくらいだ?」
(大体7年だ。その間はどんなに攻撃を受けても決してやりかえさず、ただ進化の為に待ち続けた)
「そして進化したと言うわけか。だが、それなら君がここで倒れている理由がわからんな」
(そうだ、ここからだよ肝心なのは)
「何か」は語りつづけた。次第に風が強くなり、周りの樹木は不気味に揺れる。しかし、「何か」と「誰か」の近くではそよ風すら吹いてない。
(俺はテッカニンと呼ばれるポケモンに進化する時、抜け殻として捨てられたんだよ!)
「抜け殻……なるほど、確かに抜け殻は成長の妨げになるからな」
(なぜ俺が捨てられなきゃいけないんだ!7年も耐えた結果がこれか!……あまり本体を恨んだおかげで抜け殻に意志ができちまったよ。今あんたに語り掛けてるのは、抜け殻の怨念だ)
抜け殻は一通り語り掛けると、「誰か」が尋ねた。
「君は……これから生きたいかね?」
(何だと……?おとぎ話じゃあるまいし、俺をからかってるだけだろ)
「それは私の目を見て言ってほしいな」
「誰か」は抜け殻に優しく諭した。しかし、その目の中は熱意で燃えている。
(俺は動けないから見れねえよ)
「それもそうか。で、できるできないはともかく、君は生きたいかね?」
(……当たり前だろ、7年も耐えてきたんだぞ)
「なら、君に祝福だ。はっ!」
「誰か」が手を抜け殻にかざすと、青緑色の光が辺りに広がった。それと同時に、辺りの風も化け物のように荒れ狂う。その状態がしばらく続いたが、やがて光が消え、風もやんだ。
「さぁ、浮かび上がれ」
「誰か」は立ち上がり、右手を天にかかげた。すると、抜け殻がまるで風船のようにふわふわ浮かび上がり、空中で静止した。
(こ、これは一体!?)
「おお、忘れてた」
抜け殻が驚くのも聞かず、「誰か」は体の白い布を細長く切った。そして抜け殻の頭の上にわっかにしてのせた。
「これでよし!今日から君も生き物だ。そうだな、名前はヌケニンだ!」
(……あんた、一体何者だ?)
「え?うーん、ただの通りすがりのおじさんだ。それよりだ」
「誰か」、もといおじさんは、ヌケニンに顔を寄せて言った。
「君は確かに生き物となったが、体が脆い。ポケモンには相性があるが、弱点の攻撃を受けたらすぐにやられるから気を付けろ」
(ああ……こちらとしては生きることがまたできて、嬉しい限りだ)
「そうか。では、最後にもう一つ。君の種族が進化する時は必ずヌケニンも生まれるようにしとこう」
(……あんた、なぜそこまで自分で決めるんだ?)
「なぜって、そんなこと言えないよ。では、また機会があれば会おう」
おじさんは再び右手を天にかかげた。すると、そこから太陽よりまぶしい光が発生した。
(ぐわ、なんだこりゃ!)
光はすぐおさまったが、そこにはすでにおじさんの姿はなかった。
(……もう夜か)
ヌケニンはすでに夜になっていることに初めて気付いた。なぜなら、今までうつぶせに倒れていたからである。
(誰かは知らねえが、感謝するぜ。よし、再びもらったこの命、全力で生きてやるぜ!)
ヌケニンが思い切りなきごえを出すと、そよ風にながされてどこかに行ってしまうのであった。
ヌケニン誕生の妄想です。たまにはこんなロマンチックな話書いても、バチはあたらないでしょう。
それにしても、この作品のことを覚えている人ってどれくらいいるのでしょうか。一応サイト改築前に掲載していた作品ですが、ついでなので投稿しときます。
昔々、世界のどこかにあるというカントー地方に、鳥ポケモンがたくさん暮らす森がありました。いつでもひざしがさしこみ、おいしい水がながれているこの森は、それはそれはにぎやかだったそうです。これは、その森にすむ、1匹のポケモンのお話。
「お、そこにいるのは……アッカ先輩じゃないっすかww」
「う、なんだよドードリオ」
ある日のおひるさがり、ドードリオ(31)とカモネギのアッカ(24)がばったり出会いました。アッカはドードリオの先輩でしたが、後輩より弱かったのです。
「この前はこだわりスカーフ持ってても僕より遅かったっすけど、少しは速くなったっすかw?」
「それが……僕は弱いから、勝てずに経験値がたまらず、レベルアップできないんだ」
「そうっすかそうっすか、まあそんなことだろうと思ったっすけどねww」
いつもはけんかばかりしているドードリオの3つの頭は、この時ばかりと揃って笑いころげます。このように、ドードリオはいつもアッカのことを笑っていたのです。
そんな時、どこからともなく立派な鳥ポケモンがやってきました。この森をしきっている1匹のムクホーク(55)です。彼はアッカと同い年でした。
「あ!先輩、どーも僕です」
「アッカにドードリオか。またアッカをおちょくっていたのか?」
「まさか!親愛なるアッカ先輩にそんな失礼なこと……」
ドードリオは思わずツボをつつきました。知らず知らずに動きが速くなりました。
「まあいい。アッカ、お前に話があるんだが」
「話?いったいなんだい改まって」
「それがな、湖にいるスワンナに聞いたのだが……イッシュ地方というところに、『しんかのきせき』と呼ばれる石があるらしい」
「しんかのきせき?初めて聞く名前だね」
アッカは首をかしげながら、目をキラキラさせました。カモネギというポケモンはかれこれ15年ほど前に見つかったのですが、いまだにしんかの兆しすらなかったのです。そんな彼にとって、「しんか」の響きはとても素敵なものでした。
「どうやらそいつは、『しんかしていないポケモンの力を引き出す』ものみたいだ。お前はまだしんかしていないし、おあつらえ向きだろ?」
「確かに……そんなものが手にはいれば、まちがいなく強くなれるね」
「だろ?ものは試しというわけで、イッシュ地方まで行ってみたらどうだ?」
ムクホークのことばに、アッカはなみだをながして答えました。
「ありがとうムクホーク!僕のためにそんなすごい話を教えてくれるなんて。じゃあ僕、さっそく行ってみるよ!」
「ああ、きをつけて行けよ」
ムクホークがおわかれを言うと、アッカはすぐさま森をでていきました。
「先輩、いいんですか?アッカ先輩なんかにそんなこと教えて」
「だいじょうぶだ、もんだいない。しんかのきせきは『しんかしないポケモン』には意味がない。それに、もうすぐ『鳥ポケモン・タイプ対抗大会』がある。我々ノーマル・ひこう組にあのようなやつがいては困るからな」
「なるほど、そりゃ名案っすね!」
ポケモンの後ろにある数字はレベルです。ドードリオは31で進化するから(31)としているのです。指摘があったので追記しときます。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 | 101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | 110 | 111 | 112 | 113 | 114 | 115 | 116 | 117 | 118 | 119 | 120 | 121 | 122 | 123 | 124 | 125 | 126 | 127 | 128 | 129 | 130 | 131 | 132 | 133 | 134 | 135 | 136 | 137 | 138 | 139 | 140 | 141 | 142 | 143 | 144 | 145 | 146 | 147 | 148 | 149 | 150 | 151 | 152 | 153 | 154 | 155 | 156 | 157 | 158 | 159 | 160 | |