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「そんな理不尽な!」
私は今、プラットホームで途方に暮れている。そりゃ、こんな地下鉄があったら誰だって途方に暮れるはずだ。
事の発端は先週、友人が結婚式をやるから来てほしいと電話してきたのが始まりだ。私も奴も昔はバトルばっかりやっていたのに、奴が先に結婚するのは気に食わなかったが、行くことにした。
式場はイッシュという地方のソウリュウシティらしい。なんでも新婦に縁ある土地だそうだ。私はカントー在住だが、せっかくなら観光もしようと、式の前日にライモンシティという街へ行った。
問題はそこからだ。翌朝、始発で余裕を持って行こうとギアステーションにやってきた私は、ある駅員に尋ねた。
「すいません、ソウリュウシティ行きの列車はどの乗り場から乗れますか?」
「ソウリュウ行きですか?あそこはちょっと大変ですよ」
「大変?どういう意味ですか?」
「いやね、ソウリュウシティにはスーパーシングルトレインという列車で行くんだけど、その駅はここから15番目にあるんだ。で、1つの駅に行くために7人のトレーナーを倒さないといけない。しかも途中で負けたら1からやり直し。ソウリュウシティの駅は15番目にあるから、105連勝する必要があるんだよ」
ここまで聞いた私の口は、やる気のない自動ドアのように開いていた。なんだこの適当さは。
「ちょっと待ってください。仮にも公共交通機関がこんなので大丈夫なんですか?」
「その点は大丈夫です。広告収入とイベント開催で結構潤ってますから」
そうじゃない。私は経営の話をしたわけではない。
とはいえ、ここから歩きだと間に合わない。何としても時間までに到着しなければ。私は急いでパソコンから3匹のポケモンを引き取り、始発に駆け込み乗車した。良い大人は真似するなよ、周りの目線が辛いからな。
さて、いよいよ長旅の始まりだ。実を言うと、私はこの手の施設で100連勝などしたことない。いわゆる先制の爪大爆発3連続はトラウマだ。間に合うだろうか。
まずは肩慣らしに21試合して、3つ目の駅に。何だかタイプが偏ってやがる。非常にやりやすい。まだまだ人は多いなか、おじいさんからポイントアップをもらった。世知辛いカントーでは考えられないことだ。
そこからさらに21試合、6つ目の駅に到着。大分人が減ってきた。明らかにトレーナー達の目の色が違う。まあ、影分身やら先制の爪を惜しげもなく使われたらこうもなるよな。私も若い頃は……といっても、私は今でも若いはずだ。若いと思う。若いかもしれない。若いと思いたい。
そして49試合目。サブウェイマスターなる者が出てきた。簡単に言えば車掌。それなりに強いのだろうが、他の乗客から使用ポケモンを聞いていたからそうでもなかった。こういうボスは、使うポケモンがばれているから辛いよな。
約半分の7つ目の駅に到着し、ふと上を見上げると、時計はお昼を指していた。始発が5時だったから、はや7時間。さすがに足が辛い。タワーなんかと違って、足元の揺れがあるから、普段以上に疲れる。私は休憩がてら、立ち食いそば屋に立ち寄りきつねうどんを食べた。スープ美味すぎだろ、これ。うっかり友人への土産に冷凍したものを買ってしまった。
気を取り直してバトル再開。21試合を腹ごなしにやって、ようやく70勝、10番目の駅に到着。何だかさっきより出るポケモンが弱い気がする。伝説のポケモンも出ない。ちなみに、この駅にいたのは私以外に1人だけだった。よほど暇なのだろうか、あるいは私と同じ目的か。いや、それはないな。
あと35勝なのだが、ここからが大変だった。79試合目のマタドガスに手も足も出なくなって、交代しまくって眠るのPPを切らせた。88試合目のケッキングのギガインパクトは辛うじて外れ、逃げ切りに成功。93試合目はハピナスの小さくなるに悩まされたり、99試合目に至っては理不尽な麻痺を何度も経験した。しかし、遂に100試合目。
相手の初手はボルトロス。こちらはシャワーズだから、ガブリアスに交代。そのままげきりんでノックアウト。
続いてレジアイス。げきりんで7割ほど削ったが、冷凍ビームでダウン。2番手のヘラクロスのインファイトでとどめ。
最後はトルネロス。ぼうふうを耐えるものの、まさかの混乱。しかし何とかストーンエッジが決まった。次の攻撃でやられたが、最後はシャワーズで締めた。
――初めての100連勝か、長かったなぁ。まさかこんな形で実現するとは。思えば……あれ、何でこんなに頑張ってたんだっけ?
100連勝の余韻に浸る間もなくさらに5試合、何とかソウリュウシティの駅にたどり着いた。時間は午後5時半。実に半日もバトルをやっていたのか、もう足がガクガクだ。そんな中、暇そうなビジネスマンからサンという木の実を2つもらった。これ確か、かなり珍しい木の実だったような。
プラットホームから地上に出た私を、暮れなずむ夕日が出迎えた。空気がうまい。風が心地よい。こういうものは、地下にはなかったよなあ。やっぱり地上が1番だ!私は大きく伸びをすると、手土産片手に式場へ歩きだした。
翌日、激しい筋肉痛に悩まされたのは言うまでもない。
先日のチャット会の途中、冗談半分で始めたら、1回目でまさかの100連勝達成してしまったので(現在15周の105連勝)、書いてみました。バトルサブウェイのような延々バトルばかりの話を書くのは難しいです。連載中の話のテーマはバトルなのに……。やっつけ仕事の結果がこれだよ!ちなみに、サンの実は1個ずつしかもらえません。あしからず。
あの「喫茶ポケンテン」に驚きの新メニュー到来!
「甘口チコリータ茶スパ」「マトマチェリンボパフェ」など、これまでも賛否両論飛び交う様々な商品を開発し、マニアには有名な、「喫茶ポケンテン」。
今回の新メニューは、その名もズバリ「トリト丼」!
これまで、食用としては使われてこなかったトリトドンを、ヨシノシティらしく味噌で調理。
それを丼にしたという前代未聞のメニュー!
あったかご飯の上に、味噌でじっくり煮込まれた柔らかなトリトドンの肉(これを肉と呼んでいいのかという疑問はあるが)がのった見た目は、丼一面を、ピンクと赤茶が混ざった何とも表現しがたい色のスライムが覆いつくしているようで、まさに衝撃メニューを生み出し続けているポケンテンといったところだ。
口にしてみると、ふにょふにょした食感とヨシノ特産の味噌の味、そしてご飯が上手くマッチ。
味噌の味が強すぎるのか、トリトドンが元々薄味なのかは、トリトドンを初めて食べる筆者にはわからないが、トリトドン特有の味というのは、あまり感じられないように感じる。ヨシノ味噌好きなら、満足できる味だろう。
ただし、この触感は、やはり賛否両論を巻き起こしそうだ。
ちなみに、店主によると、東の海のトリトドンを使い、味付けも違うものにした、別のトリト丼も考案中とのこと。
是非マニアはチェックされたし。
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【いろいろごめんなさいなのよ】
【どうにでもしていいのよ】
【つくってみた・書いてみた再掲希望なのよ】
というわけで再うp。
つくってみた、書いてみたレスくださった皆様、よろしければ再投稿お願いします!
あと、新たな書いてみた等々も大歓迎です。
以前の投稿の一部が吹っ飛んだみたいなので、念のため残しておきます。掲載するのは消失した作品、サイト改築前に投稿した作品の一部となります。
これは、とあるポケモントレーナーのレポートから抜粋したもである。
世の中、色々なポケモンバトルがある。
力と力のぶつかり合い。
高い体力を誇った長期戦。
状態変化を狙ったりしたトリッキーな戦い。
『まもる』という技などから始まる緊迫した心理戦。
まぁ、こんなポケモンバトルもあったわけで…………。
ポケモントレーナーとして旅をしていた俺は道中、一人のポケモントレーナーの視線に合う。
ポケモントレーナー同士が視線を交わすというのはバトルを告げる一種の挨拶みたいなもんだ。
まぁ、その視線の交換は別名ケンカの売買と俺は呼んでいる。
さて、今回の俺の相手まず男で……。
180センチメトール超えの長身にさらさらなブロンズヘア、切れ長の青い瞳、多分、イケメンってやつだろうなぁ。
……うん、コイツ、ケンカ売ってんよな。よし、そのケンカ買いだぁ!
「ふふふ、見せてあげるよ。絶対的なビューティフルな愛の力を!」
「キザなヤツだな、てめぇ……ぎゃふんって言わせてやるからなっ!」
「二対二のダブルバトルといこうではないか」
「へっ上等!」
お互い間合いを取って、ポケモンを二対ずつ出す。
キザ野郎は白いドレスを身にまとったようなポケモン、サーナイトとキノコポケモンのモロバレル。
対する俺は食いしん坊ポケモンのカビゴンとそして夢幻ポケモンのラティアスだ。
相性で言えば、俺のほうが有利、か?
『ご主人! 今日もかましてくださいっす!』
可愛らしい声が俺の頭に響いてくる。
そう、俺のラティアスはテレパシーが使えて、俺にしかその可愛い声は伝わらないのだ!
便利だろ? あ〜はっはっは! ん? そこ、なんだズルいって、いいじゃねぇか。
ポケモンの能力に茶々入れんじゃねぇぞ?
とりあえず、狙いを一つに定めてみる。
「ラティアス! サーナイトにシャドーボール! カビゴン! サーナイトにはかいこうせん!」
サーナイトはエスパータイプだ。
まずは弱点のゴーストタイプの技で一撃をお見舞いさせた後、
俺の手持ちの中では攻撃力がピカイチのカビゴンのはかいこうせんで一気にKOだぁ!
「サーナイト、ひかりのかべ。モロバレルは今の内にパワーを蓄えておくんだ」
「っち!」
思わず俺の舌打ちが鳴る。
サーナイトの目の前に現れたその(透明で分かりづらいが)壁は『シャドーボール』と『はかいこうせん』の威力を半減する。
だが、流石の『ひかりのかべ』でも、『まもる』という技とかに比べたらその耐性には限度がある。
ひかりのかべで処理しきれなかった分の『シャドーボール』と『はかいこうせん』が激しい爆発音を発しながらサーナイトを後ろに吹っ飛ばした。
KOまではいかなかったけど、そこそこのダメージは与えられたはず……。
「モロバレル、ソーラービーム発射!」
太陽の光を充分に浴びたモロバレルのキノコ型の手(?)がまっしろに光ってる!?
そこから、発射された『ソーラービーム』は甲高い音を発しながらカビゴンに一直線に向かっていく。
『はかいこうせん』の反動で動けないカビゴンはそのまま、もろにソーラービームを受けてしまった!
「く、なかなかやるじゃねぇか…………ますます、むかついてきたぞ、このヤロー」
「ふ、開始早々から騒がしいことをしてくれるね……ちょっとの間、静かにしてもらいたいな」
「んだと!?」
あの野郎……なんか、人を見下したかのような言い方してねぇか?
こうなったら、もう一発、サーナイトに『シャドーボール』をお見舞いしてやるか……。
いや、それよりも……あのキザ野郎に『シャドーボール』をぶつけたほうがせいせい……。
「サーナイト、ねむるんだ」
「!!」
キザ野郎の指示に従ったサーナイトはゆっくりと寝そべり、目を閉じた。
にゃろう、サーナイトの体力を回復しようとしてやがる……!
「そうはさせるか! ラティアス! サーナイトにシャドーボールだぁ!」
『合点承知っす! ご主人!』
ラティアスが勢いよく出した『シャドーボール』はそのままサーナイトに向かっていって、激しい爆発音が鳴った。
その音と共に黒まじりの煙が巻き起こった。
「へっ! これでどうだぁ!」
手応えはバッチシ! これでサーナイトもおちおち寝てられないだろうと思いながら、煙が晴れるのを待った。
「ビュ!」
「な……! モロバレルだとぉ!?」
しかして煙が晴れた、そこにあったのはモロバレルだった。
どうやら、無抵抗状態のサーナイトをかばったようである。
「フッ、無駄だよ。この二匹に勝てることなんてキミにはできない」
「言ってくれるじゃねぇか……! だったら、これならどうだぁ!? ラティアス、カビゴン、まとめてはかいこうせんだぁ!」
『ご主人……挑発に乗っちゃ……』
「つべこべ言わずに発射!」
『……合点承知っす〜』
技の反動から回復したカビゴンと共にラティアスは、『はかいこうせん』を発射した。
カビゴンとラティアスによる二本のはかいこうせんは一本に交わり、更なる甲高い音を発しながらモロバレルに直撃した!
雪崩が起こったのかと錯覚するほどの轟音(ごうおん)が辺りを揺らしている。
「わりぃな、モロバレル。恨むなら、俺を本気にさせたあのキザ野郎を恨むんだな」
威力300越えの合体『はかいこうせん』決まった、俺の決めゼリフも決まった!
これで俺達の完全勝利は決定だな……。
『ご主人、ご主人ってば〜』
「なんだ、ラティアス」
『モロバレルがピンピンしてるっす〜』
「そんな、馬鹿なことがあるわけ……」
これで勝負が決まったという嬉しさの余韻をかみしめるかのように閉じていた俺の目が開いた。
「ビュ!」
「なんだとっ!!!???」
俺は自分の目を疑った。
あのモロバレル、若干黒こげになりながらも確かにちゃんと立っていやがる!
しかもなんだあの顔は!?
さも、あの合体『はかいこうせん』なんか屁でもないといったような涼しい顔は!?
あのモロバレル、キザ野郎に似てやがる……なんか胃の辺りがムカムカする……!
「くっ! ラティアス、カビゴン! もう一回、はかいこうせんだぁ!」
『ご主人〜、申し上げにくいのですが、技の反動でカビゴンはんもあたしも動けませんっす……』
「しまったぁ!」
そういえばそうだったと焦っている俺の耳に笑い声が響いてくる。
「フフフ、愛は勝つってね。さぁ、モロバレル。眠り姫を起こしてあげたまえ」
「ビュ!」
てっきりモロバレルは攻撃してくるかと思ったのだが、
モロバレルは俺たちのほうには見向きもせずに、
依然と(あの轟音にも関わらず)眠っているサーナイトのほうに向かった。
そして、モロバレルの顔がサーナイトの顔に近づいたと思いきや――。
『ご、ご主人〜! あ、あの二匹 き、キキキ、キスしてるっすよ〜!』
モロバレルのたらこのような唇とサーナイトの唇が重なりあっていてると、
サーナイトは目を覚ましたようで、白い腕をモロバレルの背に回した。
…………。
……。
何、あいつら……できてるっていうやつなのか?
だとしたら、あのモロバレル……勝ち組っていうやつなのか?
…………。
……。
それよりも何か魅せつけてる感があって、なんかイライラしてきたんだけど!
「おい! キザ野郎! いい加減にその二匹のイチャイチャを止めろ! 目に毒だ! 毒!!」
「キミにはこの愛の素晴らしさが分からないのか……残念だよ」
『サーナイト、心配ないからね。おれっちが守ってやるから……。モロバレル、愛しているわ、チュッ……! あわわわ!! ラブラブっすよ〜! あの二匹!!』
「ラティアス……訳さなくていいから、なんか調子狂うから!」
なんとか、モロバレルとサーナイトが前に出てきて、戦闘再開になった。
……くっそ、あいつら、絶対にまとめてギャフンって言わしてやるんだからな!
「ラティアス! サーナイトにどくどくだぁ!」
『合点承知っす! ご主人!』
「カビゴン! モロバレルにのしかかり! なんとしても動きを止めろ!」
「ゴン!」
こっちからの先制は見事に決まり、モロバレルの動きをカビゴンの『のしかかり』で止めている間に、
要するに邪魔が入ってこない内にサーナイトに『どくどく』を浴びさせてやる!
今度はじわりじわりと攻めていってやろうと考えたのだ。
とりあえず、慌てずにどちらかの一匹を倒せば、きっと残ったほうは動揺するに違いない。
あんなにラブラブだったからな……なんかしらの動揺は見せるだろ。
そのときが俺たちの勝利の瞬間だ。
ラティアスの『どくどく』が無事、サーナイトに届き、不気味に何かが溶けるような音が立つ。
「よし! カビゴン! 一旦、モロバレルから離れろ!」
このままカビゴンの『のしかかり』で動きを止めていたいところだが、
モロバレルには直に触れた相手を状態異常にさせることがある『ほうし』という特性がある。
このまま、のしかかりで状態異常を受けたらマズイからな。
「よし、キザ野郎! よく聞けよ! 今度、サーナイトにねむるを使わした場合、効果が発動する前にラティアスが止めるからな! モロバレルにも邪魔させねぇ、今度はモロバレルにはかいこうせんをお見舞いしてやるからな!」
この俺のセリフにはあのキザ野郎を動揺させてやるというもくろみがあった。
もう、お前に打つ手はねぇ……または、同じ手は効かねぇぞっていう感じに。
「フフフ、ねむるを使わなくても、この二匹にはどんな状態異常も通じないよ……さぁ、モロバレル、白雪姫を介抱してあげるんだ」
モロバレルは素早く猛毒で苦しんでいるなサーナイトに向かうと――。
『ごごご、ご主人〜! ま、またキキキキキキ、キスをしてるっすよ〜!!』
……こいつら、一度で済まさず、二度目までも……!!
モロバレルの唇がサーナイトの唇に重なって、音をたてていく。
お前ら、自粛っていう言葉を知ってくれ!!
『モロバレル……ごめんなさい、わたくしが不覚を取ったばかりに……。いや、サーナイト、おれっちのほうこそ、遅くなってゴメンな……それよりも……』
「ラティアス! 訳さなくていい! いいから!!」
くっそ〜! テレビのドラマでよく見るキスシーンには「ヒューヒュー」なんて冷やかしていたけど、
生で見るのはまた、なんか違うのな……なんかこう、イライラしてくるんだ。
なんだっけ、こういうときに使われる言葉ってなんか流行とかで最近なかったけ?
…………。
……。
それよりも、なんかサーナイトの顔色が良くなっているのは気のせいか?
『うん……モロバレル、ありがとう、もう大丈夫みたい。サーナイト、君に降りかかる悪はおれっちが全て消し去ってやるから……。モロバレル……。サーナイト……。あわわわ! またチューしたっす!!』
「ま・さ・か!? サーナイトの猛毒状態が抜けてるだと!?」
「ふふふ、だから言っただろう? この二匹にはどんな状態異常も通じないって、ちなみにひんし状態でも、あの二匹なら、口づけで何度でも復活するよ」
「な!?」
「そう、だからキミはこの二匹に勝つことは絶対に無理だよ……あ、これもさっき言ったことだね」
キスして復活するって、童話とかの話の中だけじゃなかったのかよ!?
ひんし状態でも復活なんて、どんだけなんだよ!? 聞いたことねぇーよ!!
……っていうか、まだ、キスを続けているぞ、あの二匹……!!
俺も我慢の限界だった。
「……だったら、キスしてる最中、二匹同時に倒せばいいだけの話だろ!? ラティアス!」
俺がラティアスに目を向けると、ラティアスは倒れていた。
『ご、ご主人、あたし、もう無理っす……! これ以上、もう……! あ、でもこのラブラブにやられるなら本望かもっす……!!』
なんとか俺に顔を向けたラティアスの鼻から赤い血が流れていた。
どうやらラティアスには刺激が強すぎたようで、つまり、ラティアスは悶絶(もんぜつ)していたわけで……って!
「ラティアス、しっかりしろよ! くっそ! カビゴンからもなんとか……!」
俺がカビゴンに顔を向けるとカビゴンは寝そべっていた。
「ゴ〜ン」
『……もうおなかいっぱいだからいいやとのことっす』
「やかましいわ!!」
ラティアスもカビゴンも戦闘意志がないということは、もうこの先の結果は……!
その結果を知らせる為の足音が近づいてきて――。
「これ、僕の勝ちってことでいいよね?」
「……何、その差し出してきた手? まさか握手――」
「何を言ってるのかねキミ、さっさと賞金を渡したまえ」
キザ野郎のことを見直してやろうかな〜って一瞬でも思った俺が馬鹿だった。
その夜、なんだか色々な意味で悔しい想いを抱きながら、俺は今日の出来事をレポートに書いていた。
なんか、書き進めていく度になんか、イライラが募っていく。
…………。
……。
あ、思い出した。
あのモロバレルとサーナイトのようなヤツらに送る言葉。
募ったイライラが爆発したかのように一言、それを書き殴った。
漢字がこれであってるかなんて知らないけど……。
リア獣、爆発しろ!!
【書いてみました】
一応、お題の『眠り』で考えてみました。
まず、書き終わって思ったことは、
「ははは……そうか、これが俗に言う『どうしてこうなった』ってやつかな〜。(遠い目&汗)」
とにかく色々と詰め込みすぎてしまった感(これがカオスってやつか!?)がありますが、
楽しんでくれたら幸いです。
ちなみにポケモンコンテストのお題が『美女と野獣』だったら、
これを(何か付け加えたりとかして)出していたかもしれません。(汗)
それと、モロバレルが相手の毒を吸い取って、
自分の体内にある毒と中和させてしまうみたいなことがあったら面白そうかな、と思いながら、
キスシーンを書いてました。
ありがとうございました。
【何をしてもいいですよ】
【1】
昔、とある場所にお酒造りが主流の小さな村がありました。
その村ではモモンの実やマトマの実といった木の実を発酵させて木の実酒を造っては、
ふもとにある城下町に売り歩いていました。
人気の方はといいますと……可もなければ不可もなく、いたって普通でした。
「おとうさーん、今日の発注分、荷台に積んどきましたよ〜」
「おう! お疲れ、咲羅(さら)! それじゃ、行ってくる!」
その村にある一軒の木造の家から一人の小柄ながらもたくましい隆起を持った筋肉を身につけた男が現れました。
家の前には人間を三人ほど乗せることが可能な手押し車と――。
「気をつけて下さいね、おとうさん。最近、物騒な話もあるみたいですから〜」
「オレはお前を留守にさせるほうが心配だ。悪い虫がつくかもと思うとなぁ……思うとなぁ……!!」
「大丈夫ですから。心配しないで。ほら、早く行かないと、遅くなっちゃいますよ〜」
涙ぐんでいる男をなんとかなだめているのは、その男の実の娘で、
腰まで垂れているのは世にも珍しい桃色の雲のようにふわふわとした髪。
そして両目から覗くのは透き通るほどの空色。
身の丈も六尺を超えていて、スラッとしているその娘は
村一番の可愛い娘でした。
【2】
ある日のことです。
「み、みんなぁ〜。今日の夜、オラの家に集まってくれべぇ〜」
この村の村長が青い顔をしながら言うものだったので、村の皆はざわめきを隠せませんでした。
各々、心に不安を残しながら満月の夜の下、村長の家に向かいました。
広い居間にて、囲炉裏(いろり)を中心に囲むように村人が集まってきており、その中には咲羅と父の姿も漏れなくありました。
「村長……話ってなんだべさ?」
一人の村人が声をあげると、村長は自分の身に起きたことを思い出したかのように
ガクガクとバチュルのように震えております。
「今日な……ふもとの城下町の帰りの山道でさ、緑色の大きなヘビにあったんだべさ」
「大きさってどんぐれいなんだよ?」
「こんぐら〜〜〜〜〜〜いだべさ」
膝を曲げながら、村長は左手で長い波線を描きました。
「十尺くらいか?」
「分かるのかよ!?」
「おぉ!! よく分かったべ! 確かに、そんぐらいはあったべな」
「当たりなのかよ!?」
そんな(?)勝手な茶番は置いといて。
「そんでなぁ……その緑色のヘビに言われたんだべよ。
村から一人、イケニエを差し出せってよう……しかも村一番のかわええ……」
「まさかオレの娘か!?」
村長の言葉に思わず悪い予感を口走ってしまった親馬鹿者が一人いました。
……いわずもがな、その場にいた皆の視線が一点に集まっていきます。
「えっと、わたくし……ですか〜?」
ゆっくりと、そう自分に人差し指を向けながら言ったのは他ならぬ咲羅でした。
「……んだべ。村一番のかわええ娘を要求されたんだべよう」
村長が申し訳なさそうに言うと周りの人達がざわめき始め、
信じられないといったような、どよめきがその場で渦をえがいています。
「そんな! 咲羅さんがイケニエなんて! 信じられませんよ! ねぇ、おとうさん?」
「貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いなんてない!!」
「咲羅さんは……村で二番目に可愛い女の子なんです!! だから咲羅さんが行く必要は……」
「貴様! ウチの娘が可愛くないというのか!!??」
「一番じゃダメなんか? 二番目でも充分だと思うよ、おとうさん」
「だからオレのことをお義父さんと呼ぶなと言っているだろう!!」
イライラが蓄積されていき、風船が割れたかのような音が咲羅の父の頭から響きました。
その形相はオニゴーリの如く、しかし、顔色は憤怒の赤に染まっていました。
「ウチの娘が一番可愛いに決まっているだろう!!!」
怒号が辺り一帯に飛び散り、周りにいた人たちは背中に電流を走らせたかのように硬直しました。
「……おとうさん、大丈夫ですか〜?」
自分がイケニエになることが決まりかけているのに、咲羅は肩で息をしている父の背中をさすっていました。
そのマイペースな咲羅の声に導かれるように一人の村人が声をあげます。
「……村長、もし……そのヘビとの約束を破ったら、どうなっちまうんだ?」
同じく硬直していた村長もその質問で我に帰って、答えようとしましたが……その顔色がよりいっそう悪くなっていくように見え、
唇が恐怖に動かされているようにブルブルと震えています。
「……も、もしな、約束を破ったらな……」
村長が息をのむ音がやけに大きく聞こえました。
「仲間のヘビ、七匹、連れてこの村にやってくるって……!!」
【3】
「へっくしゅっ!!」
満月の夜空の下、一匹の何かがクシャミをしました。
透き通るような水色と純白をその体に塗らせていて、頭の上には角が一本と両側からは小さな羽根のようなもの、
首元には水晶玉のようなものをつけており、尾の方にも小さいながらも二つ立派な水晶玉をつけていました。
「変なウワサでもされてるんじゃないのか?」
そう言いながらそのモノに紅の瞳を向けたのは大きな緑色の蛇でした。
「特にこれといったものはないはずですが……」
「何を言ってる、キサマにはアレがあるではないか」
「ま、まぁ……でも本当は僕には関係ないような……」
大きな緑色のヘビは何かを思い出したような顔つきになります。
「あぁ、それよりも、イケニエ要求してきたから」
「え!? い、いつの間に!? ちょ、ちょっとぉ……!」
「何か文句があるのか? 前にもキサマ言ったよな? わらわのやり方でお願いします、と」
「そ、それは……その……」
「それ以上、文句の一つでも垂れたら、グラスミキサーで刺身にするからな」
大きな緑色の蛇はほくそ笑みながら明るく、そう言いましたが、言葉の中身は鋭利で冷たいものでした。
何も言えなくなった相手に満足したのか分かりませんが、大きな緑色の蛇の口は更に速度を上げていきます。
「あ、そうそう。約束を破ったら仲間の蛇を七匹連れてくるとか言っといたから」
「……それ、脅迫じゃないですか……」
「何を言っておる。脅迫ほど、潤滑(じゅんかつ)に物事が進むものはないと思うぞ?」
「それでも……後が怖いですって……ん?」
相手は何かが引っかかる感覚を覚えました。
そこで、大きな緑色の蛇との会話を頭の中で巻き戻して、再生させて――。
『あ、そうそう。約束を破ったら、仲間の蛇を七匹連れてくるから』
『仲間の蛇を七匹連れてくるから』
『蛇を七匹』
『蛇』
「ちょっとぉ!? 待ってくださいよ!」
「ん? なんじゃ?」
大きな緑色の蛇の紅の瞳に臆せず(おくせず)、というより、これだけは譲れないといった感じの顔で――。
「僕は蛇じゃないって、一体、何百回言えば分かるんですかぁー!!!」
【4】
「咲羅……うぅ、咲羅ぁ……!」
「おとうさん、そんなに泣かないでください〜。大丈夫ですよ、きっと」
「何を言ってる、このバカもん!! イケニエの意味を分かっているのか!?」
「え……と、確か、相手を悦ばす(よろこばす)為につくす、でしたよね?」
「咲羅!! それはぁ、むぐ!? ぐむぐぐむぐぐ!?」
突然、咲羅の父の口が村人の手によって塞がれました。
その村人は咲羅の父よりも屈強で、村一番の強い男でしたから、咲羅の父はその手から逃れることはできませんでした。
真実を知っていないのならば、その方が咲羅の為でもある、と考えた村長からの命令だったのです。
できるだけ、咲羅に恐怖を与える事は避けるように、村長は険しい顔つきになります。
「咲羅よ……頼んだべよ」
「はい〜。しっかりと役目を果たしてきます。村長様」
雲一つもない快晴の青空の下、村の入り口には村人全員と、
人を三人乗せることが可能な、例の手押し車があり、そこには機嫌取りの為のお酒のタルが数本積まれており、
そして咲羅自身も背負える分だけお酒のタルを持っていました。
「それでは、行って参りますね〜」
村人皆が泣きながら自分を送ってくれるなんて、不思議な感覚と思いながら咲羅は元気よく出発しました。
その村人たちの涙の本当の意味も知らずに。
その咲羅の桃色の背中を見送りながら一人の男が呟きました。
「うぅ……これで、村一番の屈強な娘も消えてしまったなぁ……うぅううぅ……」
【5】
空で繰り広げられているマメパトとポッポの決闘を見送りながら
野を超え、
我の巫女にならぬか? というキュウコンの誘い(ナンパともいう)を丁重に断りながら
坂を上ったり、
ゴーリキーにしつこく戦いを挑まれたので、とりあえず受けて、そして勝って、
坂を下ったり、
マッギョを踏んでも、なんともなく、
長い長い起伏のある山を登り――。
ようやく、咲羅は大きな緑色の蛇が指定したという、裏山の山頂にたどりつきました。
まもなく日も沈むこともあってか、広場のように広がっている山頂の真ん中には焚き火が施されており、
それを囲むように座っている八匹の何かが見えました。
紫色をした小さな蛇。
紫色に大きな怖い顔を持った蛇。
所々に黄色の模様をつけて、長くて赤い牙を口からのぞかせている黒い蛇。
小さい手足を持った緑色のモノ。
その緑色よりも少し大きいモノ。
水色と白色を体に塗らせた小さな蛇(?)
同じく水色と白色を体に塗らせ、その体には三つの水晶をつけている蛇(?)
そして――。
「おっ、どうやら来たみたいだな」
大きな緑色の蛇が沈みゆく夕日に照らされた咲羅の存在に気が付きました。
そして凛(りん)とした声とともに他の七匹も咲羅のほうに視線を向けました。
「すいませ〜ん。遅くなってしましたか〜?」
咲羅は伸びやかな声を出しながら焚き火のほうに近づいていきます。
もちろん近づいてくる咲羅の大荷物にその場の一匹を除く七匹が目を丸くさせていました。
「……あんな重そうな物を持っていて、よく涼しい顔ができますね……」
一匹がそう呟いた後に心底楽しそうな笑い声が響き渡りました――例の大きな緑色の蛇です。
「ふふふふ! 実に愉快、愉快! さて、わらわの方にちこうよれ、娘」
大きな緑色の蛇が尾で手招きの真似事をしているのに導かれ、咲羅は大きな緑色の蛇の近くまで進むと立ち止まりました。
実際に目の前にすると、その大きな緑色の蛇の大きさが存在感強く伝わってきます。
そして、その迫力もさることながら、その大きな緑色の蛇からは何か高貴さというものがあるようだと咲羅には感じられました。
この場に集まっている八匹の中で一番に美しい。
「まぁ、座るといい……早速だが、名はなんというのかのう?」
「あ、はい。咲羅といいます」
「ほう、咲羅というのか。わらわはジャローダという、よろしくのう」
正体を名乗った大きな緑色――ジャローダはいきなり咲羅の頬(ほお)に口づけをつけました。
その音色は艶やかに塗られたような、そんな甘い響きが漂っています。
「姐(あね)さん!! いきなり、そんな……! すいません、咲羅さん。だいじょう――」
最後の『ぶ』という言葉が生まれるはずだった場所には、ムチを思いっきり地に叩き(たたき)つけたかのような音が鎮座しました。
「だ、大丈夫ですか〜?」
「大丈夫だよ。兄ちゃんはこれで旅立ちから356回、ジャローダさんに殴られているから、だよ」
「う……まさか……数えていたとは……弟よ……」
「あ、ぼくはミニリュウっていうんだよ。よろしくだよ。なんか君とは気が合いそうなんだよ」
「あ、よろしくお願いします〜」
自分と同じ匂いがしたような気がしたからか、ミニリュウと名乗ったものは笑顔で尾を振っていました。
その後、ミニリュウの自己紹介が引き金を引いたのでしょうか、他のものたちも咲羅の近くに集まってきました。
まずは紫色をした小さな蛇。
「おれっちはアーボっていうんだぜ! よろしくな! ピッチピチのねぇちゃん!!」
次に紫色に大きな怖い顔の模様を持った蛇。
「ハハハァ!! ワシはアーボック、ゆうんじゃけん、よろしゅうな!」
続いて、所々に黄色の模様をつけて、長くて赤い牙を口からのぞかせている黒い蛇。
「…………よろしく。自分、ハブネークっていいます……」
更に小さい手足を持った緑色のモノ。
「ボクはツタージャといいますです。そこそこ天才です。よろしくです」
そして、その緑色よりも少し大きいモノ。
「私は紳士のジャノビーと申します。以後、お見知りおきを。あ、あと私とツタージャはジャローダお姉さまの弟でございます」
それと――。
「で、今、ここで無様に倒れておるのがハクリューという、駄目蛇――」
ハクリューにとって譲れない単語がハクリューを立ち上がらせます。
「僕は蛇ではなくて、竜、と何回言えば分かるんです――」
最後の『か!?』という声のかわりに、ムチが打たれたかのような音と甲高い悲鳴が横入りしました。
地面にのびて伏しているハクリューにミニリュウが溜め息をもらします。
「兄ちゃんが竜だってことをちゃんと認めさせないのが悪いんだよ。そんなんじゃ、立派なカイリューにはなれないんだよ?」
【6】
夕日は沈み、裏山の山頂に漂っているのは……誰かを酔わせる危険な香りでした。
「ガハハハ!! ニンゲンはうまいで!! グヘッ!!」
「ヒクッ確かにニンゲンはうまいぜ! ヒャハハ!!」
アーボックとアーボの下品な笑い声が響き渡ります。
その口元にはなにやら……赤いものが付着しており、それはすぐに長い舌で舐め取られ――。
「まったく……言葉がおかしいですん。正しくはニンゲンの造ったお酒がおいしい、ですんっ」
「アーボさん、アーボックさん! アナタたちは紳士として、それはどうなんですか!? それが紳士の振る舞いだと申されるのですか!? 私は認めませんよ!?」
「……みなさん……怖いです………………自分……なんか……自信を持てなそうで……う、うぅううっ!」
「ハブネークさん! そんなんで、紳士になれるというのですか!? 紳士に涙はいらないのです!! しっかりしてください!!!」
「そんなことを…………言われましても…………」
「紳士には言い訳も不要なのです!! 紳士を甘く見ているのではないですか!? いいですか!? 紳士というものは…………!!!」
六匹の蛇と二匹の竜は咲羅が持って来たお酒をいただいていて、タルの中に顔を入れて、酒を飲んではそれぞれ大いに酔っていました。
場の空気は全体に陽気なもので、見ていて飽きることがなさそうな喜劇が繰り広げられています。
ジャノビーが紳士というものを語っている、その近くではもちろん、咲羅とジャローダ、ミニリュウとハクリューがお酒を飲んでいました。
「すいませんね……お酒をもらってしまって、なんか申し訳ないというか……」
「いいえ、こちらこそ〜、お口にあいますか〜?」
「本当にすいません。どっちかというとおいしいです。あぁ! 本当にこんなことしか言えなくてごめんなさい! 申し訳ありません!!」
「いいえ〜、おいしいのなら〜、持ってきて良かったです〜」
「本当に重い荷物を持たしてしまって申し訳ありませんでした! 本当に本当に――」
もう一回ハクリューが謝ろうとした矢先に奏でられたのはムチが打たれたかのような音色でした。
「しつこいんじゃ、キサマは」
再び、地に伏したハクリューを心配そうな顔で覗く咲羅にミニリュウが顔を向けました。
「だいじょうぶだよ。兄ちゃんは酔っ払うと、あやまりグセが出てくるだけだから、だよ。あ、ちなみにぼくはけっこう、強いんだよ」
ミニリュウは倒れた兄であるハクリューを哀れむように見やると、再び飲み始めます。
とりあえず一安心した咲羅でしたが、いつのまにか体をジャローダに巻かれていて、ジャローダの顔が近づいてきました。
咲羅のふわふわな桃色の髪に顔を更に近づけたジャローダは鼻をひくひくと楽しむかのように動かして、
その後、咲羅の髪の毛を噛みました(かみました)。
「ひゃうっ?」
ジャローダの噛み方(かみかた)が甘噛みだったからでしょうか、咲羅はなんだか不思議な気持ちでした。
「ひゃあ、くすぐったいです〜、ひゃう、ひゃあっ」
くすぐったいのが逆に気持ちよくて、咲羅には更に不思議な感覚でした。
ジャローダが一旦(いったん)甘噛みを止めると、閉じていた紅の瞳を開けて、妖しく(あやしく)微笑みます。
「ふふふ、甘露、甘露。なかなか見た目を裏切らない甘い髪じゃのう〜」
耳元でささやかれて、咲羅は更に酔ったような感じになります。
何か……このまま、おぼれてしまいそうな、でも止めることができない、そんな感じでした。
そんな咲羅の様子に更に調子に乗ったジャローダはまず、咲羅の唇にそっと重ねるだけの口つげをした後に、
頬を一舐め、二舐め、それから口づけを乗せていきます。
「ひゃう、あう、ジャローダさん……」
それから首元にもジャローダに口づけをされてゆき、
優しくなでられているかのような、甘い響きが咲羅の中に広がっていき、
その度に咲羅の口から艶かしい(なまめかしい)吐息がこぼれてしまいます。
「ひゃあ、あうう、ひゃう……ジャローダさ〜ん……」
「ふふふふふふ、中々、よくとけた顔をするではないか……咲羅」
このままではいけないような……と咲羅も思っていたのですが、その思考すらもジャローダからの甘い誘惑に絡め取られてしまいます。
「もっと、鳴いてもいいのだぞ……咲羅」
ジャローダが一回、舌舐めずりしますと、自分の尾の方を咲羅の服の中へ――。
「ストーップ!!!! 姐さん、何やってるんですか!? これ以上は駄目ですよ!!!!
咲羅さんに(ごめんなさい。ハクリューが何か言っていますが……掲載できません。ご了承下さい。)
本当にもう、何考えてんですかぁ!!??」
「……黙れ、駄目蛇が」
ジャローダがあっという間に咲羅の体を離すと、『つるのむち』を一発思いっきり放って、ハクリューを上空にふっ飛ばします。
そして紅の瞳が鋭く光ったかと思えば、ジャローダの周りには緑葉が何枚も舞っていて――。
「あ〜あ、だよ。ジャローダさんは酔うと、(一線を越すかもしれない)絡みグセ(女性限定)があるんだよ〜。
そして、その絡みをジャマした男は…………」
咲羅が我に返ったのと、ジャローダの周りに漂っていた緑葉たちが空へ舞って行ったのは、ほぼ同時でした。
「ジャローダさんの本気の『リーフストーム』は下手したら死んじゃうんだよ。まぁ、兄ちゃんなら(多分)だいじょうぶ、だよ」
ミニリュウがやれやれといった顔で咲羅に説明したのと、
なにやら、空から断末魔(だんまつま)のような嫌な歌声が響いてきたのはほぼ同時のことでした。
【7】
咲羅が持って来たお酒もすっかりなくなってしまい、夜も更に更けて月が高く昇る頃には、いくつかの寝息が協奏曲を奏でています。
「ふふふ、寒くないかのう? 咲羅」
「大丈夫です〜。焚き火もまだついてますし、ジャローダさんの体も暖かいですから」
今、起きているのは、ジャローダと、そのジャローダの体に優しく抱き寄せられている咲羅。
「まったく……最初から、そうしていればいいじゃないですか……」
「……何か言ったかのう? 駄目蛇」
ジャローダに蛇にらみされて、身をすくんでしまっているハクリュー。
ちなみにある一説によると、本当は蛇というのは竜の眷属(けんぞく)といいまして……つまり、簡単に言いますと、竜の方が蛇より偉いはというのがあるのですが……。
少なくとも、このジャローダとハクリューの場合は立場が逆のようです。
「何も言ってません! うぅ、まだ傷が痛みます……」
「もう、兄ちゃんのじごうじとくなんだよ?」
(奇跡的に)傷だらけ(で済んだ)になった兄を戒める(いましめる)ミニリュウ、この計一人と三匹がまだ起きていました。
「ふふふ、まぁ、実に愉快であったのう。さて……咲羅にはこの恩返しをせねばのう……」
「恩返し、ですか? いいですよ、そんなの〜、それよりも、わたくしはイケニエとして……皆様を悦ばせられたでしょうか?」
咲羅の言葉にミニリュウやハクリュー、そしてジャローダの目が丸くなりました。
咲羅はもう酔っていません……となると、と考えたジャローダの口元が大きく上がったと思えば、盛大に笑い始めました。
「ふふふ、はははははは!!!! 成る程のう! 実に肝が据わった(すわった)娘かと思っていたが……ははは!!!」
ミニリュウも楽しそうに笑っている中、ハクリューだけは申し訳なさそうな気持ち全開な顔になっていました。
もちろん咲羅の頭の上では疑問符が元気よく跳ね回っています。
「ははははは!! 実に愉快じゃ! のう咲羅、ちょいとここいらで、わらわたちの話を聞いておくれ、のう?」
「あ、はい。いいですよ〜」
紅の瞳に涙を浮かべる程、笑ったジャローダは改めて話をする為に一つ咳払いを入れます。
「わらわたちはのう、ちょっとワケありの旅をしておってな…………咲羅は『八尾のハクリュー』という昔話を知っておるかのう?」
「聞いたことがあるような、ないような……」
「ふふふ、じゃあ、話をさせてもらうとな、昔、八匹のハクリューが世界を転々と旅をしながら、悪さをしておったんじゃ。
例えば……そうじゃな、ニンゲンの女をイケニエとして集めて、酒池肉林のような生活をしておったりとかのう」
楽しそうに語るジャローダにハクリューはバツが悪そうな顔をしてます。
「このままではいかぬと、ある日、一人のニンゲンの、娘がその八匹のハクリューが住んでおった洞穴に乗り込んでのう、
自分が精一杯、尽くすから、どうかこれ以上、悪さをしないでおくれ、と。その女をいたく気に入った八匹のハクリューはのう、
その娘の願いを聞き入れたのじゃ。そして、その娘は死ぬまで実に五十年以上、その八匹のハクリューの為に尽くした……ここまで良いのう?」
咲羅が頷いた(うなずいた)ので、ジャローダは先を進みます。
「その娘が死ぬとな、八匹のハクリューはまた悪さを始めようとした……そのときじゃった。
一人のニンゲンの天女が空から現れたんじゃ……実はのう、その天女はあの五十年以上、八匹のハクリューに尽くしていた娘じゃった。
ニンゲンや他のポケモンを八匹のハクリューから助ける為に、その天女はニンゲンの娘に生まれて来たと語ったのじゃ」
「……その天女さんとの約束を破ってしまうなんて……ひどい話ですね〜」
ハクリューの顔が更にバツが悪いものになっていきます。
「その天女はのう、悲しい顔をしておった。どうして約束を破るのかと。
しかし、その八匹のハクリューは約束などないわ、とゲラゲラ笑って返したとき、天女が遂にブチ切れたのじゃよ」
どとうの展開に咲羅は思わず息を飲み込みます。
「ブチ切れた天女は八匹のハクリューでも太刀打ちできなくてのう、ついに、その八匹のハクリューを滅ぼしたのじゃ。
……だが、天女の怒りはこれで止まらなくてのう、ある一つの呪いをかけたんじゃ。
ハクリューの首元に一つの水晶玉みたいなのがあろう? その水晶玉にそれぞれの魂を閉じ込めてな、
この水晶玉に善の気持ちを込めなければ、貴様たちに安息の日は与えぬと、な」
ジャローダがそう言いながら、出したものは――。
「これが、その八つの水晶玉じゃ。この八つの水晶玉に善の気持ちを込めて、全て割らぬといかぬ。
そして、それを全て割らぬ日が続く限り、ミニリュウはハクリューに進化できるのじゃが、
ハクリューはカイリューに進化することはできぬ、とな、のう?」
ジャローダの視線が一匹の――。
「ハクリュー?」
ジャローダの紅の瞳に見つめられたハクリューは重い溜め息をもらしました。
咲羅が再び疑問符を頭に跳ねさせたのを見たジャローダは説明を続けようとするが、ミニリュウがそれを制した。
「ここからは、ぼくが言ったほうがいいんだよ。あのね、どういう生活をしていたかは分からないだけど、だよ。
その天女さんは一匹のミニリュウを産んだんだよ。それが…………」
「……つまり、あの八匹のハクリューのどれかは……分かりませんが、僕たちの祖先なんです。お恥ずかしながら」
今まで重く口を閉じていたハクリューが口を開けました。
まるで、自分があの八匹のハクリューの中の一匹だったかもしれないと訴えるような目をしていました。
「ある日のことでした。僕は夢を見たんです。美しいニンゲンの女性、まぁ、恐らくあの天女だと思われる方に出逢って、
先程、ジャローダさんが言ってくれた昔話と、その真実を語ってくれて、そして、この八つの水晶玉を託されたんです」
忌々しいものを見るかのようにハクリューは八つの水晶玉を見つめました。
遠くても、自分と血の繋がった祖先のハクリューの所業に呪いたくても呪えない、
逆にその呪いを受け続けているという処遇に何度、憤り(いきどおり)を覚えたことだか、と、昔話の真実はハクリューの生真面目な性格には深く食い込んでくるものでした。
「それで、まぁ、わらわはこの駄目蛇と小さい頃からの腐れ縁でのう、
どうしようもなかったのじゃろうな、こやつはわらわに助けて欲しいと頼みに来たんじゃ。自分だけではどうしようもないと、泣きながらのう」
更に恥ずかしいところを咲羅に聞かれてしまったハクリューは駄目蛇と言われても、なんとも言えませんでした。
「ぼくも待っているだけじゃいやだったからね、一緒に行くことにしたんだよ」
「そして、弟のツタージャとジャノビーのやつらにも、今回の旅は色々、学べることが多いと思ってのう、強制連行じゃ」
ジャローダは尾を使って、夢の中を歩いている、とある一匹を示します。
「他のやつらは道中で出逢って、ついて行きたいと言ったやつらなんじゃが……まずはハブネークじゃな。
あやつは遠くに旅立ってしまったザングースというポケモンに逢いに行きたいらしくてのう、
そして、次にアーボとアーボック。あやつらは親子でのう、逃げられた妻を探しておってな……まったく、なんの因果か、八匹になってしまったのう、ハクリュー?」
「別に、悪さをする為の旅ではないんですから、そこまで気にしてたら、それこそ、駄目蛇だと思いますよ」
ハクリューは力ない微笑みをジャローダに向けると、それを受けたジャローダは咲羅に視線を向けました。
「というわけで、要約するとのう、友を探しながら、逃げられた妻を追いながら、八つの水晶玉を壊す為に善の気持ちを集めて……いや、
いいことをしまくっていこう! というのが、わらわたちの旅じゃ。分かってくれたかのう? 咲羅?」
色々と展開していった話で頭がこんがらそうになった咲羅でしたが、ジャローダの一言で不思議と頭の中が一気に整理されました。
一方、ハクリューは省きすぎなんでは……? と目で訴えていたようですが。
「はい、分かりましたです〜」
「うむ、よくできたのう。さて、咲羅よ、お主は何をして欲しいのじゃ?」
今までのジャローダの話からすると、ジャローダたちに何かを願うことは自分たちを助けることにもなりますし、
そしてジャローダたちを助けることに繋がる……ということは遠慮はいらないということで。
「あのう、ぜひとも、力を貸して欲しいのですが〜」
【8】
「う〜ん、もうちょっと、寝かしておいたほうがいいかもだよ。それと、なるべく温度は下げないようにするといいんだよ」
とある倉庫の中、タルから顔を出したミニリュウがそう告げました。
人間が一人、その言葉を聞いてウンウンと頷いていました。
「なるほどだべ、確かに味がちょいと足りねぇと思っていたところだべ、参考になるべなぁ〜」
その人間になでられたミニリュウは笑顔で尾を振っていました。
ここは咲羅が住んでいる村。
あの後、咲羅が無事に戻ってきて驚いた村人たちは更に驚いて目玉を飛び出しそうになります。
なんと、あの村長の話していた大きな緑色のヘビと仲間であるらしい七匹のヘビまでもが一緒にいたのですから。
咲羅はすぐに事情を説明し、ジャローダも非礼を詫びたことから村人たちの理解を得るのに時間はそうかかりませんでした。
そして、次にジャローダたちが移った行動が、お酒を飲むことでした。
『あの〜、わたくしが住んでいるの村のお酒を見てくれませんか?』
咲羅のお願いは村の酒の質の向上でした。
村の酒がもっと人気を出せるようになれば、村も繁栄できてよいのではないだろうかと、咲羅は考えたのです。
八匹の中ではミニリュウ、ジャローダ、ハクリュー、ハブネークが村の酒を調べて、
他のアーボ、アーボック、ツタージャ、ジャノビーは売り子の手伝いや、見張りなどにも手を貸してくれました。
全員が酔うとタチが悪いからとジャローダが考えて決めた役割決めで、無事になにごともなく、日が過ぎていきます。
村の酒を調べる四匹のセンスは抜群で、徐々に村の酒の質が向上されていきました。
一月、二月と、村の酒の人気は上がっていき、今では、ふもとの街に住んでいる貴族の心をもつかむ味となりました。
村人と八匹のポケモンの仲もよくなっていき、最初こそはジャローダの怖がっていた村長も、今ではすっかりそのジャローダの姉御肌にほれてしまっていました。
そして、そのままもう一月が流れていこうとした、その日の夜。
「もう、三月もこの村に留まってしまったのう。その成果じゃな、きっと」
「なんですか? お話って……ここに呼び出して……」
村の外ではジャローダとハクリューが二匹っきり、月が高く昇る空の下で座っていました。
「これじゃよ。この水晶玉を見よ」
「え……えぇっ!?」
ジャローダが取り出したのは件(くだん)の水晶玉一つで、その水晶玉はほのかな光を出しながら、徐々にその光を強くしていき、
やがて、瞬間的に強く輝いたと二匹が思った矢先のことでした。
「あの〜、もしかしてジャローダさんとハクリューさん、そこにいますか〜?」
伸びる一つの穏やかな声に二匹が振り返りますと、そこには咲羅がいました。
「なんじゃ、咲羅じゃったのか、どうしたのじゃ? まぁ、とりあえず、隣に座るがよい」
ジャローダが勧めた場所に咲羅はゆっくりと座りました。
相も変わらず、ふわふわな桃色の髪が揺れています。
「あの〜、皆さんはまた旅をするんですよね〜?」
「もちろんじゃ。もうすぐ旅立とうと思っておる」
「そうですか〜。では……お願いしてもいいですか〜?」
「なんじゃ? なんでも言ってみるがよいぞ」
咲羅は一息入れると、ジャローダとハクリューをまっすぐ見つめながら告げました。
「わたくしも、旅を一緒にしてはだめでしょうか〜?」
ジャローダとハクリューが目を丸くしている間に咲羅が続けます。
「今回、皆さんと出逢いまして〜、世の中が広いことが伝わって来たのです〜。
わたくしも、ジャローダさんたちについて行って、もっと色々なことを知りたいのです〜。
それに……ハクリューさんを助けたいですし〜」
咲羅が自分の意思を伝えると、ジャローダが一回目を閉じて、それから開けると、咲羅を抱き寄せました。
「ふふふ、ははははは! 本当にお主は可愛い娘じゃな!! うむ! よくぞ言ったぞ咲羅! ともに行こうではないか! ははははは!!!」
「ちょ、ちょっと!? 姐さん!? いきなりいいんですか!? そんなこと決めて……!!」
抗議を入れようとするハクリューにジャローダは微笑みながらにらみつけます。
「わらわが決めたと言ったら、それで決定なのじゃ! なんか……文句でもあるかのう?」
笑っていない、その微笑みの冷たさを感じたハクリューは一発で腰が折れました。
まぁ、根はいい子ですし……と呟きながら、一つ、二つ、後ろに下がりました。
「よし! 決めたぞ! 明日から旅立つ事にしたからのう! 今日は早く戻って早速、準備してくるとよいぞ、咲羅!!」
「あ、はい〜! ありがとうございます〜!! これからよろしくお願いします〜!」
ジャローダからの許しを得た咲羅は早速、旅立ちの準備をする為に村の方へと走って行きました。その後ろ姿は嬉しそうに揺れていました。
「……まったく、勝手なこと言っちゃうんですから……姐さんは、もう」
「よいではないか。あの度胸とか根性とか、まさしく旅向きではないか! どこかの駄目蛇よりは、存分に役立つじゃろう」
「だから、蛇じゃないと何回――」
ジャローダから『つるのむち』で軽く顔を打たれたハクリューからうめき声のような声が一つあがりました。
「いずれ、咲羅も子供ができるじゃろう……そのときにわらわたちの話を聞かせてやるんじゃ。
そうすれば、色々なものたちに伝わっていくじゃろう……そしてわらわたちの話が決着をつければよいじゃないかのう?」
振り返ったジャローダの笑顔は心底楽しそうで、そして月明かりに照らされたそれは美しくて、思わずハクリューは見とれてしまいました。
「八尾のハクリューの話にな。」
「ジャローダさん…………」
ジャローダは顔をハクリューに思いっきり近づけてきて、ハクリューはその威圧感に思わず後ずさってしまいます。
「貴様、たわけじゃな。あの話はまだ終わりなんかではないんじゃよ。
勘違いをするでないぞ? あの話はあの話でと勝手に完結させておるから、貴様はたわけなんじゃ。
悔しいなら、貴様があの話をハッピーエンドで終わらせてみろ、違うかのう?」
ジャローダの紅の瞳がまるで人間の刃のようにハクリューに突き刺さります。
何も言えないハクリューに溜め息を一つ漏らしたジャローダは振り返ると夜空を見上げました。
「たわけが……」
ジャローダの呟きと共に、一つの水晶玉から、
ガラスがばらばらに砕け散るような音が月夜に羽ばたいたかと思えば、
その中から現れた一つの光が、砂のようになって、消えていきました。
【9】
翌朝、ジャローダの有言実行で旅立つことになった八匹、
ハブネーク、ツタージャ、ジャノビー、アーボ、アーボック、ミニリュウ、ハクリュー、そしてジャローダは村の入り口にいました。
村人たちは突然の別れに驚き、そして悲しみ、各々、感謝の言葉を述べながら、八匹を見送ります。
しかし、村人たちの悲しみの理由はそれだけではありませんでした。
旅立つ八匹に加わって、新たに旅立つ一人とも別れなければいけなかったからです。
「うあぅ、咲羅さ〜ん! 嘘って言ってくださいよ〜!!」
「咲羅ちゃ〜ん、いがないで〜!!!」
「咲羅しゃ〜ん!!!」
村人たちが涙を流しながら止めようとしましたが、旅の道具を詰まった袋を背負った咲羅の意志は変わりませんでした。
「ごめんなさいです〜。もう決めたことですから〜」
ハクリューたちを助けたい、その気持ちは折れることはありませんでした。
なんだか、『八尾のハクリュー』の話に気の毒になったのもあったのですが、なにより、ハクリューを見ていると、なんだか放って置けないというのもありました。
とにかく、ここで願って待っているのが嫌でした。
「あ、おとうさ〜ん! おとうさんからも何か言ってくださ――」
「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはないと何回言えば分かる!!?」
咲羅に群がってくる男たちを豪腕な腕でなぎ払い、物騒な音をあちこちに散らかしながら咲羅の父が近づいてきました。
「咲羅よ……」
昨晩、咲羅は父に旅立つ旨(むね)を伝えました。
最初は反対していた父でしたが、決して折れない咲羅の言葉に、ついに黙り込んでしまい、今日を迎えていました。
「おとうさん……」
「咲羅、オレは自分の娘には誇りを持ちたい……だから」
咲羅の父は唇を一回、噛み締めてから言いました。
「全てが、終わるまでは、決して帰ってくるんじゃない……!! 分かったな!?」
強く噛み締めた咲羅の父の唇からは赤いものが一滴、二滴、滴り落ちていきました。
「ごめんなさい……おとうさん、ありがとうございます」
咲羅の父は決して、許せないという気持ちがあって、そんなことを言っているのではありませんでした。
今まで、心配していた娘が強く生きている、そのことを強く感じさせられた咲羅の父は逆に娘に対して心配性だった自分が恥ずかしくなったのです。
自分は娘の何を見てきたのだろうか、と。
本当は行って欲しくない、ですが、ここで娘の背中を押してやらないで、父親として、どうなんだ? という想いが強くなったのです。
「それでは、行ってきますね……!」
たくましい咲羅の父らしい言葉は、しっかりと咲羅の背中を押していました。
その証拠に咲羅の歩く姿は力強いものでしたから。
「さ〜てと! これで後、残りの水晶玉は七つじゃな!!」
林の道の中、ジャローダは意気揚々と前進していきます。
その隣は新しい旅の仲間である咲羅が歩いています。
「今度は、どちらへ向かわれるんですか〜?」
「とりあえず、北じゃな! そしてどこかの村に着けばなお良いのう!」
ジャローダの明るい声とは裏腹にハクリューは溜め息をもらします。
「まったく……行き当たりばったりで申し訳ありませんね……」
そんな暗い顔のハクリューに咲羅は顔を横に振りました。
「そんなことないですよ〜。わたくしのときみたいなことはきっとありますよ〜。世界は広いはずですから〜」
前向きな咲羅の言葉にハクリューは思わず息を詰まらせます。
「ははは!!! やっぱり、どこかの駄目蛇よりかは役に立つじゃろう!? ふふふ、ははははは!!!」
ジャローダが大きく笑い始めたのをキッカケに皆、笑い出します。
「だから! 僕は蛇じゃないですってばぁー!!!」
ただ、一匹、泣き言を上げていたものを除いて。
この愉快な八匹と一人の旅は始まったばかりである。
【書いてみました】
昔話界では有名人であろう『ヤマタノオロチ』
今回の話はここから始まりました。
「ヤマタノオロチって要は八匹の蛇が合体してるってことだよね?(間違えてたら、ごめんなさい)
じゃあ、そのヤマタノオロチになぞって、蛇ポケモン八匹、考えてみようかな……。
えーっと、アーボでしょ? アーボックにハブネーク……ジャローダ、まぁ、ジャローダが蛇なら、ツタージャとジャノビーも」
ここまでは良かったのですが、残りの二匹が中々、思い浮かびませんでした。
私の見落としがあるかもしれないのですが……この二匹を出してみました。
「あー、ミニリュウとハクリューって蛇っぽいからいいんじゃね?」
本当は駄目だと思われますが……。(汗 & ごめんよミニリュウ、ハクリュー。特にハクリューにはもうなんて言ったらいいのか)
とりあえず、ミニリュウとハクリューを入れて、物語を考えて書いていったら、こんなに長くなってしまいました。
『八尾のハクリュー』とか……とりあえず、ヤマタノオロチに謝っておきましょうか。(汗)
とりあえず、書いていて一番楽しかったシーンは酒の宴でした。
ジャローダの絡みが「ヤリスギテナイカナー、ダイジョウブカナー(汗、汗、汗)」と思いながら、ここで締めさせてもらいます。
長い話に付き合ってくださって、ありがとうございました!
ちょっとでも、面白かったと思っていただけたら、嬉しい限りです。
それでは、失礼しました。
【何をしてもいいですよ♪】
『雪が大きく吼える日に一人で外に出て行っては行けないよ』
『その白い手があなたの手を捕まえるでしょう』
『その白い腕があなたを抱きしめるでしょう』
『その白い歌があなたに口づけをするでしょう』
『そのとき、あなたは――』
ある村にはこのような伝承が残っていました。
昔々、とある雪深い村に一人の少女がいました。
年は10代の真ん中といったところで、
背は少々小柄で、黒い髪を腰まで綺麗に垂直に垂らしており、
そして、華奢な(きゃしゃな)首からは先端に銀色の鈴が付いている赤い紐(ひも)が垂れていました。
その少女には想い人がいました。
この雪深い村に住んでいる一人の若い殿方でした。
身の丈はゆうに六尺を超えており、体つきも中々がっしりとされていました。
年は少々離れておりましたが、その少女がその殿方を見つめる小さな瞳は恋という文字を映していました。
「あの人とずっと、ず〜っと一緒にいたいなぁ……」
月並みな呟きでしたが、少女の想いは本物で日に日に強くなっていきました。
同じ村に住んでいるので、もちろん意中の殿方と言葉を交わしたことはありましたが、
殆どが「こんにちは」などの挨拶程度で、
そこから発展したとしても「今日は天気がいいねぇ」といった、たわいもないこと止まりでした。
それ以上の発展がどうしても続かない……。
大好きな殿方が目の前におられるのだからでしょうか、いざ殿方に声をかけるとき、
胸の鼓動の速度は気が遠くなる程、加速していってしまうようです。
「でも……このままじゃ、ダメだよね……」
ある日の夜、月が高く昇っている頃、少女は家の中で毛布に潜り込んで、完全な真っ暗の中で考えていました。
「このままだと……他のだれかに……いや、そんなの絶対にいやだっ」
殿方が他の女性と仲良く暮らしているところを想像したおかげでしょうか、少女が遂に決意しました。
「もうすぐあの人の誕生日だわ……そのときに告白しましょっ!」
この村から少々離れた森には一つの湖があり、
その湖の周囲には雪の中でも咲くことができる不思議な白い花があるとか、
そして、その白い花に込められた花言葉が『譲れない愛』だったはず。
少女は村人から聞いたその話を基に、白い花束を殿方に想いとともに渡そうと決めました。
そうと決まれば明日は朝早くから出掛けなければと少女は急いで夢の中へと走って行きました。
遠くから聴こえるグラエナの遠吠えに背中を押してもらいながら。
翌日、朝日が昇るのと同時に少女は家を出ました。
茶色の毛皮を身に羽織って(はおって)意気揚々と歩き始めました。
誰にも内緒で、もちろん意中の殿方にも内緒にしたいことなのですから、
ピジョンが朝を告げる歌を上げる前に少女の足跡は村から出て行きました。
サラサラと砂のような雪に、サクサクという何かをかじるような音を残しながら、少女は件の森を目指しました。
天気は大変良好で空一面、青色で塗られていました。
少女自身、あまり村に出たことがなかったからでしょうか、楽しい気分になっているようで鼻歌まで出ています。
サクサクという何かをかじるような音と少女の鼻歌が、
ちょっとした偶然のハーモニーを奏でながら続いていき、
小一時間ぐらいで件の森に到着しました。
「よし! 見つけてやるわよぉ! あの白い花!」
少女の心意気にビックリしたかのように、
近くにいたミミロルが踊るようにして雪原の遠くへと走り去って行きました。
森の中は上に太陽があれど薄暗く、時々、何かが動いたと思われる音に肩をすくませたこともありましたが、
少女は愛する殿方のことを考えると、すぐに恐怖を捨てて、無我夢中になって奥に進んで行きました。
ただ真っすぐに歩き続けること小一時間、
木々の空間からようやく開いた空間で少女が見たもの――
それは例の湖でした。
綺麗な丸い円を描いていて、半径は8尺ほどあり、
寒い季節で表面は見事に凍りついてます。
ちなみに、少女が向いている方向の先――湖の奥には中ぐらいの大きさを持った山脈が続いていました。
さて、凍りついた湖の上を楽しそうに滑って遊んでいるポケモンが数匹いましたが、
少女の心はもう『花』という文字しか映っていませんでした。
すぐさま、話を聞いた、あの白い花を見つけるべく、かがみこんで草をかき分けていきます。
と、言いますのも少女が探している花は真白に染まっている為、
傍目からだと白い雪が保護色になってしまっていて、見分けがつかないのです。
厚手の手袋と厚手の服が、森から開けた場所の為、太陽の光を浴びて熱をためていきます。
その熱からでしょうか、
それとも焦りからでしょうか、
少女の額(ひたい)から透明なモノがこぼれていきます。
「ぜったいに、ぜったいに……見つけるんだから、ぜったいに、ぜったいにぃい!!」
必死な少女の姿に降伏したのでしょうか、
ようやく白い花が少女の目の前に現れました。
少女はその可憐(かれん)な白い花を目に映した途端、すぐにその花を
逃がさないように、
誰にも採られないように、
その手で覆いました。
「やっと……やっと、見つけたよぉ……」
感激のあまり、少女はそのつぶらな瞳にうっすらと涙を乗せました。
その白い花は花弁だけではなく茎も雌しべも雄しべも……そう、何もかもが真白だったのです。
この限りない白が『譲れぬ愛』を示しているのでしょうか?
他の色を寄せ付けない白、つまり、それは、誰もあの殿方を渡しくないという少女の心を表して――。
「う、うう、もっとだ」
少女は呟きました。
「もっと、もっと、もっと、たくさん! この花を持って帰ろう!! そうすれば、絶対にうまくいくはずよ!!」
少女は無我夢中になって、他にもあの白い花がないかと探し出しました。
一輪、また一輪と少女の手には白い花が積まれていきます。
そして気が付けば見事な白に白を重ねた純白きらめく花束が産まれました。
これだけあればもう充分と少女が空を見上げた頃には、曇天が空に広がっていました。
少女が朝、出発したときには雲一つない青空だったのに、今ではその青色は見事に灰色に上塗りされています。
ちらほらと雪が降り始めていき、寒風も心なしか少し強くなっているような気がした少女は、
純白きらめく花束を大事そうに抱えながら、湖を後にすることにしました。
最初は小雪程度で穏やかに綿胞子のようにふわふわと描きながら降っていましたが、
徐々に大雪に変わってきて、重くのしかかるような降り方になっていき、
おまけに風も強くなっていき――吹雪となってしまいました。
しかも向かい風の為、少女の歩む足は中々、前へと、動いてくれません。
森を出るところまでは雪風は大人しかったのですが、
そこから、雪風はその白い牙を猛々しく(たけだけしく)ふるってきたのです。
少女の、か細い体は確実にその白い牙によって傷ついていきました。
けれども、少女の前へ歩こうという意志は少しも揺らぎませんでした。
この純白きらめく花束を渡して、あの殿方を――。
吹雪の歌が少女の自由を奪い去りました。
少女の感覚は徐々に遠くなっていき、
少しずつ、目もうつろになっていきます。
そして自分の目の前にあの殿方のことだけが鮮明に映し出され――それが走馬灯だということを少女は知りませんでした。
ねぇ、ずっと、わたしのそばにいてよ。
ねぇ、ずっと、わたしは大好きだったんだよ。
ねぇ……ねぇ…………ねぇ………………。
目の前にいる殿方が幻だとも気付かずに、声をかける少女の生気はほぼ底をついて――。
『……まだ、生きたいですか?』
突然、少女の目の前に何者かが現れました。
少女の目はもう殆どかすみ目状態の為、確認できなかったのですが、
それは水色の模様が少しばかりあしらわれている真白な着物に、、
そして白の中に咲いたかのような紅色の帯のようなものをつけていました。
『もう一度訊きます。まだ、生きたいですか?』
もう死にかけているはずであった少女の頭の中に直に響いてくるように聞こえてくる言葉。
凛(りん)とした女性のような声がそこにありました。
少女はもう体を動かす事はできませんでしたが、かすかな意識の中で思いました。
『生きたい……生きたいよ……!』
少女の想いを、のどから発した声のように聴き取った何者かは、少女との距離を詰め、少女の顔の前に現れました。
真白の着物からのぞく紫色の顔に、頭には角のように生えている二つの氷。
そして、冷たく透き通るかのように映える、綺麗な水色の瞳。
『もう二度と、元の生活には戻れなくても、それでも、生きたいですか?』
何者かの『生きたいですか?』という言葉に少女は強く反応しました。
生きて、あの殿方に告白する為に――。
浮かび上がる殿方の姿から、このときの少女は『もう二度と、元の生活には戻れなくても』という言葉を考えることが叶わなく。
それ故に迷うことなんかありませんでした。
『生きたい、わたしは生きたい……生きたいんだよ!』
少女の願いを受け入れた何者かはその顔を更に少女の顔に近づけ――。
元から紫色に塗られていた唇と寒波の筆により紫色に塗り替えられた唇が重なりました。
冷たい風がなぜか甘い香りを伴いながら心地よく少女の体の中を吹き抜けて行き、
少女は全てを、その何者かにゆだねていました。
そして突然、
少女の首に巻いてあった赤い鈴付きの紐がちぎれて、吹雪の中へと舞っていきました。
体に受けている冷たい風が気持ちいい。
その感覚から目を覚ましたのは少女――。
『……えっ?』
厳密に言えば、目を覚ましたのは少女でした。
『…………体が、なんか、おかしいよ?』
その瞳に映っていたのは真白の着物を身に包んだかのような体と、
そしてその体に巻かれている紅色の帯。
更には、自分の体が何故だか縮んだかのような感じがしてなりませんでした。
『むにゅ? こんなところで何をしてるんでちゅか?』
突然に舞い込んできた声とともに少女の瞳に映ったのはうさぎポケモンのミミロルでした。
何故、人間であるはず自分がポケモンの言葉を聞き取れるのかが分からなくなって、戸惑いを見せていると――。
『きこえてまちゅか? ユキメノコしゃん?』
少女は不思議な感覚の正体を知りました。
そのとき、少女はぼんやりとではありましたが、何者かに話しかけられたことを思い出します。
あの何者かというのは、ユキメノコだったのです。
『むにゅにゅ? なにか、かんがえごとでちゅかね? それはしつれいでしたでちゅっ』
ミミロルはユキメノコからの返答がないところから、そうみて、立ち去ろうとして、
二、三歩、ユキメノコから距離を離したところで一回振り返りました。
『どこかで……会ったこと、ありましたでちゅか?』
そんな疑問符を雪原に残して。
少女が状況を理解するにはやはり時間がかかりました。
死んだと思いきや、目を覚ましてみればユキメノコに――ポケモンになっていますし、
それと、少女に起こった変化は外見だけではありませんでした。
「ひゅう、ひゅううう」
人間の言葉が出ないのです。
ポケモンの声はさっきのミミロルのときに聞こえていたのですから、
ポケモン同士なら話をすることは可能でしょう。
しかし、少女の住んでいた村には人間が殆どです。
ポケモンの言葉を人間の言葉に翻訳できるという素晴らしい芸を持っている人なんて、
少女の知る限りあの村にはいませんでした。
『もう二度と、元の生活には戻れなくても、それでも、生きたいですか?』
あのときのユキメノコはそのようなことを言っていたような気がすると、少女は思い出しました。
思い出して、涙が溢れてきました。
『もう、この姿じゃ、あの人と一緒にいられない……! だったら……!』
あのときのユキメノコの言葉を認めたくありませんでした、
しかし、今の自分の姿はその言葉の意味を嫌というほど語ってくるような感じが少女にはしました。
『まだ…………死んだ方が……良かったよ……!!』
あの殿方に出逢ったとしても、その瞳に映してくれるのはユキメノコというポケモンで、
少女ではないのです。
それが少女にとっては、生き地獄のようなもので、苦しくて苦しくて、仕方ありませんでした。
少女はもう何も考えたくありませんでした。
一人、いや、もう正確には一匹だけで落ち着ける場所が欲しくなりました。
そして、そのまま何もせずにいれば、きっと楽になれる、そう信じて…………。
少女はなんとなく、あの白い花を取った湖に戻ってきて、
しばらく辺りをうろついていますと、一つのほら穴を見つけました。
少女が最初に湖にきたときに見えた山脈のふもとに、ぽっかりと誰かを誘うようなほら穴がそこにありました。
中に入ってみると、がらんどうのようで誰もいません。
広さは大人の人間が10人ぐらい入っても大丈夫そうなもので、
天井からは所々、透明な鋭いひげが垂れており、一本一本の長さはそれぞれ違っていました。
少女はとりあえず誰にも気付かれないように奥のほうに向かい、静かに座りました。
それから……少女は何も考えませんでした。
水色の瞳にあった光もどこか弱々しいものでありました。
人間のときはあれだけ寒くて冷たくて避けていた風が、ほら穴の中に入ってきて少女のところまで届くと、
なぜだか抱きしめてもらって、慰められている感じがしてきて、
それが少女にとってみじめで涙を止めることができませんでした。
一人になれて少しは楽になった少女でしたが、
ユキメノコになってしまった、その変わらない事実が
少女の胸に『しめつける』で離すことはありませんでした。
そんな感じで少女がほら穴の中に引きこもり始めてから数日後のことでした。
少女にはもはや興味がなかったことでしたが、外からは寒風の叫び声が聴こえてきており、
どうやら外では吹雪が乱舞していたころ、
「あれ? 誰かいるんですか?」
少女の――ユキメノコの目が大きく開きました。
馴染みのある声に思わず引っ張られる形で少女の顔があがった先には――。
「あれ……キミはユキメノコ、かな?」
身の丈はゆうに六尺を超えており、体つきも中々がっしりとされていました、
その人が厚い頭巾から顔をあらわにしました。
年は20代でさわやかそうなその顔は少女の見覚えがあるものでした。
「ご、ごめんね。見ての通り、吹雪がいきなりやってきてさ、おさまるまで、ここにいさせてもらってもいい?」
その人は少女の想い人である殿方でした。
とりあえず少女は顔を縦に振ると、その殿方は礼を言いながら座りました。
自分の大好きな人と一緒にいられるという空間が、少女の瞳に生気を与え、
そして殿方のほうへと近づくと、少女はゆっくり座りました。
今の姿がユキメノコだからでしょうか、ふつふつと湧き上がる感情に火傷(やけど)しそうで、
いや、それ以上に、溶けてしまいそうな感覚が少女の中に広がりました。
今の自分の姿では、村にいるあの少女だと気付いてくれない、ということよりも、
今、大好きな殿方と一緒に二人っきり(正確には一人と一匹ですが)でいられるという事実の方が少女には刺激が強かったのです。
「キミはここに住んでいるの?」
少女は顔を縦に振りました。
「そうか……確かに、住みかにするには良さそうな場所だよね」
次に少女は頭から疑問符が出ているかのように殿方を見つめてみると、
奇跡的に意図が通じたのか殿方は苦笑混じりで答えました。
「ここにある森にある実を取りにきたんだけど……途中で吹雪いてきちゃってね、
朝はすごい天気が良かったから大丈夫だって思ったんだけど……いや〜、雪は本当に読めなくて困るよ」
少女は殿方の言葉を聞きながら、感動に震えていました。
人間の言葉を話すことができないのが非常に残念でしたが、
殿方と時間を共有しているということがその残念さを吹っ飛ばしていました。
『自分なんだよ、わたしは、あの村の女の子なんだよ!』
『あなたのことが大好きなんだよ!!』
心ではそう強く想いながらも、残念ながら声が出ない今、そのことが伝わらないということから、
今度は悔しい気持ちが少女の中に広がっていきました。
人間の声を出せない今、どうしても、この姿でもいいから、気持ちを伝えたい。
そうでもしなければ、自分の気が治まらないという想いが少女の中で産まれました。
その想いが強い刺激を与えたのでしょうか、少女の頭の中に何かを閃いたという光が走りました。
少女はいきなり外へと飛び出しました。
殿方の目が一気に驚きに満ちたというのは言うまでもありません。
少女は荒れ狂う吹雪もなんのその突き進んでいき、例の湖の場所へとたどり着きました。
これがユキメノコの持つ力でしょうか、全然、体は寒くありません。
むしろ、寒気を受けた体がだんだんと活気に満ちていきます。
少女は早速、辺りの草をかきわけて――。
少女が再びほら穴へと戻るとそこにはまだ例の殿方が座っており、
携帯食を持っていたようで、それを口にちょっとずつ入れていました。
「ひゅい、ひゅいー」
少女の――ユキメノコの姿に気付くと殿方は目を見開きました。
「あ! もう、ビックリしたよ? いきなり出て行ったからさ……僕、なんか悪いことをしちゃったかな……って思ってて」
「ひゅい、ひゅい、ひゅ!」
少女はそんなことはないという意味を込めながら笑うと、
殿方もソレにつられて微笑みました。
どうやら、安堵(あんど)したようです。
少女は今が機会だと思い、殿方に何かを差し出しました。
「それは……!」
殿方がまた驚きの顔をみせた、その先には――。
あの白い花が数本ありました。
「……え? もしかして、これ、僕にくれるの?」
「ひゅいっ ひゅい!」
「わあ、ありがとう! 実はね、これを取りに来たのもあったんだよ」
「ひゅい!」
殿方が喜んでくれている様子に少女もつられて喜んで――。
「これで、告白も大丈夫かな。 えへへ、もしかしたらキミにはバレていたかもしれないかな、なんてね!」
少女の時が止まったような気がしました。
「ひゅい?」
「ん? 告白のことかな? えへへ実はね、結婚を考えていてさ、その子に告白するときに、この花も渡そうと思ってて」
少女は初めて知りました。
殿方には結婚しようと思っている女がいるということを。
少女は感じました。
殿方の背が見えなくなるほど遠くなってしまうことを。
『なんで? なんで、いつの間に? ウソでしょ? ウソなんでしょ? ウソって言ってよ!!!』
しかし、恥ずかしそうに照れながら語る殿方に嘘という文字はありませんでした。
調子に乗ってしまったのか、殿方は自分と結婚相手のことについて口を快走させていきます。
『だれなの、その女? ……ねぇ、止めてよ。…………止めてって。………………お願いだから、その話を止めてよ!!!』
殿方の口から出てくる結婚相手の名前が出てくる度に少女は痛みを感じました。
そして、人間の言葉では、そう訴えているのに、ユキメノコからでは人間の声を奏でることは叶うことはなく、
それ以前に、あまりの衝撃にユキメノコとしての声も出せないままでした。
「本当にありがとね、彼女もきっと喜んでくれるよ!」
『お願いだから……その笑顔をわたしだけに……………あなたはわたしのものなんだから!!!!!』
殿方の言葉と少女の想いが重なった瞬間でした。
甲高く、鋭く金属を鳴らしたかのような音色がほら穴の中に響き渡りました。
そこにあったのは一つの氷塊で、その中には、
笑顔の殿方と――。
「ひゅい……ひゅう、ひゅいひゅいひゅい、ひゅい……ひゅうひゅいひゅ、ひゅいひゅひゅひゅう……。
ひゅい……ひゅ、ひゅい……ひゅい………………ひゅ、ひゅ、ひゅい……ひゅういひゅうひゅ………………。
ひゅ、ひゅ……ひゅい、ひゅういう………………」
譲れぬ愛。
【書いてみました】
テストで受けたショックから書いてみた結果がこれだよ!!
……嘘です。ごめんなさい。(汗)
ただ、『○○した結果がこれだよ!!』と言ってみたかっただけです。(汗)
今回はポケモン界では雪女(だと思われる?)のユキメノコで話を書いてみました。
執筆の際、素敵なユキメノコのポケモンカード(作:姫野かげまる氏)には近くに鎮座してもらいました。
なんだろう……今まで、のほほん系とか穏やか系を書いていたからでしょうか?
(個人的に)温度が冷たすぎる作品を(多分)初めて書いてみて不思議な感じです。(汗)
最後の少女の言葉は最初、『大好きだよ……』と『好き』という言葉をたくさん並べてに書こうとしたのですが、
(表現があっているか分かりませんが)ユキメノコ語にしたほうが伝わるかもしれないと思いまして、上記の通りにしました。
あと、白い花は一応、創造上の花です…………実際にあったりするのかな…………って甘いですよね。(汗)
ちなみにユキメノコがゴーストタイプということで……。
『ユキメノコ:気に入った女性の唇を奪って自分の仲間――ユキメノコにするという』
そのような一種の怪談話みたいなことを考えながら、
少女とユキメノコのシーンを書きました。
女性の方、どうか雪が降る夜にはユキメノコにご注意下さいませ……。(汗)
ありがとうございました。
【何をしても大丈夫ですよ】
今年の一月以降から五月二日までの個人作品をここに入れていきたいと思います。
【書いてみた】作品や、
既にスレッドの方にある『もふパラ』はこの作品集には入りません。
また、【書いてもいいのよ】の『映画監督になりませんか?』はポケストの方に置いておきますね。
よろしくお願いします。
【1】
それは昔、遠い、遠い昔の話です。
森の中で一人の坊やが遊んでいました。
年の葉は十を超えたぐらいのまだ小さな坊やで、
今日は村の友達と遊ぶ約束をしていたのですが、どの子も用事があると言われて断られてしまいました。
そんなわけで、今日は坊や一人、森の中で遊んでいました。
くさぶえを吹いたり、木登りしたり…………。
あらあら、六本の尾を持った狐や、黒に赤を咲かせた狐と戯れていたりと、結構楽しんでいるようですね。
このような感じで楽しい時間があっという間に過ぎていくと……ぽつんと坊やの鼻に何か当たりました。
どうやら、雨が降ってきたみたいです。
坊やと遊んでいた二匹の狐は雨から逃げるように坊やから離れていき、森の奥へと姿を消してしまいました。
雨足がかなり強くなっており、橋を越えた先の村に住んでいる坊やは、今日は帰れないことを悟りました。
川が増水して氾濫している中で橋を渡る行為は死に行くようなものです。
坊やは仕方なく、森の奥に進んでみることにしました。
もしかしたら、雨宿りになる場所があるかもしれないと思い、
その希望に一縷(いちる)の望みを託しながら、坊やは歩き続けていきます。
暗い中、坊やは歩き続けていき、なんとか森から抜けて、開けた場所に出ますと、
一つの小屋が坊やの視界に現れました。
…………。
まるで坊やを待っていたかのように。
【2】
坊やはとにかく小屋へと足早に駆けていきますと、玄関の戸が開いているではありませんか。
とりあえず、坊やが急いで中に入りますと、間もなく誰かが坊やの元へとやってきました。
恐らく、この小屋の住人でしょう、背は坊やよりも少し高く、顔や手には多くのしわを刻んでいます。
「おぉ、どうしたんだい坊や? ……おやまぁ! びしょ濡れではないか!?」
老獪(ろうかい)に話す、小屋の住人であるらしいおばあちゃんが、またどこかへ消えたかと思えば、
すぐにまた現れ、坊やに白い布を渡します。
「さぁ、これで体をおふき。代わりの衣(ころも)を用意してやろう、そのままでは風邪を引いてしまうからのう」
白い布を受け取った坊やはおばあちゃんに言われた通り、体をふき、水に濡れて若干重くなっている衣を脱ぎ捨てます。
すると、おばあちゃんから終わったらこっちにおいで、という声をもらったので、坊やは声のする方に行ってみると、
そこには囲炉裏で温かく揺れている炎と、代わりの衣を持っているおばあちゃんがいました。
「ほれ、これを着るのじゃ」
手渡された衣は質の良いものだったのですが、残念ながら坊やに違いは分かりませんでした。
それでも、坊やは受け取った衣を身にまといながら思いました。
このおばあちゃんは優しい人なのだと。
「さて……坊やはどうやら橋を越えた先にある村に住んでる者じゃろう? もうこの雨じゃ、どのみち今日いっぱいは帰れん。今日はこの小屋に止まっていくとええ」
おばあちゃんは微笑みました。
「……さて、ちょうど粥(かゆ)を暖めておいたんじゃ。一緒に食べるかのう」
坊やはおばあちゃんのことが大好きになりました。
激しい雨の音が外から聞こえてくる中、囲炉裏を囲んで、坊やとおばあちゃんが話に花を咲かせます。
まぁ、ほぼ坊やが今日したことをおばあちゃんに語っているだけなのですが。
坊やがあの六本の尾を持った狐や、黒に赤を咲かせた狐と戯れていたことを語ったとき、おばあちゃんの声が上がりました。
「ほう、坊やは狐が好きなのかのう?」
坊やは大好きだと答えました。
あのとき戯れていたときに残っている二匹の狐のあのもふもふ感が心地良かったことを坊やは鮮明に覚えています。
自分も狐になれたら、もっともふもふできるのではないかと坊やは興奮しながら話すと、おばあちゃんがけたけたと笑いました。
「ふふふ。可愛い子じゃな、坊やは。あ、そうじゃ、一つ、わしからも狐の話をしてやろうかのう……坊やは天気雨というものは知っておるかのう?」
坊やは首を縦に振りました。
坊やの目にも何回か映ったことがあります。
お日様が出ているのに、どうして雨が降ってくるのだろうと、天気雨を見る度に坊やは首をかしげていました。
「あれは、狐の嫁入りといってのう。二匹の狐が番(つがい)になった証ともいうべきものなのじゃ」
坊やはなぜ、天気のときに雨を降らしているのかを尋ねました。
「ふふふ、狐は人を驚かすのが好きじゃからのう。番になった勢いで、降らぬはずの雨を降らして人を驚かせたいのじゃろう」
おばあちゃんの話に坊やの耳が興奮して、もっと聞きたいと訴えかけてきます。
おばあちゃんの話はなんだか不思議で楽しそうなことが詰まっている……もっともっと聞かせて欲しいと坊やの顔がらんらんと輝きました。
坊やの分かりやすい顔を見たおばあちゃんは更に話を続けていきます。
「天気雨が降ったその日には、番になった二匹の狐を祝う為に、他の狐たちも集まって祭りが行われるんじゃよ」
坊やはその祭りを想像してみました。
たくさんの狐たち。
それは今日一緒に遊んだあの二匹の狐の仲間もいるかもしれません。
叶うのならば一度、その祭りを覗いてみたい、あわよくば、その狐たちをもふもふしたいと坊やは思いました。
その坊やの心を読んだかのように、おばあちゃんは警告しました。
「ふふふ、人間はその祭りを決して見てはいけないよ? ……もし、その祭りを覗いとることがばれたら……喰われてしまうからのう」
坊やの喉が戦慄(せんりつ)で鳴りました。
「手持ちの食料を、のう……その後はたくさんの狐たちによる、もふもふの刑が待っておるぞ」
坊やは胸をなでおろしました。
そしてすぐに坊やは、もふもふの刑という言葉に反応しました。
今日、感じたもふもふよりもっと、もっともっと気持ちいいものに違いない、
それは手持ちの食料が失ってもいいぐらいの価値があると坊やは思いました。
「あまりの気持ち良さに気を失ってしまってな、次に目を覚ましたときには身ぐるみを全部はがされておるぞ」
坊やのらんらんとしている顔が雲一つも見せません。
「……まぁ、それでもよいというのならば、わしゃ、止めないが……ただし」
おばあちゃんが不敵にほくそ笑みました。
「もふもふの刑の際にはくれぐれも、九本の尻尾を持つ狐には気をつけてのう? あの狐の尻尾に触れたが最後、狐の仲間にされてしまうからのう」
狐になってしまうのではなく、狐になることができる。
坊やの頭の中ではそういう意味に変換されていました。
狐は可愛いし、もふもふすることもできるなんて素晴らしいという気持ちから、
坊やは狐が大好きだ! そう、声を弾ませました。
そんな坊やにおばあちゃんは笑います。
「ほ、ほ、ほ! そうかそうか……ふふふ、ほれ、嬉しさのあまり――」
坊やの手に何か柔らかいものが――。
「わしの尻尾が坊やに触れてしまったよ」
おばあちゃんの姿が人間から徐々に黄金の毛を生やしていき、一匹の九本の尾を持つ狐に変わりました。
「ふふふ……これで坊やも狐の仲間入りじゃ……もふもふでどんな狐になるか楽しみじゃのう?」
一本、また一本、狐の尻尾が坊やを絡め取り、そして坊やは九本の尻尾に包まれてしまいました。
もふもふもふもふもふもふもふもふ。
最初こそは驚いていた坊やでしたが、あまりの気持ち良さに、もう身を狐にゆだねていました。
でも坊やは後悔などはしていませんでした。
むしろ大好きな狐になれることが嬉しかったのです。
あまりのもふもふの気持ち良さに坊やのまぶたは徐々に重くなっていき、やがて静かに閉じました。
もふもふもふもふもふもふもふもふ。
【3】
坊やが目を覚ますと、そこは例の小屋の中でした。
まだ、ぼんやりとしている坊やに顔を覗きこんでくる狐が一匹、二匹……そして三匹います。
「なぁ、キュウコン長老、コイツが今日から俺たちと一緒に修行するやつなのか?」
「まだ、ボーっとしているみたいだけど……」
「ふふふ、仲良くするのじゃぞ?」
一匹からは気の強い言葉が。
もう一匹からは優しい言葉が。
最後の一匹からは老獪な言葉が。
それぞれ坊やの耳に舞い込み、最終的にそれらが坊やの目を覚まさせることに繋がりました。
「うむ、目が覚めたようじゃな」
坊やは目をぱちくりさせています。
目の前には六本の尾を持った赤茶色の狐と黒に赤を咲かせた狐と九本の尾を持った黄金の狐がいて、
坊やのことを見ています。
その視線が刺激となったのか、坊やは昨日のことを思い出しました。
一人で森で遊んでいて、途中で二匹の狐と遊んで、激しい雨にあって、小屋にたどり着いて、
そこに住んでいたおばあちゃんに泊めさせてもらうことになって、
話に花を咲かせていた途中、おばあちゃんが狐になって、もふもふされて……。
「可愛い水色のゾロアになったのう、坊や。ふふふ」
九本の尾を持った狐が尻尾で器用に鏡を扱い、坊やに見せてあげました。
坊やが映った姿に驚きの顔を見せると、鏡に映っているものも驚きの顔を見せます。
姿形は狐そのもの。
どうやら黒に赤を咲かせた狐と同じ種族のようですが、坊やの場合、黒に水色を咲かせています。
おもむろに坊やは前足で自分のほっぺたをつねってみたところ、返ってきたのは痛みだけでした。
夢ではありません。
本当に狐になれたこと、その嬉しさのあまり坊やは尻尾を振っていました。
「さて、坊や。まず、朝ご飯をお食べ。話は食べながらでもしようとするからのう……あ、その前に」
九本の尾を持った黄金の狐に促された二匹の狐が坊やの前に出てきます。
まずは六本の尾を持った赤茶色の狐の口が開きました。
「初めまして、僕はロコンっていうの。よろしくね」
次に黒に赤を咲かせた狐が勢いよく口を開きました。
「俺はゾロアだ! よろしくな!」
「ふふふ、坊やもゾロアじゃけどのう……そうじゃ、坊やはなんという名前か訊くのを忘れておったな」
坊やは人間のときの名前を教えました。
「ほう、池月、というのか。うむ、今度からそう呼ぶことにするかのう。ちなみにわしはキュウコンじゃ。よろしくのう……さぁさ、自己紹介は終わったことじゃし、朝ご飯じゃ」
「ふ〜ん、変わった名前なんだな、お前。まぁ、別にいいけど」
「もう、ゾロア! そういうことは思っても言っちゃだめだよ……それにしても」
ロコンは訝しげな顔で坊やを見つめました。
「……本当に、初めまして、だよね……?」
【4】
「よいか? 狐になったからには、誰かを化かすという術を知らないといかぬ。わしが老婆に化けて池月を化かしたようにのう。池月、お主は今日からはロコンとゾロアと一緒に化かしの修行をしてもらうぞ。今日から弟子じゃからな、わしのことは長老、と呼ぶがよい」
朝ご飯の最中、キュウコン長老の話を坊やは真剣に聞いていました。
狐として――ゾロアとしてこれからを生きていく坊やにとっては大事なことです。
「うむ、まずは……朝ご飯を食べた後にのう……マトマの実を取りに行ってくれるかのう? その道中、誰かを化かすというのも忘れずにの。池月はまだ化けることを知らぬと思うから、ロコンとゾロアをしっかりと見て勉強しておくように、のう」
外は昨日と違って雲一つない青い空が広がっており、かっこうの修行日和です。
朝ご飯を食べ終えると、坊やはロコンとゾロアと一緒にキュウコンのお使いと修行に出発しました。
人間のときとは違って、四足歩行から見る世界はなんだか新鮮で、歩く度に坊やの心は楽しそうに弾んでいて、
例えばいつも見ている木も違って見えたりと、歩く度に新しい発見をしているような気分でした。
「お前、楽しそうだな。いいか? これは修行なんだからな? しっかりやろうぜ!」
「……そんなこと言ってるけど、昨日、途中で寄り道して遊んでいたのはどこのだれだっけ?」
「ロコンも遊んでたじゃねぇか!」
「うっ……それはその……つい、ね」
マトマの実を求めて森の中に入った三匹は、坊やにとって先輩狐のゾロアを先頭に、その後ろにこちらも先輩狐のロコン。
そして坊やは一番後ろを歩いていました。
人間のときとは違って、目の前でロコンの六本の尻尾が揺れているのも、なんだか坊やの心をくすぐっているようです。
飛び込んで、じゃれて、もふもふしてみたい……!
けれど、ゾロアの言うとおり、今は修行中の身なのですから、我慢、我慢なのです。
「ヒヒヒ。今日もマトマの実を集めて、化かしマスターになるぞぉ!」
「……もう、ゾロアったら、絶対に騙されてるよ、それ」
坊やは首を傾げました。
初めて聞いた言葉です。
どういうことなのかとゾロアに尋ねてみました。
「ん? お前、しらねぇのかよ。キュウコン長老がな、誰かを化かすことも大事だけど、マトマの実を集めまくることが化かしマスターになる為の近道だって、教えてくれたんだぜ」
「……僕は絶対に騙されてると思うんだけどな……まぁ、キュウコン長老にはお世話になってるから、なんとも言えないけどね」
ロコンの不安の呟きはゾロアに届くことはなく、一方、話が見えてこない坊やは何も言うことができませんでした。
更にとことこと三匹が先を進んでいきますと……ようやくたくさんのマトマの実をつけた一本の木にたどりつきます。
真っ赤に染まっていて、イボイボがところどころにできている不思議な実で、
なんだか刺激的なものが伝わってくるようなものがあったからか、坊やの喉が物欲しそうに鳴りました。
「……池月、最初に言っておくけど、あれは食べないほうがいいよ。めちゃくちゃ辛いみたいでさ……ゾロアなんか勢いで試しに食べちゃったんだけど、唇がはれあがって大変だったんだから、火まで吹くし」
坊やはロコンの忠告を素直に受け入り、唇がはれあがったゾロアを想像して、決して食べないと心から誓いました。
ゾロアは味を思い出したからか、水が欲しくなって、近くの川に向かいました。
……どうやら、マトマの実の味はゾロアにとってトラウマのようです。
マトマの実をたくさん持ってきた風呂敷(ふろしき)の中に包み、それぞれ、三匹は背中に結ぶと小屋へと一旦戻ろうと歩き出します。
最初は慣れない四足歩行で大丈夫かな……と坊やは心配していましたが、不思議なことに違和感なく歩けていました。
まるで、最初から狐だったかのような感覚。
だけど、風景は新鮮に見える……と摩訶不思議だらけです。
これから毎日続いていく狐の日々に、坊やの心の興奮は鳴り止みそうにありませんでした。
さて、もうすぐ小屋に着きそうになったところで、先頭を歩いていたゾロアが近くの茂みに隠れるようにと声をあげます。
何事かと坊やの胸に緊張が走りながらも、言われたとおりに、すぐさま近くの茂みに身を隠します。
「クルマユ発見! おい、池月。今から化かしの見本を俺が見せてやるぜ!」
「……大丈夫なの? ゾロア」
ゾロアの得意げな顔に心配そうな視線をロコンが送ります。
坊やは初めて化かしのところを見るだけに、期待が膨らんでいました。
「まぁ、見てろって!」
そう言うとゾロアはさっそうと茂みの中から飛び出し、クルマユが来る前にぴょんと飛んで一回転するとクルマユに化けました。
ゾロアの化ける場面で坊やは思わず感嘆の声をあげます。
そしてやって来たクルマユは目の前にいる(ゾロアが化けた)クルマユを見て、驚きの顔を見せました。
「えぇ!? あたしがもう一匹!?」
成功した――そうゾロアが確信したときでした。
「――な〜んてね。尻尾が見えてるよ、オキツネさん! じゃあ〜ね♪」
ロコンがなんとも言えない溜め息をもらします。
「はぁ〜……まだ尻尾が隠せないんだね……」
一方、坊やは化かしの難しさが伝わってきて、勉強になりましたとゾロアに言いました。
今回のことで坊やは自分もちゃんと他の者を化かすことができるだろうかと、不安がよぎりましたが、狐の生活はまだ始まったばかりだから、そういう不安もこれからの糧(かて)にしていけばいいと思い直しました。
「よ〜し! マトマの実をたくさん集めて早く化かしマスターになるぞぉ!」
「もう……ゾロアったら……まぁ、池月。改めて、今日からよろしくね」
その日の夜、眠れなかった坊やは隣で寝ているゾロアとロコンを起こさないようにと、ゆっくりと寝室から出ました。
ゾロアになった今日から、坊やもこの小屋に住み込み始めたのです。
寝室の隣、囲炉裏のある部屋に行きますと、キュウコン長老がいました……どうやらまだ起きているようで、坊やに気がつきました。
「ん? なんじゃ、池月か。眠れんのか? ふふふ、こっちへ来るがよい」
坊やは失礼しますと一言置いてから、キュウコン長老の元へと歩み寄りました。
ゾロア――狐になって初めての日は坊やに冷めない興奮を与えていたようで、先程、寝ようとしたときも、やけに大きい心臓の音が坊やの耳にくっついては離れませんでした。
「どうじゃ? 狐になった感想は?」
坊やは今日一日を過ごして見たもの、聞いたもの、感じたものをキュウコン長老に教えました。
世界が新鮮に見えたことや、マトマの実のこと、誰かを化かすことが難しいことなど。
キュウコン長老は坊やの話を聞き終えると、微笑み、ゆっくりと坊やを抱き締めては、もふもふしました。
坊やはそのもふもふを気持ち良さそうに受けてます。
「そうかそうか……お主は本当に狐が大好きなのじゃな……のう、池月、お主はこの世が狐だけの世界になったら、どう思う?」
坊やは想像してみました。
この世が狐だけになったら……きっと皆でもふもふしあったりすることができるだろうな……きっとこの世が幸せになるだろうなと思いました。
本当に想像しただけでも幸せになれそうで、坊やはきっといい世界になると答えました。
「ふふふ、池月、わしの夢はな、この世を狐だけの世界にすることが夢なのじゃ……お主もここで修行して、化かすのがうまくなったら、わしの夢を手伝ってくれないかのう?」
キュウコン長老が語った夢は自分にとっても夢ですと坊やが答えると、キュウコン長老は笑いました。
この子はもしかしたら、頭が早く回るかもしれないという意味を込めながら。
「よい子じゃな、池月は。ふふふ、そうじゃな。共にこの世をもふもふにしてやろう、のう? 池月」
坊やは首を縦に振りました。
「よし、今宵は最初の一歩として、共にこれを食べるとするかのう」
そう言って、キュウコン長老が取り出した風呂敷の中から――。
「マトマの実、これはわしの大好物でのう。ほれ、池月も」
坊やの頭の中に昼間起こったことが思い出されます。
『ん? お前、しらねぇのかよ。キュウコン長老がな、誰かを化かすことも大事だけど、マトマの実を集めまくることが化かしマスターになる為の近道だって、教えてくれたんだぜ』
『……僕は絶対に騙されてると思うんだけどな……まぁ、キュウコン長老にはお世話になってるから、なんとも言えないけどね』
…………ロコンも大変なんだなと坊やは苦笑せざるを得ませんでした。
けれど、これも化かしの一つのなのかなと思うと、いかにキュウコン長老が自分たちよりも何枚も上手だということが分かったような気がしました。
大好きなキュウコン長老からのマトマの実を断ることができなくて、坊やは一つ、キュウコン長老からマトマの実を受け取り、そして、一口、食べてみると……刺激的な液が舌に乗った瞬間、坊やの口から火が吹きました。
「ほ、ほ、ほ! 見事な『かえんほうしゃ』じゃな、池月!」
愉快そうに笑うキュウコン長老につられてか、坊やもつい、笑ってしまいました。
この日、坊やはマトマの実が大好きになりました。
【5】
月日が流れるのは早いものというより……坊やが天才だったのかもしれません。
初日の次の日からゾロアやロコンに見習って、化ける練習をしてみると……尻尾は出ていたものの、殆ど、化けることに成功してました。
それからキュウコン長老の下、修行を積み重ねていくと、あっという間に坊やは化けるコツをつかみました。
坊や曰く(いわく)、化ける対象を想像し、その姿に一点集中して、そこに飛び込むといった感じ、だそうです。
化けられる時間も増やしていき、一分しか持たなかったものも、最終的には一週間化け続けることに成功しました。
もちろん、誰かを化かすということにも成功と経験を積み重ねていき、ロコンやゾロアよりも早く、キュウコン長老から卒業することになりました。
坊やが水色のゾロアになった日から約一年が経った日、坊やはお世話になった小屋から旅立ちます。
本当は坊やは小屋を離れたくはありませんでした。
もっとキュウコン長老やゾロアやロコンともふもふしあったり、とにかく一緒にいたかった。
キュウコン長老は本当におばあちゃんみたいで、ゾロアは兄で、ロコンは姉、そして坊やは弟みたいな感じで、本当の家族のように暮らしていましたから、離れるのは坊やにとって辛いものでした。
けれど、水色のゾロアになった初夜、坊やはキュウコン長老と共にこの世を狐だけの世界にしようと語りあったのです。
その夢を叶える為にも……それと、その夢を叶えにいくこと、それが今までお世話になったキュウコン長老への恩返しになるからと、坊やは強く心に決心しました。
「池月……これを持ってゆけ」
坊やの小さな手に乗せられたのは一本の何やらもふもふしているもの……尻尾のようなものでした。
「それは、先祖のキュウコンの尻尾じゃ。化かした相手にこれを触れさせれば、狐の仲間にすることができる……頼んだぞ」
キュウコン長老が坊やを抱きしめました。
最後のもふもふ……坊やが一生忘れることのない、世界で一番のもふもふ。
「池月……頑張ってね」
「俺たちもすぐに化かしマスターになって、お前に追いつくからよ!」
坊やは泣きながらも笑顔で答えると、出発する為にキュウコン長老から離れました。
「池月……夢が叶いしとき、また出逢おう」
その言葉が背中を押したかのように坊やは一歩、前へと踏み出しました。
【6】
この後、坊やはもちろんのこと、キュウコン長老や、他の狐たちが貢献した結果、なんと本当にこの世は狐だけの世界になりました。
坊やはキュウコン長老との約束通り、小屋に赴いていました。
小屋から出てきたキュウコン長老は坊やを見たときに驚きました。
坊やがゾロアからゾロアークに進化している……というのもそうでしたが、
坊やの隣にいる赤い花のかんざしをつけているキュウコンと、まだ年葉もいかぬロコン――妻と子を持ったことにも驚いたのです。
坊やはこの世を狐だけにする為の旅をしている途中でケガをし、そのときに出逢った人間の娘と恋に落ち、番になり、子を産んだと語ってくれました。
たった一年だけとはいえ、我が子のように見てきたキュウコン長老が嬉し涙を流すと――。
天気雨が降りました。
まるで、この世が狐だけの世界になったことを祝しているかのように。
まるで、この坊やたちを祝福するかのように。
天気雨は一日中、降り続いていました。
【7】
やがて、狐だけの世界になったこの世は、後に、狐たちのもふもふしあう姿から、もふもふパラダイス、略して『もふパラ』と呼ばれるようになりました。
世界のそこかしこで狐たちがもふもふしてじゃれあっていたり、戯れていたり……しばらくは……この『もふパラ』は続いていました。
けれども、残念ながら、栄枯盛衰という言葉は『もふパラ』をも逃がすことはありませんでした。
バブルの一種のようなものであった『もふパラ』もやがて割れて、『もふパラ』崩壊を迎えてしまいます。
『もふパラ』崩壊の背景には、狐にいることを飽きてしまったものが他のものに化け続けるようになったというのもありました。
海が好きなら魚に、森が好きなら木に、といった感じに狐たちは他のものに化けていきます。
もちろん人間に化ける狐もいました。
その人間に化けた狐たちこそが――。
私たちの祖先だったのです。
この今の世界の始まりは……狐からだったのです。
だからこそ……。
稲荷信仰や稲荷神社、
神の使い、
呪いが使える獣、
誰かを化かすことができる獣、
などと言われるように、狐は特別な力を持った獣という見解があるのです。
だから今、この世の皆は、実は、狐なのです。
化け方を忘れた狐なのです。
【書いてみました】
Special Thanks : イケズキさん
それは、日付が変わったエイプリールフールの真夜中、イケズキさんとのチャットが全ての始まりでした。
天狗のウチワでのロコンちゃんとゾロア君の話題になって、盛り上がっていたところ、
狐の結婚披露宴みたいなのがあったら、飛び入り参加して、もふもふした〜いというような感じになって……。
すると私の中でおばあちゃんAが産まれました。
巳佑:おばあちゃんA「だけどね、坊や、狐の結婚式はばれないように覗くんだよ? もしばれたら……」
以下、おばあちゃんAは正体を現し、イケズキさんをゾロアにしてしまいました。(笑)
そう! 坊やとはイケズキさんのことだったのです!(汗&笑)
坊やの名前を池月にしたのも、そこからです。(キラーン)
……話を戻しまして。(汗)
やがて、その狐の話も終わり、「これ、ポケストに出してみたいなぁ……」と呟いてみたら、
イケズキさんから「ぜひ!」というお声が!
というわけで書くぜ! と決心ついた私にイケズキさんからのリクエストで、
天狗のウチワに登場したロコンちゃんとゾロア君を出して欲しいといたただきまして、
坊やとロコンちゃんとゾロア君のシーンも書かせてもらいました。
うまく、あの二匹を表現できていましたかね……?(汗)
それと、最初、タイトルを『もふパラ』から見る狐史にしようかな、と呟いてみたら、
イケズキさんから壮大だし世界史のほうが似合うかもというお言葉をもらいました。
確かに! それと、世界史という言葉のほうが、狐史よりも皆さんを化かせるはず! と思って今回のタイトルが決まりました。
最初は比較的短い話になるかも……と思っていたのですが、思ったよりも長くなっちゃいました。(汗)
『もふパラ』はやはり壮大でした。(汗&笑)
今回のこの『もふパラ』はイケズキさんの力もあります。
本当にチャットではお世話になりました。
ありがとうございます!
それにしても……今回の話といい、きとかげさんの黒ベルといい、チャットにはどれだけの起爆剤が!?(汗&笑)
恐るべしチャット! そう思ってしまった今日この頃です。(汗)
「あの日、あのとき、あの場所で、あなたと話さなかったら……きっとこの物語とは見知らぬまま」(汗)
キッカケの突然性に改めてアゴが外れそうです。(汗)
ありがとうございました。
【何をしてもいいですよ】
【チャットもそうだけど、エイプリルフールの力もすごいのよ】
【みんな、狐になぁ〜れ!!】
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