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あのドッキリデート(言い換えるとカゲボウズ襲来事件)の翌日、マイコ達が住む街の新聞には、こんな記事が載っていた。
カンサイ新聞 ○月×日 朝刊 社会面
オオサカにカゲボウズの大群襲来
男女5人襲われる
○月△日午後6時頃、オオサカ市××区で20歳代と見られる男女5人が話していたところ、カゲボウズが約50匹襲ってきた。5人はしばらく逃げたのちに、手持ちのポケモンで応戦した。5人にケガはなく、カゲボウズ達は逃げていった。
目撃者によると、カゲボウズの大群は「さながら、黒山のカゲボウズだかり」だったらしい。また、バトルがあった場所では、その時刻に葉っぱや炎、電撃や砂が大量に飛んでいたという情報もある。
カゲボウズは恨みを始めとした、負の感情を食べるので、男女5人の内誰かが大きな負の感情を出した影響で、カゲボウズが寄ってきたと見ている。
「うわぁ、事件と同じような扱いされてる・・・。名前隠されているけど・・・。」
マイコは朝刊を読みながらため息をつくしかなかった。
「みんなに連絡しようかな。カンサイ新聞の朝刊、社会面読んで、って。」
そう言って、マイコは携帯電話を手に取り、あの場にいた残り4人にメールを打ち、一斉送信の準備をするのであった。
おしまいにしようか
マコです。ほんのちょっとの追記がてら、翌日朝のことを書いてみました。あの後、みんなにメールが届くのですが、ほかの友人にもばれて、5人全員がしつこいほどの質問攻めに遭うのです。挙句の果てには「お前らみんなカウンセリング行ったらええねん!!」という返答までされる始末です。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【感想がほしいのよ】
【前のシリーズからの感想も募集してるのよ】
ある日、カゲボウズ達は都会の空にたむろしていた。
しかも何十匹も。彼らは幸薄荘から出発して初めて都会に来たのだ。修学旅行に来た学生のようである。
(隊長、隊長!)
(なんだ1号)
(デートしている男女がおります!)
(デートなんて我々には関係無い!欲しいのは負の感情だ。デートのどこにそれがある)
(それが、何かおかしいんです)
カゲボウズ達はその人達に近づいた。
近づかれた男女はこんな話をしていた。
「ドッキリデート!!?私のファーストデート返せぇぇぇっ!」
「ゴメンな、そんなつもりは・・・」
「でも、ユズルとのデートは楽しかったんやろ?マイコ?」
「そりゃユズルくんは優しかったけどさ、女子にとって初デートは重要だよ。女子大生の初デートがドッキリって泣ける・・・。」
20歳の女子大生、サカモト マイコは、友人であるアキヤマ ケンタ、ヤマナ フミカズ、フジモト タカシに促され、これまた友人の一人、カワイ ユズルとデートの約束を取り付け、今日に至った。デートは何事もなく終わり、デート終了のここで、ドッキリとばらされたのだ。
「何であたしがドッキリにはめられなきゃいけないのよぉぉぉっ!」
マイコからは、かなりの負の感情が出ていた。それをカゲボウズ達が見逃す訳がなかった。
「な、なぁ、あれ何やろ?黒い塊」
アキヤマが言うが、後輩3人及びマイコは首を傾げるだけである。
しかし、その時!塊が目を開いた。空色、藍色、黄色の三色の目。それが何十も!
5人は絶叫した。
「「「「「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」」
そして弾かれるように逃げた。しかし、逃げる獲物を追いかけるのはカゲボウズの習性である。段々詰められる両者の距離。それでも、人間はただ逃げるのみではなかった。カゲボウズ達が襲いかかろうとした時、5人が各々のパートナーを繰り出した!
「ツタージャ、グラスミキサー!!」
「ポカブ、火炎放射!!」
「シママ、電撃波!!」
「メグロコ、噛み砕く!!」
カゲボウズ達は思わぬ反撃を食らい、しかも何十分もそれが続き、とうとうきつくなって退散した。
5人の内4人がそれのせいで倒れた。息も絶え絶えである。この中で唯一へばってないフジモトは、みんなに聞いた。
「ジュースいります?」
「「「「呑気に、聞くなぁぁぁぁっ!」」」」
「・・・あいつ、何で平気なんやろ?」
ヤマナは聞いた。
「体力があるんちゃうか?あいつ、俺らよりいくらか若いやろ?」
ユズルは言う。
「私は別の理由があると思う!」
マイコは何かに気づいたらしい。
「なんや、マイコ、言うて見ぃや。」
アキヤマは促す。
「それは・・・」
カゲボウズ達は帰っている。そして、事後報告会の真っ最中である。
(今日は散々だったなぁ。隊員達よ、被害はどうだ?)
(はい、隊長)
(どうした1号)
(私は沢山の葉っぱに視界を塞がれたところに、さらに養分まで吸われてしまいました。体はカラカラです)
(どんな奴にやられた?)
(緑の小蛇です。ツタージャっていうらしいです)
(指示した奴は?)
(茶髪で、少し目が離れた男です)
(よし、次!2号)
(隊長、私は強い火に焼かれ、危うくボロ雑巾になるところでした)
(どんな奴にやられた?)
(橙色の子豚です。ポカブっていうらしいです)
(指示した奴は?)
(女です。女はあの場に一人だけです)
(よし、次!3号・・・ん?何で支えられているんだ?)
(隊長、体が痺れてうまく動けません)
(なぜだ)
(沢山の電撃を食らったからです。よけようとしたら追尾されて当てられました)
(どんな奴にやられた?)
(白と黒の馬です。鬣と尻尾が稲妻型でした。シママっていうらしいです)
(指示した奴は?)
(イケメンの男です。美男子でしたぁぐふふっ)
(とろけるなっ)
隊長は3号にシャドーボールを放った。3号は弾き飛ばされ失神した。
(4号はどうした?・・・体が茶色じゃねえかお前)
(私は噛みつかれて体がちぎれかけたところに砂や泥をたっぷりかけられました。ただの布になってしまいそうです)
(どんな奴にやられた?)
(黄土色のワニです。メグロコっていうらしいです)
(指示した奴は?)
(坊主の男です)
(後、こちらの攻撃は通ったか?)
(攻撃しようとしたら、甘えたりくすぐられたり、誘惑されたりして、上手くいかなかったです)
(それはもう一人の男、女子の雰囲気がある男が頑張ったのだ。灰色のネズミみたいな奴が、チラーミィが、サポートしたからだ!)
「チラーミィはずっとサポートに徹していたからで、サポートは攻撃より体力的にも精神的にも疲れないからじゃないかな。」
「攻撃が通らへんからって言い換えられそうやねんけど・・・。」
事実、チラーミィの攻撃では、カゲボウズ達にダメージを与えられないのだ。その代わり、カゲボウズ達の攻撃もほとんどはチラーミィに効果がなかったりする。
(帰ろうか、幸薄荘へ。あそこは都会より居心地がいいから)
(毒男に報告だー)
(ほうこくだー)
(洗ってもらおー)
(都会は怖いぞー)
「大丈夫ですか?みなさん歩けます?」
フジモトは4人に聞く。
「「「「もう大丈夫!」」」」
「そういえば、カゲボウズ達からいい香りがしませんでした?」
「感じる余裕なかったで・・・。」
「攻撃やらなきゃこっちがやられるからね。」
(香りを感じたの俺だけかぁ・・・寂しいものやなぁ)
カゲボウズ達からはフローラルな香りがしていたが、それを感じられたのは、どうやらフジモトだけだったようだ。状況が状況だっただけに。
そして、極めて呑気に、フジモトは言った。
「あれでへばるってみなさん年ですかぁ?」
「私より6つ年上のあんたに言われる筋合いはないっ!!」
マイコの怒りがこの場に響くのであった。
おしまいにしなさい
マコです。カゲボウズ達を登場させてみました。ひどい扱いすみません。
CoCoさん、カゲボウズ達がぼろぼろになっていたら、それは私のせいです。
文中のマイコちゃんは初デートを、まあ変な形で済ませてしまいましたが、作者の私はまだです。淋しい20歳です。カゲボウズに襲われた、よくも悪くも記念になりそうなデートです。ちなみに、カゲボウズ達が報告会で言っていた人物描写は、茶髪で、少し目が離れた男=アキヤマ、一人だけしかいなかった女=マイコ、イケメンの男=ユズル、坊主の男=ヤマナ、女子の雰囲気がある男=フジモト、となっています。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【ちゃんとした初デート希望なのよ】
【楽しい感想待っているのよ】
※この話は、若干物騒な話です。
こんばんは!ぼくはバチュル。オオバヤシ ケンジさんのところにやってきたポケモンだよ。
ぼくは何か、よくにんげんに踏まれかけるんだ。まあ仕方ないよ。ぼくたちバチュルはポケモンギネスブック認定の世界最小ポケモンだもの。この間は女の子、マイコちゃんっていうみたい・・・、に踏まれかけたんだ。ケンジさんが言わなかったら、ぼくは糸を発射してたよ。
え?今は朝なのにこんばんは、は変?だってぼくが話してる「今」は夜中だよ。
普段だったら、ケンジさんは家に帰ってから寝るんだ。でも、今日は仕事が大変やった、って言って、この劇場に泊まることになったんだ。
ケンジさんの寝顔、カッコいいなぁ・・・。あっ、ぼ、ぼくはオスだよ。変な意味はないよ!
でも、女の子がキャーキャー言うのは分かるよ。
そんなことを思っていると、何かドアの方から音がした。
ガチャガチャ、ガタン!
誰だろう?ぼくはたくさんある目、複眼でよく見た。バトルではぼくの技が当たりやすくなるけれど、こういう使い方もあるんだ。
何か怪しい人だ。手にキラリと光るものがある。
「ふっひっひ、オオバヤシ ケンジはどこだ!?」
ケンジさんのことを狙ってる!?
「お前カッコいいし最近売れ始めているからムカつくんだよ!!」
勝手な意見だよ。
「刺し殺してやる!!」
ケンジさんが危ない!!そう思ってぼくが動こうとしたら、
ザクッ・・・
ケンジさんすれすれのところにナイフが刺さった。
「何やこれ・・・っ!」
ケンジさんが目を覚ました。
「ようやく起きたか。やっと殺して金とか通帳奪える!!」
「お前最初から目的それかい。俺そんな持ってへんで。」
「うるさい、殺してやる!!」
悪い人が迫ってきて、ぼくを踏んでから行こうとした。けれど、ぼくは素早くすり抜けて、その人はケンジさんに一回殴られた。悪い人がふらついたところで、ケンジさんがぼくに言った。
「バチュル、こいつを好きなようにしてええで。」
ぼくは電気の網、つまりエレキネットを使って縛ってあげた。
泥棒は「あがががばばば」と訳の分からないことを言って失神したんだ。
危ない、危ない。ケンジさん死ぬところだったよ。
あの人逮捕されたみたいだけど、不審者は怖いよ。
でも、ぼくはケンジさんを守るためにここに来たと思うんだ。
怖がってちゃいられないよ。
今日も平和な1日が過ごせますように。
おしまい(たぶん)。
マコです。この話は最初のポケモンがリアル世界にやってきた!から数日後の設定です。ケンジさんのところにやってきたバチュル目線の話です。かわいいながらも強いやつになりたい、バチュルはそんな考えを持っているのです。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【バチュルかわいいのよ】
【エレキネットを人にかけちゃダメなのよ】
ポケモンの技はあくまでも対ポケモン用なので、間違って人にかけると大怪我することもありそうです。
このお話の舞台は、タイトル通り、リアル世界です。
その世界の中でも、「日本」の中の「オオサカ」という、日本の中でも群を抜く大都市がメインの舞台となります。
会話の中では、かなりの確率でカンサイ弁という、方言が飛び交っているので、そこが若干分からない人もいるかもしれませんが、そこはご了承ください。
それでは、ヒロインの紹介です。
名前は、サカモト マイコ。日本の西暦で1990年7月7日生まれ、20歳です。
オオサカにある国立大学に通っていて、2回生です。
一人暮らしをしています。
オオサカ出身ではないので、カンサイ弁をしゃべりません。
年上の、しかも男性の友人が多く、彼らが働く場所である劇場へ毎日のように足しげく通っています。
性格は良く言えば勇敢、悪く言えば無鉄砲。おとなしめな部分もあるが、行動力はすごい。戦いにおいての状況判断力も優れている。
ポケモンのゲームをかなりやりこんでいるせいか、知識もかなりのものであります。
パートナーはポカブで、「その5」ではチャオブーに進化しております。火炎放射が得意技です。
また、「その6」ではワシボンも仲間入りしました。燕返しが得意技です。
中身がまだまだ子供な、青年達のある種の青春のような日々は始まったばかりです。
(ある種の逆ハーレム物語とも言いますが・・・。)
追加もあるかもしれません。
某月某日、日本のどこか、の朝。
そこで1人暮らしをする大学生、サカモト マイコが目を覚ますと、小包が1個、枕元にあった。
差出人は不明である。
マイコは気になり、包装を破り、中身を見た。
そこには、マンガやアニメ、ゲームでも何度も見たことがあるモンスターボールがあった。
「・・・なんでこれ?オモチャ?私もう20歳のはずなんだけど・・・。」
さらに、紙が1枚はさんであったので、マイコは確認した。
「どれどれ・・・『中身は自分で確認してね!』・・・開けるとこはどこ?」
仕方がないので真ん中のボタンみたいなところを押してみた。
すると、ボールが開き、中から光とともに、体の大部分がオレンジ色の子豚(?)が出てきた。
マイコはそれに、明らかな見覚えがあった。
「・・・ポカブ?」
そいつは確かにポカブであった。
「でも、なんで私のところに・・・?」
そんなことを思っていると、
「カブーーー!!!」
ドカッ
「痛っ」
ポカブが真っ直ぐ突撃し、マイコのお腹に刺さる形になった。ポカブは10キロくらいあるので、ぶつかってくるとマイコでなくとも痛がるだろう。これ以上ぶつかってくると体が持たないし、それ以上に炎を吐く可能性もあるので、ポカブにもご飯をあげることにした。
「何あげればいいんだろう・・・ってあれ?あったっけ?」
ポケモン用のご飯があった。食べさせるとポカブはご機嫌になったのでマイコとしてはよいのだが、10キロもあるので重い。エサもポケモンも10キロあるとは、女子には酷な話だ。
「これって、私だけなのかなあ・・・?」
ふと疑問に思ったマイコは、年上の友人たちがいる、とある劇場に足を運ぶことにした。
ポカブをボールに戻し(案外素直に戻ってくれた)、自転車を走らせる。なんだか若干スピードが速い気がするが、まさかポカブがニトロチャージを行っているのだろうか。
そして、見慣れたはずの町には、すっかりポケモンがあふれていた。
(みんな平然としてる・・・!)
マイコは頭を抱えた。ふと見えた電光スクリーンにはニュースが流れた。しかし、それは「未確認生物大量発生!」なんかではなく、日本の総理の不甲斐なさを批判する、いつもの変わりないニュースであった。
時間があっという間に感じられるほどの自転車での道のりを走破し、ようやく劇場に到着したマイコはみんながいるドアを開けた。
開けたその場所には、小さな黄色蜘蛛がいた。マイコが気づかずに通ろうとすると、怒鳴り声がした。
「マイコ!!踏むなや!!」
黄色蜘蛛は怒鳴ったイケメン、しかし足がなんだか短い青年のところにそそそ、と行った。しかも手に乗り、最終的に肩まで登ってきた。
「まったく・・・、危ないやんか、気づかれにくいもんなんやな。」
「あのさ・・・、ばーやん、そういうの、注意払っといたほうがいいよ・・・。」
ばーやん、とマイコに呼ばれた青年、オオバヤシ ケンジはこう言った。
「たぶん、こいつはみんなに挨拶したがってるんちゃうかなって思うねん。」
「バチュルは10センチぐらいでかなり小さいから、そのやり方いいかどうか分かんないけど・・・。いつか踏まれそうだし。」
「・・・こいつ、バチュルって言うんか。」
「ひょっとして、じゃなくても、バチュルはばーやんのところに来たんだね。まさか、ボールを開けた時点で気付かなかったとか」
「ナメとんのかお前。」
「・・・すいません。まさか、ほかのみんなのところにもポケモンが届いているのかな。」
「みんな持っとるって話やけど。お前はどうやねん。」
「私のところにも来たよ。」
「そうなんや。・・・そういや、お前運が良かったな。」
「なんで?」
「バチュルの蜘蛛の糸に引っ掛かったやつがおってん。しかも糸から電気もくらっとったし。傑作やったわ。あっはっは!」
(エレキネットくらった人いるのか。それこそ危険なのに。あと、ばーやんじゃないのは確かだね。すごく爆笑してるし。)
マイコはその気の毒な人に心の中で合掌した。
ふと周りを見渡すと、いろんなポケモンを持っているみんながいた。ツタージャ、ミジュマル、ヨーテリー、ヒトモシ、オタマロ、チュリネ、シビシラス、モンメン、ランクルスまでいる!ただ、進化後のポケモンは極端に少なかった。
「マイコ、大学はどうしてん、サボりなん?」
「サボるわけないじゃん。昼からだよ。」
「一緒に大学行ってええ?」
「恥ずかしいし、怪しいからダメ!!」
こうして、なんでもない話をしながら、昼になり、みんなと別れて大学に行ってみると、キャンパス内にもポケモンがうようよいて、頭を抱えることになるのは、また別の話。
おしまい?
マコです。実際ポケモンが私たちの世界にいたら、こんな騒ぎじゃ済まないでしょうけど。けれど、絶対楽しいことにはなりそうです。
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
こんにちは。マコです。
この話は、ポケモンストーリーズ!に載せていたものです。
6話まで進めたところで、管理人さんであるNo.017さんから、連載掲示板であるロングポケモンストーリーズ!に移行することを勧められ、ここに書いているといういきさつをたどっています。
それでは、リアル世界のみなさん、御伽噺みたいなこのお話をお楽しみください!
あなたのこえをきかせて。
あのちいさなこもりうたをきかせて。
一
いつも考えていることがある。
どうして人は僕等を捕まえるのだろうと。
僕は人を憎んだ。僕のお母さんを奪った人を絶対許せない、許しちゃいけないと心に刻み込んだ。
僕が生まれてから数カ月経った頃、僕とお母さんは人の従えた生き物に攻撃を受けた。木の実を取ろうと森の奥から飛び出した、爽やかに降り注がれる太陽の光が眩しい日本晴れの朝のことである。お母さんは大きな身体でふかふかの毛をしていて、周囲が一目置く存在だった。怒って吠るだけで皆押し黙って、溜息を吐けば誰かが心配そうに声をかけて、笑えばその周りにあっという間に沢山の生き物が集まる。そして喧嘩になれば誰にも負けなかったし、狩りは誰よりも上手かった。強くて優しいそんなお母さんが大好きだった。けれどその日は違った。人と出逢った瞬間戦闘は始まった。赤い身体をした相手は炎を吐き、お母さんは僕を守ることで精一杯。ふかふかの毛は真っ黒に焦げ、僕は腹の下に潜り込んで攻撃を避けていた。けれど熱が蝕み呼吸が苦しくなる。苦しいけど声も出せず、ただ何もできずに震えていた。
そして急に影が無くなって太陽が照りつけた。同時に無くなった身体に触れていた温もり。お母さんが一瞬にして消えたのだ。僕は目を見開いて立ちあがった。人が笑いながら地面に転がった小さなボールを拾い、僕を思いっきり足で蹴った。生まれたてで非常に軽い僕の身体はいとも簡単に宙を飛び、痛みが身体中を襲った。ムーランドかラッキー、という言葉が遠のいていく意識の中で聞こえ、その後はもう覚えていない。疲れと混乱とが身体中を支配し、意識はひゅっと遠のいた。あっという間のことで訳が分からず涙の欠片も出てこなかった。
それは人がお母さんを捕まえたのだということだと知ったのは、僕が意識を取り戻した直後である。日光が強く照りつける真昼、僕は丸い影の下で目を覚ました。僕よりずっと大きく茸のような身体をした、知り合いのおじさんだった。よくかくれんぼをしてくれたけどバレバレで、いつも僕が圧勝していた。男なのに女みたいな口調の変なおじさんだった。
僕が森の外に倒れていたのを鳥が見つけたのよと説明は始まった。起きたばかりで頭がうまく回らない僕に、おじさんは順序良く優しく教えてくれた。何が起こってしまったのかを。終始嘆くように哀しい表情をしていたのを今でもよく覚えている。
お母さんにはもう会えないだろうとぼそりと呟いた彼の声を僕は聞き逃さなかった。耳を疑って頭の中でその言葉が木霊して、激しく彼を問い詰めて静かに出てきた答えは、お母さんは人に捕えられたということ。
数秒の沈黙をおいてから、僕はまた呼吸を始めた。
真っ暗になった僕の世界と、湧き上がる怒りと悲しみの涙。
耳が割れんばかりの強い轟音と共に雪崩れこんでくる洪水のような激しい感情。
今でもはっきりと覚えている。忘れられない。心の中の大部分に満ちているその記憶に僕は浮かんでいる。泥のように重たく冷たい記憶の海に、浮かんでいる。今も変わらない心で、だからといってどうしようもない日々が続いている。
僕は人を憎んでいる。
僕等を捕まえようとする人を絶対許せない、許しちゃいけないと心を染める。
「坊、何を見ているの」
頭上から声に撫でられて僕は顔を上げた。茸みたいなおじさんが僕を少し心配そうに見下ろしている。
僕はしばらく頭が働かず何を言われたのかよく分からなかった。ゆっくりと噛み砕いてその言葉を理解し、どう返そうかと迷ってしまう。また考えごとに浸り過ぎてしまったようだ。
「……なんでもないよ。ほら、雨が止まないなあって」
少し笑って誤魔化す。
実際雨は激しく降っていた。雨になるとこうしておじさんの傘の下にやってきて雨宿りをする。大きな傘の下では雨に濡れる事とは無縁で、おじさんも何も言わず受け入れてくれる。それに甘えている形だ。この定位置は僕が今世界で一番好きな場所。おじさんと話しながら雨の音に耳を傾ける。何てことのないこの行為が僕にはとても大きな温もりである。おじさんは優しかった。お母さんがいなくなった僕を自分の子供のように可愛がり、時に厳しくしつつ育ててくれた。この森のことを沢山教えてくれた。森のほぼ中心部にある巨大な御神木を初めとして、そこからどれだけどの方向に歩けば木の実が沢山ある場所に辿りつくか、どんなものが食べる事ができるのか、どんなものが食べる事ができないのか、季節が巡って冬の間どう生きればいいか。生命の危機になったらいざとなれば私の傘を食べる手があるわ、まあ毒があるかもしれないけど、と笑うこともあった。僕にとっておじさんは誰よりも何よりも大切な存在で家族同然だ。
雨は数十分前から降り始めて、今はピークを迎えているところだ。鉛色の重苦しい雲が少し開けた木々の隙間から見える。あの空を見ていると自然と心も沈む。そうして記憶に浸ってしまう。一番好きな場所でどんよりとした気分になる。それは矛盾しているようだけど、それもまた日常。とれることのない癖。誤魔化しても誤魔化しきれないだろう。おじさんは僕をよく知っているのだから。
「いつまで降るのかな」
「さあねえ。でも待っていればいつかは止むわよ」
「そりゃあそうだよ。おじさんいっつもそう言うね」
「レパートリーが無いのよ」
僕はおじさんに少し体重を乗せた。寄り添って感じる温かさで、おじさんは茸みたいだけど茸と違って血が流れてて呼吸をして生きてるんだと当たり前のことを実感する。きちんと僕の傍にいてくれる。
雨が止んでこの重い心を晴らしたいという思いとこのままおじさんの傘の下にいたいという思いが交錯する。晴れていても傍にいればいいじゃないかと思われるかもしれないけど、確かにその通りではあるのだけれど、雨の中というシチュエーションが僕は好きだった。晴れている時よりも雨が降っている時の方が心がおじさんの傍にいれるような気がする。寒いからなのかな。
おじさんは欠伸を一つした。それは一度目のものじゃあない。さっきから数分置きに欠伸を繰り返している。相当眠いんだろうけど何とか堪えているようだった。無理しなくてもいいのに。でも起きててもいてもほしいから何も言わない。まったく自分は矛盾ばかり。
ふぅと溜息をつく。思いっきり遠吠えでもしたい気分だ。遠吠えすると身体中の嫌なものが余ることなく絞り出て気分がすっきりする。でもそれをするとおじさんにうるさいわよとかみっともないわよとか言われて大きな丸い手で軽く叩かれるんだよなあ。それに雨だから満足にできないだろうし。
降り落ちる雨粒を呆然と見つめる。胸の奥が縮こまって、呼吸が苦しくなるような錯覚に襲われた。
「おじさん」
何となく呼んでみたけれど、返事は無い。
もう一度呼んでみた。だけどやっぱり返事は聞こえてこなくて顔を上げると、その瞼は閉じられていて小さな寝息が聞こえてくる。ああ、寝ちゃった。おじさん、一度寝ちゃうと当分起きないんだよね。
空を見上げ、僕はそっとおじさんの傘を出た。雨宿りなどしなくても本当は大丈夫だった。風邪など滅多にひかないのだから。少し雨粒が大きくて痛いけど、逆に頭が冷えて良いかもしれない。
いつの間にか走り出していた。森の中を駆ける、駆ける。草むらは雨でびしょびしょで僕の身体もまたびしょびしょで、それでも走る。何もかも忘れる忘れる忘れたい。閃光のようにちらつく記憶の断片から今は離れたい。
お母さん。
心の中で叫んだ。
お母さん、お母さん。ねえどうしていないのさ。どうして一瞬で消えちゃったのさ。森で一番強かったじゃないか。ずっと傍にいてほしかったよ。どうして今いないんだよ。おじさんは寝ちゃったよ。僕は今一人だよ、森に他に住んでいる皆の姿が見えない。見えない。
僕よりも背丈の高い草むらに無我夢中で跳び込んだ。目の前の無限に続くような草むらに気圧されることなく掻き進む。目指す場所は特に決まっていない。ただ走るだけだった。身体が動くままに。
草むらを抜けた。そうすると見慣れた場所に出る。森の中では珍しく少し開けた場所で、背がどの木々よりも高く太くそして年老いている大樹がその中心に聳えている。この森の御神木で、昔から森の神様が宿っていると言われている。おじさんとたまにだけど拝みにくることだってある。
葉が多く茂っていて、根元にやってくると大分雨粒はシャットアウトされて十分雨宿りになる。風がびゅうと吹いて肌寒さを感じる。身体を思いっきり降って少しでも濡れた身体から水分を取り、御神木の幹にすがった。御神木は他の木々と違って白い幹だ。柔らかく温かみのあるようなほっとする白。僕はこの色が好きだけど、時に恐怖を覚える。あっという間に朽ち果てていく、そんな情景が描かれることがある。御神木は一体何歳なのだろう。おじさんも知らない。おじさんが生まれる前からずっと生きている。御神木はずっと生きている。そしていつか死んでしまいそうな気がして震撼することがある。でも本気でそうは思っていない。何となくそう感じる事があるだけで。
雨は止まない。
また心が縮こまって胸が痛くなる。孤独感が僕を包み込んで離さない。
僕はそれを少しでも紛らわそうと何か考えごとを始めようと思い立つ。そうしておじさんがこの間真昼の空に黒い流星が横切った話を思い出した。昼間なのに流れ星が走るなんて聞いたことがない。僕も見たかったけどその時僕は眠っていた。なんてタイミングの悪いことだろう。その日は森のどこでもその話題で持ちきりで、僕はひどい疎外感を覚えた。
遠くから見ても分かる圧巻のスピードで空を駆け抜け、あっという間に見えなくなったという。生き物なのではという声が上がったけれど、あんなに速く飛べる大きな鳥がいるのかいとまた誰かが反論した。僕は別にどうだってよくて、ただただ見たかったと後悔するだけだった。おじさんは鳥じゃなくて絶対流星だと頑固に意見を通した。その方がロマンがあるじゃない、と。
僕の知っている流星は白く輝いていて、夜空をさっと一瞬で横切ってしまう儚いもの。去年のいつだったか、おじさんと一緒に流星群というものを見た。森を少し抜けた開けた丘に並んで、数分置きに流れる星を眺めた。雲一つない絶好の天気で、視界いっぱいに広がる星空と夜独特のひんやりとした空気が心地良く、歓喜の声をいくつも上げた。途中で寝てしまったけど、夢にもしばらく出てくるくらいに印象的だった。
それとは違うものなのだろう、皆が見た黒い流星は。黒いということは光らなかったんだろうか。物凄いといってもどれくらいのスピードで、どのくらいの大きさで駆け抜けたのか。実際に見ないと分からない。だから僕は目を閉じて頭の中でそれを描き出す。想像力を膨らませて、黒い流星を僕の中で見る。
そうしているだけで、僕は少しだけ満足することができる。
ああそうだ。黒い流星も勿論だけど、僕はまたおじさんと流星群を見たい。
この目にもう一度焼き付けたい。あれから一年ほど経った今、あの時ほどはっきりと思い出せなくなってしまった。どうして覚えていたいことを忘れちゃうんだろう。
雨は止まない。そんなことは目で見ずとも耳に入ってくる音で分かっていた。
草むらが大きく揺れる音で僕ははっと意識を取り戻した。しまった、いつの間にか眠っていたようだ。
雨は少し止みそうになっている。だけど跳び込んできた音はそれとは違う。僕は辺りを見回して様子を伺った。正面ではないようだ、僕は右を向いて誰もいないことを確認するとさっと今度は左を向いた時、息を呑んだ。どこに隠れてもバレバレなおじさんではない。そこに姿を現していたのは見た事の無い生き物である。
白っぽいふかふかそうな毛で顔が包まれていて、目のあたりや耳にはオレンジ色の毛が見える。四本足で立つ身体はすごく大きくて、おじさんの二倍、いや三倍ぐらいはありそう。ああ、胴体はほとんどオレンジ色の毛だ。佇まいがどことなく勇ましくて堂々とした雰囲気を持っている。
おじさんより三倍近く大きいのだから、僕から見れば大きすぎるくらいで恐怖が身体を走り硬直する。オレンジの生き物はゆっくりと草むらから出てくると少しふらつきながら雨の中を歩き、御神木の下に入ってきた。近づいてきたらその迫力は満点で、僕は目と口をあんぐりと開けているだけである。きっと他から見れば間の抜けた顔になっているだろう。
しかし対するオレンジの生き物は僕に気が付いていないのか僕には目もくれず、雨宿りのできるこの場所にやってくると急にその場に倒れるように足を折った。荒い呼吸が耳に入ってきて、僕はそこでようやく少し様子がおかしいことに気がついた。
恐怖心を抱えたまま、代わりに生まれた勇気と好奇心とが僕をそっと動かす。二メートル程離れたところにその生き物はいて、目の前にするとその大きさに改めて圧倒される。気がつかなかったけど白い尻尾もあって、この中に僕が飛び込んだら余裕で埋もれてしまいそうなくらい大きかった。けれど近づいてみて分かったことがある。当然雨に濡れているが、その毛並みはボロボロだった。すり傷がいくつかの箇所にわたって見え、その身体を舐めるように見回す。そして右の後ろ脚からどんどん溢れだしてきている赤い血だまりを見た瞬間、僕は震えあがり思わず声をあげて跳び上がった。
その時、オレンジの生き物の閉じていた瞳が顔を出した。さすがに気付いたようで僕に目を止める。
大きな口が動いて何かを喋ろうとするが、何も言葉は出てこない。僕は縮こまって怯えた瞳で、黒い吸い込まれるような瞳を見つめた。何故だか目を離すことができなかった。迫力に完全に気圧されているせいだろう。
オレンジの生き物はまた目を閉じる。何も言わず、何もしてはこなかった。
そのことにまず僕は安堵し、へなへなとその場に座り込んだ。緊張で喉が渇きまだ心臓が太鼓のように鼓動を荒げている。
少し例の後ろ脚を見やると水に溶けるように血はどんどん広がっており、僕は思わず目を逸らす。どうしたらいいのかよく分からなくて、でも何もせずにいるのも何だか居心地が悪くて、僕は気づいたら走り出していた。
急いで今まで来た道を引き返し、恐らくおじさんがまだ寝ているであろう場所へ向かって。
急がないとあの生き物は死んでしまうかもしれない。それは嫌だ。僕の目の前に来て御神木の真下で倒れて死ぬなんて駄目だ。あの怪我だってきっとおじさんなら治してくれるんだ。僕じゃどうしようもできないから他に頼るしかない。僕はあの頃からずっと無力だ。お母さんがいなくなってから何も変わっていない。どれだけ人を憎もうと人を実際に見返してやろうという勇気は出てこなくて、ただこうして走るしかできない。それしかできないから走る。
聞こえてくるのは変わりゆく世界の音。
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