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流星雨の落下予想地点と言われたシンオウ地方のシンジ湖。3年前のギンガ団事件のときはこの湖もギンガ団の作戦の舞台となったのだが、現在は以前の静けさを取り戻しつつあるかに見えた。だがその晩、宇宙の彼方からやってきた流星雨の一群がこの湖のすぐ近くに降り注いだのである。
そしてそのうちの1つが、大気圏を突き抜け、この湖のそばに轟音とともに落下したのだった。
その落下音は湖にほど近いフタバタウンやマサゴタウンでも聞くことができた。
そして、隕石落下と同時にシンオウ地方のポケモンレンジャーに緊急出動命令が下されたのである。その中には、ちょうどシンオウに研修に出向いていたアスカとチヒロの姿もあった。
「お姉ちゃん、今回のミッションは?」
「今回はシンジ湖に落ちた隕石を調べるミッションだわ。隕石本体を調べることで、どういった仕組みになっているかというのがわかると思うわ。」
「うん。それじゃ、行こう!お姉ちゃん!」
アスカとチヒロはキャプチャ・スタイラーを手にとって駆け出していった。
シンジ湖の湖畔はジュンサーによる非常線が張られており、一般の人が近寄ることは不可能に近かった。だが周辺の住民が非常線の周りを囲んでおり、湖の方向を心配そうに眺めていた。
「隕石が落下したシンジ湖の湖畔ですが、周辺の住民たちが心配そうに湖の様子を見つめています。ですが、シンジ湖周辺は警察による非常線が張られており、一般人が湖に近づくのは不可能といった状況です。また、現在201番道路はフタバタウンからシンジ湖湖畔にかけて、交通規制が敷かれております・・・。」
テレビのアナウンサーが湖畔から臨時ニュースを伝える。その画面を映し出しながら、アスカとチヒロの乗った車はシンジ湖を目指していた。
と、画面に一瞬ノイズとおぼしき現象が入り込んだ。
「何かしら、今の?」
チヒロがテレビ画面を見つめながらアスカに聞く。
「分からないわ。でも通信状態は非常にいいはずよ。」
アスカがそう言ったときだった。今度ははっきりとノイズが写り込み、画面に一瞬シンオウ地方の地図――それはタウンマップでよく使われる表示だった――が映ったのである。
「待って。これは電磁波の影響があると思うわ。」
「えっ、どうして?」
「ある特定の電磁波はテレビやラジオの放送に影響を与えることがあるわ。今回の隕石にもそう言った物質が入っているのかもしれないわ。チヒロ、これは注意した方がいいかもしれないわね。」
「うん。」
そうしている間にも画面はタウンマップとニュースの映像を交互に映し出す格好となっており、電磁波の影響を強く受けていることが伺えた。
やがてアスカとチヒロの乗った車はシンジ湖湖畔に設けられた検問所に到着した。
「ポケモンレンジャーのアスカです。」
「同じくチヒロです。」
「ご苦労様です。ポケモンレンジャーの方ですね。どうぞお進みください。」
ジュンサーに道を通してもらい、アスカは車をさらに先に進める。そしてたどり着いたのは、隕石が落下したとみられるクレーターだった。
「ここが隕石の落下地点ね。チヒロ、気をつけていきましょう!」
「うん!」
まだ隕石が落下して間もないことは周囲の状況から安易に想像できた。果たして、アスカ達は隕石を見つけ出すことはできるのだろうか。
〈このお話の履歴〉
2011年1月30日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。
ここはホウエン地方・トクサネシティにあるトクサネ宇宙センター。宇宙からの情報を収集するほか、宇宙開発の最先端を行く施設として多くの観光客などが訪れる場所である。
だが、宇宙センターに物々しい警報音が鳴り響いたのである。
「謎の流星雨が観測される模様!」
流星雨。それは彗星が残していったちりなどの物質がこの星の軌道と交わるとき、空にたくさんの流星が降り注ぐことからそう呼ばれているのである。だが、今回の流星雨は、それとは全く性質の異なるものだった。
「どうした!?」
センターの観測員は慌ててモニターに目をやる。
「流星群がこの星に降り注ごうとしています!」
「地表に影響は!?」
「調査を進めていますが、ほとんどは大気中で燃え尽きる模様です。ですが、一部は地表に到達して、被害が出るかもしれません。」
モニターに映し出された映像。それはこの星が流星群を横切ることを表していた。ただの流星群なら、夜空に浮かぶ無数の流れ星として片付けられることだろう。だが、今回はそれとは訳が違う。突如としてこの星に降り注いだのである。
宇宙センターのコンピューターが地表に落下する可能性がある流星群を調べる。すると、ある1つの流星群が地表に落下する可能性があることを示したのだった。
「流星群の1つ、地表に落下する可能性あり!」
「落下予想地点は!?」
オペレーターが画面を操作して流星雨の落下予想地点を調べる。
「・・・落下予想地点、シンオウ地方、シンジ湖周辺。直ちにシンオウ地方南西部に警戒態勢を!」
シンジ湖。フタバタウンの北西にある湖である。シンオウ地方の神話にも語られる、感情の神と呼ばれるエムリットが眠るといわれている湖である。
「シンジ湖か・・・。大至急シンオウ地方に連絡を。それと、ポケモンレンジャーを派遣して、シンジ湖周辺地域からの避難を命じて欲しい!」
「はい!」
その頃、ジョウトリーグとグランドフェスティバル出場を目指して旅を続けるマサト達は、美しい夜空を眺めていたのだった。
「きれいな星空ですね。」
コトミが空にきらめく無数の星々を見つめながら言う。
「お姉ちゃんも、かつてはこの星の下を歩いていたんですね。」
空を見上げながらマサトもつぶやく。
「うん。カントーやジョウト、ホウエンやシンオウ、オレンジ諸島、ナナシマ、そしてイッシュ。地方ごとに星空は違うところもあるけど、でも同じ空の下、たくさんのトレーナーやコーディネーターが、それぞれの目標に向かって進んでいるわ。」
ミキもマサトとコトミと一緒になって星空を眺めながら語りかける。
「あれ、流れ星かなぁ?」
マサトは夜空を横切っていく一筋の光を指さした。
「本当だ!流れ星だわ!」
コトミは流れ星を見つけると、願い事でもしているのだろうか、何か口に出していた。
「待って。あの流れ星、普段と様子が違うわ。」
願い事をしていたコトミに向かってミキが言う。
「えっ?」
「何か知らないんだけど、あの流れ星から妙な胸騒ぎを覚えるの。多分あたしの気のせいかもしれないけど、でも気をつけた方がいいわ。」
マサト達はどことなく不安の色を浮かべてその流れ星を見つめていた。
無数の流れ星は夜空に一筋の光を残して消えていく。その中でもとりわけ大きな一筋の光が、遙か北東の空に向かって飛んでいくのを、マサト達は見ていたのだった。
「あれ、かなり大きな光だ!」
「ずいぶんと大きいわね。」
マサトとコトミはその光が飛んでいった方向を見つめた。
「あれはシンオウ地方の方向ね。」
ミキもマサトやコトミと一緒になって、その筋が向かっていくのを眺めていた。
〈このお話の履歴〉
2011年1月27日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。
ああ! いいところで終わりやがって!
しかしだんだんカオリちゃんがかわいそうになってきた……
もー、黙ってるつもりだったのについ書きこんじゃったよ。
原稿中の密かな楽しみにしております!
ではっ
(ササッ
ポケットモンスター。縮めて、「ポケモン」。この星に棲息する、不思議な生き物である。
あるものは海に、あるものは空に、またあるものは町の中に。様々な形で暮らしているのである。その数は、300、400、500、そして600を超えるとも言われているが、はっきりと知るものは誰もいない。
人間とポケモン達は、互いに力を合わせて支え合い、またともに協力しつつ、様々な困難を乗り越えていくのである。そして、ポケモンバトルにポケモンコンテストと、様々な形で夢を叶えていくのである。
そしてここにもそう言った中の1人の少年がいた。ホウエン地方・トウカシティ出身のマサト。かつてポケモンマスターとなったサトシと一緒に冒険した少年である。そして彼は、トウカジムのジムリーダー・センリの子供にして、トップコーディネーターであるハルカの弟でもある。
たくさんの仲間達とともに、彼らの旅は続いていくのである。
だが、遙か彼方、遠い宇宙の向こうから、この平和な世界を脅かそうとする存在が近づきつつあるのを、彼らはまだ知らなかったのである・・・。
〈このお話の履歴〉
2011年1月26日、ポケ書内ポケボード・ラティアス部屋にて掲載。
深夜、皆が寝息をたてている部屋で、動く影が一つ。
(何を話そう…)
横に寝返りをうつカオリ。明日のことが気になって、なかなか寝付けない。
一応本は持ってきたが、あまり他人を起こしたくないのだ。
こんな夜は…
「デスカーン、まだ起きてる?」
『カオリ?』
月明かりで出来た影の中からむっくり起き上がる棺。一本の黒い手がカオリの髪に触れる。その手を取り、呟いた。
「連れ出してくれないかな」
二本の腕に支えられ、カオリは深夜の浜に降り立った。時刻は午前二時丁度。当然、誰もいない。
ザザン、ザザン、という波の音が静かな浜に響いている。空には月と星が瞬き、カメラマンにはもってこいの撮影場所だろう。
「ヨノワールの言葉が、ちょっと気になってさ」
『あの男についてか』
「うん」
どうしていいか分からない、と言った方がいいかもしれない。ヨノワールが自ら出てきて言うということは、胸騒ぎでもするのだろう。そしてそれは、きっと的中する。
でも、自分ではどうかと言われると、よく分からないのだ。いつもなら冷静に自分で判断を下せるはずなのに、今回は全く違う。ツキミヤのことを考えるだけで胸がドキドキして、痛くなり、上手に息ができなくなる。おまけに、顔も熱い。
「慣れない土地に来て、菌でも拾ってきたかな」
『…』
デスカーンは、カオリに何と言っていいのか分からなかった。彼女を傷つけたくはないが、そういう気持ちを知らないでいると、後で今以上に苦しむ気がする。
きっと、カオリの今の思いが幸せな結末に繋がることは無いのだから。
『人を信じてみようと思うのは初めてか』
うなずくカオリ。
『たとえどんな結末が待っていようとも、最終的に判断するのは自分自身だ』
裏切られても、放っておかれても、悲しいことがあっても,その先に待つ運命を変えることなどできないのだから。
「火宮の姓を持った親に産まれたことも、運命だったのかな」
『珍しいな。無神論者のお前がそんなことを言うなんて。
…後悔しているか?』
カオリの脳裏に、おぼろげな両親の顔が浮かんだ。引き離された時が幼すぎて、記憶が全く無い。
「別に。…ただ」
『ただ?』
「自分の人生を、決められない環境で育てられたことにはちょっと腹立たしいけどね」
砂浜に、赤い血がポタリと落ちた。
戻ってからもカオリは眠らなかった。ヒトモシを呼んで、ギリギリまで炎を小さくしてもらい、その灯りを使って本を読んだ。
そして朝になり、皆で下で朝食を摂っている最中にツキミヤから電話が来た。内容は、今日の午後四時くらいに雲雷城の駐車場まで来て欲しいとのことだった。
何故彼がそんな時間をチョイスしたのかが気になったが、その明確な理由が分かったのは、その時になってから。
終わりへのカウントダウンが刻まれ始めた時だった。
「嫌な予感しかしない」
「何が」
朝からのミスミの言葉に、ミコトはイラついていた。朝起きた時の第一声が『嫌な予感しかしない』なんて、どういう神経をしているのだろうか。
「さっきカミヤさんに電話が来たでしょ。多分相手は昨日話していた人よ。
…決めた」
「何を」
続く言葉に、ミコトは泣きたくなった。
「私、カミヤさんを尾行してみる!」
今回はエクストラエピソード、以前ポケストの方でもちらっと述べていたオリポケが登場するお話を取り上げたいと思います。
時系列の設定はこれを書いている時点での本編のかなり後、ミキのジョウトリーグ・エキシビジョンマッチが終了した後になります。そのため、多少本棚にある作品の展開を先取りしている描写が見受けられることをあらかじめお断りしておきます。そのため、当初の予定では夏頃としていたわけです。
このエピソードは15年ほど前に公開されたある怪獣映画を原案にしています。ですが、テレビでも観たことがないため、ストーリーの進行は私のオリジナル要素も絡めています。
まずこの作品に登場するオリポケ2種類を紹介します。モデルはその映画に登場した宇宙怪獣です。
1:「レグタス」
分類:でんじはポケモン
タイプ:むし・でんき(ソルジャーフォルム)/くさ(プラントフォルム)
特性:でんきエンジン(ソルジャーフォルム)/きゅうばん(プラントフォルム)/めんえき(夢特性:ソルジャーフォルム)/サンパワー(夢特性:プラントフォルム)
高さ:1.5メートル(ソルジャーフォルム)/14.0メートル(プラントフォルム)
重さ:55.8キログラム(ソルジャーフォルム)/960.0キログラム(プラントフォルム)
特徴:ソルジャーフォルムは電磁波を視覚として認識することができる。基本的に大勢の集団で飛び回り、電気を放って相手を攻撃する。
プラントフォルムは高濃度の酸素を生成、花びらが開くと巨大な爆発を起こして種子を打ち上げる。ソルジャーフォルムとプラントフォルムは互いに共存関係にあるとされている。
図鑑では見た目が大きく違うが、それぞれ同じポケモンとして扱われる。
主な技:ほうでん、シザークロス、でんこうせっか、エレキボール(ソルジャーフォルム)/ねをはる、だいばくはつ(プラントフォルム)
種族値(左からHP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さ):75-95-135-45-95-95(ソルジャーフォルム)/75-185-135-5-135-5(プラントフォルム)
2:「レギロゴス」
分類:でんじはポケモン
タイプ:むし・でんき
特性:ちくでん/ポイズンヒール(夢特性)
高さ:20.0メートル
重さ:980.0キログラム
特徴:レグタス・ソルジャーフォルムと同様、あらゆる波長の電磁波を取り込んで視覚として認識できる。でんじはを集束して相手に打ち出して攻撃する。
地中を高速で掘り進むこともでき、強烈な一撃を打ち込んで敵に襲いかかる。
今まで発見された中では最も高く、そして最も重いポケモン(とされていたが、後にゲンシグラードンが999.7キロとされたため、2番目に重いポケモンとなった)。980キロとしているが、これは本編で1トンを越えるポケモンが今のところ登場していないため。
種族値合計はアルセウスを上回る740。
主な技:ほうでん、でんじほう、ドリルライナー、エレキボール、あなをほる、しぼりとる、そらをとぶ
種族値(左からHP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さ):105-155-125-135-105-115
本作品も前回のスペシャルエピソード同様、一般的な小説形式で展開していきたいと思います。
次回からお話が始まります。
夕食を摂った後、宿にある風呂に入る。ミスミはカオリを誘ったが、部屋のシャワーで済ませるとあっさり断られてしまった。
「本当人付き合い悪いねえ」
「カミヤさんの家、何処にあるか知ってる?」
「さあ」
そんなクラスメイト達の会話を尻目に、ミスミ達二人は湯船につかっていた。温泉らしく、神経痛、筋肉痛、リューマチなどに効果があるという。まあ、まだそんな物には縁が無い二人だが温泉自体は気持ちが良かった。
「あー生き返るー」
「まだそれほど歩いてないんだけど」
「文を書く仕事をしていると、どうしても家にこもりがちになるのよ。運動してないから冷え性も酷いし」
中学時代からの付き合いのため、ミコトはミスミが運動嫌いなのは知っていた。五十メートルは九秒、水泳はクロールで二十五メートルがやっと。一番酷いのはマラソンで、毎回限りなくビリに近い順位に入っていた。
「私思うんだけどね、カミヤさん絶対バトル強いと思うの」
「いきなりだね。どうして?」
「んー…勘かな」
「…」
氷かと思うくらい冷たい水が体に叩きつけられる。ちっともお湯にならないので、そのまま水を頭からバシャリとかぶった。髪からポタポタと雫が流れ落ちる。
ミスミの誘いを断ったのには理由があった。かつて、火宮の家にいた時に付けられた首の縄の痕を見られたくなかった。
(大分消えかけてはいるけど)
それでも、カオリは嫌だった。
人に気を許すことが。笑顔を見せることが。
『では何故、あの男と話した』
聞き覚えのある声がして、カオリは目を開けた。髪の毛の水をしぼり、側に置いてあったタオルを手に取る。
周りを見回すが、デスカーン達は外に待たせているため、何も感じない。
「誰」
『鏡の曇りを取ってくれ』
少々変に思いながらも、カオリはタオルで鏡を拭いた。
そこには、自分と…
「あ」
『久しいな』
ヨノワールが薄く映っていた。
「楽しかった?」
『は?』
その後、カオリはヨノワールを自分が借りているベッドの場所に案内した。一応誰かが入って来た時のために、ヨノワールは日陰にいる。そこにいれば、影で姿が分かることもないからだ。
「鏡の中から私のシャワー姿見てたんだよね?」
『そ、そんなつもりで話しかけたんじゃ』
「冗談だよ」
ヨノワールはため息をついた。彼女といると、どうしても調子が狂う。
「で、何の用」
『先ほど話していた男のことだ』
「皆気になるんだね。カゲネコにも聞かれたよ。私が男と話してたらいけないのかな」
不満そうなカオリに、ヨノワールは切り出した。
『心を許していた…私には、そう見えた』
「!」
細い目が真ん丸くなった。自分でも気付いていなかったらしい。
「笑ってた?私が?」
『そちらに聞くのが一番だろう』
そちら、と言われてカオリはカゲボウズ達を見た。小さな頭で一斉にガクガクとうなずく。
「へえ」
信じられない、という表情で顔をおさえる。ヨノワールが何か言おうとした、その時。
「カミヤさん?」
部屋のドアを叩く音がした。ハッとして振り向く。この声は、カゲネコだ。
「何」
「後五分で夕食だから、下に来て」
時計を見れば既に針は午後六時五分前を指していた。
「分かった。今行く」
人の気配が無くなってから、ヨノワールは話を再開した。
「明日、あの男と会うのか」
「まあ。…何が言いたい?」
一呼吸置いた後、小さく、でも鋭く言った。
『気をつけろ』
一方,ツキミヤはまだ浜辺にいた。夕暮れ時の不思議な色合いが、彼の周りの白い砂を染めている。
「不思議な子だったな」
柔らかい波が、ツキミヤの足元を削り取っていく。それと同時に,彼の影がざわざわと揺れる。
「何か隠しているのかと思いきや、優しい顔になる。こちらを疑っていたのに、一瞬にして心を開いたような雰囲気になった」
そして何より、第一印象の。
「何か裏のありそうな、目の光」
「明日は期待してていいと思うよ」
ツキミヤの影の中で、あやしい光がゴソゴソと蠢いた。
やつのプレイボーイっぷりに目が離せない。
顔の毛穴から火を吹き出しそう。
しかしこのパターンはいやな予感しかしないwwww
(私の脳内ではご褒美ですが)
文法的なこと
どうしてでもこれでなくてはならないという理由が無いならば
「・・」「,」はいわゆる主流のルールに従ったほうが閲覧者には読みやすいかも。
「・・」→「……」
「,」→「、」
に直すことが望ましいかと思います。
参照
http://www.asahi-net.or.jp/~mi9t-mttn/cstory/write11.html
ちなみに雷獣焼きで吹き出したのは私だけではないと信じている。
「ミコト,ちょっと」
「何」
一通り民芸品の店を冷やかして回った後,ミスミとミコトは旅館街やみやげ物の店を抜けて浜辺の方へ来ていた。買うのは最終日でいいだろうということで,まずはどんな物があるかを見学・・ウインドー・ショッピングをしていた。
「へー。銘菓,雷獣焼きだって。おいしそー」
「少し離れた場所にガラス工房があるんだってさ。ミドリちゃんが聞いたら羨ましがるだろうなー」
「ミコトもちょっとは女の子らしい小物を身に付けなさいよ,この香袋とか」
それを目の前に突き出そうとするミスミの手を,ミコトはパシッと払いのけた。
「あのさ,こうも観光ばっかでいいのかい?少しはこの地の文化財を見てみるのもいいと思うけど」
「えー」
「さっきガイドさんが言ってたじゃないか。お城。そこに行ってみるのもいいんじゃないかな」
「本当まじめよね,ミコトって」
そんな無駄口を叩きながら浜の方へ歩いて来て,ミスミが人影を見つけて・・
今に至る。
「あの左にいる子,カミヤさんじゃない」
その言葉にミコトは目を凝らした。砂浜に立つ二つの影。片方は確かに彼女だ。
だが,もう片方は・・。
「どれどれ」
ミスミがウエストポーチから双眼鏡を出して,覗き込んだ(ちょっと,何でそんな物持ってるの)
「おー,結構かっこいいじゃない」
「カミヤさんと話すって,相当の変わり者だと思うんだけど」
「ちょ,あの人だれ!?」
「・・聞いてる?」
「僕はこの街に少し用があってね。近くのポケモンセンターに泊まってるんだ」
「私は・・合宿で」
「学生さんか。一緒に回る人はいないのかい?」
少し躊躇った後,カオリはこくりと頷いた。
「でもその警戒心の強いポケモン達がいるから大丈夫だね」
「・・うん」
カオリは何故か緊張していた。初対面の人間と話す時にしどろもどろになるほど,小心者ではない。なのに,今は体がガチガチになっていた。
(風邪でも引いたかな)
「それにしても,カゲボウズ達が見えるとはね。君のポケモンの気配に誘われて出てきたとはいえ・・」
ツキミヤの周りにカゲボウズ達が浮いていた。カオリに懐いているカゲボウズ達とはやはり少し違う。
「僕の知り合いにもいるんだ。君みたいな人」
「へえ・・」
「ホウエンの送り火山に行ったきり戻ってこないけどね」
それから二人は,海を見ながら話をしていた。いつもならば初対面の人間には全く口を開かないはずのカオリが,その時だけはちょっとおしゃべりになっていた。
見ていたミスミもポカンと口をあけていた。ミコトが見るに見かねて口を閉じようとしたが,それでもすぐに開いてしまうのだ。
「ああ,もうこんな時間か。ごめんね,引き止めちゃって」
カオリの付けている腕時計が午後三時半を指していた。
「ううん,すごく楽しかった。・・あのさ,また来てもいいかな」
カオリの言葉に,後ろに控えていたデスカーン達は凍りついた。カチーンという音が聞こえそうなぐらいに。
「いいよ。じゃ,明日はあそこで待ち合わせしようか」
ツキミヤが指した場所は―
『・・』
一方,こちらはやぶれたせかい。一匹のヨノワールが,透明な玉を覗き込んでいる。いや,透明というわけではない。中に人間が映っている。
先ほどツキミヤと話していた少女,カオリだ。
『カオリ・・』
ヨノワールは胸を押さえた。それには,カオリに対する気持ちだけでなく,別の何かも混ざっているような気がしてならなかった。
違和感というのか,それとも・・
『同じような力を持つ者同士が出会った』
胸騒ぎか。
『話してみるか・・』
ミスミは,戻ってからずっとカオリを観察していた。いつになく話しかけても上の空な感じだったが,それには今までとは違う別の何かがある気がした。
「カミヤさん,ちょっと?」
ゆすってみても反応が無い。心ここにあらずということだ。多分。
「ねえってば」
しびれを切らしたミスミは,側にあったうちわでカオリの頭をペシペシ叩き始めた。
「カミヤさんってば」
そして叩き始めてから二百十九数えた後・・
「痛い」
やっと反応した。叩かれた所が微妙に赤くなっている。
「何」
「え,えって・・。カミヤさん,さっき男の人と話してたよね。あの人って誰?」
「関係ない」
バッサリ切り捨てると,ベッドから降りて部屋を出て行ってしまった。
「彼女のプライベートに干渉すること自体が間違いだったんじゃないの」
ミコトの冷たい子tに貫かれそうになっても,ミスミはめげない。
「面白そうなら,私は何でもするわよ!」
「・・野次馬根性」
夕日で温まっている部屋が,南極のブリザードが吹き荒れる場所のようになった気がした。
『カオリは気にならないのか』
「何が」
『あの男のことだ。カゲボウズを引き連れている人間なんて,俺は見たことが無い』
「うるさいなあ。棺おけは黙っててよ。それに向こうも同じようなこと思ってるよ」
小高い丘の上にある宿舎。さっきの浜に行くには,二十分くらい必要となる。
「ま,違和感は少しあるけど。ただ,それ以上に」
『・・それ以上に?』
嫌な予感がした。純粋無垢故質の悪い,とは正にこのことか。
「分からないけど・・。別の何かにその違和感が全て押しつぶされてる」
そういうカオリの表情は,今まで見たこともないような物だった。ミスミが側にいたら,こう言っただろう。
『それはアレよ,アレ!恋ってヤツよ!』
24
昼休みの学食はいつものように学生でごった返していた。
奥の方のカウンター席で、カオリは一人お弁当を食べていた。
水曜日の昼休みはいつもシュウと一緒なのだが、さすがに今日は「決戦当日」ということもあり、臨時の昼集会があると言って、「ヘル・スロープ」のサークル部屋に行ってしまった。
今日ほど一緒にいたい日はないのに。
本当は、暴力団と戦うなんてそんな危ないことやめてほしかった――。
炎の石を贈った理由。それは、シュウに踏み出してほしいから。
渡す時口に出して言えなかったけど、シュウには自分思うように歩いてほしいと、そう思った。
自分のことで彼が思うように生きれないのは嫌だった。
今日のことがきっかけで、自分が犯してしまった罪を償わなければならない結果になるかもしれない。
でもそんなのは身から出た錆だ。
逃げようなんて思わない。
自分は今日までこんなに守られてきた。
しかしどうだろう? 今自分の中に渦巻いている気持ちは決してそんな勇敢なものではない。
――勇敢でないどころか、薄汚くさえ見える。
行かないでほしい。
ずっとそばにいてほしい。
あなたが危ない目に遭うなんて、耐えられない。
――そうじゃないんだ。本当はそんなキレイじゃない。
行かないで、そばであたしを守って。
ずっとそばにいて、あたしを充たして。
あなたにもしものことがあったら、あたしはどうすればいいの?
――自分本位で、ドス黒い。
薬をやったことだって、償わないでいいならそれに越したことはないと、心の奥底では思っている。
逃げ切れるなら、逃げ続ける。
守ってもらえるなら、守られ続ける。
それが――本音。
そういう女、ダメなの?
両親が死んだんだよ?
普通誰だって絶望する!
仕方なかった!
きっとあたしじゃなくても同じことになってる!
絶対そうに決まってる! 絶対! 絶対!
――強くなんてなれない。あたしはずっと弱いまま。か弱い存在。
アタシニハ、マモラレルシカクガアル――
この食堂にいる人間で、ただ一人とんでもなく邪悪な女が誰にも気づかれずここに座っている。
「――最低」
カオリはお弁当にはほとんど箸をつけず、蓋を閉じた。
「随分暗い顔してるね、カオリちゃん」
そこにいたのは二年生の先輩、ケイタだった。シュウの一番の親友。
ケイタは軽く口角を上げ、カウンター席に手をかけて立っていた。
「あ――こ、こんにちは。あれっ? 今は昼集会中じゃ――」
「うん、ちょっと遅刻して行く」ケイタは表情を変えず続けた。「ちょっと大事な話があるんだ。いいかな?」
25
昼集会は比較的あっさりと終わった。
幽霊部員以外全員が集まり、いつもの口調で代表のマキノが今日の流れの確認、作戦の最終打ち合わせを淡々と行った。
一年生は大学の近くに住んでいるミサの家に待機。救護係として、連絡を受けるとすぐに駆け付けることができるようになっている。
心構えを話していたあたりで二年生のケイタが遅刻して部屋に入ってきて、代表に叱責をくらった。
そして最後にマキノは「絶対に死なないこと!」と言って昼集会は解散となった。
「そっか、死ぬかもしれないのか――マジか……」ヤスカがぼんやりと呟いた。
サークル部屋には二年のヤスカとタツヤがいつものように残っていた。三年のコウタロウも授業がないらしく、奥のソファーで日経新聞を読んでいた。
他のメンツは授業があるか、四年生なんかはゼミ室にいるのだろう。
「――あんた憲法基礎は?」ヤスカがタツヤに訊いた。
「あの授業出席とらないし、今日はいいや――てか出ても集中して聴ける気がしない」
タツヤはテーブルの上に顎を乗せ、力のない声を出した。
「だよね――なんかうち、怖くなってきた……」
「おれもだよ。実際とんでもないことしようとしてるんだよな――」
「暴力団ってさ、やっぱりピストルとか持ってるのかな?」
「――持ってるんじゃないか? 標準装備で」
「……そかあ」
二人は同時にため息を漏らした。
タツヤやヤスカも定期戦のことは悔しかったし、このまま黙って当たり障りなく大学生を過ごすよりも、何か行動を起こしたいと思っていた。シロナの話を聞いた後はいっそうその気持ちは強くなった。
しかし事実、ここまでは勢いで来てしまった感が否めない。
予想していた「行動を起こす」とは、ボランティアサークルほど温厚なものではないにしろ、ここまで直接的なものでもない、具体的には何も思い浮かばない「何か」をするような気がしていた。
――走り出してしまったからにはゴールを目指さなければならない。
ピストルを持った人がスタート地点だけでなく、ゴール付近にもいるけど。
「そういえば――マイ先輩は来ないんですか?」
ヤスカがパラパラと新聞をめくっていたコウタロウに訊いた。
このサークル部屋で起きたあの事件以来、マイはサークルに顔を出したことは一度もなかった。
「――ああ、おれが来るなって言ったからな」
コウタロウの言葉に、ヤスカは口をとんがらせた。
「もーう、先輩はそれでいいんですかぁ? 彼氏は彼女のこと慰めてあげるのが役目ですよ? マイ先輩、今すごくサビシイと思います」
コウタロウは新聞をまた一枚めくった。
「あいつが弱い奴だったらおれもそうしたかもな」
「――強い人でもベッコベコにヘコんじゃう時だってあるんですよ?」
「強いならヘコんでも持ち直せる。誰かが助けたってそいつのためにならない」
「――はぁ。もう何も言いません」
ヤスカは言い返すのを止めた。
しばらくの間、サークル部屋は暖房の音と、時々窓に吹きつける冷たい風の鳴き声だけが響いていた。
「ヤスカ――」
何の前触れもなく、タツヤが言った。
「ん?」
「――お前がやられそうになったら絶対おれ助けに行くから」
ヤスカは驚いてタツヤを見た。コウタロウも新聞の隙間からそっとのぞいた。
「う、うん――ありがと」
ヤスカは頭の中が熱くなっていくのを感じた。暖房は設定温度に達して自動的に止まっていた。
「だ、だからおれがやべぇ時もお前助けに来いよ?! そういう契約だからな?!」
タツヤがやたらと早口で言う。そして「やっぱ授業出てくる」と言って足早に部屋を出ていった。
「契約って――もう、一言余計だっつうの」
「お前、何ニヤニヤしてるんだ?」と、コウタロウ。
ヤスカは頬が浮つくのを止められないでいた。
「べっ、別にニヤニヤなんてしてないですよ?!」
「そんな顔でそんなこと言われてもなあ」
「――う、うち購買でお菓子買ってきます!」
そう言ってヤスカも、ドタバタと部屋を出ていった。
――緊張感があるんだかないんだか。
そう思いながらコウタロウは新聞に視線を戻した。
まあ正直に言って、記事の内容はほとんど頭に入ってこない。
あの時このサークル部屋を飛び出していったマイの表情が、新聞との間に割って入る。
コウタロウはマイとあれ以来、ろくに連絡を取り合っていなかった。
本当に、このまま来ないつもりなのか?
コウタロウはため息をつき、冷めたコーヒーを一口飲んだ。
そしてふと日経新聞の社会面に躍っていた見出しが目に入った。
<協会「戦力増強必至」>
例のロケット団指導者脱獄事件の関連記事だった。
<ポケットモンスター協会(以下、協会)は昨日、全国のジムリーダー、四天王、チャンピオンなどの協会任命トレーナーに加え、民間トレーナーからの募集に踏み切ることを決定した。昨年九月に起きたロケット団員の集団脱獄を受け、本格的に戦力を確保する方針だ。社会人チームや大学等のサークルにはジムリーダーに匹敵する力を持ったトレーナーも少なくなく、今年から協会は全国のジム数を増やし、さらなる民間のレベルアップに繋げることも検討している>
なるほど、要は協会は国民をあげての「総力戦」をも覚悟しているというわけだ。
そして、記事はさらにこう続いていた。
<加えて協会は、既に各地方のレベルの高いチームや個人をチャンピオン自らが視察し、実力の見極めなどに踏み込んでいることを明かした。地方によっては「実戦形式」をとり、実戦下でどのくらい力を発揮できるかの見極めが行われるという>
大学等のサークル。チャンピオン自らが視察。実戦形式。
コウタロウの頭の中で報道と現実が一本の糸で繋がってしまった。
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