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ぐふおおおおおおおおおおお……!
ほ、ほかの人の文章にツッキー出てくると異様にはずかしいんだぜ……!
(嬉しいやら恥ずかしいやらで悶絶)
ちなみに彼は影の中にカゲボウズを収納?してるので、普段はあんまりぞろぞろではないです。
でもゴーストの気配に釣られて出てきちゃったのかもしれないのでそれでも無問題w
宿舎に入り,諸注意の後に荷物を置きに行く。元々小学校だったらしく,教室の一つ一つに二段ベッドが六つ置いてあった。というわけで,誰が上か下かのジャンケン。
ただ,カミヤさんは,
「どうでもいい」
と言って,やらなかった。
結果,私が下,ミコトが上になった。ちなみにカミヤさんは一番端の下だけど,上に寝るはずの子が他の部屋の友達と並んで寝ると言ったらしい。つまり,カミヤさんは一人になる。
荷物を置いたら,早速ガイドを広げる。
「ほとんどは単独行動でいいらしいよ。うちの学校も太っ腹だよね」
「じゃ,お城の方行ってみない?あ,海にも近いんだ。
ねえ,カミヤさんも一緒に」
言いかけた私の言葉がとまった。既に姿はない。
「カミヤさん,もういなくなってる・・」
「ミスミ,まさか彼女も連れて行くつもりだったのかい?大体,僕達を待ってるわけないじゃないか」
「えー」
カミヤさん,何処行ったんだろう?
カオリの足元で,白波がくだけ,サーッと引いていく。遥か彼方に見える群青色の水面は光を受けて輝いている。
「強制参加だったけど,悪くないね」
『いいのか,あの城に行かなくて』
「あともう一日あるから,今日はこっち」
カオリの髪を,海風が撫でていく。灰色のような銀が空に映える。
『カオリーあめくれー』
「はい」
カゲボウズ達にねだられ,ウエストポーチから棒つきキャンディの袋を出し,一本取り出す。口に押し込めばそのまま向こうへ飛んでいく。
『平和だな』
「平和すぎるのも考え物だけどね」
その時,右目の横で黒い何かが飛んでくるのが見えた。ツノの生えたてるてるぼうず・・カゲボウズ。それは百も承知だ。
でも。
「このカゲボウズ,私と一緒にいる子じゃない」
ケケケとその子は笑った。こちらが驚いていることが面白くて仕方ないようだ。
「トレーナーは?野生じゃないよね」
『!』
一緒にいたデスカーンが私の前に出た。私も感じていた。近づいてくる人間の気配を。
そして,その周りに蠢く,カゲボウズの真っ黒な群れを。
「・・」
「こんにちは」
その人間は,男だった。年齢は二十歳前後。落ち着いた色合いの金髪,色白。世間で言うところの『美形』に分類されるような容姿だった。
「・・こんにちは」
警戒しながらも,カオリは何故かこの青年から目を離せないでいた。美形だからではない。彼の持つ独特の気配に,魅せられていたのだ。
「・・カゲボウズだらけ,ですね」
「!」
青年は少し驚いた後,カオリに笑顔を見せた。
「君のポケモン達,君のことが大好きみたいだ。警戒してるよ」
「デスカーン,皆,抑えて」
カオリが言うと,しぶしぶゴーストポケモン達は下がった。だがその目の鋭さは落ちていない。
「あの,貴方は」
「ちょっと不思議な雰囲気を感じたものだから」
「貴方も・・ちょっと変わってますね」
冷たい海風が,背たけの違う二人の間を駆け抜けていく。
「名前」
「?」
「貴方の名前は?私は,カミヤ・カオリ」
「カミヤさんか・・。ちょっと似てるね」
「え」
「僕はツキミヤ。ツキミヤ・コウスケ」
そう言って,青年・・ツキミヤは笑った。
カミヤ カオリ(火宮 香織)
高校一年生だが,同年代の子とは全く趣味が合わず,いつも一人でいることが多い。銀がかかった白の髪を持ち,ゴーストタイプを手なずけている。
彼女に危害を加えようとした者は,皆病院送りになるという噂がある。
どんな場所でも一人で生きていくだけの精神力と知識,体力を備えている。両親と引き離されて育ったため,人を信じることに慣れていなく,思ったことはずけずけという性格である。
カゲネコ ミスミ(影猫 弥恭)
カオリと同じクラスの少女。小説家で,作中に出てくる名前はペンネームらしい。ミスミという名前は本名。
天真爛漫で,怖いもの知らず。幼馴染で親友のミコトを小説に出したり,その小説をバッドエンドにしてしまったり,悪く言えば自分勝手で我侭である。
カオリの秘密を探ろうと近づいたりするが,あまり相手にされない。
スナガミ ミコト(砂神 命)
ミスミの親友兼暴走ストッパー。サバサバした性格で,鰐が大好き。
持っているポケモン三匹の中の二匹は鰐である。
退屈を嫌い,休日になると三匹と一緒に遠くの山や海へ遊びに行き,危険なことに巻き込まれているが,本人は全く気にしていない。
凄まじい怪力の持ち主。
おそらく,説明することはこれくらいでしょう。
では,一章目に入ります。
are you ready?
窓の向こうの景色が,ひたすら右に流れていく。既に山や街路樹は青々とした葉を茂らせている物が多く,花がまだ付いているものは少なかった。
カオリは通路を挟んで騒ぐクラスメイト達の声を嫌だとは思っていなかった。人それぞれだと思っていた・・というより,諦めていたと言った方がいいだろうか。
「あんまり騒がないでよ」
目の前でカゲボウズ達がキャンディの袋に顔を突っ込んでいた。ガサガサという音は,車内の騒音に掻き消されて聞こえることはない。なので,袋が勝手に動いていることに気付く者はいない。
・・だが。
「ミスミ,さっきから何見てるんだい」
カオリの席から四つ斜め後ろに,ミスミとミコトが座っていた。車内だというのに,ミスミはノートパソコンを起動させている。
「カミヤ・カオリ。私達のクラスメイト。誰とも群れることなく,常に一匹狼。時折影の形が縦に増えていたりと,とにかく謎の多い人間・・と」
「ちょっと」
ミコトがノートパソコンを取り上げた。
「話を聞かないなら,これ壊すよ」
「ミコト」
いつになく真剣な表情だったので,ミコトはパソコンを戻した。
「何だよ」
「ミコトは気付いてないの?この前,カミヤさんと話した時のこと」
「カミヤ?」
駄目だ。全く気にしてない。
「ああ,彼女のことか。うん。ちょっと面白そうだとは思ってるよ。
・・で,どうしたの」
ミスミは一呼吸置いて言った。
「私,今回の旅行で彼女とグループを組む。隠してる何かを探し出すのよ」
カオリは外をつまらなそうに見ている。時折手元にある本を広げるが,特に変わったことはない。
ただ,彼女の上で何かの影がふわふわ浮いていた。
時は,高校一年生の春・・の終わり。生徒の親交を深めるために二泊三日の合宿を計画し,それに向かうところだった。
中等部から来た子も多く,既に仲良しのグループは出来上がっていたため,意味があるのかは不明だったが,とにかく私・・ミスミは楽しんでいた。
・・この時は,まだ。
電車から降り,バスに乗り換えても彼女はまだ一人だった。私は横の席に座る。
「カミヤさん,一緒のグループにならない?」
「いいよ」
あまりにもアッサリ言われたので,私はひっくり返りそうになった。
「え,いいの?」
「別に」
それだけ言うと,カミヤさんは窓の外の景色に視線を移してしまった。
こうして横顔を見ると,なかなかの美人だと思う。男子が憧れのまなざしで見ていることはあるが(女子が恨みのこもった目で見ていることはよくある)それでも,表情一つ変えない。
街の中心部まで来た時,クラスメイトの一人が何かに気付いて声をあげた。
「あれ」
山側の景色を指差している小高い丘の頂上に,城があった。
「あれ,なんですか」
「お城のことですか?あれは,雷雲城。その昔,この土地が戦によって平民が敵軍の兵に焼き殺されそうになった時,空から沢山の雷が落ち,人々を救ってくれたそうです。その出来事を祭ったのが,この城だと言われています」
ガイドさんが詳しく説明してくれる。
(今度の小説のネタに使えるかも)
「・・・」
カオリは,その城をジッと見つめていた。
こんにちは,いつも短編掲示板の方で活動しております,紀成と申します。
以前チャットにて,『NO,017さんのキャラクターのツキミヤさんと,我が家のファントムガールのカオリをコラボさせてください!』とお願いしたところ,許可をいただきました。
ありがとうございます。
ですが,書いていくうちにどんどん長くなってしまい,とても短編掲示板の方では(色んな意味で)打てないと思ったので,こちらにアップさせていただくことにします。
どうぞ,よろしくお願いします。
22
「そろそろ交代しよう。白目剥いてるぞ」
アキラはそう言われてはっとした。座っていた座イスから転げ落ちそうになった。
見上げると、ここの家主であるシンがマグカップを持って見下ろしていた。
「まずい、寝ちまったか――そうだな、バトンタッチするよ」
二月二日の夜。時計は十一時を回った。
今日の夕方からずっと当番だったアキラが久しぶりに座イスから立ち上がった。肩がゴキゴキと音を立てる。
「特に変わったところはなかったな。出入りしてる連中もいつも通りのメンツだ」
一週間前から、彼ら「ヘル・スロープ」のメンバーは、交代で暴力団アジトの入口を監視していた。
去年二年生のケイタが仕入れたある店。その店は暴力団がドラッグの受け渡しを頻繁に行っているらしく、今パソコンの画面に映っている雑居ビルにはそこから辿り着いたのだった。そのビルは、観光地化している市街の外れの地元人しか訪れないようなところに身を隠すようにしてひっそりと建っていた。
出入りしている人間が店の方と顔ぶれとの一致していることや、何よりその風貌から、その雑居ビルが暴力団の拠点であることを割り出した。
一見すると、消費者金融会社の事務所が一階に入っているだけの小汚いビルだが、この事務所こそやつらの本拠地である。
善良な企業を装って、なんてことない、悪徳な高利貸しを生業としているのだった。まあ、よくある話かもしれない。
その事務所の向かいに、スナックと居酒屋が身を寄せ合うようにして建っている。
その建物のわずかな隙間にビデオカメラを設置し、ブルーシートの隙間からレンズだけをのぞかせた。ぱっと見はただの粗大ごみにしか見えず、間違ってもこんなものに興味を持つ人間はいないだろう。
そのビデオカメラが撮影した映像をインターネット回線に乗せて、このパソコンに送られてくる、という寸法だ。
こんなことができるのも、コンピューターや情報通信に詳しい四年生のシンのおかげだ。監視室になっているミオシティのこの部屋も、このパソコンも、ビデオカメラもすべてシンが提供している。
一週間に渡る観察の結果――出入りしている顔ぶれからの推測なので一概には言えないが――暴力団の総人数は約二十人。年齢層は二十代から四十代と幅広く、何人かはモンスターボールを携帯しているのが見て取れた。
客らしき人間を除き、出入りが頻発するのは朝と夕方だが、夜遅くまで出入りが絶えないことが多かった。
入ってすぐ出ていく者が多いことを考えるとあまりその事務所に常在してはいないらしい。
こういう道の方々はやはりオフィスワークではなく外でお仕事する場合が多いのだろう。どんな業務内容なのかは知らないが。
「やっぱり、一網打尽といくなら誘い出すのが一番やりやすいだろう」
アキラは台所で水を汲み、一気飲みしてから言った。
「そうだろうな。町中でドンパチやるわけにはいかない」シンは、何か注視しなければならない時にだけかける眼鏡を拭きながらパソコンを見つめた。「暴力団だけあって相当やり慣れてるだろうし、できればこっちに有利な場所で、相手の戦力を分散しつつやりたいところだ」
この手の会話は、実はこの一週間何度も繰り返された話だ。
暴力団メンバーをできるだけ多く、どこかへ誘い出す。集団で戦いなれている相手に有利にならないよう、相手を二、三人ずつに分散し、小分けにして戦力を削っていく。
「問題はどうやって誘い出すかと、どこに誘い出すかだな――」
アキラがそう言うのとほぼ同時に、玄関のドアが開いた。冷たい外気が部屋に吹きこんだ。
「お疲れさん! 差し入れ持ってきたよん!」
現れたのは我がサークルの代表、マキノだった。頭に少し雪を被っている。ジャージにダウンジャケットという出で立ちで、手にはコンビニの袋が下がっていた。
「どうでもいいが、チャイムくらい鳴らせ」とシン。
「もう、冷たいのねシンちゃんは。おでんいらないのかしら?」そう言いながらマキノは部屋の真ん中に据えられたこたつに潜り込み、コンビニ袋を置いた。「はぁー、あったかーい!」
「お、それは激アツ。食ってから寝よう」とアキラ。
「――おでんはいる」全く抑揚のない声でシンはパソコンの画面を見ながら言った。「箸と皿は流しの横だ」
「言われなくてももう使わせてもらってまーす。この一週間でこの部屋の物、なにがどこにあるか熟知したから」
そう言ってマキノはおでんを深皿に取り分けた。ダシのしみ込んだ大根やがんもが湯気をたてる。
「卵は一人一個なので、そこんとこ」
おでんを頬張りながら、三人はミオシティの地図を広げ、作戦の最終調整をした。
残る問題である「誘い出し方」と「誘い出す場所」は、マキノの一言で半ば強引にけりがついた。
「私が誘い出すわ、任せて」
「任せてって、それ大丈夫なのか?」アキラは眉にしわを寄せた。
「ええ、ちょっと乱暴な方法だけど、私とトレスクが必ずおびき出して見せるわ」
トレスクとはマキノのゴローニャの名前だ。
一体どこからそんな自信がくるのだろうと、アキラは異常に不安に思ったが、マキノのトレーナーとしての腕を見込むことにして、結局マキノに丸投げした。こんなんでいいのか、とも思った。
「あと、誘い出す場所なんだけど――」
マキノは地図上の一点を、ゆっくりと指差した。
「ここがやっぱり一番だと思うわ。私たちが一番動きやすい場所でもあるし、逆にやつらは絶対来たことないと思うから」
「――ああ。おれもそこしかないと思う」とシン。
「おびき出すのは夜だ。ゼミ室で寝てるようなやつ以外、誰もいないしな」とアキラ。
「じゃあ、決まりね」
マキノが指を指したのは、他でもない、ミオ大学のキャンパスだった。
23
二月三日、水曜日、節分。早朝のミオシティジムでユウスケは最終調整をしていた。
「ジーナ!」
ユウスケはキリンリキに最後の指示を出した。
キリンリキの額のあたりに電流を帯びた球体が現れ、それがピンポン玉くらいの大きさからどんどん膨らんでいき、ついにはバスケットボールくらいの塊になった。
キリンリキはその長い首をバットのように勢いよく振ると、その電撃の塊が凄まじいスピードで発射された。
「むっ!」
相手をしていたジム・トレーナーのタカユキはその眩しさに眼を庇った。
彼のエアームドに電撃波が直撃した。エアームドはよれよれと翼をはためかせ、やがて地面に着陸した。
「いやぁ、驚いたな! そんな技まで使えるとは!」
タカユキは感嘆しながらエアームドをボールに戻した。
「最近習得したんですよ。電気属性の技は何かと便利なんで」
ユウスケはタカユキにお礼と別れを告げ、ジムを後にした。
決戦の日と言っても関係ない人にとっては今日はただの平日。駅前の道は通勤中の人でいっぱいだった。
ユウスケはその人の流れとは逆方向の大学に向かって歩いていた。
コートの襟を立て、ポケットに手を突っ込む。今日もまた、一段と冷え込むらしい。
昨日の夜はかなり雪が降ったらしく、除雪の済んでいない道は少し歩きづらかった。
ユウスケは携帯を取り出し、ある番号に電話をかけた。
二度コールしたが、相手はなかなか出ない。
この時間に起きていることはまずない人だから、あまり期待しないで三回目の電話をかけた。
<――ふぁい?>
明らかに電話によって起こされた、不機嫌な声。
幸運にも、たった三回目の電話で相手は応答した。
「もしもし、シロナさん? 僕ですよ、ユウスケです」
<――何よ? こんな朝早くに>
「別に朝かけることでもなかったんですけどね、事を起こすのは夜ですし。でも、なるべく早めに確認しときたかったんですよ」
電話越しに風が吹いているような音がした。恐らく、シロナのあくびだろう。
<大丈夫よ、準備は万全。あなたたちのこと、誰も傷つけるつもりはないから。『火を付けた責任』ってのもあるしね>
「そっちじゃないですよ、この前頼んだ件です。覚えてます?」
<この前……ああ。うーんと、あの子よね。ガーディの彼の彼女の――>
「カオリです」
<そう、カオリちゃん。ええ、ゴヨウに確認したけど、なんとかなると思うわ。刑事総務課長がミオ警察署管轄の摘発事件に関与するのはキツいと思ってたけど、意外とゆるいみたいね――でも、あんたがなんでそこまで心配するの?>
ユウスケは少しだけ、言葉を探した。言葉が見つからなかったわけではなく、いくつかの言葉の中でできるだけ良い文句を使いたかったからだ。
「――同情ですかね。楽しくて、充たされた大学生活を、後輩には送ってもらいたいですから」
電話の向こうでシロナはクスクスと笑った。
<へえー、変ったわねーあなたも随分>
「変わってませんよ。未だに僕は変態クソ野郎です」
<高校生の頃は変態じゃなかったわよ? クソ野郎ではあったけど>
「――そうですね、確かに昔はただのクソ野郎でした――それじゃあ本日はどうもよろしくお願い致します」
ユウスケはそう結んで電話を切った。
久しく忘れていた高校時代を、ユウスケは少し思い出した。
たったひとつの不幸で黒く塗りつぶされてしまった、あの高校時代。
あのまま自分には光の射す日々など訪れないと思っていた。
しかし今は思う。「道を踏み外す」なんて、大した過ちじゃない。
手を差し伸べてくれる人さえいれば、すぐにまた自分の足で歩けるようになるから。
実に充実したこの大学四年間、通い慣れたこの坂道を、ユウスケは雪を踏みしめて上っていった。
「よし……今日は、その辺にして置こう」
ハインツが見守るその前で、カイリキーが昨日ドック入りした潜水艦から運び出した最後の『魚雷』を、保管用のケースに収め終えたところで――彼は作業場にいる仲間達全員に向け、今日一日の作業終了を呼び掛けた。
するとその言葉に反応して、作業場のあちこちに散らばっていた工員達が一斉に手を止めて、彼の方を振り返る。
種族は様々な、仕事仲間達一匹一匹の顔を順々に見回しつつ、彼はねぎらいの言葉と共に、翌日の作業予定を簡潔に説明して行く。
――彼の前に居並ぶのは、全てが異種族の作業員達。
手近に立っているのは、カイリキーとワンリキーの兄弟に、少し低身長気味のハッサム。
右手に位置するのは、年老いて多少草臥れた感じのドンファンに、連れ立って此方に目を向けて来ている、オーダイルとヌマクローのコンビ。
更に奥の方では、溶接作業を担当しているブーバーと補助要員のスリープ、それに補充で最近来たばかりのハスブレロが、ゆっくりと歩み寄りつつ、聞き耳を立てていた。
――ここは秋津国から西に位置する大陸の、そのまた西の外れに位置する、中規模国家の一地方都市。
古くから港町として栄えたこの都市は、近年始まった大戦争を待つまでも無く、近代以来ずっと軍港として、発展し続けて来た。
……特に、国家の指導者に現『カイゼル』が即位して以来、徹底した海軍力拡張主義を取った彼の手により、元より戦略上の要衝であったこの都市は、更に一層軍事色を強め、港には軍艦の整備や偽装に使われる施設が、冷たく硬いコンクリートの地肌を連ねて、整然と立ち並ぶ事となる。
三年前に南方の田舎町で徴兵されて以来、ずっと各地で兵役についていたハインツは、一年ほど前に南方の国との戦い―『南部戦線』で負傷し、退役扱いとなったが――優秀なポケモントレーナーでもあった彼には、最早戦局も傾いた昨今、故郷でゆっくりと療養して過ごす事は、許されなかった。
傷が癒えるか癒えないかと言う内に、すかさず勤労召集を受けた彼は、故郷とは丁度真反対の位置にある北の端のこの都市に、ポケモン達による作業班の指図役として投じられて、現在に至っている。
――元々工場やドックで働いていた男達は、次々と徴兵されて前線に送られてしまい、今では彼が指示しているようなポケモンのチームが、この町の機能を支えていた。
「明日は、今日と同じく早朝からの作業になる。 …きついだろうから、しっかりと休んでおいてくれ」
全員が人ならぬ者である目の前の工員達は、当然ながら一匹として、口がきける訳ではない。 ……それでも、家族同然に付き合って来た彼の言葉を受け止めるその表情は真剣で、目付きも含めて不満や不審の色は、まるで無い。
そんな彼らの表情を見る度に、ハインツはいつも心が揺れる。 ……『喋れなくとも、言葉が通じる』――それ故に彼は、本来この様な使われ方をすべきではない生き物である彼らに対して、自分達人間にのみ当て嵌まる義務や責務を、『命令』と言う形で背負わせる事が出来るのだから。
――自分達が行うこの作業が、結果的に破壊や殺戮、あるいはその両方を、憎しみと共に振り撒く根源となっている事……それを正確に自覚しているのは、彼だけであるにもかかわらず――
しかし同時に、彼は自らの経験からも、この仕事が手を抜けないものである事を、良く理解していた。 死と崩壊を呼び込むだけの、『兵器』と呼ばれる忌むべき道具――その一つ一つの出来と調整具合が、実際に命を懸けて戦っている前線の同胞達の生命を、直接左右する事になるからである。
その事を考えれば、如何に愚かな行いであろうとも……一国民として、この国を挙げた生き残り闘争の一端を担う事は、非常な名誉であり、また避けられない義務でもあった。 ……何時も彼は、心が揺れ動く度にそう自らに念じ、合わせて戦局の不利に伴って各地で起こっている、いわゆる『サボタージュ』の動きに対して、控えめながらも批判の論陣を張る事を、躊躇わなかった。
中天に昇った月の光が、波止場付近の倉庫群を青白く照らす。 ……彼が一日の報告書類をしたためている内にも、時は歩みを些かも止めずに、しっかりと夜の何たるかを、地上に示し続けていた。
職場である簡易な修理工廠を出たハインツは、町の中ほどにある自らの仮住まいに向けて、退役の直接の原因となった左足―膝に南の敵国の弾片が、食い入ったままのそれ―を僅かに引き摺りつつ、満月から数夜が過ぎたばかりの、まだ月光あらかたな立待月に見守られながら、長い帰途についていた。
左手には、月の光さえ反射することの無い、漆黒の海。 ……停泊艦船から漏れ出た重油がうねる水面には、どろりとして真っ黒なメタンガスの泡が始終浮かんでおり、時折そういった環境を好むヘドロポケモン達がちらほらと、輝く月に誘われたように顔を出して、波に揺られている。
……しかし彼らは、ハインツに気がつくと一目散に逃げ出して、頭を素早く波間に沈め、水中に身を潜める。 ……まだ戦争が始まって間もない時期は、この急激な環境の変化に、廃液やヘドロを好む彼らはそれこそ爆発的に増え、同じく増え続けていた各種ゴーストポケモン達と共に、『銃後』の社会問題になりかかっていた事さえあったのだが……戦が激しくなって『総力戦』が叫ばれるに及び、凡そ『ポケモン』と名の付くものは見境無く捕らえられ、前線に送り込まれるようになってからは、流石の彼らも大幅に数を減らすと同時に、人間を見れば素早く逃げ出し、身を隠すようになっていた。
ハインツ自身も、現役時代に西部戦線に居た頃は、実際に後方から送られて来て、まだ人に馴染んでもいない新米ポケモン達を、現場の空気に慣らしつつ戦力化するのを担当していただけに、その辺の経緯には、非常に詳しかった。 ……どうしても人に慣れない一部のそう言ったポケモン達は、毒ガス兵器の材料として、用いられてすらいるとも聞く。
しかしそれもまた、このような情勢下では、止むを得ない事であった。 ……少なくとも、彼はまたそう信じ、自分を納得させていた。
……他の事共と、また同じように――
やがて沿岸線を右に折れ、倉庫の間を通り抜けて住宅地に入り、宿舎として借りている、レンガ造りの家屋が近付いてきた時――漸く彼の表情に、柔らかな温もりが戻って来た。
彼が戸口に近付いた頃、静寂に包まれたまま、内部に闇が蟠っていただけのその家屋に、パッと淡い光が燈る。
ゆっくりと手をかけてドアノブをまわし、重い戸を手前に引き開ける。 すると、待ち兼ねたような勢いで、中から一匹のロコンが器用に尻尾をすぼめ、出来た隙間を潜り抜けて、彼の足にじゃれかかって来た。
「ただ今、クライネ」
帰路思った事に、仕事の途中に感じた事――それら今日一日の苦悩の一切を忘れる願いも込め、万感を込めて帰宅の挨拶を言葉にし、身を屈めて綺麗なオレンジ色をした毛並みに手を触れると、彼女は嬉しそうに彼の体に頬を摺り当て、次いで背中側に素早く回り込んで、肩に身軽によじ登る。
未だ子供である小柄な体は、如何に膝に欠陥を抱えている彼と言えども、それほどの負担にはなりはしない。 ハインツはそのまま相手の好きにさせるがままにしておいて、ロコンがしっかりと自分の肩に地歩を固めたところでゆっくりと立ち上がり、室内用の履物に履き替えた。
クライネは、まだ生後2年にも満たない、♀のロコン。 ……ハインツはこのたった一匹の同居人を、一年半前、南部戦線の山岳地帯で拾った。
当時の彼は、最悪の激戦地として恐れられていた西部戦線の塹壕地帯から、同盟国への援兵としてこの地域に派遣されて来た、増援部隊の一員として抜擢され、山深い故郷にも何処となく似た岩と針葉樹林の起伏に満ちた世界を、生まれながらにして備わっていたオドシシの様に屈強な足腰を持って、縦横に駆け巡っていた。
……心中最早二度と出られないだろうと諦めていた、狂おしいほどに狭い壁土と、泥濘の地獄。 ――そこから一転して、自分が生きて来た本来の世界に舞い戻った当時の彼は、未だにその身が覚えていた山野への適応力に対する感動に打ち震えつつ、文字通り水を得た魚が如き軽快さを発揮して、幾多の功績を上げる。
――山中で生まれ育った彼には、平地から登ってきた素人じみた敵の大群の移動経路をいかにして遮断し、どう防衛線の裏を掻き、何処で奇襲を仕掛ければ良いのかが、まさに手に取るように分かった。
そして、そんなある日――彼は、クライネを見つけたのだ。
その日彼らが通過する事となった山林は、敵味方両軍による事前砲撃により、徹底的な掃討射撃を受けていた。 ……そして、行軍を開始してから間も無くの事――彼らは砲弾によって根元から抉られたハイマツの残骸の程近くに、全身に無数の破片を浴びて既に息も無い、金色の毛皮を纏ったボロボロの骸と、その傍らで頻りに親の首の辺りに鼻先を潜り込ませ、早く行こうと促すかのように動かぬ体を押している、幼いきつねポケモンを発見したのである。
「騒ぐようなら、始末しろ」――そう口にした小隊長をそっと押し止めると、ハインツはゆっくりとその親子に歩み寄って行って、冷たくなってゆく親元から離れようとしない、まだ尻尾が一本しかない小さなロコンの体をそっと抱き上げ、連れ去った。
当然ロコンは、嫌がって暴れ出すも――幸い既に空腹やショックで憔悴し切った状態であった為に、按ずるほどには彼ら一行の行軍を妨げる事も無く、無事にその日の野営地まで、連れて行く事が出来た。
その夜、彼は夜通し眠らずに、怯えるロコンの横で付きっ切りで世話を焼き、泥を被った体を拭いてやったり、破片が掠った傷を手当してやったりして、どうにか彼女を落ち着かせた後、有り合わせの携帯食料を食べさせて、寝かし付ける事に成功した。
――昔から共に暮らしていた祖母の、ポケモンの子供の育て方についての知恵や、一緒に山歩きに連れて行ってくれた、山の番人であった祖父の教えが、小さなポケモンの恐怖心とショックを和らげるのに、彼の元々の性格とトレーナーとしての才能同様、非常に大きな役割を果たした。
そして、眠れぬ一夜……自らに意図的に安息の時間を禁じた、長い夜が明けた時――最早そのロコンは、森の奥へと送り出そうとした彼の足元から、離れようとはしなかった。
――それから2ヶ月半の間、険しい山々を縫って転戦する彼らと共に、ロコンは常に行動を共にした。
初めは厄介視していた小隊長や、単なるマスコットとして見、可愛がっていた隊の同僚達も、ロコンがきつねポケモンならではの優れた嗅覚や聴覚で、先んじて危険を察知する場面が増えるに及び、彼女に『チャーム(お守り)』と言う愛称を付けて、重宝がるようになって行く。
彼女は何時もハインツの傍らを離れず、彼が聞き耳を立て、遠くの情勢を確認する為に立ち止まって目を凝らす度に、自らも周囲の気配を確かめるように耳をそばだて、臭いを嗅ぐ事を常としていた。 ……それによって彼女は、度々チームの誰よりも早く隠されていた罠を見破り、また潜んでいた敵ポケモンの位置を特定して、小隊の危機防止に、大きな役割を果たして見せる。
――ロコンが部隊と共に行動するようになってからは、彼の隊では誰一人として、身を潜めていた森トカゲに襲われたり、樹木の陰に敷設された地雷の犠牲になるような者は、出る事がなかった。
……しかしそれでも、ハインツだけは知っていた。 彼女が身を置いている部隊の仲間達からも、寄り添われている自分自身からも……あの時彼女の一番大切な存在を奪っていった、悪魔の臭い―死を連想する無煙火薬と金錆びの臭いが、濃厚に漂い出で、こびり付いている事を――
だから彼は、それ以後もずっと相手のポケモンに対して、捕獲用具を使わなかったし――敢えて彼女―ロコンに、特別な名は付けなかった。 ……常には同僚達と同じくチャームと呼んだし、直接構ってやる時は、『クライネ(小さいの)』と呼んだ。
――全ては、自らをして彼女の主人となる決心が付かなかったのと、心を込めた名前を付けて、必要以上に身近な存在になるのが、怖かったからだ。 ……自らの立場の危うさや、それによって浮き上がってくる相手のポケモンの運命を思うと、彼はどうしても暗澹たる思いと躊躇いを、振り払う事が出来なかった――
「(しかし僕は、まだこいつと一緒にいる……)」
遅い夜食を意識して、ゆっくりと時間をかけて口にした後――これもまた同じく、慎ましいながらも心の篭った、彼お手製のポケモンフーズを十分に口にして、幸せそうに腕の中に抱かれているロコンと共に、静かに寝所へと足を運びつつ、ハインツは独り思いを反芻し、噛み締める。
――結局あれから半年後、彼は単身斥候に出た所で敵方の索敵網に引っかかって、迫撃砲での猛烈な制圧射撃を受けて重傷を負い、前線を去ったが――その際にもこのポケモンは、膝の辺りを弾片で抉られて、血だらけになって呻吟していた彼を真っ先に見つけ、そのまま片時も傍らを離れようとはせず、最終的には引き離そうとした軍医や同僚達の方が根負けして、『傷病兵の付き添い』と言う名目で、共に彼の故郷へ帰ることになったのである。
しかし、漸く戻った故郷も、確かに都会に比べれば、ずっと密やかなものではあったが――冷たく暗い戦争の影は、山間に佇む小さな町にも、しっかりと忍び寄って来ていた。
彼の父親は―前線にいた頃に、前以て手紙で知らされていた事ではあったが―既に東の国との戦いで戦死しており、近所の見知った顔も、随分少なくなっていた。
幼馴染も、同性別の連中は全て各地に散っており、残っていたのは、みんな異性の顔見知りばかり。 ……その彼女らも、殆どは既に相手を決めており、送り出した婚約者や夫の帰りを待つ身ともなれば、一様に表情は暗い。
中には意識して明るく装おうとするような者も、数人は居たが……やはり翳りを含んだその笑顔では、生来他者の感情に対して敏感な感性を持つハインツの目を欺く事は、到底叶わなかった。 ……それでも、何とか気丈に振舞おうとする幼馴染達の健気な努力は、反って負傷してリタイアせざるを得なかった彼の心に、言いようの無い感情を呼び覚ます。
――もう二度と、山野を駆け巡る事が叶わないのは、この上も無い苦痛だと思っていたのだが……故郷の有様と置かれている状態を見て、彼はこの時勢に『何もせずに静かに過ごす』と言う事が、下手な苦悩や障害よりも遥かに苦痛に満ちたものであると言う事実を、身を以って味わう結果になったのである。
……だからこそ、現在の職務への勤労招集が掛かった時の心境は、正直な所ホッとしたと言うのが、本音であった。
「(そしてこいつも、またここまで付いて来てしまった…… ……別にあそこの空気や山並みが、気に入らなかった訳でも無いだろうに)」
――故郷(あそこ)で過ごした2ヶ月足らずの間、既に尻尾が種族名通りに6本にまで分かれ終わっていたクライネは、始終近くの山中に分け入って遊んでいた。
当初は、現地に元々住んでいるポケモン達の縄張りを犯してトラブルになる事を恐れたハインツが、不自由な体を押して、一緒に付き添ったものであったが……『実戦経験』で鍛えられた彼女の感覚や危機回避能力は、同伴するハインツですら舌を巻くほどのものであり、危ない目に合うような要素は皆無であった。
その内ロコンは、ハインツの家族―寡婦となってしまった母親や、共に家を守っている年老いた祖母。 既に婚約者の決まっていた妹に、幼い弟。 ……それに、未だに矍鑠としている山番の祖父にも良く慣れて、森に木の実を拾いに行くのに同伴したり、近所の子供達の遊び相手を務めたり、まだ小さな『火の粉』しか使えないながらも、釣ってきた魚を燻製にするのを手伝ったりして、すっかり家族の一員として、受け入れられるまでになったのである。
……だからこそ彼は、再び此方に赴任してくる時、命の恩人でもあるクライネを、何とか静かな山間の町に置いて来ようと、様々に苦心したのであるが――元より知能の比較的高いポケモン・ロコンである彼女は、幾度か試みた彼の不意の出発を尽く空振りに終わらせて、とうとう煤煙と火薬の臭い、それに喧騒と灯火管制が支配するこの地まで、彼にくっ付いて来てしまった。
そして、そんなこんなで日々は過ぎ行き――やがていつの間にかハインツにとっても、このまだ幼いきつねポケモンは、鬱積する苦悩や空虚さを埋めてくれるただ一つの支えとして、彼の心の中に、動かしがたい地位を占める事となっていったのである――
寝所に足を踏み入れたハインツは、依然変わりなく、足に負担が掛からないようゆっくりと歩きつつも、今度は加えて意識して、極力足音を立てぬように気を配りながら、家の本来の所有者が好意で残して行ってくれた、小さなベッドに向けて近付いていった。 ……次いで、その縁の辺りにそっと腰を下ろしてから、大人しく運ばれるままになっていたロコンを、反対寄りに寝かせてやる。
既に満腹感と留守番による疲れから、大きな瞳を泳がせながら揺らめかせていた彼女は、やがて間も無しに大きな欠伸をしたかと思うと、とろんとした両の目を閉じて、静かな寝息を立て始める。
――現場監督にされる前の、兵隊に仕立て上げられる更に前――祖父から薫陶を受けた腕利きの猟師だったハインツの耳には、微小に過ぎる小さなポケモンの寝息も、しっかりと聞き取ることが出来た。
そのあどけない様子に、彼は声を立てずに優しく微笑むと、敏感なきつねポケモンの眠りを妨げないよう手は触れずに、静かにお休みを言う。
……次いで、そっとベッドの下に手を入れると、そこに置かれている大きなトランクの中から、一枚の羽を取り出した。
彼は眠っているクライネの頭の上に、静かにそれ―薄い青を基調とした地に水色の文様が乗った、美しい風切り羽―をかざすと、柔らかな毛先の部分で優しくきつねポケモンの頭を撫でながら、古くから伝わる祝詞を呟く。
――寝る前には何時も必ず、欠かさず行っているその呪(まじな)いは、共にあるポケモンが健やかで丈夫に育つようにとの祈りを込めたもので、村にずっと伝わって来ていた、古い習慣であった。
無事にロコンを起こす事も無くそれを終えると、ハインツはベッド際に置いてある小さな二本の蝋燭の内一本を吹き消し、残り一本の小さな明かりを遮りながら、大切なパートナーの穏やかな寝顔を、静かに見守る。
……明日もやはり、予定は詰まっていたが―― 今はただ、この一時を大切にしていたかった――
※こちらは原文です。 ……過激な描写や出血表現が用いられる可能性がある為、中学生未満の方や残酷表現に敏感な方は、ご覧になることを見合わせ下さいますよう、予めお願い致し置きます――
「よし……。今日は、その辺にして置こう」
見守る彼の指示の下、カイリキーが昨日ドック入りした潜水艦から運び出した最後の魚雷を、保管用のケースに収め終える。無事格納したのを見届けたところで、ハインツは作業場にいる仲間達全員に向け、今日一日の作業終了を呼び掛けた。
するとその言葉に反応して、作業場のあちこちに散らばっていた工員達が一斉に手を止めて、彼の方を振り返る。種族は様々な、仕事仲間達一匹一匹の顔を順々に見回しつつ、彼はねぎらいの言葉と共に、翌日の作業予定を簡潔に説明していく。
彼の前に居並ぶのは、全てが異種族の作業員達。手近に立っているのは、カイリキーとワンリキーの兄弟に、少し低身長気味のハッサム。右手に位置するのは、年老いて多少草臥れた感じのドンファンに、連れ立って此方に目を向けて来ている、オーダイルとヌマクローのコンビ。更に奥の方では、溶接作業を担当しているブーバーと補助要員のスリープ、それに補充で最近来たばかりのハスブレロが、ゆっくりと歩み寄りつつ、聞き耳を立てていた。
――ここは秋津国から西に位置する大陸の、そのまた西の外れに位置する、中規模国家の一地方都市。古くから港町として栄えたこの都市は、近年始まった大戦争を待つまでも無く、近代以来ずっと軍港として発展して来た。
特に国家元首に現カイゼルが即位して以来、徹底した海軍力拡張主義を取った彼の手により、元より戦略上の要衝であったこの都市は、更に一層軍事色を強め、港には軍艦の整備や偽装に使われる施設が、冷たく硬いコンクリートの地肌を連ね、整然と立ち並ぶ事となる。
三年前に南方の田舎町で徴兵されて以来、ずっと各地で兵役に就いていたハインツは、一年ほど前に南方の国との戦い――「南部戦線」で負傷し、退役扱いとなっていたのであるが、優秀なポケモントレーナーでもあった彼には、最早戦局も傾いた昨今、故郷でゆっくりと療養して過ごす事は許されなかった。
傷が癒えるか癒えないかと言う内にすかさず勤労召集を受けた彼は、故郷とは丁度真反対の位置にある北の端のこの都市に、ポケモン達による作業班の指図役として投じられ、今に至っている。元々工場やドックで働いていた男達は、次々と徴兵されて前線に送られてしまい、今では彼が指示しているようなポケモンのチームが、この町の機能を支えていた。
「明日は今日と同じく早朝からの作業になる。……きついだろうから、しっかりと休んでおいてくれ」
全員が人ならぬ者である目の前の工員達は、当然ながら一匹として、口がきける訳ではない。それでも、家族同然に付き合って来た彼の言葉を受け止める顔は真剣で、目付きも含め不満や不審の色はまるで無い。
そんな彼らの表情を見る度に、ハインツはいつも心が揺れる。「喋れなくとも、言葉が通じる」――それ故に彼は、本来この様な使われ方をすべきではない生き物である彼らに対し、自分達人間にのみ当て嵌まる義務や責務を、命令と言う形で背負わせる事が出来るのだ。
自分達が行うこの作業が、結果的に破壊や殺戮、あるいはその両方を、憎しみと共に振り撒く根源となっている事。……それを正確に自覚しているのは、彼だけであるにもかかわらず。
しかし同時に彼は、自らの経験からも、この仕事が手を抜けないものである事を、深く理解していた。死と崩壊を呼び込むだけの、『兵器』と呼ばれる忌むべき道具――その一つ一つの出来と調整具合が、実際に命を懸けて戦っている同胞達の生命を、直接左右する事になるからである。
その事を考えれば、如何に愚かな行いであろうとも、一国民としてこの国を挙げた生き残り闘争の一端を担う事は非常な名誉であり、また避けられない義務でもあった。何時も彼は、心が揺れ動く度にそう自らに念じ、合わせて戦局の不利に伴って各地で起こっている、いわゆる『サボタージュ』の動きに対し、控えめながらも批判の論陣を張る事を躊躇わなかった。
中天に昇った月の光が、波止場の倉庫群を青白く照らす。彼が一日の報告書類をしたためている内にも、時は歩みを些かも止めず、しっかりと夜の何たるかを、地上に示し続けていた。
職場である簡易な修理工廠を出たハインツは、町の中ほどにある自らの仮住まいに向けて、退役の直接の原因となった左足―膝に南の敵国の弾片が、食い入ったままのそれ―を僅かに引き摺りつつ、満月から数夜が過ぎたばかりの、まだ月光あらかたな立待月に見守られながら、長い帰途についていた。
左手には、月の光さえ反射することの無い、漆黒の海。 ……停泊艦船から漏れ出た重油がうねる水面には、どろりとして真っ黒なメタンガスの泡が始終浮かんでおり、時折そういった環境を好むヘドロポケモン達がちらほらと、輝く月に誘われたように顔を出して、波に揺られている。
……しかし彼らは、ハインツに気がつくと一目散に逃げ出して、頭を素早く波間に沈め、水中に身を潜める。 ……まだ戦争が始まって間もない時期は、この急激な環境の変化に、廃液やヘドロを好む彼らはそれこそ爆発的に増え、同じく増え続けていた各種ゴーストポケモン達と共に、『銃後』の社会問題になりかかっていた事さえあったのだが……戦が激しくなって『総力戦』が叫ばれるに及び、凡そ『ポケモン』と名の付くものは見境無く捕らえられ、前線に送り込まれるようになってからは、流石の彼らも大幅に数を減らすと同時に、人間を見れば素早く逃げ出し、身を隠すようになっていた。
ハインツ自身も、現役時代に西部戦線に居た頃は、実際に後方から送られて来て、まだ人に馴染んでもいない新米ポケモン達を、現場の空気に慣らしつつ戦力化するのを担当していただけに、その辺の経緯には、非常に詳しかった。 ……どうしても人に慣れない一部のそう言ったポケモン達は、毒ガス兵器の材料として、用いられてすらいるとも聞く。
しかしそれもまた、このような情勢下では、止むを得ない事であった。 ……少なくとも、彼はまたそう信じ、自分を納得させていた。
……他の事共と、また同じように――
やがて沿岸線を右に折れ、倉庫の間を通り抜けて住宅地に入り、宿舎として借りている、レンガ造りの家屋が近付いてきた時――漸く彼の表情に、柔らかな温もりが戻って来た。
彼が戸口に近付いた頃、静寂に包まれたまま、内部に闇が蟠っていただけのその家屋に、パッと淡い光が燈る。
ゆっくりと手をかけてドアノブをまわし、重い戸を手前に引き開ける。 すると、待ち兼ねたような勢いで、中から一匹のロコンが器用に尻尾をすぼめ、出来た隙間を潜り抜けて、彼の足にじゃれかかって来た。
「ただ今、クライネ」
帰路思った事に、仕事の途中に感じた事――それら今日一日の苦悩の一切を忘れる願いも込め、万感を込めて帰宅の挨拶を言葉にし、身を屈めて綺麗なオレンジ色をした毛並みに手を触れると、彼女は嬉しそうに彼の体に頬を摺り当て、次いで背中側に素早く回り込んで、肩に身軽によじ登る。
未だ子供である小柄な体は、如何に膝に欠陥を抱えている彼と言えども、それほどの負担にはなりはしない。 ハインツはそのまま相手の好きにさせるがままにしておいて、ロコンがしっかりと自分の肩に地歩を固めたところでゆっくりと立ち上がり、室内用の履物に履き替えた。
クライネは、まだ生後2年にも満たない、♀のロコン。 ……ハインツはこのたった一匹の同居人を、一年半前、南部戦線の山岳地帯で拾った。
当時の彼は、最悪の激戦地として恐れられていた西部戦線の塹壕地帯から、同盟国への援兵としてこの地域に派遣されて来た、増援部隊の一員として抜擢され、山深い故郷にも何処となく似た岩と針葉樹林の起伏に満ちた世界を、生まれながらにして備わっていたオドシシの様に屈強な足腰を持って、縦横に駆け巡っていた。
……心中最早二度と出られないだろうと諦めていた、狂おしいほどに狭い壁土と、泥濘の地獄。 ――そこから一転して、自分が生きて来た本来の世界に舞い戻った当時の彼は、未だにその身が覚えていた山野への適応力に対する感動に打ち震えつつ、文字通り水を得た魚が如き軽快さを発揮して、幾多の功績を上げる。
――山中で生まれ育った彼には、平地から登ってきた素人じみた敵の大群の移動経路をいかにして遮断し、どう防衛線の裏を掻き、何処で奇襲を仕掛ければ良いのかが、まさに手に取るように分かった。
そして、そんなある日――彼は、クライネを見つけたのだ。
その日彼らが通過する事となった山林は、敵味方両軍による事前砲撃により、徹底的な掃討射撃を受けていた。 ……そして、行軍を開始してから間も無くの事――彼らは砲弾によって根元から抉られたハイマツの残骸の程近くに、全身に無数の破片を浴びて既に息も無い、金色の毛皮を纏ったボロボロの骸と、その傍らで頻りに親の首の辺りに鼻先を潜り込ませ、早く行こうと促すかのように動かぬ体を押している、幼いきつねポケモンを発見したのである。
「騒ぐようなら、始末しろ」――そう口にした小隊長をそっと押し止めると、ハインツはゆっくりとその親子に歩み寄って行って、冷たくなってゆく親元から離れようとしない、まだ尻尾が一本しかない小さなロコンの体をそっと抱き上げ、連れ去った。
当然ロコンは、嫌がって暴れ出すも、幸い既に空腹やショックで憔悴し切った状態であった為に、按ずるほどには彼ら一行の行軍を妨げる事も無く、無事にその日の野営地まで、連れて行く事が出来た。
その夜、彼は夜通し眠らずに、怯えるロコンの横で付きっ切りで世話を焼き、泥を被った体を拭いてやったり、破片が掠った傷を手当してやったりして、どうにか彼女を落ち着かせた後、有り合わせの携帯食料を食べさせて、寝かし付ける事に成功した。
――昔から共に暮らしていた祖母の、ポケモンの子供の育て方についての知恵や、一緒に山歩きに連れて行ってくれた、山の番人であった祖父の教えが、小さなポケモンの恐怖心とショックを和らげるのに、彼の元々の性格とトレーナーとしての才能同様、非常に大きな役割を果たした。
そして、眠れぬ一夜……自らに意図的に安息の時間を禁じた、長い夜が明けた時――最早そのロコンは、森の奥へと送り出そうとした彼の足元から、離れようとはしなかった。
――それから2ヶ月半の間、険しい山々を縫って転戦する彼らと共に、ロコンは常に行動を共にした。
初めは厄介視していた小隊長や、単なるマスコットとして見、可愛がっていた隊の同僚達も、ロコンがきつねポケモンならではの優れた嗅覚や聴覚で、先んじて危険を察知する場面が増えるに及び、彼女に『チャーム(お守り)』と言う愛称を付けて、重宝がるようになって行く。
彼女は何時もハインツの傍らを離れず、彼が聞き耳を立て、遠くの情勢を確認する為に立ち止まって目を凝らす度に、自らも周囲の気配を確かめるように耳をそばだて、臭いを嗅ぐ事を常としていた。 ……それによって彼女は、度々チームの誰よりも早く隠されていた罠を見破り、また潜んでいた敵ポケモンの位置を特定して、小隊の危機防止に、大きな役割を果たして見せる。
――ロコンが部隊と共に行動するようになってからは、彼の隊では誰一人として、身を潜めていた森トカゲに襲われたり、樹木の陰に敷設された地雷の犠牲になるような者は、出る事がなかった。
……しかしそれでも、ハインツだけは知っていた。 彼女が身を置いている部隊の仲間達からも、寄り添われている自分自身からも……あの時彼女の一番大切な存在を奪っていった、悪魔の臭い―死を連想する無煙火薬と金錆びの臭いが、濃厚に漂い出で、こびり付いている事を――
だから彼は、それ以後もずっと相手のポケモンに対して捕獲用具を使わなかったし、敢えて彼女―ロコンに、特別な名は付けなかった。 ……常には同僚達と同じくチャームと呼んだし、直接構ってやる時は、『クライネ(小さいの)』と呼んだ。
――全ては、自らをして彼女の主人となる決心が付かなかったのと、心を込めた名前を付けて、必要以上に身近な存在になるのが、怖かったからだ。 ……自らの立場の危うさや、それによって浮き上がってくる相手のポケモンの運命を思うと、彼はどうしても暗澹たる思いと躊躇いを、振り払う事が出来なかった――
「(しかし僕は、まだこいつと一緒にいる……)」
遅い夜食を意識して、ゆっくりと時間をかけて口にした後――これもまた同じく、慎ましいながらも心の篭った、彼お手製のポケモンフーズを十分に口にして、幸せそうに腕の中に抱かれているロコンと共に、静かに寝所へと足を運びつつ、ハインツは独り思いを反芻し、噛み締める。
結局、あれから半年後――彼は数名の仲間と共に斥候に出た所で、敵方の索敵網に引っかかり、迫撃砲での猛烈な制圧射撃で重傷を負って、前線を去った。
その日彼は、部隊の中から選抜された二人の兵士と共に、尾根の向こう側に集結しつつある敵の攻勢部隊を偵察すべく、本体から大きく突出した形で行動していた。
先頭を行くベテラン下士官の後に従いながら、ハインツら二名の同行者と同数のポケモン達は、起伏に富んだ高地に点在する針葉樹の林を縫いつつ、鋭い視線を配って進む。
敵陣に浸透しようと試みている彼らにとっては、美しい緑野も高地からの見事な景観も、ただのフィールドに過ぎなかった。 ……風が吹き渡っていくなだらかな草原は、何の遮蔽物も得られ無い危険地帯と映ったし、光と影が織り成す奇岩と山肌のコントラストも、狙撃兵や弾着観測手が潜む可能性がある、厄介なオブジェクトでしかない。
開けた開豁地では飛行ポケモンの奇襲を警戒し、林の中を通り抜ける時は、頭上から忍び寄って来る可能性のある、樹上性の獣達の幻影がチラつく。 ――杖代わりにも使える山岳部隊用のライフルは、磨耗を防ぐ為銃床に鉄板が張られてはいるものの、地面に突いた時に響く音を考慮して、誰も歩行の補助に使おうとはしない。
常に中腰で進む一行の、その利き手の親指は、絶えず構えられた得物の安全装置(セーフティ)に掛かっており、時折その手は無意識の内に、腰の弾薬ベルトの中に入っている対携帯獣用の弾薬を、確かめるようにそっと押さえる。 ……人よりも遥かに強靭な生命力を持つポケモンを、一撃で戦闘不能にするべく開発されたそれは、鋼鉄の被帽と炸薬を充填された弾頭を持つ、言わば徹甲炸裂弾だった。
――行動中に不審なポケモンを見かけた時に、それが味方の所属ではなかった場合――彼らはほぼ百パーセント、岩タイプのポケモンの四肢すら吹き飛ばす威力を持ったそれを、躊躇いもなくライフルに装填し、見かけたポケモンを狙い撃った。 ……明確に野生の個体と見分けられない限り、所属の不明なポケモン達を野放しにして置くのは、余りにもリスクが大き過ぎたからだ。
恐怖が常に敵愾心と隣り合う世界では、『戦場』と区分されたその場に無関係の者が居る事自体が、既に許されざる罪であった。 ……例えそれが、如何に彼ら関係の無い野生のポケモン達にとって、理不尽な事柄であったとしても――
黙々と進む先導役の軍曹は、一時も無駄にする事無く的確なルートを選び、随伴ポケモンであるワルビルとレントラーは、人ならぬ者ならではの鋭い感覚と積み上げられた経験とで、時々思い出したように配置されている設置式トラップの存在を、漏らす事無く読み取っていく。 ……しかしそれでも、息を殺して待ち受けていた、敵方の弾着観測手の目を逃れる事は、出来なかった。
結局ハインツ達は最後まで、相手の位置も正体も、掴めないままに終わった。 ――ひょっとしたら、あの時の観測手は人間ではなく、ピクシーやルカリオのような、遠距離から相手を捕捉出来る能力を持った、ポケモンであったのかも知れない。
……しかし、それが何者によって齎されたものであれ――彼と彼らが不意を突かれた事だけは、確かな事だった。
彼らの一行が、幾らか視界の開けた低地に、足を踏み入れた時――唐突に耳に飛び込んで来た甲高い飛翔音から、土くれを巻き上げて第一弾が炸裂するまでは、文字通り一呼吸ほどの間もなかった。 ――最初の一発が着弾したのと同時に、膝に火の様な打撃を受けて倒れ込んだハインツの目の前で、周囲の戦友達はまるで粘土細工が引き裂かれるような勢いで、次々と吹き飛ばされていく。
先頭に位置していた先任下士官は、彼を傷付けたものと同じ迫撃砲弾から飛び散った、鋼鉄のヘルメットをも紙の様に貫く榴散弾の弾片をまともに受けて、瞬時に首から上を失った。 その隣に位置していた同僚は、続けて直ぐ傍に落ちて来た第二弾の爆風に引っさらわれ、胸板に長靴を履いた足が楽々納まるほどの穴を空けられて地面に叩きつけられ、男の手持ちだったワルビルは、脾腹を両断されるほどに深く引き裂かれて、無惨な有様で事切れる。
何とかその場で地に伏せたレントラーのみ、暫くは無傷であったものの――やがて血走った目で辺りを見回す内、間を置かずに落下して来た一弾が頭部に突き刺さり、次の瞬間悲鳴を上げる暇すらなく、閃光と共に消え失せた。 ……傍らで命を失った地面タイプの僚友とは違い、苦痛にもがく時間が存在しなかった事だけが、彼の唯一の救いだった。
生気を失ったままに見開かれた砂漠鰐ポケモンの瞳と、湯気を立てながら広がっていく、夥しい鮮血。 ――それらを呆然と見やりながら、ベタベタの流血に塗れた己の膝を力無く投げ出して呻吟しつつ、次々と飛び来る砲弾に身を晒していたハインツが、無事に失血死を免れて生還出来たのは、遥か後方から真っ先に血の臭いを察知し、衛生兵を引き連れて傍らに飛び込んで来てくれた、ロコンのお陰だった。
……場馴れた衛生下士官ですら、思わず目を剥く様な凄惨な光景が広がる中、ムッとする血生臭さに嗅覚を奪われ、飛び来る砲弾に聴覚を狂わされながらも、彼女は片時も彼の傍から動こうとはせず、寄り添わせた小さな体を、土煙と流血で汚されるままに任せ置いていた。
ロコンのその献身は、後方に位置していた部隊の他の連中をも、同時に動かす事となり――焦燥に歯を食い縛った衛生下士官に、慌しく応急手当を受けたハインツは、遅れて駆けつけて来た他の戦友達に担がれ、掌大の死神が飛び交うその低地を、辛くも脱出する事が出来た。 ……その後は、野戦病院での手術も無事成功し、片足に障害こそ残りはしたものの、逆にそれが理由となって、彼はその場で兵役免除・退役を宣告される。
――そして、その際も――ロコンは何があろうとも、彼の下から離れようとはせず、最終的には引き離そうとした軍医や同僚達の方が根負けして、『傷病兵の付き添い』と言う名目で、共に彼の故郷へと、帰る事となったのだった。
そんな目に合いつつ漸く戻った故郷も、確かに都会に比べれば、ずっと密やかなものではあったが――冷たく暗い戦争の影は、山間に佇む小さな町にも、しっかりと忍び寄って来ていた。
彼の父親は―前線にいた頃に、前以て手紙で知らされていた事ではあったが―既に東の国との戦いで戦死しており、近所の見知った顔も、随分少なくなっていた。
幼馴染も、同性別の連中は全て各地に散っており、残っていたのは、みんな異性の顔見知りばかり。 ……その彼女らも、殆どは既に相手を決めており、送り出した婚約者や夫の帰りを待つ身ともなれば、一様に表情は暗い。
中には意識して明るく装おうとするような者も、数人は居たが……やはり翳りを含んだその笑顔では、生来他者の感情に対して敏感な感性を持つハインツの目を欺く事は、到底叶わなかった。 ……それでも、何とか気丈に振舞おうとする幼馴染達の健気な努力は、反って負傷してリタイアせざるを得なかった彼の心に、言いようの無い感情を呼び覚ます。
――もう二度と、山野を駆け巡る事が叶わないのは、この上も無い苦痛だと思っていたのだが……故郷の有様と置かれている状態を見て、彼はこの時勢に『何もせずに静かに過ごす』と言う事が、下手な苦悩や障害よりも遥かに苦痛に満ちたものであると言う事実を、身を以って味わう結果になったのである。
……だからこそ、現在の職務への勤労招集が掛かった時の心境は、正直な所ホッとしたと言うのが、本音であった。
「(そしてこいつも、またここまで付いて来てしまった…… ……別にあそこの空気や山並みが、気に入らなかった訳でも無いだろうに)」
――故郷(あそこ)で過ごした2ヶ月足らずの間、既に尻尾が種族名通りに6本にまで分かれ終わっていたクライネは、始終近くの山中に分け入って遊んでいた。
当初は、現地に元々住んでいるポケモン達の縄張りを犯してトラブルになる事を恐れたハインツが、不自由な体を押して、一緒に付き添ったものであったが……『実戦経験』で鍛えられた彼女の感覚や危機回避能力は、同伴するハインツですら舌を巻くほどのものであり、危ない目に合うような要素は皆無であった。
その内ロコンは、ハインツの家族―寡婦となってしまった母親や、共に家を守っている年老いた祖母。 既に婚約者の決まっていた妹に、幼い弟。 ……それに、未だに矍鑠としている山番の祖父にも良く慣れて、森に木の実を拾いに行くのに同伴したり、近所の子供達の遊び相手を務めたり、まだ小さな『火の粉』しか使えないながらも、釣ってきた魚を燻製にするのを手伝ったりして、すっかり家族の一員として、受け入れられるまでになったのである。
……だからこそ彼は、再び此方に赴任してくる時、命の恩人でもあるクライネを、何とか静かな山間の町に置いて来ようと、様々に苦心したのであるが――元より知能の比較的高いポケモン・ロコンである彼女は、幾度か試みた彼の不意の出発を尽く空振りに終わらせて、とうとう煤煙と火薬の臭い、それに喧騒と灯火管制が支配するこの地まで、彼にくっ付いて来てしまった。
そして、そんなこんなで日々は過ぎ行き――やがていつの間にかハインツにとっても、このまだ幼いきつねポケモンは、鬱積する苦悩や空虚さを埋めてくれるただ一つの支えとして、彼の心の中に、動かしがたい地位を占める事となっていったのである――
寝所に足を踏み入れたハインツは、依然変わりなく、足に負担が掛からないようゆっくりと歩きつつも、今度は加えて意識して、極力足音を立てぬように気を配りながら、家の本来の所有者が好意で残して行ってくれた、小さなベッドに向けて近付いていった。 ……次いで、その縁の辺りにそっと腰を下ろしてから、大人しく運ばれるままになっていたロコンを、反対寄りに寝かせてやる。
既に満腹感と留守番による疲れから、大きな瞳を泳がせながら揺らめかせていた彼女は、やがて間も無しに大きな欠伸をしたかと思うと、とろんとした両の目を閉じて、静かな寝息を立て始める。
――現場監督にされる前の、兵隊に仕立て上げられる更に前――祖父から薫陶を受けた腕利きの猟師だったハインツの耳には、微小に過ぎる小さなポケモンの寝息も、しっかりと聞き取ることが出来た。
そのあどけない様子に、彼は声を立てずに優しく微笑むと、敏感なきつねポケモンの眠りを妨げないよう手は触れずに、静かにお休みを言う。
……次いで、そっとベッドの下に手を入れると、そこに置かれている大きなトランクの中から、一枚の羽を取り出した。
彼は眠っているクライネの頭の上に、静かにそれ―薄い青を基調とした地に水色の文様が乗った、美しい風切り羽―をかざすと、柔らかな毛先の部分で優しくきつねポケモンの頭を撫でながら、古くから伝わる祝詞を呟く。
――寝る前には何時も必ず、欠かさず行っているその呪(まじな)いは、共にあるポケモンが健やかで丈夫に育つようにとの祈りを込めたもので、村にずっと伝わって来ていた、古い習慣であった。
無事にロコンを起こす事も無くそれを終えると、ハインツはベッド際に置いてある小さな二本の蝋燭の内一本を吹き消し、残り一本の小さな明かりを遮りながら、大切なパートナーの穏やかな寝顔を、静かに見守る。
……明日もやはり、予定は詰まっていたが―― 今はただ、この一時を大切にしていたかった――
さて、タマムシシティの街外れのほうにある楓荘には、
一室に大家代理の楓山幸。
一室にタマムシ高校に通っていて、偶然にも同居中の日暮山治斗と天姫灯夢。
以上の二室以外にも楓荘にはまだ二室、
一室に一人ずつ住んでいた。
「……あ、どうも。確か……新しく入った、日暮山さんと天姫さんですよね?
自分は暗下(くらした)と言います……。
これ、ありがたく、もらいますね。
あっうん、今行くから……すいませんポリゴンが呼んでいるので、では……」
楓荘の二階、治斗と灯夢の部屋の隣にある一室。
身の丈は175センチほど。
両目を隠すほど、黒い前髪がかかっていて、
どうやら大きい丸底の眼鏡をかけている。
職業不明の男――暗下は
明かりも付いていない、だけど機械音やら電子音が鳴り響いている空間に戻って行った。
「ああん、ウワサに聞いてたわよう。
ええっと、ヒムヒムちゃんとヒグヒグくんだったわよねぇん?
あらためて〜、アタシは水美(みずみ)よぉ〜、よろしくねぇ〜ん。
ああん、アタシもまだ現役だ・け・ど、アンタたちの肌もプルンゲル、ねぇ〜!」
楓荘の一階、楓山幸の部屋の隣にある一室。
身の丈は164センチほど。
小豆色のジャージを着用していて、
ポニーテールに縛られた金色の髪は腰まで垂らしていた。
夜のお仕事をしていると言われている女――水美は
……若干、酒臭い匂いを漂わせながら、へらへらと口元を緩めていた。
無事に期末テストも終え、返ってきたテストは赤点一つもなく、
一学期終業式での通知表による喧騒(けんそう)に巻き込まれながらも、
治斗と灯夢は夏休みの門をくぐって行ったのであった。
「ん? なんや、おんどれ、もう宿題やっとるのか?」
「なにごとも早めのスタートが肝心ってな」
その両手に大量の夏休みの宿題を抱えながら。
虫ポケモンたちの鳴き声が夏の夜空に消えていく中、
楓荘の一室では自前の勉強机で治斗は宿題を、灯夢(今はロコン姿)は自分で勝手に居住区にした押入れで何やら本を読んでいた。
近くのちゃぶ台からはラジオの楽しそうな生番組が流れていた。
今、ちょうど、その番組ではリアルタイムで『夏休みの宿題エピソード』をリスナーから募集しているようで、
さまざまな夏の宿題談が飛び交っていた。
図工の宿題でコイキングの魚拓(ぎょたく)を取った者がいれば、
自由研究で、一定期間の間にどれだけ模様違いのパッチールに出会えるか? とか、
数学の難問でフーディンに計算を手伝ってもらったという暴露話まで、
話が尽きることはなかった。
本を読みながら、その会話を聞いていた灯夢がその流れに乗じるかのように治斗に尋ねた。
「おんどれもなんか夏休みの宿題であらへんのか?」
「……夏休みの宿題か。そういえば」
右手にシャープペンシル、左手にはダーテング印のうちわを装備しながら、
数学の宿題を進めていた治斗が何かを思い出したかのような顔になる。
ちなみに、この部屋にはエアコンという文明利器はなく、古びた扇風機が一台だけしかなかったのだが、
ほぼ一方的に灯夢に略奪されてしまった。
『このまま夏の暑さでウチの熱が上がったらオーバーヒートでまる焦げになっても知らへんで?』
炎ポケモンは自らの体温を調整する為に炎を吐きだすときもあるという。
そんな冗談の雰囲気を微塵(みじん)も出さない言葉を突き出されたら、答えは自ずと悔しいほどに決まってしまった。
問題を解きながらも治斗は口を開いた。
「昔、親がさ、自分たちも『子供の夏休みの宿題のお手伝いで思い出を残したい』なんて、変なこと言ってきて。
あんまりにも聞かないもんだから、しょうがなく、漢字ドリルとかをやらしたんだよ」
この時点で灯夢から笑い声がもれ始めている。
数式を映している治斗の目もなんだか遠いものを見ているかのような感じであった。
「夏休みが終わってそのドリルを提出したら、先生に呼び出されちゃってな…………」
当時のことを思うとため息を出さずにはいられない治斗だった。
「あまりにも間違いだらけだから再提出をするハメになった」
灯夢が腹を抱えて大きく笑った。
まぁ、治斗にとっても、それから数年後の今となれば酒の肴(さけのさかな)的な話のだが、
当時は職員室で顔が火あぶりされたかのように恥ずかしい思いをしたらしい。
けれど、その体験は治斗に、しっかりとした教訓を授けたようで――。
「まぁ、それからはなるべく早めに宿題をするクセがついたかな……軽はずみに他人に頼んだら、ろくなことがないからな」
「なんや、おんどれも学習してるやないか」
「……なぁ、今のってホメ言葉なのか? けなしているのか?」
依然と笑いが止まらないらしい灯夢の言葉は、治斗にとって説得力の有無に疑問符を打つものだった。
しょうがないな……と半ば諦め(あきらめ)感を漂わせながら、数式を解いて――。
丁寧なノック音が玄関から聞こえた。
灯夢は慌てて例の十代半ばの少女に化けて、急いで押入れから飛び出て戸を閉めた。
灯夢自身、正体がばれたら試練に失格というわけではないことは分かっているのだが、
穏便に試練に合格して、無事にキュウコンに進化できるようになるには、なるべく正体を明かさない方がいいと思っていた。
灯夢の一連の動作の間に治斗は玄関に向かい、扉越しに、どなたかと尋ねる。
「夜分遅くにぃ、すいません。楓山幸ですぅ」
独特の柔らかい声に治斗は応えるように扉を開けた。
目の前にはいつもの昔懐かしいかっぽう着を身に包んでいる大家代理――楓山幸が微笑み顔で立っていた。
「こんばんは、えっと、どうしたんですか?」
「ちょっとしたぁ、お話がありますのぉ。よろしければぁ、家にあがってもいいですかぁ?」
灯夢のほうは大丈夫だろうと思った治斗は幸を迎えいれた。
けれど、話とは何なのだろうか? 家賃は払っているはずだし……とちょっとばかしの不安を抱きながら
幸とともに居間のほうに行くと、人間の姿の灯夢が何事もなかったかのように本を読んでいた。
「なんや、さちっちやないか。どないしたんや?」
どうやら灯夢は『〜っち』と名前を呼ぶクセがあるらしい。
例えば、しずくなら『しずくっち』、鈴子なら『鈴っち』といった感じに……女性限定のようだが。
「すいません、いきなりで申し訳ないのですがぁ、お二人はぁ、明後日から四日間ほどぉ、予定ってなんかありますかぁ?」
「とりあえずはないで?」
「俺もないですね」
冷たい麦茶を幸に出しながら、治斗も近くに座った。
実はですねぇ……と幸が何やら胸ポケットから取り出して、じゃーん! といった感じにソレを上げた。
幸の手に握られていたのは何やら、チケットみたいなもの――
「抽選で当てたんですよぉ、ハナダシティの温泉旅館『ひまわり』三泊四日のぉ、無料宿泊券〜」
どうぞぉ、と言われて治斗と灯夢が改めて見せてもらったのは、
確かに無料宿泊券と書かれている紙で、
夏の雰囲気に合わせてかトロピカルで色彩の強い色が描かれていた。
そして、なにより看板娘よろしく一匹のヒマナッツの顔がど真ん中に映っていた。
誘っているかのような笑顔がチャームポイントであるようだった。
「そいで、話っちゅうのは、結局、なんや?」
「あ、はい。この一枚の券でぇ、最大五人までオッケーなのだそうですぅ。
よろしければぁ、せっかくですしぃ、楓荘のみなさんで行きませんかぁ、ということなのですぅ」
………………。
思いがけない幸からの誘いに治斗と灯夢は思わずお互いの顔を見やった。
あ互いの目が丸くなっているのが分かる。
正直旅行のことを考えていなかった一人と一匹にとってはまさに朗報であった。
長い夏休み、
かたや両親が年がら年中海外へ行っている為、帰省の機会なんてなかった治斗。
かたや試練の三年間は帰省を許されていない灯夢。
出掛けるとしても街中をブラブラしているだけ――という寂しい夏休みにならなそうであった。
答えはもちろん。
「行きます!」
「もっちろん、行かしてもらうで!」
珍しく一人と一匹の声がハモッたような響きが広がった。
幸は両手を合わせながら首をかしげ、「はい〜、それではぁ……」と
旅行の準備や、今回の旅行についてなどをゆっくりと、かみ砕いた説明したのであった。
ヨルノズクが夏の大三角形に向かって声を上げている頃、
出発は明後日だが、部屋の真ん中におなかを少し膨らませた治斗と灯夢の旅行用のバックが置かれてあった。
「とりあえず、準備は大方オッケーやな」
「早いな」
「おんどれこそ」
(今はロコン姿の)灯夢はとりあえず満足顔で押し入れのほうに戻ると、うつぶせに寝ころんでパンフレットを読み始める。
幸からもらったハナダシティでの観光パンフレットであった。
例の温泉旅館の『ひまわり』はもちろんのこと、
ポケモントレーナーが挑むとされるハナダジムで開催される水中ショーや、
夏にはピッタリの冷たい川が流れている場所や、
ハナダシティから少し離れるが『おつきみやま』のことなど、
簡潔に書かれていた為、細かいことは行ってからのお楽しみというやつだったが、
灯夢は無意識に『しっぽをふる』をしていた。
心底、楽しみにしている灯夢の姿を見て治斗はふと何かを思いついたかのような顔になった。
「おまえって、ハナダシティに行ったことがあるんじゃないのか?」
997歳も生きているというならば、どこかの町にぶらり旅なんて、ないこともないのではないか。
灯夢は依然と『しっぽをふる』をしながら答えた。
「まぁな。数十年前やったけなぁ……最後に来たのは。
あんときは旅館で泊まる金は持ってなかったんやけどなぁ……旅館かぁ……
うまそうなもんがいっぱいなんやろうなぁ………………」
灯夢のよだれをすする音が聞こえた時点で治斗は一種の諦めを覚えた。
もう、これは聞く耳持たずと。
だが、なんだかんだと言って、自分も楽しみであった。
日頃、留守が多い治斗にとって旅行なんて滅多にお見えにかからなかったイベントでもあったからだ。
それに宿泊費はタダ、おまけに移動費もタダらしく、
必要なお金はお土産を買うだけで十分。
これで心が踊らないワケがない。
「続きましては、忙しくて海に行けない今年の夏のうっぷんをこの曲で晴らしてます!
お前らぁ! 特に学生!! 夏休みだからって、浮かれんなよぉ!!(泣)
というヤマブキシティ、ラジオネーム……『私はシェルダーになりたい』さんからのリクエストで!」
明るい女性Djがテンションを更に上げながら――
「ペラップマンの『夏の落とし穴』です、どうぞぉおお!!」
ラジオから流れてくるアゲアゲソングに波乗り気分で、治斗も観光パンフレットを開けたのであった。
はじめまして、きとかげさん。
感想ありがとうございます。
しかもこんなに深く読み込んでくれるなんて、とてもうれしい限りです。
語り口がラフなのは単に語彙力が乏しいからですねw
良い感じの言い回しが浮かばない時は大抵口語に逃げます。
大学のようなある意味閉鎖的なコミュニティに属していると、その中のでの「一般論」って気になるものなんですよね。タツヤとヤスカの会話はその提示という意味があります。
普通はそれに溶け込むのが楽ちんなんですけど、それに反骨する人を描きたかったので、言及してくれてうれしいです。
年明けはなかなか忙しいもので、今までより少し更新ペースが落ちると思いますが、これからもお付き合い下さい。
追伸:アンノーンの「I LOVE U」素敵です。キュンとしましたw
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