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「『ああ神さま、どうか私のねがいを聞いてください』
小さなひめは冷たい雪の上にすわると、頭を下げてねがいごとを口にしました。
雪はとてもつめたく、ひめのまっしろで細い足をつきさします。
それでもひめは、雪の上にすわって頭を下げつづけました。ひめには、大切な人がいたからです」
人間が書いた「絵本」という蝶の翅の中で、若い女性、物語でいう「姫」が跪いていた。
子供向けのその本には、細かい描写はされていない。しかし、その姫が何かのために自らを投げ出そうとしているのは瞭然だった。
恐らく、この地シンオウ地方唯一の雪はさぞかし寒かったに違いない。そこに跪いた彼女の足は、悲鳴を上げていただろう。
小さな灰色の手で、絵本の翅がまた一枚はらりとめくられていく。
「その国には、『七枚のヒイラギの葉をイバラであみこんだネックレスを作ると、ねがいがかなう』という言いつたえがありました。
その話を知っていたひめは、ねがいごとをすると雪の中へとかけだして、ヒイラギの葉を集めはじめました」
雪の中に次第に壊れていく体に鞭を打ち、ヒイラギの葉を捜し求め続けた。
そして、大切な人を想って、小さなその手で自然のネックレスを編み続けた。
棘のあるヒイラギの葉、そしてそれよりも鋭い棘を持つイバラ。イバラでヒイラギの葉に穴を開けて通す度に、指にかかる刃が真っ白な真綿のような雪の上に緋色の色彩を施す。
時にはイバラの棘に無残にも葉が千切れ去り、その度に首飾りを紡ぎ直した。当然、指からは痛々しい雫を滴らせて。
はらり。最後のページを、めくった。簡素ながら清楚な絵が描かれた裏表紙が現れた。
――頭部だけ黄色く体は薄い灰色という小さい容姿に、対になった長い二股の尾。
北国の湖に住まう「英知の神」と言われる浮遊したそのポケモンは、この本をはじめて読む前から、物語の結末を知っていた。この、小さな絵本の小さな物語を。
そう、あの子は、「言い伝え」になったのだ。
◆雪に咲く若葉 一 「雪中行軍」
連なる剣の鋒(きっさき)のような山々。その剣は、太陽が差しているのであろう分厚い雲の遥か上へと向けて突き抜けていた。
このような険しい山には荒々しき山肌がありそうなものだが、融け去ることのない白雪がその肌を覆っていて、荒々しいかは分からない。
激しい吹雪が吹き荒れている。一寸先の状況も全く把握できない。視界が白いどころか、目を開けることすら苦しい世界だ。
森の香りがする。
針葉樹もまた、天へと向かい伸びていた。その緑の木々は、大地と同じような美しい白雪を纏っていた。
古来より、この国の人々は、“白と緑”という色彩を愛してきた。その光景は、確かに美しく見えた。猛吹雪が視界を遮り鬱陶しかったが。
――それにしても、ここは何処だろう。若い男は、心の中でふとそう思った。恐らく、テンガンざんを出て少しだけしか歩いていないから、まだ「英知の湖」までもう少しあるはずだ、とも。
テンガンざんを抜ければそこに待っているのは、ふもとに広がる豪雪地帯。まさしく、今男が雪を踏みしめて直立しているこの大地だった。
荒れ狂う空が凍てつく真っ白な涙を振りまいているかのようにも見えた。恐ろしい天候には違いなかったが、かといってここから戻るのも危険すぎる。もう、キッサキシティとテンガンざんの中間地点まで歩を進めてしまっていたのだ。
目指すジムまでは残りわずかと、高揚する気持ちに任せて慣れない雪の世界をこの地点まで進んでしまったのが取り返しのつかない唯一の誤算に、彼は小さく歯軋りをする。
ゴウという音だけでは形容し難い風が吹き荒れている。その風は凍える風となり、空から舞い降りる涙を激しく散らす。
歩く度に、深い雪に足をとられる。風が、前に歩もうとする体を煽る。感情も、いっそう不安に煽られた。
単調なコントラストの風景の中には、木陰の足跡。
自分たちは確かに歩いてきたという唯一のしるしだけが黒い点となって残る。
その足跡に寄り添うように、ちんまりとした足跡が続いていた。
彼の袂で寄り添うように歩く、若葉を纏った可愛らしいリーフィアのものだった。
「大丈夫か? 少し、休もう」
彼は、針葉樹の袂に体を休めた。
激しい吹雪にさらされたまま歩き続けたリーフィアの頭を撫でつつ、彼女には気づかれないように明後日の方向を向いて苦い顔をした。
激しい後悔の念が、彼を締め付けていたからである。
彼が持っていた荷物は、悉く雪崩にさらわれていってしまったのだ。
暖を取るものから一夜を明かすためのもの、そして空腹と渇きを満たすためのものまで全てが、さらわれた。荷物を雪の上に置き、リーフィアと周囲の状況を把握するためにその場を離れていたその間に。
激しい音響に振り向いたときには、もう遅かった。自分たちがいた場所は跡形もなく大雪に流されていた。
もしあの場所にい続けていたら。
身震いが起きた。
最初は命が助かっただけでも良かったと楽観視をすることが出来たが、今はそうではない。あの時点で命が助かっても、この後すぐにこの大地に斃れることは少しも否定できないのだ。
現に自らの命を保つ頼みの綱のたったひとつさえ、手元にない。
第二のミスは、それからだ。
いつの間にか、腰元からリーフィアを入れていたモンスターボールが脱落していることに気付いたのだ。
彼は、死力を尽くして雪の中を掻き分け、掻き分け、何度も掻き分けて、こうなった今は命以外の何よりも大切な紅白の球体――雪の中にそれを彩るように映え、同時にそれに紛れるような色の球体――を探し続けた。だが、見つからないのだ。
まだポケモンセンターの転送システムなどまだ開発されておらず、それどころか回復装置さえ全ての建物に装備されているとは限らなかった、古い時代。
だから彼がいつも腰元にきっちりと付けているボールは、リーフィアのボールひとつを除いてヨスガシティの友人に預けていた。それらのボールに入っているポケモンは、みな寒さに弱い属性だったからである。
それに寒さに弱く無闇に雪の中で出せないようなポケモンのボールを携帯している状態で、雪崩にでも巻き込まれたりしたらどうするのだ。雪崩から逃げられなかった自分だけでなく、何の罪もないパートナーまで命を落とす――厳密には、ボールに閉じ込められたままになる――ことになるのだ。
仮にボールを破壊し、ボールが埋もれていた雪を突き破れたとしても、その先の極寒の中で生き延びれる可能性は低い。
本当はリーフィアすら、彼は友人に預けるつもりだったのだ。
だが、何の手違いか空のボールと勘違いして彼女のボールを持ってきてしまったのだ。ヨスガシティを出る前に気づいてボールを置いていこうとしたが、遅かった。
ボールからリーフィアが突如として飛び出すと、引き込まれるような可愛らしい瞳で、ズボンの裾を引っ張りつつ見詰めてきた。駄目だと言ってボールに戻そうとするのだが、何故かその度に首を振って嫌がる。
もう、観念するしかなかった。
どんよりと曇る空に相まって募る悔しさと情けなさに、吹雪の身を切るような寒さがより強く身を削っていくようにすら思われた。
リーフィアの緑の葉に、うっすらと白雪が積もっている。この雪が身を脅かすものでなければ、美しいのに。
その鬱々とした天候の下、何よりもボールを雪に奪われてしまったことがどうしようもなく申し訳なかった。
くさタイプという属性に加え元来より寒さに弱い彼女にとって、無防備な状態で外にいることは生命を危険にさらすことを意味するからだ。
凍てつく世界を見据える栗色の瞳は何も語らない。
けれど彼には、その瞳には希望なんかより、怒りや悲しみ、絶望ばかりが映っているのではないか、そんな気がした。
罪のない彼女を命の灯火が消えるような状況に置いたのだから。
彼は自らの大切なパートナーに、身を切る白の大地の上に跪いて詫びた。
「許してくれ」、その一言を、音も消え去る轟音の雪風の吹く世界に叫びながら。
ふっ、と、あたたかいものが右の頬に触れた。
やさしいぬくもりに驚いて顔を上げてみると、咲いたばかりの若葉のまぶしさのような笑顔を、リーフィアは浮かべていた。
「構いません」、そう言わんばかりに。
彼を見つめるその瞳には、希望の色だけがあふれていた。
憎しみの色は見えない。怒りも悲しみも、同様に。都合のいい解釈などではない。
それらの負の想いをかき消すような、確かなる灯火のきらめきだけが、その瞳には映っていた。
そして彼女はもう一度、彼をいたわった。自らの頬を、愛する主人のそれに摺り寄せて。
心の中の弱弱しい一本の木に重くのしかかった大雪が、少しずつ融けてゆくのが分かった。
太陽のないはずの木陰の彼の隣に、かすかな陽光があるのが分かった。いつだってそばにいてくれた陽光だ。
自らを何処までも真っ白に降りつむ雪に、そう気付いた彼の瞳から零れ落ちた雫が小さな穴を作っていた。
幸いにも、所在なく座った背の高い針葉樹の居並ぶ木陰には雪風の刃は及ばず、しばしこの脅威をしのぐことができた。
だが、気温による体温の低下そのものは防ぐことができない。
彼は着重ねしていた服のうち最も上に着ていた厚手のコートで、この豪雪にさらされたままだったリーフィアを包んだ。
空の色合いとは対照的な小さな息が一息がもれたが、いつまでもこうしているわけにはいかなかった。
体を、心をあたためてくれるのは、心優しいリーフィアと焦燥の炎だけ。
夜になれば、人間やポケモンの体では到底耐え切れない低気温になり、低体温症になってそのまま死んでしまう。殊に、くさタイプのリーフィアは危険だ。
助けを待とう。彼の経験則は、彼自身にそう語りかけた。
しかししばらく考え込んで、彼は自身の経験則が諭すのを否定した。
連絡手段もない今、偶然にも助けがやってくるようには思えなかったのだ。
進むべき道など、最初からない。退路も直前に雪崩に流された場所、同じ所を歩くことは得策とは思えない。そもそも、進んでいる向きすら曖昧なのだ。
――キッサキに行くしかない。
この体で、自分からキッサキに辿り着く以外に残された手段はない。
目指す街までの道のりは常に吹雪いていて、いつ晴れ間が差すのかも分からないのだ。
加えて食糧もない、暖をとるものもない。ここで一夜を明かすことさえ危険なのに、何日も待っていられるとは彼には到底思えなかった。
だが、リーフィアはどうする?
一緒に連れて行けば、いくらコートで包んだとはいえ、また豪雪降りしきるあの極寒の地を手探り状態で歩き続けなければいけないのだ。
それにまた雪崩が起きてしまえば、共倒れする可能性もある。
あの針葉樹林の膝元にある限り、夜にさえならなければ彼女の身には危険なことは起こらないはずだ。
なんとしてでもリーフィアだけは救いたい。
たとえ、自分の命が白銀の大地に散っても。
「夜にまで街に辿り着いて、次の夜までには必ずリーフィアを助ける」。そう心に決めた。
主人は彼女を護りたい一心で、経験が鳴らす警鐘に聞こえないふりをして、キッサキシティへ自力で助けを求めることにしたのだった。
片時も離したことのなかった彼女をそこに置き、希望の陽光が、自分の後ろと心の中とにあるのを感じながら。
ヒイラギの葉っぱが見つかりさえすれば、その葉っぱでネックレスが編めさえすれば、
この視界のない世界を彷徨われているご主人さまは助けられる。
だから私は迷いません、私を散らそうとする雪風の世界を往くことに。
遠い遠い雪の国、キッサキの街には古い言い伝えがあった。
「七枚のヒイラギの葉っぱのネックレス」。それを編むことができれば、
湖畔に住まう英知の神が、救いの手を差しのべることを約束してくれる、と。
慈悲はなく残酷で、けれど儚くとも美しい白銀の世界に残る、
ふるいものがたりの、はじまりはじまり。
◇ ◇ ◇
ほとんどの方とはお初にお目にかかると存じます、小樽ミオと申します。
本作はかつてこちらの掲示板(練習掲示板でしたでしょうか)に投稿させていただいた作品です。
当時時点では完結しておらず、また現時点でも継続して執筆しておりますので、
当時ご覧くださった方もそうでない方も、あたかかく見守っていただければ幸いです。
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】
7時24分
「ハア……ハァ…………」
俺はまたあの夢を見てしまい、ほとんど普通に眠れなかった。
「おはようございます、イーブイさん。」
「ああ…おはよう…」
俺の目から涙が出てた後がくっきり残っていた。
「どっ、どうしたんですか?」
そりゃあ気づかれる。
「あ?ああ!これか!…いや、人生やり直せるって、素敵だよなって考えていると……」
俺は涙の後をこすりながらオオタチは笑顔で そうですね!と言ってくれた。
嘘をついてしまったな………
10分後
俺たちは螺旋階段を登り終えた。
しかし、そこで見たのは部屋ではなくて、ベランダみたいな所だった。
「おーい…………」
俺の声は何の意味もなかったのように、虚しい響きで終えた。
その後1時間も待ったが何も起こらない。
「なあ…嘘じゃぁ、ないよな……!」
しかしオオタチの顔は下を向いている。
「なあ……!嘘じゃないと言ってくれよ………!」
俺はあまりのショックと絶望感で一滴の滴を流していた。
「そんな事って……ありかよ…」
「やっぱりここにいたか……」
声のする方を向いてみると、集落で会ったムクホークがいた。
「何で……何で教えてくれなかった……」
「俺は確かに言ったハズだ…行かない方がいいと。」
ムクホークの言葉が冷たく刺さる。
「……………………」
しばらく無言の時間が過ぎると、ムクホークは飛んでいった。
「うわあぁぁぁぁっ!!」
とうとう俺の涙腺が崩壊された。
「ちょっとまてよぉっ!これじゃあ何にもならない!」
床を叩きながら叫びに叫んだ。
その後20分間泣いていた。
「何でだよっ!……ちくしょう……」
俺の体の下は、自分が作った池があった。
「今まで俺がどんな思いをしてここまで来たと思ってんだよ…」
「そんなに人生をやり直したいのか?」
俺は誰の声か分からずに
「当たり前だろ…」
と答えた。すると
「お前は[力]があるな。」
出た。俺の嫌いな[力]。
「この世界にはお前位、つらい思いをしている者が沢山いる。その者達を助けたらやり直させてもいいぞ…」
「本当か?」
俺の言葉に返事は無かった
「イーブイさん……」
「ああ!分かっている!」
俺の新しい目的が出来た!と思って顔を上げてみると、
集落の近くにいた。
一体誰がやったのだろう。
「…これからも…一緒に来てくれるか?」
そう聞くとオオタチは
「はいっ!もちろんです!」
「よし、じゃあ行くか!」
19時12分
俺の気持ちが変わったと同時に夜の中を歩いていった。
まだ続きを書きます。
10
起きたら、僕の腕にカオリの顔が乗っていた。布団を頭まですっぽり被って寝息を立てている。
二人とも裸だった。
まあ、言いたいのはそういうことです。
少し寒かったので、僕はカオリの方に身を寄せた。シャンプーの香りがする。
彼女も、ほとんど反射的に僕の背中に腕を回してきた。
まさに幸福の極み。これ以上は絶対にない。そう言い切れる。
昨夜は、あれ以上カオリを問い詰めることはしなかった。
あの後、カオリにわんわん泣かれ、抱きつかれて、そして何度も謝られた。
良くない道に走ってしまった事実そのものにおいて謝っているのか、それとも僕に迷惑をかけることについて謝っているのか。
多分、どちらも含んでいたんだろう。もちろん後者に関しては、迷惑なんて塵ほども思わない――とかカッコつけて言ってみる。でも本当だ。
僕はほとんど言葉を交わすこともせず、ラブホテルへカオリを引っ張って行った。
ちょっと乱暴だったかなとも思うけど、二人の気持ちは一致していたと、そう思う。
そんなこんなで(そんなこんなってなんだ?)今にいたる。
思えば今日は月曜日じゃないか。まあ、講義はサボるけども。
カオリも確か今日は二講があったはずだ。起こしてあげようとも思ったけど、もうしばらくこうしていたいので、なにもしないでいた。
「んー」カオリがわずかにうごめいた。そして目があった。
「……おはよ」寝ぼけた声。
僕も「おはよう」と返してから、キスをした。
そしてまたしばらく抱き合っていた。
「ねえシュウ?」
「ん?」
「この後、うちに来ない?」
第二ラウンド。そう頭に浮かんでしまった自分は「最低」だと思ったよ。
「シュウがね、あたしのこと捨てないでくれて、すごく嬉しかった。ずっと怖かったの。いけないことしてるんだっていう罪悪感もあったし、もし本当のこと話したら絶対嫌われちゃうって思ってたから。でもそれって、あたしがシュウのこと信じてなかったってことだよね――」
カオリは僕の腕の中に入ってきた。
「でももう怖がってばかりいたくない。シュウのこと信じる。だから全部、話したいの」
なんだか反社会的な展開になってきた。
けど、カオリが僕のことを信じてくれるのは嬉しかったし、例えば彼女を警察に突き出して「この人薬やってます!」なんてこと言えるはずもない。それならいっそ、舌を噛み切って死ぬだろう。
「――多分いっぱい迷惑かけちゃう。だけど――」
カオリは少し言いづらそうにしていたが、やがて小さく呟いた。
「守られるならシュウがいい――わがままで、ごめん……」
十万ボルトを、僕は急所にくらいました。
僕たちはホテルを出て、地下鉄に揺られ、コトブキの北の郊外に位置するカオリの家に行きついた。
来るのは初めてだ。この辺り一帯が立派な一軒家が立ち並ぶ住宅街だったが、彼女の家もまた立派な佇まいだった。
カオリは玄関の鍵を開け、中に入る。そこまで来てやっと、彼女の両親のことに考えが及んだ。
昨日彼女が家に連絡したような感じはなかった。多分とても心配しているんじゃないか?
そんな心境の親御さんのところへ、朝帰りの娘が男を連れてくるというのは――世間一般的にはどうなのだろう?
ところがカオリは「ただいま」も言わず、靴を脱ぎ、家に上がった。
「どうぞ」
通された和室の隅に、仏壇があった。
彼女の両親のものだった。
「――今年の夏、飛行機事故に遭ったの。結婚して二十周年でね、ヨーロッパに二人で旅行に出かけた時だった」
僕は仏壇の前まで行った。手前に両親の写真が飾られている。母親の目が、カオリにそっくりだった。
線香を一本立てて、お鈴を鳴らした。
言葉の出ない僕には、そういう作法的なことしかできなかった。
「ありがとう」
僕が合掌し終わると、彼女は少しだけ微笑んでそう言い、僕の隣りに正座した。
少しだけ間を置き、やがてカオリは力強い声で言い切った。
「シュウ、あたし、今は吸ってない。誓って」
「信じるよ、もちろん」
「――両親の死がきっかけだったの」
カオリはゆっくりと、話し始めた。
「国交サークルの先輩に――ミオシティの暴力団とつながってる人がいるの」
やはり出てきた。ロケット団の傘下に入ったという、ミオの暴力団。
「その人は、普段は別に普通で、むしろ良い人。でもお酒の席になると、なんていうか、気持ちが大きくなっちゃう人っていうか。サークルの飲み会の時、その人は『おれに手出したら後ろ控えてるからな』とか、『欲しかったらやるよ。覚醒剤でもなんでも』とか普通じゃないことばっかり言うの。今もほとんどの人は冗談だと思ってる」
「そいつ、あの合コンの時来てた?」
「ううん、来てなかった」
そんなやつ、来てたら気付くか。
「それでね、私も最初は冗談だと思ってたの。酔っぱらうとこういうふうになる人なんだなって、割り切ってた」
しかし、偶然出会ってしまったのだという。その先輩が、カオリの全く知らない人たちと四、五人で、酔って街を歩いているのに。
「今考えれば、あの人たちは多分暴力団の人。先輩があたしに気付いて絡んできたの。そんなに人通りの少ない道じゃなかったから、乱暴なことはされなかったけど、最後に白い粉の入った小さい袋を渡された。『ちょっと前まではそれだけで一万も二万もしたんだぞ? いい機会だから持ってけ。また欲しくなったら言えよ。まあ次は金払ってもらうがな』とか、そんなこと言ってた」
それが、今年の、九月の終わり頃らしい。ロケット団の復活が八月の終わりだから、一か月でミオの麻薬マーケットに影響を与えていることになる。
「すぐに捨てなきゃと思ったんだけど、捨てるのも怖かったの。本当だよ、使う気なんてその時は全くなかった」
「うん、わかるよ」
そして、本当に酷いタイミングで、彼女の両親は飛行機事故に遭遇し、この世を去った。
カオリは心に同時に二つ、風穴をあけられた。
泣けども泣けどもその穴を埋めることはできず、そんなとき目に止まってしまったのが覚醒剤の粉末だった。
「――お母さんとお父さんが死んで、あたし、ものすごく弱ってたの。あんなもの使うわけがないって思ってたのに――もうどうでもいいって思っちゃったの」
カオリはその先輩からもう一度だけ、覚醒剤を買った。それが例の、ヒートがカオリに向かって吠えた日のことだ。
「あのカバンの中に入れてた。でも信じて。あたし、あれは使ってない――ちょっと待ってて」
カオリは奥の部屋へ行き、一分も経たないうちに戻ってきた。
手には、ちょうど病院でもらう粉薬のような、白い粉末の入った袋。
諸悪の根源は、拍子抜けするほど攻撃性を感じさせなかった。
こんなもので、一体どれだけの人間が私腹を肥やしているのだろう。
こんなもののせいで、一体どれだけの人間が苦しみ、堕ちてゆくのだろう。
こんなもの、なんであるのだろう。
6時49分
「うーん………」
何故だか怪我が回復している。
多分ワニノコのおかげだろう。
俺はワニノコを探した。
しかし、ワニノコの姿は無かった。
オオタチはとっくに起きている。
あ、オオタチ。早く行こうぜ!
と言いたかった。
しかし、オオタチはめちゃくちゃ落ち込んでいる………
こんな所で引き下がってたまるか!
「オオタチ!行こうぜ!」
「は、はい…………」
何かやりずらい亀裂が俺とオオタチの間に入った。
10分後
前回、オオタチの足場が崩れた後が残っていた。
俺とオオタチは注意して登った。
そこには昨日見ただけの広間があった。
人、ポケモンはほとんどいない。
「……なあ、ベランダ行こうぜ…」
そう言って俺はベランダに行こうとすると、オオタチも黙ってついてきた。
ベランダに行くと雲が真横にあった。
俺が黙ってイスに座って、
「なあ、オオタチ。昨日の事、引きずんなよ。」
「…………………」
俺の一言が余計に空気を悪くする。
「もし、俺がオオタチだったら俺もお前の足を掴んでいたはずだ。」
「…………………」
「……大変な状況になったら………誰かに頼れよ」
「…………………」
「一匹じゃ何も出来ないぜ」
「……………………」
「生物はさぁ、仲間と力を合わせることが出来るから、強いんだ」
「………………」
「まあ、大体俺が登れなかったからいけなかったんだ………」
俺がしゃべり続けると、
「いえ…イーブイさんは悪くないです……」
「い、いや!?違う!俺が……」
「私の不甲斐なさのせいです……」
「いや…だから……」
「……うっ…うっ………」
いやいやいやいや!?泣くの早いよ!
「ウワアアァァァン!!」
オオタチは泣き叫んでその場にうずくまった。
「な、泣くなって………」
「ううぅぅ………」
「昨日の事は忘れようよ………ね?」
30分後
ようやく泣くのを止めた。
「イーブイさんって……変わってますね………」
「ん?どこが?」
そう聞くと、
「だって…本当なら、男の子って、邪魔だ!とか言うじゃないですか………」
やっぱり、俺の事を勘違いしているな……
「優しいんですね……」
やべえ、俺この空気無理だ………
大体、俺は[優しい]何て言われた事なんて無い。
多分、俺の頬が赤くなっているような気がする………
「い、いや…………そう………かな…」
「あ、男の子なんだから赤くなっちゃ駄目ですよ」
さっきの泣きはどういう事か………
「あ、赤くなってない!」
っていうか俺、男の子じゃないし。
21時17分
「星空が綺麗ですね………」
俺はそういう話に興味がわかない。
「そう言えばあの男、さっきから俺たちの方向いているよな……」
俺が違う話に移動した。
「あ、イーブイさん、人間の噂知ってます?」
「ん?」
そう聞くと思いもよらぬ発言をした。
「人間は最近、食料が無いからポケモンを食べようとしているとか…」
はぁ!?嘘だろ?大体食べても美味しくないし!
「ハッハッハ。嘘だろ?」
「多分そうですよ。所詮噂です」
たが、俺は少し心配していた。
……もし…俺が……食べられるのか?
22時50分
俺とオオタチは眠りについた。
うーん…はっ!ここは?
気がつくと俺は草原にいた……
しかし、驚くのはこれだけではない。
まわりに人間が俺を囲むようにしていた。
一人の男が無言で俺の体にナイフで傷をつけた。
「うっ!」
俺はたちまちよろける。
俺の体に傷がどんどんついてくる。
「…………ぅっ………」
俺の体が動かない状況で、前足、後ろ足をロープで結ぶ。
とても恥ずかしい状態になった。簡単に言えば……豚の丸焼き状態。
俺は目から大粒の雫をたらした。
俺は炎の場所へつれて行かれた。
「そーれっ!」
俺は炎の場所に投げられた。
「んはっ!?」
俺は目を覚ました。
夢だった。
なぜか、俺の涙と汗で床がぐっしょりしていた。
「ハァ、ハァ……夢でよかった………」
俺は再び眠りについた。
作者からのお知らせ
今後から更新が遅くなります。
理由はWiiがとられるからです……
でも週1なら可能です。
勝手ながらすみません。
8
「覚醒剤。警察の話だと間違いないらしいわ。あなたたちの後輩もマサノブ君は、直前に誰かからあの覚醒剤を受け取ったようね」
ここはスタジアム二階の小会議室。シロナさんは捜査の方を警察に任せ、マサノブの関係者――つまり僕たち「ヘル・スロープ」のメンバーをここに集めた。
四天王やチャンピオン、それにジムリーダーはいわゆるポケモン協会が認定したトレーナーである。
彼らは今回のような有事の際、任意で警察の捜査に協力することができる――のだと、ケイタがさっき教えてくれた。
ほんの一時間前までは、手に汗握る試合を思う存分楽しんでいたのに、この凍りついた空気と落胆のため息の前では、まるでテレビゲームでもしていたみたいに思えた。セーブもしていないのに、リセットボタンを押されたのだ、僕たちは。
「マサノブ君は今、警察署の方で聴取を受けているわ。この定期戦が中止になってしまって、みんなの辛い気持ちは痛いほどよく分かる。でも今は捜査に協力して欲しいの。マサノブ君が薬をどうやって、誰から手にしたのか。本人は中身があんなものだったなんて知らないって言ってるし、私も彼のことを疑うつもりはないわ。捜査が進めば分かることかもしれないけれど、今回の事件、マサノブ君の『仲間』としてどう思うか、聞きたいのよ。言える範囲でいいから話してくれないかしら?」
丸々一分間、沈黙が流れた。
僕はシロナさんがどんなに気を使い、優しく接してくれても、責められているような気がした。
「私は――」一年生の女の子、ミサが口を開いた。わりとマサノブと一緒に行動しているグループの一人だ。「マサノブは本当のことを言っていると思います。普段マサノブとは一緒にいるけど、そんなことしてるなんて話一度も聞いたことなかった。お金に困ってるとか、背伸びするタイプとか、そういうわけでもなかったのに――」
「私もミサちゃんと同じ意見」少し強気な口調で、先程トゲチックで試合に出ていたマイ先輩が言った。「あいつは自分からそんなことに手を染める奴じゃない。誰だか知らないけどなんかうまいこと言ってあいつのこと騙したのよ――ねぇ、黙ってる人なんか言ったら?!」
「あんまり荒っぽくなるなよマイ」キュウコン使いのコウタロウ先輩だ。「みんな落ち込んでるんだ。うちのサークルの人間からこんな事件起こすやつが出ちまったこともそうだし、勝ってた試合が中止になっちまったこともそうだし――」
なだめるように言うコウタロウ先輩だったが、マイ先輩は食いついた。
「は?! あんたまるで他人事みたいじゃない?! マサノブが無実だって考えないの?! あいつが戻ってきた時に『犯罪者だから』って言って迎え入れないつもり?! てかこんなことになってまだ試合のことなんか悔んでるの?! そんな場合じゃない――」
「おい、言いすぎだ! 今年で最後だった四年生のことも考えろよ!」
コウタロウ先輩が声を荒げた。マイ先輩は少しひるんだが、目つきは鋭いままだった。
とっさに僕はマキノ先輩を見た。
無表情だった。先輩の顔から感情を読み取れないのは初めてだった。
「シロナさん」マキノ先輩は静かに言った。
「――何?」
「私たちに、謝らせて下さい」
シロナさんは何も言わない。
「メンバー一人がしてしまったことは、サークル全体で責任を取ります。マサノブに全く罪は無かったとしても、こんな騒ぎを起こしてしまったことは事実です。けじめをつけて、もう二度とこんなことが起こらないようにしますから、どうか私たちに謝らせて下さい」
そしてマキノ先輩は立ち上がり、シロナさんに深々と頭を下げた。
また部屋がしんとなる。
僕はいてもたってもいられなくなった。
なんでマキノ先輩が頭を下げるんだよ――?
「そ、それなら僕のせいです! 僕がちゃんとガーディをボールに入れておかなかったから――だから僕が謝ります!」
僕もまた立ち上がり、マキノ先輩の隣りでお辞儀をした。
「バカかお前、代表はサークル全体で責任取るって言ってるんだ」
そう言いながらケイタが僕に並んでお辞儀した。泣きそうになった。
マイ先輩もコウタロウ先輩も、最後にはメンバー全員が立ち上がり、シロナに向かって頭を下げた。
僕の隣りでマキノ先輩が涙を流していた。床に雫が一粒落ちた。
「――もう! 大丈夫よ! ほらみんな、顔上げて!」
僕等はパラパラと頭を上げた。マキノ先輩は最後まで頭を下げていた。
シロナさんがちょっと呆れたように続けた。
「全くあなたたちは――」シロナさんは吹きだした。「最高のチームじゃない」
僕たちはその後、スタジアムの関係者、それにコトブキ大学の学生に謝りに行った。
マイ先輩やマキノ先輩は、最後の方なんてわんわん泣いて抱き合っていたし、事件にともなって中止と思われた打ち上げも、結局やる流れになっていた。
「自粛」というかたちで、とても打ち上げなんてできないとマキノ先輩は最後まで言っていたが、シロナさんがあっさりと「なんで行かないの? こんな日は飲まないでいられないでしょ?」と言い、決行となった。なんて図太い神経だ。
まあ何はともあれ、最後にはマキノ女帝の抜群のリーダーシップで、もしかしたら普通に優勝した場合よりも硬く、チームが結ばれたようだった。
僕も、できればこのままみんなと打ち上げに行きたかった。打ち上げそのものも魅力的だったし、別のものから逃げたいがためでもあった。
――会ってしまったら、問いたださずにはいられない気がする。
すっかり日も暮れ、人気もなくなり、薄暗くなってきたスタジアムのロビーで、カオリは一人、待ってくれていた。マリルがその周りを走り回っている。
メンバーに挨拶し、冷やかされながら僕はカオリの方へ行った。
「ごめん、すっかり遅くなっちゃって」
こちらに気付いたカオリはにっこり微笑んでくれた。
「ううん、いいの。それより……大変だったね」
「ああ、こんなことになるなんてな」
「打ち上げ、あるんでしょ? 行かなくていいの?」
「気にしなくていい、一緒に帰る約束してたろ?」
「――ありがと」カオリは立ち上がって、僕の左手を握った。
「腹減ったな、何か食いに行こう」
「うん――パン、おいで」
僕の心はこの時振り子だった。数秒ごとに気持ちが揺れる。
しかし結局、僕は振り子の糸を自分の手で引きちぎった。
9
僕とカオリは肌寒いこのコトブキシティの夜の街を歩いていた。もう冬がすぐそこまでやってきている。
チェーン展開の、割とリーズナブルなイタリア料理店で夕食をとった。メニューにはワインの種類が豊富だったが、二人とも飲みはせず、お互いに口数は少なかった。
カオリを駅の改札まで送って行くこの道は、いつもデートの時は二人で歩く道だったが、いつもより無機質に見えた。
僕の心は決まっていた。
「――カオリ」僕は切り出す。
「ん? なに?」
「ちょっと、話したいことあるんだ。ちょっと寒いけど……そこ、座らないか?」
僕はコトブキのど真ん中にある、東西に細長い緑地の、いくつもあるベンチのひとつを指して言った。
東端にはこのを緑地を見渡すようにしてテレビ塔が建っている。
毎年十二月の半ばになるとイルミネーションが始まり、色とりどりの電飾が夜空に輝く。
でも今は、デジタル時計を引っ掛けているだけの、ガイコツみたいな姿で、暗闇の中、寒そうに突っ立っている。
「――うん。いいよ」
僕は少し乱暴にカオリの右手を引き、緑地に入った。カオリを座らせてから、僕も座る。
「どうしたの? シュウ。すっごく怖い顔してる」
「いつも、こんな顔だ」
ちょっと突き放し気味に接しないと、心が折れそうだった。
「――なに? 話って」
カオリは冷たくされたことで少し凹んだみたいだった。
「――お前、なんかおれに話すことないか?」
カオリのことを「お前」と呼んだのは初めてだったかもしれない。
「話すこと――うーん、なんだろう?」
「もし、もしおれの考えてることが本当だったとしたら、お前は絶対おれに話さなきゃならないことがあるはずだ」
カオリは面食らったようだった。しばらく口を開かなかった。
正直この沈黙のあと、本当に何もなくても、やはりそうだったとしても、彼女が何もかも隠そうとしても、僕が一体どういう態度を取れるかは自分でもわからなかった。
ただ、今は真実を知りたいのだ。
真実を知らないと――守ってやれもしないじゃないか。
「――手、握って」
長い沈黙のあと、カオリはそう言った。いつの間にか、僕は手を離していた。カオリの右手を握りなおす。
「シュウの考えてること、分かるよ」
カオリは静かに話し始めた。
「あたしたちがまだ付き合う前、シュウのガーディ、ヒートがあたしに向かって吠えたことがあったよね。ガーディは鼻がすごく良いから――ちょっとした臭いに反応するから」
カオリはさらに強く手を握った。
「今日、ヒートがまた吠えた。あの男の子が持ってた薬に向かって。そういうことだよね? 当たってるでしょ?」
カオリは僕を見て、弱々しく微笑んだ。
「――ああ」
風が、冷たい風が吹き始めた。街路樹がざわめく。
「もし、例えばの話だよ。あたしが薬を……覚醒剤とかそういうのを、吸ってたりしてたとしたら――」
繋いだ手がじんじんする。
「シュウはあたしのこと、嫌いになる?」
カオリが驚くほど澄んだ目で僕を見た。質問する目ではなかった。懇願する目だ。
しかしカオリは糸が切れたようにすぐにその目をそらし、おどけて見せた。
「――はは! あたし何変なこと聞いてるんだろ? そんなの嫌いになるに決まってるよね? それ以前に逮捕されちゃうし!」
声が割れていた。
「そんなドラッグ漬けの犯罪者が彼女なんて絶対嫌だよね? すぐ振っちゃうよね? こんな――」
みるみるうちに、瞳から大粒の涙がこぼれてきた。
「――こんなあたし、嫌だよね……」
最後の言葉はほとんど声がひっくり返って、空気が喉を通る音が聴こえた。
握った手に込められていた力が、ゆっくりと、抜けていった。
しばらくの間、僕の耳には、彼女の嗚咽しか聴こえなかった。
テレビ塔が「22:00」を掲げた。
――真実は、一番そうであってほしくないものだった。
「カオリ……」
やがて僕は彼女の肩に手を回した。
「ありがとうな、本当のこと言ってくれて。あと、ごめんな、こんな泣かせちまって。もう大丈夫だから」
何が大丈夫なんだか自分でもよく分からなかったが、とにかく僕はカオリを慰めたかったんだ。
だって、彼氏だしさ。
僕を見上げて、彼女は恐る恐る言った。
「あたしのこと――警察に突き出さないの? 嫌いにならないの?」
僕は笑ってしまった。
僕は「自分」が好きになった。
真実を知っても、自分が前と変わらずカオリを好きでいられていることが分かったから。
「当たり前じゃん。おれ、『変わってる』やつだから――そう言ったの、カオリだろ?」
8時19分
「ふあ〜っ眠ぃな………」
俺は寒い気温の中、目を覚ました。
「おはようございます。イーブイさん」
「あ、ああ」
オオタチは俺よりさきに起きていた。
「………じゃあ、登るか……!」
「ハイッ!!」
オオタチは待ってましたーー!!の目をした。
俺たちは登り始めた。
10分後
ふっと上を見上げてみると、広間がみえた。
やった〜!休憩だ!
とオオタチも思っているだろう。
登るペースを早くすると、
「きゃあ!」
「うわぁ!?」
オオタチの乗っていた足場が崩れた。
しかし、俺の後ろ左足を掴んでいたので落ちずにすんだ。
しかし、俺は引っ張られた勢いで落ちそうになっていた。
だが、俺の右前足が足場を掴んでいたのでなんとかなった。
「す、すいません!すいませんでした!!」
オオタチの方を振り向くと、オオタチは泣いていた。
「謝るのは後!」
俺は必死に登ろうとした。
しかし、俺だけなら行けるのだが、二匹となると話は別だ。
「っく!うーっ!」
登ろうと頑張っていると5分が過ぎた。
俺の体力は限界だった。
「最後が………俺なんかで………ごめんな……」
パッ……
俺は手を離してしまった。
「うわぁぁぁ…………!」
ドスッ!
俺達は運良く昨日の広間に落ちていた。
死ななくて本当に良かった。
「っく………あぁっ…………」
俺は半開き状態の目をオオタチの方へ向けた。
オオタチもかなりのダメージを負っていた。
すると
「……ぇ、ねぇ、ねえ!」
ん?と振り向いてみると
ワニノコがいた………
しかも、都会で会ったワニノコだ……
「お前みたいな奴が…………?」
ほとんどかすれ声の俺は、とても小さな声で聞いてみた。
しかし、俺の声は聞こえず
「大丈夫?」
とワニノコは言い続ける。
「ハハハ………大……丈夫…だよ……」
と、答えてやった。
18時18分
俺は目をつぶった………
おまけ
どうも!5595です!
やっぱり俺の作品って一話一話が短いな……
今度からはもうちょっと一話一話を長く出来たらいいと思っています………
18時21分
「やっと着いたぜ…………」
そう。
俺は[運命の塔]に着いたのだ。
しかし、運命の塔は俺が想像していたよりも高い。
雲を突き抜けて、見上げるだけで首が疲れる。
「……あの言葉………何があるんだ……?」
そう、思い出したのは[ムクホーク]が言っていたあの言葉だ。
「いや!ここで引き返す訳にはいかない。」
俺は意を決して中に入った。
「広いな……」
独り言も響く、とても神聖な所だった。
(独り言が響くから神聖なの?ってのはスルーでお願いします。)
ただ、運命の塔にいるのは俺だけじゃない。
老若男女、ポツポツといた。
神聖な場所と言えども、決してキレイという訳でも無い。
どちらかと言うと、古い方。
足場が崩れそうな所もある。
20時43分
広間みたいな所に着いた。
「やっとか…………」
螺旋階段(らせんかいだん)を登り終えてほっとした。
しかし、それもつかの間。
端に階段が続いていた。
「駄目だ…………体力の限界………」
そう言ってその場にヒョコっと転がった。
ここの広間には人、ポケモンがそこそこいて、休憩している。
「俺さ、やっとこの辛い状況から抜け出せるんだ!」
とか、
「あたし、今まで耐えてきたけど……やっと終わりだよ………」
とか、今まで耐えてきた俺の、私の、武勇伝を話し合っている。
「そうだよな………人生をやり直せるって……良いことだもんな…」
11時6分
眠気が差してきた。
寝ようと思ったけれど、他の人、ポケモンは武勇伝をまだ話し合っている。
そこで俺は奥の方にあるベランダみたいな所に行った。
「うわっ………高い………」
まだ雲までは行ってなかったが充分高かった。
あまりの高さに鳥肌が立ってしまった。
都市·町·村の灯りが川みたいに見えた。
「君も人生をやり直そうとしているの?」
「ああ。」
ん?と思って振り向いたら
そこには[オオタチ]がいた。
「………名前は何て言うの?」
名前は自分から名乗れー!と思いながら
「俺はイーブイ。特にちゃんとした名前は無い。お前は?」
俺の目が鋭かったせいか
「あ!えっと、私もちゃんとした名前は無いです………」
少し怖がっているようだ。
「ん?」
オオタチは体が震えていた。
目もうる目だった。
その時、俺が思い出したのは
都市で出会ったワニノコだった。
しかし、人間で言えば年齢は俺と同じ位だ。
精神が傷つけられているのか………それとも
元から泣き性なのか………
もしここで
「ご、ごめんね……」
と言っても逆に泣いてしまうだろう………
けれども、それ以外の方法なんて思いつかなかった。
「ご、ごめんね……」
と言ってしまった。
「い、いや…別にいいんです………ゥッ………」
本当の俺ならここで
「女の涙は重いからそんなに泣いてんじゃねーよ!」
とか、言っていただろう。
しかし、ここの俺は
「はい。一緒に食べようぜ。」
出た!食べ物作戦!
「え?いいん……ですか……?」
俺は自分のバッグからアイスクリームを出した。
「うん。お腹空いているでしょ?」
いかんいかん。しゃべり方が雌っぽくなっている。
前、育成施設の先生から
「あんた、もっと強くなりたいなら「私」じゃなくて「俺」って言ってみな。それだけで自分を強く見せる事が出来る。」
思い出した!俺と言っていたのはその時からだったな……
「イーブイさんは……これからてっぺんに行くつもりなんですよね?」
いつの間にかしゃべり方が敬語になっている事は気にしないで
「ああ。そうだ……それがどうかしたのか?」
と、振り向くとオオタチは緊張していた。
「あ、あの………一緒に行ってもいいですか!?」
!? こんな泣き虫が!?絶対無理!
と言いたかった。しかしオオタチは更に
「あの、この先、敵が出るっていう噂があるんです。」
「うん。」
「でも、私、戦闘能力があまり無いので、一緒に………」
ハァ。断りたかった。しかし俺の口が勝手に
「いいぜ。一緒に行こうか。」
と言ってしまった。
………面倒くさくなりそうだ………
オオタチは目を輝かせて
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!!」
じゃあ、明日からだな。
0時1分
俺とオオタチは広間の隅っこで寝る事にした………
……………本当に敵なんているのか?
やっぱり、不安になってきたが
眠気の方が強かった。
スー…………スー……………
コッコッコッコッ…………
「でも………いい事って………最終的には何なんだろう………」
ああこう考えていると
運命の塔が見えて来た………
「やっとか………」
安心しすぎたのか気が抜けて、ホロッと涙が出てしまった。
「今まで……苦労したな……でも、もうそれも終わる………」
だが、まだ着いた訳では無い。
見えただけなのだが涙が止まらない。
「……………………」
俺は再び歩き出した。人生をやり直して、辛い思いをしない人生を過ごす為に…………
塔までは草原と集落しか無い。
「安心出来るぜ………」
俺が集落の横を通りかかろうとしたその時
「おい!お前!どこへ行く!?」
そこには一匹のムクバードがいた。
「まさかお前、運命の塔に行くとか言うんじゃないんだろうな………!」
ギクゥ!なんだコイツ………
「あそこに行くのは止めとけ。」
「ハア!?あんたにギクシャク言われる筋合いなんてないんだよ!!」
そういってムクバードを突き飛ばした。
「そうか………じゃあ行ってきな…………」
「ああ!行ってやりますとも!」
……なぁに強がってんだか、俺。
正直の事を言えば凄く怖かった……
ガクガクしながら歩いていると到着した。
[運命の塔に。]
おまけ
どうも!5595です!なんかここにきて色々学びました!
全体的に見ると俺の小説の1話1話って短いですね〜(汗
コメントはどんどん送って貰えると助かります!出来ればアドバイスも欲しいです。お願いします!
誤字があったらごめんなさい。
「あ、あの、助けて下さった方ですよね?名前は……?」
「俺はイーブイ。」
「あの、その、ありがとうございます!」
よく見たらその二匹の目がハートになっているのは気のせいだろうか。
「じゃあ、俺は急いでいるから……もういくぜ。」
そう言い残してその場を去った。
………なんだろう……この嬉しい……っていうか………
物事を考えていると、あっという間に森を過ぎてしまった。
「ふう………いつになったら着くんだ………」
また町だ………
19時32分
町の中に宿屋を見つけた。
「いらっしゃーい。」
と、気勢のいい声が聞こえた。
「泊まりにきたの?」
そう言いながらライチュウが出てきた。
「はい。そうです。」
「じゃあ、4000円頂こうか。」
「はい。どうぞ。」
「ゆっくりしていってね〜」
何だかその声がむなしく感じてしまった………
23時9分
「うーん………」
この日は眠りにつけなかった。
「眠れないな………」
ガラガラガラガラ……………
俺は窓を開けてみた…………
「いつもと変わらないな…。」
冷たい風が吹いて来たので窓を閉めた。
0時14分
やっぱり眠れない…………
「いや……寝ないとな……。」
独り言をいい目を閉じた。
……スー……スー…………
ようやく眠りにつけた……
9時0分
俺はライチュウさんにさよならを言って宿屋から去った。
疲れが全部取れている。
「さあ、今日も行くか。」
こんな事が永久的に続くのだろうか……
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