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ソウイチ達は目の前の建物を見上げていた。
ずっしりと構えられた探検隊の本拠地、プクリンのギルドである。
いよいよこれから足を踏み入れようというのだが、入り口はすでに門が降りていた。
「なあ、閉まってるけどどうやってはいるんだ?」
ソウイチはゴロスケに聞いた。
「この上に乗って、あしがたをみてもらうんだ。実は、僕達さっきも弟子入りしようとしてここに来たんだけど、入る勇気がなくて引き返しちゃったんだ・・・」
ゴロスケは恥ずかしそうに頭をかいた。
確かに、どことなく入るのには雰囲気が重々しい。
「でも、ソウイチ達が一緒にいてくれるから勇気が出てきたよ。まずはオイラから行くね」
そう言って鉄格子の上に乗るモリゾー。
それでも若干こわいのか、足が小刻みに震えている。
(あれって、乗ったとたんに抜け落ちたりしねえのか・・・?)
明らかに愚問ではあるが、ぱっと見ただけではどうも強度に不安を覚えるソウイチだった。
「ポケモン発見!! ポケモン発見!! だれのあしがた? だれのあしがた? あしがたはキモリ!! あしがたはキモリ!!」
「うう、ここは我慢だ・・・。」
誰かが確認している間、モリゾーはしかめっ面で必死に逃げ出したくなるのをこらえていた。
傍から見ればたいしたことないようにしか見えないのだが。
「よし、OKだ。次」
子供のような声から一変し、低くしわがれた声が聞こえてきた。
今度はゴロスケが乗ることに。
「ポケモン発見!! ポケモン発見!! だれのあしがた? だれのあしがた? あしがたはミズゴロウ!!あしがたはミズゴロウ!!」
モリゾーより震えの度合いは小さいものの、やはり怖がっていることは確かだった。
ソウイチ達にはどうもその様子が滑稽に思えて仕方がない。
「よし、まだそばに二人いるな。お前達も乗れ」
ゴロスケの確認が終わると、しわがれ声が言った。
「たぶんソウイチたちの事じゃないかな?ここに乗れって」
モリゾーは鉄格子を指差していった。
「じゃあまず僕から・・・」
「ちょっと待て。いちいち一人ずつやってたらいつまでたっても終わらねえよ。同時に乗ろうぜ」
ソウイチはソウヤを引き止め、自分も一緒に鉄格子の上に乗った。
面倒くさがりなんだからとソウヤは思ったものの、口に出すと怒ることは目に見えていたので我慢することに。
「ポケモン発見!! ポケモン発見!! だれのあしがた? だれのあしがた? あしがたは・・・、あしがたは・・・、え〜と・・・」
戸惑っている様子の子供声。
やはり二人同時は難しかったのだろうか。
「おい! どうした? ディグダ、応答しろ!!」
しわがれ声が怒鳴る。
どうやらのぞいているのはディグダらしい。
「え〜と・・・、え〜と・・・。たぶんヒノアラシとピカチュウ!」
「こらあ!! たぶんとは何だたぶんとは!! あしがたを鑑定してどのポケモンか見極めるのが、ディグダ!おまえの仕事だろう!」
あいまいな返事のディグダに対し、しわがれ声はとうとう怒りを爆発させた。
やはり同時には無理があったようだ。
「そんなこと言っても、分からないものは分からないよ〜・・・」
ディグダは泣きそうな声で訴えた。
その声を聞いてじろりとソウイチをにらむソウヤ。言わんこっちゃないとでも言いたげな表情だ。
だが、当の本人はすっとぼけた顔をしている。さも自分のせいではないと主張している。
それから数分経ったが、全く門が開く気配はない。
「なんか、もめてるのかな・・・」
「えらく時間がかかってるけど・・・」
モリゾーとゴロスケは不安にしている。
まさか入れてもらえないのではという思いが頭をよぎったのだ。
「待たせたな・・・」
突然しわがれ声がすると、門がギギギと音を立てて開いた。
「ったく・・・。時間かかりすぎなんだよな・・・」
ソウイチはぶつぶつ文句を言うと、一人でさっさと中へ入ってしまった。
他のみんなは門が開くのに見とれていたため、ソウイチが中に入るのに気付かない。
ようやく気付いたころには、ソウイチははしごのようなものを下りている最中だった。
「あ! 待ってよ〜!」
みんなは急いで中に入り、ソウイチの後に続いてはしごを降りていった。
一つ下の階に到着すると、そこには大勢のポケモンがいるではないか。
「うわあ〜・・・!」
モリゾーたちは目を輝かせてそのポケモン達を見ていた。
ここにいるということは、このポケモン達も探検隊を生業としているのだろうか。
「おい、お前たち!」
突然背後から声がした。
みんなが振り向くと、そこに立っていたのは頭が八分音符のような形をしたとりポケモンだった。
「私はペラップ。ギルドの情報通だ。アンケートや勧誘はお断りだよ。さあ、帰った帰った」
軽く自己紹介すると、ペラップはソウイチ達を邪険に追い払おうとした。
「ち、違うよ! 僕達探検隊になりたくてここへ来たんだ。」
ゴロスケはあわててペラップを引き止めた。
「えええ!? 探検隊になりたいだって!?」
ペラップはかなり驚いた表情をしていた。
探検隊になりたくてここへ弟子入りにくるはずなのに、どうしてここまで驚く必要があるのだろう。
「珍しいな・・・。最近、修行が厳しくて夜逃げする者も多いというのに・・・」
ペラップは思わずつぶやいた。
それがみんなに聞こえているとも知らずに。
「ねえ、修行ってそんなに厳しいの?」
モリゾーはペラップに尋ねた。
「へ? そ、そんなことないよ! 修行はとってもら〜くちん! いやあ、それならそうと言ってくれればいいのに。ふふふふ・・・」
ペラップはあわてて否定し、その直後にはあふれんばかりの笑顔を見せた。
どことなく違和感がある。
「なんか、急に雰囲気変わったな・・・」
ソウイチは小声でソウヤにささやいた。
ソウヤもうんうんとうなずく。
「さあ、こっちだよ。ついてきな」
ペラップはみんなを手招きし、はしごを降り始めた。
遅れをとってはいけないと思い、みんなもその後に続いてはしごを降りる。
「ここがギルドの地下だ。」
構造からして、ここが最下層のようだ。
すると、突然モリゾーとゴロスケは窓際に駆け寄った。
ソウイチとソウヤは何か珍しいものでも見えたのかと思ったが、二人の反応は全く異なるものだった。
「うわあ、すごい! ここから外が見えるよ!」
二人はとてもはしゃいでいた。
もちろん、ソウイチとソウヤが呆れているのは言うまでもない。
窓があれば外ぐらい見える、これが二人の言い分だった。
「いちいちはしゃぐんじゃないよ! 静かにしな!!」
ペラップが叱りつけると、二人はしゅんとなってすごすごと戻ってきた。
弟子入りをしようというのに、あんな行動をとれば怒られるのは当たり前。
そしてペラップは、奥のほうにある大きな扉の前にみんなを連れてきた。
「これからお前たちを親方様に紹介する。くれぐれも、くれぐれも粗相のないようにな」
ペラップは念を押すと、一足先に部屋の中へ入っていった。
ソウイチ達も後から続く。
「親方様、新しい弟子を連れてきました」
ペラップは奥のほうにいる、ピンク色のポケモンに話しかけた。
みんなもそのポケモンを見たが、イメージしていたものとは大分かけ離れていた。
親方というからには、もう少しいかつい感じの人物を想像していたのだが、このポケモンはどこからどう見てもそうは見えない。
本当にここで一番上の立場なのか? そう思わずにはいられないほどだ。
「・・・? 親方様? 親方様・・・?」
ペラップが話しかけても、その人物は一向に返事をしない。
話が聞こえないはずもなく、ソウイチたが思案に暮れていると・・・。
「やあ! ボクはプクリン。ここのギルドの親方だよ? 君たち探検隊になりたいんだって?」
突然振り向き話しかけてきたので、みんなは面食らった。
「あ・・・。は、はい! オイラ達探検隊になりたいんです!」
ようやく言葉を出すことができたモリゾー。
どうもいきなりというのは反応しがたい。
「じゃあ、探検隊として登録するから、チーム名を教えてくれない?」
プクリンは戸棚から、なにやら名簿のようなものを取り出す。
これに書き込んで始めて登録完了となるようだ。
しかし、チーム名と言われて、モリゾーとゴロスケははっとなった。
そう、どんなものにするか全く考えてなかったのだ。
「ソウイチ、どうする・・・?」
モリゾーはソウイチに救いを求めた。
「どうするって急に言われてもなあ・・・。ちょっと待て、今考えるから・・・」
ソウイチは戸惑いの表情を浮かべたが、その場に座り込んで名前を考え始めた。
ポケダンズ、Tフォース、アルタリア、適当に思い浮かべてみるものの、しっくりとくるものが全くない。
(くそお・・・。全然思いつかねえ・・・。名前の頭文字もダメ、タイプ関係もダメ・・・。もっといいのはないのか・・・、なにかいいものは・・・。ん・・・?)
突然ソウイチは、ある単語が思い浮かんだ。
その単語は、いかにもチーム名にふさわしいものになる、そう思った。
「ひらめいた!!!」
「ど、どうしたのソウイチ?」
突然大声を出したのでみんなびっくり。
何事かと思って様子をうかがう。
「いい名前を思いついたんだ! アドバンズってのはどうだ?」
ソウイチはみんなに提案した。
思いついた理由は、自分が持っていたゲーム機の名前が思い浮かんだからだ。
「アドバンズか・・・。うん! いい名前! それにしようよ!」
モリゾーとゴロスケは嬉しそうだ。
どうやらすっかり気に入った様子。
「アドバンズ・・・。英語では確か、前進って意味があったよね」
ソウヤはソウイチに聞いた。
「そうそう! 常に上を目指して前に進み続ける! 途中で絶対あきらめたりしねえって意味が込められてんのさ!」
込められた意味は、明らかにソウヤの説明を聞いてから思いついたものだ。
だが、今そんなことは重要ではない。
ソウイチの言葉を聞いてソウヤも納得し、全員一致でアドバンズにすることにした。
「じゃあ、アドバンズで登録するね。登録、登録、みんな登録・・・」
プクリンはぶつぶつと何かをつぶやいている。
その言葉が聞こえ始めたとたん、ペラップは自分の両耳をふさぎ始めた。
何が始まるのかと思ったその瞬間。
「たあああああああああああああ!!」
突然大音響が響き渡り、みんなは卒倒しそうになった。
まるで大爆発でも起こったような音量だ。
「おめでとう! これで君達も探検隊の仲間入りだよ」
「ほ、ほんと!? やった〜!!」
モリゾーとゴロスケはとても喜んだ。
さっきの大声で若干足元がふらついてはいるが。
「記念に探検隊キットをあげるよ」
プクリンは、さっきとは別の棚から箱を取り出しみんなの前に差し出した。
「探検隊キット?」
みんなは差し出された箱をしげしげと眺める。
「探検隊に必要な物がいろいろ入ってるんだ。たとえば・・・」
プクリンは一つ一つ道具の使い方を丁寧に解説した。
おかげで使い方を間違えなくてすみそうだ。
「そしてこれは、僕から君達へのお祝い」
そう言って差し出したのは、青バンダナ、黄色と緑のハチマキ、モモンスカーフであった。
特別変わったものではないが、みんなの目にはすごくかっこいいものとして映っていた。
「うはあ! すっげえ! オレは青いの!」
ソウイチは迷わず青バンダナを選択。
ソウヤは緑、モリゾーは黄色のハチマキを取り、ゴロスケはモモンスカーフを取った。
好みがかぶらなかったのはかなりの偶然といえよう。
するとソウヤは、ソウイチがバンダナを首ではなく、頭に巻いていることに気付いた。
「ソウイチ、バンダナって首に巻くんじゃない? 何で頭に巻いてるの?」
「なんか海賊でこういうスタイルがあったんだ。それが気に入っててさ。」
ソウイチの説明でソウヤは納得したようだが、やはりスカーフやバンダナは首に巻くものだと思っていた。
「いよいよ明日からは修行だね。がんばって! 僕も応援してるよ」
プクリンはみんなを励ました。
「は、はい! 一生懸命がんばります!!」
モリゾーとゴロスケは姿勢を正してはっきりと答えた。
「ソウイチ、ソウヤ! 一緒にがんばろうね!」
モリゾーとゴロスケは再び手を差し出してきた。
「ああ、がんばろうぜ!」
「こちらこそよろしく!」
こうしてみんなは、またお互いに固い握手を交わした。
探検隊アドバンズ、今ここに生誕。
晩御飯がすむと、ペラップはみんなを奥のほうの部屋へ案内した。
そこには、わらを敷いたものが四つほど並んでいる。
「ここがお前達の部屋だ」
ペラップはそう言うが、部屋という割にはわらと窓以外何もない。
長い間いるような場所ではなさそうだ。
「わ〜い! ベッドだ〜!」
無邪気にわらの上へ寝転がるもりぞーとゴロスケ。
だが、布団の上で寝慣れているソウイチとソウヤにとっては、この上で寝るのは信じがたかった。
できれば寝たくないところだが、他に選択肢はない。
「明日から仕事だから、今日は早く寝るんだよ?」
「は〜い」
みんなはペラップに快く返事をし、ペラップは満足げにうなずくと部屋を出て行った。
「二人ともどうしたの? 結構気持ちいいよ」
ゴロスケは怪訝な面持ちで突っ立っている二人を見つめた。
それでもやはり、横になることに抵抗を覚えるソウイチとソウヤだったが、しぶしぶとわらの上に寝そべってみる。
すると、想像していたちくちくとした感じもなく、かなり寝心地は良さそうだ。
布団よりは劣るが、全然眠れないということもなさそうである。
それからみんなはお休みの挨拶を交わし、横になって眠った。
「ソウイチ、まだ起きてる?」
「ああ、まだ寝ちゃいねえよ。」
数十分経ったが、ソウイチとモリゾーはまだ寝付けないようだ。
「僕もまだ起きてるよ」
「なんだか興奮しちゃって・・・」
お休みの挨拶をしたはいいものの、どうやらみんな寝ていなかったらしい。
「ソウイチ、今日はオイラに付き合ってくれてありがとう。プクリンってもう少し怖いのかと思ってたけど、案外優しそうだったね」
モリゾーは言った。
「確かにな。オレも、もう少しひげはやしたじいさんみたいな人を想像してたからな」
「それって大工さんの親方じゃないの?」
ソウイチのイメージにソウヤが水を差す。
「別にどっちでもいいだろ・・・。イメージなんだから・・・」
まじめな突っ込みにため息をつくソウイチ。
「でも、ソウヤ達がいたからこそ入門できたんだ。本当にありがとう」
ゴロスケは心から感謝していた。
ようやく、夢の実現に向けて踏み出せたのだから。
「ふぁぁぁぁ・・・。なんだか眠くなってきちゃった・・・。ソウイチ、また明日がんばろうね。お休み・・・」
モリゾーはあくびをすると、すやすやと寝息を立て始めた。
ゴロスケもいつの間にか寝ていたみたいだ。
「なんか、あっという間に入門しちまったよな・・・」
ソウイチはソウヤに言った。
「そうだね。今日はびっくりすることばかりだったよ。これからどうなるのかな、僕達・・・」
ソウヤは天井を見つめながらつぶやいた。
「まあ、なるようになるんじゃねえか? 今はぐだぐだ考えてもしかたねえよ・・・。ふぁぁぁぁ・・・、もう寝ようぜ・・・」
ソウイチは大あくびをすると眠そうに言った。
「そうだね・・・。きっと大丈夫だよね・・・。お休み、ソウイチ」
そしてソウヤも、すぐに深い眠りへと落ちていった。
(本当に、これからどうなるんだろうな・・・。)
考え込んでいるうちに、ソウイチの意識ももうろうとなり、いつの間にかいびきをかいていた。
こうして、ソウイチ達がポケモンの世界に来てからの一日は終わりを告げた。
明日からは、探検隊アドバンズとしての、新しい一日が始まる。
「う〜ん・・・。どうしよう・・・」
「いざ行くとなると、なんだか怖いなあ・・・」
とある建物の前で、キモリとミズゴロウが悩んでいた。
建物に入りたいのだが、どうやら入る勇気が出ないらしい。
「いや・・・。迷っててもしょうがない! こうなったら、覚悟を決めて・・・」
二人は自分を奮い立たせ、中に入ろうと格子の上を通過した。
すると・・・。
「ポケモン発見!! ポケモン発見!! だれのあしがた? だれのあしがた? あしがたはキモリとミズゴロウ! あしがたはキモリとミズゴロウ!」
突然声が響き渡り、二人はびっくりして後ずさりした。
「うう・・・。やっぱりだめだ・・・。今日こそは大丈夫だと思ったのに・・・」
ミズゴロウはすっかりしょげ返っていた。
「この宝物も一緒に持ってきたのにな・・・」
キモリは手に握られた何かのかけらを見つめてつぶやいた。
見たことのない不思議な模様が描かれており、どことなく神秘的である。
「仕方ない・・・、今日のところはいったん帰ろう・・・」
キモリはミズゴロウを促し、二人はとぼとぼと階段を降り始めた。
すぐ近くの木で、誰かがじっと観察していたとも知らずに・・・。
二人はすぐ家には帰ろうとせず、海岸によることにした。
ちょうどこの時間は、クラブがあわを吹いているころだからだ。
そして今日も、夕方の海岸には美しい光景が映し出されていた。
「うわ〜! きれいだな〜・・・」
空に浮かぶ透明の球が、夕日の赤に染まった海に重なり、実にきれいな色合いをかもし出している。
二人はしばらくその光景を眺め、沈んだ心を癒していた。
「ん? なんだろう、あれ・・・」
ミズゴロウは遠くのほうで何かを見つけた。
キモリに声をかけ、二人はその何かに近づいてみることに。
そして、それが気を失ったポケモンであることが分かった。
「た、大変だ! ねえ、起きて! 起きてよ!」
「しっかり! しっかりして!」
二人はあわててそのポケモンを起こしににかかる。
程なくして、その二人は気がついた。
ところが・・・。
「おわあああ!!」
「ぽ、ポケモンがしゃべってる!!」
倒れていた二人は飛び上がった。
「どうしたの? 何でそんなにびっくりしてるの?」
不思議そうに聞くミズゴロウ。
人間の言葉など話せないはずのポケモンが、今こうしてしゃべっているのだ。
驚かないはずがない。
二人がそのことを伝えると、キモリとミズゴロウは顔を見合わせ笑い出した。
「な、何がおかしいんだよ!」
左側のポケモンは二人をにらみつけた。
まじめな話をしているのに笑われているのが我慢ならなかったのだ。
「何言ってるのさ! 君たちだってポケモンじゃない」
キモリは笑いながら言った。
二人は何をばかげたことをと思い、海を鏡代わりにして自分の姿を映してみる。
だが、そんな考えはいとも簡単に吹き飛んでしまった。
なんと、左側のポケモンはヒノアラシ、右側のポケモンはピカチュウだったのだ。
「ええええええ!? ぽ、ポケモンになってる〜!?」
どうしてそこまで驚くのだろうか。
理由は明白、二人とも目が覚める前までは人間だったからだ。
ところが、目を覚ます前の記憶が一切ない。きれいさっぱり抜け落ちているのだ。
二人は頭を抱えたが、そんなことはお構いないしに、ミズゴロウが話しかけてきた。
「ねえ、そういえば君たちの名前、まだ聞いてなかったよね。なんて言うの?」
正直自己紹介などしている場合ではないのだが、名乗らないのも失礼だ。
二人はしぶしぶながら、自分達の名前を教えることに。
「オレはソウイチだ」
とヒノアラシが答える。
「僕はソウヤ」
とピカチュウも同じく名乗る。
すると、突然二人はお互いの顔を見合わせた。
その直後、二人の叫び声が響き渡る。
「お、お前ソウヤなのか!?」
「そう言うそっちこそ、本当にソウイチなの!?」
どうやら二人は知り合いらしい。
記憶はないが、お互いの存在だけは覚えているようだ。
「何でおまえもポケモンになってるんだ?」
ソウイチはソウヤに尋ねた。
「わかんないよ・・・。気がついたらここにいて・・・。そっちは?」
ソウヤは首を振り、逆にソウイチに聞いた。
「オレに聞かれてもわかるわけねえだろ。記憶ねえんだから」
ソウイチはため息をついた。
どうやらお互いに事情が分からないようだ。
「あの、ちょっと聞いてもいい? 君たちってどういう関係なの?」
突然、ミズゴロウが遠慮がちに口を挟んだ。
見るからに会話についていけなかった様子。
「関係? オレ達は兄弟だけど、それがどうかしたのか?」
ソウイチはめんどくさそうに答えた。
今はそんなことどうでもいいのだ。
「ええっ!? ヒノアラシとピカチュウが兄弟だって!?」
キモリとミズゴロウは目を見開いた。
違う種類のポケモンが兄弟になるなど、あり得ないと思ったからだ。
「どうしてそんなに驚くの? もともとが人間なら、兄弟でもおかしくないでしょ?」
ソウヤは不快そうな顔でキモリとミズゴロウに言った。
どうも二人の言動がバカにしているように見えるのだ。
「に、人間!?」
二人はさらにびっくりした。
すると、キモリがミズゴロウを引っ張り、ソウイチとソウヤから離れた場所に移動。
そこでなにやらひそひそと内緒話をしている。
「あいつら何こそこそ話してるんだ?」
ソウイチは眉をひそめてソウヤにささやく。
「さあ・・・」
ソウヤも首をかしげた。
そしてしばらくすると、二人は戻ってきた。
だがその顔は、明らかに不信感に満ちていた。
「君たちさあ、もしかして僕たちのことだまそうとかしてない?」
「どうも見るからに怪しいんだよな〜・・・」
キモリとミズゴロウは二人に詰め寄った。
「な、なんだと!? 何で初対面のやつをだます必要があるんだよ!!」
ソウイチは顔を真っ赤にして怒鳴った。
見ず知らずの相手にいわれのない罪を着せられ腹が立ったのだ。
「そうだよ!!僕たちは初対面の人をだますほど落ちぶれちゃいないよ!!」
ソウヤも激怒していた。
ここまで言われて怒らない人はいない。
「ご、ごめん・・・。そんなつもりじゃなかったんだ・・・。最近この辺物騒だから、つい警戒しちゃって・・・」
二人はソウイチとソウヤの剣幕に気おされ、すっかり縮み上がってしまった。
どうやら二人が善人か悪人か見極めようとしていただけで、悪意があったわけではないらしい。
その証拠に、二人は頭を下げて丁寧に謝った。
「分かってくれたならいいけどよ・・・」
ソウイチは若干不満そうだったが、これ以上怒ってもしょうがないので、二人を許すことに。
「だけど、僕たちはだますなんて卑怯なことだけはしないからね」
ソウヤは一言付け加えた。
それを聞いて、モリゾーとゴロスケは恥ずかしそうにうつむく。
「そういや、お前らの名前聞いてなかったよな。なんて言うんだ?」
ソウイチはふと思い出し、二人に聞いた。
「オイラはモリゾー」
キモリが言った。
「僕はゴロスケ、二人ともよろしくね」
ミズゴロウもあいさつする。
「そう言えば、さっき物騒だって言ってたけど、そんなに危ないの・・・? まさか不審者とか出るんじゃ・・・」
ソウヤは不安げだ。
そういう危険なことにかかわるのだけはごめんなのだ。
「んなもんぶっ飛ばせばすむことだろ?」
ソウイチはあきれた表情でソウヤを見た。
普通は不審者に関わろうなどという考えは起きないのだが。
「いや、そうじゃなくて、なんていうのかなあ・・・」
モリゾーは言葉に詰まった。
いい例えが思いつかないのだろうか。
すると、突然何者かがモリゾーを思いっきり突き飛ばした。
「わあああ!!」
モリゾーはソウイチのいるほうへ吹っ飛び、ソウイチはよけるまもなく衝突。
ソウイチはさらに吹っ飛び、砂の中へ頭から埋まってしまった。
口の中にはざらざらと砂が流れ込む。
(も、もごああああ!!!)
何とか脱出を試みるも、足が浮いているのでちっとも抜け出ることができない。
一方モリゾーは、何とか体勢を立て直し無事着地。
「ちょっと、いきなり何するのさ! 危ないじゃないか!!」
モリゾーは突き飛ばしたやつを思いっきりにらみつける。
すると、突き飛ばした張本人、ドガースはニヤニヤしながら言った。
このドガースと横にいるズバットこそが、さっき二人を観察していたやつらなのだ。
「ケッ、わからねえのか? おまえに絡みたくてちょっかい出してんだよ」
「ええっ!?」
モリゾーはまったくわけが分からない。
絡まれる覚えもないのにこんなことを言われるのだ、動揺するのも無理はない。
「お! いいもんみっけ」
ズバットは地面に目を向け、何かを拾ったようだ。
「あ! そ、それは・・・!」
モリゾーの目線の先には、さっき持っていたかけらが映っていた。
どうやらぶつかってこられたときに手放してしまったようだ。
しかし、モリゾーはすっかりすくみ上がって動けない。
「ありゃ? 取り返さないのか?」
ドガースは意地悪そうに言った。
モリゾーは憎悪の目でにらみ返すものの、一歩も前へ進むことができない。
「じゃあこれはもらっていくぜ。あばよ!弱虫君!」
ズバットはモリゾーに暴言を吐き、二人はそのまま去って行った。
「ああ・・・、オイラの宝物が・・・」
モリゾーは力なくその場に座り込んだ。
「あれがないとオイラは、オイラは・・・」
モリゾーの目が徐々に潤み始める。
臆病な自分自身に対するいらだちと、宝物を持って行かれた悲しさからだ。
「モリゾー・・・」
ゴロスケはなんと声をかければいいのか分からず、ただただモリゾーの後姿を見つめている。
すると、モリゾーは急に立ち上がりソウヤの手をとった。
「お願い! オイラと一緒に、宝物を取り返すの手伝って!」
モリゾーは必死な様子でソウヤに頼んだ。
よほど大切なものなのだろう。
「僕からもお願い! 手伝ってあげて!」
ゴロスケも真剣なまなざしでソウヤを見つめた。
だが、二人に見つめられてソウヤは困惑するばかり。
ただでさえ自分に起こったことが理解できないのに、他人の手助けをする余裕などなかったのだ。
「うがああああ!!」
突然あたり一面にうなり声が響いた。
三人がびくっとしてそのほうを見ると、ソウイチが地面から抜け出したようだ。
かわいそうに、すっかり存在を忘れられていた。
「ちょっと! ソウイチ何やってんのさ!」
ソウヤはあきれた顔でソウイチを見た。
「何してんのじゃねえよ!! いつまでもほったらかしにしやがって!!」
ソウイチは早速怒りをぶちまけた。
放置されていた分、その勢いはすさまじいものだった。
「ってそんなことはどうでもいい!! あいつら、絶対許さねえ! よくも人をぶっ飛ばして謝らずに行きやがったな!!」
そう言うと、ソウイチは全速力でドガース達の去っていったほうへ走り出した。
突き飛ばされたのはモリゾーのほうで、自分は巻き沿いを食っただけなのだが、この際そんなことはどうでもいいらしい。
「ああ! 待ってよ〜!」
最初は唖然としていた三人だったが、はっと我に返りソウイチの後を追いかけ始める。
全力で走っても、向こうのスピードはすさまじくなかなか追いつけない。
「くっそお、あいつらどこ行きやがった!?」
血眼になってあの二人を探すソウイチ。
しかし、空中に浮かんでいるせいで足跡がつかないため、どこへ行ったかを特定するのは難しかった。
残っているものといえば、ドガース特有のにおいぐらいだ。
すると、そこへようやくソウヤ達が追いついてきた。
全力で走ったためか、すでに息が荒くなっている。
「もう、勝手に一人で行かないでよ!」
ソウヤは早速ソウイチに不満をぶつけた。
「そっちが遅いだけだろ! もっと速く走れねえのかよ!?」
ソウイチはカチンと来て言い返した。
さっきのことで気が立っている分、冷静さは欠けている。
「なにを! 元はといえばソウイチが自分勝手なことするから悪いんじゃないか!」
ソウヤも負けじと言い返す。
「なんだと!? そもそも、そっちがさっさと掘り起こしてりゃあの場でやっつけてやったんだよ!!」
話だけは聞こえていたようで、ソウイチはさらに怒りを増大させて怒鳴った。
「よけられなかったのがいけないんでしょ!! こののろま!!」
「てめえ!!」
売り言葉に買い言葉で、二人のけんかはどんどんエスカレートして行った。
このままではいつ殴り合いにならないとも限らない。
「けんかしてる場合じゃないでしょ!? 早くしないと取り返せなくなっちゃうよ!」
とうとうモリゾーがしびれを切らして二人に怒鳴った。
「チッ・・・、わかったよ・・・。行けばいいんだろ行けば!」
ソウイチは八つ当たり気味にモリゾーに言うと、足を踏み鳴らして先へ進み始めた。
ソウヤもソウヤで、全身からいらいらがあふれ出している。
そして、海岸の端のほうまで来ると、大きなどうくつのようなものを見つけた。
ドガースの匂いも残っており、間違いなく二人はこの中に入って行ったようだ。
「ここみたいだな。さっさと追いかけてぐうの音もでねえようにしてやる!」
ソウイチはとても息巻いている。
「今度は勝手に一人で行かないでよ?何があるか分からないんだから」
ソウヤが忠告した。
「わかってるよ・・・」
ソウイチはぶっきらぼうに答えると、また歩き始めた。
そして、しばらく歩くと突然ソウヤに言った。
「さっきは悪かったよ・・・。ごめん・・・」
突然謝られたので、ソウヤはちょっとびっくりしたものの、すぐに普通の表情に戻った。
「もういいよ。こっちも言い過ぎたんだし」
その言葉を聞いて、ソウイチは小さく笑った。
モリゾーとゴロスケも、二人のやり取りを見て安心したようだ。
「よっしゃあ! 絶対あいつらぶっ飛ばすぞ!」
「おお〜!!」
ソウイチが腕を高く突き上げたのにあわせ、他のみんなもソウイチの腕に重なるように自分の腕を突き上げる。
気合を入れ、みんなはいよいよ、最初の冒険へと足を踏み入れるのだった。
どうくつの中は暗く、あまり見通しがよくない。
岩の壁にあるヒカリゴケらしきものが、わずかに光を放っているだけだった。
「いったいあいつらどこまで行ったんだよ・・・。もう結構歩いたぞ?」
ソウイチはぼやいた。
実際入ってから15分もたっていないのだが。
「まだまだ先だよ。とにかく急がなくっちゃ」
モリゾーはソウイチの不満を受け流し、ひたすら先へと歩みを進める。
ソウイチがまた何か言おうとしたそのとき、突然横から何かがぶつかってきた。
「うおっ! いってえなあ・・・」
ソウイチはぶつけられたところをさすった。どうやら敵のお出ましのようだ。
よく見ると、なんだか全体的にうねうねとしているようなポケモンだった。
「な、なんだあれ・・・?」
「何かの軟体動物みたいだけど・・・」
ソウイチとソウヤは、こんなポケモンは見たことがなかった。
どことなくアメフラシのようにも見える。
「あれはカラナクシ。みずタイプのポケモンだよ」
ゴロスケが二人に教えた。
からがないというのは、やどかりみたいに巻貝を背負っていないからだろうか。
「なんかすっげえうねうねしてるな〜・・・。ここは見なかったことにしてスルーしようぜ・・・」
なんだか面倒なことになりそうなので、ソウイチはそのまま素通りしようとした。
しかしそうは問屋がおろすはずもなく、カラナクシはまたたいあたりを仕掛けてきた。
「やるしかねえのかよ! でも今度はあたらねえぜ!!」
ソウイチはさっと攻撃をかわし、今度は自分のたいあたりでカラナクシを吹っ飛ばした。
カラナクシはそのまま岩壁に激突し、ずるずると地面に座り込んだ。
「へへ〜ん! どんなもんだい!」
ソウイチは調子に乗っていたが、もちろんカラナクシはその隙を逃さず、目いっぱいの力でどろばくだんをお見舞いした。
もちろんよけられるはずもなく、ソウイチの顔面にクリーンヒット。
「うへえ! なんだよこれ!?」
ソウイチは顔面の泥をぬぐおうとしたが、突然足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
ほのおタイプにじめん技は効果抜群、かなり体力を削られてしまったのだ。
カラナクシはソウイチが動けないことを確認すると、すぐさま他のみんなに攻撃の的を絞る。
モリゾーとゴロスケは攻撃に備えたが、見た目以上のすばやさに対応できず、その場にひざをついた。
勢いを増したカラナクシはソウヤに狙いを定め、どろばくだんをチャージしながら突っ込んでいく。
「ソウヤ、逃げて!!」
ゴロスケがさけんだが、ソウヤはカラナクシから目線をそらさず、ちっとも動こうとしない。
「バカ! 何じっとしてんだ!! 早く逃げろ!!」
それでもソウヤはカラナクシをじっと見据えている。
すると、ソウヤのほっぺから電気がバチバチと流れ始めた。
カラナクシをぎりぎりまでひきつけ、衝突まで後数メートルというところで、ソウヤはものすごい電気を放出。
でんきショックの上を行く、十万ボルトだった。もちろんよけられるはずもなく、カラナクシはあっという間に戦闘不能となった。
(すげえ・・・。いきなり十万ボルトが使えるなんて・・・)
ソウイチは内心舌を巻いていたが、それと同時にうらやましかった。
何せ、いまだたいあたりしか使えていないのだから。
「二人とも大丈夫?」
モリゾーとゴロスケは二人の元に駆け寄り、安否を確認した。
「ああ、あれぐらい何ともねえよ」
ソウイチは強がって答えたものの、実際はまだ足に力が入らなかった。
「でもすごいよ。いきなり十万ボルトが使えるなんて」
ゴロスケはソウヤをほめた。
十万ボルトはある程度までレベルが上がらないと覚えないはずだが、ソウヤは最初からそれが使える。
やはり人間だったから、普通のポケモンとは違う部分があるのだろうか。
「いやあ・・・、偶然だよあんなの」
ソウヤは照れて赤くなった。
「くそ、何でソウヤだけ・・・」
ソウイチは面白くなかった。
弟であるソウヤに先を越されたような気がしたのだ。
「大丈夫。ソウイチにも、他に使える技がきっとあるよ」
モリゾーはソウイチを慰めた。
確証はないが、その心遣いは嬉しいもの。
ソウイチはこくっとうなずいてみせた。
「よし、じゃあ先を急ごう!」
モリゾーは再び駆け出した。
一刻も早く、あの宝物を取り戻さねばならない。
次々出てくる敵を倒しながら進んでいると、不意にぽっかりと空いた空間に出た。
「だいぶ奥まで来たみたいだね。でも、あいつらはいったいどこに・・・、ん?」
ゴロスケはあたりを見回し、水たまりの近くでドガースたちが立ち往生しているのを見つけた。
どうやらここで行き止まりらしい。
「今がチャンスだ。気付かれないうちに早く・・・」
ところが、ソウイチの言葉を聞く前に、モリゾーは一人で飛び出し、ドガース達のところへ向かった。
「待て! はやまるなって!!」
ソウイチは呼び戻そうとしたが、もう手遅れだった。
モリゾーはすでに、あの二人に声をかけてしまっていたのだ。
「おや?誰かと思えばさっきの弱虫君じゃないか」
これまた意地悪そうな口調で返事をするドガース。
モリゾーの目は怒りでぴくぴく震えている。
「ぬ、盗んだ物を返してよ!! あれはオイラにとって、大切な宝物なんだ!!」
モリゾーは勇気をふりしぼってドガース達に言った。
「何だ、やっぱりあれはお宝なんだな? じゃあますます返すわけにはいかなくなったな。ヘヘッ」
ズバットはニヤニヤしながら言った。
はなから返す気はないらしい。
「ええっ!? そんな・・・」
そのやり取りを見ていて、とうとうソウイチも我慢が限界に来た。
「おいお前ら! 人の物とるのは犯罪だろうが! やっていいことと悪いことの区別もつかねえのか!?」
モリゾーを押しのけ前に出ると、ソウイチは大声で怒鳴った。
すると、向こうは得意の嫌みで返事をする。
「ん? 今度は砂の中に埋まってたやつじゃねえか」
ドガースは笑いながら言った。
「あれは傑作だったなあ。あんな不恰好でダサイやつ見たこと無かったぜ」
ズバットもつられて笑う。
その二人の言葉で、ソウイチの額に青筋が浮いた。
完全に切れてしまったようだ。
「んだとお!? もうあったまきた!! てめえらなんぞ立ち直れねえぐらいにボコボコにしてやる!!」
ソウイチは猛ダッシュで二人に殴りかかった。
素手でのけんかはソウイチの得意とするところであり、めったに負けたことがない。
しかし、人間だったら素手でも勝てるかもしれないが、相手はポケモン。
案の定、二人は平然とかわし、ソウイチの攻撃は空振りに終わり地面に激突した。
「ぬがああああああ!!!」
ソウイチは痛みのあまりその場をのた打ち回った。
他のみんなは呆然とその様子を見ている。
「オレ達に勝つなんて100年早いんだよ!!」
そう言ってソウイチにどくガスを吐きかけるドガース。
やられる! そう思った瞬間、ソウイチは何かに突き飛ばされていた。
なんと、ソウヤが身代わりとなり、自らどくガスの餌食となったのだ。
「そ、ソウヤ!!」
あわててソウイチはソウヤを抱き起こしたが、どくガスの勢いがすさまじかったのか、完全に気を失っていた。
「ヘッ。たいしたことねえ野郎だ。あれぐらいで倒れるなんてよ」
ズバットがせせら笑った。
「ホント、どうしようもないぐらい弱いよな」
ドガースも調子を合わせる。
その言葉を聞き、ソウイチの両手はぶるぶると震えた。
「取り消せ・・・」
「なんだと?」
「今言ったことを取り消せって言ってんだよ!!」
ソウイチは怒り心頭に発した。
先ほどのような感情ではなく、大事な弟を傷つけられ、けなされたことに対する真の怒りだ。
「何だ、やる気か?」
「返り討ちにしてやるぜ!」
二人は戦闘態勢に入り、いつでも攻撃ができるようにした。
「上等だコラアアア!!!」
ソウイチはドガースに突進し、目にもとまらぬ速さでたいあたりをぶちかました。
それが戦闘開始の合図となり、モリゾーとゴロスケもあわてて加わる。
まずはモリゾーとソウイチでドガースに集中攻撃。
二人に被害を加えた張本人なので、どうしても先に倒しておきたかったのだ。
ドガースのたいあたりやどくガスに気をつけながら、二人は交互にたいあたりとはたくでダメージを与える。
それでもどくガスを全てかわせるわけではなく、徐々にだがダメージは蓄積していく。
一方ゴロスケは、すばやさの高いズバットを相手に苦戦していた。
たいあたりやみずでっぽうでいくら攻撃しても、向こうがいとも簡単にかわすのでなかなか倒せないでいる。
ズバットのほうは余裕を見せており、挑発的な言葉でゴロスケをからかっていた。
「遊びはこれで終わりだ!!」
ドガースは最大パワーでどくガスをあたり一面に撒き散らす。
直撃は免れたものの、モリゾーは少し吸ってしまい地面に倒れてしまった。
「威勢だけじゃ勝てねえんだよ!」
ドガースは倒れたモリゾーを見てフンと鼻を鳴らした。
しかし、肝心なことを忘れていた。相手はモリゾーだけではないということを。
「てめえの相手は一人じゃねえんだよ!!」
ソウイチは近くにあった岩を使ってジャンプし、どくガスを全て回避していたのだ。
そしてドガースに狙いを定め一気に落下、強烈なたいあたりをお見舞いする。
ドガースはそのまま後ろにひっくり返り、目を回してしまった。
残るズバットを倒すため、ソウイチはゴロスケに合流。
だが、ゴロスケはすでにPPをかなり消費しており、体力の残りも少なかい。
案の定、ズバットのつばさでうつを受けて壁に叩きつけられてしまい、これ以上戦うのは無理だった。
「ヘヘッ。さあどうするんだ? たいあたりだけじゃオレは倒せねえぜ。」
ズバットは余裕の表情を浮かべている。
ソウイチの体力も残りわずか、何か手を打たなければ勝てる見込みはない。
(くそお・・・、オレも何か強力な技が使えれば・・・)
ソウイチは悔しそうに歯軋りした。
「お前もあのザコどもと同じようにくたばれ!!」
ズバットはでんこうせっかと組み合わせてつばさでうつを仕掛けてきた。
(くそお! こうなったら一か八か・・・!)
ソウイチは思いっきり息を吸い込み、ひのこを吐き出した。
すると、それはだんだんと炎の塊になり、ズバットを包み込んで燃やした。
「ぎゃあああああ!! あぢぢぢぢぢ!!!」
ズバットは身もだえしながら火を消そうとしたが、そうそう簡単に消えるはずもない。
やがて炎が体力を吸い尽くし、ズバットは黒焦げになってその場に倒れた。
「はあ・・・、はあ・・・。どっちが雑魚か思い知ったか・・・!」
ソウイチは息も絶え絶えにズバットに吐き捨てると、すぐさまモリゾーとゴロスケの元へ駆け寄った。
「おまえら、大丈夫か?」
ソウイチはかわるがわる二人を見た。
「なんとかね・・・。いたた、体中傷だらけだよ」
モリゾーは痛そうに体をさすった。
あちこちに擦り傷や打ち身がある。
「あれ? ソウイチ、いつの間にあいつらをやっつけたの?」
倒れた二人を見てゴロスケが不思議そうにたずねた。
「なんかよくわかんねえけど、ひのこを出したつもりが、オレの口から大きな炎が出て・・・。で、気がついたらコウモリのやつが黒こげに・・・」
「それってもしかして、かえんほうしゃじゃないの?」
モリゾーが言った。
「あれがそうなのか?」
自分でも信じられなかった。
まさかひのこからかえんほうしゃにグレードアップするとは思ってもみなかったのだ。
「でもソウイチもすごいね。いきなりかえんほうしゃが使えるなんて」
ゴロスケはソウイチをほめた。
「そりゃあ、ソウヤに置いてけぼり食うわけにはいかね・・・、ああっ!!」
ソウイチは自慢げに鼻を鳴らしたが、突然大声を出した。
「ど、どうしたの?」
突然ソウイチが叫んだので、二人ともびっくり。
叫んだ原因は何かといえば・・・。
「ソウヤのことすっかり忘れてた〜!!」
「だああああ!!」
二人は思いっきりずっこけ、ソウイチは早速ソウヤのところへ駆け寄る。
しばらく介抱すると、ソウヤはようやく息を吹き返した。
「ソウヤ、大丈夫か?」
「うん・・・。まだちょっとくらくらするけどね・・・」
ソウヤは目を半分だけ開けて言った。
まだ完全には回復しきっていないようだ。
「なあ、何でオレをかばったんだよ?」
ソウイチは気になってソウヤに尋ねた。
「わかんない・・・。体が勝手に動いたっていうか・・・」
ソウヤ自身にも理由は分からない。
だが、これがお互い心と心がつながっているといえる証拠でもある。
「いてて・・・。くそお、こんなはずじゃ・・・」
目を覚ましたズバットは悔しそうにうめいた。
「まだやるか? とことん相手になってやるぜ?」
ソウイチは二人を真っ向からにらみつけた。
多少は効果があったのか、二人とも戦う意思はもうないようだ。
「くそっ、こんなモン返してやるよ!」
ドガースは宝物を放り出すと、ズバットとともにそそくさと退散していった。
すぐさまモリゾーはそれを手に取り、傷や欠けているところがないか確認する。
どこも壊れていないことが分かり、思わずため息が漏れた。
「じゃあ、あいつらもやっつけたし、そろそろ帰ろうぜ」
ソウイチはみんなを促した。
「うん!」
みんなはうなずいた。
特に、宝物を取り戻したモリゾーは、一番うれしそうだ。
そしてみんなは海岸に戻り、モリゾーとゴロスケはソウイチとソウヤに丁寧に礼を述べた。
「ソウイチ、ソウヤ、本当にありがとう。おかげで宝物を取り返すことができたよ」
「二人とも強いんだね。最初からあんな強力な技が使えるなんてすごいよ」
二人とも心からソウイチとソウヤに感心していた。
「んなことねえよ。お前らの技だって結構威力あったぜ?」
「そうそう。僕らと同じくらい強かったよ。」
ソウイチとソウヤは逆にモリゾー達をほめた。
二人はそんなことを言われるとは思ってなかったので、照れて赤くなった。
「そういや、さっきのかけらみたいな物は何なんだ?宝物とか言ってたけど」
ソウイチはモリゾーに聞いた。
「ああ、これのこと?」
モリゾーはかけらを取り出し、地面に置いた。
「見たこと無い模様だね・・・」
ソウヤが言った。
確かに珍しい模様が描かれている。
「でしょ?これは、オイラが父さんからもらったものなんだ。父さんは有名な探検家だったけど、このかけらのなぞだけは解けなくて、オイラに託したんだ」
モリゾーは二人に説明した。
「オイラ、昔からいろいろな場所を探検するのが好きでさ。いつかは立派な探険家になりたいって、ずっと思ってたんだ」
モリゾーは目を輝かせて自分の思いを語る。
「僕もそうなんだ。だってそう思わない? いつも新しい発見が待っている、そう考えるたびにわくわくするんだ。いつか立派な探検隊になれたらなあ・・・」
ゴロスケもうれしそうに話して聞かせた。
「へえ〜。そんなに楽しいもんなのかなあ」
ソウイチにはいまいちぴんと来なかったようだ。
だが、二人の目の輝きは本物だということは分かった。
「それでお願いがあるんだ。ソウイチ、ソウヤ。オイラ達と一緒に探検隊をやってくれない?」
「二人と一緒ならできそうな気がするんだ。だからお願い」
モリゾーとゴロスケは急に真剣な表情になり、頭を下げて二人に頼んだ。
もちろん二人は大慌て。
「そ、そんなこといきなり言われてもなあ・・・。どうする? ソウイチ」
ソウヤは困りきった顔でソウイチに助けを求めた。
ソウイチ自身もどうするか迷っていたが、断ったところで行く当てもないし、ここの社会の仕組みも分からない。
今はこの二人と一緒にいる方が良いだろう、そう判断した。
「わかったよ。どうしてもっていうなら別にいいぜ」
ソウイチは二人に言った。
「ほ、ほんと!? ありがとうソウイチ!」
二人は手を取り合って喜んだ。
こんなにうれしそうな姿は二人とも初めて見た。
「ちょっとソウイチ! 勝手に決めちゃ・・・」
「いいじゃねえか。行く当てだってねえんだから別にいいだろ?」
ソウヤの言葉を途中で遮りソウイチは言った。
いまさら言ったことを取り消せるはずもない。
「もう・・・、わかったよ」
ソウヤも最初はあきれていたが、最後は快く承諾した。
「決まりだね! これからもよろしく!」
そう言うと、モリゾーは手を差し出してきた。
「ああ、がんばろうぜ!」
ソウイチもしっかりその手を握り返した。
「ソウヤ、がんばろうね!」
ゴロスケもソウヤに握手を求める。
「うん・・・、よろしく!」
ちょっと戸惑うソウヤであったが、すぐに笑顔で握手を交わす。
この瞬間から、ソウイチ達の冒険のはぐるまは回り始めた。
だが、この先どんな冒険が待っているのかは、まだ誰も知らない・・・。
キャラ設定
探検隊アドバンズ
ソウイチ(ヒノアラシ)♂12歳ぐらい H9.11.26生まれ
もともとは人間だったが、気がついてみるとなぜかポケモンになっていた。
海岸で倒れているところをモリゾー達に発見され、ギルドに入門し探検隊アドバンズを結成。パートナーはモリゾー。
性格は後先考えないのうてんきで自分勝手。
よく寝るほうで、つまらない話の最中などには経ったまま寝ることもある。
短気で怒りっぽいため、弟のソウヤやパートナーのモリゾー達ともめることもしばしば。
しかしけんかをしていても、本当はモリゾーやソウヤのことをとても大事に思っており、いざというときには自分のことは顧みず、仲間たちのために全力を尽くす一面も。
他のヒノアラシとは目の形が異なっていてマグマラシのような目の形をしている。
青いバンダナを頭に巻いているのが特徴。本人曰く、パイレーツスタイルなのだそうだ。
悩みはソウヤにからかわれることと、おばけ嫌いの事を言われること。
技 たいあたり
ひのこ
かえんほうしゃ
ソウヤ(ピカチュウ)♂11歳ぐらい H10.11.27生まれ
ソウイチと同じく人間からポケモンになってしまった。
ソウイチとは兄弟でソウイチが兄、ソウヤが弟。
こちらも海岸で倒れているところをモリゾー達に発見されギルドに入門。パートナーはゴロスケ。
性格は親切でやさしく、兄の性格がのうてんきなだけにかなりまじめな部分がある。
お金や道具の管理なども任されており、ソウヤのほうがリーダーに向いているのではと思われがち。
ソウイチとの兄弟げんかは多いが、心の中では兄のことをとても慕っている。
パートナーのゴロスケとはとても仲良しで、持ちつ持たれつの関係。
他のピカチュウと違う点は、前髪があること、背中の模様が若干ぎざぎざになっていること。
エメラルドグリーンのハチマキを頭に巻いているのが特徴。
悩みはソウイチがのうてんきすぎて自分勝手なこと。
技 でんきショック
十万ボルト
でんこうせっか
モリゾー(キモリ)♂11歳ぐらい H10.9.28生まれ
故郷をひとり立ちし、トレジャータウンに移り住んできたキモリの少年。
夢は一流の探険家になることで、探検隊にとてもあこがれている。
しかし、自分自身が臆病な性格なため、なかなかギルドへ入る決心がつかなかった。
たまたま海岸へクラブのあわふきを見に訪れたとき、ソウイチたちと出会い、ギルドへ入門しアドバンズを結成。
臆病な性格の持ち主だが、意外と気が強く頑固な部分があり、ソウイチと衝突してしまう。
それでも、自分とパートナーを組んでくれたソウイチのことをとても信頼しており、頼りにしている。
正義感と親切心は人一倍で、困っている人を助けるためなら自分のことは顧みない。
しっぽに乗られたり引っ張られたりすることが大嫌い。
特徴は頭に巻いている黄色いハチマキ。
悩みは自分が臆病なこと。
技 はたく
でんこうせっか
すいとる
ゴロスケ(ミズゴロウ)♂11歳ぐらい H10.9.29生まれ
モリゾーと同じく、故郷からトレジャータウンへ移り住んできたミズゴロウの少年。
こちらも夢は一流の探険家になることで、モリゾーと日々特訓を重ねてきた。
しかし、やはりギルドに入る決心がつかず、モリゾーとともに海岸へ行きクラブのあわふきを見ることに。
そこでソウイチたちを発見し、ソウヤとパートナーを組む。
性格は臆病だが、いざというときには決して逃げない。そして観察力に優れており、細かいことによく気がつく。
誰にでも優しく親切なのでみんなから好かれているが、あまり人を疑うことをしないのでたまにだまされることもある。
正義感も人一倍強く、自分が悪いと思ったことは例え仲間であっても絶対に許さない。
そのため時々誤解を生じみんなと口論になることもある。
特徴はモモンスカーフを首に巻いているところ。
悩みは他のみんなよりちびだと思っていること。
技 みずでっぽう
たいあたり
どろかけ
キャラ紹介は、話の進行に合わせて順次更新しますのでお楽しみに。
あらすじ
あの名作、空の探検隊がパワーアップして帰ってきた! 人間からポケモンになってしまったソウイチとソウヤ。 ポケモンになった理由も、それ以前の記憶もほとんどない。
助けられたモリゾー、ゴロスケとパートナーを組み、探検隊アドバンズを結成。 出会いがあれば別れがある。感動があれば悲しみや怒りがある。 だけど、どこかおもしろい。そんな冒険に、あなたも出会ってみたくはないですか?
すべてのポケモンファンにおくる、探検隊冒険紀「アドバンズ物語」ここに見参!
SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』
(5)
イチロウ「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ナナシマ・バトルチャンピオンシップス最終日は参加者全員で楽しく大バトル!バトルスタンプラリーを行います!」
シンイチ「バトル大会に参加した選手がコンテスト大会に。またコンテスト大会に参加した選手がバトル大会にも参加できる、参加者全員が一体となって楽しむ催しです!実況の私達も一緒になってこの模様をお伝えしたいと思います。ではルリカさん、ソウスケさん、どうぞよろしくお願いします。」
ルリカ・ソウスケ「よろしくお願いします。」
激戦が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップス。ミキがバトル大会を、ユカリがコンテスト大会を優勝するまでには、それまでに敗れ去った多くのトレーナーやコーディネーターの姿があるのもまた事実だった。
勝つものがあれば、必然的に負けるものがいる。だがその中にも数多くの原石が散らばっているのである。そして、ナナシマ・バトルチャンピオンシップスはこの負けたトレーナーやコーディネーターに対しても次の大会に向けたレベルアップの場を提供するため、「バトルスタンプラリー」と言うイベントを企画していた。
バトル大会に出場した選手がコンテストに。またコンテスト大会に出場した選手がバトルに参加できるという内容で、まずは予選ラウンドで敗退したトレーナーや一次審査で落選したコーディネーターが対象となり、決勝トーナメントやコンテストバトルと並行して行われた。そして最終日となる今日は決勝トーナメントやコンテストバトルに勝ち残った選手も含めて、この場に残っていたトレーナー全員が参加することになっていた。任意の3か所でバトルすれば記念品をもらうことができた。
そして今、ちょうど2人の女性トレーナーが最後のスタンプをもらうため、バトルに挑もうとしていた。カントー地方・ハナダシティ出身のアユミ。そして同じくカントー地方・トキワシティから参加していたマドカだった。
アユミ「(あたしはアユミ。今回ナナシマ・バトルチャンピオンシップスに出場したんだけど、予選ラウンド3回戦で負けてしまったわ。だから決勝トーナメントに進むことはできなかったんだけど、また次のステップに向かう第一歩として、バトルスタンプラリーに参加することにしたの。)」
マドカ「(あたしはマドカ。あたしも予選ラウンド2回戦で負けてしまったの。でもどうして負けたのか、どこをどうすれば勝てたのかを改めて分析するきっかけになればと思って、バトルスタンプラリーに参加したのよ。そして今回、最後のスタンプをもらうために、あたしとアユミさんがこうしてバトルすることになったのよ。)」
かくしてバトルすることになったアユミとマドカ。勝負は3体ずつで行われ、先に2勝した方が勝ちというルールだった。
アユミ「マドカさん。あたし達でいいバトルにしましょう!」
マドカ「うん!手加減はしないわよ、アユミさん!」
アユミ「行くわよ、トゲキッス!」
アユミはトゲキッスを繰り出した。
マドカ「出番よ、ギガイアス!」
マドカはギガイアスを繰り出した。
アユミ「(ギガイアス・・・。イッシュ地方のポケモンね。それなら。)トゲキッス、はどうだん!」
トゲキッスがはどうだんを放つ。
マドカ「ギガイアス、受け止めて!」
ギガイアスは効果抜群になるはずのはどうだんを受け止めた。
アユミ「受け止めた!?」
マドカ「うん。ギガイアスの特性はがんじょう。一撃で倒されることがない特性なのよ。」
アユミ「(一撃で倒されない・・・。マドカさん、やっぱり手強いわね。)」
マドカ「ギガイアス、ロックブラスト!」
アユミ「トゲキッス、連続ではどうだん!」
ギガイアスがロックブラストを放つ。それをトゲキッスがはどうだんを連発して打ち砕いていく。だがロックブラストの威力が勝っていたのか、砕けなかった1発がトゲキッスに命中した。効果は抜群だ。
アユミ「トゲキッス!」
トゲキッスはそのまま地面に向かって落ちていく。
マドカ「今よ!ギガイアス、ギガインパクト!」
ギガイアスがギガインパクトでトゲキッスに襲いかかった。トゲキッスはギガインパクトをもろに受けてしまい、フィールドに崩れ落ちた。戦闘不能だった。
アユミ「トゲキッス、ゆっくり休んでね。・・・やるわね、マドカさん。よく育てられてるわ。」
マドカ「アユミさんだって、今のトゲキッス、かなり鍛えられていたわ。これから経験を積んでいけば、もっと強くなれると思うわ。」
アユミ「ありがとう!じゃあ次のポケモンを出すわね。行くわよ、ピカチュウ!」
アユミはピカチュウを繰り出した。
マドカ「出番よ、ヌオー!」
マドカはヌオーを繰り出した。相性の面ではアユミのピカチュウが圧倒的に不利だ。
アユミ「(まずいわ。ヌオーはじめんタイプも併せ持っている。ピカチュウのでんき技は効かないわ。)」
マドカ「ヌオー、マッドショット!」
ヌオーがマッドショットを放つ。じめんタイプの技であるマッドショットをもろに受ければ効果は抜群だ。
アユミ「(でもでんき技だけがピカチュウではないわ!)ピカチュウ、空高く飛んで!」
マドカ「ピカチュウがそらをとぶを使えるの!?」
宙返りしたピカチュウは風船で空高く飛び上がってマッドショットをかわした。
マドカ「ヌオー、みずのはどう!」
アユミ「ピカチュウ、みずのはどうをよく見て!」
ヌオーはみずのはどうをピカチュウに向かって放ち続けていた。だがよく見ると1発放ってから次に移るまでにわずかな隙が見られた。
アユミ「今よ!ピカチュウ、急降下!」
マドカ「ヌオー、マッドショットで迎え撃って!」
ピカチュウは急降下してヌオーに迫る。ヌオーもマッドショットを放って応戦するが、ピカチュウは右に左によけ続けており、なかなか命中しない。そして空からの強烈な一撃がヌオーに叩き込まれた。
マドカ「ヌオー!」
よほど威力が大きかったのか、ヌオーは一撃で戦闘不能となってしまっていた。
マドカ「ヌオー、よく戦ったわね。・・・アユミさん、そのピカチュウ、たくさんの技を使いこなせるのね。」
アユミ「うん。なみのりにそらをとぶと言った、普段のピカチュウが使いこなせない技も使えるのよ。意外な技を使えるって言うのは意表性もあると思うわ。」
マドカ「すごいわね、アユミさん。・・・ピカチュウを連れたトレーナーって言うと、サトシ君を思い出すわね。」
アユミ「うふふっ。サトシ君はポケモンマスターにまで上り詰めた実力の持ち主。そしてピカチュウはサトシ君の一番のパートナー。でもあたしのピカチュウは、サトシ君のとはひと味もふた味も違うわ。」
マドカ「そうね。サトシ君のピカチュウが覚えていない技も使えるもんね。さあ、最後の1匹ね。出番よ、カメックス!」
マドカはカメックスを繰り出した。
アユミ「行くわよ、フシギバナ!」
アユミはフシギバナを繰り出した。
マドカ「(相手はフシギバナ。みずタイプのカメックスにとってはタイプで不利ね。)カメックス、れいとうビーム!」
カメックスがれいとうビームを放つ。タイプで不利なカメックスだが、技でカバーする作戦だろう。
アユミ「フシギバナ、まもる!」
フシギバナはまもるの体制に入り、れいとうビームを防いだ。
アユミ「フシギバナ、続いてエナジーボール!」
フシギバナがエナジーボールを放つ。
マドカ「カメックス、ラスターカノン!」
カメックスもラスターカノンで応戦する。2つの技がフィールド中央でぶつかり合い、大爆発が生じた。
アユミ「やるわね、マドカさん!」
マドカ「アユミさんもなかなかの実力ね。じゃあ、これならどうかしら。カメックス、ハイドロカノン!」
アユミ「フシギバナ、ハードプラント!」
フシギバナがハードプラントで、カメックスがハイドロカノンで激突する。強力な技同士の激突となった。
互いに激しくぶつかり合うが、相性の面ではフシギバナの出したハードプラントが抜群の効果を与えられたのに対し、カメックスのハイドロカノンはフシギバナに対しては効果今ひとつだった。だがカメックスはさほどのダメージにならなかったのに対し、フシギバナはかなりダメージを受けてしまった。
今の技を受けてか、フシギバナが緑色の光を、カメックスが青い光をそれぞれ放ち始めたではないか。
アユミ「これはフシギバナの特性・しんりょくね。」
マドカ「カメックスの特性・げきりゅうだわ。・・・次で決まりそうね。」
アユミ「そうね!最後までいいバトルにしましょう!」
マドカ「うん!カメックス、ハイドロポンプ!」
アユミ「フシギバナ、エナジーボール!」
フシギバナのエナジーボールとカメックスのハイドロポンプが同時に放たれ、フィールドの中央でまたしても激しくぶつかり合う形となった。激しくぶつかったエナジーボールとハイドロポンプは拮抗する形となり、やがて激しい大爆発を巻き起こしたのだった。それぞれしんりょくとげきりゅうで威力が上がっていたのも影響していたのだろう、爆発の威力はあまりにすさまじいものとなっていた。
やがて煙が収まると、フシギバナとカメックスは互いに倒れ込んでいた。・・・どうやら両者とも戦闘不能となってしまった模様だった。
アユミ「・・・引き分けみたいね。」
マドカ「そうね。でもとてもいいバトルだったわ。アユミさん、どうもありがとう!」
アユミ「ううん。お礼を言うのはあたしの方だわ。マドカさん、ありがとう!」
〜挿入歌:『そこに空があるから』が流れる〜
激闘が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップスは全ての日程が終了、閉会式を迎えることができた。そして、また新しい目標に向かって、次なる冒険が始まるのだった。
アユミ「マドカさん、これからどうなされるの?」
マドカ「あたし?・・・あたしはね、一度トキワシティに帰るんだけど、今度はジョウト地方に行ってみようと思うの。」
アユミ「ジョウト地方ね。あたしもこれからハナダシティに帰ることにしているけど、あたしもジョウトに行ってみようと思っているわ。マドカさん、あたし達ってこれからいいライバルになれそうね。」
マドカ「そうね。目指すは同じジョウトリーグ。これからは友達として、またライバルとして負けていられないわね。これからお互いに高め合えたらいいわね!」
アユミ「うん!たどる道は違うかもしれないけど、目指すものは1つ。次に会うときは負けないわよ!」
マドカ「あたしも次のバトルが楽しみだわ!それまでにまた強くなって、今度会うときもいいバトルにしましょう!」
そしてマドカは手を差し出した。――アユミはその手を取り、しっかりと握手を交わした。
いくつもの激闘が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップス。そこでは多くのトレーナーやコーディネーター、そして実況やゲスト解説の、数え切れないほどのドラマが生み出されたのだった。
南の島がバトル、そしてコンテストで熱く燃えた激闘の日々。ここでの日々は参加した彼ら、彼女たちの思い出として、いつまでも残り続けることだろう。
そしてナナシマは新たなるポケモンリーグ・ナナシマリーグの開設が決定、コンテストも行われることになった。今後、新しいバトルとコンテストの場所として期待されるナナシマ。ますますの発展が期待されることだろう。
SpecialEpisode-6、完。
SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』
(4)
ナナシマ・バトルチャンピオンシップスは、バトル大会で2000名、コンテスト大会でも1500名を越すトレーナーやコーディネーターが参加した一大イベントだった。
次々と行われる試合、そして演技に、実況アナウンサーやゲスト解説も忙しく対応しながらも、それでいて中身の濃い体験をすることができた。
中でも試合が昼の休憩に入るとき、そして1日の試合がすべて終了した後はスタッフ一同で楽しく食事をとる時間となっており、日替わりでいろいろな弁当が支給されたのだった。
それは大会初日、ちょうどユカリがコンテスト大会二次審査・コンテストバトルに駒を進めた夜のことである。この日の夕食として支給される弁当はシウマイ(※1)をメインに、卵焼きや唐揚げ、かまぼこ、竹の子の煮物、魚の照り焼き、昆布、漬け物、あんずが入っていた。業者も栄養面に配慮してか、ヘルシーな組み合わせとなっていた。
だが、業者と担当スタッフがやりとりしたとき、どういう訳か8食分の弁当が余計に注文されたのだった。昼食のときの弁当は誤発注はなかったのだが、これは一体どうしたことなのだろう。
放送スタッフ「(どうしよう・・・。8個も余計に注文されている。イチロウさん、シンイチさん、ルリカさん、ソウスケさんの分、そしてうちらの分。おかしいなぁ。どう考えても8個余ってしまうんだよなぁ・・・。)」
スタッフは8個分が上乗せされた弁当が入った袋を抱えてスタジオのドアを開けた。
放送スタッフ「皆さん、今日の晩ご飯が届きました。」
イチロウ「おっ、晩ご飯ですね。」
ルリカ「美味しそうですね。ここまでいいにおいが漂ってきます。」
シンイチ「にしても、ちょっと多い気がするのは気のせいではないでしょうか?」
放送スタッフ「(まさかとは思いたいけど・・・。)たぶん気のせいだと思いますよ。さあ、早く食べましょう。冷めてしまいますよ。」
ソウスケ「そうですね。ところで今晩のは何でしょうか?」
放送スタッフ「シウマイです。ほかに唐揚げや卵焼きなどおかずもいろいろ入っています。それにあんずも入っているんです。」
ルリカ「結構たくさん入っているんですね。皆さん、早く頂きましょう!」
放送スタッフ「そうですね。それでは皆さん、どうぞお召し上がりください!」
一同「いただきます!」
だが案の定、放送スタッフの予感は的中していた。誰のものでもない弁当が8個、袋の中に残ってしまったのである。
イチロウ「あれ?お弁当、余っちゃいましたね・・・。」
ルリカ「そうですね。ほかの皆さんは、もう召し上がったんですよね。」
スタッフ全員で文字通り美味しく頂いた弁当。だが8個分が余計に注文されたのだろう、手つかずのまま残っている。
シンイチ「もしかしたら誤発注の可能性もあるかもしれないですね。確認してみます。」
そう言うとシンイチは電話のところに向かい、注文を担当したスタッフに聞いてみることにした。
シンイチ「実況席のシンイチです。いつもお世話になっております。・・・今晩の弁当なのですが、どうも発注ミスでも起きたのでしょうか、8個余ってしまったんです。ちょっと確認して頂けないでしょうか?」
注文担当スタッフ「分かりました。ちょっと調べてみますね。」
電話の向こうでキーボードを叩く音がした。どうやらスタッフも発注ミスの原因について調べているとみて良さそうである。
注文担当スタッフ「これは・・・?」
シンイチ「どうかしましたか?」
注文担当スタッフ「はい。やっぱり私の方のミスでした。注文するとき、32個って誤って送信してしまっていたんです。私を入れて24人のはずなのに、おかしいとは思っていたのですが、恐らくはキーボードの打ち間違えだと思います。」
シンイチ「差額は私達で負担いたします。それにしてもこの弁当、どうしましょう?」
注文担当スタッフ「今更返品もできないですよね。したらしたで『食べ物を粗末にするな!』って言われるのがおちですので・・・。」
シンイチ「そうですね。どうもありがとうございました。」
そう言ってシンイチは電話を切った。
シンイチ「・・・確認してみたところ、どうやら担当した側の発注ミスでして、8個余計に発注してしまったそうです。今更返品するわけにもいきませんし・・・。」
ルリカ「(8個ね・・・。)」
8個。それはちょうど8人分である。これを見てルリカはふとひらめいた。
ルリカ「(このまま食べ物を粗末にするわけにもいかないわ。そうだ。マサト君達にも食べさせてあげたいわ。マサト君、コトミちゃん、トモヤさん、ミキさん、ユカリさん、レイカちゃん、サヤカさん、そしてケイコさん。8人分ぴったりあるわね。)」
そしてこう切り出したのである。
ルリカ「あ、じゃあ余ったお弁当、私が頂いていいですか?」
ソウスケ「えっ?ルリカさんが?」
ソウスケは驚いた表情でルリカを見た。
ルリカ「知り合いに差し入れとして持って行こうかと思いまして。よろしいですか?」
シンイチ「ええ。構いませんよ。」
ルリカ「ありがとうございます。では行ってきます。」
イチロウ「はい。」
余ったままの弁当。腐らせてしまうのはあまりにももったいない。食べ物を粗末にしないためにも、知り合いに食べさせた方がいいのだろう。それに味もよく整っており、知り合いも喜んでくれるだろう。イチロウ、シンイチ、ソウスケを始め、ほかの放送スタッフも同じことを考えていた。
そしてルリカは弁当を持って放送席を出て行った。――その後ろ姿を見て、スタッフの1人はこう呟いていた。
放送スタッフ「ルリカさん、優しいんだね・・・。」
そしてこのことが、かえってスタッフと業者の間に親密な関係を築き上げたのである。それにふさわしい出来事が、いよいよバトル大会決勝トーナメント決勝戦、そしてコンテスト大会二次審査・コンテストバトルファイナルを迎えた日に起きたのだった。
この日の弁当は誤発注もなく、無事に発注できたのだが、発注が終わるとルリカは弁当の発注を担当するスタッフの元を訪れたのである。
ルリカ「失礼します。」
注文担当スタッフ「おや、ルリカさん。ここまで足を運ぶとは珍しい。どう言ったご用件で?」
ルリカ「はい。私達実況の関係者向けの弁当とは別に、特注のお弁当を発注して欲しいのです。」
注文担当スタッフ「へぇ。特注のお弁当を、わざわざ発注してもらいたいとは。早速業者の方に聞いてみます。ルリカさんもどうぞ。」
ルリカ「よろしくお願いします。」
注文のスタッフは弁当を製造する業者に連絡を取った。
注文担当スタッフ「いつもお世話になっております。ナナシマ・バトルチャンピオンシップス実行委員会・放送担当です。」
弁当業者「こちらこそお世話になっております。お弁当の注文、承りました。」
ルリカ「初めまして。私はバトル大会でゲスト解説を担当しておりますルリカと申します。」
弁当業者「確か、ジョウトリーグの四天王でしたね。お名前はかねがね伺っております。今回はどのようなご用件で?」
ルリカ「今晩、私の知り合いのためにパーティーを開こうと思っているんですけど、そこでお弁当を出したいのです。よろしいでしょうか?」
注文担当スタッフ「(知り合い・・・?ああ、そうか。こないだお弁当を持って行った方に食べさせてあげるんだね。)」
弁当業者「はい、かしこまりました。何名様でしょうか?」
ルリカ「8名分です。大丈夫ですか?」
弁当業者「大丈夫です。ではどう言ったものにいたしましょうか?」
業者はそう言ってたくさんのメニューを見せた。――リーズナブルなものから豪華なものまで、いろいろ揃っている。ちょっと手軽に食べたいときのおにぎりから、がっつり食べたいときのためのボリュームたっぷりの弁当まで、量も様々だ。
ルリカ「あ、じゃあこの『とり南蛮重・大盛り』(※2)で。」
それはこの業者が作っている弁当の中でもとびきりのでか盛りだった。ご飯の上にぎっしりと鳥南蛮が載せられており、アクセントにいろいろな色のピーマン、さらに玉ねぎ、レモンも入っている。その量たるや半端なものではなく、何と800グラムを超えていた。そのためか業者のメニュー表にも「あなたは食べきれますか?」と言う一文が添えられていた。
弁当業者「かしこまりました。とり南蛮重・大盛りを8つですね。今日の夜に配達いたします。ありがとうございました。」
ルリカ「ありがとうございました。」
そう言うと業者は電話を切った。
注文担当スタッフ「800グラム・・・。たくさん食べさせてあげたいんですね。」
ルリカ「うふふっ。こう言う私って、変ですか?」
注文担当スタッフ「それはないと思いますよ。ルリカさん、本当に優しいんですね。私、今回ルリカさんみたいな方と一緒に仕事ができてよかったです。」
ルリカ「ありがとうございます。」
ルリカはそう言って、にっこりと笑った。
(※1)「初日で差し入れした弁当の表記について」
この出来事はちょうどChapter-27の出来事と一致しています。このときも述べましたが、通常は「シウマイ」「シューマイ」「焼売」などいろいろな表記があります。ですがここでは、モデルとなった横浜駅の駅弁・「シウマイ弁当」にちなみ、「シウマイ」で統一することとします。
(※2)「決勝戦の夜に差し入れした弁当の表記について」
この出来事はChapter-38の出来事に当たります。モデルとなったのは小田原駅の駅弁・「BIGとり南蛮重」です。名称をそのまま使用することは商標登録に引っかかると判断したため、名称を一部変更して表記することとします。
(5)に続く。
SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』
(3)
ルリカはテレビクルーに連れられて、トレーナータワーを上に登っていった。本当ならエレベーターを使ってもよかったのだが、トレーナータワーの内部の様子を見てみたいと言うルリカの要望をクルーが受け入れたのである。
テレビクルー「普段はタイムアタックバトルで賑わっていまして、たくさんのトレーナーがどれだけ早く屋上まで行けるかを競っているんですよ。」
ルリカ「そうですね。通路は曲がっていて、まっすぐに進みにくくなっていますし、さらにどこからトレーナーが現れるかも分かりませんからね。不馴れなトレーナーですといきなりのバトルで戸惑うかもしれないですね。」
テレビクルー「そうですね。ですが、ここに何度も参加していくとどこで誰がどう言うポケモンを使うか、そしてどう言ったパターンで現れるかと言うのを熟知している人も多くなります。トレーナーやポケモンの体力にも左右されますが、早い人では1時間半か2時間で上まで到着するそうですよ。」
ルリカ「そうなんですかぁ。今度機会がありましたら、私も是非挑戦してみたいですね。」
テレビクルー「そのときは特別番組でも製作しましょうか?『四天王ルリカ、トレーナータワーに挑む!』と言う感じで。」
ルリカ「うふふ・・・。」
テレビクルー「とまあ、内部はこういう感じになっているんです。似た施設はホウエン地方にもありまして、キンセツシティの郊外にトレーナーヒルと言う建物があるんです。そこでもここと大体同じ、タイムアタックバトルが行われているんです。」
ルリカ「トレーナーヒルですね。私もかつてホウエンを回ったことがあるんですが、そのときはまだありませんでしたね。バトルやコンテストと、いろんなことに挑戦していくことで、人とポケモンは仲良く共存しているんですね。」
テレビクルー「そうですね。あ、ルリカさん、ホウエンを回ったって言うのは、確かホウエンリーグで優勝されたときでしたね。」
ルリカ「そうです。2年前のことになりますけど、ラルースシティで行われたときでした。でも私も、まだレベルとしては自分でも満足するところまでは行っていないと思うんです。それで、ホウエンのチャンピオンリーグは挑戦しないで、ジョウトに行ったんです。」
テレビクルー「そうだったんですか。カントーからホウエン、そしてジョウトを渡り歩いた実力。それが認められて、ジョウトリーグの四天王に選ばれたんですね。」
ルリカ「はい。でも四天王に選ばれたからと言って、更なる高みに向かう挑戦は終わらないと思うんです。だから、この前ワタルさんを相手にチャンピオン防衛戦に挑んだんですけど・・・。」
テレビクルー「いえ、あのときもルリカさんはいいバトルを見せていましたよ。きっとルリカさんでしたら、ワタルさんにも勝てる実力をつけられると思います。」
ルリカ「ありがとうございます。」
タワーを上まで登っていくと、やがて屋上の広場に出た。広場は展望台を兼ねており、バトルチャンピオンシップスの会場から7のしまの市街地、そしてしっぽうけいこくまでを見渡すことができた。また、目立つところに電光掲示板が1台設置されており、普段は受付からここまでの所要時間が表示される。今回はバトルチャンピオンシップスを間近に控えていると言うこともあり、「Welcome――ナナシマ・バトルチャンピオンシップス」と言う表示がなされていた。
テレビクルー「スタジオはここになります。」
クルーはそう言って、特設スタジオを手で指し示した。――「ナナシマ・バトルチャンピオンシップス、報道席」と書かれた貼り紙が貼られており、一般客が多く訪れることを考慮してか、「関係者以外立入禁止」と言う貼り紙もなされていた。
そして四天王を務めているルリカのこと、名前はナナシマにも知れ渡っているのだろう、子供達がルリカの姿を見つけるや否や声をかけてきた。
子供達にとって四天王は憧れの的。そしてルリカも子供達が大好きなのである。
子供A「あ、ルリカさんだ!」
子供B「すごーい!本物だ!」
子供C「きれいでかっこいい!」
ルリカ「うふふっ。みんなありがとうね。お姉ちゃん、バトル大会で解説として実況のお兄さんの横に座るのよ。」
子供A「解説をするの?すごーい!」
ルリカ「今回のバトルチャンピオンシップスは、たくさんのお兄さんやお姉さんがバトルやコンテストに参加するのよ。お姉ちゃんはその中のバトル大会って言う方で解説をするの。ポケモンやトレーナーの心を理解してないとできない仕事なのよ。」
子供B「大変だね。でもお姉ちゃんだったらきっとできると思うよ!」
ルリカ「ありがとう。お姉ちゃんも解説としてしっかり参加するわ。みんなも応援してね!」
子供C「うん!僕、大きくなったらルリカさんみたいな強くて優しいトレーナーになる!」
ルリカ「ありがとう!」
その光景を見ながら、クルーはこう思っていた。
テレビクルー「(ルリカさんは子供が大好きなんですね。私も子供の頃はああやって強くて優しいトレーナーに憧れていましたっけ・・・。)」
子供達と別れたルリカは、実況席の特設スタジオの扉を開けた。
テレビクルー「あ!お待たせしました、ルリカさん。早速ですが、これから打ち合わせに入りたいと思います。では、実況とゲスト解説の皆さん、自己紹介を。」
イチロウ「私はイチロウと申します。ご存じかもしれませんが、テレビカントーのアナウンサーとして色々な番組を担当させていただいております。今回、バトルチャンピオンシップス、バトル大会の実況を務めさせていただくと言うことで、観客の皆さま方、そして全国の視聴者の心に残る実況ができればと思っています。よろしくお願いします。」
シンイチ「私はシンイチです。イチロウさんと同じく、テレビカントーのアナウンサーを務めておりますので、色々な番組で見かけたこともあるかと思います。私は今回、コンテスト大会の実況を務めさせていただくことになりました。ポケモン達の華麗な演技、それをいかにして全国の視聴者の皆様にお届けするか、大変重要な役割を仰せつかった訳であります。皆さん、是非よろしくお願いします。」
ルリカ「初めまして。私はジョウトリーグ四天王のルリカと申します。いつもは挑戦者を迎える立場にある私ですが、今回、イチロウさんの横でゲスト解説として参加させていただくことになりました。たくさんのトレーナーたちが繰り広げる激戦。それを全国の視聴者の皆さま方にお届けする重要な役割だと思っています。どうぞよろしくお願い致します。」
ソウスケ「初めまして。私はソウスケと言います。トップコーディネーターとして活動している傍ら、今回コンテスト大会のゲスト解説と言う大役をこうして任されたわけですが、多くのコーディネーターが演技を繰り広げるなかで、シンイチさんの実況をいかにして足を引っ張らずに解説ができるか、まだ不安だらけですが、皆さん、全国の皆さま方に印象に残る解説をお届けしたいと思います。ではどうぞよろしくお願いします。」
テレビクルー「皆さん、どうもありがとうございました。私もご高名なアナウンサーのお二方にポケモンリーグの四天王、そしてトップコーディネーターと言うそうそうたる顔ぶれをお迎えして、ますます身が引き締まる思いがします。ではよろしくお願いします!」
一同「はい。」
テレビクルー「では早速リハーサルに入りたいと思います。まずはイチロウさんとルリカさん、よろしくお願いします。」
クルーはそう言って、モニターに見本の映像を写し出した。――3年前のシンオウリーグ・スズラン大会準決勝、あのサトシがタクトとバトルしたときの様子が写し出された。
画面はサトシのジュカインがタクトのダークライと互角以上の勝負を繰り広げている場面だった。
イチロウ「ジュカイン、ダークライのダークホールで眠らされている!しかもゆめくいが襲いかかる!」
そこにサトシの呼び掛けが通じ、ジュカインが目を覚ました。さらにジュカインはリーフブレードでダークライを攻撃、大会を通じて唯一ダークライに黒星を付けたのだった。
イチロウ「ダークライ、戦闘不能!サトシ選手、タクト選手のダークライに初めて黒星を付けました!」
ルリカ「ダークライの特性はナイトメア。眠っている相手の体力を減らす特性です。ですがそれを打ち破るほどのポケモン達との絆。サトシ選手は本当にポケモン達との絆が深いですね。」
テレビクルー「はい、そこまでです。初めてにしてはなかなか上手でしたね。」
イチロウ「こうやってポケモンとトレーナーの心情を理解していないとゲスト解説は務まらないのです。でもルリカさん、あなたならきっと大丈夫です。是非よろしくお願いします!」
ルリカ「ありがとうございます!私の方こそよろしくお願いします!」
リハーサルも上手くこなすことができたルリカ。ゲスト解説としての仕事はいよいよこれから本番を迎えるのだった。
(4)に続く。
さて、同居人たちに癒されまくるのもたいがいにして、大家さんや同じアパートの皆さんに挨拶に行かなくては。
俺の住むことになった「桜田ファミリア」は三階建てで、一つの階に四つまで部屋がある。俺の住んでいる部屋は304号室なのだが、他の部屋は101号室に大家さんが住んでいるということしか知らない。
ま、俺は人と付き合うのが苦手と言うワケでも無いので、大丈夫だろう。
「よし。お土産も準備できたし、行くか。お前ら、留守番頼むぞ」
そういうと三匹は悲しそうな顔をした。
「おいおい、そんな顔すんなよ。すぐ帰ってくるからさ」
俺は三匹の頭をそっと撫でる。
「じゃ、行ってくるから」
必要以上に後ろめたく感じながら、俺は家を後にした。
「ここがお隣だな」
俺はインターホンを押す。
「はいはーい」
扉の向こうから、人の良さそうな青年が現われた。俺より少し年上のようだ。
「初めまして。隣の304に引っ越してきました赤羽と申します」
「ああ、はいよろしくね」
「あ、もしよかったらコレどうぞ」
「うん、ありがとう。僕は市井。なんかわからないことあったら聞いてよ」
イチイさんはにこっとわらってお土産を受け取った。よかった、普通の人だ。
「では、俺は他の方にも挨拶があるのでこの辺で」
「うん。じゃあね〜」
イチイさんはそっとドアを閉める。大きな音を立てないためだろう。性格よすぎだこの人。
「いや〜、良い人だったな。上手くやっていけそうだ」
よさそうな隣人に出会えたため、弾んだ心で302号室へ行き、インターホンを押す。
「はーい」
今度は活発な印象の女性が出てきた。
「初めまして。今度205号室に越してきましたアコウと申しま………」
俺の言葉の途中に、その人はふんふんと俺に匂いを嗅ぎ始めた。
「……なんですか?」
「きみ、イチイくんの匂いがする!!」
……なんなんだこの人は。
「はあ、さきほどイチイさんの家に挨拶しましたから」
「えー、何で誘ってくれなかったのー」
……ええー。
「いや、引越しの挨拶に誰か誘うって聞いたことありませんよ」
「ぶー」
なるほど。この人は馬鹿なんだな。
「……まあいいや。私は三濃。よろしくね、えーとタナカくん!!」
「アコウです」
タナカって絶対適当だよこの人。
「もういいや。これお土産です。どうぞ」
「イチイさんの私物じゃないの?」
「………」
ドアを閉めた。
「きっとミノさんは普通の人だ。普通の人だ。普通の人だ…………」
自分に暗示を掛けつつ、他の方々を回ることにする。
数分後
「何で誰もいないんだよ……」
旅行やら法事やらで誰にも挨拶をできないまま大家さんのうちへ。
で、俺はドアをノックする。
「はいはい」
このアパートの大家さんは四十代ほどのダンディな男性だった。
「初めまして。このたび越してきました――」
「アコウくんだね。私は色観(シキミ)だ。よろしく」
シキミさんは右手を差し出し、紳士的に笑う。
俺も右手を差し出し、握手をする。いい人そうだ。
「ところでアコウくん。君は304のワケあり物件だったね」
「はい」
シキミさんは話を振ってくる。握手をしたまま。
「確かあそこに出てくる浮遊霊を娘が気に入っていてね。時々遊びにいくかもしれないが、いいかい?」
「勿論です」
俺はにっこりと笑って快諾する。いまだにシキミさんは手を離さない。
「それはよかった。君になら娘をやろう」
「…………ははは」
少し前の言葉を訂正しよう。なんかすぐ娘をやるとか言うし、まだ手を離さないし、シキミさんは変な人だ。
SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』
(2)
〜挿入歌:『Together(2007バージョン)』が流れる〜
広報部長「ナナシマ・バトルチャンピオンシップスに、ゲスト解説として実況の横でアシスタントを務めてもらいたいのです。」
ルリカ「はい、わかりました。私に是非、ゲスト解説者として参加させてください!」
広報部長から直々にゲスト解説を要請されたこの女性。衣装は膝まであるスカートと一体になった水色のキャミソールを身にまとっており、胸のリングから出ている肩紐を首の後ろで結んでいるスタイルだった。彼女こそが、ジョウトリーグ四天王にしてくさポケモンの使い手・ルリカである。
ルリカ「私はルリカ。くさタイプを使うジョウトリーグの四天王。今回、ナナシマ・バトルチャンピオンシップスにバトル大会のゲスト解説として招かれたの。それで、ナナシマに足を運ぶことになったんだけど、ナナシマに眠っていた特別な宝石、ダイヤモンド・パール・プラチナをめぐるネイス神殿の戦いに巻き込まれたの。それで、7のしまに入ったのは、もうすぐバトルチャンピオンシップスが開幕する日のことだったわ。」
ルリカの説明に合わせて、ルリカ自身がマサト達に協力して特別な宝石をロケット団から守り抜いたネイス神殿の激闘、そして1のしまのネットワークマシンの完成のときの描写が写し出される。そしてルリカは7のしまの港でマサト達と別れ、一足早く現地入りしたのだった。
ルリカ「(ここがバトルチャンピオンシップスの会場ね。設備もよく整ってるし、いいバトルが期待できそうね。今から楽しみだわ。)」
ナナシマ・バトルチャンピオンシップスのメイン会場となるトレーナータワーは、「タイムアタックバトル」と言う、トレーナー達とバトルしながらどれだけ短い時間で屋上までたどり着けるかを競う競技が繰り広げられることで知られていた。バトルチャンピオンシップスの期間中はタイムアタックバトルの受付は中止となっており、間近に迫った開催に向けて大忙しとなっていた。
ルリカがゲスト解説を務めるバトル大会、そしてトップコーディネーターのソウスケがゲスト解説を務めるコンテスト大会。その実況席はこのトレーナータワーの屋上に特設スタジオが設けられることになっており、ここから全国に向かって試合の模様が中継されるのだった。
さすがにメイン会場と言うこともあり、警備員が至るところに配置されている。ルリカも入るときに身分証明を求められた。
警備員「お名前とご用件をお願いします。」
ルリカ「私はルリカ。ナナシマ・バトルチャンピオンシップスのバトル大会で、ゲスト解説を務めさせていただくものです。」
警備員「ジョウトリーグのルリカさんですね。どうぞ。」
警備員に案内されて、ルリカはトレーナータワーの入り口に立った。
ルリカ「(いよいよね。実況の方も大変だけど、ゲスト解説はトレーナーやポケモンの心理を理解していないと務まらない、大切な役だわ。だから、緊張なんてしていられないわ。)」
入り口の自動ドアをくぐると、腕章をはめたテレビのスタッフが声をかけてきた。テレビカントーをキー局としており、シンオウ地方のテレビコトブキと同じ系列局であるナナシマレインボーテレビのスタッフだった。
テレビクルー「ジョウトリーグのルリカさんですね?」
ルリカ「はい。私はルリカと申します。これからよろしくお願いします。」
テレビクルー「こちらこそよろしくお願いします。まず、打ち合わせは屋上のスタジオで行われますので、早速行ってみてはいかがでしょうか。スタジオまでは私が案内いたします。」
ルリカ「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきますね。」
そしてルリカはテレビクルーに連れられて、トレーナータワーを上っていった。
階段を昇る度に実況席や解説席が一歩ずつ近くなっていく。果たして、ルリカはこの大役を無事に務め上げることができるのだろうか。
(3)に続く。
スピンオフ作品の第6作となる今回は、ナナシマ編のクライマックスとなったバトルチャンピオンシップスのもう1つのエピソードに触れてみたいと思います。
本棚収録はSpecialEpisode-5の後を予定しています。
SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』
(1)
カントー地方の南にある、7つの主な島とその回りにある無数の島々から成り立っている地方・ナナシマ。それまでポケモンリーグやポケモンコンテストも行われていなかったこの地方が、初めて行われたバトルとコンテストの大イベントに盛り上がった。「ナナシマ・バトルチャンピオンシップス」である。
ナナシマ・バトルチャンピオンシップスは、7のしまにあるトレーナータワーをメイン会場に、周囲に配置されたバトル大会とコンテスト大会の会場が舞台となり、マサト達を始め、たくさんのトレーナーやコーディネーターによる息詰まる熱戦、そして華麗なる演技が繰り広げられ、大成功のうちに幕を下ろすことができた。そして閉会式において、ポケモンリーグのケロ会長はナナシマリーグの設立を宣言、トモヤを始めとする5人のトレーナーがジムリーダーに選ばれたのだった。
そして、バトル大会ではミキ、コンテスト大会ではユカリが優勝、マサト達もバトル大会決勝トーナメントやコンテスト大会二次審査・コンテストバトルに揃って進出、優秀な成績を収めたのだった。
しかし、バトルチャンピオンシップスを成功に導くまでには、裏で多くの人が働いていたのである。そして、マサト達の知らないところで、いくつもの名勝負が生まれ、あまたのトレーナーやコーディネーターがバトルを繰り広げていたのである。
このお話は、そのナナシマ・バトルチャンピオンシップス、大成功の裏で繰り広げられた、もう1つの物語である。
(2)に続く。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 | 101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | 110 | 111 | 112 | 113 | 114 | 115 | 116 | 117 | 118 | 119 | 120 | 121 | 122 | 123 | 124 | 125 | 126 | 127 | 128 | 129 | 130 | 131 | 132 | 133 | 134 | 135 | 136 | 137 | 138 | 139 | 140 | 141 | 142 | 143 | 144 | 145 | 146 | 147 | 148 | 149 | 150 | 151 | 152 | 153 | 154 | 155 | 156 | 157 | 158 | 159 | 160 | |