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こんにちは。そしてご存じない方は初めまして。あゆみです。
この作品は、本棚にある本作品のまえがきを読んでいただければ分かるかと思いますが、かつて「ぽけあに」と言うポケモン総合サイトに設置されていた掲示板で連載を始めたものです。
「ぽけあに」が管理人様の事情から2009年12月末で掲示板を閉鎖、2010年2月12日を持って無期限更新停止、以後は事実上の閉鎖となったあとは当マサポケに執筆の場を移して連載を続けてまいりました。当マサポケの管理人様が交代されたとき、閉鎖の可能性も示唆されたことから別のサイト様でも連載を始めさせていただきましたが、こちらでも引き続いて執筆を続けさせていただいております。
さて、ナナシマからジョウト地方に舞台を移して、現在鋭意執筆中の本作品ですが、本編のマサト達の冒険の裏では、たくさんの物語が繰り広げられています。
ここでは、そう言ったたくさんの物語の数々をスピンオフ(表記では「SpecialEpisode-○」)と言う形でまとめていきたいと思っています。
本作の本編につきましては、以下のリンクに当サイト本棚に収録されているものがございますので、どうぞご覧くださいませ。
http://masapoke.sakura.ne.jp/cgi-bin/library/yomi.cgi?mode=kt&kt=01_35
(最初にhを付けてください)
スペシャルエピソードのうち、現段階で第1作から第4作が本棚に収録されており、第5作も近く収録する予定です。ここでは第6作から掲載を始めたいと思います。
これらの作品は随時本棚にも収めていく予定です。
それではどうぞ。
本棚作品も含めて
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】
『Welcome rain!』
雨なんて面倒なものをなぜ招く。
もちろん、それはここらへんの広い広い畑に恵みの雨を求めるためだろうが、雨が降ると曇って空が見えないせいで観察日誌もつけられないため大変都合が悪い。
というかこんなばかでかい看板ひとつで雲が招けたら苦労しないだろうと思う。この腐りかけた木片の寄せ集めに雨来て! と書くことにどれだけの意味があるのか?
よくわからんが、とにかく一昨日のゴンベによる畑荒らし騒動の勢いでぽっきり折れてしまった看板を直すべく、俺は今、街はずれまで来ている。
ここは広大な野菜畑と街との境目にあたり、畑の中にまばらにあばら屋が立っている程度のだだっぴろい丘だ。旅人にとっちゃ街への入り口ってことになる。俺も去年の今頃、ここを通ってあそこへたどり着いたのだ。間違いない目的を持って。
俺には夢がある。
しかしそれは、ポケモンマスターになるとか、トップブリーダーになるとか、実業家になるとか学者になるとかアイドルになるとかそういう具体的な夢ではない。
うえに、俺のこのなんとも退廃的(に、見えるらしい)風貌も合わさって、俺がその夢について話すとシティの友人はみんな驚き、そして直後爆笑した。
俺の夢は空を飛ぶことである。
今時そんなの大して難しいことじゃない。飛行機もヘリもあるし、それに乗れなくてもひこうタイプのポケモンがいれば簡単に大空を舞うことが可能だ。
けれどそのためには”そらをとぶ”が要る。
ポケモンの翼はもともと人間を乗せて空を飛べるようにはできていない。だからこそ人を乗せて飛ぶためにはなんらかのコツが必要らしく、そのコツの秘伝こそが”そらをとぶ”と呼ばれるテクニックなのだという。
もちろん、ひでんマシンがあれば一発なのだが。
わざマシンが大量生産でもない限り、わりかし高価なのは周知の事実である。増して、達人の技が必要なひでんマシンがそうそう転がっているもんだろうか。
そんなはずはない。
オークションなどで高価で取引されるほか、各地の達人の中でもまたひとにぎり社交的な人間がシルフやデポンなど大きな会社と手を組んで、壮大な金と技術を積み込んでやっとできあがるひでんマシン。
そんなものが一介の貧乏人の俺に手に入るはずがない。
バッタもんの改造品や粗悪品も出回っている。そんなのにひっかかって、大事な手持ちに後遺症が残ったなんて話も聞くからたまったもんじゃない。
だから普通、多くの人間は秘伝の技をポケモンに教えることのできる匠のもとへ教わりにいくのだ。
俺の住んでいたシティから一番近い、そらをとぶを専門にする匠が住む街はここだった。一番近い、とは言っても歩きでは途方に暮れるほど遠い。
それでも俺は鉄道とバスと徒歩でここまで来た。
空が飛びたい。兄貴が銀翼に誘われて飛んだ空を。
ということで、俺は毎日一枚空の写真を撮って日記をつけている。
今日はいい具合に快晴だ。雲ひとつない。突き抜けるような青の空は清々しい。
のに、何で俺は看板なんかと戦わなきゃならんのだ。
溜め息をつくと、心配そうに俺を見上げたトゲチックがきゅ、と言った。
「いや」
なんか可愛かったから撫でた。
「はやくお前が空飛べるよーになればな、と思ってさ」
トゲチックはなにもしなくても風船のようにふよふよと浮いているが、あまり高くは浮かべないらしく、小さな羽根を必死に羽ばたかせて飛ぼうとしても3メートルぐらいが限界で、あのときの必死さを見たら俺を乗せて飛ぶなんて到底無理だとわかってしまった。
しかしそらをとぶが使えれば、隣町までなんざひとっとびできるようになる。
この空を泳ぐように飛び回るトゲチックを思えば、雑用生活も耐えられる気がする。
地平線がくっきりするほどなにもない畑の真ん中の道で、テッカニンの羽音も聞かなくなってきた夏の終わりの白昼。
目が霞む。最近本を読んでばかりであまり寝ていないせいか。くそ、今日はさっさと寝よう。
「とりあえずこれ直すか……」
俺は古臭く緑に変色しかけた木片でできた雨の神様へのまじないとかいう看板を見た。
綺麗に折れている。そりゃあもうぽっきりと。
工具箱を運んできた右腕が、昼間の温い時間の流れと同じくらいだるかった。
***
雑用男「王子系イケメンはそうでもないのに、俺がトゲチックを相棒にしていると言ったらなぜか引かれた。不条理を感じる」
夏の終わり。
今も煉瓦造りの古い町並みが通りを続くこの街なら、この頃の夕焼けはとても美しいのだけども、残念ながらここらへんの気候では、残暑の頃には雨が多くなる。特に黄昏時の通り雨。
でも坂の上で天気雨なんかに遇うとね、夕日に家々の影がすっと伸びて、どこまでも黄金色の空、赤く染まった街、どんな素晴しい画家のカンバスでも出会えないような、本当に眼の焼けるような美しい夕暮れが見られるんだ。凄いと思わないか?
しかし最近、妙な噂があるんだ。
岬のほうにある例のでかい塔、あすこにはいつも雲がかかってるじゃないか。あれが暗雲に囲まれると、街のほうでは黒い雨が降るって。
しかも、それを降らす渦巻き雲の下にはいつも、真っ黒いコウモリ傘を差した少女が立っているんだと。
不吉だよなあ。
うちのグラエナもよくなんでもないことで吼えたりしてるし。よくないことが起こりそうで嫌だね。
そういえば最近寝覚めが悪いよ。湿気があるせいかな……。
【黒い慈雨の降る街】
お前もあんまし寝てないみたいだな。目の下が真っ黒だぞ。
今度はズバットだっけか? 便利屋気取りもいいが、身体は壊さないようにしろよな。
***
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】
連載掲示板は過疎気味なので逃げてきたチキン。
完結したら書いてもいいのよを付け足す予定です。
しかし完結予定は微妙。
今度から一人暮らしをすることになった。
で、俺が探しているのは、ワケあり物件だ。
……………イヤ、俺は心霊マニアとかじゃなくて。別に怪しいもんじゃありません。だって安いじゃん、ワケあり物件。
幽霊を信じないわけでは無いけれど、あまり気にしないので良いとする。
早速不動産屋に行ってみて、とにかくワケありな物件を片っ端からあさってみた。すると、あったではないか、究極のワケあり物件。
駅から徒歩十五分。南側。角部屋。築十五年。家賃はなんと一月五万円。
「………なんすかコレ」
「究極のワケあり物件ですよ。そういったじゃないですか」
「って言うかコレ、名前『桜田ファミリア』って………」
「で、どうします? 浮遊霊が三体うろつくらしいですけど」
「幽霊とのルームシェアですか。ちょっと邪魔になるぐらいだろうですし、ここに決めます」
幽霊三体と角部屋でのルームシェアか。面白そうだ。
で、数日後。
引越しをおえ、ふと振り返ってみると………
「……………」
不動産屋の言っていた、「浮遊霊」とやらが待ち構えていた。
ふんわりとした髪の毛を持ち、胸に赤い水晶玉のようなものを付けたムウマ。
布のようなひらひらした体にちょこんと角のようなものが生えた頭、そしてくりくりとした大きな目を持つカゲボウズ。
黒い体にどくろのような仮面をつけ、そこから赤い一つ目を覗かせるヨマワル。
「なんだよこいつら、可愛いじゃねえか………」
おれはポケモンの中でも特別ゴーストタイプが好きというわけでもないが、こいつらのかわいさには参ってしまいそうだった。
「え? なに? お前ら、ここ住んでんの?」
三匹は満面の笑みを浮かべて頷いた。むっちゃかわええ………。
この家に越してきて、最高に良かったと思った。
ありがとうございます!!!!!
まさか管理人さんに励ましていただけるとは思いませんでした。
しかし、なるべく作品は少なくおさえて集中したいので、
やはりこの作品一本で行きたいと思います。
申し訳ありませんが、コメント有難う御座いました!!!!
> 申し訳ありませんが、下の小説を削除させていただいたスフィアです。
> 思いつきで投稿してしまい、練りこみ不足だったと反省しています……
思いつきで投稿してくれていいのよ。
練り込んだ小説も求めていないのよ。
完結しなくていいのよ。
何個でも書いていいのよ。
このサイトはただ書くきっかけを提供する場として存在してます。
反省もしなくて結構。
練り込みなんて、書き続けるからできるようになるのであって
最初からハイレベルなものも求めてないのよ。
もちろん感想レベルでは、
ここはおかしいんじゃないかとか、練り込みがどうのって話にはなるかもしれないですが別にそれは読んだ人の感想でしかないので。
投稿しちゃだめってわけではないのです。
スフィアさんの存在を否定してるわけではないので。
あと好みの小説だったりすると逆にツッコミいれたくなる場合もありますw
もったいなくてw
作品の出来を気にして投稿数が減っちゃうのは
管理人としては本意じゃないので
あまり気にしないでね、と言いたい。
以上w
> 今回はほのぼの系の小説を書こうと思います。
> アドバイスや感想など、お待ちしております!!!
次回もお気軽にどうぞ。
申し訳ありませんが、下の小説を削除させていただいたスフィアです。
思いつきで投稿してしまい、練りこみ不足だったと反省しています……
今回はほのぼの系の小説を書こうと思います。
アドバイスや感想など、お待ちしております!!!
「はっくしょん!洞窟って思ったより冷たいな……」
ここはつながりのどうくつ。キキョウシティとヒワダタウンをつなぐ道である、と言えば嘘になる。正確にはキキョウシティとヒワダタウン、そしてアルフの遺跡をつなぐ天然の迷路である。洞窟ではあるが、山に降る雨水や雪解け水がしみ込むことによって多数の池ができている。
「そりゃ太陽の光がねえからな。ここがひなたならシャツ1枚でも十分だろうよ」
「……あの、サトウキビさん?」
寒風吹き込む中、ダルマが話し掛けた。その相手は、いつもの3人に混じって同行しているサトウキビである。
「どうしたダルマ、金なら貸さないぞ」
「どうしてついてきたんですか?見ず知らずの俺達に」
「随分疑われているようだな俺は」
サトウキビは思い切り笑った。乾いた声が湿った洞窟内にこだまする。
「なんのことはねえ、俺の行き先があんた達と同じだけだ」
「あなたも旅ですか?」
「いや、仕事だ。頼まれた作業が全部終わったからコガネの我が家に帰るんだよ。まあ、ついでに知り合いにも会ってきたんだけどな」
「はあ。仕事って何やってるんですか?」
「そこまで聞くか。……ポケモン預かりシステムのメンテナンスと改良だ」
「預かりシステムって、ポケモンセンターの右端にあるあれですか?」
「まあな。だが、今では預かりシステムは2階のポケモン交換システムも指すんだ。で、交換室の外にあったパソコンを中に移動させていたのさ」
「なるほど、でもパソコンの移動ってそんなに大変なんですか?」
「そりゃお前、一昔前のただのパソコンとはわけが違うんだ。物の転送ができるパソコンは固定されている。俺はこういうことが得意じゃない。だから配線工事からシステムのバージョンアップまで数日かかるんだよ。本当はマサキとかいう奴がやるはずだったんだが……」
ここまで話して、サトウキビは息を大きく吸い込んだ。それから大きく吐き出し、頭を掻いた。
その時突然、右手にある池から何かが飛び出してきた。点々と言うべき目に膝ほどある青藤色の体、それに頬から伸びる薄紫のヒレが特徴である。ヒレは、途中で3本に枝分かれしている。
「あのポケモンは何だ?」
「ありゃあウパーだな。ヒレを見る限り、どうやらメスのようだ」
サトウキビが冷静に解説していると、ウパーはモンスターボールほどの水を飛ばしてきた。狙った先は、意外な人物だった。
「きゃっ!」
「ユミ、大丈夫か!」
水はユミの目の前で四方にはねた。思わずユミが腕を前に出した。それを見て、ウパーはヒレを動かし笑っている。
「イタズラ好きか、良い個体だ」
「あの、それはどういう……あ」
その瞬間、事が動いた。ダルマがサトウキビの言葉に声を発する間もなく、彼の目が1枚の葉っぱを捉えた。葉っぱは一直線に進み、ウパーの頭に直撃。ウパーはしりもちをついた。
「あの葉っぱはまさか……ヤバイな」
「おい、一体どうしたんだ?」
「あ、少し離れた方が良いですよ、危ないですから」
「おいダルマ、もしかしてあのポケモンが怖いのか?」
ダルマが冷や汗を流して半歩後退りしたので、サトウキビがわけを尋ね、ゴロウが冷やかした。だが、2人がダルマの態度のわけを知るのに、言葉はいらなかった。
「オラオラ、ザコはおとなしくしてな!」
急に聞き慣れない言葉が聞こえたので、3人は声のする方向を向いた。そこには、鬼気迫る少女の姿があった。肩に触れるくらいの髪は逆立ち、頭からは湯気がたっている。
「お、おい。あれはもしかして……」
「見損なったぞダルマ!ユミちゃん以外にも女を作っていたのか!」
サトウキビとゴロウは共に飛び上がった。そしてサトウキビはやや前かがみになり、ゴロウは騒ぎだした。
「……なんでそうなるんだよ、ゴロウ。様子はおかしいが、あれはユミだ」
「な、なんだってー!」
「つまり、普段はおとなしいが豹変するのか?小説の設定みたいだな、あの嬢ちゃんは」
サトウキビは苦笑いしながらユミを見た。ゴロウは腰を曲げて「く」の字になっている。もちろん、今のユミにはそんなことは問題ではない。
「チコリータ、構わねえよ。徹底的にやっておしまい!」
ユミが腹の底から叫ぶと同時に、チコリータは至るところから葉っぱを集め、ウパーに飛ばした。その数や、ウパーが落ち葉の中に埋まるほどである。
「……やや一本調子だが、展開が早い。成長株だな」
「サトウキビさん、こんな時によく状況分析できますね」
「まあ、これが俺の仕事だからな」
ダルマとサトウキビがつとめて冷静に状況を話すかたわら、ウパーが落ち葉の中から這い出た。そしてそのまま背中を向けた。
「あ、ウパーが逃げそうだぞ」
「だな。さて、これはどうなるかな?」
無論、この動きを今のユミが見逃すはずもない。彼女は即座に、モンスターボールを腰に装備したウエストポーチから取り出した。
「甘い、逃がさないよ!」
彼女の渾身の1球は空を裂き、ウパーを弾き飛ばしながらも封じた。ボールは最初こそ抵抗の素振りは見せたが、すぐにおとなしくなった。
「ふう……このアタシから逃げるなんて、100年早い……ですわ」
「……どうやら、落ち着いたようだな」
「あら、どうかしましたか、サトウキビさん?」
「いや、何でもねえ。……周りが見えないからこそ何でもできるってか」
サトウキビは額にうっすら吹き出した汗を手ぬぐいでぬぐいながらこう漏らした。
「そ、それじゃあそろそろ行こうぜ。日暮れまでには出ないとな!」
一段落ついたところで、ゴロウが言った。やや声が引きつっているが、皆気にせず歩き出した。まだ今日という日は始まったばかりである。
「一体どうしたのでしょうか、トウサ選手がまだ入場して来ません」
審判の声がマイク越しに響く。観客達は数万人抱えたスタジアムでどよめいている。スタジアムの中央にはバトル用のフィールドがあり、片方には1人の男がいる。手にはモンスターボールを持ち、向こう側を見ている。だが、そこには雲が流れる青空しかなく、本来いるはずの人はいない。お天道様はいくらか西に傾いて、男を後ろから照らす。
「んー、遅いですね彼も。トイレにでも行ってるのですかねー?」
「仕方ないですね、では5分待ちます。それで来なければ……」
「待った!」
突然、審判の話を遮り1人の男が選手の入場ゲートから現れた。男は息を切らしながら審判の方を向いた。額には大粒の汗が垂れている。
「遅れてすみません……」
「トウサ選手ですね。一体どうした遅くなったんですか?」
審判は男をトウサと呼び、尋ねた。しかし、彼から返ってきたのは沈黙だけである。
「……トイレではないんですかー?」
「え、ああそうだそうだ、トイレで遅くなってしまった。申し訳ない」
トウサは軽くお辞儀をした。ただ、目線は空にある雲を追っている。
「そうですか。では遅くなりましたが、ポケモンリーグ決勝戦、ジョバンニ対トウサの試合を始めます!」
審判が試合開始を宣言した。トウサともう1人の男、ジョバンニはボールを投げた。ジョバンニの1番手はヤドラン、トウサの先頭はスターミーである。
「スターミー、重力だ!」
「ヤドラン、トリックルームでーす!」
しばらくして、スタジアムから物音が消えた。観客は息をするのを忘れるほどにフィールドを見入っている。そのフィールドでは、1匹のポケモンが倒れ、1匹がそのポケモンを見つめている。西日はトウサを真正面から照らしている。
「……そこまで!ただいまの勝負、残りポケモン0対1で、トウサ選手の勝利!」
審判がジャッジを下した途端、観客から一斉に声が放たれた。ある者は勝者を称え、ある者は敗者をねぎらう。またある者は、涙を頬に流した。
「勝ったぞ……すまねえな、みんな。連戦で疲れていたのに無理させて」
大歓声の中、トウサはボールにポケモンを戻した。その表情は、なぜかはかばかしいものではない。腰についたボールを、頭をなでるようにさすっている。
「素晴らしいでーす!まさかあの状態から勝つとは思いませんでしたー」
そんなトウサのもとに、ジョバンニが近づき、右手を差し出した。トウサは静かに右手を出し、固く握手をした。
「ありがとう。だが今回はかなり無理をさせてしまった。喜ばしい勝利とは言えねえ」
「そうですかー、でも今だけは勝負の余韻に浸りましょー」
「……で?それからどうなったんだ?」
ダルマが一通り話し一息つくと、サトウキビが尋ねた。その声に力はなく、やや投げやりである。
「この勝負を見て、当時のトウサ選手の凄さに熱中したんですよ。おかげで対戦相手のジョバンニさんのことはよく知らないですけど。この間会った時も、誰だかわからなかったくらいに」
「なるほどな。ところで、その試合は何で見たんだ?確か20年前のはずだが、お前はそんなに年とっているようには見えない」
「俺が子供の頃『ポケモンリーグ名勝負集』という番組を見たんです」
「そうか。しかし、他にも勝負は見たんだろう?なぜその試合に感動したんだ?」
サトウキビは執拗に問い詰めた。ダルマはだんだん声が元気になってきている。
「当日のトウサ選手は、万全な状態じゃなかったんです」
「どうして?」
「スタジアムに行く途中、強盗に襲われている人を見つけたんです。その人を助けるために戦ったのですが、多勢に無勢。何とか撃退はしたものの、ポケモンにかなりダメージが蓄積されたそうです」
「……」
「その状態で勝った。その力に憧れたわけです。まあ、憧れた割に決心したのは遅いですけどね」
ダルマは笑いながら立つと、空のコップを片手に給水場まで向かって行った。
「おいおっさん!次は俺の番だぜ!」
「……ああ。話してみな、聞いてやるぜ」
サトウキビが上の空になっているので、ゴロウが話し始めた。夜はまだ始まったばかりである。
「うう、意外と長いな……」
「情けねえなダルマ!」
「あ、ポケモンセンターが見えて来ましたよ!」
日が大きく傾く中、影法師となったダルマ一行は海の上に掛けられた橋を渡っていた。キキョウシティの南に続く32番道路は長く、午前中に出発したにもかかわらず、まだまだ道は尽きることを知らない。ダルマは息を切らし、体を揺らしながら歩いている。ゴロウとユミは、さすが若者と言わんばかりに前を行く。
そんな中、地平線の彼方に何やら見えてきた。右手の森、左手の海のどちらでもない。モンスターボールらしきものが点灯している建物がぽつんとあるのだ。
「おい、あれもしかしてポケモンセンターか?」
「モンスターボール印の看板……間違いありませんね」
ゴロウとユミは互いに確認すると、実に軽やかに走りだした。
「おいダルマ!もたもたせずに来いよ!」
「ま、待ってくれ〜」
ゴロウが20メートルほど離れたところから叫ぶと、ダルマはしおれた声で答えた。腹の鳴る音と共に。
ポケモンセンターは全てのトレーナーが利用できる施設である。ポケモンの治療、宿泊、食事など、ここだけで大抵のことができる。それゆえ利用者が多く、街の中心地に建てられる。近頃は地下にバトルのスペースが設けられ、バトル講座なるものも開催されているようだ。
そんなポケモンセンターのロビーにある談話室に、ダルマ達はいた。ダルマは水を飲み、ゴロウはナナの実ジュースで喉を鳴らす。ユミはフエンせんべいとお茶でまったりしている。
「ふう……生き返る」
「おいおい、そんなんじゃポケモンリーグなんて夢のまた夢だぞ!」
「そんなこと言われてもなあ」
ダルマは目線をゴロウから逸らし、窓の外を見た。所々に雲が流れている中、月が弱々しく光っている。もっとも、まだ完全に日が暮れていないからなのだが。
「にしてもここ、今日は俺達しかいないのか?」
「みたいですね」
「まともな道があるのにわざわざ洞窟通る物好きなんていねえからな」
現在、このポケモンセンターにはダルマ達のほか、従業員しかいない。その従業員らも、テレビを見たり本を読んだりしている。そのため、今なら呼吸の音も聞き取れそうだ。
「で、明日はどうするんだ?ダルマ」
「そうだな……ん?」
突然、ポケモンセンターのドアが開いた。そして1人の男が入って来た。男は初め周囲を見回し、それからダルマ達に近づいた。
「おい、あんた達は旅のトレーナーか?」
「そうですけど……どちら様ですか?」
「おっと失礼。俺はサトウキビという者だ、よろしく頼む」
男サトウキビは頭を下げた。彼の身なりは3人の視線を浴びた。藍染めの着流しは所々ほつれている。輝く太陽のような白さの帯も同じような状態だ。足にはわらじを履き、着流しの中から見える胸にはさらしが巻いてある。頭には丈の短い烏帽子を被っている。体には無駄な贅肉が微塵も見受けられない。だが、彼らが最も目を奪われたものは、他にあった。
「ところでおっさん、なんで夜なのにサングラスなんかかけてんだ?」
ゴロウが注目したもの、それは顔にあった。ゴロウは眼鏡と評したが、形はお月様のようだ。レンズは黒く塗られており、奥底に潜む目は見えない。
「おいゴロウ、失礼だぞ!」
「俺は構わねえよ、少年。ところで、名前を教えてもらえるか?」
「名前ですか?俺はダルマです」
「ユミと申します」
「ゴロウだ、よろしくな!」
「ああ、よろしく」
サトウキビは近くにあったソファに座った。そしてこう尋ねた。
「お前達は旅の途中みたいだが、このポケモンセンターを使うとは珍しいな?」
「そうでしょうね。キキョウシティからすぐコガネシティやエンジュシティに行ける道がありますから」
「けど、俺達は物見遊山の旅をしてるわけじゃないんだぜ」
「端から見れば、こんな所に来る方がよほど物見遊山に見えるけどね」
ダルマの一言でゴロウの話が止まった。しかし、そんなことはお構い無く話は続く。
「ではいわゆるポケモン修行か?」
「そんなところです」
「そうか。やはり皆それぞれきっかけはあるのだろう。よければ話してくれないか?」
サトウキビはダルマの方へ顔を向けた。それにゴロウとユミも続いた。
「じゃあ、俺から話すよ」
「待ってました!」
「よし、では頼むぜ」
ダルマは残りの水を一気に飲み干すと、口を開き始めるのであった。
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