マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.1512] 久々の二人旅。初めての気持ち。 投稿者:じゅぺっと   投稿日:2016/02/07(Sun) 18:30:38     52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    ポケモンセンターで手持ちをフワンテとヤミラミを回復させた後、サファイア達はカイナシティの市場へと向か
    う。目的や買いたいものは、特に決まっていない。ただカイナに着いてからもあわただしいこと続きだったので
    、少しの間ゆっくりしようということになったのだ。

    「……すごい、こんなにたくさんの物がある場所初めて見た」
    「都会が近くにある港町だからね。博物館や造船所もあるし、ホウエン最大の交易都市といってもいいかな。
    とはいえ、さすがに圧巻だね」

     二人とも都会に来るのは初めてとあって、どこを見ても品物で満ち溢れている場所を珍しそうに見ている。
    花、漢方薬、アクセサリ……様々な種類の店を一つずつ興味深そうに。

    「あ……この目玉付の髪留め可愛いね」
    「そのセンスはどうなんだ……」
    「いいじゃないか、ボクになら似合うと思わないかい?」

     ルビーが目玉付(もちろんレプリカである)の髪飾りをとってにんまり微笑んだのをツッコむサファイア。
    店員に許可を取って、軽くつけてみせる。少々不気味な目玉はルビーの髪にとまると少し愛嬌のあるアクセサリ
    ーに見えるから不思議なものだ。

    「……そうだな、うん。似合ってるよ。買うか?」
    「へえ、買ってくれるのかい?なかなか甲斐性があるじゃないか」
    「いや、今は俺とお前でお金は共有してるんだから甲斐性も何もないだろ……」
    「野暮だなあ」

     からかうようにルビーが言うので、憮然とするサファイア。二人での旅をするにあたって、面倒がないよう
    にお金は共有している。ルビーの提案で、サファイアとしてもお金に頓着はしていないのでそうなったのだ。

     購入した目玉のアクセサリを、鏡の前で位置を調整するルビー。その姿はどこにでもいる女の子のよう……
    というか、実際そうなんじゃないかと最近サファイアは思い始めていた。彼女の口調や態度は特徴的だが、内面
    はそんなに変わっていないんじゃないかとこういう時に思う。

    「待たせたね、じゃあ行こうか」
    「ああ」
    「ところでサファイア君?」
    「どうしたんだ?」

     髪飾りをちらちらと見せるようにサファイアの隣を歩くルビーは、少し間をおいてこう切り出した。


    「二人でこうして買い物しながら歩いてると……なんだか、デートみたいな気がしないかい?」

    ズバリ言われて、サファイアの顔が少し赤くなる。その顔をルビーが覗き込もうとするので、無駄であると知り
    つつ赤くなった顔を隠すように額のバンダナを指で軽く引っ張る。そしてこう返した。

    「何言ってるんだよ。こんなの……」
    「ふふ、やっぱりまだそうは思ってくれないかな?」


    「……俺だって、そう思ってるよ。ただ、言うのが恥ずかしかっただけで……」


     言ってて自分でも己惚れだと思い、すごく恥ずかしくなった。だがそれは、言われた側もそうだったようで
    ――ルビーの顔が、ぽっと赤くなって縮こまる。

    「……」
    「…………」
    「………………バカだなあ、最初から言ってくれればボクだって……その、準備とかして待ち合わせとかした
    のに……」
    「なんだよそれ……ルビーって意外なところでメルヘンだな……」

     真っ赤で顔をそむけあってぼそぼそという二人。道行く通行人のおばちゃんがあらあらまあまあと言ってい
    るのが聞こえてますます恥ずかしくなってくる。

    それに耐えかねて、サファイアはルビーの手を取ってどんどんと歩き出した。

    「え、ちょっと、どこへ……」
    「知るもんか!どこか冷たいものがあるところまで歩く!」

     初々しい二人は、あてどなく市場をさ迷い歩く。さながら逃避行のように――



     さすがに温暖なホウエン地方とあってアイスクリームやが見つかりそこで二人分注文をする。最初は二人とも
    恥ずかしくてお互い別の方向を向きながらちまちまと舐めていたが、時間とアイスで頭も冷え、15分後にはサ
    ファイアはアイスを齧るように食べていた。舐めるのはなんだか女々しい感じがするからだ。

    「……落ち着いたかい?」
    「それはこっちの台詞だぞ」
    「人をいきなり連れ回しておいてよく言うね。ボクは君が発情してご休憩所まで連れていかれるんじゃないか
    と気が気がじゃなかったんだよ?慰謝料を請求したいくらいだね」
    「それ、絶対嘘だろ……アイスで勘弁してくれ」
    「やれやれ、しょうがないなあ」

     どうやらルビーもいつもの調子に戻ったらしい。少し安心するサファイア。自分はともかく、彼女の調子が
    狂うとやりにくいことこの上ない。いつもならこんな時冷静にしてくれるジュペッタをモンスターボールから出
    して、恨めし気に言う。

    「……というか、ジュペッタ。どうして何もしてくれなかったんだよ」
    「−−−−」

     ジュペッタがけらけらと笑う。それくらい自分で何とかしてください、と窘められた気がした。ルビーはル
    ビーでボールからキュウコンを出し、アイスを少しあげている。キュウコンは一舐めしてぶるりと身震いした後
    、ルビーの頬をぺろりと舐める。

    「あはは、ちょっと冷たかったかな?」
    「コォーーン……」
    「よしよし、こら、そんなに舐めないでおくれ。ボクは食べ物じゃないんだから」
    「コンコン!」
    「−−−−」
    「コン!」

     ジュペッタがキュウコンに何事か話しかけて、頭を下げる。もしかしてうちの主がそちらの主に失礼しまし
    たというようなことを言っているのだろうか、なんてサファイアは想像した。

     そんなポケモンたちとルビーを見ながら食べていると、あっとういう間にアイスはなくなった。ルビーはま
    だ食べ終わるのに時間がかかりそうだ。

    「ん……そろそろ行こうか?」
    「いや、ゆっくり食べててくれ。ちょっと散歩してくる」
    「そうかい。迷子にならないように頼むよ?」
    「わかってる」

     そう言ってジュペッタと一緒に軽くルビーたちから離れる。考えるのはやはり、彼女のこと。

    (俺は、ルビーのことをどう思ってるんだろう)

     ムロタウンに着くまでは、一緒に旅をする仲間だと思っていた。逆に言えば、それ以上の認識はしていなか
    った。だがムロタウンで記憶を取り戻してから、彼女に対する認識は変わりつつある。あの時のように、彼女を
    守りたいと。それこそシリアに対する憧れと同じくらい強く。その理由が、なんとなくつかめなかった。

    「なあジュペッタ、お前はどう思う?」
    「……」

     ジュペッタは答えない。答えられないのだろう。主の経験したことのない感情は、ジュペッタにもわからな
    い。しばらく自問自答し、サファイアは目の前で拳を握る。思い出すのは、あの博士に負けた時のこと。

    「……あの時、俺はもっと強くなるって誓った。シリアに追いつくために。悪い奴らに負けないために……そ
    の強くなる理由が、もう一つ増えたんだ。ルビーを守りたいっていう理由が。……今は、それだけでいいと思う


     保留といえば保留だろう。だが決意を新たに、サファイアはルビーの元へ戻る。彼女も食べ終わったところ
    の様で、笑ってサファイアを見た。

    「ふふ、散歩はもういいのかい?ならそろそろ市場も出ようか。たまには楽しいけれど、さすがに人混みが疲
    れてきたよ。」
    「わかった。じゃあもうそろそろ出よう。そうだ、コンテストを見ていってもいいか?せっかくカイナシティ
    に来たんだしさ。」
    「いいよ、観客席が空いてるといいけれど」
    「ここにあるのはノーマルランクらしいし、観客はそこまでいないんじゃないかな」

     なんて話をしながら、カイナシティの中でもひときわ煌びやかな建物、コンテスト会場へ向かう。中もまた
    、綺麗な電飾があちこちに彩られ、ステージの中心には天井の開いた開放的な空間だった。その客席で彼らが見
    たのは――ムロタウンに着いた時に出会った、あの少年だった。

    「……あの子は!」
    「……!」

    「なんということでしょう!初出場の少年、ジャックがなんと決勝戦まで勝ち進みました!それではいってみ
    ましょう、コンテストスタート!」
    「出てこい、オオスバメ!」
    「いくよ、ポワルン」

     実況者の声と共に両者がポケモンを出す。相手はオオスバメを繰り出し――ジャックと名乗った少年は、小
    さな雨雲のような、灰色のポケモンを繰り出した。


    「さあ出ましたジャック選手のポワルン!これまで雨、晴れ、と華麗に天候を変化させる技を繰り出してきま
    したが、今度は何を見せてくれるのでしょうか?」
    「見たことないポケモンだ……ルビーは何か知ってるか?」
    「……見たことはないけど、聞いたことはあるかな。どんな天候をも自在に操る変わったポケモンの噂。その
    特徴は――」
    「オオスバメか……砂嵐でもいいけど、ここは魅せにいっちゃおっかな。ポワルン、霰!」
    「先手必勝だ、燕返し!」

     ポワルンによって、天開きの会場に霰が降り始める。しかしオオスバメが迅速に間合いを詰め、翼がポワル
    ンの体を切り裂こうとして――その翼が、弾かれた。ポワルンの体が天候が変わった瞬間に凍り付いていき、そ
    の翼をはじいたのだ。

    「――天候によってその姿とタイプを変えること。今は恐らく、氷タイプになってるね」
    「そんなポケモンがいるのか……」

     サファイアが感心していると、ジャックにスポットライトがあたり、彼が天を指さした。そしてあどけなさ
    の残る声で彼はこう口にした。

    「それでは……レディースエーンドジェントルメーン!これから起こる景色を決してお見逃しのないように!


     会場全体の目がジャックに集まる。それを満足げな表情で受け止めて、ジャックは指示を出した。

    「ポワルン、粉雪!」

     ポワルンの氷の身体から、その身の分身のように小さな氷が宙に吹き、霰によって地面に氷が積もり始める
    中でのうっすらと舞う様はまさに幻想的な雪景色。

    「綺麗だな……」
    「ホウエンじゃなかなか見れない景色だね」

     美しい景色に観客も、対戦相手ですら見とれる。ジャックはにっこりと笑い。さらなる指示を出した。

    「それじゃあいっちゃうよ!ポワルン、ウェザーボールだ!」

     ポワルンの体が青く光り輝き、氷の球体が宙に浮かぶ。それは空中で破裂し、天からの雹となって降り注い
    だ。オオスバメの体を打ち付け、一撃で倒した。さらに降り注いだ雹が地面や壁に当たって砕け、まるでダイヤ
    モンドダストのような大自然を思わせる光景を生み出す。ほとんどの観客は、景色に見とれている間にオオスバ
    メが倒された、そのような感覚を抱くほどだった。実況者すらぽかんとして、倒れたオオスバメを見て自分の仕
    事を思い出したかのように我に返る。

    「な、なんとー!ジャック選手、決勝戦を実質一撃で決めてしまいました!コンテストにおいてはあまり早い
    決着は望まれませんが、これほどの景色を見せつけられては文句なしの優勝でしょう!」

     その声で観客たちも我に返り、歓声をあげる。その声に手を振って応える少年の姿に魅了された女性客もい
    るようだった。

    「それではジャック君、今の気持ちは?」

     用意されていた優勝ステージに立ち、マイクを受け取るジャック。

    「えっーと、初めてのコンテスト、とっても面白かったよ。人にバトルを魅せるのってとっても楽しいね!」

     それはとても子供らしいコメントで、実況者も微笑ましげに見つめる。だが彼はそこから驚くべき言葉を口
    にした。

    「だけど、まだちょっーと物足りないかな。だからここでボクは、もう一戦バトルがしたいです!」

     おお、とどよめく観客。実況者は少し困り顔をしていたが、彼は構わず続ける。


    「そしてその相手は――お兄さん、君に決めた!!」


     ジャックが観客席を指さし、スポットライトがそちらに向く。そこにいたのは――誰あろう、サファイアで
    ある。


    「……えっ、俺?」


     突然バトルの相手に指名され、混乱するサファイア。しかし状況は、彼に構わず動いていく――


      [No.1511] #59370 「ポケモン禁止サイン」 投稿者:   《URL》   投稿日:2016/02/06(Sat) 20:19:57     58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Subject ID:
    #59370

    Subject Name:
    ポケモン禁止サイン

    Registration Date:
    1988-10-25

    Precaution Level:
    Level 3


    Handling Instructions:
    オブジェクト#59370は、ムロタウン第三支局の中異常性取得物保管庫のブロック9-Lに据え付け済みの標準的な耐火性の金庫に保管し、金庫を解錠するためのアクセスコードは拠点監督者及び案件担当者のみが知っている状態を保ちます。実験目的でオブジェクト#59370を使用する場合、事前に様式F-59370-1に沿った申請書を提出し、ワークフローを回付しなければなりません。その他の目的のために使用することは許可されません。

    オブジェクト#59370と共に収容され、当局にて保護していた参考人#59370は、オブジェクト#59370の影響下にあったことを除き何ら特異な点が無いことが明らかにされました。参考人#59370は現在局員の一人に養子として引き取られ、当該局員の監視下で生活しています。当局施設からの退出に際して、プロトコルUXによる記憶処理及び擬似記憶の移植が行われています。参考人#59370に関連する情報には個人情報が含まれるため、拠点監督者及び案件担当者以外のアクセスはすべて拒否されます。


    Subject Details:
    案件#59370は、あらゆる携帯獣に対して認識異常をもたらすマークが描かれた立看板(オブジェクト#59370)と、オブジェクト#59370の影響下にあった外見上6歳頃の少女(参考人#59370)、及びそれらに掛かる一連の案件です。

    1988年10月下旬、ムロタウン第三支局の通報窓口に「道路沿いの一軒家に少女が監禁されている」との匿名の通報が寄せられました。通報を受けた局員は、直ちに警察当局に通報しました。管理局への通報がなされたことから、何らかの異常事案と関連しているとの懸念が示されたため、標準的な敵対生物鎮圧用装備が与えられた局員数名が同行することになりました。およそ二時間後、通報で示された一軒家に部隊が突入しました。

    突入後、警察当局は奥の部屋で毛布に包まった状態の少女を発見しました。少女は衰弱した状態であり、局員からの呼びかけにも満足に応答することができませんでした。現地担当者と司令部は短時間の協議を行い、少女の保護を優先することで双方合意しました。

    少女を保護するため部屋へ踏み込んだところ、警察官の一人が不審なマークが描かれた立看板を発見しました。安全のため、当局の局員が対応に当たりました。この時現場には、携帯獣の「ザングース」と分類される局員が同行していました。当該局員は立看板に明らかな異常性があると判断し、その場で簡易的なミームハザードテストが実施されました。現場に持ち込んだ装備により、立看板は何らかの認識災害をもたらす可能性が示唆されましたが、少なくとも人間には何ら影響を及ぼさないことが確認されました。局員は立看板を成功裡に確保し、監禁されていた参考人#59370を保護しました。その後当局により、回収された立看板はオブジェクト#59370として、保護された少女は参考人#59370として再分類されました。

    オブジェクト#59370は、表と裏の両面に対して、恐らく携帯獣の「ヒトカゲ」と推定される黒いシルエットの上から交通標識の「車両通行止め」に類似したマークが描かれたアルミ製の立看板です。材質そのものは一般的なアルミであり、不審な点は見られません。少なくとも純粋な人間には一切の異常な性質を発揮せず、直接的に接触した場合や視認した場合においても、何らかの影響を及ぼすことはありません。純粋な人間が取り扱う限りにおいては、自由に持ち運んだり片付けたりすることができます。オブジェクト#59370が効力を発揮するのは、携帯獣並びに携帯獣の因子を持った人間(携帯獣を祖先に持つ場合や、携帯獣の器官を移植された場合が該当します)に対してです。

    上述する条件を満たす者がオブジェクト#59370に接近した場合、いかなる場合においてもオブジェクト#59370を超えて前に進むことができなくなります。これは視覚を遮断した場合も同様であり、目を閉じたりアイマスクを装着した状態であっても、オブジェクト#59370が存在するポイントから境界を超えることはできません。複数回行われた実験の結果からは、境界を超えられない理由は心理的なものであり、物理的な障壁が存在するわけではないことが明らかにされています。

    描かれているマークに反して、オブジェクト#59370の特性はあらゆる携帯獣に対して発揮されます。これまでに125種137体の携帯獣で自発的にオブジェクト#59370の示す境界を超えさせるためのテストが行われましたが、そのほとんどが失敗に終わっています。視覚を持たない「ズバット」であっても影響を受けたことから、オブジェクト#59370は未知の方法で周囲に影響を及ぼしているものと考えます。

    ただし一部に例外があり、飛行可能な携帯獣であれば、オブジェクト#59370が設置されている場所の高度から50m以上上昇すれば境界を超えて前へ進むことが可能です。同じく地面に潜行可能な携帯獣であれば、50m以上潜行することで境界を突破可能です。このテストケースにより、オブジェクト#59370は上下に対してはさほど広くない効果範囲しか持たないことが分かりました。

    オブジェクト#59370の正確な効果範囲は分かっていませんが、少なくともオブジェクト#59370の横から100m以内にいる携帯獣は影響を受けることが分かっています。しかしながらこれについても例外があり、携帯獣とオブジェクト#59370の間に何らかの障壁が存在する場合はこの限りではありません。この条件下では、携帯獣はオブジェクト#59370が存在するポイントから境界を超えて移動可能です。これはオブジェクト#59370が収容地点である一軒家に対してのみ効果を発揮し、周囲に影響を及ぼさなかったこととも合致します。以上からオブジェクト#59370は、外見上「一本の道」として認識される範囲内で効果を発揮するものとの仮説が提唱されています。

    オブジェクト#59370の出自は分かっていません。同種の立看板が製造された記録は存在せず、製造元を示す刻印などは見つかっていません。一般的な立看板が何らかの改造を受けたとの仮説も示されていますが、現時点ではこれを肯定する根拠も否定する根拠も存在しません。現段階では、同種のオブジェクトが収容されたとの報告もありません。

    オブジェクト#59370に描かれているマークを複写して同タイプの立看板へ描写しても、オブジェクト#59370の持つ特性は発揮されません。これは人の手で模写した場合も、オブジェクト#59370の表面をスキャンして作成したデジタルコピーの場合も同様です。オブジェクト#59370の作成時点で何らかの特異な処理が施された可能性が示唆されています。

    参考人#59370についてはその後のテストにより、携帯獣の「ラルトス」或いはそのいずれかの進化系(キルリア/サーナイト/エルレイド)に当たる携帯獣と人間のハーフであることが分かりました。オブジェクト#59370の影響を受けていたのは、この性質によるものと結論付けられました。何らかの記憶処理を受けていたのか、参考人#59370は自身の出自について話すことができませんでした。また、身元を示すような物証も発見されていません。

    参考人#59370の証言と事件現場から押収した物品より、少なくとも一年以内に何者かによって拉致され、以後発見場所の一軒家にて監禁されていたと考えられています。参考人#59370は自分を拉致監禁した実行犯について「知らない男の人だった」と述べるに留まっています。具体的な特徴については不明なままです。参考人#59370の身元について広範な調査が行われましたが、家族や知人といった関係する人物を発見することはできませんでした。

    当局に本件について通報した人物についても調査が進められています。電話記録を確認したところ、当該人物はキンセツシティ近郊の公衆電話から通報を行ったことが分かりました。通報者がどのようにして本件について関知したのか、またいかなる理由でムロタウンから大きく離れたキンセツシティ近郊から通報を行ったのかについては未だ不明なままです。


    [1990-06-04 Update]
    本案件の担当者から、参考人#59370を養子として引き取りたいとの申し出がなされました。既に必要な調査は終了し、これ以上収容を継続する必要性が無くなっていたため、裁定委員会はこの申し出を受諾しました。収容終了に伴う当局機密情報の漏洩を防ぐため、参考人#59370にはプロトコルUXによる記憶処理と擬似記憶の移植が施されました。出自については、児童擁護施設に収容されていた身元不明の少女というカバーストーリーが使用されました。


    Supplementary Items:
    本案件に付帯するアイテムはありません。


      [No.1510] 明け色のチェイサー 登場人物&用語集(七話目と短編その三まで 投稿者:空色代吉   投稿日:2016/02/06(Sat) 02:15:20     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    このページは明け色のチェイサーの登場人物&用語をまとめたものです(七話目と短編その三)終了までのネタバレを含んでいます。
    ※話数が進んでいくと更新されていきます。各話を読んでから読むことを推奨します。(更新日2020年9月3日



    *登場人物*


     ☆主人公

    ◯ヨアケ・アサヒ 【21歳 女】(登場話数:1話〜)
    本作の主人公の一人でヒロイン。ジョウト地方出身。長い金髪を毛先の方で二つに纏めている。碧眼。
    ノースリーブの上着に黒のロングスカート。背は高め。
    “<スバルポケモン研究センター>襲撃事件”もとい、“闇隠し事件”の容疑者で指名手配中のヤミナベ・ユウヅキという幼馴染みの男性を捜してヒンメル地方を奔走しているポケモントレーナー。
    義賊団<シザークロス>に手持ちのドーブルを盗まれた際、配達屋ビドーと知り合う。そしてその後ユウヅキを捕まえるためにビドーと手を組み、相棒となる。
    ビドーを「ビー君」と呼び、手持ちポケモンにもよく「〜くん、〜ちゃん」を使う。
    過去にユウヅキと世界各地を旅をしていた。数年前一緒にヒンメル地方に来て“闇隠し事件”後にユウヅキとはぐれてからは<エレメンツ>に保護という名目の監視下に置かれていた。メンバーのソテツとは元師弟関係だった。
    アサヒ本人は<エレメンツ>を家族のような存在と思うと同時に「赦されてはない」と思っている。その理由として“闇隠し事件”の時にギラティナにまつわる遺跡行ったという目撃者の証言があったのもあるが、さらに事件にギラティナが関与しているおそれがあると<スバルポケモン研究センター>のレイン所長に指摘されてからは、より強く感じている。
    実際<エレメンツ>内ではソテツを含めアサヒを赦せないメンバーもいれば、そうでもないメンバーもいる。その両者ともに立場的には「赦さない」という方針を取っている。
    実はヒンメル地方に初めてきたころの、ユウヅキとはぐれる前後の記憶がほぼない。カメラマン、ヨウコと出会っていたことも憶えていなかった。探偵ミケにユウヅキに記憶を奪われたのではないかと指摘されるも真相は闇の中である。その失われた記憶周りのことは、<エレメンツ>となるべく内密のするよう約束をしていた。
    <スバル>の研究員アキラ(君)とは古い友人。定期的に連絡を取り合う。
    王都【ソウキュウ】に新たに拠点となる部屋を借りる。
    港町【ミョウジョウ】を訪れた際、心当たりのない火の海の中の幻覚を見る。それ以降も、少しづつその記憶を見る。アサヒ自身は、その中に出てくるブラウやクロといった名前を“英雄王ブラウの怪人クロイゼルング討伐”と関連しているのではと思っている。
    レインに頼まれていた隕石の探索の件は、<エレメンツ>と共有した。

    <エレメンツ>メンバーのデイジーに連絡を受け、<エレメンツ>の本拠地<エレメンツドーム>に赴く。そこでポケモンバトル大会でユウヅキを待ち受ける作戦を聞き、準備期間中特訓をした。
    曲がる『れいとうビーム』を研究中、ソテツにアドバイスをもらう。
    ビドーとは別行動だが、共に大会の賞品の隕石をユウヅキから守るために当日に臨む。
    ◇手持ち
    ・ドーブル♂(NN:ドル)・デリバード♂(NN:リバ)・パラセクト♂(NN:セツ)
    ・ラプラス♂(NN:ララ)・ギャラドス♂(NN:ドッスー)・グレイシア♀(NN:レイ)

    ◯ビドー・オリヴィエ 【18歳 男】(登場話数:1話〜)
    本作のもう一人の主人公。ヒンメル地方出身。肩ぐらいまでの群青の髪。前髪が長い。強烈な光から目を守るために水色のミラーシェードをかけている。
    グレーのロングコート装着。背は低め。
    ヒンメル地方でサイドカー付バイクに乗って個人宅配業をしている青年。
    荒野にて<シザークロス>を追いかけるヨアケ・アサヒと遭遇。しばしの同行ののち、アサヒをユウヅキの元に送り届けることを約束。相棒関係に。
    “闇隠し事件”で相棒のラルトスをさらわれた過去を持ち、他人やポケモンと深く関わることを避けていたが、アサヒの叱咤によりリオルと向き合うように。何故か進化しないリオルだがビドーは少しづつ歩み寄ろうとしている。
    ヨアケ・アサヒの事を「ヨアケ」と呼ぶ。NNはつけない派。
    道中密猟者ハジメとの戦闘で窮地に立たされた所、自警団<エレメンツ>のソテツに助太刀される。その密漁騒動で知り合ったアキラ(ちゃん)にポロックメーカー一式を譲り受ける。きのみ栽培が趣味になった。
    <エレメンツ>のトウギリに、波導の力の使い方を教わる。駆け出し波導使いになる。
    <シザークロス>のジュウモンジが<ダスク>のハジメにケロマツのマツを新たなおやとして譲ったことに憤りを感じていた。
    しかしジュウモンジに諭される形になり、今までの自分が揺らぎそうになるも、リオルとアサヒの言葉で、立ち留まった。
    なお、バンドとしての<シザークロス>の音楽は、アプリコットの歌は気になっている模様。

    <エレメンツ>の本部に向かい、リーダーのスオウに、賞品の隕石を守るためにポケモンバトル大会に選手として参加して可能なら優勝してほしいと頼まれ、引き受ける。
    ソテツに自分の弱点(強烈な光へのトラウマ)を突き付けられくじけそうになりつつも、トウギリと修行し少しずつ乗り越えていこうとした。
    再会したアキラちゃんに「何のために強くなりたいのか」と問われ、アサヒの力になりたい、と静かに思う。
    アサヒとは別行動になるが、隕石をユウヅキに奪われないためにも選手として大会に臨む。
    ◇手持ち
    ・リオル♀・カイリキー♂・エネコロロ♀
    ・アーマルド♂・オンバーン♂・??????


     ☆重要人物

    ●ヤミナベ・ユウヅキ 【23歳 男】(登場話数:4話回想、6話回想)
    アサヒの幼なじみで捜索対象。黒髪で長めのつんつん頭。真昼の月のような銀色の瞳を持つ。笑顔がぎこちない。
    幼い頃ジョウト地方、エンジュシティすずの塔に捨てられ、画家のヤミナベに拾われる。その後パートナーになったラルトスとすずの塔を見上げているときに、アサヒと出会い、つきまとわれるようになり、やがて友達に。
    野生のイーブイの母親のシャワーズの死を目撃したことにより、己のルーツを捜しにエンジュシティを旅立つことを決めた模様。
    一度、捨て子だとアサヒにばれることで関係が変わってしまうことを恐れ逃げ出すように黙って旅立ったことがある。探偵ミケの助力を得たアサヒにシンオウ地方まで追いかけられ、再会。根負けかどうかは不明だが、アサヒの強い想いにより、一緒に旅をすることに。
    己のルーツを探し、各地をアサヒとともに旅をした。
    だが、“闇隠し事件”後、アサヒを置いていくことを決める。再会の約束はしたものの、音信不通が続く。
    <スバルポケモン研究センター>を襲撃したことにより、指名手配されている。旧友のアキラ(君)の問い詰めにも沈黙を通した。
    過去に“闇隠し事件”前後のアサヒの記憶を奪った疑いあり。
    そして、ギラティナの遺跡について聞いて回っていたという証言から“闇隠し事件”での誘拐の容疑をかけられた。

    <スバル>で奪った“赤い鎖のレプリカ”の材料、隕石を狙って大会に出現されると思われているが……。
    ◇手持ち
    ・サーナイト♀・ゲンガー♂・ヨノワール♂
    ・メタモン・オーベム♂・??????


     ☆<エレメンツ>

    ◯ソテツ 【男】(登場話数:2話〜5話、7話)
    自警団<エレメンツ>に属する。幹部、五属性の一人で主に草タイプを司っている。緑のヘアバンドと同じく緑のスポーツジャケットを着ている。
    ビドーより小柄な青年。アサヒの師匠。
    ビドーの窮地に助っ人として参戦する。アサヒの知り合いが使う戦法を使い、ハジメを追い詰め捕まえるが、尋問中に隙を付かれ逃してしまう。
    その後、通信機を使い五属性同士で報告会を行った際にアサヒを庇うような言動をした自分に疑問を持つ。
    アサヒに、どんな状況でも笑うことを忘れるなと、ある意味強要している。
    それはソテツ自身がアサヒを赦さないために、あえて憎みやすくしているからというものある。
    ソテツは、自分が<エレメンツ>であることの責務に縛られている。
    ◇手持ち
    ・フシギバナ♂・モジャンボ♂・??????
    ・??????・??????・??????

    〇スオウ……リーダー格の男 【男】(登場話数:4話、7話)
    自警団<エレメンツ>に属する、五属性の一人で主に水タイプを司っている。背は普通に高い。口調は荒いが王族の生き残りでもあり一応リーダーを務めている。ソテツにぞんざいに扱われ、プリムラに尻に敷かれている。フランクな性格。しゃべると残念な感じのする王子。
    ビドーに“赤い鎖のレプリカ”のかかった大会参加を頼み込む。
    ◇手持ち
    ・アシレーヌ♂・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    〇プリムラ……ポニーテールの女性 【女】(登場話数:4話、7話)
    自警団<エレメンツ>に属する、五属性の一人で主に炎タイプを司っている。ヒートアップしそうになる対話を宥める立場に回ることが多い。ポジション的には姉御。医療関連を担当している。
    光のトラウマに自信を無くしかけるビドーを励ます。
    ◇手持ち
    ・ハピナス♀・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    〇トウギリ……目隠しをした男 【男】(登場話数:4話〜5話、7話)
    自警団<エレメンツ>に属する、五属性の一人で主に闘タイプを司っている。背は高く、体はそれなりに鍛えられている。落ち着いた物腰。
    現役の波導使いでもある。夢は『はどうだん』を撃ってみること。ココチヨとは交際中。
    ビドーに波導使いの修行をつける。
    ◇手持ち
    ・ルカリオ♂・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    〇デイジー……背の低い女 【女】(登場話数:4話、6話〜7話)
    自警団<エレメンツ>に属する、五属性の一人で主に電気タイプを司っている。
    ソテツよりも背が低い。しかしアサヒよりも年上。口癖「〜じゃん」「人手が足りない」
    情報収集の能力を使い、作戦などを考える立場が多い。
    隕石の情報を調べ、アサヒに連絡し呼び出す。
    アサヒに意地悪をしてしまうソテツにいらだちを感じている。
    ◇手持ち
    ・ロトム・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ○ガーベラ 【女】(登場話数:3話、7話)
    ソテツの現在の弟子。花色の髪を持っている。「ガーちゃん」呼ばわりされると呆れながらもいちいち名前を訂正するあたり、優しい人。
    ソテツと共にハジメを追い詰めた。
    土いじりをしているらしく、道端で昼寝していたアキラちゃんを担いで運んでくるくらいには力がある。
    ◇手持ち
    ・トロピウス♂・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ○リンドウ 【男】(登場話数:7話)
    飄々としたつなぎ姿のおじさん。エレメンツドームの警備員的な存在。よくニョロボンを茶化している。
    “闇隠し事件”生き残りの中では年配者。スオウたち若者を見守っている。
    ビドーに対して、ビドーだけでもアサヒのことを赦してほしいと言った。
    ◇手持ち
    ・ニョロボン♂


     ☆<ダスク>

    ●サク……黒スーツの男 【男】(登場話数:1話、5話〜7話)
    <ダスク>という組織で中心人物になっている黒髪の真昼のような銀色の瞳をもつ男。黒スーツを着用している。ポケモン屋敷の主に助言をしたり、【ソウキュウ】の空き家を掃除したり、何かと忙しそうにしている。
    <ダスク>メンバーに、今回<ダスク>は大会に潜り込んで隕石を狙うが、第一目標は<エレメンツ>五属性の一角を落とすことだと伝えた。
    彼は<ダスク>と何をなそうとしているのか……。
    ◇手持ち
    ・サーナイト♀・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ●ハジメ……金髪リーゼント丸グラサン男 【男】(登場話数2話〜3話、5話)
    アキラ(ちゃん)を雇い【トバリ山】のカビゴンを密猟しようとしていた青年。金髪ソフトリーゼントに丸いサングラス。青い瞳がジト目になってる。黒い半袖シャツを着ている。
    アキラ(ちゃん)に珍しいきのみを報酬として、協力を依頼。失敗しても報酬はきちんと払う律儀な一面もある。
    ビドーを追い詰め離脱をしようとするがソテツに邪魔をされ、ソテツとガーベラと対峙。捕まってしまうもアキラ(ちゃん)達を利用し、逃亡に成功する。
    長男であるハジメと末妹であるリッカを残し、フタバという名前の妹を含む妹達と弟達が“闇隠し”により行方不明になっている。
    <シザークロス>のアプリコットから、黄色いスカーフをしたケロマツ、マツを託される。
    リッカの友人、カツミを<ダスク>にスカウトする。
    <エレメンツ>のトウギリに目をつけられ、リッカを残す形になるも逃走中。
    ◇手持ち
    ・ドラピオン♂・ドンカラス♂・ケロマツ♂(NN:マツ)
    ・??????・??????・??????

    ●メイ……片眼を前髪で隠した、短い銀髪の赤い釣り目の女性 【女】(登場話数:5話〜6話)
    サクに忠誠を誓う女性。サク様大好き。超能力を持っている。
    もともとは<エレメンツ>の超属性を司る者だったが、一族ごと存在を消された。
    サクに手を貸すのはヒンメル地方への復讐というよりは、サク個人の力になりたいから。

    ◇手持ち
    ・??????・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ●ユーリィ……濃い目のピンクのショートカットの女性【女】(登場話数:5話〜6話)
    ビドーとチギヨの幼馴染。美容師。アパートビルの2階で営業している。ビドーとはしばらく口をきいていなかった。
    仕立屋チギヨとともに<エレメンツ>に出張営業を何度もしていて、エレメンツに保護されているころからアサヒを知っている。
    アサヒが“闇隠し事件”にかかわっているかもしれないことも知っているが、ユーリィ個人としては周囲に気を使いすぎるアサヒもだが<エレメンツ>がアサヒを何年も監視下に置いていたほうが気に食わない模様。
    物静かに見えるが、しゃべるときは結構しゃべる。アサヒにもっと周りに文句をいうべきとと言った。

    ◇手持ち
    ・ニンフィア♀・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ●ココチヨ……【カフェエナジー】のウェイトレス 【女】(登場話数:5話〜6話)
    【王都ソウキュウ】にある【カフェエナジー】で働くウェイトレス。トウギリとは幼馴染。交際中。
    カツミやリッカなどのちびっこたちを見守る面倒見のいいお姉さん。
    アプリコットとは顔見知り。アプリコットの手持ちのピカチュウ、ライカの好物であるパンケーキを店で仕入れたりもする。
    しかし<ダスク>のメンバーとしても活動しているので、<エレメンツ>のトウギリとは隠れた対立関係にある。ココチヨはなかなかトウギリに打ち明けられずに結果的にスパイのようになってしまっている。
    <エレメンツ>よりはサクにかけている。
    最近<ダスク>に入ってしまったカツミがきがかり。
    ◇手持ち
    ・ミミッキュ♀・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ●サモン……黄色と白のパーカーの茶色いボブカット 【女】(登場話数:5話〜7話)
    一人称「ボク」の中性的な見た目の女性。ヒンメル出身だが、昔は仕事でカントーにいた。
    “怪人クロイゼルング”というヒンメルの歴史上の人物について調べている。
    アサヒに、「どうしてキミなんだ」などと何かを思わせる発言をした。
    トウギリに追われるハジメを逃がすために、手を貸した。
    メイに探りを入れたり、ユーリィからメールを受け取ったりといろいろと動いている。
    ポケモンバトル大会に友人で部外者のキョウヘイを選手として送り込むためにヒンメル地方へ呼びつけた。
    ◇手持ち
    ・ジュナイパー♂(NN:ヴァレリオ)・??????・??????
    ・??????・??????・??????


     ☆義賊団<シザークロス>

    ●ジュウモンジ 【男】(登場話数:1話、6話)
    義賊団<シザークロス>のおかしら。顔に十文字の傷痕を持っている。三白眼。ビドーが気に食わない。
    一話で引き受けたポケモン屋敷の黄色いスカーフのポケモンをハジメたち<ダスク>に渡していた。
    密猟者であるハジメに何故ケロマツのマツを渡したとビドーに言及されるが、ハジメがマツを任せるに足る人物だと言い返し、ビドーこそ第一印象で他人を決めつけすぎだと言った。
    <シザークロス>のメンバーは半数以上はヒンメル出身である。
    アプリコットボーカルのバンド活動もしており、ジュウモンジはエレキギターを担当している。
    ◇手持ち
    ・ハッサム♂・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ●アプリコット……赤毛の少女 【女】(登場話数:1話、5話〜6話)
    <シザークロス>に属している赤毛の少女。ビドーが気に食わないけどリオルは気になる。
    【ソウキュウ】でハジメにケロマツのマツを託す係をしていた。
    トウギリに目をつけられたハジメを逃がす手伝いをした。
    【カフェエナジー】の常連でピカチュウのライカの好物のパンケーキをココチヨに仕入れてもらっている。
    【イナサ遊園地】でバンド出演までの待ち時間を過ごしていたら、ビドーにマツのことでジュウモンジに話があると案内を迫られた。
    バンドではボーカル担当。見た目にそぐわぬ声量を持つ。
    ◇手持ち
    ・ピカチュウ♀(NN:ライカ)・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ●クサイハナ使いの男 【男】(登場話数:1話、6話)
    <シザークロス>に属している下っ端ライダー。冒頭でアサヒに敗れる。
    バンドではドラム担当。
    ◇手持ち
    ・クサイハナ♀



     ☆その他

    〇レイン 【男】(登場話数:4話)
    <スバル>の所長である深緑に髪を三つ編みにした麗人。アキラ(君)の上司。
    “闇隠し事件”についてポケモンが絡んでいると睨んで調査。ギラティナの住まう“破れた世界”に行方不明者がいるのではという見解を出す。
    〈国際警察〉ともつながりを持ち、その気になればアサヒを差し出すこともできたが、何故か庇うような行動を取った。
    アサヒとビドーにギラティナを召喚するのに必要な“赤い鎖のレプリカ”の素材である隕石集めを依頼する。
    ◇手持ち
    ・??????・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ○ムラクモ・スバル 【?】(登場話数:なし)
    <スバル>の元所長。現在は行方知れず。

    ○チギヨ……ドロバンコのしっぽみたいに後ろ髪をひとまとめにした男【男】(登場話数:5話〜6話)
    ビドーとユーリィの幼馴染。仕立屋でアパートの管理人。ビドーとは仕事の提携をしている。チギヨの仕立てた衣類などを、ビドーが配達している。ビドーたちを静かに見守っている。
    美容師のユーリィとともに【エレメンツドーム】に何度も出張しているので、アサヒの事情や立場はなんとなく知っている。
    アサヒにアパートの部屋を貸す。
    【イナサ遊園地】のステージに出る劇団の衣装を手掛けた。
    アプリコットに勢いで壁ドンしたビドーの後頭部を叩いた。
    ユーリィにもっとビドーに素直になれと思っている。
    ◇手持ち
    ・ハハコモリ♀

    ○リッカ……金髪ショートカットで丸メガネの少女【女】(登場話数:5話)
    ハジメの妹の少女。きょうだいの末っ子。長男のハジメ以外のきょうだいを“闇隠し事件”で奪われている。
    カツミやココチヨと仲良し。サモンになつく。
    帰りの遅いハジメを夜遅くまで待つことが多い。待つことには慣れているが、たまに疲れてしまうと思っている。
    ◇手持ち
    なし

    〇ラスト 【女】(登場話数:6話)
    “闇隠し事件”を、もといアサヒとユウヅキを調べている国際警察。ラストはコードネーム。
    <スバル>の所長レインと情報を交換したり、アサヒの知人の探偵ミケをこき使ったり接触者のヨウコに情報協力を頼んだりといろいろ動いている。作ったような笑顔はみせるがなかなか感情を表に出さない。
    アサヒにっとっての向かい風を先陣を突き進む人。
    ◇手持ち
    ・??????

    ◎ブラウ 【男】(登場話数:なし)
    ヒンメル地方の史実の人物。人気のある偉人。“英雄王”と呼ばれていた。
    ◇手持ち
    不明

    ◎クロイゼルング 【?】(登場話数:なし)
    ヒンメル地方の史実の人物。サモンの研究対象。“怪人”と恐れられていたと同時に発明家だった。
    ◇手持ち
    不明


     ☆ゲストキャラクター

    ◯アキラ(さん→ちゃん)……赤リュックの女性 【女】(登場話数:2話〜4話、7話)※キャラ親:天竜さん
    ハジメに雇われたホウエン出身の女トレーナー。あちこち跳ねた黒髪と赤いリュックがトレードマーク。きのみのためなら割となんでもするも、悪い人という訳でもない。
    けむりだまをばらまいた後、身をひそめるも雇い主のハジメが捕まってしまい、救出のためにビドーに近づきリオルを人質に取ったが危害を加える気はゼロだった。
    彼女はハジメに騙して利用されていたということでソテツ達に見逃され、罪は問われなかった。
    ハジメに対して憤るビドーに、実はハジメからしっかり報酬のきのみを貰っていたことを伝え、自分のことでハジメを責めないでほしいと言った。
    ビドーにお古のポロックメーカー一式をあげ、また珍しいきのみを探す旅に出た。
    と思ったら、ビドーにハジメからの報酬のきのみ、“スターの実”をおすそわけするために【エレメンツドーム】にやってきた。
    ビドーに頼まれバトルの相手に。技の指示をあまりださない戦い方でビドーたちを翻弄する。
    ビドーになんのために強くなりたいのか問いかけ、彼の願いを応援した。
    ◇手持ち
    ・フライゴン♂(NN:リュウガ)・ユキメノコ♀(NN:おユキ)・ゴウカザル♂(NN:ライ)

    ○ミケ 【男】(登場話数:3話)※キャラ親:ジャグラーさん
    アサヒの知人でジョウト地方のエンジュシティ出身の探偵。
    “闇隠し事件”について独自に調査を進めているが、バックに国際警察による依頼がある模様。アサヒに質問するために接触した。彼女の発言と過去のユウヅキの情報から、「アサヒがユウヅキに記憶を奪われている」という推察をする。
    アサヒにユウヅキを捜すのなら、向かい風が吹くことになる、と助言を残す。
    彼の選抜基準は国際警察のラスト曰く、アサヒとユウヅキに近い人物で、昔やんちゃをして目をつけられていたから、らしい。
    ・??????・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ◯アキラ(君) 【男】(登場話数:3話〜4話、6話〜7話)※キャラ親:由衣さん
    アサヒの旧友。アサヒとは定期的に連絡を取り合う仲。ミケとも面識はある。ライブキャスターを使い、アサヒにユウヅキが“闇隠し事件”での誘拐の容疑をかけられたことを知らせる。
    アサヒのことが心配だが、今の自分の言葉では届かないと悟る。何か思うところがある模様だが、アサヒを応援するスタンスは変わらない模様。ビドーのことを最初は虫だと思っていたが、見解を改め、無茶するアサヒのことを繋ぎとめておいてほしいと伝える。
    アサヒのことが心配と同時にそばにいないユウヅキに対するある感情が積る。
    ◇手持ち
    ・ムウマージ♀(NN:メシィ)・??????・??????
    ・??????

    ●カツミ 【男】(登場話数:5話〜6話)※キャラ親:なまさん
    【ソウキュウ】で今も一人で暮らしている少年。家族の帰りを今でも待っている。
    リッカの友達。好物はおにぎり。ココチヨによく握ってもらう。サモンとは知り合い。
    身体は弱いが外出は好き。
    行方不明者の墓を建てる人々に反感を示す。
    ハジメに誘われ、<ダスク>に入る。主にココチヨと活動する。
    ◇手持ち
    ・コダック♀(NN:コック)・??????・??????
    ・??????

    ○ミズバシ・ヨウコ 【女】(登場話数:6話)キャラ親:くちなしさん
    過去のアサヒとユウヅキと遭遇した各地を旅するカメラマン。遺跡について調べていたアサヒとユウヅキに【オウマガ】を訪ねることを薦めた過去を気にしている。
    国際警察のラストに協力したのは、ヨウコ自身がアサヒとユウヅキを心配してのこと。
    アサヒに、昔の彼女とユウヅキを撮った写真を譲った。(ビドーとリオルとの写真も撮ってもらった)
    シャッターチャンスは逃さない人。
    ◇手持ち
    ・エレザード♀・ピジョット♂・??????
    ・??????・??????・??????

    ○ミュウト 【男】(登場話数:6話)キャラ親:マコトさん
    進化前や可愛いポケモンが好きな青年。ポケモンコンテストに興味があり【イナサ遊園地】のイベントのスタッフのボランティアをしていた。
    特技のシェイカーをもちいた即席ジュース作りで体調を崩したアサヒを助ける。
    ◇手持ち
    ・アマルス♂(NN:プーレ)・??????・??????
    ・??????・??????・??????

    ○トーリ・カジマ(レオット) 【男】(登場話数:6話)キャラ親:乾さん
    アサヒの知人。お忍びで来てるポケモンコンテスト界の有名人。本名はレオット。
    “闇隠し事件”で心に傷を負った人たちを自分の芸で元気付けられないかと考えヒンメル地方に来た。
    しかし、観客が怪人クロイゼルングのような、わかりやすい“敵”を欲している空気に感づく。
    ビドーよりは背が高い低身長。ファンとポケモンは大切にする。
    アサヒの事情は知らないが、彼女に幸せをあきらめるなと伝えた。
    ◇手持ち
    ・フリージオ(NN:ソリッド)・ミロカロス♀(NN:シアナ)・??????
    ・??????・??????

    ●青いバンダナの少年 【男】(登場話数:6話)キャラ親:仙桃朱鷺さん
    <シザークロス>に属している少年。
    バンドではバックダンサー担当。
    ◇手持ち
    ・クロバット♂・??????・??????

    ●キョウヘイ 【男】(登場話数:6話〜7話)キャラ親:ひこさん
    サモンの友人。
    サモンに大会の賞品の隕石を優勝して手に入れてほしいとヒンメルに呼びつけられる。
    強さに固執し、最強を目指している。他人に指図されるのが嫌い。
    サモンに共犯者にならないかと誘われるも断る。
    ◇手持ち
    ・??????・??????・??????
    ・??????・??????・??????






    *用語集*

    ▽地名など

    ・ヒンメル地方
    この物語の舞台となる地方。女王が統治する平和な王国だった。
    だが8年前に起きた神隠し、“闇隠し事件”によって女王をはじめとする多くの国民が謎の失踪を遂げ、ほぼ壊滅状態に追い込まれた。
    現在では多方面からやってきた賊やら移民やらでごちゃごちゃしている。ジム制度やリーグ制度は存在しない。

    ・ポケモン屋敷
    荒野の端にぽつりとあるポケモン屋敷と呼ばれていた屋敷。

    ・スバルポケモン研究センター
    ヒンメル地方のポケモンを研究する研究所。“闇隠し事件”の調査をしており、他地方からも研究者を呼んでいる。実験設備として耐衝撃性能を兼ね備えたバトルフィールドも存在している。名前の由来は創設者であり前所長のムラクモ・スバル博士から。

    ・トバリ山
    ヒンメル地方の北部と南部を分ける山の一つ。ポケモン保護区に指定されている山。シンオウ地方にある山と同じ地名を持ち合わせている。

    ・ソウキュウシティ
    ヒンメル地方の王都。城壁に囲まれた都市で丘の上に王城がある。“闇隠し”発生時の中心点でもある。

    ・カフェエナジー
    ソウキュウシティにあるカフェ。二階に密談用の個室もある。
    各地の食べ物の取り寄せサービスもある。

    ・ミョウジョウ
    ヒンメル地方の港町。ずっと昔にマナフィがよく姿を見せていたが、戦いに巻き込まれたマナフィの死から、海が静かになったと言われている。別名「死んだ海」

    ・イナサ遊園地
    ミョウジョウにあるテーマパーク。
    観覧車やジェットコースター、イベントステージなど結構しっかりとした遊園地。

    ・オウマガ
    ギラティナに縁のある遺跡の近くの町。
    過去にアサヒとユウヅキの目撃情報があった。

    ・エレメンツドーム
    ソウキュウシティの北にある<自警団エレメンツ>の拠点。本部。
    <エレメンツ>のメンバーはここで暮らしている。アサヒも保護されてた時はここで暮らしていた。



    ▽集団名

    ・自警団<エレメンツ>
    “闇隠し事件”の生き残りで構成された自警団。お役所的な役割も持つ。
    五属性という炎、水、草、電気、闘の属性を司る五人のエキスパートがいる。
    リーダーは水タイプのエキスパートであり、ヒンメルの王子スオウ。
    トラブル対応や密猟者を捕らえたりもしている。
    “闇隠し事件”後、アサヒは彼らに保護もとい監視されていた。
    “五属性”の通り名はかつての王国時代にあった六つの役割をもつ一族のトップたちの別名“六属性”から来ている。
    その六人とは、
    生活の奉仕者、医療の炎属性。
    土地の管理者、庭師の草属性。
    察知の熟練者、情報の電気属性。
    戦場の守護者、番人の闘属性。
    現在は無き者、神官の超属性。
    政治の執行者、王族の水属性。
    のことを指す。
    超属性、メイの一族は“闇隠し事件”以前に席を外されていた。

    ・義賊団<シザークロス>
    ジュウモンジ率いる義賊。ポケモンを盗んだり売買したりしている。
    義賊なので基本は悪党から盗むが、具体的な基準は曖昧で振れ幅が大きい。ポケモンラブな輩が多い。
    複数の拠点らしきものは発見報告されているが、その本拠点は<エレメンツ>でも把握出来てないらしい。
    義賊活動のほかにアプリコットをボーカルとしたバンド活動も行っている。

    ・<ダスク>
    最近名前が知れ渡りつつある組織。その組織の目的やトップの存在は闇に包まれている。
    ハジメ曰く失ったものを取り戻すために活動している。
    トップは不明だが、サクを中心に活動をしている。
    メンバーで行方不明者の空き家の掃除をしたりしている。
    隕石と<エレメンツ>五属性を狙って大会を襲撃しようとしている。

    ・<スバル>
    スバルポケモン研究センターで働く研究員などの集団を指す。所長はレイン。
    “闇隠し事件”が神と呼ばれしポケモン、ギラティナによるものではないかという推測のもと“破れた世界”へ捜索する手段に必要な“赤い鎖のレプリカ”を生み出すもヤミナベ・ユウヅキに奪われる。


    ▽出来事

    ・“闇隠し事件”
    ヒンメル地方を襲った超大規模の神隠し事件。女王をはじめとする多くの人とポケモンが行方不明になった。
    外部からの目撃例だと王国全体がドーム状の闇に包まれたことから“闇隠し”と呼ばれるようになる。

    ・“スバルポケモン研究センター襲撃事件”
    ヤミナベ・ユウヅキによる、研究所襲撃事件。ヤミナベ・ユウヅキにより研究物“赤い鎖のレプリカ”を奪われた。

    ・“ポケモン保護区制度導入”
    “闇隠し事件”後に近隣国によって定められ取り入れられたルール。
    表面上では“闇隠し事件”で巻き込まれ変動したヒンメル地方のポケモンの生態系の調査の為、と言われている。
    保護区のポケモンを捕まえようとすると密猟にされ、<エレメンツ>に通報される現状であり、それを好ましく思わないものも多い。

    ・“英雄王ブラウによる怪人クロイゼルング討伐”
    ヒンメルの英雄譚の一つ。ブラウがミョウジョウで怪人と恐れられたクロイゼルングを討伐した。
    その際にマナフィが巻き込まれた。


    時系列表
    〇……アサヒ関連 ◎……大きな事件など △……短編

    ◎???年前、港町【ミョウジョウ】にて、英雄王ブラウによる怪人クロイゼルング討伐があった。その時、蒼海の王子マナフィが巻き込まれ命を落とす。
    〇8年前……アサヒとユウヅキ、ヒンメル地方を訪れギラティナの遺跡について情報を求めヨウコに出会い、【オウマガ】へ。
    ◎8年前……ヒンメル地方に“闇隠し事件”が襲う。女王を含め、多くの国民とポケモンが謎の神隠しにより失踪する。
    〇8年前……アサヒ、ユウヅキにヒンメル地方に来る前後の記憶を奪われる? そしてユウヅキは行方不明に。
    〇8年前……アサヒが<エレメンツ>に保護され監視下に置かれる。
    〇?年前……アサヒ、ソテツに弟子入り。師弟関係に。現在はもう弟子ではない。
    △短編その1……ソテツ、アサヒに自身の経験談を語る。
    ◎約3か月前……“スバルポケモン研究センター襲撃事件”ユウヅキが研究所から“赤い鎖のレプリカ”を奪う。ユウヅキ、指名手配される。
    〇約3か月前……アサヒがユウヅキを捜すためにヒンメル地方を旅し始める。
    〇第1話……アサヒとビドーの出会い。黄色いスカーフをポケモンたちに配達する。<シザークロス>と諍いの後知り合いに。
    〇第2話……アサヒとビドー【ソウキュウシティ】に一緒に向かうことに。道中<ダスク>のハジメがアキラ(ちゃん)とともに密猟をしているのを発見。
    〇第3話……密猟を<エレメンツ>のソテツとガーベラの力を借りながら阻止した。(その最中アサヒは探偵ミケに記憶のことを指摘され警告される。)利用されていたアキラ(ちゃん)を交えて【トバリタウン】で休息しているとアサヒの旧友アキラ(君)からユウヅキが“闇隠し事件”の容疑者になったという知らせを受ける。
    ◎第3話……ユウヅキ、国際警察に“闇隠し事件”の容疑者とされる。
    〇第4話……アサヒとビドーとアキラ(ちゃん)はアキラ(君)のいる【スバルポケモン研究センター】に足を運ぶ。アキラ(ちゃん)と別行動しつつ、2人は所長のレインから<スバル>の闇隠しに対する見解とユウヅキが容疑者になった経緯を聞かされる。
    アキラ(君)との会話やビドーの激励やバトルを経て、捜す、から捕まえる方向性でユウヅキを追いかけることを決意。
    アサヒはビドーとユウヅキを捕まえるために手を組み相棒になることになった。
    レインに“赤い鎖のレプリカ”に必要な隕石を捜してほしいと依頼される。
    【スバル】を旅立ち、アキラ(ちゃん)とも別れ、アサヒとビドーは王都を目指す。
    〇第5話……【ソウキュウ】でアサヒの拠点を確保。【カフェエナジー】にて<エレメンツ>の五属性トウギリに【スバル】での出来事やユウヅキに対するアサヒのスタンスを報告する。
    トウギリがハジメを捕捉する。ビドーがハジメを追いかけるも逃げ切られる。その時ハジメは黄色いスカーフを付けたケロマツのマツを使っていた。
    △短編その2……アサヒとビドーは悪天候の中カツミとリッカに流星群を見せるために、アキラ(くん)のつてで【スバル】のプラネタリウムを見に行った。
    〇第6話……ビドーはアサヒにユウヅキとの昔話を聞く。
    ビドーの仕事でユーリィとチギヨと【ミョウジョウ】へ。国際警察、ラストとの邂逅。ビドーがケロマツのマツのことでジュウモンジを問い詰める。
    【イナサ遊園地】などでアサヒが自身以外の記憶を垣間見る。
    デイジーに呼び出され、【エレメンツドーム】へ。
    〇第7話……【エレメンツドーム】にて。隕石のありかがポケモンバトル大会の賞品になっていたことが発覚。ビドーが選手としてエントリーすることに。大会までの期間、修行をすることに。
    ビドーは弱点である光へのトラウマを克服しようと努力をする。
    △短編その3……ビドーがアサヒを誘い、王宮庭園に向かう。そこでビドーの下の名前とそれにまつわる苦い思い出を聞く。アサヒはビドーが彼女の下の名前、アサヒと呼ぶとき、自分もまたビドーの下の名前、オリヴィエの名前を呼ぶことを約束する。


    ☆次回第8話、大会開催。スタジアム攻防戦


      [No.1509] 第一話 追跡者ヨアケ・アサヒと配達屋ビドー 投稿者:空色代吉   投稿日:2016/02/02(Tue) 23:42:21     40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    第一話 追跡者ヨアケ・アサヒと配達屋ビドー (画像サイズ: 480×600 184kB)


    *****************



    流れゆく風に乗せて、届け、届け、
    この思いよ、貴方へ届け

    夜明けの空に映える薄白い月のように
    地平線の彼方へと姿を眩ませても
    私は貴方を追い続けます。






     【明け色のチェイサー】










    *****************

    そいつとの出会いは、とある昼下がりのことだった。


    荒野の真ん中に引かれた大きな道路の脇に、青を基調とした一台のサイドカー付のバイクが止めてあった。バイクの傍には持ち主である青年、というには背が低い少年が立っている。
    身長のことに関しては自分で言っていてむなしいとは、自覚はしているが。
    個人配達を生業としている俺は、バイクに備え付けられたカーナビ機能で目的地を確認し、サイドカーに載せてある宅配物を見る。それから、配達票をチェックして、ウエストポーチから水のペットボトルを取り出して水分補給をした。

    (目的地までは……あともう少しか)

    日差しが強いせいか汗をかいたので、一旦ミラーシェードを外し、タオルで顔を拭う。額を拭こうとする時、手の甲に前髪がのしかかった。
    この群青色の髪も、随分と伸びたものだ。前髪もだが、後ろは肩ぐらいの長さになっている。切らねばとは思うものの、短く刈り上げるのは好みではないのでほったらかしていたらこの有様だ。
    水色のミラーシェードをかけ直していると、行き先の方から爆音が鳴り響いた。
    目の前の道路を黒くてごつい外装のトラック3台と、それを護衛するように陣取るいかついバイクに乗ったライダー達が、クラクションを鳴らしながら猛スピードで走って行く。

    (まーた、あいつらか……)

    あのトラック達には見覚えがある。この周辺一帯を縄張りとしている義賊団<シザークロス>の所有している車両だ。きっとまた今日も彼らはどこかの誰かからポケモンを盗んでいるのだろう。
    奴らが来た方向だと、荷物の届け先からポケモンが盗まれたという可能性もある。
    追いかけるべきか否か、迷っていたらトラック達がやってきた方向から、誰かの叫び声が聞こえた。

    「ぽーけーもーんーっ、ドロボー!!」

    声の主は女性だった。デリバードにしがみついて地面すれすれを飛び、食らいつくように青の瞳でトラックを睨みつけている。

    すれ違う瞬間、澄み切った青空に彼女の長い金色の髪が波打つ。一本一本が日の光に透けて煌めくその光景に、俺は目を奪われていた。

    ロングスカートをたなびかせながら集団を追いかけていく女性。いくら黒タイツを履いているとはいえ、スカートで空を飛ぶなとツッコミを入れたかった。
    頭を抱えていると、女性トレーナーの追跡にしびれを切らした<シザークロス>の下っ端ライダーである男がバイクのブレーキをかけ、背に乗せていたクサイハナに指示を出す。

    「しつけーぞ、このアマ!! クサイハナっ、『しびれごな』!!」

    黄色い粉がクサイハナのつぼみから放出され、追跡者に襲いかかる。

    「リバくんっ『プレゼント』!」

    リバと呼ばれたデリバードが、前方に赤いリボンで装飾された小包を袋からばらまいた。
    小包は『しびれごな』に接触した途端、爆発する。
    紙吹雪交じりの爆風で霧散する『しびれごな』
    同時に煙幕が彼女達の姿を隠したので、下っ端とクサイハナは煙の中に目を凝らす。
    煙の中から彼女たちが出てこない、ということは先ほどの攻防で『そらをとぶ』を中断したのだろう。
    少し経った後、デリバードと、その後ろに立つ女性のシルエットが薄っすらと見え始めた辺りで、煙の中からデリバードの『れいとうビーム』がクサイハナを射抜かんと繰り出された。

    「そこだクサイハナ!」

    『ようりょくそ』で素早さが上がっているクサイハナは、その場でくるりとターンをして、ギリギリのところで『れいとうビーム』をかわし、『ようかいえき』を放つ。『ようかいえき』は小さなシルエットに命中した。
    だがシルエットは動じないでそこに立ち続けている。おかしい、と下っ端とクサイハナが思ったその時、荒野に一陣の風が吹いて煙を吹き飛ばす。
    そこには、デリバードの半分ぐらいのサイズの溶けかかった氷の塊とその陰に潜むデリバードの姿があった。『れいとうビーム』で先に氷の壁を作り出していたのだろう。
    冷気をその身に溜め込んでいたデリバードは、壁の前へと勇んで飛び出した。

    「速い、ね。でもこれならどうかな!」
    「! クサイハナ、もう一度――」
    「『こおりのつぶて』!!」

    下っ端の男がクサイハナに指示を出す前に、クサイハナが技を出す前に、デリバードが生み出した氷でできた礫がクサイハナをとらえ、突き飛ばす。
    突き飛ばされたクサイハナに下っ端は巻き込まれ、そのままバイクごと横転した。
    パチン、と荒野に乾いた音が響く。彼女とデリバードがハイタッチをしていた音だと気づくのに、少し時間がかかった。


    *****************

    倒れた男はなかなか起き上がらなかった。それを見て、初めはデリバードとハイタッチをしていた彼女が、みるみる顔を青ざめさせていく。

    「あ……だ、だだ、大丈夫ですかー!!」

    男とクサイハナに駆け寄る彼女。俺はというと、ここまで一部始終を見ておいて彼女らを置いて素通りするような気分にもなれなかったので、慌てふためく彼女の隣まで行き、男の容体を診た。
    男もクサイハナも、目を回しているだけだった。

    「伸びてるだけだ、大丈夫だろ」
    「そっかあ、良かった……」

    ほっと胸をなでおろす彼女。自分のことのように安堵する彼女に、俺は反射的にツッコミを入れる。

    「いやまて、良くはないだろ! こいつらにポケモン盗られたんだろ、あんたは!」
    「…………ああっ、そうだった!! ドルくんが、私のドルくんが!!」

    俺に指摘されるまで、頭の中からすっかり抜け落ちていたようだ。彼女は慌てて辺りを見回す。ようやく彼女が視線に捉えたのは、すっかり小さくなったトラック集団だった。

    「どうしよう……」

    愕然とし、へたり込む彼女。そんな彼女を見て、俺は内心ため息をつきながら声をかけた。

    『へたり込んでる暇があったら、追いかけろ』
    そう、言うつもりだったのだが

    「諦めるのはまだ早い。奴らの根城や拠点としている場所なら、いくつか知っている。良ければ俺が案内しようか」

    こう、言っていた。

    本音とは別のことを口走っている自分に少し驚いたが、まあ、いいだろう。大差があるわけでもない。

    「いいの? っと、そういえば、キミは――」

    戸惑いながら顔をこちらに向けた彼女に、俺は手を差し伸べながら名乗る。

    「俺はビドーだ。個人配達業をしている者だ」
    「私はアサヒ。ヨアケ・アサヒ。旅のトレーナーです。えっと、微糖君?」
    「コーヒーか俺は。ビドー、だ、ビ『ド』ー。まあ、呼びにくいのは分からなくもないが……」
    「うん、ごめん……ビト、ビドー君」
    「……好きに呼んでくれて構わない」
    「じゃあ、ビー君で」
    「それでいい」

    すくっと立ち上がったヨアケは、俺を見下ろしながら、笑顔をつくった。笑っている場合じゃなかろうに。

    「ではビー君、道案内お願いします」
    「分かった、ヨアケ」

    それから俺とヨアケは、道の真ん中で転がっている男と男の乗っていたバイクとクサイハナを、後から来るであろう車に轢かれないように道路から離れた位置に移動させてから、奴ら<シザークロス>の後を追った。
    いくら相手が賊でも、寝覚めが悪くなる事態は勘弁だから、な。

    ――思えば、ここで道案内を引き受けていなかったら、俺はヨアケ・アサヒという人物と、こうして知り合うことはなかったのだろう。

    *******************



    俺が<シザークロス>の根城や拠点に詳しいのは、俺が<シザークロス>と顔を鉢合わせるたびに、あいつらの邪魔をしていたからだ。
    邪魔をし始めたきっかけは、俺のポケモンも奴らに盗まれかけたことにつきる。
    初め……初めて奴らにポケモンを奪われた時はなんとか取り返して追い払った。その出来事以降、奴ら<シザークロス>にポケモンを盗まれた被害者を見て、無性に放っておけなくなり、たびたび突っかかってはポケモンを取り戻していたら、自然と奴らの現れる場所や拠点を覚えていった。
    <シザークロス>に限らず、このヒンメル地方を拠点としている悪党並びに小悪党は多い。自警団<エレメンツ>も頑張ってはいるが、それでもこの地方が荒れているのには変わりない。
    すべてはこの地方を治めていた王国が滅んでしまってからだ。

    とにかく、人のポケモンを盗ったらドロボウだ。
    奴らは、自分の大切なものを失う痛みを知らないから、あんなことを続けられるのだろう。

    <シザークロス>の根城は複数ある。俺の知っているのは奴らが中継点にしている小さな拠点だけだ。一番大きな本拠地の存在までは俺も<エレメンツ>でさえもつかめていない。奴らは本拠地の存在だけはなかなか尻尾をつかませない。
    だから、タイムリミットは<シザークロス>が本拠地に戻るまでの間だ。

    ヨアケ・アサヒはデリバードに乗り、俺のバイクに並列して空を飛びながら、ポケモンを盗まれた経緯を語る。

    「私は旅の途中で、ポケモン屋敷に訪れていたんだ」

    ポケモン屋敷、か。どうやら届け先が襲われたかもしれないという、俺の嫌な予感が当たってしまったようだ。

    「そこのお庭には色んなポケモンがのんびり暮らしていて、ドルくん……私のドーブルが興味ありそうに眺めていたからしばらくそこのポケモン達と遊ばせていたの。そうしたら、そこの屋敷のお嬢さんに誘われて、一緒にお茶をしている間に、あの集団が屋敷の庭にいるポケモンを盗んでいたんだ」
    「奴らの存在に気がついたのは、いつごろだ」
    「庭の方じゃなくて屋敷の外からドルくんの声が聞こえてきて、それで私は気がついたんだ。それまでは静かだったんだよ。私とお嬢さんがドルくん達の元に向かった時には、もう他のポケモンもトラックに乗せられるところで、急いで追いかけた所でキミと、ビー君と出会ったんだよ」

    俺は先ほどのクサイハナの存在を思い出しながら、ヨアケに質問する。

    「他のポケモン達は、麻痺にされたり眠らされていたりしてたのか?」
    「ううん、ぱっと見はみんな元気だったよ。ただ、その……」

    首を横に振り、それから言葉を詰まらせるヨアケ。考え込む素振りを見せた彼女は、不思議そうに続きを言った。

    「やけに大人しかった、かな。人に慣れているからかもしれないけれど、暴れる様子は……なかった」
    「……そうか」

    何故ポケモン達は、大人しく連れ去られたのだろうか。いつもの<シザークロス>のやり方、ポケモンを強引に奪うのとは何かが違う。
    そこまで考えたところで、奴らの拠点の一つのおんぼろ小屋が見えてきた。

    (まあ、どのみちいつものように取り戻せばいいだけのことだ)

    俺はそれ以上考えるのを止めて、<シザークロス>との対峙に集中するべく、気を引き締めた。


    *****************


    その小屋は、トラックも中に入れるような大きな入口が正面に一つ、反対側に小さな裏口が一つある。
    正面の入り口が開いていて、その中にいる<シザークロス>の下っ端にこちらの存在を視認されてしまったので、俺とヨアケは正面から奴らの小屋に乗り込んだ。

    「配達屋! ……と、もう一人のお姉さん。よくも身内をやってくれたな!」

    開口一番、<シザークロス>のメンバーの中でもっとも若い、赤毛の少女が進み出て俺たちを睨みつける。
    他のメンバーに取り押さえられながらも、ジタバタともがきながら「よくも!」と敵意をむき出しにした。
    少女の言葉に対してヨアケは答える。

    「大丈夫、あの人達は無事だよ。気絶させちゃったみたいだけど、ちゃんとバイクと一緒に道路の外に運んだから。重かったよー」
    「え、そう、そうなんだ……。あ、でも追いかけてきたってことは、また、あたし達の邪魔するつもりなんでしょ、配達屋?」
    「まあな」
    「やっぱり! この――」

    俺の返答に憤り、今にもポケモンを繰り出そうとしている赤毛の少女の声を遮る、どすの利いた声が小屋内に響いた。

    「――そこまでだ。いい加減黙りやがれ」

    少女はビクリと固まり、その声の主である、背の高い男の方へ振り向き、呟く。

    「ジュウモンジ親分……」

    ジュウモンジと呼ばれた顔に十文字の傷跡がある男は、その三白眼で俺に一瞥くれると、ヨアケを見た。

    「配達屋がいつものように来やがったのはともかく……てめえは何者だ?」

    奴の鋭い視線に臆することなく、しっかりと相手の目を見つめ返して、ヨアケはジュウモンジに名乗る。

    「初めまして。私はアサヒ、ヨアケ・アサヒです。旅のトレーナーです」

    きちんと自己紹介をしたヨアケにやや面を食らうジュウモンジ。奴も少しだけ襟元を整えてから、胸の前に腕を組んで名乗った。

    「俺はジュウモンジ。<シザークロス>を纏めている者だ。ヨアケ・アサヒといったか、旅のトレーナーってことは、あの屋敷の関係者じゃねえってことでいいか?」
    「はい……あの、私のドーブルを、ドルくんを返してください」

    若干緊張交じりのヨアケの言葉が、ジュウモンジに届く。
    ジュウモンジの返事は、一言だった。

    「いいぜ」

    <シザークロス>の面々が一瞬どよめいたのが、感じ取られた。ヨアケはポカン、としている。動揺しているのは俺も同じだった。思わずジュウモンジに確認を取ってしまう。

    「珍しいな。いいのかよ」
    「おうよ、こいつの目をみりゃわかる」

    と言って、やつはトラックからドーブルだけを降ろす。ドーブルはヨアケを見つけると、全速力でヨアケの元へ走った。

    「ドルくん!」

    抱き合うヨアケとドーブル。はたから見ると、ドーブルがヨアケをなだめているようにも見えた。
    その様子を見て、赤毛の少女が納得したように言った。

    「なるほど、お姉さんのポケモンだったんだ。どうりで他のポケモン達と違って、連れていくのに手こずると思ったよ」
    「よーく見とけよ配達屋。これがトレーナーをよく信頼している目だ。てめえのポケモンと違ってな」
    「……………………っ」

    ジュウモンジの嫌味に、俺はリオルの入ったボールを握りしめる。反論できないでいる自分に悔しさが込み上げた。
    俺は話をそらし、挑発交じりの言葉をジュウモンジに投げかける。

    「じゃあ、そろそろ他のポケモンも返してくれないか」
    「そいつは出来ねーな」

    俺の言葉に、呆れたような白けたような態度を示すジュウモンジ。俺は声色を変えて、奴を見据えたまま問いかけた。

    「一応聞くが、なんでだ」

    俺の問いに、奴は遠回りに述べた。

    「そもそもの前提として、俺ら<シザークロス>が盗むポケモンは、トレーナーと仲のいいポケモンじゃねえ。その真逆だよ配達屋」
    「トレーナーとの関係が悪いポケモン、か。具体的には?」
    「環境が最悪な所で無理やり労働力として使役させてたり、愛玩道具として売られるためだけに育てられているポケモンだったり……てめえが邪魔してきた中には、そういう奴らのポケモンもいたってことだぜ」
    「それがどうした。それも人とポケモンとの関係の一つの在り様だ。それに、そうじゃないポケモンもいたんだろう? お前ら<シザークロス>の価値観だけで、奪うことを正当化するな」
    「確かに、俺らの行動は正義と呼べるものじゃねえ。人とポケモンのそういう関係が、世の中では当たり前だと認められていることも解る。だからといって、てめえの理屈だけでも、<シザークロス>という存在を悪だと断定するなよ」

    話がそれたな、と奴は押し問答を区切る。どうやらまだ俺の問いに答える気があるらしい。

    「さて、本題だ。そこのお嬢さんのポケモンは信頼しあっているから返したが……こいつらの場合、トレーナーとの関係がどうこう以前の問題だ」
    「どういう意味なんですか? トレーナーとの今の関係が悪くても、これから仲良くなる……ってことは難しいのかな?」

    ドーブルを抱えたヨアケが、ジュウモンジに尋ねる。ジュウモンジは目を伏せて首を横に振った。

    「それが出来るのならば、こいつらはここに大人しく居ないだろうさ。ヨアケ・アサヒはあの屋敷に集められたポケモン達がどういう奴らか、知っているんじゃねえか?」
    「あ……」

    何かに気付いたヨアケに、俺は問いただす。

    「何か知っているのか、ヨアケ」
    「ポケモン屋敷のお嬢さんに聞いたんだけど、屋敷の主は、“行き場のないポケモン”をトレーナーから引き取っていたって……」

    トレーナーがいるのに、行き場がない……だと?

    「つまりトレーナーに手放されたポケモンを引き取って、庭で育てていたということか?」

    ジュウモンジに代わり、赤毛の少女が俺の結論を肯定する。

    「正解。そして――――」

    赤毛の少女は息を大きく吸ったあと、天井を仰ぎ見ながら区切った言葉の続きを言った。

    「――――そして、育てきれなくなった」



    *****************

    「育てるのにお金が足りなくなった主は悩んでいた。人から引き取ったポケモンを逃がすわけにもいかない。主にも今まで築き上げた体裁があるからね。そこであたし達に依頼が入ったんだよ」
    「盗まれたのならば、責任問題はあるが、今まで主のしてきた行為という結果は残るからか?」

    俺の問いに赤毛の少女は頷き、あっけらかんとした態度で続きを言う。

    「そう。といっても盗まれたこと自体を責める人は少なかったと思うよ。だって、もとはといえば、トレーナーから手放されたポケモンだもん……あいたっ!」

    ジュウモンジから、頭部に拳骨をもらう赤毛の少女。ジュウモンジが短く少女に吐き捨てた。

    「しゃべり過ぎだ」
    「ゴメンなさい……」

    頭をさすりながらしゅん、と落ち込む赤毛の少女を横に置いて、ジュウモンジは話を締めくくる。

    「とにかくだ、こいつらには帰る場所がねえ。だから、俺ら<シザークロス>が責任をもって新しいおやに届ける。だからいいか、手を出すんじゃねえぞ配達屋」

    だから、を二度言われても、手を出すな、と言われても俺が引き下がらないのは、ジュウモンジも承知の上だったのだろう。だからあいつは腰のモンスターボールに手をかけていたのだと、思う。
    俺もモンスターボールに手をかける。
    バトルになる前に、もう一言だけ反論を言おうと思った。
    けれども、ジュウモンジに食い下がったのは、俺ではなくヨアケだった。

    「でも、たとえ帰る場所がない……かもしれなくても、みんながみんな、新しいパートナーを望んでいるわけじゃあないと思うんだ。あのポケモン屋敷に残りたい子だって、いると思う」
    「……だったら、試してみるか」

    そんなことを言ってから、ボールから手を放し、トラックの方へ歩み寄るジュウモンジ。

    「お、親分……?!」
    「流石にそれは……!」

    制止しようとしたメンバーに構わずにジュウモンジは次々とトラックの後ろ扉を開けていった。何事か、とトラックの外を眺めるポケモン達にジュウモンジは言い放つ。

    「おい、帰りたい奴は帰っていいぞ」

    <シザークロス>の面々は冷や汗を流していた。ヨアケが息をのむ音が聞こえる。俺もつられて生唾をのみ込んだ。
    互いに顔を見合わせるポケモン達。しかし、一匹としてトラックを降りようとするポケモンはいなかった。
    ジュウモンジがこちらを振り向いて冷たく言い放つ。

    「……帰りたくないってさ」
    「本当にそれでいいの?」

    ヨアケがポケモン達に尋ねる。ポケモン達は互いを見合った後、うつむき、静かに頷いた。

    俺達はそれ以上、何も言えなかった。

    そうして俺は、初めてあいつらから背を向けることになる。
    屈辱、とは違う、得体のしれない感情が俺の中で渦巻いていた。


    *******************


    <シザークロス>の小屋を後にした俺とヨアケは、とりあえずポケモン屋敷に向かうことにした。気が付いたら日が傾き始めていた。
    渦巻いている感情の正体が分からずに、悶々としたまま俺はバイクを走らせる。デリバードに乗ったヨアケも、黙ったまま俺の隣を飛んでいた。

    「なあ、ヨアケ」
    「なあに、ビー君」

    ヨアケがこちらに振り向く。俺は、バラバラになった言の葉をかき集めて、ヨアケに伝える。

    「……あいつら、あれで本当に幸せになれると思うか?」

    考えて考えて、ようやく出たのが、この疑問だった。
    こんなことを、ヨアケに聞いても仕方がないというのに、俺は彼女に答えを求めていた。それが情けなくて、仕方がない。
    ヨアケは前を向いて、俺の顔を見ないで返答した。

    「分からない。けど難しいんじゃないかな」
    「難しい、か……」
    「確かに愛してくれるパートナーに巡り会えたら、幸せにはなれると思うよ。でも……」
    「でも、なんだ?」
    「でも、どんなに仲が悪くたっても、一瞬だけだったとしても、相棒だった存在を忘れることなんて、出来ないんじゃないかな」
    「…………」
    押し黙る俺に対し、ヨアケは口元を歪めて、「いわゆる呪い、みたいなものだね」と、遠くの空を眺めながら言った。
    会話は、そこで途切れた。


    *******************



    道路をひたすらまっすぐ走ると、荒野のはずれに、それなりに立派な屋敷が見えた。
    かつてはポケモン屋敷と呼ばれていた、屋敷。これから先、この屋敷がポケモン屋敷という愛称で呼ばれることはなくなるのだろう。
    屋敷の門に、一人の女性が暗い面持ちで佇んでいた。
    彼女はヨアケの姿を見つけると、ほんの少しだけ表情を明るくさせる。
    それから声を振り絞り、ヨアケの名前を呼んだ。

    「アサヒさん!」
    「あ、お嬢さーん!」
    「ご無事だったのですね……良かった……!」

    胸をなでおろし、安堵する屋敷のお嬢様。ヨアケがポケモントレーナーとはいえ、あのごろつき連中にたった一人で追いかけていったのだから、心配したのだろう。
    パタパタと彼女は俺らに歩み寄った。

    「アサヒさん。ドーブルは、取り戻せましたか?」
    「はい、私のポケモンは返してもらえました。でも……屋敷のポケモンは……」
    「そう、 ですか……追いかけて下さり、ありがとうございました」

    アサヒにお礼を言う彼女。その表情は、憂いを帯びていた。
    彼女と俺の視線が合う。戸惑いながらも見下ろす彼女が、しどろもどろに言葉を紡ぐ。

    「えっと、こちらの方は……」
    「どうも、配達屋です。お届けに上がりました」
    「え、配達屋さん……?」
    「……配達屋です」

    外見の問題で、そう見られないことはよくある。そのことについては、いちいち気にしないことにしている。
    俺はサイドカーに積んでいた小包を持ち上げ、彼女に手渡す。
    それから受け取り表にサインを求めた。

    「サインをこちらにお願いします」

    達筆な字でサインを描いた後、彼女は両手に持った小包をじっと見て、呆けたように沈黙した。

    「どうしたんですか、お嬢さん?」

    ヨアケが彼女の顔を覗き込む。
    ヨアケと俺がじっと見つめているのにようやく気が付いた彼女は、「すみません」とこぼしてから、投げられた言葉に対し、躊躇いを見せた後、意を決して思っていたことを話してくれた。

    「……この中身は、あの子達へのプレゼントだったんです」
    「プレ、ゼント……?」

    疑問符を浮かべるヨアケに、彼女は寂しげに相槌を挟む。そして、嘆く。

    「はい。あの子たちに何かしてあげたくて、私が注文したんです……もう、プレゼントしてあげることは、叶わないのですけれどね」

    そう言って、お嬢様が包のふたを開け、中身を俺らに見せる。
    それを見て、ヨアケが動きを止めた。俺も、思わず中身を凝視してしまった。
    そんな俺らの様子に気づいていないのか、彼女は話を切り上げ、別の話題へと移す。

    「アサヒさんに謝らなければならないことと、お話ししなければならないことがあります。あのポケモン達についてですが……」

    動きを止めていたヨアケが口を開き、彼女の話に割って入った。

    「ある程度のことは、あの人達<シザークロス>さんから聞きました。ポケモン達をこのお屋敷で育てることが難しくなったから、<シザークロス>さんに引き取ってもらったんですよね?」
    「ええ……既に、存じ上げていたのですね。その通りです。実は私、そのことをつい先ほど祖父から聞かされました。いくら知らなかったとはいえ、アサヒさんのポケモンを巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」

    頭を下げる彼女。
    彼女に対し、ヨアケは柔らかい面持ちで首を横に振る。

    「気にしないでください。ドルくんは無事だったわけですし……それに」

    言葉を区切り、ヨアケは俺を見る。
    俺の目を、ヨアケは見た。

    ヨアケが考えていることは、ある程度だが察しがついていた。
    俺も例のプレゼントを見て、同じことを考えていたからだ。
    しかし、それをするということはどんな裏目に出るかわからないことである。
    だから俺は言い出せずに悩んでいた。
    それくらいのことは、ヨアケもおそらく解っているはずだ。と思う。
    だが、ヨアケは躊躇なく彼女に提案する。
    ヨアケは迷わず、踏み出す。

    そして俺にも、一歩前に歩みだすことを促した。

    「今、私に謝ることよりも、もっと大事なことがあると思います。だよね、ビー君?」

    差しのべられたその手に
    引き寄せられるような誘いに、
    俺は腹をくくって、乗った。

    「お嬢様」
    「はい」
    「その荷物、今すぐ梱包し直して、俺に預けてもらえませんか?」
    「?」

    何を言われているのか分からずにいる依頼主に、俺は精一杯、言える限りの言葉を尽くして言い切った。

    「その贈り物を、本当の受け取り相手に――俺が届けてきます」


    *****************

    開け放たれた窓から入る、黄昏のオレンジ色の明かりだけが、その一室を照らしていた。
    部屋の両脇には大きな本棚が設置されている。本棚にはポケモンに関する本が隙間なく入れられていた。
    中央にはブラウンの絨毯が敷かれ、その真ん中にはシックなローテーブルが鎮座している。
    二人の男が、テーブルを挟んで置かれた黒のソファに各々座り、向き合っていた。

    男の一人、グレーのスーツを身に纏った初老の、このポケモン屋敷と呼ばれていた屋敷の主は、いまいち焦点の定まってない目で虚空を見つめ、懺悔する。

    「私はね、本当はあのポケモン達を見ているのが、辛かったんですよ」

    どこかかすれた、だが声量のある声で主は言う。

    「私が引き取ったポケモン達は皆、必ずといっても良いぐらい待っていたんです。待ち続けたんですよ。もう来るはずのないおやが、自分を迎えに来ることを」

    主は両手で目を覆う。

    「私は彼らのそういう感情に気づきながら、目を反らし続けていました。彼らがだんだんと自分達が置かれている現状を飲み込んでいく過程を、いつものことだと、時間が経てば慣れるだろうと流していました――そして、私は彼らと最後まで向き合いませんでした」

    主はそう、嗚咽にも聞こえるような声で、吐き出した。
    懺悔を黙って聞いていた黒スーツを着こなした男が、口を開く。

    「どうして貴方は、トレーナーからポケモンを引き取ろうとし始めたのですか」

    黒スーツの男の言葉に、主は反射的に答える。

    「孫娘のためです」

    主は目を抑えていた手を離し、その手の平を見つめる。手は主の意図しない方向に、震えていた。

    「孫娘は今でこそ違いますが、幼い頃は人見知りの激しい子でした。ですが、ポケモンにだけは心を開いたのです。だから私はポケモンを集めました。両親のいないあの子に、寂しい思いをさせないためにも。ですが、私は親が帰ってこないというあの子と同じ苦しみを、ポケモン達にも与えさせてしまっていたのでしょう」

    震える手を固く固く握りしめた主は、黒スーツの男の方を見る。

    「もし私にお金があったにしろ、私はあのポケモン達を幸せにはしてやるおやにはなれない。たとえポケモン達と仲良くしていたあの子にも、それは難しい。それに、このまま貧しい思いを一緒にさせるわけにもいかない……貴方達の助言があってこそ、ようやく踏み切ることが出来ました。改めてありがとうございます――<ダスク>さん」

    黒スーツの男は短く「礼には及びません」と言い、ソファから立ち上がる。
    そして腰につけたモンスターボールの一つを取り外し、ポケモンを出した。
    ボールから出てきたのは白いドレスを身にまとった女性のような姿のポケモン、サーナイト。
    黒スーツの男が『テレポート』を使って、この場から離れることを察した主は、咄嗟に男の袖を掴んでいた。

    「行かれるのですね……最後に一つだけ、いいでしょうか?」
    「……どうぞ」

    主は尋ねた。がくがくと、恐れるように唇と腕を震わせながら。

    「私は、間違っていませんよね……?」

    黒スーツの男は、無表情のまま、主の懇願に応えた。

    「貴方は賢明な判断をした。それは私達が保証します」

    主の手から震えが消え、袖から手を放す。
    次の瞬間には、立ち尽くす主だけが、宵闇迫る部屋の中にただ一人取り残されていた。
    黄昏の光に誘われるように、ふと主は窓の外を見る。
    窓の外にはポケモン達が暮らしていた庭が広がっていた。
    静かになった庭を眺めて主は思う。

    この庭は、こんなにも広かったのか。と。



    *****************


    俺のポケモンが奪われたのは奴らで二度目だった。
    繰り返すがつまり、<シザークロス>が初めてではないということになる。
    その前に一度、俺は手持ちポケモンを失っている。
    失ってしまったのは、俺の大切な相棒――ラルトス。内気だが、心優しい奴だった。
    俺から相棒を、ラルトスを奪ったのは、“闇”だった。
    いきなり“闇”などと言われても、何を言っているのかよくわからないと思うかもしれない。だがそうとしかいいようがない抽象的な存在であった。

    かつて王国を襲った、王国を壊滅状態にまで追い込んだ巨大な規模の神隠し。
    その神隠しが起こった瞬間、ヒンメル地方全体が闇に覆われていたことから“闇隠し”という呼び名がつけられている。それに、俺のラルトスは巻き込まれた。
    何年経っても彼らの消息は分からない。生存している可能性は絶望的と言われている。
    それでも俺は、信じている。
    ラルトスが無事だと、今も信じ続けている。


    再び<シザークロス>の小屋についた頃には、もう日は暮れていた。
    俺は臆さずに正面から堂々と小屋に乗り込もうとする。だが、入口にジュウモンジ率いる<シザークロス>達が立ち塞がった。
    ジュウモンジが俺に対し、門前払いの構えをとる。

    「何しに来た、配達屋」
    「“何しに”って、決まってるだろ」

    俺はミラーシェードを外して、ジュウモンジの三白眼を睨む。
    そして頭を垂れて定型句を口にした。

    「お届けに、上がりました」
    「……届け物、だとぉ?」

    疑問符を掲げたジュウモンジに赤毛の少女が、「惑わされないように」と言葉を添える。

    「きっとまた、取り返しに来たんだよ親分! あのポケモン達にもうおやはいないのに……」
    「それはどうかな」

    咄嗟に低い声で、俺は彼女の言葉を否定してしまう。赤毛の少女が俺の声に強張ってしまったので、言葉を選び直した。

    「……今回は本当に届け物だけだ」
    「そう言われても、怪しいよ」

    俺の言葉に訝しげな反応をする赤毛の少女。ジュウモンジも警戒を怠らない。

    「今まで何度もてめえには邪魔されてるからな。届け物なら今ここで受け取って開けさせてもらう。だから中には入れさせねえ」

    ジュウモンジは断固としてポケモン達に俺を近づけさせないつもりのようだ。
    ……本来ならば、ポケモン達の預かり主である奴らにこの届け物を渡してもいいのだろう。
    しかし万が一の事を考えると、ここで引くわけにはいかない。

    「この贈り物はお前らじゃなくてあのポケモン達に向けてのものだ。依頼主にもそう注文されている。だから直接手渡したい」
    「依頼主ってーと、あの屋敷の関係者か? 手放したポケモンに今更何をしようってんだか、ダメだダメだ」

    手の甲をひらひらと見せながらあくまでも門前払いをしようとするジュウモンジ。
    俺がじわりと奴らに滲み寄ろうとすると、背後から声がした。

    「待って!」

    声の主はヨアケだった。俺は彼女の姿を認識すると、軽く憤りを覚え、怒鳴る。

    「ヨアケ……? なんでついてきた! お嬢様と一緒に待っていろと言っただろ!」

    俺が憤っているのに対し、ヨアケは不機嫌そうに言った。仁王立ちをして、言った。

    「それをポケモン達に渡すのを提案したのは私なんだよ? 言った言葉の責任くらい、取らせてよ」
    「しかしなあ……!」

    ヨアケに反論をしようと身構える俺にジュウモンジは、奴特有の三白眼から冷めた視線を俺たちに送り、つっこむ。

    「おい、痴話げんかすんなら帰れよてめえら」
    「「痴話げんかじゃない!」」

    俺とヨアケの声がダブる。変な気まずさが俺の中に残る。なんだこの状況は。
    俺に比べ、ヨアケの立ち直りは早かった。ヨアケは咳払いを一つして、気を取り直してジュウモンジに提案する。
    それは、かなり突拍子もないことだった。

    「こほん、話は聞きましたジュウモンジさん。それじゃあ、私を、私達を人質に取ってください」

    「………………は?」

    誰かがそう言った。
    誰が言ったのかまでは把握しきれなかったが、その一言がこの場にいるほぼすべての奴らの総意だったに違いないと俺は思った。
    俺らの間に沈黙が流れる。<シザークロス>の面々がポカンとしている。ジュウモンジにいたっては苦笑いを浮かべフリーズしている。
    そんな中でもヨアケは、どこから湧いてくるのか分からない自信に満ちた表情をしていたので、俺はヨアケに耳打ちをした。

    「お、おいヨアケ。何を言っている」
    「何って、提案だけど」

    それは提案と言えるのか? と疑問符を浮かべていたら、ヨアケがジュウモンジに重ねるように言葉をかけていた。

    「ビー……えっとビドー君は私達を見捨ててまで、ポケモン達を連れて行こうとするように思えますか? ……ちゃんと言えた」

    ヨアケ本人としては内心でガッツポーズを決めるくらい、上手い考えだと思っていたのだろう。
    その一方で、ジュウモンジは頭を抱えていた。俺も頭が痛い。初めて奴と意見が一致した瞬間だったのかもしれない。
    こめかみを抑えながらジュウモンジは怒りの混じった表情で俺達を叱責した。

    「人質なんかいらねぇよ。女が人質とか、簡単に口にしてんじゃねぇし、配達屋も言わせてんじゃねぇぞコラ」
    「ごもっとも……」
    「……ごめんなさい」

    しょんぼりとへこむヨアケの隣で、俺は考えていた。このままでは埒が明かない、と。

    「どうすればいい」
    「カッ、てめえで考えろ。土下座でもなんでも、いくらでも手段があるだろ?」

    苦し紛れに場を繋ごうとする俺に、ジュウモンジは挑発を仕掛ける。
    ここで挑発に乗ってしまったら水泡に帰す。かといって下手に出続けたら、いいようにあしらわれるだけだ。
    俺の視線の先には、奴らの向こう側にはトラックが見える。その中にいるポケモン達の姿は見えないままだ。
    思い出せ。
    俺は何をしにここへ来たのか。
    思い出せ。
    俺が何のためにここに来たのか。
    思い出せ!

    外していたミラーシェードをかけ直し、俺はモンスターボールを手に取り、その腕をジュウモンジへと突き出して言った。

    「じゃあ、俺とバトルしてくれ。シングルバトルの1対1でだ」

    ジュウモンジが一瞬だけ三白眼の眉を緩めて、それから口元に獰猛な笑みを浮かべる。

    「てめえが勝った時と、俺が勝った時の条件は?」

    乗ってきた。
    いや、奴は待っていたのかもしれない。俺が賭けに出ざるを得ない状況を。

    「こちらが勝利した場合、ポケモン達に届け物を贈らせてもらう。ポケモン達をそれ以上どうこうするつもりはない」
    「ほう、それだけでいいのか配達屋?」
    「ああ、構わない。そして、そちらが勝利した場合は、俺は今の仕事を止めて、<シザークロス>に入る。こき使ってくれ」

    <シザークロス>の面々がざわつく。しかしそれはジュウモンジの制止によってすぐに静まった。
    ジュウモンジが自らのモンスターボールを手にかけ、俺に向けてモンスターボールごと腕を突き出す。

    「てめえなんかお断りだ。って言いてえところだけどよ……いいぜ、その条件でバトルしてやる」
    「……感謝する」
    「いらねぇよ、そんな上っ面の言葉。ただし、てめえのポケモンを指定させてもらうからな」
    「どのポケモンだ」

    肩を竦める俺に、奴は即答した。

    「リオル」

    ……やはり、そうきたか。
    俺が口をつぐむと、奴は勢いに乗って俺にまくしたてる。

    「配達屋。お前がその仕事に覚悟……いんや、意地を持っているのは解った。だけどよ、お前は自分の力だけで仕事をこなしていると勘違いしているんじゃないか?」

    そんなつもりはない。

    「お前が野生のポケモンや賊に襲われた時、助けてくれるのは誰だ? お前が一人では持てない荷物を運ぶのを、手伝ってくれるのは誰だ?」

    そんなの、ちゃんと認識している。

    「俺は何度もお前と戦っているから知っている。てめえは、手持ちのポケモンにねぎらいの言葉を掛けない。その証拠が、そのリオルだ」

    そんなこと、言われなくても解っている。

    大きく息を吸って、吐き出す。頭を冷やして、ジュウモンジを睨みつける。

    「言いたいことは、それだけか? さっさと勝負を始めよう」

    ジュウモンジは「余計なことを言ったな」と言ってから、今までで一番鋭い視線を俺に向けた。そして宣言する。

    「ああ、そのてめえのねじ曲がった根性、叩き直してやるぜ」



    *****************


    ビドーとヨアケがポケモン屋敷から<シザークロス>の拠点に向かっていた頃、荒野のど真ん中で伸びていた下っ端の男とクサイハナは意識を回復させていた。
    目覚めた男の瞳にまず映った光景は夜空だった。星に照らされた程よい暗闇の中、彼は自分がなぜ仰向けになっているのかを思い出していく。
    それから、自分とクサイハナが金髪の追跡者の攻撃によって気を失ってしまったことを思いだし、男は己の相棒の安否を確認するべく起き上がった。
    クサイハナは男のすぐ脇に立っており、心配そうに男を見守っていた。その姿を見つけて安堵した彼の涙腺は緩む。

    「クサイハナ……大丈夫かっ!」

    涙目ながらも微笑み、思い切り首を縦に振り、男に応えるクサイハナ。トレーナーを慕うそのクサイハナの健気さに、彼は心を打たれ号泣した。

    「うおおおクサイハナああああ……!!」

    そしてしばらく抱き合った後、下っ端である男は拠点へ向かうべくバイクを走らせる。

    「お頭達、無事にアジトに帰れただろうか。いや、心配するまでもねぇよな」

    クサイハナも、大丈夫だと言わんとばかりに鳴き声を上げた。
    だがしかし、男の不安は、的中してしまうことになる。

    「これは一体どういう状況だ……?」

    男の目に入ってきたのは明りだった。建物の外に目立つ光源があったので、男は疑問に思う。
    それに、拠点の前に人だかりができていた。
    人だかりは、ほとんどが見知った<シザークロス>の面々で、二人の人物を取り囲むように、集まっている。
    男の仲間の手持ちの、バルビードやモルフォンといったポケモン達が、『フラッシュ』で中心を照らしていた。
    中心にいる人物の片方は背の高い、顔に十字傷のある男。下っ端の男のよく知るお頭ジュウモンジ。
    もう一人の方を確認しようとすると、隣から聞き覚えがない声に呼ばれた。

    「あっ、先程はどうもー」

    その間延びした声の主は、長い金髪の女性――昼間、男達<シザークロス>を追いかけていたヨアケ・アサヒのものだった。
    目を丸くするクサイハナに気付かず、男はヨアケの態度につられて返事をしてしまう。

    「いやはや、こちらこそ先程は……って、何でここに居るんだよっ!」

    ノリツッコミを入れる男に対し、ヨアケは人だかりの中心を指さして、説明する。

    「それはですね、彼の案内でここまでたどり着けたんですよ」

    指し示された方へ目をやると、ジュウモンジと向かい合っている相手に行き着く。その群青の髪の少年を視認して、男とクサイハナは口をあんぐりさせた。

    「げ、配達屋……! あんた、奴の知り合いだったのか」
    「知り合ったのはついさっきなんですけれどね」
    「あ、そうなのか。つーか、俺が寝てる間に何が起こったんだ? 何でタイマン勝負をしようとしてんだよ?」

    状況を尋ねる男に対して、ヨアケは少し考える素振りを見せた後、

    「うーん、と……私にもよくわからないです。はい」

    と言った。ガクッとうなだれる下っ端。そんな彼の様子を見てヨアケは補足した。

    「ただ、お互いに妥協出来ない、譲れないモノがあるから、闘うんじゃないかなと思います」

    ヨアケの言葉に、男とクサイハナは首をひねる。

    「……すまん、抽象的でよくわからん」
    「あはは、ごめんなさい」

    以心伝心な彼らの様子に、ヨアケは口元を綻ばせて軽く謝った。
    そんな中、赤毛の少女が彼らを見つけて、声をかける。

    「あ、戻ってたんだ」
    「おう」
    「あ……心配してたんだよっ!」
    「あ……ってなんだよ。あと前半のくだりだけだと忘れ去られていたように聞こえるのは俺の気のせいか?」
    「気のせい気のせい」
    「ホントかあ〜?」
    「ほら、始まるから黙って!」

    少女は、疑る彼らを抑止し、注意をジュウモンジとビドーに向けさせた。
    すっかり日も暮れた中、心地よい夜風が彼らを包む。
    今、男と男の意地をぶつけ合う闘いが、始まろうとしている……


    *****************


    俺とジュウモンジは、それぞれのモンスターボールからポケモンを繰り出す。

    「出番だ、ハッサム!」
    「リオル!」

    奴が出してきたのは、赤いフォルムが特徴的な鋼・虫タイプのポケモン、ハッサム。ジュウモンジのハッサムは、奴ら<シザークロス>の代名詞のようなポケモンだ。
    一方俺が出したのは格闘タイプの青くて小柄なポケモン、リオル。
    レベル的にはもうとっくにルカリオへ進化していてもおかしくないのだが、何故か進化しないままである。
    リオルは俺の顔を見るなり、何の用だ、とでも言うがごとく睨みを利かせ、それからそっぽを向いた。

    「リオル」

    俺はもう一度、その青い背中に呼びかける。
    先程のジュウモンジの言葉に、何も感じなかったわけではなかった
    俺だって、リオル達とちゃんとした信頼関係を築けているとは思わない。
    正直、こいつらとどう向き合っていいのか分からない。
    だが分からないからって諦めてしまうことが、いけないことも分かっている。
    分かっては、いるんだ。

    「頼む」

    かすれるような声で、俺はリオルに言う。今の俺にはこれが限界だった。
    リオルの耳が、一回ピクリと動く。
    こちらを振り向いてくれるわけでもない。了承してくれたのかは判らない。
    でも、今の俺はリオルに託すことしか出来なかった。

    「それじゃあ、このコインが地面に落ちたらバトル開始だ。いいな」
    「ああ」

    俺の了承を得てから、ジュウモンジが指でコインを弾く。
    コインは夜空にきらりと輝いて、回転しながら落下していく。
    そして、地面に接触した瞬間、ほぼ同時にお互いが指示を出していた。

    「『バレットパンチ』!」
    「『でんこうせっか』!」

    まずは両者、先制技同士の対決。指示のスピードは、ジュウモンジが俺を上回る。
    弾丸のごとく飛んでくるハッサムの拳。
    リオルはスピードと小柄な体を生かし、かわし、いなして懐へ体当たりを入れた。
    しかし、リオルの攻撃をものともしないハッサム。
    やはり、並の攻撃では通じない。
    ならば、格闘技を畳みかけさせる。

    「『けたぐり』!」
    「おっと、そうはいかねえぜ!」

    ハッサムがその場でジャンプして、『けたぐり』を器用にかわす。

    「そのまま懐へ『はっけい』!」
    「させるか!」

    着地の瞬間を狙い強打を入れるべく、俺はリオルに『はっけい』を指示する。
    再び懐を狙おうとするが、流れる動作で放たれるハッサムの足払いがそれを邪魔する。

    「ジャンプ!」

    俺とリオルは方針を変え、飛び上がって空中から『はっけい』の波動でダメージを狙おうとした。
    だが、その目論見は奴の掛け声によって崩れ去る。

    「それを待ってたぜ! 追撃だハッサム、『ダブルアタック』!」

    その指示で俺は、足払いは『ダブルアタック』の一撃目だったことに気付く。
    間髪入れずに飛んできた二撃目の鋏を、空中のリオルはかわしきれない。
    ハッサムの鋏はリオルの尾を捕らえた。

    「上へ投げ飛ばせ!!」
    「くっ……!」

    尾を掴んだハッサムは、リオルを振り回し、勢いをつけて思い切り上空へと投げ飛ばす。
    夜空に放り出されたリオルに、さらに追撃の指示をハッサムへと出すジュウモンジ。

    「一気に押し切るぞ! 『エアスラッシュ』!」
    「『きあいだま』で相殺しろ!」

    フィールドの空気が風となり、ハッサムに集まっていく。
    リオルは空中で体勢を立て直して両手にエネルギーをチャージした。
    そして放たれ、衝突する両者の技。
    ぶつかり合った瞬間は切迫していたが、空気の刃が、エネルギー弾を切り裂いた。
    強烈な『エアスラッシュ』が、リオルに襲い掛かる。
    咄嗟に腕を交差し、ガードしても防ぎきれない。

    「リオル!!」

    リオルは吹き飛ばされ、背中から荒野の大地に叩きつけられた。
    弱点の技をまともに食らってしまい、大ダメージが残るリオル。
    それでもリオルは、足をよろつかせながらも立ち上がろうとする。しかし、なかなか上手くいかない。
    ハッサムが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
    ジュウモンジが、ゆっくりとこちらに語りかけてくる。
    まるで、勝負は決したと言わんばかりに。

    「配達屋」
    「……なんだ」
    「てめえが勝って配達を完遂しても、俺らの仲間になっても……どちらに転んでも、その贈り物をポケモン達に届けられるって寸法なんだろ?」
    「……ああ」
    「だったら、これ以上無理する必要は、無理を強いる必要はねえんじゃねーか?」
    「…………」

    ハッサムがリオルの目の前まで辿り着き、リオルを見下ろす。
    俺が拳を握ると、どこからともなく、声が聞こえた。

    「ビー君! ポケモンが諦めてないのに、トレーナーが諦めちゃダメだよ!」

    声の主は、見なくても誰か分かった。
    そいつへの悪態交じりに、俺はリオルへ声をかける。

    「諦めてないさ。だから、もう少しだけ協力してくれ」

    リオルは小さくだけれども、頷いてくれた。頼もしい頷きだった。

    「そうかよ。そんじゃ、楽にしてやんなハッサム――『シザークロス』!!」

    ジュウモンジとハッサムは、決め技でケリをつけようとする。
    大技を仕掛けようとするハッサム。
    奴らの油断は、十分に誘った。
    その両腕を大きく振りかざすモーションを
    俺とリオルは待っていた。

    「地面に『はっけい』!」

    リオルの放った攻撃が、フィールドを崩す。
    足場を崩されたハッサムの両鋏がリオルの横を通過する。
    ハッサムは咄嗟に体制を整えようとしてその場で踏ん張ろうとした。
    その動作のおかげで隙が出来る。

    短く、速く、丁寧に、
    がら空きになったハッサムの足元に
    決めてやれリオル

    「『けたぐり』」

    ジュウモンジが目を見開く。
    俺はミラーシェードを調整した。
    ハッサムはバランスを崩し、前面に倒れてしまう。
    その隙にリオルはハッサムの背に飛び乗る。
    今度こそハッサムは、逃げられない。
    決着の瞬間だった。

    「『はっけい』!!」

    辺りに俺の掛け声とリオルの攻撃音が、鳴り響いた。


    *****************


    リオルの攻撃を受けたハッサムは、目を回して気絶していた。

    「……すまねぇハッサム。よくやってくれた」

    戦闘続行不可能となったハッサムに、ジュウモンジはフィールドに足を入れて近づき、言葉を投げかける。
    ハッサムの頭を一撫でしてから、モンスターボールに戻した。

    「リオル、戻って休んでくれ」

    俺もリオルをモンスターボールに戻そうとしたところで、ジュウモンジに呼び止められた。

    「おい」
    「なんだ、俺達の勝ちだが……」
    「そうじゃねぇだろ」

    ジュウモンジが不満に思うのは、勝ち負けの事ではないようである。
    何に対して文句があるのか、というのは理解していた。
    渋る俺に対し、ヨアケがジュウモンジに加勢する。

    「ジュウモンジさんの言う通りだよ。ちゃんと、言葉にしないと伝わらないよ?」
    「そうだよ、リオルは待ってるよ!」

    「そうだそうだ」と赤毛の少女の言葉に俺とリオルを除いた一同が同意する。こんなところで意気投合すんなよ。
    周囲の視線をいっぺんに浴びて、俺は若干怯んだ。

    ポケモンに声をかけて、ねぎらう。
    それは、他人にとっては簡単なことかもしれない。
    だが、俺にとってはどうやら難しいことのようである。
    どうしてそんな、当たり前のことがしんどいのか解らない。
    けど、そういう事は、他人に促されてするものではないのは、知っているつもりだった。
    だったら、言われる前にやれ、とは思うが……

    「……………………ありがとう、リオル」

    結局、小声で無愛想な感謝の仕方になってしまう。
    リオルはフンと鼻を鳴らし、そっぽ向いた。

    「声が小さいが、まあいいか」

    奴らの許しを受けて、俺は視線から解放される。何だか腑に落ちない流れだった。
    リオルをモンスターボールに戻すと、ジュウモンジ達が、拠点の入り口からどいた。

    「ほらよ、通りな配達屋。届けるんだろう、荷物を」
    「ああ……そうだ、ヨアケ、手伝ってくれないか?」
    「うん、いいよ」

    俺に続き、ヨアケも建物内に入ろうとし、ジュウモンジに確認をとる。

    「私も入っていいですか?」
    「構わねえよ。だが、やらないとは思うが、暴れたらつまみ出すからな」
    「ありがとうございます」

    二人とも許可が下り、中へ入った。
    <シザークロス>の奴らにも手伝ってもらいながら、ポケモン達をトラックから降ろしていく。
    全部で二十数体のポケモン達が集まった。
    俺はわざわざ彼女に梱包し直してもらった小包を、ポケモン達の代わりに開ける。
    それから、中にあった贈り物を取り出した。

    「あのお屋敷のお嬢様からのプレゼントです」

    そして、俺は静かに、贈り物に添えられた小さな用紙を読み上げる。

    「“ケロマツの『マツ』様へ”」

    ポケモン達の中にいた一体のケロマツが、反応する。
    こちらへやってきたケロマツの首に、贈り物である黄色いスカーフを巻いてやった。
    呆けたように巻かれたスカーフを見つめるケロマツ。
    ふと、ケロマツの目から滴がこぼれ始めた。
    ケロマツを心配して、ポッポが駆け寄る。そのポッポの名前も、俺は呼ぶ。

    「“ポッポの『からあげ』様へ”」

    ポッポが目を見開いて、こちらを見る。食わないから、警戒するなって。
    恐る恐る近づいてきたポッポの首にも黄色いスカーフを掛けてやる。
    スカーフを身に着けたポッポは、しおらしくその身をスカーフに委ねる。
    二体の悲しげな様子に、ホルードが怒りを表しながら、俺の元へ歩み出てきた。仲間思いな奴なのだろう。
    次に俺はホルードの名前を言った。

    「“ホルードの『これはヒドイ』様へ” ……ってなんだよおやのお前こそ酷いだろうがっ」

    自分がそんな名前つけられたら嫌だろうに、このようなニックネームをポケモンにつけるとは。
    半ば同情しながらホルードにスカーフを渡そうとする。ホルードはスカーフに書かれた文字を見るなり、悲壮感溢れる表情をした。
    ホルードは俺からスカーフをひったくり、投げ飛ばす。
    床に落ちたスカーフをジュウモンジが手に取った。
    ジュウモンジはスカーフの刺繍に気付き、目をやる。
    それから奴は、俺に怒声を浴びせた。

    「てめえ……逃がされたポケモンに、昔のおやの事をいつまでも引きずらせるつもりか!」

    ジュウモンジがスカーフを俺に突き出す。スカーフにはポケモンの名前と共に、そのおやの名前も刺繍されていた。
    ポケモン達は、自分達のおやのことを思い出して、今まで堪えていたものを堪え切れなくなってしまったのだろう。
    懸念していた事態になってしまったということだ。
    だが、想定内である。
    俺はジュウモンジからスカーフをもぎ取り、そして先程の奴の発言に指摘をした。

    「逃がされたんじゃなくて、引き受けたんだろ。勝手に逃がしてんじゃねーよ」

    言葉を詰まらせるジュウモンジを置いておいて、俺はホルードへ向き直る。
    涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃに歪めるホルードの頭を撫で、語りかけた。

    「帰る場所がなくても、帰りたい場所や相手がいて何が悪い。どうしてそう簡単に忘れられると思うんだ」

    言い聞かせるように、なだめるように、遠く離れてしまった相棒に思いをはせながら俺はポケモン達に告げる。

    「相手が大切な存在だったのならば尚更、忘れられなくても、いいんだ。引きずりたいだけ、引きずればいい。そうしながら、前に進んだっていいじゃないか」

    ポケモン達は互いの顔を見合わせる。目を閉じて、考え込んでいるポケモンもいた。
    しばらく経った後、一体、また一体と鳴き声で名乗り出て、スカーフをねだった。
    ヨアケにも手伝ってもらい、全てのポケモン達にスカーフを届けることに成功する。渋っていたホルードも、最終的には耳にしっかりと装着していた。
    こちらをじっと見つめるポケモン達にヨアケが締めくくりの言葉を贈る。

    「名前はね、名付けたおやと名付けられた子の大切な繋がりであり、証だと思うんだ。だから、新たなパートナーに巡り合って、別の名前を名乗ることになっても、自分が持っていた唯一の宝物を忘れないでほしいな。それが、お嬢さんの願いでもあると思うから、ね」

    頷く者もいれば、黙っている者、鳴き声で返事をする者など、各々違う反応を見せた。
    これから先、こいつらには色んな道が待っているだろう。
    それでも俺は、こいつらならば乗り越えられる気がした。
    そう信じたかった。

    「それじゃ、俺の仕事はここまでだ。お前らの幸運を願っている――達者でやれよ」

    ポケモン達と<シザークロス>達の視線を感じながら、俺達は入口をくぐる。
    最後に俺は一度だけ、奴の方へ振り向いた。

    「後は任せたからな、ジュウモンジ」
    「カッ、いちいち言われなくとも分かってんよ。配達屋ビドー」

    頭を掻きながら、ジュウモンジも俺達に背を向け建物の中へと姿を歩き出す。
    俺達も背を向けて、荒野を歩みだした。



    赤毛の少女が、ふと疑問に思ったことをジュウモンジに尋ねる。

    「そういや、ジュウモンジ親分の名前って、本名じゃないよね?」
    「お頭の本名って何て言うんすか?」

    クサイハナ使いの男も、便乗した。
    他のメンバーも次々と聞き耳を立てる。
    ジュウモンジは彼らの態度に呆れながら、はぐらかした。

    「さあな、んなもん忘れちまったよ」


    *****************


    星空の下、俺はバイクを押しながらヨアケと荒野を歩いていた。バイクを走らせてもよかったのだが、なんとなく歩きたい気分だったのである。

    「今日の所はあの屋敷に泊めてもらえると、助かるんだがな……」
    「そうだね。報告も、したいしね……」

    夜も遅くになっていたのと疲れのせいか、会話がなかなか発展しなかった。
    それでも歩き続けていると、突然、ヨアケが足を止める。

    「ヨアケ?」

    彼女の表情は暗がりでよく見えなかった。
    だが、とても真剣な表情をしているように、見えた。
    この時、何故だか俺は、予感していた。
    嫌な予感ではない。かといっていい予感でもない。
    不思議な感覚だった。
    さっき屋敷の前でした予想とも違う。
    それと似ているけど、もっと大きな何かが動こうとしている、そんな予感だった。

    彼女は俺の名前を呼んで、尋ねた。

    「配達屋ビドー君。私達をある人の所へ届けてもらえませんか?」

    俺はヨアケの申し出をざっくり切り捨てる。

    「断る。生ものは取り扱っておりません」
    「えー」
    「あと、俺のバイクはタクシーじゃない」
    「そうだよね……ゴメン」

    がっくしと落ち込むヨアケ。その落ち込みようが半端じゃなかったので、俺は渋々ながらもヨアケに質問した。

    「ちなみに、届け先はどこで相手は誰だったんだよ」
    「届け先の場所はわからない。相手は私の……私のずっと、追いかけている相手」

    ヨアケが胸に手を当てて、瞳を閉じる。
    まるで、思い人の名を口にするかのように、ヨアケ・アサヒはその相手の名前を口にした。


    「――――現在指名手配中の、“ヤミナベ・ユウヅキ”という男性、だよ」





                                         つづく


      [No.1508] 明け色のチェイサー 投稿者:空色代吉   投稿日:2016/02/02(Tue) 23:23:58     39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
    明け色のチェイサー (画像サイズ: 482×672 393kB)

    この小説はポケモンの世界観を使った、オリジナルの地方でオリジナルのトレーナー達が織りなす物語です。
    もともとは別所にて連載を予定していたのですが、そこが閉鎖になったので現在ピクシブで連載しています。
    その連載をこちらでもしたいと思い、投稿させていただきます。
    また、別所にてキャラクター募集をさせていただきました。
    ゲストキャラクターとして登場する際にはまとめにキャラ親さんのお名前をお借りしたいと思います。
    それではお付き合いいただけると嬉しいです。


      [No.1507] #45663 「バーンイン・ガール」 投稿者:   《URL》   投稿日:2016/01/31(Sun) 19:48:51     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Subject ID:
    #45663

    Subject Name:
    バーンイン・ガール

    Registration Date:
    1984-06-21

    Precaution Level:
    Level 2


    Handling Instructions:
    対象#45663には物理的に接触/干渉することができないため、対象#45663を収容する形でシンオウ地方カンナギタウン第三支局が建設されました。対象#45663はこちらからの働きかけに対し一切の反応を示しておらず、意思疎通は不可能なものと推測されています。対象#45663そのものに危険性は無いと判断されたため、これ以上の収容プロトコルの追加は必要ありません。


    Subject Details:
    案件#45663は、シンオウ地方カンナギタウン南西部で確認された未知の人型存在(対象#45663)と、それに掛かる一連の案件です。

    1984年2月下旬、フィールドワーク中の局員が「透過した姿の女性トレーナーを発見した」と報告しました。事案発生の虞があったため、応援の局員が数名その場へ派遣されました。発見した局員らがその場で簡易的な調査を行い、大まかな性質についての情報が収集されました。差し迫った危険は無いと判断され、本部はレベル2人型オブジェクト標準収容手続に沿った収容を承認しました。

    対象#45663は、概ね11歳頃と推測される少女の外見をしています。最大の特徴として、対象#45663は半透明であり、物理的に接触することができません。複数回に渡って実施された接触テストは、いずれも対象#45663と接触者が相互に一切の干渉に失敗するとの結果に終わりました。対象#45663は視覚的に認識することはできますが、実体が存在しないものと考えられています。

    対象#45663はどのようなことがあろうと決して動かず、こちらからの働きかけにも一切の応答を返しません。このため、対象#45663とのコミュニケーションは極端に困難か、あるいは完全に不可能です。霊的存在である可能性が示唆されましたが、一般的な霊的存在とコミュニケーションが可能な携帯獣の職員によるテストでも、対象#45663と意思疎通を成功させることはできませんでした。

    対象#45663は小型のノートパッドを左手に持ち、真っ直ぐ前を見つめる形で佇んでいます。風貌は一般的な女子ポケモントレーナーのものですが、一部はこのトレーナーの出身がシンオウ地方ではないことを示唆しています。ノートパッドには「三日月→7月13日」とやや乱雑な字でメモされています。このメモがどのような意味を持っているのかは未だ不明です。

    一部の局員からは、対象#45663は元となった人物の残像が何らかの形で空間に「焼き付き」、そのまま残されたものではないかとの仮説が示されています。この仮説は対象#45663の性質をすべて矛盾無く説明できることから、現在もっとも有力な仮説であると見られています。

    現在、対象#45663の元となった人物について身元の割り出しが進められています。候補として10年以内に失踪し、かつ対象#45663の外見的な条件を満たしている可能性のある263名の失踪者が挙げられていますが、特定には至っていません。現在の案件対応方針は、これら失踪者の中に対象対象#45663と関連のある人物が存在しているかの調査に焦点が当てられています。


    Supplementary Items:
    本案件に付帯するアイテムはありません。


      [No.1506] Re: #83825 「さがしてください」 投稿者:ionization   投稿日:2016/01/30(Sat) 23:36:07     37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    キャタピー…あのアイテム好きでしたが、そういう展開にもってくるとは…だってこれ、
    携帯獣にしか操作できないプロパイダなんですよね?
    アクセス遮断を行うあたりに、財団自体の黒さも伺えますね。
    同じようなテーマの話がスクエアのどこかに載っていたはずなんですが、
    一月前に探したらなくなってました。


      [No.1505] 激昂のエメラルド 投稿者:じゅぺっと   投稿日:2016/01/19(Tue) 16:47:58     32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「……君たちの功夫、見せてもらった。ジムバッジを受け取ると良い」
    「ありがとうございます!」

    ルビーと洞窟を出た後エメラルドと合流し、3人でジムに挑戦する。結果は3人とも余裕を持って勝つことが出
    来た。ルビーとサファイアに関しては先の戦いで進化とメガシンカを果たしたことが大きい。

    「じゃ、この町に用はねえしさっさとカイナシティに行くとするか」
    「……今度は何もないといいけど」
    「……」

     船の上で気持ち悪くなったことを思い出したのか胸を抑えるルビー。それを見てサファイアは少し考えた後
    、提案した。

    「なあ、ぱっと行くのもいいけどここで少し飯食っていかないか?せっかくみんなでジム戦に勝ったんだしさ
    。それの祝勝会って感じで」
    「はあ?そんなの別にカイナシティついてからでいいじゃねえか。こんなしけた町で飯食ってもつまんねーよ


     難色を示すエメラルドだが、その時彼のお腹が鳴る音がする。ばつが悪そうな顔をするでもなく、いつも通
    り偉そうに。

    「……と言いたいところだが、さすがに腹減ったな。まあお前らがどうしてもっていうんならこの町で食って
    やらんこともないぜ!」
    「やれやれ、じゃあどうしてもと言わせてもらおうかな。ところでサファイア君。祝勝会というからには好き
    なものを食べていいんだろう?」
    「勿論さ。せっかくのお祝いなのに好きじゃないもの食べてもつまらないしな」

     ルビーはそれを聞くと機嫌がよくなったのか、あるいは自分に気を遣ったサファイアへの感謝の表れなのか
    。サファイアの片腕をぎゅっと抱き寄せて笑んだ。

    「……なんかお前ら距離近くなってね?」
    「ん。まあ……ちょっとな」
    「そうだね、ちょっとね」
    「否定しねえのがムカつく。人が必死に助け呼んでやったのに合流した時にはいちゃつきやがって」
    「それはほんとに感謝してるよ。ありがとう」

     エメラルドは自分のポケモンを回復させてからではあるが、ポケモンセンターの職員さんを連れてきてくれ
    ていた。尤もサファイアは無事ルビーを助けたため結果的には無用となってしまったが。

    そんなわけで3人は恐らくこの町唯一のお食事処に入り、各々好きなものを注文した。サファイアはハンバーグ
    とオレンジジュース、ルビーの前にはパフェとアイスココア、エメラルドの前には担々麺とコーラが並ぶ。

    「それじゃあムロタウンのジム戦の勝利を祝って……乾杯!」
    「ふふ、乾杯」
    「おう」

     3人でコップを合わせた後、それぞれのペースで食事を取り始める。特にルビーにとっては大好きな甘味を
    気兼ねなく食べられるとあって、嬉しそうにスプーンでアイスの部分を掬ったりしている。

    (……船の上や洞窟では色々苦しかっただろうし、せめてこれで少しでもルビーの気持ちが楽になってくれれば
    いいんだけど)

     サファイアがこの祝勝会をやろうと言い出したのはそれが理由だ。とりあえずルビーの表情を見て安堵して
    いると、担々麺をすすりつつエメラルドが話しかけてきた。

    「そういやお前よ。カイナシティでポケモンコンテストに出るつもりはあんのか?知ってると思うがカイナシ
    ティはジムはねえ、その気がないなら軽く市場を冷やかしてさっさとキンセツシティに向かいたいんだけどよ」
    「ポケモンコンテストか……」

     サファイアの目指すのは人を惹き付けるポケモンバトルだ。そういう意味ではコンテストに通ずるものがあ
    る。シリアもテレビで何度か出ていたことがあることもあって、興味のないジャンルではなかった。

    「……もしついた時丁度始まるタイミングなら参加するかもしれないけど、そうじゃなかったらやめておくよ
    。待たせるのも悪いしな」
    「うし、じゃあカイナシティにも特別用はなし……と」
    「随分早く進みたがるんだね。何かわけでもあるのかい?」

     ルビーが聞くと、エメラルドの箸を持つ手がぴたりと止まった。彼にしては難しい顔をした後。顔をそむけ
    て言う。

    「……別に何でもいいだろ。ジムバッジ集めなんてさっさと終わらせてシリアをブッ飛ばしてやりてーだけさ

    「ふうん……ま、頑張ってくれたまえ」
    「はっ、言われるまでもねえっつーの」

     再び麺をすすり始めるエメラルド。彼は彼で何かわけがあるのだろうか。だが本人に話す気がなさそうな以
    上、ただの好奇心で聞くことは憚られた。

    「ここのパフェ、なかなか美味しいね。サファイア君も少し食べないかい?」
    「えっ、いいのか?」

     思わず聞き返すとルビーはおもむろにチョコアイスを乗せたスプーンをサファイアに差し出してきた。当然
    のように自分がさっきまで使っていたのと同じスプーンである。

    「なっ……恥ずかしいだろ、やめてくれよ」
    「いいじゃないか。大体最初に一緒に食事を取ったとき、自分の使っていた箸ごとボクによこしたのは君だよ
    ?」

     言われてみればその通りだがじゃあはいいただきますといえるほどサファイアは大人でもなくまた幼くもな
    かった。

    「……そうだけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい」
    「やれやれ、じゃあまたの機会にしておこうかな」
    「お前な……」
    「だから俺様の目の前でいちゃついてんじゃねえ!飯がまずくなる!」
    「別にそんなんじゃ……」
    「無きにしも非ずだね」

     エメラルドの突っ込みもさらりと流しつつサファイアをからかうルビー。そんなこんなで、主にルビーが楽
    しい祝勝会は終わりを告げた。





    そのあと3人は船に乗り込み、カイナシティへ向かう――その道中にはムロタウンへ向かうときの波乱が嘘のよ
    うに何事もなく、カイナシティの砂浜に到着する。

    「ん……なんだこりゃ、誰もいねえ?」

     人の姿の見えない砂浜を見て、エメラルドが訝しげに呟く。彼の記憶では、ここはいつでも活気にあふれて
    いる砂浜で、それこそ嵐でも起きない限り遊ぶ子供の声やポケモンバトルをする船乗りの声が聞こえたものだが
    、今聞こえるのは波の音だけだ。

    「ボクもここは人の集まる場所と聞いていたんだけど……何かあったのかな?」

     エメラルド、ルビー、サファイアの順で船から降り歩を進める。すると海の家から一人の二十代くらいの男
    が出てくるのが見えた。青いウェーブのかかった綺麗な長髪を靡かせて、格好は海パンにアロハシャツ、そして
    サングラスをかけていてサーファーかナンパ師の類にサファイアには見えた。エメラルドが話しかける。

    「おいそこのおっさん。全然人の姿が見えねえんだけど、ここで最近何かあったのか?」
    「んまっ!だ〜れがおっさんよぉ、せめてお兄さんと呼びなさい!」
    「うわっ、オカマかよあんた……」

     話しかけられた男はオネエ風の口調でエメラルドに怒る。ルビーとエメラルドが若干引いたのでサファイア
    が代わりに聞く。

    「すみません、失礼な奴で……俺たち、ここは人気の多い場所って聞いてたんで誰もいないのに驚いたんです
    けど、何か知りませんか?」
    「あら、カワイイ坊やもいるじゃな〜い。そうね、坊やだけにはこっそり教えてあげてもいいわ。ちょっとこ
    っちに来てくれない?」
    「……どうせ俺だけに教えても俺は二人にも教えますよ。だから、普通に教えてくれませんか」

     別にオカマに近づくのが嫌とかそういう意味ではなくサファイアはなんとなくこの男を怪しいと思っていた
    。まるで待ち構えていたかのように海の家から出てきたからだ。

     それを向こうも感じ取ったのだろう。口の端を釣り上げて上に向かって声を上げた。

    「なかなか勘がいいじゃない……ルファく〜ん!」
    「ッ、ルビー!」

     声がかかると同時に海の家の上から一人と一匹の影が下りてくる。ルビーを咄嗟にこちらに引き寄せ、エメ
    ラルドも砂浜を蹴って横に避けた。その空間を、剣と牙が一閃する。

    「……ったく、気の抜ける呼び方すんなっての。避けられたじゃねえか」

     降りてきたのはグラエナと、全身黒一色の薄手な服を着た青年だった。彼は振りかざした剣を鞘にしまう。

    「おいてめえら……もしかしてあの博士の仲間か!?」
    「ご明察よぉ、ワタシがポセイで、こっちがルファ。よろしくね♪」
    「だったら容赦はしねえ!出てこい、俺様に仕える御三家達……」
    「遅えよ!」

     モンスターボールを取り出し、空に放り投げようとするエメラルドをルファが近づいて拳で殴る。散らばっ
    たボールの内二つをグラエナが口でキャッチし、出てくる前に封じた。エメラルドも殴られながらも一個は自分
    でキャッチしてヌマクローを出す。

    「てめえ……ヒーローの口上中に攻撃してくるなんざ悪役の風上にもおけねえ!いいぜ、てめえらごとき、ヌ
    マクロー一体で倒してやらあ!」
    「はっ、口だけじゃないことを期待するぜ……いくぞグラエナ!」
    「バウッ!」

     エメラルドとルファのポケモンがぶつかり合う。その間。サファイアはポセイと名乗った男とにらみ合って
    いた。

    「お前たちはなんであの博士に協力しているんだ!みんなからメガストーンを奪って、そんなことして何も思
    わないのか?」

     サファイアはエメラルドとは少し違う。あの博士とは話しても無駄だと分かったが、目の前の人はもしかし
    たら話せばわかってくれるかもしれない。そんな思いを胸に対話を試みる。

    「ん〜可愛いわぁ。正義感に燃える熱い坊やの主張……お兄さんの胸にも響くけど。生憎もっとあの子には敵
    わないのようねえ。ま、お兄さんがあの博士に協力してるのはぁ、可愛い子に頼まれたからだっていうことでよ
    ろしく。ちなみにルファ君は……ていうか、家のメンバーはそれぞれ違う理由で協力し合ってるから、その手の
    説得は無駄だと思うわよん」
    「そんな理由で……どうしても、メガストーンを奪う気なんだな」
    「そうそう、だからさっさと始めましょ?ワタシはルファ君ほどせっかちじゃないけど、可愛い坊やに焦らさ
    れるのも辛いわあ。カモ〜ン、シザリガー!サメハダー!」

     ポセイはモンスターボールを持っていない。どこからポケモンを出すのかと思えば――それは、海の方から
    やってきた。頭に傷のついた星をつけた、巨大なハサミを持つポケモンと、十字の痣を持つ鮫のようなポケモン
    がアクアジェットでサファイアとルビーに突っ込んでくる。

    「ダンバル、突進!」

     すかさずダンバルを繰り出してシザリガーに突撃させる。ぶつかり合った両者はいったん止まったが――す
    ぐにダンバルがふっとばされ、そのまま突っ込んできた。

    「キュウコン、火炎放射!」

     ルビーがキュウコンを繰り出し、その9つの尾から業火を噴出させる。さすがにこれを突破するのは難しい
    と判断したのだろう、シザリガーが止まり、サメハダ―はUターンで海に戻る。そしてポセイが指示を出した。

    「シザリガー、バブル光線よっ!」

     シザリガーの二つのハサミが開きそこから無数の泡が噴き出る。それは業火とぶつかり合い、はじける泡が
    炎の勢いを殺した。

    「ダンバルが一発で戦闘不能に……」
    「ただものじゃなさそうだね。恐らくここに人気がないのも、彼のシザリガーとサメハダ―が海を荒らしまわ
    ったせいだろう」

     ご明察、とポセイが口笛を吹いた。自分たちを狙うだけでなくこの砂浜の人達皆に迷惑をかける行為を平然
    と行う彼にサファイアの怒りが強くなる。

    「お前っ……!」
    「――――」

     モンスターボールの中からジュペッタがサファイアに声をかける。それは自分の相棒からの、落ち着いてと
    いうサイン。

    「……わかった。ここは頼むぜ、ジュペッタ!」
    「ボク達もやるよ、キュウコン」
    「コォン!」

     ジュペッタとキュウコン。二人の相棒といえるポケモンを見て、ポセイは笑う。

    「あらん、ほんとに噂通りタイプ相性を気にせずにくるのねえ……私自慢の水・悪ポケモンにゴーストと炎タ
    イプで挑んでくるなんて。大けがしても知らないわよ?」
    「心配いらないさ。俺たちは……」
    「君には、負けないよ」
    「へえ、それじゃあ……本気でいっちゃうわよ!シザリガー、クラブハンマー!」

     シザリガーがハサミを閉じて、巨大な槌のごとく振るう。だがそれはルビーやサファイアにしてみれば単調
    な一撃。

    「「影分身!」」

     二匹がクラブハンマーを振り下ろす影さえ利用して自分の分身を作り出す。だがポセイとシザリガーもそれ
    を読んでいたかのように冷静に対処する。

    「もう一度バブル光線よ!」

     二つのハサミが開き、がむしゃらにそれを振り回しながら無数の泡を放つ。それは広範囲に広がり、ジュペ
    ッタ達の分身をかき消した。

    「ふふ、影分身からのトリッキーな戦術が得意なのはリサーチ済みよん。それは封じさせてもらうわ」
    「こいつ……俺たちの戦術を知ってる?」
    「そりゃそうよ〜。あのヘイガニとドククラゲは私の物なんだから。あんたたちの戦術はお見通しよん」
    「そういうことか……だったらルビー、鬼火を頼む。ジュペッタはあれ頼んだ!」
    「了解したよ。キュウコン、鬼火」
    「コォン!」

     キュウコンがやはりその尾から9つの揺らめく鬼火を放つ。不規則に揺れる鬼火を防ぎきるのは難しくバブ
    ル光線で打ち消そうとするも、一つの鬼火がシザリガーに当たる。

    (ふふーん。鬼火で状態異常にして祟り目で一気に攻撃力を上げるタクティクス……技を言わなければばれな
    いと思ったかしら?だけどその程度は読み読みよ。なぜなら私のシザリガーには火傷を無効にするチーゴの実を
    持たせてある……祟り目を決めに来たところを、噛み砕くで迎え撃ってあげるわ!)

     ポセイは二人の戦術を事前にミッツ達から聞き出し、また船の上で一度襲うことで観察して戦術を練ってい
    た。水タイプ使いである彼が的確に水・悪のポケモンを連れてきたのもそのためだ。彼らのポケモンが進化して
    いたのは誤算だったが、大勢に影響はない。まだこちらのレベルの方が上だという確信がある。

     だが、戦術を知っていることをサファイアたちに言ってしまったのは驕り。それは隙となり、彼らに付け入
    るスキを生む。鬼火が命中したシザリガーの体がチーゴの実によって回復――しない。

    「な……!?」
    「……俺が鬼火に合わせて祟り目を打つと思ったんだろ?今まではそうしてきたからな」

     サファイアとジュペッタが笑う。シザリガーに近づいたジュペッタは祟り目による闇のエネルギーの放出で
    はなく――相手が鬼火への対策をしていると踏んでシザリガーに『はたき落とす』を使っていた。チーゴのみが
    叩き落とされ地面につぶれ、その効果を発揮できなくなる。ポセイの対策を、サファイアの読みが勝ったのだ。

    「な……鬼火読みチーゴの実読みはたきおとすですって……やってくれるじゃないこの子……」
    「さあ、これであんたのシザリガーの攻撃力はダウンした!まだやるか?」
    「……当然よ!シザリガー、噛み砕く!」
    「ジュペッタ、シャドークロー!」

     シザリガーのハサミとジュペッタの闇の爪がぶつかり合う。レベルの差も相性の差もあったが、攻撃力を下
    げられていることが功を奏し、互角にぶつかり合った。さらに。

    「キュウコン、炎の渦」

     ルビーのサポートが入り、シザリガーを炎の渦が包み込んでさらに火傷のダメージを加速させる。

    「よし、このままいけば……」
    「させないわ。サメハダ―、ロケット頭突き発射よ!」

     海中から思いっきり速度をあげ、十字の弾丸と化したサメハダ―がキュウコンに突っ込んでくる。炎の渦を
    放っているキュウコンには避ける暇がない。思い切り吹き飛ばされ砂浜を転がり、美しい毛並が砂と海水の混じ
    った泥で汚れた。起き上がろうとするが、彼女の体は倒れてしまう。

    「キュウコン!ゆっくり休んで……」
    「ふふん、そう簡単にはやられないわよ?」
    「許さない……いくよ、クチート」

     自分のポケモンを倒されたことに珍しく少しだが怒りを見せるルビー。とはいえサファイアのように冷静さ
    を失うことなく。メガストーンを光らせる。クチートの角が二つになり、ツインテールの少女のような姿になっ
    た。

    「そんなポケモンを捕まえてたのね……ならワタシも奥の手を出すしかないわ!」

     彼が知っているのはムロタウンに着くまでの情報なのでクチートに関するデータはポセイの中にはない。彼
    のサングラスにつけたメガストーンとサメハダ―のサメハダナイトが深い海のように青黒く光り輝く。

    「行くわよサメハダ―!その荒々しくも美しき海の力身にまとい、全ての敵を噛み砕きなさい!」

     光に包まれ、現れたのはより十字の傷が深くなり、一回り躰も大きくなった姿。もはや砂浜の上であること
    すらお構いなしにアクアジェットで駆け回る。そして隙をつくつもりなのだろう。クチートでは追いつけない速
    度に対し、ルビーはシザリガーを見据える。

    「だったらまずシザリガーから倒す……クチート、じゃれつく」
    「そうはいかないわ、鉄壁!」
     
     じゃれつくとは名ばかりの特性『ちからもち』による暴力を硬くなった殻で受け止める。火傷も相まってダ
    メージは小さくないが、倒れるまではいかない。

    「今よサメハダ―、噛み砕く!」
    「こっちも噛み砕く!」
    「シャドークローで援護だ、ジュペッタ!」
     
     メガシンカしたサメハダ―の牙とクチートの二つの角、そしてジュペッタの闇の爪がぶつかり合う。二対一
    、いや三対一の状況でなお――サメハダ―は二体を噛み砕くことは出来なかったが勢いで押し勝った。二体の身
    体が砂浜を転がり、立ちあがる。

    「こいつ……なんて力だ」
    「おほっ、驚いたかしら?降参するなら今の内よ?」
    「いいや、そうはいかない。ジュペッタ、ナイトヘッド!」
    「影分身なしのナイトヘッドなんて恐れるに足らないわ。サメハダ―、もう一度噛み砕くよ!」

     巨大化したジュペッタの影にサメハダ―がその顎で突っ込んでくる。だがポセイはサファイアとジュペッタ
    のあの技を知らない。

    「いくぞジュペッタ――虚栄巨影!!」

     洞窟で身に着けた新たな『必殺技』。巨大化した爪がサメハダ―を切り裂こうとするが、そのサメハダ―の
    速度はジュペッタを上回り、その影を噛み砕いた。ジュペッタの巨大な影が、倒れる。サメハダ―すら飲み込ん
    で。

    「おほっ、やっぱり小手先だけの技じゃダメね!あんたのエースは倒したわ」
    「……それはどうかな?」
    「?」

     自分の『必殺技』を破られ、相棒を倒されてなお、サファイアの笑みは消えない。なぜなら今は――強い絆
    で結ばれた仲間が、もう一人いるから。
     ジュペッタの影に隠れたのはサメハダ―だけではない。ルビーとクチートの姿をも隠し、ポセイの目から二
    人の動きを見失わせる――。

    「クチート、じゃれつく!」
    「グギャアアアアアアアア!!」

     サメハダーは極めて高い攻撃力を持つが、守備力は低い……下手に海から出たこともあだとなり、クチート
    のじゃれつく一発で砂浜の上に倒れた。

    「そ、そんなっ!!シザリガー……シェルブレード!」
    「無駄だよ、噛み砕く!」

     ポセイが反撃するが、攻撃力の半減したシザリガーと攻撃力が倍加したクチートでは勝負にならない。巨大
    な二角が、今度こそシザリガーの殻を砕いて瀕死にする。――サファイアとルビーの勝利だ。

    「ル、ルファく〜ん?お願い、助けてぇ!」

     自分のポケモンを倒されたポセイが仲間のルファに懇願する。エメラルドと、バトル中に進化したであろう
    ラグラージと戦っている――彼と彼のグラエナには泥こそついているものの傷を負っているようには見えない―
    ―はやれやれとため息をついた。

    「何やってんだよ……しょうがねえ、引き上げるぞ。ここで無理して集めたメガストーン取られちゃ俺たちま
    で『オシオキ』されちまうからな。フライゴン!」

     ルファは手持ちのフライゴンを出し、ポセイが慌ててその背に乗る。

    「じゃあ、今日のところは見逃してやるよ。……ったく、我ながら安い台詞だぜ」

     ルファが軽く手を振ってその場から離脱しようとする。だがそれを、エメラルドは見逃そうとしなかった。
    怒り心頭で、ラグラージのメガストーンを光らせる。

    「ルファ……てめえだけは逃がさねえ!ラグラージ、メガシンカの力で大海を巻き上げ大地を抉れ!ビッグウ
    ェーブを巻き起こせ!!」

     メガシンカし、よりその体を大きく、たくましくしたラグラージが指示されるままに大波を起こす。いや、
    それはもはや津波といって差し支えなかった。そう、サファイアとルビーをも巻き込むほどに。

    「なっ……ばっかやろ。逃げるぞフライゴン!」
    「この砂浜ごと消す気か、エメラルド!?」
    「うるせえ……うるせえうるせえうるせえ!うぜーんだよ、てめえら!」

     もはや我を見失うほど怒っているらしく、話は通じなさそうだ。サファイアが慌ててヤミラミを出し、メガ
    シンカさせる。口上など述べている余裕があるはずもない。

    「ヤミラミ、俺たちを守ってくれ!」

    メガシンカしたヤミラミが、緑色のオーラでサファイア、ルビーを包む。そしてその防御ごと、津波が彼らを飲
    み込んだ――。



    ――津波が怒涛と化してサファイアとルビーを飲み込む。メガシンカしたヤミラミの守るに包まれてなお、激流
    に飲み込まれて視界がぐるぐると回った。しっかりとルビーの手を握り、離れないようにする。

     どれくらい水の中で守られていただろうか、ほんの十秒ほどだった気もするし数分間だったかもしれない。
    ともかく水が引き、大分波打ち際に引き寄せられこそしたがサファイアたちは無事だった。

    「ルビー、大丈夫か」
    「なんとかね。ありがとう。どちらかといえば危ないのは彼の方だろう」
    「エメラルドは無事なのか……?」

     巻き込まれた側ではあるが、サファイアはエメラルドのことを心配していた。とにかく攻撃するスタイルの
    彼が自分のポケモンに守るのような防御技を覚えさせているとは思えなかったからだ。

     心配して周囲を見回すと、彼は波打ち際からはるか先、街の方にまで逃げていた。ジュプトルが隣にいるあ
    たり、恐らくは彼に自分を運ばせて津波の範囲外まで逃げようとしたのだろう。完全には逃げきれず、彼の体は
    濡れていたが。

    「エメラルド!どうしたんだよ、一体……何があったんだ?」

     大声でエメラルドに呼びかけるサファイア。だが彼はそれを無視して舌打ちし、踵を返した。ポケモンセン
    ターのある方へ歩いていってしまう。

    「……どうする?」
    「どうするもこうするもない。追いかけよう。俺たちだってポケモンを回復させないといけない」

     彼を追いかけて、サファイアたちはポケモンセンターに向かう。さっきの舌打ちの音が、妙に頭に響いて、
    市場のある華やかな街並みも頭に入ってこなかった。




     ポケモンセンターに入ると、彼はポケモンを回復させたところらしくモンスターボールを受け取っていた。
    サファイアたちが来たことに気付くと、彼はまた舌打ちする。

    「……んだよ、何ついてきてんだよ」

     突き差すような物言いにはサファイアも少しむっときた。だがまだ抑える。せめてあんな暴挙に出た理由を
    聞きたかった。

    「なんでって……俺たち一緒に旅してる仲間じゃないか。当たり前だろ?一体あのルファってやつとのバトル
    で何があったんだ?」

     そう言えるのはサファイアの優しさゆえだろう。だがその態度が、今のエメラルドには腹立たしくてしょう
    がなかった。

    「はっ、仲間だぁ?ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ。俺はてめえらを利用してただけだっつーの。そこの
    女は最初から分かってたみてえだが、てめえはまだ気づいてなかったとはとんだ間抜けだな!」
    「利用って……どういうことなんだよ!」
    「鈍いな、てめえらはあの博士の一味をおびき寄せるためのエサだっつってんだよ!そのためなら多少いちゃ
    つこうが、俺様の足引っ張ろうが構わねえと思ってたが、もう我慢の限界だ!」
    「!!」

     自分たちを船に誘ったのはそんな理由があったのかと驚くサファイア。ルビーはまあわかってたとばかりに
    肩を竦めてみせる。

    「あいつ……ルファとかいう野郎、俺様に対して明らかに手を抜きやがった!この俺様が、てめえらのせいで
    舐められたんだぞ!だからてめえらとは、もうこれまでだ!」
    「なんで俺たちのせいなんだよ!」

     その疑問には、ルビーが代わりに応える。

    「エメラルド君は広範囲の攻撃が得意みたいだからね。本気を出すとどうしてもボクらを巻き込む危険があっ
    たんだろう。仲間として旅をするのを装う以上、それは出来ない。故に本気が出せなかった……そう言いたいの
    かな」

     ああそうだよ、とエメラルドは吐き捨てる。そんな彼を、ルビーは嗤った。

    「そしてそれは、ただの責任転嫁だよ。ボク達から船に乗せてくれるよう頼んだわけでもないしね。いわば―
    ―自業自得さ。責められる謂れはないね。はっきり言って、君には失望したよ。」
    「チッ……」

     エメラルドもそれはわかっているのだろう、露骨に舌打ちした。そしてサファイアたちを押しのけてポケモ
    ンセンターから出ようとした。

    「とにかく、てめえらと旅をする理由はもうねえ。二度と俺様の前に面出すんじゃねえぞ……」
    「待てよ!!」

     だがそれを、サファイアは彼の胸ぐらを掴んで止めた。それはただ怒りをぶつけるための行為ではない。サ
    ファイアはまだエメラルドのことを一緒に旅した仲間だと思っているし、それを解消する気もなかった。

    「だったら……だったら、一度俺とバトルしろ!」
    「ああ……?なんで俺がんなことしなきゃいけねえんだよ」
    「俺はバトルしてお前に勝つ。俺は、俺たちはお前が本気を出しても巻き込まれたりしない、大丈夫だってこ
    とを証明してやる!」
    「……上等じゃねえかこの野郎!丁度むしゃくしゃしてたところだ。そのムカつく態度、メタメタのぎたぎた
    にへし折ってやらあ!!表に出ろ!」

     お互いににらみ合い、今にも二人して外に出ていきそうなところを、ルビーが止めに入る。

    「はいはい、熱くなるのもいいけれどまずはサファイア君のポケモンを回復させてからだよ。君たち、少し頭
    を冷やしたまえ。エメラルド君だって、弱った彼に勝ってもむしゃくしゃとやらは晴れないだろう?」
    「……俺は先にあの砂浜で待ってる、てめえもポケモン治したらすぐに来い!ぶっ潰してやる!」

     今度こそエメラルドはポケモンセンターから出ていく。ルビーはサファイアを見て、呆れたように言った。

    「やれやれ。あんな自分勝手な子なんて、放っておけばいいんだよ?まあ、そういうところも嫌いじゃないけ
    どね」
    「……ごめん、迷惑かける。でも俺、エメラルドのことこのままほっとけない。なんだかあいつ……凄く焦っ
    てた」
    「それはわかるけどね……面倒だからバトルには参加しないけど、見守るだけ見守らせてもらうよ。大丈夫、
    自分の身は自分で守るから」
    「ありがとう……さて、早くポケモンを回復させないとな」

     いつもの調子のルビーと話して、頭が冷えていく。それが彼女なりのサファイアに対する協力なのだろう。
    それに感謝しつつ、サファイアはポケモンを回復させ、砂浜へと向かった――。



    「はっ、逃げずにわざわざやられに来やがったか」

     彼は開口一番、喧嘩腰で話しかけてくる。サファイアはそれには応じず、ルールを提案した。

    「ルールはシングルバトルの3対3。それでいいか?」
    「なんでもいいっつの。うるせーな。なんなら女と組んで戦ったっていいんだぜ?さっきみたいによ」
    「いいや、それはしない。これは俺とお前のバトルだ」
    「どこまでもうぜえやつだな……それじゃあ行くぜ、ワカシャモ!」
    「頼んだ、フワンテ!あいつの全力、受け止めてやってくれ!」

     少年二人の、お互いの意地と性分がぶつかり合ったバトルが始まる。ルビーは津波で倒れたパラソルを立て
    直し、その日陰に座った。隣には自分を守るためのサマヨールを従えて。

    「男の子って、どうしてこうなんだろうね。ボクには理解不能だよ。ねえサマヨール?」

     呼ばれた彼女も頷き、彼らのバトルを見守った。ワカシャモの火炎放射とフワンテの風起こしがぶつかり合
    う――

    「はっ、そんな雑魚技で俺様の火炎放射が防げるかよ!」

     確かに風起こしと火炎放射では威力の差は違い過ぎる。風が吹き散らされ、炎が突き抜けるが、その方向は
    多少ずれた。

    「これで十分、小さくなるだ!」

     フワンテがその体を縮めて業火を躱す。エメラルドが舌打ちした。

    「やろっ……もう一発だ、ワカシャモ!」
    「怪しい風!」

     ワカシャモの口から放たれる業火を、不可思議な風が方向を逸らす。またしてもエメラルドの攻撃は外れた


    「だったらこれでどうだ、大文字!」
    「もう一度怪しい風!」

     ワカシャモがさらに炎を溜めて、溜めて、巨大な火炎輪を放つ。それは怪しい風にぶつかると文字通りの大
    文字焼きと化した。だが小さくなって自分も風に漂うフワンテには当たらない。

     その後も何度か同じ技の応酬が続き、エメラルドがしびれを切らして怒鳴る。

    「くそっ……おい、いきなり防戦一方じゃあねえか!そんなつまんねえバトルすんなら、もう降参しろっつー
    の!何がシリアのバトルだ!てめえのバトルはただの猿まねだ!」
    「……そう思うのはまだ早いぜ。怪しい風のもう一つの効果はもうすでに発動した!フワンテ、風起こしだ!

    「だからそんな雑魚技が……何!?」

     フワンテの風起こしがワカシャモに突っ込んでいく。それはさっきとはまるで威力が違っていた。小さな竜
    巻のようになって、ワカシャモの体をきりきり舞いに吹き飛ばす。ワカシャモは思いっきり目を回し、地面に倒
    れた。戦闘不能だ。

    「怪しい風はただの攻撃技じゃない。確率は低いけど、発動した時フワンテの全能力をアップさせる!俺はそ
    れで風起こしの威力をあげたのさ!」
    「つまんねえ御託並べてんじゃねえぞ……戻れ、ワカシャモ」

     エメラルドは次に何を出すかを考える。相手は飛行タイプ持ち、しかも能力が大幅にアップしている。草タ
    イプのジュプトルは出したくない。

    「だったら、こいつしかねえよな……出てこい、ラグラージ!」
    「やっぱりラグラージで来たか……」
    「もちろんそれだけじゃあねえぜ?ラグラージ、メガシンカの力で大海を巻き上げ大地を抉れ!ビッグウェー
    ブを巻き起こせ!」

     ラグラージの体が青く澄んだ光に包まれ、その光の衣を解き放つ。より大きくたくましくなったメガラグラ
    ージの登場だ。

    (あいつの波乗りは小さくなるじゃ躱せない……なら、先手必勝だ!)
    「フワンテ、風起こし!」

     小さな竜巻がラグラージの体に命中する。だがラグラージはその巨躯を浮かさず、地面から山のように動か
    なかった。メガシンカによって防御力も増大しているのだ

    「てめえの考えごときわかってんだよ、ラグラージ、岩雪崩だ!」
    「まずいっ!」

     あえてフワンテの攻撃した直後を狙ってラグラージが空中から岩雪崩を降らせる。メガシンカした最終進化
    系の力はすさまじく、雪崩に飲み込まれたフワンテは戦闘不能になった。

    「威力はさすがだな……戻れ、フワンテ」

     今度はサファイアが出すポケモンを決める番だ。サファイアの考えではヤミラミかジュペッタの二択。そし
    て、あの攻撃力に対抗するには――

    「出てこい、ヤミラミ。そしてメガシンカだ!その輝く鉱石で、俺の仲間を守れ!メガヤミラミ!」

     ヤミラミの体が紫色の光に包まれ、メガシンカを遂げる。胸の宝石を大楯にした。サファイアの手持ちの中
    で最も守りに優れたポケモンだ。

    「だがその盾は無敵じゃあねえぜ!ラグラージ、地震だ!」

     地響きを起こし、大地を隆起させて下からメガヤミラミを襲う。大きく硬い宝石も、下からの攻撃を防ぐこ
    とは出来ない。動きの鈍いヤミラミでは、避けられないかと思われたが――サファイアはそれを読んでいた。

    「ヤミラミ、だまし討ちだ!」

     メガヤミラミにその大楯を敢えて、捨てさせる。盾を捨てて本来の速度に戻ったヤミラミが、その爪でラグ
    ラージの皮膚を裂いた。

    「ちっ……だが盾のないヤミラミなんて敵じゃねえ!ラグラージ、泥爆弾だ!」
    「さらにシャドークロー!」

     泥爆弾が放たれる前に闇の爪がラグラージの体を引き裂く。連続でのひっかきを受けて、ラグラージが顔を
    歪めるが動かない。そして泥爆弾は放たれ、爆音を響かせてヤミラミの体を吹き飛ばし、砂浜を何度もその小さ
    な体が泥だらけになって見えなくなるくらい転がる。ヤミラミも戦闘不能だ。

    「どうだ!これが俺様の本気だ!てめえごとき雑魚トレーナーが叶う相手じゃねえんだよ、この圧倒的な攻撃
    力で俺は新しいチャンピオンになる!」
    「……どうしてそこまで攻撃に拘るんだ?」
    「うるせえ!てめえの知ったことじゃねえだろ!」
    「……なら、勝ってから聞くさ!」
    「あり得ねえよ、このまま3タテしてやらあ!」

     最後の一体を決める。サファイアの中で、誰を出すかは最初から決まっていた。


    「出てこい、俺の……そしてエメラルドの仲間!ダンバル!」


     その選択にはルビーが少し驚き、エメラルドに至っては露骨に顔をしかめた。自分が役立たずだと捨てたポ
    ケモンだからだ。それをこの場で出すということは、彼にとっては侮辱にも等しい。

    「ここでダンバルだとぉ!?てめえまで俺を舐めてやがんのか!」
    「舐めてなんかいないさ、俺はこいつと一緒にお前に勝つ!」
    「……やれるもんならやってみな!一撃で沈めてやれ、泥爆弾だ!」
    「躱して突進!」

     ダンバルが、ラグラージの巨大な泥爆弾をまず横に水平移動してから、全速力でラグラージに突っ込む。突
    進を受けたラグラージは――やはり山のように、動かない。

    「はっ、やっぱりそんな雑魚ポケモンじゃ俺様のラグラージには傷一つつけられねえってこった。決めろ、ラ
    グラージ。マッドショットだ」

    「……それはどうかな?」
    「何?」

     ラグラージはマッドショットを放たない。いや――放てないのだ。不動の体がゆっくりと……しかし確実に
    傾いて、倒れる。

    「嘘だろ……ダンバルごときに、メガシンカしたラグラージが……」
    「……ダンバルだけの力じゃないさ。エメラルドのラグラージはフワンテの風起こしやヤミラミのシャドーク
    ローで確実にダメージを受けてたんだよ。メガシンカを過信しすぎだぜ」

     エメラルドが歯噛みし、仇でも見るような眼でサファイアを見る。ラグラージを戻し、ジュプトルを繰り出
    した。エメラルドは再び激昂する。

    「それがどうした……それがどうしたってんだ!まだ俺様にはジュプトルがいる。突進しか出来ねえダンバル
    ごとき、こいつで片づけてやるぜ!」
    「焦るなよ、お楽しみはこれからさ」
    「ああ!?」

     怒り声を上げるエメラルド。それに対してサファイアは指揮棒を振るう指揮者のように滑らかにダンバルを
    指さした。

    「お前の強いラグラージを倒したこと――それにお前や俺と旅して得た経験値は、ダンバル自身の強い成長に
    もなったんだ。――今進化せよ!硬く鋭き鉄爪よ、誇り高き英知よ。新たな力となって仲間を支えろ!メタング
    !」

     ダンバルの体が白い光に包まれ、その姿を変えていく。丸い鉄球のついたアームのような体が、確かな胴を
    持った二本の鉄腕を持つ体と進化した。

    「ダンバルが……進化した?」
    「さあ、お前が雑魚って呼んだポケモンの力、味わってもらうぜ!メタング、念力だ!」
    「くっ……」

    メタングの頭が輝き、ジュプトルの体を触れずに投げ飛ばす。ジュプトルもすぐさま体勢を立て直し、メタング
    へと挑みかかった。

    「リーフブレードだ、ジュカイン!」
    「メタング、メタルクロー!」

     低い姿勢から上を切り裂くように振るわれる草薙の剣を、鉄の爪が受け止める。お互いにつばぜり合いの様
    相を呈するが、もともと体が硬く、また念力も使えるメタングが圧倒的に有利だった。

    「俺様が、こんな奴に……雑魚と見下したポケモンに、負ける……?」

     念力がもう一度ジュプトルを吹き飛ばす。ジュプトルはよろめきながらも起き上がったがもう一発耐えられ
    るかというところだろう。打開策は、思いつかない。


    「いやだ……いやだ!俺は悪党どもに、シリアの真似なんかしてるやつに負けちゃダメなんだ!俺はシリアと
    は別の方法でチャンピオンになる!そして――企業家としてじゃねえ、トレーナーとして、ホウエンを守るヒー
    ローとして親父たちの役に立つんだ!

     頼む、力を!もっと力を出してくれ、ジュプトル――!!」


     ふらついていたジュプトルが、その声に答えるかのように体を輝かせる――そう、ダンバルがメタングにな
    ったのと同じ光。

    「まさか……進化か!」

     光が消え、その体を大きくしたジュプトル、いやジュカインの姿が現れる。とはいえ、体力の消耗は避けら
    れていない。

    「……ここで決める!メタング、念力だ!」
    「ジュカイン、リーフブレード!!」

     メタングの念力がジュカインを確かに捉え、その体を投げ飛ばそうとする。だがジュカインはそれを堪えて
    、一歩一歩踏み出してメタングに近づいた。自分に応えようとするポケモンを見て、エメラルドの心が動かされ
    る。


    「頑張れ、ジュカイン!もうちょいだ!いっけええええええ!!」


     戦術も何もない、完全にまっすぐなごり押し。それでも声援を受けたジュカインが一気に踏み出し、メタン
    グの鋼の体を特性『葉緑素』で強化されたリーフブレードが引き裂いた――



    「……俺の負けだ、エメラルド」

     サファイアが敗北を認め、メタングをボールに戻す。エメラルドはしばし放心していた。ふらふらになりな
    がらも寄ってきたジュカインに気付いて、我に返る。

    「……へっ、当然だろ」

     憎まれ口を叩くのは、変わらない。それでもその声の調子は、いつもの傲慢で不遜な彼に戻っていた。

    「良かったら、なんであんなに焦ってたのか教えてくれないか?」
    「けっ、そんなに知りたきゃ教えてやるよ……俺はな、知っての通り金持ちの息子だ。だがそれは何もいいこ
    とばっかりじゃねえ。自由に金を使える代わり、将来のためにやらなきゃいけねえことがある。俺の本当の意味
    で自由な時間は、そんなにねえ」

     一から十まで説明する気はないのだろう。大分端折った説明だが、なんとかついていく。

    「俺がトレーナーとして大成するにはただ強いってだけじゃダメなんだ。親父みたいな企業家並の金を稼げる
    トレーナーにならなきゃいけねえのさ。その為に、チャンピオンの地位がいる」

     チャンピオンになるのは、目的ではなく手段。しかも彼はシリアについてある秘密を知っている。だからこ
    そ、彼と同じではいけないのだ。

    「……シリアの真似なんかしてるやつに負けちゃダメだって言ってたよな。あれは?」
    「……」

     それについて聞かれて、エメラルドは黙った。自分の知る事実をサファイアたちに話すかどうか考える。結
    論は。

    「さあな、本人に会うか何かして聞けよ。その方がお前も納得できるだろ」
    「……わかった」

     エメラルドは愛用のマッハ自転車をバッグから取り出し、展開する。そしてマッハ自転車に跨った。

    「じゃあな。俺はもう行くぜ。むしゃくしゃは収まったが、やっぱりてめえらと旅するのは御免だ」
    「ッ……わかったよ」

     負けたサファイアにそれを止める権利はない。だが、何もせず見送る気はなかった。

    「ただ……こいつを連れていってくれ。元はお前のポケモンだ」
    「こいつは……メタング」

     受け取ったエメラルドが不思議そうな顔をする。何故俺に、目線で訴えた。

    「元はお前のポケモンだし、メタングが雑魚なんかじゃないってのはお前もよくわかっただろ。そいつはもっ
    ともっと強くなれる。だから、連れていってくれ」
    「ちっ……しょうがねえな。俺様の足引っ張るんじゃねえぞ」

     その舌打ちは、なんだかバトルする前よりもとても軽くサファイアには聞こえた。もう彼がダンバル――メ
    タングを蔑むことはないだろう。

    「それじゃあ……じゃあな」
    「ああ、お前の事情は少しだけわかったけど……あんまり、急ぎ過ぎるなよ。ポケモンのことも、お前自身の
    こともさ」
    「はっ、そんなことてめえの心配することじゃねえっつーの」

     エメラルドが自転車を漕ぎ出し、カイナシティを走っていく。ほどなくして彼の姿は見えなくなった。

    「……いやあ、大した熱血っぷりだったね」
    「……それ、褒めてるのか?」
    「あんまり。ボク好みの舞台ではないかな。だけどたまにはこういうのも、悪くないだろう。お疲れ様」
    「……ありがとう」

     ルビーがサファイアに手を差し出し、サファイアがそれを握る。そして二人は改めて、カイナシティへ向か
    うのだった。


      [No.1504] #83825 「さがしてください」 投稿者:   《URL》   投稿日:2016/01/17(Sun) 19:45:03     63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    Subject ID:
    #83825

    Subject Name:
    さがしてください

    Registration Date:
    1996-07-25

    Precaution Level:
    Level 3


    Handling Instructions:
    市民によるWebサイト#83825の発見を防止するため、一般顧客向けのインターネット接続サービスを提供するプロバイダにアクセス遮断プログラムのインストールを要請しています。現在、およそ90%のプロバイダでインストールが完了しています。プログラムは対象のサイトにアクセスした際に、クライアントに対して強制的にHTTPステータスコード403を返却するよう設定されています。今後のWebサイト#83825取り扱い方針によっては、この措置は変更される可能性があります。

    Webサイト#83825の研究に際しては、携帯獣の局員が随伴することが義務付けられています。研究に参加する局員は人間・携帯獣の別を問わず、事前にスクリーニングテストM-83825-1を受けて合格する必要があり、かつWebサイト#83825を決して私的な理由で閲覧しないことを書面で誓約する必要があります。Webサイト#83825への投稿を伴う実験を行う場合、端末は必要なトレーニングを受けた携帯獣が操作しなければなりません。


    Subject Details:
    案件#83825は、管理者が不明な未知のWebサイト(Webサイト#83825)と、それに掛かる一連の案件です。

    1996年6月上旬頃、当局が提供しているインターネット通報サービスに、イッシュ地方セッカシティ在住の男性から「不審なホームページを見つけた」との通報が寄せられました。受信した窓口担当者が初期調査を実施し、いくつかの不審な点が認められました。通報は案件化され、個別の担当者が割り当てられました。

    Webサイト#83825は、「捜索願掲示板」というタイトルの電子掲示板サービスを提供するWebサイトです。ドメイン名からの逆引きはサーバがシンオウ地方クロガネシティに存在し、IPアドレスの所有者が独立系の大手インターネットサービスプロバイダである「ベッコアメ・インターネット」であることを示していますが、実際には利用された形跡はありません。ベッコアメ・インターネットに対する聞き取り調査では、Webサイト#83825について何ら情報を持っていないことが明らかになっています。このため、サービス提供者とサイト管理者の間に関連性はないと結論付けられました。

    Webサイト#83825が提供している電子掲示板には日々多数の書き込みが行われ、古いスレッドもそのまま保持され続けています。書き込みの大部分はタイトルに沿った「捜索願」であり、失踪者と思しき者の名前や特徴、最後に確認された場所や日付が記載され、いずれも「早く見つけ出して欲しい」「無事でいてほしい」といった嘆願のメッセージが添えられています。その体裁は行方不明者の捜索を呼びかける貼紙のそれに近く、いくつかのスレッドには顔写真が添付されています。

    特筆すべき点として、失踪者として捜索が呼びかけられている者は、一切の例外なく携帯獣であることが挙げられます。スレッドに書き込まれたメッセージの文面は人間にも十分理解できますが、その内容は人間の生態とは著しくかけ離れ、むしろ携帯獣のそれと酷似しています。書き込まれている内容から、掲示板の利用者の大部分が携帯獣であると考えられています。

    人間はWebサイト#83825にアクセスし、書き込まれているメッセージを閲覧することは可能ですが、新規スレッドを作成したり、既存スレッドにリプライを行うことはできません。これらの操作を実行しようとした場合、掲示板が「利用資格がありません」というエラーメッセージを表示し、投稿を遮断します。一般的なクラッキング手法による投稿制限を突破する試みはいずれも失敗に終わりました。この投稿制限を回避するためには、携帯獣がメッセージの作成及び投稿を行わなければなりません。人間が作成したメッセージを携帯獣が投稿しようとした場合、例えどのように適切な文面であっても「不適切な単語が含まれています」というエラーメッセージが返されます。このエラーメッセージは、人間がタイプしたテキストが一文字でも残存している限り繰り返し表示されます。

    以下は、Webサイト#83825から収集されたメッセージの抜粋です:


    [メッセージ#83825-113]
    投稿者:会員番号6654
    メッセージ:
    ピカチュウの女の子を探しています。人間が「トキワの森」と呼んでいる森へ遊びに出かけてから、二ヶ月も戻っていません。身長は大人のピカチュウの胸くらい、この間電気を出すことを覚えたばかりの小さな子供です。どうか私の元へ***ちゃんを返してください。***ちゃんの声を聞かせてください。
    補遺:
    アスタリスク部分には失踪者である♀のピカチュウの実名が記載されていたものの、プライバシーの観点からサイト管理者によって伏せ字にされたことがスレッドのリプライから読み取れます。

    [メッセージ#83825-128]
    投稿者:会員番号4512
    メッセージ:
    付き合っていたマリルがいなくなりました。近くを人間が通りがかってからずっと姿を見ていません。人間が落とした桃色のリボンをしっぽに付けていました。見掛けた方は連絡をください。皆さんの力を貸してください。お願いします。

    [メッセージ#83825-154]
    投稿者:会員番号9865
    メッセージ:
    息子が遺跡にスケッチをしに行ったきり戻りません。身長は大人とほぼ同じ、背中の足形は添付の画像のものです。スケッチが上手で自慢の息子でした。見た方はどのような情報でも構いませんのでお寄せください。妻がとても心配しています。

    [メッセージ#83825-251]
    投稿者:会員番号3916
    メッセージ:
    友達のキャモメを探しています。一人で散歩に出かけたままどこへ行ったのかが分からなくなっています。近所に住んでるジグザグマのおばさんは、人間が友達をアチャモに攻撃させているところを見たと言っていました。二十日も家に戻ってきていません。友達のことを知っていたら教えてください。お願いします。

    [メッセージ#83825-267]
    投稿者:会員番号11783
    メッセージ:
    おかあさんをさがしてください
    補遺:
    当該スレッドには、サイト管理者から「このメッセージはカントー地方シオンタウンから発信されています。情報をお持ちの方はご提供をお願いいたします」との追加メッセージが書き込まれています。

    [メッセージ#83825-334]
    投稿者:会員番号6659
    メッセージ:
    友達のジグザグマが五人、続けて同じ人間に誘拐されました。みんな女の子です。この間見つけたときはみんな目がうつろで、草むらの中を何か探しまわっていました。私が呼びかけても何の返事もしませんでした。誰か人間をやっつけてください。私も誘拐されるかもしれないと思うととても怖いです。

    [メッセージ#83825-367]
    投稿者:会員番号1298
    メッセージ:
    仲間の失踪が続いています。先日は一度に28人がいなくなりました。会員番号4767さんのところと違って、こちらは死体も出てきていません。この間友人の従姉妹にそっくりな子を見かけましたが、自転車の錆びたブレーキのような金切り声を上げるだけで会話もできませんでした。何かされたに違いありません。それにしても最近書き込みのない会員番号4767さんは無事でしょうか。心配でなりません。

    [メッセージ#83825-411]
    投稿者:会員番号12476
    メッセージ:
    オオスバメの女を探してほしい。俺たちの中で一番強くて、みんな頼りにしてるやつだった。それなのに今はもうここにはいない。人間は身勝手だ、どうしてこんなことをするんだ。誰か何とかしてくれ。
    補遺:
    管理者からの返信があり、「このメッセージは利用規約に反しているため、スレッドを凍結します」とのメッセージが追記されています。メッセージ通りスレッドは凍結され、これ以上のリプライは行えません。

    [メッセージ#83825-425]
    投稿者:会員番号7548
    メッセージ:
    公園にある森から書き込んでいます。同じ場所に閉じ込められていたストライクが捕まえられました。外から連れてこられて、二日に一度人間に追いかけ回されていました。あのストライクはここに連れてこられた者たちのリーダーです。どうか見つけて、ここへ戻ってこさせてください。お願いします。

    [メッセージ#83825-476]
    投稿者:会員番号2378
    メッセージ:
    トキワ工場から三体のキャタピーが脱走。いずれも職位は女工。情報求む。発見者には報奨金を支払う準備あり。連絡は弊社窓口まで。
    補遺:
    このメッセージはキャタピーを「女工」と称し、雇用契約を結んでいることを示唆しています。このメッセージの投稿者を別案件として調査対象とするかについては、現在検討中です。


    メッセージの送信元を追跡する試みはこれまでのところ成功していません。掲示板は一般閲覧者に送信元IPアドレス/送信元ホストの情報を公開しておらず、該当する情報はサイト管理者のみが保持していると考えられます。

    投稿者がいかにして上記のようなメッセージを書き込んでいるのかは不明です。一部のメッセージにはJPEG形式のイメージファイルが添付されていることもありますが(メッセージ#83825-154など)、これらがどのように撮影されたのかも判明していません。画像ファイルはアップロードの過程でメタデータが失われてしまうようで、ファイルからは有用な情報を得ることはできませんでした。


    Supplementary Items:
    本案件に付帯するアイテムはありません。


      [No.1503] 紅玉の神秘 投稿者:じゅぺっと   投稿日:2016/01/13(Wed) 19:55:22     47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「……よっし!ヤミラミ、ゲットだぜ!」

     モンスターボールに収まったヤミラミを見て歓喜の声を上げるサファイア。なかなかボールに収まらずモン
    スターボールが何個か無駄になったが、鬼火による火傷でじわじわ弱らせたのが功を奏したようだ。

    「ルビーとエメラルドはどうしてるかな……」

     それぞれやりたいことを終えたら洞窟の一番奥まで行くことにしていた。奥に向かう途中で、エメラルドの
    声が聞こえてきた。

    「だっー!やってられっかよ!」
    「どうしたんだ?」
    「掘れども掘れどもメガストーンどころか進化に必要な石すら出て来やしねえ!くそっ、来るんじゃなかった
    ぜこんなとこ……」

     見ればエメラルドの周りの壁面はあちこち掘り尽くしてぼろぼろになっている。石掘りに駆り出されたであ
    ろう彼のポケモンたちがへとへとになっていた。散らばった土や石を見たところ、確かにそう目立つ石はなさそ
    うだった。

    「……まああれだよな。そんなこともあるって。気にすんなよ」
    「うるせえっつーの!」

     ご機嫌ななめなエメラルドと共に洞窟の最奥部へと到着する。ルビーもポケモンをゲットしたのだろう。長
    い黒髪をまとめて下ろしたような小さめのポケモンと一緒に、壁画を眺めているのが見えた。
     
    (なんだ、これ……)

     ポケモンらしき巨大な生き物二体の暴れる様子が書かれた巨大な壁画。生き物の両腕には片方にはαのよう
    な、片方にはωのような文様が浮かんでいる。それを見たサファイアはさっきの少年と相対した時と同じ、圧倒
    されるような不思議な気分になった。

    「はあ?なんだこりゃ?」

     エメラルドは特に何も感じていないらしい。サファイアもその声で我に返った。ルビーに近づいて、声をか
    けてみる。

    「おーい!ルビーは何捕まえたんだ?」
    「……メg………………」
    「?」

     ルビーは壁画に手を当てて何かを呟くばかりで、サファイアの呼びかけに応じる様子がない。

    「ルビー、どうしたんだよ?」

     近づいて、ルビーの肩に手を触れる。その時だった。彼女の隣にいたポケモンの後ろ髪だと思っていた部分
    がパックリと開いて、サファイアに迫る――

    「え……」
    「避けろバカ!!」

     エメラルドに蹴り飛ばされてなんとか噛みつきを避ける。さすがのサファイアも抗議した。

    「お……おい、どうしたんだよルビー!捕まえたポケモンがまだ懐いてないのか?答えろって!」
    「ゲンシカイキ…暴………メガ…ンカ……対抗……」

     ルビーが振り返る。だがその様子は明らかにいつもの彼女とは別物だった。紅い瞳が爛々と輝き、体はうっ
    すらと青い光に包まれている。隣にいるポケモンも同様だった。

    「ゲンシカイキの力……消滅させる!」

     ルビーがメガストーンを天に掲げると、隣のポケモン――クチートの身体がより激しく輝き、光の球体に包
    まれていく。その光景には見覚えがあった。

    「まさかこいつは……」
    「メガシンカ!?」


    「今目覚めよ。暴虐なる元始の力に抗う、反逆の二角!!」


     光の球体が割れ、中から現れたのは――身体が一回り大きくなり、その後ろ髪のような角を二つにした新た
    なクチートの姿だった。

    「ルビー……」

     その光景を、サファイアは驚愕もしたがどこか冷静に受け止めて始めていた。クチートのメガシンカよりも
    、この状況には見覚えがあったからだ。だがそれがいつどこでの出来事だっ

    たのかは、まだ思い出せない。

    (でもどこかで、俺はこんな風にルビーと会ったことがある気がする。それは……)

     記憶を手繰り寄せようとする。だがそれは、目の前のルビーにとってあまりにも大きな隙だった。

    「クチート、じゃれつく!」
    「ぐああああっ!」

     二つの角がサファイアを蹂躙し、吹っ飛ばして壁に叩きつける。激痛で頭が朦朧とした。

    「ちっ、だから避けろっつってるじゃねえか!現れろ、俺様に仕える御三家達!!」

     エメラルドが自分のポケモンを出してルビーに応戦しようとする。ルビーもメガクチートだけではなく、ロ
    コンやヨマワルを繰り出していた。

     その光景をぼんやりと眺めながら、サファイアはようやく思い出す。

     
     そう、ルビーとの出会い。その記憶を――





    それは、4年程前の事。両親と共におくりびやまに来たサファイアはとてもこの日を楽しみにしていた。なぜな
    ら今日がサファイアにとって初めてポケモンを手にする日だからだ。おくりびやまを選んだ理由は言わずもがな
    、新しくチャンピオンとなったシリアの虜になったからである。

    「父さーん!母さーん!早くー!」

     墓場だらけのこの場所に似合わぬ元気な大声で、おくりびやまを上っていく。こらこら待ちなさいと親に止
    められても、幼いサファイアは興奮しっぱなしだった。

    「ねえ父さん、俺あのポケモンが欲しい!シリアのジュペッタの進化前なんだろ?」

     サファイアは一体のカゲボウズを指さす。シリアのバトルを見てからゴーストタイプのポケモンについて調
    べたサファイアはカゲボウズがジュペッタの進化前であると知っていた。

    「わかったわかった。じゃあ少し待っていなさい」
    「うん!頑張って父さん!」
    「では……頼むぞゲンガー」

     サファイアの父親はゲンガーを出してカゲボウズに手加減したシャドーボールを打たせる。カゲボウズがふ
    らふらになったところで、サファイアの父親はモンスターボールを手渡した。

    「さあサファイア。よーく狙ってボールをなげるんだ」
    「うん……」

     渡されたボールとカゲボウズを交互に見る。自分で捕まえなければポケモンに持ち主として認められない。
    それがわかっているからこそ、緊張するサファイア。

    「……えいっ!」

     オーバースローで投げられたボールは、ギリギリ届いてカゲボウズに命中した。モンスターボールにカゲボ
    ウズの体が吸い込まれ、揺れる。

    「…………」

     固唾を飲んで見守るサファイア。その揺れは段々小さくなり――止まった。ゲット成功だ。

    「……やったあ!やったよ父さん!」
    「ああ、頑張ったなサファイア。それじゃあカゲボウズを回復させてあげよう」
    「わかった!」

     早速ボールからカゲボウズを出し、いいきずぐすりで回復してやりつつ相棒となったポケモンに声をかける
    サファイア。

    「これからよろしくな……カゲボウズ」
    「−−−−」

     ボールの効果と、回復してもらっていることもあってか、カゲボウズはサファイアにすり寄った。ひらひら
    した布のような体が頬に当たる。

    「あはは、くすぐったいな……よし、もういいかな」

     カゲボウズの体を見て、傷が治ったかどうかを確認すると、サファイアはさらに上へと歩き始めた。

    「それじゃ父さん、俺カゲボウズと一緒にここを探検してくるよ!」
    「ああ、あまり騒ぎすぎるなよ」
    「わかった!行こうカゲボウズ!」

     カゲボウズと一緒に走っていくサファイア。しばらく先で、彼は一度忘れてしまう自分の運命の人と出会う
    ことになる――




    「……はあ、はあ。ここが頂上かな……?」
    「−−」

     墓場だらけの塔を上ると、草の生い茂る山へと出た。見下ろせば、自分の乗ってきた車がはるか下に見える
    。ちょっとだけぞっとしつつも、さらに山を登ると――そこには、一人の女の子がいた。紅白の巫女服に、髪を
    後ろにまとめて結った自分と同じくらいの年の子が、魔法陣らしきものの中央で座っている。瞳を閉じているら
    しく、サファイアに気付いた様子はない。

    「おーい!そんなところで何してるんだー!?」
    「!」

     単純に気になったサファイアは、女の子の――魔法陣の場所に近づく。その声で気づいたのだろう、女の子
    は制止の声を上げた。

    「ダメ!それ以上近づかないで」
    「え……なんで?」
    「いいから」
    「……なあ、これなんなんだ?触ってもいいか?」

     突然のことに戸惑ったサファイアは、浮かれていたこともあって地面にかかれた魔法陣に手を触れてしまう
    。――それが引き金となった。

    「いやああああああああっ!!」

     女の子の悲鳴がして、その場の空気がびりびりと震える。サファイアも驚き尻餅をついた。何とか起き上が
    ると――そこには、さっきまでとは打って変わった様子の、紅く目を輝かせたをした女の子がいた。

    「ゲン……カ…キ!」
    「えっ……?」
    「……消えろっ!」

     少女はヨマワルを繰り出し、サファイアとカゲボウズに鬼火を放ってくる。咄嗟のことに避けられないサフ
    ァイアを、何とカゲボウズがかばった。

    「カゲボウズ!俺のために……?」

     瞳が赤く輝き、体からは紅いオーラのようなものを放つ少女の様子は明らかにただごとではない。サファイ
    アは直観的に、自分が魔法陣を触ったせいだと悟った。
     そして――こんなとき、逃げないのがサファイアの持つ天性の特徴だ。

    「よくわかんないけど、俺のせいだっていうんなら……俺が何とかする!頼むぞ、カゲボウズ!」
    「−−−!」

     出会ったばかりのカゲボウズが、任せてくださいと言ってくれている気がした。サファイアにとって初めて
    のポケモンバトルが幕を開ける。

    「影打ち!」
    「カゲボウズ、影打ちだ!」

     二匹の影が伸びて衝突する。完全に相殺しあい、どちらにもダメージは入らなかった。

    「驚かす!」
    「こっちも驚かすだ!」

     やはりお互いの背後を取って驚かそうとするが、同じゴーストタイプの進化前、同じ場所のポケモンという
    ことがあって優劣がつかない。そして、こうしている間にも火傷のダメージでカゲボウズの体力は削られていく


    (技や威力はほぼ同じ、なんとかシリアみたいな必殺の一撃を考えないと……)

     お互いに同じ技を繰り出しながらも、サファイアは自分の戦術を考える。そして――

    「影打ち!」
    「カゲボウズ、影分身だ!」

     サファイアは、あえて攻撃ではなく変化技を命じる。影打ちは命中してカゲボウズの体力がさらに削られた
    が、それでもあきらめない。サファイアは自分の、カゲボウズは自分の主の作戦を信じる。

    「ここからナイトヘッドだ!!」
    「−−−−!!」
    「ナイトヘッド!」

     影分身によって増えたカゲボウズの姿が一気に膨らんでいく。それはヨマワルのナイトヘッドを飲み込み、
    恐怖に包み込み――一撃で戦闘不能にした。

    「よっし!よくやったカゲボウズ!」

     出会ったばかりなのに自分のために頑張ってくれた相棒を褒める。ヨマワルが完全に倒れたかと思うと――
    巫女服の少女もまた、意識を失って倒れた。サファイアは思わず駆け寄る。

    「大丈夫か!?しっかりしてくれ……」

     自分のせいで大変なことになってしまったのでは、という焦燥が今頃になってわいてくる。しばらく傍にい
    ると、少女は目を覚ました。瞳の輝きは消え、普通の状態に戻っている。

    「……助けて、くれたの?」

     呟く少女に対して、サファイアは申し訳なさそうに答える。

    「助けて……っていうか、たぶんああなったのが俺が変なことしたからだろ?ごめん……」
    「ううん、いいんだよ。こうして助けて、傍にいてくれただけでも……ボクは嬉しい。それにきっと君が来て
    も来なくても、ボクはああなってた」
    「そうなのか?……っていうか、何してしたんだ、あれ?」
    「交霊の儀式……といってわかるかな。昔の人を呼び寄せる練習をしてたんだ。だけどボクは、兄様の様な才
    能がなくてね。なかなか上手くいかないんだ……」

     少女がうつむき加減に答える。その時、一人の大人の男がそばにやってきた。短めの黒髪の、宮司のような
    恰好をしている。

    「はいはい、一旦そこまでだよ。まったく、ちょっと目を離したすきにこうなるなんて……運命ってやつはせ
    っかちだなあ」
    「あんたは……?」
    「……誰?」
    「でももう少し、待っててほしいんだ。僕が本格的に動けるようになるまで」


     よくわからないことを言う男は少女も知らない人らしく、訝しげに見ている。そんな二人に構わず、男はサ
    ーナイトを出した。

    「だから一旦お休み。そしていずれまた会おう、美しい元始の原石たちよ――」

     サーナイトは二人に催眠術をかける。少女もサファイアも眠りに落ち……サファイアにとって、これは夢の
    出来事となった――。




     そして、サファイアの意識は現実へ――ムロタウンの石の洞窟へと戻る。見ればルビーのキュウコンとメガ
    クチート、そしてヨマワルに苦戦を強いられているエメラルドたちの姿が見えた。

    (そうか……あの時の女の子が、ルビーだったんだ)

     今までどうして忘れていたのだろう。黒く結った髪の毛も、赤い瞳も、紛れもなくあの時から変わっていな
    いのに。だけど今はそれを考えるよりも先にやるべきことがある。

    (……なんでルビーが、またこうなったのかはわからない)

     まだ体の痛みは激しくサファイアを苛んでいる。それでもサファイアはこっそり周りを探り、そして目的の
    物を見つける。それは当たり前のようにそこにあった。彼女がクチートのメガストーンを手にしているように。



    (だけど、ルビーはあの時、傍にいてくれてうれしかったって言ってた。だったら何度だって……俺はルビー
    を助けて傍に居続ける!!)



    「ルビッー!!」
    「!」

     ルビーの赤く爛々と輝く瞳が、サファイアを見る。その目に屈さず、サファイアは堂々と言った。

    「今からお前を元に戻してやる……あの時と同じ、シリアから学んだ俺のポケモンバトルを魅せてやる!!

    応えてくれ、俺のポケモンたち!!」

     モンスターボールを取り出し、自分のポケモンを出す。フワンテ、ヤミラミ……そして、カゲボウズ。


    「そしてシンカせよ!その輝く鉱石で、俺の大事な人を守れ、メガヤミラミ!!」


     ヤミラミの体が光に包まれ、胸の鉱石が巨大化して盾のようになる。進化したその力を、サファイアはあく
    までルビーを守るために使うと宣言した。


    「さあ……行くぞルビー!」
    「しぶといゲンシカイキめ……滅してくれる!」


    お互いの想いを込めて、二人はぶつかり合う――


    ――時を少し遡り、サファイアが過去の記憶を取り戻しているころ。

    「ちっ、くそったれが……!マッドショット!」
    「ヨマワル、防御を」

     ヌマクローが泥を波状に打ちだすのを、ヨマワルが緑色の防御壁を出して防ぐ。さっきからずっとこの調子
    だった。ルビー……いや、その体を借りた何者かは最初にエメラルドのポケモンたちに鬼火を当てたあとほとん
    ど攻撃せず、防御に徹している。
     
    「ワカシャモ、そんなチビさっさと片付けちまえ!」
     
     ジュプトルは既にメガシンカしたクチートに倒された。ヌマクローも火傷のダメージが危うい。比較的無事
    なのはワカシャモだけだったが、ワカシャモの蹴りもロコンの影分身によって躱され続け、空を切る蹴りが地道
    に体力を消耗させていく。しかも、今はジュプトルを倒したクチートがワカシャモに噛みつこうと狙っていた。
     
    「噛み砕く」
    「躱して火炎放射をぶち込め!」
     
     だがエメラルドも無抵抗にやられる性質ではない。ぎりぎりで噛みつきを躱し、千載一隅のチャンスとばか
    りに火炎放射を撃たせる。そもそもこの状況になったこと自体、ルビーがエメラルドより圧倒的に強い、という
    わけではなく地の利がエメラルドになさすぎるのだ。
     
     エメラルドの戦術は火炎放射、ソーラービーム、地震、波乗りといった広範囲かつ高威力の技で敵を圧倒す
    ることだ。だがこの洞窟という地形はそれを邪魔する。地震など起こそうものなら洞窟が崩れかねず、日が差さ
    ないためソーラービームも打てない。波乗りを打てばルビーやサファイアのことはともかく水が自分自身を溺れ
    させかねない。
     
     よってまともに打てる大技は火炎放射のみ、後はエメラルドにしてみれば小技の類だ。残る唯一の大技でメ
    ガシンカを仕留めようとするが――
     
    「ロコン」
    「ちっ、またかよ!」
     
     ロコンが分身の中から飛び出てクチートとワカシャモの間に入り込み、火炎放射を受け止める。しかしロコ
    ンはその体を焼き焦がさない。ロコンの特性『もらい火』が炎技を無効にして、特攻をアップさせる。チャンス
    をつぶされ、さらに。ルビーがある石を掲げたのを見てエメラルドは絶句する。
     
    「炎熱纏いし鉱石よ、我が僕に力を!」
     
     それは炎の石。それはロコンの体を赤い光で包み込み――6本の尾を9本に増やし、その体を金色に進化さ
    せる。
     
    「マジかよ……」
     
     鬼火で体力を削られ続けたヌマクローも倒れる。これで3対1、しかも相手はメガシンカと進化系がいる。
    自信家のエメラルドといえど、この状況には危機感を感じざるを得なかった――――その時。
     
    「ルビッー!!」
    「!」
     
     起き上がったサファイアがルビーを呼ぶ。そこからのやり取りをしばらく黙って思考を巡らせながら見てい
    るエメラルド。
     
    「やっと起きやがったかサファイア!俺はポケモンが弱ったから助けを呼んでくる。それまで何とか持ちこた
    えろ!」
    「ああ、頼んだぜ!」
    「させない。キュウコン、炎の渦」
    「フワンテ、風起こし!」
     
     退避しようとしたエメラルドを逃がすまいとした炎を、風が舞い吹きはらう。その間をエメラルドとワカシ
    ャモは駆け抜ける。
     
     助けを呼ぶのは嘘ではないが、まず自分が安全なところまで逃れるために――
     
     
     
    「さあ……ここから、楽しいバトルのスタートだ」
    「楽しい?……ふざけるな」
    「ふざけてなんかいないさ。今から俺はこのバトルを見てるルビーを楽しませてみせる。それでルビーを取り
    戻す。あの時と同じように」
    「……噛み砕け、メガクチート!」
    「見切りだ、メガヤミラミ!」
     
     サファイアの態度にしびれを切らしたのか、無視して指示を下すルビー。その二角による噛みつきを、メガ
    ヤミラミの宝石の大盾が防ぐ。
     
    「キュウコン、ヨマワル、鬼火。」
    「この瞬間、メガヤミラミの特性発動!」

     キュウコンとヨマワルの周りから、人魂が揺らめいてメガヤミラミに放たれる。それを待ってましたとばか
    りに、楽しそうにサファイアは言う。
     
    「私のメガヤミラミは相手の変化技を無効にして、更にその技を反射します。マジックミラー!」
    「何!?」
     
     ルビーは驚く。反射された鬼火は的確にメガクチートとヨマワルを狙い、命中した。
     
    「これにより、ヨマワル、そして強力な攻撃力を持つメガクチートの攻撃力はダウンです。そして今度は私の
    番!カゲボウズ、フワンテ祟り目!相手が状態異常になっていることで、こちらの威力は2倍になります」
    「く……!」
     
     Vサインをしながらサファイアは指示を出し、闇のエネルギーが状態異常になっている二匹に対して力を増し
    て放たれる。ヨマワル、メガクチートはまともに受けて吹っ飛ばされた。特にヨマワルは消耗が大きく。今にも
    地面に転がりそうな低さで浮かぶのがやっとの様だった。
     
    「小賢しい……キュウコン、火炎放射!」
    「影分身だ、カゲボウズ!」
     
     キュウコンの尾から放たれる9本の業火。だが炎は強い光と共にその影も色濃く映す。それを見てサファイ
    アとカゲボウズは口の端を釣り上げた。強くなった影が全てカゲボウズの分身と化し、全ての業火が空を切る。
    そのバトルを見て語るものがいるなら、シリアのバトルをイメージするものがいるかもしれない。
     
    「そして魅せます私たちの必殺技!影分身からのナイトヘッド――その名も影法師!」
    「またその技か……!」
     
     苦々しげに顔をゆがめるルビー。それでもサファイアとカゲボウズは本当のルビーは楽しんでくれていると
    信じて笑顔で、優雅に、幽玄に技を放った。キュウコンを巨大な影法師がいくつも包み込み――本来のナイトヘ
    ッドの何倍ものダメージを与える。
     
    「……まだだ。キュウコン、鬼火」
    「倒しきれませんでしたか……なら『驚かす』!」
     
     鬼火がカゲボウズに命中し火傷を負うが、『驚かす』がキュウコンにわずかなダメージを与える。だがそれ
    で十分だった。もともとほんの少しの体力しか残っていなかったキュウコンが倒れる。
     
    「そして甘いぞ、メガクチート、今度こそヤミラミを噛み砕け!」
    「しまった!メガヤミラミ、影打ち!」
    「先制技か、だが――」

     メガクチートがメガヤミラミの背後から巨大な顎のような角で襲い掛かる。メガヤミラミは振り返らずに、
    影だけで迎え撃ち――結果は。
     
    「相討ちか……」
    「……ありがとう。メガヤミラミ」
     
     メガヤミラミをモンスターボールに戻す。一方ルビーに憑りついた何者かは役立たずめと言わんばかりにク
    チートを見下げた。
      
    「ヨマワル、痛み分けだ」
    「……っ、フワンテ、小さくなる!」
    「無駄だ」
    「何!?」
     
     痛み分けは攻撃技の類ではなく、小さくなっても回避は出来ない。よってお互いの体力が分かち合われる―
    ―つまり、体力の少ないヨマワルが一方的に回復し、フワンテは体力を吸い取られる。
     
    「……フワンテ、もういい。下がってくれ。後は、俺とカゲボウズ――いや」
     
     キュウコンを倒したことでカゲボウズの体が光り輝く。また、それはルビーのヨマワルも同じようだった。
    奇しくもあの時と同じ――いや、あの時より少し成長した姿で、二人は対峙する。
     
    「俺とジュペッタに、任せてくれ!」
     
     ジュペッタになったカゲボウズと、サマヨールになったヨマワルがにらみ合う。お互いに火傷を負っていて
    。あまり時間をかけている余裕はない。求められるのは、必殺の一撃のみ。ならば――
     
    「ジュペッタ、ナイトヘッド!」
    「サマヨール、守る!」
     
     ジュペッタの体が巨大化し、サマヨールにダメージを与えようとしているとルビーは判断して一旦守りに入
    ろうとする。だがそれは間違いだった。このナイトヘッドは攻撃のための技ではない。
     
    「行くぜ、これが俺たちの新しい必殺技!ナイトヘッドからのシャドークローだ!
     
    ――虚栄巨影きょえいきょえい!!」
     
     巨大化した影の巨大な爪が、サマヨールの体を引き裂く。それで二人の戦いに、勝負がつき――ルビーは気
    を失った。
     
     
     

    「……ルビー、ルビー!」
     
     自分を何度も揺さぶる声が聞こえて、ゆっくりとルビーは目を覚ます。ルビーはやれやれと苦笑した。
     
    「……そんなに揺すらないでくれるかな。ボクのか細い体は折れてしまうよ」
    「良かった!元に戻ったんだな……」
    「……!」
     
     ぎゅっと抱きしめられて、さすがのルビーの頬が少し赤くなる。こほん、と小さく咳払いをしてルビーは言
    った。
     
    「……そんなに心配してくれたのかい?その気持ちは……うん、やっぱりあの時と同じさ。少しうれしいな。
    それに……見てて楽しかったよ。君のポケモンバトルは。相変わらず敬語は似合わないけどね」
    「そっか……俺もルビーがもとに戻って嬉しいよ。敬語は……うーん、やめた方がいいのかなあ」
    「ボクはそう思うね。どうするかは君次第だけど。……さて」
    「?」
     
     サファイアが首を傾げる。ちなみにまだ二人は超至近距離のままだ。
     
    「君も思い出してくれたみたいだし、ボクも話す必要があるだろうと思ってね……だから、少しだけ離れてく
    れないかい?さすがに話しづらいよ」
    「ああそっか。ゴメン」
    「いいんだよ。その気持ちは嬉しいんだから……じゃあまずボクのことから。思い出してくれた通り。ボクは
    おくりび山の巫女という役割でね。昔からあのように巫女になるための訓練をしていたんだけど……ボクにはあ
    まり才能……霊感と言ってもいいかな。それがなくてね。兄上の様にはなかなか上手くできなかった
    。だから家族からも、冷たい目で見られていたんだ。その癖祭事や訓練以外のことは甘やかし放題だったけどね
    。その結果ボクは偏食家なわけだ」
    「……なんかそれって、悲しいな」
     
     サファイアの記憶する限り両親は自分のことを優しく育ててくれたと思う。家族に冷たくみられるというの
    がどんな気持ちかは、サファイアには想像しきれないが、悲しいことだというのはわかった。
     
    「次に兄様のことだ。こちらの方が君にとっては重要かな?」
    「……そんなことないよ。俺、ルビーのこと知れてよかった。」
     
     くすり、とほほ笑むルビー。そして語りはじめた。
     
    「兄様はおくりび山の宮司としての才能があって家族からも期待されていてね。15歳になるころにはもう完
    璧に仕事をこなせるようになったんだけど……兄様は昔は結構荒っぽい性格でね。家族の期待の目も嫌っていた
    んだろう。俺はチャンピオンになると言って家を飛び出してしまったんだ。
     
     そしてその結果。才能のないボクが代わりに仕事を教え込まれ、家族のボクに対する厳しさはますます強く
    なった」
    「じゃあ、ルビーも家を飛び出したのか?」
    「いや、旅に出ること自体は家の後を継ぐための決まりみたいなものなんだよ。15歳になったら一度各地を巡
    り、たくさんのポケモンと触れることも重要だと習わしにあってね。ボクは身体も弱いし正直言って憂鬱な旅だ
    ったんだけど……君に出会えて、変わったんだ」
    「そうだったのか……ごめんな、忘れてて」
    「思い出した以上、もう気にすることはないよ。少しやきもきはしたけどね」
    「そういえば……ルビーがシリアのことを疑ってたのも、それが理由なのか?昔は荒っぽかったって言ってた
    けど」
     
     今のチャンピオンとしてのシリアしか知らないサファイアには少し信じがたくはあるが、ルビーがこんな嘘
    をつくはずがない。事実として認め、聞く。
     
    「そんなところだね。……はっきり言って昔の兄上はボクにも、いやむしろ、他の家族には宮司の跡取りとし
    て接しなければいけない以上、ボクに一番きつくあたっていたから。だから正直、再開してあんな言葉を平然と
    口にしている兄上が信じられなかった。……でももう、それはやめにするよ」
    「えっ?」
    「やっぱりボクには兄上を信用できない。だけど……君は兄上を信じているんだろう?兄上を信じる、君を信
    じることにするさ。それがボクからの――今まで君に黙っていたことへの、誠意のつもりだよ」
    「誠意なんてそんな……でも、ルビーとシリアが仲良くしてくれるなら、俺もそれが一番さ。……もう一つ聞
    いていいか?」
    「何かな?」
    「あの時は魔法陣みたいなものに俺が触ったからだと思うけど……なんでここでルビーはまた何かに憑りつか
    れたのかわかるか?」
     
     そのことか、と呟くとルビーは少し考えて。
     
    「断言はできないけど……多分この壁画は、相当昔に書かれたものだ。そして書いた人間の強い意思が宿って
    いる。その意思が……巫女としての能力を持つボクに憑りつき、乗っ取った。体を乗っ取られるなんてボクもま
    だまだだね……」
    「わかった。じゃあまた変なことにならないように、ここを離れよう。エメラルドも助けを呼んできてくれて
    るはずだし……ん」
    「彼のことはともかく……そうしようか」
     
     サファイアが差し出した手をルビーが取って、彼女は起き上がる。そして洞窟の外へと出ていった。これを
    機に、二人の絆は強く深まることになる――


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