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Subject ID:
#116881
Subject Name:
生まれいずる場所
Registration Date:
2007-01-15
Precaution Level:
Level 3
Handling Instructions:
ポイント#116881は封鎖状態を維持し、人間や携帯獣を可能な限り侵入させないようにしてください。特に人間の子供が侵入するケースが非常に多く、事象#116881の発生を許してしまうケースが度々あります。ポイント#116881内で不審な人物を見掛けた場合は、例外なく速やかに退去させてください。こちらの指示/要請に従わない場合は、対象を拘束して最寄りの拠点(現在はジョウト地方エンジュシティ第五支局)へ移送してください。
事象#116881の発生が確認された場合は、オブジェクト#116881を回収するとともに、必ず二人存在するペアレント#116881を保護してください。通常、ペアレント#116881の健康状態に問題は生じないことが分かっていますが、念のため対人用の完全な健康診断を行ってください。診断終了後にペアレント#116881に対して手順M-116881-3に沿ってヒアリングを実施し、情報収集後はプロトコルUXに基づくレベル4記憶処理を行ったのちジョウト地方エンジュシティのポケモンセンターへ引き渡してください。ポケモンセンターとは「野生のオドシシとの遭遇」というカバーストーリーを用いることで合意済です。
回収したオブジェクト#116881は、孵化を待って内容物の検査を実施します。一般的な携帯獣が孵化した場合はデータ化して保護し、無機物が孵化した場合は隣接する低異常性拾得物保管庫のブロック3-Eから6-Aまでのスペースに分類の上保管してください。いずれにも当てはまらない異常な物体/生体が孵化した場合に備え、オブジェクト#116881の保管チャンバーに入室する際はレベル3対バイオハザード用スーツの着用が義務付けられます。
Subject Details:
案件#116881は、ジョウト地方エンジュシティ西部に位置する廃棄されたブリーディングフィールド(ポイント#116881)と、不定期にそこへやってくる二人一組の男女(ペアレント#116881)、ペアレント#116881がポイント#116881へ侵入した際に発生する事象(事象#116881)、ペアレント#116881の間で発見される不審なタマゴ状のオブジェクト(オブジェクト#116881)、及びそれらに掛かる一連の案件です。
2007年12月下旬、ジョウト地方アサギシティのジムリーダーを務めているミカン氏から、「娘が同級生の男子との間にタマゴを生んだと訴えてくる父親がいる。ほとんど錯乱状態にあり、至急応援に来てほしい」との緊急通報がなされ、その異常性から3名の局員が急遽アサギシティジムへ向かいました。到着した時点で、その場にはミカン氏とジムのアドバイザー、アドバイザーによって拘束されたと思しき男性、そしてタマゴを抱いた高校生の少女と、同じく高校生の少年の姿がありました。局員はなおも暴れる男性に鎮静剤を投与して一旦鎮圧した後、ミカン氏とアドバイザーを除いた三人をアサギシティ第四支局まで移送しました。
少女と少年からそれぞれ事情をヒアリングしたところ、昨夜二人でアサギシティ北部を歩いていた最中、寂れたブリーディングフィールド(一般的に、携帯獣の育成を代行する個人または業者が所有する一定以上の広さを持つ庭を指します)を発見したところまでは記憶しているとの点で共通していました。その後の記憶は途切れており、気づいた際にはブリーディングフィールド内部でタマゴを抱いて眠っていたとのことでした。共に対人向けの標準的な健康診断を受診させましたが、少なくとも健康状態については問題がないことが確認されました。当局は放棄されたブリーディングフィールドに異常な性質があると判断、一帯を封鎖して管理下に置き、案件が立ち上げられました。タマゴについては当局が接収し、監視下に置かれることとなりました。
回収したタマゴはオブジェクト#116881と分類され、拠点内の実験チャンバーへ隔離されました。隔離から5日後に孵化し、中から外見上特段の異常性が見られないアチャモが現れました。アチャモは局員によって保護され、現在は拠点内のサーバで管理されています。アチャモについて種々の検査が行われませんでしたが、オブジェクト#116881の生成に関与したと思われる少年及び少女との関連性については特に見当たりませんでした。事件現場となったブリーディングフィールドは、ポイント#116881と分類されました。
ポイント#116881は、かつて携帯獣の育成代行業者が運営していた中規模のブリーディングフィールドです。1998年4月に経営不振により登録が抹消され、跡地はそのまま放棄された状態になっていました。当時の職員にヒアリングを実施したところ、本案件のような事象は一度も確認されていないことが判明しました。これにより、ポイント#116881は放棄された後に何らかの理由により変質したものと考えられています。
ポイント#116881には常に3名の警備員が常駐して監視に当たる体制が敷かれましたが、それにも関わらず複数の事案が発生し、都度対応に追われることとなりました。さらに周辺地域で実施した聞き取り調査により、当局が関与するかなり以前から類似の事案が多数発生していたことも明らかになりました。
以下はこれまでに当局が確認した、ポイント#116881における事案の抜粋です:
[事案-116881-1]
事案発生時期: 2002年夏頃
ペアレント#116881-A: 当時6歳の男子児童
ペアレント#116881-B: 当時7歳の女子児童(ペアレント#116881-1の姉)
オブジェクト#116881: 色違いのニョロモが孵化。現在はペアレント#116881によって養育されている。
備考: 当局が把握している最古の事案。ペアレント#116881の二人については、その後特に変わった様子は見られない。当時は二人が短期間の家出をしたものと考えられ、それほど大きな問題としては認識されなかった。
[事案-116881-4]
事案発生時期: 2002年9月13日から14日にかけて
ペアレント#116881-A: 当時13歳の男子中学生
ペアレント#116881-B: 当時10歳の女子児童
オブジェクト#116881: 標準的なサイズのコンパクトディスクが孵化。内部にはペアレント#116881-A及び-Bの個人写真及び家族写真が収められていたが、いずれもそれまでに撮られた写真とは一致しないことが判明。また、写真が撮影されたシチュエーションについても多数の相違や矛盾が見受けられる。
備考:ペアレント#116881-A及び-Bは面識が無く、同時にポイント#116881に侵入したためにペアレント#116881の組として成立したものと推定されている。
[事案-116881-8]
事案発生時期: 2003年5月6日から7日にかけて
ペアレント#116881-A: 当時8歳の男子児童
ペアレント#116881-B: 当時17歳の女子高校生
オブジェクト#116881: 何の異常性も持たないライチュウが孵化。しかしながら、タマゴから最終進化系とされるライチュウが孵化すること自体が矛盾を孕んでいる。ライチュウは現在局員により保護され、経過観察が続けられている。
備考: ペアレント#116881-Bについて、後に本人が病院で自発的に受診した健康診断にて妊娠していることが判明したが、本人からの申し出により、それについては本事案と関連しないことが明言された。
[事案-116881-13]
事案発生時期: 2004年7月11日から12日にかけて
ペアレント#116881-A: 当時9歳の男子児童
ペアレント#116881-B: 当時9歳の女子児童
オブジェクト#116881: 使い古されたヒメグマのぬいぐるみが孵化。ペアレント#116881-Bがかつて所持していたものと一致していることが判明した。ただし、本人の名前が書かれていたというタグは切断され切り取られていた。
備考: ペアレント#116881-A及び-Bの証言により、当人らはポイント#116881について「赤ちゃんができる場所」であるという噂を耳にし、二人で自発的に訪れたことが発覚した。
[事案-116881-19]
事案発生時期: 2006年8月6日から7日にかけて
ペアレント#116881-A: 当時14歳の男子中学生
ペアレント#116881-B: 当時14歳の女子中学生
オブジェクト#116881: 孵化後半年間観察が行われたが孵化する気配を見せなかったため、ペアレント#116881-Aが処分したとのこと。
備考: 事案-116881-13と同様、ペアレント#116881-A及び-Bは自発的にポイント#116881を訪れたことが判明。二人で性行為に及ぼうとしたとのこと。実際には性交に至る前に事象#116881が発生したため、事案との関連は無いと見られている。
[事案-116881-22]
事案発生時期: 2007年4月15日から16日にかけて
ペアレント#116881-A: 当時17歳の男子高校生
ペアレント#116881-B: 当時16歳の女子高校生(ペアレント#116881-Aの妹)
オブジェクト#116881: 異常性の無いフリーザー個体が孵化した。事案-116881-8と同様、孵化した事自体が異常と考えざるを得ないケースに当たる。フリーザーは局員の元で養育中。
備考: ペアレント#116881-Aと-Bは戸籍上兄妹関係にあるが、血縁関係は無いことが分かっている。
本案件については不明な点が非常に多く、さらなる調査が必要です。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
Subject ID:
#109827
Subject Name:
攻撃的なボイスレコーダー
Registration Date:
2004-10-20
Precaution Level:
Level 3
Handling Instructions:
これまでに回収された機器#109827は、各拠点に用意した耐火性の金庫へまとめて保管してください。保管する際は機器ごとにラベリングをして、それぞれを識別可能な状態にしておくことが望ましいです。機器#109827は外観とは異なり動作に一切の電力を必要としないため、仮に電池を抜いた状態であっても起動を試みるべきではありません。機器#109827が起動されているかは、本体前面上部にある電源ランプにより確認することができます。
家電量販店や、小規模な電器店を備えるデパート/ショッピングモールを定期的に巡回し、既存の商品に混合させる形で機器#109827が販売されていないかを確認してください。通常、機器#109827は店舗の従業員に無断で配置されており、正規の経路で入荷されることはありません。発見した場合は速やかに店舗責任者へ連絡し、在庫も含めたすべての機器#109827を接収してください。
Subject Details:
案件#109827は、録音した音声にある一定の指向性を持った認知異常を引き起こす効果を付与するボイスレコーダー(機器#109827)と、それに掛かる一連の案件です。
当局に寄せられた「穏和な会話を録音したにもかかわらず、聞かせたすべての人が強い不快感を示したボイスレコーダーがある」という通報により、このアイテムの存在が認識されました。通報者からボイスレコーダーを接収して局内でテストを実施したところ、通報にあった通りの異常特性が確認できました。これにより当局は案件の立ち上げを決定するとともに、ボイスレコーダーを機器#109827として指定しました。
機器#109827は、隅にペラップのイラストが描かれた、外見上一般的なものと何ら相違の見られないボイスレコーダーです。モデルは古いもので、一見すると単三電池二本を動力源としているように見えますが、これは実際には正しくありません。機器#109827は電池がセットされていようといまいと、すべての機能を利用することができます。電池をセットして種々の動作確認を行い、その後残容量を確認したところ、電池はまったく使用されていないことが明らかになりました。
機器#109827の異常特性は、音声を録音した時ではなく、録音した音声を再生する場合に顕現します。録音された音声を耳にした人間及び携帯獣は、それがいかなる内容であろうと、非常に強い嫌悪感と不快感を覚えます。時として、ボイスレコーダーそのものや近くにいる人間/携帯獣に対する攻撃に及ぶこともあります。それらの感情は録音が終了するかあるいは中断されると即座に消失し、周囲の人間及び携帯獣は平静さを取り戻します。同時に、録音された音声を耳にした場合に想定される本来の感情と、実際に自らが抱いた感情の著しい乖離に強く困惑します。
この特性のために、機器#109827は様々なトラブルを発生させる要因となっていました。以下はこれまでに確認された、ボイスレコーダーとして機器#109827を使用したために発生した事案の一覧です。
事案#109827-1:
ジョウト地方コガネシティ在住の会社員が、商談の内容を記録するために機器#109827を使用。その後録音した音声を元に議事録を作成しようと試みたが、途中で強い不快感を覚えたため、上司に商談の中止を直訴するため席を立った直後に不快感が消失。この事に強く困惑した会社員は、自身の精神状態に何らかの問題があると考え休職を申し出ている。会社員はその後局員からの説明を受けて納得し、現在は復職している。
事案#109827-3:
ホウエン地方カイナシティ在住の女性が、帰宅してくる子供に向けて間食の置き場所を録音。帰宅した子供が機器#109827を再生したところ、著しい嫌悪感を覚えて機器#109827を破壊。その直後に平静さを取り戻し、自分の行動について整合性が取れず激しく狼狽、母親が帰宅するまでパニック状態に陥っていた。後日局員が説明に赴き再現実験を行ったことで原理を理解して納得し、破損した機器#109827を回収。
事案#109827-6:
シンオウ地方クロガネシティに立ち寄ったトレーナーが、連れていたペラップに言葉を覚えさせるためのツールとして機器#109827を購入して使用。しかしながら、録音した音声を再生した直後にペラップがひどく興奮し、機器#109827を破損させるに至った。過去の事例とは異なり、機器#109827が機能停止してもペラップの怒りは収まらず、その後2時間近くに渡って機器#109827を執拗に攻撃し続けた。
一部の局員から、機器#109827のデザイン、及び事案#109827-6で見られた事象より、機器#109827はペラップと何らかの関連性を持っているのではないか、あるいは機器#109827自体にペラップの特異な性質が一部組み込まれているのではないかといった仮説が提唱されています。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
Subject ID:
#95587
Subject Name:
キュウコンと共に生きた女
Registration Date:
2000-04-18
Precaution Level:
Level 3
Handling Instructions:
Eliza Valentineこと、参考人#95587の行方を追ってください。最後に目撃されたのはイッシュ地方ソウリュウシティですが、報告から半年以上が経過しているために既に有効な情報ではありません。イッシュ地方及びカロス地方に存在する全支局の局員は、本来の職務と共に参考人#95587を捜索する任務を帯びています。参考人#95587を目撃した、あるいは参考人#95587につながる情報を得た場合は、どのようなものであっても報告し、データベースに登録してください。
仮に参考人#95587を発見することができた場合は、当人の許可を得て同行を求めてください。ヒアリングを実施した上で、異常性の有無について判断してください。結果の如何に応じて、以後参考人#95587を当局にて収容するか否かを決定します。収容すべきと決定された場合は通常の対人収容プロトコルが適用される予定ですが、参考人#95587が何らかの特異な能力を保持している可能性が示された場合は、専用の収容プロトコルを追加で制定することで対応します。
Subject Details:
案件#95587は、いくつかの不審な点が見られる女性「Eliza Valentine」(参考人#95587)と、それに掛かる一連の案件です。
2000年4月中旬頃、イッシュ地方ライモンシティ近隣で別案件のためにフィールドワークに当たっていた局員が、数名の市民が「Eliza Valentineなる女性が最近パートナーのキュウコンを亡くした」との話をしているのを耳にしました。別の市民が続けて「タマゴからロコンを孵してキュウコンまで育て上げて、最後は老衰で天寿を全うしたらしい」と口にしました。これを聞いた局員が疑問を覚え、市民に身分を明かしていくつかの質問を行いました。
キュウコンは大変な長寿で知られ、一般的には約1,000年ほど生きると言われています。これについては実際に900歳を超えるキュウコン個体が数十体確認されていることから、高い信憑性を持つ情報と考えられています。キュウコンの死因は、不慮の事故や感染症によるものがほとんどであり、老衰で死去したというケースは少なくとも記録上は確認されていません。キュウコンは他に類を見ない長寿であり、またそれは科学的に裏付けがなされているものであるということを認識してください。
その上で、仮に市民の証言が嘘偽りの無い事実であった場合、Eliza Valentineはキュウコンがロコンであった頃から含めて1,000年近く共に生きていることになります。局員は市民からEliza Valentineの居住地を聞き出し、応援の局員を伴ってEliza Valentine宅を訪問しましたが、局員が到着した時点では既に彼女の姿は無く、家財一式と共に家を引き払った後でした。当局は本案件を案件#95587、Eliza Valentineを参考人#95587と指定、捜索が開始されました。
参考人#95587について各地でヒアリングを実施したところ、彼女の素性に関するいくつかの証言が得られました。以下は参考人#95587に関する証言の一覧です。
証言#95587-1:
参考人#95587は穏やかな性格をしており、庭でハーブを育てたり油絵を描くなど、悠々自適の生活を送っていたように見えました。傍らにはいつもキュウコンが帯同しており、参考人#95587を護っていたように思います。外見は20代後半から30代前半ではっきりとは判別できませんが、いずれにせよ年老いているわけではなかったという点では間違いありません。これに加えて、庭で子供が遊んでいる光景を何度か見ています。
証言#95587-2:
参考人#95587の元には時々地元の子供たち、特に女の子が訪れ、何がしかのレッスンをしていたように見えました。雰囲気としてはピアノやバイオリンのような楽器を教えているように思えましたが、具体的に何を教えているのかは分かりませんでした。女の子は中学に上がるかトレーナーとして旅立つ頃には参考人#95587の家を訪問しなくなり、また別の子供たちがやってくるというサイクルが繰り返されていました。
証言#95587-3:
夜間になると参考人#95587の家は消灯されていることが多く、その間参考人#95587はどこかへ出かけていたようです。どこへ行っていたのかは分かりませんが、少なくとも近隣で見かけたことがないのは間違いありません。車を持っているわけでもなく、公共交通機関も整備されているとは言えないので、普段どこへ出かけているのか不思議でなりませんでした。時には数日家を空けていることもあったように思います。
証言#95587-4:
以前参考人#95587の家へ誘われて遊びに行った子供が、参考人#95587が不思議なものを見せてくれたと話していました。具体的には何がどう「不思議」だったのか聞くと要領を得ない答えが帰ってくるのみでしたが、とりあえず何かを見たというのは間違いなさそうです。以前から思いも寄らぬ場所にいたりすることもあって、何人かは参考人#95587のことを「魔女」というあだ名を付けていたそうです。
いくつかの不審な点が見られることから、当局では参考人#95587が何らかの特異な能力、あるいは特異体質の持ち主であるとの前提の元に、現在も捜索を続けています。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
Subject ID:
#125949
Subject Name:
デデンネの絵
Registration Date:
2009-11-29
Precaution Level:
Level 2
Handling Instructions:
アイテム#125949は、ホウエン地方カイナシティ第七支局の中異常性取得物保管庫のブロック4-Aに据え付けている、70cm×70cm×70cmの鉛製の金庫に保管してください。金庫の暗証番号は案件担当者が設定します。設定した暗証番号については、書式F-125949-3に沿ってワークフローを回付し、上長が把握できるようにしておいてください。鉛製の金庫へ入れている限り、アイテム#125949は異常特性を発揮しません。
調査・研究の目的でアイテム#125949を持ち出す場合、少なくとも周囲500m以内に不要な電子機器、特に映像が受信可能な機器が置かれていないことを十分確認してください。事象#125949は近隣に存在するすべての電子機器に影響を与えるため、アイテム#125949を活性化させる際は110番道路近郊に設置された当局の実験施設を使用することを強く推奨します。
Subject Details:
案件#125949は、クレヨンにより描かれたデデンネの絵(アイテム#125949)と、アイテム#125949が発生させる異常現象(事象#125949)、及びそれらに掛かる一連の案件です。
当局がアイテム#125949を入手したのは、ホウエン地方フエンタウン近郊に存在する放棄された一軒家においてです。近隣住民から「テレビに時折デデンネやパチリスが映り込むようになった」との通報を受けて当局が調査を進めていた過程で、機能停止した冷蔵庫に磁石で張り付けられた状態で発見されました。現地での簡易的なテストにより異常現象の原因がこの絵にあると判明、当局によって回収されました。
アイテム#125949は、破かれたスケッチブックにクレヨンで乱雑に描かれたデデンネと思しきイラストです。イラストの正確な制作者は分かっていません。発見された廃屋には4年ほど前まで3人ほどの人間が居住していたとの証言を得ていますが、その中にこのようなイラストを描くような小児が含まれていたという情報は確認されていません。イラストの右下には黒いクレヨンで「ゆうた」とたどたどしい筆致で署名がされており、おそらくはこの「ゆうた」がイラストの制作者と推定されますが、それを裏付ける情報は何一つ存在しません。加えて「ゆうた」なる名前の人物がこの近隣に居住していた記録はありません。
このアイテムの特性は、小型の磁石によって黒板/白板のような磁石が貼付可能な場所へ掲示された際に発揮されます。アイテム#125949が活性化すると、事象#125949が発生します。
事象#125949は、周囲の映像を受信可能な電子機器すべてについて、人間の代わりに「電気袋を持つ携帯獣」が出現するようになります。具体的には、ピカチュウ/ライチュウ/ピチュー/プラスル/マイナン/パチリス/エモンガ/デデンネの8種に加え、これまでに発見例の無い未知の携帯獣が8体確認されています。さらに、これまで映像/写真に登場していない携帯獣が含まれている可能性もあります。
特に顕著な影響を受けるのはテレビで、アイテム#125949の半径200m以内ではテレビ番組に登場するすべての人間が電気袋を持ったいずれかの携帯獣に置き換えられます。置き換えのルールは特に無いようで、前日にライチュウに置換されたワイドショー番組の司会者が、翌日の確認ではパチリスに風貌の似た未知の携帯獣に置き換わっていました。ただし出演者の性別に付いては置き換え後も反映されるようで、ピカチュウに置き換えられた人物はいずれも置換前の性別と置換後の性別が一致していることが目視で確認できました。この影響はアイテム#125949から距離が離れる毎に減衰し(置き換えられる人物の減少という形で現れます)、最終的に直線距離で500m以上離れることで事象#125949の影響力は完全に失われます。
他の電子機器も様々な影響を受けます。分かりやすい例として、撮影者が範囲内でデジタルカメラや携帯電話のカメラ機能を使用して人物を撮影した場合、テレビの場合と同じように電気袋を持ったいずれかの携帯獣に置き換えられることが確認されました。この時所持品や衣服についても同様の影響を受けるようで、ピチューに変化した男性局員の場合、着用していた制服がピチューの体格に合わせて縮小していました。所持していたバッグについても同じく縮小し、ピチューが現実的に持てるサイズに変化していました。これらの変化は一貫して写真にのみ影響し、被写体には何ら影響を及ぼしません。
範囲内で無線または有線によるインターネット接続を行うと、画面に表示される写真に登場する人間がこれまでと同じルールで電気袋を持つ携帯獣に置き換えられます。この時の画像は保存することで「固定化」することが可能で、固定化した画像は範囲外でもそのままの状態で閲覧することができます。注意点として、ハードディスクやリムーバブルデバイスに保管されている人間が撮影された写真を範囲内で編集して上書き保存した場合、写真内の置換が永続化されます。この場合、バックアップから復元しない限り、元の体裁の写真に戻すことはできません。
これまでテストした限りにおいて、携帯獣は置き換えの対象とはならないようです。被写体となった携帯獣についてはいずれも本来の姿が保持され、電気袋を持った携帯獣に変化することはありません。範囲内においても不審な行動や事象はまったく確認されなかったため、アイテム#125949は人間にのみ効果をもたらすものと考えられています。
事象#125949の効果範囲は遮蔽物があると著しく減衰するようで、特に鉛については一切透過することができないことが分かりました。これに伴い現在の収容手順が制定され、比較的安全な保管方法が確立されました。アイテム#125949の性質が変化しない限り、この収容状態が無期限に保たれることになっています。
いつの時点でイラストがアイテム#125949に変貌したのかは定かではありません。アイテム#125949が貼付されていた際の状況から、イラストは冷蔵庫に貼付されて少なくとも5年近く経過しているように見えましたが、近隣住民から通報がなされたのはごく最近のことで、それまでは事象#125949は一度も確認されていませんでした。何らかの外的要因によりアイテム#125949が変化したのか、元々内包していた異常特性が活性化されたのかについては、局員の間でも意見が分かれています。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
Subject ID:
#114759
Subject Name:
間引かれた者たち
Registration Date:
2006-05-14
Precaution Level:
Level 2
Handling Instructions:
本稿執筆時点においては、浮遊体#114759が人間や携帯獣に攻撃を仕掛けて来たという事例は存在しないため、危険性の評価については保留されています。現在の案件取り組み方針は、確認済の浮遊体#114759を継続的に観察することにより、浮遊体#114759の性質及び由来を明らかにすることが主体となっています。これまでに確認されている浮遊体#114759の一覧については、リストL-114759-1を参照してください。案件担当者は必要に応じてリストL-114759-1を更新してください。
当局では浮遊体#114759の由来について、社団法人ポケモンセンター管理協会が何らかの形で関与しているという疑義を持っています。現在社団法人ポケモンセンター管理協会へ質問状を送付し、回答を待っている段階です。状況によっては、関係者からさらなるヒアリングを実施しなければならない可能性も指摘されています。
Subject Details:
案件#114759は、一部地域で目撃される携帯獣の霊的存在(浮遊体#114759)と、それに掛かる一連の案件です。
本件は、カントー地方セキチクシティ在住のポケモンブリーダーから通報の形で持ち込まれました。当該ポケモンブリーダーの証言によると、一週間ほど前に、かつて自分が育成していた携帯獣の霊体らしき存在が、手放した時からある程度成長した姿で自分の前に現れたとのことです。後に提供先にその携帯獣の現状について照会したところ、提供先は「現在は第三者に渡っており、状況を把握できていない」との回答がありました。これを不審に思ったブリーダーは、当局へ追加調査の依頼を行いました。
ポケモンブリーダーから提供された情報として、育成していた携帯獣は「ゼニガメ」、霊体として姿を表したのは「カメール」、そしてゼニガメの提供先は、同じカントー地方に位置するハナダシティのポケモンセンターでした。ゼニガメを手放したのは2年近く以前でしたが、身体的な特徴からブリーダーは間違いなくハナダシティのポケモンセンターへ提供した個体であると証言しています。
このゼニガメについて当局からポケモンセンターへ照会を行ったところ、ポケモンブリーダーが照会した際と同様に「現在は第三者へ提供している」との回答があるのみでした。これ以上の調査は難しいと判断され、本件は一旦保留の扱いとなりました。その後は未解決事案として残され、進展が見られるまで一覧表上で管理される状態が続きました。
本件が再び持ち上がったのは、複数の支局に対して同種の事案通報がほぼ同時期になされたためです。通報があったのはカントー地方ニビシティ、ジョウト地方タンバシティ、シンオウ地方ミオシティにおいてです。通報者がすべてポケモンブリーダーで、かつ出現した携帯獣が「初心者向けとされる携帯獣が一段階の進化を遂げた姿」という点で一致していました(それぞれフシギソウ/ワカシャモ/ポッタイシ)。これは先述した事案も満たす条件であり、同種の事案であることは明白でした。当局は情報を整理した上で改めて案件として立ち上げ、担当者を募って本格的な調査に乗り出しました。
浮遊体#114759については、当局でもその存在について裏付けを取ることに成功しました。前述した条件を満たす携帯獣そのものの姿をしていますが、身体は半透明であり実体は存在せず、悲痛な表情を浮かべたままその場に立ち尽くす以外のアクションを見せません。こちらからの呼びかけは通じているようですが、発声する能力は失われており、身振り手振りで意思疎通を取るのが現状の限界と見られています。出現時期は完全に不定期であり、またごく短時間しか出現できないことから、このような状態に至った経緯を調査することは困難を極めています。
調査の過程で、シンオウ地方ミオシティ在住の通報者から「ポケモンセンターは引き取り手が見つからないまま成長して進化を遂げたポケモンを、秘密裏に間引きしている噂がある」という情報が寄せられました。残る三名のブリーダーについてもポケモンセンターへ携帯獣を提供しており、二名についてはこの「間引き」に関する真偽不明の情報に聞き覚えがあると答えました。通報者は、殺処分された携帯獣が何らかの形で元のブリーダーの前へ現れたのではないかという疑義を持っているようです。
当局による調査では、ポケモンセンターによる間引き/殺処分が実際に行われたという証跡は得られていません。しかしながら、一部の会計処理に不明瞭な点が見られ、さらに資産として計上されている携帯獣の総数について一部計算結果に矛盾が見られる箇所が見つかりました。案件担当者からの上申を受け、当局では本部局長名義での質問状を作成の上、社団法人ポケモンセンター管理協会へ送付しました。回答は未だ保留されたままです。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
Subject ID:
#127718
Subject Name:
29番目
Registration Date:
2010-06-22
Precaution Level:
Level 1
Handling Instructions:
これまでのところ、実際に29番目に相当するアンノーンは実在が確認されていません。29番目のアンノーンについての言及がなされた書籍やWebサイト、あるいはその他資料を発見した場合は、資料の内容を分析した上で、必要に応じて作成元にヒアリングを試みてください。これまでに34の書籍と62のWebサイト、そして15のその他資料が確認されています。これら資料そのものについては、特段の異常性が無いことが確認されています。
別事案/案件により、「!」及び「?」のアンノーンが新たに出現し、過去の因果律が書き換えられた可能性が示唆されています。本案件で取り扱う29番目のアンノーンが「!」及び「?」のアンノーンの出現事例と同一の事象なのかについては、これまでのところ明らかになっていません。ただし、「それまで存在していなかったはずのものが、あたかも存在したかのように受け入れられている」という点では共通しており、注視が必要であることに変わりはありません。
Subject Details:
案件#127718は、これまでに実在が確認されていない29番目のアンノーンに対する言及と、それに掛かる一連の案件です。
当局が29番目のアンノーンに対する言及を初めて確認したのは、局員が書店で購入した子供向けの携帯獣図鑑においてです。当該書籍には「アンノーンは29種類存在する」という旨の文言が記載されていましたが、写真として掲載されているのは既知の28種のみでした。不審に思った局員が出版社へ問い合わせたところ、出版社からは「編集担当者はアンノーンが29種存在すると言っている」との回答が得られました。局員は本件を日報へ記載し、記録として残しました。
次に未知のアンノーンに対する言及が見られたのは、キキョウシティ南部に居住する市民が執筆したblogにおいてです。記事の一つで「撮影したアンノーンの紹介」という名目で写真を掲載していましたが、末尾に「実はもう一種類存在するが、今回は撮影できなかった」というコメントが記載されていました。執筆者にコンタクトを取ったところ、「29種類いるのは間違いないが、まだ実物を見たことはない」との回答がありました。これについても日報へ記録されるに留まり、案件として取り上げられることはありませんでした。
本件がクローズアップされたのは、システムエンジニアとして働くある市民が、ミニブログサービス「Twitter」に「Unicodeのマッピングはおかしい、アンノーン文字は28文字しか存在しないはずなのに、29文字分が予約されている」と投稿したことがきっかけです。このツイートを端緒として、アンノーンは28種であると主張する集団と、そうではなく29種であると主張する集団に分かれ激しい言い争いに発展しました。局員がこのやり取りを目撃した直後、過去に「29番目のアンノーン」について言及があったことを思い出し、これまでに記録された事案とともに取りまとめて案件の立ち上げを行いました。
当局の見解としては、29番目のアンノーンについては「現時点では存在しない」としています。これまでにその姿が目撃された記録が無いほか、具体的にどのような文字がモチーフとなっている(またはどのような文字のモチーフとなった)かが明らかにされていないことが根拠です。しかしながら、存在すると主張する人々は当局の予想をはるかに上回っており、カントー地方を対象に実施したアンケートでは実に52%もの市民が「アンノーンは29種である」と回答しました。実在すると答えたすべての市民が具体的なシンボルをイメージできなかったにもかかわらず、「存在することは間違いない」と答えたことは特筆すべき事象と言えます。
今後の対応方針としてはいくつかのものが考えられますが、現在進められているのは「29番目のアンノーン」がどの時期から言及されるようになったかを特定することです。その前後に何らかの事案/案件が発生していないか、そしてそれら事案/案件が、人々の認識、あるいはアンノーンの性質に何らかの影響を及ぼすような類のものでは無かったかについての検証作業が進められています。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
Subject ID:
#90816
Subject Name:
苦悶する魂の広間
Registration Date:
1998-10-22
Precaution Level:
Level 3
Handling Instructions:
本案件で取扱対象となる特殊な「Hall of Tortured Souls」を起動するには、ハードウェアとソフトウェア双方の要件を満たし、かつ一般には知られていない操作手順を踏む必要があるため、情報漏洩の危険性は比較的低いものと言えます。担当者は代表的なパソコン通信ネットワーク及びインターネット上の掲示板を巡回し、「Excel 95」「イースターエッグ」「迷路」といったキーワードについて言及されていないかを監視してください。
当局からのMicrosoft社への働きかけにより、Microsoft社は「Excel 95」から「Excel 97」への移行を強力に推し進めていますが、未だ多くの「Excel 95」が稼働している状態です。「Excel 95」がインストールされたほとんどの端末は、本案件で取り扱う「Hall of Tortured Souls」を起動するための前提条件を満たしていないものと考えられますが、いずれにせよ可能な限り早く「Excel 95」を根絶することが望ましいことに変わりはありません。「Excel 97」については、特殊なものも含めてあらゆる「Hall of Tortured Souls」が起動しないことが分かっています。
案件担当者が「Hall of Tortured Souls」にアクセスする場合、書式F-84595-1に必要な事項を記入してワークフローを回付し、事前に上長からの承認を得てください。調査目的以外での「Hall of Tortured Souls」へのアクセスは禁止されています。不正なアクセスが確認された場合は、当局の定める規定に基づき懲罰を受ける可能性があります。
[1999-03-22 Update]
事案#92112の発生を受け、調査/実験目的を含む「Hall of Tortured Souls」へのあらゆるアクセスを一律で禁止することが決定されました。以後本案件については、「Hall of Tortured Souls」に関する情報が外部へ漏洩しないことの監視と、情報漏洩が発生した場合の対処に対応方針が絞られます。「Hall of Tortured Souls」そのものについての研究は無期限に凍結されます。
Subject Details:
案件#84595は、所定のハードウェア構成によるコンピュータにおいて、Microsoft社の表計算ソフトウェアである「Excel 95」で特定の操作を行った際に起動できる「迷路」プログラムと、それに掛かる一連の案件です。
Microsoft社の「Excel 95」には本来の機能とは別に、開発者が遊びとして仕込んだ小規模な「迷路」ゲームがイースターエッグとして存在していることが知られています。「迷路」はウィンドウ名として「Hall of Tortured Souls」というテキストが表示され、カーソルキーにより内部を移動することができます。ウィンドウ名のテキストから、この迷路ゲーム自体が「Hall of Tortured Souls」と呼ばれています。この「Hall of Tortured Souls」の存在そのものは比較的よく知られており、また後述する条件を満たした状態で起動しなければ特に異常な点は見られません。通常の手順で起動できる「Hall of Tortured Souls」は、本案件の取り扱い対象外です。
以下の条件をすべて満たすと、通常とは異なる特殊な「Hall of Tortured Souls」が起動します。本案件では以下の状況により起動された「Hall of Tortured Souls」について取り扱います:
前提条件:
グラフィックカードとして、3dfx社の「Voodoo 2」または「Voodoo Banshee」が取り付けられていること。
起動手順:
1.Excel 95を起動し、カーソルを「A95」セルへ移動させる
2.「A95」セルに「MA42」と入力し、[TAB]キーを押下してカーソルを「B95」セルへ移動させる
3.「B95」セルに「FM21」と入力し、[TAB]キーを押下してカーソルを「C95」セルへ移動させる
4.「ヘルプ」の「バージョン情報」を選択し、「バージョン情報」画面を開く
5.[Ctrl]+[Alt]+[Shift]キーを押しながら、[製品サポート情報]ボタンをクリックする
6.全画面モードで「Hall of Tortured Souls」が起動する
前提条件を満たしていない、つまり所定のグラフィックカードがセットされていない場合は、上記の手順を実行しても「Hall of Tortured Souls」は起動しません。これは「Voodoo 2」または「Voodoo Banshee」相当、あるいはそれ以上の性能を持つ別のグラフィックカードがセットされていた場合も同様です。あくまで「Voodoo 2」または「Voodoo Banshee」がセットされている必要があります。
この条件下で起動された「Hall of Tortured Souls」は通常とは異なり、3dfx社の3Dゲーム用APIである「Glide」を使用した高精細な画面で展開され、通常よりもはるかに視認性が高くなります。また、通常起動後にキーボードから「EXCELKFA」と入力しなければ開かない「隠し扉」が最初から開いた状態になります。加えて「隠し扉」の奥にある細い小径に手すりが付き、「向こう岸」へ容易に渡ることができるようになっています。
小径を渡って「向こう岸」へ辿り着くと、本来掛けられている開発者の絵に代わり、何らかの携帯獣の絵が掛けられているのを確認することができます。これまでの調査では、掛けられている絵は「Hall of Tortured Souls」をプレイしている人間によって変化し、同じ人間が「Hall of Tortured Souls」を起動した場合は同じ絵になります。ただし過去に一度だけ、それまでとは異なる絵が出現したパターンが存在します。
迷路の中の絵として登場する携帯獣は、それまでに携帯獣との死別を経験していないプレイヤーの場合は、これまでに死亡した世界中のあらゆる携帯獣の中からランダムに選ばれます。そうではなく、何らかの形で死別を経験しているプレイヤーの場合は死亡した携帯獣そのものが選ばれます。複数回に渡って行われた調査により、登場する携帯獣は例外なく生前の記憶を明確に保ち、その携帯獣のみが知り得ること似ついても把握していることが分かっています。
携帯獣の絵に近づくと、画面下に小さなコンソールウィンドウが表示されて、絵がプレイヤーに対して英語のメッセージを送信してきます。メッセージは起動する都度変化し、その内容のほとんどは苦痛や困窮を訴えてくる悲痛なものです(「この場所は寒い」「ひもじい」「体のあちこちが痛い」「助けてくれ」等)。コンソールウィンドウにメッセージをタイプすることでこちらも応答を返すことが可能で、相手からは明らかにメッセージを理解していると見られる反応があります。これまでのところ、メッセージを送ること以外のこちらから取れるアクションは見つかっていません。
特殊な条件下で起動された「Hall of Tortured Souls」がどのような性質を持つのかは議論が分かれていますが、数名の局員はこの「Hall of Tortured Souls」が概念としての「死後の世界」のようなものに繋げられており、そこに携帯獣が囚われているのではないかとの見方を示しています。携帯獣のみが登場するのは、携帯獣が持つ自己情報化能力と何らかの関係があるのではないかとのことです。登場する携帯獣の特徴から、この仮説は立証こそ困難であるものの、有力な仮説の一つとして考えられています。
[1999-03-14 Update]
1999年3月11日早朝、本案件の担当者がCRTディスプレイへ顔を埋没させる形で死亡しているのを、別の局員が発見しました(事案#92112)。局員は個人的に養育していたエネコを2ヶ月ほど前に病気で亡くしており、「Hall of Tortured Souls」には前例に沿ってそのエネコが登場していました。局員は数日前に無断で「Hall of Tortured Souls」へアクセスしていることを上司に指摘されており、厳重注意を受けたばかりでした。当局では、局員が「Hall of Tortured Souls」を通してエネコと対話する過程で精神に変調をきたし、自死するに至ったものと結論付けました。
これに伴って取り扱い手順が改訂され、「Hall of Tortured Souls」へのアクセスはいかなる理由においても禁止されることが決定しました。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
Subject ID:
#76440
Subject Name:
考える貝
Registration Date:
1994-03-23
Precaution Level:
Level 2
Handling Instructions:
エリア#76440は事実上の自己収容状態にあるため、最低限の警備を除いては特別な対応は必要ありません。対応の主軸としてはむしろ住民#76440の精神衛生を保つことを優先しなければならず、そのためにカウンセリングの能力を持った人員を可能な限り多く配置すべきです。案件担当者は必要に応じて追加の人員を要請するための特別権限を付与されます。住民#76440からカウンセリングの要請があった場合は、必ず応じるようにしてください。
住民#76440に寄生しているシェルダーを安定した状態に維持するため、住民#76440は一般的に想定されるよりも多くの栄養を補給する必要があります。これに伴いエリア#76440は慢性的な食糧不足に陥っているため、現在は当局主導の下に住民#76440及びシェルダー向けの食糧供給を行っています。住民#76440の特徴から老衰や病気による死亡が滅多に見られず、観測開始から本稿執筆時点に至るまでエリア#76440内の人員の総数はほとんど変化していません。
Subject Details:
案件#76440は、携帯獣の「シェルダー」に寄生されたことで特異な能力を獲得した携帯獣(住民#76440)の群れと、彼らが生活を営んでいる人気の無い山村(エリア#76440)、及びそれらに掛かる一連の案件です。
当局がエリア#76440及び住民#76440について認識したのは、1993年末頃のことです。別案件の対応に当たって近隣を捜索していた局員が、偶発的に住民#76440と接触したことが端緒となっています。住民#76440の特異性を認識した局員は直ちに上席に報告、初期調査で多数の異常な点が見られたため、数日後には案件の立ち上げが決定しました。複数の住民#76440からのヒアリングにより取り扱い手順が定められ、本稿執筆時点に至るまで収容が続けられています。
エリア#76440は、ジョウト地方ヒワダタウン南東の山間部に位置する、海に面した小さな山村です。かつては人間が暮らしていたと思しき痕跡が残されていますが、過疎化が進んで多くの住民が退去し、少なくとも1980年代には廃村となっています。その後いずれかのタイミングで住民#76440が住み着き始め、現在のエリア#76440が形成されています。エリア#76440は住民#76440が居住する地域以上の意味を持たず、エリア#76440そのものに何らかの異常特性があるわけではありません。
住民#76440はエリア#76440内に居住している携帯獣であり、これまでのところ36体が確認されています(住民#76440-1から-36と指定)。住民#76440に共通する特徴は、体のいずれかの部位(ほとんどの場合は尻尾になります)に携帯獣の「シェルダー」が寄生していることです。寄生はシェルダーが部位に噛み付くことで行われており、その様態は携帯獣の「ヤドラン」に類似しています。ただしヤドランとは異なり、寄生しているシェルダーは一般的な二枚貝タイプのものに限られています。
ヤドランはシェルダーから注入される毒素により知能を飛躍的に発達させることで知られていますが、それと同じ現象が住民#76440にも見られます。住民#76440の知能向上はヤドランのそれよりもさらに著しく、局員の教育によりすべての個体がごく短期間に日本語をほぼ完全に習得したという事例が確認されています。住民#76440は物事を論理的に、かつ深く洞察する能力に長けており、自分たちがどのような状況/環境に置かれているかを正確に把握しています。
すべての住民#76440は、ほとんどの感染症に対して強い耐性を示しています。これは体内を循環するシェルダーの毒素が、侵入した異物を攻撃して速やかに駆逐する性質によるものです。加えて身体の老化もある一定のレベルで停止しているようであり、住民#76440は高い知性と共に極めて長い寿命を獲得しています。通常個体と比較して身体能力も強化されていることが分かっていますが、住民#76440の思慮深い性質から、戦闘へ発展するケースはまずありません。
発達した知性と長大な寿命のために、ほとんどの住民#76440は一日の大半を思索に耽ることで費やします。ヒアリングを通して、彼らは自分自身の生まれた理由や、シェルダーに寄生されて知性を得たことの意味について深く追求しようとしていることが分かりました。これは住民#76440の知性の現れと言えますが、しかし同時に大変に不毛な思索であり、かなりの数の住民#76440が人間で言うところの抑鬱状態に近い症状を呈しています。彼らは決してエリア#76440の外へ出ようとはせず、当局による収容下に置かれることを強く望んでいるようです。
以下は局員による住民#76440-12(♂のオタチにシェルダーが寄生しています)に対するヒアリングを、局員の許可を得てテキストへ書き起こしたものです:
---------- 録音開始 ----------
局員A:
始めてもよろしいでしょうか。
住民#76440-12:
はい。
局員A:
ここ最近、何か思うことがあるとのことですが。
住民#76440-12:
案件管理局の皆様のご厚意により、私たちはたくさんのものを得ることができました。それは言葉であったり、食糧であったり……何より、私たちのことを受け入れてくれたこと、そのものでしょうか。私たちは、案件管理局の皆様のご期待に沿えていますでしょうか。
局員A:
住民の皆様から得られた情報は、他では得られない貴重な知見として役に立っています。
住民#76440-12:
それは……何よりです。皆口には出しませんが、とても感謝しています。
住民#76440-12:
ですから、今なら客観的に、私たちの思いについて話すことができるように思います。聞いていただけますでしょうか。
局員A:
お聞かせください。
住民#76440-12:
知っての通り、私たちはシェルダーに寄生されたことにより、一般的な携帯獣から、知性を持った別の存在へと変貌を遂げました。以前別の局員の方が仰っていましたが、私たちの思考や生活様態は、携帯獣ではなく人間のそれに近しいと。私たちも、そのことについては認識しております。
住民#76440-12:
しかし――見ていただければ分かります通り、私たちの外見は少々異質な携帯獣そのものであり、人間とはまるで異なっています。ゆえに私たちは人間とともに歩むことはできない、仮に私たちがそれを望んだとしても、それを受け入れることは難しいということは十分理解できます。それは厳然たる事実として、私たちの中では既に合意している事項です。
住民#76440-12:
私たちは携帯獣でもない、ましてや人間でもない。では何か。私たちはこの問いに答えを出せずにいます。幾人もの仲間が幾度と無く言いました。私たちは私たちだと。けれどそれは、問いの本質的な答えではない。人間のような知性を持った、携帯獣のような風貌の生き物。私たちが何のために存在しているのか、私たちには分かりません。
住民#76440-12:
以前別の局員の方が仰っていた通り、私たちは長寿です。異常と言ってもいいでしょう。それは言うまでも無く、シェルダーがウイルスや病原体の類を駆逐してしまうためです。そして老いることもなく、傷を負ってもたちどころに治ってしまう。故に私たちは、長い時間を生きなければなりません。
住民#76440-12:
生きている意義を見いだすことができないのに、私たちは長い時間を生きなければならない。他の種族と相容れることなく、ただ私たちだけで生きなければならない。私たちはとても静かな、しかし決して終わりの無い無価値な戦いを続けていたように思います。
住民#76440-12:
けれど、私は局員の方々とお目にかかって、そして考えました。私たちがなぜここに居るのか――この不毛な問いに対する答えを求めることはやめにしよう、と。
住民#76440-12:
案件管理局で働く方々は、多くの、実に多くの、まったく理解しがたいものを扱っている。それが存在している意味を考えるよりも先に、この世界に危機をもたらさないために。
住民#76440-12:
私たちがすべき事は、私たちもそうした「理解しがたいもの」であるということを受け入れて――せめて、この世界に害を与えるような存在には堕さず、ただ静かに生きていくことだと。私はようやく、一つの答えを見たように思います。
住民#76440-12:
他の者はまだ、自らの存在する意味について考え続けています。自分たちが、何か特別な理由を持って生まれてきたのだと思っている、けれどその理由が分からずに苦しんでいる。そうではありません。私たちはただ「理解しがたいもの」に過ぎない。それ以上の意味は、恐らくは持っていないのです。
住民#76440-12:
そして……私たちがただの「理解しがたいもの」に過ぎず、ここに存在していることに何の意味も無かったとしても、この世界を害を為す存在でなければ、ここに生きていて良いのだと――私は、皆に伝えることができればと思っています。
---------- 録音終了 ----------
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
Subject ID:
#80060
Subject Name:
あめが ふりつづいている
Registration Date:
1995-05-16
Precaution Level:
Level 3
Handling Instructions:
エリア#80060の区域内には人や携帯獣を立ち入らせず、周囲を高さ3メートルのフェンスで囲ってください。内部に立ち入ることの危険性は少ないと推測されますが、エリア内の調査を実施する場合、実施に先立って詳細な調査計画書を提出し、調査の目的を明らかにしなければなりません。エリア#80060そのものは特徴の無い空き地であり、目立って調査が必要なオブジェクトや建造物は存在していないことが分かっています。
エリア#80060の持つ特異性のために、これまでに複数の要注意団体が制圧を目論んで攻撃を仕掛けてきています。案件担当者は必要に応じて警備を強化し、これら要注意団体による攻撃を退けることを徹底してください。当局が捕縛した構成員による証言は、エリア#80060に当局が把握していない何らかの未知の性質があることを示唆しています。エリア#80060を保全すると共に、要注意団体がエリア#80060の制圧に乗り出す理由についても突き止めなければなりません。
Subject Details:
案件#80060は、長期に渡って特異な現象が発生している区域(エリア#80060)と、それに掛かる一連の案件です。
エリア#80060はホウエン地方サイユウシティ南東部に位置する、およそ80平方メートルの小さな空き地です。内部には建築物などは存在しません。このエリアの特異な点はただ一つであり、端的に言えば「雨が止むことなく降り続けている」という言葉に集約されます。エリア#80060では周囲の天候とはまったく無関係に、常に一時間に15ミリから20ミリ程度の強い雨が降り続いています。
少なくとも10年以上前から、エリア#80060の降雨は始まっています。これまでの観測中に、一度でも天候が変化したという記録は存在しません。当該区域は当局が関知する以前から「雨の降り続いている場所」としてごく一部の人間に知られており、降り続く雨によって近隣とはやや異なった生態系が構築されていました。当局は雨の降り続いている区域をエリア#80060として隔離し、異常なロケーションのひとつとして管理しています。
エリア#80060は当局による観測が開始されてから、範囲が拡大する兆候も縮小する兆候も見せていません。一貫しておよそ80平方メートル以内の区域にのみ強い降雨が続き、周囲には通常の降雨に伴うものを除いた影響を及ぼしていません。周辺は無人であり、アクセスの利便性も低かったために、地域住民でもエリア#80060の特異性について認識していた者はごく少数に留まっていました。
わずかに得られた情報として、かなり以前にエリア#80060付近で雨乞いをするマリルやマリルリの群れが目撃されたというものがありますが、目撃されてから相当な時間が経過したことに伴い、信憑性の有無を検証することはもはや困難であると考えられています。現在はエリア#80060の起源についての調査は優先度が落とされ、当地域にて降雨が続く原理についての調査に焦点が当てられています。
[2009-07-22 Update]
エリア#80060の「雨が止むことなく降り続いている」という特異な性質のために、エリア#80060及びこのエリアを収容するための拠点であるホウエン地方サイユウシティ第二支局は、複数の要注意団体から散発的な攻撃を受けています。特に、近年ホウエン地方を中心に急速に勢力を拡大させている環境テロリスト「アクア団」は、その行動理念からエリア#80060に強く執着しているようです。同団体が頻繁に不法侵入や襲撃を繰り返すために、以前から常駐の局員のみでは対応が困難であるとの声が上がっていました。同団体の攻撃に対処すべく、ホウエン地方サイユウシティ第二支局には機動部隊アルファ-サファイアを常駐させる方針が固められました。機動部隊アルファ-サファイアは、2009年9月より支局に駐留する予定となっています。
Supplementary Items:
本案件に付帯するアイテムはありません。
雲の多い空。この季節は、大体こんな天候が続く。たまに晴れたかと思うと、午後になったらどんより曇ってたりする。
でもそうは言っても、雲一つないかんかん照りのお日様さんさんすっきり快晴って天候が、いつもいつでも最高ってわけじゃない。これくらい曖昧な天候の方が、日焼けもしないし、汗だって少なくなるし、面倒くさくなくていい。
何かこう、あれだ。物事をすっぱり一個の方向に倒してしまうのは、いろいろと面倒くさいことが多いのだ。すっぱり行った方がその時は気持ちいいかも知れないけど、後からごちゃごちゃして面倒になるのだ。
「なんかテレビ観た? 昨日とか」
「ううん、あんまり。エヌエッチケーのニュースだけ見て、それから消した」
空模様はもういいや。隣にいるのはネネだ。これもいつも通りの光景の一つ。
あたしの家とネネの家は離れてるから、待ち合わせして一緒に学校へ行くってことはほとんど無い。その代わり、通学路の途中で会ってそこから並んで行くってパターンが多い。ネネの方が学校から遠かったから、あたしよりも早めに家を出てるはずだ。この学校は、校区が結構広い。端から端まで入れると、一駅分くらいはあったはずだ。
「ふーん。じゃ、何してたの?」
「ネネはねー、凛さんといっしょに本読んでた」
「えっ、本?」
「絵本じゃなくて、普通の、文字の多い本」
「そりゃいくらネネだからって、絵本は読まないでしょうよ。もう中学生なんだし」
「けど、ネネ絵本も好き。『となりのせきのますだくん』とか」
「あー、あの怪獣みたいな子が表紙になってるやつ」
だいたい想像が付くと思うけど、ネネはあんまり本とかは読まない。もちろん勉強のために教科書を読むのはあるけど、自分から進んで小説とかラノベとかを読むタイプじゃない。こないだあたしが図書室で借りて読んでた「イリヤの空、UFOの夏」を読ませてみたら、数ページで「もういい」って返してきたくらいだ。だから、ネネが「本を読んでた」ってのが、あたしにとっては結構意外だった。
「ネネが本読むなんて、珍しいじゃん」
「凛さんがね、ネネも本読んだ方がいいって言ってた」
「そりゃま、読まないより読んだ方がいいけど。何読んでるの?」
「うーん。えーっと、『霧のむこうのふしぎな町』って本」
「あー、なんかそれあたしも聞いたことある。小四の時に読まされた、課題図書で」
「おもしろいから、うちに帰ってから続き読む」
なんかこう、女の子が夏休みに旅行するんだけど、「不思議の国のアリス」かよってくらい変な人ばっか出てきて、読みながら「こんな変な人いないよ」って突っ込んでばっかだった。他の内容はほっとんど覚えてない。最後どんな結末だったかも忘れた。けど、ネネは面白いらしい。ネネの好みはよく分かんない。
とかなんとかやってたら、横から人影が。
「おーっす、さっちーにねね子」
「おはよ、ケイ」
「ケイちゃんおはよー」
「よぉねね子。ねね子は今日もちび助だな」
ケイだ。同じクラスの同級生。あたしやネネとよくつるんで、しょうもない話をしたりお弁当を一緒に食べたりしている。ごくごくふつーの友達だって思ってくれればいい。細かいことは置いといて、まあそういうことだ。ネネの髪の毛をわしゃわしゃぐじぐじやりながら、ケイがからりとした笑顔を見せる。
「毎朝ぎゅーにゅー飲んでるけど、ぜんぜん背のびない」
「牛乳飲むのはいいけどよ、ウチみたいにぐんぐん伸びたらそれはそれで面倒くさいぞ」
「ネネ、ケイちゃんみたいにおっきくなりたい」
「背が高くていいことなんてそんなにねーって。ま、ねね子が大きくなるなんて想像も付かねーけどな」
ちょっとだけ補足しておこう。ケイは、名字まで入れた名前を「五十嵐恵(いがらし・けい)」という。五十嵐、っていうなんか強そうな名字に負けない感じのぐいぐいキャラで、あとあたしよりも髪が長くてそこは女子っぽいんだけど、見てもらったら分かる通り口調がすごい男子っぽい。一人称が「ウチ」なのが、かろうじて女子っぽいと言うか。
あとはアレだ。いつも日に焼けて肌が真っ黒なのも、そういう印象を与えてるような気がする。なんで日焼けしてんのかっていうと、別に遊んでるわけじゃなくて、もっとマトモな理由がちゃんとある。
「ケイー、朝練無かったの?」
「今日はナシになったんだよなー。顧問が来れねーとかで。ウチ朝走らないとエンジン掛かんないんだよな」
「えー。朝からグラウンド走るとか、考えただけでマジ鬱になるんだけど」
「分かってねーなー。朝は体動かした方がいいんだぞ」
ケイは陸上部に入っている。元々体を動かすのがすごい好きで、さすがに最近はやらなくなったけど、小学生の頃は男子と一緒にあっちこっちを走り回って、イワヤマトンネルまで探検に行ったりしてたらしい。そこでイシツブテと殴り合ったとか、かなり無茶な話を聞かせてもらった。てか、無茶すぎるよ、イシツブテと殴り合いは。
陸上部でも結構よくできるみたいで、先輩とかと一緒に練習してるのをちょくちょく見かける。そう言うあたしは何にも入ってない。しいて言うなら帰宅部。さっきは小学校のときの話だったけど、もっと前から運動は得意だったみたいで、体育でも何やっても大体あたしよりうまい。あたしは体育嫌いだし運動苦手だしで、とりあえず平均よりちょっと下ぐらいが精一杯だ。どうやってもケイみたいには行かない。
だからあたしは、ケイのことがうらやましい。ケイみたいな運動神経がほしいと思う。
「そう言えば、ここ来る途中にまたラジオ塔の近くに人集まってたな」
「あー知ってる。なんかまた変なものが落っこちてきたって。局の人が集まってなんかわちゃわちゃやってた」
「大変だよな、わけわかんないものあったらすぐ呼ばれるんだから。ウチも一回呼んだことあるけどよ」
「どういうので呼んだの?」
「えーっと、ギギギギーってすっげー嫌な声で鳴くヤバそうなコラッタがいてさ、捕まえてもらった。ラジオ塔の近くで」
「何それ気色悪い。何か変な幽霊でも取り付いてんじゃないのそれ。ラジオ塔の近くだし。だいたいあのラジオ塔って、ポケモンのお墓あったとこ壊して作ったやつでしょ?」
紫苑市はそんなに広くない、どっちかって言うと狭い町だけど、どういうわけかでっかいラジオ塔があって、結構遠くからでもラジオを聞くことができる。最近はインターネットのラジオも始めて、パソコンとかスマホとかでも聴けるようになったみたいだ。まあ、科学の進歩はすごいんだ、とにかく。
あのラジオ塔ができる前は、あたしがまだ幼稚園とかの時だったからよく覚えてないけど、死んだポケモンのお墓がずらーっと並んだ、七階だか八階だかの、今のラジオ塔よりちょっと低いくらいの別の塔が立ってたらしい。その名も「ポケモンタワー」。ひねれよ、って突っ込みたくなる。なんかこう、ポケモンの霊を慰霊するとか、そういう目的で作られたらしいけど、まあ辛気臭いし不気味だしってことで、そんなのじゃなくてもっとマトモなものを建てろって人が集まって、それでラジオ塔に建て直されたって寸法だ。
あたしもその気持ちは分からないわけじゃない。昔死んだ人のことより、今生きてる人のことの方が大事だっていうのは、なんか、うんそうだねって言いそうになる。
「ポケモンタワーだっけ? んなもん無い方がいいに決まってんじゃん」
ただ、なんか、こう。
「ポケモンの霊なんか慰めてるより、音楽の一つでも流してた方がぜってーいいって。ただでさえ葬式ん時みたいに静かなトコなんだから、ココは」
紫苑市は静かな町だ。本とかテレビがここを紹介するような時は、九割がた「静か」って単語が入ってる。実際住んでて静かだって思う。ただこう、静かというよりも、音が無いと言う方が正しい気がする。子供が外で遊ぶ声とか、誰かが話してる声とか、そういう音、確か生活音っていうのか、そういうのがほとんど聞こえてこない。みんな中に閉じこもって、外に出てきても一人でいることが多い。
それでも、この場所自体は大人気だ。玉虫市や山吹市にはその気になれば歩いてでも行けるし、道路も電車もちゃんと整備されてる。トンネルを抜ければ、縹(はなだ)市だってすぐ側だ。ちょっと遠出したいなら、海も山もある石竹市へ行けばだいたいオッケー。どこへでも行けて便利だから、紫苑市は住む場所としては大人気だ。
だけど、それは本当に人気があるって言えるのか、とも思う。例えば誰かが新品のゲームを持ってたとして、それが買うのがすごい難しいのだったら、持ってる子にみんな集まってくるだろう。大人気だ。でもそれは、その子自体が人気なんじゃなくて、ゲームが人気だから、って理由だと思う。紫苑市もそれと同じで、紫苑市がなんかいいとか紫苑市が好きだとかいう人はあんまりいなくて、あっちこっちへ行けるから好きって人がほとんどだと思う。
もし玉虫市とか山吹市とかがこの世に無かったら、人気なんか出なかったんじゃないか。玉虫市とか山吹市とかがあるから、ついでに人気になったんじゃないか。なんか、そんな風に思ってしまう。
「ラジオ塔の方がさっぱりしてるし役に立つし、さっちーだってそう思うだろ? 他に何もねーんだし」
「まあ、そうだよね。ここ、ポケモンジムも無いし」
ケイはポケモンタワーなんか無い方がいいって言う。死んだポケモンをどうこうするより、生きてる人の役に立つ方がいい。たぶん、そういうことを言いたいんだろう。実はあたしも、ケイとほとんど同じことを考えてる。正直、ポケモンタワーが無くなってよかった、そんな風にも思ってる。けど、ケイみたいに堂々と口に出して言うのはさすがにできない。死んだポケモンにこだわってる人だっているし、そう言う人に目をつけられるのは面倒くさい。
何かを考えるのは自由で、そもそもそれを縛ることはできない。だけど、思ったことをそのまま口に出していいかは別の話になる。何か言ったら、他の人から「そうじゃない」と言われることも受け入れなきゃいけない。そういうことを言う人は決まって面倒くさい。面倒くさいので、最初から関わらないようにした方が何かとお得なのだ。
「あれ? ネネは?」
とまあ、朝っぱらからカロリーを使う考え事をぐだぐだやってると、いつの間にかネネがいなくなっていることに気付いて。
ちょっとばかり周囲を探してみると、学校の敷地内にある砂場に目が留まって、あ、もしかして、ってなる。その「もしかして」は、しっかり当たっていた。
「よしよーし。いいこいいこ」
例によってスパッツ丸見えの無防備な姿勢でしゃがみ込んで、子供のカラカラをなでているネネの姿があった。それにしても凛さんはさすがだ。ネネはいくら言ってもあの座り方をやめないから、見えてもいいようにしておこうって寸法だろう。ネネ本人はカラカラと遊ぶのに夢中で、割とはしたないことになっていることにちっとも気付いていない。
まあ、楽しそうならいいか――って訳にも行かなくて。
「おいこらねね子! なぁにやってんだ!」
お隣のケイがいきなりダッシュして、砂場にいるネネとカラカラのところまで追いついた。また始まった、ため息をつくあたし。この光景は、今日が初めてなんかじゃない。
「あ、ケイちゃん」
「『あ、ケイちゃん』じゃねーよ。いい年こいてカラカラなんかと遊んでたら、笑われんぞ」
屈んでいたネネの腕を引っ張って立たせて、ついでにカラカラを追い払う。
「ほら、向こう行け向こう。学校は野生のポケモン立入禁止だぞ」
「またねー」
「だから『またねー』じゃねーよ。お前何回言えば分かるんだっての」
ネネが抜けているのも、抜けているネネにツッコミを入れるケイも、まあいつもよく見る光景だ。ケイの言う通り、ネネは何回言ってもポケモン、特にカラカラと遊ぼうとするのをやめない。で、ケイはそれが嫌だから、何回でもネネに突っ込む。とまあ、こんな具合だ。
「お前さー、ねね子さー、なんでカラカラと遊ぼうとすんだよ」
「だって、さよりさんといっしょに遊んで、たのしかったし」
「さよりさんってあれだろ? 二年くらい前にラジオ塔から飛び降り自殺した変な高校生じゃん」
「あー、あの人か……ネネと一緒にいるときに会ったことあるけど、まあ変な人だった」
「だろ? だからネネにも遊ぶなって言ったんだよ」
「うーん。さよりさん、いろいろおしえてくれた。いい人だった」
「んなわけねーよ。あんまり変な影響受けてると、フツーのオトナになれねーぞ」
ネネとケイが言い合う様子を見ていると、今度はまた別のクラスメートがやってきて。
「おーい! ケーイちゃーん! おはよーさーん!」
「朝から声でけーよトウカ。相変わらず元気でいいよな」
「だってほら、みんな元気な方がええやん! 元気無くてしょぼーんってしてるより絶対ええって!」
「橙ちゃん、おはよう」
「あ、さっちゃん! おったんやな、おはようさん!」
トウカ、あるいは橙ちゃん。本名を「假屋崎橙花(かりやざき・とうか)」という。あんまり無い名字だから、まあ大体はあだ名で「橙ちゃん」「トウカ」「花ちゃん」辺りで呼ばれる。元々静都の小金市に住んでたから、見ての通り譲渡弁で話す。確か中学一年のときに引っ越してきて、あっという間にここに馴染んでしまった、ような気がする。いろんな小学校から一つの中学に集まるわけだし、タイミングとしてはちょうどよかったんだろう。
で、元々の元気のよさとテンションの高さで、今はクラスを引っ張るようなキャラとして通っている。中一の時もあたしと同じクラスだったんだけど、遠足とか運動会とか、そういうイベントになると大体中心にいた。
「なあケイちゃん、今度の土曜日さ、どっか遊びに行けへん? うちケイちゃんと遊びたい!」
「土曜ってお前、ウチ部活あんだけど」
「せやったら、終わってからでええから。な? お昼から。決まりやな!」
「まーだ行けるって言ってねーだろ」
そしてこんな感じで、わりと強引なところにもある。だから、他の子と意見がぶつかったりするのもしょっちゅうある。
実を言うと、あたしは橙ちゃんのノリに付いていくのがちょっとツラいと思ってる。元々イベントとかあんまり興味ないし、何かに盛り上がるっていうのがイマイチ苦手だった。それでもって強引なところもあるから、面倒くさいと思うこともちょくちょくあったりする。
「あっ、よっちゃんや! おーいよっちゃーん! おーい!」
興味があっちこっちに移るのも、橙ちゃんの特徴だ。気持ちが切り替えが早いとも言えるし、飽きっぽいとも言える。
「よっちゃんおったわ、ケイちゃん行くで!」
「おい、ちょっ、トウカ待って、待てって!」
「あー、行っちゃった」
ケイを引っ張っていく橙ちゃん。残ったのはあたしだけ。
ネネは? と言うと。
「じゃあね。今度また、ネネとあそぼう」
取り残されていたカラカラを抱いてわざわざ敷地の外まで持っていってから、また遊ぼう、なんて言っていた。
*
はぁー、とため息をつきながら、教科書とノートを机の中へ押し込んで、横にできたスキマにペンケースを突っ込んで。お弁当以外を全部出したカバンを横のフックに引っかける。まあいわゆるルーチンワークってやつだ。一年とちょっとも同じこと繰り返してたら、体だって覚えてくる。
木製の椅子をぎしぎし言わせながら座ると、ちょうどいいタイミングで前の席に座ってるクラスメートがやってきた。
「おはよー、ゆみ」
「おはよう、幸子ちゃん」
この子はゆみ。眼鏡にツインテの、なんとなく勉強ができそうな感じに見える子って言えば、どんな感じが伝わるだろうか。あと童顔、だってよく言われるらしい。気にしてるって聞いたような気がするけど、年取ってるように見られるよりはいいと思うけどなぁ、あたしは。
「ふわ……あぁ……今日も学校かぁ」
「ゆみったら、今日も相変わらず眠そうじゃん。また遅くまで勉強?」
「そうだよう。塾で宿題どっさり出されちゃうから、ヤになっちゃうよ」
「あー……まあ、ゆみは塾通ってるからね」
「うん。けど、週に三日もあったらさ、それだけでヘトヘトになっちゃうよ」
ゆみはお父さんとお母さんに言われて、駅前にある学習塾に通ってるらしい。今からレベルの高い高校に行くための準備をしてて、それで週に三日も遅くまで塾に缶詰になってるそうだ。そりゃあ眠くもだってなるだろう。学校のほうが疎かになってもしょうがない。
そんな風なので、ゆみはクラスでも一番目か二番目に賢い。頭がいい。テストでも大体の教科は90点くらい取るし、極端に落ちたりもしない。学校のテスト勉強と塾でやってることは全然かみ合わないから、テストの前にはテスト用の勉強をしてるわけで、二倍くらい忙しくなる。それでも安定してるってことは、つまり元々頭がいいってことだ。
前に一度国語で86点だったことがあるって言われて、ものすごく落ち込んでたのを見たことがある。ちなみにあたしはその時76点で、これが70点以上取れると思ってたから心の中でガッツポーズしてた。86点で落ち込むゆみにどんな言葉をかけたらいいのか、いくらなんでもちょっと別世界過ぎて、正直よく分かんなかった。とにかく、勉強がすごくよくできるのは間違いない。あたしと違って。
だからあたしは、ゆみのことがうらやましい。ゆみのようによく回る頭がほしいと思う。
「ゆみさー、いつも思うんだけどさー、ホントによく塾とか通えるよ」
「疲れるだけだよ。言われたことやるだけで、精いっぱいだし」
「あたし小三か小四の時に進研ゼミやってたけど、三ヶ月ぐらいしか続かなかった」
「うーん……塾行ったら、勉強以外のことできないしね」
「あー、それはありそう」
「それで家に帰ってきたら、疲れて寝ちゃうだけだし。親が勉強しろ勉強しろって、いつもうるさく言ってるから」
ゆみの顔を見ながら、なんとなく会話を続けてみる。
「ゆみの親、なんで勉強しろって言うんだっけ? なんか前も聞いたかもしんないけど」
「わかんない。勉強しないと大変だって言うだけだし。けど、なんとなく分かるかも」
「どういう感じ?」
「たぶん、トレーナーやってて苦労したからだと思う。どっちも長いことトレーナーやってて、二十歳くらいまでがんばったけど、結局ダメだったって」
「そういえばそれ、聞いたことあるような」
「それからあきらめて働こうとしたけど、どこも雇ってくれなくって、やっと見つけたのが今の仕事だって」
「だからかー。ゆみにはいい高校へ通っていい大学に入って、それでいい会社へ行って、的な」
「それで、自分には同じようにはなってほしくないんだと思う。ポケモンにも関わるな、って何回も言われてるし」
面倒くさそうにため息をつくゆみを見ていると、ふと、ゆみが小学生の頃を思い出して。
そういえば、ゆみは飼育係……生き物係だったっけ、とにかくそれっぽいのをやってた。小屋の中でオタチとスバメを飼ってて、クラスで決めた飼育委員が週代わりで面倒を見てたっけ。中学になってからそういうの無くなったからすっかり忘れてたけど、ゆみは確か自分から生き物係やりたいって言って、無言で押し付けあってたみんなをしれっとびっくりさせてた気がする。
「しずえさん、今日も朝から黒板消しきれいにしてる」
「毎日マメだねー、しずえさん」
なんとか係じゃなくて、なんとか委員会なら中学にもある。その代表だって言ってもいい学級委員をしてるのが、我らがしずえさんだ。
「んー。あのさ、ゆみ。しずえさんの苗字、あれなんて読むんだっけ?」
「えっと……思い出した。『まじきな(真境名)』だよ。あんまりない苗字だよね」
「うん。あたしが知ってるの、しずえさんだけだし」
しずえさん。ゆみから教えてもらったとおり、苗字は「真境名」だ。これも滅多に無い苗字だ。あたしのクラスはこんな一風変わった苗字の人がやたら多い。教師がわざと集めたんじゃないかってネタにされるくらいだ。
ところでなんで「しずえさん」なのかって言うと、単純に名前が「静枝(しずえ)」だからっていうのと、ちょっと前に出てみんな買ってたとび森で同じ名前のキャラが出てきて、それがこっちのしずえさんみたいに働き者だったから、これピッタリじゃん、っていうのが理由だ。
「しずえさん、いかにも学級委員って感じだよね」
「真面目そうだからね。自分とは違うよ」
「えーっ、ゆみだってマジメっしょ」
「意外とそうでもないよ。よく真面目っぽいって言われるけどね」
そんなこんなで時間を潰していると、いい具合に時間になる。さあ、そろそろ朝の会だ。
今日もまたいつもと変わらない、昨日と同じ一日が始まる。
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