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外出用の服に一通り着替え終え、階段を降りて玄関に向かう。
コウキが階段を降りる音に気づいたのか、マイが自室から顔を覗かせる。
「兄お出かけ?」
「うん。ちょっとジュンと出かけて来るよ。晩ごはんの支度には間に合うように帰ってくるから!」
靴を履いて、勢いよく玄関から飛び出す。
それと同時に、『何か』が家の裏の方から駆けてきてコウキの肩に飛び乗る。
『何か』とはコウキのパートナーである電気タイプ、『こねずみポケモン』のピチューだ。
「行くぞ、ピチュー!」
コウキはフタバタウンからマサゴタウンへ続く『201ばんどうろ』へ向けて走り出した。
…………………
「遅いぞコウキ!」
201ばんどうろの看板の下、既にジュンと彼のパートナーの『よなきポケモン』ムウマが待っていた。
「そんなに待たせてないだろ?僕だって急いで出てきたんだから」
「そんなのはどうだっていいんだよ!早くマサゴタウンに行こうぜ!」
話があまり噛み合わないまま、2人と2匹はマサゴタウンへ向けて201ばんどうろを歩いて行く。
「でも、どうしてジュンはそんなにナナカマド博士のポケモンが欲しいの?」
ふと、コウキは頭に浮かんだ疑問をジュンへ問いかける。
少し考える素振りをした後、ジュンはコウキの質問に答えるべく口を開いた。
「旅に出たいんだよ!」
「旅に?」
「あぁ!バトルはフタバタウンの誰にも負けない自信がある。けど、それだけじゃもっと強く…ダディみたいに強くなれないんだ!」
(ジュンの…父さん)
コウキはジュンの父親について思考を巡らせる。
ジュンの父親は、彼がまだ小さい頃に旅に出ていってから殆ど家に帰っていないらしい。
コウキ自身も会ったのは一度だけで、しかもかなり幼い頃の出来事のために記憶が曖昧である。
しかし、一つだけ覚えているのは、彼のバトルの腕だ。
当時トレーナーではなかったコウキやジュンから見ても、彼の実力の高さをはっきりと感じることができた。
そんな父親だからこそ、ジュンは彼を目標とし、その背中を追いかけるためにも旅に出たいと言ったのではないかとコウキは考えた。
「だったら、今まで以上の努力が必要だろ?もっと強くなるためにはさ!」
「そんなのとっくに知ってるよ!だからこそ旅に出て、ジムに挑戦して、いつかダディを越えて見せる!」
そんな事を話しているうちに、2人はマサゴタウンに到着した。
コウキとジュンは早速ナナカマド博士の研究所を訪ねる。
正面玄関の呼び鈴を押すと、研究所内からナナカマド博士の助手であろう研究員の女性が出てくる。
「何のご用かしら?」
「俺ジュンです!早速、俺にポケモンを下さい!」
「はいっ!?」
「違うだろジュン!」
自分の気持ちをストレートに言い放ったジュンにコウキが思わずツッコム。
──全く、せっかちにも程がある。──
「僕の名前はコウキと言います。あの、ナナカマド博士はご在宅ですか?」
「あら、あなたたちナナカマド博士に用事?」
「はい!ナナカマド博士に会ってポケモンを…」
「ジュンは黙ってて」
先程の様に話を拗らせないように、ジュンの言葉を遮る。
「なんだってんだよ〜!」と騒いでいるジュンを尻目に、コウキは研究員の女性と話を続ける。
「ナナカマド博士なら、助手のヒカリちゃんと一緒に『シンジ湖』に行ってるわよ?」
『『シンジ湖』に!?』
シンジ湖と言えばシンオウ地方の三代湖の一つに数えられる湖で、フタバタウンの近くに存在する。
しかも、彼らが今いるマサゴタウンとは正反対の方角に、その湖はある。
つまり、コウキとジュンがここへ来たのは無駄足になってしまっと言うことだ。
「なんだってんだよー!折角ポケモンが貰える……じゃなくて、博士に会えると思ったのによぉぉ!!…って、コウキ?」
コウキの何かを考えた込むような、それでいてどこか不安そうな表情に気づき、ジュンは言葉を止めた。
「あの、博士たちは何をしにシンジ湖に?」
「え?シンジ湖に生息するポケモンの生態調査だけど、それがどうかしたの?」
「博士やヒカリって子はポケモンを持っていきましたか?」
「ヒカリちゃんはポケモンを置いて、博士は成長過程を観察中のポケモンを連れていったわ」
(『成長過程を観察中』ってことは、レベルの低いポケモンだよな…)
コウキの表情にあった不安の色が徐々に危機感に変わっていく。
彼の頭の中に、ある最悪の出来事が想像されたからだ。
「ジュン!シンジ湖に行こう!」
「一体どうしたって言うんだよ!?」
「今のシンジ湖にポケモンを持たずに行くのは危険なんだ!だから、2人が危ない!」
そう言ってコウキはシンジ湖に向かうために、急いで201ばんどうろへ引き返していく。
その場に残されたジュンと研究員は何がなんだか分からず、ただ立ち尽くしていた。
「え…2人が危ないってどういうこと!?」
「よく分かんねぇけど、兎に角俺たちに任しといてください!俺はバトル強いですから!」
ジュンもコウキの後を追って駆け出す。
-3-
おや、13時か。確か職員からいろいろ質問をされてベッドで横になったのが23時だから、かれこれ14時間も寝ていたという事か。ふむ、寝不足の私にはちょうどいいかもしれない。
はは、スタリよ。くすぐったいぞ……起きたとたんに私の顔を舐めるな。とはいえ、私は朝起きても顔を洗わないから、お前がいてくれないと顔を洗う切っ掛けすらもつかめないから一応感謝はしているのだがな。
洗うと言えば、そういえば……昨日は久しぶりに風呂に入ったかな。かれこれ一週間近くか、汗は掻かなくとも呼吸と鼓動が意思とは関係なしに続いていく限り、新陳代謝は起こるから垢はたまる。
昨日の風呂で流れおちた垢はすさまじいものだったなぁ、うむ。心なしか体が軽くなった気分すらするぞぉ。
さて、昨日拾ったあの子はスタリ程ではないがなかなかにかわいらしい見た目をしていた。心の三妖精とも三海月クラゲとも呼ばれる存在で、一部ではマニアもいると聞いた。
そういえば、昨日運びこんだ時は結構な重症だったが、生きているのだろうか? 一応、社交辞令程度に安否を気遣って、もし死んでいたら線香の一つでもあげてやろう。もし死んでいた場合、このポケモンセンターに線香が売っているとよいのだがな。
とにもかくにも、カツラをつけてコートを羽織り、さっさとチェックアウトをしようではないか……。
「よう、ジョーイさんよ。昨日野性のユクシーを拾ったものだ。その後、ユクシーの容体はどうなったのだ?」
「あ、えっとですね……峠は越えたようですので、後は容体を見ながら少しずつ検査を続けていく方針のようです」
「なるほど、線香を買わないで済んだか。ポケモンセンターに御線香が売っているかどうかを心配するのは杞憂であったな」
なんだ、ジョーイさんは私の言葉に呆気に取られている。こんな言葉、私が本気で言っているか否かにかかわらず軽く笑って聞き流せばよい物を。全くどいつもこいつも……医療の現場ではイレギュラーがつきものだと言うのに、イレギュラーな現象である私に対する耐性の低いことだ。
こんなんで、このポケモンセンターは大丈夫なのだろうか? 早急に新人の教育が必要だと思うがな。
「せ、線香……あはは、気が早いですよ。あ、え〜……それと、もう一つなのですがね……あのユクシー喋るのです」
「ふむ……まぁ、驚きはしないよ。テレパシーでしゃべるポケモンなど、珍しいが何処にでもいる。そうか、喋るのか……しかし、それがどうしたのだ?」
「貴方の……助けてくれた人物の名前を……尋ねておりまして……」
「ふむ……確かに名乗っていなかったな。どれ、読めるかどうかわからんがこいつを渡してやれ」
バッグの中に、あれは常備している。
「チクナミ大学、システム情報工学研究科ドクターライセンス。『前田愛美奈エミナ』だ。あぁ、覚える必要はないぞ……ただ、三年程前カントーに赴いた時、大学の学園祭でプログラムバグ慰霊祭*2に参加して以降、久しく自分の名前を名乗った事が無かったから、たまには言ってみないと忘れそうなのでな。だから言ってみただけだ」
「は、はぁ……ではユクシーに渡しておきます。というか、渡しても何か意味があるのかな……」
知るか。
「ふむ、それでは達者でな」
さて、今日は私と同じくエサが尽きかけていたスタリの食料も一緒に購入してさっさと家に帰ろう。私の食料も合わせて12kg近くある重量は運動不足の私には堪えるが……まぁ、良いか。
◇
「ただいま、自宅警備員達よ」
言うなり、私のもとに群がってきたのはポリゴン2。角ばった情報生命体のポリゴンにアップグレード用のプログラムを打ち込んで、なめらかなボディを獲得した可愛らしい奴だ。
バトルには興味が無いとはいえ、5匹も家に飼っていればそれなりに警備効果が気になるところだ。なんでも、特殊面に優れたポケモンだとかで、ノーマルタイプゆえに攻撃範囲も広くいろんなポケモンに対して潰しがきく、万能型のポケモンなのだと言う。
さて、このポケモン。訪問者を見て見知らぬ人物であれば近寄らないように警告して、それでも近付くようならば威嚇射撃。それでさえひるまなければ一斉攻撃を行うように調教されている。
もちろん、来訪者がインターホンを押すくらいならばそのような行動を起こす事はないが、以前庭の地面が一部えぐれていたことがあったから、少なくとも威嚇射撃を行うべき事態があった事だけは間違いないのだろう。
近所の子供が『ボールが入っちゃったんで取らせて下さい』と言いに来るような場所ではあるはずもないので、威嚇射撃を行った対象が泥棒だと言う事になるのならば頼もしい奴らである。
「さて……トゥプに変化はないのだな。ふむ、再アップグレーダーは失敗作か……ならば、今からまた新しいプログラムを作成しようぞ、自宅警備員たち。トゥプは後で元の状態にダウングレードだ」
*2 情報科学類において、自ら生み出しそれを滅したということに対する免罪の意味から、実地されるイベント。プログラムバグ慰霊祭(通称「バグ祭」)
「やあ、ジョーイさん。見ろ、すごい物を拾ったぞ」
ここに来るのも久しぶりだ。フィラリアのワクチンやらダニ防止用の首輪やらで年に数回は来ているが、やはりスタリはこの匂いが嫌いなのか九本の尻尾がすべて縮こまっている。トレーナーのポケモンにとっては、注射や検診を行う施設としてよりも、軽傷を治療装置によって回復したり宿泊施設だったりという印象が高いのであろうから、むしろポケモンは怪我を治そうと入りたがるのだと言う。
スタリもそういうふうになってくれれば楽なのだがな。そう上手くは行かないか。だが、尻尾が丸まっているのはロコンの頃の尻尾の形を思い出して若干かわいらしくて味がある。たまにはこういうのもよいかもしれない。
私は、この整然とした雰囲気や、生き物が行き交う場所でありながら、生き物の匂いよりも薬品の匂いに埋め尽くされた矛盾にエクスタシーを感じるのだが、ポケモンにはやはり注射を打たれる恐怖というのが染み付いているものなのだな。
さて、受付のジョーイさんは患畜を見て面食らったぞ。全く、こんなものメノクラゲかメロンパンと同じようなものだと思って軽く受け流せばよいものを。
「ちょ、このポケモン……」
「野性だぞ。私とて、この子を捕まえるほど畏れ多くはない」
無粋な質問攻めは、あらかじめ今のように突き放すことで障壁を張っておこう。なぁに、私はただこのポケモンをダシにヒッチハイクの理由を見つけたかっただけなのだから聞いても何も出てくるわけがない。
「院長、大変です」
おや、ジョーイさんは慌てて駆けて行ってしまったよ。
さて、私はどうするか……何かをジョーイさんに聞かれようとも答えることなど何もないのだから何処かへ行ったって構わんだろう。『待っていて下さい』とでもあらかじめ言われていれば別だがな。
お、そういえば……ここのポケモンセンターはただの超獣病院ではなく、旅するトレーナ用の宿泊施設もあるはずだ。ならば、食事を出す施設も内部にあって然りと言うものだろう。ふむ、ビタミンを取るあてが出来たぞぉ。いや、どうせ昨日からロクに寝ていないのだ。今日はここに止まると言うのも悪くない。
これで、荒れた肌もビタミンCと睡眠で元通りになるとよいのだが……ふむ、四十路を過ぎたこの年ではたかが1日ではお肌の回復など到底無理であろう。せめてもの抵抗として食後にビタミンCの豊富なお菓子でも食べて、それをを補給しておこう。
さて、さすがに食堂で血のにおいを振りまいていたら料理が台無しになって顰蹙ひんしゅくを買いそうだ。その前にトイレで手を洗っておくべきかな。
「さて、行こうかスタリ。血の匂いを洗い流さねばならんのでな……」
しかし、スタリの奴はあのポケモンの血を美味しそうに舐めていたな。いつ喰ってしまうのかと冷や冷やしてしまったぞ。こんなシンオウの最北端に位置するこの地域で冷や冷やさせるのは凍死してしまいそうだから、願わくば自重して欲しいものだ。
まぁ、そこは賢いスタリの事、傷口を舐めることであの子の傷口を綺麗にしてあげたのだと考えてあげることにしてやろう。
それに人間の唾液にはモルヒネの数倍の力を持つ鎮痛作用のある物質が含まれているとも言うしな。キュウコンの唾液にもそれが含まれているのならば、なんともロマンがあるではないか。
さて、血の匂いは粗方とれたかな? しかし、コートが汚れてしまったな……これは後で干しておかねばなるまい。
兎に角、胃袋は悲鳴をあげている……腹の底から鳴り響く断末魔のような『グゥゥゥ〜〜ッ』という音は、私の胃袋が出したというのには信じられない音だ。
そろそろ実に29時間の断食。ふむ、もう21時を過ぎたか……食堂が閉まっていたら売店にでも行って何かを食おうかな。食堂は……現在位置がここだから、ふむ……あちらか。
「あの、すみません……この子を拾ったのは何処ですか?」
おっと、行こうと思ったらジョーイさんか。何だ、何のようなのだか?
私はここに飯を食べに来たのだ。邪魔をするなと言いたいところだが……歩きながら相手をしてやろう。
「道端だ。まっすぐな車道を歩いていたら偶然森へと続く血の跡を見つけたのでな。ほら、何と言ったかな……あの道路。すまない、私は生活感がない物でね、道路の名前などいちいち覚えてはいられないのだよ。
しかし、だ……以前この街へ来た時は夕日を背に帰っていた。と、言う事はこの街から東へ延びる道路で、且つ道路の脇は森林。それでいて……外はまだ雪など降っていない、つまり血の跡が残っている。
そこから推理したまえ。それに、私があの子を見つけた場所など怪我の具合とは無関係だと思うがな。なんにせよ、そんなものはあの子本人から聞けばよいだろう。密猟者には気をつけろ」
「いや、あの……ちょっと待ってもらえますか」
ふむ、歩きながらメモを取るのは苦手かな? だが、今言った内容など有って無いようなものなのだから、別にメモするほどの事でもない。
おや、なんだかダジャレのようになってしまったではないか。
「ふむ、そのセリフはそのまま君達に返そう。私は今猛烈に空腹なのだ。事情聴取ならばあとからでも出来るだろう?
そもそも、その子の事は……現代では実行するに少々気が引けるヒッチハイクのダシに使うために拾っただけなのでな……利害が一致していたのだよ。だがしかし、この街にヒッチハイクで来てしまった以上、もう用済みなのだ。あのポケモンに付き合ってやる義理など無い。
まぁ、義理は持ち合わせていないが、人並み以下ではあるが人情は持ち合わせている。事情聴取をすればあのポケモンの回復力や生存率が高まると言うのならば、考えてやらんでもないがな、そんな都合のよい事は起こらぬのだろう?」
「え、いや……はい。そうですね」
認めたか。そこで認めないで『いえ、数倍生存率が高まりますので付き合ってください』とか言うような奴だったら面白いというのに、普通すぎてつまらない奴だな。
「とにかく、事情聴取をしたいなら食堂まで付き合え。食事が私の前に届くまでは付き合ってやろう。だが、食事が届いたらそちらに専念させてもらうぞ」
私は息を吸って、断言する。
「なぜなら、私の腹は悲鳴をあげているのだからな」
-1-
私は、1週間の缶詰*1から、久しぶりに外の空気を味わっていた。時間は日も暮れて数時間たった夜。本当はこんな時間に外に出るつもりはなかったのだが、気がつけば家の食料が尽きたのだから仕方がない。
今日は空腹に耐えて、明日の朝に買い物をするという手段も、昨日の夜から何も食べていないのだから使えない。なぜなら、今の時間は20時……実に28時間の断食だな。もう、こんな僻地のスーパーマーケットは閉まっているかもしれんから、ビタミンの補給は出来るかどうか怪しいかもしれない。炭水化物の補給だけで我慢するしかないのだろうか。
全く、私の脳の空腹を訴える機構のぐうたらぶりを疑うな。
アスファルトの道路がそれと分からないほどに深々と降りつもった雪は、月明かりを反射して周囲を幻想的に照らす。隣を歩くキタキュウコンの足跡だって100m先まで鮮明に見えるのだ、こんなに明るいのならばライトを点けなくともよさそうなのだが、道路交通法と言うのはうるさい。まぁ、車の免許を持っておらず、徒歩で街に向かう私には関係のない事か。
だが、両脇を針葉樹の森に囲まれたこの夜の道を車のようなもので高速で駆けるのはさぞ気持ちよかろう。もし免許を持っているのならば一度はやってみたいものだ。
時折横を通るチェーンを巻いて走る車の音だけがひたすらうるさく不快だが、それを紛らわすための音楽をかける媒体はCDもレコーダーもカセットすらも持っていないし、買うのも面倒だ。なんだ、結局私の脳が怠け者なのは私自身が怠け者だからに他ならないという事か。
いいや、脳が怠け者だからこそ私も怠け者と言う可能性もあるぞ。ふん、卵が先かバシャーモが先かなど不毛な議論か。仕方がないから退屈しないようにシマヨルノズクの声を聞きながら考え事でもして先を急ごう。
しかし寒いな……いつの間にやら夜はこんなにも寒くなっていた。パソコンと人の脳を研究し続けて二十余年。街の喧騒も人間づきあいも嫌いで、こんなところにスーパーコンピュータを持ちこんだのはいいが、ふむ……住処はもう少し街が近いところにしておけばよかったか。
四十路を迎えてからは冷え症で冬の移動時間が厳しい。
分厚い毛皮のコートを羽織り、フードをかぶり、マスクをしてゴーグルも付けたし雪も止んでいる。それでも、露出した顔に吹きつける風は痛いくらいで、気道を通る空気は胃の中から縮み上がる気分だ。あぁ、タバコでも吸えば、胃が縮み上がる思いはしなくてもよいのであろうか? しかし、それもまたそんなことのためだけに肺を侵すのは野暮と言うものだ。ニコチンで血管が縮み上がっては費用対効果が悪すぎる。
全く、やはり私の家は街から遠すぎだな。だが引越しも面倒だ。食料からこっちに来てくれればよいのにな……そんな都合のよい事は起こりえようはずもない。
いや、本当に食料がこちらにやってきたかもしれないな。血の跡が遠くに見える気がするぞぉ……そこらへんにユキミミロルやエゾヒメグマあたりが車にひかれたりでもして、命からがら安全な場所に逃げようとした森の中で冷凍肉として保存されている……というシチュエーションならば楽だな。
ミミロルやヒメグマは料理したことはないが、料理してみるのも悪くなさそうだ。なぁに、きちんと焼けば寄生虫も病原菌もなんのそのだ。まぁ、キタキュウコンに寄生するエキノコークスは炎タイプの寄生虫だから焼いてもどうにもならんがな。
しかし、焼いてしまうとビタミンの補給は限られそうだな……いや、炭水化物と脂肪が取れるだけありがたく思おう。毛皮や角はどうしようか……用途も無いし、皮をなめす時間も無い。いくら使う用途がないからと言って流石にスタリのエサにするわけにはいかなかろう。
ふむ、取らぬ狸ジグザグマの皮算用をしながら森の中に来てみれば、これは面白い。昏睡状態のシンオウオオキタニューラの隣に、居てはならないポケモンがいたぞぉ……このぬいぐるみのような小さな体にメロンパンのような頭。まさしくこれはあのポケモンではないか。エイチ湖から抜け出してきたか? なんにせよ、この散弾銃のようなもので撃たれた傷はよくない。弾丸に使われている素材によっては金属中毒を起こすであろうからな。
とにもかくにも、冷たくなっているから暖めてやらねば。よく物臭して石油を切らす私のために、暖房代わりとしてキタキュウコンを飼っていてよかった。
「スタリ……お前の尻尾は温かい。尻尾に包んでポケモンセンターまで温めてやれ……いや、ここはヒッチハイクと言うのもよかろう」
「クゥ?」
あぁ、なるほど。ヒッチハイクなどと言う言葉を使ったのは初めてか。スタリは餌の入ったバケツを神通力で簡単に開閉する割には、食べ過ぎて太りすぎたりせず自己管理が出来たり、自由に出入りできる扉を設けても迷子になったり逃走したり警察のお世話になったりもしない。そんなふうに、私に似て賢い子であると自負しているが、流石に本を読んだりテレビを見るような賢さは持ち合わせてはいない。
「ヒッチハイクと言うのはな。他人の車に頼んで乗せてもらうことだ。まぁ、スタリよ。お前に言って意味が正確に伝わる期待はしていない……とにかく、これで歩く必要無く街まで車で行ける口実が出来たというわけだ。あぁ、だがその子の体を温めることを止める必要はない、思う存分に尻尾に包んでやれ」
ふむ、これでなんとなく気が引けるヒッチハイクも気兼ねなく行う事が出来る。血まみれのポケモンを抱えている者が車への相乗りを求めていたら、これは止まらざるをえまい。
それがこの地で伝説とされる存在ならば文句なしだ。うむ、実によいものを拾った。しかし、帰りは帰りで歩きとなるのだろうか……ふむ、贅沢をいうのはよそう。今日はもう遅いからともかく、明日の朝には運動不足の解消にはちょうどいいからな。
*1 部屋にこもる事
586さんに投稿しろと言われたので……まずは健全作品から投下なのですよ
タグ:『描いてもいいのよ』
「ポケモンヒストリー」最新話投稿しました!
今回はあの人が登場します。いつも「罰金だ!」言ってる人です。
ところで、これまで投稿したものを読み返していて思ったんですが、
わたし、「……」←コレ使いすぎじゃね?
という訳で現在アレの削減作業に入っております(本文もちょいちょい直すかも)。
では、読んでいただければ嬉しいです!よろしくお願いします!
POCKET
MONSTER
PARENT
7
『駆け引き』
浅い傷にまみれた紅白の鉄球が、淡い月光にぼんやりと浮かぶ。
モンスターボールを握りしめたシオンは、勝利を過信していた。
敵である青年の大切な仲間を手中に収めていたからだ。
「ねえ……僕のリザードンを返してよ」
「返してやってもいいけど、タダってワケにはいかないなあ」
「……何をすればいい?」
「退け。そこから離れろ」
薄暗い中、シオンはモンスターボールを突き出して言った。
街灯の光の中で深紅の学生服の青年は、悠然と立ち尽くす。
青年は、まるで他人事のように茫然とシオンの持つ紅白の鉄球を眺めていた。
二番道路の障害は微動だにしない。
「聞こえなかったか? 俺はそこを退けって言ったんだ」
「聞こえてるよ。でも、そんなことをすれば、君が二番道路に行ってしまうじゃないか」
「……自分のポケモンより、仕事を選ぶっていうのか?
エリートトレーナーのくせに自分の相棒の面倒も見れないのか!」
「仕事もポケモンも両方守る。リザードンは返してもらうさ。
例えば僕が……そのモンスターボールを力尽くで取り戻すとかしてね」
慌ててシオンは、その場から六歩下がる。
いつでも逃げられるように足を曲げながら、青年の動きを観察する。
しかし、真っ赤な学生服が風に揺れることはない。
「どうした? 喧嘩ならあなたの方が強いだろうに。追って来いよ」
「知ってると思うけど、今の僕の仕事は君をこの先に通さないこと。
もし僕が君を追いかけて、万が一君を捕まえそこなったら……ここから離れるのはちょっとまずいよね」
「そうかよ。自分が手塩にかけたポケモンが誘拐されるってのに。俺このまま逃げるけど文句言うなよ」
「構わないよ。だって、なんの問題もないから」
青年は服の袖をあげ、左腕を見せる。
黒い腕時計がはめられていた。
シオンはすぐに、旧式のポケギアだと分かった。
ラジオが聴け、地図も見れて、さらに電話も出来る腕時計だ。
「君がリザードンを返さず逃げるつもりなら、僕は警察に電話するよ。ポケモンが盗まれた、ってね」
「警察! 待て! 早まるな! 落ち着け!」
シオンは焦燥感を隠しもせず、必死で青年をなだめようとした。
背筋が寒くなる。体中の毛穴から冷や汗が溢れ出す。
シオンは警察という言葉に怖気づいてしまった。
「警察には捕まりたくないよね?
百億円ぐらいの罰金になるか、懲役百万年か、運が悪けりゃ死刑になるかもしれないよ。知らんけど」
シオンはよりいっそう警察に怯えた。
それでも盗んだポケモンを手放そうとは思えなかった。
握りしめたモンスターボールは、シオンが一生懸命に努力して、青年から盗み出すことに成功した汗と涙と血の結晶である。
「俺は警察に捕まらない!
たとえ相手がポリスメンだろうとジュンサーさんだろうと、俺は必ず逃げ切ってみせる!」
「無駄だよ。いいかい? そもそも君はトキワシティから出られないんだよ。僕達が通さないからね。
この狭い街の何処かに君がいるってことがバレてるんだ。
仮に出られたとしても、ガーディの嗅覚をもってすれば、君を見つけるのに一日とかからない……と思う」
「なるほど、つまり捕まるしかないのか……って、そんな簡単にポケモンを取り戻せるワケないだろうに」
「ふむ。つまりそれは、どういうことだい?」
「それはですね……」
シオンは一度冷静になって考える。
ただの誘拐では無意味に等しい。
青年が更に困るような脅迫をしなければならない。
「そっちが警察を呼ぶって言うなら、こいつの命は保障できないぜ!」
「それは殺すってこと?」
「そうだぜ! 殺害だぜ!」
シオンは盗んだモンスターボールを見せつけながら叫んだ。
古い刑事ドラマの悪役の台詞だった。
しかし、シオンにポケモンを殺す勇気はない。
青年にも表情の変化が見られない。
それでもシオンは必死になって演技を始めた。
「一応言っとくが、俺は本気だぜ! 人間追い詰められたら何でもするぜ!」
「君が思ってるより、殺しは覚悟がいるよ。出来るの?」
「出来る! 怒りに身を任せれてトチ狂っちまえば、間違えてぶっ殺すなんてことはよくある話!
実家の包丁で料理してくれるわ!」
「なるほど、本気なのか。そうか。警察が君の家に行ったところで、殺人の後じゃ遅いよね」
「そうだろうよ! どうしても大事な大事なお友達の命が惜しけりゃ、そこを退きやがれ!」
「うーん。あって間もないけど、面白い奴だし、まぁまぁ大事な友達なんだよなぁ」
「そうであろう。命が惜しかろう。それが俺の過ちで二度と帰らぬポケモンになっちまうかもしれないぞ」
「困ったなぁ。僕のリザードンなら、ナイフを装備した君が相手じゃ、三秒以内に殺してしまうよ」
「……えっ?」
シオンは氷漬けになってしまった、かのように固まった。
そして己の浅はかさを恥じた。
灼熱の炎をまき散らす強靭なドラゴンの雄姿をシオンは覚えている。
青年が嘘をついていないことは明白だった。
「まぁ、いくら君でもリザードンと殺し合うなんて馬鹿なことはしないよね。それじゃ、警察に連絡……」
「待て! 待つんだ! 落ち着け! 冷静になれ! 一旦深呼吸!」
「君に落ち着けとか言われたくないんだけど」
「俺も鬼じゃない。ポケモン殺しなんて馬鹿な真似はしないさ」
「しないじゃなくって出来ないでしょうに」
「そんなことはどうでもいい。それより……それより……」
シオンは必死で頭を動かし、名案を探った。
閃きが訪れるまで、シオンをじっと青年をにらみつけていた。
「それより、の次は何?」
「それよりだなぁ……そうだ! えっと、あれだよ、あれ。ジーティーエスって知ってるか?」
「グローバル・トレード・ステーションのことかな?」
「そう、たぶんそれ。詳しいことは知らないが、世界中のトレーナーとポケモンの交換が出来るそうじゃないか」
「知ってる。それで?」
「もし、警察呼んだり、道を通してくれないっていうのなら、ジーティーエスを使うぞ。
それで、戦争中の国のトレーナーのポケモンと、あなたの大事なお友達を交換するぜ」
「……そう来たか。戦争中の国との交換は、まぁ無理だろうけど。
でも、交換の相手が悪ければ、僕のポケモンは戻ってこないかもしれないね」
「脅しじゃないぞ。俺は本気だ。どんなことだってやってみせる」
「へえ。じゃあ、どうやってここからコガネシティまで向かうつもりだい?」
「え? ……ジーティーエスってポケモンセンターにあるんじゃないのか?」
「コガネシティにあるんだよ」
「……待て、早まるな! 警察に電話するんじゃない! 落ち着け! 冷静になれ! 深呼吸!」
シオンは再び慌てふためく。
青年は聞く耳を持たない。
青年はおもむろにポケギアをいじり始めた。
反射的にシオンが叫ぶ。
「自分のポケモンを見捨てるってのか! エリートトレーナーのくせに!」
シオンの脅迫にも応じず、青年は平然としたまま、ポケギアを口の前に持っていく。
「もしもし、警察ですか?」
「やめろぉおおお!」
シオンは居ても立っても居られず、走り出していた。
自分のことを言われるより先に電話を阻止しようと飛び出した。
青年はまるで何事もないかのように、口を動かしている。
シオンの突進。
効果は今一つのようだ。
青年のカウンター。
急所に当たった。
効果は抜群だ。
シオンはひるんで動けない。
青年のどろぼう。
シオンはモンスターボールを奪われた。
シオンのどろぼう。
攻撃が外れた。
勢い余って地面にぶつかった。
シオンは倒れた。
「計算通り、力尽くで返してもらったよ。警察には電話してないから、安心して家に帰るんだ」
青年の声にも無反応で、シオンは地表でうずくまる。
モンスターボールを置いて走ればよかった、と反省した。
「なぁ、俺があなたに勝つ方法って何かある?」
「それ僕に聞くの? ……今は無理だと思うよ」
「だよな」
青年の言葉にシオンはきっぱりとあきらめがついた。
負けることに慣れてしまったせいなのか、シオンは悔しいとは思わなかった。
失敗して当然のように感じられた。
「あーあ。しっかし、また駄目だった」
独り言のようにシオンはぼやく。
「何でうまくいかない? 何がいけない? 何度も失敗するなんて俺は無能なのか?
くそ。ちくしょう。今日はかなり頑張った方なのに。何で何だ?
ひょっとして、ポケモンを手に入れようって考えが駄目だったのか?」
「えっと、ちょっと待って……君はポケモンが欲しかったの?」
「それしかないだろう」
「野生のポケモンをゲットするために、街の外へ出かけようと?」
「そう」
「どうしてそれを言ってくれなかったんだい?」
「言ったらそこを退いてくれるのかよ!」
「いや、それはちょっと無理なんだけど、でも……」
「だろうな! どいつもこいつも嫌な奴だ。俺がポケモン手に入れようとすると、皆そろって邪魔ばかりしてくる」
「そんな馬鹿な! ありえないよ!」
「お前が言うな」
「だって、それじゃ、一体どうやってポケモントレーナーになれるって言うんだ!」
シオンは呆れてため息を吐いた。
「それが分かれば俺も苦労しないよ」
そう言うとシオンは力なく立ち上がり、服にへばり付いた土を払い除け、口を開けてあくびをした。
睡魔に襲われると同時に、父親が眠っていることを祈った。
「やっぱり今日は家に帰る。じゃ」
「ちょっと待ってよ!」
「む、さっきは帰れって言ったくせに。しつこいぞ」
シオンはそっぽを向いたまま歩きだす。
「……そうだ名前! 名前だけでいいから教えてよ!」
「聞く前に名乗れよ」
「ホッタ・シュウイチ!」
「変な名前してるな。あっ、イッシュ地方のアナグラム?」
「イッシュ地方タのアナグラム。それより君の名前」
「……ヤマブキ・シオン!」
シオンは振り向かずに大声をあげると、そそくさと早足でその場を去った。
自分の名前の感想を聞きたくなかったからだ。
しばらくして一人になる。
冷えた夜風がゆっくりと流れていく。
眠気と疲れに逆らわず、ただ無心で帰路についた。
明日からどうするのか。
本当にトレーナーになれるのか。
そんな不安を抱くことすらシオンは飽き飽きしていた。
つづく?
後書
似たようなことを繰り返してる気がしておりますが、それも今回で最後の予定です。
ポケモンたちが食事を始めるのを確認し、コウキも昼食をとるために家に戻る。
腰に巻いているエプロンを外し、自分の席について盛られた料理に箸をのばす。
ふと自分の隣に座っている妹の皿に目を向ける。
食事を始めてからさほど時間はたっていないはずだが、既に彼女は半分以上を食べていた。
「早食いは体に悪いぞ?」
「おああういてうんあから…モグモグ、仕方ないじゃない」
口に食べ物を含みながら話していたため、マイの言葉の前半はあまり聞き取れない。
それについて再びコウキが注意すると、「は〜い」と生返事を返して、空になった食器を流しに持っていく。
そのままマイは二階の自室へと戻っていく。
「まったく、マイはいつもいつも」
「まぁまぁそれがマイでしょ?」
「そうそう」
愚痴るコウキを反対側の席に座っている2人が宥めようとする。
「母さんとホノカ姉ちゃんがそんなんだからマイも調子に乗るんじゃないかぁ!」
「そんなこと言ったって、マイは昔っからあの調子なんだから仕方ないじゃない @ラ
コウキの姉、ホノカは軽くコウキの言葉を受け流す。
ホノカはマイに対して少し甘いところがあるらしく、マイの肩を持とうとする。
こんなことが続いており、「姉としての自覚が薄れてきているんじゃないか」と、コウキは最近感じていた。
自分もまだ小さかった頃は"頼りになるお姉ちゃん"とホノカのことを見ていたが、最近はマイの姉というよりも"友達"といった感じだ。
そんな調子で昼食も終わり、食卓にいるのは食器洗いをしているコウキとテレビを見ている彼の母、「アヤコ」の2人だ。
先程の会話を思い出してアヤコがコウキに言葉をかける。
「コウキももうすっかりお兄ちゃんが板についてきたわね」
「どうしたんだよ急に…姉ちゃんがあんなんだから、僕が面倒みるしかないでしょ?」
「フフッ、確かにそうね。ポケモンたちもお昼を食べ終わった頃だし、食器を持って来るわね」
そう言ってアヤコはポケモンたちがいる小屋に向かった。
コウキは再び食器洗いを始めたのと同時に、テレビに速報が入った。
不意に、コウキはテレビに視線を向ける。
そのニュースの内容は『ナナカマド博士がシンオウに帰ってきた』というものだった。
昼食の後片付けを終え、ポケモンたちとのんびり過ごすコウキのいつもの昼下がり。
それを打ち壊すかの様に、一人の少年が慌ただしくコウキの家へと走ってくる。
急いで玄関の扉を開け放つと、少年は大きな声で叫んだ。
「コウキ!コウキ!コウキ!コウキ!コウキ!コウキーーーー!!大変だぁぁぁぁ!!」
突然の声に、耳鳴りをおぼえながらコウキが玄関へとやって来た。
「どうしたのさジュン!いきなり叫ばないでくれよ!」
「どうしたもこうしたもあるかよコウキ!お前もさっきのニュース見たろ!?」
コウキの言葉の後半には全く触れずに、自分が話したいことを話し進めるジュン。
彼はコウキの幼なじみで、家が近い者同士ということもあり、小さい頃からよく遊んでいた。
ジュンの欠点と言えば、先の言動からも分かるように、かなりせっかちなことだ。
ジュンの問いかけにコウキは頭にクエスチョンマークを浮かべる。
「さっきのニュース?」
「『ナナカマド博士がシンオウに帰ってきた』ってニュースだよ!お前だって見ただろ!?」
そう言えばそんな速報がテレビで流れていたなぁ、とジュンの言うニュースの内容を頭で思い返す。
「で、それがどうかしたの?」
「『どうかしたの?』じゃねぇよ!本当にお前って鈍いよな!」
「それとこれとは話が別だろ!?第一、どうやったら"ナナカマド博士が帰ってきたこと"と"ジュンが慌ててること"が繋がるんだよ!」
コウキの言葉に対し、ジュンは頭に右手を添えながら、呆れたようなため息をひとつ吐く。
そして、再度自分がコウキに伝えたかったことを話す。
「いいかコウキ。『博士』っていうくらいだからナナカマド博士はポケモンを沢山持ってるはずだ。ここまではいいな?」
「うん」
「だからさ、俺たちも頼めば博士が研究してる『特別なポケモン』の一匹や二匹貰えるんじゃないか?」
「それはどうか分かんないだろ?」
「いいや、そんなことはない!絶対に貰える!だからコウキ!これから『マサゴタウン』に行くぞ!!」
コウキの話しに聞く耳も持たず、ジュンは独断でマサゴタウンに行くことを決めてしまった。
こうなったら、いくら言ってもジュンには聞かない。
それでもコウキはジュンに制止を掛けようとしたが、早速ジュンは出掛ける準備をするために自宅へと引き返してしまった。
遠くから「遅れたら罰金100万円な!」と言うジュンの声を耳にしながら、仕方ないと諦めムードのコウキも自室へと向かう。
「まぁ僕もナナカマド博士に会ってみたかったし、丁度いいと言えば丁度いいか」
そんな事を呟きながら、クローゼットからベストやマフラー、帽子等を取り出す。
・コウキ
年齢:11歳
性別:♂
「シンオウ地方」の「フタバタウン」出身のポケモントレーナー
テレビでやっていた「ナナカマド博士が帰ってきた」というニュースを見て、「ポケモンが貰える!」と騒いでいた幼なじみの「ジュン」に連れられて「マサゴタウン」へ
そこから事件へと巻き込まれていく。
母(アヤコ)、姉(ホノカ)、妹(マイ)との4人暮らし
何処か抜けている姉と妹の2人とせっかちな幼なじみに囲まれて育ったせいか、至って真面目な少年に成長
料理やポケモンの世話が得意で、毎食の当番とポケモンの世話を担当
ポケモンバトルは今まで殆ど経験していないため、実力は未知数
普段の一人称は「僕」だが、感情が高ぶったりすると「俺」になる
・ジュン
年齢:11歳
性別:♂
コウキと同じくフタバタウン出身のポケモントレーナーの少年
かなりせっかちな性格で、思い立ったら即行動の無鉄砲
父親はジュンが小さい頃に旅に出ていったきり戻ってきていないが、その実力はかなりのものらしい
ジュン自信も父親譲りのバトルセンスを発揮しながら、トレーナーとしての実力をめきめきと向上させている
・ヒカリ
年齢:11歳
性別:♀
ナナカマド博士の研究を手伝っている「マサゴタウン」に住む少女
普段は大人しくおしとやかな性格だが、好奇心が強く初めて見るものによく食い付く
コウキやジュンとの出会いを切っ掛けに、彼女もシンオウ地方を見聞するための旅に出る
何かと事件やトラブルに巻き込まれることも多く、その度に2人に助けられる
バトルよりもコンテストのほうが得意
・ホノカ
年齢:13歳
性別:♀
本作主人公コウキの姉
面倒見がよく、小さいポケモンの世話などを担当している。
家事全般を得意とする彼女だが、唯一の欠点は極度のブラコンということ
・マイ
年齢:9歳
性別:♀
コウキの妹
なかなか生意気な性格で、コウキの事を兄として見ていない
しかし、母のアヤコや姉ホノカとは仲がいい
・アヤコ
年齢:非公開
性別:♀
コウキたちの母
元トップコーディネーターであり、トレーナーだった頃はコンテストで名を馳せていた
引退した今でも彼女のファンは多く、フタバタウンのお祭りなどのイベントでたまに演技をすることがある
ナナカマド博士
年齢:60歳
性別:♂
マサゴタウンに研究所を構えるポケモン研究者
ポケモンの進化について研究しており、最近までは同じポケモン研究者である「カントー地方」の「オーキド博士」のところを訪ねていた
ある偶然からコウキとジュンにポケモンを託す
Prologue
「Ordinary Dialy〜ありふれた日常〜」
ここは「シンオウ地方」始まりの町「フタバタウン」。
いつもの昼下がり。
この町に佇む一軒のポケモンの育て屋もお昼時を向かえ、一人の少年がキッチンに立っていた。
彼が今作っているのは、預かっているポケモン用と自分たちが食べる用の昼食だ。
上機嫌に鼻歌などを歌いながら調理を進めていると、階段を掛け降りてこちらに走ってくる足音が聞こえた。
誰が来るのか、少年には分かっていた。
これがこの家の"日常"だからだ。
「コウキ兄ぃお昼まぁぁだぁぁ!?アタシもうお腹すいたよ!」
「もうちょっと待ってなよマイ!」
「え〜!可愛い妹がお腹空かせて倒れそうなんだよ!?」
「もうすぐできるから座ってなさい!ったく、マイはいつもそうやって急かすんだから」
呆れたような声で妹の愚痴をこぼしながら、毎日こんなやり取りを続けている。
調理を終えて食器に盛り付けながらマイへ視線を送る。
「マイ、母さんと姉ちゃん呼んできてくれる?」
「マイはお腹が空いてうごけませ〜ん」
「お昼食べさせないよ?」
「呼んでくる!」
コウキの一言によって、マイは素直に姉と母を呼びに席を立つ。
昼食を誰よりも待ち望んでいる彼女には「お昼を食べさせない」という言葉は効果抜群だ。
コウキはそんなマイの弱点を知っている。
暫くしてマイは姉と母を連れて食卓に戻ってきた。
既にテーブルの上にはきれいに盛り付けられた、コウキ作の昼食が並べられている。
「それじゃ、僕は先にポケモンたちのご飯をあげてくるよ」
そう言ってコウキはポケモンフーズの盛られた容器を幾つか持って、家の裏にある小屋へと向かった。
小屋に着くとお腹を空かせたポケモンたちが、「待ってました」と言わんばかりの表情でコウキの周りに集まってきた。
このポケモンたちはこの家のポケモンではなく、トレーナーたちから預かっているポケモンだ。
ポケモンたちが美味しそうにポケモンフーズを平らげていく光景を、コウキは笑みを浮かべながら見ていた。
何気ない、いつもの昼下がり。
こんな日常もコウキは好きだった。
しかし、そんな日常が少しずつ変わり始めようとしていた。
運命が動きだし、「冒険」に満ちた日常が、コウキの前に訪れようとしていた。
それは、また次回のお話し…
To be continued...
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