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「大丈夫か、翔」
「風見のおかげでなんとか勝てたぜ……」
「ああ。最後だけだが見ていた」
山本との対戦が終わると同時に、体に急に物凄い疲労感とだるさが襲いかかってくる。これは風見杯のときにも経験したが慣れれるもんじゃない。
「拓哉はどうなった?」
「あいつもきちんと勝った。だが、その代わり肉体にかなりの負傷を負って病院に運ばれた。準決勝は当然棄権だ」
「そうかぁ……」
「そしてお前は今から長岡との対戦だ」
「ということは風見は負けたのか」
「ああ。内容的にも課題がたくさん残る勝負だったが、後悔はしてない」
「だったらいいんだけどな」
数秒の間があった後、風見が俺の肩をぽんと叩く。
「さあ、頑張ってくれ」
「は?」
「今から準決勝だ。もう一方の試合はさっきも言った通り、藤原が棄権したため準々決勝を勝ち抜いた中西が一気に決勝進出となる」
「え、ちょっと待───」
「もう能力(ちから)がどうとかいった勝負はない。さあ楽しんで来い」
「棒読みで言うな! くそ、行けばいいんだろ行けば!」
と口では元気そうに言ったものの、ぶっちゃけこうして立って歩いているのがやっとだ。でもここまで来たんだ。俺は全国大会に行って、才知と由香里との約束を果たさなくてはならない。
「あと二戦、勝つだけだ……」
自分を奮い立たせる呪文のように、一人小さくつぶやいた。
「翔との公式戦は初めてだぜ」
バトルベルトでの対戦は、ポケモンが3D映像として現れるがために非常にスペースを取る。俺と恭介の距離は、学校の教室の端から端くらいの広さがあり、ちょっと視力の悪い奴だと細かい表情が見れないだろう。
「お前公式戦出るの初めてだろ。当然じゃん」
俺が突っ込むと、恭介はうっせーな、と、くだをまく。
「いや、そうだけど! もうなんでもいいからさっさとやろうぜ!」
「ああ。楽しい勝負にしようぜ」
と言ったはいいが、急に焦点がぶれて向かい側にいる恭介の姿が二人に分裂したかのように見えた。数回瞬きをすれば何事もなかったかのように焦点が戻る。
くそっ、あと一時間くらいはもってくれ俺の体! まだ倒れたくはないんだ。
最初の手札からたねポケモンを選択する。バシャーモFB80/80しかたねポケモンはいないか。
恭介の最初のたねポケモンはピチュー50/50が二匹。
「先攻は俺がもらうぜ! 俺のターン。まずはバトル場のピチューに雷エネルギーをつけてワザ、おさんぽを使う。このワザの効果でデッキのカードを上から五枚見て、その中のカードを一枚、手札に加える。残りのカードはデッキに戻しシャッフル」
ちゃんとプレイング出来るようになってるじゃないか、流石は俺が教えただけあるな。
「今度は俺のターンだ」
デッキの一番上に手を伸ばした。が、あるはずのカードはそこにない。辺りを手さぐりで探したところ、間違えてデッキの左隣の空を探しまわっていたようだ。自分の視界がズレてしまっている。
「くっそ、頼むって……。なんとかもたしてくれよ。ドロー!」
ダメだ、今度は手札がぼやける。絵はまだ見れるがテキストはほとんど読めない。
「炎エネルギーをバシャーモFBにつけ、ハマナのリサーチを発動。ヤジロン(50/50)とアチャモ(60/60)を手札に加えて二匹ともベンチに出す。そしてバシャーモFBで誘って焦がす。ベンチのピチューを引きずり出してやけどにする!」
バシャーモFBが恭介のベンチへ跳んだ。だが、そこからが妙だ。音がエコーして聞こえる。なんだか遠くで反響する音を聞いているようでずいぶんと気持ちが悪い。
「ポケモンチェック。やけどのコイントスだ」
コイントスが見えない。恭介がウラ、と宣言したのを聞いてやっと理解する。だがその声も反響して……。
「俺のターン。バトル場のピチューのポケパワーだ。ベイビィ進化。ピチューのダメージカウンターを全て取り除き、ピチューをピカチュウ(60/60)に進化させる。進化したことでやけどは回復だ。そして───」
体の感覚が徐々に分からなくなる。視界も歪み、耳に入る音は不快感しか伴わない。何がどうなって今起きている? ああわからない。もう、どうにでも、な……れ……。
「はっ! へいあ!」
「ごあっ!」
次に目を覚ましたとき、目の前にドアップの風見の顔があった。顔と顔の距離が十センチしかなかったと思う。反射的に頭突きで風見を襲ってしまった。
しかし、よく頭突き出来たなと思うくらい体が動かない。
「いたた、起きるのが結構早いんだな」
「俺がなんだかよくわからんことになってる間に何したんだ!?」
「急に倒れたお前をせっかく運んできたのに、頭突きされるとはとんだ恩知らずだ……」
気がつけばいつの間にか周囲は会場ではなく、廊下で横になっていた。廊下にはいくつかの扉と、額をおさえて痛がる風見だけしかいない。どこだろうか。
さっき何があったのかを思い返す。
「……あっ、勝負は? 恭介とやっていたはず───」
「落ち着け。お前はその最中に倒れたんだ。皆びっくりしたぞ。あと言わなくても分かるだろうがお前はもちろん棄権扱いだ」
「……」
それもそうだろう。
「そんなつまらない顔をするな。良い知らせもきちんとあるぞ。松野さんを始めとした山本の被害者の意識が取り戻ったようだ。実際に松野さんから連絡があった」
「本当か!」
「嘘をつく理由はないだろう。それと、藤原は高津との試合の際に左腕を折ったようだ。全治三カ月程度らしい」
「拓哉も頑張ったんだな」
「翔も頑張ったんだろう?」
「まあ、な」
「俺達には来年がある。未来がある。今回は運が悪かったということだ。次こそ、と意気込むのがいいくらいだろう?」
「へへ、そうだな」
いつまでも仰向けで廊下に寝転がっているのも良くない。なんとか風見の手助けもあって、立ち上がる。
「今会場に戻ればおそらく決勝戦の最中だ。行くか?」
服をぱんぱん、と簡単にはたく。
「おう。せめて恭介の応援くらいはしてやらないとな」
「ファイナルブラスト!」
深く息を吸い込んだレックウザC LV.X100/120の口から無慈悲なほど巨大で強大な極太レーザーが発射される。
「ぐおああああっ」
音と光が爆発する。大気も震えるかの程だ。離れて見ている俺達にもかなりきついものがある。
「病み上がりにこれを見るのはかなりきついな」
「大丈夫か?」
「ああ」
見れば恭介のエレキブルFB LV.Xがこの攻撃を受けたらしく、気絶してしまったようだ。
「俺の次のポケモンはライチュウだ!」
「サイドを一枚引いてターンエンド。さて、あとサイドは一枚になったけど、どういうプレイを見せてくれるのかな?」
恭介のライチュウ90/90には雷エネルギーが既に三つついている。攻撃の準備はばっちりのようだ。
「お望みならば見せてやる。俺のターン! こいつが俺のエースカードだ! 来い、ライチュウLV.X!」
これが恭介のエースカード……。ライチュウLV.X110/110は頬から大量に電気を放電しながら現れる。
「手札の雷エネルギーを二枚捨て、ライチュウLV.Xで攻撃。ボルテージシュート!」
瞬間、紫電の槍が中西のベンチを抉るよう襲う。攻撃を喰らった色ミロカロスは強力な電撃を浴びHPを0/80にする。
「へへっ。ボルテージシュートは手札の雷エネルギー二枚を捨てることで相手のポケモン一匹に80ダメージを与えるワザ。色ミロカロスにはアクアミラージュっていう自分の手札が一枚もないときこのポケモンは相手のワザによるダメージを受けないポケボディーがあるが、あんたはさっき俺のエレキブルFB LV.Xを倒してサイドを一枚引いたから手札は一枚。そのポケボディーも働かない! サイドを一枚引く」
「なるほど、私のコンボをそう破るとは流石ですね。ですがサイド差はまだありますよ。君のサイドはまだ二枚ある」
「ライチュウLV.Xがレベルアップしたターンにボルテージシュートで攻撃した場合、ポケボディー連鎖雷が働く。この効果で俺はもう一度だけ攻撃できる!」
「二回攻撃!?」
決勝戦の相手なのに恭介は一歩も引きさがっていない。それどころか互角の戦いを繰り広げている。もしかしたら……。
「ライチュウLV.XでレックウザC LV.Xに攻撃。炸裂玉!」
巨大の電気の塊の玉がライチュウLV.Xから放たれ、それがレックウザC LV.Xの元で大爆発する。
「このワザの効果でライチュウLV.Xについている雷エネルギーを三つトラッシュする。だが100ダメージを喰らってもらうぜ!」
「レックウザC LV.X!」
丁度残りHPを失ったレックウザC LV.Xは、浮力を失い崩れ去る。
「なんという底力。素晴らしい! 私はベンチのミロカロスを出す!」
「サイドを一枚引いて、今度こそターンエンドだ!」
中西のベンチから現れたのは、息絶え絶えの傷だらけであるミロカロス20/90。
「長岡のライチュウLV.Xは、エネルギーなしでも30ダメージを与えれるスラッシュがある。これで次のターンミロカロスを倒せば長岡の勝ちだ。ライチュウLV.X自身のHPも110もある。そうそう簡単に倒せる相手ではないな」
「よし、頑張れ!」
中西の手札はたった一枚。それにミロカロスにはエネルギーが超エネルギー一つだけだ。勝てるぞ!
「私のターン。参りましたね……、これが私にできる最善の策です。ハマナのリサーチを発動。デッキから基本エネルギーまたはたねポケモンを二枚まで手札に加える。私は水エネルギーとヤジロンを加え、水エネルギーをミロカロスにつける」
試合を見ている周りの観客のざわつきが消える。皆、この試合の行く末を見守り息をのんでいる。
「ミロカロスで攻撃。クリアリング!」
中西のミロカロスが水で出来た透明な輪をライチュウLV.Xに向け放つ。輪がライチュウLV.Xに触れると、輪は水に戻って飛沫を上げた。
「たった20ダメージか? ライチュウLV.XのHPはまだ90もある。次のターン俺の勝ちだ!」
「クリアリングの効果発動」
「なっ」
「望むなら、自分の手札を二枚トラッシュすることで自分のポケモンのダメージカウンターを四つ取り除く」
なるほど。だから中西はわざわざ手札を0にせず二枚残しておいたのか。
「私は手札のヤジロンとワンダー・プラチナをトラッシュしてミロカロスのHPを回復させよう」
傷ついたミロカロスの傷が癒え、HPバーが60/90まで回復する。うってかわってさっきのターン炸裂玉の効果でライチュウLV.Xにエネルギーはなし。ベンチにポケモンもいない恭介は劣勢になる。
「嘘だろっ!? くっそー! 俺のターン。手札の雷エネルギーをライチュウLV.Xにつけ、スラッシュ攻撃!」
ライチュウLV.Xが尻尾でミロカロスを叩きつける。
「ミロカロスの弱点は水プラス20。しかし僅かに足りないな、あの中西という人は相当強いぞ。さらにスラッシュは次のターン連続して使うことが出来ない。長岡はやや不利になってしまった」
30+20=50のダメージを受け、ミロカロスは10/90、文字通りがけっぷちだけ耐えきる。しかし中西にとってはこれで十分だろう。
「私のターン。手札の水エネルギーをつけてミロカロスで攻撃。スケイルブロー!」
ミロカロスの体からたくさんの鱗がライチュウLV.X90/110に向かって吹き付ける。それぞれがナイフのようにとがった鱗は、一つ一つがライチュウLV.Xにダメージを与えていく。
「このワザは基本値90に対し、手札の数だけダメージを10減らす。しかし私の今の手札は0。よってそのまま90ダメージを受けてもらいます」
HPバーが徐々に減り、ライチュウLV.XのHPバーは尽きてしまう。まさかあんなピンチからこうもあっさり勝ってしまうとは。
「サイドを一枚引いて、私の勝ちだね」
勝利と共に周りの観客から共に激戦を繰り広げた両者に賞賛の拍手が送られる。俺も風見も、共に手を叩いた。
『PCC東京A一日目、カードゲーム部門の優勝者が決まりました!』
急設された表彰台の上に、中西が恥ずかしがりながら上る。もう一度名誉者への拍手が送られ、これで長かったPCC東京A一日目は幕を閉じた。
会場を出ると、既に外は闇。春の夜はまだ冷たさを伴うものの、大会帰りの俺達の熱気を冷ますには程遠かった。
「くっそおおおあと少しで優勝だったのにいいいい!」
「日頃の態度の悪さ故の当然の結果だ」
「うっせー! お前も人の事言えねーだろうが! っていうか一回戦で負けてるじゃんお前!」
「なんだと!?」
「はいはい暴れんなよ」
相も変わらずどうでもいいことで揉める恭介と蜂谷をなだめ、俺たちは駅に向かった。
行きに集合した駅に着き、皆方々に帰って行く。
「あ、風見。これ返しとくよ」
借りていたフライゴン一式を揃えて風見に手渡す。
「ああ、そうだったな。……、今回能力者を二人倒したが、能力騒ぎはまだ終わってない。それは───」
「分かってるさ。どんな能力を使うやつが現れても俺は戦うさ」
風見はそうか、と呟くと背を向けて改札を通り抜けて去って行く。
そう、能力騒ぎはまだ終わっていなかったのだ。
「どうでした? 彼」
誰もいなくなった会場。閑散とした一帯にはさっきの騒々しさは微塵も感じられない。
片付けも終わり誰もいなくなったこの会場で、一之瀬は翔の対戦をずっと見つめていた眼鏡の男と対談している。
「素晴らしい素養だ。思った通りだったよ」
「高評価ですね」
一之瀬は男の言うようには思えなかった。確かに奥村翔は強い部類に入るだろうが、この男からそこまでの評価をもらえるほど強いはずがない。
全国大会に出る実力はあるかもしれないが、その程度で終わってしまうだろう。彼には一之瀬と違い、戦いに対する覚悟が感じられない。
その点一之瀬は風見雄大を評しているのだ。
「私がそんなに奥村翔に高評価を出すのがおかしいか?」
「……、貴方がそう言うのが珍しいので」
「そうか。……とはいえ、あくまでもまだ素養だ。とてもじゃないが君には及ばないよ」
「素養……」
男は何をもって奥村翔を見ているのだろう。一之瀬には分からない。
「ところで山本信幸が言っていましたがポケモンカードに勝てば勝つほど能力(ちから)が増幅するというのは」
「本当だよ。……と、言いたいところだが半分正解というところか」
「その実質は」
「能力は基本的に感情によるものだ。こうしたいという負の感情が集えば集うほど能力はより力を増す。山本は勝てば勝つほど能力が増幅するという思い込みをしていたが、その思い込みという感情によって能力は増幅されていっただけだ」
つまるところ勝てば勝つほど、はあまり関係ないということか。と、一之瀬は考える。
「彼が言っていた、ポケモンカードを介せずとも能力を使えるというのは?」
「どうだろうね、実質私にも分からないが間違いではない可能性はある」
「それじゃあ逆に高津洋二の能力がバトルベルトでしか発動しないのは」
「あくまで私の考察だが」
男は眼鏡をくいと上げる。
「高津は能力を恐れていたのかもしれない。自分を認めないものを傷つけたい反面、傷つけることによって余計に自分を認めるものがいなくなるものが増えることへのパラドックスに対して、心のどこかでストッパーがかかっていたのだろう」
能力……。誰一人として本当のそれを知る由はない。一之瀬だって、この男だってそうだ。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。一之瀬、君にわざわざ残ってもらった理由だ」
「有瀬悠介(ありせ ゆうすけ)の頼みを断れる人間がいるとでも?」
悪態を突くように一之瀬が言い放つと、有瀬と呼ばれた眼鏡の男は軽く笑う。
「それもそうかもしれないな。では今から君と私でミーティングだ。『最後の能力者の宴』の、な」
翔「今回は実際に使用したPCC編資料集!
PCC東京A一日目の本戦トーナメントは以下のようになってたんだぜ」
Aブロック(16人)
対戦表・一回戦
(A1ブロック)藤原VS沙村、??VS??、蜂谷VS沙羅、??VS高津
(A2ブロック)??VS??、??VS??、向井VS??、中西VS??
Bブロック(16人)
対戦表・一回戦
(B1ブロック)恭介VS八雲、??VS??、風見VS??、??VS井上
(B2ブロック)如月VS石川、翔VS??、松野VS桃川、??VS山本
二回戦
(Aブロック)藤原VS?? 沙羅VS高津 ??VS?? 中西VS向井
(Bブロック)恭介VS?? 風見VS井上 石川VS翔 松野VS山本
準々決勝
(Aブロック)藤原VS高津 中西VS??
(Bブロック)恭介VS風見 翔VS山本
準決勝
(Aブロック)藤原VS中西
(Bブロック)恭介VS翔
決勝 中西VS恭介
「貴様にも全てを消し飛ばす圧倒的闇を見せつけてやる! これが、おれの究極の力! 現れろ、ミュウツーLV.X!」
ついに出てしまった……。山本信幸の真のエースカード、ミュウツーLV.X120/120。
近くで見るととてつもないプレッシャーだ。だが、このミュウツーLV.Xを倒さなければ俺は山本に勝つことはできない。倒れてしまった松野さんを救うことが出来ない。
「今まで戦ってきた相手の中で、貴様は一番強いと認めてやる。だからだァ! だからこそ、おれがこの戦いに勝ったとき、おれの能力(ちから)は新たな境地へ赴き、腐りきったこの世界から愚図を排除するという野望への大きな、大きな一歩となる!」
「どうしてそこまで」
「三年前、おれが十八のころ。つまり高校三年生の頃だ」
逆算すると山本の年齢は二十一か。何があってこんな危険な思想を産み出してしまったのだろう。
「センター試験、もちろん知っているだろう?」
「ああ……」
「センター試験受験日の四日前の出来事だった。塾の帰り、おれはバイクに轢かれる事故にあった」
ミュウツーLV.Xが右腕を前にすると、周囲の風景が変わり、急にビルとビルが立ち並ぶ夜の街中へ変わって行く。いったいぜんたいどういうことだ。俺の体、山本の体はその街を上から覗くように宙に浮いていて、落ちることはない。
空は暗いが、街はビルが放つ光のためにやけに明るい。よく見ればこの街並み、どこか心当たりがある。南池袋辺りだろうか、何度か行ったことがある。ふと見れば街路樹のない広めの道路の脇に、血だらけで倒れている一人の男がいた。
「これはおれの過去。スクーターといった小型バイクでなく、バイクにしては大型の、つまり大型二輪に轢かれたおれだったが、轢いたヤツはもちろん逃げ、さらに運悪く人通りが悪かったため事故に遭ったおれの発見も遅れた」
救急車のサイレンの音が鳴り、過去の山本のそばでそれが止まる。救急車の中から救助隊員が現れた。遠くで何を言っているかは聞こえないが、怒鳴り声のようなものがいくつか聞こえながら、過去の山本が救急車に搬入されそのまま運ばれていった。
急に上方から眩しい光が目を襲い、右手で両目を覆い隠すよう光から守る。
「そののち、おれの手術が行われた。あまりにも損傷個所が酷く、一時は助からないと誰もが思ったらしい。しかし奇跡的にもおれは生きることが出来た」
覆っていた右手をはずすと、夜の街並みから景色が急に変わり、辺りは真っ白な壁に覆われた病院の一個室へと移っていた。しかしここでも体は宙を浮き、上から個室を覗いている。
個室のベッドにはいろんな箇所に管を通されている過去の山本の姿が。包帯やギプスなどいろいろなものが巻かれて直視するのも痛々しい。
「計二十二針を縫う大事故だった。そして、おれが目を覚ましたのは事故から五日後の夜のこと」
「五日後の夜ってまさか」
「そうだ。センター試験の二日目も終わっている」
思わず眉をひそめて下を向いてしまう。実際にこれを味わった山本は、言葉で表せないくらい辛かっただろう。
「当然、こんな大事故にあって一週間後のセンター追試験を受けれるわけもない。おれは、深い絶望を味わった。今まで必死に必死に頑張ってきたものが、信号無視で走ってきたバイクに轢かれてパーだ。こんなことがあるか!? あってたまるかァ!」
山本の顔を直視できない。追試験ではないだろう。私立の試験だって、受けれるかどうか。一カ月やそこらで試験を受けるほどの回復は厳しい。
「おれが事故に遭ってから約一ヶ月後のことだった」
今まで動きのなかった病室の時が急に動き出したかのように、病室の扉が開く。五十代くらいの女性だ。その女性は過去の山本の傍で何か耳打ちをする。
『ほ、本当か! 犯人が見つかったって』
犯人。山本をこういう目に合わせたヤツのことだろう。見つかったのであれば当然法によって処罰される。間違いなく山本にとっては良いニュースだ。
『大きな声出さないで。これは秘密なんだから』
『秘密?』
女性は誰もいないか周囲を見渡してから、再び山本に耳打ちする。その耳打ちを聞くにつれ、山本は目の焦点が合わなくなり、呼吸のリズムも狂いだす。
『なっ、がっ、かっ、はっ、はぁ、はぁ、ぎゅああ、きゅばっ、はっ、ああああああああああああああああああああ』
荒れる呼吸と共に、意味不明な言葉が吐かれたと思うと、急に過去の山本は狂ったように叫び出し、身辺にあったものを構わず投げ続ける。
本、携帯電話、果物、花瓶。花瓶は割れてガラス破片が飛び交い、たまらず女性は悲鳴を上げる。
過去の山本の暴走はどんどんエスカレートして医療器具をも叩きつけ、破壊し、投げつける。
女性がナースコールのボタンを押し、助けてと叫ぶと、すぐに部屋にはたくさんの看護師が現れ過去の山本を抑えつけようとする。
「何が……あったんだ」
「おれが母親から言われた言葉は……」
あの女性は山本の母親だったのか。俺たちがこうして話している間も、眼下では暴れる山本を、殴られつつも看護師が必死に抑えつけようとしている。
「事故を無かったことにする」
「無かったことにする……? どういう意味だ」
「そのままの意味だ。……おれを轢いたのは、当時の法務大臣のどら息子だった。このことが公に出れば、もちろん法務大臣の立場は危うい。そこでその親子は金で事件を」
「まさか、もみ消したってことか」
「そうだ」
ようやく抑えられた過去の山本は、暴れ疲れてか意識を閉ざす。なんとか抑えた看護師も、生傷だらけ。個室はもはやボロボロだった。
「おれは悔しかった。悔しくてたまらなかった。おれの人生があんなゴミのせいで狂ってしまった! 悪は善が裁く? そんなものはまやかしでしかないィ!」
何も答えることが出来ない。怒りを思い出したのか、山本は続ける。
「それだけじゃない。こんなゴミ共に、金でへーこら手のひらを返すあの愚図もだ! 許せるか? 許せるかアァァァ!?」
病室の風景が掻き消え、元の月明かりが照らす夜の草原へと戻った。愚図とは母親のことか。
「だが、おれはその気持ちを押し殺した。怨むことは門違いだ。とにかく受験勉強に精を出そう、と。そして翌年、志望校に無事受かり、これからは新たな未来を切り拓いていこうと決意を胸にした」
「それならどうして……」
「去年の四月。おれは大学生活にも馴染み、過去の事を忘れて自分の目標に向かっていた。そんな春のある日、サークルの新入生に忘れるわけもない男が現れた」
「男って」
「そう。おれを轢いたそのどら息子だった。母親から名前は聞いていたため、忘れるわけもなかった。しかもその愚図は、現役でうちの大学に入ってきたばかり。どういうことかわかるか」
現役で入ったということはそのどら息子とやらは十八歳……。まさか。
「免許か」
山本は物分かりが良い、と拍手で俺を称え、話を続ける。
「そうだ。大型二輪の免許は十八歳以上からだが、おれを轢いたときの愚図の年齢は十六歳。無免許だったのだ」
一般的な原付きなどは十六歳以上だが、山本の話によるとそのどら息子は大型二輪を運転していたらしい。そうだとすると大型二輪の免許は当然、ない。
「もちろん、おれのことなどあの愚図は微塵も覚えていない。それはそうだ。一度も見舞いにさえ来なかったのだからなァ!」
山本の受けた屈辱とはここまで……。
「そして夏、おれはこの能力に目覚めた。最初は何が起きたか分からなかったが、この意識を消し飛ばす能力こそこのおれに本当に必要な力だ! 現にあの愚図も、簡単に手を返した親も消してやった! まだだ……。きっとおれと同じような屈辱を受けたやつはごまんといる! そのためにも、そいつらのためにもォ! おれはこの屑が蔓延る腐りきった世界を変えなくてはならないィ!」
「確かに、お前の受けた屈辱は分かった。……だがそれは違う! お前も結局そのどら息子と一緒じゃないか!」
「おれがあの愚図と一緒だと? 適当な事を抜かすなぁぁぁぁぁ!」
「いいや、同じだ! お前がやろうとしていることは、ただ悲しみの連鎖を広げるだけだ! お前だって、お前くらい賢いやつなら分かってるだろう!? こんなこと、本当は何の意味にもならないって」
「黙れェ! 黙れェッ!」
ダメだ、俺の言うことをまるで聞いていない……。
「おれはァ! ミュウツーLV.Xのワザを使う! エネルギー吸収ゥ! トラッシュにある超エネルギー二枚をミュウツーLV.Xにつける!」
俺のサイドは残り二枚、山本のサイドは残り三枚。
山本のバトル場にはこれで超エネルギーが三つついたミュウツーLV.X120/120、ベンチにはユクシー70/70と道具となったアンノーンGをつけているフーディン100/100。
俺のバトル場には炎エネルギーを二枚、達人の帯をつけたバシャーモFB LV.X70/130、ベンチに炎エネルギー一枚ついたヒードランLV.X120/120とネンドール80/80。
場には山本が発動したスタジアムカード、月光のスタジアム。このカードで互いの超、悪ポケモンは逃げるエネルギーなしで逃げることが出来る。
一見俺のほうが優勢に見えるが、とんでもない。最悪だ。
山本のミュウツーLV.Xはポケボディー、サイコバリアで進化していないポケモンからのワザのダメージや効果を一切受け付けない。
今場にあるバシャーモFB LV.XはSPポケモンなのでたねポケモンとして扱われ、ヒードランLV.Xは言うまでもない。ネンドールはワザを使うために闘エネルギーが必要、そもそも最初からネンドールを戦力として計算していないため闘エネルギーなんて入れてない。
このデッキに入っている進化ポケモンであるバシャーモは、既に二匹気絶し一匹はロストしてしまった。デッキにもサイドにも、言わずもがな手札にもバシャーモはもうどこにもいない。
俺じゃあミュウツーLV.Xに傷一つ与えることすらできない。
とはいえ、山本は俺のデッキにもう進化ポケモンがいないことを知らない。それを悟られてはダメだ、弱みを見せてはいけない。そのときこそ本当の負けになる。
「くっ。行くぞ、俺のターン! ん、これは……」
今ドローしたカードは……。
『翔、これを貸しておく。使うか使わないかはお前次第だ』
風見がポケットから十枚程度のカードを裏向けのまま渡した。拒否出来ない雰囲気に負け、何事もないかのように受け取ってしまう。
PCC予選が始まる前に、風見が俺に渡したカード。全てはデッキのスペース上入れにくいので、少しだけ入れたカードだった。
「なるほど、こういうときのため、って言うつもりか。俺はナックラーをベンチに出す」
「ナックラーだと?」
ベンチにナックラー50/50が現れる。俺のデッキは基本的に炎中心だったが、このナックラーは闘タイプだ。
「月光のスタジアムをトラッシュし、手札からハードマウンテンを発動!」
辺りが元の会場に一瞬戻ると、間髪入れずに今度は険しい山脈に舞台が切り替わる。さっきの草原と違い足元はガチガチした岩盤だ。
「ハードマウンテンがあるとき、一ターンに一度自分のポケモンの炎、闘エネルギーを一つ選んでもよい。そのときそのエネルギーを自分の炎または闘ポケモンにつけ替えることができる。俺はバシャーモFB LV.Xの炎エネルギーをナックラーにつけ替える」
「その程度ッ」
「まだまだ! サポーターカード発動だ。ハマナのリサーチ。その効果でデッキから炎エネルギーを二枚加え、ナックラーに炎エネルギーをつける。さらにネンドールのポケパワーだ」
「何度無駄と言えば分かるッ! フーディンと悪エネルギーを手札からトラッシュし、フーディンのポケパワーを発動ォ! パワーキャンセラー! 相手ターンに一度、手札のカードを二枚トラッシュすることで相手のポケパワーを無効にする!」
そんなことは分かっている。無駄ではなく、山本の手札を削ることに意味がある。
「バシャーモFB LV.Xで攻撃。誘って焦がす。俺はユクシーを選択」
このワザは相手のベンチポケモン一匹を選び、バトル場のポケモンと強制的に入れ替えさせて新しくバトル場に出たポケモンをやけどにさせる効果だ。これでバトル場にユクシー70/70を引きずり出しやけどにさせた。
「ターンエンドと同時にポケモンチェックだ。このとき、ヒードランLV.Xのポケボディー、ヒートメタルが効果を発揮する。これは相手がポケモンチェックのときにやけどによるコイントスをするとき、そのコイントスを全てウラとして扱う。よってユクシーはやけどのダメージを確実に受けてもらう!」
やけどの20ダメージを受け、ユクシーのHPは50/70に。
「そんな小細工が今さら通用すると思ったかアァァ! おれのターン! ハードマウンテンをトラッシュさせ、月光のスタジアムを発動ォ!」
再び舞台が月夜の草原へと姿が変わる。
「バトル場のユクシーを逃がし、ミュウツーLV.Xをバトル場に出す。さらにミュウツーLV.Xにポケモンの道具、達人の帯をつける!」
「何だと!?」
ユクシーがベンチに戻ったことでやけどは回復。さらに、達人の帯がミュウツーLV.XについたことでミュウツーLV.XのHPと与えるワザの威力が20ずつ上昇する。これでミュウツーLV.XのHPは140/140。
だが、達人の帯をつけたポケモンが気絶したとき、相手はサイドを一枚多く引くことが出来る。山本も、ミュウツーLV.Xで勝負をつけに来たということか。
「グッズカード、夜のメンテナンスを発動! トラッシュの基本エネルギー、ポケモンを合計三枚までデッキに戻しシャッフルすることができる。トラッシュの超エネルギー二枚、ミュウツーをデッキに戻すッ!」
山本のデッキは十枚を切っていたが、これで丁度十枚に戻る。おそらく松野さんと戦った時のようにデッキを削られるのを防ぐための策だろうか。
「攻撃だ! 吹き飛べ、サイコバーン!」
ミュウツーLV.Xが左足を前に踏み出し、体は右向きに半身の格好になる。そして間にボールでもあるかのように右手を上に、左手を下に添えるとその中間から薄紫の球体が現れた。それをミュウツーLV.Xが投げ飛ばすと、球体は螺旋を描きながらバシャーモFB LV.X70/130を襲う。
「ぐおあああっ!」
強烈な風と爆発のエフェクトが俺の場全体を包み込む。サイコバーンの元の威力は60。それに達人の帯の効果も相まって、60+20=80ダメージ。バシャーモFB LV.Xはこれで気絶になってしまう。
「だったらヒードランLV.Xをバトル場に」
「バシャーモFB LV.Xについていた達人の帯の効果でェ! おれはサイドを二枚引く! あと一ターンだ! 次のターンで貴様に破滅が訪れる! そして新たな世界の幕が開くゥ!」
山本のサイドはもうあと一枚だけ。次のターン、山本がギガバーンで攻撃してくれば、ヒードランLV.Xは気絶してしまう。
ギガバーンの威力はサイコバーンの威力の二倍、120。それに達人の帯の効果で20加算され140ダメージ。しかし、この一撃に耐えれるポケモンはそうそういないし、俺のデッキにはどこにもいない。
さらにミュウツーLV.XはヒードランLV.Xの攻撃、効果を受け付けない。ナックラーでは言わなくとも完全に力不足。
「まだだ。まだ俺は戦える! ドロー!」
ドローカードはミズキの検索。よし、まだチャンスはある!
「ミズキの検索を発動。デッキに手札のカードを一枚戻すことで、デッキから好きなポケモンのカードをサーチする。俺はフライゴンを選択!」
「いまさらフライゴンを選択したところで、進化出来るのは一ターンに一度きり! ビブラーバまでが精いっぱいだッ!」
「そうかな? グッズカード、不思議なアメを発動する。自分の進化していないポケモンを進化させる。ナックラーを、フライゴンに進化だ!」
ナックラーを中心に砂嵐が吹き荒れ、その姿が見えなくなる。数秒たって砂嵐が晴れ、そこからフライゴン120/120が姿を見せる。
「だァが! その程度ではおれのミュウツーLV.Xはびくともしない!」
「まずはフライゴンに炎エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワーを発動」
「手札のミズキの検索、達人の帯を捨てパワーキャンセラー! そのポケパワーを無効にする!」
手札の補給が出来ないため俺の手札はたった一枚。しかも炎エネルギーだ。だけど、立ち止まって諦めるつもりはない。
「フライゴンのポケボディー、レインボーフロートは、このポケモンについている基本エネルギーと同じタイプのポケモンの逃げるエネルギーが0になる。ヒードランLV.Xを逃げるエネルギーなしで逃がし、フライゴンをバトル場に出す」
フライゴンの足元からヒードランLV.Xに向かって虹が伸びる。ヒードランLV.Xはこの虹をつたいベンチに逃げ、フライゴンがバトル場に現れる。
「ミュウツーLV.Xのサイコバリアは進化しているポケモンのワザ、効果は受けるんだよな」
「だがこのミュウツーLV.XのHPは140! 一撃で倒せるはずがない! 無駄な抵抗はやめるんだなァ! キーヒャハハハ!」
「そいつはどうかな。フライゴンで攻撃。砂の壁!」
フライゴンが翼をはためかせると、足元から砂嵐が巻き起こる。その砂嵐は範囲を広げ、文字通りミュウツーLV.Xとフライゴンを分け隔てる壁となり、その砂嵐はミュウツーLV.XのHPも40削る。さらに、辺りの風景も月夜の草原から元の会場へと戻っている。ミュウツーLV.X100/140にダメージを与えた後もこの砂嵐は一向に止む気配がない。
「何だ、何が起こっているッ!」
「このワザは相手のスタジアムをトラッシュし、次の相手の番にフライゴンは相手のワザのダメージ、効果を受け付けなくする!」
これで次の山本のターンにフライゴンが倒される恐れはなくなった。なんとかして打開策を拓かないと。
「くっ、小賢しい! 手間取らせよって! おれのターン! ミュウツーLV.Xに超エネルギーをつけてワザを使う。自己再生! ミュウツーLV.Xについている超エネルギーを一枚トラッシュして、このポケモンのHPを60回復する」
ミュウツーLV.Xが淡い光に包まれ、HPバーを元に戻していく。さっき40ダメージ与えたのに対し60回復。ミュウツーLV.XのHPは元の140/140に戻る。
「フハハハハハッ! 今度こそ、今度こそ! 次のターンにおれはギガバーンで貴様のフライゴンを倒して勝利するッ!」
山本のターンが終わると同時に砂嵐が晴れる。砂の壁の効果は無くなった。もう俺を守るものが無くなってしまった。
今度こそ絶体絶命だ。このターンでミュウツーLV.Xを倒さなければ俺は勝てない。そのための逆転の一枚を……。
「俺のターン」
ドローのためにデッキの一番上のカードに触れる。何故だか触れた指先が熱を帯び始めた。指をつたって徐々に体全体に熱が広まり、心臓の鼓動が早くなる。
「感じる……。このドローに、俺は全てを懸ける! 行くぞォ! ドロー!」
俺がドローしたカードは……。フライゴンLV.X!
「こいつが、俺の絆の証しだ! 現れろ、フライゴンLV.X(140/140)!」
「たかがHP140! このおれとミュウツーLV.Xの敵ではない!」
「そいつはどうかな」
「何っ?」
山本の眉がぴくりと動く。
「この悪夢を終わらせる力だ! フライゴンLV.Xで攻撃。エクストリームアタック!」
フライゴンLV.Xが空高く舞い上がる。
「このワザは、相手のLV.Xポケモン一匹に150ダメージを与えるワザだ!」
「ひゃ、150だと!?」
「行けぇ! フライゴンLV.X!」
上空から加速をつけて一気に駆け下りてくるフライゴンLV.Xの体は、白の光に包まれる。
「こんなところでおれはっ、おれはああああああああ!」
光の束と化したフライゴンLV.Xが、正面からミュウツーLV.Xの体を貫く。それと同時に爆発が巻き起こり、山本側の場が一切見えなくなった。
「達人の帯をつけたポケモンが気絶したため、俺はサイドを二枚取る! これで俺の勝ちだ!」
これで俺は全てのサイドを引ききった。カードから目を離して前を向くと、勝負が終わったために消えかけているフライゴンLV.Xと目が合う。
「ありがとうな」
勝った。……良かった。一人だったら絶対に勝てなかったが、こいつのお陰で俺は勝つことが出来た。本当に、ありがとう。
翔「今回のキーカードはフライゴンLV.X!」
風見「エクストリームアタックは、ベンチのLV.Xポケモンも攻撃出来る。ポケボディーもデッキ破壊の強力効果だ」
翔「これが俺達の絆の証しだ!」
フライゴンLV.X HP140 無 (DPt2)
ポケボディー しんりょくのあらし
このポケモンがバトル場にいるかぎり、ポケモンチェックのたび、相手の山札のカードを上から1枚トラッシュ。
無無無 エクストリームアタック
相手の「ポケモンLV.X」1匹に、150ダメージ。
─このカードは、バトル場のフライゴンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 雷−20 にげる 0
最新話投稿しました!
今日は晴れていたけど風が強かった…。そして冷たかった…。
私の家は風が強いと換気扇から「ブーン」という音が聞こえてきます。うるさいったら…。
もう慣れましたが(^_^;)
さて、「ポケモンヒストリー」ですが、前話がギャグ主体だったのに対し、今回はちょいシリアスです。ギャグなんてどこにもありません。
そういえば久々の完全シリアスかも………
では、読んでいただけたら嬉しいです!
POCKET
MONSTER
PARENT
6
『欲望は違法で満たされる』
ほんのわずかな星屑と、丸みを帯びた半月が、夜空に浮かんで光を放つ。
実家から逃げ出したものの、泊まるあてはない。
シオンは仕方なく今日の宿をあきらめ、ただひたすらに歩いていた。
せっかくなので、宿よりも欲しかったポケモンの在り処を目指して歩いた。
ほおを伝っていたはずの涙は、夜風に吹かれて乾いて消えた。
トキワシティの果てをシオンは見つめた。
人を通さぬ森の壁が連なっている。
街と外の世界を繋ぐ二番道路を視認する。
道は、シオンの知らない誰かによって立ち塞がれていた。
昼間の少女とは別の人物であるようだったが、
シオンが乗り越えなければならない存在に違いはなかった。
シオンは握りしめた拳を、名前も知らない青年を狙って、勢いよく突きつけた。
パァン!
不意打ちのパンチは、青年の手の平に収まってしまった。
分厚い手の平はシオンの拳を握りしめ、
百円玉をセットしたガチャガチャのようにひねりあげる。
「うぎゃぁあああああ!」
たまらず絶叫をあげた。
腕がねじ切れんばかりの激痛に襲われ、シオンは宙を一回転し、しりもちをついた。
尻にしびれるような痛みがヒリヒリと響いた。
「なんて酷い奴だ! 俺の腕がちぎれるところだったぞ!」
「いやいや、僕だって君ほど酷い男じゃないよ。いきなり殴ってくるなんて危ないじゃないか」
青年は野太い声で言った。
シオンが顔を上げると、青年の丸い瞳と目が合った。
狙われている。
シオンは思い出したように恐怖し、
慌てて拳を引っこ抜いて、急いでその場から離れた。
「くっそぉ、なんて力だ。一体何者なんだ?」
「何者って……ただのポケモントレーナーだよ。バイト中のね」
真っ赤な学ラン姿の青年が、西洋風の街路灯に照らされていた。
青年は背が高く、体格も大きく、シオンにはただのポケモントレーナーには見えなかった。
服を着た喋るゴーリキーのように思えた。
「それより、僕に喧嘩の用があるっていうんなら、帰ってもらうけど?」
青年はおどすように、指の関節をポキポキ鳴らした。
棒立ちしていたシオンは、一瞬で正座の態勢に移った。
そして、ためらいなく、前髪と両手を地面にたたきつけた。
そのまま彫刻のように固まる。
今日一日でシオンの土下座は、
なめらかでキレのある素早い動きで完璧なフォームを叩きだせるほどの進化を遂げていた。
「……そこまで真剣に謝るくらいなら、最初から殴ってこなけりゃいいのに」
「たのみがあります」
「えっ? 謝ってるんじゃないんの? 土下座でお願いしてたの?」
「はい。あなたしか頼れる相手がいません。一生のお願いです!」
暗い土の上を見つめながらシオンは祈る。
自分にとって都合のよい答えが返ってくると全力で信じて言った。
「お願いします! あなたの後に続く二番道路を通りたい! そこを退いてもらえませんでしょうか?」
「ええっと、それじゃあ……トレーナーカードは?」
「持っておりません!」
「それならポケモンは?」
「持っておりません!」
「じゃあ無理だね。悪いけど。トレーナーだと証明できないと、ここから先には行けない決まりなんだ」
「知ってます! でも、俺には土下座しか出来ないんだ。そこをなんとかお願いします!」
「……ごめんよ。そういう仕事なんだ」
土下座が通じないと理解するなり、シオンはスッと起立した。
懇願をキッパリとあきらめ、ファイティングポーズを構えた。
「やはりあなたを倒すしかないようだな! 力づくで通らせてもらうぞ!」
シオンは返り討ちに合っていた。
青年にボコボコにやられてしまっていた。
疲れ果てて混乱した後、立っていられなくなり、地べたで大の字になって倒れた。
頭のてっぺんから足のつま先まで、体中がズキズキと痛みが響く。
血が一滴も流れていないのが不思議でならなかった。
「まだだ、まだ終わっちゃいない!」
「口だけはまだ動かせるのか。
でも僕はさぁ、君を叩いてると、一方的過ぎてなんだか悲しくなるんだよ。
それに君のパンチ弱いし、あきらめておくれよ」
「俺のパンチが弱いだって? ……まてよ。
そういえば、あなたはどうして俺の拳をよけない? どうして俺のパンチを受け止め続けるんだ?」
「ちょっとくらい考えてみなよ。例えば君が僕に突っ走って来たとする。それを僕がよけたとする。すると?」
「……そのまま俺が二番道路に走って行ってしまう」
「そういうこと」
「なるほど。つまり、あなたと喧嘩しなくても街の外に出られるワケだ。上手くいけばいいんだけどな……」
シオンは体中に力を込め再び立ち上がる。
そして、再び名も知らぬ青年に立ち向かった。
シオンの速度と体積に問題があった。
サッカーゴールを守るゴールキーパーは、ボールを取り損なう事があるかもしれない。
しかし、走って来た人間をとらえ損ねる事は絶対にない。
汗を流し、肩で息をするようになってシオンは初めて気がついた。
この努力では二番道路を通過できない。
「くそぅ。こんなところで俺の野望を終わってしまうのか」
「僕はね、たとえ相手が大人だろうと、ポケモントレーナーだろうと、認められない人間を街の外へは行かせない。
断言するよ。君みたいな普通の若者が相手じゃあ、僕を押しのけるなんて出来やしない」
「なら俺は一体どうしたらいい?」
「帰ればいいと思うよ」
「何だと! お前が帰ればいいんだ!
お前みたいなのがいるから、俺は十四年もトキワシティに閉じ込めらているんだ!」
「もう五、六時間したら帰るよ」
「え? 本当に? 帰っちゃってくれるのか?」
「そりゃそうだよ。僕だって普通の人間なんだし、毎日二十四時間も働いて生きていられるワケないでしょうに。
ヨシノ・ワカバさんが来たら、交替して僕は帰るよ」
「ワカバだって! あの鬼ババァが来るのか? それじゃ帰ってもらったって、全く意味がないじゃないか!」
「ひょっとして、ヨシノさんの知り合い? どうして? 何で意味ないの? 考えてみれば、女性が相手だよ?
君でも暴力振るえば勝てるんじゃない? 力づくで押しのけられない? 何か会いたくないワケでもあるの?」
「ある! あの馬鹿女、俺にポケモンで攻撃してきやがったんだ。それも破壊光線で。死ぬかと思ったよ」
青年の顔からニタリと笑みがこぼれた。シオンは、なんとなく嫌な予感がした。
「へえ。なるほど、つまり、ポケモンを呼ばれちゃったら、さすがの君もあきらめてくれるってことかな?」
「……たのむ。あなたはあの馬鹿女とは違う。話の分かる人だ。
ポケモンで人を襲わせるなんて馬鹿な真似はよしてくれ」
いつの間にか、青年は紅白の鉄球を握っていた。
閃光が瞬き、白の世界にシオンの目がくらんだ。
次の瞬間、ドラゴンが街路灯のスポットライトを浴びていた。
首の長い朱色の恐竜が、
青い悪魔の翼を広げ、
燃え盛る尻尾の先を揺らしている。
リザードンだった。カッコいいリザードンだった。
「ずるいぞ!」
「だって君、このまま帰ってくれないじゃないか」
「アンタみたいなのがリザードン持ってるなんてずるいぞ!」
「……君にとってはずるいのかもしれないね」
シオンは絶望的な状況に頭をかかえていた。
今から、自分より強い青年と、青年よりも強いドラゴンを乗り越えて行かねばならない。
真剣に悩んでみても、一人と一匹の化け物を相手に勝ち目はないと分かりきっていた。
「君はさ、ポケモンを相手にするぐらいならあきらめてくれるんだろう? 帰りなよ」
「卑怯者め! ポケモンに頼らず正々堂々と戦え!」
「たった今、正々堂々と戦ったじゃないか。君がしつこいからだよ、んもぅ」
「んなこと言われたって……じゃあ俺はどうやって街の外に出ていけばいい? ヒントぐらい教えてくれよ!」
「だから家に帰れって」
不意に、青年は手に持っていた鉄球を、真っ赤なジャケットのポケットに収めた。
シオンは自分から見て左のポケットにボールが隠れたのを見逃さなかった。
頭の中でモンスターボールを思い浮かべている内に、シオンは冷静さを取り戻していった。
今はピンチの時ではなく、千載一遇のチャンスであると理解した。
「やっぱり簡単には帰ってはくれないのか」
「俺は今日、家に帰らない」
「ま、いきなり人を殴るつけるような相手だし、嫌な覚悟を決めてきたんだろうけど」
「それより、俺さっき破壊光線に撃たれたって言ったよな? でも生きてる。何でだと思う?」
「あ、撃たれたんだ。そりゃあ、撃ったポケモンのレベルが低かったからじゃないかな」
「そう! それなんだよ。さすが、話が早い! で、だ。
そこにいるリザードンってポケモンはさ、レベルが三十六でもレベル九十八でも姿形は全然変わらないもんだろう?
ってことは強そうに見えるだけの雑魚ポケモンなんじゃないの?
俺みたいなのも殺せないじゃないの? 弱っちい雑魚モンスターが相手じゃ俺にも可能性もあるワケだ!」
シオンはリザードンの攻撃を誘っていた。
リザードンはあくびをしていた。
「何が言いたい? 一体何が目的?」
「だぁ、かぁ、らぁ、お前のか弱いポケモンじゃ大した技なんか使えやしねぇだろ、っつってんの!」
「……見え透いた挑発か。でも、まぁいいよ。うん。そこまで言うんならば、お見せしようじゃないか」
ポケモンを侮辱されカッとなったのか、
少しおどかしてやろうと思ったのか、
真相は分からなかったが、
青年はあえてシオンの思惑どおりの働きをする。
青年はシオンの隣にある空間に指を突き付け、言う。
「彼に当てないように……火炎放射!」
リザードンは鋭い牙の並んだ大あごを開き、
喉の奥底から炎の息吹を吐き出した。
光と熱と轟音が列となって、シオンの隣を走り続け始めた。
燃え盛る業火の風は、赤と青の熱い光を点滅させながら、
どこまでもどこまでも長く伸び、龍の如く揺らめいていた。
生きながらにしてシオンは、地獄の光景を目に焼き付けた。
闇を払い除けるような灼熱は、間違いなく人を焼死させる力を持っていた。
エリートトレーナーでなくとも、普通の人間ならばポケモンを人殺しの道具にはしない。
リザードンの攻撃が外れると、シオンは承知していた。
そしてシオンはポケモンバトルがターン制であると知っている。
火炎放射という技は連続で使用することは出来ない。
炎が幻のように跡形もなく消え去り、再び世界に闇が訪れ、リザードンのターンが終わった。
シオンに青年とまともに戦える最後の瞬間がやってきた。
思いっ切り大地を蹴って、熱い空間を駆け抜ける。
熱風に肌を焦がしながら、拳を構え、呆れかえったような青年の顔面を睨みつけ、シオンは踏み込んだ。
シオンの左ストレート。青年の右手で受け止められる。
シオンの右ハイキック。青年の左腕で防御される。
シオンは青年の両腕をふさいだ。
シオンの右突っ張り。青年の赤い上着の右ポケットに入る。
右手を握る。球体を掴んだ。
シオンの腹部に衝撃が走る。
青年の飛びひざ蹴り。シオンの下腹に直撃した。
シオンは後方に吹っ飛び、大地に転がり込んだ。
腹痛と息苦しさに耐え、もだえる間もなくシオンは立った。
「戻れ!」
シオンが手をかざすと、掴んでいた鉄球が口を開いたように真っ二つに割れる。
リザードンの肉体は赤い光へと変身すると、
凝縮されるように小さくなりつつ、
シオンの手の平へと吸い込まれていった。
魂の入ったモンスターボールを掴んだ時、シオンは勝利を確信した。
「よしっ!」
「やられた……まったく見事な手際のよさ。泥棒のセンスあるんじゃない?」
悔しそうな青年に対し、シオンは嬉々と盗んだボールを見せつける。
腹部の痛みに堪えながら青年を皮肉った。
「人質ゲットだぜ! ……いや、この場合はポケじちか?」
シオンの胸の中では、安堵の念と達成感で溢れていた。
争いが終わったと思っていた。
しかし、未だ目的は達成されていない。
つづく?
後書
文章の『読むのが苦痛』を脱出するべく、
『面白くない部分』や『日本語がおかしい部分』などを
全て消してしまおうと意気込んだものの、
そんなことをすれば白紙になってしまうと知ってしまったが故に、
今回もダラダラグダグダな文章を見せびらかすのであった。
小説は難しい……。
姉貴からもらったお下がりの大きなバッグに、用意した荷物を順に積めていく。形の大きいものから下に敷き詰めて、詰め方も工夫しながら出来るだけスペースを考えて行く。入れたり出したりを繰り返して、ようやく納得が行く形になった。
カイナから最初に目指すのはノーマルコンテストの会場があるシダケタウンだが、その道中にキンセツシティを経由する。徒歩だと平均一日半かかると言われているから、着替えは一日分だけでいい。なんせ筋力が大きく落ちているのだから多くは持っていけない。
そして棚から他に必要なものを探していると、背後でドサッと嫌な音がした。振り返ればバッグがもぞもぞ動いている。
「ちょっ! あぁ、ほんと勘弁してよぉ」
いつの間にかバッグに潜り込んで暴れていたルリリをひっぺがす。せっかく整頓したバッグの中身がぐちゃぐちゃに散乱している。
ルリリがユナの元にいた頃から分かっていたが、このルリリは非常に陽気な性格で、なおかつお調子者だ。目を離すと尻尾を使ってあちこち跳ね回って遊んでいる。
「ほんとお願いだからバッグだけはやめて。……はぁ、また詰め直しかよ」
仕方なくルリリをモンスターボールに戻す。早くなついてもらうためにボールから出していたんだけど、この調子だとなつく以前の話だ。
静かになった部屋で、もう一度荷物を詰め直す。一度やったことの繰り返しなだけなので、思ったよりは苦労をしなかった。
「荷物の準備終わったよ」
階下まで降りるとパソコンに向かい合ってる姉貴がいた。パソコンから伸びているケーブルの先には……ポケナビ?
「お疲れ様。今こっちも終わるからちょっと待ってて」
「何してるの?」
「ポケナビにガイドマップとか使えそうなアプリケーションを片っ端から突っ込んでるの。ただのマップじゃなくてどっちに進むべきかとかも示してくれる地図とか、あとはポケモンのコンディションを簡単に見られるものとか……。お、終わった終わった! えっと、使い方はまた追々教えるから」
「追々ってもう明日じゃん」
眉をひそめてそう尋ねると、姉貴は笑ってこう言った。
「言わなかったっけ? しばらくの間だけカノンだけじゃ不安だから付いていくの」
「えっ? 聞いてないけど」
「じゃあ今聞いたね」
「今聞いたね、ってむちゃくちゃな」
「あんたも一人よりは安心でしょ。いろいろ手助けしてもらった方が気も楽だし」
「そ、そうだけど……」
強引にも限度があるだろうに。気の楽さで言えば一人の方があるだろうけど、それでもまだ一応先輩トレーナーの姉貴がいると困ることも少ないだろう。もっとも、いくら頭の中で考えたところで姉貴が一度こんな風に言い出したらおれの話は一切聞かないんだけどね。
「じゃあ明日だし、先に寝るね」
「はいはい、おやすみ」
その日の夜は、緊張よりも疲れが勝って案外すぐに眠れた。
カイナシティ北部、110番道路との分岐点。街と道路の境に位置するアーチの下。おれと姉貴を日傘を持ったユナが見送りに来てくれた。
「無理して見送らなくてもいいのに」
「しばらく会えなくなるんだから顔見て見送りたいなって思って」
「顔なら同じ顔なんだから鏡見れば良いのに」
とふざけたことをいっていると、コツンと姉貴が優しく頭を叩いた。
「せっかく来てくれたのにそんなこと言わないの」
手を口に当てて笑うユナをよそに恨めしげに姉貴を眺める。おれが男だったときは本気で殴ってきたのにこの差はなんなのか。姉貴を見上げることには慣れたもののこの扱いの差は未だに慣れない。
「どうせすぐにハイパーコンテストのために戻って来るから、そんな顔しなくても大丈夫だって」
「うん……。何かあったら電話してきてね!」
「そっちこそ」
と、そこまで言うと互いに次の言葉が出ない。体調に気をつけて、勉強頑張って、応援してくれ、等々パッと浮かんでも何を今言うべきなのかが分からない。本当に言いたいことはある。それは分かっている。今言わなければいつ言えばいいか分からない言葉があるんだ。……でも心のどこかにひっかかって出てこない。
そんなおれに気付いてか、ユナも喋り辛さを感じたらしく徐々に頭が垂れてくる。
「もう、そんな辛気臭い雰囲気にしちゃダメよ二人とも。こういうときはシャキッとする! 行くなら早く行くよ」
「えっ、ちょっと!」
「ちょっと何よ」
「いや、そのぉ……」
「男でしょ、言いたいことがあるならはっきり!」
「女なんだけど」
「それもそうね。って遊んでる場合じゃなくて! うだうだしてないで言いたいことはちゃっちゃと伝えてさっさと行く! 待たされる身にもなりなさいよ」
「えっと……、それじゃあまた後でね。アサミさん、カノンをよろしくお願いします」
「あたしがいるから大船に乗ったつもりでいて大丈夫よ。ほら、カノンも」
ふいに名前を呼ばれた姉貴はバシバシとおれの肩を叩く。そんな様子を見て、くすりとユナが笑った。
「えっ、うん。また後で」
ぎこちない挨拶を交わして、先に歩き出した姉貴の後をついていく。曲がり角を曲がってユナの姿が見えなくなるまで、何度か振り返って手を振った。ユナの姿が見えなくなってから、改めて本当に旅に出たんだななんて気がした。
そんな様子を見たからか、姉貴が溜め息混じりにこう切り出す。
「あたしが付いてきて正解だったでしょ? あたしがいなかったら五年はそこにいたわ」
「五年って……。だって本当に何て言えばいいか分からなくて」
「そんなの行ってきますとかでいいじゃない」
あんまりな姉貴のそれに、そういう意味じゃない、と返しかけたが、姉貴に話す気にならなかったので黙っておいた。
何度か振り返り、離れていくユナとカイナシティが小さくなっていく。
今まで生まれてきてからずっと過ごした街が遠ざかる。スクールの友人と灯台の下で遊んだこと。姉貴と市場で買い物したこと。バトルテントで張り切ったこと。二階にあったおれの部屋。ユナと過ごした毎日。煩雑に愛しい大切な記憶が立て続けにフラッシュバックしていく。一つ一つ浮かぶ度に、懐かさと寂しさが綯(な)い混ぜになって胸が締め付けられていく。
……結局、大事なことを伝えられないままだった。本当なら次のユナ、もといカノンの誕生日に告白するつもりだった。おれがこうなった以上叶わなくなったその悔いをせめて、とさっき言いたかったのに、やっぱり言えず終いだった。
曲がり角を曲がって街が、ユナが見えなくなる。何かが欠けたようなぼんやりとした不安に駆られながらも、姉貴に促されて見知らぬ土地を歩み出す。
「おれのターン!」
俺のサイドは残り五枚。バトル場には炎エネルギー一枚ついたバシャーモFB80/80。ベンチにはヒードランLV.X120/120とネンドール80/80。
山本信幸のサイドも同じく残り五枚。そしてバトル場には超エネルギーが一枚つき、やけど状態のクレセリア60/80、ベンチにはポケモンの道具となったアンノーンGをつけたフーディン100/100、超エネルギーが三つついたミュウツー10/90。
山本はこの勝負に勝つと、自信の能力(ちから)が強まりポケモンカードを介せずとも能力を使い、相手の意識を奪って植物状態にさせれるという。そんなことが本当に起きればとんでもないことになってしまう。だからこの勝負にだけは絶対負けられない。これ以上こいつの好き勝手にさせる訳にはいかない。
「まずはスタジアムカードを使う。月光のスタジアム!」
風景があっという間に月夜の草原になった。穏やかだが冷たい風が吹いて草が揺れ、ざわざわとその音がする。灯りは唯一空に浮かぶ月だけ。どことなく寂しい感じのするスタジアムだ。
「このスタジアムがあるとき、互いの超、悪ポケモンは逃げるエネルギーが0になる。おれはバトル場のクレセリアを逃がし、ベンチからミュウツーをバトル場に出す」
ベンチにクレセリアが戻ったことで、クレセリアのやけどは回復する。だがバトル場に出たミュウツーの残りHPが10。虫の息もいいとこだ。
「手札からサポーターカードの地底探検隊を発動。デッキの底から四枚確認し、そのうち二枚を手札に加え、残り二枚を好きな順にして戻す。続いて手札の悪エネルギーをアブソルGにつける。そしてミュウツーのワザを使う。ミュウツーの超エネルギーを一枚トラッシュし、自己再生だ」
ミュウツーの体が薄い青の光に覆われる。それと同時にHPバーも徐々に回復していく。これでミュウツーのHPは70/90にまで回復した。
「この自己再生はミュウツー自身についている超エネルギーを一つトラッシュすることで、そのHPを60回復させるワザ。ターンエンドだ」
バシャーモFBでとどめがさせなかったがために回復をさせてしまったか……? いいや、全然そんなことはない。むしろ好都合だ。
「俺のターン。まずはバトル場のバシャーモFBをレベルアップ!」
バシャーモFB LV.X110/110が威嚇の雄叫びをあげる。レベルアップ前なら無理だったが、レベルアップしたバシャーモFBならミュウツーを倒すことが出来る。
「サポーターのミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキからワカシャモ(80/80)を手札に加えてベンチのアチャモを進化させる!」
手札はこれであと三枚。やはりこれでは心細いな。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを使い、手札を一枚戻して四枚デッキからドロー。そしてバシャーモFB LV.Xに炎エネルギーをつけてミュウツーに攻撃だ。ジェットシュート!」
バシャーモFB LV.Xは高く跳躍すると、そこからミュウツーに向かってとび蹴りを放つ。その様はまるで降り注いでくる赤い彗星だ。ワザのヒットと同時に大きな音と爆風を生み出す。80ダメージのこの大技はミュウツーの体も吹き飛ばし、HPを0にした。
「……。おれはベンチのアブソルGを新たにバトル場に出す」
「よし! レベルアップさせる前になんとか倒したぜ。サイドを一枚引いてターンエンド!」
「おれのターンだ。ドロー。……、まずはアブソルGに悪エネルギーをつける」
山本が使うポケモンはミュウツーやらクレセリアやらフーディンやら、超タイプばかりなのに、そこに一匹だけ混ざるアブソルG。一体どういう戦術で来るんだ……。
「愚図ばかりで腐りに腐ったこの世界を粛清するための第一歩だァ! アブソルGをレベルアップ。出でよ、アブソルG LV.X!」
バトル場にアブソルG LV.X100/100が場に現れたと同時に冷気を感じ、肌に触れる空気がずしりと重くなった。山本の雰囲気も急に静かだったのが力強さを感じつつある。……何か来る。
「アァブソルG LV.Xのポケパワーを発動! 闇に送るッ!」
山本がコイントスを三回行う。その結果はオモテ、オモテ、ウラ。どこに干渉するポケパワーだ。俺のバトル場か、それともベンチか。いや、手札に関係するものか?
「この効果はこのポケモンがレベルアップしたときにのみ使えるポケパワー! コイントスを三回行いオモテだった数だけ相手のデッキの上のカードをロストゾーンに送る! 淀んだ貴様のデッキを消してやるッ!」
「ろっ、ロストだと!?」
ロストゾーンに送られたカードはゲーム中、一切使うことが出来なくなる。オモテは二回出た、よって俺のデッキからカード二枚がこのゲームから消えてしまう。
「まずは一枚目! ハードマウンテンか……。まあいい。二枚目もだ! ……カカカカッ! バシャーモもロストだァ!」
「しまった!」
二枚のカードが、アブソルG LV.Xの額にある角が造り出した異次元に吸い込まれ消えていく。あの二枚はもうこの勝負で使うことが出来ない。
ハードマウンテンはまあまだいいが、問題はバシャーモだ。山本の本来のキーカード、ミュウツーLV.Xは進化していないポケモンのワザと効果を受け付けないポケボディーをもつ。だがその進化ポケモンであるバシャーモがロストされてしまった……。
「さァらに! サポーター、ハマナのリサーチを発動! デッキからミュウツーとユクシーを手札に加え、ミュウツーをベンチに出すッ!」
二体目のミュウツー90/90が山本のベンチに現れる。
「不要な物を切り落とし、新たな世界への一歩とするッ! 手札を一枚捨てアブソルG LV.Xで攻撃! ダークスラッガー!」
山本が捨てたカードはスージーの抽選か。ワザの起動に入ったアブソルG LV.Xの角から黒い三日月形の波動が打ち出され、それがバシャーモFB LV.Xを襲う。
「ダークスラッガーは手札を一枚捨てることで、威力を30上げるワザ。元の威力が30なので60ダメージッ! さらに貴様のバシャーモFB LV.Xが前のターンに使ったジェットシュートのデメリット」
「このワザを使った次のターンに、このポケモンが受けるワザのダメージはプラス40される……」
「そうだ! よって100ダメージっ!」
バシャーモFB LV.XのHPは110。それが今の一撃で100ダメージを受け、残りHPはたったの10。ダメージを与えれるワザを受けたらどんな些細な一撃でも倒れてしまう。
「くっそ、俺のターン! まずはワカシャモをバシャーモ(130/130)に進化させ、バシャーモに炎エネルギーをつける!」
俺のデッキにはバシャーモは三枚しか入っていない。一枚はトラッシュ、もう一枚はロスト。よってこれが最後のバシャーモ。
このターン、バシャーモFB LV.Xでジェットシュートをして80ダメージを与えると、アブソルG LV.XのHPは残り20になる。
さらにバシャーモのポケパワーで火傷にしてやれば、ベンチのヒードランLV.Xのポケボディーで相手は必ずやけどの20ダメージを受け、アブソルG LV.Xを気絶させることができる。山本のベンチのポケモンはほとんど育っていない、今がチャンス。
「バシャーモのポケパワーを使う。バーニングブレス! このポケパワーは一ターンに一度、相手のバトルポケモンをやけどにさせる!」
バシャーモが赤い吐息をアブソルG LV.Xに吹き付けたそのときだった。
「愚図はこれだから何も分かってないッ! 思い通りに行くと思うなァ! 手札を二枚捨てフーディンのポケパワーを発動。パワーキャンセラァー!」
山本がバトルサーチャーとミズキの検索を捨てると、フーディンがスプーンをアブソルG LV.Xの方に向けた。するとアブソルG LV.Xの周りに青いバリアのようなものが張られ、バーニングブレスを弾く。
「なっ、ポケパワーを防がれた!?」
「このパワーキャンセラーは相手のターンに発動したポケパワーを、手札を二枚捨てることで一ターンに一度だけそのポケパワーを無効にすることが出来る!」
このターンでアブソルG LV.Xを倒す手はずが完全に崩れてしまった。でも出来ることは今やらないと。
「バシャーモFB LV.Xで攻撃だ。ジェットシュート!」
またも激しい一撃が山本の場を襲う。強力な80ダメージのワザはアブソルG LV.XのHPを20/100まで減らした。
「おれのターンッ! まずはベンチのクレセリアに超エネルギーをつける。そしてユクシー(70/70)をベンチに出し、ポケパワーを発動する。セットアップ!」
セットアップは、ユクシーをベンチに出した時デッキから手札が七枚になるまでドローできる強力ポケパワー。山本の手札がたったの一枚だけだったのにこれで七枚まで補充される。そしてこの手札がまたフーディンのパワーキャンセラーに回るのか……。
「サポーターのミズキの検索を発動。手札を一枚戻しデッキからユクシーを手札に加える。そしてアブソルG LV.XでバシャーモFB LV.Xに攻撃だァ。だまし討ち!」
ふとアブソルG LV.Xの姿が掻き消えると、瞬時にバシャーモFB LV.Xの背後に現れ、その背中を角で一突き攻撃する。残りHP10/110だったバシャーモFB LV.Xはもちろんたまらず気絶してしまう。
「このワザは相手一匹に弱点、抵抗力、ワザの効果を無視して20ダメージを与えるワザ。これ程度で十分だ!」
「ちっ。俺は新たにバシャーモを出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだっ!」
あとアブソルG LV.XのHPはわずか20。だが、またしても俺の手札にエネルギーがない。ポケパワーが邪魔される以上、ワザで倒さなくてはならないのにこのままではそのワザさえ使えない。バシャーモについているエネルギーは炎エネルギー一つ。しかしバシャーモのワザはエネルギーを二つ以上要するから、このままでは攻撃出来ない。
「俺のターン、ドロー」
引けたのはエネルギーじゃなくバシャーモFB80/80。くっ、ないよりはいささかマシか。
「ベンチにバシャーモFBを出し、ネンドールのポケパワーのコスモパワーを発動。手札を二枚戻し三枚ドロー」
山本はここでは動かない。あくまでバーニングブレス対策だけか。そして引いたカードの中には……。エネルギーがない。ダメだ、完全に流れは山本の元にある。なんとかして戻さないと。
「くそっ、バシャーモでバーニングブレ──」
「無駄だ。手札のハマナのリサーチと月光のスタジアムをトラッシュし、フーディンのパワーキャンセラーを発動ゥ!」
またしても青いバリアに阻まれる。だが無意味じゃない。山本の手札は確実に削れている。
「……ターンエンド」
「おれのターン。アブソルG LV.Xに悪エネルギーをつけ、ハマナのリサーチを発動だ。デッキから超エネルギー二枚を手札に加る。アブソルG LV.Xについている悪エネルギー三枚を全て手札に戻して攻撃。破滅の知らせェ!」
しかし場は静まり返っており、ワザのエフェクトは何も起こらない。ワザは条件を満たさなかったために失敗したのか?
「このワザを受けた相手は次の貴様の番の終了時に気絶する!」
「っ!」
「おれは望む世界を造るためなら時間を惜しまないィ! 今すぐ消さずとも、その次に消せばいいだけだッ! クキャキャキャ! キヒャヒャヒャヒャ!」
狂った笑いが辺りに木霊する。こいつもヤバいが俺の状況もかなりヤバい。ウソだろ、HP130もあるのにたった一撃かよ。いくら時間差とはいえひどすぎる。
「まだまだっ、俺のターン! まずはバシャーモのポケパワーを!」
「手札の悪エネルギーを二枚捨ててパワーキャンセラー!」
なるほど、アブソルG LV.Xの破滅の知らせの効果で戻された悪エネルギーをここで利用するのか、その技術はうまい。
「俺はハンサムの捜査を発動。相手の手札を確認し、その後自分か相手の手札を全てデッキに戻しシャッフル。そして戻した人はデッキから五枚までドローする。さあまずは手札を見せてもらおう」
山本の手札は先ほどミズキの検索で加えたユクシー以外、エネルギーカードばかり。なんだこの手札、引きは間違いなく良くない。
「俺は自分の手札をデッキに戻しシャッフル。五枚ドロー。……よし、バシャーモFBに炎エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワーを使う。手札を二枚戻し四枚ドロー。ターンエンドだ」
「このとき、粛清の知らせが貴様に降りる! 破滅の知らせの効果発動。このワザを受けた相手は次の相手の番の終わりに気絶する!」
バシャーモの真上から真っ白の極太レーザーが降り注ぐ。情け容赦は微塵もなく、悲鳴を聞く間にバシャーモのHPバーが全て削り取られて気絶してしまった。
これでミュウツーLV.Xを倒せるバシャーモがこれでデッキと手札からいなくなってしまった。
「っ、俺はベンチのバシャーモFBをバトル場に!」
「サイドを一枚引く。そしておれのターン。クレセリア(60/80)に超エネルギーをつけてターンエンド!」
もうターンエンドだと? アブソルG LV.Xはあくまでクレセリアを育てるための壁か。
「その挑発、乗ってやる。俺のターン。バシャーモFBに炎エネルギーをつけ、グッズカードのプレミアボールを使う。デッキまたはトラッシュのLV.Xポケモンを一枚手札に加える。俺はデッキからバシャーモFB LV.X(110/110)を加え、レベルアップさせる!」
「LV.Xポケモンを二枚入れてるだと?」
「そしてネンドールのポケパワーを──」
「悪エネルギーと超エネルギーをトラッシュし、フーディンのポケパワーを発動。パワーキャンセラー!」
今度はネンドールの体の周りに青いバリアが貼られ、ネンドールのポケパワーが封じられてしまった。もうバシャーモのバーニングブレスを恐れる必要がないから、今度は俺のドロー手段を封じるつもりか。
「バシャーモFB LV.Xで攻撃だ。ベイパーキック!」
水蒸気を纏った熱いキックがアブソルG LV.Xにヒットし、その体は宙を舞う。30ダメージのこのワザは、アブソルG LV.Xを気絶させるには十分だ。
「クレセリアをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンド!」
これで俺も山本も残りサイドは三枚。勝負はここから後半戦に入る。
「おれのターン。まァずはクレセリアに超エネルギーをつける。そして、こいつが屑塗れのこの世界に光を与えるおれの力だァ! クレセリアをレベルアップ!」
バトル場のクレセリアがレベルアップし、クレセリアLV.X80/100に。LV.Xポケモン、これで二匹目……。アブソルG LV.Xであんなだった。今度も厳しい一撃が来るのは間違いない……。
「光を与える? なんかの間違いじゃないのか」
「かつてこのおれが愚図から受けた屈辱、そしておれと同じような目に遭っている悲しき人々を救うための光だ! ポケパワー、満月の舞い!」
「屈辱?」
クレセリアLV.Xが光をめいいっぱい放ちながら、満月を描くような、どこか妖艶な踊りを繰り広げる。するとクレセリアLV.Xの体から真っ赤な火の玉のようなものが這い出、それがバシャーモFB LV.Xに飛んでいく。火の玉はバシャーモFB LV.Xの体に埋まって行った。
「満月の舞いは自分の番に一度使え、自分または相手のポケモンのダメージカウンターを一つ取り除き、自分または相手の別のポケモンにそれを乗せ換える。おれはクレセリアLV.XのダメカンをバシャーモFB LV.Xに乗せ換える!」
これでクレセリアLV.XのHPは90/100、バシャーモFB LV.XのHPは100/110に。
「サポーター、地底探検隊を発動。デッキの底のカードを四枚見、そのうち二枚を加え残り二枚を好きな順に戻す。さあ、クレセリアLV.Xで攻撃だ。三日月の舞い!」
今度は三日月を描くような不思議な舞いを放つ。すると急にクレセリアLV.Xの輝きが強くなり、バシャーモFB LV.XのHPバーが削られる。残りHPは50/110、50ダメージのワザか。
「このワザは望むならこのポケモンのエネルギーを二つトラッシュすることでベンチのポケモンのダメージカウンターを全て取り除ける。だがおれのベンチにはそのようなポケモンはいないためこの効果は使わない」
……次のターン、クレセリアLV.Xにもう一度三日月の舞いを喰らうとバシャーモFB LV.Xは気絶になってしまう。
「次のターン! おれが満月の舞いでクレセリアLV.Xに乗っているダメージカウンターをバシャーモFB LV.Xに乗せ換えるとその残りHPは40になる。そこでクレセリアLV.Xのもう一つのワザ、ムーンスキップを使えば貴様の残りの命は減って行く! ムーンスキップの威力はたった40だが、このワザで相手を気絶させたとき、おれが引けるサイドは一枚多くなる。つまりサイドを一気に二枚、引くことが出来る! 貴様のバシャーモFB LV.Xのジェットシュート一撃ではわずかにクレセリアLV.Xを倒すに及ばないッ! もう少しだ……、もう少しで新たな希望に満ち溢れた世界を! クカキャキャキャキャ! ヒーヒャハハハハ!」
ここで一気にサイドのアドバンテージをとられるともう取り返しがつかない。俺のベンチにはネンドールとヒードランLV.X、共に非戦闘要員。そうなったら本当に終わりだ……! こいつの好きにはさせてたまるか、その能力で身勝手に振る舞えばたくさんの人が傷つく。俺の大好きなポケモンカードでそんなことは絶対にさせない!
「そう思い通りには行かせない! ドロー!」
来た、ここ一番で必要なカード。
「悪いがお前の思惑ははずれるようだ。ヒードランLV.Xに炎エネルギーをつけ、バシャーモFB LV.Xにポケモンの道具、達人の帯をつける!」
「なんだと!?」
「達人の帯をつけたポケモンは最大HPと相手に与えるワザの威力が20上がる! ……もちろんそのリスクとして達人の帯をつけたポケモンが気絶したとき、相手はサイドをさらに一枚引くことが出来る。しかしそれでもお前の思惑は崩すことが出来る!」
バシャーモFB LV.XのHPは達人の帯の効果で70/130。これならムーンスキップで倒されることもない。さらに本来のジェットシュートの威力は80で、一撃でクレセリアLV.X90/100を倒すことが出来なかったが威力が20上がることで与えれるダメージは100になる。これなら倒すことが出来る!
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動」
「させるか! 手札のケーシィ、不思議なアメを捨ててパワーキャンセラー発動! そのポケパワーを無効にする!」
「だが今から与えるワザのダメージは無効には出来ないぜ。行け、バシャーモFB LV.X。お前の力を見せてやれ! ジェットシュートッ!」
真っ赤な灼熱の流星キックはクレセリアLV.XのHPと山本の思惑をまとめて消し飛ばす。熱風と爆煙が辺りに立ち込め山本の場が一瞬隠れる。
「……」
ようやく煙が晴れると、バトル場には新しくミュウツー90/90が立っていた。これが山本の次のポケモンか……。
「よし、サイドを一枚引いてターンエンド!」
「おれの野望の、邪魔をするなアアアアアアアアアアアア!」
今までとは格段に違う山本の目つき、雰囲気に思わず気圧されそうになる。体が震え、鳥肌が立つ。どうしてだ、勝負は快調じゃないか。バシャーモFB LV.XでクレセリアLV.Xを倒し、残りのサイドはあと二枚。もう少しで勝って、この悪夢を終わらせることが出来るはず。場のバシャーモFB LV.XのHPもまだまだ半分あるし、それに対し高津のミュウツーも、ベンチのフーディン、ユクシーもエネルギーは一枚もついていない。恐れることは何もないはずだ。なのにどうして。寒気が止まらない。
「くそォ! おれのタァーン! ……クハハ、キュハハハハ! いいタイミングでこのカードを引いたァ! ミュウツーに超エネルギーをつけ、貴様にも全てを消し飛ばす圧倒的闇を見せつけてやる! これが、おれの究極の力! 現れろ、ミュウツーLV.X!」
翔「今回のキーカードはミュウツーLV.X。
サイコバリアは未進化ポケモンからは一切何も受け付けない!
そしてギガバーンは威力120の強力なワザだ」
ミュウツー LV.X HP120 超 (DP5)
ポケボディー サイコバリア
このポケモンは、相手の「進化していないポケモン」のワザによるダメージや効果を受けない。
超超無 ギガバーン 120
自分のエネルギーをすべてトラッシュ。
─このカードは、バトル場のミュウツーに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 超×2 抵抗力 − にげる 2
『三ノ島』には『きずなまつり』というお祭りがある。もともとは違う名前だったが、『きずな橋』の建設とともに名前を改められたのだという。
『きずな橋』は三ノ島を構成する大小二つの島――民家の多い親の島と、『木の実の森』のある子の島――をつなぐ橋。
そんな橋の成り立ちに因み、きずなまつりは『親子の絆』『人とポケモンの絆』をコンセプトにした祭りらしい。
祭りを象徴するイベントは、即席の野外ステージで行われる『木の実取りゲーム』だ。
十二歳以下の子供が一人、保護者(多くの場合父か母)が一人、および籠を持つことができるポケモン(念力は不可)が一匹の、三者一組で参加して、それぞれが藤の蔓で出来た籠を持って木の実を模したボールが落ちてくるのを受け止めるのだ。
くだらないと思う。本当に、くだらない。
……だから、今年そのゲームに参加出来なかったとしても、別に全然かまわないのだ。
【3】木の実の鈴
夏の太陽に照らされた海を船の上から見つめていた。麦わら帽子をかぶっていても日差しの熱が地肌に伝わる。
父と母に連れられて、三ノ島の祖父母の家に向かう途中。
「暑いか」と父が話しかけてくる。「そうでもないよ」と私は答える。風を切って進む船の上ならば暑さも不安も紛れるというものだ。
これから四泊五日、私は父方の実家で過ごすことになっている。父と母は仕事の都合上、明日には本土に帰らないといけない。五日目には迎えに来てくれるという約束だった。
――あなたはもう大きいのだから、おばあちゃんの家でも大人しく過ごせるでしょう? 大丈夫よ、何も心配してないわ。
母の言葉が甦る。
大丈夫だよ、母さん。母の言う『可愛い笑顔』を浮かべて答えた二日前。
本当の事をいうと、せっかくの夏休みなのだから本土の他の地方へ旅行に出かけたり、友達と遊園地に行ったりしたかったけれど仕方がない。
祖父母の暮らす島での五日間の生活。ここには友達もいないし、映画館もショッピングモールもない。
あるのはさびれた商店街と、森に覆われた離れ小島だけ。これでも周囲の島々の中では最も栄えた島だというのだから驚きだ。
まあいいや、と私は思う。
この島でできること、この島でしかできないことは沢山ある。
しかも明日、明後日はお祭りだ。木の実取りゲームには参加できないけれど……そんなのはどうだっていいじゃないか。
祖父母の家に着き、私たちは丁寧に出迎えられた。島で採れた魚が中心の素朴な夕食を皆で囲んで食べた後、私はなんだか妙に眠くなり、いつになく早めに床についた。
祖母が私のために敷いてくれた布団は、どこか青くて懐かしい匂いがした。「よく帰ってきたね」と声なき声で語りかけられたような安心感に包まれた。
寝室と廊下とを隔てる襖の隙間からは、筋状の光が伸びていた。快活な父の声が聞こえてくる。
明日には本土に帰る父が、酒を飲みつつ祖父母と語り合っているのだろう。
……別れを惜しんでいるのだろう。
島に来て二日目。
両親を乗せて遠ざかってゆく船の軌跡を見送った。別れ際の会話を思い出す。
――本当は寂しくはないの?
――いいや、大丈夫。何ともないよ。大丈夫。私のことは気にしないで。
早く仕事を終わらせてちゃんと迎えに来てよ――とは言わなかった。
両親と別れた後、私は独り離れ小島にある森に木の実を拾いに行った。沢山拾えば祖母がお菓子を作ってくれる。硬い木の実はクッキーの中に練り込んで、甘い木の実はジャムにしてもおいしい。そのままで食べられる木の実もある。
木の実を探すには、「森の通り道」から少し外れた所が狙い目だ。余り離れすぎると帰り道がわからなくなる危険もあるけれど。
草をかき分け、落ち葉を持ち上げる。中々見つからない。ここらあたりはもう他の人が拾っていったあとなんだろうか……。
しばらく辺りをごそごそと探していた私は、不意に背後から感じた人の気配に気が付いた。
はっとして振り返り、足音のした方を見ると、木々の間に紛れるように男の子が立っていた。彼もまた、じっとこちらを見つめている。
見た目では私よりも二つ、三つ年上。おそらく十四、五歳といったところだろうか。少年と呼ぶべきか青年と呼ぶべきか微妙だが、自分より年長であることを考慮して青年、としておく。
青年は、薄黄色の着物を着ていた。
今時着物? と一瞬疑問に思ったが、そういえば今日はお祭りだったと納得した。
「お兄さんは誰? この島の人?」
よくよく考えたら、変な質問だったと思う。島の人から見れば私の方が『他所者』だった。
青年は、首を傾げるように曖昧に頷き、そして口元だけに笑みを浮かべた。不自然な笑い方だ。怒らせただろうか。
青年が草むらの中からこちらに歩み寄ってくる。私は思わず距離をとった。
それを見た彼は笑みを消し、二呼吸ほどこちらを見つめていた。やがて地面に何かを置いて背を向け、元の草むらの中に帰って行った。
青年の姿が木々の間に見えなくなってから、地面に置かれた何かを確認した。深緑に映える赤い実――クラボの実だった。
祖父母の家に帰り、祖母にクラボの実を見せると彼女は「まあ」と目を丸くした。
「綺麗なクラボの実ね。拾ったの?」
私は頷く。
「それだったら明日ジャムにしてあげましょう。……そうそう、今夜のお祭りには浴衣を着てゆくのでしょう?」
そう言って、祖母は押し入れの奥から探し出したと思われる水色の浴衣を得意げに掲げた。
浴衣の海を涼しげに泳ぐ金魚達を見ながら、本物の金魚すくいのある祭りの一角の風景を想像した。
年に一度のお祭りだ。楽しまなければつまらない。
『きずなまつり』は昔はただの夜市だった、と祖母は語った。水路の便の悪かった時代、周囲の島々の中では一際大きな三ノ島に、本土からの品物が年に数回集まる市場。
船が発達した現代では、屋台が集まり、人が集まり、次第に今のような形になった。『きずな橋』ができてからは名前が改められて、あたかも『祭り』のように扱われるようになった。実際、3の島の若い人々の多くは『祭り』だと思っている。
けれど、『祭り』とは本来、神を祀り、祈りをささげる宗教的な儀式のことだ。
だから、『きずなまつり』は、火の神様を祀る『一ノ島』の火祭りとは本来毛色が異なるのだ、と。
難しくて良くわからなかったが、屋台が集まり、人が集まれば、それはもう『お祭り』ではないのかと私は思った。祖母の言う、『多くの若い人々』と同じように。
それを訊ねると祖母は説明に困ったような顔をした。
提灯の明かりと、街灯の明かりと、屋台のランプの明かりと……。ほのかに明るく照らされた夜のお祭りの中を私達は歩いていく。
いいや、これは本物のお祭りではなく、祭りの形をしたマガイモノ――市場の原理と欲望渦巻く闇の中。そう思うと、夏なのに薄ら寒さが這い上がってくる気がした。
メイン会場からは外れた場所に、少し変わった露店があった。お店の前に置いてある、木でできた大きなフクロウにまず目を奪われた。
フクロウは私よりも背丈が高く、翼を閉じてガラスの目で夜市を見据えていた。隣には『夜を覗く目――非売品』と書かれた立て札がある。立札には小さく『反対側からのぞいてみてください』とも刻まれていた。顔だし看板のように、反対側から覗けるようになっているのだ。
私はフクロウの背中に回って少し背伸びし、フクロウの目を通して祭りを見た。
闇夜に浮かぶ赤、青、黄色、時々緑。道の向いのリンゴ飴の店、少女の浴衣、道を照らすランプの光……。視線を動かせば万華鏡のように色彩が移り変わる。幻想的な美しさに私はしばし夢中になった。
「気に入ってくれたのかい、お嬢さん」
店の主と思われる、ふくよかな中年の女性が話しかけてくれた。朗らかで人懐こい表情の中に光る知性をたたえた瞳は、どこかフクロウを思わせた。
「どうぞ。好きなだけ見ていってちょうだい」
フクロウの看板に熱中していたことが、少し恥ずかしかった。
看板から離れ、私はようやく店の商品を認識した。
そこは、木彫りの置物や石細工などの民芸品を扱っているお店だった。
机に並べられた商品の内の一つをじっと眺めていると、店主のおばさんがにっこり笑って教えてくれた。
「これは、トンボ玉よ」
トンボと言うと、例えばヤンマンマのことだろうか。図鑑で見たヤンヤンマの姿を思い浮かべたが、それとはあんまり似てないように思う。口に含んだら溶けそうな、色の入ったガラス玉だ。
「このトンボ玉は七ノ島のガラス工房で作っているの」
「……七ノ島には、ガラス工房があるの?」
「ええ、個人で経営してる本当に小さな工房だけどね。体験で七宝(しっぽう)焼きのキーホルダーなんかを作ってみることもできるわ。お嬢ちゃんも、お父さんかお母さんと一緒なら作れるわよ」
何と返したらいいかわからず、私は曖昧に俯いた。
陳列された商品をしばらく眺めたふりをして、何も買わずに立ち去った。
メイン会場で行われるゲームの予選を見ることなく、その日は帰途についた。
島に来て三日目。
私はまた森に木の実を拾いに行った。本当のところ、祖母にお菓子を作ってもらうのは二の次で、拾うこと自体が私の趣味だった。あっちこっち見て回って、森の宝物のような木の実を草の陰から探し出した時には何とも言えない達成感があった。
ガサガサと草の根をかき分ける音がする。気配を感じて振り返ると、少し離れた木立の間に昨日の青年が立っていた。
青年が、ひらひらと手を振った。ただの挨拶だとも解釈できたが、私には『こちらにおいで』と言われているように思えた。
青年が引き返した草むらの中へ、私は足を踏み入れた。木々の間で、彼の姿はすぐに見つかった。一定の距離を保ちつつ、彼の後についていった。
「あなたの名前は何と言うの?」私は彼に話しかけたが、それに対する返答はなかった。
道中、彼は何もしゃべらなかった。『ついて来い』とも『ついて来るな』とも言わなかったが、時折後ろを足を止めて振り返り、私がいるのを確認するような仕草をした。
目が合った時には私もその場に立ち止まる。彼が前を向いて歩きだした後でついていく。何度か繰り返した。
まるで『だるまさんが転んだ』で遊んでいるようだと思った。想像すると可笑しさがこみあげてきて、私はふっと笑った。
青年はまた振り返り、不思議そうな顔をした。
木々が開けた場所に出た。一面に生えた背の低い草の間に、所々鮮やかな色がのぞいている。
近づいて見てみると、落ちていたのは色取り取りの木の実だった。
モモンの実、ナナシの実、キーの実、チーゴの実、オレンの実……見たことのない珍しい木の実もある。
こんな場所があるなんて。おそらく地元の人も知らない秘密の場所だ。
「ここの木の実は拾って帰ってもいいの?」嬉々として問いかけると、青年は満面の笑みで頷いた。
彼に手伝ってもらいながら、鞄がいっぱいになるまで夢中で木の実を拾った。これを見たら、きっと祖母も喜ぶだろう。
時間を忘れる楽しさの中、一つだけ気になることがあった。
青年が何もしゃべらないのは、酷く恥ずかしがり屋だからだと最初は思っていた。だが、次第にそうではないような気がしてきたのだ。
頷き、首を振り、指し示し……身ぶり手ぶりで、むしろ積極的にコミュニケーションを取ろうとしているように感じた。
ああ、きっとしゃべらないのではなく、しゃべれないのだ――と思った。名前も知らない、年上の人間を初めて気の毒に思った。
そんな私の思いを知ってか知らずか、青年は穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。昨日感じた不気味さは、不思議と消え去っていた。
下駄を鳴らして夜市を歩く。
祖母の手を引き手を引かれ、歩いた過去が甦る。
昨日と同じ場所に、その店はあった。木彫りのヨルノズクは今日も祭りを見つめている。
「あら、いらっしゃい」私の顔を覚えていてくれたのか、おばさんが笑顔で迎えてくれた。
昨日とは微妙に違う商品が並んでいる。いや、気がつかなかっただけで、ホントは昨日もあったのかも……。
森の木の実によく似たそれを何となく眺めていると、おばさんが目を細めて解説を始めてくれる。昨日と同じでほっとした。
「これはね、お隣の小島で採れた木の実で作った鈴なのよ」
お守りでもあるんだよ、とおばさんはいった。
並べてある鈴のうちの一つを手に取り、耳元で鳴らしてみた。
からん、ころんと鈴らしくない音がした。硬い木の実の殻の中に小石でも入れてあるのだろうか。なぜだか心が落ち着く音だった。
「この鈴をください」
鈴をおばさんに渡そうと差し出した瞬間に、背中に衝撃を感じた。誰かにぶつかられて、私は机の上に鈴を取り落とした。咄嗟に後ろを振り向く。
「オニさんこちら、手の鳴るほうへ」歌いながら、二人の少年達が駆けていく。
自分に言ったのかと腹が立ったが、すぐにそうではないことに気がついた。二人の後を追って、もう一人駆けてくる。
「テッちゃん、ショウちゃん、待ってよお」後を追う少年は、先に走って行った二人よりも年下に見えた。
当たり前だが、オニの役の子供は目隠しはしていなかった。人の集まる場所で視界を失ったまま走れる訳は無いのだ。
そういえば、逃げていた二人も、実際には手拍子をしていなかった。ただふざけて囃し立てていただけなのだろう。
「あらあら、どこの子かしらねえ」
困ったものね、とおばさんはひとりごちた。
祭りから帰る途中、メイン会場に寄って木の実取りゲームの経過を覗きに行ってみた。
ちょうど行われていた準決勝では、十歳くらいの少女と、優しげな眼鏡の男性と、ゼニガメのチームが落ちてくるボールと奮闘していた。
二人と一匹の籠に入っているボールの数から判断すると――このゲームは参加者の年齢によるハンデや、ボールの種類による点数が細かく設定されているのであるので一概には言えないのだが――どうやら対抗に比べ劣勢のようだった。
その親子の健闘を心の中で祈りつつ、家路についた。
島に来て四日目。
マガイモノの祭りとはいえ、終わってしまった後には吹き抜けるような寂しさが残る。
お祭り会場は道路に戻り、お昼過ぎには車が行き交う。
片づけ途中の祭りの跡を通り抜け、私は木の実の森に向かった。
森の入り口で待っていたのは、物を言わぬ青年だ。手招き、頷き、細めた目――何を伝えようとしているのか、今ならもうわかる。
青年が、昨日の秘密の場所に案内してくれた。今日も鞄がいっぱいになるまで木の実を集めた。
楽しい時間は矢のように過ぎ、青年に別れを告げなければならない時が迫っていた。
「私、明日には帰らないといけないの」
青年は少し驚いたように目を開き、おずおずと手を振った。誰でも知っている『お別れ』の挨拶。
「来年も、お祭りの時期にこの島来たら、また会うことができる?」
青年は首を傾げる。また会える保証はないという意思表示。
やっぱり、と私は落胆した。今年の祭りにあったお店が来年もその場所にあるとは限らないのと同じだ。今年この場所で彼と出会ったこともおそらく奇跡に近い確率だろう。
そもそも、ちょうどお祭りの時期に島に来られるかどうかさえわからない。連絡の取りようもない。ここで別れれば、きっとそれで最後。再び出会うことはないだろう。
ひんやりとした森の中で小鳥のさえずりを聞きながら、帰りたくないなあ、と考えていた。
青年が、両手のひらをこちらに向けて『ちょっと待って』と動作で示した。私が頷くと彼は木々の間に消えて行った。
一人残された私は、無意識に森の入り口のある方向を確認していた。
もう連れてきてもらうこともないかもしれないから、一人でもこの場所に来ることはできるだろうかと算段していたのだ。普段人間が足を踏み入れることのないだろう、少し怖くて美しいこの場所に。
ここに来れば、また彼と会えるのだろうか。来年になっても、大人になっても。
取り留めのない思考が次々に浮かんでは消えていった。
しばらくして、彼が戻ってきた。右手の中に何かを大事そうに持っていた。
まっすぐに差し出され、私の両手のひらにぽとりと落とされたそれは、木漏れ日を反射してきらきら輝いた。
森の中で取れたとは思えない、大粒の真珠だった。驚いて、私は問いかけた。
「……いいの? これを私がもらってもいいの? きっと大事なものなんでしょう?」
青年は目を細めて頷き、手をひらひらと振った。
「……ありがとう。大切にするね……忘れない……ずっと忘れない。この真珠を見て思い出す」
言いたいことは胸の中に溢れてくるのに、声に出そうとすると言葉の網をすり抜けてこぼれ落ちていく。伝えたいことの半分も伝わらないようでもどかしい。
思いというものは無理に言葉にせずとも目と目で見詰め合ったほうが、かえって伝わるものではないのだろうか。元に青年は、一言も話すことができなくても、意思の疎通をする術を知っているかのようだ。
沈黙の中、時間だけが流れた。
一つ、二つ、大きく息をすると少し気持ちが落ち着いた。ありがとうともう一度呟き、手持ち鞄の中に真珠をしまおうとした。
真珠を包むためのハンカチを探そうと鞄に手を入れた拍子に、何か青い物が地面に落ちた。からから音をたてて転がる。
ああ、何をやっているんだろう。鞄に物を入れすぎだ。
地面に落ちたそれを拾い上げ、照れ隠しの笑みを浮かべて彼の表情を見た瞬間、私は凍りつくことになる。
見開いた目、引き結んだ口元。恐ろしいものを見るような、怯えきった表情だ。
緊迫した彼の視線の先にあるのは、何の変哲もない木の実の鈴だ。彼が何を怖がっているのか、さっぱり分からず不安を覚えた。
「……どう、したの? 何か、あった?」
青年は答えない。目をそらしたくてもそらせないのか、眉間に刻まれた皺が深くなった。
なぜ、そんなに鈴を恐れるのだろう。
ふとある思考が脳裏を過ぎった。
今になって思えば。その鈴の材料となった、青く硬い木の実だけは、青年のくれた色取り取りの木の実の中にはなかった。
これだけ木の実の豊富な森ならば、混ざっていても決しておかしくはなかっただろうに。そう言えば、この森で取れた木の実で作ったと、ヨルノズクの店のおばさんも語っていたではないか。
ごくありふれた木の実――眠りを醒ます『カゴの実』の鈴は。
鈴につながった紐を手首にかけたまま、鈴本体から手を離した。
空中に放り出され重力に従って落下を始めたカゴの実の鈴は、しかし、赤い紐に繋ぎとめられる。
からんからん、と音が響いた。
ぐにゃり、と空気が歪んだ。瞬きの後、捩れた空間の向こうに見えた姿は、首周りに白いたてがみを生やした金色の獣人だった。
――幻術が解けた。
幻を見ていた。見せられていた。
瞬間、怖い、と思った。自分に術をかけていたこともそうだが、術をかける能力を持つことそのものが怖かった。
得体の知れない、『知性の有りそうな生き物』は理屈抜きに恐ろしい。
私の持つ鈴が揺れて、獣人の持つ振り子も揺れる。一瞬の沈黙。
空気がもう一度捩れ、薄黄色の着物を着た青年の姿が現れた。今にも泣きだしそうな悲痛な表情だった。
……見てはいけない。これ以上目を合わせていてはいけないんだ……!
薄っぺらい本能が悲鳴をあげる。
叫び出したい気持ちを抑え、青年の皮を被った獣人に背を向けると森の入り口に向かって全力で走りだした。
追いかけてきたらどうしよう。捕まったらどうしよう。
そんな心配をよそに、獣人が追ってくる気配はなかった。
ただ叫びだけが、いつまでもいつまでも纏わりついてきた。
巧みに幻術を操る獣人も、人語だけは操れなかったのだろうか。彼の喉から発せられる咆哮は、まるっきり獣のそれだった。
『正体を明かすつもりは無かったが、危害を加えるつもりも無かった。一緒に遊びたかっただけなんだ。どうか、信じて』等と人間の言葉で叫ばれたなら、私はそれを信じただろうか。
……いや、きっと信じられない。何も信じたくない。
森の奥に反響する獣の慟哭を聞きたくなくて、私は両手で耳を塞いだ。
ばくばく打ちつける心臓と、からから笑う鈴の音が、頭蓋を伝って響いた。
いっそのこと、目も瞑ったまま走れたらいいのに、と思った。
「それでは授業を始める。起立、礼!」 |
「ポケモンヒストリー」最新話投稿しました!
この話だけでサトシが「かわいい」って三回も言ってる………
どうしよう、このままじゃサトシがタケシ二号に……(実際そんな事にはなりませんのでご安心をw)
今回は少々ギャグに走りました。一応ちゃんと物語は進んでおります。
では、ぜひ読んでみてください!
「久しぶりだな、一之瀬」
突然背後からかかってきた声に僕は驚いて振り返った。この声はこの前のPCC大阪が終わった後にかかってきた電話の主だ。
「……会うのは久しぶりですね」
そこには端正な顔立ちがあった。整った顔のパーツは小奇麗で、シャープな目とメタルフレームの眼鏡が印象的な二枚目だ。
「君がなかなか会いに来てくれないからね」
少し困った様子を顔に浮かべるも、きっと心の中では微塵も思っていないのだろう。そういう男だということくらいは知っている。
「僕じゃあそう簡単にあそこへ行けませんよ。……さて、このタイミングで来たということは奥村翔目当てですか」
「ああ、そうだ」
やっぱりか、と僕は呟くと、再び口を開く。
「それじゃあ僕は藤原拓哉の方を見てきます」
「ああ。すまないな」
手を振りながら僕はこれから戦おうとしている藤原拓哉の元へ向かう。
「さて、最後に直接会ったのはまだ二歳くらいだったからな。どれだけ成長したか、見せてもらおう」
後ろから聞こえた彼の声に、僕は聞かない振りをした。
「さて、早速準々決勝を始めようか」
「その前に聞きたいことがある」
俺の前には対戦相手となる山本信幸。痩せこけた頬、黒縁の眼鏡と首にはギリギリ届かないくらいの短い黒い髪。更に黒いシャツまで着ているのに、全身から陰鬱な雰囲気を放っているため不気味さを感じる。その山本が持つ能力(ちから)は意識幽閉だったか。対戦相手が敗北したとき、意識を失い植物状態になる。現に松野さんも……。
「どうしてこんなことをしてるんだ?」
「年下のクセに生意気な口をするんだな」
二回戦のこともあって敬語的な喋り方をするイメージがあったから、急にこういう威圧的な話し方をされるのは驚いた。松野さんのときは年上だから多少は丁寧な言葉遣いだったのか? こっちが素だとしたらずいぶんとどこかの誰かさんを彷彿させるな。
「誤魔化すなよ。お前はどうしてその能力でいろんな人を……」
「なんだ、そんなことか」
山本は肩を上下させつつ軽く笑う。
「野望のため」
「野望……?」
「そうさ!」
今までの静かな声と違い、その声が急に大きくなる。それと同時に両手を横に広げた。
「野望! この世から不要な人間を全て消し去り、おれがおれの理想とする世界をこの手で!」
広げた左手を元に戻し、右手は体の前に持っていくと拳を作る。まるで何かを握りつぶすかのように。
「そう。この手で造り上げるのだ!」
「どういうことだ?」
「政治家、教育者、労働者をこき使って上でふんずり返る腐った会社人、親……。他にもいくらだっている! 愚図が上で蔓延るがためにこの世界はどんどん淀んでいく! それをおれが造り直してやるのさ!」
山本の顔が歪んだ笑みを浮かべる。とてもじゃないが正常とは思えない……。なんなんだこいつ……。
「それなら自分が政治家にでもなればいいじゃないか」
「そんなのでは駄目だ。貴様は何にも分かってない。恐怖だ。この能力をもって恐怖を知らしめてやる。同じ舞台で戦うのではない、常に上から愚図共を消し去って行く必要がある!」
何を言ってるのかがさっぱり分からない。そんなことを本当にしようというのか?
「そのためにいろんな人を犠牲にしたっていうのか?」
「そうだ」
「っ!」
「戦いで勝てば勝つほどおれは能力の増幅を感じる! もう少し、もう少しでおれはこの能力の真の力を解放できる!」
「真の力だと?」
「ポケモンカードなんていう煩わしい手段を使わずとも、他人の意識を消し飛ばし、植物状態にさせることができる。それが真の力だ!」
「なんだとっ!?」
今まで聞いてきた能力者で、他人に干渉があるものは全てポケモンカード関連だった。拓哉だってそうだ。その拓哉がこれから戦う高津だって。松野さんから聞いた他府県の能力者だってそうだった。
もしこいつの言う事が本当だとしたらとんでもないことになる。もっと悲惨なことが起きてしまう。
「さあ始めよう。そしておれに負け、おれの力の礎となれ!」
バトルテーブルのデッキポケットに差し込んだデッキは、オートでシャッフルされる。そして手札の用意とサイドの用意も全てしてくれる。
俺の最初の手札には、ポケモンは炎タイプのアチャモ60/60だけ。多少心細いが仕方がない、このアチャモをバトルポケモンにするしかないか。
「行くぞ、俺のターン!」
山本のバトル場にはミュウツー90/90、ベンチにはクレセリア80/80。さっき松野さんとの勝負を見ていた時は、山本はミュウツーLV.Xしか使っていなかった。一之瀬さんもそれ以外は未知数だと。クレセリアがどんな力を秘めているのかは不安だが、まずは目の前の敵から!
「俺は手札からアチャモに炎エネルギーをつけ、アチャモで攻撃、火の礫(つぶて)」
コイントスボタンを押す。このワザは、コイントスをしてオモテならワザが成功し、ウラなら失敗してしまう。
「オモテだ。20ダメージを喰らえ!」
アチャモの口から小粒の炎が複数発射され、ミュウツーに襲いかかる。それらがミュウツーに触れるとHPバーを削りながら爆竹が破裂するような音が響き、黒い煙が立ち込める。まずは20ダメージだ。これでミュウツーの残りHPは70/90。
「その程度……。おれのターン! サポーター発動。スージーの抽選! 手札を二枚捨てることでデッキからカードを四枚ドローすることが出来る! おれは手札の超エネルギーを二枚捨てて四枚ドロー」
エネルギーを二枚捨てる? わざわざそれをやる必要が分からない。エネルギーがなければワザは使えない。その資本であるエネルギーを捨てる? 何を考えてるんだ。
「おれはケーシィ(50/50)をベンチに出し、ミュウツーに超エネルギーをつける!」
三枚目の超エネルギーがあったのか。しかし捨てた理由にはならないはず。
「ミュウツーでエネルギー吸収。このワザはトラッシュにあるエネルギーを二枚までこのミュウツーにつけることが出来る。おれはさっき捨てた超エネルギーを二枚、このミュウツーにつけさせる」
なるほど、ミュウツーのワザを見越してのコンボだったのか。たった一ターンでミュウツーにエネルギーはもう三枚もついてしまった。
「俺のターンだ。ドロー! まずはアチャモをワカシャモ(80/80)に進化させ、ワカシャモに炎エネルギーをつける。そしてベンチにバシャーモFB(80/80)を出すぜ。さらにサポーター発動。ハマナのリサーチ!」
ハマナのリサーチはデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを合計二枚まで手札に加えることのできるサーチ効果のサポーター。俺はヤジロンとヒードランを手札に加える。
「今加えたヤジロン(50/50)とヒードラン(100/100)をベンチに出し、ワカシャモで火を吹く攻撃だ」
もう一度コイントスをする。このワザの元の威力は20であり、今度はウラが出てもワザが失敗にならない。だが、オモテが出れば与えるダメージを20ダメージ追加することが出来る。
しかし結果はウラ。追加ダメージはなく、本来の20ダメージがミュウツーに与えられる。
ワカシャモが口から炎を吹き出し、ミュウツーに吹き付ける。HPバーが小さく減って、50/90。まだ半分以上も残ってるか。
「おれのターンだ! おれはベンチのクレセリアに超エネルギーをつける」
クレセリアにエネルギー……。目の前のミュウツー以外にも警戒しなくては。
「サポーター、ミズキの検索を発動! 手札を一枚デッキに戻し、デッキからLV.X以外の好きなポケモンを一枚手札に加える。おれはアブソルGを手札に加え、ベンチに出す」
新たに山本のベンチにアブソルG(70/70)が現れる。超デッキと思っていたが悪タイプも仕込んでいるようだ。
「ミュウツーで攻撃だ」
ミュウツー50/90が左足を前に踏み出し、体は右向きに半身の格好になる。そして間にボールでもあるかのように右手を上に、左手を下に添えるとその中間から薄紫の球体が現れた。
「サイコバーン!」
ワザの宣言と同時にミュウツーが溜めていた球体を一気に打ちだす。投げられたボールのように放物線を描くのではなく、まるで渦潮に飛び込んだかのように螺旋を描きながら飛んできた。
「ぐおっ!」
ワカシャモに直撃するやいなや、風と爆発のエフェクトが一斉に襲いかかる。なんて攻撃だ……。
「サイコバーンは60ダメージ! 貴様のワカシャモのHPを吹き飛ばしてやる」
この攻撃を受けてワカシャモのHPは20/80まで落ち込む。次のターンにもう一度サイコバーンを喰らうとワカシャモは気絶してしまう。だが、大丈夫、対応策はある。
「今度は俺のターン! ワカシャモをバシャーモに進化させる!」
ワカシャモの体が大きくなり、力強い体躯へ進化していく。HPも上がり70/130。サイコバーンをもう一度受けてもまだ大丈夫だ。
「さあ、全てを焼き焦がせ! バシャーモのポケパワー、バーニングブレス!」
バシャーモの口から真っ赤な炎が吹き付けられ、ミュウツーを覆う。
「このポケパワーは一ターンに一度、相手のバトルポケモンをやけどにする!」
だが山本の顔は微動だにしない。
……。本当はここで炎エネルギーをつけて、炎の渦をして完全にミュウツーを仕留めたい。だが手札には炎エネルギーはなく、それらをドローできるカードもない。
ここはバシャーモのもう一つのワザでなんとか耐え凌ぐしかないか……。
「行け、バシャーモ。鷲掴み攻撃!」
バシャーモがミュウツーの元へ駆けより、バシャーモの腕がミュウツーの喉元をしっかりとつかむ。締め付けられ、ミュウツーのHPは10/90に。
「この攻撃を受けたポケモンは次のターンに逃げることが出来ない。ターンエンド。そして、ターンエンドと同時にポケモンチェックだ。やけどのポケモンはポケモンチェックの度にコイントスをし、それがウラなら20ダメージを受ける」
山本がコイントスのボタンを押す。ここでやけどのダメージを受ければミュウツーは気絶……。がしかし結果はオモテ。ミュウツーはやけどのダメージを受けることがなかった。
「ぬるいな。おれのターン! おれは手札からグッズカードのポケモン入れ替えを発動。ベンチのポケモンとバトル場のポケモンを入れ替えることができる」
ミュウツーの首を掴んでいたバシャーモが強制的にミュウツーから弾かれ、俺の方へ戻ってくる。山本はミュウツー10/90を戻してベンチにいたクレセリア80/80をバトル場に出すようだ。
「もう一枚グッズカード、不思議なアメを発動。手札の進化ポケモンのカードをたねポケモンの上に重ねる。ケーシィをフーディン(100/100)に進化させる」
松野さんと戦った時と全然違う戦い方じゃないかこれは。どう来るんだ。
「さらにベンチにアンノーンG(50/50)を出し、ポケパワーGUARD[ガード]を発動。このポケモンについているカードを全てトラッシュし、このポケモンを自分の場のポケモン一匹のポケモンの道具として扱う。おれはフーディンにアンノーンGをつける」
ベンチにいたアンノーンGが、フーディンのそばに移動するとシールを貼ったかのようにフーディンの体に張り付く。
「アンノーンGをつけたポケモンは相手のワザの効果を受けなくなる。クレセリアで攻撃だ。月のきらめき」
クレセリアの体が光を吸収し、それを一気に放出させる。目に痛いほどの光はごくわずかにバシャーモのHPを削った。
「このワザは場にスタジアムがあれば自分のダメージカウンターを二つ取り除けるが、今は場にはない。10ダメージだけ受けてもらう」
バシャーモのHPは60/130。ギリギリ半分を切ってしまった。ミュウツーもベンチに戻ったために火傷は回復したか。だが山本の手札はたった一枚だ。
「俺のターン」
引いたカードはミズキの検索。炎エネルギーではない。が、炎エネルギーを引こうとするなら……。
「ミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキからネンドールを手札に加える。そしてヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる!」
今の手札は三枚。ネンドールのポケパワー、コスモパワーの手札のカード一枚または二枚をデッキの底に戻し、六枚になるまでドローする効果で炎エネルギーを気合いで引き当てるしかないか。
「ポケパワー、コスモパワー発動。手札を一枚戻し四枚ドロー。……よし、バシャーモに炎エネルギーをつけて攻撃だ。炎の渦!」
バシャーモが螺旋を描く炎の渦をクレセリアに吹き付ける。炎の渦に覆われ悲鳴を上げるクレセリア。そのHPは100ダメージを受け0/80へ。
「炎の渦の効果で、バシャーモについている炎エネルギーを二個トラッシュする」
「おれはベンチのミュウツーをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
これで相手より先にサイドを引いた。しかも山本のミュウツーの残りHPはたったの10。恐れるに足らず。
「ふん。おれのターン。ベンチにクレセリア(80/80)を出す」
「またクレセリアか……」
「そしてサポーターカード、デンジの哲学を発動。手札が六枚になるまでドローする。俺の手札はこれで0。六枚ドローする」
山本のデッキのカードがどんどん減っていく。あっという間にさっきのターンの終わりに一枚だった手札が六枚に。
「ここでベンチのクレセリアに超エネルギーをつけてミュウツーで攻撃する。サイコバーン!」
ミュウツーからまたもエネルギー弾が放たれ、バシャーモに攻撃して爆発を起こす。
「バシャーモ!」
煙が晴れると、そこにはHPバーを0/130にして倒れたバシャーモが。
「サイドを一枚引く」
「くっ。俺はヒードランをバトル場に出す」
「いくらあがいても無駄だ。ターンエンド」
俺のヒードラン100/100は基本的に非戦闘要員だ。薫と勝負したときのようにベンチで控えて主にバシャーモのサポート役をやっていたようなのが正しいヒードランの使い方。今、そのバシャーモが倒されてしまった。それでもバシャーモがまた戻ってきたときのためにサポートは手を抜かない。
「俺のターン。まずはヒードランをレベルアップさせる!」
レベルアップしたヒードランLV.X120/120の咆哮が周囲に響く。
「そしてポケモン入れ替えを発動。バトル場のヒードランLV.XとベンチのバシャーモFBを入れ替える。続いてバシャーモFBに炎エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワーのコスモパワーを発動。手札を二枚戻し、四枚ドローだ」
ようやくエネルギーがちゃんと手札に入るようになってきた。だがまだ流れはどちらにもない。この勝負の主導権を早く握りたい。
出来ることなら目の前のミュウツーをこのターンのうちに倒したい。だが、バシャーモFBが炎エネルギー一個で出せるワザで、ミュウツーを倒すことが出来ない。
「バシャーモFBで誘って焦がす攻撃。このワザは相手のベンチポケモンを一匹選び、相手のバトルポケモンと入れ替えさせる。そしてそのポケモンをやけどにさせる!」
フーディンはアンノーンGの効果でワザの効果を受け付けない。選べるポケモンはアブソルGとクレセリアか……。
「クレセリアを選択する!」
バシャーモFBは跳躍して相手ベンチのクレセリア80/80の元まで行くと、これまたクレセリアの首根っこを掴む。するとバシャーモFBの手首の炎が激しく燃え、クレセリアをも燃やした。そして燃えるクレセリアをバシャーモFBがバトル場めがけて投げつける。あらかじめバトル場にいたミュウツー10/90は驚きたまらずベンチに下がる。これでバトル場にはやけど状態となったクレセリアが新たに出ることになった。
「ターンエンドと同時にポケモンチェックをしてもらう」
ポケモンチェックで山本がやけど判定のコイントスをしようとしたときだ。
「このとき、ヒードランLV.Xのポケボディーのヒートメタルが発動。やけど状態のポケモンがポケモンチェックでコイントスをするとき、そのトスの結果を全てウラとして扱う。よってクレセリアはやけどのダメージを受け20ダメージ!」
「何っ?」
クレセリアは火傷のダメージを受け、HPを60/80まで減らす。
「くっ! 小賢しい……」
「これ以上お前の好き勝手にはさせない!」
「なかなかどうして、流石は準々決勝と言うべきか。思っていたよりも多少は強いようだ」
「?」
「貴様を倒した時、おれの能力はより強くなれる。その時こそこの能力は最大まで増幅し、おれの目的は達成されるッ!」
目的……、ポケモンカードなしで相手の意識を奪うことか。もしかして脅しなのか、これは……? そう言って俺の気持ちを乱そうとしているのか?
「もちろん脅しではない。おれも持てる力を全て出し、まずは貴様を叩き潰してこの世界の淀みを、愚図を、消してやる! おれのターン!」
翔「次回のキーカードはアブソルG LV.X。
ポケモンをロストさせるポケパワーと、
エネルギー二個で60ダメージの強力カード!」
アブソルG LV.X HP100 悪 (DPt3)
ポケパワー やみにおくる
自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。コインを3回投げ、オモテの数ぶんのカードを、相手の山札の上からロストゾーンにおく。
悪無 ダークスラッガー 30+
のぞむなら、自分の手札を1枚トラッシュしてよい。その場合、30ダメージを追加。
─このカードは、バトル場のアブソルGに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 闘×2 抵抗力 超−20 にげる 1
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 | 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 | 81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 | 101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | 110 | 111 | 112 | 113 | 114 | 115 | 116 | 117 | 118 | 119 | 120 | 121 | 122 | 123 | 124 | 125 | 126 | 127 | 128 | 129 | 130 | 131 | 132 | 133 | 134 | 135 | 136 | 137 | 138 | 139 | 140 | 141 | 142 | 143 | 144 | 145 | 146 | 147 | 148 | 149 | 150 | 151 | 152 | 153 | 154 | 155 | 156 | 157 | 158 | 159 | 160 | |