マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  •   [No.867] 第2話「燃え上がる気持ち! 初めての戦い 中編」 投稿者:akuro   投稿日:2012/02/16(Thu) 23:09:21     45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「うわあああ!」
     レッドが驚き、

    「おー!」
     イエローがなぜか歓喜の声をあげ、

    「えー……」
     ブルーは若干冷めた声で呟く。


     それもそのはず、3匹の目の前では大勢のワルビルが暴れていのだ。 
     その内の1匹と目が合うとそのワルビルが他の奴等に呼びかけ、ワルビル達が一斉にこちらへ目を向けた。 その目は血走っていて、レッドは先程のグラエナ達を思い浮かべた。


    「こいつらを蹴散らせばいいんだな……イエロー、ブルー、行くぞ!」


     レッドはそう叫ぶと、真紅のマントをはためかせワルビル達に向かって走っていく。

    「うおっしゃー! いくぜぇ!」

    「いちいちうるさいわね! まったく……」

    イエローの叫びにブルーがすかさずつっこむと、2匹もレッドに続きワルビル達に向かっていった。





    「グオオオオ!」
     ワルビル達に飛びかかったレッドはその地の底から響くような唸り声に一瞬怯んだが、大きく息を吸い込み気を引き締め、自分に噛み付こうとしたワルビルに「かえんほうしゃ」を放つ。
     その隙をついて地中から「あなをほる」を繰り出したワルビルをさっとかわし、尻尾にググっと力を入れ渾身の「アイアンテール」をお見舞いする。

     その時レッドは気付いた。 なんだかいつもより力強い気がするのだ。 これが七色戦士の力だろう……これで「フレアドライブ」が出せればな、と一瞬思ったが今はそれどころではない。

     レッドは4、5匹で襲い掛かってきたワルビル達を蹴散らす為、形だけでも……と覚えた「ニトロチャージ」でぶつかった。



     同じ頃、他の2匹もいつもと違うことに気付いていた。

     イエローは飛ぶように走ってワルビル達を翻弄し、木の枝に飛び乗ると「ミサイルばり」を連射する。 ワルビル達はそれを受け、倒れた。 しかしまだ沢山いるワルビルにイエローは舌打ちをしながら木から飛び降り、その急降下の勢いで「ずつき」をぶちかました。


     ブルーはワルビルの攻撃をまともに食らっていたが、その体には傷1つ付いていない。 ブルーは体をかがめて「アクアリング」を発動し、とどめとばかりにワルビル達が繰り出した「すなじごく」をやり過ごして、「なみのり」で一気に吹っ飛ばした。

     そうしてワルビル達をあらかた倒した時、先程と同じ振動と地響きが聞こえた。 3匹が聞こえた方を向くと、そこにはーー


     イエローが口角を上げて呟く。

    「……へっ、ボス登場……ってか?」





     赤と黒の縞模様の体、大きく伸びた顎。 ワルビルと似ている目つきだが、威圧感はこちらの方が何倍もある。



     ーーそこには通常の2倍はありそうな巨体の、ワルビアルが鎮座していた。



     後編に続く!


      [No.866] 第16話「試験」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2012/02/13(Mon) 23:32:13     74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「テンサイさん、調子はどうですか?」

    「……まあまあだ。どうにもテストってもんは作るのが難しいな」

     9月25日の金曜日。時刻は夕方の7時となったが、俺はまだ学校に残っていた。来る試験の問題作成と、部員の自習の面倒を見るためである。ラディヤは問題無さそうだが、イスムカとターリブンが不安だ。3人は職員室の隣にある自習室に居て、俺がたまに巡回している。ラディヤが2人に教えているから心配は無いと思いたい。

     ま、そんなこたあ大したことじゃねえ。厄介なことに、今回の試験で問題を作ることになっちまった。担当は1年生。範囲は三角比、平面図形、確率と場合の数。どれも初歩的なものばかりだが、科学や実生活の基盤となる分野ばかり。なるだけ定着していてほしいもんだぜ。

    「確かに、問題作るのは大変ですよねー。私も初めて作った時は大変でしたよ。今はだいぶ慣れましたけどね」

    「ほう。じゃあ、ちょっと見てもらえるか? 俺は数学、あんたは化学担当だが……分かるだろ?」

    「もちろんですよ。えーと、どれどれ……」

     俺は彼女に問題用紙の原稿を見せた。まだ作りかけだから5問ほどしかないが、良し悪しを判断するには充分だろう。

     彼女はしばし、その薄っぺらな紙を眺めていた。しかし、どんどん表情が曇りがちになり、最後には頭上にクエスチョンマークを浮かべた。……そういや、昔からあんまり数学が得意じゃなかったよな、彼女は。少しは教えたつもりだが、どうやら中々定着していないようだ。

    「て、テンサイさん……これはちょっと難しすぎないですか?」

    「そうか? 例えばこれなんか、下手すりゃ全員正解するぞ」

    俺は大問3を指差した。内容はこうだ。赤い玉が2個、青い玉が7個入った袋から1個取り出し、色を確認してから戻す。この手順をn回行うとき、赤い玉を取り出す期待値を求めよ。な、簡単だろ?

    「い、いやいや。それにしても学校でやる問題にしては誘導も少ないですし、計算も煩雑ですし……。私も似たようなミスをやってたから、大きなことは言えないですけど」

    「じゃあどんなのにすれば良いんだよ……」

     俺は窓の外に目をやった。9月の終わりとは言え、まだまだ明るいな。なるべく早く帰っておきたいもんだ。週末でしか対戦の研究ができねえし。

    「やっぱり、教科書の問題から少しだけ数値をいじってみるのが手っ取り早いでしょうね」

    「なるほどな。まあ、どちらにしろ1から作り直しだ」

     なるほどとは言ったが、そんな適当なことをする気はさらさら無い。なぜなら、それでは必死に準備してきた生徒が気の毒だからな。やってる奴だけ結果が出て、しかも教科書の模倣ではない問題……必ず作ってやる。生徒と言えば、高校と中学だと生徒、小学校だと児童、大学だと学生と区別するそうだな。













    「よし、では試験を始めるぞ。全員、無駄な抵抗はやめとくことだ」

     10月2日、金曜日。中間試験1日目。1時間目から数学たあ、実に幸せだろうな。朝は頭が最も働く時間だから、調子良くできるだろう。

     さて、俺が監督するのは1年4組だ。つまり、イスムカやターリブンのクラスである。この2人は席に着きながら話をしていた。ターリブンが嘆き、イスムカがそれに受け答えすると言う構図だ。

    「お、終わりでマス……」

    「まあまあ、先生だってそんなに難しい問題は出さないでしょ。きっとマーヤ先生みたいに分かりやすいはずだよ」

    「おいそこ、これ以上しゃべったらカンニングと見なすぞ」

     俺は周囲を凝視しながら問題用紙を配った。カンニングでもしようもんなら、容赦無く吊し上げてやるぜ。ポケギアを使ってないかも要チェックだな。

     さあ、準備はできた。時計は8時50分を指している。俺は開始の合図を送るのであった。

    「では……始め!」


    ・おまけ:中間テスト やってみたい方はどうぞ

      1学年2学期中間試験 数学
       年 組 氏名
      次の問いに答えよ。

    問1:正弦定理を証明せよ(10点)。

    問2:余弦定理を証明せよ(10点)。

    問3:それぞれ異なる色の玉が17個ある。この中から8個を選び、円になるように並べる組み合わせは何通りか。ただし、回転させて一致するものは同一とみなす(10点)。

    問4:赤い玉が3個、青い玉が8個入った袋の中から無作為に1個取り出し、色を確認してから元に戻す作業を何回か繰り返す。この時、
     (1)3回繰り返して赤い玉を2回取り出す確立を求めよ(3点)。
     (2)4回繰り返して少なくとも1回青い玉を取り出す確立を求めよ(5点)。
     (3)赤い玉を取り出す期待値が1回以上になるには、最低何回繰り返す必要があるか(6点)。

    問5:方べきの定理を場合分けして証明せよ(15点)。

    問6:
    ┏┳┳┳┳┳┳D
    ┣╋╋╋╋╋╋┫
    ┣╋╋┻┻┻B┫
    ┣╋┫   ┣┫
    ┣╋B┳┳┳╋┫
    ┣╋╋╋╋╋╋┫
    A┻┻┻┻┻┻┛


    図において、AからDに向かって格子状の道を最短経路で歩く。すなわち、必ず東か北に向かって歩くことになる。この時、
     (1)Bをどちらも通らない経路は何通りあるか(4点)。
     (2)Bを通る回数の期待値を求めよ(8点)。

    問7:次の内容を証明せよ(各7点)。
     (1)円周角の定理
     (2)円に内接する四角形の対角の角度の和は180°

    問8:半径が6の円Pと7の円Qがある。PとQの中心の距離は12で、PとQの両方に接するように接線がひかれている。接線とP、Qとの接点をそれぞれR、Sとする。この時、
     (1)PとQはどのような位置関係にあるか(2点)。
     (2)RSの長さを求めよ(6点)。
     (3)PとQの接線が常に両方の円の上部を通るとする。PとQの中心の距離をrとする時、RSの長さを求めよ(7点)。

    ・次回予告

    さて、今日はテスト返しをするわけだが、ここまでひどい結果になるとは思わなんだ。やはり、やってない奴にはそれ相応のリターンしか無いと言うことだな。ここから這い上がってくるのが何人いることやら。次回、第17話「テスト返し、解答」。俺の明日は俺が決める。

    ・あつあ通信vol.82

    今回はテストを本文に掲載してみました。やはり学園ものは学園ものでしかできない内容をやらねばと考えた結果です。なお、解答は次回行います。皆さん、もしお時間があればふるってご参加ください。


    あつあ通信vol.82、編者あつあつおでん


      [No.864] 77話 絶望 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 13:07:36     41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     異様な雰囲気が漂う準々決勝。その雰囲気の発生源であるこの一帯では暗い戦いが続いている。
     どちらもサイドは五枚。俺の場には超エネルギー二枚ついたゲンガー50/110がバトル場に。ベンチにはベンチシールドのついたネンドール80/80、超エネルギーのついたサマヨール80/80、ヨマワル50/50、アグノム70/70、アンノーンG50/50。
     相手である高津洋二のバトル場はパルキアG LV.X60/120、ベンチに闘エネルギー一つついたマンキー50/50、ヤジロン50/50がいる。
     そして次のターンは高津から。
    「俺のターン。ヤジロンを手札からネンドール(80/80)に進化させる」
     高津の手札は僅か一枚だが、このネンドールで手札を増強させる気だ。ネンドールの持つポケパワー、コスモパワーはポケモンカード屈指のドローサポート。手札を一枚か二枚戻して六枚ドローするというトンデモ効果はほとんどのプレイヤーを助けてきた。
    「ネンドールのポケパワーを発動だ。手札を一枚デッキの底に戻し、デッキから六枚ドロー」
    「ちっ」
    「続いて手札から闘エネルギーをマンキーにつけ、サポーターカードだ。バクのトレーニングを発動。デッキからカードを二枚ドロー。手札からマンキーをオコリザル(90/90)に進化させる」
    「そんな弱小カードで何をする気だ? あぁ?」
    「更にワンリキー(60/60)をベンチに出し、パルキアG LV.Xのポケパワーを発動する。ロストサイクロン!」
     互いのベンチの上空に紫と黒の混じった鈍い色の渦が現れる。
    「このポケパワーは自分の番に一度使う事が出来る。ベンチポケモンが四匹以上いるプレイヤーは自分のベンチポケモンを三匹選び、その後選んでいないポケモンとそのポケモンについているカードを全てロストゾーンへと送りこむ」
    「ロストゾーンだと!?」
    「そうだ。ロストゾーンに一度行ったカードは二度とプレイ中に使うことはできなくなる」
     高津のベンチは丁度三匹しかいないので効果対象にはならない。一方、俺のベンチには五匹いる。二匹は必ずロストゾーン行きだ。
    「だったら、ネンドール、サマヨール、ヨマワルを残す。アグノムとアンノーンGをロストゾーンに送る」
     バトルテーブルの小脇にあるロストゾーンにカードを置くと、俺のベンチ上空の渦がアグノムとアンノーンGを吸って飲み込み消えていく。幸い、この二匹にはエネルギーなどがついていないのが救いだ。
    「グッズカード、ポケモン入れ替えを発動。バトル場のパルキアG LV.Xとベンチのオコリザルを入れ替える、そしてオコリザルで瓦割攻撃だ」
     走り出したオコリザルは、ゲンガーの手前まで来ると跳躍してから右手でゲンガーの頭に瓦割を叩きこむ。
    「ぐあっ!?」
     と同時に俺にもダメージが飛んでくる。丁度額のところにものすごい衝撃を受け、思わず後ろにこけそうになった。なんとか踏ん張ったがこれは最悪な気分だ。
    (大丈夫!?)
    「まだまだ……」
     俺のもう一人の人格はまたもや心配してくれる。その気持ちはありがたいがこの戦いに情け容赦はない。
     ふと鼻の下に何かついていると思い、服の袖で拭うと血がついていた。おいおい鼻血かよ。
    「降参するならまだ間に合うぞ」
    「誰が降参するかよ……。この顔面グロテスクが! 舐めてんじゃねぇぞぉ!」
     ふらつく足を気合いで保ち、威嚇の意味を兼ねて吠える。そうだ。精神が先に折れたら負けだ。俺様がこんな弱小能力者に負けるわけがねぇんだよ。
    「……。またその目だ」
    「あぁ?」
    「その俺を見る憎悪の目! 気持ち悪いものを見るかのような、そして俺を消えろと言わんばかりのそれが!」
    (……?)
    「お前もだ! どいつもこいつも俺をそんな目で見やがる!」
    (ねぇ)
    「ああ、これがこいつのコンプレックスだ」
     能力(ちから)は負の感情にリンクして生まれる力。こいつの力の由縁はもう予想がついた。
    「お前も、お前も、お前も! 潰してやる……! 二度と立ち上がれないくらい!」
     自分を気持ち悪い目でみるようなヤツをまとめて全員潰したい。その負の感情がこいつの、他人にワザのダメージが直接衝撃として与える能力になったのだろう。しかしこいつに必要なのは同情ではない。
    「おいおいおいおい! お前のことなんてどーでもいんだよこの弱小が! この俺様が直々にぶっ壊してやる!」
    「だがお前のゲンガーはこれで気絶だ! 瓦割の威力は40だが、バクのトレーニングの効果でこのカードがバトル場の横にあるとき(サポーターは使うとその番の終わりまでバトル場の横に置く)相手に与えるワザのダメージを10追加するもの。これで合計50ダメージ、ゲンガーはきっちり気絶となる!」
    「んなこと分かってんだよ! 本領はこっからだ! ゲンガーのポケパワーを発動。死の宣告! さぁ、デッドオアアライブ。コイントスの時間だ! もしオモテを出したら、このポケモンを気絶させた相手のポケモンも気絶させる!」
    「っ!」
     ……だが、コイントスの結果はウラ。不発に終わる。
    「ちっ、ベンチのサマヨールをバトル場に出す」
    「サイドを一枚引いてターンエンド」
     これでサイドは高津が四枚。俺が一枚ビハインドだ。
    「けっ。俺様のターンだぁ! 手札からバトル場のサマヨールをヨノワール(120/120)に、ベンチのヨマワルをサマヨール(80/80)に進化させる。そぉだな。ここでネンドールのコスモパワーだ。手札を二枚戻し四枚ドロー!」
     デッキの残数は二十九枚。まだまだ暴れても足りるな。
    「サポーター、ハマナのリサーチだ。デッキから基本エネルギーまたはたねポケモンを二枚まで手札に加えることが出来る。俺様はゴースと超エネルギーを加え、ゴース(50/50)をベンチに出しヨノワールに超エネルギーをつける!」
     このターンのうちに体勢を立て直したい。ここはちょっと強引に行ってやる。
    「ふん、こんなんじゃあまだまだ足りねえ。ヨノワールのポケパワーを使ってやる。影の指令! 自分の番に一度使え、デッキからカードを二枚ドロー。そして手札が七枚を越えたら六枚になるように手札をトラッシュ。そしてヨノワールに20ダメージだ」
     俺は手札からコール・エネルギーをトラッシュする。ヨノワール100/120は体力が減ったが、減ってこそ、その本領を発揮出来る。
    「こうしてやる。ヨノワールで攻撃。ダメージイーブン!」
     ヨノワールの腹にある口が開くと、そこから火の玉が二つ飛び出る。ヨノワールの指示によって飛び回る火の玉は相手のベンチにいるネンドール80/80に襲いかかった。
    「またベンチに攻撃か」
    「なんとでも言え。ダメージイーブンは相手のポケモン一匹に、このカードに乗っているダメカンと同数のダメカンを乗せる。よってネンドールに20ダメージだ」
     まだまだネンドールはHPが60/80と余裕だが、これも計算の内だ。手はずは整いつつある。
    「俺のターン。ベンチのワンリキーをゴーリキー(80/80)に進化させ闘エネルギーをつける。そしてネンドールのコスモパワー。手札を二枚戻して三枚ドロー」
     パルキアG LV.Xのロストサイクロンは確かに強力だが、自分の首も絞めていることになる。自分のベンチに四匹以上並ぶと自分もポケモンをロストしなくてはならないからだ。だから高津は手札にあるポケモンを処理しきれないのだろう。
    「ここで俺はペラップG(60/60)をベンチに出す」
    「何っ!?」
    「ペラップGのポケパワー、撹乱スパイがこのタイミングで発動される。このカードを手札からベンチに出した時、相手のデッキのカードを上から四枚見て好きな順番に入れ替えることが出来る」
     相手のデッキの上を入れ替え……? いったい何が目的だ。
    「……。よし、この並びだ。さあ次はパルキアG LV.Xのロストサイクロンを発動。ベンチに四匹以上いるのは俺の場のみ。この効果でペラップGをロストゾーンに送る」
     俺のベンチキルを意識した策略か? ただ相手のデッキを入れ替えることに何の意味が。
    「オコリザルで攻撃する。マウントドロップ! このワザは相手のデッキの上を一枚トラッシュし、そのカードがポケモンだった場合そのポケモンのHP分ダメージを与える!」
    「けっ、ペラップGはこのためか! トラッシュしたカードは……。ちっ、ゴーストだ」
    「ゴーストのHPは80。よって80ダメージだ」
     再びオコリザルがヨノワールの元へ駆けて来て、手前でジャンプしヨノワールに絡みつくとマウントポジションになる。そして拳を高いところから振り下ろし脳天チョップを炸裂させる。
    「かはっ……!」
     頭上からまるで鉄の棒で叩きつけられたような衝撃が走る。体の平衡を保てない。思わずおちそうになった、いや、おちた。気がつけばうつ伏せになって倒れていたのだ。
    (よかった、起きてくれて……)
     もう一度立ち上がる。立ちくらみが半端なかったが、まだ行ける。服をぱんぱん、と掃う。首も回して腕も回す。俺の体は、いや、俺達の体はまだ大丈夫のようだ。
    「なあ、俺はどんだけあんな風に倒れてた?」
    (いや、ほんの僅かだったよ)
    「ならいい」
     口の中が不快だ。ぺっ、と唾を吐くが血も幾らか混ざっていた。
    「ふん」
    「しぶといな……」
    「七転八起は常識だろ?」
     さて、今のマウントドロップを受けてヨノワールのHPは20/120。もう一度影の指令を使うことは出来ない。自ら自滅しに行く必要はない。
    「まだまだ余裕だ。俺のターン! けっ、いいもん引いたじゃねえか。ヨノワールをレベルアップさせる!」
     ヨノワールLV.X30/130になればHPに余裕が出来てもう一度影の指令が使える。レベルアップしてもレベルアップ前のポケパワーやポケボディーを使う事が出来るからだ。
    「ふん。ゴースに超エネルギーをつける。サポーター、ミズキの検索だ。手札を一枚デッキに戻し、デッキからゲンガーを加える。そしてヨノワールLV.Xのポケパワーを使う。影の指令。デッキから二枚ドローし、ヨノワールLV.Xにダメカンを二つ乗せるぜ」
     これでヨノワールLV.X10/130はどんな些細なダメージでも気絶だ。だがその前にやるべきことは残っている。
    「悪くねぇな。グッズカード、不思議なアメだ。ベンチのゴースをゲンガー(110/110)に進化させる。そしてネンドールのポケパワー、コスモパワーを使う。手札を二枚戻し四枚ドロー。そしてヨノワールLV.Xでダメージイーブン!」
     ヨノワールLV.Xの口から十二の火の玉が現れ、オコリザルを襲っていく。圧倒的な火の玉の量にオコリザルはあっという間に気絶していく。
    「……。俺はゴーリキーをバトル場に出す」
    「へ、サイドを一枚引いてターンエンドだ」
    「俺のターン。手札からグッズカード、夜のメンテナンスを発動。トラッシュの基本エネルギーまたはポケモンを三枚までデッキに戻す。俺は闘エネルギーを三つデッキに戻そう。さらにミズキの検索も使う。手札を一枚戻してカイリキーを加える。バトル場のゴーリキーに闘エネルギーをつけて、カイリキー(130/130)に進化させる」
     またカイリキーか。こいつの放つワザはどれもかしこも強力だ。踏ん張らないと。
    「ネンドールのコスモパワーだ。一枚手札をデッキの底に戻し、五枚ドロー。さあ止めだ。カイリキーでおとす攻撃」
     そしてそのワザの宣言と同時に高津の右手人差し指が俺を指す。いや、正確には……。
    「さらなる絶望を教えてやる」
    「っぐああああああああああああああ!」
     カイリキーのチョップがヨノワールLV.Xにクリーンヒットすると同時に、左肘にとてつもない衝撃が走る。思わず左手に持っていた手札をこぼしそうになった。衝撃を喰らった後、痛みが引くまでしばらく右手で患部を抑える。
    「あいつめ……」
    (今、狙ってきたね)
    「ああ……」
     あのとき高津は俺の左肘を指で指した。そしてそこに衝撃が来た。ここから推測出来ることは高津はある程度能力を操作することが出来るということだ。
    「おとすはたねポケモンを気絶させる効果だけではなく、普通に40ダメージを与えれるワザだ。これでヨノワールLV.Xは気絶」
    「……、面白くなるのは、こっからだ……。ヨノワールLV.Xのポケパワーだぁ! エクトプラズマ!」
     倒れ伏せているヨノワールLV.Xを中心にドーム状に紫色の空間が広がっていく。
    「何だこれはっ!?」
     バトル場を。ベンチを。俺達を。俺達が戦っている空間だけ周囲と完全に切り離された。
    「どういうことだ。俺はヨノワールLV.Xを倒したはずだ!」
    「それが地獄への……、トリガーだ」
    (ちょっと、大丈夫?)
     相棒が実際にいたら俺の肩を揺さぶっていただろう。だが俺の肩は自力で上下に揺れていた。
    「はぁ、はぁ、……エクトプラズマは、ヨノワールLV.Xが気絶したときに使えるポケパワー……」
     俺達を囲む紫色の空間のあちこちにスッと切れ目が入ると、その切れ目からたくさんの眼が現れた。濁った白目の真ん中の瞳孔はこれでもかというくらい真っ暗だ。上下左右、全方位にウン百万、ウン千万、いやもっとあるこの眼達は俺達を凝視する。まるで監視されているかのようだ。
    「くっ、このヨノワールLV.Xは、相手のワザで気絶したとき、スタジアムカードとして、このLV.X一枚だけを、残すことが、出来る……。俺は次のポケモンに、ベンチのサマヨールを選ぶ」
    「サイドを一枚引く。これで残りサイドは三枚だ」
     息するのが辛いぞクソ野郎、全力疾走した後みたいな疲弊だ。座り込みてぇ。だが、それはまだ、まだだ。
    「さあ、ワザを使ったから、お前の番は終わりだ。はっ、はぁ、ポケモンチェックにフェイズは移行する……。エクトプラズマの効果だ。このカードがスタジアムとして場にあるなら、ポケモンチェックの度に、相手のポケモン全員に、ダメカンを一つ乗せる……。さぁ苦しめ!」
     合図と同時に高津の場の全てのポケモンが苦しそうにのたうちまわる。カイリキー120/130は四つの腕を使って頭を押さえ、ネンドール50/80は変な回転を始め、パルキアG LV.X50/120は首を振りまわしながら悲鳴を上げている。
    「ははっ、いい声上げるじゃねぇか……。おいおい……。今度は俺のターンだ。ドォロー!」
     ちっ、こいつじゃない。クソ、引きも悪くなってんじゃねえか。これが翔が言う「流れ」ってやつか。
    「サポーターだ。クロツグの、貢献。トラッシュの基本エネルギーか、ポケモンをデッキに五枚戻して、シャッフル……。はぁ、俺は超エネルギー三枚とゴースとゲンガーを、戻すぞ」
     減らしすぎたデッキのリカバリーだ。これで二十四枚……。
    「ゲンガーに超エネルギーをつける。ネンドールのコスモパワー、手札を二枚戻して二枚ドロー。ターンエンドだ」
     そしてポケモンチェック。高津の場は地獄絵図と化し、それぞれのポケモンのHPはカイリキー110/130、ネンドール40/80、パルキアG LV.X40/120となった。
    「今度こそ降参したらどうだ?」
    「けっ、人傷つける割には、そんなことを言いやがって、このクズめ」
     瞼が重い。右腕でバトルテーブルを上から押して、それでなんとか体重を保っている感じだ。さすがにあんだけ連打を受ければ辛い。だが負けたくは、ない。
    「不思議だな……」
    「む?」
    「こんなボロボロになっても、お前にだけは負けたくねぇ……」
     高津は一人笑いはじめる。紫の空間には高津の笑い声がしばらく響いた。
    「口だけならなんとでも言える。お前が何と言おうと、それは意味を成さない。俺は俺を否定する奴を認めない。このターンでお前に止めを刺してやる」
    (本気だよあいつ!)
    「くっ……」
    「俺のターン。サポーターカード、地底探検隊を発動。デッキの底から四枚カードを確認し、そのうち二枚を手札に加える。そして俺はカイリキーに闘エネルギーをつけ、レベルアップさせる!」
     ぞわり、身の毛がよだつ。カイリキーLV.X130/150、こいつはヤバい。直感で分かる。あれはダメだ。ヤバい、ヤバすぎる。あんなのの一撃をまともに喰らうと本当にどうなるか分からない。
     思わず右足が一歩下がる。しかし下がったところでどうなるものでもない。
    「カイリキーLV.Xで攻撃。斬新だ」
     高津の指はまたもや俺の左肘を指す。しかしどこに衝撃が来るか分かっても対処のしようがない。
    「斬新は威力はたった20。だがしかし、カイリキーLV.Xにはポケボディーがある。このポケボディーのノーガードはこのポケモンがバトル場にいる限り、相手に与えるワザのダメージと受けるワザのダメージは全てプラス60。よって斬新で与えれるダメージは80。サマヨールのHPも80。これで気絶だ。だがその前にこの一撃に耐えれるかだがな」
     走り出したカイリキーLV.X。ニンマリ笑うその顔から繰り出されるチョップがサマヨールに届いたとき。
    「ぐっ、がああああああああああああああああああああああ!」
     絶叫と共に俺と、俺が左手に持っていた手札六枚が宙を舞う。



    拓哉(表)「今回のキーカードはカイリキーLV.X。
          なんといってもポケボディーのノーガード。
          ダメージを受けるのはもちろんだけど、それ以上に与えるダメージ増幅がすごい」

    カイリキーLV.X HP150 闘 (破空)
    ポケボディー ノーガード
     このポケモンがバトル場にいるかぎり、このポケモンの、バトルポケモンに与えるワザのダメージと、相手のポケモンから受けるワザのダメージは、すべて「+60」される。
    闘無無 ざんしん  20
     次の相手の番、ワザのダメージで自分の残りHPがなくなったなら、コインを1回投げる。オモテなら、自分はきぜつせず、残りHPが「10」になる。
    ─このカードは、バトル場のカイリキーに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
    弱点 超+40 抵抗力 − にげる 3


      [No.863] 76話 不足 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 13:06:06     37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「松野さんが倒れた今、松野さんの部下である僕、一之瀬和也が彼女の代役をします」
     拳を強く握りしめ、既に闘志を目に宿した奥村翔くん、不気味な笑みを浮かべている藤原拓哉くん、そしてまだ柱にもたれかかり明日のジョーみたいに燃え尽きている風見雄大くん。
     今の三人は皆が皆意識が違うようだ。別に問題があるわけではない。むしろ、面白いなと笑ってしまいそうなくらいだった。
    「まずは藤原くん。君はこの次能力者の高津洋二と戦う事になる。彼の特徴は───」
    「言われなくてもあのチビから聞いた。ワザの衝撃をそのままプレイヤーに与えるやつだろ?」
    「そう。ただ、どの程度までダメージを与えれるかは分からない。勝てたとしてもどうなるかは分からない」
    「けっ」
    「彼のデッキはパワー型軸だがテクニカルな戦術も持ち合わせている。その辺も注意して」
    「言われなくても分かってる。それだけか?」
    「うん。健闘を祈るよ」
     藤原くんは露骨に舌打ちをすると先に対戦場の指定位置へ向かう。
    「さて。次は奥村翔くん。言わずとも分かるだろうが山本信幸が相手だ。彼はほとんど自分のプレイングの全てを見せずに勝ち続けている」
    「……」
    「特にあのミュウツーLV.Xは強烈だ。相手がたねポケモンならばダメージを受けないポケボディー、サイゴバリアは非常に厄介。十分に注意してくれ」
    「はい」
     奥村翔くんも強く頷くと、藤原くんの後を追って走って行った。
    「さて、風見くん。君はこのままでいいのかな?」
     相変わらず虚空を見つめる彼。しかし彼に命を吹き込む一つの魔法がある。
    「『市村アキラ』が全国で君を待ってるよ」
     こう耳打ちした刹那、彼の目は一気に命を取り戻す。
    「本当ですか!?」
    「彼にリベンジしたいなら、君はここでこんなことをしている暇はないはずだ。能力者なんて関係ない」
    「……」
    「君は君がすべきことを全うするんだよ」
    「アキラ……」
     ようやっと立ち上がった風見くんを背に、僕は一足お先に対戦上へ向かうことにした。



    「さてと、お前が話に聞いていた高津洋二か」
    「……」
    「おいおいおいなんか喋れよクソ野郎」
    「お前に話すことはない」
    「そぉか。お前はそうでも俺はそうじゃないんだよ」
     灰色のパーカーのフードを被って下を向いている高津は、顔が一切見えない。そして会話に関しても閉鎖的だ。元からそういう質(たち)なのか何も返してこない。
    「せめてよぉ。人と人と会話するときは相手の目を見ろなんて学ばなかったのかよ? あぁ!?」
    「言葉数が多いな……」
    「俺様は喋って好感をもたれるタイプなんでな。そんなことよりお前の能力(ちから)、危なっかしいからとっとと潰させてもらうぜ」
    「能力のこと、知っているのか」
     初めて高津の顔が俺を見つめた。とはいえ高津の顔は長い前髪でほとんど見えないのだが、その顔には衝撃的な物が一つあった。
    「へぇ、火傷か」
     俺がそう言うと高津の眉が微かに動く。そう、高津は顔の右半分が火傷でただれていた。非常に醜い容貌を彼は必死に隠そうとしていたのだろう。
     ふーんなるほどね。能力というのは嫌なことに対する負の感情から生まれるまさに醜い力。あの火傷の跡から生まれたコンプレックスが高津に能力を与えたか。
    「まあいい。俺様がお前をぶっつぶしてやる。さぁ、遊ぼうぜ!」
     先攻は俺からだ。互いにバトルベルトを広げ、バトルの準備を整える。俺のバトル場はヨマワル50/50。ベンチにはゴース50/50。一方高津のバトル場はワンリキー60/60一匹だけだ。
     ワンリキーの弱点は俺が扱う超タイプ。こいつはいい。超タイプを扱う俺にしては飛んで火にいる夏の虫ってところだ。
    「へぇ、格闘タイプか。おいしいな」
    「相性なんてものはまやかしだ。本当の力を見せてやる」
    「力じゃなくて能力の間違いじゃないのかあぁ? 俺様のターン! まずは手札の超エネルギーをヨマワルにつけて攻撃! 影法師!」
     ヨマワルから伸びる影がワンリキーに襲いかかる。しかし与えたダメージは僅かに10。ワンリキー50/60もまだまだ余裕そうだ。
     このワザは相手にダメージカウンターを一つ乗せるワザ。相手に既にダメージカウンターが乗っている場合、更に追加でダメージカウンターをもう一つ乗せることが出来るが、生憎ワンリキーはダメージカウンターが乗っていなかったため10ダメージだけだ。
     そしてこれはワザのダメージを与えるものでなくダメージカウンターを乗せるという効果なので、弱点及び抵抗力の計算を受けない。
    「威勢の割にはそれだけか。俺のターン、手札の闘エネルギーをワンリキーにつける。そしてサポーターを発動する。ハマナのリサーチ」
     ハマナのリサーチはデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚まで選び手札に加えるサポーターカード。高津はパルキアGとマンキーを選択した。
    「そして俺はパルキアG(100/100)をベンチに出して、手札からグッズカードの不思議なアメを使用」
     不思議なアメはご存じ、進化していないポケモンをそのポケモンから進化する一進化及び二進化ポケモンに進化させることのできるグッズカード。これが二進化ポケモンの弱点である遅さを軽減させる。
    「ワンリキーをカイリキーに進化!」
    「くっそ、まだ二ターン目なのに遠慮なしかよ」
     光の柱に包まれたワンリキーは全体的に大きくフォルムを変えていき、逞しい体つきへ変わっていく。そして光の柱からカイリキー120/130が現れた。
    「同じエネルギー一つでもその違いを見せつけてやろう。落とす攻撃だ」
     カイリキーがチョップをヨマワルの頭部に喰らわせたその時だった。
    「!?」
     理解不能の衝撃が頭上にズシンときた。思わず姿勢を崩して前のめりになる。
    (大丈夫!?)
     俺のもう一つの人格である相棒が語りかけてくる。心配されるほど俺は軟(やわ)じゃねぇ。
    「ああ、まだまだ。……なるほど、これがお前の能力か……」
     いってーな、と呟き頭をさする。口ではそう言ったがそんなもんじゃすまない。かなり硬いもので殴られたような感じがして立ち上がる時は少しふらついた。こいつは厄介だ。
    「この落とす攻撃は、攻撃した相手が進化していない場合、ダメージを与える代わりに相手を気絶させるワザ」
    「なんだと!? 俺のヨマワルが一撃かよ! くそっ、鬱陶しい!」
     ふらふらと倒れていくヨマワル。最大まであったHPはあの一撃で0/50となった。
    「相性なんてまやかしだ。これが本当の力だ」
    「ふぅん、そんな程度か。それくらいなら俺だって出来るぜ。俺はゴースをバトル場に出す」
    「さっきから口ばかりだな。サイドを一枚引いてターンエンド」
     しかしまさかいきなりサイド先取されるとはね。
    (やっぱり強いね……)
    「けっ、これくらいやってもらわないとな。さあ、俺様のターン! ドロォー! まずはこうだ! 俺は手札の超エネルギーをゴースにつけ、ベンチにヤジロン(50/50)を出す。サポーター、シロナの導きを発動!」
     シロナの導きはデッキの上から七枚を確認し、そのうち一枚を手札に加えることの出来るサポーター。単純に引くだけとは違いきっちりサーチ出来るのがこのカードの強み。
    (ここは手堅くアレで行こうよ)
    「ああ、当然だ相棒よォ。このカードで決まりだ。さて、良いもん見せてもらったらしっかりお返ししねぇとな。こっちも不思議なアメだ。進化させるのはもちろんゴース。面白くなるのはここからだ! 来い、ゲンガー!」
     光の柱の中から光を消しさる程の深い闇を纏ったゲンガー110/110が現れる。
    「もがいてみせろ! ゲンガー、シャドールーム!」
     ゲンガーは両腕を自分の腹部に持っていく。すると右手と左手の間に黒と見違えるほどの濃い紫色の立方体の謎の物体を作り出す。ゲンガーが腕を広げるとその立方体もそれに合わせて大きくなる。ある程度の大きさになると、ゲンガーはその立方体を投げつけた。
     謎の立方体はカイリキーの元へ飛んでいき、カイリキーにぶつかるや否や謎の立方体がカイリキーを包み込む。
     外からでは何も見えないが、この立方体の中でカイリキーには全身に異常なまでの圧力をかけれらてそれがダメージとなるのだ。
    「このワザは相手一匹にダメージカウンターを三つ乗せるワザ。これも弱点と抵抗力は無視だ」
     ようやく解放されたカイリキー90/130、肩を上下させていたが程なく元通りに動き出す。
    「その程度のダメージでは俺には効かない」
    「へ、ほざいてろ顔面グロテスクが」
     ほとんど動かなかった高津の表情が今完全に憎悪のそれに切り替わった。
    (さ、流石に煽りすぎじゃない!?)
    「大丈夫だ」
    「何を独り言を! 俺のターン」
     一瞬高津の行動が止まった。かと思うと、歪んだ笑顔で突如笑いだす。
    「ははははは! 俺を愚弄したことを後悔させてやる!」
    (何か仕掛けてくるよ!)
    「けっ、口上はいい」
    「俺は闘エネルギーをカイリキーにつけ、ベンチにマンキー(50/50)を出す。遊んでやる。カイリキーで攻撃、ハリケーンパンチ!」
     高津はワザの宣言と同時にコイントスを始める。
    「このワザはコイントスをしてオモテの数かける30ダメージを与えるワザ。そのコイントスは……、オモテ、ウラ、ウラ、オモテ。60ダメージを食らえ!」
     ゲンガーに向かって走り始めたカイリキーは、右の二本の腕をぐんぐん回すとその二本の腕でゲンガーを思いっきり殴りつけた。ゲームならゴーストタイプに格闘ワザなど効かないが、これはカードなのだ。モロにパンチを受けたゲンガー50/110はその威力ゆえに吹き飛ばされ、衝撃を受けた俺も後ずさりをしてなんとか耐えた。
     左の肩甲骨の辺りと鳩尾のちょっと上に、これまた硬いもので殴りつけられたような衝撃、痛みが走る。
    「くっ……」
    「お前を少しずついたぶってやることにする」
    「ふん、まだまだ! 俺のターン!」
     引いたカードはネンドール80/80。俺の方からサーチをかけようとしていたが自ずとやってきた。どうやら運は俺の方にあるらしい。
    「俺はベンチのヤジロンをネンドールに進化させ、手札からグッズカードのゴージャスボールを使う。ゴージャスボールはデッキからLV.X以外の好きなポケモンをサーチするカードだ。俺は……。そうだなぁ、サマヨールを加える。更にネンドールのポケパワーを使うぜ。コスモパワー!」
     コスモパワーは手札を一枚か二枚デッキの底に戻し、その後手札が六枚になるまでドローするドローソースだ。今の手札は二枚。ヨノワールでない方の手札をデッキの底に戻し、五枚ドロー。
    「けっ、超エネルギーをゲンガーにつけてヨマワル(50/50)をベンチに出すぜ。サポーター、オーキド博士の訪問を使う。デッキから三枚ドローした後手札を一枚デッキの底に戻す。ポケモンの道具、ベンチシールドをネンドールにつけるぜ。ベンチシールドをつけたポケモンがベンチにいる限り、ワザのダメージを受けない。さあ攻撃だ! ゲンガー、ポルターガイスト攻撃!」
     ゲンガーの影がすっと伸びてカイリキーの影と融合する。
    「このワザは相手の手札を確認し、その中のトレーナーのカードの枚数かける30ダメージを与えるワザだ。さあ手札を見せな!」
     高津はバツの悪そうに眉をひそめると手札を見せる。ミズキの検索、闘エネルギー、プレミアボール、ネンドール。ミズキの検索とプレミアボールがトレーナーのカード。二枚だ。
    「さあ、やれ!」
     カイリキー90/130の影から耳を壊しかねないような嫌な音が鳴り響く。カイリキーは四本の腕で耳を押さえようとするがそれも無駄。膝をつき、そしてついには倒れていく。
    「さっきまではダメージカウンターを乗せるワザばっかだったが、今度は別だ。きっちりダメージを与えるワザだ。弱点計算はきっちりさせてもらうぜ!」
     30×2=60に、カイリキーの弱点は超+30。よって60+30=90。ジャストでカイリキーが戦闘不能になる。
    「へっ、弱点がどーだこーだいっときながらこのザマかよ!」
    「俺はパルキアGをバトル場に出す」
    「サイドを引いてターンエンドだ!」
    「……。俺のターンだ。手札からプレミアボールを発動。デッキからパルキアG LV.Xを手札に加える」
     プレミアボールはデッキまたはトラッシュのLV.Xを手札に加えることのできるカード。何か仕掛けてくるか。
    「パルキアGをパルキアG LV.X(120/120)にレベルアップさせる」
     大きく咆哮するパルキアG LV.X。ついつい目が合ったが何だこの威圧感は。
    「マンキーに闘エネルギーをつけて、サポーターカード発動する。ミズキの検索。俺は手札を一枚戻してヤジロン(50/50)を手札に加え、ベンチに出す。そしてターンエンドだ」
     もうターンエンドだと? まあいい。
    「だったら俺のターン! アグノム(70/70)をベンチに出してタイムウォークを発動。このポケパワーはアグノムを手札からベンチに出した時に使え、サイドカードを確認し、その中のポケモンを一枚手札に加えることができる。加えた場合、俺は手札から一枚サイドにウラにして置く。俺はアンノーンG(50/50)を手札に加えて手札を一枚サイドに置く。そしてアンノーンGをベンチに出すぜ」
     これで俺のベンチは四匹。だがまだまだ増える。
    「ベンチのヨマワルをサマヨール(80/80)に進化させて超エネルギーをつける。さらにサポーターカードのハマナのリサーチだ。超エネルギーとヨマワルを手札に加え、ヨマワル(50/50)をベンチに出す!」
     一気にベンチに大量展開したため俺のベンチがMAXの五体に。これで俺はこれ以上ベンチにポケモンを置けないが、それで十分だ。
    「ネンドールのコスモパワーだ。手札を一枚戻してデッキから五枚ドロー! よし、攻撃する。ゲンガー、シャドールームだ!」
     高津の手札は一枚だけ。恐らくネンドールだろう。これではポルターガイストで攻撃する意味がない。
     ゲンガーから放たれる謎の物体はパルキアG LV.Xをとらえ、締め付けていく。
    「シャドールームはポケパワーのあるポケモンにダメージを与える場合、ダメージカウンター三つに加えさらに三つ乗せることが出来る。パルキアG LV.Xにはポケパワーがあるみたいだな。それが仇となったぜ!」
     パルキアG LV.X60/120が苦しそうな悲鳴を上げたところでようやくシャドールームから解放された。
    「おいおいおい、能力者ってこんなに大したことなかったか? 暇つぶしにもなんねぇぜ」
    「その言葉が後に自分の首を絞めることになることを教えてやる」



    拓哉(裏)「キーカードはこいつだな、カイリキー。
          なかなか鬱陶しい能力じゃねえか。
          特に落とすが強力だ。SPポケモンなんて瞬殺だぜ」

    カイリキーLv.62 HP130 闘 (破空)
    闘 おとす  40
     相手が進化していないなら、このワザのダメージを与える代わりに、相手をきぜつさせる。
    無無 ハリケーンパンチ  30×
     コインを4回投げ、オモテ×30ダメージ。
    闘闘無無 いかり  60+
     自分のダメージカウンター×10ダメージを追加。
    弱点 超+30 抵抗力 − にげる 2


      [No.862] 75話 困惑 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 12:42:44     50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「松野さん!」
     二回目の叫びは勝負を終えたばかりの風見くんが上げたものだった。
    「くそっ!」
     彼が取り乱したところを見るのは初めてだ。それだから、彼自身が暴走すると何が起こるかが怖い。
    「担架っ!」
     担架を呼ぶ指示を声を荒げて僕も松野さんの元へ走る。しかし用があるのは松野さんではない。こちらに向かってくる風見くんだ。
    「風見くん、落ちつけ!」
     猛牛のように松野さんの元へ突進してくる彼をショルダータックルで突き飛ばす。
    「担架は急いで運んで!」
    「はい!」
     ようやくぴくりとも動かなくなった松野さんを担架に乗せてレスキュー班が会場奥へ消えていった。松野さんの姿が見えなくなるまで風見くんは立ちあがってなお松野さんの元へ行こうと僕と格闘を繰り広げていた。
    「はっ、はっ、はっ」
     血眼になっている風見くんは今のでかなりの体力を消耗してしまったのだろうか、僕にほとんどもたれかかって体重を預けている様相だ。
    「……。風見くん。いくら松野さんが君の恩人だからといって焦っちゃダメだ。怒っちゃダメだ。松野さんは二度と目を覚まさない訳ではない。山本信幸を倒せば松野さんはきっと目を覚ます」
    「……」
    「だから、松野さんが帰ってくるまで僕、一之瀬がその代役をするよ」
     柱の傍まで風見くんを連れて行ってあげて、柱にもたれれるよう彼を座らせた。利口な彼ならきっとすべきことがわかるだろう。
     ふと目が合った山本がこちらを見て嘲笑ってくれたが、馬鹿馬鹿しくて声を出して笑いそうになった。
     狩られる者の立場を分かってないな、と。



    「嘘……だろ」
     気がつけば松野さんは担架で運ばれていったところだった。必死に松野さんの元に行こうとする風見を止める一之瀬さん。
     あんな感情的な風見は見たことないが、それよりも拓哉(裏)をあっさりと倒してしまう実力の松野さんが負けた……?
     松野さんが負け、山本が準々決勝へ駒を進めたということは、だ。
     俺か、……薫が山本と戦う事になる。
     思わず薫が担架で運ばれるところを想像してしまった。そんなことはさせない。絶対にだ!
     能力者との対戦をしたことがあるから分かる。あれはもうカードゲームじゃない。本当に自分自身の精神を削るような戦いだ。
     それを何も知らない薫にはさせたくない。だから勝つしかない……。
    「翔! 何ぼさっとしてるの!」
    「ああ……」
     この能力者についてはもう一つ疑問がある。能力者が戦うたびに担架が右往左往しているのに、それについて騒ぎ立てる人が一切いないということだ。
     恭介も、蜂谷も、薫も、向井も、皆が皆気づいていないのかどうかはしらないがそれについての言及が一切ないのがおかしい。
     今すぐそこで担架騒ぎがあったのに薫が何も言わないのはおかしい。こういう話で騒ぎ立てるのがしょっちゅうな恭介も蜂谷も何も言わない。
     一体本当にどうなっているんだ? まさかそれも能力なのか?
    「あたしのターン!」
     今はとにかく薫に勝つことに集中しなければならない。絶対だ。絶対勝たないと。
     薫のサイドは三枚。俺のサイドは四枚。薫のバトル場には火傷で、闘エネルギー一枚ついたカブトプス10/130、ベンチにはプテラ80/80、カブトプス110/130、プテラGL40/80。
     俺のバトル場には達人の帯、炎エネルギー二枚のついてあるバシャーモ150/150、ベンチにヒードランLV.X120/120、バシャーモFB LV.X110/110、ヤジロン50/50。
    「まずはベンチのカブトプスに闘エネルギーをつけて、プテラのポケパワー発掘を発動! この効果で自分のデッキからかい、こうらの化石かひみつのコハクを一枚手札に加えることが出来る。あたしはひみつのコハクをデッキから手札に加える。そしてベンチにかいの化石(50/50)を出す」
     かいの化石、こいつが中々面倒だ。進化されると俺のカードの弱点を突く水タイプのオムスターになる。
    「手札のひみつのコハクをトラッシュしてカブトプスで攻撃。原始のカマ!」
     原始のカマは攻撃する前にかい、こうらの化石またはひみつのコハクを手札からトラッシュした場合威力が50上昇するワザ。
     元の威力が20なので、バシャーモが受けるダメージは20+50=70の70ダメージ。
     カブトプスのカマで鋭い一撃を受けたバシャーモは後ずさるも、HPバーは半分以上残って80/150だ。
    「ターンエンドと同時にポケモンチェックね」
    「一気に行く! このタイミングで、ヒードランLV.Xのポケボディー、ヒートメタルの効果だ! ポケモンチェックのとき、相手プレイヤーが火傷で投げるコインは全てウラとなる! よってカブトプスには火傷のダメージ20を食らってもらう!」
     エフェクトでカブトプスの身が一瞬炎で包まれると同時にHPも奪われて行く。20ダメージを受けたカブトプス0/130は、力なく膝から崩れていく。薫は次のポケモンにプテラGL40/80をバトル場に出してきた。
    「俺はサイドを一枚引く。そして俺のターン!」
     絶対に勝たねばならない。薫は回転の遅い俺のデッキに対し速攻で仕留めにかかってくる。ならばこっちはその速攻を崩す重い一撃を休む暇なくぶつけていくしかない。
    「俺は炎エネルギーをバシャーモにつける。そしてサポーターカードを発動。ミズキの検索! 手札を一枚戻してデッキからポケモンを一枚手札に加える!」
     勝つにはパワーだ。ここで勝つには力で押すプレイング、ポケモンが必要!
    「この効果で俺は───」
     しまった! パワーのことを考えすぎて本来求めていたカードとは違う、バシャーモを選択してしまった……!
    「くっ、俺はバシャーモを手札に加える!」
     今バシャーモが手札に来てもベンチにはアチャモもワカシャモもいない。完全に意味のないカードを選んでしまった。本当はネンドールを加え、ベンチのヤジロンに進化させてポケパワーのコスモパワーを使うつもりだった。コスモパワーは自分の手札を一枚か二枚デッキの底に戻し、そこから手札が六枚になるまでドローできるドロー支援のポケパワー。そこから自分のデッキに勢いをつけるはずだったが、焦りのあまりプレイングミスをしてしまった……。でもなったものは仕方ない。
    「行くぞォ! バシャーモで攻撃! 炎の渦!」
     深く息を吸い込んだバシャーモが、プテラGL40/80を覆い尽くす巨大な炎のうねりを吹き付ける。威力100の大技はプテラGLをあっさり倒してしまった。
    「炎の渦の効果で、バシャーモの炎エネルギーを二個トラッシュする!」
    「あっ、あたしはカブトプス(110/130)をバトル場に」
    「サイドを一枚引いてターンエンド! そしてこのタイミングでヒードランLV.Xのポケパワーを発動する!」
    「えっ、自分の番が終わったタイミングで!?」
    「ポケパワー、熱風は自分のターンの終わりに一回使える。そのターンに自分の炎または鋼のバトルポケモンのワザで、そのポケモンからトラッシュした基本エネルギーのうち二枚までを選び、そのポケモンにつけ直す!」
    「つけ直す!?」
    「俺は炎の渦でトラッシュした炎エネルギー二個をバシャーモにつけ直す」
     炎タイプのポケモンは高火力だがいちいちエネルギーをトラッシュしないといけないデメリットがある。それをカバーするためのポケパワーだ。
    「……。なんだか翔らしくないな」
    「……?」
    「翔はいつも勝負を楽しんでるヤツだと思ってたし、実際さっきまでそうだった。だけどさっき集中を一瞬切らした後から、なんだか勝負の楽しさじゃなくてただ勝利を求めて焦るようなプレイングに変わってた。たとえばさっきのミズキの検索、あれはミスじゃない?」
    「いや……」
    「ミスだよ。ネンドールを選ぶのが正解だったはず。ミズキの検索をしたあと翔の手札は三枚、ネンドールを引いていたならネンドールにヤジロンを進化させて二枚、これでコスモパワー使えば手札の状況はがらりと変わる。そして何よりバシャーモを選択してしまった時の翔の顔は明らかにミスに対するいら立ちみたいな感じだった」
    「っ……」
    「悪いけど、『そんな程度』の気持ちで倒せるほどあたしは甘くないよ。あたしのターン! あたしはかいの化石をオムナイト(80/80)に進化させて水エネルギーをつける。そしてミズキの検索を使うよ! 手札を一枚戻してデッキからオムスターを手札に加える。さあ、手札のかいの化石をトラッシュして原始のカマ!」
     相変わらずエネルギー一個だけで強襲してくるカブトプスは強力だ。だが、カブトプスの一撃を受けたバシャーモ10/150はすんでのところで耐えきった。
    「俺のターン。俺は……」
     本当にこれでいいのだろうか? 薫のためだという理由で薫の望まない意識で戦うというのは結局薫にとっていいことなのだろうか? 分からない。
    「俺は、手札の炎エネルギーをバシャーモFB LV.Xにつけて、バトル。バシャーモで攻撃する。炎の渦!」
     激しく荒れ狂う真っ赤な渦がカブトプスを飲み込み大幅にHPを奪う。かろうじて耐えきったカブトプス10/130だが、さらに追い打ちはかかる。
    「ポケモンチェックだ。カブトプスは火傷! そしてヒードランLV.Xのポケボディーで確実に火傷のダメージ20を受けてもらう!」
     今度こそHPの尽きたカブトプスは力なく倒れる。
    「くっ、あたしはオムナイト80/80をバトル場に出すわ」
    「サイドカードを一枚引かせてもらう」
     これで残りのサイドは一枚。あと一匹、あと一匹を倒せば俺は勝てる。そして薫が危険な目に遭う必要性もなくなる。
     丁度そのとき、隣で戦っていた恭介がよっしゃあああああ! と大声を張り上げて右腕を天井に向け突き上げる。どうやら勝って次へと駒を進めたようだ。
     俺も能力者とかがいなければこれくらいの気持ちで戦えたのになあ。ふと見た恭介の背中は近いはずなのにすごい距離を感じる。
    「おい翔てめえ! 負けたら承知しねえぞ!」
     後ろから拓哉(裏)の罵声か応援か、その辺の声が飛んでくる。返事に困った俺は、とりあえず苦笑いだけで返しておく。
    「無駄に力が入りすぎてんぞバカが!」
     むっ、最後の一言は流石に余計だろう。
    「うっせえ! そっちこそバカだろ!」
    「けっ、ようやくいつもの表情に戻ったな」
     拓哉(裏)が珍しく普通の笑みを浮かべるが、なかなか様じゃないか。
    「……お前、わざわざ俺のために」
    「うっせえな。さっさとその勝負、ケリをつけろ」
    「ああ」
     柄にもないことしやがって、ほんと拓哉めバカだ。バカなのは裏の方限定だけど。
    「よし、薫。来い!」
    「うん、あたしのターン! 手札のマルチエネルギーをオムナイトにつける。マルチエネルギーはポケモンについている限り、全てのタイプのエネルギー一個ぶんとして働く特殊エネルギー。続いて手札からオムスター(120/120)をオムナイトに進化させる!」
     これが薫の最後のポケモンか、俺のポケモン達の弱点である水ポケモンが立ちはだかる。
    「ただ倒すだけじゃダメ。だから、こんなのはどう? タイムスパイラル!」
     オムスターの触手がバシャーモを縛り付ける。すると、縛り付けられたバシャーモの体が青く光り出し、その姿が縮んでいく。
    「タイムスパイラルは相手の進化ポケモンを一進化ぶん退化させる! 退化させたポケモンのカードはデッキに戻してシャッフルよ」
     やがてバシャーモ10/150の姿はワカシャモ0/100へと戻っていく。
    「そうか。退化してもワカシャモに乗っているダメージカウンター自体は変わらない。HP150で140ダメージを受けていた状態から退化してHP100で140ダメージ受けた状態になったのか!」
    「そうそう。それでワカシャモは気絶!」
     ようやく触手から解放されたワカシャモはぱたりと倒れてしまう。デッキに戻すという効果が結構厄介だ。たとえばデッキの中に入っているあのカードが欲しいと思うと、デッキの枚数が少ない時ほどそのカードを引く確率が高くなる。こうやってデッキを増やされると、望みのカードを引く確率が下がってしまう。
    「だったら俺はベンチのバシャーモFB LV.Xをベンチからバトル場に出す!」
    「あたしはサイドをドローする。ただ、ワカシャモにはポケモンの道具達人の帯がついていた。達人の帯をつけているポケモンが気絶したとき、あたしは更にサイドを一枚ドローできる。よって二枚ドロー! これで五分よ」
     五分? 五分どころなもんか。むしろ最悪だ。
     今の俺の手札、場ではオムスターを「一撃で」倒す術がない。もし一撃で倒さなかった場合、次の薫の番でオムスターのワザ、原始の触手で攻撃されるとジエンドだ。一撃でバシャーモFB LV.Xは気絶させられてしまう。
     だから俺の勝利条件はこのターン以内でオムスターを倒すことだ。オムスターのHPは120/120。バシャーモFB LV.Xでの最大火力は80で40足りない。40……?
     そうか、バシャーモFB LV.Xのポケボディー、バーニングソウルを発動出来ればいい。
     バーニングソウルはバトル場のポケモンが火傷のとき、そのポケモンが受けるワザのダメージは+40させるというもの。オムスターを火傷に出来れば勝てる。
     だがどうやって? ポケパワー、バーニングブレスで相手を火傷に出来るバシャーモはもう俺の場にはいない。生憎と前のターン、俺のプレイミスで手札に来たバシャーモはある。しかし残りの手札四枚はクロツグの貢献、ハードマウンテン、炎エネルギー、ポケモン入れ替えの三枚。これではどうしようもない。
    「このドローで全てが決まる。頼むっ!」
     大きな動作でデッキから引いたカード。それは───。
    「俺はベンチのヤジロンをネンドール(80/80)に進化させる!」
     この一枚で逆転にはならない。ただ、逆転へつながる大きな希望だ!
    「手札の炎エネルギーをバトル場のバシャーモFB LV.Xにつける。さあ、ネンドールのポケパワー発動だ。コスモパワー! このポケパワーは手札を一枚か二枚をデッキの底に戻し、その後手札が六枚になるまでドローする。俺は手札を二枚戻し、四枚ドロー!」
     このドローで逆転の手札を引かねば。残り十八枚のデッキから勝利の軌跡を描くカードを!
     一枚目はワカシャモ。ダメだ、この場面では重要になりえない。
     二枚目は不思議なアメ。そう、これは起爆剤だ。勝利を得るには必要な一枚。だがこれだけでは勝てない!
     三枚目は炎エネルギー。違うこれじゃない! 最後の一枚に全てを賭けるしかないっ!
    「これだ! 手札からサポーターカードを発動! ハマナのリサーチ! 自分のデッキからたねポケモンまたは基本エネルギーを二枚手札に加えることが出来る! 俺はアチャモと炎エネルギーを選択する。そして俺はベンチにアチャモ(60/60)を出す」
    「またアチャモ?」
    「いいやまだだぜ。手札からグッズカードを発動。不思議なアメ! 自分の場のたねポケモンの上に手札のそのポケモンの進化ポケモンを重ねて進化させる! さあ、来い! バシャーモ!」
     アチャモを覆う白い光の中で、その小さな体躯はより大きく屈強に変わって行く。そして光が消え、バシャーモ130/130が大きな雄叫びを上げながら俺の場に現れる。
    「さあ、焼き焦がしてやれバシャーモ。ポケパワー、バーニングブレス!」
     一際激しく全ての色を塗り替えるその真っ赤な灼熱がオムスターを覆い尽くし、火傷状態にする。
    「この一撃で決めてやる! バシャーモFB LV.X、ぶちかませ! ジェットシュート!」
     高く跳躍したバシャーモFB LV.X。そのまま赤い彗星と化してオムスター120/120に高い位置から激しい蹴りの一撃を浴びせる。空気を激震させる激しい一撃が、オムスターのHPを奪い取る。
    「ジェットシュートは次の相手の番、このポケモンが受けるワザのダメージはプラス40されるデメリットを持つワザだが、エネルギー二つで80ダメージの超火力ワザ。そしてバシャーモFB LV.Xのポケボディー、バーニングソウルは火傷のバトルポケモンが受けるワザのダメージを40追加させるポケボディーだ!」
    「つまりオムスターが受けるダメージは120!?」
     薫のバトル場にはぐたりと動かなくなってしまったオムスター0/120のみ。
    「これでゲームセットだ!」
     最後のサイドカードを一枚引いて、この勝負の幕を下ろす。恭介じゃないが、俺も思わず右腕を突きあげる。
     PCCも二回戦を終わり、次はいよいよ準々決勝。次は絶対負けられない。自然と右手に力がこもっていたのを感じた。



    翔「今日のキーカードはヒードランLV.X。
      火傷のポケモンを簡単には逃がさせない!
      そしてハイリスクな炎ポケモンのワザをより安定させてくれるぜ」

    ヒードランLV.X HP120 炎 (破空)
    ポケパワー ねっぷう
     このポケモンがベンチにいるなら、自分の番の終わりに1回使える。その晩に、自分の炎または鋼のバトルポケモンのワザで、そのポケモンからトラッシュした基本エネルギーのうち2枚までを選び、そのポケモンにつけなおす。
    ポケボディー ヒートメタル
     相手のやけどのポケモンが進化・退化・レベルアップしても、やけどは回復しない。ポケモンチェックのとき、相手プレイヤーがやけどで投げるコインは、すべてウラとしてあつかう。
    ─このカードは、バトル場のヒードランに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
    弱点 水×2 抵抗力 − にげる 4


      [No.861] 74話 転落 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 12:41:45     40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「翔……! 翔!」
     薫の俺を呼ぶ声によって我に返る。
    「ごめん」
    「勝負中に集中力切らすなんて翔らしくないよ」
    「ほんとにごめん」
     だがあの山本のミュウツーLV.Xはなぜ松野さんのエムリットLV.Xのゴッドブラストを弾いたのだ? なんで無傷でいられる?
    「だから翔!」
     再び薫が俺の名前を叫ぶ。今度は先ほどと違って怒号に近い。
    「あたしはそんな翔と戦いたくないね、いつもみたいに勝負に対して真摯な翔と戦いたい!」
    「ああ、そうだな」
     改めて場を見回す。
     俺のバトル場には炎エネルギーが一つついたバシャーモFB LV.X110/110、ベンチにはネンドール80/80、ワカシャモ80/80、ヒードランLV.X120/120。サイドは残り五枚。
     石川の方にはバトル場が火傷状態だが闘エネルギー一つのプテラGL40/80、ベンチはプテラ80/80、こうらの化石50/50、水エネルギーが二つあるオムスター120/120。俺と同じくサイドは五枚だ。
     状況はイーブン。流れも今はどちらにもない。
    「よそ見する暇は与えない! あたしのターン! プテラGLをベンチに逃がし、オムスターをバトル場へ!」
     プテラGLには逃げるのに必要なエネルギーは0。ノーリスクでベンチに戻ることが出来る。そしてベンチに戻ったことで火傷状態も回復。
    「更に手札から闘エネルギーをこうらの化石につけてこうらの化石のポケボディーのロックリアクションが効果を発動! デッキからカブトを選び出してこうらの化石をそのカブト(80/80)に進化させる!」
     俺より打点が控えめな薫だが、その点俺よりも早い展開スピードがある。
     エネルギーが少なめでも十分に戦う事ができ、そしてプテラで化石をサーチしポケボディーでサクサクと進化してしまう展開の早さ。あっという間に薫の場は戦えるポケモンで埋まって行く。
    「プテラのポケパワーを発動。発掘! デッキからひみつのコハクを手札に加える。サポーターカード、ミズキの検索を発動。手札を一枚戻してデッキからカブトプスを手札に加える!」
     次のターンにすぐにカブトプスでも攻撃できるように準備に転じたか。早いな。
    「オムスターでバシャーモFB LV.Xに攻撃! 原始の触手!」
     硬化され、鋭い槍のようになったオムスターの触手がバシャーモFB LV.Xめがけて真っすぐに突き進み、バシャーモFB LV.Xを貫く。
    「このワザはトラッシュのかい、こうらの化石とひみつのコハクの数だけ威力が上がるワザ! 今トラッシュに該当するカードは二枚」
     そして元の威力が30だ。よってバシャーモFB LV.Xが受けるダメージは30+10×2=50。といいたいところだがバシャーモFB LV.Xはさらに水タイプに対し弱点を持っている。なので50×2=100ダメージが受けるダメージ!
     鋭い攻撃で後ろに跳ね飛ばされたバシャーモFB LV.X。そのHPバーが大幅に減少し、今のHPは10/110。首の皮一枚繋がったか!
    「これでターンエンド」
     だが首の皮一枚だろうが残ったら残ったで文句はない。むしろ残ってくれて大助かりだ。
    「俺の……」
     今から俺のターン。というところでふと隣の松野さんの場に目がいった。



    「まだまだ! 私のターン!」
     相手の山本信幸の場にはミュウツーLV.X120/120しかいない。私のサイドは残り五枚だが、このミュウツーLV.Xを倒してしまえば相手の場に戦えるポケモンがいなくなるので私の勝ちだ。
     しかしその一匹が果てしなく遠い。ミュウツーLV.XはエムリットLV.Xの攻撃を弾いてしまった。あれのからくりは一体……!?
     今の私の場にはバトル場は水、鋼、闘エネルギーが揃ったレジギガス100/100、ベンチにはレジアイス90/90、レジロック90/90、アグノムLV.X90/90、ユクシーLV.X90/90。
    「私は手札からレジスチル(90/90)をベンチに出して、バトル場のレジギガスをレベルアップさせる!」
     LV.XとはいえたねポケモンなのにHPは最大級の150/150という超大型ポケモンのレジギガスLV.Xは私の頼れるエースポケモンだ。エムリットLV.Xでダメならこっちでいくしかない。
    「レジギガスLV.Xのポケボディー、レジフォームによって自分の場にレジロック、レジアイス、レジスチルがいるときこのポケモンのワザエネルギーは無色エネルギー一個ぶん少なくなる! よってこのまま攻撃よ。ギガブラスター!」
     この会場を揺らす程の高濃度の橙色のエネルギーが、レーザーとなって山本の場を襲いかかる!
     発射されるだけで空気が爆発しそうなそのギガブラスター。
    「嘘……」
     しかしそれもミュウツーLV.Xが薄い緑の球体の膜を自分を覆うように張ることで、ギガブラスターから完全に身を守っていた。
    「残念だが、それも通らない」
    「このワザでもダメ……」
    「いいや、ワザじゃあないんですよワザじゃあ」
    「……?」
     ワザが効かないという効果じゃないのか? ワザ以外の何かが?
    「ミュウツーLV.Xのポケボディーはサイコバリア。このバリアはたねポケモンからの攻撃を全てシャットダウンする。だから、いくら威力が高くてもエムリットLV.Xでも! レジギガスLV.Xでも! その攻撃は無に帰すっ!」
     たねポケモンを一切遮断……!? そんな、私のデッキにはたねポケモンしか入っていない……。攻撃出来なければ相手は倒せない……。いや?
    「でっ、でもギガブラスターは相手の手札とデッキの一番上をトラッシュ!」
    「往生際が悪いですねえ」
     山本は仕方なさそうにそれぞれトラッシュしていく。これで相手の手札の超エネルギーと、ケーシィがそれぞれトラッシュされた。
     そうよ。ギガブラスターは相手のデッキを削ることが出来る。ミュウツーLV.Xのさっきのワザはエネルギーを全てトラッシュしなければいけないというデメリット。ワザとワザを使うまでにあるインターバルのうちに逃げ切って相手の山札を全て削れば勝つことはできる。まだ、まだ勝負は終わってないわ!



    「俺は手札から炎エネルギーをバシャーモFB LV.Xにつける。そして俺もミズキの検索を使わせてもらうぜ。手札を一枚戻してバシャーモを加え、ベンチのワカシャモを進化させる!」
     ベンチに再びバシャーモ130/130が現れる。バシャーモ、バシャーモFB LV.X、ヒードランLV.Xのこの三体が揃うときが俺のデッキの真骨頂! ただ、実はあまり理想形ではないのだが。
    「バシャーモのポケパワーだ。バーニングブレスを食らえ!」
     ベンチから真っ赤な吐息が放たれ、オムスターを包みこむ。この吐息を食らったポケモンは火傷状態になるのだ。
    「ネンドールのポケパワーも発動。コスモパワーによって、手札を二枚デッキの下に戻して四枚ドローする」
     これできっちり手札は六枚。だが、引き自体はあまりいいとは言いにくいな。
    「手札からバシャーモFB(80/80)とヤジロン(50/50)をベンチに出す」
     相手のオムスターは水タイプのポケモン。俺のポケモンはネンドールとヤジロン以外は皆水が弱点なのでさっさと駆逐したいところだ。
    「バトルだ! バシャーモFB LV.Xでオムスターに攻撃。ベイパーキック!」
     バシャーモFB LV.Xの力強い脚から放たれるハイキックはオムスターの体をサッカーボールのように軽々と飛ばした。
    「このベイパーキックは相手の場に水ポケモンがいるとき、威力が30上がるワザだ」
    「元の威力が30だから60ダメージね。でっ、でもオムスターのHPは100も減ってるっ!?」
    「そう。バシャーモFB LV.Xのポケボディー、バーニングソウルは火傷のバトルポケモンがワザによるダメージを受けるとき、そのポケモンが受けるダメージを40追加するポケボディー! よって30にベイパーキックの効果で30、バーニングソウルで40足されて100ダメージ!」
     オムスターのHPは風前の灯、20/120だ。だがまだ終わらない。
    「これで俺はターンエンド。だが俺のターンが終わると同時にポケモンチェック! ベンチのヒードランLV.Xのポケボディー、ヒートメタルによって火傷のコイントス判定は常にウラとなる。オムスターには火傷のダメージ20を受けてもらうぜ」
     オムスターが火傷のエフェクトで炎に包まれると残り少ないHPが尽き、力を失いその場で倒れ伏す。
    「あたしはカブトをバトル場に出すわ」
    「俺はサイドを一枚引くぜ」
     これで一枚俺が有利? いや、案外そうでもない。流れはまだ不動、どちらも状況はイーブン。
    「あたしだって負けないんだから。あたしのターン。ドロー! まずはこれかな。プテラのポケパワーを発動。発掘! デッキからこうらの化石(50/50)を加え、ベンチに出す。そしてベンチに出したこの化石に闘エネルギーをつけることでポケボディーのロックリアクションが発動。デッキからカブトを加えて進化!」
     これでベンチにもバトル場にも闘エネルギーがついたカブト80/80が一枚ずつか。
    「そしてバトル場のカブトをカブトプス(130/130)に進化させる! 早速攻撃! 原始のカマ!」
     バシャーモFB LV.XのHPがわずかだからか、今回は化石をトラッシュせずに攻撃してきた。化石は有限だ、こんなところで無駄遣いはしていられない、ということかな?
     カブトプスの一閃でバシャーモFB LV.XのHPは0/110。これでさっき俺が一枚ゲットしたアドバンテージも無くなり、サイドは同数。だが、俺のベンチには攻撃にすぐさま転じれるカードがない。そういう点では多少俺の分が悪い。やむなしでネンドール80/80をバトル場へ。
    「サイドを一枚引いてターンエンド」
    「まだまだ行くぜ! 俺のターン。うーん、バシャーモに炎エネルギーをつけてバーニングブレス!」
     ネンドールに攻撃の術はない。だが黙ってるのも違うだろう。せめて火傷だけでも与えておく。
    「よし、サポーターカードだ。シロナの導き! デッキの上から七枚を確認し、そのうち一枚を加える。……ターンエンド」
     そしてポケモンチェックとなり、カブトプスは火傷のダメージ20を負う。しかし110/130はまだまだ大きい壁だな。
    「あたしのターン。あたしはサポーターのバクのトレーニングを発動。デッキからカードを二枚をドロー!」
     だがバクのトレーニングの真骨頂はこのターン、相手に与えるワザのダメージを+10するところにある。
    「プテラの発掘を発動し、デッキからひみつのコハクを手札に。そしてバトル場のカブトプスに水エネルギーをつけて、カブトプスについている闘、水エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がしベンチのカブトプスをバトル場へ!」
     火傷を避けたか、カブトプスを入れ替えてきた。ベンチに下がったことでカブトプス110/130の火傷は回復。
    「手札のひみつのコハクをトラッシュし、原始のカマ攻撃!」
     ネンドール80/80に重たい一撃がヒット! 弾かれてコマのように回転して倒れていく。
     元の威力20に化石をトラッシュしたことによって+50、バクのトレーニングでさらに+10で20+50+10=80ダメージ。ネンドールをジャストで気絶させた。
    「だったら俺はバシャーモFBをバトル場に出すぜ」
    「サイドを引いてターンエンド!」
     残りサイドは三枚か。だが流れを俺に引き寄せるチャンスはある。
    「さあ、俺のターンだ! まずは手札の炎エネルギーをベンチのバシャーモにつける。そしてグッズカード発動。プレミアボール! このカードの効果でデッキまたはトラッシュからLV.Xポケモンを手札に加える。俺はトラッシュからバシャーモFB LV.X(110/110)を選択し、バトル場のバシャーモFBをレベルアップさせる!」
    「またっ!?」
    「もう一枚グッズカードだ。ポケモン入れ替えを発動。バトル場のバシャーモFB LV.Xとベンチのバシャーモを入れ替える!」
     このバシャーモがバトル場にいて、バシャーモFB LV.XとヒードランLV.Xがベンチにいる。これが俺の望む陣形だ!
    「手札からポケモンの道具、達人の帯をつけるぜ。これでバシャーモのHPと相手に与えるダメージが20上昇! バシャーモ(150/150)のポケパワー、バーニングブレスでカブトプスを火傷にさせて攻撃。鷲掴み!」
     屈強な腕がカブトプスの喉元に伸び、しっかりがっちりと掴み、締め付ける。元の威力が40だが、達人の帯、バシャーモFB LV.Xのバーニングソウルで+40されて40+20+40=100ダメージ。これであっという間にカブトプスのHPが30/130に。
    「ターンエンドだが、さらにポケモンチェック。火傷でカブトプスに20ダメージだ」
     これで残り10/130。オムスターと同じHPであればこの時点で気絶させることができたが少し足りなかったか。
    「さあ、薫のターンだぜ?」




    「まだまだ! ギガブラスター!」
     何度目だろうか、再び巨大な橙レーザーが発射される。しかしミュウツーLV.Xはサイコバリアを張ってダメージから身を守る。
    「なかなか貴女しつこいんですねぇ。そんなことしても無駄なのに」
    「ギガブラスターの効果よ……、相手の手札と、デッキトップを一枚、トラッシュさせる!」
     能力者との対戦は精神への負荷がかかる。まして相手はワーストワンの能力者。既に松野さんは肩を上下にさせた状態だ。こんな松野さんは見たことがない。
    『もし、私に何かあった場合は悪いけどよろしく頼むわ』
     対戦前に松野さんが僕、一之瀬に告げた一言が頭の中でリフレインする。
     松野さんはあらかじめ負けるかもしれないと分かっていたのかもしれないな……。
    「そうか、分かりましたよ。貴女は僕のデッキを削り取る気ですか。なるほどねえ。でも僕のデッキはまだ十枚もある。そして僕のサイドは残り二枚だ。しぶとくサクリファイスでHPを補充しているがそれにも限界というものがある。それに、そのパワーバランスは簡単に崩れる。僕は達人の帯をミュウツーLV.Xにつけさせてもらうよ。さあこれでそのあがきも終わりにしてあげよう」
     すっ、と山本は松野さんを指差す。
    「貴女も僕に負けて消えていくのではない。僕の能力(ちから)の礎となるのだから、安心して消えていけばいい」
     二ターン前に、松野さんは自分のレジギガスLV.X140/170はHP補強のため達人の帯をつけた。しかし達人の帯は強力ゆえにデメリットも存在する。それは達人の帯をつけたポケモンが気絶した場合、相手はサイドは一枚更に引けるというもの。つまりここでレジギガスLV.Xが気絶したとき山本が引くことの出来るサイドカードは二枚だ。
     そしてミュウツーLV.Xのギガバーンは120ダメージを与える大技。それも達人の帯の効果でワザの威力は20プラスされて……。
    「それではさようなら。ミュウツーLV.Xで貴女を消してやる。咲いては散る花火のように! ギガバーン!」
     深い紫色のエネルギー球体がレジギガスLV.Xに触れると一気に膨張して爆発、轟音放ちながら全てを包み込んでいった。
     僕が松野さん! と叫んだ声も。全て消えていった。



    翔「今日のキーカードはバシャーモ!
      ポケパワーはノーリスクで確実に相手を火傷にさせるぜ。
      そしてワザも高火力! 申し分なしだ!」

    バシャーモLv.59 HP130 炎 (DPt1)
    ポケパワー バーニングブレス
     自分の番に1回使える。相手のバトルポケモン1匹をやけどにする。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
    無無 わしづかみ  40
     次の相手の番、このワザを受けた相手はにげるができない。
    炎炎無 ほのおのうず  100
     自分のエネルギーを2個トラッシュ。
    弱点 水+30 抵抗力 − にげる 1


      [No.860] 73話 五分 投稿者:照風めめ   《URL》   投稿日:2012/02/08(Wed) 12:40:59     39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     二回戦の試合が始まろうかとしていた刹那、薫が切り出してきた。
    「翔とバトルしたのはこの間かーどひーろーでたまたま会った時だよな」
    「だいたい二週間前くらいかな?」
    「そうそう。そんで風見杯はもっと前だよな、一月くらいだったっけ」
    「一月十日だったぜ。それがどうしたの?」
    「いやあ、日数的には久しぶりのはずなのに、こうしていざ戦うとなるとこの間戦ったのがついさっきのように感じるんだ。もうあのときのワクワクした気持ちが来てる!」
     身振り手振りで感動を伝えようとする薫。そんな姿を見ていると非常にうれしく感じる。俺と戦って喜んでくれるのは本望だ。
    「だったら今から俺とあのときよりもさらにワクワクする勝負をしようぜ!」
    「ああ。勝負だ!」
     バトルベルトの起動の手順はもう慣れたもんだ。風見にもらったバトルベルトで既に何度か遊んだことがある。
     スイッチ数は多そうに見えるが単純な手順で、後は機械が頑張って作動してくれる。
     オートシャッフルのデッキポケットから手札七枚を渡される。開始手札は可もなく不可もなくといったところだ。
     そして互いの最初のポケモンは、俺がアチャモ60/60、ベンチにはヤジロン50/50。向かいの薫のバトル場にはプテラGL80/80。
    「先攻はあたしから。ドロー! あたしはプテラGLに闘エネルギーをつけ、ワザの持ってくるを発動。その効果でデッキから二枚ドロー!」
    「ツードロー!? そんなに持ってっちゃうの!」
     並のポケモンならエネルギー一個で一枚ドローだ。しかもこのプテラGL、逃げるエネルギーは0。ベンチへの攻撃手段が乏しい今回の俺のデッキにとって、引くだけ引いてベンチに逃げられると非常に厄介。ただ幸いにも薫の化石デッキは起動に時間がかかる。そこまでになんとかプテラGLを倒す術を見つけなくてはならない。
    「俺のターン! 手札の炎エネルギーをアチャモにつけ、ミズキの検索を使わせてもらうぜ。手札を一枚戻し、デッキから好きなポケモンを相手に見せてから手札に加える。俺はバシャーモを手札に加える。続いて手札からグッズ、不思議なアメを発動。自分の進化していないポケモン一匹に、そのポケモンから進化する一進化または二進化カードを重ねて進化させる。俺はアチャモをバシャーモ130/130に進化させる!」
     アチャモを起点に光の柱が現れアチャモをすっぽりと覆い隠す。そしてその光の柱の中でアチャモのフォルムがより屈強に、より逞しくなっていく。光の柱がすっと消えると新たに現れたバシャーモが場に向かって雄叫びを一つあげた。
    「バシャーモのポケパワーだ。バーニングブレス!」
     バシャーモから真っ赤な吐息が吐き出され、プテラGLを覆う。直接浴びたプテラGLのHPバーには火傷マーカーが発生した。
     このバーニングブレスは自分の番に一度使え、相手を火傷にするものだ。無条件に火傷にさせることができる結構便利なものだ。
    「ターンエンド。っと同時にポケモンチェックだ」
     火傷の判定はポケモンチェックの度にコイントスをし、オモテならなにもないがウラならば火傷のポケモンは20ダメージを受ける。
     薫が放ったコイントス(といってもバトルベルトのコイントスボタンだが)の結果はウラ。ゲームと同じようにプテラGLの体が一瞬炎に包まれHPバーを20減らして60/80となる。
    「そんなのまだまだ効かない! あたしのターン! 手札のこうらの化石、かいの化石、ひみつのコハク(どれもHPは50/50)をベンチに出してこうらの化石に闘エネルギーをつける。このタイミングでこうらの化石のポケボディー、ロックリアクションが発動! 手札から闘エネルギーをこの化石につけたとき、デッキからカブト(80/80)をサーチしてこの化石に進化させる!」
    「やばいな、思ったより速いな……」
     しまったな、まさかこんなわずかにカブトを立てれるとは思わなかった。完全に作戦ミスか……。薫がベンチでポケモンを立てている間にプテラGLを倒す目論見は崩れる。
    「プテラGLをベンチに逃がし、カブトをバトル場に出してワザを使うわ、進化促成! 自分のデッキから進化ポケモンのカードを二枚手札に加える。あたしはプテラとカブトプスを手札に入れてターンエンド」
     ベンチに逃げたことでプテラGLの火傷状態は解除される。そして薫は次のターンへの布石をもう打ったのだ。
    「迷っていても仕方ない! 俺のターンだ。ここはこいつだな。手札からサポーターカードのハマナのリサーチを発動だ! デッキから炎エネルギーとバシャーモFBを手札に加え、バシャーモFB(80/80)をベンチに出す!」
     バシャーモFBはSPポケモンだ。こいつ単独でたねポケモン。そしてバシャーモとは同名カードではない。
     二匹のバシャーモ。これが今回の俺のデッキのコンセプト。しかしそのコンセプトを完全に決めるために場を整えなくては。
    「バシャーモに炎エネルギーをつける。そして手札からグッズのゴージャスボールを発動だ。デッキから好きなポケモンを手札に加える。俺はネンドール(80/80)を選択し、ベンチのヤジロンを進化させる。そしてネンドールのポケパワー、コスモパワーを使わせてもらうぜ。このポケパワーは手札を一枚か二枚デッキの底に戻し、手札が六枚になるようデッキの上からドローする。俺は手札を一枚戻して、これで手札は0。よって六枚ドローだ」
     まだバトルは始まったばかりだが、俺の攻撃を上手くかわしている薫の方に流れが傾きかけようとしている。
     出来るだけそれを阻止しなくてはならないな。
    「俺はベンチにアチャモ(60/60)を出してバシャーモのポケパワー、バーニングブレスを使う!」
     真っ赤な吐息がカブトを包み込む。デメリットなしで確実にカブトを火傷にさせた。
    「バシャーモで鷲掴み攻撃!」
     バシャーモのがっちりとした腕がカブトを掴んではしっかり握って宙に持ち上げてしまう。ギリギリと強く握られたカブトのHPバーは40/80へとダウンする。
    「この鷲掴み攻撃を受けたポケモンは次の番、逃げる事が出来ない!」
    「逃がさずに火傷のダメージを与えていく戦法か!?」
    「とりあえずはポケモンチェックだ」
     だがしかしコイントスの結果はオモテ。カブトは火傷のダメージを受けない。
    「よし。あたしのターンだ! あたしはまずカブトをカブトプスに進化させる」
     カブトの体が白く光り出したところでバシャーモはその輝きから目を守ろうとカブトを鷲掴みしていた腕を離し、両腕で目をガードする。
     進化したカブトプス90/130は、もうバシャーモの拘束に捕らわれることはない。鷲掴みの対象であったカブトから別のポケモンへと変わったカブトプスは自由に逃げることが出来る。さらに火傷といった状態異常も進化すれば回復する。
    「そしてベンチのひみつのコハクをプテラ(80/80)へと進化させこのプテラのポケパワー、発掘を発動。デッキからかい、こうらの化石かひみつのコハクを一ターンに一度手札に加えることが出来る。あたしはかいの化石を選択。そしてベンチのかいの化石に水エネルギーをつけてポケボディー発動。アクアリアクション!」
    「ロックリアクションのオムナイトバージョンか!」
    「その通り! というわけでデッキのオムナイト(80/80)をかいの化石に重ねて進化!」
     まずい、これで低HPのポケモンが薫の場から消えた。とはいえ80も決して高い部類ではないのだが……。
    「手札のかいの化石をトラッシュ!」
     化石をトラッシュする行動は……。そうだ、さっきの一回戦で薫が見せた高火力の一撃が来る!
    「カブトプスの原始のカマ!」
     真っ白に輝いたカブトプスのカマでバシャーモに切りかかる! 肩口から綺麗にきまった一撃で、バシャーモは攻撃された部位を腕でかばうモーションをしてみせた。
    「このワザはかい、こうらの化石かひみつのコハクをトラッシュした場合、このワザの威力は50上がる!」
     元の威力は20。よって20+50=70のダメージがバシャーモ60/130に決まり、半分以上のHPを奪って行った。
    「さあ、翔のターンよ!」
    「おし! まだまだ行くぜ。俺のターンだ! 手札からこいつをベンチに出すぜ。ヒードラン!」
     ベンチから真っ赤なマグマを噴き出しながらヒードラン100/100が現れる。たねポケモンでこの高いHPがウリでもある。
    「そしてサポーターのシロナの導きを発動。自分のデッキの上から七枚を確認して一枚を手札に加える。そしてそのあとシャッフルだ」
     このとき手札に加えたカードは相手に見せなくてもいい。ミズキの検索などとはこの点が違う。そして加えるカードはどの種類であってもいい。
    「手札から炎エネルギーをバシャーモにつけて、グッズカードのレベルMAXを発動! まずはコイントス。オモテならこのカードの効果が発動する」
     ここが分岐路。上手くオモテが出ればいいが。
    「おっしゃあ! オモテだ! 自分の山札から、自分のポケモン一匹からレベルアップするポケモンLV.Xを一枚選び、そのポケモンの上に乗せてレベルアップさせる。俺はヒードランをヒードランLV.X(120/120)にレベルアップさせる!」
     こちらも薫に負けず劣らずのメンツが揃う。
    「さらに手札を二枚デッキに戻してネンドールのコスモパワーを発動。デッキからカードを五枚引き、ベンチのアチャモをワカシャモ(80/80)に進化させる! これで攻撃だ。バシャーモで炎の渦攻撃!」
     カブトプス90/130がバシャーモが放つ炎の渦に包まれて悶えている。灼熱の炎の中でうごめくそれは結構怖い。
    「炎の渦は100ダメージを与える大技だが、炎エネルギーを二枚トラッシュしなければならない。よってトラッシュ。だが100ダメージはカブトプスのHPをきっちり奪って行くぜ!」
     炎の渦から解放されたカブトプスは力なく前へ倒れ伏す。
    「くっ、あたしはオムナイトをベンチからバトル場に出す!」
    「俺はサイドを一枚引いてターンエンドだ」
     よし。これで完全に流れは俺に傾いた。良い傾向だ。
    「あたしのターン。あたしはプテラの発掘を発動! こうらの化石(50/50)を手札に加えてベンチにだす。そして手札の水エネルギーをオムナイトにつけて、サポーターのミズキの検索を使うわ。手札を一枚デッキに戻しオムスターを加える。そしてベンチのオムナイトをオムスター(120/120)へ進化!」
    「だがオムスターはトラッシュの化石があればこそのカードだろう」
    「そんなになくても行けるよ。原始の触手攻撃!」
     オムスターの触手が鋭い槍のように輝きバシャーモ60/130の四肢を突いていく。的確に決まった攻撃はバシャーモのHPを大きく削り……。
    「気絶!?」
    「原始の触手はトラッシュのかい、こうらの化石またはひみつのコハクの数かける10だけ威力が上がるワザ」
     薫のトラッシュにはかいの化石とこうらの化石の二枚。そして元の威力は30だ。よって30+10×2=50。それではバシャーモのHPを0まで削げないはず。
    「弱点のこと忘れたの?」
     そうか。オムスターは水タイプ。水が弱点なバシャーモには更に50+30=80のダメージが。残りHP60のバシャーモを倒すには十分だ。
    「俺はバシャーモFBをバトル場に出す」
    「あたしはサイドを一枚引いてターンエンド」
    「これでイーブンか。俺のターン! 手札の炎エネルギーをバシャーモFBにつけてグッズカードのプレミアボールを発動。このカードの効果でデッキまたはトラッシュからLV.Xのポケモンを手札に加えることが出来る。俺はバシャーモFB LV.Xを選択し、バトル場のバシャーモFBをレベルアップ!」
     このバシャーモFB LV.X110/110が俺の二枚目のエースカードだ。
    「手札からサポーター、ハマナのリサーチを発動。俺はデッキから炎エネルギーを二枚手札に加えるぜ。そしてバシャーモFB LV.Xで誘って焦がす攻撃!」
     バシャーモFB LV.Xが圧倒的な脚力で高く跳躍すると薫のベンチのプテラGL60/80の元へ降り立つ。そしてそのプテラGLの首筋を掴むと腕から炎を出して火傷状態にしてしまった。そしてそのままプテラGLをバトル場に投げつける。居場所を失ったオムスター120/120は渋々ベンチへと帰って行く。
     でもこのワザのエフェクトは全然誘ってないな。誘うどころか超強引だったが。
    「このワザは相手のポケモンを一匹選択し、バトルポケモンと入れ替えると新たにバトル場に出たポケモンを火傷にするものだ。そしてターンエンドと同時にポケモンチェック」
    「よし、コイントスを───」
     ちっちっちっ、と古典的に指を振って見せる。
    「その必要はないぜ」
    「えっ」
     プテラGL60/80は火傷判定をする前に炎に包まれダメージを受けて残りHPが40/80へと変わっていた。
    「どうして……」
    「ヒードランLV.Xのポケボディー、ヒートメタルは相手が火傷でのポケモンチェックで行うコイントスは全てウラとして扱う。つまり必ず火傷のダメージを受けるものだ」
     よし、このまま一気に行くぞ。
     ふと他の対戦場を見る。恭介は……、あれはライチュウLV.Xか、良い感じじゃないか。そして風見はポリゴンZに多少押され気味か? サイドの枚数までは攻撃できないが今の攻撃(熱暴走)で風見のギャラドスのHPが0になっているのを確認出来た。
     そして最後に松野さん。相手はあの能力者相手だが、拓哉(裏)を圧倒的な差でひねりつぶした彼女なら。
     現にエムリットLV.Xのゴッドブラストが今、対戦相手の山本信幸のミュウツーLV.Xを襲おうとしていた。
     ゴッドブラストは威力200。どれだけ小細工をしようが200のダメージを防げるポケモンはそういまい。
     エムリットLV.Xから紫の巨大なレーザーがミュウツーLV.Xに向かって放たれた。
     エムリットLV.X、アグノムLV.X、ユクシーLV.Xの三匹がいて初めて使えるこの難しいワザをなんなく使いこなす松野さんだ、負けるはずがない。
     そう思っていた。そう確信していたのだ。
     だがこれはどういうことだ?
     ミュウツーLV.Xが右腕を前に差し出すと、その右腕から楯状の緑色の膜が張られる。そしてその膜はゴッドブラストを別のどことない方向へ弾いてしまった。
     もしかして、と思ったがやはりミュウツーLV.XのHPバーは一切減っていない。無傷。
     嘘だ、あの200ダメージを何事もないように弾いて無傷だと?
     今度は山本のターンだ。ミュウツーLV.Xが両腕から放つ大きな濃い紫のエネルギー弾が、エムリットLV.Xに炸裂した。どちらかというと爆発に近い。そしてその破滅の一撃による音と衝撃は俺達の場所まで響いてきた。



    翔「今日のキーカードはバシャーモFB LV.Xだ!
      ポケボディーはなんと火傷の相手に対し威力を上げるもの!
      そしてワザも極めて強力だ!」

    バシャーモFB LV.X HP110 炎 (DPt3)
    ポケボディー バーニングソウル
     おたがいの場のやけどのポケモンが、ワザによって受けるダメージは「+40」される。おたがいの場で複数の「バーニングソウル」がはたらいていても、追加されるダメージは「+40」。
    炎無  ジェットシュート 80
     次の相手の番、自分が受けるワザのダメージは、「+40」される。
    ─このカードは、バトル場のバシャーモFBに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
    弱点 水×2 抵抗力 − にげる 1


      [No.859] 【2】藤蔓の揺籠 投稿者:イサリ   《URL》   投稿日:2012/02/07(Tue) 00:06:01     112clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

     昔、こんな話を聞いたことがある。
     名のある森や、山や、湖には、そこを統率するヌシがいる。
     ヌシは一族を率い、周囲の生き物を従えてその地の秩序を保つ。
     優れたヌシは治める土地に平和をもたらすのだ。

     その話を聞いた時、僕はなるほどと思った。そして、こうも考えた。
     もしもこの『二ノ島』にヌシがいるならば、それは『長老』以外にありえない、と。




    【2】藤蔓の揺籃




     長老は『フシギバナ』という種族なのだと誰かに教えてもらった。本土のカントー地方で旅に出るトレーナーが最初に手にするポケモンの内の一匹、フシギダネの最終進化系。代表的な草タイプのポケモンだ。
     四足で立つ巨大な体は両生類に似ていて、背中には大輪の花を咲かせている。動物と植物が半分ずつ混じったような不思議な生き物だった。


     島の子供は長老と遊ぶ。幼い子供も、年長の子も、みんな長老が大好きだ。長老の蔓を使った大縄跳びは、僕たちのお気に入りの遊びだった。
     長老が大きく体を揺らした拍子に、ばさりと羊歯(しだ)のような葉が一枚抜け落ちた。そのうち新しい葉が生えてくる。
    「痛くはないの?」という問いかけに返事はない。多分、人間の髪の毛が抜け変わるのと同じようなもので、それ自体には問題はないんだとは思う。
     ただ、最近は葉が抜け落ちても生えてくるまでに時間がかかるようで、少し心配になってくる。
     噂が本当ならば、彼は相当な高齢だ。
     

     一体、長老はどれくらい生きているんだろう。
    『長老はな、何百年もこの島のヌシなんだぞ』『大昔の島の偉い人の家来だったんだ』などと見てきたようにいう者もあったが、彼の種族の寿命(諸説あるが)から考えても、まずあり得ないだろう。
     伝説と呼ばれるポケモンは抜きにすると、一般的にポケモンの寿命は数年から数十年。百年を生きれば長寿な種族と言える。
     例外的に千年生きると言われるポケモンもいるにはいるが、それを見届けた人間はいないはずなので、詳しいことはわかっていない。この後の千年、観察が続けば結論は出るのかもしれないが。

     ……千年生きる狐の話はともかく。

     岬の家に住む、変わり者のおばあさんに、長老の年齢について知っているかどうか訊ねてみた。
    「……さてのう。わしが娘の時分、本土に旅に出る前には島にフシギバナはおったようじゃが、それが今の長老なのかはわからんのう。
     しかし、懐かしいのう。わしがバリバリの『えりーととれーなー』になって島に帰ってきた後、長年の修行の末に究極の技を生み出せたのは長老のおかげなんじゃ」
     首を傾げながら語られる話は、いつの間にかおばあさんの思い出話にすり替わっていた。

     まあ、結局のところ、誰にもわかりはしないのだ。
     
     


     ある時、僕は長老の好きな林の広場でのんびりと過ごしていた。この場所は、その昔ここに大きな木が生えていた時の名残なのだと誰かから聞いた。
     古い大きな木が倒れ、樹冠が遮っていた真昼の日差しは地表まで差し込むようになった。切り株はしばらく残っていたそうだが、危険だからと掘り起こされて無くなった。
     今や、ここは草ポケモンたちの憩いの場だ。陽の光を求めて集まってくる小さな生命達を、長老は暖かく見つめていた。

     長老と呼ばれるフシギバナは、言うなれば島を支える大樹だった。雑木林に暮らす者たちは、みな彼の庇護のもとにある。
     彼は二ノ島の自然の象徴であり、統率者であり、紛う方無きヌシであったのだ。


     ふと、林の地面を覆う木の葉を踏みしめる音が聞こえた。何人かの大人の足跡。
     僕は素早く樹の陰に隠れた。林で遊んでいたことに別にやましいところなどは無かったのだが、『宿題をしろ』等と、とばっちりで説教されるのはごめんだった。大人の話を盗み聞きしてやろうという密かな好奇心もあった。 

    「こちらがそのフシギバナですか……」
     知らない男が話始めた。
    「確かに、標準的な個体とは明らかに異なった特徴を持っています。身体の色が微妙に濃くて、フシギソウから進化した時に消失するはずの斑点が薄く残っている。何より特徴的なのは、背中に咲かせた花弁の数です。普通、フシギバナの花弁は六枚ですが、このフシギバナには五枚しかありませんね。いや、初めて報告を受けた時には驚いたのですが」
    「そうですか、やはりこの島固有の個体だったのですね」
    「ええ、これは新しい発見です」


     僕は息を殺してその場の成り行きを見届けた。
     交わされた会話を要約すると、つまりはこういうことだった。
     長老は、今までに知られていない特徴をもった珍しいフシギバナである。おそらくは遠い昔に本土から(どうやってかは知らないが)渡ってきたフシギバナの子孫であり、狭い範囲での交配が進んだために、突然変異の形質が定着した。
     二ノ島には、長老の他に同族はいない。いや、見つかっていない。長老が死んだら血筋は絶える。
     だから、本土の動物保護区から我々研究者がやってきた。本土に長老を連れて行って保護しましょう、長老の血統を後世に残すために尽力しましょうという訳だった。
     ……ふざけるなよ、と思った。



     長老の背中の花弁は五枚。
     本土で標準的に観察されるフシギバナの花弁は六枚。
     ナナシマ特有の血統。多様な種の在り方。
     ――だから、何だというんだろう。

     そんなことのために、彼は生まれ故郷である島を追われ、観察者の檻の中で余生をすごさなければならないというのだろうか。
     

     その場の研究者とやらに怒鳴り散らしたい衝動を抑え、何とか隠れて家に帰ってからも、もやもやとした気持ちは残っていた。
     勉強も宿題も手につかない。風呂の掃除なんかどうだっていい。
     手に持っていたカバンを机に叩きつけ、自分はベッドに雪崩れ込んだ。

     頭に浮かぶのは『正当な』未来だ。草ポケモンの専門家が長老を後生世話してくれる。長老は餌を取る必要も雨水に濡れることもなく、屋根のついた施設で管理されて暮らす。
     二ノ島のフシギバナと血統と近い『伴侶』が彼にあてがわれるのだろう。もしかしたら子供が生まれ、いずれその子孫たちが二ノ島に帰ってくることが出来るかもしれない。

     ――そして長老は……。

     息絶えた後、彼はきっと多様性の記録の保存という名目で剥製にされる。
     最新技術とやらを使えば、生きている時と寸分違わぬ剥製ができるのだろう。
     広場にいるのと同じ姿で、透き通ったガラスの瞳で見つめてくる
    長老を想像して、僕は耐えきれなくなった。



     気がつくと僕は自分の部屋を飛び出し、靴紐を結ぶのもなおざりに駆け出していた。


     あんな研究者が、島の外の人間が、長老の何を知っている。
     檻の中でほんのわずか命を長らえ、子孫を残すことが幸せだとでもいうのだろうか。
     長老には、この島にかつて伴侶もいたかもしれないのに……。

     道を走り、雑木林を抜け、ようやく彼を見つけた。
     陽の当たる、不思議な空間を取り囲む木々は、彼を閉じ込める檻のように思えた。もつれ合い、絡み合う、藤の葛(かずら)で編んだ牢獄だ。
     息を切らせて彼に話しかける。

    「逃げろ」
     ……どこへ逃げろというのだろう。
    「どこでもいい。あいつらに捕まらない、どこか、遠くへ」
     聞こえているのかいないのか、彼は濁った目を時折瞬かせていた。
    「捕まったら、剥製にされるぞ。もう、戻ってこられないぞ」
     言いながら、頬に一筋涙が伝うのを感じた。

     はらり、と一枚木の葉が落ちた。夕暮れの風が林を揺らす。

     はたと気付いた。
     泳げない彼が、海に囲まれた島から逃げられるわけがない。

     彼の生まれた雑木林は、彼を育む揺籃であり、終の住処となるはずだった。
     その当たり前の結末を、人間の勝手な都合で壊してしまったのだ。


     逃げろよ、長老。どこか、どこか遠くへ。ヌシならそのくらいできるだろ。

     ああ、でもだめだ。例え『何処か』へ逃げたとしても、結局『此処』にはいられない。

     どのみち生まれ育った島でこのまま眠りにつくことさえできないんだ。

     

     幾つもの感情が混ざり合う。もう抑えようとも思わない。
     溢れ出てくるそれが許容の限界を超えた時、僕は長老の隣に崩れるように膝をつき泣き叫んでいた。






     数日後、島に研究者達の乗った船が来た。獣を入れる大きな檻を持って。
     長老を保護しようと島の人々と林の中を隅々まで探したが、ついに見つけることができなかったようだ。
     研究者達は三日間島に留まるのを延長し、「もし見かけたら連絡をください」といい残して帰って行った。

     島の大人達は噂した。
     ――さして広くもない島で、大人数で探して見つからないはずがない。
     ――長老は、人の手が届かないところに隠れてしまったのだ。
     ――まさか、林から逃げ出して、崖から海に落ちたなどということはあるまい。
     ――やはり、我々が手を出すべきではなかった。
     ――可哀相なことをした。
     どれもそれなりに本当らしく、かなりの部分疑わしい。




     研究者達にも、島の人々にも、ひとつ盲点がある。
     長老が、この島そのもののような存在だからこそ、気がつかなかったことだ。


     例えば、島の一人の少年が、長老が連れて行かれるのを嫌がって、彼をモンスターボールに収めてかくまっている……などとは誰も思わないらしい。


     2の島の自然の中で生きているポケモンに、人が外から手を加えようとすることが許せなかった。
     それなのに解決策として、人工的なモンスターボールの中に捕えなければならないという、どうしようもない皮肉。


     優柔不断で何一つ満足に決められやしないと言われた自分が、一瞬の内によくも決断できたものだ。

     いいや、決断なんて呼べるほど立派なものじゃなく、ただ単に魔が差しただけ――。

     考えがそこに至った時、肝が冷える心地がした。"魔が差した"などと盗人の論理を持ち出さなければ説明のつかないことを、自分はしでかしたのだ。
     だが――往生際の悪いことに、僕はまだ言い訳を考えていた――野生のポケモンをボールに収めることが、果たして罪になるのだろうか。本土のトレーナーなどは旅をしながら日常的にそれを行っているというじゃないか。
     ……わからない。他の誰がどうであれ、"僕のやったこと"は、罪に問われることなのかもしれない。
     不毛な理屈をこねまわすほどに心は乾きひび割れた。荒涼とした、だだっ広い空間に砂塵が舞っているような空しい気分になった。
     唯一わかっているのは、この先いつまでも僕を責め続けるのは、他でもない自分自身だということだ。
     今でさえ、"これで良かった。他に方法が無かったじゃないか"と思う一方で、底の見えない後悔が渦を巻いているじゃないか。
     


     もしも長老が人間の言葉を話せたならば、本人に決めさせるのが一番良かったのだろうか。
    『あなたは本土に渡って檻の中で子を残したいのか? それとも島の林の中で余生を過ごしたいのか?』
     酷な選択だろうが、長老にとってはどちらが幸せだったのだろう。

     
     けれど、いくら考えたところで、今となってはどうしようもない。
     年老いたフシギバナをボールに治めた瞬間に運命は二手に分かれ、選ばれなかった方の未来はもう見ることさえ叶わないのだ。
     例えこの先どれほど悔やもうとも、自分が行動を起こした事実は変えられないし、行動を起こさなかった場合の結果を知ることもできない。


     何が正しかっのたか、もうわからない。きっといつまでもわからない。
     長老は何も教えてくれない。


     元の状態に戻っただけだ。島に、何も起こらなかったのと同じことなんだ。
     押し寄せる罪悪感をごまかすために、そう、うそぶいてみる。



     ほとぼりが冷めたころ、彼を元の雑木林に戻すつもりだ。
     突然帰ってきた長老を見たら、島の人々は驚くだろう。
    『やはり、長老は人間の考えることなどお見通しだった』などと、言うかもしれない。
     そう考えると、どこか愉快だった。

     僕はボールの中の長老に笑ってみせて、それから机に突っ伏した。


      [No.858] 第15話「晴れの男」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2012/02/02(Thu) 12:29:32     82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「では、使用ポケモンは3匹としよう。準備は良いかい?」

    「ええ、いつでも」

     俺達は病院の庭に足を運んだ。俺とマーヤは対峙し、その他は見物をしている。マーヤは車椅子だ。自由に歩けないってのはかなり厄介だよな。俺も旅をしていた頃は、怪我をする奴らを大勢見てきた。その中には旅を止める者もいた。健康こそ全ての基盤だと心に留めたもんだ。まあ、その俺が後に海に身を投げるのも皮肉な話だが。

    「テンサイさん頑張れー!」

     外野ではナズナ、イスムカ達が口々に声をかけている。所詮外野に勝負を左右することなどできねえってのに、呑気な奴らだぜ。

     さて、俺とマーヤはほぼ同時にボールを手に取った。わざわざタイミングを合わせる必要は無い。あの男はかなりの手練れだってことはすぐにわかっている。互いに上手い具合に勝負を始められるだろう。

    「よし、始めるぞ。出でよシャワーズ!」

    「いくぜカイリュー」

     マーヤがボールを投げた直後に俺は1匹目を繰り出した。俺の先発は切り札カイリュー、マーヤのポケモンはシャワーズだ。シャワーズと言えば、耐久、ス
    カーフ、アタッカー、なんでもこなせる優秀なポケモンである。特に特性のうるおいボディを使った耐久型は凶悪と評判だな。さあ、どう来る。

    「まずは様子見だ、りゅうのまい」

    「ふふふ、予想通り。シャワーズ、にほんばれだ!」

     初手はりゅうのまい。特性のマルチスケイルのおかげで、氷技であってもかなり耐えられる。一方シャワーズはと言うと、尻尾を箒のように左右に振り、空の雲を掃除してしまった。

    「にほんばれ……晴れパか」

    「その通り。このポケモンにはちょうはつが飛んできやすいけど、力押しもできるから使いやすいんだよ」

    「なるほどな。ま、晴れたところで構うこたあねえ。げきりん、決めてやりな」

    「なんのこれしき、れいとうビーム!」

     カイリューは頭から湯気を放ちながらシャワーズをぶん殴った。速さ、力共に申し分ない。だが、シャワーズはこの猛攻をしのいだ。しかもまずいことに、懐から半透明の石を取り出した。あれはこおりのジュエル! シャワーズは強化されたビームを一閃、カイリューを貫く。……シャワーズの攻撃が終わると、カイリューは力無く崩れ落ちた。

    「な、これは!」

    「どうだい、シャワーズの耐久は伊達じゃないだろ? 本当は初手で撃つべきだろうけど、場を整えるのも大事だからね」

    「……こいつぁ一本取られたぜ。だが、これくらいのフォローはできて当たり前だ。スターミー、頼むぜ」

     俺はカイリューを引っ込め、スターミーを起用した。見た目は星を2つ重ねただけのポケモンだが、俺の6匹の中核、じゅうりょく要員には違いない。今はそんな余裕無いがな。

    「そうはいかないさ、でんこうせっか!」

    「サイコキネシスだ」

     スターミーよりも先に、シャワーズが動いた。シャワーズは急加速して前足でスターミーをはたく。これに負けじとスターミーもシャワーズを雑巾の如く絞った。既にほうほうの体であるシャワーズにとどめをせには十分な攻撃だった。マーヤは胸の前で手の平を見せるジェスチャーを取る。

    「あう、容赦ないねえ。ま、仕方ないか。じゃあ次はゴウカザル、仕事だよ!」

     マーヤはシャワーズと入れ代わりにゴウカザルを送り出した。ゴウカザルと言えば、格闘タイプとしても炎タイプとしても最速のポケモンだ。強力なポケモンの多くから先手を取れ、攻撃特攻共に高く、しかも様々な技を覚える。それゆえ汎用性は非常に高い。……だが、1つ気になるな。

    「ゴウカザル……最後の1匹はスターミーに対抗できないと見た」

     よくよく見れば、ゴウカザルの右腕にはきあいのタスキが結ばれているじゃねえか。敢えてゴウカザルで挑むからには、それなりに理由があるはず。余裕ぶっこいてるのでなければ、不利なポケモンが残っていると考えるのが妥当だ。ならば、やることは1つ。

    「一気に片付けるぞ、サイコキネシス」

     スターミーは先程と同じく、ゴウカザルの体を捻った。ゴウカザルからは色々危ない音が響いてくるものの、奴はなんとかこらえた。これがきあいのタスキの効果、体力全快のポケモンは必ず1回耐える。

    「ちっ、面倒だぜ。だがその程度で戦況は変わらねえ!」

    「それはどうかな? ゴウカザル、オーバーヒートだ!」

     マーヤが不適な笑みを浮かべると、その瞬間ゴウカザルは太陽のように輝いた。周囲は光に包まれ、そして熱波が辺りを襲う。光は白、紫、青、黄、橙、赤と変化し、数秒後に収まった。白い光は高温の証拠。赤い光は低温になっていくのを如実に示している。まあ、それでも所詮炎技。水タイプのスターミーなら……何!

    「馬鹿な、一撃で落ちただと!」

    燃え尽きたゴウカザルの向かいに、干物に成り果てたスターミーが横たわっていた。こいつぁ……予想外だったぜ。

    「どうだい、これが晴れの威力さ。元々の技の威力にタイプ一致、晴れ、特性のもうかが合わさった。水タイプと言えど、とても耐えられないよ」

     マーヤは自信たっぷりに言い放った。車椅子に座ったまま言われても全く説得力が無いな。だが、現に俺は久々に追い詰められている。晴れ主軸の相手に苦戦するのは、タンバに流れ着く前と合わせて2度目だ。俺は軽くため息をつく。

    「……俺はつくづく晴れに弱いな。ま、んなこと言っても仕方ねえ。こいつで勝負を決めよう。俺の最後の1匹はこいつだ!」

     俺は堂々とした立ち居振る舞いで3匹目を外に出した。出てきたのは、どこぞのロボット似のニョロボン。こいつが今回の切り札だ。これを受けて、マーヤの表情はより確信を持ったものとなる。

    「ニョロボン? ……良かった、ニョロトノだったら破綻してたよ。じゃあゴウカザル、インファイト!」

    「まずはしんくうはでとどめだ」

     先手は譲らねえ。ニョロボンは腹部に力を入れ、渦巻き模様から波を飛ばした。ニョロボン目がけて突っ込むゴウカザルはこれと直撃し、その場に伏せた。ゴウカザル撃破だ。

    「ひえー、しんくうはが来たか」

    「ふ、ニョロボンなら先制技は来ない……そう勘違いする奴が多いもんでな、重宝してるぜ」

     俺はお返しとばかりに胸を張って答えた。さて、これで1対1。ニョロボンには隠し玉もある、タイマンなら間違いなく勝てるぜ。

    「確かに、素直にマッハパンチを使えば良かったよ。だけど僕の勝ちは決まりだ、リーフィア!」

     マーヤはゴウカザルを回収すると、勝負を託したボールを投げた。現れたのは、葉っぱのような耳を持つポケモン、リーフィアだ。イーブイの進化系の1匹で、物理が得意。防御はかなり高く、強引につるぎのまいを使って攻めることもできる。特性はどちらも晴れに関するものだが……。俺は天を指差した。先刻までの灼熱の日差しはどこへやら、天候は元通りとなっている。

    「最後は草タイプか……だが、晴れは終わっちまったぜ。ようりょくそだろうがリーフガードだろうがこっちのもんだ」

    「はは、これでもそう言ってられるかな? リーフィア、リーフブレードで終わらせろ!」

     マーヤの号令と同時に、リーフィアは走り出した。リーフブレードは体のどこを使って繰り出すかは見当つかねえが、普通に殴り合っても負けは明白だろう。しかし、こんなこともあろうかと仕込んだ技がある。

    「……ふっ、カウンターだ」

     俺は小声で指示を出した。ニョロボンは両手を前に突き出して構える。他方、リーフィアはニョロボンから見てやや左に逸れた。そしてそこから円を描くような足取りで接近、真正面に尻尾を振りかざしてきやがった。このままだと、切りつけざまに右方へ抜けられちまう。そうはさせるか!

     ニョロボンは、リーフィアの尻尾が左脇腹に食い込んだ時を見計らって胴体を掴んだ。ニョロボンの耐久ならこれくらい造作もねえ。そうしてニョロボンは、ここから状態を逸らす。掴まれたリーフィアは抵抗すらできず、地面に激突。バックドロップの完成だ。リーフィアも戦闘不能、俺の勝利だ。

    「勝負あったな。中々油断ならない戦いだったぜ」

    「……さすが、校長に勝つだけはあるね。僕の完敗だよ」

     マーヤは負けを認めた。彼はリーフィアをボールに収めると、俺の元に近寄り握手を求めた。俺はそれに応じる。

    「んなこと無いですよ。相手の隙を突くという大事な部分を実行できていた。あんたに指導してもらえる部員は幸せ者でしょう」

    「そう言ってもらえると助かるよ」

     ……よし、これで俺達は顔見知りだ。やはり、勝負してみないことには素性が分からないからな。こういった機会を持てて良かったぜ。

    「テンサイさんやりましたね! 本当にマーヤ先生に勝っちゃうなんて」

     あ。そう言えば、ナズナ達のことをすっかり忘れてたぜ。それだけ勝負に熱中していたということか。彼女とイスムカ達は俺の勝利を称えた。

    「ギリギリだったがな。もしや、俺が負けるとでも思ったか?」

    「そんなことはありませんよ、へへ」

     彼女ははにかんだ。……なんだかなあ。昔からそうなんだが、こういう仕草を取られるとどうにも抵抗する気が無くなっちまう。俺もまだまだ俗だな。

     そんなことに思いを巡らしていると、マーヤが時計を示した。もうに1時か。

    「それじゃ、そろそろお昼にしようか。せっかくだからみんなも食べていきなよ。ここの病院の食堂は一般にも解放されていて、結構評判なんだよ」

    「おお、そうでマス。早く先生におごってもらうでマス!」

    「ああ、そうだな」

     俺達はポケモンの回復と昼食のため、院内に戻るのであった。さあ、明日からまた仕事だ。


    ・次回予告

    部活の指導をやっていて忘れていたが、そろそろ中間テストの時期らしいな。どうせやるなら徹底的に難問揃いにしたいところだが、そうもいかないらしい。さて、どうしたものか。次回、第16話「試験」。俺の明日は俺が決める。


    ・あつあ通信vol.81

    執筆や構想を練っていると、シナリオの最後の話が先にできてしまうことってありませんか? 私は前作で既にこの傾向が出ていました。なにせ最終話は3年前に完成していたんですから。今作も実は連載開始前から最終話の流れだけはできているのです。その間にどれくらい濃い内容が書けるかで、ラストの感動も全然違うのでしょうね。

    ダメージ計算は、レベル50、6V、カイリュー陽気攻撃素早振り、シャワーズ控えめ防御特攻振り、スターミー臆病特攻素早振り、ゴウカザルせっかち特攻素早振り、ニョロボン控えめHP特攻振り、リーフィア陽気攻撃素早振り。まず、カイリューの竜舞逆鱗をシャワーズは確定で耐え、その後ジュエル冷凍ビームで68.8%の確率で一撃。スターミーのサイコキネシスでシャワーズを落とし、ゴウカザルにはタスキで耐えられる。そしてゴウカザルの猛火晴れオーバーヒートでなんとスターミーが81%の確率で一撃。最後のニョロボン対リーフィアでは、リーフィアはリーフブレードを確定で耐えられ、ニョロボンのカウンターで粉砕できます。

    最近思うのですが、努力値調整は必要ですかね? あまりピンポイントな調整をするみたいな露骨なことはしたくないですが、メジャーな耐久調整やスカーフ、葉緑素調整くらいなら大丈夫ですかね? よろしければご意見お願いします。


    あつあ通信vol.81、編者あつあつおでん


      [No.855] 第14話「見舞い」 投稿者:あつあつおでん   《URL》   投稿日:2012/01/26(Thu) 09:17:04     91clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

    「よし、今日はここまでだ。各人日曜日は体を休め、来るべき月曜日に備えるように」

    「も、もう駄目だぁ……」

    9月19日、土曜日。太陽が南中する頃に、今日の訓練を切り上げた。訓練と言っても軽いもので、手始めに5km程走り、筋トレを行うだけなのだが。しかしこの3人には堪えた様子だ。

    「おいおい、この程度で音を上げるなよ。若い奴ならすぐに楽になる、しばらくは辛抱するんだな」

    「お、鬼でマス……サディストでマス!」

     ターリブンは頭から湯気を放った。湯気ってのは寒くなくても出るんだな。今の勢いなら、タービンを回して発電できそうだ。

    「まあまあ、落ち着いてくださいターリブンさん。きっと先生も、私達のことを考えてこうしていらっしゃるのでしょうから」

    「……やっぱり元気が出てきたでマス! ラディヤちゃんは女神様でマス〜」

     ……管理も楽そうだ。イスムカがはぶられている気がしないでもないが、気のせいだろう。

    「テンサイさーん!」

     馬鹿なことを考えていると、誰かが俺の元へ近づいてきた。いつもの声である。

    「む、ナズナ先生か。一体どうしたんだ?」

     俺は声の主、ナズナに問うた。彼女は右手に花束、左手にかばんを持っている。家に飾るつもりなのか? そんな予想をしていたが、彼女の答えは意外なものであった。

    「今からお見舞いに行こうと思うんですけど、一緒にどうですか? 部員のみんなもどう?」

    「見舞いか、誰のだ?」

    「それはもちろん、テンサイさんが来る前にいたバトル部の顧問さんですよ」

    「ほう。そういえばまだ会ったことはなかったな」

     確か、マーヤとか言ったか。練習中の怪我に部員の不祥事と、中々の厄年なんだろう。彼女は説明を続ける。

    「すごく部活に力を入れていたから、怪我をしたときはとても落ち込んでいたんです。部員がいなくなったことも知ってるはずですし……。そこで、元気な姿を見せて安心させちゃおうってわけです」

    「なるほど。まあ、今日はもう訓練も終わったし、勉強も平日にやらせれば問題あるまい。おいお前達、今から見舞いに行くぞ。ついでに後で昼飯おごってやろう」

    「おお、太っ腹でマス。早速行くでマス!」

     飯に反応したターリブンを先頭に、俺達は入院先の病院に向かうのだった。……これだけ食いつくなら、訓練の餌に使えるかもな。













    「この部屋か」

     場所は変わってタンバ総合病院。町中にあるこの病院は、古き良き建物が立ち並ぶ中でもかなり浮いている。しかも人口は少ないにもかかわらず、受付はごった返しときた。年寄りが多いのか、不健康な奴が多いのか。

     ま、気にすることじゃねえ。俺は扉をノックした。中からどうぞと返事が届く。俺は扉を開き、病室に入った。

    「失礼します」

     ほう、個室か。病室と言うと相部屋のイメージがあるのだが、良い部屋だ。中身はごく普通、ベッドに机、テレビが置いてあるばかりである。そして、俺達の目の前に1人の男がいた。黒髪の短髪で、もみあげがあごでつながっている。しかし不精と言うわけでもなさそうで、もみあげの幅が整えられている。また、髭はない。患者用の服を着て本を読んでいたが、俺達に気付くと本を机に積み上げた。積み上げたと表現したのは、机に何冊も本があるからだ。そして、男は朗らかな声で応対する。

    「いらっしゃい。……ん? んんんんん? ナズナちゃんじゃないか! そして後ろにいるのは愛すべき部員達! ……少し顔ぶれが変わっちゃってるけど」

    「マーヤ先生こんにちは。今日は新たな部員を連れてきましたよ。さ、みんな挨拶して」

     俺達の会話は自己紹介から始まった。……俺も名乗るべきなのか?

    「イスムカです。先生がお元気そうでなによりです」

    「ラディヤと申します。この度入部させていただきました」

    「オイラはターリブンでマス。オイラが入ったからにはすぐに全国に行けるでマスよ」

    「うんうん、よろしく。壊滅したはずだけど、これは心強いな。……で、サングラスをかけたのがもしかして?」

     マーヤは終始笑顔だったが、俺について尋ねると目の色が変わった。それに伴い顔も引き締まる。

    「はい、先生の代わりにやってきたテンサイさんです。なんと校長に勝っちゃうくらい強いんですよ」

    「……テンサイです、至らぬ者ですが精一杯指導をしています」

     俺は軽く会釈をした。先程まで厳しい表情だったマーヤは、ナズナの一言で明るくなった。くるくる表情が変わるな。

    「へー、あの校長にかい。今では全国でも評判のあの人でもかなわないか……あれ?」

    「どうしましたか?」

     ふと、ナズナがマーヤに突っ込んだ。ま、いかにも何かありそうな口ぶりだったしな。

    「僕が読んでる本の作者さんに、どことなく似ている気がしてね。ほら、この人だよ」

     マーヤはテーブルに積まれている本から1冊取り出し、俺達に見せた。タイトルは『重力パーティ理論』か。表紙をめくったページに作者の写真が載ってあ
    る。手ぬぐいを頭に巻き、白衣をまとう男だ。……俺が誰よりもよく知る男である。

    「……トウサか。確か、一昔前話題になった科学者だよな」

     俺はふとつぶやいた。……トウサ、これは俺の最初の名前。種々の事情で姿を隠し、サトウキビと名乗った。もっとも、今ではサトウキビの名も捨てたがな。

    「あれ、テンサイ君も知ってたの? やっぱり彼はすごいねえ、いなくなった後でも大きな影響力を持っている……2人ともどうしたの、暗い顔しちゃって」

    「別に俺はいつも通りですよ」

    「そ、そうですよ! 気にしないでください」

     俺とナズナは適当にごまかしておいた。片や本人、片や当人の相方だったんだ、気まずいのは当然のことだ。……それにしても、俺自身も驚いたぜ。何せ、10年以上も前に出した本をいまだに読んでいる奴がいるんだからな。さすがに時代遅れだろうに、俺だってまめに調整を変えたりするんだから。

    「ふーん、ならそうしとくよ。しっかし、ナズナちゃんにも新たなボーイフレンドができたせいか、以前にも増して美人になってるね」

    「ふふ、いつも冗談が上手ですね」

    「ははは、ナズナちゃんにはかなわないなあ。……ところでテンサイ君、ちょっと頼まれてくれないかな?」

    「何をですか?」

     俺の返答を聞くと、マーヤはすかさずこう切り出した。

    「是非とも君と勝負してみたいんだけどさ、どう? これでもね、少しは名の売れたトレーナーなんだよ僕。これも何かの縁、部員にポケモンバトルの真髄を垣間見させる、良い機会だと思わないかい?」

    「……なるほど。悪くないでしょう。しかしその体でバトルなんてできるのですか?」

     俺はマーヤの右足を指差した。右足には包帯がぐるぐる巻かれ、枕を置いて位置を高くしている。ついでに、足を伸ばすためのおもりが、紐で足とつながれてベッドからぶらさがっている。どう見ても骨折しているぞこれは。

    「なあに、心配無いさ。車椅子があるから指示くらい出せる。そういうことだからさ、さっさと外に出ようよ」

    「……分かりました。おいお前さん達、行くぞ」

     俺はうなずくと、イスムカ達を連れて外に出るのであった。では、俺の読者のお手並み拝見といくか。



    ・次回予告

    さて、顧問のマーヤと戦うことになった。俺はいつものようにカイリューを軸にするも……まさかあのような戦術を使うとは思わなかったぜ。次回、第15話「晴れの男」。俺の明日は俺が決める。


    ・あつあ通信vol.80

    今回初登場したマーヤ先生、名前の由来はツイッターでの募集になります。流月さんが最初に反応してくれたので、採用させてもらいました。キャラの設定上中々登場しないのですがね。今回のような登場人物の名前の募集は、たまにツイッターでやります。私の名前で検索すればたぶん見つかるでしょう。


    あつあ通信vol.80、編者あつあつおでん


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